1 論文式試験問題集[刑事系科目]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲,
9 乙及び丙の罪責について,
10 具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特
11 別法違反の点を除く。
12
13 )。
14
15
16
17
18 V(78歳)は,
19 数年前から自力で食事や排せつを行うことができない,
20 いわゆる寝たきりの
21 要介護状態にあり,
22 自宅で,
23 妻甲(68歳)の介護を受けていたが,
24 風邪をこじらせて肺炎とな
25 り,
26 A病院の一般病棟の個室に入院して主治医Bの治療を受け,
27 容体は快方に向かっていた。
28
29
30 A病院に勤務し,
31 Vを担当する看護師乙は,
32 Vの容体が快方に向かってからは,
33 Bの指示によ
34 り,
35 2時間ないし3時間に1回程度の割合でVの病室を巡回し,
36 検温をするほか,
37 容体の確認,
38
39 投薬や食事・排せつの世話などをしていた。
40
41
42 一方,
43 甲は,
44 Vが入院した時から,
45 連日,
46 Vの病室を訪れ,
47 数時間にわたってVの身の回りの
48 世話をしていた。
49
50 このため,
51 乙は,
52 Vの病状に何か異状があれば甲が気付いて看護師等に知らせ
53 るだろうと考え,
54 甲がVの病室に来ている間の巡回を控えめにしていた。
55
56 その際,
57 乙は,
58 甲に対
59 し,
60
61 「何か異状があったら,
62 すぐに教えてください。
63
64 」と依頼しており,
65 甲も,
66 その旨了承し,
67
68 「私
69 がいる間はゆっくりしていてください。
70
71 」などと乙に話し,
72 実際に,
73 甲は,
74 病室を訪れている間,
75
76 Vの検温,
77 食事・排せつの世話などをしていた。
78
79
80
81
82
83 Vは,
84 入院開始から約3週間経過後のある日,
85 午前11時過ぎに発熱し,
86 正午ころには39度
87 を超える高熱となった(以下,
88 時刻の記載は同日の時刻をいう。
89
90 )。
91
92 Bは,
93 発熱の原因が必ずしも
94 はっきりしなかったものの,
95 このような場合に通常行われる処置である解熱消炎剤の投与をする
96 ことにした。
97
98 ところが,
99 Vは,
100 一般的な解熱消炎剤の「D薬」に対する強いアレルギー体質で,
101
102 D薬による急性のアレルギー反応でショック死する危険があったため,
103 Bは,
104 D薬に代えて使用
105 されることの多い別の解熱消炎剤の「E薬」を点滴で投与することにし,
106 午後0時30分ころ,
107
108 その旨の処方せんを作成して乙に手渡し,
109 「Vさんに解熱消炎剤のE薬を点滴してください。
110
111 」と
112 指示した。
113
114 そして,
115 高齢のVの発熱の原因がはっきりせず,
116 E薬の点滴投与後もVの熱が下がら
117 なかったり容体の急変等が起こる可能性があったため,
118 Bは,
119 看護師によるVの慎重な経過観察
120 が必要であると判断し,
121 乙に,
122
123 「Vさんの発熱の原因がはっきりしない上,
124 Vさんは高齢なので,
125
126 熱が下がらなかったり容体が急変しないか心配です。
127
128 容体をよく観察してください。
129
130 半日くらい
131 は,
132 約30分ごとにVさんの様子を確認してください。
133
134 」と指示した。
135
136
137
138
139
140 Bの指示を受けた乙は,
141 A病院の薬剤部に行き,
142 Bから受け取った前記処方せんを,
143 同部に勤
144 務する薬剤師丙に渡した。
145
146
147 A病院では,
148 医師作成の処方せんに従って薬剤部の薬剤師が薬を準備することとなっていたが,
149
150 薬の誤投与は,
151 患者の病状や体質によってはその生命を危険にさらしかねないため,
152 薬剤師にお
153 いて,
154 医師の処方が患者の病状や体質に適合するかどうかをチェックする態勢が取られており,
155
156 かかるチェックを必ずした上で薬を医師・看護師らに提供することとされていた。
157
158 仮に,
159 医師の
160 処方に疑問があれば,
161 薬剤師は,
162 医師に確認した上で薬を提供することになっていた。
163
164
165 ところが,
166 乙から前記処方せんを受け取った丙は,
167 Bの処方に間違いはないものと思い,
168 処方
169 された薬の適否やVのアレルギー体質等の確認も行わずに,
170 E薬の薬液入りガラス製容器(アン
171 プル)が多数保管されているE薬用の引き出しからアンプルを1本取り出した。
172
173 その引き出しに
174 は,
175 本来E薬しか保管されていないはずであったが,
176 たまたまD薬のアンプルが数本混入してい
177 て,
178 丙が取り出したのは,
179 そのうちの1本であった。
180
181 しかし,
182 丙は,
183 それをE薬と思い込んだま
184 ま,
185 アンプルの薬名を確認せず,
186 それを点滴に必要な点滴容器や注射針などの器具と一緒にVの
187 名前を記載した袋に入れ,
188 前記処方せんの写しとともに乙に渡した。
189
190
191 なお,
192 D薬のアンプルとE薬のアンプルの外観はほぼ同じであったが,
193 貼付されたラベルには
194 - 2 -
195
196 各薬名が明記されていた。
197
198
199 また,
200 D薬に対するアレルギー体質の患者に対し,
201 D薬に代えてE薬が処方される例は多く,
202
203 丙もその旨の知識を有していた。
204
205
206
207
208 A病院では,
209 看護師が点滴その他の投薬をする場合,
210 薬の誤投与を防ぐため,
211 看護師において,
212
213 薬が医師の処方どおりであるかを処方せんの写しと対照してチェックし,
214 処方や薬に疑問がある
215 場合には,
216 医師や薬剤師に確認すべきこととなっており,
217 その際,
218 患者のアレルギー体質等につ
219 いては,
220 その生命にかかわることから十分に注意することとされ,
221 乙もA病院の看護師としてこ
222 れらの点を熟知していた。
223
224
225 しかし,
226 丙から前記のとおりアンプルや点滴に必要な器具等を受け取った乙は,
227 丙がこれまで
228 間違いを犯したことがなく,
229 丙の仕事ぶりを信頼していたことから,
230 丙が,
231 処方やVの体質等の
232 確認をしなかったり,
233 処方せんと異なる薬を渡したりすることを全く予想していなかったため,
234
235 受け取った薬が処方されたものに間違いないかどうかを確認せず,
236 丙から受け取ったアンプルが
237 処方されたE薬ではないことに気付かなかった。
238
239 また,
240 乙は,
241 VがD薬に対するアレルギー体質
242 を有することを,
243 Vの入院当初に確認してVの看護記録にも記入していたが,
244 そのことも失念し
245 ていた。
246
247
248 そして,
249 乙は,
250 丙から受け取ったD薬のアンプル内の薬液を点滴容器に注入し,
251 午後1時ころ
252 からVに対し,
253 それがE薬ではないことに気付かないままD薬の点滴を開始した。
254
255 その際,
256 Vの
257 検温をしたところ,
258 体温は39度2分であったため,
259 乙は,
260 Vのベッド脇に置かれた検温表にそ
261 の旨記載して病室を出た。
262
263
264 乙は,
265 Bの前記指示に従って,
266 点滴を開始した午後1時ころから約30分おきにVの病室を巡
267 回することとし,
268 1回目の巡回を午後1時30分ころに行い,
269 Vの容体を観察したが,
270 その時点
271 では異状はなかった。
272
273 この時のVの体温は39度で,
274 乙はその旨検温表に記載した。
275
276
277
278
279
280 午後1時35分ころ,
281 甲が来院し,
282 Vの病室に行く前に看護師詰所(ナースステーション)に
283 立ち寄ったので,
284 乙は,
285 甲に,
286
287 「Vさんが発熱したので,
288 午後1時ころから,
289 解熱消炎剤の点滴を
290 始めました。
291
292 そのうち熱は下がると思いますが,
293 何かあったら声を掛けてください。
294
295 私も30分
296 おきに病室に顔を出します。
297
298 」などと言い,
299 甲は,
300
301 「分かりました。
302
303 」と答えてVの病室に行った。
304
305
306 甲は,
307 Vが眠っていたため病室を片付けるなどしていたところ,
308 午後1時50分ころ,
309 Vが呼
310 吸の際ゼイゼイと音を立てて息苦しそうにし,
311 顔や手足に赤い発しんが出ていたので,
312 慌ててV
313 に声を掛けて体を揺すったが,
314 明りょうな返事はなかった。
315
316
317 Vは,
318 数年前に,
319 薬によるアレルギー反応で赤い発しんが出て呼吸困難に陥って次第に容体が
320 悪化し,
321 やがてチアノーゼ(血液中の酸素濃度低下により皮膚が青紫色になること)が現れるに
322 至ったが,
323 医師の救命処置により一命を取り留めたことがあった。
324
325 甲は,
326 その経過を直接見てお
327 り,
328 後に医師から,
329
330 「薬に対するアレルギーでショック状態になっていたので,
331 もう少し救命処置
332 が遅れていれば助からなかったかもしれない。
333
334 」と聞かされた。
335
336
337 このような経験から,
338 甲は,
339 Vが再び薬によるアレルギー反応を起こして呼吸困難等に陥って
340 いることが分かり,
341 放置すると手遅れになるおそれがあると思った。
342
343
344 しかし,
345 甲は,
346 他に身寄りのないVを,
347 Vが要介護状態になった数年前から一人で介護する生
348 活を続け,
349 肉体的にも精神的にも疲れ切っており,
350 退院後も将来にわたってVの介護を続けなけ
351 ればならないことに悲観していたため,
352 このままVが死亡すれば,
353 先の見えない介護生活から解
354 放されるのではないかと思った。
355
356 また,
357 甲は,
358 時折Vが「こんな生活もう嫌だ。
359
360 」などと嘆いてい
361 たことから,
362 介護を受けながら寝たきりの生活を続けるより,
363 このまま死んだ方がVにとっても
364 幸せなのではないかとも思った。
365
366
367 他方,
368 甲は,
369 長年連れ添ったVを失いたくない気持ちもあった上,
370 Vが死亡すると,
371 これまで
372 受け取っていた甲とVの2名分の年金受給額が減少するのも嫌だとの思いもあった。
373
374
375 このように,
376 甲が,
377 これまでの人生を振り返り,
378 かつ今後の人生を考えて,
379 これからどうする
380 - 3 -
381
382 のが甲やVにとって良いことなのか思い悩んでいた午後2時ころ,
383 乙が,
384 巡回のため,
385 Vの病室
386 の閉じられていた出入口ドアをノックした。
387
388 しかし,
389 心を決めかねていた甲は,
390 もうしばらく考
391 えてからでもVの救命は間に合うだろうと思い,
392 時間を稼ぐため,
393 ドア越しに,
394
395 「今,
396 体を拭いて
397 あげているので20分ほど待ってください。
398
399 夫に変わりはありません。
400
401 」と嘘を言った。
402
403
404 乙は,
405 その言葉を全く疑わずに信じ込み,
406 Vに付き添って体を拭いているのだから,
407 Vに異状
408 があれば甲が必ず気付くはずだと思い,
409 Vの容体に異状がないことの確認はできたものと判断し,
410
411 約30分後の午後2時30分ころに再び巡回すれば足りると考え,
412
413 「分かりました。
414
415 30分ほどし
416 たらまた来ます。
417
418 」とドア越しに甲に言って立ち去った。
419
420
421
422
423 乙が立ち去った後,
424 甲がVの様子を見ると,
425 顔にチアノーゼが現れ,
426 呼吸も更に苦しそうに見
427 えたことなどから,
428 甲は,
429 Vの容体が更に悪化していることが分かった。
430
431
432 甲は,
433 しばらく悩んだ末,
434 数年前にVが同様の症状に陥って助かった時の前記経験から,
435 現時
436 点のVの症状ならば,
437 速やかに救命処置が開始されればVはまだ助かるだろうと思いながらも,
438
439 事態を事の成り行きに任せ,
440 Vの生死を,
441 医師等の医療従事者の手にではなく,
442 運命にゆだねる
443 ことに決め,
444 その結果がどうなろうとその運命に従うことにした。
445
446
447 その後,
448 甲は,
449 乙の次の巡回が午後2時30分ころに予定されていたので,
450 午後2時15分こ
451 ろ,
452 検温もしていないのに,
453 検温表に午後2時20分の検温結果として38度5分と記入した上,
454
455 午後2時30分ころ,
456 更に容体が悪化しているVを病室に残して看護師詰所に行き,
457 乙に検温表
458 を示しながら,
459
460 「体を拭いたら気持ち良さそうに眠りました。
461
462 しばらくそっとしておいてもらえま
463 せんか。
464
465 熱は下がり始めているようです。
466
467 何かあればすぐにお知らせしますから。
468
469 」と嘘を言って
470 Vの病室に戻った。
471
472
473
474
475
476 乙は,
477 他の患者の看護に追われて多忙であった上,
478 甲の話と検温表の記載から,
479 Vの容体に異
480 状はなく,
481 熱も下がり始めて容体が安定してきたものと信じ込み,
482 甲が付き添っているのだから
483 眠っているVの様子をわざわざ見に行く必要はなく,
484 午後2時30分ころに予定していた巡回は
485 行わずに午後3時ころVの容体を確認すれば足りると判断した。
486
487
488 午後2時50分ころ,
489 甲は,
490 Vの呼吸が止まっていることに気付き,
491 Vは助からない運命だと
492 思って帰宅した。
493
494
495 午後3時ころ,
496 Vの病室に入った乙が,
497 意識がなく呼吸が停止しているVを発見し,
498 直ちに,
499
500 Bらによる救命処置が講じられたが,
501 午後3時50分にVの死亡が確認された。
502
503
504
505
506
507 その後の司法解剖や甲,
508 乙,
509 丙及び他のA病院関係者らに対する事情聴取等の捜査の結果,
510
511 の各事実が判明した。
512
513
514
515
516 Vの死因は,
517 肺炎によるものではなく,
518 D薬を投与されたことに基づく急性アレルギー反応
519 による呼吸困難を伴うショック死であった。
520
521
522
523
524
525 遅くとも午後2時20分までに,
526 医師,
527 看護師等がVの異変に気付けば,
528 当時のA病院の態
529 勢では直ちに医師等による救命処置が開始可能であって,
530 それによりVは救命されたものと認
531 められたが,
532 Vの異変に気付くのが,
533 それより後になると,
534 Vが救命されたかどうかは明らか
535 でなく,
536 午後2時50分を過ぎると,
537 Vが救命される可能性はほとんどなかったものと認めら
538 れた。
539
540
541 なお,
542 本件において,
543 Vに施された救命処置は適切であった。
544
545
546
547
548
549 VにE薬に対するアレルギーはなく,
550 VにE薬を投与してもこれによって死亡することはな
551 かった。
552
553
554 なお,
555 BのVに対する治療方針やE薬の処方及び乙への指示は適切であった。
556
557
558
559
560
561 E薬用の引き出しには数本のD薬のアンプルが混入していたが,
562 その原因は,
563 A病院関係者
564 の何者かが,
565 D薬のアンプルを保管場所にしまう際,
566 D薬用の引き出しにしまわず,
567 間違って,
568
569 E薬用の引き出しに入れてしまったことにあると推測された。
570
571 しかし,
572 それ以上の具体的な事
573 実関係は明らかにならなかった。
574
575
576 - 4 -
577
578 〔第2問〕(配点:100)
579 次の【事例】を読んで,
580 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
581
582
583 【事
584
585
586 例】
587 暴力団A組は,
588 けん銃を組織的に密売することによって多額の利益を得ていたが,
589 同組では,
590
591
592 発覚を恐れ一般人には販売せず,
593 暴力団に属する者に対してのみ,
594 電話連絡等を通じて取引の交
595 渉をし,
596 取引成立後,
597 宅配等によりけん銃を引き渡すという慎重な方法が採られていた。
598
599 司法警
600 察員Pらは,
601 A組による組織的な密売ルートを解明すべく内偵捜査を続けていたが,
602 A組幹部の
603 甲がけん銃密売の責任者であるとの情報や,
604 甲からの指示を受けた組員らが,
605 取引成立後,
606 組事
607 務所とは別の場所に保管するけん銃を顧客に発送するなどの方法によりけん銃を譲渡していると
608 の情報を把握したものの,
609 顧客が暴力団関係者のみであることから,
610 甲らを検挙する証拠を入手
611 できずにいた。
612
613
614 平成21年6月1日,
615 Pらは,
616 甲らによるけん銃密売に関する証拠を入手するため,
617 A組の組
618 事務所であるアパート前路上で張り込んでいたところ,
619 甲が同アパート前公道上にあったごみ集
620 積所にごみ袋を置いたのを現認した。
621
622 そこで,
623 Pらは,
624 同ごみ袋を警察署に持ち帰り,
625 その内容
626 物を確認したところ,
627
628 「5/20 1丁→N.H
629
630 150」などと日付,
631 アルファベットのイニシャ
632
633 ル及び数字が記載された複数のメモ片を発見したため,
634 この裁断されていたメモ片を復元した
635 [捜
636 査@]。
637
638
639 さらに,
640 同月2日,
641 Pらは,
642 甲が入居しているマンション前路上で張り込んでいたところ,
643
644 が同マンション専用のごみ集積所にごみ袋を置いたのを現認した。
645
646 なお,
647 同ごみ集積所は,
648 同マ
649 ンション敷地内にあるが,
650 居住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,
651 その出入口は
652 施錠されておらず,
653 誰でも出入りすることが可能な場所にあった。
654
655 そこで,
656 Pらは,
657 同集積所に
658 立ち入り,
659 同所において,
660 同ごみ袋内を確認したところ,
661 「5/22
662
663 1丁→T.K
664
665 150」な
666
667 どと記載された同様のメモ片を発見したため,
668 このメモ片を持ち帰り復元した[捜査A]。
669
670
671 Pらが復元した各メモ片の内容を確認したところ,
672 甲らが,
673 同年5月中に,
674 10名に対して,
675
676 代金総額2250万円で合計15丁のけん銃を密売したのではないかとの嫌疑が濃厚となった。
677
678
679
680
681 その後,
682 Pらは,
683 更なる内偵捜査により,
684 A組とは対立する暴力団B組に属する乙が,
685 以前に
686 甲からけん銃を入手しようとしたものの,
687 その代金額について折り合いがつかずにけん銃を入手
688 できなかったため,
689 B組内で処分を受け,
690 甲及びA組に対して強い敵意を抱いているとの情報を
691 入手した。
692
693
694 そこで,
695 Pは,
696 同年6月5日,
697 乙と接触し,
698 同人に対し,
699 もう一度甲と連絡を取ってけん銃を
700 譲り受け,
701 甲を検挙することを手伝ってほしい旨依頼したところ,
702 乙の協力が得られることとな
703 った。
704
705 この際,
706 Pは,
707 乙に対し,
708 電話で甲に連絡をした際や直接会って話をした際には,
709 甲との
710 会話内容をICレコーダーに録音したいこと,
711 さらに会話終了後には,
712 引き続き,
713 乙にその会話
714 内容を説明してもらい,
715 それも併せて録音したい旨を依頼し,
716 乙の了解を得た。
717
718
719 同月7日午前11時ころ,
720 乙は,
721 乙方近くのE公園において,
722 自らの携帯電話から甲の携帯電
723 話に電話をかけ,
724 甲に対し,
725
726 「前には金額で折り合わなかったが,
727 やはり物を購入したい。
728
729 もう一
730 度話し合いたいんだ。
731
732 」などと言い,
733 甲から,
734 「分かった。
735
736 値段が張るのはやむを得ない。
737
738 よく考
739 えてくれよ。
740
741 」などとの話を引き出した。
742
743 乙の近くにいたPは,
744 この会話を乙の携帯電話に接続し
745 たICレコーダーに録音し,
746 さらに,
747 同会話終了後にされた「自分は,
748 平成21年6月7日午前
749 11時ころ,
750 E公園において,
751 甲と電話で話したが,
752 甲は自分にけん銃を売ることについての話
753 合いに応じてくれた。
754
755 明日午後1時ころ,
756 F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることに
757 なった。
758
759 」という乙による説明も録音した[録音@]。
760
761
762 翌8日午後1時ころ,
763 待ち合わせ場所のF喫茶店において,
764 甲と乙は,
765 けん銃の譲渡について
766 話合いをした。
767
768 その際,
769 甲と乙は,
770 代金総額300万円でけん銃2丁を譲渡すること,
771 けん銃は
772 後日乙の指定したマンションへ宅配便で配送すること,
773 けん銃の受取後,
774 代金を直接甲に支払う
775 - 5 -
776
777 ことなどを合意するに至った。
778
779 隣のテーブルにいたPは,
780 このけん銃譲渡に関する会話をICレ
781 コーダーに録音し,
782 さらに,
783 甲が同店を立ち去った後にされた「自分は,
784 平成21年6月8日午
785 後1時ころ,
786 F喫茶店で甲と直接話合いをした。
787
788 甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってく
789 れることになった。
790
791 けん銃2丁は宅配便で,
792 りんごと一緒に自分のマンションに配送される。
793
794
795 金300万円は後で連絡を取り合って場所を決め,
796 その時渡すことになった。
797
798 」という乙による説
799 明も録音した[録音A]。
800
801
802
803
804 翌9日以降,
805 Pらは,
806 乙がけん銃を受け取ったことを確認し次第,
807 甲をけん銃の譲渡罪で逮捕
808
809 し,
810 関係箇所を捜索しようと考え,
811 度々乙と電話で連絡を取り,
812 甲からけん銃2丁が配送されて
813 きたか否か確認を続けた。
814
815 しかし,
816 同月14日午後9時ころ,
817 Pらは,
818 乙が電話に出なくなった
819 ことから不審に思い,
820 乙の生命又は身体に危険な事態が発生した可能性があることからその安全
821 を確認するため,
822 乙方マンション管理人立会いの下,
823 乙方に立ち入ると,
824 乙が居間において,
825
826 部右こめかみ付近から出血した状態で死亡しているのを発見した。
827
828 乙の死体付近にはけん銃2丁
829 が落ちており,
830 その近くには開封された宅配便の箱があり,
831 その中を確認するとりんごが数個入
832 っていた。
833
834 また,
835 机上には乙の物とみられる携帯電話1台があった。
836
837 Pらは,
838 甲によるけん銃譲
839 渡の被疑事実について,
840 裁判官から捜索差押許可状の発付を得た上で,
841 発見したけん銃2丁及び
842 携帯電話1台を押収した。
843
844 さらに,
845 Pらは,
846 押収した乙の携帯電話の発信歴や着信歴を確認した
847 が,
848 すべて消去されていたため,
849 直ちに科学捜査研究所で,
850 消去されたデータの復元・分析を図
851 った[捜査B]。
852
853 その結果,
854 頻繁に発着信歴のある電話番号「090−7274−△△△△」が確
855 認され,
856 さらにこの契約者を捜査すると丙女であることが明らかとなった。
857
858 なお,
859 Pらは,
860 乙方
861 では遺書等を発見できず,
862 押収したけん銃2丁には乙の右手指紋が付着していたものの,
863 乙が死
864 亡した原因を自殺か他殺か特定できなかった上,
865 捜査の必要から,
866 乙死亡についてマスコミ発表
867 をしなかった。
868
869 また,
870 宅配便の箱に貼付されていた発送伝票の発送者欄には,
871 住所,
872 人名及び電
873 話番号が記載されていたが,
874 捜査の結果,
875 それらはすべて架空のものであることが明らかとなっ
876 た。
877
878
879
880
881 翌15日午後7時ころ,
882 Pらが乙の携帯電話を持参して丙女方を訪ねると,
883 丙女は,
884 当初は乙
885
886 を知らないと供述したものの,
887 Pらが乙の携帯電話の電源を入れ,
888 丙女の携帯電話番号の発着信
889 歴が頻繁にあったことを告げると,
890 ようやく,
891 乙と約2年前から交際していたことを認め,
892 乙か
893 ら,
894 今回警察の捜査に協力していることやそのためにA組の甲からけん銃を譲り受けることを打
895 ち明けられていたなどと供述した。
896
897 そのような事情聴取を継続中に,
898 突然,
899 乙の携帯電話の着信
900 音が鳴った。
901
902 Pらは,
903 着信の表示番号が以前に乙から教わっていた甲の携帯電話番号であったの
904 で,
905 甲からの電話であると分かり,
906 とっさに,
907 丙女から,
908 電話に出ること及び会話の録音につい
909 ての同意を得た上で,
910 丙女に電話に出てもらうとともに,
911 乙の携帯電話の録音機能を使用して録
912 音を開始した。
913
914 すると,
915 甲と思われる男の声で,
916
917 「もしもし,
918 甲だ。
919
920 物届いただろう。
921
922 約束どおり
923 りんごと一緒に届いただろう。
924
925 300を早く支払ってくれよ。
926
927 」との話があり,
928 丙女が,
929 乙が死亡
930 してしまったこと,
931 自分は乙の婚約者であることを告げると,
932 甲と思われる男は,
933
934 「婚約者なら乙
935 の代わりに代金300万円を用意して持ってこい。
936
937 物は約束どおり届いたはずだろう。
938
939 」などと強
940 く言ってきた。
941
942 Pがメモ紙に代金は警察が用意するので待ち合わせ場所を決めるようにと記載し
943 て示すと,
944 丙女は,
945 その記載に従って,
946
947 「分かりました。
948
949 代金は,
950 乙に代わって私が用意します。
951
952
953 待ち合わせ場所を指定してください。
954
955 」などと言い,
956 同月17日に甲とF喫茶店で待ち合わせるこ
957 とになった。
958
959 Pは,
960 電話終了後,
961 乙の携帯電話の録音機能を停止して再生し,
962 丙女と甲と思われ
963 る男の会話内容が録音されていることを確認した[録音B]。
964
965
966
967
968 同月17日午後3時ころ,
969 丙女がF喫茶店に赴いたところ,
970 甲が現れたので,
971 Pらは,
972 甲をけ
973
974 ん銃2丁の譲渡罪で緊急逮捕した。
975
976
977 甲は勾留後,
978 否認を続けたが,
979 検察官は,
980 本件けん銃2丁,
981 甲乙間及び甲丙女間の本件けん銃
982 譲渡に関する[録音@],
983
984 [録音A]及び[録音B]を反訳した捜査報告書【資料】,
985 丙女の供述等
986 - 6 -
987
988 を証拠に,
989 同年7月8日,
990 甲をけん銃2丁の譲渡罪で起訴した。
991
992
993 被告人甲は,
994 第一回公判期日において,
995
996 「自分は,
997 乙に対してけん銃2丁を譲り渡したことはな
998 い。
999
1000 」旨述べた。
1001
1002 その後の証拠調べ手続において,
1003 検察官は,
1004 「甲乙間の本件けん銃譲渡に関する
1005 甲乙間及び甲丙女間の会話の存在と内容」を立証趣旨として,
1006 前記捜査報告書を証拠調べ請求し
1007 たところ,
1008 弁護人は,
1009 不同意とした。
1010
1011
1012 〔設問1〕
1013
1014 下線部の[捜査@]から[捜査B]の適法性について,
1015 具体的事実を摘示しつつ論じ
1016 なさい。
1017
1018
1019
1020 〔設問2〕
1021
1022 【事例】中の捜査報告書の証拠能力について,
1023 前提となる捜査の適法性を含めて論じ
1024 なさい。
1025
1026
1027
1028 - 7 -
1029
1030 【資料】
1031
1032
1033
1034
1035
1036
1037
1038
1039
1040
1041 平成21年6月18日
1042
1043 ○○県□□警察署
1044 司法警察員
1045
1046 警視
1047
1048
1049
1050 殿
1051
1052 ○○県□□警察署
1053 司法警察員
1054
1055 巡査部長
1056
1057
1058
1059 被疑者
1060
1061 ,
1062
1063
1064
1065 (本籍,
1066 住居,
1067 職業,
1068 生年月日省略)
1069 上記の者,
1070 平成21年6月17日,
1071 銃砲刀剣類所持等取締法違反被疑事件の被疑者として
1072 緊急逮捕したものであるが,
1073 被疑者は,
1074 乙及び丙女との間で電話等による会話をしており,
1075
1076 その状況を録音したICレコーダー及び携帯電話を本職が再生して反訳したところ,
1077 下記
1078 のとおり判明したので報告する。
1079
1080
1081
1082
1083
1084 平成21年6月7日午前11時ころ〜午前11時5分ころ,
1085 電話による通話等
1086
1087
1088 「もしもし,
1089 乙ですが,
1090 この間は申し訳なかったね。
1091
1092
1093 「やはり,
1094 物必要なんだ。
1095
1096 前には金額で折り合わなかったが,
1097 やはり物を購入し
1098 たい。
1099
1100 もう一度話し合いたいんだ。
1101
1102
1103
1104
1105
1106 「今更何言ってるの。
1107
1108 物って何のことよ。
1109
1110
1111
1112
1113
1114 「とぼけないでくださいよ。
1115
1116 ×××のことですよ。
1117
1118
1119
1120
1121
1122 「前は,
1123 高過ぎるとか,
1124 ほんとに良い物なのかとか,
1125 うるさかったじゃない。
1126
1127
1128 ちのは××××とは違うんだよ。
1129
1130
1131
1132
1133
1134 「悪かったね。
1135
1136 やはりどうしても欲しいんだ。
1137
1138 助けてほしい。
1139
1140
1141
1142
1143
1144 「分かった。
1145
1146 うちの回転×××の×××は物が良いので,
1147 値段が張るのはやむを
1148 得ない。
1149
1150 よく考えてくれよ。
1151
1152
1153
1154
1155
1156 「よく分かったよ。
1157
1158 明日1時に前回と同じF喫茶店でどうだい。
1159
1160
1161
1162
1163
1164 「分かった。
1165
1166 明日会おう。
1167
1168
1169
1170 ここで,
1171 甲乙間の会話が終了し(なお×××部分は聞き取れず),
1172 引き続き,
1173 乙の声で,
1174
1175
1176
1177 「自分は,
1178 平成21年6月7日午前11時ころ,
1179 E公園において,
1180 甲と電話で話
1181 したが,
1182 甲は自分にけん銃を売ることについての話合いに応じてくれた。
1183
1184 明日午後
1185 1時ころ,
1186 F喫茶店で直接会って更に詳しい話合いをすることになった。
1187
1188 」との話が
1189 録音されていた。
1190
1191
1192
1193
1194
1195 同月8日午後1時ころ,
1196 F喫茶店における会話等
1197
1198
1199
1200 「お久しぶり。
1201
1202 この前は悪かったね。
1203
1204
1205 「だから,
1206 この間の条件で買っておけばよかったんだよ。
1207
1208 うちの条件は前回と同
1209
1210 - 8 -
1211
1212 じ,
1213 1丁150万円,
1214 2丁なら×××××,
1215 物がいいんだからびた一文負けられな
1216 いよ。
1217
1218
1219
1220
1221 「分かったよ。
1222
1223 それでいいよ。
1224
1225 物どうやって受け取るんだい。
1226
1227
1228
1229
1230
1231 「うちのやり方は,
1232 直接渡したりはしないんだ。
1233
1234 そこでパクられたら,
1235 所持で逃
1236 げようないからね。
1237
1238 あんたのマンションへ宅配便で送るよ。
1239
1240 りんごの箱に入れて,
1241
1242 一緒に送るから。
1243
1244 受け取ったら,
1245 ×××渡してくれよ。
1246
1247 場所はまた連絡する。
1248
1249
1250
1251
1252
1253 「それでいこう。
1254
1255 頼むね。
1256
1257
1258
1259 ここで,
1260 甲乙間の会話が終了し(なお×××部分は聞き取れず),
1261 引き続き,
1262 乙の声で,
1263
1264 乙 「自分は,
1265 平成21年6月8日午後1時ころ,
1266 F喫茶店で甲と直接話合いをした。
1267
1268
1269 甲が自分にけん銃2丁を300万円で売ってくれることになった。
1270
1271 けん銃2丁は宅
1272 配便で,
1273 りんごと一緒に自分のマンションに配送される。
1274
1275 代金300万円は後で連
1276 絡を取り合って場所を決め,
1277 その時渡すことになった。
1278
1279 」との話が録音されていた。
1280
1281
1282
1283
1284 同月15日午後7時15分ころ〜午後7時20分ころ,
1285 電話による通話
1286
1287
1288 「もしもし,
1289 甲だ。
1290
1291 物届いただろう。
1292
1293 約束どおりりんごと一緒に届いただろう。
1294
1295
1296 00を早く支払ってくれよ。
1297
1298
1299
1300 丙女「私は,
1301 乙の婚約者の丙女です。
1302
1303 乙は死んでしまいました。
1304
1305
1306
1307
1308 「ええ。
1309
1310 死んだ。
1311
1312 本当かよ。
1313
1314 どうして死んだんだ。
1315
1316 ××か。
1317
1318
1319
1320 丙女「分かりません。
1321
1322 でも,
1323 遺書はありませんし,
1324 近くにけん銃が落ちていました。
1325
1326
1327
1328
1329 「それはお気の毒だ。
1330
1331 でも物は届いたんだろう。
1332
1333 それなら,
1334 あんたが代わりに30
1335 0万円払ってくれ。
1336
1337
1338
1339 丙女「そんなお金は持っていません。
1340
1341
1342
1343
1344 「婚約者なんだろ。
1345
1346 婚約者なら乙の代わりに代金300万円を用意して持ってこい。
1347
1348
1349 物は約束どおり届いたはずだろう。
1350
1351
1352
1353 丙女「分かりました。
1354
1355 代金は,
1356 乙に代わって私が用意します。
1357
1358 待ち合わせ場所を指定し
1359 てください。
1360
1361
1362
1363
1364 「本当に用意できるのか。
1365
1366 それじゃあ。
1367
1368 明後日の17日午後3時,
1369 F喫茶店に金を
1370 持ってきてくれ。
1371
1372 ××には言うなよ。
1373
1374
1375
1376 丙女「分かりました。
1377
1378 必ず行きます。
1379
1380
1381 ここで甲丙女間の会話が終了した(なお××部分は聞き取れず)。
1382
1383
1384
1385 - 9 -
1386
1387