1 [司法試験予備試験サンプル問題(法律実務基礎科目(刑事))]
2 [論文式試験問題]
3 〔問〕
4
5 下記【事案の概要】を読んで,
6 後記の各設問に答えなさい。
7
8
9
10 【事案の概要】
11
12
13 A(男性)とC(女性)は,
14 同じ県立○○高校の同級生同士として交際しており,
15 平成18
16 年3月に高校卒業後,
17 Aは東京の大学に,
18 Cは地元の大学にそれぞれ進学した後も交際を続け
19 ていた。
20
21 他方,
22 AとCの高校の同級生であるV(男性)は,
23 以前からCに好意を抱いていたと
24 ころ,
25 平成21年5月に開かれた高校の同窓会で再会したCに対し,
26 しつこく交際を迫るよう
27 になった。
28
29 困ったCは,
30 同年8月上旬にそのことをAに相談し,
31 AがVに話をつけることにし
32 た。
33
34 Aは,
35 Vに電話で「Cが困っているから,
36 彼女に付きまとうのをやめろよ。
37
38 」と言ったとこ
39 ろ,
40 逆にVから「お前何様のつもりだ。
41
42 お前には関係ないだろ。
43
44 」と一方的に言われたため,
45
46 の言動に立腹し,
47 「何だ,
48 その言い方は。
49
50 覚えておけよ。
51
52 」と言って電話を切った。
53
54
55
56
57
58 Aは,
59 平成21年8月13日に夏休みで地元に戻った際,
60 Vに対する腹立ちが収まらなかっ
61 たため,
62 高校の先輩であったB(男性)にVのことを相談することにした。
63
64 Bは,
65 他の高校の
66 生徒や暴走族などとすぐにけんかをする有名な暴れん坊であったが,
67 同じ中学出身であった後
68 輩のAのことはかわいがり,
69 Aにとっては頼りになる兄貴分のような存在であった。
70
71 そこで,
72
73 Aは,
74 高校時代から名うての暴れん坊であったBが出てくれば,
75 さすがのVも,
76 Bを怖がって
77 言うことをきくだろうと考えた。
78
79 Bは高校卒業後,
80 地元の会社に就職したが,
81 まじめに働かな
82 かったためクビになり,
83 そのうち覚せい剤を使用するようになった。
84
85 そのため,
86 Bは,
87 平成1
88 9年7月に,
89 覚せい剤を自己使用した覚せい剤取締法違反の罪により,
90 懲役1年6月,
91 執行猶
92 予3年の有罪判決を受けた(なお,
93 判決は確定済み)。
94
95 その後,
96 Bは,
97 日雇のアルバイトで生計
98 を立てながら,
99 アパートで一人暮らしをしていた。
100
101
102 Aは,
103 前同日,
104 自宅で,
105 Bに「CがVから付きまとわれて嫌がっているんです。
106
107 俺も直接V
108 に付きまとうのをやめるようVに言ったのですが,
109 逆にVから言い返されてしまいました。
110
111
112 さんからもCに付きまとうのをやめるようVに言ってくれませんか。
113
114 Bさんから言われればV
115 もすぐにやめると思いますから。
116
117 」と言ったところ,
118 Bは,
119
120 「わかった。
121
122 おれが話をつけてやる。
123
124
125 それでも聞き入れなければ痛い目に合わせてやる。
126
127 お前は見張りだけでいい。
128
129 」と言った。
130
131 その
132 後,
133 AとBで相談し,
134 AからCに,
135 詳しいことを知らせずに,
136 Vを夜間,
137 人気のない港町公園
138 に呼び出すよう依頼すること,
139 Aがレンタカーを借りてBを乗せて港町公園まで運転すること,
140
141 BとVが公園にいる間,
142 Aは車の中で待機しながら見張りをすることなどを決めた。
143
144
145
146
147
148 8月23日夜,
149 AとBは,
150 Aが借りて運転するレンタカーで港町公園まで行き,
151 午後9時前
152 ころから,
153 公園入口の近くにとめた車両内で待機していた。
154
155 午後9時ころ,
156 Cからの呼び出し
157 に応じてやって来たVが公園に入って行ったのを見て,
158 Bが車から降り,
159 Vの方に近づいてい
160 った。
161
162 Aは,
163 車の運転席から,
164 公園に入って来る人がいないかを見張っていた。
165
166 Vは,
167 公園内
168 をきょろきょろしながら,
169 Cの姿を捜していたが,
170 Bが近づいて来たのを見て,
171 一瞬ぎょっと
172 した様子をしたものの,
173 すぐに平静を装い「あれ,
174 Bさんお久しぶりです。
175
176 お元気でしたか。
177
178
179 こんな時間にどうしたのですか。
180
181 」と言って,
182 わざと親しげに話しかけてきた。
183
184 Bは,
185 「お前,
186
187 Cに付きまとうのやめろよ。
188
189 」と言ったところ,
190 Vは,
191 平然とした様子で「何を言い出すかと思
192 えばそんなことですか。
193
194 恋愛ざたに口を出すとBさんの株が下がりますよ。
195
196 」と言い返してきた。
197
198
199 それを聞いたBは,
200 Vに対し「お前,
201 だれに向かって口をきいてるんだ。
202
203 」と言いながら,
204 いき
205 なりVの顔面を平手で2回殴った。
206
207 Vは,
208 Bが高校のときから有名な暴れん坊であることを知
209
210 - 1 -
211
212 っていたので,
213 これ以上逆らうと何をされるかわからないと思い,
214
215 「わかりました。
216
217 もうCには
218 連絡しません。
219
220 」と言った。
221
222 Bはそれを聞いて「二度と連絡するなよ。
223
224 」と念を押して,
225 Vに背
226 を向け公園の出口に向かおうとした。
227
228 Vは,
229 Bが立ち去ろうとしたので一安心し,
230 小声で「格
231 好つけやがって。
232
233 前科持ちの癖に。
234
235 」とつぶやくように言った。
236
237 それを聞いたBは憤激し,
238 「お
239 前,
240 今何て言った。
241
242 」と怒鳴りながら,
243 腰に隠し持っていた三段伸縮式の特殊警棒を取り出し,
244
245 Vの頭部,
246 両上腕部,
247 腹部等を多数回にわたり殴打した。
248
249
250
251
252 公園の入口近くにとめた車の中で見張りをしていたAは,
253 公園の中でのBとVのやり取りは
254 見えなかったものの,
255 犬を連れて散歩する男が公園に入ろうとするのを見て,
256 車から降りて,
257
258 Bに向かって「人が行ったから。
259
260 」と伝えた。
261
262 Bは,
263 公園から駆け足で戻って車の助手席に乗り
264 込み,
265 すぐにAが車両を発進させてその場から離れた。
266
267 特殊警棒を手に持って車に戻ったBは,
268
269 Aに「あいつ,
270 ふざけたことを言うから,
271 やきを入れてやった。
272
273 」と言ったところ,
274 Aは「あれ,
275
276 そんなの持っていたのですか。
277
278 Vは本当に生意気なやつだったでしょう。
279
280 」と返答した。
281
282
283 公園を散歩していたWは,
284 うずくまりけがをしているVを発見し,
285 警察と救急隊に連絡した。
286
287
288 Vは,
289 救急車で病院に搬送され,
290 入院加療約3か月を要するろっ骨骨折,
291 左上腕部複雑骨折,
292
293 頭部打撲と診断された。
294
295
296
297
298
299 警察官は,
300 Vの事情聴取から犯人がBであることが判明したため,
301 8月27日,
302 Vの供述な
303 どを疎明資料として,
304 傷害の被疑事実でBの逮捕状を請求し,
305 同日その発付を受けた。
306
307 しかし,
308
309 Bは,
310 事件後,
311 友人宅を転々と泊まり歩く生活を送るようになっており,
312 Bのアパートに赴い
313 た警察官は,
314 Bの身柄を確保することができなかった。
315
316 Bの所在捜査を続けていたところ,
317
318 月1日,
319 Bの友人宅の近くのパチンコ店でBを発見し,
320 Bを逮捕したが,
321 犯行に使用した特殊
322 警棒については押収することができなかった。
323
324 その後,
325 V・B・Cの各供述からAの関与も判
326 明したため,
327 同月4日,
328 Aも逮捕され,
329 所要の捜査を遂げた後,
330 A及びBは,
331 以下の【公訴事
332 実】で公判請求された。
333
334
335 第1回公判期日において,
336 被告人Aは,
337 公訴事実記載の「共謀」を争い,
338 被告人Bは公訴事
339 実を認めたため,
340 裁判所は,
341 AとBの審理を分離した。
342
343
344
345 【公訴事実】
346 被告人両名は,
347 共謀の上,
348 平成21年8月23日午後9時ころ,
349 ○○県○○市○○町1丁目2
350 番3号港町公園において,
351 V(当時21歳)に対し,
352 平手でその顔面を殴打し,
353 特殊警棒で頭部,
354
355 両上腕部,
356 腹部等を多数回殴打するなどの暴行を加え,
357 よって,
358 同人に入院加療約3か月を要す
359 るろっ骨骨折,
360 左上腕部複雑骨折,
361 頭部打撲の傷害を負わせたものである。
362
363
364 〔設問1〕
365
366 検察官は,
367 逮捕されたBの送致を受け,
368 Bを勾留請求するかどうかを検討することと
369
370 した。
371
372 そこで,
373 その検討に際し,
374 勾留請求の実体的要件が認められるかどうかにつき,
375 それぞれ
376 具体的事実を指摘しつつ論じなさい。
377
378 ただし,
379 勾留の理由(罪を犯したことを疑うに足りる相当
380 な理由)と必要性については論じる必要はない。
381
382
383 〔設問2〕
384
385 上記【事案の概要】の4までの事実が,
386 裁判所において証拠上認定できることを前提
387
388 に,
389 Aが本件傷害の共同正犯の罪責を負うかどうか検討するに当たり,
390
391 「共謀」を肯定する方向に
392 働く事実と否定する方向に働く事実を挙げて,
393 それぞれの事実がなぜ共謀を肯定し,
394 又は否定す
395 る方向に働くかの理由とともに示しなさい。
396
397
398 〔設問3〕
399
400 仮に,
401 以下の【手続】がなされたとした場合,
402 弁護人はどのような対応を取ることが
403
404 できるか,
405 条文上の根拠とともに論じなさい。
406
407
408
409 - 2 -
410
411 【手続】
412 Bは,
413 捜査段階において,
414
415 「私が港町公園に行くとき,
416 特殊警棒を隠し持っていたことをAは
417 知っていました。
418
419 というのも,
420 Aの自宅でAから相談されたとき,
421
422 『そんな生意気なやつはこれ
423 でボコボコにしてやる。
424
425 』と言って,
426 Aにこの特殊警棒を見せたということがあったからです。
427
428
429 という供述をし,
430 その旨の検察官面前調書が作成された。
431
432 他方,
433 Aは「Bが特殊警棒を持って
434 いることは知りませんでした。
435
436 」と供述したため,
437 Aの弁護人は,
438 検察官が証拠請求したBの上
439 記供述が記載された検察官面前調書を不同意にした。
440
441 Aの公判期日において,
442 Bの証人尋問を
443 実施したところ,
444 Bは,
445 上記の点について,
446
447 「よく考えてみるとAは知らなかったと思います。
448
449
450 と証言した。
451
452 そこで,
453 検察官はその証言と相反する記載のあるBの検察官面前調書を,
454 前の供
455 述と相反し,
456 前の供述を信用すべき特別の情況があるとして,
457 刑事訴訟法第321条第1項第
458 2号により証拠請求した。
459
460 裁判所は,
461 その調書の証拠採用を決定したが,
462 弁護人は,
463 検察官面
464 前調書中の供述には信用すべき特別の情況が欠けていると考えた。
465
466
467 〔設問4〕
468
469 ABの高校時代の教師が,
470 AB両名が逮捕勾留されたことを知り,
471 AB両名に対し,
472
473
474 知人の弁護士Dを紹介した。
475
476 弁護士Dが,
477 AB両名の弁護人として事件を受任することの問題点
478 を論じなさい。
479
480
481
482 【出題趣旨】
483 本問は,
484 具体的な事例を前提として,
485 捜査から判決に至る刑事手続及び事実認定についての基
486 本的理解並びに法曹倫理(刑事)に関する基礎的素養が身についているかどうかを試すとともに,
487
488 それらを適切に表現する能力をも問う問題である。
489
490
491 設問1は,
492 捜査段階における勾留について,
493 その実体的要件(ただし,
494 勾留の理由と必要性を
495 除く)の理解及びその検討に当たって考慮すべき具体的事実を問題文から指摘できるかどうかを
496 試す問題である。
497
498
499 設問2は,
500 本件事例の争点である「共謀」の事実認定について,
501 問題文の中から,
502 共謀を認定
503 する積極的事実と消極的事実とを抽出するとともに,
504 各事実の評価の理由をも問う問題である。
505
506
507 答案としては,
508 共謀共同正犯の実体法上の解釈に関する論述が求められているのではなく,
509
510 謀共同正犯の成否が問題となった最高裁判例の判決文において摘示されている事情等を参考に,
511
512 間接事実による事実認定の基本的枠組みを理解した上で,
513 事案に即して重要な具体的事実を分析
514 ・評価することが求められる。
515
516
517 設問3は,
518 公判中の証拠調べ手続における弁護人の対応について,
519 条文上の根拠に基づいた理
520 解ができているかどうかを問う問題である。
521
522 証拠調べ手続については,
523 刑事訴訟法上の規定のみ
524 ならず,
525 刑事訴訟規則において詳細なルールが定められていることから,
526 このような規則につい
527 ての理解も必要とされるところである。
528
529
530 設問4は,
531 刑事弁護の受任に関する弁護士倫理を問う問題である。
532
533 刑事弁護倫理については,
534
535 刑事訴訟法,
536 刑事訴訟規則はもとより,
537 弁護士法,
538 弁護士職務基本規程上の関連する規定の理解
539 も求められる。
540
541
542
543 【問題数について】
544 試験時間が1時間30分程度とした場合,
545 上記4つの設問すべての解答を求めることは分量的
546 に多すぎると思われる。
547
548 仮に,
549 設問2を含めるとすると,
550 他には,
551 設問1のみ,
552 あるいは設問3,
553
554 4のみとすることが考えられる。
555
556
557
558 - 3 -
559
560 また,
561 配点比率については,
562 設問1,
563 2を問う場合であれば,
564 設問1:設問2=1:2程度,
565
566 問2から4を問う場合であれば,
567 設問2:設問3:設問4=4:1:1程度とすることが考えら
568 れる。
569
570
571
572 - 4 -
573
574 [口述試験のイメージ]
575 (前提事実1)
576 警察官Pは,
577 暴力団員Aの知人Bから,
578 Aが覚せい剤の売人をしているらしいとの情報を入
579 手した。
580
581
582 (前提事実2)
583 警察官Pは,
584 A方を捜索した結果,
585 微量の覚せい剤を発見し,
586 Aを,
587 その場で,
588 覚せい剤取
589 締法違反(所持)で現行犯逮捕した。
590
591
592 (前提事実3)
593 弁護人Qは,
594 Aの内妻から,
595 Aが逮捕されたことで相談を受けた。
596
597 そこで,
598 弁護人Qは,
599
600 が逮捕された警察署を訪れ,
601 接見を申し入れたところ,
602 警察官Pは,
603
604 「取調中なので,
605 接見でき
606 ない。
607
608 」と言った。
609
610
611 (前提事実4)
612 Aは,
613 警察官Pに対し,
614 自宅から発見された覚せい剤について,
615
616 「覚せい剤ではなく,
617 コカイ
618 ンであると思っていた。
619
620 」と供述した。
621
622
623 (前提事実5)
624 Aの逮捕勾留中,
625 Aの尿から覚せい剤が検出されたが,
626 Aは,
627 覚せい剤を使用した事実はな
628 いと供述した。
629
630 検察官Rは,
631 所要の捜査を遂げた結果,
632 Aの覚せい剤使用の嫌疑は十分である
633 と判断した。
634
635
636 (前提事実6)
637 S裁判所は,
638 Aの覚せい剤使用事件の公判審理を行うこととなった。
639
640 第1回公判期日におい
641 て,
642 A及び弁護人Qは,
643 覚せい剤使用事実を否認した。
644
645 また,
646 弁護人Qは,
647 検察官が証拠請求
648 したAの知人Bの「Aが覚せい剤を使用しているのを見たことがある。
649
650 」旨の検察官面前調書を
651 不同意とした。
652
653
654
655 - 5 -
656
657