1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
7 4:3:3〕)
8 次の文章を読んで,
9 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
10
11 なお,
12 解答に当たって
13 は,
14 利息及び遅延損害金を考慮に入れないものとする。
15
16
17 【事実】
18 1.AとBは,
19 共に不動産賃貸業を営んでいる。
20
21 Bは,
22 地下1階,
23 地上4階,
24 各階の床面積が8
25 0平方メートルの事務所・店舗用の中古建物一棟(以下「甲建物」という。
26
27 )及びその敷地2
28 00平方メートル(以下「乙土地」という。
29
30 )を所有していた。
31
32 甲建物の内装は剥がれ,
33 エレ
34 ベーターは老朽化して使用することができず,
35 賃借人もいない状況であったが,
36 Bは,
37 資金面
38 で余裕があったにもかかわらず,
39 貸ビルの需要が低迷し,
40 今後当分は賃借人が現れる見込みが
41 ないと考え,
42 甲建物を改修せず,
43 放置していた。
44
45 Bは,
46 平成21年7月上旬,
47 現状のまま売却
48 する場合の甲建物及び乙土地の市場価値を査定してもらったところ,
49 甲建物は1億円,
50 乙土地
51 は4億円であるとの査定額が出た。
52
53
54 2.平成21年8月上旬,
55 Bは,
56 Aから,
57 「甲建物の地下1階及び地上1階を店舗用に,
58 地上2
59 階から4階までを事務所用に,
60 それぞれ内装を更新し,
61 エレベーターも最新のものに入れ替え
62 た建物に改修する工事を自らの費用で行うので,
63 甲建物を賃貸してほしい。
64
65 」との申出を受け
66 た。
67
68 この申出があった当時,
69 甲建物を改修して賃貸に出せる状態にした前提で,
70 これを一棟全
71 体として賃貸する場合における賃料の相場は,
72 少なくとも月額400万円であり,
73 A及びB
74 は,
75 そのことを知っていた。
76
77
78 3.そこで,
79 AとBは,
80 平成21年10月30日,
81 甲建物の使用収益のために必要なエレベータ
82 ー設置及び内装工事費用等は全てAが負担すること,
83 設置されたエレベーター及び更新された
84 内装の所有権はBに帰属すること,
85 甲建物の賃料は平成22年2月1日から月額200万円で
86 発生し,
87 その支払は毎月分を当月末日払いとすること,
88 賃貸期間は同日から3年とすることを
89 内容として,
90 甲建物の賃貸借契約を締結した。
91
92 その際,
93 賃貸借契約終了による甲建物の返還時
94 にAはBに対して上記工事に関連して名目のいかんを問わず金銭的請求をしないこと,
95 Aが賃
96 料の支払を3か月間怠った場合,
97 Bは催告なしに賃貸借契約を解除することができること,
98 A
99 は甲建物の全部又は一部を転貸することができること,
100 契約終了の6か月前までに一方当事者
101 から異議の申出がされない限り,
102 同一条件で契約期間を自動更新することという特約が,
103 AB
104 間で交わされた。
105
106 また,
107 AB間での賃貸借契約の締結に際し,
108 敷金として2500万円がAか
109 らBに支払われた。
110
111
112 4.平成21年11月10日,
113 Aは,
114 Bから甲建物の引渡しを受け,
115 Bの承諾の下,
116 Cとの間
117 で,
118 甲建物の地下1階から地上4階までの内装工事をCに5000万円で請け負わせる契約を
119 締結し,
120 また,
121 Dとの間で,
122 エレベーター設備の更新工事をDに2000万円で請け負わせる
123 契約を締結した。
124
125 いずれの契約においても,
126 工事完成引渡日は平成22年1月31日限り,
127 工
128 事代金は着工時に上記金額の半額,
129 完成引渡後の1週間以内に残金全部を支払うこととされ
130 た。
131
132 そして,
133 Aは,
134 同日,
135 Cに2500万円,
136 Dに1000万円を支払った。
137
138
139 5.Cは,
140 大部分の工事を,
141 下請業者Eに請け負わせた。
142
143 CE間の下請負契約における工事代金
144 は4000万円であり,
145 Cは,
146 Eに前金として2000万円を支払った。
147
148
149 6.C及びDは,
150 平成22年1月31日,
151 全内装工事及びエレベーター設備の更新工事を完成
152 し,
153 同日,
154 Aは,
155 エレベーターを含む甲建物全体の引渡しを受けた。
156
157
158 7.Aは,
159 Dに対しては,
160 平成22年2月7日に請負工事残代金1000万円を支払ったが,
161 C
162 に対しては,
163 内装工事が自分の描いていたイメージと違うことを理由として,
164 残代金の支払を
165 拒否している。
166
167 また,
168 Cは,
169 Eから下請負工事残代金の請求を受けているが,
170 これを支払って
171 - 2 -
172
173 いない。
174
175
176 8.Aは,
177 Bとの賃貸借契約締結直後から,
178 平成22年2月1日より甲建物を一棟全体として,
179
180 月額賃料400万円で転貸しようと考え,
181 借り手を探していたが,
182 なかなか見付からなかっ
183 た。
184
185 そのため,
186 Aは,
187 Bに対し賃料の支払を同月分からしていない。
188
189
190 9.Bは,
191 Aに対し再三にわたり賃料支払の督促をしたが,
192 Aがこれを支払わないまま,
193 3か月
194 以上経過した。
195
196 しかし,
197 Bは,
198 Aに対し賃貸借契約の解除通知をしなかった。
199
200 その後,
201 Bは,
202
203 Aの未払賃料総額が6か月分の1200万円となった平成22年8月1日に,
204 甲建物及び乙土
205 地を,
206 5億6000万円でFに売却した。
207
208 代金の内訳は,
209 甲建物が1億6000万円で,
210 乙土
211 地が4億円であった。
212
213 甲建物の代金は,
214 内装やエレベーターの状態など建物全体の価値を査定
215 して得られた甲建物の市場価値が2億円であったことを踏まえ,
216 FがBから承継する敷金返還
217 債務の額が1300万円であることその他の事情を考慮に入れ,
218 査定額から若干値引きするこ
219 とにより決定したものである。
220
221 Fは,
222 同日,
223 Bに代金全額を支払い,
224 甲建物及び乙土地の引渡
225 しを受けた。
226
227 そして,
228 同年8月2日付けで,
229 上記売買を原因とするBからFへの甲建物及び乙
230 土地の所有権移転登記がされた。
231
232 なお,
233 上記売買契約に際して,
234 B及びFは,
235 FがBの敷金返
236 還債務を承継する旨の合意をした。
237
238
239 10.Fは,
240 Bから甲建物及び乙土地を譲り受けるに際し,
241 Aを呼び出してAから事情を聞いたと
242 ころ,
243 遅くとも平成22年中には転貸借契約を締結することができそうだと説明を受けた。
244
245 そ
246 のため,
247 Fは,
248 早晩,
249 Aが転借人を見付けることができ,
250 Aの賃料の支払も可能になるだろう
251 と考えた。
252
253 また,
254 Fは,
255 甲建物及び乙土地の購入のために金融機関から資金を借り入れてお
256 り,
257 その利息負担の軽減のため,
258 その借入元本債務を期限前に弁済しようと考えた。
259
260 そこで,
261
262 Fは,
263 同年9月1日,
264 FがAに対して有する平成23年1月分から同年12月分までの合計2
265 400万円の賃料債権を,
266 その額面から若干割り引いて,
267 代金2000万円でGに譲渡する旨
268 の契約をGとの間で締結し(以下「本件債権売買契約」という。
269
270 ),
271 同日,
272 代金全額がGからF
273 に対して支払われた。
274
275 そして,
276 同日,
277 FとGは,
278 連名で,
279 Aに対して,
280 上記債権譲渡につき,
281
282 配達証明付内容証明郵便によって通知を行い,
283 翌日,
284 同通知は,
285 Aに到達した。
286
287
288 11.ところが,
289 平成22年9月末頃,
290 Aが売掛金債権を有している取引先が突然倒産し,
291 売掛金
292 の回収が見込めなくなり,
293 Aは,
294 この売掛金債権を自らの運転資金の当てにしていたため,
295 資
296 金繰りに窮する状態に陥るとともに無資力となった。
297
298 そのため,
299 Aは,
300 Fとの間で協議の場を
301 設け,
302 今となっては事実上の倒産状態にあること及び甲建物の内装工事をしたCに対する請負
303 残代金2500万円が未払であることを含め,
304 自らの置かれた現在の状況を説明するととも
305 に,
306 甲建物の転借を希望する者が現れないこと,
307 今後も賃料を支払うことのできる見込みが全
308 くないことを告げ,
309 Fに対し,
310 この際,
311 Fとの間の甲建物の賃貸借契約を終了させたいと申し
312 入れた。
313
314 Fは,
315 Aに対する賃料債権をGに譲渡していることが気になったが,
316 いずれにせよ,
317
318 Aから賃料が支払われる可能性は乏しく,
319 Gによる賃料債権回収の可能性はないと考え,
320 Aの
321 申入れを受けて,
322 同年10月3日,
323 A及びFは,
324 甲建物の賃貸借契約を同月31日付けで解除
325 する旨の合意をした。
326
327 この合意に当たり,
328 AF間では何らの金銭支払がなく,
329 また,
330 A及びF
331 は,
332 Fに対する敷金返還請求権をAが放棄することを相互に確認した。
333
334 そして,
335 同月31日,
336
337 Aは,
338 Fに甲建物を引き渡した。
339
340
341 12.Fは,
342 Aとの間で甲建物の賃貸借契約を解除する旨の合意をした平成22年10月3日以
343 降,
344 直ちに,
345 Aに代わる借り手の募集を開始した。
346
347 Hは,
348 満70歳であり,
349 衣料品販売業を営
350 んでいる。
351
352 Hは,
353 事業拡張に伴う営業所新設のための建物を探していたが,
354 甲建物をその有力
355 な候補とし,
356 Fに対し,
357 甲建物の内覧を申し出た。
358
359 Hは,
360 同月12日,
361 Fを通じてAの同意を
362 も得た上で,
363 甲建物の内部を見て歩き,
364 エレベーターに乗ったところ,
365 このエレベーターが下
366 降中に突然大きく揺れたため,
367 Hは,
368 転倒して右足を骨折し,
369 3か月の入院加療が必要となっ
370 た。
371
372 このエレベーターの不具合は,
373 設置工事を行ったDが,
374 設置工程において必要とされてい
375 - 3 -
376
377 た数か所のボルトを十分に締めていなかったことに起因するものであった。
378
379
380 13.Hは,
381 この事故に遭う1年ほど前から,
382 時々,
383 歩いていてバランスを崩したり,
384 つまずいた
385 りするなどの身体機能の低下があり,
386 平成22年4月に総合病院で検査を受けていた。
387
388 その検
389 査の結果は,
390 Hの身体機能の低下は加齢によるものであって,
391 無理をしなければ日常生活を送
392 る上での支障はないが,
393 定期的に病院で検査を受けるよう勧める,
394 というものであった。
395
396
397 14.Hは,
398 この勧めに従って,
399 上記総合病院で,
400 平成22年5月から毎月1回の検査を受けてい
401 たが,
402 特段の疾患はないと診断されていた。
403
404 一方,
405 この間,
406 Hの妻が病気で入院したため,
407 H
408 は,
409 毎日のように病院と自宅とを往復し,
410 時として徹夜で妻に付き添っていた。
411
412 そのため,
413 H
414 は,
415 同年7月下旬頃から,
416 かなりの疲労の蓄積を感じていた。
417
418 Hが同年10月12日に甲建物
419 のエレベーターの揺れによって転倒し,
420 右足を骨折するほどの重傷を負ったのは,
421 Hのここ1
422 年ほどの身体機能の低下と妻の看病による疲労の蓄積も原因となっていた。
423
424
425 15.なお,
426 甲建物の市場価値は,
427 平成22年1月31日の工事完成による引渡し以降,
428 現在に至
429 るまで,
430 大きな変化なく2億円ほどで推移している。
431
432 乙土地の市場価値も,
433 この間,
434 大きな変
435 化なく4億円ほどで推移している。
436
437
438 〔設問1〕
439
440 【事実】1から11まで及び【事実】15を前提として,
441 以下の及びに答えなさい。
442
443
444
445 なお,
446 解答に当たっては,
447 敷金返還債務はGに承継されていないものとして,
448 また,
449 【事実】7
450 に示したAのCに対する支払拒絶には合理的理由がないものとして考えなさい。
451
452 民法第248条
453 に基づく請求については,
454 検討する必要がない。
455
456
457
458
459 Cは,
460 不当利得返還請求の方法によって,
461 Bから,
462 AC間の請負契約に基づく請負残代金に
463 相当する額を回収することを考えた。
464
465 Cが請求する場合の論拠及び請求額について,
466 Bからの
467 予想される反論も踏まえて検討しなさい。
468
469
470
471
472
473 Cは,
474 不当利得返還請求以外の方法によって,
475 Fから,
476 AC間の請負契約に基づく請負残代
477 金に相当する額を回収することを考えた。
478
479 Cが請求する場合の論拠及び請求額について,
480 Fか
481 らの予想される反論も踏まえて検討しなさい。
482
483
484
485 〔設問2〕
486
487 Gは,
488 平成23年4月1日,
489 Aに対して,
490 同年1月分から同年3月分までの未払賃料
491
492 総額計600万円の支払を求めた。
493
494 しかし,
495 Aは,
496 そもそも当該期間に対応する賃料債務が発生
497 していないことを理由に,
498 これを拒絶した。
499
500 そこで,
501 Gは,
502 Fの債務不履行を理由として,
503 本件
504 債権売買契約を解除し,
505 Fに対し代金相当額の返還を求めることにした。
506
507
508 【事実】1から11までを前提として,
509 Gの上記解除の主張を支える法的根拠を1つ選び,
510 それ
511 について検討しなさい。
512
513 その際,
514 Fのどのような債務についての不履行を理由とすることができ
515 るか,
516 また,
517 解除の各要件は充足されているかを検討しなさい。
518
519
520 なお,
521 検討に当たって,
522 本件債権売買契約は有効であること及びAF間の賃貸借契約の合意解
523 除は有効であることを前提とするとともに,
524 敷金については考慮に入れないものとする。
525
526 また,
527
528 GからFに対する損害賠償請求については,
529 検討する必要がない。
530
531
532 〔設問3〕
533
534
535 【事実】1から14までを前提として,
536 以下の及びに答えなさい。
537
538
539
540 Hは,
541 【事実】12に示したエレベーター内での転倒により被った損害の賠償を請求しようと
542 考えた。
543
544 Hが損害賠償を請求する相手方として検討すべき者を挙げ,
545 そのそれぞれに対して損
546 害賠償を請求するための論拠について,
547 予想される反論も踏まえて論じなさい。
548
549
550
551
552
553 Hの損害賠償請求が認められる場合に,
554 Hの身体機能の低下及び疲労の蓄積が損害の発生又
555 は拡大を招いたことを理由として,
556 賠償額が減額されるべきか,
557 理由を明らかにしつつ結論を
558 示しなさい。
559
560
561
562 - 4 -
563
564 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
565
566 - 1 -
567
568 [民事系科目]
569 〔第2問〕(配点:100)
570 次の文章を読んで,
571 後記の設問に答えよ。
572
573
574 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
575
576 )は,
577 携帯電話の販売を目的とする会社法上の公開会社であ
578 り,
579 その株式をP証券取引所の新興企業向けの市場に上場している。
580
581
582 Aは,
583 甲社の創業者として,
584 その発行済株式総数1000万株のうち250万株の株式を有し
585 ていたが,
586 平成21年12月に死亡した。
587
588 そのため,
589 Aの唯一の相続人であるBは,
590 その株式を
591 相続した。
592
593
594 なお,
595 甲社は,
596 種類株式発行会社ではない大会社である。
597
598
599 2.甲社は,
600 携帯電話を低価格で販売する手法により急成長を遂げたが,
601 スマートフォン市場の拡
602 大という事業環境の変化への対応が遅れ,
603 平成22年に入り,
604 その経営に陰りが見え始めた。
605
606 そ
607 こで,
608 甲社の代表取締役であるCは,
609 甲社の経営を立て直すため,
610 大手電気通信事業者であり,
611
612 甲社株式30万株を有する乙株式会社(以下「乙社」という。
613
614 )との間で資本関係を強化して,
615 甲
616 社の販売力を高めたいと考えた。
617
618
619 そこで,
620 Cは,
621 乙社に対し資本関係の強化を求め交渉したところ,
622 乙社から,
623
624 「市場価格を下回
625 る価格であれば,
626 更に甲社株式を取得してよい。
627
628 ただし,
629 Bに甲社株式を手放させ,
630 創業家の影
631 響力を一掃してほしい。
632
633 」との回答を受けた。
634
635
636 3.これを受けて,
637 CがBと交渉したところ,
638 Bは,
639 相続税の支払資金を捻出する必要があったた
640 め,
641 Cに対し,
642
643 「創業以来のAの多大な貢献を考慮した価格であれば,
644 甲社株式の全てを手放して
645 も構わない。
646
647 」と述べた。
648
649 そこで,
650 甲社は,
651 Bとの間で,
652 Bの有する甲社株式250万株の全てを
653 相対での取引により一括で取得することとし,
654 その価格については,
655 市場価格を25%上回る価
656 格とすることで合意した。
657
658
659 4.そこで,
660 甲社は,
661 乙社と再交渉の結果,
662 乙社との間で,
663 甲社が,
664 乙社に対し,
665 Bから取得する
666 甲社株式250万株を市場価格の80%で処分することに合意した。
667
668
669 5.甲社は,
670 平成22年6月1日に取締役会を開催し,
671 同月29日に開催する予定の定時株主総会
672 において,
673
674 (ア)Bから甲社株式250万株を取得すること及び(イ)乙社にその自己株式を処分
675 することを議案とすることを決定した。
676
677
678 なお,
679 甲社の定款には,
680 定時株主総会における議決権の基準日は,
681 事業年度の末日である毎年
682 3月31日とすると定められていた。
683
684
685 6.5の(ア)を第1号議案とし,
686 5の(イ)を第2号議案とする平成22年6月29日開催の定
687 時株主総会の招集通知並びに株主総会参考書類及び貸借対照表(【資料@】及び【資料A】は,
688 そ
689 れぞれその概要を示したものである。
690
691 )等が同月10日に発送された。
692
693
694 なお,
695 甲社は,
696 B以外の甲社の株主に対し,
697 第1号議案の「取得する相手方」の株主に自己を
698 も加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができる旨を通知しなかった。
699
700
701 7.甲社は,
702 同月29日,
703 定時株主総会を開催した。
704
705 第1号議案の審議に入り,
706 甲社の株主である
707 Dが,
708 「私も,
709 値段によっては買ってもらいたいが,
710 どのような値段で取得するつもりなのか。
711
712 」
713 と質問したところ,
714 Cは,
715 Bから甲社株式を取得する際の価格の算定方法やその理由を丁寧に説
716 明した。
717
718 採決の結果,
719 多くの株主が反対したものの,
720 Bが賛成したため,
721 議長であるCは,
722 出席
723 した株主の議決権の3分の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して,
724 第1号議案が可決
725 されたと宣言した。
726
727
728 8.続いて第2号議案の審議に入り,
729 Cは,
730 株主総会参考書類の記載に即して,
731 乙社に特に有利な
732 金額で自己株式の処分をすることを必要とする理由を説明したが,
733 再びDが,
734
735 「処分価格を市場価
736 格の80%と定めた根拠を明らかにされたい。
737
738 」と質問したのに対し,
739 Cが「企業秘密に関わるた
740 - 2 -
741
742 め,
743 その根拠を示すことはできない。
744
745 」と述べて説明を拒絶したことから,
746 審議が紛糾した。
747
748 その
749 結果,
750 多くの株主が反対したものの,
751 乙社が賛成したため,
752 Cは,
753 出席した株主の議決権の3分
754 の2をかろうじて上回る賛成が得られたと判断して,
755 第2号議案が可決されたと宣言した。
756
757
758 9.甲社は,
759 定時株主総会の終了後引き続き,
760 同日,
761 取締役会を開催し,
762 Bの有する甲社株式25
763 0万株の全てを同月30日に取得すること,
764 同月28日のP証券取引所における甲社株式の最終
765 の価格が1株800円であったため,
766 この価格を25%上回る1株当たり1000円をその取得
767 価格とすることなどを決定した。
768
769 これに基づき,
770 甲社は,
771 Bから,
772 同月30日,
773 甲社株式250
774 万株を総額25億円で取得した(以下「本件自己株式取得」という。
775
776 )。
777
778
779 なお,
780 同年3月31日から同年6月30日までの間,
781 甲社は,
782 B以外の甲社の株主から甲社株
783 式を取得しておらず,
784 また,
785 甲社には,
786 分配可能額に変動をもたらすその他の事象も生じていな
787 かった。
788
789
790 10.また,
791 甲社は,
792 同年7月20日,
793 乙社に対し,
794 250万株の自己株式の処分を行い,
795 その対価
796 として合計16億円を得た(以下「本件自己株式処分」という。
797
798 )。
799
800
801 その後,
802 乙社は,
803 同年8月31日までに,
804 50万株の甲社株式を市場にて売却した。
805
806
807 11.ところが,
808 甲社において,
809 同年9月1日,
810 従業員の内部告発によって,
811 西日本事業部が平成2
812 1年度に架空売上げの計上を行っていたことが発覚した。
813
814 そこで,
815 甲社は,
816 弁護士及び公認会計
817 士をメンバーとする調査委員会を設けて,
818 徹底的な調査を行った上で,
819 平成22年3月31日時
820 点における正しい貸借対照表(
821 【資料B】は,
822 その概要を示したものである。
823
824 )を作り直した。
825
826
827 調査委員会の調査結果によれば,
828 今回の架空売上げの計上による粉飾決算は,
829 西日本事業部の
830 従業員が会計監査人ですら見抜けないような巧妙な手口で行ったもので,
831 甲社の内部統制の体制
832 には問題がなく,
833 Cが架空売上げの計上を見抜けなかったことに過失はなかったとされた。
834
835
836 12.その後,
837 甲社では,
838 その業績が急激に悪化した結果,
839 甲社の平成23年3月31日時点におけ
840 る貸借対照表を取締役会で承認した時点で,
841 30億円の欠損が生じた。
842
843
844 〔設
845
846 問〕
847
848 @本件自己株式取得の効力及び本件自己株式取得に関する甲社とBとの間の法律関
849
850 係,
851 A本件自己株式処分の効力並びにB本件自己株式取得及び本件自己株式処分に関するCの甲
852 社に対する会社法上の責任について,
853 それぞれ説明しなさい。
854
855
856
857 - 3 -
858
859 【資料@】
860
861 株主総会参考書類
862 議案及び参考事項
863 第1号議案
864
865 特定の株主からの自己の株式の取得の件
866
867 当社は,
868 今般,
869 当社創業者A氏の唯一の相続人であるB氏から,
870 同氏の有す
871 る当社株式全てについて市場価格を上回る額での売却の打診を受けました。
872
873 そ
874 こで,
875 キャッシュフローの状況及び取得価格等を総合的に検討し,
876 以下の要領
877 にて,
878 市場価格を上回る額で自己の株式の取得を行うことにつき,
879 ご承認をお
880 願いするものであります。
881
882
883 (1) 取得する相手方
884 B氏
885 (2) 取得する株式の数
886 当社株式2,500,000株(発行済株式総数に対する割合25%)を上
887 限とする。
888
889
890 (3) 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
891 金銭とし,
892 25億円を上限とする。
893
894
895 (4) 株式を取得することができる期間
896 本株主総会終結の日の翌日から平成22年7月19日まで
897 第2号議案
898
899 自己株式処分の件
900
901 以下の要領にて,
902 乙株式会社に対し,
903 自己株式を処分することにつき,
904 ご承
905 認をお願いするものであります。
906
907
908 (1) 処分する相手方
909 乙株式会社
910 (2) 処分する株式の数
911 当社株式2,500,000株
912 (3) 処分する株式の払込金額
913 1株当たり640円(平成21年12月1日から平成22年5月31日ま
914 での6か月間のP証券取引所における当社株式の最終の価格の平均値(80
915 0円)に0.8を乗じた価格)
916 (4) 払込期日及び処分の日
917 平成22年7月20日
918 (5) 乙株式会社に特に有利な金額で自己株式の処分をすることを必要とする
919 理由
920 当社は,
921 ……(略)。
922
923
924
925 - 4 -
926
927 【資料A】
928
929 貸借対照表
930 (平成22年3月31日現在)
931 (単位:百万円)
932 科目
933 (資産の部)
934 流動資産
935 (略)
936
937 固定資産
938 (略)
939
940 資産合計
941 (注)
942
943 金額
944
945 科目
946 (負債の部)
947
948 金額
949
950 9,000 ( 略 )
951 負債合計
952 (純資産の部)
953 株主資本
954 資本金
955 資本剰余金
956 資本準備金
957 1,000
958 その他資本剰余金
959 利益剰余金
960 利益準備金
961 その他利益剰余金
962 純資産合計
963 負債・純資産合計
964 10,000
965
966 3,000
967 7,000
968 1,500
969 1,500
970 1,500
971 −
972 4,000
973 500
974 3,500
975 7,000
976 10,000
977
978 「−」は金額が0円であることを示す。
979
980
981
982 【資料B】
983
984 貸借対照表
985 (平成22年3月31日現在)
986 (単位:百万円)
987 科目
988 (資産の部)
989 流動資産
990 (略)
991
992 固定資産
993 (略)
994
995 資産合計
996 (注)
997
998 金額
999
1000 科目
1001 (負債の部)
1002
1003 金額
1004
1005 6,000 ( 略 )
1006 負債合計
1007 (純資産の部)
1008 株主資本
1009 資本金
1010 資本剰余金
1011 資本準備金
1012 1,000
1013 その他資本剰余金
1014 利益剰余金
1015 利益準備金
1016 その他利益剰余金
1017 純資産合計
1018 負債・純資産合計
1019 7,000
1020
1021 「−」は金額が0円であることを示す。
1022
1023
1024
1025 - 5 -
1026
1027 3,000
1028 4,000
1029 1,500
1030 1,500
1031 1,500
1032 −
1033 1,000
1034 500
1035 500
1036 4,000
1037 7,000
1038
1039 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
1040
1041 - 1 -
1042
1043 [民事系科目]
1044 〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
1045 3:4:3〕)
1046 次の文章を読んで,
1047 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1048
1049
1050 【事例1】
1051 Aは,
1052 医師であり,
1053 個人医院を開設しているが,
1054 将来の値上がりを期待して,
1055 近隣の土地を購
1056 入してきた。
1057
1058 しかし,
1059 同じ市内に開設された総合病院に対抗するために,
1060 平成19年5月に借入
1061 れをして高価な医療機器を購入したにもかかわらず,
1062 Aの医院の患者数は伸び悩み,
1063 Aは,
1064 平成
1065 21年夏頃から資金繰りに窮している。
1066
1067
1068 Bは,
1069 Aの友人であり,
1070 Aが土地を購入するに際して,
1071 購入資金を貸与するなどの付き合いが
1072 ある。
1073
1074 Bは,
1075 かねてAから,
1076 甲土地は実はAの所有地である,
1077 と聞かされてきた。
1078
1079
1080 Cは,
1081 Aの弟D(故人)の子であり,
1082 Dの唯一の相続人である。
1083
1084
1085 甲土地の所有権登記名義は,
1086 平成14年3月26日に売買を原因としてEからDに移転してい
1087 る。
1088
1089
1090 Bは,
1091 弁護士Pに依頼し,
1092 Dの単独相続人であるCを被告として,
1093 Aの甲土地の所有権に基づ
1094 き,
1095 甲土地についてDからAへの所有権移転登記手続を請求して,
1096 平成22年12月8日に訴え
1097 を提起した(以下,
1098 この訴訟を「訴訟1」という。
1099
1100 )。
1101
1102
1103 平成23年1月25日に開かれた第1回口頭弁論期日において,
1104 Pは,
1105 次のような主張をし
1106 た。
1107
1108
1109 @
1110
1111 Bは,
1112 平成17年6月12日に,
1113 Aに対して,
1114 平成22年6月12日に元本1200万
1115 円に利息200万円を付して返済を受ける約束で,
1116 1200万円を貸し渡した。
1117
1118
1119
1120 A
1121
1122 平成22年6月12日は経過した。
1123
1124
1125
1126 B
1127
1128 Aは,
1129 甲土地を現に所有している。
1130
1131
1132
1133 C
1134
1135 甲土地の所有権登記名義はDにある。
1136
1137
1138
1139 D
1140
1141 Aは,
1142 無資力である。
1143
1144
1145
1146 E
1147
1148 CはDの子であるところ,
1149 Dは,
1150 平成18年5月28日に死亡した。
1151
1152
1153
1154 これに対して,
1155 Cは,
1156 同期日において,
1157 「ABCEは認めるが,
1158 @Dは知らない。
1159
1160 」旨の陳述を
1161 した。
1162
1163
1164 裁判官が,
1165 Pに対して,
1166 @の消費貸借契約について契約書があるかどうか質問したところ,
1167 P
1168 は,
1169 「作成されていない。
1170
1171 」と返答した。
1172
1173 裁判官は,
1174 Pに対して,
1175 次回の口頭弁論期日に@とDの
1176 事実を立証するよう促した。
1177
1178
1179 第1回口頭弁論期日が終了した後,
1180 Cは,
1181 弁護士Qに訴訟1について相談し,
1182 Qを訴訟代理人
1183 に選任した。
1184
1185
1186 平成23年3月8日に開かれた第2回口頭弁論期日において,
1187 Qは,
1188 次のような陳述をした。
1189
1190
1191 F
1192
1193 甲土地は,
1194 Eがもと所有していた。
1195
1196
1197
1198 G
1199
1200 平成14年2月26日,
1201 Aは,
1202 Eとの間で,
1203 甲土地を2200万円で購入する旨の契約
1204 を締結した。
1205
1206
1207
1208 H
1209
1210 Aは,
1211 Gの契約を締結するに際して,
1212 Dのためにすることを示した。
1213
1214
1215
1216 I
1217
1218 同年2月18日,
1219 Dは,
1220 Aに対して,
1221 甲土地の購入について代理権を授与した。
1222
1223
1224
1225 裁判官がQに対して,
1226 新たな陳述をした理由をただしたところ,
1227 Qは,
1228 次のように述べた。
1229
1230
1231 Dが死亡した後,
1232 Cは,
1233 事あるごとに,
1234 Aから,
1235
1236 「甲土地は,
1237 Dのものではなく,
1238 Aのもの
1239 - 2 -
1240
1241 だ。
1242
1243 」と聞かされてきたので,
1244 それを鵜呑みにしてきました。
1245
1246 しかし,
1247 私が改めてEから事情
1248 を聴取したところ,
1249 新たな事実が判明したので,
1250 甲土地の所有権がEからDへ,
1251 DからCへ
1252 と移転したと主張する次第です。
1253
1254
1255 Pは,
1256 @とDの事実を証明するための文書を提出したが,
1257 FGHIに対する認否は,
1258 次回の口
1259 頭弁論期日まで留保した。
1260
1261
1262 以下は,
1263 第2回口頭弁論期日の数日後のPと司法修習生Rとの会話である。
1264
1265
1266 P:第2回口頭弁論期日でのQの陳述について検討してみましょう。
1267
1268
1269 Qが,
1270 甲土地の所有権がEからDへ,
1271 DからCへと移転したと主張したので,
1272 Aに問い合
1273 わせてみました。
1274
1275 すると,
1276 Aからは,
1277 Dから代理権の授与を受けたことはないし,
1278 Aが甲土
1279 地の購入資金を出した,
1280 という説明を受けました。
1281
1282 Aによると,
1283 EはDの知人で,
1284 AはDの
1285 紹介でEから甲土地を購入したが,
1286 後になって思うと,
1287 DとEは共謀してAをだまして,
1288 甲
1289 土地の所有権登記名義をDに移したようだ,
1290 とのことでした。
1291
1292 しかし,
1293 Aは,
1294 弟や甥を相手
1295 に事を荒立てるのはどうかと思い,
1296 Cに対して所有者がAであることを告げるにとどめ,
1297 登
1298 記は今までそのままにしていたそうです。
1299
1300
1301 以上のAの説明を前提にすると,
1302 次回の口頭弁論期日では,
1303 HとIを争うことが考えられ
1304 ます。
1305
1306
1307 しかし,
1308 そもそもQのHとIの陳述は,
1309 Cが第1回口頭弁論期日でBを認めたことと矛盾
1310 しています。
1311
1312 そこが気になっているのです。
1313
1314
1315 R:第1回口頭弁論期日で「甲土地は,
1316 Aが現に所有している。
1317
1318 」という点に権利自白が成立し
1319 ているにもかかわらず,
1320 第2回口頭弁論期日でのQの陳述は,
1321 甲土地をAが現に所有してい
1322 ることを否定する趣旨ですから,
1323 権利自白の撤回に当たるということでしょうか。
1324
1325
1326 P:そのとおりです。
1327
1328 もしそのような権利自白の撤回が許されないとすると,
1329 HとIについて
1330 の認否が要らないことになります。
1331
1332 ですから,
1333 私としては,
1334 被告側の権利自白の撤回は許さ
1335 れない,
1336 と次回の口頭弁論期日で主張してみようかと思っています。
1337
1338 そこで,
1339 あなたにお願
1340 いなのですが,
1341 このような私の主張を理論的に基礎付けることができるかどうか,
1342 検討して
1343 いただきたいのです。
1344
1345
1346 R:はい。
1347
1348 しかし,
1349 考えたことのない問題ですので,
1350 うまくできるかどうか・・・。
1351
1352
1353 P:確かに難しそうな問題ですね。
1354
1355 事実の自白の撤回制限効の根拠にまで遡った検討が必要か
1356 もしれません。
1357
1358 「理論的基礎付けは難しい。
1359
1360 」という結論になってもやむを得ませんが,
1361 ギリ
1362 ギリのところまで「被告側の権利自白の撤回は許されない。
1363
1364 」という方向で検討してみてくだ
1365 さい。
1366
1367 では,
1368 頑張ってください。
1369
1370
1371 〔設問1〕
1372
1373 あなたが司法修習生Rであるとして,
1374 弁護士Pから与えられた課題に答えなさい。
1375
1376
1377
1378 【事例1(続き)】
1379 F銀行は,
1380 Aの言わばメインバンクであり,
1381 Aに対して医療機器の購入資金や医院の運転資金
1382 などを貸し付けてきた。
1383
1384 現在,
1385 Fは,
1386 Aに対して2500万円の貸付金残高を有している。
1387
1388 訴訟
1389 1が第一審に係属していることを知ったFがその進行状況を調査したところ,
1390 BがBA間の消費
1391 貸借契約締結の事実(@の事実)やAの無資力の事実(Dの事実)の立証に難渋している,
1392 との
1393 情報が得られた。
1394
1395 そこで,
1396 Fは,
1397 Aに甲土地の所有権登記名義を得させるために,
1398 自らも訴訟1
1399 に関与することはできないかと,
1400 弁護士Sに相談した。
1401
1402 Sは,
1403 Bの原告適格が否定される可能性
1404 があることを考慮すると,
1405 補助参加ではなく当事者として参加することを検討しなければならな
1406 いと考えたが,
1407 どのような参加の方法が適当であるかについては,
1408 結論に至らなかった。
1409
1410
1411
1412 - 3 -
1413
1414 〔設問2〕
1415
1416 Fが訴訟1に参加する方法として,
1417 独立当事者参加と共同訴訟参加のそれぞれについ
1418
1419 て,
1420 認められるかどうかを検討しなさい。
1421
1422 ただし,
1423 民事訴訟法第47条第1項前段の詐害防止参
1424 加を検討する必要はない。
1425
1426
1427 【事例2】
1428 Kは,
1429 乙土地上の丙建物に居住している。
1430
1431 Kの配偶者は既に死亡しているが,
1432 KにはLとMの
1433 2人の嫡出子があり,
1434 共に成人している。
1435
1436 このうち,
1437 Lは,
1438 Kと同居しているが,
1439 遠く離れた地
1440 方に居住するMは,
1441 進路についてKと対立したため,
1442 KやLとほとんど没交渉となっている。
1443
1444
1445 乙土地の所有権登記名義はKの旧友であるNにあり,
1446 丙建物の所有権登記名義はKにある。
1447
1448
1449 Nは,
1450 Kを被告として,
1451 平成22年9月2日,
1452 乙土地の所有権に基づき,
1453 丙建物を収去して,
1454
1455 乙土地をNに明け渡すことを請求して,
1456 訴えを提起した(以下,
1457 この訴訟を「訴訟2」という。
1458
1459 )。
1460
1461
1462 なお,
1463 訴訟2において,
1464 NにもKにも訴訟代理人はいない。
1465
1466
1467 平成22年10月12日に開かれた第1回口頭弁論期日において,
1468 次の事項については,
1469 Nと
1470 Kとの間で争いがなかった。
1471
1472
1473 ・
1474
1475 乙土地をNがもと所有していたこと。
1476
1477
1478
1479 ・
1480
1481 Kが,
1482 丙建物を所有して,
1483 乙土地を占有していること。
1484
1485
1486
1487 ・
1488
1489 平成10年5月頃,
1490 Nが,
1491 Kに対して,
1492 期間を定めないで,
1493 乙土地を,
1494 資材置場とし
1495 て,
1496 無償で貸し渡したこと。
1497
1498
1499
1500 ・
1501
1502 平成22年9月8日,
1503 Nが,
1504 Kに対して,
1505 乙土地の使用貸借契約を解除する旨の意思表
1506 示をしたこと。
1507
1508
1509
1510 同期日において,
1511 Kは,
1512 平成17年12月頃,
1513 NとKとの間で乙土地の贈与契約が締結された
1514 と主張し,
1515 Nは,
1516 これを否認した。
1517
1518 さらに,
1519 Kは,
1520 KとNとの間で乙土地をKが所有することの
1521 確認を求める中間確認の訴えを提起した。
1522
1523
1524 平成22年10月16日,
1525 Kは交通事故により死亡し,
1526 LとMがKを共同相続し,
1527 それぞれに
1528 ついて相続放棄をすることができる期間が経過した。
1529
1530 平成23年3月7日,
1531 NがLとMを相手方
1532 として受継の申立てをし,
1533 同年4月11日,
1534 受継の決定がされた。
1535
1536
1537 平成23年5月10日に開かれた第2回口頭弁論期日において,
1538 Lは争う意思を明確にした
1539 が,
1540 Mは「本訴請求を認諾し,
1541 中間確認請求を放棄する。
1542
1543 」旨の陳述をした。
1544
1545
1546 以下は,
1547 第2回口頭弁論期日終了後の裁判官Tと司法修習生Uとの会話である。
1548
1549
1550 T:今日の期日で,
1551 Mは本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄をしましたね。
1552
1553
1554 U:はい。
1555
1556 しかし,
1557 Lは認諾も放棄もせず,
1558 Nと争うつもりのようですね。
1559
1560
1561 T:Lがそのような態度をとっている場合に,
1562 Mのした認諾と放棄がどのように扱われるべき
1563 かは,
1564 一考を要する問題です。
1565
1566 この問題をあなたに考えてもらうことにしましょう。
1567
1568
1569 なお,
1570 LとMが本訴被告の地位と中間確認の訴えの原告の地位を相続により承継したこと
1571 によって,
1572 本訴請求と中間確認請求がどうなるかについては議論のあるところですが,
1573 当然
1574 承継の効果として当事者の訴訟行為を経ずに,
1575 本訴請求の趣旨は「L及びMは,
1576 丙建物を収
1577 去して,
1578 乙土地をNに明け渡せ。
1579
1580 」に,
1581 中間確認請求の趣旨は「L及びMとNとの間で,
1582 乙土
1583 地をL及びMが共有することを確認する。
1584
1585 」に,
1586 それぞれ変更される,
1587 という見解を前提とし
1588 てください。
1589
1590
1591 このような本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄の陳述をMだけがした場合に,
1592 この陳述
1593 がどのように扱われるべきか,
1594 考えてみてください。
1595
1596 その際には,
1597 判例がある場合にはそれ
1598 - 4 -
1599
1600 を踏まえる必要がありますが,
1601 それに無批判に従うことはせずに,
1602 本件での結果の妥当性な
1603 どを考えて,
1604 あなたの意見をまとめてください。
1605
1606
1607 〔設問3〕
1608
1609 あなたが司法修習生Uであるとして,
1610 裁判官Tから与えられた課題に答えなさい。
1611
1612
1613
1614 - 5 -
1615
1616