1 平成23年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨
2 [憲
3
4 法]
5
6 多くの法科大学院は2004年4月に創設されたが,A大学(国立大学法人)は,2005年4
7 月に法科大学院を創設することとした。A大学法科大学院の特色は,女性を優遇する入学者選抜制
8 度の採用であった。A大学法科大学院が女性を優遇する入学者選抜制度を採用する主たる理由は,
9 法科大学院・新司法試験という新しい法曹養成制度の目的として多様性が挙げられているが,法曹
10 人口における女性の占める比率が低い(参考資料参照)ことである。A大学法学部では,入学生に
11 おける女子学生の比率は年々増え続けており,2004年度には女子学生が約40パーセントを占
12 めていた。A大学法科大学院としては,法学部で学ぶ女子学生の増加という傾向を踏まえて,法科
13 大学院に進学する女性を多く受け入れることによって,結果として法曹における女性の増加へ結び
14 付けることができれば,法科大学院を創設する社会的意義もある,と考えた。
15 A大学法科大学院の入学者選抜制度によれば,入学定員200名のうち180名に関しては性別
16 にかかわらず成績順に合格者が決定されるが,残りの20名に関しては成績順位181位以下の女
17 性受験生のみを成績順に合格させることになっている(このことは,募集要項で公表している。)。
18 男性であるBは,2007年9月に実施されたA大学法科大学院2008年度入学試験を受験し
19 たが,成績順位181位で不合格となった。なお,A大学法科大学院の2008年度入学試験にお
20 ける受験生の男女比は,2対1であった。
21 〔設問1〕
22 あなたがA大学法科大学院で是非勉強したいというBの相談を受けた弁護士であった場合,ど
23 のような訴訟を提起し,どのような憲法上の主張をするか,述べなさい(なお,出訴期間につい
24 て論ずる必要はない。)。
25 〔設問2〕
26 原告側の憲法上の主張とA大学法科大学院側の憲法上の主張との対立点を明確にした上で,あ
27 なた自身の見解を述べなさい。
28
29 【参考資料】法曹人口に占める女性の比率(2004年までの過去20年のデータ)
30 女性割合 女性割合 女性割合
31 (裁判官) (検事)
32
33 (弁護士)
34
35 (%)
36
37 (%)
38
39 (%)
40
41 昭和60年 1985年
42
43 3.3
44
45 2.1
46
47 4.7
48
49 昭和61年 1986年
50
51 3.5
52
53 2.0
54
55 4.8
56
57 昭和62年 1987年
58
59 3.9
60
61 2.1
62
63 5.0
64
65 昭和63年 1988年
66
67 4.1
68
69 2.5
70
71 5.2
72
73 平成元年
74
75 1989年
76
77 4.5
78
79 2.9
80
81 5.3
82
83 平成2年
84
85 1990年
86
87 5.0
88
89 3.5
90
91 5.6
92
93 平成3年
94
95 1991年
96
97 5.5
98
99 3.8
100
101 5.8
102
103 平成4年
104
105 1992年
106
107 6.0
108
109 4.1
110
111 6.1
112
113 平成5年
114
115 1993年
116
117 6.7
118
119 4.6
120
121 6.3
122
123 平成6年
124
125 1994年
126
127 7.2
128
129 5.0
130
131 6.5
132
133 平成7年
134
135 1995年
136
137 8.2
138
139 5.7
140
141 6.6
142
143 平成8年
144
145 1996年
146
147 8.9
148
149 6.4
150
151 7.3
152
153 平成9年
154
155 1997年
156
157 9.7
158
159 7.1
160
161 7.8
162
163 平成10年 1998年
164
165 10.2
166
167 8.0
168
169 8.3
170
171 平成11年 1999年
172
173 10.4
174
175 8.4
176
177 8.9
178
179 平成12年 2000年
180
181 10.9
182
183 9.2
184
185 8.9
186
187 平成13年 2001年
188
189 11.3
190
191 10.6
192
193 10.1
194
195 平成14年 2002年
196
197 12.2
198
199 11.6
200
201 10.9
202
203 平成15年 2003年
204
205 12.6
206
207 12.6
208
209 11.7
210
211 平成16年 2004年
212
213 13.2
214
215 12.8
216
217 12.1
218
219 (出題趣旨)
220 本年の問題は,いわゆる積極的差別是正措置を含む法科大学院の入学者選抜制度
221 の合憲性(憲法第14条違反か否か)を問う問題である。憲法第14条の「平等」
222 は,いわゆる結果の平等ではなく,形式的平等(機会の平等)を意味すると解され
223 てきたところ,性中立的な「結果 」(実質的な平等)を目指す積極的な差別是正措
224 置がどのような場合に許容されるのか,そのような差別是正措置がもたらす「逆差
225 別」の問題をどう考えるのか,というのが本問の核心であり,これを,問題文や資
226 料に示されている具体的事情を踏まえて検討することが求められている。なお,本
227 問で求めているのは,観念的・抽象的な「暗記」からパターンで答えを導くような
228 「学力」ではなく,正確に判例・学説を理解した上で判断枠組みを構築し,事案の
229 内容に即した個別的・具体的検討を踏まえて一定の理にかなった答えを導き出す「学
230 力」である。
231
232 [行政法]
233 Aは,甲県乙町において,建築基準法に基づく建築確認を受けて,客室数20室の旅館(以下「本
234 件施設」という。)を新築しようとしていたところ,乙町の担当者から,本件施設は乙町モーテル
235 類似旅館規制条例(以下「本件条例」という。)にいうモーテル類似旅館に当たるので,本件条例
236 第3条による乙町長の同意を得る必要があると指摘された。Aは,2011年1月19日,モーテ
237 ル類似旅館の新築に対する同意を求める申請書を乙町長に提出したが,乙町長は,同年2月18日,
238 本件施設の敷地の場所が児童生徒の通学路の付近にあることを理由にして,本件条例第5条に基づ
239 き,本件施設の新築に同意しないとの決定(以下「本件不同意決定」という。)をし,本件不同意
240 決定は,同日,Aに通知された。
241 Aは,本件施設の敷地の場所は,通学路として利用されている道路から約80メートル離れてい
242 るので,児童生徒の通学路の付近にあるとはいえず,本件不同意決定は違法であると考えており,
243 乙町役場を数回にわたって訪れ,本件施設の新築について同意がなされるべきであると主張したが,
244 乙町長は見解を改めず,本件不同意決定を維持している。
245 Aは,既に建築確認を受けているものの,乙町長の同意を得ないまま工事を開始した場合には,
246 本件条例に基づいて不利益な措置を受けるのではないかという不安を有している。そこで,Aは,
247 本件施設の新築に対する乙町長の同意を得るための訴訟の提起について,弁護士であるCに相談す
248 ることにした。同年7月上旬に,当該訴訟の提起の可能性についてAから相談を受けたCの立場で,
249 以下の設問に解答しなさい。
250 なお,本件条例の抜粋は資料として掲げてあるので,適宜参照しなさい。
251 〔設問1〕
252 本件不同意決定は,抗告訴訟の対象たる処分(以下「処分」という。)に当たるか。Aが乙町
253 長の同意を得ないで工事を開始した場合に本件条例に基づいて受けるおそれがある措置及びその
254 法的性格を踏まえて,解答しなさい。
255 〔設問2〕
256 本件不同意決定が処分に当たるという立場を採った場合,Aは,乙町長の同意を得るために,
257 誰を被告としてどのような訴訟を提起すべきか。本件不同意決定が違法であることを前提にして,
258 提起すべき訴訟とその訴訟要件について,事案に即して説明しなさい。なお,仮の救済について
259 は検討しなくてよい。
260
261 【資料】乙町モーテル類似旅館規制条例(平成18年乙町条例第20号)(抜粋)
262 (目的)
263 第1条
264
265 この条例は,町の善良な風俗が損なわれないようにモーテル類似旅館の新築又は改築(以下
266
267 「新築等」という。)を規制することにより,清純な生活環境を維持することを目的とする。
268 (定義)
269 第2条
270
271 この条例において「モーテル類似旅館」とは,旅館業法(昭和23年法律第138号)第2
272
273 条に規定するホテル営業又は旅館営業の用に供することを目的とする施設であって,その施設の一
274 部又は全部が車庫,駐車場又は当該施設の敷地から,屋内の帳場又はこれに類する施設を通ること
275 なく直接客室へ通ずることができると認められる構造を有するものをいう。
276
277 (同意)
278 第3条
279
280 モーテル類似旅館を経営する目的をもって,モーテル類似旅館の新築等(改築によりモーテ
281
282 ル類似旅館に該当することとなる場合を含む。以下同じ。)をしようとする者(以下「建築主」と
283 いう。)は,あらかじめ町長に申請書を提出し,同意を得なければならない。
284 (諮問)
285 第4条
286
287 町長は,前条の規定により建築主から同意を求められたときは,乙町モーテル類似旅館建築
288
289 審査会に諮問し,同意するか否かを決定するものとする。
290 (規制)
291 第5条
292
293 町長は,第3条の申請書に係る施設の設置場所が,次の各号のいずれかに該当する場合には
294
295 同意しないものとする。
296 (1) 集落内又は集落の付近
297 (2) 児童生徒の通学路の付近
298 (3) 公園及び児童福祉施設の付近
299 (4) 官公署,教育文化施設,病院又は診療所の付近
300 (5) その他モーテル類似旅館の設置により,町長がその地域の清純な生活環境が害されると認める
301 場所
302 (通知)
303 第6条
304
305 町長は,第4条の規定により,同意するか否かを決定したときは,その旨を建築主に通知す
306
307 るものとする。
308 (命令等)
309 第7条
310
311 町長は,次の各号のいずれかに該当する者に対し,モーテル類似旅館の新築等について中止
312
313 の勧告又は命令をすることができる。
314 (1) 第3条の同意を得ないでモーテル類似旅館の新築等をし,又は新築等をしようとする建築主
315 (2) 虚偽の同意申請によりモーテル類似旅館の新築等をし,又は新築等をしようとする建築主
316 (公表)
317 第8条
318
319 町長は,前条に規定する命令に従わない建築主については,規則で定めるところにより,そ
320
321 の旨を公表するものとする。ただし,所在の判明しない者は,この限りでない。
322 2
323
324 町長は,前項に規定する公表を行うときは,あらかじめ公表される建築主に対し,弁明の機会を
325 与えなければならない。
326
327 (注)本件条例においては,資料として掲げた条文のほかに,罰則等の制裁の定めはない。
328
329 (出題趣旨)
330 行政訴訟の基本的な知識,理解及びそれを事案に即して運用する基本的な能力を
331 試すことを目的として,旅館の建設につき条例に基づく町長の不同意決定を受けた
332 者が,訴訟を提起して争おうとする場合の行政事件訴訟法上の問題について問うも
333 のである。不同意決定の処分性を条例の仕組みに基づいて検討した上で,処分性が
334 認められる場合に選択すべき訴訟類型及び処分性以外の訴訟要件について,事案に
335 即して説明することが求められる。
336
337 [刑
338
339 法]
340
341 以下の事例に基づき,甲の罪責について論じなさい。
342 1
343
344 甲(35歳)は,無職の妻乙(30歳)及び長女丙(3歳)と,郊外の住宅街に建てられた甲
345 所有の木造2階建て家屋(以下「甲宅」という。)で生活していた。甲宅の住宅ローンの返済は,
346 会社員であった甲の給与収入によってなされていた。しかし,甲が勤務先を解雇されたことから,
347 甲一家の収入が途絶え,ローンの返済ができず,住宅ローン会社から,甲宅に設定されていた抵
348 当権の実行を通告された。甲は就職活動を行ったが,再就職先を見つけることができなかった。
349 このような状況に将来を悲観した乙は,甲に対して,「生きているのが嫌になった。みんなで一
350 緒に死にましょう。」と繰り返し言うようになったが,甲は,一家3人で心中する決意をするこ
351 とができず,乙に対して,その都度「もう少し頑張ってみよう。」と答えていた。
352
353 2
354
355 ある日の夜,甲と丙が就寝した後,乙は,「丙を道連れに先に死のう。」と思い,衣装ダンスの
356 中から甲のネクタイを取り出し,眠っている丙の首に巻き付けた上,絞め付けた。乙は,丙が身
357 動きをしなくなったことから,丙の首を絞め付けるのをやめ,台所に行って果物ナイフを持ち出
358 し,布団の上で自己の腹部に果物ナイフを突き刺し,そのまま横たわった。
359 甲は,乙のうめき声で目を覚ましたところ,丙の首にネクタイが巻き付けられていて,乙の腹
360 部に果物ナイフが突き刺さっていることに気が付いた。
361 甲が乙に「どうしたんだ。」と声を掛けると,乙は,甲に対し,「ごめんなさい。私にはもうこ
362 れ以上頑張ることはできなかった。早く楽にして。」と言った。甲は,「助けを呼べば,乙が丙を
363 殺害したことが発覚してしまう。しかし,このままだと乙が苦しむだけだ。」と考え,乙殺害を
364 決意し,乙の首を両手で絞め付けたところ,乙が動かなくなり,うめき声も出さなくなったこと
365 から,乙が死亡したと思い,両手の力を抜いた。
366
367 3
368
369 その後,甲は,「乙が丙を殺した痕跡や,自分が乙を殺した痕跡を消してしまいたい。家を燃
370 やせば乙や丙の遺体も燃えるので焼死したように装うことができる。」と考え,乙と丙の周囲に
371 灯油をまき,ライターで点火した上,甲宅を離れた。その結果,甲宅は全焼し,焼け跡から乙と
372 丙の遺体が発見された。
373
374 4
375
376 乙と丙の遺体を司法解剖した結果,両名の遺体の表皮は,熱により損傷を受けていること,乙
377 の腹部の刺創は,主要な臓器や大血管を損傷しておらず,致命傷とはなり得ないこと,乙の死因
378 は,頸部圧迫による窒息死ではなく,頸部圧迫による意識消失状態で多量の一酸化炭素を吸引し
379 たことによる一酸化炭素中毒死であること,丙の死因は,頸部圧迫による窒息死であることが判
380 明した。
381
382 (出題趣旨)
383 本問は,甲が,無理心中を図って子丙を殺害した妻乙から乙殺害の嘱託を受け,
384 殺意をもって乙の首を絞め,乙が死亡したものと誤信し,乙及び丙それぞれの殺害
385 に関する証拠を隠滅する目的で犯行現場である甲宅に放火し,甲宅を全焼させると
386 ともに,乙と丙の遺体を焼損させたが,乙の死因は放火による一酸化炭素中毒であ
387 ったという事案を素材として,事案を的確に分析する能力を問うとともに,行為者
388 の行為の介在と因果関係,事実の錯誤,証拠隠滅罪等に関する理解とその事例への
389 当てはめの適切さを問うものである。
390
391 [刑事訴訟法]
392 次の記述を読んで,後記の設問に答えなさい。
393 警察官は,甲が,平成23年7月1日にH市内において,乙に対して覚せい剤10グラムを30万
394 円で譲渡したとの覚せい剤取締法違反被疑事件につき,甲宅を捜索して現金の出納及び甲の行動等に
395 関する証拠を収集するため,H地方裁判所裁判官に対し,捜索差押許可状の発付を請求した。これを
396 受けてH地方裁判所裁判官は,罪名として「覚せい剤取締法違反」,差し押さえるべき物として「金
397 銭出納簿,預金通帳,日記,手帳,メモその他本件に関係ありと思料される一切の文書及び物件」と
398 それぞれ記載した捜索差押許可状を発付した。
399 〔設問1〕
400 この捜索差押許可状の罪名及び差し押さえるべき物の記載は適法か。
401 〔設問2〕
402 仮に,捜索差押許可状の記載が適法であったとして,警察官が,この捜索差押許可状に基づき,
403 甲宅を捜索した際に,「6/30
404
405 250万円
406
407 丙から覚せい剤100グラム購入」と書かれた
408
409 メモを発見した場合,これを差し押さえることができるか。
410 (参照条文)覚せい剤取締法
411 第41条の2第1項
412
413 覚せい剤を,みだりに,所持し,譲り渡し,又は譲り受けた者(第42条第
414
415 5号に該当する者を除く。)は,10年以下の懲役に処する。
416
417 (出題趣旨)
418 本問は,覚せい剤取締法違反被疑事件の捜査における捜索差押えを題材として,
419 特別法違反事件に関する捜索差押許可状の「罪名」及び「差し押さえるべき物」の
420 各記載の適法性を問うとともに,捜索の過程で発見された具体的な物件が当該捜索
421 差押許可状記載の「差し押さえるべき物」に該当するか否かを検討させることによ
422 り,令状主義の趣旨と捜索差押えについての基本的な知識の有無及び具体的事案に
423 対する応用力を試すものである。
424
425 [民
426
427 法]
428
429 Aは,平成20年3月5日,自己の所有する甲土地について税金の滞納による差押えを免れるた
430 め,息子Bの承諾を得て,AからBへの甲土地の売買契約を仮装し,売買を原因とするB名義の所
431 有権移転登記をした。次いで,Bは,Aに無断で,甲土地の上に乙建物を建築し,同年11月7日,
432 乙建物についてB名義の保存登記をし,同日から乙建物に居住するようになった。
433 Bは,自己の経営する会社の業績が悪化したため,その資金を調達するために,平成21年5月
434 23日,乙建物を700万円でCに売却し,C名義の所有権移転登記をするとともに,同日,Cと
435 の間で,甲土地について建物の所有を目的とする賃貸借契約(賃料月額12万円)を締結し,乙建
436 物をCに引き渡した。この賃貸借契約の締結に際して,Cは,甲土地についてのAB間の売買が仮
437 装によるものであることを知っていた。
438 その後,さらに資金を必要としたBは,同年10月9日,甲土地をDに代金1000万円で売却
439 し,D名義の所有権移転登記をした。この売買契約の締結に際して,Dは,甲土地についてのAB
440 間の売買が仮装によるものであることを知らず,それを知らないことについて過失もなかった。
441 同年12月16日,Aが急死し,その唯一の相続人であるBがAの一切の権利義務を相続した。
442 この場合において,Dは,Cに対し,甲土地の所有権に基づいて,甲土地の明渡しを求めることが
443 できるかを論ぜよ。
444
445 (出題趣旨)
446 不動産の仮装売買(民法第94条第1項)を前提に,仮装名義人が不動産を一方
447 に賃貸し,他方に売買した事案における,賃借人と買主との法律関係についての理
448 解を問うものである。民法第94条第2項の善意の第三者に関する基本的理解を前
449 提に,他人物売買及び他人物賃貸借をめぐる法律関係を検討し,さらに,他人物の
450 売主及び賃貸人が所有者を相続した場合の法律関係を問うことで,正確な法的知識
451 とそれに基づく事案分析能力,論理的思考能力及び応用力を試すものである。
452
453 [商
454
455 法]
456
457 次の文章を読んで,
458 〔設問1〕から〔設問3〕までに答えよ。
459 1.Y株式会社(以下「Y社」という。)は,取締役会及び監査役を置く会社法上の公開会社でない
460 会社であり,かつ,株券発行会社でない会社である。
461 Y社は,昭和59年に設立された会社であり,その発行済株式総数は1000株で,A及びAの
462 弟であるBがそれぞれ400株を,Aの長男C及びAの妻Dがそれぞれ100株を有していた。
463 Y社の取締役にはA,B及びCの3人が,代表取締役にはAが,監査役にはDがそれぞれ就任し
464 ている。
465 2.AとBは,平成16年頃から,Y社の経営方針についての考え方の違いが生じたため,互いに話
466 をしなくなり,Bは,その頃から,Y社の取締役会に全く出席しないようになった。
467 3.Bは,平成23年1月頃,自らの有するY社の全ての株式を処分しようと考え,知人が経営す
468 るY社と同業のX株式会社(以下「X社」という。
469 )に対してY社の株式の買取りを打診し,X社
470 の承諾を得た。
471 そこで,Bは,X社に対し,
472 「譲渡等承認請求に関する一切の件をX社に委任する」という内容の
473 委任状(以下「譲渡等承認委任状」という。)及び「株主名簿の名義書換請求に関する一切の件を
474 X社に委任する」という内容の委任状(以下「名義書換委任状」という。
475 )を交付した。
476 4.X社は,同年3月15日,Y社に対し,譲渡等承認委任状を添付して,X社がBからY社の株
477 式400株を取得した旨及び取得についての承認を求める旨の通知をした(以下この通知による
478 請求を「本件譲渡等承認請求」という。
479 )
480 。
481 なお,本件譲渡等承認請求においては,Y社又は指定買取人による買取りについては,請求がさ
482 れなかった。
483 5.Aは,同月25日,Y社の取締役会を開催した。この取締役会には,A及びCが出席したが,
484 Aも,Cも,X社が株主となることを警戒し,取締役会は,X社の株式の取得を承認しない旨を
485 決定する決議をした。
486 なお,この取締役会の招集通知は,Bに対し,発せられなかった。
487 6.X社は,Y社から本件譲渡等承認請求に対する取締役会の決定の内容についての通知を受けな
488 かったため,同年4月30日,Bに対して株式の譲渡代金を支払うとともに,Y社に対し,名義
489 書換委任状を添付して,株主名簿の名義をBからX社に書き換えるように通知して請求した。
490 7.同年5月2日,Y社は,X社に対し,X社の株式の取得について取締役会で承認しない旨を決
491 定したために名義書換請求に応ずることはできない旨を回答し,併せて,Aは,Bに対し,Bの
492 有するY社の株式をAが買い取る旨を提案した。
493 そこで,Bは,X社に対して受領した譲渡代金の返還を申し出た上でAの提案に応じようと考え
494 たが,X社から拒絶されたため,Aの提案に応ずることができなかった。
495 8.Y社は,同年6月,取締役会決議に基づき,A,B,C及びDに対して定時株主総会の招集通
496 知を発送し,A,B,C及びDが出席した定時株主総会において,この定時株主総会の終結の時
497 に任期が満了するA,B及びCを取締役に選任する旨の取締役選任議案を決議した。
498 なお,Y社は,定時株主総会に関し,定款に基準日に係る規定を置いておらず,また,基準日に
499 係る公告もしていない。
500 〔設問1〕
501 平成23年3月25日に開催された本件譲渡等承認請求に係るY社の取締役会の決議の効力に
502 ついて論ぜよ。
503
504 〔設問2〕
505 Y社の定時株主総会の決議に関し,X社は,その効力を争うことができるか。
506 〔設問3〕
507 仮に,BがAからの提案(上記7の提案)に応じてY社の株式400株をAに譲渡して代金を
508 受領し,Y社がAの株式の取得を取締役会で承認するとともに,定時株主総会の招集通知の発送
509 前までにA及びBの求めに応じてBからAに株主名簿の名義を書き換え,A,C及びDに対して
510 定時株主総会の招集通知を発送していたとしたら,Y社の定時株主総会の決議に関し,X社は,
511 その効力を争うことができるか。
512
513 (出題趣旨)
514 本問は,公開会社ではなく,かつ,株券発行会社ではない取締役会設置会社にお
515 いて,株式の譲渡がされた場合に関し,@譲渡人である取締役に対する招集通知を
516 欠いてされた譲渡等承認請求に係る取締役会の決議の効力,A株主名簿の名義書換
517 えが拒絶された株式取得者の取扱いについて,問うものである。解答に際しては,
518 取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役の意義,会社が譲渡等承認
519 請求をしたとみなされる場合に関する規律の存在,株主名簿の名義書換えの不当拒
520 絶の意義及び効果,名義書換未了の間にされた株主総会決議の効力,株式の二重譲
521 渡において対抗要件を具備した第二譲受人との優劣等について,整合的に論述する
522 ことが求められる。
523
524 [民事訴訟法]
525 次の事例について,後記の設問に答えよ。
526 【事 例】
527 Xは,請求の趣旨として「被告は,原告に対し,150万円を支払え。
528 」との判決を求める旨を記載
529 するとともに「原告は,被告との間で,原告が被告に中古自動車1台を代金150万円で売り渡すと
530 いう売買契約を平成21年1月15日に締結し,同日,当該自動車について,所有者の登録を被告名
531 義に移転するとともに被告に引き渡した。よって,原告は,被告に対し,売買代金150万円の支払
532 を求める。
533 」との主張を記載した訴状を平成22年4月1日に地方裁判所に提出して訴えを提起した。
534 その訴状には,被告として,甲市乙町5番地に住所のあるYの氏名が表示され,かつ,被告の法定代
535 理人として,同所に住所のある成年後見人Zの氏名が表示されていた。
536 この訴えについて,裁判長は,平成22年4月5日,第1回口頭弁論期日を平成22年4月28日
537 午前10時と指定し,裁判所書記官は,この訴状を送達するため,訴状副本を第1回口頭弁論期日の
538 呼出状とともに,Z宛てに郵送した。
539 ところで,Yは,甲市乙町5番地の自宅に子であるZとともに居住していたが,平成21年3月に
540 重病のため事理を弁識することができない状態となり,同年6月にYについて後見開始の審判がされ
541 て,それまでに成年に達していたZが成年後見人に選任された。そして,Yは,平成22年4月3日
542 に死亡した。Zは,Yが死亡したことを同日に知ったが,その後3か月以内に相続放棄や限定承認の
543 手続をしなかった。Yの配偶者はYより前に死亡しており,ZのほかにYの子はいなかった。
544 Zは,平成22年4月7日に,甲市乙町5番地の自宅で上記の訴状副本と口頭弁論期日呼出状を受
545 け取った。Zは,Yが死亡したことを裁判所やXに知らせることなく,Yの法定代理人として第1回
546 口頭弁論期日に出頭し,
547 「Xが主張する売買契約を否認し,請求の棄却を求める。
548 」旨を答弁した上,
549 訴訟代理人を選任することなく訴訟を追行した。第一審では,Xが主張する売買契約があったかどう
550 かが争点となり,証拠調べとしてXの尋問とZの尋問とが実施され,Zは,
551 「Yは重病で動けない。私
552 は,平成21年1月当時も現在もYと同居しているが,Yが自動車を買ったと聞いたことはないし,
553 そのような自動車を見たこともない。
554 」旨を述べた。
555 裁判所及びXがYの死亡を知らないまま,第一審の口頭弁論は平成22年9月に終結され,裁判所
556 は,判決書の原本に基づいて判決を言い渡した。判決書には,原告X,被告Y,被告法定代理人成年
557 後見人Zとの記載があり,主文は「被告は,原告に対し,150万円を支払え。
558 」というものであって,
559 その理由としてXが主張する売買契約が認められる旨の判断が示されていた。
560 Zは,第一審の判決書の正本の送達を受けた日の2日後に,控訴人をZと表示した控訴状を第一審
561 裁判所に提出して控訴を提起した。その控訴状には,
562 「Yは,平成22年4月3日に死亡していた。そ
563 の他の主張は,第一審でしたとおりである。
564 」との記載がある。第一審裁判所の裁判所書記官は,控訴
565 裁判所の裁判所書記官に訴訟記録を送付した。
566 〔設
567
568 問〕
569 Yが平成22年4月3日に死亡していたと認められる場合,控訴審では,どのような事項について
570
571 検討し,誰と誰を当事者としてどのような内容の裁判をすべきか。
572
573 (出題趣旨)
574 訴状において被告と表示された者が訴え提起後第1回口頭弁論期日の指定や訴状
575 副本の送達がされる前に死亡していたところ,その者の生前の法定代理人であり,
576 唯一の相続人である者が,その死亡の事実を明らかにせずに訴訟を追行した結果,
577 死亡した者を被告と表示して請求を認容する第一審の終局判決がされ,その終局判
578 決に対して第一審の訴訟追行者が自らの名で控訴した場合に,控訴審での当事者や
579
580 裁判の内容を問う問題である。訴えの適法性や第一審判決の効力,第一審判決で表
581 示された当事者と異なる者が控訴した場合の取扱い,控訴の適法性等について,当
582 事者の確定の問題,訴訟追行者の信義誠実の原則等を踏まえて事案に即して検討し
583 た上,控訴審で判断の対象となる事項を考慮し,控訴審がすべき適切な裁判を示す
584 必要がある。
585
586 [法律実務基礎科目(民事)]
587 〔設問1〕
588 別紙【Xの相談内容】は,弁護士PがXから受けた相談の内容の一部を記載したものである。こ
589 れを前提に,以下の問いに答えなさい。
590 弁護士Pは,Xの依頼により,Xの訴訟代理人として,AY間の消費貸借契約に基づく貸金返還
591 請求権を訴訟物として,Yに対して100万円の支払を請求する訴え(以下「本件訴え」という。)
592 を提起しようと考えている(なお,利息及び遅延損害金については請求しないものとする。以下の
593 設問でも同じである。)。弁護士Pが,別紙【Xの相談内容】を前提に,本件訴えの訴状において,
594 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として必要十分な最小限のものを主張する
595 場合,次の各事実の主張が必要であり,かつ,これで足りるか。結論とともに理由を説明しなさい。
596 @
597
598 平成16年10月1日,Yは,平成17年9月30日に返済することを約して,Aか
599 ら100万円の交付を受けたとの事実
600
601 A
602
603 平成22年4月1日,Aは,Xに対して,@の貸金債権を代金80万円で売ったとの
604 事実
605
606 B
607
608 平成17年9月30日は到来したとの事実
609
610 〔設問2〕
611 弁護士Pは,訴状に本件の請求を理由づける事実を適切に記載した上で,本件訴えを平成23年
612 2月15日に提起した(以下,この事件を「本件」という。)。数日後,裁判所から訴状の副本等の
613 送達を受けたYが,弁護士Qに相談したところ,弁護士Qは,Yの訴訟代理人として本件を受任す
614 ることとなった。別紙【Yの相談内容】は,弁護士QがYから受けた相談の内容の一部を記載した
615 ものである。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
616 弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提に,答弁書において抗弁として消滅時効の主張をしよ
617 うと考えている。弁護士Qとして,答弁書において必要十分な最小限の抗弁事実を主張するに当た
618 り,消滅時効の理解に関する下記の甲説に基づく場合と乙説に基づく場合とで,主張すべき事実に
619 違いがあるか。結論とともに理由を説明しなさい。なお,本件の貸金返還請求権について商法第5
620 22条が適用されることは解答の前提としてよい。
621 甲説・・時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生じるものでは
622 なく,時効が援用されたときに初めて確定的に生じる。
623 乙説・・時効による債権消滅の効果は,時効期間の経過とともに確定的に生じる。時効の
624 援用は,「裁判所は,当事者の主張しない事実を裁判の資料として採用してはな
625 らない」という民事訴訟の一般原則に従い,時効の完成に係る事実を訴訟におい
626 て主張する行為にすぎない。
627
628 〔設問3〕
629 弁護士Qは,別紙【Yの相談内容】を前提に,答弁書に消滅時効の抗弁事実を適切に記載して裁
630 判所に提出した。
631 本件については,平成23年3月14日に第1回口頭弁論期日が開かれた。同期日には,弁護士
632 Pと弁護士Qが出頭し,弁護士Pは訴状のとおり陳述し,弁護士Qは答弁書のとおり陳述した。そ
633
634 の上で,両弁護士は次のとおり陳述した。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
635 弁護士P:Y側は消滅時効を主張しています。しかし,私がXから聴取しているところでは,A
636 は,平成22年4月1日にXに本件の貸金債権を譲渡し,同日にYにその事実を電話
637 で通知した,そこで,Xは,5年の時効期間が経過する前の同年5月14日にYの店
638 に行き,Yに対して本件の借金を返済するよう求めたが,そのときにYが確たる返事
639 をしなかったことから,しばらく様子を見ていた,その後,Xが,同年12月15日
640 に再びYの店に行ったところ,Yの方から返済を半年間待ってほしいと懇請された,
641 とのことでした。このような経過を経て,私がXから依頼を受けて,平成23年2月
642 15日に本件訴えを提起したものです。ですから,Y側の消滅時効の主張は通らない
643 と思います。
644 弁護士Q:私も,Yから,A及びXとの間のやりとりについて詳しく確認してきましたが,Yは,
645 平成22年中に,AともXとも話をしたことはないとのことです。
646 訴状に記載された本件の請求を理由づける事実及び答弁書に記載された消滅時効の抗弁事実がい
647 ずれも認められるとした場合,裁判所は,本件の訴訟の結論を得るために,弁護士Pによる上記陳
648 述のうちの次の各事実を立証対象として,証拠調べをする必要があるか。結論とともにその理由を
649 説明しなさい。なお,各事実を間接事実として立証対象とすることは考慮しなくてよい。
650 @
651
652 Xは,5年の時効期間が経過する前の平成22年5月14日に,Yに対して,本件の
653 借金を返済するよう求めたとの事実
654
655 A
656
657 平成22年12月15日に,YがXに対して,本件の借金の返済を半年間待ってほし
658 いと懇請したとの事実
659
660 〔設問4〕
661 本件の第1回口頭弁論期日において,弁護士Pは,「平成22年4月1日,Aは,Xに対して,
662 @の貸金債権を80万円で売った。」との事実(設問1におけるAの事実)を立証するための証拠
663 として,A名義の署名押印のある別紙【資料】の領収証を,作成者はAであるとして提出した。こ
664 れに対して弁護士Qは,この領収証につき,誰が作成したものか分からないし,A名義の署名押印
665 もAがしたものかどうか分からないと陳述した。これを前提に,以下の問いに答えなさい。
666 上記弁護士Qの陳述の後,裁判官Jは,更に弁護士Qに対し,別紙【資料】の領収証にあるA名
667 義の印影がAの印章によって顕出されたものであるか否かを尋ねた。裁判官Jがこのような質問を
668 した理由を説明しなさい。
669
670 〔設問5〕
671 本件の審理の過程において,弁護士P及びQは,裁判官Jからの和解の打診を受けて,1か月後
672 の次回期日に和解案を提示することになった。和解条件についてあらかじめ被告側の感触を探りた
673 いと考えた弁護士Pは,弁護士Qに電話をかけたが,弁護士Qは海外出張のため2週間不在とのこ
674 とであった。この場合において,早期の紛争解決を望む弁護士Pが,被告であるYに電話をかけて
675 和解の交渉をすることに弁護士倫理上の問題はあるか。結論と理由を示しなさい。なお,弁護士職
676 務基本規程を資料として掲載してあるので,適宜参照しなさい。
677
678 (別
679
680 紙)
681
682 【Xの相談内容】
683 私は甲商店街で文房具店を営んでおり,隣町の乙商店街で同じく文房具店を営んでいるAとは旧知
684 の仲です。平成16年10月1日,Aと同じ乙商店街で布団店を営んでいるYは,資金繰りが苦しく
685 なったことから,いとこのAから,平成17年9月30日に返済する約束で,100万円の交付を受
686 けて借り入れました。ところが,Yは,返済期限が経過しても営業状況が改善せず,返済もしません
687 でした。Aもお人好しで,特に催促をすることもなく,Yの営業が持ち直すのを待っていたのですが,
688 平成21年頃,今度はAの方が,資金繰りに窮することになってしまいました。そこで,Aは,Yに
689 対して,上記貸金の返済を求めましたが,Yは返済をしようとしなかったそうです。そのため,私は,
690 Aから窮状の相談を受けて,平成22年4月1日,Yに対する上記貸金債権を代金80万円で買い取
691 ることとし,同日,Aに代金として80万円を支払い,その場でAはYに対して電話で債権譲渡の通
692 知をしました。
693 このような次第ですので,Yにはきちんと100万円を支払ってもらいたいと思います。
694 【Yの相談内容】
695 私は,乙商店街で布団店を営んでいますが,営業が苦しくなったことから,平成16年10月1日
696 に,いとこのAから,返済期限を平成17年9月30日として100万円を借りました。私は,この
697 金を使って店の立て直しを図りましたが,うまくいかず,返済期限を過ぎても返済しないままになっ
698 てしまいました。Aからは,平成21年頃に一度だけ,この借金を返済してほしいと言われたことが
699 ありますが,返す金もなかったことから,ついあの金はもらったものだなどと言ってしまいました。
700 その後は,気まずかったので,Aとは会っていませんし,電話で話したこともありません。
701 そうしたところ,平成23年2月15日に,XがP弁護士を訴訟代理人として本件訴えを起こして
702 きました。そこで,私は,同月21日に,訴訟関係書類に記載されていたXの連絡先に電話をかけて,
703 Xに対し,XがAから本件の貸金債権を譲り受けたという話は聞いていないし,そもそも今回の借金
704 は,Aから借りた時から既に6年以上が経過しており,返済期限からでも5年以上が経過していて,
705 時効にかかっているから支払うつもりはないと伝えました。
706 このような次第ですので,私にはXに100万円を支払う義務はないと思います。
707 【資料】
708
709 領
710
711 X
712
713 収
714
715 証
716
717 様
718
719 本日,Yに対する百萬円の貸金債権の譲渡代金
720 として,金八十萬円を領収致しました。
721 平成22年4月1日
722
723 A
724
725 A印
726
727 弁護士職務基本規程(平成十六年十一月十日会規第七十号)
728 目次
729 第一章 基本倫理(第一条ー第八条)
730 第二章 一般規律(第九条ー第十九条)
731 第三章 依頼者との関係における規律
732 第一節 通則(第二十条ー第二十六条)
733 第二節 職務を行い得ない事件の規律(第二十七条・第二十八
734 条)
735 事件の受任時における規律(第二十九条ー第三十四条
736 第四節 事件の処理における規律(第三十五条ー第四十三条)
737 事件の終了時における規律(第四十四条・第四十五条
738 第四章 刑事弁護における規律(第四十六条―第四十九条)
739 第五章 組織内弁護士における規律(第五十条・第五十一条)
740 第六章 事件の相手方との関係における規律(第五十二条ー第五
741 十四条)
742 第七章 共同事務所における規律(第五十五条―第六十条)
743 第八章 弁護士法人における規律(第六十一条―第六十九条)
744 第九章 他の弁護士との関係における規律(第七十条ー第七十三
745 条)
746 第十章 裁判の関係における規律(第七十四条―第七十七条)
747 第十一章 弁護士会との関係における規律(第七十八条・第七十
748 九条)
749 官公署との関係における規律(第八十条・第八十一条
750 第十三章 解釈適用指針(第八十二条)
751 附則
752 弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする。
753 、弁護士には職務の自由と独立が要請され
754 高度)
755 の自治が保障されている。
756 弁護士は、その使命を自覚し、自らの行動を規律する社会的責任
757 )。
758 を負う
759 よって、ここに弁護士の職務に関する倫理と行為規範を明らかに
760 するため、弁護士職務基本規程を制定する。
761 第一章 基本倫理
762 (使命の自覚)
763 第一条 弁護士は、その使命が基本的人権の擁護と社会正義の実現
764 にあることを自覚し、その使命の達成に努める。
765 (自由と独立)
766 第二条 弁護士は、職務の自由と独立を重んじる。
767 (弁護士自治)
768 第三条 弁護士は、弁護士自治の意義を自覚し、その維持発展に努
769 )
770
771 、
772
773 める。
774 (司法独立の擁護)
775 第四条 弁護士は、司法の独立を擁護し、司法制度の健全な発展に
776 寄与するように努める。
777 (信義誠実)
778 第五条 弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職
779 務を行うものとする。
780 (名誉と信用)
781 第六条 弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔
782 を保持し、常に品位を高めるように努める。
783 (研鑽)
784 第七条 弁護士は、教養を深め、法令及び法律事務に精通するため、
785 研鑽に努める。
786 (公益活動の実践)
787 第八条 弁護士は、その使命にふさわしい公益活動に参加し、実践
788 するように努める。
789 第二章 一般規律
790 (広告及び宣伝)
791 第九条 弁護士は、広告又は宣伝をするときは、虚偽又は誤導にわ
792 たる情報を提供してはならない。
793 2 弁護士は、品位を損なう広告又は宣伝をしてはならない。
794 (依頼の勧誘等)
795 第十条 弁護士は、不当な目的のため、又は品位を損なう方法によ
796 り、事件の依頼を勧誘し、又は事件を誘発してはならない。
797 (非弁護士との提携)
798 第十一条 弁護士は、弁護士法第七十二条から第七十四条までの規
799 定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当
800 な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、
801 又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
802 (報酬分配の制限)
803 第十二条 弁護士は、その職務に関する報酬を弁護士又は弁護士法
804 人でない者との間で分配してはならない。ただし、法令又は本会
805 若しくは所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合その
806 他正当な理由がある場合は、この限りでない。
807 (依頼者紹介の対価)
808 第十三条 弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その
809 他の対価を支払ってはならない。
810 2 弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価
811 を受け取ってはならない。
812 及び
813 (違法行為の助長)
814 第十四条 弁護士は、詐欺的取引、暴力その他違法若しくは不正な
815 行為を助長し、又はこれらの行為を利用してはならない。
816
817 (品位を損なう事業への参加)
818 第十五条 弁護士は、公序良俗に反する事業その他品位を損なう事
819 業を営み、若しくはこれに加わり、又はこれらの事業に自己の名
820 義を利用させてはならない。
821 (営利業務従事における品位保持)
822 第十六条 弁護士は、自ら営利を目的とする業務を営むとき、又は
823 営利を目的とする業務を営む者の取締役、執行役その他業務を執
824 行する役員若しくは使用人となったときは、営利を求めることに
825 とらわれて、品位を損なう行為をしてはならない。
826 (係争目的物の譲受け)
827 第十七条 弁護士は、係争の目的物を譲り受けてはならない。
828 (事件記録の保管等)
829 第十八条 弁護士は、事件記録を保管又は廃棄するに際しては、秘
830 密及びプライバシーに関する情報が漏れないように注意しなけれ
831 ばならない。
832 (事務職員等の指導監督)
833 第十九条 弁護士は、事務職員、司法修習生その他の自らの職務に
834 関与させた者が、その者の業務に関し違法若しくは不当な行為に
835 、又はその法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らし
836 若しくは利用することのないように指導及び監督をしなければな
837 らない。
838 第三章 依頼者との関係における規律
839 第一節 通則
840 (依頼者との関係における自由と独立)
841 第二十条 弁護士は、事件の受任及び処理に当たり、自由かつ独立
842 の立場を保持するように努める。
843 (正当な利益の実現)
844 第二十一条 弁護士は、良心に従い、依頼者の権利及び正当な利益
845 を実現するように努める。
846 (依頼者の意思の尊重)
847 第二十二条 弁護士は、委任の趣旨に関する依頼者の意思を尊重し
848 て職務を行うものとする。
849 2 弁護士は、依頼者が疾病その他の事情のためその意思を十分に
850 表明できないときは、適切な方法を講じて依頼者の意思の確認に
851 努める。
852 (秘密の保持)
853 第二十三条 弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知
854 り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。
855 (弁護士報酬)
856 、
857 第二十四条 弁護士は、経済的利益、事案の難易、時間及び労力そ
858 の他の事情に照らして、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなけ
859 ればならない。
860
861 (依頼者との金銭貸借等)
862 第二十五条 弁護士は、特別の事情がない限り、依頼者と金銭の貸
863 借をし、又は自己の債務について依頼者に保証を依頼し、若しく
864 は依頼者の債務について保証をしてはならない。
865 (依頼者との紛議)
866 第二十六条 弁護士は、依頼者との信頼関係を保持し紛議が生じな
867 いように努め、紛議が生じたときは、所属弁護士会の紛議調停で
868 解決するように努める。
869 第二節 職務を行い得ない事件の規律
870 (職務を行い得ない事件)
871 第二十七条 弁護士は、次の各号のいずれかに該当する事件につい
872 ては、その職務を行ってはならない。ただし、第三号に掲げる事
873 件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、こ
874 の限りでない。
875 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
876 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信
877 頼関係に基づくと認められるもの
878 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
879 四 公務員として職務上取り扱った事件
880 五 仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手
881 続実施者として取り扱った事件
882 (同前)
883 第二十八条 弁護士は、前条に規定するもののほか、次の各号のい
884 ずれかに該当する事件については、その職務を行ってはならない。
885 ただし、第一号及び第四号に掲げる事件についてその依頼者が同
886 意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び相手方
887 が同意した場合並びに第三号に掲げる事件についてその依頼者及
888 び他の依頼者のいずれもが同意した場合は、この限りでない。
889 一 相手方が配偶者、直系血族、兄弟姉妹又は同居の親族である
890 事件
891 二 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供
892 を約している者を相手方とする事件
893 三 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件
894 四 依頼者の利益と自己の経済的利益が相反する事件
895 第三節 事件の受任時における規律
896 (受任の際の説明等)
897 第二十九条 弁護士は、事件を受任するに当たり、依頼者から得た
898 情報に基づき、事件の見通し、処理の方法並びに弁護士報酬及び
899 費用について、適切な説明をしなければならない。
900 2 弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請
901 け合い、又は保証してはならない。
902 3 弁護士は、依頼者の期待する結果が得られる見込みがないにも
903
904 かかわらず、その見込みがあるように装って事件を受任してはな
905 らない。
906 (委任契約書の作成)
907 第三十条 弁護士は、事件を受任するに当たり、弁護士報酬に関す
908 る事項を含む委任契約書を作成しなければならない。ただし、委
909 任契約書を作成することに困難な事由があるときは、その事由が
910 止んだ後、これを作成する。
911 2 前項の規定にかかわらず、受任する事件が、法律相談、簡易な
912 書面の作成又は顧問契約その他継続的な契約に基づくものである
913 ときその他合理的な理由があるときは、委任契約書の作成を要し
914 ない。
915 (不当な事件の受任)
916 第三十一条 弁護士は、依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに
917 不当な事件を受任してはならない。
918 (不利益事項の説明)
919 第三十二条 弁護士は、同一の事件について複数の依頼者があって
920 その相互間に利害の対立が生じるおそれがあるときは、事件を受
921 任するに当たり、依頼者それぞれに対し、辞任の可能性その他の
922 不利益を及ぼすおそれのあることを説明しなければならない。
923 (法律扶助制度等の説明)
924 第三十三条 弁護士は、依頼者に対し、事案に応じ、法律扶助制度、
925 訴訟救助制度その他の資力の乏しい者の権利保護のための制度を
926 説明し、裁判を受ける権利が保障されるように努める。
927 (受任の諾否の通知)
928 第三十四条 弁護士は、事件の依頼があったときは、速やかに、そ
929 の諾否を依頼者に通知しなければならない。
930 第四節 事件の処理における規律
931 (事件の処理)
932 第三十五条 弁護士は、事件を受任したときは、速やかに着手し、
933 遅滞なく処理しなければならない。
934 (事件処理の報告及び協議)
935 第三十六条 弁護士は、必要に応じ、依頼者に対して、事件の経過
936 及び事件の帰趨に影響を及ぼす事項を報告し、依頼者と協議しな
937 がら事件の処理を進めなければならない。
938 (法令等の調査)
939 第三十七条 弁護士は、事件の処理に当たり、必要な法令の調査を
940 怠ってはならない。
941 2 弁護士は、事件の処理に当たり、必要かつ可能な事実関係の調
942 査を行うように努める。
943 (預り金の保管)
944 第三十八条 弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関
945 係人から金員を預かったときは、自己の金員と区別し、預り金で
946
947 あることを明確にする方法で保管し、その状況を記録しなければ
948 ならない。
949 (預り品の保管)
950 第三十九条 弁護士は、事件に関して依頼者、相手方その他利害関
951 係人から書類その他の物品を預かったときは、善良な管理者の注
952 意をもって保管しなければならない。
953 (他の弁護士の参加)
954 第四十条 弁護士は、受任している事件について、依頼者が他の弁
955 護士又は弁護士法人に依頼をしようとするときは、正当な理由な
956 く、これを妨げてはならない。
957 (受任弁護士間の意見不一致)
958 第四十一条 弁護士は、同一の事件を受任している他の弁護士又は
959 弁護士法人との間に事件の処理について意見が一致せず、これに
960 より、依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるときは、依頼者に対
961 し、その事情を説明しなければならない。
962 (受任後の利害対立)
963 第四十二条 弁護士は、複数の依頼者があって、その相互間に利害
964 の対立が生じるおそれのある事件を受任した後、依頼者相互間に
965 現実に利害の対立が生じたときは、依頼者それぞれに対し、速や
966 かに、その事情を告げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置
967 をとらなければならない。
968 (信頼関係の喪失)
969 第四十三条 弁護士は、受任した事件について、依頼者との間に信
970 頼関係が失われ、かつ、その回復が困難なときは、その旨を説明
971 し、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければならな
972 い。
973 第五節 事件の終了時における規律
974 (処理結果の説明)
975 第四十四条 弁護士は、委任の終了に当たり、事件処理の状況又は
976 その結果に関し、必要に応じ法的助言を付して、依頼者に説明し
977 なければならない。
978 (預り金等の返還)
979 第四十五条 弁護士は、委任の終了に当たり、委任契約に従い、金
980 銭を清算したうえ、預り金及び預り品を遅滞なく返還しなければ
981 ならない。
982 第四章 刑事弁護における規律
983 (刑事弁護の心構え)
984 第四十六条 弁護士は、被疑者及び被告人の防御権が保障されてい
985 ることにかんがみ、その権利及び利益を擁護するため、最善の弁
986 護活動に努める。
987 (接見の確保と身体拘束からの解放)
988 第四十七条 弁護士は、身体の拘束を受けている被疑者及び被告人
989
990 について、必要な接見の機会の確保及び身体拘束からの解放に努
991 める。
992 (防御権の説明等)
993 第四十八条 弁護士は、被疑者及び被告人に対し、黙秘権その他の
994 防御権について適切な説明及び助言を行い、防御権及び弁護権に
995 対する違法又は不当な制限に対し、必要な対抗措置をとるように
996 努める。
997 (国選弁護における対価受領等)
998 第四十九条 弁護士は、国選弁護人に選任された事件について、名
999 目のいかんを問わず、被告人その他の関係者から報酬その他の対
1000 価を受領してはならない。
1001 弁護士は、前項の事件について、被告人その他の関係者に対し
1002 その事件の私選弁護人に選任するように働きかけてはならない。
1003 ただし、本会又は所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある
1004 場合は、この限りでない。
1005 第五章 組織内弁護士における規律
1006 (自由と独立)
1007 )。以下これら
1008 第五十条 官公署又は公私の団体(弁護士法人を除。
1009 く
1010 を合わせて「組織」という。
1011 )において職員若しくは使用人とな
1012 り 又は取締役、理事その他の役員となっている弁護士(以下「
1013 織内弁護士」という。
1014 )は、弁護士の使命及び弁護士の本質であ
1015 る自由と独立を自覚し、良心に従って職務を行うように努める。
1016 (違法行為に対する措置)
1017 第五十一条 組織内弁護士は、その担当する職務に関し、その組織
1018 に属する者が業務上法令に違反する行為を行い、又は行おうとし
1019 ていることを知ったときは、その者、自らが所属する部署の長又
1020 はその組織の長、取締役会若しくは理事会その他の上級機関に対
1021 する説明又は勧告その他のその組織内における適切な措置をとら
1022 なければならない。
1023 第六章 事件の相手方との関係における規律
1024 (相手方本人との直接交渉)
1025 第五十二条 弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選
1026 、任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで
1027 直接相手方と交渉してはならない。
1028 (相手方からの利益の供与)
1029 第五十三条 弁
1030 護
1031 士
1032 は
1033 、
1034 を
1035 行
1036 い
1037 得
1038 な受
1039 い任
1040 事し
1041 件て
1042 にい
1043 つる
1044 い事
1045 て件
1046 はに関し、相手方から利益
1047 の供与若しくは供応を受け、又はこれを要求し、若しくは約束を
1048 してはならない。
1049 (相手方に対する利益の供与)
1050 組
1051 第五十四条 弁護士は、受任している事件に関し、相手方に対し、
1052 利益の供与若しくは供応をし、又は申込みをしてはならない。
1053 第七章 共同事務所における規律
1054
1055 (遵守のための措置)
1056 第五十五条 複数の弁護士が法律事務所(弁護士法人の法律事務所
1057 である場合を除く を共にする場合(以下この法律事務所を「
1058 同事務所」という。
1059 )において、その共同事務所に所属する弁護
1060 士(以下「所属弁護士」という。
1061 )を監督する権限のある弁護士
1062 は、所属弁護士がこの規程を遵守するための必要な措置をとるよ
1063 うに努める。
1064 (秘密の保持)
1065 第五十六条 所属弁護士は、他の所属弁護士の依頼者について執務
1066 上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、又は利用してはな
1067 らない。その共同事務所の所属弁護士でなくなった後も、同様と
1068 する。
1069 (職務を行い得ない事件)
1070 第五十七条 所属弁護士は、他の所属弁護士(所属弁護士であった
1071 場合を含む。
1072 )が、第二十七条又は第二十八条の規定により職務
1073 、職務を行ってはならない。ただし
1074 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
1075 (同前ー受任後)共
1076 第五十八条 所属弁護士は、事件を受任した後に前条に該当する事
1077 由があることを知ったときは、速やかに、依頼者にその事情を告
1078 げて、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとらなければなら
1079 ない。
1080 (事件情報の記録等)
1081 第五十九条 所属弁護士は、職務を行い得ない事件の受任を防止す
1082 るため、他の所属弁護士と共同して、取扱い事件の依頼者、相手
1083 方及び事件名の記録その他の措置をとるように努める。
1084 (準用)
1085 第六十条 この章の規定は、弁護士が外国法事務弁護士と事務所を
1086 共にする場合に準用する。この場合において、第五十五条中「複
1087 」とあるのは「弁護士及び外国法事務弁護士が」と
1088 「共同事務所に所属する弁護士(以下「所属弁護士」という
1089 とあるのは「共同事務所に所属する外国法事務弁護士(以下「所
1090 。
1091 )
1092 」
1093 属外国法事務弁護士」という。
1094 )
1095 」と、
1096 「所属弁護士が」とあるの
1097 は「所属外国法事務弁護士が」と、第五十六条から第五十九条ま
1098 での規定中「他の所属弁護士」とあるのは「所属外国法事務弁護
1099 士」と、第五十七条中「第二十七条又は第二十八条」とあるのは
1100 、
1101 「外国特別会員基本規程第三十条の二において準用する第二十七
1102 条又は第二十八条」と読み替えるものとする。
1103 第八章 弁護士法人における規律
1104 (遵守のための措置)
1105 第六十一条 弁護士法人の社員である弁護士は、その弁護士法人の
1106 社員又は使用人である弁護士(以下「社員等」という。
1107 )及び使
1108
1109 用人である外国法事務弁護士がこの規程を遵守するための必要な
1110 措置をとるように努める。
1111 (秘密の保持)
1112 第六十二条 社員等は、その弁護士法人、他の社員等又は使用人で
1113 ある外国法事務弁護士の依頼者について執務上知り得た秘密を正
1114 当な理由なく他に漏らし、又は利用してはならない。社員等でな
1115 くなった後も、同様とする。
1116 (職務を行い得ない事件)
1117 第六十三条 社員等(第一号及び第二号の場合においては、社員等
1118 であった者を含む。
1119 )は、次に掲げる事件については、職務を行
1120 ってはならない。ただし、第四号に掲げる事件については、その
1121 弁護士法人が受任している事件の依頼者の同意がある場合は、こ
1122 の限りでない。
1123 一 社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を
1124 受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件であって、自らこ
1125 れに関与したもの
1126 二 社員等であった期間内に、その弁護士法人が相手方の協議を
1127 受けた事件で、その協議の程度及び方法が信頼関係に基づくと
1128 認められるものであって、自らこれに関与したもの
1129 三 その弁護士法人が相手方から受任している事件
1130 四 その弁護士法人が受任している事件(当該社員等が自ら関与
1131 しているものに限る。
1132 )の相手方からの依頼による他の事件
1133 (他の社員等との関係で職務を行い得ない事件)
1134 第六十四条 社員等は、他の社員等が第二十七条、第二十八条又は
1135 第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を
1136 行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、
1137 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
1138 2 社員等は、使用人である外国法事務弁護士が外国特別会員基本
1139 規程第三十条の二において準用する第二十七条、第二十八条又は
1140 第六十三条第一号若しくは第二号のいずれかの規定により職務を
1141 行い得ない事件については、職務を行ってはならない。ただし、
1142 職務の公正を保ち得る事由があるときは、この限りでない。
1143 (業務を行い得ない事件)
1144 第六十五条 弁護士法人は、次の各号のいずれかに該当する事件に
1145 ついては、その業務を行ってはならない。ただし、第三号に規定
1146 する事件については受任している事件の依頼者の同意がある場合
1147 及び第五号に規定する事件についてはその職務を行い得ない社員
1148 がその弁護士法人の社員の総数の半数未満であり、かつ、その弁
1149 護士法人に業務の公正を保ち得る事由がある場合は、この限りで
1150 ない。
1151 一 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件
1152 二 相手方の協議を受けた事件で、その協議の程度及び方法が信
1153
1154 頼関係に基づくと認められるもの
1155 三 受任している事件の相手方からの依頼による他の事件
1156 四 社員等又は使用人である外国法事務弁護士が相手方から受任
1157 している事件
1158 五 社員が第二十七条、第二十八条又は第六十三条第一号若しく
1159 は第二号のいずれかの規定により職務を行い得ない事件
1160 (同前)
1161 第六十六条 弁護士法人は、前条に規定するもののほか、次の各号
1162 のいずれかに該当する事件については、その業務を行ってはなら
1163 ない。ただし、第一号に掲げる事件についてその依頼者及び相手
1164 方が同意した場合、第二号に掲げる事件についてその依頼者及び
1165 他の依頼者のいずれもが同意した場合並びに第三号に掲げる事件
1166 についてその依頼者が同意した場合は、この限りでない。
1167 一 受任している他の事件の依頼者又は継続的な法律事務の提供
1168 を約している者を相手方とする事件
1169 二 依頼者の利益と他の依頼者の利益が相反する事件
1170 三 依頼者の利益とその弁護士法人の経済的利益が相反する事件
1171 (同前ー受任後)
1172 第六十七条 社員等は、事件を受任した後に第六十三条第三号の規
1173 定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、依頼者
1174 にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置をとら
1175 なければならない。
1176 2 弁護士法人は、事件を受任した後に第六十五条第四号又は第五
1177 号の規定に該当する事由があることを知ったときは、速やかに、
1178 依頼者にその事情を告げ、辞任その他の事案に応じた適切な措置
1179 をとらなければならない。
1180 (事件情報の記録等)
1181 第六十八条 弁護士法人は、その業務が制限されている事件を受任
1182 すること及びその社員等若しくは使用人である外国法事務弁護士
1183 が職務を行い得ない事件を受任することを防止するため、その弁
1184 護士法人、社員等及び使用人である外国法事務弁護士の取扱い事
1185 件の依頼者、相手方及び事件名の記録その他の措置をとるように
1186
1187 努める。
1188 (準用)
1189 第六十九条 第一章から第三章まで(第十六条、第十九条、第二十
1190 三条及び第三章中第二節を除く。
1191 )
1192 、第六章及び第九章から第十二
1193 章までの規定は弁護士法人に準用する。
1194 第九章 他の弁護士との関係における規律
1195 (名誉の尊重)
1196 第七十条 弁護士は、他の弁護士、弁護士法人及び外国法事務弁護
1197 士(以下「弁護士等」という。
1198 )との関係において、相互に名誉
1199 と信義を重んじる。
1200 (弁護士に対する不利益行為)
1201 第七十一条 弁護士は、信義に反して他の弁護士等を不利益に陥れ
1202 てはならない。
1203 (他の事件への不当介入)
1204 第七十二条 弁護士は、他の弁護士等が受任している事件に不当に
1205 介入してはならない。
1206 (弁護士間の紛議)
1207 第七十三条 弁護士は、他の弁護士等との間の紛議については、協
1208 議又は弁護士会の紛議調停による円満な解決に努める。
1209 第十章 裁判の関係における規律
1210 (裁判の公正と適正手続)
1211 第七十四条 弁護士は、裁判の公正及び適正手続の実現に努める。
1212 (偽証のそそのかし)
1213 第七十五条 弁護士は、偽証若しくは虚偽の陳述をそそのかし、又
1214 は虚偽と知りながらその証拠を提出してはならない。
1215 (裁判手続の遅延)
1216 第七十六条 弁護士は、怠慢により又は不当な目的のため、裁判手
1217 続を遅延させてはならない。
1218 (裁判官等との私的関係の不当利用)
1219 第七十七条 弁護士は、その職務を行うに当たり、裁判官、検察官
1220 その他裁判手続に関わる公職にある者との縁故その他の私的関係
1221 があることを不当に利用してはならない。
1222
1223 第十一章 弁護士会との関係における規律
1224 (弁護士法等の遵守)
1225 第七十八条 弁護士は、弁護士法並びに本会及び所属弁護士会の会
1226 則を遵守しなければならない。
1227 (委嘱事項の不当拒絶)
1228 第七十九条 弁護士は、正当な理由なく、会則の定めるところによ
1229 り、本会、所属弁護士会及び所属弁護士会が弁護士法第四十四条
1230 の規定により設けた弁護士会連合会から委嘱された事項を行うこ
1231 とを拒絶してはならない。
1232 第十二章 官公署との関係における規律
1233 (委嘱事項の不当拒絶)
1234 第八十条 弁護士は、正当な理由なく、法令により官公署から委嘱
1235 された事項を行うことを拒絶してはならない。
1236 (受託の制限)
1237 第八十一条 弁護士は、法令により官公署から委嘱された事項につ
1238 いて、職務の公正を保ち得ない事由があるときは、その委嘱を受
1239 けてはならない。
1240 第十三章 解釈適用指針
1241 (解釈適用指針)
1242 第八十二条 この規程は、弁護士の職務の多様性と個別性にかんが
1243 み、その自由と独立を不当に侵すことのないよう、実質的に解釈
1244 し適用しなければならない。第五条の解釈適用に当たって、刑事
1245 弁護においては、被疑者及び被告人の防御権並びに弁護人の弁護
1246 権を侵害することのないように留意しなければならない。
1247 2 第一章並びに第二十条から第二十二条まで、第二十六条、第三
1248 十三条、第三十七条第二項、第四十六条から第四十八条まで、第
1249 五十条、第五十五条、第五十九条、第六十一条、第六十八条、第
1250 七十条、第七十三条及び第七十四条の規定は、弁護士の職務の行
1251 動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用しなければな
1252 らない。
1253 附 則
1254 この規程は、平成十七年四月一日から施行する。
1255
1256 (出題趣旨)
1257 設問1は,貸金債権を譲り受けて請求する場合の請求を理由付ける事実の説明を
1258 求めるものである。訴訟物である権利の発生,取得及び行使を基礎付ける事実につ
1259 いて,条文を基礎とする実体法上の要件の観点から説明することが求められる。
1260 設問2は,時効の援用に関する考え方の相違が消滅時効の抗弁事実に及ぼす影響
1261 を問うものであり,実体法上の効果発生のための要件という観点から検討すること
1262 が求められる。
1263 設問3は,要件事実が民事訴訟の動態において果たす機能の理解を問うものであ
1264 る。時効完成前の催告(小問1)と時効完成後の債務承認(小問2)について,実
1265 体法上の効果,攻撃防御方法としての意味,相手方の認否といった観点から検討す
1266 ることが求められる。
1267 設問4は,私文書の成立の真正に関するいわゆる二段の推定の理解を問うもので
1268 ある。
1269 設問5は,弁護士倫理の問題であり,弁護士職務基本規程第52条に留意して検
1270 討することが求められる。
1271
1272 [法律実務基礎科目(刑事)]
1273 次の記述を読んで,後記の設問に答えなさい。
1274 1【事案】
1275 乙(男性,30歳,会社員)は,平成23年3月5日午後2時10分頃(以下,同日),会議
1276 出張のためA駅のホームのベンチに座って,午後2時45分発の特急電車の到着を待っていた。
1277 このとき乙は,会議に必要な書類などを入れた黒いキャリーバッグ(B社製,外側ポケット部分
1278 に金色の「B」のロゴが入っているもの)を持っており,キャリーバッグの外側ポケットに携帯
1279 電話を入れていた。そのうち,乙は,少し暑く感じたので,着ていたコートを脱ぎ,ベンチの背
1280 もたれに掛けた(位置関係については,別紙「見取図1」のとおり。)。
1281 乙が電車を待っている間,一人の男が,時折乙の方をうかがうような目つきをしながらホーム
1282 をうろついていた。その男は,白髪,身長約180センチメートルで紺色のスーツを着ており,
1283 手ぶらであったが,乙とその男の間は約3メートル離れていたので,乙の目から見て,男の着て
1284 いる紺色のスーツの生地が無地か柄物かは分からなかった。乙はその男と何回か目が合ったもの
1285 の,男が乙に話しかけてくる様子もなかった。午後2時10分以降,ホームには何本かの電車が
1286 到着したが,紺色のスーツを着た男はいずれの電車にも乗ろうとせず,ただホームをうろつくだ
1287 けであった。
1288 午後2時25分頃,乙は,新聞や飲み物を購入しようと思い立ち,キャリーバッグをホームの
1289 ベンチに残したまま,ホームの中央部分にある売店まで歩いて行き,新聞等を購入した。乙のい
1290 たベンチから売店までは,約15メートルの距離であった。売店は客で混み合っていたため,乙
1291 は新聞等を買うのに順番待ちで約5分かかった。
1292 乙は,買い物を終えた時,偶然そこにいた友人丙に声をかけられた。乙は,久しぶりに丙と出
1293 会ったことで丙との話に夢中になり,一瞬キャリーバッグのことを忘れて,丙と共に,キャリー
1294 バッグを置いたベンチとは反対方向に約5メートル歩いたところで,すぐにキャリーバッグのこ
1295 とを思い出してベンチの方向を振り返った。このとき,乙は,ベンチのそばに自分のキャリーバ
1296 ッグが見当たらないことに気付き,慌てて,丙に別れを告げてベンチに駆け戻ったが,ベンチの
1297 背もたれにコートだけが残っており,キャリーバッグはなくなっていた。
1298 乙はベンチの周囲を探したり,ホームの端から端まで走ったりしてキャリーバッグを探したが,
1299 どこにもなかったことから,誰かがキャリーバッグを持ち去ったに違いないと思い,ホームの階
1300 段を下りて,改札口の方へ走って行ってみた。乙は,改札口に向かう途中で,何人かの乗客が黒
1301 いキャリーバッグを持っていたのを見たが,いずれも金色の「B」のロゴが入ったものではなか
1302 った。
1303 そうしたところ,乙は,改札口の手前,乙の前方数メートルの地点に,金色の「B」のロゴが
1304 入った黒いキャリーバッグを引いている男を発見した。その男は,白髪で身長約180センチメ
1305 ートル,紺色の生地で細い縦じま模様のあるスーツを着ていた。乙は,走ってその男に追いつき,
1306 男の背後から,「おい,待て。」と声を掛けた。男は一瞬立ち止まり,振り返って乙を見たが,そ
1307 の途端に,それまで引いていたキャリーバッグを持ち上げ,走り出そうとする仕草を見せた。そ
1308 こで,乙が,男が持っているキャリーバッグに手を掛けて,「待て泥棒。そのキャリーバッグは
1309 俺のだぞ。」と言うと,男は,「何の証拠があってそんなことを言うんだ。」と言い返してきた。
1310 このため乙は,「お前は,さっき,ホームで俺の様子を見てただろう。そのキャリーバッグの中
1311 身を開けてみろ。俺の書類が入っているに違いない。」と言ったが,男は,「何の権限があってキ
1312 ャリーバッグを開けろなどと言うのだ。俺は急いでいるから手を離せ。」と言って,乙にキャリ
1313 ーバッグを渡そうとしなかった。このように二人が口論していたところ,午後2時40分頃,A
1314
1315 駅構内を主なパトロール場所としている警察官丁が通り掛かった。丁が,二人の大声を聞いて,
1316 「どうしたのですか。」と乙らに問いかけると,乙が,「この男が私のキャリーバッグを盗んで持
1317 ち去ろうとしていたのです。」と答え,これを聞いた男は怒った口調で,「何だと。これがあんた
1318 の物だという証拠もないのに,他人を泥棒呼ばわりするのか。」と乙に言った。丁は,
1319 「まあまあ,
1320 落ち着いて。」と二人をなだめながら,乙に,「このキャリーバッグがあなたの物だという証拠で
1321 もあるのですか。」と尋ねた。これに対し,乙が,「あ,そうでした。キャリーバッグの外側のポ
1322 ケットに私の携帯電話が入っているはずです。興奮していて携帯電話のことをすっかり忘れてい
1323 ました。」と言ったので,丁が,自分の携帯電話を取り出して,乙に対し,「では,あなたの携帯
1324 電話の番号を言ってください。」と言って,乙から聞いた携帯電話の番号に電話をかけてみたと
1325 ころ,男が持っていたキャリーバッグの外側ポケット内から携帯電話の着信音が鳴り始めた。こ
1326 れを聞いて乙が,「ほら,やっぱり俺のキャリーバッグじゃないか。」と男に言うと,男は,「俺
1327 は,このキャリーバッグが誰かの忘れ物だと思ったから,駅の事務室まで届けに行こうとしてい
1328 たところだ。あんたの物なら返すよ。」と言い出した。これに対して乙が,「おかしいぞ。さっき
1329 までそんなことは言っていなかったじゃないか。」と言うと,丁が,乙と男に対し,「ここでは周
1330 りの人の迷惑になりますから,ちょっとそこの事務室でお話を聞かせてください。」と言って,
1331 二人をA駅の事務室まで連れて行った(改札口付近の位置関係については,別紙「見取図2」の
1332 とおり。)。
1333 丁は,駅事務室において,男の事情聴取をした。このとき男は,「キャリーバッグは誰かの忘
1334 れ物だと思って,駅の事務室まで届けに行こうとしていただけだ。」などと話し,その際の男の
1335 話から,男の氏名が「甲」であること,住居不定,無職であることが分かった。また,丁が甲の
1336 前歴を照会したところ,甲には窃盗罪(置き引き)の前科が2犯あり,そのうち最近の前科につ
1337 いては,現在,執行猶予期間中であることが分かった。
1338 更に丁が,駅員の協力を得てホーム上に3台設置されている防犯カメラの画像を確認したとこ
1339 ろ,下記のとおりの画像が映っていた(3台の防犯カメラが撮影した画像は1台のモニター画面
1340 に映されていて,5分間隔で切り替わるようになっていた。)。
1341 そこで丁は,乙に被害届を出す意思があることを確認した上,午後3時30分,甲を窃盗の事
1342 実で緊急逮捕した。
1343 2【各防犯カメラの画像】
1344 [平成23年3月5日午後1時5分からの防犯カメラ1の画像(以下,同日)]
1345 ホームに到着した電車から降りた十数名の乗客が一斉に改札口に向かってホームの階段を下り
1346 て行く中で,同じ電車から降りてきた乗客の一人がホームに残った。その乗客は紺色のスーツを
1347 着た白髪の男性であること,また,手荷物を一切持っていないことが画面から判別できたが,ス
1348 ーツの生地に細いしま模様があるか否かは画面から判別できず,顔つきも身長も判別できなかっ
1349 た。その男は,ホームをうろつき,特急を含む何本もの電車が発着を繰り返しているにもかかわ
1350 らず,そのいずれにも乗ろうとしなかった。
1351 [午後2時10分からの防犯カメラ2の画像]
1352 乙と思われる男が,キャリーバッグを持ってホームにあるベンチに近づき,ベンチの前で着て
1353 いたコートを脱いでベンチの背もたれに掛け,キャリーバッグをベンチの傍らに置いた。紺色の
1354 スーツを着た別の男が,乙の前を何回か往復している。
1355 [午後2時25分からの防犯カメラ3の画像]
1356 ホームの売店に一人の男が近づいてきて,数分間順番待ちをして,新聞等を購入した後,別の
1357 男と話を始め,その男と共に売店から離れてベンチとは反対方向に数メートル歩いて行ったが,
1358
1359 すぐに引き返して,ベンチの方向に走って行った。
1360 なお,防犯カメラの時計は時報とほとんど誤差はないことが確認されている。キャリーバッグ
1361 がいつの時点でベンチからなくなったのかは,モニターが切り替わって他のカメラの画像を映し
1362 ていたため,画面からは確認できなかった。
1363 3【甲の逮捕後の捜査で判明した事実】
1364 @
1365
1366 甲の所持品の中に,改札済みの「B駅→A駅」の乗車券が1枚あった(B駅はA駅の隣駅
1367 である。切符に印字されたB駅での購入時刻は,3月5日午後0時55分であった。)。
1368
1369 A
1370
1371 AB両駅間の電車の所要時間は約3分である。
1372
1373 4【逮捕後の甲の弁解内容】
1374 「午後2時過ぎ頃にA駅に着いて,すぐにベンチにキャリーバッグが置かれているのに気付き,
1375 忘れ物に違いないと思って,親切心から駅の事務室に持って行こうとしたのです。そうしたとこ
1376 ろ,知らない男からいきなり泥棒呼ばわりされ,キャリーバッグを奪われそうになったため腹が
1377 立ち,しかも,この男のキャリーバッグだという証拠もありませんでしたから,その男にキャリ
1378 ーバッグを渡しませんでした。しかし,駆けつけてきた警察官が,男の携帯電話の番号に電話を
1379 かけたところ,その男のキャリーバッグだと分かったので,素直にキャリーバッグを渡したので
1380 す。ですから,キャリーバッグは盗んでいませんし,盗む気もありませんでした。」
1381 〔設問〕
1382 上記の1ないし3の各事実が裁判所において証拠上認定できることを前提とし,上記4の弁解
1383 内容を考慮して,甲に対する窃盗罪の成否に関する以下の各設問に答えよ。
1384 1
1385
1386 甲が,キャリーバッグをベンチから持ち去った人物であることを認定できるか否かについて,
1387 事実を摘示して説明せよ。
1388
1389 2
1390
1391 キャリーバッグに対する乙の占有の有無及び甲の窃盗の故意の有無について,判例の立場に
1392 立って,それぞれ事実を摘示して説明せよ。
1393
1394 別紙
1395
1396 見取図1
1397
1398 改
1399
1400 札
1401
1402 口
1403
1404 階
1405 段
1406
1407 ホーム
1408 ベンチ
1409
1410 コート
1411
1412 キャリー
1413 バッグ
1414
1415 販売口
1416
1417 商 品
1418
1419 売 店
1420
1421 別紙
1422
1423 見取図2
1424
1425 改
1426
1427 札
1428
1429 口
1430 駅
1431 事
1432 務
1433 室
1434 入口
1435
1436 乙が男に追いついた位置
1437
1438 階
1439 段
1440
1441 ホ ー ム
1442
1443 (出題趣旨)
1444 本問は,駅のホームで起こったキャリーバッグの置き引き事案について,具体的
1445 な事実に即して,窃盗罪の構成要件該当性と混同することなく甲の犯人性を検討で
1446 きるか,被害者乙のキャリーバッグに関する占有の事実及び占有の意思の有無を検
1447 討できるか,甲の弁解に沿う事実に留意しつつ,甲の窃盗の故意の有無を検討して
1448 妥当な結論を導くことができるか,という基本的な実務能力を問うものである。
1449
1450 [一般教養科目]
1451 次の文章は,渡辺浩著『日本政治思想史』の中の福沢諭吉の思想について述べた一節である。こ
1452 れを読んで,後記の各設問に答えなさい。
1453 (省
1454
1455 略)
1456
1457 〔設問1〕
1458 著者は,福沢の思想について「(省
1459
1460 略)」
1461 (下線部A)と述べる一方,
1462 「(省
1463
1464 略)」
1465 (下線部B)
1466
1467 とも述べている。下線部A,Bから読み取れる内容を踏まえ,福沢の思想に関する著者の見解を
1468 10行程度で要約しなさい。
1469 〔設問2〕
1470 著者は,文中で,「
1471 (省
1472
1473 略)」(下線部α)という問題を提起している。この問題提起に対する
1474
1475 あなたの見解を,他の見解に反論しつつ(例えば,あなたが一義的に計測する基準があるという
1476 意見なら,ないという意見に反論しつつ,あなたが一義的に計測する基準がないという意見なら,
1477 あるという意見に反論しつつ),20行程度で記述しなさい。
1478
1479 (出題趣旨)
1480 設問1は,福沢が理想的な文明の状態を想定しているという点で価値相対主義で
1481 はないこと,他方理想的な状態に照らして各文明の程度を相対化し,その文明の実
1482 情に即した対応をすべきと考える現実主義者でもあったこと,この二点を明確に捉
1483 えているかどうかを問うている。その内容を要約するには,下線部A,Bの「相対」
1484 の意味に対する正確な理解が求められる。設問2では,自説と他説とを明示した上,
1485 自説の根拠と他説への反論を説得的に展開することが必要となる。全体として指定
1486 の分量内で簡明に記述する能力も求められる。
1487
1488