1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
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3 - 1 -
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5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔
7 〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,3:4:3〕)
8 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
9 T
10 【事実】
11 1.甲土地は,平成22年5月当時,Aが所有しており,Aを所有権登記名義人とする登記がさ
12 れていた。また,乙土地は,その頃,Bが所有しており,Bを所有権登記名義人とする登記が
13 されていた。
14 2.Bは,医療機器の製造と販売を主たる事業としていたが,事業用の建物を賃貸して収益を得
15 たいとも考えていた。Bは,事業用の建物を所有するのには甲土地が立地として適しているの
16 に対し乙土地が必ずしも適さないことから,乙土地を売却処分して甲土地を取得したいと考え,
17 Aとの間で甲土地の売買について交渉を試みた。この交渉において,Bは,Aに対し,代金を
18 支払うための資金を乙土地の売却処分により調達する予定であることを説明し,Aは,その事
19 情に理解を示すとともに,代金債務の担保として適当な連帯保証人を立てることを求めた。
20 3.この交渉の結果として,A及びBは,平成22年6月11日,代金を6000万円として甲
21 土地をAがBに売る旨の契約を締結した。この契約においては,代金のうち1500万円は同
22 月中にBがAに支払うこと,残代金4500万円の支払の期限は平成22年8月10日とする
23 こと並びに代金の全部が支払われた後に甲土地についての所有権の移転の登記及び甲土地の引
24 渡しをするものとすることが約された。
25 4.また,保証人を立てることについて,Bは,Aに対し,Bの友人であるCを連帯保証人とす
26 ることを提案した。Bは,このことについてCの了解を得ていなかったが,Bと長く交友関係
27 があったCに事情を説明すれば,甲土地を入手するためにCが協力をしてくれるものと想定し
28 ていた。
29 Aは,Bの提案を了承し,【事実】3の売買契約が締結された平成22年6月11日,A及
30 びBは,Cがその売買契約に係る代金債務の連帯保証人になる旨の書面を作成した。その書面
31 は,2通作成され,それらの内容は同じものである。すなわち,そこには,【事実】3の売買
32 契約に基づきBが負う代金債務についてCが連帯して保証する旨が記され,A及びBが署名し,
33 Bの署名には,BがCの代理人である旨が示されていた。A及びBは,この書面をそれぞれ1
34 通ずつ持ち帰ることとした。Bは,この書面を作成する際,Cが連帯保証人になることについ
35 て,Cから代理権を授与されてはいないが,Cの追認を速やかに得たい,とAに説明した。
36 5.Bは,平成22年6月15日,Cと会い,Cに対し,【事実】4の連帯保証の書面を示し,
37 その書面に記されているとおり,【事実】3の売買契約に基づきBが負う代金債務についてC
38 が連帯して保証する旨の契約をしたこと,及び連帯保証人になることについてのCの追認を後
39 日に得たいとAに告げたことを説明した。その上で,Bは,Cに対し,Cを連帯保証人にする
40 旨の契約をしたことを認めて欲しい,と要請した。Cは,これを承諾して,その席からAに電
41 話をし,連帯保証人になることに異存はない旨を告げた。
42 6.【事実】3の売買契約の代金のうち1500万円は,平成22年6月25日,BがAに支払
43 った。しかし,残代金の支払のためにBが進めた乙土地の売却処分は実現しないまま,やがて
44 平成22年8月10日が到来した。そこで,Aは,同月18日,Bに対し残代金4500万円
45 を速やかに支払うよう求めるとともに,Cに対し同じ額の支払を求めた。
46 これに対し,Cは,AC間の連帯保証契約は書面でされておらず,その効力を生じないから
47 Aの求めに応ずるつもりがないことを告げた。
48
49 - 2 -
50
51 〔設問1〕
52
53 【事実】1から6までを前提として,次の問いに答えなさい。
54
55 Aが,Cに対し,保証債務の履行を請求するには,どのような主張をする必要があるかを検討
56 し,また,その主張に含まれる問題点を踏まえてその当否を論じなさい。
57 U
58
59 【事実】1から6までに加え,以下の【事実】7から16までの経緯があった。
60
61 【事実】
62 7.その後,Bは,乙土地の売却について目途がついたことから,Aと話し合い,Aとの間にお
63 いて,【事実】3の売買契約の残代金を支払う期限を平成22年12月15日とすることに合
64 意した。Bは,乙土地の売却処分によって得た資金を用い,平成22年12月10日,残代金
65 をAに支払った。同日,甲土地はAからBへ引き渡され,また,同月18日,甲土地について
66 AからBへ売買を原因とする所有権の移転の登記がされた。
67 8.そこで,Bは,甲土地上に建物を建設するため,銀行であるD及び建設業を営む株式会社で
68 あるEと折衝を始めた。
69 まず,建設資金の融資をBから要請されたDは,平成23年1月頃,甲土地及びその上に建
70 設される建物について第1順位の抵当権の設定を受けることを条件として,Bに対し,建物の
71 建設資金として8000万円を融資する旨の意向を示した。
72 また,B及びEは,平成23年2月28日,Eが甲土地の上に建物を建設し,これに対する
73 報酬としてBがEに1億3000万円を支払う旨の請負契約を締結した。
74 9.【事実】8の請負契約に基づき,Eは,甲土地上に建物を建設し,平成23年8月31日,
75 Bに対し,この建物(以下「丙建物」という。)を引き渡した。同日,DはBに8000万円
76 を貸し渡し,Bは,Bが別に用意した5000万円を加え,請負の報酬として1億3000万
77 円をEに支払った。
78 10.また,DによるBへの金銭の貸渡しに係る消費貸借の返済条件は,毎月78万円の元利均等
79 払で期間は10年とされた。また,この貸金の返済について2回の債務不履行がある場合には
80 Bは期限の利益を失い,返済されていない額の全部を直ちにDに返済することも約された。
81 そして,B及びDは,この消費貸借に基づく貸金債権を担保するため,平成23年8月31
82 日,甲土地について抵当権を設定する旨の契約を締結した。これに基づき,同日,甲土地につ
83 いて,Dを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされた。この抵当権に優先する担保権の登
84 記はされていない。
85 丙建物は,平成23年9月14日,Bを登記名義人とする所有権の保存の登記がされた。同
86 日,B及びDは,上記の消費貸借に基づく貸金債権を担保するため,丙建物について抵当権を
87 設定する旨の契約を締結し,これに基づき,Dを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされ
88 た。この抵当権に優先する担保権の登記はされていない。
89 11.Bは,Fとの間において,平成23年10月1日,丙建物の1階部分について,コーヒーシ
90 ョップとして使用することを目的とし,賃料を月額40万円として,これをFに賃貸する旨の
91 契約を締結した。この賃貸借契約においては,各月の賃料を前月の25日に支払うものとする
92 ことが約された。この賃貸借契約に基づき,同日,Bは,Fに対し丙建物の1階部分を引き渡
93 した。
94 12.Bは,Gとの間において,平成23年11月1日,丙建物の2階部分について,学習塾とし
95 て使用することを目的とし,賃料を月額30万円として,これをGに賃貸する旨の契約を締結
96 した。この賃貸借契約においては,各月の賃料を前月の25日に支払うものとすることが約さ
97 れた。この賃貸借契約に基づき,同日,Bは,Gに対し丙建物の2階部分を引き渡した。
98 13.Fは,【事実】11の賃貸借契約の締結に当たり,丙建物の1階部分の内装について,飲食店
99 の内装工事を専門とし,内装業を営むHに相談し,Bから丙建物の設計図を取り寄せるなどし
100 て,Hと共に内装の仕様及び施工方法を検討した。その上で,Fは,その検討結果の概要をB
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102
103 に説明し,それに従いHに内装工事を行わせることについてBの承諾を得た。これを受けて,
104 Fは,平成23年10月3日,Hに内装工事を発注し,同月25日に工事が完了した。そこで,
105 Fは,平成23年11月1日,丙建物の1階部分において,営業を始めた。
106 14.平成24年2月末頃,丙建物の1階部分で雨漏りが発生するようになった。
107 15.Fから雨漏りを防ぐ措置を求められたBは,Eに調査を依頼した。この調査の結果,
108 【事実】
109 13の工事の際にHが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせたことが雨漏りの原因であることが
110 明らかとなった。
111 16.Bは,このままでは丙建物の維持に支障が生じると考え,Eに【事実】15の亀裂の修繕を発
112 注し,その修繕の工事は,平成24年3月20日に完了した。そこで,Bは,それに対する報
113 酬として100万円をEに支払った。このBがEに支払った報酬の額は,【事実】15の亀裂の
114 修繕に要する工事の対価として,適正なものである。
115 〔設問2〕
116
117 【事実】1から16までを前提として,Bは,【事実】16においてEに支払った報酬に
118
119 相当する金銭の支払をFに対し求めるために,どのような主張をすることが考えられるか。また,
120 それに対し,Fは,どのような主張をすることが考えられるか。それぞれの主張の根拠を説明し,
121 いずれの主張が認められるかを検討しなさい。
122 V
123
124 【事実】1から16までに加え,以下の【事実】17及び18の経緯があった。
125
126 【事実】
127 17.その後,Bは,医療機器の製造販売の事業に失敗して,資金が不足するようになり,Dに対
128 する平成24年6月分及び7月分の貸金の返済について遅滞が生じた。そこで,Dは,抵当権
129 に基づく物上代位によって貸金の回収を図ることを考え,差し当たり丙建物の2階部分の賃料
130 について,丙建物を目的とする【事実】10の抵当権に基づく物上代位による貸金の回収を始め
131 ることとした。また,丙建物の1階部分の賃料については,【事実】16の修繕費用をめぐる問
132 題が解決してから,同様の手順を採ることを考えた。
133 そこで,Dは,平成24年9月18日,抵当権に基づく物上代位権の行使として,BがGに
134 対して有する賃料債権のうち,平成24年9月25日以降に弁済期が到来する同年10月分か
135 ら平成25年9月分までについて差押えの申立てをした。この差押えに係る差押命令は,平成
136 24年9月21日,B及びGに送達された。
137 18.この送達がされる前の平成24年9月初旬,大型で強い台風が襲い,丙建物の2階部分は,
138 暴風のため窓が損傷し,外気が吹き込む状態となった。そのままでは丙建物の2階部分で児童
139 や生徒に対し授業をすることにも支障が生ずるため,Gは,すぐにこの状況をBに知らせよう
140 としたが,Bの所在を把握することができなかった。
141 Gは,やむなくEに連絡を取って相談をし,E及びGは,平成24年9月8日,Eが丙建物
142 の2階部分の修繕をし,それに対する報酬としてGがEに対し30万円を支払うことを約した。
143 この報酬の額は,修繕に要する工事の対価として,適正なものである。翌9日にEがこの修繕
144 を完了したことから,同日,Gは,Eに対し30万円を支払った。
145 〔設問3〕
146
147 【事実】1から18までを前提として,次の問いに答えなさい。
148
149 平成24年12月7日,Dは,同年10月分から同年12月分までの賃料(それぞれ同年9月
150 25日,同年10月25日及び同年11月25日に弁済期が到来したもの)の合計額である90
151 万円の支払をGに対して求めたが,Gは,
152 【事実】18の報酬の相当額である30万円を差し引き,
153 60万円のみを支払うと主張した。これに対して,Dは,「まず,Gが,報酬の相当額を支払う
154 ようBに対し請求する権利を有することについて,説明して欲しい。また,仮にそのような権利
155 があるとしても,判例によれば,それと賃料債権を相殺することをもって,Dに対抗することは
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158 できないから,GはDに対して90万円全額の支払義務を負うはずである。」と反論した。Dが
159 依拠する判例とは,下記に【参考】として示すものである。
160 このDの反論を踏まえた上で,Gがどのような主張をしたらよいか,理由を付して説明しなさ
161 い。
162 【参考】
163 最高裁判所第三小法廷平成13年3月13日判決・最高裁判所民事判例集55巻2号363頁
164 〔事案の概要〕
165 PがQに対して負う貸金債務を担保するため,Pが所有する建物について根抵当権が設定され,そ
166 の登記がされた後,当該建物の1階部分について,Pを賃貸人とし,第三者Rを賃借人とする賃貸借
167 契約が締結され,3150万円の保証金がRからPに預託された。
168 その後,P及びRは,当該建物の1階部分について,それまでの賃貸借契約をいったん解約し,改
169 めて賃料を月額33万円とする賃貸借契約を締結し,その際,保証金を330万円に減額した。その
170 結果,Pは,Rに対し差額の2820万円の返還債務を負った。しかし,この返還債務をPが履行す
171 ることができなかったため,PがRに対して負う保証金返還債務の一部については,以後3年間,R
172 がPに対して負う賃料債務と,賃料支払期日ごとに対当額で相殺することがPR間で合意された。
173 さらにその後,Qは,上記の根抵当権に基づく物上代位権の行使として,PがRに対して有する賃
174 料債権のうち,差押命令送達時以降900万円に満つるまでのものを差し押さえ,差押命令がP及び
175 Rに送達された。
176 そして,Qは,Rに対し,5か月分の賃料の支払を求めて訴えを提起したが,これに対して,Rは,
177 Pとの相殺合意に基づく相殺を主張して争った。
178 第1審及び第2審では,いずれもQが勝訴し,Rの上告を受けた最高裁判所は,次のとおり判示し
179 て上告を棄却する判決を言い渡した。
180 〔判旨〕
181 「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,抵当不動産の賃借人は,抵当権
182 設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,抵当権者
183 に対抗することはできないと解するのが相当である。けだし,物上代位権の行使としての差押えのさ
184 れる前においては,賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが,上記の差押えがされた後に
185 おいては,抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ,物上代位により抵当権
186 の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,抵当
187 権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺すること
188 に対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理
189 由はないというべきであるからである。」
190
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193 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
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197 [民事系科目]
198 〔第2問〕(配点:100〔
199 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,2:5:3〕)
200 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
201 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)の定款は,別紙のとおりである。
202 甲社の発行済株式の総数は1000株であり,その資本金の額は4億円である。甲社は,会社
203 法上の大会社ではない。
204 2.甲社は,亡Pが創業し,その妻Q,長男A,二男B,三男Cらと共に発展させてきた会社であ
205 り,株主構成としては,Qが120株,Aが400株,Bが250株,Cが150株を有し,そ
206 のほか,Aの長男Dが30株,亡Pの弟Eが50株を有していた。
207 甲社における取締役はA,B,C及びQの4人であり,代表取締役社長はAであった。これら
208 の取締役は,いずれも平成23年3月に開催された定時株主総会(以下「平成23年総会」とい
209 う。)で再任され,その任期は,平成24年12月31日に終了する事業年度に関する定時株主
210 総会の終結の時までであった。
211 3.平成23年総会においては,取締役全員の報酬の総額を年6000万円以内とする旨の決議が
212 され,その直後の取締役会において,全員一致により,次の定時株主総会までの間の各取締役の
213 報酬の額をAにつき2000万円,Bにつき1500万円,Cにつき1200万円,Qにつき1
214 000万円とする旨の決議がされた。
215 その後,平成24年3月に開催された定時株主総会の直後の取締役会においても,全員一致に
216 より,次の定時株主総会までの間の各取締役の報酬につき,上記と同額とする旨の決議がされた。
217 4.平成24年10月,Qが死亡した。Qの相続人は,A,B及びCの3人であり,Qは,遺言を
218 していなかった。
219 遺産分割協議では,A,B及びCが互いに譲らない状況が続いていた。A,B及びCは,Qが
220 有していた甲社株式についての権利行使者に関しても協議したが,合意に至らなかったため,平
221 成25年1月20日,B及びCは,上記の権利行使者をBとすることに合意し,甲社に対し,連
222 名でその旨を通知した。
223 5.平成25年1月下旬,Aは,Eから,Eの経営する会社が資金繰りに窮したために緊急にその
224 有する甲社株式を換金したい旨の相談を受けた。
225 Aは,自己の意向に沿う株主を増やすことを企図し,Eに対し,友人である資産家のFを紹介
226 した。Fは,Aから,甲社株式を保有してAを支持すれば,株式の価値も上がり良い投資になる
227 旨説得され,株式の取得を承諾した。
228 同年2月13日,Eは,Fとの間で,その有する甲社株式50株を代金1億円で売り渡す旨の
229 売買契約を締結し,甲社に対し,会社法所定の記載がされた株式譲渡承認請求書を提出した。
230 Aは,取締役会においてFが甲社株式を取得することについて承認しない旨の決定がされるこ
231 とを懸念し,他の取締役に対し,Eから株式譲渡承認請求書が提出されたことを伝えなかった。
232 6.その後,甲社において取締役会は開催されず,甲社からEに対して何の連絡もないまま,2週
233 間が経過した。
234 平成25年3月1日,Aは,Fに対し,「Fが甲社株式を取得することについて取締役会の承
235 認の効力が生じたので,今後は,株券の交付さえ受ければ,特段の手続を要することなく,Fは,
236 正式に甲社の株主として扱われることになる。」などと伝えた。Fは,Aの発言を信じ,Eに対
237 し甲社株式の代金1億円を支払い,Eから株券の交付を受けた。Fは,甲社に対し,名義書換の
238 請求手続を採らず,甲社において,名義書換の手続はされなかった。
239 Eは,受領した代金をその経営する会社のために使用した。
240 7.一方,Aは,甲社における自己の支配権を確立する目的で,あらかじめ自らの払込金を用意し
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242
243 た上で,B及びCが短期間に調達することが困難な多額の出資を伴う株主割当てによる募集株式
244 の発行を実施しようと考えていた。そして,Aは,銀行から一定額の融資を受ける見込みとなっ
245 たが,なお払込金に不足する部分につき,取締役の報酬の増額により捻出しようと考えた。
246 8.甲社では,平成25年3月7日に開催された取締役会において,同月16日を開催日として,
247 平成24年12月31日に終了した事業年度に関する定時株主総会(以下「平成25年総会」と
248 いう。)を招集することとされ,平成25年総会に,@計算書類の承認議案を提案すること,並
249 びにA任期満了を迎えるA,B及びCのほか,D及び甲社の総務部長Gを取締役候補者とする旨
250 の取締役選任議案を提案することが,全員一致で承認された。
251 平成25年3月8日,甲社は,A,B,C,D及びFに対し,平成25年総会の招集通知を発
252 送した。その招集通知には,第1号議案として上記@の議案が,第2号議案として上記Aの議案
253 が記載されていた。なお,平成25年総会における議決権の行使につき,基準日は定められなか
254 った。
255 9.平成25年総会においては,A,B,C及びDが出席し,Fは,Dを代理人として,一切の議
256 決権の行使を委任していた。
257 第1号議案及び第2号議案が満場一致で承認可決された後,Aは,株主総会の席上で,取締役
258 全員の報酬の総額を年3億円以内に引き上げる旨の議案を提案した。Bは,甲社の経営状態を理
259 由に反対する旨述べたが,株主総会の議長であるAは,採決をすることとした。
260 Aは,Qが有していた甲社株式についてのBによる議決権行使に関しては,その株式について
261 の権利行使者の指定につきAの同意がないから,無効として取り扱うこととし,その結果,賛成
262 した議決権の数が480個(内訳は,A400個,D30個,F50個),反対した議決権の数
263 が400個(内訳は,B250個,C150個)となり,可決を宣言した(以下「本件報酬決議」
264 という。)。
265 Aは,閉会の宣言をし,平成25年総会は,終了した。
266 10.平成25年総会の直後に開催された甲社の取締役会においては,取締役への就任を承諾したA,
267 B,C,D及びGが出席した。
268 この取締役会において,Aから,(a)代表取締役としてAを選定すること,(b)次の定時株主総
269 会までの間の各取締役の報酬の額をAにつき2億円,Bにつき1500万円,Cにつき1200
270 万円,D及びGにつき各2000万円とすること,並びに(c)株主割当ての方法により募集株式
271 を発行することが提案された。上記(c)については,株主に対しその有する株式5株につき2株
272 の割当てを受ける権利を与えること,引受けの申込みの期日及び払込みの期日を平成25年4月
273 1日とすること,募集株式1株の払込金額を200万円とすることなど,会社法所定の事項につ
274 いての提案がされた。
275 上記(a)から(c)までの議案について,B及びCは反対したが,A並びにAから事前に話を聞い
276 ていたD及びGが賛成したため,これらの議案は,賛成多数により可決された。
277 11.平成25年3月17日,甲社は,株主に対し,上記10の株主割当てに係る募集事項その他の会
278 社法所定の事項を通知し,その通知は,同日,株主全員に到達した。
279 12.平成25年4月1日,甲社は,各取締役に対し,上記10で定められた報酬の全額を支払った。
280 同日,A,D及びFは,募集株式の割当てを受ける権利を行使し,その払込金額の全額の払込
281 みをした。B及びCは,甲社の経営の主導権を握りたかったが,その払込金額の一部しか資金を
282 用意することができず,募集株式の割当てを受ける権利を行使しなかった。
283 〔設問1〕
284
285 上記5のEのFに対する甲社株式の譲渡が甲社に対する関係で効力を生ずるかどうか
286
287 について検討した上で,甲社が平成25年総会においてFを株主として取り扱うことの当否につ
288 いて,論じなさい。
289
290 - 3 -
291
292 〔設問2〕
293
294
295 Bが本件報酬決議の効力を否定するために会社法に基づき採ることができる手段について,
296 論じなさい。
297
298
299
300 甲社は,A,D及びGに対し,上記12において支払済みの報酬の全部又は一部の返還を請求
301 することができるかどうかについて,論じなさい。ただし,取締役の会社に対する任務懈怠責
302 任(会社法第423条)については,論じなくてよい。
303
304 〔設問3〕
305
306 Bが,@上記11の時点において,募集株式の発行を阻止するために会社法に基づき採
307
308 ることができる手段,及びA上記12より後の時点において,募集株式の発行の効力を否定するた
309 めに会社法に基づき採ることができる手段について,論じなさい。
310
311 - 4 -
312
313 別
314
315 紙
316 甲 株 式 会 社 定 款
317
318 (商号)
319 第1条
320
321 当会社は,甲株式会社と称する。
322
323 (目的)
324 第2条
325
326 当会社は,次の事業を営むことを目的とする。
327
328 一
329
330 自動車部品の製造
331
332 二
333
334 不動産の賃貸
335
336 三
337
338 前二号に附帯関連する一切の事業
339
340 (本店の所在地)
341 第3条
342
343 当会社は,本店を乙県丙市に置く。
344
345 (発行可能株式総数)
346 第4条
347
348 当会社の発行可能株式総数は,2000株とする。
349
350 (株式の譲渡制限)
351 第5条
352
353 当会社の株式を譲渡により取得するには,取締役会の承認を受けなければならない。
354
355 (株主割当ての方法による募集株式の発行)
356 第6条
357
358 当会社は,会社法第199条第1項の募集において,株主に株式の割当てを受ける権利を与
359
360 える場合には,取締役会の決議により,同項各号に掲げる事項及び同法第202条第1項各号に掲
361 げる事項を定めることができる。
362 (株券の発行)
363 第7条
364
365 当会社は,発行する株式に係る株券を発行する。
366
367 (機関)
368 第8条
369 2
370
371 当会社は,株主総会及び取締役のほか,取締役会及び監査役を置く。
372
373 当会社の監査役の監査の範囲は,会計に関するものに限定する。
374
375 (株主総会の招集権者及び議長)
376 第9条
377
378 株主総会は,代表取締役社長が,これを招集し,その議長となる。
379
380 (代表取締役社長)
381 第10条
382
383 取締役会は,その決議により,代表取締役社長を選定する。
384
385 (事業年度)
386 第11条
387
388 当会社の事業年度は,毎年1月1日から12月31日までの1年とする。
389
390 以上は,甲社の定款の全部である。
391
392 - 5 -
393
394 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
395
396 - 1 -
397
398 [民事系科目]
399 〔第3問〕
400 (配点:100〔〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は,2.5:2.5:2:3〕)
401 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問4〕までに答えなさい。
402 【事例1】
403 Aは,甲1及び甲2の二筆の土地を所有していたところ,平成24年9月30日,土地甲1を
404 Bに遺贈する旨の遺言(遺言@)をし,同年10月31日,土地甲2をCに遺贈し,遺言執行者
405 としてDを指定する旨の遺言(遺言A)をした。Aの夫は,既に亡くなっており,子Eがいるも
406 ののAとは疎遠となっており,B及びCはいずれもAの友人である。Aは,同年12月1日,死
407 亡した。
408 遺言@の存在を知ったEは,平成25年1月10日,遺言@はAが意思能力を欠いた状態でさ
409 れたものであり無効であると主張し,Bを被告として,遺言@が無効であることの確認を求める
410 訴えを提起した(訴訟T)。
411 以下は,Bの訴訟代理人である弁護士L1と司法修習生P1との間でされた会話である。
412 L1:遺言無効確認の訴えは,遺言という過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えで
413 すが,確認の利益は認められるでしょうか。判例はありますか。
414 P1:はい。最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決(民集26巻1号30頁)は,
415 三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案
416 において,次のように判示しています。
417 「本件記録によれば,Xら(原告・控訴人・上告人)は,訴外某が昭和35年9月30
418 日自筆証書によつてなした遺言は無効であることを確認する旨の判決を求め,その請求原
419 因として述べるところは,右某は昭和37年2月21日死亡し,Xら及びY1からY5ま
420 で(被告・被控訴人・被上告人)が同人を共同相続したものであるところ,右某は昭和3
421 5年9月30日第一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し,昭和37年4月2日
422 大分家庭裁判所の検認をえたものであるが,右遺言は,右某がその全財産を共同相続人の
423 一人にのみ与えようとするものであつて,家族制度,家督相続制を廃止した憲法24条に
424 違背し,かつ,その一人が誰であるかは明らかでなく,権利関係が不明確であるから無効
425 である,というものである。これに対し,Y1を除くその余の被上告人らは,本訴の確認
426 の利益を争うとともに,本件遺言により右某の全財産の遺贈を受けた者はY2であること
427 が明らかであるから,本件遺言は有効である旨抗争したものである。第一審は,遺言は過
428 去の法律行為であるから,その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして,本
429 訴を却下し,右第一審判決に対してXらより控訴したが,原審も,右第一審判決とほぼ同
430 様の見解のもとに,本訴を不適法として却下すべき旨判断し,Xらの控訴を棄却したもの
431 である。
432 よつて按ずるに,いわゆる遺言無効確認の訴は,遺言が無効であることを確認するとの
433 請求の趣旨のもとに提起されるから,形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが,
434 請求の趣旨がかかる形式をとつていても,遺言が有効であるとすれば,それから生ずべき
435 現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で,原告がか
436 かる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは,適法として許容されうるものと解
437 するのが相当である。けだし,右の如き場合には,請求の趣旨を,あえて遺言から生ずべ
438 き現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく,いかなる権利関係につき審理判
439 断するかについて明確さを欠くことはなく,また,判決において,端的に,当事者間の紛
440 - 2 -
441
442 争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて,
443 確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされることが明らかだからである。
444 以上説示したところによれば,前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法と
445 いうべきである。それゆえ,これと異なる見解のもとに,本訴を不適法として却下した原
446 審ならびに第一審の判断は,民訴法の解釈を誤るものであり,この点に関する論旨は理由
447 がある。したがつて,原判決は破棄を免れず,第一審判決を取り消し,さらに本案につい
448 て審理させるため,本件を第一審に差し戻すのが相当である。」
449 L1:ありがとう。ただ,訴訟Tの事案には昭和47年判決の事案とは異なるところがあるよ
450 うに思います。昭和47年判決を前提としながら,事案の違いを踏まえ,Eが提起した遺
451 言@の無効確認を求める訴えが確認の利益を欠き不適法であると立論してみてください。
452 〔設問1〕
453 あなたが司法修習生P1であるとして,弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。
454 【事例1(続き)】
455 Cは,平成25年3月1日,土地甲2につき,遺言執行者Dとともに遺贈を原因とする所有権
456 移転登記手続の申請をし,同日,上記登記が経由された。
457 Eは,同年5月1日,遺言AはAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主
458 張し,Dを被告として,上記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(訴訟U)
459 。
460 以下は,Dの訴訟代理人である弁護士L2と司法修習生P2との間でされた会話である。
461 L2:EがDを被告として本件訴えを提起したのはなぜだか分かりますか。
462 P2:はい。遺言執行者は,遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており,遺
463 言執行者がある場合に,相続人は相続財産についての処分権を失い,右処分権は遺言執行
464 者に帰属します(民法第1012条,第1013条)。また,最高裁判所の判決にも,「相
465 続人は遺言執行者を被告として,遺言の無効を主張し,相続財産について自己が持分権を
466 有することの確認を求める訴を提起することができるのである。」と述べるものがありま
467 す(最高裁判所昭和51年7月19日第二小法廷判決・民集30巻7号706頁)。Eは
468 その趣旨に従ったのだと思います。
469 L2:なるほど。ただ,本件でもそのように言うことができるでしょうか。私としては,本案
470 前の抗弁として,訴訟Uの被告適格は受遺者Cにあり,遺言執行者Dには被告適格がない
471 と主張し,訴えの却下の判決を求めようと考えています。このような立場から立論してみ
472 てください。
473 〔設問2〕
474 あなたが司法修習生P2であるとして,弁護士L2から与えられた課題に答えなさい。
475 【事例2】
476 材木商Fは,土地乙をその所有者Jから賃借し,材木置場として利用していたところ,平成1
477 5年4月1日,死亡した。Fの相続人は,その子であるG及びHの2名であり,Fの妻I(G及
478 びHの母)はFより先に亡くなっている。
479 Gは,Fの死亡後,家業を継ぎ,土地乙を引き続き材木置場として利用している。
480 ところが,土地乙については,平成13年4月1日に同日付け売買を原因とするJからHへの
481 所有権移転登記がされている。
482 - 3 -
483
484 Gは,平成23年1月10日,Hを被告として,土地乙につきGが所有権を有することの確認
485 及びGへの所有権移転登記手続を求める訴えを提起したところ,Hは,土地乙の明渡しを求める
486 反訴を提起した。
487 この訴訟(以下「前訴」という。)において,Gは,土地乙は,Gの父Fからその生前に贈与
488 を受けた資金でGがJから買い受けたものであると主張し,Hは,Jから土地乙を買い受けたの
489 はGではなく,Hの父Fであり,その後HがFから土地乙の贈与を受けたと主張した。
490 前訴の裁判所は,審理の結果,土地乙をJから買い受けたのは,GではなくFであると認めら
491 れるが,HがFから土地乙の贈与を受けた事実は認められないとの心証を得たものの,それ以上,
492 何らの釈明を求めることなく,Gの本訴請求とHの反訴請求をいずれも棄却する判決を言い渡し,
493 同判決は,そのまま確定した。
494 ところが,その後もHが贈与により土地乙の単独所有権を取得したと主張したため,Gは,平
495 成25年3月15日,Hに対し,土地乙がFの遺産であることを前提として,相続により取得し
496 た土地乙の共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。
497 この訴訟(以下「後訴」という。)において,Hは,前訴の本訴請求についての判決により,
498 土地乙はGの所有でないことが確定しており,この点について既判力が生じているから,Gは相
499 続による共有持分の取得を主張することもできないと主張している。
500 以下は,後訴におけるGの訴訟代理人である弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話
501 である。
502 P3:前訴判決の認定によれば,土地乙はFの遺産に属し,したがって,Gは法定相続分に応
503 じた共有持分権を有していることになるので,前訴において,Gの請求はその限度で認容
504 されるべきであったのではないでしょうか。
505 L3:確かにそのような疑問は湧きますね。そもそも訴訟物のレベルにおいてGが単独所有権
506 に基づく請求をしているのに,共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容として
507 できるかについては議論がありますが,両者は実体的に包含関係にあり,一個の訴訟物の
508 一部として共有持分権の限度で請求を認容することは可能であるという前提で考えてくだ
509 さい。
510 P3:分かりました。
511 L3:それから,今の点とは別に,Gが相続によって不動産を取得したことを主張する場合の
512 請求原因が何であるか確認する必要がありますね。その上で,主張のレベルにおいて,裁
513 判所は,請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができ
514 るかということが問題になりそうです。検討してみてください。
515 〔設問3〕
516
517
518 相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は何か。本件の事実関係に即
519 して説明しなさい(共有持分の割合に関する部分は捨象すること。)。
520
521
522
523 前訴における当事者の主張を前提とすると,裁判所は,適切に釈明権を行使したならば,上
524 記請求原因を判決の基礎とすることができるかどうか,検討しなさい。
525
526 【事例2(続き)】
527 以下は,数日後に弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。
528 L3:さて,我々としては,前に検討してもらった諸点を踏まえて,Hの上記主張に対し,G
529 の法律上の反論を考えることになりますが,見通しはどうですか。
530 P3:法律論としてまとめきれていないのですが,前訴ではHの反訴請求も棄却されているに
531 もかかわらず,後訴で前訴判決の既判力を持ち出してGの共有持分権を否定するというH
532 - 4 -
533
534 の態度には問題があるような気がします。既判力によっては妨げられない訴えを信義則に
535 基づいて却下した判例(最高裁判所昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8
536 号799頁,最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147
537 頁)と関連付けて法律論を組み立てられないかと考えています。
538 例えば,平成10年判決は,次のように述べています。いわゆる明示の一部請求の訴訟
539 物は,その債権全体のうちの一部請求部分に限られるという考え方を前提とする判旨です。
540 「一個の金銭債権の数量的一部請求は,当該債権が存在しその額は一定額を下回らない
541 ことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,債権の特定の一部を請求するも
542 のではないから,このような請求の当否を判断するためには,おのずから債権の全部につ
543 いて審理判断することが必要になる。すなわち,裁判所は,当該債権の全部について当事
544 者の主張する発生,消滅の原因事実の存否を判断し,債権の一部の消滅が認められるとき
545 は債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁
546 平成2年(オ)第1146号同6年11月22日第三小法廷判決・民集48巻7号135
547 5頁参照),現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し,現存額が請求額に
548 満たないときは現存額の限度でこれを認容し,債権が全く現存しないときは右請求を棄却
549 するのであって,当事者双方の主張立証の範囲,程度も,通常は債権の全部が請求されて
550 いる場合と変わるところはない。数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,こ
551 のように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,当該債権が全く現存しない
552 か又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであっ
553 て,言い換えれば,後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほ
554 かならない。したがって,右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,
555 実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,前訴の確定判決
556 によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,被告に
557 二重の応訴の負担を強いるものというべきである。以上の点に照らすと,金銭債権の数量
558 的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,特段の事情がない限
559 り,信義則に反して許されないと解するのが相当である。」
560 L3:そうですね。既判力は前訴の訴訟物の範囲について生じ,その範囲で後訴において作用
561 するのが原則ですが,あなたが指摘してくれた昭和51年判決や平成10年判決のように,
562 判例は,訴訟物の範囲を超えて後訴における蒸し返しを封じる場合を認めています。訴訟
563 物の範囲を超える部分では信義則が働くという論法です。
564 このように信義則を理由として訴訟物の範囲よりも広く蒸し返しを禁じること(遮断効
565 の拡張)が認められるのであれば,信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い
566 範囲に止めること(遮断効の縮小)も認められるかもしれません。遮断効の縮小に関して
567 は,色々な考え方があり得ますが,本件では,平成10年判決を参考にして立論すること
568 にしましょう。言うまでもなく,信義則は一般条項ですから,これを持ち出す場合には,
569 どのような事情がいかなる理由により信義則の適用を基礎付けるのか,十分検討する必要
570 があります。困難な課題ではありますが,Hの上記主張に対し,Gの立場から考えられる
571 法律上の主張を立論してみてください。
572 〔設問4〕
573 あなたが司法修習生P3であるとして,弁護士L3から与えられた課題に答えなさい。
574
575 - 5 -
576
577