1 平成23年新司法試験論文式試験問題出題趣旨
2 【公法系科目】
3 〔第1問〕
4 今年の問題でも,
5 「暗記」に基づく抽象的,
6 観念的,
7 定型的記述ではなく,
8 問題に即した憲
9 法上の理論的考察力,
10 そして事案に即した個別的・具体的考察力を見ることを主眼としている。
11
12
13 問題を解くに当たって,
14 問題文を注意深く読むことが必要である。
15
16 議論が不必要に拡散しな
17 いように,
18 問題文の中にメッセージが書かれている。
19
20 例えば,
21 「行政手続法の定める手続に従
22 って」中止命令が出されたことは,
23 手続上の問題は存在しないことを示している。
24
25
26 設問1は,
27 まず,
28 X社側が訴えを提起する場合の訴訟類型を尋ねている。
29
30 訴訟法上の問題を
31 詳論する必要はなく,
32 提起する訴訟類型を簡潔に記述すればよい。
33
34
35 法令違憲の主張に関しては,
36 何でも書けばよいのではない。
37
38 憲法の論文式問題において登場
39 する弁護士は重要な憲法判例や主要な学説を知っている,
40 と想定している。
41
42 したがって,
43 憲法
44 論として到底認められないような主張を書くのは,
45 全く不適切である。
46
47 一定の筋の通った憲法
48 上の主張を,
49 十分に論述する必要がある。
50
51 例えば,
52 本問では,
53 検閲が問題になることはない。
54
55
56 あるいは,
57 本問の法律で,
58 「個人の権利利益を害するおそれ」等の文言の明確性が,
59 一般的に
60 問題になるわけではない。
61
62 本問で明確性を問題にするとすれば,
63 「生活ぶりがうかがえるよう
64 な画像」が「個人権利利益侵害情報」に含まれるのか否かが明確ではない,
65 という点である。
66
67
68 また,
69 本問において,
70 X社はユーザーの「知る権利」侵害を理由として違憲主張できるとする
71 のは,
72 不適切であり,
73 不十分でもある。
74
75 まず,
76 ここで「知る権利」と記すことが,
77
78 「知る権利」
79 に関する理解が不十分なものであることを示している。
80
81 X社の提供する情報は,
82 政治に有効に
83 参加するために必要な情報ではないし,
84 政府情報等の公開が問題となっているわけでもない。
85
86
87 さらに,
88 ユーザーは不特定多数の第三者であるので,
89 特定の第三者に関する判例を根拠にX社
90 がユーザーの「知る自由」を理由に違憲主張できるとするのは,
91 不適切であり,
92 不十分である。
93
94
95 そもそも「知る自由」は,
96 他者の私生活をのぞき見する自由を意味しない。
97
98
99 法令違憲に関して本問で問題となるのは,
100 実体的権利の制約の合憲性である。
101
102 この点での本
103 問における核心的問題は,
104 肖像権やプライバシーを護るために制約されている憲法上の権利は
105 何か,
106 である。
107
108 確かに,
109 本問の法律によってX社は,
110 営業の自由も制約される。
111
112 とりわけ国家
113 賠償請求訴訟も提起するならば,
114 経済的損失に関わる営業の自由への制約の違憲性・違法性を
115 主張することが理論的に誤っているとはいえない。
116
117 しかし,
118 本問でその合憲性が争われる法律
119 は,
120 許可制を採るものではない。
121
122 そして,
123 営業の自由とプライバシーの権利との比較衡量にお
124 いて,
125 前者が優位することを説得力を持って論証することは,
126 容易ではない。
127
128 この点では,
129 言
130 わば「憲法訴訟」感覚が問われているといえるであろう。
131
132
133 したがって,
134 X社側としては,
135 表現の自由の制約と主張することになる。
136
137 それに関して検討
138 すべきことは,
139 憲法第21条第1項が保障する権利の「領域」・
140 「範囲」ではない。
141
142 憲法上,
143 表
144 現の自由の保障「領域」・
145 「範囲」があらかじめ確定しているわけではない。
146
147 問われているのは,
148
149 表現の自由の内容をどのように把握するか,
150 である。
151
152 本問の地図検索システムは,
153 X社の思想
154 や意見を外部に伝達するものとはいえない。
155
156 そこで,
157 当該システムを表現の自由として位置付
158 けようとすると,
159 表現の自由の権利内容の新たな構築が必要となる。
160
161 つまり,
162 自由な情報の流
163 れを保障する権利としての表現の自由である。
164
165 本問における判断枠組みに関する最大のポイン
166 トは,
167 判例や学説を参考にしつつ,
168 相応の説得力を有する論拠を示して,
169 自由な情報の流れを
170 保障する表現の自由論を論述することである。
171
172
173 本問における表現の自由の制約の合憲性をめぐって問われているのは,
174 表現の自由とプライ
175 バシーの権利の調整である。
176
177
178
179 -1-
180
181 本問の地図検索システムによって提供される情報は,
182 「自己統治」の機能に関わる情報とは
183 いえない。
184
185 また,
186 私的な事柄に関する情報が含まれているが,
187 その対象者が「公職にある人」
188 や「著名人」という問題でもない。
189
190 したがって,
191 「原告の主張」・「被告の反論」・「あなた自身
192 の見解」それぞれの立場において審査基準論のあれこれを定型的に書くのは,
193 全く不適切であ
194 る。
195
196 当該合憲性の結論は,
197 事案に即して個別的・具体的に検討することから導き出される。
198
199
200 今年の問題では,
201 両者のサイドにとってそれぞれヒントとなる主張が問題文の中に書き込ま
202 れている。
203
204 例えば,
205 ユーザーにとっての利便性の向上等は,
206 情報提供側のプラス面として挙げ
207 ることができる。
208
209 被告側にとっては,
210 例えば,
211 インターネット上の個人情報の二次利用による
212 被害の拡大である。
213
214 個別的・具体的検討において最も重要なポイントは,
215 「公道から見える」
216 ことと「インターネット上で見ることができる」ことの相違をどのように考えるか,
217 である。
218
219
220 設問2では,
221 「被告側の反論を想定しつつ」検討することが求められている。
222
223 想定される被
224 告側の反論を書く部分では,
225 結論として憲法上のポイントだけを記せばよい。
226
227
228 「被告側の反論」
229 では,
230 表現の自由の制約ではなく,
231 営業の自由の制約でしかない,
232 とする主張はあり得る。
233
234 被
235 告側の反論の詳細な内容や論拠は,
236 「あなた自身の見解」で書くことが求められている。
237
238
239 「あなた自身」の結論や理由を「原告と同じ」あるいは「被告と同じ」と書くだけでは,
240 全
241 く不十分である。
242
243 X社側あるいは被告側のいずれかと同じ立場に立つにしても,
244 それらとは別
245 の見解を採るにしても,
246 求められているのは,
247 X社側及び被告側それぞれの見解を検討した上
248 で「あなた自身」の結論及びその理由を述べることである。
249
250 問われるのは,
251 理由の説得力であ
252 る。
253
254
255 〔第2問〕
256 本問は,
257 国土交通大臣による場外舟券売場の設置許可を,
258 近隣に法科大学院を設置する学校
259 法人X1及び周辺住民X2が争う場面(設問1),
260 許可が取り消される可能性が生じ,
261 許可を
262 受けた社団法人Aが争う場面(設問2),
263 T市が場外舟券売場の設置を規制する場面(設問3)
264 という,
265 三つの場面を想定して,
266 第三者の観点から論じさせるものである。
267
268 類似の法分野(自
269 転車競技法)について近時最高裁判決が下されて注目されたが,
270 本問はもとより,
271 モーターボ
272 ート競走法に関する特別な知識・理解を問う趣旨ではない。
273
274 問題文と資料から基本的な事実関
275 係を把握した上で,
276 関係法令を読み解き,
277 行政処分の第三者,
278 行政指導を受けた許可の名宛人,
279
280 国の法令とは別に条例を定めようとする基礎的な地方公共団体という,
281 それぞれの立場に関わ
282 る基本的な法律問題を論じる力を試すものである。
283
284 本問では,
285 通達を定めて,
286 許可の申請に際
287 し地元同意の取得を求めるという,
288 日本でしばしば用いられてきた行政手法を法律論に織り込
289 むことも要求される。
290
291 また,
292 設問3では,
293 日頃具体的な事例と法令を読んで解釈論を勉強して
294 いれば十分対応できる範囲で,
295 立法論に論及することも求めている。
296
297
298 設問1は,
299 X1及びX2による取消訴訟の訴訟要件のうち,
300 原告適格を論じさせる問題であ
301 る。
302
303 まず,
304 行政事件訴訟法の条文と判例を踏まえ,
305 いかなる判断枠組みにより,
306 いわゆる行政
307 処分の第三者の原告適格を判断すべきかを明らかにしなければならない。
308
309 そして,
310 モーターボ
311 ート競走法上,
312 法律の趣旨を定める規定や許可の根拠規定などは,
313 場外発売場内の秩序や競走
314 の公正・安全以外には,
315 具体的に保護法益を特定していないこと,
316 同法施行規則は,
317 文教上の
318 利益を保護しているが,
319 個別の文教施設を保護する趣旨を明確にしていないことなどを,
320 具体
321 的な条文を挙げて示すことが求められる。
322
323 一定の距離内の文教施設を許可の申請書類に記載す
324 ることを求める同法施行規則の規定や,
325 様々な内容の関係通達が,
326 原告適格を認める根拠又は
327 手掛かりにならないかという点も,
328 検討する必要がある。
329
330 その上で,
331 本件施設の規模,
332 開場さ
333 れる期間・時間,
334 距離関係や位置関係などから想定されるX1及びX2の不利益の内容・程度
335 など,
336 さらに,
337 X1及びX2が特定の利益を代表して主張する適格性などを考慮して,
338 原告適
339 格を根拠付けられないかを,
340 判断することが求められる。
341
342
343 -2-
344
345 設問2(1)は,
346 行政訴訟としてAがどのような請求を立てることが最も適切かを問う問題
347 である。
348
349 想定されている状況において,
350 取消措置の可能性を除去するというAの目的を最も直
351 接的に実現する訴えは,
352 本件許可を取り消す処分の差止めを求める抗告訴訟と考えられる。
353
354 も
355 う一つ,
356 要求措置を対象にする何らかの当事者訴訟又は抗告訴訟を候補として具体的に挙げて,
357
358 訴訟要件が満たされるか,
359 及びAの目的を実現するために適切な請求かという点を,
360 比較しな
361 がら検討することが求められる。
362
363
364 設問2(2)は,
365 行政実体法及び広義の行政手続に関わる問題を基礎から一つ一つ検討して
366 解きほぐし,
367 最終的に,
368 本件許可を取り消す処分の適法性を判断するように求めるものである。
369
370
371 まず,
372 法令の文言や,
373 刑法上の違法性を阻却するという許可の性質などを考慮して,
374 国土交通
375 大臣による許可・不許可の判断に裁量が認められるかを検討しなければならない。
376
377 次に,
378 本件
379 の通達の法的効果は何か,
380 行政手続法上は何に当たるかを示すことが求められる。
381
382 こうして,
383
384 通達に定められている地元同意を許可申請に際して求める裁量が,
385 関係法令に照らして認めら
386 れるか,
387 またどの範囲で認められるかが論点であることを確認することになる。
388
389 その上で,
390 地
391 元同意の意義と問題点を,
392 コミュニケーションと手続参加の促進,
393 手続の公正性・透明性・明
394 確性などの観点から具体的に検討することが求められる。
395
396
397 以上のような法令解釈及び地元同意に対する評価を踏まえて,
398 地元同意を行政指導として求
399 め得るにとどまるのか,
400 地元との十分な協議を経なければ許可を拒否できるか,
401 十分な協議を
402 経ても同意がなければ許可を拒否できるか,
403 協議の不十分さや同意の不存在が許可を拒否する
404 一つの考慮要素になるか,
405 といった点を,
406 どのように判断するか,
407 示さなければならない。
408
409 そ
410 して,
411 本件における許可の取消しの公益性及びAの信頼の要保護性の程度を考慮した場合に,
412
413 本件許可の取消しが適法か,
414 各人の結論を示すことが要求される。
415
416
417 設問3は,
418 T市が場外舟券売場の設置許可制を条例で定める場合に,
419 配慮すべき点を指摘さ
420 せる問題である。
421
422 いろいろな解答があり得るが,
423 第一に,
424 許可後の是正命令,
425 罰則などを条例
426 に定めて実効性を確保する必要性,
427 第二に,
428 住民,
429 利害関係者,
430 専門家などが参加して周辺環
431 境との調和について判断する手続を構築する必要性,
432 第三に,
433 モーターボート競走法や建築基
434 準法など国の法律と条例とが抵触しないか,
435 検討する必要性など,
436 豊かな着想で指摘すること
437 が期待される。
438
439
440 なお,
441 設問のうち,
442 設問1と設問2(2)においては,
443 事実関係,
444 関係法令の解釈及び行政
445 法の一般理論を総合して,
446 論理的かつ説得的に筋道を示した解答を期待しているのに対し,
447 設
448 問2(1)と設問3では,
449 ポイントを的確かつ簡潔に示すことを要求するにとどめている。
450
451 こ
452 うした出題の趣旨を十分に理解して受験者が実力を発揮できるように,
453 昨年に続き本年も各設
454 問の配点割合を明示することとした。
455
456
457 【民事系科目】
458 〔第1問〕
459 本問は,
460 不動産賃貸業を営むAが賃借している建物とその敷地について複数の取引が行われ
461 た後,
462 Aが事実上倒産した状態となり,
463 その頃その建物のエレベーター内で人が転倒し骨折す
464 るという事故が生じた事例に関して,
465 民法上の問題についての基礎的な理解とともに,
466 その応
467 用を問う問題である。
468
469 具体的な事実を法的な観点から評価し構成する能力,
470 具体的な事実関係
471 に即して民法上の問題を考察する能力及び論理的に一貫した論述をする能力などを試すもので
472 ある。
473
474
475 設問1は,
476 小問(1)において,
477 不当利得制度とその要件についての理解及び法的構成能力
478 と,
479 具体的な事案において存在する諸事実を各々の要件に結び付けて意味付ける能力を試すと
480 ともに,
481 小問(2)において,
482 敷金返還請求権を放棄する合意の意味を踏まえて,
483 敷金返還請
484 求権を放棄することの詐害行為性についての検討を求めることにより,
485 責任財産保全制度に関
486 -3-
487
488 する基本的理解を応用することのできる問題発見能力及び法的思考力を試すものである。
489
490
491 小問(1)では,
492 民法第703条が定める不当利得の返還を請求するに当たり,
493 何を主張し
494 立証しなければならないかを明らかにし,
495 それらを【事実】の中から適切に指摘することがで
496 きるかどうかが問われている。
497
498 その際,
499 Bの受益については,
500 請負契約により甲建物に対して
501 Cが行った労務提供に相当する支出をBがしないでおくことができたことであると捉える考え
502 方とともに,
503 甲建物をFに売却したことによりBが得た代金額に占める本件請負工事による増
504 加額相当額であると捉える考え方などが成り立つ。
505
506 受益をどのように捉えるかを明らかにし,
507
508 具体的な数額を示すことが求められる。
509
510 Cの損失については,
511 Cの労務提供に相当する損失で
512 あり,
513 したがって,
514 甲建物の内装工事に伴う工事代金5000万円のうち残代金2500万円
515 をCが回収できていないことである。
516
517 Bの受益とCの損失との間の因果関係については,
518 Cの
519 内装工事によりBの受ける利益は,
520 本来,
521 CA間の請負契約に基づくものであるため,
522 請負代
523 金債務の債務者であるAの財産に由来するものであるが,
524 Aの無資力によりAに対する請負代
525 金債権の全部又は一部が無価値であるときは,
526 その限度においてBの受けた利益はCの労務に
527 由来することとなる。
528
529 Bの受益が法律上の原因を欠くことについては,
530 AB間の賃貸借契約を
531 全体として見たときに,
532 Bが対価関係なしに当該利益を受けたときに限られる。
533
534 賃貸借の期間
535 中にBがAから得られる賃料総額が相場よりも7200万円少ないことなどの事情に基づいた
536 判断が求められる。
537
538
539 小問(2)では,
540 Aが無資力である点に着目し,
541 CがFに対してAの責任財産を保全するた
542 めに,
543 CのAに対する2500万円の請負残代金債権を被保全債権とし,
544 Aの法律行為の中か
545 ら詐害行為に該当するものを取り出し,
546 受益者Fを被告として詐害行為取消権(民法第424
547 条)を行使することができるかが問われている。
548
549 何を詐害行為と考えるかについては,
550 まず,
551
552 FA間で賃貸借契約を合意解除する際にAがした敷金返還請求権の放棄は,
553 敷金返還債務の免
554 除であると捉える考え方が成り立つ。
555
556 このとき,
557 民法第424条が定めるそのほかの要件を満
558 たせば,
559 CはAのこの債務免除を取り消すことができる。
560
561 これとは別に,
562 FA間での賃貸借契
563 約を合意解除する以前にAの賃料不払いという債務不履行があったことに着目し,
564 Aがした敷
565 金返還請求権の放棄は,
566 FがAに対して有する本来の賃貸借期間の終了時までの賃料相当額を
567 得べかりし利益とした損害賠償請求権に対する充当であると捉える考え方も成り立つ。
568
569 このと
570 き,
571 一部の債権者への偏頗弁済は,
572 どのような場合に詐害行為となるかという観点からの適切
573 な検討が求められる。
574
575
576 設問2は,
577 将来債権売買契約を売買の目的である債権の不発生を理由に解除しようとすると
578 き,
579 その前提として,
580 売主はどのような義務を負うかについて分析する能力を問うとともに,
581
582 その売主の義務の不履行について適切な事実を摘示し反論にも注意しながら考察する能力及び
583 解除の要件の充足を吟味するに当たって適切に問題点を取り上げ検討する能力を問うものであ
584 る。
585
586
587 売主がどのような義務を負うかについては,
588 主たる給付義務として,
589 債権が発生した状態で
590 買主に帰属している状態を生じさせる義務を問題とする考え方のほかに,
591 付随義務として,
592 売
593 買した将来債権の価値を維持する義務を問題とする考え方がある。
594
595 前者の考え方に立つときは,
596
597 売買の目的である債権が発生しない可能性があるという将来債権売買契約の特性をどのように
598 評価するかについての検討が求められ,
599 後者の考え方に立つときは,
600 将来債権売買の売主が売
601 買の目的である債権が発生するかどうかを左右することができる地位にある場合,
602 売主が負う
603 将来債権の価値を維持する義務が何を根拠に認められるかについての検討が求められる。
604
605 また,
606
607 いずれの考え方に立つときも,
608 売主の義務は買主に将来債権を帰属させることであるにとどま
609 るとする反論が考えられ,
610 その反論を踏まえた検討が求められる。
611
612
613 次に,
614 本件債権売買契約の解除については,
615 民法第543条を根拠として検討すべきである
616 とする考え方とともに,
617 同法第541条を根拠として検討すべきであるとする考え方がある。
618
619
620 -4-
621
622 例えば,
623 Fは債権が発生した状態で買主に帰属している状態を生じさせる義務を負うとし,
624 民
625 法第543条に基づく解除について検討するときは,
626 Fが負うその債務が履行不能となってい
627 ること及びFの帰責事由の検討が求められ,
628 また,
629 Fは売買した将来債権の価値を維持する義
630 務を負うとし,
631 同条に基づく解除について検討するときは,
632 Fが負うその債務(付随義務)が
633 履行不能となっていること,
634 その付随義務違反が解除に値する程度に重大であること及びFの
635 帰責事由についての検討が求められる。
636
637 同様に,
638 Fが,
639 債権が発生した状態で買主に帰属して
640 いる状態を生じさせる義務を負うと考える場合であっても,
641 売買した将来債権の価値を維持す
642 る義務を負うと考える場合であっても,
643 民法第541条に基づく解除について検討することは
644 可能である。
645
646
647 設問3は,
648 エレベーター設備の更新工事の請負人の行為及びそれを原因とするエレベーター
649 の揺れに基づく身体侵害の不法行為において,
650 被害者が損害賠償を請求する相手方として検討
651 すべき者が複数ある事例について,
652 そのそれぞれに対する請求の論拠をそれに対する反論も踏
653 まえて論じること(小問(1)),
654 及び,
655 被害者の身体的素因により被害者の損害が発生又は拡
656 大した場合における賠償額の調整の在り方を事例に則して検討すること(小問(2))を求め
657 る問題である。
658
659
660 小問(1)では,
661 Hが損害賠償を請求することのできる相手方として,
662 まず,
663 エレベーター
664 が設置されている建物甲の事故発生時の直接占有者であるAとともに,
665 その間接占有者であり
666 所有者であるFを考えることができる(民法第717条第1項)。
667
668 ここでは,
669 工作物責任が成
670 立するための要件である土地の工作物及び設置又は保存の瑕疵について,
671 それぞれの意味を明
672 らかにすることとともに,
673 建物甲のエレベーターが土地の工作物に当たるかどうか及び必要と
674 されているボルトが十分に締められていなかったことが設置又は保存の瑕疵に当たるかどうか
675 の検討が求められる。
676
677 あわせて,
678 工作物責任を負うこととなり得るAとFとの関係を,
679 工作物
680 責任の法的な性質と,
681 占有者が損害を防止するのに必要な注意をしたときは,
682 占有者の損害賠
683 償責任の成立は阻却され,
684 所有者がその損害賠償責任を負うこと(同項ただし書)を踏まえな
685 がら検討することが求められる。
686
687 このほかに,
688 Hが損害賠償を請求することができる相手方と
689 して,
690 エレベーター設備の更新工事をしたDを考えることができる(民法第709条)。
691
692 注文
693 者との間で締結された請負契約に基づいてエレベーター設備の更新工事をした請負人であるD
694 は,
695 注文者以外の第三者の安全に対して,
696 どのような注意義務を負うか,
697 また,
698 その注意義務
699 違反があるかどうかについての検討が求められている。
700
701
702 小問(2)では,
703 被害者の身体的な素因で,
704 被害者の損害の発生又は拡大の原因となったも
705 のがある場合,
706 賠償額の減額をすべきかどうか,
707 そのとき,
708 身体的な素因が疾患といえるもの
709 であるか,
710 そうではなく疾患にまで至らない身体的特徴であるかによって異なることとすべき
711 かどうかについての理解を基礎に,
712 Hの身体機能の低下及び疲労の蓄積をどのように捉えるべ
713 きかが問われている。
714
715 一方では過失相殺(民法第722条第2項)の趣旨を考え,
716 他方では【事
717 実】から法律上意味のある事実をくみ取って法的に評価した上で,
718 賠償額を減額することの可
719 否について,
720 一貫した法的思考を示すことが求められる。
721
722
723 〔第2問〕
724 本問は,
725 甲社が特定の株主(B)から自己の株式を取得した行為(本件自己株式取得)の効
726 力(設問@前段)及びこれに関する甲社とBとの間の法律関係(設問@後段)と,
727 それによっ
728 て取得した自己株式を乙社に処分した行為(本件自己株式処分)の効力(設問A)について,
729
730 会社法の基本的な理解と論理的構成力を問うものである。
731
732 併せて,
733 本件自己株式取得及び本件
734 自己株式処分に関して,
735 甲社の代表取締役(C)が甲社に対して負う会社法上の責任(設問B)
736 について,
737 問うものである。
738
739
740 設問@前段では,
741 本件自己株式取得の効力が問われている。
742
743 本件自己株式取得には,
744 市場
745 -5-
746
747 価格を超えているので「市場価格のある株式の取得の特則」(会社法第161条)の適用がな
748 く,
749 また,
750 会社法上の公開会社であるため「相続人等からの取得の特則」の適用がない(同法
751 第162条第1号)にもかかわらず,
752 売主追加請求の通知(同法第160条第2項)を怠った
753 こと,
754 第1号議案の採決に際して議決権行使が禁止される特定の株主(同条第4項)である
755 Bが議決権を行使したこと,
756 という二つの手続的瑕疵について記述した上,
757 これらの手続的瑕
758 疵と本件自己株式取得の効力との関係について論述することが求められる。
759
760 このうち,
761 の点
762 については,
763 自己の株式の取得に関する手続違反となるのに対し,
764 の点については,
765 決議の
766 方法が法令に違反している(同法第831条第1項第1号)と見るか,
767 自己の株式の取得に関
768 する手続違反の一つと見るかによって,
769 株主総会決議取消しの訴えを提起する必要があるかど
770 うかに違いが生ずることにも留意する必要がある。
771
772 また,
773 甲社の正しい貸借対照表によれば,
774
775 本件自己株式取得の効力発生日における分配可能額は5億円しかなかったので,
776 本件自己株式
777 取得が財源規制(同法第461条第1項第3号)に違反することを記述した上で,
778 これと本件
779 自己株式取得の効力との関係について論述することが求められる。
780
781 ,
782 及びに関する各論
783 述によれば,
784 本件自己株式取得の効力についての個別の論証結果が有効と無効とに分かれるこ
785 とがあるとしても,
786 全体として,
787 本件自己株式取得の効力をどのように考えるかについて,
788 論
789 理的整合性を意識しながら論述することが期待される。
790
791
792 次に,
793 設問@後段の甲社とBとの間の法律関係については,
794 まず,
795 財源規制違反との関係で,
796
797 会社法第462条の責任について記述することが求められる。
798
799 また,
800 設問@前段の結論を踏ま
801 え,
802 Bが受け取った金銭の扱いや本件自己株式取得の対象となった株式の帰属等について,
803 そ
804 の根拠と併せて検討することが求められる。
805
806 その際,
807 甲社が,
808 Bから取得した自己株式を乙社
809 に処分し,
810 乙社がその一部を市場で売却していることから,
811 Bが主張するであろう同時履行の
812 抗弁権をどのように考えるかについても論ずることが求められる。
813
814
815 さらに,
816 設問Aの本件自己株式処分の効力については,
817 本件自己株式処分には,
818 第2号議
819 案の審議に際して説明義務(会社法第314条)の違反があるかどうか,
820 第2号議案の採決
821 に際して特別利害関係人(乙社)が議決権を行使したことが同法第831条第1項第3号に掲
822 げる場合に該当するかどうかについて検討した上で,
823 これらが肯定されるとした場合に,
824 それ
825 らが自己株式処分無効の訴え(同法第828条第1項第3号)の無効原因となるかどうかにつ
826 いて論述することが求められる。
827
828 加えて,
829 設問@前段との関連において本件自己株式処分の
830 対象となった自己株式がそもそも有効に取得されたものとはいえないといった瑕疵との関係に
831 ついても,
832 同様に,
833 無効原因となるかどうかを検討することが期待される。
834
835
836 最後に,
837 設問Bの本件自己株式取得及び本件自己株式処分に関するCの甲社に対する会社法
838 上の責任については,
839 本件自己株式取得に関して,
840 同法第462条(第1項柱書又は第1項
841 第2号)の責任と,
842 同法第465条第1項第3号の欠損補責任について記述することが求
843 められる。
844
845 これらの責任の成否に関しては,
846 Cが「その職務を行うについて注意を怠らなかっ
847 た」(同法第462条第2項,
848 第465条第1項ただし書)かどうかを検討することが求めら
849 れる。
850
851 さらに,
852 本件自己株式取得及び本件自己株式処分に関して,
853 同法第423条の任務懈
854 怠責任も問題になるが,
855 その検討に当たっては,
856 設問@Aにおける論述との整合性を意識しな
857 がら,
858 何が任務懈怠に当たるのかを分析することが求められるほか,
859 損害額に関する論理的な
860 記述が期待される。
861
862
863 〔第3問〕
864 〔設問1〕は,
865 第1回口頭弁論期日において,
866 Pがした「Aは,
867 甲土地を現に所有している。
868
869 」
870 (B)という陳述につき,
871 Cが認める旨の陳述をしたことが,
872 権利自白に当たることを前提に
873 して,
874 第2回口頭弁論期日において,
875 Cの訴訟代理人Qが,
876 Bの陳述と矛盾する陳述HIをし
877 たことが,
878 許されない権利自白の撤回として扱われるべきかどうかを,
879 原告Bないしその訴訟
880 -6-
881
882 代理人Pの立場から検討することを求める問題である。
883
884 その際には,
885 PとRの会話におけるP
886 の最後の発言で示唆されているように,
887 事実の自白の撤回制限効の根拠に遡って検討すること
888 が求められる。
889
890 換言すれば,
891 事実の自白の撤回制限効の根拠論が,
892 権利自白に類推できるかど
893 うかを検討することが,
894 本問の題意である。
895
896
897 まず,
898 事実の自白の撤回制限効の根拠であるが,
899 少なくとも主要事実の自白には,
900 審判排除
901 効や証明不要効(民事訴訟法第179条)が生ずることには,
902 見解の一致がある。
903
904 この審判排
905 除効や証明不要効が生ずることによって,
906 自白した当事者の相手方は当該主要事実について証
907 明を免れるという有利な地位を得ることになる。
908
909 自白の撤回が許されるとすると,
910 相手方はこ
911 の有利な地位を覆され,
912 立証の負担を負うことになる。
913
914 伝統的な見解は,
915 以上のような観点か
916 ら主要事実の自白の撤回は制限されると説いてきた。
917
918 この根拠論においては,
919 主要事実の自白
920 の裁判所に対する効力が,
921 撤回制限効の前提とされている。
922
923
924 したがって,
925 権利自白の撤回を論ずるに際しては,
926 Cがした権利自白に裁判所に対する何ら
927 かの効力が生ずるか,
928 検討する必要がある。
929
930 その際には,
931 権利自白の一般論も必要であるが,
932
933 所有権の所在についての自白には,
934 権利自白の中でも特段の考慮が必要であることに言及され
935 るべきである。
936
937 つまり,
938 所有権の所在が権利義務その他の法律関係の中でも一般人による判断
939 が比較的容易であることだけではなく,
940 所有権の承継に伴う問題点を考慮に入れなければなら
941 ない。
942
943
944 すなわち,
945 特定人が特定物の所有者であることについて肯定的な判断を下すためには,
946 本来
947 であれば,
948 直近の原始取得者が原始取得をするための主要事実が主張・立証された上で,
949 その
950 後の承継取得の主要事実が全て主張・立証される必要がある。
951
952 しかし,
953 以上のような諸事実は,
954
955 立証することが困難であるだけではなく,
956 そもそも主張することすら困難である場合がある。
957
958
959 そこで,
960 実務においては,
961 ある者が所有者であると主張する当事者は,
962 両当事者の間で争いの
963 ない現在又は過去の所有者を起点として,
964 必要があればその者以降の承継取得の主要事実を主
965 張すれば足りる,
966 という扱いがされているのである。
967
968 したがって,
969 この実務の扱いにおける「起
970 点として」とは,
971 裁判所に対するどのような効力を意味しており,
972 そして,
973 そのような効力が,
974
975 権利自白には原則として効力が認められないという一般論(法的な判断・評価は裁判所の専権
976 であることを根拠として,
977 伝統的にはこのように解されてきた。
978
979 )との関係で,
980 いかに正当化
981 されるかが検討されなければならない。
982
983 さらに,
984 裁判所に対する効力が正当化されるとしても,
985
986 事実の自白にはない権利自白に固有の性質から,
987 撤回制限効を認めないという議論が成り立つ
988 かどうかも検討されなければならない。
989
990
991 これに対して,
992 (主要)事実の自白について認められている撤回が許容される例外的な事由
993 が,
994 本問の事例において認められるかどうかは,
995 Cのした権利自白に撤回制限効が肯定されて
996 初めて問題になるものであるから,
997 これらの事由の有無を検討することには,
998 題意においては
999 副次的な位置付けしかない。
1000
1001
1002 また,
1003 本問は「被告側の権利自白の撤回は許されない」という方向からの検討を求めるもの
1004 であるから,
1005 党派的な議論が求められる。
1006
1007 もっとも,
1008 ここで求められる党派的な議論とは,
1009 一
1010 面的にBないしPに有利な議論をすることではなく,
1011 相手方からの反論を想定し,
1012 それに対す
1013 る批判的な検討を試みることである。
1014
1015
1016 〔設問2〕は,
1017 訴訟1におけるBの当事者適格が認められない可能性があることを前提に,
1018
1019 Fが訴訟1に当事者として参加する方法として,
1020 いわゆる権利主張参加(民事訴訟法第47条
1021 第1項後段)と共同訴訟参加(民事訴訟法第52条)のそれぞれについて,
1022 その許否を検討す
1023 ることを求める問題である。
1024
1025
1026 まず,
1027 その前提として,
1028 訴訟1における原告Bは,
1029 Aに対する貸金債権に基づき代位債権者
1030 としてAに代位している法定の訴訟担当者であり,
1031 訴訟1の訴訟物は,
1032 AのCに対する甲土地
1033 の所有権に基づく甲土地の移転登記請求権であることが確認されなければならない。
1034
1035 そして,
1036
1037 -7-
1038
1039 Fが当事者として参加する場合も,
1040 同じく代位債権者(法定の訴訟担当者)として,
1041 AのCに
1042 対する甲土地の所有権に基づく甲土地の移転登記請求権を訴訟物とする請求を立てることにな
1043 ることも確認されなければならない。
1044
1045
1046 次に,
1047 権利主張参加の許否であるが,
1048 権利主張参加は参加人が「訴訟の目的の全部又は一部
1049 が自己の権利であることを主張する」という要件を満たす場合に許容される。
1050
1051 権利主張参加の
1052 趣旨は,
1053 訴訟の目的についての権利に関する三者間の法律関係を矛盾なく解決することにある
1054 ことから,
1055 この要件は原告の請求と参加人の請求が法律上非両立の関係にあることを意味する
1056 と考えられている。
1057
1058
1059 そこで,
1060 本問の事例において,
1061 この要件が満たされているかどうかを判断することになるが,
1062
1063 その際に,
1064 訴訟物が同一であることだけでこの要件が満たされていないとはいえないことに注
1065 意が必要である。
1066
1067 というのも,
1068 判例(最判昭和48年4月24日民集27巻3号596頁)・
1069 通説によれば,
1070 債権者代位訴訟に,
1071 被保全債権の存在を争う債務者が,
1072 自らへの給付を求めて
1073 権利主張参加をすることが肯定されているからである。
1074
1075 そこでは,
1076 訴訟物が同一であるにもか
1077 かわらず,
1078 原告と参加人の原告適格が非両立であるために,
1079 代位債権者(原告)の第三債務者
1080 (被告)に対する請求と債務者(参加人)の被告に対する請求の双方が同時に認容されること
1081 はない,
1082 という関係がある。
1083
1084 したがって,
1085 本問の事例において,
1086 BとFの原告適格が両立する
1087 かどうか,
1088 換言すれば,
1089 債権者代位権の行使によって債務者の管理処分権が剥奪ないし制限さ
1090 れることとの関係で,
1091 BとFの債権者代位権が両立するかどうかが検討されなければならない。
1092
1093
1094 最後に,
1095 共同訴訟参加の許否であるが,
1096 共同訴訟参加は,
1097 「訴訟の目的が当事者の一方及び
1098 第三者について合一にのみ確定すべき場合」に許容される。
1099
1100 この要件は,
1101 参加人が原告側に参
1102 加する場合には,
1103 原告と参加人が共同原告であったと仮定したときに,
1104 その訴訟が原告側の必
1105 要的共同訴訟であることを意味する。
1106
1107
1108 したがって,
1109 本問の事例では,
1110 BとFが共同原告としてCに対する訴えを提起した場合に,
1111
1112 原告側の必要的共同訴訟になるかどうかが検討されなければならない。
1113
1114 それぞれ別個独立の被
1115 保全債権を有するBとFは,
1116 債権者代位権を共同で行使しなければならない関係にはないから,
1117
1118 固有必要的共同訴訟は成立しない。
1119
1120 そこで,
1121 類似必要的共同訴訟が成立するかどうかの検討が
1122 必要となる。
1123
1124
1125 原告側の類似必要的共同訴訟は,
1126 共同原告の一方が訴えを単独提起した場合に,
1127 その訴えが
1128 原告適格に欠けることがないと同時に,
1129 その訴えに係る訴訟の確定判決の効力が他方に及ぶと
1130 いう関係が成り立つ場合に成立する。
1131
1132
1133 そこで,
1134 B又はFが単独で訴えを提起した場合に,
1135 その訴えに係る訴訟の確定判決の既判力
1136 又はその反射的効力がF又はBに及ぶかどうかを検討することになる。
1137
1138 複数の法定の訴訟担当
1139 者が原告となった訴訟が類似必要的共同訴訟であるとする最高裁裁判例として,
1140 住民訴訟に関
1141 する最判昭和58年4月1日民集37巻3号201頁,
1142 最(大)判平成9年4月2日民集51
1143 巻4号1673頁と,
1144 株主代表訴訟に関する最判平成12年7月7日民集54巻6号1767
1145 頁があるが,
1146 平成9年判決は他の担当権限を有する者(原告適格者)に対する既判力の直接拡
1147 張を,
1148 他の2判決は被担当者に既判力が及ぶこと(民事訴訟法第115条第1項第2号)から
1149 被担当者を経由して既判力が他の原告適格者に反射的に及ぶことを前提としている。
1150
1151
1152 他方,
1153 本問の事例で,
1154 BとFが訴えを共同提起した場合において,
1155 これが仮に通常共同訴訟
1156 であるとすると,
1157 BとFの受ける本案判決の内容に相違が生ずる可能性があり,
1158 かかる相違が
1159 生じたときには,
1160 被担当者に既判力が及ぶことから,
1161 被担当者であるAにおいて既判力の矛盾
1162 が生ずることになる。
1163
1164 このような,
1165 被担当者における既判力の矛盾を回避する必要性から,
1166 類
1167 似必要的共同訴訟性を根拠付ける考え方もあり得るところである。
1168
1169
1170 〔設問3〕は,
1171 訴訟2におけるLとMの関係が必要的共同訴訟と通常共同訴訟のいずれであ
1172 るかという検討を前提に,
1173 Mのした請求の認諾及び中間確認請求の放棄の陳述がどのような効
1174 -8-
1175
1176 力を有するかを問う問題である。
1177
1178 なお,
1179 検討に際して,
1180 該当する判例を押さえておくことが求
1181 められている。
1182
1183
1184 当然承継後の訴訟2における本訴請求は,
1185 LとMが丙建物を共有していることを前提とした,
1186
1187 乙土地の所有権に基づく丙建物収去乙土地明渡請求である。
1188
1189 本問の事例とほぼ同様の事例にお
1190 いて,
1191 最判昭和43年3月15日民集22巻3号607頁は,
1192 このような場合に建物共有者が
1193 負担する建物収去土地明渡義務は不可分債務であり,
1194 土地所有者は建物共有者のそれぞれに各
1195 別に請求をすることができることを理由として,
1196 被告側の固有必要的共同訴訟ではないとして
1197 いる(通常共同訴訟であるとする趣旨であると考えられる。
1198
1199 )。
1200
1201
1202 これに対して,
1203 当然承継後の中間確認請求は,
1204 「乙土地をL及びMが共有する」ことの確認
1205 請求である。
1206
1207 最判昭和46年10月7日民集25巻7号885頁は,
1208 このような請求は,
1209 共有
1210 者の持分の確認とは区別された,
1211 共有権(共有関係)の確認であることを前提として,
1212 この訴
1213 訟では,
1214 共有者全員が有する一個の所有権が紛争の対象となっており,
1215 その解決には共有者全
1216 員が法的利害関係を有することから,
1217 全員に矛盾なく解決される必要があることを理由に,
1218 原
1219 告側の固有必要的共同訴訟であるとする。
1220
1221
1222 以上の判例を前提とすると,
1223 Mの本訴請求の認諾の陳述は,
1224 Mとの関係でのみ効力を有し,
1225
1226 Lには効力を及ぼさない(民事訴訟法第39条)のに対して,
1227 中間確認請求の放棄の陳述は,
1228
1229 MとLのいずれの関係においても効力を持たない(民事訴訟法第40条第1項)ことになる。
1230
1231
1232 そうすると,
1233 終局判決において中間確認請求が認容され,
1234 この判決が確定した場合には,
1235 Mは
1236 乙土地の共有者であるにもかかわらず,
1237 Nに対して乙土地の明渡義務を負うという,
1238 実体法上
1239 は矛盾した結果が生ずる。
1240
1241 しかも,
1242 乙土地の所有者が誰であるかは,
1243 本訴請求との関係で,
1244 先
1245 決的法律関係であることに注意が必要である。
1246
1247
1248 以上のような矛盾した結果が生ずる可能性があることを踏まえて,
1249 これを訴訟法的な観点か
1250 ら放置してよいものかどうか,
1251 そして,
1252 放置すべきではないとすれば,
1253 いかにすればよいかを,
1254
1255 判例とは異なる解釈を採ることを含めて検討することを求めるのが,
1256 本問の題意である。
1257
1258
1259 例えば,
1260 本訴請求が乙土地の一個の所有権の帰属に関する争いの一環としての訴訟であるこ
1261 とから,
1262 本訴請求,
1263 中間確認請求のいずれもを固有必要的共同訴訟と解することによって矛盾
1264 を回避すべきとする立場,
1265 あるいは,
1266 Kは,
1267 Mの認諾調書のみではL・Mに対して土地明渡し
1268 の強制執行をすることができない(上記昭和43年判決はそのように判示する。
1269
1270 )から,
1271 上記
1272 判例による帰結に不都合はないとする立場などがあろう。
1273
1274 どのような立場を採るにせよ,
1275 法律
1276 論として説得力ある議論を展開することが求められる。
1277
1278
1279 【刑事系科目】
1280 〔第1問〕
1281 本問は,
1282 夜の繁華街で発生した3名によるけんかという具体的事例について,
1283 それぞれの罪
1284 責を問うことにより,
1285 刑事実体法及びその解釈論の知識と理解,
1286 具体的な事案を分析してそれ
1287 に法規範を適用する能力及び論理的な思考力・論述力を試すものである。
1288
1289 すなわち,
1290 本問の事
1291 案は,
1292 @甲と乙とが繁華街を通行中にお互いの肩が接触したことから両者のけんかとなり,
1293 乙
1294 の仲間である丙も加わり,
1295 三者の間で殴る蹴るなどの暴行が応酬された(記述の便宜上,
1296 ここ
1297 までの場面を「第1場面」という。
1298
1299 ),
1300 Aその後,
1301 甲は走ってその場から逃げ出したが,
1302 乙がそ
1303 れを追い掛けてナイフで甲の前腕部を切り付けた(ここまでを「第2場面」という。
1304
1305 ),
1306 Bさら
1307 に,
1308 甲が車を運転して逃げようとしたところ,
1309 乙は,
1310 甲の運転する車(以下「甲車」という。
1311
1312 )
1313 と併走し,
1314 更に甲車の運転席外側に飛び乗ってしがみつき,
1315 運転席窓ガラスの隙間からナイフ
1316 を甲に突き出すなどして攻撃の気勢を示した。
1317
1318 これに対し,
1319 甲は,
1320 車を加速,
1321 蛇行させて乙を
1322 振り落とし,
1323 その頭部を路上に強打させて頭蓋骨骨折等の重傷を負わせた(ここまでを「第3
1324 場面」という。
1325
1326 )というものである。
1327
1328 第1ないし第3場面における甲乙丙の各行為に対する罪
1329 -9-
1330
1331 責を論ずるに当たり,
1332 状況が変化していく複雑な事実関係を的確に分析した上で,
1333 殺人未遂罪
1334 等の構成要件該当性,
1335 正当防衛ないし過剰防衛の成否,
1336 共謀の成否等の事実認定上及び法解釈
1337 上の問題を検討し,
1338 事案に当てはめて妥当な結論を導くことが求められる。
1339
1340
1341 (1) 甲の罪責について
1342 第1場面において,
1343 甲が暴行を加えて乙及び丙に傷害を負わせたことは問題なく認められ
1344 るであろうが,
1345 論述においては,
1346 傷害罪の構成要件,
1347 すなわち,
1348 暴行,
1349 傷害,
1350 それぞれの暴
1351 行と傷害との因果関係及び故意等が認められるかについて留意し,
1352 簡潔に論ずべきである。
1353
1354
1355 問題となるのは,
1356 第3場面において,
1357 甲が車を加速させた上で蛇行運転をして乙を振り落
1358 とした行為の擬律判断である。
1359
1360
1361 構成要件該当性の段階では,
1362 甲が車にしがみついていた乙を蛇行運転するなどして振り落
1363 とすという危険性の高い行為に及んでいることや,
1364 乙が頭蓋骨骨折等の重傷を負って意識回
1365 復の見込みもない状態に至っていることから,
1366 傷害罪ではなく,
1367 殺人未遂罪の成否をまず検
1368 討することになる。
1369
1370 最初に,
1371 行為の客観面として殺人の実行行為性を検討し,
1372 問題文中に表
1373 れている甲車の高さ,
1374 速度,
1375 走行距離,
1376 走行態様,
1377 路面状況及び行為によって生じた結果等
1378 の具体的な事実を丁寧に拾い上げ,
1379 それらが行為の危険性判断においてどのような意味を持
1380 つのかを明らかにする必要がある。
1381
1382 次に,
1383 行為の主観面として殺意(故意)の有無を検討し,
1384
1385 上記の実行行為性判断に関係する諸事情に対する甲の認識に加え,
1386 甲の内心(「乙が路面に
1387 頭などを強く打ち付けられてしまうだろうが,
1388 乙を振り落としてしまおう。
1389
1390 」)等の事情を斟
1391 酌し,
1392 構成要件実現の認識・認容が甲にあったといえるかなどの観点から故意の有無を認定
1393 するべきである。
1394
1395
1396 違法性の段階では,
1397 正当防衛又は過剰防衛の成否が問題となるので,
1398 その成立要件を事案
1399 に即して検討することが求められる。
1400
1401 急迫不正の侵害の要件では,
1402 乙は,
1403 甲車と併走してい
1404 た時点ではナイフを運転席の甲に突き出すなどしていたが,
1405 甲車から振り落とされた時点で
1406 は既にナイフを車内に落としていたことから,
1407 それでもなお侵害の急迫性が認められるか検
1408 討しなければならない。
1409
1410 この点では,
1411 「急迫性」の考え方と,
1412 「侵害行為」の範囲をどのよう
1413 に捉えるかが問題となる。
1414
1415 防衛の意思の要件においては,
1416 防衛の意思必要説に立つ場合,
1417 乙
1418 を振り落とすという危険な行為をあえて行った甲に防衛の意思が認められるかを論ずるべき
1419 である。
1420
1421 最も問題となるのは相当性の要件であるが,
1422 乙が重傷を負ったという結果の重大性
1423 だけでなく,
1424 振り落としという行為が防衛手段として必要最小限度か否かを吟味する必要が
1425 あり,
1426 甲に利用可能な他の侵害排除手段があったかどうか,
1427 振り落とし行為の危険性と比べ
1428 て,
1429 乙はその時点で既にナイフを持っておらず素手だったことなどの具体的事情を考慮する
1430 必要がある。
1431
1432 相当性がないと判断すれば,
1433 甲の振り落とし行為には過剰防衛が成立すること
1434 になる。
1435
1436
1437 正当防衛又は過剰防衛の成立を認める上では,
1438 自招侵害の成否にも言及すべきである。
1439
1440 甲
1441 が第1場面で乙らに激しい暴行を加えたことが,
1442 第3場面で乙の甲に対する侵害を生じさせ
1443 た契機となったからである。
1444
1445 自招侵害については,
1446 諸説があるが,
1447 判例としては最決平成2
1448 0年5月20日刑集62巻6号1786頁が参考になり,
1449 この判例の考え方に従えば,
1450 第1
1451 場面での甲の暴行と第3場面での乙の侵害との時間的・場所的近接性や,
1452 両者の侵害の程度
1453 を比較することになる。
1454
1455
1456 (2) 乙の罪責
1457 第1場面では,
1458 乙丙の一連の暴行により,
1459 甲は加療約2週間を要する頭部打撲及び腰背部
1460 打撲等の怪我を負っている。
1461
1462 乙が甲の腰背部を複数回蹴ったことにより甲の腰背部打撲の傷
1463 害が生じたこと,
1464 丙が甲の頭部を2回殴打したことにより甲の頭部打撲の傷害が生じたこと
1465 はそれぞれ認められるが,
1466 それぞれの傷害を生じさせた暴行を実行していない者の責任,
1467 つ
1468 まり,
1469 丙の暴行による傷害についての乙の責任及び乙の暴行による傷害についての丙の責任
1470 - 10 -
1471
1472 の有無を判断する上で,
1473 乙丙間の(現場)共謀の成否が問題となる。
1474
1475
1476 共謀を認定するに当たっては,
1477 乙と丙の関係,
1478 丙が乙に加勢した経緯,
1479 丙が「助けてくれ。
1480
1481 」
1482 と言ったのに応えて乙が甲に暴行したこと,
1483 乙に向かっていこうとした甲の背後から丙が暴
1484 行したことなどの暴行時の具体的状況等を子細に検討する必要がある。
1485
1486
1487 次に,
1488 (正当防衛行為に関する意思の合致を「共謀」と評価し得るかという問題はあるも
1489 のの,
1490 )構成要件該当性の判断では傷害罪の共同正犯が成立するとしても,
1491 違法性レベルで
1492 は正当防衛の成否を更に検討する必要がある。
1493
1494 ここでも,
1495 急迫不正の侵害,
1496 防衛の意思(特
1497 に,
1498 乙には,
1499 丙を助ける意思と甲に対する仕返しの意思が併存している点が問題となる。
1500
1501 ),
1502
1503 相当性の各要件について検討することになる。
1504
1505
1506 第2場面においては,
1507 乙が甲の前腕部をナイフで切り付けた行為が,
1508 第1場面における乙
1509 の反撃行為と一体のものとして(量的)過剰防衛となるか,
1510 それとも,
1511 第1場面における暴
1512 行とは別個の行為として傷害罪が成立するか検討する必要がある。
1513
1514
1515 最決平成20年6月25日刑集62巻6号1859頁が,
1516 上記と同様の事例において,
1517 ま
1518 ず第2の暴行について正当防衛の成否を検討し,
1519 次いで,
1520 第1の暴行と第2の暴行の一体性
1521 を,
1522 時間的・場所的連続性,
1523 侵害の継続性,
1524 反撃行為者の防衛の意思の有無等の観点から検
1525 討しているのが参考になる。
1526
1527 本問では,
1528 第1場面と第2場面では時間的・場所的連続性は否
1529 定し難いものの,
1530 第2場面で乙が甲に切り付けた時点では,
1531 甲はそれ以前から全速力で逃げ
1532 出しており,
1533 もはや侵害が継続していたとは認められず,
1534 また,
1535 乙の防衛の意思も認定し難
1536 いことから,
1537 行為の一体性を否定し,
1538 傷害罪に問うことになろう。
1539
1540
1541 (3) 丙の罪責
1542 第1場面の丙の暴行について,
1543 乙との現場共謀の成否と正当防衛の成否が問題となること
1544 は乙の場合と同様である。
1545
1546
1547 そして,
1548 第1場面で乙丙間に共謀が成立しているとすると,
1549 第2場面での乙による甲の前
1550 腕部の切り付け行為について,
1551 丙も共犯者として責任を負うかが問題となる。
1552
1553
1554 この点については,
1555 共謀の捉え方,
1556 正当防衛行為の共謀をどのように考えるかによって複
1557 数のアプローチが考えられる。
1558
1559 一つの考え方は,
1560 第1場面における乙丙の共謀の範囲に,
1561 第
1562 2場面でのナイフによる切り付けが含まれるかを問題とし,
1563 同共謀はあくまで正当防衛行為
1564 の限度でしか成立しておらず,
1565 乙の切り付け行為は共謀の範囲外であるとして,
1566 丙は責任を
1567 負わないとするものである。
1568
1569 別の考え方では,
1570 第1場面における共謀には,
1571 素手によるかナ
1572 イフを用いるかという暴行の手段に関する限定はなく,
1573 第2場面でのナイフの切り付けも共
1574 謀の範囲内であることを前提として,
1575 丙が共犯関係から離脱しているかを問題とする。
1576
1577 最判
1578 平成6年12月6日刑集48巻8号509頁は,
1579 先行行為に正当防衛が成立するときには,
1580
1581 先行行為の共同意思からの離脱の有無を問うのではなく,
1582 後行行為の時点での新たな共謀の
1583 有無を検討し,
1584 そこで共謀が認められた場合に,
1585 先行行為と後行行為を一連の行為として考
1586 察して防衛行為の相当性を検討すべきとする。
1587
1588 この判例の考え方に従って本問の事案を見る
1589 と,
1590 第2場面において,
1591 丙は乙がナイフを出したのを見て「やめとけ。
1592
1593 ナイフなんかしまえ。
1594
1595 」
1596 と何度か叫んだり,
1597 甲に切りかかった乙を引っ張って甲から引き離すなどしたのであるから,
1598
1599 乙丙間の新たな共謀は認められず,
1600 結局,
1601 乙の切り付け行為について丙が責任を負うことは
1602 ないということになろう。
1603
1604
1605 いずれの考え方に立っても,
1606 論理的一貫性を保ちつつ,
1607 妥当な結論を導く必要がある。
1608
1609
1610 論述においては,
1611 刑法解釈上の論点についての基本的な判例・学説の知識を前提に,
1612 具体的
1613 な事案を法的に分析し,
1614 結論の妥当性も勘案しつつ,
1615 的確に事実を認定して,
1616 法規範の当ては
1617 めを行うことが求められる。
1618
1619 常日頃から,
1620 抽象的な理論だけの勉強に偏ることなく,
1621 判例の学
1622 習等を通じて具体的な事例を題材として事実を認定し,
1623 それに理論を当てはめる力を鍛錬する
1624 ことが肝要である。
1625
1626
1627 - 11 -
1628
1629 〔第2問〕
1630 本問は,
1631 殺人,
1632 死体遺棄事件を素材とした捜査・公判に関する具体的事例を示して,
1633 そこに
1634 生起する刑事手続上の問題点,
1635 その解決に必要な法解釈,
1636 法を適用するに当たって重要な具体
1637 的事実の分析・評価及び具体的帰結に至る思考過程を論述させることにより,
1638 刑事訴訟法に関
1639 する学識,
1640 適用能力及び論理的思考力を試すものである。
1641
1642
1643 設問1は,
1644 殺人,
1645 死体遺棄(本件)事件では逮捕ができるだけの証拠はなかった甲及び乙に
1646 つき,
1647 警察官が別の犯罪事実(別件)で逮捕したいと考え,
1648 甲については捜査の過程で判明し
1649 たコンビニ強盗事件で,
1650 乙については尾行中に現認した万引き事件で,
1651 それぞれ逮捕,
1652 勾留し
1653 たことや,
1654 その後,
1655 両名を殺人,
1656 死体遺棄事件で逮捕,
1657 勾留したことに関し,
1658 各逮捕及びこれ
1659 に引き続く身体拘束の適法性を論じさせることにより,
1660 刑事訴訟法の規定する逮捕,
1661 勾留の要
1662 件,
1663 そしていわゆる別件逮捕・勾留に関する法的問題の理解と具体的事実への適用能力を試す
1664 ものである。
1665
1666
1667 いわゆる別件逮捕・勾留に関する捜査手法の適法性については,
1668 別件基準説と本件基準説を
1669 中心に多様な考え方があるところであり,
1670 まずは何を基準に適法性を判断するのか,
1671 この問題
1672 に関する各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論じる必要がある。
1673
1674 その上で,
1675 本件事
1676 例の具体的状況下における逮捕@ないしC及びこれらに引き続く身体拘束について,
1677 それぞれ
1678 法定の要件(刑事訴訟法第199条,
1679 第212条,
1680 第207条第1項により準用される第60
1681 条等)を満たすかどうか,
1682 さらに,
1683 いわゆる別件逮捕・勾留に関する各自の立場に照らした場
1684 合に適法かどうかを,
1685 事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,
1686 分析しながら論じるべきであ
1687 る。
1688
1689 個々の適法又は違法の結論はともかく,
1690 具体的事実を事例中からただ書き写して羅列すれ
1691 ばよいというものではなく,
1692 それぞれの事実が持つ法的な意味を的確に分析して論じなければ
1693 ならない。
1694
1695
1696 例えば,
1697 逮捕@については,
1698 店員Wが複数の中から甲の写真を選択して犯人の1人に間違い
1699 ないと供述していることなどの具体的な事情を通常逮捕の要件に当てはめて検討すべきである
1700 し,
1701 引き続く身体拘束の適法性に関しては,
1702 甲の供述態度等を踏まえた勾留の要件の検討のほ
1703 か,
1704 甲に対する取調べが,
1705 連日,
1706 強盗事件を中心に行われていたこと,
1707 平成22年5月15日
1708 に余罪の有無について確認されるや,
1709 甲は,
1710 殺人,
1711 死体遺棄の事実を認めたため,
1712 翌16日ま
1713 で同事実に関する事情聴取が実施されたが,
1714 供述録取書等の作成については拒絶したこと,
1715 同
1716 月17日以降は,
1717 毎日約30分だけ供述録取書等の作成について説得が続けられていたことを
1718 どのように評価するのか,
1719 各自の立場に照らして論じるべきであるし,
1720 立場によっては,
1721 逮捕
1722 @及びこれに引き続く身体拘束を一体のものとして,
1723 具体的な取調状況等を踏まえて適法性を
1724 検討する必要があろう。
1725
1726
1727 また,
1728 逮捕Aについては,
1729 司法警察員Qが乙の万引きを現認し,
1730 司法警察員Pが乙を追い掛
1731 けて逮捕したこと,
1732 被害額は500円相当と比較的少額ではあるが,
1733 乙には1年以内の同種前
1734 歴があることや,
1735 呼び止められて突然逃げ出したことを,
1736 現行犯逮捕又は準現行犯逮捕の要件
1737 に当てはめて検討することになるであろうし,
1738 引き続く身体拘束の適法性に関しては,
1739 同種前
1740 歴の存在や乙の生活状況等を踏まえた勾留の要件の検討のほか,
1741 乙については,
1742 同月15日に
1743 余罪はない旨供述した後は,
1744 殺人,
1745 死体遺棄事件に関する事項については一切聴取されなかっ
1746 たことを踏まえ,
1747 各自の立場に照らした論述が求められるし,
1748 前同様,
1749 立場によっては,
1750 逮捕
1751 A及びこれに引き続く身体拘束を一体のものとして,
1752 具体的な取調状況等を踏まえてその適法
1753 性を論じることになろう。
1754
1755
1756 さらに,
1757 逮捕B及びC,
1758 そしてこれらに引き続く身体拘束については,
1759 A女の供述やV女の
1760 死体の発見,
1761 これに符合するメールの存在,
1762 甲及び乙の供述態度等を通常逮捕及び勾留の各要
1763 件に当てはめて検討するとともに,
1764 各自の立場から,
1765 実質的に同一被疑事実による逮捕・勾留
1766 - 12 -
1767
1768 の蒸し返しでないかどうかを意識し,
1769 別件の取調べ状況と本件の取調べ状況を踏まえて論じる
1770 ことになろう。
1771
1772
1773 設問2は,
1774 差し押さえた証拠物(パソコン及び携帯電話)に残っていたメールを添付した捜
1775 査報告書(資料1及び資料2)について,
1776 それぞれ,
1777 その要証事実との関係での証拠能力を問
1778 うことにより,
1779 伝聞法則の正確な理解と具体的事実への適用能力を試すものである。
1780
1781
1782 各捜査報告書は,
1783 いずれも,
1784 司法警察員Pが,
1785 差し押さえたパソコン及び携帯電話を精査し
1786 て発見したメールを機械的に紙に印刷してそれぞれの捜査報告書に添付したものであるから,
1787
1788 捜査官が五官の作用によって事物の存在・状態を観察して認識する作用である検証の結果を記
1789 載した書面に類似した書面として,
1790 刑事訴訟法第321条第3項により,
1791 作成者Pが公判廷で
1792 真正に作成されたものであることを供述すれば伝聞例外として証拠能力が付与されるという書
1793 面全体の性質を論じた上で,
1794 各捜査報告書に添付されたメールの伝聞性を論じることになる。
1795
1796
1797 資料1の捜査報告書は「殺人及び死体遺棄に関する犯罪事実の存在」とする立証趣旨により
1798 証拠調べ請求が行われているところ,
1799 同報告書に添付されたBからA女宛てのメールについて
1800 は,
1801 内容に甲及び乙の発言を含むものであるが,
1802 まずはメール全体のBの供述についての証拠
1803 能力を検討する必要がある。
1804
1805 同メールは,
1806 Bが知覚,
1807 記憶し,
1808 表現した内容たる事実が要証事
1809 実となり,
1810 その真実性を証明しようとするものであるから,
1811 伝聞証拠に該当すると解した上で,
1812
1813 伝聞例外を定める刑事訴訟法第321条第1項第3号によりその証拠能力の有無を検討するこ
1814 ととなる。
1815
1816 同号の各要件については,
1817 Bの死亡や甲,
1818 乙両名が黙秘していること,
1819 メールの内
1820 容がA女の供述内容や死体発見状況と合致することや,
1821 当時,
1822 A女と結婚を前提に交際してい
1823 たという具体的事実を的確に当てはめることが必要となろう。
1824
1825
1826 次に,
1827
1828 「死体遺棄に関する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分に関し,
1829 同メール中には,
1830
1831 実際に甲及び乙とともに死体遺棄を行った旨のBの発言のみならず,
1832 Bに死体遺棄の手伝いを
1833 依頼する甲及び乙の発言内容も含まれている。
1834
1835 この甲及び乙の発言内容についてはそれ自体の
1836 伝聞該当性の問題が生じ得ることを指摘する必要があるが,
1837 死体遺棄に関する甲及び乙のこれ
1838 ら発言部分は,
1839 甲及び乙の内心の状態を推認させる発言,
1840 又は死体遺棄の共謀の構成事実とな
1841 る発言と見ることができるから,
1842 伝聞証拠であるか否かが問題となることを意識して論述する
1843 必要がある。
1844
1845
1846 これに対し,
1847 「殺人に関する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分に関しては,
1848 V女を殺
1849 害した旨のBに対する甲及び乙の発言内容から立証することになるが,
1850 甲及び乙のこれらの発
1851 言は,
1852 知覚・記憶・表現の過程を経るものであり,
1853 いわゆる再伝聞に該当するため,
1854 まずは刑
1855 事訴訟法第324条第1項が供述代用書面に準用できるかを意識して論じた上で,
1856 伝聞例外に
1857 該当するかどうかを検討することになろう。
1858
1859 ここでは,
1860 甲及び乙それぞれについて,
1861 自己を被
1862 告人とする関係では刑事訴訟法第322条第1項,
1863 共犯者を被告人とする関係では同法第32
1864 1条第1項第3号の適用が問題となることの指摘が必要であり,
1865 前者については,
1866 甲及び乙の
1867 各発言が,
1868 いずれもV女の殺害を認めるもので,
1869 不利益な事実の承認に当たることや,
1870 死体遺
1871 棄を手伝うように依頼する際,
1872 友人のBに対して発言したものであるという具体的事実を的確
1873 に当てはめることが求められ,
1874 後者については,
1875 被告人甲の関係では供述者たる乙が,
1876 被告人
1877 乙の関係では供述者たる甲が公判で黙秘しない限りは,
1878 同号の要件を満たすことはないことを
1879 論じる必要があろう。
1880
1881
1882 一方,
1883 資料2の捜査報告書は「死体遺棄の報酬に関するメールの交信記録の存在と内容」と
1884 する立証趣旨で証拠調べ請求が行なわれており,
1885 要証事実を的確に捉えれば,
1886 これは死体遺棄
1887 の事実を直接立証するものでなく,
1888 甲B間で死体遺棄についての報酬の支払請求に関するメー
1889 ルが存在することを情況証拠として用いることに意味があるから,
1890 伝聞証拠には該当しないと
1891 の理解が可能であろう。
1892
1893
1894 いずれの設問についても,
1895 正確な法的知識を当然の前提としながら,
1896 法解釈論や要件を抽象
1897 - 13 -
1898
1899 的に論じるだけでなく,
1900 事例中に現れた具体的事実関係を前提に,
1901 法的に意味のある事実の的
1902 確な把握と要件への当てはめを行うことが要請されている。
1903
1904
1905 【選択科目】
1906 [倒
1907
1908 産
1909
1910 法]
1911
1912 〔第1問〕
1913 本問は,
1914 具体的な事例を通じて,
1915 破産手続における土地賃貸借契約の解除及び借地上の建物
1916 についての抵当権に関する破産法及び実体法上の規律についての理解を問うものである。
1917
1918
1919 設問1については,
1920 まず,
1921 本件事例においては,
1922 破産手続開始決定前に既に実体法上賃貸借
1923 契約の解除権が発生しているが,
1924 破産手続開始後においても解除権を行使することができるの
1925 か,
1926 あるいは解除権行使の効果を破産管財人に対抗することができるのかという問題について,
1927
1928 破産管財人の法的地位をも踏まえつつ,
1929 論ずることが求められる。
1930
1931 その際,
1932 破産管財人につい
1933 ては,
1934 場面により,
1935 破産者の承継人としての地位と差押債権者類似の第三者的地位の双方が認
1936 められることを前提としつつ,
1937 破産手続開始前に既に解除権が発生していることを踏まえたX
1938 とA社の利益状況,
1939 賃借権の差押債権者に対する解除権の対抗の可否についての実体法上の規
1940 律等,
1941 様々な観点から自説を説得的に展開することが求められる。
1942
1943
1944 設問2(1)については,
1945 まず,
1946 本件事例の下では,
1947 Xは,
1948 破産法第53条第1項に基づき
1949 双方未履行双務契約である賃貸借契約を解除することができることを指摘した上で,
1950 その当否
1951 について,
1952 C社の抵当権についての担保価値維持義務に照らして検討する必要がある。
1953
1954 その際
1955 には,
1956 Xが担保価値維持義務を負う法的根拠を明らかにするほか,
1957 賃料の負担の回避の必要性
1958 等本件事例における状況を踏まえつつ,
1959 検討することが求められる。
1960
1961
1962 設問2(2)については,
1963 抵当権の設定登記の抹消のための方策として,
1964 抵当権消滅許可の
1965 申立てをすることが考えられるところ,
1966 その申立ての各要件(破産法第186条第1項)が満
1967 たされるか否かを,
1968 本件事例における状況を踏まえつつ,
1969 具体的に検討することが求められる。
1970
1971
1972 また,
1973 これを踏まえたC社の対抗手段としてどのようなものがあるかについて,
1974 抵当権の実行
1975 の申立て(同法第187条)及び買受けの申出(同法第188条)に触れつつ,
1976 述べる必要が
1977 ある。
1978
1979
1980 〔第2問〕
1981 本問は,
1982 具体的な事例を通じて,
1983 再生手続開始決定が係属中の民事訴訟に対して与える影響
1984 及び再生計画認可後にその履行がされなかった場合に再生債権者が自己の権利の実現のために
1985 採り得る手段についての理解を問うものである。
1986
1987
1988 設問1については,
1989 まず,
1990 本件訴訟における各請求の訴訟物を正確に把握した上で,
1991 建物明
1992 渡請求,
1993 賃料請求及び賃料相当損害金請求の各請求の再生手続における位置付けについて個別
1994 に検討を加える必要がある。
1995
1996 その際には,
1997 取戻権(民事再生法第52条第1項),
1998 再生債権(同
1999 法第84条第1項)及び共益債権(同法第119条第2号又は第5号)の意義等を踏まえつつ,
2000
2001 そのいずれに該当するかを具体的に論じる必要がある。
2002
2003 なお,
2004 建物明渡請求については,
2005 再生
2006 手続開始前に生じた賃貸借の終了を原因とする債権的請求権に基づくものであるところ,
2007 これ
2008 が再生債権ではなく取戻権に係るものと解すべきことを根拠を示して論じること,
2009 また,
2010 賃料
2011 相当損害金の請求については,
2012 再生手続開始決定の前日までの占有に基づいて生ずる部分と,
2013
2014 再生手続開始決定の日以降の占有に基づいて生ずる部分とに分けて,
2015 それぞれ検討することが
2016 求められる。
2017
2018 さらに,
2019 再生債権に関する訴訟については,
2020 再生手続開始決定により中断するこ
2021 と(民事再生法第40条第1項)のほか,
2022 その後の帰すう(同法第94条以下。
2023
2024 特に第107
2025 条)についても説明を加えることが求められる。
2026
2027
2028 設問2については,
2029 再生計画認可後において再生債権者が自己の債権の履行を確保するため
2030 - 14 -
2031
2032 の制度として,
2033 どのようなものが民事再生法に規定されているかという点についての理解を問
2034 うものであり,
2035 具体的には,
2036 まずは,
2037 再生計画の取消しについて,
2038 本件具体的事例において,
2039
2040 その要件該当性(民事再生法第189条第1項第2号,
2041 第3項),
2042 効果(同条第4項以下。
2043
2044 特
2045 に第7項)等について論じる必要がある。
2046
2047 さらに,
2048 再生計画認可後の再生手続の廃止(同法第
2049 194条),
2050 再生債権者表に基づく強制執行(同法第180条)等,
2051 他にどのような措置が考
2052 えられるか,
2053 それらの措置を採ることについての問題点,
2054 本件事例の下において期待し得る効
2055 果を踏まえた措置の当否等についても検討することが求められる。
2056
2057
2058 [租
2059
2060 税
2061
2062 法]
2063
2064 〔第1問〕
2065 本問は,
2066 事業所得に関する所得税法上の基本的な論点についての理解力と事案に即した判断
2067 力を試すものである。
2068
2069
2070 設問1は,
2071 親族で営まれる事業から生ずる所得について,
2072 実質所得者課税の原則(所得税法
2073 第12条)に基づく所得の人的帰属の判定を問う問題である。
2074
2075 事業から生ずる所得は,
2076 その経
2077 営主体である者(事業主)に帰属すると解されているが(最判昭和37年3月16日集民59
2078 巻393頁参照),
2079 事業が親族で営まれる場合,
2080 事業主は,
2081 その事業の経営に誰が支配的影響
2082 力を有するかによって判定される(東京高判平成3年6月6日訟月38巻5号878頁参照)。
2083
2084
2085 本問では,
2086 事案の中から事業経営に対する支配的影響力の判定要素を適切に摘出し評価する能
2087 力が,
2088 試されている。
2089
2090 その際,
2091 判例(最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁)に
2092 照らして事業所得の意義を正確に理解しているかどうか,
2093 その理解をどのように事業経営に対
2094 する支配的影響力の判定と関連付け,
2095 所得の人的帰属の判定に反映させるかも,
2096 問われている。
2097
2098
2099 設問2は,
2100 収入金額の計上時期(所得の年度帰属)の判定を問う問題である。
2101
2102 本問では,
2103
2104 「そ
2105 の年において収入すべき金額」(所得税法第36条第1項)という要件をどのように解釈し,
2106
2107 事案に適用するかが,
2108 問われている。
2109
2110 また,
2111 権利確定主義や管理支配基準の意義や適用場面を
2112 正確に理解しているかどうかも,
2113 問われている。
2114
2115 参考になる裁判例として,
2116 高松高判平成8年
2117 3月26日行集47巻3号325頁がある。
2118
2119
2120 設問3は,
2121 帰属所得の理解を問う問題である。
2122
2123 包括的所得概念の下では,
2124 帰属所得も所得を
2125 構成する。
2126
2127 ただし,
2128 現行所得税法上は,
2129 別段の定めがない限り,
2130 課税されない。
2131
2132 本問では,
2133 帰
2134 属所得の理論的意義と所得税法第39条等の別段の定めに関する正確な理解を前提にして,
2135 事
2136 案に即して帰属所得課税について理論と実際を架橋して論述する能力が,
2137 試されている。
2138
2139
2140 〔第2問〕
2141 設問1は,
2142 Aが商品先物取引によって得た売買差金2000万円の所得税法上の取扱いを問
2143 う問題であり,
2144 1では,
2145 上記売買差金がいずれの所得に分類されるのかを根拠を示しつつ答え
2146 ることとなるが,
2147 特に検討すべきは,
2148 譲渡所得,
2149 事業所得及び雑所得であろう。
2150
2151 このうち譲渡
2152 所得については,
2153 問題文にある商品先物取引の性質に照らして,
2154 所有資産の価値の増加益を譲
2155 渡によって得たと見ることが適当であるかどうかを答えることとなる。
2156
2157 また,
2158 Aが行う商品先
2159 物取引が「事業」といえるかは,
2160 問題文に示された事実関係を,
2161 自己の計算と危険において営
2162 利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動といえるかという基準(最判昭和53年10月
2163 31日訟月25巻3号889頁,
2164 最判平成元年6月22日税資170号769頁)に照らして
2165 判断する必要があり(名古屋地判昭和60年4月26日行集36巻4号589頁),
2166 事業所得
2167 といえなければ雑所得となる。
2168
2169 また,
2170 2は,
2171 必要経費について,
2172 3は損益相殺について,
2173 それ
2174 ぞれ基本的な理解を問う問題であり,
2175 1で雑所得と認定した場合には事業所得と損益相殺がで
2176 きないこと(所得税法第69条)を,
2177 損益相殺の趣旨を踏まえて指摘する必要がある。
2178
2179 なお,
2180
2181 問題文で示したとおり租税特別措置法の適用は考えないから,
2182 申告分離課税について言及する
2183 - 15 -
2184
2185 必要はない。
2186
2187
2188 設問2は,
2189 Aが受け取った損害賠償金が所得税法第9条第1項第17号の「損害賠償金」と
2190 して非課税所得となるかという,
2191 近時,
2192 幾つかの下級審で判断が示され(名古屋地判平成21
2193 年9月30日判時2100号28頁等),
2194 代表的な教科書でも言及されている論点について考
2195 える問題である。
2196
2197 すなわち,
2198 所得税法第9条第1項第17号は,
2199 「突発的な事故により資産に
2200 加えられた損害に基因して取得するもの」等を非課税所得とする旨規定しているが,
2201 本件のよ
2202 うに先物取引に関して生じた損害がこれに該当するのかを,
2203 所得税法第9条第1項第17号及
2204 び所得税法施行令第30条第2号の趣旨を踏まえつつ判断することとなるが,
2205 Aが受けた損害
2206 の性質をどのようなものと理解するかによって結論は異なり得るところであり,
2207 遅延損害金に
2208 ついてはその「損害」としての性質を踏まえて別に考える必要があろう。
2209
2210 なお,
2211 これに付随し
2212 て,
2213 不法行為による損害賠償判決で「損害」として認められている弁護士費用を,
2214 どのように
2215 扱うべきかを,
2216 Dに支払った着手金及び報酬が必要経費と認められるかを踏まえつつ検討する
2217 必要がある(所得税法施行令第30条括弧書)。
2218
2219 いずれも論点としては目新しいものであるが,
2220
2221 非課税所得及び必要経費に関する基本的事項を問題文に示された事実に丁寧に当てはめてゆけ
2222 ば結論に到達できると思われる。
2223
2224
2225 [経
2226
2227 済
2228
2229 法]
2230
2231 〔第1問〕
2232 本問は,
2233 化学メーカーであるA社とB社が,
2234 共同新設分割の方法により,
2235 出資比率各50%
2236 の共同出資会社C社を設立し,
2237 それぞれが営む甲製品の製造販売事業を全てC社に承継させる
2238 企業結合について,
2239 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」と
2240 いう。
2241
2242 )上の問題を検討し,
2243 併せて独占禁止法上の問題を解消するための対策について検討す
2244 ることを求めるものである。
2245
2246
2247 本件事例は,
2248 A社とB社が,
2249 共同新設分割の方法で共同出資会社を設立することにより企業
2250 結合を行うものであるが,
2251 当該企業結合がどの一定の取引分野において競争を実質的に制限す
2252 ることとなるのか,
2253 いずれかの一定の取引分野において競争を実質的に制限することとなると
2254 判断される場合には,
2255 当該企業結合に対してどのような内容の問題解消措置を採るべきである
2256 のか,
2257 企業結合に対する独占禁止法の適用の在り方について基本的な理解を問うものである。
2258
2259
2260 まず,
2261 本件企業結合により直接結合関係が形成される甲製品の製品販売事業について検討す
2262 ることが求められる。
2263
2264 他方,
2265 乙製品の製造販売事業については,
2266 本件企業結合により直接結合
2267 関係が形成されるわけではないが,
2268 乙製品は甲製品の不可欠の原料であり,
2269 乙製品の製造販売
2270 業者にとって甲製品の製造販売業者は重要な顧客であることから,
2271 共同出資会社C社にA,
2272 B
2273 各社から,
2274 乙製品の開発及び営業に長年従事してきた従業員を数名ずつ出向させることなどが
2275 予定されており,
2276 A,
2277 B両社間で乙製品の開発及び販売に係る情報が共有化されることなどに
2278 より,
2279 本件企業結合により乙製品の製造販売事業についても競争上の影響が生ずることとなる
2280 ことから,
2281 乙製品の製造販売事業についても検討することが求められる。
2282
2283
2284 そこで,
2285 甲製品の製造販売事業についても,
2286 乙製品の製造販売事業についても,
2287 まず,
2288 一定
2289 の取引分野を構成する商品範囲と地理的範囲を画定することが求められる。
2290
2291 次に,
2292 それぞれ画
2293 定された一定の取引分野において,
2294 当事会社のシェアと順位,
2295 競争者の状況,
2296 輸入圧力,
2297 参入
2298 圧力,
2299 隣接市場からの競争圧力,
2300 需要者からの競争圧力などを総合勘案して競争を実質的に制
2301 限することとなるか否かを検討することが求められる。
2302
2303 さらに,
2304 この検討において,
2305 いずれか
2306 の製品の製造販売事業に係る一定の取引分野において競争を実質的に制限することとなると判
2307 断される場合には,
2308 競争を実質的に制限することとならないように本件企業結合に対して問題
2309 解消措置を講ずることを検討することが求められる。
2310
2311
2312
2313 - 16 -
2314
2315 〔第2問〕
2316 本問は,
2317 甲市におけるタクシー保有台数のシェアの合計が約80%を占めるX1〜X20の20社
2318 が,
2319 同市における唯一の共通乗車券事業者であり,
2320 また本件20社がその株主の大部分を占めるA社
2321 に対して,
2322 低額運賃のタクシー事業者との間で共通乗車券事業に係る契約を締結しないよう要請し,
2323
2324 A社がこれを実施したという事案について,
2325 独占禁止法上の問題点を分析し検討することを求めるも
2326 のである。
2327
2328
2329 本件事案は,
2330 共同ボイコットと呼ばれる行為であるが,
2331 この行為に対して独占禁止法を適用する場
2332 合には,
2333 不公正な取引方法,
2334 私的独占及び不当な取引制限のうちのどの条項をいかなる形で適用する
2335 かについて,
2336 複数の選択肢があり得る。
2337
2338 これについて,
2339 各規定の要件に従った検討を行わせ,
2340 それら
2341 の基本的理解ができているかを確認するのが本問の趣旨である。
2342
2343
2344 まず,
2345 20社の行為が,
2346 不公正な取引方法の共同・間接の取引拒絶(独占禁止法第2条第9項第1
2347 号ロ)に該当するか否かが検討される必要がある。
2348
2349 その場合,
2350 同条項における,
2351 行為要件該当性,
2352 公正
2353 競争阻害性の判断,
2354 正当な事由の有無のそれぞれについて,
2355 本件事案の事実関係に即した検討をする
2356 ことが求められる。
2357
2358 特に,
2359 共同ボイコットの競争減殺効果をどう判断するか,
2360 過重労働による事故防
2361 止を理由とする正当化事由が認められるか等が重要な論点となる。
2362
2363
2364 次に,
2365 20社及びA社の行為については,
2366 私的独占の通謀による排除に該当するか否かも問題にな
2367 り得る。
2368
2369 この場合,
2370 特に,
2371 A社が違反行為者に含まれるか,
2372 低額運賃タクシーに共通乗車券事業を利
2373 用させないだけで競争の実質的制限が認められるか,
2374 及び公共の利益について,
2375 本件事案の事実関係
2376 に即した検討をすることが求められる。
2377
2378 また,
2379 このほかに,
2380 不当な取引制限の適用可能性も問題にな
2381 り得る。
2382
2383
2384 なお,
2385 共通乗車券事業を営むA社を違反行為者とし得るかについては,
2386 その適用法条及び適用の可
2387 否について様々な考え方があり得る。
2388
2389 ただし,
2390 A社は,
2391 20社が株主の大部分を占めるなど,
2392 その要
2393 請を拒否できない立場にあるから,
2394 どのようなアプローチを採るにせよ,
2395 これらの事情を考慮しなが
2396 ら検討することが必要である。
2397
2398
2399 いずれにせよ,
2400 本問においては,
2401 不公正な取引方法,
2402 私的独占及び不当な取引制限の各要件の意義
2403 と内容を正確に理解した上で,
2404 複数の法適用の選択肢が存在することを踏まえつつ,
2405 本件の事案に即
2406 した当てはめを行うことが求められる。
2407
2408
2409 [知的財産法]
2410 〔第1問〕
2411 設問1から設問3は,
2412 いわゆる消尽論に関する問題の理解を問うものであり,
2413 設問4は,
2414 特
2415 許権侵害による損害の額の推定等を定める特許法第102条第1項から第3項までの適用ない
2416 し類推適用に関する問題の理解を問うものである。
2417
2418
2419 設問1は,
2420 地域的に制限された独占的通常実施権を許諾された者が許諾地域内で製造販売し
2421 た製品を,
2422 他者が許諾地域外で販売する行為を問題とするものである。
2423
2424 (国内)消尽論(最判
2425 平成9年7月1日民集51巻6号2299頁,
2426 最判平成19年11月8日民集61巻8号29
2427 89頁参照)を説明した上で,
2428 その考え方に基づいて当該行為が侵害となるかどうかの結論を
2429 導くことが求められる。
2430
2431
2432 設問2は,
2433 地域的に制限された独占的通常実施権を許諾された者が許諾地域外で製造販売し
2434 た製品を,
2435 他者が許諾地域外で販売する行為を問題とするものである。
2436
2437 設問1とは異なり,
2438 問
2439 題となる製品は適法に製造販売されたものではない。
2440
2441 当該製品の販売に対する特許権者の差止
2442 請求を否定するための主張としては,
2443 幾つかのものが考えられようが,
2444 当該製品にも消尽論が
2445 及ぶ等の消尽論に関連付けた主張の場合には,
2446 消尽論の根拠にまで遡って可能な限り説得的な
2447 論拠を探求し,
2448 それを提示することが求められる。
2449
2450
2451 設問3は,
2452 Aから甲国特許権について実施許諾を受けたDが甲国において製造販売した製品
2453 - 17 -
2454
2455 を,
2456 Hが我が国において販売する行為を問題とするものであり,
2457 このような行為が特許権侵害
2458 となるか否かについて判示した最高裁判所の判決(最判平成9年7月1日民集51巻6号22
2459 99頁)を踏まえた論述が求められる。
2460
2461 上記判決は,
2462 「我が国の特許権者又はこれと同視し得
2463 る者が国外において特許製品を譲渡した場合」を対象としたものであるところ,
2464 Dが「我が国
2465 の特許権者……と同視し得る者」に当たるかどうかを論じる必要があろう。
2466
2467 そして,
2468 Dがその
2469 製造する製品に「甲国外への輸出を禁止する」という表示を付していなかった場合,
2470 及びDは
2471 当該表示を付したが,
2472 Dからその製品を購入したEが当該表示を抹消した場合の特許権侵害の
2473 成否について,
2474 上記判決の考え方の根拠に遡って検討する必要がある。
2475
2476 また,
2477 その検討におい
2478 ては,
2479 これら二つの場合を対比することが期待される。
2480
2481
2482 設問4は,
2483 特許権者及び独占的通常実施権者の損害賠償請求に関するものである。
2484
2485 Aは,
2486 特
2487 許権者であるが,
2488 Cに独占的通常実施権を許諾し,
2489 特許権の実施料収入を得るほかは事業活動
2490 を全く行っておらず,
2491 そのような特許権者が損害賠償請求をする場合,
2492 特許法第102条第1
2493 項,
2494 第2項又は第3項に基づいて損害額の算定をすることができるかどうかについて論述する
2495 ことが求められる。
2496
2497 また,
2498 Cは,
2499 特許発明の実施品を製造販売している独占的通常実施権者で
2500 あるところ,
2501 独占的通常実施権者が特許権侵害者に対して損害賠償を請求することができるか
2502 どうか,
2503 請求できるとすると,
2504 特許法第102条第1項,
2505 第2項又は第3項が類推適用され,
2506
2507 これらの規定に基づいて損害額の算定をすることができるかどうかについて論述することが求
2508 められる。
2509
2510 さらに,
2511 Aの損害賠償請求とCの損害賠償請求との関係についても論ずることが望
2512 ましい。
2513
2514
2515 〔第2問〕
2516 設問1は,
2517 著作権法第30条第1項が定める私的使用のための複製に関する問題の理解を問
2518 うものであり,
2519 設問2は,
2520 コンピュータ用ゲームソフトで使用されるパラメータがデータとし
2521 て収められているメモリーカードの使用による,
2522 同ゲームソフトについての同一性保持権等の
2523 侵害及びその侵害主体に関する問題の理解を問うものである。
2524
2525
2526 設問1においては,
2527 まず,
2528 A及びBがどのような権利を有するかを検討する必要がある。
2529
2530 ゲ
2531 ームソフトαはBとCが共同で作成したものであり,
2532 CはAの従業員であることから,
2533 Cに関
2534 しては,
2535 職務著作(著作権法第15条)の成否について論述することが求められる。
2536
2537 Bに関し
2538 ても職務著作の成否について論じることが適切であり,
2539 職務著作が成立しないとした場合,
2540 ゲ
2541 ームソフトαが(プログラムの著作物であるほかに)映画の著作物であるときには,
2542 映画製作
2543 者への著作権の帰属を定める著作権法第29条第1項の適用に関して論じることが求められ
2544 る。
2545
2546
2547 次に,
2548 F及びGの行為が,
2549 A及びBの有する権利の侵害となり,
2550 A及びBがどのような請求
2551 をすることができるかについて検討する必要がある。
2552
2553 F及びGは,
2554 いずれもゲームソフトαを
2555 複製したが,
2556 それぞれの自宅においてαをプレイしている。
2557
2558 もっとも,
2559 Dが,
2560 Aがゲームソフ
2561 トαに施した複製防止手段を回避することにより,
2562 αを複製し,
2563 また,
2564 αをインターネット上
2565 に開設された自己のウェブサイトに掲載したという事情があった。
2566
2567 そのため,
2568 F及びGの行為
2569 については,
2570 著作権法第30条第1項第2号・第3号に該当するかどうかについて論述するこ
2571 とが求められる。
2572
2573
2574 設問2においては,
2575 関連する2つの問題,
2576 すなわち,
2577 Aの有するどのような権利が侵害され
2578 るか,
2579 及びその侵害の主体は誰かを検討しなければならない。
2580
2581 いずれの問題についても,
2582 メモ
2583 リーカードの使用がゲームソフトを改変し,
2584 同一性保持権の侵害となることを認め,
2585 メモリー
2586 カードの輸入販売業者に損害賠償責任を負わせた最高裁判所の判決(最判平成13年2月13
2587 日民集55巻1号87頁)を踏まえた検討をする必要がある。
2588
2589
2590 Aの権利侵害に関しては,
2591 同一性保持権等の侵害が認められるとすると,
2592 それはどのような
2593 - 18 -
2594
2595 点に基づくものであるかについて論述することが求められる。
2596
2597 また,
2598 侵害主体に関しては,
2599 F,
2600
2601 G又はHのいずれが侵害行為を行う主体であるのか,
2602 物理的に侵害行為を行わない者の侵害主
2603 体性を認めることができるか,
2604 また,
2605 侵害主体とならない者に対してどのような請求をするこ
2606 とができるか等の問題について論述することが求められる。
2607
2608
2609 [労
2610
2611 働
2612
2613 法]
2614
2615 〔第1問〕
2616 設問(1)は,
2617 期間の定めのない労働契約について行われた普通解雇の効力を問うものであ
2618 り,
2619 @解雇規制の内容を踏まえ,
2620 A問題文の事実関係に即してXの解雇が有効か否かを論じさ
2621 せるものである。
2622
2623 @については,
2624 民法では,
2625 期間の定めのない労働契約について解雇の自由を
2626 定めている(民法第627条第1項)が,
2627 労働法制の下では,
2628 解雇が労働者に与える重大な不
2629 利益等を考慮して,
2630 解雇権濫用法理による規制を加えているので,
2631 その規制内容(労働契約法
2632 第16条)を論じる必要がある。
2633
2634 Aについては,
2635 実体上の論点と手続上の論点が考えられる。
2636
2637
2638 実体上の論点としては,
2639 まず,
2640 Xについて解雇事由があるかどうかを論じる必要がある。
2641
2642 この
2643 点は,
2644 Y社がXに示した解雇理由を踏まえつつ,
2645 具体的事実関係に即して,
2646 就業規則に定める
2647 解雇事由該当性を論じることになる。
2648
2649 次に,
2650 解雇事由があるとした場合,
2651 それが客観的で合理
2652 的な理由といえるか,
2653 さらに,
2654 当該解雇事由を理由とする解雇が社会通念上相当であるかどう
2655 かを論じる必要がある。
2656
2657 手続上の論点としては,
2658 労働基準法第20条第1項は,
2659 即時解雇をす
2660 る場合,
2661 使用者は30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定めているところ,
2662 本
2663 問では,
2664 Xの賃金には基本給のほかに乗務手当その他の諸手当が含まれるのに,
2665 Y社はXの基
2666 本給30日分相当額を支払ったのみであるので,
2667 この点がXの解雇の効力にどのように影響す
2668 るのかについて言及することが求められる。
2669
2670
2671 設問(2)は,
2672 期間の定めのある労働契約について行われた期間途中の普通解雇の効力を問
2673 うものであり,
2674 @この場合の解雇規制の内容を踏まえ,
2675 A問題文の事実関係に即してXの解雇
2676 が有効か否かを論じさせるものである。
2677
2678 @については,
2679 期間の定めのある労働契約における解
2680 雇規制の内容(民法第628条及び労働契約法第17条第1項)を論じる必要があり,
2681 その場
2682 合,
2683 期間の定めのない労働契約における解雇規制との違いとその趣旨についての論述が求めら
2684 れる。
2685
2686 Aについては,
2687 設問(1)と基本的には同じ事項を検討することになるが,
2688 実体上の論
2689 点において,
2690 Xの中途解雇の理由がやむを得ない事由であるか否かについては,
2691 期間の定めの
2692 ない労働契約である設問(1)との解雇規制の違いを意識した論述が求められる。
2693
2694
2695 〔第2問〕
2696 本問は,
2697 定年延長制度及びそれに伴う新賃金体系の導入の事例を素材として,
2698 就業規則によ
2699 る労働条件の不利益変更及び労働協約による労働条件の不利益変更の効力に関する理解を問う
2700 ものである。
2701
2702 事実関係はやや複雑であるが,
2703 論点はオーソドックスであり,
2704 労働法に関する基
2705 本的な理解を求めている。
2706
2707
2708 設問(1)では,
2709 @本件でY社が行った就業規則の改訂が労働条件の不利益変更に該当する
2710 か否か,
2711 A該当するとすれば,
2712 同改訂がX1及びX2に対してそれぞれ拘束力を及ぼす要件をど
2713 のように解すべきかが論点となり,
2714 事実関係を踏まえた検討が求められる。
2715
2716 @については,
2717 本
2718 件就業規則の改訂は,
2719 定年延長の側面では
2720
2721 X1及びX2に利益となる一方,
2722 新賃金体系の導入
2723
2724 の側面では両名に不利益をもたらし得ることを把握する必要がある。
2725
2726 特に,
2727 改訂前の就業規則
2728 の下で両名が満60歳から63歳まで得ることを期待できた給与額と,
2729 改訂後の就業規則の下
2730 で両名が満60歳から65歳までの間に実際に得る給与額の間に大差がないという事実関係を
2731 どのように捉えるかがポイントとなろう。
2732
2733 Aについては,
2734 本件就業規則改訂が労働契約法施行
2735 前に行われたものであるため,
2736 就業規則による労働条件の不利益変更の効力に関する判例法理
2737 - 19 -
2738
2739 を基礎に検討してもよいが,
2740 労働契約法第9条,
2741 第10条及び第11条に即した解答も可とす
2742 る。
2743
2744 いずれの場合も,
2745 就業規則による労働条件の不利益変更が拘束力を認められるための要件
2746 である合理性の内容(労働者の受ける不利益の程度,
2747 労働条件の変更の必要性,
2748 改訂後の就業
2749 規則の内容の相当性,
2750 労働組合との交渉等の状況,
2751 就業規則改訂に係るその他の事情)を事実
2752 関係に即して論述するとともに,
2753 後者の場合,
2754 特に,
2755 同法第9条及び第10条の趣旨(さらに,
2756
2757 同法第10条所定の要件である就業規則の「周知」)を正確に理解して検討する必要がある。
2758
2759
2760 設問(2)では,
2761 Y社がM組合との間で締結した定年延長協定(労働協約)は,
2762 新賃金体系
2763 の導入の面でX1及びX2に対する不利益性を有するものであるところ,
2764 そうした労働協約がM
2765 組合の組合員でないX1(N組合の組合員)及びX2(非組合員)を拘束するか否かが論点とな
2766 る。
2767
2768 労働協約の拡張適用(労働組合法第17条)に関する法的知識を問う設問である。
2769
2770 同条の
2771 趣旨,
2772 要件及び効果について正確に検討する必要があるが,
2773 主要な論点は,
2774 同条の効果であり,
2775
2776 Y社とM組合が締結した労働協約が別組合(N組合)の組合員であるX1に拡張適用されるか,
2777
2778 また,
2779 いずれの組合にも属していないX2に拡張適用されるかについて,
2780 判例・学説の理解を
2781 踏まえて検討する必要がある。
2782
2783 また,
2784 同条の要件については,
2785 特に,
2786 X2(Y社B支店の営業
2787 担当調査役)が「同種の労働者」に該当するか否かが検討のポイントとなる。
2788
2789
2790 [環
2791
2792 境
2793
2794 法]
2795
2796 〔第1問〕
2797 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。
2798
2799 )の大きな改正の一つ
2800 である平成9年改正により導入された生活環境影響調査制度の意義と限界の理解がされている
2801 かを,
2802 自治体による独自の条例対応との比較を通じて問うとともに,
2803 許可を受けた最終処分場
2804 に対して提起された民事差止訴訟における請求が認容される裁判例が目立つという最近の傾向
2805 に関する理解を問う出題である。
2806
2807
2808 設問1は,
2809 生活環境影響調査制度の意義と限界についてのものである。
2810
2811 生活環境影響調査制
2812 度は,
2813 それ以前の廃棄物処理法が,
2814 住民参加に関して何の手続も設けていない(行政手続法第
2815 10条に基づく公聴会は開催する必要はないと厚生省が判断していた)ことに対する批判に応
2816 える措置として,
2817 平成9年改正法によって導入された。
2818
2819 しかし,
2820 A県条例と比較することによ
2821 って,
2822 @事業者が施設の内容を全て決定してから行う許可申請後の手続であり,
2823 住民に情報を
2824 提供するタイミングが遅く,
2825 住民の意見に対応をする柔軟性を欠くこと(タイミングの問題),
2826
2827 A住民参加とされているのが意見提出のみであって,
2828 事業者に直接に不安を訴え意見を交わす
2829 ようにはなっていないこと(手続内容の問題),
2830 B住民への対応ぶりを評価して許可審査がで
2831 きるようにはなっていないこと(許可基準の実体的内容の問題),
2832 などの限界を指摘できる。
2833
2834
2835 許可権限を持つ県としては,
2836 公衆衛生向上と生活環境保全という法律目的を実現するには,
2837 補
2838 完的な仕組みを,
2839 行政指導ではなく法的拘束力あるものとして整備する必要があるのである。
2840
2841
2842 設問2は,
2843 最終処分場に対して提起された民事差止訴訟に関するものである。
2844
2845 まず,
2846 受忍限
2847 度判断に当たって比較衡量される要素の一つとして,
2848 「公法的基準の遵守状況」があることを
2849 指摘した上で,
2850 以下のように論述を展開する。
2851
2852 許可を得ていることや廃棄物処理法上の処理基
2853 準・維持管理基準の遵守が命令や罰則の担保の下に義務づけられていることゆえに住民の不安
2854 は杞憂に過ぎないという事業者の反論を想定して,
2855 @許可を得ていることはあくまで判断の一
2856 つの有力な要素にとどまり絶対のものではないこと,
2857 A許可を得たとしてもそれは操業後の基
2858 準遵守を保障するものではないこと,
2859 B安定型処分場に義務付けられる展開検査が十分にされ
2860 る保障はなく,
2861 有害物質混入の場合に処理場外に漏出することは不可避であること,
2862 などの再
2863 反論をする。
2864
2865 次に,
2866 因果関係の立証について,
2867 立証責任は原告にあるのが原則であるが,
2868 原告
2869 が漏出と地下水汚染の高度の蓋然性について一応の立証をするか,
2870 それについての相当程度の
2871 可能性の立証をすれば,
2872 それが発生する高度の蓋然性がないことを被告が立証ないし反証しな
2873 - 20 -
2874
2875 い限り被害発生の事実上の因果関係が推認される,
2876 とするなどの主張をし,
2877 最近の裁判例には
2878 因果関係についてこうした判示をするものがあることを指摘する。
2879
2880 そのような見解によるなら
2881 ば,
2882 原告の主張は認容される可能性が高いことになる。
2883
2884
2885 〔第2問〕
2886 土壌汚染対策法の平成21年改正により導入された,
2887 一定面積を超える土地の形質変更時の
2888 届出及び調査命令についての理解を問うとともに,
2889 土壌汚染をめぐる瑕疵担保責任,
2890 不法行為
2891 責任と土壌汚染対策法の関係,
2892 特に民法と土壌汚染対策法第8条の関係についての理解を確か
2893 める出題である。
2894
2895
2896 設問1においては,
2897 @土壌汚染対策法第4条第1項により,
2898 Cが環境省令で定める面積を超
2899 える土地の形質変更をする場合には届出義務が課されるが,
2900 さらに,
2901 同法第4条第2項により,
2902
2903 都道府県知事から調査命令が課されることがある点を指摘する必要がある。
2904
2905 そして,
2906 A同法第
2907 4条第1項が大規模な開発工事の場合に届出をさせて調査の契機とする理由は,
2908 面積の大きい
2909 土地の形質変更については,
2910 汚染の拡散など土壌汚染の社会的リスクが高まることにあり,
2911 ま
2912 た,
2913 この点の平成21年改正の背景には,
2914 改正前は,
2915 自主調査が余りにも多く,
2916 法律上の調査
2917 が少なかったため,
2918 調査の透明性,
2919 信頼性の観点から問題があると考えられ,
2920 土壌汚染の把握
2921 について法律上の契機を増加させなければならないという事情があった。
2922
2923
2924 設問2については,
2925 CはAに対して,
2926 主に,
2927 瑕疵担保責任(民法第570条)と,
2928 原因者で
2929 あることに基づく不法行為責任(民法第709条)を追及することが考えられる。
2930
2931
2932 @瑕疵担保責任の「隠れた瑕疵」があったか否かについては,
2933 最判平成22年6月1日民集
2934 64巻4号953頁によれば,
2935 本問では,
2936 平成13年12月の取引観念によることになる。
2937
2938 ト
2939 リクロロエチレンについては,
2940 平成6年の土壌環境基準改定のときに追加されており,
2941 本問で
2942 は平成13年12月に環境省令で定める基準値を超過していたことからすると,
2943 本件土地は土
2944 地の通常備えるべき属性を有していなかったと考えられる。
2945
2946
2947 A不法行為責任については,
2948 損害及びAの作為義務違反は汚染除去をした時点で発生すると
2949 し,
2950 Cの汚染除去のときにAの不法行為が成立したと捉えるのが有力な考え方である。
2951
2952 この考
2953 え方が土壌汚染対策法第8条とは最も整合するものと見られる。
2954
2955 また,
2956 売買の際に不法行為が
2957 成立すると見る考え方もあろうが,
2958 土壌汚染対策法第8条との関係をどう捉えるかについての
2959 指摘がなされることが望ましい。
2960
2961
2962 B次に,
2963 損害賠償額に関しては,
2964 封じ込めに掛かる5億円については,
2965 土壌汚染対策法第8
2966 条によって費用回収を求めることができる。
2967
2968 同条に定められているように,
2969 これについては当
2970 該措置の指示(同法第7条第1項)がなされたことが前提となるのである。
2971
2972
2973 Cさらに,
2974 指示措置以上の措置である除去に要する費用は,
2975 土壌汚染対策法第8条では請求
2976 できない。
2977
2978 しかし,
2979 民法に基づいて損害賠償を請求することは可能である。
2980
2981 その場合,
2982 どの程
2983 度の額が請求できるのか。
2984
2985 これについては,
2986 土壌汚染対策法第8条と民法の関係をどう見るか
2987 という問題に配慮しつつ,
2988 論述をすることが求められる。
2989
2990
2991 なお,
2992 瑕疵担保責任,
2993 不法行為責任以外の請求について記述した場合には採点において一定
2994 程度の配慮はするが,
2995 民法上の論点の詳細について記すことは期待されていない。
2996
2997
2998 [国際関係法(公法系)]
2999 〔第1問〕
3000 本問は,
3001 国際人権条約違反に対する救済を問う問題である。
3002
3003
3004 設問1は,
3005 国家の市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。
3006
3007 )
3008 第9条違反の行為によって被害を被った個人が当該国国内裁判所で自由権規約違反を根拠にし
3009 て救済を得るために考えるべき議論を問うものである。
3010
3011 国内裁判所で国際条約を援用するため
3012 - 21 -
3013
3014 には,
3015 まず当該国において国際条約が国内法として位置付けられているかどうかを検討する必
3016 要がある(条約の国内法上の効力)。
3017
3018 国際条約が国内法たる地位を持っていない場合は国内裁
3019 判所で国際条約を援用することは考えられないが,
3020 国内法たる地位を持つ場合にも,
3021 特定の国
3022 際条約(本問の場合は自由権規約)が国内裁判所で援用できる性質を持つことが(「自動執行
3023 性」又は「直接適用可能性」と呼ばれる)必要である。
3024
3025 国際条約の国内法上の効力の問題は,
3026
3027 各国の憲法体制が国際条約をどのように位置付けているかという問題である。
3028
3029 特定の国際条約
3030 の自動執行性(直接適用可能性)の有無は,
3031 一般的には,
3032 当該国際条約上の文言が明確であっ
3033 て裁判所が政策的な考慮を払わなくとも適用可能な性質を持つかどうか,
3034 また,
3035 条約当事国が
3036 国内裁判所によって適用されることを意図していたかどうか等によって決定される。
3037
3038
3039 国際条約がどのような条件の下で国内法上の効力を持ち,
3040 また,
3041 裁判所において援用され得
3042 るかという,
3043 国際法と国内法の関係に関する基本構造が頭に入っているかどうかを問う問題で
3044 ある。
3045
3046
3047 設問2は,
3048 外交的保護権に関する2つの問題を問うものである。
3049
3050
3051 第1は,
3052 設問1が国内裁判所における自由権規約違反に対する救済を問題にしているのに対
3053 して,
3054 国の外交的保護権を使って国際人権規約違反の救済をなし得ることを問う問題である。
3055
3056
3057 自国民が外国において当該国家の責任を伴う形で生命財産を侵害されたときに所属国が外交的
3058 保護権を行使できるが,
3059 基本的人権侵害についても外交的保護権を行使できるかが問題となる。
3060
3061
3062 外交的保護が個人の権利を所属国が代理行使することだと考えることができれば,
3063 甲の家族が
3064 甲の所属国に対して外交的保護権を行使するよう働き掛けることにより甲の釈放を要求できる
3065 ことになる。
3066
3067
3068 第2は,
3069 法人の損害について事業主の国籍国が外交的保護権を行使できるかどうかを問う問
3070 題である。
3071
3072 甲の長期間にわたる拘禁によって破産した乙社は,
3073 Y国法人と解されるが,
3074 事実上
3075 は甲そのものであるために(法人格否認),
3076 乙の滅失した財産についても甲の所属国がその賠
3077 償を請求できることの説明が必要である。
3078
3079 株主本国による会社に関する外交的保護権を否定し
3080 た国際司法裁判所「バルセロナトラクション事件」との違いをきちんと押えられるかどうかが
3081 ポイントである。
3082
3083
3084 設問3は,
3085 自由権規約の第1選択議定書によって,
3086 甲の家族が自由権規約委員会に申立てを
3087 行えること,
3088 そしてこの手続にどのような特徴があるかを問うものである。
3089
3090 自由権規約第1選
3091 択議定書は,
3092 一定の要件を満たせば,
3093 自由権規約委員会が,
3094 個人から管轄を及ぼす国家の自由
3095 権規約違反の通報を受けることができる。
3096
3097 自由権規約委員会は,
3098 通報を受けて検討を行い,
3099 自
3100 由権規約違反を認定した場合には,
3101 当該国に対して注意喚起を行うことができ,
3102 注意喚起され
3103 た自由権規約当事国は6か月以内に救済措置等について委員会に説明をすることが義務付けら
3104 れる。
3105
3106 このように,
3107 本問では,
3108 甲の家族を起点として,
3109 Y国の自由権規約違反を問うことので
3110 きる国際的な手続があることの理解がまず必要である。
3111
3112
3113 さらに,
3114 この手続では,
3115 委員会の違反認定がなされれば被申立国たるY国はそれに対して説
3116 明することが要求され説明責任を負うが,
3117 他方,
3118 委員会による自由権規約違反の認定は当事国
3119 を拘束するものでないという限界を持つ。
3120
3121 本問では,
3122 このような第1選択議定書の特徴を正し
3123 く理解していることが重要である。
3124
3125
3126 〔第2問〕
3127 本問は,
3128 大陸棚の境界画定に関する仮設例を設定して出題したものである。
3129
3130
3131 設問1は,
3132 200海里までの大陸棚を設定することを,
3133 一国が一方的に宣言により行った場
3134 合の国際法上の効果を問う問題である。
3135
3136 境界設定を,
3137 一方的行為で行うことは国際法により認
3138 められている。
3139
3140 本問の場合には,
3141 A国の一方的大陸棚宣言の内容は,
3142 海洋法に関する国際連合
3143 条約第76条第1項に適合しているし,
3144 同条約第77条第3項で大陸棚に対する沿岸国の権利
3145 - 22 -
3146
3147 が明示の宣言に依存しないことは別の問題である。
3148
3149 そのような宣言が国際社会に向けて公式に
3150 行われている。
3151
3152 A国の大陸棚宣言に対しては他国からの抗議が行われていない。
3153
3154 また,
3155 B国と
3156 の間で紛争がある海底区域を除いた部分についての,
3157 A国の一方的宣言の国際法上の効力を問
3158 うている。
3159
3160 これらを踏まえて,
3161 A国の大陸棚宣言の国際法上の効力が決定されることになる。
3162
3163
3164 設問2は,
3165 国際司法裁判所が暫定措置を指示するための要件を問う問題である。
3166
3167 国際司法裁
3168 判所規程第41条第 1 項は,
3169 事情によって必要と認めるときは,
3170 各当事者のそれぞれの権利
3171 を保全するために採られるべき暫定措置を指示することを規定している。
3172
3173 この規定から,
3174 A国
3175 の請求に応じて国際司法裁判所が暫定措置を指示するためには,
3176 保全される権利があり,
3177 事情
3178 によって必要と認めることが要件となる。
3179
3180 先例によっては,
3181 国際司法裁判所が一応の管轄権を
3182 持つこと,
3183 「回復しがたい損害」の発生のおそれがあるという事態の緊急性が,
3184 暫定措置を指
3185 示するための要件であるとされてきている。
3186
3187 また,
3188 事態や紛争の悪化や防止も,
3189 暫定措置を指
3190 示する要件と考えられることがある。
3191
3192 本問では,
3193 B国が一方的に海底油田の資源開発に着手し
3194 ている。
3195
3196 そして,
3197 B国が開発行為を行っている区域は,
3198 将来,
3199 境界画定が行われればA国の大
3200 陸棚となる可能性があり,
3201 資源開発を見込めるが,
3202 B国が開発行為を即時に中止しないと,
3203 こ
3204 の海底区域からの資源がB国の開発行為により奪われてしまい,
3205 資源回復は不可能であり,
3206 A
3207 国による資源開発の見込みがなくなるおそれがある。
3208
3209 国際司法裁判所規程第41条第1項だけ
3210 ではなく,
3211 先例により認められてきている暫定措置を指示する要件を,
3212 この本問の事実状況に
3213 照らして読み取り,
3214 解答することが求められる。
3215
3216
3217 設問3は,
3218 海洋法に関する国際連合条約第83条第1項が,
3219 条約の当事国ではないB国に対
3220 して適用のある規則といえるための条件を問う問題である。
3221
3222 同項にいう規定が,
3223 慣習国際法化
3224 しているものであれば,
3225 B国にもこの規定は適用されることになる。
3226
3227 そこで,
3228 同項にいう規定
3229 が,
3230 慣習国際法といえるかが検討されなければならない。
3231
3232 その検討に際しては,
3233 まず,
3234 法典化
3235 条約の条文である同項が,
3236 慣習国際法化するといえる規範的性質を備えているか,
3237 同項の採択
3238 時の諸国の見解が対立しており,
3239 その妥協として同項が採択されたことをいかに評価するか。
3240
3241
3242 他方で,
3243 採択後に海洋法に関する国際連合条約が1994年に発効して以来は,
3244 同項の解釈も
3245 ほぼ定着しており,
3246 それに従った実践が集積していることをいかに評価するか。
3247
3248 本問における
3249 これらの事実を考慮して,
3250 同項の慣習国際法化が論じられる必要がある。
3251
3252
3253 [国際関係法(私法系)]
3254 〔第1問〕
3255 本問は,
3256 不法行為の準拠法及び不法行為に基づく損害賠償請求権の相続に関する準拠法の決
3257 定並びにこれらの準拠法の適用を問うものである。
3258
3259
3260 設問1の小問(1)は,
3261 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
3262
3263 )第36条によ
3264 って指定される本国(法)が地域的不統一法国である場合の通則法第38条第3項の解釈・適
3265 用について問うものであり,
3266 通則法第41条の反致の成否についての検討も求められる。
3267
3268
3269 設問1の小問(2)は,
3270 不法行為の準拠法(日本法)の適用上,
3271 被害者の逸失利益の算定を
3272 日本の賃金センサスの基準によって行うことの当否を問うものである。
3273
3274 日本法が準拠法として
3275 指定されることと日本の賃金センサスを適用して逸失利益を算定することが論理必然的な関係
3276 にないことを踏まえ,
3277 損害の算定についての日本民法上の基本的な考え方を示して検討するこ
3278 とが期待される。
3279
3280
3281 設問1の小問(3)は,
3282 不法行為に基づく慰謝料請求権の相続の可否を規律する準拠法につ
3283 いての理解を問うものである。
3284
3285 法律関係の性質決定をした上で,
3286 不法行為の準拠法(日本法)
3287 及び相続の準拠法(P法)のそれぞれの適用関係を明らかにして,
3288 これらの準拠法の適用・当
3289 てはめを行い,
3290 結論を示す必要がある。
3291
3292
3293 設問2は,
3294 不法行為の被害者の近親者固有の慰謝料請求権を規律する準拠法についての理解
3295 - 23 -
3296
3297 を問うものである。
3298
3299 本問における近親者(X)の精神的な苦痛という結果の発生地(通則法第
3300 17条本文)はP地域であることを前提として,
3301 通則法第17条ただし書の通常予見可能の意
3302 味内容を踏まえた準拠法の決定と適用が期待される。
3303
3304
3305 設問3は,
3306 原告(X)の請求の前提として,
3307 不法行為の被害者夫婦の死亡の先後が明らかで
3308 ない場合の夫による妻の損害賠償請求権の相続の可否を規律する準拠法について理解を問うも
3309 のである。
3310
3311 相続準拠法又は権利能力の準拠法としてのP法Aの同時死亡の推定規定の適用を根
3312 拠付け,
3313 結論を示す必要がある。
3314
3315
3316 〔第2問〕
3317 本問は,
3318 法人格のないパートナーシップの日本の裁判所における当事者能力の有無,
3319 保証契
3320 約の準拠法及び法定代位の準拠法について問うものである。
3321
3322
3323 設問1は,
3324 外国法(甲国法)によって設立された法人格のないパートナーシップの日本の裁
3325 判所における当事者能力の有無を問うものである。
3326
3327 複数の考え方があり得るが,
3328 例えば,
3329 法廷
3330 地法である民事訴訟法第28条の「その他の法令」としての法人の従属法に関する国際私法規
3331 則の解釈を示した上で,
3332 同法第29条を適用するなどの処理を行う必要がある。
3333
3334
3335 設問2は,
3336 保証契約の準拠法が日本法又は乙国法となるそれぞれの可能性について問うもの
3337 である。
3338
3339 日本法が準拠法となる根拠としては,
3340 日本法が保証契約の特徴的給付である保証債務
3341 の履行をすべきYの事業所の所在する地の法であること(通則法第8条第2項),
3342 保証契約締
3343 結後に当事者が日本法を準拠法と合意すること(通則法第9条)が考えられること,
3344 などが挙
3345 げられ,
3346 他方,
3347 乙国法が準拠法となる根拠としては,
3348 上記通則法第9条に基づく当事者の乙国
3349 法を準拠法とする合意のほか,
3350 上記特徴的給付の理論による推定にもかかわらず,
3351 主債務の発
3352 生原因となったローン契約の準拠法である乙国法を最密接関係地法とする解釈も可能であるこ
3353 と,
3354 などが挙げられる。
3355
3356 これらの双方の可能性について論ずることが求められる。
3357
3358
3359 設問3は,
3360 法定代位の準拠法についての理解を問うものである。
3361
3362 原因行為(本問では保証契
3363 約)の準拠法によるという通説の考え方について,
3364 債権譲渡に関する通則法第23条の規律の
3365 適用事案との利益状況の相違(特に債務者保護の必要性)を踏まえての比較検討が求められる。
3366
3367
3368
3369 - 24 -
3370
3371