1 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)
2
3
4 採点の基本方針等
5 本問の主題である政教分離原則は,
6 憲法上の重要問題の一つである上,
7 著名な判例
8 も多く,
9 近時も重要な判例が示されたところであり,
10 全ての受験生が相当程度の勉強
11 をしていると考えられる分野である。
12
13 本問においては,
14 当該事案とこれまでの判例の
15 動向を踏まえ,
16 問題となる条文等の解釈を行って判断基準を導き出し,
17 比較的長文の
18 事案の中から具体的事実を抽出・分析して,
19 その判断基準に適用し,
20 論理的かつ説得
21 的に妥当な解決を導き出すことを求めている。
22
23 したがって,
24 採点においては,
25 基本判
26 例に対する十分な理解を前提として,
27 事案に即して,
28 実務家として必要とされる法的
29 思考及び法的論述ができているかに重点を置いた。
30
31
32
33
34
35 採点実感
36 各委員からの意見を踏まえ,
37 問題のあった答案を中心として感想を述べる。
38
39
40 (1) 訴訟形式
41 ・ 地方自治法は,
42 司法試験用法文にも掲載されているが,
43 住民訴訟の根拠条文に
44 ついて,
45 地方自治法第242条の2第1項第4号と正確に記載できていない答案
46 もあり,
47 また,
48 「法律上求められている手続は尽くした上で」との文意を理解で
49 きていない答案もあった。
50
51
52 ・ 住民訴訟に加えて国家賠償請求訴訟を選択した答案もあり,
53 確かに,
54 これは津
55 地鎮祭訴訟でも住民訴訟と併せて国家賠償請求訴訟が提起されていることからも
56 誤りではないが,
57 本問での勝訴の見込みを考えれば,
58 提起すべき訴訟形式として
59 は,
60 住民訴訟がメインとなる。
61
62
63 (2) 法解釈
64 ・ 本問の事案においては,
65 地方自治体による助成が題材となっていることから,
66
67 政教分離原則に関する条文のうち,
68 まず憲法第89条前段が問題となる。
69
70 その上
71 で憲法第20条第1項後段と第20条第3項との関連をも考慮して本問を検討す
72 ることになる。
73
74 しかしながら,
75 この点,
76 憲法第20条第1項・第3項,
77 第89条
78 を単に羅列している答案など,
79 憲法の各条文の意義がきちんと理解されておらず,
80
81 それゆえに事案に即した条文解釈ができていない答案が目立った。
82
83 さらには,
84
85 法第89条後段の問題と捉えて「公の支配」について検討したり,
86 原告の信教の
87 自由を侵害するか否かの検討に終始するといった的外れな答案もあった。
88
89
90 ・ 本問では,
91 A寺が憲法第89条前段の「宗教上の組織若しくは団体」に該当す
92 るか否かから論ずるべきであるが,
93 この点に言及している答案が非常に少なかっ
94 た。
95
96 また,
97 この点に言及した答案においても,
98 地方自治体との関わりあいの内容
99 いかんによって,
100 A寺が「宗教上の組織若しくは団体」に該当するか否かの結論
101 が異なるなど,
102 論理的に無理のある答案もあった。
103
104
105 ・ 政教分離について,
106 なぜ厳格に分離すべきなのか,
107 あるいは,
108 なぜ厳格な分離
109 が現実的ではないのかといったことについての理由付けなど,
110 政教分離の構造や
111 解釈などに全く言及しないまま,
112 審査基準を展開するなど,
113 政教分離の基本を理
114 解しているのかさえ疑問を持たざるを得ない答案が少なくなかった。
115
116
117 ・ 津地鎮祭訴訟で提示された目的効果基準を簡単に,
118 あるいはあやふやに提示し
119
120 -1-
121
122 たのみで,
123 すぐに事例の検討に進んでいくなど,
124 目的効果基準とは何か,
125 なぜそ
126 れを用いるかについて説得的に論じていない答案が少なくなかった。
127
128
129 ・ 政教分離原則をめぐる判例の諸事例と本問事例との異同などを意識して判断基
130 準等を論じている答案もあったが,
131 その数は思いのほか少なく,
132 結果として,
133
134 断基準に関する論述に説得力がある答案が少なかった。
135
136
137 ・ 他方で,
138 判断基準に関する争いのみに終始して事足れりとし,
139 与えられた事例
140 に即した個別的・具体的検討ができていない答案も目立った。
141
142 実務家としては,
143
144 理論面もさることながら,
145 実際に目の前にある事案の紛争解決も大きな役割であ
146 り,
147 その能力をも試されていることに留意する必要がある。
148
149
150 (3) 具体的事実の抽出・分析
151 ・ 事例分析の傾向が浸透しているのか,
152 多くの答案には事実に着目して答えよう
153 とする姿勢は見受けられた。
154
155 しかし,
156 例えば,
157 宗教的意義を認める事情と認めら
158 れない事情を,
159 それぞれ対比しながら検討するという答案は少なく,
160 事実をただ
161 列挙し,
162 自分の選んだ1つ2つの事実に基づいて結論を導いて論述を終えてしま
163 うなど,
164 事実の評価が甘く,
165 自分なりの結論に強引に結び付けている答案が少な
166 くなかった。
167
168
169 ・ 昨年に比べ,
170 答案の分量が少なかったように思われる。
171
172 もとより分量の多寡そ
173 れ自体で評価が決まる訳ではないが,
174 本問のように具体的な事案分析が問われる
175 ものについては,
176 判断枠組みの構築ばかりでなく,
177 与えられた具体的事実を踏ま
178 えた丁寧な論証が重要であり,
179 一定量以上の記述がなければ,
180 内容が充実した答
181 案を書くのは難しいであろう。
182
183 分量が少ない答案については,
184 事実の摘示がおざ
185 なりであったり,
186 事実の一部分をつまみ食い的に取り上げるだけの答案が多かっ
187 たように思われる。
188
189 また,
190 取り上げている事実の意味付けや論旨の展開が読み取
191 りにくい答案なども散見された。
192
193 論理構成と抽出した事実を自分なりにしっかり
194 検討した上で,
195 答案をまとめることが必要とされる。
196
197
198 ・ 本問ではA寺への助成の内訳が示されてあったので,
199 おおむね助成の対象ごと
200 に合憲性を論じていた。
201
202 ただし,
203 それぞれの論じ方において,
204 具体的に掘り下げ
205 て分析している答案は少数であった。
206
207 事実と論理との相互依存性に一層の注意を
208 払ってほしい。
209
210
211 ・ 本問における村長の議会での発言は,
212 あくまで村長の意見であるのに,
213 これを
214 批判的に検討することなく,
215 他の具体的事実とともに判断の材料としてそのまま
216 引用している答案もあった。
217
218
219 ・ 「公共性」を強調することだけで合憲の論証をしようとした答案が多かった(村
220 長の発言のみに依拠しすぎである。
221
222 )。
223
224 「公共性の有無・強弱」のみに目を奪われ,
225
226 「宗教性の有無・強弱」がいつの間にか置き去りにされ,
227 「宗教性」の反対語が
228 「公共性」であるかのように問題がすり替わってしまった答案が散見された。
229
230
231 ・ A寺が「公共的性格」を有しているか否かについて,
232 墓地,
233 埋葬等に関する法
234 律をめぐるDとA寺とのやり取りを用いて論じている問題感覚の鋭い答案があっ
235 た。
236
237 このような答案は極めて少数ではあったが,
238 嬉しいことであった。
239
240
241 (4) 論理性・結論の妥当性
242 ・ 本問の原告代理人は,
243 架空の弁護士ではなく,
244 「あなた」,
245 つまり受験者自身で
246 あり,
247 訴訟代理人として,
248 現実に裁判で採り得る最も有利な判断枠組みを選択し,
249
250
251 -2-
252
253 その枠組みの中で,
254 具体的事実を原告側に最も有利に評価・適用した主張を行う
255 べきである。
256
257 にもかかわらず,
258 原告主張でおよそ実務的に採り得ない極論的な判
259 断枠組みを記載した上で,
260 「被告側の反論」ないし「あなた自身の見解」でそれ
261 に反論を加える(判断枠組み自体を無理に対立させている)パターンの答案が相当
262 数あった。
263
264 求められているのは観念的な机上の議論ではなく,
265 実務的に通用し得
266 る議論である。
267
268
269 ・ 実務家として,
270 具体的な事例に憲法(憲法理論)がどのように活かされるべき
271 かという観点から検討する姿勢が必要とされるところ,
272 そのような姿勢が欠けて
273 いる答案もあった。
274
275 例えば,
276 被告の主張として,
277 「寺は宗教上の組織若しくは団
278 体ではない」,
279 「本堂や庫裏の再建自体は建設工事であり宗教性を帯びない」,
280
281 るいは「支出された助成は公金ではない」などと,
282 無理のある事実認定のレベル
283 で反論し,
284 かつ,
285 それだけの議論にとどまる答案等である。
286
287
288 (5) 答案の書き方等
289 ・ 地方自治法第242条の2第1項第4号の「第1項」が記載されていないもの
290 や,
291 憲法第20条と記載して,
292 同条第1項なのか第3項なのか不明なものなど,
293
294 条文操作ができていない答案も散見された。
295
296
297 ・ 答案を書く上で,
298 適度に項を分け,
299 それぞれに適切な見出しを付けることは望
300 ましいと言えるが,
301 内容的に区分する意味がないにもかかわらず,
302 過度に細かく
303 項目を分けている答案がかなり見られる。
304
305
306 ・ 例年のことであるが,
307 字の細かさに線の細さや薄さが加わり,
308 字が読みにくい
309 答案が少なくなく,
310 また,
311 訴訟代理人を「弁護人」等と誤って記載するなど誤字
312 ・脱字の目立つ答案もあった。
313
314 「時間との闘い」という部分で字が乱雑になって
315 しまったり,
316 誤字・脱字があり得ることは理解するが,
317 やはり丁寧な字で正しい
318 文字を書くことは基本的なマナーである。
319
320 受験者は,
321 答案は読まれるために書く
322 もの,
323 という意識をもってほしい。
324
325
326 ・ 「受験生へメッセージを送る」というコンセプトで公表している採点実感を受
327 験生が読んでくれていると思える「改善」が見られることを喜びたい。
328
329 例えば,
330
331 行頭を(あるいは行末までも)非常識に空けて書く答案に対して,
332 1行をきちん
333 と使って書くことを求めてきたところ,
334 今年は,
335 そのような答案が少なくなって
336 きた。
337
338 また,
339 自動的に答えが出るかのような「当てはめ」という言葉を使わず,
340
341 「事案に即した個別的・具体的検討」をきちんと行うことを求めてきたところ,
342
343 この点にも改善の傾向が見られた。
344
345
346
347
348 答案の水準
349 以上の採点実感を前提に,
350 「優秀」「良好」「一応の水準」「不良」という四つの答案
351 の水準を示すと,
352 以下のとおりである。
353
354
355 「優秀」と認められる答案とは,
356 本問が「宗教上の組織若しくは団体」に対する公
357 金支出(憲法第89条前段)の問題であり,
358 公金支出の禁止を厳格に解するか否かに
359 ついて,
360 政教分離原則を規定する憲法の各条文の関係及び解釈,
361 更に関連する重要判
362 例を踏まえつつ検討し,
363 そして具体的事実を的確に抽出・分析して,
364 助成の対象それ
365 ぞれについて一定の筋道の通った結論を導き出している答案である。
366
367 「良好」な水準
368 に達している答案とは,
369 重要な問題に関して論じられていないものが若干あるが,
370
371
372 -3-
373
374 れ以外の点では判断枠組みと事案に即した個別的・具体的検討がそれなりに行われて
375 いる答案である。
376
377 「一応の水準」に達している答案とは,
378 最低限押さえるべき憲法第
379 89条前段論,
380 そして事案に即した個別的・具体的検討が少なくとも実質的には論じ
381 られていて,
382 議論の筋道がある程度通っている答案である。
383
384 「不良」と認められる答
385 案とは,
386 憲法上の問題点を取り違えている上に,
387 事実の摘示がおざなりであったり,
388
389 事実の一部分をつまみ食い的に取り上げるだけの答案である。
390
391
392
393
394 今後の法科大学院教育に求めるもの
395 法科大学院における教育の成果を感じられる答案もあったが,
396 全ての法科大学院に
397 おける憲法の授業で扱われているはずの問題であったにもかかわらず,
398 良いレベルに
399 ある答案が多くはなかったことを直視すると,
400 各法科大学院における憲法の教育自体
401 を今一度点検し,
402 見直していく必要があるように思われる。
403
404
405 法科大学院は,
406 実務家養成機関である。
407
408 自分の立場に引き付けた判例の「読み」で
409 はなく,
410 まずは判例の動向を踏まえ判例に即した「読み」を修得し,
411 その上で,
412 判例
413 に関する「地に足を付けた」問題点を考えさせるといった判例を中心とした学習の一
414 層の深化によって,
415 学生の理解力と論理的思考力の養成が適切に行われることを期待
416 したい。
417
418
419
420 -4-
421
422 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第2問)
423
424
425
426
427 出題の趣旨
428 別途公表している「出題の趣旨」を,
429 参照いただきたい。
430
431
432 採点方針
433 採点に当たり重視していることは,
434 問題文の指示に従って事実関係や条文構造等を
435 正確に分析・検討し,
436 問いに対して的確に答えることができているか,
437 基本的な判例
438 等の正確な理解に基づいて,
439 相応の言及をすることのできる応用能力を有しているか,
440
441 事案を解決するに当たっての論理的な思考過程を,
442 分かりやすく整理・構成して端的
443 に答案に示すことができているか,
444 という点である。
445
446 決して知識の量に重点を置くも
447 のではない。
448
449
450
451 3 答案に求められる水準
452 (1) 設問1
453 土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認めた最高裁判所平成20年9月
454 10日大法廷判決,
455 民集62巻8号2029頁(以下「大法廷判決」という。
456
457 )を
458 前提にして,
459 都市計画施設を定める都市計画決定(以下「都市計画決定」という。
460
461
462 の法的効果を的確に把握し,
463 これを基礎にどれだけ説得的に処分性について論じて
464 いるかに応じて,
465 優秀度ないし良好度を判定した。
466
467
468 都市計画決定における建築制限の効果と収用の前提となる効果とを把握した上で,
469
470 いずれかの効果について処分性を認める根拠になるか否かを検討していれば,
471 一応
472 の水準の答案,
473 両者の効果について都市計画事業認可の効果との共通性と差異に着
474 目した上で処分性を認める根拠になるか否かを検討していれば,
475 良好な答案と判定
476 した。
477
478 さらに,
479 都市計画決定と収用手続との関係と,
480 都市計画事業認可と収用手続
481 との関係を,
482 関係規定を丁寧に参照しつつ正確に比較して都市計画決定の処分性に
483 ついて論じているか,
484 又は,
485 都市計画決定及び都市計画事業認可の取消訴訟以外に
486 想定される訴訟を具体的に挙げつつ,
487 権利保護の実効性の観点から都市計画決定に
488 処分性を認めることが適切か否かを説得的に論じていれば,
489 優秀な答案と判定した。
490
491
492 (2) 設問2
493 行政裁量の有無・範囲・統制手法に関する理論,
494 都市計画法の関係規定,
495 本件の
496 具体的な事情の三者を,
497 どれだけ的確に結び付けて論じているかに応じて,
498 優秀度
499 ないし良好度を判定した。
500
501
502 都市計画決定の変更・不変更に関して行政裁量が認められることを都市計画法の
503 具体的な条文に配意しつつ指摘した上で,
504 本件の具体的な諸事情を,
505 不変更を適法
506 とする根拠,
507 違法とする根拠に分類して挙げていれば,
508 一応の水準の答案と判定し
509 た。
510
511 そして,
512 @旧市街地の発展や道路の整備は都市計画法の趣旨や関係規定に照ら
513 して考慮すべき事情か,
514 A道路を整備すれば旧市街地の経済が活性化して交通需要
515 が大幅に増加するという調査結果ないし事実認定に合理性があるか,
516 B道路密度に
517 関する運用基準を定めること及び運用基準に本件を機械的に当てはめることは認め
518 られるか,
519 C都市計画が様々な制約条件のため実現までに長期間を要することと,
520
521 都市計画は状況に合わせた変化を要することを,
522 本件の諸事情の下でどのように考
523
524 -5-
525
526 えるかといった諸点のうち,
527 一部が的確に論じられていれば,
528 良好な答案,
529 相当部
530 分が的確に論じられていれば,
531 優秀な答案と判定した。
532
533
534 (3) 設問3
535 損失補償の根拠規定及びその要否の判断基準を理解していれば,
536 一応の水準の答
537 案,
538 損失補償の要否を本件の具体的な事情に即して的確に検討していれば,
539 良好な
540 答案と判定した。
541
542 さらに,
543 権利制限の期間が考慮要素になるか否か,
544 収用時の損失
545 補償との関係をどう考えるかなど,
546 本件で理論的に問題となる点も意識して論述し
547 ていれば,
548 優秀な答案と判定した。
549
550
551
552
553 採点実感
554 以下は,
555 考査委員から寄せられた主要な意見をまとめたものである。
556
557
558 (1) 全体的印象
559 ・ 字が乱雑で判読困難な答案が相変わらず多かった。
560
561 雑に書き殴った字,
562 極端に
563 小さい字,
564 極端な癖字など,
565 読まれることを全く意識していないかのような答案
566 が相当数あった。
567
568 例年繰り返し指摘しているところであり,
569 受験者には読み手を
570 意識した答案作成を心掛けるよう,
571 強く改善を求めたい。
572
573
574 ・ 誤字・当て字が多く,
575 中には概念の理解に関わると考えられるものも少なくな
576 かった(例えば,
577 換置処分,
578 土地収容,
579 損失保障など)。
580
581 このような誤字の多用
582 は,
583 書面作成の基本的能力についても疑問を抱かせることになる。
584
585
586 ・ 結論を示さない答案が少なからず見られた。
587
588 問題文をよく読めば,
589 最低限,
590
591 論併記で済ませてはならないことが理解されるはずである。
592
593
594 ・ 時間不足になったと思われる答案や,
595 論理が何度も逆転した上に,
596 唐突に結論
597 が述べられているような非常に読みにくい答案が散見された。
598
599 時間配分や答案構
600 成の在り方に問題があったのではないかと思われる。
601
602
603 ・ 問題文を正確に読まなかったのか,
604 前提を誤解したり,
605 設問の指示に従ってい
606 ない答案が散見された。
607
608 また,
609 問題文から離れた一般論・抽象論の展開に終始し
610 ている答案も少なからず見られた。
611
612 まずもって,
613 設問を正しく理解した上で答案
614 を作成することが求められる。
615
616
617 ・ 設例や会議録から事実や発言を抜き出してつなぎ合わせただけの,
618 検討の実質
619 が伴わない答案や,
620 具体的な検討要素となるべき事実を単に羅列しただけの答案
621 がかなり多く見られた。
622
623
624 ・ 個別法令の条文を読む訓練が充分にできていないためか,
625 都市計画決定と都市
626 計画事業認可のそれぞれの関連条文について,
627 初歩的な文理解釈上のミスが目に
628 付いた。
629
630
631 ・ 各設問における結論に一貫性のない答案が見られた(設問1では建築制限が一
632 般的かつ軽度の制限であるとしながら,
633 設問3では補償を認めるべき強度の制限
634 だと論じるなど)。
635
636
637 ・ 著名な最高裁判例を素材にした素直な問題であり,
638 受験者にとっては,
639 日頃の
640 力を発揮しやすい出題であったといえるが,
641 全体としては予想よりも出来が良く
642 なかった。
643
644
645 ・ 「仕組み解釈」と称して参照法令の規定を列挙しているが,
646 結論にどのように
647 つながるのかが不明な答案が見られた。
648
649 判例の学習において,
650 判例が挙げる個別
651
652 -6-
653
654 の規定がどのような論理的連関にあり,
655 結論にどのようにつながるのかを読み解
656 く訓練が求められる。
657
658
659 (2) 設問1
660 ・ 大法廷判決の要旨は記述しているにもかかわらず,
661 それが本件の処分性の考察
662 にほとんど活かされておらず,
663 大法廷判決を暗記しているだけで実質的に理解し
664 ていないのではないかと疑われる答案が相当数あった。
665
666
667 ・ 大法廷判決が土地区画整理事業の事業計画の決定に処分性を認めた理由として,
668
669 建築制限の効果のみを挙げる答案が予想外に多かった。
670
671 少なくとも法廷意見にお
672 いてそれが主要な理由とされていないことは,
673 基本的な学習事項の範囲内である。
674
675
676 ・ 都市計画決定における建築制限の効果と収用の前提となる効果を正確に理解し
677 ておらず,
678 例えば,
679 都市計画決定の建築制限の効果は都市計画事業認可の取消訴
680 訟において争えば足りるとするような答案が相当数あった。
681
682
683 (3) 設問2
684 ・ 本件の具体的な諸事情を,
685 考慮すべきか,
686 考慮すべきでないか,
687 重視すべきか,
688
689 重視すべきでないかという観点から平板に列挙するにとどまり,
690 判断過程統制の
691 定式を形式的に覚えているだけではないかと疑われる答案が多かった。
692
693
694 ・ 適法とする法律論と違法とする法律論を単に併記しただけで,
695 自身の見解を説
696 得的に論述していない答案が非常に多く,
697 問題文をよく読んでいないという印象
698 を受けた。
699
700
701 ・ 各種の考慮要素について,
702 適法又は違法とする立場のいずれか一方についての
703 論拠と割り振ってしまい,
704 その結果,
705 各要素の持つ両面性について積極的に分析
706 ・検討していない答案が多く見られた。
707
708 例えば,
709 地元事業者の要望といった要素
710 は適法性を基礎付ける事項として利用可能であるが,
711 他方で,
712 特別な優遇は存在
713 しなかったのかといった形で違法性を基礎付ける事項ともなり得るものである。
714
715
716 総じて,
717 自説に不利な事情への検討がおろそかになっている答案が多いという印
718 象を受けた。
719
720
721 (4) 設問3
722 ・ 土地利用制限に係る本件事例では,
723 損失補償の要否の判断基準として,
724 権利侵
725 害の一般性・個別性はほとんど問題にならないにもかかわらず,
726 この点のみに紙
727 幅を割いている的外れな答案が相当数見られた。
728
729
730 ・ 本件支払請求が地価の低落分に相当する額の支払請求であることを踏まえずに,
731
732 望んでいる建て替えができないことによる損失につき専ら論じている答案が多か
733 った。
734
735
736 ・ 建築制限が「公共の利益に資するものである」ため損失補償が不要とする答案
737 が散見された。
738
739 なぜ損失補償が憲法上の問題となるのか,
740 その基本にまで考えが
741 及んでいないのではないか。
742
743
744 ・ 時間不足のためか,
745 全体として検討不足の答案が目に付き,
746 損失補償に関する
747 一般的な知識を述べただけの答案が多く見られた。
748
749 建築制限の期間や制限の効果
750 (侵害の強度),
751 商業地区における建築制限であったことなど,
752 本件の具体的な
753 事情を踏まえた十分な検討をしている答案はほとんどなかった。
754
755
756 ・ 少数ながら,
757 最高裁判所昭和48年10月18日第一小法廷判決(民集27巻
758 9号1210頁)の存在も意識しつつ掘り下げて論ずる水準の高い答案もあった。
759
760
761
762 -7-
763
764
765
766 今後の法科大学院教育に求めるもの
767 単に条文の要件・効果といった要素の抽出やその記憶だけに終始することなく,
768
769 々な視点からこれらの要素を分析し,
770 類型化するなどの訓練を通じて,
771 与えられた命
772 題に対し,
773 適切な見解を引き出すことができる能力を習得させるという視点に立った
774 教育を求めたい。
775
776 また,
777 判例の射程の検討が法律実務家として必要なスキルであるこ
778 とを法科大学院における学習でも常に意識すべきである。
779
780
781 ほぼ全ての答案において,
782 基本的事項については知識として定着していることがう
783 かがわれ,
784 法科大学院教育の成果を認めることができた。
785
786 しかしながら,
787 各問におい
788 て単に条文を羅列するだけであったり,
789 逆に,
790 条文を離れて抽象論を展開する答案が
791 数多く見られた。
792
793 実務家に求められるのは,
794 法律解釈による規範の定立と,
795 丁寧な事
796 実の拾い出しによる当てはめであり,
797 こうした地に足のついた議論が展開できる法曹
798 を育てることを求めたい。
799
800
801
802 -8-
803
804 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第1問)
805
806
807 出題の趣旨等
808 出題の趣旨及び狙いは,
809 既に公表した出題の趣旨(「平成24年司法試験論文式試
810 験問題出題趣旨【民事系科目】〔第1問〕」)のとおりである。
811
812
813
814
815
816 採点方針
817 採点は,
818 従来と同様,
819 受験者の能力を多面的に測ることを目標とした。
820
821
822 具体的には,
823 民法上の問題についての基礎的な理解とともに,
824 その応用を的確にす
825 ることができるかどうかを問うこととし,
826 具体的な事実を踏まえ,
827 実体的な法律関係
828 を理解して論述する能力,
829 当事者間に成立した契約の内容を理解して妥当と認められ
830 る法律的帰結を導く能力,
831 及び,
832 具体的な事実を法的な観点から分析して評価する能
833 力などを試そうとするものである。
834
835 その際,
836 単に知識を確認するにとどまらず,
837 掘り
838 下げた考察をしてそれを明確に表現する能力,
839 論理的に一貫した考察を行う能力,
840
841 び,
842 具体的事実を注意深く分析した上で法的観点から評価する能力を確かめることと
843 した。
844
845 これらを実現するために,
846 検討が必要な項目ごとに適切な考察が行われている
847 かどうか,
848 その考察がどの程度適切なものかに応じて点を与えることとした。
849
850
851 さらに,
852 複数の論点について表面的に言及する答案よりも,
853 考察の重要箇所におい
854 て周到確実な論述をし,
855 又は,
856 創意工夫に富む答案が,
857 法的思考能力の優れているこ
858 とを示していると考えられることがある。
859
860 そのため,
861 項目ごとの評価に加えて,
862 答案
863 を全体として評価し,
864 論述の緻密さや周到さの程度や構成の明快さの程度に応じて点
865 数を与えることとした。
866
867 これらにより,
868 ある設問について考察力や法的思考力の高さ
869 が示されている答案には,
870 別の設問について必要なものの一部の検討がなく,
871 そのこ
872 とにより知識や理解の不足を露呈していたとしても,
873 高い評価を与えることができる
874 ようにした。
875
876 また反対に,
877 論理的に矛盾する構成をするなど積極的な過誤が著しい答
878 案については,
879 低く評価することとした。
880
881
882
883
884
885 採点実感
886 各設問について,
887 この後の(1)から(3)までにおいて,
888 それぞれ全般的な採点実感を
889 紹介し,
890 また,
891 それを踏まえ,
892 司法試験考査委員会議申合せ事項にいう「優秀」,
893 「良
894 好」,
895 「一応の水準」及び「不良」の4つの区分に照らし,
896 例えばどのような答案がそ
897 れぞれの区分に該当するかについて示すこととする。
898
899 ただし,
900 これらは各区分に該当
901 する答案の例であって,
902 これらのほかに各区分に該当する答案はあり,
903 それらは多様
904 である。
905
906
907 また,
908 設問ごとに,
909 というよりも答案の全体的傾向から感じられたことも,
910 その後
911 で紹介しておきたい。
912
913
914 なお,
915 以下で用いる「的確な解答」,
916 「適切に答える」,
917 「適切に検討する」や「的確
918 な検討」の表現の意味するところについては,
919 既に公表した出題の趣旨を参照するこ
920 とを求める。
921
922
923 (1) 設問1について
924 ア 設問1の全般的な採点実感
925 設問1は,
926 具体的な事実を踏まえ,
927 実体的な法律関係を理解して論述する能力
928
929 -9-
930
931 を問おうとするものである。
932
933 そこでは,
934 民法の基本的な概念を適切に用い,
935 法律
936 関係を理解する上で欠かすことができない適用規範を提示する民法の規定を指摘
937 し,
938 また,
939 訴訟における攻撃防御の構造を意識しつつ具体的な事実が持つ意義を
940 的確に理解して論述をすることなどが求められる。
941
942
943 実際に作成された答案も,
944 遺産分割や遺産共有という基本概念を適切に用いた
945 ものが見られ,
946 また,
947 民法第898条のような基本的な規定を掲記して論述をす
948 るものが見られた。
949
950 半面において,
951 これらの概念や規定に論及しない答案も少な
952 くない。
953
954 加えて,
955 小問(1)において,
956 民法第94条第2項の類推解釈に論及し,
957
958 それに相当な分量を割く答案などが見られ,
959 さらには,
960 その類推解釈が肯定され
961 るべき事例であると説くものなどまであり,
962 受験者の解答の水準には,
963 相当の上
964 下の乖離が見られる。
965
966 民法上の権利変動は,
967 その原因となる法律行為や事実が認
968 められるときに初めて肯定されるべきものであって,
969 権利外観法理により保護を
970 考えなければならない局面は,
971 あくまでも例外であるということが,
972 改めて認識
973 されることがあってよいと痛感する。
974
975
976 訴訟上の攻撃防御の理解を踏まえた具体的事実の意義付けを問う小問(2)に
977 おいては,
978 自己の物の時効取得が成立可能であるかどうかという見地から題意の
979 事実の意義が考察対象となるということ,
980 及び,
981 自主占有が法律上推定されるこ
982 とを踏まえて,
983 自主占有であることを否認する観点から題意の事実が意義を持つ
984 ことを適切に論ずる答案も見られた。
985
986 半面において,
987 これらのいずれかのみを論
988 じ,
989 又は,
990 これらのいずれもが指摘されていないものがあり,
991 とりわけ自己の物
992 の時効取得の適否という観点を問題としていない答案は,
993 少なくなかった。
994
995
996 訴訟における攻撃防御を考察する際には,
997 実体法と関連付けて検討することが,
998
999 極めて重要である。
1000
1001 そもそも実体法上問題とならない事実,
1002 実体法上問題となる
1003 事実ではあるが主張立証責任の観点から主張立証を求められない事実ないし否認
1004 の理由付けになるにとどまると認められる事実,
1005 そして,
1006 実体法上問題となるの
1007 みならず主張立証が正に求められる事実の区別は,
1008 実体法の正確な理解を基盤と
1009 して初めて成り立つものである。
1010
1011 自己の物の時効取得について言うならば,
1012 その
1013 適否が判例上問題とされたということ自体が,
1014 それについて実体法的な観点から
1015 考察をしておくべき必要があることを示している。
1016
1017 日頃の学習においても,
1018 請求
1019 原因事実や抗弁事実となるものの組合せの暗記のようなことに走るのではなく,
1020
1021 それら事実を実体法と関連させながら理解する態度が強く望まれる。
1022
1023
1024 イ 答案の例
1025 優秀に該当する答案は,
1026 小問(1)については,
1027 AB間の売買契約に基づいて
1028 甲土地の所有権が買主Aに移転したことを理由とするFの主張がいかなる法的根
1029 拠に基づくものであるかを的確に述べ,
1030 かつ,
1031 遺産共有状態にあることと遺産分
1032 割が未了であることをその根拠規定に言及しながら正確に指摘し,
1033 遺産分割未了
1034 の状態における甲土地の所有権の帰属について結論を示すものである。
1035
1036 また,
1037
1038 問(2)については,
1039 民法の実体法理として,
1040 自己の物の時効取得の可否をその
1041 根拠に言及しつつ明らかにした上で,
1042 他主占有・自主占有の判断基準としての占
1043 有取得権原の実体法上の意味及び主張立証責任における意味を細密に検討するも
1044 のである。
1045
1046
1047 良好に該当する答案は,
1048 優秀に該当する答案において要求される事項のうち主
1049
1050 - 10 -
1051
1052 要なものにつき検討不足の点が残るものの,
1053 小問(1)では,
1054 Fの主張の法的意
1055 味及び遺産共有・遺産分割協議への言及があり,
1056 また,
1057 小問(2)では,
1058 「他人の
1059 物」要件への言及があるとともに,
1060 他主占有・自主占有の判断基準についての指
1061 摘と主張立証責任の分配に関する適切な言及があるものである。
1062
1063
1064 一応の水準に該当する答案の例は,
1065 上記事項のうちのいずれかを欠くもの,
1066
1067 えば,
1068 遺産共有の問題と物権法上の共有の問題との相違に思いを馳せることなく,
1069
1070 漠然と両者を同一視したり,
1071 遺産分割未了の意味を問うことなく分析を進めたり,
1072
1073 自己の物の時効取得の問題に思いが至らなかったり,
1074 他主占有・自主占有の判断
1075 基準について曖昧なままに卒然と主張立証責任へと論旨を展開したりするもので
1076 ある。
1077
1078
1079 不良に該当する答案の例は,
1080 およそ民法の実体法理の意味についての検討を欠
1081 いたまま,
1082 漫然と要件事実を羅列することから始め,
1083 そこへの当てはめに堕して
1084 いるもの,
1085 そもそも遺産共有そして遺産分割未了の問題に気付いていないもの,
1086
1087 物権法上の共有における登記の問題や民法第177条の適用問題への言及に傾注
1088 しているもの,
1089 本問では主要な検討対象となり得ない民法第94条第2項の類推
1090 解釈の可否に関する検討に専念しているものなどである。
1091
1092
1093 (2) 設問2について
1094 ア 設問2の全般的な採点実感
1095 設問2は,
1096 当事者間に成立した契約の内容を理解して妥当と認められる法律的
1097 帰結を導く能力などを問おうとするものである。
1098
1099 そのことから,
1100 契約書を正しく
1101 読み取った上で,
1102 契約条項をそのままの形で適用するのでは解決が困難である問
1103 題について,
1104 契約解釈などを通じ,
1105 十分な理由付けと論理一貫性の下に適切な解
1106 決を導くことができるかどうかが,
1107 評価の対象となる。
1108
1109
1110 実際にも,
1111 このような観点を明確に意識し,
1112 契約書の第4条や第6条に論及し
1113 つつ,
1114 本問事例の法律関係の理解と問題解決を考察する答案が見られた。
1115
1116 半面に
1117 おいて,
1118 契約書への論及が不十分であったり,
1119 契約書とは無関係に論述を進め,
1120
1121 民法の寄託や共有の規定などを問題とする考察に終始したりするものも少なくな
1122 かった。
1123
1124 任意規定に反しない特約が有効とされ,
1125 そして,
1126 補充的契約解釈の手法
1127 などの契約解釈を用いて当事者の合理的意思を探求する手順を経ることにより妥
1128 当な解決が見いだされるべきであるという原理を知らない受験者はいないと目さ
1129 れるけれども,
1130 それらの思考作業を実際に試みることの重要性は,
1131 実務法曹を志
1132 すからには,
1133 改めて認識してほしい。
1134
1135 民事の法律実務においては,
1136 契約書の内容
1137 が文言のみを見ると矛盾が生ずるように感じられる局面は珍しくなく,
1138 そうであ
1139 るからこそ,
1140 そこで法律家の役割が求められるものである,
1141 ということに思いを
1142 致すことが望まれる。
1143
1144
1145 なお,
1146 設問2は,
1147 このように主に契約解釈の必要性があることの理解とその実
1148 質的検討を求めるものであるが,
1149 本問事例の状況を解決するに当たっては,
1150 財貨
1151 の帰属の態様に関する深められた考察が問題となる契機も見られる。
1152
1153 1000個
1154 といういわば集合の全体を共有するという理解に暗黙に立ち,
1155 その半分である5
1156 00個の引渡しを求めることができるなどと論ずるものがほとんどであるが,
1157
1158 のような考え方が当然に成り立つと見ることはできず,
1159 一つ一つの個々の物ごと
1160 に共有が成立する,
1161 という見方との対比検討という周到な考察を示す答案も,
1162
1163
1164 - 11 -
1165
1166 めて少数ではあるが見られたところである。
1167
1168
1169 また,
1170 民事の法律問題を考える際には,
1171 訴訟物が何になるかを意識することが,
1172
1173 重要である。
1174
1175 設問2の引渡請求も,
1176 寄託契約に基づく請求権と所有権に基づく請
1177 求権の両者を問題とすることが可能であり,
1178 この点に適切に論及する答案も見ら
1179 れたが,
1180 半面において請求権の根拠に全く論及しないか,
1181 又は,
1182 それを意識して
1183 いないと見られる答案もあった。
1184
1185
1186 イ 答案の例
1187 優秀に該当する答案の例は,
1188 本問寄託契約書が,
1189 一方では,
1190 現存寄託物の共有
1191 を定め,
1192 他方では,
1193 各寄託者に寄託した数量の返還請求権を認めていることを指
1194 摘し,
1195 その合理的な調整を図るべく,
1196 契約の解釈等を行い,
1197 債権的返還請求権又
1198 は物権的返還請求権としての構成を適切に行った上で,
1199 妥当な結論に到達してい
1200 るものである。
1201
1202
1203 良好に該当する答案の例は,
1204 本件寄託契約書の条項を直接に適用するのみでは
1205 妥当な結論に達し得ないことを適切に指摘するものの,
1206 その調整の論理あるいは
1207 請求権の性質や根拠が不明確であるものである。
1208
1209
1210 一応の水準に該当する答案の例は,
1211 本問寄託物が共有に属することを適切に指
1212 摘するものの,
1213 その調整について慎重な検討を行わず,
1214 安易に結論を示そうとす
1215 るものである。
1216
1217
1218 不良に該当する答案の例は,
1219 本件寄託契約書の条項について検討を行わず,
1220
1221 たがって,
1222 条項間の解釈的な調整をすることもなく,
1223 安易に結論を示そうとする
1224 ものである。
1225
1226
1227 (3) 設問3について
1228 ア 設問3の全般的な採点実感
1229 設問3は,
1230 寄託契約の債務不履行を肯定する前提となる注意義務の水準や内容
1231 を踏まえ,
1232 それらを論じた上で,
1233 特定の内容の損害賠償請求について,
1234 その可否
1235 の検討を求めるものであり,
1236 損害賠償の可否の検討においては,
1237 題意が示す具体
1238 的な事実を総合的に分析して考察する能力が問われる。
1239
1240
1241 実際に作成された答案も,
1242 無償寄託における注意義務が自己の財産についてと
1243 同一の注意義務であることを根拠法条とともに指摘し,
1244 本問の受寄者には,
1245 それ
1246 に対する違反があったとするものが多かった。
1247
1248 ただし,
1249 中には,
1250 根拠法条を掲げ
1251 ないで自己の財産についてと同一の注意義務であるという結論のみを示すものや,
1252
1253 「和風だし」と「山菜おこわ」の寄託契約が別個に締結されていることに気付い
1254 ていないものなどが見られた。
1255
1256 また,
1257 先に行われた「和風だし」の契約に係る注
1258 意義務に着目し,
1259 それとの関連を丁寧に説明して善良な管理者の注意義務とする
1260 のであるならばともかく,
1261 そのような考察を経ないで善良な管理者の注意義務で
1262 あるとする結論を漫然と述べるものが見られたことも,
1263 残念である。
1264
1265
1266 損害賠償の可否については,
1267 多くの答案が民法第416条の特に第2項の問題
1268 であるという規範適用を前提として論じていたし,
1269 それは,
1270 本問について,
1271 十分
1272 にあり得るアプローチである。
1273
1274 全般的にも,
1275 余り多くはないが,
1276 民事の法律紛争
1277 の一つの重要な題材である損害賠償については,
1278 しっかり論述しようとする態度
1279 が答案の全体からうかがわれるものがあったことは,
1280 好ましい。
1281
1282
1283 しかし,
1284 半面において,
1285 まず,
1286 その規範適用において,
1287 特別損害を誰がいつ予
1288
1289 - 12 -
1290
1291 見すべきか,
1292 という点を細密に論じないで単に受寄者が予見することができたか
1293 どうかの検討に終始するものが見られた。
1294
1295 また,
1296 受寄者が事情の一端を聞いてい
1297 たという一点のみから,
1298 予見可能な特別損害であると単線的に結論を導くものも
1299 少なくない。
1300
1301 法律実務家には,
1302 事案の全体を見渡して考察するという態度が常に
1303 求められるものであり,
1304 本問においても,
1305 題意の事実関係において提示されてい
1306 る複数の事実を総合的に考察の俎上に載せるという思考が望まれる。
1307
1308
1309 イ 答案の例
1310 優秀に該当する答案の例は,
1311 既に公表した出題の趣旨に即した仕方で,
1312 「山菜お
1313 こわ」の受寄者Hが負う注意義務の基準を明らかにし,
1314 保管義務違反があったこ
1315 とを事実に即して指摘し,
1316 Fによる損害賠償請求を認めるために必要な考察の視
1317 点を提示した上で,
1318 提示された視点に【事実】を当てはめて,
1319 「損害の賠償を請
1320 求することができるか」という問いに答える形で結論を示すものである。
1321
1322 その論
1323 述に当たっては,
1324 とりわけ,
1325 関連する法条を正しく掲記すること,
1326 解答において
1327 提示する考察の視点につき,
1328 その視点に着目して検討するべき理由を的確に説明
1329 すること,
1330 結論を導くに当たって【事実】に現れた諸事情を読み取り,
1331 要件の充
1332 足につき慎重な考察を経た上で結論を示すこと,
1333 という全てについて適切に答え
1334 ているものである。
1335
1336
1337 良好に該当する答案の例は,
1338 「山菜おこわ」の受寄者Hが負う注意義務の基準
1339 を明らかにし,
1340 保管義務違反があったことを事実に即して指摘した上で,
1341 Fによ
1342 る損害賠償請求を認めるために必要な考察の視点を提示するものの,
1343 結論を導く
1344 に当たっての考察において,
1345 【事実】に現れた諸事情の読み取り及び考察が十分
1346 でないものである。
1347
1348
1349 一応の水準に該当する答案の例は,
1350 「山菜おこわ」の受寄者Hが負う注意義務
1351 の基準を明らかにし,
1352 保管義務違反があったことを事実に即して指摘するものの,
1353
1354 Fによる損害賠償請求を認めるために必要な考察の視点を提示するに当たって,
1355
1356 その視点に着目して検討するべき理由を的確に説明せず,
1357 かつ,
1358 結論を導くに当
1359 たっての考察も不十分なものである。
1360
1361
1362 不良に該当する答案の例は,
1363 上に掲げた諸点のいずれにおいても適切な解答と
1364 なっていないものである。
1365
1366
1367 (4) 全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項
1368 特定の設問ということでなく,
1369 答案の全体から感じられたことについても,
1370 幾つ
1371 かの指摘をしておきたい。
1372
1373
1374 答案の中に,
1375 少数ではあるが,
1376 受験者の極めて優れた分析能力や考察能力をうか
1377 がわせるものが見られる。
1378
1379 旧司法試験の制度の下で見られたように,
1380 法学教育は学
1381 部までで終了し,
1382 その後の司法試験受験のためには,
1383 受験者の関心が受験準備のマ
1384 ニュアル的な訓練ばかりに向かいがちであった仕組みの下では,
1385 このような答案は
1386 現れなかったものと思われる。
1387
1388
1389 半面において,
1390 細かく観察すると,
1391 法律家として将来において実務に就くという
1392 目的意識とは距離のある文章作成の感覚も,
1393 遺憾ながら見られる。
1394
1395 接続表現が,
1396
1397 歩でなく単に逆接である場面で見られる「そうであっても」,
1398 「そうとしても」とい
1399 う言葉や,
1400 仮定でなく単に順接である場面で用いられる「とすると」,
1401 「そうであれ
1402 ば」という表現の頻用は,
1403 不自然である。
1404
1405 法律家として将来において作成すること
1406
1407 - 13 -
1408
1409 になる裁判書や準備書面は,
1410 「しかし」,
1411 「したがって」,
1412 「そこで」などの一般の人
1413 々も理解しやすい平易な表現で書かれることが望まれるし,
1414 答案も,
1415 そうであって
1416 ほしい。
1417
1418
1419 法律家が書く文章ということでは,
1420 さらに裁判書や準備書面は,
1421 当然と言えば当
1422 然のことであるが,
1423 他人に読んでもらうものである,
1424 という前提がある。
1425
1426 自分が手
1427 控えとして残しておくメモとは異なるものであり,
1428 答案も,
1429 それらと同じであるべ
1430 きであるから,
1431 その観点からの注意も要る。
1432
1433 「債ム」などという略記や略字,
1434 時的因
1435 子を示す際に「平成」を示す記号であると見られる「H」という略記などは,
1436 いず
1437 れも自分のみが読むメモであるならばあり得ることであるが,
1438 答案などにおいては
1439 好ましくない。
1440
1441 なお,
1442 字が小さ過ぎて,
1443 かつ潰れたように記されているため判読が
1444 困難であるものも,
1445 まれに見られる。
1446
1447
1448 答案の分量やそれと密接に関連すると見られる答案作成の時間配分の問題につい
1449 ては,
1450 設問3が考察不足に終わった答案の中に,
1451 設問1で不必要なことを書いたた
1452 めに時間を費やしたとか,
1453 どうしても設問1及び同2を書き過ぎてしまうとかとい
1454 った原因を抱えていると推測されるものが見られる。
1455
1456 受験者は,
1457 各設問に対応する
1458 解答の分量を考えるとき,
1459 示されている配点の割合を参考にすると良い。
1460
1461
1462
1463
1464 法科大学院における学習において望まれる事項
1465 民法は,
1466 取り扱う内容題材が多岐にわたるが,
1467 それだけに法科大学院における学習
1468 において望まれることは,
1469 基礎的な概念の理解や基本的な思考方法を確実に習得した
1470 上で応用的な問題に取り組む,
1471 という順序に従って学習を進める,
1472 ということである。
1473
1474
1475 具体的には,
1476 与えられた事実関係について,
1477 その法律関係を理解するために必要な
1478 規範を提示している民法などの規定を的確に見いだし,
1479 その上で,
1480 それを適切に適用
1481 して,
1482 与えられた法律関係から導かれる法的な解決を見いだす,
1483 ということが,
1484 極め
1485 て重要である。
1486
1487 一言で言うならば,
1488 通常の規範適用を着実にすることができ,
1489 そこで
1490 の論理操作の過程を適切に文章に表現することができる,
1491 ということが求められる。
1492
1493
1494 ときに,
1495 そうではなく,
1496 殊更法文にない事項や,
1497 法文の解釈において特殊な思考操
1498 作を要する問題にのみ偏った関心を向け,
1499 そこで解釈意見が対立する様相について暗
1500 記をするというようなことに精力を傾ける学習態度も見られるけれども,
1501 それは,
1502
1503 奨することができない学習方法である。
1504
1505
1506 応用的な問題に取り組むことも,
1507 もちろん必要であるが,
1508 それは,
1509 基本に従って通
1510 常の規範操作をする能力を前提としてのことである。
1511
1512
1513 本年試験においても,
1514 題意が与える事実関係を精密に分析して,
1515 それについて民法
1516 が用意する規範を適切に運用してみせた答案がある半面において,
1517 題意にない事実を
1518 付加したり,
1519 題意から想定し難い仕方で事実関係を理解したりして,
1520 殊更特殊な問題
1521 を論ずることに時間を割く答案も見られた。
1522
1523 後者の思考態度は,
1524 法律実務に就く者の
1525 仕事の姿勢として,
1526 あり得ないものである。
1527
1528
1529 今後とも受験者においては,
1530 法律実務を的確に扱うことができる能力を練成すると
1531 いう姿勢を堅持してほしいし,
1532 法科大学院における教育も,
1533 基礎的な理解と思考に基
1534 づく法的推論をする能力を育むものであることが望まれる。
1535
1536
1537
1538 - 14 -
1539
1540 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第2問)
1541
1542
1543 出題の趣旨
1544 既に公表されている「平成24年司法試験論文式試験問題出題趣旨」(以下「出題
1545 趣旨」という。
1546
1547 )に,
1548 特に補足すべき点はない。
1549
1550
1551
1552 2 採点方針及び採点実感
1553 (1) 民事系科目第2問は,
1554 商法からの出題である。
1555
1556 これは,
1557 事実関係を読んで,
1558 分析
1559 し,
1560 会社法上の論点を的確に抽出して各設問に答えるという,
1561 基本的な知識と,
1562
1563 例解析能力,
1564 論理的思考力,
1565 法解釈・適用能力を試すものである。
1566
1567
1568 (2) 設問1(22年総会における取締役4名(B,
1569 C,
1570 D及びP)の選任の当否)で
1571 は,
1572 出題趣旨のとおり,
1573 B,
1574 C,
1575 D,
1576 P,
1577 Q及びRの6名の取締役候補者について
1578 会社法第341条の選任のための決議要件が満たされているので,
1579 このような場合
1580 に,
1581 @取締役として何名が選任され得るか(4名か,
1582 5名か,
1583 あるいは決議の瑕疵
1584 を生じさせるにとどまり6名全員かなど)ということと,
1585 A選任され得る取締役の
1586 数を超えて同条の決議要件を満たす候補者がいる場合の決定方法(採決順か得票順
1587 かなど)が問題となる。
1588
1589 どのような結論を採っても,
1590 その理由が論理的整合性をも
1591 って適切に述べられていれば,
1592 同等に評価したが,
1593 Q及びRについて集計をしなか
1594 ったことが採決方法に関する議長の議事運営の問題であるとしてだけ論じた答案
1595 や,
1596 株主総会決議の瑕疵の問題としてだけ論じた答案が多く見られ,
1597 選任の当否と
1598 いう問題を正しく受け止めて論じた答案は非常に少なかった。
1599
1600 また,
1601 選任の当否と
1602 いう問題を論じた答案においても,
1603 上記@Aの問題について,
1604 問題文を丁寧に読め
1605 ば,
1606 会社提案に係る4名の取締役候補者数や定款所定の取締役の員数を超えて,
1607
1608 議要件を満たす候補者がいることに気付くものと思われるが,
1609 定款所定の員数にさ
1610 え触れない答案や,
1611 特段の理由を示さないまま,
1612 4名の取締役が得票順で選任され
1613 るべきであったなどと結論のみを示す答案も多く,
1614 複数の考え方を意識しながら自
1615 らの考え方を論ずるという出題趣旨に沿う答案は僅かであった。
1616
1617
1618 (3) 設問2(本件貸付けに関する株主A及び監査役Fの対応)では,
1619 まず,
1620 小問(1)
1621 の事前の対応に関しては,
1622 株主の差止請求と監査役の差止請求の要件の違い(会社
1623 法第360条第1項及び第3項と同法第385条第1項)については多くの答案が
1624 正しく指摘していたが,
1625 両者に共通する要件である「会社の目的の範囲外の行為そ
1626 の他法令若しくは定款に違反する行為」の存否については,
1627 適切に論じた答案もそ
1628 れなりにあったものの,
1629 法令違反を論じないで,
1630 また,
1631 説得的な理由もないままに
1632 本件貸付けは会社の目的の範囲外であるなどと論じた答案も少なからず見られた。
1633
1634
1635 なお,
1636 仮処分(同法第385条第2項参照)に言及した答案は少なかった。
1637
1638
1639 小問(2)の事後の責任追及に関しては,
1640 取締役の会社に対する責任について,
1641
1642 件貸付けが利益相反取引(同法第365条第1項,
1643 第356条第1項第2号)に該
1644 当すること,
1645 H,
1646 D及びPにつき,
1647 それぞれ同法第423条第3項各号により任務
1648 懈怠が推定されること(Pについては,
1649 更に同法第428条第1項参照)は,
1650 多く
1651 の答案が正しく指摘し,
1652 適切に論じていた。
1653
1654 取締役の会社に対する責任に関し,
1655
1656 主Aによる甲社に対する提訴請求及び株主代表訴訟(同法第847条)については
1657 多くの答案が言及していたが,
1658 監査役Fの提訴権限(同法第386条第1項)につ
1659
1660 - 15 -
1661
1662 いて正しく言及した答案は少なかった。
1663
1664
1665 なお,
1666 小問(1)及び(2)に共通して,
1667 監査役Fの権限を論ずるに際しては,
1668 甲社の
1669 監査役会において,
1670 Eが「本件貸付けについては問題視しないことを監査役会の方
1671 針とする」旨を提案し,
1672 Gがこれに賛成していることから,
1673 監査役の独任性との関
1674 係(同法第390条第2項ただし書)に触れることが求められるが,
1675 この点に言及
1676 した答案は極めて少なかった。
1677
1678 また,
1679 監査役の調査権限(同法第381条第2項)
1680 に言及した答案はほとんど見られなかった。
1681
1682
1683 (4) 設問3(23年総会決議についての決議取消しの訴えの当否)では,
1684 まず,
1685 否決
1686 を宣言された議案@について,
1687 同議案に係る「否決の決議」がそもそも決議取消し
1688 の訴えの対象となるか否かが問題となることを指摘した答案はごく僅かであった。
1689
1690
1691 なお,
1692 この問題については,
1693 どのような結論を採っても,
1694 理由が適切に述べられて
1695 いれば,
1696 同等に評価した。
1697
1698 次に,
1699 可決を宣言された議案A(議案@が決議取消しの
1700 訴えの対象となるとの結論を採った場合には,
1701 議案@も同様)については,
1702 Fにつ
1703 いて,
1704 決議取消しにより監査役としての権利義務を有することとなる者(会社法第
1705 346条第1項)にも明文で原告適格が認められていること(同法第831条第1
1706 項後段)を正しく指摘した答案はごく僅かであった。
1707
1708 また,
1709 監査役の選任に関する
1710 意見陳述の権利(同法第345条第4項,
1711 第1項)が奪われていることについて,
1712
1713 そのような権利があることを会社法の同規定に言及して指摘できている答案は多く
1714 はなかった。
1715
1716 その代わり,
1717 本問では問題とならないはずの株主総会に対する報告義
1718 務(同法第384条)に言及した答案が少なくなかった。
1719
1720 議案Aは株主提案に係る
1721 ものなので,
1722 甲社の監査役会の同意がなくても同法第343条第1項,
1723 第3項に違
1724 反するものではないが,
1725 同規定の趣旨を潜脱すると論じた答案も相当見られた。
1726
1727
1728 に関する手続上の瑕疵をAが主張することができるか否かを論じた答案は僅かなが
1729 ら見られた。
1730
1731 なお,
1732 設問1で採った結論によっては,
1733 23年総会の招集に係る取締
1734 役会決議の瑕疵の存否や,
1735 22年総会において取締役に選任されたとも考えられる
1736 QやRが監査役に選任されることの適否について論ずることが期待されるが,
1737 こう
1738 した点を論じた答案も僅かながら見られた。
1739
1740
1741 (5) 以上のような採点実感に照らすと,
1742 「優秀」,
1743 「良好」,
1744 「一応の水準」,
1745 「不良」の
1746 四つの水準の答案は,
1747 次のようなものと考えられる。
1748
1749 第一に,
1750 「優秀」な答案は,
1751
1752 主要な論点をほぼ論ずることができていて(主要な論点の一,
1753 二が欠けている程度
1754 は,
1755 差し支えない。
1756
1757 ),
1758 各問題につき相当な理由付けをして自らの考えを述べ,
1759 その
1760 考えに基づき論理的に整合性を持った法的議論を展開することのできている答案で
1761 ある。
1762
1763 「良好」な答案は,
1764 主要な論点で論じられていないものが若干あるが,
1765 取り
1766 上げた論点についてはそれなりの論理的に整合性を持った法的議論がされている答
1767 案である。
1768
1769 「一応の水準」の答案は,
1770 最低限押さえるべき論点,
1771 例えば,
1772 設問2で
1773 あれば,
1774 株主と監査役による事前の差止請求と事後の損害賠償請求が,
1775 問題文にあ
1776 る事実を適切に当てはめながら少なくとも実質的に論じられていて,
1777 議論の筋があ
1778 る程度通っている答案である。
1779
1780 「不良」な答案は,
1781 そのような最低限押さえるべき
1782 論点も押さえられていない答案や,
1783 議論の筋の通っていない答案である。
1784
1785
1786
1787
1788 法科大学院教育に求められるもの
1789 株主や監査役による差止請求権,
1790 利益相反取引に係る取締役の会社に対する責任と
1791
1792 - 16 -
1793
1794 その追及,
1795 監査役の選任についての意見陳述権に関する規律は,
1796 会社法の基本的な規
1797 律であると考えられるが,
1798 これらについての理解に不十分な面が見られる。
1799
1800 また,
1801
1802 問1や設問3のうちで議案@に係る「否決の決議」が決議取消しの訴えの対象となる
1803 かという問題などについて,
1804 自分の頭で論理的な思考をして解答を導くという点に不
1805 十分な面が見られる。
1806
1807 会社法の基本的な知識の確実な習得とともに,
1808 論理的思考力を
1809 養う教育が求められる。
1810
1811
1812
1813 - 17 -
1814
1815 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第3問)
1816
1817
1818 出題の趣旨等
1819 出題の趣旨及び狙いは,
1820 既に公表した出題の趣旨(「平成24年司法試験論文式試
1821 験問題出題趣旨【民事系科目】〔第3問〕」)のとおりである。
1822
1823
1824
1825
1826
1827 採点方針
1828 採点に当たっては,
1829 @民事訴訟法の基本的な原理・原則や概念を正しく理解すると
1830 ともに,
1831 基礎的な知識を習得しているか,
1832 Aそれらを前提として,
1833 問題文をよく読み,
1834
1835 設問で問われていることが何かを的確に把握した上で,
1836 それに正面から答えているか,
1837
1838 B抽象論に終始せず,
1839 設問の事例に即して具体的に,
1840 かつ,
1841 掘り下げた考察をしてい
1842 るか,
1843 といった点を重視して採点しており,
1844 このことは従来と変わらない。
1845
1846
1847 上記Aと関連するが,
1848 問われていることに正面から答えていなければ,
1849 点数を付与
1850 することはしていない。
1851
1852 自分の知っている論点がそのまま問われているものと思い込
1853 み,
1854 題意から離れてその論点について長々と記述する答案や,
1855 結論に関係しないにも
1856 かかわらず自分の知っている諸論点を広く浅く書き連ねる答案に対しては,
1857 問われて
1858 いることに何ら答えていないと評価するなど,
1859 厳しい姿勢で採点に臨んでいる。
1860
1861
1862 問われていることに正面から答えるためには,
1863 論点ごとにあらかじめ丸暗記した画
1864 一的な表現をそのまま答案用紙に書き出すのではなく,
1865 設問の検討の結果をきちんと
1866 順序立てて自分の言葉で表現する姿勢が極めて大切である。
1867
1868 採点に当たっては,
1869 その
1870 ような意識を持っているかどうかにも留意している。
1871
1872
1873
1874 3 採点実感等
1875 (1) 全体を通じて
1876 論じるべき事柄を受験者が容易に認識できるよう,
1877 問題文の作成に当たっては,
1878
1879 かなり工夫をした。
1880
1881 期待された論点が各答案で必ず論じられることを前提に,
1882 各受
1883 験者の理解の程度が論述に現れ,
1884 その差が評価に反映するといったことを狙ったか
1885 らである。
1886
1887 その結果,
1888 全体を通じて白紙に近い状態で提出された答案はほとんどな
1889 く,
1890 小問ごとに見ても,
1891 民事訴訟法上のどのような問題が問われているかは,
1892 おお
1893 むね把握されていた。
1894
1895
1896 その一方で,
1897 設問1の「弁護士Lと司法修習生Pの会話を踏まえて説明」「処分
1898 証書とは何か,
1899 それによって何がどのように証明できるかといった基本に立ち返っ
1900 て」,
1901 設問2の「Cの立場から」など,
1902 問題文中に論述の手掛かりや方向性が与え
1903 られているにもかかわらず,
1904 それらを十分踏まえていないと思われる答案も目に付
1905 いた。
1906
1907 その原因が,
1908 問題文を隅々まで読んでいないことにあったとすれば,
1909 法律実
1910 務家を目指す者として注意深さが足りないといわざるを得ない。
1911
1912
1913 時間切れで未完成に終わったと思われる答案はほとんど見受けられなかったが,
1914
1915 しっかり考えずに書き始めているのではないかと思われる,
1916 まとまりを欠いた答案
1917 は散見された。
1918
1919 問題文をよく読み,
1920 答案構成を十分に行ってから,
1921 答案を書き始め
1922 るべきである。
1923
1924
1925 (2) 設問1(1)について
1926 書証とは,
1927 文書に記載されている作成者の意思や認識を裁判所が閲読して,
1928 その
1929
1930 - 18 -
1931
1932 意味内容を係争事実の認定のための資料とする証拠調べをいう。
1933
1934 文書は,
1935 公文書と
1936 私文書,
1937 処分証書と報告文書といった幾つかの観点から分類することができるが,
1938
1939 このうち処分証書とは,
1940 証明しようとする法律行為が記載されている文書であり,
1941
1942 それ以外の作成者の経験を記載したり意見を述べたりした文書を報告文書という。
1943
1944
1945 書証は,
1946 文書の作成者の意思や認識などの意味内容を証拠資料に用いる証拠調べで
1947 あるから,
1948 まず,
1949 挙証者が作成者であると主張する特定人(作成名義人)によって
1950 その文書が実際に作成されたということを確かめる必要があり,
1951 この点が肯定され
1952 ることを文書が真正に成立したといい,
1953 このことにより文書の形式的証拠力が備わ
1954 ることになる。
1955
1956 ある証拠が直接証拠となるか,
1957 間接証拠となるかは,
1958 立証趣旨との
1959 関係で定まる。
1960
1961
1962 以上の事柄は,
1963 司法試験の受験者であれば正しく理解し,
1964 習得していなければな
1965 らない基礎的知識である。
1966
1967 その上で,
1968 本問では,
1969 これらの知識を抽象的に述べるの
1970 ではなく,
1971 設問の事例との関係で具体的に説明することが求められている。
1972
1973
1974 「作成者」,
1975 「間接証拠」と「間接事実」,
1976 「認定」と「推認」等の概念について理
1977 解が怪しいと思われる答案が目立った。
1978
1979 専門用語については定義を踏まえた論述を
1980 すべきであり,
1981 専門用語以外の用語についても,
1982 言葉の意味を意識し,
1983 明確かつ厳
1984 密に使用してほしい。
1985
1986 特に類似した用語がある場合には注意してほしい。
1987
1988
1989 一方,
1990 文書の成立の真正についての「二段の推定」については,
1991 論述そのものを
1992 みる限り,
1993 比較的よく理解できているということができ,
1994 それ自体として正確な内
1995 容が書かれていれば相応に評価しているが,
1996 中には「二段の推定」の論述が唐突に
1997 現れるなど,
1998 書証による証明の過程に関する上記の理解が身に付いているか疑わし
1999 いと思われる答案も少なくなかった。
2000
2001 二段の推定とは,
2002 私文書を客体とする書証に
2003 つき成立の真正を認定する場面において立証を簡便にするための法理であることを
2004 再確認しておいてほしい。
2005
2006 逆に,
2007 原則的なことをきちんと押さえた上で,
2008 特に本問
2009 の事例では推定が揺らいでいる可能性があることに触れている答案など,
2010 二段の推
2011 定についての深い理解がうかがわれる答案に対しては,
2012 高い評価をしている。
2013
2014
2015 上記「(1)全体を通じて」でも触れたが,
2016 【事例】の中で,
2017 弁護士Lが「処分証書
2018 とは何か,
2019 それによって何がどのように証明できるかといった基本に立ち返って考
2020 えてみましょう」と言っているにもかかわらず,
2021 「処分証書」の意義に言及してい
2022 ない答案や「処分証書」という用語への言及すらない答案が相当数存在したことは
2023 残念である。
2024
2025
2026 (3) 設問1(2)について
2027 この問題で求められているのは,
2028 『裁判所は当事者の主張しない事実を裁判の基
2029 礎とすることができない』という弁論主義の主張責任に関する原則は,
2030 主要事実に
2031 ついて適用されるところ,
2032 主要事実とは,
2033 法律関係の発生等に直接必要なものとし
2034 て法律が定める要件に該当する具体的事実であり,
2035 代理との関係でいえば,
2036 授権及
2037 び顕名は,
2038 民法第99条によれば,
2039 本人BではなくCが締結した保証契約上の権利
2040 義務がBに帰属するために直接必要な事実であるから,
2041 先の定義上,
2042 主要事実に当
2043 たり,
2044 そうすると,
2045 効果が同じであるから主張がなくとも代理に関する事実を判決
2046 の基礎にすることができるという判例の考え方はこれと相容れない,
2047 という論証で
2048 ある。
2049
2050
2051 ところが,
2052 @主張責任の原則は,
2053 法律関係の発生等に直接必要な主要事実に適用
2054
2055 - 19 -
2056
2057 される,
2058 A代理の要件事実は,
2059 代理人による契約締結,
2060 顕名及び授権である,
2061 Bし
2062 たがって,
2063 Pの見解は弁論主義に反するとするのみで,
2064 @とAが論理的に結び付い
2065 ていない答案が多く見られた。
2066
2067 Aの部分は,
2068 代理の要件事実を丸暗記して再現した
2069 だけで,
2070 なぜそれが主要事実なのかを自分の頭の中で整理した上で答案を構成して
2071 いるとは評価し難く,
2072 むしろ,
2073 知識が血や肉となって身に付いていないことをうか
2074 がわせる。
2075
2076
2077 さすがに弁論主義との関係が問題になることを捉え損なった答案はほとんどなか
2078 った。
2079
2080 とはいえ,
2081 不意打ち防止の観点から当事者の主張が必要であるとだけ論じ,
2082
2083 弁論主義の主張責任の原則が主要事実に適用されることと代理権の授与が主要事実
2084 であることの具体的な検討を欠いた答案は非常に多かった。
2085
2086 また,
2087 代理権授与の事
2088 実は間接事実に過ぎないが,
2089 不意打ち防止の観点から当事者の主張が必要であると
2090 の答案もわずかながら存在した。
2091
2092 いずれも,
2093 法曹を目指す者の答案としては評価で
2094 きない。
2095
2096 論理を積み上げて丁寧に説明しようとしないで,
2097 不意打ち防止,
2098 禁反言,
2099
2100 相手方の信頼保護といった抽象的な用語のみから説明したり,
2101 直ちに結論を導いた
2102 りする答案が評価されないことは,
2103 従来の採点実感においても述べてきたところで
2104 あり,
2105 本問を素材にして改めてそのことの意味を考えてほしい。
2106
2107
2108 なお,
2109 弁論主義についての一般論を長々と論ずる答案が相変わらずあるが,
2110 採点
2111 方針Aで言及したように,
2112 そのような答案は,
2113 問われていることを的確に捕まえよ
2114 うという意識に欠けると評価され,
2115 採点者に与える印象が極めて悪いことを肝に銘
2116 じるべきである。
2117
2118
2119 (4) 設問2について
2120 この事例の前訴においてXが勝訴した理由は表見代理である。
2121
2122 表見代理の要件事
2123 実は,
2124 民法第110条によれば,
2125 CがBのためにすることを明らかにして契約を締
2126 結したこと,
2127 基本代理権の存在,
2128 Xが代理権ありと信じたこと及びそのように信じ
2129 たことについての正当な理由であって,
2130 BのCに対する授権の『不存在』は表見代
2131 理の要件事実ではない。
2132
2133 この知識さえあれば,
2134 参加的効力が判決理由中の判断にも
2135 生ずるとしても,
2136 要件事実でないものについては,
2137 たとえ判決理由中で判断が示さ
2138 れていたとしても,
2139 それは傍論であって,
2140 主文を導き出すために必要な理由ではな
2141 く,
2142 ひいては,
2143 判決理由中で判断が示されることを被告知者において当然に予測す
2144 べきものでもないことからすれば,
2145 授権がなかったことについて参加的効力は生じ
2146 ないという答案が書けてよいはずであるが,
2147 そのように書けている答案は少なかっ
2148 た。
2149
2150
2151 参加的効力の趣旨が敗訴責任の分担にあり,
2152 理由中の判断にも及ぶという論述は,
2153
2154 ほぼ全ての答案においてされていたものの,
2155 設問の事例において参加的効力が及ぶ
2156 こととなる理由中の判断とは何であるかについて具体的に思考できていることが表
2157 現されていなければ,
2158 優秀な答案とは評価できない。
2159
2160 多くの受験者は,
2161 要件事実は
2162 要件事実,
2163 参加的効力は参加的効力といった形で,
2164 各論点を相互に無関係な断片と
2165 して習得する段階にとどまっているのではないかと思われるが,
2166 それでは物足りな
2167 い。
2168
2169 手続法の学習においては,
2170 各論点を関連させて把握できる段階までの学習を心
2171 掛けてほしい。
2172
2173 先に設問1(2)との関係で,
2174 基礎的な要件事実に関する知識が血
2175 肉となるまで身に付いていないことを指摘したが,
2176 同じことが設問2に対する解答
2177 においても強く感じられた。
2178
2179
2180
2181 - 20 -
2182
2183 論述の順序についていえば,
2184 関係条文を形式的に当てはめた場合の帰結が妥当性
2185 に欠けることを示した上,
2186 制度趣旨等に遡って解釈をし,
2187 妥当な結論を導いていく
2188 という手順を踏んでほしい。
2189
2190
2191 本問では,
2192 「Cの立場から」考えられる法律上の主張とその当否を検討すること
2193 が求められているのであるから,
2194 裁判官のような第三者的立場から論ずるだけでは
2195 不十分である。
2196
2197 他方で,
2198 本問においては当然肯定される参加の利益について必要以
2199 上に紙幅を割いて力説する答案も評価できない。
2200
2201 このほかにも,
2202 訴訟告知によって
2203 本問で生じる効力は既判力であり,
2204 効力の及ぶ範囲は主文中の判断に限られるので
2205 はないかという観点から検討し,
2206 結局,
2207 そのような結論は採れないと論じる答案も
2208 同様である。
2209
2210 「Cの立場から」とは言っても,
2211 考えられる法的主張には自ずと軽重
2212 があり,
2213 何か書けば点数をもらえるというものではない。
2214
2215
2216 また,
2217 訴訟告知を受けたのに手続に参加しない以上は参加的効力を受けてもやむ
2218 を得ないという価値判断に基づいて,
2219 Cの利益に沿わない結論を述べている答案が
2220 ことのほか多いことには驚いた。
2221
2222 被告知者の地位を,
2223 訴えを提起されても出頭しな
2224 い被告と同じように考えたのかもしれないが,
2225 訴訟告知制度の基本的な理解を確認
2226 してもらいたい。
2227
2228
2229 (5) 設問3について
2230 設問3は,
2231 上訴と多数当事者訴訟を結び付けた問題であるが,
2232 受験者の理解の不
2233 十分さは否めない。
2234
2235 具体的にいうと,
2236 客観的併合における上訴不可分の原則と主観
2237 的併合における共同訴訟人独立の原則の上訴への適用について,
2238 言葉は知っていて
2239 も,
2240 その内容が正しく理解できていない答案が多い。
2241
2242
2243 答案の前段で,
2244 同時審判申出共同訴訟は,
2245 共同訴訟人独立の原則が適用される通
2246 常共同訴訟であると一般論として論じておきながら,
2247 Cのみが控訴した場合に控訴
2248 審でXの「両負け」が生じ得る原因を不利益変更禁止の原則に求めたり,
2249 ここで「両
2250 負け」を避けるためにXは附帯控訴をする必要があると論じたりする答案が見られ
2251 る。
2252
2253 客観的併合では,
2254 併合審判された判決の一つに対し適法な控訴があると,
2255 全体
2256 について確定遮断及び移審の効力(そもそも控訴提起の効力が確定遮断と移審であ
2257 ることを踏まえている答案は1割にも満たない。
2258
2259 )が生じるのに対し,
2260 本問のよう
2261 な主観的併合では,
2262 共同訴訟人独立の原則により,
2263 Cの控訴による確定遮断及び移
2264 審の効力は,
2265 XのBに対する請求棄却の部分には及ばず,
2266 この部分はXが控訴しな
2267 いことにより確定する。
2268
2269 移審せずに確定している原判決に対し,
2270 附帯控訴による不
2271 服の定立や,
2272 控訴裁判所による変更を論じる余地はない。
2273
2274
2275 設問3では,
2276 @Aの各場合についての結論を答えることは容易であろうが,
2277 その
2278 結論に至る過程を論理的に表現できている答案は多くなく,
2279 優秀と評価できる答案
2280 は予想以上に少なかった。
2281
2282
2283 また,
2284 同時審判申出共同訴訟がそもそもどういうものであるかをきちんと書いて
2285 ある答案は少なく,
2286 特にそれが実体法上あり得ないような両負けを避けるためのも
2287 のであることを的確に述べている答案は更に少なかった。
2288
2289
2290 (6) まとめ
2291 以上のような採点実感に照らすと,
2292 「優秀」,
2293 「良好」,
2294 「一応の水準」,
2295 「不良」の
2296 四つの水準の答案は,
2297 次のようなものと考えられる。
2298
2299 「優秀」な答案は,
2300 問われて
2301 いることを的確に把握し,
2302 上記において挙げられた論点をほぼ論じ,
2303 かつ,
2304 設問の
2305
2306 - 21 -
2307
2308 事例との関係で結論に至る過程を具体的に説明できている答案である。
2309
2310 また,
2311 この
2312 レベルには足りないが,
2313 問われている論点についての把握はできており,
2314 ただ,
2315
2316 明の具体性や論理の積み重ねにやや不十分な部分があるという答案は「良好」と評
2317 価できよう。
2318
2319 これに対して,
2320 最低限押さえるべき論点,
2321 例えば,
2322 処分証書の意義や
2323 訴訟上の機能(設問1(1)),
2324 代理権の発生原因事実が主要事実であること(設問1
2325 (2)),
2326 被告知者が受ける効力の性質(設問2),
2327 同時審判申出共同訴訟の意義及び
2328 性質(設問3)が論じられている答案は,
2329 「一応の水準」にあると評価できるが,
2330 その
2331 ような最低限押さえるべき論点も押さえられていない答案については,
2332 「不良」と
2333 評価せざるを得ない。
2334
2335
2336
2337
2338 法科大学院教育に求めるもの
2339 採点実感に照らすと,
2340 受験者の大半は,
2341 民事訴訟法の教科書に記載された基本的事
2342 項に関する知識はそれなりにあるといえるものの,
2343 なお,
2344 基本的な概念を正確に,
2345
2346 つ,
2347 条文・制度等をその趣旨から理解することの重要性を繰り返し強調する必要があ
2348 ると思われる。
2349
2350 また,
2351 特に設問2との関係において述べたところであるが,
2352 それぞれ
2353 の知識を相互に無関係な断片として勉強するのでなく,
2354 関連させて把握する訓練を心
2355 掛けてほしい。
2356
2357 実務家教員が関与することにより,
2358 要件事実に関する知識が普及して
2359 きていることは間違いないものの,
2360 それが血肉になって身に付くまでには更に自覚的
2361 な努力が必要であると感じられた。
2362
2363
2364
2365
2366
2367 その他
2368 従来から指摘しているとおり,
2369 試験の答案は,
2370 人に読んでもらうためのものである。
2371
2372
2373 司法試験はもとより字の巧拙を問うものではないが,
2374 極端に小さな字や薄い字,
2375 潰れ
2376 た字や書き殴った字の答案が相変わらず少なくない。
2377
2378 各行の幅の半分にも満たないサ
2379 イズの字を書いているのでは小さすぎ,
2380 逆に,
2381 全ての行を文字で埋め尽くしている答
2382 案も読みづらい。
2383
2384 いずれについても改善を求めたいところであり,
2385 ここに挙げたよう
2386 な問題点に心当たりのある受験者は,
2387 相応の心掛けをしてほしい。
2388
2389
2390
2391 - 22 -
2392
2393 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第1問)
2394
2395
2396 出題の趣旨について
2397 既に公表した出題の趣旨のとおりである。
2398
2399
2400
2401
2402
2403 採点の基本方針等
2404 出題の趣旨にのっとり,
2405 具体的事例に基づいて甲乙の罪責を問うことによって,
2406
2407 事実体法及びその解釈論の理解,
2408 具体的事実に法規範を適用する能力並びに論理的思
2409 考力を総合的に評価することが基本方針である。
2410
2411
2412 その際,
2413 基本的な刑法総論・各論の諸論点に対する理解の有無・程度,
2414 事実の評価
2415 や最終的な結論の具体的妥当性などに加えて,
2416 結論に至るまでの法的思考過程の論理
2417 性を重視して評価した。
2418
2419
2420 本問では,
2421 @甲がA合同会社所有(以下「A社」という。
2422
2423 )の土地(以下「本件土地」
2424 という。
2425
2426 )に,
2427 A社所定の手続を経ないまま,
2428 自己の債務を担保するため,
2429 Dを抵当権
2430 者とする抵当権を設定(以下「本件抵当権設定行為」という。
2431
2432 )し,
2433 A甲が@に際して
2434 「社員総会議事録」と題する書面を作成した上,
2435 Dに交付し(以下「本件社員総会議
2436 事録作成行為等」という。
2437
2438 ),
2439 B甲が乙の勧めに応じて,
2440 売却代金を自己の用途に費消
2441 する目的で,
2442 本件土地をEに売却した(以下「本件売却行為」という。
2443
2444 )という一連の
2445 行為について,
2446 事実関係を法的に分析した上で,
2447 事案の解決に必要な法解釈論を展開
2448 し,
2449 事実を具体的に摘示しつつ法規範への当てはめを行い,
2450 妥当な結論を導くことが
2451 求められる。
2452
2453
2454 甲乙両名の刑事責任を分析するに当たっては,
2455 侵害された法益に着目した上で,
2456
2457 のような犯罪の成否が問題となるのかを判断し,
2458 各犯罪の構成要件要素を一つ一つ検
2459 討し,
2460 これに問題文に現れている事実を当てはめて犯罪の成否を検討すること及び問
2461 題文に現れている事実を丁寧に拾い出して甲乙の共犯性を検討することになる。
2462
2463 その
2464 際,
2465 事実認定上及び法律解釈上重要な問題となる点については,
2466 手厚く論じる一方で,
2467
2468 必ずしも重要ではない点については,
2469 簡潔に論じるなど,
2470 答案全体のバランスを考え
2471 た構成を工夫する必要がある。
2472
2473
2474 本問において,
2475 甲乙の罪責を検討するに当たり,
2476 本件抵当権設定行為について,
2477
2478 業務上横領罪又は背任罪の成否が,
2479 本件社員総会議事録作成行為等について,
2480
2481 文書偽造・同行使罪の成否が,
2482 本件売却行為について,
2483 A社に対する関係で業務
2484 上横領罪又は背任罪の成否が,
2485 Dに対する関係では背任罪の成否が主要な問題と
2486 なる。
2487
2488
2489 それぞれの問題を検討するに当たっては,
2490 甲の罪責に関して,
2491 本件抵当権設定
2492 行為を業務上横領罪の 成 否 の 問 題 と 捉 え れ ば ,
2493 抵 当 権 設 定 行 為 が 横 領 行 為 に 該
2494 当 す る か 否 か ,
2495 横 領 行 為 の 既 遂 時 期 等 ,
2496 本 件 社員総会議事録作成行為等につい
2497 ては,
2498 偽造の定義,
2499 作成者及び作成名義人の確定,
2500 「社員総会議事録」と題する文
2501 書が有印私文書に該当するのか無印私文書に該当するのか等,
2502 本件売却行為につ
2503 いては,
2504 A社に対する関係では,
2505 抵当権設定行為について業務上横領の成立を認
2506 めた場合,
2507 横領物に対する再度の横領の成否等,
2508 Dに対する関係では,
2509 甲が他人
2510 の事務処理者といえるか,
2511 乙の罪責に関して,
2512 共同正犯の成否,
2513 共犯と身分の問
2514 題等多岐にわたる論点について,
2515 丁 寧 に 論じ る こ とが 求 め られ る 。
2516
2517
2518
2519 - 23 -
2520
2521 なお,
2522 本件抵当権設定行為について,
2523 甲のDに対する詐欺罪の成否,
2524 本件売却
2525 行為について,
2526 甲乙のEに対する詐欺罪の成否を検討する余地があるが,
2527 答案全
2528 体のバランスを考えた構成を工夫する(事案に即して問題の重要性に応じた検討
2529 をする)という観点から,
2530 仮に,
2531 詐欺罪の成否に触れるにしても,
2532 Dが本件土地
2533 に対する抵当権を,
2534 Eが本件土地に対する所有権をそれぞれ取得しているという
2535 前提の下で,
2536 財産的処分行為に向けられた欺罔行為が存在したと認められるかを
2537 中心に簡潔に論じるべきであろう。
2538
2539
2540 上記のとおり,
2541 本問で論じるべき問題点は,
2542 多岐にわたるが,
2543 一つ一つの問題
2544 点を見れば,
2545 いずれも著名かつ基本的な問題点であり,
2546 これらの問題点に対する
2547 基本的理解を積み重ねていけば,
2548 一定の結論にたどり着けるものと思われ,
2549 実際
2550 にも,
2551 相当数の答案が,
2552 おおむね一定の範囲の結論に到達していた。
2553
2554
2555
2556
2557 採点実感等
2558 各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると,
2559 以下のとおりである。
2560
2561
2562 (1) 全体について
2563 多くの答案は,
2564 甲乙それぞれに成立する犯罪について,
2565 構成要件該当性を意
2566 識しながら,
2567 本件抵当権設定行為について業務上 横 領 罪 又 は 背 任 罪 の 成 否 ,
2568
2569 件社員総会議事録作成行為等について私文書偽造・同行使罪の成否,
2570 本件売
2571 却行為について業務上横領罪及び背任罪の成否,
2572 乙について共同正犯の成否
2573 及び共犯と身分の問題を論じており,
2574 本問の出題趣旨を理解していることが
2575 う か がわ れ た。
2576
2577
2578 ただし,
2579 多くの答案がD及びEに対する関係での詐欺罪の成否を論じていた
2580 反面,
2581 本件社員総会議事録作成行為等について私文書偽造・同行使罪の成否あ
2582 るいは本件売却行為についてDに対する関係で背任罪の成否に全く触れていな
2583 い答案が散見された。
2584
2585
2586 また,
2587 一定の結論に到達 し ,
2588 おおむね本問の出題趣旨を理解できているとう
2589 かがえる答案であっても,
2590 各構成要件要素の理解が不正確な答案,
2591 各構成要件
2592 要素だけを摘示し,
2593 その解釈及び当てはめが不十分な答案が相当数存在した。
2594
2595
2596 (2) 具体例
2597 考査委員による意見交換の結果を踏まえ,
2598 答案に見られた代表的な問題点を
2599 列挙すると以下のとおりである。
2600
2601
2602 ア 甲の罪責について
2603 @ 抵当権設定行為について,
2604 横領と背任の区別を全く論じないまま,
2605 業務
2606 上横領罪又は背任罪の成否を論じている答案(特に背任罪の成否を論じて
2607 いる答案)
2608 A 業務上横領 罪 に お け る 「 業 務 」 の 解 釈 に つ い て ,
2609 「 人 が 社 会 生 活 上 の 地
2610 位 に 基づ き 反 復継 続 し て行 う 行為 」 との み 論じ て い る答 案
2611 B 業務上横領罪における「業務」の解釈について全く論じないまま,
2612 横領
2613 罪の成立を認めた答案
2614 C 業務上横領罪における「占有」の解釈について,
2615
2616 「事実的支配」のみ論じ,
2617
2618 「濫用のおそれのある支配力」の観点が論じられていない答案
2619 D 業務上横領罪における「占有」の解釈について,
2620 「法人の機関に占有は認
2621
2622 - 24 -
2623
2624 められない」とする答案
2625 E 業務上横領罪の成否を論じるに当たり,
2626 不動産に対する抵当権設定行為
2627 は,
2628 所有権侵害に該当しないとした答案
2629 F 業務上横領罪の成否を論じるに当たり,
2630 不動産の横領の既遂時期につい
2631 て何ら触れられていない答案が大多数であった。
2632
2633
2634 G 私文書偽造罪の成否を論じるに当たり,
2635 「偽造」,
2636 「作成者」及び「作成名
2637 義人」という基本概念の理解が不十分な答案
2638 H 私文書偽造罪における「有印」の概念と「無印」の概念の理解が不十分
2639 な答案
2640 I 本件抵当権設定行為及び本件売却行為にA社に対する関係で業務 上 横 領
2641 罪の成立を認めた上,
2642 罪数処理に対する問題意識を欠いたまま,
2643 特に理
2644 由 を 論ず る こ とな く 併 合罪 処 理を し た答 案
2645 J 本件抵当権設定行為及び本件売却行為にA社に対する関係で業務上横領
2646 罪の成立を認めた上,
2647 罪数処理に対する問題意識を有するものの,
2648 両罪の
2649 関係を共罰的事後行為とのみ指摘し,
2650 実際の罪数処理を行っていない答案
2651 K 本件売却行為にDに対する関係で業務上横領罪の成立を認めた答案
2652 L D及びEに対する詐欺罪の成否を延々と論じ,
2653 バランスを失した答案
2654 M Dに対して抵当権設定登記の抹消 登 記 を 求 め た 行 為 に つ い て ,
2655 詐 欺 罪 を
2656 論 じ た答 案
2657 イ 乙の罪責
2658 @ 共謀共同正犯の概念が認められるかを延々と論じ,
2659 バランスを失した答
2660
2661 A 甲との共謀を認定する際に,
2662 乙の故意を認定しないまま甲との意思連絡
2663 を認めた答案
2664 B 乙に共同正犯が成立するか教唆犯が成立するかを論じる際に,
2665 問題文中
2666 に現れた各事実が摘示できていない答案
2667 C 乙に共同正犯が成立するか教唆犯が成立するかを論じる際に,
2668 問題文中
2669 に現れた各事実を摘示しているが,
2670 事実の評価の妥当性に疑問がある(例
2671 えば ,
2672 乙 の発 案 で あ る こ と ,
2673 乙 自 身 も 利 益 を 取 得 し て い る こ と な ど を 認
2674 定しながら,
2675 乙の得た利益が甲に比較して少ないことだけを理由に教唆
2676 犯の 成 立 を認 め る) 答 案
2677 D 共犯と身分の問題について,
2678 規範の定立を行わないまま,
2679 結論だけを記
2680 載した答案
2681 E 乙に関する罪数処理を失念している答案
2682 ウ その他
2683 昨年度の指摘にもあるが,
2684 少数ながら,
2685 字が乱雑なために判読するのが著
2686 しく困難な答案が存在した。
2687
2688 達筆である必要はないが,
2689 採点者に読まれるこ
2690 とを意識し,
2691 なるべく読みやすい字で答案を書くことが望まれる。
2692
2693
2694 エ 答案 の 水 準
2695 以上の採点実感を前提に,
2696 「優秀」「良好」「一応の水準」「不良」という四
2697 つの答案の水準を示すと,
2698 以下のとおりである。
2699
2700
2701 「優秀」と認められる答案とは,
2702 本問の出題趣旨及び上記採点の基本方針
2703
2704 - 25 -
2705
2706 に示された本問の主要な問題点を理解した上で,
2707 どのような犯罪の成否が問
2708 題になるのかの判断基準,
2709 成否が問題となる犯罪の構成要件要素等について
2710 正確に理解するとともに,
2711 必要に応じて法解釈論を展開し,
2712 これに丁寧に事
2713 実を当てはめ甲乙の刑事責任について妥当な結論を導いている答案である。
2714
2715
2716 特に単に事実を当ては め る だ け で な く ,
2717 そ の 事 実 の 持 つ 意 味 を 論 じ な が ら
2718 当 ては め を 行っ て いる 答 案 は高 い 評 価を 受 け た。
2719
2720
2721 「良好」な水準に達している答案とは,
2722 本問の出題趣旨及び上記採点の基
2723 本方針に示された本問の主要な問題点は理解できており,
2724 甲乙の刑事責任に
2725 ついて妥当な結論を導くことができているものの,
2726 一部構成要件要素の理解
2727 が不正確であったり,
2728 必要な法解釈論が一部展開されていなかったもの,
2729
2730 実の当てはめが一部不十分であると認められたものなどである。
2731
2732
2733 「一応の水準」に達している答案とは,
2734 事案の分析が不十分で,
2735 複数の論
2736 点についての論述を欠くなどの問題はあるものの,
2737 刑法の基本的事柄につ
2738 い ては 一 応 の理 解 を示 し て いる よ う な答 案 で ある 。
2739
2740
2741 「不良」と認められる答案とは,
2742 そもそも刑法の基本的概念の理解が不十
2743 分であり,
2744 本問の出題趣旨及び上記採点の基本方針に示された主要な問題点
2745 を理解していないか,
2746 問題点には気付いているものの,
2747 適 切 な 論 述 を 展 開 で
2748 き ず,
2749 結 論 が著 し く妥 当 で ない も の など で あ る
2750
2751
2752 今後の法科大学院教育に求めるもの
2753 構成要件該当性を意識しながら犯罪の成否を論じるという基本的姿勢は定着し
2754 つつあるものの,
2755 上記問題の あ る 答 案 の 具 体 例 に 記 載 し た と お り ,
2756 そ の 前 提 と
2757 なる構成要件要素について十分に理解していない答案が散見されるという今回
2758 の採点結果を踏まえ,
2759 各考査委員から「総論に比較して各論の学習が不足して
2760 い る の で は な い か 。
2761
2762 」 と の 感 想 が 複 数 寄 せ ら れ た 。
2763
2764 ま た ,
2765 事 案 か ら 具 体 的 事 実
2766 を拾い出し,
2767 法規範に当てはめ,
2768 妥当な結論を導き出し,
2769 それを的確に論述す
2770 る 能 力 が 重 要 で あ る と こ ろ ,
2771 各 考 査 委 員 か ら は ,
2772 「 総 論 に 比 較 し て 各 論 の 問 題
2773 点 に つ い て 的 確 に 論 述 す る 能 力 が 欠 け て い る の で は な い か 。
2774
2775 」 と の 感 想 や 「 各
2776 犯 罪 類 型 に 該 当 す る 典 型 的 事 案 を イ メ ー ジ で き て い な い の で は な い か 。
2777
2778 」 と の
2779 感想も寄せられている。
2780
2781 法科大学院教育においては,
2782 引き続き,
2783 刑法総論の理
2784 論体系を習得させるとともに各論の基本的知識を正確に理解し,
2785 的確に論述す
2786 る 能力 を 習 得さ せ る 努力 が 望ま れ る 。
2787
2788
2789 判例学習の重要性については,
2790 これまでの採点雑感においても指摘されている
2791 ところではあるが,
2792 法科大学院教育においては,
2793 判例の結論のみを学生に習得さ
2794 せるのではなく,
2795 当該判例が,
2796 どのような事案に対して,
2797 どのような法解釈を行
2798 い,
2799 当該結論を導き出したのかについて学習させることにより,
2800 事案の分析能力,
2801
2802 抽出した事案に即した法解釈能力及び当てはめ能力を学生に習得させるとともに,
2803
2804 これを的確に論述する能力を涵養するよう一層努めていただきたい。
2805
2806
2807
2808 - 26 -
2809
2810 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第2問)
2811
2812
2813 採点方針等
2814 本年の問題も,
2815 昨年までと同様,
2816 比較的長文の事例を設定し,
2817 そこに生起している
2818 刑事訴訟法上の問題点につき,
2819 法解釈・適用に不可欠な具体的事実を抽出・分析して
2820 これに的確な法解釈により導かれた準則を適用し,
2821 一定の結論を筋道立てて説得的に
2822 論述することを求めており,
2823 法律実務家になるための学識・法解釈適用能力・論理的
2824 思考力・論述能力等を試すものである。
2825
2826
2827 出題の趣旨は,
2828 公表されているとおりである。
2829
2830 設問1は,
2831 司法警察員が会社事務所
2832 を捜索すべき場所とする捜索差押許可状に基づき,
2833 捜索実行中に同事務所社長室に届
2834 いた従業員乙宛ての宅配便荷物を開封したこと(捜査@)及びその荷物の中から覚せ
2835 い剤を発見し,
2836 乙を現行犯逮捕した後に同事務所更衣室に設置された乙の使用するロ
2837 ッカー内を捜索したこと(捜査A)について,
2838 その適法性を問い,
2839 捜索差押許可状に
2840 記載されている「有効期間」,
2841 「捜索すべき場所」,
2842 「差し押さえるべき物」及び逮捕に
2843 伴う捜索における「逮捕の現場で」等に関する法解釈を示した上,
2844 事例への法適用に
2845 おいては事実が持つ意味を的確に位置付けて論ずることを求めている。
2846
2847 設問2は,
2848
2849 判所が甲と丙の共謀を認める方が甲にとって犯情が軽くなると考え,
2850 証拠上,
2851 共謀の
2852 存否がいずれとも確定できないのに,
2853 格別の手続的措置を講じないまま公訴事実に記
2854 載されていない丙との共謀を認定したことについて,
2855 判決の内容及びそれに至る手続
2856 の適法性を問い,
2857 解答するのに必要な範囲で有罪判決における犯罪の証明,
2858 「疑わし
2859 きは被告人の利益に」の原則(利益原則)の意義及び訴因変更の要否に関する法解釈
2860 を行い,
2861 具体的事実関係に留意しながら,
2862 法解釈により導かれた準則の適用について
2863 論ずることを求めている。
2864
2865 採点に当たっては,
2866 このような出題の趣旨に沿った論述が
2867 的確になされているかに留意した。
2868
2869
2870 設問1は,
2871 捜索という捜査に関する基本的な知識を正面から問うものであり,
2872 素材
2873 となる判例等も容易に思い浮かぶような事例である。
2874
2875 設問2は,
2876 判決の内容の適法性
2877 については法科大学院の授業で直接扱う事例ではないかもしれないが,
2878 事例を素直に
2879 読み,
2880 有罪判決における犯罪の証明,
2881 利益原則の意義という基本に立ち返って考える
2882 能力を体得していれば,
2883 筋道立った論述ができるはずである。
2884
2885 判決に至る手続の適法
2886 性については,
2887 訴因変更の要否という公訴に関する基本的かつ典型的な問題であり,
2888
2889 近時重要な判例が現れたところである。
2890
2891 いずれの設問も,
2892 法科大学院で刑事訴訟法に
2893 関する科目を真面目に学習した者であれば,
2894 何を論じなければならないかは明白な事
2895 例である。
2896
2897
2898
2899
2900
2901 採点実感
2902 各考査委員からの意見を踏まえた感想を述べる。
2903
2904
2905 設問1については,
2906 捜索差押許可状に基づく捜索及び逮捕に伴う捜索の適法性につ
2907 いて,
2908 それぞれいかなる点が法的に問題となる事実関係であるか明確に意識し,
2909 各問
2910 題点ごとに法解釈を的確に論じた上で,
2911 個々の事例中に表れた具体的事実を適切に抽
2912 出,
2913 分析しながら論じられた答案が見受けられ,
2914 また,
2915 設問2については,
2916 判決の内
2917 容及びそれに至る手続の適法性について,
2918 事例中の具体的事実関係を前提に,
2919 最高裁
2920 判所の判例法理等の理解をも踏まえて有罪判決における犯罪の証明,
2921 利益原則の意義
2922
2923 - 27 -
2924
2925 及び訴因変更の要否という問題に対し,
2926 各自の基本的な立場を明らかにして的確な論
2927 述ができている答案が見受けられた。
2928
2929 他方,
2930 抽象的な法解釈や判例の表現の意味を真
2931 に理解することなく機械的に暗記し,
2932 また不正確な知識を事例と関係なく断片的に記
2933 述しているかのような答案も相当数見受けられたほか,
2934 関係条文からの解釈論を論述
2935 ・展開することなく,
2936 事例中の事実をただ書き写しているかのような解答もあり,
2937
2938 律試験答案の体をなしていないものも見受けられた。
2939
2940
2941 設問1の捜査@では,
2942 令状に基づく捜索の適法性について問われているのであるか
2943 ら,
2944 令状裁判官が捜索差押許可状により捜査機関にいかなる捜索を許可したのかにつ
2945 いて意識し,
2946 捜索場所に捜索実行中に届いた荷物であることと有効期間内における捜
2947 索が許可されたこととの関係,
2948 乙宛ての荷物であることとT株式会社の管理する場所
2949 内の捜索が許可されたこととの関係,
2950 平成23年10月5日に捜索場所に新たに持ち
2951 込まれた乙宛ての物であることと被疑事実(同月2日の甲による覚せい剤の営利目的
2952 所持)に関連する覚せい剤等の捜索が許可されたこととの関係に分けて論ずる必要が
2953 あるが,
2954 捜索場所に捜索実行中に届いた荷物の問題点については,
2955 多くの答案におい
2956 ておおむね適切な論述がなされていたものの,
2957 乙宛ての荷物とT株式会社の管理権と
2958 の関係及び被疑事実と対象物との関連性については全く言及しない答案が数多く見受
2959 けられ,
2960 特に証拠物(覚せい剤)が存在する蓋然性さえあれば,
2961 侵害することが許可
2962 された管理権(T株式会社の管理権)の範囲を超えて捜索できるといった誤った理解
2963 を前提としているかのように思われる答案が目立った。
2964
2965 また,
2966 法適用に関しては,
2967
2968 例に含まれている具体的事実を抽出・分析することが肝要であるところ,
2969 様々な具体
2970 的事実を考慮要素として挙げながら,
2971 いかなる要件との関係においてどのように評価
2972 したのか全く言及しないまま結論を導き出すなど,
2973 結論に至る思考過程が不明確な答
2974 案が相当数あり,
2975 学習に際しては,
2976 具体的事実の抽出能力に加えて,
2977 その事実が持つ
2978 法的意味を意識して分析する能力の体得が望まれる。
2979
2980
2981 捜査Aのうち令状に基づく捜索も同様に,
2982 乙使用のロッカーであることとT株式会
2983 社の管理権との関係,
2984 乙使用のロッカーであることと被疑事実と関連する乙の携帯電
2985 話や手帳等が存在する蓋然性との関係に分けて論ずる必要があるが,
2986 被疑事実と対象
2987 物との関連性について全く言及しない答案が数多く見受けられた。
2988
2989 また,
2990 T株式会社
2991 の管理権の問題を論ずるに当たっても,
2992 会社事務所という場所に対する令状の効力が
2993 その場所内に設置されている乙使用のロッカー内に及ぶかという捉え方をせず,
2994 被疑
2995 者甲に対する令状の効力が乙にも及ぶかという誤った捉え方をした答案が相当数見受
2996 けられ,
2997 捜査@と同様に証拠物が存在する蓋然性さえあれば,
2998 T株式会社の管理権の
2999 範囲を超えて捜索できると考えているかのような答案も目立った。
3000
3001 そして,
3002 捜査@で
3003 はT株式会社の管理権の点を検討しないまま乙宛ての荷物を開封することについて適
3004 法とし,
3005 捜査Aでは乙による事実上のロッカーの使用を重視して乙使用のロッカーを
3006 開錠することについて違法とした答案が相当数見受けられたが,
3007 これは乙の個人宛て
3008 の荷物と乙の個人使用のロッカーで法的論理構成や取扱いを全く異にするものであり,
3009
3010 厳しい評価をすれば,
3011 事実分析能力及び論理的思考能力の欠如を露呈するものと言わ
3012 ざるを得ない。
3013
3014
3015 捜査Aのうち現行犯逮捕に伴う無令状捜索については,
3016 乙使用のロッカーが事務所
3017 更衣室にあることと「逮捕の現場で」との文言との関係,
3018 乙使用のロッカーであるこ
3019 とと逮捕事実と関連する乙の携帯電話や手帳等が存在する蓋然性との関係に分けて論
3020
3021 - 28 -
3022
3023 ずる必要があるが,
3024 逮捕の現場に関する問題点については,
3025 相当数の答案においてお
3026 おむね適切な論述がなされていたものの,
3027 逮捕事実と対象物との関連性については全
3028 く言及しない答案が数多く見受けられた。
3029
3030 また,
3031 逮捕の現場に関する問題点を論ずる
3032 に当たっても,
3033 捜索することが可能な場所はたとえ逮捕の現場に該当するとしてもT
3034 株式会社の管理権が及ぶ範囲に限定されると考えなければならないのに,
3035 乙の管理権
3036 が及ぶ範囲については捜索可能である,
3037 又は,
3038 T株式会社の管理権が及びさえすれば,
3039
3040 逮捕の現場を超えてでも捜索できるといった誤った理解を前提としているかに見える
3041 答案が目立った。
3042
3043
3044 次に,
3045 設問2のうち判決の内容については,
3046 証拠上存否いずれとも確定できない事
3047 実を判決で認定してよいかが基本的な問題であり,
3048 有罪判決における犯罪の証明及び
3049 利益原則の意義を意識していかなる内容の判決をなすべきか各自の考えを明らかにし
3050 て論ずる必要があるが,
3051 事例中に,
3052 裁判所において,
3053 丙と共謀した可能性はあるもの
3054 の存否はいずれとも確定できないとの心証であることが明記され,
3055 設問でも,
3056 「裁判
3057 所によるその証明力の評価」については問題がないものとする旨注意書きまでしたに
3058 もかかわらず,
3059 この基本的事項について触れる答案は少なく,
3060 有罪判決における犯罪
3061 の証明及び利益原則の意義などに発展させて論述している答案はごく僅かであった。
3062
3063
3064 設問2のうち判決に至る手続については,
3065 訴因変更の要否を論ずる必要があり,
3066
3067 象的な法解釈については,
3068 多くの答案において最高裁判例(最決平成13年4月11
3069 日刑集55巻3号127頁)を踏まえておおむね適切な論述がなされていたが,
3070 同判
3071 例の内容を当該具体的事案に即して正確に理解していると思われる答案は比較的少数
3072 にとどまった。
3073
3074 すなわち,
3075 同判例は,
3076 審判対象を画定するのに必要な事項に変動があ
3077 る場合には被告人の防御に不利益か否かにかかわらず訴因変更を要するとしているの
3078 に,
3079 共謀の存否が審判対象を画定する事項に当たるとしながら,
3080 被告人の防御の利益
3081 を害しないから例外的に訴因変更は不要であるとする答案が少なからず見受けられた。
3082
3083
3084 その一方で,
3085 同判例の示した準則の適用に当たり,
3086 犯罪の日時,
3087 場所及び方法等をも
3088 って構成要件に当てはまる具体的事実を記載したものが訴因であるという最も基本的
3089 な事項についての理解が浅薄で,
3090 共謀の存否に関し,
3091 極めて安易に審判対象を画定す
3092 るのに必要な事実でない,
3093 罪となるべき事実でない,
3094 情状にすぎないなどとする答案
3095 が多数見受けられた。
3096
3097 また,
3098 前記判例の事案は,
3099 審判対象を画定するのに必要ではな
3100 い事項を検察官が訴因に明示した場合であり,
3101 本事例との間に極めて大きな違いがあ
3102 るにもかかわらず,
3103 これを明確に意識して論じた答案はごく少数であった。
3104
3105 さらに,
3106
3107 甲と丙が共同正犯として同時に起訴された場合に判決で甲丙間の共謀が認められずに
3108 甲は単独犯,
3109 丙は無罪となるのが縮小認定(一部認定)の典型例の1つであるのに,
3110
3111 何ら特段の理由を記載しないで,
3112 単独犯の縮小認定により共同正犯と認めることがで
3113 きるので訴因変更の手続は不要であるとの結論のみを記載した答案も相当数見受けら
3114 れた。
3115
3116
3117 なお,
3118 本年においては,
3119 複数の考査委員から,
3120 容易に判読できない文字で記載され
3121 た答案があり,
3122 採点に困難を来したとの指摘があったので,
3123 答案作成に当たっては改
3124 めて筆記試験であることを留意していただきたい。
3125
3126
3127
3128
3129 答案の評価
3130 「優秀の水準」にあると認められる答案とは,
3131 設問1については,
3132 捜索差押許可状
3133
3134 - 29 -
3135
3136 に基づく捜索及び逮捕に伴う捜索の適法性について,
3137 事例中の法的問題を明確に意識
3138 し,
3139 各問題点ごとに的確な法解釈論を踏まえて,
3140 個々の事例中に表れた具体的事実を
3141 適切に抽出,
3142 分析しながら論じ,
3143 また,
3144 設問2については,
3145 判決の内容及びそれに至
3146 る手続の適法性について,
3147 事例中の具体的事実関係を前提に有罪判決における犯罪の
3148 証明,
3149 利益原則の意義及び訴因変更の要否という問題に対し,
3150 各自の基本的な立場を
3151 明らかにして的確な論述をする答案であるが,
3152 このように,
3153 出題の趣旨を踏まえた十
3154 分な論述がなされている答案は,
3155 僅かであった。
3156
3157
3158 「良好の水準」に達していると認められる答案とは,
3159 設問1については,
3160 法解釈に
3161 ついて想定される全ての問題点に関し一定の見解を示した上で,
3162 事例から具体的事実
3163 を抽出できてはいたが,
3164 更に踏み込んで個々の事実が持つ意味を一層深く考えること
3165 が望まれるような答案であり,
3166 設問2においては,
3167 存否がいずれとも確定できない事
3168 実を判決で認定することの問題点に触れて一応の論述がなされ,
3169 かつ,
3170 訴因変更の要
3171 否についても前記最高裁判例を踏まえて正確な論述がなされているものの,
3172 「優秀の
3173 水準」にある答案のように本件での具体的な当てはめができていないような答案であ
3174 る。
3175
3176
3177 「一応の水準」に達していると認められる答案とは,
3178 設問1においては,
3179 法解釈に
3180 ついて一定の見解は示されているものの,
3181 具体的事実の抽出,
3182 当てはめが不十分であ
3183 るか,
3184 法解釈については十分に論じられていないものの,
3185 事例中から必要な具体的事
3186 実を抽出して一応の結論を導き出すことができていた答案がこれに当たり,
3187 設問2に
3188 おいては,
3189 存否がいずれとも確定できない事実を判決で認定することの問題点に触れ
3190 て有罪判決における犯罪の証明又は利益原則の意義のいずれかについて一応の論述が
3191 なされ,
3192 かつ,
3193 訴因変更の要否についても一定の見解は示されているものの,
3194 本件で
3195 の具体的な事実関係を前提にこれを的確に適用できないか,
3196 法解釈については十分論
3197 じられていないものの一応の結論を導き出しているような答案である。
3198
3199
3200 「不良の水準」にとどまるものと認められる答案とは,
3201 上記の水準に及ばない不良
3202 なものをいう。
3203
3204 例えば刑事訴訟法の基本的な原則の意味を理解することなく機械的に
3205 暗記し,
3206 これを断片的に記述している答案や,
3207 関係条文から法解釈を論述・展開する
3208 ことなく,
3209 事例中の事実をただ書き写しているかのような答案等,
3210 法律学に関する基
3211 本的学識の欠如と能力不足が露呈しているものであり,
3212 例えば,
3213 設問1では,
3214 捜索場
3215 所に捜索実行中に届いた荷物に関する最高裁判例(最決平成19年2月8日刑集61
3216 巻1号1頁)の結論のみを記載し,
3217 また,
3218 事例とは全く異なる事実関係であるのに,
3219
3220 「捜索場所に居合わせた第三者の身体に対する捜索」に関する判例法理等に強引に引
3221 き寄せて捜索物(覚せい剤)が存在する蓋然性のみを詳細に論ずる一方で,
3222 T株式会
3223 社の管理権や被疑事実又は逮捕被疑事実と対象物との関連性についての問題点に全く
3224 触れていない答案がこれに当たり,
3225 設問2では,
3226 具体的な事実関係が事例中に表れて
3227 いるにもかかわらず,
3228 判決内容の適法性の問題に触れず,
3229 逆に訴因変更の要否につい
3230 ては,
3231 事例の事実関係において自己が答案を書きやすいように訴因変更の要否に関す
3232 る前記最高裁判例の結論のみを不正確に改変記載して当てはめるなどであり,
3233 幾つか
3234 の俗にいわゆる典型論点に関する浅薄な知識を適当につなぎ合わせただけとしか評し
3235 ようのない答案がこれに当たる。
3236
3237
3238
3239
3240 法科大学院教育に求めるもの
3241
3242 - 30 -
3243
3244 このような結果を踏まえると,
3245 今後の法科大学院教育においては,
3246 刑事手続を構成
3247 する各制度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,
3248 これを具体的事例について適用で
3249 きる能力,
3250 筋道立った論理的文章を記載する能力,
3251 重要な判例法理を正確に理解し,
3252
3253 具体的事実関係を前提としている判例の射程範囲を正確に捉える能力を身に付けるこ
3254 とが強く要請される。
3255
3256 特に,
3257 実務教育の更なる充実の観点から,
3258 基本に立ち返り,
3259
3260 常的に行われている刑事手続の進行過程や刑事訴訟法上の基本原則を正確に理解して
3261 おくことが,
3262 当然の前提として求められよう。
3263
3264
3265
3266 - 31 -
3267
3268 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(倒産法)
3269
3270
3271 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
3272 個別的な内容については,
3273 既に「出題の趣旨」として公表したとおりである。
3274
3275
3276 本年の問題の作成に当たっても,
3277 昨年と同様,
3278 基本的な概念の理解,
3279 具体的な事案
3280 を法律の規律に的確に当てはめて要件の充足性等を判断する能力,
3281 実体法の理解を踏
3282 まえた倒産法の規律の理解,
3283 具体的な事案に応じて関係者間の利益を適切に考慮する
3284 能力及び問題解決のための対応策の選択の能力を試すこと等に重点を置くこととした。
3285
3286
3287
3288
3289
3290 採点方針
3291 解答に当たって言及すべき問題点等については,
3292 既に「出題の趣旨」として公表し
3293 たとおりである。
3294
3295
3296 第1問については,
3297 本件の具体的な事案に即して,
3298 支払不能となる具体的な時期を
3299 認定した上,
3300 そこから導かれる適切な否認権に関する規定の適用について,
3301 多様な視
3302 点を意識しつつ,
3303 論ずることができるか(設問1),
3304 株主総会の各決議の取消しの訴え
3305 の内容を分析した上,
3306 破産手続開始の決定による中断の有無及びその結論を踏まえて
3307 生ずる問題点を的確に論ずることができるか(設問2)という点に重点を置いた。
3308
3309
3310 第2問については,
3311 対抗関係の発生を認識した上で,
3312 再生手続開始後にされた再生
3313 債務者及び第三者の行為の効力について,
3314 本件の具体的な事案を基にして適切な規律
3315 を当てはめて論ずることができるか(設問1),
3316 再生計画案を決議に付する旨の決定の
3317 要件の有無について分析した上,
3318 設例の再生計画案の内容が清算価値保障原則に反す
3319 るものでないか及び一部の債権者に対する弁済が再生債権の弁済禁止の規律に反する
3320 ものでないか等を的確に論ずることができるか(設問2)という点に重点を置いた。
3321
3322
3323
3324 3 採点実感等
3325 (1) 第1問
3326 設問1については,
3327 支払不能の時期の認定に当たり,
3328 設例の事案を丁寧に分析す
3329 ることが不可欠であり,
3330 与えられた事実関係からは,
3331 破産法第162条第1項第2
3332 号の規定による否認を検討の柱とし,
3333 その成否についての複数の考え方を検討すべ
3334 きことになると考えられ,
3335 このような構成を展開した答案については,
3336 高い評価が
3337 与えられた。
3338
3339 これに対し,
3340 漫然と7月25日又はそれ以前の段階で支払不能であっ
3341 たと安易に認定し,
3342 同項第1号イの問題としてのみ論じている答案や,
3343 同項第2号
3344 を問題としつつも,
3345 8月中旬の時点で説得的な理由なく支払不能を認定している答
3346 案が相当程度見受けられた。
3347
3348 さらに,
3349 同条の適用の検討に当たり,
3350 同時交換的行為
3351 ないし有害性の記述に相当程度のウエイトを置く答案も相当数存在したが,
3352 規定の
3353 趣旨及び文言に立ち返って考えるという習慣が必要であろう。
3354
3355 加えて,
3356 同法第16
3357 0条の規定による否認のみを延々と検討する等,
3358 財産減少行為と偏頗行為との区別
3359 等の基本概念の理解について疑問を抱かざるを得ない答案も少なくなかった。
3360
3361 また,
3362
3363 問題文に「予想されるX及びB社の主張を踏まえて」と記載されており,
3364 支払不能
3365 時期の認定に当たっての異なる立場からの検討を求められていることが明らかであ
3366 るにもかかわらず,
3367 自説以外の考え方についての言及が全くないか,
3368 又はほとんど
3369 ないという答案も若干数見られた。
3370
3371
3372
3373 - 32 -
3374
3375 設問2については,
3376 破産法第44条第1項の適用の可否という問題については,
3377
3378 多くの答案が指摘していたが,
3379 設例の@からBまでの各決議のそれぞれについて同
3380 項に規定する「破産財団に関する訴訟手続」に当たるかどうかを検討していないも
3381 のもあり,
3382 具体的な理由付けを各決議ごとに説得的に論ずることができたかどうか
3383 で差が付くこととなった。
3384
3385 また,
3386 破産手続開始の決定による会社と代表者の委任関
3387 係の帰すうにまつわる問題点については,
3388 一定程度の答案が触れていたものの,
3389
3390 事者適格の問題(被告となる者がA社かXか)と訴訟追行を行う者の問題(被告と
3391 なる者がA社のままである場合に,
3392 A社を代表する者が誰であるのか)とが明確に
3393 区別することができていない答案が多かった。
3394
3395 なお,
3396 設例の@の決議取消訴訟に関
3397 する訴えの利益の問題や,
3398 弁論の分離に関する論述も期待したが,
3399 これらについて
3400 論じた答案は少なかった。
3401
3402 また,
3403 株主総会決議取消訴訟を株主代表訴訟と混同して
3404 同法第45条の(類推)適用の可否を論じたり,
3405 設例のBの決議取消訴訟を破産債
3406 権に関する訴訟に当たるとして同法第44条第2項の適用の可否を論ずる等,
3407 解答
3408 者の基本的な知識・理解が乏しいと考えざるを得ない答案も存在した。
3409
3410
3411 総じて,
3412 第1問については,
3413 支払不能の時期についてどこまで事案を分析して規
3414 律の的確な当てはめをしているかどうか,
3415 また,
3416 株主総会決議の内容を分析して当
3417 てはめをしているかどうか等で差が付くこととなった。
3418
3419 基本的な概念を正確に理解
3420 した上で,
3421 事案を丁寧に分析し,
3422 破産法の規定を適切に当てはめて論じている答案
3423 が優秀答案と評価し得るものであった。
3424
3425 優秀に達しないものは,
3426 基本的な概念につ
3427 いての理解の正確さ,
3428 事案の分析の丁寧さ,
3429 破産法の規定の当てはめの適切性等の
3430 程度に応じて,
3431 良好又は一応の水準に答案の評価が分かれることとなった。
3432
3433 基本的
3434 な概念についての理解が乏しく,
3435 事案を分析し規律を的確に当てはめて論ずること
3436 ができていない答案は,
3437 不良の評価となった。
3438
3439
3440 (2) 第2問
3441 設問1については,
3442 A社とB銀行が対抗関係に立つこと自体は比較的多くの答案
3443 が指摘することができていたものの,
3444 それを根拠付けて論じた答案や,
3445 対抗関係を
3446 踏まえた上で,
3447 再生手続開始後にされたA社(代理人B銀行)による通知及びC社
3448 による承認の双方について,
3449 それぞれの効力を的確に論じた答案は少なく,
3450 通知と
3451 承諾を区別することなく論じた答案や,
3452 民事再生法第44条又は第45条のいずれ
3453 についても,
3454 その要件の当てはめの検討が不十分な答案が目に付いた(通知につい
3455 て同法第54条第4項等の適用を論じたものは,
3456 ごく僅かであった。
3457
3458 )。
3459
3460 また,
3461 再生
3462 手続開始後にされたものであるにもかかわらず,
3463 特段の根拠も示さないまま,
3464 通知
3465 又は承諾を否認の対象として検討した答案が多く(ただし,
3466 一定の点数は付与した。
3467
3468 ),
3469
3470 また,
3471 監督委員であるXが対抗関係にある第三者であるとして,
3472 その対抗の可否に
3473 ついて論ずる等,
3474 再生手続の基本的な仕組み・概念について理解していないものと
3475 推察される答案も相当程度存在した。
3476
3477 なお,
3478 債権譲渡の通知については,
3479 民法上,
3480
3481 譲受人が譲渡人の代理人となることができると一般に解されているが,
3482 説得的な理
3483 由付けをすることなく,
3484 これを否定したため,
3485 設問の倒産法固有の問題点の検討に
3486 到達することのできなかった答案も,
3487 少なからず存在した。
3488
3489
3490 設問2については,
3491 そもそも,
3492 再生計画案を決議に付する旨の決定の要件(民事
3493 再生法第169条第1項)の問題であることを指摘することができていない答案が
3494 一定数存在した。
3495
3496 再生計画案に関する個別の問題のうち,
3497 設問の再生計画案の内容
3498
3499 - 33 -
3500
3501 が清算価値保障原則に反するかどうかを論じた答案は一定程度は存在したものの,
3502
3503 結論を述べるのみのものが多く,
3504 予想破産配当率を負債額ではなく,
3505 総資産額を基
3506 に考えているとうかがわれるなど,
3507 基本的な概念についての理解に疑念を生じざる
3508 を得ない答案も見受けられた。
3509
3510 また,
3511 D社に対する弁済についても,
3512 同法第85条
3513 第1項により無効となるという原則論自体が押さえられていない答案が少なくなく,
3514
3515 一般論として債権者平等の原則に反する等と論ずるにとどまっていたり,
3516 否認の可
3517 否を検討したりするなど,
3518 この点においても,
3519 基本的な規律・概念を理解すること
3520 ができていないと感じられる答案が見受けられた。
3521
3522 加えて,
3523 是正措置の勧告の内容
3524 については,
3525 ほとんどの答案が言及していないか,
3526 又は簡単に触れる程度の記載し
3527 かなかった。
3528
3529
3530 総じて,
3531 第2問については,
3532 対抗関係の発生を根拠付けた上で,
3533 通知と承諾の違
3534 いを踏まえ,
3535 それぞれの効力について民事再生法の規律の適用を的確にすることが
3536 できたかどうか,
3537 また,
3538 決議に付する旨の決定の要件の検討という問題を設定した
3539 上で,
3540 再生計画案の条項から清算価値保障原則の問題を抽出して的確に検討し,
3541
3542 部の債権者に対する弁済の再生法上の取扱いに正確に条文を当てはめることができ
3543 たかどうか等で差が付くこととなった。
3544
3545 第1問と同様に,
3546 基礎的な概念の正確な理
3547 解を基に事案を分析し,
3548 的確な規律の当てはめを論じている答案が優秀答案と評価
3549 し得るものであった。
3550
3551 優秀に達しないものは,
3552 基礎的な概念についての理解の正確
3553 さ,
3554 事案の分析の丁寧さ,
3555 規律の当てはめの的確性等の程度に応じて,
3556 良好又は一
3557 応の水準に答案の評価が分かれることとなった。
3558
3559 基礎的な概念についての理解が乏
3560 しく,
3561 事案を分析し規律を的確に当てはめて論ずることができていない答案は,
3562
3563 良の評価となった。
3564
3565
3566
3567
3568 今後の出題について
3569 今後も,
3570 特定の傾向に偏ることなく,
3571 基本的な事柄に関する知識・理解を確認する
3572 問題と具体的な事案からの問題発見能力を試す問題,
3573 倒産実体法に関する問題と倒産
3574 手続法に関する問題,
3575 企業倒産に関する問題と個人倒産に関する問題等,
3576 幅広い観点
3577 からの出題を心掛けることが望ましいと考える。
3578
3579
3580
3581
3582
3583 今後の法科大学院教育に求めるもの
3584 まずは,
3585 倒産法における基本的な概念・基礎的な事項について,
3586 条文の規定等に基
3587 づき,
3588 しっかりと身に付けさせるということが重要であると考えられる(今回の出題
3589 に関して言えば,
3590 「支払不能」,
3591 「偏頗行為」,
3592 「破産財団」,
3593 「再生債務者の第三者性」,
3594
3595 「清算価値保障原則」等)。
3596
3597 その上で,
3598 具体的な事案に関し,
3599 このような基本的な概念
3600 ・基礎的な事項を基にして,
3601 正確に事案を分析し,
3602 法的に何が問題となるのかを的確
3603 に抽出し,
3604 それに対して倒産という事象が発生した場合の適切な問題解決という結論
3605 を導くため,
3606 論理的な整合性に配慮しつつ,
3607 的確な倒産法の規範の当てはめを行うこ
3608 とができる能力の養成を期待したい。
3609
3610
3611
3612 - 34 -
3613
3614 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(租税法)
3615
3616
3617 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
3618 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
3619
3620
3621
3622 2 採点実感等
3623 (1) 第1問
3624 主要な論点と求められる能力は,
3625 「出題の趣旨」に記載したとおりである。
3626
3627 採点
3628 に当たっては,
3629 基本的なルールの説明に対しても一定の基礎点を与えたが,
3630 より多
3631 くの点数について当てはめで評価した。
3632
3633 当てはめについては,
3634 結論によって差を付
3635 けるのではなく,
3636 問題文に記載されている契約内容の解釈とそれに基づく支払の性
3637 質の理解,
3638 株式に関する法律関係の理解,
3639 事実摘示と事実評価の適切さ,
3640 所得税法
3641 の基本ルールの当てはめにおいて法律の適用順序に誤りはなく,
3642 論証の論理性に問
3643 題はないか,
3644 という観点から見て,
3645 その結論を導き出す論証の部分にどれほどの説
3646 得力があるかという論証の質を重視した。
3647
3648
3649 設問1(所得税法関係)の主たる論点である所得の種類については,
3650 それぞれの
3651 所得の種類の意義に関する基本的な理解(いわば基本ルール)に関する限り,
3652 「一
3653 応の水準」以上の答案が大部分であり,
3654 「良好」以上の答案も多かった。
3655
3656 これに対
3657 して,
3658 事実や契約の分析とそれを踏まえた法律の当てはめの部分の論述では,
3659 問題
3660 文中に記載されている契約の内容や支払の法的性質の分析を曖昧にしたまま結論だ
3661 けを述べるものや,
3662 問題文に記載されている情報のごく一部にだけ焦点を当て,
3663
3664 実評価を誤った結果妥当性を欠く結論に至っているものが相当数あった。
3665
3666 出題の趣
3667 旨で言及した所得の種類以外にも給与所得,
3668 譲渡所得まで検討対象を広げている答
3669 案も多かった。
3670
3671 そのこと自体は全く問題ないが,
3672 この問題のような脱サラ,
3673 起業と
3674 いう状況設定及び起業支援契約の契約内容からは,
3675 給与所得や譲渡所得に該当する
3676 という結論に至る可能性はないと言ってよいことを考えると,
3677 時間の配分を考えて
3678 検討にメリハリを付けるという判断も必要である。
3679
3680
3681 なお,
3682 契約に基づく支払の所得分類の判断においては,
3683 納税者(甲)の活動の態
3684 様を観察して,
3685 事業所得を生じる事業と言える程度の活動をしているかを判断する
3686 ことも重要であるが,
3687 支払の根拠となる契約を解釈してその支払が何の対価である
3688 かを分析することも同じように重要である。
3689
3690 前者については,
3691 丁寧に書けている答
3692 案も少なくなかったが,
3693 後者の観点から契約内容の分析がしっかりできている答案
3694 は,
3695 期待していたよりも少なかった。
3696
3697 課税対象となる取引・契約の内容やそれらの
3698 法的性質を理解することと租税法のルールを正しく理解することは,
3699 課税上の判断
3700 の基礎となる車の両輪であるから,
3701 採点においては,
3702 そのことを考慮して点数を付
3703 与した。
3704
3705
3706 所得の年度帰属については,
3707 所得税法第36条第1項,
3708 第2項の基本ルールの一
3709 般的説明に関する限り,
3710 おおむね良好といえる答案が多数であった。
3711
3712 具体的な当て
3713 はめにおいては,
3714 起業支援金については契約上支払が条件にかかっていることを指
3715 摘し,
3716 契約の内容を理解して当てはめるというプロセスがきちんと書けている答案
3717 も多かったが,
3718 株式については,
3719 合意の成立時期だけを考慮することで足りるのか,
3720
3721 会社法に定められている株式の権利移転の手続き及び効力要件に関する規律を所得
3722
3723 - 35 -
3724
3725 税法上の所得の実現と関連付けて考える必要はないかなどの検討も必要と思われる
3726 ところ,
3727 その点まで踏み込んでよく考えられた答案はあったものの多くはなかった。
3728
3729
3730 設問2(法人税法関係)は,
3731 設問1の所得の支払者側の課税取扱いについて問う
3732 というものであって,
3733 いわば設問1の関連質問である。
3734
3735 法人税法第22条第3項第
3736 2号の費用への該当性及び寄附金への非該当性並びに費用の認識時期(債務の確定
3737 要件を含む。
3738
3739 )の理解を問うという,
3740 損金に関する基礎的な問題であり,
3741 基礎的な
3742 学習さえしていれば解答できる問題であろうと予想していたが,
3743 結果的には,
3744 点が
3745 取れる答案と点が取れない答案とに二分され,
3746 かつ設問1の出来と設問2の出来に
3747 はほとんど相関関係がないという印象を受けた。
3748
3749 設問2については,
3750 解答がないか
3751 又はほとんど書いていない答案もあったが,
3752 点が取れない答案とは,
3753 そういうもの
3754 のことではなく,
3755 法人税法の基礎的な学習が所得税法の学習に比しておろそかにな
3756 っていたのではないかと思われる答案という意味である。
3757
3758 例えば,
3759 金銭も資産だと
3760 いう思い込みからか,
3761 奨励金や起業支援金は無償による資産の譲渡であるから益金
3762 に算入されるという解答が書かれた答案(さらに,
3763 そのうちの相当数のものが益金
3764 と損金の両方に算入されるという解答をしていた。
3765
3766 )や,
3767 奨励金について,
3768 広告宣
3769 伝費に該当するか否かの検討をせずに,
3770 また法人税法第37条第7項の括弧書きの
3771 「広告宣伝…の費用その他これらに類する費用…を除く。
3772
3773 」にも気付くことなく,
3774
3775 寄附金に該当すると解答している答案などが,
3776 点が取れない答案の典型例である。
3777
3778
3779 第1問の答案全体を通してみると,
3780 「優秀」に該当する答案の割合と内容は予想
3781 通りであったが,
3782 「良好」に該当する答案の割合が予想よりも少なかった。
3783
3784
3785 (2) 第2問
3786 公表済みの「出題の趣旨」の中で述べた主要な論点に即して,
3787 それぞれについて
3788 試されている能力を重視して,
3789 採点した。
3790
3791 その際,
3792 所得税法及び法人税法の基本的
3793 な規定を正確に理解しているかどうか,
3794 適用法規の選択とそれへの単なる(機械的
3795 な)当てはめによって解答を導き出すのではなく,
3796 適用法規の趣旨目的やその基礎
3797 にある考え方を適切に考慮に入れた上での当てはめを行うという法律家らしい姿勢
3798 で解答を導き出そうとしているかどうか,
3799 を重視した。
3800
3801 採点結果の概要及び実感は
3802 以下のとおりである。
3803
3804
3805 設問1では,
3806 まず,
3807 資産分類と所得分類との関係が重要な論点の1つである。
3808
3809
3810 建物,
3811 P土地及びP商品については,
3812 多くの答案において適用条文は正しく選択さ
3813 れていたが,
3814 所得税法第33条第2項第1号の規定が棚卸資産の譲渡による所得を
3815 譲渡所得から除外する理由を理解していないことをうかがわせる答案も散見された。
3816
3817
3818 P売掛金については,
3819 「P売掛金の基礎となる売買契約の対象商品は,
3820 P売掛金の
3821 X社への譲渡の時までに,
3822 全てAから買主に引渡済みであった。
3823
3824 」という事実を考
3825 慮せず,
3826 金銭債権として「資産」(所得税法第33条第1項)該当性を論じる答案
3827 が少なくなかったが,
3828 中には,
3829 上記の事実を適切に考慮して判断を示した答案も見
3830 られた。
3831
3832
3833 次に,
3834 資産の低額譲渡について,
3835 所得税法第59条第1項第2号の規定の適用は
3836 多くの答案において的確に行われていたが,
3837 P商品の譲渡による所得を事業所得に
3838 分類しながらも同法第40条第1項第2号の規定の適用を検討していない答案が少
3839 なくなかった。
3840
3841 後者のような答案の中には,
3842 所得税法第59条第1項の規定が事業
3843 所得を対象としていないにもかかわらず,
3844 資産の低額譲渡であれば資産の種類を問
3845
3846 - 36 -
3847
3848 わず同規定を適用するものも相当数見られたが,
3849 そのような答案は,
3850 適用条文を実
3851 際に確認することなく記憶だけに頼って解答しようとしているのではないかとさえ
3852 思わせるものであった。
3853
3854 そうであるとすれば,
3855 普段からの基本的な学習姿勢に問題
3856 があるように思われる。
3857
3858 なお,
3859 P建物及びP土地の譲渡が「著しく低い価額の対価
3860 として政令で定める額」(所得税法第59条第1項第2号)による譲渡に該当する
3861 かどうかを検討するに当たって,
3862 P建物とP土地を一括して判断するか又は別々に
3863 判断するか,
3864 その判断の違いによって譲渡所得の金額が異なる金額になることをど
3865 のように評価するか,
3866 というあり得る論点について検討を行う答案が,
3867 数は少ない
3868 ながらも見られた。
3869
3870
3871 設問2については,
3872 まず,
3873 AからX社へのQ土地の負担付贈与が所得税法第59
3874 条第1項第1号の規定にいう「贈与」に該当するかどうかを検討する答案が多かっ
3875 たが,
3876 同規定の趣旨目的に関する正確な理解を示している答案は多くはなかった。
3877
3878
3879 判例(最判昭和63年7月19日判時1290号56頁)の結論を覚えるだけでな
3880 く理由付けを理解し論証に援用できるようにすることを心掛ける学習が不可欠であ
3881 る。
3882
3883 また,
3884 Q土地の負担付贈与については,
3885 X社に対する法人税の課税上の処理に
3886 正確さを欠く答案が少なくなかった。
3887
3888 法人税法第22条第2項という基本的な規定
3889 の適用について応用力の涵養が望まれる。
3890
3891
3892 次に,
3893 AからX社へのQ建物の低額貸付けについては,
3894 ほとんどの答案でAに対
3895 する所得税の課税関係に関する的確な解答が見られた。
3896
3897 所得税法には,
3898 低額賃料を
3899 「適正賃料」に引き直す規定が定められていないことにまで言及する答案も散見さ
3900 れた。
3901
3902 また,
3903 X社に対する法人税の課税関係については,
3904 法人税法第22条第2項
3905 が「無償による資産の譲渡」及び「無償による役務の提供」を明文で定めているの
3906 と異なり,
3907 「無償による資産の譲受け」に係る明文の規定を定め,
3908 無償による役務
3909 の受入れに係る明文の規定を定めていないことをどのように考えるかを検討するこ
3910 となく,
3911 当然のごとく,
3912 無償による役務の受入れを「無償による資産の譲受け」と
3913 同様に取り扱っている答案が多く見られた。
3914
3915 法人税法第22条第2項という基本的
3916 な規定について文言に則して正確に理解しようとする学習が望まれる。
3917
3918
3919 第2問の採点の結果,
3920 「優秀」と「一応の水準」に該当する答案の割合はほぼ想
3921 定どおりであったが,
3922 「良好」に該当する答案の割合がやや少なく,
3923 その分「不良」
3924 に該当する答案の割合がやや多かった。
3925
3926 総じて,
3927 冒頭で述べた法律家らしい姿勢に
3928 物足りなさを感じさせる答案が多かったが,
3929 「不良」や「一応の水準」に該当する
3930 答案については,
3931 それ以上に,
3932 所得税法及び法人税法の基本的な規定に関する正確
3933 な理解の必要性が痛感された。
3934
3935
3936
3937
3938 今後の出題について
3939 今後の出題についても,
3940 これまでどおり,
3941 所得税を基本としつつ,
3942 具体的な事実関
3943 係の下で租税法の基本的な条文や概念の理解とその適用能力を試す問題を出題し,
3944
3945 題形式は,
3946 受験者が出題の意図に従って解答しやすくするよう小問を順次検討してい
3947 く形式によることが望ましいと考えられる。
3948
3949
3950
3951
3952
3953 今後の法科大学院教育に求められるもの
3954 上記3で述べたとおり,
3955 今後も所得税を基本とする問題が出題されると思われるが,
3956
3957
3958 - 37 -
3959
3960 法人税についての基礎的な知識の修得も必要であることは言うまでもない。
3961
3962
3963 法科大学院においては,
3964 法律実務家にとって重要なのは法解釈論であることを当然
3965 の前提とした上で,
3966 所得税法及びこれに関連する法人税法に関して,
3967 基本的な条文や
3968 概念を他と関連付けて多角的に検討し理解する学習を基礎にして,
3969 そこで習得した知
3970 識や能力を事例演習等によって確認し,
3971 それらの応用力や総合的判断力を涵養してい
3972 くというような教育が望まれる。
3973
3974
3975
3976
3977 その他
3978 全体的な印象として,
3979 バランスが悪い答案がかなりあった。
3980
3981 例えば,
3982 第1問で,
3983
3984 度帰属の論点を権利確定主義から長々と論じてしまい,
3985 所得区分の論点をあっさりと
3986 しか論じていない答案が相当数あった。
3987
3988 このような答案は,
3989 他の論点でも十分な論証
3990 がなされていないため,
3991 必然的に低い評価となった。
3992
3993 これに対し,
3994 高得点の答案は,
3995
3996 基礎的な知識を前提に,
3997 論点の配列についての手順をわきまえ,
3998 それぞれの論点に対
3999 する記述もバランス良く適切な量であり,
4000 結論に至る論理の流れもよどみなくスムー
4001 ズであった。
4002
4003 このような答案こそ採点者を唸らせる答案といえよう。
4004
4005
4006 実務法曹にとって最も大切な資質の一つがバランス感覚である。
4007
4008 司法試験の答案の
4009 作成においてもバランス感覚を十分に働かせることが求められる。
4010
4011 特に事例問題の場
4012 合には,
4013 法律の知識だけでなく,
4014 限られた時間及び答案用紙の中で,
4015 問題文に示され
4016 た事実関係の中から重要な争点は何かを適切に把握した上で,
4017 重要度の高さに応じた
4018 密度で説得力のある答案を作成する能力も試されることになる。
4019
4020
4021
4022 - 38 -
4023
4024 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(経済法)
4025
4026
4027 出題の趣旨について
4028 出題に当たり,
4029 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止
4030 法」という。
4031
4032 )上の制度・規定の趣旨及び内容を正確に理解し,
4033 問題文の行為が当該
4034 市場における競争にどのような影響を与えるかを念頭に置いて,
4035 事実関係を丹念に検
4036 討した上で,
4037 要件の当てはめができるか,
4038 それらが論理的かという点を評価し得るよ
4039 うな問題作成を目指した。
4040
4041
4042 出題した2問は,
4043 独占禁止法の基本を正確に理解し,
4044 これに基づいて検討すれば解
4045 答し得る問題であり,
4046 公表されている公正取引委員会の考え方やガイドライン等につ
4047 いて細かな知識を求めるものではない。
4048
4049
4050
4051
4052
4053 採点方針
4054 別途公表済みの出題の趣旨及び上記1で述べたとおり,
4055 独占禁止法の基本的概念や
4056 個別の要件の意義を,
4057 その趣旨を踏まえて正確に理解しているか,
4058 当該行為が市場に
4059 おける競争に与える影響を十分に洞察しようとして,
4060 問題文のどの事実をどのような
4061 観点から取り上げるのが相当かを分析した上で,
4062 的確に要件に当てはめることができ
4063 ているか,
4064 それらは論理的かつ説得的で矛盾がないかという観点から,
4065 法的な能力を
4066 見ようとした。
4067
4068
4069 第1問は,
4070 化学製品甲の販売価格の値上げ行動について,
4071 独占禁止法第2条第6項,
4072
4073 第3条の不当な取引制限(いわゆる「価格カルテル」)の成否及び離脱の成否を問う
4074 ものであり,
4075 @甲製品の特徴(代替商品の有無,
4076 地理的範囲など)を踏まえた市場を
4077 画定し,
4078 問題文の具体的事実(4社のシェア,
4079 競争者の数・シェア,
4080 隣接市場及び需
4081 要者からの競争圧力,
4082 輸入圧力など)を摘示しながら競争の実質的制限の有無を論理
4083 的かつ説得的に検討できているか,
4084 A部長会での明示の合意が成立していない前提の
4085 下で,
4086 問題文の具体的事実(4社による過去の値上げ実績,
4087 A社による新聞発表,
4088
4089 社・P部長のメール送信,
4090 4社の値上げ活動など)を摘示しながら部長会前後の4社
4091 の客観的行動を分析するとともに,
4092 A社による新聞発表によって値上げ活動を行った
4093 Y社の行動を分析して4社及びY社における黙示の合意の成否が検討できているか(設
4094 問1),
4095 B部長会での4社による明示の合意が成立した前提の下で,
4096 合意成立後の事
4097 実関係(一部顧客との間で値上げが成功したA社及びB社,
4098 値上げをしていないC社,
4099
4100 値上げに成功しなかったD社)を踏まえて,
4101 不当な取引制限の成立時期という基本的
4102 事項を理解しているか,
4103 C社については,
4104 問題文の具体的事実(上司の指示内容,
4105
4106 の3社との連絡状況,
4107 その後の部長会の欠席,
4108 過去の値上げ実績など)を摘示しなが
4109 ら不当な取引制限の離脱の成否を論理的かつ説得的に検討できているか(設問2)を
4110 見た。
4111
4112
4113 第2問は,
4114 栄養機能食品の販売方法(横流しないし転売の禁止)について,
4115 不公正
4116 な取引方法の拘束条件付取引(独占禁止法第19条,
4117 一般指定12項)の理解及び検
4118 討を問うものであり,
4119 @行為要件該当性,
4120 競争減殺効果,
4121 正当化事由の各要件の意義
4122 及び内容を正確に理解しているか,
4123 A行為要件該当性については,
4124 問題文の方策@,
4125
4126 Aの関係を踏まえて具体的に拘束の有無を検討できているか,
4127 B競争減殺効果につい
4128 ては,
4129 代替品βの評価を含めた市場を画定し,
4130 市場の実態に即して,
4131 ブランド内競争
4132
4133 - 39 -
4134
4135 の状況(甲のブランド力,
4136 流通経路の閉鎖性),
4137 ブランド間競争の状況(参入障壁の
4138 高さ,
4139 価格競争の活発さ)などを問題文の事実関係を摘示しながら丁寧に検討できて
4140 いるか,
4141 C正当化事由については,
4142 顧客への商品の説明及び品質保持のための温度管
4143 理の必要性について,
4144 目的の正当性及び手段の相当性の観点から検討するとともに,
4145
4146 代替的方法・手段について検討できているかを見た。
4147
4148
4149 3 採点実感等
4150 (1) 出題の趣旨に即した答案の存否,
4151 多寡について
4152 第1問については,
4153 多くの答案が出題の趣旨に即して,
4154 不当な取引制限(いわゆ
4155 る「価格カルテル」)の成否及び離脱の成否を検討し,
4156 設問1については,
4157 不当な
4158 取引制限の成立要件である合意(意思の連絡),
4159 一定の取引分野(市場)の画定,
4160
4161 及び競争の実質的制限について検討を行い,
4162 設問2については,
4163 以上のほか,
4164 不当
4165 な取引制限の成立時期と合意からの離脱について検討を行っていた。
4166
4167 もっとも,
4168
4169 定の取引分野の画定及び競争の実質的制限について十分に検討することなく結論の
4170 みを述べる答案や不当な取引制限の成立時期と合意からの離脱について十分な理解
4171 をしないまま作成された答案も少なからず見られた。
4172
4173
4174 第2問については,
4175 多くの答案が出題の趣旨に即して,
4176 Xの方策@Aについて不
4177 公正な取引方法のうちの拘束条件付取引を検討していたが,
4178 方策@と方策Aの関係
4179 を明確に意識して触れているものはそれほど多くはなかった。
4180
4181 また,
4182 答案の中には,
4183
4184 方策@を単独の取引拒絶,
4185 方策Aを拘束条件付取引とする答案も少なからず見られ
4186 た。
4187
4188 さらに,
4189 拘束条件付取引以外の不公正な取引方法(取引拒絶,
4190 優越的地位の濫
4191 用等)や私的独占を中心に検討している答案も見られた。
4192
4193
4194 (2) 出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準との差異について
4195 第1問については,
4196 不当な取引制限の成否及び離脱という不当な取引制限の要件
4197 についての基本的な理解を問うものであったことから,
4198 出題時に予定していた解答
4199 水準と実際の解答水準には大きな差異は見られなかった。
4200
4201 もっとも,
4202 問題文から得
4203 られる多くの事実の中から重要な事実を拾い出し,
4204 説得力ある論述をすることが期
4205 待されたが,
4206 この期待に応える答案は多いとはいえなかった。
4207
4208
4209 第2問については,
4210 方策Aを方策@の実効性確保手段と位置付け,
4211 これを転売な
4212 いし横流しの禁止行為として,
4213 不公正な取引方法のうちの拘束条件付取引に該当す
4214 るとした上で,
4215 その公正競争阻害性と正当化事由を中心に論じる答案が多いと予想
4216 していたが,
4217 ネット販売業者に対する単独・間接の取引拒絶として論じるものが予
4218 想以上に多かった。
4219
4220 また,
4221 公正競争阻害性については,
4222 本件行為の価格維持効果に
4223 ついて,
4224 問題文の事実を摘示し,
4225 ブランド内競争やブランド間競争等の市場の状況
4226 を分析して,
4227 丁寧に論述してほしかったが,
4228 多くの答案がこの点不十分であり,
4229
4230 には,
4231 市場を画定しないまま公正競争阻害性について論述する答案も少なからず見
4232 られた。
4233
4234 さらに,
4235 正当化事由についても,
4236 結論のみで理由付けがきちんとなされて
4237 いない答案が多く見られた。
4238
4239
4240 (3) 「優秀」,
4241 「良好」,
4242 「一応の水準」,
4243 「不良」答案について
4244 第1問については,
4245 「優秀」な答案は,
4246 不当な取引制限の成立要件と離脱要件に
4247 関する必要な論点について基本的な理解をした上で,
4248 問題文から重要な事実を拾い
4249 出し,
4250 きちんとした当てはめと説得力ある理由付けをした論述がなされているもの
4251
4252 - 40 -
4253
4254 とし,
4255 「良好」な答案は,
4256 比較的論述は薄いが,
4257 必要な論点を指摘した上で ,
4258 要点
4259 を的確にまとめてあるもの,
4260 「一応の水準」の答案は,
4261 「良好」な答案と評価される
4262 に必要なポイントのうち,
4263 幾つかのポイントが欠けたものとした。
4264
4265 また,
4266 「不良」
4267 の答案は,
4268 不当な取引制限に関する要件についての基本的な理解を欠き,
4269 不当な取
4270 引制限の成立要件や離脱要件に関する論点が的確に拾われておらず,
4271 問題文から得
4272 られる事実に即した論述がなされていないものとした。
4273
4274
4275 第2問については,
4276 「優秀」な答案は,
4277 方策@Aの関係を見極めた上で,
4278 拘束条
4279 件付取引の要件に即して,
4280 行為類型該当性並びに公正競争阻害性について検討し,
4281
4282 市場の画定,
4283 価格維持効果の有無,
4284 正当化事由の判断などについて問題文の事実を
4285 適切かつ丁寧に抽出して,
4286 きちんとした当てはめと理由付けがされているものとし,
4287
4288 「良好」な答案は,
4289 比較的論述は薄いが,
4290 必要な論点を指摘した上で,
4291 要点を的確
4292 にまとめてあるもの,
4293 「一応の水準」の答案は,
4294 「良好」な答案と評価されるに必要
4295 なポイントのうち,
4296 幾つかのポイントが欠けたものとした。
4297
4298 また,
4299 「不良」な答案
4300 は,
4301 拘束条件付取引以外の不公正な取引方法(取引拒絶,
4302 優越的地位の濫用等)や
4303 私的独占を中心に検討するなど,
4304 論点を的確に捉えておらず,
4305 事案に即した論述が
4306 なされていないものとした。
4307
4308
4309 なお,
4310 これらは,
4311 各水準に属する答案の一例であり,
4312 採点に当たっては,
4313 総合的
4314 な能力の判定にも配意しており,
4315 各水準に属する答案は,
4316 上記のものに尽きるもの
4317 ではない。
4318
4319
4320
4321
4322 今後の出題について
4323 今後も,
4324 独占禁止法の基礎的知識の正確な理解,
4325 当該行為が市場における競争に与
4326 える影響の洞察力,
4327 事実関係の検討能力及び論理性・説得性を求めることに変わりは
4328 ないと考えられる。
4329
4330
4331
4332
4333
4334 今後の法科大学院に求めるもの
4335 経済法の問題は,
4336 不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではない。
4337
4338
4339 経済法の基本的な考え方を正確に理解し,
4340 これを多様な事例に応用できる力を身に付
4341 つけているかどうかを見ようとするものである。
4342
4343 法科大学院は,
4344 出題の意図したとこ
4345 ろを正確に理解し,
4346 引き続き,
4347 知識偏重ではなく,
4348 基本的知識を正確に習得し,
4349 それ
4350 を的確に使いこなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,
4351 論述においては,
4352
4353 論点主義的な記述ではなく,
4354 構成要件の意義を正確に示した上,
4355 当該行為が市場にお
4356 ける競争にどのように影響するかを念頭に置いて,
4357 事実関係を丹念に検討し,
4358 要件に
4359 当てはめることを論理的・説得的に示すことができるように教育してほしい。
4360
4361
4362
4363 - 41 -
4364
4365 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(知的財産法)
4366
4367
4368 出題の趣旨,
4369 狙い等
4370 第1問は,
4371 充電式電池を充電する機能のほかに第三者が権利を有する特許発明と同
4372 一の方法による使い捨て電池の充電機能を有している充電器を題材に,
4373 家庭内使用目
4374 的製品の製造・販売行為や国外輸出目的製品の製造・輸出行為による間接侵害の成否,
4375
4376 及び方法の発明を実施するために特許権者から許諾を得て生産され譲渡された充電器
4377 の使用行為に対する方法の発明に関する特許権の行使の可否についての検討を通じて,
4378
4379 間接侵害についての基本的な理解や,
4380 方法の発明と物の発明の相違や消尽論等の権利
4381 行使の限界に関する法理についての基本的な理解を問うものである。
4382
4383
4384 第2問は,
4385 著作権が共有に係る音楽の著作物を題材に,
4386 共有者の同意なくこれを録
4387 音したレコードの製造・販売行為,
4388 さらにこれを善意で取得した者による販売行為の
4389 可否及び譲渡権・頒布権の国際消尽に関する問題点についての検討を通じて,
4390 著作権
4391 法上の各制度に対する基本的な理解や,
4392 制度相互間の関係についての理解を問うもの
4393 である。
4394
4395
4396 両問を通じ,
4397 事案分析力,
4398 基礎理解力,
4399 論理的思考力を試すことを狙いとしており,
4400
4401 事案の問題点を慎重,
4402 的確に抽出・分析し,
4403 裁判例の考え方や学説の状況を踏まえつ
4404 つも,
4405 自分の言葉を使って規範を定立した上,
4406 丁寧な当てはめを行った答案は高い評
4407 価を受けた。
4408
4409
4410
4411 2 第1問
4412 (1) 全体
4413 基本的事項の理解ができている答案と,
4414 そうでない答案の差が大きかった。
4415
4416 設問
4417 1の論点は基本的なものであり,
4418 論点自体を完全に落としている答案は多くなかっ
4419 たが,
4420 その論証内容で大きく差が付いた。
4421
4422 論点ごとには勉強した形跡が見られた答
4423 案であっても,
4424 全体的に論点相互間での論理矛盾がうかがわれたり,
4425 意味不明の論
4426 旨となってしまっているものが多く見られた。
4427
4428 このような中で,
4429 規範定立,
4430 当ては
4431 めの手順が適切に踏まれ,
4432 しかも論理的な考察に基づき自分の言葉で説明している
4433 答案は,
4434 高い評価を受けた。
4435
4436 設問2,
4437 設問3についてもおおむね同様であるが,
4438
4439 問1に比べて問題の所在自体の把握が不十分な答案と,
4440 よく理解できている答案と
4441 の差が目立った。
4442
4443
4444 (2) 設問1
4445 答案の大半は,
4446 本設問が間接侵害の成否(特許法第101条第4号,
4447 第5号,
4448
4449 下本問について条項を示す場合,
4450 全て特許法)を問うものであることは把握できて
4451 いたが,
4452 少ないながら,
4453 直接侵害の成立を認める答案,
4454 均等論を展開する答案もあ
4455 った。
4456
4457 このような答案は,
4458 間接侵害制度についての基本的な理解が十分ではないと
4459 言わざるを得ない。
4460
4461 また,
4462 問は,
4463 製造,
4464 販売及び輸出の各行為を対象としているの
4465 に,
4466 これに適切に答える答案は少なかった。
4467
4468
4469 第101条第4号の適用の可否については,
4470 B製品を非専用品と考え,
4471 同号の適
4472 用を否定する答案が多くなるものと予測していたが,
4473 実際には,
4474 これを専用品と考
4475 えて同号の適用を肯定する答案が予想以上に多かった。
4476
4477 もとより,
4478 理由がしっかり
4479 書けていれば,
4480 B製品を専用品と認定する結論でもよいが,
4481 「のみ」要件の該当性
4482
4483 - 42 -
4484
4485 を肯定する理由付けの多くが,
4486 いささか無理のある説得力に欠けるものが多かった。
4487
4488
4489 中には,
4490 「のみ」要件の判断基準すら示さないで論述する答案も少なからず存在し
4491 た。
4492
4493 同号の制度趣旨や,
4494 同条第5号が新設されたことなども踏まえて,
4495 「のみ」要
4496 件該当性の判断基準を示すことが重要である。
4497
4498 また,
4499 設問1でB製品を専用品とし
4500 ながら,
4501 設問2ではC部品を非専用品とする答案が少なからずあったが,
4502 このよう
4503 な結論を採るのであれば,
4504 十分な説明が必要である。
4505
4506 しかし,
4507 これを説得的に説明
4508 した答案は見当たらなかった。
4509
4510 むしろ,
4511 設問1と2の差異を適切に見いだせなかっ
4512 たために,
4513 設問1を専用品についての問,
4514 設問2を非専用品についての問と無理に
4515 解釈して解答しようとした答案が多いのではないかという印象を持った。
4516
4517 事案を歪
4518 めず,
4519 素直に受け止めて,
4520 答案作成に当たってほしい。
4521
4522
4523 「のみ」要件を否定し,
4524 同条第4号の適用を否定した答案の中に,
4525 同条第5号の
4526 成否について検討しないまま,
4527 間接侵害を否定する答案が少なからず存在した。
4528
4529
4530 条第4号の専用品に該当しないと考えたならば,
4531 同条第5号の適用について検討す
4532 べきである。
4533
4534 このような答案については,
4535 特許法の間接侵害の規定の体系を十分に
4536 理解していないと判断せざるを得ない。
4537
4538
4539 同条第5号の適用について検討している答案についても,
4540 同号の各構成要件につ
4541 いて十分な解釈を行わなかったり,
4542 丁寧な当てはめを行っていないものが多かった。
4543
4544
4545 条文の構成要件の解釈と事実への当てはめは実務の基本である。
4546
4547 これらを丁寧に行
4548 うことで発見される問題点も多いので,
4549 おろそかにしないでほしい。
4550
4551 また,
4552 同号の
4553 適用に当たって,
4554 単に特許が公開されていることのみを理由として特許発明の実施
4555 についてのBの悪意を肯定するものが少なからず存在した。
4556
4557 特許が公開されている
4558 というだけでは,
4559 特許発明の存在や特許発明の実施について悪意が肯定されること
4560 にはならないので注意されたい。
4561
4562
4563 なお,
4564 同条第4号の適用を認めて間接侵害の成立を肯定して論述を終えるものが
4565 多かったが,
4566 B製品の複数機能の存在に鑑みれば,
4567 同号の適用が可能と判断された
4568 場合でも,
4569 更に同条第5号の該当性を慎重に検討する答案の方が好印象である。
4570
4571
4572 直接侵害が成立しない場合の間接侵害の成否という基本的な論点については,
4573
4574 くの答案で触れられていたが,
4575 B製品が家庭内での使用を予定した装置であること
4576 と,
4577 その一部が輸出されるものであることの2点について十分に検討した答案は少
4578 なかった。
4579
4580 また,
4581 当該論点については,
4582 いわゆる折衷説に立つと思われる答案が多
4583 かったが,
4584 自説の規範定立や,
4585 事実関係への当てはめが不十分な答案が目立った。
4586
4587
4588 B製品が家庭内での使用を予定している点につき,
4589 家庭内での方法の発明の実施
4590 が「業としての実施」に該当しないことに言及しない答案が散見された。
4591
4592 また,
4593
4594 衷説に立ちながら,
4595 家庭内での実施が侵害行為に当たらないとされている理由をし
4596 っかり述べることができず,
4597 十分な理解が伴っていないと思われる答案が少なから
4598 ず存在した。
4599
4600
4601 外国仕様のB製品につき,
4602 条文上,
4603 「輸出」が間接侵害の実施行為として規定さ
4604 れていないことに気付かない答案が多かった。
4605
4606 条文をしっかり読み込むことが必要
4607 である。
4608
4609 また,
4610 輸出が間接侵害に当たらず差止請求できないことは述べているもの
4611 の,
4612 B製品の「製造」への差止請求の可否について触れていない答案も多かった。
4613
4614
4615 なお,
4616 外国仕様のB製品の製造により間接侵害が成立しないとする理由として「外
4617 国に特許権が存在しないこと」を掲げる答案が相当数存在した。
4618
4619 しかし,
4620 本問は日
4621
4622 - 43 -
4623
4624 本国特許権の効力の問題であるから,
4625 外国特許権の存否は理由とはならない。
4626
4627
4628 (3) 設問2
4629 C製品が「方法の発明の間接侵害品を生産するための物」であること,
4630 すなわち
4631 「間接の間接侵害」が問題になっていることに気付かず,
4632 漫然と間接侵害規定の成
4633 否(同条第4号,
4634 第5号)を論じた答案が多かった。
4635
4636 この点に関しては,
4637 「その物
4638 自体を利用して特許発明に係る方法を実施することが可能である物」である必要が
4639 あり,
4640 「そのような物の生産に用いられる物」は含まないとする知財高裁平成17
4641 年9月30日の特別部判決を念頭に置きつつ,
4642 自説を展開できるのが理想的ではあ
4643 るが,
4644 この判決を知らなくとも,
4645 「方法の使用(にのみ/に)用いる物」という構
4646 成要件の意味を理解し,
4647 丁寧に適用しようとすれば,
4648 問題点の認識に至ることがで
4649 きるはずである。
4650
4651
4652 C部品の製造・販売に間接侵害が成立しないと解した場合でも,
4653 Bの間接侵害行
4654 為へのCの幇助行為に対する差止めの可否が問題となる余地もあるが,
4655 この点につ
4656 いて言及した答案はほとんどなかった。
4657
4658
4659 また,
4660 本設問は,
4661 「AはCに対し,
4662 どのような請求ができるか」を問うものであ
4663 るから,
4664 差止請求の可否のみならず,
4665 損害賠償等の他の請求の可否についても検討
4666 すべきであるが,
4667 全く言及しない答案も多かった。
4668
4669 損害賠償請求権の成否を検討す
4670 るに当たって,
4671 本設問では,
4672 Bが間接侵害の主観的要件を備えているか否か,
4673 いつ
4674 から備えるかについて問題文では触れていないため,
4675 Bについて同条第5号の規定
4676 の適用のみを認める立場からは,
4677 Bの主観的要件が備えられていない期間における
4678 Cの行為についても損害賠償を請求できるかについて論じる余地もあったと思われ
4679 るが,
4680 そのような問題点に言及した答案はほとんどなかった。
4681
4682 また,
4683 特に,
4684 Cによ
4685 る間接侵害の成立を否定する場合でも,
4686 共同不法行為に基づく損害賠償請求の可否
4687 は問題になり得るが,
4688 これに全く言及しない答案も多かった。
4689
4690
4691 (4) 設問3
4692 本設問では,
4693 方法の発明に関する特許権についての消尽の成否やその要件論につ
4694 いて論述することが求められていたが,
4695 そもそも消尽が問題となっていることに気
4696 付かない答案も散見された。
4697
4698 また,
4699 消尽論を論じている答案も,
4700 物の発明に関する
4701 消尽論をそのまま論じ,
4702 B製品にも問題なく適用できるような論述を行うものが多
4703 かった。
4704
4705 発明に係る物の流通が想定されない単純方法の発明について消尽論が適用
4706 できるか否か,
4707 できるとすればどのような要件の下で認めるべきかについて,
4708 物の
4709 発明と方法の発明の区別を念頭において論じて欲しかったが,
4710 両者の違いすら理解
4711 していない答案が多い印象を受けた。
4712
4713
4714 本設問では,
4715 AはBに対してB製品の製造を,
4716 家庭内で使用される製品に限ると
4717 いう条件で許諾したという契約上の制限が課されているため,
4718 この点を差止請求の
4719 可否を考えるに当たってどのように考慮すべきかが問題となるが,
4720 方法の発明の特
4721 許権について消尽論の適用を肯定する答案のうち,
4722 消尽論が認められる根拠(円滑
4723 な流通の確保や二重利得の防止など)に触れ,
4724 「家庭内使用に限る」との明示の表
4725 記を理由として,
4726 結論として消尽を否定する答案が多かった。
4727
4728 しかし,
4729 客観的定型
4730 的に判断されるべき消尽論に関して,
4731 実施許諾の範囲や物への表示といった,
4732 権利
4733 者の選択可能な事項のいかんによってその適用を否定することの妥当性については
4734 慎重な検討がなされるべきであるが,
4735 そのような検討がなされた答案はほとんどな
4736
4737 - 44 -
4738
4739 かった。
4740
4741
4742 3 第2問
4743 (1) 全体
4744 著作権侵害の成否が問題となる事例では,
4745 侵害が問題となる支分権を的確に捉え
4746 ることが必要であるが,
4747 問題となる支分権が何であるかを明記せずに著作権侵害を
4748 論じている答案が少なからずあった。
4749
4750
4751 形式面について,
4752 設問1及び2は,
4753 「Bは,
4754 ……どのような主張をすべきかにつ
4755 いて,
4756 ……述べよ」というものであるのに,
4757 その設問形式に従わず,
4758 単にBの請求
4759 の成否について漫然と自説を論じ,
4760 問に答えていない印象を与える答案が多かった。
4761
4762
4763 また,
4764 第2問については,
4765 第1問に比して時間不足による一部白紙の答案,
4766 論証
4767 不足の答案が散見された。
4768
4769 設問ごとに配点されているのは明らかであり,
4770 前半部分
4771 がそれなりに書けていても,
4772 後半部分が白紙に近ければ,
4773 実力に見合った点数が付
4774 かない。
4775
4776 限られた時間を適切に配分して,
4777 答案を作成すべきである。
4778
4779
4780 (2) 設問1
4781 (1)欄でも述べたが,
4782 問が「どのような主張をすべきかについて,
4783 ……述べよ」
4784 という問であるのに,
4785 その設問形式に従わず,
4786 単にBの請求の成否について漫然と
4787 自説を論じ,
4788 問に答えていない印象を与える答案が多かった。
4789
4790
4791 共同著作物の各著作権者が侵害に対する差止めを単独で請求できることは明文で
4792 規定されている(著作権法第117条第1項,
4793 以下本問について条項を示す場合,
4794
4795 特に断りがなければ,
4796 全て著作権法)が,
4797 Bが単独で請求できることについて,
4798
4799 の規定に触れず,
4800 保存行為であることを理由とする答案が目立った。
4801
4802
4803 著作権侵害の成否が問題となる事例では,
4804 侵害が問題となる支分権を的確に捉え
4805 ることが必要である。
4806
4807 ところが,
4808 問題となる支分権が何であるかを明記せずに,
4809
4810 えば,
4811 「著作権の侵害」とのみ述べて権利侵害を論じている答案が少なからずあっ
4812 た。
4813
4814 また,
4815 本問では問題となり得ないと思われる原盤権のような著作隣接権を掲げ
4816 て,
4817 その侵害の成否を論じる答案も若干数あった。
4818
4819
4820 Bに対する関係でCの販売行為は,
4821 譲渡権侵害又は第113条第1項第2号(侵
4822 害物知情頒布)に該当する可能性があるが,
4823 後者に言及する答案は少なかった。
4824
4825
4826 第65条第3項の「正当な理由」の有無という論点について,
4827 触れられていない
4828 答案が少なからずあった。
4829
4830 また,
4831 この論点に触れていた答案でも,
4832 「人間関係のも
4833 つれ」だけで,
4834 簡単に「正当な理由」を肯定してしまう答案が少なくなかったが,
4835
4836 「人間関係のもつれ」だけでは,
4837 「正当な理由」はむしろ否定される場合が多いと
4838 思われるので,
4839 「正当な理由」ありと主張するためには何らかの合理的な理由を追
4840 加することを考えるべきである。
4841
4842
4843 一方,
4844 Bの更新拒絶に「正当な理由」がないとの結論に至った答案の中には,
4845
4846 こから当然にBの請求は認められないと結論付けた答案が多かった。
4847
4848 「正当な理由」
4849 がないことがBの差止請求に対する抗弁として成り立つか,
4850 すなわち,
4851 意思表示を
4852 命じる判決(民事執行法第174条)なしに,
4853 当然に同意があったものと扱ってよ
4854 いかどうかという論点に気付いた答案は少なかった。
4855
4856
4857 (3) 設問2
4858 設問1同様,
4859 設問形式に従わず,
4860 単にBの請求の成否について自説を論じる答案
4861
4862 - 45 -
4863
4864 が多かった。
4865
4866
4867 また,
4868 設問1同様,
4869 Fの反論として,
4870 Bの同意拒絶に「正当な理由」がないとい
4871 う主張を挙げる必要があるが,
4872 この点に言及していない答案が多かった。
4873
4874 なお,
4875
4876 の許諾のないCレコードの販売について,
4877 Cレコードが適法に譲渡された物ではな
4878 いことを前提としながら,
4879 譲渡権の消尽規定の適用を論じる答案が少なからず存在
4880 したが,
4881 そのような物について消尽規定を適用できるという積極的な理由を述べた
4882 答案はなかった。
4883
4884
4885 本設問では,
4886 FがCレコード購入時に,
4887 AからCへの許諾についてBの同意がな
4888 いという事情を知らなかったことから,
4889 第113条の2(善意者の譲渡の特則)の
4890 適用を検討する必要があり,
4891 さらに,
4892 Fが頒布時には事情を知っていたことから,
4893
4894 第113条第1項第2号(侵害物知情頒布)が適用されるかどうかを検討する必要
4895 があるが,
4896 いずれの規定にも気付かなかった答案が少なからずあり,
4897 触れていたと
4898 しても,
4899 そのいずれか一方だけを論じるにとどまる答案が多かった。
4900
4901 まして,
4902 両者
4903 の関係について言及する答案は少なかった。
4904
4905 条文全体の理解を深める必要がある。
4906
4907
4908 (4) 設問3
4909 Gの行為は,
4910 Dレコードの販売行為については譲渡権侵害の成否が,
4911 輸入につい
4912 ては第113条第1項第1号(侵害物国内頒布目的輸入)の成否が問題となるが,
4913
4914 後者に言及する答案は非常に少なかった。
4915
4916 他方,
4917 同号に基づいてみなし侵害の成否
4918 に言及する答案でも,
4919 「輸入の時において国内で作成したとしたならば・・・侵害
4920 となるべき行為」という要件に関し,
4921 国内の権利者と同一人ではない輸出国の権利
4922 者が当該国で適法に作成した複製物についても,
4923 単に国内の権利者が許諾していな
4924 いことを理由として同要件該当性を認め,
4925 みなし侵害の成立を認めるものが多かっ
4926 た。
4927
4928 しかし,
4929 同号は,
4930 違法複製物(いわゆる海賊版)の輸入をみなし侵害とする趣
4931 旨の規定であって,
4932 上記のような解釈を採るには説得的な理由付けが必要である。
4933
4934
4935 本設問では,
4936 譲渡権の国際消尽が問題となるが,
4937 問題意識を持ちながらも,
4938 明文
4939 の規定(第26条の2第2項第5号)に言及せず,
4940 国際消尽の一般論を展開する答
4941 案が目立った。
4942
4943 また,
4944 X国の権利者はDであり,
4945 我が国の権利者はAであることか
4946 ら,
4947 権利者が異なっても譲渡権が国際消尽するかが問題となるが,
4948 この点に気付き,
4949
4950 同号が我が国の譲渡権者と外国における譲渡権に相当する権利を有する者が同一人
4951 であることを要件としていないことを述べる答案はほとんどなかった。
4952
4953
4954 なお,
4955 第113条第5項(国外頒布目的商業用レコードの輸入行為の禁止)に言
4956 及し,
4957 適用を肯定する答案が目立ったが,
4958 本設問では,
4959 AとBは,
4960 X国における著
4961 作権をDに譲渡しており,
4962 権利者が同一でない。
4963
4964 このような場合に同項の「自ら発
4965 行し,
4966 又は他の者に発行させている」との要件を充たすと解すべきか,
4967 問題意識を
4968 持って吟味した答案はほとんどなかった。
4969
4970
4971 (5) 設問4
4972 Hの行為は,
4973 輸入については第113条第1項第1号(侵害物国内頒布目的輸入),
4974
4975 販売については頒布権が問題となるが,
4976 前者に気付かない答案が多かった。
4977
4978 後者の
4979 頒布権についても,
4980 映画の著作物において複製されている音楽の著作権者に映画の
4981 著作権者と同様の頒布権が与えられること(第26条第2項)に気付かず,
4982 譲渡権
4983 の問題として論述した答案が多かった。
4984
4985 また,
4986 E映画をα楽曲の二次的著作物であ
4987 るとしてこれを第61条第2項の翻案権の特掲の問題として論じる答案も少なから
4988
4989 - 46 -
4990
4991 ずあった。
4992
4993 しかし,
4994 創作的行為があるという事実は設問から読み取れないので,
4995
4996 案権を問題とするのは適切ではないと思われる。
4997
4998
4999 また,
5000 本設問では頒布権の国際消尽の可否が問題となるが,
5001 頒布権に気付いてい
5002 ないためか,
5003 譲渡権の国際消尽を論じた答案が多かった。
5004
5005
5006
5007
5008 答案の評価について
5009 冒頭述べたように,
5010 両問を通じ,
5011 事案分析力,
5012 基礎理解力,
5013 論理的思考力を試すこ
5014 とを狙いとするものであり,
5015 評価の視点については,
5016 おおむね次のような基準を示す
5017 ことができるであろう。
5018
5019
5020 すなわち,
5021 事実関係を十分に把握・分析し,
5022 問題となり得る事項を的確に抽出した
5023 上,
5024 関連する判例・学説を正確に踏まえつつ,
5025 必要な法令につき適切な解釈を行って
5026 要件等の定立を行い,
5027 事案に当てはめてバランスのよい結論に至っている答案は「優
5028 秀」,
5029 事実関係につき,
5030 主要な論点との関係で必要となる部分についてはきちんと分
5031 析し,
5032 問題となり得る事項を抽出した上,
5033 関連する判例・学説への考慮を示しつつ,
5034
5035 必要な法令について合理的な解釈をして要件等の定立を行い,
5036 事案に当てはめて合理
5037 的なそれなりの結論に至っている答案は「良好」,
5038 かかるレベルには達していないが,
5039
5040 事実関係の分析や問題点の抽出が不十分ながらも示され,
5041 判例・学説への一定の配意
5042 をしつつ,
5043 関係する法令についての解釈を交えて結論に至ろうとする姿勢が見られる
5044 答案は「一応の水準」,
5045 これに至らないレベルのもの,
5046 例えば,
5047 事実関係の分析が不
5048 足しており,
5049 あるいは問題文に示された内容をはるかに超えて牽強付会的な決め付け
5050 をするなどし,
5051 当然触れるべき基本的な判例・学説に触れることもなく,
5052 法例解釈等
5053 において筋道が通っていないような答案は「不良」である。
5054
5055
5056
5057
5058
5059 今後の出題
5060 出題方針について変更すべき点は特にない。
5061
5062 今後も,
5063 特許法及び著作権法を中心と
5064 して,
5065 事案分析力,
5066 基礎理解力,
5067 論理的思考力を試す出題を継続することとしたい。
5068
5069
5070
5071
5072
5073 今後の法科大学院教育に求めるもの
5074 本年の採点で感じたことは,
5075 第1問の設問1,
5076 設問2について,
5077 一方で設問1を特
5078 許法第101条第4号の,
5079 他方で設問2を同条第5号の問題と決め付け,
5080 それぞれの
5081 とうとう
5082 論証を滔々と行う答案が少なくなかったことである。
5083
5084
5085 それは,
5086 設問2についての問題の所在を把握できないまま,
5087 事案を素直に捉えずに,
5088
5089 設問1が同条第4号に係る出題,
5090 設問2が同条第5号に係る出題と解したことに原因
5091 があるのではないかと思われる。
5092
5093 しかし,
5094 直ちに専用品と認めるには問題があるB製
5095 品やC部品について,
5096 受験者が,
5097 何の疑問も持たず,
5098 あるいは事案に沿った論証もし
5099 ないままに,
5100 先入観を持って適用条文を決めたのだとすれば,
5101 実務法曹に不可欠な予
5102 断なく事案に取組む能力,
5103 問題点に正面から取組んで妥当な解決を目指す能力に欠け
5104 ると言われてもやむを得ない。
5105
5106
5107 もとより,
5108 B製品を専用品と認めるとの結論自体は不正解というわけではなく,
5109
5110 の問題点を指摘した上で,
5111 理由がしっかり書けていれば,
5112 同条第4号の適用を認める
5113 答案について高い評価を与えることができたが,
5114 大半の答案は,
5115 事案に正面から取組
5116 むのを避け,
5117 専ら書きやすさを優先した答案構成を行っているのではないかとの印象
5118
5119 - 47 -
5120
5121 を受けた。
5122
5123 しかも,
5124 その多くの答案の論証内容も非常に似通っており,
5125 かつ定型的な
5126 言い回しに終始している印象を受けた。
5127
5128
5129 そのような皮相な答案は一見もっともらしい論述に見えなくもないが,
5130 自分の頭で
5131 考えて,
5132 読む者を説得しようという意欲の下でなされた論述に比して説得力に欠けた
5133 答案になっていると言わざるを得ない。
5134
5135
5136 事例式問題は,
5137 一つ一つの切り口が異なることから,
5138 あらかじめ用意した答案例等
5139 に頼ることなく,
5140 与えられた複雑な事案を解きほぐし,
5141 真の理解に基づく正確な知識
5142 を前提に,
5143 自分の頭と言葉で相手を説得する意欲を感じられる答案が望ましい。
5144
5145
5146 このようなことに照らし,
5147 法科大学院においては,
5148 記憶よりも理解を重視した教育
5149 を,
5150 そして複雑困難な事案を恣意的に簡易化するのではなく,
5151 正面から構成要素を抽
5152 出できる事案分析力を重視した教育を,
5153 さらに常に自分の頭で考えこれを他人に伝え
5154 て説得する能力を付けることを重視した教育をお願いしたいところである。
5155
5156
5157
5158 - 48 -
5159
5160 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(労働法)
5161
5162
5163
5164
5165 出題の趣旨,
5166 狙い等
5167 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
5168
5169
5170 採点方針
5171 事例に即して必要な論点を的確に抽出できているか,
5172 関係する法令,
5173 判例及び学説
5174 を正確に理解し,
5175 これを踏まえて,
5176 論理的かつ整合性のある法律構成及び事実の当て
5177 はめによって,
5178 適切な結論を導き出しているかを基準に採点した。
5179
5180
5181 出題の趣旨に沿って,
5182 必要な論点を的確に取り上げた上,
5183 その論述が期待される水
5184 準に達している答案については,
5185 おおむね平均以上の得点を与え,
5186 さらに,
5187 当てはめ
5188 において必要な事実を過不足なく摘示し,
5189 あるいは,
5190 主要論点について,
5191 着目すべき
5192 問題点を事例から適切に読み取って検討しているなど,
5193 優れた事例分析や考察が認め
5194 られる答案については,
5195 更に高い得点を与えることとした。
5196
5197
5198 なお,
5199 答案の中には,
5200 極めて小さな文字で書かれてあるものや,
5201 殴り書きのため文
5202 字の判読が困難なものなどが散見された。
5203
5204 文字いかんが得点そのものを左右するわけ
5205 ではないものの,
5206 読みやすい文字で丁寧に答案を作成されんことを付言しておきたい。
5207
5208
5209
5210 3 採点実感等
5211 (1) 第1問について
5212 本問は,
5213 設問前半において,
5214 年次有給休暇に対する時季変更権の行使を中心論点
5215 として,
5216 懲戒処分及び10日相当分の賃金控除の有効性を問い,
5217 設問後半において,
5218
5219 賞与支給要件の出勤率算定と賞与額算定における欠勤扱いの当否を中心論点とし
5220 て,
5221 賞与全額不支給の有効性を問う問題である。
5222
5223 設問前半については,
5224 全体的に良
5225 好な論述がなされている答案が多かったが,
5226 設問後半については,
5227 基礎的な理解が
5228 不十分と思われる答案が少なくなかった。
5229
5230
5231 また,
5232 本問の解答に当たっては,
5233 それぞれの論点ごとに相応の分量の記載が必要
5234 であると思われたが,
5235 全体として,
5236 時季変更権行使の有効性に答案用紙の大半を割
5237 き,
5238 その他の論点に関する記載が量的にも足りないものが多いとの印象を受けた。
5239
5240
5241 例えば,
5242 懲戒処分の根拠等について,
5243 長々と論じているような答案がこれに当たる
5244 が,
5245 解答に当たっては,
5246 十分な答案構成を行い,
5247 各論点の比重に応じたバランスの
5248 取れた記述を心掛けられたい。
5249
5250
5251 設問前半については,
5252 時事通信社事件判決(最判平成4年6月23日)等の判例
5253 を踏まえ,
5254 適切な規範定立及び当てはめができているかなどを重視したが,
5255 前記の
5256 とおり,
5257 全体的には良好な論述がなされている答案が多かったものの,
5258 年次有給休
5259 暇権の法的性質,
5260 時季指定権と時季変更権の関係及び時季変更権行使の有効性とい
5261 う各論点相互の関連性を論理的に論述できておらず,
5262 個々の論点につき自己が暗記
5263 した内容を機械的に並べただけのような答案が少なからず存在したことが残念であ
5264 った。
5265
5266 また,
5267 労働者の「時季指定権」と使用者の「時季変更権」との区別等の基本
5268 的な概念を正確に理解していないものも散見された。
5269
5270
5271 本問は,
5272 労働者による長期連続の年次有給休暇の時季指定が問われている事例で
5273 あったにもかかわらず,
5274 これに言及していない答案が少なくなく,
5275 また,
5276 言及して
5277
5278 - 49 -
5279
5280 いても,
5281 自己の定立した規範に対応する事実を当てはめて指摘できていない答案も
5282 散見された。
5283
5284 労働者が長期連続の年次有給休暇の時季指定をした場合には,
5285 使用者
5286 との事前の調整が必要であるとし,
5287 そのような調整を経ない時季指定に関しては,
5288
5289 時期変更権の行使において使用者にある程度の裁量的判断の余地を認めざるを得な
5290 い点を指摘するとともに,
5291 当てはめにおいて,
5292 本問でXがY社との間で何らの事前
5293 の調整を行わなかったことなどの事実を過不足なく摘示した答案には高い得点を与
5294 えた。
5295
5296 一方で,
5297 代替勤務者の配置が困難であることやY社がXの年次有給休暇取得
5298 に一定の譲歩をしていることなどの重要な事実を摘示できていないものも散見され
5299 た。
5300
5301
5302 本問においては,
5303 時季変更権の行使を有効とする見解に立つとしても,
5304 無効とす
5305 る見解に立つとしても,
5306 問題文にはそれぞれの見解にとって不利な事実が記載され
5307 ているため,
5308 かかる事実に配慮した論述が望まれたが,
5309 専ら自己に有利な事実のみ
5310 を羅列し,
5311 不利な事実に何ら言及しない答案も少なからず存在した。
5312
5313
5314 設問後半については,
5315 この論点についての基礎的な理解が不十分と思われる答案
5316 が少なくなく,
5317 問題文中のY社の就業規則の内容を正確に把握できていないものも
5318 多く見受けられた。
5319
5320 そもそも賞与支給要件としての出勤率の問題と,
5321 賞与額の算定
5322 における欠勤日数の計算の問題とを区別して論ずるべきであるのに,
5323 これらを区別
5324 できずに混同している答案が予想以上に多かった。
5325
5326
5327 賞与支給要件としての出勤率の算定につき,
5328 育児休業日数を欠勤扱いとしてよい
5329 のかについては,
5330 多数の答案が論じていたが,
5331 この点に関して,
5332 育児休業,
5333 介護休
5334 業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第10条を摘示できていな
5335 いものも少なからずあった上,
5336 その私法的効力に言及しつつ,
5337 本問のいわゆる90
5338 %条項が育児休業の権利を法律が保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められ
5339 るかを丁寧に論じていた答案は少数にとどまった。
5340
5341
5342 賞与額の算定における欠勤日数の計算については,
5343 問題文に「賞与額の算定にお
5344 いては,
5345 年次有給休暇も含め,
5346 全ての取得休暇日を欠勤日数に算入するものと規定
5347 されている。
5348
5349 」とあることから,
5350 育児休業の欠勤日数算入の可否と年次有給休暇の
5351 欠勤日数算入の可否とを分けて論ずる必要があったが,
5352 後者に言及していない答案
5353 が多かった。
5354
5355 なお,
5356 後者に言及していた答案のうち,
5357 労働基準法附則第136条を
5358 摘示して,
5359 その私法的効力に言及しつつ,
5360 説得的に論じていた答案には,
5361 高い得点
5362 を与えた。
5363
5364
5365 本問では,
5366 設問が指示するように,
5367 賞与額の算定において欠勤日数を何日として
5368 計算すべきかと,
5369 その根拠を説明する必要があるところ,
5370 具体的な日数を示してい
5371 ない答案も少数ながら存在した。
5372
5373 しかし,
5374 そもそも問題文の指示に従わない解答は
5375 明らかに失当と言わざるを得ない。
5376
5377 また,
5378 具体的な日数を示していたとしても,
5379
5380 の根拠に十分言及できていない答案が相当数あった。
5381
5382
5383 (2) 第2問について
5384 ア 設問1について
5385 設問1では,
5386 @ビラ配布を理由とするBの降格人事が不利益取扱いないし支配
5387 介入に該当するか,
5388 AY社の対応が団体交渉拒否に該当するか,
5389 BY社の総務部
5390 長CがX組合員の脱退を勧奨した点及びビラを回収し破棄した点が支配介入に該
5391 当するかを検討する必要がある。
5392
5393
5394
5395 - 50 -
5396
5397 前記@の論点については,
5398 おおむね期待されている水準に達している答案が相
5399 当数見られる反面,
5400 この論点に全く触れていない答案も相当数見られた。
5401
5402 また,
5403
5404 解答の前提となるビラ配布の組合活動としての正当性については,
5405 倉田学園事件
5406 判決(最判平成6年12月20日)等の判例を踏まえ,
5407 ビラの内容,
5408 ビラ配布の
5409 態様等に照らして職場規律を乱すおそれのない特別な事情の有無の観点から規範
5410 定立を行うか,
5411 あるいは,
5412 国鉄札幌運転区事件判決(最判昭和54年10月30
5413 日)等の判例を踏まえ,
5414 企業施設利用の組合活動の正当性判断の問題として違法
5415 性阻却説等の立場から規範定立を行うことを想定していたところ,
5416 このような規
5417 範の定立を行う答案が比較的多数であったが,
5418 規範の定立を行わず,
5419 いきなり事
5420 実の摘示や評価を行う答案も散見された。
5421
5422 また,
5423 当てはめでは,
5424 ビラの内容が比
5425 較的穏当なものであること,
5426 始業時刻前に,
5427 組合員に対してのみ,
5428 印刷面を下に
5429 して机上に置くという平和的な配布態様であることを摘示すべきであったが,
5430
5431 れらの事情を十分に論じていない答案も相当数あった。
5432
5433 さらに,
5434 Bの降格人事に
5435 ついては,
5436 不利益取扱いないし支配介入に該当し得るが,
5437 両者の主観的要件の相
5438 違を十分理解できていない答案が散見された。
5439
5440
5441 前記Aの論点については,
5442 おおむね期待されている水準に達している答案が多
5443 く,
5444 特に,
5445 誠実交渉義務の問題については,
5446 おおむね出題の趣旨を理解した良好
5447 な論述がなされている答案が多かった。
5448
5449 反面,
5450 Y社が「既に提出した資料をきち
5451 んと分析すれば当方の説明の合理性は明白だ。
5452
5453 説明しようにも根拠は資料のとお
5454 りだと言うほかない。
5455
5456 」と述べるなどした点が誠実交渉義務違反となるかが問わ
5457 れているにもかかわらず,
5458 この点に言及せず,
5459 要求された資料を迅速に提出した
5460 こと及び合計3回にわたる団体交渉開催要請に応じたことのみをもって当該義務
5461 違反の有無を論じている答案が少なからずあった。
5462
5463 また,
5464 義務的団交事項の問題
5465 については,
5466 その範囲に対する規範定立が不十分な答案や降格人事の撤回及びベ
5467 ース・アップ要求の当てはめが不十分な答案が散見された。
5468
5469
5470 前記Bの論点のうち,
5471 脱退の勧奨については,
5472 検討が必要な論点について言及
5473 できている答案が多数であったが,
5474 脱退勧奨が「介入」に該当することは比較的
5475 明白であるにもかかわらず,
5476 この点に関する記述の分量が多すぎると思われる答
5477 案も見られた。
5478
5479 また,
5480 総務部長Cの行為のY社への帰責性を論じるに当たり,
5481
5482 R東海事件判決(最判平成18年12月8日)を踏まえ,
5483 多数の答案が,
5484 Cが使
5485 用者の「意を体して」いたかとの規範を定立できていたものの,
5486 一方で,
5487 単にC
5488 が使用者に該当するとした答案が相当数あり,
5489 また,
5490 当てはめに必要な事実を十
5491 分抽出できていない答案も見られた。
5492
5493 なお,
5494 ビラの回収・破棄行為に関し,
5495 多数
5496 の答案がビラ配布の組合活動としての正当性に触れていたが,
5497 更に一歩踏み込ん
5498 で,
5499 ビラの回収・破棄行為自体の相当性を自力救済の可否に言及しつつ検討して
5500 いた答案には高い得点を与えた。
5501
5502
5503 さらに,
5504 設問1では,
5505 X組合として採り得る措置を論じる必要があったが,
5506
5507 働委員会によるポスト・ノーティスや,
5508 裁判所による団体交渉を求める法的地位
5509 の確認等の具体的救済内容に言及する答案が比較的多数であったものの,
5510 これら
5511 救済内容に言及せずに,
5512 抽象的な論述にとどまっていた答案が相当数あった。
5513
5514
5515 た,
5516 労働組合の救済申立適格及び原告適格に配慮した記述がなされていない答案
5517 が少なくなかった。
5518
5519
5520
5521 - 51 -
5522
5523
5524
5525 設問2について
5526 解答時間が切迫していたからか,
5527 検討が不十分と思われる答案が相当数存在し
5528 た。
5529
5530 特に,
5531 Y社が情宣活動の差止請求をなし得るとしながらその法的根拠の構成
5532 や被侵害利益に言及していないもの,
5533 地位保全の仮処分をなし得るとしながら被
5534 保全権利に言及していないものも少なくなかった。
5535
5536 また,
5537 採り得る法的措置とし
5538 て,
5539 懲戒処分やロックアウト等を掲げる答案が予想外に多かった。
5540
5541
5542
5543
5544
5545 答案の評価
5546 「優秀」の水準にあると認められる答案とは,
5547 出題の趣旨を十分に理解した論述が
5548 なされている答案である。
5549
5550 第1問については,
5551 前半において,
5552 各論点相互の関連性を
5553 論理的に論述しつつ,
5554 時季変更権行使の有効性に関し,
5555 本問が労働者が長期連続の年
5556 次有給休暇の時季指定を行った事案であることを意識し,
5557 判例を踏まえて,
5558 的確な規
5559 範定立と当てはめを行っており,
5560 後半において,
5561 事案に即して,
5562 必要な論点を過不足
5563 なく抽出し,
5564 関係条文に言及しつつ論述を行い,
5565 賞与額の算定における欠勤日数とそ
5566 の論拠を説得的に述べている答案であり,
5567 第2問については,
5568 不当労働行為の成立要
5569 件を正確に理解し,
5570 その該当性につき,
5571 必要な論点を抽出し,
5572 組合活動としての正当
5573 性等につき判例を踏まえた説得的な論述を行うとともに,
5574 労働組合及び使用者として
5575 採り得る法的措置につき,
5576 具体的かつ詳細な論述ができている答案である。
5577
5578
5579 「良好」の水準に達していると認められる答案とは,
5580 必要な論点にはおおむね言及
5581 し,
5582 法解釈について一定の見解を示した上で,
5583 事例から,
5584 結論を導き出すのに必要な
5585 具体的事実を抽出できているものの,
5586 例えば,
5587 第1問では,
5588 賞与額の算定における欠
5589 勤日数の計算において,
5590 育児休業と年次有給休暇の違いを十分意識できていなかった
5591 り,
5592 第2問では,
5593 労働組合及び使用者として採り得る法的措置につき,
5594 具体的な論述
5595 ができていないなど,
5596 「優秀」の水準にあると認められる答案のように出題の趣旨を
5597 十分に捉えきれていないような答案である。
5598
5599
5600 「一応の水準」に達していると認められる答案とは,
5601 労働法の基本的な論点に対す
5602 る一定の理解はあるものの,
5603 必要な論点に言及していなかったり,
5604 言及していたとし
5605 ても,
5606 規範定立や当てはめがやや不十分な答案であり,
5607 関係条文・判例に対する知識
5608 の正確性に難があり,
5609 事例における具体的な事実関係を前提に要証事実を的確に捉え
5610 ることができていないような答案である。
5611
5612
5613 「不良」の水準にとどまるものと認められる答案とは,
5614 関係条文・判例に対する知
5615 識に乏しく,
5616 労働法の基本的な考え方を理解せず,
5617 解釈論につき,
5618 自己が暗記した内
5619 容を断片的に並べることに終始したり,
5620 規範を定立せずに単に問題文中の具体的な事
5621 実を列挙するにとどまるなど,
5622 具体的事実に対応して法的見解を展開するというトレ
5623 ーニングを経ておらず,
5624 基本的な理解・能力が欠如していると思料される答案である。
5625
5626
5627
5628
5629
5630 今後の出題
5631 出題方針について変更すべき点は特にないと考える。
5632
5633 今後も,
5634 法令,
5635 判例及び学説
5636 に関する正確な理解に基づき,
5637 事例を的確に分析し,
5638 必要な論点を抽出して,
5639 自己の
5640 法的見解を展開し,
5641 これを事実に当てはめることによって,
5642 妥当な結論を導くという,
5643
5644 法律実務家に求められる基本的な能力及び素養を試す出題を継続することとしたい。
5645
5646
5647
5648 - 52 -
5649
5650
5651
5652 今後の法科大学院教育に求めるもの
5653 基本的な法令,
5654 判例及び学説については,
5655 正確な理解に基づき,
5656 かつ,
5657 網羅的に知
5658 識を習得するように更なる指導をお願いしたい。
5659
5660 その際,
5661 条文の内容を正確に理解す
5662 ることはもとより,
5663 当該規定の趣旨を踏まえて事案に適用する能力が求められるほか,
5664
5665 主要な判例については,
5666 判例が着目した事実関係及び結論を導くために展開された法
5667 律構成や基準ないし要件の内容等を遺漏なく,
5668 正確に理解する必要があることに十分
5669 配意いただきたい。
5670
5671 また,
5672 事例の分析の前提となる就業規則の内容等の基礎的事実を
5673 正しく把握し,
5674 結論を導くために必要な論点を抽出した上,
5675 論点相互の関連性を意識
5676 しつつ,
5677 法令,
5678 判例及び学説を踏まえた論理的かつ一貫性のある解釈論を展開し,
5679
5680 れに適切に事実の当てはめを行って,
5681 法の趣旨に沿った妥当な結論を導くという,
5682
5683 的思考力を更に養成するよう重ねてお願いしたい。
5684
5685
5686
5687 - 53 -
5688
5689 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(環境法)
5690 【第1問について】
5691 1 出題の意図に即した答案の存否,
5692 多寡
5693 第1問は,
5694 大気汚染防止法の下での規制に関する法政策についての出題である。
5695
5696
5697 要な手法である協定の法的性質及び限界についての理解を問い(設問1),
5698 添付資料
5699 の解読を通じて直罰制の導入について説明し(設問2),
5700 同じく添付資料の解読を通
5701 じて測定記録データ改ざん事件に対応してなされた同法2010年改正の意義を説明
5702 すること,
5703 及び,
5704 それを設例に当てはめて,
5705 同法の刑罰規定の適用関係について説明
5706 すること(設問3)が求められた問題であった。
5707
5708
5709 設問1の採点を通じては,
5710 以下の点が実感された。
5711
5712 協定の法的性質に関する議論と
5713 して紳士協定説と契約説があることについては,
5714 多くの答案において指摘されていた。
5715
5716
5717 しかし,
5718 契約説を基本とするとした上で,
5719 本件協定の条文の内容であれば法的拘束力
5720 を有する契約として評価できるとまで記述していた答案は,
5721 意外に少なかった。
5722
5723 契約
5724 と評価できるとはしつつも,
5725 抽象論に終始し,
5726 問題文に引用された条項の文言を吟味
5727 しない答案が,
5728 意外に多かった。
5729
5730 「2割」という個別具体的厳格化が過大なものでな
5731 く協定は合理的であるという点に言及した答案も,
5732 意外に少なかった。
5733
5734 協定による法
5735 的義務の創出はできないという主張に対する反論として,
5736 事業者の任意の合意による
5737 ことが明記されていた答案は,
5738 意外に少なかった。
5739
5740 行政が一方当事者であるからでは
5741 なく,
5742 あくまでも追加的受忍を個別に引き受ける事業者の任意の意思表示があってこ
5743 その契約である点が重要である。
5744
5745 事業者に法的影響を与える効果を持つ行政の権限行
5746 使は大気汚染防止法が独占しているという主張は,
5747 産業廃棄物処理施設に関する協定
5748 をめぐる最判平成21年7月10日判時2058号53頁における議論を参考にして
5749 いるが,
5750 この判例に言及する(あるいは,
5751 それを理解していると推察される)答案が
5752 少なかったのは意外であった。
5753
5754 なお,
5755 判例に関しては,
5756 条例上の義務の民事執行を否
5757 定した最判平成14年7月9日民集56巻6号1134頁を引用して,
5758 本件との違い
5759 を論ずるものがあったが,
5760 これは加点対象とした。
5761
5762
5763 設問2の採点を通じては,
5764 以下の点が実感された。
5765
5766 「新たな法政策」が直罰制を意
5767 味することは,
5768 ほとんどの答案で指摘されていた。
5769
5770 ただ,
5771 それを命令前置制度と比較
5772 しつつ,
5773 その問題点を必要かつ十分に指摘した答案は,
5774 それほど多くはなかった。
5775
5776
5777 に「実効的にするため」というような抽象的記述にとどまり,
5778 どのような意味で実効
5779 性が確保されるのかにまで踏み込んでは解答されていなかった。
5780
5781 直罰制の採用は予防
5782 的アプローチに基づくものと述べる答案が散見された。
5783
5784 未然防止的アプローチとの混
5785 同があるようである。
5786
5787
5788 設問3の採点を通じては,
5789 以下の点が実感された。
5790
5791 小問1に関しては,
5792 関係法文の
5793 比較から,
5794 現行法においては,
5795 虚偽記録が刑罰の対象になったことは,
5796 多くの答案に
5797 おいて指摘できていた。
5798
5799 虚偽記録が刑罰の対象となっていなかった理由として,
5800 「事
5801 業者性善説」を指摘した答案は一定数あったが,
5802 それは排出基準違反が直罰になって
5803 いることに根本的理由があるとまで記述できていた答案はそれほど多くなかった。
5804
5805
5806 た,
5807 大気汚染防止法の排出基準直罰規定の執行の困難さ(捜査リソースの制約に加え
5808 て,
5809 とりわけ大気汚染防止法の場合,
5810 違反状態の確認を排出口において行うことの技
5811 術的困難さ)を指摘できた答案はほとんどなかった。
5812
5813
5814
5815 - 54 -
5816
5817 小問2に関しては,
5818 排出基準違反罪及び虚偽記録罪については,
5819 それぞれ犯罪の成
5820 立時期に違いがあるにもかかわらず,
5821 この点を指摘していない答案が相当数あった。
5822
5823
5824 改正法施行日が問題文に掲げられていることの意味を見落としているのであり,
5825 慎重
5826 さの足りなさが気になった。
5827
5828 排出基準違反罪についても,
5829 成立時期について触れてい
5830 ない答案が相当数あった。
5831
5832 特に日付が記されているのは,
5833 それに何らかの意味がある
5834 からである。
5835
5836 排出基準違反罪及び虚偽記載罪の一方のみを解答する答案が相当数あっ
5837 たのは,
5838 意外であった。
5839
5840 問われているのはC社の刑事責任であるから両罰規定に触れ
5841 るべきところ,
5842 それがされていない答案が相当数に及んだ。
5843
5844 また,
5845 「C社に対して懲
5846 役刑を科す」という趣旨の答案さえ見られた。
5847
5848 全体的に,
5849 両罰規定の理解が十分にさ
5850 れていない印象を持った。
5851
5852 これは,
5853 刑法総論の知識ではあるが,
5854 環境法においても刑
5855 罰規定は重要であり,
5856 環境法学習の中での的確な整理が求められる。
5857
5858
5859 第1問は,
5860 全体として難解だったのだろうか。
5861
5862 4枚の答案用紙のうち最後の頁を十
5863 分に使用していない受験生が相当数いたことは驚きであった。
5864
5865 また,
5866 条文の的確な摘
5867 示がされていない答案が少なからずあった点も残念であった。
5868
5869
5870
5871
5872 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
5873 全体的に,
5874 論点に関する知識を表現することに重点が置かれ,
5875 設問に含まれている
5876 事実への当てはめが不十分な答案が多かったのは,
5877 日頃の環境法学習において,
5878 そう
5879 した訓練がされていないからではないか。
5880
5881 問題文に記されている事実については,
5882
5883 答に必要なものがほとんどである。
5884
5885 環境法の総論や各論についての知識を「使える」
5886 ようにする訓練に欠けるところがあるのではないかと思われる。
5887
5888
5889
5890
5891
5892 各水準の答案のイメージ
5893 「優秀」といえる答案のイメージは,
5894 設問が問うている環境法政策上の論点につい
5895 ての理解を正確に提示し,
5896 それを設例に的確に当てはめることができているものであ
5897 る。
5898
5899 設例文及び【資料】に含まれる内容を適切に答案に表記しているものは,
5900 高く評
5901 価した。
5902
5903 「良好」といえる答案は,
5904 その程度がやや劣るものである。
5905
5906 「一応の水準」と
5907 いえるのは,
5908 各設問において問われている問題点が何とか把握されている答案である。
5909
5910
5911 「不良」な答案とは,
5912 それすらなし得ていないものである。
5913
5914
5915
5916 【第2問について】
5917 1 出題の意図に即した答案の存否,
5918 多寡
5919 景観利益と騒音による通常の人格的利益のそれぞれの侵害について,
5920 損害賠償を請
5921 求する場合に,
5922 どのような問題点があるかについての理解を問う出題である。
5923
5924
5925 設問1の採点に当たっては,
5926 以下のような点が実感された。
5927
5928
5929 小問1については,
5930 正解率は高かったが,
5931 国家賠償法第1条第1項に基づく請求と
5932 しながら,
5933 被告をA県知事としているものが少数見られた。
5934
5935 また,
5936 国家賠償法と不法
5937 行為法の適用関係について理解していないのではないかと思われる答案が若干見受け
5938 られたことは意外であった。
5939
5940 この点は小問2についても同様である。
5941
5942 基本的な点であ
5943 るので理解しておいてほしい。
5944
5945 小問2については,
5946 第1に,
5947 被侵害利益を景観利益で
5948 あると指摘した解答は多く,
5949 最判平成18年3月30日民集60巻3号948頁(国
5950 立景観訴訟最高裁判決)との関係について論じたものも多数に上ったが,
5951 景観権,
5952
5953
5954 - 55 -
5955
5956 境権を被侵害利益とする答案において,
5957 上記判例との関係について全く論じないもの
5958 もあり,
5959 残念であった。
5960
5961 判例に対して批判的な立場を採る場合であっても,
5962 判例の立
5963 場を理解し,
5964 その上でどこに問題点があるかを指摘する態度が望まれる。
5965
5966 なお,
5967 上記
5968 判例は景観利益を主張できる者を「良好な景観に近接する地域内に居住し,
5969 その恵沢
5970 を日常的に享受している者」に限定しており,
5971 本問で対岸のC町に居住するXが「良
5972 好な景観に近接する地域内」に居住しているかどうかは一個の問題であるが,
5973 この点
5974 について,
5975 X及び被告の立場で検討している答案は少数ながらあり,
5976 評価できるもの
5977 であった。
5978
5979 また,
5980 本件では景観利益ではなく眺望利益が問題となっているとする答案
5981 もごく少数見られたが,
5982 そのような議論もあり得る。
5983
5984 なお,
5985 被侵害利益としての景観
5986 利益について,
5987 違法性要件の考慮要素として書くか,
5988 損害の要件の中で書くか,
5989 独立
5990 した「法律上保護された利益」侵害の要件として書くかはいずれでも構わないとした
5991 が,
5992 どれにするかは記述しなければならない。
5993
5994 この位置付けが明確でない答案も少数
5995 ながら見られた。
5996
5997 第2に,
5998 侵害行為を,
5999 A県知事による処分とするかA県による埋立
6000 工事とするかはいずれもあり得るが,
6001 当該行為が景観利益を違法に侵害するといえる
6002 かについて,
6003 何の前提もなくA県知事の埋立免許付与処分の法令適合性のみを論じた
6004 ものが数多くあったことは残念であった。
6005
6006 これらの解答についても内容に応じて評価
6007 した。
6008
6009 上記判例は,
6010 景観利益という新しい法的利益に関して,
6011 違法性について相関関
6012 係説に類似した考え方を採用しつつ,
6013 行政法規の規制との関係などを重視したもので
6014 あるが,
6015 この判例の趣旨を理解した上で,
6016 これを支持するのか批判するのかの態度を
6017 明らかにしつつ解答することが望ましい。
6018
6019 第3に,
6020 侵害行為が「行政法規の規制に違
6021 反する」ものであるかを検討する場合,
6022 公有水面埋立法第4条第1項第2号,
6023 第3号
6024 の判断に当たって,
6025 瀬戸内海環境保全特別措置法第13条第1項が「配慮しなければ
6026 ならない」,
6027 瀬戸内海環境保全に関するA県計画が「保全するよう努めるものとする」
6028 としていることがどのような意味を持つか,
6029 さらに代替案を採用しなかったことが「行
6030 政法規の規制に違反する」といえるかが,
6031 Xと被告それぞれの立場で論じられなけれ
6032 ばならない。
6033
6034 この点は,
6035 比較的良くできていたと思われる。
6036
6037 代替案について環境影響
6038 評価法との関係を記述した答案も少数見られたが,
6039 一定の配慮をした。
6040
6041 もっとも,
6042
6043 境影響評価法の議論に集中してしまい,
6044 本問が挙げている公有水面埋立法,
6045 瀬戸内海
6046 環境保全特別措置法,
6047 瀬戸内海環境保全に関するA県計画との関係についてほとんど
6048 論じていない答案も少数あり,
6049 これは出題の趣旨を取り違えていることとなる。
6050
6051
6052 設問2の採点に当たっては,
6053 以下のような点が実感された。
6054
6055
6056 小問1に関しては,
6057 正解率は高かったが,
6058 国家賠償法第1条のみを根拠とするもの
6059 も少数見られた。
6060
6061 そのような学説もあるため,
6062 配慮はしたが,
6063 現在の判例・学説の立
6064 場についても触れることが期待される。
6065
6066 なお,
6067 損害賠償について解答せず,
6068 民事差止
6069 や行政訴訟についてのみ解答する答案も少数見られた。
6070
6071 問題文に対応した解答をしな
6072 ければ当然のことながら点数を与えることはできないので,
6073 注意されたい。
6074
6075
6076 小問2に関しては,
6077 第1に,
6078 道路の自動車騒音について「設置又は管理の瑕疵」に
6079 該当するかどうかや,
6080 最判平成7年7月7日民集49巻7号1870頁(国道43号
6081 線訴訟最高裁判決)に基づく違法性論(受忍限度論)及びその当てはめについて,
6082
6083 くの答案は比較的良く論じていた。
6084
6085 一方,
6086 違法性(受忍限度)の考慮要素を十分に挙
6087 げていない答案も,
6088 少数ながらあった。
6089
6090 基本的な事項であり,
6091 正確に理解することが
6092 望まれる。
6093
6094 もちろん,
6095 判例の立場を示しつつ受忍限度論に対する批判を展開すること
6096
6097 - 56 -
6098
6099 も十分考えられる。
6100
6101 特に公共性については,
6102 最高裁の,
6103 考慮はするが必ずしも重視は
6104 しない立場を指摘しつつ,
6105 これを考慮すべきでないとする学説の見解を展開する答案
6106 が相当数見られたことは評価される。
6107
6108 第2に,
6109 被侵害利益を指摘した答案は少なかっ
6110 た。
6111
6112 設問1の景観利益とは異なり,
6113 騒音による生活妨害であるので,
6114 人格権,
6115 平穏生
6116 活権などを被侵害利益とすることに注目してほしい。
6117
6118 第3に,
6119 受忍限度と環境基準と
6120 の関係については,
6121 これを指摘した答案は多かったが,
6122 環境基準が「維持されること
6123 が望ましい基準」(環境基本法第16条第1項)であるところ,
6124 なぜそれが受忍限度
6125 の考慮要素となるかについて十分説明できていないものが相当数見受けられたことは
6126 残念であった。
6127
6128
6129
6130
6131 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
6132 設問1についても2についても,
6133 基本的な判例が十分に理解されていないことが原
6134 因であると思われる。
6135
6136 特に国道43号線訴訟最高裁判決が,
6137 景観利益を含むあらゆる
6138 環境紛争の違法性判断に当然に用いられるとする答案が少数ながら見られたが,
6139 同判
6140 決は国道の騒音等の生活妨害に対する判断を示したものであり,
6141 ほかの環境紛争にそ
6142 の法理を用いることができるかを論じなければならない。
6143
6144 判例の射程に関する注意が
6145 なされていないことに問題がある。
6146
6147 判例も環境法学習の重要な対象であり,
6148 判例の位
6149 置付けについてきちんとした理解をすることが望まれる。
6150
6151 その上で,
6152 判例を支持する
6153 か批判するかの態度を示すべきである。
6154
6155
6156 また,
6157 設問1において環境影響評価との関係のみに集中したり,
6158 設問2において民
6159 事差止や行政訴訟についてのみ解答するなど,
6160 問題文をきちんと読んだとは思われな
6161 い答案も少数ながらあった。
6162
6163 試験場で取り組むべき課題であるが,
6164 常日頃から心掛け
6165 ておくことが肝要である。
6166
6167
6168
6169
6170
6171 各水準の答案のイメージ
6172 「優秀」,
6173 「良好」といえる答案のイメージは,
6174 設問1については,
6175 景観利益などに
6176 ついて,
6177 その性質・内容,
6178 法律上保護される利益といえるかどうかを論じ,
6179 処分や工
6180 事の違法性について考慮すべき要素を挙げ,
6181 その中で本問の事案と国立景観訴訟最高
6182 裁判決との関係について論じているものである。
6183
6184 設問2については,
6185 道路の営造物責
6186 任について人格権侵害などについて触れ,
6187 設置管理の瑕疵について違法性(受忍限度)
6188 の要素を指摘し,
6189 その中で本問と国道43号線訴訟最高裁判決との関係について論じ,
6190
6191 また,
6192 受忍限度と環境基準の関係について触れるものである。
6193
6194 これが実現できている
6195 程度により,
6196 「優秀」と「良好」は区別される。
6197
6198 「一応の水準」といえるのは,
6199 論ずべ
6200 き問題点が何とか把握できているものである。
6201
6202 「不良」な答案は,
6203 それすらなされて
6204 いないものである。
6205
6206
6207 【学習者及び法科大学院教育に求めるものについて】
6208 第1に,
6209 環境法の重要な論点についての正確な理解は,
6210 解答の大前提になるもので
6211 ある。
6212
6213 設例を踏まえて,
6214 それを実際に「使える」ようにする力を,
6215 日頃の学習におい
6216 て身に付ける工夫が必要である。
6217
6218
6219 第2に,
6220 裁判例について,
6221 ややもするとそのキーワードのみを記憶してそれを過剰
6222 拡大的に適用する傾向がある。
6223
6224 基本的な判例について正確に認識し,
6225 その射程距離等
6226
6227 - 57 -
6228
6229 について周到な理解をしておくことが必要である。
6230
6231
6232 第3に,
6233 当然のことであるが,
6234 問題文を正確に把握し,
6235 分析する力を養うことが必
6236 要である。
6237
6238
6239 第4に,
6240 本年度の採点実感で指摘している内容の幾つかは,
6241 過年度の試験の採点実
6242 感において指摘されているものである。
6243
6244 環境法の学習及び法科大学院における教育に
6245 当たっては,
6246 そうした資料をも踏まえて取り組むことが望まれる。
6247
6248
6249
6250 - 58 -
6251
6252 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(公法系))
6253
6254
6255 出題の趣旨等
6256 既に公表されている出題の趣旨(「平成24年司法試験論文式試験問題出題趣旨【国
6257 際関係法(公法系)科目】」)に記載したとおりである。
6258
6259
6260
6261
6262
6263 採点方針
6264 国際関係法(公法系)については,
6265 従来と同様に,
6266 @国際公法の基礎的な知識を習
6267 得し,
6268 かつ,
6269 設問に関係する国際公法の基本的な概念,
6270 原則・規則並びに関係する理
6271 論や国際法判例を正確に理解できているか,
6272 A各設問の内容を理解し必要な国際法上
6273 の論点に触れているか,
6274 問題の事例に対する適切な考察がなされているか,
6275 B答案の
6276 法的構成がしっかりしており,
6277 かつ論理的な文章で適切な理由付けがなされているか,
6278
6279 といった点を重視している。
6280
6281
6282
6283
6284
6285 採点実感等
6286 第1問
6287 設問1については,
6288 条約法に関するウィーン条約(以下「条約法条約」という。
6289
6290
6291 の留保の定義に依拠して,
6292 留保と留保に該当しない解釈宣言の差異を正確に理解して
6293 いる答案が多数を占めた。
6294
6295 しかし,
6296 海洋法に関する国際連合条約(以下「海洋法条約」
6297 という。
6298
6299 )の第309条及び第310条が留保及び宣言についてどのように定めてい
6300 るかについて考察していない答案も相当数あり,
6301 答案のでき具合が大きく分かれた。
6302
6303
6304 海洋法条約における留保禁止を踏まえて,
6305 X国の宣言が同国に対する海洋法条約の法
6306 的効力を排除又は変更することを意図したものであれば,
6307 それは同条約第310条に
6308 違反する留保に該当し無効だと指摘する答案は比較的多かった。
6309
6310 しかし,
6311 X国の宣言
6312 が留保としても有効であるとした答案も一定数存在した。
6313
6314 他方,
6315 X国の宣言が同条約
6316 第310条に基づき留保の効果を持たない解釈宣言である場合に,
6317 その国際法上の法
6318 的効果について論述した答案は,
6319 必ずしも多くなかった。
6320
6321
6322 設問2のうちA号に対する措置について,
6323 領海には沿岸国の主権が及ぶからX国の
6324 措置は当然適法であるとだけ記述した答案が意外と多かったが,
6325 これでは不十分であ
6326 る。
6327
6328 外国船舶の無害通航権及び沿岸国の法令制定・執行権に触れ,
6329 A号の行為の無害
6330 通航該当性,
6331 X国の法令執行権について論述できた答案は,
6332 約半数にとどまった。
6333
6334
6335 号に対する措置についても,
6336 海洋法条約第33条第1項(a)及び(b)の規定をただ
6337 引用するだけで直ちにX国接続水域内での同国の措置は適法だとする論述が少なくな
6338 かった。
6339
6340 他方,
6341 同条約第33条第1項(a)及び(b)の規定が通関上の法令違反の防
6342 止又は処罰につき沿岸国に接続水域内でどのような措置を採る権限を付与しているか
6343 を解釈した上で,
6344 B号の事案を分析した答案は約半数であった。
6345
6346 さらに,
6347 海洋法条約
6348 第111条第1項第2文の解釈も含め,
6349 接続水域における沿岸国の管轄権については
6350 条約の解釈及び国家実行が分かれていることに言及した上で,
6351 X国の採った措置の合
6352 法・違法性を詳細に論じた答案も若干存在した。
6353
6354 C号に対する措置については,
6355 第2
6356 サイガ号事件国際海洋法裁判所判決を踏まえて,
6357 X国の措置を違法とする答案が多数
6358 であったが,
6359 海洋法条約第56条,
6360 第58条第3項及び第60条第1項の解釈に踏み
6361 込み根拠を説明できていたものは,
6362 少数にとどまった。
6363
6364
6365
6366 - 59 -
6367
6368 設問3については,
6369 国内的救済原則とは何かが説明できていない答案も相当数あっ
6370 たが,
6371 全体としては,
6372 同原則の趣旨と内容を説明した上で,
6373 国際違法行為の結果直接
6374 国家の権利が侵害された場合には,
6375 国内的救済原則は適用されないことを指摘する答
6376 案が多数を占めた。
6377
6378 なお,
6379 答案の中には,
6380 インターハンデル事件国際司法裁判所(I
6381 CJ)判決等にも触れて,
6382 同原則の適用いかんは国際請求が私人の被った損害を優越
6383 的基礎として提出されるか否かにあることを指摘し,
6384 Y国の請求の内容を分析して同
6385 国の請求はY国の権利自体に対する侵害を基礎とするものであったと丁寧に論じたも
6386 のも,
6387 少数ではあるが存在した。
6388
6389
6390 答案は個々に異なり一概に論ずることはできないが,
6391 第1問の採点結果から見て,
6392
6393 答案の「優秀」,
6394 「良好」,
6395 「一応の水準」,
6396 「不良」のイメージを示せば以下のようであ
6397 る。
6398
6399
6400 優秀:各設問に関係する国際法規則についての基礎知識が正確であり,
6401 事例に即して
6402 国際法上の論点につき的確な説明がなされていることがまず必要である。
6403
6404 その上で,
6405
6406 事例の事実をどのように整理・分析したか,
6407 関連国際法規則を当該事実に適用すると
6408 いかなる法的結果が導かれるかについて,
6409 論理的かつ説得力ある(適切な国際法判例
6410 への言及を含む。
6411
6412 )論述がなされている答案。
6413
6414 例えば,
6415 設問1であれば,
6416 留保の定義,
6417
6418 留保と解釈宣言の異同,
6419 留保の許容性などに関する条約法条約の基礎知識を前提とし
6420 て,
6421 海洋法条約が留保並びに宣言についてどのような定めを置いているかを,
6422 その解
6423 釈を含めて的確に論述できていることが必要である。
6424
6425 その上で,
6426 X国の宣言をどのよ
6427 うに性格付けるか,
6428 また,
6429 その場合にX国の宣言の法的効果は何かについて論理的か
6430 つ説得的な論述ができていること。
6431
6432 設問1ないし設問3の全てについて,
6433 こうした論
6434 述ができた答案が第1問全体としての優秀答案である。
6435
6436
6437 良好:例えば,
6438 設問1と設問2については優秀答案と共通する論述がなされているに
6439 もかかわらず,
6440 設問3が優秀答案の論述基準に達しなかったような答案である。
6441
6442 また,
6443
6444 各設問について優秀答案の論述基準の多くの要素を満たしているものの,
6445 設問に関連
6446 して触れるべき論点に一部欠落があるもの,
6447 論点としては触れながらも理由付けを含
6448 めて論述に不十分さが若干あるもの,
6449 事例への当てはめが一応なされてはいるが事実
6450 に対する検討が浅いものなど,
6451 幾つかの点において優秀答案に比べて劣る答案。
6452
6453 例え
6454 ば,
6455 設問2において,
6456 A号に対するX国の措置については海洋法条約の関連条文を適
6457 切に指摘してそれらの解釈論を展開しながら,
6458 他方B号に対するX国の措置について
6459 は同条約第33条の規定につき十分な解釈論が展開できていないような,
6460 論述にある
6461 程度濃淡が認められるような答案。
6462
6463
6464 一応の水準:例えば,
6465 設問1と設問2では良好な答案になっているが,
6466 設問3で論述
6467 が不十分な水準にとどまった答案である。
6468
6469 あるいは,
6470 国際法の基礎知識が一応はあり,
6471
6472 それに基づく事例への当てはめも基本的にはできているが,
6473 良好な答案の水準に比べ
6474 て,
6475 必要な論点に触れられていない,
6476 論拠が十分説明されていない,
6477 事例への当ては
6478 めの説明が不十分であるなどの箇所が幾つかの点で認められる答案。
6479
6480 例えば,
6481 設問2
6482 のA号に対するX国の措置について,
6483 X国はその領海に対して主権を行使できるから
6484 立法管轄権も執行管轄権も有するとのみ述べて,
6485 領海内における外国船舶の無害通航
6486 権及び沿岸国の管轄権について必要な説明を欠くような論述の欠陥が幾つかの箇所に
6487 おいて認められる答案。
6488
6489
6490
6491 - 60 -
6492
6493 不良:設問内容や設問の趣旨が理解できていない答案。
6494
6495 設問に関係する基本的な国際
6496 法規則について正確な基礎知識を有していないと認められる答案。
6497
6498 結論のみを書いて
6499 根拠付けも,
6500 関連する国際法規則の説明もほとんどなされていない答案など。
6501
6502 設問1
6503 から設問3の全てにわたってほとんど書けておらず,
6504 国際公法を習得したといえるか
6505 疑問と思われるレベルの答案も,
6506 少数ながら存在した。
6507
6508
6509 第2問
6510 設問1については,
6511 全体的によくできている答案が多かった。
6512
6513 主権免除の意味,
6514
6515 対免除主義から相対(制限)免除主義への移行とその背景,
6516 主権的行為と業務管理行
6517 為を区別する際の基準としての行為目的説と行為性質説など,
6518 主権免除の基本的知識
6519 が修養されていることが分かる答案が多かった。
6520
6521 ただ,
6522 主権免除の根拠,
6523 歴史等基本
6524 をなす論点が丹念に論じられているものと,
6525 触れるべき論点に触れられていなかった
6526 り,
6527 十分に論じられていない答案もあった。
6528
6529 よくできている答案は,
6530 事例への当ては
6531 めも十分になされていた。
6532
6533
6534 設問2については,
6535 執行管轄権と裁判管轄権との一応の区別はほとんどの答案でで
6536 きていた。
6537
6538 しかし,
6539 よくできている答案とそうでない答案とに分かれる傾向にあった。
6540
6541
6542 よくできている答案は,
6543 裁判権免除と強制執行の免除との区別を明確にした上で,
6544
6545 判権免除が認められない場合に強制執行の免除をいかに考えるかを論じているものが
6546 多かった。
6547
6548 ただし,
6549 外交関係に関するウィーン条約(以下「ウィーン外交関係条約」
6550 という。
6551
6552 )の関連規定の解釈論のみを論じた答案が多く,
6553 強制執行が,
6554 主権に与える
6555 影響という点を論ずる答案は,
6556 余り多くはなかった。
6557
6558 この点は残念であった。
6559
6560 強制執
6561 行の問題を,
6562 国家管轄権の一般的問題として捉える答案も散見されたが,
6563 その結果,
6564
6565 裁判判決の強制執行の問題の本質からは,
6566 外れているものもあった。
6567
6568 事例への当ては
6569 めという点では,
6570 よくできている答案は,
6571 本問で強制執行の対象となる財産の性質(公
6572 館の業務に使用するかどうか等)にも言及し,
6573 これを考慮して解答していた。
6574
6575
6576 設問3については,
6577 十分な解答をしている答案と,
6578 そうとはいえない解答にとどま
6579 る答案とに分かれる傾向にあった。
6580
6581 公館の不可侵の問題であることはほとんどの答案
6582 で理解されていた。
6583
6584 十分な解答をしている答案は,
6585 本問が外交特権免除の問題であり,
6586
6587 その背景・根拠から説き起こし,
6588 事例への当てはめも行った上で,
6589 解答していた。
6590
6591
6592 かし,
6593 この種の答案は多くはなかった。
6594
6595 他方で,
6596 ウィーン外交関係条約の条文を解答
6597 に引用し,
6598 公館とは何かを論じて結論を導く答案もしばしばあったが,
6599 不可侵の根拠
6600 を考慮しながら施設の性質,
6601 事件処理の必要性等の本問の具体的状況を検討する必要
6602 がある。
6603
6604
6605 設問4については,
6606 設問1との関連で,
6607 設問1がよくできている場合には,
6608 設問4
6609 も,
6610 おおむねよくできている答案であった。
6611
6612 主権免除を論ずるに当たり,
6613 軍隊がいか
6614 なる性質を持つかについて,
6615 論じている答案は多くはなかった。
6616
6617 事例への当てはめの
6618 点で,
6619 本問のような状況をいかに考えるかを,
6620 十分に論じてほしかったのであるが,
6621
6622 そのような答案は余り多くはなかったことが残念である。
6623
6624
6625 全体としては,
6626 従来もそうであるが,
6627 個々の設問について,
6628 国際法上の論点を導き
6629 出し,
6630 それぞれの論点について一応の論述をするところまではおおむねできている答
6631 案が多かった。
6632
6633 一方,
6634 設問における事実状況への当てはめという点では,
6635 事実状況を
6636 深く広く考慮した上で,
6637 認定された事実に国際法規則を適用したと評価できるような
6638
6639 - 61 -
6640
6641 十分な論証がされた答案は余り多くなかった。
6642
6643
6644 優秀:設問についての国際法の基礎知識を備えており,
6645 論理的に,
6646 論点を導き出して,
6647
6648 それぞれの論点について論述を行っている答案。
6649
6650 例えば,
6651 設問1で主権免除に関する
6652 論点,
6653 主権免除の意義,
6654 主権免除の範囲,
6655 主権免除の範囲を決める基準が論理的に導
6656 き出されており,
6657 それぞれについて論じた上で,
6658 事例に当てはめて,
6659 設問の事実状況
6660 について,
6661 受験者が何をどう考慮したかが十分に論じられている答案。
6662
6663
6664 良好:設問についての国際法の基礎知識を備えており,
6665 一応は論点を導き出すことが
6666 できている答案。
6667
6668 けれども,
6669 論理的に論点が導き出せないでいたり,
6670 論点についての
6671 論述が十分にはなされていない答案。
6672
6673 例えば,
6674 設問1で,
6675 主権免除の意義,
6676 主権免除
6677 の範囲とそれが変更してきた背景,
6678 主権免除の範囲を決定する基準,
6679 といったように
6680 論理的に論点が整理されていない答案。
6681
6682 また,
6683 事例への当てはめが行われてはいるが,
6684
6685 受験者による事実状況の考慮が十分でなかったり,
6686 論証が十分ではない答案。
6687
6688
6689 一応の水準:国際法の基礎知識が一応はあるが,
6690 十分ではなく,
6691 論述において,
6692 必要
6693 な論点が幾つか欠如している答案。
6694
6695 例えば,
6696 設問1で,
6697 主権免除の範囲とそれを決定
6698 する基準についての論点が明確にされておらず,
6699 性質で判断するとか,
6700 目的で判断す
6701 るといった論述だけをしているような答案。
6702
6703
6704 不良:設問の事例説明や,
6705 設問を答案に書き出し,
6706 あるいは,
6707 関連する条約の条文を
6708 長く引用して,
6709 それらに紙幅を割いてしまい,
6710 論証が不足している答案や,
6711 自らの言
6712 葉で論証が行われていない答案。
6713
6714 例えば,
6715 設問3でウィーン外交関係条約を長く引用
6716 して,
6717 十分な説明や論証なく条約文言に設問の事例を当てはめることに終始して解答
6718 している答案。
6719
6720
6721
6722
6723 法科大学院教育に求めるもの
6724 法科大学院教育に求めるというよりも,
6725 採点して感じた答案の傾向に1,
6726 2触れて
6727 おきたい。
6728
6729 第1に,
6730 国際法に関する基礎的な知識,
6731 すなわち国際法の基本的な概念や
6732 規則・原則について,
6733 その内容を正確に理解することの重要性を改めて強調したい。
6734
6735
6736 知識としては覚えているが,
6737 基本的な規則・原則の趣旨及び根拠などについて十分理
6738 解できていないと思われる答案が実際には相当数ある。
6739
6740 第2に,
6741 これと関連するが,
6742
6743 設問に対して結論のみを書いてその理由付けをほとんどしていない答案や,
6744 論ずべき
6745 解釈上の問題や論点があるにもかかわらず,
6746 それらに触れることなく,
6747 関連する国際
6748 法規則を設問の事例に適用することのみに目を奪われている答案が意外に多かった。
6749
6750
6751 法科大学院の院生なら,
6752 規則の解釈にせよ,
6753 具体的事例への当てはめにせよ,
6754 根拠付
6755 けをおろそかにしない姿勢が欲しい。
6756
6757
6758
6759
6760
6761 その他
6762 ごく少数ではあるが,
6763 判読が極めて困難な答案も見受けられた。
6764
6765 判読困難であるこ
6766 とが受験生の有利に働くことはあり得ないのであるから,
6767 文字及び文章は読み手の立
6768 場に立って読みやすい答案を書くように心掛けてほしい。
6769
6770
6771
6772 - 62 -
6773
6774 平成24年司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(私法系))
6775
6776
6777 出題の範囲等
6778 本年度の国際関係法(私法系)の問題は,
6779 狭義の国際私法(抵触法),
6780 国際民事訴
6781 訟法及び国際取引法から出題されている。
6782
6783 各問題の出題の趣旨については,
6784 既に法務
6785 省ホームページにて公表済みである。
6786
6787
6788
6789
6790
6791 採点の方針と基準等
6792 採点の方針は,
6793 昨年と異ならない。
6794
6795 関連する個々の法領域の基本的な知識と理解を
6796 基にして論理的に破綻のない推論により一定の結論が導けるか。
6797
6798 これを,
6799 採点の基本
6800 的な指針としている。
6801
6802 設問に応じて力点こそ異なるが,
6803 @個々の法規範の趣旨を理解
6804 しているか,
6805 A複数の法規範を視野に入れながら,
6806 相互の連関を理解しているか,
6807 B
6808 これらの点の理解に基づき,
6809 設例の事実関係等から適切に問題を析出できるか,
6810 C析
6811 出された問題に対して関連する法規範を適切に適用できるかを採点の基準とした。
6812
6813
6814 これら4点をおおむねクリアーしている答案が「一応の水準」に達しているといえ
6815 よう。
6816
6817 全ての設問において上記@及びAの点に関する理解を答案に反映させ,
6818 かつ,
6819
6820 法規範を丁寧に当てはめていることが「良好」又は「優秀」答案となるための必要条
6821 件であり,
6822 さらに,
6823 より的確かつ説得的に論じられている答案が「優秀」答案と評価
6824 される。
6825
6826
6827 なお,
6828 学説が分かれている論点については,
6829 結論それ自体によって得点に差を設け
6830 ることはせず,
6831 自説の論拠を十分に示しつつ,
6832 これを論理的に展開できているか否か
6833 を基準にして成績評価をした。
6834
6835
6836
6837
6838
6839 採点実感
6840 多くの答案は,
6841 明文の規定の文言を拾いながら,
6842 これを事実関係に適用しようと試
6843 みていた。
6844
6845 解答に直結する規定を指摘できず,
6846 その結果として大きく減点された答案
6847 は少なかった。
6848
6849 成績評価の差異は,
6850 規定の理解の正確さや規定相互の関係についての
6851 理解の深度等に起因しているように見える。
6852
6853
6854 (1) 第1問について
6855 設問1(1)は,
6856 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
6857
6858 )第5条の
6859 解釈・適用を問うものである。
6860
6861 本条の問題であることを指摘した後に,
6862 日本の裁判
6863 所は被後見人の住所に基づき管轄権を有すること,
6864 管轄権を有する日本の裁判所は
6865 日本法を適用する旨の説明が要求される。
6866
6867 日本にある本人の住所が管轄原因である
6868 点を言及しない答案がかなりあった。
6869
6870
6871 設問1(2)について,
6872 多くの答案は正しく通則法第35条第2項第2号の規定
6873 を適用していた。
6874
6875 しかし,
6876 同法第35条は同法第5条といかなる関係に立つのか,
6877
6878 同法第35条第2項第2号の規定の趣旨は何かについて言及しないものが相当数あ
6879 った。
6880
6881
6882 設問1(3)について,
6883 多数の答案は正しく通則法第29条の問題として性質決
6884 定し,
6885 認知に適用され得る準拠法が選択的な関係にあることを指摘していた。
6886
6887 他方
6888 で,
6889 設問では認知者の本国法と子の本国法が一致しているにもかかわらず,
6890 同法第
6891 29条第1項後段と同条第2項後段に従い子の本国法を重ねて適用する答案が多数
6892
6893 - 63 -
6894
6895 あった。
6896
6897
6898 設問2について,
6899 通則法第29条第3項の規定を看過している答案が少なくなか
6900 った。
6901
6902 もっとも,
6903 選択的な関係にある連結基準がいずれも外国法を本国法として指
6904 示していることを確定している限り,
6905 この点は大きな減点対象とはしていない。
6906
6907
6908 案の多くは,
6909 当該外国の国際私法規定によると日本法が指定され得ることから,
6910
6911 則法第41条に従った反致の可能性について言及していた。
6912
6913 反致の可否についてい
6914 かなる結論を導いていても,
6915 成績評価には影響しない。
6916
6917 論述の展開を重要視した。
6918
6919
6920 この観点から,
6921 反致を認めない立場を採る答案については,
6922 死後認知を否定する結
6923 果が同法第42条の公序に反するか否かについて触れたものには加点をした。
6924
6925
6926 (2) 第2問について
6927 設問1(1)について,
6928 多数の答案は,
6929 民事訴訟法第3条の3第5号に基づき日
6930 本の裁判所の管轄権を肯定していた。
6931
6932 同条同号にいわゆる「日本における業務」と
6933 は日本における事業の一環として行われる個別取引であるとの理解の下に,
6934 有意な
6935 事実関係を指摘する答案を期待していたが,
6936 「事業」と「業務」を混同していると
6937 見られる答案が相当数あった。
6938
6939 なお,
6940 同法第3条の2第3項の定める一般的な管轄
6941 原因がないことの確認をしていない答案がかなりの数に上った。
6942
6943
6944 設問1(2)は,
6945 国際物品売買契約に関する国際連合条約の適用範囲に関する問
6946 題である。
6947
6948 ほぼ全ての答案が正しく当該条約第1条第1項(b)号を適用していた。
6949
6950
6951 関連規定の当てはめの丁寧さが評価を分けたといえよう。
6952
6953
6954 設問2について,
6955 大多数の答案は通則法第11条第1項を指摘し,
6956 消費者保護の
6957 ための強行規定の適用条件を設問の事実関係に当てはめていた。
6958
6959 同条第3項の適用
6960 の問題と捉える答案も排斥されない。
6961
6962 同条第6項を含めた同条の適用の丁寧さが評
6963 価を分けたといえよう。
6964
6965 なお,
6966 消費者の意思表示がないときにもP法Q条の適用を
6967 肯定しようとする答案も散見されたが,
6968 そのような処理を認める場合には,
6969 (消費
6970 者契約であるにもかかわらず)通則法第11条が適用されないことの理由を十分に
6971 説明して欲しかった。
6972
6973
6974
6975
6976 今後の出題について
6977 今後も,
6978 狭義の国際私法,
6979 国際民事訴訟法及び国際取引法の各分野の基本的事項を
6980 組み合わせた事例問題を出題することになると考えられる。
6981
6982
6983
6984
6985
6986 今後の法科大学院教育に求めるもの
6987 民事訴訟法第3条の2以下の規定等が施行されたのは平成24年4月1日である。
6988
6989
6990 それだけに,
6991 立法理由の理解は法曹となるべき者に不可欠のように思われる。
6992
6993 通則法
6994 上の規定もまた施行からそれほど時間が経過しているわけではなく,
6995 さらに,
6996 その多
6997 くは内容的に抽象的であり,
6998 規定の趣旨が一見して明白というわけではない。
6999
7000 立法理
7001 由や規定の趣旨が何かを正確に把握した上で,
7002 解釈論を展開できる能力を養成するよ
7003 うお願いしたい。
7004
7005
7006
7007 - 64 -
7008
7009