1 平成22年新司法試験論文式試験問題出題趣旨
2 【公法系科目】
3 〔第1問〕
4 今年度の論文式問題のテーマは,
5 貧困と権利の現実的保障である。
6
7 本問で権利の現実的保障
8 を検討する際に,
9 事案としてかぎを握るのは住所である。
10
11
12 一つは,
13 言わば構造的問題も一因となって,
14 自助努力を尽くしても「健康で文化的な最低限
15 度の生活」を維持することが困難な状況に陥っている人々の生存権保障の問題である。
16
17 具体的
18 には,
19 生活保護法が「住所」ではなく,
20 「居住地」「現在地」を有する者を保護の対象としてい
21 るにもかかわらず,
22 生活の本拠を有しない者からの生活保護申請を拒否した処分をめぐる憲法
23 上の問題である。
24
25 ここで問われているのは,
26 立法裁量論の問題ではない。
27
28 また,
29 ここで問われ
30 ているのは,
31 「文化的」に「最低限度」であるか否かではなく,
32 言わば「生存」そのものにか
33 かわる問題である。
34
35 なお,
36 自治体による別異の取扱いに関しては,
37 それを合憲とした先例(最
38 大判昭和33年10月15日)があるが,
39 その先例と本問の事案とは異なることを踏まえて検
40 討する必要がある。
41
42
43 もう一つは,
44 選挙権(投票権)に関する問題である。
45
46 公職選挙法第9条第1項が定める選挙
47 権の積極的要件を満たし,
48 かつ,
49 同法第11条第 1 項が定める選挙権の消極的要件に当たらな
50 くても,
51 選挙人名簿の登録が住民基本台帳に記録されている者について行われる(同法第21
52 条第 1 項)ので,
53 住所を失うと選挙権を行使する機会を奪われることになる。
54
55 ここでは,
56 選挙
57 権(投票権)の意義をどのように考えるのかが問われる。
58
59
60 選挙権を行使できないということは,
61 選挙権が事実上保障されていないことを意味する。
62
63
64 「国
65 民の選挙権又はその行使を制限するためには,
66 そのような制限をすることがやむを得ないと認
67 められる事由がなければなら」ず,
68 「やむを得ない事由があるといえ」るためには,
69 「そのよう
70 な制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能な
71 いし著しく困難であると認められる場合」であることが必要である(最大判平成17年9月1
72 4日)。
73
74
75 公職選挙法が上記のような取扱いをしていて,
76 住所を有しない者が投票する仕組みを設けて
77 いないことについての「やむを得ない事由」の有無を,
78 事案の内容に即して個別的・具体的に
79 検討することが求められる。
80
81 また,
82 選挙権を行使できなかったことに基づく国家賠償請求につ
83 いても,
84 上記判決が示す要件を踏まえつつ,
85 事案に即した具体的検討をすることが求められる。
86
87
88 本問では,
89 原告側,
90 被告側,
91 そして「あなた自身」と,
92 三つの立場での見解を展開すること
93 が求められる。
94
95 その際,
96 三つの立場を答案構成上の都合から余りに戦略的に展開することは,
97
98 適切ではない。
99
100 三つの立場それぞれが,
101 判例の動向及び主要な学説を正確に理解していること
102 を前提としている。
103
104 その上で,
105 判断枠組みに関する検討,
106 そして事案の内容に即した個別的・
107 具体的検討を行うことが求められる。
108
109
110 設問1では,
111 原告側は一定の筋の通った主張を,
112 十分に行う必要がある。
113
114
115 設問2では,
116 「被告側の反論を想定しつつ」検討することが求められている。
117
118 「想定」される
119 反論を書くパートでは,
120 反論の憲法上のポイントだけを挙げればよい。
121
122 そこでは,
123 反論の内容
124 を詳細に書く必要はない。
125
126 反論の詳細な内容は,
127
128 「あなた自身の見解」のパートで書けばよい。
129
130
131 そこでは,
132 原告・被告双方の主張内容を十分に検討した上で,
133 「あなた自身」の結論及びその
134 理由を書くことが求められる。
135
136
137 いずれにしても,
138 問われるのは理由の説得力である。
139
140
141 〔第2問〕
142
143 -1-
144
145 本問は,
146 A村の村長Eが行った村有土地の安値売却に対して,
147 村民Bらが提起することが予
148 想される訴訟について,
149 A村の顧問弁護士の立場から論じさせるものである。
150
151 問題文と資料か
152 ら基本的な事実関係を把握し,
153 地方自治法や同法施行令の趣旨を読み解いた上で,
154 住民訴訟の
155 訴訟要件等を検討するとともに,
156 本案における違法事由,
157 つまり本件土地売買契約の適法性を
158 論じる力を試すものである。
159
160 住民訴訟及び財務会計法規にかかわる細かい知識を問う趣旨では
161 なく,
162 住民訴訟による住民参政及び財政統制,
163 行政契約の公正性及び透明性,
164 地方公共団体の
165 財務の経済性,
166 地方議会の議決の民主性といった基本的な考え方を,
167 条文や与えられた判決か
168 ら読み取り,
169 事案に即した具体的な解釈論として展開する力を試すものである。
170
171
172 設問1は,
173 住民訴訟の基本的な利用条件について,
174 具体的に検討させる趣旨の問題である。
175
176
177 住民訴訟,
178 特に,
179 いわゆる4号請求に関して,
180 基本的な理解を確認するものである。
181
182 住民訴訟
183 の利用条件のうち,
184 例えば,
185 監査請求前置という要件に関しては,
186 住民監査請求を行っていな
187 い村民Dが本件で住民訴訟の原告になることができるのかを検討する必要がある。
188
189 また,
190 住民
191 訴訟は当該地方公共団体における住民による提起が要求されるが,
192 この点で,
193 他の市に転出し
194 たCによる住民訴訟の提起について,
195 具体的に論じなければならない。
196
197 さらに,
198 村民Bがこれ
199 から住民訴訟を提起する場合に遵守すべき出訴期間についても,
200 言及することが求められる。
201
202
203 このほかにも,
204 4号請求として,
205 違法な契約の締結によって村に損害を与えた村長Eに対して
206 損害賠償請求を行うよう,
207 A村の執行機関に求める訴訟が考えられる点も,
208 説明することが求
209 められている。
210
211 このように,
212 本問においては,
213 具体的な事案に即して住民訴訟を利用すること
214 ができるのか,
215 基礎的な理解を確認することに主眼を置いている。
216
217 住民訴訟にかかわる細かな
218 解釈を要求する趣旨では決してなく,
219 現在数多く提起されている住民訴訟制度の基本について,
220
221 理解を問うものである。
222
223
224 設問2は,
225 本件土地売買契約の適法性を地方自治法や同法施行令に則して検討させるもので
226 ある。
227
228 まず,
229 同法第96条第1項第6号等の解釈として,
230 議会の議決が存在しない本件におい
231 て,
232 「適正な対価」が認められるのかを論じなければならない。
233
234 さらに,
235 同法第234条等の
236 解釈を通じて,
237 本件事案における随意契約の許容性を「条文の解釈を踏まえて」詳細に検討す
238 ることが求められる。
239
240 随意契約を用いたことの適法性について検討する際には,
241 地方自治法上,
242
243 競争入札が要求されている趣旨に言及することや,
244 随意契約が例外とされる趣旨を前提として
245 解釈を行うことが求められる。
246
247 本問では,
248 Bらによる契約の違法性の主張に加えて,
249 村の立場
250 に立った反論など,
251 双方の立場から,
252 契約の適法性を具体的に検討することが必要である。
253
254
255 えば,
256 本件土地売買契約を適法と解釈するのに適した事由として,
257 過疎対策,
258 人口確保対策,
259
260 税収対策としての本件土地売買の必要性,
261 前年度の売却失敗という経緯,
262 簡単に売却ができな
263 い(過疎に悩む)A村の特殊事情,
264 適正な対価の存在などに具体的に言及して,
265 法的評価を行
266 うことが考えられる。
267
268 他方,
269 本件土地売買契約を違法とする可能性のある事由としては,
270 同法
271 施行令第167条の2第1項第2号等の解釈を通じた,
272 本件事案における随意契約の法的評価,
273
274 村の幹部関係者や担当部局職員の家族が購入している点での公正性の問題,
275 A村の村民が購入
276 している点での過疎対策としての有用性に係る法的評価,
277 下限の価格を定めていない点(つま
278 り,
279 基準設定をしていない点)での透明性の問題,
280 一部対価免除,
281 対価の適正に関する解釈な
282 どについて,
283 具体的に検討することが求められる。
284
285
286 設問3は,
287 関連する判決の読解能力を問うものである。
288
289 本問では,
290 住民訴訟でBらが第一審
291 で勝訴した場合であっても,
292 議会関係者はその後の段階で,
293 村長Eに対する請求権放棄の議決
294 を行うことを検討していることから,
295 A村の顧問弁護士として,
296 議決の適法性に関して評価を
297 行うことが求められている。
298
299 特に,
300 この問題に関連する裁判例を比較し,
301 分析する能力が試さ
302 れている。
303
304 換言すれば,
305 二つの判決を読み比べて,
306 その背景にある考え方を読み取り,
307 説明で
308 きるかを問うものである。
309
310 一方では,
311 議会議決に限定を付していない地方自治法の規定(例え
312 ば,
313 同法第96条第1項第10号)や,
314 議会議決を尊重するという民主主義の視点に着目して,
315
316 -2-
317
318 議会が請求権の放棄を議決できると説く立場が考えられる。
319
320 他方で,
321 こうした議会議決の裁量
322 判断にも限界が存在する点,
323 請求権放棄の議決は総合的な判断に基づいてなされるべき点を重
324 視する見解も考えられる。
325
326 例えば,
327 住民訴訟制度の趣旨,
328 第一審の判決が下されている事情,
329
330 請求権の放棄が地方公共団体の財政に与える影響,
331 相手方の事情などから,
332 議会による請求権
333 放棄を議決権の濫用ととらえる見解も成立し得る。
334
335 こうした考え方の対立点を踏まえた上で,
336
337 本件事案に即した解答者の判断を問うものである。
338
339 議会議決の適法性に関する解釈は,
340 詳細な
341 理由付けとともに行われる必要がある。
342
343
344 なお,
345 三つの設問のうち,
346 設問1は住民訴訟に関する基本的理解を問う趣旨であるのに対し,
347
348 設問2及び設問3は複数の法令や裁判例を素材にして解答すべき内容を多く含むことから,
349
350 問2及び設問3の配点割合が高いものとなっている。
351
352 こうした出題の趣旨を十分に理解して受
353 験者が実力を発揮できるよう配慮して,
354 本年は各設問の配点割合を明示することとした。
355
356
357 【民事系科目】
358 〔第1問〕
359 設問1は,
360 株式会社成立時における現物出資財産の価額が当該現物出資財産について定款に
361 記載された価額に著しく不足する場合における,
362 発起人及び設立時取締役の責任について,
363
364 社法上の基本的な理解を問うものである。
365
366 発起人及び設立時取締役につき,
367 不足額のてん補責
368 任(会社法第52条第1項)の要件の該当性のほか,
369 その免責事由(同条第2項)についての
370 適用除外の有無及び免責事由の当てはめ,
371 更に会社法第53条第1項に基づく任務懈怠による
372 損害賠償責任の有無につき,
373 事実関係を踏まえた記述をすることが求められる。
374
375
376 設問2は,
377 株式会社の成立後における募集株式の発行に際し,
378 その一部が仮装払込み(いわ
379 ゆる見せ金)による場合に,
380 @その払込みの効力と発行された株式の効力,
381 A見せ金による払
382 込みにかかわった取締役その他の取締役や見せ金による払込みを行った募集株式の引受人の会
383 社に対する責任及びB当該取締役の第三者に対する責任について,
384 会社法上の基本的な理解を
385 問うものである。
386
387
388 見せ金の効力及びこれにより発行された株式の効力に関する判例や学説の状況を十分に理解
389 した上で,
390 事実関係を踏まえ,
391 @〜Bの各問に解答することが求められる。
392
393
394 @においては,
395 見せ金による払込みの効力と発行された株式の効力を分けて論述することが
396 求められる。
397
398 前者では,
399 判例の立場を踏まえ,
400 見せ金の意義,
401 見せ金と認定するための要件と
402 その当てはめ,
403 払込みの効力の論拠を検討することが必要である。
404
405 後者では,
406 判例の立場を踏
407 まえ,
408 発行された株式の効力の論拠を検討する必要があり,
409 払込無効説を採る場合には,
410 取引
411 の安全への配慮のほか,
412 無効となった払込みの実質的なてん補手段の有無や10パーセントの
413 資金が会社に残っていることの評価について検討することが期待され,
414 さらに,
415 株式の効力を
416 否定する場合には新株発行の無効と不存在の別,
417 払込無効説に立ちながら株式の効力を認める
418 説(株式有効説)を採る場合には株式の所有者等が問題となり得る。
419
420 そのほか,
421 払込有効説を
422 採る場合には,
423 取締役が払込みに係る資金を引き出して引受人に対し交付した行為の評価につ
424 いて検討することが期待される。
425
426
427 A及びBについては,
428 @において採用した結論(払込み及び株式の無効(不存在)説,
429 払込
430 無効・株式有効説,
431 払込み及び株式の有効説)と整合した記述をすることが求められる。
432
433 この
434 記述においては,
435 特に全体的な論理的構成力が試されている。
436
437
438 Aにおいては,
439 いずれの説に立つ場合であっても,
440 これに整合して,
441 会社法第423条第1
442 項の任務懈怠の内容及び損害の内容等について記述することや,
443 取締役Bについては,
444 監督(監
445 視)義務違反の根拠及びその内容を記述することが求められる。
446
447 募集株式の引受人丙社につい
448 ては,
449 会社法第208条第5項による失権の有無を踏まえ,
450 同法第212条第1項第1号の類
451 推適用の可否等会社法上の責任について検討することが期待される。
452
453
454 -3-
455
456 Bにおいては,
457 取締役A及びBの両名について本件募集株式発行に関し,
458 会社法第429条
459 第1項の「職務」の内容を具体的に記述することのほか,
460 同条第1項と第2項の責任の関係,
461
462 同条第2項での責任主体となる「取締役」の意義を記述することが求められる。
463
464 特に,
465 取締役
466 Aの同項第1号ロ及びハの各責任の有無については,
467 @において採用した結論との整合性に配
468 慮しつつ,
469 資料@Aの虚偽のある項目及び内容を分析することが期待される。
470
471
472 〔第2問〕
473 民事系科目(第2問)は,
474 工場を個人で営むAとその家族らの取引と民事訴訟をめぐる事例
475 に関して,
476 民法上及び民事訴訟法上の問題点についての基礎的な理解を問う総合問題である。
477
478
479 具体的事実を法的な観点から評価し構成する能力,
480 具体的な事実関係に即して基本問題を考察
481 する能力及び論理的に一貫した論述をする能力などを試すものである。
482
483
484 設問1は,
485 第1に,
486 Fが第1訴訟において選択的にする二つの主張の法的構成が,
487 有権代理
488 構成と権限外の行為の表見代理構成(民法第110条)であることを理解した上で,
489 二つの法
490 的構成を区別することができるかどうか,
491 第2に,
492 各法的構成において,
493 事実@及び事実Aの
494 性質を的確に把握することができるかどうかを問うものである。
495
496 まず,
497 有権代理構成において,
498
499 事実@はAがCに代理権を授与したことを推認させる間接事実である意義を有すると考えら
500 れ,
501 これに対し,
502 事実Aは特段の意義を有しない。
503
504 次に,
505 権限外の行為の表見代理構成におい
506 ては,
507 事実@は2000万円の融資についてCに代理権があるものと信ずる正当な理由がある
508 とする評価を根拠付ける事実である意義を有し,
509 それとともに,
510 事実@はAがCに1500万
511 円の限度における代理権を授与したことを推認させる間接事実である意義を有するとも考えら
512 れる。
513
514 また,
515 事実AはCに2000万円の借入れの権限があるかどうかをFが調査しようと試
516 みたことを意味するものであるから,
517 他の事情とあいまって,
518 正当理由を根拠付ける一つの事
519 実である意義を有するものとも考えられる。
520
521 反対に,
522 事実Aのうち携帯電話がつながらないこ
523 とは,
524 Cの不審な挙動を示唆するものとみることができないものではないから,
525 それにもかか
526 わらずA本人との接触に成功しないまま融資を敢行したこととあいまって,
527 正当理由の評価障
528 害事実になるとする性質把握も一定の説得力を持つ。
529
530 そこで,
531 適切な理由が付されて解答され
532 ているかが問われることになる。
533
534
535 設問2は,
536 抵当不動産の第三取得者が抵当目的物件を故意に滅失させた事案について,
537 抵当
538 権侵害による不法行為に基づく損害賠償の成否を問うものである。
539
540
541 小問(1)の考察においては,
542 Eによる丙建物の取壊し後におけるFの被担保債権額と甲乙
543 土地の価額との関係を考慮しつつ,
544 抵当権侵害における損害の発生について,
545 抵当権の担保権
546 的性質の基本的理解との関連を意識しつつ論ずることが望まれる。
547
548 ここでは,
549
550 【事実】及び〔設
551 問〕のいずれにおいても,
552 甲乙土地及び丙建物の価額は示されていないので,
553 解答は抽象的な
554 理論操作に基づく記述で足りる。
555
556 加えて,
557 抵当権侵害における損害はどの時点で確定すること
558 ができるかについて論ずることが望まれる。
559
560 この点については,
561 【事実】に基づくと,
562 Eによ
563 る丙建物の取壊しは平成19年8月19日であり,
564 Fに対するAの債務の第1回弁済期は平成
565 20年3月15日であるため,
566 Eの行為が抵当権の被担保債権の弁済期前であることをどのよ
567 うに評価するかが問われることになる。
568
569
570 小問(2)の考察では,
571 民法第177条の第三者からはどのようなものが排除されるべきか,
572
573 その上で,
574 【事実】に示された法律上有意な事実を過不足なく指摘しながら,
575 EがFとの関係
576 で,
577 民法第177条の第三者から排除すべき者に当たるかを論ずることが求められる。
578
579 加えて
580 その前提として,
581 不動産物権変動の第三者対抗の問題が,
582 不法行為の成立要件との関係でどの
583 ように位置付けられるかを論ずることが求められる。
584
585 すなわち,
586 不法行為の成立要件との関係
587 において,
588 抵当権者Fのために抵当権の設定の登記が行われていないことをどのように評価す
589 るか,
590 また,
591 丙建物の所有者Eによる取壊しが抵当権を侵害する行為に該当するか否かについ
592 -4-
593
594 ての考察が必要となる。
595
596
597 設問3は,
598 訴状に被告として記載されていた人物Eとは異なる人物Gが,
599 被告本人として訴
600 訟(第2訴訟)の手続に関与していたという事例について,
601 Gが行った行為の効力がEに及ぶ
602 かを論じさせるものである。
603
604
605 ここでは,
606 Gの行為の効力が問われているから,
607 そもそもGの行為は,
608 訴訟法上どのような
609 ものとして位置付け評価され得るのかという点について,
610 いわゆる当事者確定の基準論の理解
611 を前提に,
612 自説の考え方(ないし問題となる点)を明らかにしつつ,
613 論理を展開することが求
614 められる。
615
616 特に,
617 設問3の事例では,
618 Gは被告Eとして行為しており,
619 その行為が外形的には
620 訴訟代理の形式をとっていないことをどのように評価するのか,
621 仮に,
622 Gの行為を,
623 Eを本人
624 とする訴訟代理行為(ないしその類似行為)ととらえようとするのであれば,
625 その効力を,
626
627 護士代理の原則ないしその趣旨との関係でどのように考えるべきかなどといったことが問題と
628 なろう。
629
630 そして,
631 その検討過程においては,
632 既にEになりすましているGの行為を前提として
633 複数回の期日が重ねられてしまっていることへの配慮の要否という実質的な問題もある。
634
635
636 設問4は,
637 抵当権設定登記抹消請求訴訟(第3訴訟)を題材として,
638 被担保債権に係る債務
639 の不存在確認請求について審理・判断された前訴(第1訴訟)確定判決の既判力がどのように
640 作用するかという問題点及び質的一部認容判決である条件付給付判決をすることができるかど
641 うかという問題点について,
642 考えさせる問題である。
643
644
645 前訴における請求は,
646 いわゆる自認部分がある債務不存在確認請求であったが,
647 最高裁の判
648 例は,
649 自認部分は訴訟物とならず,
650 自認部分の存否は既判力によって確定されないとの立場を
651 採用している。
652
653 小問(1)は,
654 第3訴訟の被告Fの訴訟代理人弁護士Qが提示した最高裁判例
655 とは異なる内容の法律構成@と法律構成Aのそれぞれについて,
656 被告側の法律主張(つまり,
657
658 党派的な主張)としての適否を検討することを求めている。
659
660 そこでは,
661 最高裁判例の立場を確
662 認した上で,
663 法律構成@については,
664 量的に可分な給付請求権に関する一部請求後の残部請求
665 をめぐる議論状況との対比の下に,
666 全部認容判決である前訴確定判決が自認部分についても判
667 断を下しているといえるかどうかを検討することが求められ,
668 法律構成Aについては,
669 請求の
670 放棄構成の技巧性について検討するほか,
671 請求の放棄について既判力が認められるかどうかを,
672
673 そこで問題となる既判力の概念と絡めながら検討する(その際,
674 調書の作成がないことや既判
675 力の基準時についても検討する)ことが求められている。
676
677
678 小問(2)では,
679 条件付給付判決ができるかどうかを論ずるに際して,
680 少なくとも以下の三
681 つの論点を検討することが必要である。
682
683 まず,
684 @原告Aが無条件の給付判決を求めているのに
685 対し,
686 質的一部認容判決である条件付給付判決をすることが,
687 民事訴訟法第246条との関係
688 で許容されるかどうかを検討すべきである。
689
690 その際,
691 A現在の給付を命じることを内容とする
692 引換給付判決とは異なり,
693 条件付給付判決が将来の給付を命ずる判決であることとの関係で,
694
695 同法第135条の要件を検討し,
696 また,
697 B条件付給付判決と全部棄却判決のそれぞれの既判力
698 の客観的範囲(裁判所が認定した残債務額が既判力の対象になるかどうかという問題点を含
699 む。
700
701 )を比較検討することも求められる。
702
703
704 設問5は,
705 次のような三つの法律問題についての考察を順に求めるものである。
706
707 第1に,
708
709 知者が認知の意思を表示し認知届を作成して使者に届出を委託した後に死亡し,
710 この間に認知
711 届が提出されていない場合,
712 認知の効力は生じるかを問うものである。
713
714 認知届の提出が身分変
715 動の効果が発生するための要件であるため,
716 父の認知の意思が確認できたとしても,
717 認知届が
718 提出されていない以上,
719 認知の効力は発生しない。
720
721 第2に,
722 自筆証書遺言の解釈として,
723 遺言
724 者の子ではない者に遺言者の遺産の3分の1を分けるということが何を意味するか,
725 その場合
726 に遺言者の相続人の法的地位はどのようなものかを問うものである。
727
728 平成20年4月6日付の
729 Aの遺言に記載されている内容は,
730 Eに対しては割合的包括遺贈であり,
731 唯一の相続人である
732 Cに対しては遺産の残余部分が相続により帰属することの確認となる。
733
734 第3に,
735 割合的包括遺
736 -5-
737
738 贈が行われた場合,
739 受遺者は相続人として扱われ被相続人の債務も承継するところ,
740 被相続人
741 が負っていた金銭債務は相続人と受遺者にどのように承継されるかを問うものである。
742
743 割合的
744 包括遺贈における金銭債務の承継については,
745 金銭債務について共同相続が生じた場合の規律
746 を参照しつつ,
747 金銭債務の債権者はだれに対してどのように履行請求をすることができるのか
748 について考察することが望まれる。
749
750
751 【刑事系科目】
752 〔第1問〕
753 本問は,
754 A病院の入院患者Vが薬の誤投与に起因して死亡したという具体的事例について,
755
756 Vを看護していた妻の甲,
757 担当していた看護師乙及び薬剤師丙の罪責を問うことにより,
758 刑事
759 実体法及びその解釈論の理解,
760 具体的事案に法規範を適用する能力及び論理的思考力を試すも
761 のである。
762
763
764 第 1 に,
765 甲の罪責については,
766 甲がVの異状を認識しながら,
767 看護師乙ら病院関係者に連絡
768 することなく放置し,
769 結局Vを死亡させたことについて,
770 いかなる刑法上の罪が成立するかが
771 問題となる。
772
773
774 まず,
775 甲が乙による巡回を妨害するなどの積極的な行為に及んでいるので,
776 甲の行為を不作
777 為,
778 作為のいずれととらえるのかが問題となる。
779
780
781 不作為とする場合は,
782 不作為による殺人罪又は保護責任者遺棄致死罪の成否が問題となる。
783
784
785 両罪を区別する基準として,
786 殺意の有無によるとする考え方,
787 作為義務の程度によるとする考
788 え方などがあるが,
789 いずれの立場に立ったとしても,
790 後述する殺意の有無など関連する事実を
791 認定しつつ,
792 事案への当てはめを行うことが求められる。
793
794
795 次に,
796 不作為による殺人罪又は保護責任者遺棄致死罪の成否を検討する場合には,
797 作為義務
798 ないし保証人的地位の発生根拠(基礎付け事情)に関する考え方を示すことが必要となるとこ
799 ろ,
800 作為義務の発生根拠については,
801 多元的に理解するのが一般であり,
802 法令,
803 契約及び条理
804 のほか,
805 先行行為,
806 事実上の引受け,
807 排他的支配領域性に求めるなどの様々な考え方があり,
808
809 それらを踏まえて自らの見解を明らかにすることになる。
810
811
812 甲に対する作為義務の有無の検討においては,
813 単に甲がVと夫婦関係にあり,
814 民法上の扶助
815 義務を負うことだけで足りるとするのではなく,
816 甲が午後2時に乙の巡回(容体確認)を妨害
817 したことなど,
818 具体的事情を丁寧に拾いつつ,
819 その事情が作為義務の発生根拠との関係でどの
820 ような意味を持つのか明らかにする必要がある。
821
822 また,
823 VがA病院に入院中の患者であり,
824
825 に対する看護義務は第一次的には乙ら病院側にあることを踏まえ,
826 どのような事情があれば甲
827 に作為義務が認められるかを論ずることが肝要である。
828
829
830 甲に作為義務が認められるとしても,
831 その作為義務の内容,
832 作為可能性・容易性についても
833 検討する必要があるほか,
834 甲の不作為とVの死亡という結果との間の因果関係について,
835 不作
836 為犯の特殊性を踏まえつつ,
837 事例に即して論ずることになる。
838
839
840 さらに,
841 甲に対して不作為による殺人罪の成立を肯定するためには,
842 殺意(故意)の検討が必
843 要となる。
844
845 甲は,
846 Vの危険な状態を認識しながらも,
847 Vの介護から解放されたいと思う一方で,
848
849 長年連れ添ったVを失いたくないという複雑な気持ちを抱き,
850 その間で感情が揺れ動いている
851 ので,
852 結果の発生に対する認識・認容が必要とする認容説(判例)など自らの立場を明らかに
853 しながら,
854 具体的事例における当てはめを行うことになる。
855
856
857 殺意を認定する場合には,
858 その成立時期についても留意する必要がある。
859
860 なぜなら,
861 殺人罪
862 が成立するには,
863 殺意が肯定されることに加え,
864 作為義務の発生時期,
865 救命可能性が認められ
866 る時期(午後2時20分まで)との関係も踏まえ,
867 これらがすべて満たされる必要があるから
868 である。
869
870
871 第2に,
872 乙丙の罪責については,
873 乙と丙が医師Bの処方したとおりのE薬ではなくD薬を投
874 -6-
875
876 与した上,
877 乙がBの指示どおりにVの容体確認をしなかったため,
878 Vが死亡するに至っている
879 ことから,
880 乙丙それぞれについて業務上過失致死罪の成否を検討することになる。
881
882
883 まず,
884 前提として,
885 業務上過失致死罪(刑法第211条第1項)の「業務」についての判例
886 の理解を踏まえつつ,
887 これを,
888 看護師,
889 薬剤師という乙,
890 丙それぞれの仕事の特性を考慮しつ
891 つ当てはめを行うことになる。
892
893
894 次に,
895 過失犯の理論について,
896 事案の解決に必要な限度で簡潔に自らの考え方を明らかにし
897 た上,
898 事例に即して,
899 乙丙に課せられる具体的な注意義務の内容を特定する必要がある。
900
901 特に,
902
903 乙については,
904 誤った薬の投与という行為だけでなく,
905 医師Bに指示されたとおりの巡回を行
906 わなかったことも認められるので,
907 それぞれの行為について具体的な注意義務を検討すべきで
908 ある。
909
910
911 その上で,
912 問題文中の具体的事情を摘示しつつ,
913 乙丙のVの死亡という結果に対する予見可
914 能性や,
915 結果回避可能性・結果回避義務違反について検討すべきである。
916
917
918 さらに,
919 乙丙に対してV死亡の結果の責任を問うためには,
920 乙丙の薬品の投与に係る過失行
921 為の後に甲の(不作為による殺人行為又は保護責任者遺棄行為という)故意行為が介在してい
922 る(丙の場合は,
923 それに加えて乙の過失行為も介在している。
924
925 )ことから,
926 因果関係の有無が
927 問題となる。
928
929 因果関係については,
930 相当因果関係説,
931 最近の判例の立場とされる客観的帰属論
932 的な考え方など見解は様々あるところ,
933 自らのよって立つ考え方を明らかにした上,
934 当てはめ
935 を行うことになる。
936
937 その際,
938 介在している甲の行為は,
939 故意行為とはいえ,
940 不作為であって,
941
942 因果の流れに物理的に影響を及ぼしたとまでは言い難いという点をどのように評価するかがポ
943 イントとなろう。
944
945
946 最後に,
947 こうした検討を経た上で,
948 甲乙丙の罪数判断を示す必要がある。
949
950
951 なお,
952 乙丙の関係については,
953 過失犯の共同正犯を肯定する見解に立つ場合には,
954 乙丙間に
955 業務上過失致死罪の共同正犯が成立する余地があるが,
956 その場合,
957 乙と丙が共通の注意義務を
958 負っているといえるかが問題となるほか,
959 乙丙の各過失行為と結果との間に単独犯として因果
960 関係がそれぞれ認められるとの結論に至った場合に,
961 共同正犯を認める実益は何かという問題
962 意識も必要となろう。
963
964 乙丙間における信頼の原則の適用についても問題となり得るが,
965 看護師,
966
967 薬剤師のそれぞれに独立して適正な薬であることの確認が求められているような体制下で,
968
969 原則を適用することの相当性が認められるか否かを検討する必要があろう。
970
971
972 論述においては,
973 刑法解釈上の論点に関する判例・学説の基本的な事項についての正確な理
974 解に基づき,
975 複雑な事案を解きほぐしていくという分析作業を行うとともに,
976 事案の解決に必
977 要な範囲で論点に関する自らの見解とその論拠を簡潔に示すことが求められる。
978
979 いわゆる論点
980 主義に陥ることなく,
981 具体的事案を虚心に分析,
982 検討し,
983 結論の妥当性も勘案しながら,
984 事案
985 に現れた事情を丁寧に拾い,
986 その持つ意味を明らかしていくという粘り強い論述が求められて
987 いる。
988
989
990 〔第2問〕
991 本問は,
992 捜査・公判に関する具体的事例を示して,
993 そこに生起する刑事手続上の問題点の解
994 決に必要な法解釈,
995 法適用にとって重要な具体的事実の分析・評価及び具体的帰結に至る過程
996 を論述させることにより,
997 刑事訴訟法等の解釈に関する学識,
998 適用能力及び論理的思考力を試
999 すものである。
1000
1001
1002 事例は,
1003 暴力団幹部らによるけん銃の組織的な密売事件を素材とし,
1004 設問1は,
1005 警察官が,
1006
1007 暴力団A組幹部である被疑者甲がA組の組事務所であるアパート前公道上のごみ集積所に投棄
1008 したごみ袋や,
1009 自宅マンションのごみ集積所に投棄したごみ袋から発見したメモ片を持ち帰り
1010 復元する行為,
1011 さらに捜索差押許可状に基づいて差し押さえた携帯電話の消去されていたデー
1012 タを復元・分析する行為について,
1013 その適法性を論じさせることにより,
1014 刑事訴訟法第221
1015 -7-
1016
1017 条の定める遺留物の領置,
1018 同法第218条第1項の定める捜索,
1019 差押え及び検証についての正
1020 確な理解と具体的事実への適用能力を試すものである。
1021
1022
1023 刑事訴訟法第221条は,
1024 被疑者その他の者が遺留した物を令状なく領置することを認めて
1025 いるが,
1026 設問1の捜査@及びAでは,
1027 本問のごみが遺留物といえるか,
1028 いえるとして捜査機関
1029 は何らの制限なくこれを領置することができるか問題となり,
1030 捜査Bでは,
1031 消去されたデータ
1032 の復元・分析が捜索差押許可状の効力として許されるか,
1033 それとも新たな権利侵害に該当し別
1034 個の令状を必要とするか問題となるため,
1035 この問題に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法
1036 の解釈として論ずる必要がある。
1037
1038
1039 法の文言解釈と事例への適用においては,
1040 同条における遺留物がなぜ令状なくして取得可能
1041 なのかという制度の趣旨に立ち返り,
1042 占有取得の過程に強制の要素が認められないからこそ令
1043 状を要しないとされている遺留物とは,
1044 遺失物より広い概念であり,
1045 自己の意思によらず占有
1046 を喪失した場合に限られず,
1047 自己の意思によって占有を放棄し,
1048 離脱させた物も含むなどと定
1049 義した上で,
1050 具体的事例の捜査@及びAのいずれについても,
1051 投棄されたごみが遺留物に該当
1052 するか否かをまず検討し,
1053 その上で,
1054 当該ごみが遺留物に該当するとしても,
1055 排出者がごみを
1056 排出する場合における「通常,
1057 そのまま収集されて他人にその内容を見られることはないとい
1058 う期待」がプライバシー権として権利性を有するか否かを検討し,
1059 さらに,
1060 同権利性が認めら
1061 れるとしても,
1062 本件事例においてなお要保護性が認められるか否かを論ずるべきである。
1063
1064
1065 こうした法解釈の枠組みの中で,
1066 本件事例の具体的状況下におけるごみの領置の必要性及び
1067 相当性を検討してその適法性を論ずることになろうが,
1068 いずれも事例中に現れた具体的事実を
1069 的確に抽出,
1070 分析しながら論ずべきである。
1071
1072 個々の適法又は違法の結論はともかく,
1073 具体的事
1074 実を事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではなく,
1075 それぞれの事実が持つ法
1076 的な意味を的確に分析して論じなければならない。
1077
1078 例えば,
1079 捜査@については,
1080 けん銃密売事
1081 件という重大犯罪でありながら組織的に,
1082 かつ,
1083 巧妙な手段により行われていたため通常の捜
1084 査方法では摘発が困難であったという捜査の必要性に加えて,
1085 ごみ袋が投棄されたのがだれも
1086 が通行する場所であったという具体的状況や,
1087 他者が拾うことも予想される公道上のごみ集積
1088 所から,
1089 甲がごみ袋を置いたのを現認した上で,
1090 同ごみ袋を持ち帰ったという手段の相当性を
1091 検討するべきであるし,
1092 捜査Aについては,
1093 ごみ集積所がマンション敷地内にあるが,
1094 管理者
1095 の同意なしに敷地内に立ち入る行為の法的意味をどのように評価すべきか,
1096 その際,
1097 そこは居
1098 住部分の建物棟とは少し離れた場所の倉庫内にあり,
1099 その出入口は施錠されておらず,
1100 だれで
1101 も出入りすることが可能であったという事実をどのように評価するか,
1102 その場所に投棄された
1103 ごみの遺留物性及びプライバシー権の要保護性の有無を,
1104 捜査@との違いを意識しながら検討
1105 して論じる必要があろう。
1106
1107 また,
1108 捜査Bでは,
1109 消去されたデータの復元とは,
1110 消去によって可
1111 視性がなくなったデータを可視性がある状態にするものであり,
1112 元々のデータを破壊,
1113 改変等
1114 するものではないといった具体的事実の分析をし,
1115 その上で,
1116 令状裁判官の審査を経た当初の
1117 携帯電話に対する捜索差押許可状がどこまでの効力を持つものかという観点から論ずるべきで
1118 ある。
1119
1120
1121 設問2は,
1122 被疑者甲と捜査協力者である乙及び丙女との会話を録音したICレコーダーや携
1123 帯電話を再生して反訳した捜査報告書について,
1124 その要証事実との関係での証拠能力を問うこ
1125 とにより,
1126 伝聞法則の正確な理解と具体的な事実への適用能力を試すものである。
1127
1128 さらに,
1129
1130 の前提として,
1131 本問では,
1132 おとり捜査や秘密録音といった捜査手法がとられていることから,
1133
1134 それらの適法性が捜査報告書の証拠能力に影響し得るため,
1135 併せてそれらの適法性についても
1136 問い,
1137 これらの捜査の適法性についての正確な理解と具体的事実への適用能力を試している。
1138
1139
1140 まず,
1141 前提となる捜査の適法性については,
1142 おとり捜査の意義を定義し,
1143 おとり捜査一般の
1144 問題の所在や適法性の判断基準を示した上で,
1145 いわゆる機会提供型か犯意誘発型かというだけ
1146 ではなく,
1147 本件で当該捜査手法をとるべき必要性・補充性や働きかけ行為の相当性を考慮し,
1148
1149 -8-
1150
1151 設問で与えられた具体的事実を踏まえて,
1152 本件における乙を通じての被疑者甲へのけん銃譲渡
1153 の働きかけが適法であるか否か詳細に検討する必要がある。
1154
1155 また,
1156 会話の一方当事者の同意が
1157 ある場合における通話及び会話の秘密録音については,
1158 例えば,
1159 会話当事者の一方が録音に同
1160 意している場合には,
1161 その会話内容は相手方の支配下に置かれたものであり,
1162 会話の秘密性は
1163 放棄したものと評価され,
1164 要保護性は,
1165 通信傍受のような会話当事者のいずれの同意もない場
1166 合に比べて低下しており,
1167 任意捜査としてその適法性を判断するなどと,
1168 この問題に関する各
1169 自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論じた上で,
1170 録音@,
1171 A及びBのそれぞれの状況
1172 における具体的事実を踏まえて適法性を論ずるべきである。
1173
1174
1175 これら前提となる捜査の適法性を論じた後,
1176 捜査報告書の証拠能力を検討することになろう
1177 が,
1178 本問では,
1179 検察官が,
1180 「甲乙間の本件けん銃譲渡に関する甲乙間及び甲丙女間の会話の存
1181 在と内容」という立証趣旨を設定して本件捜査報告書の証拠調べを請求したところ,
1182 弁護人は,
1183
1184 これに不同意の意見を述べている。
1185
1186 本件捜査報告書は,
1187 作成者である司法警察員KがICレコ
1188 ーダーや携帯電話の録音内容を聞いた上で,
1189 これを反訳したものであり,
1190 捜査官が五官の作用
1191 によって事物の存在及び状態を観察して認識する作用である検証の結果を記載した書面に類似
1192 した書面として,
1193 刑事訴訟法第321条第3項により,
1194 作成者Kが公判廷で真正に作成された
1195 ものであることを供述すれば証拠能力が付与されるという捜査報告書全体の性質をまずは論ず
1196 る必要があろう。
1197
1198
1199 その上で,
1200 本件捜査報告書には,
1201 甲乙間及び甲丙女間の会話部分並びに乙によるその会話内
1202 容の説明部分が含まれていることから,
1203 これらの部分の証拠能力について,
1204 更に伝聞法則の適
1205 用があるか否かを要証事実との関係で検討する必要がある。
1206
1207 要証事実を的確にとらえれば,
1208
1209 乙間及び甲丙女間の会話部分については,
1210 会話内容が真実かどうかを立証するものではなく,
1211
1212 甲乙間及び甲丙女間でそのような内容の会話がなされたこと自体を証明することに意味があ
1213 り,
1214 会話の存在を立証するものであるから,
1215 この会話部分は伝聞証拠には該当しないとの理解
1216 が可能であろう。
1217
1218 これに対して,
1219 乙による説明部分については,
1220 正に乙が知覚・記憶し,
1221 説明
1222 した会話の内容たる事実が要証事実となり,
1223 その真実性を証明しようとするものであるから,
1224
1225 伝聞証拠に該当すると解した上で,
1226 伝聞例外を定める刑事訴訟法第321条第1項第3号によ
1227 りその証拠能力の有無を検討することになる。
1228
1229 同号の各要件については,
1230 乙の死亡や会話部分
1231 にはけん銃という言葉など聞き取れない部分があること,
1232 乙による説明は会話に引き続きなさ
1233 れており,
1234 その内容は直前の会話内容と整合するとともに,
1235 乙方でりんごの箱とともに発見さ
1236 れたけん銃2丁などの客観的状況とも整合するといった具体的事実を的確に当てはめ,
1237 その証
1238 拠能力を検討しなければならない。
1239
1240
1241 いずれの設問についても,
1242 正確な法的知識を当然の前提としながら,
1243 法解釈論や要件を抽象
1244 的に論じるだけでなく,
1245 事例中に現れた具体的事実関係を前提に,
1246 法的に意味のある事実の的
1247 確な把握と要件への当てはめを行うことが要請されている。
1248
1249
1250 【選択科目】
1251 [倒
1252
1253
1254
1255 法]
1256
1257 〔第1問〕
1258 本問は,
1259 具体的な事例を通じて,
1260 破産手続開始決定前に破産者から逸失した財産の回復に関
1261 連する破産法上の制度及び民法等の実体法の規律についての理解を問うものである。
1262
1263
1264 設問1(1)については,
1265 まず,
1266 本件事例の下では,
1267 破産法第162条第1項第2号の否認権
1268 の行使が問題となることを指摘した上で,
1269 同号の否認の要件を充足するか否かについて論じる
1270 必要がある。
1271
1272 その際には,
1273 本件代物弁済が「その時期が破産者の義務に属しない行為」に当た
1274 ることを明確にするとともに,
1275 支払不能となった時期について,
1276 手形の不渡りがあったという
1277 本件の事案に照らして適切に判断することが求められる。
1278
1279 その上で,
1280 目的物の返還を求めるこ
1281 -9-
1282
1283 とができない場合における価額償還請求権とその価額算定の基準時について論じる必要があ
1284 る。
1285
1286
1287 (2)については,
1288 まず,
1289 B社が本件トラックの所有権を主張することができるかどうかにつ
1290 いて,
1291 破産管財人の第三者的地位の問題などを踏まえつつ,
1292 論じる必要がある。
1293
1294 その上で,
1295
1296 社の上記主張は認められないが,
1297 本件トラックの返還を求めることができない場合には,
1298 Kは,
1299
1300 B社に対して不当利得の返還を請求することができること及びその場合において返還を求める
1301 べき不当利得の価額について論じる必要がある。
1302
1303 さらに,
1304 それが(1)の償還を求めるべき価額
1305 と異なる場合に,
1306 その理由を制度趣旨にさかのぼって論じることが求められる。
1307
1308
1309 設問2については,
1310 本件事例の下で,
1311 建物の賃料債権に対する物上代位を含め,
1312 別除権であ
1313 る抵当権の行使方法としてどのようなものが考えられるか,
1314 また,
1315 不足額責任主義を採用して
1316 いる破産法において,
1317 破産債権の届出から最後配当までの具体的手続はどのようなものかとい
1318 う点を踏まえて,
1319 B社が採ることができる債権回収方法について論じることが求められる。
1320
1321
1322 〔第2問〕
1323 本問は,
1324 具体的な事例を通じて,
1325 民事再生手続における継続的給付を目的とした双務契約の
1326 取扱い及び相殺禁止に関する規律についての理解を問うものである。
1327
1328
1329 設問1については,
1330 まず,
1331 本件事例における倒産解除条項の有効性について論じる必要があ
1332 る。
1333
1334 その上で,
1335 今後の取引を継続する前提として,
1336 民事再生法第49条第1項に基づき本件契
1337 約の履行を請求する必要があることを明らかにし,
1338 B社が履行を拒絶することの可否について,
1339
1340 本件契約が同法第50条第1項に規定する継続的供給契約に該当するか否かの検討を踏まえ
1341 て,
1342 論じる必要がある。
1343
1344 さらに,
1345 その該当性の有無についての結論に応じて,
1346 B社が有する現
1347 在及び将来の債権が民事再生手続上どのように取り扱われるかについて論じることが求められ
1348 る。
1349
1350
1351 設問2については,
1352 まず,
1353 甲手形に関しては,
1354 民事再生法第93条第1項第4号に該当する
1355 と同時に同条第2項第2号にも該当することについて,
1356 本件事例に即して具体的に指摘する必
1357 要がある。
1358
1359 さらに,
1360 相殺適状発生と相殺の意思表示の時期に関する同法の規律について,
1361 破産
1362 法の規律との違いを踏まえつつ,
1363 その趣旨も含めて説明することが求められる。
1364
1365
1366 次に,
1367 乙手形については,
1368 民事再生法第93条第1項第1号が適用され得ることを本件事例
1369 に即して具体的に指摘する必要がある。
1370
1371 その上で,
1372 同法には破産法第67条第2項後段のよう
1373 な規定が存しないことを踏まえつつ,
1374 上記の民事再生法の規定の適用による相殺禁止という結
1375 論を維持すべきか否かについて,
1376 乙手形に関する相殺の合理的期待の保護の必要性の有無,
1377
1378 産手続と民事再生手続との目的・趣旨の違い等の検討を踏まえて,
1379 理由を明確にして自説を論
1380 じる必要がある。
1381
1382
1383 [租
1384
1385
1386
1387 法]
1388
1389 租税法の出題に関しては,
1390 これまでと同様に,
1391 所得税法を中心とし,
1392 これに関連する範囲で
1393 法人税法及び国税通則法を含む,
1394 基本的な理解を問う出題としている。
1395
1396
1397 〔第1問〕
1398 本問題は,
1399 家族的事業についての課税の在り方を通じて,
1400 所得税法の基本的な理解と応用力
1401 を試すものである。
1402
1403
1404 まず,
1405 設問1(1)は,
1406 父親Aから子Cに支払われた学資金名目の金員について,
1407 授業料に
1408 充てられていた上記金員はCの所得に当たるのか,
1409 所得税法第9条第1項第14号の学資金又
1410 は扶養義務の履行に該当するとして非課税となるのか,
1411 若しくは給与となるかをを踏まえて多
1412 角的に検討する問題である。
1413
1414
1415 また,
1416 給与とした場合には,
1417 家族内の費用支出の取扱い(所得税法第56条)についての言
1418 - 10 -
1419
1420 及も必要となる。
1421
1422 この論点は,
1423 さらに,
1424 設問1(2)で,
1425 ピアノ演奏等を業としている妻Bに
1426 対する演奏料について所得税法第56条,
1427 第57条の適用があるかを,
1428 判例(最判平成16年
1429 11月2日判時1883号43頁)にも照らして検討することが求められている。
1430
1431
1432 設問2は,
1433 他人の窃盗によって失った金銭は,
1434 所得税において,
1435 どのように取り扱われるの
1436 か,
1437 特に,
1438 事業上必要な資産を盗まれた場合はどうかを検討する問題であり,
1439 所得税法第37
1440 条,
1441 第51条,
1442 第72条に当たるかが問われている。
1443
1444 設問2(2)においては,
1445 Aが経営する
1446 飲食店が法人であった場合を対比させており,
1447 法人税法における損害賠償請求権が両建てされ
1448 ることや,
1449 所得税とは損失の取扱いが異なっていることにも言及することを期待している。
1450
1451
1452 お,
1453 このような場合に損害賠償請求権が貸倒れになるのかについても適切に論述することが期
1454 待される。
1455
1456
1457 〔第2問〕
1458 本問題は,
1459 青色申告制度の趣旨及び概要並びに青色申告の承認の取消し,
1460 並びに推計課税制
1461 度の根拠,
1462 趣旨及び概要について,
1463 それぞれ,
1464 基本的な理解を問うとともに,
1465 具体的な事例へ
1466 の適用能力を問うものである。
1467
1468
1469 設問1では,
1470 青色申告制度についての基本的知識が問われており,
1471 青色申告制度の趣旨のほ
1472 か,
1473 その概要として,
1474 青色申告の承認及びその取消し,
1475 青色申告者の特典と義務についての基
1476 本的な知識が問われている。
1477
1478 また,
1479 設問2では,
1480 青色申告承認の取消事由(所得税法第150
1481 条第1項)を本問の事案に即して検討することが求められており,
1482 各号が掲げる取消事由の意
1483 義を踏まえた合理的な論述が求められているが,
1484 本問の事例のように,
1485 帳簿書類を税務職員に
1486 よる検査に当たって適時に提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合
1487 については判例(最判平成17年3月10日民集59巻2号379頁)があり,
1488 この判例の理
1489 解とその内容への適切な言及が期待されるところである。
1490
1491
1492 また,
1493 設問3及び設問4は,
1494 推計課税についての理解を問うものであり,
1495 推計課税が認めら
1496 れる根拠と所得税法第156条について言及することと,
1497 推計の必要性と推計の合理性という
1498 推計課税の認められる要件について整理して論述することが期待されるところである。
1499
1500 さらに,
1501
1502 本問の事例について,
1503 推計の必要性と推計の合理性が認められるかを具体的に検討することが
1504 求められている。
1505
1506
1507 [経
1508
1509
1510
1511 法]
1512
1513 〔第1問〕
1514 本問は,
1515 若手デザイナーによる手作りアクセサリー(以下「本件商品」という。
1516
1517 )の販売を
1518 仲介する携帯電話専用のウェブサイトの運営事業(以下「本件事業」という。
1519
1520 )の市場におい
1521 て,
1522 安価な手数料率の設定を売り物にして新規参入してきた事業者に対し,
1523 既存の事業者であ
1524 るA社が危機感を覚え,
1525 同社のサイトへの掲載を依頼する若手デザイナーに対し,
1526 新規参入者
1527 との二重登録を禁止することを目的とする措置(以下「本件措置」という。
1528
1529 )を講じようとし
1530 たことについて,
1531 独占禁止法上の問題点を検討させることをその趣旨としている。
1532
1533
1534 すなわち,
1535 本件措置を講ずることにより,
1536 どのような市場における競争に関し,
1537 どのような
1538 競争上の影響や弊害を生ずるおそれを生むこととなるかについて,
1539 事実関係の分析と構成要件
1540 への当てはめの過程を見ようとするものであり,
1541 本件措置が若手デザイナーの事業活動に与え
1542 る影響及び競争への影響を検討すべき市場の範囲,
1543 その公正競争阻害性について検討すること
1544 が求められる。
1545
1546
1547 具体的には,
1548 不公正な取引方法の一般指定第2項後段又は第12項の構成要件を踏まえ,
1549
1550 件措置について,
1551 他の事業者にある事業者に対する取引を拒絶させたといえるか,
1552 又は相手方
1553 の事業活動を不当に拘束する条件を付けて取引したといえるかについて,
1554 本件商品の販売形態
1555 - 11 -
1556
1557 の特殊性やA社の市場における地位,
1558 その実効性確保手段の有無及び程度等を勘案して検討す
1559 る必要がある。
1560
1561
1562 本件措置が影響を及ぼすこととなる競争の具体的な形態としては,
1563 各社のウェブサイトによ
1564 る本件商品の販売の仲介を希望する若手デザイナーの獲得をめぐる競争のほか,
1565 各社が運営す
1566 るウェブサイトを媒介として若手デザイナーと一般消費者との間で成立する本件商品の販売に
1567 おける競争も想定されよう。
1568
1569
1570 また,
1571 その公正競争阻害性に関しては,
1572 本件の市場の実態に基づいて,
1573 本件事業に新規参入
1574 した事業者が市場から排除されるおそれ,
1575 すなわち市場閉鎖効果が生ずるおそれの有無や,
1576
1577 件商品の販売価格が維持されることがないか等の点に着目し,
1578 併せて本件措置を講ずることに
1579 ついての正当化事由についても検討する必要がある。
1580
1581
1582 いずれにせよ,
1583 本問においては,
1584 本件措置が市場における競争に及ぼす影響について,
1585 独占
1586 禁止法上の行為規制の趣旨及び体系並びに各違反行為の構成要件を正確に理解した上で,
1587 事実
1588 関係を丹念に検討してその当てはめを行うことが求められる。
1589
1590
1591 〔第2問〕
1592 本問は,
1593 Y市発注の下水道管更生工事の入札という架空の事例を基に,
1594 入札談合が独占禁止
1595 法に違反するかどうかを不当な取引制限(独占禁止法第3条,
1596 第2条第6項)の要件に従って
1597 検討させ,
1598 不当な取引制限の規制について基本的理解ができているかを確認することをその趣
1599 旨としている。
1600
1601
1602 設問1においては,
1603 まず,
1604 共同行為,
1605 事業活動の相互拘束等の要件について,
1606 A,
1607 Bないし
1608 D及びE・Fのそれぞれの平成21年2月1日の会合,
1609 3月5日の会合等における行為が,
1610
1611 れらの要件を満たすか否かを検討することとなる。
1612
1613 ここでは取り分け,
1614 BないしDの行為のほ
1615 か,
1616 Aはこの二つの会合の間に指名停止処分を受けて入札に参加できず,
1617 また,
1618 E・Fはこれ
1619 らの会合にはかかわることなく本件談合に協力をしたことが,
1620 共同行為及び事業活動等の相互
1621 拘束の要件においてどのように評価されるか,
1622 意思の連絡は成立するか,
1623 相互拘束性があるか
1624 等を本件事案に即して検討することを求めている。
1625
1626
1627 次に,
1628 本件において「一定の取引分野」をどのように画定するか,
1629 すなわち,
1630 例えば甲工事
1631 と乙工事の関係はどうか,
1632 Y市発注の下水道管更生工事という一定の取引分野が成立するかを
1633 検討し,
1634 さらに,
1635 基本合意に続いて個別調整(個別入札)が行われた本件事案において競争を
1636 実質的に制限するかを検討することとなる。
1637
1638
1639 設問2では,
1640 基本合意は成立しているが個別調整が実施されていない事案において,
1641 不当な
1642 取引制限が成立するかを問うている。
1643
1644 検討に当たっては,
1645 不当な取引制限は,
1646 入札談合におい
1647 て基本合意と個別調整のいずれで成立するか,
1648 本件事案においては基本合意だけで成立するか
1649 について,
1650 独占禁止法第2条第6項の要件に基づいて説明することが求められる。
1651
1652 その際には,
1653
1654 当然ながら,
1655 設問1の解答と矛盾しないことも求められる。
1656
1657
1658 いずれにせよ,
1659 本問においては,
1660 不当な取引制限の要件の意義を正確に理解した上で,
1661 当該
1662 行為による競争への影響を念頭に置き,
1663 事実関係を十分に検討した上で当てはめをを行うこと
1664 が求められる。
1665
1666
1667 [知的財産法]
1668 〔第1問〕
1669 設問1は,
1670 丙のイ号製品の製造販売が甲及び乙が共有する特許権を侵害するか否か,
1671 また,
1672
1673 設問2は,
1674 丙のロ号製品の製造販売及び丁のハ号製品の製造販売が当該特許権を侵害するか否
1675 かについて論述させるものである。
1676
1677 当該特許権の特許請求の範囲に記載された構成中にこれら
1678 の製品と異なる部分が存在するのであり,
1679 設問1及び設問2は,
1680 いわゆる均等論に関する理解
1681 - 12 -
1682
1683 を問うものである。
1684
1685
1686 設問1においては,
1687 最高裁判所の判決(最判平成10年2月24日民集52巻1号113頁)
1688 が述べた,
1689 均等論の第4要件が問題となろう。
1690
1691 イ号製品は,
1692 a,
1693 b’及びcの構成を有する製
1694 品であるところ,
1695 同構成については,
1696 戊の特許出願の願書に最初に添付した明細書に記載され
1697 ていたため,
1698 甲及び乙の特許出願時には,
1699 特許法第29条の2により,
1700 甲及び乙は特許を受け
1701 ることができなかったはずのものであった。
1702
1703 上記判例の文言によれば,
1704 第4要件は,
1705 「対象製
1706 品等が,
1707 特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易
1708 に推考できたものではな」いというものであるが,
1709 その根拠として述べられていることを踏ま
1710 えて,
1711 イ号製品について第4要件が充足されるか否かについて論述することが求められる。
1712
1713
1714 設問2においては,
1715 上記判例が述べた,
1716 均等論の第3要件が問題となろう。
1717
1718 同判例において,
1719
1720 第3要件の判断基準時は「対象製品等の製造等の時点」と述べられているところ,
1721 α発明にお
1722 ける構成要件Cをc’に置き換えることは,
1723 丙がロ号製品の製造販売を開始した2008年8
1724 月20日の時点では当業者が容易に想到することができるものではなかったが,
1725 ロ号製品を解
1726 析すれば,
1727 それがa,
1728 b及びc’の構成を有するものであることは格別の困難なく知ることが
1729 できたという事実関係から,
1730 丁がハ号製品の製造販売を開始した2009年10月1日の時点
1731 では当業者が容易に想到することができたものになっていたと考えられる。
1732
1733 この点に基づいて,
1734
1735 「対象製品等の製造等の時点」の意義を明らかにした上で,
1736 ロ号製品及びハ号製品について第
1737 3要件が充足されるか否かについて論述することが求められる。
1738
1739 なお,
1740 両者の結論が異なるに
1741 せよ同じであるにせよ,
1742 その妥当性についても検討することが望まれる。
1743
1744
1745 設問3は,
1746 特許権が共有に係る場合のその特許発明の実施に関するものである。
1747
1748 丁のハ号製
1749 品の製造は乙の依頼によるもので,
1750 丁はその製造したハ号製品すべてを乙に納入しているとい
1751 う事実関係の下で,
1752 丁の実施を乙の実施と同視することの可能性,
1753 また,
1754 甲と乙が甲のみがα
1755 発明の実施をすることを合意していた場合と特許法第73条第2項の「契約で別段の定をした
1756 場合」との関係の検討を通じて,
1757 甲の差止請求の可否について論じることが求められる。
1758
1759
1760 〔第2問〕
1761 設問1は,
1762 αプログラムについてAが有する権利に関して論じた上で,
1763 AがBに対して,
1764
1765 かなる権利の侵害に基づいて,
1766 どのような請求をすることができるかについて論述させるもの
1767 である。
1768
1769 Aが有する権利に関しては,
1770 職務著作の成否(著作権法第15条第2項)及び著作権
1771 法第61条第2項の推定について検討する必要がある。
1772
1773 前者については,
1774 対象となる著作物が
1775 プログラムの著作物であって,
1776 著作権法第15条第1項ではなく,
1777 同条第2項が適用されるた
1778 め,
1779 本件契約においてAが開発するプログラムにその著作者名としてBを表示する旨が定めら
1780 れていることがAの職務著作の成立にとって問題とならないことに注意しなければならない。
1781
1782
1783 後者については,
1784 裁判例では,
1785 著作権を譲渡する契約においてすべての著作権を譲渡する旨が
1786 定められているだけでは,
1787 著作権法第61条第2項の「特掲」があったとは解されていないの
1788 であり,
1789 そのため,
1790 本件契約において「Aが開発するプログラムについてのすべての著作権を
1791 Bが有」する旨が定められていることから,
1792 直ちに同項の推定が否定されることにならないこ
1793 とに注意しなければならない。
1794
1795 また,
1796 Bによって侵害されるAの権利としては,
1797 同一性保持権
1798 (著作権法第20条)等の著作者人格権,
1799 並びに,
1800 上記推定が覆滅しない場合に,
1801 翻案権(同
1802 法第27条)及び二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(同法第28条)が問題となろ
1803 う。
1804
1805
1806 設問2は,
1807 βプログラムを組み込んだβ製品を新製品の開発のために使用するFに対して,
1808
1809 Aが差止請求をするために行うべき主張について論じさせるものである。
1810
1811 Fの行為については,
1812
1813 著作権法第113条第2項の適用が問題となり得るのであるから,
1814 その要件に関して本問の事
1815 実関係に即して的確に記述することが求められる。
1816
1817
1818 - 13 -
1819
1820 設問3は,
1821 プログラムの著作物についての貸与権(著作権法第26条の3)の及ぶ範囲を問
1822 うものである。
1823
1824 工業製品の貸与行為に対して,
1825 当該製品に組み込まれたプログラムの著作物に
1826 ついての貸与権が常に及ぶとすることは円滑な流通を阻害するおそれがあることを踏まえて,
1827
1828 Bが,
1829 αプログラムを組み込んだα製品の賃貸業を営むDに対して,
1830 αプログラムについての
1831 貸与権の侵害を主張することができるかどうかについて論述することが求められる。
1832
1833
1834 [労
1835
1836
1837
1838 法]
1839
1840 〔第1問〕
1841 設問(1)は,
1842 労働契約の成立の場面における基本原則(労働契約法第1条,
1843 第3条第1項)
1844 についての理解を問うものであり,
1845 問題文の事実関係に即して,
1846 X1のB社に対する@地位確
1847 認請求の可否,
1848 A賃金請求の可否,
1849 B損害賠償請求の可否を論じさせるものである。
1850
1851 @の論点
1852 は,
1853 X1とB社との間の労働契約関係の成否の問題であり,
1854 その成立原因として,
1855 (ア)事業
1856 譲渡によりX1とA社との間の労働契約関係がB社へ承継されるか否か,
1857 (イ)B社による書
1858 類選考のみで優先的に採用するとの説明行為とこれに対するX1の応募行為により,
1859 X1とB
1860 社との間に合意による労働契約が成立するか否かを検討することが求められ,
1861 その検討におい
1862 ては,
1863 (ア)に関しては事業譲渡の法的性質について,
1864 (イ)に関しては採用の自由(選択の自
1865 由,
1866 契約締結の自由)について言及する必要がある。
1867
1868 Aの論点は,
1869 @の論点の結論と関連して
1870 論述することになる論点であり,
1871 @の論点の結論と整合した結論(労働契約関係の成立を肯定
1872 すれば積極,
1873 否定すれば消極)を導く必要がある。
1874
1875 Bの論点も,
1876 @の論点の結論と関連して論
1877 述することになる論点であり,
1878 @の論点の結論と整合した結論を導く必要があり,
1879 その論述の
1880 中では,
1881 被侵害利益,
1882 損害の内容についての言及が求められる。
1883
1884
1885 設問(2)は,
1886 整理解雇についての理解を問うものであり,
1887 問題文の事実関係に即して,
1888
1889 2のA社に対する@地位確認請求の可否,
1890 A賃金請求の可否を論じさせるものである。
1891
1892 @の論
1893 点は,
1894 A社がX2に対して行った解雇の効力の問題であり,
1895 問題文の事実関係に照らして,
1896
1897 理解雇の事例であることを押さえた上,
1898 当該解雇が整理解雇として有効かどうかにつき整理解
1899 雇の4要件(要素)ごとに検討する必要がある。
1900
1901 Aの論点は,
1902 @の論点の結論と関連して論述
1903 することになる論点であり,
1904 @の論点の結論と整合した結論(解雇の効力を肯定すれば消極,
1905
1906 否定すれば積極)を導く必要がある。
1907
1908
1909 〔第2問〕
1910 本問は,
1911 組合併存下にあって,
1912 (1)労働協約の更新により長年継続されてきたチェック・
1913 オフを使用者が一方的に中止し,
1914 また,
1915 (2)脱退組合員の組合費につき脱退後も使用者がチ
1916 ェック・オフを継続したという事例を通じて,
1917 不当労働行為の成否とその内容,
1918 救済機関と求
1919 め得る救済手立てについての理解を問うものである。
1920
1921
1922 設問1では,
1923 まず,
1924 X1組合との関係では,
1925 労働組合法第7条第2号(団交拒否)や同条第
1926 3号(支配介入)の成否が問題となる。
1927
1928 救済機関については,
1929 (ア)労働委員会(行政救済)
1930 と(イ)裁判所(司法救済)が考えられ,
1931 救済の手立てについては,
1932 (ア)労働委員会に対し
1933 ては,
1934 X1組合との団交応諾命令やチェック・オフの再開・継続,
1935 X2の組合費に対するチェ
1936 ック・オフの中止請求等が問題となり,
1937 (イ)裁判所に対しては,
1938 団交を求める地位の確認,
1939
1940 団交拒否あるいは支配介入を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求等が問題となる。
1941
1942 次に,
1943
1944 X2との関係では,
1945 組合脱退後のチェック・オフの継続につき,
1946
1947 (ア)労働委員会に対しては,
1948
1949 労働組合法第7条第3号違反の救済申立て,
1950 (イ)裁判所に対しては,
1951 A組合からの脱退後の
1952 チェック・オフの継続により控除された組合費相当額の返還請求,
1953 法的根拠のないチェック・
1954 オフの継続を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求が問題となる。
1955
1956
1957 設問2では,
1958 設問1で取り上げた救済の具体的手立てに関して,
1959 まず,
1960 (1)X1組合に対
1961 - 14 -
1962
1963 するチェック・オフの一方的中止につき,
1964 労働組合法第7条第2号違反との関係では,
1965 X1組
1966 合の過半数割れや労働協約の期間満了が団交拒否の正当理由となるか,
1967 10年間継続されてき
1968 たチェック・オフ協定を1回の団交で打ち切ることは相当かなどの論点の検討が求められる。
1969
1970
1971 同条第3号との関係では,
1972 組合併存下でのX1組合の活動に対する警告文の発出,
1973 X1組合委
1974 員長に対する戒告処分及びチェック・オフの中止がX1組合に与える財政的打撃や組合の組織
1975 運営への影響等をどう評価するかが論点となる。
1976
1977 司法救済との関連では,
1978 団交応諾仮処分の可
1979 否や同条第2号・第3号違反と不法行為の成否をどう考えるかが論点となる。
1980
1981 次に,
1982 (2)X
1983 2のA組合脱退後のチェック・オフの継続につき,
1984 脱退に対する許可等を要件としたA組合規
1985 約の効力をどう考えるか,
1986 チェック・オフの継続により控除された組合費相当額につき,
1987 X2
1988 はどのような法的根拠に基づいて返還を求めるのか,
1989 X1組合もその返還を求め得るかなどの
1990 論点の検討が求められる。
1991
1992
1993 [環
1994
1995
1996
1997 法]
1998
1999 〔第1問〕
2000 設問1は,
2001 容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(以下「容器包装リ
2002 サイクル法」という。
2003
2004 )の仕組みと拡大生産者責任の考え方との関係を問う問題である。
2005
2006
2007 設問1の小問(1)では,
2008 この「考え方」が拡大生産者責任のことであることを指摘した上
2009 で,
2010 容器包装リサイクル法が,
2011 特定事業者に再商品化の実施義務(同法第11条ないし第13
2012 条)を課し,
2013 再商品化の費用負担(無償引取りであること)をさせており,
2014 これが拡大生産者
2015 責任の一例であることを指摘することが必要となる。
2016
2017 さらに,
2018 平成18年の法改正では,
2019 特定
2020 事業者が指定法人を通じて一定の資金を市町村に拠出する仕組みが導入された(同法第10条
2021 の2)ことにも触れることが期待される。
2022
2023
2024 設問1の小問(2)では,
2025 拡大生産者責任原則が,
2026 「物理的および/または金銭的に,
2027 製品
2028 に対する生産者の責任を製品のライフサイクルにおける消費後の段階まで拡大させる」環境政
2029 策アプローチであり,
2030 生産者に,
2031 環境適合的な製品を設計させる誘因(インセンティブ)を与
2032 えることによって製品のライフサイクル全体でもたらされる環境負荷を最小化することを目的
2033 としていることに触れることが望まれる。
2034
2035 その上で,
2036 循環型社会形成推進基本法第18条第3
2037 項は,
2038 国が必要な措置を講ずるものとされる場合として,
2039 @国,
2040 地方公共団体,
2041 事業者及び国
2042 民の適切な役割分担が必要であること,
2043 A設計,
2044 原材料の選択,
2045 循環資源の収集等の観点から,
2046
2047 事業者の役割が重要と認められること,
2048 B当該循環資源の処分の技術上の困難性,
2049 循環的な利
2050 用の可能性を要件として挙げているが,
2051 容器包装廃棄物については上記の三つの要件に該当す
2052 ることを指摘し,
2053 その結果,
2054 事業者が引取り等をして循環的利用をすべきものとなっているこ
2055 とを論じることが期待される。
2056
2057 しかし,
2058 容器包装廃棄物の分別収集に関しては,
2059 市町村の責任
2060 となっているため(容器包装リサイクル法第10条),
2061 処理費用全体の中で相当部分を占める
2062 分別収集の費用を特定事業者が負担せず,
2063 特定事業者に対して,
2064 なお環境適合的な製品設計の
2065 ためのインセンティブが十分に働かず,
2066 Aの事業者の役割が十分果たされていないことを指摘
2067 してほしい。
2068
2069
2070 なお,
2071 拡大生産者責任原則が汚染者負担原則(原因者負担原則)の派生原則であること,
2072
2073 器包装リサイクル法が特定包装事業者について,
2074 利用事業者のみで製造事業者を含めていない
2075 ことなどは,
2076 加点事由となる。
2077
2078
2079 設問2は,
2080 容器包装リサイクル法に基づく主務大臣の措置とそれを争う方法についての理解
2081 を問う問題である。
2082
2083
2084 設問2の小問(1)では,
2085 主務大臣の措置として,
2086 指導及び助言(容器包装リサイクル法第
2087 19条),
2088 勧告及び命令(同法第20条),
2089 命令違反に対する罰金刑(同法第46条)に係る告発
2090 (刑事訴訟法第239条)を挙げることが期待される。
2091
2092
2093 - 15 -
2094
2095 設問2の小問(2)では,
2096 @公法上の当事者訴訟としての再商品化義務不存在確認訴訟が提
2097 起できること,
2098 A主務大臣の勧告・公表に関して,
2099 これを処分ととらえてその差止訴訟,
2100 取消
2101 訴訟が提起できること,
2102 B主務大臣の命令に対して,
2103 差止訴訟,
2104 取消訴訟が提起できることを
2105 指摘することが期待される。
2106
2107
2108 〔第2問〕
2109 設問1は,
2110 大気汚染を原因とする損害賠償請求訴訟に関する理解を問う問題である。
2111
2112 法律上
2113 の問題点として,
2114 @C社の工場については民法のほか,
2115 大気汚染防止法の無過失責任規定(同
2116 法第25条)の適用が問題となることについて指摘し,
2117 AD社の高速道路についての民法第7
2118 17条の瑕疵とC社の工場についての同法第709条の過失が問題となること,
2119 瑕疵と過失行
2120 為とによる損害の惹起の場合の共同不法行為規定(同法第719条)の適用の可否を論じた上
2121 で,
2122 例えば,
2123 両者に「弱い関連共同性」しかないとすれば同条第1項後段を類推適用すること
2124 など,
2125 下級審裁判例ないし学説を踏まえた記述をし,
2126 B大気汚染と健康被害の因果関係の問題
2127 については疫学的因果関係について言及するほか,
2128 非特異性疾患の事案における集団的因果関
2129 係と個別的因果関係の関連及び相対的危険度の問題を取り上げることの可否について論ずるこ
2130 とが期待される。
2131
2132 また,
2133 C違法性については受忍限度論の採用の可否,
2134 被害の考慮,
2135 公共性の
2136 考慮の可否,
2137 環境基準と受忍限度との関係などについて論ずることが望まれる。
2138
2139
2140 設問2は,
2141 環境基準の法的性格に関する理解を問う問題である。
2142
2143 この論点に関しては,
2144 二酸
2145 化窒素大気環境基準改定告示取消訴訟控訴審判決(東京高判昭和62年12月24日行集38
2146 巻12号1807頁)が出されており,
2147 この判決を踏まえて,
2148 両当事者の主張と反論を構成す
2149 ることが期待されている。
2150
2151 同訴訟の争点は,
2152 改定告示の処分性である。
2153
2154 環境基準につき「維持
2155 されることが望ましい基準」と規定する環境基本法第16条第1項をめぐる議論が期待されて
2156 いる。
2157
2158
2159 [国際関係法(公法系)]
2160 〔第1問〕
2161 本問は,
2162 国家の成立や国家承認とそれに関連する武力行使の位置付けを問う問題である。
2163
2164
2165 設問1においては,
2166 「セント国」が従来属していたX国政府の反対を押し切って一方的に独
2167 立を宣言した後,
2168 Y国が独立に対して祝意を表明し,
2169 かつ,
2170 外交使節団を交換したことが,
2171
2172 際法上「国家承認」に当たることに気付き,
2173 その法的評価を行うことを求めている。
2174
2175 国家承認
2176 は各国の裁量行為であるが,
2177 新国家が実効的支配を確立する前に承認を行えば「尚早の承認」
2178 として国際法に反する。
2179
2180 2002年の独立宣言と同時に国家承認を行うことが「尚早の承認」
2181 に当たるかどうかを,
2182 2002年時点の「セント国」の状況を踏まえて論じれば,
2183 結論は「尚
2184 早の承認」に当たるでも当たらないでもよい。
2185
2186
2187 設問2は,
2188 設問1が国家承認というY国の行為の評価を問題にしているのに対して,
2189 200
2190 4年段階における「セント国」の国家性の是非を論ずる問題である。
2191
2192 「セント国」の国家性を
2193 判定するためには,
2194 まずは「セント国」が国家の要件(領域,
2195 永久的住民,
2196 政府。
2197
2198 外交能力を
2199 これらに加える場合もある)を備えていること,
2200 そして国家承認がどのような意味を持つかを
2201 検討することが必要である。
2202
2203 国家承認については,
2204 従来から国家承認がなくても国家が成立す
2205 ると理解する「創設的効果説」と国家承認と国家の成立は無関係だと説く「宣言的効果説」が
2206 対立してきた。
2207
2208 そこで創設的効果説,
2209 宣言的効果説のいずれが妥当かを検討する必要が出てく
2210 る。
2211
2212 法実証主義を貫いて創設的効果説を採っても,
2213 また現状の重要性から宣言的効果説を採っ
2214 ても,
2215 理由が明確に示されていればよい。
2216
2217 その上で,
2218 以上によって確定したフレームワークに
2219 従って,
2220 一定地域を実効的に支配し,
2221 既に50か国が承認を与えている,
2222 当時「セント国」の
2223 状況を評価することが最後の課題である。
2224
2225
2226 - 16 -
2227
2228 設問3においては,
2229 「セント国」を承認していないZ国が,
2230 依然として「セント国」と武力
2231 衝突を繰り返すX国に軍事支援することの評価が問われている。
2232
2233 国家承認について宣言的効果
2234 説の立場に立って,
2235 「セント国」が既に誕生していることを前提にすれば,
2236 Z国のX国に対す
2237 る軍事支援は,
2238 X国とZ国の武力紛争においてX国側に立った武力行使に当たる。
2239
2240 したがって,
2241
2242 これが集団的自衛権行使等何らかの正当化事由を備えているかどうかの検討を期待している。
2243
2244
2245 他方,
2246 国家承認について創設的効果説の立場に立ち,
2247 Z国の「セント国」未承認ゆえに,
2248
2249 国との関係では「セント国」が未成立だと考えれば,
2250 国内の騒じょう状態に対して正統政府か
2251 らの軍事支援の要請にこたえたという評価ができる。
2252
2253 ただし,
2254 騒じょう状態になっても数年に
2255 及ぶ実効支配が事実上成立している場合には軍事支援自体がX国の内政干渉に当たるおそれが
2256 ある。
2257
2258
2259 〔第2問〕
2260 設問1においては,
2261 国際法は,
2262 領域主権の絶対性が主張された時期を経て,
2263 領域使用の管理
2264 責任原則や,
2265 国際環境損害防止原則を発展させてきたのであり,
2266 越境環境損害を生ずるような
2267 領域使用は,
2268 領域主権の絶対性により正当化することはできないことを明確に論証することが
2269 求められている。
2270
2271
2272 第一に,
2273 国家は領域に対して領域主権を持つが,
2274 それに伴う義務も負う。
2275
2276 例えば,
2277 在留外国
2278 人に,
2279 国際法に従って適当な処遇を与える義務がある。
2280
2281 設問のような事例では,
2282 一方で,
2283 領域
2284 を使用する国の領域主権と,
2285 その使用により影響を受ける国の領域主権ないしは領土保全の権
2286 利が対立する。
2287
2288 相互に対等な二国の権利を調整する必要があり,
2289 それゆえに,
2290 領域使用の管理
2291 責任原則が確立してきたことを理解していることが求められる。
2292
2293 設問と同様の事実状況であっ
2294 たトレイル熔鉱所事件の仲裁判決が,
2295 この原則を宣言した代表的な例である。
2296
2297
2298 第二に,
2299 設問の事例は,
2300 越境環境損害に関するものであり,
2301 国際環境法の発展についての理
2302 解が求められている。
2303
2304 領域使用の管理責任原則は,
2305 国際環境法の分野では,
2306 他国や国際公域の
2307 環境に損害を与えないように確保する原則として,
2308 ストックホルム人間環境宣言第21原則や
2309 環境と開発に関するリオ宣言第2原則のいうように,
2310 国際環境損害防止原則へと展開している。
2311
2312
2313 これは,
2314 幾つかの国際環境保護条約にも挿入されており,
2315 慣習国際法上の原則として成立して
2316 いるとも評価されている。
2317
2318
2319 設問2においては,
2320 第一に,
2321 外交保護権は国家の権利であり,
2322 これを行使するか否かは国家
2323 の裁量判断にゆだねられていることを問うている。
2324
2325 国家は,
2326 国際法上で外交保護権を行使する
2327 ことを義務付けられることはない。
2328
2329 個人は,
2330 国家に外交保護権の行使を請求する権利を持たな
2331 い。
2332
2333
2334 第二に,
2335 国際法による個人の人権保護が進展してきていることから,
2336 外交保護権が国家の権
2337 利であるとする従来の考え方には疑問が提起されてきていることにも触れると,
2338 答案が一層充
2339 実した質のものとなる。
2340
2341
2342 設問3の小問(1)は,
2343 外交保護権の行使の要件としての国籍について問うている。
2344
2345 外交保
2346 護権の要件となる国籍については,
2347 ノッテボーム事件で宣言されたように,
2348 個人と国家との間
2349 に真正な結合があることが必要であるとされている。
2350
2351 本件の乙について,
2352 B国と真正な結合が
2353 あるかにつき,
2354 設問の事実を当てはめて論証することが求められる。
2355
2356
2357 小問(2)は,
2358 国籍の国際法平面での効果と,
2359 国内法平面での効果とでは区別されることを
2360 問うている。
2361
2362 国内法平面では,
2363 国籍付与要件は,
2364 国内管轄事項であり,
2365 主権国家が国内法によ
2366 り自由に決定できる。
2367
2368 国際法平面では,
2369 国籍を根拠として外交保護権を行使するためには,
2370
2371 正な結合といった基準を満たした国籍でなければならない。
2372
2373 国際法平面で外交保護権の要件と
2374 はいえない国籍であっても,
2375 国内法平面での効力には当然には影響しない。
2376
2377
2378
2379 - 17 -
2380
2381 [国際関係法(私法系)]
2382 〔第1問〕
2383 本問は,
2384 未成年者を被後見人とする後見人の選任につき国際裁判管轄の基準を問うと同時に,
2385
2386 後見人の選任から終了までに起こり得べき諸問題に適用される準拠法の決定とその適用を問う
2387 問題である。
2388
2389
2390 設問1の小問(1)は,
2391 未成年者を被後見人とする後見人選任の国際裁判管轄の基準を問う
2392 問題である。
2393
2394 後見人選任の国際裁判管轄を定める明文の規定はないこと,
2395 また,
2396 依拠すべき判
2397 例法も確立されていないことを指摘した後に,
2398 被後見人の保護という観点から管轄原因を論じ,
2399
2400 当該管轄原因を設問の事案に当てはめることが求められている。
2401
2402
2403 設問1の小問(2)は,
2404 後見人選任に適用される準拠法を問う問題である。
2405
2406 法の適用に関す
2407 る通則法(以下「通則法」という。
2408
2409 )第4条第1項の指定する準拠法(日本法)の下で事件本
2410 人が未成年者であること及び通則法第32条の指定する準拠法(日本法)の下で事件本人に親
2411 権者がいないことを確認し,
2412 後見人選任に適用される準拠法を通則法第35条の指定する日本
2413 法として特定することが望まれる。
2414
2415 なお,
2416 事件本人の本国法の決定については通則法第38条
2417 第1項ただし書の規定が適用されなければならない。
2418
2419
2420 設問2の小問(1)は,
2421 通則法第31条第1項後段のいわゆるセーフガード条項の趣旨の理
2422 解を問う問題である。
2423
2424 同項前段の規定が指定する法と後段の規定が指定する法の丁寧な当ては
2425 めも求められている。
2426
2427
2428 設問2の小問(2)は,
2429 養子縁組の成立により後見が終了するまでの準拠法の決定と適用を
2430 問うものである。
2431
2432 養子と養親との間の法律関係は通則法第32条によることを指摘しなければ
2433 ならない。
2434
2435 そして,
2436 同条の指定する子の常居所地法たる日本法の下で養親が親権者であること
2437 を確認した後に,
2438 後見が終了するか否かは通則法第35条の問題であり,
2439 当該規定の指定する
2440 日本法により後見が終了することに言及しなければならない。
2441
2442
2443 〔第2問〕
2444 本問は,
2445 国際的な売買の事案を基に,
2446 関係する問題の準拠法の決定方法を問う問題である。
2447
2448
2449 設問1の小問(1)は,
2450 「国際物品売買契約に関する国連条約」(以下「条約」という。
2451
2452 )の
2453 適用の可否を問う問題である。
2454
2455 条約第1条(1)の「売買」及び「営業所」を,
2456 それぞれ,
2457
2458 約第3条第1項及び第10条と関連付けながら論述するとともに,
2459 条約第1条(1)(a)に
2460 従い,
2461 本件に条約が適用されることに言及しなければならない。
2462
2463 最終的に条約の適用を排除す
2464 るという結論をとるにせよ,
2465 条約第1条(1)に基づき,
2466 本件が条約の適用範囲に入っている
2467 ことについて論述しなければならない。
2468
2469
2470 設問1の小問(2)は,
2471 契約準拠法の変更を認める通則法第9条の趣旨の理解とその適用を
2472 問う問題である。
2473
2474 取り分け,
2475 契約につき事後の法選択を許容する当該規定の趣旨に言及するこ
2476 とが求められている。
2477
2478
2479 設問2の小問(1)は,
2480 生産物責任に関する通則法第18条の解釈と適用を問う問題である。
2481
2482
2483 一般的不法行為に関する通則法第17条ではなく通則法第18条が適用されること,
2484 「引渡し
2485 を受けた地」という連結基準が採用された趣旨とその意味に言及しなければならない。
2486
2487
2488 設問2の小問(2)は,
2489 通則法第21条の理解とその適用を問う問題である。
2490
2491 不法行為につ
2492 いて準拠法の選択が許容される理由,
2493 選択の要件,
2494 取り分け選択の時点に言及しなければなら
2495 ない。
2496
2497
2498
2499 - 18 -
2500
2501