1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔
7 〔設問1〕,
8 〔設問2〕及び〔設問3〕の配点の割合は,
9 3:4:3〕)
10 次の文章を読んで,
11 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
12
13
14 T
15 【事実】
16 1.平成20年8月頃,
17 Aは,
18 妻であるBと一緒にフラワーショップを開くため,
19 賃貸物件を探
20 していたところ,
21 Cの所有する建物(以下「甲建物」という。
22
23 )の1階部分が空いていること
24 を知った。
25
26
27 2.甲建物は10階建ての新築建物で,
28 1階及び2階は店舗用の賃貸物件として,
29 3階以上は居
30 住用の賃貸物件として,
31 それぞれ利用されることになっていた。
32
33 また,
34 甲建物は最新の免震構
35 造を備えているものとして,
36 賃料は周辺の物件に比べ,
37 25パーセント高く設定されていた。
38
39
40 3.Aは,
41 建物の安全性に強い関心を持っていたことから,
42 Cに問い合わせたところ,
43 【事実】
44 2の事情について説明を受けたので,
45 賃料が高くても仕方がないと考え,
46 甲建物の1階部分を
47 借りることを決め,
48 平成20年9月30日,
49 Cとの間で甲建物の1階部分について賃貸借契約
50 を締結した。
51
52 AC間の約定では,
53 期間は同年10月1日から3年,
54 賃料は月額25万円,
55 各月
56 の賃料は前月末日までに支払うこととされ,
57 同年9月30日,
58 AはCに同年10月分の賃料を
59 支払った。
60
61 この賃貸借契約に基づき,
62 同年10月1日,
63 CはAに甲建物の1階部分を引き渡し
64 た。
65
66
67 4.その後,
68 甲建物の1階部分でAがBと一緒に始めたフラワーショップは繁盛し,
69 Cに対する
70 賃料の支払も約定どおり行われた。
71
72 ところが,
73 平成22年8月頃,
74 甲建物を建築した建設業者
75 が手抜き工事をしていたことが判明した。
76
77 この事実を知らなかったCが慌てて調査したところ,
78
79 甲建物は,
80 法令上の耐震基準は満たしているものの,
81 免震構造を備えておらず,
82 予定していた
83 とおりの免震構造にするためには,
84 甲建物を取り壊して建て直すしかないことが明らかになっ
85 た。
86
87
88 5.Cから【事実】4の事情について説明を受けたAは,
89 フラワーショップを移転することも考
90 えたが,
91 既に常連客もおり,
92 付近に適当な賃貸物件もなかったため,
93 そのまま甲建物の1階部
94 分を借り続けることにした。
95
96 しかし,
97 Aは,
98 甲建物が免震構造を備えていなかった以上,
99 賃料
100 は月額20万円に減額されるべきであると考え,
101 平成22年9月10日,
102 Cにその旨を申し入
103 れた。
104
105 これに対し,
106 Cは,
107 【事実】2の事情は認めつつも,
108 自分も被害者であること,
109 また,
110
111 甲建物は法令上の耐震基準を満たしており,
112 Aの使用にも支障がないことを理由に,
113 賃料減額
114 には応じられない,
115 と回答した。
116
117
118 6.Aは,
119 Cのこのような態度に腹を立て,
120 平成22年9月30日,
121 Cに対して,
122 今後6か月間,
123
124 賃料は一切支払わない,
125 と告げた。
126
127 Cがその理由を問いただしたのに対し,
128 Aは,
129 甲建物の1
130 階部分の賃料は,
131 本来,
132 月額20万円であるはずなのに,
133 Aは,
134 既に2年間,
135 毎月25万円を
136 Cに支払ってきたため,
137 120万円を支払い過ぎた状態にあり,
138 少なくとも今後6か月分の賃
139 料は支払わなくてもよいはずである,
140 と答えた。
141
142
143 これに対して,
144 Cは,
145 そのような一方的な行為は認められないと抗議し,
146 Aに対して従来ど
147 おり賃料を支払うように催促したが,
148 その翌月以降もCの再三にわたる催促を無視してAが賃
149 料を支払わない状態が続いた。
150
151 そこで,
152 平成23年3月1日,
153 Cは,
154 Aに対して,
155 賃料の不払
156 を理由としてAとの賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。
157
158
159 〔設問1〕
160
161 【事実】1から6までを前提として,
162 次の問いに答えなさい。
163
164
165
166 AがCによる賃貸借契約の解除は認められないと主張するためには,
167 【事実】6の下線を付し
168 - 2 -
169
170 た部分の法律上の意義をどのように説明すればよいかを検討しなさい。
171
172
173 U
174
175 【事実】1から6までに加え,
176 以下の【事実】7から11までの経緯があった。
177
178
179
180 【事実】
181 7.平成23年5月28日,
182 Aは,
183 種苗の仕入れをするために市場に出かけた際に,
184 市場の近く
185 で建設業者Dが建築しているビルの工事現場に面した道路を歩いていたところ,
186 道路に駐車し
187 ていたトラックからクレーンでつり上げられていた建築資材が落下し,
188 その直撃を受けたAは
189 死亡した。
190
191 このAの死亡時に,
192 Bは妊娠2か月目であった(Bが妊娠中の胎児を,
193 以下「本件
194 胎児」という。
195
196 )。
197
198
199 8.【事実】7の建築資材が落下したのは,
200 Dの従業員であるEがクレーンの操作を誤ったため
201 である。
202
203
204 9.Bは,
205 B及び本件胎児がAの相続人であるとして,
206 Dに対し,
207 Aの死亡による損害賠償とし
208 て,
209 1億円の支払を求めた。
210
211 Dは,
212 Eの使用者として不法行為責任を負うことについては争わ
213 なかったが,
214 損害賠償の額について争った。
215
216 その後,
217 BD間で協議が重ねられたが,
218 Bは,
219 A
220 が死亡し,
221 フラワーショップの維持に資金が必要であることもあり,
222 早期の和解の成立を望ん
223 だ。
224
225 そこで,
226 平成23年7月25日,
227 Dは,
228 Aの死亡による損害賠償について,
229 Bと本件胎児
230 がAの相続人であり,
231 両者の相続分は各2分の1であることを前提として,
232 「Dは,
233 B及び本
234 件胎児に対し,
235 和解金として各4000万円の支払義務があることを認め,
236 平成23年8月3
237 1日限り,
238 これらの金員をBに支払う。
239
240 B及び本件胎児並びにDは,
241 BとDとの間及び本件胎
242 児とDとの間には,
243 本件に関し,
244 本和解条項に定めるもののほか,
245 何らの債権債務がないこと
246 を相互に確認する。
247
248 」という内容の和解案をBに提示し,
249 Bもそれに同意した結果,
250 和解(以
251 下「本件和解」という。
252
253 )が成立した。
254
255 Dは,
256 同年8月31日,
257 本件和解に基づき,
258 8000
259 万円をBに支払った。
260
261
262 10.Bは,
263 平成23年9月13日,
264 流産をした。
265
266 Aには,
267 本件胎児のほかに子はなく,
268 両親と祖
269 父母も既に死亡しており,
270 相続人となるのは,
271 BのほかはAの兄であるFのみであった。
272
273
274 11.Fは,
275 平成23年11月25日,
276 Aの相続人として,
277 Dに対して損害賠償を求めた。
278
279 Dは,
280
281 【事実】9の本件和解があるものの,
282 このFの請求を拒むことは困難であると考え,
283 これに応
284 じることとした。
285
286
287 〔設問2〕
288
289 【事実】1から11までを前提として,
290 以下のからまでについて,
291 本件和解の趣旨
292
293 を踏まえて検討し,
294 理由を付して解答しなさい。
295
296 なお,
297 損害賠償に関しては,
298 Aの死亡による損
299 害賠償の額は1億円であることを前提とし,
300 遺族固有の損害賠償は考慮しないものとする。
301
302
303
304
305 FのDに対する請求の根拠を説明した上で,
306 その請求が認められる額は幾らであるかを検討
307 しなさい。
308
309
310
311
312
313 Dは,
314 Bに対して,
315 本件和解に基づいて支払った金銭の返還を求めた。
316
317 このDの請求の根拠
318 として,
319 どのようなものが考えられるか,
320 また,
321 仮にその請求が認められる場合,
322 その額は幾
323 らであるかを検討しなさい。
324
325
326
327
328
329 のDの請求が認められる場合,
330 Bは,
331 Dに対して,
332 何らかの請求をすることができるか,
333
334 また,
335 仮にそれができる場合,
336 どのような請求をすることができるかを検討しなさい。
337
338
339
340 V
341
342 【事実】1から11までに加え,
343 以下の【事実】12から18までの経緯があった。
344
345
346
347 【事実】
348 12.乙土地は,
349 甲建物の敷地であり,
350 平成24年初頭当時,
351 Cが所有しており,
352 Cを所有権登記
353 名義人とする登記がされていた。
354
355 また,
356 この当時,
357 甲建物の近くには,
358 Cが所有する丙建物が
359 存在していた。
360
361 丙建物は,
362 Cが甲建物の管理業務のために使用しており,
363 Cを所有権登記名義
364 - 3 -
365
366 人とする登記がされていた。
367
368
369 13.丁土地は,
370 乙土地に隣接する土地であり,
371 同じ頃,
372 Gが所有しており,
373 Gを所有権登記名義
374 人とする登記がされていた。
375
376 丁土地には,
377 当時Gが個人で行っていた木工品製造のための工場
378 が存在していた。
379
380
381 14.Gは,
382 平成24年夏頃,
383 木工品製造の事業を会社組織にして営むこととし,
384 株式会社Hを設
385 立して,
386 その代表取締役となった。
387
388 Hの設立の際,
389 @Gは,
390 丁土地の持分3分の1を出資し,
391
392 同年9月12日,
393 AHへの所有権の一部移転の登記をした。
394
395
396 15.Gは,
397 平成25年9月30日,
398 高齢となったことから,
399 Hの代表取締役を退任し,
400 Hの経営
401 から退いた。
402
403 これに伴い,
404 同日,
405 BGは,
406 代金を780万円として,
407 丁土地に係るGの持分3
408 分の2をHに売却し,
409 Hは,
410 この代金として780万円をGに支払った。
411
412 しかし,
413 CこのGの
414 持分を移転する旨の登記はされていない。
415
416
417 16.Cは,
418 平成26年2月7日,
419 甲建物及びD丙建物をCの子Kに贈与した。
420
421 しかし,
422 E丙建物
423 についてKへの所有権の移転の登記はされていない。
424
425 丙建物は,
426 乙土地に存在しているという
427 のがC及びKの認識であったが,
428 実際は,
429 丁土地に存在していた。
430
431
432 17.その後,
433 丙建物が丁土地に存在していることが明らかになったため,
434 平成26年4月15日,
435
436 Hは,
437 Cに対し,
438 丙建物の収去及びその敷地(丁土地のうち丙建物の敷地である部分)の明渡
439 しを求めた。
440
441 これに対し,
442 Cは,
443 丙建物は既にKに贈与しているという事実を告げて,
444 Hの請
445 求には応じられない,
446 と答えた。
447
448 そこで,
449 同月20日,
450 Hは,
451 Kに対し,
452 丙建物の収去及びそ
453 の敷地の明渡しを求めた。
454
455
456 18. Kは,
457 この請求を受けて,
458 丁土地の登記簿を調べたところ,
459 Hは丁土地について3分の1し
460 か持分を有しておらず,
461 Gが3分の2の持分を有している旨が記されていたことから,
462 Hに対
463 し,
464 Hが丙建物の収去及びその敷地の明渡しを求めることができる立場にあるか疑問である,
465
466 と述べた。
467
468
469 〔設問3〕
470
471 【事実】1から18までを前提として,
472 次の問いに答えなさい。
473
474
475
476 Hは,
477 Kに対し,
478 丙建物の収去及びその敷地の明渡しを請求することができるか。
479
480 【事実】14
481 から16までの下線を付した@からEまでの事実がそれぞれ法律上の意義を有するかどうかを検討
482 した上で,
483 理由を付して解答しなさい。
484
485
486
487 - 4 -
488
489 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
490
491 - 1 -
492
493 [民事系科目]
494 〔第2問〕(配点:100〔
495 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
496 3:4:3〕)
497 次の文章を読んで,
498 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
499
500
501 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
502
503 )は,
504 食品の製造及び販売等を業とする取締役会設置会社
505 である。
506
507 平成26年4月の時点における甲社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)は,
508 別紙
509 のとおりである。
510
511
512 2.甲社の創業者であるAには,
513 妻Bとの間に子Cがあり,
514 Bの死亡後に再婚した妻Dとの間に子
515 Eがある。
516
517 甲社の株主構成としては,
518 Aが300株,
519 Cが50株,
520 Dが100株,
521 Eが50株を
522 それぞれ有していた。
523
524
525 甲社では,
526 設立当初から,
527 Aが代表取締役として対外的な事業活動を行い,
528 CはAを手伝って
529 事業活動に従事し,
530 Dは資金管理・人事管理等を担当していた。
531
532
533 3.Eは,
534 Cと性格が合わなかったため,
535 甲社で就労することはなく,
536 不動産の販売等を業とする
537 乙株式会社(以下「乙社」という。
538
539 )の取締役を務めていた。
540
541 乙社の取締役は,
542 Eのほか,
543 Eの
544 妻Fと乙社の創業者Gの合計3人であり,
545 その代表取締役はGであった。
546
547
548 4.甲社は,
549 平成21年6月,
550 その店舗に隣接してFが所有する狭小な土地(以下「本件土地」と
551 いう。
552
553 )があったことから,
554 これを駐車場の用地として取得することとし,
555 Fとの間で,
556 本件土
557 地の売買契約を締結した。
558
559 その際,
560 売買代金は,
561 本件土地に関する不動産鑑定士の鑑定評価に従
562 い,
563 250万円と定められた。
564
565
566 Fは,
567 上記の売買代金を受領し,
568 甲社に対し本件土地を引き渡したが,
569 本件土地の所有権移転
570 登記手続に必要な書類を交付せず,
571 甲社も,
572 Fに対してその所有権移転登記手続を督促しなかっ
573 たため,
574 本件土地の登記名義人は,
575 Fのままであった。
576
577
578 5.甲社の売上げは順調に推移し,
579 平成22年頃には,
580 その年商は2億円程度に達した。
581
582
583 これに対し,
584 乙社は,
585 不動産開発のための資金調達に苦労し,
586 不動産販売等の事業展開が低迷
587 した。
588
589
590 Eは,
591 乙社の将来に不安を覚えて転身を考え,
592 Dに相談したところ,
593 Dは,
594 Eに対し,
595 甲社に
596 入社した上でCと接触の少ない部門において勤務することを勧めた。
597
598 そこで,
599 Eは,
600 平成22年
601 2月,
602 乙社の取締役を辞任し,
603 甲社の総務・企画部長として勤務を開始したが,
604 間もなくして,
605
606 新規出店の計画立案,
607 店舗用地の調達,
608 金融機関からの資金調達等につき経営手腕を発揮し,
609 頭
610 角を現した。
611
612
613 6.その後,
614 Dは,
615 自らの存命中にEの甲社における地位を強固にすることを望み,
616 Aと相談の上
617 で,
618 平成24年5月20日,
619 自らの取締役の任期が満了する機会に,
620 その後任としてEを取締役
621 の地位に就かせ,
622 さらに,
623 Aのほか,
624 Eも代表取締役の地位に就かせることとした。
625
626
627 Aは,
628 必要な書類を準備して甲社の役員の変更の登記を申請し,
629 その旨の登記がされた。
630
631
632 Aは,
633 Eが甲社の代表取締役に就任することにつき,
634 あらかじめCの了解を得る予定であった
635 が,
636 Cの反発を恐れ,
637 Cに説明をすることができず,
638 また,
639 上記の登記がされた後も,
640 Cに何ら
641 の説明をしなかった。
642
643 A及びDは,
644 当面,
645 引き続きAが代表取締役として活動しつつ,
646 Eに副社
647 長という肩書で対外的に活動することを認めることとした。
648
649
650 7.Eは,
651 将来のAの相続の在り方によっては,
652 その保有株式数に照らして甲社における地位が安
653 定的でないことを懸念していた。
654
655
656 そこで,
657 Dは,
658 平成24年6月,
659 Eが甲社の支配株主となることを目的として,
660 甲社が400
661 株の募集株式を発行し,
662 その全部をEに割り当てることを計画した。
663
664 Eは,
665 甲社株式の1株当た
666 りの直近の純資産額が10万円である旨の専門家の鑑定評価があったことから,
667 自ら所有する4
668 000万円相当の賃貸用の建物を出資の目的とすることとした。
669
670 この建物は,
671 必要経費を控除し
672
673 - 2 -
674
675 ても,
676 毎年100万円の収益が見込まれるものであった。
677
678
679 Dは,
680 A,
681 C及びEに対し,
682 甲社の将来の運営について相談したい旨を伝え,
683 これらの者が集
684 まった席上で,
685 EをAの後継者としたいこと,
686 及び甲社が400株の募集株式を発行してその全
687 部をEに割り当てたいことを説明し,
688 賛同を求めた。
689
690 Cは,
691 この提案に反発して直ちに退席し,
692
693 Aは,
694 時期尚早であるとして態度を保留した。
695
696
697 しかし,
698 Eは,
699 上記の甲社の募集株式の発行(以下「本件株式発行」という。
700
701 )につき,
702 株主
703 全員の賛成があった旨の株主総会議事録を作成し,
704 甲社に対し上記の出資の履行をした。
705
706 なお,
707
708 出資の目的とされた建物に関しては,
709 価額が相当であることについての弁護士の証明及び不動産
710 鑑定士の鑑定評価を受けており,
711 検査役の調査を経ていない。
712
713
714 Eは,
715 必要な書類を準備して甲社の募集株式の発行による変更の登記を申請し,
716 その旨の登記
717 がされた。
718
719 そして,
720 Dは,
721 A及びCに対し,
722 本件株式発行の計画を断念したなどと,
723 虚偽の事実
724 を述べた。
725
726
727 8.その後,
728 Fは,
729 Eが甲社を代表して金融機関との折衝を行っていたことから,
730 甲社から乙社に
731 対する貸付けにより乙社の不動産開発計画を推進することを計画し,
732 開発した不動産の分譲後に
733 借入金を甲社に返済する旨を説明して,
734 この計画をEに提案した。
735
736 Eが甲社の運転資金から貸付
737 金を捻出することは難しい旨を述べると,
738 Fは,
739 知人のHが甲社に資金を貸し付けた上で,
740 甲社
741 がその資金を乙社に貸し付けるという方法を提案した。
742
743
744 Eは,
745 平成24年12月,
746 上記のFの提案についてDに相談したところ,
747 Dは,
748 「既に取締役
749 を退任して資金管理をEに委ねているので,
750 自分が判断すべき事柄ではないが,
751 甲社にはリスク
752 があるだけでメリットがないので,
753 やめた方がよいのではないか。
754
755 」と述べた。
756
757
758 Eは,
759 Dの助言に戸惑いつつも,
760 Fの要請に抗し難く,
761 その提案を受け入れることとし,
762 独断
763 で,
764 甲社を代表して,
765 Hから2億円を年10%の利息の約定で借り入れた(以下「本件借入れ」
766 という。
767
768 )。
769
770 本件借入れに先立ち,
771 Eは,
772 Hに対し,
773 甲社の店舗建設のための資金として必要であ
774 る旨を説明したが,
775 その説明が曖昧であったため,
776 Hから,
777 甲社の事業計画に関する資料等を交
778 付するよう求められていた。
779
780 もっとも,
781 本件借入れは,
782 Eがこれらの資料等を交付しないまま実
783 行された。
784
785
786 そして,
787 Eは,
788 平成25年1月,
789 独断で,
790 甲社を代表して,
791 乙社に対し上記の2億円を年10
792 %の利息の約定で貸し付けた(以下「本件貸付け」という。
793
794 )。
795
796
797 9.Fは,
798 平成26年3月に死亡し,
799 その全財産をEが相続した。
800
801 これに伴い,
802 本件土地につき,
803
804 相続を原因とするEへの所有権移転登記がされた。
805
806
807 10.A及びCは,
808 平成26年4月,
809 本件借入れ及び本件貸付けの事実を知り,
810 その調査を進める中
811 で,
812 上記の一連の経緯が明らかになった。
813
814
815 また,
816 乙社は,
817 不動産開発計画が行き詰まって財務状態が悪化し,
818 その結果,
819 甲社は,
820 本件貸
821 付けに係る金員の返済を受けられないことが確実になった。
822
823
824 〔設問1〕
825
826 平成26年4月の時点で,
827 本件株式発行の効力を争うためにCの立場において考えら
828
829 れる主張及びその主張の当否並びに本件株式発行に係る法律関係について,
830 論じなさい。
831
832
833 〔設問2〕
834
835 本件借入れの効果が甲社に帰属するかどうかに関し,
836 これを肯定するHの立場とこれ
837
838 を否定する甲社の立場において考えられる主張及びその主張の当否について,
839 論じなさい。
840
841
842 〔設問3〕
843
844 CがD及びEに対し株主代表訴訟を提起する場合に,
845 Cの立場において考えられる主
846
847 張及びその主張の当否について,
848 論じなさい。
849
850
851
852 - 3 -
853
854 別
855
856 紙
857
858 履歴事項全部証明書
859 ○○県○○市○○一丁目2番3号
860 甲株式会社
861 会社法人等番号 0123−01−123456
862 商
863
864 号
865
866 甲株式会社
867
868 本
869
870 店
871
872 ○○県○○市○○一丁目2番3号
873
874 公告をする方法
875
876 官報に掲載してする。
877
878
879
880 会社成立の年月日
881
882 平成20年6月2日
883
884 目
885
886 1.食品の製造及び販売
887 2.不動産の賃貸
888 3.前各号に附帯する事業
889
890 的
891
892 発行可能株式総数
893
894 2000株
895
896 発行済株式の総数
897 並びに種類及び数
898
899 発行済株式の総数
900 500株
901 発行済株式の総数
902 900株
903
904 資本金の額
905
906 平成24年
907
908 6月10日変更
909
910 平成24年
911
912 6月20日登記
913
914 平成24年
915
916 6月10日変更
917
918 平成24年
919
920 6月20日登記
921
922 金2000万円
923
924 金4000万円
925
926 株式の譲渡制限に
927 関する規定
928
929 当会社の株式を譲渡により取得するには、
930 取締役会の承認を要する。
931
932
933
934 役員に関する事項
935
936 取締役
937
938 取締役
939
940 取締役
941
942 A
943
944 C
945
946 D
947
948 - 4 -
949
950 平成24年
951
952 5月20日重任
953
954 平成24年
955
956 6月
957
958 平成24年
959
960 5月20日重任
961
962 平成24年
963
964 6月
965
966 平成24年
967
968 5月20日退任
969
970 平成24年
971
972 6月
973
974 1日登記
975
976 1日登記
977
978 1日登記
979
980 取締役
981
982 E
983
984 ○○県○○市○○一丁目2番4号
985 代表取締役
986 A
987
988 ○○県○○市○○五丁目6番7号
989 代表取締役
990 E
991
992 監査役
993
994 ○○○○
995
996 取締役会設置会社
997 に関する事項
998
999 取締役会設置会社
1000
1001 監査役設置会社に
1002 関する事項
1003
1004 監査役設置会社
1005
1006 登記記録に関する
1007 事項
1008
1009 設立
1010
1011 平成24年
1012
1013 5月20日就任
1014
1015 平成24年
1016
1017 6月
1018
1019 平成24年
1020
1021 5月20日重任
1022
1023 平成24年
1024
1025 6月
1026
1027 平成24年
1028
1029 5月20日就任
1030
1031 平成24年
1032
1033 6月
1034
1035 平成24年
1036
1037 5月20日重任
1038
1039 平成24年
1040
1041 6月
1042
1043 1日登記
1044
1045 平成20年
1046
1047 6月
1048
1049 2日登記
1050
1051 1日登記
1052
1053 1日登記
1054
1055 1日登記
1056
1057 これは登記簿に記録されている閉鎖されていない事項の全部であることを証明
1058 した書面である。
1059
1060
1061 平成26年
1062 ○○地方法務局
1063
1064 4月21日
1065
1066 法
1067
1068 登記官
1069
1070 整理番号
1071
1072 あ987654
1073
1074 *
1075
1076 務
1077
1078 太
1079
1080 郎
1081
1082 下線のあるものは抹消事項であることを示す。
1083
1084
1085
1086 - 5 -
1087
1088 公
1089
1090 印
1091
1092 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
1093
1094 - 1 -
1095
1096 [民事系科目]
1097 〔第3問〕(配点:100〔
1098 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
1099 4:2:4〕)
1100 次の文章を読んで,
1101 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1102
1103
1104 【事例】
1105 Xは,
1106 横断歩道を歩行中,
1107 車道を直進してきたAの運転する車両に衝突されそうになったので,
1108
1109 Aの運転態度を注意したところ,
1110 激高し降車してきたAにいきなり突き飛ばされた。
1111
1112 路上に背中
1113 から倒れ込んだXは,
1114 路面に頭を打ち付けて意識を失い,
1115 救急車で病院に搬送された。
1116
1117 幸い頭部
1118 には目立った外傷もなく,
1119 その他の異状も認められなかったが,
1120 腰部及び頸部の脊椎を痛めたた
1121 め,
1122 検査等の目的で2日間入院した後,
1123 腰椎及び頸椎に受けた傷害の治療のため,
1124 約半年間通院
1125 して加療を受けた。
1126
1127 上記車両は,
1128 運送業を営むB株式会社(以下「B社」という。
1129
1130
1131 )の所有する車
1132 両であり,
1133 Aは,
1134 配送業務を実施中であった。
1135
1136
1137 Xは,
1138 上記の通院治療が終了した後に,
1139 A及び同人を雇用するB社に対し,
1140 上記傷害に関して,
1141
1142 治療費や交通費などの実費のほか,
1143 入通院による休業損害及び傷害慰謝料を請求したものの,
1144 い
1145 ずれからも誠意ある対応はなかった。
1146
1147 Xから相談を受けた弁護士L1は,
1148 この事件を受任し,
1149 損
1150 害賠償金の支払を求める内容証明郵便をA及びB社に送付したところ,
1151 Aからは返事がなく,
1152 B
1153 社からは,
1154 従業員の起こした暴力事件のことであり会社としては関知しない旨の書面が返送され
1155 てきた。
1156
1157 そこで,
1158 L1は,
1159 A及びB社を被告とし,
1160 上記の損害に係る賠償金に弁護士費用を加え
1161 た合計330万円を連帯して支払うよう求める訴えを提起することとした。
1162
1163
1164 B社に対する訴えについては,
1165 L1が同社の登記事項証明書を入手した上,
1166 代表取締役として
1167 登記されていたCを代表者と記載した訴状を裁判所に提出したところ,
1168 訴状副本及び第1回口頭
1169 弁論期日への呼出状等がB社の本店所在地の住所に宛てて送達され,
1170 同社の従業員がこれらを受
1171 領した旨の送達報告書が裁判所に送付された。
1172
1173
1174 第1回口頭弁論期日において,
1175 Aは,
1176 口頭で請求棄却を求める答弁をし,
1177 その余は弁護士を頼
1178 んでから対応したい旨を述べ,
1179 一方,
1180 B社の代表者として出頭したCは,
1181 Aの暴行はB社の業務
1182 とは無関係に行われたものであると答弁しつつ,
1183 道義的責任は感じるので和解による解決を希望
1184 する旨を述べたことから,
1185 裁判所は和解を勧試した。
1186
1187
1188 その後,
1189 Aは弁護士L2に事件を依頼し,
1190 L2はAの訴訟代理人となった。
1191
1192 その際,
1193 Aは,
1194 本
1195 件の内容を詳しく説明するほか,
1196 第1回口頭弁論期日に裁判所が和解を勧試するに至った経緯を
1197 説明し,
1198 和解のため指定された次回期日までに原告及び被告らがそれぞれ和解条件について検討
1199 してくるよう指示されたことを報告した。
1200
1201
1202 和解期日において,
1203 X及びL1,
1204 L2並びにCが出頭し,
1205 XとA及びB社との間で訴訟上の和
1206 解が成立し,
1207 次のとおりの条項が調書に記載された。
1208
1209
1210 (和解条項)
1211 1 被告Aは,
1212 本件における傷害行為について深く反省し,
1213 原告に対し,
1214 心から謝罪の意を表し,
1215
1216 今後二度と本件のような事件を起こさないことを誓約する。
1217
1218
1219 2
1220
1221 被告らは,
1222 原告に対し,
1223 損害賠償債務として150万円を連帯して支払う義務があることを
1224
1225 認める。
1226
1227
1228 3
1229
1230 被告らは,
1231 原告に対し,
1232 連帯して,
1233 前項の金員を,
1234 平成〇〇年〇月〇日限り,
1235 〇〇銀行〇〇
1236
1237 支店の原告名義の普通預金口座(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)に振り込む方法で支払う。
1238
1239
1240 4 原告はその余の請求をいずれも放棄する。
1241
1242
1243 5
1244
1245 原告及び被告らは,
1246 原告と被告らとの間には,
1247 この和解条項に定めるもののほかに何らの債
1248
1249 権債務のないことを相互に確認する。
1250
1251
1252 6 訴訟費用は各自の負担とする。
1253
1254
1255 - 2 -
1256
1257 以下は,
1258 Xの訴訟代理人である弁護士L1と司法修習生Pとの間でされた会話である。
1259
1260
1261 L1:P君にも検討してもらったXさんの事件ですが,
1262 被告であるA及びB社との間で成立し
1263 た訴訟上の和解について,
1264 賠償金の支払期日を前にしてB社から代表取締役D名義の書面が
1265 送付されてきました。
1266
1267
1268 それによれば,
1269 B社の内部には紛争があったようで,
1270 Cは訴状が送達される1年近く前に
1271 解任されていて代表者の地位になく,
1272 したがって,
1273 Cを代表者として成立した訴訟上の和解
1274 はB社に対して効力を有しないとのことです。
1275
1276 書面に添付されていた同社の登記事項証明書
1277 を見ると,
1278 確かにCはDが主張する時期に解任され,
1279 その同じ日にDが新しい代表者として
1280 選定されて就任したようですが,
1281 ただこうした解任と就任の登記がされたのは和解が成立し
1282 た期日の数週間後になっています。
1283
1284 このように代表者に異動があったにもかかわらず,
1285 なぜ,
1286
1287 登記がされないまま放置され,
1288 それが今になって登記されたのか,
1289 そもそもB社にどのよう
1290 な内紛があったのか,
1291 真の代表者は誰なのか,
1292 その経緯は我々には分かりません。
1293
1294 しかし,
1295
1296 いずれにしても早急に対応を考えなければなりません。
1297
1298 仮にDの主張することが事実だとす
1299 ると,
1300 訴訟上の和解の効力はB社には及ばないと言わざるを得ないでしょうか。
1301
1302
1303 P:先生,
1304 最高裁判所昭和45年12月15日第三小法廷判決(民集24巻13号2072頁)
1305 があります。
1306
1307
1308 L1:どのような事案においてどのような判示をした判例ですか。
1309
1310
1311 P:はい。
1312
1313 やはり登記上代表取締役であったが実際には代表取締役ではなかった者を被告会社
1314 の代表者として提起された訴えについて,
1315 請求を認容した第一審の本案判決を取り消し,
1316 訴
1317 状の送達からやり直すべし,
1318 として事件を第一審に差し戻したものです。
1319
1320
1321 一般論としては,
1322
1323 「民法一〇九条および商法二六二条の規定は,
1324 いずれも取引の相手方を保
1325 護し,
1326 取引の安全を図るために設けられた規定であるから,
1327 取引行為と異なる訴訟手続にお
1328 いて会社を代表する権限を有する者を定めるにあたつては適用されないものと解するを相当
1329 とする。
1330
1331 この理は,
1332 同様に取引の相手方保護を図った規定である商法四二条一項が,
1333 その本
1334 文において表見支配人のした取引行為について一定の効果を認めながらも,
1335 その但書におい
1336 て表見支配人のした訴訟上の行為について右本文の規定の適用を除外していることから考え
1337 ても明らかである。
1338
1339 」と述べています。
1340
1341 訴訟手続において会社の代表者を定めるに当たって
1342 表見法理の適用はないという判例法理があるということになりそうです。
1343
1344
1345 この判例法理の当否については議論があり,
1346 判旨が言及している点のほか,
1347 代表権の存否
1348 は職権調査事項であり,
1349 その欠缺は絶対的上告理由・再審事由であることや,
1350 手続の安定な
1351 どが問題にされていたと思います。
1352
1353
1354 L1:確かにこの判例の一般論については議論があるところですが,
1355 ここでは訴訟上の和解に
1356 表見法理を適用することの可否に絞って考えることにしましょう。
1357
1358 本件のように訴訟上の和
1359 解が成立した事案においては,
1360 民法や商法の表見法理を適用することを否定する理由として,
1361
1362 判旨が挙げるような取引行為と訴訟手続の違いや,
1363 P君が言うような手続の不安定を招くと
1364 いった点を持ち出すことに果たして説得力があるかということを踏まえ,
1365 本件和解の訴訟法
1366 上の効力を維持する方向で立論してみてください。
1367
1368
1369 P:訴訟上の和解には,
1370 私法上の契約とそれを裁判所に対して陳述するという両面があります
1371 から,
1372 仮に訴訟行為としての和解の効力が否定されるとして,
1373 では私法上何の効果も生じな
1374 いことになるのか,
1375 といった辺りも考えてみる必要がありそうです。
1376
1377
1378 L1:頼もしいですね。
1379
1380 それでは,
1381 和解が無効だとするDの主張を退け,
1382 無事に和解の履行期
1383 限を迎えられるよう,
1384 我々の側として用意できる法律論をまとめてみてください。
1385
1386 実体法上
1387 の表見法理のうちどの条文の適用を主張すべきか,
1388 という問題もありますが,
1389 そこはひとま
1390 ずおいて,
1391 まずは訴訟法の問題について検討してください。
1392
1393 よろしくお願いします。
1394
1395
1396 - 3 -
1397
1398 〔設問1〕
1399 あなたが司法修習生Pであるとして,
1400 弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。
1401
1402
1403 なお,
1404 引用した判決文中の「商法二六二条」は現行会社法の第354条に相当する規定であり,
1405
1406 「商法四二条」は現行商法の第24条に相当する規定であり,
1407 その内容は次のとおりである。
1408
1409
1410 「第四十二条
1411
1412 本店又ハ支店ノ営業ノ主任者タルコトヲ示スベキ名称ヲ附シタル使用人ハ之ヲ其
1413
1414 ノ本店又ハ支店ノ支配人ト同一ノ権限ヲ有スルモノト看做ス但シ裁判上ノ行為ニ付テハ此ノ
1415 限ニ在ラズ
1416 A 前項ノ規定ハ相手方ガ悪意ナリシ場合ニハ之ヲ適用セズ」
1417 以下は,
1418 後日,
1419 L1とPとの間でされた会話である。
1420
1421
1422 L1:例の事件ですが,
1423 和解無効を主張するDに対して私の進めてきた説得がなんとかうまく
1424 運び,
1425 ようやくDも折れ,
1426 改めて賠償金の支払を約束してくれ,
1427 安堵していたところ,
1428 今度
1429 は,
1430 被告のA本人から書面で申入れがありました。
1431
1432
1433 そこに書かれた内容を法律的に整理してみると,
1434 Aが訴訟代理人のL2弁護士に与えた訴
1435 訟代理権の範囲には,
1436 和解条項第1項にあるように「被告Aは,
1437 本件における傷害行為につ
1438 いて深く反省し,
1439 原告に対し,
1440 心から謝罪の意を表し,
1441 今後二度と本件のような事件を起こ
1442 さないことを誓約する。
1443
1444
1445 」という謝罪や誓約の文言を設けることまでは含まれておらず,
1446 これ
1447 はL2弁護士が和解期日当日に出頭していなかったAに無断でしたことなので,
1448 この条項は
1449 無権代理として無効であり,
1450 和解全体も無効となるというのです。
1451
1452
1453 P:先生,
1454 和解条項第1項が設けられた経過はどのようなものだったのですか。
1455
1456
1457 L1:和解が成立した期日には,
1458 私のほかにXさんも出頭しましたが,
1459 Aは欠席し,
1460 代理人の
1461 L2弁護士だけが出頭していました。
1462
1463 Xさんは,
1464 被告らが要望する賠償金の減額に応じても
1465 よいが,
1466 その代わりAが事件のことを反省して謝罪をし,
1467 二度と同じような事件を起こさな
1468 いことを約束してほしい,
1469 そのことを和解条項にしっかり書き残してほしいと要請しました。
1470
1471
1472 欠席していたAの意思を直接確認することはできませんでしたが,
1473 L2弁護士が言うには,
1474
1475 「A
1476 はかねてから事件のことを真摯に反省していたので,
1477 そうした条項を設けることに異存はな
1478 いはずだ。
1479
1480
1481 」ということでした。
1482
1483 その結果,
1484 第1項としてあのような条項が加えられ,
1485 他方,
1486
1487 損害賠償の金額については150万円とすることで原告と被告らとの間で合意ができたので
1488 す。
1489
1490
1491 P:よく分かりました。
1492
1493 これに関連した判例があったと記憶しています。
1494
1495 最高裁判所昭和38
1496 年2月21日第一小法廷判決(民集17巻1号182頁)がそれです。
1497
1498
1499 L1:どのような事案においてどのような判示をした判例ですか。
1500
1501
1502 P:単純化すると,
1503 貸金返還請求訴訟において,
1504 証拠調べが終わった段階で和解が勧められ,
1505
1506 裁判所から和解案が示されていたところ,
1507 借主である被告本人がそれを拒んで帰宅してしま
1508 った後,
1509 被告の訴訟代理人弁護士はそのまま話合いを続行し,
1510 最終的に被告本人が同席しな
1511 い中で,
1512 請求されていた貸金債務の弁済期を延期して分割払とする代わりに,
1513 その担保とし
1514 て被告が所有する不動産に抵当権を設定するという内容の和解を成立させたという事情の下,
1515
1516 後日その被告がこの和解の無効確認等を求めたという訴訟において,
1517 最高裁は,
1518 被告訴訟代
1519 理人が授権された和解の代理権限のうちに抵当権設定契約をする権限も包含されていたと解
1520 するのが相当である,
1521 と判示したものです。
1522
1523
1524 L1:なるほど。
1525
1526 念のため,
1527 裁判所に確認したところ,
1528 本件でAがL2弁護士に訴訟委任をし
1529 た際,
1530 民事訴訟法第55条第2項第2号の和解に関する特別授権はされていましたから,
1531 そ
1532 のことを前提として,
1533 この最高裁判決の内容を踏まえ,
1534 AはXさんとの間で本件和解の効力
1535 を争うことはできない,
1536 と立論してみてください。
1537
1538
1539 - 4 -
1540
1541 〔設問2〕
1542 あなたが司法修習生Pであるとして,
1543 弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。
1544
1545
1546 なお,
1547 AとL2との間の訴訟委任契約に関連して生じ得る弁護士倫理の問題や契約違反を理由
1548 とした損害賠償の問題について論ずる必要はない。
1549
1550
1551 以下は,
1552 Pが司法修習を終えて弁護士登録をし,
1553 L1の法律事務所に勤務弁護士として就職し
1554 た後に,
1555 L1との間でされた会話である。
1556
1557
1558 L1:P君が司法修習生だった頃に扱っていたXさんの和解の件を覚えていますか。
1559
1560 いろいろ
1561 ありましたけれども,
1562 P君が奮闘して判例等を研究してくれたおかげで,
1563 いずれも事なきを
1564 得,
1565 和解の効力には問題がないということで,
1566 賠償金の支払も無事に約束どおり履行されま
1567 した。
1568
1569
1570 ところが,
1571 あの和解期日から半年以上も経過したつい先日のこと,
1572 Xさんから相談があり
1573 ました。
1574
1575 近ごろめまいや吐き気などを覚えるようになったので,
1576 事故後に入通院していた病
1577 院で診察を受けたところ,
1578 本件事故により腰椎及び頸椎に受けた傷害が原因で発症したもの
1579 で,
1580 後遺障害として残存するだろうと診断されたそうです。
1581
1582 一般に,
1583 事故から相当期間が経
1584 過した後に初めて発症した症状については,
1585 当該事故による傷害に起因するものであっても
1586 法的にみて因果関係を有する後遺障害と評価できるかどうかが争われることが多いので,
1587 本
1588 件でもそのことは綿密に調査・検討する必要があります。
1589
1590 しかし,
1591 その点はしばらくおき,
1592
1593 この後遺障害に基づく新たな損害賠償を求める訴えをAとB社に対して提起することも視野
1594 に入れ,
1595 ひとまずAの代理人であったL2弁護士に連絡したところ,
1596 既に委任関係は終了し
1597 ているということでしたので,
1598 直接Aに文書で連絡しました。
1599
1600
1601 これに対してAから送られてきた回答書では,
1602 和解条項では,
1603 第2項で損害賠償債務は1
1604 50万円であるとされ,
1605 第5項では「原告と被告らとの間には,
1606 この和解条項に定めるもの
1607 のほかに何らの債権債務のないことを相互に確認する。
1608
1609 」となっており,
1610 かつその損害賠償金
1611 は全額既に支払が完了しているので,
1612 もはやこれ以上の賠償責任は負うことはないとされて
1613 います。
1614
1615
1616 P:先生,
1617 今後,
1618 Aが弁護士に相談すれば,
1619 訴訟上の和解には既判力があるから,
1620 Xさんから
1621 の賠償請求はその既判力に触れるとの主張をしてくることが考えられます。
1622
1623 判例にも,
1624 裁判
1625 上の和解について「既判力を有する」という一般論を述べたものがあります(最高裁判所昭
1626 和33年3月5日大法廷判決・民集12巻3号381頁)
1627 。
1628
1629
1630 L1:そうですね。
1631
1632 訴訟上の和解調書の記載に既判力が生じるとの前提に立つとして,
1633 何か反
1634 論が考えられますか。
1635
1636
1637 P:訴訟上の和解が成立した後に別の新たな損害が生じたから,
1638 これには既判力は及ばないと
1639 の議論はいかがでしょうか。
1640
1641
1642 L1:しかし,
1643 不法行為に基づく損害賠償請求権は当該不法行為時に確定額の請求権としてい
1644 まだ現実化していなかった損害も含めて損害全体について成立しているはずであり,
1645 後に生
1646 じた後遺障害はたまたま請求時に認識できなかっただけのことですから,
1647 和解成立後に生じ
1648 た事由とはいえないと考えられます。
1649
1650
1651 また,
1652 本件では,
1653 和解条項第5項によって,
1654
1655 「原告及び被告らは,
1656 原告と被告らとの間には,
1657
1658 この和解条項に定めるもののほかに何らの債権債務のないことを相互に確認する。
1659
1660
1661 」とされて
1662 いますから,
1663 一部請求後の残部請求の議論を応用することも困難ではないでしょうか。
1664
1665
1666 P:そうしますと,
1667 既判力肯定説に立ちつつ,
1668 我々に有利な結論を導くには,
1669 和解条項第2項
1670 及び第5項について生じる既判力を本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の主張を遮断しな
1671 い限度にまで縮小させる,
1672 あるいは,
1673 本件和解契約は同請求権を対象として締結されたもの
1674 - 5 -
1675
1676 ではないから,
1677 訴訟上の和解につき既判力肯定説を採るとしても,
1678 本件の和解条項第2項及
1679 び第5項につき同請求権を不存在とする趣旨の既判力は生じない,
1680 というような議論を考え
1681 ればよいわけですね。
1682
1683
1684 L1:そうだと思います。
1685
1686 一つヒントですが,
1687 定期金方式による損害賠償判決の基礎となった
1688 事情に事後的な変動が生じたときには損害額の再調整をすることができるという民事訴訟法
1689 第117条を参考にしてはどうでしょうか。
1690
1691 この条文を単純に類推適用するというのではな
1692 く,
1693 人身損害の損害賠償を主として念頭に置いてそのような規定が作られた趣旨を参考にし
1694 てほしいということです。
1695
1696 難問ですが,
1697 諦めないで頑張ってください。
1698
1699
1700 〔設問3〕
1701 あなたが弁護士Pであるとして,
1702 弁護士L1から与えられた課題に答えなさい。
1703
1704
1705 なお,
1706 訴訟上の和解に既判力が認められるかについての一般論には触れなくてよい。
1707
1708
1709
1710 - 6 -
1711
1712