1 論文式試験問題集
2 [法律実務基礎科目(民事・刑事)]
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4 - 1 -
5
6 [民
7
8 事]
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10 〔設問1〕
11 別紙【Xの相談内容】は,弁護士PがXから受けた相談の内容の一部を記載したものである。こ
12 れを前提に,以下の問いに答えなさい。
13 弁護士Pは,Xの依頼により,Xの訴訟代理人として,AY間の消費貸借契約に基づく貸金返還
14 請求権を訴訟物として,Yに対して100万円の支払を請求する訴え(以下「本件訴え」という。)
15 を提起しようと考えている(なお,利息及び遅延損害金については請求しないものとする。以下の
16 設問でも同じである。)。弁護士Pが,別紙【Xの相談内容】を前提に,本件訴えの訴状において,
17 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として必要十分な最小限のものを主張する
18 場合,次の各事実の主張が必要であり,かつ,これで足りるか。結論とともに理由を説明しなさい。
19 @
20
21 平成16年10月1日,Yは,平成17年9月30日に返済することを約して,Aか
22 ら100万円の交付を受けたとの事実
23
24 A
25
26 平成22年4月1日,Aは,Xに対して,@の貸金債権を代金80万円で売ったとの
27 事実
28
29 B
30
31 平成17年9月30日は到来したとの事実
32
33 〔設問2〕
34 弁護士Pは,訴状に本件の請求を理由づける事実を適切に記載した上で,本件訴えを平成23年
35 2月15日に提起した(以下,この事件を「本件」という。)。数日後,裁判所から訴状の副本等の
36 送達を受けたYが,弁護士Qに相談したところ,弁護士Qは,Yの訴訟代理人として本件を受任す
37 ることとなった。別紙【Yの相談内容】は,弁護士QがYから受けた相談の内容の一部を記載した
38 ものである。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
39 弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提に,答弁書において抗弁として消滅時効の主張をしよ
40 うと考えている。弁護士Qとして,答弁書において必要十分な最小限の抗弁事実を主張するに当た
41 り,消滅時効の理解に関する下記の甲説に基づく場合と乙説に基づく場合とで,主張すべき事実に
42 違いがあるか。結論とともに理由を説明しなさい。なお,本件の貸金返還請求権について商法第5
43 22条が適用されることは解答の前提としてよい。
44 甲説・・時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生じるものでは
45 なく,時効が援用されたときに初めて確定的に生じる。
46 乙説・・時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生じる。時効の
47 援用は,「裁判所は,当事者の主張しない事実を裁判の資料として採用してはな
48 らない」という民事訴訟の一般原則に従い,時効の完成に係る事実を訴訟におい
49 て主張する行為にすぎない。
50
51 〔設問3〕
52 弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提に,答弁書に消滅時効の抗弁事実を適切に記載して裁
53 判所に提出した。
54 本件については,平成23年3月14日に第1回口頭弁論期日が開かれた。同期日には,弁護士
55 Pと弁護士Qが出頭し,弁護士Pは訴状のとおり陳述し,弁護士Qは答弁書のとおり陳述した。そ
56
57 - 2 -
58
59 の上で,両弁護士は次のとおり陳述した。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
60 弁護士P:Y側は消滅時効を主張しています。しかし,私がXから聴取しているところでは,A
61 は,平成22年4月1日にXに本件の貸金債権を譲渡し,同日にYにその事実を電話
62 で通知した,そこで,Xは,5年の時効期間が経過する前の同年5月14日にYの店
63 に行き,Yに対して本件の借金を返済するよう求めたが,そのときにYが確たる返事
64 をしなかったことから,しばらく様子を見ていた,その後,Xが,同年12月15日
65 に再びYの店に行ったところ,Yの方から返済を半年間待ってほしいと懇請された,
66 とのことでした。このような経過を経て,私がXから依頼を受けて,平成23年2月
67 15日に本件訴えを提起したものです。ですから,Y側の消滅時効の主張は通らない
68 と思います。
69 弁護士Q:私も,Yから,A及びXとの間のやりとりについて詳しく確認してきましたが,Yは,
70 平成22年中に,AともXとも話をしたことはないとのことです。
71 訴状に記載された本件の請求を理由づける事実及び答弁書に記載された消滅時効の抗弁事実がい
72 ずれも認められるとした場合,裁判所は,本件の訴訟の結論を得るために,弁護士Pによる上記陳
73 述のうちの次の各事実を立証対象として,証拠調べをする必要があるか。結論とともにその理由を
74 説明しなさい。なお,各事実を間接事実として立証対象とすることは考慮しなくてよい。
75 @
76
77 Xは,5年の時効期間が経過する前の平成22年5月14日に,Yに対して,本件の
78 借金を返済するよう求めたとの事実
79
80 A
81
82 平成22年12月15日に,YがXに対して,本件の借金の返済を半年間待ってほし
83 いと懇請したとの事実
84
85 〔設問4〕
86 本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは,「平成22年4月1日,Aは,Xに対して,
87 @の貸金債権を80万円で売った。」との事実(設問1におけるAの事実)を立証するための証拠
88 として,A名義の署名押印のある別紙【資料】の領収証を,作成者はAであるとして提出した。こ
89 れに対して弁護士Qは,この領収証につき,誰が作成したものか分からないし,A名義の署名押印
90 もAがしたものかどうか分からないと陳述した。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
91 上記弁護士Qの陳述の後,裁判官Jは,更に弁護士Qに対し,別紙【資料】の領収証にあるA名
92 義の印影がAの印章によって顕出されたものであるか否かを尋ねた。裁判官Jがこのような質問を
93 した理由を説明しなさい。
94
95 〔設問5〕
96 本件の審理の過程において,弁護士P及びQは,裁判官Jからの和解の打診を受けて,1か月後
97 の次回期日に和解案を提示することになった。和解条件についてあらかじめ被告側の感触を探りた
98 いと考えた弁護士Pは,弁護士Qに電話をかけたが,弁護士Qは海外出張のため2週間不在とのこ
99 とであった。この場合において,早期の紛争解決を望む弁護士Pが,被告であるYに電話をかけて
100 和解の交渉をすることに弁護士倫理上の問題はあるか。結論と理由を示しなさい。なお,弁護士職
101 務基本規程を資料として掲載してあるので,適宜参照しなさい。
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103 - 3 -
104
105 (別
106
107 紙)
108
109 【Xの相談内容】
110 私は甲商店街で文房具店を営んでおり,隣町の乙商店街で同じく文房具店を営んでいるAとは旧知
111 の仲です。平成16年10月1日,Aと同じ乙商店街で布団店を営んでいるYは,資金繰りが苦しく
112 なったことから,いとこのAから,平成17年9月30日に返済する約束で,100万円の交付を受
113 けて借り入れました。ところが,Yは,返済期限が経過しても営業状況が改善せず,返済もしません
114 でした。Aもお人好しで,特に催促をすることもなく,Yの営業が持ち直すのを待っていたのですが,
115 平成21年頃,今度はAの方が,資金繰りに窮することになってしまいました。そこで,Aは,Yに
116 対して,上記貸金の返済を求めましたが,Yは返済をしようとしなかったそうです。そのため,私は,
117 Aから窮状の相談を受けて,平成22年4月1日,Yに対する上記貸金債権を代金80万円で買い取
118 ることとし,同日,Aに代金として80万円を支払い,その場でAはYに対して電話で債権譲渡の通
119 知をしました。
120 このような次第ですので,Yにはきちんと100万円を支払ってもらいたいと思います。
121 【Yの相談内容】
122 私は,乙商店街で布団店を営んでいますが,営業が苦しくなったことから,平成16年10月1日
123 に,いとこのAから,返済期限を平成17年9月30日として100万円を借りました。私は,この
124 金を使って店の立て直しを図りましたが,うまくいかず,返済期限を過ぎても返済しないままになっ
125 てしまいました。Aからは,平成21年頃に一度だけ,この借金を返済してほしいと言われたことが
126 ありますが,返す金もなかったことから,ついあの金はもらったものだなどと言ってしまいました。
127 その後は,気まずかったので,Aとは会っていませんし,電話で話したこともありません。
128 そうしたところ,平成23年2月15日に,XがP弁護士を訴訟代理人として本件訴えを起こして
129 きました。そこで,私は,同月21日に,訴訟関係書類に記載されていたXの連絡先に電話をかけて,
130 Xに対し,XがAから本件の貸金債権を譲り受けたという話は聞いていないし,そもそも今回の借金
131 は,Aから借りた時から既に6年以上が経過しており,返済期限からでも5年以上が経過していて,
132 時効にかかっているから支払うつもりはないと伝えました。
133 このような次第ですので,私にはXに100万円を支払う義務はないと思います。
134 【資料】
135
136 領
137
138 X
139
140 収
141
142 証
143
144 様
145
146 本日,Yに対する百萬円の貸金債権の譲渡代金
147 として,金八十萬円を領収致しました。
148 平成22年4月1日
149
150 - 4 -
151
152 A
153
154 A印
155
156 頼関係に基づくと認められるもの
157 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
158 四 社員等又は使用人である外国法事務弁護士が相手方から受任
159 している事件
160 五 社員が第二十七条、第二十八条又は第六十三条第一号若しく
161 は第二号のいずれかの規定により職務を行い得ない事件
162 (同前)
163 第六十六条 弁護士法人は、前条に規定するもののほか、次の各号
164 のいずれかに該当する事件については、その業務を行ってはなら
165 ない。ただし、第一号に掲げる事件についてその依頼者及び相手
166 方が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び
167 他の依頼者のいずれもが同意した場合並びに第三号に掲げる事件
168 についてその依頼者が同意した場合は、この限りでない。
169 一 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供
170 を約している者を相手方とする事件
171 二 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件
172 三 依頼者の利益とその弁護士法人の経済的利益が相反する事件
173 (同前ー受任後)
174 第六十七条 社員等は、事件を受任した後に第六十三条第三号の規
175 定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、依頼者
176 にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとら
177 なければならない。
178 2 弁護士法人は、事件を受任した後に第六十五条第四号又は第五
179 号の規定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、
180 依頼者にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置
181 をとらなければならない。
182 (事件情報の記録等)
183 第六十八条 弁護士法人は、その業務が制限されている事件を受任
184 すること及びその社員等若しくは使用人である外国法事務弁護士
185 が職務を行い得ない事件を受任することを防止するため、その弁
186 護士法人、社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事
187 件の依頼者、相手方及び事件名の記録その他の措置をとるように
188
189 努める。
190 (準用)
191 第六十九条 第一章から第三章まで(第十六条、第十九条、第二十
192 三条及び第三章中第二節を除く。
193 )
194 、第六章及び第九章から第十二
195 章までの規定は弁護士法人に準用する。
196 第九章 他の弁護士との関係における規律
197 (名誉の尊重)
198 第七十条 弁護士は、他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護
199 士(以下「弁護士等」という。
200 )との関係において、相互に名誉
201 と信義を重んじる。
202 (弁護士に対する不利益行為)
203 第七十一条 弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れ
204 てはならない。
205 (他の事件への不当介入)
206 第七十二条 弁護士は、他の弁護士等が受任している事件に不当に
207 介入してはならない。
208 (弁護士間の紛議)
209 第七十三条 弁護士は、他の弁護士等との間の紛議については、協
210 議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努める。
211 第十章 裁判の関係における規律
212 (裁判の公正と適正手続)
213 第七十四条 弁護士は、裁判の公正及び適正手続の実現に努める。
214 (偽証のそそのかし)
215 第七十五条 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又
216 は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。
217 (裁判手続の遅延)
218 第七十六条 弁護士は、怠慢により又は不当な目的のため、裁判手
219 続を遅延させてはならない。
220 (裁判官等との私的関係の不当利用)
221 第七十七条 弁護士は、その職務を行うに当たり、裁判官、検察官
222 その他裁判手続に関わる公職にある者との縁故その他の私的関係
223 があることを不当に利用してはならない。
224
225 第十一章 弁護士会との関係における規律
226 (弁護士法等の遵守)
227 第七十八条 弁護士は、弁護士法並びに本会及び所属弁護士会の会
228 則を遵守しなければならない。
229 (委嘱事項の不当拒絶)
230 第七十九条 弁護士は、正当な理由なく、会則の定めるところによ
231 り、本会、所属弁護士会及び所属弁護士会が弁護士法第四十四条
232 の規定により設けた弁護士会連合会から委嘱された事項を行うこ
233 とを拒絶してはならない。
234 第十二章 官公署との関係における規律
235 (委嘱事項の不当拒絶)
236 第八十条 弁護士は、正当な理由なく、法令により官公署から委嘱
237 された事項を行うことを拒絶してはならない。
238 (受託の制限)
239 第八十一条 弁護士は、法令により官公署から委嘱された事項につ
240 いて、職務の公正を保ち得ない事由があるときは、その委嘱を受
241 けてはならない。
242 第十三章 解釈適用指針
243 (解釈適用指針)
244 第八十二条 この規程は、弁護士の職務の多様性と個別性にかんが
245 み、その自由と独立を不当に侵すことのないよう、実質的に解釈
246 し適用しなければならない。第五条の解釈適用に当たって、刑事
247 弁護においては、被疑者及び被告人の防御権並びに弁護人の弁護
248 権を侵害することのないように留意しなければならない。
249 2 第一章並びに第二十条から第二十二条まで、第二十六条、第三
250 十三条、第三十七条第二項、第四十六条から第四十八条まで、第
251 五十条、第五十五条、第五十九条、第六十一条、第六十八条、第
252 七十条、第七十三条及び第七十四条の規定は、弁護士の職務の行
253 動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければな
254 らない。
255 附 則
256 この規程は、平成十七年四月一日から施行する。
257
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260 について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努
261 める。
262 (防御権の説明等)
263 第四十八条 弁護士は、被疑者及び被告人に対し、黙秘権その他の
264 防御権について適切な説明及び助言を行い、防御権及び弁護権に
265 対する違法又は不当な制限に対し、必要な対抗措置をとるように
266 努める。
267 (国選弁護における対価受領等)
268 第四十九条 弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名
269 目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対
270 価を受領してはならない。
271 弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し
272 その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。
273 ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある
274 場合は、この限りでない。
275 第五章 組織内弁護士における規律
276 (自由と独立)
277 )。以下これら
278 第五十条 官公署又は公私の団体(弁護士法人を除。
279 く
280 を合わせて「組織」という。
281 )において職員若しくは使用人とな
282 り 又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「
283 織内弁護士」という。
284 )は、弁護士の使命及び弁護士の本質であ
285 る自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。
286 (違法行為に対する措置)
287 第五十一条 組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織
288 に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとし
289 ていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又
290 はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対
291 する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとら
292 なければならない。
293 第六章 事件の相手方との関係における規律
294 (相手方本人との直接交渉)
295 第五十二条 弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選
296 、任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで
297 直接相手方と交渉してはならない。
298 (相手方からの利益の供与)
299 第五十三条 弁
300 護
301 士
302 は
303 、
304 を
305 行
306 い
307 得
308 な受
309 い任
310 事し
311 件て
312 にい
313 つる
314 い事
315 て件
316 はに関し、相手方から利益
317 の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくは約束を
318 してはならない。
319 (相手方に対する利益の供与)
320 組
321 第五十四条 弁護士は、受任している事件に関し、相手方に対し、
322 利益の供与若しくは供応をし、又は申込みをしてはならない。
323 第七章 共同事務所における規律
324
325 (遵守のための措置)
326 第五十五条 複数の弁護士が法律事務所(弁護士法人の法律事務所
327 である場合を除く を共にする場合(以下この法律事務所を「
328 同事務所」という。
329 )において、その共同事務所に所属する弁護
330 士(以下「所属弁護士」という。
331 )を監督する権限のある弁護士
332 は、所属弁護士がこの規程を遵守するための必要な措置をとるよ
333 うに努める。
334 (秘密の保持)
335 第五十六条 所属弁護士は、他の所属弁護士の依頼者について執務
336 上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は利用してはな
337 らない。その共同事務所の所属弁護士でなくなった後も、同様と
338 する。
339 (職務を行い得ない事件)
340 第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった
341 場合を含む。
342 )が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務
343 、職務を行ってはならない。ただし
344 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
345 (同前ー受任後)共
346 第五十八条 所属弁護士は、事件を受任した後に前条に該当する事
347 由があることを知ったときは、速やかに、依頼者にその事情を告
348 げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければなら
349 ない。
350 (事件情報の記録等)
351 第五十九条 所属弁護士は、職務を行い得ない事件の受任を防止す
352 るため、他の所属弁護士と共同して、取扱い事件の依頼者、相手
353 方及び事件名の記録その他の措置をとるように努める。
354 (準用)
355 第六十条 この章の規定は、弁護士が外国法事務弁護士と事務所を
356 共にする場合に準用する。この場合において、第五十五条中「複
357 」とあるのは「弁護士及び外国法事務弁護士が」と
358 「共同事務所に所属する弁護士(以下「所属弁護士」という
359 とあるのは「共同事務所に所属する外国法事務弁護士(以下「所
360 。
361 )
362 」
363 属外国法事務弁護士」という。
364 )
365 」と、
366 「所属弁護士が」とあるの
367 は「所属外国法事務弁護士が」と、第五十六条から第五十九条ま
368 での規定中「他の所属弁護士」とあるのは「所属外国法事務弁護
369 士」と、第五十七条中「第二十七条又は第二十八条」とあるのは
370 、
371 「外国特別会員基本規程第三十条の二において準用する第二十七
372 条又は第二十八条」と読み替えるものとする。
373 第八章 弁護士法人における規律
374 (遵守のための措置)
375 第六十一条 弁護士法人の社員である弁護士は、その弁護士法人の
376 社員又は使用人である弁護士(以下「社員等」という。
377 )及び使
378
379 用人である外国法事務弁護士がこの規程を遵守するための必要な
380 措置をとるように努める。
381 (秘密の保持)
382 第六十二条 社員等は、その弁護士法人、他の社員等又は使用人で
383 ある外国法事務弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正
384 当な理由なく他に漏らし、又は利用してはならない。社員等でな
385 くなった後も、同様とする。
386 (職務を行い得ない事件)
387 第六十三条 社員等(第一号及び第二号の場合においては、社員等
388 であった者を含む。
389 )は、次に掲げる事件については、職務を行
390 ってはならない。ただし、第四号に掲げる事件については、その
391 弁護士法人が受任している事件の依頼者の同意がある場合は、こ
392 の限りでない。
393 一 社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を
394 受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこ
395 れに関与したもの
396 二 社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を
397 受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと
398 認められるものであって、自らこれに関与したもの
399 三 その弁護士法人が相手方から受任している事件
400 四 その弁護士法人が受任している事件(当該社員等が自ら関与
401 しているものに限る。
402 )の相手方からの依頼による他の事件
403 (他の社員等との関係で職務を行い得ない事件)
404 第六十四条 社員等は、他の社員等が第二十七条、第二十八条又は
405 第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を
406 行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、
407 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
408 2 社員等は、使用人である外国法事務弁護士が外国特別会員基本
409 規程第三十条の二において準用する第二十七条、第二十八条又は
410 第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を
411 行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、
412 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
413 (業務を行い得ない事件)
414 第六十五条 弁護士法人は、次の各号のいずれかに該当する事件に
415 ついては、その業務を行ってはならない。ただし、第三号に規定
416 する事件については受任している事件の依頼者の同意がある場合
417 及び第五号に規定する事件についてはその職務を行い得ない社員
418 がその弁護士法人の社員の総数の半数未満であり、かつ、その弁
419 護士法人に業務の公正を保ち得る事由がある場合は、この限りで
420 ない。
421 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
422 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信
423
424 - 6 -
425
426 (依頼者との金銭貸借等)
427 第二十五条 弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸
428 借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しく
429 は依頼者の債務について保証をしてはならない。
430 (依頼者との紛議)
431 第二十六条 弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じな
432 いように努め、紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で
433 解決するように努める。
434 第二節 職務を行い得ない事件の規律
435 (職務を行い得ない事件)
436 第二十七条 弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件につい
437 ては、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に掲げる事
438 件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、こ
439 の限りでない。
440 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
441 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信
442 頼関係に基づくと認められるもの
443 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
444 四 公務員として職務上取り扱った事件
445 五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手
446 続実施者として取り扱った事件
447 (同前)
448 第二十八条 弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のい
449 ずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。
450 ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同
451 意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方
452 が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及
453 び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。
454 一 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である
455 事件
456 二 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供
457 を約している者を相手方とする事件
458 三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件
459 四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件
460 第三節 事件の受任時における規律
461 (受任の際の説明等)
462 第二十九条 弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た
463 情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び
464 費用について、適切な説明をしなければならない。
465 2 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請
466 け合い、又は保証してはならない。
467 3 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにも
468
469 かかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはな
470 らない。
471 (委任契約書の作成)
472 第三十条 弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関す
473 る事項を含む委任契約書を作成しなければならない。ただし、委
474 任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が
475 止んだ後、これを作成する。
476 2 前項の規定にかかわらず、受任する事件が、法律相談、簡易な
477 書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものである
478 ときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成を要し
479 ない。
480 (不当な事件の受任)
481 第三十一条 弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに
482 不当な事件を受任してはならない。
483 (不利益事項の説明)
484 第三十二条 弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があって
485 その相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受
486 任するに当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の
487 不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。
488 (法律扶助制度等の説明)
489 第三十三条 弁護士は、依頼者に対し、事案に応じ、法律扶助制度、
490 訴訟救助制度その他の資力の乏しい者の権利保護のための制度を
491 説明し、裁判を受ける権利が保障されるように努める。
492 (受任の諾否の通知)
493 第三十四条 弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、そ
494 の諾否を依頼者に通知しなければならない。
495 第四節 事件の処理における規律
496 (事件の処理)
497 第三十五条 弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、
498 遅滞なく処理しなければならない。
499 (事件処理の報告及び協議)
500 第三十六条 弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過
501 及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しな
502 がら事件の処理を進めなければならない。
503 (法令等の調査)
504 第三十七条 弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を
505 怠ってはならない。
506 2 弁護士は、事件の処理に当たり、必要かつ可能な事実関係の調
507 査を行うように努める。
508 (預り金の保管)
509 第三十八条 弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関
510 係人から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金で
511
512 あることを明確にする方法で保管し、その状況を記録しなければ
513 ならない。
514 (預り品の保管)
515 第三十九条 弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関
516 係人から書類その他の物品を預かったときは、善良な管理者の注
517 意をもって保管しなければならない。
518 (他の弁護士の参加)
519 第四十条 弁護士は、受任している事件について、依頼者が他の弁
520 護士又は弁護士法人に依頼をしようとするときは、正当な理由な
521 く、これを妨げてはならない。
522 (受任弁護士間の意見不一致)
523 第四十一条 弁護士は、同一の事件を受任している他の弁護士又は
524 弁護士法人との間に事件の処理について意見が一致せず、これに
525 より、依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対
526 し、その事情を説明しなければならない。
527 (受任後の利害対立)
528 第四十二条 弁護士は、複数の依頼者があって、その相互間に利害
529 の対立が生じるおそれのある事件を受任した後、依頼者相互間に
530 現実に利害の対立が生じたときは、依頼者それぞれに対し、速や
531 かに、その事情を告げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置
532 をとらなければならない。
533 (信頼関係の喪失)
534 第四十三条 弁護士は、受任した事件について、依頼者との間に信
535 頼関係が失われ、かつ、その回復が困難なときは、その旨を説明
536 し、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならな
537 い。
538 第五節 事件の終了時における規律
539 (処理結果の説明)
540 第四十四条 弁護士は、委任の終了に当たり、事件処理の状況又は
541 その結果に関し、必要に応じ法的助言を付して、依頼者に説明し
542 なければならない。
543 (預り金等の返還)
544 第四十五条 弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金
545 銭を清算したうえ、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければ
546 ならない。
547 第四章 刑事弁護における規律
548 (刑事弁護の心構え)
549 第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されてい
550 ることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁
551 護活動に努める。
552 (接見の確保と身体拘束からの解放)
553 第四十七条 弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人
554
555 - 7 -
556
557 弁護士職務基本規程(平成十六年十一月十日会規第七十号)
558 目次
559 第一章 基本倫理(第一条ー第八条)
560 第二章 一般規律(第九条ー第十九条)
561 第三章 依頼者との関係における規律
562 第一節 通則(第二十条ー第二十六条)
563 第二節 職務を行い得ない事件の規律(第二十七条・第二十八
564 条)
565 事件の受任時における規律(第二十九条ー第三十四条
566 第四節 事件の処理における規律(第三十五条ー第四十三条)
567 事件の終了時における規律(第四十四条・第四十五条
568 第四章 刑事弁護における規律(第四十六条―第四十九条)
569 第五章 組織内弁護士における規律(第五十条・第五十一条)
570 第六章 事件の相手方との関係における規律(第五十二条ー第五
571 十四条)
572 第七章 共同事務所における規律(第五十五条―第六十条)
573 第八章 弁護士法人における規律(第六十一条―第六十九条)
574 第九章 他の弁護士との関係における規律(第七十条ー第七十三
575 条)
576 第十章 裁判の関係における規律(第七十四条―第七十七条)
577 第十一章 弁護士会との関係における規律(第七十八条・第七十
578 九条)
579 官公署との関係における規律(第八十条・第八十一条
580 第十三章 解釈適用指針(第八十二条)
581 附則
582 弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする。
583 、弁護士には職務の自由と独立が要請され
584 高度)
585 の自治が保障されている。
586 弁護士は、その使命を自覚し、自らの行動を規律する社会的責任
587 )。
588 を負う
589 よって、ここに弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかに
590 するため、弁護士職務基本規程を制定する。
591 第一章 基本倫理
592 (使命の自覚)
593 第一条 弁護士は、その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現
594 にあることを自覚し、その使命の達成に努める。
595 (自由と独立)
596 第二条 弁護士は、職務の自由と独立を重んじる。
597 (弁護士自治)
598 第三条 弁護士は、弁護士自治の意義を自覚し、その維持発展に努
599 )
600
601 、
602
603 める。
604 (司法独立の擁護)
605 第四条 弁護士は、司法の独立を擁護し、司法制度の健全な発展に
606 寄与するように努める。
607 (信義誠実)
608 第五条 弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職
609 務を行うものとする。
610 (名誉と信用)
611 第六条 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔
612 を保持し、常に品位を高めるように努める。
613 (研鑽)
614 第七条 弁護士は、教養を深め、法令及び法律事務に精通するため、
615 研鑽に努める。
616 (公益活動の実践)
617 第八条 弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践
618 するように努める。
619 第二章 一般規律
620 (広告及び宣伝)
621 第九条 弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわ
622 たる情報を提供してはならない。
623 2 弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない。
624 (依頼の勧誘等)
625 第十条 弁護士は、不当な目的のため、又は品位を損なう方法によ
626 り、事件の依頼を勧誘し、又は事件を誘発してはならない。
627 (非弁護士との提携)
628 第十一条 弁護士は、弁護士法第七十二条から第七十四条までの規
629 定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当
630 な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、
631 又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
632 (報酬分配の制限)
633 第十二条 弁護士は、その職務に関する報酬を弁護士又は弁護士法
634 人でない者との間で分配してはならない。ただし、法令又は本会
635 若しくは所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合その
636 他正当な理由がある場合は、この限りでない。
637 (依頼者紹介の対価)
638 第十三条 弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その
639 他の対価を支払ってはならない。
640 2 弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価
641 を受け取ってはならない。
642 及び
643 (違法行為の助長)
644 第十四条 弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な
645 行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。
646
647 (品位を損なう事業への参加)
648 第十五条 弁護士は、公序良俗に反する事業その他品位を損なう事
649 業を営み、若しくはこれに加わり、又はこれらの事業に自己の名
650 義を利用させてはならない。
651 (営利業務従事における品位保持)
652 第十六条 弁護士は、自ら営利を目的とする業務を営むとき、又は
653 営利を目的とする業務を営む者の取締役、執行役その他業務を執
654 行する役員若しくは使用人となったときは、営利を求めることに
655 とらわれて、品位を損なう行為をしてはならない。
656 (係争目的物の譲受け)
657 第十七条 弁護士は、係争の目的物を譲り受けてはならない。
658 (事件記録の保管等)
659 第十八条 弁護士は、事件記録を保管又は廃棄するに際しては、秘
660 密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなけれ
661 ばならない。
662 (事務職員等の指導監督)
663 第十九条 弁護士は、事務職員、司法修習生その他の自らの職務に
664 関与させた者が、その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に
665 、又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし
666 若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければな
667 らない。
668 第三章 依頼者との関係における規律
669 第一節 通則
670 (依頼者との関係における自由と独立)
671 第二十条 弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立
672 の立場を保持するように努める。
673 (正当な利益の実現)
674 第二十一条 弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益
675 を実現するように努める。
676 (依頼者の意思の尊重)
677 第二十二条 弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重し
678 て職務を行うものとする。
679 2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に
680 表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に
681 努める。
682 (秘密の保持)
683 第二十三条 弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知
684 り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。
685 (弁護士報酬)
686 、
687 第二十四条 弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力そ
688 の他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなけ
689 ればならない。
690
691 - 8 -
692
693 [刑
694
695 事]
696
697 次の記述を読んで,後記の設問に答えなさい。
698 1【事案】
699 乙(男性,30歳,会社員)は,平成23年3月5日午後2時10分頃(以下,同日),会議
700 出張のためA駅のホームのベンチに座って,午後2時45分発の特急電車の到着を待っていた。
701 このとき乙は,会議に必要な書類などを入れた黒いキャリーバッグ(B社製,外側ポケット部分
702 に金色の「B」のロゴが入っているもの)を持っており,キャリーバッグの外側ポケットに携帯
703 電話を入れていた。そのうち,乙は,少し暑く感じたので,着ていたコートを脱ぎ,ベンチの背
704 もたれに掛けた(位置関係については,別紙「見取図1」のとおり。)。
705 乙が電車を待っている間,一人の男が,時折乙の方をうかがうような目つきをしながらホーム
706 をうろついていた。その男は,白髪,身長約180センチメートルで紺色のスーツを着ており,
707 手ぶらであったが,乙とその男の間は約3メートル離れていたので,乙の目から見て,男の着て
708 いる紺色のスーツの生地が無地か柄物かは分からなかった。乙はその男と何回か目が合ったもの
709 の,男が乙に話しかけてくる様子もなかった。午後2時10分以降,ホームには何本かの電車が
710 到着したが,紺色のスーツを着た男はいずれの電車にも乗ろうとせず,ただホームをうろつくだ
711 けであった。
712 午後2時25分頃,乙は,新聞や飲み物を購入しようと思い立ち,キャリーバッグをホームの
713 ベンチに残したまま,ホームの中央部分にある売店まで歩いて行き,新聞等を購入した。乙のい
714 たベンチから売店までは,約15メートルの距離であった。売店は客で混み合っていたため,乙
715 は新聞等を買うのに順番待ちで約5分かかった。
716 乙は,買い物を終えた時,偶然そこにいた友人丙に声をかけられた。乙は,久しぶりに丙と出
717 会ったことで丙との話に夢中になり,一瞬キャリーバッグのことを忘れて,丙と共に,キャリー
718 バッグを置いたベンチとは反対方向に約5メートル歩いたところで,すぐにキャリーバッグのこ
719 とを思い出してベンチの方向を振り返った。このとき,乙は,ベンチのそばに自分のキャリーバ
720 ッグが見当たらないことに気付き,慌てて,丙に別れを告げてベンチに駆け戻ったが,ベンチの
721 背もたれにコートだけが残っており,キャリーバッグはなくなっていた。
722 乙はベンチの周囲を探したり,ホームの端から端まで走ったりしてキャリーバッグを探したが,
723 どこにもなかったことから,誰かがキャリーバッグを持ち去ったに違いないと思い,ホームの階
724 段を下りて,改札口の方へ走って行ってみた。乙は,改札口に向かう途中で,何人かの乗客が黒
725 いキャリーバッグを持っていたのを見たが,いずれも金色の「B」のロゴが入ったものではなか
726 った。
727 そうしたところ,乙は,改札口の手前,乙の前方数メートルの地点に,金色の「B」のロゴが
728 入った黒いキャリーバッグを引いている男を発見した。その男は,白髪で身長約180センチメ
729 ートル,紺色の生地で細い縦じま模様のあるスーツを着ていた。乙は,走ってその男に追いつき,
730 男の背後から,「おい,待て。」と声を掛けた。男は一瞬立ち止まり,振り返って乙を見たが,そ
731 の途端に,それまで引いていたキャリーバッグを持ち上げ,走り出そうとする仕草を見せた。そ
732 こで,乙が,男が持っているキャリーバッグに手を掛けて,「待て泥棒。そのキャリーバッグは
733 俺のだぞ。」と言うと,男は,「何の証拠があってそんなことを言うんだ。」と言い返してきた。
734 このため乙は,「お前は,さっき,ホームで俺の様子を見てただろう。そのキャリーバッグの中
735 身を開けてみろ。俺の書類が入っているに違いない。」と言ったが,男は,「何の権限があってキ
736 ャリーバッグを開けろなどと言うのだ。俺は急いでいるから手を離せ。」と言って,乙にキャリ
737 ーバッグを渡そうとしなかった。このように二人が口論していたところ,午後2時40分頃,A
738
739 - 9 -
740
741 駅構内を主なパトロール場所としている警察官丁が通り掛かった。丁が,二人の大声を聞いて,
742 「どうしたのですか。」と乙らに問いかけると,乙が,「この男が私のキャリーバッグを盗んで持
743 ち去ろうとしていたのです。」と答え,これを聞いた男は怒った口調で,「何だと。これがあんた
744 の物だという証拠もないのに,他人を泥棒呼ばわりするのか。」と乙に言った。丁は,
745 「まあまあ,
746 落ち着いて。」と二人をなだめながら,乙に,「このキャリーバッグがあなたの物だという証拠で
747 もあるのですか。」と尋ねた。これに対し,乙が,「あ,そうでした。キャリーバッグの外側のポ
748 ケットに私の携帯電話が入っているはずです。興奮していて携帯電話のことをすっかり忘れてい
749 ました。」と言ったので,丁が,自分の携帯電話を取り出して,乙に対し,「では,あなたの携帯
750 電話の番号を言ってください。」と言って,乙から聞いた携帯電話の番号に電話をかけてみたと
751 ころ,男が持っていたキャリーバッグの外側ポケット内から携帯電話の着信音が鳴り始めた。こ
752 れを聞いて乙が,「ほら,やっぱり俺のキャリーバッグじゃないか。」と男に言うと,男は,「俺
753 は,このキャリーバッグが誰かの忘れ物だと思ったから,駅の事務室まで届けに行こうとしてい
754 たところだ。あんたの物なら返すよ。」と言い出した。これに対して乙が,「おかしいぞ。さっき
755 までそんなことは言っていなかったじゃないか。」と言うと,丁が,乙と男に対し,「ここでは周
756 りの人の迷惑になりますから,ちょっとそこの事務室でお話を聞かせてください。」と言って,
757 二人をA駅の事務室まで連れて行った(改札口付近の位置関係については,別紙「見取図2」の
758 とおり。)。
759 丁は,駅事務室において,男の事情聴取をした。このとき男は,「キャリーバッグは誰かの忘
760 れ物だと思って,駅の事務室まで届けに行こうとしていただけだ。」などと話し,その際の男の
761 話から,男の氏名が「甲」であること,住居不定,無職であることが分かった。また,丁が甲の
762 前歴を照会したところ,甲には窃盗罪(置き引き)の前科が2犯あり,そのうち最近の前科につ
763 いては,現在,執行猶予期間中であることが分かった。
764 更に丁が,駅員の協力を得てホーム上に3台設置されている防犯カメラの画像を確認したとこ
765 ろ,下記のとおりの画像が映っていた(3台の防犯カメラが撮影した画像は1台のモニター画面
766 に映されていて,5分間隔で切り替わるようになっていた。)。
767 そこで丁は,乙に被害届を出す意思があることを確認した上,午後3時30分,甲を窃盗の事
768 実で緊急逮捕した。
769 2【各防犯カメラの画像】
770 [平成23年3月5日午後1時5分からの防犯カメラ1の画像(以下,同日)]
771 ホームに到着した電車から降りた十数名の乗客が一斉に改札口に向かってホームの階段を下り
772 て行く中で,同じ電車から降りてきた乗客の一人がホームに残った。その乗客は紺色のスーツを
773 着た白髪の男性であること,また,手荷物を一切持っていないことが画面から判別できたが,ス
774 ーツの生地に細いしま模様があるか否かは画面から判別できず,顔つきも身長も判別できなかっ
775 た。その男は,ホームをうろつき,特急を含む何本もの電車が発着を繰り返しているにもかかわ
776 らず,そのいずれにも乗ろうとしなかった。
777 [午後2時10分からの防犯カメラ2の画像]
778 乙と思われる男が,キャリーバッグを持ってホームにあるベンチに近づき,ベンチの前で着て
779 いたコートを脱いでベンチの背もたれに掛け,キャリーバッグをベンチの傍らに置いた。紺色の
780 スーツを着た別の男が,乙の前を何回か往復している。
781 [午後2時25分からの防犯カメラ3の画像]
782 ホームの売店に一人の男が近づいてきて,数分間順番待ちをして,新聞等を購入した後,別の
783 男と話を始め,その男と共に売店から離れてベンチとは反対方向に数メートル歩いて行ったが,
784 - 10 -
785
786 すぐに引き返して,ベンチの方向に走って行った。
787 なお,防犯カメラの時計は時報とほとんど誤差はないことが確認されている。キャリーバッグ
788 がいつの時点でベンチからなくなったのかは,モニターが切り替わって他のカメラの画像を映し
789 ていたため,画面からは確認できなかった。
790 3【甲の逮捕後の捜査で判明した事実】
791 @
792
793 甲の所持品の中に,改札済みの「B駅→A駅」の乗車券が1枚あった(B駅はA駅の隣駅
794 である。切符に印字されたB駅での購入時刻は,3月5日午後0時55分であった。)。
795
796 A
797
798 AB両駅間の電車の所要時間は約3分である。
799
800 4【逮捕後の甲の弁解内容】
801 「午後2時過ぎ頃にA駅に着いて,すぐにベンチにキャリーバッグが置かれているのに気付き,
802 忘れ物に違いないと思って,親切心から駅の事務室に持って行こうとしたのです。そうしたとこ
803 ろ,知らない男からいきなり泥棒呼ばわりされ,キャリーバッグを奪われそうになったため腹が
804 立ち,しかも,この男のキャリーバッグだという証拠もありませんでしたから,その男にキャリ
805 ーバッグを渡しませんでした。しかし,駆けつけてきた警察官が,男の携帯電話の番号に電話を
806 かけたところ,その男のキャリーバッグだと分かったので,素直にキャリーバッグを渡したので
807 す。ですから,キャリーバッグは盗んでいませんし,盗む気もありませんでした。」
808 〔設問〕
809 上記の1ないし3の各事実が裁判所において証拠上認定できることを前提とし,上記4の弁解
810 内容を考慮して,甲に対する窃盗罪の成否に関する以下の各設問に答えよ。
811 1
812
813 甲が,キャリーバッグをベンチから持ち去った人物であることを認定できるか否かについて,
814 事実を摘示して説明せよ。
815
816 2
817
818 キャリーバッグに対する乙の占有の有無及び甲の窃盗の故意の有無について,判例の立場に
819 立って,それぞれ事実を摘示して説明せよ。
820
821 - 11 -
822
823 別紙
824
825 見取図1
826
827 改
828
829 札
830
831 口
832
833 階
834 段
835
836 ホーム
837 ベンチ
838
839 コート
840
841 キャリー
842 バッグ
843
844 販売口
845
846 商 品
847
848 売 店
849
850 - 12 -
851
852 別紙
853
854 見取図2
855
856 改
857
858 札
859
860 口
861 駅
862 事
863 務
864 室
865 入口
866
867 乙が男に追いついた位置
868
869 階
870 段
871
872 ホ ー ム
873
874 - 13 -
875
876