1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,3:4:3〕)
7 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
8 T
9 【事実】
10 1.Aは,店舗を建設して料亭を開業するのに適した土地を探していたところ,平成2年(19
11 90年)8月頃,希望する条件に沿う甲土地を見つけた。
12 甲土地は,その当時,Bが管理していたが,登記上は,Bの祖父Cが所有権登記名義人とな
13 っている。Cは,妻に先立たれた後,昭和60年(1985年)4月に死亡した。Cには子と
14 してD及びEがいたが,Dは,昭和63年(1988年)7月に死亡した。Dの妻は,Dより
15 先に死亡しており,また,Bは,Dの唯一の子である。
16 2.Aが,平成2年(1990年)9月頃,Bに対し甲土地を購入したい旨を申し入れたところ,
17 Bは,その1か月後,Aに対し,甲土地を売却してもよいとする意向を伝えるとともに,「甲
18 土地は,登記上は祖父Cの名義になっているが,Cが死亡した後,その相続について話合いを
19 することもなくDが管理してきた。Dが死亡してからは,自分が管理をしている。」と説明し
20 た。Aが,「Bを所有権登記名義人とする登記にすることはできないのか。」とBに尋ねたとこ
21 ろ,Bは,「しばらく待ってほしい。」と答えた。
22 3.AとBは,平成2年(1990年)11月15日,甲土地を代金3600万円でBがAに売
23 却することで合意した。そして,その日のうちに,Aは,Bに代金の全額を支払った。また,
24 同月20日,Aは,甲土地を柵で囲み,その中央に「料亭「和南」建設予定地」という看板を
25 立てた。
26 4.平成3年(1991年)11月頃,Aは,甲土地上に飲食店舗と自宅を兼ねる乙建物を建設
27 し,同年12月10日,Aを所有権登記名義人とする乙建物の所有権の保存の登記がされた。
28 そして,Aは,平成4年(1992年)3月14日から,乙建物で料亭「和南」の営業を開始
29 した。なお,料亭「和南」の経営は,Aが個人の事業者としてするものである。
30 5.Aは,平成15年(2003年)2月1日に死亡した。Aの妻は既に死亡しており,FがA
31 の唯一の子であった。Fは,他の料亭で修業をしていたところ,Aが死亡したため,料亭「和
32 南」の営業を引き継いだ。乙建物は,Fが居住するようになり,また,同年4月21日,相続
33 を原因としてAからFへの所有権の移転の登記がされた。
34 〔設問1〕
35
36
37 【事実】1から5までを前提として,以下の及びに答えなさい。
38
39 Fは,Aが甲土地をBとの売買契約により取得したことに依拠して,Eに対し,甲土地の所
40 有権が自己にあることを主張したい。この主張が認められるかどうかを検討しなさい。
41
42
43
44 Fが,Eに対し,甲土地の占有が20年間継続したことを理由に,同土地の所有権を時効に
45 より取得したと主張するとき,【事実】3の下線を付した事実は,この取得時効の要件を論ず
46 る上で法律上の意義を有するか,また,法律上の意義を有すると考えられるときに,どのよう
47 な法律上の意義を有するか,理由を付して解答しなさい。
48
49 U
50
51 【事実】1から5までに加え,以下の【事実】6から17までの経緯があった。
52
53 【事実】
54 6.料亭「和南」は順調に発展し,名店として評判となった。そこで,Fは,「和南」ブランド
55 で,瓶詰の「和風だし」及びレトルト食品の「山菜おこわ」を販売することを考えるようにな
56 - 2 -
57
58 った。
59 7.まず,Fは,「和風だし」を2000箱分のみ製造し,二つの地域で試験的に販売すること
60 とした。そして,料亭「和南」とその周辺でF自らが1000箱分を販売するが,別の地域に
61 おける販売は,食料品販売業者のGに任せることとし,FがGに「和風だし」1000箱を販
62 売し,Gがそれを転売することとした。
63 8.「和風だし」は,一部に特殊な原材料が必要なことから,平成23年9月に製造する必要が
64 あった。しかし,試験販売の開始は,準備の都合上,平成24年3月からとされた。そこで,
65 Fは,「和風だし」2000箱分を製造した上,販売開始時期まで,どこかに保管することを
66 考えた。そして,甲土地のすぐ近くで,かつて質店を経営していたが,現在は廃業しているH
67 ならば,広い倉庫を所有しているだろうと考え,Hと交渉した結果,H所有の丙建物に,Fが
68 製造した「和風だし」を出荷まで保管してもらい,これに対しFが保管料を支払うこととなっ
69 た。
70 9.Fは,平成23年9月10日,Gとの間で,「和風だし」2000箱のうち1000箱をF
71 がGに対し代金500万円で売却し,丙建物で同月25日にFがGに現実に引き渡す旨の契約
72 を締結した。そして,平成23年9月25日,
73 「和風だし」2000箱が丙建物に運び込まれ,
74 そのうち1000箱がFからGに現実に引き渡された後直ちに,FとH,GとHは,それぞれ
75 【別紙】の内容の寄託契約を締結した。これらの結果,丙建物では,合わせて「和風だし」2
76 000箱が保管されることとなった。
77 なお,平成23年9月25日までに実際に製造された「和風だし」は予定どおり2000箱
78 分であり,それ以外には,「和風だし」は製造されていない。また,製造された「和風だし」
79 2000箱分は,種類及び品質が同一であり,包装も均一であった。
80 10.また,Fは,平成24年1月中には,料亭「和南」で飲食した顧客のために,お土産用「山
81 菜おこわ」の販売を始めることとし,製造する「山菜おこわ」の保管場所につきHに相談した。
82 Hは,既に「和風だし」の寄託を受けて丙建物が有効活用されていること,さらに,丙建物に
83 はなお保管場所に余裕があることから,Fの「山菜おこわ」を丙建物において無償で保管する
84 ことをFと合意した。
85 11.Fは,平成24年1月に入ると,「山菜おこわ」の製造を開始し,同月10日,Hの立会い
86 を得て,「山菜おこわ」500箱を丙建物に運び込んだ。
87 12.平成24年1月12日,Fは,これまで取引のなかった大手百貨店Qの本部から,「山菜お
88 こわ」をQ百貨店本店の地下1階食品売場で販売し,その評判が良ければ,「山菜おこわ」を
89 Q百貨店の全店舗の食品売場で販売したいとの申出を受けた。
90 13.Fは,平成24年1月16日,Qとの間で,丙建物に保管されている「山菜おこわ」500
91 箱をFがQに対し代金300万円で売却し,これを同月31日に丙建物で引き渡す旨の契約を
92 締結した。Fは,この売買契約が成立したことから,Qが「山菜おこわ」の販売を始めるまで
93 は,これを料亭「和南」で販売しないこととした。
94 14.Fは,Q百貨店で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえることになったことを大いに喜び,平
95 成24年1月22日,たまたまHが料亭「和南」を訪れた際,
96 「Q百貨店本店の食品売場に「山
97 菜おこわ」を置いてもらえることになった。その評判が良ければ,Q百貨店は,全店舗で「山
98 菜おこわ」を取り扱うことを申し出てくれている。「和南」の味を広める大きなチャンスだか
99 ら張り切っている。」とHに話した。
100 15.ところが,平成24年1月24日,丙建物に何者かが侵入し,丙建物内に保管されていた「和
101 風だし」2000箱のうち1000箱及び「山菜おこわ」500箱全てが盗取された。なお,
102 丙建物に何者かが侵入することを許したのは,その日はHが丙建物の施錠を忘れていたためで
103 ある。また,Fが,同月31日までに「山菜おこわ」500箱分を新たに製造することは不可
104 能である。
105 - 3 -
106
107 16.Qにおいて,この盗難事件を受け,Fとの取引を進めるかどうかについて社内で協議したと
108 ころ,Fの商品保管態勢が十分であるとはいえないとして,その経営姿勢に疑問が呈せられた。
109 そこで,Qは,平成24年2月1日,「山菜おこわ」500箱分の売買契約を解除すること及
110 び「山菜おこわ」販売に関するFQ間の交渉を打ち切ることをFに通知した。
111 17.なお,【事実】16までに記載した以外には,丙建物に保管されている「和風だし」及び「山
112 菜おこわ」について出し入れはなく,丙建物に侵入した者は不明であり盗品を取り戻すことは
113 不可能である。
114 また,「和風だし」及び「山菜おこわ」を丙建物で保管する行為は商行為ではなく,Hは商
115 人でない。
116 〔設問2〕
117
118 Gは,Hに対し,丙建物に存在する「和風だし」1000箱を自己に引き渡すよう求め
119
120 ている。これに対して,Hは,寄託された「和風だし」はFの物と合わせて2000箱であるとこ
121 ろ,その半分がもはや存在しないことと,残りの1000箱全てをGに引き渡せば,Fの権利を侵
122 害することとを理由に,Gの請求に応ずることを拒んでいる。このHの主張に留意しながら,Gの
123 する「和風だし」1000箱の引渡請求の全部又は一部が認められるか否かを検討しなさい。
124 〔設問3〕
125
126 Fは,Hに対し,「山菜おこわ」を目的とする寄託契約の債務不履行を理由として損害
127
128 賠償を請求しようと考えている。この債務不履行の成否について検討した上で,Fが,【事実】16
129 の下線を付した経過があったためQ百貨店の全店舗で「山菜おこわ」を取り扱ってもらえなくなっ
130 たことについての損害の賠償を請求することができるか否かについて論じなさい。
131
132 - 4 -
133
134 【別紙】
135 寄託契約書
136 第1条
137 寄託者は,受寄者に対し,料亭「和南」製「和風だし」1000箱(以下「本寄託物」という。)
138 を寄託し,受寄者は,これを受領した。
139 第2条
140 1
141
142 受寄者は,本寄託物を丙建物において保管する。
143
144 2
145
146 受寄者は,本寄託物を善良な管理者の注意をもって保管する。
147
148 第3条
149 1
150
151 受寄者が他の者(次項及び次条において「他の寄託者」という。)との寄託契約に基づいて本
152
153 寄託物と種類及び品質が同一である物を保管する場合において,受寄者は,その物と本寄託物と
154 を区別することなく混合して保管すること(以下「混合保管」という。)ができ,寄託者は,こ
155 れをあらかじめ承諾する。
156 2
157
158 前項の場合において,受寄者は,寄託者に対し,他の寄託者においても寄託物の混合保管がさ
159
160 れることを承諾していることを保証する。
161 第4条
162 寄託者及び受寄者は,寄託者及び他の寄託者が,混合保管をされた物について,それぞれ寄託し
163 た物の数量の割合に応じ,寄託物の共有持分権を有することを確認する。
164 第5条
165 受寄者は,本寄託物に係る保管料を別に定める方法で計算し,寄託者に請求する。
166 第6条
167 受寄者は,寄託者に対し,混合保管をされていた物の中から,寄託者の寄託に係るものと同一数
168 量のものを返還する。
169 〔以下の条項は,省略。〕
170
171 - 5 -
172
173 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
174
175 - 1 -
176
177 [民事系科目]
178 〔第2問〕(配点:100〔
179 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,2:5:3〕)
180 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
181 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,主に情報サービス事業を営む監査役会設置会社であ
182 り,その株式を東京証券取引所に上場している。
183 甲社の資本金は30億円,その発行済株式の総数は100万株である。
184 甲社の取締役は,平成20年6月に選任されたA,B,C及びDの4名であり,Aが代表取締
185 役社長である。なお,Aは,甲社の株式1万株を有している。
186 甲社の監査役は,平成19年6月に選任されたE,F及びGの3名であり,Eが常勤監査役,
187 F及びGが非常勤の社外監査役である。
188 2.甲社の定款には,(a)定時株主総会の議決権の基準日は,毎年3月31日とすること,(b)株主
189 総会は,取締役社長がこれを招集し,議長となること,(c)取締役の員数は,6名以内とするこ
190 と,(d)取締役の選任決議は,議決権を行使することができる株主の議決権の3分の1以上を有
191 する株主が出席し,その議決権の過半数をもって行うこと,(e)取締役の選任決議は,累積投票
192 によらないものとすること,(f)取締役会は,その決議によって取締役会長及び取締役社長各1
193 名を定めることができること,(g)事業年度は,4月1日から翌年3月31日までの1年とする
194 ことなどが定められている。
195 なお,甲社には,取締役の任期を短縮する旨の定款の定めや株主総会の決議はない。
196 3.甲社は,平成20年秋頃の経営環境の著しい悪化を受け,その業績及び株価は,共に下落の一
197 途をたどった。それにもかかわらず,Aは,効果的な経営立て直し策を実施できないままでいた
198 ため,甲社内外のAに対する評価は,日増しに厳しくなる一方であった。
199 これに危機感を抱いたB,C及びDは,Aに対し,Aは取締役会長となって一線を退き,新た
200 に外部から経営者を迎えて代表取締役社長とすることを求めた。結局,Aも,この求めに応じざ
201 るを得ず,Hを新たに甲社の代表取締役社長として迎えることに同意した。
202 これを受けて,平成21年6月に開催された甲社の定時株主総会において,Hが取締役に選任
203 され,就任し,また,その後に開かれた甲社の取締役会において,Hが代表取締役社長に選定さ
204 れ,Aは代表権のない取締役会長となった。
205 4.乙株式会社(以下「乙社」という。)は,設立以来,株主も取締役もPだけの会社であるが,
206 実際の事業活動は,ほとんど行っていない。
207 乙社は,平成21年7月に入り,金融業者から融資を受けて市場において甲社の株式を買い集
208 め,平成22年1月に,甲社の株式33万株を有するに至った。
209 5.平成22年6月に開催された甲社の定時株主総会(以下「22年総会」という。)では,その
210 終結の時をもって,取締役5名のうちHを除くA,B,C及びDの4名について取締役の任期が
211 満了するため,A,B,C及びDの4名を候補者とする取締役選任議案が会社提案として提出さ
212 れた。
213 ところが,甲社の株主である乙社から,上記の取締役選任につき,会社法第304条に基づき,
214 P,Q及びRの3名を候補者として追加する旨の議案が提出された。なお,乙社は,Dの選任に
215 ついては賛成する意向であった。
216 議長であるHは,事前に何も知らされていなかったためやや驚いたものの,淡々と議事を進め
217 ることとし,A,B,C,D,P,Q,Rの順に,候補者ごとに投票による採決をした。
218 投票による採決の結果,Hは,Aから上記の順に得票数(候補者の選任に賛成する議決権の数
219 をいう。以下同じ。)を集計し,Pの得票数を集計した時点で,出席株主の議決権の過半数の賛
220 成を得た候補者が4名に達したので,Q及びRの得票数については議場で集計しないで,B,C,
221 - 2 -
222
223 D及びPの4名だけが取締役に選任された旨を宣言した。なお,各候補者の実際の得票数等は,
224 次のとおりであった。
225 議決権を行使することができる株主の議決権の数:100万個
226 出席株主の議決権の数:77万個
227 各候補者の得票数
228 A:33万個
229 B:39万個
230 C:43万個
231 D:65万個
232 P:42万個
233 Q:41万個
234 R:40万個
235 6.22年総会の後に開かれた甲社の取締役会には,H,B,C,D及びPが取締役として,また,
236 E,F及びGが監査役として,それぞれ出席した。
237 この取締役会で,Pは,甲社が乙社に対して平成22年7月中に15億円の貸付けを無担保で
238 行う旨の提案をした(以下この貸付けを「本件貸付け」という。)。これに対し,説明が不十分で
239 あるとしてFが強く異議を述べたものの,この提案は,議決に加わらなかったPを除くH,B,
240 C及びDの賛成により承認された。
241 7.Fは,この取締役会の後に引き続いて開かれた甲社の監査役会でも,本件貸付けはさせるべき
242 でない旨を強く主張したが,E及びGは,これに取り合わなかった。最終的には,Eが,本件貸
243 付けについては問題視しないことを監査役会の方針とする旨の提案をし,Fが反対したものの,
244 Gは,この提案に賛成した。
245 8.E,F及びGは,平成23年6月に開催される甲社の定時株主総会(以下「23年総会」とい
246 う。)の終結の時をもって監査役の任期が満了するところ,同年3月に,Hは,甲社の監査役会
247 に対し,23年総会に提出する監査役選任議案の候補者は,E,Q及びRの3名としたい旨を伝
248 えた。
249 9.平成23年4月上旬に,Eが,甲社の監査役会において,上記の監査役選任議案の提出に同意
250 する旨の提案をしたが,F及びGが賛成しなかったため,この提案は可決されなかった。
251 他方,Fが,この監査役会において,E,F及びGの3名を候補者とする監査役選任議案(以
252 下「議案@」という。)を23年総会に提出することを取締役に対して請求する旨の提案をした。
253 この提案は,F及びGの賛成により,可決された。そこで,甲社の監査役会は,Hに対し,議案
254 @を23年総会に提出することを請求した。
255 10.平成23年4月下旬に,Pは,甲社の株主である乙社を代表して,甲社に対し,監査役3名の
256 選任を23年総会の目的とすること並びにE,Q及びRの3名を候補者とする監査役選任議案(以
257 下「議案A」という。)の要領を招集通知に記載することを請求した。なお,社債,株式等の振
258 替に関する法律第154条第3項所定の通知(いわゆる個別株主通知)に係る要件は満たされて
259 いた。
260 11.平成23年6月7日に,Hは,H,B,C,D及びPの賛成による取締役会決議に基づき,議
261 案@及び議案Aを含む23年総会に係る招集通知を発した。
262 12.平成23年6月29日に,Hが議長となって23年総会が開催された。この株主総会に監査役
263 として出席したFは,議案@及び議案Aの審議の際に,監査役の選任について意見を述べようと,
264 議長であるHに対して発言の機会を求めた。しかし,Hがこれを制止したため,Fは,意見を述
265 べることができなかった。
266 - 3 -
267
268 Hは,採決の結果,議案@については,出席した株主の議決権の過半数の賛成を得られなかっ
269 たことから,否決を宣言し,議案Aについては,出席した株主の議決権の過半数の賛成を得たこ
270 とから,可決を宣言した。これに基づき,E,Q及びRが監査役に就任した。
271 〔設問1〕
272
273 上記5のとおり,22年総会において,Hは,B,C,D及びPの4名だけが取締役
274
275 に選任された旨を宣言したが,この取締役選任の当否について,論じなさい。
276 なお,解答に当たっては,次の2点を前提としてよい。
277 ア.22年総会における甲社の会社提案の提出及び乙社による会社法第304条に基づく議案の
278 提出は,いずれも適法であったこと。
279 イ.22年総会の日から3か月以内に,株主総会の決議の取消しの訴えは,提起されなかったこ
280 と。
281 〔設問2〕
282
283
284 上記1から上記7までを前提として,次の及びに答えなさい。
285
286 Hが甲社を代表して本件貸付けを実行しようとしている場合,A及びFが本件貸付けをあら
287 かじめ阻止するために行使することができる会社法上の権限について,論じなさい。
288
289
290
291 Hが甲社を代表して本件貸付けを実行し,その後,乙社が倒産し,甲社が本件貸付けの返済
292 を受けられなくなった場合,A及びFは,本件貸付けに関し,H,D及びPに対し,会社法上,
293 どのような責任追及をすることができるかについて,論じなさい。
294
295 〔設問3〕
296
297 上記12の後,A及びFは,23年総会において否決を宣言された議案@及び可決を宣
298
299 言された議案Aにつき,株主総会の決議の取消しの訴えを提起しようと検討している。この訴え
300 に関して考えられるA及びFの主張並びにその当否について,論じなさい。
301
302 - 4 -
303
304 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
305
306 - 1 -
307
308 [民事系科目]
309 〔第3問〕(配点:100〔
310 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,3.5:4:2.5〕)
311 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
312 【事例】
313 Xは,Aに対し,300万円を貸し渡したが,返済がされないまま,Aについて破産手続が開
314 始された。Xは,BがAの上記貸金返還債務を連帯保証したとして,Bに対し,連帯保証債務の
315 履行を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟1」という。)。
316 第1回口頭弁論期日において,被告Bは,保証契約の締結の事実を否認した。
317 原告Xは,書証として,連帯保証人欄にBの記名及び印影のある金銭消費貸借契約書兼連帯保
318 証契約書(資料参照。以下「本件連帯保証契約書」という。なお,その作成者は証拠説明書にお
319 いてX,A及びBとされている。)を提出した。
320 Bは,本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の印影は自分の印章により顕出されたものであるが,
321 この印章は,日頃から自分の所有するアパートの賃貸借契約の締結等その管理全般を任せている
322 娘婿Cに預けているものであり,押印の経緯は分からないと述べた。Xが主張の補充を検討した
323 いと述べたことから,裁判所は,口頭弁論の続行の期日を指定した。
324 以下は,第1回口頭弁論期日の後にXの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でされた会
325 話である。
326 弁護士L:証拠として本件連帯保証契約書がありますから,立証が比較的容易な事件だと考え
327 ていましたが,予想していなかった主張が被告から出てきました。被告の主張は,現
328 在のところ裏付けもなく,そのまま鵜呑みにすることはできませんから,当初の請求
329 原因を維持し,本件連帯保証契約書を立証の柱としていく方針には変わりはありませ
330 ん。もっとも,Xによれば,本件連帯保証契約書の作成の経緯は「主債務者AがCと
331 ともにX方を訪れた上,連帯保証人欄にあらかじめBの記名がされ,Bの押印のみが
332 ない状態の契約書を一旦持ち帰り,後日,AとCがBの押印のある本件連帯保証契約
333 書を持参した」ということのようですから,こちら側から本件連帯保証契約書の作成
334 状況を明らかにしていくことはなかなか難しいと思います。
335 修習生P:二段の推定を使えば,本件連帯保証契約書の成立の真正を立証できますから,それ
336 で十分ではないでしょうか。
337 弁護士L:確かに,保証契約を締結した者がB本人であるとの前提に立てば,二段の推定を考
338 えていけば足りるでしょう。他方で,仮にCがBから印章を預かっていたとすると,
339 CがBの代理人として本件連帯保証契約書を作成したということも十分考えられま
340 す。
341 修習生P:しかし,本件連帯保証契約書には「B代理人C」と表示されていないので,代理人
342 Cが作成した文書には見えないのですが。
343 弁護士L:代理人が本人に代わって文書を作成する場合に,代理人自身の署名や押印をせず,
344 直接本人の氏名を記載したり,本人の印章で押印したりする場合があり,このような
345 場合を署名代理と呼んでいます。その法律構成については,考え方が分かれるところ
346 ですが,ここでは取りあえず通常の代理と同じであると考え,かつ,代理人の作成し
347 た文書の場合,その文書に現れているのは代理人の意思であると考えると,本件連帯
348 保証契約書の作成者は代理人Cとなります。
349 そこで,私は,念のため,第2の請求原因として,Bではなくその代理人Cが署名
350 - 2 -
351
352 代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加し,敗訴したときに
353 は無権代理人Cに対し民法第117条の責任を追及する訴えを提起することを想定し
354 て,Cに対し,訴訟告知をしようと考えています。
355 修習生P:訴訟告知ですか。余り勉強しない分野ですのでよく調べておきます。
356 しかし,本件連帯保証契約書を誰が作成したかが明らかでないからといって,第2
357 の請求原因を追加する必要までありますか。裁判所が審理の結果を踏まえてCがBの
358 代理人として保証契約を締結したと認定すれば足りるのではないでしょうか。最高裁
359 判所の判決にも,傍論ながら,契約の締結が当事者本人によってされたか,代理人に
360 よってされたかは,その法律効果に変わりがないからとして,当事者の主張がないに
361 もかかわらず契約の締結が代理人によってされたものと認定した原判決が弁論主義に
362 反しないと判示したもの(最高裁判所昭和33年7月8日第三小法廷判決・民集12
363 巻11号1740頁)があるようですが。
364 弁護士L:その判例の読み方にはやや難しいところがありますから,もう少し慎重に考えてく
365 ださい。先にも言ったとおり,本件連帯保証契約書の作成者が代理人Cであるという
366 前提に立つと,本件連帯保証契約書において保証意思を表示したのは代理人Cである
367 と考えられ,その効果がBに帰属するためには,BからCに対し代理権が授与されて
368 いたことが必要となります。そうだとすると,第2の請求原因との関係では,Bから
369 Cへの代理権授与の有無が主要な争点になるものと予想され,本件連帯保証契約書が
370 証拠として持つ意味も当初の請求原因とは違ってきますね。なぜだか分かりますか。
371 修習生P:二段の推定が使えるかどうかといったことでしょうか。
372 弁護士L:良い機会ですから,当初の請求原因(請求を基礎付ける事実)が,@XA間におけ
373 る貸金返還債務の発生原因事実,AXB間における保証契約の締結,BAの保証契約
374 が書面によること及びC@の貸金返還債務の弁済期の到来であり,第2の請求原因(請
375 求を基礎付ける事実)が,@XA間における貸金返還債務の発生原因事実,A代理人
376 Cが本人Bのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び
377 法律行為),BAの保証契約の締結に先立って,BがCに対し,同契約の締結につい
378 ての代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実),CAの保証契約が書面によ
379 ること及びD@の貸金返還債務の弁済期の到来であるとして,処分証書とは何か,そ
380 れによって何がどのように証明できるかといった基本に立ち返って考えてみましょう。
381 〔設問1〕
382
383
384 Xが当初の請求原因Aの事実を立証する場合と第2の請求原因Bの事実を立証する場合と
385
386 で,本件連帯保証契約書が持つ意味や,同契約書中にBの印章による印影が顕出されているこ
387 とが持つ意味にどのような違いがあるか。弁護士Lと司法修習生Pの会話を踏まえて説明せよ。
388
389
390 Xが第2の請求原因を追加しない場合においても,裁判所がCはBの代理人として本件連帯
391 保証契約書を作成したとの心証を持つに至ったときは,裁判所は,審理の結果を踏まえて,C
392 がBの代理人として保証契約を締結したと認定して判決の基礎とすることができるというPの
393 見解の問題点を説明せよ。
394
395 【事例(続き)】
396 第2回口頭弁論期日において,原告Xは,第2の請求原因として,被告Bではなくその代理人
397 Cが署名代理の方式によりBのために保証契約を締結した旨の主張を追加した。Bは,第2の請
398 求原因に係る請求原因事実のうち,保証契約の締結に先立ちBがCに対し同契約の締結について
399 の代理権を授与したこと(代理権の発生原因事実)を否認し,代理人Cが本人Bのためにするこ
400 とを示してXとの間で保証契約を締結したこと(顕名及び法律行為)は知らないと述べた。
401 - 3 -
402
403 第3回口頭弁論期日において,Xは,第3の請求原因として,Xは,Cには保証契約を締結す
404 ることについての代理権があるものと信じ,そのように信じたことについて正当な理由があるか
405 ら,民法第110条の表見代理が成立する旨の主張を追加した。Bは,表見代理の成立の要件と
406 なる事実のうち,基本代理権の授与として主張されている事実は認め,その余の事実を否認した。
407 同期日の後,Xは,Cに対し,訴訟告知をし,その後,BもCに対して訴訟告知をしたが,C
408 は,X及びBのいずれの側にも参加しなかった。
409 裁判所は,審理の結果,表見代理が成立することを理由として,XのBに対する請求を認容す
410 る判決を言い渡し,同判決は確定した。
411 Bは,CがBから代理権を与えられていないにもかかわらず,Xとの間で保証契約を締結した
412 ことによって訴訟1の確定判決において支払を命じられた金員を支払い,損害を被ったとして,
413 Cに対し,不法行為に基づき損害賠償を求める訴えを提起した(以下,この訴訟を「訴訟2」と
414 いう。)。
415 〔設問2〕
416 訴訟2においてBが,@CがBのためにすることを示してXとの間で保証契約を締結したこと,
417 A@の保証契約の締結に先立って,Cが同契約の締結についての代理権をBから授与されたことは
418 なかったこと,を主張した場合において,Cは,上記@又はAの各事実を否認することができるか。
419 Bが訴訟1においてした訴訟告知に基づく判決の効力を援用した場合において,Cの立場から考え
420 られる法律上の主張とその当否を検討せよ。
421 【事例(続き)】
422 以下は,訴訟1の判決が確定した後に原告Xの訴訟代理人弁護士Lと司法修習生Pとの間でさ
423 れた会話である。
424 弁護士L:今回は幸いにして勝訴することができましたが,私たちの依頼者Xとしては,仮にB
425 に敗訴することがあったとしても,少なくともCの責任は問いたいところでした。そこ
426 で,B及びCに対する各請求がいずれも棄却されるといういわゆる「両負け」を避ける
427 ため,今回は訴訟告知をしましたが,民事訴訟法にはほかにも「両負け」を避けるため
428 の制度があることを知っていますか。
429 修習生P:同時審判の申出がある共同訴訟でしょうか。
430 弁護士L:そうですね。良い機会ですから,今回の事件の事実関係の下で同時審判の申出がある
431 共同訴訟によったとすれば,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,原告
432 が「両負け」を避けることができたのか,整理してみてください。例えば,以下の事案
433 ではどうなるでしょうか。
434 (事案)XがB及びCを共同被告として訴えを提起し,Bに対しては有権代理を前提として保証債
435 務の履行を求め,Cに対しては民法第117条に基づく責任を追及する請求をし,同時審判
436 の申出をした。第一審においては,Cに対する代理権授与が認められないという理由で,B
437 に対する請求を棄却し,Cに対する請求を認容する判決がされた。
438 〔設問3〕
439 同時審判の申出がある共同訴訟において,どのようにして,どの程度まで審判の統一が図られ,
440 原告の「両負け」を避けることができるか。上記(事案)の第一審の判決に対し,@Cのみが控訴
441 し,Xは控訴しなかった場合と,AC及びXが控訴した場合とを比較し,控訴審における審判の範
442 囲との関係で論じなさい。
443 - 4 -
444
445 【資料】
446 金銭消費貸借契約書兼連帯保証契約書
447 平成○○年○月○日
448 住
449
450 所
451
452 ○○県○○市・・・
453 (略)
454
455 貸
456
457 主
458
459 X
460
461 住
462
463 所
464
465 ○○県○○市・・・
466 (略)
467
468 借
469
470 主
471
472 A
473
474 住
475
476 所
477
478 ○○県○○市・・・
479 (略)
480
481 連帯保証人
482 1
483
484 B
485
486 印
487
488 印
489
490 印
491
492 本日,借主は,貸主から金三百萬円を次の約定で借入れ,受領した。
493 弁済期
494
495 平成○○年○月○日
496
497 利
498
499 年3パーセント(各月末払)
500
501 息
502
503 損害金
504 2
505
506 年10パーセント
507
508 借主が次の各号の一にでも該当したときは,借主は何らの催告を要しないで期限の利益を失い,
509 元利金を一時に支払わなければならない。
510
511
512 第三者から仮差押え,仮処分又は強制執行を受けたとき
513 ・・・・
514 (略)
515
516 3
517
518 連帯保証人は,借主がこの契約によって負担する一切の債務について,借主と連帯して保証債務
519 を負う。
520
521 - 5 -
522
523