1 論文式試験問題集[公法系科目]
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3 - 1 -
4
5 [公法系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 市町村長は,
8 個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,
9 住民基本台帳を作成しなければな
10 らない【参考資料1】。
11
12 生活の本拠である住所(民法第22条参照)の有無によって,
13 権利や利益の
14 享受に影響が生じる。
15
16 国民の重要な基本的権利である選挙権も,
17 住所を有していないと,
18 選挙権を
19 行使する機会自体を奪われる(公職選挙法第21条第1項,
20 第28条第2号,
21 第42条第1項参照)。
22
23
24 また,
25 国民健康保険や介護保険等の手続をするためには,
26 住民登録が必要である。
27
28 ただし,
29 生活保
30 護法は,
31 「住所」という語を用いておらず,
32 「居住地」あるいは「現在地」を基準として保護するか
33 否かを決定し,
34 かつ,
35 これを実施する者を定めている【参考資料2】。
36
37
38 ボランティア活動などの社会貢献活動を行う,
39 営利を目的としない団体(NPO)である団体A
40 は,
41 ホームレスの人たちなどが最底辺の生活から抜け出すための支援活動を行っている。
42
43 団体Aは,
44
45 支援活動の一環として,
46 Y市内に2つのシェルター(総収容人数は100名)を所有している。
47
48
49 の2つのシェルターに居住する人たちは,
50 それぞれのシェルターを住所として住民登録を行い,
51
52 活保護受給申請や雇用保険手帳の取得,
53 国民健康保険や介護保険等の手続をしている。
54
55
56 Xは,
57 Y市内にあるB社に正規社員として20年勤めていたが,
58 B社が倒産し,
59 突然職を失った。
60
61
62 そして,
63 失職が大きな原因となり,
64 X夫婦は離婚した。
65
66 その後,
67 Xは,
68 C派遣会社に登録し,
69 紹介
70 されたY市内にあるD社に派遣社員として勤め始め,
71 Y市内にあるD社の寮に入居した。
72
73 しかし,
74
75 D社の経営状況が悪化したために,
76 いわゆる「派遣切り」されたXは,
77 寮からも退去させられた。
78
79
80 職も住む所も失ってしまったXは,
81 団体Aに支援を求めた。
82
83 そして,
84 その団体Aのシェルターに入
85 居し,
86 そこを住所として住民登録を行った。
87
88 不定期のアルバイトをしながら,
89 できる限り自立した
90 生活をしたいと思っているXは,
91 正規社員としての採用を目指して,
92 正規社員募集の情報を知ると
93 応募していたが,
94 すべて不採用であった。
95
96 その後,
97 厳しい経済不況の中,
98 団体Aの支援を求める人
99 も急増し,
100 2つのシェルターに居住し,
101 そこを住所として住民登録を行う人数が200名を超える
102 に至った。
103
104 シェルターが「飽和状態」となって息苦しさを感じたXは,
105 シェルターに帰らなくなり,
106
107 正規社員への途も得られず,
108 アルバイトで得たお金があるときはY市内のインターネット・カフェ
109 を泊まり歩き,
110 所持金がなくなったときにはY市内のビルの軒先で寝た。
111
112
113 201*年4月に,
114 Y市は,
115 住民の居住実態に関する調査を行った。
116
117 調査の結果,
118 団体Aのシェ
119 ルターを住所として住民登録している人のうち,
120 Xを含む60名には当該シェルターでの居住実態
121 がないと判断した。
122
123 Y市長は,
124 それらの住民登録を抹消した。
125
126
127 住民登録が抹消されたことを知ったXは,
128 それによって生活上どのようなことになるのかを質問
129 しに,
130 市役所に行ったところ,
131 国民健康保険被保険者証も失効するなどの説明を受けた。
132
133 Xは,
134
135 弱という持病があるし,
136 最近体調も思わしくなかったが,
137 医療費が全額自己負担になるので,
138 病院
139 に行くに行けなくなった。
140
141
142 住民登録を抹消され,
143 貧困ばかりでなく,
144 生命や健康さえも脅かされる状況に追い詰められたX
145 は,
146 生活保護制度に医療扶助もあることを知り,
147 申請日前日に宿泊していたインタ−ネット・カフ
148 ェを「居住地」として,
149 Y市長から委任(生活保護法第19条第4項参照)を受けている福祉事務
150 所長に生活保護の認定申請を行った。
151
152
153 Y市は,
154 財政上の問題(生活保護のための財源は,
155 国が4分の3,
156 都道府県や市,
157 特別区が4分
158 の1を負担する。
159
160 )もあるが,
161 それ以上にホームレス【参考資料3】などが市に増えることで市のイ
162 メージが悪くなることを嫌って,
163 インターネット・カフェやビルの軒先を「居住地」あるいは「現
164 在地」とは認めない制度運用を行っている。
165
166 そこで,
167 Y市福祉事務所長は,
168 Xの申請を却下した。
169
170
171 Xは,
172 たまたまインターネット・カフェで見ていたニュースで,
173 自分と全く同じ状況にある人にも
174 生活保護を認める自治体があることを知った。
175
176 その自治体は,
177 インターネット・カフェやビルの軒
178 先も「居住地」あるいは「現在地」と認めている。
179
180 そこで,
181 Xは,
182 Y市福祉事務所長の却下処分に
183 - 2 -
184
185 対して,
186 自分と同じ状況にある人の保護を認定している自治体もあることなどを理由に,
187 不服申立
188 てを行った。
189
190 しかし,
191 不服申立ても,
192 棄却された。
193
194
195 Y市は,
196 衆議院議員総選挙における選挙区を定める公職選挙法別表第1によれば,
197 市全域で1選
198 挙区と定められている。
199
200 Xは,
201 住民登録が抹消された年の10月に行われた衆議院議員総選挙の際
202 に,
203 選挙人名簿から登録を抹消されたために投票することができなかった。
204
205 このような事態は,
206
207 来から,
208 ホームレスの人たちなどの支援活動を行っているNPOから指摘されていた。
209
210 そして,
211
212 れらのNPOは,
213 Xの住民登録が抹消された年の10月に行われた衆議院議員総選挙よりも7年前
214 に行われた200*年8月の衆議院議員総選挙の際に,
215 国政選挙における「住所」要件(公職選挙
216 法第21条第1項,
217 第28条第2号及び第42条第1項のほか,
218 同法第9条,
219 第11条,
220 第12条,
221
222 第21条,
223 第27条第1項参照)の改正を求める請願書を総務省に提出していた。
224
225
226 Xは,
227 無料法律相談に行き,
228 生活保護と選挙権について弁護士に相談した。
229
230
231 〔設問1〕
232 あなたがXの訴訟代理人として訴訟を提起するとした場合,
233 訴訟においてどのような憲法上の
234 主張を行うか。
235
236 憲法上の問題ごとに,
237 その主張内容を書きなさい。
238
239
240 〔設問2〕
241 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,
242 被告側の反論を想定しつつ,
243 述べ
244 なさい。
245
246
247
248 - 3 -
249
250 【参考資料1】住民基本台帳法(昭和42年7月25日法律第81号)(抄録)
251 (目的)
252 第1条
253
254 この法律は,
255 市町村(特別区を含む。
256
257 以下同じ。
258
259 )において,
260 住民の居住関係の公証,
261 選挙
262
263 人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに住民の住所に関する届出等
264 の簡素化を図り,
265 あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため,
266 住民に関する記録を正確
267 かつ統一的に行う住民基本台帳の制度を定め,
268 もつて住民の利便を増進するとともに,
269 国及び地
270 方公共団体の行政の合理化に資することを目的とする。
271
272
273 (国及び都道府県の責務)
274 第2条
275
276 国及び都道府県は,
277 市町村の住民の住所又は世帯若しくは世帯主の変更及びこれらに伴う
278
279 住民の権利又は義務の異動その他の住民としての地位の変更に関する市町村長(特別区の区長を
280 含む。
281
282 以下同じ。
283
284 )その他の市町村の執行機関に対する届出その他の行為(次条第3項及び第21
285 条において「住民としての地位の変更に関する届出」と総称する。
286
287 )がすべて一の行為により行わ
288 れ,
289 かつ,
290 住民に関する事務の処理がすべて住民基本台帳に基づいて行われるように,
291 法制上そ
292 の他必要な措置を講じなければならない。
293
294
295 (市町村長等の責務)
296 第3条
297
298 市町村長は,
299 常に,
300 住民基本台帳を整備し,
301 住民に関する正確な記録が行われるように努
302
303 めるとともに,
304 住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めな
305 ければならない。
306
307
308
309
310 市町村長その他の市町村の執行機関は,
311 住民基本台帳に基づいて住民に関する事務を管理し,
312
313 又は執行するとともに,
314 住民からの届出その他の行為に関する事務の処理の合理化に努めなけれ
315 ばならない。
316
317
318
319
320
321 住民は,
322 常に,
323 住民としての地位の変更に関する届出を正確に行なうように努めなければなら
324 ず,
325 虚偽の届出その他住民基本台帳の正確性を阻害するような行為をしてはならない。
326
327
328
329
330
331 (略)
332
333 (住民の住所に関する法令の規定の解釈)
334 第4条
335
336 住民の住所に関する法令の規定は,
337 地方自治法(昭和22年法律第67号)第10条第1
338
339 項に規定する住民の住所と異なる意義の住所を定めるものと解釈してはならない。
340
341
342 (住民基本台帳の備付け)
343 第5条
344
345 市町村は,
346 住民基本台帳を備え,
347 その住民につき,
348 第7条に規定する事項を記録するもの
349
350 とする。
351
352
353 (住民基本台帳の作成)
354 第6条
355
356 市町村長は,
357 個人を単位とする住民票を世帯ごとに編成して,
358 住民基本台帳を作成しなけ
359
360 ればならない。
361
362
363 2,
364
365
366 (略)
367
368 (住民票の記載事項)
369 第7条
370
371 住民票には,
372 次に掲げる事項について記載(前条第3項の規定により磁気ディスクをもつ
373
374 て調製する住民票にあつては,
375 記録。
376
377 以下同じ。
378
379 )をする。
380
381
382
383
384 氏名
385
386
387
388 出生の年月日
389
390
391
392 男女の別
393
394
395
396 世帯主についてはその旨,
397 世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
398
399
400
401 戸籍の表示。
402
403 ただし,
404 本籍のない者及び本籍の明らかでない者については,
405 その旨
406
407
408
409 住民となつた年月日
410
411
412
413 住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については,
414 その住所を定め
415 - 4 -
416
417 た年月日
418
419
420 新たに市町村の区域内に住所を定めた者については,
421 その住所を定めた旨の届出の年月日(職
422 権で住民票の記載をした者については,
423 その年月日)及び従前の住所
424
425
426
427 選挙人名簿に登録された者については,
428 その旨
429
430 十〜十四
431
432 (略)
433
434 (選挙人名簿の登録等に関する選挙管理委員会の通知)
435 第10条
436
437 市町村の選挙管理委員会は,
438 公職選挙法(昭和25年法律第100号)第22条第1項
439
440 若しくは第2項若しくは第26条の規定により選挙人名簿に登録したとき,
441 又は同法第28条の
442 規定により選挙人名簿から抹消したときは,
443 遅滞なく,
444 その旨を当該市町村の市町村長に通知し
445 なければならない。
446
447
448 (選挙人名簿との関係)
449 第15条
450
451 選挙人名簿の登録は,
452 住民基本台帳に記録されている者で選挙権を有するものについて
453
454 行なうものとする。
455
456
457
458
459 市町村長は,
460 第8条の規定により住民票の記載等をしたときは,
461 遅滞なく,
462 当該記載等で選挙
463 人名簿の登録に関係がある事項を当該市町村の選挙管理委員会に通知しなければならない。
464
465
466
467
468
469 市町村の選挙管理委員会は,
470 前項の規定により通知された事項を不当な目的に使用されること
471 がないよう努めなければならない。
472
473
474
475 - 5 -
476
477 【参考資料2】生活保護法(昭和25年5月4日法律第144号)(抄録)
478 (この法律の目的)
479 第1条
480
481 この法律は,
482 日本国憲法第25条に規定する理念に基き,
483 国が生活に困窮するすべての国
484
485 民に対し,
486 その困窮の程度に応じ,
487 必要な保護を行い,
488 その最低限度の生活を保障するとともに,
489
490 その自立を助長することを目的とする。
491
492
493 (無差別平等)
494 第2条
495
496 すべて国民は,
497 この法律の定める要件を満たす限り,
498 この法律による保護(以下「保護」
499
500 という。
501
502 )を,
503 無差別平等に受けることができる。
504
505
506 (最低生活)
507 第3条
508
509 この法律により保障される最低限度の生活は,
510 健康で文化的な生活水準を維持することが
511
512 できるものでなければならない。
513
514
515 (実施機関)
516 第19条
517
518 都道府県知事,
519 市長及び社会福祉法(昭和26年法律第45号)に規定する福祉に関す
520
521 る事務所(以下「福祉事務所」という。
522
523 )を管理する町村長は,
524 次に掲げる者に対して,
525 この法律
526 の定めるところにより,
527 保護を決定し,
528 かつ,
529 実施しなければならない。
530
531
532
533
534 その管理に属する福祉事務所の所管区域内に居住地を有する要保護者
535
536
537
538 居住地がないか,
539 又は明らかでない要保護者であつて,
540 その管理に属する福祉事務所の所管
541 区域内に現在地を有するもの
542
543
544
545 居住地が明らかである要保護者であつても,
546 その者が急迫した状況にあるときは,
547 その急迫し
548 た事由が止むまでは,
549 その者に対する保護は,
550 前項の規定にかかわらず,
551 その者の現在地を所管
552 する福祉事務所を管理する都道府県知事又は市町村長が行うものとする。
553
554
555
556
557
558 第30条第1項ただし書の規定により被保護者を救護施設,
559 更生施設若しくはその他の適当な
560 施設に入所させ,
561 若しくはこれらの施設に入所を委託し,
562 若しくは私人の家庭に養護を委託した
563 場合又は第34条の2第2項の規定により被保護者に対する介護扶助(施設介護に限る。
564
565 )を介護
566 老人福祉施設(介護保険法第8条第24項に規定する介護老人福祉施設をいう。
567
568 以下同じ。
569
570 )に委
571 託して行う場合においては,
572 当該入所又は委託の継続中,
573 その者に対して保護を行うべき者は,
574
575 その者に係る入所又は委託前の居住地又は現在地によつて定めるものとする。
576
577
578
579
580
581 前三項の規定により保護を行うべき者(以下「保護の実施機関」という。
582
583 )は,
584 保護の決定及び
585 実施に関する事務の全部又は一部を,
586 その管理に属する行政庁に限り,
587 委任することができる。
588
589
590
591 【参考資料3】ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成14年8月7日法律第105号)
592 (抄録)
593 (目的)
594 第1条
595
596 この法律は,
597 自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存
598
599 在し,
600 健康で文化的な生活を送ることができないでいるとともに,
601 地域社会とのあつれきが生じ
602 つつある現状にかんがみ,
603 ホームレスの自立の支援,
604 ホームレスとなることを防止するための生
605 活上の支援等に関し,
606 国等の果たすべき責務を明らかにするとともに,
607 ホームレスの人権に配慮
608 し,
609 かつ,
610 地域社会の理解と協力を得つつ,
611 必要な施策を講ずることにより,
612 ホームレスに関す
613 る問題の解決に資することを目的とする。
614
615
616 (定義)
617 第2条
618
619 この法律において「ホームレス」とは,
620 都市公園,
621 河川,
622 道路,
623 駅舎その他の施設を故な
624
625 く起居の場所とし,
626 日常生活を営んでいる者をいう。
627
628
629
630 - 6 -
631
632 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
633 2:4.5:3.5〕)
634 A村は,
635 人口が昭和30年には約5000人であったが,
636 年々減少し,
637 平成20年には約240
638 0人にまで落ち込んでいる。
639
640 その間,
641 過疎地域の指定も受け,
642 村の財政は極めて厳しい状況が続い
643 ている。
644
645 こうした状況下で,
646 A村は,
647 人口減少対策・過疎対策として,
648 A村の保有する土地(10
649 区画)(以下「本件土地」という。
650
651 )を,
652 希望者を募って平成21年4月20日に売却した。
653
654 本件土
655 地は,
656 近隣市の中心部まで自動車で30分程度の通勤圏に位置している。
657
658 前年にもA村は売却を試
659 みたが,
660 相場並みに価格を定めたところ,
661 1区画に応募があったのみであり,
662 この1区画について
663 も契約の締結に至らなかった。
664
665 そこで今回は,
666 下限の価格を定めずに,
667
668 「分譲価格と条件は購入希望
669 者と直接相談させていただきます」という内容を記載した村民向けチラシ,
670 近隣市町村における折
671 り込みチラシ,
672 新聞広告,
673 現地看板などにより広報を行い,
674 10区画すべてをそのとおりに売却し
675 た。
676
677 成約価格は結果として,
678 最も高い区画で560万円,
679 最も安い区画で400万円,
680 全区画の売
681 却価格の総額は4800万円であった。
682
683 購入者の中には,
684 側溝部分など,
685 一部の土地対価について
686 支払を免除された者も多数存在する。
687
688 また,
689 購入者の中には,
690 A村の部長の弟や売却担当部局職員
691 の妻も含まれていた。
692
693 さらに,
694 村内の利便性を欠く地区に住む者による買換えが,
695 複数見られた。
696
697
698 ある週刊誌に,
699 本件土地の売買に疑惑があるとする記事が掲載されたことを契機として,
700 村民B
701 及びCは,
702 平成22年3月19日に地方自治法第242条による住民監査請求を行った。
703
704 B及びC
705 は,
706 本件土地は慎重に時間を掛ければより高価で売却できる物件であったにもかかわらず,
707 性急に
708 破格の安値で売却した村長Eの措置は,
709 村の財政を悪化させ,
710 村の財産を無駄遣いするものであり,
711
712 また,
713 このような財産の処分のために必要な議会の議決を欠くことのほか,
714 本件土地の売買は村関
715 係者の身内に便宜を図るものであり,
716 売却の方式や相手方の選定に関して公正を欠くことを主張し
717 た。
718
719 しかしA村の監査委員は,
720 B及びCの請求には理由がないと判断し,
721 その旨を同年4月23日
722 にB及びCに通知した。
723
724 そこでB及びCは,
725 Eによる本件土地の売買契約の締結によって,
726 A村が
727 売却価格と時価との差額分(約3200万円)の損害を被ったとして,
728 Eに損害賠償を求めるため
729 の住民訴訟を提起しようとしている。
730
731 このうちCは,
732 同年5月1日にA村から転出しており,
733 現在
734 は他の市に住んでいる。
735
736 また,
737 村民Dは,
738 住民監査請求を行っていないが,
739 B及びCが提起を検討
740 している住民訴訟に原告として加わろうとしている。
741
742
743 他方,
744 A村議会の議員の一部は,
745 Eは,
746 平成19年に村長に就任して以来,
747 厳しい環境の中でA
748 村の財政再建に貢献してきた功労者であるし,
749 必ずしも裕福ではないことから,
750 村がEに損害賠償
751 を請求するのは適切でないと主張して,
752 B,
753 C及びDの3名(以下「Bら」という。
754
755 )の動きに反発
756 している。
757
758 これらの議員は,
759 Bらの請求を認容する一審判決が出された場合には,
760 控訴した上で,
761
762 Eに対する村の損害賠償請求権を放棄する議会の議決を行うことを検討し始めている。
763
764 A村はこれ
765 まで行政訴訟を提起された経験がないことから,
766 Eは,
767 急きょ,
768 そうした訟務に詳しい顧問弁護士
769 Fと同村の総務課職員G,
770 H及びIとで,
771 対応策を検討する会議(以下「検討会議」という。
772
773 )を平
774 成22年5月6日に開催することとした。
775
776 検討会議の中では,
777 職員から様々な疑問,
778 質問,
779 課題が
780 提示されたため,
781 弁護士Fが,
782 その整理・検討を任されることとなった。
783
784
785 【資料1
786
787 検討会議の会議録】を読んだ上で,
788 弁護士Fの立場に立って,
789 以下の設問に答えなさ
790
791 い。
792
793
794 なお,
795 地方自治法施行令の抜粋を【資料2
796
797 関係法令】に,
798 また関連する裁判例を【資料3
799
800
801
802 会による請求権放棄に関する裁判例】に,
803 それぞれ掲げるので,
804 適宜参照しなさい。
805
806
807 〔設問1〕
808 Bらが提起することが予想される住民訴訟を具体的に示して,
809 これをBらが適法に提起できる
810 かどうかについて検討しなさい。
811
812
813
814 - 7 -
815
816 〔設問2〕
817 Bらによる住民訴訟が適法とされる場合には,
818 Eが本件土地の売買契約を締結したことの適法
819 性が争点になると考えられる。
820
821 この契約締結の適法性について,
822 詳細に検討しなさい。
823
824
825 〔設問3〕
826 Bらの請求を認容する一審判決が出されて,
827 A村議会が請求権を放棄する議決を行う場合を想
828 定して,
829 以下の小問に答えなさい。
830
831
832
833
834 【資料3】に挙げた二つの判決の間で,
835 地方議会による請求権放棄の議決の適法性に関して
836 考え方が分かれた点を説明しなさい。
837
838
839
840
841
842 その上で,
843 これらの判決の考え方をそれぞれ当てはめた場合,
844 本件で村議会議員が検討して
845 いる請求権放棄の議決の適法性についてはどのように判断されることになるか検討して,
846 自ら
847 の意見を述べなさい。
848
849
850
851 - 8 -
852
853 【資料1
854
855 検討会議の会議録】
856
857 総務課長G:我が村は本当に小さな所で,
858 これまで村を相手に村民が行政訴訟を起こした例など全
859 くありませんでした。
860
861 今回のBらの動きは驚きなのですが,
862 聞くところでは,
863 Bらは弁
864 護士にも相談しながら訴訟の準備を進めているようですので,
865 村としても,
866 対応方針を
867 立てておく必要があります。
868
869 今日は,
870 行政訴訟に通じた顧問弁護士のF先生にも出席い
871 ただきました。
872
873 初回の会合ですので,
874 この際,
875 疑問に思っている点を率直に出してくだ
876 さい。
877
878
879
880
881
882
883 H:村の行った売買に,
884 それとは関係のないBらが裁判を起こすことなんてできないと考
885 えていました。
886
887 Bらは売買で損をしたわけでもないし,
888 一体どういった権利や利益を根
889 拠にして訴えを起こすつもりなのでしょうか。
890
891 聞くところでは,
892 住民訴訟という特別の
893 制度があるようですが,
894 それであれば利用できるのですか。
895
896
897
898
899
900
901
902 I:住民訴訟という特別の制度があるとしても,
903 だれでも無条件に住民訴訟を起こせるわ
904 けではないですよね。
905
906 今回のBらは適法に住民訴訟を起こせるのですか。
907
908
909
910
911
912
913
914 H:BやCの行った監査請求では,
915 違法な契約によって村の土地がたたき売りされて,
916
917 が損をした点を問題にしているようですね。
918
919 住民訴訟ではBらは4号請求で行く意向だ
920 といううわさです。
921
922
923
924 総務課長G:それは,
925 地方自治法第242条の2第1項各号に挙げられた4つの請求のうち,
926 第4
927 号に規定された請求をするという意味ですね。
928
929 F先生の方で,
930 Bらが今回の売却に対し
931 て,
932 どういった訴えを起こしてくるのか,
933 4号請求の具体的な内容を示してもらえると
934 参考になります。
935
936 その上で,
937 Bらが提起する訴えが適法かを,
938 B,
939 C及びDのそれぞれ
940 について検討していただけますか。
941
942
943 弁 護 士 F:分かりました。
944
945 それでは,
946 Bらが提起するであろう訴訟について,
947 その具体的内容と
948 適法性を記したペーパーを,
949 早速用意いたします。
950
951
952 総務課長G:よろしくお願いします。
953
954 次に,
955 裁判になったとして,
956 本件土地の売却のいかなる点が
957 違法になるのか,
958 この点の議論に移りたいと思います。
959
960 本件土地の時価をどのように計
961 算するかという問題もありますが,
962 村としては,
963 適正な対価を得て本件土地を売却した
964 と考えています。
965
966 ですから,
967 契約の締結には議会の議決は不要であるという立場です。
968
969
970 しかし,
971 この点について,
972 Bらは争っていますので,
973 F先生に御検討をお願いしたいと
974 思います。
975
976
977 弁 護 士 F:議会の議決というのは,
978 地方自治法第96条第1項第6号,
979 第237条第2項に規定
980 された議決のことですね。
981
982 このほか,
983 第96条第1項第5号も議決を定めていますが,
984
985 これは請負契約を念頭に置いた規定ですから,
986 本件では考えなくてもよいでしょう。
987
988
989 た,
990 第8号の議決の要否については,
991 Bらは今の段階では問題にしていませんので,
992
993 し当たり検討の対象から除くことにします。
994
995
996 総務課長G:これ以外に,
997 契約締結の適法性に関して,
998 遠慮なく,
999 疑問点を出してください。
1000
1001
1002
1003
1004
1005
1006 H:入札手続を採らなかった点など,
1007 契約の手続や内容に様々な違法があるとBらは攻撃
1008 していますが,
1009 村としてはそのようには考えていません。
1010
1011 週刊誌には,
1012 契約が不透明だ
1013 と書かれたのですが,
1014 一体何が問題なのですか。
1015
1016
1017
1018
1019
1020
1021
1022 I:職員や議員の中では,
1023 過疎に悩む本村で採り得る政策として,
1024 やっとのことで買手を
1025 見付けて本件土地を売却したのは当然のことではないかとか,
1026 現に税収面でも貢献して
1027 いるではないかという意見が圧倒的です。
1028
1029 この売却の何が違法と言われるのか,
1030 理解に
1031 苦しむところです。
1032
1033
1034
1035
1036
1037
1038
1039 H:先日来,
1040 総務課でも,
1041 地方自治法第234条や同条第2項に基づく政令を検討し始め
1042 たのですが,
1043 今回の事案にどのように関連するのか,
1044 うまくまとめ切れていません。
1045
1046
1047 がどのような手続によって,
1048 どのような内容の契約を締結するかは,
1049 当然に村長の裁量
1050 - 9 -
1051
1052 で決められると思うのですが。
1053
1054
1055 総務課長G:契約締結の適法性に関する問題,
1056 特にH君が挙げていた条文の解釈が,
1057 最も重要な課
1058 題になりそうですね。
1059
1060 まず,
1061 これらの法律や政令の規定のうち本件にかかわるものの趣
1062 旨を御説明いただけませんか。
1063
1064 その上で,
1065 Bらが,
1066 本件土地の売買契約の締結のどうい
1067 った点を違法だと主張してくるか,
1068 また,
1069 村の側では,
1070 契約締結を適法というためにど
1071 のような主張をすることが考えられるか,
1072 F先生の方で具体的に検討いただき,
1073 契約締
1074 結の適法性に関するF先生の御意見をお聞かせいただけますと助かります。
1075
1076 契約締結の
1077 適法性は,
1078 何といっても村の職員にとって最も関心がある点ですので,
1079 できるだけ包括
1080 的に検討していただけませんか。
1081
1082
1083 弁 護 士 F:それでは,
1084 御質問の点について,
1085 次回の会合までに,
1086 ここは入念に整理しておくこと
1087 とします。
1088
1089
1090 総務課長G:お願いいたします。
1091
1092 それと,
1093 先日もお話ししましたが,
1094 議員の間では,
1095 Bらの動きに
1096 反発する意見が強いのです。
1097
1098 週刊誌でたたかれた点が影響しているのかもしれません。
1099
1100
1101
1102
1103
1104
1105 H:ベテラン議員の中には,
1106 どこかの会合で聞いてきたようなのですが,
1107 Bらが村長の損
1108 害賠償責任を裁判に訴えたとしても,
1109 さらに,
1110 それを認める判決が出されたとしても,
1111
1112 控訴した上で,
1113 村の損害賠償請求権を放棄する議決を議会が行えば大丈夫だといった意
1114 見を説く者もいます。
1115
1116 こうした主張が日増しに強くなっている状況です。
1117
1118 議会は,
1119 こう
1120 した議決を適法に行うことが可能なのですか。
1121
1122 この点は,
1123 議会事務局も心配しています。
1124
1125
1126
1127
1128
1129
1130
1131 I:議決というのは,
1132 地方自治法第96条第1項に規定されている議決のことですか。
1133
1134
1135
1136 弁 護 士 F:ええ,
1137 その第10号ですね。
1138
1139 地方議会による請求権放棄に関しては,
1140 これまで出され
1141 た裁判例で,
1142 判断が分かれています。
1143
1144 手元にある二つの判決【資料3】が,
1145 その例です。
1146
1147
1148 総務課長G:村の請求権がどのような手続によって消滅するのかといった点も,
1149 議論する必要があ
1150 りそうですが,
1151 今の段階では差し当たり,
1152 請求権を放棄する内容の議決を議会は適法に
1153 行うことができるのか,
1154 という点に絞って検討したいと思います。
1155
1156
1157
1158
1159
1160
1161 H:それぞれの判決がよって立つ考え方の違いを整理していただけないでしょうか。
1162
1163
1164 に,
1165 判決の中で「住民訴訟の制度が設けられた趣旨」といわれているのですが,
1166 住民訴
1167 訟の制度趣旨と議会による請求権放棄とは,
1168 どのように関連するのですか。
1169
1170
1171
1172
1173
1174
1175
1176 I:私が関心がありますのは,
1177 お話のあった二つの判決を本件の事案に当てはめた場合
1178 に,
1179 どういった判断が予想されるのかという点です。
1180
1181
1182
1183 総務課長G:いろいろと要望や質問が出ましたが,
1184 議決の適法性の問題に関しては,
1185 本村の議員に
1186 も説明する必要があると考えています。
1187
1188 H君とI君も申しておりましたが,
1189 二つの判決
1190 がそれぞれどのような考え方に立っているのか,
1191 そしてそれぞれの判決によれば,
1192 今回
1193 の案件がどのように判断されるか,
1194 住民訴訟制度の趣旨を踏まえて分かりやすく整理し
1195 ていただき,
1196 本村議会の議員が検討している請求権放棄の議決の適法性について,
1197 F先
1198 生の御意見をお聞かせいただけませんか。
1199
1200
1201 弁 護 士 F:了解しました。
1202
1203 早速,
1204 両判決の分析を進めまして,
1205 課題について検討結果を送らせて
1206 いただきます。
1207
1208
1209 総務課長G:お願いばかりで恐縮ですが,
1210 よろしくお願いいたします。
1211
1212 他に質問がなければ,
1213 本日
1214 の会議は終了といたします。
1215
1216
1217
1218 - 10 -
1219
1220 【資料2
1221
1222
1223 関係法令】
1224
1225 地方自治法施行令(昭和22年5月3日政令第16号)(抜粋)
1226
1227 (指名競争入札)
1228 第167条
1229
1230 地方自治法第234条第2項の規定により指名競争入札によることができる場合は,
1231
1232
1233 次の各号に掲げる場合とする。
1234
1235
1236
1237
1238 工事又は製造の請負,
1239 物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しな
1240 いものをするとき。
1241
1242
1243
1244
1245
1246 その性質又は目的により競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認め
1247 られる程度に少数である契約をするとき。
1248
1249
1250
1251
1252
1253 一般競争入札に付することが不利と認められるとき。
1254
1255
1256
1257 (随意契約)
1258 第167条の2
1259
1260 地方自治法第234条第2項の規定により随意契約によることができる場合は,
1261
1262
1263 次に掲げる場合とする。
1264
1265
1266
1267
1268 売買,
1269 貸借,
1270 請負その他の契約でその予定価格(貸借の契約にあつては,
1271 予定賃貸借料の年
1272 額又は総額)が別表第五上欄(注:左欄)に掲げる契約の種類に応じ同表下欄(注:右欄)に
1273 定める額の範囲内において普通地方公共団体の規則で定める額を超えないものをするとき。
1274
1275
1276
1277
1278
1279 不動産の買入れ又は借入れ,
1280 普通地方公共団体が必要とする物品の製造,
1281 修理,
1282 加工又は納
1283 入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適しな
1284 いものをするとき。
1285
1286
1287
1288 三,
1289
1290
1291
1292
1293 (略)
1294
1295
1296
1297 緊急の必要により競争入札に付することができないとき。
1298
1299
1300
1301
1302
1303 競争入札に付することが不利と認められるとき。
1304
1305
1306
1307
1308
1309 時価に比して著しく有利な価格で契約を締結することができる見込みのあるとき。
1310
1311
1312
1313
1314
1315 競争入札に付し入札者がないとき,
1316 又は再度の入札に付し落札者がないとき。
1317
1318
1319
1320
1321
1322 落札者が契約を締結しないとき。
1323
1324
1325 前項第8号の規定により随意契約による場合は,
1326 契約保証金及び履行期限を除くほか,
1327 最初競
1328
1329 争入札に付するときに定めた予定価格その他の条件を変更することができない。
1330
1331
1332
1333
1334 第1項第9号の規定により随意契約による場合は,
1335 落札金額の制限内でこれを行うものとし,
1336
1337 つ,
1338 履行期限を除くほか,
1339 最初競争入札に付するときに定めた条件を変更することができない。
1340
1341
1342
1343
1344
1345 前二項の場合においては,
1346 予定価格又は落札金額を分割して計算することができるときに限
1347 り,
1348 当該価格又は金額の制限内で数人に分割して契約を締結することができる。
1349
1350
1351
1352 (せり売り)
1353 第167条の3
1354
1355 地方自治法第234条第2項の規定によりせり売りによることができる場合は,
1356
1357
1358 動産の売払いで当該契約の性質がせり売りに適しているものをする場合とする。
1359
1360
1361 別表第五(第167条の2関係)
1362
1363
1364 工事又は製造の請負
1365
1366 都道府県及び指定都市
1367
1368 250万円
1369
1370 市町村(指定都市を除く。
1371
1372 以下この表において同じ。
1373
1374
1375 130万円
1376
1377
1378
1379 財産の買入れ
1380 物件の借入れ
1381
1382 都道府県及び指定都市
1383
1384 160万円
1385
1386 市町村
1387
1388 80万円
1389
1390 都道府県及び指定都市
1391
1392 80万円
1393
1394 市町村
1395
1396 40万円
1397 - 11 -
1398
1399
1400
1401 財産の売払い
1402
1403 都道府県及び指定都市
1404
1405 50万円
1406
1407 市町村
1408
1409 30万円
1410
1411
1412
1413 物件の貸付け
1414
1415
1416
1417 前各号に掲げるもの以外 都道府県及び指定都市
1418 のもの
1419
1420 30万円
1421 市町村
1422
1423 100万円
1424 50万円
1425
1426 - 12 -
1427
1428 【資料3
1429
1430
1431 議会による請求権放棄に関する裁判例】
1432
1433 適法とする判決:東京高等裁判所平成18年7月20日判決(抜粋)
1434 「住民訴訟が提起されたからといって,
1435 住民の代表である地方公共団体の議会がその本来の権限
1436 に基づいて住民訴訟における個別的な請求に反した議決に出ることまで妨げられるべきものではな
1437 い。
1438
1439 本件は,
1440
1441 (略)損害賠償請求権(注:長に対する地方公共団体の損害賠償請求権)の発生原因の
1442 いかんによって放棄の可否を定めた法令はなく,
1443 その放棄の可否は,
1444 住民の代表である議会が,
1445
1446 害賠償請求権の発生原因,
1447 賠償額,
1448 債務者の状況,
1449 放棄することによる影響・効果等を総合考慮し
1450 た上で行う良識ある合理的判断にゆだねられているというほかないのであって,
1451
1452 (略)甲町の住民の
1453 代表で構成される甲町議会は,
1454 本件議案について質疑,
1455 討論を行い,
1456 民主主義の原則にのっとり,
1457
1458 多数決で本件損害賠償請求権を放棄する旨議決したのであるから,
1459 本件議決によって本件損害賠償
1460 請求権は消滅しており,
1461 そのことによって『法治主義に反する状態が続く』ことになるものでもな
1462 い。
1463
1464
1465
1466
1467
1468 違法とする判決:大阪高等裁判所平成21年11月27日判決(抜粋)
1469 「控訴人(注:乙市長)は,
1470 地自法(注:地方自治法)96条1項10号により,
1471 権利の放棄が
1472 議会の議決事項とされている以上,
1473 乙市議会がした本件権利の放棄の議決は当然有効であると主張
1474 する。
1475
1476 しかし,
1477 (略)@(略),
1478 A控訴人は上記財務会計行為(注:乙市による乙市の外郭団体(以
1479 下「本件各団体」という。
1480
1481 )への補助金等の支出)は適法であるとして争っていたところ,
1482 原審は,
1483
1484 上記財務会計行為の一部は違法であると認定し,
1485 乙市の本件各団体に対する不当利得返還請求権,
1486
1487 乙市長に対する損害賠償請求権をそれぞれ一部認めたこと(本件権利),
1488 B控訴人は,
1489 この判決に対
1490 して控訴し,
1491 控訴審において引き続き上記財務会計上の行為は適法であると主張して争ったところ,
1492
1493 当裁判所は平成21年1月21日弁論を終結し,
1494 判決言渡期日を同年3月18日と指定したこと,
1495
1496 C控訴人は,
1497 平成21年2月20日,
1498 本件権利の放棄を含む(略)条例を提出し,
1499 議会は後記のと
1500 おり合理的な理由もないまま本件権利を放棄する旨の決議をなしたこと,
1501 D控訴人は,
1502 平成21年
1503 3月4日,
1504 弁論再開の申立てをし,
1505 当裁判所は,
1506 同月11日弁論を再開する旨の決定をしたこと,
1507
1508 E本件権利は,
1509 乙市の執行機関(市長)が行った違法な財務会計上の行為によって乙市が取得した
1510 多額の不当利得返還請求権ないし損害賠償請求権であり,
1511 この権利の放棄が乙市の財政に与える影
1512 響は極めて大きいと考えられること,
1513 F議会は,
1514 上記権利を放棄する旨の決議をした際,
1515 本件と同
1516 種の事案(略)等についても,
1517 不当利得返還請求権及び損害賠償請求権をいずれも放棄する旨の決
1518 議をしたこと,
1519 G本件権利及び上記Fの権利を放棄するについて,
1520 請求を受けることとなる者の資
1521 力等の個別的・具体的な事情について検討された形跡は窺えないことが認められる。
1522
1523
1524 (略)住民訴訟の制度が設けられた趣旨,
1525 一審で控訴人が敗訴し,
1526 これに対する控訴審の判決が
1527 予定されていた直前に本件権利の放棄がなされたこと,
1528 本件権利の内容・認容額,
1529 同種の事件を含
1530 めて不当利得返還請求権及び損害賠償請求権を放棄する旨の決議の乙市の財政に対する影響の大き
1531 さ,
1532 議会が本件権利を放棄する旨の決議をする合理的な理由はなく,
1533 放棄の相手方の個別的・具体
1534 的な事情の検討もなされていないこと等の事情に照らせば,
1535 本件権利を放棄する議会の決議は,
1536
1537 方公共団体の執行機関(市長)が行った違法な財務会計上の行為を放置し,
1538 損害の回復を含め,
1539
1540 の是正の機会を放棄するに等しく,
1541 また,
1542 本件住民訴訟を無に帰せしめるものであって,
1543 地自法に
1544 定める住民訴訟の制度を根底から否定するものといわざるを得ず,
1545 上記議会の本件権利を放棄する
1546 旨の決議は,
1547 議決権の濫用に当たり,
1548 その効力を有しないものというべきである。
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