1 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(憲法)
2 1
3
4 出題の趣旨の補足
5 論ずべき具体的事項等については,
6 既に出題の趣旨において説明したとおりである。
7
8
9 昨年の採点実感等に関する意見の繰り返しになるが,
10 問題の事案は仮想のものであ
11 っても,
12 全く新しい議論をさせようとするものではなく,
13 法科大学院の授業,
14 基本判
15 例や基本書の理解から身に付けることが可能な基本的事項を正確に理解し,
16 これを基
17 に,
18 具体的問題に即して思考する能力,
19 応用力を試すものである。
20
21 採点に当たっても,
22
23 メリハリを付けて評価するようにしており,
24 取り分け「考える」力が現れている部分
25 があれば,
26 評価するようにしている。
27
28 なお,
29 出題に当たっては,
30 検討すべき対象を生
31 活保護と選挙権の問題に限定する示唆を問題文中に盛り込むなど,
32 受験者が解答する
33 に当たって余計な迷いが生じないように配慮した。
34
35
36
37 2
38
39 採点方針及び採点実感
40 各考査委員から寄せられた意見・感想をまとめると,
41 以下のとおりとなる。
42
43
44 (1) 全般的な印象について
45 ア 答案は,
46 生活保護に関する記述と選挙権に関する記述とが総合的に評価される
47 が,
48 多くの答案では両者の出来映えに大きな差があった。
49
50 また,
51 十分に論述し切
52 れていない(つまり記述量が少ない)答案が,
53 例年以上に多く見られた。
54
55
56 イ 荒削りな中でも的確にポイントをつかみ,
57 予備知識が少ない中でも論点の本質
58 に迫った「悩み」を見せてくれた答案もあったが,
59 そのような答案は少数にとど
60 まった。
61
62 法令や処分の合憲性が問題となるときには,
63 原告・被告双方の主張には
64 それぞれ相当な根拠があり,
65 結論をどうするか相当に頭を悩ますのが通常である。
66
67
68 悩みが感じられない答案とは,
69 真に解決されるべき論点にまで議論が深まってい
70 ない答案といえる。
71
72
73 要求されるのは,
74 パターン化した思考ではなく,
75 事案についての適切な分析能
76 力や柔軟な法解釈能力である。
77
78 例えば,
79 広い裁量があるというのみでは,
80 説得力の
81 ある答案にはならない。
82
83 事案に即して裁量の中身を議論する必要がある。
84
85
86 ウ 法令違憲と適用(処分)違憲の区別を意識した答案が,
87 ここ3年間で着実に増
88 加してきたことは,
89 評価できる。
90
91 しかし,
92 当該問題において,
93 必ず法令違憲と適
94 用(処分)違憲の問題が両方存在するとは限らない。
95
96 今年の問題の場合,
97 生活保護
98 法の法令違憲性を検討したものなど,
99 不適切な答案が目立った。
100
101 当該事案におい
102 て,
103 いかなる点の憲法違反を検討すべきかをよく考えることが重要である。
104
105
106 他方で,
107 「Xが選挙権を行使できなかったことが憲法違反である」などとする
108 のみで,
109 違憲無効とする対象が不明確な答案も依然として存した。
110
111
112 エ 具体的な事実を考察の対象としているものが,
113 以前に比べれば,
114 増えてきては
115 いる。
116
117 しかし,
118 なお,
119 当該事案の問題点に踏み込む姿勢が乏しく,
120 違憲審査基準
121 (比例原則にしても同様)を持ち出して,
122 表面的・抽象的・観念的な記述のもと
123 で,
124 あらかじめ用意してある目的手段審査のパターンの範囲内で答案を作成しよ
125 うとする傾向が見られる。
126
127
128 また,
129 審査基準の定立に終始する答案も多く,
130 その中でも,
131 Xの主張では厳し
132 い(場合によっては極端に厳しい)審査基準を立て,
133 想定されるYの反論では緩
134
135 -1-
136
137 やかな審査基準を立て,
138 あなたの見解では中間的基準を立てるというように,
139 問
140 題の内容を検討することなく,
141 パターン化した答案構成をするものが目立った。
142
143
144 オ 法令や処分の合憲性を検討するに当たっては,
145 まず,
146 問題になっている法令や
147 処分が,
148 どのような権利を,
149 どのように制約しているのかを確定することが必要
150 である。
151
152 次に,
153 制約されている権利は憲法上保障されているのか否かを,
154 確定す
155 る必要がある。
156
157 この二つが確定されて初めて,
158 人権(憲法)問題が存在することに
159 なるのであり,
160 ここから,
161 当該制約の合憲性の検討が始まる。
162
163
164 その際,
165 どのようなものでも審査基準論を示せばよいというものではない。
166
167 審
168 査基準とは何であるのかを,
169 まず理解する必要がある。
170
171 また,
172 幾つかの審査基準
173 から,
174 なぜ当該審査基準を選択するのか,
175 その理由が説明されなければならない。
176
177
178 さらには,
179 審査基準を選択すれば,
180 それで自動的に結論が出てくるわけではなく,
181
182 結論を導き出すには,
183 事案の内容に即した個別的・具体的検討が必要である。
184
185
186 比例原則での個別的比較衡量を選択するのならば,
187 なぜあらかじめ基準を立て
188 ない比例原則を採るのか,
189 比例原則で何をどのように比較衡量するのかについて,
190
191 それらがきちんと説明されていなければならない。
192
193 比例原則の場合にも,
194 その原
195 則自体が個別的比較衡量であるので,
196 事案の内容に即した個別的・具体的検討が
197 必要である。
198
199
200 カ 公職選挙法のように,
201 司法試験用法文に登載されている法令に関しては,
202 解答
203 に当たり検討することが必要な法令であっても,
204 改めて参考資料として問題に付
205 することはないので注意が必要である。
206
207 本問では,
208 問題文中で公職選挙法の条文
209 番号を掲示しており,
210 同法を司法試験用法文で参照した上で検討することが求め
211 られる。
212
213
214 キ 文章作成能力は法曹にとって重要かつ必須の能力であるが,
215 この能力が要求さ
216 れる水準に達していない答案が多かった。
217
218 中には,
219 論理的な一貫性や整合性に難
220 点があるにとどまらず,
221 判読自体が困難なものや文意が不明であるものも見受け
222 られた。
223
224 自覚的な文章作成能力の涵養が望まれる。
225
226
227 (2) 生活保護関係について
228 ア 本問では,
229 生活保護法自体ではなく,
230 行政機関によるその解釈適用(運用)の適
231 否が問題となる。
232
233 そのため,
234 受験者は,
235 解釈論や価値判断を示す前提として,
236 生
237 活保護法第19条第1項の「居住地」「現在地」の文言の解釈適用(運用)が問
238 題となっていることを意識し,
239 同法の目的である生存権保障の観点からその解釈
240 を検討することが求められる。
241
242
243 ところが,
244 原告の主張で抽象的権利説に立ち,
245 「法律によって生存権という憲
246 法上の権利が具体化される」と述べながら,
247 生存権を具体化した生活保護法の具
248 体的規定を検討せず,
249 Xの救済の必要性を強調して直ちに憲法第25条違反と結
250 論づける答案が多かった。
251
252
253 地方自治体の「立法裁量」や「最低限度の生活の水準設定の裁量」の問題を長
254 々と論じたものも多く,
255 また,
256 生活保護法の適用(運用)を問題とする答案の中
257 にも,
258 「最低生活の認定」についての裁量を問題にするものが多かった。
259
260
261 「居住地」「現在地」の解釈適用(運用)を問題とする答案の中にも,
262 憲法第
263 25条及び生活保護法の趣旨から同法の条文解釈をするのではなく,
264 Y市側の解
265 釈適用(運用)の合憲性審査基準を検討して,
266 目的手段の審査により,
267 そのよう
268
269 -2-
270
271 な解釈適用(運用)の合憲性を判断するというものが多く見られた。
272
273 また,
274 Y市
275 側に行政裁量を認める答案も多く,
276 そのような答案の中には,
277 「市のイメージ悪
278 化を防ぐ」目的が重要であり,
279 Xによる生活保護申請の却下は「市の裁量の範囲
280 内」と簡単に結論付けるものも散見された。
281
282
283 イ 本問では,
284 生存権を具体化した生活保護法が既に存在し,
285 その解釈適用(運用)
286 が問題となっているのであるから,
287 生存権の法的性格を長々と論じる必要はない。
288
289
290 生存権の法的性格については,
291 現在の判例学説上プログラム規定説は採られてい
292 ないから,
293 「被告側の反論」においても,
294 プログラム規定説を主たる主張にする
295 のは適切でない。
296
297
298 また,
299 生存権の自由権的効果が問題になっているとする答案が少なからずあっ
300 た。
301
302 生存権の自由権的効果とは具体的に何を意味するのかも問われるが,
303 生活保
304 護法に具体化されている生存権は,
305 社会権としての生存権の中核をなすものであ
306 る。
307
308
309 ウ 平等権に関する論述において,
310 地域的不平等に基づく差別の問題であると指摘
311 した答案は多かったが,
312 区別の合理性の有無を検討するに当たっては,
313 生存権保
314 障という生活保護の制度趣旨と地方自治との関係を意識せず,
315 審査基準を立てた
316 上で,
317 市のイメージ悪化防止や財政事情という「目的」と,
318 ネットカフェを「居
319 住地」「現在地」と認めない解釈適用(運用)又は生活保護申請を却下するとい
320 う「手段」の関連性等を論じて結論を出している答案が多かった。
321
322 なお,
323 地方自
324 治体による異なる取扱いの先例である最高裁昭和33年10月15日大法廷判決
325 (東京都売春取締条例事件判決)に触れ,
326 当該先例の事案と本件の問題の違いに
327 ついて検討している答案はほとんどなかった。
328
329
330 (3) 選挙権関係について
331 ア 本問では,
332 住所を有しない者に国政選挙における選挙権行使を認めないことの
333 適否が問題となることから,
334 最高裁平成17年9月14日大法廷判決(在外邦人
335 選挙権訴訟)を踏まえて検討することが必要である。
336
337 同判決は,
338 近年の最高裁に
339 よる違憲判決であり,
340 選挙権又はその行使の制限の合憲性を検討する上で極めて
341 重要かつ基本的な判決である。
342
343 また,
344 立法不作為が違憲違法とされる要件につい
345 ても重要な判断を示している。
346
347 そのため,
348 当該判決に関しては,
349 法科大学院の授
350 業でも扱われていると思われるが,
351 同判決について意識しない答案が極めて多数
352 に上った。
353
354
355 イ 公職選挙法上,
356 住所を有しない者が投票する仕組みが設けられておらず,
357 その
358 選挙権の行使が制限されていることについて,
359 在外邦人選挙権訴訟判決を踏まえ
360 て,
361 立法不作為の問題として検討する答案は必ずしも多くなかった。
362
363 公職選挙法
364 第21条(中には住民基本台帳法第15条)等の規定が違憲で無効である旨を論
365 じる答案が多く見られたが,
366 本来,
367 これらの規定を無効とするだけでは,
368 選挙の
369 執行自体が不能となりかねないという問題がある。
370
371 また,
372 公職選挙法の法令違憲
373 (立法不作為を含む)を検討せず,
374 Y市長によるXの住民登録抹消処分の処分違
375 憲のみを検討する答案も多く見られたが,
376 住民基本台帳の機能に対する配慮をお
377 よそ欠くものは,
378 説得力があるとは言えないだろう。
379
380
381 ウ 住所を有しない者の選挙権の行使が制限されていることの実体的合憲性につい
382 て,
383 在外邦人選挙権訴訟判決は,
384 選挙権又はその行使を制限することは,
385 そのよ
386
387 -3-
388
389 うな制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めること
390 が事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り違憲であると
391 しており,
392 厳格度の高められた審査をしている。
393
394 この判例の枠組みによるときは,
395
396 住所を有しない者に選挙権の行使を認めないことが選挙の公正の確保との関係で
397 やむを得ないものかどうかを具体的に検討することが求められる。
398
399 答案の多くは,
400
401 上記判例を意識せず,
402 目的手段審査によるものであったが,
403 その場合でも同様の
404 検討が求められる。
405
406
407 この点について,
408 住所を有しない者に選挙権の行使を認める場合に選挙の公正
409 確保との関係で考えられる問題点や,
410 それを解決する方策の可能性を具体的に検
411 討しようとする答案も相当数見られた。
412
413 しかし,
414 選挙権という重要な権利が問題
415 になっているので「厳格審査の基準」でその合憲性を審査するなどとするのみで,
416
417 具体的な検討なく安易に違憲としている答案も多く,
418 逆に,
419 「選挙権は権利であ
420 ると同時に公的な義務」と位置付けるだけで,
421 安易に制限を合憲とする答案も意
422 外に多かった。
423
424
425 エ 上記のような厳格な審査を基礎付けるには,
426 合憲性判断の枠組みを選挙権及び
427 投票権の憲法上の位置付けからしっかりと検討することが必要であるが,
428 選挙権
429 の重要性を「国民主権」「間接民主制」からきちんと述べてある答案が余りなく,
430
431 「表現の自由の自己統治の価値」,
432 「表現の自由と同様,
433 政治的意見を表明する権
434 利」など,
435 表現の自由の重要性から演繹する答案が意外に多かった。
436
437
438 オ 選挙権の行使が妨げられたことについて,
439 立法不作為の違憲を理由とする国家
440 賠償請求訴訟の可能性に全く言及しない答案も相当数にあった。
441
442 立法不作為によ
443 る国家賠償請求に触れた答案でも,
444 在外邦人選挙権訴訟判決を意識した答案はま
445 れであり,
446 最高裁昭和60年11月21日判決(在宅投票制廃止訴訟)のみに基
447 づいて検討する答案が多くあった。
448
449
450 在外邦人選挙権訴訟判決では,
451 国が国民の選挙権の行使を可能にするための所
452 要の措置をとらないという不作為によって国民が選挙権を行使することができな
453 い場合の立法不作為の実体的合憲性の問題と,
454 立法不作為が国家賠償法上違法の
455 評価を受けるための要件という問題を区別して検討しているが,
456 この2つの問題
457 の区別を意識しない答案が多く見られた。
458
459
460 立法不作為の国家賠償法上の違法性に関して,本問では,
461 「7年前に改正を求め
462 る請願書を総務省に提出していた」という事案であり,
463 在外邦人選挙権訴訟判決
464 の事案とは異なっていることから,
465 そのことを踏まえて検討することが求められ
466 る。
467
468 しかし,
469 これらの点について具体的に検討する答案は,
470 ほとんどなかった。
471
472
473 3
474
475 今後の法科大学院教育に求めるもの
476 憲法上の問題を検討するに当たっては,
477 判断枠組みの構築と当該事案における個別
478 的・具体的な検討が必要不可欠である。
479
480 法科大学院では,
481 審査基準(三段階審査とか
482 比例原則という言葉)の定型的・観念的使用を戒めるとともに,
483 それらの内容の精確
484 な理解(問題点を含めて)を学生に深めさせる教育が求められる。
485
486
487 また,
488 実務において判例の持つ意味を十分に認識し,
489 基本判例は,
490 判決原文に照ら
491 して検討する必要がある。
492
493 その上で,
494 当該判決における理論的問題を検討し,
495 そして
496 事実認定・事実評価の問題点を個別的・具体的に理解・検討することが求められる。
497
498
499
500 -4-
501
502 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(行政法)
503 1
504
505 2
506
507 出題の趣旨
508 別途公表している「出題の趣旨」を,
509 参照いただきたい。
510
511
512 採点方針
513 採点に当たり重視していることは,
514 法的な論述に慣れ,
515 分かりやすく,
516 かつ,
517 受験
518 生の思考の跡を採点者が追うことができるような文章を書いているか,
519 という点であ
520 る。
521
522 決して知識の量に重点を置いているわけではない。
523
524
525
526 3 答案に求められる水準
527 (1) 設問1
528 本件において提起されることが見込まれる住民訴訟に関し,
529 @村長Eが地方自治
530 法第242条第1項にいう「普通地方公共団体の長」として「違法」な「財産の…
531 処分」(又は「契約の締結」)をしたとされることについて,
532 A村の「執行機関又は
533 職員」(本件ではE)を被告として,
534 この者においてA村がEに対して有する損害
535 賠償請求権の行使をすることを求める内容のもの(義務付け訴訟)であることが押
536 さえられているかどうかを,
537 A他の主要な論点(Bについての出訴期間の遵守,
538 C
539 についての「住民」要件の充足,
540 Dについての「住民監査請求前置」の充足)への
541 解答とあいまって,
542 優秀な答案であるかどうかを判定する際の目安とした。
543
544
545 住民訴訟制度についての受験者の一般的な習得の程度を考慮し,
546 上記の@の点に
547 ついては,
548 上記の全ての要素に明示的に触れていなくても,
549 おおよその理解ができ
550 ていることがうかがわれれば,
551 優秀又は良好な答案と判定し,
552 一部の理解に誤りが
553 あることがうかがわれる場合にも一応の水準の答案と判定した。
554
555
556 (2) 設問2
557 普通地方公共団体による契約の締結においては一般競争入札が原則とされ,
558 随意
559 契約は例外とされている趣旨(地方自治法第234条等関係)については,
560 一般に,
561
562 契約の締結に当たっての機会の均等,
563 手続の透明さ,
564 合意に係る金額の適正さ等の
565 確保が挙げられるところ,
566 これらの点におおむね触れられていれば優秀な答案と,
567
568 半分以上程度に触れられていれば良好な答案と判定した。
569
570 地方自治法施行令第16
571 7条の2第1項第2号を適切に適用し,
572 あるいは,
573 価格の下限の不設定,
574 側溝部分
575 等の対価免除,
576 関係職員の親類への売却,
577 村民による買換えといった事実から,
578 B
579 が主張すると考えられる違法事由について,
580 村の側の主張やFの立場に立った見解
581 を明確に示していれば,
582 優秀な答案と判定した。
583
584
585 適正な対価なくしてされる財産の譲渡につき議会の議決が必要とされる趣旨(地
586 方自治法第96条第1項第6号等関係)については,
587 一般に,
588 普通地方公共団体に
589 損失が生ずること及び財政運営にゆがみが生ずることを回避することが挙げられて
590 いるところ,
591 これらの点に触れられていれば優秀又は良好な答案と判定した。
592
593 また,
594
595 上記の観点から,
596 「適正な対価」とは,
597 一般に,
598 当該財産の時価がこれに当たると
599 解されているところ,
600 このことが基本とされていれば,
601 当該答案は一応の水準にあ
602 ると判定し,
603 その上で,
604 そのことを踏まえつつ,
605 本件のような事情の下では時価の
606 把握が困難で政策的配慮も関係し判断に幅が生じ得ることを意識して論じてあれば,
607
608
609 -5-
610
611 優秀度ないしは良好度の高いものとして評価した。
612
613
614 (3) 設問3
615 問題文に掲げられた裁判例が,
616 いずれも,
617 違法な財産の処分をした長に対する損
618 害賠償請求権を放棄するか否かの判断につき,
619 議会に裁量を認めていることが理解
620 されていれば,
621 一応の水準に達しているものとした上で,
622 各裁判例にあっては,
623 そ
624 れぞれの事案における事実関係に由来するもののみならず,
625 上記のような請求権に
626 係るものを含めて住民により選挙された議員で構成される議会の判断は原則として
627 尊重されるべきものとするか,
628 住民訴訟において第1審でのものといえども違法と
629 する判決が言い渡された場合には,
630 そのことを重視して慎重に判断することが要請
631 されるものとするかの点をめぐって,
632 基本的な考え方の傾向に違いがあることを理
633 解しているかどうかで,
634 優秀度ないしは良好度の高さを判定した。
635
636
637 4
638
639 採点実感
640 以下は,
641 採点委員から寄せられた主要な意見をまとめたものである。
642
643
644 (1) 全体的印象
645 ・ 住民訴訟を素材とした出題であったが,
646 時間切れとおぼしき答案を除き,
647 いず
648 れの答案も,
649 何とか設問に食らいつき,
650 解答しようとする姿勢が現れており,
651 好
652 感が持てた。
653
654
655 ・ 各当事者の主張を客観的にまとめた答案が意外に少なかった。
656
657 原告側,
658 被告側,
659
660 F弁護士の所見・解答者自身の意見が混然一体となっていた答案が多かった。
661
662
663 ・ 今回の出題においては,
664 行政訴訟の訴訟要件の判断,
665 行政法規の条文及び事実
666 関係に照らした行政活動の違法性判断,
667 裁判例の比較と事案への当てはめという,
668
669 3つの異なった角度からの設問が用意されており,
670 それぞれの設問の出来具合が
671 必ずしも比例していない受験者もかなり見られたことからしても,
672 受験者の総合
673 的な力量を問うことができた。
674
675
676 ・ 住民訴訟を出題したことに対しては,
677 法科大学院での行政法分野の中での比重
678 や地方自治法科目の有無との関連で批判があるかもしれないが,
679 採点してみての
680 実感としては,
681 受験生の実力差がきちんと測れたと思われる。
682
683
684 (2) 条文の解釈,
685 当てはめが欠けている答案について
686 ・ 添付資料として関係法令が付されているのに,
687 何号によって随意契約が許され
688 るかという当てはめをせず,
689 生の事実だけを書いている例もある程度あり,
690 条文
691 を重視する姿勢が欠けていると思われた。
692
693
694 ・ 法的三段論法を習得していない答案が多い。
695
696
697 ・ 関係法令の趣旨を記述したものが余り多くなかった。
698
699 また,
700 記述されている場
701 合でも,
702 記述量が乏しく,
703 さらに,
704 趣旨の記述を条文解釈に関連付けた答案はご
705 く少数であった。
706
707 問題文で示されている諸事実が,
708 条文解釈を通じた主張として
709 用いられていない答案も目立った。
710
711
712 ・ 問題の売買契約の適法・違法を論じるに当たり,
713 法令の解釈・適用よりもむし
714 ろ各人の一般常識に依拠した判断を示す例が少なくない。
715
716
717 ・ 【資料1】及び【資料2】において,
718 検討すべき法令が具体的に示されており,
719
720 法令解釈の検討対象が明らかであるにもかかわらず,
721 当該各法令につきその立法
722 趣旨にさかのぼった骨太な立論が展開された答案は少なかった。
723
724 総じて,
725 一定の
726
727 -6-
728
729 視点から事案を分析・整理した上で,
730 法令の解釈・適用を行うという法実務家に
731 求められる基本的素養が欠如していると言わざるを得ない答案が多かったのは,
732
733 残念である。
734
735
736 (3) 安易に行政裁量の逸脱・濫用を説く答案について
737 ・ 全体として気になったのは,
738 行政裁量の扱いである。
739
740 設問2で,
741 「適正な対価」
742 の判断について,
743 政策を実現する目的を考慮して廉価と認定する行政裁量を容易
744 に認める答案が目立ち,
745 また,
746 法令の個々の規定から離れて随意契約を締結する
747 行政裁量を認めるかのような答案も散見された。
748
749 まずは法令を綿密に解釈し,
750 そ
751 れを前提及び基礎にして,
752 行政機関に求められる判断のうち裁量が認められる部
753 分を特定する必要がある。
754
755
756 (4) 設問に答えていない答案について
757 ・ 問題文をきちんと読まず,
758 設問に答えていない答案が多い。
759
760
761 ・ 問題文の設定に対応した解答の筋書を立てることが,
762 多くの答案では,
763 なおで
764 きていない。
765
766
767 (5) 字が乱雑で判読不能な答案について
768 ・ 字が汚い答案(字を崩す)が多い。
769
770 時間がないことも十分に理解できるが,
771 か
772 い書で読みやすく書かれている答案も多く,
773 合理的な理由とはならないであろう。
774
775
776 例えば,
777 「適法」「違法」のいずれかであることまでは判別できるが,
778 それ以上判
779 別する手掛かりがなく,
780 一番肝心な最終結論が分からないという答案も散見され
781 た。
782
783
784 ・ 字を判読できない答案には閉口した。
785
786 字の上手下手があるのは当然であるが,
787
788 そうではなく,
789 読まれることを前提としないかのような殴り書きの答案が相当数
790 あった。
791
792 時間が足りなくなって分かっていることを全て記載したいという気持ち
793 は理解できるが,
794 自分の考えを相手に理解させるのが法曹にとって必須の要素と
795 思われ,
796 その資質に疑問を感じざるを得ないように思った。
797
798
799 (6) 答案における文章表現について
800 ・ 一文一段落という,
801 実質的に箇条書に等しい書き方をする等,
802 小論文の文章と
803 しての体裁をなしていない例が少なくない。
804
805
806 ・ 「この点」を濫発する答案が少なからずあったが,
807 「この」が何を指示してい
808 るのが不明な場合が多く,
809 日本語の文章としても,
810 極めて不自然なものとなって
811 いる。
812
813
814 (7) 設問1について
815 ・ 全体的におおむね出来は良く,
816 住民訴訟の訴訟要件については,
817 受験生は総じ
818 て,
819 一応の知識は持っていると感じた。
820
821
822 ・ 4号請求の内容を正しく答えられない答案(被告を書いていないもの,
823 議会,
824
825 監査委員などとするもの,
826 Eに対して直接損害賠償請求をするというもの,
827 「怠る
828 事実」の相手方としてEを位置付けるもの,
829 Eに対する賠償命令の義務付けを請
830 求内容とするものなど)が見られた。
831
832
833 ・ 出訴期間について触れているものが少なかった。
834
835 また,
836 出訴期間ではなく,
837 監
838 査請求期間について触れているものが相当数あった。
839
840
841 (8) 設問2について
842 ・ 実体法の解釈・適用に弱いとの傾向は,
843 今回も見られた。
844
845
846
847 -7-
848
849 ・
850
851 「Fの立場に立って」,
852 「契約の適法性について,
853 詳細に検討しなさい。
854
855 」とい
856 う設問にもかかわらず,
857 住民側の主張と村側の主張を,
858 平板に並べるだけで,
859 契
860 約の適法性を検討することができていないものが意外に多かった。
861
862
863 ・ 随意契約によることができるかどうかについては,
864 地方自治法第234条第2
865 項を受けた地方自治法施行令第167条の2第1項各号の該当性を具体的に検討
866 すべきところ,
867 どの号に該当するかを論じないで,
868 一般的に,
869 不公正であるか,
870
871 あるいは,
872 村長の裁量の範囲を逸脱しているかといった点を論じたものも目立っ
873 た。
874
875
876 ・ 前年の売却が競争入札であると決めつけた上で8,
877 9号該当性を論じたり,
878 本
879 件の契約が競争入札であることを論じるなど,
880 問題文の読解に難があるものも少
881 なからずあった。
882
883
884 (9) 設問3について
885 ・ 一刀両断に「事案が異なるから」とした答案は,
886 問題文を読む素直さに欠けて
887 いるように思われた。
888
889 判決の論理や背景にある制度理解を対比した上で分析でき
890 るようにするためのトレーニングも必要であると感じた。
891
892
893 ・ 判例解釈については,
894 大きく分けて,
895 @住民代表である議会を尊重する立場と
896 住民訴訟による違法の是正を尊重する立場の違いとするもの,
897 A両者は矛盾する
898 ものではなく議会の裁量にも限界があるから種々の事情を合理的に検討しなけれ
899 ばならないとするもの,
900 B事案の違いとのみ述べるものに分かれ,
901 @とAを統合
902 して,
903 住民訴訟の趣旨との関係で議決権の裁量の限界を述べ,
904 議決権濫用の有無
905 をどのように審査するのかについてまで述べられたものは少なかった。
906
907
908 5
909
910 今後の法科大学院教育に求めるもの
911 法律実務家に求められる基本的素養を涵養するという原点に立ち返りつつ,
912 初見
913 の法令に関しても,
914 その趣旨,
915 目的,
916 条文構造等を分析・検討し,
917 説得力のある結
918 論を導くといった訓練が行われることを期待したい。
919
920
921
922 -8-
923
924 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(商法)
925 1
926
927 出題の趣旨,
928 ねらい等
929 既に「平成22年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」
930 (以下「出題趣旨」という。
931
932 )
933 において説明しているとおりであり,
934 特に補足すべき点はない。
935
936
937
938 2
939
940 採点方針,
941 採点実感
942 民事系科目第1問が商法からの出題である。
943
944 これは,
945 比較的詳細に示された事実関
946 係や,
947 貸借対照表及び履歴事項全部証明書の法的文書を読み解き,
948 分析して,
949 会社法
950 上の論点を的確に抽出し,
951 事案に即した責任関係を明らかにするという,
952 法曹に求め
953 られる基本的な知識と能力を試すものである。
954
955
956 設問1については,
957 ほとんどの答案が会社法第52条の責任の問題として検討する
958 ことができた。
959
960 しかし,
961 同条の発起人としての責任と設立時取締役としての責任の双
962 方が問題となることを明確にしていないか,
963 一方の責任についてのみ論じる答案も多
964 かった。
965
966 本件の事案が同条第1項の「著しく不足する」という要件に該当するかを論
967 じないで,
968 他の要件のみを検討する答案もかなりあった。
969
970 また,
971 Aが,
972 現物出資者で
973 あるため同条第2項の適用がなく(同項柱書かっこ書),
974 同条第1項の責任につき無
975 過失責任を負うことを指摘していない答案も多かった。
976
977 これに対し,
978 Bについては,
979
980 本件事案では検査役が選任されていないため同条第2項第1号の適用はなく,
981 同項第
982 2号により,
983 無過失を立証すれば同条第1項の責任を負わないことを論じていない答
984 案がかなりあり,
985 中には検査役を選任しなかったこと自体により責任を負うという誤
986 った理解をした答案もあった。
987
988
989 また,
990 設問1のA,
991 Bについては,
992 会社法第53条の発起人・設立時取締役の任務
993 懈怠責任も問題になるが,
994 これについて論じていない答案も多かった。
995
996 彼らの任務に
997 会社法第46条第1項第2号による現物出資財産等の価額の証明等の相当性に関する
998 調査が含まれることを理解できていないと言える。
999
1000
1001 設問2において,
1002 まず,
1003 見せ金による払込みの効力が問題となる。
1004
1005 しかし,
1006 「見せ
1007 金」の概念及び問題の所在を示した上で,
1008 本件事案が見せ金に該当するか否かを論じ
1009 ている答案は,
1010 少なかった。
1011
1012 最高裁昭和38年12月6日第2小法廷判決(民集17
1013 巻12号1633頁)は,
1014 払込み後,
1015 当該借入金を返済するまでの期間の長短,
1016 払込
1017 金が会社資金として運用された事実の有無,
1018 当該借入金の返済が会社の資金関係に及
1019 ぼす影響という三要件により,
1020 見せ金に該当するか否かを判断し,
1021 見せ金による払込
1022 みは効力を有しない旨を判示しており,
1023 この判例を引用して解答すべきであるが,
1024 こ
1025 の判例に言及している答案はほとんどなかった。
1026
1027 もっとも,
1028 この判例を引用しないが,
1029
1030 三要件に従って見せ金に該当し払込みとしての効力がない旨を論じている答案は相当
1031 数存在した。
1032
1033 学説上は見せ金による払込みを有効とする説もあり,
1034 有効説に立つ答案
1035 もある程度存在したが,
1036 いずれの説に立つ答案も,
1037 その根拠を適切に論じているもの
1038 はそれほど多くなかった。
1039
1040 採点においては,
1041 無効説・有効説いずれをとっても,
1042 その
1043 理由等が適切に述べられていれば,
1044 同様に評価した。
1045
1046
1047 見せ金による払込みの効力が無効である立場を採るとしても,
1048 これにより発行され
1049 た株式の効力については,
1050 最高裁平成9年1月28日第3小法廷判決(民集51巻1
1051 号71頁)が,
1052 取締役の引受担保責任が存在することを理由に,
1053 見せ金による払込み
1054
1055 -9-
1056
1057 がされた場合であっても,
1058 新株発行が無効となるものではない旨を判示している。
1059
1060 し
1061 かし,
1062 会社法により,
1063 引受担保責任が廃止されたことを受けて,
1064 見せ金による払込み
1065 がされた場合は新株発行無効事由又は新株発行不存在事由になるとする学説等もある。
1066
1067
1068 これら判例・学説等を踏まえて論じた答案はごく僅かであった。
1069
1070 また,
1071 本件募集株式
1072 発行については,
1073 見せ金を除くごく一部につき実際の払込みがあることを,
1074 本件募集
1075 株式発行により発行された株式の効力を考える上で,
1076 いかに評価するかを論じる必要
1077 がある。
1078
1079 しかし,
1080 これを論じている答案は更に少なかった。
1081
1082
1083 本件募集株式発行に係るA及びBの甲社に対する責任は,
1084 Aが,
1085 見せ金による払込
1086 みに関与し,
1087 本件募集株式発行をしたこと又は丙社のDに払込金を交付したことの評
1088 価や,
1089 それについてのBの監視義務の有無等から,
1090 A,
1091 Bに甲会社に対し取締役とし
1092 ての任務懈怠責任があったかを,
1093 自説とした見せ金払込有効説又は無効説を前提に,
1094
1095 事実関係を丁寧に拾い上げて論じる必要がある(有効説においては,
1096 交付の法的評価
1097 が大きな問題となる。
1098
1099 )。
1100
1101 しかし,
1102 そのような前提や事実関係を踏まえた議論ができて
1103 いた答案は極めて僅かであった。
1104
1105 また,
1106 本件募集株式発行に係る丙社の甲会社に対す
1107 る責任については,
1108 丙社による払込みが無効であると,
1109 丙は,
1110 募集株式の株主となる
1111 権利を失い(会社法第208条第5項),
1112 丙社の払込責任もなくなるともいえる。
1113
1114 し
1115 かし,
1116 見せ金による払込みのために資金調達ができていないことによる甲社の株主の
1117 不利益等を考えると,
1118 丙社の甲社に対する責任を,
1119 会社法第212条第1項第1号の
1120 類推適用等により導くような考えもあり得るものと考えられる。
1121
1122 失権について触れた
1123 答案は僅かであったが,
1124 相当数の答案が同号を類推する議論を展開していた。
1125
1126
1127 本件募集株式発行に係るA及びBの乙銀行に対する会社法上の責任としては,
1128 A,
1129
1130 Bともにまず会社法第429条第1項の責任が問題になる。
1131
1132 同項の責任については,
1133
1134 A,
1135 Bの取締役としての任務懈怠の有無(Bの場合は監視義務違反),
1136 損害との因果
1137 関係等を論じる必要がある。
1138
1139 また,
1140 同条第2項第1号ロ・ハの責任も論じる必要があ
1141 る。
1142
1143 前者の責任については,
1144 かなりの答案が論じていたが,
1145 前記のような要件につい
1146 て立ち入った分析をしている答案は多くはなかった(監視義務違反を論じているもの
1147 は多かった。
1148
1149 )。
1150
1151 後者の責任については,
1152 そもそも論じていない答案も多く,
1153 論じても,
1154
1155 AのほかBも責任の主体になり得るか等の問題の検討や,
1156 見せ金による払込みの効力
1157 及び株式の効力と整合的に,
1158 貸借対照表及び履歴事項全部証明書の内容を分析するこ
1159 とが,
1160 不十分であっただけでなく,
1161 同条第2項第1号の要件を満たすから同条第1項
1162 の責任が認められると議論する等,
1163 前者の責任と後者の責任の関係を理解していない
1164 ものが圧倒的であった。
1165
1166
1167 以上のような採点実感に照らすと,
1168 「優秀」,
1169 「良好」,
1170 「一応の水準」,
1171 「不良」の四
1172 つの水準の答案は,
1173 以下のようなものと考えられる。
1174
1175 第一に,
1176 「優秀」な答案は,
1177 上
1178 記の採点のポイントとして挙げた論点の主要なものをほぼ論じることができていて(各
1179 設問につき主要な論点の一,
1180 二が欠けている程度は,
1181 差し支えない。
1182
1183 ),
1184 各問題につき
1185 相当な理由をもって自らの考えを述べ,
1186 その考えに基づき論理的に整合性をもった法
1187 的議論を展開することのできている答案である。
1188
1189 「良好」な答案は,
1190 主要な論点で論
1191 じられていないものが若干あるが,
1192 取り上げた論点についてはそれなりの論理的に整
1193 合性をもった法的議論がなされている答案である。
1194
1195 「一応の水準」の答案は,
1196 最低限
1197 押さえるべき論点,
1198 例えば,
1199 設問1であれば,
1200 会社法第52条の責任の問題となるこ
1201 とや,
1202 設問2であれば,
1203 見せ金による払込みの問題になること等が,
1204 少なくとも実質
1205
1206 - 10 -
1207
1208 的に論じられていて,
1209 議論の筋がある程度通っている答案である。
1210
1211 「不良」な答案は,
1212
1213 そのような最低限押さえるべき論点も押さえられていない答案や,
1214 議論の筋の通って
1215 いない答案である。
1216
1217
1218 3
1219
1220 今後の法科大学院教育に求められるもの
1221 上述の会社法第52条や第429条の責任の問題のように,
1222 基本的な会社法上の責
1223 任の構造に関する理解に不十分な面が見られる。
1224
1225 また,
1226 判例をきちんと身に付け,
1227 そ
1228 れを踏まえて議論するという,
1229 法曹に求められる基本的な思考方法が十分に身に付い
1230 ていない感がある。
1231
1232 見せ金による払込みに関する有効説と無効説,
1233 募集株式発行の効
1234 力等,
1235 法理論を理解しそれに基づいて論理的な思考をしたり,
1236 その考え方を応用する
1237 能力,
1238 例えば,
1239 判例・学説が余り論じていない問題につき,
1240 自分なりに法的議論を展
1241 開して適切な解決を求める能力などに,
1242 不十分な点が見られる。
1243
1244 これら法曹に求めら
1245 れる基本的能力を涵養する教育が求められる。
1246
1247
1248
1249 - 11 -
1250
1251 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(民法)
1252 1
1253
1254 出題の趣旨
1255 民事系科目(第2問)は,
1256 工場を個人で営むAとその家族らの取引と民事訴訟をめ
1257 ぐる事例に関して,
1258 民法上及び民事訴訟法上の問題点についての基礎的な理解を問う
1259 総合問題である。
1260
1261 具体的事実を法的な観点から評価し構成する能力,
1262 具体的な事実関
1263 係に即して基本問題を考察する能力及び論理的に一貫した論述をする能力などを試す
1264 ものである。
1265
1266 本問は,
1267 5つの設問から構成されているが,
1268 そのうち,
1269 設問1,
1270 設問2
1271 及び設問5は,
1272 それぞれ,
1273 代理,
1274 抵当権侵害による不法行為並びに認知,
1275 遺言及び金
1276 銭債務の相続といった家族法上の問題についての考察を求めていて,
1277 これらが民法か
1278 らの出題である。
1279
1280 民事系科目(第2問)の設問1,
1281 設問2及び設問5の出題の趣旨は,
1282
1283 以下のとおりである。
1284
1285
1286 設問1は,
1287 第1に,
1288 Fが第1訴訟において選択的にする二つの主張の法的構成が,
1289
1290 有権代理構成と権限外の行為の表見代理構成(民法第110条)であることを理解し
1291 た上で,
1292 二つの法的構成を区別することができるかどうか,
1293 第2に,
1294 各法的構成にお
1295 いて,
1296 事実@及び事実Aの性質を的確に把握することができるかどうかを問うもので
1297 ある。
1298
1299 まず,
1300 有権代理構成において,
1301 事実@はAがCに代理権を授与したことを推認
1302 させる間接事実である意義を有すると考えられ,
1303 これに対し,
1304 事実Aは特段の意義を
1305 有しない。
1306
1307 次に,
1308 権限外の行為の表見代理構成においては,
1309 事実@は2000万円の
1310 融資についてCに代理権があるものと信ずる正当な理由があるとする評価を根拠付け
1311 る事実である意義を有し,
1312 それとともに,
1313 事実@はAがCに1500万円の限度にお
1314 ける代理権を授与したことを推認させる間接事実である意義を有するとも考えられる。
1315
1316
1317 また,
1318 事実AはCに2000万円の借入れの権限があるかどうかをFが調査しようと
1319 試みたことを意味するものであるから,
1320 他の事情とあいまって,
1321 正当理由を根拠付け
1322 る一つの事実である意義を有するものとも考えられる。
1323
1324 反対に,
1325 事実Aのうち携帯電
1326 話がつながらないことは,
1327 Cの不審な挙動を示唆するものと見ることができないもの
1328 ではないから,
1329 それにもかかわらずA本人との接触に成功しないまま融資を敢行した
1330 こととあいまって,
1331 正当理由の評価障害事実になるとする性質把握も一定の説得力を
1332 持つ。
1333
1334 そこで,
1335 適切な理由が付されて解答されているかが問われることになる。
1336
1337
1338 設問2は,
1339 抵当不動産の第三取得者が抵当目的物件を故意に滅失させた事案につい
1340 て,
1341 抵当権侵害による不法行為に基づく損害賠償の成否を問うものである。
1342
1343
1344 小問(1)の考察においては,
1345 Eによる丙建物の取壊し後におけるFの被担保債権
1346 額と甲乙土地の価額との関係を考慮しつつ,
1347 抵当権侵害における損害の発生について,
1348
1349 抵当権の担保権的性質の基本的理解との関連を意識しつつ論ずることが望まれる。
1350
1351 こ
1352 こでは,
1353 【事実】及び〔設問〕のいずれにおいても,
1354 甲乙土地及び丙建物の価額は示
1355 されていないので,
1356 解答は抽象的な理論操作に基づく記述で足りる。
1357
1358 加えて,
1359 抵当権
1360 侵害における損害はどの時点で確定することができるかについて論ずることが望まれ
1361 る。
1362
1363 この点については,
1364 【事実】に基づくと,
1365 Eによる丙建物の取壊しは平成19年
1366 8月19日であり,
1367 Fに対するAの債務の第1回弁済期は平成20年3月15日であ
1368 るため,
1369 Eの行為が抵当権の被担保債権の弁済期前であることをどのように評価する
1370 かが問われることになる。
1371
1372
1373 小問(2)の考察では,
1374 民法第177条の第三者からはどのようなものが排除され
1375
1376 - 12 -
1377
1378 るべきか,
1379 その上で,
1380 【事実】に示された法律上有意な事実を過不足なく指摘しなが
1381 ら,
1382 EがFとの関係で,
1383 民法第177条の第三者から排除すべき者に当たるかを論ず
1384 ることが求められる。
1385
1386 加えてその前提として,
1387 不動産物権変動の第三者対抗の問題が,
1388
1389 不法行為の成立要件との関係でどのように位置付けられるかを論ずることが求められ
1390 る。
1391
1392 すなわち,
1393 不法行為の成立要件との関係において,
1394 抵当権者Fのために抵当権の
1395 設定の登記が行われていないことをどのように評価するか,
1396 また,
1397 丙建物の所有者E
1398 による取壊しが抵当権を侵害する行為に該当するか否かについての考察が必要となる。
1399
1400
1401 設問5は,
1402 次のような三つの法律問題についての考察を順に求めるものである。
1403
1404 第
1405 1に,
1406 認知者が認知の意思を表示し認知届を作成して使者に届出を委託した後に死亡
1407 し,
1408 この間に認知届が提出されていない場合,
1409 認知の効力は生じるかを問うものであ
1410 る。
1411
1412 認知届の提出が身分変動の効果が発生するための要件であるため,
1413 父の認知の意
1414 思が確認できたとしても,
1415 認知届が提出されていない以上,
1416 認知の効力は発生しない。
1417
1418
1419 第2に,
1420 自筆証書遺言の解釈として,
1421 遺言者の子ではない者に遺言者の遺産の3分の
1422 1を分けるということが何を意味するか,
1423 その場合に遺言者の相続人の法的地位はど
1424 のようなものかを問うものである。
1425
1426 平成20年4月6日付けのAの遺言に記載されて
1427 いる内容は,
1428 Eに対しては割合的包括遺贈であり,
1429 唯一の相続人であるCに対しては
1430 遺産の残余部分が相続により帰属することの確認となる。
1431
1432 第3に,
1433 割合的包括遺贈が
1434 行われた場合,
1435 受遺者は相続人として扱われ被相続人の債務も承継するところ,
1436 被相
1437 続人が負っていた金銭債務は相続人と受遺者にどのように承継されるかを問うもので
1438 ある。
1439
1440 割合的包括遺贈における金銭債務の承継については,
1441 金銭債務について共同相
1442 続が生じた場合の規律を参照しつつ,
1443 金銭債務の債権者は誰に対してどのように履行
1444 請求をすることができるのかについて考察することが望まれる。
1445
1446
1447 2
1448
1449 採点方針
1450 採点に当たっては,
1451 従来と同様,
1452 受験者の能力を多面的に測ることを目指した。
1453
1454 第
1455 1に,
1456 民法上の基本的な問題についての理解が確実に行われているかどうかを確かめ
1457 ることとした。
1458
1459 第2に,
1460 単に知識を確認するだけでなく,
1461 掘り下げた考察をしてそれ
1462 を明確に表現する能力,
1463 論理的に一貫した考察を行う能力及び具体的事実を注意深く
1464 分析した上で法的観点から評価する能力を確かめることとした。
1465
1466 第3に,
1467 基本的な問
1468 題の背後にあるより高度な問題に気が付いて,
1469 それに取り組む答案があれば,
1470 これを
1471 積極的に評価することとした。
1472
1473
1474 これらに加えて,
1475 総花的に諸論点に浅く言及する答案よりも,
1476 ある論点についての
1477 考察の要所において周到堅実であるものや創意工夫に富むものの方が,
1478 法的思考能力
1479 が優れていることを示していると考えられるため,
1480 高い評価を与え,
1481 反対に,
1482 論理的
1483 に矛盾する構成をするなど積極的なミスが著しいものについては,
1484 低く評価し,
1485 さら
1486 に,
1487 あわせて全体として適切な得点分布が実現することを心掛けた。
1488
1489
1490 そのため,
1491 1つの設問に複数の採点項目を設け,
1492 採点項目ごとに適切な考察が行わ
1493 れているかどうか,
1494 その考察がどの程度適切なものかに応じて点数を与えることとと
1495 もに,
1496 答案を全体として評価し,
1497 論述の緻密さ周到さの程度や構成の明快さの程度に
1498 応じても点数を与え,
1499 そのことにより,
1500 ある設問につき考察力や法的思考力の高さが
1501 示されている答案については,
1502 別の設問についての論点の幾つかを落としていたり,
1503
1504 知識不足や理解不足を露呈していたとしても,
1505 各設問につき知識のみを浅く書いてい
1506
1507 - 13 -
1508
1509 る答案よりも,
1510 高い評価を与えることができるようにした。
1511
1512
1513 3
1514
1515 採点実感等
1516 採点実感として,
1517 新司法試験考査委員会議申合せ事項にいう「優秀」,
1518 「良好」,
1519 「一
1520 応の水準」,
1521 「不良」の4つの区分に照らすと,
1522 例えば,
1523 どのような答案がそれぞれの
1524 区分に該当するかについて,
1525 各設問ごとに示すとすると,
1526 以下のとおりとなる。
1527
1528
1529 ただし,
1530 これらは,
1531 各区分に該当する答案の例であって,
1532 これらのほかに各区分に
1533 該当する答案はあり,
1534 それらは多様である。
1535
1536 なお,
1537 以下で用いる「適切に答える」,
1538
1539 「適
1540 切な解答」,
1541 「適切に解答する」又は「適切に論ずる」については,
1542 前記「1 出題の
1543 趣旨」を参照されたい。
1544
1545
1546 (1) 設問1について
1547 採点実感からは,
1548 優秀(100%から75%)に該当する答案の例は,
1549 権限外の
1550 行為の表見代理構成における事実@と事実Aや,
1551 有権代理構成における事実@と事
1552 実Aについて,
1553 いずれも適切に答えているものであり,
1554 良好(74%から58%)
1555 に該当する答案の例は,
1556 権限外の行為の表見代理構成における事実@と事実Aにつ
1557 いて適切に答え,
1558 有権代理構成における事実@又は事実Aのいずれかについて適切
1559 に答えているものであって,
1560 一応の水準(57%から42%)に該当する答案の例
1561 は,
1562 権限外の行為の表見代理構成における事実@と事実Aについて適切に答えてい
1563 るが,
1564 有権代理構成について答えるべき部分で,
1565 代理権授与の表示による表見代理
1566 構成について述べているものであり,
1567 不良(41%から0%)に該当する答案の例
1568 は,
1569 権限外の行為の表見代理構成における事実@又は事実Aのいずれかについて適
1570 切に答えているが,
1571 それ以外については適切な解答となっていないものである。
1572
1573 な
1574 お,
1575 権限外の行為の表見代理構成について適切に解答する答案の方が,
1576 有権代理構
1577 成について適切に解答する答案より多くあったが,
1578 有権代理構成について適切に答
1579 えながら,
1580 権限外の行為の表見代理構成について適切に答えない答案もあった。
1581
1582 全
1583 体としては,
1584 受験者の力の差が答案に示される問題であったと思われる。
1585
1586
1587 (2) 設問2について
1588 採点実感からは,
1589 優秀(100%から75%)に該当する答案の例は,
1590 小問(1)
1591 について,
1592 甲乙の不動産の価額と被担保債権額の多寡とともに,
1593 Eの行為と被担保
1594 債権額の弁済期の先後関係を論じつつ,
1595 小問(2)について,
1596 民法第177条の第
1597 三者から背信的悪意者が除外されることと,
1598 EはFとの関係で背信的悪意者に当た
1599 るか否かを論ずるものであり,
1600 良好(74%から58%)に該当する答案の例は,
1601
1602 小問(1)について,
1603 甲乙の不動産の価額と被担保債権額の多寡と,
1604 Eの行為と被担
1605 保債権額の弁済期の先後関係のいずれか一方を論じつつ,
1606 小問(2)について,
1607 民
1608 法第177条の第三者から背信的悪意者が除外されることと,
1609 EはFとの関係で背
1610 信的悪意者に当たるか否かを論ずるものであって,
1611 一応の水準(57%から42%)
1612 に該当する答案の例は,
1613 小問(1)について,
1614 適切な解答がなく,
1615 小問(2)につ
1616 いて,
1617 民法第177条の第三者から背信的悪意者が除外されることと,
1618 EはFとの
1619 関係で背信的悪意者に当たるか否かを論ずるものであり,
1620 不良(41%から0%)
1621 に該当する答案の例は,
1622 小問(1)についても,
1623 小問(2)についても,
1624 適切な解
1625 答がないものである。
1626
1627 なお,
1628 小問(2)については,
1629 比較的多くの答案が,
1630 民法第
1631 177条の第三者から背信的悪意者が除外されることと,
1632 EはFとの関係で背信的
1633
1634 - 14 -
1635
1636 悪意者に当たるか否かを論じていたが,
1637 小問(1)については,
1638 甲乙の不動産の価
1639 額と被担保債権額の多寡と,
1640 Eの行為と被担保債権額の弁済期の先後関係の双方を
1641 論ずるものは少なく,
1642 また,
1643 そのいずれか一方を論ずるものも多くはなかった。
1644
1645 抵
1646 当権侵害の不法行為という問題に対して,
1647 小問(1)について適切に論ずることが,
1648
1649 受験者全体にとって,
1650 難しいものであったと思われる。
1651
1652
1653 (3) 設問5について
1654 採点実感からは,
1655 優秀(100%から75%)に該当する答案の例は,
1656 届出がな
1657 いため認知の効力が生じていないこと,
1658 遺言の内容はEに対する割合的包括遺贈と
1659 解釈することができること及び金銭債務はEとCに分割して承継されることが答え
1660 られているものであり,
1661 良好(74%から58%)に該当する答案の例は,
1662 届出が
1663 ないため認知の効力が生じていないこと及び遺言の内容はEに対する割合的包括遺
1664 贈と解釈することができることは答えられているが,
1665 金銭債務の承継について適切
1666 な答えがないものであって,
1667 一応の水準(57%から42%)に該当する答案の例
1668 は,
1669 届出がないため認知の効力が生じていないことが答えられているが,
1670 遺言の内
1671 容及び金銭債務の承継について適切な答えがないものであり,
1672 不良(41%から0
1673 %)に該当する答案の例は,
1674 認知の効力,
1675 遺言の内容及び金銭債務の承継について
1676 適切な答えがないものである。
1677
1678 なお,
1679 届出がないにもかかわらず,
1680 認知の効力が生
1681 ずると解答する答案が多くあり,
1682 また,
1683 認知の効力は生じないとしつつも,
1684 遺言の
1685 内容の法的性質が包括遺贈であることを明らかにせずに,
1686 単に遺言によりEが債務
1687 を承継すると解答する答案や,
1688 包括遺贈の場合に受贈者が権利のみを承継し債務を
1689 承継しないと解答する答案が少なくなかった。
1690
1691 家族法,
1692 取り分け,
1693 親族法について
1694 の理解が,
1695 受験者全体において,
1696 相当程度低いことがうかがわれた。
1697
1698
1699
1700 - 15 -
1701
1702 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事訴訟法)
1703 1
1704
1705 出題の趣旨,
1706 ねらい
1707 「出題の趣旨」に記載したとおりであるが,
1708 今年も,
1709 法律知識や判例の内容を直接
1710 問うのではなく,
1711 具体的な事例の検討を通じて,
1712 法律制度や判例についての基本的な
1713 理解を問う問題であった。
1714
1715 ある程度のボリュームのある事例を前にその場で基本から
1716 考える姿勢が求められているのであり,
1717 単に事案に関係する知識を答案上に吐き出す
1718 ように記載するような姿勢では通用しない。
1719
1720
1721
1722 2
1723
1724 採点方針
1725 設問で問われている内容をきちんと理解し,
1726 問題に正面から取り組んで,
1727 検討した
1728 結果を的確に表現できることが重要であるとの認識の下で,
1729 採点をしている。
1730
1731
1732
1733 3
1734
1735 採点実感等
1736 民事訴訟法について,
1737 どのような答案が4つの水準のいずれに相当するかについて
1738 は,
1739 評価が合計点でされるものであること,
1740 同じ受験生でも設問によって出来栄えに
1741 バラつきがあること,
1742 同じ水準の中に含まれていたとしても点数には相当の差が生じ
1743 得ること等の諸要因により,
1744 具体的に示すことは困難である。
1745
1746
1747 そこで,
1748 以下では,
1749 多少ともイメージが持つことができるように,
1750 問題ごとに,
1751 ど
1752 のような内容の答案がどの程度の水準の評価を得られるのかを示すこととしたい。
1753
1754
1755 したがって,
1756 合計点の評価がどのようになるかについては,
1757 飽くまで一般論でしか
1758 ないが,
1759 全ての設問に「優秀」レベルの評価が得られなくとも全体として「優秀」と
1760 評価されることはあろうし,
1761 全ての設問について「一応の水準」であれば「良好」と
1762 の評価が得られることもあると思われる。
1763
1764 逆に,
1765 ある部分で「良好」以上の評価を受
1766 けたとしても,
1767 他の部分が全くできていなければ,
1768 一応の水準にも達しないというこ
1769 ともあり得る。
1770
1771
1772 なお,
1773 優秀又は良好とされるべき答案の割合は,
1774 出題者の想定をかなり下回った。
1775
1776
1777 (1) 全体について
1778 「手続保障」,
1779 「信義則」,
1780 「紛争の一回的解決」,
1781 「訴訟経済」,
1782 「不意打ち防止」な
1783 どといった抽象的な用語のみによる説明に終始している答案が少なからず見られた。
1784
1785
1786 しかし,
1787 そのような論述に止まることなく,
1788 各用語の意味内容を理解して,
1789 それを
1790 具現化している制度や条文により具体的に表現する努力が必要である。
1791
1792
1793 (2) 設問3について
1794 @当事者の確定の問題があることを踏まえた上で(何の理論的説明もなく,
1795 当事
1796 者適格の問題と考えている受験生もあったが理解が不十分である。
1797
1798 ),
1799 AGがEにな
1800 りすましていること(Gは,
1801 Eの代理人と称しているのではない。
1802
1803 )の法的評価(例
1804 えば,
1805 顕名なき代理類似のものと考えるなど)についての指摘があり,
1806 B弁護士代
1807 理の原則(民事訴訟法第54条)の趣旨を論じた上で,
1808 同原則の趣旨からして事案
1809 によって適用が制限される余地があるのかなど,
1810 本事例に適用した場合の具体的妥
1811 当性を意識しつつ,
1812 結論が導かれていれば,
1813 その論述内容の厚みに応じて,
1814 「優秀」
1815 又は「良好」と評価されよう。
1816
1817
1818 他方,
1819 このような考察なしに,
1820 「なりすましを了承しているEには手続保障を及
1821
1822 - 16 -
1823
1824 ぼす必要はない」とか,
1825 「信義則上EはそれまでのGの行為を無効であると主張で
1826 きない(追認を拒絶できない又は追認拒絶は無効である)」といった答案,
1827 訴訟経
1828 済や相手方保護の要請から直ちにGの行為の効力がEに及ぶとするような内容の答
1829 案では「一応の水準」に達することは難しい。
1830
1831
1832 また,
1833 訴訟行為を行った者以外の者に効果が及ぶ例として,
1834 任意的訴訟担当につ
1835 いて論じている答案もあった。
1836
1837 しかし,
1838 GがE本人であるとして訴訟行為を行って
1839 いることと任意的訴訟担当の関係,
1840 任意的訴訟担当となるとGが当事者になるが,
1841
1842 当事者確定の場面でEを当事者とした場合には,
1843 これとの関係等が意識されるべき
1844 である。
1845
1846 そのような点について検討することなく,
1847 明文なき任意的訴訟担当が認め
1848 られるための要件を羅列して本件への当てはめを検討している答案は,
1849 論理的整合
1850 性や任意的訴訟担当の理解において,
1851 疑問を抱かせた。
1852
1853
1854 (3) 設問4(1)について
1855 出題者は,
1856 Fの訴訟代理人弁護士Qと修習生Sとの間の会話を示し,Qが準備書面
1857 を作成するに当たって,
1858 法律上の主張として二つの法律構成を挙げ,
1859 それらの「長
1860 所」「短所」を修習生Sに検討させるという設定である以上,
1861 問われている「長所」
1862 「短所」とは,
1863 Fの法律上の主張として裁判所に認められるかどうかという意味で
1864 の「長所」「短所」であることは明らかであると考えていた。
1865
1866 しかし,
1867 必ずしもそ
1868 のように理解しない答案が相当数見られた。
1869
1870
1871 次のような答案は高い評価につながる。
1872
1873
1874 ア 債務不存在確認請求についての最高裁判例(最高裁昭和40年9月17日第二
1875 小法廷判決民集第19巻6号第1533頁など)を踏まえつつ,
1876 1500万円の
1877 自認部分の存否について,
1878 既判力が生じるかという問題について,
1879 法律構成@及
1880 び法律構成Aが,
1881 判例と異なり積極説に立つものであることを位置付けた上で,
1882
1883 その説の適否を,
1884 前訴で十分な攻撃防御の機会が与えられていると評価できるか
1885 といった観点から論じられているもの。
1886
1887
1888 イ 法律構成@について,
1889 量的に可分な給付請求についての一部請求後の残部請求
1890 の裏返しの問題であることを認識した上で,
1891 論理を展開しているもの。
1892
1893
1894 ウ 法律構成Aについては,
1895 1500万円の自認部分について請求の放棄と構成す
1896 ることの合理性(Aの合理的な意思解釈として技巧的にすぎないか,
1897 調書の記載
1898 がないなど通常の手続を踏んでいないことの問題)や請求の放棄に既判力が認め
1899 られるのかという点が検討されているもの。
1900
1901
1902 なお,
1903 請求の放棄と構成した場合の基準時についても言及しているものがあった
1904 が,
1905 このような答案は高い評価につながる。
1906
1907
1908 本人の意思に合致しているか否かということのみを考察している答案は,
1909 それが
1910 債務全体を訴訟物であるととらえることについての合理性という観点から法律論と
1911 して構成されていればよいが,
1912 「通常の意思」から請求の放棄とは認められないと
1913 の説明だけでは,
1914 「良好」という評価に達することは難しい。
1915
1916
1917 他方で,
1918 法律構成@及び法律構成Aが,
1919 1500万円部分について既判力を認め
1920 る見解であることが理解できていない答案,
1921 既判力を認めれば,
1922 長所として紛争の
1923 一回的解決に資すること,
1924 短所として柔軟な解決ができなくなることを指摘するの
1925 みに止まるような答案は,
1926 法律構成@及び法律構成Aの内容を言い換えているに等
1927 しく,
1928 問われたことに解答しているものとはいえず,
1929 「一応の水準」に達すること
1930
1931 - 17 -
1932
1933 は難しい。
1934
1935
1936 (4) 設問4(2)について
1937 処分権主義の問題であることの理解がうかがわれない答案(例えば,
1938 紛争の一回
1939 的解決に資することのみから条件付判決を肯定しているようなもの)は,
1940 「一応の
1941 水準」に達することは難しい。
1942
1943
1944 また,
1945 処分権主義の問題であることの指摘があったとしても,
1946 単に,
1947 Aにとって
1948 全部棄却判決よりは有利(全部認容判決よりはFに有利)であるから,
1949 原告の意思
1950 に反せず,
1951 かつ,
1952 被告の不意打ちにならないとして結論を導くのみで,
1953 500万円
1954 の支払を条件とする判決について,
1955 分析的な検討ができていない答案は,
1956 「優秀」
1957 又は「良好」との評価を得ることはできない。
1958
1959
1960 これに対し,
1961 Aは,
1962 全部棄却判決を受けたとしても,
1963 その後に残債務額を弁済し
1964 た上で改めて抵当権設定登記抹消登記手続を求めることができるということをきち
1965 んと理解した上で,
1966 先決問題である被担保債権の存否・数額についての審理の在り
1967 方(1円でも残っているかという限度で審理するのか,
1968 具体的に幾ら残っているか
1969 についても審理が及ぶのか)を踏まえて,
1970 500万円の支払を条件とした場合にそ
1971 の部分に既判力が生じるのかなどを検討した上で,
1972 不意打ちになるかどうかを論じ
1973 ている答案は,
1974 高い評価につながる。
1975
1976
1977 なお,
1978 設問において問われている「条件付判決」が受験生にとって少々細かい事
1979 項に属することから,
1980 将来の給付判決になることに気付かず,
1981 引換給付判決として,
1982
1983 その可能性を検討している答案が多く見られたが,
1984 同時履行の抗弁との関係など引
1985 換給付判決についての理解が不十分であると思われる。
1986
1987 「条件付判決」が将来の給
1988 付判決になることを理解し,
1989 その要件に論及している答案については,
1990 高い評価に
1991 つながる。
1992
1993
1994 4
1995
1996 今後の法科大学院教育に求めるものなど
1997 前記のように,
1998 手続保障や信義則など抽象的な規範のみから結論を導く答案,
1999 題意
2000 をきちんと把握せず,
2001 定義や制度趣旨など自分の知っていることを書き連ねている答
2002 案,
2003 問題を正面から受け止めることをあえて避け,
2004 自分の知っていることに無理やり
2005 当てはめようとする答案が目立った。
2006
2007
2008 このような傾向が見受けられるのは,
2009 題意をきちんと把握するだけの基礎学力の不
2010 足に起因するところが多いように思われる。
2011
2012 特に,
2013 基本的な制度や判例について,
2014 自
2015 らその意味を掘り下げて考えるという作業を怠り,
2016 定義,
2017 要件,
2018 結論を覚えて,
2019 それ
2020 を具体的な事案に当てはめるということだけを学習しているのではないかが懸念され
2021 る。
2022
2023 判例について言えば,
2024 基本判例は,
2025 学説上有力な反対説があったり,
2026 下級審で異
2027 なる考え方をとっていたりするものが多く,
2028 制度を基本から理解をするのに格好の素
2029 材である。
2030
2031 ところが,
2032 試験において,
2033 判例が扱っている問題について判例とは別の角
2034 度から検討を求めたり,
2035 判例に反する立場からの立論を試みることを求めたりすると,
2036
2037 全く歯が立たない受験生が多く認められる。
2038
2039 察するに,
2040 判例についての表面的な理解
2041 を前提に,
2042 その結論を覚えて事例に当てはめるということはできても,
2043 その判例がそ
2044 のような結論に至る論拠はどこにあるか,
2045 反対説の根拠は何か,
2046 その違いはどこから
2047 くるのかといったより根本的なことが理解されていないように思われる。
2048
2049 基本的な制
2050 度や判例の根拠をきちんと考えることを習慣づける教育が求められる。
2051
2052
2053
2054 - 18 -
2055
2056 5
2057
2058 その他
2059 毎年のように指摘していることであるが,
2060 答案は,
2061 読み手が理解できて初めて評価
2062 されるものである。
2063
2064 受験生は,
2065 答案の読み手の立場に立って,
2066 分かりやすく記載する
2067 ことを肝に銘じることが必要であり,
2068 文脈から記載内容を推測することを読み手に期
2069 待することは許されない。
2070
2071 字の巧拙は別として,
2072 「蓋し」,
2073 「思うに」など一般に使われ
2074 ていない用語や略字,
2075 容易に判読できない悪字,
2076 筆圧が弱く薄すぎる字などが散見さ
2077 れる点については,
2078 大いなる反省を求めたい。
2079
2080
2081
2082 - 19 -
2083
2084 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑法)
2085 1
2086
2087 2
2088
2089 出題の趣旨の補足
2090 既に公表した出題の趣旨のとおりである。
2091
2092
2093 採点の基本方針
2094 出題の趣旨にのっとり,
2095 具体的事例における甲乙丙の罪責を問うことにより,
2096 事例
2097 を的確に分析する能力,
2098 事例を解決する上で必要となる論点を抽出し,
2099 当該論点に関
2100 する刑事実体法及び解釈論の知識・理解を展開する能力,
2101 具体的な事実に法規範を適
2102 用する能力,
2103 論理的に思考し,
2104 その過程を論述する能力を総合的に評価することが基
2105 本方針である。
2106
2107
2108 その際,
2109 刑法総論・各論の基本的な論点についての正確な理解の有無に加え,
2110 事実
2111 の評価や最終的な結論の妥当性,
2112 結論に至るまでの法的思考過程の論理性を重視して
2113 評価した。
2114
2115
2116 その結果,
2117 事案の特殊性を十分に考慮することないまま,
2118 結論を導くのに必ずしも
2119 必要ではない典型的論点に関する論述を展開する答案や,
2120 事案の全体像を見ず,
2121 細部
2122 にとらわれ,
2123 問題となり得る刑法上の罪をできるだけ多く列挙し,
2124 その相互の関係や
2125 結論の妥当性を考慮しないような答案は,
2126 低い評価にならざるを得なかった。
2127
2128
2129 他方で,
2130 数は少ないものの,
2131 論点に関する一般論に終始するのではなく,
2132 問題文の
2133 事例に即して具体的な検討を行っている優れた答案も見られた。
2134
2135 例えば,
2136 甲の罪責に
2137 ついては,
2138 (1)Vが病院の入院患者であって第一次的な看護義務は乙ら病院側にあると
2139 いう事情にも十分留意しつつ,
2140 複数の具体的な事情を詳細に検討して不作為犯の作為
2141 義務の存否を検討している答案,
2142 (2)作為義務,
2143 救命可能性及び故意について,
2144 それぞ
2145 れの時間的先後関係を意識して検討している答案,
2146 また,
2147 乙丙の罪責については,
2148 (3)
2149 乙丙それぞれが担う業務の内容に応じて,
2150 過失犯の注意義務の内容を具体的に特定し
2151 ている答案,
2152 (4)乙丙の予見可能性や結果回避可能性等の有無について,
2153 具体的な事情
2154 を拾って当てはめてを行っている答案については,
2155 高い評価となった。
2156
2157
2158
2159 3 採点実感等
2160 (1) 全体
2161 ほとんどの答案が,
2162 甲については,
2163 不作為による殺人罪又は保護責任者遺棄致死
2164 罪の成否,
2165 乙丙については,
2166 業務上過失致死(傷)罪の成否を検討しており,
2167 これ
2168 は出題の趣旨に沿うものである。
2169
2170
2171 (2) 具体例
2172 考査委員による意見交換の結果を踏まえ,
2173 答案に見られた代表的な問題点を以下
2174 に列挙する。
2175
2176
2177 ア 甲の罪責について
2178 @ 甲を不作為犯ととらえた場合の作為義務の内容について事例に即して具体的
2179 に考えていないため,
2180 作為犯と不作為犯の区別が曖昧になり,
2181 甲を安易に作為
2182 犯とする答案
2183 A 不真正不作為犯の成立要件に関する規範の定立を十分に行わないまま,
2184 不作
2185 為による殺人罪等の成立を認める答案
2186
2187 - 20 -
2188
2189 B 甲に対する作為義務の検討において,
2190 甲がVの妻であって民法上の扶助義務
2191 があるということだけで作為義務の成立を認め,
2192 その他にも作為義務を基礎付
2193 け得る具体的事実があるのにこれらを十分に拾い上げていない答案
2194 C 不作為犯の因果関係の特殊性を考慮することなく,
2195 単純に不作為とVの死亡
2196 の結果の因果関係を肯定する答案
2197 D 甲の殺意を検討するに当たり,
2198 甲がVの死を受け入れるかどうか迷っていた
2199 ことをもって,
2200 安易に殺意を否定し,
2201 その後,
2202 甲がVに医療行為を施さずにそ
2203 の生死を運命をゆだねることにしたという点について,
2204 十分に検討していない
2205 答案
2206 E 本問では,
2207 Vの救命可能性が認められるのは午後2時20分までであるから,
2208
2209 それまでの間の作為義務及び故意の存否が重要であるのに,
2210 このような時間的
2211 関係を意識することなく,
2212 既に救命可能性が失われた時点で作為義務や故意を
2213 認めて不作為による殺人罪等の成立を肯定する答案
2214 F 時系列に沿ってそれぞれの時点で成立する犯罪を検討し,
2215 甲には,
2216 まず,
2217 保
2218 護責任者遺棄罪が成立し,
2219 次いで,
2220 不作為による殺人罪が成立するとし,
2221 両者
2222 の関係を併合罪関係にあるなどとする答案
2223 イ 乙丙の罪責について
2224 @ 過失犯の基本的な理論(予見可能性・予見義務,
2225 結果回避可能性・結果回避
2226 義務を内容とする注意義務違反など)について全く言及していない答案
2227 A 刑法各論の基本的な知識である業務上過失致死傷罪における「業務」の意義
2228 について,
2229 判例の立場に立つと思われるものの,
2230 判例の内容を正確に理解せず,
2231
2232 単に「人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為」とだけ述べ,
2233 「他
2234 人の生命身体等に危害を加えるおそれがあるもの」という点についての言及が
2235 ない答案
2236 B 乙丙に対する業務上過失致死傷罪を検討するに当たり,
2237 看護師である乙と薬
2238 剤師である丙とではそれぞれが担当する職務が異なる上,
2239 乙には投与する薬の
2240 確認のほか,
2241 投薬後のVの容体を確認することが求められていたのに,
2242 乙丙そ
2243 れぞれが担当する職務に応じて負担する注意義務の内容を具体的に特定してい
2244 ない答案
2245 C 乙丙の注意義務違反の当てはめにおいて,
2246 予見可能性や結果回避可能性等に
2247 関係する具体的事情をほとんど拾っていない答案
2248 D 乙丙の過失行為の後に甲の故意行為が介在しており,
2249 因果関係の認定上の論
2250 点となるのに,
2251 その点についての検討がないまま,
2252 乙丙の行為とVの死亡結果
2253 との間の因果関係を肯定している答案
2254 E 因果関係の有無に関する解釈論を論述しながらも,
2255 その具体的適用方法を正
2256 確に理解していないため,
2257 事例への当てはめが適当でない答案
2258 F 乙丙それぞれに単独犯として過失犯の業務上過失致死罪の成立を認めながら
2259 も,
2260 両者の間の過失犯の共同正犯について,
2261 それを認める実益を考えることも
2262 ないまま検討し,
2263 両者の注意義務の共通性について十分に検討することなく,
2264
2265 共同正犯を肯定する答案
2266 G 業務上「重過失」致死傷罪なる罪の成立を認める答案
2267 ウ その他
2268
2269 - 21 -
2270
2271 @ 甲が検温表にVの体温について虚偽の記載をしたことをとらえ,
2272 署名又は印
2273 章の存在や,
2274 権利義務又は事実証明に関する文書という私文書偽造罪の構成要
2275 件について検討しないまま,
2276 同罪の成立を認める答案
2277 A 乙には,
2278 VがD薬によるアレルギー反応を起こして異状を呈していることの
2279 認識がないのに,
2280 そのことを意識しないまま,
2281 乙に故意犯である保護責任者遺
2282 棄罪の成立を認める答案
2283 エ まとめ
2284 上記各例は,
2285 刑法総論・各論等の基本的知識の習得や理解が不十分であること,
2286
2287 あるいは,
2288 一応の知識・理解はあるものの,
2289 いまだ断片的なものにとどまり,
2290 そ
2291 れを応用して具体的事例に適用する能力が十分に身に付いていないことを示して
2292 いるものと思われる。
2293
2294
2295 また,
2296 不真正不作為犯の成立要件について,
2297 まるで型にはめたような論述例が
2298 数多くあったこと,
2299 過失犯の共同正犯について,
2300 それを論ずる実益を考えないま
2301 ま論述する答案が相当数見られたことは,
2302 受験生が典型的論点に関する論述例の
2303 暗記に偏重するなどした勉強方法をとった結果,
2304 事案の特殊性を考慮して個別具
2305 体的な解決を模索するという法律実務家に求められる姿勢を十分に習得していな
2306 いのではないかと懸念されるところである。
2307
2308
2309 他方で,
2310 本問は,
2311 病院内における医療過誤と不作為犯とが絡む比較的複雑な事
2312 案であったにもかかわらず,
2313 大多数の答案は,
2314 甲について不作為による殺人罪又
2315 は保護責任者遺棄致死罪の成否,
2316 乙丙について業務上過失致死傷罪の成否の問題
2317 を検討しおり,
2318 問題解決の大枠はとらえていたこと,
2319 問題文中の具体的事実を抽
2320 出し,
2321 法的当てはめを行うという姿勢は,
2322 (十分とまではいえないものの)定着
2323 しつつあることを指摘することができ,
2324 これらは望ましい傾向である。
2325
2326
2327 4
2328
2329 今後の出題について
2330 出題の在り方について様々な意見があると承知しているが,
2331 新司法試験の目的を十
2332 分に考慮しつつ,
2333 受験者の能力の適正な評価が可能となるような問題を作成すべく,
2334
2335 今後の工夫を重ねていきたい。
2336
2337
2338
2339 5
2340
2341 今後の法科大学院教育に求めるもの
2342 既に述べたとおり,
2343 事案から具体的事実を拾い出して法規範に当てはめるという姿
2344 勢は定着しつつあるものの,
2345 刑法の基本的事項の知識・理解が不十分な答案や,
2346 その
2347 応用としての事例の分析,
2348 当てはめを行う能力が十分でない答案も見られたところで
2349 ある。
2350
2351
2352 法科大学院においては,
2353 引き続き,
2354 学生に対し,
2355 基本的な刑法の知識・理解の習得
2356 に努めさせるとともに,
2357 判例の結論だけでなく,
2358 判例の事案の内容を丹念に読み込む
2359 ことなどを通して,
2360 習得した知識を具体的事案に当てはめ,
2361 具体的妥当な解決を導く
2362 ことができる能力の涵養に一層努めていただきたいと考えている。
2363
2364
2365
2366 - 22 -
2367
2368 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑事訴訟法)
2369 1
2370
2371 採点方針等
2372 本年の問題も,
2373 過去4回の試験と同様,
2374 比較的長文の事実関係を記載した事例を設
2375 定し,
2376 そこに生起している刑事訴訟法上の問題点につき,
2377 問題解決に必要な法解釈を
2378 した上で,
2379 法解釈・適用に必要不可欠な具体的事実を抽出・分析し,
2380 これに法解釈に
2381 より導かれる法準則の当てはめを行い,
2382 一定の結論を筋道立てて説得的に論述するこ
2383 とを求めており,
2384 法律実務家になるための学識・法解釈適用能力・論理的思考力・論
2385 述能力等を試すものである。
2386
2387
2388 出題に当たっては,
2389 刑事訴訟法の中でも重要であり,
2390 法律実務家になるために理解
2391 しておかなければならない犯罪捜査に関する基本的な問題と伝聞法則を選定した上,
2392
2393 設問において,
2394 答案で論じてほしい事項を画定明示することにより,
2395 受験者が,
2396 一定
2397 の時間内に,
2398 法解釈と事実の分析等の双方について,
2399 必要十分な論述を行うことがで
2400 きるように配慮した。
2401
2402
2403 具体的な出題の趣旨については,
2404 公表されているとおりである。
2405
2406 設問1では,
2407 けん
2408 銃の組織的な密売事件を素材として,
2409 被疑者が公道上のごみ集積所やマンション敷地
2410 内にあるごみ集積所に投棄したごみ袋を司法警察員が持ち帰り復元する行為や捜索差
2411 押許可状に基づいて差し押さえた携帯電話のデータを復元・分析する行為について,
2412
2413 その適法性を問い,
2414 遺留物の領置や捜索,
2415 差押え及び押収物についての必要な処分等
2416 に関する考え方を示した上,
2417 事例への法適用の部分では事実が持つ意味を的確に位置
2418 付けて論じることを求めている。
2419
2420 設問2では,
2421 被疑者と捜査協力者らとの会話を録音
2422 したICレコーダー等を反訳した捜査報告書について,
2423 その要証事実との関係での証
2424 拠能力を問い,
2425 本件の具体的事実関係を的確に把握・分析した上で,
2426 前提となってい
2427 るおとり捜査や秘密録音といった捜査手法の適法性を論じるとともに,
2428 本件捜査報告
2429 書が伝聞証拠に該当するか否か,
2430 該当する場合に適用可能性のある伝聞例外規定に係
2431 る要件等の法解釈とその当てはめについて論じることを求めている。
2432
2433 採点に当たって
2434 は,
2435 このような出題の趣旨に沿った論述が的確になされているかに留意した。
2436
2437 設問1
2438 は,
2439 捜査@及びAについては,
2440 法科大学院で刑事訴訟法を真面目に学習した者であれ
2441 ば,
2442 何を論じなければならないかは明白であり,
2443 その素材となる判例等も容易に思い
2444 浮かぶような事例であり,
2445 捜査Bについては法科大学院の授業で直接扱う事例ではな
2446 いかもしれないが,
2447 令状に基づく強制処分の制度趣旨という基本に立ち返って考える
2448 能力を体得していれば,
2449 筋道だった論述ができるはずである。
2450
2451 また,
2452 設問2も,
2453 何を
2454 論じなければならないかは明白な事例であり,
2455 刑事訴訟法の基本的知識が真に体得さ
2456 れているかを問うものである。
2457
2458
2459
2460 2
2461
2462 採点実感
2463 次に,
2464 採点実感についてであるが,
2465 合格判定会議後に各考査委員から様々な意見を
2466 聴いているので,
2467 そのような意見をも踏まえた感想を述べる。
2468
2469
2470 設問1については,
2471 刑事訴訟法第221条の定める遺留物の領置の法解釈について
2472 的確に論じた上で,
2473 各捜査ごとに個々の事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,
2474 分
2475 析しながら論じられた答案が見受けられ,
2476 また,
2477 設問2については,
2478 本件での要証事
2479 実を的確に理解した上で,
2480 前提となる捜査手法を含めて最高裁判所の判例法理等の理
2481
2482 - 23 -
2483
2484 解をも踏まえて的確な論述ができている答案も見受けられた。
2485
2486 他方,
2487 昨年までと同様
2488 に,
2489 不正確な抽象的法解釈や判例の表現の意味を真に理解することなく機械的に暗記
2490 して,
2491 これを断片的に記述しているかのような答案も相当数見受けられたほか,
2492 関連
2493 条文から解釈論を論述・展開することなく,
2494 問題文中の事実をただ書き写しているか
2495 のような解答もあり,
2496 法律試験答案の体をなしていないものも見受けられた。
2497
2498
2499 以下,
2500 法科大学院における教育と学習の指針に資するため,
2501 理解が不十分と思われ
2502 た点を具体的に述べる。
2503
2504
2505 設問1については,
2506 被疑者が公道上のごみ集積所やマンション敷地内にあるごみ集
2507 積所に投棄したごみ袋を司法警察員が持ち帰り復元する行為について,
2508 遺留物の領置
2509 として適法といえるか否かを問うているにもかかわらず,
2510 これを単に強制処分に該当
2511 するか否か,
2512 該当しないとして任意捜査として許されるか否かという観点からのみ論
2513 じ,
2514 刑事訴訟法第221条に一切言及すらしない答案が少なからず見受けられた。
2515
2516 ま
2517 た,
2518 捜索差押許可状に基づいて差し押さえた携帯電話のデータを復元・分析する行為
2519 について,
2520 当初の令状の効力として許される範囲内か,
2521 それとも,
2522 新たな権利侵害を
2523 伴うため別個の令状が必要であるのかを問うているにもかかわらず,
2524 捜索差押えとし
2525 て適法であるか否かだけを論じている答案も相当数見受けられた。
2526
2527
2528 設問2については,
2529 本件での具体的な事実関係を前提に,
2530 要証事実を的確にとらえ,
2531
2532 伝聞法則の正確な理解を踏まえた論述ができている答案は少数にとどまった。
2533
2534 本件で
2535 は,
2536 捜査報告書全体については,
2537 捜査機関による検証に準じて刑事訴訟法第321条
2538 第3項により証拠能力が付与されることを前提に,
2539 会話部分と捜査協力者による会話
2540 内容の説明部分とに分け,
2541 前者はそのような内容の会話が存在したことが要証事実で
2542 あって伝聞証拠には該当せず,
2543 後者だけが内容の真実性を要証事実とする伝聞証拠と
2544 なることが明白であるにもかかわらず,
2545 伝聞証拠であることを当然の前提として,
2546 会
2547 話の主体によって会話を分断し,
2548 被疑者の発言部分は,
2549 刑事訴訟法第322条第1項
2550 により,
2551 協力者の発言部分は同法第321条第1項第3号によって証拠能力が付与さ
2552 れるとした答案が少なからずあった。
2553
2554 また,
2555 検察官の立証趣旨が「会話の存在と内容」
2556 となっていることから,
2557 その言葉だけをとらえて,
2558 「会話の存在」である場合には非
2559 伝聞証拠であり,
2560 「会話の内容」である場合には伝聞証拠であるなどと検察官の設定
2561 した立証趣旨を勝手に分断して論じる答案も多数見受けられた。
2562
2563 さらに,
2564 司法警察員
2565 により作成された捜査報告書の証拠能力を問うているにもかかわらず,
2566 これを無視し,
2567
2568 録音テープであるから知覚,
2569 記憶,
2570 叙述の過程に誤りが入り込む余地はなく,
2571 当然に
2572 非伝聞証拠であるなどと断じた答案まで見受けられた。
2573
2574 このような答案については,
2575
2576 厳しい評価をすれば,
2577 基本的知識,
2578 事実分析能力及び思考能力の欠如を露呈するもの
2579 と言わざるを得ない。
2580
2581
2582 法適用に関しては,
2583 事例に含まれている具体的事実を抽出・分析することが肝要で
2584 あるが,
2585 捜査協力者による会話内容の説明部分について,
2586 会話部分には聞き取れない
2587 部分が多数あるため,
2588 説明部分が犯罪事実の存否の証明には欠くことができないこと,
2589
2590 説明部分は,
2591 会話に引き続いて一体のものとしてなされている上,
2592 その説明内容が直
2593 前の会話内容と整合すること,
2594 また,
2595 乙方においてけん銃2丁と共に,
2596 りんごが入っ
2597 た宅配便の箱が開披された状態で発見されたという客観的状況とも整合すること等の
2598 決定的に重要な事実を指摘して,
2599 証拠能力の有無を検討している答案は少数であった。
2600
2601
2602 学習に際しては,
2603 具体的事実の抽出能力に加えて,
2604 その事実が持つ法的意味を意識し
2605
2606 - 24 -
2607
2608 て分析する能力の体得が望まれるところである。
2609
2610
2611 答案の評価について説明すると,
2612 「優秀」と認められる答案とは,
2613 設問1について
2614 は,
2615 刑事訴訟法第221条に定める遺留物の領置や同法第218条第1項に定める捜
2616 索,
2617 差押え及び検証の法解釈について的確に論じた上で,
2618 各捜査ごとに個々の事例中
2619 に現れた具体的事実を的確に抽出,
2620 分析しながらその適法性を論じており,
2621 また,
2622 設
2623 問2については,
2624 前提となる捜査の適法性について的確に論じた上で,
2625 本件での要証
2626 事実を的確に理解し,
2627 捜査報告書全体,
2628 会話部分及び説明部分とを分けて詳細な論述
2629 をしているような真に伝聞法則を理解していると見られる答案である。
2630
2631
2632 このような出題の趣旨を踏まえた十分な論述がなされている答案は少なかった。
2633
2634
2635 次に,
2636 「良好」な水準に達していると認められる答案とは,
2637 設問1については,
2638 領
2639 置や捜索,
2640 差押え及び検証の法解釈について一応の考え方を示した上で,
2641 問題文から
2642 必要かつ十分な具体的事実を抽出できてはいたが,
2643 更に踏み込んで個々の事実が持つ
2644 意味を深く考えることが望まれたような答案である。
2645
2646
2647 また,
2648 設問2については,
2649 おとり捜査や秘密録音といった前提となる捜査の適法性
2650 について検討し,
2651 伝聞法則についても一応の論述ができてはいるものの,
2652 本件での具
2653 体的な事実関係を前提に,
2654 要証事実を的確にとらえることができていないような答案
2655 がこれに当たる。
2656
2657
2658 次に,
2659 「一応の水準」に達していると認められる答案とは,
2660 領置等の法解釈につい
2661 て一応の考え方は示されているものの,
2662 具体的事実の抽出,
2663 当てはめが不十分である
2664 か,
2665 法解釈については十分に論じていないものの,
2666 問題文から必要な具体的事実を抽
2667 出して一応の結論を導くことができていたような答案である。
2668
2669
2670 設問2については,
2671 伝聞法則等の知識があり,
2672 一応これを踏まえた論述ができては
2673 いるものの,
2674 本件での具体的な事実関係を前提に,
2675 要証事実を的確にとらえることが
2676 できていないような答案である。
2677
2678
2679 「不良」と認められる答案とは,
2680 例えば,
2681 伝聞法則など刑事訴訟法の基本的な原則
2682 の意味を真に理解することなく機械的に暗記して,
2683 これを断片的に記述しているかの
2684 ような答案や関連条文から解釈論を論述・展開することなく,
2685 問題文中の事実をただ
2686 書き写しているかのような答案など,
2687 基本的な理解・能力の欠如が表れているもので
2688 ある。
2689
2690
2691 具体的には,
2692 設問1については,
2693 投棄されたごみ袋を持ち帰り復元する行為等につ
2694 いて,
2695 強制処分に該当するか否か,
2696 単に任意捜査として許されるか否かという観点か
2697 らのみ論じているような答案がこれに当たる。
2698
2699
2700 また,
2701 この水準に該当する答案の中には,
2702 各捜査について,
2703 個々の具体的な事実関
2704 係が問題文中に現れているにもかかわらず,
2705 これを全く抽出,
2706 分析していない答案も
2707 あった。
2708
2709
2710 設問2については,
2711 前記のとおり,
2712 捜査報告書自体の伝聞性を無視したり,
2713 会話の
2714 主体ごとに分断して伝聞例外規定を論ずるなど,
2715 およそ伝聞法則を全く理解していな
2716 いとしか評しようのない答案である。
2717
2718
2719 3
2720
2721 法科大学院教育に求めるもの
2722 このような結果を踏まえて,
2723 今後の法科大学院教育においては,
2724 手続を構成する制
2725 度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,
2726 これを具体的事例について適用できる能力,
2727
2728
2729 - 25 -
2730
2731 筋道立った論理的文章を書く能力,
2732 重要な判例法理を正確に理解し,
2733 具体的事実関係
2734 を前提としている判例の射程範囲を正確にとらえる能力を身に付けることが強く要請
2735 される。
2736
2737 特に,
2738 確固たる理論教育を踏まえた実務教育という観点から,
2739 基本に立ち返
2740 り,
2741 刑事手続の正常な作動過程や刑事訴訟法上の基本原則の実務における機能を正確
2742 に理解しておくことが,
2743 当然の前提として求められよう。
2744
2745
2746
2747 - 26 -
2748
2749 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(倒産法)
2750 1
2751
2752 出題の趣旨・ねらい等(出題の趣旨に補足して)
2753 個別的な内容については,
2754 既に「出題の趣旨」として公表したとおりである。
2755
2756 今年
2757 の問題作成に当たっては,
2758 具体的な事案を法律の規律に的確に当てはめて検討する能
2759 力,
2760 倒産手続において生じる実体法上の問題点についての理解,
2761 また,
2762 民事再生手続
2763 と破産手続とを関連付けて理解する能力を試すこと等に重点を置くこととした。
2764
2765
2766
2767 2
2768
2769 採点方針
2770 解答の際に言及すべき点については,
2771 既に「出題の趣旨」として公表したとおりで
2772 ある。
2773
2774
2775 第1問については,
2776 本件事案において問題とすべき否認の類型を的確にとらえ,
2777 具
2778 体的な事案に即してその要件の充足性を的確に論じることができたか,
2779 また,
2780 Kの請
2781 求権の内容について,
2782 その法的性質等を踏まえて検討が十分にされていたか(設問1),
2783
2784 不足額責任主義を採用する破産法の規律を十分に理解しているか(設問2)という点
2785 等に重点を置いた。
2786
2787
2788 第2問については,
2789 A社が行うべき主張を論理的に構成しつつ,
2790 具体的事案に即し
2791 て論述することができたか(設問1),
2792 相殺禁止に関する民事再生法の規律を破産法
2793 の規律と関連付けて理解することができているか(設問2)という点等に重点を置い
2794 た。
2795
2796
2797
2798 3 採点実感等
2799 (1) 第1問
2800 設問1の(1)については,
2801 破産法第162条第1項第2号の否認が問題となる
2802 ことは,
2803 多くの答案において指摘されていたが,
2804 期限前の代物弁済である点ではな
2805 く,
2806 代物弁済が方法の点で義務に属しないことから同号の適用を認めるなど,
2807 正確
2808 な条文理解を欠く答案も散見された。
2809
2810 また,
2811 支払不能となった時点の認定について,
2812
2813 本件では,
2814 手形の不渡りという事実が現れているにもかかわらず,
2815 それが支払停止
2816 に該当するかどうかを検討せずに,
2817 破産手続開始決定や自己破産の申立てといった
2818 事実から直ちに支払不能を認定したり,
2819 代物弁済の時点で既に支払不能となってい
2820 ると認定する答案が少なからずあった。
2821
2822 条文や基本的な概念の正確な理解及び具体
2823 的事案を的確に把握する能力を養うことの重要性が感じられた。
2824
2825 また,
2826 Kの価額償
2827 還請求権については,
2828 価額算定の基準時及びその理由について論じていない答案が
2829 相当数見られた。
2830
2831
2832 設問1の(2)については,
2833 代物弁済において目的物の所有権が移転するための
2834 要件についての理解によって論点は変わり得るものであるが,
2835 多くの答案では,
2836 破
2837 産管財人の第三者性について,
2838 理由も含めて的確に論じていた。
2839
2840 しかしながら,
2841 本
2842 件トラックの返還が困難な場合におけるKの請求権の法的性質やその価額等につい
2843 ての検討が十分にされているものは多くはなかった。
2844
2845 さらに,
2846 上記(1)と(2)
2847 における請求額の違いに着目し,
2848 その違いの合理性についてまで論じるものは少数
2849 であり,
2850 総じて,
2851 実体法上の検討が十分に行われていないという印象を受けた。
2852
2853
2854 設問2については,
2855 多くの答案で抵当権の行使方法については的確に回答されて
2856
2857 - 27 -
2858
2859 いたが,
2860 賃料債権についての物上代位に言及しない答案も見られた。
2861
2862 破産手続上の
2863 行使方法についても,
2864 多くの答案が破産法の規律を的確に指摘していたが,
2865 本件事
2866 案に即して,
2867 不足額をどのようにして確定するかという点にまで言及している答案
2868 は少なかった。
2869
2870 なお,
2871 本件事案に即して,
2872 抵当権の行使と破産手続上の行使のいず
2873 れがB社にとって有利であるかという点まで論じており,
2874 高い問題発見能力がうか
2875 がわれる答案も少数ながら見られた。
2876
2877
2878 総じて,
2879 第1問については,
2880 おおむね論ずべき点を検討している答案が多かった
2881 が,
2882 上記の点等で差が付くこととなった。
2883
2884 例えば,
2885 設問1で問題とすべき否認の類
2886 型の要件の充足性を的確に論じ,
2887 Kの請求権についての実体法上の検討も行い,
2888 設
2889 問2で破産法の規律を正しく理解しているような答案は,
2890 優秀な答案と評価し得る
2891 ものであった。
2892
2893
2894 (2) 第2問
2895 設問1については,
2896 まず,
2897 多くの答案が倒産解除条項の有効性について論じてい
2898 た。
2899
2900 しかしながら,
2901 有効性を否定する理由として,
2902 民事再生法の趣旨(第1条)又
2903 は同法第50条の趣旨のみを挙げ,
2904 第49条の趣旨と関連付けて論じていない答案
2905 が相当数見られた。
2906
2907
2908 次に,
2909 A社がB社に対して部品の供給を求めるためには同法第49条第1項に基
2910 づく履行選択をすることが必要であるが,
2911 この点に触れている答案は多くはなかっ
2912 た。
2913
2914 争点について検討する能力のみならず,
2915 主張を法律的に構成する能力を養うこ
2916 との必要性が感じられた。
2917
2918 また,
2919 本件契約が同法第50条第1項の規定する継続的
2920 給付を目的とする双務契約に該当するか否かについては,
2921 多くの答案で言及されて
2922 いたが,
2923 同項の趣旨にまで踏み込んで本件契約がこれに該当するかについて検討す
2924 るものは少なく,
2925 また,
2926 B社の有する債権の取扱いまで丁寧に論じるものも少なか
2927 った。
2928
2929 なお,
2930 同法第85条第5項後段の少額債務の弁済について,
2931 専ら,
2932 あるいは,
2933
2934 力点を置いて論じる答案も散見されたが,
2935 具体的事案を的確に把握して,
2936 当事者に
2937 とって最適な解決方策を検討する能力が不十分と感じさせられた。
2938
2939
2940 設問2については,
2941 まず,
2942 甲手形の関係で適用される規定,
2943 具体的には同法第9
2944 3条第1項第4号が的確に指摘されていない答案が予想以上に多かった。
2945
2946 第1問の
2947 否認権に関する規定と同様,
2948 条文に則した勉強がされていないのではないかとの危
2949 惧を感じた次第である。
2950
2951 また,
2952 甲手形と乙手形について,
2953 それぞれ相殺の可否を検
2954 討し,
2955 甲手形については相殺可能,
2956 乙手形については相殺不可という結論を単に並
2957 列的に示すにとどまる答案も相当数見られた。
2958
2959 また,
2960 民事再生法と破産法の規律の
2961 違いについても,
2962 単にその違いのみを指摘し,
2963 その実質的な理由まで踏み込んだ検
2964 討がされていない答案も多かった。
2965
2966 出題の趣旨としては,
2967 合理的な相殺期待の保護
2968 の観点に照らし,
2969 民事再生法に破産法第67条第2項に相当する規定がないことが
2970 正当化されるのかという点を論じることが期待されていたが,
2971 そのような問題意識
2972 を持つ能力が不十分であったように思われる。
2973
2974
2975 設問2については,
2976 おおむね,
2977 論ずべき点に検討を加えている答案が多かったが,
2978
2979 論理的で丁寧な論述がされているか,
2980 条文を正確に理解しているかといった点等で
2981 差が付いたように感じられた。
2982
2983 例えば,
2984 設問1においてA社の主張を論理的に構成
2985 しつつ,
2986 各論点を検討し,
2987 設問2において相殺禁止に関する条文の適用を具体的事
2988 案に即して的確に行いつつ,
2989 民事再生法の規律を破産法との対比において理解して
2990
2991 - 28 -
2992
2993 いる答案は優秀と評価し得るものであった。
2994
2995
2996 4
2997
2998 今後の出題について
2999 今後も,
3000 特定の傾向に偏することなく,
3001 基礎的な事項の理解を確認する問題と受験
3002 者の問題発見能力を試す問題,
3003 倒産実体法に関する問題と倒産手続法に関する問題,
3004
3005 企業倒産に関する問題と個人倒産に関する問題等,
3006 幅広い出題を心掛けることが望ま
3007 しいと考える。
3008
3009
3010
3011 5
3012
3013 今後の法科大学院教育に求めるもの
3014 本年の問題のように,
3015 具体的な事案に基づく問題においては,
3016 問題点を発見するに
3017 は,
3018 問題となる法規を正確に理解し,
3019 制度の趣旨,
3020 根拠にまでさかのぼって考察する
3021 能力が必要であるし,
3022 問題解決を意識した結論に達しているか常に意識する必要があ
3023 る。
3024
3025 また,
3026 具体的な事実関係の下で当事者の主張を法律的に構成する能力や論理的に
3027 文章を展開する能力も求められる。
3028
3029
3030 今後も基礎的な事項の十分な理解に重点を置くべきことは言うまでもないが,
3031 上記
3032 のような能力が身に付くようにするための教育が必要であると感じられた。
3033
3034
3035
3036 - 29 -
3037
3038 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(租税法)
3039 1
3040
3041 第1問について
3042 第1問は,
3043 家族的事業についての課税の在り方を通じて,
3044 所得税法の基本的な理解
3045 と応用力を試すものであり,
3046 子の授業料に充てられた金員が非課税となるのか,
3047 妻に
3048 対する演奏料支払が必要経費となるかなどについて,
3049 設問2は,
3050 他人の窃盗によって
3051 失った金銭は,
3052 所得税において,
3053 どのように取り扱われるのかについて,
3054 やはり基本
3055 的な理解と対応力を問うものであった。
3056
3057
3058 このうち,
3059 第1問については,
3060 まず,
3061 設問1の学資金について,
3062 所得税法第9条の
3063 非課税規定を挙げる答案が少なかった。
3064
3065 最近の最高裁判所が,
3066 定期金について,
3067 相続
3068 税の課されるものとして同法第9条の非課税規定を適用しており,
3069 同法第9条の重要
3070 性を再認識してもらいたい。
3071
3072 また,
3073 学資金について,
3074 直ちに,
3075 給与として,
3076 同法第5
3077 6条及び第57条の問題として議論する答案が非常に多かった。
3078
3079 採点に当たっては,
3080
3081 同法第9条適用の可否に触れないまま給与とした答案にも一定限度で加点したが,
3082 こ
3083 の点を丁寧に論じている答案とは差が付くことになった。
3084
3085 同様に,
3086 設問2で所得税法
3087 第72条の雑損控除規定を挙げた答案とそうでなかったものとの間にも差が生じてお
3088 り,
3089 所得税法に対する基本的な理解が答案の内容に反映されたと実感している。
3090
3091 法人
3092 税法との比較についても,
3093 正確に答えている答案は少なく,
3094 差が付く結果となった。
3095
3096
3097 なお,
3098 設問1では,
3099 所得税法第56条,
3100 第57条の適用につき,
3101 判例(最判平成1
3102 6年11月2日判時1883号43頁)に照らして検討することが求められているが,
3103
3104 これらの規定に触れた答案は,
3105 おおむね検討ができており,
3106 基本的な判例に対する理
3107 解は涵養されていると思われる。
3108
3109 他方で,
3110 同法第56条が「ないものとみなす。
3111
3112 」と
3113 規定している意味を理解しない答案も散見され,
3114 基本的知識を具体的事案に適用する
3115 訓練が不十分な受験生が一定程度存在することも実感されたところである。
3116
3117
3118 全体として,
3119 受験生が比較的正しく理解できている問題と,
3120 誤っていたり不十分な
3121 理解が目立つ問題とが明白に分かれており,
3122 受験生の実力の差を測るという意味で,
3123
3124 出題内容のバランスはとれていると感じた。
3125
3126
3127
3128 2
3129
3130 第2問について
3131 第2問は,
3132 青色申告制度の趣旨及び概要並びに青色申告の承認の取消し,
3133 並びに推
3134 計課税制度の根拠,
3135 趣旨及び概要について,
3136 それぞれ,
3137 基本的な知識を問うとともに,
3138
3139 具体的な事例への適用能力を問うものであった。
3140
3141
3142 課税実務上しばしば問題となり,
3143 判例も集積している論点に関する問題であり,
3144 全
3145 体的な印象としては,
3146 出題の意図を外した答案は少なく,
3147 出題時に予定していた解答
3148 水準を満たす内容の答案が多かったと評価できる。
3149
3150
3151 ただし,
3152 青色申告の承認の取消しについて,
3153 所得税法第150条第1項第1号該当
3154 という正解を述べたものは,
3155 予想外に少数であり,
3156 これに関する判例(最判平成17
3157 年3月10日民集59巻2号379頁)を知らないと思われるものが大半であった。
3158
3159
3160 そこで,
3161 採点に当たっては,
3162 同項第2号又は第3号該当という見解を述べた答案につ
3163 いても,
3164 論理的に記述されているものについては一定限度で得点を認めるとともに,
3165
3166 同項第1号該当という正解を述べたものには加点をすることとした。
3167
3168 基本的な判例の
3169 更なる理解が望まれるところである。
3170
3171
3172
3173 - 30 -
3174
3175 また,
3176 推計課税の適否について,
3177 所得税法第156条は挙げていても,
3178 「推計の必
3179 要性」と「推計の合理性」という二つの要件を整理して過不足なく記述しているもの
3180 は,
3181 予想より少なかった。
3182
3183 さらに,
3184 一般的な記述と具体的な事例への適用に関する記
3185 述との間にずれや食い違いが見られる答案が散見された。
3186
3187 単に基本的用語の知識を得
3188 ることを目標とするのではなく,
3189 判例等の基本的事案を通じて,
3190 実践的にこれを理解
3191 し,
3192 具体的な事例に論理的に適用する能力を涵養することが望まれる。
3193
3194
3195
3196 - 31 -
3197
3198 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(経済法)
3199 1
3200
3201 出題の趣旨について
3202 出題に当たり,
3203 独占禁止法上の制度・規定の趣旨及び内容を正確に理解し,
3204 問題文
3205 の行為が当該市場における競争にどのような影響を与えるかを念頭に置いて,
3206 事実関
3207 係を丹念に検討した上で,
3208 要件の当てはめができるか,
3209 それらが論理的かという点を
3210 評価し得るような問題作成を目指した。
3211
3212
3213 出題した2問は,
3214 独占禁止法の基本を正確に理解し,
3215 これに基づいて検討すれば解
3216 答し得る問題であり,
3217 公表されている公正取引委員会の考え方やガイドライン等につ
3218 いて細かな知識を求めるものではない。
3219
3220
3221
3222 2
3223
3224 採点方針
3225 出題の趣旨で述べたとおり,
3226 独占禁止法の基本的概念や個別の要件の意義を,
3227 その
3228 趣旨を踏まえて正確に理解しているか,
3229 当該行為が市場における競争に与える影響を
3230 十分に洞察しようとして,
3231 問題文のどの事実をどのような観点から取り上げるか分析
3232 した上で,
3233 的確に要件に当てはめることができているか,
3234 それらは論理的で説得的で
3235 矛盾がないかという観点から,
3236 法的な能力を見ようとした。
3237
3238
3239 第1問は,
3240 不公正な取引方法(一般指定第2項後段又は第12項)の成否を問うも
3241 のであり,
3242 若手デザイナーの手作りアクセサリーを携帯電話専用のウェブサイトで販
3243 売するという販売形態の特殊性を踏まえて,
3244 A社の行為がどのような市場における競
3245 争に影響等を及ぼすかを検討しているか(市場の画定),
3246 画定した市場に即した公正
3247 競争阻害性の有無を理由付けを含めて論理的に検討しているか,
3248 正当化事由の有無に
3249 ついて,
3250 その判断基準を示した上で売れ筋情報を無償で利用されるというフリーライ
3251 ド対策等を踏まえた具体的な当てはめができているかを見た。
3252
3253
3254 第2問は,
3255 不当な取引制限(独占禁止法第3条,
3256 第2条第6項)の成否を問うもの
3257 であり,
3258 設問1では,
3259 @甲工法と乙工法の関係を踏まえた「一定の取引分野」を理由
3260 付けを含めて検討しているか,
3261 A共同行為,
3262 事業活動の相互拘束等の要件について,
3263
3264 平成21年2月1日の会合と3月5日の会合等を踏まえた合意内容を検討しているか,
3265
3266 この二つの会合の間に指名停止処分を受けたA及びいずれの会合にも参加せず本件談
3267 合に協力したE・Fを具体的な理由付けを踏まえて検討しているかを見た。
3268
3269 設問2で
3270 は,
3271 不当な取引制限の成立時期について,
3272 @基本合意と個別調整の関係を踏まえて競
3273 争の実質的制限の存否を検討しているか,
3274 A設問1の結論と論理的な整合性がとれて
3275 いるかを見た。
3276
3277
3278
3279 3 採点実感等
3280 (1) 出題の意図に即した答案の存否,
3281 多寡について
3282 第1問については,
3283 A社の行為は,
3284 A・E登録者に対するものであるから,
3285 適用
3286 法条は,
3287 正確には,
3288 排他条件付取引(一般指定第11項)ではなく,
3289 拘束条件付取
3290 引(一般指定第12項)あるいは単独・間接の取引拒絶(一般指定第2項)という
3291 ことになるが,
3292 第11項該当とした答案がかなり存在した。
3293
3294 また,
3295 私的独占(排除)
3296 の該当性を検討した答案も一定数あった。
3297
3298 次に,
3299 A社の行為が影響を及ぼすことと
3300 なる市場としては,
3301 子細に検討すれば,
3302 アクセサリーサイトの運営事業者が若手デ
3303
3304 - 32 -
3305
3306 ザイナーから本件商品の販売の仲介を引き受ける市場(以下「市場@」とする)及
3307 び,
3308 本件商品がアクセサリーサイトを通じて若手デザイナーから消費者に販売され
3309 る市場(以下「市場A」とする)を考えることができる。
3310
3311 しかし,
3312 これらの2つを
3313 区別した市場画定を行い,
3314 公正競争阻害性の有無を検討している答案は,
3315 ある程度
3316 予想していたものではあるが,
3317 少なかった。
3318
3319 最後に,
3320 売れ筋情報を無償で利用され
3321 るというフリーライドの問題については,
3322 多くの答案が,
3323 出題の意図どおり,
3324 正当
3325 化事由の有無を論じていた。
3326
3327
3328 第2問の設問1については,
3329 Aについて,
3330 他者と取引段階を異にしても事業者性
3331 の要件を満たし,
3332 あるいは,
3333 相互拘束が成立する旨論述する答案がほとんどであっ
3334 たが,
3335 この論点の位置付けの不明確な答案や,
3336 論点に全く気付いていない答案も少
3337 数見られた。
3338
3339 E・Fについては,
3340 黙示の意思連絡を認める答案がほとんどであった
3341 が,
3342 いずれの結論をとるにせよ,
3343 その根拠となる事実を丁寧に示して論証する必要
3344 があるのに,
3345 これが不十分なものも一定数見られた。
3346
3347 設問2については,
3348 違反行為
3349 の成立を認めた答案が圧倒的に多かったが,
3350 E・Fについて,
3351 設問1で黙示の意思
3352 連絡を認めておきながら,
3353 特段の理由を示すことなく,
3354 設問2においては違反行為
3355 の成立を否定するという,
3356 矛盾した答案があった。
3357
3358
3359 (2) 出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準との差異について
3360 第1問については,
3361 一定数のものは,
3362 市場@における市場閉鎖効果及び手数料の
3363 価格維持効果,
3364 市場Aにおける価格水準への影響など,
3365 画定された市場に即して公
3366 正競争阻害性の有無を総合的に検討する解答をすると予想していた。
3367
3368 しかし,
3369 実際
3370 には,
3371 市場@とAを区別せずに市場閉鎖効果のみを論じた答案がほとんどであり,
3372
3373 他方で,
3374 手数料の価格維持効果などに言及した答案は少数にとどまっていた。
3375
3376 次に,
3377
3378 フリーライドの問題については,
3379 正当化事由の判断基準を示した上で,
3380 その具体的
3381 な検討をすることを予想していたが,
3382 この点を十分に論じないまま,
3383 いきなり代替
3384 措置について述べる答案が多かった。
3385
3386
3387 第2問の設問1については,
3388 E・Fの意思連絡を否定する答案が多いと予想して
3389 いたが,
3390 これを肯定する答案が圧倒的に多かった。
3391
3392 また,
3393 設問1において受注調整
3394 の成功を根拠として競争の実質的制限を肯定した場合に,
3395 設問2において,
3396 1回も
3397 受注調整をしていなくても競争の実質的制限を肯定することについての設問1との
3398 整合的な説明を期待していたが,
3399 これが十分な答案は少なく,
3400 単に「基本合意で既
3401 遂になるから」といった論述にとどまるものが多かった。
3402
3403 総じていえば,
3404 各論点に
3405 つき一通り触れてはいるものの,
3406 論述が不十分な箇所も目立ち,
3407 後記(3)でいう
3408 「良好」の中レベルの答案が多くを占めた。
3409
3410
3411 (3) 「優秀」,
3412 「良好」,
3413 「一応の水準」,
3414 「不良」答案について
3415 第1問については,
3416 適用法条,
3417 市場画定,
3418 公正競争阻害性,
3419 正当化事由といった
3420 主要な論点について,
3421 出題の意図に的確に対応した論述をしているものが「優秀」
3422 答案と評価される。
3423
3424 次に,
3425 各論点のいずれか一部について不十分な点があるが,
3426 全
3427 体として出題の意図に即した解答をしているものは「良好」,
3428 また,
3429 各論点のいず
3430 れか一部に誤りないし不正確な部分があるが,
3431 論述全体として整合性がある答案は
3432 「一定の水準」と評価される。
3433
3434 最後に,
3435 適用法条の選択や各論点の論じ方について,
3436
3437 明確な誤りないし矛盾・不整合がある答案は「不良」と評価される。
3438
3439
3440 第2問については,
3441 「優秀」答案は,
3442 設問1では,
3443 前記2で示したような期待さ
3444
3445 - 33 -
3446
3447 れた各論点について,
3448 定義や要件を正確に示した上で,
3449 問題文の事実を丁寧に当て
3450 はめて結論を導き,
3451 かつ,
3452 設問2では,
3453 違反行為の成立時期をきちんと踏まえて,
3454
3455 設問1と整合的に論じたものがこれに該当する。
3456
3457 「良好」答案は,
3458 例えば,
3459 設問1
3460 では,
3461 期待された論点のおよそ7〜8割について「優秀」答案と同レベルかそれに
3462 準ずるレベルで論述し,
3463 他の論点についても一応の論述がされており,
3464 かつ,
3465 設問
3466 2では,
3467 設問1と整合させて,
3468 違反行為の既遂時期を一応は示して論じた答案がこ
3469 れに該当する。
3470
3471 「一応の水準」答案は,
3472 例えば,
3473 設問1では期待された論点の一部
3474 につき「優秀」答案と同程度に丁寧に論述し,
3475 その余の論点についても不十分なが
3476 ら一応論じており,
3477 設問2でも「良好」答案とほぼ同レベルに論じているものがこ
3478 れに該当する。
3479
3480 「不良」答案は,
3481 例えば,
3482 設問1で期待された論点のうち複数のも
3483 のについて全く気付かず,
3484 あるいは,
3485 論点として触れていても,
3486 単に結論を記載し
3487 ただけのものや,
3488 理由付けが的外れなもので,
3489 かつ,
3490 設問2でも,
3491 第1問と論述が
3492 矛盾するものや,
3493 違反行為の成立につき理由付けが的外れないし冗長なものがこれ
3494 に該当する。
3495
3496
3497 なお,
3498 これらは,
3499 各水準に属する答案の一例であり,
3500 採点に当たっては,
3501 総合的
3502 な能力の判定にも配意しており,
3503 各水準に属する答案は,
3504 上記のものに尽きるもの
3505 ではない。
3506
3507
3508 4
3509
3510 今後の出題について
3511 今後も,
3512 独占禁止法の基礎的知識の正確な理解,
3513 当該行為が市場における競争に与
3514 える影響の洞察力,
3515 事実関係の検討能力及び論理性・説得性を求めることに変わりは
3516 ないと考えられる。
3517
3518
3519
3520 5
3521
3522 今後の法科大学院に求めるもの
3523 経済法の問題は,
3524 不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではない。
3525
3526
3527 経済法の基本的な考え方を正確に理解し,
3528 これを多様な事例に応用できる力を身に付
3529 けているかどうかを見ようとするものである。
3530
3531 法科大学院は,
3532 出題の意図したところ
3533 を正確に理解し,
3534 引き続き,
3535 知識偏重ではなく,
3536 基本的知識を正確に習得し,
3537 それを
3538 的確に使いこなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,
3539 論述においては,
3540 論
3541 点主義的な記述ではなく,
3542 構成要件の意義を正確に示した上,
3543 当該行為が市場におけ
3544 る競争へどのように影響するかを念頭に置いて,
3545 事実関係を丹念に検討し,
3546 要件に当
3547 てはめることを論理的・説得的に示すことができるように教育してほしい。
3548
3549
3550
3551 - 34 -
3552
3553 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(知的財産法)
3554 1
3555
3556 出題の趣旨,
3557 ねらい
3558 第1問,
3559 第2問共に,
3560 典型的な論点を含む事例問題である。
3561
3562 両問を通じ,
3563 法曹に必
3564 要となる事実関係の分析力,
3565 基本的事項についての理解度,
3566 これらを前提とした論理
3567 的な思考力,
3568 論理一貫した論述をすることができる力等をみることをねらいとした。
3569
3570
3571 (1) 第1問(特許法)について
3572 本問においては,
3573 主として均等論及び共有特許権に係る特許発明の実施が問題と
3574 なる。
3575
3576 均等論については,
3577 ボールスプライン事件に係る最高裁判決(平成10年2
3578 月24日民集52巻1号113頁)の正確な理解が必要である。
3579
3580 その理解を前提に,
3581
3582 具体的な事例において的確な当てはめを行うことができるかが,
3583 評価の重要な指標
3584 となる。
3585
3586 当てはめにおいては,
3587 問題となる要件の趣旨にさかのぼるなどして適切な
3588 解釈を展開することも必要となろう。
3589
3590
3591 (2) 第2問(著作権法)について
3592 本問においては,
3593 プログラムの著作物について,
3594 多数の関係者が登場する事実関
3595 係の中で,
3596 いかなる権利が問題となるのかを把握し,
3597 当事者間の契約の内容やプロ
3598 グラムの著作物に特有の規定の趣旨を踏まえながら,
3599 具体的な事例において的確な
3600 当てはめを行い,
3601 説得力のある論述を行う必要がある。
3602
3603 事実関係において一義的に
3604 明確でない部分については,
3605 論拠を示して一定の事実を認定して論述を進めるか,
3606
3607 場合分けを行うべきである(この点は,
3608 第1問にも共通する)。
3609
3610
3611
3612 2
3613
3614 採点実感等
3615 残念ながら,
3616 期待していた水準に達している答案は多くはなかった。
3617
3618 論点や出題の
3619 意図を理解していないと思われるもの,
3620 論点に関するキーワードが不完全な形で記載
3621 されており,
3622 理解不足が露呈しているものなどが多数見られた。
3623
3624 他方,
3625 出題の意図に
3626 即し,
3627 事例分析,
3628 論点に関する正確な理解と記述,
3629 条文の的確な指摘とこれを踏まえ
3630 た検討がなされている答案も一定数あり,
3631 このような答案は高い評価を与えることが
3632 できた。
3633
3634
3635 (1) 第1問(特許法)について
3636 ア 均等論に関する論述について
3637 設問1及び2では,
3638 均等論の正確な理解を前提に論述されることが期待される。
3639
3640
3641 前記最高裁判決において,
3642 均等侵害が認められる要件がその趣旨とともに明示さ
3643 れているが,
3644 その正確な理解と記述が最低限必要である。
3645
3646 残念ながら,
3647 要件とそ
3648 の趣旨を正確に記述できている答案は少なかった。
3649
3650 要件のキーワードを適当に抜
3651 き出して羅列しているかのような答案や,
3652 正確な理解もなく関係する字句のみを
3653 暗記して記述したものとしか思えない答案が多かった。
3654
3655
3656 平成18年にも均等論を論点として含む事例問題を出題したが,
3657 重要な論点な
3658 のでしっかり理解してほしいとの考えから今回もこれを取り上げた。
3659
3660 しかし,
3661 高
3662 く評価できる答案はほとんどなく,
3663 極めて残念であった。
3664
3665 他方,
3666 少ないながらも
3667 適切に前記判決を理解し,
3668 これを前提にして,
3669 事例に即して的確に論じきってい
3670 る答案もあり,
3671 このような答案については高い評価を与えることができた。
3672
3673 今後,
3674
3675 このような答案が増えていくことを期待する。
3676
3677
3678
3679 - 35 -
3680
3681 なお,
3682 当然のことながら,
3683 前記最高裁判決と異なる見解に立って論じることを
3684 否定するものではない。
3685
3686 しかし,
3687 その場合であっても,
3688 同判決の内容を理解した
3689 上で,
3690 これを採らない理由を十分に論ずるべきである。
3691
3692 特段の根拠もなく独自の
3693 見解を述べていると認められる場合には,
3694 評価することはできない。
3695
3696 もっとも,
3697
3698 独自の見解を採っているかのように見える答案のほとんどは,
3699 単に同判決の理解
3700 不足により誤解に基づいて記述をしているもののように思われた。
3701
3702
3703 イ 設問1について
3704 前記最高裁判決における第4要件が問題となるが,
3705 第3要件の問題とする答案
3706 が相当数あった。
3707
3708 第3要件,
3709 第4要件を混同し,
3710 理解不十分のまま論述している
3711 ことが原因であると思われる。
3712
3713
3714 次に,
3715 第4要件の趣旨にさかのぼり,
3716 出願時に特許法第29条の2に該当し得
3717 る場合についてどう考えるのかが問題であることに気付く必要がある。
3718
3719 第4要件
3720 の趣旨を踏まえた的確な論述がなされている答案については,
3721 高い評価を与える
3722 ことができた。
3723
3724
3725 ところで,
3726 無効の抗弁(同法第104条の3第1項)を持ち出す答案が多数見
3727 られたが,
3728 甲及び乙の共有特許に係る発明は構成要件A,
3729 B,
3730 Cから成る発明α
3731 であって,
3732 戊の特許出願の願書に最初に添付した明細書に記載されたa,
3733 b',
3734 cの
3735 構成とは異なるのであるから,
3736 戊の出願が甲の出願よりも早かったとしても,
3737 甲
3738 及び乙の上記特許が無効原因を有することになるわけではない。
3739
3740 結局,
3741 均等論の
3742 理解不足,
3743 同法第29条各項,
3744 第29条の2の規定の理解不足から生じた誤りで
3745 あると思われる。
3746
3747
3748 ウ 設問2について
3749 前記最高裁判決における第3要件が問題となるところ,
3750 これについては,
3751 比較
3752 的多くの答案において指摘され論じられていた。
3753
3754 ただ,
3755 残念に思われたのは,
3756 大
3757 多数の答案が,
3758 第3要件を単純に当てはめて結論を出すだけで終わっていたこと
3759 である。
3760
3761 単純に当てはめると,
3762 丙によるロ号製品の製造販売開始時には当業者に
3763 おいて容易想到とは認められず,
3764 丁によるハ号製品の製造販売開始時には当業者
3765 において容易想到と認められることから,
3766 両者の結論が異なるということになる
3767 が,
3768 更に踏み込んで,
3769 ロ号製品とハ号製品は同一の物であるのに,
3770 その製造販売
3771 開始時期が違うだけで侵害となるか否かが異なってしまってよいのかについても
3772 論じてほしかった。
3773
3774
3775 なお,
3776 第3要件を正確に理解しているとは思われないような答案が数多く見ら
3777 れた。
3778
3779 例えば,
3780 置換が容易想到かどうかの対象が「相違する部分」か「対象製品
3781 等」か,
3782 判断基準時が「製造時」か「出願時」か,
3783 判断主体が「当事者」か「当
3784 業者」かについてきちんと整理・理解しないまま,
3785 要件の適用について論じてい
3786 るような答案である。
3787
3788 結局,
3789 要件の存在意義ないし趣旨の理解が不十分であるた
3790 め,
3791 正確に区別できていないのではないかと思われる。
3792
3793
3794 エ 設問3について
3795 下請等第三者による実施に当たる行為をどのように見るか,
3796 という問題である。
3797
3798
3799 まず,
3800 特許権の一方共有者の承諾がないとした場合に,
3801 当該第三者が一方共有者
3802 の許諾なく実施していると見るのか,
3803 当該第三者による実施は他方共有者による
3804 実施と同視し得るものとして許諾不要とみるかについて論じる必要がある。
3805
3806 この
3807
3808 - 36 -
3809
3810 点は多くの答案において言及されており,
3811 ほとんどの受験生において問題の所在
3812 を理解し,
3813 解決方法も分かっているようであった。
3814
3815 本問においては更に具体的な
3816 事実関係が明らかにならないと判断できないと考えることもできるが,
3817 その場合,
3818
3819 いかなる事実関係が判明すればよいのかについて指摘すべきである。
3820
3821 また,
3822 単に
3823 利益衡量のみで結論を示すような答案もあったが,
3824 このような答案は高く評価す
3825 ることはできない。
3826
3827
3828 甲と乙が,
3829 甲のみがα発明の実施をすることに合意していた場合には,
3830 特許法
3831 第73条第2項の「別段の定」に該当し得ることを念頭に置いて論述しなければ
3832 ならないが,
3833 これに全く触れない答案が少なからずあった。
3834
3835 なお,
3836 これについて
3837 論述するに当たり,
3838 その効果を合意の当事者でない丁に対して及ぼすことができ
3839 るかどうか,
3840 すなわち,
3841 合意が甲乙間の債権的効力を持つにすぎないのか,
3842 物権
3843 的効力を持つものとして第三者にも主張できるのかといった点についても考察さ
3844 れていれば,
3845 法的なものの見方ができる能力を示しているものとして評価した。
3846
3847
3848 (2) 第2問(著作権法)について
3849 ア プログラムの著作物に関する問題であるが,
3850 論点や関係条文は比較的限られて
3851 おり,
3852 著作権法に関する基本的な理解があれば十分解答できる問題である。
3853
3854
3855 イ 設問1について
3856 まず,
3857 職務著作が問題となるが,
3858 プログラムの著作物が問題となっているにも
3859 かかわらず,
3860 著作権法第15条第1項の適用を検討する答案が少なくなかった。
3861
3862
3863 同条第2項が,
3864 プログラムの著作物に関する職務著作について定めている。
3865
3866 こま
3867 めに六法を引いて条文に当たる習慣が不足しているのではないかと思われた。
3868
3869
3870 次に,
3871 著作権の譲渡については著作権法第61条が問題となるが,
3872 翻案権等の
3873 「特掲」について定めた同条第2項に触れる必要がある。
3874
3875 しかし,
3876 これについて
3877 全く触れていない答案や,
3878 本件契約に「すべての著作権」と記載されていること
3879 をもって直ちに「特掲」されているとする答案が比較的多かった。
3880
3881 後者について
3882 は,
3883 関係規定に触れていることから一定の評価を与えることができるが,
3884 それで
3885 もなお論述不足である。
3886
3887 すなわち,
3888 「特掲」されていないときは翻案権等は譲渡
3889 した者に留保されたものと推定するとした本条の趣旨にさかのぼり,
3890 本件契約に
3891 上記のような包括的な記載があるだけで「特掲」されていると判断してしまって
3892 よいのか,
3893 問題意識を持って論述してもらいたかった。
3894
3895 なお,
3896 「特掲」されてい
3897 ないとしつつも留保推定が覆滅して翻案権等も譲渡されたとする答案も見られた
3898 ところ,
3899 推定の覆滅を認める合理的な論拠を明確に論じてあれば,
3900 十分評価に値
3901 する。
3902
3903
3904 次に,
3905 著作者人格権の関係では,
3906 少なくとも同一性保持権侵害が問題となるこ
3907 とは明らかであり,
3908 これについては,
3909 さすがに多くの答案で触れられていた。
3910
3911 し
3912 かし,
3913 同法第20条第2項第3号に規定する「必要な改変」か否かに触れるべき
3914 ところ,
3915 これに触れていない答案が多かった。
3916
3917
3918 ウ 設問2について
3919 著作権法第113条第2項に言及されていない答案が比較的多く,
3920 その中には,
3921
3922 同法第61条第2項の適用に関し,
3923 本問の著作権譲渡契約において翻案権等は「特
3924 掲」されていると断じ,
3925 あるいは,
3926 留保推定が覆滅すると断じただけで論述を終
3927 えている答案が相当あった。
3928
3929 本問における同法第61条第2項の解釈・当てはめ
3930
3931 - 37 -
3932
3933 をそのように行うならば,
3934 Aに翻案権等は留保されていないこととなるため,
3935 同
3936 法第113条第2項について論じる前提を欠くことになろうが,
3937 本問は,
3938 Aが差
3939 止請求をするためにどのような主張をすべきかを問うものであるから,
3940 前提条件
3941 も含めてAの主張として想定できることを論じるべきである。
3942
3943
3944 また,
3945 著作権法第113条第1項第2号の「所持」について論じる答案が見ら
3946 れたが,
3947 Fに同号所定の「頒布の目的」があったと考えられるのかについては疑
3948 問である。
3949
3950
3951 エ 設問3について
3952 多くの答案は,
3953 プログラムの著作物の貸与に当たることを当然の前提として,
3954
3955 貸与権の侵害を指摘しただけで,
3956 あるいはこの点と貸与権の消尽の問題について
3957 論じただけで終わっていた。
3958
3959 しかし,
3960 本問は,
3961 プログラムが組み込まれた工業製
3962 品の貸与という設問の特殊性に着目して論述できるかどうかをみようとした問題
3963 である(レンタカーの計器類やエンジンのコンピュータ制御装置に組み込まれて
3964 いるプログラムについて,
3965 レンタカーそのものの貸与と別個に評価して貸与権を
3966 論じることの落ち着きの悪さを想起してもらいたい)。
3967
3968 結論はいずれでもよいが,
3969
3970 上記特殊性を踏まえつつ貸与権侵害の成否について論じた答案は極めて少なく,
3971
3972 残念であった。
3973
3974
3975 なお,
3976 貸与権の消尽に関し,
3977 これを認めるとする答案が見られた。
3978
3979 しかし,
3980 著
3981 作権法の規定等からして,
3982 このような見解を採ることは相当困難なのではないか
3983 と思われる。
3984
3985 かかる見解を採っている答案において,
3986 その論拠を説得的に論じき
3987 れているものは見当たらなかった。
3988
3989
3990 (3) 4つの評価水準について
3991 ア 各答案は,
3992 それぞれが取り上げている論点の内容やその重点の置き方,
3993 結論の
3994 方向性,
3995 論理展開の順序や方法など,
3996 あらゆる意味で千差万別である。
3997
3998 他方で,
3999
4000 出題者としては必ずしも一つの答えを求めているものではないことから,
4001 どのよ
4002 うな答案が各水準に相当するのかについて述べることは極めて困難である。
4003
4004 した
4005 がって,
4006 ある答案について,
4007 それがいかなる評価水準に当たるかは,
4008 必ずしも以
4009 下に述べるところだけで判断できるものではないことに留意が必要である。
4010
4011
4012 イ 採点実感を踏まえ,
4013 評価に関する重要な要素と思われるものの例を抽出すると,
4014
4015 以下のとおりである。
4016
4017
4018 ・事例分析が正確になされているか
4019 ・論点に関する正確な理解がなされているか
4020 ・条文を的確に踏まえて検討されているか
4021 ・当てはめが的確になされているか
4022 ・論述の質・量におけるバランスがとれているか
4023 ・全体的に説得力のある論述がなされているか
4024 あえて述べれば,
4025 以上のような要素がすべて優れたレベルにあれば「優秀」,
4026
4027 それに次ぐレベルにあれば「良好」,
4028 ひととおりの水準にあれば「一応の水準」,
4029
4030 それも満たしていないものが「不良」ということができる。
4031
4032
4033 ウ これを第1問について具体的に見てみると,
4034 正確な事例分析が行われ,
4035 均等論
4036 について要件・趣旨ともに正確に理解されており,
4037 的確な当てはめにより明確に
4038 結論が示されており,
4039 論述全体を見ても過不足がなく説得力に富む答案について
4040
4041 - 38 -
4042
4043 は「優秀」,
4044 事例分析がそれ相当になされており,
4045 均等論についてもひととおり
4046 の理解が見られ,
4047 当てはめをして妥当な結論を示していれば「良好」,
4048 事例分析
4049 についてはもう少し踏み込んでほしいが,
4050 均等論についての理解に基づいて一応
4051 の当てはめがなされて結論に至っているようなものは「一応の水準」,
4052 均等論が
4053 理解されていないと思われるもの,
4054 事例分析が粗雑で不適切なもの,
4055 当てはめが
4056 されていない又は明らかに誤っているもの,
4057 無関係な事項を長々と論じているも
4058 のなどについては,
4059 「不良」の評価に傾くことになる。
4060
4061
4062 エ 同じく,
4063 第2問においては,
4064 出題の趣旨を的確にとらえた上で,
4065 事実関係に即
4066 して,
4067 関係者の有する権利関係とこれに対する侵害の成否について過不足なく論
4068 じ,
4069 かつ,
4070 条文を踏まえた的確な当てはめを行っており,
4071 さらに,
4072 プログラムの
4073 著作物という本設問において対象となっている著作物の特殊性を十分に意識した
4074 論述を行っているものが「優秀」,
4075 出題の趣旨を的確にとらえて,
4076 各設問に対応
4077 した適切な論述を行うなど,
4078 比較的水準の高いものが「良好」,
4079 問題となる条文
4080 を指摘するなどして,
4081 各設問に一応対応した記述を行っているなど,
4082 ある程度の
4083 評価を与えることができるものが「一応の水準」,
4084 著作権や著作者人格権に関す
4085 る知識が不正確なもの,
4086 条文を踏まえないで論述を展開しているもの,
4087 設問の問
4088 に対応しない記述を行っているものなどが「不良」という評価に相当するであろ
4089 う。
4090
4091
4092 (4) その他の指摘事項(答案の形式面について)
4093 文字の字体を崩したり,
4094 小さな字で無造作に続け書きをするなど,
4095 判読困難な文
4096 字で書かれた答案が少なからず見られた。
4097
4098 これでは,
4099 せっかく記述しても,
4100 内容が
4101 正確に伝わらないといった結果を招きかねない。
4102
4103 美しい文字である必要はないが,
4104
4105 少なくとも普通に判読できる文字で記述するよう心掛けるべきである。
4106
4107
4108 また,
4109 加削等ある程度の訂正を施すことは問題ないが,
4110 できる限り大きな訂正に
4111 ならないよう注意すべきである。
4112
4113 今般の答案の中には,
4114 極めて無秩序な訂正を行っ
4115 ているものもあり,
4116 閉口した。
4117
4118 答案構成をある程度固めてから答案を書き始めれば,
4119
4120 極端な訂正をする必要性は生じないものと思われる。
4121
4122 比較的大きな訂正を行わざる
4123 を得なくなった場合には,
4124 読み手にもその訂正内容が容易に理解できるよう,
4125 記載
4126 方法等に配意すべきである。
4127
4128
4129 3
4130
4131 法科大学院教育に求めるもの
4132 従前から指摘していることであるが,
4133 まず基本的事項につき,
4134 単に記憶させるので
4135 はなく,
4136 十分に理解させるような教育をお願いしたい。
4137
4138 理解することにより正確な知
4139 識が身に付き,
4140 また,
4141 理解する過程で法的なものの見方や論理的思考力が鍛えられる
4142 ものと考えられる。
4143
4144 今回の答案審査に当たり,
4145 基本的事項を十分理解することなく記
4146 述していると思われる答案が多かったので,
4147 特に強調して指摘する次第である。
4148
4149
4150 また,
4151 これも従前から指摘していることであるが,
4152 事実関係を丁寧に分析し,
4153 的確
4154 に当てはめる訓練をしっかり積ませていただきたい。
4155
4156 理解に基づく正確な知識等があ
4157 っても,
4158 具体的な事例において的確に当てはめることができなければ意味がない。
4159
4160 事
4161 実関係の分析力と的確な当てはめをすることができる力をつけさせるよう,
4162 十分に指
4163 導していただきたい。
4164
4165
4166
4167 - 39 -
4168
4169 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(労働法)
4170 1
4171
4172 2
4173
4174 出題の趣旨,
4175 ねらい等
4176 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
4177
4178
4179 採点方針
4180 設問の事例を基に必要な論点を的確に抽出できているか,
4181 論点に関係する法令,
4182 判
4183 例及び学説を正しく理解し,
4184 これを踏まえて,
4185 必要な事実の摘示・当てはめをしなが
4186 ら,
4187 論理的かつ一貫性のある法律構成を展開して,
4188 適切に結論を導き出しているかを
4189 基準に採点した。
4190
4191
4192 出題の趣旨に沿った主要な論点を的確に取り上げた上,
4193 その論述が期待される水準
4194 に達している答案については,
4195 おおむね標準以上の得点を与え,
4196 さらに,
4197 事案に即し
4198 た派生的な論点にも言及し,
4199 あるいは,
4200 必要な事実を過不足なく摘示するなど,
4201 優れ
4202 た事例分析や考察が認められる答案については,
4203 更に高い得点を与えることとした。
4204
4205
4206
4207 3 採点実感等
4208 (1) 第1問について
4209 小問(1)を総評すると,
4210 必要な論点の抽出が非常に不十分な答案が相当数あり,
4211
4212 期待される水準に達していた答案が予想以上に少なかった。
4213
4214
4215 本問では,
4216 事業譲渡に伴う労働契約の承継に関するA社・B社の意思解釈及びX1
4217 を不採用としたB社の意思についての検討が不可欠である。
4218
4219 事業譲渡の法的性質に
4220 ついては一応の理解があると認められる答案が多く,
4221 労働契約承継が事業譲渡当事
4222 者の合意に基づくとの見解を採るものがほとんどであったが,
4223 この場合,
4224 当事者の
4225 合理的意思解釈によって結論を導くのが論理的な筋道である。
4226
4227 特に,
4228 X1・B社間の
4229 労働契約の成立を認める場合には,
4230 A社・B社の労働契約承継に関する意思をどう
4231 解釈するのか,
4232 また,
4233 B社の意思に反してX1との労働契約成立を認める法律構成を
4234 どう考えるか,
4235 といった点について,
4236 事例に即して,
4237 かつ,
4238 法令及び判例等を踏ま
4239 えて論じる必要がある。
4240
4241 ところが,
4242 これらの検討が全くないまま,
4243 単にX1の採用へ
4244 の期待や不採用の不利益を理由に,
4245 信義則ないし権利濫用といった一般条項を十分
4246 な理論的根拠なく引用し,
4247 労働契約成立の結論を導く答案が少なくなかった。
4248
4249 また,
4250
4251 事業譲渡に伴う労働契約承継を否定する立場に立つ場合,
4252 新規採用(労働契約の締
4253 結)の問題となるにもかかわらず,
4254 B社のX1不採用が信義則ないし権利濫用により
4255 無効であるなどと論じてB社の採用義務を肯定する答案も散見されたが,
4256 法律論と
4257 しては不適切である。
4258
4259 なお,
4260 労働契約承継について,
4261 労働者たるX1の同意が要件と
4262 なることに言及した答案は,
4263 加点の対象とした。
4264
4265
4266 次に,
4267 B社のX1に対する書類選考のみで優先採用する旨の説明とX1の応募によ
4268 るX 1 ・B社間の個別の労働契約成立の可能性について検討することが期待された
4269 が,
4270 この論点を的確に論じた答案は少なかった。
4271
4272
4273 また,
4274 多くの答案がX1不採用の不当労働行為性に言及していたが,
4275 この論点のみ
4276 を一般論から長々と論述し,
4277 他の論点とのバランスを欠く答案が相当数見られた。
4278
4279
4280 損害賠償請求の可否については,
4281 労働者たる地位の確認及び賃金請求の可否とは
4282 別に検討し,
4283 論述すべきであり,
4284 特に,
4285 X1・B社間の労働契約成立を否定する結論
4286
4287 - 40 -
4288
4289 を採る場合,
4290 X1を救済する他の手立てとして,
4291 期待権侵害や不当労働行為に基づく
4292 損害賠償請求の検討が求められる。
4293
4294 しかし,
4295 労働者たる地位の確認及び賃金請求を
4296 肯定する(又は否定する)結論に併せて,
4297 損害賠償請求も同じく肯定する(又は否
4298 定する)として終える答案が多かった。
4299
4300 また,
4301 これを分けて論じた答案でも,
4302 損害
4303 の内容について具体的に検討したものは少なかった。
4304
4305 なお,
4306 賃金請求を肯定した場
4307 合,
4308 設問の事例で逸失利益を認定するのは難しいが,
4309 その点に言及した答案は,
4310 加
4311 点の対象とした。
4312
4313
4314 次に,
4315 小問(2)については,
4316 多くの答案が,
4317 労働契約法第16条を摘示し,
4318 整
4319 理解雇の問題であるとしていわゆる4要件(要素)の充足を検討して結論を導いて
4320 おり,
4321 期待される一応の水準に達している答案が比較的多かった。
4322
4323 ただし,
4324 設問の
4325 事例の当てはめにおいて,
4326 例えば,
4327 A工場部門従業員の職種・勤務地限定の事実関
4328 係は,
4329 人選の合理性の観点だけでなく,
4330 解雇回避努力義務の観点でも検討すべきも
4331 のであるが,
4332 一方しか検討していない答案が多かった。
4333
4334 他方,
4335 一つの事実関係につ
4336 いて複合的に要件(要素)充足性を検討している答案には,
4337 相応の評価を与えた。
4338
4339
4340 (2) 第2問について
4341 第2問では,
4342 出題の趣旨に沿った主要な論点の抽出,
4343 法的評価に結びつく事実の
4344 抽出・当てはめ,
4345 これらを踏まえた救済手立ての在り方を整合的に論述することが
4346 求められるところ,
4347 多くの答案は,
4348 そのうち,
4349 主要な論点の拾い上げと救済手立て
4350 の言及がおおむねできており,
4351 期待される水準には一応達していたが,
4352 それを超え
4353 て,
4354 必要な事実の摘示と要件該当性の検討が十分に出来ていた答案は必ずしも多く
4355 なかった。
4356
4357
4358 設問1では,
4359 X1組合の救済手立てにつき,
4360 多くの答案がY社によるチェック・オ
4361 フの一方的中止(支配介入)及び団交拒否を理由とする労働委員会への救済手続に
4362 言及できており,
4363 また,
4364 裁判所への救済手立てとして,
4365 団体交渉を求め得る地位の
4366 確認請求や不当労働行為が不法行為であることを理由とする損害賠償請求に言及で
4367 きていた。
4368
4369 X2の救済手立てについては,
4370 Y社に対する未払賃金(A組合脱退後に控
4371 除された組合費相当分)請求が重要であるが,
4372 これを的確に指摘できた答案は意外
4373 に少なかった。
4374
4375
4376 設問2では,
4377 言及すべき論点と事実が少なくないことから,
4378 丁寧な事例分析によ
4379 って,
4380 これらを的確に抽出するとともに,
4381 その重要度の軽重に応じてバランスよく
4382 論述することが求められるが,
4383 ある論点について一般論を長々と論じるなど,
4384 全体
4385 として必要な論点や事実の摘示が不十分な結果,
4386 得点が伸びない答案が少なくなか
4387 った。
4388
4389
4390 まず,
4391 X1組合とのチェック・オフ協定の一方的中止にかかわる不当労働行為(団
4392 交拒否及び支配介入)の成否を検討するには,
4393 Y社が中止の理由として主張する,
4394
4395 X1組合が過半数組合でなくなった事実及び協定の期間が満了した事実が団交拒否の
4396 正当理由,
4397 あるいは,
4398 チェック・オフ中止の正当性の根拠(支配介入の実体ないし
4399 支配介入意思を否定する事情)といえるかが重要な論点であるが,
4400 この点に的確に
4401 言及できた答案は多くなく,
4402 団交拒否に関しては,
4403 Y社が上記主張に固執したこと
4404 のみを強調して誠実交渉義務違反を論じるにとどまる答案が多かった。
4405
4406 なお,
4407 過半
4408 数組合でなくなったX1組合とのチェック・オフ協定につき,
4409 労働基準法第24条第
4410 1項違反を論じた答案が少なくなかったが,
4411 本問ではむしろ,
4412 上記の正当理由等の
4413
4414 - 41 -
4415
4416 検討の中で同条の過半数組合要件がチェック・オフ協定の存続要件か否かを論じる
4417 ことが求められる。
4418
4419 そのほか,
4420 チェック・オフ協定につき,
4421 期間が満了したとはい
4422 え,
4423 これまで同協定を10年間継続してきた事実をとらえて,
4424 団交拒否の正当理由
4425 を否定する事情や支配介入を肯定する事情として検討する意味があるが,
4426 同事実に
4427 より労使慣行(民法第92条)としてチェック・オフ協定が有効に継続するといっ
4428 た,
4429 労働法の基本的理解に欠けると思われる答案も散見された。
4430
4431
4432 次に,
4433 Y社がA組合のためにX2に係るチェック・オフを継続したことについて,
4434
4435 X1組合及びX2の各救済手立ての当否を検討するには,
4436 チェック・オフ協定の法律
4437 関係(労働基準法第24条第1項との関係,
4438 効果,
4439 組合員との組合費支払委任契約
4440 の要否,
4441 労働協約として締結されたチェック・オフ協定の規範的効力の有無)に関
4442 する見解を示した上,
4443 X2のA組合脱退の有効性(組合員の脱退に組合の承認を要す
4444 る旨の組合規約の有効性)の検討が必要となる。
4445
4446 しかし,
4447 チェック・オフ協定の法
4448 律関係とX 2脱退の有効性の問題が整合的に論じられていない答案が少なくなかっ
4449 た。
4450
4451 なお,
4452 X2のチェック・オフ中止申入れにより組合費支払委任契約が解除された
4453 ことから,
4454 Y社はA組合のためのチェック・オフを継続できないとの結論を導き,
4455
4456 X2の脱退の有効性に言及しない答案が比較的多かったが,
4457 Y社がX2に係るチェッ
4458 ク・オフを継続しているのは,
4459 X2のA組合脱退が有効でないことを根拠としている
4460 ことが明らかである以上,
4461 この論点に言及しないのは検討が不十分と評価せざるを
4462 得ない。
4463
4464
4465 次に,
4466 救済手立ての可否の検討では,
4467 労働委員会と裁判所の権限や機能の違いを
4468 踏まえた論述が求められるところ,
4469 これを意識した答案は必ずしも多くなかった。
4470
4471
4472 4
4473
4474 今後の出題
4475 出題方針について変更すべき点は特にないものと考える。
4476
4477 今後も,
4478 法令,
4479 判例及び
4480 学説に関する正確な理解を前提として,
4481 的確に事例を分析し,
4482 必要な論点を抽出して,
4483
4484 自己の法的見解を展開し,
4485 これを事例に当てはめることによって,
4486 妥当な結論を導く
4487 という,
4488 法律実務家に求められる基本的な能力・素養を試す出題を継続することとし
4489 たい。
4490
4491
4492
4493 5
4494
4495 今後の法科大学院教育に求めるもの
4496 法令・判例・学説に関する基本的知識については,
4497 正しい理解に基づき,
4498 かつ,
4499 網
4500 羅的に習得することを更に目指していただきたい。
4501
4502 また,
4503 事例を的確に分析し,
4504 紛争
4505 解決のために必要な事実と論点を抽出した上,
4506 これに適合する法令・判例・学説を踏
4507 まえて,
4508 論理的で相互に整合性のある法律構成を展開し,
4509 妥当な結論を導くという,
4510
4511 法的思考力の更なる養成をお願いしたい。
4512
4513
4514 さらに,
4515 上記に関連して法科大学院生の学習方法について付言すると,
4516 基本的な判
4517 例(特にリーディング・ケースとなっている最高裁判例)については,
4518 単に判例解説
4519 等に要約された「事実の概要」と「判決要旨」のみを確認して事足れりとするのでな
4520 く,
4521 直接,
4522 判決文に当たって,
4523 裁判所がどのような事実関係に着目し,
4524 いかなる法律
4525 構成を採って,
4526 当該判断を導いたのかを正しく理解する学習が望まれる。
4527
4528
4529
4530 - 42 -
4531
4532 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(環境法)
4533 【第1問について】
4534 1 出題の意図に即した答案の存否,
4535 多寡
4536 第1問は,
4537 容器包装リサイクル法の仕組みと拡大生産者責任の考え方との関係を問
4538 う基本的な問題であった。
4539
4540
4541 設問1(1)に関して,
4542 問題文中の「考え方」が拡大生産者責任(EPR)を意味
4543 することは,
4544 ほとんどの答案において指摘されていた。
4545
4546 さらに,
4547 特定事業者に対する
4548 再商品化義務付けがその法政策的反映であることも,
4549 ほとんどの答案が指摘していた。
4550
4551
4552 それを踏まえ,
4553 循環型社会形成推進基本法第11条の要旨を示した上で,
4554 容器包装
4555 に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律(以下「容器包装リサイクル法」
4556 という。
4557
4558 )におけるその具体化状況を条文に則して指摘することが求められたが,
4559 前
4560 者の論述がかなりを占める答案が比較的多くあった。
4561
4562 スペース配分とすれば,
4563 むしろ
4564 逆にすべきである。
4565
4566 また,
4567 容器包装リサイクル法についても,
4568 第2章の責務規定では
4569 なく,
4570 第6章の具体的義務規定(第11〜13条)を指摘すべきところ,
4571 前者のみに
4572 とどまる答案が散見された。
4573
4574 具体的権利義務規制に及ばなければ規制の意味は乏しい。
4575
4576
4577 一定の場合に,
4578 分別収集をする市町村に金銭を支払う制度になっている(第10条の
4579 2)ことも「考え方」の現れである点については,
4580 3分の1程度の答案しか指摘して
4581 いなかった。
4582
4583
4584 設問1(2)に関しては,
4585 拡大生産者責任の「定義」はほとんどの答案において指
4586 摘されていたものの,
4587 それが環境配慮設計(DfE)の実現を目指すという機能を持
4588 つ点にまで言及する答案は半数程度であった。
4589
4590 EPRのエッセンスは,
4591 インセンティ
4592 ブの創出である。
4593
4594 また,
4595 それが再商品化義務との関係でどのような意味を持つかにつ
4596 いて理解していると推察される答案は少なかった。
4597
4598
4599 市町村に金銭を支払う制度が法改正で導入されたという点を設問1(1)で指摘し
4600 たことを受けて,
4601 しかしながらそれはまだ環境配慮設計を実現するための十分なイン
4602 センティブにはなっていないと指摘できた答案は少なかった。
4603
4604 法改正が何を目指しど
4605 のような限界を持つかは,
4606 法政策的観点からは重要な観点であり,
4607 こうした視点で論
4608 述した答案には高い評価が与えられた。
4609
4610
4611 再商品化義務があるにもかかわらずそれを果たさないという意味で「フリーライダ
4612 ー」という言葉が使われるが,
4613 その意味を正確に理解せず,
4614 単に特定事業者のカテゴ
4615 リーに含まれないという意味で用いていた答案が少なくなかったのは意外である。
4616
4617
4618 設問2(1)に関して,
4619 主務大臣が講ずべき措置が,
4620 容器包装リサイクル法の指導
4621 ・助言(第19条),
4622 勧告・公表・命令(第20条)であることについては,
4623 ほとん
4624 どの答案が指摘していた。
4625
4626 命令違反に対しては刑罰の適用がある(第46条)が,
4627 こ
4628 の点を見逃している答案がかなりあった。
4629
4630 また,
4631 触れていた答案でも,
4632 刑罰の適用に
4633 は刑事手続を要することを失念し,
4634 単に「主務大臣は罰金を科することができる」と
4635 いう趣旨を記述するものが意外に多かった。
4636
4637 科刑のためには,
4638 主務大臣は告発をする
4639 ことになる(刑事訴訟法第239条第2項)。
4640
4641
4642 本問では「循環的利用」をしていないことが問題になっているのであるから,
4643 容器
4644 包装リサイクル法第19条以下の適用となるが,
4645 「排出の抑制」と速断して同法第7
4646 条の5以下について論ずる答案が散見された。
4647
4648
4649
4650 - 43 -
4651
4652 設問2(2)に関して,
4653 主務大臣が具体的措置を講ずる前の段階で,
4654 義務不存在確
4655 認訴訟を提起することについては,
4656 大半の答案が触れていた。
4657
4658 ただ,
4659 「確認の利益」
4660 が認められるかどうかを事案に即して説明した答案は半分程度にとどまった。
4661
4662 この点
4663 について丁寧に論述した答案は,
4664 積極的に評価した。
4665
4666
4667 措置命令に対する差止訴訟・取消訴訟について触れる答案は,
4668 意外に少なかった。
4669
4670
4671 公表の処分性を論じた上でその差止訴訟・取消訴訟について触れる答案は,
4672 散見され
4673 た程度であった。
4674
4675 差止訴訟を挙げる答案でも,
4676 事案に即して認容要件を論ずるものは
4677 ほとんどなかった。
4678
4679 単に訴訟類型を挙げるだけではなく,
4680 事案に即した説明が求めら
4681 れる。
4682
4683
4684 2
4685
4686 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
4687 設問1(1)については,
4688 循環基本法と容器包装リサイクル法の関係,
4689 及び,
4690 後者
4691 の基本的な仕組みを問う出題であったため,
4692 全体としてよくできていた。
4693
4694 (2)につ
4695 いては,
4696 拡大生産者責任の定義は覚えているものの,
4697 それが具体的法政策にどのよう
4698 に反映するのかという点にまで広げて理解をしているかどうかが得点の分かれ目にな
4699 った。
4700
4701
4702 設問2(1)(2)については,
4703 主務大臣がどのような措置を講じようとしている
4704 か,
4705 講じたかを時間軸に沿って理解し,
4706 それぞれのタイミングでどのような訴訟を提
4707 起できるかという論述を期待したが,
4708 思いつくだけの訴訟類型を平板に並べる答案が
4709 多かった。
4710
4711 これは,
4712 環境法の実施過程に対する想像力がいささか欠けているからであ
4713 ろう。
4714
4715 また,
4716 訴訟類型を示すだけで事案に当てはめないのは,
4717 理解として定着してい
4718 ないことを示していると思われる。
4719
4720
4721
4722 3
4723
4724 各水準の答案のイメージ
4725 各水準の答案のイメージは,
4726 一概には言えないが,
4727 「優秀」といえる答案のイメー
4728 ジは,
4729 より広い視点から論点をとらえて,
4730 それを基本的考え方と関係させたり設例の
4731 状況に照らしながら論じているものである。
4732
4733 単に用語を記憶したというだけではなく,
4734
4735 それが持つ意味を設例との関係で説明できている答案は,
4736 高く評価された。
4737
4738 要は「余
4739 裕を持って周りが見えている」ともいえるような答案であり,
4740 その程度が相対的に低
4741 いものが,
4742 「良好」な答案とされる。
4743
4744 「一応の水準」とは,
4745 論点が何かが把握されてお
4746 り,
4747 それに関して最低限の論述がされているものである。
4748
4749 「不良」とは,
4750 それすらさ
4751 れていないものである。
4752
4753
4754
4755 【第2問について】
4756 1 出題の意図に即した答案の存否,
4757 多寡
4758 設問1では,
4759 @C社の工場については民法のほか,
4760 大気汚染防止法の無過失責任規
4761 定(同法第25条)の適用が問題となることについて指摘し,
4762 AD社の高速道路につ
4763 いての民法第717条の瑕疵とC社の工場についての同法第709条の過失が問題と
4764 なること,
4765 瑕疵と過失行為とによる損害の惹起の場合の共同不法行為規定(同法第71
4766 9条)の適用の可否を論じた上で,
4767 例えば,
4768 両者に「弱い関連共同性」しかないとす
4769 れば同条1項後段を類推適用することなど,
4770 下級審裁判例ないし学説を踏まえた記述を
4771 し,
4772 B大気汚染と健康被害の因果関係の問題については疫学的因果関係について言及
4773
4774 - 44 -
4775
4776 するほか,
4777 非特異性疾患の事案における集団的因果関係と個別的因果関係の関連及び
4778 相対的危険度の問題を取り上げることの可否について論ずることが期待される。
4779
4780 また,
4781
4782 C違法性については受忍限度論の採用の可否,
4783 被害の考慮,
4784 公共性の考慮の可否,
4785 環
4786 境基準と受忍限度との関係などについて論ずることが望まれる。
4787
4788
4789 実際の答案においては,
4790 @の指摘は,
4791 一部にとどまった。
4792
4793 Aのうち,
4794 D社の高速道
4795 路についての民法第717条の瑕疵とC社の工場についての同法第709条の過失が
4796 問題となることの指摘も,
4797 散見されるにとどまった。
4798
4799 瑕疵と過失行為とによる損害の
4800 惹起の場合の共同不法行為規定(同法第719条)の適用の可否の指摘は,
4801 ほとんどで
4802 きていなかった。
4803
4804 両者に「弱い関連共同性」しかないとすれば同条第1項後段を類推
4805 適用することなどの指摘は,
4806 相当多くの者ができていた。
4807
4808 B疫学的因果関係について
4809 の言及は,
4810 相当多くなされていたが,
4811 その内容を正確に記述した者は,
4812 一部にとどま
4813 った。
4814
4815 非特異性疾患の事案における集団的因果関係と個別的因果関係の関連及び相対
4816 的危険度の問題を取り上げることの可否については,
4817 一部の者が記述したにとどまっ
4818 た。
4819
4820 C受忍限度論の採用の可否については,
4821 相当多くあったが,
4822 被害の考慮,
4823 公共性
4824 の考慮の可否,
4825 環境基準と受忍限度との関係等について正確に記載した者は少なかっ
4826 た。
4827
4828 また,
4829 因果関係と共同不法行為の論理的順序について整理が十分にできている答
4830 案は多くなかった。
4831
4832
4833 設問2については,
4834 @取消訴訟の対象を「改定告示」とすることや,
4835 被告を「国」
4836 とすること,
4837 A原告の主張として,
4838 環境基準は大気汚染防止法の排出基準,
4839 総量規制
4840 基準と法的連動関係にあることや,
4841 環境基準は法律上の許容限度,
4842 受忍限度として裁
4843 判例上用いられていること,
4844 B被告の反論として,
4845 排出基準,
4846 総量規制基準は,
4847 環境
4848 基準から直接自動的に決定されず,
4849 その関係は事実上のものであることや,
4850 環境基準
4851 は行政の努力目標にすぎず法律上の許容限度・受忍限度を設定するものではないこと
4852 などの指摘をすることが望まれる。
4853
4854
4855 実際の答案においては,
4856 @については,
4857 ほとんど指摘できていなかった。
4858
4859 ABのう
4860 ち,
4861 大気汚染防止法の排出基準,
4862 総量規制基準との連動関係については,
4863 相当多くの
4864 者が指摘していたが,
4865 正確かつ詳細な記述は,
4866 少なかった。
4867
4868 環境基準と法律上の許容
4869 限度,
4870 受忍限度との関係についての指摘は,
4871 一部にとどまった。
4872
4873 AとBを分けずに解
4874 答した答案も少なくなかった。
4875
4876
4877 2
4878
4879 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
4880 設問1については,
4881 単に民法の不法行為の問題としてだけでなく,
4882 環境訴訟で実際
4883 に争点となる事項を的確に取り上げて論じられるような勉強がなされていなかったの
4884 ではないかと考えられる。
4885
4886 また,
4887 因果関係と共同不法行為の論理関係について十分な
4888 勉強がなされていなかったと考えられる。
4889
4890
4891 設問2については,
4892 上記のように,
4893 AとBを分けずに解答した者が少なくなかった
4894 が,
4895 問題文にのっとった解答をすること,
4896 さらには,
4897 訴訟における原告と被告の主張
4898 を考えるような学習の仕方をすることが望まれる。
4899
4900
4901
4902 3
4903
4904 各水準の答案のイメージ
4905 各水準の答案のイメージは,
4906 一概には言えないが,
4907 「優秀」「良好」といえるのは,
4908
4909 上記の各点について論理的に整理し,
4910 その多くについて,
4911 判例,
4912 学説を踏まえた的確
4913
4914 - 45 -
4915
4916 な記述を行っているものである。
4917
4918 本問では論点が多いため,
4919 この種の事件でどこが争
4920 点になるかを把握し,
4921 解答したものが優秀な答案になったと言える。
4922
4923 「一応の水準」
4924 と言えるのは,
4925 上記の各点の論理的整理は必ずしも十分でないが,
4926 それなりの部分に
4927 ついて,
4928 やや不正確,
4929 曖昧な部分等を含みつつ,
4930 一応の指摘を何とか行っているもの
4931 である。
4932
4933 「不良」というのは,
4934 設問において何が問題点となるのかが理解できていな
4935 いものである。
4936
4937 争点を把握せず,
4938 不法行為等の要件を漫然と記述していたものには良
4939 い評価は与えられなかった。
4940
4941
4942 【今後について】
4943 環境法学習においては,
4944 基本的考え方や基本的仕組みを理解することは重要であるが,
4945
4946 それは言わば「点」でしかない。
4947
4948 それが具体的制度とどのように関係するか,
4949 どのよう
4950 な場面で適用することができるかを学習することによって,
4951 「点」を「面」に発展させ
4952 ることができるのである。
4953
4954 法科大学院においては,
4955 単なる仕組みの解説にとどまるので
4956 はなく,
4957 このような視点に留意していただけると有り難い。
4958
4959
4960 訴訟に関する出題は,
4961 過去の新司法試験においてもされている。
4962
4963 個別法に規定される
4964 行政権限や法関係と訴訟類型を結びつけるだけの答案がなお多くみられるのは,
4965 法律の
4966 仕組みの学習の際に訴訟の可能性と関係付けて議論していないからではないかと推測さ
4967 れる。
4968
4969 また,
4970 環境訴訟で実際に争点となる事項,
4971 原告と被告が主張する事項を考えるよ
4972 うな学習の仕方がなされていないと考えられる。
4973
4974 この点についても留意されることが望
4975 ましい。
4976
4977
4978
4979 - 46 -
4980
4981 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(公法系))
4982 1 第1問
4983 (1) 設問1
4984 国家承認の問題であることはほとんど全ての答案が理解していたが,
4985 尚早の承認
4986 に当たるかどうかが論点であることに気付いていないものが少なくなかった。
4987
4988 国家
4989 承認を行うかどうかは国家の自由であり,
4990 およそ国際法違反の問題が生じないとす
4991 る答案が残念ながら少数見受けられた。
4992
4993 また,
4994 国家承認という国家の行為の法的評
4995 価を問題にしていたのに,
4996 国家成立の可否の問題と混乱したのか,
4997 国家承認に関す
4998 る創設的効果説・宣言的効果説から議論を始める答案が少なからずあったことには
4999 当惑した。
5000
5001
5002 (2) 設問2
5003 ほとんど全ての答案が国家たる要件(3ないし4)を挙げ,
5004 また,
5005 国家承認そし
5006 て創設的効果説・宣言的効果説というタームにほとんどの答案が言及していた。
5007
5008 し
5009 かし,
5010 国家承認の各学説の内容や論拠を正確に述べることができなかったものが少
5011 なからずいた。
5012
5013 そもそも国家成立に当たって,
5014 国家承認がどのように関係するかに
5015 ついて意識が及んでいないものが散見されたのは大きな問題であった。
5016
5017 「セント国」
5018 承認国が50か国あることには当然論及してほしかったが,
5019 この点に注意を払って
5020 いない答案が相当数あった。
5021
5022
5023 (3) 設問3
5024 比較的多数の答案は,
5025 Z国のX国に対する軍事支援を「セント国」に対する武力
5026 行使ととらえた上で,
5027 そのような武力行使が許されるのはどのような場合かについ
5028 て検討していた。
5029
5030 しかし,
5031 本問では,
5032 セント国が誕生途上,
5033 せいぜい誕生直後の国
5034 でありZ国は依然セント国を承認していない中で軍事支援を行ったことに注意を払
5035 う論述が欲しかったが,
5036 その点まで説明していたものは少数にとどまった。
5037
5038
5039 (4) 答案の水準
5040 第1問について答案を「優秀」,
5041 「良好」,
5042 「一応の水準」及び「不良」に分類する
5043 と各分類に相当するものはおおむね次のようなものと言える。
5044
5045
5046 優秀:国際法の基本的な知識・理解を基に論理的に一貫した思考過程によって,
5047
5048 3問全部について事例をきちんと解析し,
5049 想定される論点をほぼ押さえて
5050 結論を導いた答案。
5051
5052 設問1について国家行為としての国際法上の承認の意
5053 味を十分に理解し,
5054 その帰結として「尚早の承認」に気付き,
5055 設問2につ
5056 いて,
5057 国家の最低資格要件を踏まえて国家成立と国家承認の意味をきちん
5058 と理解した上で事例を解析し,
5059 そして設問3について,
5060 50か国とはいえ
5061 承認国がまだ限られている「新国家」に対する軍事支援の意味を理解した
5062 上で解答している答案
5063 良好:国際法の基本的な知識・理解を基に論理的に一貫した思考過程によって,
5064
5065 3問のうち2問について事例をきちんと解析し,
5066 想定される論点をほぼ押
5067 さえて結論を導いた答案。
5068
5069 設問3について一応の解答をしながら,
5070 設問1
5071 や設問2について国家承認の理解がやや浅いものや,
5072 設問1及び設問2に
5073 ついて水準をみたす解答を行っているのに,
5074 設問3について単純な武力行
5075 使の問題と考えた答案がそれに該当する。
5076
5077
5078
5079 - 47 -
5080
5081 一応の水準:国際法の基本的な知識・理解が一応あり,
5082 それを応用して結論を導
5083 き出そうとする姿勢が見られるけれども,
5084 その知識や理解に十分でない面
5085 があるために,
5086 問題の解析が不十分な答案。
5087
5088 設問1や設問2について,
5089 国
5090 家承認の概念には触れながらその理解が十分ではないために解答に深みが
5091 欠けた上で,
5092 かつ設問3を単純な武力行使の問題ととらえる答案がその代
5093 表的なものである。
5094
5095
5096 不良:国際法の基本的な理解に乏しく,
5097 設問の意味をほとんど理解せずに解答を
5098 行っているなど,
5099 国際法をきちんと履修したとは思えない答案。
5100
5101 国際法に
5102 ついて若干の知識があると見受けられるが,
5103 各設問について常識論を展開
5104 するにすぎないものや,
5105 そもそも出題の趣旨がほとんど理解できていない
5106 ものがその代表的なものである。
5107
5108
5109 2 第2問
5110 (1) 設問1
5111 よく出来ている答案とそうでない答案の「二極化」が顕著だった。
5112
5113 ほとんどの答
5114 案が領域使用の管理責任の概念について説明し,
5115 その適用を論じたものだった。
5116
5117 領
5118 域主権の行使に対して制約を課す原則である領域使用の管理責任,
5119 国際環境法の発
5120 展と歩調を合わせて展開した国際環境損害防止原則,
5121 トレイル熔鉱所事件などが,
5122
5123 よく出来ている答案では遺漏なく触れられていた。
5124
5125 少数であったが,
5126 領域主権の限
5127 界を画すという点で重要な領域使用の管理責任の成立過程と背景について論じたレ
5128 ベルの高い答案もあった。
5129
5130 他方で,
5131 これらについて全く理解や知識がないためか,
5132
5133 「他国に損害を与えてはならない」という「常識論」しか記載されていない答案も
5134 目立った。
5135
5136
5137 (2) 設問2
5138 外交保護権については全体的によく出来ていた。
5139
5140 外交的保護権が国家の権利であ
5141 ることはほとんどの答案で解答されていた。
5142
5143 しかし,
5144 その不行使について,
5145 従来か
5146 ら人権保護や個人救済の観点から批判があったが,
5147 この点にまで触れた「厚みのあ
5148 る」答案は,
5149 1.5割程度と少数しかなかった。
5150
5151
5152 (3) 設問3
5153 外交保護権行使の要件としての国籍が真正な結合基準を満たした国籍でなければ
5154 ならないことは,
5155 大方の答案で解答されていた。
5156
5157 真正な結合要件とその当てはめに
5158 ついては総じてよく書けており,
5159 設問の事実関係を当てはめて本件で真正な結合が
5160 認められないことまで丁寧に論証した答案も半分強程度はあった。
5161
5162 外交保護権行使
5163 の要件としての国籍について,
5164 国際法平面での効力と国内法平面での効力が区別さ
5165 れることを,
5166 国際法と国内法の関係の問題にまで立ち返って論じている答案もあっ
5167 たが,
5168 大方は両者の区別を述べるにとどまった。
5169
5170 国籍の付与についての国家の裁量,
5171
5172 外交保護権行使の要件,
5173 国際法と国内法との区別という論点が実は簡単でないため
5174 に,
5175 意外に多くの答案で混乱が見られた。
5176
5177
5178 (4) 答案の水準
5179 第2問について答案を「優秀」,
5180 「良好」,
5181 「一応の水準」及び「不良」に分類する
5182 と各分類に相当するものはおおむね次のようなものと言える。
5183
5184
5185 優秀:領域使用の管理責任原則,
5186 外交保護権の国家性,
5187 国籍に関する真正結合基
5188
5189 - 48 -
5190
5191 準,
5192 国籍の国際法上の効力と国内法上の効力など,
5193 法的な概念や原則を正
5194 確に記すとともに,
5195 それらを用いた論証が十分である答案
5196 良好:上記の法的な概念や原則が正確に記載されているが論証が十分とまではい
5197 えないか,
5198 逆に,
5199 論証は充実しているが,
5200 法的な概念や原則が適切に記載
5201 されていない答案
5202 一応の水準:法的な概念や原則の記載が半分程度,
5203 論証が半分程度の答案
5204 不良:設問の事例説明や,
5205 設問を繰り返している以上には,
5206 受験生自身の言葉で
5207 解答として論証されていない答案
5208 3
5209
5210 その他
5211 第1問,
5212 第2問のいずれについても言えることだが,
5213 答案に問題を改めて記載する
5214 例が少なからず見られたが,
5215 問題を写したとしても加点されず,
5216 意味がないばかりか,
5217
5218 答案用紙の紙幅が足りなくなって論ずるべき点の記載が不十分になるなど弊害にもな
5219 る。
5220
5221 解答は長く書く必要はないが,
5222 結論だけでなく結論に至る各自の理解を記載して
5223 もらわないと加点されないので,
5224 その点は注意してほしい。
5225
5226
5227
5228 - 49 -
5229
5230 平成22年新司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(私法系))
5231 1
5232
5233 出題の趣旨,
5234 ねらい等
5235 本年度の国際関係法(私法系)の問題は,
5236 昨年と同様に,
5237 狭義の国際私法(抵触法)
5238 及び国際民事訴訟法から出題されている。
5239
5240 これらの法分野に関する理解を問うため,
5241
5242 財産法と家族法の双方に関する法の抵触と国際民事訴訟法の分野から出題した。
5243
5244 また,
5245
5246 国際物品売買契約に関する国際連合条約(以下,
5247 「条約」と略称する。
5248
5249 )について基本
5250 的な理解を問う問題も出題している。
5251
5252 各問題の出題の趣旨については,
5253 既に法務省ホ
5254 ームページにて公表済みである。
5255
5256
5257
5258 2
5259
5260 採点方針
5261 これまでと同様に,
5262 本年度も,
5263 次の4つの能力を受験者が有しているか否かを判定
5264 できるように出題した。
5265
5266 すなわち,
5267 @国際私法・国際民事訴訟法・国際取引法上の基
5268 本的な知識と理解を基にして論理的に破たんのない推論により一定の結論が導けるか,
5269
5270 A設例の事実からいかなる問題を析出できるか,
5271 B複数の法規の体系的な関連性を認
5272 識しながら,
5273 析出された問題の処理に適切な法規範を特定できるか,
5274 C法規範の趣旨
5275 を理解して,
5276 これを設例の事実に適切に適用できるか,
5277 である。
5278
5279
5280 本年度は特に上記AとBの基準から見て不十分と言わざるを得ない答案が目立った。
5281
5282
5283 逆に言えば,
5284 これらの基準を満たす答案であれば「優秀」答案となる可能性が高くな
5285 る。
5286
5287 Cの点についても法規範の趣旨が十分に理解されていないと見られる答案,
5288 換言
5289 すれば,
5290 文理にのみ着目して規定の単純な当てはめだけを行う答案が多かった。
5291
5292 その
5293 結果,
5294 規定の立法趣旨などに言及する答案は,
5295 相対的に,
5296 少なくとも「良好」となる
5297 可能性が高いと見られる。
5298
5299 そして,
5300 規定の単純な当てはめ作業に終始しつつも,
5301 少な
5302 くとも@の基準をおおむねクリアーしている答案が,
5303 多くの場合,
5304 「一応の水準」答
5305 案となるのではないかと見られる。
5306
5307
5308 なお,
5309 学説が分かれている論点については,
5310 結論それ自体によって得点に差を設け
5311 ることはしていない。
5312
5313 むしろ,
5314 論拠を示しつつ,
5315 自説が論理的に展開できているか否
5316 かを基準にして成績評価をした。
5317
5318 いまだ確たる判例法が形成されていない論点との関
5319 連についても同様である。
5320
5321
5322
5323 3 採点実感
5324 (1) 第1問について
5325 本問は,
5326 未成年後見の成立から終了までに生起する諸問題につき,
5327 国際裁判管轄
5328 と準拠法の決定・適用を問う問題である。
5329
5330
5331 設問1(1)は,
5332 未成年後見人選任の国際裁判管轄を問うものである。
5333
5334 未成年後
5335 見人選任の国際裁判管轄については明文の規定もなく,
5336 確たる判例法もない。
5337
5338 未成
5339 年被後見人の保護という観点から適切な管轄権の基礎を一般論として導き,
5340 導かれ
5341 た基礎を設例に当てはめる作業が求められている。
5342
5343 一般的な管轄原因を論ずるに際
5344 して,
5345 類推すべき規定(法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
5346
5347 )第5
5348 条や家事審判規則第82条など)への言及が推論に説得力を与えるであろう。
5349
5350
5351 設問1(2)は,
5352 未成年後見人選任に適用されるべき準拠法を問う問題である。
5353
5354
5355
5356 - 50 -
5357
5358 通則法第35条第1項の規律すべき問題であることを指摘し,
5359 本国法の確定につき
5360 同法第38条第1項ただし書きの規定が正しく適用されなければならない。
5361
5362 同法第
5363 4条第1項に従い事件本人が未成年者であることも指摘してほしい。
5364
5365 しかるところ,
5366
5367 通則法第35条第1項の「後見」については正しく性質決定する答案が大多数であ
5368 ったが,
5369 他方で,
5370 第38条第1項ただし書きが定める内国国籍の優先を認識してい
5371 ない答案も散見された。
5372
5373
5374 設問2(1)は,
5375 通則法第31条第1項の前段と後段の規定の適用関係を問う問
5376 題である。
5377
5378 後段の規定(いわゆるセーフガード条項)の趣旨を踏まえつつ,
5379 これら
5380 の規定の関係を一般的に論じ,
5381 設例へ丁寧に当てはめることが求められている。
5382
5383 前
5384 段により定まる準拠法と後段により定まる準拠法のいずれが優先的に適用されると
5385 か,
5386 承諾(同意)要件の要否については後段のみが適用されるとの誤解に基づく答
5387 案が相当数あった。
5388
5389
5390 設問2(2)は,
5391 養子縁組の成立により後見が終了するまでの準拠法の選択と適
5392 用を問うている。
5393
5394 通則法第32条の規定は養親と養子の間の法律関係をも対象とし
5395 ていることを指摘し,
5396 第32条の指定する子の常居所地法たる日本法の下では養親
5397 が親権者であることを確認した後に,
5398 後見が終了するか否かは第35条の問題であ
5399 り,
5400 当該規定の指定する日本法の下で後見が終了する,
5401 という論述が論理的に展開
5402 されなければならない。
5403
5404 第32条の規定を全く認識せず,
5405 設問を「養子縁組の効力」
5406 と「後見」の性質決定の問題として理解する答案が多数あった。
5407
5408
5409 (2) 第2問について
5410 本問は,
5411 国際的な売買の事案を基にして,
5412 関連する諸問題の決定方法を問う問題
5413 である。
5414
5415
5416 設問1(1)は,
5417 条約の適用の可否を問う問題である。
5418
5419 条約第1条第1項の「売
5420 買」及び「営業所」を,
5421 それぞれ,
5422 条約第3条第1項及び第10条の規定と関連付
5423 けながら論じ,
5424 第1条第1項a号に従えば本問の事案に条約が適用されることに言及
5425 しなければならない。
5426
5427 丁寧な当てはめが求められている。
5428
5429 なお,
5430 条約の適用可能性
5431 が論述されている場合には,
5432 非締約国法が契約準拠法となっていることと条約の適
5433 用可能性との関係についての言及は採点に影響しないものとしている。
5434
5435
5436 設問1(2)は,
5437 契約準拠法の変更を認める通則法第9条の趣旨の理解とその適
5438 用を問う問題である。
5439
5440 事後の法選択を肯定することの根拠を適切かつ十分に論述す
5441 る答案が「優秀」又は「良好」と評価されよう。
5442
5443 第9条の規定を認識さえしていな
5444 いという答案はまれであったが,
5445 相当数の答案は当該規定の単純な当てはめとどま
5446 っていた。
5447
5448 また,
5449 準拠法の事後的変更の問題を実質法上の契約の変更の問題と混同
5450 し,
5451 条約第29条を適用している答案が一定数あった。
5452
5453
5454 設問2(1)は,
5455 生産物責任に関する通則法第18条の解釈と適用を問う問題で
5456 ある。
5457
5458 一般的不法行為に関する第17条ではなく第18条が適用されること,
5459 「引
5460 渡しを受けた地」という連結基準が採用された趣旨とその意味について言及するこ
5461 とが求められている。
5462
5463 生産者から被害者への直接の引渡しが第18条の要件である
5464 との誤解に基づく答案が少なからずあった。
5465
5466
5467 設問2(2)は,
5468 通則法第21条の理解とその適用を問う問題である。
5469
5470 不法行為
5471 について準拠法の選択が許容される理由と選択の要件,
5472 取り分け選択の時点につい
5473 て論述しなければならない。
5474
5475 この問題においても,
5476 当該規定を単に当てはめるだけ
5477
5478 - 51 -
5479
5480 の答案が多数に上った。
5481
5482
5483 4
5484
5485 今後の出題について
5486 今後も,
5487 狭義の国際私法,
5488 国際民事訴訟法及び国際取引法の各分野の基本的事項を
5489 組み合わせた事例問題を出題することが適切であろうと考えられる。
5490
5491
5492
5493 5
5494
5495 今後の法科大学院教育に求めるもの
5496 通則法等の重要法令について,
5497 個々の規定の趣旨及び規定の間の体系的関連性を理
5498 解させる教育が望まれる。
5499
5500
5501
5502 - 52 -
5503
5504