1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
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5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,4:3:3〕)
7 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。なお,解答に当たって
8 は,利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。
9 【事実】
10 1.AとBは,共に不動産賃貸業を営んでいる。Bは,地下1階,地上4階,各階の床面積が8
11 0平方メートルの事務所・店舗用の中古建物一棟(以下「甲建物」という。)及びその敷地2
12 00平方メートル(以下「乙土地」という。)を所有していた。甲建物の内装は剥がれ,エレ
13 ベーターは老朽化して使用することができず,賃借人もいない状況であったが,Bは,資金面
14 で余裕があったにもかかわらず,貸ビルの需要が低迷し,今後当分は賃借人が現れる見込みが
15 ないと考え,甲建物を改修せず,放置していた。Bは,平成21年7月上旬,現状のまま売却
16 する場合の甲建物及び乙土地の市場価値を査定してもらったところ,甲建物は1億円,乙土地
17 は4億円であるとの査定額が出た。
18 2.平成21年8月上旬,Bは,Aから,「甲建物の地下1階及び地上1階を店舗用に,地上2
19 階から4階までを事務所用に,それぞれ内装を更新し,エレベーターも最新のものに入れ替え
20 た建物に改修する工事を自らの費用で行うので,甲建物を賃貸してほしい。」との申出を受け
21 た。この申出があった当時,甲建物を改修して賃貸に出せる状態にした前提で,これを一棟全
22 体として賃貸する場合における賃料の相場は,少なくとも月額400万円であり,A及びB
23 は,そのことを知っていた。
24 3.そこで,AとBは,平成21年10月30日,甲建物の使用収益のために必要なエレベータ
25 ー設置及び内装工事費用等は全てAが負担すること,設置されたエレベーター及び更新された
26 内装の所有権はBに帰属すること,甲建物の賃料は平成22年2月1日から月額200万円で
27 発生し,その支払は毎月分を当月末日払いとすること,賃貸期間は同日から3年とすることを
28 内容として,甲建物の賃貸借契約を締結した。その際,賃貸借契約終了による甲建物の返還時
29 にAはBに対して上記工事に関連して名目のいかんを問わず金銭的請求をしないこと,Aが賃
30 料の支払を3か月間怠った場合,Bは催告なしに賃貸借契約を解除することができること,A
31 は甲建物の全部又は一部を転貸することができること,契約終了の6か月前までに一方当事者
32 から異議の申出がされない限り,同一条件で契約期間を自動更新することという特約が,AB
33 間で交わされた。また,AB間での賃貸借契約の締結に際し,敷金として2500万円がAか
34 らBに支払われた。
35 4.平成21年11月10日,Aは,Bから甲建物の引渡しを受け,Bの承諾の下,Cとの間
36 で,甲建物の地下1階から地上4階までの内装工事をCに5000万円で請け負わせる契約を
37 締結し,また,Dとの間で,エレベーター設備の更新工事をDに2000万円で請け負わせる
38 契約を締結した。いずれの契約においても,工事完成引渡日は平成22年1月31日限り,工
39 事代金は着工時に上記金額の半額,完成引渡後の1週間以内に残金全部を支払うこととされ
40 た。そして,Aは,同日,Cに2500万円,Dに1000万円を支払った。
41 5.Cは,大部分の工事を,下請業者Eに請け負わせた。CE間の下請負契約における工事代金
42 は4000万円であり,Cは,Eに前金として2000万円を支払った。
43 6.C及びDは,平成22年1月31日,全内装工事及びエレベーター設備の更新工事を完成
44 し,同日,Aは,エレベーターを含む甲建物全体の引渡しを受けた。
45 7.Aは,Dに対しては,平成22年2月7日に請負工事残代金1000万円を支払ったが,C
46 に対しては,内装工事が自分の描いていたイメージと違うことを理由として,残代金の支払を
47 拒否している。また,Cは,Eから下請負工事残代金の請求を受けているが,これを支払って
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50 いない。
51 8.Aは,Bとの賃貸借契約締結直後から,平成22年2月1日より甲建物を一棟全体として,
52 月額賃料400万円で転貸しようと考え,借り手を探していたが,なかなか見付からなかっ
53 た。そのため,Aは,Bに対し賃料の支払を同月分からしていない。
54 9.Bは,Aに対し再三にわたり賃料支払の督促をしたが,Aがこれを支払わないまま,3か月
55 以上経過した。しかし,Bは,Aに対し賃貸借契約の解除通知をしなかった。その後,Bは,
56 Aの未払賃料総額が6か月分の1200万円となった平成22年8月1日に,甲建物及び乙土
57 地を,5億6000万円でFに売却した。代金の内訳は,甲建物が1億6000万円で,乙土
58 地が4億円であった。甲建物の代金は,内装やエレベーターの状態など建物全体の価値を査定
59 して得られた甲建物の市場価値が2億円であったことを踏まえ,FがBから承継する敷金返還
60 債務の額が1300万円であることその他の事情を考慮に入れ,査定額から若干値引きするこ
61 とにより決定したものである。Fは,同日,Bに代金全額を支払い,甲建物及び乙土地の引渡
62 しを受けた。そして,同年8月2日付けで,上記売買を原因とするBからFへの甲建物及び乙
63 土地の所有権移転登記がされた。なお,上記売買契約に際して,B及びFは,FがBの敷金返
64 還債務を承継する旨の合意をした。
65 10.Fは,Bから甲建物及び乙土地を譲り受けるに際し,Aを呼び出してAから事情を聞いたと
66 ころ,遅くとも平成22年中には転貸借契約を締結することができそうだと説明を受けた。そ
67 のため,Fは,早晩,Aが転借人を見付けることができ,Aの賃料の支払も可能になるだろう
68 と考えた。また,Fは,甲建物及び乙土地の購入のために金融機関から資金を借り入れてお
69 り,その利息負担の軽減のため,その借入元本債務を期限前に弁済しようと考えた。そこで,
70 Fは,同年9月1日,FがAに対して有する平成23年1月分から同年12月分までの合計2
71 400万円の賃料債権を,その額面から若干割り引いて,代金2000万円でGに譲渡する旨
72 の契約をGとの間で締結し(以下「本件債権売買契約」という。),同日,代金全額がGからF
73 に対して支払われた。そして,同日,FとGは,連名で,Aに対して,上記債権譲渡につき,
74 配達証明付内容証明郵便によって通知を行い,翌日,同通知は,Aに到達した。
75 11.ところが,平成22年9月末頃,Aが売掛金債権を有している取引先が突然倒産し,売掛金
76 の回収が見込めなくなり,Aは,この売掛金債権を自らの運転資金の当てにしていたため,資
77 金繰りに窮する状態に陥るとともに無資力となった。そのため,Aは,Fとの間で協議の場を
78 設け,今となっては事実上の倒産状態にあること及び甲建物の内装工事をしたCに対する請負
79 残代金2500万円が未払であることを含め,自らの置かれた現在の状況を説明するととも
80 に,甲建物の転借を希望する者が現れないこと,今後も賃料を支払うことのできる見込みが全
81 くないことを告げ,Fに対し,この際,Fとの間の甲建物の賃貸借契約を終了させたいと申し
82 入れた。Fは,Aに対する賃料債権をGに譲渡していることが気になったが,いずれにせよ,
83 Aから賃料が支払われる可能性は乏しく,Gによる賃料債権回収の可能性はないと考え,Aの
84 申入れを受けて,同年10月3日,A及びFは,甲建物の賃貸借契約を同月31日付けで解除
85 する旨の合意をした。この合意に当たり,AF間では何らの金銭支払がなく,また,A及びF
86 は,Fに対する敷金返還請求権をAが放棄することを相互に確認した。そして,同月31日,
87 Aは,Fに甲建物を引き渡した。
88 12.Fは,Aとの間で甲建物の賃貸借契約を解除する旨の合意をした平成22年10月3日以
89 降,直ちに,Aに代わる借り手の募集を開始した。Hは,満70歳であり,衣料品販売業を営
90 んでいる。Hは,事業拡張に伴う営業所新設のための建物を探していたが,甲建物をその有力
91 な候補とし,Fに対し,甲建物の内覧を申し出た。Hは,同月12日,Fを通じてAの同意を
92 も得た上で,甲建物の内部を見て歩き,エレベーターに乗ったところ,このエレベーターが下
93 降中に突然大きく揺れたため,Hは,転倒して右足を骨折し,3か月の入院加療が必要となっ
94 た。このエレベーターの不具合は,設置工事を行ったDが,設置工程において必要とされてい
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97 た数か所のボルトを十分に締めていなかったことに起因するものであった。
98 13.Hは,この事故に遭う1年ほど前から,時々,歩いていてバランスを崩したり,つまずいた
99 りするなどの身体機能の低下があり,平成22年4月に総合病院で検査を受けていた。その検
100 査の結果は,Hの身体機能の低下は加齢によるものであって,無理をしなければ日常生活を送
101 る上での支障はないが,定期的に病院で検査を受けるよう勧める,というものであった。
102 14.Hは,この勧めに従って,上記総合病院で,平成22年5月から毎月1回の検査を受けてい
103 たが,特段の疾患はないと診断されていた。一方,この間,Hの妻が病気で入院したため,H
104 は,毎日のように病院と自宅とを往復し,時として徹夜で妻に付き添っていた。そのため,H
105 は,同年7月下旬頃から,かなりの疲労の蓄積を感じていた。Hが同年10月12日に甲建物
106 のエレベーターの揺れによって転倒し,右足を骨折するほどの重傷を負ったのは,Hのここ1
107 年ほどの身体機能の低下と妻の看病による疲労の蓄積も原因となっていた。
108 15.なお,甲建物の市場価値は,平成22年1月31日の工事完成による引渡し以降,現在に至
109 るまで,大きな変化なく2億円ほどで推移している。乙土地の市場価値も,この間,大きな変
110 化なく4億円ほどで推移している。
111 〔設問1〕
112
113 【事実】1から11まで及び【事実】15を前提として,以下の及びに答えなさい。
114
115 なお,解答に当たっては,敷金返還債務はGに承継されていないものとして,また,【事実】7
116 に示したAのCに対する支払拒絶には合理的理由がないものとして考えなさい。民法第248条
117 に基づく請求については,検討する必要がない。
118
119
120 Cは,不当利得返還請求の方法によって,Bから,AC間の請負契約に基づく請負残代金に
121 相当する額を回収することを考えた。Cが請求する場合の論拠及び請求額について,Bからの
122 予想される反論も踏まえて検討しなさい。
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124
125
126 Cは,不当利得返還請求以外の方法によって,Fから,AC間の請負契約に基づく請負残代
127 金に相当する額を回収することを考えた。Cが請求する場合の論拠及び請求額について,Fか
128 らの予想される反論も踏まえて検討しなさい。
129
130 〔設問2〕
131
132 Gは,平成23年4月1日,Aに対して,同年1月分から同年3月分までの未払賃料
133
134 総額計600万円の支払を求めた。しかし,Aは,そもそも当該期間に対応する賃料債務が発生
135 していないことを理由に,これを拒絶した。そこで,Gは,Fの債務不履行を理由として,本件
136 債権売買契約を解除し,Fに対し代金相当額の返還を求めることにした。
137 【事実】1から11までを前提として,Gの上記解除の主張を支える法的根拠を1つ選び,それ
138 について検討しなさい。その際,Fのどのような債務についての不履行を理由とすることができ
139 るか,また,解除の各要件は充足されているかを検討しなさい。
140 なお,検討に当たって,本件債権売買契約は有効であること及びAF間の賃貸借契約の合意解
141 除は有効であることを前提とするとともに,敷金については考慮に入れないものとする。また,
142 GからFに対する損害賠償請求については,検討する必要がない。
143 〔設問3〕
144
145
146 【事実】1から14までを前提として,以下の及びに答えなさい。
147
148 Hは,【事実】12に示したエレベーター内での転倒により被った損害の賠償を請求しようと
149 考えた。Hが損害賠償を請求する相手方として検討すべき者を挙げ,そのそれぞれに対して損
150 害賠償を請求するための論拠について,予想される反論も踏まえて論じなさい。
151
152
153
154 Hの損害賠償請求が認められる場合に,Hの身体機能の低下及び疲労の蓄積が損害の発生又
155 は拡大を招いたことを理由として,賠償額が減額されるべきか,理由を明らかにしつつ結論を
156 示しなさい。
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160 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
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164 [民事系科目]
165 〔第2問〕(配点:100)
166 次の文章を読んで,後記の設問に答えよ。
167 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,携帯電話の販売を目的とする会社法上の公開会社であ
168 り,その株式をP証券取引所の新興企業向けの市場に上場している。
169 Aは,甲社の創業者として,その発行済株式総数1000万株のうち250万株の株式を有し
170 ていたが,平成21年12月に死亡した。そのため,Aの唯一の相続人であるBは,その株式を
171 相続した。
172 なお,甲社は,種類株式発行会社ではない大会社である。
173 2.甲社は,携帯電話を低価格で販売する手法により急成長を遂げたが,スマートフォン市場の拡
174 大という事業環境の変化への対応が遅れ,平成22年に入り,その経営に陰りが見え始めた。そ
175 こで,甲社の代表取締役であるCは,甲社の経営を立て直すため,大手電気通信事業者であり,
176 甲社株式30万株を有する乙株式会社(以下「乙社」という。)との間で資本関係を強化して,甲
177 社の販売力を高めたいと考えた。
178 そこで,Cは,乙社に対し資本関係の強化を求め交渉したところ,乙社から,
179 「市場価格を下回
180 る価格であれば,更に甲社株式を取得してよい。ただし,Bに甲社株式を手放させ,創業家の影
181 響力を一掃してほしい。」との回答を受けた。
182 3.これを受けて,CがBと交渉したところ,Bは,相続税の支払資金を捻出する必要があったた
183 め,Cに対し,
184 「創業以来のAの多大な貢献を考慮した価格であれば,甲社株式の全てを手放して
185 も構わない。」と述べた。そこで,甲社は,Bとの間で,Bの有する甲社株式250万株の全てを
186 相対での取引により一括で取得することとし,その価格については,市場価格を25%上回る価
187 格とすることで合意した。
188 4.そこで,甲社は,乙社と再交渉の結果,乙社との間で,甲社が,乙社に対し,Bから取得する
189 甲社株式250万株を市場価格の80%で処分することに合意した。
190 5.甲社は,平成22年6月1日に取締役会を開催し,同月29日に開催する予定の定時株主総会
191 において,
192 (ア)Bから甲社株式250万株を取得すること及び(イ)乙社にその自己株式を処分
193 することを議案とすることを決定した。
194 なお,甲社の定款には,定時株主総会における議決権の基準日は,事業年度の末日である毎年
195 3月31日とすると定められていた。
196 6.5の(ア)を第1号議案とし,5の(イ)を第2号議案とする平成22年6月29日開催の定
197 時株主総会の招集通知並びに株主総会参考書類及び貸借対照表(【資料@】及び【資料A】は,そ
198 れぞれその概要を示したものである。)等が同月10日に発送された。
199 なお,甲社は,B以外の甲社の株主に対し,第1号議案の「取得する相手方」の株主に自己を
200 も加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができる旨を通知しなかった。
201 7.甲社は,同月29日,定時株主総会を開催した。第1号議案の審議に入り,甲社の株主である
202 Dが,「私も,値段によっては買ってもらいたいが,どのような値段で取得するつもりなのか。」
203 と質問したところ,Cは,Bから甲社株式を取得する際の価格の算定方法やその理由を丁寧に説
204 明した。採決の結果,多くの株主が反対したものの,Bが賛成したため,議長であるCは,出席
205 した株主の議決権の3分の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して,第1号議案が可決
206 されたと宣言した。
207 8.続いて第2号議案の審議に入り,Cは,株主総会参考書類の記載に即して,乙社に特に有利な
208 金額で自己株式の処分をすることを必要とする理由を説明したが,再びDが,
209 「処分価格を市場価
210 格の80%と定めた根拠を明らかにされたい。」と質問したのに対し,Cが「企業秘密に関わるた
211 - 2 -
212
213 め,その根拠を示すことはできない。」と述べて説明を拒絶したことから,審議が紛糾した。その
214 結果,多くの株主が反対したものの,乙社が賛成したため,Cは,出席した株主の議決権の3分
215 の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して,第2号議案が可決されたと宣言した。
216 9.甲社は,定時株主総会の終了後引き続き,同日,取締役会を開催し,Bの有する甲社株式25
217 0万株の全てを同月30日に取得すること,同月28日のP証券取引所における甲社株式の最終
218 の価格が1株800円であったため,この価格を25%上回る1株当たり1000円をその取得
219 価格とすることなどを決定した。これに基づき,甲社は,Bから,同月30日,甲社株式250
220 万株を総額25億円で取得した(以下「本件自己株式取得」という。)。
221 なお,同年3月31日から同年6月30日までの間,甲社は,B以外の甲社の株主から甲社株
222 式を取得しておらず,また,甲社には,分配可能額に変動をもたらすその他の事象も生じていな
223 かった。
224 10.また,甲社は,同年7月20日,乙社に対し,250万株の自己株式の処分を行い,その対価
225 として合計16億円を得た(以下「本件自己株式処分」という。)。
226 その後,乙社は,同年8月31日までに,50万株の甲社株式を市場にて売却した。
227 11.ところが,甲社において,同年9月1日,従業員の内部告発によって,西日本事業部が平成2
228 1年度に架空売上げの計上を行っていたことが発覚した。そこで,甲社は,弁護士及び公認会計
229 士をメンバーとする調査委員会を設けて,徹底的な調査を行った上で,平成22年3月31日時
230 点における正しい貸借対照表(
231 【資料B】は,その概要を示したものである。)を作り直した。
232 調査委員会の調査結果によれば,今回の架空売上げの計上による粉飾決算は,西日本事業部の
233 従業員が会計監査人ですら見抜けないような巧妙な手口で行ったもので,甲社の内部統制の体制
234 には問題がなく,Cが架空売上げの計上を見抜けなかったことに過失はなかったとされた。
235 12.その後,甲社では,その業績が急激に悪化した結果,甲社の平成23年3月31日時点におけ
236 る貸借対照表を取締役会で承認した時点で,30億円の欠損が生じた。
237 〔設
238
239 問〕
240
241 @本件自己株式取得の効力及び本件自己株式取得に関する甲社とBとの間の法律関
242
243 係,A本件自己株式処分の効力並びにB本件自己株式取得及び本件自己株式処分に関するCの甲
244 社に対する会社法上の責任について,それぞれ説明しなさい。
245
246 - 3 -
247
248 【資料@】
249
250 株主総会参考書類
251 議案及び参考事項
252 第1号議案
253
254 特定の株主からの自己の株式の取得の件
255
256 当社は,今般,当社創業者A氏の唯一の相続人であるB氏から,同氏の有す
257 る当社株式全てについて市場価格を上回る額での売却の打診を受けました。そ
258 こで,キャッシュフローの状況及び取得価格等を総合的に検討し,以下の要領
259 にて,市場価格を上回る額で自己の株式の取得を行うことにつき,ご承認をお
260 願いするものであります。
261 (1) 取得する相手方
262 B氏
263 (2) 取得する株式の数
264 当社株式2,500,000株(発行済株式総数に対する割合25%)を上
265 限とする。
266 (3) 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
267 金銭とし,25億円を上限とする。
268 (4) 株式を取得することができる期間
269 本株主総会終結の日の翌日から平成22年7月19日まで
270 第2号議案
271
272 自己株式処分の件
273
274 以下の要領にて,乙株式会社に対し,自己株式を処分することにつき,ご承
275 認をお願いするものであります。
276 (1) 処分する相手方
277 乙株式会社
278 (2) 処分する株式の数
279 当社株式2,500,000株
280 (3) 処分する株式の払込金額
281 1株当たり640円(平成21年12月1日から平成22年5月31日ま
282 での6か月間のP証券取引所における当社株式の最終の価格の平均値(80
283 0円)に0.8を乗じた価格)
284 (4) 払込期日及び処分の日
285 平成22年7月20日
286 (5) 乙株式会社に特に有利な金額で自己株式の処分をすることを必要とする
287 理由
288 当社は,……(略)。
289
290 - 4 -
291
292 【資料A】
293
294 貸借対照表
295 (平成22年3月31日現在)
296 (単位:百万円)
297 科目
298 (資産の部)
299 流動資産
300 (略)
301
302 固定資産
303 (略)
304
305 資産合計
306 (注)
307
308 金額
309
310 科目
311 (負債の部)
312
313 金額
314
315 9,000 ( 略 )
316 負債合計
317 (純資産の部)
318 株主資本
319 資本金
320 資本剰余金
321 資本準備金
322 1,000
323 その他資本剰余金
324 利益剰余金
325 利益準備金
326 その他利益剰余金
327 純資産合計
328 負債・純資産合計
329 10,000
330
331 3,000
332 7,000
333 1,500
334 1,500
335 1,500
336 −
337 4,000
338 500
339 3,500
340 7,000
341 10,000
342
343 「−」は金額が0円であることを示す。
344
345 【資料B】
346
347 貸借対照表
348 (平成22年3月31日現在)
349 (単位:百万円)
350 科目
351 (資産の部)
352 流動資産
353 (略)
354
355 固定資産
356 (略)
357
358 資産合計
359 (注)
360
361 金額
362
363 科目
364 (負債の部)
365
366 金額
367
368 6,000 ( 略 )
369 負債合計
370 (純資産の部)
371 株主資本
372 資本金
373 資本剰余金
374 資本準備金
375 1,000
376 その他資本剰余金
377 利益剰余金
378 利益準備金
379 その他利益剰余金
380 純資産合計
381 負債・純資産合計
382 7,000
383
384 「−」は金額が0円であることを示す。
385
386 - 5 -
387
388 3,000
389 4,000
390 1,500
391 1,500
392 1,500
393 −
394 1,000
395 500
396 500
397 4,000
398 7,000
399
400 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
401
402 - 1 -
403
404 [民事系科目]
405 〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3:4:3〕)
406 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
407 【事例1】
408 Aは,医師であり,個人医院を開設しているが,将来の値上がりを期待して,近隣の土地を購
409 入してきた。しかし,同じ市内に開設された総合病院に対抗するために,平成19年5月に借入
410 れをして高価な医療機器を購入したにもかかわらず,Aの医院の患者数は伸び悩み,Aは,平成
411 21年夏頃から資金繰りに窮している。
412 Bは,Aの友人であり,Aが土地を購入するに際して,購入資金を貸与するなどの付き合いが
413 ある。Bは,かねてAから,甲土地は実はAの所有地である,と聞かされてきた。
414 Cは,Aの弟D(故人)の子であり,Dの唯一の相続人である。
415 甲土地の所有権登記名義は,平成14年3月26日に売買を原因としてEからDに移転してい
416 る。
417 Bは,弁護士Pに依頼し,Dの単独相続人であるCを被告として,Aの甲土地の所有権に基づ
418 き,甲土地についてDからAへの所有権移転登記手続を請求して,平成22年12月8日に訴え
419 を提起した(以下,この訴訟を「訴訟1」という。)。
420 平成23年1月25日に開かれた第1回口頭弁論期日において,Pは,次のような主張をし
421 た。
422 @
423
424 Bは,平成17年6月12日に,Aに対して,平成22年6月12日に元本1200万
425 円に利息200万円を付して返済を受ける約束で,1200万円を貸し渡した。
426
427 A
428
429 平成22年6月12日は経過した。
430
431 B
432
433 Aは,甲土地を現に所有している。
434
435 C
436
437 甲土地の所有権登記名義はDにある。
438
439 D
440
441 Aは,無資力である。
442
443 E
444
445 CはDの子であるところ,Dは,平成18年5月28日に死亡した。
446
447 これに対して,Cは,同期日において,「ABCEは認めるが,@Dは知らない。」旨の陳述を
448 した。
449 裁判官が,Pに対して,@の消費貸借契約について契約書があるかどうか質問したところ,P
450 は,「作成されていない。」と返答した。裁判官は,Pに対して,次回の口頭弁論期日に@とDの
451 事実を立証するよう促した。
452 第1回口頭弁論期日が終了した後,Cは,弁護士Qに訴訟1について相談し,Qを訴訟代理人
453 に選任した。
454 平成23年3月8日に開かれた第2回口頭弁論期日において,Qは,次のような陳述をした。
455 F
456
457 甲土地は,Eがもと所有していた。
458
459 G
460
461 平成14年2月26日,Aは,Eとの間で,甲土地を2200万円で購入する旨の契約
462 を締結した。
463
464 H
465
466 Aは,Gの契約を締結するに際して,Dのためにすることを示した。
467
468 I
469
470 同年2月18日,Dは,Aに対して,甲土地の購入について代理権を授与した。
471
472 裁判官がQに対して,新たな陳述をした理由をただしたところ,Qは,次のように述べた。
473 Dが死亡した後,Cは,事あるごとに,Aから,
474 「甲土地は,Dのものではなく,Aのもの
475 - 2 -
476
477 だ。」と聞かされてきたので,それを鵜呑みにしてきました。しかし,私が改めてEから事情
478 を聴取したところ,新たな事実が判明したので,甲土地の所有権がEからDへ,DからCへ
479 と移転したと主張する次第です。
480 Pは,@とDの事実を証明するための文書を提出したが,FGHIに対する認否は,次回の口
481 頭弁論期日まで留保した。
482 以下は,第2回口頭弁論期日の数日後のPと司法修習生Rとの会話である。
483 P:第2回口頭弁論期日でのQの陳述について検討してみましょう。
484 Qが,甲土地の所有権がEからDへ,DからCへと移転したと主張したので,Aに問い合
485 わせてみました。すると,Aからは,Dから代理権の授与を受けたことはないし,Aが甲土
486 地の購入資金を出した,という説明を受けました。Aによると,EはDの知人で,AはDの
487 紹介でEから甲土地を購入したが,後になって思うと,DとEは共謀してAをだまして,甲
488 土地の所有権登記名義をDに移したようだ,とのことでした。しかし,Aは,弟や甥を相手
489 に事を荒立てるのはどうかと思い,Cに対して所有者がAであることを告げるにとどめ,登
490 記は今までそのままにしていたそうです。
491 以上のAの説明を前提にすると,次回の口頭弁論期日では,HとIを争うことが考えられ
492 ます。
493 しかし,そもそもQのHとIの陳述は,Cが第1回口頭弁論期日でBを認めたことと矛盾
494 しています。そこが気になっているのです。
495 R:第1回口頭弁論期日で「甲土地は,Aが現に所有している。」という点に権利自白が成立し
496 ているにもかかわらず,第2回口頭弁論期日でのQの陳述は,甲土地をAが現に所有してい
497 ることを否定する趣旨ですから,権利自白の撤回に当たるということでしょうか。
498 P:そのとおりです。もしそのような権利自白の撤回が許されないとすると,HとIについて
499 の認否が要らないことになります。ですから,私としては,被告側の権利自白の撤回は許さ
500 れない,と次回の口頭弁論期日で主張してみようかと思っています。そこで,あなたにお願
501 いなのですが,このような私の主張を理論的に基礎付けることができるかどうか,検討して
502 いただきたいのです。
503 R:はい。しかし,考えたことのない問題ですので,うまくできるかどうか・・・。
504 P:確かに難しそうな問題ですね。事実の自白の撤回制限効の根拠にまで遡った検討が必要か
505 もしれません。「理論的基礎付けは難しい。」という結論になってもやむを得ませんが,ギリ
506 ギリのところまで「被告側の権利自白の撤回は許されない。」という方向で検討してみてくだ
507 さい。では,頑張ってください。
508 〔設問1〕
509
510 あなたが司法修習生Rであるとして,弁護士Pから与えられた課題に答えなさい。
511
512 【事例1(続き)】
513 F銀行は,Aの言わばメインバンクであり,Aに対して医療機器の購入資金や医院の運転資金
514 などを貸し付けてきた。現在,Fは,Aに対して2500万円の貸付金残高を有している。訴訟
515 1が第一審に係属していることを知ったFがその進行状況を調査したところ,BがBA間の消費
516 貸借契約締結の事実(@の事実)やAの無資力の事実(Dの事実)の立証に難渋している,との
517 情報が得られた。そこで,Fは,Aに甲土地の所有権登記名義を得させるために,自らも訴訟1
518 に関与することはできないかと,弁護士Sに相談した。Sは,Bの原告適格が否定される可能性
519 があることを考慮すると,補助参加ではなく当事者として参加することを検討しなければならな
520 いと考えたが,どのような参加の方法が適当であるかについては,結論に至らなかった。
521
522 - 3 -
523
524 〔設問2〕
525
526 Fが訴訟1に参加する方法として,独立当事者参加と共同訴訟参加のそれぞれについ
527
528 て,認められるかどうかを検討しなさい。ただし,民事訴訟法第47条第1項前段の詐害防止参
529 加を検討する必要はない。
530 【事例2】
531 Kは,乙土地上の丙建物に居住している。Kの配偶者は既に死亡しているが,KにはLとMの
532 2人の嫡出子があり,共に成人している。このうち,Lは,Kと同居しているが,遠く離れた地
533 方に居住するMは,進路についてKと対立したため,KやLとほとんど没交渉となっている。
534 乙土地の所有権登記名義はKの旧友であるNにあり,丙建物の所有権登記名義はKにある。
535 Nは,Kを被告として,平成22年9月2日,乙土地の所有権に基づき,丙建物を収去して,
536 乙土地をNに明け渡すことを請求して,訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」という。)。
537 なお,訴訟2において,NにもKにも訴訟代理人はいない。
538 平成22年10月12日に開かれた第1回口頭弁論期日において,次の事項については,Nと
539 Kとの間で争いがなかった。
540 ・
541
542 乙土地をNがもと所有していたこと。
543
544 ・
545
546 Kが,丙建物を所有して,乙土地を占有していること。
547
548 ・
549
550 平成10年5月頃,Nが,Kに対して,期間を定めないで,乙土地を,資材置場とし
551 て,無償で貸し渡したこと。
552
553 ・
554
555 平成22年9月8日,Nが,Kに対して,乙土地の使用貸借契約を解除する旨の意思表
556 示をしたこと。
557
558 同期日において,Kは,平成17年12月頃,NとKとの間で乙土地の贈与契約が締結された
559 と主張し,Nは,これを否認した。さらに,Kは,KとNとの間で乙土地をKが所有することの
560 確認を求める中間確認の訴えを提起した。
561 平成22年10月16日,Kは交通事故により死亡し,LとMがKを共同相続し,それぞれに
562 ついて相続放棄をすることができる期間が経過した。平成23年3月7日,NがLとMを相手方
563 として受継の申立てをし,同年4月11日,受継の決定がされた。
564 平成23年5月10日に開かれた第2回口頭弁論期日において,Lは争う意思を明確にした
565 が,Mは「本訴請求を認諾し,中間確認請求を放棄する。」旨の陳述をした。
566 以下は,第2回口頭弁論期日終了後の裁判官Tと司法修習生Uとの会話である。
567 T:今日の期日で,Mは本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄をしましたね。
568 U:はい。しかし,Lは認諾も放棄もせず,Nと争うつもりのようですね。
569 T:Lがそのような態度をとっている場合に,Mのした認諾と放棄がどのように扱われるべき
570 かは,一考を要する問題です。この問題をあなたに考えてもらうことにしましょう。
571 なお,LとMが本訴被告の地位と中間確認の訴えの原告の地位を相続により承継したこと
572 によって,本訴請求と中間確認請求がどうなるかについては議論のあるところですが,当然
573 承継の効果として当事者の訴訟行為を経ずに,本訴請求の趣旨は「L及びMは,丙建物を収
574 去して,乙土地をNに明け渡せ。」に,中間確認請求の趣旨は「L及びMとNとの間で,乙土
575 地をL及びMが共有することを確認する。」に,それぞれ変更される,という見解を前提とし
576 てください。
577 このような本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄の陳述をMだけがした場合に,この陳述
578 がどのように扱われるべきか,考えてみてください。その際には,判例がある場合にはそれ
579 - 4 -
580
581 を踏まえる必要がありますが,それに無批判に従うことはせずに,本件での結果の妥当性な
582 どを考えて,あなたの意見をまとめてください。
583 〔設問3〕
584
585 あなたが司法修習生Uであるとして,裁判官Tから与えられた課題に答えなさい。
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