1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔
7 〔設問1〕,
8 〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,
9 3:4:3〕)
10 次の文章を読んで,
11 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
12
13
14 T
15 【事実】
16 1.甲土地は,
17 平成22年5月当時,
18 Aが所有しており,
19 Aを所有権登記名義人とする登記がさ
20 れていた。
21
22 また,
23 乙土地は,
24 その頃,
25 Bが所有しており,
26 Bを所有権登記名義人とする登記が
27 されていた。
28
29
30 2.Bは,
31 医療機器の製造と販売を主たる事業としていたが,
32 事業用の建物を賃貸して収益を得
33 たいとも考えていた。
34
35 Bは,
36 事業用の建物を所有するのには甲土地が立地として適しているの
37 に対し乙土地が必ずしも適さないことから,
38 乙土地を売却処分して甲土地を取得したいと考え,
39
40 Aとの間で甲土地の売買について交渉を試みた。
41
42 この交渉において,
43 Bは,
44 Aに対し,
45 代金を
46 支払うための資金を乙土地の売却処分により調達する予定であることを説明し,
47 Aは,
48 その事
49 情に理解を示すとともに,
50 代金債務の担保として適当な連帯保証人を立てることを求めた。
51
52
53 3.この交渉の結果として,
54 A及びBは,
55 平成22年6月11日,
56 代金を6000万円として甲
57 土地をAがBに売る旨の契約を締結した。
58
59 この契約においては,
60 代金のうち1500万円は同
61 月中にBがAに支払うこと,
62 残代金4500万円の支払の期限は平成22年8月10日とする
63 こと並びに代金の全部が支払われた後に甲土地についての所有権の移転の登記及び甲土地の引
64 渡しをするものとすることが約された。
65
66
67 4.また,
68 保証人を立てることについて,
69 Bは,
70 Aに対し,
71 Bの友人であるCを連帯保証人とす
72 ることを提案した。
73
74 Bは,
75 このことについてCの了解を得ていなかったが,
76 Bと長く交友関係
77 があったCに事情を説明すれば,
78 甲土地を入手するためにCが協力をしてくれるものと想定し
79 ていた。
80
81
82 Aは,
83 Bの提案を了承し,
84 【事実】3の売買契約が締結された平成22年6月11日,
85 A及
86 びBは,
87 Cがその売買契約に係る代金債務の連帯保証人になる旨の書面を作成した。
88
89 その書面
90 は,
91 2通作成され,
92 それらの内容は同じものである。
93
94 すなわち,
95 そこには,
96 【事実】3の売買
97 契約に基づきBが負う代金債務についてCが連帯して保証する旨が記され,
98 A及びBが署名し,
99
100 Bの署名には,
101 BがCの代理人である旨が示されていた。
102
103 A及びBは,
104 この書面をそれぞれ1
105 通ずつ持ち帰ることとした。
106
107 Bは,
108 この書面を作成する際,
109 Cが連帯保証人になることについ
110 て,
111 Cから代理権を授与されてはいないが,
112 Cの追認を速やかに得たい,
113 とAに説明した。
114
115
116 5.Bは,
117 平成22年6月15日,
118 Cと会い,
119 Cに対し,
120 【事実】4の連帯保証の書面を示し,
121
122 その書面に記されているとおり,
123 【事実】3の売買契約に基づきBが負う代金債務についてC
124 が連帯して保証する旨の契約をしたこと,
125 及び連帯保証人になることについてのCの追認を後
126 日に得たいとAに告げたことを説明した。
127
128 その上で,
129 Bは,
130 Cに対し,
131 Cを連帯保証人にする
132 旨の契約をしたことを認めて欲しい,
133 と要請した。
134
135 Cは,
136 これを承諾して,
137 その席からAに電
138 話をし,
139 連帯保証人になることに異存はない旨を告げた。
140
141
142 6.【事実】3の売買契約の代金のうち1500万円は,
143 平成22年6月25日,
144 BがAに支払
145 った。
146
147 しかし,
148 残代金の支払のためにBが進めた乙土地の売却処分は実現しないまま,
149 やがて
150 平成22年8月10日が到来した。
151
152 そこで,
153 Aは,
154 同月18日,
155 Bに対し残代金4500万円
156 を速やかに支払うよう求めるとともに,
157 Cに対し同じ額の支払を求めた。
158
159
160 これに対し,
161 Cは,
162 AC間の連帯保証契約は書面でされておらず,
163 その効力を生じないから
164 Aの求めに応ずるつもりがないことを告げた。
165
166
167
168 - 2 -
169
170 〔設問1〕
171
172 【事実】1から6までを前提として,
173 次の問いに答えなさい。
174
175
176
177 Aが,
178 Cに対し,
179 保証債務の履行を請求するには,
180 どのような主張をする必要があるかを検討
181 し,
182 また,
183 その主張に含まれる問題点を踏まえてその当否を論じなさい。
184
185
186 U
187
188 【事実】1から6までに加え,
189 以下の【事実】7から16までの経緯があった。
190
191
192
193 【事実】
194 7.その後,
195 Bは,
196 乙土地の売却について目途がついたことから,
197 Aと話し合い,
198 Aとの間にお
199 いて,
200 【事実】3の売買契約の残代金を支払う期限を平成22年12月15日とすることに合
201 意した。
202
203 Bは,
204 乙土地の売却処分によって得た資金を用い,
205 平成22年12月10日,
206 残代金
207 をAに支払った。
208
209 同日,
210 甲土地はAからBへ引き渡され,
211 また,
212 同月18日,
213 甲土地について
214 AからBへ売買を原因とする所有権の移転の登記がされた。
215
216
217 8.そこで,
218 Bは,
219 甲土地上に建物を建設するため,
220 銀行であるD及び建設業を営む株式会社で
221 あるEと折衝を始めた。
222
223
224 まず,
225 建設資金の融資をBから要請されたDは,
226 平成23年1月頃,
227 甲土地及びその上に建
228 設される建物について第1順位の抵当権の設定を受けることを条件として,
229 Bに対し,
230 建物の
231 建設資金として8000万円を融資する旨の意向を示した。
232
233
234 また,
235 B及びEは,
236 平成23年2月28日,
237 Eが甲土地の上に建物を建設し,
238 これに対する
239 報酬としてBがEに1億3000万円を支払う旨の請負契約を締結した。
240
241
242 9.【事実】8の請負契約に基づき,
243 Eは,
244 甲土地上に建物を建設し,
245 平成23年8月31日,
246
247 Bに対し,
248 この建物(以下「丙建物」という。
249
250 )を引き渡した。
251
252 同日,
253 DはBに8000万円
254 を貸し渡し,
255 Bは,
256 Bが別に用意した5000万円を加え,
257 請負の報酬として1億3000万
258 円をEに支払った。
259
260
261 10.また,
262 DによるBへの金銭の貸渡しに係る消費貸借の返済条件は,
263 毎月78万円の元利均等
264 払で期間は10年とされた。
265
266 また,
267 この貸金の返済について2回の債務不履行がある場合には
268 Bは期限の利益を失い,
269 返済されていない額の全部を直ちにDに返済することも約された。
270
271
272 そして,
273 B及びDは,
274 この消費貸借に基づく貸金債権を担保するため,
275 平成23年8月31
276 日,
277 甲土地について抵当権を設定する旨の契約を締結した。
278
279 これに基づき,
280 同日,
281 甲土地につ
282 いて,
283 Dを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされた。
284
285 この抵当権に優先する担保権の登
286 記はされていない。
287
288
289 丙建物は,
290 平成23年9月14日,
291 Bを登記名義人とする所有権の保存の登記がされた。
292
293
294 日,
295 B及びDは,
296 上記の消費貸借に基づく貸金債権を担保するため,
297 丙建物について抵当権を
298 設定する旨の契約を締結し,
299 これに基づき,
300 Dを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされ
301 た。
302
303 この抵当権に優先する担保権の登記はされていない。
304
305
306 11.Bは,
307 Fとの間において,
308 平成23年10月1日,
309 丙建物の1階部分について,
310 コーヒーシ
311 ョップとして使用することを目的とし,
312 賃料を月額40万円として,
313 これをFに賃貸する旨の
314 契約を締結した。
315
316 この賃貸借契約においては,
317 各月の賃料を前月の25日に支払うものとする
318 ことが約された。
319
320 この賃貸借契約に基づき,
321 同日,
322 Bは,
323 Fに対し丙建物の1階部分を引き渡
324 した。
325
326
327 12.Bは,
328 Gとの間において,
329 平成23年11月1日,
330 丙建物の2階部分について,
331 学習塾とし
332 て使用することを目的とし,
333 賃料を月額30万円として,
334 これをGに賃貸する旨の契約を締結
335 した。
336
337 この賃貸借契約においては,
338 各月の賃料を前月の25日に支払うものとすることが約さ
339 れた。
340
341 この賃貸借契約に基づき,
342 同日,
343 Bは,
344 Gに対し丙建物の2階部分を引き渡した。
345
346
347 13.Fは,
348 【事実】11の賃貸借契約の締結に当たり,
349 丙建物の1階部分の内装について,
350 飲食店
351 の内装工事を専門とし,
352 内装業を営むHに相談し,
353 Bから丙建物の設計図を取り寄せるなどし
354 て,
355 Hと共に内装の仕様及び施工方法を検討した。
356
357 その上で,
358 Fは,
359 その検討結果の概要をB
360 - 3 -
361
362 に説明し,
363 それに従いHに内装工事を行わせることについてBの承諾を得た。
364
365 これを受けて,
366
367 Fは,
368 平成23年10月3日,
369 Hに内装工事を発注し,
370 同月25日に工事が完了した。
371
372 そこで,
373
374 Fは,
375 平成23年11月1日,
376 丙建物の1階部分において,
377 営業を始めた。
378
379
380 14.平成24年2月末頃,
381 丙建物の1階部分で雨漏りが発生するようになった。
382
383
384 15.Fから雨漏りを防ぐ措置を求められたBは,
385 Eに調査を依頼した。
386
387 この調査の結果,
388
389 【事実】
390 13の工事の際にHが誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせたことが雨漏りの原因であることが
391 明らかとなった。
392
393
394 16.Bは,
395 このままでは丙建物の維持に支障が生じると考え,
396 Eに【事実】15の亀裂の修繕を発
397 注し,
398 その修繕の工事は,
399 平成24年3月20日に完了した。
400
401 そこで,
402 Bは,
403 それに対する報
404 酬として100万円をEに支払った。
405
406 このBがEに支払った報酬の額は,
407 【事実】15の亀裂の
408 修繕に要する工事の対価として,
409 適正なものである。
410
411
412 〔設問2〕
413
414 【事実】1から16までを前提として,
415 Bは,
416 【事実】16においてEに支払った報酬に
417
418 相当する金銭の支払をFに対し求めるために,
419 どのような主張をすることが考えられるか。
420
421 また,
422
423 それに対し,
424 Fは,
425 どのような主張をすることが考えられるか。
426
427 それぞれの主張の根拠を説明し,
428
429 いずれの主張が認められるかを検討しなさい。
430
431
432 V
433
434 【事実】1から16までに加え,
435 以下の【事実】17及び18の経緯があった。
436
437
438
439 【事実】
440 17.その後,
441 Bは,
442 医療機器の製造販売の事業に失敗して,
443 資金が不足するようになり,
444 Dに対
445 する平成24年6月分及び7月分の貸金の返済について遅滞が生じた。
446
447 そこで,
448 Dは,
449 抵当権
450 に基づく物上代位によって貸金の回収を図ることを考え,
451 差し当たり丙建物の2階部分の賃料
452 について,
453 丙建物を目的とする【事実】10の抵当権に基づく物上代位による貸金の回収を始め
454 ることとした。
455
456 また,
457 丙建物の1階部分の賃料については,
458 【事実】16の修繕費用をめぐる問
459 題が解決してから,
460 同様の手順を採ることを考えた。
461
462
463 そこで,
464 Dは,
465 平成24年9月18日,
466 抵当権に基づく物上代位権の行使として,
467 BがGに
468 対して有する賃料債権のうち,
469 平成24年9月25日以降に弁済期が到来する同年10月分か
470 ら平成25年9月分までについて差押えの申立てをした。
471
472 この差押えに係る差押命令は,
473 平成
474 24年9月21日,
475 B及びGに送達された。
476
477
478 18.この送達がされる前の平成24年9月初旬,
479 大型で強い台風が襲い,
480 丙建物の2階部分は,
481
482 暴風のため窓が損傷し,
483 外気が吹き込む状態となった。
484
485 そのままでは丙建物の2階部分で児童
486 や生徒に対し授業をすることにも支障が生ずるため,
487 Gは,
488 すぐにこの状況をBに知らせよう
489 としたが,
490 Bの所在を把握することができなかった。
491
492
493 Gは,
494 やむなくEに連絡を取って相談をし,
495 E及びGは,
496 平成24年9月8日,
497 Eが丙建物
498 の2階部分の修繕をし,
499 それに対する報酬としてGがEに対し30万円を支払うことを約した。
500
501
502 この報酬の額は,
503 修繕に要する工事の対価として,
504 適正なものである。
505
506 翌9日にEがこの修繕
507 を完了したことから,
508 同日,
509 Gは,
510 Eに対し30万円を支払った。
511
512
513 〔設問3〕
514
515 【事実】1から18までを前提として,
516 次の問いに答えなさい。
517
518
519
520 平成24年12月7日,
521 Dは,
522 同年10月分から同年12月分までの賃料(それぞれ同年9月
523 25日,
524 同年10月25日及び同年11月25日に弁済期が到来したもの)の合計額である90
525 万円の支払をGに対して求めたが,
526 Gは,
527
528 【事実】18の報酬の相当額である30万円を差し引き,
529
530 60万円のみを支払うと主張した。
531
532 これに対して,
533 Dは,
534 「まず,
535 Gが,
536 報酬の相当額を支払う
537 ようBに対し請求する権利を有することについて,
538 説明して欲しい。
539
540 また,
541 仮にそのような権利
542 があるとしても,
543 判例によれば,
544 それと賃料債権を相殺することをもって,
545 Dに対抗することは
546 - 4 -
547
548 できないから,
549 GはDに対して90万円全額の支払義務を負うはずである。
550
551 」と反論した。
552
553 Dが
554 依拠する判例とは,
555 下記に【参考】として示すものである。
556
557
558 このDの反論を踏まえた上で,
559 Gがどのような主張をしたらよいか,
560 理由を付して説明しなさ
561 い。
562
563
564 【参考】
565 最高裁判所第三小法廷平成13年3月13日判決・最高裁判所民事判例集55巻2号363頁
566 〔事案の概要〕
567 PがQに対して負う貸金債務を担保するため,
568 Pが所有する建物について根抵当権が設定され,
569
570 の登記がされた後,
571 当該建物の1階部分について,
572 Pを賃貸人とし,
573 第三者Rを賃借人とする賃貸借
574 契約が締結され,
575 3150万円の保証金がRからPに預託された。
576
577
578 その後,
579 P及びRは,
580 当該建物の1階部分について,
581 それまでの賃貸借契約をいったん解約し,
582
583 めて賃料を月額33万円とする賃貸借契約を締結し,
584 その際,
585 保証金を330万円に減額した。
586
587 その
588 結果,
589 Pは,
590 Rに対し差額の2820万円の返還債務を負った。
591
592 しかし,
593 この返還債務をPが履行す
594 ることができなかったため,
595 PがRに対して負う保証金返還債務の一部については,
596 以後3年間,
597
598 がPに対して負う賃料債務と,
599 賃料支払期日ごとに対当額で相殺することがPR間で合意された。
600
601
602 さらにその後,
603 Qは,
604 上記の根抵当権に基づく物上代位権の行使として,
605 PがRに対して有する賃
606 料債権のうち,
607 差押命令送達時以降900万円に満つるまでのものを差し押さえ,
608 差押命令がP及び
609 Rに送達された。
610
611
612 そして,
613 Qは,
614 Rに対し,
615 5か月分の賃料の支払を求めて訴えを提起したが,
616 これに対して,
617 Rは,
618
619 Pとの相殺合意に基づく相殺を主張して争った。
620
621
622 第1審及び第2審では,
623 いずれもQが勝訴し,
624 Rの上告を受けた最高裁判所は,
625 次のとおり判示し
626 て上告を棄却する判決を言い渡した。
627
628
629 〔判旨〕
630 「抵当権者が物上代位権を行使して賃料債権の差押えをした後は,
631 抵当不動産の賃借人は,
632 抵当権
633 設定登記の後に賃貸人に対して取得した債権を自働債権とする賃料債権との相殺をもって,
634 抵当権者
635 に対抗することはできないと解するのが相当である。
636
637 けだし,
638 物上代位権の行使としての差押えのさ
639 れる前においては,
640 賃借人のする相殺は何ら制限されるものではないが,
641 上記の差押えがされた後に
642 おいては,
643 抵当権の効力が物上代位の目的となった賃料債権にも及ぶところ,
644 物上代位により抵当権
645 の効力が賃料債権に及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができるから,
646 抵当
647 権設定登記の後に取得した賃貸人に対する債権と物上代位の目的となった賃料債権とを相殺すること
648 に対する賃借人の期待を物上代位権の行使により賃料債権に及んでいる抵当権の効力に優先させる理
649 由はないというべきであるからである。
650
651
652
653 - 5 -
654
655 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
656
657 - 1 -
658
659 [民事系科目]
660 〔第2問〕(配点:100〔
661 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
662 2:5:3〕)
663 次の文章を読んで,
664 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
665
666
667 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
668
669 )の定款は,
670 別紙のとおりである。
671
672
673 甲社の発行済株式の総数は1000株であり,
674 その資本金の額は4億円である。
675
676 甲社は,
677 会社
678 法上の大会社ではない。
679
680
681 2.甲社は,
682 亡Pが創業し,
683 その妻Q,
684 長男A,
685 二男B,
686 三男Cらと共に発展させてきた会社であ
687 り,
688 株主構成としては,
689 Qが120株,
690 Aが400株,
691 Bが250株,
692 Cが150株を有し,
693
694 のほか,
695 Aの長男Dが30株,
696 亡Pの弟Eが50株を有していた。
697
698
699 甲社における取締役はA,
700 B,
701 C及びQの4人であり,
702 代表取締役社長はAであった。
703
704 これら
705 の取締役は,
706 いずれも平成23年3月に開催された定時株主総会(以下「平成23年総会」とい
707 う。
708
709 )で再任され,
710 その任期は,
711 平成24年12月31日に終了する事業年度に関する定時株主
712 総会の終結の時までであった。
713
714
715 3.平成23年総会においては,
716 取締役全員の報酬の総額を年6000万円以内とする旨の決議が
717 され,
718 その直後の取締役会において,
719 全員一致により,
720 次の定時株主総会までの間の各取締役の
721 報酬の額をAにつき2000万円,
722 Bにつき1500万円,
723 Cにつき1200万円,
724 Qにつき1
725 000万円とする旨の決議がされた。
726
727
728 その後,
729 平成24年3月に開催された定時株主総会の直後の取締役会においても,
730 全員一致に
731 より,
732 次の定時株主総会までの間の各取締役の報酬につき,
733 上記と同額とする旨の決議がされた。
734
735
736 4.平成24年10月,
737 Qが死亡した。
738
739 Qの相続人は,
740 A,
741 B及びCの3人であり,
742 Qは,
743 遺言を
744 していなかった。
745
746
747 遺産分割協議では,
748 A,
749 B及びCが互いに譲らない状況が続いていた。
750
751 A,
752 B及びCは,
753 Qが
754 有していた甲社株式についての権利行使者に関しても協議したが,
755 合意に至らなかったため,
756
757 成25年1月20日,
758 B及びCは,
759 上記の権利行使者をBとすることに合意し,
760 甲社に対し,
761
762 名でその旨を通知した。
763
764
765 5.平成25年1月下旬,
766 Aは,
767 Eから,
768 Eの経営する会社が資金繰りに窮したために緊急にその
769 有する甲社株式を換金したい旨の相談を受けた。
770
771
772 Aは,
773 自己の意向に沿う株主を増やすことを企図し,
774 Eに対し,
775 友人である資産家のFを紹介
776 した。
777
778 Fは,
779 Aから,
780 甲社株式を保有してAを支持すれば,
781 株式の価値も上がり良い投資になる
782 旨説得され,
783 株式の取得を承諾した。
784
785
786 同年2月13日,
787 Eは,
788 Fとの間で,
789 その有する甲社株式50株を代金1億円で売り渡す旨の
790 売買契約を締結し,
791 甲社に対し,
792 会社法所定の記載がされた株式譲渡承認請求書を提出した。
793
794
795 Aは,
796 取締役会においてFが甲社株式を取得することについて承認しない旨の決定がされるこ
797 とを懸念し,
798 他の取締役に対し,
799 Eから株式譲渡承認請求書が提出されたことを伝えなかった。
800
801
802 6.その後,
803 甲社において取締役会は開催されず,
804 甲社からEに対して何の連絡もないまま,
805 2週
806 間が経過した。
807
808
809 平成25年3月1日,
810 Aは,
811 Fに対し,
812 「Fが甲社株式を取得することについて取締役会の承
813 認の効力が生じたので,
814 今後は,
815 株券の交付さえ受ければ,
816 特段の手続を要することなく,
817 Fは,
818
819 正式に甲社の株主として扱われることになる。
820
821 」などと伝えた。
822
823 Fは,
824 Aの発言を信じ,
825 Eに対
826 し甲社株式の代金1億円を支払い,
827 Eから株券の交付を受けた。
828
829 Fは,
830 甲社に対し,
831 名義書換の
832 請求手続を採らず,
833 甲社において,
834 名義書換の手続はされなかった。
835
836
837 Eは,
838 受領した代金をその経営する会社のために使用した。
839
840
841 7.一方,
842 Aは,
843 甲社における自己の支配権を確立する目的で,
844 あらかじめ自らの払込金を用意し
845 - 2 -
846
847 た上で,
848 B及びCが短期間に調達することが困難な多額の出資を伴う株主割当てによる募集株式
849 の発行を実施しようと考えていた。
850
851 そして,
852 Aは,
853 銀行から一定額の融資を受ける見込みとなっ
854 たが,
855 なお払込金に不足する部分につき,
856 取締役の報酬の増額により捻出しようと考えた。
857
858
859 8.甲社では,
860 平成25年3月7日に開催された取締役会において,
861 同月16日を開催日として,
862
863 平成24年12月31日に終了した事業年度に関する定時株主総会(以下「平成25年総会」と
864 いう。
865
866 )を招集することとされ,
867 平成25年総会に,
868 @計算書類の承認議案を提案すること,
869
870 びにA任期満了を迎えるA,
871 B及びCのほか,
872 D及び甲社の総務部長Gを取締役候補者とする旨
873 の取締役選任議案を提案することが,
874 全員一致で承認された。
875
876
877 平成25年3月8日,
878 甲社は,
879 A,
880 B,
881 C,
882 D及びFに対し,
883 平成25年総会の招集通知を発
884 送した。
885
886 その招集通知には,
887 第1号議案として上記@の議案が,
888 第2号議案として上記Aの議案
889 が記載されていた。
890
891 なお,
892 平成25年総会における議決権の行使につき,
893 基準日は定められなか
894 った。
895
896
897 9.平成25年総会においては,
898 A,
899 B,
900 C及びDが出席し,
901 Fは,
902 Dを代理人として,
903 一切の議
904 決権の行使を委任していた。
905
906
907 第1号議案及び第2号議案が満場一致で承認可決された後,
908 Aは,
909 株主総会の席上で,
910 取締役
911 全員の報酬の総額を年3億円以内に引き上げる旨の議案を提案した。
912
913 Bは,
914 甲社の経営状態を理
915 由に反対する旨述べたが,
916 株主総会の議長であるAは,
917 採決をすることとした。
918
919
920 Aは,
921 Qが有していた甲社株式についてのBによる議決権行使に関しては,
922 その株式について
923 の権利行使者の指定につきAの同意がないから,
924 無効として取り扱うこととし,
925 その結果,
926 賛成
927 した議決権の数が480個(内訳は,
928 A400個,
929 D30個,
930 F50個),
931 反対した議決権の数
932 が400個(内訳は,
933 B250個,
934 C150個)となり,
935 可決を宣言した(以下「本件報酬決議」
936 という。
937
938 )。
939
940
941 Aは,
942 閉会の宣言をし,
943 平成25年総会は,
944 終了した。
945
946
947 10.平成25年総会の直後に開催された甲社の取締役会においては,
948 取締役への就任を承諾したA,
949
950 B,
951 C,
952 D及びGが出席した。
953
954
955 この取締役会において,
956 Aから,
957 (a)代表取締役としてAを選定すること,
958 (b)次の定時株主総
959 会までの間の各取締役の報酬の額をAにつき2億円,
960 Bにつき1500万円,
961 Cにつき1200
962 万円,
963 D及びGにつき各2000万円とすること,
964 並びに(c)株主割当ての方法により募集株式
965 を発行することが提案された。
966
967 上記(c)については,
968 株主に対しその有する株式5株につき2株
969 の割当てを受ける権利を与えること,
970 引受けの申込みの期日及び払込みの期日を平成25年4月
971 1日とすること,
972 募集株式1株の払込金額を200万円とすることなど,
973 会社法所定の事項につ
974 いての提案がされた。
975
976
977 上記(a)から(c)までの議案について,
978 B及びCは反対したが,
979 A並びにAから事前に話を聞い
980 ていたD及びGが賛成したため,
981 これらの議案は,
982 賛成多数により可決された。
983
984
985 11.平成25年3月17日,
986 甲社は,
987 株主に対し,
988 上記10の株主割当てに係る募集事項その他の会
989 社法所定の事項を通知し,
990 その通知は,
991 同日,
992 株主全員に到達した。
993
994
995 12.平成25年4月1日,
996 甲社は,
997 各取締役に対し,
998 上記10で定められた報酬の全額を支払った。
999
1000
1001 同日,
1002 A,
1003 D及びFは,
1004 募集株式の割当てを受ける権利を行使し,
1005 その払込金額の全額の払込
1006 みをした。
1007
1008 B及びCは,
1009 甲社の経営の主導権を握りたかったが,
1010 その払込金額の一部しか資金を
1011 用意することができず,
1012 募集株式の割当てを受ける権利を行使しなかった。
1013
1014
1015 〔設問1〕
1016
1017 上記5のEのFに対する甲社株式の譲渡が甲社に対する関係で効力を生ずるかどうか
1018
1019 について検討した上で,
1020 甲社が平成25年総会においてFを株主として取り扱うことの当否につ
1021 いて,
1022 論じなさい。
1023
1024
1025
1026 - 3 -
1027
1028 〔設問2〕
1029
1030
1031 Bが本件報酬決議の効力を否定するために会社法に基づき採ることができる手段について,
1032
1033 論じなさい。
1034
1035
1036
1037
1038
1039 甲社は,
1040 A,
1041 D及びGに対し,
1042 上記12において支払済みの報酬の全部又は一部の返還を請求
1043 することができるかどうかについて,
1044 論じなさい。
1045
1046 ただし,
1047 取締役の会社に対する任務懈怠責
1048 任(会社法第423条)については,
1049 論じなくてよい。
1050
1051
1052
1053 〔設問3〕
1054
1055 Bが,
1056 @上記11の時点において,
1057 募集株式の発行を阻止するために会社法に基づき採
1058
1059 ることができる手段,
1060 及びA上記12より後の時点において,
1061 募集株式の発行の効力を否定するた
1062 めに会社法に基づき採ることができる手段について,
1063 論じなさい。
1064
1065
1066
1067 - 4 -
1068
1069
1070
1071
1072 甲 株 式 会 社 定 款
1073
1074 (商号)
1075 第1条
1076
1077 当会社は,
1078 甲株式会社と称する。
1079
1080
1081
1082 (目的)
1083 第2条
1084
1085 当会社は,
1086 次の事業を営むことを目的とする。
1087
1088
1089
1090
1091
1092 自動車部品の製造
1093
1094
1095
1096 不動産の賃貸
1097
1098
1099
1100 前二号に附帯関連する一切の事業
1101
1102 (本店の所在地)
1103 第3条
1104
1105 当会社は,
1106 本店を乙県丙市に置く。
1107
1108
1109
1110 (発行可能株式総数)
1111 第4条
1112
1113 当会社の発行可能株式総数は,
1114 2000株とする。
1115
1116
1117
1118 (株式の譲渡制限)
1119 第5条
1120
1121 当会社の株式を譲渡により取得するには,
1122 取締役会の承認を受けなければならない。
1123
1124
1125
1126 (株主割当ての方法による募集株式の発行)
1127 第6条
1128
1129 当会社は,
1130 会社法第199条第1項の募集において,
1131 株主に株式の割当てを受ける権利を与
1132
1133 える場合には,
1134 取締役会の決議により,
1135 同項各号に掲げる事項及び同法第202条第1項各号に掲
1136 げる事項を定めることができる。
1137
1138
1139 (株券の発行)
1140 第7条
1141
1142 当会社は,
1143 発行する株式に係る株券を発行する。
1144
1145
1146
1147 (機関)
1148 第8条
1149
1150
1151 当会社は,
1152 株主総会及び取締役のほか,
1153 取締役会及び監査役を置く。
1154
1155
1156
1157 当会社の監査役の監査の範囲は,
1158 会計に関するものに限定する。
1159
1160
1161
1162 (株主総会の招集権者及び議長)
1163 第9条
1164
1165 株主総会は,
1166 代表取締役社長が,
1167 これを招集し,
1168 その議長となる。
1169
1170
1171
1172 (代表取締役社長)
1173 第10条
1174
1175 取締役会は,
1176 その決議により,
1177 代表取締役社長を選定する。
1178
1179
1180
1181 (事業年度)
1182 第11条
1183
1184 当会社の事業年度は,
1185 毎年1月1日から12月31日までの1年とする。
1186
1187
1188
1189 以上は,
1190 甲社の定款の全部である。
1191
1192
1193
1194 - 5 -
1195
1196 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
1197
1198 - 1 -
1199
1200 [民事系科目]
1201 〔第3問〕
1202 (配点:100〔〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は,
1203 2.5:2.5:2:3〕)
1204 次の文章を読んで,
1205 後記の〔設問1〕から〔設問4〕までに答えなさい。
1206
1207
1208 【事例1】
1209 Aは,
1210 甲1及び甲2の二筆の土地を所有していたところ,
1211 平成24年9月30日,
1212 土地甲1を
1213 Bに遺贈する旨の遺言(遺言@)をし,
1214 同年10月31日,
1215 土地甲2をCに遺贈し,
1216 遺言執行者
1217 としてDを指定する旨の遺言(遺言A)をした。
1218
1219 Aの夫は,
1220 既に亡くなっており,
1221 子Eがいるも
1222 ののAとは疎遠となっており,
1223 B及びCはいずれもAの友人である。
1224
1225 Aは,
1226 同年12月1日,
1227
1228 亡した。
1229
1230
1231 遺言@の存在を知ったEは,
1232 平成25年1月10日,
1233 遺言@はAが意思能力を欠いた状態でさ
1234 れたものであり無効であると主張し,
1235 Bを被告として,
1236 遺言@が無効であることの確認を求める
1237 訴えを提起した(訴訟T)。
1238
1239
1240 以下は,
1241 Bの訴訟代理人である弁護士L1と司法修習生P1との間でされた会話である。
1242
1243
1244 L1:遺言無効確認の訴えは,
1245 遺言という過去にされた法律行為の効力の確認を求める訴えで
1246 すが,
1247 確認の利益は認められるでしょうか。
1248
1249 判例はありますか。
1250
1251
1252 P1:はい。
1253
1254 最高裁判所昭和47年2月15日第三小法廷判決(民集26巻1号30頁)は,
1255
1256 三十筆余の土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案
1257 において,
1258 次のように判示しています。
1259
1260
1261 「本件記録によれば,
1262 Xら(原告・控訴人・上告人)は,
1263 訴外某が昭和35年9月30
1264 日自筆証書によつてなした遺言は無効であることを確認する旨の判決を求め,
1265 その請求原
1266 因として述べるところは,
1267 右某は昭和37年2月21日死亡し,
1268 Xら及びY1からY5ま
1269 で(被告・被控訴人・被上告人)が同人を共同相続したものであるところ,
1270 右某は昭和3
1271 5年9月30日第一審判決別紙のとおり遺言書を自筆により作成し,
1272 昭和37年4月2日
1273 大分家庭裁判所の検認をえたものであるが,
1274 右遺言は,
1275 右某がその全財産を共同相続人の
1276 一人にのみ与えようとするものであつて,
1277 家族制度,
1278 家督相続制を廃止した憲法24条に
1279 違背し,
1280 かつ,
1281 その一人が誰であるかは明らかでなく,
1282 権利関係が不明確であるから無効
1283 である,
1284 というものである。
1285
1286 これに対し,
1287 Y1を除くその余の被上告人らは,
1288 本訴の確認
1289 の利益を争うとともに,
1290 本件遺言により右某の全財産の遺贈を受けた者はY2であること
1291 が明らかであるから,
1292 本件遺言は有効である旨抗争したものである。
1293
1294 第一審は,
1295 遺言は過
1296 去の法律行為であるから,
1297 その有効無効の確認を求める訴は確認の利益を欠くとして,
1298
1299 訴を却下し,
1300 右第一審判決に対してXらより控訴したが,
1301 原審も,
1302 右第一審判決とほぼ同
1303 様の見解のもとに,
1304 本訴を不適法として却下すべき旨判断し,
1305 Xらの控訴を棄却したもの
1306 である。
1307
1308
1309 よつて按ずるに,
1310 いわゆる遺言無効確認の訴は,
1311 遺言が無効であることを確認するとの
1312 請求の趣旨のもとに提起されるから,
1313 形式上過去の法律行為の確認を求めることとなるが,
1314
1315 請求の趣旨がかかる形式をとつていても,
1316 遺言が有効であるとすれば,
1317 それから生ずべき
1318 現在の特定の法律関係が存在しないことの確認を求めるものと解される場合で,
1319 原告がか
1320 かる確認を求めるにつき法律上の利益を有するときは,
1321 適法として許容されうるものと解
1322 するのが相当である。
1323
1324 けだし,
1325 右の如き場合には,
1326 請求の趣旨を,
1327 あえて遺言から生ずべ
1328 き現在の個別的法律関係に還元して表現するまでもなく,
1329 いかなる権利関係につき審理判
1330 断するかについて明確さを欠くことはなく,
1331 また,
1332 判決において,
1333 端的に,
1334 当事者間の紛
1335 - 2 -
1336
1337 争の直接的な対象である基本的法律行為たる遺言の無効の当否を判示することによつて,
1338
1339 確認訴訟のもつ紛争解決機能が果たされることが明らかだからである。
1340
1341
1342 以上説示したところによれば,
1343 前示のような事実関係のもとにおける本件訴訟は適法と
1344 いうべきである。
1345
1346 それゆえ,
1347 これと異なる見解のもとに,
1348 本訴を不適法として却下した原
1349 審ならびに第一審の判断は,
1350 民訴法の解釈を誤るものであり,
1351 この点に関する論旨は理由
1352 がある。
1353
1354 したがつて,
1355 原判決は破棄を免れず,
1356 第一審判決を取り消し,
1357 さらに本案につい
1358 て審理させるため,
1359 本件を第一審に差し戻すのが相当である。
1360
1361
1362 L1:ありがとう。
1363
1364 ただ,
1365 訴訟Tの事案には昭和47年判決の事案とは異なるところがあるよ
1366 うに思います。
1367
1368 昭和47年判決を前提としながら,
1369 事案の違いを踏まえ,
1370 Eが提起した遺
1371 言@の無効確認を求める訴えが確認の利益を欠き不適法であると立論してみてください。
1372
1373
1374 〔設問1〕
1375 あなたが司法修習生P1であるとして,
1376 弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。
1377
1378
1379 【事例1(続き)】
1380 Cは,
1381 平成25年3月1日,
1382 土地甲2につき,
1383 遺言執行者Dとともに遺贈を原因とする所有権
1384 移転登記手続の申請をし,
1385 同日,
1386 上記登記が経由された。
1387
1388
1389 Eは,
1390 同年5月1日,
1391 遺言AはAが意思能力を欠いた状態でされたものであり無効であると主
1392 張し,
1393 Dを被告として,
1394 上記所有権移転登記の抹消登記手続を求める訴えを提起した(訴訟U)
1395
1396
1397
1398 以下は,
1399 Dの訴訟代理人である弁護士L2と司法修習生P2との間でされた会話である。
1400
1401
1402 L2:EがDを被告として本件訴えを提起したのはなぜだか分かりますか。
1403
1404
1405 P2:はい。
1406
1407 遺言執行者は,
1408 遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しており,
1409
1410 言執行者がある場合に,
1411 相続人は相続財産についての処分権を失い,
1412 右処分権は遺言執行
1413 者に帰属します(民法第1012条,
1414 第1013条)。
1415
1416 また,
1417 最高裁判所の判決にも,
1418 「相
1419 続人は遺言執行者を被告として,
1420 遺言の無効を主張し,
1421 相続財産について自己が持分権を
1422 有することの確認を求める訴を提起することができるのである。
1423
1424 」と述べるものがありま
1425 す(最高裁判所昭和51年7月19日第二小法廷判決・民集30巻7号706頁)。
1426
1427 Eは
1428 その趣旨に従ったのだと思います。
1429
1430
1431 L2:なるほど。
1432
1433 ただ,
1434 本件でもそのように言うことができるでしょうか。
1435
1436 私としては,
1437 本案
1438 前の抗弁として,
1439 訴訟Uの被告適格は受遺者Cにあり,
1440 遺言執行者Dには被告適格がない
1441 と主張し,
1442 訴えの却下の判決を求めようと考えています。
1443
1444 このような立場から立論してみ
1445 てください。
1446
1447
1448 〔設問2〕
1449 あなたが司法修習生P2であるとして,
1450 弁護士L2から与えられた課題に答えなさい。
1451
1452
1453 【事例2】
1454 材木商Fは,
1455 土地乙をその所有者Jから賃借し,
1456 材木置場として利用していたところ,
1457 平成1
1458 5年4月1日,
1459 死亡した。
1460
1461 Fの相続人は,
1462 その子であるG及びHの2名であり,
1463 Fの妻I(G及
1464 びHの母)はFより先に亡くなっている。
1465
1466
1467 Gは,
1468 Fの死亡後,
1469 家業を継ぎ,
1470 土地乙を引き続き材木置場として利用している。
1471
1472
1473 ところが,
1474 土地乙については,
1475 平成13年4月1日に同日付け売買を原因とするJからHへの
1476 所有権移転登記がされている。
1477
1478
1479 - 3 -
1480
1481 Gは,
1482 平成23年1月10日,
1483 Hを被告として,
1484 土地乙につきGが所有権を有することの確認
1485 及びGへの所有権移転登記手続を求める訴えを提起したところ,
1486 Hは,
1487 土地乙の明渡しを求める
1488 反訴を提起した。
1489
1490
1491 この訴訟(以下「前訴」という。
1492
1493 )において,
1494 Gは,
1495 土地乙は,
1496 Gの父Fからその生前に贈与
1497 を受けた資金でGがJから買い受けたものであると主張し,
1498 Hは,
1499 Jから土地乙を買い受けたの
1500 はGではなく,
1501 Hの父Fであり,
1502 その後HがFから土地乙の贈与を受けたと主張した。
1503
1504
1505 前訴の裁判所は,
1506 審理の結果,
1507 土地乙をJから買い受けたのは,
1508 GではなくFであると認めら
1509 れるが,
1510 HがFから土地乙の贈与を受けた事実は認められないとの心証を得たものの,
1511 それ以上,
1512
1513 何らの釈明を求めることなく,
1514 Gの本訴請求とHの反訴請求をいずれも棄却する判決を言い渡し,
1515
1516 同判決は,
1517 そのまま確定した。
1518
1519
1520 ところが,
1521 その後もHが贈与により土地乙の単独所有権を取得したと主張したため,
1522 Gは,
1523
1524 成25年3月15日,
1525 Hに対し,
1526 土地乙がFの遺産であることを前提として,
1527 相続により取得し
1528 た土地乙の共有持分権に基づく所有権一部移転登記手続を求める訴えを提起した。
1529
1530
1531 この訴訟(以下「後訴」という。
1532
1533 )において,
1534 Hは,
1535 前訴の本訴請求についての判決により,
1536
1537 土地乙はGの所有でないことが確定しており,
1538 この点について既判力が生じているから,
1539 Gは相
1540 続による共有持分の取得を主張することもできないと主張している。
1541
1542
1543 以下は,
1544 後訴におけるGの訴訟代理人である弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話
1545 である。
1546
1547
1548 P3:前訴判決の認定によれば,
1549 土地乙はFの遺産に属し,
1550 したがって,
1551 Gは法定相続分に応
1552 じた共有持分権を有していることになるので,
1553 前訴において,
1554 Gの請求はその限度で認容
1555 されるべきであったのではないでしょうか。
1556
1557
1558 L3:確かにそのような疑問は湧きますね。
1559
1560 そもそも訴訟物のレベルにおいてGが単独所有権
1561 に基づく請求をしているのに,
1562 共有持分権の限度で請求を認容することが一部認容として
1563 できるかについては議論がありますが,
1564 両者は実体的に包含関係にあり,
1565 一個の訴訟物の
1566 一部として共有持分権の限度で請求を認容することは可能であるという前提で考えてくだ
1567 さい。
1568
1569
1570 P3:分かりました。
1571
1572
1573 L3:それから,
1574 今の点とは別に,
1575 Gが相続によって不動産を取得したことを主張する場合の
1576 請求原因が何であるか確認する必要がありますね。
1577
1578 その上で,
1579 主張のレベルにおいて,
1580
1581 判所は,
1582 請求原因の一部であってGが主張していない事実を判決の基礎とすることができ
1583 るかということが問題になりそうです。
1584
1585 検討してみてください。
1586
1587
1588 〔設問3〕
1589
1590
1591 相続による特定財産の取得を主張する者が主張すべき請求原因は何か。
1592
1593 本件の事実関係に即
1594 して説明しなさい(共有持分の割合に関する部分は捨象すること。
1595
1596 )。
1597
1598
1599
1600
1601
1602 前訴における当事者の主張を前提とすると,
1603 裁判所は,
1604 適切に釈明権を行使したならば,
1605
1606 記請求原因を判決の基礎とすることができるかどうか,
1607 検討しなさい。
1608
1609
1610
1611 【事例2(続き)】
1612 以下は,
1613 数日後に弁護士L3と司法修習生P3との間でされた会話である。
1614
1615
1616 L3:さて,
1617 我々としては,
1618 前に検討してもらった諸点を踏まえて,
1619 Hの上記主張に対し,
1620
1621 の法律上の反論を考えることになりますが,
1622 見通しはどうですか。
1623
1624
1625 P3:法律論としてまとめきれていないのですが,
1626 前訴ではHの反訴請求も棄却されているに
1627 もかかわらず,
1628 後訴で前訴判決の既判力を持ち出してGの共有持分権を否定するというH
1629 - 4 -
1630
1631 の態度には問題があるような気がします。
1632
1633 既判力によっては妨げられない訴えを信義則に
1634 基づいて却下した判例(最高裁判所昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8
1635 号799頁,
1636 最高裁判所平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147
1637 頁)と関連付けて法律論を組み立てられないかと考えています。
1638
1639
1640 例えば,
1641 平成10年判決は,
1642 次のように述べています。
1643
1644 いわゆる明示の一部請求の訴訟
1645 物は,
1646 その債権全体のうちの一部請求部分に限られるという考え方を前提とする判旨です。
1647
1648
1649 「一個の金銭債権の数量的一部請求は,
1650 当該債権が存在しその額は一定額を下回らない
1651 ことを主張して右額の限度でこれを請求するものであり,
1652 債権の特定の一部を請求するも
1653 のではないから,
1654 このような請求の当否を判断するためには,
1655 おのずから債権の全部につ
1656 いて審理判断することが必要になる。
1657
1658 すなわち,
1659 裁判所は,
1660 当該債権の全部について当事
1661 者の主張する発生,
1662 消滅の原因事実の存否を判断し,
1663 債権の一部の消滅が認められるとき
1664 は債権の総額からこれを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し(最高裁
1665 平成2年(オ)第1146号同6年11月22日第三小法廷判決・民集48巻7号135
1666 5頁参照),
1667 現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し,
1668 現存額が請求額に
1669 満たないときは現存額の限度でこれを認容し,
1670 債権が全く現存しないときは右請求を棄却
1671 するのであって,
1672 当事者双方の主張立証の範囲,
1673 程度も,
1674 通常は債権の全部が請求されて
1675 いる場合と変わるところはない。
1676
1677 数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は,
1678
1679 のように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて,
1680 当該債権が全く現存しない
1681 か又は一部として請求された額に満たない額しか現存しないとの判断を示すものであっ
1682 て,
1683 言い換えれば,
1684 後に残部として請求し得る部分が存在しないとの判断を示すものにほ
1685 かならない。
1686
1687 したがって,
1688 右判決が確定した後に原告が残部請求の訴えを提起することは,
1689
1690 実質的には前訴で認められなかった請求及び主張を蒸し返すものであり,
1691 前訴の確定判決
1692 によって当該債権の全部について紛争が解決されたとの被告の合理的期待に反し,
1693 被告に
1694 二重の応訴の負担を強いるものというべきである。
1695
1696 以上の点に照らすと,
1697 金銭債権の数量
1698 的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは,
1699 特段の事情がない限
1700 り,
1701 信義則に反して許されないと解するのが相当である。
1702
1703
1704 L3:そうですね。
1705
1706 既判力は前訴の訴訟物の範囲について生じ,
1707 その範囲で後訴において作用
1708 するのが原則ですが,
1709 あなたが指摘してくれた昭和51年判決や平成10年判決のように,
1710
1711 判例は,
1712 訴訟物の範囲を超えて後訴における蒸し返しを封じる場合を認めています。
1713
1714 訴訟
1715 物の範囲を超える部分では信義則が働くという論法です。
1716
1717
1718 このように信義則を理由として訴訟物の範囲よりも広く蒸し返しを禁じること(遮断効
1719 の拡張)が認められるのであれば,
1720 信義則を理由として既判力の作用を訴訟物よりも狭い
1721 範囲に止めること(遮断効の縮小)も認められるかもしれません。
1722
1723 遮断効の縮小に関して
1724 は,
1725 色々な考え方があり得ますが,
1726 本件では,
1727 平成10年判決を参考にして立論すること
1728 にしましょう。
1729
1730 言うまでもなく,
1731 信義則は一般条項ですから,
1732 これを持ち出す場合には,
1733
1734 どのような事情がいかなる理由により信義則の適用を基礎付けるのか,
1735 十分検討する必要
1736 があります。
1737
1738 困難な課題ではありますが,
1739 Hの上記主張に対し,
1740 Gの立場から考えられる
1741 法律上の主張を立論してみてください。
1742
1743
1744 〔設問4〕
1745 あなたが司法修習生P3であるとして,
1746 弁護士L3から与えられた課題に答えなさい。
1747
1748
1749
1750 - 5 -
1751
1752