1 論文式試験問題集[刑事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲,
9 乙及び丙の罪責について,
10 具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特
11 別法違反の点を除く。
12
13 )。
14
15
16 1
17
18 甲(35歳,
19 男)は,
20 ある夏の日の夜,
21 A県B市内の繁華街の飲食店にいる友人を迎えに行く
22 ため,
23 同繁華街周辺まで車を運転し,
24 車道の左側端に同車を駐車した後,
25 友人との待ち合わせ場
26 所に向かって歩道を歩いていた。
27
28
29 その頃,
30 乙(23歳,
31 男)と丙(22歳,
32 男)は,
33 二人で酒を飲むため,
34 同繁華街で適当な居
35 酒屋を探しながら歩いていた。
36
37 乙と丙は,
38 かつて同じ暴走族に所属しており,
39 丙は,
40 暴走族をや
41 めた後,
42 会社員として働いていたが,
43 乙は,
44 少年時代から凶暴な性格で知られ,
45 何度か傷害事件
46 を起こして少年院への入退院を繰り返しており,
47 この当時は,
48 地元の暴力団の事務所に出入りし
49 ていた。
50
51 丙は,
52 乙の先を歩きながら居酒屋を探しており,
53 乙は,
54 少し遅れて丙の後方を歩いてい
55 た。
56
57
58 その日は週末であったため,
59 繁華街に出ている人も多く,
60 歩道上を多くの人が行き交っていた
61 ところ,
62 甲は,
63 歩道を対向して歩いてきた乙と肩が接触した。
64
65 しかし,
66 乙は,
67 謝りもせず,
68 振り
69 返ることもなく歩いていった。
70
71 甲は,
72 一旦はやり過ごしたものの,
73 乙の態度に腹が立ったので,
74
75 一言謝らせようと思い,
76 4,
77 5メートル先まで進んでいた乙を追い掛けた上,
78 後ろから乙の肩に
79 手を掛け,
80 「おい。
81
82 人にぶつかっておいて何も言わないのか。
83
84 謝れ。
85
86 」と強い口調で言った。
87
88 乙
89 は,
90 振り向いて甲の顔をにらみつけながら,
91 「お前,
92 俺を誰だと思ってんだ。
93
94 」などと言ってすご
95 んだ。
96
97 甲は,
98 もともと短気な性格であった上,
99 普段から体を鍛えていて腕力に自信もあり,
100 乙の
101 態度にひるむこともなかったので,
102 甲と乙はにらみ合いになった。
103
104
105 甲と乙は,
106 歩道上に向かい合って立ちながら,
107
108 「謝れ。
109
110 」,
111
112 「そっちこそ謝れ。
113
114 」などと言い合いを
115 していたが,
116 そのうち,
117 甲は,
118 興奮のあまり,
119 乙の腹部を右手の拳で1回殴打し,
120 さらに,
121 腹部
122 の痛みでしゃがみ込んだ乙の髪の毛をつかんだ上,
123 その顔面を右膝で3回,
124 立て続けに蹴った。
125
126
127 これにより,
128 乙は,
129 前歯を2本折るとともに口の中から出血し,
130 加療約1か月間を要する上顎左
131 側中切歯・側切歯歯牙破折及び顔面打撲等の怪我をした。
132
133
134 丙は,
135 乙がついてこないので引き返し,
136 通行人が集まっている場所まで戻って来たところ,
137 複
138 数の通行人に囲まれた中で,
139 ちょうど,
140 乙が甲に殴られた上で膝で蹴られる場面を見た。
141
142 丙は,
143
144 乙が一方的にやられており,
145 更に乙への攻撃が続けられる様子だったので,
146 乙を助けてやろうと
147 思い,
148 「何やってんだ。
149
150 やめろ。
151
152 」と怒鳴りながら,
153 甲に駆け寄り,
154 両手で甲の胸付近を強く押し
155 た。
156
157
158 甲は,
159 一旦後ずさりしたものの,
160 すぐに「何だお前は。
161
162 仲間か。
163
164 」などと言いながら丙に近づ
165 き,
166 丙の腹部や大腿部を右足で2回蹴った。
167
168 さらに,
169 体格で勝る甲は,
170 ひるんだ丙に対し,
171 丙が
172 着ていたシャツの胸倉を両手でつかんで引き寄せた上,
173 丙の頭部を右脇に抱え込み,
174 「おら,
175 お
176 ら,
177 どうした。
178
179 」などと言いながら,
180 両手を組んで丙の頭部を締め上げた。
181
182
183 丙は,
184 たまらず,
185 近くの歩道上にしゃがみ込んでいた乙に対し,
186 「助けてくれ。
187
188 」と言った。
189
190
191 乙は,
192 丙が助けを求めるのを聞いて立ち上がり,
193 丙を助けるとともに甲にやられた仕返しをし
194 てやろうと思い,
195 丙の頭部を締め上げていた甲に背後から近寄り,
196 甲の後ろからその腰背部付近
197 を右足で2回蹴った。
198
199
200 甲は,
201 それでもひるまず,
202 丙の頭部を締め上げ続けたので,
203 乙は,
204 さらに,
205 甲の腰背部付近を
206 数回右足で強く蹴った。
207
208
209 そのため,
210 甲は,
211 丙の頭部を締め上げていた手をようやく離した。
212
213
214 丙は,
215 甲の手が離れるや,
216 乙に向かっていこうとした甲の背後からその頭部を右手の拳で2回
217 - 2 -
218
219 殴打した。
220
221
222 甲は,
223 乙及び丙による上記一連の暴行により,
224 加療約2週間を要する頭部打撲及び腰背部打撲
225 等の怪我をした。
226
227 また,
228 丙は,
229 甲による上記一連の暴行により,
230 加療約1週間を要する腹部打撲
231 等の怪我をした。
232
233
234 2
235
236 甲は,
237 二人組の相手に前後から挟まれ,
238 形勢が不利になった上,
239 周囲に多数の通行人が集ま
240 り,
241 騒ぎが大きくなってきたので,
242 この場から逃れようと思い,
243 全速力で走って逃げ出した。
244
245
246 乙は,
247 「待て。
248
249 逃げんのか。
250
251 」などと怒鳴りながら,
252 甲の5,
253 6メートル後ろを走って追い掛け
254 た。
255
256
257 丙は,
258 乙が興奮すると何をするか分からないと知っていたので,
259 逃げ出した甲を乙が追い掛け
260 ていくのを見て心配になり,
261 少し遅れて二人を追い掛けた。
262
263
264 乙は,
265 多数の通行人が見ている場所で甲からやられたことで面子を潰されたと思って逆上して
266 おり,
267 甲を痛めつけてやらなければ気持ちがおさまらないと思い,
268 走りながらズボンの後ろポケ
269 ットに入れていた折り畳み式ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル)を取り出し,
270 ナイフの
271 刃を立てて右手に持った。
272
273
274 乙の後方を走っていた丙は,
275 乙がナイフを右手に持っているのを見て,
276 乙が甲に対して大怪我
277 をさせるのではないかなどと不安になり,
278 走りながら,
279 「やめとけ。
280
281 ナイフなんかしまえ。
282
283 」と何
284 度か叫んだ。
285
286
287 甲は,
288 約300メートル離れた車道上に止めてあった自分の車の近くまで駆け寄り,
289 車の鍵を
290 取り出し,
291 左手に持った鍵を運転席側ドアの鍵穴に差し込んだ。
292
293
294 乙は,
295 甲に追い付き,
296 その左手付近を目掛けてナイフで切りかかった。
297
298 甲は左前腕部を切り付
299 けられて左前腕部に加療約3週間を要する切創を負った。
300
301
302 その頃,
303 甲と乙を追い掛けてきた丙は,
304 乙が甲に切りかかったのを見て,
305 乙を制止するため,
306
307 乙の後ろから両肩をつかんで強く後方に引っ張り,
308 乙を甲から引き離した。
309
310
311
312 3
313
314 甲は,
315 その隙に車の運転席に乗り込み,
316 運転席ドアの鍵を掛け,
317 エンジンをかけて車を発進さ
318 せた。
319
320
321 甲が車を発進させた場所は,
322 片側3車線のアスファルト舗装された道路であり,
323 甲の車の前方
324 には信号機があり,
325 その手前には赤信号のため車が数台止まっていた。
326
327
328 甲は,
329 前方に車が止まっていたので,
330 低速で車を走行させたところ,
331 乙は,
332 丙を振り払い,
333 走
334 って同車を追い掛け,
335 運転席側ドアの少し開けられていた窓ガラスの上端部分を左手でつかみ,
336
337 窓ガラスの開いていた部分から右手に持ったナイフを車内に突っ込み,
338 運転席に座っていた甲の
339 頭部や顔面に向けて何度か突き出しながら,
340
341 「てめえ,
342 やくざ者なめんな。
343
344 逃げられると思ってん
345 のか。
346
347 降りてこい。
348
349 」などと言って甲に車から降りてこさせようとした。
350
351
352 甲は,
353 信号が変わり前方の車が無くなったことから,
354 しつこく車についてくる乙を何とかして
355 振り切ろうと思い,
356 アクセルを踏んで車の速度を上げた。
357
358 乙は,
359 車の速度が上がるにつれて全速
360 力で走り出したが,
361 次第に走っても車に追い付かないようになったため,
362 運転席側ドアの窓ガラ
363 スの上端部分と同ドアのドアミラーの部分を両手でつかみ,
364 運転席側ドアの下にあるステップに
365 両足を乗せて車に飛び乗った。
366
367 その際,
368 乙は,
369 右手で持っていたナイフを車内の運転席シートと
370 ドアの間に落としてしまった。
371
372 なお,
373 甲の車は,
374 四輪駆動の車高が高いタイプのものであった。
375
376
377 甲は,
378 乙がそのような状態にあり,
379 ナイフを車内に落としたことに気付いたものの,
380 乙から逃
381 れるため,
382 「乙が路面に頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが,
383 乙を振り落としてしまお
384 う。
385
386 」と思い,
387 アクセルを更に踏み込んで加速するとともに,
388 ハンドルを左右に急激に切って車を
389 左右に蛇行させ始めた。
390
391
392 乙は,
393 それでも,
394 開いていた運転席側ドア窓ガラスの上端部分を左手でつかみ,
395 右手の拳で窓
396 ガラスをたたきながら,
397 「てめえ,
398 降りてこい。
399
400 車を止めろ。
401
402 」などと言っていた。
403
404 しかし,
405 甲が
406 最初に車を発進させた場所から約250メートル車が進行した地点(甲が車を加速させるととも
407 - 3 -
408
409 に蛇行運転を開始した地点から約200メートル進行した地点)で,
410 甲が何回目かにハンドルを
411 急激に左に切って左方向に車を進行させた際,
412 乙は,
413 手で自分の体を支えることができなくな
414 り,
415 車から落下して路上に転倒し,
416 頭部を路面に強打した。
417
418 その際の車の速度は,
419 時速約50キ
420 ロメートルに達していた。
421
422 甲は,
423 乙を車から振り落とした後,
424 そのまま逃走した。
425
426
427 乙は,
428 頭部を路面に強打した結果,
429 頭蓋骨骨折及び脳挫傷等の大怪我を負い,
430 目撃者の通報で
431 臨場した救急車によって病院に搬送され,
432 救命処置を受けて一命を取り留めたものの,
433 意識は回
434 復せず,
435 将来意識を回復する見込みも低いと診断された。
436
437
438
439 - 4 -
440
441 論文式試験問題集[刑事系科目第2問]
442
443 - 1 -
444
445 [刑事系科目]
446 〔第2問〕(配点:100)
447 次の【事例】を読んで,
448 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
449
450
451 【事
452 1
453
454 例】
455 平成22年5月1日,
456 A女は,
457 H県警察本部刑事部捜査第一課を訪れ,
458 同課所属の司法警察員
459
460 Pに,
461
462 「2か月前のことですが,
463 午後8時ころ,
464 結婚を前提に交際していたBと電話で話している
465 と,
466 Bから『甲が来たから,
467 また,
468 後で連絡する。
469
470 』と言われて電話を切られたことがありまし
471 た。
472
473 甲は,
474 Bの友人です。
475
476 その3時間後,
477 Bが私の携帯電話にメールを送信してきました。
478
479 その
480 メールには,
481 Bが甲及び乙と一緒に,
482 甲の奥さんであるV女の死体を,
483
484 『一本杉』のすぐ横に埋め
485 たという内容が書かれていました。
486
487 ちなみに,
488
489 『一本杉』は,
490 H県I市内にあるJ山の頂上付近に
491 そびえ立っている有名な杉です。
492
493 また,
494 乙も,
495 Bの友人です。
496
497 私は,
498 このメールを見て,
499 怖くな
500 ったので,
501 思わず,
502 メールを消去しました。
503
504 その後,
505 私は,
506 このことを警察に伝えるべきかどう
507 か迷いましたが,
508 Bとは結婚するつもりでしたので,
509 結局,
510 警察に伝えることができませんでし
511 た。
512
513 しかし,
514 昨日,
515 Bとも完全に別れましたので,
516 警察に伝えることに踏ん切りがつきました。
517
518
519 Bが私にうそをつく理由は全くありません。
520
521 ですから,
522 Bが私にメールで伝えてきたことは間違
523 いないはずです。
524
525 よく調べてみてください。
526
527 」などと言った。
528
529 その後,
530 司法警察員Pらは,
531 直ち
532 に,
533 前記「一本杉」付近に赴き,
534 その周辺の土を掘り返して死体の有無を確認したところ,
535 女性
536 の死体を発見した。
537
538 そして,
539 女性の死体と共に埋められていたバッグにV女の運転免許証が在中
540 していたことなどから,
541 女性の死体がV女の死体であることが判明した。
542
543
544 そこで,
545 同月3日,
546 司法警察員Pらは,
547 Bから事情を聞くため,
548 Bが独り暮らしをしているK
549 マンション403号室に赴き,
550 BにH県警察本部への任意同行を求めたところ,
551 Bは,
552 突然,
553 司
554 法警察員Pらを振り切ってKマンションの屋上に駆け上がり逃走を試みたが,
555 同所から転落して
556 死亡した。
557
558
559 2
560
561 同日,
562 司法警察員Pは,
563 死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,
564 部下と共に,
565 前
566 記Kマンション403号室を捜索し,
567 Bのパソコンを差し押さえた。
568
569
570 そして,
571 同日,
572 司法警察員Pは,
573 H県警察本部において,
574 差し押さえたBのパソコンに保存さ
575 れていたメールの内容を確認したところ,
576 A女とBとの間におけるメールの交信記録しか残って
577 いなかったが,
578 Bが甲及び乙からV女を殺害したことを聞いた状況や甲及び乙と一緒にV女の死
579 体を遺棄した状況等を記載したA女宛てのメールが残っていた。
580
581 そこで,
582 司法警察員Pは,
583 この
584 メール[メール@]を印刷し,
585 これを添付した捜査報告書【資料1】を作成した。
586
587 また,
588 司法警
589 察員Pは,
590 直ちに,
591
592 [メール@]をA女に示したところ,
593 A女は,
594
595 「[メール@]には見覚えがあり
596 ます。
597
598
599 [メール@]は,
600 Bが作成して私に送信したものに間違いありません。
601
602 Bのパソコンは,
603 B
604 以外に使用することはありません。
605
606 私がパソコンに触れようとしただけで,
607
608 『触るな。
609
610 』と激しく
611 怒ったことがありますので,
612 Bのパソコンを他人が使用することは,
613 絶対にないと断言できま
614 す。
615
616 」などと供述した。
617
618
619
620 3
621
622 V女に対する殺人,
623 死体遺棄の犯人として甲及び乙が浮上したことから,
624 司法警察員Pらは,
625
626 直ちに,
627 甲及び乙の前歴及び前科を照会したところ,
628 甲には,
629 前歴及び前科がなかったものの,
630
631 乙には,
632 平成21年6月,
633 窃盗(万引き)により,
634 起訴猶予となった前歴1件があることが判明
635 した。
636
637
638 また,
639 司法警察員Pは,
640 差し押さえたBのパソコンにつき,
641 Bと甲との間におけるメールの交
642 信記録,
643 Bと乙との間におけるメールの交信記録が消去されているのではないかと考え,
644 直ちに
645 科学捜査研究所に,
646 消去されたメールの復元・分析を嘱託した。
647
648
649 さらに,
650 司法警察員Pらは,
651 前記メールの復元・分析を進めている間に,
652 甲及び乙が所在不明
653 となることを避けるため,
654 甲及び乙に対する尾行や張り込みを開始した。
655
656
657 - 2 -
658
659 4
660
661 その一方,
662 司法警察員Pは,
663 V女に対する殺人,
664 死体遺棄事件を解明するため,
665 甲及び乙を逮
666 捕したいと考えたものの,
667 まだ,
668
669 [メール@]だけでは,
670 証拠が不十分であると判断し,
671 V女に対
672 する殺人,
673 死体遺棄事件以外の犯罪事実により甲及び乙を逮捕するため,
674 部下に対し,
675 甲及び乙
676 がV女に対する殺人,
677 死体遺棄事件以外に犯罪を犯していないかを調べさせた。
678
679 その結果,
680 乙に
681 ついては,
682 V女に対する殺人,
683 死体遺棄事件以外の犯罪の嫌疑が見当たらなかったが,
684 甲につい
685 ては,
686 平成22年1月10日にI市内で発生したコンビニエンスストアLにおける強盗事件の2
687 人組の犯人のうちの1名に酷似していることが判明した。
688
689 そこで,
690 同年5月10日,
691 司法警察員
692 Pは,
693 コンビニエンスストアLに赴き,
694 被害者である店員Wに対し,
695 甲の写真を含む複数の写真
696 を示して犯人が写った写真の有無を確認したところ,
697 Wが甲の写真を選択して犯人の1人に間違
698 いない旨を供述したことから,
699 その旨の供述録取書を作成した。
700
701
702 その後,
703 司法警察員Pは,
704 この供述録取書等を疎明資料として,
705 前記強盗の被疑事実で甲に係
706 る逮捕状の発付を受け,
707 同月11日,
708 同逮捕状に基づき,
709 甲を通常逮捕した【逮捕@】。
710
711 そして,
712
713 その際,
714 司法警察員Pは,
715 逮捕に伴う捜索を実施し,
716 甲の携帯電話を発見したところ,
717 前記強盗
718 事件の共犯者を解明するには,
719 甲の交遊関係を把握する必要があると考え,
720 この携帯電話を差し
721 押さえた。
722
723 なお,
724 この際,
725 甲は,
726
727 「差し押さえられた携帯電話については,
728 私のものであり,
729 私以
730 外の他人が使用したことは一切ない。
731
732 」などと供述した。
733
734
735 司法警察員Pは,
736 直ちに,
737 この携帯電話に保存されたメールの内容を確認したところ,
738 Bと甲
739 との間におけるメールの交信記録が残っており,
740 その中には,
741 BがV女の死体を遺棄したことに
742 対する報酬に関するものがあった。
743
744 そこで,
745 司法警察員Pは,
746 同月12日,
747 殺人,
748 死体遺棄の被
749 疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,
750 この携帯電話を差し押さえた。
751
752 引き続き,
753 司法警察員P
754 は,
755 パソコンを利用して前記Bと甲との間におけるメール[メールA−1]及び[メールA−
756 2]を印刷し,
757 これらを添付した捜査報告書【資料2】を作成した。
758
759
760 甲は,
761 同日,
762 H地方検察庁検察官に送致された上,
763 同日中に前記強盗の被疑事実で勾留され
764 た。
765
766 なお,
767 甲は,
768 前記強盗については,
769 全く身に覚えがないなどと供述し,
770 自己が犯人であるこ
771 とを否認した。
772
773
774
775 5
776
777 同月13日,
778 司法警察員Pの指示を受けた部下である司法警察員Qが,
779 乙を尾行してその行動
780 を確認していたところ,
781 乙がH県I市内のスーパーMにおいて,
782 500円相当の刺身パック1個
783 を万引きしたのを現認し,
784 乙が同店を出たところで,
785 乙を呼び止めた。
786
787 すると,
788 乙が突然逃げ出
789 したので,
790 司法警察員Pは,
791 直ちに,
792 乙を追い掛けて現行犯逮捕した【逮捕A】。
793
794 その後,
795 乙は,
796
797 司法警察員Qの取調べに対し,
798 犯罪事実について黙秘した。
799
800 そこで,
801 司法警察員Pは,
802 乙の万引
803 きに関する動機や背景事情を解明するには,
804 乙の家計簿やパソコンなど乙の生活状況が判明する
805 証拠を収集するよりほかないと考え,
806 同日,
807 窃盗の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,
808 部
809 下と共に,
810 乙が単身で居住する自宅を捜索し,
811 乙のパソコン等を差し押さえた。
812
813
814 その後,
815 司法警察員Pは,
816 同日中に,
817 H県警察本部内において,
818 差し押さえた乙のパソコンに
819 保存されたデータの内容を確認したところ,
820 Bと乙との間におけるメールの交信記録が残ってい
821 るのを発見した。
822
823 そして,
824 その中には,
825
826 [メールA−1]及び[メールA−2]と同様のBがV女
827 の死体を遺棄したことに対する報酬に関するメールの交信記録が存在した。
828
829
830 乙は,
831 同月14日,
832 H地方検察庁検察官に送致された上,
833 同日中に前記窃盗の被疑事実で勾留
834 された。
835
836
837
838 6
839
840 甲に対する取調べは,
841 司法警察員Pが担当し,
842 乙に対する取調べは,
843 司法警察員Qが担当して
844 いたところ,
845 司法警察員P及びQは,
846 いずれも,
847 同月15日,
848 甲及び乙に対し,
849
850 「他に何かやって
851 いないか。
852
853 」などと余罪の有無について確認した。
854
855
856 すると,
857 甲は,
858 同日,
859
860 「V女の死体を『一本杉』付近に埋めた」旨を供述したため,
861 司法警察員
862 Pは,
863 同日及び翌16日の2日間,
864 V女が死亡した経緯やV女の死体を遺棄した経緯等を聴取し
865 た。
866
867 これに対し,
868 甲は,
869
870 [メール@]の内容に沿う供述をしたものの,
871 上申書及び供述録取書の作
872 - 3 -
873
874 成を拒否した。
875
876 そのため,
877 司法警察員Pは,
878 同月17日から,
879 連日,
880 前記強盗事件に関連する事
881 項を中心に聴取しながら,
882 1日約30分間ずつ,
883 V女に対する殺人,
884 死体遺棄事件に関する上申
885 書及び供述録取書の作成に応じるように説得を続けた。
886
887 しかし,
888 結局,
889 甲は,
890 この説得に応じな
891 かった。
892
893 なお,
894 司法警察員Pは,
895 甲の前記供述を内容とする捜査報告書を作成しなかった。
896
897
898 一方,
899 乙は,
900 同月15日に余罪がない旨を供述したので,
901 司法警察員Qは,
902 以後,
903 V女に対す
904 る殺人,
905 死体遺棄事件に関連する事項を一切聴取することがなかった。
906
907
908 7
909
910 甲は,
911 司法警察員Pによる取調べにおいて,
912 前記強盗の犯人であることを一貫して否認した。
913
914
915 同月21日,
916 検察官は,
917 甲を前記強盗の事実により公判請求するには証拠が足りないと判断し,
918
919 甲を釈放した。
920
921
922 乙は,
923 同月18日,
924 司法警察員Qによる取調べにおいて,
925 前記万引きの事実を認めた上,
926 同月
927 20日,
928 弁護人を通じて被害を弁償した。
929
930 そのため,
931 同日,
932 スーパーMの店長は,
933 乙の処罰を望
934 まない旨の上申書を検察官に提出した。
935
936 そこで,
937 検察官は,
938 乙を勾留されている窃盗の事実によ
939 り公判請求する必要はないと判断し,
940 同月21日,
941 乙を釈放した。
942
943
944 その一方で,
945 同日中に,
946 甲及び乙は,
947 V女に対する殺人,
948 死体遺棄の被疑事実で通常逮捕され
949 た【甲につき,
950 逮捕B。
951
952 乙につき,
953 逮捕C。
954
955 】。
956
957 甲及び乙は,
958 同月23日,
959 H地方検察庁検察官に
960 送致された上,
961 同日中に前記殺人,
962 死体遺棄の被疑事実で勾留された。
963
964 なお,
965 甲及び乙は,
966 殺人,
967
968 死体遺棄の被疑事実による逮捕後,
969 一切の質問に対して黙秘した。
970
971 また,
972 司法警察員Pは,
973 殺人,
974
975 死体遺棄の被疑事実で捜索差押許可状の発付を受け,
976 部下と共に,
977 甲及び乙の自宅を捜索したも
978 のの,
979 殺人,
980 死体遺棄事件に関連する差し押さえるべき物を発見できなかった。
981
982 その後,
983 検察官
984 は,
985 Bのパソコンにおけるメールの復元・分析の結果,
986 Bのパソコンにも,
987 甲の携帯電話及び乙
988 のパソコンに残っていた前記各メールと同じメールが保存されていたことが判明したことなどを
989 踏まえ,
990 勾留延長後の同年6月11日,
991 甲及び乙を,
992 殺人,
993 死体遺棄の事実により,
994 H地方裁判
995 所に公判請求した。
996
997
998 検察官は,
999 公判前整理手続において,
1000 捜査報告書【資料1】につき,
1001
1002 「殺人及び死体遺棄に関す
1003 る犯罪事実の存在」,
1004 捜査報告書【資料2】につき,
1005
1006 「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録
1007 の存在と内容」を立証趣旨として,
1008 各捜査報告書を証拠調べ請求したところ,
1009 被告人甲及び被告
1010 人乙の弁護人は,
1011 いずれも,
1012 不同意の意見を述べた。
1013
1014
1015
1016 〔設問1〕
1017
1018 【逮捕@】ないし【逮捕C】及びこれらの各逮捕に引き続く身体拘束の適法性につい
1019 て,
1020 具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
1021
1022
1023
1024 〔設問2〕
1025
1026 捜査報告書(
1027 【資料1】及び【資料2】)の証拠能力について,
1028 具体的事実を摘示しつ
1029 つ論じなさい。
1030
1031
1032
1033 - 4 -
1034
1035 【資料1】
1036
1037 捜
1038
1039 査
1040
1041 報
1042
1043 告
1044
1045 書
1046 平成22年5月3日
1047
1048 H県警察本部刑事部長
1049 司法警察員
1050
1051 警視正
1052
1053 S
1054
1055 殿
1056 H県警察本部刑事部捜査第一課
1057 司法警察員
1058
1059 死体遺棄
1060
1061 警部
1062
1063 被疑者
1064
1065 P
1066
1067 印
1068
1069 B
1070
1071 (本籍,
1072 住居,
1073 職業,
1074 生年月日省略)
1075 被疑者Bに対する頭書被疑事件につき,
1076 平成22年5月3日,
1077 被疑者Bの自宅において
1078 差し押さえたパソコンに保存されたデータを精査したところ,
1079 A女あてのメールを発見し
1080 たので,
1081 同メールを印刷した用紙1枚を添付して報告する。
1082
1083
1084
1085 - 5 -
1086
1087 [メール@]
1088 送信者:
1089
1090 B
1091
1092 宛先:
1093
1094 A女
1095
1096 送信日時:
1097
1098 2010年3月1日
1099
1100 件名:
1101
1102 さっきはゴメン
1103
1104 23:03
1105
1106 さっきは,
1107 電話を途中で切ってゴメンな。
1108
1109 今日の午後8時に甲が家に来たやろ。
1110
1111 ここか
1112 ら,
1113 すごいことが起こったんや。
1114
1115 いずれ結婚するお前やから,
1116 打ち明けるが,
1117 甲は,
1118 俺の
1119 家で,
1120 いきなり,
1121
1122 「30分前に,
1123 俺の家で,
1124 乙と一緒にV女の首を絞めて殺した。
1125
1126 俺がV女
1127 の体を押さえて,
1128 乙が両手でV女の首を絞めて殺した。
1129
1130 V女を運んだり,
1131 V女を埋める道
1132 具を積み込むには,
1133 俺や乙の車では小さい。
1134
1135 お前の大きい車を貸してほしい。
1136
1137 V女の死体
1138 を捨てるのを手伝ってくれ。
1139
1140 お礼として,
1141 100万円をお前にやるから。
1142
1143 」と言ってきたん
1144 や。
1145
1146 甲とV女のことは知っているやろ。
1147
1148 甲は俺の友人で,
1149 V女は甲の奥さんや。
1150
1151 乙のこと
1152 は知らんやろうけど,
1153 俺の友人に乙というのがいるんや。
1154
1155 その乙と甲がV女を殺したん
1156 や。
1157
1158 俺も金がないし,
1159 お前にも指輪の一つくらい買ってやろうと思い,
1160 引き受けた。
1161
1162 人殺
1163 しならともかく,
1164 死体を捨てるだけだから,
1165 大したことないと思うたんや。
1166
1167 その後,
1168 すぐ
1169 に,
1170 甲の家に行くと,
1171 V女の死体があったわ。
1172
1173 また,
1174 そこには,
1175 乙もいて,
1176
1177 「俺と甲の2人
1178 で殺した。
1179
1180 甲がV女の体を押さえて,
1181 俺が両手でV女の首を絞めて殺したんや。
1182
1183 死体を捨
1184 てるのを手伝ってくれ。
1185
1186 」と言ってきた。
1187
1188 その後,
1189 俺は,
1190 甲と乙と一緒に,
1191 V女の死体を俺
1192 の車で一本杉まで運び,
1193 そのすぐ横の土を3人で掘ってV女の死体をバッグと一緒に投げ
1194 入れ,
1195 土を上からかぶせて完全に埋めたんや。
1196
1197 V女の死体を埋めるのに,
1198 午後9時から1
1199 時間くらいかかったわ。
1200
1201 疲れた。
1202
1203 分かっていると思うが,
1204 このことは誰にも言うなよ。
1205
1206 こ
1207 れがばれたら,
1208 俺も捕まることになるから。
1209
1210 そうなったら,
1211 結婚もできんわ。
1212
1213 100万円
1214 もらったら,
1215 何でも好きなもの買ってやるから,
1216 言ってな。
1217
1218
1219
1220 - 6 -
1221
1222 【資料2】
1223
1224 捜
1225
1226 査
1227
1228 報
1229
1230 告
1231
1232 書
1233 平成22年5月12日
1234
1235 H県警察本部刑事部長
1236 司法警察員
1237
1238 警視正
1239
1240 S
1241
1242 殿
1243 H県警察本部刑事部捜査第一課
1244 司法警察員
1245
1246 殺人,
1247 死体遺棄
1248
1249 警部
1250
1251 P
1252
1253 被疑者
1254
1255 甲
1256
1257 被疑者
1258
1259 乙
1260
1261 印
1262
1263 (いずれも,
1264 本籍,
1265 住居,
1266 職業,
1267 生年月日省略)
1268 被疑者甲及び同乙に対する頭書被疑事件につき,
1269 平成22年5月12日,
1270 H県警察本部
1271 において差し押さえた甲の携帯電話に保存されていた甲とBとの間におけるメールの交信
1272 記録を用紙1枚に印刷したので,
1273 これを添付して報告する。
1274
1275
1276
1277 - 7 -
1278
1279 [メールA−1]
1280 送信者:
1281
1282 B
1283
1284 宛先:
1285
1286 甲
1287
1288 受信日時:
1289
1290 2010年4月28日
1291
1292 件名:
1293
1294 早うせえ
1295
1296 22:00
1297
1298 V女の死体を埋めたお礼の100万円払え,
1299 早うせえや。
1300
1301
1302 お前らがやったことをばらすぞ。
1303
1304
1305 [メールA−2]
1306 送信者:
1307
1308 甲
1309
1310 宛先:
1311
1312 B
1313
1314 送信日時:
1315
1316 2010年4月28日
1317
1318 件名:
1319
1320 Re:早うせえ
1321
1322 22:30
1323
1324 もう少し待ってくれ。
1325
1326
1327 必ず,
1328 お礼の100万円を払うから。
1329
1330
1331
1332 - 8 -
1333
1334