1 論文式試験問題集[刑事系科目]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の【捜査の端緒及び経過】,
8 【逮捕後の甲の供述要旨】,
9 【逮捕後の乙の供述要旨】に基づき,
10
11 甲及び乙の刑事責任を論じなさい(ただし,
12 特別法違反を除く。
13
14 )。
15
16 なお,
17 各供述要旨の内容は信用
18 できるものとする。
19
20
21 【捜査の端緒及び経過】
22
23
24 捜査の端緒
25 平成17年2月10日(木)午前1時ころ,
26 J県K町のM警察署に,
27 J県警察本部通信司令
28 室から,
29
30 「K町内の居酒屋Tに強盗が侵入したとの通報あり。
31
32 同店の経営者丙が刺された模様。
33
34
35 現場に急行せよ。
36
37 」との指令があった。
38
39
40
41
42
43 捜査の経過
44 M警察署は,
45 直ちに警察官数名を現場に臨場させ捜査を開始したところ,
46 以下の事実関係が
47 明らかになった。
48
49
50
51 (1)
52 @
53
54 店内の状況等
55 Tは県道に面する一階平屋造りの建物であり,
56 周囲に駐車場がある。
57
58 建物内部は店舗と
59 事務室に分かれている。
60
61 出入口は店舗表口ガラス引き戸だけであり,
62 臨場時,
63 表口は施錠
64 されていなかった。
65
66
67
68 A
69
70 Tの経営者は丙である。
71
72 丙は,
73 T以外に,
74 K町に隣接するL市内で飲食店2店を経営し
75 ている。
76
77 Tの店長は甲である。
78
79 Tでは,
80 甲以外に従業員4名が稼働している。
81
82 同店の営業
83 時間は午後4時から午後11時までであり,
84 2月9日も通常どおり営業を行い,
85 午後11
86 時ころ閉店した。
87
88
89
90 B
91
92 Tは現金払だけの店だが,
93 伝票を集計したところ,
94 2月9日の売上げが18万円だった
95 ことが判明した。
96
97 しかし,
98 表口脇にあるカウンター上のレジスター及び事務室の金庫内に
99 現金はなかった。
100
101 なお,
102 臨場時,
103 レジスターの引き出しが床に転がっており,
104 事務室の金
105 庫の扉が開いていた。
106
107
108
109 (2)
110 @
111
112 丙の死因等
113 丙は55歳の男性で,
114 健康状態に全く異常はなかった。
115
116 2月10日午前1時5分ころ,
117
118 救急車がTに到着し,
119 店舗内の床に倒れていた丙を直ちにK町総合病院に搬送したが,
120
121 日午前1時35分ころ,
122 同病院内で死亡した。
123
124 なお,
125 丙が倒れていた床付近に凶器と認め
126 られる刃渡り約10センチメートルの果物ナイフが落ちており,
127 警察官が押収した。
128
129
130
131 A
132
133 司法解剖の結果,
134 丙の死因が腹部刺創による失血死であり,
135 刺創は,
136 左腹部に刺入口を
137 有し,
138 胃壁,
139 十二指腸及び動脈等を切断して深さ11.5センチメートルに達するもので
140 あることが判明した。
141
142
143
144 B
145
146 2月10日午前4時ころ,
147 Tから約2キロメートル離れたL市内の道路上に放置されて
148 いた丙所有の普通乗用自動車(時価約200万円相当)が発見された。
149
150
151
152 (3)
153 @
154
155 甲及び乙の逮捕
156 Tの店長甲は,
157 現場に臨場した警察官に対し,
158
159 「忘れ物を取りに帰ったら,
160 Tの店内が荒
161 らされ,
162 腹部から血を流している丙さんが床に倒れていたので,
163 直ちに119番通報した。
164
165
166 なお,
167 最近,
168 閉店後店の前をウロウロしている挙動不審の五十代の男を何度か見掛けた。
169
170
171 旨の供述をした。
172
173
174
175 A
176
177 その後,
178 M警察署に設置された捜査本部では,
179 現場に落ちていた果物ナイフから乙の指
180 紋を採取し,
181 同人に対する嫌疑を深めたため,
182 同年2月12日,
183 同人を任意同行して取り
184 調べたところ,
185 犯行を自供したことから,
186 同日,
187 乙を通常逮捕した。
188
189 さらに,
190 乙の供述に
191 - 2 -
192
193 より甲が共犯であることが判明したことから,
194 同月14日,
195 甲を通常逮捕した。
196
197
198 【逮捕後の甲の供述要旨】
199
200
201 K町出身で,
202 年齢は32歳,
203 独身である。
204
205 前科はない。
206
207 K町に隣接するL市内の高校を卒業
208 し,
209 職を転々とした後,
210 平成13年夏ころから居酒屋Tで働き,
211 同15年1月から店長をして
212 いる。
213
214 乙は高校の先輩であり,
215 時々一緒に酒を飲む遊び仲間である。
216
217 乙は何度かTに来たこと
218 がある。
219
220
221
222
223
224 Tの経営者は丙である。
225
226 Tは会社組織になっておらず,
227 丙の個人事業である。
228
229 丙は,
230 T以外
231 に,
232 L市内に飲食店2軒を経営している。
233
234 Tの店舗等はすべて丙の所有であり,
235 営業許可の届
236 出・税務申告等も丙名義で行われていた。
237
238
239 丙は,
240 L市内の飲食店の切り盛りをした後,
241 毎日閉店間際の午後11時ころ,
242 Tに来店し,
243
244 事務室で伝票のチェックや帳簿整理等の経理の仕事をするのが日課だった。
245
246 Tの売上金は,
247
248 業時間中は表口脇のカウンターに置かれたレジスターで管理し,
249 閉店後,
250 私が集計して伝票と
251 ともに丙に渡していた。
252
253 丙は伝票と売上金を確認し,
254 それを事務室内のダイヤル式金庫に入れ
255 ていた。
256
257 なお,
258 L市内の飲食店が忙しいために丙がTに寄らない時もあるが,
259 このような場合
260 は,
261 私が売上金と伝票を確認した上で金庫に入れていた。
262
263 なお,
264 金庫のダイヤルの番号は私と
265 丙しか知らなかった。
266
267
268 売上金の管理以外のTの営業は私に任されていた。
269
270 具体的には,
271 接客,
272 酒・食材の仕入れ,
273
274 従業員の採用等はすべて私の判断で行っていた。
275
276 給与等の経費の支払は,
277 事前に丙に必要額を
278 申告して丙から受け取り,
279 私が支払っていた。
280
281 ただし,
282 丙が不在の折に急な支払が必要になっ
283 たときなどは,
284 私の判断で売上金の中から支払を行い,
285 その後,
286 丙に報告していた。
287
288 なお,
289
290 ごろ,
291 丙から「もっと売上げを伸ばせ。
292
293 」などと言われることはあるが,
294 営業内容に関する具体
295 的な指示を受けることはなかった。
296
297 そして,
298 毎月末,
299 私は丙から定額の給与を支給されていた。
300
301
302 給料が安いことに加え,
303 売上げが伸びないことを丙に怒られることが多く,
304 同人に腹を立て
305 ていたので,
306 近いうちにTを辞めようと考えていた。
307
308 飲んだ席で,
309 このような私の気持ちを乙
310 に漏らしたことがある。
311
312
313
314
315
316 平成17年2月9日午後10時ころ,
317 丙から「今日は別の店が忙しいので,
318 Tに寄れない。
319
320
321 明日確認するから,
322 売上金と伝票を金庫に入れておいてくれ。
323
324 」との電話があった。
325
326 それで,
327
328 は,
329 営業時間終了後,
330 従業員を全員帰宅させた後,
331 売上金を確認し,
332 伝票とともに事務室の金
333 庫に入れた。
334
335 この日の売上げは合計18万円だった。
336
337
338 そして,
339 帰り支度をしていた午後11時50分ころ,
340 突然,
341 乙がTに来た。
342
343 私は,
344 ちょうど
345 丙が不在だったので,
346 表口の鍵を開けて乙を店内に入れてやり,
347 再び,
348 鍵を閉めた。
349
350
351 乙がビールを飲みたいと言うので,
352 私はビールを出してやり,
353 しばらく店内のいす席で雑談
354 をしていた。
355
356 そのうち,
357 少し酒が回ってきたこともあり,
358 私は気が大きくなって,
359 仕事の愚痴
360 をこぼしたり,
361 丙の悪口を言ったりした。
362
363 すると,
364 乙が「実は金がなくて困っている。
365
366 泥棒が
367 入ったようにして店の売上金を頂こう。
368
369 一緒にやろう。
370
371 」と言い出した。
372
373 最初は断ったが,
374 乙か
375 ら「どうせ店を辞めるつもりだろう。
376
377 うまくやれば警察にばれない。
378
379 」などと言われ,
380 私もその
381 誘いに乗る気になり,
382
383 「分かった。
384
385 店を辞めるつもりなので,
386 この際,
387 店の金を頂こう。
388
389 二人で
390 山分けにしよう。
391
392 」と答えた。
393
394
395 私は乙を残して事務室に行き,
396 ダイヤル式の金庫を開けて2月9日の売上金である現金合計
397 18万円を取り出し,
398 自分のズボンのポケットに入れて店内に戻り掛けたが,
399 その際,
400 取り分
401 をごまかそうと思い付いた。
402
403 それで,
404 店舗に戻った後,
405 乙に分からないように,
406 自分のポケッ
407 トの中から現金5万円だけを出して乙に差し出し,
408
409 「今日の売上げは10万だったので,
410 山分け
411 して5万ずつだ。
412
413 」と言った。
414
415 乙は「たった5万か。
416
417 売上げが10万しかないのか。
418
419 」などと不
420 服そうだったが,
421 私が「今日は客が少なかった。
422
423 いつもは15万くらい売上げがあるが,
424 今日
425 - 3 -
426
427 は10万しかない。
428
429 」と言うと,
430 乙もあきらめた様子で,
431
432 「仕方がないな。
433
434 」と言いながら,
435 私が
436 差し出した現金5万円を受け取って自分の上着の内ポケットに入れた。
437
438
439
440
441 私はビール瓶やグラスを片付けた後,
442 乙に「店に忘れ物を取りに戻ったらガラスが割られ,
443
444 店内が荒らされていたことにしよう。
445
446 レジをひっくり返し,
447 表口のガラスを割って逃げよう。
448
449
450 と言うと,
451 乙も「いい考えだ。
452
453 」と言った。
454
455 私と乙は,
456 泥棒が金を探したように見せかけるため
457 に,
458 カウンター上のレジスターの引き出しを取り出して床に転がしたり,
459 事務室にある金庫の
460 扉を開けたりした上,
461 店舗と事務室の電気をすべて消した。
462
463
464 そして,
465 店の外から石を投げて表口のガラスを割ってから逃げようとした時,
466 店の前の駐車
467 場に車が入る音が聞こえたので,
468 私と乙は慌てて奥の事務室に入り,
469 事務室入り口横に置いて
470 ある大型ロッカーの陰に隠れて様子をうかがっていた。
471
472 すると,
473 店の駐車場に車が止まり,
474
475 口の鍵を開けて人が入ってくる様子が分かった。
476
477 私は,
478 今日は店に来ないと思っていた丙が,
479
480 何かの都合でTに寄ったのだと分かり,
481 乙に「丙だ。
482
483 今日は来ないはずだったのに。
484
485 」と耳打ち
486 した。
487
488 乙は小声で「このままだと二人とも警察に突き出される。
489
490 俺は執行猶予中なのでやばい。
491
492
493 顔を見られないように,
494 二人で殴り付けて気絶させて逃げよう。
495
496 」と言ったので,
497 私は「分かっ
498 た。
499
500 」と答えた。
501
502
503 丙は店内を通り,
504 事務室の方に歩いてきた。
505
506 私は,
507 事務室の金庫を調べに来るのではないか
508 と思った。
509
510 それで,
511 丙が事務室に入り掛けたところ,
512 丙に姿を見られないように,
513 ロッカーの
514 陰から飛び出し,
515 背後から丙を羽交い締めにした。
516
517 丙は「だれだ。
518
519 泥棒。
520
521 」などと大声を出して
522 暴れ出した。
523
524 次の瞬間,
525 乙がやや前かがみになって身体ごと丙の腹付近にぶつかってきた。
526
527
528 は「ギャ」と叫び声を上げて,
529 その場に倒れた。
530
531
532 その時,
533 乙が右手にナイフを持っていることに気が付き,
534 乙がナイフで丙の腹を突き刺した
535 ことが分かった。
536
537 私は乙がナイフを持っていることを全然知らなかったので,
538 その予想外の行
539 動にびっくりした。
540
541 私が「殴るだけだと言ったじゃないか。
542
543 何で刺すんだ。
544
545 死んだらどうする。
546
547
548 と乙をなじったら,
549 乙は「顔を見られたと思った。
550
551 刺すしかなかった。
552
553 」と言った。
554
555
556 丙の様子を見ると,
557 床にうつ伏せに倒れ,
558 息も絶え絶えで,
559 ぐったりしていた。
560
561 そして,
562
563 部から流れ出た血が床に広がっていた。
564
565 私は丙が死んだら大変なので救急車を呼ぼうと思い,
566
567 店内の電話の方に向かい掛けたが,
568 その時,
569 丙が倒れているそばの床に自動車のキーが落ちて
570 いるのを見付けた。
571
572 この時,
573 私は,
574 私一人であれば警察をごまかせるが,
575 乙が捕まると私が共
576 犯であることがバレてしまうと思い,
577 乙だけでも早く逃がした方がいいと考えた。
578
579 それで,
580
581 に「丙の車のキーだ。
582
583 表の駐車場に車が止まっているから,
584 それに乗って逃げろ。
585
586 」と言ってキ
587 ーを渡した。
588
589 乙は黙ってキーを受け取って表口から外に出て,
590 自動車で逃げた。
591
592
593
594
595
596 私は一人で店に残り,
597 助かってほしいとの思いから,
598 店内の電話で119番通報し,
599
600 「居酒屋
601 Tの店長甲です。
602
603 経営者丙さんが刺されて血を流している。
604
605 」などと説明した。
606
607 しばらくすると
608 救急車とパトカー数台が到着し,
609 救急車が丙を搬送していった。
610
611 そして,
612 臨場した警察官に事
613 情を聞かれたので,
614 私は「忘れ物を取りに帰ったら,
615 店内が荒らされていて丙が倒れていたの
616 で,
617 119番通報した。
618
619 事務室の金庫に入れておいた売上金18万円がなくなっている。
620
621 強盗
622 ではないだろうか。
623
624 最近,
625 閉店後,
626 店の前をウロウロしている五十代の男を何度か見掛けた。
627
628
629 だれだか知らないが,
630 あの男が怪しい。
631
632 」と作り話をした。
633
634
635
636
637
638 その後,
639 現場に落ちていたナイフの指紋から乙の犯行であることが分かったらしく,
640 2月1
641 2日,
642 乙が逮捕された。
643
644 そして,
645 乙の供述から私が共犯であることが分かってしまい,
646 2月1
647 4日,
648 私も逮捕された。
649
650 なお,
651 現金13万円には手を付けておらず,
652 全額押収された。
653
654
655
656 【逮捕後の乙の供述要旨】
657
658
659 L市の出身で,
660 年齢は34歳。
661
662 別居中の妻がいる。
663
664 窃盗罪で有罪判決を受け,
665 現在執行猶予
666 中である。
667
668 L市内の短大を卒業して同市内の会社に勤めたものの,
669 給料が安いので約3年で退
670 - 4 -
671
672 職し,
673 その後職を転々としたが,
674 2年前に窃盗事件で逮捕され,
675 執行猶予付の有罪判決を受け
676 た。
677
678 その後は仕事をしておらず,
679 L市内の実家で居候をしている。
680
681 サラ金等から借りた合計約
682 200万円の借金があり,
683 返済を迫られて困っていた。
684
685 なお,
686 甲は高校の後輩であり,
687 時々一
688 緒に酒を飲む遊び仲間である。
689
690 甲は居酒屋Tの店長をしており,
691 Tにも何度か飲みに行ったこ
692 とがある。
693
694 甲は「経営者丙がうるさいので,
695 店を辞めるつもりだ。
696
697 」と言っていた。
698
699
700
701
702 2月9日は実家で父と飲んでいたが,
703 父が私の生活態度に不満を言い始めた。
704
705 借金の返済期
706 限が迫っていて約10万円の金が必要だったので,
707 父に無心しようと思っていたが,
708 口げんか
709 になり,
710 午後10時ころ,
711 実家を飛び出した。
712
713 そして,
714 L市内の行きつけのスナックに行き,
715
716 つけでビールを飲みながら,
717 借金の返済の算段をしていた。
718
719
720 そのうち,
721 甲が,
722 最近,
723 Tの店長を辞めたがっていたことを思い出し,
724 甲を誘い込んでTの
725 売上金をちょろまかし,
726 泥棒が入ったように見せかけようと考え付いた。
727
728 Tは客が入っている
729 様子なので,
730 少なくとも十数万円の金はあるだろうと思った。
731
732 Tの経営者は丙だと聞いていた
733 が,
734 同人と面識はなかった。
735
736
737 私は,
738 甲と一緒にTの売上金を横取りしようと思ったが,
739 甲が協力しないと困るので,
740 その
741 場合は,
742 甲をナイフで脅し付けて言うことを聞かせようと思い,
743 スナックを出て実家に戻り,
744
745 台所にあった刃渡り約10センチメートルの果物ナイフを持ち出し,
746 外から見えないように上
747 着のポケット内に入れた上,
748 K町のTに行った。
749
750
751
752
753
754 午後11時50分ころ,
755 Tに着いた。
756
757 既に閉店時間を過ぎたらしく表口も閉まっていたが,
758
759 ガラス戸を通して店内にいる甲が見えたので,
760 ガラス戸をドンドンとたたくと,
761 甲が気が付い
762 て鍵を開け,
763 店内に入れてくれた。
764
765 従業員は全員帰宅していた。
766
767 私は「ビールを一杯飲ませて
768 くれ。
769
770 」と頼み,
771 店内のいす席で,
772 甲が出してくれたビールを飲みながら,
773 同人と雑談していた。
774
775
776 私は金の話を言い出す切っ掛けを考えていたが,
777 そのうち酒が回ってきたのか,
778 甲が「先輩,
779
780 何かいいことないかな。
781
782 もう店長はやってられないよ。
783
784 丙はうるさい。
785
786 」などと仕事や丙に対す
787 る愚痴をこぼし始めたので,
788 いいタイミングだと思い,
789
790 「どうせなら店の金を横取りして辞めた
791 らどうだ。
792
793 俺は金がなくてすごく困っている。
794
795 助けてくれ。
796
797 」などと言った。
798
799 最初,
800 甲は「すぐ
801 にばれるよ。
802
803 」と渋っていたが,
804 私が「泥棒が入ったことにすればいい。
805
806 うまくやれば警察にば
807 れない。
808
809 どうせ店を辞めるなら,
810 腹をくくれ。
811
812 」と何度も言うと,
813 甲も誘いに乗ってきて,
814 「分
815 かったよ。
816
817 一緒にやろう。
818
819 金は山分けだよ。
820
821 」と言った。
822
823
824 ところで,
825 私は甲が店長だと聞いていた上,
826 何度かTに来た時も甲が一人で店の切り盛りを
827 していたので,
828 経営者は丙だとしても,
829 丙はTに来ることはなく,
830 甲が店長として売上金の管
831 理を含めたTの営業全般を任されているのだと思っていた。
832
833
834
835
836
837 私の誘いに乗った甲は「金を取ってくるので待っていてくれ。
838
839 」と言って,
840 奥の事務室に行き,
841
842 しばらくして戻ってきた。
843
844 そして,
845 現金5万円を私の方に差し出し,
846
847 「今日は客が少なかった。
848
849
850 と言った。
851
852 私は期待していた金額よりも少なかったので,
853
854 「たった5万か。
855
856 売上げが10万しか
857 ないのか。
858
859 」と言ったが,
860 甲が「いつもは15万くらい売上げがあるが,
861 今日は10万だけだ。
862
863
864 と答えたので,
865 私もあきらめ,
866 「仕方がないな。
867
868 」と言って現金5万円を甲から受け取り,
869 上着
870 の内ポケットに入れた。
871
872 なお,
873 逮捕された後,
874 取調べの際に刑事さんから,
875 実際の売上金は合
876 計18万円だったと聞かされたが,
877 私は甲の言葉を信じて10万円だと思っていた。
878
879 差額がど
880 うなったのか全く分からない。
881
882
883 そして,
884 甲が「店に忘れ物を取りに戻ったら,
885 表口のガラスが割られ,
886 店内が荒らされてい
887 たことにしよう。
888
889 」と言うので,
890 いい考えだと思い,
891 二人で,
892 飲んだビール瓶やグラスを片付け
893 た上,
894 泥棒が入ったように見せかけるために,
895 カウンター上のレジスターの引き出しを取り出
896 して床に転がしたり,
897 事務室の金庫の扉を開けたりした上,
898 店舗及び事務室の電気をすべて消
899 した。
900
901
902 そして,
903 店内の偽装が終わったので,
904 外から石を投げて表口のガラスを割ってから逃げよう
905 - 5 -
906
907 と思っていた時,
908 Tの駐車場に車が入る音が聞こえてきたので,
909 私と甲は,
910 慌てて事務室に逃
911 げ込み,
912 事務室入り口横にある大型ロッカーの陰に隠れた。
913
914 様子をうかがっていると,
915 駐車場
916 に車が止まり,
917 表口の鍵を開けて人が入ってくる様子が分かった。
918
919 甲が「丙だ。
920
921 都合で店に来
922 たらしい。
923
924 今日は来ないはずだったのに。
925
926 まずい。
927
928 」と耳打ちした。
929
930 私は丙に見つかってしまう
931 と思い,
932
933 「このままだと二人とも警察に突き出される。
934
935 俺は執行猶予中なのでやばい。
936
937 二人で丙
938 を殴って気絶させよう。
939
940 そのすきに逃げよう。
941
942 」と言うと,
943 甲も覚悟を決めた様子で,
944 「分かっ
945 た。
946
947 」と答えた。
948
949 二人でロッカーの陰に隠れていたら,
950 丙は店内を通って事務室の方に歩いてき
951 て,
952 事務室内に入り掛けたが,
953 その時,
954 甲がロッカーの陰から飛び出して,
955 背後から丙を羽交
956 い締めにした。
957
958 丙は「だれだ。
959
960 泥棒。
961
962 」と声を出して暴れ出した。
963
964
965 私は,
966 殴り付けて丙を気絶させようと考えていたが,
967 丙に顔を見られたらおしまいだと思う
968 と気が動転してしまった。
969
970 それで,
971 ポケットに隠してあった果物ナイフを出して利き腕の右手
972 に構え,
973 刃を前に向けながら,
974 無我夢中で丙の腹部を目掛けて力任せに突き刺したところ,
975
976 く刺さった感触があった。
977
978 丙は「ギャ」と叫び声を上げてその場に倒れた。
979
980
981 甲は驚いた様子で,
982 「殴るだけだと言ったじゃないか。
983
984 何で刺すんだ。
985
986 死んだらどうする。
987
988
989 と強い口調で怒ったが,
990 私は「顔を見られたらまずい。
991
992 刺すしかなかった。
993
994 」と言い返した。
995
996
997 を見ると,
998 床にうつ伏せに倒れ,
999 息も絶え絶えでぐったりしており,
1000 腹部から流れ出した血が
1001 床に広がっていたので,
1002 助からないと思った。
1003
1004 なお,
1005 甲は私が果物ナイフを持っていることを
1006 事前に知らなかったはずだ。
1007
1008
1009 取調べの際に,
1010 押収された果物ナイフを見せてもらったが,
1011 私が丙を刺す時に使ったナイフ
1012 に間違いない。
1013
1014
1015
1016
1017 丙を刺した後,
1018 私は甲に「早く逃げよう。
1019
1020 」と言ったが,
1021 甲は「二人で逃げたらまずい。
1022
1023 あん
1024 ただけ早く逃げろ。
1025
1026 」と言い,
1027 自動車のキーを私に差し出しながら,
1028 「丙の車のキーが落ちてい
1029 た。
1030
1031 表に車が止まっているから,
1032 それに乗って早く逃げろ。
1033
1034 」と言った。
1035
1036 私は,
1037 丙が落とした車
1038 のキーを甲が拾ったのだと思い,
1039 そのキーを受け取って外に出て,
1040 止まっていた乗用車に乗り
1041 込み,
1042 その場から逃げた。
1043
1044 私はしばらく車に乗った後に乗り捨てるつもりだった。
1045
1046
1047
1048
1049
1050 Tを出発して走っていたが,
1051 救急車やパトカーのサイレンが聞こえてきたので怖くなり,
1052
1053 市内の道路で車を乗り捨て,
1054 歩いて実家に帰った。
1055
1056 そして,
1057 2月10日及び2月11日は実家
1058 で隠れていたが,
1059 2月12日,
1060 刑事さん達が実家に来て同行を求められたので,
1061 それに応じて
1062 K警察署に来た。
1063
1064 刑事さんの取調べを受けた際,
1065 最初はとぼけていたが,
1066 現場に落ちていたナ
1067 イフに私の指紋が付いていたことを告げられたので,
1068 観念して犯行を自供したところ,
1069 間もな
1070 く逮捕された。
1071
1072 逮捕後,
1073 甲のことも含めて正直に供述したが,
1074 数日後,
1075 甲も逮捕されたようだ。
1076
1077
1078 なお,
1079 現金5万円は使っておらず,
1080 全額押収された。
1081
1082
1083
1084 - 6 -
1085
1086 〔第2問〕(配点:100)
1087 以下の事例を読んで,
1088 後記の設問1から3に答えなさい。
1089
1090
1091 【事例】
1092
1093
1094 平成16年7月29日午後9時30分ころ,
1095 I警察署に,
1096 Aコンビニエンスストア(以下「A
1097 コンビニ店」という。
1098
1099 )店長Wから,
1100 「店の横の路地でけんかがあり,
1101 男の人が頭から血を出し
1102 て倒れているのですぐに来てください。
1103
1104 」という110番通報があった。
1105
1106
1107
1108
1109
1110 I警察署から連絡を受けたI警察署J交番の警察官X及びYの両名が,
1111 同日午後9時45分
1112 ころ,
1113 Aコンビニ店横の路地に臨場すると,
1114 頭から血を流した40歳代の男性Vが倒れており,
1115
1116 そのそばで,
1117 Wが倒れているVの頭を支えるようにしていた。
1118
1119
1120 警察官Xが「どうしました,
1121 大丈夫ですか。
1122
1123 」と声を掛けると,
1124 Vは,
1125 「Aコンビニ店を出て
1126 右横の路地に入ったところ,
1127 後ろからいきなり固いもので殴られました。
1128
1129 殴られた弾みで前に
1130 うつ伏せに倒れたら,
1131 今度は背中や腰などを数回足げにされました。
1132
1133 このとき,
1134
1135 『この野郎,
1136
1137 めたことをするからだ。
1138
1139 』などという声がしたので,
1140 犯人は見ず知らずの者ではないと思います。
1141
1142
1143 しかし,
1144 私には犯人として思い当たる者はいません。
1145
1146 なお,
1147 けられた感じからして犯人は二人
1148 組だと思います。
1149
1150 」と述べた。
1151
1152
1153 Wは,
1154
1155 「店にいた二人組の男が,
1156 だれかを襲うようなことを話していたので,
1157 その様子を見て
1158 いると,
1159 二人組の男は,
1160 店にいた客のVが出ていった後を追い掛けるようにして店を出ていっ
1161 た。
1162
1163 私も気に掛かって店の外に出たところ,
1164 怒鳴るような声が聞こえた。
1165
1166 そこで,
1167 その声がし
1168 た右横の路地に入ってみると,
1169 Vが倒れており,
1170 二人組が逃げていくのが見えた。
1171
1172 Vのところ
1173 に駆け寄るとVが頭から血を出して倒れていた。
1174
1175 二人組のうち,
1176 若い男は時々店に来ていた男
1177 で,
1178 駅前のCビルにあるB興産という名称の暴力団事務所に出入りしている男だと思う。
1179
1180 その
1181 男は年齢20歳くらいで,
1182 坊主頭だが,
1183 今日は野球帽をかぶり,
1184 白いTシャツを着ていた。
1185
1186 」と
1187 述べた。
1188
1189
1190 警察官X及びYは,
1191 傷害事件と認め,
1192 警察官Xが引き続き現場でVから事情聴取を行った。
1193
1194
1195 警察官Yは,
1196 Wが供述した暴力団事務所の場所を確認するため,
1197 同日午後10時15分ころ,
1198
1199 駅前のB興産という暴力団の事務所があるCビルに赴いた。
1200
1201 Cビルは,
1202 Aコンビニ店から約8
1203 00メートル離れた雑居ビルで,
1204 同ビル1階の郵便受けを見たところ,
1205 同ビル3階にB興産の
1206 事務所がある旨の表示があった。
1207
1208 そのとき,
1209 甲が一人で同ビルの階段から1階に下りてきて,
1210
1211 警察官Yの前を通り過ぎようした。
1212
1213 警察官Yは,
1214 甲が年齢20歳くらいの男性で,
1215 野球帽をか
1216 ぶり,
1217 白いTシャツを着ていたことから,
1218 この男が傷害事件の犯人の一人ではないかと考え,
1219
1220 甲に「君はこのビルの3階の人ですか。
1221
1222 」と尋ねたところ,
1223 返事をしないで通り過ぎようとした
1224 ので,
1225 さらに,
1226
1227 「聞きたいことがあるのだけれど。
1228
1229 」と言って呼び止めた。
1230
1231 しかし,
1232 甲は,
1233
1234 「関係
1235 ねえだろう。
1236
1237 」と言って立ち去ろうとしたので,
1238 警察官Yが右手で甲の右腕を押さえ,
1239 「聞きた
1240 いことがあると言っているだろう。
1241
1242 」と言ったところ,
1243 甲は,
1244 警察官Yの手を振り払い,
1245 いきな
1246 りその場から走り出した。
1247
1248 そのため,
1249 警察官Yは,
1250 甲を追い掛けて約200メートル走ったと
1251 ころで追い付き,
1252 その右肩に手を掛けて甲を停止させ,
1253
1254 「お前は,
1255 Aコンビニ店横の路地で人を
1256 けがさせただろう。
1257
1258 」と言ったところ,
1259 甲は,
1260 観念したように「はい。
1261
1262 」と言って犯行を認めた。
1263
1264
1265 警察官Yは,
1266 「お前を逮捕するからな。
1267
1268 」と言って,
1269 同日午後10時25分,
1270 その場で,
1271 甲を現
1272 行犯人として逮捕した。
1273
1274 そして,
1275 警察官Yは,
1276 I警察署に連絡し,
1277 10分後に到着したパトカ
1278 ーに甲を乗せてI警察署に連行し,
1279 パトカーは,
1280 同日午後11時10分,
1281 I警察署に到着した。
1282
1283
1284 I警察署到着後,
1285 Wに甲の顔を見せたところ,
1286 Wは,
1287 甲がAコンビニ店にいた二人組の一人に
1288 間違いない旨供述した。
1289
1290
1291
1292
1293
1294 その後,
1295 甲は,
1296 同月30日の取調べにおいて,
1297 乙に指示されてVに暴行を加えた旨を供述し
1298 たので,
1299 I警察署においては,
1300 直ちに乙に対する逮捕状を得て,
1301 同日午後3時,
1302 B興産事務所
1303 内にいた乙を逮捕状に基づいて逮捕した。
1304
1305
1306 - 7 -
1307
1308
1309
1310 同月31日午前10時,
1311 甲は,
1312 乙と共謀して,
1313 Vに対して全治約1か月を要する頭部挫傷等
1314 の傷害を負わせたという傷害罪の事実でK地方検察庁に送致された。
1315
1316
1317 送致を受けたK地方検察庁の担当検察官Pは,
1318 同日午前11時,
1319 甲に対して弁解の機会を与
1320 えたところ,
1321 甲は逮捕事実をすべて認めた。
1322
1323 その後,
1324 検察官Pは,
1325 同日午前11時40分,
1326
1327 を釈放した上,
1328 同日午前11時41分,
1329 同一事実で甲を緊急逮捕した。
1330
1331 検察官Pが甲に対して
1332 弁解の機会を与えたところ,
1333 甲は,
1334 逮捕事実を認めた。
1335
1336 検察官Pは,
1337 同日午後1時,
1338 K地方裁
1339 判所裁判官に対して,
1340 甲に対する逮捕状を請求し,
1341 同日午後2時,
1342 K地方裁判所裁判官から甲
1343 の逮捕状が発付された。
1344
1345 その後,
1346 甲は,
1347 検察官Pに対して,
1348 次のような供述を行い,
1349 供述録取
1350 書が作成された。
1351
1352
1353
1354
1355 甲の供述要旨
1356 私の年齢は21歳で,
1357 父親が経営している飲食店で働き,
1358 両親と同居しているが,
1359 2か
1360 月くらい前から,
1361 暴力団であるB興産に出入りするようになった。
1362
1363 しかし,
1364 B興産の正式
1365 な組員ではなく,
1366 B興産の組員である乙(30歳)の使い走りをし,
1367 実家に帰らないとき
1368 はB興産の事務所又は乙の住んでいるアパートで寝起きをしている。
1369
1370 そのため,
1371 実家に帰
1372 るのは週に1,
1373 2回であり,
1374 家の仕事の手伝いもしなくなった。
1375
1376
1377 私がVの後頭部を木製の丸こん棒で殴って倒し,
1378 その後,
1379 私と乙の二人で,
1380 Vの背中や
1381 腰を足げにした。
1382
1383
1384 私がVに暴行を加えた理由は,
1385 乙から指示されたからで,
1386 私には,
1387 なぜVを襲うことに
1388 したのかは分からない。
1389
1390 また,
1391 Vを襲うまで,
1392 Vとは面識がなかった。
1393
1394
1395 Vに暴行を加えたとき使用した木製の丸こん棒は乙から渡されたものである。
1396
1397
1398 警察や検察庁で取調べを受けるのは,
1399 今回が初めてで,
1400 前科前歴はない。
1401
1402
1403
1404 検察官Pは,
1405 同日午後5時,
1406 K地方裁判所裁判官に対し,
1407 甲の勾留を請求した。
1408
1409
1410
1411
1412 同月30日に逮捕された乙は,
1413 逮捕後の取調べにおいて,
1414 Vに対する傷害について,
1415 乙自身
1416 の暴行及び甲との共謀のいずれについても否認しており,
1417 同年8月1日に検察官に送致される
1418 予定である。
1419
1420
1421
1422 〔設問1〕
1423
1424 K地方裁判所裁判官は,
1425 甲を勾留することができるか。
1426
1427 前記事例中の事実を摘示して
1428
1429 論じなさい。
1430
1431
1432 【事例(続き)】
1433
1434
1435 甲及び乙に対して,
1436 それぞれ勾留状が発付され,
1437 執行された。
1438
1439
1440 甲は勾留された後,
1441 犯行の経緯及び犯行状況について,
1442 警察官及び検察官に対して,
1443 後記イ
1444 のような供述を行い,
1445 各供述録取書が作成された。
1446
1447
1448 また,
1449 乙は,
1450 自己の関与を否認し,
1451 警察官及び検察官に対して,
1452 後記ウのような供述を行い,
1453
1454 各供述録取書が作成された。
1455
1456
1457
1458
1459 甲の供述要旨
1460 私が犯行当日B興産の事務所にいたところ,
1461 午後9時ころ乙から電話があり,
1462
1463 『今すぐ駅
1464 前のAコンビニ店に来い。
1465
1466 』と言われたので出掛けた。
1467
1468 Aコンビニ店内には乙がおり,
1469 乙は,
1470
1471 書籍棚で週刊誌を立ち読みしていたVの方を指して,
1472 私に『あいつには痛い目に遭っても
1473 らわないかん。
1474
1475 店を出たらお前が後ろからまずやれ。
1476
1477 顔を見られないようにしろ。
1478
1479 』と言い
1480 ながら,
1481 棒のようなものが入った紙袋を手渡してきた。
1482
1483 紙袋の中を見たところ木製の丸こ
1484 ん棒が入っていたので,
1485 私は,
1486 これでVを殴れと言われたのだと分かった。
1487
1488 私は,
1489 Vとは
1490 面識がなく,
1491 Vにけがをさせたくないと思ったが,
1492 ここで断ったら,
1493 乙を怒らせてしまい,
1494
1495 二度とB興産に出入りすることができなくなると思った。
1496
1497 それに,
1498 乙が後ろからやれと言
1499 ったので,
1500 最初に後ろからVの後頭部を殴ってしまえば顔を見られることはないし,
1501 仮に
1502 - 8 -
1503
1504 見られても面識はないから,
1505 私のことがばれることはないだろうと思い,
1506 乙に言われたと
1507 おりやるしかないと決意した。
1508
1509
1510 Aコンビニ店を出て右横の路地で,
1511 私が木製の丸こん棒でVの後頭部を1回殴った後,
1512
1513 乙がVの背中をけ飛ばし始めたので,
1514 私もVの背中や腰辺りをけ飛ばした。
1515
1516 乙は,
1517 4,
1518
1519 回,
1520 私も3,
1521 4回Vの背中や腰辺りをけ飛ばした。
1522
1523
1524 木製の丸こん棒は,
1525 長さ約30センチメートル,
1526 直径約3センチメートルである。
1527
1528
1529 今後は暴力団との付き合いは絶ち,
1530 父親の仕事の手伝いをしたいが,
1531 父の飲食店は,
1532
1533 興産の事務所の近くにあるので,
1534 正直言うと,
1535 乙に指示されたことや乙が暴行を加えたこ
1536 とを警察官や検察官に供述したことで,
1537 乙やB興産の者にお礼参りされるのではないかと
1538 心配だ。
1539
1540 できれば法廷では乙のことについて言いたくない。
1541
1542
1543
1544
1545 乙の供述要旨
1546 私は,
1547 当日(7月29日),
1548 甲と一緒にAコンビニ店にいたことは間違いないが,
1549 甲に対
1550 して,
1551 「Vを痛めつけろ。
1552
1553 」というようなことを指示したことはない。
1554
1555
1556 Vとは面識がある。
1557
1558 B興産の関係者が,
1559 強制競売でマンションビルを競落したが,
1560 その
1561 マンションに居住しているVが立ち退きを拒否していたので,
1562 私は,
1563 競落した関係者と一
1564 緒に,
1565 立ち退きをお願いするためにVに一度会ったことがある。
1566
1567 私が会ったときも立ち退
1568 きを拒否されたが,
1569 今後も交渉を続けるつもりでいた。
1570
1571 立ち退きを拒否されたからといっ
1572 て,
1573 私がVに暴力を加えようと思ったことはない。
1574
1575
1576 当日は,
1577 私がAコンビニ店で甲と一緒にいたところ,
1578 甲は,
1579 Vの方に目をやり,
1580 Vが店
1581 を出た後,
1582 Vを追い掛けるようにして店を出た。
1583
1584 私は,
1585 甲がVに対して何かまずいことを
1586 するのではないかと心配になり,
1587 甲を追い掛けて店を出たところ,
1588 店の右横の路地にVが
1589 うつ伏せに倒れており,
1590 その背中を甲がけ飛ばしていたので,
1591 私は,
1592 甲の暴力をやめさせ,
1593
1594 そのまま甲とともに逃げた。
1595
1596 私は一切Vに暴行を加えていない。
1597
1598 丸こん棒は,
1599 私のもので
1600 あるが,
1601 なぜ,
1602 甲がそのとき持っていたか分からない。
1603
1604
1605
1606
1607
1608 また,
1609 Vは被害状況について,
1610 警察官及び検察官に対し,
1611 次のような供述を行い,
1612 各供述録
1613 取書が作成された。
1614
1615
1616
1617
1618 Vの供述要旨
1619 私の住んでいるマンションが半年前に競売にかかり,
1620 新しい所有者から,
1621 部屋を出るよ
1622 うに言われるようになった。
1623
1624 しかし,
1625 知人に相談したところ,
1626 私の賃貸借契約はマンショ
1627 ンの差押え前に契約したもので,
1628 まだその期間が残っており,
1629 直ちに退去する必要はなく,
1630
1631 退去する場合は,
1632 立ち退き料がもらえるはずだと言われたので,
1633 新しい所有者に対してそ
1634 のように言った。
1635
1636 すると,
1637 B興産の名刺を持った乙がマンションを訪ねてきたので,
1638 乙に
1639 も同じことを言った。
1640
1641 今回私に暴行を加えたのが乙らであると,
1642 後で警察官から聞いて分
1643 かったが,
1644 その原因は,
1645 私がマンションの立ち退きを断ったこと以外考えられない。
1646
1647 暴行
1648 を加えられたとき,
1649 背中の左右を同時にけられたこともあったので,
1650 足げにしてきたのは
1651 少なくとも二人だったと思う。
1652
1653 暴行を受けたとき,
1654 犯人のうちの一人が,
1655
1656 「なめたことをす
1657 るからこういう目にあうんだ。
1658
1659 」と言っていた。
1660
1661 犯人の顔は見ていない。
1662
1663
1664
1665
1666
1667 甲,
1668 乙両名は,
1669 傷害罪の共同正犯として公判請求され,
1670 併合して審理されることになった。
1671
1672
1673 第1回公判期日において,
1674 甲は,
1675 公訴事実について,
1676 甲が一人で行ったもので乙は関係ないと
1677 主張し,
1678 乙は,
1679 捜査段階の供述のとおり,
1680 公訴事実について,
1681 自己の関与を否認した。
1682
1683
1684
1685
1686
1687 第2回公判期日において,
1688 証人Wは,
1689 次のような供述をした。
1690
1691
1692
1693
1694 Wの供述要旨
1695 Aコンビニ店の中で私が商品の整理をしているときに二人組が話をしていた。
1696
1697 二人組の
1698 一人が30歳くらいの男で,
1699 もう一人が20歳くらいの男だった。
1700
1701 法廷にいる甲がその2
1702 0歳くらいの男,
1703 乙がその30歳くらいの男である。
1704
1705 甲は,
1706 2,
1707 3か月前から時々店に買
1708 - 9 -
1709
1710 い物に来ており,
1711 B興産の事務所に出入りしているのを見掛けたことがあったので,
1712 暴力
1713 団であるB興産の組員かその関係者かなと思っていた。
1714
1715 商品棚の整理をしながら二人組に
1716 近づいたところ,
1717 乙が,
1718 甲に向かって,
1719
1720 「あいつには痛い目に遭ってもらわないかん。
1721
1722 店を
1723 出たらお前が後ろからまずやれ。
1724
1725 顔を見られないようにしろ。
1726
1727 」などと話しているのが聞こ
1728 えた。
1729
1730 乙は,
1731 話しながら甲に紙袋のようなものを渡していた。
1732
1733 甲と乙は,
1734 雑誌棚で立ち読
1735 みをしているVの方に時々目をやっていたので,
1736 Vを襲う相談をしているのではないかと
1737 思った。
1738
1739 そして,
1740 Vが店を出た後,
1741 甲と乙の二人が,
1742 Vの後を追うようにして出ていった。
1743
1744
1745 それで,
1746 私は,
1747 気に掛かって店の外に出たところ,
1748 店の右横の路地の方から,
1749 怒鳴り声が
1750 聞こえてきた。
1751
1752 しかし,
1753 怖かったので,
1754 私は,
1755 すぐにはその路地に入ることができず,
1756
1757 がやんでから恐る恐る路地に入ってみたところ,
1758 Vがうつ伏せに倒れており,
1759 甲と乙の二
1760 人が,
1761 路地の奥の方に走って逃げていくのが見えた。
1762
1763 すぐに私がVの倒れていたところに
1764 行くと,
1765 Vが後頭部から血を流していたので,
1766 所持していた携帯電話で110番通報した。
1767
1768
1769 10
1770
1771 第3回公判期日において,
1772 被告人甲は,
1773 次のような供述をした。
1774
1775
1776
1777
1778 公判廷における被告人甲の供述要旨
1779 私がVに対し,
1780 木製の丸こん棒で後頭部を殴打したこと,
1781 背中を3,
1782 4回足げにしたこ
1783 とは認める。
1784
1785 しかし,
1786 このことは,
1787 乙から指示されたわけではない。
1788
1789 また,
1790 乙は,
1791 Vに暴
1792 行を加えていない。
1793
1794 木製の丸こん棒は,
1795 私がB興産の事務所から持ち出した。
1796
1797
1798 これ以外のことについては,
1799 供述したくない。
1800
1801 供述したくない理由についても言いたく
1802 ない。
1803
1804 私の捜査段階における検察官に対する供述が法廷における供述と異なっていること
1805 は認めるが,
1806 なぜ異なっているか分からない。
1807
1808
1809
1810 〔設問2〕
1811
1812 第2回公判期日におけるWの前記オの供述の証拠能力について,
1813 問題点を挙げて論じ
1814
1815 なさい。
1816
1817
1818 〔設問3〕
1819
1820 第3回公判期日における甲の前記カの供述を前提に,
1821 捜査段階における甲の前記アの
1822
1823 検察官に対する供述録取書並びに前記イの警察官及び検察官に対する各供述録取書の証拠能力に
1824 ついて,
1825 問題点を挙げて論じなさい。
1826
1827
1828
1829 - 10 -
1830
1831