1 平成26年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨
2 [憲
3
4 法]
5
6 A市内の全ての商店街には,
7 当該商店街に店舗を営む個人又は法人を会員とする商店会が組織
8 されている。
9
10 会員は,
11 店舗の大きさや売上高の多寡にかかわらず定額の会費を毎月納入し,
12 その会
13 費で,
14 防犯灯の役目を果たしている街路灯や商店街のネオンサイン等の設置・管理費用,
15 商店街の
16 イベント費用,
17 清掃美化活動費用などを賄っていた。
18
19 しかし,
20 A市内に古くからある商店街の多く
21 が,
22 いわゆるシャッター通りと化してしまい,
23 商店街の活動が不活発となっているだけでなく,
24 商
25 店街の街路灯等の管理にも支障が生じており,
26 防犯面でも問題が起きている。
27
28
29 A市内には,
30 大型店やチェーン店もある。
31
32 それらの多くは,
33 商店街を通り抜けた道路沿いにあ
34 る。
35
36 それらの大型店やチェーン店は,
37 商店街の街路灯やネオンサイン等によって立地上の恩恵を受
38 けているにもかかわらず,
39 それらの設置や管理等に掛かる費用を負担していない。
40
41 また,
42 大型店や
43 チェーン店は,
44 商店街のイベントに参加しないものの,
45 同時期にセールを行うことで集客増を図る
46 などしている。
47
48 大型店やチェーン店は,
49 営業成績が悪化しているわけでもないし,
50 商店会に加入し
51 なくても営業に支障がない。
52
53 それゆえ,
54 多くの大型店やチェーン店は,
55 商店街の活性化活動に非協
56 力的である。
57
58 このような大型店やチェーン店に対して,
59 全ての商店会から,
60 商店街がもたらす利便
61 に「タダ乗り」しているとする批判が寄せられている。
62
63 A市にとって,
64 市内全体での商業活動を活
65 性化するためにも,
66 古くからある商店街の活性化が喫緊の課題となっている。
67
68
69 このような状況に鑑みて,
70 A市は,
71 大型店やチェーン店を含む全てのA市内の店舗に対し,
72 最
73 寄りの商店会への加入を義務付ける「A市商店街活性化条例」(以下「本条例」という。
74
75 )を制定し
76 た。
77
78 本条例の目的は大きく分けて二つある。
79
80 第一の目的は,
81 共同でイベントを開催するなど大型店
82 やチェーン店を含む全ての店舗が協力することによって集客力を向上させ,
83 商店街及び市内全体で
84 の商業活動を活性化することである。
85
86 第二の目的は,
87 大型店やチェーン店をも含めた商店会を,
88 地
89 域における防犯体制等の担い手として位置付けることである。
90
91
92 本条例は,
93 商店会に納入すべき毎月の会費を,
94 売場面積と売上高に一定の率を乗じて算出され
95 る金額と定めている。
96
97 そして,
98 本条例によれば,
99 A市長は,
100 加入義務に違反する者が営む店舗に対
101 して,
102 最長で7日間の営業停止を命ずることができる。
103
104
105 A市内で最も広い売場面積を有し,
106 最も売上高が大きい大型店Bの場合,
107 加入するものとされ
108 ている商店会に毎月納入しなければならない会費の額が,
109 その商店会の会員が納入する平均的な金
110 額の約50倍となる。
111
112 そこで,
113 大型店Bを営むC社としては,
114 このような加入義務は憲法に違反し
115 ていると考え,
116 当該商店会に加入しなかったために,
117 A市長から,
118 7日間の営業停止処分を受けた。
119
120
121 その結果,
122 大型店Bの収益は大幅に減少した。
123
124
125 C社は,
126 A市を被告として,
127 本条例が違憲であると主張して,
128 国家賠償請求訴訟を提起した。
129
130
131
132 〔設問1〕
133 あなたがC社の訴訟代理人であるとしたら,
134 どのような憲法上の主張を行うか。
135
136
137 なお,
138 本条例による会費の算出方法の当否及び営業停止処分の日数の相当性については,
139 論
140 じなくてよい。
141
142
143 〔設問2〕
144 想定される被告側の反論を簡潔に述べた上で,
145 あなた自身の見解を述べなさい。
146
147
148
149 (出題趣旨)
150 本問は,
151 職業の自由に対する制約,
152 そして結社の自由に対する制約の合憲性に関
153 する出題である。
154
155 職業の自由の制約に関しては,
156 近時,
157 規制目的二分論に言及する
158 ことなく判断している最高裁判例(最三判平成12年2月8日刑集第54巻2号1
159 頁,
160 最三判平成17年4月26日判例時報1898号54頁)や租税の適正かつ確
161 実な賦課徴収という第三の目的が示された最高裁判例(最三判平成4年12月15
162 日民集第46巻9号2829頁)があり,
163 まずは,
164 規制目的二分論の有効性自体を
165 検討する必要がある。
166
167 その上で,
168 設問の条例の目的を政策的目的と位置付けるとし
169 ても,
170 その具体的内容や制約の合憲性審査の手法につき,
171 定型的でない丁寧な論証
172 が求められる。
173
174 さらに,
175 設問の条例は,
176 目的達成手段として強制加入制を採用して
177 いる点において,
178 結社の自由への制約の問題についても検討する必要がある。
179
180 強制
181 加入制の合憲性をめぐっては,
182 南九州税理士会事件(最三判平成8年3月19日民
183 集第50巻3号615頁),
184 群馬司法書士会事件(最一判平成14年4月25日判
185 例時報1785号31頁)などで争われており,
186 これらの判例も念頭に置きつつ,
187
188 本問の条例では,
189 条例が定める目的を達成するための手段として,
190 営利法人に対し
191 て団体への加入を義務付け,
192 さらに,
193 違反に対して最長7日間の営業停止という処
194 分を課すことができるとしている点などを踏まえ,
195 制裁で担保された強制加入制の
196 合憲性を論じる必要がある。
197
198
199
200 [行政法]
201 A県は,
202 漁港漁場整備法(以下「法」という。
203
204 )に基づき,
205 漁港管理者としてB漁港を管理して
206 いる。
207
208 B漁港の一部には公共空地(以下「本件公共空地」という。
209
210 )があり,
211 Cは,
212 A県の執行機
213 関であるA県知事から,
214 本件公共空地の一部(以下「本件敷地」という。
215
216 )につき,
217 1981年8
218 月1日から2014年7月31日までの期間,
219 3年ごとに法第39条第1項による占用許可(以下
220 「占用許可」とは,
221 同法による占用許可をいう。
222
223 )を受けてきた。
224
225 そして,
226 1982年に本件敷地
227 に建物を建築し,
228 現在に至るまでその建物で飲食店を経営している。
229
230 同飲食店は,
231 本件公共空地の
232 近くにあった魚市場の関係者によって利用されていたが,
233 同魚市場は徐々に縮小され,
234 2012年
235 には廃止されて,
236 関係施設も含め完全に撤去されるに至った。
237
238 現在Cは,
239 観光客などの一般利用者
240 をターゲットとして飲食店の営業を継続し,
241 2013年には,
242 客層の変化に対応するために店内の
243 内装工事を行っている。
244
245 他方,
246 A県知事は,
247 魚市場の廃止に伴って,
248 観光客を誘引するために,
249 B
250 漁港その他の県内漁港からの水産物の直売所を本件敷地を含む土地に建設する事業(以下「本件事
251 業」という。
252
253 )の構想を,
254 2014年の初めに取りまとめた。
255
256 なお,
257 本件事業は,
258 法第1条にいう
259 漁港漁場整備事業にも,
260 法第39条第2項にいう特定漁港漁場整備事業にも,
261 該当するものではな
262 い。
263
264
265 Cは,
266 これまで受けてきた占用許可に引き続き,
267 2014年8月1日からも占用許可を受ける
268 ために,
269 本件敷地の占用許可の申請をした。
270
271 しかし,
272 A県知事は,
273 Cに対する占用許可が本件事業
274 の妨げになることに鑑みて,
275 2014年7月10日付けで占用不許可処分(以下「本件不許可処分」
276 という。
277
278 )をした。
279
280 Cは,
281 「Cは長期間継続して占用許可を受けてきたので,
282 本件不許可処分は占用
283 許可を撤回する処分と理解すべきである。
284
285 」という法律論を主張している。
286
287 A県側は,
288 「法第39条
289 第1項による占用許可をするか否かについて,
290 同条第2項に従って判断すべき場合は,
291 法第1条の
292 定める法の目的を促進する占用に限定されると解釈すべきである。
293
294 Cによる本件敷地の占用は,
295 法
296 第1条の定める法の目的を促進するものではないので,
297 Cに対し本件敷地の占用許可をするかどう
298 かについては,
299 その実質に照らし,
300 地方自治法第238条の4第7項が行政財産の使用許可につい
301 て定める基準に従って判断するべきである。
302
303 」という法律論を主張している。
304
305 なお,
306 B漁港は,
307 A
308 県の行政財産である。
309
310
311 A県の職員から,
312 Cがなぜ上記のような法律論を主張しているのか,
313 及び,
314 A県側の法律論は認
315 められるかについて,
316 質問を受けた弁護士Dの立場に立って,
317 以下の設問に解答しなさい。
318
319 なお,
320
321 法の抜粋を資料として掲げるので,
322 適宜参照しなさい。
323
324
325 〔設問1〕
326 本件不許可処分を,
327 占用許可申請を拒否する処分と理解する法律論と,
328 占用許可の撤回処分
329 と理解する法律論とを比べると,
330 後者の法律論は,
331 Cにとってどのような利点があるために,
332
333 Cが主張していると考えられるか。
334
335 行政手続法及び行政事件訴訟法の規定も考慮して答えなさ
336 い。
337
338
339 〔設問2〕
340 (1)
341
342 Cによる本件敷地の占用を許可するか否かについて,
343 法第39条第2項に従って判断する法
344 律論と,
345 A県側が主張するように,
346 地方自治法第238条の4第7項の定める基準に従って
347 判断する法律論とを比べると,
348 後者の法律論は,
349 A県側にとってどのような利点があるか。
350
351
352 両方の規定の文言及び趣旨を比較して答えなさい。
353
354
355
356 (2)
357
358 本件において,
359 A県側の上記の法律論は認められるか,
360 検討しなさい。
361
362
363
364 【資料】漁港漁場整備法(昭和25年法律第137号)(抜粋)
365 (目的)
366 第1条
367
368 この法律は,
369 水産業の健全な発展及びこれによる水産物の供給の安定を図るため,
370 環境との
371
372 調和に配慮しつつ,
373 漁港漁場整備事業を総合的かつ計画的に推進し,
374 及び漁港の維持管理を適正に
375 し,
376 もつて国民生活の安定及び国民経済の発展に寄与し,
377 あわせて豊かで住みよい漁村の振興に資
378 することを目的とする。
379
380
381 (漁港の保全)
382 第39条
383
384 漁港の区域内の水域又は公共空地において,
385 (中略)土地の一部の占用(中略)をしよう
386
387 とする者は,
388 漁港管理者の許可を受けなければならない。
389
390 (以下略)
391 2
392
393 漁港管理者は,
394 前項の許可の申請に係る行為が特定漁港漁場整備事業の施行又は漁港の利用を著
395 しく阻害し,
396 その他漁港の保全に著しく支障を与えるものでない限り,
397 同項の許可をしなければな
398 らない。
399
400
401
402 3〜8
403
404 (略)
405
406 (出題趣旨)
407 本問は,
408 漁港において公共空地の占用許可を継続的に受けてきた事業者が,
409 引き
410 続き占用許可を申請したところ,
411 不許可処分を受けたという事例に即して,
412 行政手
413 続,
414 行政訴訟及び行政処分の違法事由についての基本的な知識及び理解を試す趣旨
415 の問題である。
416
417 設問1では,
418 申請拒否処分と不利益処分について行政手続法が定め
419 る規律の相違や抗告訴訟で争う場合の行政事件訴訟上の規定の相違及び授益処分の
420 撤回の制限法理について論じること,
421 設問2では,
422 行政財産の目的外使用許可と行
423 政庁の裁量についての理解を前提とした上で,
424 行政庁が占用許可についてどのよう
425 な法的基準を用いて判断するべきかを,
426 関係規定及び関係制度の文言や趣旨並びに
427 本件の事実関係に照らして論じることが,
428 それぞれ求められている。
429
430
431
432 [民
433
434 法]
435
436 次の文章を読んで,
437 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
438
439
440 【事実】
441 1.Aは,
442 自宅近くにあるB所有の建物(以下「B邸」という。
443
444 )の外壁(れんが風タイル張り仕
445 上げ)がとても気に入り,
446 自己が所有する別荘(以下「A邸」という。
447
448 )を改修する際は,
449 B邸
450 のような外壁にしたいと思っていた。
451
452
453 2.Aは,
454 A邸の外壁が傷んできたのを機に,
455 外壁の改修をすることとし,
456 工務店を営むCにその
457 工事を依頼することにした。
458
459 Aは,
460 発注前にCと打合せをした際に,
461 CにB邸を実際に見せて,
462
463 A邸の外壁をB邸と同じ仕様にしてほしい旨を伝えた。
464
465
466 3.Cは,
467 B邸を建築した業者であるD社から,
468 B邸の外壁に用いられているタイルがE社製造の
469 商品名「シャトー」であることを聞いた。
470
471 CはE社に問い合わせ,
472 「シャトー」が出荷可能であ
473 ることを確認した。
474
475
476 4.Cは,
477 Aに対し,
478 Aの希望に沿った改修工事が可能である旨を伝えた。
479
480 そこで,
481 AとCは,
482 工
483 事完成を1か月後とするA邸の改修工事の請負契約を締結した。
484
485 Aは,
486 契約締結当日,
487 Cに対
488 し,
489 請負代金の全額を支払った。
490
491
492 5.工事の開始時に現場に立ち会ったAは,
493 A邸の敷地内に積み上げられたE社製のタイル「シャ
494 トー」の色がB邸のものとは若干違うと思った。
495
496 しかし,
497 Aは,
498 Cから,
499 光の具合で色も違っ
500 て見えるし,
501 長年の使用により多少変色するとの説明を受け,
502 また,
503 E社に問い合わせて確認
504 したから間違いないと言われたので,
505 Aはそれ以上何も言わなかった。
506
507
508 6.Cは,
509 【事実】5に記したA邸の敷地内に積み上げられたE社製のタイル「シャトー」を使用
510 して,
511 A邸の外壁の改修を終えた。
512
513 ところが,
514 Aは,
515 出来上がった外壁がB邸のものと異なる
516 感じを拭えなかったので,
517 直接E社に問い合わせた。
518
519 そして,
520 E社からAに対し,
521 タイル「シ
522 ャトー」の原料の一部につき従前使用していたものが入手しにくくなり,
523 最近になって他の原
524 料に変えた結果,
525 表面の手触りや光沢が若干異なるようになり,
526 そのため色も少し違って見え
527 るが,
528 耐火性,
529 防水性等の性能は同一であるとの説明があった。
530
531 また,
532 Aは,
533 B邸で使用した
534 タイルと完全に同じものは,
535 特注品として注文を受けてから2週間あれば製作することができ
536 る旨をE社から伝えられた。
537
538
539 7.そこで,
540 Aは,
541 Cに対し,
542 E社から特注品であるタイルの納入を受けた上でA邸の改修工事
543 をやり直すよう求めることにし,
544 特注品であるタイルの製作及び改修工事のために必要な期間
545 を考慮して,
546 3か月以内にその工事を完成させるよう請求した。
547
548
549 〔設問1〕
550 【事実】7に記したAの請求について,
551 予想されるCからの反論を踏まえつつ検討しなさい。
552
553
554 【事実(続き)】
555 8.
556 【事実】7に記したAの請求があった後3か月が経過したが,
557 Cは工事に全く着手しなかった。
558
559
560 そこで,
561 嫌気がさしたAは,
562 A邸を2500万円でFに売却し,
563 引き渡すとともに,
564 その代金
565 の全額を受領した。
566
567
568 9.なお,
569 A邸の外壁に現在張られているタイルは,
570 性能上は問題がなく,
571 B邸に使用されている
572 ものと同じものが用いられていないからといって,
573 A邸の売却価格には全く影響していない。
574
575
576
577 〔設問2〕
578 Aは,
579 A邸をFに売却した後,
580 Cに対し,
581 外壁の改修工事の不備を理由とする損害の賠償を
582 求めている。
583
584 この請求が認められるかを,
585 反対の考え方にも留意しながら論じなさい。
586
587
588 なお,
589 〔設問1〕に関して,
590 AのCに対する請求が認められることを前提とする。
591
592
593
594 (出題趣旨)
595 設問1は,
596 AのCに対する請求が民法第634条第1項本文に基づく修補請求権
597 によるものであることを明らかにした上で,
598 この請求に対するCからの主要な反論
599 が,
600 @Aによる修補請求が相当の期間を定めたものか,
601 A「B邸と同じ仕様」にな
602 っていないことが仕事の目的物の瑕疵に当たるか,
603 BAによる修補請求が同項ただ
604 し書により退けられるのではないかという点に依拠することを踏まえ,
605 それぞれに
606 ついて民法第634条第1項の規範の意味を理論面で正確かつ細密に示しつつ,
607 本
608 問事案に現われた具体的事実に即してAの主張の当否を検討することを求めるもの
609 である。
610
611
612 設問2は,
613 AのCに対する請求が民法第634条第2項前段に基づく損害賠償請
614 求権によるものであることを明らかにした上で,
615 @Aが既にA邸をFに譲渡してい
616 ること,
617 Aその譲渡に際して,
618 A邸には市場価値の下落がなかったことを踏まえ,
619
620 本問事案における同項前段の損害賠償請求が瑕疵の修補に代わるものであることの
621 意味を理論的に検討しつつ,
622 本問事案に現われた具体的事実に即してAの主張の当
623 否を検討することを求めるものである。
624
625
626
627 [商
628
629 法]
630
631 次の文章を読んで,
632 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
633
634
635 1.X株式会社(以下「X社」という。
636
637 )は,
638 携帯電話機の製造及び販売を行う取締役会設置会社
639 であり,
640 普通株式のみを発行している。
641
642 X社の発行可能株式総数は100万株であり,
643 発行済
644 株式の総数は30万株である。
645
646 また,
647 X社は,
648 会社法上の公開会社であるが,
649 金融商品取引所
650 にその発行する株式を上場していない。
651
652 X社の取締役は,
653 A,
654 B,
655 Cほか2名の計5名であり,
656
657 その代表取締役は,
658 Aのみである。
659
660
661 2.Y株式会社(以下「Y社」という。
662
663 )は,
664 携帯電話機用のバッテリーの製造及び販売を行う取
665 締役会設置会社であり,
666 その製造するバッテリーをX社に納入している。
667
668 Y社は,
669 古くからX
670 社と取引関係があり,
671 また,
672 X社株式5万1千株(発行済株式の総数の17%)を有している。
673
674
675 Bは,
676 Y社の創業者で,
677 その発行済株式の総数の90%を有しているが,
678 平成20年以降,
679
680 代表権のない取締役となっている。
681
682 また,
683 Bは,
684 X社株式5万1千株(発行済株式の総数の1
685 7%)を有している。
686
687
688 3.Z株式会社(以下「Z社」という。
689
690 )は,
691 携帯電話機用のバッテリーの製造及び販売を行う取
692 締役会設置会社であり,
693 Cがその代表取締役である。
694
695
696 Z社は,
697 Y社と同様に,
698 その製造するバッテリーをX社に納入しているが,
699 Y社と比較する
700 とX社と取引を始めた時期は遅く,
701 最近になってその取引量を伸ばしてきている。
702
703 なお,
704 Z社
705 は,
706 X社株式を有していない。
707
708
709 4.X社は,
710 平成25年末頃から,
711 経営状態が悪化し,
712 急きょ10億円の資金が必要となった。
713
714 そ
715 こで,
716 Aは,
717 その資金を調達する方法についてBに相談した。
718
719 Bは,
720 市場実勢よりもやや高い
721 金利によることとなるが,
722 5億円であればY社がX社に貸し付けることができると述べた。
723
724
725 5.そこで,
726 平成26年1月下旬,
727 X社の取締役会が開催され,
728 取締役5名が出席した。
729
730 Y社から
731 の借入れの決定については,
732 X社とY社との関係が強化されることを警戒して,
733 Cのみが反対
734 したが,
735 他の4名の取締役の賛成により決議が成立した。
736
737 この取締役会の決定に基づき,
738 X社
739 は,
740 Y社から5億円を借り入れた。
741
742
743 6.Y社のX社に対する貸付金の原資は,
744 Bが自己の資産を担保に金融機関から借り入れた5億円
745 であり,
746 Bは,
747 この5億円をそのままY社に貸し付けていた。
748
749 Y社がX社に貸し付ける際の金
750 利は,
751 Bが金融機関から借り入れた際の金利に若干の上乗せがされたものであった。
752
753 なお,
754 B
755 は,
756 これらの事情をAに伝えたことはなく,
757 X社の取締役会においても説明していなかった。
758
759
760 7.他方,
761 Cは,
762 Aに対し,
763 X社の募集株式を引き受ける方法であれば,
764 不足する5億円の資金を
765 Z社が提供することができると述べた。
766
767
768 8.そこで,
769 同年2月上旬,
770 X社の取締役会が開催され,
771 1株当たりの払込金額を5000円とし
772 て,
773 10万株の新株を発行し,
774 その全株式をZ社に割り当てることを決定した。
775
776 この決定につ
777 いては,
778 Bのみが反対したが,
779 他の4名の取締役の賛成により決議が成立した。
780
781
782 X社は,
783 この募集株式の発行に当たり,
784 株主総会の決議は経なかったが,
785 募集事項の決定時
786 及び新株発行時のX社の1株当たりの価値は,
787 1万円を下ることはなかった。
788
789 また,
790 X社はこ
791 の募集株式の発行について,
792 適法に公告を行っている。
793
794
795 9.Cは,
796 同月下旬,
797 上記6の事情を知るに至った。
798
799
800
801 〔設問1〕
802 Cは,
803 平成26年3月に開催されたX社の取締役会において,
804 X社のY社からの借入れが無
805 効であると主張している。
806
807 この主張の当否について論じなさい。
808
809
810 〔設問2〕
811 Bは,
812 X社のZ社に対する募集株式の発行の効力が生じた後,
813 訴えを提起してその発行が無効
814 であると主張している。
815
816 この主張の当否について論じなさい。
817
818
819
820 (出題趣旨)
821 本問は,
822 取引先であるX社に取締役を派遣しているY社及びZ社が行ったX社に
823 対する貸付け及び出資について,
824 X社において,
825 @その利益相反取引該当性,
826 A派
827 遣された取締役が議決に加わった取締役会決議の効力,
828 B株主総会の特別決議を欠
829 く募集株式の有利発行の効力を問うものである。
830
831
832 解答に際しては,
833 @直接取引(会社法第356条第1項第2号,
834 第365条)又
835 は間接取引(同法第356条第1項第3号)のいずれに該当するのか,
836 重要な事実
837 の開示の有無(同法第356条第1項),
838 取締役会の承認決議に瑕疵がある場合の
839 利益相反取引の効力,
840 A特別の利害関係(同法第369条第2項)の有無,
841 特別の
842 利害関係を有する取締役が議決に加わった取締役会決議の効力,
843 同決議に基づく行
844 為の効力,
845 B「払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合」
846 (同法第199条第3項)の意義,
847 株主総会の特別決議を欠く募集株式の有利発行
848 の効力について,
849 設問の事実関係を踏まえて,
850 正しく論述することが求められる。
851
852
853
854 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,
855 2:3)
856 次の【事例】について,
857 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
858
859
860 【事例】
861 Xは,
862 Aとの間で,
863 Aの所有する甲土地についての売買契約(以下「本件売買契約」という。
864
865 )を
866 締結し,
867 売買を原因とする所有権移転登記を経由している。
868
869 ところが,
870 本件売買契約が締結された
871 後,
872 Xは,
873 Yが甲土地上に自己所有の乙建物を建築し,
874 乙建物の所有権保存登記を経由しているこ
875 とを知った。
876
877 Xは,
878 Yに甲土地の明渡しを求めたが,
879 Yは,
880 AX間で本件売買契約が締結される前
881 に,
882 Aとの間で土地上に自己所有の建物を建築する目的で,
883 甲土地を賃借する旨の契約を締結して
884 おり,
885 甲土地の正当な占有権原がある旨を主張して,
886 これに応じなかった。
887
888
889 そこで,
890 Xは,
891 平成26年4月15日,
892 甲土地の所在地を管轄する地方裁判所に,
893 Yを被告と
894 して,
895 甲土地の所有権に基づき,
896 乙建物を収去して甲土地を明け渡すことを求める訴訟(以下「本
897 件訴訟」という。
898
899 )を提起し,
900 その訴状は,
901 同月21日,
902 Yに対して送達された。
903
904
905 平成26年7月13日の時点では,
906 乙建物は,
907 これをYから賃借したWが占有している。
908
909
910 〔設問1〕
911 上記の【事例】において,
912 YがWに乙建物を賃貸したのは平成26年2月10日であり,
913 X
914 は,
915 Wに乙建物が賃貸されたことに気付かないまま,
916 Yのみを相手に建物収去土地明渡しを求
917 める本件訴訟を提起し,
918 その後,
919 乙建物をWが占有していることに気付いた。
920
921 Xは,
922 Wに対す
923 る建物退去土地明渡請求についても,
924 本件訴訟の手続で併せて審理してもらいたいと考えてい
925 るが,
926 そのために民事訴訟法上どのような方法を採り得るか説明しなさい。
927
928
929 〔設問2〕(
930 〔設問1〕の問題文中に記載した事実は考慮しない。
931
932 )
933 上記の【事例】において,
934 YがWに乙建物を賃貸したのは平成26年5月10日であり,
935 そ
936 して,
937 Wは,
938 本件訴訟で,
939 AX間で本件売買契約が締結された事実はないとして,
940 Xが甲土地
941 の所有権を有することを争いたいと考えている。
942
943
944 ところが,
945 Yは,
946 本件訴訟の口頭弁論期日において,
947 AX間で本件売買契約が締結されたこ
948 とを認める旨の陳述をした。
949
950
951 @
952 A
953
954 Yがこの陳述をした口頭弁論期日の後に,
955 Wが本件訴訟に当事者として参加した場合
956 Wが本件訴訟に当事者として参加した後の口頭弁論期日において,
957 Yがこの陳述をした
958 場合
959
960 B
961
962 Xの申立てにより裁判所がWに訴訟を引き受けさせる旨の決定をした後の口頭弁論期日
963 において,
964 Yがこの陳述をした場合
965
966 のそれぞれについて,
967 Wとの関係で,
968 このYの陳述が有する民事訴訟法上の意義を説明しなさい。
969
970
971
972 (出題趣旨)
973 本問は,
974 建物所有者に対する建物収去土地明渡請求訴訟の目的物である当該建物
975 が訴訟係属前又は訴訟係属後に賃貸された場合について,
976 これにより当該土地建物
977 の占有を承継した賃借人が当該訴訟手続に関与するため又は当該賃借人を当該訴訟
978 手続に関与させるための方法と,
979 当該訴訟手続に関与することとなった当該賃借人
980 に対して従前からの当事者である建物所有者が行った陳述の効果が及ぶか否かを問
981 うものである。
982
983
984
985 設問1は,
986 訴訟係属前に当該賃借人が当該土地建物の占有を承継した事案につい
987 て,
988 訴訟係属後に,
989 原告の意思に基づき当該賃借人を当該訴訟手続に関与させるた
990 めの方法を問うものであり,
991 別訴提起・弁論の併合の方法によることや主観的追加
992 的併合の許否等について検討することが求められる。
993
994
995 設問2は,
996 訴訟係属後に当該賃借人が当該土地建物の占有を承継した事案につい
997 て,
998 @及びAでは,
999 賃借人すなわち義務承継人が参加承継することを前提として,
1000
1001 従前からの当事者が当該義務承継人の参加前(@)・参加後(A)にした陳述の当
1002 該義務承継人に対する効果を,
1003 Bでは,
1004 義務承継人に引受承継させることを前提と
1005 して,
1006 従前からの当事者が当該義務承継人の引受け後にした陳述の当該義務承継人
1007 に対する効果を,
1008 それぞれ問うものである。
1009
1010
1011
1012 [刑
1013
1014 法]
1015
1016 以下の事例に基づき,
1017 甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。
1018
1019 )。
1020
1021
1022 1
1023
1024 甲(28歳,
1025 男性,
1026 身長178センチメートル,
1027 体重82キログラム)は,
1028 V(68歳,
1029 男
1030 性,
1031 身長160センチメートル,
1032 体重53キログラム)が密輸入された仏像を密かに所有して
1033 いることを知り,
1034 Vから,
1035 売買を装いつつ,
1036 代金を支払わずにこれを入手しようと考えた。
1037
1038 具
1039 体的には,
1040 甲は,
1041 代金を支払う前に鑑定が必要であると言ってVから仏像の引渡しを受け,
1042 こ
1043 れを別の者に託して持ち去らせ,
1044 その後,
1045 自身は隙を見て逃走して代金の支払を免れようと計
1046 画した。
1047
1048
1049 甲は,
1050 偽名を使って自分の身元が明らかにならないようにして,
1051 Vとの間で代金や仏像の受
1052 渡しの日時・場所を決めるための交渉をし,
1053 その結果,
1054 仏像の代金は2000万円と決まり,
1055
1056 某日,
1057 ホテルの一室で受渡しを行うこととなった。
1058
1059 甲は,
1060 仏像の持ち去り役として後輩の乙を
1061 誘ったが,
1062 乙には,
1063 「ホテルで人から仏像を預かることになっているが,
1064 自分にはほかに用事
1065 があるから,
1066 仏像をホテルから持ち帰ってしばらく自宅に保管しておいてくれ。
1067
1068 」とのみ伝え
1069 て上記計画は伝えず,
1070 乙も,
1071 上記計画を知らないまま,
1072 甲の依頼に応じることとした。
1073
1074
1075
1076 2
1077
1078 受渡し当日,
1079 Vは,
1080 一人で受渡し場所であるホテルの一室に行き,
1081 一方,
1082 甲も,
1083 乙を連れて
1084 同ホテルに向かい,
1085 乙を室外に待たせ,
1086 甲一人でVの待つ室内に入った。
1087
1088 甲は,
1089 Vに対し,
1090
1091 「金
1092 は持ってきたが,
1093 近くの喫茶店で鑑定人が待っているので,
1094 まず仏像を鑑定させてくれ。
1095
1096 本物
1097 と確認できたら鑑定人から連絡が入るので,
1098 ここにある金を渡す。
1099
1100 」と言い,
1101 2000万円が
1102 入っているように見せ掛けたアタッシュケースを示して仏像の引渡しを求めた。
1103
1104 Vは,
1105 代金が
1106 準備されているのであれば,
1107 先に仏像を引き渡しても代金を受け取り損ねることはないだろう
1108 と考え,
1109 仏像を甲に引き渡した。
1110
1111 甲は,
1112 待機していた乙を室内に招き入れ,
1113 「これを頼む。
1114
1115 」と
1116 言って,
1117 仏像を手渡したところ,
1118 乙は,
1119 準備していた風呂敷で仏像を包み,
1120 甲からの指示どお
1121 り,
1122 これを持ってそのままホテルを出て,
1123 タクシーに乗って自宅に帰った。
1124
1125 乙がタクシーで立
1126 ち去った後,
1127 甲は,
1128 代金を支払わないまま同室から逃走しようとしたが,
1129 Vは,
1130 その意図を見
1131 破り,
1132 同室出入口ドア前に立ちはだかって,
1133 甲の逃走を阻んだ。
1134
1135
1136
1137 3
1138
1139 Vは,
1140 甲が逃げないように,
1141 護身用に持ち歩いていたナイフ(刃体の長さ約15センチメー
1142 トル)の刃先を甲の首元に突き付け,
1143 さらに,
1144 甲に命じてアタッシュケースを開けさせたが,
1145
1146 中に現金はほとんど入っていなかった。
1147
1148 Vは,
1149 甲から仏像を取り返し,
1150 又は代金を支払わせよ
1151 うとして,
1152 その首元にナイフを突き付けたまま,
1153 「仏像を返すか,
1154 すぐに金を準備して払え。
1155
1156
1157 言うことを聞かないと痛い目に合うぞ。
1158
1159 」と言った。
1160
1161 また,
1162 Vは,
1163 甲の身元を確認しようと考
1164 え,
1165 「お前の免許証か何かを見せろ。
1166
1167 」と言った。
1168
1169
1170
1171 4
1172
1173 甲は,
1174 このままではナイフで刺される危険があり,
1175 また,
1176 Vに自動車運転免許証を見られる
1177 と,
1178 身元が知られて仏像の返還や代金の支払を免れることができなくなると考えた。
1179
1180 そこで,
1181
1182 甲は,
1183 Vからナイフを奪い取ってVを殺害して,
1184 自分の身を守るとともに,
1185 仏像の返還や代金
1186 の支払を免れることを意図し,
1187 隙を狙ってVからナイフを奪い取り,
1188 ナイフを取り返そうとし
1189 て甲につかみ掛かってきたVの腹部を,
1190 殺意をもって,
1191 ナイフで1回突き刺し,
1192 Vに重傷を負
1193 わせた。
1194
1195 甲は,
1196 すぐに逃走したが,
1197 部屋から逃げていく甲の姿を見て不審に思ったホテルの従
1198 業員が,
1199 Vが血を流して倒れているのに気付いて119番通報をした。
1200
1201 Vは,
1202 直ちに病院に搬
1203 送され,
1204 一命を取り留めた。
1205
1206
1207
1208 5
1209
1210 甲は,
1211 身を隠すため,
1212 その日のうちに国外に逃亡した。
1213
1214 乙は,
1215 持ち帰った仏像を自宅に保管
1216 したまま,
1217 甲からの指示を待った。
1218
1219 その後,
1220 乙は,
1221 甲から電話で,
1222 上記一連の事情を全て打ち
1223 明けられ,
1224 引き続き仏像の保管を依頼された。
1225
1226 乙は,
1227 先輩である甲からの依頼であるのでやむ
1228
1229 を得ないと思い,
1230 そのまま仏像の保管を続けた。
1231
1232 しかし,
1233 乙は,
1234 その電話から2週間後,
1235 金に
1236 困っていたことから,
1237 甲に無断で仏像を500万円で第三者に売却し,
1238 その代金を自己の用途
1239 に費消した。
1240
1241
1242
1243 (出題趣旨)
1244 本問は,
1245 甲が,
1246 Vに嘘を言い,
1247 同人所有の仏像を,
1248 事情を知らない乙を介して入
1249 手した際,
1250 Vからナイフを突き付けられて仏像の返還や代金の支払を要求されたた
1251 め,
1252 自分の身を守るとともに仏像の返還や代金の支払を免れる意図で,
1253 殺意をもっ
1254 て,
1255 Vから奪い取ったナイフで同人の腹部を刺したが殺害に至らず,
1256 その後,
1257 甲の
1258 依頼を受けた乙が,
1259 仏像を保管中,
1260 甲に無断でこれを売却した,
1261 という事案を素材
1262 として,
1263 事案を的確に分析する能力を問うとともに,
1264 詐欺罪,
1265 強盗殺人未遂罪,
1266 正
1267 当防衛,
1268 盗品等保管罪,
1269 横領罪それぞれの成立要件等に関する基本的理解と事実の
1270 当てはめが,
1271 論理的一貫性を保って行われているかを問うものである。
1272
1273
1274
1275 [刑事訴訟法]
1276 次の【事例】を読んで,
1277 後記〔設問〕に答えなさい。
1278
1279
1280 【事
1281
1282 例】
1283 司法警察員Kらは,
1284 A建設株式会社(以下「A社」という。
1285
1286 )代表取締役社長である甲が,
1287 L県
1288
1289 発注の公共工事をA社において落札するため,
1290 L県知事乙を接待しているとの情報を得て,
1291 甲及び
1292 乙に対する内偵捜査を進めるうち,
1293 平成25年12月24日,
1294 A社名義の預金口座から800万円
1295 が引き出されたものの,
1296 A社においてそれを取引に用いた形跡がない上,
1297 同月25日,
1298 乙が,
1299 新車
1300 を購入し,
1301 その代金約800万円をその日のうちに現金で支払ったことが判明した。
1302
1303
1304 Kらは,
1305 甲が乙に対し,
1306 800万円の現金を賄賂として供与したとの疑いを持ち,
1307 甲を警察署
1308 まで任意同行し,
1309 Kは,
1310 取調室において,
1311 甲に対し,
1312 供述拒否権を告知した上で,
1313 A社名義の預金
1314 口座から引き出された800万円の使途につき質問したところ,
1315 甲は「何も言いたくない。
1316
1317 」と答
1318 えた。
1319
1320
1321 そこで,
1322 Kは,
1323 甲に対し,
1324 「本当のことを話してほしい。
1325
1326 この部屋には君と私しかいない。
1327
1328 ここ
1329 で君が話した内容は,
1330 供述調書にはしないし,
1331 他の警察官や検察官には教えない。
1332
1333 ここだけの話と
1334 して私の胸にしまっておく。
1335
1336 」と申し向けたところ,
1337 甲はしばらく黙っていたものの,
1338 やがて「分
1339 かりました。
1340
1341 それなら本当のことを話します。
1342
1343 あの800万円は乙知事に差し上げました。
1344
1345 」と話
1346 し始めた。
1347
1348 Kが,
1349 甲に気付かれないように,
1350 所持していたICレコーダーを用いて録音を開始し,
1351
1352 そのまま取調べを継続すると,
1353 甲は,
1354 「乙知事は,
1355 以前から,
1356 高級車を欲しがっており,
1357 その価格
1358 が約800万円だと言っていた。
1359
1360 そこで,
1361 私は,
1362 平成25年12月24日にA社の預金口座から8
1363 00万円を引き出し,
1364 その日,
1365 乙知事に対し,
1366 車両購入代としてその800万円を差し上げ,
1367 その
1368 際,
1369 乙知事に,
1370 『来月入札のあるL県庁庁舎の耐震工事をA社が落札できるよう便宜を図っていた
1371 だきたい。
1372
1373 この800万円はそのお礼です。
1374
1375 』とお願いした。
1376
1377 乙知事は『私に任せておきなさい。
1378
1379 』
1380 と言ってくれた。
1381
1382 」と供述した。
1383
1384 Kは,
1385 甲に対し,
1386 前記供述を録音したことを告げずに取調べを終
1387 えた。
1388
1389
1390 その後,
1391 甲は贈賄罪,
1392 乙は収賄罪の各被疑事実によりそれぞれ逮捕,
1393 勾留され,
1394 各罪によりそ
1395 れぞれ起訴された。
1396
1397 第1回公判期日の冒頭手続において,
1398 甲は「何も言いたくない。
1399
1400 」と陳述し,
1401
1402 乙は「甲から800万円を受け取ったことに間違いないが,
1403 それは私が甲から借りたものである。
1404
1405 」
1406 と陳述し,
1407 以後,
1408 両被告事件の弁論は分離された。
1409
1410
1411 〔設
1412
1413 問〕
1414 甲の公判において,
1415 「甲が乙に対し賄賂として現金800万円を供与したこと」を立証趣旨と
1416
1417 して,
1418 前記ICレコーダーを証拠とすることができるか。
1419
1420 その証拠能力につき,
1421 問題となり得る
1422 点を挙げつつ論じなさい。
1423
1424
1425
1426 (出題趣旨)
1427 本問は,
1428 贈賄事件について,
1429 被疑者を任意で取調べ中,
1430 警察官が「本当のことを
1431 話してほしい。
1432
1433 この部屋には君と私しかいない。
1434
1435 ここで君が話した内容は,
1436 供述調
1437 書にはしないし,
1438 他の警察官や検察官には教えない。
1439
1440 ここだけの話として私の胸に
1441 しまっておく。
1442
1443 」と申し向けて被疑者から自白を引き出し,
1444 その自白をICレコー
1445 ダーを用いて秘密録音したとの事例において,
1446 当該ICレコーダーを贈賄事件の犯
1447 罪事実を立証するための証拠として用いる場合の証拠能力に関わる問題点を検討さ
1448
1449 せることにより,
1450 伝聞法則とその例外,
1451 自白法則(不任意自白の排除),
1452 秘密録音
1453 を含む自白獲得手続の適法性と自白の証拠能力について,
1454 基本的な学識の有無及び
1455 具体的事案における応用力を試すものである。
1456
1457
1458
1459 [法律実務基礎科目(民事)]
1460 (〔設問1〕から〔設問5〕までの配点の割合は,
1461 8:16:4:14:8)
1462 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
1463 以下の各設問に答えなさい。
1464
1465
1466 〔設問1〕
1467 弁護士Pは,
1468 Xから次のような相談を受けた。
1469
1470
1471 【Xの相談内容】
1472 「私の父Yは,
1473 その妻である私の母が平成14年に亡くなって以来,
1474 Yが所有していた甲土地
1475 上の古い建物(以下「旧建物」といいます。
1476
1477 )に1人で居住していました。
1478
1479 平成15年初め頃,
1480
1481 Yが,
1482 生活に不自由を来しているので同居してほしいと頼んできたため,
1483 私と私の妻子は,
1484 甲土
1485 地に引っ越してYと同居することにしました。
1486
1487 Yは,
1488 これを喜び,
1489 旧建物を取り壊した上で,
1490 甲
1491 土地を私に無償で譲ってくれました。
1492
1493 そこで,
1494 私は,
1495 甲土地上に新たに建物(以下「新建物」と
1496 いいます。
1497
1498 )を建築し,
1499 Yと同居を始めました。
1500
1501 ちなみにYから甲土地の贈与を受けたのは,
1502 私
1503 が新建物の建築工事を始めた平成15年12月1日のことで,
1504 その日,
1505 私はYから甲土地の引渡
1506 しも受けました。
1507
1508
1509 ところが,
1510 新建物の完成後に同居してみると,
1511 Yは私や妻に対しささいなことで怒ることが多
1512 く,
1513 とりわけ,
1514 私が退職した平成25年春には,
1515 Yがひどい暴言を吐くようになり,
1516 ついには遠
1517 方にいる弟Aの所に勝手に出て行ってしまいました。
1518
1519
1520 平成25年10月頃,
1521 Aから電話があり,
1522 甲土地はAに相続させるとYが言っているとの話を
1523 聞かされました。
1524
1525 さすがにびっくりするとともに,
1526 とても腹が立ちました。
1527
1528 親子なので書類は作
1529 っていませんが,
1530 Yは,
1531 甲土地が既に私のものであることをよく分かっているはずです。
1532
1533 平成1
1534 6年から現在まで甲土地の固定資産税等の税金を支払っているのも私です。
1535
1536 もちろん母がいると
1537 きのようには生活できなかったかもしれませんが,
1538 私も妻もYを十分に支えてきました。
1539
1540
1541 甲土地は,
1542 Yの名義のままになっていますので,
1543 この機会に,
1544 私は,
1545 Yに対し,
1546 所有権の移
1547 転登記を求めたいと考えています。
1548
1549 」
1550 弁護士Pは,
1551 【Xの相談内容】を受けて甲土地の登記事項証明書を取り寄せたところ,
1552 昭和58
1553 年12月1日付け売買を原因とするY名義の所有権移転登記(詳細省略)があることが明らかとな
1554 った。
1555
1556 弁護士Pは,
1557 【Xの相談内容】を前提に,
1558 Xの訴訟代理人として,
1559 Yに対し,
1560 贈与契約に基
1561 づく所有権移転登記請求権を訴訟物として,
1562 所有権移転登記を求める訴えを提起することにした。
1563
1564
1565 以上を前提に,
1566 以下の各問いに答えなさい。
1567
1568
1569 (1) 弁護士Pが作成する訴状における請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項)を記載しなさい。
1570
1571
1572 (2) 弁護士Pは,
1573 その訴状において,
1574 「Yは,
1575 Xに対し,
1576 平成15年12月1日,
1577 甲土地を贈与し
1578 た。
1579
1580 」との事実を主張したが,
1581 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)は,
1582 この
1583 事実のみで足りるか。
1584
1585 結論とその理由を述べなさい。
1586
1587
1588 〔設問2〕
1589 上記訴状の副本を受け取ったYは,
1590 弁護士Qに相談した。
1591
1592 贈与の事実はないとの事情をYから聴
1593 取した弁護士Qは,
1594 Yの訴訟代理人として,
1595 Xの請求を棄却する,
1596 贈与の事実は否認する旨記載し
1597 た答弁書を提出した。
1598
1599
1600 平成26年2月28日の本件の第1回口頭弁論期日において,
1601 弁護士Pは訴状を陳述し,
1602 弁護士
1603
1604 Qは答弁書を陳述した。
1605
1606 また,
1607 同期日において,
1608 弁護士Pは,
1609 次回期日までに,
1610 時効取得に基づい
1611 て所有権移転登記を求めるという内容の訴えの追加的変更を申し立てる予定であると述べた。
1612
1613
1614 弁護士Pは,
1615 第1回口頭弁論期日後にXから更に事実関係を確認し,
1616 訴えの追加的変更につきX
1617 の了解を得て,
1618 訴えの変更申立書を作成し,
1619 請求原因として次の各事実を記載した。
1620
1621
1622 @ Xは,
1623 平成15年12月1日,
1624 甲土地を占有していた。
1625
1626
1627 A
1628
1629 〔ア〕
1630
1631 B
1632
1633 無過失の評価根拠事実
1634 平成15年11月1日,
1635 Yは,
1636 Xに対し,
1637 旧建物において,
1638 「明日からこの建物を取り壊
1639 す。
1640
1641 取り壊したら,
1642 甲土地はお前にただでやる。
1643
1644 いい建物を頼むぞ。
1645
1646 」と述べ,
1647 甲土地の登
1648 記済証(権利証)を交付した。
1649
1650 〔以下省略〕
1651
1652 C
1653
1654 Xは,
1655 Yに対し,
1656 本申立書をもって,
1657 甲土地の時効取得を援用する。
1658
1659
1660
1661 D
1662
1663 〔イ〕
1664
1665 E
1666
1667 よって,
1668 Xは,
1669 Yに対し,
1670 所有権に基づき,
1671 甲土地について,
1672 上記時効取得を原因とする
1673 所有権移転登記手続をすることを求める。
1674
1675
1676
1677 以上を前提に,
1678 以下の各問いに答えなさい。
1679
1680
1681 (1) 上記〔ア〕及び〔イ〕に入る具体的事実を,
1682 それぞれ答えなさい。
1683
1684
1685 (2) 上記@からDまでの各事実について,
1686 請求原因事実としてそれらの事実を主張する必要があり,
1687
1688 かつ,
1689 これで足りると考えられる理由を,
1690 実体法の定める要件や当該要件についての主張・立
1691 証責任の所在に留意しつつ説明しなさい。
1692
1693
1694 (3) 上記B無過失の評価根拠事実(甲土地が自己の所有に属すると信じるにつき過失はなかったと
1695 の評価を根拠付ける事実)に該当するとして,
1696 「Xは平成16年から現在まで甲土地の固定資産
1697 税等の税金を支払っている。
1698
1699 」を主張することは適切か。
1700
1701 結論とその理由を述べなさい。
1702
1703
1704 〔設問3〕
1705 上記訴えの変更申立書の副本を受け取った弁護士Qは,
1706 Yに事実関係の確認をした。
1707
1708 Yの相談内
1709 容は次のとおりである。
1710
1711
1712 【Yの相談内容】
1713 「私は,
1714 長男Xと次男Aの独立後しばらくたった昭和58年12月1日,
1715 甲土地及び旧建物
1716 を前所有者であるBから代金3000万円で購入して所有権移転登記を取得し,
1717 妻と生活して
1718 いました。
1719
1720
1721 その後,
1722 妻が亡くなってしまい,
1723 私も生活に不自由を来すようになりましたので,
1724 Xに同居
1725 してくれるよう頼みました。
1726
1727 Xは,
1728 甲土地であれば通勤等が便利だと言って喜んで賛成してく
1729 れました。
1730
1731 私とXは,
1732 旧建物は私の方で取り壊すこと,
1733 甲土地をXに無償で貸すこと,
1734 Xの方
1735 で二世帯が住める住宅を建てることを決めました。
1736
1737
1738 しかし,
1739 いざ新建物で同居してみると,
1740 だんだんと一緒に生活することが辛くなり,
1741 平成2
1742 5年春,
1743 Aに頼んでAの所で生活をさせてもらうことにしました。
1744
1745
1746 このような次第ですので,
1747 私が甲土地上の旧建物を取り壊して甲土地をXに引き渡したこと,
1748
1749 Xに甲土地を引き渡したのが新建物の建築工事が始まった平成15年12月1日であり,
1750 それ
1751 以来Xが甲土地を占有していること,
1752 Xが新建物を所有していることは事実ですが,
1753 私はXに
1754 対し甲土地を無償で貸したのであって,
1755 贈与したのではありません。
1756
1757 平成15年12月1日に
1758 私とXが会って新築工事の話をしましたが,
1759 その際に甲土地を贈与するという話は一切出てい
1760 ませんし,
1761 書類も作っていません。
1762
1763 私には所有権の移転登記をすべき義務はないと思います。
1764
1765 」
1766
1767 弁護士Qは,
1768 【Yの相談内容】を踏まえて,
1769 どのような抗弁を主張することになると考えられる
1770 か。
1771
1772 いずれの請求原因に関するものかを明らかにした上で,
1773 当該抗弁の内容を端的に記載しなさい
1774 (なお,
1775 無過失の評価障害事実については記載する必要はない。
1776
1777 )。
1778
1779
1780 〔設問4〕
1781 第1回弁論準備手続期日において,
1782 弁護士Pは訴えの変更申立書を陳述し,
1783 弁護士Qは前記抗弁
1784 等を記載した準備書面を陳述した。
1785
1786 その後,
1787 弁論準備手続が終結し,
1788 第2回口頭弁論期日において,
1789
1790 弁論準備手続の結果の陳述を経て,
1791 XとYの本人尋問が行われた。
1792
1793 本人尋問におけるXとYの供述
1794 内容の概略は,
1795 以下のとおりであった。
1796
1797
1798 【Xの供述内容】
1799 「私は,
1800 平成15年11月1日,
1801 旧建物に行き,
1802 Yと今後の相談をしました。
1803
1804 その際,
1805 Yは,
1806
1807 私に対し,
1808 『明日からこの建物を取り壊す。
1809
1810 取り壊したら,
1811 甲土地はお前にただでやる。
1812
1813 いい建
1814 物を頼むぞ。
1815
1816 』と述べ,
1817 甲土地の登記済証(権利証)を交付してくれました。
1818
1819 私は,
1820 Yと相談し
1821 て,
1822 Yの要望に沿った二世帯住宅を建築することにし,
1823 Yが住みやすいような間取りにしました。
1824
1825
1826 新建物は,
1827 仮にYが亡くなった後も,
1828 私や私の妻子が末永く住めるよう私が依頼して鉄筋コンク
1829 リート造の建物としました。
1830
1831
1832 平成15年12月1日,
1833 更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,
1834 Yと甲
1835 土地で会いました。
1836
1837 Yは,
1838
1839 『今日からこの土地はお前の土地だ。
1840
1841 ただでやる。
1842
1843 同居が楽しみだな。
1844
1845 』
1846 と言ってくれ,
1847 私も『ありがとう。
1848
1849 』と答えました。
1850
1851
1852 私はその日に土地の引渡しを受け,
1853 工事を開始し,
1854 新建物を建築しました。
1855
1856 その後,
1857 私は,
1858 甲
1859 土地の登記済証(権利証)を保管し,
1860 平成16年以降,
1861 甲土地の固定資産税等の税金を支払い,
1862
1863 Yが勝手に出て行った平成25年春までは,
1864 その生活の面倒も見てきました。
1865
1866
1867 新建物の建築費用は3000万円で,
1868 私の預貯金から出しました。
1869
1870 移転登記については,
1871 いず
1872 れすればよいと思ってそのままにし,
1873 贈与税の申告もしていませんでした。
1874
1875 なお,
1876 親子のことで
1877 すから,
1878 贈与の書面は作っていませんが,
1879 Yが事実と異なることを言っているのは,
1880 Aと同居を
1881 始めたからに違いありません。
1882
1883 」
1884 【Yの供述内容】
1885 「私は,
1886 平成15年11月1日,
1887 旧建物で,
1888 Xと今後の相談をしましたが,
1889 その際,
1890 私は,
1891
1892 Xに対し,
1893 『明日からこの建物を取り壊す。
1894
1895 取り壊したら,
1896 甲土地はお前に無償で貸す。
1897
1898 いい建
1899 物を頼むぞ。
1900
1901 』と言ったのであって,
1902 『譲渡する』とは言っていません。
1903
1904 Xには,
1905 生活の面倒を
1906 見てもらい,
1907 甲土地の固定資産税等の支払いをしてもらい,
1908 正直,
1909 私が死んだら,
1910 甲土地はX
1911 に相続させようと考えていたのは事実ですが,
1912 生前に贈与するつもりはありませんでしたし,
1913
1914 贈与の書類も作っていません。
1915
1916 なお,
1917 甲土地の登記済証(権利証)を交付しましたが,
1918 これは
1919 旧建物を取り壊す際に,
1920 Xに保管を依頼したものです。
1921
1922
1923 平成15年12月1日,
1924 更地になった甲土地で新建物の建築工事が始まることになり,
1925 Xと
1926 甲土地で会いましたが,
1927 私が言ったのは,
1928 『今日からこの土地はお前に貸してやる。
1929
1930 お金はいら
1931 ない。
1932
1933 』ということです。
1934
1935 その日からXが新建物の工事を始め,
1936 私の意向を踏まえた二世帯住宅
1937 が建ち,
1938 私たちは同居を始めました。
1939
1940
1941 しかし,
1942 いざ新建物で同居してみると,
1943 Xらは私を老人扱いしてささいなことも制約しよう
1944 としましたので,
1945 だんだんと一緒に生活することが辛くなり,
1946 平成25年春,
1947 別居せざるを得
1948 なくなったのです。
1949
1950 Xには,
1951 誰のおかげでここまで来れたのか,
1952 もう一度よく考えてほしいと
1953 思います。
1954
1955 」
1956
1957 本人尋問終了後に,
1958 弁護士Qは,
1959 次回の第3回口頭弁論期日までに,
1960 当事者双方の尋問結果に基
1961 づいて準備書面を提出する予定であると陳述した。
1962
1963 弁護士Qは,
1964 「Yは,
1965 Xに対し,
1966 平成15年1
1967 2月1日,
1968 甲土地を贈与した。
1969
1970 」とのXの主張に関し,
1971 法廷におけるXとYの供述内容を踏まえて,
1972
1973 Xに有利な事実への反論をし,
1974 Yに有利な事実を力説して,
1975 Yの主張の正当性を明らかにしたいと
1976 考えている。
1977
1978
1979 この点について,
1980 弁護士Qが作成すべき準備書面の概略を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさ
1981 い。
1982
1983
1984 〔設問5〕
1985 弁護士Qは,
1986 Yから本件事件を受任するに当たり,
1987 Yに対し,
1988 事件の見通し,
1989 処理方法,
1990 弁護士
1991 報酬及び費用について一通り説明した上で,
1992 委任契約を交わした。
1993
1994 その際,
1995 Yから「私も高齢で,
1996
1997 難しい法律の話はよく分からない。
1998
1999 息子のAに全て任せているから,
2000 今後の細かい打合せ等につい
2001 ては,
2002 Aとやってくれ。
2003
2004 」と言われ,
2005 弁護士Qは,
2006 日頃Aと懇意にしていたこともあったため,
2007 そ
2008 の後の訴訟の打合せ等のやりとりはAとの間で行っていた。
2009
2010
2011 第3回口頭弁論期日において裁判所から和解勧告があり,
2012 XY間において,
2013 YがXに対し甲土地
2014 の所有権移転登記手続を行うのと引換えにXがYに対し1500万円を支払うとの内容の和解が成
2015 立したが,
2016 弁護士Qは,
2017 その際の意思確認もAに行った。
2018
2019 また,
2020 弁護士Qは,
2021 和解成立後の登記手
2022 続等についても,
2023 Aから所有権移転登記手続書類を預かり,
2024 その交付と引換えにXから1500万
2025 円の支払を受けた。
2026
2027 さらに,
2028 弁護士Qは,
2029 受領した1500万円から本件事件の成功報酬を差し引
2030 いて,
2031 残額については,
2032 Aの指示により,
2033 A名義の銀行口座に送金して返金した。
2034
2035
2036 弁護士Qの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか,
2037 司法試験予備試験用法文中の弁護士職
2038 務基本規程を適宜参照して答えなさい。
2039
2040
2041
2042 (出題趣旨)
2043 設問1は,
2044 贈与契約に基づく所有権移転登記請求権を訴訟物とする訴訟において,
2045
2046 原告代理人が作成すべき訴状における請求の趣旨及び請求を理由付ける事実につい
2047 て説明を求めるものであり,
2048 債権的登記請求権の特殊性に留意して説明することが
2049 求められる。
2050
2051
2052 設問2は,
2053 所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記請求の請求原
2054 因事実についての理解を問うものであり,
2055 短期取得時効(民法第162条第2項)
2056 の法律要件を同法第186条の規定に留意して説明することが求められる。
2057
2058
2059 設問3は,
2060 使用貸借の主張が,
2061 いずれの請求原因に対し,
2062 いかなる抗弁となり得
2063 るかについて問うものである。
2064
2065
2066 設問4は,
2067 贈与契約の成否という争点に関し,
2068 被告代理人が作成すべき準備書面
2069 において,
2070 当事者尋問の結果を踏まえ各供述をどのように取り上げるべきかについ
2071 ての概要の説明を求めるものであり,
2072 主要事実との関係で各供述の位置付けを分析
2073 し,
2074 重要な事実を拾って,
2075 検討・説明することが求められる。
2076
2077
2078 設問5は,
2079 弁護士倫理の問題であり,
2080 弁護士職務基本規程の依頼者との関係にお
2081 ける規律に留意しつつ,
2082 被告代理人の各行為の問題点を検討することが求められる。
2083
2084
2085
2086 [法律実務基礎科目(刑事)]
2087 次の【事例】を読んで,
2088 後記〔設問〕に答えなさい。
2089
2090
2091 【事
2092 1
2093
2094 例】
2095 A(男性,
2096 22歳)は,
2097 平成26年2月1日,
2098 V(男性,
2099 40歳)を被害者とする強盗致傷
2100 罪の被疑事実で逮捕され,
2101 翌2日から勾留された後,
2102 同月21日,
2103
2104 「被告人は,
2105 Bと共謀の上,
2106
2107 通行人から金品を強取しようと企て,
2108 平成26年1月15日午前零時頃,
2109 H県I市J町1丁目
2110 2番3号先路上において,
2111 同所を通行中のV(当時40歳)に対し,
2112 Bにおいて,
2113 Vの後頭部
2114 をバットで1回殴り,
2115 同人が右手に所持していたかばんを強く引いて同人を転倒させる暴行を
2116 加え,
2117 その反抗を抑圧した上,
2118 同人所有の現金10万円が入った財布等2点在中の前記かばん
2119 1個(時価合計約1万円相当)を強取し,
2120 その際,
2121 同人に加療約1週間を要する頭部挫創の傷
2122 害を負わせた。
2123
2124 」との公訴事実が記載された起訴状により,
2125 I地方裁判所に公訴を提起された。
2126
2127
2128 なお,
2129 B(男性,
2130 22歳)は,
2131 Aが公訴を提起される前の同年2月6日に同裁判所に同罪で公
2132 訴を提起されていた。
2133
2134
2135
2136 2
2137
2138 Aの弁護人は,
2139 Aが勾留された後,
2140 数回にわたりAと接見した。
2141
2142 Aは,
2143 逮捕・勾留に係る被
2144 疑事実につき,
2145 同弁護人に対し,
2146 「私は,
2147 平成26年1月14日午後11時頃,
2148 友人Bの家に
2149 居た際,
2150 Bから『ひったくりをするから,
2151 一緒に来てくれ。
2152
2153 車を運転してほしい。
2154
2155 ひったくり
2156 をする相手が見付かったら,
2157 俺だけ車から降りてひったくりをするから,
2158 俺が戻るまで車で待
2159 っていてほしい。
2160
2161 俺が車に戻ったらすぐに車を発進させて逃げてくれ。
2162
2163 』と頼まれた。
2164
2165 Bから
2166 ひったくりの手伝いを頼まれたのは,
2167 この時が初めてである。
2168
2169 私は,
2170 Bが通行人の隙を狙って
2171 かばんなどを奪って逃げてくるのだと思った。
2172
2173 私は金に困っておらず,
2174 ひったくりが成功した
2175 際に分け前をもらえるかどうかについては何も聞かなかったが,
2176 私自身がひったくりをするわ
2177 けでもないので自動車を運転するくらいなら構わないと思い,
2178 Bの頼みを引き受けた。
2179
2180 その後,
2181
2182 私は,
2183 先にBの家を出て,
2184 その家に来る際に乗ってきていた私の自動車の運転席に乗った。
2185
2186 し
2187 ばらくしてから,
2188 Bが私の自動車の助手席に乗り込んだ。
2189
2190 Bが私の自動車に乗り込んだ際,
2191 私
2192 は,
2193 Bがバットを持っていることに気付かなかった。
2194
2195 そして,
2196 私が自動車を運転して,
2197 I市内
2198 の繁華街に向かった。
2199
2200 車内では,
2201 どうやってかばんなどをひったくるのかについて何も話をし
2202 なかった。
2203
2204 私は,
2205 しばらく繁華街周辺の人気のない道路を走り,
2206 翌15日午前零時前頃,
2207 かば
2208 んを持って一人で歩いている男性を見付けた。
2209
2210 その男性がVである。
2211
2212 Bも,
2213 Vがかばんを持っ
2214 て歩いていることに気付き,
2215 私に『あの男のかばんをひったくるから,
2216 車を止めてくれ。
2217
2218 』と
2219 言ってきた。
2220
2221 私が自動車を止めると,
2222 Bは一人で助手席から降り,
2223 Vの後を付けて行った。
2224
2225 こ
2226 の時,
2227 周囲が暗く,
2228 私は,
2229 Bがバットを持っていることには気付かなかったし,
2230 BがVに暴力
2231 を振るうとは思っていなかった。
2232
2233 その後,
2234 私からは,
2235 VとBの姿が見えなくなった。
2236
2237 私は,
2238 自
2239 動車の運転席で待機していた。
2240
2241 しばらくすると,
2242 Bが私の自動車の方に走ってきたが,
2243 VもB
2244 の後を追い掛けて走ってきた。
2245
2246 私は,
2247 Bが自動車の助手席に乗り込むや,
2248 すぐに自動車を発進
2249 させてその場から逃げた。
2250
2251 Bがかばんを持っていたので,
2252 私は,
2253 ひったくりが成功したのだと
2254 思ったが,
2255 BがVに暴力を振るったとは思っていなかった。
2256
2257 私とBは,
2258 Bの家に戻ってから,
2259
2260 一緒にかばんの中身を確認した。
2261
2262 かばんには財布と携帯電話機1台が入っており,
2263 財布の中に
2264 は現金10万円が入っていた。
2265
2266 Bが,
2267 私に2万円を渡してきたので,
2268 私は,
2269 自動車を運転した
2270 謝礼としてこれを受け取った。
2271
2272 残りの8万円はBが自分のものにした。
2273
2274 財布や携帯電話機,
2275 か
2276 ばんについては,
2277 Bが自分のものにしたか,
2278 あるいは捨てたのだと思う。
2279
2280 私は,
2281 Bからもらっ
2282 た2万円を自分の飲食費などに使った。
2283
2284 」旨説明した。
2285
2286 Aは,
2287 前記1のとおり公訴を提起され
2288 た後も,
2289 同弁護人に前記説明と同じ内容の説明をした。
2290
2291
2292
2293 3
2294
2295 受訴裁判所は,
2296 同年2月24日,
2297 Aに対する強盗致傷被告事件を公判前整理手続に付する決
2298 定をした。
2299
2300 検察官は,
2301 同年3月3日,
2302 【別紙1】の証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁
2303 護人に提出・送付するとともに,
2304 同裁判所に【別紙2】の証拠の取調べを請求し,
2305 Aの弁護人
2306 に当該証拠を開示した。
2307
2308 Aの弁護人が当該証拠を閲覧・謄写したところ,
2309 その概要は次のとお
2310 りであった。
2311
2312
2313
2314 (1)
2315
2316 甲第1号証の診断書には,
2317 Vの受傷について,
2318 同年1月15日から加療約1週間を要する
2319 頭部挫創の傷害と診断する旨が記載されていた。
2320
2321
2322
2323 (2)
2324
2325 甲第2号証の実況見分調書には,
2326 司法警察員が,
2327 Vを立会人として,
2328 同日午前2時から同
2329 日午前3時までの間,
2330 Vがかばんを奪われるなどの被害に遭った事件現場としてH県I市J
2331 町1丁目2番3号先路上の状況を見分した結果が記載されており,
2332 同所付近には街灯が少な
2333 く,
2334 夜間は非常に暗いこと,
2335 同路上の通行量はほとんどなく,
2336 実況見分中の1時間のうちに
2337 通行人2名が通過しただけであったことなども記載されていた。
2338
2339
2340
2341 (3)
2342
2343 甲第3号証のバット1本は,
2344 木製で,
2345 長さ約90センチメートル,
2346 重さ約1キログラムの
2347 ものであった。
2348
2349
2350
2351 (4)
2352
2353 甲第4号証のVの検察官調書には,
2354 「私は,
2355 平成26年1月15日午前零時頃,
2356 勤務先か
2357
2358 ら帰宅するためI市内の繁華街に近い道路を一人で歩いていたところ,
2359 いきなり何者かに後
2360 頭部を固い物で殴られ,
2361 右手に持っていたかばんを強く引っ張られて仰向けに転倒した。
2362
2363 私
2364 は,
2365 仰向けに転倒した拍子にかばんから手を離した。
2366
2367 すると,
2368 この時,
2369 私のすぐそばに男が
2370 立っており,
2371 その男が左手にバットを持ち,
2372 右手に私のかばんを持っているのが見えた。
2373
2374 そ
2375 こで,
2376 私は,
2377 その男にバットで後頭部を殴られたのだと分かった。
2378
2379 男は,
2380 私のかばんを持っ
2381 て逃げたが,
2382 その際,
2383 バットを地面に落としていった。
2384
2385 かばんには,
2386 財布と携帯電話機1台
2387 を入れており,
2388 財布の中には,
2389 現金10万円を入れていた。
2390
2391 男にかばんを奪われた後,
2392 私は,
2393
2394 すぐに男を追い掛けたが,
2395 男が自動車に乗って逃げたため,
2396 捕まえることはできなかった。
2397
2398 」
2399 旨記載されていた。
2400
2401
2402 (5)
2403
2404 甲第5号証のBの検察官調書には,
2405 「私は,
2406 サラ金に約50万円の借金を抱え,
2407 平成26
2408
2409 年1月15日に事件を起こす1週間くらい前から,
2410 遊ぶ金欲しさに,
2411 通行人からかばんなど
2412 をひったくることを考えていた。
2413
2414 通行人からかばんなどをひったくる際には抵抗されること
2415 も予想し,
2416 そのときは相手を殴ってでもかばんなどを奪おうと考えていた。
2417
2418 私は,
2419 同月14
2420 日午後11時頃,
2421 私の自宅に来ていた友人Aに『ひったくりをするから,
2422 一緒に来てくれな
2423 いか。
2424
2425 車を運転してほしい。
2426
2427 ひったくりをする相手が見付かったら,
2428 俺が一人で車から降り
2429 てひったくりをするから,
2430 その間,
2431 車で待っていてくれ。
2432
2433 俺が車に戻ったら,
2434 すぐに車を走
2435 らせて逃げてほしい。
2436
2437 』と頼んだ。
2438
2439 Aは,
2440 快く引き受けてくれて,
2441 Aの自動車でI市内の繁
2442 華街に行くことを話し合った。
2443
2444 私は,
2445 かばんなどを奪う相手に抵抗されたりした場合にはそ
2446 の相手をバットで殴ったり脅したりしようと考え,
2447 自分の部屋からバット1本を持ち出し,
2448
2449 そのバットを持ってAの自動車の助手席に乗った。
2450
2451 そして,
2452 Aが自動車を運転して繁華街に
2453 向かい,
2454 その周辺の道路を走行しながら,
2455 ひったくりの相手を探した。
2456
2457 車内では,
2458 どうやっ
2459 てかばんなどを奪うのかについて話はしなかった。
2460
2461 私は,
2462 かばんを持って一人で歩いている
2463 男性Vを見付けたので,
2464 Aに停車してもらってから,
2465 私一人でバットを持って降車し,
2466 Vの
2467 後を付けて行った。
2468
2469 私がバットを持って自動車に乗ったことや,
2470 バットを持って自動車から
2471 降りたことは,
2472 Aも自動車の運転席に居たのだから,
2473 当然気付いていたと思う。
2474
2475 私は,
2476 降車
2477 してしばらくVを追跡してから,
2478 同月15日午前零時頃,
2479 背後からVに近付き,
2480 いきなりV
2481 が右手に持っていたかばんをつかんで後ろに引っ張った。
2482
2483 この時,
2484 Vが後方に転倒して頭部
2485 を地面に打ち付け,
2486 かばんから手を離したので,
2487 私は,
2488 すぐにかばんを取ることができた。
2489
2490
2491 私は,
2492 Vを転倒させようと思ってかばんを引っ張ったわけではなく,
2493 バットで殴りもしなか
2494 った。
2495
2496 かばんを奪った直後,
2497 私は,
2498 手を滑らせてバットをその場に落としてしまったが,
2499 V
2500
2501 がすぐに立ち上がって私を捕まえようとしたので,
2502 バットをその場に残したままAの自動車
2503 まで走って逃げた。
2504
2505 私は,
2506 Vに追い掛けられたが,
2507 私がAの自動車の助手席に乗り込むとA
2508 がすぐに自動車を発進させてくれたので,
2509 逃げ切ることができた。
2510
2511 その後,
2512 私とAは,
2513 私の
2514 自宅に戻り,
2515 Vのかばんの中身を確認した。
2516
2517 かばんには,
2518 財布と携帯電話機1台が入ってお
2519 り,
2520 財布には現金10万円が入っていた。
2521
2522 そこで,
2523 私は,
2524 Aに,
2525 自動車を運転してくれた謝
2526 礼として現金2万円を渡し,
2527 残り8万円を自分の遊興費に使った。
2528
2529 財布や携帯電話機,
2530 かば
2531 んは,
2532 私がいずれもゴミとして捨てた。
2533
2534 」旨記載されていた。
2535
2536
2537 (6)
2538
2539 乙第1号証のAの警察官調書には,
2540 Aの生い立ちなどが記載されており,
2541 乙第2号証のA
2542 の検察官調書には,
2543 前記2のとおりAが自己の弁護人に説明した内容と同じ内容が記載され
2544 ていた。
2545
2546 乙第3号証の身上調査照会回答書には,
2547 Aの戸籍の内容が記載されていた。
2548
2549
2550
2551 4
2552
2553 Aの弁護人は,
2554 【別紙1】の証明予定事実記載書及び【別紙2】の検察官請求証拠を検討し
2555 た後,
2556 @同証明予定事実記載書の内容につき,
2557 受訴裁判所裁判長に対して求釈明を求める方針
2558 を定め,
2559 また,
2560 A検察官に対し,
2561 【別紙2】の検察官請求証拠の証明力を判断するため,
2562 類型
2563 証拠の開示を請求した。
2564
2565 そこで,
2566 検察官は,
2567 当該開示請求に係る証拠をAの弁護人に開示した。
2568
2569
2570 その後,
2571 同年3月14日,
2572 Aに対する強盗致傷被告事件につき,
2573 第1回公判前整理手続期日
2574 が開かれた。
2575
2576 裁判長は,
2577 Aの弁護人からの前記求釈明の要求に応じて,
2578 検察官に釈明を求めた。
2579
2580
2581 そこで,
2582 検察官は,
2583 今後,
2584 証明予定事実記載書を追加して提出することにより釈明する旨述べ
2585 た。
2586
2587
2588 第1回公判前整理手続期日が終了した後,
2589 検察官は,
2590 追加の証明予定事実記載書を受訴裁判
2591 所及びAの弁護人に提出・送付した。
2592
2593 Aの弁護人は,
2594 BがVの後頭部をバットで殴打したか否
2595 かなどの実行行為の態様については,
2596 甲第4号証のVの検察官調書が信用性に乏しく,
2597 甲第5
2598 号証のBの検察官調書が信用できると考えた。
2599
2600 その上で,
2601 BAの弁護人は,
2602 前記2のAの説明
2603 内容に基づいて予定主張記載書面を作成し,
2604 これを受訴裁判所及び検察官に提出・送付した。
2605
2606
2607 同月28日,
2608 第2回公判前整理手続期日が開かれ,
2609 受訴裁判所は,
2610 争点及び証拠を整理し,
2611
2612 V及びBの証人尋問が実施されることとなった。
2613
2614 そして,
2615 同裁判所は,
2616 争点及び証拠の整理結
2617 果を確認して審理計画を策定し,
2618 公判前整理手続を終結した。
2619
2620 公判期日は,
2621 同年5月19日か
2622 ら同月21日までの連日と定められた。
2623
2624
2625
2626 5
2627
2628 その後,
2629 Bに対する強盗致傷被告事件の公判が,
2630 同年4月21日から同月23日まで行われ
2631 た。
2632
2633 Bは,
2634 同公判の被告人質問において,
2635 「実は,
2636 起訴されるまでの取調べにおいては嘘の話
2637 をしていた。
2638
2639 本当は,
2640 平成26年1月14日午後11時頃,
2641 自宅において,
2642 Aに対し本件犯行
2643 への協力を求めた際,
2644 Aから『バットを持って行けばよい。
2645
2646 』と勧められた。
2647
2648 また,
2649 Vを襲っ
2650 た時,
2651 バットでVの後頭部を殴ってから,
2652 Vのかばんを引っ張った。
2653
2654 」旨新たに供述した。
2655
2656 そ
2657 こで,
2658 Aの公判を担当する検察官が,
2659 同年4月24日にBを取り調べたところ,
2660 Bは自己の公
2661 判で供述した内容と同旨の供述をしたが,
2662 その一方で「Aの前では,
2663 Aに責任が及ぶことにつ
2664 いて話しづらいので,
2665 Aの公判では,
2666 できることなら話したくない。
2667
2668 今日話したことについて
2669 は,
2670 供述調書の作成にも応じたくない。
2671
2672 」旨供述した。
2673
2674 C同検察官は,
2675 取調べの結果,
2676 Bが自
2677 己の公判で新たにした供述の内容が信用できると判断した。
2678
2679
2680
2681 〔設問1〕
2682 下線部@につき,
2683 Aの弁護人が求釈明を求める条文上の根拠を指摘するとともに,
2684 同弁護人が求
2685 釈明を求める事項として考えられる内容を挙げ,
2686 当該求釈明の要求を必要と考える理由を具体的に
2687 説明しなさい。
2688
2689
2690 〔設問2〕
2691 下線部Aにつき,
2692 Aの弁護人が甲第4号証のVの検察官調書の証明力を判断するために開示を請
2693 求する類型証拠として考えられるものを3つ挙げ,
2694 同弁護人が当該各証拠の開示を請求するに当た
2695 り明らかにしなければならない事項について,
2696 条文上の根拠を指摘しつつ具体的に説明しなさい。
2697
2698
2699 ただし,
2700 当該各証拠は,
2701 異なる類型に該当するものを3つ挙げることとする。
2702
2703
2704 〔設問3〕
2705 下線部Bにつき,
2706 Aの弁護人は,
2707 Aの罪責についていかなる主張をすべきか,
2708 その結論を示すと
2709 ともに理由を具体的に論じなさい。
2710
2711
2712 〔設問4〕
2713 下線部Cにつき,
2714 検察官は,
2715 Bが自己の公判で新たにした供述の内容をAの公訴事実の立証に用
2716 いるためにどのような訴訟活動をすべきか,
2717 予想されるAの弁護人の対応を踏まえつつ具体的に論
2718 じなさい。
2719
2720
2721
2722 【別紙1】
2723 証明予定事実記載書
2724 平成26年3月3日
2725 被告人Aに対する強盗致傷被告事件に関し,
2726 検察官が証拠により証明しようとする事実は下記のと
2727 おりである。
2728
2729
2730 記
2731 第1
2732 1
2733
2734 犯行に至る経緯
2735 するなどし,
2736 友人として付き合いを続けていた。
2737
2738
2739
2740 2
2741
2742 証拠
2743
2744 被告人とBとは,
2745 高校の同級生であり,
2746 高校卒業後もお互いの自宅に行き来 第1につき
2747 甲3号証(バッ
2748
2749 Bは,
2750 高校卒業後,
2751 アルバイトをすることもあったが,
2752 定職には就いておら ト1本),
2753 甲4
2754 ず,
2755 本件当時も無職であった。
2756
2757 また,
2758 Bは,
2759 本件当時,
2760 消費者金融会社からの 号証(Vの検察
2761 負債が約50万円に上っていた。
2762
2763 そこで,
2764 Bは,
2765 遊興費欲しさに,
2766 本件の約1 官調書),
2767 甲5
2768 週間くらい前から,
2769 通行人を殴打するなどしてかばん等を奪うことを考えるよ 号証(Bの検察
2770 うになった。
2771
2772
2773
2774 3
2775
2776 官調書),
2777 乙1
2778
2779 被告人は,
2780 平成26年1月14日,
2781 自己が所有する普通乗用自動車に乗って,
2782 号証(被告人の
2783 Bの自宅を訪れた。
2784
2785 Bは,
2786 同日午後11時頃,
2787 かねてから考えていた強盗を実 警察官調書),
2788
2789 行しようと決意し,
2790 事件後に逃走するためには自動車があった方がよいと考え,
2791 乙2号証(被告
2792 被告人に自動車の運転役を依頼し,
2793 被告人もこれを了承し,
2794 ここにおいて被告 人 の 検 察 官 調
2795 人とBは,
2796 強盗の共謀を遂げた。
2797
2798
2799
2800 書)
2801
2802 被告人は,
2803 自己の自動車の運転席に乗り,
2804 Bが,
2805 自宅にあったバット1本を
2806 持ち,
2807 同車の助手席に乗った。
2808
2809 そして,
2810 被告人が同車を運転し,
2811 H県I市内の
2812 繁華街に向かった。
2813
2814 なお,
2815 被告人は,
2816 Bが乗車した際にバットを持っているこ
2817 とを認識していた。
2818
2819
2820 第2
2821 1
2822
2823 犯行状況等
2824
2825 第2につき
2826
2827 被告人とBは,
2828 I市内の繁華街周辺の道路を自動車で走行していた際,
2829 かば 甲1号証(診断
2830 んを所持して徒歩で帰宅途中のVを認め,
2831 Vからそのかばんを強奪しようと考 書),
2832 甲2号証
2833 えた。
2834
2835 そこで,
2836 被告人が自動車を停止させ,
2837 Bがバットを持って降車し,
2838 Vを ( 実 況 見 分 調
2839 追跡した。
2840
2841
2842
2843 書),
2844 甲3号証
2845
2846 Bは,
2847 しばらくVを追跡した後,
2848 同月15日午前零時頃,
2849 I市J町1丁目2 (バット1本),
2850
2851 番3号先路上において,
2852 いきなりVの後頭部を手に持っていたバットで1回殴 甲4号証(Vの
2853 打し,
2854 Vが右手に持っていたかばんをつかんで後方に引っ張った。
2855
2856 Vは,
2857 かば 検察官調書),
2858
2859 んを引っ張られた勢いで仰向けに転倒してかばんから手を離した。
2860
2861 そこで,
2862 B 甲5号証(Bの
2863 は,
2864 Vのかばんを取得し,
2865 被告人の自動車まで逃走した。
2866
2867 この間,
2868 被告人は,
2869 検察官調書),
2870
2871 同車内で待機していたが,
2872 Bが,
2873 Vから追い掛けられながら逃走してくるのを 乙2号証(被告
2874 認め,
2875 Bが助手席に乗るや否や同車を発進させて逃走した。
2876
2877
2878
2879 人の検察官調
2880
2881 Vは,
2882 前記のとおり後頭部を殴打されたことなどにより,
2883 加療約1週間を要 書)
2884 する頭部挫創のけがを負った。
2885
2886
2887 2
2888
2889 被告人とBは,
2890 Bの自宅に戻り,
2891 Vのかばんの中身を確認した。
2892
2893 かばんの中
2894 には財布及び携帯電話機1台が入っており,
2895 財布の中には現金10万円が入っ
2896 ていたことから,
2897 Bが8万円を自分のものとし,
2898 被告人が2万円を自分のもの
2899 とした。
2900
2901 財布,
2902 携帯電話機及びかばんについては,
2903 Bが廃棄した。
2904
2905
2906 以
2907
2908 上
2909
2910 【別紙2】
2911 検察官請求証拠
2912 甲号証
2913 番号
2914
2915 証拠の標目
2916
2917 立証趣旨
2918
2919 甲第1号証
2920
2921 診断書
2922
2923 Vの負傷部位・内容
2924
2925 甲第2号証
2926
2927 実況見分調書
2928
2929 犯行現場の状況
2930
2931 甲第3号証
2932
2933 バット1本
2934
2935 犯行に用いられたバットの存在及び形状
2936
2937 甲第4号証
2938
2939 Vの検察官調書
2940
2941 被害状況
2942
2943 甲第5号証
2944
2945 Bの検察官調書
2946
2947 犯行に至る経緯及び犯行の状況等
2948 乙号証
2949
2950 番号
2951
2952 証拠の標目
2953
2954 立証趣旨
2955
2956 乙第1号証
2957
2958 被告人の警察官調書
2959
2960 身上・経歴関係
2961
2962 乙第2号証
2963
2964 被告人の検察官調書
2965
2966 犯行に至る経緯及び犯行の状況等
2967
2968 乙第3号証
2969
2970 被告人の身上調査照会回答書
2971
2972 被告人の身上関係
2973
2974 (出題趣旨)
2975 本問は,
2976 強盗致傷罪の成否やその共謀が争点となり得る具体的事例を題材に,
2977 弁
2978 護人として,
2979 公判前整理手続において,
2980 検察官作成の証明予定事実記載書の内容に
2981 つき求釈明を要求すべき事項(設問1),
2982 被害者の検察官調書の証明力を判断する
2983 ために類型証拠開示請求すべき証拠(設問2),
2984 被告人の弁解等を踏まえ明示すべ
2985 き予定主張の内容(設問3)などを問うとともに,
2986 検察官として,
2987 公判前整理手続
2988 終了後に共犯者の公判でなされた共犯者供述を被告人の公訴事実の立証に用いるた
2989 めに行うべき訴訟活動の在り方(設問4)を問うものである。
2990
2991 昨今の刑事裁判実務
2992 において重要な役割を果たしている公判前整理手続やその他の刑事手続,
2993 更には実
2994 体法(刑法)についての基礎的知識を試すとともに,
2995 具体的事例において,
2996 これら
2997 の知識を活用し,
2998 訴訟当事者として行うべき訴訟活動や法的主張を検討するなどの
2999 法律実務の基礎的素養を試すことを目的としている。
3000
3001
3002
3003 [一般教養科目]
3004 エリート(選良)という言葉は,
3005 今日,
3006 両義的な意味合いで用いられる。
3007
3008 例えば,
3009 「トップエリ
3010 ートの養成」というと,
3011 肯定的な含意がある。
3012
3013 これに対して,
3014 「エリート意識が高い」というと,
3015
3016 否定的な含意がある。
3017
3018 エリートをどう捉えるかは,
3019 社会をどう捉えるかと同等の,
3020 極めて根源的な
3021 問題の一つである。
3022
3023
3024 「エリートとは何か」をめぐる,
3025 以下の二つの文章を読んで,
3026 後記の各設問に答えなさい。
3027
3028
3029 [A]
3030
3031 「エリートとは何か」は,
3032 それぞれの社会の持つ歴史的・地理的な制約によって,
3033 その様相
3034 が異なる問題である。
3035
3036
3037 これに関連して,
3038 イタリアの経済学者・社会学者 V.F.D.パレートは,
3039 「エリートの周流」
3040 (circulation of elites)という理論を提示している。
3041
3042 この理論は,
3043 エリートが周期的に交替す
3044 る(旧エリートが衰退し,
3045 新エリートが興隆する)ことを,
3046 一つの社会法則として提示しよ
3047 うとしたものである。
3048
3049
3050 パレートはこう説く。
3051
3052 エリートは,
3053 本来,
3054 少数者(特定の階級)の利益を代表している。
3055
3056
3057 新エリートは,
3058 当初,
3059
3060 (旧エリートの階級性を批判しつつ)多数者の利益を代表して登場する。
3061
3062
3063 しかし,
3064 旧エリートと交替すると,
3065 今度は少数者の利益を代表するようになる,
3066 と(「社会学
3067 理論のひとつの応用」1900 年による。
3068
3069 )。
3070
3071
3072
3073 〔設問1〕
3074 [A]の文章中のパレートの理論を参照しつつ,
3075 近代社会において「学歴主義」(学歴を人の能
3076 力の評価尺度とすること)が果たしてきた役割について,
3077 15行程度で論じなさい。
3078
3079
3080 [B]
3081
3082 ....
3083 ....
3084 現代社会(ここでは,
3085 「現代社会」という言葉を,
3086 古典的な近代社会に対して近代的な近代
3087
3088 社会という意味内容で用いている。
3089
3090 )が,
3091 いかなる様相を持つ社会であるかは,
3092 当該社会に生
3093 きる私たちにとって現実的な問題である。
3094
3095
3096 例えば,
3097 アメリカの経営学者 P.F.ドラッカーは,
3098 「ポスト資本主義社会」という概念を提
3099 示している。
3100
3101
3102 ドラッカーはこう説く。
3103
3104 従来の資本主義社会では,
3105 土地・労働・資本の三つが,
3106 生産の資
3107 源であった。
3108
3109 しかし,
3110 今日のポスト資本主義社会では,
3111 知識が生産の資源になる。
3112
3113 資本主義
3114 社会では,
3115 資本家と労働者が,
3116 中心的な階級区分であった。
3117
3118 しかし,
3119 ポスト資本主義社会で
3120 は,
3121 知識労働者とサービス労働者が中心的な階級区分になる,
3122 と(『ポスト資本主義社会』19
3123 93 年による。
3124
3125 )。
3126
3127
3128 このドラッカーの主張は,
3129 エリートとは何かを論じる目的でされたものではないが,
3130 現代
3131 社会において「エリートとは何か」を考える上で,
3132 一つの素材となり得るものである。
3133
3134
3135 〔設問2〕
3136 [B]の文章中のドラッカーの主張を素材として,
3137 現代日本社会におけるエリートとは何かにつ
3138 いて,
3139 10行程度で論じなさい。
3140
3141
3142
3143 (出題趣旨)
3144 設問1は,
3145 [A]の文章中のパレートの理論を,
3146 学歴主義(学歴を人の能力の評価
3147 尺度とすること)におけるエリートに当てはめて説明することができるかどうかを
3148 問うている。
3149
3150 その説明に当たっては,
3151 近代以前の社会が属性主義に基づく社会であ
3152
3153 り,
3154 近代社会がそうでない社会となったことを前提に,
3155 学歴主義が近代社会におい
3156 て果たした役割や,
3157 時代が下るにつれて学歴主義に基づくエリートが一種の階級性
3158 を帯びるようになったことを具体的に説明することが求められる。
3159
3160
3161 設問2は,
3162 [B]の文章中のドラッカーの主張が直ちにはエリート論と結びつかな
3163 いもののエリート論となり得ることを説明するか,
3164 この主張を素材に別の主張を立
3165 てるなどして,
3166 現代日本社会におけるエリートの定義や要件について,
3167 自説を具体
3168 的かつ説得的に展開することを問うている。
3169
3170
3171 いずれの設問においても,
3172 全体として指定の分量内で簡明に記述する能力も求め
3173 られる。
3174
3175
3176
3177