1 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)
2
3
4 採点の基本方針等
5 本年の問題においても,
6 事案を正確に読んでいるか,
7 憲法上の問題を的確に発見
8 しているか,
9 その上で,
10 関係する条文,
11 判例,
12 憲法上の基本的な理論を正確に理解
13 しているか,
14 さらに,
15 実務家として必要とされる法的思考及び法的論述ができてい
16 るかということに重点を置いて採点した。
17
18
19 本年の問題は,
20 職業の自由に関するものであるが,
21 これを規制する条例の目的が
22 複合的であることが最も重要なポイントとなる。
23
24 すなわち,
25 本年の問題が問うてい
26 るのは,
27 複合的目的で職業の自由を制約する条例の合憲性である。
28
29 この点に関して
30 は,
31 確立した判例や支配的な憲法学説があるわけではない。
32
33 それゆえに,
34 職業の自
35 由に関する判例や憲法学説を正確に理解した上で,
36 原告・被告それぞれの立場で,
37
38 筋の通った主張をして違憲論・合憲論を論じている答案には,
39 高い評価が与えられ
40 る。
41
42 他方で,
43 問題に記載されている事実を正確に把握せず,
44 あるいは,
45 原告・被告
46 それぞれに都合の良い事実のみを取り上げる答案や,
47 問題となっている規制の合憲
48 性・違憲性を審査する基準(以下「審査基準」という。
49
50 )の内容に誤りや不正確な
51 点がある答案,
52 さらには,
53 審査基準に関するパターン化した表面的な論証に終始し
54 たり,
55 職業の自由の規制の合憲性をめぐる判例の変化に注意を払わず,
56 安易に従前
57 の特定の判例の考え方に引き付けて論証している答案には,
58 厳しい評価をせざるを
59 得なかった。
60
61
62 本年の問題において高く評価された答案,
63 そして厳しい評価とならざるを得な
64 かった答案,
65 それぞれについて具体例を挙げると,
66 以下のようなことを指摘するこ
67 とができる。
68
69
70 ・ 複数の検討事項についての論理的一貫性を有した答案や軸足を定めた上でそれ
71 に基づいて作成している答案は高く評価された。
72
73 他方で,
74 一つの主張の中で論理
75 的一貫性を欠く答案(例えば,
76 審査基準の厳格さと結論が理由なく逆転している
77 ものなど)や各主張間の価値判断や事案の内容に即した判断のバランスを欠いた
78 答案は,
79 厳しい評価となった。
80
81
82 ・ 根拠のある理由がきちんと記載されている答案は,
83 高く評価された。
84
85 他方で,
86
87 理由を記載せずに,
88 単に「違憲である」とか「合憲である」と結論のみを記載し
89 ている答案や,
90 審査基準が記載してあるとしても,
91 なぜその審査基準を採るのか
92 について理由を記載していない答案などは,
93 厳しい評価となった。
94
95
96 ・ 本年の問題で制約されるものは,
97 職業選択の自由であるのか,
98 それとも営業の
99 自由であるのかについて,
100 判例等を基礎に置いて検討している答案は,
101 高く評価
102 された。
103
104 他方で,
105 安易にそのいずれかに決め付けて論じている答案は,
106 厳しい評
107 価となった。
108
109
110 ・ 本年の問題では,
111 C社は「条例自体が・・・違憲であると主張して」訴訟を提
112 起しており,
113 内容的にも,
114 適用違憲(処分違憲)を論じるべき事案ではないにも
115 かかわらず,
116 適用違憲(処分違憲)を論じている答案は,
117 当該記載について積極
118 的評価ができないのみならず,
119 解答の前提を誤るなどしているという点において
120 も厳しい評価となった。
121
122
123 ・ 同様の観点であるが,
124 本年の問題では,
125 「法人の人権・・・については,
126 論じ
127
128 -1-
129
130 なくてよい」,
131 「道路運送法と本条例の関係については,
132 論じなくてよい」と記載
133 されており,
134 それにもかかわらずこれらを論じている答案は,
135 厳しい評価となっ
136 た。
137
138
139 ・ 問題に記載されている事実関係は,
140 原告・被告の立場あるいは答案作成者とし
141 ての受験者の立場を問わず,
142 当然に前提とされるべき事実である。
143
144 それにもかか
145 わらず,
146 (意図的であるか否かを問わず)自己に有利な事実のみを取り上げ,
147
148 己に不利な事実には目をつぶって主張・見解を展開するような答案は,
149 法曹を目
150 指す者の解答としては厳しい評価とならざるを得なかった。
151
152 答案の作成に際して
153 は,
154 自己に不利な事実であっても事実として受け止めた上で,
155 それぞれの立場か
156 ら当該事実の意味付け・評価等をして,
157 主張を組み立てていくことが求められる。
158
159
160 ・ 条例の規制目的が複合的であるにもかかわらず,
161 原告の主張では消極目的,
162
163 告の主張では積極目的として単純に論じるような,
164 自分に都合の良い論じ方をし
165 ている答案についても,
166 厳しい評価となった。
167
168
169 ・ 司法試験は,
170 法曹となるべき者に必要な知識・能力を判定する試験であるので,
171
172 検討の出発点として判例を意識することは不可欠であり,
173 判例をきちんと踏まえ
174 た検討が求められる。
175
176 したがって,
177 判例に対する意識が全くない,
178 あるいは,
179
180 れがほとんどない答案は,
181 厳しい評価とならざるを得なかった。
182
183 判例に対しては
184 様々な見解があり得るので,
185 判例と異なる立場を採ること自体は問題ないが,
186
187 の場合にも,
188 判例の問題点をきちんと指摘した上で主張を組み立てていくことが
189 求められる。
190
191
192 ・ 論述が説得性を持つためには,
193 理論(例えば,
194 審査基準論の内容など)を正確
195 に理解していることが必要不可欠である。
196
197 基本的な理論に関する不正確な理解に
198 基づいて作成された答案は,
199 厳しい評価となった。
200
201
202 ・ 憲法の論文式試験で受験者に求められていること,
203 逆に求められていないこと
204 や不適切とされることについては,
205 上記の指摘事項と重なるものも含め,
206 毎年公
207 表される採点実感において記載してきたところである。
208
209 それにもかかわらず,
210
211 れまでも指摘されているような,
212 求められていないこと,
213 あるいは不適切とされ
214 ることを記載している答案については,
215 全般として厳しい評価とならざるを得な
216 かった。
217
218
219
220
221 採点実感
222 各委員からの意見を踏まえ,
223 答案として気に掛かったものを中心に,
224 個別に述べ
225 ることとする。
226
227
228 (1) 問題の読み取りの不十分さについて
229 ア 条例の目的
230 ・ 条例の規制目的について,
231 積極目的と消極目的が複合している,
232 あるいは
233 目的について割り切ることができないことを前提として,
234 どう検討するかが
235 出題意図であったが,
236 そこまで分析が及んでいない答案が多数見られた。
237
238
239 ・ 本件は目的分析が主たる論点であるにもかかわらず,
240 そもそも目的に関す
241 る分析がない,
242 あるいは,
243 乏しい答案も見受けられた。
244
245
246 ・ 条例第1条の規定する立法目的は,
247 本来,
248 読解が必要とされるが,
249 その読
250 解作業を行う答案は非常に少なかった。
251
252 条例第1条を無視あるいは軽視して,
253
254
255 -2-
256
257 条例の目的は「輸送の安全」のみにあるとか,
258 「既存業者の保護」にあるな
259 どと単純に決め付ける答案が多かった。
260
261
262 イ 適用違憲(処分違憲)
263 ・ 既に述べたとおり,
264 本年の問題では,
265 問題文から条例自体の違憲性を論じ
266 ることが求められており,
267 かつ,
268 内容的にも適用違憲(処分違憲)を論じる
269 べきではないと考えられるにもかかわらず,
270 漫然と適用違憲(処分違憲)を
271 論じているものが少なくなかった。
272
273
274 ウ その他
275 ・ 出題者の問題意識(複合的な規制目的,
276 具体的な規制内容の合憲性など)
277 を正確に把握している答案は残念ながら僅かであった。
278
279
280 ・ AEDが何であるかの理解を誤っている答案が少ないながらもあった。
281
282
283 律家の資質の前提として,
284 常識の範囲内の事柄は,
285 一般人として適切に理解
286 しておく必要がある。
287
288
289 ・ 条例第4条の第1号ないし第3号,
290 あるいは第3号のイ及びロにつき,
291
292 れぞれを適宜区別しながら審査しているものが見られた点は評価できる一方
293 で,
294 特に第3号のイ及びロについて,
295 全てまとめて一つの審査をしているも
296 のがあり,
297 気になった。
298
299
300 ・ 条例第4条については,
301 @第1号ないし第3号とその枝一つごとに,
302 Aそ
303 の規制目的を確定した上,
304 Bその目的と規制手段との関連性につき,
305 (一刀
306 両断に「ない」などと書くのでなく)具体的にどこまであるか(どこまでし
307 かないか)を論じて結論としての関連性の有無を述べる必要があるが,
308 @A
309 Bの各レベルで,
310 論述の雑な答案が多かった。
311
312
313 (2) 原告―被告―あなた自身の見解という全体構成について
314 ・ 設問2においては,
315 被告側の反論を幾つか挙げた後,
316 それらについての自己
317 の見解を表面的に述べるのみで,
318 条例の憲法適合性について,
319 自己の見解を体
320 系的・論理的に深く論じている答案が少ない印象を受けた。
321
322
323 ・ 設問2について,
324 被告の反論なのか自己の見解なのかさえ判然としない答案
325 があった。
326
327
328 ・ 設問2について,
329
330 「被告側の反論についてポイントのみを簡潔に述べた上で」
331 とあるからか,
332 被告の反論については全体で一点だけ簡単に示して,
333 後は全て
334 受験者自身の見解だけを書くというスタイルも見られたが,
335 出題者の趣旨は,
336
337 設問1で論述した原告側主張と対立する被告側主張を意識した上で,
338 自身の見
339 解を説得的に論証してもらいたいというものであるので,
340 少なくとも両者の対
341 立軸を示すに足りる程度の記載は必要である。
342
343
344 ・ 設問2について,
345 【ある観点からの反論→それに対する受験者自身の見解→
346 別の観点からの反論→それに対する受験者自身の見解→更に別の観点からの反
347 論→それに対する受験者自身の見解・・・】という構成の答案が多かった。
348
349
350 の結果,
351 手厚く論じてもらいたい受験者自身の見解の論述が分断されてしまい,
352
353 受験者自身が,
354 この問題について,
355 全体として,
356 どのように理解し,
357 どのよう
358 な見解を持っているのかが非常に分かりづらかった。
359
360 さらに,
361 極端に言えば,
362
363 「原告の△△という主張に対し,
364 被告は××と反論する。
365
366 しかし,
367 私は,
368 原告
369 の△△という主張が正しいと考える」という程度の記載にとどまるものもあっ
370
371 -3-
372
373 た。
374
375
376 ・ 受験者自身の見解について厚く論述している答案は多くなかった。
377
378 一方当事
379 者の立場として原告の主張を記載するのに時間を費やすだけで,
380 必ずしも多角
381 的な視点からの検討にまで至っていないことは残念であった。
382
383
384 (3) 制約される憲法上の権利について
385 ・ 制約される権利については,
386 具体的な事情の検討を経ることなく,
387 単純に「営
388 業の自由」とするものがほとんどであった。
389
390 また,
391 その記載内容も,
392 ほとんど
393 の答案が判で押したように同様の内容であり,
394 しかも,
395 事案に即した必要な検
396 討がなされないままで,
397 あらかじめ準備した論証パターンを記載することが目
398 的となっているようにすら見える答案も多かった。
399
400
401 ・ 「職業の選択」と「営業(職業の遂行)」とを適宜区分した上で,
402 本件の問
403 題が「職業の選択」自体に関わるという点について示している答案は少なかっ
404 た。
405
406
407 ・ 営業の自由や職業選択の自由が人格的利益に結び付くものであるとしつつ
408 も,
409 そもそも人格的利益とは何か,
410 また,
411 本件におけるC社の参入目的がどの
412 ように人格的利益と関係するのか(その参入目的は,
413 事業拡大・増収であり,
414
415 人格的利益とは必ずしも直結しない。
416
417 )について検討が及んでいる答案は残念
418 ながらほぼ皆無であった。
419
420
421 (4) 条例の違憲性について
422 ア 規制目的等
423 ・ 条例の目的は,
424 その背景事情としてどのようなものがあるにせよ,
425 まず条
426 例第1条に規定されている目的が出発点になる。
427
428 これは,
429 原告の主張であっ
430 たとしても同様である。
431
432 この条例が実質的にはC社の参入を妨げる目的によ
433 るものであると主張・認定することはあり得るとしても,
434 検討としては,
435
436 ず条例に規定されている目的を出発点とすべきであろう。
437
438
439 ・ 条例の規制目的が消極目的・積極目的のいずれかに割り切ることのできな
440 いものであるにもかかわらず,
441 安易に,
442 あるいは半ば強引に,
443 消極目的規制
444 の条例と捉えて,
445 形式的に厳格な合理性の基準を適用している答案が目立っ
446 た。
447
448 その意味で,
449 新たな問題について自分の頭で考えようとせず,
450 安易に従
451 前の判例の事案等に引き付けて論述しようとする姿勢が見受けられた。
452
453
454 ・ 複合的な目的の条例であるから,
455 規制(手段)について,
456 具体的にどの目
457 的との関係で採られたものなのかという目的との関係を意識しながら,
458 手段
459 の相当性を論ずべきであったと思われるが,
460 その意識を全く欠く答案があっ
461 た。
462
463 他方,
464 一つの目的のみにとらわれすぎて,
465 別の目的による規制であるこ
466 とに気付いていないと思われる答案もあった(例えば,
467 輸送の安全ばかりに
468 気を取られ,
469 自然保護の観点がおろそかになったものなど)。
470
471
472 ・ 自然保護の目的が特段の理由の説明もないまま,
473 当然のように消極目的と
474 されている答案があった。
475
476 さらには,
477 地元タクシー会社の保護まで消極目的
478 とされていた答案もあった。
479
480
481 ・ 地元タクシー会社の保護や地場産業の保護を直ちに不当な目的としている
482 答案がかなり多かった。
483
484
485 ・ 条例の文言に現れていない,
486 いわば「隠された目的」の存在に触れている
487
488 -4-
489
490 答案もかなりあったが,
491 その位置付けは様々であり,
492 うまく整理できていな
493 いものが多かった。
494
495
496 イ 審査基準
497 ・ 規制態様が厳しいことを踏まえて審査基準を定立するのではなく,
498 違憲と
499 いう結論に飛びついてしまっている答案も見受けられた。
500
501
502 ・ 独自の審査基準を勝手に作っているのではないかと思われる答案があっ
503 た。
504
505 それは,
506 審査基準の内容に関する理解の不正確さに起因すると思われる。
507
508
509 ・ 「目的と手段の実質的関連性が必要である」と言いながら,
510 問題に即した
511 具体的検討をすることなく結論を書く答案が少なくなかった。
512
513
514 ・ 精神的自由と経済的自由の規制をめぐるいわゆる「二重の基準論」を示し,
515
516 経済的自由の規制に関する審査基準を緩やかにしてよいとして,
517 そのまま「経
518 済的自由」を一括りで緩やかな審査に持っていくものも見られた。
519
520
521 ・ 判断枠組みの定立に当たっては,
522 内実を伴った理由を示す必要がある。
523
524
525 「重
526 要な人権だから,
527 厳格な基準を採用すべきである」との理由から,
528 直ちに「厳
529 格審査の基準」あるいは「中間審査の基準」のいずれかを書いている答案も
530 少なくなかった。
531
532 しかしながら,
533 通常の審査よりも「厳格な審査」を行うと
534 しても,
535 その基準は,
536 「厳格審査の基準」も「中間審査の基準」もあり得る
537 のであり,
538 どちらの基準で判断するのかについて理由を付して説明する必要
539 がある。
540
541
542 ウ 平等違反
543 ・ 憲法第22条違反と憲法第14条違反を併せて論じているが,
544 内容はほぼ
545 同じで,
546 両者の違いが意識されていない答案があった。
547
548 あえて平等に関する
549 審査をする意味がよく分からない答案も見られた。
550
551
552 ・ 平等原則(憲法第14条)の観点から審査を行うものも少なくなかったが,
553
554 自由権侵害の合憲性審査との相違点を曖昧にしたまま,
555 憲法第14条違反を
556 書いている答案が多かった。
557
558 このような答案は,
559 平等原則の理解が不十分で
560 あることに由来するものと考えられ,
561 積極的な評価につながらない。
562
563
564 エ 具体的事実の検討
565 ・ C社が自然保護地域における運行許可を得られなかったのは,
566 @車種に関
567 する要件並びにA営業所に関する年数要件及び運転者に関する要件を満たせ
568 なかったことによるものであることは,
569 問題文から読み取れるはずである。
570
571
572 したがって,
573 これらの要件の合理性について,
574 それぞれ検討を加えることが
575 必要になるが,
576 これらの要件のいずれかの検討が脱落している答案が少なく
577 なかった。
578
579
580 ・ 車種の要件について,
581 「ハイブリッド車であれば排気ガスが少ないから環
582 境保護に資するのであって,
583 要件が厳しすぎる」とする答案が非常に多かっ
584 た。
585
586 このような価値判断も当然あり得よう。
587
588 しかしながら,
589 ハイブリッド車
590 であってもガソリンを使用する以上排気ガスを排出するのであって,
591 排気ガ
592 スを完全にシャットアウトすることにならないということは一般常識である
593 し,
594 問題文にも明記されている。
595
596 A県は,
597 ハイブリッド車では規制が不十分
598 であると考えて電気自動車であることを要件としたのであるから,
599 このよう
600 なA県の立場に対して,
601 「ハイブリッド車であれば排気ガスが少ない」と主
602
603 -5-
604
605 張するだけでは,
606 単なる水掛け論になりかねない。
607
608 ハイブリッド車でも足り
609 るという立場を採るのであれば,
610 単に排気ガスが少ないということだけでは
611 なく,
612 電気自動車よりも有利な要素,
613 すなわち安価であって,
614 タクシー事業
615 を行う者にとって負担が少ないことをも理由にしなければ説得力に欠ける。
616
617
618 ・ 原告であるC社の具体的事情を詳細に検討できた答案はほぼ皆無で,
619 C社
620 の営業の自由を極めて抽象的に捉えた上で,
621 保護が必要な弱者である地元タ
622 クシー会社との利益衡量を行うという答案がほとんどであった。
623
624 C社が他県
625 において低価格運賃で成功したとの記載が潜在的に影響し,
626 C社は強者でB
627 市に進出してきた「黒船」的存在との誤ったイメージで考えてしまった可能
628 性はあるが,
629 C社は業績の悪化からB市への進出を図ろうとしていると問題
630 文に明記されているのであるから,
631 それを前提として論証することが望まれ
632 る。
633
634
635 ・ 問題文の事実関係を生かし切れていない答案が目立った。
636
637 例えば,
638 地元タ
639 クシー会社の保護の目的や地場産業の保護の目的に全く気付かない答案も相
640 当数あったが,
641 法曹を目指す者の基礎として,
642 事実関係を踏まえた説得力の
643 ある立論をすることが求められる。
644
645
646 ・ 個別の検討において,
647 一定の結論を導き出す理由がない答案(例えば,
648
649 「○
650 ○は必要だから,
651 必要でやむを得ない規制である」といったもの)が多く見
652 られた。
653
654 結論を書くならば,
655 その理由も記載しなくてはならない。
656
657
658 (5) 答案全体の印象について
659 ・ 審査基準については,
660 設問1,
661 設問2ともにバラエティに富んだ記載がなさ
662 れている印象であった。
663
664 もっとも,
665 残念ながら,
666 判例に言及したり,
667 判例を引
668 用したりする答案は少なく,
669 判例・学説を漠然と理解しているため不正確にし
670 か基準を表現できていない答案も散見され,
671 それがバラエティに富んでいると
672 の印象の原因と思われる。
673
674 従来の目的二分論の難点に気付き,
675 それを指摘して
676 論じようとする起案も相当数あったが,
677 的確に基準を定立した上で,
678 基準に沿っ
679 て具体的検討を行うことができた答案はごく少数であった。
680
681 また,
682 目的二分論
683 の難点に気付いた答案でも,
684 審査基準の定立の段階で本件の詳細な具体的事情
685 まで審査基準の定立の検討材料としてしまっているもの,
686 逆に,
687 基準定立がう
688 まくできず,
689 具体的検討での価値判断に終始してしまうものなど,
690 審査基準の
691 定立と基準に基づく判断が渾然一体となり,
692 適切な論述ができていない答案が
693 目立った。
694
695
696 ・ 定立した審査基準と,
697 目的審査において求められる正当性のレベルがかみ
698 合っていないものが多かった。
699
700 例えば,
701 厳格な合理性審査を採りながら,
702 目的
703 が「正当」であればよいと記述している答案などである。
704
705 また,
706 審査基準で示
707 した厳格度と具体的検討で行っている内容がずれているものも多く見られた。
708
709
710 ・ 全体として,
711 定立した審査基準の下で,
712 事案の内容に即した個別的・具体的
713 な検討を行う際に,
714 その検討が「あっさり」している答案が多かった。
715
716 法曹に
717 求められるものとしては,
718 判断枠組みの構築と並んで,
719 「どのような事実に着
720 眼し,
721 どのように評価するのか」という点が非常に重要であるので,
722 この点に
723 は物足りなさを感じた。
724
725
726 ・ 自分の頭で具体的な場面をイメージして検討されている答案も少なからずあ
727
728 -6-
729
730 り,
731 その点では好感が持てた。
732
733 特に,
734 条例の許可基準にある車種制限に関する
735 検討においては,
736 受験生の環境問題に対する関心の深さからか,
737 問題を深く掘
738 り下げて具体的に検討されているものも見られた。
739
740
741 (6) 答案の書き方等
742 答案における用語の使用方法等について気になるところを指摘する。
743
744 不適当な
745 用語の使用は,
746 その内容によっては,
747 受験者の概念の理解に疑いを抱かせるもの
748 であるという点に留意願いたい。
749
750
751 ・ 本来,
752 「立法裁量」と書くべきところを「行政裁量」と書いているものが多
753 かった。
754
755 憲法訴訟における裁量論の意味をよく考えてほしい。
756
757
758 ・ 審査基準を「やや下げて」とか,
759
760 「若干緩めて」といった記述が見られたが,
761
762 判例や実務でこのような用語を使うかは疑問である。
763
764
765 ・ 原告の主張及び被告の主張について,
766 「原告の主張の正当化」等の見出しと
767 するものが散見されたが,
768 不適切と考える。
769
770 例えば,
771 「医薬品の販売の際にお
772 ける必要な注意,
773 指導がおろそかになる危険があると主張しているが,
774 薬局等
775 の経営の不安定のためにこのような事態がそれ程に発生するとは思われないの
776 で,
777 これをもつて本件規制措置を正当化する根拠と認めるには足りない」(昭
778 和50年薬事法違憲判決)のように,
779 地の文章で「正当化する根拠」といった
780 言葉は用いられる。
781
782 しかし,
783 原告は問題の条例の違憲性を主張し,
784 被告はその
785 合憲性を主張するのであって,
786 見出しを付けるとすれば,
787 条例の「違憲性」あ
788 るいは「合憲性」等が適当ではないか。
789
790
791 ・ 初歩的な漢字の誤字(例えば,
792 「許可制」を「許可性」,
793 「条例」を「条令」
794 と書くなど)が非常に目に付いた。
795
796 日本語を書く際の漢字の誤りは,
797 用いる言
798 葉について,
799 その意味も含めて正確に理解しているのか疑いを抱かせるもので
800 あることを忘れないでもらいたい。
801
802
803 ・ 余りにも判読に苦労するような文字による答案がなお少なくない。
804
805 毎年記載
806 していることであるが,
807 受験者には,
808 平素から,
809 答案は読まれるために書くも
810 のという意識を持ってほしい。
811
812
813 ・ 毎年のように採点実感で指摘しているためか,
814 判断枠組みを前提として事案
815 を検討する際に,
816 「当てはめ」という言葉を使用する答案は,
817 少なくなっては
818 いるが,
819 なお散見される。
820
821 また,
822
823 「当てはめ」という言葉を使って機械的な「当
824 てはめ」を行う答案の問題性が際立つ。
825
826
827 ・ これも毎年のように指摘しているためか,
828 行頭・行末を不必要に空けて書く
829 答案は,
830 少なくなってきてはいる。
831
832 しかし,
833 他方で,
834 1行の行頭及び行末の各
835 3分の1には何も書かず,
836 行の真ん中部分の3分の1の部分だけに書いている
837 答案などがなお存在する。
838
839
840
841
842 答案の水準
843 以上の採点実感を前提に,
844 「優秀」「良好」「一応の水準」「不良」という4つの
845 答案の水準を示すと,
846 以下のとおりである。
847
848
849 「優秀」と認められる答案とは,
850 規制目的の複合性を踏まえ,
851 職業の自由の規制
852 の合憲性を審査するに当たり,
853 何に焦点を合わせるか的確に留意し,
854 それぞれの立
855 場で採る審査基準の内容を正確に記述し,
856 それぞれの審査基準の下で,
857 事案の内容
858
859 -7-
860
861 に即して個別的・具体的に検討し,
862 結論を導き出している答案である。
863
864 さらに,
865
866 えば,
867 積極目的規制の場合でも「明白の原則」と結び付いた「合理性の基準」でよ
868 いのかを検討している答案などは,
869 極めて優秀な答案といえる。
870
871
872 「良好」な水準に達している答案とは,
873 判断枠組みの構築が一定の説得性を持っ
874 てなされており,
875 本件事案に即した個別的・具体的検討の場面が比較的よくできて
876 いる答案である。
877
878
879 「一応の水準」に達している答案とは,
880 複合的な規制目的による職業の自由への
881 制約の合憲性の問題であるということが一応理解できており,
882 事案の内容に即した
883 個別的・具体的検討も,
884 十分とは言えないが,
885 行われている答案である。
886
887
888 「不良」と認められる答案とは,
889 憲法上の問題点を取り違えている答案や,
890 全く
891 観念的な理論構成で,
892 事案の内容に即して行われるべき個別的・具体的検討も全く
893 表面的な答案である。
894
895
896
897
898 今後の法科大学院教育に求めるもの
899 昨年度と同様であるが,
900 判例及びその射程範囲が理解できていない答案が目立っ
901 た。
902
903 それゆえ,
904 「法科大学院教育に求めるもの」として,
905 昨年度と同じ指摘をした
906 い。
907
908
909 法科大学院では,
910 実務法曹を養成するための教育がなされているわけであるが,
911
912 その一つの核をなすのは判例である。
913
914 学生に教えるに当たって,
915 判例への「近づき
916 方」が問われているように思われる。
917
918
919 判例の「内側」に入ろうとせずに「外在的な批判」に終始することも,
920 他方で,
921
922 判例をなぞったような解説に終始することも,
923 適切ではないであろう。
924
925 判例を尊重
926 しつつ,
927
928 「地に足を付けた」検討が必要であるように思われる。
929
930 判例の正確な理解,
931
932 事案との関係を踏まえた当該判例の射程範囲の確認,
933 判例における問題点を考えさ
934 せる学習の一層の深化によって,
935 学生の理解力と論理的思考力の養成がますます適
936 切に行われることを願いたい。
937
938
939
940 -8-
941
942 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第2問)
943
944
945
946
947 出題の趣旨
948 別途公表している「出題の趣旨」を,
949 参照いただきたい。
950
951
952 採点方針
953 採点に当たり重視していることは,
954 問題文及び会議録中の指示に従って基本的な
955 事実関係や関係法令の趣旨・構造を正確に分析・検討し,
956 問いに対して的確に答え
957 ることができているか,
958 基本的な判例や概念等の正確な理解に基づいて,
959 相応の言
960 及をすることのできる応用能力を有しているか,
961 事案を解決するに当たっての論理
962 的な思考過程を,
963 端的に分かりやすく整理・構成し,
964 本件の具体的事情を踏まえた
965 多面的で説得力のある法律論を展開することができているか,
966 という点である。
967
968
969 して知識の量に重点を置くものではない。
970
971
972
973 3 答案に求められる水準
974 (1) 設問1
975 採石認可の根拠法令の解釈,
976 本件要綱の法的性質・効果,
977 及びB県でC組合に
978 よる跡地防災保証をAに対する採石認可の要件とすることの適法性について,
979
980 れぞれを的確に説き,
981 また,
982 相互を論理的に関係付けて論じているかに応じて,
983
984 優秀度ないし良好度を判定した。
985
986
987 採石法及び採石法施行規則の関係規定を的確に指摘し,
988 本件要綱が私人に対し
989 法的拘束力を持たない行政規則であること,
990 採石法が都道府県知事の裁量を認め
991 るものであることを理解した上で,
992 本件でC組合による跡地防災保証を採石認可
993 の要件とすることの適法性を具体的に検討していれば,
994 一応の水準の答案とした。
995
996
997 加えて,
998 本件要綱を裁量基準と解してその合理性を認め得るか否かが問題となる
999 ことを理解した上で,
1000 地元の特定の事業者団体であるC組合による保証を求める
1001 ことの合理性について,
1002 具体的に論じていれば,
1003 良好な答案と判定した。
1004
1005 さらに,
1006
1007 本件要綱に合理性が認められるとしても,
1008 これを一律機械的に適用することは認
1009 められず,
1010 内容の合理性に応じて例外を認める必要があることを理解した上で,
1011
1012 Aの事業規模や経営状況等,
1013 本件の具体的な事実関係に即して,
1014 C組合による保
1015 証を求めることの適法性を具体的かつ説得的に論じていれば,
1016 優秀な答案と判定
1017 した。
1018
1019
1020 (2) 設問2
1021 採石法第33条の12及び第33条の13を本件に適用する場合に問題となる
1022 点を把握した上で,
1023 これらの規定による採石認可の取消し又は岩石採取の停止の
1024 可否を論じ,
1025 また,
1026 法律の明文の根拠なしに採石認可を撤回できるかを,
1027 本件に
1028 即して的確に説いているかに応じて,
1029 優秀度ないし良好度を判定した。
1030
1031
1032 Aの岩石採取をやめさせるために採り得る処分について,
1033 採石法の関係規定を
1034 的確に指摘し,
1035 本件への当てはめを過誤なく行っていれば,
1036 一応の水準の答案と
1037 した。
1038
1039 加えて,
1040 授益処分の撤回に関する理論を正確に理解した上で,
1041 法律の明文
1042 の根拠なしに採石認可を撤回できるかを論じていれば,
1043 良好な答案と判定した。
1044
1045
1046 さらに,
1047 上記関係規定の本件への当てはめ,
1048 及び本件における明文の根拠なしの
1049
1050 -9-
1051
1052 採石認可撤回の可否を,
1053 あり得る反論も想定しながら具体的かつ説得的に論じて
1054 いれば,
1055 優秀な答案と判定した。
1056
1057
1058 (3) 設問3
1059 非申請型(直接型)義務付け訴訟の訴訟要件が本件で満たされるかを,
1060 どれだ
1061 け具体的かつ的確に論じているかに応じて,
1062 優秀度ないし良好度を判定した。
1063
1064
1065 正しい訴訟類型を挙げた上で,
1066 問題になり得る訴訟要件について論じていれば,
1067
1068 一応の水準の答案,
1069 本件の事実関係に即して具体的かつ的確に論じていれば,
1070
1071 好な答案,
1072 さらに,
1073 原告適格について,
1074 森林の所有権のみならず林業の利益が損
1075 なわれる等の本件の事実関係に着目して,
1076 Dの利益が個別的利益として保護され
1077 るかをより詳細かつ説得的に論じていれば,
1078 優秀な答案と判定した。
1079
1080
1081
1082
1083 採点実感
1084 以下は,
1085 考査委員から寄せられた主要な意見をまとめたものである。
1086
1087
1088 (1) 全体的印象
1089 ・ 設問1については,
1090 行政処分の違法性に関する法律論を組み立てる基本的な
1091 能力を試すために,
1092 大きく配点したが,
1093 行政法規にいう行政処分の「条件」の
1094 意味を誤解してつまずき,
1095 的外れな方向に論述を進めてしまう答案や,
1096 処分要
1097 件を十分検討しないまま行政裁量を援用し,
1098 論述が粗雑になる答案が目立った。
1099
1100
1101 また,
1102 設問2では,
1103 授益的行政処分の撤回という基本的な概念について,
1104 事案
1105 及び関係規定に即して論述できていない答案が予想外に多かった。
1106
1107 いずれの設
1108 問に関しても,
1109 論点単位で論述の型を覚える学習の弊害が現われた結果のよう
1110 に感じられ,
1111 残念であった。
1112
1113 その点,
1114 設問3については,
1115 多くの受験者が対応
1116 しやすかったようであるが,
1117 時間不足のために論述が不十分になったことがう
1118 かがわれる答案が相当数あった。
1119
1120
1121 ・ 例年繰り返し指摘し,
1122 また強く改善を求め続けているところであるが,
1123 相変
1124 わらず判読困難な答案が多数あった。
1125
1126 極端に小さい字,
1127 極端な癖字,
1128 雑に書き
1129 殴った字で書かれた答案が少なくなく,
1130 中には「適法」か「違法」か判読でき
1131 ないものすらあった。
1132
1133 第三者が読むものである以上,
1134 読み手を意識した答案作
1135 成を心掛けることは当然であり,
1136 判読できない記載には意味がないことを肝に
1137 銘ずべきである。
1138
1139
1140 ・ 誤字,
1141 脱字,
1142 当て字が相変わらず多く見られた(特に「撤回」を「徹回」と
1143 する誤字は非常に多かった。
1144
1145 )。
1146
1147 正確な書面を作成する能力は法律実務家が備
1148 えるべき基本的な能力であるが,
1149 誤字の多用はそのような能力に疑問を抱かせ
1150 ることにもなるので留意すべきである。
1151
1152
1153 ・ 問題文の設定を理解できていないと思われる答案が見られた。
1154
1155 例えば,
1156 設問
1157 1での「仮に」という記載を読み落としているのではないかと思われる答案が
1158 少なからず見られた。
1159
1160
1161 ・ 問題文及び会議録には,
1162 どのような視点で何を書くべきかが具体的に掲げら
1163 れているにもかかわらず,
1164 問題文等の指示を無視するかのような答案がかなり
1165 見られた。
1166
1167
1168 ・ 例年指摘しているが,
1169 条文の引用が不正確な答案が多く見られた。
1170
1171
1172 ・ 冗長で文意が分かりにくいものなど,
1173 法律論の組立てという以前に,
1174 一般的
1175
1176 - 10 -
1177
1178 な文章構成能力自体に疑問を抱かざるを得ない答案が相当数あった。
1179
1180
1181 ・ 相当程度読み進まないと何をテーマに論じているのか把握できない答案が相
1182 当数見られた。
1183
1184 問題意識を読み手に的確に伝えるために,
1185 例えば,
1186 冒頭部分に
1187 これから論じるテーマを提示するなどの工夫が望ましい。
1188
1189
1190 ・ 結論を提示するだけで,
1191 理由付けがほとんどない答案,
1192 問題文中の事実関係
1193 を引き写したにとどまり,
1194 法的な考察がされていない答案が多数見られた。
1195
1196
1197 理の展開とその根拠を丁寧に示さなければ説得力のある答案にはならない。
1198
1199
1200 ・ 関係法令の規定のみから一定の根拠や結論を導き出している答案や,
1201 行政事
1202 件訴訟法の要件を掲げただけで抽象的に結論を記載している答案が見られた。
1203
1204
1205 法律実務家として,
1206 抽象的な法規範の解釈を前提として,
1207 具体的な問題状況を
1208 踏まえつつ,
1209 多面的に配慮した上で結論を導き出すことが求められる。
1210
1211
1212 ・ 行政処分の職権取消しと撤回,
1213 附款や裁量基準,
1214 解釈基準,
1215 行政規則といっ
1216 た,
1217 行政法総論に関する基本的な概念の理解が不十分であると思われる答案が
1218 少なからず見られた。
1219
1220
1221 (2) 設問1
1222 ・ 「本件要綱の関係する規定」の法的性質・効果を正確に理解できていない答
1223 案が大多数であった。
1224
1225 とりわけ「本件要綱の関係する規定」が採石法第33条
1226 の7第1項の「条件」に該当するという答案が続出した。
1227
1228 また,
1229 条例論の枠組
1230 みで要綱の許容性を論じている答案もあった。
1231
1232
1233 ・ 要綱を附款あるいは附款の一種である条件として,
1234 採石法第33条の7第2
1235 項の要件を検討する答案が非常に多く見られた。
1236
1237 問題文が示す状況を理解でき
1238 ていないか,
1239 附款の概念の理解に欠けているかによるものと思われる。
1240
1241
1242 ・ 本件要綱の法的性格を検討することなく,
1243 それが採石法及び採石法施行規則
1244 の趣旨に合致するものであれば,
1245 国民に対する法的拘束力を有するとした答案
1246 が比較的多く見られた。
1247
1248
1249 ・ 行政機関が策定する各種の基準類は,
1250 実際の行政実務で重要な意味を持つの
1251 で,
1252 その法的な意味を,
1253 実例に即して,
1254 十分識別しながら学習することを望み
1255 たい。
1256
1257
1258 ・ 採石法が,
1259 採石認可に当たり,
1260 都道府県知事の裁量を認めていることに触れ
1261 ずに,
1262 いきなり裁量権の逸脱・濫用を論じている答案が散見された。
1263
1264
1265 ・ 跡地防災保証の許容性を検討するために,
1266 採石法第33条の2第4号や採石
1267 法施行規則第8条の15第2項第10号を参照しない答案が目立った。
1268
1269
1270 ・ まず採石認可の処分要件は何かが検討されるべきであるのに,
1271 その点の検討
1272 が全くされていない答案が多数存在した。
1273
1274
1275 ・ 適法判断を手短に導くための便法として,
1276 十分な論拠を抜きに知事の広範な
1277 裁量権限を持ち出し,
1278 その結果,
1279 題意に即した検討をしていない答案が少なか
1280 らず見られた。
1281
1282
1283 ・ 審査基準の一般的な合理性の問題と,
1284 個別の申請に対してB県知事がいかな
1285 る判断をすべきかの問題との区別が十分に理解できていないように思われる答
1286 案が少なからず見られた。
1287
1288
1289 ・ 受験者が自分で法律論を組み立てることを求める問題であったため,
1290 全くで
1291 きていない答案から極めて優秀な答案まで,
1292 大きく差がついた。
1293
1294 こうした差は,
1295
1296
1297 - 11 -
1298
1299 理論に基づいて法令に事実を当てはめて結論を導くという,
1300 理論・法令・事実
1301 を適切に結び付ける最も基本的な作業を,
1302 判例等を素材にして,
1303 普段から積み
1304 重ねてきたか否かによって生じたものと思われる。
1305
1306
1307 (3) 設問2
1308 ・ 問題文が「岩石の採取をやめさせるために何らかの処分を行うことができる
1309 か」と問うているのに,
1310 「保証契約を締結させるための手段」について論じて
1311 いたり,
1312
1313 「緊急措置命令」とだけしか記載していない答案が目に付いた。
1314
1315 また,
1316
1317 少数ではあるが,
1318 採石法第43条に基づく刑事罰の適用を挙げる答案もあった。
1319
1320
1321 ・ B県知事が採り得る手段を簡潔に掲げているだけの答案が相当数あった。
1322
1323
1324 述に当たっては,
1325 採石法の規定の趣旨を踏まえて,
1326 問題文の状況を具体的に当
1327 てはめていくことが重要である。
1328
1329
1330 ・ 採石法第33条の13第1項と第2項が書き分けられていることを意識しな
1331 い答案が目立った。
1332
1333
1334 ・ 問題文の読み方が不正確であるために,
1335 B県知事の採石認可拒否処分が違法
1336 であることを前提にしている答案や,
1337 採石認可処分がされていることを前提に,
1338
1339 それに基づく岩石の採取をやめさせるために何らかの処分ができるかを問うて
1340 いるのに,
1341 採石認可拒否処分がされていることを前提にしている答案があった。
1342
1343
1344 ・ 法令上の明文の根拠によらない撤回について,
1345 法令上の根拠の点だけでなく,
1346
1347 授益的行政処分である以上,
1348 撤回は制限を受けることまで検討が至っている答
1349 案は少なかった。
1350
1351
1352 ・ 撤回と職権取消しとの違いが,
1353 十分に理解できていないように見受けられる
1354 答案が少なからず見られた。
1355
1356
1357 (4) 設問3
1358 ・ 他の設問と比較するとよくできていた。
1359
1360
1361 ・ 原告適格について,
1362 一般論はそれなりに記載できているものの,
1363 一般論を本
1364 事案に適用するに当たり,
1365 関係法令の条文を羅列しているだけの答案や,
1366 逆に
1367 採石法第1条の目的規定にしか言及しない答案,
1368 同法第33条の4の認可の基
1369 準を見落としている答案が多かった。
1370
1371
1372 ・ 非申請型(直接型)義務付け訴訟の「重大な損害」の要件の趣旨について,
1373
1374 差止訴訟の場合と混同するなど,
1375 基本的な知識に不安を抱かせる答案があった。
1376
1377
1378 ・ Dは現地に居住していないと記載されているのに,
1379 居住しているものとして
1380 議論している答案が散見された。
1381
1382
1383 ・ 非申請型(直接型)義務付け訴訟の訴訟要件のうち「一定の処分」の該当性
1384 の検討において,
1385 設問2で挙げた処分が行政事件訴訟法第3条第2項にいう「処
1386 分」に当たるかどうかだけを論じ,
1387 処分の特定の程度について言及していない
1388 答案が多数存在した。
1389
1390 具体的事案に即さずに,
1391 「訴訟要件なら処分性」といっ
1392 た型にはまった思考をしていると感じられた。
1393
1394
1395 ・ 問題文は「設問2で挙げられた処分をさせることを求める行政訴訟」につい
1396 て問うているのに,
1397 取消訴訟や差止訴訟を挙げている答案が散見された。
1398
1399
1400
1401
1402 今後の法科大学院教育に求めるもの
1403 基本的な判例や概念等を正確に理解する訓練を重ねることはもちろんであるが,
1404
1405
1406 - 12 -
1407
1408 こうした訓練によって得られる基礎的な知識・理解と,
1409 具体的な事実関係を前提と
1410 した,
1411 事案分析能力,
1412 法の解釈・適用能力,
1413 文書作成能力等との結び付きを意識し
1414 て習得させるという視点に立った教育を求めたい。
1415
1416
1417 多くの答案からは,
1418 本問で論ずべき主な論点の内容自体について基本的な知識・
1419 理解を有していることがうかがわれ,
1420 この点,
1421 法科大学院教育の成果を認めること
1422 ができた。
1423
1424 しかしながら,
1425 各設問における具体的な論述内容を見ると,
1426 問題文等の
1427 指示から離れて一般論・抽象論の展開に終始している答案や,
1428 会議録から抜き書き
1429 した事実関係と一般論とを単純に組み合わせただけで直ちに結論を導くような,
1430
1431 題意識の乏しい答案が,
1432 相変わらず数多く見られた。
1433
1434 また,
1435 本年度においては,
1436
1437 政法における基本的な概念の理解が不十分であると思われる答案も少なからず見ら
1438 れたが,
1439 これは,
1440 概念自体を学習していないというよりは,
1441 具体的な状況でこれら
1442 の概念をどのように用いるのかといった視点での学習が不十分であることに起因す
1443 るように思われた。
1444
1445 法律実務家に求められるのは,
1446 法律解釈による規範の定立と,
1447 丁寧な事実の拾い出しによる当てはめを通じた,
1448 具体的事案の分析・解決の能力で
1449 あり,
1450 こうした能力は,
1451 理論・法令・事実を適切に結び付ける基本的な作業を,
1452
1453 段から意識的に積み重ねることによって習得されるものである。
1454
1455 法科大学院には,
1456
1457 判例等具体的な事案の検討を通じて,
1458 基礎的な知識・理解を確認する学習機会を増
1459 やすなど,
1460 こうした実務的能力の習得につながる教育を求めたい。
1461
1462
1463
1464 - 13 -
1465
1466 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第1問)
1467
1468
1469 出題の趣旨等
1470 出題の趣旨及び狙いは,
1471 既に公表した出題の趣旨(「平成26年司法試験論文式
1472 試験問題出題趣旨【民事系科目】〔第1問〕」)のとおりである。
1473
1474
1475
1476
1477
1478 採点方針
1479 採点は,
1480 従来と同様,
1481 受験者の能力を多面的に測ることを目標とした。
1482
1483
1484 具体的には,
1485 民法上の問題についての基礎的な理解を確認し,
1486 その応用を的確に
1487 行うことができるかどうかを問うこととし,
1488 当事者間の利害関係を法的な観点から
1489 分析し構成する能力,
1490 様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解
1491 し,
1492 それに即して論旨を展開する能力などを試そうとするものである。
1493
1494
1495 その際,
1496 単に知識を確認するにとどまらず,
1497 掘り下げた考察をしてそれを明確に
1498 表現する能力,
1499 論理的に一貫した考察を行う能力,
1500 及び具体的事実を注意深く分析
1501 し,
1502 法的な観点から適切に評価する能力を確かめることとした。
1503
1504 これらを実現する
1505 ために,
1506 1つの設問に複数の採点項目を設け,
1507 採点項目ごとに適切な考察が行われ
1508 ているかどうか,
1509 その考察がどの程度適切なものかに応じて点を与えることとした
1510 ことも,
1511 従来と異ならない。
1512
1513
1514 さらに,
1515 複数の論点に表面的に言及する答案よりも,
1516 特に深い考察が求められて
1517 いる問題点について緻密な検討をし,
1518 それらの問題点の相互関係に意を払う答案が,
1519
1520 優れた法的思考能力を示していると考えられることが多い。
1521
1522 そのため,
1523 採点項目ご
1524 との評価に加えて,
1525 答案を全体として評価し,
1526 論述の緻密さの程度や構成の適切さ
1527 の程度に応じても点を与えることとした。
1528
1529 これらにより,
1530 ある設問について法的思
1531 考能力の高さが示されている答案には,
1532 別の設問について必要な検討の一部がなく,
1533
1534 そのことにより知識や理解が不足することがうかがわれるときでも,
1535 そのことから
1536 直ちに答案の全体が低い評価を受けることにならないようにした。
1537
1538 また反対に,
1539
1540 理的に矛盾する論述や構成をするなど,
1541 法的思考能力に問題があることがうかがわ
1542 れる答案は,
1543 低く評価することとした。
1544
1545 また,
1546 全体として適切な得点分布が実現さ
1547 れるよう努めた。
1548
1549 以上の点も,
1550 従来と同様である。
1551
1552
1553
1554
1555
1556 採点実感
1557 各設問について,
1558 この後の(1)から(3)までにおいて,
1559 それぞれ全般的な採点実感
1560 を紹介し,
1561 また,
1562 それを踏まえ,
1563 司法試験考査委員会議申合せ事項にいう「優秀」,
1564
1565 「良好」,
1566 「一応の水準」及び「不良」の4つの区分に照らし,
1567 例えばどのような答
1568 案がそれぞれの区分に該当するかを示すこととする。
1569
1570 ただし,
1571 これらは各区分に該
1572 当する答案の例であって,
1573 これらのほかに各区分に該当する答案はあり,
1574 それらは
1575 多様である。
1576
1577
1578 また,
1579 答案の全体的傾向から感じられたことについては,
1580 (4)で紹介することと
1581 する。
1582
1583
1584 (1) 設問1について
1585 ア 設問1の全体的な採点実感
1586 設問1は,
1587 賃貸借契約について賃料の不払を理由とする解除の意思表示がさ
1588
1589 - 14 -
1590
1591 れたケースを題材とし,
1592 賃貸目的物が約定された性質を有しない場合に,
1593 賃借
1594 人は賃貸人に対してどのような法的主張をすることができるかを問うものであ
1595 る。
1596
1597 ここでは特に,
1598 当事者の主張を的確に読み取り,
1599 それに適した法律構成を
1600 構築し展開する能力が試されている。
1601
1602
1603 設問1において,
1604 Aは,
1605 Cによる解除を否定するに当たり,
1606 これまで賃料を
1607 払いすぎていたことを理由に,
1608 今後6か月間は賃料を払わなくてよいはずであ
1609 ると主張している。
1610
1611 このAの主張は,
1612 賃料の不払というAの債務不履行を否定
1613 するものと位置付けることができる。
1614
1615 比較的多くの答案は,
1616 Aの主張をこのよ
1617 うに理解した上で,
1618 Aが120万円を払いすぎたとするためには,
1619 どのような
1620 法律構成が考えられるかを検討しており,
1621 的確な理解が示されていた。
1622
1623 理論と
1624 実務の架橋を1つの目的とする法科大学院教育の成果を示すものといえるだろ
1625 う。
1626
1627
1628 もっとも,
1629 中には,
1630 債務不履行の存否に全く触れることなく,
1631 Aには帰責事
1632 由が認められないとしたり,
1633 背信性を認めるに足りない特段の事情が認められ
1634 るとしたりする答案も散見された。
1635
1636 しかし,
1637 今後6か月間は賃料を払わなくて
1638 もよいはずであるというAの主張は,
1639 その間の賃料債務が存在しないという趣
1640 旨を含んでおり,
1641 帰責事由や背信性の存否を検討する前に,
1642 まず債務不履行の
1643 存否を検討する必要がある。
1644
1645 設問1では,
1646 このように,
1647 当事者の主張を的確に
1648 読み取る能力も試されている。
1649
1650
1651 次に,
1652 Aの主張を正当化するためには,
1653 Aが賃料を120万円払いすぎてい
1654 たことを基礎付ける必要があり,
1655 そのための法律構成を構築し展開することが
1656 設問1の中心的な課題である。
1657
1658 その際,
1659 法律構成としては複数のものが考えら
1660 れるが,
1661 それらを平板に羅列するのではなく,
1662 採用されるべき法律構成につい
1663 て,
1664 その根拠を説得的に示した上で,
1665 その要件と効果を的確に分析し,
1666 設問1
1667 の事実関係をそこに適切に当てはめることが求められている。
1668
1669 以下では,
1670 答案
1671 に現れた代表的な法律構成とそれぞれの構成において検討するべき問題点を指
1672 摘しておくこととする。
1673
1674
1675 まず,
1676 甲建物が免震構造を有していないことにより,
1677 賃料が当然に減額され
1678 るという考え方があり得る。
1679
1680 この考え方を採用するためには,
1681 まず,
1682 その法的
1683 根拠が示されなければならない。
1684
1685 例えば,
1686 民法第536条第1項を根拠とする
1687 のであれば,
1688 なぜ設問1で同項が意味を持ち得るかについて,
1689 同項の趣旨を踏
1690 まえつつ,
1691 論じる必要がある。
1692
1693 また,
1694 契約の解釈を根拠とするのであれば,
1695
1696 「契
1697 約の解釈」や「当事者の合理的意思」といった,
1698 この法律構成に特有の表現を
1699 用いるだけでなく,
1700 設問の契約の趣旨や契約締結に至る経緯等の具体的事情を
1701 手掛かりとして,
1702 契約の解釈として認められる方法に従った考察がされなけれ
1703 ばならず,
1704 単に問題文の事情を書き写すだけでは,
1705 そのような考察がされたと
1706 はいえない。
1707
1708
1709 また,
1710 賃料減額請求権(民法第611条第1項)を類推適用するという構成
1711 も考えられる。
1712
1713 そのためには,
1714 設問1と民法第611条第1項が本来想定して
1715 いる場面との異同を確認した上で,
1716 類推の基礎をどこに求めるか,
1717 それとの関
1718 係で,
1719 「滅失」(同項)の意義をどのように解するかが検討されなければならな
1720 い。
1721
1722 これに対して,
1723 ごく少数ではあるが,
1724 借地借家法第32条第1項の借賃増
1725
1726 - 15 -
1727
1728 減請求権を手掛かりとする答案も見受けられた。
1729
1730 しかし,
1731 この借賃増減請求権
1732 は,
1733 民法第611条第1項とは異なり,
1734 「将来に向かって」借賃の額の増減を
1735 請求することができるものと明定されており,
1736 これをAの主張を正当化する法
1737 的根拠とするのは困難であろう。
1738
1739
1740 答案において最も多く見られた構成は,
1741 瑕疵担保責任に基づくものである(第
1742 559条が準用する第570条)。
1743
1744 この構成を採用した答案のかなりのものは,
1745
1746 瑕疵担保責任の趣旨のほか,
1747 「瑕疵」や「隠れた」といった要件の意義及びそ
1748 れらへの当てはめについて,
1749 おおむね適切な論述がされており,
1750 その限りでは
1751 比較的良好な出来であった。
1752
1753 これに対し,
1754 瑕疵担保責任の効果に関する検討は,
1755
1756 不十分なものが多かった。
1757
1758 損害額が月額5万円となる根拠については,
1759 全く言
1760 及されていないか,
1761 不十分な検討しかされていないものが多く,
1762 加えて,
1763 この
1764 構成によれば,
1765 賃料の月額は25万円のままとなるのであるから,
1766 今後6か月
1767 分の賃料(賃料が減額されなければ合計150万円となる。
1768
1769 )について債務不
1770 履行がないことを基礎付けるためには,
1771 更に説明が必要となるにもかかわらず,
1772
1773 そこまで踏み込んでいる答案は少数であった。
1774
1775 そのほか,
1776 Cは免震構造を有す
1777 る建物を賃貸する義務を負っているのに,
1778 その義務を尽くしていないことから,
1779
1780 AのCに対する損害賠償請求の根拠を債務不履行責任(民法第415条後段)
1781 に求める答案もあった。
1782
1783 しかし,
1784 この構成を採用する答案にあっても,
1785 瑕疵担
1786 保責任に基づく構成と同様,
1787 法的効果に関する検討が適切にされているものは
1788 少数であった。
1789
1790
1791 このほか,
1792 錯誤(民法第95条本文)を理由とする答案も散見された。
1793
1794 しか
1795 し,
1796 要素の錯誤であることを肯定しながら,
1797 なぜ25万円の賃料のうち5万円
1798 の部分だけが無効(一部無効)となるのかという点について説明しようとする
1799 ものは少数であった。
1800
1801
1802 全体として,
1803 瑕疵担保責任を中心とする損害賠償構成が多く,
1804 賃料減額(請
1805 求権)構成は比較的少数であった。
1806
1807 しかし,
1808 一方で賃料の月額を25万円とし
1809 つつ,
1810 他方で月々5万円の損害が継続的に発生するという構成は,
1811 その実質が
1812 賃料の減額であることを考えると,
1813 迂遠であり,
1814 不自然な構成であることは否
1815 めない。
1816
1817 限られた時間内に一貫性のある法律構成を提示しなければならないと
1818 いう状況の下にあってはやむを得ない面があり,
1819 このような構成をした答案に
1820 も相応の評価をしているが,
1821 賃料債権の性質等について踏み込んだ検討を行い,
1822
1823 そこから一定の法律構成を導いている答案には,
1824 より積極的な評価をした。
1825
1826
1827 最後に,
1828 AがCに対して120万円の債権を有しているとすると,
1829 今後6か
1830 月分の賃料は払わなくてもよいはずであるというAの主張は,
1831 この120万円
1832 の債権と賃料債権とを相殺する旨の意思表示(民法第506条第1項)である
1833 と解される。
1834
1835 AのCに対する債権の発生原因について的確な分析を行っている
1836 答案の多くは,
1837 相殺についても必要な分析及び検討がされていた。
1838
1839
1840 イ 答案の例
1841 優秀に該当する答案の例は,
1842 Aの主張が債務不履行を否定する趣旨のもので
1843 あるという前提のもと,
1844 例えば賃料減額(請求権)や損害賠償(瑕疵担保責任
1845 ないし債務不履行責任)といった法律構成につき,
1846 関係する規定の趣旨を踏ま
1847 え,
1848 要件及び効果の両面にわたってその意義を明らかにし,
1849 設問1の事実関係
1850
1851 - 16 -
1852
1853 に適切に当てはめることにより,
1854 全体として整合的な解答を導いているもので
1855 ある。
1856
1857 前述のとおり,
1858 特に損害賠償構成によるときは,
1859 今後6か月分の賃料に
1860 ついても債務不履行がなかったことを基礎付けるためには更に説明が必要とな
1861 るが,
1862 この問題点に気付き,
1863 一定の説明をしている答案は,
1864 優秀な答案と評価
1865 することができる。
1866
1867
1868 良好に該当する答案の例は,
1869 優秀に該当する答案と同じ法律構成を挙げつつ
1870 も,
1871 関係する規定の趣旨の指摘や法律構成の理由付けがやや不十分であったり,
1872
1873 要件については充実した論述をしていながら,
1874 効果についての論述は手薄であ
1875 るなど,
1876 論述に周到さや丁寧さが欠けていたりするものである。
1877
1878 このほか,
1879
1880 えば錯誤に基づく構成を採用するものであっても,
1881 要素の錯誤を認めることと
1882 無効の範囲(一部無効)との関係など,
1883 当該法律構成の難点を自覚しつつ,
1884
1885 れを乗り越えようと試みる答案には,
1886 相応の評価を与えている。
1887
1888
1889 一応の水準に該当する答案の例は,
1890 上に示した法律構成を挙げているものの,
1891
1892 その理由付けが十分とはいえず,
1893 また,
1894 要件や効果についても,
1895 一定程度の理
1896 解は示しているものの,
1897 不正確な箇所も散見されるものである。
1898
1899
1900 不良に該当する答案の例は,
1901 Aの主張が債務不履行を否定する趣旨のもので
1902 あることは正確に理解しつつも,
1903 根拠となる法律構成を示すことなく,
1904 AはC
1905 に120万円の不当利得返還請求権を有しているなどとするもののほか,
1906 債務
1907 不履行の存否を検討することなく,
1908 もっぱら帰責事由や背信性の存否について
1909 のみ考察するものである。
1910
1911
1912 (2) 設問2について
1913 ア 設問2の一般的な採点実感
1914 設問2は,
1915 和解契約の当事者とされていた本件胎児が流産したことによって
1916 生ずるFD間の基本的な法律関係を確認した上で(小問1),
1917 本件胎児の流産
1918 がBD間の和解契約にどのような影響を及ぼし,
1919 その結果どのような法律関係
1920 が生ずるかを問うものである(小問2及び小問3)。
1921
1922
1923 まず,
1924 小問1は,
1925 AのDに対する損害賠償請求権(民法第715条に基づく
1926 Dの使用者責任)がどのように相続されるかを問うものである。
1927
1928 民法第886
1929 条第2項により,
1930 本件胎児の相続人としての地位が失われるので(ここでは,
1931
1932 民法第886条について,
1933 解除条件説をとるか,
1934 停止条件説をとるかは直接関
1935 係しない。
1936
1937 ),
1938 Fは,
1939 配偶者とともに相続することになり,
1940 その法定相続分にし
1941 たがって,
1942 AのDに対する損害賠償請求権を承継することが示されれば足りる。
1943
1944
1945 また,
1946 BによってDとの間でされた和解がFに影響を与えないことは,
1947 契約の
1948 効力の相対性から明らかである。
1949
1950
1951 この点で,
1952 小問1は,
1953 法科大学院修了者の基本的な知識を確認するレベルの
1954 問題であり,
1955 全体として,
1956 おおむね求められる水準に達していた。
1957
1958 その一方で,
1959
1960 少し気になる点もあった。
1961
1962
1963 一つは,
1964 胎児の相続人としての地位を論ずる場面で,
1965 民法第886条ではな
1966 く,
1967 民法第721条を挙げる答案がかなり多かったことである。
1968
1969 民法第721
1970 条は,
1971 胎児自身が被害者となる場合の規定であり,
1972 本問には全く関係がないも
1973 のである。
1974
1975 設問2では,
1976 不法行為によるAの損害賠償請求権がどのように相続
1977 されるかが問題となっているのであるから,
1978 問題とされるのは民法第886条
1979
1980 - 17 -
1981
1982 である。
1983
1984 不法行為が問題となるケースであったために,
1985 民法第721条を連想
1986 したのかもしれないが,
1987 基本的な知識の理解とその展開が十分ではないという
1988 印象を受けた(他の部分で優れた内容が記載されている答案についても,
1989 その
1990 ような状況が見られた。
1991
1992 )。
1993
1994
1995 また,
1996 和解の効力がFにも及ぶとして8000万円を前提として解答するも
1997 の,
1998 法定相続分の理解が誤っている答案も,
1999 少数ではあるが見られたのは残念
2000 であった。
2001
2002 特に前者は,
2003 不注意によるものとは考えにくく,
2004 民法の基本的な理
2005 解ができていないことを示すものであり,
2006 問題が大きいといわざるを得ない。
2007
2008
2009 以上に対して,
2010 小問2は,
2011 複数の答えが考えられるものであり,
2012 小問3は,
2013
2014 小問2でどのように答えたかを踏まえて,
2015 整合的な説明ができているかを問う
2016 ものである。
2017
2018 そこでは,
2019 幾つかの流れが考えられ,
2020 必ずしもそのいずれかのみ
2021 が唯一の正解となるわけではない。
2022
2023 ここでは特に,
2024 本件胎児が相続人でなくなっ
2025 たことが和解契約にどのような影響を与えるかを十分に意識した上で論理を展
2026 開する法的な思考力と応用力が問われることになる。
2027
2028 もっとも,
2029 全体の水準と
2030 しては,
2031 必ずしも十分なものではなかったように感じられる。
2032
2033 特に気になった
2034 のは,
2035 以下の点である。
2036
2037
2038 一つは,
2039 本件胎児が相続人でなくなったことから,
2040 当然に不当利得返還請求
2041 権を導くだけで,
2042 本件胎児が相続人でなければ,
2043 なぜ和解の効力が否定される
2044 かについて全く言及しない答案がかなり存在した点である。
2045
2046 設問1でも同様の
2047 傾向が少し見られたが,
2048 不当利得返還請求権を認める場合,
2049 法律上の原因がな
2050 いというためには,
2051 その前提となる法律関係を否定することが必要となる。
2052
2053
2054 の点の理解が十分でないという印象を受ける答案が目立ったのは残念である。
2055
2056
2057 特に,
2058 不当利得制度の趣旨は公平の理念にあるとし,
2059 流産したにもかかわらず
2060 返還を認めないのは公平でないなどとのみ述べて,
2061 不当利得返還請求を認めて
2062 いる答案が相当数見られたのは,
2063 制度の抽象的な趣旨にしか理解が及ばず,
2064
2065 規範に即した法的な論理を展開する能力が備わっていないことをうかがわせる
2066 ものであり,
2067 大きな問題があると感じられた。
2068
2069 さらに,
2070 本件和解における胎児
2071 の地位がどのようなものであったかについては,
2072 民法第886条をどのように
2073 理解するかが関わってくるが,
2074 この点に明確に言及した上で論ずる答案は,
2075
2076 ずしも多くなかった。
2077
2078
2079 また,
2080 小問2と小問3の連続性及び整合性についても,
2081 十分に意識していな
2082 い答案が少なくなかった。
2083
2084 例えば,
2085 小問2で,
2086 Dに4000万円の不当利得返
2087 還請求権を認めつつ,
2088 小問3で,
2089 Bは本来7500万円の損害賠償を請求する
2090 ことができるはずだから,
2091 残り3500万円を請求することができるとする答
2092 案などがこれに当たる。
2093
2094 小問2でBについて和解契約の拘束力を認めた以上,
2095
2096 それと全く無関係に,
2097 Aに1億円の損害賠償請求権が認められることを前提と
2098 して,
2099 Bに7500万円の損害賠償請求権の承継を認めるのは,
2100 論理的に一貫
2101 しない。
2102
2103 Bについて和解の効力を認めつつ,
2104 何を請求することができるか,
2105
2106 るいは,
2107 少なくとも,
2108 Bの側から和解の効力を全面的に否定することを前提と
2109 して,
2110 何を請求することができるかを論じることが必要である。
2111
2112
2113 イ 答案例
2114 小問1については,
2115 上記のとおり,
2116 基本的な知識を問うものであり,
2117 民法第
2118
2119 - 18 -
2120
2121 715条に基づくAの1億円の損害賠償請求権がFに4分の1の相続分に応じ
2122 て承継されるということが示されていれば,
2123 良好な答案と評価される。
2124
2125 その際,
2126
2127 BD間の和解契約の効力をその当事者ではないFに及ぼすことができない理由
2128 を的確に述べる答案のほか,
2129 損害賠償請求権は金銭債権として遺産分割の対象
2130 とならず当然に分割承継されることを指摘するなど,
2131 丁寧な論述をしている答
2132 案は,
2133 優秀な答案といえる。
2134
2135 それに対して,
2136 Aの損害賠償請求権が認められる
2137 法律上の根拠やAの損害賠償請求権がFに承継される根拠について,
2138 おおむね
2139 理解していることはうかがわれるものの,
2140 正確に指摘していないものは,
2141 一応
2142 の水準に達したものと評価される。
2143
2144 Fとの関係でも本件和解に基づき総額
2145 8000万円の損害賠償請求権しか認められないことを前提として,
2146 Fに
2147 2000万円の損害賠償請求権を認めるという答案などは,
2148 不良な答案と評価
2149 される。
2150
2151
2152 小問2及び小問3については,
2153 上記のとおり,
2154 複数の流れが考えられる。
2155
2156
2157 @ 小問2においてDに4000万円の返還請求を認めた場合(和解によって
2158 本件胎児に認められる損害賠償請求権に関する部分のみを無効とする場合),
2159
2160 和解の効力は全面的には否定されていないのであるから,
2161 小問3においても,
2162
2163 それを踏まえて結論を導く必要がある。
2164
2165 ここでは,
2166 和解による総額8000
2167 万円の損害賠償額については和解の効力が存続し,
2168 それを前提に本件胎児が
2169 相続人とならなかったことから,
2170 Bの相続分が4分の3になることを踏まえ
2171 て,
2172 2000万円の追加の損害賠償請求を認めるといったものは,
2173 優秀な答
2174 案と評価される。
2175
2176 また,
2177 小問3において,
2178 Bの側から改めて和解の効力を全
2179 部否定して,
2180 7500万円の損害賠償請求権があることを前提に追加の請求
2181 を認めるというものも,
2182 考えられる答案であるが,
2183 その場合には,
2184 どのよう
2185 な理由によって和解の効力を全面的に否定できるかを説明することが求めら
2186 れる。
2187
2188 そのような説明が十分に行われていれば,
2189 良好な答案と評価され,
2190
2191 らにその説明が説得的に行われていれば,
2192 優秀な答案と評価される。
2193
2194 それに
2195 対して,
2196 そのような説明がある程度行われているものの,
2197 根拠が正確に示さ
2198 れていないものは,
2199 一応の水準に達していると評価され,
2200 何らの説明もなく,
2201
2202 7500万円の損害賠償請求権を前提として,
2203 和解で受け取った4000万
2204 円を差し引いた3500万円を請求できるとのみ述べるなどの答案は,
2205 整合
2206 性が確保されておらず,
2207 不良な答案と評価される。
2208
2209
2210 A 小問2においてDに8000万円の返還請求を認めた場合(和解の効力を
2211 全面的に否定する場合),
2212 小問3では,
2213 Bは,
2214 それを前提に,
2215 改めてDに対
2216 して損害賠償請求をすることになる。
2217
2218 この場合,
2219 和解の効力を全面的に否定
2220 するのだから,
2221 小問3において7500万円の損害賠償請求権を導くことは,
2222
2223 @の場合と異なり容易であるが,
2224 その前提として,
2225 小問2において,
2226 なぜ本
2227 件胎児の分だけではなく,
2228 Bの分を含めて和解契約の効力が全面的に否定さ
2229 れるかを説明することが求められる。
2230
2231 そのような説明が適切に行われている
2232 場合は,
2233 優秀な答案として評価され,
2234 そのような説明が十分にされていなく
2235 ても,
2236 和解の効力が全面的に否定されることを指摘し,
2237 Aの1億円の損害賠
2238 償請求権についてBがその相続分である4分の3を相続により承継すること
2239 を指摘していれば,
2240 良好な答案と評価される。
2241
2242 それに対して,
2243 そのような理
2244
2245 - 19 -
2246
2247 解をしていることがうかがわれるものの,
2248 正確な指摘がされていないものは,
2249
2250 一応の水準に達していると評価され,
2251 何らの説明もなく,
2252 単に7500万円
2253 の損害賠償請求権が認められるとのみ述べているものや,
2254 小問2において和
2255 解の効力を全面的に否定しているにもかかわらず,
2256 それと異なる前提に基づ
2257 いて一定の結論を導いているものは,
2258 不良な答案と評価される。
2259
2260
2261 B さらに,
2262 小問2において,
2263 Dに2000万円の返還請求を認めるとする答
2264 案もあった。
2265
2266 これは,
2267 @・Aと比べて,
2268 Dの請求額としては低額になるが,
2269
2270 損害賠償額の総額を8000万円とし,
2271 Aの相続人の相続分に応じてそれを
2272 分割するところに和解の趣旨があると見て,
2273 本件胎児が相続人とならなかっ
2274 た場合についてもその趣旨を可能な限り実現しようとするものであり,
2275 十分
2276 に合理的なものであると評価することができる。
2277
2278 この点について適切な説明
2279 がされている場合は,
2280 小問2の解答としては優秀な答案と評価される。
2281
2282 この
2283 ような理解を前提として,
2284 小問3では,
2285 特に新たな請求をすることはできな
2286 いとするのは,
2287 一貫した答案であり,
2288 小問2における解答を踏まえて述べら
2289 れていれば,
2290 良好と評価される。
2291
2292 そのような理解を示した上で,
2293 さらに,
2294
2295 理的な説明に基づき,
2296 和解契約の効力をBの側から全面的に否定して,
2297 改め
2298 て損害賠償請求をする可能性を論じている場合は,
2299 優秀な答案と評価される。
2300
2301
2302 それに対して,
2303 小問2における解答との関係を示さないまま,
2304 小問3で,
2305
2306 に新たな請求をすることができないとのみ述べているものは,
2307 一応の水準に
2308 達するものと評価され,
2309 小問2において示された和解の趣旨と異なる前提に
2310 基づいて一定の結論を導いているものなどは,
2311 不良な答案と評価される。
2312
2313
2314 以上の@・A・Bを通じて,
2315 本件胎児の流産によって,
2316 和解の効力がなぜ否
2317 定されるかを適切に説明することが求められる。
2318
2319
2320 民法第886条に関する解除条件説を前提として,
2321 これを法定の解除条件の
2322 実現として説明するもの,
2323 停止条件説を前提として,
2324 これを法的に存在しない
2325 者(虚無人)についての和解契約だったとして説明するものは,
2326 いずれも優秀
2327 な答案と評価され,
2328 必ずしも多くはないが,
2329 そのような答案も存在した。
2330
2331 また,
2332
2333 胎児が和解契約の当事者となっていることから,
2334 和解契約自体に約定の解除条
2335 件が付されているものと解釈し,
2336 このような条件が付された趣旨から契約の全
2337 部又は一部が無効となることを基礎付けようとするものも,
2338 民法第886条に
2339 関する議論と混同している場合は別として,
2340 相応の評価を行った。
2341
2342
2343 これに対して,
2344 このような点を十分に意識していないが,
2345 錯誤等を理由とし
2346 て和解の無効を導いている答案が数多く見られた。
2347
2348 本件胎児の流産は,
2349 和解契
2350 約が成立した後の事情であり,
2351 少なくともこれは和解の錯誤が問題となる典型
2352 的な場合ではない。
2353
2354 このような問題を正確に理解して,
2355 なお和解の効力が否定
2356 されることの説明を試みるものは,
2357 優秀な答案と評価されるが,
2358 そのような答
2359 案は少数にとどまった。
2360
2361 和解の錯誤に関する従来の判例及び学説を正確に理解
2362 し,
2363 それを踏まえて本件和解の効力を検討しているものは,
2364 良好な答案と評価
2365 した。
2366
2367 それに対して,
2368 和解の錯誤に関する従来の判例及び学説について一定の
2369 理解をしていることはうかがわれるものの,
2370 それを正確に指摘しないまま,
2371
2372 件和解の効力を検討しているものは,
2373 一応の水準に達しているものと評価し,
2374
2375 単に錯誤として,
2376 それ以上の説明のない答案や,
2377 和解が無効となる理由を全く
2378
2379 - 20 -
2380
2381 示していない答案は,
2382 不良な答案と評価した。
2383
2384
2385 (3) 設問3について
2386 ア 設問3の一般的な採点実感
2387 設問3は,
2388 所有権に基づく返還請求権の要件について,
2389 設問において指定さ
2390 れた事実がそれぞれ要件としての意義を有するか否かを問うものである。
2391
2392 民事
2393 の実務に携わる際に正確な理解が求められる極めて基本的な事項についての出
2394 題であり,
2395 その実体法上の意義と訴訟上の攻撃防御の構造が正確に理解されて
2396 いることが答案で明確に示されていれば足りる。
2397
2398 実際に,
2399 多くの答案は,
2400 適切
2401 な解答を示すものであった。
2402
2403 実体法の十分な理解に立脚して訴訟上の攻撃防御
2404 の在り方を考える能力を養うという法科大学院等における教育が相応の成果を
2405 収めてきていることがうかがわれる。
2406
2407
2408 しかし,
2409 その一方で,
2410 少し気になったのは,
2411 以下の点である。
2412
2413
2414 まず,
2415 訴訟上の攻撃防御の在り方に関する理解が皮相なものにとどまってい
2416 ることがうかがわれる答案が見られた。
2417
2418 訴訟上の攻撃防御は,
2419 現実に生起する
2420 当事者間の応酬を単に時間的な順序で並べることではない。
2421
2422 実体法が定める要
2423 件とその基礎にある法の体系に基づいて,
2424 当事者の主張・立証を論理的に整理
2425 することが必要である。
2426
2427 一部ではあるが,
2428 当事者の主張・立証をこのように整
2429 理することができていない答案が見られたのは残念である。
2430
2431
2432 また,
2433 民法第177条の「第三者」の意義について検討することなく,
2434 下線
2435 部Aの事実は,
2436 請求原因としてではなく,
2437 Kが対抗要件の抗弁を主張してきた
2438 場合に再抗弁として主張すれば足りるとする答案も見られた。
2439
2440 しかし,
2441 少なく
2442 とも現在では,
2443 不法占有者は同条の「第三者」に当たらないとすることが判例・
2444 学説上確立しているのであるから,
2445 Kが「第三者」に当たるか否かに何ら言及
2446 することなく,
2447 上記のように述べるのは適切ではない。
2448
2449
2450 このほか,
2451 下線部の事実@はKも争っていないから請求原因事実にならない
2452 とする答案も見られたが,
2453 これも適切ではない。
2454
2455 法的に必要な主張であるか否
2456 かは,
2457 実体法の要件構成に従って定まるものであり,
2458 自分に所有権があること
2459 を主張しない者に所有権に基づく返還請求権の行使を認めることはできない。
2460
2461
2462 訴訟において当事者間に争いがない主要事実は,
2463 証明することを要しないもの
2464 の(民事訴訟法第179条),
2465 主張はしなければならず,
2466 それがされなければ
2467 裁判所がその事実の存在を前提として判断することができないという弁論主義
2468 の要請がここでも妥当することを忘れてはならない。
2469
2470
2471 さらに,
2472 下線部の事実Cについても,
2473 登記がされていない以上,
2474 下線部Bの
2475 事実を対抗することができないという結論のみを,
2476 特段の説明をすることもな
2477 く述べるにとどまる答案が一定数見られた。
2478
2479 設問3は,
2480 全体として基本的な事
2481 項を問うものであるが,
2482 このような解答をする答案と,
2483 民法第177条の要件
2484 構成に関する正確な理解を踏まえた解答をする答案とを識別をする点におい
2485 て,
2486 出題の意義があったと感じられる。
2487
2488
2489 下線部Eの事実については,
2490 下線部の事実A・Cと同じように登記の有無は
2491 問題にならないと説明する答案が見られたが,
2492 これは説明として不十分である。
2493
2494
2495 下線部の事実A・Cについては,
2496 上述したように,
2497 不法占有者が民法第177
2498 条の「第三者」に当たるか否かが検討されなければならないのに対し,
2499 下線部
2500
2501 - 21 -
2502
2503 Eについては,
2504 建物を所有するという態様で土地を占有する者に対して土地の
2505 返還請求がされた場合に,
2506 建物の登記が意義を有するか否かが検討されなけれ
2507 ばならない。
2508
2509 なお,
2510 本問は,
2511 実体的に所有者であるが登記をしていない者を被
2512 告とすることができるか否かを問うものであり,
2513 実体的には所有権を喪失して
2514 いるものの登記がされている者を被告とすることができるか否かを問うもので
2515 はない。
2516
2517 法科大学院教育等においては,
2518 判例があることから,
2519 後者の問題が注
2520 目されがちであるせいか,
2521 後者の論点が問われていると誤解して解答する答案
2522 も見られた。
2523
2524 しかし,
2525 その数は多くはなく,
2526 全体としては,
2527 下線部Eの事実に
2528 ついて的確な考察がされていた。
2529
2530
2531 イ 答案例
2532 優秀に該当する答案の例としては,
2533 第一に,
2534 論述の前提として所有権に基づ
2535 く返還請求権の要件を的確に指摘した上で,
2536 下線部の事実@・Bが「請求権を
2537 行使しようとする者が所有権を有すること」という要件(以下「請求者所有要
2538 件」という。
2539
2540 )に関わるものであり,
2541 また,
2542 下線部の事実Dが「相手方が占有
2543 をしていること」という要件(以下「相手方占有要件」という。
2544
2545 )に関わるも
2546 のであることを指摘し,
2547 それらを前提としてHが建物収去土地明渡請求をする
2548 ことができるかどうかについて適切に結論が示されており,
2549 第二に,
2550 その際,
2551
2552 Hが丁土地の所有権の全部を有することに基づいて返還請求権を行使するもの
2553 であるか,
2554 それとも共有者がする共有物の保存行為として丁土地の明渡請求権
2555 を行使するものであるかという法律構成の観点を明確に示した論述がされてお
2556 り,
2557 第三に,
2558 下線部の事実A・Cについて,
2559 民法第177条の「第三者」の意
2560 味に関する一般的な考察を前提として,
2561 それらの事実が持つ法律上の意義が的
2562 確に指摘されており,
2563 また,
2564 下線部の事実Eに関し,
2565 Kが丁土地を占有してい
2566 るという相手方占有要件を考える上で,
2567 建物を所有する者を実体に従って判断
2568 することが妨げられないことが適切に指摘されているものなどである。
2569
2570
2571 良好に該当する答案は,
2572 論述の前提として所有権に基づく返還請求権の要件
2573 を的確に指摘した上で,
2574 下線部の各事実についてそれぞれの法律上の意義が的
2575 確に論じられ,
2576 Hが建物収去土地明渡請求をすることができるかどうかについ
2577 て適切に結論が提示されているものの,
2578 それらの各事実の分析が個別にされて
2579 いるにとどまり,
2580 その分析の前提となる法的構成の観点について,
2581 Hが丁土地
2582 の所有権の全部を有することに基づいて返還請求権を行使するものであるか,
2583
2584 それとも共有者がする共有物の保存行為として丁土地の明渡請求権を行使する
2585 ものであるかが必ずしも明確に示されていないようなものなどである。
2586
2587
2588 一応の水準に該当する答案の例としては,
2589 下線部の事実@・Bが請求者所有
2590 要件に関わるものであり,
2591 また,
2592 下線部の事実Dが相手方占有要件に関わるも
2593 のであることが指摘され,
2594 Hが建物収去土地明渡請求をすることができるかど
2595 うかについて適切に結論が示されているものの,
2596 その前提として所有権に基づ
2597 く返還請求権の要件が明確に整理して論述されておらず,
2598 また,
2599 下線部の事実
2600 A・C・Eについて,
2601 それぞれの法律上の意義が必ずしも明確に論じられてい
2602 ないか,
2603 又は,
2604 特段の理由を述べることなく,
2605 Hの土地所有をKに対抗するた
2606 めには登記を要するとしたり,
2607 Kの建物所有を確定する上で登記がなければな
2608 らないとしたりする論述になっているものなどである。
2609
2610
2611
2612 - 22 -
2613
2614 不良に該当する答案は,
2615 例えば,
2616 下線部の事実@・Bが請求者所有要件に関
2617 わるものであり,
2618 また,
2619 下線部の事実Dが相手方占有要件に関わるものである
2620 ことのいずれも明確に指摘されていないか,
2621 又は極めて不十分な論述になって
2622 おり,
2623 また,
2624 下線部の事実A・Cについての民法第177条の「第三者」の意
2625 味に関する一般的な考察を前提とする論述や,
2626 下線部の事実Eについての丁土
2627 地占有の要件を考える上で建物の登記が持つ意義に関する論述がされていない
2628 か,
2629 又はされているとしても極めて不十分な論述になっており,
2630 全体として所
2631 有権に基づく返還請求権の要件に関する正確な理解に立脚していないと認めら
2632 れるものである。
2633
2634
2635 (4) 全体を通じ補足的に指摘しておくべき事項
2636 民法全般について過不足のない知識と理解を身に付けることが実務家になるた
2637 めには不可欠である。
2638
2639 今回の出題についても,
2640 該当分野について基本的な理解が
2641 十分にできており,
2642 それを前提として一定の法律構成を提示し,
2643 それに即して要
2644 件及び効果に関する判断が行われていれば,
2645 十分合格点に達するものと考えられ
2646 る。
2647
2648 しかし,
2649 残念ながら,
2650 民法に関する基本的な知識と理解が不足ないし欠如し
2651 ている答案や,
2652 実体法である民法についての出題であるにもかかわらず,
2653 請求原
2654 因や抗弁等の説明に終始し,
2655 肝心の実体法の解釈論に触れていない答案も一定数
2656 存在した。
2657
2658
2659 また,
2660 文章力に問題があるために,
2661 論述の内容について複数の読み方が可能で
2662 あり,
2663 どちらの趣旨であるかが容易に判別することができない答案も存在した。
2664
2665
2666 当然のことながら,
2667 採点者は,
2668 答案の記載内容だけから評価をするのであり,
2669
2670 旨が判然としない答案はそれを前提とした評価をせざるを得ず,
2671 善解することは
2672 できないのであるから,
2673 複数の解釈が可能となるような曖昧な表現は避けるよう
2674 留意すべきである。
2675
2676
2677 なお,
2678 答案の書き方における注意事項として,
2679 附番の用い方の問題がある。
2680
2681
2682 問(3)では@・A・B……という数字を用いているのであるから,
2683 これと別に,
2684
2685 所有権に基づく返還請求権の行使の要件は「@原告所有,
2686 A被告占有である」な
2687 どという記述をすることは好ましくない。
2688
2689 設問の中で用いられている@やAとの
2690 区別がつかなくなる恐れがあり,
2691 論述の内容が不明瞭なものとなりかねないので,
2692
2693 この点は特に注意を要する。
2694
2695
2696
2697
2698 法科大学院における学習において望まれる事項
2699 これは,
2700 民法に限ったことではないが,
2701 法律家になるためには,
2702 何よりも,
2703
2704 体的なケースに即して適切な法律構成を行い,
2705 そこで適用されるべき法規範に基
2706 づいて自己の法的主張を適切に基礎付ける能力を備える必要がある。
2707
2708 こうした能
2709 力は,
2710 教科書的な知識を暗記して,
2711 ケースを用いた問題演習を機械的に繰り返せ
2712 ば,
2713 おのずと身に付くようなものではない。
2714
2715 重要なのは,
2716 一般に受け入れられた
2717 法的思考の枠組みに従って問題を捉え,
2718 推論を行うことができるかどうかである。
2719
2720
2721 それができていなければ,
2722 条文や判例・学説の知識が断片的に出てくるけれども,
2723
2724 それを適切な場面で適切に使うことができず,
2725 法的な推論として受け入れられな
2726 いような推論を行うことになりがちである。
2727
2728
2729 そうした法的思考の枠組みの要となるのは,
2730 法規範とはどのようなものであり,
2731
2732
2733 - 23 -
2734
2735 法的判断とはどのような仕組みで行われるものかという理解である。
2736
2737 例えば,
2738
2739 規範には,
2740 要件・効果が特定されたルールのほかに,
2741 必ずしも要件・効果の形を
2742 とらない原理や原則と呼ばれるものがある。
2743
2744 法規範となるルールが立法や判例等
2745 によって明確に形成されており,
2746 その内容に争いがなければ,
2747 それをそのまま適
2748 用すればよいけれども,
2749 ルールの内容が明確でない場合には,
2750 解釈によってその
2751 内容を確定する必要がある。
2752
2753 そこでは,
2754 それぞれの規定や制度の基礎にある原理
2755 や原則に遡った考察が必要となる。
2756
2757 また,
2758 法規範となるルールが形成されておら
2759 ず,
2760 欠缺がある場合には,
2761 同じような規定や制度の基礎にある原理や原則,
2762 さら
2763 には民法,
2764 ひいては法一般の基礎にある原理や原則にまで遡り,
2765 これを援用する
2766 ことによって,
2767 不文のルールを基礎付けなければならない。
2768
2769 そのような法規範の
2770 確定を前提として,
2771 その要件に事実を当てはめることによって,
2772 実際の法的判断
2773 を行う。
2774
2775 そうした基本的な法的思考の枠組みが理解され,
2776 身に付いていなければ,
2777
2778 幾ら教科書的な知識を暗記しても,
2779 また,
2780 幾ら問題演習を繰り返し,
2781 答案の書き
2782 方と称するものを訓練しても,
2783 法律家のように考えることはできない。
2784
2785
2786 司法試験において試されているのも,
2787 究極的には,
2788 このような法的思考を行う能
2789 力が十分に備わっているかどうかである。
2790
2791 もちろん,
2792 その前提として,
2793 それぞれ
2794 の法制度に関する知識は正確に理解されていなければならず,
2795 それらの知識の相
2796 互関係も適切に整理されていなければならない。
2797
2798 しかし,
2799 そのような知識や理解
2800 を実際に生かすためには,
2801 法的思考を行う能力を備えることが不可欠である。
2802
2803
2804 法科大学院では,
2805 発足以来,
2806 まさにこのような法的思考を行う能力を養うことを
2807 目指した教育が行われてきたと見ることができる。
2808
2809 司法試験の合否という表面的
2810 な結果に目を奪われることなく,
2811 その本来の目標を今一度確認し,
2812 さらに工夫を
2813 重ねながら,
2814 その実現のために適した教育を押し進めることを望みたい。
2815
2816 また,
2817
2818 受験生においても,
2819 法律家となるための能力を磨くことこそが求められているこ
2820 とを自覚して,
2821 学習に努めていただきたい。
2822
2823
2824
2825 - 24 -
2826
2827 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第2問)
2828
2829
2830 出題の趣旨
2831 既に公表されている「平成26年司法試験論文式試験問題出題趣旨」に,
2832 特に補
2833 足すべき点はない。
2834
2835
2836
2837 2 採点方針及び採点実感
2838 (1) 民事系科目第2問は,
2839 商法分野からの出題である。
2840
2841 これは,
2842 事実関係(登記事
2843 項証明書の記載を含む。
2844
2845 )を読み,
2846 分析し,
2847 会社法上の論点を的確に抽出して各
2848 設問に答えるという,
2849 基本的な知識と,
2850 事例解析能力,
2851 論理的思考力,
2852 法解釈・
2853 適用能力等を試すものである。
2854
2855
2856 (2) 設問1(本件株式発行の効力とこれに関する法律関係)では,
2857 まず,
2858 Eについ
2859 て,
2860 そもそも取締役としての株主総会の選任決議を欠き,
2861 代表取締役としての取
2862 締役会の選定決議も欠いており,
2863 本件株式発行は代表取締役でない者によってさ
2864 れたものであることを指摘する必要があるが,
2865 これを指摘した答案は多くはな
2866 かった。
2867
2868 そして,
2869 甲社のような非公開会社では,
2870 募集株式の発行は,
2871 株主割当て
2872 の場合を除き,
2873 株主総会の特別決議による必要があるが(会社法第199条第2
2874 項,
2875 第202条,
2876 第309条第2項第5号),
2877 このような基本的な事項の理解を
2878 欠く答案も少なからず見られた。
2879
2880
2881 新株発行無効の訴えについて,
2882 提訴期間が徒過しているためこれを提起するこ
2883 とができないことは,
2884 多くの答案で触れられていたが,
2885 提訴期間の徒過という重
2886 大な事実関係を見落とし,
2887 新株発行無効の訴えの可否のみを論じた答案も見られ
2888 た。
2889
2890 また,
2891 非公開会社では,
2892 提訴期間が1年間であるのに(会社法第828条第
2893 1項第2号括弧書き),
2894 これを6か月間と誤って記述をした答案が相当数あった。
2895
2896
2897 そして,
2898 新株発行不存在確認の訴えの可否については,
2899 多くの答案が論じていた
2900 が,
2901 新株発行の実体を否定する要素として上記の事実(代表権を欠くEによる発
2902 行であったこと及び株主総会決議に瑕疵があったこと)等を,
2903 これを肯定する要
2904 素としてEが現に賃貸用の建物を出資しているという事実等をそれぞれ挙げた上
2905 で,
2906 新株発行不存在といえるか否かを事実に即して論ずることができていた答案
2907 は,
2908 多くはなかった。
2909
2910 なお,
2911 新株発行不存在といえるか否かについては,
2912 どのよ
2913 うな結論を採っても,
2914 理由が適切に述べられていれば,
2915 同等に評価した。
2916
2917 新株発
2918 行不存在確認の訴えに関する判決が確定した場合の法律関係については,
2919 触れて
2920 いる答案がそれなりにあったが,
2921 丁寧に論じた答案はあまり見られなかった。
2922
2923
2924 (3) 設問2(本件借入れの効果の帰属)では,
2925 まず,
2926 本件借入れに係る借入金の返
2927 還請求を主張するHの立場では,
2928 @Eについて表見代表取締役に関する規定(会
2929 社法第354条)を類推適用することができること,
2930 AEに代表権がないとして
2931 も,
2932 故意に不実の事項を登記した場合の効果(同法第908条第2項)が認めら
2933 れることを,
2934 それぞれ主張することが考えられ,
2935 他方,
2936 借入金の返還請求を否定
2937 する甲社の立場としては,
2938 Eに代表権がないことを主張し,
2939 上記@Aに係る瑕疵
2940 についてHに悪意又は重過失があったことを主張するほか,
2941 B本件借入れは,
2942
2943 社にとって多額の借財(同法第362条第4項第2号)に該当するところ,
2944 その
2945 取締役会の決議を経ておらず,
2946 かつ,
2947 Hは取締役会の決議を欠いていることを知
2948
2949 - 25 -
2950
2951 り又は知ることができたこと,
2952 C本件借入れは,
2953 甲社の事業上の必要性によるも
2954 のではなく,
2955 Eの個人的な思惑によるものである点で,
2956 権限濫用行為に該当する
2957 ところ,
2958 Hはこれを知り又は知ることができたことを主張することが考えられる。
2959
2960
2961 しかし,
2962 上記@からCまでの四つの問題点の全てについて論じた答案は,
2963 ほと
2964 んど見当たらず,
2965 多くの答案は,
2966 上記@(表見代表取締役)と上記B(多額の借
2967 財)の一方又は双方を論ずるにとどまっていた。
2968
2969 そして,
2970 答案の内容としては,
2971
2972 上記@については,
2973 使用人にすぎないEについて表見代表取締役に関する規定を
2974 類推適用することの是非を論じ,
2975 上記Bについては,
2976 事実に即して,
2977 本件借入れ
2978 が「多額の借財」に該当するか否か,
2979 そして,
2980 Hは取締役会の決議を欠いている
2981 ことを知り又は知ることができたか否かについて論じていた。
2982
2983 しかし,
2984 上記@か
2985 らCまでについてHに悪意又は過失(重過失)があったか否かを論ずる際に,
2986
2987 れぞれ悪意等の対象が異なるにもかかわらず,
2988 正確に記述しない答案も少なくな
2989 かった。
2990
2991
2992 上記@からCまでの論理的関係(上記@又はAの主張が認められるとしても,
2993
2994 上記B又はCにより瑕疵がある場合には,
2995 本件借入れの効果は甲社に帰属しない
2996 こと)を意識して論じた答案も僅かながら見られ,
2997 このような答案は高く評価し
2998 た。
2999
3000 しかし,
3001 例えば,
3002 上記B(多額の借財)に関する取締役会の決議を欠いてい
3003 るという瑕疵が,
3004 上記@(表見代表取締役)に関する規定の適用により治癒され
3005 るという誤った理解に基づく答案も見られた。
3006
3007
3008 なお,
3009 設問2は,
3010 H及び甲社の立場において考えられる主張及びその主張の当
3011 否を問うものであり,
3012 主張の概要を簡潔に指摘した上で,
3013 その当否を丁寧に論ず
3014 ることが期待されるが,
3015 主張についての記述内容をその当否としてそのまま繰り
3016 返すものや,
3017 主張のみを記述して当否を論じないものも見られた。
3018
3019
3020 (4) 設問3(CのD及びEに対する株主代表訴訟)では,
3021 まず,
3022 甲社は非公開会社
3023 であるのに,
3024 株主代表訴訟の原告適格として株式の6か月間の継続保有を要する
3025 との誤った記述をした答案がかなり見られた。
3026
3027
3028 Dに対する株主代表訴訟については,
3029 Dの取締役の退任登記はされているが,
3030
3031 Eが適法な取締役選任手続を経ていないため,
3032 甲社において,
3033 A及びCだけでは
3034 法律で定められた取締役の員数(会社法第331条第4項)を充たしておらず,
3035
3036 任期満了により退任したDがなお取締役としての権利義務を有する地位にあるこ
3037 と(同法第346条第1項)を前提に論ずることが必要であるが,
3038 この点を指摘
3039 した答案は極めて僅かであった。
3040
3041 他方,
3042 Dが積極的に違法な借入れ及び貸付けの
3043 実行を制止するために適切な措置を講じなかった点について,
3044 損害と因果関係の
3045 ある任務懈怠として,
3046 Dの監視義務違反が認められるか否かを事案に即して検討
3047 した答案はそれなりに見られた。
3048
3049
3050 Eに対する株主代表訴訟については,
3051 まず,
3052 使用人にすぎないEについて,
3053
3054 実上の取締役に該当するなどとして,
3055 会社法第423条第1項の類推適用により
3056 Eの任務懈怠責任を肯定する余地があることは,
3057 多くの答案で論じられていた。
3058
3059
3060 また,
3061 Eの任務懈怠の内容として,
3062 本件借入れ及び本件貸付けについて,
3063 多額の
3064 借財及び重要な財産の処分として必要となる取締役会の決議を欠いていることを
3065 指摘する必要があるが,
3066 これを正しく指摘した答案は多くはなかった。
3067
3068 他方,
3069
3070 がFから相続した甲社に対する所有権移転登記義務について,
3071 そのような債務も
3072
3073 - 26 -
3074
3075 株主代表訴訟の対象とすることが認められるか否かを論じた答案は全体の半数程
3076 度であったと見受けられるが,
3077 この点につき,
3078 判例の見解を紹介するなどして詳
3079 しく論じた答案はほとんど見られなかった。
3080
3081
3082 (5) 以上のような採点実感に照らすと,
3083 「優秀」,
3084 「良好」,
3085 「一応の水準」,
3086 「不良」
3087 の四つの水準の答案は,
3088 次のようなものと考えられる。
3089
3090 第一に,
3091 「優秀」な答案
3092 は,
3093 主要な論点をほぼ論ずることができていて(主要な論点の一つや二つが欠け
3094 ている程度は,
3095 差し支えない。
3096
3097 ),
3098 各問題につき,
3099 事実の当てはめを適切にした
3100 上で,
3101 相当な理由付けをして自らの考えを述べ,
3102 その考えに基づき論理的に整合
3103 性を持った法的議論を展開することのできている答案である。
3104
3105
3106 「良好」な答案は,
3107
3108 主要な論点で論じられていないものが若干あるが,
3109 取り上げた論点については事
3110 実に即してそれなりの論理的に整合性を持った法的議論がされている答案であ
3111 る。
3112
3113 「一応の水準」の答案は,
3114 最低限押さえるべき論点,
3115 例えば,
3116 設問1であれ
3117 ば,
3118 新株発行不存在事由の存否が,
3119 問題文にある事実を適切に当てはめながら論
3120 じられていて,
3121 議論の筋がある程度通っている答案である。
3122
3123 「不良」な答案は,
3124
3125 そのような最低限押さえるべき論点も押さえられていない答案や,
3126 議論の筋の
3127 通っていない答案である。
3128
3129
3130
3131
3132 法科大学院教育に求められるもの
3133 非公開会社における募集株式発行の手続,
3134 新株発行の無効ないし不存在,
3135 表見代
3136 表取締役,
3137 不実の登記,
3138 多額の借財,
3139 代表権の濫用,
3140 株主代表訴訟の対象等につい
3141 ての規律は,
3142 会社法の基本的な規律であると考えられるが,
3143 これらについての理解
3144 に不十分な面が見られる。
3145
3146 会社法の基本的な知識の確実な習得とともに,
3147 事実を当
3148 てはめる力と論理的思考力を養う教育が求められる。
3149
3150
3151
3152 - 27 -
3153
3154 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第3問)
3155
3156
3157 出題の趣旨等
3158 出題の趣旨は,
3159 既に公表されている「平成26年司法試験論文式試験問題出題趣
3160 旨【民事系科目】〔第3問〕」のとおりであるから,
3161 参照されたい。
3162
3163
3164 民事訴訟法分野では,
3165 従来と同様,
3166 受験者が,
3167 @民事訴訟法の基本的な原理・原
3168 則や概念を正しく理解し,
3169 基礎的な知識を習得しているか,
3170 Aそれらを前提として,
3171
3172 問題文をよく読み,
3173 設問で問われていることを的確に把握し,
3174 それに正面から答え
3175 ているか,
3176 B抽象論に終始せず,
3177 設問の事例に即して具体的に,
3178 かつ,
3179 掘り下げた
3180 考察をしているか,
3181 といった点を評価することを狙いとしており,
3182 このことは今年
3183 も同様である。
3184
3185
3186
3187
3188
3189 採点方針
3190 答案の採点に当たっては,
3191 上記@からBまでの観点を重視するものとしたことも,
3192
3193 従来と同様である。
3194
3195 上記Aと関連するが,
3196 問題文において問われていることに正面
3197 から答えていなければ,
3198 点を与えてはいない。
3199
3200 題意を十分に理解せず,
3201 自らが知っ
3202 ている論点について長々と記述する答案,
3203 自らが採用する結論とは直結しない論点
3204 について広く浅く書き連ねる答案が相当数存在したが,
3205 これらの答案は,
3206 問われて
3207 いることに答えていないものとして評価するなど,
3208 厳しい姿勢で採点に臨んでいる。
3209
3210
3211 問われていることに正面から答えるためには,
3212 論点ごとにあらかじめ丸暗記した画
3213 一的な表現をそのまま答案に再現するのではなく,
3214 設問を検討した結果をきちんと
3215 順序立てて自分の言葉で表現しようとする姿勢が極めて大切であり,
3216 採点に当たっ
3217 ては,
3218 受験者がそのような意識を持っていると言えるかどうかについても留意して
3219 いる。
3220
3221
3222
3223 3 採点実感等
3224 (1) 全体を通じて
3225 関係する事実関係のほか,
3226 課題を解決するための手掛かりとなる最高裁判所の
3227 判決,
3228 解答の方向性又は視点を示唆する弁護士L1等の発言が問題文に示されて
3229 いるにもかかわらず,
3230 これらを自らの議論の展開に十分活用できていない答案が
3231 数多く見られた。
3232
3233 設問1及び設問2では関連する最高裁判所の判決を説明・紹介
3234 しているが,
3235 それをどう自分の解答における理由付けと結び付けるかについての
3236 論述が十分でない答案,
3237 設問3では既判力の一般的な意義や作用に関する論述に
3238 多くを割いている答案がその例である。
3239
3240
3241 およそ何も書けていない答案は少なかったが,
3242 考えがまとまらないまま書き始
3243 めているのではないかと思われる答案も散見された。
3244
3245 検討の必要があると考える
3246 論点を端的に摘示して問題提起をするのではなく,
3247 問題文にある設問自体を相当
3248 行にわたって書き写している答案,
3249 相互の関係性を明らかにしないで複数の論点
3250 を羅列する答案,
3251 設問に対する結論を示すに当たって,
3252 法的三段論法の過程を経
3253 ているとは評価できない答案がその例である。
3254
3255 問題文をよく読み,
3256 必要な解答を
3257 頭の中で入念に構成した上で,
3258 答案を書き始めるべきであろう。
3259
3260
3261 (2) 設問1について
3262
3263 - 28 -
3264
3265 本問では,
3266 関連する最高裁判所の判決が示され,
3267 訴訟上の和解についての表見
3268 法理の適用という課題について検討すべき点として,
3269 判旨が挙げるような取引行
3270 為と訴訟手続の違いや,
3271 手続の不安定を招くといった点を否定的な立場の根拠と
3272 することに説得力があるかを踏まえるべきことが問題文に示されているから,
3273
3274 おむねそのような流れで論述する答案がほとんどではあった。
3275
3276 しかし,
3277 論述の内
3278 容は,
3279 訴訟上の和解は取引行為に類似するという結論を述べるにとどまるものが
3280 多く,
3281 なぜ訴訟上の和解についてそのように評価することができるのかについて,
3282
3283 例えば,
3284 訴訟上の和解の私法上の契約としての側面,
3285 すなわち和解契約には互譲
3286 という取引的性質が存在することを指摘するなどして,
3287 具体的に論じている答案
3288 は少なかった。
3289
3290 また,
3291 訴訟行為への表見法理の適用の可否は,
3292 典型論点というべ
3293 きものであったためか,
3294 問題文が訴訟上の和解について検討することを求めてい
3295 るにもかかわらず,
3296 上記典型論点に関わる議論を一般的に展開することに過度に
3297 重点を置き,
3298 訴訟上の和解の点については極めて淡泊な記載しかない答案が多く
3299 見られた。
3300
3301 このような答案は,
3302 与えられた事案に即した検討を行うという姿勢に
3303 欠けると言うべきである。
3304
3305 また,
3306 本問は,
3307 関連する最高裁判所の判決の射程が及
3308 ぶかを検討した上で,
3309 訴訟上の和解の効力を維持する議論をすることを求めてい
3310 るにもかかわらず,
3311 訴訟行為にも表見法理を適用すべきであり,
3312 判例変更が必要
3313 であるなどと論じるものが散見された。
3314
3315 このような答案も,
3316 題意を的確に捉えた
3317 答案とは言い難い。
3318
3319 他方で,
3320 表見法理の適用が手続の不安定を招くという点につ
3321 いては,
3322 それが善意悪意という主観的要件によって訴訟行為の効力が左右される
3323 結果となることについての指摘であることを,
3324 正しく理解していない答案も散見
3325 された。
3326
3327
3328 さらに,
3329 本問では,
3330 訴訟上の和解の効力を維持する方向で論述することが求め
3331 られているにもかかわらず,
3332 訴訟上の和解に表見法理を適用することは困難であ
3333 ると述べ,
3334 本問における和解は訴訟行為としては無効であるが,
3335 私法上の和解と
3336 しては効力が認められるとし,
3337 かつ,
3338 それで論述を終えるものが多くあったほか,
3339
3340 これに加えて,
3341 再訴を提起して私法上の和解の効力を主張すればよい,
3342 と指摘す
3343 る答案も散見された。
3344
3345 これらは,
3346 設問を読んでいないのではないかとさえ思われ
3347 る答案であり,
3348 また,
3349 再訴を提起すればよいとする答案を書いた受験者には,
3350
3351 とその訴訟代理人であるL1弁護士の立場からすれば,
3352 商業登記簿の記載を信頼
3353 して行動せざるを得ない立場にある者に再訴の提起という時間的,
3354 経済的な負担
3355 を課す一方で,
3356 代表者の交替を公示すべき責めを果たさなかった者に本件和解契
3357 約により負担した義務の履行を先延ばしすることを認めるものであり,
3358 当事者と
3359 しておよそ受け入れ難い結論であることに気付いてほしいところである。
3360
3361
3362 (3) 設問2について
3363 本問では,
3364 関連する最高裁判所の判決が明示され,
3365 その内容を踏まえるべきこ
3366 とが要求されていたが,
3367 当該判決に全く触れていない答案やその内容を踏まえた
3368 のかどうかが不明と言わざるを得ない答案が相当数あり,
3369 これらの答案は,
3370 題意
3371 に答える姿勢を欠くものである。
3372
3373
3374 答案としては,
3375 上記最高裁判所の判決について,
3376 訴訟代理人の権限には一定の
3377 限界ないし制限が存在するものとしている判例であると説明し,
3378 その上で,
3379 本問
3380 の和解条項第1項について,
3381 L2弁護士に与えられた権限の範囲内にあるかどう
3382
3383 - 29 -
3384
3385 かを論ずることまではできている答案が比較的多かった。
3386
3387 しかし,
3388 本人が和解案
3389 の受諾を拒んで帰宅したのに訴訟代理人が和解を成立させたという上記最高裁判
3390 所の判決における事情にとらわれ,
3391 これと対比すれば,
3392 そのような事情のない本
3393 件においては訴訟代理権の範囲内にあると認められるなどと記載する答案が,
3394
3395 当数あった。
3396
3397 また,
3398 反省して謝罪することは,
3399 Aにとって負担にならず,
3400 経済的
3401 な不利益もないとして,
3402 当該権限の範囲内にあると結論付ける答案も相当数あっ
3403 た。
3404
3405 これらの答案は,
3406 特段の規範を定立しないまま事実関係を評価して結論を述
3407 べているだけで,
3408 法律論の体をなしておらず,
3409 法曹を目指す者の答案としては十
3410 分な評価を与えることはできない。
3411
3412 本問では,
3413 Aは,
3414 訴訟代理人のL2弁護士に
3415 対し,
3416 民事訴訟法第55条第2項第2号の和解に関する特別授権をしていたこと
3417 が明示されているのであるから,
3418 当該和解に関する権限がいかなる範囲のものと
3419 解されるのかについて,
3420 自分の言葉で規範を定立した上で,
3421 本問ではどのような
3422 事情からその範囲内にあると結論付けない限り,
3423 法律問題に対する解答とは言い
3424 難いであろう。
3425
3426 そうすると,
3427 例えば,
3428 和解に関する権限がどのような範囲と解さ
3429 れるのかについては,
3430 「和解」の性質という観点からアプローチすることが考え
3431 られるが,
3432 そのようなアプローチ,
3433 すなわち,
3434 典型契約としての和解が内容とし
3435 て互譲性を要素としていることを指摘し,
3436 和解に関する権限を授権したというこ
3437 とは,
3438 互いに譲歩する権限を与えていることを意味するから,
3439 それが当該権限の
3440 範囲を画している,
3441 といった論理を展開する答案は少なかった。
3442
3443 これは,
3444 論述に
3445 当たって必要となる規範の定立とはどのようなことかを理解していないのではな
3446 いかと疑わせるものである。
3447
3448
3449 また,
3450 和解の内容が客観的に合理的であれば又はAの合理的な意思に合致する
3451 ものであれば,
3452 和解の権限の範囲に含まれると論じるものの,
3453 本問において,
3454
3455 かなる事情から和解の内容が客観的に合理的なもの又はAの合理的な意思に合致
3456 するものと評価することができるのかについて,
3457 具体的な論証がなく,
3458 一方的に
3459 合理的である又は合理的意思に合致すると結論付ける答案も,
3460 相当数あった。
3461
3462
3463 れらの答案は,
3464 規範の定立をした上,
3465 これに当てはめることにより議論を展開を
3466 しようとする答案のように見えるが,
3467 その実,
3468 合理的あるいは合理的意思に合致
3469 するとの結論を単に繰り返して述べるにすぎないものであるから,
3470 当該記載につ
3471 いては評価することはできない。
3472
3473
3474 さらに,
3475 Aが訴訟代理人であるL2弁護士に与えた訴訟代理権はその権限の範
3476 囲が限定されていないものであると論じ,
3477 本問の和解条項第1項について,
3478 L2
3479 弁護士に与えられた権限の範囲内にあると結論付ける答案も,
3480 一定数あった。
3481
3482
3483 かし,
3484 そのような答案においては,
3485 上記最高裁判所の判決をそのような内容のも
3486 のとして理解することができるのかなど,
3487 判決を踏まえた論理の構成が不十分な
3488 ものや,
3489 なぜAがL2弁護士に与えた権限の範囲が無制限であると解すべきかに
3490 ついて具体的な論述がされていないものがほとんどであり,
3491 残念であった。
3492
3493
3494 (4) 設問3について
3495 本問では,
3496 問題文において,
3497 訴訟上の和解につき既判力肯定説に立ちつつ,
3498
3499 解条項第2項及び第5項について生じる既判力を,
3500 @本件後遺障害に基づく損害
3501 賠償請求権の主張を遮断しない限度にまで縮小させる,
3502 あるいは,
3503 A本件和解契
3504 約は同請求権を対象として締結されたものではないから,
3505 本件の和解条項第2項
3506
3507 - 30 -
3508
3509 及び第5項には同請求権を不存在とする趣旨の既判力は生じない,
3510 との立論の在
3511 り方が例示されていた。
3512
3513 ただ,
3514 これらは,
3515 訴訟上の和解に関して,
3516 必ずしも典型
3517 論点とはされていないものであることから,
3518 上記各立論をどのような考え方や本
3519 件の事案に含まれる事情によって成り立つものとするのかについて論述すること
3520 となる。
3521
3522
3523 しかし,
3524 まず,
3525 和解条項第2項及び第5項について生じる既判力により本件後
3526 遺障害に基づく損害賠償請求権の主張が遮断される,
3527 という原則を指摘しない答
3528 案が相当数あった。
3529
3530 法曹を目指す者の答案としては,
3531 このような原則を形式的に
3532 当てはめると不都合が生ずるところを,
3533 どのように解決していくかが求められて
3534 いるのであって,
3535 議論の展開を明確にする意味でも,
3536 論述を始めるに当たりその
3537 ような原則を指摘することは有用であろう。
3538
3539
3540 そして,
3541 上記原則に対する例外と言うべき,
3542 上記@又は(及び)Aの立論を行
3543 うのであるが,
3544 上記各立論の違いを必ずしも意識することなく,
3545 既判力の根拠と
3546 しての手続保障や蒸し返しの禁止といった確定判決の既判力に関する一般論を述
3547 べるにとどまる答案がほとんどであった。
3548
3549 別の言い方をすると,
3550 本問が訴訟上の
3551 和解について既判力を縮小しようとするものであるから,
3552 例えば,
3553 訴訟上の和解
3554 に既判力を認める理由をどのように考えるのか,
3555 そして,
3556 当該理由との関係で,
3557
3558 本件後遺障害に基づく損害賠償請求権に係る訴訟上の和解を題材にした本問の事
3559 案に照らすと,
3560 どのような具体的な事情を踏まえれば既判力の縮小という結論を
3561 導くことができるのか,
3562 あるいは,
3563 上記損害賠償請求権には和解の既判力の遮断
3564 効が及ばない(和解による合意内容の限定)という結論を導くことができるのか
3565 について,
3566 自分の言葉で論述する答案は少なかった。
3567
3568
3569 特に,
3570 本問では,
3571 民事訴訟法第117条を単純に類推適用するのではなく,
3572
3573 身損害の損害賠償を主に念頭においてそのような規定が作られた趣旨を参考にし
3574 てほしいとの観点が示されているにもかかわらず,
3575 人身損害の特殊性を指摘しな
3576 い答案や,
3577 単純に民事訴訟法第117条を類推適用すべきであると論述する答案
3578 が相当数あった。
3579
3580 このような答案は,
3581 問題文をよく読んでいないのではないかと
3582 の疑念を抱かせる。
3583
3584
3585 (5) まとめ
3586 以上のような採点実感に照らすと,
3587 「優秀」,
3588 「良好」,
3589 「一応の水準」,
3590 「不良」
3591 の四つの水準の答案は,
3592 おおむね次のようなものとなると考えられる。
3593
3594 「優秀」
3595 な答案は,
3596 問われていることを的確に把握し,
3597 各設問の事例との関係で結論に至
3598 る過程を具体的に説明できている答案である。
3599
3600 また,
3601 このレベルには足りないが,
3602
3603 問われている論点についての把握はできており,
3604 ただ,
3605 説明の具体性や論理の積
3606 み重ねにやや不十分な部分があるという答案は「良好」と評価することができる。
3607
3608
3609 これに対して,
3610 最低限押さえるべき論点,
3611 例えば,
3612 訴訟上の和解に表見法理の適
3613 用を否定する論拠としての取引行為と訴訟行為との区別,
3614 訴訟経済の不安定と
3615 いった議論への評価(設問1),
3616 訴訟上の和解に係る和解権限の範囲についての
3617 考え方(設問2),
3618 人身損害の特殊性に着目した@又は(及び)Aの構成による
3619 訴訟上の和解の既判力の修正(設問3)が,
3620 自分の言葉で論じられている答案は,
3621
3622 「一応の水準」にあると評価することができるが,
3623 そのような論述ができていな
3624 い,
3625 又はそのような姿勢すら示されていない答案については「不良」と評価せざ
3626
3627 - 31 -
3628
3629 るを得ない。
3630
3631
3632
3633
3634 法科大学院に求めるもの
3635 民事訴訟法分野の論文式試験は,
3636 民事訴訟法の教科書に記載された学説や判例に
3637 関する知識の量を試すような出題は行っていない。
3638
3639 むしろ,
3640 当該教科書に記載され
3641 た基本的な事項を正確に押さえ,
3642 判例の背景にある基礎的な考え方を理解しておく
3643 ことが必要である。
3644
3645 そして,
3646 それらを駆使して,
3647 問題において提示された事情等に
3648 照らし,
3649 論理的に論述する能力を養うための教育を行う必要がある。
3650
3651 また,
3652 上記3
3653 (2)において,
3654 設問1に関して,
3655 再訴の提起による解決を指摘する答案についてそ
3656 の不合理性を指摘したが,
3657 これは,
3658 判決(すなわち債務名義)を得ることには,
3659
3660 常,
3661 多大な労力を要することを踏まえたものである。
3662
3663 法曹養成制度は,
3664 文字通り,
3665
3666 法曹実務家を養成するための制度であることに照らせば,
3667 民事訴訟法分野に係る教
3668 育においては,
3669 学生に対し,
3670 現実の民事訴訟制度を実感させる教育(民事執行制度
3671 との連続性を意識させる教育)が期待される。
3672
3673 加えて,
3674 上記3(3)において,
3675 設問
3676 2に関して,
3677 民法の和解契約が互譲を本質的要素とするものであることから論旨を
3678 展開する答案が少なかったことを指摘したが,
3679 これとの関係で,
3680 各法科大学院には
3681 以下のことを希望したい。
3682
3683 すなわち,
3684 かつて司法試験において民法と民事訴訟法の
3685 融合問題が出題されていた頃は,
3686 各法科大学院においても,
3687 分野横断的な授業科目
3688 を設けて熱心に教育に取り組んでいたが,
3689 融合問題が廃止されて以降,
3690 そうした授
3691 業科目を必修から外したり廃止したりする動きがあるようである。
3692
3693 もちろん,
3694 融合
3695 問題の廃止は相応の理由があってのことであり,
3696 また,
3697 各法科大学院がそれに対応
3698 して行動することは理解できるが,
3699 そのことが,
3700 分野横断的に問題を把握すること
3701 の重要性に関する法科大学院生の認識を希薄にし,
3702 民法は民法,
3703 民事訴訟法は民事
3704 訴訟法というように,
3705 相互の連関を意識することなくばらばらに学習する態度を助
3706 長しているとすれば残念なことであり,
3707 設問2を採点していてそのような懸念を感
3708 じたところである。
3709
3710 各法科大学院においては,
3711 融合問題の廃止にかかわらず,
3712 この
3713 点に関する学生の意識を喚起するよう努めていただけると有り難い。
3714
3715
3716
3717
3718
3719 その他
3720 毎年繰り返しているところではあるが,
3721 極端に小さな字(各行の幅の半分にも満
3722 たないサイズの字では小さすぎる。
3723
3724 ),
3725 文字色が薄い字,
3726 潰れた字や書き殴った字の
3727 答案が相変わらず少なくない。
3728
3729 司法試験はもとより字の巧拙を問うものではないが,
3730
3731 心当たりのある受験者は,
3732 相応の心掛けをしてほしい。
3733
3734 また,
3735
3736 「けだし」,
3737
3738 「思うに」
3739 など,
3740 一般に使われていない用語を用いる答案も散見されたところであり,
3741 改めて
3742 改善を求めたい。
3743
3744
3745
3746 - 32 -
3747
3748 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第1問)
3749
3750
3751
3752
3753 出題の趣旨について
3754 既に公表した出題の趣旨のとおりである。
3755
3756
3757 採点の基本方針等
3758 本問では,
3759 具体的事例に基づいて甲乙丙それぞれの罪責を問うことによって,
3760
3761 法総論・各論の基本的な知識と問題点についての理解の有無・程度,
3762 事実関係を的
3763 確に分析・評価し,
3764 具体的事実に法規範を適用する能力,
3765 結論の具体的妥当性,
3766
3767 の結論に至るまでの法的思考過程の論理性を総合的に評価することを基本方針とし
3768 て採点に当たった。
3769
3770
3771 すなわち,
3772 本問は,
3773 乳児Aの母親である甲が,
3774 Aを殺害するためAに対する授乳
3775 等をやめたところ,
3776 甲と同棲中の丙が,
3777 これを見て見ぬふりをするなどし,
3778 その後,
3779
3780 甲とは別居中である甲の夫乙が,
3781 甲丙の留守中にAを連れ出し,
3782 Aと共にタクシー
3783 の運転手による事故に遭ったが,
3784 Aのみ死亡したという具体的事例について,
3785 甲乙
3786 丙それぞれの罪責を問うものであるところ,
3787 これらの事実関係を法的に分析した上
3788 で,
3789 事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開し,
3790 事実を具体的に摘示しつつ法規
3791 範への当てはめを行って妥当な結論を導くこと,
3792 さらには,
3793 甲乙丙それぞれの罪責
3794 についての結論を導く法的思考過程が相互に論理性を保ったものであることが求め
3795 られる。
3796
3797
3798 甲乙丙それぞれの罪責を検討するに当たっては,
3799 甲乙丙それぞれの行為や侵害さ
3800 れた法益等に着目した上で,
3801 どのような犯罪の成否が問題となるのかを判断し,
3802
3803 犯罪の構成要件要素を一つ一つ吟味し,
3804 これに問題文に現れている事実を丁寧に拾
3805 い出して当てはめ,
3806 犯罪の成否を検討することになる。
3807
3808 ただし,
3809 論じるべき点が多
3810 岐にわたることから,
3811 事実認定上又は法律解釈上の重要な事項については手厚く論
3812 じる一方で,
3813 必ずしも重要とはいえない事項については,
3814 簡潔な論述で済ませるな
3815 ど,
3816 答案全体のバランスを考えた構成を工夫することも必要である。
3817
3818
3819 出題の趣旨でも示したように,
3820 本問における甲丙の罪責としては,
3821 いずれも殺人
3822 罪の成否が主要な問題となり,
3823 乙の罪責としては,
3824 住居侵入罪及び未成年者略取罪
3825 の成否が主要な問題となるところであり,
3826 このうち,
3827 特に主要な問題点としては,
3828
3829 以下のものが挙げられる。
3830
3831
3832 甲の罪責の検討においては,
3833 一つ目として,
3834 Aに対する授乳等をやめるという不
3835 作為に及んだ甲につき,
3836 不真正不作為犯の実行行為性に関する自説の展開及び当て
3837 はめが必要となり,
3838 二つ目として,
3839 甲の実行行為によってAが脱水症状や体力消耗
3840 により死亡する現実的危険が生じた後,
3841 乙の故意によるAを連れ去る行為やタク
3842 シーの運転手の過失による事故という事情が介在してAが脳挫傷により死亡したこ
3843 とにつき,
3844 因果関係に関する自説の展開及び当てはめが必要となる。
3845
3846 どちらの論点
3847 も,
3848 殺人罪の構成要件要素である実行行為(実行の着手),
3849 結果,
3850 因果関係及び故
3851 意について意義を正確に示し,
3852 その中で見解を示した上で的確で丁寧な当てはめを
3853 行うことが求められる。
3854
3855
3856 丙の罪責の検討においては,
3857 一つ目として,
3858 丙が,
3859 Aに生命の危険が生じた頃,
3860
3861 甲がAに授乳等をしないことに気付き,
3862 甲の意図を察知したが,
3863 甲に対する措置を
3864
3865 - 33 -
3866
3867 何ら講じず,
3868 見て見ぬふりをした点につき,
3869 甲との共犯関係の成否を認定する必要
3870 がある。
3871
3872 特に,
3873 丙とAの関係やAに対する授乳等は甲が行っていたこと等について
3874 どのように評価するのかについては,
3875 片面的共同正犯の肯否についていずれの立場
3876 に立つとしても,
3877 甲に作為義務を認定した論拠と矛盾なく,
3878 丙の具体的な作為義務
3879 等を丁寧に検討することが求められる。
3880
3881 また,
3882 二つ目として,
3883 丙が,
3884 病院で適切な
3885 治療を受けさせない限りAを救命することが不可能な状態となった後,
3886 甲の母親か
3887 ら電話で訪問したいと言われたが,
3888 嘘をついて断った点につき,
3889 作為による殺人罪
3890 の単独正犯としての実行行為と認定するか,
3891 作為による殺人罪の幇助行為と認定す
3892 るか,
3893 見て見ぬふりの不作為犯を犯している間の一事情と認定するかはともかく,
3894
3895 その成立要件に事実関係を的確に当てはめて結論に至ることが求められる。
3896
3897
3898 乙の罪責の検討においては,
3899 住居侵入罪の保護法益及び実行行為の意義,
3900 未成年
3901 者略取罪の主体及び略取の意義を吟味し,
3902 乙が甲方へ侵入してAを連れ去った行為
3903 を,
3904 衰弱が深刻なAを救出する行為と評価する余地もあることにつき,
3905 違法性阻却
3906 事由のいずれを検討するかはともかく,
3907 各成立要件に事実関係を的確に当てはめ,
3908
3909 各自の結論に至ることが求められる。
3910
3911
3912 その他,
3913 甲について中止未遂罪の成否,
3914 丙について片面的幇助犯の肯否,
3915 各犯罪
3916 の故意,
3917 罪数等,
3918 本問で論じるべき問題点は,
3919 多岐にわたるが,
3920 いずれも,
3921 刑法解
3922 釈上,
3923 基本的かつ重要な問題点であり,
3924 これらに対する理解と刑法総論・各論の基
3925 本的理解に基づき,
3926 事実関係を整理して考えれば,
3927 一定の妥当な結論を導き出すこ
3928 とができると思われ,
3929 実際にも,
3930 相当数の答案が一定の水準に達していた。
3931
3932
3933
3934
3935 採点実感等
3936 各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると,
3937 以下のとおりである。
3938
3939
3940 (1) 全体について
3941 多くの答案は,
3942 甲乙丙それぞれについて前記各論点を論じており,
3943 本問の出題
3944 趣旨や大きな枠組みは理解していることがうかがわれた。
3945
3946
3947 ただし,
3948 刑事責任が余り問題とならないような点について延々と論述する一方
3949 で,
3950 主要な論点については不十分な記述にとどまっているなどバランスを欠いた
3951 答案も少なからずあった。
3952
3953
3954 その他,
3955 考査委員による意見交換の結果を踏まえ,
3956 答案に見られた代表的な問
3957 題点を列挙すると以下のとおりとなる。
3958
3959
3960 (2) 甲の罪責について
3961 ア 授乳を再開して以降は殺意がないことを理由に,
3962 殺人罪の成否を検討せず,
3963
3964 保護責任者遺棄致死罪の成否のみを検討する答案
3965 イ 作為義務に触れていない答案
3966 ウ どの行為を実行行為としているのか判然としない答案
3967 エ 実行の着手を認定する前に,
3968 因果関係の有無や中止未遂罪の成否を検討して
3969 いる答案
3970 オ 因果関係の有無を検討する前に,
3971 中止未遂罪の成否を検討している答案
3972 カ 因果関係の有無を判断するに当たっては危険の現実化という要素を考慮する
3973 という見解を示しているものの,
3974 当てはめにおいて,
3975 危険と結果のいずれにつ
3976 いても具体的に捉えていない答案
3977
3978 - 34 -
3979
3980 (3)
3981
3982 丙の罪責について
3983 ア 不真正不作為犯の成立範囲を限定すべきと論じる一方で,
3984 作為義務の検討が
3985 不十分なまま,
3986 単独正犯を認める答案
3987 イ 正犯意思があると認定し,
3988 それのみを理由に,
3989 単独正犯を認める答案
3990 ウ 共犯の成否を全く検討していない答案
3991 エ 身分犯に関する解釈のみで共犯を成立させる答案
3992 オ 幇助犯が成立するとしているものの,
3993 幇助の故意の内容が不正確な答案
3994 (4) 乙の罪責について
3995 ア 住居侵入罪の保護法益を住居権とする見解に立ち,
3996 甲が住居権者であるかど
3997 うかの問題と,
3998 乙が住居権者ではなくなったかどうかの問題とを混同している
3999 答案
4000 イ 未成年者誘拐罪を認定した答案
4001 ウ 未成年者略取罪の保護法益を親の監護権とする見解に立ち,
4002 甲のAに対する
4003 養育状況を問題にすることなく,
4004 安易に同罪を成立させる答案
4005 (5) その他
4006 これまでにも指摘してきたことでもあるが,
4007 少数ながら,
4008 字が乱雑なために判
4009 読するのが著しく困難な答案が見られた。
4010
4011 時間の余裕がないことは理解できると
4012 ころであるが,
4013 達筆である必要はないものの,
4014 採点者に読まれることを意識し,
4015
4016 なるべく読みやすい字で丁寧に答案を書くことが望まれる。
4017
4018
4019 (6) 答案の水準
4020 以上の採点実感を前提に,
4021 「優秀」「良好」「一応の水準」「不良」という四つ
4022 の答案の水準を示すと,
4023 以下のとおりである。
4024
4025
4026 「優秀」と認められる答案とは,
4027 本問の事案を的確に分析した上で,
4028 本問の出
4029 題の趣旨や上記採点の基本方針に示された主要な問題点について検討を加え,
4030
4031 否が問題となる犯罪の構成要件要素等について正確に理解するとともに,
4032 必要に
4033 応じて法解釈論を展開し,
4034 事実を具体的に摘示して当てはめを行い,
4035 甲乙丙の刑
4036 事責任について妥当な結論を導いている答案である。
4037
4038 特に,
4039 摘示した具体的事実
4040 の持つ意味を論じつつ当てはめを行っている答案は高い評価を受けた。
4041
4042
4043 「良好」な水準に達している答案とは,
4044 本問の出題の趣旨及び上記採点の基本
4045 方針に示された主要な問題点は理解できており,
4046 甲乙丙の刑事責任について妥当
4047 な結論を導くことができているものの,
4048 一部の問題点についての論述を欠くもの,
4049
4050 主要な問題点の検討において,
4051 構成要件要素の理解が一部不正確であったり,
4052
4053 要な法解釈論の展開がやや不十分であったり,
4054 必要な事実の抽出やその意味付け
4055 が部分的に不足していると認められたもの等である。
4056
4057
4058 「一応の水準」に達している答案とは,
4059 事案の分析が不十分であったり,
4060 複数
4061 の主要な問題点についての論述を欠くなどの問題はあるものの,
4062 刑法の基本的事
4063 柄については一応の理解を示しているような答案である。
4064
4065
4066 「不良」と認められる答案とは,
4067 事案の分析がほとんどできていないもの,
4068
4069 法の基本的概念の理解が不十分であるために,
4070 本問の出題の趣旨及び上記採点の
4071 基本方針に示された主要な問題点を理解していないもの,
4072 事案の解決に関係のな
4073 い法解釈論を延々と展開しているもの,
4074 問題点には気付いているものの結論が著
4075 しく妥当でないもの等である。
4076
4077
4078
4079 - 35 -
4080
4081
4082
4083 今後の法科大学院教育に求めるもの
4084 刑法の学習においては,
4085 総論の理論体系,
4086 例えば,
4087 実行行為,
4088 結果,
4089 因果関係,
4090
4091 故意等の体系上の位置付けや相互の関係を十分に理解した上,
4092 これらを意識しつつ,
4093
4094 各論に関する知識を修得することが必要であり,
4095 答案を書く際には,
4096 常に,
4097 論じよ
4098 うとしている問題点が体系上どこに位置付けられるのかを意識しつつ,
4099 検討の順序
4100 にも十分に注意して論理的に論述することが必要である。
4101
4102
4103 また,
4104 繰り返し指摘しているところであるが,
4105 判例学習の際には,
4106 単に結論のみ
4107 を覚えるのではなく,
4108 当該判例の具体的事案の内容や結論に至る理論構成等を意識
4109 することが必要であり,
4110 当該判例が挙げた規範や考慮要素が刑法の体系上どこに位
4111 置付けられ,
4112 他のどのような事案や場面に当てはまるのかなどについてイメージを
4113 持つことが必要と思われる。
4114
4115
4116 このような観点から,
4117 法科大学院教育においては,
4118 引き続き判例の検討等を通し
4119 て刑法の基本的知識や理解を修得させるとともに,
4120 これに基づき,
4121 具体的な事案に
4122 ついて妥当な解決を導き出す能力を涵養するよう一層努めていただきたい。
4123
4124
4125
4126 - 36 -
4127
4128 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第2問)
4129
4130
4131 採点方針等
4132 本年の問題も,
4133 昨年までと同様,
4134 比較的長文の事例を設定し,
4135 そこに現れた捜査
4136 及び公訴提起に関連して生じる刑事手続法上の問題点について,
4137 それを的確に把握
4138 し,
4139 その法的解決に重要な具体的事実を抽出・分析した上で,
4140 これに的確な法解釈
4141 を経て導かれた法準則を適用して一定の結論を導き,
4142 その過程を筋道立てて説得的
4143 に論述することを求めており,
4144 法律実務家になるための学識・法解釈適用能力・論
4145 理的思考力・論述能力等を試すものである。
4146
4147
4148 出題の趣旨は,
4149 公表されているとおりである。
4150
4151
4152 〔設問1〕1は,
4153 殺人及び窃盗事件に関し,
4154 司法警察員Pが被疑者甲をその住居
4155 から警察署まで任意同行して取り調べた後,
4156 同人を同警察署付近のホテルに宿泊さ
4157 せ,
4158 その翌日に行った「@甲の取調べ」,
4159 その後,
4160 同人を引き続き同ホテルに宿泊
4161 させ,
4162 その翌日に行った「A甲の取調べ」について,
4163 それぞれの適法性を問うもの
4164 である。
4165
4166 刑事訴訟法第198条に基づく任意捜査の一環としての被疑者取調べがい
4167 かなる限度で許されるかについて,
4168 その法的判断枠組みを明確に示した上で,
4169 宿泊
4170 を伴う本事例の取調べに現れた具体的事実がその判断枠組みの適用上いかなる意味
4171 を持つのかを意識しつつ,
4172 各取調べの適法性を論じることを求めている。
4173
4174
4175 〔設問1〕2は,
4176 甲が殺人及び窃盗事件で起訴された後に行われた「B甲の取調
4177 べ」について,
4178 その適法性を問うものである。
4179
4180 起訴後の被告人の取調べが許される
4181 か,
4182 許されるとしていかなる限度で許されるかについて,
4183 起訴後においても公訴維
4184 持のために被告人の取調べが必要となる場合があることを踏まえつつ,
4185 公判中心主
4186 義及び当事者主義の各要請のほか,
4187 関連する刑事訴訟法上の制度にも留意し,
4188 それ
4189 らと整合的な法解釈を示した上で,
4190 それを本事例の具体的事実関係に適用して結論
4191 を導くことを求めている。
4192
4193
4194 〔設問2〕は,
4195 起訴後の捜査の結果,
4196 検察官が当初の立証方針を改め,
4197 公判にお
4198 いて起訴状記載の訴因とは異なる事実を立証しようとする場合,
4199 訴因変更が必要か,
4200
4201 また訴因変更が可能かについて,
4202 訴因と新たな立証方針との間で生じた変動がいか
4203 なる事実に関するものか,
4204 それは「罪となるべき事実」を特定して記載した訴因に
4205 おいていかなる意味を持つ事実であるかを意識しつつ論じることを求めている。
4206
4207
4208 の際,
4209 訴因変更の要否については,
4210 本事例が,
4211 公判前整理手続開始前,
4212 すなわち検
4213 察官による具体的な主張・立証に先立つ局面のものであることに留意する必要があ
4214 る。
4215
4216 また,
4217 訴因変更の可否については,
4218 刑事訴訟法第312条第1項所定の「公訴
4219 事実の同一性」の有無をいかなる基準・方法により判断するかを,
4220 法解釈として明
4221 確に示した上で論じる必要がある。
4222
4223
4224 採点に当たっては,
4225 このような出題の趣旨に沿った論述が的確になされているか
4226 に留意した。
4227
4228
4229 前記各設問は,
4230 いずれも捜査及び公訴の提起・維持に関し刑事訴訟法が定める制
4231 度・手続及び判例の基本的な理解に関わるものであり,
4232 法科大学院において刑事手
4233 続に関する科目を修得した者であれば,
4234 本事例において何を論じるべきかは,
4235 おの
4236 ずと把握できるはずである。
4237
4238 〔設問2〕で問題となる訴因変更の要否は,
4239 検察官が
4240 起訴状記載の訴因と異なる事実を意識的に主張・立証しようとして,
4241 その主張・立
4242
4243 - 37 -
4244
4245 証に先立って訴因変更しようとする局面のものである点で,
4246 一般に「訴因変更の要
4247 否」という名の下に論じられている問題,
4248 すなわち証拠調べの結果,
4249 裁判所が訴因
4250 と異なる事実を認定するに当たり検察官による訴因変更手続を経る必要があるかと
4251 いう問題とは局面を異にし,
4252 法科大学院の授業で直接扱われることは少ない問題か
4253 もしれない。
4254
4255 しかし,
4256 そのような局面を取り上げ,
4257 起訴状に訴因を明示する趣旨の
4258 根本に遡り,
4259 かつ,
4260 前後の刑事手続の流れを見据えた考察を求めることにより,
4261
4262 型的「論点」に関する表層的・断片的な知識にとどまらない刑事手続上の制度の趣
4263 旨・目的の奥深い理解と,
4264 刑事手続の動態を踏まえた柔軟で実践的な考察力の有無
4265 を問うものである。
4266
4267
4268
4269
4270 採点実感
4271 各考査委員からの意見を踏まえた感想を述べる。
4272
4273
4274 〔設問1〕1については,
4275 事例に現れた法的問題を的確に捉え,
4276 任意同行後の宿
4277 泊を伴う取調べの適法性について,
4278 刑事訴訟法第198条及びそれに関する基本的
4279 な判例法理の理解を踏まえつつ,
4280 適法性の判断枠組みを明確にした上で,
4281 事例中の
4282 具体的事実をその意味を意識しながら適切に抽出・分析・整理し,
4283 それを前記枠組
4284 みに当てはめて説得的に結論を導いた答案が見受けられた。
4285
4286
4287 次に,
4288 〔設問1〕2については,
4289 起訴後の被告人の取調べについて,
4290 刑事訴訟法
4291 上の原則を踏まえて問題点を正確に把握し,
4292 その許容性と許容要件に関する検討を
4293 尽くした上で,
4294 本事例に現れた具体的な事情の下,
4295 取調べが許されるかにつき的確
4296 に論じた答案が見受けられた。
4297
4298
4299 また,
4300 〔設問2〕については,
4301 訴因変更の要否及び可否について,
4302 本事例の訴因
4303 と検察官の立証方針との間に生じた事実の変動を正確に見据えた上で,
4304 制度趣旨及
4305 び判例法理の理解を踏まえつつ,
4306 かつ,
4307 本件が検察官の具体的な主張・立証に先立
4308 つ段階における訴因変更の問題であることを明確に意識して論じた答案が見受けら
4309 れた。
4310
4311
4312 他方,
4313 抽象的な法原則や判例の表現を暗記してそれを機械的に祖述するのみで,
4314
4315 具体的事実にこれを適用することができていない答案や,
4316 そもそも具体的事実の抽
4317 出が不十分であったり,
4318 その意味の分析が不十分・不適切であったりする答案も見
4319 受けられた。
4320
4321
4322 〔設問1〕においては,
4323 任意同行後の宿泊を伴う取調べの適法性が問われている
4324 のであるから,
4325 刑事訴訟法第198条に基づく任意捜査の一環としての被疑者の取
4326 調べがいかなる限度で許されるかにつき,
4327 その法的判断の枠組みを示すことができ
4328 なければならない。
4329
4330 この点については,
4331 最高裁判例(最決昭和59年2月29日刑
4332 集38巻3号479頁。
4333
4334 いわゆる高輪グリーン・マンション殺人事件)が,
4335 第一に,
4336
4337 強制手段を用いることは許されない,
4338 第二に,
4339 強制手段を用いない場合でも,
4340 事案
4341 の性質,
4342 被疑者に対する容疑の程度,
4343 被疑者の態度等諸般の事情を勘案して,
4344 社会
4345 通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において許容されるという二段階
4346 の適法性の判断枠組みを示しており,
4347 本問では,
4348 この判例法理の正確な理解を踏ま
4349 え,
4350 適法性の判断枠組みを示すことが求められる。
4351
4352 ところが,
4353 このような判断枠組
4354 みを明確に示すことなく,
4355 漫然と事例の検討を進めた結果,
4356 強制処分に該当するか
4357 否か(以下,
4358 「強制処分性」という。
4359
4360 )の問題が意識されないまま,
4361 任意処分である
4362
4363 - 38 -
4364
4365 ことを(必ずしも十分自覚的ではないまま)前提として,
4366 その適法性のみを論じて
4367 終わる答案が少なからず見受けられた。
4368
4369
4370 また,
4371 強制処分性と任意処分としての相当性とが問題となることには,
4372 一応理解
4373 が及んでいるものの,
4374 それぞれの内実に関する理解が浅く,
4375 強制処分性についても
4376 任意処分としての相当性についても,
4377 判断構造や判断要素が十分に意識されないま
4378 ま,
4379 事例中の具体的事実を漫然と羅列して結論を導くような答案,
4380 両者の関係の理
4381 解が不十分で,
4382 強制手段を用いるものでないことを前提に任意処分としての相当性
4383 を問題としたはずなのに,
4384 相当性を逸脱していることを理由に強制処分に該当する
4385 との結論を導くような答案も見られた。
4386
4387
4388 判断基準への当てはめに関しては,
4389 初日の宿泊と2日目の宿泊とでは,
4390 その態様
4391 に大きな差異があるのであるから,
4392 その差違を明確に意識し,
4393 宿泊に関する具体的
4394 な事情が強制処分性及び任意処分としての相当性の判断においていかなる意味を持
4395 つのかについて適切な分析・検討を加えた上で,
4396 基準に当てはめることが求められ
4397 る。
4398
4399 また,
4400 「A甲の取調べ」について,
4401 強制処分性を否定し,
4402 任意処分としての相
4403 当性を論じる場合には,
4404 「@甲の取調べ」時点と「A甲の取調べ」時点とでは,
4405
4406 に対する容疑の程度に差異が生じていることにも留意が必要である。
4407
4408 しかし,
4409 これ
4410 らの点について,
4411 事情の抽出が雑であったり,
4412 その意味の分析・検討が不十分であっ
4413 たりし,
4414 説得的な当てはめができていない答案が比較的多数見受けられた。
4415
4416 とりわ
4417 け「A甲の取調べ」については,
4418 直感的に一定の結論を思い定め,
4419 その結論に結び
4420 付けようとする余り,
4421 具体的事情の抽出が恣意的であったり,
4422 その分析がいささか
4423 非常識ではないかと感じさせたりするものも散見され,
4424 事案に即応した法的判断力
4425 の欠如を危惧させた。
4426
4427 判例に現れた宿泊を伴う取調べがいかなる事案においていか
4428 なる態様のものであったのか,
4429 それは適法・違法の境界線から見てどのような位置
4430 付けがされるべき事案なのか(限界事例であったのかどうか)という点にまで理解
4431 が及んでいれば,
4432 おのずとより説得的な当てはめができたはずであるとも思われ,
4433
4434 判例の理解が浅薄であることも懸念された。
4435
4436
4437 なお,
4438 本事例において,
4439 初日の宿泊はその翌日の「@甲の取調べ」のための出頭
4440 確保の手段として,
4441 また2日目の宿泊はその翌日の「A甲の取調べ」のための出頭
4442 確保の手段として,
4443 それぞれ用いられている。
4444
4445 答案の中には,
4446 例えば,
4447 「@甲の取
4448 調べ」の適法性について,
4449 それに引き続く同日夜の宿泊(2日目の宿泊)が及ぼす
4450 影響を論じたものも少数ながら見られたが,
4451 このような答案は,
4452 上述のような宿泊
4453 と取調べの関係を適切に把握できていないものといわざるを得ない。
4454
4455
4456 〔設問1〕2については,
4457 起訴後の被告人の取調べの適法性が問われているにも
4458 かかわらず,
4459 余罪取調べの可否を論じるなど,
4460 そもそも問題の所在に気付いていな
4461 い答案が,
4462 少数ではあるが見受けられた。
4463
4464
4465 多くの答案は,
4466 起訴後の被告人の取調べが公判中心主義及び当事者主義の要請の
4467 少なくともいずれかと抵触するおそれがあり,
4468 その許容性に問題があることは指摘
4469 できていたものの,
4470 その一方で,
4471 刑事訴訟法第198条は取調べの対象を「被疑者」
4472 とするのみで,
4473 「被告人」の取調べについては何ら規定がないところ,
4474 この点を指
4475 摘・検討した答案は少なかった。
4476
4477
4478 起訴後の取調べについては,
4479 最決昭和36年11月21日刑集15巻10号
4480 1764頁が,
4481 「被告人の当事者たる地位にかんがみ,
4482 ……なるべく避けなければ
4483
4484 - 39 -
4485
4486 ならない」としつつも,
4487 刑事訴訟法第197条第1項の任意捜査として許される場
4488 合がある旨判示している。
4489
4490 したがって,
4491 その事案と判示内容を踏まえた上で,
4492 問題
4493 の所在を的確に指摘し,
4494 どのような取調べであれば当事者主義との抵触を避けるこ
4495 とができるか,
4496 任意性を確保するにはどのような方策が必要かを意識しつつ,
4497 適法・
4498 違法の判断基準を明確にし,
4499 本事例に現れた事情をその基準に当てはめて結論を導
4500 けば,
4501 説得的な論述ができたはずである。
4502
4503 公判中心主義との関係では,
4504 刑事訴訟法
4505 上,
4506 少なくとも第1回公判期日前の証拠収集活動が一定程度認められていること(同
4507 法第179条,
4508 第226条,
4509 第227条等)にも注意が払われてよかった。
4510
4511 しかし,
4512
4513 これら全てを満たした答案は,
4514 残念ながらほとんど見られず,
4515 むしろ,
4516 起訴後の取
4517 調べの問題点を一定程度指摘しつつも,
4518 捜査の必要性があることを理由にこれを適
4519 法としたり,
4520 窃盗の事実から盗品等無償譲受けの事実への訴因変更が予定されてお
4521 り,
4522 それは被告人に有利な変更であるからという理由でこれを適法としたりするな
4523 ど,
4524 安易な理由付けで結論に至っているものも相当数存在した。
4525
4526 そこからは,
4527 起訴
4528 後の被告人の取調べと公判中心主義及び当事者主義との緊張関係の理解が表面的か
4529 つ抽象的なものにとどまり,
4530 判例にも十分な理解が及んでいないことがうかがわれ
4531 た。
4532
4533
4534 次に〔設問2〕については,
4535 検察官が講じるべき措置として訴因変更が問題とな
4536 ることはおおむね理解されていた。
4537
4538
4539 本事例では,
4540 起訴状記載の訴因と検察官の新たな立証方針とを比較すると,
4541 第1
4542 事実(殺人)については,
4543 犯行の日時に変化を生じており,
4544 第2事実(窃盗)につ
4545 いては,
4546 実行行為が盗品等無償譲受け行為へと変化し,
4547 犯行の日時・場所にも変化
4548 を生じているから,
4549 そのような変動を踏まえ,
4550 第1事実,
4551 第2事実それぞれについ
4552 て,
4553 訴因変更の要否及び可否を論じることが求められている。
4554
4555 ところが,
4556 第1事実
4557 の犯行の日時の変化に伴う訴因変更の要否について,
4558 全く触れていない答案が思い
4559 の外多かった。
4560
4561 また,
4562 殺人の犯行日時の変化に言及した答案の多くは,
4563 殺人の訴因
4564 において,
4565 犯行日時は「罪となるべき事実」の特定に不可欠な事項ではないとした
4566 上で,
4567 それが被告人の防御にとって重要な事項となる場合であれば,
4568 原則として訴
4569 因変更が必要であるものの,
4570 被告人に不意打ちを与えるものではなく,
4571 かつ,
4572 被告
4573 人にとって不利益な変動でもない場合には,
4574 例外的に訴因変更は不要である旨を論
4575 じていたが,
4576 これは,
4577 最決平成13年4月11日刑集55巻3号127頁の判示に
4578 依拠したものと思われる。
4579
4580 この判例の理解は重要であり,
4581 多くの答案ではおおむね
4582 正しく理解されていたが,
4583 同判例が,
4584 証拠調べの結果,
4585 裁判所が訴因と異なる認定
4586 をするに当たり,
4587 検察官による訴因変更手続を経る必要があるかという問題に関す
4588 るものであるのに対し,
4589 本事例では,
4590 公判前整理手続の開始前,
4591 検察官による具体
4592 的な主張・立証がされておらず,
4593 それに対する被告人側のアリバイ等の主張も何ら
4594 行われていない段階での訴因変更が問題であり,
4595 この点に留意した論述が求められ
4596 ている。
4597
4598 したがって,
4599 論述に際しては,
4600 公判において主張・立証を主導する検察官
4601 の立場やそのような検察官が設定する訴因の役割,
4602 後の公判前整理手続における争
4603 点整理の要請等を踏まえた上で,
4604 検察官が立証方針を変更した場合に何が求められ
4605 るかとの視点や,
4606 訴因を変更すること,
4607 又は変更しないことが,
4608 被告人の将来の防
4609 御権行使にいかなる影響を与えるかとの視点が必要であるが,
4610 このような論述がな
4611 された答案は僅かであり,
4612 前記判例法理を漫然と記載し,
4613 例えば,
4614 審理において犯
4615
4616 - 40 -
4617
4618 行日時が事実上の争点となっていたかなどと,
4619 およそ本事例では問題とならない要
4620 素に言及した答案も少なからず見受けられた。
4621
4622 また,
4623 第2事実について,
4624 訴因変更
4625 が必要であることに関しては,
4626 大部分の答案で一応の論述がされていたが,
4627 変動し
4628 た事実が「罪となるべき事実」を特定した訴因においていかなる意味を持つ事実か
4629 を端的に指摘し,
4630 訴因変更が必要である理由を明瞭に示すことができていたものは,
4631
4632 思いの外多くはなかった。
4633
4634
4635 次に,
4636 訴因変更の可否については,
4637 刑事訴訟法第312条第1項所定の「公訴事
4638 実の同一性」の有無に関する判断基準・方法を明らかにした上で,
4639 特に第2事実に
4640 関し,
4641 起訴状記載の訴因である窃盗の事実と,
4642 検察官が新たに立証しようとする盗
4643 品等無償譲受けの事実との間でそれを認めることができるか,
4644 両者の具体的な事実
4645 を比較検討して当てはめ,
4646 結論を導くことが求められている。
4647
4648
4649 判例は,
4650 「公訴事実の同一性」につき,
4651 基本的事実関係が同一であるか否かを判
4652 断基準とし,
4653 基本的事実関係の同一性の判断においては,
4654 犯罪の日時,
4655 場所,
4656 行為
4657 の態様・方法・相手方,
4658 被害の種類・程度等の事実関係の共通性に着目して結論を
4659 導くものと,
4660 変更前の訴因と変更後の訴因の非両立性に着目して結論を導くものと
4661 が見られるが,
4662 答案の多くが,
4663 これらの基準に言及していた。
4664
4665 もっとも,
4666 基本的事
4667 実関係の同一性と訴因の非両立性との関係については,
4668 明確に整理されていないも
4669 のも少なくなかった。
4670
4671 また,
4672 これらの基準を適用した判断方法,
4673 特に訴因の非両立
4674 性の判断方法については,
4675 十分自覚的でない答案も多く,
4676 例えば,
4677 具体的事実を十
4678 分比較することなく,
4679 窃盗と盗品等無償譲受けは構成要件上両立しないとして,
4680
4681 こから直ちに基本的事実関係の同一性,
4682 ひいては公訴事実の同一性を認めるような
4683 答案が一定数見られた。
4684
4685 逆に,
4686 両事実は構成要件が異なっているとして,
4687 そこから
4688 直ちに基本的事実関係の同一性を否定する答案も存在した。
4689
4690
4691 判例は,
4692 上述の基準について,
4693 犯罪類型ごとに一律の基準を定立しようとするも
4694 のではなく,
4695 事案ごとの具体的な事実関係を前提に,
4696 変更前後の訴因の共通性や非
4697 両立性を検討し,
4698 基本的事実関係の同一性が認められるか否かを判断しているので
4699 あるから,
4700 本事例において,
4701 判例の考え方によるのであれば,
4702 事例に現れた具体的
4703 な事実を比較検討し,
4704 検察官が訴追しようとしている窃盗の目的物である指輪1個
4705 と盗品無償譲受けの目的物である指輪1個とが同一のものである点や,
4706 窃盗の犯行
4707 日時と盗品無償譲受けの犯行日時とが十分近接している点に着眼しつつ,
4708 両事実の
4709 共通性や非両立性を検討することが求められるが,
4710 これらの点に焦点を当て,
4711 その
4712 意味を的確に踏まえた論述ができている答案は限られていた。
4713
4714
4715
4716
4717 答案の評価
4718 「優秀の水準」にあると認められる答案とは,
4719 〔設問1〕については,
4720 各取調べ
4721 の適法性について,
4722 事例中の法的問題を明確に意識し,
4723 問題点ごとに制度趣旨と基
4724 本的な判例の正確な理解を踏まえた的確な法解釈論を展開した上で,
4725 個々の事例中
4726 に現れた具体的事実を適切に抽出,
4727 分析しながら論じられた答案であり,
4728
4729 〔設問2〕
4730 については,
4731 公訴事実中の各事実の訴因変更について,
4732 訴因変更の要否及び可否に
4733 関する基本的な判例で示された基準を正確に理解した上で,
4734 判例で扱われた問題と
4735 本事例との違いにも留意しつつ,
4736 検察官による訴因変更の要否及び可否について論
4737 じることができた答案であるが,
4738 このように,
4739 出題の趣旨に沿った十分な論述がな
4740
4741 - 41 -
4742
4743 されている答案は僅かであった。
4744
4745
4746 「良好の水準」に達していると認められる答案とは,
4747 〔設問1〕については,
4748
4749 解釈について想定される全ての問題点に関し一定の見解を示した上で,
4750 事例から具
4751 体的事実を一応抽出できてはいたが,
4752 更に踏み込んで個々の事実が持つ意味を十分
4753 考えて分析・整理することには不十分さが残るような答案であり,
4754 〔設問2〕につ
4755 いては,
4756 判例を踏まえた論述がされているものの,
4757 本事例の特徴,
4758 すなわち,
4759 検察
4760 官の立証方針の変更によるその主張・立証前の段階での訴因変更の問題であること
4761 を踏まえた検討がやや不十分であるような答案である。
4762
4763
4764 「一応の水準」に達していると認められる答案とは,
4765 〔設問1〕については,
4766
4767 解釈について一応の見解は示されているものの,
4768 具体的事実の抽出や当てはめが不
4769 十分であるか,
4770 法解釈について十分に論じられていないものの,
4771 事例中から必要な
4772 具体的事実を抽出して一応の結論を導き出すことができていた答案であり,
4773 〔設問
4774 2〕については,
4775 訴因変更の要否及び可否について一応の論述がなされているもの
4776 の,
4777 本事例が,
4778 証拠調べを行う前の段階であることを無視し,
4779 事案に即した検討が
4780 できていないような答案である。
4781
4782
4783 「不良の水準」にとどまると認められる答案とは,
4784 上記の水準に及ばない不良な
4785 ものをいう。
4786
4787 例えば,
4788 刑事訴訟法上の基本的な原則の意味を理解することなく機械
4789 的に暗記し,
4790 これを断片的に記述しているだけの答案や,
4791 関係条文・法原則を踏ま
4792 えた法解釈を論述・展開することなく,
4793 単なる印象によって結論を導くかのような
4794 答案等,
4795 法律学に関する基本的学識と能力の欠如が露呈しているものである。
4796
4797 例を
4798 挙げれば,
4799 〔設問1〕では,
4800 「B甲の取調べ」につき,
4801 被告人が勾留されていること
4802 を理由に取調べ受忍義務があるとして取調べを適法とするような答案,
4803 〔設問2〕
4804 では,
4805 第2事実について,
4806 理由を示すことなく公訴事実の同一性を否定して訴因変
4807 更はできないとするような答案がこれに当たる。
4808
4809
4810
4811
4812 法科大学院教育に求めるもの
4813 このような結果を踏まえると,
4814 今後の法科大学院教育においては,
4815 従前の採点実
4816 感においても指摘されてきたとおり,
4817 刑事手続を構成する各制度の趣旨・目的を基
4818 本から深くかつ正確に理解すること,
4819 重要かつ基本的な判例法理を,
4820 その射程距離
4821 を含めて正確に理解すること,
4822 これらの制度や判例法理を具体的事例に当てはめ適
4823 用できる能力を身に付けること,
4824 論理的で筋道立った分かりやすい文章を記述する
4825 能力を培うことが強く要請される。
4826
4827 特に,
4828 法適用に関しては,
4829 生の事例に含まれた
4830 個々の事情あるいはその複合が法規範の適用においてどのような意味を持つのかを
4831 意識的に分析・検討し,
4832 それに従って事実関係を整理できる能力の涵養が求められ
4833 る。
4834
4835 また,
4836 実務教育との有機的連携の下,
4837 通常の捜査・公判の過程を俯瞰し,
4838 刑事
4839 手続上の基本原則や制度がその過程の中のどのような局面で働くのか,
4840 各局面ごと
4841 に各当事者は何を行わなければならないのか,
4842 それがどのように積み重なって手続
4843 が進むのか等,
4844 刑事手続を動態として理解しておくことの重要性を強調しておきた
4845 い。
4846
4847
4848
4849 - 42 -
4850
4851 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(倒産法)
4852
4853
4854
4855
4856 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
4857 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
4858
4859
4860 採点方針
4861 解答に当たって言及すべき問題点等については,
4862 既に「出題の趣旨」として公
4863 表したとおりである。
4864
4865
4866 第1問は,
4867 個人破産手続における破産債権の届出,
4868 調査,
4869 確定及び免責の効力
4870 についての基本的問題点に関する正確な理解と問題解決能力を問うものであり,
4871
4872 採点の主眼は,
4873 設問1から設問3を通じ,
4874 事案から必要な論点を的確に抽出した
4875 上で,
4876 関連する条文の解釈や学説を説明し,
4877 説得力を持って自説を展開すること
4878 ができるかどうかに置かれている。
4879
4880
4881 第2問は,
4882 敷金の取扱い及び相殺権に関する破産法及び民事再生法の規律の相
4883 違並びに再生計画の認可要件についての理解を問うものであり,
4884 採点の主眼は,
4885
4886 設問1については,
4887 敷金及び相殺権に関する破産法と民事再生法の規律の相違点
4888 及びその理由を整理した上で,
4889 事例に即した的確な分析や比較検討ができるかど
4890 うかに,
4891 設問2については,
4892 再生計画案の可決要件及びその趣旨を踏まえつつ,
4893
4894 同案の不認可要件について自説を説得力を持って展開し,
4895 事例に対する的確な当
4896 てはめができるかどうかに置かれている。
4897
4898
4899
4900 3 採点実感等
4901 (1) 第1問
4902 ア 設問1前段
4903 設問1前段は,
4904 破産債権の届出の追完の可否が論点であり,
4905 事例に基づき,
4906
4907 届出をすることができなかったことについて「責めに帰することができない事
4908 由」(破産法第112条第1項)があるかどうかを論じ,
4909 結論を導くことが求
4910 められる。
4911
4912
4913 大方の答案は,
4914 論点の所在及び該当条文については理解した上で,
4915 事例に即
4916 して「責めに帰することができない事由」の存否を検討するという流れで論述
4917 することができており,
4918 とりわけ,
4919 届出の追完の制度趣旨を踏まえて「責めに
4920 帰することができない事由」の判断基準を示し,
4921 結論を導く上で根拠となる事
4922 実を丁寧に抽出して当てはめている答案については,
4923 高い評価が与えられた。
4924
4925
4926 また,
4927 「責めに帰することができない事由」の検討に当たり,
4928 Bが外国に長期
4929 滞在していたことから,
4930 直ちに同事由があるとの結論を導く答案も少なくな
4931 かったが,
4932 こうした答案については,
4933 一応の水準に達しているとの評価にとど
4934 まった。
4935
4936
4937 他方,
4938 答案の中には,
4939 @Cの債権が確定していることを届出の障害事由とし
4940 て検討するもの,
4941 A同条第4項の届出事項の変更の当否を検討するもの,
4942 B同
4943 法第113条の届出名義の変更を検討するもの,
4944 CBにはCの債権の確定の効
4945 力が及ばないという理由で同法第112条第1項の要件の検討をすることなく
4946 届出ができるとするものなどがあり,
4947 これらの答案は,
4948 破産債権の届出の追完
4949
4950 - 43 -
4951
4952 についての基本的な理解を欠くものとして不良の評価となった。
4953
4954
4955 イ 設問1後段
4956 設問1後段は,
4957 Bの債権届出ができるとした場合に,
4958 破産管財人はその認否
4959 をどのようにすべきかを問うものであり,
4960 Cの届出債権が破産債権者表に記載
4961 されることにより生ずる「確定判決と同一の効力」(同法第124条第3項)
4962 が,
4963 破産手続内の効力として,
4964 Bを含む破産債権者及び破産管財人に及ぶこと
4965 を根拠として,
4966 破産管財人Xとしては,
4967 Cの確定届出債権と同一の債権を対象
4968 とするBの届出を認めないという対応をすべきことを論ずることが求められ
4969 る。
4970
4971
4972 この問いは,
4973 破産債権の確定という破産手続における重要な基本事項につい
4974 ての理解を問うものであるが,
4975 残念ながら,
4976 破産手続内における「確定判決と
4977 同一の効力」の問題であると気付いた答案は3割程度であり,
4978 @Bの届出に証
4979 拠がある以上,
4980 破産管財人は届出を認めるべきとするもの,
4981 ABの破産債権に
4982 ついて届出の追完を許す以上,
4983 破産管財人は届出を認めるべきとするもの,
4984 B
4985 配当表の更正(同法第199条第1項)によりCの届出債権をB名義に更正す
4986 べきとするもの,
4987 C破産管財人はCの破産債権を否認すべきとするものなど,
4988
4989 論点すら理解していない答案が多く,
4990 これらの答案は不良と評価された。
4991
4992
4993 また,
4994 「確定判決と同一の効力」の問題であると気付いたものの,
4995 確定判決
4996 と同一の効力は届出をしていない破産債権者には及ばないので,
4997 管財人は届出
4998 を認めることができるとするものや,
4999 Cの破産債権について触れることなく,
5000
5001 手続保障のなかったBにはその効力が及ばないなどとして,
5002 Bの届出を認める
5003 べきとするものが少なからずあり,
5004 これらの答案も低い評価となった。
5005
5006
5007 他方,
5008 「確定判決と同一の効力」はBを含む破産債権者全員に及ぶとした上
5009 で,
5010 配当の基礎としての破産債権者表への調査結果の記載(確定)の意義や,
5011
5012 破産手続の安定性・明確性の要請等についても論じ,
5013 管財人は否認すべきと結
5014 論付けている答案もあり,
5015 こうした答案は高く評価された。
5016
5017
5018 全体に,
5019 破産債権者表に記載されることによる拘束力について適切に理解で
5020 きていないと思われる答案が多く,
5021 破産手続における重要な基本事項について,
5022
5023 しっかりと理解しておくことが必要であると感じられた。
5024
5025
5026 ウ 設問2
5027 設問2については,
5028 債権確定の破産手続外での拘束力が問題になることを指
5029 摘した上で,
5030 この点に関する見解(既判力説,
5031 手続内効力説,
5032 手続外限定効力
5033 説等)を踏まえて,
5034 自説を明らかにし,
5035 本問におけるBの主張が許されるかを
5036 論ずることが求められる。
5037
5038
5039 本問については,
5040 確定判決と同一の効力について検討した答案が,
5041 設問1後
5042 段よりは多かったものの,
5043 @この点が全く検討されずに,
5044 不当利得の要件のみ
5045 を検討しているもの,
5046 A同法第221条第1項の適用を検討しているもの,
5047 B
5048 同法第124条第3項の「確定判決と同一の効力」が及ぶ範囲には届出をして
5049 いない破産債権者は含まれないとするものなども少なくなく,
5050 これらの答案は
5051 不良と評価された。
5052
5053
5054 他方,
5055 本問は,
5056 「確定判決と同一の効力」が手続外に及ぶのかという問題で
5057 あり,
5058 その効力はBを含む破産債権者全員に及ぶことを提示した上で,
5059 Bの手
5060
5061 - 44 -
5062
5063 続保障がないことなどを指摘するなどして掘り下げた議論をしているものや,
5064
5065 再審による救済について論じているもの,
5066 Bにあえて知らせなかったCは信義
5067 則上既判力を主張できないなどとしてBの救済を図った答案については,
5068 その
5069 議論内容に応じ積極的に評価した。
5070
5071
5072 エ 設問3
5073 本問は,
5074 Dの損害賠償請求権(破産債権)が非免責債権かどうかについて,
5075
5076 同法第253条第1項第2号及び第6号の要件を検討した上で,
5077 免責決定の確
5078 定の効力についての見解(自然債務説,
5079 債務消滅説)を踏まえ,
5080 予想されるA
5081 及びDの主張を成立し,
5082 免責の対象となる債務を目的とする準消費貸借契約の
5083 効力について論ずることが求められる。
5084
5085
5086 非免責債権の該当性については,
5087 上記のとおり,
5088 2号該当性と6号該当性の
5089 2つの論点について論ずる必要があるところ,
5090 双方の論点について論じている
5091 ものは必ずしも多くなく,
5092 まずはこの2つの論点があることに気付くかどうか
5093 が点数に差がつく要因となった。
5094
5095 2号該当性については,
5096 この論点に気付いて
5097 はいるが「悪意」の意味について敷衍できていないもの,
5098 解釈の理由について
5099 記載のないものなどがあり,
5100 また6号該当性について論じていない答案が相当
5101 数あった。
5102
5103 他方,
5104 2つの論点があることを理解した上で,
5105 同各号の趣旨なども
5106 論じつつ,
5107 非免責債権には該当しないとの結論を導いている答案は高く評価さ
5108 れた。
5109
5110
5111 準消費貸借契約の効力については,
5112 多くの答案が免責の効力を論じていたが,
5113
5114 免責決定確定の効力についての対立する見解(自然債務説,
5115 債務消滅説)につ
5116 いても全く触れず,
5117 自然債務になるとした上で直ちにDの請求を否定すべきと
5118 する答案から,
5119 対立する見解の内容を丁寧に説明した上で自説を展開している
5120 答案まで,
5121 その検討の程度にはばらつきがあり,
5122 その内容・程度に応じて評価
5123 に差がつく結果となった。
5124
5125
5126 さらに,
5127 自然債務説に立った場合には,
5128 準消費貸借契約の締結の任意性を検
5129 討することが必要となるところ,
5130 この点について言及しつつも簡単に任意性が
5131 認められると結論付けるものも多かった。
5132
5133 他方,
5134 破産者の免責の趣旨に照らし
5135 任意性の存否については厳格に考えるべきではないかとの観点から掘り下げた
5136 検討をしている答案もあり,
5137 こうした答案は高く評価された。
5138
5139
5140 本問全体を通じ,
5141 優秀と評価された答案は,
5142 まずは本件損害賠償債務の非免
5143 責債権該当性について,
5144 同法第253条第1項第2号及び第6号の制度趣旨を
5145 踏まえて論じ,
5146 本件損害賠償債務は非免責債権に該当しないと結論付けた上で,
5147
5148 次に,
5149 準消費貸借契約の効力の検討に入り,
5150 免責の効力について自然債務説及
5151 び債務消滅説の対立があることを踏まえて自説を論じ,
5152 自然債務説に立つ場合
5153 には,
5154 任意性の有無を検討した上で,
5155 免責の趣旨も考慮しつつ事案への当ては
5156 めを丁寧かつ的確に行っている答案であった。
5157
5158
5159 なお,
5160 本問の解答に当たっては,
5161 「予想されるA及びDの主張を踏まえて」
5162 論ずることが求められているにもかかわらず,
5163 自説のみを論ずる答案が散見さ
5164 れたが,
5165 当然のことながら,
5166 解答に当たっては,
5167 問題文をよく読み,
5168 いかなる
5169 記載が求められているかを十分に把握してから答案の記述をすることに留意す
5170 べきである。
5171
5172
5173
5174 - 45 -
5175
5176 (2)
5177
5178 第2問
5179 ア 設問1
5180 設問1は,
5181 清算型手続である破産法及び再建型手続である民事再生法におい
5182 て規律内容が異なる敷金の取扱い及び相殺権を取り上げ,
5183 破産法と民事再生法
5184 の規律の相違及び異なる規律がされている理由について正しく理解しているか
5185 どうかを問うとともに,
5186 これを具体的な事例に当てはめ,
5187 分析・検討すること
5188 を求めるものである。
5189
5190
5191 本問については,
5192 総じて,
5193 破産法及び民事再生法の関連条文を挙げ,
5194 その内
5195 容を平板に記述するにとどまっている答案が圧倒的多数であり,
5196 具体的な事案
5197 に即して論点を過不足なく抽出し,
5198 これを具体的な債権額や賃料月額が示され
5199 た事例に当てはめて丁寧かつ的確に分析・検討することができている答案はご
5200 く少数であった。
5201
5202 多くの受験生は,
5203 敷金の取扱い及び相殺権に関する破産法と
5204 民事再生法の規律についての基本的な知識はあるものと思われるが,
5205 これを応
5206 用し,
5207 具体的事例を前提として論点の整理・抽出を行い,
5208 当てはめを行う能力
5209 の涵養が望まれるところである。
5210
5211
5212 個別的な論点については,
5213 まず,
5214 敷金返還請求権に関して,
5215 破産手続におい
5216 ては賃料の寄託請求ができること(破産法第70条)や,
5217 再生手続においては
5218 賃料の支払を条件に,
5219 原則として6か月分の賃料に相当する部分が共益債権に
5220 なること(民事再生法第92条第3項)についての指摘は比較的多くの答案で
5221 なされていた。
5222
5223 しかし,
5224 敷金返還請求権につき,
5225 停止条件付債権であると摘示
5226 しているにもかかわらず,
5227 賃料債務との相殺が可能としているものや,
5228 そもそ
5229 も相殺の自働債権が貸金債権・敷金返還請求権のいずれであるかを明示してい
5230 ない答案なども少なくなかった。
5231
5232 さらに,
5233 「寄託請求」を「供託請求」とする
5234 誤りも散見された。
5235
5236
5237 貸金債権に関しては,
5238 全く言及していないものや,
5239 単に破産債権又は再生債
5240 権として取り扱われると指摘するだけのものが相当数あり,
5241 貸金債権について
5242 の相殺を的確に論じることができるかどうかで評価に大きな差がつく結果と
5243 なった。
5244
5245 また,
5246 貸金債権の相殺に触れている答案においても,
5247 自働債権と受働
5248 債権の両面から検討している答案は少なく,
5249 相殺適状になっているのかどうか,
5250
5251 すなわち弁済期にあるのかどうかについての言及も少なかった。
5252
5253 他方,
5254 自働債
5255 権については,
5256 破産における自働債権の現在化による相殺権の拡張を論じた上
5257 で,
5258 これとの比較で,
5259 民事再生においては現在化がされないことを指摘し,
5260
5261 らに受働債権については,
5262 期限や条件の利益を自ら放棄することで対応できる
5263 ことなどにつき,
5264 その趣旨も踏まえて言及している答案は高く評価された。
5265
5266
5267 なお,
5268 本問では,
5269 敷金返還請求権に関する再生計画案の内容につき問われて
5270 いるが,
5271 この点について何ら記載がないものが相当数存在した。
5272
5273 前記のとおり,
5274
5275 解答に当たっては,
5276 問題文をよく読み,
5277 いかなる記載が求められているかを十
5278 分に把握してから答案の記述をすることに留意すべきである。
5279
5280
5281 イ 設問2
5282 設問2は,
5283 民事再生法に関する問題であり,
5284 再生計画の認可要件についての
5285 基本的な理解を問うものであり,
5286 再生計画案の可決要件及びその趣旨を論述し
5287 た上で,
5288 同法第174条第2項第3号にいう「再生計画の決議が不正の方法に
5289
5290 - 46 -
5291
5292 よって成立するに至ったとき」には,
5293 再生計画案の可決が信義則に反する行為
5294 に基づいてされた場合も含まれるのかについての自説を展開することが求めら
5295 れる。
5296
5297
5298 本問については,
5299 多くの答案が,
5300 同号の「不正の方法」の解釈が論点である
5301 ことを正しく理解していた。
5302
5303 ただ,
5304 同法第172条の3第1項第1号のいわゆ
5305 る頭数要件の趣旨の潜脱という観点から,
5306 「不正の方法」に当たるという結論
5307 を導くためには,
5308 頭数要件の内容や趣旨をしっかりと論じることが必要である
5309 が,
5310 その点の論述が不十分であるために,
5311 「不正の方法」に関する解釈論や当
5312 てはめがやや物足りなく感じられた点は残念であった。
5313
5314 また,
5315 信義則違反とす
5316 る場合,
5317 いかなる点が信義則違反を肯定する根拠事実になるのかを事例から抽
5318 出して論じることが必要であるが,
5319 この点についての論述は必ずしも十分では
5320 なかった。
5321
5322
5323 総じて,
5324 本問については,
5325 多くの答案が論点を正確に理解していたことから,
5326
5327 頭数要件の趣旨を踏まえて同法第174条第2項第3号の「不正の方法」に該
5328 当するかどうかの解釈論を展開できるかどうか,
5329 また,
5330 いかなる点が信義則違
5331 反を肯定する根拠事実になるのかを的確に記述することができたかどうかで評
5332 価に差がつく結果となった。
5333
5334
5335
5336
5337 今後の出題について
5338 本年は,
5339 個人破産手続について出題したが,
5340 今後も,
5341 特定の傾向に偏ることなく,
5342
5343 基本的な事項に関する知識・理解を確認する問題,
5344 具体的な事案から論点を把握
5345 する能力を試す問題,
5346 倒産実体法及び倒産手続法に関する問題,
5347 企業倒産に関す
5348 る問題と個人倒産に関する問題等,
5349 幅広い観点からの出題を心掛けることが望ま
5350 しいと考える。
5351
5352
5353
5354
5355
5356 今後の法科大学院教育に求めるもの
5357 まず,
5358 倒産法における基本的な条文,
5359 判例及び学説を正確に理解し,
5360 身に付ける
5361 ことが最も重要であることは言うまでもない。
5362
5363 その上で,
5364 修得した基本的な知識
5365 を応用し,
5366 事例を把握・分析して論点を過不足なく的確に抽出し,
5367 論理的かつ一
5368 貫性のある解釈論を展開して,
5369 妥当な結論を導く能力が求められる。
5370
5371
5372 このような知識・能力の必要性は,
5373 倒産法の分野に限られるものではないが,
5374
5375 産法は,
5376 実体法と手続法が交錯する法分野であり,
5377 民事訴訟法,
5378 民法等などにつ
5379 いての幅広い理解・知識が基礎として求められる上,
5380 再建型及び清算型手続の異
5381 同についても理解することが必要であるなど,
5382 総合的かつ多角的な知識・能力が
5383 求められる分野である。
5384
5385
5386 法科大学院においては,
5387 こうした点にも配意しつつ,
5388 上記の知識の修得や能力の
5389 涵養を実現するための教育を期待したい。
5390
5391
5392
5393 - 47 -
5394
5395 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(租税法)
5396
5397
5398 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
5399 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
5400
5401
5402
5403 2 採点実感等
5404 (1) 第1問
5405 公表済みの「出題の趣旨」の中で述べた主要な論点に即して,
5406 事例解析力と論
5407 理的思考力を重視して採点した。
5408
5409 その際,
5410 所得税法の基本的な規定を適切に指摘
5411 しているか,
5412 さらにその内容を正確に理解しているかを重視した。
5413
5414 見解に対立が
5415 ある論点については,
5416 理論的に明らかに誤っている場合は別として,
5417 結論の当否
5418 そのものよりもその結論に至る論証を重視した。
5419
5420 採点結果の概要及び実感は以下
5421 のとおりである。
5422
5423
5424 設問1は,
5425 Aの青色事業専従者であるDに支払った給与の全額が,
5426 「労務の対
5427 価として相当であると認められるもの」(所得税法第57条第1項。
5428
5429 以下,
5430 第1
5431 問につき条文摘示は全て所得税法を指す。
5432
5433 )として,
5434 Aの事業所得の金額の計算
5435 上,
5436 必要経費に算入できるかを問うものである。
5437
5438
5439 多くの答案は,
5440 第56条から出発し,
5441 同条の例外として第57条を位置付けて,
5442
5443 その立法趣旨を説明した上で,
5444
5445 「労務の対価として相当であると認められるもの」
5446 といえるかを検討していた。
5447
5448 また,
5449 相当性の判断基準として,
5450 @使用人給与比準,
5451
5452 A類似同業者使用人給与比準,
5453 B類似同業者青色事業専従者給与比準が考えられ
5454 るが,
5455 大多数の答案は,
5456 @あるいはBの基準に従って判断し,
5457 論証に当たって,
5458
5459 問題文から事実を丁寧に拾い上げて論じており適切であった。
5460
5461
5462 答案のパターンとしては,
5463 (a)@の基準に従って判断すべきであるが,
5464 Dが司
5465 法試験受験生であることを考慮すると510万円は相当な金額であるとするも
5466 の,
5467 (b)@の基準に従って判断すべきであり,
5468 それによると340万円が相当な
5469 金額であるとするもの,
5470 (c)Bの基準に従って判断すべきであるが,
5471 司法試験受
5472 験生であることを考慮すると510万円は相当な金額であるとするもの,
5473 (d)B
5474 の基準に従って判断すべきであり,
5475 それによると平均の400万円が相当な金額
5476 であるとするもの,
5477 (e)Bの基準に従って判断すべきであり,
5478 それによると納税
5479 者に有利な金額である最高額の450万円が相当な金額であるとするものなどが
5480 あった。
5481
5482 多くの答案が,
5483 自分が採用した基準についての合理性を自分なりに考え
5484 て説明していた。
5485
5486 例えば,
5487 Bの基準を採用した理由として,
5488 「妻である場合,
5489
5490 を補助する立場として,
5491 通常の事務員より意思疎通が出来,
5492 生計を一にすること
5493 から,
5494 必死に働くといえる。
5495
5496 よって妻であることの事情は考慮すべきであり,
5497
5498 の事務所で妻が雇われている場合に,
5499 妻に対して支払う対価を参考にすべきであ
5500 る。
5501
5502 」というものや,
5503 逆にBの基準を採用できない理由として,
5504 「相当性の要件
5505 は,
5506 お手盛りの構造的危険のないように解釈されるべきであり,
5507
5508 『類似するもの』
5509 (第57条第1項)は客観的に解さねばならない。
5510
5511 他の青色専従者の比準にする
5512 ことは,
5513 お手盛りの危険のある者への支払を参考にすることを意味するので,
5514
5515 当ではない。
5516
5517 」とするものや,
5518 「他の事務所の青色専従者については,
5519 事務員の
5520 仕事も多岐にわたり,
5521 秘書業務の対価も含まれていること,
5522 勤続年数の違いや事
5523
5524 - 48 -
5525
5526 務所の規模も違う可能性があることから,
5527 参考にするには不正確である。
5528
5529 」とす
5530 るものなどがあった。
5531
5532
5533 もっとも,
5534 510万円の給与の支払が,
5535 「労務の対価として相当であると認め
5536 られる」金額を超えているとした答案の中に,
5537 Aの所得の金額の計算上どのよう
5538 に扱われるかについて,
5539 条文の読み方が不正確である答案が散見された。
5540
5541 例えば,
5542
5543 相当額を超える場合には,
5544 510万円の全額について,
5545 第56条が適用されると
5546 して,
5547 必要経費不算入となるとする答案があったが,
5548 第57条第1項,
5549 第2項の
5550 他の要件を充たしている場合には,
5551 「相当であると認められる」金額までは必要
5552 経費として控除できる。
5553
5554 また,
5555 同条第3項の事業専従者控除の範囲(86万円)
5556 で必要経費に算入されるとする答案があったが,
5557 そのような理解はそもそも同条
5558 第1項及び第3項の文理に沿わないだけでなく,
5559 問題文第3段落の事実関係から
5560 は同条第5項の確定申告書への記載要件を充たさないため,
5561 同条第3項の適用は
5562 ない。
5563
5564
5565 設問2については,
5566 ほとんどの答案は,
5567 第56条の適用の可否の問題であるこ
5568 とを適切に指摘していた。
5569
5570 適用肯定説が約8割,
5571 適用否定説が約2割であり,
5572
5573 ずれの見解に立っても,
5574 DがAとは別の事務所において独立して事業を営んでい
5575 る点を指摘しており,
5576 全体としてよく書けていた。
5577
5578 この問題については,
5579 適用肯
5580 定説の最高裁判決があるところ,
5581 同判決を適切に指摘して論証している答案があ
5582 り,
5583 また,
5584 同判決を指摘していない答案も,
5585 その文脈から,
5586 同判決を意識して論
5587 証されていることがうかがえた。
5588
5589
5590 設問3のうち,
5591 問題文2の賃借権放棄の対価について,
5592 受験生が採用した見
5593 解には,
5594 譲渡所得説,
5595 事業所得説,
5596 一時所得説及び雑所得説があり,
5597 そのうち,
5598
5599 一時所得説を採用した答案が多かった。
5600
5601 しかし,
5602 一時所得とするためには,
5603 当然,
5604
5605 他の所得区分の該当性を検討した上で判断すべきなのに,
5606 そのような手順を踏ん
5607 でいる答案が少なかった。
5608
5609 また,
5610 事業所得説を採る場合には,
5611 第27条第1項の
5612 括弧書で「譲渡所得に該当するものを除く」とされているから,
5613 譲渡所得該当性
5614 を検討すべきであるが,
5615 そのような検討がなされている答案も極めて少なかった。
5616
5617
5618 「出題の趣旨」に記載したとおり,
5619 賃借権放棄の対価については,
5620 賃借権が第
5621 33条第1項の譲渡所得の対象である「資産」に該当するか否かが最大の問題で
5622 あり,
5623 借家権と借地権との違いや,
5624 部屋がビルの一室であったこと,
5625 さらには更
5626 新料が支払われていることなどを考慮して検討すれば論述に深みが増したであろ
5627 う。
5628
5629 しかし,
5630 これらの点を意識した論証を行う答案が極めて少なかった。
5631
5632 なお,
5633
5634 「資産」に当たるとする答案であっても,
5635 賃貸人に対する賃借権の放棄は「譲渡」
5636 ではないから,
5637 その対価は譲渡所得に該当しないとするものがかなりの数あった。
5638
5639
5640 次に,
5641 問題文2の金銭は,
5642 費用の補填として受け取った金銭であるが,
5643 所得
5644 分類ごとに収入金額と必要経費とが対応させられるべきであるという所得税法の
5645 基本的な考え方からすると,
5646 まず,
5647 旧事務所からの引越費用と新事務所の内装工
5648 事費用とが所得分類のうちのどの必要経費(広義の意味)に該当するかを検討す
5649 る必要がある。
5650
5651 しかるに,
5652 旧事務所からの引越費用と新事務所の内装工事費用と
5653 で所得分類に違いがあるかにつき意識的に検討した答案も少数あったが,
5654 ほとん
5655 どの答案は,
5656 両者を区別せず,
5657 一括して論じていた。
5658
5659 受験生の見解としては,
5660
5661 業所得説,
5662 一時所得説及び雑所得説があり,
5663 雑所得説を採用した答案がかなりあっ
5664
5665 - 49 -
5666
5667 た。
5668
5669 雑所得該当性を判断するためには,
5670 まず,
5671 事業所得該当性を検討し,
5672 それが
5673 否定された場合に一時所得の該当性を検討し,
5674 それが否定された場合に初めて雑
5675 所得となるという過程を経るべきなのに,
5676 そのような判断過程を経ていない答案
5677 が極めて多かった。
5678
5679 また,
5680 一時所得説を採用した答案については,
5681 事務所の移転
5682 が,
5683 賃貸人Bの都合によりせざるを得なかったことから,
5684 Aの事業所得を生じる
5685 業務との関連で必要性がないとして,
5686 事業所得の必要経費性を否定する考え方も
5687 できるが,
5688 そのような観点から,
5689 一時所得説を採った答案が少なく,
5690 説得力ある
5691 論証がなされた答案が極めて少なかった。
5692
5693
5694 なお,
5695 問題文2及びの金銭の双方あるいはその一方が,
5696 非課税の損害賠償
5697 金(第9条第1項第17号)であるとする答案が,
5698 少なからずあった。
5699
5700
5701 この点を検討するに当たっては,
5702 一般に業務の遂行により生ずべき収益の補償
5703 は非課税所得に当たらないとされていることや,
5704 Aが各種費用を支出する場合に
5705 それ自体が必要経費として控除可能になることなどを併せて考える必要がある。
5706
5707
5708 すなわち,
5709 必要経費を填補する損害賠償金を非課税とすると,
5710 一方で当該支出は
5711 要件を満たす限り必要経費に算入されるのに,
5712 他方でそれを填補する金額が事業
5713 所得の金額の計算上総収入金額に算入されないため,
5714 当該損害賠償金等の受領者
5715 に二重の利益を与えることになる。
5716
5717 つまり,
5718 受け取った賠償金には課税されず,
5719
5720 更に支出を必要経費に算入して課税所得金額を減少させることができる。
5721
5722 このた
5723 め,
5724 所得税法施行令第30条はその柱書の括弧書で必要経費を填補するための金
5725 額を非課税規定の適用対象から除外している。
5726
5727 このような施行令の規定を知らな
5728 くとも,
5729 所得税法の基本構造をしっかり理解していれば,
5730 解答が可能であったと
5731 思われる。
5732
5733
5734 第1問の採点の結果,
5735 予想されたことではあったが,
5736 全体として設問3の出来
5737 が悪く,
5738 「優秀」に該当する答案の割合が少なかった。
5739
5740 また,
5741 内容もさることな
5742 がら構成についてバランスの悪い答案が多かった。
5743
5744 設問1の解答において,
5745 まず
5746 所得税法第27条の事業所得該当性の検討に始まり,
5747 次に第37条の必要経費の
5748 該当性を検討し,
5749 さらに,
5750 第56条の要件該当性を検討した上で,
5751 初めて第57
5752 条の要件該当性を検討するという構成の答案があり,
5753 設問1の解答だけで3頁に
5754 及んでしまい,
5755 そのため,
5756 設問2はもちろんのこと,
5757 設問3に至っては5行程度
5758 の極めてあっさりとした記述しかなされていない答案がかなりの数あった。
5759
5760 しか
5761 も問われてもいないのに,
5762 Dについては給与所得に該当することを論じている答
5763 案さえあった。
5764
5765 問題文を素直に読めば,
5766 Dは,
5767 弁護士業を営むAの青色事業専従
5768 者(第57条第1項)に該当することが明らかであるから,
5769 設問1の解答に当たっ
5770 ては,
5771 問題文と設問の立て方からして,
5772 Dへの給与の額が「労務の対価として相
5773 当である」と認められるかという論点に端的に切り込むべきであるし,
5774 できたは
5775 ずである。
5776
5777 第1問で問題となっている収入及び支出は全部で5つあり,
5778 それぞれ
5779 を適切に論ずることを考えれば,
5780 おのずと記述できる量が決まってくるはずであ
5781 る。
5782
5783 所得税法の基礎的知識を前提に,
5784 問題文を素直に読み,
5785 出題者が何を求めて
5786 いるかを読み取り,
5787 答案構成を考えてほしいと思う。
5788
5789
5790 (2) 第2問
5791 公表済みの「出題の趣旨」の中で述べた主要な論点に即して,
5792 所得税法及び法
5793 人税法の基本的事項に関する理解の正確さや関連条文の解釈適用能力を重視して
5794
5795 - 50 -
5796
5797 採点した。
5798
5799
5800 設問1では,
5801 雑損控除制度の趣旨について,
5802 多くの答案は,
5803 雑損失が納税者の
5804 意思に基づくものでないこと,
5805 いわば「災難」に基因すること,
5806 納税者の担税力
5807 を減殺することといった点を述べていたが,
5808 雑損失が家事費的性格を持つことを
5809 述べる答案はさほど多くなかった。
5810
5811 また,
5812 設問1は,
5813 雑損控除制度の趣旨それ自
5814 体を問うものではなく,
5815 Aが甲費用について雑損控除の適用を受けることができ
5816 るかどうかを検討するに当たって,
5817 同制度の趣旨に言及することを求めているの
5818 であるから,
5819 何よりもまず所得税法第72条並びに「参照条文」として掲載され
5820 た同法施行令第9条及び第206条の各要件を文言に則してしっかり検討し,
5821
5822 件や文言の意味を明らかにするために必要に応じて雑損控除制度の趣旨を参照し
5823 つつ,
5824 それらの規定の解釈適用を行う,
5825 という順番で問題の検討を進めるのが,
5826
5827 法曹教育を受けた者としてこの種の事例問題に臨む場合の最も基本的な所作とい
5828 うべきである。
5829
5830 にもかかわらず,
5831 関係法令の文言を一切(又は,
5832 ほとんど)顧慮
5833 せず,
5834 専ら雑損控除の趣旨だけから雑損控除の適用の可否を論じようとする答案
5835 が少なからずあった。
5836
5837 しかし,
5838 上記の基本的な所作は,
5839 租税法に限らず,
5840 他の法
5841 分野においても,
5842 実務法曹を目指す上では基本ともいうべきものであるから,
5843
5844 用条文の文言を一切顧慮せずに雑損控除の適用の可否を論ずる答案については,
5845
5846 その論証の説得力の有無や結論の当否とは別の次元の問題として,
5847 法律学の基礎
5848 的能力に問題があるのではないかという疑問を禁じ得なかった。
5849
5850
5851 「出題の趣旨」にも書いたように,
5852 設問1の解答に当たっては,
5853 少なくとも,
5854
5855 H社によるアスベストの使用や事後のアスベスト規制が「人為による異常な災害」
5856 に該当するかどうかを検討する必要があるが,
5857 その検討において,
5858 特に「Aは,
5859
5860 甲,
5861 乙及び丙の建築に当たりH社に対し,
5862 アスベストの使用の可否に関する指示
5863 を全くしていなかった」及び「アスベストは,
5864 甲,
5865 乙及び丙の建築当時は,
5866 法的
5867 規制の対象とはされておらず,
5868 これを建築部材として使用することは何ら違法で
5869 はなく一般に行われていた」という事実から,
5870 H社によるアスベストの使用や事
5871 後のアスベスト規制がAの意思に基づかない,
5872 Aが関与したものでない,
5873 あるい
5874 はAにとって予見可能でなかったと判断し,
5875 「人為による異常な災害」該当性を
5876 肯定する答案がかなり多かった。
5877
5878 それらの答案では,
5879 甲費用の災害関連支出該当
5880 性の判断において,
5881 参照条文として掲げた所得税法施行令第206条第1項各号
5882 への当てはめについて,
5883 様々な理由付けが見られた。
5884
5885 他方,
5886 「人為による異常な
5887 災害」該当性を否定した答案の中には,
5888 上記事実から,
5889 アスベスト使用が異常で
5890 なかったと判断したものもあったが,
5891 アスベストの「鉱害」(所得税法施行令第
5892 9条)類似性を論じるなど理由付けに苦心したことがうかがわれるものもあった。
5893
5894
5895 設問2では,
5896 乙費用を譲渡所得に係る譲渡費用(所得税法第33条第3項)と
5897 する答案が多かったが,
5898 事業所得に係る資産損失(同法第51条第1項)とする
5899 答案も少なからずあった。
5900
5901 それらの答案は,
5902 乙が事業用建物であることから,
5903
5904 費用をその取壊しによる損失に関連する費用と見たものであろうが,
5905 乙の取壊し
5906 がその敷地の譲渡に関連して行われたものであることを検討する必要がある(同
5907 法第51条第1項括弧書参照)。
5908
5909 そのことの検討は,
5910 乙費用を譲渡所得に係る譲
5911 渡費用とする答案においても必要であるが,
5912 そのような検討をすることなく,
5913
5914 「乙
5915 費用が譲渡所得に係る譲渡費用に当たるか検討する。
5916
5917 」といった書き出しで解答
5918
5919 - 51 -
5920
5921 を始める答案もかなりあった。
5922
5923 また,
5924 乙費用を事業所得に係る必要経費(同法第
5925 37条第1項)と見る答案も予想外に多かった。
5926
5927 それらの答案は,
5928 乙の敷地が事
5929 業用土地であることから,
5930 その譲渡による所得を事業所得に分類し,
5931 乙費用をそ
5932 の所得を得るための必要経費と見たものであるが,
5933 事業用固定資産も譲渡所得の
5934 基因となる資産であること(同法第33条第1項,
5935 第2項参照)を再度確認して
5936 おく必要があろう。
5937
5938 なお,
5939 いわゆる二重利得法を念頭に置いたものと考えられる
5940 が,
5941 乙の敷地の譲渡による所得を乙の取壊しの前後で譲渡所得と事業所得とに区
5942 分する答案も散見された。
5943
5944
5945 乙費用の譲渡費用該当性については,
5946 最高裁平成18年4月20日判決(訟務
5947 月報53巻9号2692頁)等を踏まえ,
5948 適切に判断している答案もあったが,
5949
5950 譲渡費用の意義に関する理解が不正確あるいは曖昧である答案が多いように見受
5951 けられた。
5952
5953 なお,
5954 Aが乙の敷地であった土地を乙の取壊しによってそれ以前より
5955 もかなり高い額で売却することができた点を捉えて,
5956 乙費用を取得費(同法第
5957 38条第1項)のうちの改良費と見る答案も散見された。
5958
5959
5960 設問3では,
5961 ほとんどの答案が丙費用の損金該当性を肯定していたが,
5962 理由を
5963 示すことなく「決め打ち」的に根拠条文を決めてかかる答案が多く見られた。
5964
5965
5966 拠条文として法人税法第22条第3項第2号を挙げるものが多かったが,
5967 同項第
5968 3号を挙げるものも少なくなく,
5969 また,
5970 同項第1号を挙げるものも散見された。
5971
5972
5973 丙がB社の本店の建物であること,
5974 丙の建替えがB社の取締役会で決定されたこ
5975 と等の事実を踏まえて丙費用の性質を検討し,
5976 その検討結果に基づいて,
5977 丙費用
5978 が法人税法第22条第3項のいずれの号に該当するかを示す必要がある。
5979 ほとんどの答案が丙費用の計上時期(年度帰属)についても検討していた。
5980
5981
5982 費用の損金該当性に関する検討よりもむしろ丙費用の計上時期にウエイトを置い
5983 た答案も多かった。
5984
5985 丙費用の計上時期については,
5986 丙費用の損金該当性の根拠条
5987 文をどこに求めるかによって,
5988 判断が違ってくるが,
5989 同法第22条第3項第2号
5990 を根拠条文とする場合には,
5991 債務確定主義(同号括弧書)との関係で,
5992 B社,
5993
5994 社及びQ社の法律関係をどのように構成するかによっても,
5995 丙費用の計上時期に
5996 関する判断が違ってくる。
5997
5998 それらの3社の法律関係に言及する答案は少なかった
5999 が,
6000 課税関係を検討するに当たってその基礎にある私法上の法律関係をどのよう
6001 に見るかは,
6002 租税法の重要な論点であることに留意する必要がある。
6003
6004
6005 第2問の採点の結果,
6006 「優秀」及び「良好」は想定を若干下回る程度の分布と
6007 なったが,
6008 「一応の水準」が想定をかなり下回り,
6009 その分,
6010 「不良」が想定をか
6011 なり上回った。
6012
6013 いわば「二極化」が見られる結果となった。
6014
6015 その原因は,
6016 所得税
6017 法及び法人税法の基本的な事項及び条文に関する理解の正確さと論証の質や厚み
6018 にあると考えられる。
6019
6020 それらの点で顕著な違いが見られたのは,
6021 特に設問2と設
6022 問3においてであった。
6023
6024 「不良」の答案には,
6025 この2つの設問で大きく失点した
6026 ものが多かった。
6027
6028
6029
6030
6031 今後の出題について
6032 今後の出題についても,
6033 これまでどおり,
6034 所得税を基本としつつ,
6035 具体的な事実
6036 関係の下で租税法の基本的な条文や概念の理解とその適用能力を試す問題を出題す
6037 ることが望ましいと考えられる。
6038
6039
6040
6041 - 52 -
6042
6043
6044
6045 今後の法科大学院教育に求められるもの
6046 今年も,
6047 第2問の設問3において,
6048 法人税法に関する問題を出題した。
6049
6050 今後も所
6051 得税を基本とする問題が出題されると思われるが,
6052 法人税についての基礎的な知識
6053 の修得も重要であることは言うまでもない。
6054
6055
6056 また,
6057 今後も,
6058 事例中心の出題である点には変化はないと思われる。
6059
6060 法科大学院
6061 においては,
6062 所得税法及びこれに関連する法人税法に関して,
6063 条文に則して理解を
6064 確かなものとするとともに,
6065 個々の規定の趣旨・目的や相互関係についても理解を
6066 深めるように努めた上で,
6067 そのような基礎的な学習を通じて習得した知識や能力を
6068 事例演習等によって確認し,
6069 事例解決のための応用力や総合的判断力を涵養してい
6070 くというような教育が望まれる。
6071
6072
6073
6074 - 53 -
6075
6076 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(経済法)
6077
6078
6079 出題の趣旨について
6080 出題の趣旨は,
6081 別途公表している「出題の趣旨」のとおりである。
6082
6083
6084
6085
6086
6087 採点方針
6088 出題した2問とも,
6089 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独
6090 占禁止法」という。
6091
6092 )上の制度・規定の趣旨及び内容を正確に理解し,
6093 問題文の行
6094 為が当該市場における競争にどのような影響を与えるかを念頭に置いて,
6095 問題点を
6096 指摘し,
6097 法解釈を行い,
6098 事実関係を丹念に検討した上で,
6099 要件の当てはめができる
6100 か,
6101 それらが論理的かという点を評価しようとした。
6102
6103
6104 特に,
6105 独占禁止法の基本を正確に理解し,
6106 これに基づいて検討することができて
6107 いるかを重点的に見ようとし,
6108 公表されている公正取引委員会の考え方やガイドラ
6109 イン等について細かな知識を求めることはしていない。
6110
6111
6112 第1問は,
6113 消費財たる甲製品について,
6114 A社が,
6115 甲製品の大口利用者向け販売業
6116 者のうち,
6117 A社以外のメーカーの甲製品も併せ取り扱ってきた取引先販売業者及び
6118 従来A社の甲製品のみを取り扱ってきた取引先販売業者に対し,
6119 甲製品の購入全体
6120 に占めるA社の甲製品の割合の多寡に応じて販売価格からの割戻金(いわゆる占有
6121 率リベート)を支払う行為が,
6122 排除型私的独占(独占禁止法第2条第5項)に該当
6123 し,
6124 同法第3条前段に違反するか,
6125 また,
6126 排他条件付取引(同法第2条第9項第6
6127 号・不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指定」という。
6128
6129 )第11項),
6130 拘束条
6131 件付取引(同指定第12項),
6132 差別対価(独占禁止法第2条第9項第2号),
6133 取引条
6134 件等の差別取扱い(同項第6号・一般指定第4項)に該当し,
6135 独占禁止法第19条
6136 に違反するかについての見解を問うものである。
6137
6138
6139 特に,
6140 甲製品の特徴(乙製品との代替性,
6141 大口利用者向けと小口利用者向けの取
6142 引条件や取引チャネルの異同,
6143 外国製品の影響等)を踏まえた市場を画定し,
6144 かつ
6145 問題文に示されたA社の行為が,
6146 その市場にどのような影響を与えるかについて,
6147
6148 的確に検討できているかどうかを評価することとした。
6149
6150 そして,
6151 A社の行為が市場
6152 に与える影響を検討するに当たっては,
6153 A社の市場における地位,
6154 A社の甲製品の
6155 特徴及び販売業者の取扱い状況といった市場の環境,
6156 A社が割戻金を支払う動機(販
6157 売シェアの確保とともに,
6158 稼働率の上昇によるコスト削減目的もある。
6159
6160 )といった
6161 本問において特に示されている重要な事実,
6162 さらに割戻金が経済的には価格を下げ
6163 る効果を有することに対する解答者の考えを,
6164 論理的に矛盾なく,
6165 説明できている
6166 かを見た。
6167
6168
6169 第2問は,
6170 15社の行為が入札談合として,
6171 不当な取引制限(独占禁止法第3条後段)
6172 に該当するかについて,
6173 見解を問うものである。
6174
6175
6176 まず,
6177 15社が50物件中40物件について行った種々の行為から,
6178 基本合意を認定
6179 できるか,
6180 次に,
6181 10物件について具体的な事実が認められない中で,
6182 基本合意が10
6183 物件をも対象とするものと認定できるかにつき,
6184 検討できているかを見た。
6185
6186
6187 次に,
6188 事業活動の相互拘束の関係で,
6189 その意義を正しく理解した上で,
6190 1社のみ落札
6191 を希望した35物件について相互拘束があったといえるか,
6192 50物件中1件も落札しな
6193 かったA社ないしD社について不当な取引制限の当事者といえるか等の論点について検
6194
6195 - 54 -
6196
6197 討できているかを見た。
6198
6199
6200 さらに,
6201 入札談合事件である問題文の事案において,
6202 一定の取引分野をどのように捉
6203 えているか,
6204 それが基本合意の認定と整合しているかを見た。
6205
6206
6207 最後に,
6208 受注調整行為に関与しないアウトサイダーが入札に参加して6物件を落札し
6209 た事実を踏まえて,
6210 競争の実質的制限が認められるか検討できているかを見た。
6211
6212
6213 3 採点実感等
6214 (1) 出題の趣旨に即した答案の存否,
6215 多寡について
6216 第1問について,
6217 多くの答案が私的独占について一応言及していた点は,
6218 出題
6219 の趣旨に沿うものといえるが,
6220 不公正な取引方法の論述に必要以上の分量を割く
6221 ことにより,
6222 出題の趣旨の中心である私的独占の該当性についての検討が不十分
6223 になっている答案が多く見られた。
6224
6225 また,
6226 不公正な取引方法については,
6227 差別対
6228 価の該当性を検討する答案が予想以上に多く,
6229 排他条件付取引の検討を行う答案
6230 は予想より大幅に少なかった。
6231
6232 また,
6233 拘束条件付取引を論じる場合には,
6234 排他条
6235 件付取引でなく拘束条件付取引を適用する理由,
6236 すなわち排他条件付取引と拘束
6237 条件付取引の差異を理解していることを示す答案を期待していたが,
6238 多くの答案
6239 が拘束の有無の論述に終始していた。
6240
6241
6242 第2問については,
6243 入札談合において検討されるべき共同行為が,
6244 個々の受注調整
6245 行為ではなく基本合意であることを明確に意識して記述した答案は,
6246 あまり多くな
6247 かった。
6248
6249 また,
6250 40物件について検討しただけで,
6251 他の10物件について合意又は意
6252 思の連絡の対象となるかを実質的に検討しない答案が相当数存在した。
6253
6254
6255 一定の取引分野については,
6256 ほとんどの答案が検討していたが,
6257 基本合意の認定と
6258 の整合性を欠くか,
6259 又は意識しない答案も相当数存在した。
6260
6261
6262 競争の実質的制限については,
6263 ほとんどの答案が検討していた。
6264
6265
6266 (2) 出題時に想定していた解答水準と実際の解答水準との差異について
6267 第1問については,
6268 私的独占,
6269 不公正な取引方法ともに,
6270 要件の定義や解釈は,
6271
6272 独占禁止法の基本的な部分であって,
6273 その説明に関しては,
6274 出題時に想定してい
6275 た解答水準と実際の解答水準とに大きな差異はなかった。
6276
6277 一方,
6278 説明した定義や
6279 解釈を本問に即して適用する場面においては,
6280 第一に,
6281 問題文に摘示されている
6282 多くの重要な事実のごく一部のみに言及して,
6283 その他の事実を検討していない答
6284 案,
6285 第二に,
6286 A社以外のメーカーの甲製品も併せ取り扱ってきた取引先販売業者
6287 に対する割戻金の支払いと,
6288 従来A社の甲製品のみを取り扱ってきた取引先販売
6289 業者に対する割戻金の支払いについて,
6290 それぞれ別個独立に異なる類型の不公正
6291 な取引方法(多くは前者が差別対価または拘束条件付取引,
6292 後者が排他条件付取
6293 引)の該当性を並列的に論じるのみで,
6294 A社がなぜ両行為を行ったか,
6295 それによっ
6296 て影響を受ける市場はどこか(幾つか)という点の検討が不十分な答案が予想以
6297 上に多かった点で,
6298 出題時に想定していた解答水準とは差異が見られた。
6299
6300
6301 第2問については,
6302 入札談合の事案であるのに,
6303 基本合意に全く触れない答案が相
6304 当数存在したことは予想外であった。
6305
6306 また,
6307 間接事実から基本合意の存在を認定した
6308 答案の中にも,
6309 40物件について論じたのみで,
6310 他の10物件について具体的に検討
6311 しない答案が相当数存在したのは残念であった。
6312
6313 さらに,
6314 本件は,
6315 一定期間の入札案
6316 件について基本合意が認められる事案であり,
6317 40物件と10物件の落札率に顕著な
6318
6319 - 55 -
6320
6321 差がない事案であるから,
6322 10物件についても基本合意の対象であったと見ることが
6323 自然であると考えられるが,
6324 十分な検討を行うことなく異なる結論を導く答案が予想
6325 以上に多かった。
6326
6327
6328 50物件中1件も落札しなかったA社ないしD社について不当な取引制限の当事者
6329 といえるかどうかについては,
6330 多数の答案が論じており,
6331 その結論もおおむね妥当で
6332 あったが,
6333 1社のみ落札を希望した35物件に関する相互拘束の認定いかんについて
6334 論じた答案は少なかった。
6335
6336
6337 多くの答案において,
6338 一定の取引分野についての記述は相応の水準に達していたが,
6339
6340 一定の取引分野を基本合意の対象となった取引と捉えた場合に,
6341 本件における当ては
6342 めと整合しない答案がかなり多かった。
6343
6344
6345 競争の実質的制限については,
6346 多くの答案がアウトサイダーの存在についても意識
6347 して検討し,
6348 妥当な結論を導いていた。
6349
6350
6351 (3) 「優秀」,
6352 「良好」,
6353 「一応の水準」,
6354 「不良」答案について
6355 上記のような答案の傾向を踏まえ,
6356 どのような答案がそれぞれの区分に該当す
6357 るかについて,
6358 一例を示せばおおむね以下のとおりである。
6359
6360 ただし,
6361 採点に当たっ
6362 ては総合的な能力の判定にも配意しており,
6363 各水準に属する答案は,
6364 これに尽き
6365 るものではない。
6366
6367
6368 第1問について,
6369 「優秀」な答案は,
6370 排除型私的独占の成立要件についての基
6371 本的な理解を示した上で,
6372 問題文から検討すべき事実を確実に拾い出し,
6373 検討を
6374 加え,
6375 論理的な説明を行うとともに,
6376 その中で不公正な取引方法の論述がなされ
6377 ているか,
6378 不公正な取引方法の論述がない場合にはそれと同程度に私的独占とし
6379 て違法とされるべき排除行為に関する充実した記載がなされているもの,
6380
6381 「良好」
6382 な答案は,
6383 排除型私的独占の成立要件についての基本的な理解を示した上で,
6384
6385 題文から検討すべき事実をある程度拾い出して相応の当てはめを行っているも
6386 の,
6387 「一応の水準」の答案は私的独占の該当性への言及があるものの,
6388 その説明
6389 や当てはめが明解とまではいえないもの,
6390 「不良」な答案は,
6391 適用条項について
6392 全く的外れである等,
6393 基本的な事案処理能力が不十分なものとした。
6394
6395
6396 第2問については,
6397 「優秀」な答案は,
6398 入札談合である問題文の事案に即して,
6399
6400 本合意を間接事実から認定できるか,
6401 基本合意が10物件に及ぶか,
6402 事業活動の相互
6403 拘束の有無,
6404 一定の取引分野,
6405 競争の実質的制限等について漏れなく検討し,
6406 基本的
6407 な考え方を示した上で,
6408 各論点について説得力のある理由付けをした論述がされてい
6409 るもの,
6410 「良好」な答案は,
6411 基本合意の認定やそれが10物件に及ぶかについて説得
6412 力のある論述ができているが,
6413 他の幾つかの論点についての検討が漏れているもの,
6414
6415 又は比較的論述は薄いが各論点についておおむね検討されているもの,
6416
6417 「一応の水準」
6418 の答案は,
6419 「良好」な答案と評価されるために必要なポイントのうち,
6420 幾つかのポイ
6421 ントが欠けているものとした。
6422
6423 「不良」の答案は,
6424 入札談合事件についての基本的な
6425 理解を欠き,
6426 基本合意や事業活動の相互拘束の有無について論点を的確に捉えられて
6427 いないものとした。
6428
6429
6430
6431
6432 今後の出題について
6433 今後も,
6434 独占禁止法の基礎的知識の正確な理解,
6435 当該行為が市場における競争に
6436 与える影響の洞察力,
6437 事実関係の検討能力及び論理性・説得性を求めることに変わ
6438
6439 - 56 -
6440
6441 りはないと考えられる。
6442
6443
6444
6445
6446 今後の法科大学院に求めるもの
6447 経済法の問題は,
6448 不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではな
6449 い。
6450
6451 経済法の基本的な考え方を正確に理解し,
6452 これを多様な事例に応用できる力を
6453 身に付けているかどうかを見ようとするものである。
6454
6455 法科大学院は,
6456 出題の意図し
6457 たところを正確に理解し,
6458 引き続き,
6459 知識偏重ではなく,
6460 基本的知識を正確に習得
6461 し,
6462 それを的確に使いこなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,
6463 論述に
6464 おいては,
6465 適用条文の選択・操作,
6466 構成要件の意義を正確に示した上,
6467 当該行為が
6468 市場における競争にどのように影響するかを念頭に置いて,
6469 事実関係を丹念に検討
6470 し,
6471 要件に当てはめること,
6472 そしてそれを箇条書き的に列挙するのでなく,
6473 論理的・
6474 説得的に表現することができるように教育してほしい。
6475
6476
6477
6478 - 57 -
6479
6480 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(知的財産法)
6481
6482
6483 出題の趣旨について
6484 既に公表した出題の趣旨のとおりである。
6485
6486
6487
6488 2 採点方針等
6489 (1) 第1問
6490 本問は,
6491 特許法第69条第1項の「試験又は研究のためにする特許発明の実施」
6492 の意義,
6493 いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲,
6494 消尽の
6495 成否など,
6496 いずれも特許法の基礎的かつ重要な問題点についての理解を問うとと
6497 もに,
6498 長文の設問から的確に論点を抽出する事案分析能力,
6499 抽出した論点につい
6500 て,
6501 制度趣旨及び判例等に対する理解力,
6502 具体的事例への適用に関する思考力,
6503
6504 応用力及び論述能力を試そうとするものである。
6505
6506
6507 さらに,
6508 原告・被告どちらの側に立っても自説を展開できる論理力,
6509 その中で
6510 適切・妥当な結果を導き出すための思考力を問うものである。
6511
6512
6513 したがって,
6514 全体として,
6515 まず,
6516 設問から論点を的確に抽出して指摘した上,
6517
6518 裁判例(特に最高裁判例)のあるものについてはその判旨を念頭に置きつつ,
6519
6520 説を展開して,
6521 事案に当てはめているか否かに応じて,
6522 優秀度を判定した。
6523
6524
6525 ア 設問1
6526 設問1のうち,
6527 乙行為1及び2では,
6528 特許法第69条第1項の試験又は研究
6529 のための実施に該当するか否かが問題となるから,
6530 まず,
6531 これらの行為の適否
6532 を論じる前提として,
6533 同項の制度趣旨に言及し,
6534 それを踏まえて,
6535 試験又は研
6536 究のための実施に該当するか否かの判断基準を示し,
6537 当てはめて結論を出すこ
6538 とが「一応の水準」である。
6539
6540
6541 その上で,
6542 乙行為1については,
6543 本件発明が実施可能要件(同法第36条第
6544 4項)等を充足するか否かを調査すること(いわゆる機能調査・特許性調査)
6545 を目的とした実施行為であること,
6546 乙行為2については,
6547 本件発明の改良発明
6548 のための実施行為であることを明確に指摘した上で,
6549 判断基準に関する自説を
6550 当てはめることができれば,
6551 その論証の説得性に応じ,
6552 「良好」又は「優秀」
6553 と評価した。
6554
6555
6556 なお,
6557 乙行為1及び2については,
6558 対象や目的で限定する説の立場において
6559 も,
6560 このような実施行為には同法第69条第1項が適用されると解されるのが
6561 一般的な見解であると思われることから,
6562 それと異なる結論を採る場合は,
6563
6564 極的な論拠を示すことが必要である。
6565
6566
6567 乙行為3については,
6568 本件特許のクレームがいわゆるプロダクト・バイ・プ
6569 ロセス・クレームの形式で記載されていることを指摘した上,
6570 プロダクト・バ
6571 イ・プロセス・クレームの意義及び判断基準を示すことが「一応の水準」であ
6572 る。
6573
6574
6575 その上で,
6576 知財高判平成24年1月27日判例時報2144号51頁【プラ
6577 バスタチンナトリウム事件(大合議)】が,
6578
6579 「真正プロダクト・バイ・プロセス・
6580 クレーム」(物の特定を直接的にその構造又は特性によることが出願時におい
6581 て不可能又は困難であるとの事情が存在するため,
6582 製造方法によりこれを行っ
6583
6584 - 58 -
6585
6586 ているとき)と「不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレーム」(物をその
6587 構造又は特性により直接的に特定することが出願時において不可能又は困難で
6588 あるとの事情が存在するとはいえないとき)に分けて,
6589 判断基準を定立してい
6590 ることを念頭に置いた上で,
6591 同判断基準によるときは,
6592 場合分けをし,
6593 そうで
6594 ない場合でも,
6595 自説の論拠を明確にした上で判断基準を明示して事案に当ては
6596 めを行っていれば,
6597 その論証の説得性に応じ,
6598 「良好」又は「優秀」と評価し
6599 た。
6600
6601 この際,
6602 立証責任についても言及している場合,
6603 又はプロダクト・バイ・
6604 プロセス・クレームであることを踏まえた上で,
6605 均等論の論述が十分になされ
6606 ている場合には,
6607 より高く評価した。
6608
6609
6610 また,
6611 本件文献には化合物αの構造が記載されているので,
6612 プロダクト・バ
6613 イ・プロセス・クレームにおける発明の要旨認定につき,
6614 物同一説に立つかあ
6615 るいは真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと認定する場合は,
6616 特許庁
6617 が本件発明につき特許査定をしたこと自体が誤りであり,
6618 無効審判により無効
6619 にされるべきであると主張することが可能となるから,
6620 無効の抗弁(同法第
6621 104条の3)の成否も問題となる。
6622
6623 この論点について言及した答案は僅かで
6624 あったが,
6625 この論点に言及し,
6626 さらに,
6627 プロダクト・バイ・プロセス・クレー
6628 ムの技術的範囲の画定の場面と要旨認定の場面において判断基準が同一である
6629 べきか否かについて言及している場合,
6630 より一層高く評価した。
6631
6632
6633 イ 設問2
6634 設問2のうち,
6635 丙行為1は,
6636 いわゆる特許権の存続期間中に,
6637 後発医薬品の
6638 製造承認を受けるための実施行為に特許法第69条第1項が適用されるか否か
6639 が論点であるから,
6640 まず,
6641 当事者の主張として上記論点を明確に指摘した上で,
6642
6643 設問1で論述した同項の制度趣旨及びそれに基づく判断基準を前提にして,
6644
6645 説を展開することが「一応の水準」である。
6646
6647
6648 そして,
6649 この問題については,
6650 最判平成11年4月16日民集53巻4号
6651 627頁【膵臓疾患治療剤事件】が判断を示しているから,
6652 上記判例の示す基
6653 準を念頭に置いて,
6654 設問1で示した同項の解釈との整合性に触れつつこの点を
6655 丁寧に論じていれば,
6656 その論証の説得性に応じ,
6657 「良好」又は「優秀」と評価
6658 した。
6659
6660
6661 丙行為2では,
6662 Cカプセルの市場調査目的のサンプルの製造・提供に,
6663 さら
6664 に,
6665 丙行為3では,
6666 単なる製造承認を得る目的の添付資料のための製造行為を
6667 超えて,
6668 特許権の存続期間が満了した場合に即時販売できるようにするための
6669 保管目的の製造行為に,
6670 それぞれ同項が適用されるかが問題となるから,
6671 この
6672 点を指摘して論述することが「一応の水準」である。
6673
6674
6675 そして,
6676 上記の問題点については,
6677 設問1における乙行為1及び2との相違
6678 を明確に指摘した上で,
6679 丙行為3に関しては,
6680 上記判例が傍論ながらこのよう
6681 な製造行為への同項の適用を否定していることをも考慮し,
6682 設問1で論述した
6683 同項の制度趣旨及びそれに基づく判断基準を前提にして,
6684 自説を展開すれば,
6685
6686 その論証の説得性に応じ,
6687 「良好」又は「優秀」と評価した。
6688
6689
6690 ウ 設問3
6691 設問3は,
6692 消尽の意義,
6693 根拠,
6694 判断基準及びその成否を問う問題であるから,
6695
6696 これらに触れることが「一応の水準」である。
6697
6698
6699
6700 - 59 -
6701
6702 この点については,
6703 最判平成19年11月8日民集61巻8号2989頁【イ
6704 ンクタンク事件】が判断基準を示していることから,
6705 上記判例の示す判断基準
6706 を考慮することが基本であり,
6707 同判例の示すような具体的基準に基づく判断の
6708 手法を念頭に置いた上で,
6709 本件事案への当てはめをきちんと行っていれば,
6710
6711 の論証の説得性に応じ,
6712 「良好」又は「優秀」と評価した。
6713
6714
6715 (2) 第2問
6716 本問は,
6717 設計図の著作物性及びその侵害の態様,
6718 建築の著作物性及びその侵害
6719 の態様並びに両者の関係,
6720 また,
6721 建築の著作物に改変を加えた場合の同一性保持
6722 権侵害あるいは翻案権侵害の成否,
6723 さらには,
6724 建築の著作物のミニチュアを作成
6725 した場合における著作権法第46条の適用の可否など,
6726 いずれも著作権法の基礎
6727 的な論点についての理解を問うとともに,
6728 事例から的確に論点を抽出する事案分
6729 析能力,
6730 抽出した論点について,
6731 裁判例の理解を前提とした法解釈とその適用に
6732 関する思考力,
6733 応用力及び論述能力を試そうとするものである。
6734
6735
6736 したがって,
6737 全体として,
6738 まず,
6739 設問から論点を的確かつ網羅的に抽出して,
6740
6741 問題点を指摘した上,
6742 裁判例のあるものについてはその判旨を念頭に置きつつ,
6743
6744 自説を展開して,
6745 事案に当てはめているか否かに応じて,
6746 優秀度を判定した。
6747
6748
6749 ア 設問1
6750 設問1は,
6751 設計図αが同法第10条第1項第6号の図形の著作物として著作
6752 物性を有するか否か,
6753 住居Aが同項第5号の建築の著作物として著作物性を有
6754 するか否か,
6755 それを前提として,
6756 複製権侵害,
6757 氏名表示権侵害,
6758 公表権侵害,
6759
6760 譲渡権侵害が成立するか否かに言及することが「一応の水準」である。
6761
6762
6763 その上で,
6764 自説を展開して,
6765 双方の主張の妥当性に言及し,
6766 特に,
6767 著作物性
6768 に関し,
6769 A住居について,
6770 Bによって建築することが著作物性の要件として必
6771 要なのか否か,
6772 著作者人格権に関し,
6773 Aが設計図αのコピーを見せたことが公
6774 衆への提示となるのか,
6775 AがCに依頼してA住居を建築させた行為がAの侵害
6776 行為となるか,
6777 について論じられている場合には,
6778 その論証の説得性に応じ,
6779
6780 「良好」又は「優秀」と評価した。
6781
6782
6783 設計図αをコピーしたこと及びA住居の建築が私的使用のための複製(同法
6784 第30条第1項)と言えるか,
6785 展示権(同法第25条)の侵害が成立するか,
6786
6787 AがA住居をDに売却した行為が同法第46条により許容されるかどうか,
6788
6789 ついて論じられている場合には,
6790 より高く評価した。
6791
6792
6793 イ 設問2
6794 設問2は,
6795 Dによる玄関の改変行為について,
6796 同一性保持権侵害に言及し,
6797
6798 同法第20条第2項第2号の適用の可否に触れることが「一応の水準」である。
6799
6800
6801 その上で,
6802 同号に関する裁判例(東京地決平成15年6月11日判例時報
6803 1840号106頁【ノグチルーム事件】)を念頭に置きつつ,
6804 同項第4号の
6805 適用の可否についても言及した場合に,
6806 その論証の説得性に応じ,
6807 「良好」又
6808 は「優秀」と評価した。
6809
6810
6811 翻案権侵害に言及し,
6812 それを肯定する場合に更に同法第46条の適用の可否
6813 についても言及した場合,
6814 さらには,
6815 Dの行為がBの公表権及び氏名表示権を
6816 侵害するか否かを論じている場合には,
6817 より高く評価した。
6818
6819
6820 ウ 設問3
6821
6822 - 60 -
6823
6824 設問3は,
6825 まず,
6826 複製権侵害及び譲渡権侵害が問題になり得ることを指摘し
6827 た上,
6828 同法第46条柱書の適用の問題に触れることが「一応の水準」である。
6829
6830
6831 その上で,
6832 同条各号の適用又は類推適用の可否について言及すれば,
6833 その論
6834 証の説得性に応じ,
6835 「良好」又は「優秀」と評価した。
6836
6837
6838 3 採点実感等
6839 (1) 第1問
6840 ア 総評
6841 本問は,
6842 基本的かつ重要な論点に関する設問であったので,
6843 多くの答案はあ
6844 る程度の論述がなされていたが,
6845 各設問が「それぞれどのような主張をするこ
6846 とができるか」となっていたためか,
6847 全設問につき甲の主張,
6848 乙の主張等を分
6849 けて主張の整理のみを記載し,
6850 自説を展開しない答案が少なくなかった。
6851
6852 また,
6853
6854 争点整理の体裁を整え,
6855 一方当事者の主張に対する他方当事者の主張を作出す
6856 るために,
6857 通常の実務では到底主張されるとは思えないような反論をわざわざ
6858 作り出して記述する答案も散見された。
6859
6860
6861 しかし,
6862 設問の末尾は「できるか」であるから,
6863 単に主張の整理をしただけ
6864 では問いに答えたことにはならないし,
6865 およそ意味のない主張を取り上げる必
6866 要はなく,
6867 そのような主張を取り上げたとしても評価の対象にならない。
6868
6869 争点
6870 によっては,
6871 主張・立証責任を負う一方当事者の主張を摘示すれば十分な場合
6872 もあろう。
6873
6874 また,
6875 自説を展開しなければ,
6876 受験者の思考過程,
6877 論理的理解度が
6878 分からないので,
6879 答案では当然に自説を展開すべきである。
6880
6881
6882 「できるか」には,
6883
6884 「意味のある主張を取り上げて,
6885 その当否を論ぜよ」との意味が含まれている
6886 ことを理解してもらいたい。
6887
6888
6889 さらに,
6890 本問に関して,
6891 近時重要な最高裁判例や知財高裁の裁判例が出てい
6892 るにもかかわらず,
6893 その判断基準について言及しない答案も少なくなく,
6894 実務
6895 家を志すものとしては不足感がある。
6896
6897
6898 イ 設問1
6899 (ア)全体
6900 制度趣旨については,
6901 一応の言及があったものの,
6902 それとの関係からいか
6903 なる判断基準を採るべきか,
6904 論理的なつながりに欠ける答案が目立った。
6905
6906
6907 らに,
6908 個々の問題での論述の段階では,
6909 特許法第69条第1項の制度趣旨や
6910 判断基準から論理を展開することなく,
6911 個々的な利益衡量に終始した説明に
6912 とどまっている答案が目立った。
6913
6914
6915 (イ)乙行為1及び2について
6916 設問1の乙行為1は本件発明自体の特許性を調査する場合について,
6917 乙行
6918 為2は本件発明自体から更に改良する場合について,
6919 それぞれ問う問題であ
6920 るから,
6921 特許法第69条第1項について対象や目的で限定する説とより広く
6922 技術の進歩・発明の奨励で足りるとする説では,
6923 おのずから論述の内容が異
6924 なるはずである。
6925
6926 しかし,
6927 制度趣旨や判断基準から結論を導き出すという思
6928 考順序に欠ける答案が多かった。
6929
6930
6931 また,
6932 試験・研究目的の行為は「業として」の発明実施行為に当たらない
6933 として,
6934 侵害を否定する答案が少なからず見られたが,
6935 同項の規定は,
6936 試験・
6937
6938 - 61 -
6939
6940 研究のための実施行為が「業として」行われ得ることを前提としており,
6941
6942 つ,
6943 本件における乙の行為は「業として」行われたと認めるべきであるから,
6944
6945 そのような解釈は適切でない。
6946
6947
6948 さらに,
6949 同項に全く触れないもの,
6950 条文に気付いても,
6951 理由も付さずに,
6952
6953 単に「試験又は研究」だからといった条文の文言をそのまま適用して,
6954 同項
6955 により許されるとの答案が多く見られた。
6956
6957
6958 (ウ)乙行為3について
6959 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲の画定と要旨認定
6960 は,
6961 近時活発に議論されているにもかかわらず,
6962 これに全く言及せず,
6963 甲が
6964 特許請求の範囲を補正した点を捉えて出願経過禁反言に言及する答案や均等
6965 論を展開する答案,
6966 単に製法が異なるから本件発明の技術的範囲に属さない
6967 との答案などが多く見られた。
6968
6969
6970 プロダクト・バイ・プロセス・クレームに言及するものの,
6971 自説を展開し
6972 ない答案,
6973 曖昧な基準を示すにとどまる答案も散見された。
6974
6975
6976 しかし,
6977 本件はそのような論理構成のみでは十分な解答にはならない。
6978
6979
6980 ロダクト・バイ・プロセス・クレームについて,
6981 どのような立場を採るにせ
6982 よ,
6983 特許請求の範囲にその製法が記載された理由に基づいて論じなければ,
6984
6985 妥当な結論には至らない。
6986
6987
6988 プロダクト・バイ・プロセス・クレームの問題については,
6989 近時,
6990 前掲知
6991 財高裁判例【プラバスタチンナトリウム事件(大合議)】が出されているわ
6992 けであるから,
6993 物同一説を採るにせよ,
6994 製法限定説を採るにせよ,
6995 この裁判
6996 例の論理構成に言及し,
6997 自説を展開することが必要である。
6998
6999
7000 また,
7001 真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと不真正プロダクト・
7002 バイ・プロセス・クレームの判断基準を書きながら,
7003 化合物αが公知文献に
7004 記載されていたことを理由として,
7005 方法で特定せざるを得なかったものであ
7006 るから,
7007 構造・特性で特定することが困難な場合に当たるとして,
7008 これを真
7009 正プロダクト・バイ・プロセス・クレームとする答案が見られたが,
7010 このよ
7011 うな場合が「構造又は特性で特定することが不可能又は困難な場合」に当た
7012 らないことは明らかであるから,
7013 このような論法は誤りであり,
7014 プロダクト・
7015 バイ・プロセス・クレームを理解していないと言わざるを得ない。
7016
7017
7018 無効の抗弁(同法第104条の3)に言及する答案は極めて少なかった。
7019
7020
7021 しかし,
7022 物同一説に立つかあるいは真正プロダクト・バイ・プロセス・ク
7023 レームと認定する場合は,
7024 特許庁が本件発明につき特許査定をしたこと自体
7025 が誤りとなり,
7026 無効審判により無効にされるべきであることになるので,
7027
7028 はこの点も防御方法として主張できることに注意すべきである。
7029
7030
7031 製法限定説を採るか,
7032 不真正プロダクト・バイ・プロセス・クレームと認
7033 定した場合は,
7034 均等侵害に当たるかどうかも問題となるが,
7035 均等論の各要件
7036 を十分に検討した答案はほとんどなかった。
7037
7038
7039 ウ 設問2
7040 (ア)全体
7041 特許法第69条第1項の解釈を示しそれに各行為を当てはめている答案は
7042 少なく,
7043 多くの答案は各行為をその場限りに評価しており,
7044 設問1以上に根
7045
7046 - 62 -
7047
7048 本的な制度趣旨や基本的な判断基準と無関係に論述している答案が目立っ
7049 た。
7050
7051
7052 (イ)丙行為1について
7053 上記判例に全く気付かず,
7054 何ら性質決定もせず,
7055 理由も付さずに単に同項
7056 により許されるとする,
7057 問題点を全く理解していないと思われる答案が散見
7058 された。
7059
7060
7061 (ウ)丙行為2について
7062 市場調査目的であることを全く考慮せず,
7063 存続期間満了後の販売のための
7064 最小限の行為だから許されるとする答案,
7065 少量であり損害が生じていないか
7066 ら同項により許されるとの答案が散見され,
7067 さらに,
7068 製造数が少数であるた
7069 め「業として」の実施に当たらないとするものもあったが,
7070 「業として」の
7071 実施か否かは,
7072 製造された数のみで決まるわけではない。
7073
7074
7075 (エ)丙行為3について
7076 単なる製造承認を得る目的の添付資料のための製造行為を超えて特許権の
7077 存続期間が満了した場合に即時販売できるようにするための製造行為である
7078 ことを全く考慮することなく,
7079 同項に触れず,
7080 「業」に当たるか否かを判断
7081 している答案,
7082 いまだ市場に流通していないため損害がないとする答案,
7083
7084 由も付さずに単に同項により許されるとの答案が散見された。
7085
7086
7087 エ 設問3
7088 解答する時間を適切に配分していないためか,
7089 設問3について僅かしか記載
7090 しない答案が多かった。
7091
7092
7093 設問3は,
7094 消尽の問題であるが,
7095 消尽に全く言及しない答案も少なくなかっ
7096 た。
7097
7098 また,
7099 多くの答案は,
7100 消尽に気付いていたが,
7101 前掲最高裁判例【インクタ
7102 ンク事件】の論理構成を十分に踏まえていない答案が目立った。
7103
7104 特に,
7105 この判
7106 例が,
7107 判断基準について,
7108 特許製品の属性,
7109 特許発明の内容,
7110 加工及び部材の
7111 交換の態様,
7112 取引の実情等を総合考慮して判断する,
7113 としているのに対し,
7114
7115 らそれらの要素に言及することなく,
7116 単に結論のみ示す答案が多かった。
7117
7118 しか
7119 し,
7120 実務では,
7121 事実関係如何によって結論が異なるわけであるから,
7122 上記要素
7123 の丁寧な検討を経ないと結論が得られず,
7124 十分な答案にはならない。
7125
7126
7127 (2) 第2問
7128 ア 総評
7129 本問は,
7130 建築に関し,
7131 著作権・著作者人格権とそれらの制限に関する基本的
7132 な理解を問うものであるが,
7133 各支分権に関する網羅的な摘出に欠ける答案が目
7134 立った。
7135
7136 著作権・著作者人格権とそれらの制限について,
7137 条文の各要件の検討
7138 が不足している答案も多かった。
7139
7140
7141 また,
7142 設問3について僅かしか記載しないなど,
7143 途中答案が散見された。
7144
7145
7146 イ 設問1
7147 (ア)設計図αの著作物性
7148 設計図αの著作物性に言及しない答案が散見された。
7149
7150
7151 また,
7152 設計図αの著作物性に言及するも,
7153 どのような観点から著作物性を
7154 認め得るのか(あるいは否定されるのか)を具体的に検討していない答案が
7155 多かった。
7156
7157 しかし,
7158 著作権の及ぶ範囲や権利制限規定の適用などを検討する
7159
7160 - 63 -
7161
7162 ためには,
7163 著作物性に関する具体的な認定が前提となるはずである。
7164
7165
7166 (イ)設計図αの氏名表示権侵害・公表権侵害
7167 氏名表示権と公表権については,
7168 設計図αのコピーを複数の建築業者に見
7169 せた行為がそもそも公衆に対する提示に当たるのかについて,
7170 論述していな
7171 い答案も目立った。
7172
7173 また,
7174 氏名表示権につき,
7175 原作品についてのみ認められ
7176 る権利と誤解している答案が数多く見られた。
7177
7178
7179 (ウ)住居Aの著作物性
7180 建築の著作物性につき,
7181 どのような観点から著作物性を認め得るのか(あ
7182 るいは否定されるのか)を具体的に検討していない答案,
7183 何ら判断基準を示
7184 すことなく,
7185 単に住居とは思えないような奇抜な家であるから著作物性があ
7186 るという答案が多く見られた。
7187
7188
7189 建築につき,
7190 美術の著作物とする答案も散見されたが,
7191 そのような判断を
7192 するに際して,
7193 建築の著作物と美術の著作物の関係をどう捉えているのか,
7194
7195 本件の建築の著作物性をどう評価するのかを具体的に論じていたものはごく
7196 少数にとどまった。
7197
7198
7199 (エ)建築による住居Aの複製権侵害
7200 著作権法第2条第1項第15号ロに全く気付かない答案,
7201 あるいは単に同
7202 号ロに当たるとして複製権侵害とする答案が散見された。
7203
7204
7205 建築したのはCであって,
7206 なぜAが責任を負うのかについても一言触れる
7207 べきである。
7208
7209
7210 (オ)住居Aの譲渡権侵害
7211 建築の著作物の譲渡権侵害に気付かない答案,
7212 論述していてもその要件に
7213 ついて十分な言及がない答案が目立った。
7214
7215 特に,
7216 公衆への提供を認定せずに
7217 侵害を認める答案も多く見られた。
7218
7219
7220 また,
7221 消尽を問題とする答案が散見されたが,
7222 そもそも適法な譲渡がない
7223 から消尽は問題にならないと言うべきである。
7224
7225
7226 建築の著作物の著作権侵害を肯定する場合は,
7227 同法第46条の適否も併せ
7228 て検討すべきであるが,
7229 それに言及する答案は極めて少なかった。
7230
7231
7232 (カ)図面の著作物と建築の著作物との関係
7233 図面の著作物性と建築の著作物性を明確に区別せずに,
7234 両者を渾然一体の
7235 ものとして論じる答案が散見された。
7236
7237 図面の著作物の創作性(作図上の工夫)
7238 と建築の著作物の創作性(造形芸術と評価し得るだけの芸術性)は原則とし
7239 て異なるのであり,
7240 それぞれの創作性については,
7241 まず,
7242 区別して,
7243 その判
7244 断基準を論じるべきである。
7245
7246
7247 (キ)その他
7248 設計図αのコピーにつき,
7249 私的複製(同法第30条)であるが同法第49
7250 条第1項第1号が適用されるとの答案が散見された。
7251
7252
7253 ウ 設問2
7254 ほとんどの答案が同一性保持権侵害について言及していたが,
7255 著作権法第
7256 20条第2項第2号の適用の可否について全く言及しなかったり,
7257 言及しても
7258 解釈が不十分な答案が散見された。
7259
7260
7261 翻案権侵害についても検討している答案は少なかった。
7262
7263 翻案権侵害が成立す
7264
7265 - 64 -
7266
7267 ると判断する場合は,
7268 同法第46条の適用の可否についても言及すべきである
7269 が,
7270 言及している答案はごく少数であった。
7271
7272
7273 エ 設問3
7274 本設問はミニチュアの製作販売を問題としており,
7275 写真撮影については問題
7276 となっていないにもかかわらず,
7277 写真撮影をしたことが複製権侵害になるか否
7278 かを長々と論じる答案が複数あった。
7279
7280 問題文をよく読み,
7281 何が問われているか
7282 把握すべきである。
7283
7284
7285 複製権侵害・譲渡権侵害に言及しながら,
7286 著作権法第46条柱書の適用につ
7287 いて全く触れていない答案が散見された。
7288
7289
7290 多くの答案が,
7291 同条柱書,
7292 そして,
7293 同条第2号又は第4号の適用については
7294 言及していたが,
7295 十分に説明しているものは少なかった。
7296
7297
7298 また,
7299 同条について誤解している答案が散見された。
7300
7301 例えば,
7302 同条の対象と
7303 なる建築の著作物について,
7304 同法第45条第2項に規定する屋外の場所に恒常
7305 的に設置されているものに該当することを要件とすると誤解している答案が見
7306 られた。
7307
7308
7309
7310
7311 今後の出題
7312 出題方針について変更すべき点は特にない。
7313
7314 今後も,
7315 特許法及び著作権法を中心
7316 として,
7317 条文,
7318 判例及び学説の正確な理解に基づく,
7319 事案分析力,
7320 論理的思考力を
7321 試す出題を継続することとしたい。
7322
7323
7324
7325
7326
7327 今後の法科大学院教育に求められるもの
7328 論点の内容についてはそれなりに記載されているものの,
7329 実務において重要な事
7330 実関係の把握・分析が不十分と思われる答案が多かった。
7331
7332 法科大学院は実務家を養
7333 成する教育機関であるから,
7334 論点中心の教育ではなく,
7335 実際の訴訟等を想定して,
7336
7337 具体的事案の中から,
7338 実務家なら当然なすべき主張を抽出し,
7339 それについて的確に
7340 論述する能力を広く養うような教育が求められる。
7341
7342
7343 また,
7344 明文の規定があるにもかかわらず,
7345 条文を指摘せずに解釈論を展開する答
7346 案が多数あったが,
7347 条文解釈が基本であるから,
7348 条文を前提とした解釈を意識した
7349 学習を指導することが求められる。
7350
7351
7352 さらに,
7353 最高裁判例や判断基準を示す裁判例があるにもかかわらず,
7354 その判旨を
7355 全く無視して自説を展開する答案も目立った。
7356
7357 繰り返しになるが,
7358 法科大学院は実
7359 務家を養成する教育機関なのであるから,
7360 判例を念頭に置いた学習を常に心掛ける
7361 ことが望まれる。
7362
7363
7364
7365 - 65 -
7366
7367 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(労働法)
7368
7369
7370 出題の趣旨,
7371 狙い等
7372 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
7373
7374
7375
7376
7377
7378 採点方針
7379 事例に即して必要な論点を的確に抽出できているか,
7380 関係する法令,
7381 判例及び学
7382 説を正確に理解し,
7383 これを踏まえて,
7384 論理的かつ整合性のある法律構成及び事実の
7385 当てはめによって,
7386 適切な結論を導き出しているかを基準に採点した。
7387
7388
7389 出題の趣旨に沿って,
7390 必要な論点を的確に取り上げた上,
7391 その論述が期待される
7392 水準に達している答案については,
7393 おおむね平均以上の得点を与え,
7394 さらに,
7395 当て
7396 はめにおいて必要な事実を過不足なく摘示し,
7397 あるいは,
7398 主要論点について,
7399 着目
7400 すべき問題点を事例から適切に読み取って検討しているなど,
7401 優れた事例分析や考
7402 察が認められる答案については,
7403 更に高い得点を与えることとした。
7404
7405
7406
7407 3 採点実感等
7408 (1) 第1問について
7409 本問は,
7410 @職種変更命令の有効性につき,
7411 その法的根拠を摘示して,
7412 Y社とX
7413 1らとの間で職種限定合意が成立していたかを明らかにした上で,
7414 成立していな
7415 いとの見解を採った場合にはY社による職種変更命令が権利濫用となるかを問
7416 い,
7417 AYとX2との間の契約関係につき,
7418 X2による「後に裁判で争うことを伝
7419 えた上で,
7420 早期退職募集及び再雇用に応ずる旨」の申出が留保付承諾として有効
7421 であるかを問い,
7422 さらに,
7423 BY社のX3(及び前記留保付承諾が認められないと
7424 の見解を採った場合のX2)に対する解雇の有効性につき,
7425 いわゆる変更解約告
7426 知に対する解雇権濫用法理の適用を問う問題である。
7427
7428
7429 前記@の職種変更命令の有効性については,
7430 その法的根拠に関しては全体的に
7431 おおむね良好な論述がなされていた。
7432
7433 もっとも,
7434 この論点に限ったことではない
7435 が,
7436 答案において,
7437 根拠となる,
7438 あるいは問題となる条文を一切引用していない
7439 答案が少数ながら存在した。
7440
7441 実務家にとって,
7442 論証のよりどころとなるのは,
7443
7444 一に実定法上の規定であり,
7445 解釈論はあくまでもそれを補うためのものであるか
7446 ら,
7447 関連条文については,
7448 これに言及することを励行されたい。
7449
7450
7451 次に,
7452 職種限定合意については,
7453 多くの答案がこれに言及していたものの,
7454
7455 かる合意の有無につき,
7456 結論しか書いておらず,
7457 十分に論述できていない答案も
7458 散見された。
7459
7460 本問の事例は,
7461 日産自動車村山工場事件判決(最判平元年12月7
7462 日)の事案を参考にしたものであるところ,
7463 同判決を含めたこれまでの裁判例に
7464 よる判断枠組みを踏まえて規範を定立し,
7465 丁寧な当てはめを行っていた答案には
7466 高い得点を与えた。
7467
7468
7469 Y社による職種変更命令が権利濫用となるかについては,
7470 多くの答案が,
7471 東亜
7472 ペイント事件判決(最判昭61年7月14日)を踏まえて規範を定立した上で当
7473 てはめを行っており,
7474 おおむね良好な論述がなされていた。
7475
7476 もっとも,
7477 当てはめ
7478 において,
7479 Y社にとって有利な事情(異動先が同じ甲工場で生産中の小型乗用車
7480 の塗装等であり勤務地に変更がないことなど)に全く言及せず,
7481 就業規則が要求
7482
7483 - 66 -
7484
7485 する意向の聴取を行っていないことのみをもって,
7486 職種変更命令が権利濫用であ
7487 る(あるいはそもそも職種変更命令権が発生しない)との結論を導いている答案
7488 が散見された。
7489
7490 司法試験が実務家となるための試験であることを踏まえれば,
7491
7492 例に現れている事情については,
7493 自己が導き出そうとする結論にとって有利・不
7494 利を問わずに言及し,
7495 丁寧な当てはめを心掛けるべきであり,
7496 かかる当てはめが
7497 できている答案には,
7498 より高い点を与えた。
7499
7500
7501 前記Aの留保付承諾の有効性については,
7502 多数の答案が言及し,
7503 その問題意識
7504 については,
7505 おおむね良好な論述ができていたといえよう。
7506
7507 もっとも,
7508 民法第
7509 528条から,
7510 直ちに,
7511 X2の留保付承諾が新たな申込みとなり,
7512 Y社による拒
7513 絶が有効であるとの結論を導き出している答案も散見された。
7514
7515 しかしながら,
7516
7517 題者としては,
7518 留保付承諾を認めるとの見解を採るにせよ,
7519 認めないとの結論を
7520 採るにせよ,
7521 民法第528条の形式的適用から生ずる不都合をいかに回避すべき
7522 か,
7523 あるいは,
7524 いかなる理由から原則論を貫くべきかを変更解約告知との関連で
7525 論述してほしかったところであり,
7526 実際にこれを丁寧に論述できていた答案には,
7527
7528 より高い得点を与えた。
7529
7530
7531 前記Bの変更解約告知に対する解雇権濫用法理の適用については,
7532 大半の答案
7533 が言及できていた。
7534
7535 もっとも,
7536 変更解約告知は,
7537 単なる整理解雇とは異なり,
7538
7539 働条件変更の手段として行われるという特殊性を持つことから,
7540 解雇権濫用法理
7541 の適用においては,
7542 この特殊性を考慮に入れて規範を定立すべきではないかとい
7543 う問題意識を的確に論述できている答案は,
7544 出題者が想定していたよりも少な
7545 かった。
7546
7547 実際,
7548 答案の中には,
7549 かかる問題意識に言及せずに,
7550 本件の解雇は整理
7551 解雇である旨だけ述べて,
7552 いきなり整理解雇の四要件(ないしは四要素)を定立
7553 して当てはめを行う答案が少なからず存在したが,
7554 最終的に整理解雇と同じ基準
7555 で規範を定立するにせよ,
7556 前述のような問題意識を論述できていた答案に比して,
7557
7558 相応の点数しか与えられなかった。
7559
7560
7561 (2) 第2問について
7562 本問は,
7563 労働組合法(以下「労組法」という。
7564
7565 )上の「労働者」の概念及び判
7566 断基準について,
7567 労働基準法(以下「労基法」という。
7568
7569 )における「労働者」の
7570 概念との異同に関する理解を問うとともに,
7571 その理解を踏まえて,
7572 本問の事例に
7573 おける甲が労組法上の「労働者」に該当するか否かを問う問題である。
7574
7575 労働法に
7576 おける最も基本的な論点の一つに関する設問であり,
7577 事例問題に加えて,
7578 労働者
7579 の概念に関する「概説」を求めた。
7580
7581
7582 まず,
7583 労組法上の労働者概念に関する「概説」においては,
7584 労組法と労基法の
7585 趣旨・目的の異同について論じ,
7586 そこから生ずる労働者の概念の異同を論じた上
7587 で,
7588 労基法上の労働者性の判断基準と比較しつつ,
7589 労組法上の労働者性の判断基
7590 準を論ずる必要がある。
7591
7592 多くの答案は,
7593 この論点を的確に捉えていたが,
7594 そのレ
7595 ベルは多様であった。
7596
7597 すなわち,
7598 労組法と労基法の趣旨・目的の異同について的
7599 確に論じた上で,
7600 労組法上の労働者は,
7601 団体交渉助成のための労組法の保護を及
7602 ぼすべき者はいかなる者かという観点から定義されるものであることを指摘し,
7603
7604 労基法上の労働者より広範な労務供給者をカバーする概念であることを論ずる優
7605 れた答案が見られる一方,
7606 労組法・労基法の趣旨・目的を十分論ずることなく,
7607
7608 労組法上の労働者は使用者に対して経済的従属性を有する者であるとの結論を述
7609
7610 - 67 -
7611
7612 べるにとどまる答案も相当数見られた。
7613
7614
7615 また,
7616 労組法上の労働者の判断基準については,
7617 INAXメンテナンス事件判
7618 決(最判平23年4月12日)等の判例による判断枠組みを踏まえて判断基準を
7619 定立する必要があるところ,
7620 相当数の答案は,
7621 判例の判断枠組みを正確に理解し
7622 て解答し,
7623 その中には,
7624 各判断基準が労組法上の労働者を判断する上で有する意
7625 義を的確に論ずる優れた答案も見られた。
7626
7627 他方,
7628 労組法上の労働者と労基法上の
7629 労働者の概念の差異を肯定しながら,
7630 判断基準については結局同一に帰すると論
7631 ずる答案や,
7632 判断基準の定立自体が不十分な答案も散見された。
7633
7634 もとより,
7635 判例
7636 による判断枠組み以外の基準に基づく解答が排斥されるわけではないが,
7637 司法試
7638 験が実務家となるための試験であることを踏まえれば,
7639 仮に判例と異なる立場に
7640 立つとしても,
7641 判例の判断枠組みを十分理解し,
7642 これに言及する必要があること
7643 を十分に認識していただきたい。
7644
7645
7646 次に,
7647 本問の事例への当てはめについては,
7648 相当数の答案は,
7649 判例の判断枠組
7650 みを正確に理解した上,
7651 事業組織への組入れ,
7652 契約内容の一方的決定,
7653 報酬の労
7654 務対償性,
7655 使用従属性(指揮監督下の労働,
7656 時間的・場所的拘束性,
7657 仕事の依頼,
7658
7659 業務従事の指示等に対する諾否の自由)等の判断基準を摘示した上,
7660 事例に示さ
7661 れた事実に当てはめて解答していた。
7662
7663 ただし,
7664 本問の事実関係は相当に複雑であ
7665 るため,
7666 上記判断基準の当てはめの仕方については,
7667 通り一遍の当てはめを行う
7668 ものから,
7669 事実関係を深く読み込んで当てはめを行うものまで様々であった。
7670
7671
7672 れた実務家を志す者の選抜という司法試験の趣旨を踏まえて,
7673 後者のタイプの答
7674 案には高得点を与えている。
7675
7676 また,
7677 本問では,
7678 C社と甲が業務委託契約を締結し,
7679
7680 同契約上,
7681 それぞれ独立した事業者であることを認識した上で契約を遂行する旨
7682 の条項があるため,
7683 こうした契約形式をどのように理解し,
7684 労組法上の労働者の
7685 判断に際してどのように判断するかも問われるところであるが,
7686 この点について
7687 は,
7688 結論はともかく,
7689 出題の趣旨を認識して解答する答案が比較的多数であった。
7690
7691
7692
7693
7694 答案の評価
7695 「優秀」の水準にあると認められる答案とは,
7696 出題の趣旨を十分に理解した論述
7697 がなされている答案である。
7698
7699 第1問については,
7700 必要な論点を過不足なく抽出し,
7701
7702 関係条文に言及することはもとより,
7703 判例の判断の枠組みを踏まえた的確な規範定
7704 立と当てはめを行い,
7705 説得的な論述を行っている答案であり,
7706 第2問については,
7707
7708 労働者の概念に関する「概説」において,
7709 労組法と労基法の趣旨・目的の異同を的
7710 確に理解し,
7711 労働者概念の異同を論じた上,
7712 それぞれにおける労働者の判断基準を
7713 判例を踏まえて定立し,
7714 事例への当てはめについても,
7715 事実関係を深く読み込んで
7716 具体的に論述し,
7717 結論を導いている答案である。
7718
7719
7720 「良好」の水準にあると認められる答案とは,
7721 必要な論点にはおおむね言及し,
7722
7723 法解釈について一定の見解を示した上で,
7724 事例から,
7725 結論を導き出すのに必要な具
7726 体的事実を抽出できている一方で,
7727 例えば,
7728 第1問では,
7729 職種限定合意の有無に関
7730 し,
7731 規範定立と当てはめが丁寧になされていない答案や,
7732 変更解約告知の特殊性を
7733 十分に意識した論証ができていない答案,
7734 第2問では,
7735 労働者の概念に関する「概
7736 説」において,
7737 判例については理解しているものの,
7738 労組法と労基法の趣旨・目的
7739 の異同に関する理解が不十分であるため,
7740 労組法上の労働者に関する論述が十分に
7741
7742 - 68 -
7743
7744 できていない答案や,
7745 事例への当てはめにおいて,
7746 判例の判断枠組みを機械的に当
7747 てはめるにとどまる答案など,
7748 「優秀」の水準にあると認められる答案のように出
7749 題の趣旨を十分に捉え切れていないような答案である。
7750
7751
7752 「一応の水準」にあると認められる答案とは,
7753 労働法の基本的な論点に対する一
7754 定の理解はあるものの,
7755 必要な論点に言及していなかったり,
7756 言及していたとして
7757 も,
7758 規範定立や当てはめがやや不十分な答案であり,
7759 関係条文・判例に対する知識
7760 の正確性に難があり,
7761 事例における具体的な事実関係を前提に要証事実を的確に捉
7762 えることができていないような答案である。
7763
7764
7765 「不良」の水準にあると認められる答案とは,
7766 関係条文・判例に対する知識に乏
7767 しく,
7768 労働法の基本的な考え方を理解せず,
7769 例えば,
7770 規範を定立せずに単に問題文
7771 中の具体的な事実を列挙するにとどまるなど,
7772 具体的事実に対応して法的見解を展
7773 開するというトレーニングを経ておらず,
7774 基本的な理解・能力が欠如していると思
7775 料される答案である。
7776
7777
7778
7779
7780 今後の出題
7781 出題方針について変更すべき点は特にないと考える。
7782
7783 今後も,
7784 法令,
7785 判例及び学
7786 説に関する正確な理解に基づき,
7787 事例を的確に分析し,
7788 必要な論点を抽出して,
7789
7790 己の法的見解を展開し,
7791 これを事実に当てはめることによって,
7792 妥当な結論を導く
7793 という,
7794 法律実務家に求められる基本的な能力及び素養を試す出題を継続すること
7795 としたい。
7796
7797
7798
7799
7800
7801 今後の法科大学院教育に求めるもの
7802 基本的な法令,
7803 判例及び学説については,
7804 正確な理解に基づき,
7805 かつ,
7806 基本的な
7807 概念に関する知識を習得するように更なる指導をお願いしたい。
7808
7809 その際,
7810 条文の内
7811 容を正確に理解することはもとより,
7812 当該規定の趣旨を踏まえて事案に適用する能
7813 力が求められるほか,
7814 主要な判例については,
7815 判旨部分を単に記憶するのではなく,
7816
7817 事案の内容を正確に把握し,
7818 当該事実関係の下でどのような規範を定立して当ては
7819 めが行われたかを理解する必要があることに十分配意いただきたい。
7820
7821 また,
7822 事例の
7823 分析の前提となる基礎的事実を正しく把握し,
7824 結論を導くために必要な論点を抽出
7825 した上,
7826 論点相互の関連性を意識しつつ,
7827 法令,
7828 判例及び学説を踏まえた論理的か
7829 つ一貫性のある解釈論を展開し,
7830 これに適切に事実の当てはめを行って,
7831 法の趣旨
7832 に沿った妥当な結論を導くという,
7833 法的思考力を更に養成するよう重ねてお願いし
7834 たい。
7835
7836
7837
7838 - 69 -
7839
7840 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(環境法)
7841 【第1問について】
7842 1 出題の意図に即した答案の存否,
7843 多寡
7844 第1問は,
7845 水質汚濁防止法の2011年改正により導入された有害物質貯蔵指定
7846 施設制度をめぐる同法の規制システムに関する出題である。
7847
7848 同制度が導入された法
7849 政策的意義を環境法の基本的考え方(汚染者支払原則・原因者負担原則,
7850 未然防止
7851 アプローチ・未然防止原則)に照らして理解しているかを問い(設問1),
7852 実施制
7853 限がある届出制の仕組みを刑事責任の観点から整理して説明できるかを問い(設問
7854 2),
7855 基準違反の状況に対する行政措置の説明を求める(設問3)問題であった。
7856
7857
7858 設問1の採点を通じては,
7859 以下の点が実感された。
7860
7861 第1に,
7862 環境法の基本的考え
7863 方の一つとして,
7864 多くの答案が,
7865 未然防止アプローチを指摘し,
7866 その内容について
7867 記述できていた。
7868
7869 その上で,
7870 地下タンクからの漏出が確認されたためにその拡大を
7871 防ぐ趣旨であることに論及する答案は多かった。
7872
7873 第2に,
7874 もう一つの考え方である
7875 汚染者支払原則(PPP)を指摘できていない答案が多かったのは意外であった。
7876
7877
7878 これを指摘した答案であっても,
7879 積極的排水行為はないけれども環境に負荷を与え
7880 ることから原因者に負担を求めるという点にまで論及している答案は少なかった。
7881
7882
7883 第3に,
7884 未然防止アプローチではなく予防アプローチを記述した答案,
7885 両アプロー
7886 チを併記した答案が一定程度見られた。
7887
7888 原因行為と汚染との因果関係に関する知見
7889 が存在する本件は,
7890 未然防止アプローチの問題である。
7891
7892 また,
7893 科学的知見の程度に
7894 違いがあるため,
7895 両アプローチは併存し得ない。
7896
7897
7898 設問2の採点を通じては,
7899 以下の点が実感された。
7900
7901 第1に,
7902 本問は,
7903 水質汚濁防
7904 止法のもとでの届出制の仕組み,
7905 無届と評価された場合のサンクション等を条文に
7906 則して説明することが求められているが,
7907 「届出」「指導」という文言に着目する余
7908 りに,
7909 同法から離れて,
7910 行政手続法の一般的な説明を詳述する答案が多かった。
7911
7912
7913 境法においては,
7914 あくまで実定法の制度の理解が試されていることを忘れてはなら
7915 ない。
7916
7917 第2に,
7918 本件地下タンクが水質汚濁防止法上の「有害物質貯蔵指定施設」に
7919 該当するかどうかが大きなポイントであるところ,
7920 資料が添付されているにもかか
7921 わらず,
7922 その確認作業を全くしていない答案が散見された。
7923
7924 本件地下タンクが同法
7925 第5条第3項に規定される「有害物質貯蔵指定施設」に該当することを示すために
7926 は,
7927 同項にある「指定施設」「有害物質」「政令」について,
7928 資料を参照しつつ,
7929
7930 れぞれ丁寧に条文を引用して確定する作業が求められる。
7931
7932 第3に,
7933 「同意書提出は
7934 法的に求められない」ことについては多くの答案が指摘していたが,
7935 単に「配達によ
7936 り届出義務は果たされた」とする答案が散見された。
7937
7938 問題文に「水質汚濁防止法上
7939 必要とされる届出書及び関係書類一式を送付し」と書かれている点に着目し,
7940 「適
7941 式な届出がされている」ことを指摘すべきである。
7942
7943 第4に,
7944 届出後の実施制限をす
7945 る同法第9条第1項が問題になるところ,
7946 この条文に気付いていない答案が大多数
7947 であった。
7948
7949 届出をすれば直ちに行為が可能となると誤信している受験生が多いよう
7950 である。
7951
7952 環境法の基本的仕組みであり,
7953 条文に則した学習がされていない印象を受
7954 ける。
7955
7956 第5に,
7957 問題文に「刑事責任が問われることを懸念」とあるにもかかわらず,
7958
7959 どのような理由でそうなるのかについての整理を全くしていない答案が多かったの
7960 は意外であった。
7961
7962 設問への解答としては,
7963 刑事責任が問われないことを,
7964 関係条文
7965
7966 - 70 -
7967
7968 を示して指摘する必要がある。
7969
7970 行政手続法的整理は,
7971 その前提にすぎないにもかか
7972 わらず,
7973 大多数の答案が,
7974 そこで検討を終わっていた。
7975
7976 行政法的規制である実施制
7977 限について,
7978 水質汚濁防止法の関係条文を読み解いて的確に説明されている答案は
7979 少なかった。
7980
7981
7982 設問3の採点を通じては,
7983 以下の点が実感された。
7984
7985 第1に,
7986 「本件地下タンクの
7987 使用,
7988 及び地下水の汚染」というように,
7989 問題文には2つの場面が明記されている
7990 のに,
7991 一方についてしか解答しない答案が散見された。
7992
7993 第2に,
7994 措置の一つとして
7995 の浄化命令(同法第14条の3)の要件について,
7996 単に条文の該当箇所を引用する
7997 のみで,
7998 「地下水環境基準を大幅に超過する」という問題文を無視する答案が多数
7999 あった。
8000
8001 第3に,
8002 資料の施行規則を参照・引用せずに解答する答案も散見された。
8003
8004
8005 設問1及び2と比較すれば,
8006 単に条文の指摘をするのみの解答が目立ち,
8007 設問3に
8008 割り当てる時間が少なかったことが,
8009 記述内容から推測された。
8010
8011
8012
8013
8014 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
8015 水質汚濁防止法の下での届出は第5条に規定されるが,
8016 届出があったことの法的
8017 効果や無届及び実施制限違反への対応に関する関係規定を同法の仕組みの中で把握
8018 するという学習方法が徹底されていないのではないか。
8019
8020 通常,
8021 環境法は,
8022 第1条に
8023 規定される目的の実現のために,
8024 多くの仕組みを規定している。
8025
8026 単に一つの条文だ
8027 けではなく,
8028 問われている論点について,
8029 法律全体的観点から捉えることができる
8030 ような能力の養成が必要である。
8031
8032
8033
8034
8035
8036 各水準の答案のイメージ
8037 「優秀」といえる答案のイメージは,
8038 地下タンクに関する規制について,
8039 環境法
8040 の基本的考え方との関係で的確な整理ができているもの,
8041 届出をめぐる様々な規定
8042 を全体的観点から把握し,
8043 設置者に関する行政法的責任と刑事法的責任を明確に区
8044 別しつつ,
8045 条文の的確な指摘をして論じているものである。
8046
8047 「良好」といえる答案の
8048 イメージは,
8049 その程度がやや劣るものである。
8050
8051 「一応の水準」といえるのは,
8052 各設
8053 問において問われている問題点を何とか把握できている答案である。
8054
8055 「不良」な答
8056 案とは,
8057 それすらなし得ていないものである。
8058
8059
8060
8061 【第2問について】
8062 1 出題の意図に即した答案の存否,
8063 多寡
8064 第2問は,
8065 自然公園法の規制システムの基本的理解を問う出題である。
8066
8067 眺望利益
8068 や営業権等の侵害に対する民事訴訟,
8069 許可条件違反の際の行政訴訟について問い(設
8070 問1),
8071 公園管理団体が締結する風景地保護協定とその制度趣旨について説明を求
8072 め(設問2),
8073 さらに,
8074 海域公園地区の利用調整地区とその制度趣旨について問う
8075 (設問3)問題であった。
8076
8077
8078 設問1の採点を通じては,
8079 以下の点が実感された。
8080
8081 第1に,
8082 眺望利益侵害を理由
8083 とする建設工事の差止めについて書いているものが少なかったのは意外であった。
8084
8085
8086 問題文に景色と書かれていたからであろうが,
8087 Aにとっては眺望の問題となること
8088 を認識してほしい。
8089
8090 景観について国立景観訴訟最高裁判決を参照しつつ書いた答案
8091 にも一定の評価は与えたが,
8092 本来的に私益のもの(眺望)と,
8093 公益か私益かが明確
8094
8095 - 71 -
8096
8097 でないもの(景観)の相違の認識が十分でないため,
8098 国立景観訴訟最高裁判決の論
8099 理を無理に用いようとし,
8100 景観利益と営業利益(経済的利益)との関係を説明でき
8101 ずに論理が破綻した答案も相当あったことを明記しておきたい。
8102
8103 なお,
8104 財産権と人
8105 格権を同一のものとして扱う答案が少なからず見られたのは残念であった。
8106
8107 民法の
8108 初歩的な理解が不十分であることになろう。
8109
8110 なお,
8111 景観利益侵害に対して環境権,
8112
8113 自然享有権,
8114 自然の権利を理由とする差止めを問題とした答案にも一定の評価を与
8115 えた。
8116
8117
8118 第2に,
8119 サンゴの死滅に伴う売上げの減少を理由とするCに対する不法行為に基
8120 づく損害賠償請求について指摘した答案が少なかったのも意外であった。
8121
8122 ケアレス
8123 ミスの類いということになろう。
8124
8125
8126 第3に,
8127 甲県に対しては,
8128 Cの工事の施工が甲県知事の許可条件に反していると
8129 ころから,
8130 甲県知事が行為の中止を命じ,
8131 又は原状回復若しくはそれに代わるべき
8132 必要な措置を命ずる(自然公園法第34条)よう義務付け訴訟を提起することが考
8133 えられるが(行政事件訴訟法第3条第6項第1号,
8134 第37条の2),
8135 これについて
8136 はほとんどの答案が触れていた。
8137
8138 もっとも,
8139 自然公園法第34条の命令は,
8140 同法第
8141 32条に基づく許可条件に違反した場合に発出され得ることについて触れていたも
8142 のは必ずしも多くなかった。
8143
8144 原告適格についてはほとんどの答案が何らかの記述を
8145 していた。
8146
8147 なお,
8148 Cの工事の施工が許可条件に違反していることを理由とする許可
8149 の取消(撤回)訴訟について記述した答案についても一定の配慮をした。
8150
8151
8152 設問2の採点を通じては,
8153 以下の点が実感された。
8154
8155 公園管理団体(自然公園法第
8156 49条第1項。
8157
8158 なお,
8159 公園管理団体の業務については第50条第1号)及び「風景
8160 地保護協定制度」
8161 (同法第43条以下)については,
8162 ほとんどの答案が触れており,
8163
8164 この制度の趣旨についても触れるものが多かった。
8165
8166 他方,
8167 「その制度が法律上規定
8168 されていることの意味」として,
8169 協定の認可,
8170 公告があった後に,
8171 この協定には将
8172 来の土地所有者に対する承継効が発生すること(同法第48条)について指摘する
8173 ものは半分程度であった。
8174
8175 せっかくDが自己の所有する自然の風景地の管理を求め
8176 ていても,
8177 土地の所有者が変われば協定の効果がなくなってしまうのでは,
8178 継続的
8179 な自然保護は図れないのであり,
8180 問題文にも「自己の土地の風景を長く保存したい」
8181 と要望していることも記載しているのであって,
8182 この点の説明は必須である。
8183
8184
8185 設問3の採点を通じては,
8186 以下の点が実感された。
8187
8188 環境大臣が,
8189 海域公園地区内
8190 に利用調整地区の指定をすること(同法第23条)については,
8191 ほとんどの答案が
8192 触れていた。
8193
8194 利用調整地区制度が,
8195 指定された期間において,
8196 環境大臣が認定した
8197 場合にのみ立入りを認め(同法第23条第3項,
8198 第24条),
8199 認定申請の際に手数
8200 料を徴収することとされており(同法第31条),
8201 この制度が,
8202 利用可能人数の設
8203 定等により自然生態系の保全と持続的利用を推進しようとするものであることにつ
8204 いても説明されているものがほとんどであった。
8205
8206
8207 他方,
8208 海域公園地区では,
8209 動力船の使用について環境大臣の許可が必要とされて
8210 いる点(同法第22条第3項第7号)について触れるものは多くなかった。
8211
8212 それ以
8213 外に環境大臣の許可が必要とされている点(同法第22条第3項第2号),
8214 中止命
8215 令(同法第34条)等に触れるものは一定程度見られ,
8216 一定の評価を与えた。
8217
8218
8219
8220
8221 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
8222
8223 - 72 -
8224
8225 第2問に関する印象は,
8226 中心となる論点については書けるが,
8227 応用がきかないこ
8228 と,
8229 行政訴訟よりもむしろ民事訴訟の方の理解が十分でないことである。
8230
8231 また,
8232
8233 本的な制度の趣旨についての理解が必ずしも十分でないことも明らかになった。
8234
8235
8236
8237
8238 各水準の答案のイメージ
8239 「優秀」といえる答案のイメージは,
8240 自然の積極的・能動的管理のための制度に
8241 ついて的確に把握し,
8242 それを条文の摘示を通じて,
8243 明確に説明できているものであ
8244 る。
8245
8246 また,
8247 眺望と景観の相違を理解し,
8248 民事訴訟及び行政訴訟の基本を理解してい
8249 るものである。
8250
8251 「良好」といえる答案は,
8252 その程度がやや劣るものである。
8253
8254 「一応の
8255 水準」といえるのは,
8256 各設問において問われている問題点が何とか把握されている
8257 答案である。
8258
8259 「不良」な答案とは,
8260 それすらなし得ていないものである。
8261
8262
8263
8264 【学習者と法科大学院教育に求めるものについて】
8265 第1に,
8266 法科大学院の環境法の授業では,
8267 規制の仕組みが概説されているものと
8268 思われるが,
8269 特に主要な法律の基本的規制システムについては,
8270 テキストの概説を
8271 するだけではなく,
8272 実際に法令集を参照しつつ,
8273 条文の文言に即して理解させてほ
8274 しい。
8275
8276 また,
8277 学習者においては,
8278 法律の仕組みがなぜそうなっているかを考えつつ,
8279
8280 学習を進めていただきたい。
8281
8282
8283 第2に,
8284 環境個別法についても,
8285 一つ一つの条文だけではなく,
8286 法律の目的規定
8287 から法律の仕組みを捉え,
8288 問われている論点について,
8289 法律全体的観点から捉える
8290 ことができるような学習を進めていただきたい。
8291
8292
8293 第3に,
8294 環境訴訟については行政訴訟と民事訴訟の双方についてまんべんなく理
8295 解を進めるよう指導及び学習をお願いしたい。
8296
8297
8298
8299 - 73 -
8300
8301 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(公法系))
8302
8303
8304 出題の趣旨等
8305 既に公表されている出題の趣旨(「平成26年司法試験論文式試験問題出題趣旨
8306 【国際関係法(公法系)科目】」)に記載したとおりである。
8307
8308
8309
8310
8311
8312 採点方針
8313 国際関係法(公法系)については,
8314 従来と同様に,
8315 @国際公法の基礎的な知識を
8316 習得し,
8317 かつ,
8318 設問に関係する国際公法の基本的な概念,
8319 原則・規則及び関係する
8320 理論や国際法判例を正確に理解できているか,
8321 A各設問の内容を理解し必要な国際
8322 法上の論点に触れているか,
8323 問題の事例に対する適切な考察がなされているか,
8324 B
8325 答案の法的構成がしっかりしており,
8326 かつ論理的な文章で適切な理由付けがなされ
8327 ているか,
8328 といった点を重視している。
8329
8330
8331
8332 3 採点実感等
8333 (1) 第1問
8334 各設問の趣旨と押さえるべき主要論点については,
8335 前述の出題の趣旨で述べて
8336 いるので繰り返さない。
8337
8338
8339 設問1は優れた又は良好な内容の解答が比較的多数あったが,
8340 中には甲国の声
8341 明が留保か解釈宣言かを専ら論述した解答や,
8342 A海峡には通過通航制度が適用さ
8343 れるとした解答も若干数あった。
8344
8345 大多数の答案が無害通航の定義及び無害性の判
8346 断基準に何らかの形で触れてはいたが,
8347 海洋法条約第19条第1項と第2項の関
8348 係,
8349 船種別規制説と態様別規制説の違いにも触れながら軍艦及び乙国向け武器積
8350 載船(以下「軍艦等」という。
8351
8352 )に無害通航権が認められるか否かを体系的に論
8353 述できた優れた答案は半数弱であった。
8354
8355 解答者の多くは態様別規制説を採用し,
8356
8357 軍艦等にも領海内無害通航権が認められ,
8358 沿岸国は通航に事前許可を要求できな
8359 いと解答していた。
8360
8361 他方,
8362 沿岸国による船種別規制は完全には排除されていない
8363 という立場を採った解答も相当数あった。
8364
8365 学説及び国家実行が分かれている問題
8366 であり,
8367 いずれの立場を採るにしても,
8368 海洋法条約第17条,
8369 第19条,
8370 第24
8371 条,
8372 第30条などの関連規定の整合性のある解釈,
8373 軍艦等の無害通航に関する海
8374 洋大国及び沿岸国の国家実行やコルフ海峡事件ICJ判決などの先例を踏まえた
8375 論証がどれだけ簡潔かつ正確に展開できているかが重要である。
8376
8377 また本問の場合,
8378
8379 海洋法条約第45条第2項が,
8380 A海峡のような国際海峡において,
8381
8382 「無害通航は,
8383
8384 停止してはならない」と定めていることの意味にも触れる必要があるが,
8385 この点
8386 に言及できた解答は少数にとどまった。
8387
8388
8389 設問2は,
8390 比較的少数の優れた解答とそうでない解答がはっきりと分かれた。
8391
8392
8393 本問の場合,
8394 Z軍の行為が,
8395 国家責任条文第8条に定める規則に従って,
8396 事実上
8397 甲国の指示に基づき又は甲国の指揮若しくは支配の下に行動していたといえるか
8398 どうかが問題の焦点であるが,
8399 解答者の約6割がZ軍の行為は甲国の指揮又は支
8400 配下にあったと解答し,
8401 約4割がこれを否定した。
8402
8403 しかしニカラグア事件及びジェ
8404 ノサイド事件のICJ判決は,
8405 外国の反政府武装集団の違法行為が国に帰属する
8406 ためには,
8407 @当該武装集団が事実上国の機関と同視されるほど国に完全従属して
8408
8409 - 74 -
8410
8411 いること,
8412 又は,
8413 A当該武装集団の具体的な作戦行動に対する国の実効的支配が
8414 及んでいることが必要であるという解釈を採用し,
8415 財政的その他の援助によって
8416 武装集団に対して国の一般的支配が及んでいるだけでは国の行為とはみなされな
8417 いと判断している。
8418
8419 @は国家責任条文第8条の例というより武装集団が事実上の
8420 国家機関となるほど完全従属する場合で,
8421 本問には適用できないが,
8422 Aは第8条
8423 を適用する上でICJが厳格な基準(ニカラグア基準)を採用してきたことを示
8424 す。
8425
8426 この点を踏まえた上で,
8427 この基準を本問の事実に適用するとどうなるか,
8428
8429 たニカラグア基準とは異なる基準を採用するのであればその理由は何かを示して
8430 論述する必要がある。
8431
8432 しかし,
8433 こうした点に踏み込んだ答案はそれほど多くなく,
8434
8435 甲国によるY連盟及びZ軍に対する財政援助,
8436 訓練及び武器供与があるという事
8437 実のみを挙げてZ軍による乙国原油生産施設の破壊行為は甲国に帰属すると結論
8438 し,
8439 Y連盟及びその指揮下に行動するZ軍の自律性を考慮しなかった答案が多
8440 かった。
8441
8442
8443 設問3は,
8444 自衛権一般及び集団的自衛権を行使できるための一般国際法上及び
8445 国連憲章上の要件の概要については,
8446 大多数の受験者が記述できていた。
8447
8448 しかし,
8449
8450 本問で設定された事例にこれを適用する点で,
8451 ニカラグア事件をはじめICJの
8452 判決や勧告的意見に示された解釈あるいは国家及び国際連合安全保障理事会等の
8453 実行をどのように評価し,
8454 援用するかによって,
8455 説得力のある答案とそうでない
8456 答案が大きく分かれた。
8457
8458 丙国の主張内容を見れば,
8459 武力攻撃の発生に関連して,
8460
8461 @甲国によるY連盟及びZ軍(以下「Z軍等」という。
8462
8463 )に対する財政支援,
8464
8465 練及び武器供与(以下「軍事援助」という。
8466
8467 )は武力攻撃とはいえない,
8468 AZ軍
8469 等による乙国化学工場施設に対する軍事作戦は甲国による武力攻撃とはいえな
8470 い,
8471 BZ軍が化学工場施設への軍事作戦に着手しただけでは武力攻撃の発生には
8472 当たらない,
8473 C乙国に対する武力攻撃の事実に関する同国の宣言と同国から丙国
8474 に対する支援要請がないため,
8475 丙国は集団的自衛権を行使できないといった反論
8476 が可能であり,
8477 実際多数の解答が,
8478 これらの論点に触れていた。
8479
8480 もっともその際
8481 には,
8482 援用の必要はないが,
8483 可能な限り次のような裁判所判決や国家実行などを
8484 踏まえた簡潔で説得的な論述が望まれる。
8485
8486 例えば,
8487 @であれば,
8488 ニカラグア事件
8489 判決が,
8490 武力攻撃は武力行使の最も重大な形態であり武器供与等それに至らない
8491 武力行使には均衡する対抗措置のみが許されると判示していること,
8492 Aであれば,
8493
8494 設問2への解答にもよるが,
8495 ニカラグア事件判決やコンゴ領域軍事活動事件判決
8496 が,
8497 侵略の定義第3条(g)に従い,
8498 「正規軍の攻撃に匹敵する武力行為を外国
8499 政府に対して行う武装集団の国による若しくは国のための派遣,
8500 又はかかる行為
8501 に対する実質的関与」をもって武力攻撃とみなし,
8502 単なる軍事援助は武力攻撃と
8503 みなさなかったこと,
8504 しかし,
8505 アフガニスタンに対する多国籍軍の行動例のよう
8506 に,
8507 自国領域を外国に対するテロ活動の拠点として使用することを武装集団に容
8508 認した国は,
8509 自衛権行使の対象とすることが黙認された実行も存在すること,
8510 B
8511 先制的自衛については,
8512 イスラエルのイラク原子炉攻撃を国際連合憲章の明白な
8513 違反と非難した安全保障理事会決議がある反面,
8514 攻撃の急迫性がある場合には先
8515 制的自衛が認められるとする見解を採る国,
8516 あるいは少なくとも攻撃への着手が
8517 あれば自衛が認められるとする見解を採る国などが存在すること,
8518 などである。
8519
8520
8521 これらの先例や実行にも言及しながら丙国の主張に反論した優れた解答も相当数
8522
8523 - 75 -
8524
8525 存在する反面,
8526 結論だけ述べて解答の論拠を十分に展開しきれていない答案が半
8527 数近くあった。
8528
8529 Cの集団的自衛権の二要件,
8530 特に後者の支援要請の要件が本問で
8531 は満たされていないとする点は,
8532 大半の答案が指摘できていた。
8533
8534 なお,
8535 丙国によ
8536 る甲国の爆撃が丙国による集団的自衛権の行使として正当化されるためには,
8537
8538 要性及び均衡性(又は比例性)の原則を満たさなければならないが,
8539 Z軍による
8540 乙国化学工場施設に対する軍事作戦への着手に対し,
8541 Z軍への攻撃を超えて甲国
8542 の武器貯蔵庫,
8543 軍事基地さらに港湾の集荷場等数箇所を爆撃して破壊した行為は,
8544
8545 その規模及び攻撃目標の性質から見て特に均衡性の原則に違反すると論述した解
8546 答が約半数あった。
8547
8548
8549 「優秀」,
8550 「良好」,
8551 「一応の水準」,
8552 「不良」の答案を一概に表現することは,
8553
8554 例年同様,
8555 難しいが,
8556 おおむね次のとおりと言えるのではないか。
8557
8558
8559 優秀:3つの設問においてそれぞれ問われている国際法上の論点を的確につかん
8560 で,
8561 各論点について要求される国際法上の原則,
8562 判例等についての基本的事項を
8563 論理的かつ簡明に記述し,
8564 各設問で提示された事案への当てはめがしっかりでき
8565 ている答案である。
8566
8567
8568 例えば,
8569 設問1について,
8570 A海峡における軍艦の無害通航権を認め,
8571 軍艦の通
8572 航に事前許可を求める甲国の措置を国際法違反とみなす立場を採った答案を例に
8573 挙げると,
8574 優秀な解答の一例は次のようなものである。
8575
8576 まず無害通航の意味につ
8577 いて海洋法条約第19条第1項の定義,
8578 船種別規制説と態様別規制説の相違点,
8579
8580 無害でない通航を列挙した同条約第19条第2項と第19条第1項の関係につい
8581 て基本的な説明ができている。
8582
8583 海洋法条約の下では軍艦等にも領海の無害通航権
8584 が認められていることを,
8585 例えば,
8586 同条約第17条,
8587 第19条第2項(a),
8588
8589 (b),
8590
8591 (f),
8592 第30条等の整合的解釈から導き出せている。
8593
8594 無害性の判断基準を通航
8595 の仕方に置いたコルフ海峡事件ICJ判決の先例があり,
8596 海洋法条約第19条第
8597 2項を無害でない通航の網羅的列挙とみなし軍艦にも無害通航権が認められると
8598 した1989年の米ソ統一解釈をはじめ軍艦の無害通航を認める国家実行が多数
8599 あることを提示できている。
8600
8601 さらに,
8602 A海峡のような国際海峡では,
8603 通常の領海
8604 と異なり軍艦も妨げられない無害通航権を持つことをコルフ海峡事件判決等の先
8605 例から説明できている。
8606
8607 これら全ての要素が完全にそろっていなくてもよいが,
8608
8609 主要な論拠を示して,
8610 A海峡では軍艦等に妨げられない無害通航権が認められ,
8611
8612 事前許可を受けない軍艦等の通航を妨げることが国際法違反となることを明確に
8613 論述した答案。
8614
8615
8616 設問1だけでなく,
8617 設問2及び設問3においても,
8618 同様に優秀な答案となって
8619 いることが必要である。
8620
8621
8622 良好:おおむね優秀答案のレベルに達する解答ができているものの,
8623 設問によっ
8624 ては,
8625 一部の論点に関する説明が十分なされていない箇所があるとか,
8626 理由の説
8627 明や関連する判例や国家実行など論証に不十分な箇所があるなど,
8628 優秀な答案に
8629 比べて,
8630 若干欠点がある答案。
8631
8632 例えば,
8633 設問1及び設問2では優秀答案に該当す
8634 るが,
8635 設問3については十分問題を検討して書く時間的余裕がなかったために,
8636
8637 論ずべき論点の一部について欠落があり又は十分な説明ができていない答案。
8638
8639
8640 るいは,
8641 いずれの設問についても優秀な答案に今一歩及んでいない答案。
8642
8643 例えば
8644 設問3を例にとれば,
8645 集団的自衛権の行使の要件については慣習国際法上及び国
8646
8647 - 76 -
8648
8649 連憲章上の要件を正確に列挙し,
8650 丙国の主張に沿って設問3に関する上記武力攻
8651 撃の発生に関する主要な論点については優秀な反論を行いながらも,
8652 本問の事実
8653 に基づけば乙国に対し武力攻撃があった旨の同国による宣言及び丙国に対する乙
8654 国からの支援の要請があったとはみなされないことへの言及が不十分である答案
8655 が挙げられる。
8656
8657
8658 一応の水準:全体としては国際法の基礎的知識を有していることが設問に対する
8659 解答からうかがえるが,
8660 例えば,
8661 設問1及び設問2については優秀又は良好な答
8662 案になっているが,
8663 設問3については,
8664 集団的自衛権行使の要件について途中ま
8665 で解答をしながら,
8666 最後時間がなかったため,
8667 論点の幾つかについて触れること
8668 ができなったもの。
8669
8670 あるいは設問2では,
8671 私的集団の行為を国に帰属させるため
8672 には国の当該集団に対する一般的な支配では十分でなく,
8673 国際違法行為を生じさ
8674 せた私的集団の作戦行動に対する実効的支配が必要であるとしたICJ判決につ
8675 いて全く記載がなく,
8676 設問3についても,
8677 丙の主張に対して武力攻撃と武力行使
8678 の関係について全く記載を欠いているように,
8679 各設問の重要な論点の一部に対し
8680 て不十分な解答があるもの。
8681
8682
8683 不良:設問の内容や趣旨がそもそも理解できていない答案,
8684 あるいは,
8685 理解でき
8686 ていても主要な論点が欠落している答案又は基本的な国際法の知識を欠いている
8687 と見られる解答が散見できる答案。
8688
8689 例えば,
8690 設問1について,
8691 A海峡における軍
8692 艦等の無害通航権の問題にほとんど触れることなく甲国の声明を留保であるか解
8693 釈宣言であるかのみについて論じ,
8694 設問2でも,
8695 甲国のZ軍を支援する行為が甲
8696 国の乙国に対する内政干渉行為を構成するということと,
8697 Z軍の行為が甲国へ帰
8698 属するための要件を混同し,
8699 甲国のZ軍への支援があればZ軍の行為は当然に甲
8700 国に帰属すると論じた答案など,
8701 3つの設問について総じて主要な論点が押さえ
8702 切れていないもの。
8703
8704 また時間配分を間違え,
8705 設問の一部のみに解答し,
8706 他の設問
8707 には十分な解答ができていないもの。
8708
8709
8710 (2) 第2問
8711 設問1については,
8712 これが,
8713 条約の国内的効力及び自動執行力の問題であるこ
8714 とに気付いている答案と気付いていない答案に分かれた。
8715
8716 気付いている答案にお
8717 いては,
8718 国内的効力を持つか否かは国内法体制により異なること,
8719 すなわち,
8720
8721 般的受容主義,
8722 変型理論のいずれかを採ることまで答えているものも多く,
8723 大半
8724 が優秀な答案になっていた。
8725
8726 事例への当てはめで自動執行力の有無について当該
8727 条約規定を論ずることにも遺漏がなく,
8728 加えて,
8729 当該条約規定の解釈論として,
8730
8731 個人の請求権を認めたものであるかについても論じてある答案も多かった。
8732
8733 この
8734 ように国内的効力であり自動執行力の問題であることに気付いている答案には,
8735
8736 優秀なものが多かった。
8737
8738
8739 もっとも,
8740 一部には,
8741 自動執行力の論点にだけ気付いている答案もあった。
8742
8743
8744 内的効力については論ずることなく,
8745 自動執行力についてだけ論じている答案で
8746 ある。
8747
8748 国内的効力の問題が前提になることに気付いていない点は,
8749 懸念される。
8750
8751
8752 また,
8753 国内的効力の問題と自動執行力の問題とを混同していると読める答案も幾
8754 つかあった。
8755
8756 条約の国内的効力及び自動執行力の問題であることに気付いていな
8757 い答案は,
8758 問題の条約規定の解釈論のみを論じており,
8759 個人の賠償請求権を定め
8760 ている規定であるかについて論じているものが多かった。
8761
8762 条約の国内的効力の問
8763
8764 - 77 -
8765
8766 題は,
8767 国内法曹が国際法事例を処理する場合に,
8768 最も問題になる論点であるので,
8769
8770 もっと多くの受験生が国内的効力及び自動執行力,
8771 さらに条約規定の解釈論,
8772
8773 例への当てはめを行う万全な解答をしてくるものと期待したが,
8774 期待どおりでは
8775 なかった。
8776
8777 このような基本的で重要な論点を問題文から読み取れないのは,
8778 残念
8779 なことである。
8780
8781 国際法と国内法の関係の問題の重要性を一層認識する必要がある
8782 と感じられた。
8783
8784
8785 設問2については,
8786 全体的にあまり出来がよくなかった。
8787
8788 法源論の問題であり,
8789
8790 国家の一方的宣言により国家が義務を負うことがあるかという論点に気付いてい
8791 る答案が少なかった。
8792
8793 この論点に気付いている答案の中には,
8794 比較的よくできて
8795 いる答案が多かった。
8796
8797 そのような答案は,
8798 おおむね,
8799 一方的宣言により,
8800 国家が
8801 義務を負うことがあり得ることに気付いており,
8802 その点が明確に論じられており,
8803
8804 国家の合意である条約や慣習国際法,
8805 法の一般原則といった法源と比較して,
8806
8807 家が一方的に義務を負う点に注目がなされていた。
8808
8809 さらに,
8810 一方的宣言が効力を
8811 持ち,
8812 国家がそれにより国際義務を負うための要件についても,
8813 論じられている
8814 ものが多かった。
8815
8816 その場合に,
8817 核実験事件のような先例にも留意し,
8818 先例を踏ま
8819 えて,
8820 先例で示された一方的宣言が法的効果を持つための要件が論じられている
8821 答案もあった。
8822
8823 法源論において,
8824 一方的行為や,
8825 国家の一方的宣言は,
8826 基本的教
8827 科書で必ず触れられている論点であるので,
8828 それに気付かないということは,
8829
8830 念であり懸念される。
8831
8832 一方的宣言により国家が義務を負う法的効果があり得るか
8833 という論点に気付いていない答案は,
8834 甲国を代表すると主張する一方の政府によ
8835 る一方的宣言であることを問題にして論ずるものが多かった。
8836
8837
8838 設問3については,
8839 比較的よくできている答案が多かった。
8840
8841 設問3が,
8842 政府承
8843 認に関するものであり,
8844 政府承認の要件,
8845 要件を充足しない政府承認の国際法上
8846 の位置付けが問われているが,
8847 個別の論点について比較的よく答えられていた。
8848
8849
8850 Y政府は丙国の軍隊を駐屯させて治安と防衛の役割を担わせているのであるか
8851 ら,
8852 Y政府が独立に自らの力でY政府の支配地域に実効的支配を及ぼしていない
8853 ことに気付き,
8854 それゆえに,
8855 承認の要件を満たさないことに気付いている答案は
8856 多かった。
8857
8858 そのような承認が,
8859 国際法上,
8860 尚早の承認に当たり,
8861 国際法上違法で
8862 あることについて,
8863 尚早の承認という概念が提示されている答案は多くはなかっ
8864 た。
8865
8866
8867 また,
8868 尚早の承認は,
8869 甲国で実効的支配を確立していない地域に対して政府承
8870 認を与えることになるのであるから,
8871 甲国への内政干渉になり国際法上の義務違
8872 反になることについても,
8873 気付いている答案はあったが,
8874 数は多くはなかった。
8875
8876
8877 分断国家の政府承認それ自体が,
8878 甲国の国内事項に対する内政干渉であるという
8879 解答をする答案がやや目立った。
8880
8881 丙国によるY政府の承認が,
8882 Y政府が支配地域
8883 に実効的支配を確立する前の尚早の承認であること,
8884 これに比較して,
8885 乙国のY
8886 政府承認が,
8887 Y政府が自らの支配地域において十分に治安と防衛の役割を果たす
8888 ようになってからの政府承認であり,
8889 前者は,
8890 承認の要件を満たさない承認であ
8891 ること,
8892 後者は,
8893 承認の要件を満たす承認であることは,
8894 多くの答案がよく書け
8895 ていた。
8896
8897 事例への当てはめにおいてもよくできている答案が多かった。
8898
8899
8900 全体としては,
8901 設問1と設問2について顕著であるが,
8902 出題趣旨である論点を
8903 理解しないでいる答案が多かったことが特徴的である。
8904
8905 論点に気付いていれば,
8906
8907
8908 - 78 -
8909
8910 それについての記述は比較的よくできている。
8911
8912 また,
8913 論点に気付いていれば,
8914
8915 問への当てはめも比較的よくできている。
8916
8917 いずれの設問も,
8918 基本的な教科書で必
8919 ず触れられている論点である。
8920
8921 また,
8922 設問1や設問2は,
8923 それに関わる判例も基
8924 本的で重要な判例として,
8925 教科書で紹介されていることが多く,
8926 判例集でも必ず
8927 取り上げられている判例である。
8928
8929 これらについて出題趣旨の論点に気付かない答
8930 案があることは,
8931 国際法の基礎知識が十分ではないという懸念を抱かせる。
8932
8933 選択
8934 科目としての国際法の勉強に充てる時間が限られていることは十分理解できる
8935 が,
8936 国際法の基本構造や基礎理論に関わる問題には答えられるレベルに達するこ
8937 とが必要である。
8938
8939 それが欠落している答案が比較的目立ったのは残念である。
8940
8941
8942 た,
8943 「尚早」の字を誤る答案が目についた。
8944
8945 法律用語の誤りは,
8946 用語の理解自体
8947 を疑わせるということを十分心してもらいたい。
8948
8949
8950 答案を,
8951 「優秀」,
8952 「良好」,
8953 「一応の水準」,
8954 「不良」に分けると,
8955 おおむね次の
8956 ようになる。
8957
8958
8959 優秀:設問についての国際法の基礎知識を備えており,
8960 論点を過不足なく見出し
8961 てこれを論じ,
8962 事例へ当てはめながら,
8963 論理的に論述を行っている答案。
8964
8965 例えば,
8966
8967 設問1で国内的効力,
8968 自動執行力,
8969 自動執行力の有無,
8970 問題の条約規定の解釈と
8971 いった論点が明確に捉えられており,
8972 それぞれの論点が論理的に整序されており,
8973
8974 かつ,
8975 事例への当てはめも十分に行われて論じられている答案。
8976
8977
8978 良好:設問についての国際法の基礎知識を備えており,
8979 一応は論点を導き出し,
8980
8981 正しい結論を導き出すことができている答案。
8982
8983 けれども,
8984 論点には気付いていて
8985 も,
8986 各論点間の論理的な関係が理解されておらず,
8987 論理的に個々の論点を結び付
8988 けることができていなかったり,
8989 また,
8990 法理の事例への当てはめが不明瞭となっ
8991 ていることがある答案。
8992
8993 例えば,
8994 設問1で国内的効力と自動執行力の論点には気
8995 付いていても,
8996 この二つの論点を混在させており,
8997 論理的に二つの論点が理解さ
8998 れていない答案。
8999
9000 また,
9001 事例への当てはめで,
9002 問題の条約規定の自動執行性の有
9003 無を事例への当てはめで論証することが十分には行われていなかったり,
9004 当該規
9005 定が個人の請求権を規定するかについて解釈が十分に行われていない答案。
9006
9007
9008 一応の水準:国際法の基礎知識が一応はあるが,
9009 十分ではなく,
9010 論点の欠落があ
9011 り,
9012 幾つかの論点に限定して解答している答案。
9013
9014 あるいは,
9015 論点はある程度見出
9016 しているが,
9017 その論述において,
9018 結論は誤ってはいないが,
9019 論理的な整序という
9020 点で,
9021 必ずしも万全ではない答案。
9022
9023 また事例への当てはめは行われてはいるが,
9024
9025 十分な論証になっていない答案。
9026
9027 例えば,
9028 設問1で国内的効力と自動執行力の論
9029 点のうち,
9030 いずれかにしか気付いていない答案や,
9031 それにもかかわらず,
9032 論述で
9033 は,
9034 両者が混在したような説明がなされている答案。
9035
9036 問題の条約規定の自動執行
9037 力の有無についての論証自体が十分に行われていなかったり,
9038 当該規定が個人の
9039 請求権を規定したものかについての解釈が行われていない答案。
9040
9041
9042 不良:設問の事例説明や,
9043 設問自体を答案に書き出すことにスペースをとられ,
9044
9045 あるいは,
9046 主要な論点の多くが欠落している答案。
9047
9048 例えば,
9049 設問1で国内的効力
9050 や自動執行力の論点に気付いていない答案や,
9051 設問2で,
9052 国家の一方的宣言の論
9053 点に気付いていない答案。
9054
9055
9056
9057
9058 法科大学院教育に求めるもの
9059
9060 - 79 -
9061
9062 法科大学院教育に求めるというほどのものではないが,
9063 採点して感じた最近の答
9064 案の傾向に1,
9065 2触れておきたい。
9066
9067 第一に,
9068 国際法に関する基礎的な知識,
9069 すなわ
9070 ち国際法の基本的な概念や規則・原則について,
9071 その内容を正確に理解しかつしっ
9072 かりと身に付けることの重要性を繰り返し強調しておきたい。
9073
9074 一概にはいえないが,
9075
9076 国際法の基礎的な知識を全般的に有しており,
9077 国際法判例や事例についても重要な
9078 論点を押さえつつ学習している者と,
9079 教科書の内容を記憶してはいるが関連する国
9080 際法規の成立根拠や実際の適用例などについて十分理解ができていない者との間の
9081 差が開いている印象を受ける。
9082
9083 基本的な国際法判例まで学習の範囲が及んでいない
9084 か,
9085 又は一通り読んではいるが,
9086 重要な論点に対する判例の内容を把握し切れてい
9087 ないと思われる答案も相当数あった。
9088
9089 国際公法を選択する受験者に対して一言述べ
9090 れば,
9091 選択科目に割くことのできる学習時間には限りがある中で,
9092 国際法のテキス
9093 トに共通して記載されている基本的事項及び基本的な判例集に掲げられている判例
9094 等について,
9095 内容をしっかり理解して学習してほしい。
9096
9097 第二に,
9098 設問に対して結論
9099 のみを書いてその理由付けをほとんどしていない答案が毎年相当数ある。
9100
9101 同様に,
9102
9103 答案の論理構成をしっかり考えた上で読み手に分かりやすい文章を日常から心掛け
9104 るようにしてほしい。
9105
9106 全体の論旨が読み取りづらい解答や国際法規則の設問事例へ
9107 の当てはめをどのように行ったのかが不明瞭な解答が今年も少なからずあった。
9108
9109
9110 則の解釈にせよ,
9111 具体的事例への当てはめにせよ,
9112 法科大学院の学生には根拠付け
9113 や論理的整合性に注意する姿勢を日頃より身に付けるようにしてほしい。
9114
9115
9116
9117
9118 その他
9119 その数は僅かではあるが,
9120 判読が困難な答案が若干存在する。
9121
9122 時間の都合もある
9123 とは思うが,
9124 判読困難である答案が受験生の有利に働くことはあり得ないのである
9125 から,
9126 文字及び文章は読み手の立場に立って読みやすい答案を簡潔に書くように日
9127 頃から心掛けてほしい。
9128
9129
9130
9131 - 80 -
9132
9133 平成26年司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(私法系))
9134
9135
9136 出題の趣旨等
9137 本年の国際関係法(私法系)の問題は,
9138 狭義の国際私法(抵触法),
9139 国際取引法
9140 及び国際民事訴訟法から出題されている。
9141
9142 各問題の出題の趣旨等については,
9143 既に
9144 法務省ホームページにて公表済みである。
9145
9146
9147
9148
9149
9150 採点の方針と基準等
9151 採点の方針は,
9152 昨年と同様である。
9153
9154 すなわち,
9155 関連する個々の法領域の基本的な
9156 知識と理解に基づき,
9157 論理的に破綻のない推論により一定の結論を導くことができ
9158 るかを採点の指針とした。
9159
9160 その上で,
9161 設問ごとに重点は異なるものの,
9162 @個々の法
9163 規範の趣旨を理解しているか,
9164 A複数の法規範を視野に入れながら,
9165 相互の関連を
9166 理解しているか,
9167 Bこれらの点の理解に基づき,
9168 設問の事実関係等から適切に問題
9169 を析出することができるか,
9170 C析出された問題に対して,
9171 関連する法規範を適切に
9172 適用することができるかを採点の基準とした。
9173
9174
9175 これら4点をおおむね充たしている答案が「一応の水準」に達しているとされ,
9176
9177 全ての設問において上記@及びAの点に関する理解を答案に反映させ,
9178 かつ,
9179 法規
9180 範を丁寧に当てはめていることが「良好」又は「優秀」答案となるための必要条件
9181 であり,
9182 さらに,
9183 より的確かつ説得的に論述をしている答案が「優秀」答案と評価
9184 される。
9185
9186
9187 なお,
9188 学説の分かれている論点については,
9189 結論それ自体によって得点に差を設
9190 けることはせず,
9191 自説の論拠を十分に示しつつ,
9192 これを論理的に展開することがで
9193 きているか否かを基準にして成績評価をした。
9194
9195
9196
9197
9198
9199 採点実感
9200 多くの答案は,
9201 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
9202
9203 )等の関連す
9204 る明文の規定を指摘した上で,
9205 設問から拾った事実関係に当てはめようとする姿勢
9206 を示していた。
9207
9208 それぞれの規定の趣旨を押さえた上で解釈論や事案への当てはめを
9209 行っている答案は高い評価を受けた反面,
9210 規定相互の関係についての理解ができて
9211 いない答案は低い評価となった。
9212
9213
9214 (1) 第1問について
9215 民事訴訟法(以下「民訴法」という。
9216
9217 )第118条と通則法第27条の関係の
9218 理解及び通則法第27条と通則法第34条の関係の理解並びに通則法第42条の
9219 適用要件に関する理解の深さと表現の巧拙が,
9220 評価に大きく影響したと思われる。
9221
9222
9223 設問1の問題を,
9224 甲国において成立した離婚の承認の問題として捉え,
9225 民訴法
9226 第118条を適用する答案がかなりの数にのぼった。
9227
9228 しかし,
9229 多くの答案は,
9230
9231 触法による解決を求めており,
9232 正しく通則法第27条本文が準用する第25条に
9233 従い夫婦の同一常居所地法たる甲国法を特定できていた。
9234
9235 とはいえ,
9236 これらの答
9237 案の多くは通則法第34条の規定に言及していなかった。
9238
9239 また,
9240 抵触法による解
9241 決を求めようとした答案の中にも,
9242 設問を離婚の方式の問題として捉え,
9243 通則法
9244 第34条第1項を通じて通則法第27条本文を適用していた答案も少なくなかっ
9245 た。
9246
9247
9248
9249 - 81 -
9250
9251 なお,
9252 離婚の時点における夫婦の同一常居所地を特定しなければならないのに,
9253
9254 (解釈により補うべき)連結時点を意識していないために,
9255 Qの常居所地が日本
9256 にあるとした上で,
9257 PとQは常居所を甲国に有しないとの答案や通則法第27条
9258 ただし書の適用を導くものもあった。
9259
9260
9261 公序に反するか否かは,
9262 問題となっている外国法規を事案に適用した結果に
9263 よって判断される。
9264
9265 このことを指摘できていても,
9266 設問のPとQが婚姻の解消に
9267 合意していることを,
9268 具体的適用結果の枠組みの中で考慮していない答案は少な
9269 くなかった。
9270
9271
9272 なお,
9273 設問を民訴法第118条の承認の問題と把握する解答であっても,
9274 同条
9275 第3号を適用しながら,
9276 実質的には通則法第42条を適用して問われるべき具体
9277 的適用結果を検討していた記述については,
9278 一定の評価を与えた。
9279
9280
9281 設問2の小問アについて,
9282 通則法第34条の方式の問題とするものも少なく
9283 なかったが,
9284 多くの答案は,
9285 協議離婚の許否の問題を通則法第27条の離婚と性
9286 質決定し,
9287 正しく同一常居所地法としての日本法を特定できていた。
9288
9289
9290 設問2の小問イについて,
9291 多くの答案は,
9292 離婚後における親子の面会交流の
9293 問題を通則法第32条の「親子間の法律関係」として性質決定し,
9294 当該規定を正
9295 しく適用していた。
9296
9297 もっとも,
9298 設問2の小問において問われている離婚の際の
9299 親権者指定の性質決定については,
9300 通則法第27条と通則法第32条のいずれの
9301 規定が適用されるべきかという問題を設定できているにもかかわらず,
9302 面会交流
9303 については同様な問題設定をすることなく論述する答案が多かった。
9304
9305
9306 設問2の小問では,
9307 大多数の答案は,
9308 離婚の際の親権者指定の問題を通則法
9309 第27条ではなく通則法第32条の問題であると性質決定できていた。
9310
9311 これらの
9312 答案は,
9313 「子の福祉」やこれに類似する表現を用いて後者の規定を選ぶべき理由
9314 を示していたが,
9315 いかなる意味でこの規定が「子の福祉」に配慮しているかを十
9316 分に説明できていないものも少なくなかった。
9317
9318 また,
9319 通則法第32条の規定を正
9320 しく特定していながら,
9321 当該規定の解釈を誤っている答案はかなりあった。
9322
9323 特に,
9324
9325 子Cの本国法と(親権者となることを求めている)母Rの本国法との一致いかん
9326 を論じたり,
9327 父Pの服役という事実を通則法第32条の「父母の一方が死亡し,
9328
9329 又は知れない場合」に包摂させるものがあった。
9330
9331
9332 多数の答案は,
9333 公序則発動の要件を正しく理解していた。
9334
9335 つまり,
9336 Pの服役を
9337 甲国法の具体的適用結果の枠組みの中で捉え,
9338 Cの常居所地が日本にあることを
9339 内国的関連性との関連で論じていた。
9340
9341 しかし,
9342 公序則発動いかんに全く言及して
9343 いない答案も少なくなかった。
9344
9345
9346 なお,
9347 公序則発動後の処理については,
9348 非常に簡単にのみ論述する答案が多かっ
9349 た。
9350
9351
9352 (2) 第2問について
9353 ほとんどの答案は,
9354 いわゆる特徴的給付(通則法第8条第2項)及びいわゆる
9355 鏡像理論(民訴法第118条第1号)につき一定の理解を示していた。
9356
9357
9358 設問1について,
9359 大多数の答案は,
9360 国際物品売買契約に関する国際連合条約(以
9361 下「条約」という。
9362
9363 )第1条に従い条約の適用可能性を肯定した上で,
9364 条約第6
9365 条を指摘できていた。
9366
9367 しかし,
9368 条約第12条と条約第96条の解釈に関する問題
9369 として設問を捉える答案が多数あった。
9370
9371 条約の事項的適用範囲に入らない問題に
9372
9373 - 82 -
9374
9375 ついて契約準拠法を指定することは無意味ではない。
9376
9377 こういった点を指摘しなが
9378 ら,
9379 条約適用の排除を確実にする方法を提示する答案には高い得点が与えられた。
9380
9381
9382 設問2について,
9383 大多数の答案は,
9384 通則法第7条の下で法選択がないことを指
9385 摘した上で,
9386 通則法第8条第2項に従い,
9387 受任者の常居所地法である日本法を同
9388 条第1項の「最も密接な関係がある地の法」として推定することができていた。
9389
9390
9391 もっとも,
9392 特徴的給付とは何かを一般的に論述する際に,
9393 金銭給付は「没個性的」
9394 であるから「特徴的ではない」といった同語反復的な表現を用いる答案が少なく
9395 なかった。
9396
9397
9398 設問3について,
9399 多くの答案は,
9400 明示の法選択の存在を指摘しながら,
9401 民訴法
9402 第3条の3第1号の「債務の履行地」を正しく特定できていた。
9403
9404 他方で,
9405 鏡像理
9406 論につき一応の説明を与えていても,
9407 直接管轄と間接管轄の関係を十分に理解し
9408 ていないために,
9409 甲国裁判所の間接管轄権を否定する答案が少なくなかった。
9410
9411
9412 た,
9413 被告と債務者とを混同して,
9414 債務履行地を特定する答案も少なからずあった。
9415
9416
9417
9418
9419 今後の出題について
9420 狭義の国際私法,
9421 国際民事訴訟法及び国際取引法の各分野の基本的事項を組み合
9422 わせた事例問題が出題されることになると考えられる。
9423
9424
9425
9426
9427
9428 今後の法科大学院教育に求めるもの
9429 昨年と同様に,
9430 本年の「国際関係法(私法系)」においても,
9431 規定の趣旨を正確
9432 に把握した上で,
9433 必要があればこれを一般的な解釈論として表現し,
9434 事案へ的確に
9435 当てはめる能力の有無が問われている。
9436
9437
9438 このことにつき,
9439 特に次の3点を指摘したい。
9440
9441 第1に,
9442 明文の規定を的確に理解
9443 することが求められる(離婚の際の親権者との関連で述べたように,
9444 通則法第32
9445 条につき理解の精度が不足している答案が目についた。
9446
9447 )。
9448
9449 第2に,
9450 法規範が明文
9451 上完全な形では表現されていない場合,
9452 解釈による補充が求められる(通則法第
9453 27条について連結時点を意識していないと見られる答案が多数あった。
9454
9455 )。
9456
9457 第3
9458 に,
9459 法規範の抽象性が高い場合,
9460 解答を得るためには筋道立った推論が求められる
9461 (公序則の発動要件や鏡像理論との関連において,
9462 結論に至るまでの推論の過程を
9463 整然と示すことができない答案が多数あった。
9464
9465 )。
9466
9467
9468 これらの点を日頃から意識して学ぶことが必要のように思われる。
9469
9470
9471
9472 - 83 -
9473
9474