1 論文式試験問題集[刑事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲,
9 乙及び丙の罪責について,
10 具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特別
11 法違反の点を除く。
12
13 )。
14
15
16 1
17
18 甲(23歳,
19 女性)は,
20 乙(24歳,
21 男性)と婚姻し,
22 某年3月1日(以下「某年」は省略す
23
24 る。
25
26 ),
27 乙との間に長男Aを出産し,
28 乙名義で借りたアパートの一室に暮らしていたが,
29 Aを出産し
30 てから乙と不仲となった。
31
32 乙は,
33 甲と離婚しないまま別居することとなり,
34 5月1日,
35 同アパート
36 から出て行った。
37
38 乙は,
39 その際,
40 甲から,
41
42 「二度とアパートには来ないで。
43
44 アパートの鍵は置いて
45 いって。
46
47 」と言われ,
48 同アパートの玄関の鍵を甲に渡したものの,
49 以前に作った合鍵1個を甲に内
50 緒で引き続き所持していた。
51
52 甲は,
53 乙が出て行った後も名義を変えずに同アパート(以下「甲方」
54 という。
55
56 )にAと住み続け,
57 自分でその家賃を支払うようになった。
58
59 甲は,
60 5月中旬頃,
61 丙(30
62 歳,
63 男性)と知り合い,
64 6月1日頃から,
65 甲方において,
66 丙と同棲するようになった。
67
68
69 2
70
71 丙は,
72 甲と同棲を開始した後,
73 家賃を除く甲やAとの生活に必要な費用を負担するとともに,
74
75
76 育児に協力してAのおむつを交換したり,
77 Aを入浴させるなどしていた。
78
79 しかし,
80 丙は,
81 Aの連日
82 の夜泣きにより寝不足となったことから,
83 6月20日頃には,
84 Aのことを疎ましく思うようにな
85 り,
86 その頃からおむつ交換や入浴などの世話を一切しなくなった。
87
88
89 3
90
91 甲は,
92 その後,
93 丙がAのことを疎ましく思っていることに気付き,
94 「このままAがいれば,
95 丙
96
97 との関係が保てなくなるのではないか。
98
99 」と不安になり,
100 思い悩んだ末,
101 6月末頃,
102 丙に気付かれ
103 ないようにAを殺害することを決意した。
104
105 Aは,
106 容易に入手できる安価な市販の乳児用ミルクに対
107 してはアレルギーがあり,
108 母乳しか飲むことができなかったところ,
109 甲は,
110
111 「Aに授乳しなければ,
112
113 数日で死亡するだろう。
114
115
116 」と考え,
117 7月1日朝の授乳を最後に,
118 Aに授乳や水分補給(以下「授乳
119 等」という。
120
121 )を一切しなくなった。
122
123
124 このときまで,
125 甲は,
126 2時間ないし3時間おきにAに授乳し,
127 Aは,
128 順調に成育し,
129 体重や栄養
130 状態は標準的であり,
131 特段の疾患や障害もなかった。
132
133 通常,
134 Aのような生後4か月の健康な乳児に
135 授乳等を一切しなくなった場合,
136 その時点から,
137 @約24時間を超えると,
138 脱水症状や体力消耗に
139 よる生命の危険が生じ,
140 A約48時間後までは,
141 授乳等を再開すれば快復するものの,
142 授乳等を再
143 開しなければ生命の危険が次第に高まり,
144 B約48時間を超えると,
145 病院で適切な治療を受けさせ
146 ない限り救命することが不可能となり,
147 C約72時間を超えると,
148 病院で適切な治療を受けさせて
149 も救命することが不可能となるとされている。
150
151
152 なお,
153 甲は,
154 Aを殺害しようとの意図を丙に察知されないように,
155 Aに授乳等を一切しないほか
156 は,
157 Aのおむつ交換,
158 着替え,
159 入浴などは通常どおりに行った。
160
161
162 4
163
164 7月2日昼前には,
165 Aに脱水症状や体力消耗による生命の危険が生じた。
166
167 丙は,
168 その頃,
169 Aが
170
171 頻繁に泣きながら手足をばたつかせるなどしているのに,
172 甲が全くAに授乳等をしないことに気
173 付き,
174 甲の意図を察知した。
175
176 しかし,
177 丙は,
178
179 「Aが死んでしまえば,
180 夜泣きに悩まされずに済む。
181
182
183 Aは自分の子でもないし,
184 普通のミルクにはアレルギーがあるから,
185 俺がミルクを与えるわけにも
186 いかない。
187
188 Aに授乳しないのは甲の責任だから,
189 このままにしておこう。
190
191 」と考え,
192 このままでは
193 Aが確実に死亡することになると思いながら,
194 甲に対し,
195 Aに授乳等をするように言うなどの措置
196 は何ら講じず,
197 見て見ぬふりをした。
198
199
200 甲は,
201 丙が何も言わないことから,
202
203 「丙は,
204 私の意図に気付いていないに違いない。
205
206 Aが死んで
207 も,
208 何らかの病気で死んだと思うだろう。
209
210 丙が気付いて何か言ってきたら,
211 Aを殺すことは諦める
212 しかないが,
213 丙が何か言ってくるまではこのままにしていよう。
214
215
216 」と考え,
217 引き続き,
218 Aに授乳等
219 をしなかった。
220
221
222 5
223
224 7月3日昼には,
225 Aの脱水症状や体力消耗は深刻なものとなり,
226 病院で適切な治療を受けさせ
227 - 2 -
228
229 ない限り救命することが不可能な状態となった。
230
231 同日昼過ぎ,
232 丙は,
233 甲が買物に出掛けている間に,
234
235 Aを溺愛している甲の母親から電話を受け,
236 同日夕方にAの顔を見たいので甲方を訪問したいと
237 言われた。
238
239 Aは,
240 同日夕方に病院に連れて行って適切な治療を受けさせれば,
241 いまだ救命可能な状
242 態にあったが,
243 丙は,
244
245 「甲の母親は,
246 Aの衰弱した姿を見れば,
247 必ず病院に連れて行く。
248
249 そうなれ
250 ば,
251 Aが助かってしまう。
252
253 」と考え,
254 甲の母親に対し,
255 甲らと出掛ける予定がないのに,
256
257 「あいにく,
258
259 今日は,
260 これからみんなで出掛け,
261 帰りも遅くなるので,
262 またの機会にしてください。
263
264 」などと嘘
265 をつき,
266 甲の母親は,
267 やむなく,
268 その日の甲方訪問を断念した。
269
270
271 6
272
273 7月3日夕方,
274 甲は,
275 目に見えて衰弱してきたAを見てかわいそうになり,
276 Aを殺害するのをや
277
278 めようと考え,
279 Aへの授乳を再開し,
280 以後,
281 その翌日の昼前までの間,
282 2時間ないし3時間おきに
283 Aに授乳した。
284
285 しかし,
286 Aは,
287 いずれの授乳においても,
288 衰弱のため,
289 僅かしか母乳を飲まなかっ
290 た。
291
292 甲は,
293 Aが早く快復するためには病院に連れて行くことが必要であると考えたが,
294 病院から警
295 察に通報されることを恐れ,
296
297 「授乳を続ければ,
298 少しずつ元気になるだろう。
299
300 」と考えてAを病院に
301 連れて行かなかった。
302
303
304 7
305
306 他方,
307 乙は,
308 知人から,
309 甲が丙と同棲するようになったと聞き,
310
311 「俺にも親権があるのだから,
312
313
314 Aを自分の手で育てたい。
315
316 」との思いを募らせていた。
317
318 乙は,
319 7月4日昼,
320 歩いて甲方アパートの
321 近くまで行き,
322 甲方の様子をうかがっていたところ,
323 甲と丙が外出して近所の食堂に入ったのを見
324 た。
325
326 乙は,
327 甲らが外出している隙に,
328 甲に無断でAを連れ去ろうと考え,
329 持っていた合鍵を使い,
330
331 玄関のドアを開けて甲方に立ち入り,
332 Aを抱きかかえて甲方から連れ去った。
333
334
335 8
336
337 乙は,
338 甲方から約300メートル離れた地点で,
339 タクシーを拾おうと道路端の歩道上に立ち止
340
341 まり,
342 そこでAの顔を見たところ,
343 Aがひどく衰弱していることに気付いた。
344
345 乙は,
346
347 「あいつら何
348 をやっていたんだ。
349
350 Aを連れ出して良かった。
351
352 一刻も早くAを病院に連れて行こう。
353
354 」と考え,
355 走
356 行してきたタクシーに向かって歩道上から手を挙げたところ,
357 同タクシーの運転手が脇見をして
358 乙に気付くのが遅れ,
359 直前で無理に停車しようとしてハンドル及びブレーキ操作を誤った。
360
361 そのた
362 め,
363 同タクシーは,
364 歩道に乗り上げ,
365 Aを抱いていた乙に衝突して乙とAを路上に転倒させた。
366
367
368 9
369
370 乙とAは直ちに救急車で病院に搬送され,
371 乙は治療を受けて一命をとりとめたものの,
372 Aは病
373
374 院到着時には既に死亡していた。
375
376 司法解剖の結果,
377 Aの死因は,
378 タクシーに衝突されたことで生じ
379 た脳挫傷であるが,
380 他方で,
381 Aの衰弱は深刻なものであり,
382 仮に乙が事故に遭うことなくタクシー
383 でAを病院に連れて行き,
384 Aに適切な治療を受けさせたとしても,
385 Aが助かる可能性はなく,
386 1日
387 ないし2日後には,
388 衰弱により確実に死亡していたであろうことが判明した。
389
390
391
392 - 3 -
393
394 論文式試験問題集[刑事系科目第2問]
395
396 - 1 -
397
398 [刑事系科目]
399 〔第2問〕(配点:100)
400 次の【事例】を読んで,
401 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
402
403
404 【事
405 1
406
407 例】
408 L県警察は,
409 平成26年2月9日,
410 Wから「自宅で妻のVが死亡している。
411
412 」との通報を受け
413
414 た。
415
416 同日,
417 L県M警察署の司法警察員Pらは,
418 L県M市N町にあるW方に臨場したところ,
419 Vは
420 頭部を多数回殴打されて死亡しており,
421 Wは「私は,
422 本日,
423 2週間にわたる海外出張から帰宅し
424 た。
425
426 帰宅時,
427 玄関の鍵が掛かっておらず,
428 居間に妻の死体があった。
429
430 家屋内は荒らされていない
431 が,
432 妻のダイヤモンドの指輪が見当たらない。
433
434 」と供述した。
435
436
437 2
438
439 Pらは,
440 Vに対する殺人・窃盗事件として捜査を開始し,
441 その一環として,
442 Wが供述する指輪
443 について捜査したところ,
444 同月10日,
445 M市内の質屋から,
446 同月3日午前中に甲がダイヤモンド
447 の指輪を質入れしたとの情報を得た。
448
449 そこで,
450 Pがその指輪を領置し,
451 Wに確認したところ,
452 W
453 は「指輪は妻のものに間違いない。
454
455 甲は,
456 私のいとこで,
457 多額の借金を抱えて夜逃げしたが,
458 時
459 々金を借りに来ていた。
460
461 」と供述した。
462
463 そして,
464 甲が,
465 隣県であるS県T市所在のU建設会社で
466 作業員として働き,
467 同社敷地内にある従業員寮に居住していることが判明したことから,
468 Pは,
469
470 同月11日,
471 同所に赴き,
472 午後1時頃,
473 寮から出てきた甲に対し,
474 「M市内の質屋にダイヤモン
475 ドの指輪を質入れしたことはないか。
476
477 」と言ってM市所在のM警察署までの同行を求め,
478 甲は素
479 直にこれに応じた。
480
481
482
483 3
484
485 P及び甲は,
486 同日午後4時頃,
487 M警察署に到着し,
488 Pはその頃から,
489 同署刑事課取調室におい
490 て,
491 甲に供述拒否権があることを告げ,
492 その取調べを開始した。
493
494 甲は,
495 当初,
496 「私がダイヤモン
497 ドの指輪を質入れしたことは間違いないが,
498 その指輪は拾ったものである。
499
500 」と供述したが,
501 同
502 日午後7時頃,
503 「指輪は,
504 私がW方から盗んだものである。
505
506 」と供述した。
507
508 さらに,
509 Pは,
510 甲に対
511 し,
512 V死亡の事実を告げて,
513 甲の関与について尋ねたものの,
514 甲は「私は関係ない。
515
516 」と答え,
517
518 同日午後10時頃には,
519 「先ほど指輪を盗んだと言ったのは嘘である。
520
521 私は,
522 Xを殺していない
523 し,
524 指輪を盗んでもいない。
525
526 指輪は知人からもらった。
527
528 」と供述を変遷させた。
529
530
531
532 4
533
534 この時点で夜も遅くなっていたため,
535 Pは取調べを中断することとしたが,
536 翌日も引き続き甲
537 を取り調べる必要があると考え,
538 甲に対し,
539 「明日朝から取調べを再開するので,
540 出頭してほし
541 い。
542
543 」と申し向けた。
544
545 すると,
546 甲は,
547 翌日はS県内の建設現場で働く予定があるとして出頭に難
548 色を示したものの,
549 Pから,
550 捜査のため必要があるので協力してほしい旨説得され,
551 「1日くら
552 いなら仕事を休んで,
553 取調べに応じてもよい。
554
555 しかし,
556 今から寮に帰るとなると,
557 タクシーを使
558 わなければならない。
559
560 安いホテルに泊まった方が安上がりだと思うので,
561 泊まる所を紹介してほ
562 しい。
563
564 」と述べた。
565
566 そこで,
567 Pが,
568 甲に対し,
569 M警察署から徒歩約20分の距離にあるビジネス
570 ホテル「H」を紹介したところ,
571 甲は,
572 Hホテルまで自ら歩いて行き,
573 同ホテルに自費で宿泊し
574 た。
575
576 なお,
577 Pは,
578 甲に捜査員を同行させたり,
579 甲の宿泊中に同ホテルに捜査員を派遣したりする
580 ことはしなかった。
581
582
583 翌12日午前10時頃,
584 捜査員が同行することなく,
585 甲が1人でM警察署に出頭したので,
586 P
587 は,
588 前日に引き続き,
589 同署刑事課取調室において,
590 甲に供述拒否権があることを告げ,
591 @甲の取
592 調べを開始した。
593
594 甲は,
595 当初,
596 殺人及び窃盗への関与を否認したものの,
597 Pが適宜食事や休憩を
598 取らせながら取調べを継続したところ,
599 同日午後6時頃,
600 甲は,
601 殺人及び窃盗の事実を認め,
602
603 「指
604 輪を質入れした日の前日の昼頃,
605 W方に金を借りに行ったが,
606 Wは不在で妻のXがいた。
607
608 居間で
609 Xと話をするうち口論となり,
610 カッとなって部屋にあったゴルフクラブでXの頭などを多数回殴
611 り付けて殺害した。
612
613 殺害後,
614 Xがダイヤモンドの指輪を着けていたことに初めて気付き,
615 その指
616 輪を盗んだ。
617
618 ゴルフクラブは山中に捨てた。
619
620 」と供述するとともに,
621 ゴルフクラブの投棄場所を
622 記載した図面を作成した。
623
624 また,
625 Pは,
626 甲の上記供述を記載した甲の供述録取書を作成した。
627
628 な
629 - 2 -
630
631 お,
632 取調べ開始からこの時点まで,
633 甲が取調べの中止を訴えたり,
634 取調室からの退去を希望した
635 りすることはなかった。
636
637
638 5
639
640 この時点で午後9時になっていたので,
641 Pは取調べを中断することとし,
642 甲に対し,
643 「ゴルフ
644 クラブを捨てた場所に案内してもらったり,
645 更に詳しい話を聞きたいので,
646 ホテルにもう1泊し
647 てもらい,
648 明日も取調べを続けたいがよいか。
649
650 」と申し向けた。
651
652 これに対し,
653 甲は「宿泊する金
654 がないし,
655 続けて仕事を休むと勤務先に迷惑をかけることになるので,
656 一旦寮に帰って社長に相
657 談したい。
658
659 落ち着いたら必ず出頭する。
660
661 」と述べたものの,
662 Pから「社長には電話で相談すれば
663 いいのではないか。
664
665 宿泊費は警察が出すので心配しなくてもよい。
666
667
668 」と説得され,
669 渋々ながら「分
670 かりました。
671
672 そうします。
673
674 」と答えた。
675
676
677 そこで,
678 Pは警察の費用でHホテルの客室を確保した。
679
680 同客室は同ホテルの7階にあり,
681 6畳
682 和室と8畳和室が続いていて,
683 奥の6畳和室からホテルの通路に出るためには,
684 必ず8畳和室を
685 通らなければならず,
686 両室の間はふすまで仕切られているだけで,
687 錠が掛からない構造であった。
688
689
690 Pは,
691 部下であるQら3名の司法警察員に対し,
692 警察車両で甲をHホテルまで送り届けて上記客
693 室の6畳和室に宿泊させ,
694 Qら3名の司法警察員は同客室の8畳和室で待機するよう指示した。
695
696
697 甲は,
698 Qらと共に上記客室に到着し,
699 Qらも宿泊することを知ると,
700
701 「人がいると落ち着かない。
702
703
704 警察官は帰ってほしい。
705
706 せめて私を個室にして警察官は別室にいてもらいたい。
707
708 」と訴えた。
709
710 し
711 かし,
712 甲は,
713 Qから「ふすまで仕切られているのだから,
714 別室と同じようなものだろう。
715
716 私達は
717 隣の部屋にいるだけで,
718 君の部屋をのぞくようなことはしない。
719
720 」と説得されると,
721 諦めて6畳
722 和室で就寝し,
723 Qら3名の司法警察員は8畳和室で待機した。
724
725
726 翌13日午前9時頃,
727 甲が警察車両に乗せられてM警察署に出頭したので,
728 Pは,
729 前日に引き
730
731 続き,
732 同署刑事課取調室において,
733 甲に供述拒否権があることを告げ,
734 A甲の取調べを開始した
735 ところ,
736 甲は前夜同様に,
737 Vを殺害して指輪を窃取した旨供述した。
738
739 そこで,
740 Pは,
741 甲にゴルフ
742 クラブの投棄場所まで案内するように求め,
743 これに応じた甲を警察車両に乗せ,
744 甲の案内で山中
745 まで赴いたところ,
746 同所から血のついたゴルフクラブが発見された。
747
748 Pは,
749 これを領置した上,
750
751 Wに確認を求めたところ,
752 Wは,
753 同クラブは特注品であり,
754 自宅にあったものに間違いない旨供
755 述した。
756
757 また,
758 同クラブからは数個の指紋が検出され,
759 そのうち一つが甲の指紋と合致した。
760
761 P
762 は,
763 これらの捜査を踏まえて甲に対する殺人及び窃盗の被疑事実で逮捕状を請求し,
764 裁判官から
765 逮捕状を得た上,
766 同日午後4時,
767 M警察署において甲を通常逮捕した。
768
769 なお,
770 この日も,
771 Pは,
772
773 甲に適宜食事や休憩を取らせ,
774 甲は,
775 取調べ開始から逮捕まで,
776 取調べの中止を訴えたり,
777 取調
778 室からの退去を希望したりすることはなかった。
779
780
781 6
782
783 甲は,
784 逮捕後の弁解録取においても両被疑事実を認め,
785 翌14日午前9時,
786 検察官に送致され
787 た。
788
789 甲は,
790 検察官Rによる弁解録取においても両被疑事実を認め,
791 Rは,
792 殺人及び窃盗の被疑事
793 実により甲の勾留を請求し,
794 同日,
795 勾留状が発付された。
796
797 甲は,
798 その後も両被疑事実を認め,
799
800 「2
801 月2日午後1時頃,
802 借金を申し込むためにW方に行ったがWは不在だった。
803
804 Xと口論となり,
805 V
806 から『Wの金ばかり当てにしている甲斐性なし。
807
808 』などと罵られ,
809 カッとなってゴルフクラブで
810 Vを殴り殺した。
811
812 その後,
813 Xがダイヤモンドの指輪を着けていたことに初めて気付き,
814 金に換え
815 ようと思ってその指輪を盗んだ。
816
817 ゴルフクラブは山中に捨てた。
818
819 」と供述した。
820
821 Rは,
822 その他所
823 要の捜査を遂げ,
824 延長された勾留期間の満了日である同年3月5日,
825 甲を殺人罪及び窃盗罪によ
826 り起訴した(公訴事実は【資料】のとおり。
827
828 )。
829
830
831
832 7
833
834 同月8日,
835 別の窃盗事件により勾留中の乙が,
836 警察による取調べにおいて,
837 W方でダイヤモン
838 ドの指輪及びルビーのペンダントを窃取し,
839 ダイヤモンドの指輪は友人の甲に無償で譲渡し,
840 ル
841 ビーのペンダントは自ら質入れした旨供述した。
842
843 警察がこの供述に従い捜査したところ,
844 W方に
845 あったVの宝石箱から検出された指紋の一つが乙のものと合致するとともに,
846 乙が供述した質屋
847 からルビーのペンダントが発見され,
848 そのペンダントは,
849 VがWの出張中に購入したものであり,
850
851 Vの所有物に間違いないことが判明した。
852
853 さらに,
854 甲がV殺害に使用したと供述するゴルフクラ
855 - 3 -
856
857 ブから検出された数個の指紋のうち,
858 一つは乙のものと合致することが判明したが,
859 乙は「室内
860 で金目の物を探しているうちに,
861 ゴルフクラブに私の指紋が付いたと思う。
862
863 私はV殺害には関係
864 ない。
865
866 」と供述した。
867
868
869 上記事情を把握したRは,
870 第1回公判前整理手続期日前である同月24日,
871 甲が勾留されてい
872 るL拘置所において,
873 甲に対し,
874
875 「君が起訴されている事件につき,
876 もう一度,
877 取調べを行うが,
878
879 嫌なら取調べを受けなくてもよいし,
880 取調べを受けるとしても,
881 言いたくないことは言わなくて
882 もよい。
883
884 」と告げ,
885 甲が取調べに応じる旨述べたので,
886 Rは,
887 弁護人を立ち会わせることなく,
888
889 B甲の取調べを開始した。
890
891 Rは,
892 甲に対し,
893 「乙という人物を知っているか。
894
895 殺人・窃盗事件に
896 乙が関係しているのではないか。
897
898 」と質問したところ,
899 甲は,
900 しばらく逡巡していたものの,
901 「乙
902 は友人で,
903 借金を肩代わりしてもらったことがある。
904
905 今回の殺人事件に乙は関係していないが,
906
907 実は,
908 ダイヤモンドの指輪は私が盗んだのではなく,
909 乙が盗んだものである。
910
911 以前,
912 私は,
913 乙に,
914
915 資産家であるいとこのWについて話したことがあった。
916
917 2月2日午後7時頃,
918 乙が寮の私の部屋
919 に来て,
920 『今日,
921 W方から盗んできた。
922
923 』と言ってダイヤモンドの指輪をただでくれた。
924
925 私は,
926 2
927 月3日午前中にその指輪を質入れしたが,
928 期待していたほどの金にならなかったので,
929 Wから借
930 金をしようと考え,
931 その日の午後1時頃にW方に行った。
932
933 しかし,
934 Wはおらず,
935 Vと口論になり
936 罵られてカッとなって,
937 ゴルフクラブでXを殺した。
938
939 金目の物を探したり盗んだりすることなく,
940
941 直ちにその場から逃げてゴルフクラブを捨てた。
942
943 殺害の方法はこれまで話してきたとおりであり,
944
945 私一人でしたことである。
946
947 そして,
948 私は,
949 乙には日頃から世話になっていたことから,
950 乙をかば
951 うために,
952 ダイヤモンドの指輪を私が盗んだと嘘をつき,
953 それとつじつまを合わせるために,
954 V
955 を殺したのは質入れの前日だということにした。
956
957 」と供述した。
958
959
960 その後,
961 Rは,
962 乙をも取り調べるなど所要の捜査を遂げた結果,
963 甲及び乙の各供述に矛盾はな
964 く,
965 本件の真相は,
966 甲が,
967 平成26年2月2日午後7時頃,
968 U建設会社従業員寮の甲の居室にお
969 いて,
970 乙から盗品と知りつつダイヤモンドの指輪を無償で譲り受け,
971 同月3日午後1時頃,
972 W方
973 居間において,
974 単独で,
975 Vを殺害した事件であると認め,
976 C公判において,
977 その旨立証するとの
978 方針を立てた。
979
980
981 〔設問1〕1. 【事例】中の4及び5に記載されている@及びAの甲の取調べの適法性について,
982
983 具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
984
985
986 2. 【事例】中の7に記載されているBの甲の取調べの適法性について,
987 具体的事実を
988 摘示しつつ論じなさい。
989
990
991 〔設問2〕
992
993 検察官は,
994 Cの方針を前提とした場合,
995 【資料】の公訴事実に関し,
996 どのような措置を
997 講じるべきかについて論じなさい。
998
999
1000
1001 - 4 -
1002
1003 【資料】
1004
1005 公
1006
1007 訴
1008
1009 事
1010
1011 実
1012
1013 被告人は
1014 第1 平成26年2月2日午後1時頃,
1015 L県M市N町○丁目△番地のW
1016 方居間において,
1017 Vに対し,
1018 殺意をもって,
1019 ゴルフクラブでその頭
1020 部等を多数回殴打し,
1021 よって,
1022 その頃,
1023 同所において,
1024 同人を頭部
1025 打撲に基づく脳挫滅により死亡させて殺害し
1026 第2 前記日時場所において,
1027 同人所有の指輪1個を窃取し
1028 たものである。
1029
1030
1031
1032 - 5 -
1033
1034