1 論文式試験問題集[公法系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [公法系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 インターネット上で地図を提供している複数の会社は,公道から当該地域の風景を撮影した画像
8 をインターネットで見ることができる機能に基づくサービスを提供している。ユーザーが地図上の
9 任意の地点を選びクリックすると,路上風景のパノラマ画像(以下「Z機能画像」という。)に切り
10 替わる。
11 Z機能画像は,どの会社の場合もほぼ共通した方法で撮影されている。公道を走る自動車の屋根
12 に高さ2メートル80センチ前後(地上約4メートル)の位置にカメラを取付け,3次元方向のほ
13 ぼ全周(水平方向360度,上下方向290度)を撮影している。そのために,Z機能画像では,
14 路上にいる人の顔,通行している車のナンバーや家の表札も映し出される。さらに,各家の塀を越
15 えた高さから撮影するので,庭にいる人や庭にある物ばかりでなく,家の中の様子までもが映し出
16 される場合がある。また,上下方向290度を撮影していることから,マンションの上の方の階の
17 ベランダにいる人やそこに置いてある物も映し出される場合がある。これにより個人が特定され得
18 るばかりでなく,庭,ベランダ,室内等に置いてある物から,そこに住む人の家族構成や生活ぶり
19 が推測され得る。さらに,このような情報は,犯罪を企む者に悪用されるおそれもあり得る。しか
20 しながら,会社側は,事前にZ機能画像の撮影日時や場所を住民に周知する措置を採っていなかっ
21 た。
22 インターネット上で提供されるZ機能画像が惹起するプライバシーの問題に関して,会社側は,
23 基本的には,公道から見えているものを映しているだけであり,言わば誰もが見ることのできるも
24 のなので,プライバシー侵害とはいえない,と主張している。特にX社は,以下のように,より積
25 極的にZ機能画像が提供する情報の価値を主張している。まず,その情報は,ユーザー自身がそこ
26 を実際に歩いている感覚で画像を見ることができるので,ユーザーの利便性の向上に役立つ。ま
27 た,それは,不動産広告が誇大広告であるか否かを画像を見て確かめることによって詐欺被害を未
28 然に防止できるなど,社会的意義を有する。
29 ところで,Z機能画像をめぐっては,個人を特定されないことや生活ぶりをのぞかれないことを
30 めぐる問題ばかりでなく,次のような問題も生じている。Z機能画像には,公道上であっても,そ
31 の場所にいることやそこでの行動を知られたくない人にとっては,公開されたくない画像が大量に
32 含まれている。また,ドメスティック・バイオレンスからの保護施設など,公開されては困る施設
33 も映されている。加えて,路上や公園で遊ぶ子供が映されていることで,誘拐等の誘因になるので
34 はないかと案ずる親もいる。さらに,インターネット上に公開されたZ機能画像の第三者による二
35 次的利用が,頻繁に見られるようになっている。
36 こういう中,Z機能画像をインターネット上に提供することの中止を求める声が高まってきた。
37 20**年に,国会は,
38 「特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回
39 復に関する法律」
40 (以下「法」という。)を制定した【参考資料】。法は,システム提供者に対し,Z
41 機能画像をインターネット上に掲載する前に,A大臣に届け出ることを求めている(法第6条参
42 照)。また,法は,システム提供者が遵守すべき事項を規定している(法第7条参照)。A大臣は,
43 Z機能画像の提供によって被害を受けた者からの申立てがあったときは,法に定める手続に従って
44 被害の回復のための措置を講じることとされている(法第8条参照)。
45 法が制定されてから,多くの会社は,法の定める遵守事項を守り,また個別の苦情に応じて必要
46 な修正を施している。X社も,人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報と車のナン
47 バープレートについてはマスキングを施し,車載カメラの高さも法が定める高さに改めた。しか
48 し,X社は,家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像については,法で具体的に明記さ
49 れていないとして,修正しなかった。数件の申立てに応じて,X社に対して,そのような画像に必
50 要な修正をすることを求める改善勧告がなされた。しかし,X社は,それらの修正を行わなかっ
51 - 2 -
52
53 た。その結果,X社は,A大臣から,行政手続法の定める手続に従って,特定地図検索システムの
54 提供の中止命令を受けた。
55 〔設問1〕
56 あなたがX社から依頼を受けた弁護士である場合,どのような訴訟を提起するか。そして,そ
57 の訴訟において,どのような憲法上の主張を行うか。憲法上の問題ごとに,その主張内容を書き
58 なさい。
59 〔設問2〕
60 設問1における憲法上の主張に関するあなた自身の見解を,被告側の反論を想定しつつ,述べ
61 なさい。
62
63 - 3 -
64
65 【参考資料】特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復に関する法律
66 第1章
67
68 総則
69
70 (目的)
71 第1条
72
73 この法律は,特定地図検索システムによる情報の提供が,インターネットの普及その他社会
74
75 経済情勢の変化に伴うコンテンツに対する需要の高度化及び多様化に対応した利用者の利便の増進
76 に寄与するものであることに留意しつつ,当該情報の提供に伴い個人に関する情報が公にされるこ
77 とによる被害から適確に国民を保護することの緊要性に鑑み,当該被害の防止及び回復に関し,基
78 本理念を定め,国及びシステム提供者の責務を明らかにするとともに,システム提供者の遵守事
79 項,被害回復のための措置,被害回復委員会の設置その他必要な事項を定めることにより,国民生
80 活の安全と平穏の確保に資することを目的とする。
81 (定義)
82 第2条
83
84
85 この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
86 特定地図検索システム
87
88 インターネットを通じて不特定又は多数の者に提供される地図に関す
89
90 る情報の検索システムであって,文字,記号その他の符号又は航空写真を用いて表現される情報
91 提供の機能を補完するための機能として,画像の情報を提供するZ機能を有するものをいう。
92
93
94 Z機能
95
96 地図に対応する道路,建築物,工作物等及びその周辺の状況を路上等を移動する車両
97
98 に設置した水平方向に360度回転するカメラにより撮影した画像の情報を,電磁的方式(電子
99 的方式,磁気的方式その他の人の知覚によっては認識することができない方式をいう。)によりイ
100 ンターネットを通じて不特定又は多数の者に提供するための機能をいう。
101
102
103 システム提供者
104
105 インターネットを通じて特定地図検索システムを提供する事業を営む者をい
106
107 う。
108
109
110 個人識別情報
111
112 個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情
113
114 報と容易に照合することができ,それにより特定の個人を識別することができることとなるもの
115 を含む。)をいう。
116
117
118 個人自動車登録番号等
119
120 個人の所有する自動車に係る道路運送車両法(昭和26年法律第18
121
122 5号)の規定による自動車登録番号又は車両番号をいう。
123
124
125 個人権利利益侵害情報
126
127 個人識別情報及び個人自動車登録番号等以外の個人に関する情報であ
128
129 って,公にすることにより,個人の権利利益を害するおそれのあるものをいう。
130 (基本理念)
131 第3条
132
133 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために講ずべき
134
135 措置は,Z機能の特性に鑑み,当該情報の提供が国民の生活の安全と平穏に重大な被害を及ぼすお
136 それがあり,かつ,国民自らその被害を回復することが著しく困難であることを踏まえ,国の関与
137 により,その被害を適確に防止するとともに,現に発生している被害を迅速に回復することが極め
138 て重要であるという基本的認識の下に,行われなければならない。
139 (国の責務)
140 第4条
141
142 国は,前条に定める基本理念にのっとり,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国
143
144 民の被害の防止及び回復に関する施策を総合的に策定し,及び実施する責務を有する。
145 (システム提供者の責務)
146 第5条
147
148 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回
149
150 復について第一義的責任を有していることを認識し,その提供すべき画像の撮影及び編集,インタ
151 ーネットによる当該情報の公開及び管理その他の各段階において,自らその被害の防止及び回復の
152 ために必要な措置を講じる責務を有する。
153 第2章
154
155 被害の防止及び回復に関する措置
156
157 (提供開始の届出)
158 - 4 -
159
160 第6条
161
162 システム提供者は,インターネットにより特定地図検索システムを提供しようとするとき
163
164 は,あらかじめ,その旨及びその内容をA大臣に届け出なければならない。その内容を変更しよう
165 とするときも,同様とする。
166 (遵守すべき事項)
167 第7条
168
169 システム提供者は,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回
170
171 復のために必要な次に掲げる事項を遵守しなければならない。
172
173
174 提供すべき画像の撮影に当たっては,これに用いるカメラを地上から1メートル60センチメ
175 ートルの高さを超える位置に設置してはならないこと。
176
177
178
179 提供すべき画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権利利益侵害情報が含
180 まれている場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番号等を識別することができないよ
181 う,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の修正その他の改善のために必要な
182 措置をとらなければならないこと。
183
184
185
186 インターネットにより提供した画像に個人識別情報若しくは個人自動車登録番号等又は個人権
187 利利益侵害情報が含まれていたことが判明した場合には,特定の個人若しくは個人自動車登録番
188 号等を識別することができないよう,又は個人の権利利益を害するおそれをなくすよう,画像の
189 修正その他の改善のために必要な措置をとらなければならないこと。この場合において,改善の
190 ために必要な措置をとることができないときは,インターネットによる特定地図検索システムの
191 提供を中止しなければならないこと。
192
193
194
195 提供すべき画像の撮影又はインターネットにより画像を提供するに当たっては,適時かつ適切
196 な方法で,対象となる地域の住民に対する周知の措置を講じるよう努めること。
197
198
199
200 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う被害に関し,苦情等の申出があった場合には,
201 当該申出に対し適切な措置を講じるよう努めること。
202
203
204
205 前各号に掲げるもののほか,特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止
206 及び回復のために必要な事項として政令で定めるもの
207
208 (被害回復措置)
209 第8条
210
211 A大臣は,特定地図検索システムによる情報の提供により被害を受けた者から申立てがあっ
212
213 たときは,措置を講じる必要が明らかにないと認める場合を除き,当該申立てに係る被害及びこれ
214 と同種の被害を回復するために必要な措置について,被害回復委員会に諮問しなければならない。
215
216
217 A大臣は,前項の規定による諮問に対する答申があった場合において,同項の申立てに係る被害
218 及びこれと同種の被害を回復するため必要があると認めるときは,システム提供者に対し,画像の
219 修正その他の提供に係る情報の改善のために必要な措置をとるべき旨を勧告することができる。
220
221
222
223 A大臣は,前項の規定による勧告を受けた者が,正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとら
224 なかった場合において,第1項の申立てに係る被害及びこれと同種の被害を回復するため特に必要
225 があると認めるときは,その者に対し,その勧告に係る措置の実施又はインターネットによる特定
226 地図検索システムの提供の中止を命ずることができる。
227
228
229
230 A大臣は,前項の規定による命令をしたときは,その旨を公表しなければならない。
231 第3章
232
233 被害回復委員会
234
235 (委員会の設置)
236 第9条
237
238 A省に,被害回復委員会(以下「委員会」という。)を置く。
239
240 (所掌事務)
241 第10条
242
243
244 委員会は,次に掲げる事務をつかさどる。
245
246 第8条第1項の規定による諮問に応じて,調査審議し,A大臣に対し,必要な答申をするこ
247 と。
248
249
250
251 特定地図検索システムによる情報の提供に伴う国民の被害の防止及び回復のために国が講ずべ
252 き施策について,A大臣に意見を述べること。
253 - 5 -
254
255
256
257 委員会は,その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは,A大臣に対し,資料の提
258 出,説明その他必要な協力を求めることができる。
259
260
261
262 A大臣は,第1項第一号の答申に基づき講じた措置について,委員会に報告しなければならな
263 い。
264 (組織等)
265
266 第11条
267
268 委員会は,委員10人をもって組織する。
269
270
271
272 委員は,優れた識見を有する者のうちから,A大臣が任命する。
273
274
275
276 委員の任期は,3年とする。
277
278
279
280 その他委員会の組織及び運営に関し必要な事項は,政令で定める。
281
282 - 6 -
283
284 論文式試験問題集[公法系科目第2問]
285
286 - 1 -
287
288 [公法系科目]
289 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕(1),〔設問2〕(2),〔設問3〕の配点の割合は,
290 3.5:1.5:3.5:1.5〕)
291 社団法人Aは,モーターボート競走の勝舟投票券の場外発売場(以下「本件施設」という。)をP
292 市Q地に設置する計画を立て,平成22年に,モーターボート競走法(以下「法」という。)第5条
293 第1項により国土交通大臣の許可(以下「本件許可」という。)を受けた。Aは,本件許可の申請書
294 を国土交通大臣に提出する際に,国土交通省の関係部局が発出した通達(「場外発売場の設置等の運
295 用について」及び「場外発売場の設置等の許可の取扱いについて」)に従い,Q地の所在する地区の
296 自治会Rの同意書(以下「本件同意書」という。)を添付していた。本件許可がなされた直後に,Q
297 地の近隣に法科大学院Sを設置している学校法人X1,及び自治会Rの構成員でありQ地の近隣に
298 居住しているX2は,国に対し本件許可の取消しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。)を提起
299 した。本件訴訟が提起されたため,Aは,本件施設の工事にいまだ着手していない。
300 Aの計画によれば,本件施設は,敷地面積約3万平方メートル,建物の延べ床面積約1万平方メ
301 ートルで,舟券投票所,映像設備,観覧スペース,食堂,売店等から構成され,700台を収容す
302 る駐車場が設置される。本件施設が場外発売場として営業を行うのは,1年間に350日であり,
303 そのうち300日はナイターが開催される。本件施設の開場は午前10時であり,ナイターが開催
304 されない場合は午後4時頃,開催される場合は午後9時頃に,退場者が集中することになる。
305 また,本件施設の設置を計画されているQ地,X2の住居,法科大学院S,及びこれらに共通の
306 最寄り駅であるP駅の間の位置関係は,次のとおりである。Q地,X2の住居,法科大学院Sは,
307 いずれも,P駅からまっすぐに南下する県道(以下「県道」という。)に面している。P駅の周辺に
308 は商店や飲食店が立ち並び,住民,通勤者,通学者などが利用している。P駅から県道を通って南
309 下した場合,P駅から近い順に,法科大学院S,X2の住居,Q地が所在し,P駅からの距離は,
310 法科大学院Sまでは約400メートル,X2の住居までは約600メートル,Q地までは約800
311 メートルである。逆にQ地からの距離は,X2の住居までは約200メートル,法科大学院Sまで
312 は約400メートルとなる。
313 平成23年になって,本件訴訟の過程で,本件同意書について次のような疑いが生じた。自治会
314 Rでは,X2も含めて,本件施設の設置に反対する住民が相当な数に上る。それにもかかわらず,
315 Aによる本件施設の設置に同意することを決議した自治会Rの総会において,同意に賛成する者が
316 123名であったのに対し,反対する者は,10名しかいなかった。これは,自治会Rの役員が,
317 本件施設の設置に反対する住民に総会の開催日時を通知しなかったために,大部分の反対派の住民
318 が総会に出席できなかったためではないか,という疑いである。
319 国土交通大臣は,この疑いが事実であると判明した場合,次の措置を執ることを検討している。
320 まず,Aに対し,自治会Rの構成員の意思を真に反映した再度の決議に基づく自治会Rの同意を改
321 めて取得し,国土交通大臣に自治会Rの同意書を改めて提出するように求める(以下「要求措置」
322 という。)。そして,Aが自治会Rの同意及び同意書を改めて取得することができない場合には,本
323 件許可を取り消す(以下「取消措置」という。)。
324 以上の事案について,P市に隣接するT市の職員は,将来T市でも同様の事態が生じる可能性が
325 あることから,弁護士に調査検討を依頼することにした。
326 【資料1
327
328 会議録】を読んだ上で,T市の
329
330 職員から依頼を受けた弁護士の立場に立って,以下の設問に答えなさい。
331 なお,法及びモーターボート競走法施行規則(以下「施行規則」という。)の抜粋を【資料2
332 係法令】に,関係する通達の抜粋を【資料3
333
334
335
336 関係通達】に,それぞれ掲げるので,適宜参照しな
337
338 さい。
339
340 - 2 -
341
342 〔設問1〕
343 本件訴訟は適法か。X1及びX2それぞれの原告適格の有無に絞って論じなさい。
344 〔設問2〕
345 国土交通大臣が検討している要求措置及び取消措置について,以下の小問に答えなさい。
346
347
348 Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明しているにもかかわらず,
349 国土交通大臣がAに対し,取消措置を執る可能性を示しながら要求措置を執り続けた場合,A
350 は,取消措置を受けるおそれを除去するには,どのような訴えを提起するべきか。最も適法と
351 される見込みが高く,かつ,実効的な訴えを,具体的に二つ候補を挙げて比較検討した上で答
352 えなさい。仮の救済は,考慮しなくてよい。
353
354
355
356 Aが国土交通大臣に対し,要求措置に従う意思がないことを表明したため,国土交通大臣が
357 Aに対し取消措置を執った場合,当該取消措置は適法か。解答に当たっては,関係する法令の
358 定め,自治会の同意を要求する通達,及び国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし
359 限界を丁寧に検討しなさい。
360
361 〔設問3〕
362 T市は,新たに条例を定めて,次のような規定を置くことを検討している。@T市の区域に勝
363 舟投票券の場外発売場を設置しようとする事業者は,T市長に申請してT市長の許可を受けなけ
364 ればならない。AT市長は,場外発売場の施設が周辺環境と調和する場合に限り,その設置を許
365 可する。
366 このような条例による許可の制度が,事業者に対して実効性を持ち,また,住民及び事業者の
367 利害を適切に調整できるようにするためには,上記@Aの規定以外に,どのような規定を条例に
368 置くことが考えられるか。また,このような条例を制定する場合に,条例の適法性に関してどの
369 ような点が問題になるか。考えられる規定の骨子及び条例の問題点を,簡潔に示しなさい。
370
371 - 3 -
372
373 【資料1
374
375
376 会議録】
377
378 員:P市は,場外舟券売場の件で大騒ぎになっていますが,我がT市にとっても他人事ではあ
379 りません。公営ギャンブルの場外券売場の設置が計画される可能性は,T市にもあります。
380 そこで,P市の事案を様々な角度から先生に検討していただいて,T市としても課題を見付
381 け出し,将来のための備えをしたいと考えています。そのような趣旨ですから,P市の事案
382 のいずれかの当事者や利害関係者の立場に立たずに,第三者の視点から御検討をお願いいた
383 します。
384
385 弁護士:公営ギャンブルの場外券売場の設置許可は,刑法第187条の富くじに当たるものの発売
386 等を適法にする法制度である点が,通常の事業の許認可とは違うところですね。私もこれま
387 で余り調査したことがない分野ですが,検討した上で文書を作成してみましょう。
388
389
390 員:早速,まず本件訴訟についてですが,これは,適法な訴えなのでしょうか。法,施行規則,
391 それから関係する通達を読みますと,それぞれに関係しそうな規定があるのですが,これら
392 の規定のそれぞれが,本件訴訟の適法性を判断する上でどのような意味を持つのか,どうも
393 うまく整理できないのです。
394
395 弁護士:問題になるのは,原告適格ですね。私の方で,法,施行規則,それから通達の関係する規
396 定と,それらの規定が原告適格を判断する上で持つ意味を明らかにしながら,X1とX2そ
397 れぞれの原告適格の有無を考えてみましょう。
398
399
400 員:お願いします。仮に本件訴訟が適法とされた場合に,本件許可が適法と判決されそうかど
401 うかも問題ですが,今年になって,状況が大きく変わりましたので,差し当たりその問題ま
402 では検討していただかなくて結構です。
403
404 弁護士:状況が変わったとは,どういうことですか。
405
406
407 員:地元の同意書の作成プロセスについて重大な疑惑が持ち上がり,今度は,紛争が国土交通
408 大臣とAとの間で生じる可能性が出てきたのです。Aは,裁判になって対立が激化してから
409 もう一度地元の同意書を取ることなど無理だというので,同意を取り直すつもりがないよう
410 ですが,国土交通大臣の方も,地元を軽んじる姿勢は取れないので,Aに同意書を取り直す
411 ように求め続けることが予想されます。この場合,今度は,Aが何らかの訴えを起こすこと
412 はできるのでしょうか。
413
414 弁護士:最も可能性のある訴えを検討して,具体的に挙げてみましょう。
415
416
417 員:それから,やや極端なケースを想定するのですが,地元の同意のプロセスに重大な瑕疵が
418 あった場合,国土交通大臣は,本件許可を取り消すことができるのでしょうか。この問題に
419 ついては,どうも私の頭が混乱しているので,いろいろ質問させてください。まず,施行規
420 則第12条は,許可の基準として地元の同意とは規定していないのですが,そもそも,この
421 条文に定められた基準以外の理由で,許可を拒否できるのですか。
422
423 弁護士:関係法令をよく検討して,お答えすることにします。
424
425
426 員:よろしくお願いします。付け加えますと,地元の同意と定めているのは,国土交通省の通
427 達の方であり,これもそもそもの話になるのですが,このような通達に定められたことを理
428 由にして,許可を拒否してよいのですか。この点も教えていただければと思います。
429
430 弁護士:問題となっている通達の法的な性格をはっきりと説明するように,文書にまとめてみま
431 す。
432
433
434 員:通達の中身について言いますと,地元の同意を重視している点は,自治体の職員としては
435 とてもよく理解できます。ただ,許可の取消しという措置まで執ることができるのかと問わ
436 れると,自信を持って答えられないのです。
437
438 弁護士:法律家から見ますと,地元の同意を重視する行政手法には,問題点もありますね。国土交
439 通大臣が本件許可の申請に際して地元自治会の同意を得ておくように求める行政手法の意義
440 と問題点を,まとめておきましょう。その上で,疑惑が事実であると仮定して,国土交通大
441 - 4 -
442
443 臣は,Aに対してどこまでの指導,処分といった措置を執ることができるのか,執り得る措
444 置の範囲ないし限界についても綿密に検討しておきます。
445
446
447 員:今言われた「処分」について詳しく伺いたいのですが,仮に,地元自治会の同意がない場
448 合に,国土交通大臣が申請に対して不許可処分をする余地が多かれ少なかれあるという考え
449 方を採ると,一度許可をした後で許可を取り消す処分もできることになるのでしょうか。
450
451 弁護士:そこまで考えて,ようやく答えが出ますね。全体を順序立てて文書にまとめてみます。
452
453
454 員:助かります。それでやっと,我がT市の話になるのですが,T市の区域で場外舟券売場を
455 設置しようとする事業者が現れた場合,国が定めた法令や通達の基準だけで設置を認めるの
456 では,不十分であると考えています。T市としては,調和のとれた街づくりをするために,
457 場外舟券売場が周辺環境と調和するかをしっかりと審査して,市長が調和しないと判断した
458 場合には,設置をやめていただく制度を作りたいと考えています。このような制度を条例で
459 定める場合に,配慮すべき点を教えていただければ幸いです。
460
461 弁護士:解釈論だけでなく,立法論も大事ですからね。簡潔にまとめておきましょう。
462
463 - 5 -
464
465 【資料2
466
467
468 関係法令】
469
470 モーターボート競走法(昭和26年6月18日法律第242号)(抜粋)
471 (趣旨)
472
473 第1条
474
475 この法律は,モーターボートその他の船舶,船舶用機関及び船舶用品の改良及び輸出の振
476
477 興並びにこれらの製造に関する事業及び海難防止に関する事業その他の海事に関する事業の振興
478 に寄与することにより海に囲まれた我が国の発展に資し,あわせて観光に関する事業及び体育事
479 業その他の公益の増進を目的とする事業の振興に資するとともに,地方財政の改善を図るために
480 行うモーターボート競走に関し規定するものとする。
481 (競走の施行)
482 第2条
483
484 都道府県及び人口,財政等を考慮して総務大臣が指定する市町村(以下「施行者」とい
485
486 う。)は,その議会の議決を経て,この法律の規定により,モーターボート競走(以下「競走」と
487 いう。)を行うことができる。
488 2〜4
489
490
491 (略)
492
493 施行者以外の者は,勝舟投票券(以下「舟券」という。)その他これに類似するものを発売し
494 て,競走を行つてはならない。
495 (競走場の設置)
496
497 第4条
498
499 競走の用に供するモーターボート競走場を設置し又は移転しようとする者は,国土交通省
500
501 令で定めるところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。
502 2〜4
503
504
505 (略)
506
507 国土交通大臣は,必要があると認めるときは,第1項の許可に期限又は条件を附することがで
508 きる。
509
510
511
512 国土交通大臣は,第1項の許可を受けた者(以下「競走場設置者」という。)が1年以上引き続
513 き同項の許可を受けて設置され若しくは移転されたモーターボート競走場(以下「競走場」とい
514 う。)を競走の用に供しなかつたとき,又は競走場の位置,構造及び設備がその許可の基準に適合
515 しなくなつたと認めるときは,同項の許可を取り消すことができる。
516
517 7,8
518
519 (略)
520
521 (場外発売場の設置)
522 第5条
523
524 舟券の発売等の用に供する施設を競走場外に設置しようとする者は,国土交通省令で定め
525
526 るところにより,国土交通大臣の許可を受けなければならない。当該許可を受けて設置された施
527 設を移転しようとするときも,同様とする。
528
529
530 国土交通大臣は,前項の許可の申請があつたときは,申請に係る施設の位置,構造及び設備が
531 国土交通省令で定める基準に適合する場合に限り,その許可をすることができる。
532
533
534
535 競走場外における舟券の発売等は,第1項の許可を受けて設置され又は移転された施設(以下
536 「場外発売場」という。)でしなければならない。
537
538
539
540 前条第5項及び第6項の規定は第1項の許可について,同条第7項及び第8項の規定は場外発
541 売場及び場外発売場設置者(第1項の許可を受けた者をいう。以下同じ。)について,それぞれ準
542 用する。
543 (競走場内等の取締り)
544
545 第22条
546
547 施行者は,競走場内の秩序(場外発売場において舟券の発売等が行われる場合にあつて
548
549 は,当該場外発売場内の秩序を含む。)を維持し,かつ,競走の公正及び安全を確保するため,入
550 場者の整理,選手の出場に関する適正な条件の確保,競走に関する犯罪及び不正の防止並びに競
551 走場内における品位及び衛生の保持について必要な措置を講じなければならない。
552 (競走場及び場外発売場の維持)
553 - 6 -
554
555 第24条
556
557
558 (略)
559
560 場外発売場設置者は,その場外発売場の位置,構造及び設備を第5条第2項の国土交通省令で
561 定める基準に適合するように維持しなければならない。
562 (秩序維持等に関する命令)
563
564 第57条
565
566 国土交通大臣は,競走場内又は場外発売場内の秩序を維持し,競走の公正又は安全を確
567
568 保し,その他この法律の施行を確保するため必要があると認めるときは,施行者,競走場設置者
569 又は場外発売場設置者に対し,選手の出場又は競走場若しくは場外発売場の貸借に関する条件を
570 適正にすべき旨の命令,競走場若しくは場外発売場を修理し,改造し,又は移転すべき旨の命令
571 その他必要な命令をすることができる。
572 (競走の開催の停止等)
573 第58条
574
575
576 (略)
577
578 国土交通大臣は,競走場設置者若しくは場外発売場設置者又はその役員が,この法律若しくは
579 この法律に基づく命令若しくはこれらに基づく処分に違反し,又はその関係する競走につき公益
580 に反し,若しくは公益に反するおそれのある行為をしたときは,当該競走場設置者又は当該場外
581 発売場設置者に対し,その業務を停止し,若しくは制限し,又は当該役員を解任すべき旨を命ず
582 ることができる。
583
584
585
586 (略)
587 (競走場等の設置等の許可の取消し)
588
589 第59条
590
591 国土交通大臣は,競走場設置者又は場外発売場設置者が前条第2項の規定による命令に
592
593 違反したときは,当該競走場又は当該場外発売場の設置又は移転の許可を取り消すことができ
594 る。
595
596
597 モーターボート競走法施行規則(昭和26年7月9日運輸省令第59号)(抜粋)
598 (場外発売場の設置等の許可の申請)
599
600 第11条
601
602 法第5条第1項の規定により場外発売場の設置又は移転の許可を受けようとする者は,
603
604 次に掲げる事項を記載した申請書を国土交通大臣に提出しなければならない。
605
606
607 申請者の氏名又は名称及び住所並びに法人にあつては代表者の氏名
608
609
610
611 場外発売場の設置又は移転を必要とする事由
612
613
614
615 場外発売場の所在地
616
617
618
619 場外発売場の構造及び設備の概要
620
621
622
623 場外発売場を中心とする交通機関の状況
624
625
626
627 場外発売場の建設費の見積額及びその調達方法
628
629
630
631 場外発売場の建設工事の開始及び完了の予定年月日
632
633
634
635 その他必要な事項
636
637
638
639 前項の申請書には,次に掲げる書類を添付しなければならない。
640
641
642 場外発売場付近の見取図(場外発売場の周辺から1000メートルの区域内にある文教施設
643 及び医療施設については,その位置及び名称を明記すること。)
644
645
646
647 場外発売場の設備の構造図及び配置図(1000分の1以上の縮尺による。)
648
649
650
651 申請者が当該施設を使用する権原を有するか,又はこれを確実に取得することができること
652 を証明する書類
653
654
655
656 場外発売場の経営に関する収支見積書
657
658
659
660 施行者の委託を受けて舟券の発売等を行う予定であることを証明する書類
661
662 (場外発売場の設置等の許可の基準)
663 第12条
664
665 法第5条第2項の国土交通省令で定める基準(払戻金又は返還金の交付のみの用に供す
666 - 7 -
667
668 る施設及び設備の基準を除く。)は,次のとおりとする。
669
670
671 位置は,文教上又は衛生上著しい支障をきたすおそれのない場所であること。
672
673
674
675 構造及び設備が入場者を整理するため適当なものであること。
676
677
678
679 競走の公正かつ円滑な運営に必要な次に掲げる施設及び設備を有していること。
680
681
682
683
684
685
686 舟券の発売等の用に供する施設及び設備
687
688
689
690 入場者の用に供する施設及び設備
691
692
693
694 その他管理運営に必要な施設及び設備
695 (略)
696
697 (略)
698
699 - 8 -
700
701 【資料3
702
703
704 関係通達】
705
706 場外発売場の設置等の運用について(平成20年2月15日付け国海総第136号海事局長か
707 ら各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)
708
709
710
711 場外発売場設置予定者は,設置許可申請書に省令第2条の7(注1)第2項に定める書類のほ
712 か,地元との調整がとれていることを証明する書類及び管轄警察の指導の内容が反映されている
713 ことを証明する書類並びに建築確認申請書の写しを添付すること。
714
715 (注1)
716 【資料2
717
718 関係法令】に掲げる現行のモーターボート競走法施行規則第11条を指す。以
719
720 下「省令」とは現行のモーターボート競走法施行規則を指す。
721
722
723 場外発売場の位置,構造及び設備の基準の運用について(平成20年2月15日付け国海総第
724 139号海事局長から各地方運輸局長,神戸運輸監理部長あて通達)(抜粋)
725
726
727
728 場外発売場の基準
729 場外発売場の基準の運用については,次のとおりとする。
730
731
732 位置(省令第12条第1項第1号)
733 @
734
735 「文教上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,文教施設から適当な距離を
736 有している,当該設置場所が主たる通学路(学校長が児童又は生徒の登下校の交通安全の確
737 保のために指定した小学校又は中学校の通学路をいう。)に面していないなど総合的に判断し
738 て行う。
739
740 A
741
742 「衛生上著しい支障をきたすおそれがあるか否か」の判断は,医療施設から適当な距離を
743 有している,救急病院又は救急診療所(都道府県知事が救急隊により搬送する医療機関とし
744 て認定したものをいう。)への救急車の主たる経路に面していないなど総合的に判断して行
745 う。
746
747 B
748
749 文教施設とは,学問又は教育を行う施設であり,学校教育法第1条の学校(小学校,中学
750 校,高等学校,中等教育学校,大学,高等専門学校,盲学校,聾学校,養護学校及び幼稚園)
751 及び同法第82条の2の専修学校をいう。
752
753 C
754
755 医療施設とは,医療法第1条の5第1項の病院及び同条第2項の診療所(入院施設を有す
756 るものに限る。)をいう。
757
758 D
759
760 「適当な距離」とは,著しい影響を及ぼさない距離をいい,場外発売場の規模,位置,道
761 路状況,周囲の地理的要因等により大きく異なる。
762
763
764
765
766 (略)
767
768 場外発売場の設置等の許可の取扱いについて(平成20年3月28日付け国海総第513号海
769 事局総務課長から各地方運輸局海事振興部長,北陸信越運輸局海事部長,神戸運輸監理部海事振
770 興部長あて通達)(抜粋)
771
772
773
774 局長通達(注2)7の「地元との調整がとれていること」とは,当該場外発売場の所在する自
775 治会等の同意,市町村の長の同意及び市町村の議会が反対を議決していないことをいう。
776 (注2)前記の平成20年2月15日付け国海総第136号「場外発売場の設置等の運用につい
777 て」を指す。
778
779 - 9 -
780
781