1 平成24年司法試験論文式試験問題出題趣旨
2 【公法系科目】
3 〔第1問〕
4 本問を解くに当たって,
5 何が憲法上の問題であるかについては比較的容易に発見できたので
6 はないかと思われる。
7
8 政教分離原則に関する法科大学院での憲法の授業では,
9 関連判決を正確
10 に理解し,
11 かつ,
12 関連判決の判断枠組みの問題点,
13 事実評価の問題点をも適切に検討し学習す
14 ることが求められている。
15
16 本問は,
17 このような学習の中で養成されていることが期待される「考
18 える力」を見ようとする問題である。
19
20
21 まず,
22 設問1では,
23 本問における公金支出が憲法に違反するのではないかと考えるB村の住
24 民から相談を受け,
25 弁護士としてどのような訴訟を提起するかが問われている。
26
27 ここでは,
28
29 「(な
30 お,
31 当該訴訟を提起するために法律上求められている手続は尽くした上でのこととする。
32
33 )」と
34 いう設問の記載に留意しつつ,
35 この種の訴訟で通常採られている訴訟形式で,
36 かつ最も事案に
37 適したものを指摘することが求められている。
38
39 なお,
40 ここでは,
41 法律実務家を目指す者のため
42 の試験として,
43 訴訟形式の根拠となる条文を号まで特定して記載することが求められる。
44
45
46 訴訟形式に加えて,
47 設問1では,
48 訴訟代理人として行う憲法上の主張が問われている。
49
50 ここ
51 では,
52 憲法上の主張を問題文に記載された事実関係を踏まえ丁寧に論じることが求められてい
53 る。
54
55 そして,
56 設問2では,
57 かかる原告代理人の憲法上の主張に関する「あなた自身」の見解を,
58
59 被告側の反論を想定しつつ,
60 設問1におけるのと同様に問題文の事実関係を踏まえ丁寧に論じ
61 ることが求められる。
62
63 なお,
64 原告の主張,
65 被告の反論とも,
66 およそあり得ないような極端な見
67 解を述べ,
68 「あなた自身の見解」では中間の立場を採るといった,
69 技巧に走る答案は求められ
70 ていない。
71
72
73 本問では,
74 特に,
75 憲法第89条前段の「宗教上の組織若しくは団体」への公金支出の禁止が
76 問題となる。
77
78 問題文では,
79 C宗及びA寺が宗教法人法上の宗教法人であるか否かについて,
80 あ
81 えて記述していない。
82
83 この点については,
84 「宗教上の組織若しくは団体」の定義を述べつつ,
85
86 遺族会はこれに該当しないとした箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟判決(最判平成5年2月16日民集
87 47巻3号1687頁)や,
88 氏子集団がこれに該当するとした空知太神社訴訟判決(最判平成
89 22年1月20日民集64巻1号128頁)を参考にしながら検討すると,
90 C宗及びA寺が「宗
91 教上の組織若しくは団体」に該当することが肯定されることになる。
92
93
94 憲法第89条前段の問題であるとすると,
95 「宗教上の組織若しくは団体」への公金支出は,
96
97 憲法第20条第1項後段の特権付与の禁止に抵触することにもなり得る。
98
99 愛媛玉串料訴訟判決
100 (最判平成9年4月2日民集51巻4号1673頁)は,
101 「宗教上の組織若しくは団体」への
102 玉串料の奉納を憲法第20条第3項の「宗教的活動」の禁止の問題を中心として判断した。
103
104 神
105 社の例大祭等での玉串料の奉納ではなく,
106 火災で延焼した神社再建への公金支出の問題である
107 本問の場合には,
108 B村の「宗教的活動」と捉えるのか,
109 それともB村によるA寺への「特権付
110 与」の問題と捉えるのか,
111 検討することが求められる。
112
113
114 そして,
115 憲法第89条前段の下で,
116 公金支出の禁止は絶対的禁止なのか,
117 それともその禁止
118 は相対化されるのかが,
119 問題となる。
120
121 ここでは,
122 憲法第20条第3項における「宗教的活動」
123 の禁止の相対化論とも関係して,
124 どのような判断枠組みを構築するのかが問われる。
125
126 その際,
127
128 宗教と関わり合いを持つ国家行為の目的が宗教的意義を有するか否か,
129 その効果が宗教を援助,
130
131 助長等するか否かを諸般の事情を総合考慮して判断し,
132 国家と宗教との関わり合いが相当限度
133 を超えているとして,
134 問題となった公金支出を合憲とした津地鎮祭訴訟判決(最判昭和52年
135 7月13日民集31巻4号533頁),
136 問題となった公金支出を違憲とした愛媛玉串料訴訟判
137 決,
138 そして総合考慮によって私有地の無償貸与を違憲とした空知太神社訴訟判決等,
139 判例動向
140
141 -1-
142
143 を踏まえつつ,
144 原告の主張,
145 被告の反論,
146 そして「あなた自身の見解」における判断枠組みを
147 構築し,
148 一定の筋の通った理由を付して結論を導き出すことが求められている。
149
150
151 A寺への公金支出を正当化するに当たって,
152 B村村長はA寺を「公共的な存在」と位置付け
153 ている。
154
155 しかし,
156 墓地,
157 埋葬等に関する法律上はA寺のDに対する埋葬拒否が「正当の理由」
158 に該当するとしても,
159 B村の村民の誰でもがA寺の墓地に埋葬することを認められるわけでは
160 ないということから,
161 A寺を「公共的な存在」と位置付けることの妥当性が問題となる。
162
163 その
164 ような墓地を含めた土地整備費用の助成の合憲性を検討することが求められる。
165
166 本堂は,
167 A寺
168 が宗教的行為を行う場であるが,
169 他方で一般住民のための場としても利用されている。
170
171 住職の
172 住居である庫裏は,
173 住居という点にのみ重点を置けば,
174 他の村民の住居と同じ性格のものと位
175 置付けられ得る。
176
177 他方で,
178 A寺を管掌する僧侶である住職が住むことに重点を置けば,
179 庫裏は
180 単なる住居とはいえず,
181 「宗教上の組織若しくは団体」のための住居と位置付けられ得る。
182
183 こ
184 のような複合的な性格を分析しつつ,
185 それぞれへの公金支出の合憲性を個別的・具体的に検討
186 することが求められている。
187
188
189 〔第2問〕
190 本問は,
191 都市計画施設として道路を定める都市計画の事業が40年以上施行されていない区
192 域内に土地を所有し建築制限を受けているPが,
193 土地上の建物を建て替えることが必要になっ
194 たために,
195 都市計画を定めているQ県に対し,
196 都市計画の適法性を争い,
197 又は建築制限に対す
198 る補償を請求する事案における法的問題について論じさせるものである。
199
200 問題文と資料から基
201 本的な事実関係を把握し,
202 都市計画法及び同法施行規則の趣旨を読み解いた上で,
203 都市計画に
204 関する行政訴訟の訴訟要件,
205 本案における違法事由,
206 及び損失補償の要件を論じる力を試すも
207 のである。
208
209
210 設問1は,
211 Q県が都市計画を変更せずに存続させていること(以下,
212 単に「計画の存続」と
213 いう。
214
215 )の適法性を争うために,
216 Pがどのような行政訴訟を提起できるかを考える前提として,
217
218 都市計画決定の処分性を検討させる問題である。
219
220 全体としては,
221 【資料1】に示された土地区
222 画整理事業の事業計画の決定に処分性を認める大法廷判決の論旨をよく理解した上で,
223 都市計
224 画決定の処分性を判断するためのポイントを押さえること,
225 及び,
226 処分性の判断に関わる都市
227 計画決定の法的効果を,
228 後続する都市計画事業認可の法的効果と関係付け,
229 また比較しながら
230 的確に把握することが求められる。
231
232
233 個別にいえば,
234 都市計画決定が権利制限を受ける土地を具体的に特定すること,
235 都市計画決
236 定が土地収用法上の事業認定に代わる都市計画事業認可の前提となること,
237 及び,
238 都市計画が
239 決定されるとその実現に支障が生じないように建築が制限されることを,
240 都市計画法令の諸規
241 定から読み取らなければならない。
242
243 その際,
244 都市計画決定と都市計画事業認可の関係図書等や
245 法的効果等を比較することを通じて,
246 都市計画決定においては,
247 収用による権利侵害の切迫性
248 が土地区画整理事業の事業計画の決定に伴う換地の切迫性よりは低いことも,
249 併せて考慮する
250 ことが求められる。
251
252 大法廷判決が,
253 建築制限について,
254 それ自体として処分性の根拠になるか
255 否かを明言していない点にも,
256 注意を要する。
257
258 そして以上の考察を踏まえて,
259 権利救済の実効
260 性を図るために都市計画決定に処分性を認める必要性について,
261 都市計画事業認可取消訴訟,
262
263 建築確認申請に対する拒否処分取消訴訟及び都市計画に関する当事者訴訟など他の行政訴訟の
264 可能性及び実効性を考慮して,
265 判断することが求められる。
266
267
268 設問2は,
269 計画の存続の適法性について,
270 適法とする立場及び違法とする立場の双方から総
271 合的に検討させる問題である。
272
273 行政法の基本的な考え方,
274 都市計画法の規定,
275 及び本件の具体
276 的な事情を,
277 説得的に結び付けて法律論を展開することがポイントになる。
278
279 なお,
280 計画の存続
281 を違法とする立場による場合に,
282 Q県が都市計画を変更しなくても,
283 都市計画決定及びそれに
284 基づく建築制限が当然に失効していると解釈されるか否かにまで論及することは,
285 求めていな
286
287 -2-
288
289 い。
290
291
292 計画の存続を適法とする立場からは,
293 行政裁量の存在が重要であるから,
294 都市計画変更決定
295 に関する行政裁量の存否及び幅を,
296 都市計画法の文言,
297 都市計画の性質,
298 及び裁量に関する判
299 例を考慮して,
300 判断することが求められる。
301
302 そして,
303 Q県がR市の旧市街地の活性化という政
304 策目的を考慮することの適法性を論じることになる。
305
306 これに対し計画の存続を違法とする立場
307 からは,
308 行政裁量が認められるとしても,
309 裁量権行使の前提となる事実の調査及び認定に過誤
310 があれば,
311 裁量権の行使が違法となり得ること,
312 特に都市計画法は,
313 定期の基礎調査及びそれ
314 に基づく計画の変更を定めており,
315 前提事実の再検討による計画の見直しを重視していること
316 を,
317 論じなければならない。
318
319 そして,
320 Q県による将来交通需要推計が旧市街地の現況及び一般
321 的な人口動向等から乖離している点,
322 その背後に旧市街地の事業者の利益の不当な重視が疑わ
323 れる点を,
324 指摘することになる。
325
326
327 さらに論じるべき点として,
328 道路密度については,
329 都市計画変更決定に係る裁量基準として
330 採用できるとしても,
331 地域の実態及び個別事情を考慮せずに機械的に基準として適用すること
332 が正当かを,
333 検討しなければならない。
334
335 都市計画の実現までに要する期間については,
336 一般に
337 社会的及び財政的制約から長期に及ぶことに着目した上で,
338 本件に関し,
339 本件計画道路の整備
340 状況やQ県の財政状況の推移等に鑑みて,
341 なお計画の存続が正当化できるかという問題を,
342 論
343 じることが求められる。
344
345 そして以上の考察を通じて,
346 計画の存続の適法性に関する受験者の見
347 解を説得的に示さなければならない。
348
349
350 設問3は,
351 計画の存続を適法と仮定して,
352 建築制限を受けるPに対する損失補償の要否を検
353 討させる問題である。
354
355 損失補償の根拠として,
356 憲法第29条第3項の直接適用が可能なことを
357 指摘した上で,
358 補償の要否を判断するための考慮要素として,
359 財産権侵害の重大性,
360 公用制限
361 としての性格,
362 土地利用の現況の固定に当たるか否か等を挙げることが求められる。
363
364 そして,
365
366 本件における建築制限の内容及び期間等の事情から,
367 補償の要否を判断しなければならない。
368
369
370 本件の損失補償に関しては,
371 都市計画事業として土地が収用される際には,
372 被収用地が建築
373 制限を受けていないとすれば有するであろうと認められる価格で補償するものとされるため,
374
375 仮に収用前の時点で補償を認める場合,
376 収用時の補償との関係をどう考えるか,
377 という問題が
378 ある。
379
380 しかし,
381 この点を詳細に論じることは試験時間内では困難なため,
382 設問3は損失補償の
383 基本的な根拠及び要件を問う形式にして,
384 配点を下げることにした。
385
386
387 なお,
388 受験者が出題の趣旨を理解して実力を発揮できるように,
389 本年も各設問の配点割合を
390 明示することとした。
391
392
393 【民事系科目】
394 〔第1問〕
395 本問は,
396 料亭を営むための店舗を建設する適地を探していたAが,
397 Bから甲土地を買い受け
398 た後,
399 その料亭の経営を継いだAの子であるFが,
400 その製造した食品の一部を有償で,
401 また他
402 の一部は無償で寄託したが,
403 それらの一部が盗難に遭ったという事例に関して,
404 民法上の問題
405 についての基礎的な理解とともに,
406 その応用を問う問題である。
407
408 具体的な事実を踏まえ,
409 実体
410 的な法律関係を理解して論述する能力,
411 当事者間に成立した契約の内容を理解して妥当と認め
412 られる法律的帰結を導く能力及び具体的な事実を法的な観点から分析して評価する能力などを
413 試すものである。
414
415
416 まず,
417 設問1は,
418 Fが甲土地の所有権を売買契約により取得した場合と,
419 20年の取得時効
420 により取得した場合について,
421 Fの主張が依拠する民法の実体法規範とそれを支える実体法の
422 考え方を正しく理解していること,
423 そして,
424 この理解を各小問で問われている内容に即して規
425 範適用の要件,
426 要件事実及び効果へと結び付けることができているかどうかを問うものである。
427
428
429 言い換えれば,
430 設問1では,
431 要件事実とその主張立証責任について平板に述べただけでは足り
432
433 -3-
434
435 ず,
436 要件事実理解の前提となる民法の実体法理論について丁寧な分析と検討をし,
437 これを踏ま
438 えて要件・効果面へと展開することが求められる。
439
440 したがって,
441 設問1は,
442 要件事実の理解の
443 みを問うものではなく,
444 実体法の理解を前提とする要件事実の理解を試すものである。
445
446
447 小問(1)において,
448 Fの主張は,
449 @Bが甲土地の所有者であったことを前提として,
450 AA
451 B間の売買契約により,
452 甲土地の所有権がBからAへと移転したこと,
453 そして,
454 BAの取得し
455 た所有権が,
456 A死亡による単独相続により,
457 Aの相続人であるFに移転したことを基礎とした
458 ものである。
459
460 本問事案で,
461 Bの売却した甲土地は,
462 Bが単独相続したDの相続したCの所有で
463 あったところ,
464 Cの死亡により,
465 甲土地につき,
466 DとEによる共同相続が開始し,
467 それぞれの
468 法定相続分での遺産共有状態が生じている(民法第898条)。
469
470 この遺産共有状態を解消し,
471
472 甲土地をDの単独所有とするためには,
473 このことを内容とする遺産分割がされなければならな
474 い(民法第906条以下)。
475
476 ところが,
477 DとEは,
478 Cの遺産につき分割の協議をしておらず,
479
480 遺産分割がされていない。
481
482 そのため,
483 Dは,
484 甲土地につき,
485 自己の法定相続分による持分権を
486 有しているにすぎない。
487
488 なお,
489 このことは,
490 Eについても,
491 同様である。
492
493
494 そこで,
495 Dを単独相続したBは,
496 甲土地につき,
497 Dの相続分に対応する持分権しか取得せず,
498
499 Bから甲土地を売買により取得したAも,
500 Dの相続分に対応する持分権しか取得しない。
501
502 なお,
503
504 そもそもAB間での甲土地の売買契約の下で,
505 Aは,
506 Dの甲土地持分権すら取得しないとの考
507 え方もあり得る。
508
509 したがって,
510 いずれにしても,
511 Fの主張は,
512 失当である。
513
514 なお,
515 小問(1)
516 は,
517 民法第94条第2項の類推適用についての検討を求める問いではない。
518
519
520 小問(2)は,
521 民法第162条第1項の定める20年の取得時効を前提として,
522
523 「AとBは,
524
525 平成2年(1990年)11月15日,
526 甲土地を代金3600万円でBがAに売却することで
527 合意した」との事実が持つ法律上の意義を問うものである。
528
529 ここでも,
530 前述したように,
531 民法
532 の規範とそれを支える法理としての実体法理論についての分析及び検討をすることが求めら
533 れ,
534 これを基礎として上記事実の持つ意味についての解答が求められる。
535
536 具体的には,
537 @Aが
538 甲土地をBとの売買契約により取得したことは,
539 民法第162条第1項の「他人の物」の要件
540 をめぐり,
541 自己の物についても時効取得が可能であることに関して問題となること,
542 A甲土地
543 をAがBとの売買契約により取得したことは,
544 所有の意思の要件,
545 つまり自主占有の要件にお
546 いても問題となること,
547 B後者にあっては,
548 甲土地をAが売買契約により取得したことは,
549 A
550 の占有が所有の意思のある占有であることを基礎付ける事実(自主占有権原)となること,
551 C
552 所有の意思についての主張立証責任は民法第186条第1項によりEの側にあること,
553 したが
554 って,
555 小問(2)に掲げられた事実は,
556 Eが主張立証責任を負う所有の意思に関する事実(他
557 主占有権原又は他主占有事情)につき,
558 当該事実の存在を否認する事実として位置付けられる
559 ことを理解することができているかどうかを問うものである。
560
561
562 なお,
563 @については,
564 法文で「他人の物」となっている以上,
565 Aが売買によってBの有して
566 いた甲土地持分権を取得したという構成を採る場合には,
567 @の点に関する民法法理をその理由
568 とともに示すことは必須である。
569
570 なお,
571 AB間での甲土地売買契約により「甲土地の所有権」
572 をAが取得することが意図されているものの,
573 「甲土地の持分権」をAが取得することは意図
574 されていないと考えることも可能である。
575
576 このように考える場合において,
577 Aは,
578 甲土地につ
579 いて何らの物権的権利も取得しない。
580
581 その結果として,
582 甲土地は,
583 民法第162条第1項にい
584 う「他人の物」に当たることとなる。
585
586
587 設問2は,
588 契約書を正しく読み取った上で,
589 契約条項をそのままの形で適用するのでは解決
590 が困難である問題について,
591 契約解釈などを通じて,
592 十分な理由付けと論理一貫性の下に,
593 適
594 切な解決を導くことのできる能力を問うものである。
595
596
597 まず,
598 添付の寄託契約書の第4条と第6条が,
599 寄託されている物の数量が寄託された数量に
600 不足する場合には,
601 そのままの形では適用することができない可能性があることが指摘される
602 べきである。
603
604 そして,
605 その上で,
606 補充的契約解釈などを行うことによって,
607 妥当な内容の債権
608
609 -4-
610
611 的な返還請求権を導き出し,
612 又は契約では規律されていない場面であることを前提に物権的な
613 返還請求権を考えることになる。
614
615
616 前者の債権的な返還請求権によるときは,
617 なぜそのような契約解釈が可能であるかを丁寧に
618 論じる必要がある。
619
620 このときは,
621 契約書の各条項の文言のほか,
622 当該契約が全体としてどのよ
623 うな目的と理念を有するものであるかを考察するべきである。
624
625 後者の物権的な返還請求権によ
626 るときは,
627 寄託物の共有状態を正しく把握し,
628 共有持分権者の権利はいかなるものであるかを
629 丁寧に論じる必要がある。
630
631 また,
632 契約解釈は共有状態の理解によって影響を受け,
633 他方,
634 共有
635 状態の理解も寄託契約によって定まるといったように,
636 両請求権が相互に影響を及ぼすことも
637 踏まえることも必要である。
638
639
640 そして,
641 共有者の一方に引き渡されることは,
642 他の共有者の権利を害しないかという問題を
643 発見し,
644 そのことにつき,
645 一定の解決を示すことも必要である。
646
647
648 設問3は,
649 無償の寄託契約において,
650 受寄者に債務不履行があったために受寄物が盗難に遭
651 い,
652 その結果,
653 寄託者が第三者との間における将来の取引に向けた交渉を打ち切られたという
654 事例について,
655 債務不履行に基づく損害賠償の要件を明確にし,
656 【事実】に照らして要件との
657 関係で検討すべき視点を提示した上で,
658 受寄者が寄託者に対し損害賠償を請求することができ
659 るか否かの検討を求めるものである。
660
661
662 まず,
663 FH間において,
664 「山菜おこわ」を保管する旨の合意に基づき,
665 丙建物に「山菜おこ
666 わ」500ケースが運び込まれることにより寄託契約が成立したこと(民法第657条),
667 H
668 は,
669 無償受寄者として「自己の財産に対するのと同一の注意をもって,
670 寄託物を保管する義務」
671 (民法第659条)を負うこと,
672 Hは,
673 丙建物の施錠を忘れるという注意義務違反を犯した結
674 果,
675 丙建物に何者かの侵入を許したことを指摘した上で,
676 Hには寄託契約上の保管義務違反と
677 いう債務不履行(民法第415条)が認められることを明らかにする必要がある。
678
679 なお,
680 Hの
681 注意義務の基準を検討するに際し,
682 同じ丙建物内での「和風だし」の有償寄託契約が先行して
683 いることに着目し,
684 Hは,
685 「山菜おこわ」の寄託契約においても「善良な管理者の注意」義務
686 (民法第400条)を負うと分析することも考えられる。
687
688
689 次に,
690 Fが「Q百貨店の全店舗で『山菜おこわ』を取り扱ってもらえなくなったことについ
691 ての損害賠償」を請求することができるかを検討するに当たっては,
692 一方において損害賠償の
693 要件を念頭に置き,
694 他方において【事実】から読み取ることのできる法律上意味のある事情を
695 汲みながら,
696 考察のための視点を提示することが求められる。
697
698 その際は,
699 Fには賠償されるべ
700 き損害が発生しているといえるか,
701 Hの債務不履行とFが被った損害との間に因果関係がある
702 といえるか,
703 Fの損害は民法第416条第2項に定める特別損害として賠償の範囲に含まれる
704 かなどの着眼点のうち,
705 一つ又は複数のものが提示され得るが,
706 いずれのアプローチを採る場
707 合であっても,
708 問題の所在を適切に指摘し,
709 【事実】との関連を意識しつつ考察の視点として
710 取り上げることの意義を明らかにすることが肝要である。
711
712
713 その上で,
714 提示された視点に【事実】を当てはめて,
715 「損害の賠償を請求することができる
716 か」という問いに答える形で結論を示す必要がある。
717
718
719 【事実】の中には,
720 とりわけ6,
721 11,
722 12,
723 14,
724 16
725 が結論を導くために重要な法律上の意味を持ち,
726 解答者が着眼すべき諸事情が含まれている。
727
728
729 解答に当たっては,
730 これら諸事情の一部のみに焦点を当てたり,
731 判例法理を形式的に当てはめ
732 たりするのでなく,
733 【事実】に現れた諸事情に広く目を配り,
734 慎重な考察を経た上で結論を示
735 すことが求められている。
736
737
738 〔第2問〕
739 本問は,
740 22年総会における取締役4名(B,
741 C,
742 D及びP)の選任の当否(設問1),
743 本
744 件貸付けに関する株主A及び監査役Fによる事前(設問2(1))及び事後(同(2))の対応並び
745 に23年総会決議に関するA及びFによる決議取消しの訴えの当否(設問3)について,
746 問
747
748 -5-
749
750 うものである。
751
752 設問2は,
753 会社法の基本的な理解及び事例を踏まえた分析力と論述力を問う
754 ものである。
755
756 他方,
757 設問1及び設問3の主な出題意図は,
758 何が問題となるかを見抜き,
759 これ
760 に論理的に対応する能力を問うことにある。
761
762 また,
763 全体として,
764 会社法の条文を的確に理解
765 し,
766 これを摘示することも求められている。
767
768
769 設問1では,
770 22年総会における取締役4名(B,
771 C,
772 D及びP)の選任の当否が問われ
773 ている。
774
775 同総会では,
776 A,
777 B,
778 C及びDの4名を候補者とする取締役選任議案が会社提案
779 として提出され,
780 甲社の定款には,
781 取締役の員数は6名以内と定められている(任期の満
782 了しない取締役Hがいるため,
783 同総会において選任可能な定款上の取締役の員数は5名以内
784 となる。
785
786 )一方で,
787 結果的にはB,
788 C,
789 D,
790 P,
791 Q及びRの6名の取締役候補者について会社
792 法第341条の選任のための決議要件が満たされていることから,
793 このような場合に,
794 @取
795 締役として何名が選任され得るか(4名か,
796 5名か,
797 あるいは決議の瑕疵を生じさせ
798 るにとどまり6名全員かなど)や,
799 A選任され得る取締役の数を超えて同条の決議要件を満
800 たす候補者がいる場合の決定方法(採決順か得票順かなど)が問題となることを指摘し,
801 自
802 らの考え方を述べた上,
803 当てはめをすることが求められる。
804
805 どのような結論を採るにせよ,
806
807 その結論が同条を含む会社法の規定から当然に導かれるものではないことに留意しつつ,
808 他
809 の考え方も意識しながら説得的に自らの考え方を論ずることが期待される。
810
811
812 次に,
813 設問2の本件貸付けに関する株主A及び監査役Fの対応については,
814 事前の対応(小
815 問(1))としての差止請求と,
816 事後の対応(小問(2))としての損害賠償請求について,
817 それぞ
818 れ論述することが求められる。
819
820 小問(1)の差止請求については,
821 会社法第360条第1項及び
822 第3項と同法第385条第1項を摘示しつつ,
823 その要件(特に「法令に違反する行為」とい
824 う要件)を検討し,
825 問題文にある事実を抽出した丁寧な当てはめをすることが求められる。
826
827
828 実務的な観点からは,
829 仮処分(同法第385条第2項参照)にも言及することが望ましい。
830
831
832 小問(2)の損害賠償請求については,
833 本件貸付けが利益相反取引(同法第365条第1項,
834 第
835 356条第1項第2号)に該当することを指摘しつつ,
836 H,
837 D及びPにつき,
838 それぞれ同法
839 第423条第3項各号により任務懈怠が推定されることを踏まえ(Pについては,
840 更に同法
841 第428条第1項参照),
842 当てはめをすることが求められる。
843
844 その上で,
845 株主Aによる責任追
846 及としては甲社に対する提訴請求及び株主代表訴訟(同法第847条)について,
847 監査役F
848 による責任追及としてはその提訴権限(同法第386条第1項)について,
849 それぞれ条文を
850 摘示しつつ論述することが求められる。
851
852 なお,
853 小問(1)及び(2)に共通して,
854 監査役Fの権限を
855 論ずるに際しては,
856 甲社の監査役会において,
857 Eが「本件貸付けについては問題視しないこ
858 とを監査役会の方針とする」旨を提案し,
859 Gがこれに賛成していることから,
860 監査役の独任
861 性との関係(同法第390条第2項ただし書)について触れることが求められ,
862 また,
863 監査
864 役の調査権限(同法第381条第2項)についても触れることが望ましい。
865
866
867 最後に,
868 設問3の23年総会決議についての決議取消しの訴えの当否については,
869 まず,
870
871 否決を宣言された議案@については,
872 同議案に係る「否決の決議」がそもそも決議取消しの
873 訴えの対象となるか否かが問題となることを指摘し,
874 これを検討することが求められる。
875
876 ど
877 のような結論を採るにせよ,
878 決議取消しの訴えの制度趣旨に立ち返った上で,
879 その対世効や,
880
881 決議が取り消された場合には株主は3年経過前でも議案の再提出が可能となること(同法第
882 304条)等を勘案しながら,
883 自らの考え方を述べることが期待される。
884
885 次に,
886 可決を宣言
887 された議案A(上記の検討において,
888 議案@が決議取消しの訴えの対象となるとの結論を採
889 った場合には,
890 議案@も同様である。
891
892 )については,
893 Fの主張に関しては,
894 決議取消しにより
895 監査役としての権利義務を有することとなる者(同法第346条第1項)にも明文で原告適
896 格が認められていること(同法第831条第1項後段)を踏まえつつ,
897 監査役の選任に関す
898 る意見陳述の機会(同法第345条第4項,
899 第1項)が奪われていることを,
900 Aの主張に関
901 しては,
902 このようなFに関する手続上の瑕疵をAが主張することができるか否かを,
903 それぞ
904
905 -6-
906
907 れ条文を摘示しつつ論ずることが求められる。
908
909 また,
910 設問1において採った結論によっては,
911
912 23年総会の招集に係る取締役会決議の瑕疵の存否や,
913 22年総会において取締役に選任さ
914 れたとも考えられるQやRが監査役に選任されることの適否について論ずることも期待され
915 る。
916
917
918 〔第3問〕
919 本問は,
920 原告Xが被告Bに対し連帯保証債務の履行を求める訴えを提起したが,
921 Bの陳述
922 から,
923 その保証契約の締結の際,
924 代理人としてCが関与していた可能性があることが明らか
925 になったため,
926 XがXC間での保証契約の締結という第2の請求原因を追加することを検
927 討しているという事案を基に,
928 書証による証明(設問1・小問(1)),
929 当事者からの主張
930 の要否(同・小問(2)),
931 訴訟告知の効力(設問2)及び同時審判申出共同訴訟の機能(設
932 問3)について論じることを求めている。
933
934
935 〔設問1〕の小問(1)は,
936 連帯保証債務の履行を求める訴えである訴訟1において,
937 原
938 告Xが当初の請求原因Aの事実(XB間における連帯保証契約の締結)を立証する場合と第
939 2の請求原因Bの事実(BのCに対する代理権授与)を立証する場合のそれぞれについて,
940
941 書証である本件連帯保証契約書,
942 特に同契約書中にBの印章による印影が顕出されているこ
943 とが持つ意味を説明することを求める問題である。
944
945 説明をする際には,
946 問題文にあるとおり,
947
948 弁護士Lと司法修習生Pの会話を踏まえることが求められており,
949 具体的には,
950 本件連帯
951 保証契 約 書 の 連 帯 保 証 人 欄 の 作 成 者 とされるのが誰であるのかと関連付けつつ,
952 処 分 証
953 書や二段の推定の意義及び訴訟上の機能を明確にして論じることが期待されている。
954
955
956 本件連帯保証契約書が持つ意味を簡潔に述べるとすれば,
957 『本件連帯保証契約書は,
958 当初
959 の請求原因Aの事実(XB間における連帯保証契約の締結)の存在を直接証明するための証
960 拠となるが,
961 第2の請求原因Bの事実(BのCに対する代理権授与)を直接的に証明する証
962 拠となることはない。
963
964 』ということである。
965
966
967 『XB間における連帯保証契約の締結』という要証事実を立証する場合には,
968 本件連帯
969 保証契約書の連帯保証人欄には連帯保証をする旨のBの意思が表現されていることになる
970 から,
971 その成立の真正が認められれば,
972 直ちに『XB間における連帯保証契約の締結』の事
973 実が証明されることになる。
974
975 文書の成立の真正を認定する際には,
976 いわゆる二段の推定が働
977 く。
978
979 以上のことを,
980 二段の推定の意味内容も含めて丁寧に説明していけば,
981 処分証書や二段
982 の推定の意義や訴訟上の機能を正確に理解し表現するという課題に応えたことになり,
983 また,
984
985 二段の推定の意味内容を説明すれば,
986 その中でBを作成者と見る趣旨との関連がおのずから
987 明確にされることになる。
988
989
990 これに対し,
991 『BのCに対する代理権授与』という要証事実を立証する場合には,
992 問題文
993 にあるとおり,
994 本件連帯保証契約書の連帯保証人欄の作成者をCと見る前提に立つ以上,
995 そ
996 こにBのCに対する代理権授与の意思が表現されていることはなく,
997 本件連帯保証契約書が
998 『BのCに対する代理権授与』の事実を直接的に証明する証拠となることもない。
999
1000
1001 本件連帯保証契約書ではなく,
1002 そこにBの印章による印影が顕出されていることをもって,
1003
1004 『BのCに対する代理権授与』という要証事実との関係で間接証拠となることを論じること
1005 は考えられるが,
1006 その場合には,
1007 それがどのような意味で間接証拠になり得るのか,
1008 すなわ
1009 ち,
1010 どのような過程をたどって要証事実を推認させるのかを,
1011 丁寧に説明する必要がある。
1012
1013
1014 例えば,
1015 一般に印章の管理は厳格に行われ,
1016 それにもかかわらず本件連帯保証契約書の連帯
1017 保証人欄にBの印章による印影が顕出されていることからすれば,
1018 Bは,
1019 本件連帯保証契約
1020 書の連帯保証人欄の作成に先立って,
1021 自分の印章をCに交付しており,
1022 その際,
1023 Cに対し本
1024 件連帯保証契約の締結についての代理権も授与していたことが推認され得るといった説明で
1025 ある。
1026
1027
1028
1029 -7-
1030
1031 〔設問1〕の小問(2)は,
1032 司法修習生Pの見解を批判的に検討することを求める問題で
1033 ある。
1034
1035 この見解は,
1036 最判昭和33年7月8日民集12巻11号1740頁〔百選第4版・
1037 47〕の説示する内容に沿うものであるが,
1038 裁判所は当事者の主張しない事実を裁判の資料
1039 としてはならないという弁論主義の命題との関係で検討すべき点がある。
1040
1041 上記命題が主要事
1042 実について働くものであることや,
1043 代理権の発生原因事実等は主要事実であることを確認し
1044 つつ,
1045 論じることが期待されている。
1046
1047
1048 〔設問2〕は,
1049 訴訟1において表見代理が成立することを理由としてXのBに対する請求
1050 を認容する判決が言い渡され,
1051 同判決が確定したことを受けて,
1052 BがCに対し提起した不
1053 法行為に基づき損害賠償を求める訴え(訴訟2)において,
1054 原告Bが,
1055 請求原因として主
1056 張した,
1057 @Cの顕名及び法律行為,
1058 ACの無権代理の各事実をCが否認することの可否を
1059 検討することを求める問題である。
1060
1061
1062 問題文からも明らかなように,
1063 訴訟1においてBがした訴訟告知に基づく判決の効力を受
1064 けることを回避するための理論構成を,
1065 ま ず は 被告Cの立場から検討することが求められ
1066 ており,
1067 具体的には,
1068 訴訟告知に基づく判決効によってCが@Aの事実を争えなくなるとい
1069 う帰結に至る可能性を示した上で,
1070 被告知者であるCが受けることとなる効力の性質,
1071 効力
1072 を制限するための論拠と本件事案への当てはめといったことを明確に論じることが期待され
1073 ている。
1074
1075
1076 訴訟告知を,
1077 専ら告知者の利益保護のための制度であり,
1078 第三者に判決効を及ぼすための
1079 手段であると見る考え方もあるものの,
1080 このような考え方に対しては異論が強く,
1081 本問にお
1082 いても,
1083 被告知者Cに対する効力が全く制限されないという結論を採りつつ説得力のある論
1084 述をすることは容易でない(以上につき,
1085 仙台高判昭和55年1月28日高裁民集33巻1
1086 号1頁〔百選第2版・111〕,
1087 最判平成14年1月22日集民205号93頁〔百選第4
1088 版・105〕参照)。
1089
1090
1091 なお,
1092 被告知者Cに参加的効力が及ぶか否かを検討する際に,
1093 Cに補助参加の利益があっ
1094 たといえるか否かという観点から論じることも可能ではあるが,
1095 一般に補助参加の利益が広
1096 く解されていることからすると,
1097 Cにとって望ましい結論を得るのは難しく,
1098 本問において
1099 そのような観点から論じることの実益は乏しいと思われる。
1100
1101
1102 被告知者が受けることとなる参加的効力を制限する論拠としては,
1103 大きくとらえれば,
1104 被
1105 告知者と告知者との利害対立の可能性に着目することと,
1106 参加的効力の及ぶ客観的範囲に着
1107 目することの二つが考えられる。
1108
1109
1110 前者の観点からは,
1111 参加的効力の趣旨は,
1112 補助参加人と被参加人との間で被参加人敗訴の
1113 責任の分担を図ることにある以上,
1114 被告知者が参加的効力を受ける場合とは,
1115 被告知者が告
1116 知者と協同して相手方に対し攻撃防禦を尽くすことにつき利害の一致があり,
1117 そうすること
1118 を期待できる立場にあるときに限られる,
1119 そして,
1120 BC間にそのような利害の一致はない
1121 (BからCに対する代理権授与は,
1122 B に と っ て は 不 利 で あ る が ,
1123 C に と っ て は 有 利 で
1124 あ る ) こ と からすれば,
1125 @Aの事実ともにCには参加的効力が及ばない,
1126 と論じること
1127 が考えられる。
1128
1129
1130 また,
1131 後者の観点からは,
1132 次のように論じることができる。
1133
1134 すなわち,
1135 参加的効力が及ぶ
1136 客観的範囲は,
1137 判決の主文に包含された訴訟物たる権利関係の存否についての判断のほか,
1138
1139 その前提として判決の理由中でされた事実の認定や先決的権利関係の存否についての判断な
1140 どにも及ぶが,
1141 判決理由中の判断については,
1142 いわゆる傍論が拘束力を持つ理由は乏しく,
1143
1144 判決主文中の判断を導き出すために必要かつ十分なものに限られる。
1145
1146 これを本件について見
1147 ると,
1148 訴訟1においては,
1149 B敗訴の判決で表見代理の成立が認定されているものの,
1150 そのた
1151 めにCの無権代理の判断が必要であるわけではない。
1152
1153 このような論拠からは,
1154 参加的効力の
1155 客観的範囲に含まれるのは@の事実(Cの顕名及び法律行為)だけであり,
1156 Aの事実(Cの
1157
1158 -8-
1159
1160 無権代理)はこれに含まれないことになる。
1161
1162
1163 〔設問3〕は,
1164 同時審判の申出がある共同訴訟において,
1165 上訴があった場合の審判の統一
1166 がどのように,
1167 また,
1168 どの程度まで図られるかを検討することを求める問題である。
1169
1170 検討
1171 をする際には,
1172 問題文において与えられた事案において,
1173 @Cのみが控訴し,
1174 Xは控訴し
1175 なかった場合と,
1176 AC及びXが控訴した場合とを比較し,
1177 控訴審における審判の範囲を明
1178 確にしつつ,
1179 「両負け防止」の趣旨が実現される仕組みやその程度を論じることが求められ
1180 ている。
1181
1182
1183 同時審判申出共同訴訟は,
1184 民法第117条の無権代理人の責任と本人の責任のように実体
1185 法上併存し得ない請求について,
1186 実体法上あり得ないはずの両負けを避けるために設けられ
1187 たものであり,
1188 弁論及び裁判の分離が禁止され(民事訴訟法第41条第1項),
1189 同一手続で
1190 審理及び判決がされることによって事実上裁判の統一が図られることが期待できる。
1191
1192 もっと
1193 も,
1194 同時審判共同訴訟の性質はあくまでも通常共同訴訟であり,
1195 共同訴訟人独立の原則が妥
1196 当する(同法第39条)ことから,
1197 共同被告の一方の上訴又は一方に対する上訴の提起があ
1198 っても,
1199 その余の部分は確定してしまい,
1200 移審もしないと解されている。
1201
1202
1203 このように,
1204 上訴のあった当事者間の請求についてしか確定遮断と移審の効果が生じず,
1205
1206 上訴審の審判対象となるのもその範囲のみである(敗訴当事者が上訴しなか っ た 請 求
1207 に つ い て は 附 帯 上 訴 の 余 地 も な い ) ことから,
1208 移審する部分と移審しない部分とで審
1209 判の統一が図られない可能性があり,
1210 @Cのみが控訴した場合には,
1211 控訴審での両負けがあ
1212 り得る。
1213
1214 これに対し,
1215 A双方が控訴した場合には,
1216 弁論及び裁判の併合が要求され(同法第
1217 41条第3項),
1218 第一審段階と同様に事実上裁判の統一が図られることが期待できる。
1219
1220
1221 【刑事系科目】
1222 〔第1問〕
1223 本問は,
1224 A合同会社(以下「A社」という。
1225
1226 )所有の土地(以下「本件土地」という。
1227
1228 )に対
1229 するA社代表社員甲によるA社に無断での抵当権設定行為並びに甲及び甲の知人乙による本
1230 件土地のA社に無断での売却行為という具体的事例について,
1231 甲乙それぞれの罪責を問うこ
1232 とにより,
1233 刑事実体法及びその解釈論の知識と理解,
1234 具体的な事案を分析してそれに法規範
1235 を適用する能力及び論理的な思考力・論述力を試すものである。
1236
1237 すなわち,
1238 本問の事案は,
1239
1240 @甲が,
1241 自己のDに対する債務を担保するため,
1242 本件土地に,
1243 A社定款で必要とされている
1244 社員総会の承認決議を経ないまま,
1245 被担保債権をDの甲に対する債権とする抵当権を設定し,
1246
1247 抵当権設定登記を行った(以下「抵当権設定行為」という。
1248
1249 ),
1250 A甲が,
1251 抵当権設定行為を行
1252 うため,
1253 A社社員総会が開催された事実はなく,
1254 抵当権設定行為に対する社員総会の承認決
1255 議が存在しないにもかかわらず,
1256 A社社員総会において,
1257 抵当権設定行為に対する承認決議
1258 が行われた旨記載された社員総会議事録と題する文書を作成し,
1259 Dに交付した(以下「社員
1260 総会議事録作成行為等」という。
1261
1262 ),
1263 B甲が,
1264 乙の勧めに応じて,
1265 売却代金を自己の用途に費
1266 消する目的で,
1267 本件土地をEに売却した(以下「売却行為」という。
1268
1269 )というものである。
1270
1271 各
1272 行為に対する甲及び乙の罪責を論じる際には,
1273 事実関係を的確に分析した上で,
1274 構成要件該
1275 当性,
1276 共同正犯の成否等の事実認定上及び法解釈上の問題を検討し,
1277 事案に当てはめて妥当
1278 な結論を導くことが求められる。
1279
1280
1281 (1) 抵当権設定行為についての甲の罪責
1282 本問において,
1283 甲は,
1284 「A社の委託に基づき業務上本件土地を占有する者」であると同時
1285 に「A社の委託に基づきA社の財産上の事務を処理する者」に該当することになる。
1286
1287 した
1288 がって,
1289 抵当権設定行為についての甲の罪責を検討する際には,
1290 まず,
1291 業務上横領罪を検
1292 討すべきか背任罪を検討すべきかが問題となる。
1293
1294
1295 この点について,
1296 横領罪の保護法益を「物(個別財産)の所有権及び委託信任関係」,
1297 背
1298
1299 -9-
1300
1301 任罪の保護法益を「全体財産及び委託信任関係」と捉え,
1302 両罪の保護法益に重なり合いを
1303 認め,
1304 法益侵害が一つであることから,
1305 両罪の関係は法条競合であり,
1306 重い横領罪が成立
1307 すると考える見解からは,
1308 まず業務上横領罪の成否を検討することになる。
1309
1310 他の見解に立
1311 つ場合であっても,
1312 簡潔に自己の見解を定立した上で,
1313 その見解と論理的に矛盾しない説
1314 得力のある論述を展開する必要がある。
1315
1316
1317 本問において,
1318 抵当権設定行為について業務上横領罪の成否を検討する場合,
1319 業務上横領
1320 罪における客観的構成要件要素の意義をそれぞれ正確に理解した上で,
1321 問題文中に現れて
1322 いる各種事情を的確に当てはめていく必要がある。
1323
1324 本問で特に問題となるのは,
1325 抵当権設
1326 定行為が横領行為に該当するか否かについてであろう。
1327
1328 この点について,
1329 判例は,
1330 一貫し
1331 て横領罪の成立を認めている。
1332
1333 なお,
1334 業務上横領罪の成否を検討した場合には,
1335 同罪の既
1336 遂時期についても言及すべきである。
1337
1338
1339 本問において,
1340 抵当権設定行為について背任罪の成否を検討する場合も業務上横領罪の成
1341 否を検討する場合と同様,
1342 客観的構成要件要素をそれぞれ正確に理解した上で,
1343 問題文中
1344 に現れている事情を的確に当てはめていく必要がある。
1345
1346
1347 (2) 社員総会議事録作成行為等についての甲の罪責
1348 社員総会議事録作成行為等については,
1349 私文書偽造,
1350 同行使罪の成否を検討すべきであ
1351 る。
1352
1353
1354 本問において,
1355 私文書偽造,
1356 同行使罪の成否を検討する場合も,
1357 客観的構成要件要素の
1358 意義をそれぞれ正確に理解した上で,
1359 問題文中に現れている各種事情を的確に当てはめて
1360 いくことが必要となるが,
1361 本問で特に問題となるのは,
1362 偽造に当たるか否かという点であ
1363 る。
1364
1365 偽造の定義を前提に,
1366 社員総会議事録と題する文書の作成名義人及び作成者について
1367 論述していく必要がある。
1368
1369 この点について,
1370 判例として,
1371 最決昭和45年9月4日刑集2
1372 4巻10号1319頁が参考となる。
1373
1374 この判例の考え方に従えば,
1375 本問における作成名義
1376 人は社員総会ということになる。
1377
1378 また,
1379 最決平成15年10月6日刑集57巻9号987
1380 頁の考え方に従って,
1381 本問における作成名義人を社員総会議事録作成権限が付与された甲
1382 と考えることも可能であろう。
1383
1384 なお,
1385 本問においては,
1386 有印私文書偽造,
1387 同行使罪が成立
1388 するのか,
1389 無印私文書偽造,
1390 同行使罪が成立するのかについても言及すべきである。
1391
1392
1393 (3) 売却行為についての甲の罪責
1394 売却行為については,
1395 A社に対する関係で成立する犯罪と,
1396 Dに対する関係で成立する犯
1397 罪とを区別して検討する必要がある(なお,
1398 後述するように,
1399 売却行為については,
1400 乙と
1401 の共同正犯の成否が問題となる。
1402
1403 )。
1404
1405
1406 A社に対する関係で成立する犯罪を検討する際には,
1407 抵当権設定行為と同様,
1408 業務上横領
1409 罪を検討すべきか背任罪を検討すべきかが問題となるが,
1410 抵当権設定行為について成立す
1411 る犯罪を検討する際に定立した規範と矛盾なく論述を展開する必要がある。
1412
1413 抵当権設定行
1414 為について業務上横領罪の成立を認めた場合,
1415 売却行為についても業務上横領罪の成否を
1416 検討することになろう。
1417
1418 この場合,
1419 問題となるのは,
1420 横領物に対する横領が認められるか
1421 否かである。
1422
1423 この点については,
1424 最判平成15年4月23日刑集57巻4号467頁が参
1425 考になる。
1426
1427 この判例は,
1428 横領物の横領は不可罰的事後行為であるとしてきた従来の判例を
1429 変更し,
1430 横領物の横領を認めたものと理解できる。
1431
1432 他方,
1433 抵当権設定行為について背任罪
1434 の成立を認めた場合,
1435 売却行為について,
1436 背任罪が成立するのか業務上横領罪が成立する
1437 のかは,
1438 抵当権設定行為について背任罪の成立を認めた理由によって異なることとなるの
1439 で,
1440 論理矛盾のない論述を展開することが求められる。
1441
1442
1443 Dに対する関係で成立する犯罪としては,
1444 背任罪を検討するべきである。
1445
1446 この場合も,
1447 背
1448 任罪の客観的構成要件要素をそれぞれ正確に理解した上で,
1449 問題文中に現れている事情を
1450 的確に当てはめていく必要がある。
1451
1452 本問で特に問題となるのは,
1453 甲が他人のために事務を
1454
1455 - 10 -
1456
1457 処理する者に当たるか否かである。
1458
1459 この点について,
1460 最判昭和31年12月7日刑集10
1461 巻12号1592頁及び最決平成15年3月18日刑集57巻3号356頁が参考となる。
1462
1463
1464 (4) 甲に成立する犯罪の罪数処理
1465 甲に成立する複数の犯罪について,
1466 的確な罪数処理を行うことが求められる。
1467
1468 特に,
1469 甲に
1470 ついて,
1471 2個の業務上横領罪の成立を認めた場合の罪数処理については,
1472 上記平成15年
1473 4月23日最判がこの点に関する判断を示していないことから,
1474 同一主体による同一客体,
1475
1476 同一保護法益に対する侵害行為の罪数処理をどのように行うかについて,
1477 説得力のある論
1478 述を行うことが求められる。
1479
1480
1481 (5) 売却行為についての乙の罪責
1482 売却行為については,
1483 甲のみではなく,
1484 乙が関与していることから,
1485 乙に売却行為につい
1486 て甲に成立する犯罪の共同正犯が成立するか,
1487 あるいは教唆犯,
1488 幇助犯が成立するにとど
1489 まるのか検討する必要がある。
1490
1491 乙は,
1492 実行行為自体を行っていないため,
1493 いわゆる共謀共
1494 同正犯の成否が問題となるが,
1495 検討を行う際には,
1496 問題文中に現れている具体的な事実を
1497 丁寧に拾い上げて,
1498 共謀の成否(特に犯罪を行う意思の相互認識,
1499 相互利用補充意思)及
1500 び乙の正犯性を論じる必要がある。
1501
1502 すなわち,
1503 共謀の成否に関して言えば,
1504 @乙は,
1505 甲が
1506 A社に無断で本件土地に抵当権を設定してDから1億円を借りているという事実を認識し
1507 た上で,
1508 甲に本件土地の売却を勧め,
1509 甲もこれを了承していること,
1510 A乙は,
1511 甲の売却行
1512 為を利用して仲介手数料という利益を得ることを,
1513 甲は,
1514 乙の売買仲介行為を利用して売
1515 却利益を得ることを,
1516 それぞれ企図していることなどの事実が共謀の成否の判断にどのよ
1517 うな影響を及ぼすかを論じる必要があるし,
1518 正犯性に関して言えば,
1519 @乙は仲介手数料と
1520 いう利益を得ることを企図して売却行為に関わっていること,
1521 A乙は現実に売却行為によ
1522 り1300万円の利益を得ていること,
1523 B乙は売却行為の仲介という重要な行為を行って
1524 いること,
1525 C甲の犯意は乙が誘発したものであることなどの事実が正犯性の判断にどのよ
1526 うな影響を及ぼすかを論じる必要がある。
1527
1528 さらに業務上横領罪及び背任罪はいずれも身分
1529 犯であることから,
1530 身分犯に非身分者が加功した場合の処理を的確に行う必要がある。
1531
1532 こ
1533 の点に関しては,
1534 各種見解があり,
1535 判例としては,
1536 最判昭和32年11月19日刑集11
1537 巻12号3073頁が参考となるが,
1538 いずれの見解に立ったとしても,
1539 自己の見解を簡潔
1540 に述べた上で,
1541 自己の見解と矛盾しない結論を導く必要がある。
1542
1543 なお,
1544 乙に成立する複数
1545 の犯罪についても,
1546 的確な罪数処理を行うことが求められる。
1547
1548
1549 本問で論述が求められる問題点は,
1550 いずれも刑法解釈上の基本的な問題点であり,
1551 これらの
1552 問題点についての基本的な判例・学説の知識を前提に,
1553 具体的な事案の中から必要な事実を
1554 認定し,
1555 結論の妥当性も勘案しつつ,
1556 法規範の当てはめを行うことが求められる。
1557
1558 常日頃か
1559 ら,
1560 基本的な判例・学説の学習等を積み重ねることはもちろんであるが,
1561 特に判例を学習す
1562 る際には,
1563 単に結論のみを暗記するような学習ではなく,
1564 判例の事案の内容や結論に至る理
1565 論構成などを意識し,
1566 結論を導くために必要な事実を認定し,
1567 その事実に理論を当てはめる
1568 かん
1569
1570 能力を涵養することが望まれる。
1571
1572
1573 〔第2問〕
1574 本問は,
1575 覚せい剤取締法違反事件を素材とした捜査・公判に関する具体的事例を示して,
1576 そ
1577 こに生起する刑事手続上の問題点,
1578 その解決に必要な法解釈,
1579 法を適用するに当たって重要な
1580 具体的事実の分析,
1581 評価及び具体的帰結に至る思考過程を論述させることにより,
1582 刑事訴訟法
1583 に関する学識,
1584 適用能力及び論理的思考力を試すものである。
1585
1586
1587 設問1は,
1588 司法警察員がT株式会社事務所を捜索すべき場所とする捜索差押許可状に基づき,
1589
1590 捜索実行中に同事務所社長室に届いた従業員乙宛ての宅配便荷物を開封したこと(捜査@)及
1591 びその荷物の中から覚せい剤を発見し,
1592 乙を現行犯逮捕した後に同事務所更衣室に設置された
1593
1594 - 11 -
1595
1596 乙の使用するロッカー内を捜索したこと(捜査A)に関し,
1597 その適法性を論じさせることによ
1598 り,
1599 刑事訴訟法第218条第1項の定める捜索差押許可状に基づく捜索及び同法第220条第
1600 1項第2号の定める逮捕に伴う捜索についての正確な理解と具体的事実への適用能力を試すも
1601 のである。
1602
1603
1604 同法第218条第1項は,
1605 司法警察職員は裁判官の発する令状により捜索することができる
1606 としているが,
1607 令状には,
1608 被疑者の氏名,
1609 罪名,
1610 差し押さえるべき物,
1611 捜索すべき場所,
1612 有効
1613 期間等が記載されているのであり,
1614 捜査機関は,
1615 裁判官がその捜索差押許可状によって明示・
1616 許可した範囲内でのみ捜索できる。
1617
1618 本事例において,
1619 H地方裁判所裁判官は,
1620 特定の有効期間
1621 を付して捜索すべき場所を「H県I市J町○丁目△番地T株式会社」,
1622 差し押さえるべき物を
1623 「本件に関連する覚せい剤,
1624 電子秤,
1625 ビニール袋,
1626 はさみ,
1627 注射器,
1628 手帳,
1629 メモ,
1630 ノート,
1631 携
1632 帯電話」とする捜索差押許可状を発付したのであるから,
1633 捜査機関に対し,
1634 特定の有効期間内
1635 において,
1636 被疑事実(平成23年10月2日の甲による覚せい剤の営利目的所持)に関連する
1637 覚せい剤,
1638 メモ,
1639 ノート等の差押えをするために,
1640 T株式会社の管理する同社事務所を捜索す
1641 ることを許可したのであり,
1642 捜査機関は,
1643 その許可された範囲内でのみ捜索を行うことができ
1644 る。
1645
1646
1647 このような令状による捜索の仕組みを踏まえた上で,
1648 捜査@の事例への適用に当たっては,
1649
1650 捜索場所に捜索実行中に届いた荷物であることと有効期間内における捜索が許可されたことと
1651 の関係,
1652 乙宛ての荷物であることとT株式会社の管理する場所内の捜索が許可されたこととの
1653 関係,
1654 平成23年10月5日に捜索場所に新たに持ち込まれた乙宛ての物であることと被疑事
1655 実(同月2日の甲による覚せい剤の営利目的所持)に関連する覚せい剤等の捜索が許可された
1656 こととの関係に分けて論ずることが必要であり,
1657 いずれの検討においても,
1658 事例中に現れた具
1659 体的事実を的確に抽出,
1660 分析しながら評価,
1661 検討すべきである。
1662
1663 個々の適法又は違法の結論は
1664 ともかく,
1665 具体的事実を事例中からただ書き写して羅列すればよいというものではなく,
1666 それ
1667 ぞれの事実が持つ法的な意味を的確に分析して論じなければならない。
1668
1669
1670 例えば,
1671 有効期間との関係においては,
1672 捜索すべき場所に存在する物は,
1673 通常その場所の管
1674 理権に属することから,
1675 裁判官は,
1676 捜索すべき場所に存在する物(かばん,
1677 アタッシュケース
1678 等移動させることが可能な物を含む。
1679
1680 )についても捜索すべき場所と一体のものとして併せて
1681 捜索する正当な理由を判断していること,
1682 捜索差押許可状の有効期間内であれば司法警察員K
1683 は,
1684 いつでも適法に捜索差押えを行うことができ,
1685 たとえ令状発付後捜索開始前に持ち込まれ
1686 た物であってもその捜索差押えは適法であること,
1687 捜索開始(令状呈示)の前後で適法違法が
1688 分かれるとすると,
1689 司法警察員Kが乙宛ての荷物が届けられた後に捜索を開始すれば適法に差
1690 し押さえることができるのにたまたま捜索開始が早かったために違法になること等を考慮し,
1691
1692 裁判官がどの時点における捜索する正当な理由を審査しているのか,
1693 各自の見解を説得的に論
1694 ずる必要がある。
1695
1696 なお,
1697 この点に関しては,
1698 最高裁判例(最決平成19年2月8日刑集61巻
1699 1号1頁)が存在するから,
1700 同判例の内容を踏まえた上で各自の見解を展開することが望まし
1701 い。
1702
1703
1704 また,
1705 T株式会社の管理権との関係においては,
1706 被疑事実は代表者甲に対するものであるこ
1707 と,
1708 荷物の宛名は乙であるが,
1709 送付先はT株式会社であること,
1710 同社は人材派遣業を営んでお
1711 り,
1712 裁判官にとっても同社事務所に従業員がいると当然予想されたところ,
1713 現に令状発付前か
1714 ら同社事務所で従業員が働いていることが判明していたこと,
1715 乙は同社の従業員であること,
1716
1717 甲の携帯電話に残されたメール内容等によれば,
1718 甲と乙は共同して覚せい剤を密売しており,
1719
1720 丙から甲が乙宛ての荷物の中身を分けるように指示されていて甲が乙宛ての荷物の管理・支配
1721 を委ねられているとうかがえること等を検討し,
1722 乙宛ての荷物にT株式会社の管理権が及んで
1723 いるかどうか論ずる必要がある。
1724
1725
1726 さらに,
1727 被疑事実と関連する覚せい剤が存在する蓋然性との関係においては,
1728 被疑事実の中
1729
1730 - 12 -
1731
1732 に営利目的が含まれていること,
1733 甲が同社事務所社長室で覚せい剤取締法違反の検挙歴ある者
1734 に覚せい剤を売ろうとし,
1735 同社事務所に同検挙歴のある者数名が出入りしていて被疑事実につ
1736 いても常習的犯行の一環であると推測されること,
1737 前記メール内容等から甲,
1738 乙が覚せい剤を
1739 共同して密売していることがうかがえ,
1740 被疑事実についても乙が共犯者である可能性があるこ
1741 と,
1742 このメール内容等と符合するように指定された日時場所に甲宛てと乙宛ての2つの荷物が
1743 同時に届き,
1744 それぞれの伝票の筆跡が酷似し,
1745 記載された内容物はいずれも書籍であるだけで
1746 なく,
1747 同一の差出人名でその所在地の地番が実在せず電話番号も未使用であること,
1748 荷物が届
1749 いた際の甲,
1750 乙の会話内容が不審であり,
1751 司法警察員Kから荷物の開披を求められても乙は拒
1752 絶したこと等を検討し,
1753 被疑事実と関連する覚せい剤が存在する蓋然性があるかどうか論ずる
1754 必要がある。
1755
1756
1757 捜査Aのうち捜索差押許可状に基づく捜索も同様に,
1758 乙使用のロッカーであることとT株式
1759 会社の管理権との関係,
1760 乙使用のロッカーであることと被疑事実と関連する乙の携帯電話や手
1761 帳等が存在する蓋然性との関係に分けて論ずることが必要である。
1762
1763 そして,
1764 T株式会社の管理
1765 権との関係では,
1766 前記のとおり,
1767 通常,
1768 裁判官は捜索すべき場所に存在する備品等の物や会社
1769 事務所に従業員がいることを含めて当該場所を捜索する正当な理由を判断していること,
1770 乙は
1771 同社の従業員であること,
1772 乙がロッカーの鍵を所持し捜索時に施錠していたとはいえ,
1773 同ロッ
1774 カーは同社が管理しており同事務所社長室にマスターキーがあったこと等を検討し,
1775 同ロッカ
1776 ー内にT株式会社の管理権が及んでいるかどうか,
1777 同社から貸与された乙による事実上のロッ
1778 カーの使用がT株式会社の管理権とは別に独立して保護に値するものかどうか論ずる必要があ
1779 るし,
1780 被疑事実と関連する乙の携帯電話や手帳等が存在する蓋然性との関係では,
1781 捜査@で述
1782 べた事情に加え,
1783 現に乙宛ての荷物の中から覚せい剤が発見されたこと,
1784 司法警察員Kの質問
1785 に対して甲が「隣の更衣室のロッカーにでも入っているんじゃないの。
1786
1787 」と答えたこと,
1788 司法
1789 警察員Kから同ロッカーの中を見せるように求められても乙は拒絶したこと等を検討し,
1790 被疑
1791 事実と関連する乙の携帯電話と手帳等が存在する蓋然性があるかどうか論ずる必要がある。
1792
1793
1794 捜査Aのうち現行犯逮捕に伴う捜索については,
1795 なぜ「逮捕する場合において」令状なくし
1796 て捜索を行うことができるのかという制度の趣旨に立ち返り,
1797 「逮捕の現場で」の解釈を明確
1798 にした上で,
1799 各自の見解とは異なる立場を意識して事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,
1800
1801 分析しながら論ずるべきである。
1802
1803 例えば,
1804 更衣室は同じT株式会社事務所にあるだけでなく,
1805
1806 社長室の隣室であること,
1807 同じ同社の管理権が及んでいること,
1808 逮捕された被疑者は乙であり,
1809
1810 ロッカーも乙以外の他人が使用するものではなかったこと等を検討し,
1811 逮捕の現場といえるか
1812 どうか論ずる必要がある。
1813
1814 また,
1815 現行犯逮捕の被疑事実との関連性についても触れるべきであ
1816 ろう。
1817
1818
1819 設問2は,
1820 裁判所が甲と丙の共謀を認める方が甲にとって犯情が軽くなると考え,
1821 証拠上,
1822
1823 共謀の存否はいずれとも確定できないのに,
1824 格別の手続的な手当てを講じないまま判決で公訴
1825 事実に記載されていない丙との共謀を認定したことに関し,
1826 そのような判決の内容及びそれに
1827 至る手続の適法性を論じさせることにより,
1828 有罪判決における犯罪の証明,
1829 「疑わしきは被告
1830 人の利益に」の原則(利益原則)の意義及び訴因変更の要否についての正確な理解と具体的事
1831 実への適用能力を試すものである。
1832
1833
1834 裁判所が,
1835 証拠上,
1836 共謀の存否がいずれとも確定できないのに,
1837 被告人にとって共謀の存在
1838 が情状の上で有利であることを理由に共謀を認定できるかについては,
1839 共謀を認定すべきであ
1840 るとする考え方(本事例の裁判所の立場),
1841 「単独又は共謀の上」と択一的に認定すべきである
1842 とする考え方及び訴因どおり単独犯を認定すべきであるとする考え方の3つの考え方があり得
1843 るところであり,
1844 まずは,
1845 本事例において判決でどのような事実を認定すべきなのか,
1846 この問
1847 題に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論ずる必要がある。
1848
1849 その上で,
1850 いず
1851 れの立場に立つにせよ,
1852 共同正犯と単独犯とはいかなる関係に立つのか,
1853 判決において証拠に
1854
1855 - 13 -
1856
1857 よって証明されてもいない共謀の事実を存在するものとして認定してよいのか,
1858 有罪判決にお
1859 ける「犯罪の証明」とは何をいうのか,
1860 「疑わしきは被告人の利益に」の原則は,
1861 本来存否に
1862 合理的な疑いが残る場合に事実が存在すると認定できないことを意味するものではないのか,
1863
1864 共謀の存在は必ずしも被告人に有利になることばかりとは限らないのであり事案ごとの犯情の
1865 軽重により共謀の事実があったりなかったりしてよいのか,
1866 共謀を認定しない限り丙の存在を
1867 甲に有利な情状として考慮することは許されないのか等の理論的に想定し得る諸点について,
1868
1869 各自の見解とは異なる立場を意識して自説を説得的に展開し,
1870 事例中の判決の内容が適法か否
1871 か論ずる必要がある。
1872
1873
1874 また,
1875 訴因変更の要否については,
1876 かつて,
1877 いわゆる具体的防御説と抽象的防御説を中心に
1878 多様な考え方があったところ,
1879 近時,
1880 審判対象を画定するのに必要な事項が変動する場合には,
1881
1882 被告人の防御にとって不利益か否かにかかわらず,
1883 訴因変更が必要である,
1884 審判対象を画定す
1885 るために必要な事項でなくとも,
1886 被告人の防御にとって重要な事項につき検察官が訴因に明示
1887 した場合に,
1888 裁判所がそれと実質的に異なる認定をするには原則として訴因変更を要するが,
1889
1890 被告人の防御の具体的な状況等の審理の経過に照らし,
1891 被告人に不意打ちを与えるものではな
1892 いと認められ,
1893 かつ,
1894 判決で認定される事実が訴因に記載された事実に比べて被告人にとって
1895 不利益であるとはいえない場合には,
1896 訴因変更をせずに訴因と異なる認定をしてよいとする最
1897 高裁判例(最決平成13年4月11日刑集55巻3号127頁)が現れるに至っているのであ
1898 るから,
1899 同判例の内容を踏まえた上で説得的に各自の基本的な立場を明らかにし,
1900 訴因変更の
1901 要否の一般的な基準を定立する必要がある。
1902
1903
1904 そして,
1905 本事例の具体的状況下における当てはめを行うことになるが,
1906 本事例が,
1907 同判例の
1908 事案と様々な点で異なるものであることは明らかであるから,
1909 本事例における具体的事実の分
1910 析,
1911 評価に関しては特に留意を要する。
1912
1913 本事例においては,
1914 共同正犯と単独犯については構成
1915 要件が同一なのか異なるのかということ,
1916 処罰する際に適用すべき法条として刑法第60条が
1917 新たに加わること,
1918 検察官の主張する訴因には一切共謀に関する記載がないこと,
1919 裁判所が認
1920 定した事実は弁護人が第1回公判期日の罪状認否で主張した事実と同一であること等を検討
1921 し,
1922 訴因変更を要するか否か論ずる必要がある。
1923
1924 なお,
1925 論述に当たり共謀の存否は訴因の本質
1926 的要素ではなく罪となるべき事実に属しないとの結論を採る場合には,
1927 共謀の事実の存否につ
1928 いては罪となるべき事実に属し厳格な証明を要するとした最高裁判例(最判昭和33年5月2
1929 8日刑集12巻8号1718頁)が存在するから,
1930 同判例の内容を意識して論述することが望
1931 ましい。
1932
1933
1934 【選択科目】
1935 [倒
1936
1937 産
1938
1939 法]
1940
1941 〔第1問〕
1942 本問は,
1943 具体的な事例を通じて,
1944 破産手続における否認の要件及び破産手続開始の決定が係
1945 属中の株主総会の決議の取消しの訴えに与える影響についての理解を問うものである。
1946
1947
1948 設問1については,
1949 破産者が実質的破綻時期において設定した債権譲渡担保について,
1950 設
1951 例における具体的事実関係の下で,
1952 支払不能となる具体的な時期を認定した上,
1953 適切な否認
1954 権に関する規定(支払不能の時期の認定次第ではあるものの,
1955 設例においては,
1956 破産法第1
1957 62条第1項第2号が主要な検討対象となろう。
1958
1959 )に基づき,
1960 否認の要件に当てはめてその可
1961 否を論ずることが求められる。
1962
1963 その際には,
1964 問題文において,
1965 予想されるX及びB社の主張
1966 を踏まえて論ずることが求められているので,
1967 支払不能となる時期に関しては,
1968 弁済期が到
1969 来した債務についてのみ判断されるとする考え方(B社が主張するものと予想されるであろ
1970 う。
1971
1972 )と近い将来の支払不能が確実に予想される時点で支払不能を認定することができるとい
1973 う考え方(Xが主張するものと予想されるであろう。
1974
1975 )の対立が明らかにされる必要があるし,
1976
1977
1978 - 14 -
1979
1980 前者の考え方に原則的に立ちつつも,
1981 設例のように返済期日の変更がされた場合において,
1982
1983 当該変更が債務者の信用力の反映ではなく,
1984 否認を免れるためにされたようなときは,
1985 変更
1986 前の返済期日が到来した時点で支払不能となるという考え方もあり得るであろう。
1987
1988 このよう
1989 な多様な視点を意識しつつ,
1990 予想されるX及びB社の主張の内容を整理し,
1991 自説による支払
1992 不能となる時期の認定を説得的に論ずることが期待される。
1993
1994 また,
1995 以上の支払不能に関する
1996 時期的要件の検討に加え,
1997 否認の他の要件(破産法第162条第1項第2号の場合は,
1998 破産
1999 者の行為が非義務的偏頗行為であることやB社の悪意)についても,
2000 XとB社の主張の対立
2001 を意識しつつ,
2002 設例に当てはめて,
2003 否認の可否についての結論を明らかにする必要がある。
2004
2005
2006 設問2については,
2007 まず,
2008 設例の各株主総会決議の取消しの訴えに係る訴訟が破産法第4
2009 4条第1項に規定する「破産者を当事者とする破産財団に関する訴訟手続」に当たり,
2010 中断
2011 するものであるかどうかを論ずることが求められる。
2012
2013 破産会社を被告とする株主総会決議取
2014 消訴訟は,
2015 会社の組織的事項を対象とするのが原則であるが,
2016 その財産関係に影響を及ぼす
2017 事項を対象とするもの(例えば,
2018 設例のBの配当決議の取消訴訟がこれに当たるとする考え
2019 方がある。
2020
2021 )も存在する可能性があり,
2022 設例の@からBまでの各決議ごとに,
2023 各株主総会決議
2024 取消訴訟が同項の規定により中断するものであるかどうかを論じ,
2025 中断すると結論付けると
2026 きには,
2027 破産管財人Xにより受継されるかどうかについても,
2028 言及する必要がある。
2029
2030 他方,
2031
2032 同項の規定により中断しないと考える場合には,
2033 従来の取締役であるDがそのまま代表者と
2034 して訴訟を追行することができるかどうかが論じられなければならず,
2035 その際には,
2036 委任契
2037 約の終了に関する民法第653条第2号の規定の適用の可能性に関する解答者の立場を踏ま
2038 えて,
2039 A社の破産手続開始後の訴訟追行の在り方について論ずべきであるし,
2040 また,
2041 設例の
2042 @の決議(取締役Dの選任決議)の取消訴訟については,
2043 訴えの利益の有無も,
2044 論点の一つ
2045 となるであろう(最判平成21年4月17日判時2044号74頁等参照)。
2046
2047 さらに,
2048 本問は,
2049
2050 設例の@からBまでの各決議の取消訴訟が被告であるA社の破産手続開始決定によってどの
2051 ような影響を受けるかを問うものであるから,
2052 一部の株主総会決議取消請求について訴訟追
2053 行者が異なるという結論に至ったときには,
2054 弁論を分離して別個に審理・裁判をする可能性
2055 についても言及することが期待される。
2056
2057
2058 〔第2問〕
2059 本問は,
2060 具体的な事例を通じて,
2061 再生手続開始の決定が再生債務者や第三者の行為に与え
2062 る影響及び再生計画案についての決議に付する旨の決定の要件についての理解を問うもので
2063 ある。
2064
2065
2066 設問1については,
2067 まず,
2068 A社について再生手続が開始された時点では,
2069 B銀行が売掛金
2070 債権に係る譲渡担保を受けたことにつき対抗要件を具備していないので,
2071 そのままでは当該
2072 譲渡担保の効力を再生手続において主張することができないこと,
2073 すなわち,
2074 対抗問題の発
2075 生について確認する必要があり,
2076 いわゆる再生債務者の第三者性や再生手続開始後の登記等
2077 の効力を否定する規定(民事再生法第45条)の趣旨等から,
2078 これを理由付けることが求め
2079 られる。
2080
2081 次に,
2082 再生手続開始後にされたB銀行による譲渡通知及びC社による承諾の効力を
2083 論ずることになる。
2084
2085 いずれも,
2086 その効力が否定されることになるが,
2087 譲渡通知については,
2088
2089 B銀行がA社を代理して通知するものである旨を確認する必要があり,
2090 その上で,
2091 本問では,
2092
2093 監督委員が選任されており,
2094 譲渡通知は財産処分行為として要同意事項として指定されてい
2095 ることが想定されるので,
2096 同意を得ないでした行為として無効となるものと考えられる(同
2097 法第54条第4項)が,
2098 開始後の登記等の規定(同法第45条)の類推適用や再生債権の弁
2099 済禁止(同法第85条第1項)による説明もあり得るであろう。
2100
2101 いずれにしても,
2102 説得的な
2103 論述が求められる。
2104
2105 また,
2106 承諾については,
2107 再生債権につき再生債務者の行為によらないで
2108 権利を取得した者に該当すると考えられるので,
2109 同法第44条が適用になることを述べる必
2110
2111 - 15 -
2112
2113 要がある。
2114
2115
2116 設問2については,
2117 まず,
2118 決議に付する旨の決定の要件(民事再生法第169条第1項)
2119 として,
2120 一定の再生計画の不認可事由に該当しないことが求められていること(同項第3号)
2121 を確認する必要がある。
2122
2123 その上で,
2124 設例の再生計画案において問題となる点として,
2125 第1に,
2126
2127 清算価値保障原則について定める同法第174条第2項第4号があり,
2128 10%の破産配当率
2129 と設例の計画案における原則95%免除の一般的基準との比較から論述することが求められ
2130 る。
2131
2132 第2に,
2133 D社に対する手続開始後の弁済の問題があり,
2134 このような弁済が同法第85条
2135 第1項に違反するものであって,
2136 同法第174条第2項第1号の不認可事由に該当すること
2137 になるものの,
2138 同法第85条第5項に該当する可能性もあり,
2139 事後的な裁判所の許可による
2140 不備の補正の可能性について言及することが期待される。
2141
2142 最後に,
2143 監督委員Xによる勧告と
2144 して,
2145 D社に対する不当利得返還請求権の行使や,
2146 清算価値を満たす弁済率への再生計画案
2147 の修正(同法第167条)の指摘が求められる。
2148
2149
2150 [租
2151
2152 税
2153
2154 法]
2155
2156 〔第1問〕
2157 個人所得課税においては所得の種類と所得の年度帰属の判断が必ず求められることは,
2158 法科
2159 大学院における租税法学習上の基本的な事項の一つである。
2160
2161 設問1では,
2162 その基本を理解して
2163 いることを前提に,
2164 問題文に示された一連の事実関係や契約内容を分析・評価し,
2165 法律の当て
2166 はめを行い,
2167 法人から支払を受けた個人の所得課税において必要となる所得の種類や所得の年
2168 度帰属などの判断をすることが求められている。
2169
2170
2171 所得の種類については,
2172 脱サラした起業者が開業準備中又は開業初期に,
2173 起業中の事業に直
2174 結し得るコンペの賞金・賞品を受け取り,
2175 コンペをきっかけとして起業者が製造する商品の販
2176 売ルートを確保できることになる可能性のある契約も締結したという状況設定の中では,
2177 一般
2178 に論じられる事業所得と雑所得の違い(事業と事業に至らない程度の業務との違い)だけでは
2179 なく,
2180 事業所得と一時所得の関係,
2181 一時所得と雑所得の関係を踏まえ,
2182 事実関係を的確に評価
2183 しての判断が求められる。
2184
2185 この問題では,
2186 所得の種類についての基本ルールの理解に加えて,
2187
2188 法律の適用上重要と考えられる事実を選り出して評価し,
2189 当てはめを行って結論を導き出すと
2190 いう判断のプロセスないし判断の理由を,
2191 いかに説得力をもって論述できるかが問われている。
2192
2193
2194 また,
2195 設問1では,
2196 問題文の中に支払の根拠となる契約文言が契約そのものの形で織り込んで
2197 あることから,
2198 その支払(起業支援金)に係る所得に対する所得税法の適用を論ずる際には,
2199
2200 まずはその支払の私法上の性質を契約解釈によって明らかにすることが所得税法適用の前提と
2201 して求められる。
2202
2203
2204 所得の年度帰属については,
2205 法人から個人への支払が複数年にまたがり,
2206 かつ場合によって
2207 は契約上条件付でなされるという設定であること,
2208 また,
2209 株式は「金銭以外の物又は権利その
2210 他経済的な利益」に該当することから,
2211 それらの収入計上時期につき,
2212 契約の内容や株式に対
2213 する会社法の規律という私法の理解と所得税法における権利確定主義の理解という双方の理解
2214 を踏まえた分析に基づく判断が求められる。
2215
2216
2217 次に,
2218 設問2では,
2219 支払をする側である法人について,
2220 法科大学院で学ぶ法人税法の基本的
2221 事項の一つである,
2222 法人所得計算上損金とされる費用該当性の判断と費用の認識時期の理解が
2223 問われている。
2224
2225 ここでも,
2226 単に適用条文を挙げて結論を示すだけではなく,
2227 法人による支払の
2228 法人税法上の取扱いを判断する前提として,
2229 具体的に,
2230 法人の支払の根拠となっている法律関
2231 係や契約の内容などの理由を挙げて判断を示すことが求められる。
2232
2233
2234 〔第2問〕
2235 本問は,
2236 個人と法人との間における資産の譲渡や貸付けに係る所得税や法人税の課税関係を
2237
2238 - 16 -
2239
2240 問うことによって,
2241 所得税法及び法人税法上の基本的な規定について具体的な事案に即して解
2242 釈適用能力を試そうとするものである。
2243
2244 条文への単なる当てはめによってではなく,
2245 条文の趣
2246 旨目的やその基礎にある考え方をも考慮して解答を導き出す姿勢が重要である。
2247
2248
2249 設問1は,
2250 法人成りに伴う個人から法人への資産の譲渡に係る所得税の課税関係を問うもの
2251 である。
2252
2253 主として,
2254 @譲渡資産の内容及び種類に応じて資産の譲渡に係る所得の有無及び種類
2255 を所得税法の関連規定に則して適切に判断することができるかどうか,
2256 A資産の譲渡対価が時
2257 価より著しく低い価額である場合を所得税法の規定に則して適切に処理することができるかど
2258 うかを試している。
2259
2260 @については,
2261 特に所得税法第33条第1項及び第2項における資産分類
2262 の基礎にある考え方に関する正確な理解のほか,
2263 資産によっては収入金額の計上時期を考慮に
2264 入れた判断をも求めている。
2265
2266 Aについては,
2267 所得税法第59条第1項第2号だけでなく同法第
2268 40条第1項第2号をも視野に入れた解答を求めている。
2269
2270
2271 設問2は,
2272 個人から法人への土地の負担付贈与及び建物の低額貸付けの当事者双方に対する
2273 所得税や法人税の課税関係を問うものである。
2274
2275 主として,
2276 B本件贈与に関する所得税法の適用
2277 条文を同法第59条第1項の趣旨目的に照らして適切に決定することができるかどうか,
2278 C本
2279 件贈与と本件貸付けについてそれぞれに係るX社の課税関係を法人税法第22条に則して適切
2280 に判断することができるかどうかを試している。
2281
2282 Bについては,
2283 民法上の贈与概念と所得税法
2284 上の贈与概念との関係に関する正確な理解,
2285 所得税法における資産の譲渡に係る実現主義と課
2286 税繰延べとの正確な関連付け等に基づく解答を求めている。
2287
2288 Cについては,
2289 特に法人税法第2
2290 2条第2項において,
2291 無償による資産の譲受けに係る明文の定めはあるのに対して,
2292 無償によ
2293 る役務の受入れに係る明文の定めがないことをどのように考えるかを検討した上で解答するこ
2294 とを求めている。
2295
2296
2297 [経
2298
2299 済
2300
2301 法]
2302
2303 〔第1問〕
2304 本問は,
2305 石油製品である乙を分解して得られる化学物質を原料とする化学製品甲の製造販売
2306 業者であるA社,
2307 B社,
2308 C社及びD社(以下「4社」という。
2309
2310 )が行った,
2311 乙価格の上昇を理
2312 由とする甲の販売価格の値上げ行動を中心にして,
2313 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関す
2314 る法律(以下「独占禁止法」という。
2315
2316 )第2条第6項,
2317 第3条の不当な取引制限(いわゆる「価
2318 格カルテル」)の成否及び離脱の成否などを検討させることにより,
2319 不当な取引制限について
2320 の基本的な理解を問うものである。
2321
2322
2323 不当な取引制限の成否を検討する場合には,
2324 まず,
2325 問題とされている行為について事実関係
2326 を確定する必要がある。
2327
2328 確定された事実が行為要件を充足する場合には,
2329 競争の実質的制限の
2330 有無を検討することとなり,
2331 そこで,
2332 一定の取引分野の画定が必要となる。
2333
2334 問題文から,
2335 甲に
2336 関する必要な情報(製品としての特徴,
2337 地理的範囲など)を拾い出し,
2338 要領よく簡潔にまとめ
2339 ながら,
2340 市場を画定することが求められる。
2341
2342 画定した市場を前提として,
2343 競争の実質的制限の
2344 有無を検討することになるが,
2345 甲市場の特色(4社のシェア,
2346 競争者のシェア,
2347 各種競争圧力
2348 など)を正確に把握し,
2349 これを的確に論述することが求められる。
2350
2351
2352 設問1は,
2353 4社による会合(部長会)の場では,
2354 甲の販売価格の値上げに関していまだ4社
2355 間には明示の合意が成立していないという前提の下で,
2356 上記会合前及び会合後の4社の客観的
2357 行動を認定し,
2358 これを分析して,
2359 不当な取引制限についての黙示の合意の成否を検討すること
2360 が求められる。
2361
2362 これを肯定するにしても,
2363 否定するにしても,
2364 問題文から得られる多くの事実
2365 (間接事実)の中から,
2366 重要と思われるものを拾い出し,
2367 説得力のある論述をすることが期待
2368 される。
2369
2370 競争の実質的制限の有無の検討に際しても,
2371 甲製品の市場の状況を分析し,
2372 要領よく
2373 まとめることが必要となる。
2374
2375 Y社の行為についての検討も忘れてはならない。
2376
2377
2378 設問2は,
2379 4社による会合(部長会)の場で,
2380 甲の販売価格の値上げに関する合意が成立し
2381
2382 - 17 -
2383
2384 たという前提の下で,
2385 その後のC社の行動から,
2386 C社について,
2387 不当な取引制限の離脱が認め
2388 られるか否かを検討することが求められる。
2389
2390 離脱を肯定するにしても,
2391 否定するにしても,
2392 説
2393 得力のある理由付けが必要となるが,
2394 その際,
2395 不当な取引制限についての基本的な理解が問わ
2396 れることになる。
2397
2398 また,
2399 D社の行為を論ずるに際しては,
2400 不当な取引制限の成立時期が問題と
2401 なり,
2402 ここでも上記同様に,
2403 不当な取引制限についての基本的な理解が問われることになる。
2404
2405
2406 〔第2問〕
2407 本問は,
2408 特殊な植物から抽出した栄養成分を主とする栄養機能食品αを,
2409 甲というブランド名で
2410 販売し,
2411 同食品の市場においてシェア40%・第1位を占めるX社が,
2412 甲が無店舗のインターネッ
2413 ト販売業者に販売されないようにするため,
2414 甲を扱っている薬局・薬店に対し,
2415 これを専ら一般消
2416 費者に対してのみ販売するようにさせたという事案について,
2417 独占禁止法上の問題点を指摘し検討
2418 することを求めるものである。
2419
2420
2421 本件事案は,
2422 横流しないし転売の禁止として,
2423 拘束条件付取引(不公正な取引方法一般指定12
2424 項)の適用が問題となるものであり,
2425 そこにおける,
2426 行為要件該当性,
2427 競争減殺効果及び正当化事
2428 由の有無についての基本的な理解を問うものである。
2429
2430
2431 本件行為は,
2432 甲のブランド力を背景にして薬局・薬店の取引先を制限するものであり,
2433 その実効
2434 性担保手段として,
2435 代理店卸売業者による取引停止を伴う監視がなされていると評価すべきもので
2436 ある。
2437
2438 なお,
2439 本件は,
2440 転売を一律に禁止するものであるから,
2441 ネット販売業者に対する単独・間接
2442 の取引拒絶(一般指定2項)とするのは適切ではないと言えよう。
2443
2444
2445 次に,
2446 本件行為の競争減殺効果として問題になるのは,
2447 安売り業者であるネット販売業者が甲を
2448 購入できないことによる,
2449 販売業者間の価格競争の制限であり,
2450 競争排除ではなく競争回避が問題
2451 となる事案である。
2452
2453 まず,
2454 判断の前提として,
2455 代替品βの評価を含めて,
2456 一定の取引分野ないし市
2457 場の画定をする必要がある。
2458
2459 続いて,
2460 本件行為により甲の価格が維持されるおそれがあるか否かを,
2461
2462 市場の実態に即して,
2463 ブランド内競争の状況(甲のブランド力,
2464 流通経路の閉鎖性)
2465 ,
2466 ブランド間競
2467 争の状況(参入障壁の高さ,
2468 価格競争の活発さ)などを総合的に考慮し判断することが求められる。
2469
2470
2471 最後に,
2472 本件行為は,
2473 ブランドイメージの保持の観点から,
2474 顧客への商品の説明及び品質保持の
2475 ための温度管理の必要性を理由として行われているから,
2476 その正当化事由の有無を検討する必要が
2477 ある。
2478
2479 その場合,
2480 商品の説明の必要性については,
2481 健康増進法による注意喚起表示の存在を考慮す
2482 ることが必要となろう。
2483
2484 また,
2485 温度管理については,
2486 その必要性自体は否定できないから,
2487 一律の
2488 転売禁止以外の代替的方法・手段について検討することが重要となろう。
2489
2490
2491 いずれについても,
2492 拘束条件付取引の要件の意義及び内容を正確に理解した上で,
2493 事実関係を丹
2494 念に検討し,
2495 本件行為の市場への影響を判断することが求められるものである。
2496
2497
2498 [知的財産法]
2499 〔第1問〕
2500 設問1及び2は,
2501 方法の発明についての特許権を題材として間接侵害に関する問題点の理解
2502 を問うものであり,
2503 設問3は,
2504 方法の発明を実施できる装置が適法に市場に流通した場合にお
2505 いて,
2506 方法の発明についての特許権の消尽の有無ないし黙示の許諾の成否,
2507 及び制限の可否に
2508 ついての考え方を問うものである。
2509
2510
2511 設問1は,
2512 方法の発明を実施する機能を有する装置に対する特許法第101条第4号と第5
2513 号の適用の可否を問うものであり,
2514 間接侵害規定の基本的な理解と,
2515 各要件への丁寧な当ては
2516 めが求められる。
2517
2518
2519 本問では,
2520 まず,
2521 特許方法による充電機能以外に通常の充電機能を有する装置が問題となっ
2522 ていることから,
2523 同条第4号の「のみ」要件をどのように解釈し,
2524 適用するかを論じる必要
2525 がある。
2526
2527 この点については,
2528 「のみ」要件について厳格な解釈を行う立場(例えば,
2529 東京地判
2530
2531 - 18 -
2532
2533 昭和56年2月25日無体集13巻1号139頁,
2534 判時1007号72頁【交換レンズ】)と
2535 柔軟な解釈を行う立場(例えば,
2536 大阪地判平成12年10月24日判タ1081号241頁
2537 【製パン方法】)があるが,
2538 「のみ」要件該当性を否定した場合はもとより,
2539 肯定した場合で
2540 あっても,
2541 更に同条第5号の適用を検討することが望ましい。
2542
2543 同号の適用に当たっては,
2544 各
2545 要件についての解釈を簡潔に示しつつ,
2546 事案への丁寧な当てはめが求められる。
2547
2548
2549 また,
2550 問題の装置は家庭内で使用する装置であって,
2551 当該発明は家庭内での実施が予定され
2552 ている。
2553
2554 さらに,
2555 一部は外国市場を指向した仕様で製造されているので,
2556 外国での実施が予
2557 定されている。
2558
2559 これらの点に関し,
2560 B製品の製造・販売行為について,
2561 直接侵害が成立しな
2562 い場合の間接侵害の成否を論じる必要がある。
2563
2564 いずれの説でもよいが,
2565 従属説や独立説によ
2566 る場合にはその理由を説得的に論じる必要があり,
2567 通説とされる折衷説による場合には,
2568 直
2569 接侵害が否定される趣旨を踏まえた論述が求められる。
2570
2571
2572 設問2は,
2573 方法の発明の間接侵害品の生産に用いる物に対して間接侵害規定を適用して差止
2574 請求をなし得るか否かという点について問うものである。
2575
2576 同条第4号については間接の間接
2577 侵害の成立を否定した裁判例が存在するが(知財高判平成17年9月30日判時1904号
2578 47頁【ワープロソフト】),
2579 この裁判例のように間接侵害規定を制限的に解釈すべきか否か
2580 についての見解を示し,
2581 これに沿った論述が求められる。
2582
2583
2584 また,
2585 問いは「どのような請求をすることができるか」であるから,
2586 差止請求の可否とは別
2587 に,
2588 間接侵害者に間接侵害品の生産に用いる物を供給する行為について共同不法行為を理由
2589 とする損害賠償請求権が成立し得るか否か,
2590 及び成立するとした場合の損害賠償の範囲を検
2591 討することが望ましい。
2592
2593
2594 設問3は,
2595 方法の発明を実施する機能を有する装置の製造・販売を許諾された者が適法に装
2596 置を市場に流通させた場合において,
2597 当該装置を購入した者が方法の発明を実施することの
2598 可否と,
2599 当該結論を導く理論的根拠の検討,
2600 及び装置の製造・販売の許諾に付された用途の
2601 制約が,
2602 当該装置を購入したDの実施の可否にどのような影響を与えるかについての考え方
2603 を問うものである。
2604
2605
2606 物の発明と異なり,
2607 実施品の流通が観念できない方法の発明に対して消尽論を適用できるか
2608 を議論の出発点として見解を示し,
2609 適用を許容する場合にはいかなる要件を要するかについ
2610 て論述する必要がある。
2611
2612 ちなみに知財高判平成18年1月31日判時1922号30頁【イ
2613 ンクタンク】においては,
2614 特許発明に係る方法の使用にのみ用いる物,
2615 又はその方法の使用
2616 に用いる物であってその発明による課題の解決に不可欠なものを譲渡した場合には譲受人が
2617 その方法を使用する行為に差止請求権等を行使することは許されないことが述べられている。
2618
2619
2620 権利行使を制限する見解を採用する場合,
2621 その理由付けとしては消尽論や黙示の許諾といっ
2622 たものが考えられようが,
2623 その上で,
2624 特許権者が用途制限を定めることの効果について,
2625 当
2626 該理由付けとの関係を考えることが必要となる。
2627
2628 特に,
2629 取引の安全を重視して消尽論を採用
2630 した場合,
2631 特許権者が権利行使の範囲を任意に定め得るような例外を認めてよいかについて
2632 は,
2633 慎重な考慮が求められよう。
2634
2635
2636 〔第2問〕
2637 設問1は,
2638 著作権が共有に係る場合において,
2639 共有者全員の合意を得ずにレコードを製造販
2640 売する行為を問題とするものであり,
2641 設問2は,
2642 当該レコードを購入した者がこれを再販売す
2643 る行為を問題とするものである。
2644
2645 設問3及び設問4は,
2646 いわゆる国際消尽に関する問題の理解
2647 を問うものであり,
2648 設問3では,
2649 外国において製造販売されたレコードを日本国内に輸入し販
2650 売する行為が譲渡権を侵害するか否かなどが問題となり,
2651 設問4では,
2652 外国において製造販売
2653 された映画のDVDを日本国内に輸入し販売する行為が頒布権を侵害するか否かなどが問題と
2654 なる。
2655
2656
2657
2658 - 19 -
2659
2660 設問1については,
2661 著作権が共有に係る場合において,
2662 著作権法は,
2663 共有に係る著作権の行
2664 使はその共有者全員の合意によらなければならないが,
2665 各共有者は,
2666 正当な理由がない限り,
2667
2668 合意の成立を妨げてはならないと規定している(同法第65条第2項,
2669 第3項)。
2670
2671 そのため,
2672
2673 BとCの間では,
2674 更新拒絶をしたBに正当な理由があったかどうか,
2675 また,
2676 正当な理由がなか
2677 ったとした場合,
2678 それによってCの著作権侵害が否定されることになるのか,
2679 あるいはBがA
2680 に対して合意を成立させる義務を負うにとどまるのかが問題となると考えられる。
2681
2682 Bがなすべ
2683 き主張としては,
2684 これらの点について差止請求が認められるように説得的に論じることが必要
2685 となる。
2686
2687
2688 設問2については,
2689 BとFとの間では,
2690 設問1で取り上げられる問題のほか,
2691 FがCレコー
2692 ド購入時に,
2693 Bの許諾がないという事情を知らなかったことから,
2694 善意者に係る譲渡権の特例
2695 を定める同法第113条の2が適用されるかどうか,
2696 また,
2697 同条と同法第113条第1項第2
2698 号との関係,
2699 すなわち,
2700 前者が適用されて譲渡権侵害が否定されても,
2701 なお,
2702 頒布時の知情を
2703 要件とする後者の適用により著作権侵害が成立するかどうかが問題となると考えられる。
2704
2705 Bが
2706 なすべき主張としては,
2707 これらの点について差止請求が認められるように説得的に論じること
2708 が必要となる。
2709
2710
2711 設問3については,
2712 Dレコードの輸入が同法第113条第1項第1号の適用により侵害とな
2713 るかどうか,
2714 また,
2715 Dレコードの国内での販売が譲渡権(同法第26条の2第1項)の侵害と
2716 なるかどうかを,
2717 DレコードがX国において同国の著作権者によって製造販売されたものであ
2718 るという事情を踏まえて,
2719 特に譲渡権の国際消尽を定める同法第26条の2第2項第5号につ
2720 いて論じることが求められる。
2721
2722 なお,
2723 同号が外国で譲渡権に相当する権利を有する者が日本の
2724 譲渡権者と同一人であることを要件としていないことにも言及することが望ましい。
2725
2726
2727 設問4については,
2728 E映画のDVDの輸入が同法第113条第1項第1号の適用により侵害
2729 となるかどうか,
2730 また,
2731 E映画のDVDの国内での販売が頒布権(同法第26条第2項)の侵
2732 害となるかどうかを,
2733 楽曲αがX国において同国の著作権者の許諾の下にE映画のDVDに複
2734 製されたという事情を踏まえて,
2735 論述することが求められる。
2736
2737 楽曲αは,
2738 映画の著作物に複製
2739 されているから,
2740 譲渡権ではなく,
2741 頒布権の侵害が問題となることに注意しなければならない。
2742
2743
2744 そして,
2745 頒布権については,
2746 消尽に関する規定は定められていないため,
2747 国際消尽を認めるに
2748 せよ認めないにせよ,
2749 特許権に関して国際消尽に言及した判例(最判平成9年7月1日民集5
2750 1巻6号2299頁【BBS】)及び家庭用ビデオゲームソフトにつき頒布権のうち譲渡に関
2751 する権利の国内消尽を認めた判例(最判平成14年4月25日民集56巻4号808頁【中古
2752 ビデオゲーム】)等を念頭に置きつつ,
2753 説得的な論拠を提示しなければならない。
2754
2755
2756 [労
2757
2758 働
2759
2760 法]
2761
2762 〔第1問〕
2763 本問は,
2764 年次有給休暇及び育児休業に関する理解を問うものである。
2765
2766 労働法における基本的
2767 な論点ではあるものの,
2768 関係条文・判例に対する知識を前提とし,
2769 これらを正確に示した上で
2770 自らの考えを述べ,
2771 問題文に示された具体的事実を摘示しつつ丁寧に当てはめを行うことが求
2772 められる。
2773
2774
2775 まず,
2776 本問の事例では,
2777 Y社の時季変更権行使の有効性を検討した上で,
2778 Y社がXに対して
2779 行った懲戒処分及び10日相当分の賃金控除の各措置の当否を論ずる必要がある。
2780
2781 具体的には,
2782
2783 労働基準法第39条第5項の文言に即し,
2784 年次有給休暇権の法的性質及び時季指定権と時季変
2785 更権の関係を論じた上で,
2786 同項ただし書の「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するか否
2787 かを検討する必要がある。
2788
2789 その際には,
2790 判例による判断の枠組みを踏まえ,
2791 例えば,
2792 代替勤務
2793 者確保の難易,
2794 事前の調整の有無,
2795 状況に応じた配慮の有無等に関する具体的な要件を摘示し
2796 つつ,
2797 問題文に示された事実を抽出して当てはめを行い,
2798 Y社の時季変更権行使の有効性を論
2799
2800 - 20 -
2801
2802 じることが求められる。
2803
2804
2805 次に,
2806 賞与全額不支給の措置の当否を論じる必要がある。
2807
2808 具体的には,
2809 @賞与支給条件とし
2810 ての育児休業の欠勤扱いの当否(いわゆる90%条項の相当性),
2811 A賞与額算定における育児
2812 休業の欠勤扱いの当否,
2813 更には,
2814 B賞与額算定における年次有給休暇の欠勤扱いの当否を順次
2815 検討することが求められる。
2816
2817 その際には,
2818 関係条文(育児休業,
2819 介護休業等育児又は家族介護
2820 を行う労働者の福祉に関する法律第10条,
2821 労働基準法附則第136条)について,
2822 その私法
2823 上の効力を意識しつつ検討するとともに,
2824 判例による判断の枠組みを踏まえて,
2825 具体的な事実
2826 関係に即して本件措置の当否を論じることが求められる。
2827
2828
2829 最後に,
2830 以上の検討結果から,
2831 Y社がXに対して賞与を支給すべきであるとの結論に至った
2832 場合には,
2833 論理的道筋を示して根拠を明らかにしながら,
2834 賞与額の算定において欠勤日数を何
2835 日として計算すべきかを説明する必要がある。
2836
2837
2838 〔第2問〕
2839 本問は,
2840 組合活動及び団体交渉を素材として,
2841 労働組合の正当な行為の範囲及び団体交渉権
2842 の範囲等に対する理解並びに組合活動に対する使用者の対応に関する理解を問うものである。
2843
2844
2845 いずれも労働法の基本的な論点であり,
2846 不当労働行為の成立要件及びその救済方法に関する正
2847 確な知識が求められるとともに,
2848 これら論点をめぐる判例に関する理解が前提となる。
2849
2850
2851 設問1においては,
2852 まず,
2853 就業規則で禁止されているビラ配布を理由とするBの降格人事が
2854 不利益取扱いないし支配介入に該当するかについて,
2855 ビラ配布の組合活動としての正当性を中
2856 心に,
2857 ビラの内容や配布の態様等に着目して具体的に論ずる必要がある。
2858
2859 次に,
2860 Y社の対応が
2861 団体交渉拒否に該当するかについて,
2862 Y社による資料提出や説明等で誠実交渉義務を履行して
2863 いるといえるのか,
2864 また,
2865 降格人事の撤回及びベース・アップ要求が義務的団交事項に含まれ
2866 るかを分けて検討する必要がある。
2867
2868
2869 さらに,
2870 Y社の総務部長CがX組合員の脱退を勧奨した点及びビラを回収し破棄した点が支
2871 配介入に該当するかについて,
2872 降格人事の理由とされたビラ配布との異同を意識しつつ,
2873 ビラ
2874 配布の組合活動としての正当性に言及した上で,
2875 Cの行為のY社への帰責性等を論ずる必要が
2876 ある。
2877
2878
2879 いずれの論点についても,
2880 判例による判断の枠組みを踏まえ,
2881 具体的な規範を定立した上で,
2882
2883 問題文に示された事実を抽出して丁寧な当てはめを行うことが求められる。
2884
2885 また,
2886 設問が求め
2887 ている「X組合として採り得る法的措置」については,
2888 抽象的な論述にとどまらず,
2889 労働委員
2890 会によるポスト・ノーティスや,
2891 裁判所による団体交渉を求める法的地位の確認等の具体的救
2892 済内容に踏み込んで論述することが望ましい。
2893
2894
2895 設問2においては,
2896 使用者の採り得る法的措置を論ずる必要があるが,
2897 具体的には,
2898 営業権
2899 や信用毀損等に基づく情宣活動の差止め請求や不法行為に基づく損害賠償請求等が考えられる
2900 ことを示した上で,
2901 本問の社前集会について,
2902 その目的,
2903 態様等に関する具体的事実を問題文
2904 から抽出して,
2905 組合活動としての正当性を論じることが求められる。
2906
2907
2908 [環
2909
2910 境
2911
2912 法]
2913
2914 〔第1問〕
2915 〔設問1〕は,
2916 公害防止協定の法的性質及びその限界に関する基本的理解を問う問題である。
2917
2918
2919 協定に関しては,
2920 伝統的に,
2921 紳士協定説と契約説があるが,
2922 現在では,
2923 個別条項ごとにその性
2924 質を検討すべきとされていることを指摘した上で,
2925 B町の反論としては,
2926 設問中にある規定等
2927 の表現振りから,
2928 それが法的拘束力を有するとの論述を展開することが期待される。
2929
2930 また,
2931 協
2932 定には比例原則などの法の一般原則に反せないという限界があるところ,
2933 2割程度の厳格化が
2934 その範囲内といえるかどうかという点も指摘してほしい。
2935
2936 さらに,
2937 大気汚染に関する行政的対
2938
2939 - 21 -
2940
2941 応は大気汚染防止法に基づくA県の権限のみにより可能という主張に対して,
2942 公序良俗に違反
2943 しない任意の合意である限りはそうした制約は適用されないと反論することが考えられる。
2944
2945
2946 〔設問2〕は,
2947 資料に掲げてある大気汚染防止法の1968年法と1970年改正法の関係
2948 条文から,
2949 排出基準違反に対して導入された「新たな法政策」が直罰制(大気汚染防止法第3
2950 3条の2第1項第1号)であることを把握した上で,
2951 導入の必要性が理解されているかを問う
2952 問題である。
2953
2954 通常,
2955 指摘される1968年法の問題点としては,
2956 命令前置制であるがゆえに,
2957
2958 命令がされない限りは刑罰を科すことができないために迅速な違反是正が期待できないことが
2959 挙げられる。
2960
2961
2962 〔設問3〕は,
2963 大気汚染防止法の2010年改正の一つの柱である,
2964 測定データの改ざん対
2965 策及びその背景事情についての理解を問う問題である。
2966
2967
2968 小問(1)については,
2969 資料から,
2970 企業の自主管理に対して全幅の信頼がされていたことを
2971 読み取るとともに,
2972 排出基準の違反が直罰制になっているものの特定施設の排出口における基
2973 準遵守を捜査機関が的確に把握することができないために現実には刑罰の適用が困難になって
2974 いたことを指摘してほしい。
2975
2976
2977 小問(2)については,
2978 C社は,
2979 第1に,
2980 2011年4月以降については,
2981 記録義務(大気
2982 汚染防止法第16条)違反により,
2983 両罰規定として,
2984 30万円以下の罰金が科されること(同
2985 法第35条第3号,
2986 第36条)を指摘できる。
2987
2988 第2に,
2989 2007年4月以降2012年3月ま
2990 での間の排出基準遵守義務(同法第13条第1項)違反に対して,
2991 両罰規定として,
2992 50万円
2993 以下の罰金が科されること(同法第33条の2第1項第1号,
2994 第36条)を指摘できる。
2995
2996
2997 〔第2問〕
2998 〔設問1〕の小問(1)は,
2999 Xが訴訟を提起する場合の訴訟物を問うものである。
3000
3001 A県知事
3002 の違法な処分又はA県の違法な埋立工事によるA県に対する国家賠償法第1条第1項に基づく
3003 損害賠償請求などが考えられる。
3004
3005
3006 小問(2)については,
3007 Xが損害賠償を請求する場合の要件を検討し,
3008 具体的事実に当ては
3009 めて,
3010 Xの主張を構成することが求められている。
3011
3012 また,
3013 Xにとって不利な点をも検討し,
3014 被
3015 告の予想される反論として指摘してほしい。
3016
3017
3018 本問では,
3019 被侵害利益は何か,
3020 A県知事の処分又はA県の埋立工事が違法な侵害行為といえ
3021 るか等を,
3022 主な論点として検討することが期待される。
3023
3024
3025 被侵害利益としては,
3026 景観利益などが考えられる。
3027
3028 例えば,
3029 景観利益については,
3030 最判平成
3031 18年3月30日民集60巻3号948頁(国立景観訴訟)を踏まえて,
3032 その性質・内容,
3033 法
3034 律上保護される利益といえるかどうかを検討し,
3035 Xが当該利益を有するかを,
3036 X及び被告の観
3037 点で論じることができよう。
3038
3039 学説上論じられている景観権,
3040 環境権を被侵害利益として記述す
3041 る場合にも,
3042 上記の最高裁判決との関係に触れることが期待される。
3043
3044
3045 また,
3046 景観利益を被侵害利益とする場合,
3047 上記最高裁判決を参考に,
3048 当該利益が違法に侵害
3049 されたかどうかを検討することができる。
3050
3051 本問においては,
3052 公有水面埋立法第4条第1項第2
3053 号,
3054 第3号,
3055 瀬戸内海環境保全特別措置法第13条第1項,
3056 同法第3条第1項に基づく「瀬戸
3057 内海環境保全に関するA県計画」に照らして,
3058 本問における処分又は埋立工事が,
3059 行政法規に
3060 違反する処分といえるかどうか,
3061 代替案を採用しなかったことをどのように評価するかなどを
3062 踏まえて,
3063 違法性をX及び被告の観点で論じてほしい。
3064
3065
3066 〔設問2〕の小問(1)は,
3067 Xが訴訟を提起する場合の訴訟物を問うものである。
3068
3069 道路の設
3070 置管理の瑕疵によるA県に対する国家賠償法第2条第1項に基づく損害賠償請求などが考えら
3071 れる。
3072
3073
3074 小問(2)では,
3075 被侵害利益は何か,
3076 道路の設置管理に瑕疵があるといえるか(自動車騒音
3077 が受忍限度を超えるといえるか)等を,
3078 主な論点として検討することが期待される。
3079
3080 ここでも,
3081
3082
3083 - 22 -
3084
3085 Xの主張を構成するのみならず,
3086 Xにとって不利な点をも検討し,
3087 被告の予想される反論とし
3088 て指摘してほしい。
3089
3090
3091 被侵害利益としては,
3092 人格権などが考えられる。
3093
3094
3095 また,
3096 自動車騒音が受忍限度を超えるといえるかについては,
3097 最判平成7年7月7日民集4
3098 9巻7号1870頁(国道43号線訴訟)を踏まえて,
3099 判断基準(判断要素)を指摘し,
3100 本問
3101 の具体的事実に当てはめることが望まれる。
3102
3103 その際,
3104 環境基準を超える騒音が受忍限度を超え
3105 るといえるかどうか(環境基準と受忍限度との関係),
3106 道路の公共性,
3107 受益と被害の彼此相補関
3108 係の有無,
3109 被害防止措置の有無などについて,
3110 検討してほしい。
3111
3112
3113 [国際関係法(公法系)]
3114 〔第1問〕
3115 本問は,
3116 領海,
3117 接続水域及び排他的経済水域(以下「EEZ」という。
3118
3119 )に対する沿岸国の
3120 立法及び執行管轄権について問う問題を軸としつつ,
3121 あわせて,
3122 留保と解釈宣言の異同及び
3123 国内的救済完了原則の適用例外に関する基本的知識について問う問題である。
3124
3125 国際法判例及
3126 び事例に対する学習も踏まえて国際法の基礎知識を,
3127 具体的事例に応用する能力を身に付け
3128 ているか否かを確認することをねらいとしている。
3129
3130
3131 設問1は,
3132 国際慣習法となっている条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」とい
3133 う。
3134
3135 )の留保の定義,
3136 留保の許容性に関する基礎知識を前提として,
3137 海洋法に関する国際連合
3138 条約(以下「海洋法条約」という。
3139
3140 )第309条及び第310条の規定を解釈し,
3141 X国の付し
3142 た宣言に適用する問題である。
3143
3144 条約法条約第2条第1項(d)に従えば,
3145 留保とは,
3146 用いられ
3147 る名称のいかんを問わず,
3148 「条約の特定の規定の自国への適用上その法的効果を排除し又は変
3149 更することを意図して」条約に付される単独の声明をいう。
3150
3151 海洋法条約第309条は,
3152 この定
3153 義に基づいて,
3154
3155 「明示的に認められている場合を除くほか」この条約に「留保を付することも,
3156
3157 また,
3158 除外を設けることも」禁止する。
3159
3160 しかし,
3161 他方で同条約第310条は,
3162 用いられる名称
3163 のいかんを問わず,
3164 「国が,
3165 特に当該国の法令をこの条約に調和させることを目的として」「宣
3166 言又は声明」を行うことを排除しない。
3167
3168 ただし,
3169 この宣言は,
3170 「当該国に対するこの条約の適
3171 用において,
3172 この条約の法的効力を排除し又は変更する」効果を有しない。
3173
3174 こうした前提を理
3175 解した上で,
3176 X国が付した宣言の国際法上の効力について論ずることが必要である。
3177
3178 その際に
3179 は,
3180 X国が付した宣言の法的性質及びそれを決定する基準がまず問題になろう。
3181
3182 X国の宣言が,
3183
3184 同条約第309条が許容しない留保に当たるとすれば当該留保は無効と判断されるが,
3185 同条約
3186 第309条にかかわらずあえて宣言を付していることからすると,
3187 同条約第310条に従って
3188 付した「宣言又は声明」とみなすのが普通であろう。
3189
3190 その場合には,
3191 解釈宣言の国際法上の法
3192 的効果に関する論述が求められる。
3193
3194
3195 設問2は,
3196 領海内,
3197 接続水域内,
3198 EEZ内にある外国船舶に対する沿岸国の立法及び執行管
3199 轄権について問う問題である。
3200
3201 各海域に対する沿岸国の立法管轄権及び執行管轄権に関する
3202 基礎知識とその応用力が求められる。
3203
3204 まず,
3205 A号に対する措置については,
3206 沿岸国は自国領
3207 海内において,
3208 同国の通関上の法令違反を防止するため法令を制定する権利を有すること(海
3209 洋法条約第21条第1項(h)),
3210 この法令に違反する物品の積卸しは無害通航に該当しないこ
3211 と(同条約第19条第2項(g)),
3212 このような法令違反の外国船舶に対して沿岸国は乗船,
3213 拿
3214 捕,
3215 司法的手続を含む執行措置を採ることができることを踏まえて,
3216 X国が採った措置を評
3217 価することが求められる。
3218
3219 次に,
3220 B号に対する措置については,
3221 沿岸国がその接続水域内に
3222 おいて,
3223 海洋法条約第33条第1項(a)及び(b)に定める目的のために必要な規制措置を
3224 採ることができることを論じなければならないが,
3225 沿岸国が同水域内自体における関税法違
3226 反を問うことができるか否かについては見解が分かれているため,
3227 X国の採った措置につい
3228 ていずれの解釈を採るかを,
3229 その根拠とともに論ずる必要がある。
3230
3231 最後にC号に対する措置
3232
3233 - 23 -
3234
3235 については,
3236 第2サイガ号事件国際海洋法裁判所判決が,
3237 人工島等を除きEEZ内での関税
3238 法の適用を海洋法条約違反と判示したことを踏まえた上で,
3239 X国の措置に関する評価を論ず
3240 ることが求められる。
3241
3242
3243 設問3は,
3244 国内的救済原則の適用例外について問う問題である。
3245
3246 問題の内容から,
3247 まず海洋
3248 法条約第295条に定める「国内的な救済措置を尽くすことが国際法によって要求されてい
3249 る場合」とは何かとともに,
3250 国内的救済原則が適用されない例外について簡潔に説明する必
3251 要がある。
3252
3253 国家間紛争において国内的救済原則が適用されるのは,
3254 外交的保護権など在外自
3255 国民が被った身体又は財産損害についてその国籍国が国際請求を提出する場合であるが,
3256 こ
3257 の原則の適用には被害者に実効的救済を与える合理的可能性がない場合などいくつかの例外
3258 が認められてきた。
3259
3260 その一つに,
3261 公海上の国際違法行為のように被害者と加害国との間に自
3262 発的な管轄権の結び付きがない場合が挙げられる。
3263
3264 本問はこの事由に該当するが,
3265 設問3が
3266 国内的救済の適用例外を「Y国の請求内容」に即して説明することを求めるので,
3267 この論点
3268 に触れることは必須ではない。
3269
3270 先例(インターハンデル事件,
3271 サイガ号事件等)が示すよう
3272 に,
3273 外国の国際違法行為によって自国民に対する損害と国家損害の双方が発生する場合に,
3274
3275 国際請求が自国民の被った損害を優越的な基礎としてなされる場合には,
3276 国内的救済を尽く
3277 さなければならない。
3278
3279 しかし,
3280 国家自らが被った損害を国際請求の主要な根拠としている場
3281 合には国内的救済原則は適用されない。
3282
3283 このことを踏まえて,
3284 本問におけるY国の請求内容
3285 をどのように評価するかを論じることが必要である。
3286
3287
3288 〔第2問〕
3289 本問は,
3290 主権免除と外交特権免除を問う問題である。
3291
3292
3293 設問1は,
3294 主権免除の考え方の基本を問うている。
3295
3296 まず,
3297 主権免除の認められる範囲がどの
3298 ようなものかが明らかにされなければならない。
3299
3300 かつては,
3301 一部の例外を除く絶対免除主義
3302 が認められたが,
3303 現在では,
3304 国家の行為を主権的行為と,
3305 業務管理的行為とに分けて,
3306 前者
3307 にのみ免除を認める相対(制限)免除主義が主流となっている。
3308
3309 日本でも判例変更が行われ
3310 ているが,
3311 主権免除が認められる範囲の変遷の背景に対する理解も求められる。
3312
3313 背景には,
3314
3315 国家が私人の行う商取引のような行為も行うようになってきたこと,
3316 取引が国際化してきた
3317 こと,
3318 そのような場合に主権免除を認めれば相手方の私人の救済が図られず,
3319 その結果とし
3320 て国家の取引の相手方が得られなくなることなどがある。
3321
3322 次に,
3323 国家のいかなる行為が主権
3324 的行為か業務管理的行為かを分ける基準を明らかにする必要がある。
3325
3326 これについては,
3327 行為
3328 目的説と行為性質説があるが,
3329 一般に客観的な判断を期待できる行為性質説が有力であるが,
3330
3331 目的を考慮する実践も排除されているわけではない。
3332
3333 こうした前提を論じた上で,
3334 本問の事
3335 例に当てはめて考えることが求められる。
3336
3337 本問のB国の行為は,
3338 通常大使館にはあり得ない
3339 ような遊戯施設建築のための契約締結である。
3340
3341 私人がなす契約行為と変わらないことを考慮
3342 して,
3343 主権免除が認められるかが問われることになる。
3344
3345
3346 設問2は,
3347 裁判権免除が認められなかった場合に,
3348 確定した判決の執行に関する主権免除が
3349 認められるかを問う問題である。
3350
3351 裁判権免除と確定した判決の執行免除とを区別した上で同
3352 様に処理するかが考えられなければならない。
3353
3354 そこでは,
3355 裁判権免除と執行権免除とでは,
3356
3357 主権に与える影響が異なることを考慮することが必要となる。
3358
3359 主権に対する影響の大きさか
3360 らして,
3361 裁判権は免除されない場合でも,
3362 判決の執行は免除され得るという学説が優勢であ
3363 ること,
3364 差押えの対象となっている,
3365 B国大使館がA国内の銀行に開設している銀行口座が
3366 いかなる性質の財産かを考慮して,
3367 判決の執行についての免除を考えることになる。
3368
3369
3370 設問3は,
3371 外交特権免除の中でも,
3372 特に公館の不可侵について問う問題である。
3373
3374 慣習国際法
3375 ともなっている外交関係に関するウィーン条約第22条は,
3376 公館の不可侵を規定するが,
3377 本
3378 問では,
3379 遊戯施設が不可侵の保護の対象となるかが問題となる。
3380
3381 A国は,
3382 遊戯施設が外交機
3383
3384 - 24 -
3385
3386 能に関わるものではないから不可侵は認められないと主張しているが,
3387 まず,
3388 外交特権免除
3389 の根拠は何かが問題となる。
3390
3391 治外法権説,
3392 威厳説,
3393 機能説があるが,
3394 現在では,
3395 主にそのい
3396 ずれが主たる根拠となっているかを考慮して,
3397 遊戯施設が不可侵であるかを決定することに
3398 なる。
3399
3400 仮に,
3401 当該遊戯施設は不可侵を享受するとする場合には,
3402 その例外の有無の問題とし
3403 て,
3404 本問における火災の規模や,
3405 事後の実況見分であるという事情も,
3406 緊急性の観点から考
3407 慮される。
3408
3409 また,
3410 不可侵を否定する場合には,
3411 A国警察の立入りの濫用のおそれも考慮する
3412 べきである。
3413
3414
3415 設問4は,
3416 軍隊の行為の主権免除を問う問題である。
3417
3418 軍隊は,
3419 主権的行為をする典型的な主
3420 体である。
3421
3422 設問1で,
3423 相対免除主義を採用したという前提に立つとすれば,
3424 本問での軍隊の
3425 行為がいかなる性質であるかを決定する必要がある。
3426
3427 A国との合意でB国より派遣された軍
3428 隊が行う救助活動は,
3429 典型的な軍事活動ではない。
3430
3431 それでは,
3432 このような救助活動は,
3433 業務
3434 管理的行為といえるか,
3435 それとも,
3436 軍隊ならでは行い得ない行為であり,
3437 主権的行為の一部
3438 というべきかを検討して,
3439 主権免除が認められるかを判断することになる。
3440
3441
3442 [国際関係法(私法系)]
3443 〔第1問〕
3444 本問は,
3445 後見開始の審判及び後見人選任の準拠法の決定並びに被後見人による認知に対す
3446 る後見人の同意に適用される準拠法の決定と適用を問うものである。
3447
3448 さらに,
3449 死後認知の準
3450 拠法の決定について,
3451 いわゆる選択的連結と反致に関する論述も求めている。
3452
3453
3454 設問1の小問(1)は,
3455 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
3456
3457 )第5条の解釈
3458 ・適用を問うものである。
3459
3460
3461 設問1の小問(2)は,
3462 外国人を被後見人として日本の裁判所が後見開始の審判をした場
3463 合に,
3464 後見人の選任の準拠法が何かを問う問題であり,
3465 通則法第35条第2項第2号を特定
3466 しなければならない。
3467
3468
3469 設問1の小問(3)は,
3470 被後見人が認知者として任意認知をする場合に,
3471 その後見人の同
3472 意の要否の問題に適用される準拠法の決定と適用を問うている。
3473
3474 認知の問題として性質決定
3475 した上で,
3476 通則法第29条第1項前段と同条第2項前段との関係を明らかにして,
3477 準拠法を
3478 決定しなければならない。
3479
3480
3481 設問2については,
3482 まず,
3483 死後認知の出訴期間が認知の準拠法によるべき問題であるとの
3484 前提の下に,
3485 通則法第29条第1項前段の規定の他に通則法第29条第3項の規定と結合し
3486 て理解される同条第2項前段の規定が適用され得ることを指摘しなければならない。
3487
3488 これら
3489 の規定に従えば選択的な関係にある連結基準がいずれも外国法を本国法として指示している
3490 ことを確認した後に,
3491 当該外国の国際私法規定によると日本法が指定され得ることから,
3492 通
3493 則法第41条に従った反致の可能性について論ずることが求められている。
3494
3495
3496 〔第2問〕
3497 本問は,
3498 インターネットを利用して継続的に日本において事業を行う外国会社が書面によ
3499 って締結した契約から発生した紛争について,
3500 国際裁判管轄権の有無と国際物品売買契約に
3501 関する国際連合条約(以下「条約」という。
3502
3503 )の適用可能性を問うている。
3504
3505 さらに,
3506 オンライ
3507 ンで締結されかつ消費者を一方当事者とする契約について消費者保護を目的とする強行規定
3508 の適用いかんも問うている。
3509
3510
3511 設問1の小問(1)は,
3512 民事訴訟法第3条の2第3項等の規定する管轄原因が無いことを
3513 確認した上で,
3514 同法第3条の3第5号の規定の下で日本の裁判所が国際裁判管轄権を有して
3515 いるか否かを問うている。
3516
3517
3518 設問1の小問(2)では,
3519 通則法に従い日本法が準拠法として選択されていること等,
3520 条
3521
3522 - 25 -
3523
3524 約が適用される条件を指摘しながら,
3525 設例との関連で条約の適用可能性に言及しなければな
3526 らない。
3527
3528
3529 設問2は,
3530 インターネット上で締結された消費者契約について,
3531 消費者に要素の錯誤があ
3532 ったことにつきその重過失の不存在を定める強行規定が消費者の常居所地法の中にあった場
3533 合に,
3534 この規定が適用されるべき条件を問うている。
3535
3536 通則法第11条第1項又は第3項の規
3537 定を特定し,
3538 その丁寧な適用が求められている。
3539
3540 当該規定の適用を除外する同条第6項各号
3541 に掲げられている事由のないことも確認しなければならない。
3542
3543
3544
3545 - 26 -
3546
3547