1 平成22年新司法試験論文式試験問題出題趣旨
2 【公法系科目】
3 〔第1問〕
4 今年度の論文式問題のテーマは,貧困と権利の現実的保障である。本問で権利の現実的保障
5 を検討する際に,事案としてかぎを握るのは住所である。
6 一つは,言わば構造的問題も一因となって,自助努力を尽くしても「健康で文化的な最低限
7 度の生活」を維持することが困難な状況に陥っている人々の生存権保障の問題である。具体的
8 には,生活保護法が「住所」ではなく,「居住地」「現在地」を有する者を保護の対象としてい
9 るにもかかわらず,生活の本拠を有しない者からの生活保護申請を拒否した処分をめぐる憲法
10 上の問題である。ここで問われているのは,立法裁量論の問題ではない。また,ここで問われ
11 ているのは,「文化的」に「最低限度」であるか否かではなく,言わば「生存」そのものにか
12 かわる問題である。なお,自治体による別異の取扱いに関しては,それを合憲とした先例(最
13 大判昭和33年10月15日)があるが,その先例と本問の事案とは異なることを踏まえて検
14 討する必要がある。
15 もう一つは,選挙権(投票権)に関する問題である。公職選挙法第9条第1項が定める選挙
16 権の積極的要件を満たし,かつ,同法第11条第 1 項が定める選挙権の消極的要件に当たらな
17 くても,選挙人名簿の登録が住民基本台帳に記録されている者について行われる(同法第21
18 条第 1 項)ので,住所を失うと選挙権を行使する機会を奪われることになる。ここでは,選挙
19 権(投票権)の意義をどのように考えるのかが問われる。
20 選挙権を行使できないということは,選挙権が事実上保障されていないことを意味する。
21 「国
22 民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認
23 められる事由がなければなら」ず,「やむを得ない事由があるといえ」るためには,「そのよう
24 な制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能な
25 いし著しく困難であると認められる場合」であることが必要である(最大判平成17年9月1
26 4日)。
27 公職選挙法が上記のような取扱いをしていて,住所を有しない者が投票する仕組みを設けて
28 いないことについての「やむを得ない事由」の有無を,事案の内容に即して個別的・具体的に
29 検討することが求められる。また,選挙権を行使できなかったことに基づく国家賠償請求につ
30 いても,上記判決が示す要件を踏まえつつ,事案に即した具体的検討をすることが求められる。
31 本問では,原告側,被告側,そして「あなた自身」と,三つの立場での見解を展開すること
32 が求められる。その際,三つの立場を答案構成上の都合から余りに戦略的に展開することは,
33 適切ではない。三つの立場それぞれが,判例の動向及び主要な学説を正確に理解していること
34 を前提としている。その上で,判断枠組みに関する検討,そして事案の内容に即した個別的・
35 具体的検討を行うことが求められる。
36 設問1では,原告側は一定の筋の通った主張を,十分に行う必要がある。
37 設問2では,「被告側の反論を想定しつつ」検討することが求められている。「想定」される
38 反論を書くパートでは,反論の憲法上のポイントだけを挙げればよい。そこでは,反論の内容
39 を詳細に書く必要はない。反論の詳細な内容は,
40 「あなた自身の見解」のパートで書けばよい。
41 そこでは,原告・被告双方の主張内容を十分に検討した上で,「あなた自身」の結論及びその
42 理由を書くことが求められる。
43 いずれにしても,問われるのは理由の説得力である。
44 〔第2問〕
45
46 -1-
47
48 本問は,A村の村長Eが行った村有土地の安値売却に対して,村民Bらが提起することが予
49 想される訴訟について,A村の顧問弁護士の立場から論じさせるものである。問題文と資料か
50 ら基本的な事実関係を把握し,地方自治法や同法施行令の趣旨を読み解いた上で,住民訴訟の
51 訴訟要件等を検討するとともに,本案における違法事由,つまり本件土地売買契約の適法性を
52 論じる力を試すものである。住民訴訟及び財務会計法規にかかわる細かい知識を問う趣旨では
53 なく,住民訴訟による住民参政及び財政統制,行政契約の公正性及び透明性,地方公共団体の
54 財務の経済性,地方議会の議決の民主性といった基本的な考え方を,条文や与えられた判決か
55 ら読み取り,事案に即した具体的な解釈論として展開する力を試すものである。
56 設問1は,住民訴訟の基本的な利用条件について,具体的に検討させる趣旨の問題である。
57 住民訴訟,特に,いわゆる4号請求に関して,基本的な理解を確認するものである。住民訴訟
58 の利用条件のうち,例えば,監査請求前置という要件に関しては,住民監査請求を行っていな
59 い村民Dが本件で住民訴訟の原告になることができるのかを検討する必要がある。また,住民
60 訴訟は当該地方公共団体における住民による提起が要求されるが,この点で,他の市に転出し
61 たCによる住民訴訟の提起について,具体的に論じなければならない。さらに,村民Bがこれ
62 から住民訴訟を提起する場合に遵守すべき出訴期間についても,言及することが求められる。
63 このほかにも,4号請求として,違法な契約の締結によって村に損害を与えた村長Eに対して
64 損害賠償請求を行うよう,A村の執行機関に求める訴訟が考えられる点も,説明することが求
65 められている。このように,本問においては,具体的な事案に即して住民訴訟を利用すること
66 ができるのか,基礎的な理解を確認することに主眼を置いている。住民訴訟にかかわる細かな
67 解釈を要求する趣旨では決してなく,現在数多く提起されている住民訴訟制度の基本について,
68 理解を問うものである。
69 設問2は,本件土地売買契約の適法性を地方自治法や同法施行令に則して検討させるもので
70 ある。まず,同法第96条第1項第6号等の解釈として,議会の議決が存在しない本件におい
71 て,「適正な対価」が認められるのかを論じなければならない。さらに,同法第234条等の
72 解釈を通じて,本件事案における随意契約の許容性を「条文の解釈を踏まえて」詳細に検討す
73 ることが求められる。随意契約を用いたことの適法性について検討する際には,地方自治法上,
74 競争入札が要求されている趣旨に言及することや,随意契約が例外とされる趣旨を前提として
75 解釈を行うことが求められる。本問では,Bらによる契約の違法性の主張に加えて,村の立場
76 に立った反論など,双方の立場から,契約の適法性を具体的に検討することが必要である。例
77 えば,本件土地売買契約を適法と解釈するのに適した事由として,過疎対策,人口確保対策,
78 税収対策としての本件土地売買の必要性,前年度の売却失敗という経緯,簡単に売却ができな
79 い(過疎に悩む)A村の特殊事情,適正な対価の存在などに具体的に言及して,法的評価を行
80 うことが考えられる。他方,本件土地売買契約を違法とする可能性のある事由としては,同法
81 施行令第167条の2第1項第2号等の解釈を通じた,本件事案における随意契約の法的評価,
82 村の幹部関係者や担当部局職員の家族が購入している点での公正性の問題,A村の村民が購入
83 している点での過疎対策としての有用性に係る法的評価,下限の価格を定めていない点(つま
84 り,基準設定をしていない点)での透明性の問題,一部対価免除,対価の適正に関する解釈な
85 どについて,具体的に検討することが求められる。
86 設問3は,関連する判決の読解能力を問うものである。本問では,住民訴訟でBらが第一審
87 で勝訴した場合であっても,議会関係者はその後の段階で,村長Eに対する請求権放棄の議決
88 を行うことを検討していることから,A村の顧問弁護士として,議決の適法性に関して評価を
89 行うことが求められている。特に,この問題に関連する裁判例を比較し,分析する能力が試さ
90 れている。換言すれば,二つの判決を読み比べて,その背景にある考え方を読み取り,説明で
91 きるかを問うものである。一方では,議会議決に限定を付していない地方自治法の規定(例え
92 ば,同法第96条第1項第10号)や,議会議決を尊重するという民主主義の視点に着目して,
93 -2-
94
95 議会が請求権の放棄を議決できると説く立場が考えられる。他方で,こうした議会議決の裁量
96 判断にも限界が存在する点,請求権放棄の議決は総合的な判断に基づいてなされるべき点を重
97 視する見解も考えられる。例えば,住民訴訟制度の趣旨,第一審の判決が下されている事情,
98 請求権の放棄が地方公共団体の財政に与える影響,相手方の事情などから,議会による請求権
99 放棄を議決権の濫用ととらえる見解も成立し得る。こうした考え方の対立点を踏まえた上で,
100 本件事案に即した解答者の判断を問うものである。議会議決の適法性に関する解釈は,詳細な
101 理由付けとともに行われる必要がある。
102 なお,三つの設問のうち,設問1は住民訴訟に関する基本的理解を問う趣旨であるのに対し,
103 設問2及び設問3は複数の法令や裁判例を素材にして解答すべき内容を多く含むことから,設
104 問2及び設問3の配点割合が高いものとなっている。こうした出題の趣旨を十分に理解して受
105 験者が実力を発揮できるよう配慮して,本年は各設問の配点割合を明示することとした。
106 【民事系科目】
107 〔第1問〕
108 設問1は,株式会社成立時における現物出資財産の価額が当該現物出資財産について定款に
109 記載された価額に著しく不足する場合における,発起人及び設立時取締役の責任について,会
110 社法上の基本的な理解を問うものである。発起人及び設立時取締役につき,不足額のてん補責
111 任(会社法第52条第1項)の要件の該当性のほか,その免責事由(同条第2項)についての
112 適用除外の有無及び免責事由の当てはめ,更に会社法第53条第1項に基づく任務懈怠による
113 損害賠償責任の有無につき,事実関係を踏まえた記述をすることが求められる。
114 設問2は,株式会社の成立後における募集株式の発行に際し,その一部が仮装払込み(いわ
115 ゆる見せ金)による場合に,@その払込みの効力と発行された株式の効力,A見せ金による払
116 込みにかかわった取締役その他の取締役や見せ金による払込みを行った募集株式の引受人の会
117 社に対する責任及びB当該取締役の第三者に対する責任について,会社法上の基本的な理解を
118 問うものである。
119 見せ金の効力及びこれにより発行された株式の効力に関する判例や学説の状況を十分に理解
120 した上で,事実関係を踏まえ,@〜Bの各問に解答することが求められる。
121 @においては,見せ金による払込みの効力と発行された株式の効力を分けて論述することが
122 求められる。前者では,判例の立場を踏まえ,見せ金の意義,見せ金と認定するための要件と
123 その当てはめ,払込みの効力の論拠を検討することが必要である。後者では,判例の立場を踏
124 まえ,発行された株式の効力の論拠を検討する必要があり,払込無効説を採る場合には,取引
125 の安全への配慮のほか,無効となった払込みの実質的なてん補手段の有無や10パーセントの
126 資金が会社に残っていることの評価について検討することが期待され,さらに,株式の効力を
127 否定する場合には新株発行の無効と不存在の別,払込無効説に立ちながら株式の効力を認める
128 説(株式有効説)を採る場合には株式の所有者等が問題となり得る。そのほか,払込有効説を
129 採る場合には,取締役が払込みに係る資金を引き出して引受人に対し交付した行為の評価につ
130 いて検討することが期待される。
131 A及びBについては,@において採用した結論(払込み及び株式の無効(不存在)説,払込
132 無効・株式有効説,払込み及び株式の有効説)と整合した記述をすることが求められる。この
133 記述においては,特に全体的な論理的構成力が試されている。
134 Aにおいては,いずれの説に立つ場合であっても,これに整合して,会社法第423条第1
135 項の任務懈怠の内容及び損害の内容等について記述することや,取締役Bについては,監督(監
136 視)義務違反の根拠及びその内容を記述することが求められる。募集株式の引受人丙社につい
137 ては,会社法第208条第5項による失権の有無を踏まえ,同法第212条第1項第1号の類
138 推適用の可否等会社法上の責任について検討することが期待される。
139 -3-
140
141 Bにおいては,取締役A及びBの両名について本件募集株式発行に関し,会社法第429条
142 第1項の「職務」の内容を具体的に記述することのほか,同条第1項と第2項の責任の関係,
143 同条第2項での責任主体となる「取締役」の意義を記述することが求められる。特に,取締役
144 Aの同項第1号ロ及びハの各責任の有無については,@において採用した結論との整合性に配
145 慮しつつ,資料@Aの虚偽のある項目及び内容を分析することが期待される。
146 〔第2問〕
147 民事系科目(第2問)は,工場を個人で営むAとその家族らの取引と民事訴訟をめぐる事例
148 に関して,民法上及び民事訴訟法上の問題点についての基礎的な理解を問う総合問題である。
149 具体的事実を法的な観点から評価し構成する能力,具体的な事実関係に即して基本問題を考察
150 する能力及び論理的に一貫した論述をする能力などを試すものである。
151 設問1は,第1に,Fが第1訴訟において選択的にする二つの主張の法的構成が,有権代理
152 構成と権限外の行為の表見代理構成(民法第110条)であることを理解した上で,二つの法
153 的構成を区別することができるかどうか,第2に,各法的構成において,事実@及び事実Aの
154 性質を的確に把握することができるかどうかを問うものである。まず,有権代理構成において,
155 事実@はAがCに代理権を授与したことを推認させる間接事実である意義を有すると考えら
156 れ,これに対し,事実Aは特段の意義を有しない。次に,権限外の行為の表見代理構成におい
157 ては,事実@は2000万円の融資についてCに代理権があるものと信ずる正当な理由がある
158 とする評価を根拠付ける事実である意義を有し,それとともに,事実@はAがCに1500万
159 円の限度における代理権を授与したことを推認させる間接事実である意義を有するとも考えら
160 れる。また,事実AはCに2000万円の借入れの権限があるかどうかをFが調査しようと試
161 みたことを意味するものであるから,他の事情とあいまって,正当理由を根拠付ける一つの事
162 実である意義を有するものとも考えられる。反対に,事実Aのうち携帯電話がつながらないこ
163 とは,Cの不審な挙動を示唆するものとみることができないものではないから,それにもかか
164 わらずA本人との接触に成功しないまま融資を敢行したこととあいまって,正当理由の評価障
165 害事実になるとする性質把握も一定の説得力を持つ。そこで,適切な理由が付されて解答され
166 ているかが問われることになる。
167 設問2は,抵当不動産の第三取得者が抵当目的物件を故意に滅失させた事案について,抵当
168 権侵害による不法行為に基づく損害賠償の成否を問うものである。
169 小問(1)の考察においては,Eによる丙建物の取壊し後におけるFの被担保債権額と甲乙
170 土地の価額との関係を考慮しつつ,抵当権侵害における損害の発生について,抵当権の担保権
171 的性質の基本的理解との関連を意識しつつ論ずることが望まれる。ここでは,
172 【事実】及び〔設
173 問〕のいずれにおいても,甲乙土地及び丙建物の価額は示されていないので,解答は抽象的な
174 理論操作に基づく記述で足りる。加えて,抵当権侵害における損害はどの時点で確定すること
175 ができるかについて論ずることが望まれる。この点については,【事実】に基づくと,Eによ
176 る丙建物の取壊しは平成19年8月19日であり,Fに対するAの債務の第1回弁済期は平成
177 20年3月15日であるため,Eの行為が抵当権の被担保債権の弁済期前であることをどのよ
178 うに評価するかが問われることになる。
179 小問(2)の考察では,民法第177条の第三者からはどのようなものが排除されるべきか,
180 その上で,【事実】に示された法律上有意な事実を過不足なく指摘しながら,EがFとの関係
181 で,民法第177条の第三者から排除すべき者に当たるかを論ずることが求められる。加えて
182 その前提として,不動産物権変動の第三者対抗の問題が,不法行為の成立要件との関係でどの
183 ように位置付けられるかを論ずることが求められる。すなわち,不法行為の成立要件との関係
184 において,抵当権者Fのために抵当権の設定の登記が行われていないことをどのように評価す
185 るか,また,丙建物の所有者Eによる取壊しが抵当権を侵害する行為に該当するか否かについ
186 -4-
187
188 ての考察が必要となる。
189 設問3は,訴状に被告として記載されていた人物Eとは異なる人物Gが,被告本人として訴
190 訟(第2訴訟)の手続に関与していたという事例について,Gが行った行為の効力がEに及ぶ
191 かを論じさせるものである。
192 ここでは,Gの行為の効力が問われているから,そもそもGの行為は,訴訟法上どのような
193 ものとして位置付け評価され得るのかという点について,いわゆる当事者確定の基準論の理解
194 を前提に,自説の考え方(ないし問題となる点)を明らかにしつつ,論理を展開することが求
195 められる。特に,設問3の事例では,Gは被告Eとして行為しており,その行為が外形的には
196 訴訟代理の形式をとっていないことをどのように評価するのか,仮に,Gの行為を,Eを本人
197 とする訴訟代理行為(ないしその類似行為)ととらえようとするのであれば,その効力を,弁
198 護士代理の原則ないしその趣旨との関係でどのように考えるべきかなどといったことが問題と
199 なろう。そして,その検討過程においては,既にEになりすましているGの行為を前提として
200 複数回の期日が重ねられてしまっていることへの配慮の要否という実質的な問題もある。
201 設問4は,抵当権設定登記抹消請求訴訟(第3訴訟)を題材として,被担保債権に係る債務
202 の不存在確認請求について審理・判断された前訴(第1訴訟)確定判決の既判力がどのように
203 作用するかという問題点及び質的一部認容判決である条件付給付判決をすることができるかど
204 うかという問題点について,考えさせる問題である。
205 前訴における請求は,いわゆる自認部分がある債務不存在確認請求であったが,最高裁の判
206 例は,自認部分は訴訟物とならず,自認部分の存否は既判力によって確定されないとの立場を
207 採用している。小問(1)は,第3訴訟の被告Fの訴訟代理人弁護士Qが提示した最高裁判例
208 とは異なる内容の法律構成@と法律構成Aのそれぞれについて,被告側の法律主張(つまり,
209 党派的な主張)としての適否を検討することを求めている。そこでは,最高裁判例の立場を確
210 認した上で,法律構成@については,量的に可分な給付請求権に関する一部請求後の残部請求
211 をめぐる議論状況との対比の下に,全部認容判決である前訴確定判決が自認部分についても判
212 断を下しているといえるかどうかを検討することが求められ,法律構成Aについては,請求の
213 放棄構成の技巧性について検討するほか,請求の放棄について既判力が認められるかどうかを,
214 そこで問題となる既判力の概念と絡めながら検討する(その際,調書の作成がないことや既判
215 力の基準時についても検討する)ことが求められている。
216 小問(2)では,条件付給付判決ができるかどうかを論ずるに際して,少なくとも以下の三
217 つの論点を検討することが必要である。まず,@原告Aが無条件の給付判決を求めているのに
218 対し,質的一部認容判決である条件付給付判決をすることが,民事訴訟法第246条との関係
219 で許容されるかどうかを検討すべきである。その際,A現在の給付を命じることを内容とする
220 引換給付判決とは異なり,条件付給付判決が将来の給付を命ずる判決であることとの関係で,
221 同法第135条の要件を検討し,また,B条件付給付判決と全部棄却判決のそれぞれの既判力
222 の客観的範囲(裁判所が認定した残債務額が既判力の対象になるかどうかという問題点を含
223 む。)を比較検討することも求められる。
224 設問5は,次のような三つの法律問題についての考察を順に求めるものである。第1に,認
225 知者が認知の意思を表示し認知届を作成して使者に届出を委託した後に死亡し,この間に認知
226 届が提出されていない場合,認知の効力は生じるかを問うものである。認知届の提出が身分変
227 動の効果が発生するための要件であるため,父の認知の意思が確認できたとしても,認知届が
228 提出されていない以上,認知の効力は発生しない。第2に,自筆証書遺言の解釈として,遺言
229 者の子ではない者に遺言者の遺産の3分の1を分けるということが何を意味するか,その場合
230 に遺言者の相続人の法的地位はどのようなものかを問うものである。平成20年4月6日付の
231 Aの遺言に記載されている内容は,Eに対しては割合的包括遺贈であり,唯一の相続人である
232 Cに対しては遺産の残余部分が相続により帰属することの確認となる。第3に,割合的包括遺
233 -5-
234
235 贈が行われた場合,受遺者は相続人として扱われ被相続人の債務も承継するところ,被相続人
236 が負っていた金銭債務は相続人と受遺者にどのように承継されるかを問うものである。割合的
237 包括遺贈における金銭債務の承継については,金銭債務について共同相続が生じた場合の規律
238 を参照しつつ,金銭債務の債権者はだれに対してどのように履行請求をすることができるのか
239 について考察することが望まれる。
240 【刑事系科目】
241 〔第1問〕
242 本問は,A病院の入院患者Vが薬の誤投与に起因して死亡したという具体的事例について,
243 Vを看護していた妻の甲,担当していた看護師乙及び薬剤師丙の罪責を問うことにより,刑事
244 実体法及びその解釈論の理解,具体的事案に法規範を適用する能力及び論理的思考力を試すも
245 のである。
246 第 1 に,甲の罪責については,甲がVの異状を認識しながら,看護師乙ら病院関係者に連絡
247 することなく放置し,結局Vを死亡させたことについて,いかなる刑法上の罪が成立するかが
248 問題となる。
249 まず,甲が乙による巡回を妨害するなどの積極的な行為に及んでいるので,甲の行為を不作
250 為,作為のいずれととらえるのかが問題となる。
251 不作為とする場合は,不作為による殺人罪又は保護責任者遺棄致死罪の成否が問題となる。
252 両罪を区別する基準として,殺意の有無によるとする考え方,作為義務の程度によるとする考
253 え方などがあるが,いずれの立場に立ったとしても,後述する殺意の有無など関連する事実を
254 認定しつつ,事案への当てはめを行うことが求められる。
255 次に,不作為による殺人罪又は保護責任者遺棄致死罪の成否を検討する場合には,作為義務
256 ないし保証人的地位の発生根拠(基礎付け事情)に関する考え方を示すことが必要となるとこ
257 ろ,作為義務の発生根拠については,多元的に理解するのが一般であり,法令,契約及び条理
258 のほか,先行行為,事実上の引受け,排他的支配領域性に求めるなどの様々な考え方があり,
259 それらを踏まえて自らの見解を明らかにすることになる。
260 甲に対する作為義務の有無の検討においては,単に甲がVと夫婦関係にあり,民法上の扶助
261 義務を負うことだけで足りるとするのではなく,甲が午後2時に乙の巡回(容体確認)を妨害
262 したことなど,具体的事情を丁寧に拾いつつ,その事情が作為義務の発生根拠との関係でどの
263 ような意味を持つのか明らかにする必要がある。また,VがA病院に入院中の患者であり,V
264 に対する看護義務は第一次的には乙ら病院側にあることを踏まえ,どのような事情があれば甲
265 に作為義務が認められるかを論ずることが肝要である。
266 甲に作為義務が認められるとしても,その作為義務の内容,作為可能性・容易性についても
267 検討する必要があるほか,甲の不作為とVの死亡という結果との間の因果関係について,不作
268 為犯の特殊性を踏まえつつ,事例に即して論ずることになる。
269 さらに,甲に対して不作為による殺人罪の成立を肯定するためには,殺意(故意)の検討が必
270 要となる。甲は,Vの危険な状態を認識しながらも,Vの介護から解放されたいと思う一方で,
271 長年連れ添ったVを失いたくないという複雑な気持ちを抱き,その間で感情が揺れ動いている
272 ので,結果の発生に対する認識・認容が必要とする認容説(判例)など自らの立場を明らかに
273 しながら,具体的事例における当てはめを行うことになる。
274 殺意を認定する場合には,その成立時期についても留意する必要がある。なぜなら,殺人罪
275 が成立するには,殺意が肯定されることに加え,作為義務の発生時期,救命可能性が認められ
276 る時期(午後2時20分まで)との関係も踏まえ,これらがすべて満たされる必要があるから
277 である。
278 第2に,乙丙の罪責については,乙と丙が医師Bの処方したとおりのE薬ではなくD薬を投
279 -6-
280
281 与した上,乙がBの指示どおりにVの容体確認をしなかったため,Vが死亡するに至っている
282 ことから,乙丙それぞれについて業務上過失致死罪の成否を検討することになる。
283 まず,前提として,業務上過失致死罪(刑法第211条第1項)の「業務」についての判例
284 の理解を踏まえつつ,これを,看護師,薬剤師という乙,丙それぞれの仕事の特性を考慮しつ
285 つ当てはめを行うことになる。
286 次に,過失犯の理論について,事案の解決に必要な限度で簡潔に自らの考え方を明らかにし
287 た上,事例に即して,乙丙に課せられる具体的な注意義務の内容を特定する必要がある。特に,
288 乙については,誤った薬の投与という行為だけでなく,医師Bに指示されたとおりの巡回を行
289 わなかったことも認められるので,それぞれの行為について具体的な注意義務を検討すべきで
290 ある。
291 その上で,問題文中の具体的事情を摘示しつつ,乙丙のVの死亡という結果に対する予見可
292 能性や,結果回避可能性・結果回避義務違反について検討すべきである。
293 さらに,乙丙に対してV死亡の結果の責任を問うためには,乙丙の薬品の投与に係る過失行
294 為の後に甲の(不作為による殺人行為又は保護責任者遺棄行為という)故意行為が介在してい
295 る(丙の場合は,それに加えて乙の過失行為も介在している。)ことから,因果関係の有無が
296 問題となる。因果関係については,相当因果関係説,最近の判例の立場とされる客観的帰属論
297 的な考え方など見解は様々あるところ,自らのよって立つ考え方を明らかにした上,当てはめ
298 を行うことになる。その際,介在している甲の行為は,故意行為とはいえ,不作為であって,
299 因果の流れに物理的に影響を及ぼしたとまでは言い難いという点をどのように評価するかがポ
300 イントとなろう。
301 最後に,こうした検討を経た上で,甲乙丙の罪数判断を示す必要がある。
302 なお,乙丙の関係については,過失犯の共同正犯を肯定する見解に立つ場合には,乙丙間に
303 業務上過失致死罪の共同正犯が成立する余地があるが,その場合,乙と丙が共通の注意義務を
304 負っているといえるかが問題となるほか,乙丙の各過失行為と結果との間に単独犯として因果
305 関係がそれぞれ認められるとの結論に至った場合に,共同正犯を認める実益は何かという問題
306 意識も必要となろう。乙丙間における信頼の原則の適用についても問題となり得るが,看護師,
307 薬剤師のそれぞれに独立して適正な薬であることの確認が求められているような体制下で,同
308 原則を適用することの相当性が認められるか否かを検討する必要があろう。
309 論述においては,刑法解釈上の論点に関する判例・学説の基本的な事項についての正確な理
310 解に基づき,複雑な事案を解きほぐしていくという分析作業を行うとともに,事案の解決に必
311 要な範囲で論点に関する自らの見解とその論拠を簡潔に示すことが求められる。いわゆる論点
312 主義に陥ることなく,具体的事案を虚心に分析,検討し,結論の妥当性も勘案しながら,事案
313 に現れた事情を丁寧に拾い,その持つ意味を明らかしていくという粘り強い論述が求められて
314 いる。
315 〔第2問〕
316 本問は,捜査・公判に関する具体的事例を示して,そこに生起する刑事手続上の問題点の解
317 決に必要な法解釈,法適用にとって重要な具体的事実の分析・評価及び具体的帰結に至る過程
318 を論述させることにより,刑事訴訟法等の解釈に関する学識,適用能力及び論理的思考力を試
319 すものである。
320 事例は,暴力団幹部らによるけん銃の組織的な密売事件を素材とし,設問1は,警察官が,
321 暴力団A組幹部である被疑者甲がA組の組事務所であるアパート前公道上のごみ集積所に投棄
322 したごみ袋や,自宅マンションのごみ集積所に投棄したごみ袋から発見したメモ片を持ち帰り
323 復元する行為,さらに捜索差押許可状に基づいて差し押さえた携帯電話の消去されていたデー
324 タを復元・分析する行為について,その適法性を論じさせることにより,刑事訴訟法第221
325 -7-
326
327 条の定める遺留物の領置,同法第218条第1項の定める捜索,差押え及び検証についての正
328 確な理解と具体的事実への適用能力を試すものである。
329 刑事訴訟法第221条は,被疑者その他の者が遺留した物を令状なく領置することを認めて
330 いるが,設問1の捜査@及びAでは,本問のごみが遺留物といえるか,いえるとして捜査機関
331 は何らの制限なくこれを領置することができるか問題となり,捜査Bでは,消去されたデータ
332 の復元・分析が捜索差押許可状の効力として許されるか,それとも新たな権利侵害に該当し別
333 個の令状を必要とするか問題となるため,この問題に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法
334 の解釈として論ずる必要がある。
335 法の文言解釈と事例への適用においては,同条における遺留物がなぜ令状なくして取得可能
336 なのかという制度の趣旨に立ち返り,占有取得の過程に強制の要素が認められないからこそ令
337 状を要しないとされている遺留物とは,遺失物より広い概念であり,自己の意思によらず占有
338 を喪失した場合に限られず,自己の意思によって占有を放棄し,離脱させた物も含むなどと定
339 義した上で,具体的事例の捜査@及びAのいずれについても,投棄されたごみが遺留物に該当
340 するか否かをまず検討し,その上で,当該ごみが遺留物に該当するとしても,排出者がごみを
341 排出する場合における「通常,そのまま収集されて他人にその内容を見られることはないとい
342 う期待」がプライバシー権として権利性を有するか否かを検討し,さらに,同権利性が認めら
343 れるとしても,本件事例においてなお要保護性が認められるか否かを論ずるべきである。
344 こうした法解釈の枠組みの中で,本件事例の具体的状況下におけるごみの領置の必要性及び
345 相当性を検討してその適法性を論ずることになろうが,いずれも事例中に現れた具体的事実を
346 的確に抽出,分析しながら論ずべきである。個々の適法又は違法の結論はともかく,具体的事
347 実を事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではなく,それぞれの事実が持つ法
348 的な意味を的確に分析して論じなければならない。例えば,捜査@については,けん銃密売事
349 件という重大犯罪でありながら組織的に,かつ,巧妙な手段により行われていたため通常の捜
350 査方法では摘発が困難であったという捜査の必要性に加えて,ごみ袋が投棄されたのがだれも
351 が通行する場所であったという具体的状況や,他者が拾うことも予想される公道上のごみ集積
352 所から,甲がごみ袋を置いたのを現認した上で,同ごみ袋を持ち帰ったという手段の相当性を
353 検討するべきであるし,捜査Aについては,ごみ集積所がマンション敷地内にあるが,管理者
354 の同意なしに敷地内に立ち入る行為の法的意味をどのように評価すべきか,その際,そこは居
355 住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,その出入口は施錠されておらず,だれで
356 も出入りすることが可能であったという事実をどのように評価するか,その場所に投棄された
357 ごみの遺留物性及びプライバシー権の要保護性の有無を,捜査@との違いを意識しながら検討
358 して論じる必要があろう。また,捜査Bでは,消去されたデータの復元とは,消去によって可
359 視性がなくなったデータを可視性がある状態にするものであり,元々のデータを破壊,改変等
360 するものではないといった具体的事実の分析をし,その上で,令状裁判官の審査を経た当初の
361 携帯電話に対する捜索差押許可状がどこまでの効力を持つものかという観点から論ずるべきで
362 ある。
363 設問2は,被疑者甲と捜査協力者である乙及び丙女との会話を録音したICレコーダーや携
364 帯電話を再生して反訳した捜査報告書について,その要証事実との関係での証拠能力を問うこ
365 とにより,伝聞法則の正確な理解と具体的な事実への適用能力を試すものである。さらに,そ
366 の前提として,本問では,おとり捜査や秘密録音といった捜査手法がとられていることから,
367 それらの適法性が捜査報告書の証拠能力に影響し得るため,併せてそれらの適法性についても
368 問い,これらの捜査の適法性についての正確な理解と具体的事実への適用能力を試している。
369 まず,前提となる捜査の適法性については,おとり捜査の意義を定義し,おとり捜査一般の
370 問題の所在や適法性の判断基準を示した上で,いわゆる機会提供型か犯意誘発型かというだけ
371 ではなく,本件で当該捜査手法をとるべき必要性・補充性や働きかけ行為の相当性を考慮し,
372 -8-
373
374 設問で与えられた具体的事実を踏まえて,本件における乙を通じての被疑者甲へのけん銃譲渡
375 の働きかけが適法であるか否か詳細に検討する必要がある。また,会話の一方当事者の同意が
376 ある場合における通話及び会話の秘密録音については,例えば,会話当事者の一方が録音に同
377 意している場合には,その会話内容は相手方の支配下に置かれたものであり,会話の秘密性は
378 放棄したものと評価され,要保護性は,通信傍受のような会話当事者のいずれの同意もない場
379 合に比べて低下しており,任意捜査としてその適法性を判断するなどと,この問題に関する各
380 自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論じた上で,録音@,A及びBのそれぞれの状況
381 における具体的事実を踏まえて適法性を論ずるべきである。
382 これら前提となる捜査の適法性を論じた後,捜査報告書の証拠能力を検討することになろう
383 が,本問では,検察官が,「甲乙間の本件けん銃譲渡に関する甲乙間及び甲丙女間の会話の存
384 在と内容」という立証趣旨を設定して本件捜査報告書の証拠調べを請求したところ,弁護人は,
385 これに不同意の意見を述べている。本件捜査報告書は,作成者である司法警察員KがICレコ
386 ーダーや携帯電話の録音内容を聞いた上で,これを反訳したものであり,捜査官が五官の作用
387 によって事物の存在及び状態を観察して認識する作用である検証の結果を記載した書面に類似
388 した書面として,刑事訴訟法第321条第3項により,作成者Kが公判廷で真正に作成された
389 ものであることを供述すれば証拠能力が付与されるという捜査報告書全体の性質をまずは論ず
390 る必要があろう。
391 その上で,本件捜査報告書には,甲乙間及び甲丙女間の会話部分並びに乙によるその会話内
392 容の説明部分が含まれていることから,これらの部分の証拠能力について,更に伝聞法則の適
393 用があるか否かを要証事実との関係で検討する必要がある。要証事実を的確にとらえれば,甲
394 乙間及び甲丙女間の会話部分については,会話内容が真実かどうかを立証するものではなく,
395 甲乙間及び甲丙女間でそのような内容の会話がなされたこと自体を証明することに意味があ
396 り,会話の存在を立証するものであるから,この会話部分は伝聞証拠には該当しないとの理解
397 が可能であろう。これに対して,乙による説明部分については,正に乙が知覚・記憶し,説明
398 した会話の内容たる事実が要証事実となり,その真実性を証明しようとするものであるから,
399 伝聞証拠に該当すると解した上で,伝聞例外を定める刑事訴訟法第321条第1項第3号によ
400 りその証拠能力の有無を検討することになる。同号の各要件については,乙の死亡や会話部分
401 にはけん銃という言葉など聞き取れない部分があること,乙による説明は会話に引き続きなさ
402 れており,その内容は直前の会話内容と整合するとともに,乙方でりんごの箱とともに発見さ
403 れたけん銃2丁などの客観的状況とも整合するといった具体的事実を的確に当てはめ,その証
404 拠能力を検討しなければならない。
405 いずれの設問についても,正確な法的知識を当然の前提としながら,法解釈論や要件を抽象
406 的に論じるだけでなく,事例中に現れた具体的事実関係を前提に,法的に意味のある事実の的
407 確な把握と要件への当てはめを行うことが要請されている。
408 【選択科目】
409 [倒
410
411
412
413 法]
414
415 〔第1問〕
416 本問は,具体的な事例を通じて,破産手続開始決定前に破産者から逸失した財産の回復に関
417 連する破産法上の制度及び民法等の実体法の規律についての理解を問うものである。
418 設問1(1)については,まず,本件事例の下では,破産法第162条第1項第2号の否認権
419 の行使が問題となることを指摘した上で,同号の否認の要件を充足するか否かについて論じる
420 必要がある。その際には,本件代物弁済が「その時期が破産者の義務に属しない行為」に当た
421 ることを明確にするとともに,支払不能となった時期について,手形の不渡りがあったという
422 本件の事案に照らして適切に判断することが求められる。その上で,目的物の返還を求めるこ
423 -9-
424
425 とができない場合における価額償還請求権とその価額算定の基準時について論じる必要があ
426 る。
427 (2)については,まず,B社が本件トラックの所有権を主張することができるかどうかにつ
428 いて,破産管財人の第三者的地位の問題などを踏まえつつ,論じる必要がある。その上で,B
429 社の上記主張は認められないが,本件トラックの返還を求めることができない場合には,Kは,
430 B社に対して不当利得の返還を請求することができること及びその場合において返還を求める
431 べき不当利得の価額について論じる必要がある。さらに,それが(1)の償還を求めるべき価額
432 と異なる場合に,その理由を制度趣旨にさかのぼって論じることが求められる。
433 設問2については,本件事例の下で,建物の賃料債権に対する物上代位を含め,別除権であ
434 る抵当権の行使方法としてどのようなものが考えられるか,また,不足額責任主義を採用して
435 いる破産法において,破産債権の届出から最後配当までの具体的手続はどのようなものかとい
436 う点を踏まえて,B社が採ることができる債権回収方法について論じることが求められる。
437 〔第2問〕
438 本問は,具体的な事例を通じて,民事再生手続における継続的給付を目的とした双務契約の
439 取扱い及び相殺禁止に関する規律についての理解を問うものである。
440 設問1については,まず,本件事例における倒産解除条項の有効性について論じる必要があ
441 る。その上で,今後の取引を継続する前提として,民事再生法第49条第1項に基づき本件契
442 約の履行を請求する必要があることを明らかにし,B社が履行を拒絶することの可否について,
443 本件契約が同法第50条第1項に規定する継続的供給契約に該当するか否かの検討を踏まえ
444 て,論じる必要がある。さらに,その該当性の有無についての結論に応じて,B社が有する現
445 在及び将来の債権が民事再生手続上どのように取り扱われるかについて論じることが求められ
446 る。
447 設問2については,まず,甲手形に関しては,民事再生法第93条第1項第4号に該当する
448 と同時に同条第2項第2号にも該当することについて,本件事例に即して具体的に指摘する必
449 要がある。さらに,相殺適状発生と相殺の意思表示の時期に関する同法の規律について,破産
450 法の規律との違いを踏まえつつ,その趣旨も含めて説明することが求められる。
451 次に,乙手形については,民事再生法第93条第1項第1号が適用され得ることを本件事例
452 に即して具体的に指摘する必要がある。その上で,同法には破産法第67条第2項後段のよう
453 な規定が存しないことを踏まえつつ,上記の民事再生法の規定の適用による相殺禁止という結
454 論を維持すべきか否かについて,乙手形に関する相殺の合理的期待の保護の必要性の有無,破
455 産手続と民事再生手続との目的・趣旨の違い等の検討を踏まえて,理由を明確にして自説を論
456 じる必要がある。
457 [租
458
459
460
461 法]
462
463 租税法の出題に関しては,これまでと同様に,所得税法を中心とし,これに関連する範囲で
464 法人税法及び国税通則法を含む,基本的な理解を問う出題としている。
465 〔第1問〕
466 本問題は,家族的事業についての課税の在り方を通じて,所得税法の基本的な理解と応用力
467 を試すものである。
468 まず,設問1(1)は,父親Aから子Cに支払われた学資金名目の金員について,授業料に
469 充てられていた上記金員はCの所得に当たるのか,所得税法第9条第1項第14号の学資金又
470 は扶養義務の履行に該当するとして非課税となるのか,若しくは給与となるかをを踏まえて多
471 角的に検討する問題である。
472 また,給与とした場合には,家族内の費用支出の取扱い(所得税法第56条)についての言
473 - 10 -
474
475 及も必要となる。この論点は,さらに,設問1(2)で,ピアノ演奏等を業としている妻Bに
476 対する演奏料について所得税法第56条,第57条の適用があるかを,判例(最判平成16年
477 11月2日判時1883号43頁)にも照らして検討することが求められている。
478 設問2は,他人の窃盗によって失った金銭は,所得税において,どのように取り扱われるの
479 か,特に,事業上必要な資産を盗まれた場合はどうかを検討する問題であり,所得税法第37
480 条,第51条,第72条に当たるかが問われている。設問2(2)においては,Aが経営する
481 飲食店が法人であった場合を対比させており,法人税法における損害賠償請求権が両建てされ
482 ることや,所得税とは損失の取扱いが異なっていることにも言及することを期待している。な
483 お,このような場合に損害賠償請求権が貸倒れになるのかについても適切に論述することが期
484 待される。
485 〔第2問〕
486 本問題は,青色申告制度の趣旨及び概要並びに青色申告の承認の取消し,並びに推計課税制
487 度の根拠,趣旨及び概要について,それぞれ,基本的な理解を問うとともに,具体的な事例へ
488 の適用能力を問うものである。
489 設問1では,青色申告制度についての基本的知識が問われており,青色申告制度の趣旨のほ
490 か,その概要として,青色申告の承認及びその取消し,青色申告者の特典と義務についての基
491 本的な知識が問われている。また,設問2では,青色申告承認の取消事由(所得税法第150
492 条第1項)を本問の事案に即して検討することが求められており,各号が掲げる取消事由の意
493 義を踏まえた合理的な論述が求められているが,本問の事例のように,帳簿書類を税務職員に
494 よる検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合
495 については判例(最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁)があり,この判例の理
496 解とその内容への適切な言及が期待されるところである。
497 また,設問3及び設問4は,推計課税についての理解を問うものであり,推計課税が認めら
498 れる根拠と所得税法第156条について言及することと,推計の必要性と推計の合理性という
499 推計課税の認められる要件について整理して論述することが期待されるところである。さらに,
500 本問の事例について,推計の必要性と推計の合理性が認められるかを具体的に検討することが
501 求められている。
502 [経
503
504
505
506 法]
507
508 〔第1問〕
509 本問は,若手デザイナーによる手作りアクセサリー(以下「本件商品」という。)の販売を
510 仲介する携帯電話専用のウェブサイトの運営事業(以下「本件事業」という。)の市場におい
511 て,安価な手数料率の設定を売り物にして新規参入してきた事業者に対し,既存の事業者であ
512 るA社が危機感を覚え,同社のサイトへの掲載を依頼する若手デザイナーに対し,新規参入者
513 との二重登録を禁止することを目的とする措置(以下「本件措置」という。)を講じようとし
514 たことについて,独占禁止法上の問題点を検討させることをその趣旨としている。
515 すなわち,本件措置を講ずることにより,どのような市場における競争に関し,どのような
516 競争上の影響や弊害を生ずるおそれを生むこととなるかについて,事実関係の分析と構成要件
517 への当てはめの過程を見ようとするものであり,本件措置が若手デザイナーの事業活動に与え
518 る影響及び競争への影響を検討すべき市場の範囲,その公正競争阻害性について検討すること
519 が求められる。
520 具体的には,不公正な取引方法の一般指定第2項後段又は第12項の構成要件を踏まえ,本
521 件措置について,他の事業者にある事業者に対する取引を拒絶させたといえるか,又は相手方
522 の事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引したといえるかについて,本件商品の販売形態
523 - 11 -
524
525 の特殊性やA社の市場における地位,その実効性確保手段の有無及び程度等を勘案して検討す
526 る必要がある。
527 本件措置が影響を及ぼすこととなる競争の具体的な形態としては,各社のウェブサイトによ
528 る本件商品の販売の仲介を希望する若手デザイナーの獲得をめぐる競争のほか,各社が運営す
529 るウェブサイトを媒介として若手デザイナーと一般消費者との間で成立する本件商品の販売に
530 おける競争も想定されよう。
531 また,その公正競争阻害性に関しては,本件の市場の実態に基づいて,本件事業に新規参入
532 した事業者が市場から排除されるおそれ,すなわち市場閉鎖効果が生ずるおそれの有無や,本
533 件商品の販売価格が維持されることがないか等の点に着目し,併せて本件措置を講ずることに
534 ついての正当化事由についても検討する必要がある。
535 いずれにせよ,本問においては,本件措置が市場における競争に及ぼす影響について,独占
536 禁止法上の行為規制の趣旨及び体系並びに各違反行為の構成要件を正確に理解した上で,事実
537 関係を丹念に検討してその当てはめを行うことが求められる。
538 〔第2問〕
539 本問は,Y市発注の下水道管更生工事の入札という架空の事例を基に,入札談合が独占禁止
540 法に違反するかどうかを不当な取引制限(独占禁止法第3条,第2条第6項)の要件に従って
541 検討させ,不当な取引制限の規制について基本的理解ができているかを確認することをその趣
542 旨としている。
543 設問1においては,まず,共同行為,事業活動の相互拘束等の要件について,A,Bないし
544 D及びE・Fのそれぞれの平成21年2月1日の会合,3月5日の会合等における行為が,こ
545 れらの要件を満たすか否かを検討することとなる。ここでは取り分け,BないしDの行為のほ
546 か,Aはこの二つの会合の間に指名停止処分を受けて入札に参加できず,また,E・Fはこれ
547 らの会合にはかかわることなく本件談合に協力をしたことが,共同行為及び事業活動等の相互
548 拘束の要件においてどのように評価されるか,意思の連絡は成立するか,相互拘束性があるか
549 等を本件事案に即して検討することを求めている。
550 次に,本件において「一定の取引分野」をどのように画定するか,すなわち,例えば甲工事
551 と乙工事の関係はどうか,Y市発注の下水道管更生工事という一定の取引分野が成立するかを
552 検討し,さらに,基本合意に続いて個別調整(個別入札)が行われた本件事案において競争を
553 実質的に制限するかを検討することとなる。
554 設問2では,基本合意は成立しているが個別調整が実施されていない事案において,不当な
555 取引制限が成立するかを問うている。検討に当たっては,不当な取引制限は,入札談合におい
556 て基本合意と個別調整のいずれで成立するか,本件事案においては基本合意だけで成立するか
557 について,独占禁止法第2条第6項の要件に基づいて説明することが求められる。その際には,
558 当然ながら,設問1の解答と矛盾しないことも求められる。
559 いずれにせよ,本問においては,不当な取引制限の要件の意義を正確に理解した上で,当該
560 行為による競争への影響を念頭に置き,事実関係を十分に検討した上で当てはめをを行うこと
561 が求められる。
562 [知的財産法]
563 〔第1問〕
564 設問1は,丙のイ号製品の製造販売が甲及び乙が共有する特許権を侵害するか否か,また,
565 設問2は,丙のロ号製品の製造販売及び丁のハ号製品の製造販売が当該特許権を侵害するか否
566 かについて論述させるものである。当該特許権の特許請求の範囲に記載された構成中にこれら
567 の製品と異なる部分が存在するのであり,設問1及び設問2は,いわゆる均等論に関する理解
568 - 12 -
569
570 を問うものである。
571 設問1においては,最高裁判所の判決(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁)
572 が述べた,均等論の第4要件が問題となろう。イ号製品は,a,b’及びcの構成を有する製
573 品であるところ,同構成については,戊の特許出願の願書に最初に添付した明細書に記載され
574 ていたため,甲及び乙の特許出願時には,特許法第29条の2により,甲及び乙は特許を受け
575 ることができなかったはずのものであった。上記判例の文言によれば,第4要件は,「対象製
576 品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易
577 に推考できたものではな」いというものであるが,その根拠として述べられていることを踏ま
578 えて,イ号製品について第4要件が充足されるか否かについて論述することが求められる。
579 設問2においては,上記判例が述べた,均等論の第3要件が問題となろう。同判例において,
580 第3要件の判断基準時は「対象製品等の製造等の時点」と述べられているところ,α発明にお
581 ける構成要件Cをc’に置き換えることは,丙がロ号製品の製造販売を開始した2008年8
582 月20日の時点では当業者が容易に想到することができるものではなかったが,ロ号製品を解
583 析すれば,それがa,b及びc’の構成を有するものであることは格別の困難なく知ることが
584 できたという事実関係から,丁がハ号製品の製造販売を開始した2009年10月1日の時点
585 では当業者が容易に想到することができたものになっていたと考えられる。この点に基づいて,
586 「対象製品等の製造等の時点」の意義を明らかにした上で,ロ号製品及びハ号製品について第
587 3要件が充足されるか否かについて論述することが求められる。なお,両者の結論が異なるに
588 せよ同じであるにせよ,その妥当性についても検討することが望まれる。
589 設問3は,特許権が共有に係る場合のその特許発明の実施に関するものである。丁のハ号製
590 品の製造は乙の依頼によるもので,丁はその製造したハ号製品すべてを乙に納入しているとい
591 う事実関係の下で,丁の実施を乙の実施と同視することの可能性,また,甲と乙が甲のみがα
592 発明の実施をすることを合意していた場合と特許法第73条第2項の「契約で別段の定をした
593 場合」との関係の検討を通じて,甲の差止請求の可否について論じることが求められる。
594 〔第2問〕
595 設問1は,αプログラムについてAが有する権利に関して論じた上で,AがBに対して,い
596 かなる権利の侵害に基づいて,どのような請求をすることができるかについて論述させるもの
597 である。Aが有する権利に関しては,職務著作の成否(著作権法第15条第2項)及び著作権
598 法第61条第2項の推定について検討する必要がある。前者については,対象となる著作物が
599 プログラムの著作物であって,著作権法第15条第1項ではなく,同条第2項が適用されるた
600 め,本件契約においてAが開発するプログラムにその著作者名としてBを表示する旨が定めら
601 れていることがAの職務著作の成立にとって問題とならないことに注意しなければならない。
602 後者については,裁判例では,著作権を譲渡する契約においてすべての著作権を譲渡する旨が
603 定められているだけでは,著作権法第61条第2項の「特掲」があったとは解されていないの
604 であり,そのため,本件契約において「Aが開発するプログラムについてのすべての著作権を
605 Bが有」する旨が定められていることから,直ちに同項の推定が否定されることにならないこ
606 とに注意しなければならない。また,Bによって侵害されるAの権利としては,同一性保持権
607 (著作権法第20条)等の著作者人格権,並びに,上記推定が覆滅しない場合に,翻案権(同
608 法第27条)及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法第28条)が問題となろ
609 う。
610 設問2は,βプログラムを組み込んだβ製品を新製品の開発のために使用するFに対して,
611 Aが差止請求をするために行うべき主張について論じさせるものである。Fの行為については,
612 著作権法第113条第2項の適用が問題となり得るのであるから,その要件に関して本問の事
613 実関係に即して的確に記述することが求められる。
614 - 13 -
615
616 設問3は,プログラムの著作物についての貸与権(著作権法第26条の3)の及ぶ範囲を問
617 うものである。工業製品の貸与行為に対して,当該製品に組み込まれたプログラムの著作物に
618 ついての貸与権が常に及ぶとすることは円滑な流通を阻害するおそれがあることを踏まえて,
619 Bが,αプログラムを組み込んだα製品の賃貸業を営むDに対して,αプログラムについての
620 貸与権の侵害を主張することができるかどうかについて論述することが求められる。
621 [労
622
623
624
625 法]
626
627 〔第1問〕
628 設問(1)は,労働契約の成立の場面における基本原則(労働契約法第1条,第3条第1項)
629 についての理解を問うものであり,問題文の事実関係に即して,X1のB社に対する@地位確
630 認請求の可否,A賃金請求の可否,B損害賠償請求の可否を論じさせるものである。@の論点
631 は,X1とB社との間の労働契約関係の成否の問題であり,その成立原因として,(ア)事業
632 譲渡によりX1とA社との間の労働契約関係がB社へ承継されるか否か,(イ)B社による書
633 類選考のみで優先的に採用するとの説明行為とこれに対するX1の応募行為により,X1とB
634 社との間に合意による労働契約が成立するか否かを検討することが求められ,その検討におい
635 ては,(ア)に関しては事業譲渡の法的性質について,(イ)に関しては採用の自由(選択の自
636 由,契約締結の自由)について言及する必要がある。Aの論点は,@の論点の結論と関連して
637 論述することになる論点であり,@の論点の結論と整合した結論(労働契約関係の成立を肯定
638 すれば積極,否定すれば消極)を導く必要がある。Bの論点も,@の論点の結論と関連して論
639 述することになる論点であり,@の論点の結論と整合した結論を導く必要があり,その論述の
640 中では,被侵害利益,損害の内容についての言及が求められる。
641 設問(2)は,整理解雇についての理解を問うものであり,問題文の事実関係に即して,X
642 2のA社に対する@地位確認請求の可否,A賃金請求の可否を論じさせるものである。@の論
643 点は,A社がX2に対して行った解雇の効力の問題であり,問題文の事実関係に照らして,整
644 理解雇の事例であることを押さえた上,当該解雇が整理解雇として有効かどうかにつき整理解
645 雇の4要件(要素)ごとに検討する必要がある。Aの論点は,@の論点の結論と関連して論述
646 することになる論点であり,@の論点の結論と整合した結論(解雇の効力を肯定すれば消極,
647 否定すれば積極)を導く必要がある。
648 〔第2問〕
649 本問は,組合併存下にあって,(1)労働協約の更新により長年継続されてきたチェック・
650 オフを使用者が一方的に中止し,また,(2)脱退組合員の組合費につき脱退後も使用者がチ
651 ェック・オフを継続したという事例を通じて,不当労働行為の成否とその内容,救済機関と求
652 め得る救済手立てについての理解を問うものである。
653 設問1では,まず,X1組合との関係では,労働組合法第7条第2号(団交拒否)や同条第
654 3号(支配介入)の成否が問題となる。救済機関については,(ア)労働委員会(行政救済)
655 と(イ)裁判所(司法救済)が考えられ,救済の手立てについては,(ア)労働委員会に対し
656 ては,X1組合との団交応諾命令やチェック・オフの再開・継続,X2の組合費に対するチェ
657 ック・オフの中止請求等が問題となり,(イ)裁判所に対しては,団交を求める地位の確認,
658 団交拒否あるいは支配介入を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求等が問題となる。次に,
659 X2との関係では,組合脱退後のチェック・オフの継続につき,
660 (ア)労働委員会に対しては,
661 労働組合法第7条第3号違反の救済申立て,(イ)裁判所に対しては,A組合からの脱退後の
662 チェック・オフの継続により控除された組合費相当額の返還請求,法的根拠のないチェック・
663 オフの継続を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が問題となる。
664 設問2では,設問1で取り上げた救済の具体的手立てに関して,まず,(1)X1組合に対
665 - 14 -
666
667 するチェック・オフの一方的中止につき,労働組合法第7条第2号違反との関係では,X1組
668 合の過半数割れや労働協約の期間満了が団交拒否の正当理由となるか,10年間継続されてき
669 たチェック・オフ協定を1回の団交で打ち切ることは相当かなどの論点の検討が求められる。
670 同条第3号との関係では,組合併存下でのX1組合の活動に対する警告文の発出,X1組合委
671 員長に対する戒告処分及びチェック・オフの中止がX1組合に与える財政的打撃や組合の組織
672 運営への影響等をどう評価するかが論点となる。司法救済との関連では,団交応諾仮処分の可
673 否や同条第2号・第3号違反と不法行為の成否をどう考えるかが論点となる。次に,(2)X
674 2のA組合脱退後のチェック・オフの継続につき,脱退に対する許可等を要件としたA組合規
675 約の効力をどう考えるか,チェック・オフの継続により控除された組合費相当額につき,X2
676 はどのような法的根拠に基づいて返還を求めるのか,X1組合もその返還を求め得るかなどの
677 論点の検討が求められる。
678 [環
679
680
681
682 法]
683
684 〔第1問〕
685 設問1は,容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(以下「容器包装リ
686 サイクル法」という。)の仕組みと拡大生産者責任の考え方との関係を問う問題である。
687 設問1の小問(1)では,この「考え方」が拡大生産者責任のことであることを指摘した上
688 で,容器包装リサイクル法が,特定事業者に再商品化の実施義務(同法第11条ないし第13
689 条)を課し,再商品化の費用負担(無償引取りであること)をさせており,これが拡大生産者
690 責任の一例であることを指摘することが必要となる。さらに,平成18年の法改正では,特定
691 事業者が指定法人を通じて一定の資金を市町村に拠出する仕組みが導入された(同法第10条
692 の2)ことにも触れることが期待される。
693 設問1の小問(2)では,拡大生産者責任原則が,「物理的および/または金銭的に,製品
694 に対する生産者の責任を製品のライフサイクルにおける消費後の段階まで拡大させる」環境政
695 策アプローチであり,生産者に,環境適合的な製品を設計させる誘因(インセンティブ)を与
696 えることによって製品のライフサイクル全体でもたらされる環境負荷を最小化することを目的
697 としていることに触れることが望まれる。その上で,循環型社会形成推進基本法第18条第3
698 項は,国が必要な措置を講ずるものとされる場合として,@国,地方公共団体,事業者及び国
699 民の適切な役割分担が必要であること,A設計,原材料の選択,循環資源の収集等の観点から,
700 事業者の役割が重要と認められること,B当該循環資源の処分の技術上の困難性,循環的な利
701 用の可能性を要件として挙げているが,容器包装廃棄物については上記の三つの要件に該当す
702 ることを指摘し,その結果,事業者が引取り等をして循環的利用をすべきものとなっているこ
703 とを論じることが期待される。しかし,容器包装廃棄物の分別収集に関しては,市町村の責任
704 となっているため(容器包装リサイクル法第10条),処理費用全体の中で相当部分を占める
705 分別収集の費用を特定事業者が負担せず,特定事業者に対して,なお環境適合的な製品設計の
706 ためのインセンティブが十分に働かず,Aの事業者の役割が十分果たされていないことを指摘
707 してほしい。
708 なお,拡大生産者責任原則が汚染者負担原則(原因者負担原則)の派生原則であること,容
709 器包装リサイクル法が特定包装事業者について,利用事業者のみで製造事業者を含めていない
710 ことなどは,加点事由となる。
711 設問2は,容器包装リサイクル法に基づく主務大臣の措置とそれを争う方法についての理解
712 を問う問題である。
713 設問2の小問(1)では,主務大臣の措置として,指導及び助言(容器包装リサイクル法第
714 19条),勧告及び命令(同法第20条),命令違反に対する罰金刑(同法第46条)に係る告発
715 (刑事訴訟法第239条)を挙げることが期待される。
716 - 15 -
717
718 設問2の小問(2)では,@公法上の当事者訴訟としての再商品化義務不存在確認訴訟が提
719 起できること,A主務大臣の勧告・公表に関して,これを処分ととらえてその差止訴訟,取消
720 訴訟が提起できること,B主務大臣の命令に対して,差止訴訟,取消訴訟が提起できることを
721 指摘することが期待される。
722 〔第2問〕
723 設問1は,大気汚染を原因とする損害賠償請求訴訟に関する理解を問う問題である。法律上
724 の問題点として,@C社の工場については民法のほか,大気汚染防止法の無過失責任規定(同
725 法第25条)の適用が問題となることについて指摘し,AD社の高速道路についての民法第7
726 17条の瑕疵とC社の工場についての同法第709条の過失が問題となること,瑕疵と過失行
727 為とによる損害の惹起の場合の共同不法行為規定(同法第719条)の適用の可否を論じた上
728 で,例えば,両者に「弱い関連共同性」しかないとすれば同条第1項後段を類推適用すること
729 など,下級審裁判例ないし学説を踏まえた記述をし,B大気汚染と健康被害の因果関係の問題
730 については疫学的因果関係について言及するほか,非特異性疾患の事案における集団的因果関
731 係と個別的因果関係の関連及び相対的危険度の問題を取り上げることの可否について論ずるこ
732 とが期待される。また,C違法性については受忍限度論の採用の可否,被害の考慮,公共性の
733 考慮の可否,環境基準と受忍限度との関係などについて論ずることが望まれる。
734 設問2は,環境基準の法的性格に関する理解を問う問題である。この論点に関しては,二酸
735 化窒素大気環境基準改定告示取消訴訟控訴審判決(東京高判昭和62年12月24日行集38
736 巻12号1807頁)が出されており,この判決を踏まえて,両当事者の主張と反論を構成す
737 ることが期待されている。同訴訟の争点は,改定告示の処分性である。環境基準につき「維持
738 されることが望ましい基準」と規定する環境基本法第16条第1項をめぐる議論が期待されて
739 いる。
740 [国際関係法(公法系)]
741 〔第1問〕
742 本問は,国家の成立や国家承認とそれに関連する武力行使の位置付けを問う問題である。
743 設問1においては,「セント国」が従来属していたX国政府の反対を押し切って一方的に独
744 立を宣言した後,Y国が独立に対して祝意を表明し,かつ,外交使節団を交換したことが,国
745 際法上「国家承認」に当たることに気付き,その法的評価を行うことを求めている。国家承認
746 は各国の裁量行為であるが,新国家が実効的支配を確立する前に承認を行えば「尚早の承認」
747 として国際法に反する。2002年の独立宣言と同時に国家承認を行うことが「尚早の承認」
748 に当たるかどうかを,2002年時点の「セント国」の状況を踏まえて論じれば,結論は「尚
749 早の承認」に当たるでも当たらないでもよい。
750 設問2は,設問1が国家承認というY国の行為の評価を問題にしているのに対して,200
751 4年段階における「セント国」の国家性の是非を論ずる問題である。「セント国」の国家性を
752 判定するためには,まずは「セント国」が国家の要件(領域,永久的住民,政府。外交能力を
753 これらに加える場合もある)を備えていること,そして国家承認がどのような意味を持つかを
754 検討することが必要である。国家承認については,従来から国家承認がなくても国家が成立す
755 ると理解する「創設的効果説」と国家承認と国家の成立は無関係だと説く「宣言的効果説」が
756 対立してきた。そこで創設的効果説,宣言的効果説のいずれが妥当かを検討する必要が出てく
757 る。法実証主義を貫いて創設的効果説を採っても,また現状の重要性から宣言的効果説を採っ
758 ても,理由が明確に示されていればよい。その上で,以上によって確定したフレームワークに
759 従って,一定地域を実効的に支配し,既に50か国が承認を与えている,当時「セント国」の
760 状況を評価することが最後の課題である。
761 - 16 -
762
763 設問3においては,「セント国」を承認していないZ国が,依然として「セント国」と武力
764 衝突を繰り返すX国に軍事支援することの評価が問われている。国家承認について宣言的効果
765 説の立場に立って,「セント国」が既に誕生していることを前提にすれば,Z国のX国に対す
766 る軍事支援は,X国とZ国の武力紛争においてX国側に立った武力行使に当たる。したがって,
767 これが集団的自衛権行使等何らかの正当化事由を備えているかどうかの検討を期待している。
768 他方,国家承認について創設的効果説の立場に立ち,Z国の「セント国」未承認ゆえに,Z
769 国との関係では「セント国」が未成立だと考えれば,国内の騒じょう状態に対して正統政府か
770 らの軍事支援の要請にこたえたという評価ができる。ただし,騒じょう状態になっても数年に
771 及ぶ実効支配が事実上成立している場合には軍事支援自体がX国の内政干渉に当たるおそれが
772 ある。
773 〔第2問〕
774 設問1においては,国際法は,領域主権の絶対性が主張された時期を経て,領域使用の管理
775 責任原則や,国際環境損害防止原則を発展させてきたのであり,越境環境損害を生ずるような
776 領域使用は,領域主権の絶対性により正当化することはできないことを明確に論証することが
777 求められている。
778 第一に,国家は領域に対して領域主権を持つが,それに伴う義務も負う。例えば,在留外国
779 人に,国際法に従って適当な処遇を与える義務がある。設問のような事例では,一方で,領域
780 を使用する国の領域主権と,その使用により影響を受ける国の領域主権ないしは領土保全の権
781 利が対立する。相互に対等な二国の権利を調整する必要があり,それゆえに,領域使用の管理
782 責任原則が確立してきたことを理解していることが求められる。設問と同様の事実状況であっ
783 たトレイル熔鉱所事件の仲裁判決が,この原則を宣言した代表的な例である。
784 第二に,設問の事例は,越境環境損害に関するものであり,国際環境法の発展についての理
785 解が求められている。領域使用の管理責任原則は,国際環境法の分野では,他国や国際公域の
786 環境に損害を与えないように確保する原則として,ストックホルム人間環境宣言第21原則や
787 環境と開発に関するリオ宣言第2原則のいうように,国際環境損害防止原則へと展開している。
788 これは,幾つかの国際環境保護条約にも挿入されており,慣習国際法上の原則として成立して
789 いるとも評価されている。
790 設問2においては,第一に,外交保護権は国家の権利であり,これを行使するか否かは国家
791 の裁量判断にゆだねられていることを問うている。国家は,国際法上で外交保護権を行使する
792 ことを義務付けられることはない。個人は,国家に外交保護権の行使を請求する権利を持たな
793 い。
794 第二に,国際法による個人の人権保護が進展してきていることから,外交保護権が国家の権
795 利であるとする従来の考え方には疑問が提起されてきていることにも触れると,答案が一層充
796 実した質のものとなる。
797 設問3の小問(1)は,外交保護権の行使の要件としての国籍について問うている。外交保
798 護権の要件となる国籍については,ノッテボーム事件で宣言されたように,個人と国家との間
799 に真正な結合があることが必要であるとされている。本件の乙について,B国と真正な結合が
800 あるかにつき,設問の事実を当てはめて論証することが求められる。
801 小問(2)は,国籍の国際法平面での効果と,国内法平面での効果とでは区別されることを
802 問うている。国内法平面では,国籍付与要件は,国内管轄事項であり,主権国家が国内法によ
803 り自由に決定できる。国際法平面では,国籍を根拠として外交保護権を行使するためには,真
804 正な結合といった基準を満たした国籍でなければならない。国際法平面で外交保護権の要件と
805 はいえない国籍であっても,国内法平面での効力には当然には影響しない。
806
807 - 17 -
808
809 [国際関係法(私法系)]
810 〔第1問〕
811 本問は,未成年者を被後見人とする後見人の選任につき国際裁判管轄の基準を問うと同時に,
812 後見人の選任から終了までに起こり得べき諸問題に適用される準拠法の決定とその適用を問う
813 問題である。
814 設問1の小問(1)は,未成年者を被後見人とする後見人選任の国際裁判管轄の基準を問う
815 問題である。後見人選任の国際裁判管轄を定める明文の規定はないこと,また,依拠すべき判
816 例法も確立されていないことを指摘した後に,被後見人の保護という観点から管轄原因を論じ,
817 当該管轄原因を設問の事案に当てはめることが求められている。
818 設問1の小問(2)は,後見人選任に適用される準拠法を問う問題である。法の適用に関す
819 る通則法(以下「通則法」という。)第4条第1項の指定する準拠法(日本法)の下で事件本
820 人が未成年者であること及び通則法第32条の指定する準拠法(日本法)の下で事件本人に親
821 権者がいないことを確認し,後見人選任に適用される準拠法を通則法第35条の指定する日本
822 法として特定することが望まれる。なお,事件本人の本国法の決定については通則法第38条
823 第1項ただし書の規定が適用されなければならない。
824 設問2の小問(1)は,通則法第31条第1項後段のいわゆるセーフガード条項の趣旨の理
825 解を問う問題である。同項前段の規定が指定する法と後段の規定が指定する法の丁寧な当ては
826 めも求められている。
827 設問2の小問(2)は,養子縁組の成立により後見が終了するまでの準拠法の決定と適用を
828 問うものである。養子と養親との間の法律関係は通則法第32条によることを指摘しなければ
829 ならない。そして,同条の指定する子の常居所地法たる日本法の下で養親が親権者であること
830 を確認した後に,後見が終了するか否かは通則法第35条の問題であり,当該規定の指定する
831 日本法により後見が終了することに言及しなければならない。
832 〔第2問〕
833 本問は,国際的な売買の事案を基に,関係する問題の準拠法の決定方法を問う問題である。
834 設問1の小問(1)は,「国際物品売買契約に関する国連条約」(以下「条約」という。)の
835 適用の可否を問う問題である。条約第1条(1)の「売買」及び「営業所」を,それぞれ,条
836 約第3条第1項及び第10条と関連付けながら論述するとともに,条約第1条(1)(a)に
837 従い,本件に条約が適用されることに言及しなければならない。最終的に条約の適用を排除す
838 るという結論をとるにせよ,条約第1条(1)に基づき,本件が条約の適用範囲に入っている
839 ことについて論述しなければならない。
840 設問1の小問(2)は,契約準拠法の変更を認める通則法第9条の趣旨の理解とその適用を
841 問う問題である。取り分け,契約につき事後の法選択を許容する当該規定の趣旨に言及するこ
842 とが求められている。
843 設問2の小問(1)は,生産物責任に関する通則法第18条の解釈と適用を問う問題である。
844 一般的不法行為に関する通則法第17条ではなく通則法第18条が適用されること,「引渡し
845 を受けた地」という連結基準が採用された趣旨とその意味に言及しなければならない。
846 設問2の小問(2)は,通則法第21条の理解とその適用を問う問題である。不法行為につ
847 いて準拠法の選択が許容される理由,選択の要件,取り分け選択の時点に言及しなければなら
848 ない。
849
850 - 18 -
851
852