1 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)
2 1
3
4 採点の基本方針等
5 本問は,
6 「公道」と「大学」という場所に関する2つの不許可処分をめぐる,
7 対比
8 的な構造をなしている。
9
10 憲法上の問題となるのは,
11 一方はデモ行進の自由の制約であ
12 り,
13 他方は大学の教室使用の許諾をめぐる平等原則違反である。
14
15 それゆえ,
16 本問では,
17
18 憲法第21条第1項,
19 第23条,
20 そして憲法第14条第1項が関連することになるが,
21
22 いずれも全ての受験生が相当程度勉強をしていると考えられる分野であるといってよ
23 い。
24
25
26 まず,
27 問題の事案をよく読み,
28 どのような行為が何によってどのように制約された
29 のかを正確に把握することが肝要である。
30
31 関連する憲法上の条文の解釈,
32 デモ行進の
33 自由に関する重要判例,
34 大学の自治に関する重要判例の正確な理解,
35 かつ,
36 それらの
37 判例における事案と本問の事案との相違等を踏まえて判断枠組みを構築した上で,
38 本
39 問事案に対する具体的検討を行い,
40 一定の説得力のある妥当な解決を導き出すことが
41 求められている。
42
43
44 採点においては,
45 条文及び判例についての正確な理解がなされ,
46 事案に対する個別
47 的・具体的検討がなされているか,
48 そして,
49 実務家として必要とされる法的思考及び
50 法的論述ができているかに重点を置いた。
51
52
53
54 2
55
56 採点実感
57 各委員からの意見を踏まえ,
58 答案として気にかかったものを中心に述べることにす
59 る。
60
61
62 (1) 問題の読み取りの不十分さ
63 問題文をきちんと読めていない答案が,
64 散見された。
65
66 例えば,
67 設問自体に「条文
68 の漠然性及び過度の広汎性の問題は論じなくてよい。
69
70 」と記載されているにもかか
71 わらず,
72 「平穏な生活環境を害する行為,
73 商業活動に支障を来す行為という規定は,
74
75 抽象的で広すぎるから違憲である」などと述べる答案,
76 あるいは,
77 拡声器の不使用
78 ・ビラの不配布・ゴミの不投棄というA側の自主規律を,
79 B県公安委員会の付した
80 条件と誤読した答案などが見られた。
81
82 問題文の内容を正確に読み取ることは,
83 まず
84 もって,
85 解答者にとって必須の能力というべきであろう。
86
87
88 また,
89 Aの抗議内容をそのまま引用しつつ,
90 デモ行進の不許可処分を内容規制で
91 あると断じる答案が相当数あった。
92
93 しかし,
94 当該不許可処分に至る状況説明は表現
95 内容に関係のない理由を示しているのであるから,
96 A側の主張としてであっても,
97
98 内容規制と位置付けるためには,
99 きちんとした説明が必要である。
100
101 その説明なしに,
102
103 Aの主観的な抗議内容をそのまま法的主張とすることには問題がある。
104
105
106 (2) 対比的構造
107 2つの不許可処分の対象となる主体はいずれもAであり,
108 両処分は連続してもい
109 る。
110
111 しかし,
112 その場所も,
113 これに関係する規定(条例と規則)も異なっている。
114
115 こ
116 の対比的な構造を明確に意識している答案は少なく,
117 平板ないし並列的に論ずる答
118 案が多くを占めていた。
119
120
121 また,
122 その場所がパブリック・フォーラム(PF)であるか否かを意識した答案
123 はほとんど見られず,
124 道路が伝統的なPFであることを指摘する答案は少なかった。
125
126
127
128 -1-
129
130 他方で,
131 大学の教室はPFである,
132 と誤って論じている答案もあった。
133
134
135 (3) 制約される憲法上の権利
136 Aらの行為が憲法上の権利として保障されることについて,
137 条文の文言との関係
138 に留意しないまま論じている答案が一定数見られた。
139
140 憲法解釈は条文の解釈でもあ
141 ることを忘れないでほしい。
142
143
144 デモ行進の現代的意義について丁寧に論じる答案が多く見られたのは好印象であ
145 ったが,
146 他方で,
147 表現の自由の性質の論述では,
148 「自己統治,
149 自己実現を支えるか
150 ら重要な人権である」という紋切り型のものが多かったことは,
151 学習内容の問題性
152 を示してもいる。
153
154
155 (4) 条例の違憲性
156 条例自体の違憲性を主張する場合には,
157 条例の事前許可制と付随的規制が問題と
158 なる。
159
160 付随的規制について論じた答案は,
161 ほとんどなかった。
162
163 内容規制なのか内容
164 中立規制なのかを自分なりに論じた上で判断枠組みを検討するなど意欲的な答案も,
165
166 少数ではあるが,
167 見られた。
168
169
170 事前許可制に関しては,
171 届出制に近い許可制であるか否かが問題となるが,
172 許可
173 制をとっていることをもって直ちに条例違憲とするなど,
174 関連する判例等も踏まえ
175 ずに極端な見解をとる答案が散見された。
176
177 表現の自由は重要だから厳格審査という
178 パターン化した答案,
179 あるいは,
180 「厳格審査の基準」を選択するにせよ「中間審査
181 の基準」を選択するにせよ,
182 それを選ぶ具体的な説明を書いていない答案やこれら
183 の基準の正確な理解を欠く答案が多く,
184 本問の具体的事案における問題の所在を把
185 握した上で判断枠組みを構築しようとする答案が少なかった。
186
187
188 本問では,
189 一般論としてのデモ行進が有する意義に加えて,
190 Aらが計画したデモ
191 行進が「格差の是正」を訴えるものであったという具体的な事実に着目してその意
192 義を論じることによって,
193 審査基準の厳格度に関する選択に説得力が出てくるが,
194
195 そのような答案は多くはなかった。
196
197 具体的事案を踏まえた,
198 柔軟で説得力ある論理
199 構成を望みたい。
200
201
202 また,
203 泉佐野市民会館事件判決を前提とする答案もあったが,
204 屋内施設(市民会
205 館)と道路との差を意識的に踏まえていた答案は少なく,
206 著名判決等は知りつつも,
207
208 個別事例への応用を前提とした理解が不足している感を覚えた。
209
210
211 処分違憲の主張においては,
212 2回目のデモ行進と3回目のデモ行進における本質
213 的な差異をきちんと論じる必要があるところ,
214 そこが不十分な答案も多かった。
215
216 市
217 民生活の平穏と商業活動に及ぼす弊害の防止を理由とする付随的規制が問題となる
218 が,
219 付随的規制であることを意識している答案は,
220 少なかった。
221
222 それらの「弊害」
223 防止の必要性,
224 デモ行進の重要性,
225 さらにデモ行進の中止以外の手段による弊害の
226 防止の可能性を十分に検討することなく,
227 観念的,
228 抽象的に断定する答案が少なか
229 らず見られた。
230
231 実務法曹には,
232 様々な利益をしっかりと衡量するという視点が常に
233 求められる。
234
235
236 (5) 教室使用不許可処分
237 残念ながら,
238 Aが教室の使用請求権を当然に有するとしている答案,
239 学生に教室
240 使用の権利が保障されているとする答案,
241 一般的な表現の自由や学問の自由の規制
242 として処理しようとする答案などが相当数あり,
243 平等原則違反の観点から指摘でき
244 た答案は少なかった。
245
246 平等原則を論じている答案でも,
247 使用目的等の比較検討にお
248
249 -2-
250
251 いて経済学部ゼミと憲法ゼミの違いに関する個別的・具体的検討が必要不可欠であ
252 るのに,
253 例えば,
254 経済学は非政治的であるが憲法学は政治的側面が強いなどと,
255 表
256 面的な指摘に止まる答案が少なくなかった。
257
258
259 また,
260 教室使用不許可処分の違法(違憲)の主張に対するB県側の反論として,
261
262 いわゆる「部分社会の法理」を挙げたものがあった。
263
264 「部分社会の法理」は,
265 本問
266 事案における反論として説得的であるとは思われない。
267
268
269 なお,
270 本問における不許可処分には,
271 学問の自由を制度的に保障するための大学
272 の自治という定式と異なり,
273 大学の自治と学問の自由が対立する構図が存在してい
274 る。
275
276 この点を論じるよう求めていたわけではないが,
277 この問題に気付き,
278 この点を
279 指摘する答案が少数ながらあった。
280
281 当該受験生の憲法感覚の鋭敏さを示すものとし
282 て賞賛したい。
283
284
285 (6) 原告側主張―反論―あなた自身の見解
286 限られた時間の中で各論点をバランス良く論じている優れた答案も少数ながらあ
287 ったものの,
288 全体としては,
289 本問を論述するに際して当然の前提とすべき事実を厚
290 く論証し,
291 事案解決のために論ずべき事項について十分な論証ができていない答案,
292
293 設問2の論述が極端に簡略な答案など,
294 構成のバランスを欠く答案が一定程度見ら
295 れた。
296
297 時間不足ということもあったように思われるが,
298 2つの不許可処分を対比す
299 るという出題意図や,
300 それぞれの不許可処分について憲法論として論じるべきポイ
301 ントがうまく捉え切れていないことが,
302 そうしたバランスの悪さの根本的な要因で
303 あるように思われる。
304
305
306 また,
307 原告側の主張を十分に論じていないものや原告の主張内容が極端な答案,
308
309 真に対立軸となるような反論のポイントを示していない答案,
310 原告側の主張と反論
311 という双方の議論を受けて「あなた自身の見解」を十分に展開していない答案が少
312 なくなく,
313 これまでの採点実感をきちんと読んでいないのではないかと思われた。
314
315
316 ただし,
317 「あなた自身の見解」において,
318 原告あるいは被告と「同じ意見」といっ
319 た記述は,
320 なくなってはいないが,
321 従前に比べると少なくなったこと,
322 そしてB県
323 側の「反論」について,
324 従前に比べてポイントのみを簡潔に論じる答案が多くなっ
325 てきていることは,
326 喜ばしいことである。
327
328
329 なお,
330 取り分け原告側の主張において「正当化」という見出しを付けて記述する
331 ことは,
332 適切ではない。
333
334 原告側が行うのは,
335 「違憲の主張」である。
336
337
338 (7) 答案の書き方等
339 毎年のように採点実感で指摘しているためか,
340 判断枠組みを前提として事案を検
341 討する際に,
342 「当てはめ」という言葉を使用する答案は少なくなっている。
343
344 他方で,
345
346 「当てはめ」という言葉を使って機械的な「当てはめ」を行う答案の問題性が,
347 際
348 立つ。
349
350 また,
351 これも度々指摘しているが,
352 行頭・行末を不必要に空けて書く答案は,
353
354 少なくなってきてはいるが,
355 いまだに存在する。
356
357
358 字が読みにくい答案ばかりでなく,
359 漢字の間違いが多く見られたのは,
360 残念なこ
361 とである。
362
363 緊張し,
364 しかも時間に追われるので,
365 字が乱雑になってしまいがちであ
366 ることは十分に理解できるが,
367 やはり丁寧な字で書くことは基本的なマナーである。
368
369
370 受験者は,
371 平素から,
372 答案は読まれるために書くもの,
373 という意識を持ってほしい。
374
375
376 3
377
378 答案の水準
379
380 -3-
381
382 以上の採点実感を前提に,
383 「優秀」「良好」「一応の水準」「不良」という四つの答案
384 の水準を示すと,
385 以下のとおりである。
386
387
388 「優秀」と認められる答案とは,
389 設問の対比的構造を的確に捉えた上で,
390 デモ行進
391 の自由を憲法第21条第1項においてきちんと位置付け,
392 第3回目のデモ行進の不許
393 可処分の合憲性を争うところでは,
394 付随的規制であることとその特性,
395 そして設問に
396 おける個別的・具体的事案に即した検討ができているものであり,
397 条例の違憲性,
398 事
399 前許可制の合憲性を争うところでは,
400 関連する判例を踏まえつつ,
401 判例における事案
402 と設問との違いを踏まえた検討を行い,
403 教室使用不許可処分に関しては,
404 それが平等
405 の問題であることを明確に位置付け,
406 県立大学とその学生,
407 経済学部のゼミと法学部
408 憲法ゼミ,
409 評論家と県会議員という対立軸をはっきりとさせて,
410 両者の相違について
411 十分に検討し,
412 上記の検討を踏まえて一定の筋道の通った結論を導き出している答案
413 である。
414
415
416 「良好」な水準に達している答案とは,
417 検討すべき重要かつ必要な事項の全てに関
418 して言及できているわけではないものの,
419 おおよその点について,
420 判断枠組みと事案
421 に即した個別的・具体的検討がそれなりに行われている答案である。
422
423
424 「一応の水準」に達している答案とは,
425 最低限押さえるべき憲法第21条第1項論
426 と憲法第14条第1項論が述べられるとともに,
427 事案に即した個別的・具体的検討が
428 少なくとも実質的には論じられていて,
429 議論の筋道がある程度通っている答案である。
430
431
432 「不良」と認められる答案とは,
433 憲法上の問題点を取り違えている上に,
434 事実の摘
435 示がおざなりであったり,
436 観念的・定型的な記述に終始したりしているものである。
437
438
439 4
440
441 今後の法科大学院教育に求めるもの
442 判例の射程範囲が理解できていない答案が目立った。
443
444 法科大学院では,
445 実務法曹を
446 養成するための教育がなされているわけであるが,
447 その一つの核をなすのは判例であ
448 る。
449
450 学生に教えるに当たって,
451 判例への「近づき方」が問われているように思われる。
452
453
454 判例の「内側」に入ろうとせずに「外在的な批判」に終始することも,
455 他方で,
456 判例
457 をなぞったような解説に終始することも,
458 適切ではないであろう。
459
460 判例を尊重しつつ,
461
462 「地に足を付けた」検討が必要であるように思われる。
463
464 判例の正確な理解,
465 事案との
466 関係を踏まえた当該判例の射程範囲の確認,
467 判例における問題点を考えさせる学習の
468 一層の深化によって,
469 学生の理解力と論理的思考力の養成がますます適切に行われる
470 ことを期待したい。
471
472
473
474 -4-
475
476 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第2問)
477 1
478
479 2
480
481 出題の趣旨
482 別途公表している「出題の趣旨」を,
483 参照いただきたい。
484
485
486 採点方針
487 採点に当たり重視していることは,
488 問題文の基本的な事実関係を把握し,
489 関係法令
490 の趣旨・構造を正確に読み解いた上で,
491 問いに対して的確に答えることができている
492 か,
493 基本的な判例等の正確な理解に基づいて,
494 相応の言及をすることのできる応用能
495 力を有しているか,
496 事案を解決するに当たっての論理的な思考過程を,
497 端的に分かり
498 やすく整理・構成し,
499 本件の具体的事情を踏まえた説得力のある法律論を展開するこ
500 とができているか,
501 という点である。
502
503 決して知識の量に重点を置くものではない。
504
505
506
507 3 答案に求められる水準
508 (1) 設問1
509 問題文及び法律事務所の会議録からC県側の主張を正確に理解した上で,
510 B土地
511 区画整理組合(以下「本件組合」という。
512
513 )の法的性格,
514 賦課金の新設を内容とす
515 る定款変更(以下「本件定款変更」という。
516
517 )の認可(以下「本件認可」という。
518
519 )
520 の具体的な法的効果を分析し,
521 関係法令の規定を適切に挙げながら,
522 本件認可の処
523 分性について,
524 丁寧に説得的に論じているかに応じて,
525 優秀度ないし良好度を判定
526 した。
527
528
529 C県側が本件認可の処分性を否定する論拠として,
530 内部行為論と紛争の成熟性の
531 欠如の二つを挙げていることに言及した上で,
532 組合員に対する賦課金の賦課に着目
533 することにより,
534 それぞれに対して反論の可能性があることを理解できていれば,
535
536 一応の水準の答案とした。
537
538 加えて,
539 C県側が本件組合を下級行政機関と主張する根
540 拠を具体的に挙げるとともに,
541 賦課金の仕組みを具体的に考察して処分性の検討に
542 つなげていれば,
543 良好な答案と判定した。
544
545 さらに,
546 C県側が主張する組合の行政主
547 体性の根拠を多面的に分析するとともに,
548 条例制定行為には処分性が認められず,
549
550 また,
551 条例制定行為と本件認可とは同様の性質を有するというC県側の主張につい
552 て,
553 反論を具体的に検討することができていれば,
554 優秀な答案と判定した。
555
556
557 (2) 設問2
558 本件認可の適法性について,
559 関係法令の規定を正確に挙げ,
560 本件の具体的事情と
561 どれだけ的確に結び付けて論じているか,
562 適法とする法律論及び違法とする法律論
563 として考えられるものを示しつつ,
564 複眼的な検討を踏まえて説得的に論じているか
565 に応じて,
566 優秀度ないし良好度を判定した。
567
568
569 事業施行に必要な経済的基礎・能力の欠如,
570 書面議決の取扱いに関する違法性,
571
572 賦課金免除の違法性のそれぞれについて,
573 検討の前提となる関係法令の規定を正確
574 に挙げて論じていれば,
575 一応の水準の答案,
576 それらについて,
577 本件の具体的事情に
578 即した法律論の提示がある程度できていれば,
579 良好な答案,
580 さらに詳細かつ説得的
581 に論じるとともに,
582 賦課金の算定方法が本件定款変更そのものではなく,
583 賦課金実
584 施要綱(以下「本件要綱」という。
585
586 )によって定められているため,
587 算定方法の違
588 法性は本件認可の違法性をもたらさないのではないかという問題について説得的に
589
590 -5-
591
592 論じられていれば,
593 優秀な答案と判定した。
594
595
596 4
597
598 採点実感
599 以下は,
600 考査委員から寄せられた主要な意見をまとめたものである。
601
602
603 (1) 全体的印象
604 ・ 雑に書き殴った字,
605 極端に小さい字,
606 極端な癖字など,
607 判読困難な答案が相変
608 わらず多く,
609 中には「適法」と書いたのか「違法」と書いたのかすら分からない
610 ものもあった。
611
612 例年繰り返し指摘しているところであるが,
613 受験者が答案作成を
614 するに当たっては,
615 もとより読み手を意識しなければならないのであり,
616 この点,
617
618 強く改善を求めたい。
619
620
621 ・ 誤字が多いもの,
622 必要以上にひらがな・カタカナを多用しているもの,
623 主語と
624 述語が呼応していないもの,
625 表現が極端な口語調であるなど稚拙なもの,
626 冗長で
627 言いたいことが分かりづらいものなど,
628 文書作成能力自体に疑問を抱かざるを得
629 ない答案が相当数見られた。
630
631
632 ・ 関係法令の規定に言及する場面で,
633 単純な文理解釈を誤っている答案や,
634 条文
635 の引用が不正確な答案(項・号の記載に誤りがあるなど)が少なくなかった。
636
637 ま
638 た,
639 関係しそうな条文を,
640 よく考えずに単に羅列しただけの答案も散見された。
641
642
643 このような答案は,
644 条文解釈の姿勢を疑わせることになる。
645
646
647 ・ 関係法令の規定を正確に読まないまま解答し,
648 本来適用されるべき規範と全く
649 関係のない議論をしている答案が散見された。
650
651 法律実務家を目指す以上,
652 適用さ
653 れる条文を正確に踏まえた議論をすることが必要である。
654
655
656 ・ 問題文で丁寧に解答すべき課題を提示しているにもかかわらず,
657 前提を誤解し
658 たり,
659 設問の指示に従わない答案がかなり多く見られた。
660
661 当然のことであるが,
662
663 まずもって,
664 設問をよく読み,
665 正しく理解した上で答案を作成することが求めら
666 れる。
667
668
669 ・ 問題文から離れた一般論・抽象論の展開に終始している答案が相変わらず多く
670 見られた。
671
672 設問と関係なく知識を披瀝しただけの答案には決して高い評価が与え
673 られないことを改めて認識すべきである。
674
675
676 ・ 会議録からの引き写しと,
677 一般的・概括的な判断枠組みとの組合せから直ちに
678 結論を導くような,
679 検討の実質が伴わない答案が多く見られた。
680
681 関係する条文と,
682
683 その趣旨に関する理解をも組み合わせた上で,
684 丁寧に論じることが求められる。
685
686
687 ・ 設問1の検討に時間を要したためか,
688 設問2については,
689 根拠を挙げることな
690 しに結論だけを書いた答案が少なくなかった。
691
692
693 (2) 設問1
694 ・ 内部行為論と紛争の成熟性の欠如について,
695 相互の論理的・機能的関係を的確
696 に把握していないと思われる答案が相当数あった。
697
698
699 ・ 土地区画整理法(以下「法」という。
700
701 )第25条第1項を本件組合が行政主体
702 ではないことの根拠として挙げる答案が多かった。
703
704 強制加入制という,
705 民間団体
706 には通常見られない例外的な仕組みになっていることにも注意すべきである。
707
708
709 ・ 処分性の定式を記載するにとどまり,
710 法令の規定に関する分析が不足している
711 答案が見られた。
712
713 処分性の判断に当たっては,
714 関係法令に照らして,
715 本件認可の
716 法的効果を具体的に分析することが必要である。
717
718
719
720 -6-
721
722 ・
723
724 法第53条第1項は,
725 組合施行の場合にも条例で施行規程を定めることとして
726 いると誤解して記述するなど,
727 関係法令や会議録の記載を正確に読んでいないと
728 思われる答案が散見された。
729
730
731 ・ 内部行為論や紛争の成熟性の欠如といった論点自体については,
732 大多数の受験
733 者が基本的に理解していた。
734
735 自らの思考過程を的確に文章にして表現する力が,
736
737 答案の出来に大きく影響していたように思われる。
738
739
740 (3) 設問2
741 ・ 全体として,
742 「本件認可は適法か」と問われているにもかかわらず,
743 単に「適
744 法とする法律論」と「違法とする法律論」を併記しただけで,
745 自らの見解を示さ
746 ない答案がかなり多く見られた。
747
748 他方,
749 適法・違法の両論に目配りしながら論ず
750 ることが求められているのに,
751 自説の展開だけにとどまって,
752 反対説については
753 ほとんど考慮していない答案も相当数見られた。
754
755
756 ・ 事実関係に対して法的評価を加える際に,
757 問題文に示された事実関係の一部を
758 そのまま抜き書きした上で,
759 直ちに適法又は違法との結論を導く答案が少なくな
760 かった。
761
762 それらの事実がなぜ適法又は違法と評価されるのかについて,
763 一歩踏み
764 込んで自分の言葉で説明することが必要である。
765
766
767 ・ 本件認可の根拠規定に触れることもなく,
768 いきなり裁量論を展開する答案や,
769
770 関係法令の規定を挙げることなく,
771 本件組合の施行する土地区画整理事業の破綻
772 の有無や賦課金の算定方法の平等原則違反の有無のみを論じているなど,
773 条文解
774 釈の姿勢が乏しい答案が散見された。
775
776
777 ・ 白紙の書面議決書に後で賛成の記載を施したという点だけを捉えて,
778 不公正で
779 違法であると論じるなど,
780 理由付けが不備な答案が散見された。
781
782
783 ・ 賦課金の算定方法が本件定款変更そのものではなく,
784 本件要綱によって定めら
785 れていることの指摘はできているものの,
786 違法性の承継の議論と無理に結び付け
787 て論じている答案が相当数見られた。
788
789
790 5
791
792 今後の法科大学院教育に求めるもの
793 法律の規定を正確に理解する訓練を重ねた上で,
794 与えられた命題に対し,
795 条文に則
796 して適切な見解を引き出すことができる能力,
797 自らの論理的な思考過程を的確に文章
798 にして表現する能力を習得させるという視点に立った教育を求めたい。
799
800
801 大多数の答案からは,
802 本問で論ずべき主な論点の内容自体について基本的な知識・
803 理解を有していることがうかがわれ,
804 この点,
805 法科大学院教育の成果を認めることが
806 できた。
807
808 しかしながら,
809 各設問における具体的な論述内容を見ると,
810 問題文から離れ
811 た一般論・抽象論の展開に終始している答案や,
812 会議録から抜き書きした事実関係と
813 一般論とを単純に組み合わせただけで直ちに結論を導くような,
814 条文解釈の姿勢に欠
815 ける,
816 問題意識の乏しい答案が,
817 相変わらず数多く見られた。
818
819 法律実務家に求められ
820 るのは,
821 法律解釈による規範の定立と,
822 丁寧な事実の拾い出しによる当てはめを通じ
823 た,
824 具体的事案の分析・解決の能力であり,
825 こうした地に足のついた議論が展開でき
826 る法曹を育てることを求めたい。
827
828
829
830 -7-
831
832 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第1問)
833 1
834
835 出題の趣旨等
836 出題の趣旨及び狙いは,
837 既に公表した出題の趣旨〔「平成25年司法試験論文式試
838 験問題出題趣旨【民事系科目】〔第1問〕」)のとおりである。
839
840
841
842 2
843
844 採点方針
845 採点は,
846 従来と同様,
847 受験者の能力を多面的に測ることを目標とした。
848
849
850 具体的には,
851 民法上の問題についての基礎的な理解とともに,
852 その応用を的確にす
853 ることができるかどうかを問うこととし,
854 制度の趣旨を踏まえ妥当と認められる解決
855 を説明する能力,
856 当事者間に生じた事態について法律関係の正確な理解に基づき分析
857 する能力及び事案の解決において参考となる判例の趣旨を理解して事案との比較検討
858 を的確に行う能力などを試そうとするものである。
859
860
861 その際,
862 単に知識を確認するにとどまらず,
863 掘り下げた考察をしてそれを明確に表
864 現する能力,
865 論理的に一貫した考察を行う能力,
866 及び具体的事実を注意深く分析した
867 上で法的観点から評価する能力を確かめることとした。
868
869
870 これらを実現するために,
871 1つの設問に複数の採点項目を設け,
872 採点項目ごとに適
873 切な考察が行われているかどうか,
874 その考察がどの程度適切なものかに応じて点を与
875 えることとしたことも,
876 従来と異ならない。
877
878
879 さらに,
880 複数の論点について表面的に言及する答案よりも,
881 考察の重要箇所におい
882 て周到確実な論述をし,
883 又は創意工夫に富む答案が,
884 法的思考能力の優れていること
885 を示していると考えられることがある。
886
887 そのため,
888 採点項目ごとの評価に加えて,
889 答
890 案を全体として評価し,
891 論述の緻密さや周到さの程度や構成の明快さの程度に応じて
892 も点数を与えることとした。
893
894 これらにより,
895 ある設問について考察力や法的思考能力
896 の高さが示されている答案には,
897 別の設問について必要なものの一部の検討がなく,
898
899 そのことにより知識や理解が不足することがうかがわれるとしても,
900 そのことから直
901 ちに答案の全体が低い評価となるものとはならないようにした。
902
903 また反対に,
904 論理的
905 に矛盾する構成をするなど,
906 法的思考能力に問題があることがうかがわれる答案につ
907 いては,
908 低く評価することとした。
909
910 なお,
911 全体として適切な得点分布が実現されるよ
912 う努めた。
913
914 以上の点も,
915 従来と同様である。
916
917
918
919 3
920
921 採点実感
922 各設問について,
923 この後の(1)から(3)までにおいて,
924 それぞれ全般的な採点実感を
925 紹介し,
926 また,
927 それを踏まえ,
928 司法試験考査委員会議申合せ事項にいう「優秀」,
929 「良
930 好」,
931 「一応の水準」及び「不良」の4つの区分に照らし,
932 例えばどのような答案がそ
933 れぞれの区分に該当するかについて示すこととする。
934
935 ただし,
936 これらは各区分に該当
937 する答案の例であって,
938 これらのほかに各区分に該当する答案はあり,
939 それらは多様
940 である。
941
942
943 また,
944 答案の全体的傾向から感じられたことについては,
945 (4)で紹介することとする。
946
947
948 (1) 設問1について
949 ア 設問1の全般的な採点実感
950 設問1は,
951 保証契約の要式性を題材とし,
952 無権代理人が作成した保証契約書で
953
954 -8-
955
956 あっても要式性を満たす場合があるのか否かを問題とするものであり,
957 判例や学
958 説によって未だ十分には議論されていない問題について,
959 自らの見解を説得的に
960 展開する能力を問う問題である。
961
962 議論が熟していない論点であり,
963 様々の結論が
964 あり得るが,
965 立法趣旨を的確に把握し,
966 それからの論理的な演繹により規範を定
967 立し,
968 さらに,
969 本問の具体的事実を丁寧に当てはめて論述することが求められる。
970
971
972 実際に作成された答案は,
973 契約内容を明確にして確認し,
974 保証意思を外部的に
975 も明らかにすることを通じて保証を慎重ならしめる等との立法趣旨を指摘した上
976 で,
977 Cは書面を見て追認したのであるから立法趣旨に反するところはないとする
978 ものがほとんどであった。
979
980 他方で,
981 上記の立法趣旨からは,
982 あくまでもC本人が
983 書面を作成することが必要であり追認したのみでは足りないとの結論も可能であ
984 り,
985 実際,
986 このような答案も少なからず見受けられた。
987
988
989 このように立法趣旨に着眼することは必要であるとしても,
990 立法趣旨のみから
991 一義的な結論を論理的に導くことにはやや不自然さが残るものであり,
992 そのこと
993 を自覚して,
994 一部の答案は,
995 立法趣旨からの説明を詳しくしたり事実関係を丁寧
996 に検討したりする等の工夫をしていた。
997
998
999 その反面において,
1000 立法趣旨と結論とを平板に併記するにとどまる答案も多か
1001 った。
1002
1003 例えば,
1004 保証契約の内容について保証人に明確な理解があるということの
1005 みを根拠にして保証契約を有効と見るという推論は,
1006 極端には,
1007 一切書面がない
1008 場合でも明確な理解があるからよい,
1009 ということになりかねない。
1010
1011 法解釈として
1012 は,
1013 最終的には,
1014 書面の要件に結び付けて論じる必要があり,
1015 その工夫が不十分
1016 なものも見られた。
1017
1018 通り一遍の説明で満足するのではなく,
1019 辛抱強く緻密に論理
1020 の流れを追求する態度を望みたい。
1021
1022
1023 なお,
1024 設問1では,
1025 上記の論点以外にも,
1026 無権代理人による契約の効力につい
1027 て論じるべきであるが,
1028 必要以上に詳細に検討する答案や,
1029 逆に,
1030 全く言及しな
1031 いものも散見された。
1032
1033 問題点を網羅的に指摘しつつも,
1034 その重要性に応じて適切
1035 なバランスによって論述する能力も求めたい。
1036
1037 また,
1038 ごく少数ではあったが,
1039 無
1040 権代理人による契約でも追認によって有効となる旨を指摘した上で,
1041 そのことの
1042 みから書面も有効となるとする答案があった。
1043
1044 無権代理人による契約の効果を本
1045 人に帰属させるための要件と,
1046 要式性を満たすための要件とは区別するべきであ
1047 るから,
1048 このような論述では要式性の検討として不十分である。
1049
1050
1051 なお,
1052 用語法に関する注意として,
1053 保証債務は,
1054 「主たる債務」が履行されな
1055 い場合において履行を求められるものである。
1056
1057 これを「被担保債務」とするもの
1058 が見られた。
1059
1060
1061 イ 答案の例
1062 優秀に該当する答案の例としては,
1063 上記の立法趣旨から原則として本人が作成
1064 した書面による保証意思の確認が必要であるとし,
1065 しかし,
1066 本問では,
1067 Cは経緯
1068 の説明を受けて書面を見た上で追認したことを指摘し,
1069 この追認には書面を認め
1070 る趣旨も含まれていると解釈して本人が作成した書面と同視することができると
1071 するものや,
1072 民法第446条第2項は,
1073 その文言に照らしても,
1074 代理による保証
1075 契約の締結の場合に必ずしも本人による書面の作成を要求するものではないとし
1076 た上で,
1077 無権代理の追認の場合に書面性の要件を満たすためには,
1078 上記の立法趣
1079 旨に照らし,
1080 本人が自ら書面の内容を確認した上で追認することを要求すべきで
1081
1082 -9-
1083
1084 あるとする解釈をして,
1085 保証契約の有効な成立を認めたものがあった。
1086
1087 また,
1088 結
1089 論は逆ではあるが,
1090 上記の立法趣旨から本人が主体的に書面を作成したことが必
1091 要であるとし,
1092 本問ではCは追認しているものの,
1093 C自身が主体的に書面を作成
1094 したものではないことを指摘し,
1095 さらに,
1096 追認の際に新たに書面を作成すること
1097 もできたはずであるとして,
1098 保証契約の効力を認めない答案も,
1099 前例と同様に,
1100
1101 立法趣旨と結論との論理的関連に配慮したものと評価することができる。
1102
1103
1104 良好に該当する答案の例は,
1105 立法趣旨と結論とを論理的に結び付けようと努力
1106 はしているものの説得力が十分ではないものである。
1107
1108 例えば,
1109 上記の立法趣旨か
1110 ら原則として本人が作成した書面が必要であるとしつつ,
1111 本問での状況を詳しく
1112 述べた上で「したがって例外的に有効としてよい」とするもの等があった。
1113
1114
1115 一応の水準に該当する答案の例は,
1116 立法趣旨は的確に指摘するものの深く検討
1117 することなく,
1118 本問では書面を見た上で追認したのであるから「立法趣旨に反す
1119 るところはない」等とするものである。
1120
1121
1122 不良に該当する答案の例は,
1123 立法趣旨について単に「保証人保護」とする等そ
1124 もそも立法趣旨を的確に指摘することができていないものや,
1125 前述のように,
1126 契
1127 約の効果を本人に帰属させるための要件と要式性を充足するための要件とを区別
1128 しないで「追認により契約の効果はCに及び,
1129 書面も有効となる等と論述するも
1130 のである。
1131
1132
1133 (2) 設問2について
1134 ア 設問2の全般的な採点実感
1135 設問2は,
1136 賃借物が破損した場合において,
1137 その破損が生じた原因が,
1138 賃借人
1139 Fからその内装工事の発注を受けたHの過失にあるケースを題材として,
1140 債務不
1141 履行責任に関する基本的な理解を問うものである。
1142
1143 そこでは,
1144 債務不履行を理由
1145 とする損害賠償請求(民法第415条)の基本的な要件構成を踏まえて,
1146 本問の
1147 ように履行補助者が使用される場合に,
1148 債務者である賃借人Fが責任を免れるこ
1149 とができないとすれば,
1150 それはなぜであり,
1151 責任を免れることができるとすれば,
1152
1153 それはなぜであるかを的確に説明し,
1154 その当否を論じることが求められる。
1155
1156
1157 実際に作成された答案も,
1158 賃借人Fが善良な管理者の注意をもって賃借物を保
1159 管する義務を負い,
1160 賃借人Fが使用した履行補助者Hの行為によってこの義務に
1161 違反していることを適切に見極め,
1162 債務の不履行,
1163 損害の発生,
1164 その間の因果関
1165 係という要件が備わるとした上で,
1166 債務者である賃借人Fに責めに帰すべき事由
1167 があるといえるかどうかを論じるものが多く見られた。
1168
1169 しかし,
1170 他方で,
1171 債務不
1172 履行責任には一切言及せず,
1173 不法行為責任や事務管理を理由とする費用償還請求,
1174
1175 不当利得返還請求のみを検討する答案も相当数見られた。
1176
1177 また,
1178 履行補助者責任
1179 に言及する答案の中でも,
1180 検討の結果,
1181 本問のHは履行補助者に当たらないとす
1182 るものも少なからず見られた。
1183
1184 これは,
1185 債務者に対して独立性を持たない者が引
1186 渡しや役務提供等の典型的な給付を債務者に代わって行うのが履行補助者である
1187 という,
1188 言葉の語感に由来すると思われるイメージに引きずられているためであ
1189 ると考えられる。
1190
1191 しかし,
1192 履行補助者とは,
1193 債務者が債務の履行のために使用す
1194 る者であり,
1195 使用者責任と異なり,
1196 補助者と債務者の間に支配・従属関係が存在
1197 する必要はない。
1198
1199 このような基本的概念の意味についてすら,
1200 注意をして学んで
1201 いない形跡がうかがわれたことは残念というほかない。
1202
1203
1204
1205 - 10 -
1206
1207 また,
1208 実際の答案では,
1209 債務不履行責任の要件を明示し,
1210 それぞれの意味と基
1211 準を明らかにして,
1212 本問の事実がそれに該当するかどうかを検討するものが多く
1213 見られた一方で,
1214 要件とその意味や基準を明確に示さないまま,
1215 本問に含まれる
1216 事情を列挙して,
1217 賃借人Fが責任を負うかどうかを論じるものが相当数見られた。
1218
1219
1220 本問で問題となる賃借物の保管義務はいわゆる手段債務であり,
1221 債務不履行とい
1222 う要件と責めに帰すべき事由の不存在という要件が表裏一体の仕方で問題となる
1223 という特徴があるとしても,
1224 そもそもどの要件の問題を論じているかすら判然と
1225 しない答案が少なからず見られたことは,
1226 法解釈の基本的な素養が十分に身に付
1227 いていないことをうかがわせるものであり,
1228 問題が大きいと感じられた。
1229
1230
1231 本問の中心は,
1232 以上のように履行補助者責任が問題になるとして,
1233 賃借人Fが損
1234 害賠償責任を免れることができないとすれば,
1235 それはなぜであり,
1236 責任を免れる
1237 ことができるとすれば,
1238 それはなぜであるかを的確に説明し,
1239 その当否を論じる
1240 ところにある。
1241
1242 この点については,
1243 伝統的通説とそれに対する近時の批判理論を
1244 始め,
1245 かねてから盛んに議論されてきたところであるが,
1246 いずれの見解によると
1247 しても,
1248 履行補助者責任が認められるための考え方を説得的に提示することがで
1249 きていれば足り,
1250 それに即して本問に含まれる事実を適切に評価し,
1251 それぞれの
1252 主張を基礎付けることが求められていた。
1253
1254
1255 もっとも,
1256 実際の答案では,
1257 このような観点から適切に論じることができてい
1258 るものばかりではなく,
1259 例えば,
1260 Hの故意・過失は信義則上債務者Fの故意・過
1261 失と同視することができるとのみ述べるものや,
1262 Hは独立の事業者なので賃借人
1263 Fは責任を負わない,
1264 あるいはFはHによって利益を得るので責任を負うべきで
1265 あるとのみ述べるものなどが見られた。
1266
1267 履行補助者責任をめぐる従来の議論を踏
1268 まえて論じていると見られるものは多くなく,
1269 伝統的通説による類型分けですら,
1270
1271 言及していないものが見られた。
1272
1273 履行代行者という用語を用いる答案でも,
1274 何ら
1275 の類型分けもしないまま,
1276 債務者はおよそ責任を負わないとのみ述べたり,
1277 債務
1278 者はおよそ選任・監督上の責任を負うにとどまると述べたりするものもあった。
1279
1280
1281 履行補助者責任は,
1282 債務不履行責任の基本的な考え方の当否が試されるいわば試
1283 金石に相当する問題であり,
1284 教材とされる文献などにおいても必ず一定の紙幅を
1285 割いて説明される重要問題の1つであり,
1286 丁寧に学んでおくことを望みたい。
1287
1288
1289 なお,
1290 賃借人Fに対する請求の根拠としては,
1291 ほかにも,
1292 不法行為に基づく損
1293 害賠償請求,
1294 事務管理による費用償還請求,
1295 不当利得返還請求等も考えられる。
1296
1297
1298 これらについて言及する答案でも,
1299 その内容が適切である限り,
1300 相応の評価を与
1301 えることとした。
1302
1303
1304 このうち,
1305 不法行為に基づく損害賠償請求に関しては,
1306 本問では,
1307 民法第71
1308 6条が適用されると考えられるが,
1309 注文者に当たるFには「注文又は指図」につ
1310 いて「過失」があったことはうかがわれない。
1311
1312 実際の答案では,
1313 このように的確
1314 に指摘するものも少なくなかったが,
1315 Hが「被用者」といえるかどうかに意を払
1316 わないまま民法第715条の使用者責任を認めたり,
1317 これらの特則に言及しない
1318 まま,
1319 民法第709条の不法行為責任のみを論じたりするものもあった。
1320
1321 民法第
1322 709条の「過失」の中で,
1323 履行補助者責任論を展開するものも見られ,
1324 基本的
1325 な体系理解に問題を抱えていることもうかがわれる。
1326
1327
1328 これに対して,
1329 事務管理による費用償還請求と不当利得返還請求については,
1330
1331
1332 - 11 -
1333
1334 賃貸人Bが本件の亀裂を修繕する義務を負わず,
1335 むしろ賃借人Fが修繕する義務
1336 を負うかどうかが中心問題となる。
1337
1338 実際の答案では,
1339 このことを正確に理解して
1340 論じるものも見られたが,
1341 特に不当利得返還請求について,
1342 経済的な利益の有無
1343 のみを論じたり,
1344 いずれかの当事者が利益を得ることが公平に反するとのみ述べ
1345 たりするものも相当数にのぼった。
1346
1347 法定債権関係に関する規定は,
1348 答案ではしば
1349 しば援用されるものの,
1350 正確に理解しないまま素朴なイメージに従って論じるも
1351 のが少なくなく,
1352 問題が大きいと感じられる。
1353
1354
1355 なお,
1356 用語法にも関連する注意として,
1357 履行補助者の概念を論ずるべきところ
1358 を「履行補助者的な立場にある者」とする答案が散見された。
1359
1360 このような曖昧な
1361 表現は,
1362 避けることが望まれる。
1363
1364
1365 イ 答案の例
1366 優秀に該当する答案の例は,
1367 本問では,
1368 賃借物の保管義務違反という債務不履
1369 行を理由とする損害賠償請求(民法第415条)が考えられることを指摘し,
1370 そ
1371 のための要件とその意味を正確に示した上で,
1372 特に責めに帰すべき事由の不存在
1373 という要件に関して履行補助者責任が問題になることを指摘し,
1374 債務者が責任を
1375 免れ,
1376 又は責任を負うべき理由を論じた上で,
1377 それに即して本問における賃借人
1378 Fの責任の有無を検討するものである。
1379
1380
1381 良好に該当する答案の例は,
1382 本問では,
1383 賃借物の保管義務違反という債務不履
1384 行を理由とする損害賠償請求(民法第415条)が考えられることを指摘し,
1385 そ
1386 のための要件を示した上で,
1387 特に履行補助者責任に相当するものが問題になるこ
1388 とは指摘しているものの,
1389 その要件上の位置付けが不明確であったり,
1390 履行補助
1391 者責任を基礎付ける理由や要件として考えられるものの提示が不正確ないし不十
1392 分であったりするものである。
1393
1394
1395 一応の水準に該当する答案の例は,
1396 本問では,
1397 賃借人の債務不履行を理由とす
1398 る損害賠償請求(民法第415条)が考えられることを指摘し,
1399 そのための主要
1400 な要件を示してはいるものの,
1401 Hが履行補助者として位置付けられることについ
1402 て明言しないか,
1403 不正確にしか言及しないまま,
1404 Hが亀裂を生じさせたこととの
1405 関係で賃借人Fに責任が認められるかどうかについて,
1406 本問に含まれる事実を手
1407 掛かりとして検討するものである。
1408
1409
1410 不良に該当する答案の例は,
1411 債務不履行を理由とする損害賠償請求に一切言及
1412 せず,
1413 他の構成のみを取り上げ,
1414 しかも,
1415 その理解に不正確ないし不明確な点が
1416 含まれるものである。
1417
1418
1419 (3) 設問3について
1420 ア 設問3の全般的な採点実感
1421 設問3は,
1422 まず,
1423 必要費償還請求権の成立要件について理解した上,
1424 それを事
1425 案に当てはめて結論を導く能力を問い,
1426 次に,
1427 【参考】判例を理解した上,
1428 その
1429 射程を検討し,
1430 あるいは,
1431 判例法理を的確に批判することによって,
1432 事案に応じ
1433 たルールを作成し,
1434 当てはめる能力を問うものである。
1435
1436
1437 前半部分については,
1438 @事案を示し,
1439 A条文を適切に提示した上,
1440 B必要費の
1441 定義を明らかにすることにより要件をきちんと明らかにした上で,
1442 C結論を導く
1443 必要がある。
1444
1445 実際には,
1446 Bが欠ける答案が見られた。
1447
1448 また,
1449 事務管理・不当利得
1450 について論じる答案が幾つか見られたが,
1451 民法第608条第1項に明文規定があ
1452
1453 - 12 -
1454
1455 るからには,
1456 そちらを挙げるべきである。
1457
1458
1459 後半部分については,
1460 単に【参考】判例と本問とでは事案が異なるから,
1461 Dの
1462 依拠する判例法理が本問には適用されないとするにとどまる答案が見られた。
1463
1464 【参
1465 考】判例の事案におけるどのような特徴が判旨の示すルールの前提となっている
1466 のかを論理的に明らかにし,
1467 その特徴がどのように変化すれば,
1468 ルールがどのよ
1469 うに変化するのかを明らかにしなければならない。
1470
1471 そして,
1472 本問の事案において
1473 は,
1474 どのようなルールが適用され,
1475 その結果,
1476 Gの主張に沿う結論となることを
1477 示す必要がある。
1478
1479 相殺を認めるのであれば,
1480 なぜ相殺が認められるのかを,
1481 物上
1482 代位との優劣だけでなく,
1483 相殺の要件に照らして示すことが求められる。
1484
1485
1486 また,
1487 相殺のほかにも,
1488 Gに同時履行の抗弁権があること,
1489 あるいは,
1490 必要費
1491 に対応する部分につき賃料債権が発生しないことなどを論じる答案もあったが,
1492
1493 それらには適切な評価を与えた。
1494
1495 しかし,
1496 そのときも,
1497 同時履行の抗弁権があれ
1498 ばどうなるのかまで,
1499 きちんと論じる必要があることは同様である。
1500
1501
1502 さらに,
1503 【参考】判例の示したルールを,
1504 その射程を限定するのではなく,
1505 根
1506 本的に批判する答案もあったが,
1507 これについても適切な評価を与えた。
1508
1509 しかし,
1510
1511 そのときも,
1512 そうであるならばいかなるルールが適用され,
1513 本問の具体的な結論
1514 はどうなるかまで論じる必要がある。
1515
1516
1517 なお,
1518 【参考】判例に従えば,
1519 Dの主張が妥当であり,
1520 Gの主張は認められな
1521 い,
1522 とする答案もあったが,
1523 Gのなすべき主張について問われているのであるか
1524 ら,
1525 問いに答えていると評価することはできない。
1526
1527 また,
1528 本問では,
1529 相殺の意思
1530 表示が物上代位による差押えの前であるなど,
1531 本問の事案及び【参考】判例の事
1532 案を正確に理解しない答案も一定数見られたが,
1533 適切なものと評価することはで
1534 きない。
1535
1536 賃料債権に対して抵当権に基づく物上代位権を行使することができるか,
1537
1538 という問題もあるが,
1539 「30万円を差し引いて支払う」というGの主張を基礎付
1540 けることが求められているのであるから,
1541 その問題自体を論じる必要はない。
1542
1543
1544 イ 答案の例
1545 優秀に該当する答案の例は,
1546 民法第608条第1項にいう「賃貸人の負担に属
1547 する必要費」とは,
1548 賃借物を使用及び収益に適する状態で保存するために必要な
1549 費用をいうところ(通常の用法を基準としてこの必要性の有無を判断すべきか,
1550
1551 当該賃貸借契約に定められた用法を基準としてこれを判断すべきかについては,
1552
1553 両様の見解がある。
1554
1555 ),
1556 本問で支出された費用の30万円は,
1557 台風により窓が損傷
1558 し,
1559 外気が吹き込むようになったことにより,
1560 授業に支障が生じていて,
1561 賃借物
1562 を用法に従って使用・収益するために必要なものであるから,
1563 GはBに対して3
1564 0万円の必要費償還請求権を有することを指摘した上で,
1565 【参考】判例の事案に
1566 おける自働債権と異なり,
1567 受働債権たる賃料債権との牽連関係が密接であるとと
1568 もに,
1569 賃料債権に抵当権の効力が及んでいることを知っていても,
1570 その取得を思
1571 いとどまることができない性質を有することなどを指摘し,
1572 【参考】判例の射程
1573 は及ばず,
1574 相殺の期待が重視されるべきことなどを論じ(この論理には様々なも
1575 のがあり得る。
1576
1577 ),
1578 かつ,
1579 相殺の要件を検討し,
1580 結論としてGはDが物上代位によ
1581 る差押えを行った後も,
1582 必要費償還請求権と賃料債務を相殺することができるこ
1583 とを論じるものである。
1584
1585
1586 良好に該当する答案の例は,
1587 Gが必要費償還請求権を有することは指摘するも
1588
1589 - 13 -
1590
1591 のの,
1592 必要費の定義を示した上で本問の事案を適切に評価できていないもの,
1593 ま
1594 た,
1595 【参考】判例の事案と本問の事案の違いは適切に指摘できているものの,
1596 そ
1597 のときに適用されるルールの提示に欠け,
1598 又は本問の事案へのそのルールの当て
1599 はめが不正確ないし不十分なものである。
1600
1601
1602 一応の水準に該当する答案の例は,
1603 Gが必要費償還請求権を有することは指摘
1604 できているものの,
1605 【参考】判例の事案と本問の事案の違いだけを理由に性急に
1606 結論を導いている嫌いがあるが,
1607 【参考】判例の事案と本問の事案の違いについ
1608 ては何とか論じているものである。
1609
1610
1611 不良に該当する答案の例は,
1612 Gの有する権利についても不明確ないし不正確で
1613 あり,
1614 【参考】判例の事案や本問の事案を適切に評価できていないものである。
1615
1616
1617 (4) 全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項
1618 各設問についての採点実感は以上のとおりである。
1619
1620
1621 それらとは別に,
1622 全ての設問を通じての全般的な採点実感も述べておくこととす
1623 る。
1624
1625
1626 全般的に見て,
1627 多くの答案が,
1628 表層的な論述に終始することなく,
1629 問われている
1630 事項を実質的,
1631 本質的に検討し,
1632 説得力のある論述をしようと試みており,
1633 このこ
1634 とには好感を抱くことができた。
1635
1636 もっとも,
1637 当然のことながら,
1638 そのような答案が
1639 ある反面において,
1640 そうでないものも少なからず見受けられた。
1641
1642
1643 司法試験の出題の中でも,
1644 特に論文式試験で出題される事項は,
1645 画一的な思考で
1646 解決が得られるようなものではなく、
1647 あえて解答を見いだすことが困難な課題を与
1648 えるなどして受験者の法的思考能力を試そうとしているのであり,
1649 採点者は,
1650 いわ
1651 ば出題において提示した課題を受験者が共に悩んでくれたであろうか,
1652 というよう
1653 な気持ちで一枚一枚を読むものである。
1654
1655 そのような気持ちで読み進む際に,
1656 ときに
1657 答案の中には,
1658 問われている事項の内容でなく,
1659 答案の文章表現や表面的な構成の
1660 ような見栄えにばかり囚われ,
1661 あるいは,
1662 これまで考えたことのない問題での致命
1663 的な失点を恐れて無難な表現に終始し,
1664 いつまで読み進んでも本質の内容的事項の
1665 論述が見いだされないものも見られる。
1666
1667 答案の表面的な構成の手法には,
1668 ときに流
1669 行のようなものも見られ,
1670 年によって特定の構成が多くの答案において用いられて
1671 いる状況が見られる。
1672
1673 そうした流行の型のようなものに従って論述することが,
1674 そ
1675 のことのみで不利になるということはないが,
1676 同時にまた気付いて欲しいことは,
1677
1678 そのように見栄えばかりに拘泥し,
1679 あるいは無難な表現に終始して,
1680 内容的本質に
1681 関わる論述を欠く答案は,
1682 当然のことながら高い評価は与えられるものではないと
1683 いうことである。
1684
1685 他方,
1686 その問題の本質的な課題に正面から向き合い,
1687 限られた時
1688 間の中で思考をめぐらせて自分なりの解答を見いだした答案については,
1689 一般に,
1690
1691 その内容に多少の難があったとしても,
1692 問題の本質に踏み込まない答案よりも高い
1693 評価が与えられることになる。
1694
1695
1696 また,
1697 昨年試験の採点実感で指摘したような不自然な文章表現が依然として散見
1698 され,
1699 また,
1700 潰れてしまっていて判読ができない字で書かれている答案も見られる。
1701
1702
1703 外見的な印象を良くすることを過剰に気にかけるのではなく,
1704 判読可能な字で,
1705
1706 平易な表現を用い,
1707 そして,
1708 何よりも,
1709 しっかり内容を備えた答案を作成した受験
1710 者を法律家の世界に迎え入れる,
1711 という趣旨で司法試験の採点がされている,
1712 とい
1713 うことをあらためて想起し,
1714 受験者においては,
1715 基礎的な知識や基本的な思考力の
1716
1717 - 14 -
1718
1719 涵養に努めて欲しい。
1720
1721
1722 5
1723
1724 法科大学院における学習において望まれる事項
1725 本年試験においても,
1726 採点された答案は,
1727 自ずと様々のものがあり,
1728 その一般的な
1729 傾向を一概に述べることは難しい。
1730
1731 しかし,
1732 おおむね合格の水準に達しているものは,
1733
1734 制度趣旨を踏まえた法的推論をしたり,
1735 具体的な事実の分析を通じて事案の法的解決
1736 を探求したりすることについて,
1737 相当の評価を与えることができるものである。
1738
1739 型通
1740 りの文章表現を暗記し,
1741 しかも意味を理解しないままそれを書きつける,
1742 というよう
1743 な旧時の悪弊は,
1744 余り見られないようになってきている。
1745
1746 このことは,
1747 理論と実務の
1748 架橋を踏まえた法曹養成をしようと努めてきた法科大学院教育が一定の成果を収めて
1749 いることの裏付けであると見ることができる。
1750
1751 取り分け,
1752 判例の提示する法律的命題
1753 を表層的に理解して,
1754 判例の結論のみから短絡的な議論を進めるような論述をする答
1755 案は,
1756 少なかった。
1757
1758 これは,
1759 判例が提示する法律的命題の本質的な趣旨に注意関心を
1760 向けさせ,
1761 理由や事実を丁寧に読ませてきた法科大学院教育の努力によるものである
1762 と見られる。
1763
1764
1765 反面において,
1766 答案の中には,
1767 単に事案を異にするから,
1768 という指摘のみをして結
1769 論を導くものも見られた。
1770
1771 どうして当面の事案には判例の命題が当てはまらないか,
1772
1773 を考えて欲しいにもかかわらず,
1774 そこに至っていない答案が見られるということであ
1775 る。
1776
1777 いうまでもなく,
1778 判例は自ずと具体的な個別性を伴うものであり,
1779 それを他の事
1780 案において活用することができるかを考察するに当たっては,
1781 判例を一般的な背景の
1782 中で位置付けさせる普遍的な思考が求められる。
1783
1784
1785 また,
1786 ある制度の趣旨のみを論述し,
1787 その趣旨から法的解決を導く過程の推論が,
1788
1789 不十分であるというよりも,
1790 その必要性に全く思い至らなかったと見られる答案もあ
1791 った。
1792
1793 学生の中には,
1794 ときに制度趣旨を論述することの重要性ということについて,
1795
1796 それさえ論述すれば一定の点数が得られるものであるというふうに誤解するものもい
1797 る。
1798
1799
1800 法科大学院においては,
1801 このような問題点を是正することをも意識して,
1802 ぜひ引き
1803 続き理論と実務の架橋を踏まえ,
1804 法的思考というものが持つ奥行きと魅力を学生に伝
1805 える教育に努めて欲しいと望む。
1806
1807
1808
1809 - 15 -
1810
1811 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第2問)
1812 1
1813
1814 出題の趣旨
1815 既に公表されている「平成25年司法試験論文式試験問題出題趣旨」(以下「出題
1816 趣旨」という。
1817
1818 )に,
1819 特に補足すべき点はない。
1820
1821
1822
1823 2 採点方針及び採点実感
1824 (1) 民事系科目第2問は,
1825 商法分野からの出題である。
1826
1827 これは,
1828 事実関係を読み,
1829 分
1830 析し,
1831 会社法上の論点を的確に抽出して各設問に答えるという,
1832 基本的な知識と,
1833
1834 事例解析能力,
1835 論理的思考力,
1836 法解釈・適用能力等を試すものである。
1837
1838
1839 (2) 設問1(譲渡制限株式の譲渡の効力と名義書換未了の場合の取扱い)では,
1840 まず,
1841
1842 その前段で,
1843 EのFに対する株式譲渡の甲社に対する効力が問われている。
1844
1845 本問で
1846 は,
1847 会社法第145条の規定によるみなし承認の要件を形式的に充足していること
1848 を踏まえた上で,
1849 代表取締役Aが,
1850 取締役会においてFに対する株式譲渡が承認さ
1851 れないことを懸念し,
1852 これを取締役会に諮ることを回避して上記のみなし承認の要
1853 件を充足させたという事情を指摘する必要があるが,
1854 この点の指摘は,
1855 多くの答案
1856 でされていたものの,
1857 この点に全く触れていない答案もあった。
1858
1859 そして,
1860 本来の制
1861 度の目的とは異なる目的でみなし承認の制度を利用した点がみなし承認の効力に影
1862 響を与え得るか否かについては,
1863 多くの答案で述べられていたが,
1864 記述が簡単な答
1865 案が多かった。
1866
1867 なお,
1868 この点については,
1869 どのような結論を採っても,
1870 理由が適切
1871 に述べられていれば,
1872 同等に評価したが,
1873 少しではあるものの,
1874 理由を丁寧に述べ
1875 て論述している答案も見られた。
1876
1877
1878 設問1の後段では,
1879 基準日の定めがなく,
1880 株主総会当日の株主に議決権を行使さ
1881 せればよいことを前提として,
1882 名義書換をしていないFを会社側から株主として取
1883 り扱うことができるか否かについて,
1884 名義書換が対抗要件であること(会社法第1
1885 30条)やその趣旨に照らして論ずることが求められるが,
1886 名義書換が対抗要件で
1887 あることを正しく理解していない答案が若干見られた。
1888
1889 本問では,
1890 代表取締役Aの
1891 言動が原因となってFから名義書換の請求がされていないことから,
1892 Fに法定の手
1893 続を履践していないという一定の落ち度は認められるものの,
1894 名義書換の不当拒絶
1895 に類似する状況であるという視点から論ずることも考えられるが,
1896 この点について
1897 論じた答案も見られた。
1898
1899 なお,
1900 どのような結論を採っても,
1901 理由が適切に述べられ
1902 ていれば,
1903 同等に評価したが,
1904 設問1の前段において,
1905 みなし承認の効力を否定し,
1906
1907 EのFに対する株式譲渡が甲社に対して効力を生じていないという結論を採りつつ,
1908
1909 設問1の後段において,
1910 単に,
1911 名義書換は会社の事務処理の便宜のための制度であ
1912 るという理由により,
1913 会社側から株主として取り扱うことは可能であると論ずる答
1914 案については,
1915 前段と後段との論理的関係に関する理解が不足するものと評価した。
1916
1917
1918 (3) 設問2(株主総会における取締役の報酬の増額決議の効力,
1919 この決議に基づいて
1920 支払われた報酬の返還請求の可否及び範囲)のうち,
1921 小問(1)は,
1922 平成25年総会に
1923 おける取締役の報酬の増額決議の効力を問うものであり,
1924 まず,
1925 @取締役会設置会
1926 社である甲社の株主総会において,
1927 その招集の際に定められた株主総会の目的であ
1928 る事項(会社法第298条第1項第2号)以外の事項について決議をしたことにつ
1929 いて,
1930 同法第309条第5項に違反し,
1931 株主総会の決議方法の法令違反という同法
1932
1933 - 16 -
1934
1935 第831条第1項第1号の決議取消事由に該当することを指摘する必要があるが,
1936
1937 本問における当日の議題提出が同法第309条第5項違反であることを正しく指摘
1938 した答案は極めて少なかった。
1939
1940 AQの死亡により遺産共有状態にある株式の権利行
1941 使者の指定(同法第106条)が共有者の持分の過半数の同意により行われたこと
1942 については,
1943 多くの答案が正しく論じていた。
1944
1945 さらに,
1946 B同法第831条第1項第
1947 3号の決議取消事由については,
1948 全く触れていない答案が相当数見られた。
1949
1950 また,
1951
1952 これに触れている答案でも,
1953 特別利害関係のある株主を「他の株主と異なる利益を
1954 得る者」と定義するなどという正しくない理解をしている答案がある程度見られた。
1955
1956
1957 なお,
1958 @Aに触れている答案の多くは,
1959 株主総会決議の取消事由について同法第8
1960 31条第2項の裁量棄却の余地があるか否かについても論じていた。
1961
1962
1963 小問(2)では,
1964 平成25年総会における取締役の報酬の増額決議(以下「平成25
1965 年総会決議」という。
1966
1967 )が取り消されると,
1968 決議の効力が遡及的に失われること,
1969 そ
1970 の結果,
1971 平成23年総会における取締役の報酬総額の決議がなお効力を有すること
1972 となることを前提として,
1973 平成23年総会において定められた報酬総額の枠を超え
1974 る額の個別報酬額を定めた取締役会決議の効力を論ずる必要がある。
1975
1976 具体的には,
1977
1978 この取締役会決議が全部無効となるのか又は一部無効にとどまるのか,
1979 一部無効と
1980 なる場合には,
1981 各取締役に対する報酬決定について無効となる金額,
1982 全部無効とな
1983 る場合には,
1984 全部返還を求め得るのか等の検討を踏まえて,
1985 結論の妥当性をも意識
1986 しつつ,
1987 各取締役に対して不当利得として報酬の返還を求め得ること及びその具体
1988 的金額について論ずることが求められる。
1989
1990 しかしながら,
1991 ほとんどの答案が,
1992 平成
1993 25年総会決議が取り消されると決議の効力が遡及的に失われることには触れてい
1994 たが,
1995 その結果,
1996 取締役会決議の効力がどうなるのかについては論じていなかった。
1997
1998
1999 報酬の返還請求については,
2000 取締役会決議の効力に触れないで,
2001 単に平成25年総
2002 会決議が取り消されたことの効果として論じた答案がほとんどであった。
2003
2004 なお,
2005 報
2006 酬の支払が一部無効と論じた答案も若干見られたが,
2007 これも,
2008 取締役会決議の効力
2009 に触れないでそのような結論を導いたものがほとんどであり,
2010 さらに,
2011 一部無効と
2012 なる具体的金額について説得的に記述した答案は極めて少なかった。
2013
2014
2015 (4) 設問3(株主割当てによる新株発行の差止めの可否及び新株発行の効力)では,
2016
2017 まず,
2018 その前段で,
2019 本問のような株主割当てによる新株発行に対し,
2020 不公正発行を
2021 理由とする差止請求(会社法第210条第2号)の可否を問うものであるが,
2022 多く
2023 の答案がこの点を論じていた。
2024
2025 もっとも,
2026 第三者割当ての事例についての裁判例に
2027 おけるいわゆる主要目的ルールをそのまま当てはめるだけの答案が多く,
2028 設問事例
2029 が株主割当てに関する事案であることを意識して論じている答案や,
2030 「株主が不利益
2031 を受けるおそれ」という要件について具体的に言及した答案は少なかった。
2032
2033 また,
2034
2035 新株発行差止請求権を被保全権利とする仮処分(民事保全法第23条第2項)につ
2036 いて言及した答案も少なかった。
2037
2038
2039 設問3の後段では,
2040 新株発行無効の訴え(会社法第828条第1項第2号)の可
2041 否について論ずることが求められるが,
2042 ほとんどの答案がこの点を論じていた。
2043
2044 も
2045 っとも,
2046 甲社は非公開会社であり株式が流通しないから本問のような株主割当ては
2047 無効事由となるとだけ述べた答案が多く見られ,
2048 新株発行により形成された法律関
2049 係の安定性や新株発行が会社の業務執行に準ずるものであることを重視する見解(最
2050 判平成6年7月14日集民172号771頁参照)に言及した答案や,
2051 Bは新株発
2052
2053 - 17 -
2054
2055 行差止請求権を被保全権利とする仮処分により救済を受けることが可能であったこ
2056 と,
2057 非公開会社においては,
2058 株主の持株比率の維持が重視されていること(会社法
2059 第199条第2項)等を意識した答案は,
2060 少なかった。
2061
2062
2063 (5) 以上のような採点実感に照らすと,
2064 「優秀」,
2065 「良好」,
2066 「一応の水準」,
2067 「不良」の
2068 四つの水準の答案は,
2069 次のようなものと考えられる。
2070
2071 第一に,
2072 「優秀」な答案は,
2073
2074 主要な論点をほぼ論ずることができていて(主要な論点の一つや二つが欠けている
2075 程度は,
2076 差し支えない。
2077
2078 ),
2079 各問題につき相当な理由付けをして自らの考えを述べ,
2080
2081 その考えに基づき論理的に整合性を持った法的議論を展開することのできている答
2082 案である。
2083
2084 「良好」な答案は,
2085 主要な論点で論じられていないものが若干あるが,
2086
2087 取り上げた論点についてはそれなりの論理的に整合性を持った法的議論がされてい
2088 る答案である。
2089
2090 「一応の水準」の答案は,
2091 最低限押さえるべき論点,
2092 例えば,
2093 設問
2094 1であれば,
2095 みなし承認の成否と名義書換の関係が,
2096 問題文にある事実を適切に当
2097 てはめながら論じられていて,
2098 議論の筋がある程度通っている答案である。
2099
2100 「不良」
2101 な答案は,
2102 そのような最低限押さえるべき論点も押さえられていない答案や,
2103 議論
2104 の筋の通っていない答案である。
2105
2106
2107 3
2108
2109 法科大学院教育に求められるもの
2110 譲渡制限株式の譲渡の効力と名義書換未了の場合の取扱い,
2111 株主総会における取締
2112 役の報酬に関する決議の効力,
2113 株主割当てによる新株発行の差止めの可否及び新株発
2114 行の効力についての規律は,
2115 会社法の基本的な規律であると考えられるが,
2116 これらに
2117 ついての理解に不十分な面が見られる。
2118
2119 会社法の基本的な知識の確実な習得とともに,
2120
2121 論理的思考力を養う教育が求められる。
2122
2123
2124
2125 - 18 -
2126
2127 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第3問)
2128 1
2129
2130 出題の趣旨等
2131 出題の趣旨は,
2132 既に公表された「平成25年司法試験論文式試験問題出題趣旨【民
2133 事系科目】〔第3問〕」に記載したとおりであるから,
2134 参照されたい。
2135
2136
2137 民事訴訟法科目では,
2138 例年,
2139 論文式試験問題の作成に当たり,
2140 受験者が,
2141 @民事訴
2142 訟法の基本的な原理・原則や概念を正しく理解し,
2143 基礎的な知識を習得しているか,
2144
2145 Aそれらを前提として,
2146 問題文をよく読み,
2147 設問で問われていることを的確に把握し,
2148
2149 正面から答えているか,
2150 B抽象論に終始せず,
2151 設問の事例に即して具体的に,
2152 かつ,
2153
2154 掘り下げた考察をしているか,
2155 といった点を評価することを狙いとしており,
2156 このこ
2157 とは今年も変わらない。
2158
2159
2160
2161 2
2162
2163 採点方針
2164 答案の採点に当たって,
2165 上記@からBまでの観点を重視していることも,
2166 従来と変
2167 わりがない。
2168
2169 上記Aと関連するが,
2170 問われていることに正面から答えていなければ,
2171
2172 点数を付与していない。
2173
2174 問われていることに正面から答えるためには,
2175 論点ごとにあ
2176 らかじめ丸暗記した画一的な表現をそのまま答案用紙に書き出すのではなく,
2177 設問の
2178 検討の結果をきちんと順序立てて自分の言葉で表現する姿勢が大切であり,
2179 採点に当
2180 たっては,
2181 受験者がそのような意識を持っているかどうかにも留意している。
2182
2183
2184
2185 3 採点実感等
2186 (1) 全体を通じて
2187 今回の出題においては,
2188 問題文に事実関係のほか関連する最高裁判所の判決内容
2189 を記載し,
2190 更に,
2191 登場人物のやり取りの中で検討の手掛かりやその方向性等を示す
2192 ことにより,
2193 受験者がその先の掘り下げた考察を行うことを期待した。
2194
2195 ところが,
2196
2197 実際には,
2198 与えられた手掛かり等を十分活用できていない答案が多かった。
2199
2200
2201 設問1でいえば,
2202 弁護士L1の発言「遺言という過去にされた法律行為の効力の
2203 確認を求める訴えですが,
2204 」に着目すれば,
2205 「現在」「過去」という概念を用いて論
2206 点を整理すればよいことに気付くであろう。
2207
2208 また,
2209 司法修習生P1の「三十筆余の
2210 土地及び数棟の建物を含む全財産を遺贈する内容の遺言の効力が争われた事案にお
2211 いて,
2212 」という発言内容は,
2213 昭和47年最判の事案を分析する際に着目すべきポイ
2214 ントにほかならない。
2215
2216 設問3及び4においても,
2217 後訴におけるGの訴訟代理人L3
2218 とその司法修習生P3とのやり取り(P3「前訴において,
2219 Gの請求はその限度で
2220 認容されるべきであった」,
2221 L3「裁判所は,
2222 請求原因の一部であってGが主張し
2223 ていない事実を判決の基礎とすることができるか」)が,
2224 検討の手掛かりや方向性
2225 を示している。
2226
2227
2228 〔設問3〕等の見出し以下の部分を最初に読んで,
2229 題意を早合点し,
2230 結局問題文
2231 全体を丁寧に読まない受験者が多いのではないか。
2232
2233 試験時間の制約がある中で効率
2234 よく題意を把握するため,
2235 受験者が設問の部分から先に読むことを一概に否定はし
2236 ないけれども,
2237 登場人物の会話も問題文であり,
2238 そこには出題者の意図が込められ
2239 ていることを忘れないでもらいたい。
2240
2241 なお,
2242 問題文を隅々まで読まないようでは法
2243 律実務家になろうとする者として注意深さが足りないとの指摘は,
2244 昨年の採点実感
2245
2246 - 19 -
2247
2248 でもしたところである。
2249
2250
2251 (2) 設問1【確認の利益】
2252 本問の課題は,
2253 判例の趣旨を正確に把握し,
2254 事実関係の相違を分析して判例の射
2255 程を検討し,
2256 依頼者のために法律上可能な立論をするというものである。
2257
2258 これは法
2259 律実務家にとって基礎的な作業であり,
2260 P1の発言「三十筆余の土地及び数棟の建
2261 物を含む全財産を遺贈」が検討の手掛かりになっていることは,
2262 前記(1)で述べ
2263 たとおりである。
2264
2265 しかしながら,
2266 答案では,
2267 最判の事案と設問の事案とで事実関係
2268 の異なる部分を幾つも羅列した上,
2269 自分の採りたい結論に直結させてしまい,
2270 その
2271 ような事実関係の相違がなぜ結論を左右するのかという中間の説明を丁寧に行って
2272 いないものが目立った。
2273
2274
2275 民事訴訟は私法上の法律関係を対象とし,
2276 私法上の法律関係は時間の経過ととも
2277 に変化し,
2278 そうであるからこそ,
2279 確認訴訟においてどの時点の法律関係を対象とす
2280 べきかが論じられる。
2281
2282 受験者には,
2283 まず,
2284 確認の対象は現在の法律関係でなければ
2285 ならないという原則をその根拠と共に論じることを期待したが,
2286 多くの答案が不十
2287 分な論述にとどまった。
2288
2289 この点を十分論じることなく,
2290 「そもそも確認の利益とは
2291 ・・・」といったレベルの一般論を長々と述べる答案は,
2292 設問において何が重要か
2293 の判断力を欠き,
2294 暗記したことを再現しているだけのものとして,
2295 印象がよくない。
2296
2297
2298 昭和47年最判は,
2299 遺言無効確認の訴えが,
2300 過去の法律関係を対象としているも
2301 ののそのことから直ちに不適法となるものではないとし,
2302 上記原則の例外となり得
2303 ることを明らかにした。
2304
2305 しかし,
2306 同最判は,
2307 『遺言無効の確認を求める訴えは一般
2308 に適法である』という法理を明言したわけでは必ずしもない。
2309
2310 同最判を後者のよう
2311 に理解していると,
2312 求められる立論が難しかったかもしれない。
2313
2314
2315 遺言を対象とすることの合理性を説明するために,
2316 遺言無効確認の判決を得れば
2317 当然に紛争の抜本的解決が図られるかのように論じる答案が多かったが,
2318 必ずしも
2319 そのようには言えないであろう。
2320
2321 遺言の無効が確認されても,
2322 その判決の効力は当
2323 該訴訟の当事者にしか及ばず,
2324 それ以外の関係者との間では紛争の解決が事実上期
2325 待できるに過ぎないからである。
2326
2327
2328 遺産確認の訴えについて適法とした最高裁判所昭和61年3月13日第一小法廷
2329 判決・民集40巻2号389頁の説示に引きずられたのか,
2330 遺産分割と関連付けた
2331 答案も見られた。
2332
2333 その典型例が,
2334 昭和47年最判の事案では特定の相続人に全財産
2335 を遺贈する内容の遺言であるが,
2336 設問1の遺言は被相続人の友人に土地甲を遺贈す
2337 る内容の遺言であり,
2338 前者では遺言の無効が確認されれば相続人間で遺産分割の問
2339 題となるが,
2340 後者ではそのような問題はないので,
2341 遺言無効は確認対象として不適
2342 格である,
2343 とする答案である。
2344
2345 しかし,
2346 昭和47最判は遺産分割との連携について
2347 は言及していないし,
2348 もしそこに確認対象の適格性を分かつ要因を求めてしまうと,
2349
2350 設問1の遺言が『全財産を友人Cに与える』という内容のものであったとしても,
2351
2352 『判決において,
2353 端的に,
2354 当事者間の紛争の直接的な対象である遺言の無効の当否
2355 を判示することによって,
2356 確認訴訟の持つ紛争解決機能が果たされる』ことにはな
2357 らず,
2358 個々の相続財産を特定してそれにつき原告が相続分に応じた持分権を有する
2359 ことの確認に引き直す必要があることになるが,
2360 そのような結果が不合理であるこ
2361 とに気付いてほしい。
2362
2363
2364 (3) 設問2【当事者適格】
2365
2366 - 20 -
2367
2368 設問1に比べ総じてよくできていた。
2369
2370
2371 なかでも遺言執行者の訴訟法上の地位が法定訴訟担当に当たることを一言でも指
2372 摘してある答案は,
2373 本件では当事者適格の所在が時間の経過とともに移動している
2374 という視点が明確になり,
2375 その論旨も説得的であった。
2376
2377
2378 一方,
2379 管理処分権をあたかも不動産所有権や金銭債権などと同じ次元の権利とし
2380 て理解しているようにうかがわれる答案があり,
2381 気になった。
2382
2383 例えば,
2384 債権者代位
2385 訴訟の原告は,
2386 債務者の第三債務者に対する債権につき,
2387 管理権(取立権)を有し
2388 ているが,
2389 当該債権を有してはいないように,
2390 両者は別のものである。
2391
2392 設問2に即
2393 していえば,
2394 特定物遺贈では,
2395 遺贈の発効と同時に受遺者はその所有権を取得する
2396 が,
2397 遺言執行者が置かれているときは,
2398 その管理処分権は遺言執行者に帰属するか
2399 ら,
2400 相続人が遺言に反して当該目的物につき相続を原因とする所有権移転登記を経
2401 由したときは,
2402 遺言執行者は,
2403 遺言執行の障害となる相続人名義の登記につき,
2404 こ
2405 の管理処分権に基づき,
2406 受遺者の法定訴訟担当者として,
2407 その抹消登記手続を求め
2408 る訴えを提起することができるが,
2409 遺言執行者が遺贈を原因とする受遺者宛ての所
2410 有権移転登記を経由することにより,
2411 遺言の執行を完了すれば,
2412 目的物についての
2413 管理処分権も受遺者に移転するから,
2414 遺贈を原因とする所有権移転登記の抹消登記
2415 手続請求訴訟の被告適格は受遺者にある。
2416
2417 当事者適格,
2418 特に第三者の訴訟担当との
2419 関連で用いられることの多い管理処分権の意味を今一度整理しておいてほしい。
2420
2421
2422 (4) 設問3及び4【弁論主義及び判決の効力】
2423 設問3の各小問及び設問4は,
2424 GH間で争われた二つの訴訟を通した,
2425 一連の問
2426 いであるが,
2427 まず,
2428 このことに理解が及ばず,
2429 ばらばらに論じている答案が少なく
2430 なかった。
2431
2432 また,
2433 後訴から関わった司法修習生P3の「Gの前訴請求は法定相続分
2434 に応じた共有持分の限度で認容されるべきであったのではないか」という疑問が一
2435 連の問いを通した「鍵」になっているが,
2436 このことを明確に意識して書かれている
2437 答案には,
2438 当然ながら説得力があった。
2439
2440
2441 Gの前訴請求が法定相続分に応じた共有持分の限度で認容されるべきであったと
2442 言えるためには,
2443 必要な請求原因に当たる事実が当事者から主張されていたことが
2444 必要であるから,
2445 まず,
2446 請求原因に該当する事実が何であるかを整理することにな
2447 る(設問3の小問1)。
2448
2449 この作業が本件の事実関係に即し具体的に行われている答
2450 案は,
2451 ごく自然な流れとして,
2452 それらの事実ごとに,
2453 順次,
2454 当事者からの主張の有
2455 無を検討することができており(同小問2),
2456 総じてよい得点につながっていた。
2457
2458
2459 その一方で,
2460 数は多くないとはいえ,
2461 小問1への解答として,
2462 被相続人もと所有,
2463
2464 被相続人が死亡,
2465 原告の相続権といった,
2466 法律要件にすぎないものを主要事実又は
2467 要件事実と誤解し,
2468 それだけを記述した答案が存在したことは,
2469 残念というほかな
2470 い。
2471
2472
2473 『裁判所は当事者の主張しない事実を裁判の基礎とすることができない』という
2474 弁論主義の第1テーゼは,
2475 裁判所と当事者の役割分担を規律するものであるから,
2476
2477 主要事実がそれにつき主張責任を負う当事者の相手方から主張されている場合でも,
2478
2479 それは訴訟資料となる。
2480
2481 このような趣旨のことが書かれていれば,
2482 主張共通という
2483 キーワードの有無にかかわらず配点している。
2484
2485 一方,
2486 小問2において弁論主義との
2487 関係で記述が求められている事項は以上に尽きるにもかかわらず,
2488 相変わらず,
2489 弁
2490 論主義の根拠,
2491 弁論主義の第2テーゼ,
2492 第3テーゼ,
2493 第1テーゼが間接事実には適
2494
2495 - 21 -
2496
2497 用がないこと及びその理由(自由心証による事実認定を窮屈にする云々)まで長々
2498 と論じるものがあるが,
2499 やはり得点につながらない上,
2500 丸暗記した論証パターンを
2501 無反省に書き散らした答案として,
2502 印象も極めてよくない。
2503
2504
2505 また,
2506 上記の主張共通の原則に全く言及しないで,
2507 設問の中に『適切に釈明権を
2508 行使したならば』とあるのに飛びついて,
2509 積極的釈明の意義とその許容性を滔々と
2510 論じる答案があったことには驚かされた。
2511
2512 相続を原因とする権利取得の請求原因は
2513 全て当事者から主張されているのだから,
2514 ここでいう『適切な釈明権の行使』が,
2515
2516 証拠資料から認定できる主要事実につき当事者の主張がないときに,
2517 主張責任を負
2518 う当事者に対してそれを主張するか否かを確認する意味での積極的釈明ではないこ
2519 とは,
2520 問題文から明らかであろう。
2521
2522
2523 なお,
2524 出題趣旨に記したように,
2525 FG間の父子関係やF死亡の事実については主
2526 張されていることが前提であったのに対し,
2527 これらの点について主張はないものと
2528 理解した答案も多かったが,
2529 本設問の主眼は主張共通の原則についての理解を問う
2530 ことにあるため,
2531 これらの点についての主張の有無の理解自体を有利ないし不利に
2532 評価することはしていない。
2533
2534
2535 設問4の課題は,
2536 原告Gの前訴請求は法定相続分に応じた共有持分の限度で認容
2537 されるべきであったし,
2538 そのような一部認容判決をすることは,
2539 弁論主義との関係
2540 でも支障がなかったことを前提として,
2541 Gのために,
2542 既判力の遮断効の範囲の縮小
2543 という立論をすることである。
2544
2545 既判力の客観的範囲に関する通常の理解からすれば,
2546
2547 Gの主張は前訴判決の既判力により,
2548 遮断されるのが原則である。
2549
2550 このような原則
2551 を最初に押さえている答案は,
2552 論述の骨格がしっかりしていたが,
2553 その数は多くは
2554 なかった。
2555
2556
2557 Gの主張が既判力による遮断の効果を受けるのを免れさせることは,
2558 本来それほ
2559 どたやすいことではない。
2560
2561 では,
2562 どのように立論すべきかであるが,
2563 Gの当該主張
2564 が必ずしも紛争の蒸し返しとは評価できないことについては,
2565 そのような趣旨がど
2566 うにか読み取れるというレベルのものも含めると,
2567 多くの答案が指摘できていた。
2568
2569
2570 論拠の一つとして,
2571 Gの前訴請求は法定相続分に応じた共有持分の限度で認容され
2572 るべきであったにもかかわらず,
2573 裁判所の訴訟指揮の不適切さもあって全部棄却の
2574 判決がされてしまったとの点を指摘できることは,
2575 先に述べたとおりである。
2576
2577
2578 一方,
2579 Hの態度にも着眼した上,
2580 その態度が信義則に反するということを具体的
2581 な事情に沿って指摘できている答案は多くなかった。
2582
2583 民事訴訟は,
2584 当事者双方及び
2585 裁判所のそれぞれにおいて事案の見え方が異なるところから始まるものであり,
2586 当
2587 事者双方の視点から事案を検討することは,
2588 法律実務家にとって基本的な姿勢だと
2589 思われる。
2590
2591 このような姿勢で答案作成に臨んでいる答案は,
2592 必要な事情を拾うこと
2593 ができているように感じられた。
2594
2595
2596 既判力によっては妨げられない訴えを信義則に基づいて却下した判例(昭和51
2597 年最判,
2598 平成10年最判)を分析して一般的な規範の定立を試みる答案が多く見ら
2599 れたが,
2600 信義則による個別的な解決と一般的な規範の定立とは本来相容れないもの
2601 であり,
2602 規範定立を試みた成果は乏しいと感じられた。
2603
2604
2605 設問で求められているのは原告Gの立場から立論をすることであり,
2606 答案の末尾
2607 においてその結論を明確に述べることも重要である。
2608
2609
2610 問題文をよく読んでいないと思われる答案が,
2611 設問4ではことのほか多かった。
2612
2613
2614
2615 - 22 -
2616
2617 例えば,
2618 前訴でFからHへの贈与の事実が否定されているにもかかわらず,
2619 後訴に
2620 おいてHがなお贈与を主張して土地乙が自己の所有に属すると主張するのは信義則
2621 違反である,
2622 と論じる答案がそれである。
2623
2624 確かに,
2625 遺産分割協議においてHがこの
2626 ように主張したことがGによる後訴提起を惹起したことは確かであるが,
2627 後訴の本
2628 案に関しては,
2629 Hは,
2630 Gによる土地乙についての共有持分権確認請求は土地乙につ
2631 いてのGの所有権確認請求を棄却した前訴確定判決の既判力に反すると主張してい
2632 るのであって,
2633 問題文はこの主張が信義則違反であることの論証を求めているので
2634 ある。
2635
2636 前訴ではGはJから土地乙の所有権を買得したと主張していたから,
2637 実質G
2638 の一部敗訴を意味する相続による共有持分権取得の主張を予備的にでもしておくべ
2639 きだったとするのは期待可能性がない,
2640 本来前訴において裁判所は共有持分権の限
2641 度でGの請求を一部認容すべきだったのであり,
2642 全部棄却とした裁判所の誤りによ
2643 る不利益をGに課すのは公平でない,
2644 等の理由から,
2645 前訴判決の既判力はGによる
2646 共有持分権の主張を遮断しない限度で縮小すると記した答案も,
2647 問題文をよく読ん
2648 でいない点では,
2649 同じである。
2650
2651 確かに,
2652 そういう論拠から既判力の縮小を論じるこ
2653 とは不可能ではないが,
2654 問題文は,
2655 Hの態度が信義則に反するとの角度から既判力
2656 の遮断効の範囲の縮小を立論することを求めているのであり,
2657 このような答案は,
2658
2659 問題文の要求に対するものとしては,
2660 評価できない。
2661
2662
2663 (5) まとめ
2664 以上のような採点実感に照らすと,
2665 「優秀」,
2666 「良好」,
2667 「一応の水準」,
2668 「不良」の
2669 四つの水準の答案は,
2670 概括的に次のように言うことができる。
2671
2672
2673 「優秀」な答案は,
2674 問われていることを的確に把握し,
2675 必要な論点を論じ,
2676 かつ,
2677
2678 設問の事例との関係で結論に至る過程を具体的に説明できている答案である。
2679
2680 この
2681 レベルには足りないが,
2682 問われている論点についての把握はできており,
2683 ただ説明
2684 の具体性や論理の積み重ねにやや不十分な部分があるという答案は「良好」と評価
2685 できる。
2686
2687 これに対し,
2688 最低限押さえるべき論点が論じられている答案は,
2689 「一応の
2690 水準」にあると評価できるが,
2691 そのような最低限押さえるべき論点も押さえられて
2692 いない答案は「不良」と評価せざるを得ない。
2693
2694
2695 以下,
2696 各設問に即して「一応の水準」「優秀」の答案イメージを付言すれば,
2697 次
2698 のとおりとなる(「良好」は両者の中間にあるもの,
2699 「不良」は「一応の水準」未満
2700 のものである。
2701
2702 )。
2703
2704
2705 確認の対象としては現在の法律関係を選択すべきであるという原則とその根拠を
2706 論じ(設問1),
2707 遺言執行者の民法上の地位を,
2708 条文を示して説明し,
2709 本件におけ
2710 る任務の内容及びその任務の終了を具体的に説明し(設問2),
2711 請求原因に該当す
2712 る事実の整理,
2713 主張共通の原則の適用場面であること及び後訴におけるGの主張が
2714 必ずしも紛争の蒸し返しとは評価できないこと(設問3及び4)の各指摘をするこ
2715 とができていれば,
2716 最低限押さえるべき論点が論じられているものとして「一応の
2717 水準」にあると評価できる。
2718
2719
2720 これらに加えて,
2721 昭和47年最判の正確な理解,
2722 本件事案への的確かつ具体的な
2723 当てはめ(設問1),
2724 遺言執行者の訴訟法上の地位が法定訴訟担当であることや,
2725
2726 管理処分権の移動の指摘(設問2)ができており,
2727 請求原因に該当する事実の的確
2728 な整理,
2729 当事者からの主張の存否の具体的な検討(設問3)に加え,
2730 Hの態度が信
2731 義則に反することをそのような評価を基礎付ける事情も含めて具体的に論じ,
2732 全体
2733
2734 - 23 -
2735
2736 の論旨も明快な答案(設問4)は,
2737 問われていることを的確に把握し,
2738 答えている
2739 ものとして「優秀」な答案と評価することができる。
2740
2741
2742 4
2743
2744 法科大学院教育に求めるもの
2745 民事訴訟法科目の論文式試験では,
2746 判例に関する記憶の量を試すような出題はして
2747 いない。
2748
2749 むしろ,
2750 当該判例の位置付けを民事訴訟法全体との関係において体系的に把
2751 握し,
2752 判例の基礎となった事案の特殊性を理解しておくことが肝要である。
2753
2754 試験会場
2755 において,
2756 出題された内容に応じて考察し,
2757 その判例の射程を論じたり(設問1),
2758
2759 その判例の示した法理に基づいて立論したり(設問4)できる能力を養うことを目標
2760 にして,
2761 日々の教育を行う必要があろう。
2762
2763
2764
2765 5
2766
2767 その他
2768 時間不足と思われる答案は少なく,
2769 答案の分量としては5枚程度でも必要かつ十分
2770 な論述ができていた。
2771
2772 考えながら書くのではなく,
2773 書き始める前に,
2774 答案構成に十分
2775 な時間をとることが大切であろう。
2776
2777 また,
2778 毎年繰り返しているところではあるが,
2779 極
2780 端に小さな字(各行の幅の半分にも満たないサイズの字では小さすぎる。
2781
2782 )や薄い字,
2783
2784 潰れた字や書き殴った字の答案が相変わらず少なくなく,
2785 心当たりのある受験者は,
2786
2787 相応の心掛けをしてほしい。
2788
2789
2790
2791 - 24 -
2792
2793 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第1問)
2794 1
2795
2796 出題の趣旨について
2797 既に公表した出題の趣旨のとおりである。
2798
2799
2800
2801 2
2802
2803 採点の基本方針等
2804 本問では,
2805 具体的事例に基づいて甲乙の罪責を問うことによって,
2806 刑法総論・各論
2807 の基本的な知識と諸論点についての理解の有無・程度,
2808 事実関係を的確に分析・評価
2809 し,
2810 具体的事実に法規範を適用する能力,
2811 結論の具体的妥当性,
2812 その結論に至るまで
2813 の法的思考過程の論理性を総合的に評価することを基本方針として採点に当たった。
2814
2815
2816 すなわち,
2817 本問は,
2818 暴力団組長の甲が,
2819 同組幹部のAを車のトランク内に閉じ込め,
2820
2821 車ごと燃やして殺害しようとの計画の下,
2822 自らAを自己所有車B(以下「B車」とい
2823 う。
2824
2825 )のトランク内に閉じ込めた上,
2826 その事情を秘して配下組員の乙に指示してB車に
2827 放火させたが,
2828 その前にAがトランク内で窒息により死亡していたという具体的事例
2829 についての甲乙の罪責を問うものであるところ,
2830 これらの事実関係を法的に分析した
2831 上で,
2832 事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開し,
2833 事実を具体的に摘示しつつ法規
2834 範への当てはめを行って妥当な結論を導くこと,
2835 更には,
2836 甲乙それぞれの罪責につい
2837 ての結論を導く法的思考過程が相互に論理性を保ったものであることが求められる。
2838
2839
2840 甲乙の罪責を分析するに当たっては,
2841 甲乙それぞれの行為や侵害された法益等に着
2842 目した上で,
2843 どのような犯罪の成否が問題となるのかを判断し,
2844 各犯罪の構成要件要
2845 素を一つ一つ吟味し,
2846 これに問題文に現れている事実を丁寧に拾い出して当てはめ,
2847
2848 犯罪の成否を検討することになる。
2849
2850 ただし,
2851 論じるべき点が多岐にわたることから,
2852
2853 事実認定上又は法律解釈上の重要な事項については手厚く論じる一方で,
2854 必ずしも重
2855 要とはいえない事項については,
2856 簡潔な論述で済ませるなど,
2857 答案全体のバランスを
2858 考えた構成を工夫することも必要である。
2859
2860
2861 出題趣旨でも示したように,
2862 本問における甲乙の罪責としては,
2863 いずれについても,
2864
2865 殺人罪,
2866 監禁罪(又は監禁致死罪),
2867 建造物等以外放火罪の成否が主要な問題となると
2868 ころであり,
2869 このうち,
2870 特に主要な論点としては,
2871 以下のものが挙げられる。
2872
2873
2874 まず,
2875 一つめとして,
2876 乙の殺人罪の成否の検討において,
2877 乙がAをB車トランク内
2878 に閉じ込めた状態で同車に火を放って殺害する意図でAの口をガムテープで塞いでト
2879 ランクを閉じて同車を走行させたところ,
2880 乙が企図したよりも早い段階となるB車走
2881 行中にAが窒息死したことにつき,
2882 構成要件の実現が早すぎた場合の実行の着手時期
2883 等についての擬律判断及び当てはめが挙げられよう。
2884
2885 この点については,
2886 殺人罪の構
2887 成要件要素,
2888 すなわち,
2889 実行行為(実行の着手),
2890 結果,
2891 因果関係及び故意について,
2892
2893 意義を正確に示した上で,
2894 具体的事実を当てはめることが基本であり,
2895 その中で上記
2896 擬律判断についての解釈論を展開し,
2897 的確な当てはめを行うことが求められる。
2898
2899
2900 二つめとして,
2901 甲の殺人罪の成否の検討において,
2902 甲が乙に対し,
2903 B車トランク内
2904 にAを閉じ込めていることを秘して同車への放火を指示した点につき,
2905 甲を間接正犯
2906 等の実行行為者とする殺人罪の成否の検討が必要である。
2907
2908 特に,
2909 乙がAの存在に気付
2910 きながらも上記行為に及んだことについてどのように評価するのかについては,
2911 間接
2912 正犯の着手時期等にも言及しつつ,
2913 丁寧に論じることが望まれる。
2914
2915 また,
2916 乙との共犯
2917 関係をどう捉えるのかについて,
2918 例えば,
2919 間接正犯の意図で教唆の結果を生じさせた
2920
2921 - 25 -
2922
2923 場合の擬律判断等の検討も望まれる。
2924
2925
2926 三つめとして,
2927 甲乙の建造物等以外放火罪の成否の検討においては,
2928 公共の危険の
2929 意義及び判断基準,
2930 同危険の発生の認識の要否等が主要な問題点となり,
2931 当てはめに
2932 ついても,
2933 具体的事実を的確に指摘して丁寧に論じることが求められる。
2934
2935
2936 その他,
2937 甲乙の監禁罪又は監禁致死罪の成否等,
2938 本問で論じるべき問題点は,
2939 多岐
2940 にわたるが,
2941 いずれの論点についても,
2942 参考となる著名な判例もある基本的な論点で
2943 あり,
2944 これらの論点に対する理解と刑法総論・各論の基本的理解に基づき,
2945 事実関係
2946 を整理して考えれば,
2947 一定の妥当な結論を導き出すことができると思われ,
2948 実際にも,
2949
2950 相当数の答案が一定の水準に達していた。
2951
2952
2953 3
2954
2955 採点実感等
2956 各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると,
2957 以下のとおりである。
2958
2959
2960 (1) 全体について
2961 多くの答案は,
2962 甲乙それぞれに殺人罪及び建造物等以外放火罪の成否を検討し,
2963
2964 特に主要な論点として挙げた前記各論点を論じており,
2965 本問の出題趣旨や大きな枠
2966 組みは理解していることがうかがわれた。
2967
2968
2969 特に,
2970 乙の殺人罪の成否の検討における構成要件の実現が早すぎた場合の擬律に
2971 ついては,
2972 最決平成16年3月22日刑集58巻3号187頁が参考になるところ
2973 であるが,
2974 相当数の答案が同判例が挙げる実行着手を判断するための複数の考慮要
2975 素を引用しており,
2976 また,
2977 建造物等以外放火罪の成否についても,
2978 相当数の答案が,
2979
2980 最決平成15年4月14日刑集57巻4号445頁で示されたような公共の危険の
2981 意義を示し,
2982 問題文中の具体的事実を摘示して当てはめるなど,
2983 重要判例について
2984 はそれ相応に学習していることがうかがわれた。
2985
2986
2987 ただし,
2988 刑事責任が余り問題とならないような点について延々と論述する一方で,
2989
2990 主要な論点については不十分な記述にとどまっているなどバランスを欠いた答案も
2991 少なからずあった。
2992
2993
2994 その他,
2995 考査委員による意見交換の結果を踏まえ,
2996 答案に見られた代表的な問題
2997 点を列挙すると以下のとおりとなる。
2998
2999
3000 (2) 乙の罪責について
3001 ア 殺人罪の成否を全く検討していない答案
3002 イ 殺人罪の成否につき,
3003 実行の着手等の客観的構成要件要素を論じることなく故
3004 意の有無しか論じていない答案,
3005 因果関係の有無と因果関係の錯誤とを混同して
3006 いる答案など,
3007 刑法総論の理論体系の理解が不十分と思われる答案
3008 ウ 殺人罪の成否につき,
3009 実行の着手,
3010 結果,
3011 因果関係を一応論じているものの,
3012
3013 具体的事実の摘示や当てはめが極めて不十分な答案
3014 エ 建造物等以外放火罪の成否につき,
3015 同罪を抽象的公共危険犯であるとする答案
3016 オ 建造物等以外放火罪の成否につき,
3017 「焼損」等の構成要件要素や「公共の危険」
3018 の意義等の記載を欠くか,
3019 記載していても不正確な答案
3020 カ これらの意義についての理解が不十分なためであると思われるが,
3021 それぞれの
3022 当てはめにつき,
3023 具体的な事実の摘示が不十分な答案
3024 キ なお,
3025 公共の危険やその認識の要否の各論点につき,
3026 他の見解にも言及しつつ
3027 自己の見解を説得的に論述している答案は高い評価を受けたが,
3028 そのような答案
3029
3030 - 26 -
3031
3032 は僅かであった。
3033
3034
3035 (3) 甲の罪責について
3036 ア 殺人罪の成否につき,
3037 安易に乙との間で黙示の共謀があったなどとして同罪の
3038 共謀共同正犯を認定した答案
3039 イ 殺人罪の成否につき,
3040 実行の着手等についての擬律判断及び当てはめを十分に
3041 論じることなく,
3042 安易に甲がAをB車トランク内に閉じ込めた行為を甲による殺
3043 人の実行着手と認定した答案
3044 ウ 殺人罪の成否につき,
3045 多くの答案が間接正犯の成否について一応言及していた
3046 ものの,
3047 そのほとんどが,
3048 「乙が途中でAの存在に気付いたから間接正犯は成立
3049 しない」旨簡潔に述べるのみで,
3050 間接正犯の実行着手時期に言及した上,
3051 殺人予
3052 備罪にとどまるのか,
3053 殺人未遂罪が成立するのかを明らかにした答案は僅かであ
3054 った。
3055
3056
3057 エ 殺人罪の成否につき,
3058 乙との共犯関係について何ら言及のない答案
3059 オ 甲に殺人罪(未遂,
3060 教唆を含む)が成立するとしても,
3061 甲がAをB車に乗車さ
3062 せて疾走させ,
3063 更には,
3064 Aに睡眠薬入りコーヒーを飲ませて昏睡させ,
3065 ロープで
3066 緊縛してトランク内に閉じ込めるなどした行為につき,
3067 別途,
3068 監禁罪等の成否の
3069 検討が求められるが,
3070 これについての言及を欠くか,
3071 記載していても不十分な内
3072 容にとどまった答案が多かった。
3073
3074
3075 カ 甲に殺人既遂教唆罪を認定したためか,
3076 甲の建造物等以外放火罪の成否につき,
3077
3078 共同正犯の成否を検討することなく,
3079 安易に同罪の教唆犯を認定した答案
3080 (4) その他
3081 これまでにも指摘してきたことでもあるが,
3082 少数ながら,
3083 字が乱雑なために判読
3084 するのが著しく困難な答案が見られた。
3085
3086 時間の余裕がないことは理解できるところ
3087 であり,
3088 達筆である必要はないものの,
3089 採点者に読まれることを意識し,
3090 なるべく
3091 読みやすい字で丁寧に答案を書くことが望まれる。
3092
3093
3094 (5) 答案の水準
3095 以上の採点実感を前提に,
3096 「優秀」「良好」「一応の水準」「不良」という四つの答
3097 案の水準を示すと,
3098 以下のとおりである。
3099
3100
3101 「優秀」と認められる答案とは,
3102 本問の事案を的確に分析した上で,
3103 本問の出題
3104 趣旨や上記採点の基本方針に示された主要な問題点について検討を加え,
3105 成否が問
3106 題となる犯罪の構成要件要素等について正確に理解するとともに,
3107 必要に応じて法
3108 解釈論を展開し,
3109 事実を具体的に摘示して当てはめを行い,
3110 甲乙の刑事責任につい
3111 て妥当な結論を導いている答案である。
3112
3113 特に,
3114 摘示した具体的事実の持つ意味を論
3115 じつつ当てはめを行っている答案は高い評価を受けた。
3116
3117
3118 「良好」な水準に達している答案とは,
3119 本問の出題趣旨及び上記採点の基本方針
3120 に示された主要な問題点は理解できており,
3121 甲乙の刑事責任について妥当な結論を
3122 導くことができているものの,
3123 一部の問題点についての論述を欠くもの,
3124 主要な問
3125 題点の検討において,
3126 構成要件要素の理解が一部不正確であったり,
3127 必要な法解釈
3128 論の展開がやや不十分であったり,
3129 必要な事実の抽出やその意味付けが部分的に不
3130 足していると認められたものなどである。
3131
3132
3133 「一応の水準」に達している答案とは,
3134 事案の分析が不十分であったり,
3135 複数の
3136 主要な問題点についての論述を欠くなどの問題はあるものの,
3137 刑法の基本的事柄に
3138
3139 - 27 -
3140
3141 ついては一応の理解を示しているような答案である。
3142
3143
3144 「不良」と認められる答案とは,
3145 事案の分析がほとんどできていないもの,
3146 刑法
3147 の基本的概念の理解が不十分であるために,
3148 本問の出題趣旨及び上記採点の基本方
3149 針に示された主要な問題点を理解していないもの,
3150 事案の解決に関係のない法解釈
3151 論を延々と展開しているもの,
3152 問題点には気付いているものの,
3153 結論が著しく妥当
3154 でないものなどである。
3155
3156
3157 4
3158
3159 今後の法科大学院教育に求めるもの
3160 本問において,
3161 構成要件の幹となる実行の着手等についての体系上の位置付けを理
3162 解していないと思われる答案が散見されたことを踏まえ,
3163 刑法の学習においては,
3164 ま
3165 ずもって総論の理論体系,
3166 例えば,
3167 構成要件要素である実行行為,
3168 結果,
3169 因果関係,
3170
3171 故意等の体系上の位置付けや相互の関係を十分に理解した上,
3172 これらを意識しつつ,
3173
3174 各論に関する知識を修得することが必要であり,
3175 答案を書く際には,
3176 常に,
3177 論じよう
3178 としている論点が体系上どこに位置付けられるのかを意識しつつ,
3179 検討の順序にも十
3180 分に注意して論理的に論述することが必要である。
3181
3182
3183 また,
3184 繰り返し指摘しているところであるが,
3185 判例学習の際には,
3186 結論だけを丸暗
3187 記するのではなく,
3188 判例の事案を十分に分析した上,
3189 その判例が挙げた規範や考慮要
3190 素が刑法の体系上どこに位置付けられ,
3191 他のどのような事案や場面に当てはまるのか
3192 などについてイメージを持つことが必要と思われる。
3193
3194
3195 このような観点から,
3196 法科大学院教育においては,
3197 引き続き判例の検討等を通して
3198 刑法の基本的知識や理解を修得させるとともに,
3199 これに基づき,
3200 具体的な事案につい
3201 て,
3202 妥当な解決を導き出す能力を涵養するよう一層努めていただきたい。
3203
3204
3205
3206 - 28 -
3207
3208 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第2問)
3209 1
3210
3211 採点方針等
3212 本年の問題も,
3213 昨年までと同様,
3214 比較的長文の事例を設定し,
3215 その捜査・公判にお
3216 いて生じる刑事手続法上の問題点につき,
3217 その解決に必要な法解釈・法適用に当たっ
3218 て重要な具体的事実を抽出・分析した上で,
3219 これに的確な法解釈により導かれた法準
3220 則を適用し,
3221 一定の結論を筋道立てて説得的に論述することを求めており,
3222 法律実務
3223 家になるための学識・法解釈適用能力・論理的思考力・論述能力等を試すものである。
3224
3225
3226 出題の趣旨は,
3227 公表されているとおりである。
3228
3229
3230 設問1は,
3231 司法警察員が,
3232 男2人組による殺人事件発生の約30分後,
3233 その現場か
3234 ら約800メートル離れた路上において,
3235 甲及び乙を発見し,
3236 両名を同事件の犯人と
3237 してそれぞれ準現行犯逮捕した手続,
3238 その後,
3239 司法警察員が,
3240 甲の身体着衣を捜索す
3241 るため,
3242 甲を逮捕の現場から約300メートル離れた交番に連行する途中,
3243 転倒した
3244 甲のズボンポケットから落ちた携帯電話を差し押さえた手続に関し,
3245 各逮捕及び差押
3246 えの適否を問うものである。
3247
3248 逮捕に関しては,
3249 準現行犯の要件該当性についての法解
3250 釈を論じた上で,
3251 事例に現れた各事実が持つ意味を明確にしてその適用を論じること
3252 を求め,
3253 差押えに関しては,
3254 「逮捕の現場」についての法解釈に加え,
3255 差し押さえる
3256 べき物と被疑事実との関連性を判断する基準を示した上で,
3257 事例への適用を論じるこ
3258 とを求めている。
3259
3260
3261 設問2は,
3262 性質の異なる内容を含む実況見分調書について,
3263 要証事実との関連にお
3264 いて各部分がいかなる性質を持つのかを明確にした上で,
3265 伝聞法則及びその例外規定
3266 が適用されるかを検討し,
3267 本事例においてその具体的適用を求めている。
3268
3269
3270 採点に当たっては,
3271 このような出題の趣旨に沿った論述が的確になされているかに
3272 留意した。
3273
3274
3275 設問1及び設問2は,
3276 いずれも捜査及び伝聞法則に関する刑事訴訟法の条文並びに
3277 判例の基本的な理解を問うものであり,
3278 法科大学院において刑事手続に関する科目を
3279 修得した者であれば,
3280 何を論じるべきかは明白な事例である。
3281
3282 設問1のうち,
3283 乙の準
3284 現行犯逮捕については,
3285 法科大学院の授業で直接扱うことはないかもしれないが,
3286 準
3287 現行犯人の逮捕が無令状で許される趣旨を十分に理解し,
3288 そこから事例の特徴を踏ま
3289 えて法的議論を展開する能力を備えているかを問うものである。
3290
3291
3292
3293 2
3294
3295 採点実感
3296 各考査委員からの意見を踏まえた感想を述べる。
3297
3298
3299 設問1については,
3300 準現行犯逮捕及び逮捕に伴う差押えの適法性について,
3301 事例に
3302 現れた法的な問題点を明確に意識し,
3303 制度趣旨や判例法理の理解を踏まえつつ,
3304 それ
3305 ぞれの問題点ごとに法解釈を的確に論じた上で,
3306 事例中の具体的事実を適切に抽出し,
3307
3308 それら事実の持つ意味に従って的確に分析・整理して法解釈を適用し結論を導いた答
3309 案が見受けられた。
3310
3311 また,
3312 設問2については,
3313 実況見分調書の証拠能力について,
3314 要
3315 証事実との関連において,
3316 実況見分調書中の各部分の性質を明確にした上で,
3317 その性
3318 質に応じ,
3319 伝聞法則についての正確な理解に基づき,
3320 的確に証拠能力付与の要件を論
3321 じた答案が見受けられた。
3322
3323
3324 他方,
3325 法解釈に関する抽象的な論述や判例の表現を暗記し,
3326 それを機械的に記載し
3327
3328 - 29 -
3329
3330 ているものの,
3331 具体的事実にこれを適切に適用することができていない答案や,
3332 そも
3333 そも法的に意味のある具体的事実の抽出・分析が不十分な答案,
3334 関係条文の解釈の論
3335 述ができていない答案も見受けられた。
3336
3337
3338 設問1の【逮捕@】では,
3339 準現行犯逮捕としての適法性について問われているので
3340 あるから,
3341 甲につき,
3342 平成25年2月1日午後10時頃にH公園で発生したVに対す
3343 る殺人事件という特定の犯罪との関係で,
3344 刑事訴訟法第212条第2項各号の要件該
3345 当性を論じた上で,
3346 甲が「罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる」(犯
3347 罪と犯人の明白性)という要件を満たすかについて論じることが求められている。
3348
3349 と
3350 ころが,
3351 同項各号の要件該当性の検討に先んじて犯罪と犯人の明白性の要件を論じた
3352 り,
3353 同項各号の要件該当性を犯罪と犯人の明白性の要件充足性を検討するための一要
3354 素として論じる等,
3355 同項の構造を理解していないと思われる答案が相当数見受けられ
3356 た。
3357
3358
3359 また,
3360 甲が同項3号に規定する「身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき」の
3361 要件を満たすことを論じた上で,
3362 犯罪と犯人の明白性を論じるべきことは理解してい
3363 るものの,
3364 後者の判断材料に関し,
3365 司法警察員Pが直接覚知した事情に限定されるの
3366 か,
3367 その他の事情も含まれるのかにつき全く言及せず,
3368 あたかもWによる通報内容の
3369 みで当然に犯罪と犯人の明白性を認定できるかのように論じたり,
3370 司法警察員Pが甲
3371 及び乙を発見した日時・場所,
3372 その際の甲及び乙の特徴,
3373 職務質問時の乙の供述内容
3374 等を漫然と羅列したりする答案が数多く見受けられた。
3375
3376
3377 そして,
3378 【逮捕A】についても【逮捕@】同様,
3379 まず,
3380 乙につき同項各号の要件該
3381 当性を論じた上で,
3382 犯罪と犯人の明白性を論じるべきであるところ,
3383 同項各号の要件
3384 該当性を論じずに犯罪と犯人の明白性を論じたり,
3385 同項各号の要件該当性を否定しな
3386 がら,
3387 乙の自白等から犯罪と犯人の明白性が認められるとして【逮捕A】を適法とす
3388 る答案が相当数見受けられ,
3389 そもそも同法第212条第2項の構造を理解していない
3390 と思われた。
3391
3392 逆に,
3393 【逮捕A】につき同項各号を形式的に適用し,
3394 各号に該当しない
3395 ので直ちに違法とする答案も相当数あり,
3396 こちらは結論はともかく,
3397 【逮捕A】の問
3398 題点を理解していないと思われた。
3399
3400
3401 【逮捕A】につき同項各号の要件該当性を論じるに当たっては,
3402 本件が共犯事件で
3403 あることを意識すべきであるところ,
3404 答案の中には,
3405 共犯事件であることのみをもっ
3406 て,
3407 甲の被服に付着した血痕が,
3408 乙との関係でも直ちに「犯罪の顕著な証跡」に該当
3409 するとしたものが見受けられ,
3410 Wが,
3411 甲及び乙の共謀に基づく殺害行為を目撃してい
3412 ること,
3413 司法警察員P及びQが甲及び乙を発見した際,
3414 両名は行動を共にしており,
3415
3416 両名の特徴はWが目撃した犯人2名の特徴と一致することなど,
3417 甲と乙との一体性を
3418 示す具体的事実を指摘した上で,
3419 乙の同項3号該当性を論じることのできた答案は少
3420 なかった。
3421
3422
3423 さらに,
3424 乙は共謀共同正犯であるから,
3425 乙につき「罪を行い終わってから間がない
3426 と明らかに認められる」との要件を満たすかについて論じるに当たっては,
3427 この要件
3428 が,
3429 甲による実行行為のみに向けられているのか,
3430 甲及び乙の共謀まで含むのか,
3431 後
3432 者の見解をとる場合,
3433 共謀とは謀議行為を意味するのか,
3434 意思の連絡を意味するのか
3435 につき自己の見解を明らかにした上で,
3436 【逮捕@】と同じく,
3437 この要件の判断材料と
3438 なり得る事情の範囲につきいかなる見解をとるかによって結論が異なると思われるが,
3439
3440 この点について論じた答案はほぼ皆無であった。
3441
3442
3443
3444 - 30 -
3445
3446 なお,
3447 【逮捕A】を違法とする答案の多くが,
3448 緊急逮捕としての適法性を論じてい
3449 たものの,
3450 設問には「刑事訴訟法第212条第2項に基づき」と記載され,
3451 準現行犯
3452 逮捕としての適法性が問われているのは明白であり,
3453 緊急逮捕を論じる必要はない。
3454
3455
3456 また,
3457 中には,
3458 現行犯逮捕としての適法性を論じる答案もあったが,
3459 準現行犯逮捕と
3460 して違法である以上,
3461 それよりも要件の厳しい現行犯逮捕として適法になる余地はな
3462 く,
3463 現行犯逮捕を論じること自体,
3464 無令状逮捕が認められる要件や趣旨を理解してい
3465 ないことの表れである。
3466
3467 いわゆる論点主義に陥らず,
3468 刑事手続全体を俯瞰した学習を
3469 求めたい。
3470
3471
3472 【差押え】については,
3473 本事例では,
3474 司法警察員Pは,
3475 逮捕の約10分後に本件【差
3476 押え】を実施しており,
3477 同法第220条第1項の「逮捕する場合」の要件を満たすこ
3478 とは明らかである。
3479
3480 それにもかかわらず,
3481 この点について相当の分量を割いて論述す
3482 る答案が散見され,
3483 事例に即して論じる健全な感覚を欠き,
3484 無意味なマニュアル的論
3485 述に終始する弊に陥っているのではないかと危惧された。
3486
3487
3488 設問の【差押え】に関する部分は著名な最高裁判例(最決平成8年1月29日刑集
3489 50巻1号1頁)を下敷きにしており,
3490 多くの答案においては,
3491 それを踏まえておお
3492 むね適切な論述ができていたものの,
3493 同判例が,
3494 被処分者に対する差押えをできる限
3495 り速やかに実施するのに適当な最寄りの場所まで連行した上で,
3496 実施した差押えを「『逮
3497 捕の現場』における差押えと同視することができる」としていることに漫然と倣って
3498 結論を導く答案が大多数であり,
3499 その根拠を的確に論じる答案は少なかった。
3500
3501 この点
3502 を論じるに当たっては,
3503 捜索の対象が甲の身体着衣であることが,
3504 「逮捕の現場」と
3505 いう要件との関係において,
3506 どのような意味を持つのかを明確にすることが不可欠で
3507 あるところ,
3508 このような視点で論じることができた答案は多くなく,
3509 「逮捕の現場」
3510 についての一般的な論述に終始したり,
3511 逮捕の現場である路上と甲が転倒した路上,
3512
3513 あるいは連行予定であったI交番との管理権の異同といった令状による捜索可能な場
3514 所の問題と混同している答案が見受けられた。
3515
3516
3517 また,
3518 本事例は前記判例と異なり,
3519 「適当な最寄りの場所」と考えたI交番に到達
3520 する前に逮捕現場から約200メートル離れた路上で甲が携帯電話を落としたことに
3521 より,
3522 司法警察員Pがこれを差し押さえている。
3523
3524 これを適法とする見解においては,
3525
3526 甲が転倒して携帯電話を落としたことによりその存在がPに明らかになり,
3527 重ねて捜
3528 索をせずとも差押えが可能な状況になったという具体的な事実を摘示した上で,
3529 差し
3530 押さえた場所が,
3531 「適当な最寄りの場所」と認められることを論じることが求められ
3532 るところ,
3533 単に移動距離が当初の予定である300メートルよりも短いことをもって
3534 適法とするなど,
3535 全く法的考察がなされていない答案が散見された。
3536
3537
3538 前記判例は,
3539 ほとんどの教科書や判例集に掲載されている基本判例であるから,
3540 法
3541 科大学院の学生が,
3542 同判例の前提である具体的事例を踏まえた上,
3543 その内容を深く理
3544 解していれば,
3545 本件は,
3546 それとの比較において十分に論じられたはずである。
3547
3548
3549 さらに,
3550 司法警察員Pが甲の携帯電話を差し押さえたものの,
3551 その後の捜査により
3552 同携帯電話には,
3553 被疑事実に関する電子メールが送信されていないことが判明した点
3554 に関し,
3555 被疑事実と証拠物の関連性は,
3556 差押え時の事情から判断すべきことについて
3557 は,
3558 ほとんどの答案において理解されていた。
3559
3560 しかし,
3561 その関連性有無の判断に関し,
3562
3563 司法警察員Pが電子メールの有無を確認しなかったことをもって【差押え】を違法と
3564 した答案が見受けられた。
3565
3566 これらの答案は,
3567 最高裁判例(最決平成10年5月1日刑
3568
3569 - 31 -
3570
3571 集52巻4号275頁)の法理を本事例に適用したと思われるものの,
3572 同判例は,
3573 多
3574 量のフロッピーディスクを差し押さえた事例についての判断であり,
3575 同事例の具体的
3576 事実関係を見ると,
3577 そもそもフロッピーディスクと被疑事実の関連性が必ずしも明ら
3578 かでないところ,
3579 本事例では,
3580 乙の供述により,
3581 甲の携帯電話の記録内容を確認する
3582 までもなく被疑事実との関連性が明らかになっている点で事案が異なっており,
3583 同判
3584 例の法理がそのまま該当する場合ではない。
3585
3586 判例を学ぶに当たっては,
3587 そこに示され
3588 た規範ばかりに目を向けるのではなく,
3589 その判例が前提とする具体的事情を分析し,
3590
3591 判例法理の射程距離を意識することが必要である。
3592
3593
3594 次に,
3595 設問2については,
3596 まず,
3597 実況見分調書全体につき,
3598 検証調書に準じる書面
3599 として,
3600 同法第321条第3項が規定する要件を満たせば伝聞法則の例外として証拠
3601 能力が認められることを前提に,
3602 各別紙に関し,
3603 要証事実との関係で,
3604 更なる要件該
3605 当性を検討する必要が生じ得ることについては,
3606 ほとんどの答案において論じられて
3607 いた。
3608
3609
3610 その上で,
3611 【別紙1】については,
3612 本件実況見分調書の作成者である司法警察員P
3613 の説明部分,
3614 目撃者Wの説明部分,
3615 Wの説明に基づき司法警察員2名が犯行を再現し
3616 た状況を撮影した写真の3点から構成されるのであるから,
3617 「犯行状況」という立証
3618 趣旨(要証事実)との関連において各部分の性質を明らかにし,
3619 その性質に応じて証
3620 拠能力を付与する要件につき検討すべきである。
3621
3622 この点についても著名な最高裁判例
3623 (最決平成17年9月27日刑集59巻7号753頁)があるところ,
3624 答案の中には,
3625
3626 同判例の規範を機械的に記述するのみで本件への適切な当てはめができないものが相
3627 当数見受けられた。
3628
3629 具体的には,
3630 上記3点を峻別して分析・検討することができない
3631 答案,
3632 写真につき機械的に記録したものであり,
3633 「非伝聞証拠」であるとして証拠能
3634 力を認める答案などがこれに該当する。
3635
3636
3637 また,
3638 【別紙1】の立証趣旨は「犯行状況」であるところ,
3639 これを前記判例のいう
3640 「犯行再現状況」と混同する答案も少なからずあり,
3641 これらの答案も,
3642 前記判例の内
3643 容を理解することなく表面的に暗記しているのではないかと危惧させるものである。
3644
3645
3646 【別紙2】については,
3647 立証趣旨は「Wが犯行を目撃することが可能であったこと」
3648 であるから,
3649 司法警察員Pの説明部分及び写真は,
3650 犯行現場という場所の状態を五官
3651 の作用をもって明らかにしたものとして同項が規定する「検証の結果を記載した書面」
3652 の典型であること,
3653 Wの説明部分も,
3654 司法警察員Pが,
3655 実況見分の対象を特定するに
3656 至った動機・手段を明らかにするためのものであり,
3657 その内容の真実性を目的とする
3658 ものではないことを端的に指摘して論じることができた答案は思いのほか少なかった。
3659
3660
3661 なお,
3662 昨年,
3663 容易に判読できない文字で記載された答案があり,
3664 採点に困難を来し
3665 たことを指摘したが,
3666 残念ながら,
3667 本年においても,
3668 複数の考査委員から,
3669 ほとんど
3670 改善が見られないとの指摘があったことを付言する。
3671
3672
3673 3
3674
3675 答案の評価
3676 「優秀の水準」にあると認められる答案とは,
3677 設問1については,
3678 【逮捕@】,
3679 【逮
3680 捕A】及び【差押え】の適法性について,
3681 事例中の法的問題を明確に意識し,
3682 各問題
3683 点ごとに制度趣旨と基本的な判例についての正確な理解に基づく的確な法解釈論を踏
3684 まえて,
3685 個々の事例中に表れた具体的事実を適切に抽出,
3686 分析しながら論じられた答
3687 案であり,
3688 設問2については,
3689 実況見分調書の証拠能力に関し,
3690 伝聞法則という証拠
3691
3692 - 32 -
3693
3694 法上の基本原則及びそれに関する基本判例を正確に理解して伝聞法則の例外の要件に
3695 ついて,
3696 実況見分調書の各部分の性質を分析しつつ論じることができる答案であるが,
3697
3698 このように,
3699 出題の趣旨を踏まえた十分な論述がなされている答案は,
3700 僅かであった。
3701
3702
3703 「良好の水準」に達していると認められる答案とは,
3704 設問1については,
3705 法解釈に
3706 ついて想定される全ての問題点に関し一定の見解を示した上で,
3707 事例から具体的事実
3708 を抽出できてはいたが,
3709 更に踏み込んで個々の事実が持つ意味を一層深く考えて分析
3710 することが望まれるような答案であり,
3711 設問2においては,
3712 判例を踏まえて正確な論
3713 述がなされているものの,
3714 「優秀の水準」にある答案のように,
3715 実況見分調書の各部
3716 分を分析して当てはめることがやや不十分である答案である。
3717
3718
3719 「一応の水準」に達していると認められる答案とは,
3720 設問1においては,
3721 法解釈に
3722 ついて一定の見解は示されているものの,
3723 具体的事実の抽出や当てはめが不十分であ
3724 るか,
3725 法解釈については十分に論じられていないものの,
3726 事例中から必要な具体的事
3727 実を抽出して一応の結論を導き出すことができていた答案がこれに当たり,
3728 設問2に
3729 おいては,
3730 伝聞証拠であるか否かは要証事実との関連において決せられることについ
3731 て一応の論述がなされているものの,
3732 実況見分調書の各部分の性質の分析とそれに応
3733 じた当てはめができていないような答案である。
3734
3735
3736 「不良の水準」にとどまるものと認められる答案とは,
3737 上記の水準に及ばない不良
3738 なものをいう。
3739
3740 例えば刑事訴訟法の基本的な原則の意味を理解することなく機械的に
3741 暗記し,
3742 これを断片的に記述している答案や,
3743 関係条文から法解釈を論述・展開する
3744 ことなく,
3745 事例中の事実をただ書き写しているかのような答案等,
3746 法律学に関する基
3747 本的学識の欠如と能力不足が露呈しているものであり,
3748 例えば,
3749 設問1では,
3750 【逮捕
3751 A】につき,
3752 同法212条第2項各号の該当性を明確に否定しながら,
3753 犯罪と犯人の
3754 明白性を肯定して適法とするような答案がこれに当たる。
3755
3756
3757 4
3758
3759 法科大学院教育に求めるもの
3760 このような結果を踏まえると,
3761 今後の法科大学院教育においては,
3762 刑事手続を構成
3763 する各制度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,
3764 これを具体的事例について適用で
3765 きる能力,
3766 筋道立った論理的文章を記載する能力,
3767 重要かつ基本的な判例法理をその
3768 射程範囲を含めて正確に理解することが強く要請される。
3769
3770 特に,
3771 実務教育の更なる充
3772 実の観点から,
3773 特殊又は例外的な事項ではなく,
3774 日常的に行われている捜査・公判の
3775 進行過程を俯瞰し,
3776 刑事訴訟法上の基本原則が,
3777 そこにいかなる形で現れているかを
3778 正確に理解しておくことが,
3779 当然の前提として求められよう。
3780
3781
3782
3783 - 33 -
3784
3785 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(倒産法)
3786 1
3787
3788 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
3789 個別的な内容については,
3790 既に「出題の趣旨」として公表したとおりである。
3791
3792
3793 本年の問題の作成に当たっても,
3794 これまでと同様,
3795 基本的な概念の理解,
3796 具体的な
3797 事案を分析し,
3798 法律の規律に的確に当てはめ,
3799 その充足性等を判断する能力,
3800 実体法
3801 の理解を踏まえた倒産法の規律の理解,
3802 具体的な事案に応じて関係者間の利益を適切
3803 に考慮する能力及び問題の解決のための対応策を選択する能力を試すこと等に重点を
3804 置くこととした。
3805
3806
3807
3808 2
3809
3810 採点方針
3811 解答に当たって言及すべき問題点等については,
3812 既に「出題の趣旨」として公表し
3813 たとおりである。
3814
3815
3816 第1問については,
3817 フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約の法的性質を
3818 明らかにした上で,
3819 再生手続開始後も目的物件を継続使用する旨の協議の機会をリー
3820 ス会社との間で確保するためにすべき申立てについて,
3821 約定による解除の意思表示が
3822 される前後に分け,
3823 適切・的確に論ずることができるか(設問1),
3824 再生計画で定めら
3825 れた事業譲渡について,
3826 再生債務者による実施を期待することができない状況下にお
3827 いて,
3828 再生手続の帰すう及びその影響を踏まえて,
3829 当該事業譲渡の実行の方法及びそ
3830 の問題点を的確に論ずることができるか(設問2)という点に重点を置いた。
3831
3832
3833 第2問については,
3834 与えられた事例から,
3835 建設工事に係る元請負契約の請負人であ
3836 り,
3837 かつ,
3838 下請契約の注文者の地位にある者について破産手続開始の決定があったと
3839 いう事実を正確に把握した上で,
3840 注文者(設問1)及び請負人(設問2)のそれぞれ
3841 に対して破産手続が開始されたことに伴って生ずる請負契約の取扱い上の問題点をめ
3842 ぐり,
3843 的確な法的分析や規律の選択を論ずることができるか(設問2)という点に重
3844 点を置いた。
3845
3846
3847
3848 3 採点実感等
3849 (1) 第1問
3850 設問1については,
3851 解答の結論として求められている事項が再生債務者サイドの
3852 弁護士としてすべき申立てであることから,
3853 まず,
3854 フルペイアウト方式のファイナ
3855 ンス・リース契約の法的性質を論じた上で,
3856 その点に関する自説を踏まえて,
3857 民事
3858 再生法が用意する各種の申立ての中から検討すべき申立てを適切に抽出し,
3859 当該申
3860 立てが認められるための要件を定立して,
3861 事実を当てはめて結論付けるという論述
3862 を行うことが求められる。
3863
3864 このような構成を論理的に展開することができた答案に
3865 ついては,
3866 高い評価が与えられたが,
3867 そのような答案は少なかった。
3868
3869 比較的多くの
3870 答案は,
3871 当該リース契約の法的性質について担保権付きの融資であるという結論は
3872 指摘していたものの,
3873 その理由付けを欠くか,
3874 又は理論的な筋が必ずしも通ってい
3875 ないものであった。
3876
3877 フルペイアウト方式という名のとおり,
3878 目的物件の価値相当額
3879 の全額について使用者が支払義務を負う仕組みとなっていることが賃貸借契約との
3880 違いであり,
3881 それゆえにその実質が金融であって,
3882 解除が担保権の実行と評価する
3883 ことができるという論理を展開し,
3884 検討すべき申立てとして担保権の実行手続の中
3885
3886 - 34 -
3887
3888 止命令(民事再生法第31条)の申立てを抽出して,
3889 担保権の実行(終了)の前後
3890 における違いを論ずるという流れが期待された(なお,
3891 解除については,
3892 いわゆる
3893 倒産解除条項に関する判例等を意識している答案が少なからず見られたが,
3894 当該判
3895 例との関係を論ずることは評価の対象として有益な事由となるものの,
3896 本件事案は
3897 具体的な債務不履行時の解除であるから,
3898 特段の根拠もなく当該判例の事案に係る
3899 条項と同視して無効と結論付けている答案は,
3900 説得力を欠くものと評価された。
3901
3902 )。
3903
3904
3905 また,
3906 上記の中止命令の申立てに言及することなく,
3907 担保権消滅の許可の申立て(同
3908 法第148条第1項)についてのみ論じた答案が相当程度存在したが,
3909 このような
3910 答案は,
3911
3912 「協議を行う機会を確保するため」という出題に正面から答えるという姿勢,
3913
3914 さらには,
3915 これらの制度の趣旨ないし役割分担という基本的事項についての理解に
3916 疑問を感じさせるものであり,
3917 評価に差が生ずるポイントとなった。
3918
3919 さらに,
3920 中止
3921 命令の申立てについて論じた答案の中にも,
3922 同法第31条の適用の検討に当たり,
3923
3924 当該リース契約の法的性質に関する見解が同法第53条第1項に規定する担保権に
3925 その文言上当たらないということを前提としつつ,
3926 きちんと類推適用の可否として
3927 問題を設定している答案と,
3928 漫然と直接適用を前提として論じている答案とがあり,
3929
3930 前者の答案は高い評価を与えることとなったが,
3931 条文を丁寧に読み込むという姿勢
3932 があるかどうかが分かれ目となったと考えられる。
3933
3934 加えて,
3935 解答を求めた「裁判所
3936 における審理の方法に関する問題点」については,
3937 B社に対する必要的審尋の実施
3938 (同法第31条第2項)が解除権の行使の動機付けを高めてしまうという問題点及
3939 びその対応策について論ずることが期待されたが,
3940 この点を論じた答案は,
3941 ごく僅
3942 かであった。
3943
3944
3945 設問2については,
3946 解答の結論として求められている事項が再生債権者としてす
3947 べき再生手続の廃止を避けるための申立てであることから,
3948 まず,
3949 廃止となること
3950 について民事再生法の規定(同法第194条)を適切に摘示して根拠付けた上で,
3951
3952 それを避けるべき必要性を論じ,
3953 民事再生法が用意する各種の申立ての中から検討
3954 すべき申立てを適切に抽出し,
3955 当該申立てが認められるための要件を定立して,
3956 事
3957 実を当てはめて結論付けるという論述を行うことが求められる。
3958
3959 このような構成を
3960 論理的に展開することができた答案については,
3961 高い評価が与えられたが,
3962 そのよ
3963 うな答案は少なかった。
3964
3965 取り分け,
3966 問題の事案においては,
3967 廃止を避けなければ再
3968 生手続の目的(同法第1条)を実現することができず,
3969 そのためには再生計画で定
3970 められた事業譲渡を実施する必要があると考えられるため,
3971 再生債務者の関与なく
3972 再生計画で定められた事業譲渡を実行するために抽出すべき申立ては,
3973 結論的には
3974 管理命令(同法第64条)が唯一の実効性あるものであるということになる。
3975
3976 それ
3977 にもかかわらず,
3978 事業再生という目的と整合しない再生計画の取消し(同法第18
3979 9条)を論じたり,
3980 再生計画の変更の申立て(同法第187条)を変更の内容を論
3981 ずることなく抽象的に述べたり,
3982 再生債務者のみが提出することのできる募集株式
3983 の発行にいわゆる100%減資を組み合わせた株主の入替えを内容とする再生計画
3984 案を検討したり,
3985 また,
3986 事業譲渡の実行について実効性を有しない監督委員の解任
3987 等を論ずるなどしたものが少なからず存在したが,
3988 そのような答案は,出題の趣旨
3989 を的確に捉えていないとの評価を行うこととなった。
3990
3991 他方で,
3992 管理命令の申立てを
3993 的確に抽出した答案には,
3994 いきなりその検討に入るのではなく,
3995 管理命令の発令が
3996 DIP型の再生手続においては例外的な形態であることを踏まえ,
3997 まずは,
3998 事業譲
3999
4000 - 35 -
4001
4002 渡の実施に当たって必要となる株主総会決議による承認に代わる許可の申立て(同
4003 法第43条)から検討し,
4004 その申立権者が「再生債務者等」であることからそのま
4005 までは認められず,
4006 したがって管理命令の申立てが必要となるという論理を展開し
4007 た答案や,
4008 管理命令の要件の検討を事案に即して丁寧に行っている答案もあったが,
4009 そのような答案は,
4010 高い評価をすることとなった(なお,
4011 再生債務者等の定義(同
4012 法第2条第2号)を考慮することなく(類推適用等の手法を用いることなく),
4013 再
4014 生債権者が管理命令の申立権者に含まれるとの明文の規定を無視した独自の解釈を
4015 展開している答案も存在したが,
4016 そもそもの法律の構造,
4017 条文の読み方についての
4018 理解,
4019 能力に疑問を抱かざるを得ないものであった。
4020
4021 )。
4022
4023 また,
4024 事業譲渡についての
4025 裁判所の許可(同法第42条)について論じた答案は相当程度存在したが,
4026 再生計
4027 画の認可による代替(包摂)という問題点を意識したものは少なく,
4028 さらには,
4029 管
4030 財人による事業譲渡契約の締結まで配慮した答案は,
4031 極めて少なかった。
4032
4033
4034 総じて,
4035 第1問については,
4036 問題において問われている事項に的確に解答してい
4037 るかどうかで差が付くこととなった。
4038
4039 問題文における指示は明確であり,
4040 基本的な
4041 概念・制度を正確に理解し,
4042 事案を丁寧に分析して,
4043 民事再生法の規定を適切に当
4044 てはめて論じている答案が優秀答案と評価し得るものであった。
4045
4046 優秀に達しないも
4047 のは,
4048 基本的な概念・制度についての理解の正確さ,
4049 事案の分析の丁寧さ,
4050 民事再
4051 生法の規定の当てはめの適切性等の程度に応じて,
4052 良好又は一応の水準に答案の評
4053 価が分かれることとなった。
4054
4055 基本的な概念についての理解が乏しく,
4056 事案を分析し
4057 規律を的確に当てはめて論ずることができていない答案は,
4058 不良の評価となった。
4059
4060
4061 (2) 第2問
4062 設問1については,
4063 本件下請契約が双方未履行の双務契約に当たるものの,
4064 請負
4065 契約であり,
4066 かつ,
4067 注文者の地位にあるX社について破産手続開始の決定がされて
4068 いることから,
4069 (1)については,
4070 民法第642条の規律が適用される結果,
4071 Yの解除
4072 が同条第1項前段によるものであるという分析を行った上で,
4073 解除が出来高には及
4074 ばないことにも触れつつ,
4075 D社の有する請負代金請求権が破産債権となる(同項後
4076 段)という当てはめを行うという流れとなると考えられ,
4077 この流れを論理的に展開
4078 することができた答案については,
4079 高い評価が与えられたが,
4080 そのような答案は少
4081 なかった。
4082
4083 本件下請契約が双方未履行の双務契約に当たることは,
4084 比較的多くの答
4085 案が指摘していた(ただし,
4086 未履行の債務の具体的な摘示を怠り,
4087 又は誤っている
4088 ものが散見された。
4089
4090 )ものの,
4091 そのうち少なくない数の答案は,
4092 上記の民法の規定の
4093 問題であることを論ずることなく,
4094 破産法第53条の規律の問題であるとして論じ
4095 ており,
4096 ここで大きな差が付くこととなった。
4097
4098 倒産法を学ぶ者にとって上記の民法
4099 の規定(破産法第53条との関係を含む。
4100
4101 )は最も基本的なものであり,
4102 仮にこれに
4103 気付くことなく論じたのであれば,
4104 かなり問題があるものと言わざるを得ないであ
4105 ろう。
4106
4107 民法第642条の問題であることを前提に検討をしている答案においても,
4108
4109 解除の対象が出来高に及ばないことについてまで論じている答案は半数程度にとど
4110 まっており,
4111 ここでも差が付くこととなった。
4112
4113 また,
4114 D社の有する請負代金請求権
4115 の行使方法については,
4116 規定どおりに破産債権とする答案のほか,
4117 利益衡量等に基
4118 づいて財団債権とする答案があったが,
4119 民法第642条第1項後段を適用していな
4120 がら財団債権となる可能性を検討しているものがあり,
4121 このような答案は,
4122 同項後
4123 段の規定の意味を理解していないものと評価せざるを得ないであろう。
4124
4125 (2)について
4126
4127 - 36 -
4128
4129 は,
4130 双方の解除権が放棄される等して消滅したことという「出題の趣旨」において
4131 も指摘している点についてまで分析した答案が極めて少ないながらも存在し,
4132 高い
4133 評価を行うこととなったが,
4134 ほとんどの答案は,
4135 破産法第53条第1項に基づき継
4136 続されることとなったと単純に論じていた(ただし,
4137 このような答案にも,
4138 一定程
4139 度の評価は行った。
4140
4141 )。
4142
4143 また,
4144 D社の有する請負代金請求権の行使方法については,
4145
4146 相当程度の答案が比較的よく分析することができていたということができるものの,
4147
4148 破産手続の開始の前後で分けることなく論じている答案も散見され,
4149 そのような答
4150 案は,
4151 平板な答案にならざるを得ず,
4152 問題の所在の把握が不十分なものとの評価を
4153 行うこととなった。
4154
4155
4156 設問2については,
4157 問題文においてYの解除が「破産法第53条第1項の規定に
4158 基づ」くものであることが明示されていたためか,
4159 (1)のA社の請負代金返還請求権
4160 の法的性質については,
4161 相当程度の答案が同法第54条第2項の問題として論ずる
4162 ことができており,
4163 一定の評価を与えることができたものの,
4164 その当てはめを含め
4165 た根拠付けについては,
4166 丁寧なものからごく簡単なものまで,
4167 様々であり,
4168 それが
4169 評価に差をもたらすものとなった。
4170
4171 他方で,
4172 同項について何ら触れることなく,
4173 破
4174 産法第148条第1項第4号や第5号を論じたり,
4175 更には破産債権とする答案も少
4176 なくなかったが,
4177 取り分け,
4178 財団債権と解する立場に配慮せずに,
4179 説得的な根拠付
4180 けを行うことなく破産債権と結論付ける答案が一定数存在し,
4181 このような答案は低
4182 い評価とならざるを得なかった。
4183
4184 (2)については,
4185 B銀行の求償債権が破産債権(同
4186 法第2条第5項)であるという前提はほとんどの答案が指摘することができていた
4187 が,
4188 残念ながら,
4189 代位によって取得することになるA社の請負代金返還請求権につ
4190 いて(1)の検討において財団債権と位置付けておきながら,
4191 その比較について何ら問
4192 題意識を持たずに,
4193 同法第104条の適用についてのみ論じている答案が少なから
4194 ずあり,
4195 ここで大きな差が付くこととなった。
4196
4197 加えて,
4198 本問の事例からは問題とな
4199 らないB銀行に対する預金債権を受働債権とする相殺について検討した答案が一定
4200 数目に付いたが,
4201 思い込みから知っている特定の論点に飛び付くのではなく,
4202 問題
4203 文をよく読み,
4204 事例から的確に問題点を把握する姿勢を涵養する必要があると感じ
4205 られた。
4206
4207
4208 総じて,
4209 第2問については,
4210 破産手続開始の決定を受けたX社が元請負契約であ
4211 る本件請負契約においては請負人の地位にあり,
4212 かつ,
4213 下請契約である本件下請契
4214 約においては注文者の地位にあるという事実を正確に把握した上で,
4215 民法及び破産
4216 法の規定の適用を的確に選択することができたかどうか,
4217 また,
4218 各請求権の法的性
4219 質ないし権利行使の方法を論ずるに当たって,
4220 事例の事実関係を前提としつつ,
4221 論
4222 理的に適切な規律の解釈・当てはめを行うことができたかどうか等で差が付くこと
4223 となった。
4224
4225 基礎的な概念・規定の正確な理解を基に事案を分析し,
4226 的確な規律の当
4227 てはめを論じている答案が優秀答案と評価し得るものであった。
4228
4229 優秀に達しないも
4230 のは,
4231 基礎的な概念・規定についての理解の正確さ,
4232 事案の分析の丁寧さ,
4233 規律の
4234 当てはめの的確性等の程度に応じて,
4235 良好又は一応の水準に答案の評価が分かれる
4236 こととなった。
4237
4238 基礎的な概念・規定についての理解が乏しく,
4239 事案を分析し規律を
4240 的確に当てはめて論ずることができていない答案は,
4241 不良の評価となった。
4242
4243
4244 4
4245
4246 今後の出題について
4247
4248 - 37 -
4249
4250 今後も,
4251 特定の傾向に偏ることなく,
4252 基本的な事柄に関する知識・理解を確認する
4253 問題と具体的な事案からの問題発見能力を試す問題,
4254 倒産実体法に関する問題と倒産
4255 手続法に関する問題,
4256 企業倒産に関する問題と個人倒産に関する問題等,
4257 幅広い観点
4258 からの出題を心掛けることが望ましいと考える。
4259
4260
4261 5
4262
4263 今後の法科大学院教育に求めるもの
4264 全体的に,
4265 法令の各条文が規定する要件への当てはめをおざなりにしている答案が
4266 非常に多いという印象を受けざるを得ず,
4267 法令の規定の解釈・適用に必要な作法が法
4268 科大学院教育において得られていないのではないかとも危惧されるところである。
4269
4270
4271 従来から指摘されていることではあるが,
4272 やはり,
4273 倒産法における基本的な概念・
4274 制度・規律について,
4275 条文の規定等に基づき,
4276 しっかりと身に付けさせるということ
4277 が重要であり,
4278 その上で,
4279 具体的な事案に関し,
4280 このような基本的な概念・基礎的な
4281 事項を基にして,
4282 正確に事案を分析し,
4283 法的に何が問題となるのかを的確に抽出し,
4284
4285 それに対して倒産という事象が発生した場合の適切な問題解決という結論を導くため,
4286
4287 論理的な整合性に配慮しつつ,
4288 的確な倒産法の規範の当てはめを行うことができる能
4289 力の養成を期待したい。
4290
4291
4292
4293 - 38 -
4294
4295 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(租税法)
4296 1
4297
4298 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
4299 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
4300
4301
4302
4303 2 採点実感等
4304 (1) 第1問
4305 公表済みの「出題の趣旨」の中で述べた主要な論点に即して,
4306 事例解析力と論理
4307 的思考力を重視して採点した。
4308
4309 採点に当たっては,
4310 所得税法の基本的なルールの説
4311 明に対しても一定の基礎点を与えたが,
4312 より多くの点数について当てはめで評価し
4313 た。
4314
4315 当てはめについては,
4316 結論によって差を付けるのではなく,
4317 問題文に記載され
4318 ている裁判員候補者及び裁判員の職務の理解,
4319 旅費,
4320 日当及び宿泊料の支給の性質
4321 の検討,
4322 事実摘示及び事実評価の適切さ,
4323 所得税法の基本ルールの当てはめにおい
4324 て法律の適用順序に誤りはなく,
4325 論証の論理性に問題はないか,
4326 という観点から見
4327 て,
4328 その結論を導き出す論証の部分にどれほどの説得性があるかを重視した。
4329
4330 昨年
4331 までと同様に,
4332 論証の質を重視したのである。
4333
4334
4335 全体的な印象としては,
4336 基本的な条文について,
4337 その趣旨までをも含めた正確な
4338 理解ができているかどうかが,
4339 論述の正確性と分析の的確性を決めている。
4340
4341 すなわ
4342 ち,
4343 法律の趣旨内容の理解の程度が,
4344 適用対象となる事実関係を観察する場合の「目
4345 のつけどころ」に影響し,
4346 最終的に論述の説得力に反映する。
4347
4348 その意味でも,
4349 試験
4350 場に来る前に行っておくべきは,
4351 租税法の基本的な考え方と基本条文の定めの背後
4352 にある趣旨の正確な理解に努めることであろう。
4353
4354
4355 支給を受けた旅費,
4356 日当及び宿泊料が課税所得を構成するかについては,
4357 所得税
4358 法が所得概念を包括的に構成しており,
4359 法令上の非課税規定がない限り,
4360 原則とし
4361 て純資産の増加を課税の対象としていることを明示的に指摘するものは必ずしも多
4362 くなかったものの,
4363 多くの答案はこのことを暗黙の前提としていた。
4364
4365 問題は,
4366 これ
4367 らの支給のうち実費弁償的な性格を有するものについて,
4368 それが本当に課税所得で
4369 あるといえるかである。
4370
4371 この点については,
4372 後述する所得分類の論点についてこれ
4373 らの支給を給与所得と解する答案のほとんどは,
4374 支給された旅費を「通勤手当(こ
4375 れに類するものを含む。
4376
4377 )(所得税法第9条第1項第5号)」に当たるとしていた。
4378
4379
4380 中には,
4381 支給された宿泊料もこれに当たるとするものも散見されたが,
4382 「通勤手当
4383 (これに類するものを含む。
4384
4385 )」という文理の範囲を超えている。
4386
4387 なお,
4388 旅行費(所
4389 得税法第9条第1項第4号)や制服等(所得税法第9条第1項第6号)に関する非
4390 課税規定の類推適用を論ずる答案もあった。
4391
4392
4393 所得分類については,
4394 多くの答案が,
4395 各種所得への該当性の判断基準を,
4396 判例の
4397 準則に依拠しつつほぼ正確に述べていた。
4398
4399 これに対し,
4400 当てはめの結論としては,
4401
4402 給与所得に当たるとするもの,
4403 一時所得に当たるとするもの,
4404 雑所得に当たるとす
4405 るものに大きく分かれた。
4406
4407 また,
4408 裁判員候補者として受けた支給と裁判員として受
4409 けた支給で区別するものや,
4410 日当,
4411 旅費及び宿泊料のそれぞれについて区別するも
4412 のなど,
4413 幾つかのパターンに分かれた。
4414
4415 この点については,
4416 余り機械的に個別まち
4417 まちの取扱いとすることが果たして適切かという問題がある。
4418
4419 しかし,
4420 先に述べた
4421 ように,
4422 結論それ自体によって評価に差を付けるのではなく,
4423 論証の質を重視して
4424
4425 - 39 -
4426
4427 評価を与えた。
4428
4429 例えば,
4430 給与所得の該当性判断に際して,
4431 労務の提供の対価である
4432 か,
4433 空間的・時間的拘束があるかなどの考慮要素を説得的に摘示しているか否か,
4434
4435 あるいは,
4436 一時所得の該当性判断に際して,
4437 役務の対価としての性質の有無などを
4438 説得的に示しているか否か,
4439 というような点である。
4440
4441 また,
4442 雑所得に当たるのはあ
4443 くまで他の各種所得に該当しない場合であることから,
4444 所得分類を論ずる順序とし
4445 ても,
4446 先に給与所得等への該当性を論じたのち,
4447 それらについて消極の結論に至っ
4448 て初めて雑所得について論ずるというステップを踏んでいるか,
4449 というような点で
4450 ある。
4451
4452
4453 所得分類に関連して付言すれば,
4454 最初に給与所得とか雑所得とかに結論を「決め
4455 打ち」してしまい,
4456 問題文の中から「決め打ち」した結論に合うところだけを拾っ
4457 たのではないかと思われるような記述になっている答案が散見された。
4458
4459 これでは説
4460 得力のある答案になりにくい。
4461
4462 これに対し,
4463 相反するようにみえる事実関係をもう
4464 まく評価して結論に至っている答案には,
4465 なかなか説得力があった。
4466
4467 中には,
4468 裁判
4469 員法をよく読んで,
4470 この事例で問題になっている裁判員候補者及び裁判員のみなら
4471 ず,
4472 補充裁判員も旅費,
4473 日当及び宿泊料を受けると法定されていることに触れる答
4474 案もあった。
4475
4476 このような点にまで気が付いた人は,
4477 裁判員が受ける日当等の性質の
4478 評価において,
4479 過度に裁判員候補者や補充裁判員が行うことのない職務(審理への
4480 参加)の意味を重視することには,
4481 疑問が湧くのではないだろうか。
4482
4483
4484 支出したホテル代の扱いについては,
4485 受けた支給の所得分類について給与所得と
4486 する答案のほとんどが,
4487 給与所得については必要経費の実額控除が認められておら
4488 ず,
4489 法定概算控除としての給与所得控除が認められることを正確に指摘していた。
4490
4491
4492 さらに,
4493 特定支出控除に触れる答案も見られた。
4494
4495 これに対し,
4496 雑所得とする答案の
4497 多くは必要経費控除の可否を論じており,
4498 その中には事実関係に即して丁寧に当て
4499 はめを行うものがあった。
4500
4501 なお,
4502 問題文では,
4503 支出したものを「ホテル代」と記述
4504 し,
4505 支給を受けたものを「宿泊費」と記述している。
4506
4507 従って,
4508 必要経費控除が問題
4509 になるのは「ホテル代」であり,
4510 収入金額への計上が問題になるのは「宿泊費」で
4511 ある。
4512
4513 多くの答案は問題文を正確に読み取ってその用語法に忠実に従いつつ当ては
4514 めを行っていたが,
4515 少数ながら両者を混同する答案も見られた。
4516
4517
4518 第1問の採点の結果,
4519 全体を通してみると,
4520 ほぼ想定通りの分布となったが,
4521 「良
4522 好」よりも「一応の水準」に該当する答案の割合のほうがやや多かった。
4523
4524
4525 (2) 第2問
4526 公表済みの「出題の趣旨」の中で述べた主要な論点及び視点に即して,
4527 それぞれ
4528 について試されている能力を重視して採点した。
4529
4530 その際,
4531 所得税法及び法人税法の
4532 基本的な規定を適切に指摘しているか,
4533 さらにその内容を正確に理解しているかを
4534 重視した。
4535
4536 見解に対立がある論点については,
4537 理論的に明らかに誤っている場合は
4538 別として,
4539 結論の当否そのものよりもその結論に至る論証を重視し,
4540 結論の差異に
4541 よって評価に差を設けるようなことはしなかった。
4542
4543 採点結果の概要及び実感は以下
4544 のとおりである。
4545
4546
4547 設問1は,
4548 必要経費と損金という類似した2つの概念の異同を問う問題であると
4549 ころ,
4550 ほとんどの答案は,
4551 必要経費については所得税法第37条を,
4552 損金について
4553 は法人税法第22条第3項をそれぞれ指摘しており,
4554 適切であった。
4555
4556 また,
4557 両者の
4558 「同」の部分についても,
4559 費用の控除が投下資本の回収に該当することを適切に指
4560
4561 - 40 -
4562
4563 摘した答案が多かった。
4564
4565 これに対し,
4566 両者の「異」の部分については,
4567 所得税法第
4568 37条と法人税法第22条第3項を対比すれば,
4569 損失及び資本等取引について扱い
4570 が異なり,
4571 また,
4572 設問2から所得税については家事費が存在することが分かると考
4573 え,
4574 この3点だけでもその理由も含めて論じてくれるものと期待していた。
4575
4576 しかし,
4577
4578 この3点全てを指摘した答案がほとんどなかった。
4579
4580 半数くらいの答案は,
4581 上記3点
4582 のうちの損失の取扱いの違いだけを指摘しており,
4583 その理由を含めて説得的に論証
4584 していた答案が少なからずあったが,
4585 理由が全く記載されていない答案もかなりの
4586 数あった。
4587
4588
4589 設問2は,
4590 必要経費の判断基準とその当てはめの問題であり,
4591 判断基準を自ら定
4592 立した上で,
4593 事案に当てはめることを求めているが,
4594 ほぼ全ての答案はこの論理の
4595 流れに沿って記述されており,
4596 適切であった。
4597
4598
4599 そのうち,
4600 @の講演会参加費等の各支出の必要経費該当性について,
4601 受験生の見
4602 解としては,
4603 甲説(全て必要経費に算入できるという説),
4604 乙説(講演会参加費及
4605 び懇親会は必要経費に算入できるという説),
4606 丙説(講演会参加費だけ必要経費に
4607 算入できるという説)及び丁説(全て必要経費に算入できないという説)の4説に
4608 分かれた。
4609
4610 受験生の中の多数説は乙説であったが,
4611 前述のようにどの見解を採用し
4612 ても,
4613 論理的で説得力があれば,
4614 評価に差を設けることはしなかった。
4615
4616 論証のポイ
4617 ントは,
4618 「出題の趣旨」でも述べたとおり,
4619 必要経費とは認められない家事費(及
4620 び家事関連費)との区別であるところ,
4621 それを明示した上で論証した答案が少なか
4622 った。
4623
4624 また,
4625 本問は,
4626 特定の収入との対応関係が明確ではない一般対応(間接対応
4627 ・期間対応)の必要経費性が問題となっているのに,
4628 個別対応(直接対応・客体対
4629 応)の必要経費についての要件該当性を検討している答案が散見された。
4630
4631 また,
4632 必
4633 要経費の要件を条文に即してではなく,
4634 単に記憶に頼って記述している答案も散見
4635 された。
4636
4637
4638 Aの脱税工作のための支出については,
4639 受験生の見解としては,
4640 甲説(必要経費
4641 に算入できるという説),
4642 乙説(必要経費に算入できないという説)が,
4643 およそ半
4644 分ずつに分かれており,
4645 乙説については,
4646 乙1説(収益を生み出すものではないか
4647 ら費用に該当しないという説)と乙2説(費用には該当するが,
4648 それを必要経費と
4649 認めることは公序に反するという説)に分かれた。
4650
4651 多くの答案は,
4652 脱税工作のため
4653 の支出という違法支出について,
4654 果たして必要経費に算入することを認めて良いか
4655 という問題意識を持つとともに,
4656 それを違法収入も課税所得となることとの対比で
4657 検討している答案もかなりの数あり,
4658 問題の所在を適切に理解していたといえる。
4659
4660
4661 Aが法人である場合については,
4662 法人税法第22条第4項の公正処理基準から,
4663
4664 損金に算入できないという見解と,
4665 法人税法第55条第1項を指摘して,
4666 損金に算
4667 入できないという見解に分かれ,
4668 後者の見解が多かった。
4669
4670 しかし,
4671 法人税法第55
4672 条は,
4673 平成18年度改正により新設された規定であるところ,
4674 本件は,
4675 平成14年
4676 の所得が問題となる事案であったため,
4677 同条の適用のある事案ではない。
4678
4679 この点を
4680 適切に指摘した答案は極めて少なかった。
4681
4682 また,
4683 法人税法第22条第4項の問題と
4684 して議論する場合には,
4685 最高裁判所平成6年9月16日第三小法廷決定(刑集48
4686 巻6号357頁)に言及して論じることを期待していたが,
4687 同決定に言及した答案
4688 も極めて少なかった。
4689
4690
4691 設問3については,
4692 まず,
4693 過納金及び還付加算金の課税所得該当性を個別に検討
4694
4695 - 41 -
4696
4697 することとなる。
4698
4699 「出題の趣旨」でも述べたように,
4700 過納金については,
4701 納税者に
4702 還付されることによって経済的価値が流入しているが,
4703 所得税を納付しても所得金
4704 額に影響を及ぼすことがないこと(所得税法第45条第1項第2号)を踏まえて,
4705
4706 納付した所得税が過納金として還付された場合に所得金額に影響を及ぼすかを検討
4707 する必要がある。
4708
4709 そうすれば,
4710 還付される過納金は,
4711 課税所得とはなり得ないこと
4712 が理解できたと思うし,
4713 常識的に考えても,
4714 過納金の受還付は,
4715 納め過ぎた税金を
4716 返してもらうだけなのに,
4717 返ってくる税金に更に税金が課されるというのは不合理
4718 ではないかと思われる。
4719
4720 ところが,
4721 過納金の還付も経済的価値の流入であるから課
4722 税されるとした答案や,
4723 さらには課税所得性を全く問題にしないまま所得分類を判
4724 断する答案が半数以上もあった。
4725
4726 還付される過納金には課税されないとした答案に
4727 ついても,
4728 所得税法第45条第1項第2号を指摘して論じた答案は少なかった。
4729
4730 ま
4731 た,
4732 還付加算金については,
4733 過納金との区別を意識した答案は少なく,
4734 利子的な性
4735 格があると指摘した答案は更に少なかった。
4736
4737 利子的な性格があることを指摘した答
4738 案でも,
4739 所得区分については,
4740 過納金とともに一時に還付されることから,
4741 一時所
4742 得とした答案がほとんどであった。
4743
4744 しかし,
4745 還付加算金が利子的な性格があるとす
4746 ると,
4747 一時的・偶発的な利得とはいえず,
4748 対価性のない一時所得と考えるのは困難
4749 ではないかと思われる。
4750
4751 なお,
4752 過納金と還付加算金を合わせて「過納金等」と表現
4753 し,
4754 両者を区別せずに論じている答案もかなりあった。
4755
4756
4757 C税理士に支払った報酬の必要経費該当性については,
4758 @還付加算金を稼得する
4759 ための必要経費と考え得るか,
4760 また,
4761 A不動産所得を稼得するための必要経費と考
4762 え得るかの両面から検討して欲しかったが,
4763 ほとんどの答案は@のみを検討し,
4764 A
4765 を検討した答案は極めて少なかった。
4766
4767 @を検討するに当たっても,
4768 還付加算金が利
4769 子的な性格を有することを踏まえた上で,
4770 設問2で定立した必要経費の判断基準に
4771 従って丁寧に論じた答案は少なかった。
4772
4773
4774 第2問の採点の結果,
4775 「優秀」,
4776 「良好」,
4777 「不良」に該当する答案の割合が少なく,
4778
4779 「一応の水準」に該当する答案の割合が多かった。
4780
4781 「不良」に該当する答案が少な
4782 かった理由は設問2の解答がそれなりの水準に達している答案が多数であったこと
4783 によるものであり,
4784 「優秀」及び「良好」に該当する答案が少なかった理由は,
4785 設
4786 問3の出来が余り良くなかったことに影響しているものと思われる。
4787
4788 第2問全体を
4789 通じて,
4790 設問3の出来不出来が「良好」と「一応の水準」とのいずれのカテゴリー
4791 に入るかの分かれ目となったものと思われる。
4792
4793
4794 3
4795
4796 今後の出題について
4797 今後の出題についても,
4798 これまでどおり,
4799 所得税を基本としつつ,
4800 具体的な事実関
4801 係の下で租税法の基本的な条文や概念の理解とその適用能力を試す問題を出題するこ
4802 とが望ましいと考えられる。
4803
4804
4805
4806 4
4807
4808 今後の法科大学院教育に求められるもの
4809 今年も,
4810 第2問の設問1及び設問2において,
4811 法人税法に関する問題を出題した。
4812
4813
4814 今後も所得税を基本とする問題が出題されると思われるが,
4815 法人税についての基礎的
4816 な知識の修得も必要であることは言うまでもない。
4817
4818
4819 また,
4820 今後も,
4821 事例中心の出題である点は変化はないと思われるから,
4822 法科大学院
4823
4824 - 42 -
4825
4826 においては,
4827 所得税法及びこれに関連する法人税法に関して,
4828 条文や制度の内容を機
4829 械的に覚えるのではなく,
4830 そのような条文や制度内容の趣旨・目的,
4831 所得税制におけ
4832 る位置付けを含めた理解をするように努め,
4833 そのような学習を基礎にして,
4834 習得した
4835 知識や能力を事例演習等によって確認し,
4836 それらの応用力や総合的判断力を涵養して
4837 いくというような教育が望まれる。
4838
4839
4840 5
4841
4842 その他
4843 全体的な印象として,
4844 事案をあるがままに読み取って分析するのではなく,
4845 自己が
4846 覚えているキーワードに当てはまりそうな部分だけを問題文から機械的に切り取って
4847 論じていると思われる答案がかなりあった。
4848
4849 このような答案は,
4850 論証が一面的になっ
4851 てしまい説得力に欠けることとなる。
4852
4853 このような答案となってしまう理由は,
4854 条文の
4855 背後にある趣旨をしっかりと理解することなく,
4856 単にキーワードだけを暗記するよう
4857 な勉強をしているからである可能性がある。
4858
4859
4860 実務法曹にとって最も大切な資質の一つが,
4861 個別具体的な事案において特定の結論
4862 を採用してよいかどうかを,
4863 突き詰めて考える姿勢である。
4864
4865 司法試験の答案の作成に
4866 おいても,
4867 事案を全体的に見た場合に,
4868 結論の座りの良さは何かを悩みつつ法の解釈
4869 適用をするという姿勢を見せることも大切ではないかと思う。
4870
4871
4872 なお,
4873 前記2(2)で述べたように,
4874 第2問の答案で,
4875 過納金と還付加算金の区別がつ
4876 いていない答案が散見された。
4877
4878 所得税法及び法人税法のみならず国税通則法について
4879 も最低限の理解が必要であることは言うまでもない。
4880
4881
4882
4883 - 43 -
4884
4885 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(経済法)
4886 1
4887
4888 出題の趣旨について
4889 出題に当たり,
4890 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下,
4891 「独占禁
4892 止法」という。
4893
4894 )上の制度・規定の趣旨及び内容を正確に理解し,
4895 問題文の行為が当
4896 該市場における競争にどのような影響を与えるかを念頭に置いて,
4897 事実関係を丹念に
4898 検討した上で,
4899 要件の当てはめができるか,
4900 それらが論理的かという点を評価し得る
4901 ような問題作成を目指した。
4902
4903
4904 出題した2問は,
4905 独占禁止法の基本を正確に理解し,
4906 これに基づいて検討すれば解
4907 答し得る問題であり,
4908 公表されている公正取引委員会の考え方やガイドライン等につ
4909 いて細かな知識を求めるものではない。
4910
4911
4912
4913 2
4914
4915 採点方針
4916 別途公表済みの出題の趣旨及び前記1で述べたとおり,
4917 独占禁止法の基本的概念や
4918 個別の要件の意義を,
4919 その趣旨を踏まえて正確に理解しているか,
4920 当該行為が市場に
4921 おける競争に与える影響を十分に洞察しようとして,
4922 問題文のどの事実をどのような
4923 観点から取り上げるのが相当かを分析した上で,
4924 的確に要件に当てはめることができ
4925 ているか,
4926 それらは論理的かつ説得的で矛盾がないかという観点から,
4927 法的な能力を
4928 見ようとした。
4929
4930
4931 第1問は,
4932 自動車部品のメーカーX社が,
4933 部品甲の新製造方法αのノウハウ技術を
4934 他のメーカーにライセンスするに際し,
4935 α専用の製造装置をY社から購入することを
4936 義務付ける行為について,
4937 独占禁止法第19条が禁止する不公正な取引方法たる抱き
4938 合わせ販売等(一般指定第10項)の該当性を問うものであり,
4939 @このような行為が
4940 市場における競争に与える影響を洞察する見地から事例を的確に分析し,
4941 X社が主た
4942 る商品の供給をてことして抱き合わせられる商品(従たる商品)の購入を余儀なくさ
4943 せる事実関係を指摘した上,
4944 A独占禁止法の基本的概念や要件に関する正確な理解に
4945 基づいて,
4946 一般指定第10項「不当に」の文言から公正競争阻害性の要件が導かれる
4947 ことを正確に指摘するとともに,
4948 競争減殺が生じ得る一定の取引分野を適切な方法で
4949 画定し,
4950 B重要な事実(新製造方法αが,
4951 旧製造方法に比して,
4952 甲の品質を大きく向
4953 上させ,
4954 製造コストも大幅に削減させること,
4955 短期間のうちに旧製造方法に取って代
4956 わると見込まれること等)を拾い出して,
4957 的確な当てはめを行うことにより,
4958 競争減
4959 殺の有無を論理的かつ説得的に論じ,
4960 C目的の正当性及び手段の相当性の見地から正
4961 当化事由の有無を具体的に検討することができているかを見た。
4962
4963 なお,
4964 公正競争阻害
4965 性については,
4966 これをもって競争手段の不公正さと解することもできるが,
4967 その場合
4968 も,
4969 具体的な事実関係を丁寧に検討して,
4970 能率競争への影響や選択の自由への侵害の
4971 有無を論理的かつ説得的に論じる必要があり,
4972 これを評価の対象とした。
4973
4974 また,
4975 本問
4976 では,
4977 排除条件付取引(一般指定第11項),
4978 拘束条件付取引(同第12項),
4979 排除型
4980 私的独占(独占禁止法第3条)の該当性を論じることも考えられるが,
4981 その場合も,
4982
4983 基本的には抱き合わせ販売等について先に述べたところと同様の視点から評価を行っ
4984 た。
4985
4986 ただし,
4987 排除型私的独占を論じる場合には,
4988 本問の事実関係で,
4989 競争減殺にとど
4990 まらず,
4991 実質的な競争制限までをも認めることができるか十分に論じる必要があり,
4992
4993 採点に当たっては,
4994 この点に着目して評価を行った。
4995
4996
4997
4998 - 44 -
4999
5000 第2問は,
5001 水上スポーツ用の船舶である乙のメーカー5社及び販売店のほとんど全てが
5002 加入する事業者団体Aが実施しようとしている,
5003 乙の安全・事故対策のための対策要綱(1)
5004 及び(2)が,
5005 独占禁止法第8条第4号が規定する構成事業者の機能又は活動の不当な制限
5006 の禁止に該当するか否かを問うものである。
5007
5008 まず,
5009 乙の耐用年限を一律5年とする対策要綱
5010 (1)については,
5011 @乙の製造・販売分野における,
5012 メーカー間の耐用年限をめぐる競争を
5013 制限する効果を持ち得ることを指摘し,
5014 その具体的な考慮要素を正確に拾い出して検討して
5015 いるか,
5016 また,
5017 A転覆・衝突事故の防止という観点からの正当化事由の有無を,
5018 関連する諸
5019 事情を考慮して総合的に検討しているかを見た。
5020
5021 このうち,
5022 @については,
5023 メーカーの合計
5024 シェアの高さ,
5025 従来のユーザーの平均使用期間が約8年であること,
5026 メーカーの従来の耐用
5027 年限がいずれも5年程度であること,
5028 基準の遵守は強制されていないことなどの事情を考慮
5029 して,
5030 5年より長い耐用年限の乙を製造・販売しないという協調行動を生じさせる可能性を
5031 的確に検討しているか,
5032 またAについては,
5033 事故原因が乙の経年劣化にあること,
5034 5,
5035 6年
5036 を経過する頃から事故発生率が上昇するというデータが存在することなどの事情を考慮し
5037 て,
5038 目的の正当性及び手段の相当性の存否を論理的かつ説得的に論じているかを見た。
5039
5040
5041 次に,
5042 対策要綱(2)については,
5043 @商品付帯賠償責任保険Wを乙に付帯して販売するこ
5044 とを義務付けることにより,
5045 乙の製造・販売分野において,
5046 保険を付帯して販売するか否か
5047 というメーカー間の販売方法をめぐる競争を制限することを正確に理解し検討しているか,
5048
5049 及び,
5050 A損害賠償をめぐるトラブルの防止という観点からの正当化事由の有無を関連する諸
5051 事情を考慮して総合的に検討しているかを見た。
5052
5053 このうち,
5054 @については,
5055 メーカーの合計
5056 シェアの高さ,
5057 付帯を義務付けていることなどの考慮要素を正確に拾い出して検討している
5058 か,
5059 本件行為は抱き合わせ販売には該当しないことを理解した上で解答しているかを見た。
5060
5061
5062 またAについては,
5063 本件行為が事故被害者の救済とユーザー利便の向上に資するものである
5064 こと,
5065 保険期間が1年と短期であること,
5066 メーカーによる保険会社の選択は自由であること
5067 などの事情を考慮して,
5068 目的の正当性及び手段の相当性の存否を論理的かつ説得的に検討し
5069 ているかを見た。
5070
5071
5072 3 採点実感等
5073 (1) 出題の趣旨に即した答案の存否,
5074 多寡について
5075 第1問については,
5076 多くの答案が,
5077 抱き合わせ販売等の該当性を論じていたほか,
5078
5079 抱き合わせ販売等に併せ,
5080 又はそれに代えて,
5081 排除条件付取引,
5082 拘束条件付取引又
5083 は排除型私的独占を論じ,
5084 一定の取引分野の画定,
5085 成立要件の検討,
5086 事実の当ては
5087 め,
5088 正当化事由の検討を行って,
5089 おおむね出題の趣旨に即した論じ方をしていた。
5090
5091
5092 なお,
5093 独占禁止法第21条の適用いかんに重点を置き,
5094 上記抱き合わせ販売等その
5095 他の該当性や正当化の許否を十分に論じない答案が見受けられたが,
5096 不正競争防止
5097 法上の営業秘密たるノウハウ技術に同条が適用されないことに争いはなく,
5098 そうし
5099 た答案は出題の趣旨に沿うものではなかった。
5100
5101
5102 第2問については,
5103 多くの答案が,
5104 出題の趣旨に即して,
5105 独占禁止法第8条第4
5106 号の該当性を検討していたが,
5107 同条第1号の該当性を否定するのみで,
5108 同条第4号
5109 の該当性を検討しない答案も見られた。
5110
5111 また,
5112 対策要綱(2)について,
5113 同条第4
5114 号の該当性を検討せずに同条第5号(抱き合わせ販売)の該当性のみを検討する答
5115 案も少なからず見られた。
5116
5117 さらに,
5118 同法第8条ではなく,
5119 同法第3条の該当性のみ
5120 を検討する答案も見られた。
5121
5122
5123
5124 - 45 -
5125
5126 (2)
5127
5128 出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準との差異について
5129 第1問については,
5130 多くの答案において,
5131 一定の取引分野の画定方法,
5132 各制度の
5133 要件など,
5134 基本的な知識に関しては,
5135 出題時に予定していた解答水準と実際の解答
5136 水準との間に大きな差異は認められなかった。
5137
5138 もっとも,
5139 例えば一般指定第10項
5140 にいう「不当に」の解釈を誤るなど,
5141 基本的な理解が不十分であることを示す答案
5142 も少なくなかった。
5143
5144 また,
5145 本問では,
5146 問題文から得られる多くの事実の中から重要
5147 な事実を拾い出し,
5148 各事実の意味を正確に把握して,
5149 説得的に論述することを期待
5150 したが,
5151 各制度の成立要件等の説明に終始し,
5152 事案に即した事実の検討を十分に行
5153 わない答案も散見された。
5154
5155
5156 第2問については,
5157 独占禁止法第8条第4号を指摘した上で,
5158 公正競争阻害性及
5159 び正当化事由を中心に論じる答案が多いと考えていたが,
5160 予想以上に,
5161 公正競争阻
5162 害性自体を否定して正当化事由の有無を検討しない答案が多く見られた。
5163
5164 また,
5165 公
5166 正競争阻害性については,
5167 市場を画定し,
5168 問題文の事実を摘示した上で,
5169 競争制限
5170 効果を丁寧に論述してほしかったが,
5171 多くの答案がこの点不十分であった。
5172
5173 具体的
5174 には,
5175 市場画定を行わずに競争制限効果を論じるものや,
5176 正当化事由について結論
5177 を述べるのみで問題文の事実を摘示した理由付けがきちんとなされていない答案が
5178 多く見られた。
5179
5180
5181 (3) 「優秀」,
5182 「良好」,
5183 「一応の水準」,
5184 「不良」答案について
5185 第1問については,
5186 「優秀」な答案は,
5187 抱き合わせ販売等その他の趣旨及び要件に
5188 関する正確な理解を示した上,
5189 問題文から重要な事実を拾い出して的確な当てはめ
5190 と十分な理由付けを行い,
5191 正当化事由の有無まで説得的な論述がなされているもの
5192 とし,
5193 「良好」な答案は,
5194 比較的論述は薄いものの,
5195 必要な論点を網羅した上で,
5196 要
5197 点を的確にまとめてあるもの,
5198 「一応の水準」の答案は,
5199 「良好」な答案と評価され
5200 るために必要なポイントのうち,
5201 幾つかのポイントを欠くものとした。
5202
5203 また,
5204
5205 「不良」
5206 の答案は,
5207 条文解釈や成立要件に関する基本的な理解を欠き,
5208 本問の論点を拾うこ
5209 とができず,
5210 問題文が示す事実関係に即した論述がなされていないものとした。
5211
5212
5213 第2問については,
5214 「優秀」な答案は,
5215 事業者団体性,
5216 団体の行為性,
5217 公正競争阻
5218 害性,
5219 正当化事由について,
5220 問題文に含まれた認定に必要不可欠な事実を適切かつ
5221 丁寧に拾い出し,
5222 当てはめが的確になされているものとし,
5223 「良好」な答案は,
5224 比較
5225 的論述は薄いものの,
5226 必要な論点を網羅した上で,
5227 要点を的確にまとめてあるもの,
5228
5229 「一応の水準」の答案は,
5230
5231 「良好」な答案と評価されるために必要なポイントのうち,
5232
5233 幾つかのポイントを欠くものとした。
5234
5235 また,
5236 「不良」の答案は,
5237 独占禁止法第8条第
5238 4号の条文を抽出できずに論点をきちんと拾えず,
5239 出題意図を離れた論述をしてい
5240 るものとした。
5241
5242
5243 なお,
5244 これらは各水準に属する答案の一例で,
5245 採点に当たっては,
5246 総合的な能力
5247 の判定にも配慮しており,
5248 各水準に属する答案は,
5249 上記のものに尽きるものではな
5250 い。
5251
5252
5253
5254 4
5255
5256 今後の出題について
5257 今後も,
5258 独占禁止法の基礎的知識の正確な理解,
5259 当該行為が市場における競争に与
5260 える影響の洞察力,
5261 事実関係の検討能力及び論理性・説得性を求めることに変わりは
5262 ないと考えられる。
5263
5264
5265
5266 - 46 -
5267
5268 5
5269
5270 今後の法科大学院に求めるもの
5271 経済法の問題は,
5272 不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではない。
5273
5274
5275 経済法の基本的な考え方を正確に理解し,
5276 これを多様な事例に応用できる力を身に付
5277 けているかどうかを見ようとするものである。
5278
5279 法科大学院は,
5280 出題の趣旨を正確に理
5281 解し,
5282 引き続き,
5283 知識偏重ではなく,
5284 基本的知識を正確に習得し,
5285 それを的確に使い
5286 こなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,
5287 論述においては,
5288 論点主義的な
5289 記述ではなく,
5290 構成要件の意義を正確に示した上,
5291 当該行為が市場における競争へど
5292 のように影響するかを念頭に置いて,
5293 事実関係を丹念に検討し,
5294 要件に当てはめるこ
5295 とを論理的・説得的に示すことができるように教育してほしい。
5296
5297
5298
5299 - 47 -
5300
5301 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(知的財産法)
5302 1
5303
5304 出題の趣旨について
5305 既に公表した出題の趣旨のとおりである。
5306
5307
5308
5309 2 採点方針等
5310 (1) 第1問
5311 第1問は,
5312 職務発明,
5313 先使用,
5314 冒認出願・共同出願違反となり得る可能性を含む
5315 事例を基に,
5316 特許権に基づく差止請求訴訟において想定される抗弁,
5317 再抗弁(対抗
5318 主張)の摘示及びその妥当性を問い,
5319 さらに,
5320 その発展した問題として,
5321 特許権の
5322 移転請求の成否を問う問題であり,
5323 複雑な事例の内容を正確に把握し,
5324 論点を的確
5325 に抽出する事案分析能力,
5326 抽出した論点につき,
5327 抗弁と再抗弁を判断し,
5328 裁判例が
5329 ある論点については,
5330 それを踏まえた法解釈とその適用に関する思考力・応用力及
5331 びその論述能力を試そうとするものである。
5332
5333
5334 設問1は,
5335 Yの主張し得る抗弁として,
5336 職務発明による法定通常実施権,
5337 先使用
5338 に基づく通常実施権,
5339 冒認出願(又は共同出願違反)を理由とする無効の抗弁に言
5340 及することが「一応の水準」と評価されるラインである。
5341
5342 それぞれの抗弁の論証に
5343 当たっては,
5344 職務発明による法定通常実施権については,
5345 特許法第35条第1項の
5346 文言に照らし、
5347 特許を受けたXが方法1に係る特許を受ける権利を有効に承継して
5348 いなかった場合でもなおYに法定通常実施権が成立し得るのかとの問題,
5349 先使用に
5350 基づく通常実施権については,
5351 方法1はXに特許を受ける権利を譲渡した乙による
5352 職務発明であるため,
5353 Yが同法第79条所定の「特許出願に係る発明の内容を知ら
5354 ないでその発明をした者から知得した者」に当たるのかとの問題,
5355 方法2に関して
5356 は,
5357 発明思想説か実施形式説かといった先使用権の範囲に関する問題があり,
5358 さら
5359 に,
5360 無効の抗弁については,
5361 本件特許が同法第123条第1項第6号に当たるのか
5362 同項第2号(共同出願違反)に当たるのかという問題,
5363 Xが乙から有効に特許を受
5364 ける権利を譲り受けたと思われる方法2に関しても冒認出願といえるのかという問
5365 題があるところ,
5366 これらについて問題点を的確に指摘した上で論述されていれば,
5367
5368 「良好」又は「優秀」と評価した。
5369
5370
5371 設問2は,
5372 冒認出願を理由とする無効の抗弁に対する訂正の対抗主張に触れるこ
5373 とが「一応の水準」である。
5374
5375 そして,
5376 訂正の対抗主張が認められる要件につき,
5377 裁
5378 判例の示す基準などを念頭において丁寧に論じていれば,
5379 「良好」又は「優秀」と
5380 評価した。
5381
5382 なお,
5383 訂正の対抗主張の要件として,
5384 訂正審判請求又は訂正請求をした
5385 ことが必要であると解し,
5386 職務発明による法定通常実施権を抗弁として認める立場
5387 を採ると,
5388 通常実施権者であるYの承諾のないXによる訂正審判請求若しくは訂正
5389 請求の適法性(特許法第127条,
5390 同法第134条の2第9項)が問題となり得る
5391 ことから,
5392 これについて触れていれば,
5393 より高く評価した。
5394
5395
5396 設問3は,
5397 特許法第74条の要件を検討し,
5398 全部移転請求が可能かについて触れ,
5399
5400 持分の移転請求の可否について言及した上で,
5401 持分の移転請求が可能であり本件特
5402 許がXとYとの共有となると論述する場合は,
5403 Yの差止請求につき同法第73条第
5404 2項又は同法第79条の2による実施権の成否に触れることが「一応の水準」であ
5405 り,
5406 これらの規定の適用の可能性を指摘した上で自説を論じていれば,
5407 「良好」又
5408
5409 - 48 -
5410
5411 は「優秀」と評価した。
5412
5413
5414 (2) 第2問
5415 第2問は,
5416 二次的著作物の原著作者の権利(著作権法第28条)の範囲,
5417 美術等
5418 の著作物の展示に伴う複製に関する権利制限(同法第47条)の成否,
5419 引用(同法
5420 第32条第1項)の成否,
5421 いわゆる応用美術の問題など,
5422 いずれも著作権法の基礎
5423 的かつ重要な論点であって,
5424 裁判例の集積のなされている問題についての基礎的な
5425 理解を問うとともに,
5426 長文の設問から的確に論点を抽出する事案分析能力,
5427 抽出し
5428 た論点について,
5429 判例を踏まえた法解釈とその適用に関する思考力,
5430 応用力及びそ
5431 の論述能力を試そうとするものである。
5432
5433
5434 設問1は,
5435 著作権法第28条の適用の可否に触れることが「一応の水準」と評価
5436 されるラインである。
5437
5438 その上で,
5439 まず,
5440 本件漫画が本件小説の二次的著作物に当た
5441 るか否か,
5442 本件アニメが本件漫画の二次的著作物に当たるか否かについて,
5443 翻案の
5444 要件につき,
5445 判例(最判平成13年6月28日民集55巻4号837頁【江差追分】)
5446 の基準を踏まえて分析した上,
5447 DVDの製造・販売というCの行為が著作権法上の
5448 どの支分権の侵害として問題となるかを明確にし,
5449 同条の解釈として,
5450 原著作者の
5451 権利がどこまで及ぶのかにつき,
5452 判例(最判平成13年10月25日判時1767
5453 号115頁【キャンディ・キャンディ】)を踏まえつつ自説を展開して,
5454 双方の主
5455 張の妥当性に言及できていれば,
5456 「良好」又は「優秀」と評価した。
5457
5458
5459 設問2については,
5460 まず,
5461 BはDに対してどのような支分権の侵害を理由として
5462 差止めを求めることができるかを明確にし,
5463 次に,
5464 Dの反論として,
5465 著作権法第4
5466 7条及び同法第32条第1項の適用の可否に触れることが「一応の水準」と評価さ
5467 れるラインである。
5468
5469 その上で,
5470 本件パンフレットが「小冊子」に該当するか否かに
5471 ついて,
5472 裁判例の判断基準を念頭に置きながら「小冊子」の意義を明らかにし,
5473 そ
5474 れを事案に当てはめて双方の主張の妥当性を論じ,
5475 さらに,
5476 本件パンフレット及び
5477 本件チケットについて引用(同項)の成否が問題となることを指摘した上で,
5478 引用
5479 の要件につき,
5480 判例(最判昭和55年3月28日民集34巻3号244頁【パロデ
5481 ィ】)の判断基準を念頭に置きつつ自説を論じて事案への当てはめができていれば,
5482
5483 「良好」又は「優秀」との評価を,
5484 さらに,
5485 本件チケットについては,
5486 引用する側
5487 の作品に著作物性がない場合でも同項が適用されるかにつき議論があることから,
5488
5489 この論点に言及できていれば,
5490 「優秀」との評価をした。
5491
5492
5493 設問3については,
5494 本件フィギュアの著作物性が問題となることから,
5495 いわゆる
5496 応用美術の問題に触れることが,
5497 「一応の水準」と評価されるラインである。
5498
5499 その
5500 上で,
5501 意匠法との関係など,
5502 応用美術の問題点を指摘し,
5503 それに関する裁判例の示
5504 す基準を念頭に置きつつ,
5505 事案に当てはめ,
5506 本件フィギュアの著作物性を論じてい
5507 れば,
5508 「良好」又は「優秀」と評価した。
5509
5510
5511 3 採点実感等
5512 (1) 第1問
5513 ア 総評
5514 全体として,
5515 十分な論述がされていると評価できる答案は少なかった。
5516
5517 事例が
5518 やや複雑であったことや,
5519 平成23年特許法改正によって導入された新制度につ
5520 いての理解を問うものであったことから,
5521 難易度が高いとの印象があったかもし
5522
5523 - 49 -
5524
5525 れないが,
5526 特許を受ける権利の譲渡に係る要件や侵害主張に対する基本的な抗弁
5527 についての正確な理解の下で,
5528 各抗弁の成否を全般的に論じていれば十分な論述
5529 と認めることができたものである。
5530
5531 しかし,
5532 実際にそのような論述ができている
5533 答案は少なく,
5534 基礎的な理解が不足し,
5535 あるいは論証が不十分な答案が多かった。
5536
5537
5538 イ 設問1
5539 (ア) 全体
5540 Yが主張し得る抗弁の一部だけを論じ,
5541 他の抗弁について検討していない答
5542 案が思いのほか多かった。
5543
5544 裁判実務等においては,
5545 考え得る複数の抗弁につい
5546 てできるだけ検討を行うことが必要であり,
5547 特段の理由なく一部の抗弁だけを
5548 取り上げて論じるにとどまった答案は,
5549 他の抗弁を活用する力を十分に身に付
5550 けていないと評価されることに留意されたい。
5551
5552
5553 (イ) 職務発明による法定通常実施権
5554 方法1に関して,
5555 職務発明による法定通常実施権について言及する答案が少
5556 なかった。
5557
5558 この成否自体に議論の余地があるとしても,
5559 言及すらなされていな
5560 いのでは,
5561 職務発明制度全体についての理解が十分でないと評価せざるを得な
5562 い。
5563
5564
5565 (ウ) 先使用に基づく通常実施権
5566 先使用に基づく通常実施権については,
5567 方法1に関してこれを論ぜず,
5568 方法
5569 2に関してだけ論じる答案が多かった。
5570
5571 論点のみに飛び付くことなく,
5572 基本的
5573 な事項を押さえた論述を心掛けてほしい。
5574
5575
5576 出願前に既に「実施」されている方法1に関して「事業の準備」の有無を論
5577 じる答案や,
5578 「事業の準備」の有無に関して,
5579 秘密裏の実施であったことを理
5580 由に,
5581 即時実施の意図が「客観的に認識できない。
5582
5583 」と述べて先使用権の成立
5584 を否定する答案などが散見された。
5585
5586 そのような答案は,
5587 特許法第79条の要件
5588 の基本的な理解に疑問を感じさせる。
5589
5590 方法2に関しては,
5591 方法1の先使用によ
5592 って成立する先使用権の範囲が問題となるように意図して出題したが,
5593 方法1
5594 の実施が方法2の事業の準備に当たるか否かという枠組みで論じる答案がかな
5595 りあった。
5596
5597 ウォーキングビーム事件最高裁判例(最判昭和61年10月3日民
5598 集40巻6号1068頁)等での争点を十分に理解していないように思われる。
5599
5600
5601 最高裁の示した,
5602 実施形式に具現された発明の範囲という抽象的な基準を具
5603 体的事案に適用するに当たり,
5604 答案の中には,
5605 方法2の効果が方法1よりも優
5606 れているという,
5607 効果面の優越性だけから先使用権が及ぶことを否定してしま
5608 う答案が多数あった。
5609
5610 効果の違いだけに拘泥すべきではなく,
5611 解決手段の選択
5612 において両方法の間に技術思想としての違いがあったといえるかを論じる必要
5613 がある。
5614
5615
5616 (エ) 無効の抗弁
5617 Yが方法1を実施していたことによる新規性・進歩性欠如を理由とする無効
5618 の抗弁を論じる答案が多かった。
5619
5620 Yは秘密裏に方法1の使用を行っていたもの
5621 であり,
5622 新規性・進歩性欠如が問題とならないことは明らかである。
5623
5624
5625 また,
5626 方法1に関して無効の抗弁を論じていながら,
5627 方法2ではそれに触れ
5628 ない答案が多く見られた。
5629
5630 その結果,
5631 設問2において訂正の対抗主張の論点を
5632 落とすこととなっていた。
5633
5634
5635
5636 - 50 -
5637
5638 方法1に係る特許を受ける権利について,
5639 XとYへの二重譲渡の対抗問題で
5640 あると解し,
5641 Yが出願していないのでXに権利を対抗できないとする答案や,
5642
5643 Xの背信的悪意者該当性を論じる答案が予想外に多かった。
5644
5645 他方,
5646 甲の同意の
5647 欠缺を理由とせずに,
5648 既に甲乙から特許を受ける権利がYに譲渡されてしまっ
5649 ているから,
5650 Xにはもはや譲渡できないとした答案も少なからず存在した。
5651
5652 こ
5653 のような答案は,
5654 民法の基本的な理解を疑わしめるものである。
5655
5656
5657 ウ 設問2
5658 設問2は設問1を受けたものであるにもかかわらず,
5659 設問1との関連性を考慮
5660 しない答案が少なくなかった。
5661
5662 訂正の対抗主張に全く言及しない答案が多く,
5663 訂
5664 正の対抗主張に言及する答案でも,
5665 その要件について全くあるいはほとんど言及
5666 しない答案も相当数あった。
5667
5668 上記要件について論じることは,
5669 実務家として必要
5670 な応用力である。
5671
5672 適切に論述した答案も少なからずあり,
5673 大きく差が付いたとこ
5674 ろである。
5675
5676
5677 特許法第35条第1項の通常実施権者が存在する場合には,
5678 訂正に通常実施権
5679 者の承諾が必要とされている(同法第127条)ことから,
5680 Yの承諾を得ない違
5681 法な訂正手続を理由とする対抗主張が許されるかについての論述がなされていれ
5682 ばより高く評価することとしていたが,
5683 実際に論述した答案はなかった。
5684
5685
5686 エ 設問3
5687 十分な論証ができている答案は少なかった。
5688
5689 平成23年特許法改正による新制
5690 度を題材にした設問であるが,
5691 特許法に関する基本事項の理解があれば十分に解
5692 答ができる問題であり,
5693 身に付いている基本的な知見を活用して,
5694 論理的に自分
5695 なりの結論を出すことが望まれる。
5696
5697
5698 特許法第74条はもちろんのこと,
5699 同法第123条第1項第6号及び同項第2
5700 号との関係をきちんと論じない答案,
5701 単に同法第34条第1項を根拠に,
5702 YはX
5703 に対して特許を受ける権利の承継を対抗できないから,
5704 特許権の移転請求ができ
5705 ないとだけ論ずる答案が散見され,
5706 特許法の基本的理解が不十分であると感じら
5707 れた。
5708
5709
5710 YからXに対する移転請求の具体的な内容が曖昧な答案も多かった。
5711
5712 例えば「方
5713 法1の持分のみを移転請求できる」といった論述では,
5714 どのような移転登録請求
5715 を求める趣旨なのか理解できない。
5716
5717
5718 YのXに対する差止請求の可否に関し,
5719 Xが本件特許についてYとの共有者と
5720 なることを認めながら,
5721 特許法第73条第2項の共有者の実施権に言及せず,
5722 同
5723 法第79条の2の通常実施権のみを論じた答案が少なからずあった。
5724
5725 同法第73
5726 条第2項を認識していなかったのであれば,
5727 基本的な事項についての理解が足り
5728 ないと言わざるを得ない。
5729
5730
5731 共有者の実施権に基づき,
5732 Yの差止請求が認められないと記載した答案は,
5733 そ
5734 れで一応十分であるものの,
5735 さらに,
5736 その結果が妥当なのかどうかを検討するこ
5737 とが望ましい。
5738
5739 しかし,
5740 そのような検討を行う答案は少なかった。
5741
5742
5743 (2) 第2問
5744 ア 総評
5745 第1問と比較すると,
5746 一応の水準を満たしていると評価できる答案が多かった。
5747
5748
5749 一方で,
5750 途中で中断したと思われる答案も非常に目立った。
5751
5752 また,
5753 著作者人格権
5754
5755 - 51 -
5756
5757 は設問から除かれているにもかかわらず,
5758 これに言及し,
5759 中には同一性保持権侵
5760 害を長々と論じる答案が複数あった。
5761
5762 何が問われているかを的確に把握し,
5763 論述
5764 すべきである。
5765
5766
5767 イ 設問1
5768 以前に比べ,
5769 支分権のいずれが問題となるかについて意識した論述が多くなっ
5770 た点は評価できるが,
5771 それぞれの支分権によっていかなる行為が禁止されるかに
5772 ついての理解が今なお不十分と思われた。
5773
5774 本件アニメが本件小説あるいは本件漫
5775 画についてAが有する「翻案権」を侵害するとのみ述べるものが多数存在した。
5776
5777
5778 しかし,
5779 設問1で問われているのは,
5780 本件アニメのDVDの製造・販売行為の差
5781 止請求の可否であり,
5782 本件アニメ自体の制作行為に対する差止請求の可否ではな
5783 い。
5784
5785 したがって,
5786 本件アニメの複製権及び頒布権についてAが権利主張できるか
5787 否かまで論じる必要がある。
5788
5789 また,
5790 本件漫画の主人公の絵柄にAの原著作者の権
5791 利を認め,
5792 その絵柄が本件アニメのDVDに複製されているとして,
5793 Aの複製権
5794 のほか,
5795 「譲渡権」侵害を主張する答案が複数あった。
5796
5797 この論旨による場合であ
5798 っても,
5799 著作権法第26条第2項により,
5800 Aが主張すべき権利は映画の著作物に
5801 ついての「頒布権」である。
5802
5803 また,
5804 本件アニメについて,
5805 原著作者と本件アニメ
5806 (二次的著作物)の著作者によって著作権が共有されていると述べる答案が散見
5807 されたが,
5808 同法第28条が適用される場合には,
5809 原著作者の権利と二次的著作物
5810 の著作者の権利はそれぞれ併存するというのが通説的な理解であり,
5811 このような
5812 答案については基本的な理解が乏しいと評価せざるを得ない。
5813
5814
5815 指標となる「翻案」の定義については,
5816 多くの答案でおおむね最高裁判例に従
5817 った記述がなされており評価できた。
5818
5819 しかし,
5820 本件小説から本件漫画,
5821 本件漫画
5822 から本件アニメ,
5823 本件小説から本件アニメのそれぞれの関係について翻案の有無
5824 を検討すべきところ,
5825 多くの答案で,
5826 これらの一部の関係だけを取り上げて翻案
5827 を判断するにとどまるものが多かった。
5828
5829
5830 翻案に関して,
5831 本件アニメが本件小説の翻案物であることを,
5832 いささか安易に
5833 認定してしまっている答案が多かった。
5834
5835 一般的には小説において言語で記述され
5836 ているに過ぎない主人公の特徴自体は,
5837 アイディアの域にとどまり,
5838 具体的な表
5839 現とまでは考え難い場合が多いと思われるので,
5840 本件小説の表現上の本質的特徴
5841 を本件アニメから直接感得できるという判断は慎重に行うべきであろう。
5842
5843
5844 本件アニメが本件漫画を介した本件小説の二次的著作物に該当し,
5845 著作権法第
5846 28条によってAがCの有する権利と同一の種類の権利を有するか否かについて
5847 は,
5848 大半の答案が触れていた。
5849
5850 しかし,
5851 同条に全く言及せず,
5852 本件漫画は独立し
5853 たBの著作物であり,
5854 Bの承諾がある以上,
5855 Aの権利を侵害するものではないと
5856 の答案もあった。
5857
5858 また,
5859 同条に言及する答案の中でも,
5860 判例を踏まえて,
5861 原著作
5862 物の表現上の本質的特徴を直接感得できる部分にだけ適用され得るのか否かにつ
5863 いて同条の要件解釈を展開する答案は少なかった。
5864
5865 「著作権法第28条を適用す
5866 ると原著作者の権利が広くなりすぎて不当」といった理由だけで結論付ける答案
5867 が多かったが,
5868 これだけでは問題提起にはなり得ても,
5869 法解釈論とはいえない。
5870
5871
5872 武将αのキャラクターの著作物性に言及し,
5873 キャラクターは抽象的な概念であ
5874 って具体的な表現ではないとする答案が多かったが,
5875 中には,
5876 キャラクターを絵
5877 画の著作物に当たるとする答案もあった。
5878
5879
5880
5881 - 52 -
5882
5883 ウ
5884
5885 設問2
5886 展示権侵害を肯定する答案があったが,
5887 本件では原画の所有者の承諾があるか
5888 ら誤りである。
5889
5890 逆に,
5891 所有者の同意がない場合でも著作権法47条が適用できる
5892 との答案もあったが,
5893 展示権侵害のないことが同条の要件である。
5894
5895
5896 本件原画の複製について,
5897 著作権法第47条の適用を論じた答案は多かった一
5898 方,
5899 そもそも同条に全く触れてない答案が少なからず存在した。
5900
5901 同条の適用に当
5902 たっては,
5903 同条の小冊子に該当するか否かについて,
5904 同条の趣旨を踏まえた判断
5905 基準を定立し,
5906 事案への当てはめを行う必要がある。
5907
5908 この点,
5909 判断基準が曖昧な
5910 まま,
5911 結論を導いている答案が散見された。
5912
5913 また,
5914 本件パンフレットが有償配布
5915 であることを理由として同条の適用を否定する答案があったが,
5916 有償性は小冊子
5917 該当性の判断に決定的ではないと解されている。
5918
5919 なお,
5920 本件パンフレットと本件
5921 チケットは,
5922 漫画の原画の利用状況が相違するのに,
5923 その相違を考慮せずに,
5924 両
5925 者を同一に論述する答案が少なくなかった。
5926
5927 本件チケットについて同条の適用を
5928 肯定する答案もあったが,
5929 本件チケットが「小冊子」に該当することは困難とい
5930 うべきである。
5931
5932
5933 また,
5934 本件原画の複製については,
5935 著作権法第32条第1項の引用該当性が問
5936 題となるが,
5937 引用の抗弁に全く言及しない答案がかなり多かった。
5938
5939 引用該当性を
5940 論ずる答案についても,
5941 その要件を列挙して当てはめを行ってはいるが,
5942 引用す
5943 る側の著作物性が必要であるか否かを論じている答案は少数であった。
5944
5945 この点は,
5946
5947 引用について論じた著名な裁判例で明示的に議論されているところであり,
5948 仮に
5949 引用する側の著作物性は不要であるとの立場に立つとしても,
5950 論述すべきである。
5951
5952
5953 エ 設問3
5954 応用美術の論点は多くの答案が触れていたものの,
5955 この問題に全く言及しない
5956 答案も少なくなかったのは予想外であった。
5957
5958 本件フィギュアの著作物性の認定に
5959 当たって,
5960 大量生産品の応用美術であることをアプリオリに問題とする答案が多
5961 く,
5962 意匠法等の他の産業財産権法や不正競争防止法との適用範囲の棲み分けを考
5963 える必要性から論証を始める答案は少なかった。
5964
5965 本件フィギュアについて,
5966 問題
5967 文の記載のみから,
5968 純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を肯定し,
5969 美術の著
5970 作物に当たると断定する答案がほとんどであった。
5971
5972 美術の著作物と認められない
5973 場合においてもなお,
5974 BやEがFに対して権利行使が可能であるか否かについて
5975 の検討が行われることを想定していたが,
5976 この点を論述する答案はほとんどなか
5977 った。
5978
5979
5980 BのFに対する請求については,
5981 ほとんどの答案が著作権法第28条に言及し
5982 ていたが,
5983 本件漫画に係る複製権又は翻案権の侵害に言及する答案はほとんどな
5984 かった。
5985
5986
5987 Fの製造した本件おまけにつき私的複製(著作権法第30条)を論じる答案,
5988
5989 消尽を論じる答案,
5990 本件フィギュアに同法第46条第1号や同条第4号の該当性
5991 を論じる答案や同法第38条第4項(営利目的のない貸与)に言及する答案が散
5992 見されたが,
5993 何れも誤りである。
5994
5995
5996 4
5997
5998 今後の出題
5999 出題方針について変更すべき点は特にない。
6000
6001 今後も,
6002 特許法及び著作権法を中心と
6003
6004 - 53 -
6005
6006 して,
6007 条文,
6008 判例及び学説の正確な理解に基づく,
6009 事案分析力,
6010 論理的思考力を試す
6011 出題を継続することとしたい。
6012
6013
6014 5
6015
6016 今後の法科大学院教育に求められるもの
6017 第1問について,
6018 Yの主張し得る抗弁としてどのようなものがあるかにつき網羅的
6019 な検討をしないで,
6020 特定の抗弁のみを取り上げて論述する答案が多く見られたことは
6021 採点実感に記載したとおりであるが,
6022 新規性・進歩性欠如を理由とする無効の抗弁等,
6023
6024 当を得ない論点を長々と論じる答案も多く,
6025 そのような答案からは,
6026 受験者が事案に
6027 正面から取り組むのを避け,
6028 答案の書きやすさの観点から,
6029 学習してきた論点を厚く
6030 論述しているような印象を受けた。
6031
6032 最も有力な反論である訂正の対抗主張に全く気付
6033 かない答案も目立ったところである。
6034
6035 実務家を養成する教育機関である法科大学院に
6036 おいては,
6037 論点中心の教育ではなく,
6038 実際の訴訟等を想定して,
6039 具体的事案の中から,
6040
6041 実務家であれば当然主張すべき抗弁・再抗弁を抽出し,
6042 それについて的確に論述する
6043 能力を広く養うような教育が求められる。
6044
6045
6046 また,
6047 最高裁判例があるにもかかわらず,
6048 その判旨を全く無視して自説を展開する
6049 答案も目立った。
6050
6051 繰り返しになるが,
6052 法科大学院は実務家を養成する教育機関である
6053 ことから,
6054 判例を念頭においた教育を常に心掛けることが望まれる。
6055
6056
6057
6058 - 54 -
6059
6060 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(労働法)
6061 1
6062
6063 2
6064
6065 出題の趣旨,
6066 狙い等
6067 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
6068
6069
6070 採点方針
6071 事例に即して必要な論点を的確に抽出できているか,
6072 関係する法令,
6073 判例及び学説
6074 を正確に理解し,
6075 これを踏まえて,
6076 論理的かつ整合性のある法律構成及び事実の当て
6077 はめによって,
6078 適切な結論を導き出しているかを基準に採点した。
6079
6080
6081 出題の趣旨に沿って,
6082 必要な論点を的確に取り上げた上,
6083 その論述が期待される水
6084 準に達している答案については,
6085 おおむね平均以上の得点を与え,
6086 さらに,
6087 当てはめ
6088 において必要な事実を過不足なく摘示し,
6089 あるいは,
6090 主要論点について,
6091 着目すべき
6092 問題点を事例から適切に読み取って検討しているなど,
6093 優れた事例分析や考察が認め
6094 られる答案については,
6095 更に高い得点を与えることとした。
6096
6097
6098
6099 3 採点実感等
6100 (1) 第1問について
6101 本問は,
6102 @労働契約上の地位の確認請求が認められるかにつき,
6103 本件労働契約に
6104 設けられた期間が試用期間か労働契約の期間か,
6105 試用期間と解する場合には当該契
6106 約の性質をどう解するかを明らかにした上で,
6107 Yによる契約終了の通知が権利濫用
6108 となるかを問い,
6109 A差額賃金の請求が認められるかにつき,
6110 募集広告の内容等が本
6111 件労働契約の内容となっているかを明らかにした上で,
6112 内容となっていないと解す
6113 る見解を採用する場合には,
6114 不法行為に基づく損害賠償請求等ができないかを問い,
6115
6116 さらに,
6117 B平成24年12月分の賞与の請求が認められるかにつき,
6118 就業規則の最
6119 低基準効(労働契約法(以下「労契法」という。
6120
6121 )第12条)に言及した上で,
6122 賞与
6123 債権の放棄の有効性を問う問題である。
6124
6125
6126 前記@については,
6127 全体的に良好な論述がなされている答案が多かったが,
6128 前記
6129 A及びBについては,
6130 基礎的な理解が不十分と思われる答案も少なからずあった。
6131
6132
6133 また,
6134 本問の解答に当たっては,
6135 それぞれの論点ごとに相応の分量の記載が必要で
6136 あるが,
6137 @及びA(特に@における契約終了通知の法的評価)を過度に重視し,
6138 A
6139 及びB(特にB)に関する記載が量的にも足りないものが少なくなかった。
6140
6141 例えば,
6142
6143 @について,
6144 労契法第16条又は第19条の要件と当てはめについて長々と論じて
6145 いるような答案がこれに当たるが,
6146 解答に当たっては,
6147 十分な答案構成を行い,
6148 各
6149 論点の比重に応じたバランスの取れた記述を心掛けられたい。
6150
6151
6152 前記@の労働契約上の地位の確認請求については,
6153 神戸弘陵学園事件判決(最判
6154 平2年6月5日)等の判例を踏まえ,
6155 適切な規範定立及び当てはめができているか
6156 などを重視したが,
6157 全体的には良好な論述がなされている答案が多かった。
6158
6159 ただし,
6160
6161 中には,
6162 本件労働契約に設けられた期間が試用期間か労働契約の期間かという重要
6163 論点を全く検討することなく,
6164 本件労働契約が有期労働契約であることを当然の前
6165 提として,
6166 いきなり労契法第19条第2号の要件の検討に入っていた答案も見られ
6167 た。
6168
6169 また,
6170 試用期間か労働契約の期間かという論点に触れながら,
6171 前記判例の規範
6172 に言及せずに独自の規範を定立している答案や,
6173 試用期間と解しつつも,
6174 解約権留
6175
6176 - 55 -
6177
6178 保付労働契約等の法的性質に言及していない答案も散見されたが,
6179 司法試験が実務
6180 家となるための試験であることを踏まえれば,
6181 たとえ判例と異なる立場に立つにし
6182 ても,
6183 判例で示された判断の枠組みに言及できていない答案は,
6184 これに言及してい
6185 る答案に比して,
6186 高い評価を得られないことを十分に認識してほしいところである。
6187
6188
6189 一方で,
6190 Yによる契約終了の通知が権利濫用(試用期間と解する見解を採用した場
6191 合には労契法第16条,
6192 労働契約の期間と解する見解を採用した場合には労契法第
6193 19条第2号)となるかについては,
6194 大半の答案が言及し,
6195 おおむね良好な論述が
6196 できていた。
6197
6198
6199 前記Aの差額賃金の請求については,
6200 XY間において,
6201 平成20年4月に新卒で
6202 採用された教員の現時点での給与額とすることが労働契約の内容となっていたかが
6203 論点となる。
6204
6205 この点については,
6206 募集広告の記載,
6207 採用説明会における説明,
6208 Xの
6209 応募,
6210 Yによる採用がそれぞれどのような法的意義を有するかを丁寧に分析した上
6211 で,
6212 前記論点を論じていた答案には高得点を与えることとしたが,
6213 その際には,
6214 日
6215 新火災海上保険事件判決(東京高判平12年4月19日)等の累次の裁判例を踏ま
6216 えた論述ができているかなどを重視した。
6217
6218 この点,
6219 一般に,
6220 裁判例は,
6221 求人広告は
6222 労働契約の申込みの意思表示と見ることはできないとし,
6223 労働契約の申込みの誘引
6224 と捉えているところ,
6225 これを指摘している答案が多数であった。
6226
6227 一方,
6228 平成20年
6229 4月に新卒で採用された教員の現時点での給与額とすることが労働契約の内容とな
6230 っていないとする見解を採る場合には,
6231 前記裁判例の判断の枠組みを踏まえるなど
6232 して,
6233 労働条件明示義務(労働基準法第15条第1項)違反及び信義則違反により,
6234
6235 不法行為に基づく精神的損害の賠償を請求できるなどの法律構成を行ってほしいと
6236 ころであったが,
6237 それができていた答案は比較的少数にとどまっていた。
6238
6239 また,
6240 労
6241 働契約の合意内容の検討を経ずに,
6242 労働条件明示義務違反等から直ちに差額賃金の
6243 支払を認める答案も散見された。
6244
6245
6246 前記Bの平成24年12月分の賞与の請求については,
6247 まず,
6248 労契法第12条が
6249 規定する就業規則の最低基準効に言及し,
6250 就業規則の変更が行われていない本件に
6251 おいては,
6252 原則として賞与の不支給は許されないことを論ずる必要があったが,
6253 こ
6254 の点に触れていない答案も少なからず存在した。
6255
6256 その上で,
6257 出題者としては,
6258 賞与
6259 の不支給に対する教職員の同意につき,
6260 賞与債権の発生の有無(具体化の程度)に
6261 言及した上で,
6262 かかる同意が賞与債権の放棄として有効か否かをシンガー・ソーイ
6263 ング・メシーン事件判決(最判昭48年1月19日)等の判例の判断の枠組みを踏
6264 まえて論じてほしかったところであり,
6265 そのような論述ができていた答案には高い
6266 得点を与えた。
6267
6268 もっとも,
6269 賞与の不支給に対する教職員の同意を債権放棄として捉
6270 える構成を採らずに,
6271 労契法第8条の個別合意による労働条件の変更として捉える
6272 構成を採っていた答案も相当数存在し,
6273 かかる構成も理論的に成立し得ることから,
6274
6275 相応の得点を与えることとした(なお,
6276 労契法第9条を根拠に構成する答案も存在
6277 したが,
6278 同条の合意は就業規則変更による労働条件の変更であるところ,
6279 就業規則
6280 を変更していない本問事例では妥当しないことに注意すべきである。
6281
6282 )。
6283
6284
6285 (2) 第2問について
6286 ア 設問1について
6287 本問は,
6288 Y社によるX1らの就労拒否について,
6289 X1らがY社にその期間中の賃
6290 金を請求できるかについて,
6291 Y社の建物閉鎖,
6292 営業休止及びX1らの就労拒否がX
6293
6294 - 56 -
6295
6296 組合による一連の争議行為に対する対抗行為としてのロックアウトに当たり,
6297 Y社
6298 が正当な争議行為をしたことの効果として,
6299 上記ロックアウト期間中における対象
6300 労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務を免れるといえるかを問うもので
6301 ある。
6302
6303
6304 本問については,
6305 Y社の行為をロックアウトと評価して,
6306 その正当性を検討する
6307 という点では多くの答案が論点を的確に捉えていたが,
6308 使用者の争議対抗行為とし
6309 ての可能性を全く検討せずに,
6310 専ら民法第536条第2項の「債権者の責めに帰す
6311 べき事由」に当たるかを,
6312 特にX組合の争議行為の正当性の分析を中心に検討する
6313 答案も少なくなかった。
6314
6315
6316 また,
6317 Y社のロックアウトの正当性の判断に当たっては,
6318 判例(丸島水門事件・
6319 最判昭50年4月25日)の規範に即して検討することが求められるが,
6320 これを正
6321 確に理解していない答案が多く見られた。
6322
6323
6324 そのいずれにおいても,
6325 使用者のロックアウトが労働法上の権利として正当な争
6326 議行為と評価される場合には賃金支払義務を免れるということが十分に理解されて
6327 いないと評価せざるを得ない。
6328
6329
6330 したがって,
6331 本問の論点を的確に捉え,
6332 かつ使用者の争議権の根拠,
6333 ロックアウ
6334 トの正当性の判断基準について,
6335 判例の規範を正確に示し,
6336 問題の事実をそれらに
6337 当てはめている答案には高得点を与えている。
6338
6339
6340 イ 設問2について
6341 本問は,
6342 X組合の統制権の法的根拠を示した上で,
6343 X組合によるZに対する除名
6344 処分の有効性について,
6345 X組合の争議行為が正当であるかを検討することが求めら
6346 れる。
6347
6348 X組合の争議行為が違法であるとするならば,
6349 Zには争議行為参加義務が生
6350 ぜず,
6351 統制違反行為はないといえるからである。
6352
6353
6354 X組合の争議行為の正当性は,
6355 問題文の事実からすると,
6356 開始時期,
6357 手段・態様
6358 の相当性を中心として検討される。
6359
6360
6361 もっとも,
6362 この点について,
6363 違法争議行為についても,
6364 組合員が参加義務を負う
6365 との学説もあるので,
6366 そのような立場に立つごく少数の答案はそれとして評価した。
6367
6368
6369 X組合の争議行為を正当とする場合には,
6370 X労組による統制権の行使が権利濫用に
6371 当たるかが判断される必要がある。
6372
6373
6374 しかし,
6375 答案の多くは,
6376 X組合の争議行為の正当性を検討せず,
6377 専らX組合のZ
6378 に対する除名処分が統制権の濫用に当たるかという論点を立てて検討していた。
6379
6380 Z
6381 の争議行為不参加がX組合の争議行為の実施を妨げていないことや個人の思想信条
6382 の自由を根拠として,
6383 X組合の除名処分を無効とする答案も少なくなかったが,
6384 労
6385 働組合の統制権の基本的理解に欠けると言わざるを得ない。
6386
6387
6388 なお,
6389 処分の相当性については多くの答案が理解していた。
6390
6391
6392 4
6393
6394 答案の評価
6395 「優秀」の水準にあると認められる答案とは,
6396 出題の趣旨を十分に理解した論述がな
6397 されている答案である。
6398
6399 第1問においては,
6400 必要な論点を過不足なく抽出し,
6401 関係条文
6402 に言及することはもとより,
6403 判例の判断の枠組みを踏まえた的確な規範定立と当てはめ
6404 を行い,
6405 説得的な論述を行っている答案であり,
6406 第2問については,
6407 特に,
6408 設問1につ
6409 いては,
6410 使用者のロックアウトが争議行為法上の使用者の争議行為の正当性の問題であ
6411
6412 - 57 -
6413
6414 ることを理解して,
6415 その正当性につき,
6416 判例が示す規範に即して問題文から抽出できる
6417 事実を当てはめて,
6418 結論を導いた答案である。
6419
6420
6421 「良好」の水準に達していると認められる答案とは,
6422 必要な論点にはおおむね言及
6423 し,
6424 法解釈について一定の見解を示した上で,
6425 事例から,
6426 結論を導き出すのに必要な
6427 具体的事実を抽出できているものの,
6428 例えば,
6429 第1問では,
6430 差額賃金の請求について,
6431
6432 募集広告の記載,
6433 採用説明会における説明,
6434 Xの応募,
6435 Yによる採用がそれぞれどの
6436 ような法的意義を有するのかを分析できていない,
6437 又は,
6438 賞与請求について,
6439 教職員
6440 の同意の法律的な位置付けを理論的に説明できていない答案,
6441 第2問では,
6442 設問1に
6443 おける判例の規範の理解が不十分であるため,
6444 ロックアウトの正当性の判断について
6445 具体的な論述が十分にはできていない答案など,
6446 「優秀」の水準にあると認められる答
6447 案のように出題の趣旨を十分に捉えきれていないような答案である。
6448
6449
6450 「一応の水準」に達していると認められる答案とは,
6451 労働法の基本的な論点に対す
6452 る一定の理解はあるものの,
6453 必要な論点に言及していなかったり,
6454 言及していたとし
6455 ても,
6456 規範定立や当てはめがやや不十分な答案であり,
6457 関係条文・判例に対する知識
6458 の正確性に難があり,
6459 事例における具体的な事実関係を前提に要証事実を的確に捉え
6460 ることができていないような答案である。
6461
6462
6463 「不良」の水準にとどまるものと認められる答案とは,
6464 関係条文・判例に対する知
6465 識に乏しく,
6466 労働法の基本的な考え方を理解せず,
6467 例えば,
6468 規範を定立せずに単に問
6469 題文中の具体的な事実を列挙するにとどまるなど,
6470 具体的事実に対応して法的見解を
6471 展開するというトレーニングを経ておらず,
6472 基本的な理解・能力が欠如していると思
6473 料される答案である。
6474
6475
6476 5
6477
6478 今後の出題
6479 出題方針について変更すべき点は特にないと考える。
6480
6481 今後も,
6482 法令,
6483 判例及び学説
6484 に関する正確な理解に基づき,
6485 事例を的確に分析し,
6486 必要な論点を抽出して,
6487 自己の
6488 法的見解を展開し,
6489 これを事実に当てはめることによって,
6490 妥当な結論を導くという,
6491
6492 法律実務家に求められる基本的な能力及び素養を試す出題を継続することとしたい。
6493
6494
6495
6496 6
6497
6498 今後の法科大学院教育に求めるもの
6499 基本的な法令,
6500 判例及び学説については,
6501 正確な理解に基づき,
6502 かつ,
6503 網羅的に知
6504 識を習得するように更なる指導をお願いしたい。
6505
6506 その際,
6507 条文の内容を正確に理解す
6508 ることはもとより,
6509 当該規定の趣旨を踏まえて事案に適用する能力が求められるほか,
6510
6511 主要な判例については,
6512 判旨部分を単に記憶するのではなく,
6513 事案の内容を正確に把
6514 握し,
6515 当該事実関係の下でどのような規範を定立して当てはめが行われたかを理解す
6516 る必要があることに十分配意いただきたい。
6517
6518 また,
6519 事例の分析の前提となる基礎的事
6520 実を正しく把握し,
6521 結論を導くために必要な論点を抽出した上,
6522 論点相互の関連性を
6523 意識しつつ,
6524 法令,
6525 判例及び学説を踏まえた論理的かつ一貫性のある解釈論を展開し,
6526
6527 これに適切に事実の当てはめを行って,
6528 法の趣旨に沿った妥当な結論を導くという,
6529
6530 法的思考力を更に養成するよう重ねてお願いしたい。
6531
6532
6533
6534 - 58 -
6535
6536 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(環境法)
6537 【第1問について】
6538 1 出題の意図に即した答案の存否,
6539 多寡
6540 第1問は,
6541 水質汚濁防止法の下での規制に関する法政策についての出題である。
6542
6543 特
6544 定施設が設置される特定事業場からの排水に関して排水基準の遵守が義務付けられて
6545 いることの理解を問い(設問1),
6546 同法違反の有罪確定が,
6547 ほかの環境法に対してど
6548 のような影響を与えるかの説明を求め(設問2),
6549 大気汚染防止法のばい煙排出規制
6550 との比較において水質汚濁防止法の規制の特徴が整理されているか(設問3)を問う
6551 問題であった。
6552
6553
6554 設問1の採点を通じては,
6555 以下の点が実感された。
6556
6557 第1に,
6558 水質汚濁防止法は,
6559 特
6560 定施設(同法第2条第2項)と特定事業場(同法第2条第6項)という異なった定義
6561 規定を設けていることに気が付いていない答案が多かったのは意外であった。
6562
6563 本件で
6564 は,
6565 特定事業場とは何を意味するかが問われている。
6566
6567
6568 「排水口とは何か」の以前に,
6569
6570 「特
6571 定事業場とは何か」を論ずるべきなのである。
6572
6573 条文の読込みが浅く,
6574 法律の規制シス
6575 テムに関する基本的な理解がされていないように感じられた。
6576
6577
6578 第2に,
6579 「排出口」に関しても,
6580 「定義がない」とする答案が散見された。
6581
6582 おそらく同
6583 法第2条各号及び同法第12条第1項のみを見ての判断かと思われるが,
6584 同法第8条
6585 第1項に明記されているのであり,
6586 粗い理解が評価を下げている。
6587
6588
6589 第3に,
6590 水質汚濁防止法第1条の目的や法の制度趣旨の観点から排出口を「広く解
6591 すべき」という解答が多かった。
6592
6593 しかし,
6594 それらによらずとも,
6595 個別条文の文言解釈
6596 から結論を導くことができるのであり,
6597 条文に対する注意が薄い点が気になった。
6598
6599
6600 第4に,
6601 問題文中にある「A社は,
6602 埋立地全体を特定事業場の所在地としている」
6603 という部分がヒントになっていることに気付いていない答案が多かった。
6604
6605 問題文には
6606 無駄な部分はないのであって,
6607 こうしたところに注目できるかどうかが,
6608 解答の優劣
6609 を分けている。
6610
6611
6612 第5に,
6613 設問に記載されている被告人の主張を答案にそのまま転記している例が散
6614 見された。
6615
6616 記述するならポイントを抽出するようにすべきであり,
6617 そうでなければ,
6618
6619 スペースの無駄遣いにすぎない。
6620
6621
6622 設問2の採点を通じては,
6623 以下の点が実感された。
6624
6625 小問1に関しては,
6626 義務的取消
6627 しとなること,
6628 及びそれに至る条文操作については,
6629 的確に条文を指摘しつつ正確な
6630 記述をしていた答案が多かった。
6631
6632 その一方で,
6633 設問に「産業廃棄物」と明記されてい
6634 るにもかかわらず,
6635 一般廃棄物処理施設と誤認して関係条文を提示している答案が散
6636 見された。
6637
6638 また,
6639 「中間処理施設許可」と明記されているにもかかわらず,
6640 業許可と
6641 誤認して関係条文を提示している答案が相当数見られた。
6642
6643 いずれも,
6644 問題文の読込み
6645 の不十分さに起因する重大な誤りである。
6646
6647
6648 小問2に関しては,
6649 連携措置の制度趣旨について,
6650 生活環境保全という「共通の目
6651 的」を持つ関係法律の違反者に廃棄物処理法の許可を与えておくのは不適切であると
6652 いう点が指摘できていた答案は,
6653 それほど多くはなかった。
6654
6655 また,
6656 問題文に「連携措
6657 置」と明記してあるにもかかわらず,
6658 義務的取消制度のことと誤解して解答していた
6659 答案が相当数見られたのには驚いた。
6660
6661
6662 設問3の採点を通じては,
6663 以下の点が実感された。
6664
6665 大気汚染防止法では「特定施設
6666
6667 - 59 -
6668
6669 の排出口」とされ,
6670 水質汚濁防止法では「特定事業場の排水口」となっていることに
6671 気付いていた答案の数が,
6672 それほどは多くなかった。
6673
6674 大気汚染防止法における「排出口」
6675 の定義が「煙突その他の施設の開口部」(同法第2条第7項)とされている点に気付
6676 いた答案は極めて少なかった。
6677
6678 大気汚染防止法の場合には,
6679 特定事業場全体からの排
6680 出を捕捉することが技術的に困難であるという点について的確に記述できていた答案
6681 は少なかった。
6682
6683
6684 第1問については,
6685 与えられた答案用紙の第4枚目をほとんど空白にしていた答案
6686 が相当数見られた。
6687
6688 問われている内容について,
6689 検討すべき環境法的ポイントは複数
6690 存在するのが通例である。
6691
6692 解答執筆に取り掛かる前に,
6693 自分が学習した事柄について
6694 落ち着いて振り返り,
6695 問題文に込められた環境法的論点の重層性に思いを致して論ず
6696 べき内容を確定することが重要である。
6697
6698
6699 2
6700
6701 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
6702 大気汚染防止法と水質汚濁防止法は,
6703 共に基本的な公害対策法であることから,
6704 学
6705 習者において,
6706 ともすれば「同じようなもの」という先入観があるのではないか。
6707
6708 規
6709 制方策に関する技術的理由により,
6710 そして,
6711 遵守確保の難しさにより,
6712 両法において
6713 は,
6714 実際には,
6715 異なる部分も多い。
6716
6717 それらは当然に,
6718 条文に反映されている。
6719
6720 実務に
6721 おいて何よりも重要なのは条文である。
6722
6723 条文を踏まえて,
6724 規制制度に対するきめ細か
6725 な理解が求められる。
6726
6727
6728
6729 3
6730
6731 各水準の答案のイメージ
6732 「優秀」といえる答案のイメージは,
6733 第1問全体の基底をなす「水質汚濁防止法と
6734 大気汚染防止法の規制制度の違いとその理由」を的確に把握し,
6735 それを条文の摘示を
6736 通じて,
6737 明確に説明できているものである。
6738
6739 廃棄物処理法との連携措置は,
6740 環境法特
6741 有のものであるが,
6742 ネットワークを通じて法令遵守を期待するという法政策に対する
6743 認識が示せている答案も,
6744 「優秀」と評価できる。
6745
6746 「良好」といえる答案は,
6747 その程度
6748 がやや劣るものである。
6749
6750 「一応の水準」といえるのは,
6751 各設問において問われている
6752 問題点が何とか把握されている答案である。
6753
6754 「不良」な答案とは,
6755 それすらなし得てい
6756 ないものである。
6757
6758
6759
6760 【第2問について】
6761 1 出題の意図に即した答案の存否,
6762 多寡
6763 設問1は,
6764 環境影響評価法の手続上の瑕疵を理由として,
6765 後続する行政決定である
6766 許可処分が違法となるかについて,
6767 空港予定地の敷地の一部の土地を所有する者が国
6768 土交通大臣の許可の取消訴訟においてどのような主張ができるかを問うものである。
6769
6770
6771 設問1の採点に当たっては,
6772 以下の点が実感された。
6773
6774
6775 国土交通大臣の許可の取消事由としての行政処分の違法性について,
6776 規範定立を十
6777 分せずに,
6778 直ちに事例を分析しているものが多かった。
6779
6780 具体的には,
6781 環境影響評価手
6782 続の瑕疵について言及しないものがかなり見られたことは意外であった。
6783
6784 問題文の冒
6785 頭にある,
6786 環境影響評価手続に関する出題であることについての認識が足りなかった
6787 と思われる。
6788
6789 また,
6790 環境影響評価手続の瑕疵に言及した場合においても,
6791 許可処分の
6792 内容に影響を及ぼすおそれがあるような重大な手続の瑕疵が必要であることの指摘を
6793
6794 - 60 -
6795
6796 した答案が多かったものの,
6797 このような指摘のないまま手続の瑕疵があれば直ちに違
6798 法としているものも相当数見られた。
6799
6800 さらに,
6801 国土交通大臣が許可するに当たっては,
6802
6803 環境保全に適正な配慮をした審査を行わなければならず(環境影響評価法第33条第1
6804 項),
6805 許可の違法に関しては,
6806 同大臣の裁量権の範囲の逸脱・濫用に言及することが
6807 期待され,
6808 そのような答案が多かったが,
6809 この点の指摘がない答案も幾つか見られた
6810 ことは残念であった。
6811
6812
6813 @評価書に対する免許権者等の意見に対してA県が補正書の中で答えていないこと
6814 については,
6815 手続上の瑕疵か否かを論じるものが多く,
6816 この点は出題の意図に即して
6817 いた。
6818
6819 補正書の中で答えていないことについては,
6820 手続の瑕疵があり,
6821 そのために環
6822 境影響評価を左右する重要な環境情報が収集されていないと見ることができる一方,
6823
6824 東京高判平成24年10月26日のように,
6825 環境影響評価法は同法第24条意見に対
6826 して必ず対応すべきことを義務付ける規定を置いていないから,
6827 そこから直ちに環境
6828 配慮審査適合性が否定されるわけではないとの考え方もあり,
6829 結論としてはどちらを
6830 採用することもあり得るが,
6831 理由付けがきちんと書かれていることが重要である。
6832
6833 同
6834 法第25条第1項柱書きの「当該事項の修正を必要とすると認めるとき」とは何かを
6835 論じているものについては,
6836 より高い評価を与えた。
6837
6838 A複数案の検討がなされていな
6839 いことについては,
6840 手続上の瑕疵か否かを論じるものが多かったが,
6841 この点を検討し
6842 ていない答案も見られた。
6843
6844 手続の瑕疵にならないという結論を採用することは当然あ
6845 り得るが,
6846 環境影響評価手続における複数案(準備書については同法第14条第1項第
6847 7号ロ,
6848 評価書については同法第21条に手掛かりはあるが,
6849 義務とは書かれていな
6850 い)の持つ重要性に鑑みると,
6851 何らかの検討はされることが望まれる。
6852
6853
6854 なお,
6855 問題文がいつの時点の事件かを明確にしていることを無視して,
6856 2011年
6857 改正後の環境影響評価法の適用を前提として答案を作成しているものが散見された。
6858
6859
6860 重大な誤りである。
6861
6862
6863 設問2は,
6864 環境影響評価法における複数案の検討について,
6865 同法の2011年改正
6866 及びその後に改正された基本的事項が,
6867 改正前と比べてどのような相違があるか,
6868 計
6869 画段階配慮書の段階で複数案の検討を取り入れた同法等の改正の趣旨はどこにあるか
6870 を問うものである。
6871
6872
6873 基本的事項は資料にあり,
6874 条文と資料を読んで判断することが求められる。
6875
6876 複数案
6877 を早期の段階で検討することにより合理的な意思決定をするという改正法の趣旨を指
6878 摘している答案が多かったが,
6879 中には趣旨を正確に理解していない答案が見られた。
6880
6881
6882 また,
6883 基本的事項の資料の中から,
6884 第一種事業について,
6885 複数案を検討していない場
6886 合には理由を付することを要するとしている点を摘出することが重要であるが,
6887 この
6888 点を摘出した答案は半分くらいであった。
6889
6890 基本的事項の法的拘束力について指摘した
6891 ものはごくわずか見られたが,
6892 これについてはより高い評価を与えた。
6893
6894
6895 なお,
6896 設問2は設問1と独立しているのに,
6897 設問1の事例を引用して論述している
6898 答案も見られた。
6899
6900 この点については問題文をよく読んでほしい。
6901
6902
6903 設問3は,
6904 生物多様性基本法第25条と2011年環境影響評価法改正との関係,
6905
6906 生物多様性基本法第25条と環境基本法の関係を問うものである。
6907
6908
6909 (1)については,
6910 環境影響評価法の2011年改正が,
6911 生物多様性基本法を踏ま
6912 えてなされたことを指摘するものが多かったが,
6913 環境影響評価法2011年改正が戦
6914 略的環境アセスメントでないことだけを指摘して両者の相違のみを強調する答案も見
6915
6916 - 61 -
6917
6918 られた。
6919
6920 両者が相違するという指摘については一定の評価を与えたが,
6921 環境影響評価
6922 法の2011年改正が生物多様性基本法第25条の趣旨に向かって一歩前進すること
6923 を目的としていたことは明らかであり,
6924 その点についても言及してほしかった。
6925
6926 なお,
6927
6928 生物多様性基本法が戦略的環境アセスメントまでを規定しているかについては見解が
6929 分かれるところである((2)参照)。
6930
6931
6932 (2)については,
6933 生物多様性基本法第25条と環境基本法第20条,
6934 第19条と
6935 の関係について検討するものが多かったが,
6936 この点に言及しないものも散見された。
6937
6938
6939 環境基本法第4条(未然防止原則等)との関係について論ずることも考えられ,
6940 このよ
6941 うな答案にも一定の評価は与えたが,
6942 環境影響評価のことを聞かれているのであるか
6943 ら,
6944 まず同法第20条に目配りすることが望まれる。
6945
6946 さらに,
6947 同法第19条について
6948 は,
6949 それが生物多様性基本法第25条とともに戦略的環境アセスメントについて規定
6950 しているとする答案と,
6951 同法第25条はあくまでも環境基本法第20条のレベルでの
6952 早期のアセスメントを求めているにすぎないとする答案とに分かれたが,
6953 この点につ
6954 いては両方の考え方が認められる。
6955
6956
6957 2
6958
6959 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
6960 設問1については,
6961 環境影響評価手続の瑕疵について必ずしも十分に勉強がなされ
6962 ていなかったと考えられる。
6963
6964 また,
6965 問題文をよく読まず,
6966 問題の時点について明らか
6967 なミスをしている答案も見られた。
6968
6969 試験場で取り組むべき課題であるが,
6970 常日頃から
6971 心掛けておくことが肝要である。
6972
6973
6974 設問2については,
6975 環境影響評価における複数案の重要性や環境影響評価法の20
6976 11年改正について十分に認識していなかったことが考えられる。
6977
6978 基本的事項につい
6979 ては資料があり,
6980 法文は読める状況にあるのだから,
6981 資料や法文を読みながら制度の
6982 趣旨を導き出す力が試されていたのであるが,
6983 資料等を十分に生かせなかったという
6984 ことになる。
6985
6986 日頃から重要な制度の趣旨についてきちんとした勉強をしてほしい。
6987
6988
6989 設問3については,
6990 日頃から環境個別法の条文の関係について注意するような勉強
6991 の仕方をしていないことが考えられる。
6992
6993 また,
6994 基本法は,
6995 個別法の改正において相当
6996 の影響力を持つことが少なくないことを認識する必要があろう。
6997
6998
6999
7000 3
7001
7002 各水準の答案のイメージ
7003 「優秀」,
7004 「良好」と言える答案のイメージは,
7005 設問1については,
7006 環境影響評価手
7007 続の瑕疵がどのような場合に国土交通大臣の許可の違法をもたらすかを論じ,
7008 許可の
7009 違法が国土交通大臣の裁量権の範囲の逸脱・濫用の場合であることを示し,
7010 また,
7011 @
7012 評価書に対する免許権者等の意見に対してA県が補正書の中で答えていないこと,
7013 及
7014 びA複数案の検討がなされていないことについて,
7015 環境影響評価手続の瑕疵となるか
7016 を論じ,
7017 結論について明快な理由を付しているものである。
7018
7019 設問2については,
7020 基本
7021 的事項では,
7022 第一種事業について,
7023 複数案を検討しない場合には理由を付することを
7024 要するとしていること(資料参照)を指摘し,
7025 環境影響評価の核心は複数案(代替案)
7026 にあり,
7027 計画段階のような早い段階で複数案を検討することによって,
7028 合理的な意思
7029 決定という環境影響評価の目的に資することに言及するものである。
7030
7031 設問3の小問1
7032 については,
7033 生物多様性基本法第25条は,
7034 生物多様性について計画アセスメントな
7035 いし戦略的環境アセスメントをすることを内容としていること,
7036 この規定の存在が環
7037
7038 - 62 -
7039
7040 境影響評価法の2011年改正における計画段階配慮書の規定導入の契機となったこ
7041 とに言及し,
7042 小問2については,
7043 生物多様性基本法第25条が,
7044 環境基本法第20条
7045 に関連することを指摘するものである。
7046
7047 同法第19条に対応すると指摘してもよい。
7048
7049
7050 これらが実現できている程度により,
7051 「優秀」と「良好」が区別される。
7052
7053
7054 「一応の水準」といえるのは,
7055 論ずべき問題点の主要な部分が何とか把握できてい
7056 るものである。
7057
7058 「不良」な答案とは,
7059 それすらなされていないものである。
7060
7061
7062 【学習者及び法科大学院教育に求めるものについて】
7063 第1に,
7064 環境法上重要な制度の趣旨や規制の仕組みについて,
7065 日頃から注意を払う
7066 ことである。
7067
7068 主要な法律の基本的規制システムについては,
7069 テキストにおける解説に
7070 よるだけではなく,
7071 実際に法令集を参照しつつ,
7072 条文の文言に即して丁寧に解説をす
7073 るようにしてほしい。
7074
7075 そうでない限り,
7076 決して実力は付かない。
7077
7078
7079 第2に,
7080 環境関連の基本法と個別法との関係,
7081 基本法相互の関係について,
7082 体系を
7083 意識しつつ学習を進めてほしい。
7084
7085 法律ごとの縦割りの理解ではなく,
7086 個別法の仕組み
7087 が基本法のどのような考え方や規定に基づいたものであるのか,
7088 基本的な考え方相互
7089 にはどのような関係があるのかという点にまで,
7090 学習関心を広げてほしい。
7091
7092
7093 第3に,
7094 当然のことであるが,
7095 問題文を正確に把握し,
7096 分析する力を養うことが必
7097 要である。
7098
7099 ともすれば,
7100 答案練習が重視されるのかもしれないが,
7101 それが効果的な学
7102 習となる前提は,
7103 問題文を通じて出題者が伝えようとしているメッセージを的確に読
7104 み取ることなのである。
7105
7106
7107
7108 - 63 -
7109
7110 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(公法系))
7111 1
7112
7113 出題の趣旨等
7114 既に公表されている出題の趣旨(「平成25年司法試験論文式試験問題出題趣旨【国
7115 際関係法(公法系)科目】」)に記載したとおりである。
7116
7117
7118
7119 2
7120
7121 採点方針
7122 国際関係法(公法系)については,
7123 従来と同様に,
7124 @国際公法の基礎的な知識を習
7125 得し,
7126 かつ,
7127 設問に関係する国際公法の基本的な概念,
7128 原則・規則並びに関係する理
7129 論や国際法判例を正確に理解できているか,
7130 A各設問の内容を理解し必要な国際法上
7131 の論点に触れているか,
7132 問題の事例に対する適切な考察がなされているか,
7133 B答案の
7134 法的構成がしっかりしており,
7135 かつ論理的な文章で適切な理由付けがなされているか,
7136
7137 といった点を重視している。
7138
7139
7140
7141 3
7142
7143 採点実感等
7144 第1問
7145 設問の趣旨と各設問において押さえるべき主要論点とについては,
7146 前述の出題の趣
7147 旨で述べているので繰り返さない。
7148
7149
7150 設問1についていえば,
7151 不干渉原則でいう国内管轄事項及び干渉とは何かについて
7152 基本的な説明ができていた答案が,
7153 残念ながら期待したほど多くなかった。
7154
7155 まず不干
7156 渉原則が禁止するのは他国の「国内管轄事項」に対する介入であるという点について
7157 は多くの答案が言及できていた。
7158
7159 ただし,
7160 国の拷問行為が慣習国際法上禁止されてお
7161 り,
7162 被拘禁者に対する系統的拷問のような重大な人権侵害行為はもはや国内管轄事項
7163 とはいえないということについては,
7164 事例等を引用して論理的な説明ができていた答
7165 案とそうでない答案とが大きく分かれた。
7166
7167 他方不干渉原則が禁止する「干渉」とは命
7168 令的干与(強制的介入)をいうという点を指摘できていた答案は,
7169 必ずしも多くはな
7170 かった。
7171
7172 特に武力を用いた干渉以外にどのような措置が命令的干与に該当するかとい
7173 う論点について先例等に照らして検討し,
7174 本問の外交的声明及び輸出禁止措置が禁止
7175 される命令的干与には該当しないとする反論を展開した答案は少数にとどまった。
7176
7177 内
7178 政不干渉原則に触れることなく,
7179 対抗措置を用いて反論を展開した答案も相当数あっ
7180 たが,
7181 Y国がとった措置が国際義務違反の措置といえるか,
7182 国連国際法委員会の国家
7183 責任条文第54条との関連をどう考えるかといった論点まで踏み込んだ解答はごく少
7184 数であった。
7185
7186
7187 設問2(a)については,
7188 ほとんどの答案が国家元首の免除に言及していたが,
7189 本問で
7190 は「現職」の元首の免除を問題にしていることを正確に捉え,
7191 ピノチェト事件英国貴
7192 族院判決や逮捕状事件国際司法裁判所(以下「ICJ」という。
7193
7194 )判決等を適切に参
7195 照しながら,
7196 設問に解答できたものはそれほど多くはなかった。
7197
7198 ピノチェト事件英国
7199 貴族院判決等に基づき国家元首の外国の刑事管轄権からの免除を外交官の特権・免除
7200 に類するものとして捉える答案が多数を占めたが,
7201 他方,
7202 本問を国の民事裁判権から
7203 の免除の問題と混同して,
7204 制限免除主義の立場から拷問行為が主権的行為であるか否
7205 かを論じた答案が相当数にのぼった。
7206
7207 現職の国家元首の刑事管轄権からの免除につい
7208 ては慣習国際法上確立していると解答した答案が多数を占めたが,
7209 拷問のように国際
7210
7211 - 64 -
7212
7213 犯罪とされている行為を国家元首が行った場合にも免除が認められるのかという論点
7214 に踏み込んで解答した答案は,
7215 それほど多くはなかった。
7216
7217 ピノチェト事件英国貴族院
7218 判決に依拠して,
7219 国家元首の行為を公的な行為と私的な行為に区別して拷問は公的な
7220 行為に入らないから免除を享有しないとする答案も相当数あったが,
7221 同事件では「元」
7222 国家元首の事項的免除が問題となっており,
7223 現職の国家元首の人的免除が問題になっ
7224 ている本問に同事件で用いられた区分をそのまま適用することはできない。
7225
7226 Y国の行
7227 為を国際法上評価するに際して,
7228 Y国による逮捕状の発付並びに国際刑事警察機構を
7229 通じた国際手配が,
7230 それだけで現職の国家元首が享有する身体の不可侵及び免除を侵
7231 害する国際違法行為を構成するという点を書き込めている答案は少なかった。
7232
7233
7234 設問2(b)については,
7235 外交官の身柄を拘束及び抑留して事情聴取する行為が国際法
7236 上の対抗措置の要件に照らして許容されるかどうかを検討した答案は多かった。
7237
7238 その
7239 際に対抗措置の基本的要件について論述できていた答案も相当数にのぼった。
7240
7241 もっと
7242 も,
7243 専ら均衡性の原則に依拠して,
7244 外交官の身体の不可侵に違反するX国の行為は均
7245 衡性の原則に違反するから違法だと解答した答案や,
7246 その反対にX国の行為は国家元
7247 首の享有する免除に違反したY国の行為と均衡するので均衡性の原則を満たしている
7248 とする答案が少なからずあった。
7249
7250 自己完結的制度に触れたテヘラン事件ICJ判決や
7251 国家責任条文第50条の趣旨を理解する限り,
7252 そもそも対抗措置として外交官の身柄
7253 を拘束及び抑留して事情聴取するような手段をとることが許されるのかという問題意
7254 識を持ったものは比較的少なかった。
7255
7256
7257 設問3については,
7258 多くの答案が会社の外交的保護権は,
7259 原則として,
7260 会社の設立
7261 準拠法国及び本拠地所在地国にあることを指摘できていた。
7262
7263 ただし,
7264 上記の原則の例
7265 外(例えば国連国際法委員会の外交的保護条文第11条)に触れて,
7266 本問の場合には
7267 それらの例外に当てはまらないことを指摘できた答案は少なかった。
7268
7269 株主の権利に直
7270 接損害を与える場合には,
7271 株主の国籍国が株主の被った損害について外交的保護権を
7272 行使する権限を有することを意識して本件の結論を導いた答案は少数にとどまった。
7273
7274
7275 時間が足りなかったと見受けられる答案が意外と多く,
7276 設問1及び設問2に比べ,
7277 論
7278 理を十分に展開できた答案がそれほど多くなかった。
7279
7280 なお国籍継続の原則及び国内的
7281 救済完了の原則を含めて外交的保護権行使の要件一般について触れた答案が相当数あ
7282 った。
7283
7284 前提から書きたい気持ちは理解できるが,
7285 前置きに時間を費やすのではなく,
7286
7287 問題の焦点を的確につかんで,
7288 それに直接解答する答案にしてほしい。
7289
7290
7291 「優秀」,
7292
7293 「良好」,
7294
7295 「一応の水準」,
7296
7297 「不良」の答案を一概に表現することは難しいが,
7298
7299 おおむね次の通りと言えるのではないか。
7300
7301
7302 優秀:4つの設問において問われている国際法上の論点を的確につかんで,
7303 それぞれ
7304 の論点について要求される国際法の原則,
7305 判例等についての基本的事項を論理的かつ
7306 簡潔明瞭に記述し,
7307 さらに,
7308 各設問で提示された事案への当てはめがしっかりできて
7309 いる答案ということになろう。
7310
7311 第1問は設問数が多いために,
7312 各設問における主要論
7313 点について適切に重点を置くことが求められる。
7314
7315 例えば,
7316 設問1では,
7317 不干渉原則を
7318 構成する2つの基本的概念について的確に説明できており,
7319 被拘禁者に対する系統的
7320 拷問行為がX国の国内管轄事項とは言えないこと,
7321 また拷問行為を非難するY国政府
7322 の外交的声明及びX国向け産品の禁輸措置が違法な干渉行為に該当しないことを先例
7323 等に照らして論理的に解答している答案である。
7324
7325 各設問についてこの基本点が押さえ
7326 られている答案が優秀答案。
7327
7328
7329
7330 - 65 -
7331
7332 良好:おおむね優秀答案のところで指摘したレベルに準じる解答ができているものの,
7333
7334 設問によっては,
7335 問題点の把握がずれていたり,
7336 論証が十分できていない答案。
7337
7338 例え
7339 ば設問1及び設問2(a)及び(b)ではおおむね優秀答案で述べた解答がなされているに
7340 もかかわらず,
7341 設問3で,
7342 本件においては会社の設立準拠法国及び本拠地所在地国で
7343 あるZ国が乙社に対する外交的保護権を有しY国は株主丙のために外交的保護権を行
7344 使できないと解答するものの,
7345 本事案において株主丙の権利に対する直接損害がなか
7346 ったことなどについての検討が十分できていないもの。
7347
7348
7349 一応の水準:全体としては国際法の基礎的知識を有していることを各設問の解答から
7350 うかがうことができ,
7351 各設問について基本的な解答はできているものの,
7352 特定の設問
7353 については国際法の基礎知識が不十分であったり,
7354 具体的な事案への当てはめに関し
7355 て一層の考察が求められる答案。
7356
7357 あるいは解答の中に余り問題とならない論点につい
7358 て行数を割く等して,
7359 設問について要求される十分なレベルの解答が的確にできてい
7360 ない答案。
7361
7362 例えば設問1において,
7363 X国向けの産品の禁輸措置が本設問の状況の下で
7364 国際法上禁止される干渉には当たらないことを解答するものの,
7365 その根拠が必ずしも
7366 十分に展開できていないなど,
7367 基礎知識はあるものの設問事例へ当てはめた場合の根
7368 拠付けに不十分さが散見される答案。
7369
7370
7371 不良:設問の内容や趣旨がそもそも理解できていない答案,
7372 あるいは,
7373 理解できてい
7374 ても主要な論点が欠落している答案又は基本的な国際法の知識を欠いていると見られ
7375 る解答が散見できる答案。
7376
7377
7378 第2問
7379 設問1については,
7380 優秀な答案が多くはなかった。
7381
7382 公海における旗国主義や受動的
7383 属人主義については,
7384 答えている答案が多くあった。
7385
7386 しかし,
7387 B国は公海上の船舶で
7388 の船内犯罪に受動的属人主義により立法管轄権を及ぼし,
7389 対象船舶が自国領域の港に
7390 入港した時点で執行管轄権を行使していること,
7391 つまり,
7392 立法管轄権と執行管轄権の
7393 区別,
7394 さらに立法管轄権が前提となって,
7395 執行管轄権が領域内で行使されているとい
7396 う論理的な関連を正確に理解して書かれた答案は多くなかった。
7397
7398 旗国主義との関係で,
7399
7400 旗国が特段の異議を示していないことから,
7401 旗国A国がB国の管轄権行使を承認して
7402 いることを踏まえた答案は比較的多くあった。
7403
7404
7405 設問2については,
7406 全体的に比較的よくできていた。
7407
7408 特によくできている答案は,
7409
7410 政治犯罪人不引渡しの原則を説明し,
7411 絶対的政治犯と相対的政治犯に区別があること
7412 という前提的知識が十分に書かれていた。
7413
7414 その上で,
7415 本問においては,
7416 犯された犯罪
7417 は普通犯罪であると判断して,
7418 引渡し可能であると答えている答案がよくできている
7419 答案である。
7420
7421 さらに,
7422 C国へ丙が引き渡されたときに,
7423 本件の犯罪以外の理由,
7424 つま
7425 り,
7426 政治犯罪を含む他の罪を理由として訴追される可能性を防ぐためには,
7427 特定性の
7428 原則があることを答えなければならないが,
7429 特定性の原則自体に言及している答案は
7430 多くなかった。
7431
7432 この点は,
7433 残念であった。
7434
7435
7436 設問3については,
7437 よくできている答案が少なかった。
7438
7439 まず,
7440 B国警察官による旅
7441 客丁の客室に対する令状のない捜索と窃盗行為について,
7442 権限逸脱行為であることを
7443 指摘する答案が少なかった。
7444
7445 外観論を用いて,
7446 当該警察官の行為がB国に帰属するこ
7447 とについても答えている答案は少なかった。
7448
7449 さらに,
7450 国家責任の追及として,
7451 C国が
7452 丁の損害を取り上げて外交保護権を行使するということについて書いている答案も少
7453
7454 - 66 -
7455
7456 なかった。
7457
7458 したがって,
7459 外交保護権の行使の要件に触れている答案も少なかった。
7460
7461 国
7462 家責任の履行として原状回復,
7463 金銭賠償,
7464 サティスファクションの態様を答える答案
7465 が目立ったが,
7466 外交保護権行使の典型的な場面であることにまず気付く必要がある。
7467
7468
7469 全体としては,
7470 従来と比較すると,
7471 出題趣旨である論点を理解しないでいる答案が
7472 多かったことが特徴的である。
7473
7474 論点に気付いていれば,
7475 それについての記述は比較的
7476 よくできている。
7477
7478 また,
7479 論点に気付いていれば,
7480 本問への当てはめも比較的よくでき
7481 ている。
7482
7483 また,
7484 設問ごとに出来不出来がある解答者が目に付いた。
7485
7486
7487 「優秀」,
7488
7489 「良好」,
7490
7491 「一応の水準」,
7492
7493 「不良」の答案を一概に表現することは難しいが,
7494
7495 おおむね次の通りと言えるのではないか。
7496
7497
7498 優秀:設問についての国際法の基礎知識を備えており,
7499 論点を過不足なく見いだして
7500 これを論じ,
7501 事例へ当てはめながら,
7502 論理的に論述を行っている答案。
7503
7504 例えば,
7505 設問
7506 1で受動的属人主義,
7507 旗国主義,
7508 立法管轄権の公海での行使,
7509 執行管轄権の領域内で
7510 の行使が,
7511 明確に認識されており,
7512 それらが,
7513 事例への当てはめを行いながら論理的
7514 に説明されている答案。
7515
7516
7517 良好:設問についての国際法の基礎知識を備えており,
7518 一応は論点を導き出し,
7519 正し
7520 い結論を導き出すことができている答案。
7521
7522 けれども,
7523 国際法上の論点を明確に認識し
7524 た上で,
7525 論理的に個々の論点を結び付ける努力が弱かったり,
7526 また,
7527 法理の事例への
7528 当てはめが不明瞭となっている答案。
7529
7530 例えば設問1で,
7531 受動的属人主義による立法管
7532 轄権の公海上の船舶への行使と,
7533 領域内に対象船舶が入港したことによる執行管轄権
7534 行使が論証において十分に結び付けられていない答案。
7535
7536 あるいは,
7537 事例への当てはめ
7538 で,
7539 旗国主義と旗国の対応の法的意味が正確には捉えられていない答案。
7540
7541
7542 一応の水準:国際法の基礎知識が一応はあり,
7543 論点を羅列して,
7544 正しい結論を書いて
7545 いるが,
7546 国際法の体系的な理解が十分ではなく,
7547 主要な論点が一部欠落したり,
7548 個々
7549 の論点が持つ意味が十分に理解されていない答案。
7550
7551 例えば,
7552 設問1で,
7553 旗国主義や受
7554 動的属人主義に気付いてはいるが,
7555 それらについて,
7556 本件事例でどのような意義を持
7557 つかについて,
7558 論理的に説明されていない答案。
7559
7560
7561 不良:設問の事例説明や,
7562 設問自体を答案に書き出すことにスペースをとられ,
7563 ある
7564 いは,
7565 主要な論点の多くが欠落している答案。
7566
7567 例えば,
7568 設問3で権限逸脱,
7569 外交保護
7570 権などの論点に気付いていない答案。
7571
7572
7573 4
7574
7575 法科大学院教育に求めるもの
7576 採点して感じた答案の傾向に1,
7577 2触れておきたい。
7578
7579 昨年と同様,
7580 第1に,
7581 国際法
7582 に関する基礎的な知識,
7583 すなわち国際法の基本的な概念や規則・原則について,
7584 その
7585 内容を正確に理解し,
7586 かつ,
7587 しっかりと身に付けることの重要性を再度強調しておき
7588 たい。
7589
7590 従来と比較すると,
7591 出題趣旨である論点を理解しないでいる答案が多かったこ
7592 と,
7593 並びに,
7594 設問ごとに出来不出来がある解答者が目に付いたことを第2問に関する
7595 今年度の特徴として指摘したが,
7596 これは第1問についても当てはまる。
7597
7598 難解と思われ
7599 る論点について比較的よく学習しているかと思えば,
7600 極めて基本的な国際法の原則に
7601 ついて解答できないなど相当学習内容にむらのある受験者が目立った。
7602
7603 今年度は昨年
7604 に比して,
7605 優秀な又は良好な答案の比率が減り,
7606 一応の水準にとどまる答案の比率が
7607 増えている感がある。
7608
7609 選択科目に割くことのできる学習時間の問題もあるかと思われ
7610 るが,
7611 法科大学院の学生には国際法のテキストに共通して記載されている基本的事項
7612
7613 - 67 -
7614
7615 及び基本的な判例集に掲げられている判例等について,
7616 内容をしっかり理解して学習
7617 してほしい。
7618
7619 第2に,
7620 設問に対して結論のみを書いてその理由付けをほとんどしてい
7621 ない答案が相変わらず相当数ある。
7622
7623 同様に,
7624 国際法上の論点を認識しつつも,
7625 個々の
7626 論点を論理的に結び付ける努力が弱く,
7627 全体の論理展開が読み取りづらい答案や法理
7628 の事例への当てはめをどのように行ったのかが不明瞭な答案が少なからずある。
7629
7630 規則
7631 の解釈にせよ,
7632 具体的事例への当てはめにせよ,
7633 法科大学院の学生には根拠付けや論
7634 理的整合性に注意する姿勢を日頃より身に付けるようにしてほしい。
7635
7636
7637 5
7638
7639 その他
7640 昨年度よりは減少したが,
7641 判読が困難な答案がやはり若干存在する。
7642
7643 時間の都合も
7644 あるとは思うが,
7645 判読困難である答案が受験生の有利に働くことはあり得ないのであ
7646 るから,
7647 文字及び文章は読み手の立場に立って読みやすい答案を簡潔に書くように日
7648 頃から心掛けてほしい。
7649
7650
7651
7652 - 68 -
7653
7654 平成25年司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(私法系))
7655 1
7656
7657 出題の趣旨等
7658 本年度の国際関係法(私法系)の問題は,
7659 狭義の国際私法(抵触法)及び国際民事
7660 訴訟法から出題されている。
7661
7662 各問題の出題の趣旨等については,
7663 既に法務省ホームペ
7664 ージにて公表済みである。
7665
7666
7667
7668 2
7669
7670 採点の方針と基準等
7671 採点の方針は,
7672 昨年と同様である。
7673
7674 すなわち,
7675 関連する個々の法領域の基本的な知
7676 識と理解に基づき,
7677 論理的に破綻のない推論により一定の結論を導くことができるか
7678 を採点の基本的な指針とした上,
7679 設問ごとに重点は異なるものの,
7680 @個々の法規範の
7681 趣旨を理解しているか,
7682 A複数の法規範を視野に入れながら,
7683 相互の関連を理解して
7684 いるか,
7685 Bこれらの点の理解に基づき,
7686 設問の事実関係等から適切に問題を析出する
7687 ことができるか,
7688 C析出された問題に対して関連する法規範を適切に適用することが
7689 できるかを採点の基準とした。
7690
7691
7692 これら4点をおおむね満たしている答案が「一応の水準」に達しているとされ,
7693 全
7694 ての設問において上記@及びAの点に関する理解を答案に反映させ,
7695 かつ,
7696 法規範を
7697 丁寧に当てはめていることが「良好」又は「優秀」答案となるための必要条件であり,
7698
7699 さらに,
7700 より的確かつ説得的に論述をしている答案が「優秀」答案と評価される。
7701
7702
7703 なお,
7704 学説の分かれている論点については,
7705 結論それ自体によって得点に差を設け
7706 ることはせず,
7707 自説の論拠を十分に示しつつ,
7708 これを論理的に展開することができて
7709 いるか否かを基準にして成績評価をした。
7710
7711
7712
7713 3
7714
7715 採点実感
7716 多くの答案は,
7717 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
7718
7719 )等の関連する
7720 明文の規定を指摘した上で,
7721 設問から拾った事実関係に当てはめようとする姿勢を示
7722 していた。
7723
7724 それぞれの規定の趣旨を押さえた上で解釈論や事案への当てはめを行って
7725 いる答案は高い評価を受けた反面,
7726 規定の構造や規定相互の関係についての理解がで
7727 きていない答案は低い評価となった。
7728
7729 特に,
7730 このことは,
7731 第1問については養親子関
7732 係の成立・効果と実親子関係の成立・効果との区別について,
7733 第2問については民事
7734 訴訟法(以下「民訴法」という。
7735
7736 )第3条の4第3項の規定と同法第3条の3の規定
7737 との関係について,
7738 強く言い得よう。
7739
7740
7741 (1) 第1問について
7742 設問1(1)では,
7743 多くの答案は,
7744 養子縁組の成立に関する通則法第31条第1
7745 項前段と,
7746 これにより指定される民法第795条について指摘することができてい
7747 た。
7748
7749 しかし,
7750 Cが同条の「未成年者」に当たるか否かに関し,
7751 通則法第4条第1項
7752 の検討をしていない答案も少なからずあった。
7753
7754 また,
7755 Hの本国法である民法第79
7756 5条とWの本国法である甲国民法とが夫婦共同養子縁組について異なる態度をとっ
7757 ているところ,
7758 両者の不一致をどのように考えて解決するかについて配慮している
7759 答案は少なかった。
7760
7761
7762 設問1(2)では,
7763 養子縁組の方式につき,
7764 通則法第34条第2項の適用のみな
7765 らず,
7766 同条第1項の適用についても論じる必要があったが,
7767 後者の検討をしていな
7768
7769 - 69 -
7770
7771 い答案が多かった。
7772
7773 同項の「法律行為の成立」には,
7774 養父と養子との養子縁組及び
7775 養母と養子との養子縁組という二つの養子縁組の成立が包摂されていることの認識
7776 を示している答案には,
7777 高い評価が与えられた。
7778
7779
7780 設問2(1)については,
7781 養子縁組の直接的効果の問題として通則法第31条第
7782 1項前段を検討すべきであるのに,
7783 嫡出親子関係の成立に関する通則法第28条第
7784 1項を検討する答案が相当数あったほか,
7785 準正に関する通則法第30条第1項の問
7786 題として論じている答案も少なからず見られた。
7787
7788 また,
7789 ここでも,
7790 通則法第31条
7791 第1項前段により指定される養父と養母のそれぞれの本国法により,
7792 養子縁組の直
7793 接的効果として子が嫡出子となるか否かを検討すべきであったのに,
7794 その検討がさ
7795 れている答案は少なかった。
7796
7797
7798 設問2(2)では,
7799 多くの答案は,
7800 親子間の法律関係に関する通則法第32条に
7801 より指定される準拠法について検討することができていた。
7802
7803 国籍又は常居所地とい
7804 う連結素の変動に伴って準拠法も変更するという同条の規定を正確に理解している
7805 ことが示された答案は,
7806 高い評価を受けた。
7807
7808
7809 設問2(3)については,
7810 正しく扶養義務の準拠法に関する法律第2条について
7811 指摘する答案がほとんどであったが,
7812 通則法第43条第1項の規定(適用除外)に
7813 言及していない答案も散見された。
7814
7815
7816 (2) 第2問について
7817 1(1)については,
7818 外国の裁判所に専属的国際裁判管轄権を付与する合意の効
7819 力について,
7820 正しく,
7821 民訴法第3条の7第6項の要件の充足いかんを検討している
7822 答案が多かった。
7823
7824 上記検討の前提として,
7825 同条第1項及び第2項に言及しつつ,
7826 管
7827 轄権の合意をすることができることや,
7828 その効力要件についても論述している答案
7829 は,
7830 基本的事項を正確に理解しているものとして評価された。
7831
7832
7833 1(2)では,
7834 多くの答案は,
7835 民訴法第3条の4第2項の規定について指摘する
7836 ことができていた。
7837
7838 しかし,
7839 同項の「労務の提供の地」の理解を誤り,
7840 労務提供地
7841 が定まっていないとして労働者を雇い入れた事業所の所在地である甲国に管轄権を
7842 肯定するなどの答案が散見された。
7843
7844
7845 1(3)では,
7846 多くの答案は,
7847 通則法第12条第1項の規定の適用について検討
7848 することができていたが,
7849 同項と同条第2項の関係について言及していない答案や,
7850
7851 同条第2項の「労務を提供すべき地」の意義を十分に理解せず,
7852 甲国を指示する諸
7853 要素から甲国を第1項の「最も密接な関係がある地」とするものが少なからずあっ
7854 た。
7855
7856 また,
7857 日本の労働契約法第16条の直接的な適用を肯定し,
7858 通則法第12条第
7859 1項について論じていない答案も一部に見られた。
7860
7861 なお,
7862 同項について論ずる前提
7863 として,
7864 通則法第7条により,
7865 当事者が準拠法を選択することができることについ
7866 て丁寧に論じている答案は,
7867 評価された。
7868
7869
7870 2では,
7871 管轄権の合意があった場合について,
7872 正しく民訴法第3条の7第6項の
7873 要件の充足を検討している答案が多かった。
7874
7875 それに対し,
7876 管轄権の合意がなかった
7877 場合について,
7878 事業主から労働者に対する訴えについては同法第3条の3の規定の
7879 不適用を定める同法第3条の4第3項の規定それ自体を認識していないか又は同項
7880 の「前条」という文言を「前項」と誤解している答案が相当数あった。
7881
7882
7883 4
7884
7885 今後の出題について
7886
7887 - 70 -
7888
7889 今年度は国際取引法からの出題はなかったが,
7890 基本的には,
7891 狭義の国際私法,
7892 国際
7893 民事訴訟法及び国際取引法の各分野の基本的事項を組み合わせた事例問題が出題され
7894 ることになると考えられる。
7895
7896
7897 5
7898
7899 今後の法科大学院教育に求めるもの
7900 通則法や民訴法については,
7901 立法理由や規定の趣旨を正確に把握した上で解釈論を
7902 展開し,
7903 事案への的確な当てはめをすることができる能力を養成する必要がある。
7904
7905 ま
7906 た,
7907 法解釈論を展開する際には,
7908 どの条文のいかなる文言(例えば,
7909 民訴法第3条の
7910 4第2項の「個別労働関係民事紛争」)の意義・解釈が問題となっているかを明示し,
7911
7912 当該文言に即して論述することが肝要と思われるので,
7913 日頃からこのことを意識して
7914 学ぶことが必要であると思われる。
7915
7916
7917
7918 - 71 -
7919
7920