1 論文式試験問題集
2 [法律実務基礎科目(民事・刑事)]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 事](〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,
9 8:16:4:14:8)
10
11 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
12 以下の各設問に答えなさい。
13
14
15 〔設問1〕
16 弁護士Pは,
17 Xから次のような相談を受けた。
18
19
20 【Xの相談内容】
21 「私の父Yは,
22 その妻である私の母が平成14年に亡くなって以来,
23 Yが所有していた甲土地
24 上の古い建物(以下「旧建物」といいます。
25
26 )に1人で居住していました。
27
28 平成15年初め頃,
29
30 Yが,
31 生活に不自由を来しているので同居してほしいと頼んできたため,
32 私と私の妻子は,
33 甲土
34 地に引っ越してYと同居することにしました。
35
36 Yは,
37 これを喜び,
38 旧建物を取り壊した上で,
39
40 土地を私に無償で譲ってくれました。
41
42 そこで,
43 私は,
44 甲土地上に新たに建物(以下「新建物」と
45 いいます。
46
47 )を建築し,
48 Yと同居を始めました。
49
50 ちなみにYから甲土地の贈与を受けたのは,
51
52 が新建物の建築工事を始めた平成15年12月1日のことで,
53 その日,
54 私はYから甲土地の引渡
55 しも受けました。
56
57
58 ところが,
59 新建物の完成後に同居してみると,
60 Yは私や妻に対しささいなことで怒ることが多
61 く,
62 とりわけ,
63 私が退職した平成25年春には,
64 Yがひどい暴言を吐くようになり,
65 ついには遠
66 方にいる弟Aの所に勝手に出て行ってしまいました。
67
68
69 平成25年10月頃,
70 Aから電話があり,
71 甲土地はAに相続させるとYが言っているとの話を
72 聞かされました。
73
74 さすがにびっくりするとともに,
75 とても腹が立ちました。
76
77 親子なので書類は作
78 っていませんが,
79 Yは,
80 甲土地が既に私のものであることをよく分かっているはずです。
81
82 平成1
83 6年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っているのも私です。
84
85 もちろん母がいると
86 きのようには生活できなかったかもしれませんが,
87 私も妻もYを十分に支えてきました。
88
89
90 甲土地は,
91 Yの名義のままになっていますので,
92 この機会に,
93 私は,
94 Yに対し,
95 所有権の移
96 転登記を求めたいと考えています。
97
98
99 弁護士Pは,
100 【Xの相談内容】を受けて甲土地の登記事項証明書を取り寄せたところ,
101 昭和58
102 年12月1日付け売買を原因とするY名義の所有権移転登記(詳細省略)があることが明らかとな
103 った。
104
105 弁護士Pは,
106 【Xの相談内容】を前提に,
107 Xの訴訟代理人として,
108 Yに対し,
109 贈与契約に基
110 づく所有権移転登記請求権を訴訟物として,
111 所有権移転登記を求める訴えを提起することにした。
112
113
114 以上を前提に,
115 以下の各問いに答えなさい。
116
117
118 (1) 弁護士Pが作成する訴状における請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項)を記載しなさい。
119
120
121 (2) 弁護士Pは,
122 その訴状において,
123 「Yは,
124 Xに対し,
125 平成15年12月1日,
126 甲土地を贈与し
127 た。
128
129 」との事実を主張したが,
130 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)は,
131 この
132 事実のみで足りるか。
133
134 結論とその理由を述べなさい。
135
136
137 〔設問2〕
138 上記訴状の副本を受け取ったYは,
139 弁護士Qに相談した。
140
141 贈与の事実はないとの事情をYから聴
142 取した弁護士Qは,
143 Yの訴訟代理人として,
144 Xの請求を棄却する,
145 贈与の事実は否認する旨記載し
146 た答弁書を提出した。
147
148
149 平成26年2月28日の本件の第1回口頭弁論期日において,
150 弁護士Pは訴状を陳述し,
151 弁護士
152 Qは答弁書を陳述した。
153
154 また,
155 同期日において,
156 弁護士Pは,
157 次回期日までに,
158 時効取得に基づい
159
160 - 2 -
161
162 て所有権移転登記を求めるという内容の訴えの追加的変更を申し立てる予定であると述べた。
163
164
165 弁護士Pは,
166 第1回口頭弁論期日後にXから更に事実関係を確認し,
167 訴えの追加的変更につきX
168 の了解を得て,
169 訴えの変更申立書を作成し,
170 請求原因として次の各事実を記載した。
171
172
173 @ Xは,
174 平成15年12月1日,
175 甲土地を占有していた。
176
177
178 A
179
180 〔ア〕
181
182 B
183
184 無過失の評価根拠事実
185 平成15年11月1日,
186 Yは,
187 Xに対し,
188 旧建物において,
189 「明日からこの建物を取り壊
190 す。
191
192 取り壊したら,
193 甲土地はお前にただでやる。
194
195 いい建物を頼むぞ。
196
197 」と述べ,
198 甲土地の登
199 記済証(権利証)を交付した。
200
201 〔以下省略〕
202
203 C
204
205 Xは,
206 Yに対し,
207 本申立書をもって,
208 甲土地の時効取得を援用する。
209
210
211
212 D
213
214 〔イ〕
215
216 E
217
218 よって,
219 Xは,
220 Yに対し,
221 所有権に基づき,
222 甲土地について,
223 上記時効取得を原因とする
224 所有権移転登記手続をすることを求める。
225
226
227
228 以上を前提に,
229 以下の各問いに答えなさい。
230
231
232 (1) 上記〔ア〕及び〔イ〕に入る具体的事実を,
233 それぞれ答えなさい。
234
235
236 (2) 上記@からDまでの各事実について,
237 請求原因事実としてそれらの事実を主張する必要があり,
238
239 かつ,
240 これで足りると考えられる理由を,
241 実体法の定める要件や当該要件についての主張・立
242 証責任の所在に留意しつつ説明しなさい。
243
244
245 (3) 上記B無過失の評価根拠事実(甲土地が自己の所有に属すると信じるにつき過失はなかったと
246 の評価を根拠付ける事実)に該当するとして,
247 「Xは平成16年から現在まで甲土地の固定資産
248 税等の税金を支払っている。
249
250 」を主張することは適切か。
251
252 結論とその理由を述べなさい。
253
254
255 〔設問3〕
256 上記訴えの変更申立書の副本を受け取った弁護士Qは,
257 Yに事実関係の確認をした。
258
259 Yの相談内
260 容は次のとおりである。
261
262
263 【Yの相談内容】
264 「私は,
265 長男Xと次男Aの独立後しばらくたった昭和58年12月1日,
266 甲土地及び旧建物
267 を前所有者であるBから代金3000万円で購入して所有権移転登記を取得し,
268 妻と生活して
269 いました。
270
271
272 その後,
273 妻が亡くなってしまい,
274 私も生活に不自由を来すようになりましたので,
275 Xに同居
276 してくれるよう頼みました。
277
278 Xは,
279 甲土地であれば通勤等が便利だと言って喜んで賛成してく
280 れました。
281
282 私とXは,
283 旧建物は私の方で取り壊すこと,
284 甲土地をXに無償で貸すこと,
285 Xの方
286 で二世帯が住める住宅を建てることを決めました。
287
288
289 しかし,
290 いざ新建物で同居してみると,
291 だんだんと一緒に生活することが辛くなり,
292 平成2
293 5年春,
294 Aに頼んでAの所で生活をさせてもらうことにしました。
295
296
297 このような次第ですので,
298 私が甲土地上の旧建物を取り壊して甲土地をXに引き渡したこと,
299
300 Xに甲土地を引き渡したのが新建物の建築工事が始まった平成15年12月1日であり,
301 それ
302 以来Xが甲土地を占有していること,
303 Xが新建物を所有していることは事実ですが,
304 私はXに
305 対し甲土地を無償で貸したのであって,
306 贈与したのではありません。
307
308 平成15年12月1日に
309 私とXが会って新築工事の話をしましたが,
310 その際に甲土地を贈与するという話は一切出てい
311 ませんし,
312 書類も作っていません。
313
314 私には所有権の移転登記をすべき義務はないと思います。
315
316
317 弁護士Qは,
318 【Yの相談内容】を踏まえて,
319 どのような抗弁を主張することになると考えられる
320 - 3 -
321
322 か。
323
324 いずれの請求原因に関するものかを明らかにした上で,
325 当該抗弁の内容を端的に記載しなさい
326 (なお,
327 無過失の評価障害事実については記載する必要はない。
328
329 )。
330
331
332 〔設問4〕
333 第1回弁論準備手続期日において,
334 弁護士Pは訴えの変更申立書を陳述し,
335 弁護士Qは前記抗弁
336 等を記載した準備書面を陳述した。
337
338 その後,
339 弁論準備手続が終結し,
340 第2回口頭弁論期日において,
341
342 弁論準備手続の結果の陳述を経て,
343 XとYの本人尋問が行われた。
344
345 本人尋問におけるXとYの供述
346 内容の概略は,
347 以下のとおりであった。
348
349
350 【Xの供述内容】
351 「私は,
352 平成15年11月1日,
353 旧建物に行き,
354 Yと今後の相談をしました。
355
356 その際,
357 Yは,
358
359 私に対し,
360 『明日からこの建物を取り壊す。
361
362 取り壊したら,
363 甲土地はお前にただでやる。
364
365 いい建
366 物を頼むぞ。
367
368 』と述べ,
369 甲土地の登記済証(権利証)を交付してくれました。
370
371 私は,
372 Yと相談し
373 て,
374 Yの要望に沿った二世帯住宅を建築することにし,
375 Yが住みやすいような間取りにしました。
376
377
378 新建物は,
379 仮にYが亡くなった後も,
380 私や私の妻子が末永く住めるよう私が依頼して鉄筋コンク
381 リート造の建物としました。
382
383
384 平成15年12月1日,
385 更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,
386 Yと甲
387 土地で会いました。
388
389 Yは,
390
391 『今日からこの土地はお前の土地だ。
392
393 ただでやる。
394
395 同居が楽しみだな。
396
397
398 と言ってくれ,
399 私も『ありがとう。
400
401 』と答えました。
402
403
404 私はその日に土地の引渡しを受け,
405 工事を開始し,
406 新建物を建築しました。
407
408 その後,
409 私は,
410
411 土地の登記済証(権利証)を保管し,
412 平成16年以降,
413 甲土地の固定資産税等の税金を支払い,
414
415 Yが勝手に出て行った平成25年春までは,
416 その生活の面倒も見てきました。
417
418
419 新建物の建築費用は3000万円で,
420 私の預貯金から出しました。
421
422 移転登記については,
423 いず
424 れすればよいと思ってそのままにし,
425 贈与税の申告もしていませんでした。
426
427 なお,
428 親子のことで
429 すから,
430 贈与の書面は作っていませんが,
431 Yが事実と異なることを言っているのは,
432 Aと同居を
433 始めたからに違いありません。
434
435
436 【Yの供述内容】
437 「私は,
438 平成15年11月1日,
439 旧建物で,
440 Xと今後の相談をしましたが,
441 その際,
442 私は,
443
444 Xに対し,
445 『明日からこの建物を取り壊す。
446
447 取り壊したら,
448 甲土地はお前に無償で貸す。
449
450 いい建
451 物を頼むぞ。
452
453 』と言ったのであって,
454 『譲渡する』とは言っていません。
455
456 Xには,
457 生活の面倒を
458 見てもらい,
459 甲土地の固定資産税等の支払いをしてもらい,
460 正直,
461 私が死んだら,
462 甲土地はX
463 に相続させようと考えていたのは事実ですが,
464 生前に贈与するつもりはありませんでしたし,
465
466 贈与の書類も作っていません。
467
468 なお,
469 甲土地の登記済証(権利証)を交付しましたが,
470 これは
471 旧建物を取り壊す際に,
472 Xに保管を依頼したものです。
473
474
475 平成15年12月1日,
476 更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,
477 Xと
478 甲土地で会いましたが,
479 私が言ったのは,
480 『今日からこの土地はお前に貸してやる。
481
482 お金はいら
483 ない。
484
485 』ということです。
486
487 その日からXが新建物の工事を始め,
488 私の意向を踏まえた二世帯住宅
489 が建ち,
490 私たちは同居を始めました。
491
492
493 しかし,
494 いざ新建物で同居してみると,
495 Xらは私を老人扱いしてささいなことも制約しよう
496 としましたので,
497 だんだんと一緒に生活することが辛くなり,
498 平成25年春,
499 別居せざるを得
500 なくなったのです。
501
502 Xには,
503 誰のおかげでここまで来れたのか,
504 もう一度よく考えてほしいと
505 思います。
506
507
508 本人尋問終了後に,
509 弁護士Qは,
510 次回の第3回口頭弁論期日までに,
511 当事者双方の尋問結果に基
512 - 4 -
513
514 づいて準備書面を提出する予定であると陳述した。
515
516 弁護士Qは,
517 「Yは,
518 Xに対し,
519 平成15年1
520 2月1日,
521 甲土地を贈与した。
522
523 」とのXの主張に関し,
524 法廷におけるXとYの供述内容を踏まえて,
525
526 Xに有利な事実への反論をし,
527 Yに有利な事実を力説して,
528 Yの主張の正当性を明らかにしたいと
529 考えている。
530
531
532 この点について,
533 弁護士Qが作成すべき準備書面の概略を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさ
534 い。
535
536
537 〔設問5〕
538 弁護士Qは,
539 Yから本件事件を受任するに当たり,
540 Yに対し,
541 事件の見通し,
542 処理方法,
543 弁護士
544 報酬及び費用について一通り説明した上で,
545 委任契約を交わした。
546
547 その際,
548 Yから「私も高齢で,
549
550 難しい法律の話はよく分からない。
551
552 息子のAに全て任せているから,
553 今後の細かい打合せ等につい
554 ては,
555 Aとやってくれ。
556
557 」と言われ,
558 弁護士Qは,
559 日頃Aと懇意にしていたこともあったため,
560
561 の後の訴訟の打合せ等のやりとりはAとの間で行っていた。
562
563
564 第3回口頭弁論期日において裁判所から和解勧告があり,
565 XY間において,
566 YがXに対し甲土地
567 の所有権移転登記手続を行うのと引換えにXがYに対し1500万円を支払うとの内容の和解が成
568 立したが,
569 弁護士Qは,
570 その際の意思確認もAに行った。
571
572 また,
573 弁護士Qは,
574 和解成立後の登記手
575 続等についても,
576 Aから所有権移転登記手続書類を預かり,
577 その交付と引換えにXから1500万
578 円の支払を受けた。
579
580 さらに,
581 弁護士Qは,
582 受領した1500万円から本件事件の成功報酬を差し引
583 いて,
584 残額については,
585 Aの指示により,
586 A名義の銀行口座に送金して返金した。
587
588
589 弁護士Qの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか,
590 司法試験予備試験用法文中の弁護士職
591 務基本規程を適宜参照して答えなさい。
592
593
594
595 - 5 -
596
597 [刑
598
599 事]
600
601 次の【事例】を読んで,
602 後記〔設問〕に答えなさい。
603
604
605 【事
606
607
608 例】
609 A(男性,
610 22歳)は,
611 平成26年2月1日,
612 V(男性,
613 40歳)を被害者とする強盗致傷
614 罪の被疑事実で逮捕され,
615 翌2日から勾留された後,
616 同月21日,
617
618 「被告人は,
619 Bと共謀の上,
620
621 通行人から金品を強取しようと企て,
622 平成26年1月15日午前零時頃,
623 H県I市J町1丁目
624 2番3号先路上において,
625 同所を通行中のV(当時40歳)に対し,
626 Bにおいて,
627 Vの後頭部
628 をバットで1回殴り,
629 同人が右手に所持していたかばんを強く引いて同人を転倒させる暴行を
630 加え,
631 その反抗を抑圧した上,
632 同人所有の現金10万円が入った財布等2点在中の前記かばん
633 1個(時価合計約1万円相当)を強取し,
634 その際,
635 同人に加療約1週間を要する頭部挫創の傷
636 害を負わせた。
637
638 」との公訴事実が記載された起訴状により,
639 I地方裁判所に公訴を提起された。
640
641
642 なお,
643 B(男性,
644 22歳)は,
645 Aが公訴を提起される前の同年2月6日に同裁判所に同罪で公
646 訴を提起されていた。
647
648
649
650
651
652 Aの弁護人は,
653 Aが勾留された後,
654 数回にわたりAと接見した。
655
656 Aは,
657 逮捕・勾留に係る被
658 疑事実につき,
659 同弁護人に対し,
660 「私は,
661 平成26年1月14日午後11時頃,
662 友人Bの家に
663 居た際,
664 Bから『ひったくりをするから,
665 一緒に来てくれ。
666
667 車を運転してほしい。
668
669 ひったくり
670 をする相手が見付かったら,
671 俺だけ車から降りてひったくりをするから,
672 俺が戻るまで車で待
673 っていてほしい。
674
675 俺が車に戻ったらすぐに車を発進させて逃げてくれ。
676
677 』と頼まれた。
678
679 Bから
680 ひったくりの手伝いを頼まれたのは,
681 この時が初めてである。
682
683 私は,
684 Bが通行人の隙を狙って
685 かばんなどを奪って逃げてくるのだと思った。
686
687 私は金に困っておらず,
688 ひったくりが成功した
689 際に分け前をもらえるかどうかについては何も聞かなかったが,
690 私自身がひったくりをするわ
691 けでもないので自動車を運転するくらいなら構わないと思い,
692 Bの頼みを引き受けた。
693
694 その後,
695
696 私は,
697 先にBの家を出て,
698 その家に来る際に乗ってきていた私の自動車の運転席に乗った。
699
700
701 ばらくしてから,
702 Bが私の自動車の助手席に乗り込んだ。
703
704 Bが私の自動車に乗り込んだ際,
705
706 は,
707 Bがバットを持っていることに気付かなかった。
708
709 そして,
710 私が自動車を運転して,
711 I市内
712 の繁華街に向かった。
713
714 車内では,
715 どうやってかばんなどをひったくるのかについて何も話をし
716 なかった。
717
718 私は,
719 しばらく繁華街周辺の人気のない道路を走り,
720 翌15日午前零時前頃,
721 かば
722 んを持って一人で歩いている男性を見付けた。
723
724 その男性がVである。
725
726 Bも,
727 Vがかばんを持っ
728 て歩いていることに気付き,
729 私に『あの男のかばんをひったくるから,
730 車を止めてくれ。
731
732 』と
733 言ってきた。
734
735 私が自動車を止めると,
736 Bは一人で助手席から降り,
737 Vの後を付けて行った。
738
739
740 の時,
741 周囲が暗く,
742 私は,
743 Bがバットを持っていることには気付かなかったし,
744 BがVに暴力
745 を振るうとは思っていなかった。
746
747 その後,
748 私からは,
749 VとBの姿が見えなくなった。
750
751 私は,
752
753 動車の運転席で待機していた。
754
755 しばらくすると,
756 Bが私の自動車の方に走ってきたが,
757 VもB
758 の後を追い掛けて走ってきた。
759
760 私は,
761 Bが自動車の助手席に乗り込むや,
762 すぐに自動車を発進
763 させてその場から逃げた。
764
765 Bがかばんを持っていたので,
766 私は,
767 ひったくりが成功したのだと
768 思ったが,
769 BがVに暴力を振るったとは思っていなかった。
770
771 私とBは,
772 Bの家に戻ってから,
773
774 一緒にかばんの中身を確認した。
775
776 かばんには財布と携帯電話機1台が入っており,
777 財布の中に
778 は現金10万円が入っていた。
779
780 Bが,
781 私に2万円を渡してきたので,
782 私は,
783 自動車を運転した
784 謝礼としてこれを受け取った。
785
786 残りの8万円はBが自分のものにした。
787
788 財布や携帯電話機,
789
790 ばんについては,
791 Bが自分のものにしたか,
792 あるいは捨てたのだと思う。
793
794 私は,
795 Bからもらっ
796 た2万円を自分の飲食費などに使った。
797
798 」旨説明した。
799
800 Aは,
801 前記1のとおり公訴を提起され
802 た後も,
803 同弁護人に前記説明と同じ内容の説明をした。
804
805
806
807 - 6 -
808
809
810
811 受訴裁判所は,
812 同年2月24日,
813 Aに対する強盗致傷被告事件を公判前整理手続に付する決
814 定をした。
815
816 検察官は,
817 同年3月3日,
818 【別紙1】の証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁
819 護人に提出・送付するとともに,
820 同裁判所に【別紙2】の証拠の取調べを請求し,
821 Aの弁護人
822 に当該証拠を開示した。
823
824 Aの弁護人が当該証拠を閲覧・謄写したところ,
825 その概要は次のとお
826 りであった。
827
828
829
830 (1)
831
832 甲第1号証の診断書には,
833 Vの受傷について,
834 同年1月15日から加療約1週間を要する
835
836 頭部挫創の傷害と診断する旨が記載されていた。
837
838
839 (2)
840
841 甲第2号証の実況見分調書には,
842 司法警察員が,
843 Vを立会人として,
844 同日午前2時から同
845
846 日午前3時までの間,
847 Vがかばんを奪われるなどの被害に遭った事件現場としてH県I市J
848 町1丁目2番3号先路上の状況を見分した結果が記載されており,
849 同所付近には街灯が少な
850 く,
851 夜間は非常に暗いこと,
852 同路上の通行量はほとんどなく,
853 実況見分中の1時間のうちに
854 通行人2名が通過しただけであったことなども記載されていた。
855
856
857 (3)
858
859 甲第3号証のバット1本は,
860 木製で,
861 長さ約90センチメートル,
862 重さ約1キログラムの
863
864 ものであった。
865
866
867 (4)
868
869 甲第4号証のVの検察官調書には,
870 「私は,
871 平成26年1月15日午前零時頃,
872 勤務先か
873
874 ら帰宅するためI市内の繁華街に近い道路を一人で歩いていたところ,
875 いきなり何者かに後
876 頭部を固い物で殴られ,
877 右手に持っていたかばんを強く引っ張られて仰向けに転倒した。
878
879
880 は,
881 仰向けに転倒した拍子にかばんから手を離した。
882
883 すると,
884 この時,
885 私のすぐそばに男が
886 立っており,
887 その男が左手にバットを持ち,
888 右手に私のかばんを持っているのが見えた。
889
890
891 こで,
892 私は,
893 その男にバットで後頭部を殴られたのだと分かった。
894
895 男は,
896 私のかばんを持っ
897 て逃げたが,
898 その際,
899 バットを地面に落としていった。
900
901 かばんには,
902 財布と携帯電話機1台
903 を入れており,
904 財布の中には,
905 現金10万円を入れていた。
906
907 男にかばんを奪われた後,
908 私は,
909
910 すぐに男を追い掛けたが,
911 男が自動車に乗って逃げたため,
912 捕まえることはできなかった。
913
914
915 旨記載されていた。
916
917
918 (5)
919
920 甲第5号証のBの検察官調書には,
921 「私は,
922 サラ金に約50万円の借金を抱え,
923 平成26
924
925 年1月15日に事件を起こす1週間くらい前から,
926 遊ぶ金欲しさに,
927 通行人からかばんなど
928 をひったくることを考えていた。
929
930 通行人からかばんなどをひったくる際には抵抗されること
931 も予想し,
932 そのときは相手を殴ってでもかばんなどを奪おうと考えていた。
933
934 私は,
935 同月14
936 日午後11時頃,
937 私の自宅に来ていた友人Aに『ひったくりをするから,
938 一緒に来てくれな
939 いか。
940
941 車を運転してほしい。
942
943 ひったくりをする相手が見付かったら,
944 俺が一人で車から降り
945 てひったくりをするから,
946 その間,
947 車で待っていてくれ。
948
949 俺が車に戻ったら,
950 すぐに車を走
951 らせて逃げてほしい。
952
953 』と頼んだ。
954
955 Aは,
956 快く引き受けてくれて,
957 Aの自動車でI市内の繁
958 華街に行くことを話し合った。
959
960 私は,
961 かばんなどを奪う相手に抵抗されたりした場合にはそ
962 の相手をバットで殴ったり脅したりしようと考え,
963 自分の部屋からバット1本を持ち出し,
964
965 そのバットを持ってAの自動車の助手席に乗った。
966
967 そして,
968 Aが自動車を運転して繁華街に
969 向かい,
970 その周辺の道路を走行しながら,
971 ひったくりの相手を探した。
972
973 車内では,
974 どうやっ
975 てかばんなどを奪うのかについて話はしなかった。
976
977 私は,
978 かばんを持って一人で歩いている
979 男性Vを見付けたので,
980 Aに停車してもらってから,
981 私一人でバットを持って降車し,
982 Vの
983 後を付けて行った。
984
985 私がバットを持って自動車に乗ったことや,
986 バットを持って自動車から
987 降りたことは,
988 Aも自動車の運転席に居たのだから,
989 当然気付いていたと思う。
990
991 私は,
992 降車
993 してしばらくVを追跡してから,
994 同月15日午前零時頃,
995 背後からVに近付き,
996 いきなりV
997 が右手に持っていたかばんをつかんで後ろに引っ張った。
998
999 この時,
1000 Vが後方に転倒して頭部
1001 を地面に打ち付け,
1002 かばんから手を離したので,
1003 私は,
1004 すぐにかばんを取ることができた。
1005
1006
1007 私は,
1008 Vを転倒させようと思ってかばんを引っ張ったわけではなく,
1009 バットで殴りもしなか
1010 った。
1011
1012 かばんを奪った直後,
1013 私は,
1014 手を滑らせてバットをその場に落としてしまったが,
1015
1016 - 7 -
1017
1018 がすぐに立ち上がって私を捕まえようとしたので,
1019 バットをその場に残したままAの自動車
1020 まで走って逃げた。
1021
1022 私は,
1023 Vに追い掛けられたが,
1024 私がAの自動車の助手席に乗り込むとA
1025 がすぐに自動車を発進させてくれたので,
1026 逃げ切ることができた。
1027
1028 その後,
1029 私とAは,
1030 私の
1031 自宅に戻り,
1032 Vのかばんの中身を確認した。
1033
1034 かばんには,
1035 財布と携帯電話機1台が入ってお
1036 り,
1037 財布には現金10万円が入っていた。
1038
1039 そこで,
1040 私は,
1041 Aに,
1042 自動車を運転してくれた謝
1043 礼として現金2万円を渡し,
1044 残り8万円を自分の遊興費に使った。
1045
1046 財布や携帯電話機,
1047 かば
1048 んは,
1049 私がいずれもゴミとして捨てた。
1050
1051 」旨記載されていた。
1052
1053
1054 (6)
1055
1056 乙第1号証のAの警察官調書には,
1057 Aの生い立ちなどが記載されており,
1058 乙第2号証のA
1059
1060 の検察官調書には,
1061 前記2のとおりAが自己の弁護人に説明した内容と同じ内容が記載され
1062 ていた。
1063
1064 乙第3号証の身上調査照会回答書には,
1065 Aの戸籍の内容が記載されていた。
1066
1067
1068
1069
1070 Aの弁護人は,
1071 【別紙1】の証明予定事実記載書及び【別紙2】の検察官請求証拠を検討し
1072 た後,
1073 @同証明予定事実記載書の内容につき,
1074 受訴裁判所裁判長に対して求釈明を求める方針
1075 を定め,
1076 また,
1077 A検察官に対し,
1078 【別紙2】の検察官請求証拠の証明力を判断するため,
1079 類型
1080 証拠の開示を請求した。
1081
1082 そこで,
1083 検察官は,
1084 当該開示請求に係る証拠をAの弁護人に開示した。
1085
1086
1087 その後,
1088 同年3月14日,
1089 Aに対する強盗致傷被告事件につき,
1090 第1回公判前整理手続期日
1091 が開かれた。
1092
1093 裁判長は,
1094 Aの弁護人からの前記求釈明の要求に応じて,
1095 検察官に釈明を求めた。
1096
1097
1098 そこで,
1099 検察官は,
1100 今後,
1101 証明予定事実記載書を追加して提出することにより釈明する旨述べ
1102 た。
1103
1104
1105 第1回公判前整理手続期日が終了した後,
1106 検察官は,
1107 追加の証明予定事実記載書を受訴裁判
1108 所及びAの弁護人に提出・送付した。
1109
1110 Aの弁護人は,
1111 BがVの後頭部をバットで殴打したか否
1112 かなどの実行行為の態様については,
1113 甲第4号証のVの検察官調書が信用性に乏しく,
1114 甲第5
1115 号証のBの検察官調書が信用できると考えた。
1116
1117 その上で,
1118 BAの弁護人は,
1119 前記2のAの説明
1120 内容に基づいて予定主張記載書面を作成し,
1121 これを受訴裁判所及び検察官に提出・送付した。
1122
1123
1124 同月28日,
1125 第2回公判前整理手続期日が開かれ,
1126 受訴裁判所は,
1127 争点及び証拠を整理し,
1128
1129 V及びBの証人尋問が実施されることとなった。
1130
1131 そして,
1132 同裁判所は,
1133 争点及び証拠の整理結
1134 果を確認して審理計画を策定し,
1135 公判前整理手続を終結した。
1136
1137 公判期日は,
1138 同年5月19日か
1139 ら同月21日までの連日と定められた。
1140
1141
1142
1143
1144
1145 その後,
1146 Bに対する強盗致傷被告事件の公判が,
1147 同年4月21日から同月23日まで行われ
1148 た。
1149
1150 Bは,
1151 同公判の被告人質問において,
1152 「実は,
1153 起訴されるまでの取調べにおいては嘘の話
1154 をしていた。
1155
1156 本当は,
1157 平成26年1月14日午後11時頃,
1158 自宅において,
1159 Aに対し本件犯行
1160 への協力を求めた際,
1161 Aから『バットを持って行けばよい。
1162
1163 』と勧められた。
1164
1165 また,
1166 Vを襲っ
1167 た時,
1168 バットでVの後頭部を殴ってから,
1169 Vのかばんを引っ張った。
1170
1171 」旨新たに供述した。
1172
1173
1174 こで,
1175 Aの公判を担当する検察官が,
1176 同年4月24日にBを取り調べたところ,
1177 Bは自己の公
1178 判で供述した内容と同旨の供述をしたが,
1179 その一方で「Aの前では,
1180 Aに責任が及ぶことにつ
1181 いて話しづらいので,
1182 Aの公判では,
1183 できることなら話したくない。
1184
1185 今日話したことについて
1186 は,
1187 供述調書の作成にも応じたくない。
1188
1189 」旨供述した。
1190
1191 C同検察官は,
1192 取調べの結果,
1193 Bが自
1194 己の公判で新たにした供述の内容が信用できると判断した。
1195
1196
1197
1198 - 8 -
1199
1200 〔設問1〕
1201 下線部@につき,
1202 Aの弁護人が求釈明を求める条文上の根拠を指摘するとともに,
1203 同弁護人が求
1204 釈明を求める事項として考えられる内容を挙げ,
1205 当該求釈明の要求を必要と考える理由を具体的に
1206 説明しなさい。
1207
1208
1209 〔設問2〕
1210 下線部Aにつき,
1211 Aの弁護人が甲第4号証のVの検察官調書の証明力を判断するために開示を請
1212 求する類型証拠として考えられるものを3つ挙げ,
1213 同弁護人が当該各証拠の開示を請求するに当た
1214 り明らかにしなければならない事項について,
1215 条文上の根拠を指摘しつつ具体的に説明しなさい。
1216
1217
1218 ただし,
1219 当該各証拠は,
1220 異なる類型に該当するものを3つ挙げることとする。
1221
1222
1223 〔設問3〕
1224 下線部Bにつき,
1225 Aの弁護人は,
1226 Aの罪責についていかなる主張をすべきか,
1227 その結論を示すと
1228 ともに理由を具体的に論じなさい。
1229
1230
1231 〔設問4〕
1232 下線部Cにつき,
1233 検察官は,
1234 Bが自己の公判で新たにした供述の内容をAの公訴事実の立証に用
1235 いるためにどのような訴訟活動をすべきか,
1236 予想されるAの弁護人の対応を踏まえつつ具体的に論
1237 じなさい。
1238
1239
1240
1241 - 9 -
1242
1243 【別紙2】
1244 検察官請求証拠
1245 甲号証
1246 番号
1247
1248 証拠の標目
1249
1250 立証趣旨
1251
1252 甲第1号証
1253
1254 診断書
1255
1256 Vの負傷部位・内容
1257
1258 甲第2号証
1259
1260 実況見分調書
1261
1262 犯行現場の状況
1263
1264 甲第3号証
1265
1266 バット1本
1267
1268 犯行に用いられたバットの存在及び形状
1269
1270 甲第4号証
1271
1272 Vの検察官調書
1273
1274 被害状況
1275
1276 甲第5号証
1277
1278 Bの検察官調書
1279
1280 犯行に至る経緯及び犯行の状況等
1281 乙号証
1282
1283 番号
1284
1285 証拠の標目
1286
1287 立証趣旨
1288
1289 乙第1号証
1290
1291 被告人の警察官調書
1292
1293 身上・経歴関係
1294
1295 乙第2号証
1296
1297 被告人の検察官調書
1298
1299 犯行に至る経緯及び犯行の状況等
1300
1301 乙第3号証
1302
1303 被告人の身上調査照会回答書
1304
1305 被告人の身上関係
1306
1307 - 11 -
1308
1309