1 論文式試験問題集[刑事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲及び乙の罪責について,
9 具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別法
10 違反の点を除く。
11
12 )。
13
14
15 1
16
17 A合同会社(以下「A社」という。
18
19 )は,
20 社員甲,
21 社員B及び社員Cの3名で構成されており,
22
23 同社の定款において,
24 代表社員は甲と定められていた。
25
26
27
28 2
29
30 甲は,
31 自己の海外での賭博費用で生じた多額の借入金の返済に窮していたため,
32 知人であるD
33 から個人で1億円を借り受けて返済資金に充てようと考え,
34 Dに対し,
35
36 「借金の返済に充てたいの
37 で,
38 私に1億円を融資してくれないか。
39
40 」と申し入れた。
41
42
43 Dは,
44 相応の担保の提供があれば,
45 損をすることはないだろうと考え,
46 甲に対し,
47
48 「1億円に見
49 合った担保を提供してくれるのであれば,
50 融資に応じてもいい。
51
52 」と答えた。
53
54
55
56 3
57
58 甲は,
59 A社が所有し,
60 甲が代表社員として管理を行っている東京都南区川野山○−○−○所在
61 の土地一筆(時価1億円相当。
62
63 以下「本件土地」という。
64
65 )に第一順位の抵当権を設定することに
66 より,
67 Dに対する担保の提供を行おうと考えた。
68
69
70 なお,
71 A社では,
72 同社の所有する不動産の処分・管理権は,
73 代表社員が有していた。
74
75 また,
76 会
77 社法第595条第1項各号に定められた利益相反取引の承認手続については,
78 定款で,
79 全社員が
80 出席する社員総会を開催した上,
81 同総会において,
82 利益相反取引を行おうとする社員を除く全社
83 員がこれを承認することが必要であり,
84 同総会により利益相反取引の承認が行われた場合には,
85
86 社員の互選により選任された社員総会議事録作成者が,
87 その旨記載した社員総会議事録を作成の
88 上,
89 これに署名押印することが必要である旨定められていた。
90
91
92
93 4
94
95 その後,
96 甲は,
97 A社社員総会を開催せず,
98 社員B及び社員Cの承認を得ないまま,
99 Dに対し,
100
101 1億円の融資の担保として本件土地に第一順位の抵当権を設定する旨申し入れ,
102 Dもこれを承諾
103 したので,
104 甲とDとの間で,
105 甲がDから金1億円を借り入れることを内容とする消費貸借契約,
106
107 及び,
108 甲の同債務を担保するためにA社が本件土地に第一順位の抵当権を設定することを内容と
109 する抵当権設定契約が締結された。
110
111
112 その際,
113 甲は,
114 別紙の「社員総会議事録」を,
115 その他の抵当権設定登記手続に必要な書類と共
116 にDに交付した。
117
118 この「社員総会議事録」は,
119 実際には,
120 平成××年××月××日,
121 A社では社
122 員総会は開催されておらず,
123 社員総会において社員B及び社員Cが本件土地に対する抵当権設定
124 について承認を行っていなかったにもかかわらず,
125 甲が議事録作成者欄に「代表社員甲」と署名
126 し,
127 甲の印を押捺するなどして作成したものであった。
128
129
130 Dは,
131 これらの必要書類を用いて,
132 前記抵当権設定契約に基づき,
133 本件土地に対する第一順位
134 の抵当権設定登記を行うとともに,
135 甲に現金1億円を交付した。
136
137
138 なお,
139 その際,
140 Dは,
141 会社法及びA社の定款で定める利益相反取引の承認手続が適正に行われ,
142
143 抵当権設定契約が有効に成立していると信じており,
144 そのように信じたことについて過失もなか
145 った。
146
147
148 甲は,
149 Dから借り入れた現金1億円を,
150 全て自己の海外での賭博費用で生じた借入金の返済に
151 充てた。
152
153
154
155 5
156
157 本件土地に対する第一順位の抵当権設定登記及び1億円の融資から1か月後,
158 甲は,
159 A社所有
160 不動産に抵当権が設定されていることが取引先に分かれば,
161 A社の信用が失われるかもしれない
162 と考えるようになり,
163 Dに対し,
164
165 「会社の土地に抵当権が設定されていることが取引先に分かると
166 恥ずかしいので,
167 抵当権設定登記を抹消してくれないか。
168
169 登記を抹消しても,
170 土地を他に売却し
171 たり他の抵当権を設定したりしないし,
172 抵当権設定登記が今後必要になればいつでも協力するか
173 ら。
174
175 」などと申し入れた。
176
177 Dは,
178 抵当権設定登記を抹消しても抵当権自体が消滅するわけではない
179 - 2 -
180
181 し,
182 約束をしている以上,
183 甲が本件土地を他に売却したり他の抵当権を設定したりすることはな
184 く,
185 もし登記が必要になれば再び抵当権設定登記に協力してくれるだろうと考え,
186 甲の求めに応
187 じて本件土地に対する第一順位の抵当権設定登記を抹消する手続をした。
188
189
190 なお,
191 この時点において,
192 甲には,
193 本件土地を他に売却したり他の抵当権を設定したりするつ
194 もりは全くなかった。
195
196
197 6
198
199 本件土地に対する第一順位の抵当権設定登記の抹消から半年後,
200 甲は,
201 知人である乙から,
202
203 「本
204 件土地をA社からEに売却するつもりはないか。
205
206 」との申入れを受けた。
207
208
209 乙は,
210 Eから,
211
212 「本件土地をA社から購入したい。
213
214 本件土地を購入できれば乙に仲介手数料を支
215 払うから,
216 A社と話を付けてくれないか。
217
218 」と依頼されていたため,
219 A社代表社員である甲に本件
220 土地の売却を持ち掛けたものであった。
221
222
223 しかし,
224 甲は,
225 Dとの間で,
226 本件土地を他に売却したり他の抵当権を設定したりしないと約束
227 していたことから,
228 乙の申入れを断った。
229
230
231
232 7
233
234 更に半年後,
235 甲は,
236 再び自己の海外での賭博費用で生じた多額の借入金の返済に窮するように
237 なり,
238 その中でも暴力団関係者からの5000万円の借入れについて,
239 厳しい取立てを受けるよ
240 うになったことから,
241 その返済資金に充てるため,
242 乙に対し,
243
244 「暴力団関係者から借金をして厳し
245 い取立てを受けている。
246
247 その返済に充てたいので5000万円を私に融資してほしい。
248
249 」などと申
250 し入れた。
251
252
253 乙は,
254 甲の借金の原因が賭博であり,
255 暴力団関係者以外からも多額の負債を抱えていることを
256 知っていたため,
257 甲に融資を行っても返済を受けられなくなる可能性が高いと考え,
258 甲による融
259 資の申入れを断ったが,
260 甲が金に困っている状態を利用して本件土地をEに売却させようと考え,
261
262 甲に対し,
263
264 「そんなに金に困っているんだったら,
265 以前話した本件土地をA社からEに売却する件
266 を,
267 前向きに考えてみてくれないか。
268
269 」と申し入れた。
270
271
272 甲は,
273 乙からの申入れに対し,
274
275 「実は,
276 既に,
277 金に困ってDから私個人名義で1億円を借り入れ
278 て,
279 その担保として会社に無断で本件土地に抵当権を設定したんだ。
280
281 その後で抵当権設定登記だ
282 けはDに頼んで抹消してもらったんだけど,
283 その時に,
284 Dと本件土地を売ったり他の抵当権を設
285 定したりしないと約束しちゃったんだ。
286
287 だから売るわけにはいかないんだよ。
288
289 」などと事情を説明
290 した。
291
292
293 乙は,
294 甲の説明を聞き,
295 甲に対し,
296
297 「会社に無断で抵当権を設定しているんだったら,
298 会社に無
299 断で売却したって一緒だよ。
300
301 Dの抵当権だって,
302 登記なしで放っておくDが悪いんだ。
303
304 本件土地
305 をEに売却すれば,
306 1億円にはなるよ。
307
308 僕への仲介手数料は1000万円でいいから。
309
310 君の手元
311 には9000万円も残るじゃないか。
312
313 それだけあれば暴力団関係者に対する返済だってできるだ
314 ろ。
315
316 」などと言って甲を説得した。
317
318
319 甲は,
320 乙の説得を受け,
321 本件土地を売却して得た金員で暴力団関係者への返済を行えば,
322 暴力
323 団関係者からの取立てを免れることができると考え,
324 本件土地をEに売却することを決意した。
325
326
327
328 8
329
330 数日後,
331 甲は,
332 A社社員B,
333 同社員C及びDに無断で,
334 本件土地をEに売却するために必要な
335 書類を,
336 乙を介してEに交付するなどして,
337 A社が本件土地をEに代金1億円で売却する旨の売
338 買契約を締結し,
339 Eへの所有権移転登記手続を完了した。
340
341 甲は,
342 乙を介して,
343 Eから売買代金1
344 億円を受領した。
345
346
347 なお,
348 その際,
349 Eは,
350 甲が本件土地を売却して得た金員を自己の用途に充てる目的であること
351 は知らず,
352 A社との正規の取引であると信じており,
353 そのように信じたことについて過失もなか
354 った。
355
356
357 甲は,
358 Eから受領した1億円から,
359 乙に約束どおり1000万円を支払ったほか,
360 5000万
361 円を暴力団関係者への返済に充て,
362 残余の4000万円については,
363 海外での賭博に費消した。
364
365
366 乙は,
367 甲から1000万円を受領したほか,
368 Eから仲介手数料として300万円を受領した。
369
370
371
372 - 3 -
373
374 【別
375
376 紙】
377 社員総会議事録
378
379 1
380
381 開催日時
382 平成××年××月××日
383
384 2
385
386 開催場所
387 A合同会社本社特別会議室
388
389 3
390
391 社員総数
392 3名
393
394 4
395
396 出席社員
397 代表社員
398
399 甲
400
401 社員
402
403 B
404
405 社員
406
407 C
408
409 社員Bは,
410 互選によって議長となり,
411 社員全員の出席を得て,
412 社員総会の開会を宣言するとともに
413 下記議案の議事に入った。
414
415
416 なお,
417 本社員総会の議事録作成者については,
418 出席社員の互選により,
419 代表社員甲が選任された。
420
421
422 記
423 議案
424
425 当社所有不動産に対する抵当権設定について
426
427 議長から,
428 代表社員甲がDに対して負担する1億円の債務について,
429 これを被担保債権とする第一
430 順位の抵当権を当社所有の東京都南区川野山○−○−○所在の土地一筆に設定したい旨の説明があ
431 り,
432 これを議場に諮ったところ,
433 全員異議なくこれを承認した。
434
435
436 なお,
437 代表社員甲は,
438 特別利害関係人のため,
439 決議に参加しなかった。
440
441
442 以上をもって議事を終了したので,
443 議長は閉会を宣言した。
444
445
446 以上の決議を証するため,
447 この議事録を作成し,
448 議事録作成者が署名押印する。
449
450
451 平成××年××月××日
452 議事録作成者
453
454 - 4 -
455
456 代表社員甲
457
458 印
459
460 論文式試験問題集[刑事系科目第2問]
461
462 - 1 -
463
464 [刑事系科目]
465 〔第2問〕(配点:100)
466 次の【事例】を読んで,
467 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
468
469
470 【事
471 1
472
473 例】
474 平成23年10月3日,
475 覚せい剤取締法違反の検挙歴を有する者がH県警察I警察署を訪れ,
476
477
478 司法警察員Kに対し,
479 「昨日(同月2日),
480 H県I市J町にある人材派遣会社のT株式会社の社長
481 室で,
482 代表取締役社長甲から,
483 覚せい剤様の白色粉末を示され,
484 『シャブをやらないか。
485
486 安くす
487 るよ。
488
489 』などと覚せい剤の購入を勧められた。
490
491 自分は断ったけれども,
492 甲は,
493 裏で手広く覚せい
494 剤の密売を行っているといううわさがある。
495
496 」旨の情報提供をした。
497
498 そこで,
499 司法警察員Kは,
500
501 部下に,
502 T株式会社についての内偵捜査を命じた。
503
504 同社は,
505 H県I市J町○丁目△番地に平屋建
506 ての事務所建物を設けて人材派遣業を営んでおり,
507 代表取締役社長の甲以外に数名の従業員が同
508 事務所で働いていることが判明した。
509
510 また,
511 司法警察員Kの部下が同事務所を見張っていたとこ
512 ろ,
513 かつて覚せい剤取締法違反で検挙したことのある者数名が同事務所に出入りしているのが確
514 認できた。
515
516 その後,
517 司法警察員Kは,
518 部下に,
519 同事務所に出入りしている人物1名に対する職務
520 質問を実施させたが,
521 その者はこれに応じなかったため,
522 司法警察員Kは,
523 証拠隠滅を防ぐには,
524
525 すぐにT株式会社に対する捜索差押えを実施する必要があると考えた。
526
527 そこで,
528 司法警察員Kは,
529
530 同月5日,
531 H地方裁判所裁判官に,
532 被疑者を「甲」,
533 犯罪事実の要旨を「被疑者は,
534 営利の目的
535 で,
536 みだりに,
537 平成23年10月2日,
538 H県I市J町○丁目△番地所在のT株式会社において,
539
540 覚せい剤若干量を所持した。
541
542 」として捜索差押許可状の発付を請求した。
543
544 これを受けて,
545 H地方
546 裁判所裁判官は,
547 捜索すべき場所を「H県I市J町○丁目△番地T株式会社」,
548 差し押さえるべ
549 き物を「本件に関連する覚せい剤,
550 電子秤,
551 ビニール袋,
552 はさみ,
553 注射器,
554 手帳,
555 メモ,
556 ノート,
557
558 携帯電話」とする捜索差押許可状を発付した。
559
560
561 2
562
563 司法警察員Kらは,
564 同月5日午後3時,
565 T株式会社事務所に赴き,
566 応対に出た同社従業員のW
567 に対し,
568 「警察だ。
569
570 社長のところに案内してくれ。
571
572 」と告げて同事務所に入り,
573 Wの案内で社長室
574 に入ったところ,
575 そこには,
576 甲及び同社従業員の乙の2名がいた。
577
578 司法警察員Kらは,
579 甲に前記
580 捜索差押許可状を呈示した上で,
581 捜索に着手し,
582 同社長室内において,
583 電子秤,
584 チャック付きの
585 小型ビニール袋100枚,
586 注射器50本のほか甲の携帯電話を発見してこれらを差し押さえた。
587
588
589 捜索が継続中の同日午後3時16分,
590 T株式会社事務所に宅配便荷物2個が届き,
591 Wがこれ
592 を受領した。
593
594 同宅配便荷物は,
595 1個が甲宛て,
596 もう1個は乙宛てであったが,
597 いずれも差出人
598 は「U株式会社」,
599 内容物については「書籍」と記載されていた上,
600 伝票の筆跡は酷似し,
601 外箱
602 も同じであった。
603
604 Wは,
605 これを社長室に届け,
606 甲宛ての荷物を甲に,
607 乙宛ての荷物を乙に渡し
608 た。
609
610 甲は,
611 手に持った荷物に貼付されていた伝票を見た後,
612 乙の顔を見て,
613 「受け取ってしまっ
614 たものは仕方がないよな。
615
616 今更返せないよな。
617
618 」などと言い,
619 この荷物を自分の足下に置いた。
620
621
622 これに対し,
623 乙も,
624 甲の顔を見ながら,
625
626 「そうですね。
627
628 仕方ないですね。
629
630 」などと言い,
631 同じく,
632
633 受け取った荷物を自分の足下に置いた。
634
635 このやり取りを不審に思った司法警察員Kは,
636 甲及び
637 乙に,
638 「どういう意味か。
639
640 」と聞いたが,
641 甲及び乙は,
642 いずれも,
643 無言であった。
644
645
646 司法警察員Kは,
647 差し押さえた甲の携帯電話の確認作業を行ったところ,
648 丙なる人物から送
649 信された「ブツを送る。
650
651 いつものようにさばけ。
652
653 10月5日午後3時過ぎには届くはずだ。
654
655 二
656 つに分けて送る。
657
658 お前宛てのは,
659 お前1人でさばく分,
660 乙宛てのは,
661 お前と乙の2人でさばく
662 分だ。
663
664 10日間でさばき切れなかったら,
665 取りあえず送り返せ。
666
667 乙にも伝えておけ。
668
669 」と記載さ
670 れたメールを発見した。
671
672 さらに,
673 司法警察員Kは,
674 甲から乙宛てに送信した「丙さんから連絡
675 があった。
676
677 10月5日午後3時過ぎには,
678 新しいのが届く。
679
680 2人でさばく分も来る。
681
682 その日,
683
684 午後3時前には社長室に来い。
685
686 ブツが届いたら2人で分ける。
687
688 」と記載されたメールを発見する
689 とともに,
690 乙から送信された「分かりました。
691
692 その頃に社長室に行きます。
693
694 」と記載されたメー
695 - 2 -
696
697 ルを発見した。
698
699 この間,
700 司法警察員Kが,
701 伝票に記載されていた「U株式会社」の所在地等に
702 ついて部下に調べさせたところ,
703 その地番は実在せず,
704 また,
705 電話番号も現在使用されていな
706 いものであることが判明した。
707
708
709 このような経緯から,
710 司法警察員Kは,
711 これらの宅配便荷物2個には,
712 いずれも,
713 覚せい剤
714 が入っていると判断し,
715 甲及び乙に対し,
716 それぞれの荷物の開封を求めた。
717
718 しかし,
719 甲及び乙
720 は,
721 いずれも,
722
723 「勘弁してください。
724
725 」と言い,
726 その要請を拒否した。
727
728 その後も司法警察員Kは,
729
730 同様の説得を繰り返したが,
731 甲及び乙は応じなかった。
732
733
734 そこで,
735 司法警察員Kは,
736 同日午後3時45分,
737 乙宛ての荷物を開封した[捜査@]。
738
739 その結
740 果,
741 荷物の中から大量の白色粉末が発見された。
742
743 次いで,
744 司法警察員Kは,
745 甲宛ての荷物を開
746 封したところ,
747 こちらからも乙宛ての荷物の半分くらいの量の白色粉末が発見された。
748
749 司法警
750 察員Kは,
751 これらの白色粉末は覚せい剤だと判断し,
752 甲及び乙に,
753 「これは覚せい剤だな。
754
755 売る
756 ためのものだな。
757
758 覚せい剤かどうか調べさせてもらうぞ。
759
760 」と言った。
761
762 これに対し,
763 甲は,
764 「ば
765 れてしまったものは仕方がない。
766
767 調べるなり何なり好きにしていい。
768
769 」と言い,
770 乙も,
771 「仕方な
772 いな。
773
774 俺宛てのものも調べてもいい。
775
776 」などと言った。
777
778 そこで,
779 司法警察員Kは,
780 部下に命じて,
781
782 各荷物に入っていた白色粉末が覚せい剤か否か試薬を用いて調べさせたところ,
783 いずれも覚せ
784 い剤である旨の結果が出たことから,
785 同日午後3時55分,
786 甲及び乙を,
787 いずれも営利目的で
788 の覚せい剤所持の事実で現行犯逮捕し,
789 それぞれに伴う差押えとして,
790 各覚せい剤を差し押さ
791 えた。
792
793
794 3
795
796 司法警察員Kは,
797 甲及び乙による覚せい剤密売の全容を明らかにするためには,
798 乙の携帯電話
799 や手帳等を押収する必要があると考え,
800 乙に対し,
801 これらの所在場所を確認したものの,
802 乙は無
803 言であった。
804
805 そこで,
806 司法警察員Kは,
807 甲にも確認したが,
808 甲は,
809 「さあ,
810 どこにあるか知らな
811 い。
812
813 隣の更衣室のロッカーにでも入っているんじゃないの。
814
815 でも,
816 更衣室もロッカーも,
817 社長の
818 俺が管理しているけど,
819 中の荷物は乙のものだから,
820 乙に聞いてくれ。
821
822 」などと言った。
823
824 これを
825 受けて,
826 司法警察員Kが,
827 乙に対し,
828 ロッカーの中を見せるよう求めたところ,
829 乙は,
830 「俺のも
831 のを勝手に荒らされたくない。
832
833 」と述べて拒否した。
834
835
836 そこで,
837 司法警察員Kは,
838 乙に対する説得を諦め,
839 部下を連れて社長室に隣接している更衣
840 室に入った。
841
842 乙と表示のあるロッカーは,
843 施錠されていたことから,
844 司法警察員Kは,
845 乙に対
846 し,
847 鍵を開けるよう言ったが,
848 乙は応じなかった。
849
850 そのため,
851 司法警察員Kは,
852 同日午後4時
853 20分,
854 社長室の壁に掛かっていたマスターキーを使って同ロッカーを解錠し,
855 捜索を実施し
856 た[捜査A]。
857
858 同ロッカーには,
859 乙の運転免許証が入った財布が入っており,
860 乙のロッカーであ
861 ることは確認できたものの,
862 差し押さえるべき物は発見できず,
863 司法警察員Kらは捜索を終了
864 した。
865
866
867
868 4
869
870 その後,
871 司法警察員Kら及び事件の送致を受けたH地方検察庁検察官Pが所要の捜査を行った。
872
873
874 甲及び乙は,
875 事実関係を認め,
876 密売をするために覚せい剤をT株式会社社長室で所持していたこ
877 と,
878 甲宛ての覚せい剤は甲1人で密売するためのもの,
879 乙宛ての覚せい剤は甲と乙が2人で密売
880 するためのものであることなどを述べた。
881
882 一方で,
883 甲及び乙は,
884 各覚せい剤について,
885 密売組織
886 の元締である丙から送られたもので,
887 10日間の期限内に売り切れなかった分は丙に送り返さな
888 ければならなかったこと,
889 覚せい剤の売上金は,
890 その9割を丙に送金しなければならず,
891 自分た
892 ちの取り分は合わせて1割だけであったことなどを述べた。
893
894 また,
895 甲宛ての宅配便荷物内に入っ
896 ていた覚せい剤は100グラム,
897 乙宛ての宅配便荷物内に入っていた覚せい剤は200グラムで
898 あった。
899
900
901 同月26日,
902 検察官Pは,
903 甲について,
904 営利の目的で,
905 単独で,
906 覚せい剤100グラムを所持
907 した事実(公訴事実の第1事実),
908 及び,
909 営利の目的で,
910 乙と共謀して,
911 覚せい剤200グラム
912 を所持した事実(公訴事実の第2事実)で,
913 H地方裁判所に起訴した(甲に対する公訴事実は【資
914 料1】のとおり)。
915
916 また,
917 検察官Pは,
918 乙についても,
919 営利の目的で,
920 甲と共謀して,
921 覚せい剤
922 - 3 -
923
924 200グラムを所持した事実で,
925 H地方裁判所に起訴し,
926 甲及び乙は,
927 別々に審理されることと
928 なった。
929
930
931 なお,
932 検察官Pは,
933 甲及び乙を起訴するに当たり,
934 両名について,
935 丙との間の共謀の成否を念
936 頭に置いて捜査し,
937 丙が実在する人物であることは確認できたものの,
938 最終的には,
939 丙及びその
940 周辺者が所在不明であり,
941 これらの者に対する取調べを実施できなかったことなどから,
942 甲及び
943 乙と,
944 丙との間の共謀については立証できないと判断した。
945
946
947 5
948
949 同年11月24日に開かれた甲に対する第1回公判期日で,
950 甲及びその弁護人Bは,
951 被告事件
952 についての陳述において,
953 公訴事実記載の客観的事実自体はこれを認めたが,
954 弁護人Bは,
955 覚せ
956 い剤は,
957 密売組織の元締である丙の手足として,
958 その支配下で甲らが販売を行うことになってい
959 たもので,
960 公訴事実の第1事実及び第2事実いずれについても,
961 丙との共謀が成立することを主
962 張し,
963 その旨の事実を認定すべきであるとの意見を述べた。
964
965 引き続き,
966 検察官Pは冒頭陳述を行
967 い,
968 甲らが丙から覚せい剤を宅配便荷物により交付されたことについて言及したものの,
969 それ以
970 上,
971 甲らと丙との関係には言及しなかった。
972
973
974 証拠調べの結果,
975 裁判所は,
976 公訴事実について,
977 @甲らが,
978 営利の目的で,
979 同日同所におい
980 て,
981 各分量の覚せい剤を所持した事実自体は認められる,
982 A各覚せい剤の所持が,
983 丙との共謀
984 に基づくものである可能性はあるものの,
985 共謀の存否はいずれとも確定できない,
986 B仮に甲ら
987 と丙との間に共謀があるとした場合,
988 甲らは従属的立場にあることになるから,
989 甲らと丙との
990 間に共謀がない場合よりは犯情が軽くなる,
991 と考えた。
992
993
994 論告・弁論を経て,
995 裁判所は,
996 同年12月8日に開かれた公判期日において,
997 【資料1】の公
998 訴事実に対し,
999 格別の手続的な手当てを講じないまま,
1000 弁護人Bの主張どおり,
1001 【資料2】の罪
1002 となるべき事実を認定し,
1003 甲に有罪判決を宣告した。
1004
1005
1006
1007 〔設問1〕
1008
1009 下線部の[捜査@]及び[捜査A]の適法性について,
1010 具体的事実を摘示しつつ論じ
1011 なさい。
1012
1013 [捜査A]については,
1014 捜索差押許可状に基づく捜索としての適法性及び乙の
1015 現行犯逮捕に伴う捜索としての適法性の両者を論じなさい。
1016
1017
1018 なお,
1019 甲の携帯電話の差押え及びその中身の確認までの一連の手続の適法性について
1020 は問題がないものとする。
1021
1022
1023
1024 〔設問2〕
1025
1026 裁判所が,
1027 【資料1】の公訴事実の第1事実に対し,
1028 【資料2】の罪となるべき事実の
1029 第1事実を認定したことについて,
1030 判決の内容及びそれに至る手続の適否を論じなさい。
1031
1032
1033 なお,
1034 取り調べられた証拠の証拠能力及び裁判所によるその証明力の評価並びに公訴
1035 事実の罪数評価については問題がないものとする。
1036
1037
1038
1039 (参照条文)
1040
1041 覚せい剤取締法
1042
1043 第41条の2
1044
1045 覚せい剤を,
1046 みだりに,
1047 所持し,
1048 譲り渡し,
1049 又は譲り受けた者(第42条第5号
1050
1051 に該当する者を除く。
1052
1053 )は,
1054 10年以下の懲役に処する。
1055
1056
1057 2
1058
1059 営利の目的で前項の罪を犯した者は,
1060 1年以上の有期懲役に処し,
1061 又は情状により1年以上
1062 の有期懲役及び500万円以下の罰金に処する。
1063
1064
1065
1066 3
1067
1068 (略)
1069
1070 - 4 -
1071
1072 【資料1】
1073
1074 公
1075
1076 訴
1077
1078 事
1079
1080 実
1081
1082 被告人は
1083 第1 営利の目的で,
1084 みだりに,
1085 平成23年10月5日,
1086 H県I市J町
1087 ○丁目△番地T株式会社社長室において,
1088 覚せい剤である塩酸フェ
1089 ニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持し
1090 第2 (以下,
1091 省略)
1092 たものである。
1093
1094
1095
1096 【資料2】
1097
1098 罪となるべき事実
1099 被告人は
1100 第1 丙と共謀の上,
1101 営利の目的で,
1102 みだりに,
1103 平成23年10月5日,
1104
1105 H県I市J町○丁目△番地T株式会社社長室において,
1106 覚せい剤で
1107 ある塩酸フェニルメチルアミノプロパンの粉末100グラムを所持
1108 し
1109 第2 (以下,
1110 省略)
1111 たものである。
1112
1113
1114
1115 - 5 -
1116
1117 - 6 -
1118
1119