1 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)
2
3
4 全体的印象
5 ・ 途中答案が少なかったのは,喜ばしいことである。しかし,他方で,経年的に見
6 ると,今年度の答案は,解答として論述する分量が少なかったように思われる。公
7 法系科目第2問と試験時間が区分けされ,解答の時間配分に失敗することはないに
8 もかかわらず,予測外であった。
9 ・ 内容的には,判例の言及,引用がなされない(少なくともそれを想起したり,念
10 頭に置いたりしていない)答案が多いことに驚かされる。答案構成の段階では,重
11 要ないし基本判例を想起しても,それを上手に持ち込み,論述ないし主張すること
12 ができないとしたら,判例を学んでいる意味・意義が失われてしまう。
13 ・ まず何よりも,答案作成は,問題文をよく読むことから始まる。問題文を素直に
14 読まない答案,問題文にあるヒントに気付かない答案,問題と関係のないことを長
15 々と論じる答案が多い。
16 ・ 答案構成としては,「自由ないし権利は憲法上保障されている,しかしそれも絶
17 対無制限のものではなく,公共の福祉による制限がある,そこで問題はその制約の
18 違憲審査基準だ。」式のステレオタイプ的なものが,依然として目に付く。このよ
19 うな観念的でパターン化した答案は,考えることを放棄しているに等しく,「有害」
20 である。
21 ・ 憲法を,具体的な事例の中でどのように適用するか(活用するか)という観点か
22 らの答案が少なく,一般的,抽象的な憲法の知識を書き表しただけの(地に足が着
23 いておらず,何が問題であるかを見抜けていない)答案が多かった。
24 ・ 今年の問題は,日頃から日常生活を取り巻く法的問題に関心を持って自分でいろ
25 いろと考えをめぐらせていれば,特に難しい問題ではなかったはずだが,答案を見
26 ていると,受験者は紙の上の勉強に偏しているのではないかという印象を持つ。
27 ・ 「原告側の主張」と「被告側の反論」において極論を論じ,「あなた自身の見解」
28 で真ん中を論じるという「パターン」に当てはめた答案構成によるものが多かった。
29 そのため,論述の大部分が,後に否定されることを前提とした,言わば「ためにす
30 る議論」の記載となっていた。このような答案は,全く求められていない。
31 ・ 問題文の中に,考慮すべき事情があれこれと挙げられているのに,それらを十分
32 に考慮しない答案がかなり見られた。基本的な知識と応用力を身に付けていれば,
33 一通りのことを書くのは比較的容易だと思われるのに,法曹になるにふさわしい水
34 準に達していない答案が多々見られたのが残念であった。
35 ・ 表現の自由が出てこない,代わりに職業の自由を延々と書く,また,表現の自由
36 が出てきても,極めて紋切型の答案に終始する,プライバシーについても紋切型で,
37 設問の状況をよく考えずに,決まり文句を繰り返すという有様で,なかなか問題の
38 核心に迫らないものが多かった。
39 ・ 問題となる権利について十分な検討がなく,観念的・パターン的な論述に終始し
40 ているため,違憲性判断の論述の説得力も弱く,論証が不十分になっているとの印
41 象を受けた。受験者には,問題文を読み込み,想像力を働かせて,少し条件を変え
42 てみた場合はどうかなど思考上の工夫をしながら,事案の特殊性をつかみ,何を重
43 点に論じるかを考えてもらいたいと感じた。
44
45 -1-
46
47
48
49 原告側の主張,被告側の反論,あなた自身の見解がかみ合っていない答案,現実
50 離れした答案が多いと感じた。問題点を的確に把握し,それを主張・反論,検討と
51 いう訴訟的な形式で整理する実力が求められるので簡単ではないが,議論がかみ合
52 っているかどうか,例えば,主張に対して反論が有効か,自身の見解がその対立点
53 を押さえた論述になっているかなどは,答案構成の時点できちんと意識的に検討し
54 てほしいと感じた。
55 ・ 数は極めて限られるが,ハイレベルの答案も一定数あった。しかし,法律に携わ
56 る者なら,一度は関心を持ったことがあるはずの,インターネット上の表現等をめ
57 ぐる問題であったにもかかわらず,極めて残念な答案が多かった。なぜ法科大学院
58 修了者の答案が基本的欠陥を多く抱えるものであるのか,その原因を究明する必要
59 があると思われる。その一つとして,そもそも,問題点に即応した法律の小論文を
60 書くことの訓練が不足しているのではないであろうか。法科大学院としても,ドグ
61 マから脱却し,法律実務家として必須である「ペーパーを書くこと」にも力を注ぐ
62 必要があるように思われる。
63
64
65 訴訟形式
66 ・ 訴訟形式の問いに全く答えていない答案が,いまだにある。問われている訴訟形
67 式を書いていない答案の作成者は,法律実務家となる資質において極めて問題があ
68 ることを自覚し,勉強し直す必要がある。
69 ・ 仮に訴訟類型を判断できないとすれば,必要な基本的知識が明らかに不足してい
70 るし,うっかり問題文を見落とし,あるいは答案に書き漏らしたのだとすれば,法
71 曹として最低限必要な注意力を欠くものである。
72
73
74
75 憲法上の権利の制約
76 ・ 例年指摘しているように,原告側の訴訟代理人は,重要な憲法判例を知っており,
77 主要な学説も知っていると措定している。したがって,何でも主張すればよいので
78 はない。そのような主張は,「有害」でしかない。
79 ・ 論述の出発点として問題とすべき権利自由について,表現の自由か営業の自由か
80 という観点で十分な問題意識を持って検討した答案が少なかったのは意外であり残
81 念。特にインターネット上で地図とリンクさせる形で画像を提供することの意味を
82 十分に掘り下げて展開している答案が非常に少なかった。
83 ・ X社の主張で「表現の自由」を記載せず,「営業の自由」あるいは「ユーザーの
84 知る権利」のみを記載する答案が,相当数あった。原告にとってどちらを主張する
85 のが望ましいかを検討する観点が欠けているように思われる。原告の主張としてわ
86 ざわざ「弱い権利」を選択するセンスの悪さは,結局のところ訴訟の当事者意識が
87 欠けていることに結び付くように思われる。
88 ・ 制約される人権として営業の自由を立てながら,法令違憲の理由として,「届出
89 がいけない」,あるいは「営業中止がいけない」などと,もっともらしい言葉を並
90 べながら述べている答案が多く見られた。営業届や営業停止処分などは,数多くの
91 業法に当然のように規定されており,日常もよくニュースなどで見聞きする事柄で
92 ある。常識に照らし合わせて自らの理論・主張を省みるという勉強態度も,実務家
93 を目指す者の試験である以上,必要と思われる。
94
95 -2-
96
97
98
99 国家賠償請求との関係で営業の自由侵害の主張はあり得るが,その点で適切な論
100 述をした答案は皆無であった。
101 ・ 法人の人権享有主体性について長々と論じる答案が,少なからずあった。
102 ・ 表現の自由に言及しているものについても,ユーザーの「知る権利」を中心に論
103 じたり,Z画像機能の提供が,X社の「自己実現の価値に資する」とか,「民主政
104 治の過程に資する」などと論じたりするものが数多く見られた。
105 ・ 「検閲」を論じているものもあった。このことは,学説と判例における検閲概念
106 を十分に理解していないことをうかがわせる。
107 ・ 「表現の自由は,精神的自由なので裁判所の審査になじむ」という記述が多く見
108 られた。しかし,この議論は,「精神的自由以外の人権制約は裁判所の司法審査に
109 なじまない」という命題を認めない限り成り立たないおかしな議論である。司法権
110 の限界についての無理解からきていると思われる。
111 ・ 表現の自由を述べているのに,違憲審査基準の展開に終始し,問題文のヒントに
112 気付かず,実質的な,本件での表現の自由とプライバシーの権利の相克を書かない
113 薄い答案も目立った。この手の答案は結局「実質的な関連性」などという抽象的な
114 テクニカルタームを示して中身のない結論で終わっている。その原因は,権利をカ
115 テゴライズすると自動的に基準とか優劣が決まると思い込んでいることにあるよう
116 に思われる。本件における表現の自由と本件におけるプライバシーの権利の調整と
117 いう,事案に即した検討を行って,事案を解決するという意識が足りない。
118 ・ 設問の事案に即して,情報提供の自由とプライバシーの権利との調整について,
119 インターネットの特性を配慮しながら綿密に論じる答案も,数は少なかったがあっ
120 た。
121 ・ インターネットによる地図検索システムの提供という権利について,表現の対象
122 が個人情報も多く含まれる地図に関する情報・事実であること,伝達手段がインタ
123 ーネットであることなど,その権利の性質を,典型的な表現の自由と対比させつつ,
124 いかに具体的に論理的な考察や検討を展開するかによって,答案の迫力に明らかな
125 差が出てきていた。報道の自由と比較しつつ,情報・事実の伝達という点で共通す
126 る一方,それぞれの目的や自己統治の価値との関連性の程度等に差異があることに
127 触れているものや,インターネットにおいては送り手と受け手の立場に互換性があ
128 ること,インターネット特有の利便性があること,それゆえに容易に二次的利用等
129 による弊害が拡大するおそれがあること等を丁寧に論じているものは,平素から正
130 しい方向性をもって学習が進められ,出題の意図を正確に理解しているものと感じ
131 られた。
132
133
134 想定される被告側の反論
135 ・ 被告側の反論が全く論じられていない答案もあった。問題文をきちんと読んでい
136 ないことがうかがえる。
137 ・ 被告側の反論を書く際に,「検察官」と書いた答案も散見された。そもそも,行
138 政事件で被告と検察官とを取り違えること自体,知識面でも求められる最低限の水
139 準に達していないと言うほかない。
140 ・ 「被告側の反論」の想定を求めると,判で押したように,独立の項目として「反
141 論」を羅列する傾向が見られる。むしろ「あなた自身の見解」の中で,自らの議論
142
143 -3-
144
145 を展開するに当たって,当然予想される被告側からの反論を想定してほしいのにも
146 かかわらず,ばらばらな書き方をするために,かえって論理的な記述ができなくな
147 っている(あるいは,非常に論旨が分かりづらくなっている)という傾向が顕著に
148 なっている。
149
150
151 法令違憲と処分(適用)違憲
152 ・ 法令違憲と処分違憲の書き分けは一般的になってきたが,正確に内容を理解した
153 上できちんと書き分けている答案は余り多くなかった。
154 ・ 法令違憲を論ずるに際して,立法事実に照らして法令の規定がどうか,というこ
155 とではなく,Xの個別事情をもって論ずる答案が目に付いた。これは,法令違憲と
156 処分違憲とを混同しているものと考えられるが,両者を論じる際の考慮事由の差違
157 をきちんと押さえる必要がある。
158 ・ 処分違憲の審査で,法律適用の合法性,妥当性のみを論じる答案が今年も多かっ
159 た。憲法との関係を論じないと,合憲性審査を行ったことにならない。本問では,
160 「生活ぶりがうかがえるような画像」の公表を禁じることの合憲性をきちんと論じ
161 る必要がある。例えば,中止命令まで行うことは過剰な規制であるという主張も,
162 これだけでは処分審査を行ったことにはならない。
163
164
165
166 明確性の原則
167 ・ 法文の「明確性」を観念的・一般的に論じる答案が,かなり見受けられた。本件
168 の法律の規定は,個人情報保護法や個人情報保護条例に一般に見られる規定である。
169 常識に照らし合わせて自らの理論・主張を省みるという勉強態度も,実務家を目指
170 す者の試験である以上,必要と思われる。
171 ・ 「明確性の基準」について指摘するものの,第31条の問題としてのみ取り上げ,
172 「表現の自由」そのものにおいて論じない答案が多かった。基本的な理解が至らな
173 いためか,そうでなければ,通り一遍(型どおり)の知識の詰め込みと吐き出しに
174 なっているのか,法科大学院での授業内容を自省せざるを得なかった。
175
176
177
178 事案の内容に即した個別的・具体的検討の必要性(パターン的当てはめの有害性)
179 ・ 最初から終わりまで違憲審査基準を中心に書きまくるという傾向はますます強ま
180 っているように感じられる。最初にこの状況で適用されるべき違憲審査基準は何か
181 を問い,この場合は厳格な(あるいは緩やかな)基準でいく,と判断すると,後は
182 「当てはめ」と称して,ほとんど機械的に結論を導く答案が非常に目に付く。
183 ・ 原告の主張を展開すべき場面で,違憲審査基準に言及する答案が多数あった。違
184 憲審査基準の実際の機能を理解していないことがうかがえるとともに,事案を自分
185 なりに分析して当該事案に即した解答をしようとするよりも,問題となる人権の確
186 定,それによる違憲審査基準の設定,事案への当てはめ,という事前に用意したス
187 テレオタイプ的な思考に,事案の方を当てはめて結論を出してしまうという解答姿
188 勢を感じた。そのようなタイプの答案は,本件事例の具体的事情を考慮することな
189 く,抽象的・一般的なレベルでのみ思考して結論を出しており,具体的事件を当該
190 事件の具体的事情に応じて解決するという法律実務家としての能力の基礎的な部分
191 に問題を感じざるを得ない。
192
193 -4-
194
195
196
197 観念的・抽象的・パターン的「当てはめ」という解答姿勢を取る受験者の心理は,
198 一種守りの姿勢で,受験生心理としては分からなくはないものの,「事例に迫る」
199 意気込みを感じないものであって,司法試験で事例を基に憲法問題を問うという出
200 題の根本理念を失わせるものであり,極めて不適切であり,「有害」である。
201 ・ 求められているのは,「事案の内容に即した個別的・具体的検討」である。あし
202 き答案の象徴となってしまっている「当てはめ」という言葉を使うこと自体をやめ
203 て,平素から,事案の特性に配慮して権利自由の制約の程度や根拠を綿密に検討す
204 ることを心掛けてほしい。
205
206
207 合憲性の検討
208 ・ 原告,被告の主張を戦わせるのに,表現の自由とプライバシーとの実体的な関係
209 について論じないで,審査密度の濃淡だけで優劣を論じているものがあった。違憲
210 審査基準論を振り回すだけの形式論では説得力が生まれないことに気付くべきであ
211 る。
212 ・ 目的手段審査にとらわれず,両者の人権価値が本問においてどのように衝突して
213 いるのかを具体的に分析し,解決を見いだそうとする優れた答案も少なからずあっ
214 た。しかし,他方で,具体的な分析ができているにもかかわらず,結論に近づいた
215 ところで,急に審査基準のパターンを持ち出したために争点から遊離して説得力を
216 失う答案も見受けられた。
217 ・ 立法目的の正当性を肯定するのに「やむにやまれぬ政府利益」や「必要不可欠な
218 公益」を挙げているものがあったが,本件における対立利益は個人のプライバシー
219 であって「政府利益」や「公益」ではない。そのほかにも立法事実の分析が安易で,
220 立法目的の設定に恣意的なものが目立った。
221 ・ システムの提供により個人情報が公にされ,プライバシーや肖像権の侵害の問題
222 が生じることから,表現の自由との間で,憲法上の権利衝突の調整について検討す
223 べき必要があることは容易に気付くことができたと思われるが,参考資料に掲げた
224 仮想の法律が見慣れないものだったためか,抽象的な法律の文言等の問題にとらわ
225 れて,論点を見極めた十分な検討ができていないものが相当数あった。
226 ・ プライバシー侵害についても,決まり文句のように,プライバシー権は一度侵害
227 されたら回復不能であるから保護の必要性が強いなどと記載し,本問では一度侵害
228 された後の中止が問題となっていることとの整合性を顧みていないかのような答案
229 も多かった。
230 ・ 「人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報」についてはマスキン
231 グする一方,「家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像」については,
232 法で具体的に明記されていないとして修正しなかったという問題文中の記述から,
233 後者の画像に焦点を当てて,個人権利利益侵害情報としてこれが保護の対象に含ま
234 れるかどうかの検討を求めていることは理解できよう。その際,法律上の規定の文
235 言のみならず,当該画像が公道で撮影されたもので,カメラの高さ制限は守られて
236 いることなどに留意しつつ,生活ぶりがうかがえる画像としてどのようなものが映
237 し出されるのかを具体的に想定した上で,特定個人の識別はされないとしても少な
238 くともどの家に居住している人の情報であるかが明らかな状況下で,この画像が公
239 になることにより,具体的にどのような権利利益に影響が及び,どのような被害が
240
241 -5-
242
243 生じる危険性があるのかなどを,インターネットの特性をも踏まえながら丁寧に論
244 じることが求められる。
245
246
247 答案の書き方に関する一般的な注意
248 ・ 常に多くの文字数分も行頭を空けていて(さらには行末も空けている答案もあ
249 る。),1行全てを使っていない答案が,多く見受けられた。答案は,レジュメでも
250 レポートでもない。法科大学院の授業で,判決原文を読んでいるはずである。それ
251 と同様に,答案も,1行の行頭から行末まできちんと書く。行頭を空けるのは改行
252 した場合だけであり,その場合でも空けるのは1文字分だけである。
253 ・ 採点者は一生懸命読み取るように努力をしているが,悪筆や癖字,さらには,字
254 が細かったり薄かったりして,非常に読みにくい答案が少なくない。もちろん,達
255 筆でなければならない,ということではない。しかし,平素から,答案は読まれる
256 ために書くものという意識を持って,書く練習をしてほしい。
257
258 -6-
259
260 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第2問)
261
262
263
264
265 出題の趣旨
266 別途公表している「出題の趣旨」を,参照いただきたい。
267 採点方針
268 採点に当たり重視していることは,@事案を正確に把握し,問いに対して的確に答
269 え,解釈論のみならず立法論についても基礎的な知識を活かして相応の言及をするこ
270 とのできる応用能力を有しているか,A法的な論述に慣れ,分かりやすく,かつ,受
271 験者の思考の跡を採点者が追うことができるような文章を書いているか,という点で
272 ある。決して知識の量に重点を置くものではない。
273
274 3 答案に求められる水準
275 (1) 設問1
276 最高裁による原告適格の一般的な判断基準を引用し,法律がある利益を専ら一般
277 的公益として保護しているのか,個々人の個別的利益としても保護しているのかと
278 いう点が問題になりやすいことを,一般論として記述しているだけの答案について
279 は,一応の水準の答案と判定した。この問題に焦点を当てて本件のX1・X2の利
280 益ないし不利益を具体的に分析し,原告適格を論じることができているかどうかで,
281 優秀度ないしは良好度の高さを判定した。
282 また,行政事件訴訟法第9条第2項に言及し,関係する省令と通達の定めを,専
283 ら同項にいう法律の「関係法令」に当たるか否かという観点から検討し,平板に羅
284 列するだけの答案については,一応の水準の答案と判定した。行政事件訴訟法第9
285 条第2項の規定に従って原告適格を検討する判断枠組みを正確に理解し,処分要件
286 を定める法律と省令の規定との関係,処分要件を定める省令の規定と申請書類を定
287 める省令の規定との関係,処分要件を定める省令の規定とその解釈を示す通達との
288 関係,さらに,法律と地元同意を定める通達との関係を,それぞれ正確に分析して
289 原告適格論と結び付けて論じているかどうかで,優秀度ないしは良好度の高さを判
290 定した。検討に当たっては,まず,「処分の根拠となる法令の規定」として,モー
291 ターボート競争法第5条及びその委任を受けた同法施行規則第12条,第11条の
292 規定を確認し,次に,「当該法令の趣旨及び目的」として同法第1条等からうかが
293 われる同法の趣旨・目的を検討し,さらに,同法と目的を共通にする関連法令が存
294 在するならば,その趣旨・目的を参酌することが不可欠である。
295 (2) 設問2(1)
296 取消措置(処分)の差止め訴訟を正確に挙げていれば一応の水準の答案,もう一
297 つ検討に値する訴訟を挙げていれば良好な答案,差止め訴訟の適法性及び実効性を,
298 他の訴訟と比較する形で論理的・説得的に論じていれば,優秀な答案とした。
299 (3) 設問2(2)
300 本件許可に関して法律が行政庁のどのような判断について裁量を認めている可能
301 性があるかを,法律の文言及び趣旨・目的を正確に把握した上で検討できているか
302 どうか,地元同意を求める行政手法の意義と問題点を論じているかどうか,そして,
303 本件許可の取消しの適法性を論じる際に,考慮すべき要素・事情を的確に挙げてい
304
305 -7-
306
307 るかどうかに着目して,優秀度ないしは良好度の高さを判定した。
308 加えて,「法律は許可をしない行政裁量を認めている」,「通達は直接には外部に
309 対し拘束力をもたない」,「行政指導には限界がある」といった諸命題を,どの程度
310 まで適切に関係付けて論じることができているかに着目して,優秀度ないしは良好
311 度の高さを判定した。法律とそれを適用するための通達との関係を明確にさせない
312 まま,「(法律は不許可処分を行う行政裁量を認めているが,)通達には外部に対す
313 る拘束力がないので,行政庁が通達に従うように求めるには行政指導しかできない
314 ところ,行政指導に従わない者に対し不許可処分ないし許可取消処分を行うことは
315 違法である。」と帰結するにとどまる答案は,一応の水準の答案と判定した。
316 (4) 設問3
317 条例の実効性を確保するための具体的な手段を提案できていること,住民,利害
318 関係者,専門家等の参加する協議会,審議会等の利害調整手続を構想できているこ
319 と,法律と条例の抵触可能性を指摘できていることについて,全て論じてあれば優
320 秀な答案と判定し,一部欠けている答案は良好なものとして評価した。
321
322
323 採点実感
324 以下は,考査委員から寄せられた主要な意見をまとめたものである。
325 (1) 全体的印象
326 ・ 字の上手・下手は関係ないが,読みやすさは大切であり,書きなぐった感じの
327 乱雑な(特に乱雑かつ小さい文字を多用している)答案は,読解に非常に難渋し
328 た。採点者が判読困難な答案を作成することのないよう,受験者には改善を求め
329 たい。
330 ・ 問題文,資料,設問を正確に読んでいない答案,何を聞かれているのか理解し
331 ていないまま解答をしている答案が見られた。
332 ・ 全体として,問題に素直に取り組んで自分の考えを論理的に述べるものが極め
333 て少なく,問題に関係のありそうな事項の記述をランダムに並べるようなものが
334 目立った。
335 ・ 特定の設問に力を入れすぎて,時間不足になったと思われる答案や,各設問の
336 分量バランスが悪い答案が見受けられた。設問1,同2(1)はよく書けている
337 が,設問2(2),同3の順に記述の分量及び質が落ちていく傾向が見られた。
338 ・ 多角的に検討を要する論点が多かったため,高得点を得るためには,理解力や,
339 論理的に論述を展開する能力がかなり求められていたように感じられた。
340 ・ 論旨が一貫しない答案が少なくない。例えば,原告適格の箇所では全く又はほ
341 とんど説明なしに通達が「関係法令」に当たるとしながら,職権取消しの箇所で
342 は通達の内部規範性ばかりを強調する答案などである。
343 ・ 受験者の得点が高得点から低い点数まで広く分布するなど,行政法に関する受
344 験者の実力を測ることができた問題であったと考える。
345 ・ 今回の問題は,資料1(会議録)にも明示して指摘されているモーターボート
346 競争法第5条の規定による許可の特殊性(「刑法第187条の富くじに当たるも
347 のの発売等を適法にする法制度である点が,通常の事業の許認可とは違う」)の
348 理解の深さが,採点結果に如実に反映されるところとなった。
349 (2) 設問1
350
351 -8-
352
353
354
355 原告適格の定式まではよく覚えているものの,それに基づく具体的な判断の手
356 法を理解していないと思われ,各法令や通達等の位置付けを説明せず,ただ羅列
357 して強引に結論に至っている答案も多かった。
358 ・ モーターボート競走法の規定の趣旨,目的にもほとんど言及せず,いきなり通
359 達が「関係法令」に含まれるとした上,問題文の具体的な事情(本件施設の規模,
360 開場日数,時間帯,距離など)については一切言及しないまま,簡単に原告適格
361 の有無を判断するなど,法的思考能力に疑問を感じさせる答案もあった。
362 ・ 用語に関する基本的な誤解が目立つ。例えば,@行政処分の根拠法令に属する
363 省令の規定をも,行政事件訴訟法第9条第2項にいう「関係法令」の一つに挙げ
364 る答案,A法科大学院が,「文教施設」ないしは学校教育法第1条にいう「大学」
365 に属さないと述べる答案などである。
366 ・ 多くの答案が一定のレベルまでは論じられるような問題で高得点を得るために
367 は,更に深い理解が必要となる。例えば,X1とX2について,それぞれの保護
368 の対象となり得る利益について正確に書けている答案は思いの外少なく,特に,
369 X1については,学生の学習する権利のみを論じているものなども見られた。
370 ・ 法令(すなわちモーターボート競走法及び同法施行規則)と通達の違いを考慮
371 せずに,通達について当然に規則と同様に関係法令に該当するとして論じる答案
372 が目立った。
373 ・ 通達が法や規則の合理的な解釈を前提として発出されているものである限り,
374 根拠法令の解釈の参考となることは当然であるにもかかわらず,「法令」ではな
375 いから一切考慮しないとする答案が比較的多く見られた。
376 ・ モーターボート競争法が一定の範囲で処分の相手方以外の者の原告適格を肯定
377 する趣旨であると解する答案の中には,距離に言及する同法施行規則第11条第
378 2項の規定から直ちに結論を導くものが見られた。
379 ・ 原告適格と本案の関係が整理できていない答案が目立った。
380 (3) 設問2(1)
381 ・ 訴訟要件を満たすかという観点からの検討が見当たらない答案,「比較検討」
382 がなされていない答案が見られた。
383 ・ 確認訴訟については,意味を見いだし難い確認訴訟の答案が散見された。
384 ・ 訴えの候補例を二つ挙げての比較を求められた場合において,一つは合理的な
385 例でも,もう一方に解答者自身も直ちに消極評価するような例を持ち出して,当
386 然に前者を良しとするのは,一般的に言って適切ではない。
387 ・ 「取消措置を受けるおそれを除去する」というAの目的を実現するに適した訴
388 訟として,いきなり国家賠償訴訟を挙げる答案などが見受けられたのは意外であ
389 った。
390 ・ 「取消措置を受けるおそれを除去するには,」という問題文であるにもかかわ
391 らず,「取消措置の取消訴訟」を挙げていた例も見られた。また,「仮の救済は,
392 考慮しなくてよい。」と問題文に付記したにもかかわらず,仮の差止めができる
393 かどうか等を選択の根拠に挙げている例もあった。
394 (4) 設問2(2)
395 ・ 問題文及び会議録等を分析して,質問のポイントを押さえて素直に答えていく
396 姿勢であれば,自ずから比較的高得点が得られるものであるが,知識の量はうか
397
398 -9-
399
400 がわれるのに,会議録等を十分に考慮せずに自分の書きたいことを書いているた
401 め,相対的に低い得点にとどまっている答案が少なくなかった。
402 ・ 自治会の同意について申請時の許可要件とすることができるかという観点から
403 の検討自体が全くなされていない答案が予想以上に多かった。また,自治会の同
404 意を考慮するのは他事考慮だから違法と安易に結論付ける答案が多く,自治会の
405 同意を求める手法の意義と問題点について実質的に検討された答案は少なかった。
406 ・ 国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし限界を検討することが求め
407 られているにもかかわらず,取消措置が他事考慮だから違法とするだけで,国土
408 交通大臣がいかなる措置を執り得るのかについて検討されていない答案が見られ
409 た。
410 ・ 省令の基準以外の理由で許可を拒否することができるかという問題と,職権取
411 消の可否,行政指導の限界という三つの問題の相互関係が的確に整理できている
412 かどうかで大きく差がついた印象がある。
413 ・ 許可不許可の裁量を認める根拠がどこにあるのか,その限界についてどう考え
414 るのかといった点について,「丁寧」に論述することが求められているのに,裁
415 量の有無などにも触れないで答えを導こうとする答案もあった。
416 ・ 周辺自治会等の同意を求める行政手法について検討した答案は少数であり,こ
417 れに言及する答案においても当該手法の問題点にまで触れたものは少数であった。
418 ・ 申請に係る許可を拒否する処分が行政手続法上の「不利益処分」に当たるとの
419 前提に立つ答案が見られた(同法第2条第4号ロ参照)。
420 ・ 少数ながら,感心させられるほど優秀な答案もあった。
421 (5) 設問3
422 ・ 時間切れとなっている答案を除き,実効性確保,利害調整ともに豊かな着想か
423 ら設問に食らいついた答案が相当数あり,好印象だった。
424 ・ 比較的多くの受験者が,条例に盛り込むべき事項を複数挙げており,その内容
425 もおおむね正解に近いものであって,全体的な印象は悪くなかったが,法的な問
426 題点に関しては,憲法第94条の条文すら挙げていないものも散見され,問題の
427 所在を正確に理解しているか疑わしい答案も少なくなかった。
428 ・ 立法論的な理解が要求されるものであり,解答に戸惑った者も少なくなかった
429 のではないかと思われる。解答に当たって,具体的な規定について思い描けたか
430 どうかで差の付いたものとなったようである。
431 ・ 自主条例(独自条例)と委任条例との相違を十分に理解できていない答案が目に
432 付いた。現実の条例に余り接したことがないのではないかという印象を受けた。
433 ・ 「事業者に対して実効性を持ち」,「住民及び事業者の利害を適切に調整できる
434 ようにするため」の「@Aの規定以外」の規定を聞かれているにもかかわらず,
435 問題の趣旨を理解せず,@Aをなぞった規定を書いたり,求められている要請と
436 の関係に触れることなく,他に定め得る規定(外観や高さの制限,地域指定等)
437 を挙げたりしていた答案が散見された。
438
439
440 今後の法科大学院教育に求めるもの
441 行政実体法について自分で論理を組み立てる能力,及びその前提となる行政法総論
442 に関する正確な理解を,身に付けられるような教育が法科大学院に求められる。
443
444 - 10 -
445
446 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第1問)
447
448
449 出題の趣旨等
450 出題の趣旨及び狙いは,既に公表した出題の趣旨(「平成23年新司法試験論文式
451 試験問題出題趣旨【民事系科目】〔第1問〕」)のとおりである。
452
453
454
455 採点方針
456 採点に当たっては,従来と同様,受験者の能力を多面的に測ることを目指した。第
457 1に,民法上の基本的な問題についての理解が確実に行われているかどうかを確かめ
458 ることとした。第2に,単に知識を確認するだけでなく,掘り下げた考察をしてそれ
459 を明確に表現する能力,論理的に一貫した考察を行う能力,及び,具体的事実を注意
460 深く分析した上で法的観点から評価する能力を確かめることとした。第3に,基本的
461 な問題の背後にあるより高度な問題に気が付いて,それに取り組む答案があれば,そ
462 のことを積極的に評価することとした。これらを実現するために,1つの設問に複数
463 の採点項目を設け,採点項目ごとに適切な考察が行われているかどうか,その考察が
464 どの程度適切なものかに応じて点数を与えることとした。
465 さらに,複数の論点について表面的に言及する答案よりも,一つの論点について考
466 察の重要箇所において周到確実な答案や創意工夫に富む答案が,法的思考能力の優れ
467 ていることを示していると考えられることがある。そのため,採点項目ごとの評価に
468 加えて,答案を全体として評価し,論述の緻密さ周到さの程度や構成の明快さの程度
469 に応じても点数を与えることとした。これらにより,ある設問について考察力や法的
470 思考力の高さが示されている答案には,別の設問について必要なものの一部の検討が
471 なく,そのことにより知識や理解の不足を露呈していたとしても,高い評価を与える
472 ことができるようにした。また反対に,論理的に矛盾する構成をするなど積極的なミ
473 スが著しい答案については,低く評価することとした。なお,全体として適切な得点
474 分布が実現することを心掛けた。
475
476
477
478 採点実感
479 採点実感として,新司法試験考査委員会議申合せ事項にいう「優秀」,「良好」,「一
480 応の水準」及び「不良」の4つの区分に照らすと,例えばどのような答案がそれぞれ
481 の区分に該当するかについて,設問ごとに示すと以下のとおりとなる。
482 ただし,これらは各区分に該当する答案の例であって,これらのほかに各区分に該
483 当する答案はあり,それらは多様である。なお,以下で用いる「適切に答える」,「適
484 切な解答」,「適切に検討する」及び「適切な検討」については,既に公表した出題の
485 趣旨(上記「1 出題の趣旨等」参照)を参照されたい。
486 (1) 設問1について
487 採点実感からは,次のようになる。
488 優秀に該当する答案の例は,小問(1)と小問(2)について,いずれも適切に
489 答えているものである。良好に該当する答案の例は,小問(1)について適切に答
490 えるものの,小問(2)についてAがした敷金返還請求権の放棄が敷金返還債務の
491 免除であると捉え,それが債権者Cの債権を害するものであるとしながら,民法第
492 424条が定める詐害行為取消しの他の要件について検討を行っていないものであ
493
494 - 11 -
495
496 る。一応の水準に該当する答案の例は,小問(1)について適切に答えるものの,
497 小問(2)について適切な解答がないものである。不良に該当する答案の例は,小
498 問(1)の一部(例えば,Bの受益及びCの損失)について適切に答えるものの,
499 その他(例えば,Bの受益とCの損失との間の因果関係及びBの受益が法律上の原
500 因を欠くこと)については適切な解答がなく,また,小問(2)について適切な解
501 答がないものである。
502 小問ごとについての成績は,小問(1)については,良好から一応の水準の程度
503 の答案が多くあったのに対して,小問(2)については,不良の答案が多くあった。
504 なお,小問(2)については,【事実】の中の「A及びFは,Fに対する敷金返還
505 請求権をAが放棄することを相互に確認した」ことに着目するものの,詐害行為取
506 消しには一切触れず,したがって,それに関係付けることをせずに,単に敷金返還
507 請求権は放棄されているため債権者代位(民法第423条)により行使することは
508 できないと解答する答案があり,また,設問の中において,「Cは,不当利得返還
509 請求以外の方法によって,Fから,・・・回収することを考えた」と説明され,不
510 当利得返還請求については解答する必要がないことが指示されているにもかかわら
511 ず,不当利得返還請求について解答する答案があり,これらはいずれも低い評価と
512 せざるを得なかった。
513 (2) 設問2について
514 採点実感からは,次のようになる。
515 優秀に該当する答案の例は,将来債権売買契約の売主は買主に対してどのような
516 義務を負うかについて適切に答えるとともに,債務不履行を理由とした解除の根拠
517 となる法律の規定を指摘し,その規定が定める要件の充足について適切に検討した
518 上で,解除の可否について結論を述べるものである。良好に該当する答案の例は,
519 将来債権売買契約の売主は買主に対してどのような義務を負うかについて適切に答
520 えるものの,債務不履行を理由とした解除の根拠となる規定(例えば,民法第54
521 3条)が定める要件のうち一部(例えば,履行の全部又は一部の不能)について検
522 討をするが,その他の要件(例えば,債務の不履行が債務者の責めに帰することが
523 できない事由によるものであるとき)についての検討を欠くものである。一応の水
524 準に該当する答案の例は,将来債権売買契約の売主は買主に対してどのような義務
525 を負うかについて適切に答えるものの,債務不履行を理由とした解除の根拠となる
526 規定を指摘せず,したがって,解除をすることができる要件の充足についての検討
527 を欠くものである。不良に該当する答案の例は,将来債権売買契約の売主は買主に
528 対してどのような義務を負うかについて適切な解答がなく,債務不履行を理由とし
529 た解除の根拠となる規定を指摘せず,したがって,解除をすることができる要件の
530 充足についての検討を欠くものである。
531 設問2については,良好,一応の水準及び不良の答案がそれぞれ一定程度あった。
532 なお,一部の答案には,将来債権売買契約の売主は買主に対してどのような義務を
533 負うかについての検討と,債務不履行を理由とした解除の根拠となる規定が定める
534 要件の充足についての検討とが一貫しないものがあり,一貫したものと比較して低
535 い評価を与えた。
536 (3) 設問3について
537 採点実感からは,次のようになる。
538
539 - 12 -
540
541 優秀に該当する答案の例は,小問(1)と小問(2)について,いずれも適切に
542 答えているものである。良好に該当する答案の例は,小問(1)について,Hが損
543 害賠償を請求する相手方として,間接占有者であり所有者であるF及びエレベータ
544 ー設備の更新工事をした請負人であるDを取り上げて適切な検討を行うが,直接占
545 有者であるAを取り上げず,小問(2)について,適切な解答をするものである。
546 一応の水準に該当する答案の例は,小問(1)について,Hが損害賠償を請求する
547 相手方として,エレベーター設備の更新工事をした請負人であるDを取り上げて適
548 切な検討を行うが,直接占有者であるA及び間接占有者であり所有者であるFを取
549 り上げず,小問(2)について,適切な解答をするものである。不良に該当する答
550 案の例は,小問(1)について適切な検討をしないが,小問(2)については適切
551 に解答するものである。
552 小問ごとについての成績は,小問(1)については,良好,一応の水準及び不良
553 の答案がそれぞれ一定程度あったのに対して,小問(2)については,良好から一
554 応の水準の程度の答案が多くあった。なお,一部の答案には,民法第717条が定
555 める土地の工作物に関する占有者の責任と所有者の責任の関係を明らかにした上で,
556 直接占有者であるAについての検討と,間接占有者であり所有者であるFについて
557 の検討を適切に関係付けて行うものがあった。そうでない答案と比較して高い評価
558 を与えた。
559
560
561 採点をした後の考査委員の感想
562 本年の民法の考査委員は,採点をした後,次のような感想を抱いた。
563 まず,基本的な知識についての正確な理解に基づけば,高い評価を得る答案は可能
564 であり,低い評価しか得られない答案には,知識不足がうかがわれた。問われている
565 問題を解くために適切な法律構成を探し出すことができない答案は,知識不足が原因
566 だろうと思われる。
567 また,法律の規定に沿って要件を明らかにし,問題文の【事実】の中から要件に当
568 てはまる具体的事実を拾い上げることができると高い評価が得られ,これに対して,
569 要件について論述するものの,それに具体的事実を関係付けることをしない答案に対
570 する評価は,低くならざるを得なかった。また,具体的な事実が要件を充足するかど
571 うかの論述があるものの,丁寧さに欠ける答案は,低い評価となり,反対に,この点
572 を丁寧にかつ的確に論ずるものには,高い評価が与えられた。問われている問題を解
573 くために適切な法律構成を把握しながら,要件について,又は,具体的な事実が要件
574 を充足するかどうかについて,必要な論述をしていないものは,低い評価となった。
575 これらからは,法律の規定に則し,【事実】に基づき,要件に充足するかどうかを検
576 討し判断するという基本的な作業を習得できているかどうか,又どの程度習得できて
577 いるかによって評価が分かれることになったと考えられる。
578 さらに,【事実】を正確に読み,〔設問〕で何が問われているかを正確に理解してい
579 る答案には高い評価が得られ,そうではない答案は低い評価となることも全体的な傾
580 向として指摘することができる。
581 本年の民事系科目〔第1問〕のように,複数の設問によって構成されていて,各設
582 問の配点の割合が示されている場合(本年は,〔設問1〕から〔設問3〕までの配点
583 の割合は,4:3:3であった。),受験者は,各設問に対応する解答の分量を考える
584
585 - 13 -
586
587 とき,この配点の割合を参考にすると良い。
588
589 - 14 -
590
591 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第2問)
592
593
594 出題の趣旨
595 既に公表されている「平成23年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(以下「出
596 題趣旨」という。)に,特に補足すべき点はない。
597
598
599
600 採点方針及び採点実感
601 民事系科目第2問は,商法からの出題である。これは,事実関係及び資料(株主総
602 会参考書類と貸借対照表)を読んで,分析し,会社法上の論点を的確に抽出して論理
603 的な整合性を意識しながら各設問に答えるという,基本的な知識と,事例解析能力,
604 論理的思考力,法解釈・適用能力を試すものである。
605 全体としては,論述が十分しきれていない答案が多く見られた。
606 設問@前段(本件自己株式取得の効力)については,本件自己株式取得には,出題
607 趣旨のとおり,売主追加請求の通知(会社法第160条第2項)を怠ったこと,
608 特定の株主(同条第4項)であるBが議決権を行使したこと,という二つの手続的瑕
609 疵,財源規制(同法第461条第1項第3号)に違反すること,という併せて三つ
610 の瑕疵がある。まず,の瑕疵があることについては,多くの答案が触れており,ま
611 た,「市場価格のある株式の取得の特則」(同法第161条)の適用がないことや「相
612 続人等からの取得の特則」の適用がないこと(同法第162条第1号)を適切に指摘
613 する答案も相当程度あった。もっとも,の瑕疵は,自己の株式の取得に関する手続
614 違反であって株主総会の決議の瑕疵ではないにもかかわらず,株主総会の招集手続の
615 法令違反であり株主総会決議取消事由にとどまるとする答案が多く見られた。の特
616 定株主による議決権行使の瑕疵は,同法第160条第4項本文違反の問題であるとこ
617 ろ,これを指摘する答案も多数あった一方,これを知らず,特別利害関係人の議決権
618 行使による決議取消しの問題(同法第831条第1項第3号)として論じた答案も少
619 なからず見られた。の瑕疵については,株主総会の決議方法の法令違反(同項第1
620 号)と見る見解と自己の株式の取得に関する手続違反の一つと見る見解とがあり得る
621 が,採点では,どちらの見解を採っても,その理由等が適切に述べられていれば,同
622 等に評価した(なお,前者の見解を採った答案の中には,問題文が株主総会の決議取
623 消しの訴えを出訴期間内に提起したかどうかについては触れていないのに,決議取消
624 しの訴えを出訴期間内に提起していないという前提を設定し,これを理由として決議
625 取消しの訴えの問題を十分論じないものが見られた。)。の財源規制違反の瑕疵につ
626 いては,全く検討していない答案が多く,これに触れている答案でも,分配可能額を
627 誤っている答案や適用される条項を正しく理解していない答案(同法第461条第1
628 項第3号ではなく,同項第2号を根拠とするもの,同号には該当しないので財源規制
629 違反とならないとするもの等)がかなり見られた。の瑕疵と本件自己株式取得の効
630 力との関係については,無効説と有効説とがあるが,採点では,どちらの見解を採っ
631 ても,その理由等が適切に述べられていれば,同等に評価した。さらに,,,
632 のそれぞれの瑕疵と本件自己株式取得の効力について検討した結果,その結論が有効
633 と無効とに分かれることがあり得るが,全体として本件自己株式取得の効力をどのよ
634 うに考えるかにつき論理的整合性を意識しながら記述した答案には,高い評価を与え
635 た。これに対し,の瑕疵について有効説を採った上で,これに加えて又はの瑕
636
637 - 15 -
638
639 疵があったとしても本件自己株式取得は有効であると特に理由を述べないで誤った解
640 答をした答案が若干見られた。
641 設問@後段(本件自己株式取得に関する甲社とBとの間の法律関係)については,
642 上記の瑕疵と本件自己株式取得の効力との関係について無効説・有効説いずれを採
643 る場合であっても,Bは甲社に対して受け取った25億円を支払う義務を負うが(会
644 社法第462条第1項),この点を理解していない答案が多く見られた。また,この
645 支払義務を負うべき金額を誤っており,又は具体的に示していない答案がかなり見ら
646 れた。また,本件自己株式取得の効力が無効であるとした場合に,Bの株式の帰すう
647 (Bは依然として当該株式に係る株主であるか等),甲社とBとの間の不当利得関係,
648 両者が請求権を有するとした場合の同時履行関係等について,論理的整合性をもって
649 論じた答案は,多くは見られなかった。中には,甲社は取得した自己株式をその後処
650 分したから,本件自己株式取得に瑕疵があったとしても本件自己株式取得は有効とな
651 るとだけ(それ以上の理由を述べないで)記述した答案も見られた。さらに,本件自
652 己株式取得の効力が無効であるとする答案においては,無効を主張することができる
653 のは甲社だけであるか,甲社はBが善意又は善意・無重過失であった場合であっても
654 無効を主張することができるか等,これまで裁判例や学説で議論されてきた点に触れ
655 ることが求められる(記載箇所としては,設問@前段の解答として触れることでもよ
656 い。)が,これに触れていない答案が多かった。
657 設問Aの本件自己株式処分の効力については,まず,本事例は,いわゆる有利発行
658 (有利処分)に当たることを前提に,資料@の株主総会参考書類の第2号議案に関す
659 る記載において,会社法第199条第3項に基づく説明義務は尽くされていることが
660 示唆されており,株主総会における第2号議案の審議に際して説明義務(同法第31
661 4条)の違反があったかどうかが主として論じられるべき事例であるところ,これを
662 適切に論ずる答案もあったが,同法第199条第3項に基づく説明義務と株主から説
663 明を求められた場合に取締役等が負う一般的な説明義務(同法第314条)との区別
664 を理解しない答案や,前者の違反があったと解答し後者に全く触れない答案も相当見
665 られた。次に,第2号議案の採決に際して乙社が議決権を行使したことが同法第83
666 1条第1項第3号の株主総会決議取消事由に該当するかどうかについては,多くの答
667 案が触れていたものの,中には,特に理由を論ずることをしないまま,著しく不当な
668 決議がされたとの結論だけを述べる答案も見られた。これらの瑕疵が肯定される場合
669 に,それらが自己株式処分無効の訴え(同法第828条第1項第3号)の無効原因と
670 なるかどうかについて論述することが求められるが,そもそも,自己株式の処分の無
671 効は自己株式処分無効の訴えによってしか主張することができない(同項柱書)とい
672 うことに触れていない答案がかなり見られた。また,説明義務違反や特別利害関係人
673 による議決権行使が株主総会決議取消事由となることと自己株式処分無効の訴えとの
674 関係を論じた答案は少なかった。さらに,株主総会の特別決議を欠く新株の有利発行
675 は有効であると判示した著名な最高裁昭和46年7月16日第二小法廷判決(判例時
676 報641号97頁)の考え方との関係について論じた答案は更に少なかった。他方で,
677 設問@前段との関連で本件自己株式処分の対象となった自己株式がそもそも有効に取
678 得されたものではないという問題点との関係を論理的に記述した答案は高く評価した
679 が,そのような答案も,ごく僅かであるが,見られた。
680 設問B(本件自己株式取得及び本件自己株式処分に関するCの甲社に対する会社法
681
682 - 16 -
683
684 上の責任)については,まず,上述したように,そもそも本件自己株式取得が財源規
685 制違反であったことを見落とした答案が多く,会社法第462条(第1項柱書又は第
686 1項第2号)の責任をきちんと論じた答案は多くはなかった。また,同法第465条
687 第1項第3号の欠損補責任についても,これを論じた答案は少なく,これに触れた
688 答案であっても,責任を負うべき金額まで正確に示した答案は更に少なかった。もっ
689 とも,これらの責任に触れた答案では,おおむね,Cが「その職務を行うについて注
690 意を怠らなかった」(同法第462条第2項,第465条第1項ただし書)との要件
691 を満たした場合には責任を負わないことに言及できていた。次に,同法第423条の
692 任務懈怠責任の検討に当たっては,設問@Aにおける論述との整合性を意識しながら,
693 任務懈怠の内容の分析と,損害額及び因果関係について論理的な記述をすることが求
694 められ,このような記述をした答案には高い評価を与えたが,そのような答案はそれ
695 ほど多くなかった。他方,本件自己株式取得及び本件自己株式処分には上述したよう
696 な種々の法令違反があったにもかかわらず,法令違反の点を度外視して,高く取得し
697 て安く処分したことに伴う差損を捉えて,そこに経営判断の原則を当てはめる答案が
698 散見された。
699 以上のような採点実感に照らすと,「優秀」,「良好」,「一応の水準」,「不良」の四
700 つの水準の答案は,次のようなものと考えられる。第一に,「優秀」な答案は,上記
701 の採点のポイントとして挙げた論点の主要なものをほぼ論ずることができていて(各
702 設問につき主要な論点の一,二が欠けている程度は,差し支えない。),各問題につき
703 相当な理由をもって自らの考えを述べ,その考えに基づき論理的に整合性を持った法
704 的議論を展開することのできている答案である。「良好」な答案は,主要な論点で論
705 じられていないものが若干あるが,取り上げた論点についてはそれなりの論理的に整
706 合性を持った法的議論がされている答案である。「一応の水準」の答案は,最低限押
707 さえるべき論点,例えば,設問@であれば,本件自己株式取得に関する瑕疵と本件自
708 己株式取得の効力,設問Aであれば,本件自己株式処分に関する瑕疵と本件自己株式
709 処分の効力が,少なくとも実質的に論じられていて,議論の筋がある程度通っている
710 答案である。「不良」な答案は,そのような最低限押さえるべき論点も押さえられて
711 いない答案や,議論の筋の通っていない答案である。
712
713
714 法科大学院教育に求められるもの
715 自己の株式の取得に関する会社法の規律(財源規制及び欠損補責任を含む。)や
716 自己株式の処分に関する会社法の規律(無効の訴えの制度を含む。)は,会社法の基
717 本的な規律であると考えられるが,これらについての理解に不十分な面が見られる。
718 また,貸借対照表を見て分配可能額を算出するという基本的な点や,取締役の会社に
719 対する責任を含めて,事例における事実関係を読んでそれに即して論ずるという基本
720 的な点に不十分な面が見られる。そして,基本的な判例を踏まえて,それに基づいて
721 論理的な思考をし,また,その考え方を応用する能力にも不十分な点が見られる。会
722 社法の基本的な知識に加えて,事例解析能力と論理的思考力を涵養する教育が求めら
723 れる。
724
725 - 17 -
726
727 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第3問)
728
729
730
731
732 出題の趣旨,狙い等
733 「出題の趣旨」に詳細に記載したとおりである。
734 採点方針
735 民事訴訟法については,従来と同様,@民事訴訟法の基本的な原理・原則や概念を
736 正しく理解するとともに,基礎的な知識を習得しているか,Aそれらを前提として,
737 問題文をよく読み,設問で問われていることが何かを的確に把握した上で,それに正
738 面から答えているか,B抽象論に終始せずに,事例に即して具体的に,かつ掘り下げ
739 た考察をしているか,といった点を重視して採点をしている。ただし,Bについては
740 誤解している受験者が相当程度いると思われる節があった。この点については後記3
741 の(1)や(3)を参照されたい。
742 Aと関連するが,問われていることに正面から答えていなければ,たとえ設問に関
743 る る
744 連する論点を縷々記載していても,点数は付与していない。自分の知っている論点が
745 そのまま問われているものと思い込み,題意から離れてその論点について長々と記述
746 する答案や,結論に関係しないにもかかわらず自分の知っている諸論点を広く浅く書
747 き連ねる答案に対しては,問われていることに何ら答えていないと評価するなど,厳
748 しい姿勢で採点に臨んでいる。
749 問われていることに正面から答えるためには,論点ごとにあらかじめ丸暗記した画
750 一的な表現(予備校の模範解答の類)をそのまま答案用紙に書き出すのではなく,設
751 問の検討の結果をきちんと順序立てて自分の言葉で表現する姿勢が極めて大切である。
752 採点に当たっては,そのような意識を持っているかどうかにも留意している。
753
754 3 採点実感等
755 (1) 設問1について
756 事実の自白の撤回については,典型的な論点ということもあって,一通りの知識
757 はあることがうかがわれた。しかし,全体的に典型的な論点に関する型通りの叙述
758 にとどまっている答案が大半であり,「良好」や「優秀」に該当する答案は少なか
759 った。
760 例えば,事実の自白の撤回制限効の根拠については,禁反言に言及するだけの答
761 案が多く,中には「禁反言と自己責任である」とするなど,抽象的な用語のみから
762 説明する紋切り型の答案も相当数あり,事実の自白の裁判所に対する効力から丁寧
763 に論じている答案は少なかった。訴訟行為の撤回が原則として自由であることから
764 すれば,禁反言だけから事実の自白の撤回制限効を根拠付けることは難しいと思わ
765 れるが,そもそも,訴訟行為の撤回が原則として自由であることを理解していない
766 のではないかと思われる答案も少なくなかった。
767 権利自白の撤回については,事実と権利との違い(自白の対象が事実ではなく権
768 利であること)を踏まえつつ,権利自白の裁判所に対する効力の有無から説き起こ
769 すことを期待していた。しかし,「所有権は日常的な法概念であるから,所有権の
770 自白は事実の自白と同様に考えてよい」などとするにとどまり,深みのない答案が
771 ほとんどであった。権利の存否の判断は裁判所の専権であるとしつつ,このように
772
773 - 18 -
774
775 論ずる答案も多かったが,権利の存否の判断が裁判所の専権なのであれば,所有権
776 も権利である以上,たとえそれが日常的な法概念であっても,その存否の判断は裁
777 判所の専権と考えなければ論理一貫しないが,この矛盾を論じている答案はほとん
778 どなかった。証明の対象は事実であるにもかかわらず,所有権の証明とか所有権に
779 ついての証明責任といった不適切な表現をしている答案も散見された。
780 問題文で「「理論的基礎付けは難しい。」という結論になってもやむを得ませんが
781 ・・」として権利自白の撤回が制限されることを理論的に基礎付けることが難しい
782 ことは示唆されているのであるから,簡単に結論が出るような問題でないことは容
783 易に分かるはずである。それにもかかわらずそのような悩みが全く感じられない答
784 案が大多数であったことは,誠に残念である。
785 また,これらの点をほとんど論じずに,事実の自白の撤回の要件論に飛び付き,
786 本問の事例への当てはめを長々と(第1回口頭弁論期日において被告側が本人訴訟
787 であったことなどを取り上げて)論じている答案も多かった。これは,従来の採点
788 実感等において受験者の事例分析能力や事例に即して考える能力に疑問が呈されて
789 きたことから,本問においても事実の自白の撤回の要件論を本問の事例に当てはめ
790 ることが求められていると考えた結果ではないかとも思われる。しかし,問題文を
791 よく読めば,「事実の自白の撤回制限効の根拠にまで遡った検討が必要」になるこ
792 とが示唆されているのであるから,本問で中心的に問われていることが事例への当
793 てはめでないことは分かるはずである。このような答案は,問われていることに正
794 面から答えていないことになるから,高い評価は与えられない。権利自白の撤回も
795 制限されるとの立場を説得的に論じた上で,更に,権利自白の撤回も事実の自白の
796 撤回と同様の要件で認めてよいかどうか,仮に同様の要件で認めてよいとして権利
797 自白の撤回の場合には「反真実」の要件をどのように捉えることになるかなどを掘
798 り下げて考察する答案に対しては,極めて高い評価を与える予定でいたが,そのよ
799 うな答案はほとんどなかった。
800 このほか,本問は,被告側の陳述について権利自白が成立していることを前提に,
801 その撤回の可否を問うものであるが,これを事実の自白であると取り扱い,そもそ
802 も権利自白について全く論じていない答案も散見された。
803 他方で,権利自白のうち所有権の自白の特殊性にまで言及している答案には,以
804 上の諸点についても題意に沿って丁寧に論じているものが比較的多く,それらは高
805 評価を受けている。中でも,単に「所有権の立証の困難性に照らして」とか「所有
806 権の来歴を立証することは困難であるから」といった抽象的な表現をするのではな
807 く,何がどのように困難であるかを自分の言葉で丁寧に説明している答案は,少数
808 ではあったが,総じて他の部分もよく書けていた。これは,答案の作成に当たり,
809 抽象的な用語のみに頼らずに,その用語の意味内容を自分の言葉で噛み砕いて丁寧
810 に表現する姿勢が身に付いているからではないかと思われる。
811 なお,本問は,権利自白の撤回は許されないという方向での検討を「ギリギリの
812 ところまで」求めるものであるが,この要請に応えている答案は少数であり,むし
813 ろ,多くは裁判官のような第三者的立場から論ずるにとどまっていた。
814 (2) 設問2について
815 権利主張参加については全体的に出来が悪かったが,共同訴訟参加については出
816 来不出来が分かれた。
817
818 - 19 -
819
820 「一応の水準」に達するためには,最低限,債権者代位訴訟が法定訴訟担当の問
821 題であることを意識しつつ,独立当事者参加のうちの権利主張参加と共同訴訟参加
822 のそれぞれについて正しく説明することが求められる。しかし,前者につき,詐害
823 防止参加を論ずる必要がないことは問題文で明示されているにもかかわらず詐害防
824 止参加を検討している答案,権利主張参加と詐害防止参加との区別が分かっていな
825 いのではないかと思われる答案,後者につき,共同訴訟参加ではなく共同訴訟の要
826 件(民事訴訟法第38条)を論じている答案など,「一応の水準」に達していない
827 ものも散見された。
828 「良好」又は「優秀」と評価されるためには,単に該当条文の表現を引用するだ
829 けでなく,その解釈を展開することが必須であるが,権利主張参加と共同訴訟参加
830 のどちらについても,該当条文の要件を答案に引き写すだけで,その解釈を展開す
831 るに至っていないものが少なくなかった。例えば,前者につき,民事訴訟法第47
832 条第1項の「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する」
833 を引用するだけで,請求が法律上非両立であることを説明することができていない
834 答案,後者につき,同法第52条第1項の「訴訟の目的が当事者の一方及び第三者
835 について合一にのみ確定すべき場合」を引用するだけで,類似必要的共同訴訟が成
836 立するかどうかの問題であることが分かっていない答案などが,その典型である。
837 権利主張参加については,「出題の趣旨」で詳論したとおり,原告適格の両立・
838 非両立の考察を求めるのが題意であるが,これを論じている「優秀」な答案は非常
839 に少なかった。圧倒的多数は,債権者代位訴訟の訴訟物が何かを論じ,訴訟物が同
840 一であるから権利主張参加の要件を満たしている(あるいは満たしていない)と結
841 論付けるにとどまっていたが,債権者代位訴訟の訴訟物を問う問題ではないから,
842 これでは題意に答えたことにならない。昭和48年の最高裁判決の事案は,債権者
843 代位訴訟に債務者が権利主張参加をすることの可否が争点となったものであるが,
844 この判決の結論を暗記しているだけでは不十分であったということができよう。
845 共同訴訟参加については,債権者代位訴訟の判決の既判力が被担当者に及ぶこと
846 は理解しているものの,被担当者において既判力の矛盾が生じてもやむを得ないと
847 して,それ以上の検討をしないまま共同訴訟参加を否定する「一応の水準」止まり
848 の答案があった一方で,被担当者に既判力が及ぶことから被担当者を経由して他の
849 原告適格者にも既判力が反射的に及ぶとの立場,被担当者において既判力の矛盾が
850 生ずることを回避する必要があるとの立場などから共同訴訟参加の可否をきちんと
851 論じている「良好」や「優秀」に該当する答案もあった。
852 また,権利主張参加と共同訴訟参加のそれぞれを別個に検討した結果,どちらも
853 認められないとして,それ以上の検討をしないで終わっている答案も多かった。補
854 助参加の問題であるとして補助参加の要件に言及している答案も散見された。しか
855 し,問題文に「補助参加ではなく当事者として参加することを検討しなければなら
856 ないと考えた」とあるのであるから,そのような結論,すなわち,債権者の一人が
857 いったん債権者代位訴訟を提起してしまうと,他の債権者には当事者として関与す
858 る手段がない(せいぜい補助参加し得るにとどまる)と考えることの妥当性を検討
859 しなければ,題意に十分に答えたことにはならないことに気付いてほしかった。
860 なお,本問のような問題では,権利主張参加や共同訴訟参加について,記憶して
861 いる限りの要件を全て取り上げて検討しているような答案が散見される。例えば,
862
863 - 20 -
864
865 「他人間に訴訟が係属していることが要件であるが,本問の事例ではこの要件を満
866 たしている。」などとするものである。しかし,この要件を満たしているからこそ
867 独立当事者参加や共同訴訟参加の可否を問うていることは問題文から明らかである
868 から,このような記載は無用である。書けば書いただけよく勉強していると評価さ
869 れると誤解しているのかもしれないが,むしろ,このような記載をするとセンスを
870 疑われる(論ずべきポイントが何かを把握していないと受け取られる)ことになり
871 かねない。
872 (3) 設問3について
873 固有必要的共同訴訟かどうかが問題となることについては,多くの答案が気付い
874 ていた。「一応の水準」に達するためには,それに加えて,判例がどのような見解
875 に立っているか,判例によれば本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄のそれぞれに
876 ついてどのように考えることになるかを正しく説明することが求められる。
877 しかし,問題文に「判例がある場合にはそれを踏まえる必要があります」と明示
878 されているにもかかわらず判例に全く言及していないもの,共有の場合には原告側
879 か被告側かを問わずに固有必要的共同訴訟になるとするなど,判例の理解が十分で
880 ないもの,本訴請求と中間確認請求は別個の請求であるからそれぞれについて検討
881 しなければならないのに,その一方にしか答えていないもの,あるいはどちらにつ
882 いて答えているのか明確でないものなどが少なくなかった。
883 「良好」や「優秀」の評価を受けるためには,更に,判例「に無批判に従うこと
884 はせずに」それを踏まえて自分の考えを論ずる必要があるが,単に判例の結論を示
885 すだけで,その矛盾や不都合の有無に全く言及していない答案も少なくなかった。
886 他方で,判例に従うと本訴請求と中間確認請求とで実体法上は矛盾した結果が生
887 ずることを的確に指摘することができている答案も相当数あった。
888 そこから進んで,その矛盾を放置してよいかどうか,放置してよいとするとそれ
889 はなぜなのか,放置すべきでないとするとどのように考えるべきかを,どの程度説
890 得的に論じているかで実力差がはっきりと出た。中間確認請求(所有権確認)が本
891 訴請求(建物収去土地明渡請求)の先決的法律関係であること,新たに訴えを提起
892 する場面ではなく係属中の訴訟において相続による当事者の承継があった場面であ
893 ることなどに着目しつつ,説得力のある議論を展開している「優秀」な答案があっ
894 た一方で,結論をどちらかに合わせているにすぎないと思われる考察不足の答案も
895 あった。
896 後者に分類される答案を採点して特に気になったことは,理論的に詰めて考える
897 ことをせずに,事案における具体的妥当性のみに目を奪われ,「LはKと同居して
898 いるが,Mは遠く離れた地方に居住している」,「MはKやLとほとんど没交渉とな
899 っている」といった本問の事例の個別的な事情(一般化することができない事情)
900 を持ち出して,そこから安易に結論を導いている答案が少なくなかったことである。
901 問題文に「本件での結果の妥当性などを考えて」とあること,また,従来の採点実
902 感等において受験者の事例分析能力や事例に即して考える能力に疑問が呈されてき
903 たことが影響しているようにも思われるが,結論の具体的妥当性を追求するという
904 ことは,妥当な結論を導くための理論構成を考えるということであって,個別的な
905 事情から裸の利益衡量をして妥当と思われる結論を導くということではない。
906 なお,本問でも,必要的共同訴訟と通常共同訴訟との区別の基準について,抽象
907
908 - 21 -
909
910 的な用語(例えば,「実体法上の管理処分権を基礎に訴訟法的な観点(手続保障の
911 要請)も考慮すべき」など)のみから説明する紋切り型の答案が散見された。
912 (4) 全体を通じて
913 法律実務家を目指す者の答案として不適切なものがある。繰り返しをいとわずに
914 不適切な答案の例を挙げると,次のとおりである。
915 ・ 論ずべき点が問題文で丁寧に示唆されている(設問1の「事実の自白の撤回
916 制限効の根拠にまで遡った検討が必要」,設問3の「判例がある場合にはそれ
917 を踏まえる必要があります」など)にもかかわらず,これに注意を払わないも
918 の。
919 ・ 問われていることに正面から答えずに,結論に関係しない一般論を長々と論
920 ずるもの,何か書けば点数をもらえると誤解していると思われるもの。
921 ・ 論理を積み上げて丁寧に説明しようとしないで,抽象的な用語(禁反言,相
922 手方の信頼保護など)のみから説明したり,直ちに結論を導いたりするもの。
923 ・ 当該事案における結論の妥当性のみを追求し,論理的な一貫性を欠いていた
924 り,理論的な検討が不十分であったりするもの。
925
926
927 法科大学院教育に求めるもの
928 採点実感に照らすと,基礎的な知識を習得すること,すなわち基本的な概念を正確
929 に,かつその趣旨から理解することの重要性を,繰り返し強調する必要があると思わ
930 れる。司法試験では受験者が初めて考えるような問題も出題されるが,そこで求めら
931 れる能力は基礎的な知識とそれを使いこなして考える能力であり,もとより法科大学
932 院において特殊な論点や事例にまで手を広げて学習することを期待するものではない
933 からである。事例の分析能力や事例に即して考える能力を涵養することももちろん重
934 要であるが,これらの能力は基礎的な知識と能力の上に初めて成り立つものである。
935 土台をおろそかにしたまま複雑な事例を分析させることは,今年の答案にも見られた
936 ように,論理的に突き詰めて考えることをしないで結論の妥当性のみを安易に追求す
937 る姿勢を助長するおそれがある。
938
939
940
941 その他
942 試験の答案は,人に読んでもらうためのものである。読み手に読んでもらえなけれ
943 ば何を書いても意味がない,という当たり前のことを改めて強調しておきたい。毎年
944 のように内容以前の問題として指摘していることであるが,極端に小さな字や薄い字,
945 書き殴った字の答案が相変わらず少なくない。もとより字の巧拙を問うものではない
946 が,読み手の立場に立って読みやすい答案を作成することは,受験者として最低限の
947 務めである。読み手に理解されなければ何を書いても評価されないことを肝に銘ずべ
948 きである。
949 平成22年の「採点実感等に関する意見」で注意を喚起した結果,一般に使われて
950 いない「蓋し」や「思うに」を使用する答案が減少したことは評価したい。しかし,
951 「この点,」という言葉を「この」が何を指すのか不明確なまま接続詞のように多用
952 する答案など,不適切な表現を使用する答案はなお多く見られるので,引き続き改善
953 を求めたい。
954 問題文を無意味に引き写している答案も少なくないが,これは,時間と答案用紙の
955
956 - 22 -
957
958 無駄遣いである。
959 なお,採点実感からすると,合格者の答案であっても「一応の水準」にとどまるも
960 のが多いのではないかと考えられる。当然のことであるが,合格したからといってよ
961 くできたと早合点することなく,学習を継続する必要がある。
962
963 - 23 -
964
965 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第1問)
966
967
968 出題の趣旨の補足
969 既に公表した出題の趣旨のとおりである。
970 なお,以下の記述において,便宜上,出題の趣旨と同様に,本問の事案を三つの場
971 面に分けて論ずる。すなわち,@甲と乙が路上で双方の肩が接触したことからけんか
972 となり,乙の仲間の丙も加わり,三者によって暴行が応酬された(以下「第1場面」
973 という。),Aその後,乙は,走って逃げ出した甲を追い掛け,ナイフで甲の前腕部を
974 切り付けた(以下「第2場面」という。),Bさらに,乙は,甲が車(以下「甲車」と
975 いう。)を運転して逃げようとしたのを走って追い掛け,甲車運転席外側にしがみ付
976 くなどしながら,運転席窓ガラスの開いていた部分からナイフを突き出すなどして甲
977 を攻撃する気勢を示したところ,甲は,車を加速し,蛇行させて乙を振り落とし,そ
978 の頭部を路上に強打させて頭蓋骨骨折等の重傷を負わせた(以下「第3場面」という。)
979 という三つの場面である。
980
981
982
983 採点の基本方針等
984 本問は,上記事案における甲乙丙それぞれの罪責を問うものであるところ,おおむ
985 ね,以下のような基本方針に基づいて採点に当たった。
986 本問では,刑事実体法に関する基本的知識と理解に基づき,刻々と状況が変化して
987 いく複雑な事実関係を法的に分析した上,事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開
988 し,事実を具体的に摘示しつつ法規範への当てはめを行い,妥当な結論を導くことが
989 求められる。
990 3名の刑事責任を分析するに当たっては,刑法総論の理論体系に従い,まず構成要
991 件該当性,次に違法性(違法性阻却事由の有無)という順序で検討し,問題となる構
992 成要件要素や正当防衛等の成立要件を一つ一つ吟味すべきである。ただし,事実認定
993 上又は法解釈上の重要な論点は手厚く論ずる一方で,必ずしも重要でない箇所では簡
994 潔に論述するなど,いわゆる「メリハリ」を付ける工夫も必要となろう。
995 事実認定上の主な論点として,甲が乙を車から振り落とした行為の擬律判断と,乙
996 丙間の甲に対する傷害の現場共謀の成否という問題が挙げられる。前者については,
997 殺人未遂罪の成否を検討すべきであるが,行為の客観面として殺人の実行行為性の有
998 無を明らかにするとともに,行為の主観面である殺意の有無について論ずる必要があ
999 る。その際,甲車の走行態様等の諸々の具体的事実を抽出した上,それらの事実が実
1000 行行為性や殺意の認定にどのような意味を有するかを明らかにすべきである。後者に
1001 ついては,乙丙による事前の謀議などは認められないことから,黙示の(現場)共謀
1002 の有無を認定しなければならないところ,乙丙が甲とのけんかに加わった経緯,丙が
1003 乙に助けを求め,それに応じて乙が甲に反撃したことなどの事情を丁寧に検討するこ
1004 とが求められる。
1005 法解釈上の論点として,正当防衛に関しては,侵害の急迫性,防衛の意思,防衛行
1006 為の相当性という各要件が充足されているかを検討することに加え,自招侵害の問題
1007 についても論ずるべきである。そのためには,正当防衛に関する近時の重要な最高裁
1008 判例及びそれをめぐる議論の状況等についての正確な理解が前提となる。ただし,こ
1009 こでも,事案を離れた抽象的な解釈論ばかりを論ずるのではなく,どのような事実が
1010
1011 - 24 -
1012
1013 当該要件の充足の判断においてどういう意味を持つのか(具体例を挙げれば,乙がナ
1014 イフを甲の運転する車内に落としたことは「急迫性」判断ではどう評価され,同じ事
1015 実が「相当性」判断ではいかなる意味を持つのか)についても明らかにすることが肝
1016 要である。なお,車に乗り込もうとした甲をナイフで切り付けたという乙の行為につ
1017 いて,丙が共犯として責任を負うかという論点については,正当防衛行為の共謀や共
1018 謀の射程範囲など,正当防衛論や共犯論の高度な論点を含んではいるが,正当防衛及
1019 び共謀に関する基本的な知識と理解を基に自らの頭で考えれば,一定の結論にたどり
1020 着くことができると思われ,実際,相当数の答案が一定の水準の論述をすることがで
1021 きていた。
1022
1023
1024 採点実感等
1025 各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると,以下のとおりである。
1026 (1) 全体について
1027 多くの答案は,甲乙丙のそれぞれに,殺人未遂や傷害等の罪の構成要件該当性を
1028 検討した上,正当防衛の成否を論じており,本問の大きな枠組みは理解しているこ
1029 とがうかがわれた。
1030 ただし,記述の濃淡の付け方が必ずしも適当でない答案も見受けられ,刑事責任
1031 が実際上問題とならないようなささいな点を取り上げて延々と論述するものも少な
1032 からずあった。
1033 (2) 甲の罪責について
1034 問題のあった答案としては,以下のようなものがあった。
1035 ア 甲が,車を加速,蛇行させて,しがみ付いていた乙を車から振り落とすという
1036 生命に対する危険性の高い行為に及び,乙に脳挫傷等の大怪我を負わせ,意識不
1037 明の状態に陥らせるという重大な結果を生じさせたにもかかわらず,甲について
1038 傷害罪の成否だけを論じ,殺人未遂罪の成否を一切論じていない答案が予想以上
1039 に多かった。このような答案については,事案を分析する能力の欠如をうかがわ
1040 せることから,低い評価をせざるを得なかった。
1041 イ 甲の上記振り落とし行為について,危険運転致傷罪あるいは自動車運転過失致
1042 傷罪の成立を認めている答案
1043 ウ 甲の上記振り落とし行為について,何罪について検討するか明らかにしないま
1044 ま,故意の有無を論ずる答案
1045 エ 正当防衛について,どの行為を対象として検討するのかを特定しないまま,論
1046 述する答案
1047 オ 甲の上記振り落とし行為について正当防衛の成立要件である侵害の急迫性の有
1048 無を検討するに当たり,乙がナイフを取り落としたことで,その後も乙が攻撃の
1049 気勢を示し続けているにもかかわらず,直ちに急迫性が失われたとする答案
1050 カ 甲の上記振り落とし行為について正当防衛の成否を論ずるに当たり,その前段
1051 階で,甲が乙に激しい暴行を加えて重い傷害を負わせたという事実を十分に考慮
1052 しなかったためか,自招侵害について全く検討していない答案が数多く見られた。
1053 キ 甲が乙を振り落とした後,乙を救助することもなく車で走り去ったことについ
1054 て,保護責任者遺棄致傷罪の成否を問題とし,その成立を認めている答案
1055 ク 第1場面から第3場面に至る甲の行為が全体として1個と評価されるか否かに
1056
1057 - 25 -
1058
1059 ついて,それを論ずる実益も明らかにしないまま,検討している答案
1060 ケ なお,一部の答案は,乙が甲車から振り落とされた結果,一命は取り留めたも
1061 のの意識を回復しない状態となったことを捉えて,「脳死は人の死か」という論
1062 点についても論じていた。問題文中に乙が脳死状態に陥った旨の記述はなく,出
1063 題の趣旨として,そこまでの論述を求めるものではなかった。
1064 他方で,優秀な答案として,甲の上記振り落とし行為について,防衛行為の相当
1065 性を検討するに当たり,乙は既にナイフを車内に落としていることを踏まえ,甲と
1066 しては,振り落とし以外にどのような手段を採り得たのか具体的に検討しているも
1067 のも一部には見られた。
1068 (3) 乙の罪責について
1069 同様に,問題のあった答案を列挙すると,以下のとおりである。
1070 ア 第1場面における乙丙の甲に対する暴行ないし傷害の(現場)共謀の成否につ
1071 いて,全く論じていない答案
1072 なお,乙の罪責に関する論述では,上記共謀の論点について一切触れていない
1073 のに,丙の罪責に関する論述において,乙による甲へのナイフ切り付け行為(第
1074 2場面)について丙が共犯の責任を負うかという観点から,突如として,第1場
1075 面における乙丙間の共謀の成否について論ずる答案もあった。
1076 イ 乙丙間の共謀の成立を認めつつ,同時傷害の特例に関する刑法第207条を適
1077 用する答案
1078 ウ 第1場面において,乙が,丙を助けるとともに,甲への仕返しをするつもりで,
1079 甲への暴行を開始していることについて,攻撃の意思があっても正当防衛におけ
1080 る防衛の意思が肯定されるのかについて全く検討していない答案
1081 エ 第1場面における乙の暴行について正当防衛が成立するとしつつ,第2場面で
1082 乙がナイフで甲の前腕部を切り付けた行為について,第1場面における防衛行為
1083 と一体と評価することができるか(過剰防衛が成立しないか)という点について
1084 検討していない答案
1085 (4) 丙の罪責について
1086 ここでも,第1場面において,丙が甲の胸付近を強く押した行為に正当防衛が成
1087 立するか否かについて,冗長に論ずる答案などが見られた。前述したように,全体
1088 の答案構成を見据えて,適切に濃淡を付けた答案作成を心掛けるべきであろう。
1089 また,法律用語の使い方の問題として,丙が最終的に不可罰であることについて,
1090 「無罪」と表現する答案が少なからず見受けられた。「無罪」は公訴提起された事
1091 件について判決で言い渡されるものであり(刑事訴訟法第336条),刑事訴訟法
1092 の正確な理解が求められる。
1093 (5) その他
1094 少数ではあるが,字が乱雑なために判読するのが著しく困難な答案があった。時
1095 間の余裕がないことは理解できるものの,採点者に読まれることを念頭に,なるべ
1096 く読みやすい字で丁寧に答案を書くことが望まれる。
1097 (6) 答案の水準
1098 以上の採点実感を前提に,「優秀」「良好」「一定の水準」「不良」という四つの答
1099 案の水準を示すと,以下のとおりである。
1100 「優秀」と認められる答案とは,本問の事案を的確に分析した上で主要論点につ
1101
1102 - 26 -
1103
1104 いて検討を加え,甲乙丙の刑事責任について妥当な結論を導くとともに,そこに至
1105 る理由付けについても十分に論じているようなものである。特に,事実認定又は法
1106 規範への当てはめにおいて,必要な事実を抽出するだけでなく,それぞれの事実が
1107 持つ意味も明らかにしつつ論じている答案は高い評価を受けた。
1108 「良好」な水準に達している答案とは,事案の全体像をおおむね的確に分析し,
1109 甲乙丙の刑事責任について妥当な結論を導くことができているものの,一部の主要
1110 論点についての論述を欠くもの,主要な論点の検討において,関連する事実の抽出
1111 はできていても,その意味付けが不十分であるなどの点が認められたものである。
1112 「一応の水準」に達している答案とは,複数の論点についての論述を欠くなどの
1113 問題はあるものの,刑法の基本的事柄については一応の理解を示しているような答
1114 案である。
1115 「不良」と認められる答案とは,事案の分析がほとんどできていないもの,事案
1116 の解決に関係のない法解釈論を延々と展開しているもの,論点には気付いているも
1117 のの,結論が著しく妥当でないものなどである。
1118
1119
1120 今後の法科大学院教育に求めるもの
1121 刑法においては,総論の理論体系を十分に理解した上で,体系上の位置付けを意識
1122 しつつ,各論等に関する知識を修得することが肝要である。答案においても,論じよ
1123 うとする問題の体系上の位置付けを明らかにしつつ,検討の順序にも十分に配慮しな
1124 がら,論理的に論述することが求められる。
1125 また,問題文に含まれる法解釈上及び事実認定上の論点を抽出するには,事案を的
1126 確に分析することが前提となる。そのためには,判例の結論だけを暗記するのではな
1127 く,その事案を丹念に読み込むなどして,事案を分析する能力を付けることが不可欠
1128 である。また,繰り返し指摘してきたとおり,具体的な事実を抽出し,その意味を理
1129 解するためにも,具体的な事例の検討が必要と思われる。
1130 このような観点から,法科大学院教育においては,判例の学修等を通して,学生に
1131 生きた刑法の知識・理解を修得させるとともに,それを的確に論述する能力を涵養す
1132 るよう一層努めていただきたい。
1133
1134 - 27 -
1135
1136 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第2問)
1137
1138
1139 採点方針等
1140 本年の問題も,昨年までの試験と同様,比較的長文の事実関係を記載した事例を設
1141 定し,そこに生起している刑事訴訟法上の問題点につき,問題解決に必要な法解釈を
1142 した上で,法解釈・適用に不可欠な具体的事実を抽出・分析し,これに法解釈により
1143 導かれた準則を適用し,一定の結論を筋道立てて説得的に論述することを求めており,
1144 法律実務家になるための学識・法解釈適用能力・論理的思考力・論述能力等を試すも
1145 のである。
1146 具体的な出題の趣旨は,公表されているとおりである。設問1では,殺人,死体遺
1147 棄事件を素材として,同事件(本件)では逮捕ができるだけの証拠がなかった甲及び
1148 乙につき,別の犯罪事実(別件)で逮捕,勾留したことや,その後,両名を殺人,死
1149 体遺棄事件で逮捕,勾留したことについてその適法性を問うことで,いわゆる別件逮
1150 捕・勾留についての考え方を示した上,事例への法適用部分では事実が持つ意味を的
1151 確に位置付けて逮捕,勾留の要件に当てはめて論じることを求めている。設問2では,
1152 差し押さえたパソコン及び携帯電話に残っていたメールを添付した捜査報告書につい
1153 て,その要証事実との関係での証拠能力を問い,本件捜査報告書が伝聞証拠に該当す
1154 るか否か,該当する場合には適用可能性のある伝聞例外規定に係る要件等の法解釈と
1155 その要件への当てはめについて論じることを求めている。いずれの設問についても,
1156 正確な法的知識を当然の前提としながら,法解釈論や要件を抽象的に論じるだけでな
1157 く,事例中に現れた具体的事実関係を前提に,法的に意味のある事実の的確な把握と
1158 要件への当てはめを行うことが要請されており,採点に当たっては,このような出題
1159 の趣旨に沿った論述が的確になされているかに留意した。設問1は,逮捕・勾留とい
1160 う捜査に関する基本的知識及びいわゆる別件逮捕・勾留という典型的な問題点を問う
1161 もので,設問2も,証拠法の基本的知識であり,しかも,ここ数年連続して出題され
1162 ている伝聞法則を問うもので,いずれも法科大学院で刑事訴訟法に関する科目を真面
1163 目に学習した者であれば,何を論じなければならないかは明白な事例である。
1164
1165
1166
1167 採点実感
1168 各考査委員からの意見を踏まえた感想を述べる。
1169 設問1については,いわゆる別件逮捕・勾留という捜査手法の適法性について,各
1170 自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として的確に論じた上で,各逮捕及びこれらに
1171 引き続く身体拘束の適法性について,個々の事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,
1172 分析しながら論じられた答案が見受けられ,また設問2については,本件での具体的
1173 事実関係を前提に,捜査報告書や添付資料の内容ごとに個々の要証事実を的確に捉え,
1174 伝聞法則の正確な理解を踏まえた的確な論述ができている答案が見受けられたが,い
1175 ずれも少数にとどまり,相当数は,不正確な抽象的法解釈を断片的に記述しているか
1176 のような答案や,問題文からの具体的事実の抽出,当てはめが不十分な答案にとどま
1177 っており,関係条文からの解釈論を論述・展開することなく,問題文中の事実をただ
1178 書き写しているかのような解答もあり,法律試験答案の体をなしていないものも見受
1179 けられた。
1180 設問1では,逮捕及びこれに引き続く身体拘束の適法性について問われているので
1181
1182 - 28 -
1183
1184 あるから,まずは刑事訴訟法の定める逮捕及び勾留の各要件(刑事訴訟法第199条,
1185 第212条,第207条第1項により準用される第60条等)について,事例に含ま
1186 れている具体的事実を抽出・分析して,各要件へ当てはめを行う必要がある。問題文
1187 に,各要件の検討に必要な具体的事実関係が与えられているにもかかわらず,これら
1188 について全く触れないまま,別件逮捕・勾留に関する抽象論を記述するだけで終わっ
1189 ているような答案が相当数見受けられた。
1190 また,設問2では,まず,捜査報告書全体について,捜査機関による検証に準じた
1191 ものとして,刑事訴訟法第321条第3項により証拠能力が付与されることを前提に
1192 しなければならないところ,これについて全く論ずることのない答案が相当数見受け
1193 られたほか,司法警察員により作成された捜査報告書の証拠能力が問われているにも
1194 かかわらず,メールを印刷したものであるから,知覚,記憶,表現の過程に誤りが入
1195 り込む余地はなく,非伝聞証拠であるなどと断じた無理解を露呈する答案さえも見受
1196 けられた。次に,資料1添付のBからA女宛てのメール全体については,内容の真実
1197 性を要証事実とする伝聞証拠に該当し,その証拠能力について,刑事訴訟法第321
1198 条第1項第3号の各要件に照らして検討する必要があるところ,この点については,
1199 おおむね多くの答案において適切な論述がなされていたが,同メールはBの供述書で
1200 あるのに,その指摘を欠き,あるいはこれを供述録取書として論ずる答案が相当数見
1201 受けられた。さらに,同メール中の甲及び乙の発言部分に関しては,「死体遺棄に関
1202 する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分と,「殺人に関する犯罪事実の存在」を
1203 要証事実とする部分とに分けられ,前者については発言内容それ自体の伝聞該当性の
1204 問題が生じ得るものであったにもかかわらず,この点に気付いている答案は極めてわ
1205 ずかしかなかった。一方,比較的多くの答案が,甲及び乙の発言部分について,いわ
1206 ゆる再伝聞が問題になり得ることについては論じていたものの,甲及び乙の各々につ
1207 いて,自己を被告人とする関係では刑事訴訟法第322条第1項の適用が,共犯者を
1208 被告人とする関係では同法第321条第1項第3号の適用が問題となることについて
1209 まで論じられていた答案は少数で,また,中には,再伝聞である甲や乙の発言につい
1210 て,それ自体についてそもそも甲や乙自身の署名や押印など想定できないにもかかわ
1211 らず,同人らの署名又は押印がないことを理由に証拠能力を否定するなど,基本的理
1212 解の欠如が著しい答案も散見された。
1213 一方,資料2の捜査報告書添付の各メールについては,そのような内容でのメール
1214 のやりとりが存在したことが要証事実であり,伝聞証拠には該当しないことが明白で
1215 あるにもかかわらず,伝聞証拠であることを当然の前提として,Bのメールについて
1216 は刑事訴訟法第321条第1項第3号により,甲のメールについては同法第322条
1217 第1項により証拠能力が付与されるとした答案や,検察官の立証趣旨の「メールの交
1218 信記録の存在と内容」の「存在」
1219 「内容」という言葉だけをとらえ,
1220 「交信記録の存在」
1221 である場合には非伝聞証拠であり,「メールの内容」である場合には伝聞証拠である
1222 などと,検察官の立証趣旨を勝手に断じて論ずる答案が,いまだに多数見受けられた。
1223 また,法適用に関しては,事例に含まれている具体的事実を抽出・分析することが
1224 肝要であるところ,様々な具体的事実を考慮要素として挙げながら,どの事実をどの
1225 ように評価したのか全く言及がないまま結論を導き出すなど,結論に至る思考過程が
1226 不明確な答案が目立っており,学習に際しては,具体的事実の抽出能力に加えて,そ
1227 の事実が持つ法的意味を意識して分析し,これを表現する能力の体得が望まれるとこ
1228
1229 - 29 -
1230
1231 ろである。
1232
1233
1234 答案の評価
1235 「優秀」の水準にあると認められる答案とは,設問1については,別件逮捕・勾留
1236 に関し各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論じた上で,各逮捕及びこれら
1237 に引き続く身体拘束ごとに,各事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,分析しなが
1238 らその適法性を論じており,また,設問2については,各要証事実を的確に理解し,
1239 捜査報告書全体,資料1の捜査報告書添付のBからA女宛てのメール全体,同メール
1240 中のBに死体遺棄の手伝いを依頼する甲及び乙の発言内容,Bに対しV女を殺害した
1241 旨の甲及び乙の発言内容ごとに要件を分析し,さらに甲を被告人とする場合と乙を被
1242 告人とする場合に分けて詳細な論述をするなど,真に伝聞法則を理解していると見ら
1243 れる答案であるが,このように,出題の趣旨を踏まえた十分な論述がなされている答
1244 案は,本年は極めて僅かであった。
1245 「良好」の水準に達していると認められる答案とは,設問1については,法解釈に
1246 ついて一定の見解を示した上で,事例から必要かつ十分な具体的事実を抽出できては
1247 いたが,更に踏み込んで個々の事実が持つ意味を深く考えることが望まれるような答
1248 案であり,設問2においては,伝聞法則について一応の論述はできているものの,「優
1249 秀」の水準にあると認められる答案のように本件での具体的な要証事実を的確に捉え
1250 ることができていないような答案である。
1251 「一応の水準」に達していると認められる答案とは,設問1においては,法解釈に
1252 ついて一定の見解は示されているものの,具体的事実の抽出,当てはめが不十分であ
1253 るか,法解釈については十分に論じられていないものの,問題文から必要な具体的事
1254 実を抽出して一応の結論を導き出すことができていた答案がこれに当たり,設問2に
1255 おいては,伝聞法則等の知識があり,一応これを踏まえた論述はできてはいるものの,
1256 本件での具体的な事実関係を前提に,要証事実を的確に捉えることができていないよ
1257 うな答案である。
1258 「不良」の水準にとどまるものと認められる答案とは,伝聞法則等の刑事訴訟法の
1259 基本的な原則の意味を真に理解することなく機械的に暗記し,これを断片的に記述し
1260 ているような答案や,関係条文から解釈論を論述・展開することなく,問題文中の事
1261 実をただ書き写しているかのような答案等,基本的な理解・能力の欠如が現れている
1262 ものであり,例えば,設問1では,各逮捕及びこれに引き続く身柄拘束について,個
1263 々の具体的な事実関係が事例中に現れているにもかかわらず,これを全く抽出,分析
1264 していない答案がこれに当たり,設問2では,前記のとおり,再伝聞供述の証拠能力
1265 を認めるに当たり供述者の署名又は押印があることを求めたり,資料2の捜査報告書
1266 添付の各メールについて,各メールごとに分断して伝聞例外規定を論ずるなど,およ
1267 そ伝聞証拠を全く理解していないとしか評しようのない答案がこれに当たる。
1268
1269
1270
1271 法科大学院教育に求めるもの
1272 このような結果を踏まえると,今後の法科大学院教育においては,刑事手続を構成
1273 する各制度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,これを具体的事例について適用で
1274 きる能力,筋道立った論理的文章を記載する能力,重要な判例法理を正確に理解し,
1275 具体的事実関係を前提としている判例の射程範囲を正確に捉える能力を身に付けるこ
1276
1277 - 30 -
1278
1279 とが強く要請される。特に,実務教育の更なる充実の観点から,基本に立ち返り,日
1280 常的に行われている刑事手続の進行過程や刑事訴訟法上の基本原則を正確に理解して
1281 おくことが,当然の前提として求められよう。
1282
1283 - 31 -
1284
1285 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(倒産法)
1286
1287
1288 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
1289 個別的な内容については,既に「出題の趣旨」として公表したとおりである。今年
1290 の問題作成に当たっては,基本的な概念の理解,具体的な事案を法律の規律に的確に
1291 当てはめて要件充足性等を判断する能力,実体法の理解を踏まえた倒産法の規律の理
1292 解,具体的な事案に応じて関係者間の利益を適切に考慮する能力及び問題解決のため
1293 の対応策の選択の能力を試すこと等に重点を置くこととした。
1294
1295
1296
1297 採点方針
1298 解答の際に言及すべき点については,既に「出題の趣旨」として公表したとおりで
1299 ある。
1300 第1問については,本件の具体的な事案に即して,破産管財人の地位を前提として,
1301 賃貸借契約の解除に関する実体法の規律をも踏まえて解除の主張の可否を論じること
1302 ができるか(設問1),担保権者の利益の保護が必要であるという利益状況を法的に
1303 分析して認識し,解除の当否を的確な法的な根拠付けをもって論じることができるか,
1304 また,担保権消滅許可の申立て等に関する破産法の規律を十分に理解しているか(設
1305 問2)という点等に重点を置いた。
1306 第2問については,再生債権,取戻権,共益債権といった基本的概念を理解してい
1307 るか,また,各請求の訴訟物を正確に理解し,それを訴訟の中断に関する民事再生法
1308 の規律に的確に当てはめることができるか(設問1),再生計画認可後にその履行が
1309 されなかった場合に再生債権者が取り得る手段を十分に理解しているか,また,具体
1310 的な事案に即して各手段を取るための要件の充足性を的確に論じることができるか(設
1311 問2)という点等に重点を置いた。
1312
1313 3 採点実感等
1314 (1) 第1問
1315 設問1については,まず,破産手続開始前に既に解除権が成立しているという重
1316 要な前提を指摘していない答案が多く見られた。問題文を正確に読むとともに,事
1317 案の中の重要な事実を抽出し,それを的確に指摘する能力が不十分という印象を受
1318 けた。そして,上記の前提を理解していないため,又は,破産法第53条第1項の
1319 趣旨を正確に理解していないため,同項の趣旨を理由としてA社の解除権を否定す
1320 る答案も少なからずあった。また,解除の主張の可否については,単に,破産管財
1321 人が差押債権者と同様に民法第545条第1項ただし書の第三者に該当することか
1322 ら解除が可能と結論し,あるいは同項ただし書による保護を受けるために必要な対
1323 抗要件の具備の有無といった点を論じる答案が多かった。そもそも,賃貸借契約の
1324 解除一般の事案における民法第545条第1項の規律の適用がどうなるのかという
1325 問題(賃貸借契約の解除に遡及効がないこと,既に成立している解除権については,
1326 当該解除に係る契約から生じた債権の差押債権者には対抗することができるとされ
1327 ていること等との関係)や,破産管財人の地位や利益状況の考慮等も含めて検討を
1328 加える答案は,多くはなかった。
1329 設問2の(1)についても,まず,前提として,本件において破産法第53条が
1330
1331 - 32 -
1332
1333 適用されることを,要件を押さえた上で指摘する答案は,少なかった。また,賃料
1334 支払の負担等,破産財団の負担という観点からの検討を加えている答案が少なから
1335 ずあったことは評価し得るが,担保権者の利益の保護の必要性,具体的には,抵当
1336 権の効力は甲土地についての借地権にまで及んでおり,賃貸借契約が解除されると
1337 抵当権の目的の価値が毀損され,抵当権者の利益が侵害されることについて,担保
1338 価値維持義務に言及しつつ検討する答案が予想よりも少なかった。さらに,破産管
1339 財人の担保価値維持義務の法的根拠を的確に論じているものも少なかった。結論と
1340 して,解除可能とする答案も多く,関係者の利害状況を的確に捉えるとともに,事
1341 案に即したバランスの良い妥当な結論を導くための感覚が十分に備わっていないと
1342 の感じを受けた。
1343 (2)については,担保権消滅許可の申立て,担保権者からのこれに対する対抗
1344 手段としての抵当権実行の申立て(破産法第187条)及び買受けの申出(同法第
1345 188条)については,多くの答案が指摘しており,制度の理解はされていたと感
1346 じられた。ただ,担保権消滅許可の申立てについて,具体的な事案に即してその要
1347 件充足性を的確に指摘することができていない答案も少なからず見られ,事案の的
1348 確な把握と規律への当てはめ能力の養成の必要性が感じられた。
1349 総じて,第1問については,実体法上の解除に関する規律と破産管財人の地位に
1350 ついてどこまで丁寧に論述されているか,また,担保権者の利益の保護の必要性を
1351 法的に的確に論じているかどうか等で差が付くこととなった。既に成立している解
1352 除権を行使する場合であることを前提に破産管財人の位置付け等を丁寧に論じ,破
1353 産管財人の担保価値維持義務を的確に指摘して,解除は不当との結論を導き,さら
1354 に,担保権消滅許可の申立てに関する制度を正確に理解している答案が優秀答案と
1355 評価し得るものであった。
1356 (2) 第2問
1357 設問1については,まず,問題となる各請求の訴訟物を的確に把握していない答
1358 案が少なくなかった。建物明渡請求を物権的請求権と捉えるもの,未払賃料の請求
1359 と賃料相当損害金の請求との区別が的確にされていないもの,賃料相当損害金の根
1360 拠を不当利得返還請求権と捉えるものが相当数見られたが,設問に即して,請求権
1361 を実体法上正確に理解する能力が不足している印象を受けた。また,建物明渡請求
1362 については,手続開始前の原因に基づく債権的請求権であるところ,そのことから
1363 直ちに再生債権と位置付ける答案が多く,取戻権とする答案についても,取戻権の
1364 概念の理解を踏まえて的確に論じているものは少なかった。なお,単に「再生債権
1365 に関するもの」(民事再生法第40条第1項)に該当しないので中断しないとのみ
1366 論ずる答案も見られたが,債務者に対するあらゆる請求権について倒産実体法上の
1367 位置付けが検討されるという倒産法の基本が理解されていないと感じられた。さら
1368 に,賃料相当損害金を開始前と開始後とに分けずに論じるもの,後者の部分を民事
1369 再生法第84条第2項第2号を根拠として再生債権と位置付けるものが少なからず
1370 見られた。その他,非金銭債権は再生債権とならないとする答案も散見されるなど,
1371 基礎的な概念の正確な理解が不十分であると感じられた。なお,訴訟の中断の有無
1372 のみならず,中断後の訴訟の処遇についても論じることが求められていたが,再生
1373 債権の内容に対して異議がなかった場合の取扱いについてまで論及した答案は少な
1374 かった。
1375
1376 - 33 -
1377
1378 設問2については,ほとんどの答案において再生計画の取消しについて触れられ
1379 ており,再生計画認可後の再生手続の廃止についても言及する答案が多かった。そ
1380 の意味で,民事再生法上の対応策についての理解はされていたと思われた。ただ,
1381 再生計画の取消しについては,その効果(民事再生法第189条第7項等)につい
1382 てまで触れている答案は少なく,また,具体的な事案に即してその要件充足性を的
1383 確に指摘することができていない答案も少なからず見られ,条文を的確に読むこと
1384 ができる能力の必要性が感じられた。再生手続の廃止については,申立権者の範囲
1385 が制限されていることを意識せずに,廃止の申立てをすることができるとする答案
1386 も少なからず見られ,制度の正確な理解が必要であると感じられた。他方で,債権
1387 の回収の観点から,破産手続への移行と関連付けて再生計画の取消し又は再生手続
1388 の廃止を適切に論じている答案も相当数見られた。
1389 総じて,第2問については,設問1において各請求につき,民事再生法の規律へ
1390 の当てはめが個別に的確にできているか,再生計画の取消しや再生計画認可後の再
1391 生手続の廃止の要件充足性を的確に論じているかといった点で差が付くこととなっ
1392 た。再生債権や取戻権等の基礎的な概念を正確に論じた上で,上記の点を的確に論
1393 じた答案が優秀な答案と評価し得るものであった。
1394
1395
1396 今後の出題傾向について
1397 今後も特定の傾向に偏することなく,基礎的な事項の理解を確認する問題と受験者
1398 の問題発見能力を試す問題,倒産実体法に関する問題と倒産手続法に関する問題,企
1399 業倒産に関する問題と個人倒産に関する問題等,幅広い出題を心掛けることが望まし
1400 いと考える。
1401
1402
1403
1404 今後の法科大学院教育に求めるもの
1405 本年の問題のように,具体的な事案に基づく問題においては,まずは,問題文の事
1406 例を正確に理解し,法的に何が問題となるのかを的確に把握する能力,問題となる概
1407 念,制度の趣旨を正確に理解して,具体的な事実をそれに当てはめる能力が必要であ
1408 り,また,適切な問題解決を意識した結論に達しているかを常に意識する必要がある。
1409 ところが,答案の中には,法律の規定から要件を導き出し,それぞれの要件が充足さ
1410 れているかという基本的な思考が身に付いていないと見られるもの,関係者の利益考
1411 慮の結果がバランスを失しているものも多かった。
1412 さらに,第1問の設問2(1)は,平成18年12月21日の最高裁判決(民集6
1413 0巻10号3964頁)と関連する問題であるが,判例において現れた新しい問題に
1414 ついては,基礎的な事項と関連付けつつ,理解を深めることが必要である。他方で,
1415 同じ設問について平成12年2月29日の最高裁判決(民集54巻2号553頁)を
1416 引いて論じる答案も見られたが,判例については,背景となる事案を踏まえた上で,
1417 判旨についてその射程を含めて正確に理解させることが必要であると感じられた。
1418 今後も基礎的な事項の十分な理解に重点を置くべきことは言うまでもないが,上記
1419 のような能力が身に付くようにするための教育が必要であると感じられた。
1420
1421 - 34 -
1422
1423 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(租税法)
1424
1425
1426 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
1427 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
1428
1429
1430
1431 採点実感等
1432
1433 (1)
1434
1435 第1問
1436 公表済みの「出題の趣旨」の中で述べた主要な論点に即して,それぞれについて
1437 試されている能力を重視して,採点した。その結果の概要及び実感は以下のとおり
1438 である。
1439 設問1については,実質所得者課税の原則の意義に関する一般的・抽象的な理解
1440 (法律的帰属説と経済的帰属説の関係やそれぞれの妥当根拠)は多くの答案で示さ
1441 れていたが,事業所得が問題とされている本件事案についてその理解を適切に展開
1442 した答案は多くはなかった。また,本件事案について事業主基準によって所得の人
1443 的帰属を判定する旨は多くの答案で述べられていたが,事業経営に対する支配的影
1444 響力の判定要素の摘出及び評価を適切に行った答案は多くはなかった。多くの答案
1445 について基本的な知識の点では特に問題はないと思われたが,個々の基本的な知識
1446
1447 (例えば事業主基準と事業所得の意義)を相互に有機的に関連付けて理解する能力,
1448 基本的な知識を事案に即して活用し,事案に含まれる問題の分析や法的評価・判断
1449 につなげることができる能力を涵養することの重要性が感じられた。
1450 設問2については,
1451 「その年において収入すべき金額」
1452 (所得税法第36条第1項)
1453 という要件の解釈や権利確定主義及び管理支配基準の意義に関する理解はほとんど
1454 の答案でさほど問題なく記述されていたが,本件事案について権利確定主義と管理
1455 支配基準との関係に言及しつつ明確な論拠を示して収入金額の年度帰属を判定した
1456 答案は少なかった。本問についても,設問1について指摘した能力と同様の能力の
1457 涵養が重要であると感じられた。
1458 設問3については,帰属所得の理解が問われていることに気が付かない答案が散
1459 見されたが,多くの答案において,包括的所得概念や帰属所得の意義が理解されて
1460 いることはうかがわれた。ただ,本件事案について,棚卸資産が「家事のために」
1461 消費されたこと(所得税法第39条)を認定することができなかった答案も少なか
1462 らずあった。
1463 第1問の採点の結果,「優秀」や「良好」の水準に該当する答案は比較的少なく,
1464 「一応の水準」に該当する答案が最も多く「不良」の水準に該当する答案がその次
1465 に多かったが,このような結果は,習得した知識を事案に即して活用しようとする
1466 姿勢や事案から事実を単に摘示するだけでなく事実に対する評価を適切に行おうと
1467 する姿勢で解答した答案が多くはなかったことによるものと思われる。
1468 (2)
1469
1470 第2問
1471
1472 - 35 -
1473
1474 第2問は,設問1において,商品先物取引による売買差金の所得分類,これに対
1475 する費用,損失が生じた場合の損益相殺の可否といった所得税法の適用上の基本的
1476 な事項についての理解を問い,これを前提として,設問2において,商品先物取引
1477 に基因する損害賠償金の支払いへと転化した場合に,これを所得税法上どのように
1478 扱うかといった問題についても検討することによって,上記理解の応用力を問う問
1479 題であり,これらを主要な論点として採点した。
1480 設問1を採点した限りでは,大多数の答案が判例(最判昭和53年10月31日
1481 訟月25巻3号889頁等)が示す基準に言及しつつ,問題文に示された事実関係
1482 に即して,売買差金の事業所得性について論じており,これを配当所得,譲渡所得
1483 等と結論付けてしまった一部答案を除き,出題時に予定していた解答水準を満たし
1484 たものが多かった。このことは,法科大学院における基礎的な履修が十分行われて
1485 いるものと評価できる。また,必要経費,損益相殺の問題についても,おおむね正
1486 確に答えている答案がほとんどであった。それゆえ,設問1では得点上,顕著な差
1487 は付かなかったように感じられた。全体を見ても「不良」の水準に該当する答案は
1488 比較的少なかった。
1489 設問2については,最近の裁判例の内容を知らなくとも,条文の文言を手掛かり
1490 に,基礎的な理解を前提として論述を展開すれば,これを非課税所得とする見解で
1491 あれ,課税所得とする見解であれ,論理的な結論に達することは容易であろう。採
1492 点した実感としても,全体として一応の結論に達していた答案が多かったと評価で
1493 きる。その上で,損害賠償金の所得税法第9条第1項第1号該当性を検討するに当
1494 たっては,これが得べかりし利益の填補や必要経費の填補ではないかという点,遅
1495 延損害金の法的性格についても言及すれば,高い評価につながる。説得的な論述を
1496 展開した「優秀」の部類に属する答案も多く存在し,単に結論だけを述べた答案も
1497 「一応の水準」ないし「良好」の評価は得られるものの,やはり差が付く結果とな
1498 った。なお,参照条文として記載した所得税法施行令第30条について,同条を着
1499 手金・報酬の必要経費性を否定する根拠としていた答案も散見されたが,条文を文
1500 言に従って解釈する能力が涵養されることが望まれるところである。
1501
1502
1503 今後の出題について
1504 今後の出題についても,これまでどおり,所得税を基本としつつ,具体的な事実関
1505 係の下で租税法の基本的な条文や概念の理解とその適用能力を試す問題を出題し,出
1506 題形式は,受験者が出題の意図に従って解答しやすくするよう小問を順次検討してい
1507 く形式によることが望ましいと考えられる。
1508
1509
1510
1511 今後の法科大学院教育に求められるもの
1512 租税法に関する基本的な知識の習得は不可欠であるが,それだけにとどまらず,基
1513
1514 - 36 -
1515
1516 本的な知識に裏打ちされた応用力を具体的な事案に即して涵養するような教育が望ま
1517 れる。
1518
1519 - 37 -
1520
1521 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(経済法)
1522
1523
1524 出題の趣旨について
1525 出題に当たり,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止
1526 法」という。)上の制度・規定の趣旨及び内容を正確に理解し,問題文の行為が当該
1527 市場における競争にどのような影響を与えるかを念頭に置いて,事実関係を丹念に検
1528 討した上で,要件の当てはめができるか,それらが論理的かという点を評価し得るよ
1529 うな問題作成を目指した。
1530 出題した2問は,独占禁止法の基本を正確に理解し,これに基づいて検討すれば解
1531 答し得る問題であり,公表されている公正取引委員会の考え方やガイドライン等につ
1532 いて細かな知識を求めるものではない。
1533
1534
1535
1536 採点方針
1537 別途公表済みの出題の趣旨及び上記1で述べたとおり,独占禁止法の基本的概念や
1538 個別の要件の意義を,その趣旨を踏まえて正確に理解しているか,当該行為が市場に
1539 おける競争に与える影響を十分に洞察しようとして,問題文のどの事実をどのような
1540 観点から取り上げるのが相当かを分析した上で,的確に要件に当てはめることができ
1541 ているか,それらは論理的かつ説得的で矛盾がないかという観点から,法的な能力を
1542 見ようとした。
1543 第1問は,共同新設分割の方法で共同出資会社を設立するという企業結合について,
1544 独占禁止法(第15条の2)上の問題及び問題解消対策を問うものであり,@直接結
1545 合関係が形成される甲製品の製造販売事業のみならず,直接結合関係が形成されない
1546 乙製品の製造販売事業についても,乙製品が甲製品の不可欠の原料であることや,共
1547 同出資会社に乙製品の開発及び営業に長年従事した従業員を出向させるなどして乙製
1548 品の開発及び販売に係る情報を共有化されることなどを踏まえて,本件企業結合がど
1549 のような市場における競争に影響を及ぼすかを検討しているか(市場の画定),A画
1550 定した市場に即した競争の実質的制限の有無を問題文の具体的事実(競争者のシェア
1551 と順位,競争者の状況,輸入圧力,参入圧力,隣接市場からの競争圧力,需要者から
1552 の競争圧力など)を摘示しながら論理的に検討できているか,B競争を実質的に制限
1553 すると判断した場合には,その理由を踏まえた具体的な問題解消対策を検討できてい
1554 るかを見た。
1555 第2問は,いわゆる共同ボイコットと呼ばれる行為について,複数の独占禁止法上
1556 の問題点の分析及び検討を問うものであり,@不公正な取引方法の共同・間接の取引
1557 拒絶(独占禁止法第2条第9項第1号ロ,第19条),私的独占・不当な取引制限(同
1558 法第2条第5項ないし第6項,第3条)について,各要件の意義及び内容を正確に理
1559 解しているか,A各要件の検討に際して,問題文の事実関係(共通乗車券事業に係る
1560 既存の契約の解約と新規の申込みの留保,共通乗車券の利用率が25%であること,
1561 過重労働による事故防止を理由とする対応など)に即した具体的な検討ができている
1562 か,BA社の行為について,問題文の事実関係(A社はタクシーの共通乗車券事業を
1563 営んでいること,A社の株主の大部分はX1〜X20のタクシー事業者20社で占め
1564 られていることなど)を踏まえて具体的に検討し,説得的に論じられているかを見た。
1565
1566 - 38 -
1567
1568 3 採点実感等
1569 (1) 出題の趣旨に即した答案の存否,多寡について
1570 第1問については,A,B両社によるC社の設立について,A,B両社が,いず
1571 れも甲製品,乙製品を製造販売していることから,多くの答案が,出題の趣旨に即
1572 して,企業結合の問題と捉えて,甲製品の製造販売事業のみならず,乙製品の製造
1573 販売事業についても市場に及ぼす影響を検討していた。次に,甲製品,乙製品の各
1574 市場に即した競争の実質的制限の有無については,多くの答案が,出題の趣旨に即
1575 して,問題文に記載の事実関係を摘示して検討していた。また,問題解消対策につ
1576 いては,多くの答案が,出題の趣旨どおり,乙製品に係る情報遮蔽措置を論じてい
1577 た。
1578 第2問については,多くの答案が出題の趣旨に即して,共同ボイコットを検討し
1579 た上で,私的独占の排除を検討していたが,不当な取引制限をきちんと問題提起を
1580 して検討しているものはそれほど多くはなかった。答案の中には,私的独占のみを
1581 論じる答案,私的独占と取引妨害,拘束条件付取引,優越的地位の濫用等共同ボイ
1582 コット以外の不公正な取引方法を論じるものもあった。各要件の検討については,
1583 多くの答案が出題の趣旨に即して,事実関係を摘示した上で,共同ボイコットの正
1584 当化事由や私的独占の競争の実質的制限を論じていた。
1585 (2) 出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準との差異について
1586 第1問については,直接結合関係が形成されない乙製品の製造販売事業について,
1587 市場に及ぼす影響を検討する理由を挙げて論じる答案が多いと予想していたが,具
1588 体的な理由を挙げることなく論じている答案が予想以上に多かった。次に,競争の
1589 実質的制限の有無については,問題文に記載した具体的な事実に基づいて論理的に
1590 検討することを期待していたが,問題文に記載している具体的な事実(シェアと順
1591 位,競争者の状況,輸入圧力,参入圧力,隣接市場からの競争圧力,需要者からの
1592 競争圧力など)の一部だけを摘示していたり,具体的な事実を摘示するものの,結
1593 論だけを記載して,これらの事実関係に基づいて各市場における競争の実質的制限
1594 の有無を論理的に検討している答案は少なかった。
1595 第2問については,共同ボイコットを論じた上で,私的独占を論じる答案が多く,
1596 不当な取引制限についてはA社の位置付けや相互拘束性の問題点を指摘できる答案
1597 は多くはないのではないかと予想していたところ,実際予想どおりの結果となった。
1598 第1問同様,問題文に記載した具体的な事実に即して問題提起し,具体的な当て
1599 はめを行うことを期待していたが,共同ボイコットの各要件の検討,過重労働によ
1600 る事故防止の正当化事由についてはおおむね正しい検討と判断ができていたが,競
1601 争の実質的制限について,共通乗車券の利用率が25%であることの評価について
1602 は分かれた。
1603 また,A社の位置付け,すなわち,A社を違反者とするか否かについては,きち
1604 んと問題点を指摘できた答案は少なかった。
1605 (3) 「優秀」,「良好」,「一応の水準」,「不良」答案について
1606 第1問については,適用法条,市場の画定,競争の実質的制限の有無,問題解消
1607 対策の各項目について,問題文に記載している事実関係を十分検討して,検討の理
1608 由を含め論理的かつ説得的に論じている答案は「優秀」,上記各項目の論述が一部
1609 不十分ではあるものの,全体として出題の趣旨に即して論じている答案は「良好」,
1610
1611 - 39 -
1612
1613 上記各項目の一部に誤りや不正確な部分があるものの,全体として整合性がある答
1614 案は「一応の水準」,問題文の検討が不十分で適用法条の選択や上記各項目に明確
1615 な誤りや矛盾があり,全体としても論理性・整合性が欠けている答案は「不良」と
1616 評価される。
1617 第2問については,共同ボイコット,私的独占,不当な取引制限の適用法条,共
1618 同ボイコットの各要件(公正競争阻害性,正当化事由等),私的独占の各要件(市
1619 場の画定,競争の実質的制限,正当化事由等),不当な取引制限の各要件(特に相
1620 互拘束性)の各項目について,問題文に記載している事実を指摘した上で問題提起
1621 し,問題文に記載してある事実に即して当てはめを行い,判断理由が論理的かつ説
1622 得的に論じている答案は「優秀」,上記各項目の論述が一部不十分ではあるものの,
1623 全体として出題の趣旨に即して論じている答案は「良好」,上記各項目の一部に誤
1624 りや不正確な部分があるものの,全体として整合性がある答案は「一応の水準」,
1625 問題文の検討が不十分で適用法条の選択や上記各項目を抽出できていないもの,抽
1626 出してはいるものの明確な誤りや矛盾があり,全体としても論理性・整合性が欠け
1627 ている答案は「不良」と評価される点は,第1問と同様である。
1628 なお,これらは,各水準に属する答案の一例であり,採点に当たっては,総合的
1629 な能力の判定にも配意しており,各水準に属する答案は,上記のものに尽きるもの
1630 ではない。
1631
1632
1633 今後の出題について
1634 今後も,独占禁止法の基礎的知識の正確な理解,当該行為が市場における競争に与
1635 える影響の洞察力,事実関係の検討能力及び論理性・説得性を求めることに変わりは
1636 ないと考えられる。
1637
1638
1639
1640 今後の法科大学院に求めるもの
1641 経済法の問題は,不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではない。
1642 経済法の基本的な考え方を正確に理解し,これを多様な事例に応用できる力を身に付
1643 けているかどうかを見ようとするものである。法科大学院は,出題の趣旨を正確に理
1644 解し,引き続き,知識偏重ではなく,基本的知識を正確に習得し,それを的確に使い
1645 こなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,論述においては,論点主義的な
1646 記述ではなく,構成要件の意義を正確に示した上,当該行為が市場における競争へど
1647 のように影響するかを念頭に置いて,事実関係を丹念に検討し,要件に当てはめるこ
1648 とを論理的・説得的に示すことができるように教育してほしい。
1649
1650 - 40 -
1651
1652 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(知的財産法)
1653
1654
1655 出題の趣旨,狙い等
1656 第1問は,特許権の消尽及び特許権侵害による損害額の推定等を定める特許法第1
1657 02条第1項〜第3項に関する問題の理解を問うもの,第2問は,著作物の私的使用
1658 のための複製及びコンピュータ用ゲームソフトについての同一性保持権等の侵害に関
1659 する問題の理解を問うものである。
1660 両問を通じ,事実関係の分析力,基本的事項についての理解度,論理的な思考力,
1661 論理一貫した論述をすることができる力等を見ることを狙いとした。いずれの問題に
1662 ついても,重要かつ著名な最高裁判決(第1問について,最判平成9年7月1日民集
1663 51巻6号2299頁(BBS事件),最判平成19年11月8日民集61巻8号2
1664 989頁(キャノンインクタンク事件),第2問について,最判平成13年2月13
1665 日民集55巻1号87頁(ときめきメモリアル事件))が存在する。これらの判例を
1666 踏まえた的確な論述がされているかも重要なポイントである。
1667
1668
1669
1670 採点実感等
1671 全体的に,基本的事項に関する理解が不足しており,良好な答案は少なかった。答
1672 案の中には,判例や学説で述べられている言葉を一応用いてはいるが,全体を通して
1673 読むと論理矛盾や意味不明の論旨となってしまっているものも多く見られ,これは,
1674 基本的事項に関する理解が不足していることが原因であると思われる。このような中
1675 で,基本的事項についてしっかり理解した上で自分の言葉で説明しようとしていると
1676 思われる答案も見られ,このような答案については,高く評価することができた。
1677 また,二問とも重要かつ著名な最高裁判決を踏まえた問題であるにもかかわらず,
1678 これを意識した形跡が見られないもの,意識してはいるものの,判旨の不正確な理解
1679 に基づくと思われるものが多く見られた。どのような立場に立って論述するとしても,
1680 基本的な判例については正確にフォローした上,これを踏まえて論述することが必要
1681 である。
1682 年を追うごとに徐々に減ってきたように思われるが,いまだに,事案・設問に即さ
1683 ない立論が少なくない。事案・設問と関係のない無意味な一般論の展開が目立つもの
1684 がある。事案・設問と無関係な論述はかえって有害であることを銘記すべきである。
1685 (1) 第1問(引用条文は特許法)
1686 内容的にも量的にもバランスが取れていない答案が多かった。特に,設問1,2
1687 に大部分の論述を費やし,設問3,4がおざなりになっている答案が目立った。内
1688 容的・量的にどれだけ論述するかは,設例の在り方,論点の重要性,論点をめぐる
1689 見解の対立状況等によって判断する必要があるが,設問3,4についても相当量の
1690 記述が必要となることは,問題内容を把握した時点で分かるはずである。
1691 また,問いに答えるという基本姿勢を分かっていないものがあった。設問1,3,
1692 4は「請求をすることができるか」,設問2は「反論としていかなる主張が考えら
1693 れるか」という問いである。ストレートに答えれば,前者は「請求することができ
1694 る」(又は)「できない」,後者は「こういう主張が考えられる」というものになる。
1695 残念ながら,特に後者について,そのような答案になっていないものが極めて多か
1696 った。「問いに答える」ことを絶対に忘れないでほしい。
1697
1698 - 41 -
1699
1700
1701
1702 設問1
1703 設問2及び3の前提として,消尽論について正確かつ端的に説明しておくべき
1704 ところである。多くの答案において,「取引安全」,「二重利得の防止」という消
1705 尽論の意義や理論的根拠から記述されており,必要最低限の水準は満たされてい
1706 たと言えよう。
1707 ただ,消尽論について説明されてはいるが,本当にきちんと理解しているのか
1708 疑問に思える答案もあった。例えば,「(Bが秋田県において発明αの実施品を販
1709 売することで)適法に流通におかれ消尽したから差止請求不可」との論述のみに
1710 終わっている答案が多かったが,本問で問題となるFの譲渡行為は,許諾地域外
1711 (岡山県)において行われているのであるから,この点をどう考えるのかについ
1712 ても論じてこそ,真の理解に基づいた答案ということになる。
1713 なお,AはBに独占的通常実施権を許諾しているからA自身は差止請求ができ
1714 ないのではないか,という論点を設ける答案が相当数あったが,実務感覚からす
1715 れば,このような論点設定は疑問である。また,かかる論点設定をする場合には
1716 独占的通常実施権者に差止請求権を認めることが前提となるが,この点を論拠と
1717 ともに十分論じた答案は皆無に等しかった。論点設定に当たっては,その必要性
1718 等につきよく吟味すべきである。
1719 イ 設問2
1720 一般的に国内消尽はしないと考えられるケースにおいて,あえて権利行使を制
1721 限する立論を考えさせる問題である。実務では,このような場面でもそれなりに
1722 対応しなければならないことがある。自分がGの代理人となった場合を想定する
1723 とよい。
1724 消尽しないからGの主張は認められない旨述べただけの答案があったが,これ
1725 では問いに答えたことにはならない。本問は,Gがどう反論して自らの主張をす
1726 るのかが問題なのである。さらには,Gの主張は認められないとした上,AのB
1727 に対する差止請求の可否を論じる答案があった。そのようなことは,本問では問
1728 うていない。
1729 他方,Gの反論を記述している答案にあっても,十分な論述がされているもの
1730 は少なかった。この場合でも消尽すると主張するのであれば,通常はそう認めら
1731 れないのになぜこのケースでは認めるのか。また,消尽はしないがAの請求は認
1732 められないと主張するのであれば,その実質的根拠をどのように考え,法的にい
1733 かに説明するのか。残念ながら,このような点について十分な論述がされている
1734 答案は少なかった。
1735 ウ 設問3
1736 国際取引の場面における権利保護と取引安全との調整などについて問うもので
1737 ある。
1738 まず,国内消尽論に基づいて直ちに結論に至っている答案もあった。本問では,
1739 国際取引の場面が問題となっている。その特殊性に配意せず,同じ立論を当ては
1740 めているだけでは,問題意識が不足しており,評価には結び付かない。
1741 国際取引の場面という点に着目すると,基本的な論点である国際消尽を認める
1742 か否かについて触れるべきであろう。これについて全く触れず,あるいは肯否の
1743 立場を明らかにしないまま,黙示の許諾論等に立って論ずる答案もあったが,そ
1744
1745 - 42 -
1746
1747 のようなものは,バランス的な観点から評価は一定にとどまることとなる。また,
1748 国際消尽を肯定する場合には,それを前提に直ちに結論に至るようでは不十分で
1749 ある。BBS事件最高裁判決(最判平成9年7月1日民集51巻6号2299頁)
1750 がこれを否定している以上,これを肯定する説得的な論拠を示す必要がある。そ
1751 の期待に応えた答案は,ほとんど見られなかった。
1752 国際消尽を否定する答案にあって,直ちに最高裁判決の例外要件を提示して当
1753 てはめようとするものが見られた。これでは評価が限定的なものとなる。最高裁
1754 判決を踏まえ,特許権の効力が及ぶ場合の背景事情や根拠の説明を行い,黙示の
1755 許諾論といった考え方についても説明して,初めて必要な論述をしたことになろ
1756 う。これに応える答案も一定数は見られ,高評価を与えることができた。
1757 なお,最高裁判決の理解不足のためか,表示の存在等を譲渡の適法性の要件と
1758 捉え,これを満たした場合には適法な譲渡であり消尽するので権利行使が認めら
1759 れず,これを満たさない場合には適法な譲渡と言えず消尽しないので権利行使が
1760 可能という,最高裁判決とは逆の結論を導く答案が散見された。取引安全等の観
1761 点から存在する要件が満たされているのに権利者の権利行使を不可能とすること
1762 に,違和感は感じないのであろうか。かかる答案は評価を落とす要因となった。
1763 ところで,甲国の特許権について独占的許諾を受けているDは,前記最高裁判
1764 決のいう主体としての「特許権者と同視し得る者」に当たるのか。この点につい
1765 ても論じることが期待されていたが,それに応える答案は極めて少なかった。反
1766 面,これを論じている答案は,分析能力や問題の捉え方に優れた答案として,高
1767 い評価を与えることができた。
1768 小問(1),(2)については,それぞれ具体的な事案への当てはめが問題とな
1769 るが,単に「製品に表示がないから」,「自分の責任ではないから」などと記載し
1770 ているにとどまる答案が目立った。特許権者Aにおいてライセンシーの選択や一
1771 定の監督が可能であること等,Aに不利益を課す合理性に論及するなど,説得的
1772 な論述がほしかった。その上で,小問(1),(2)の相違を意識しつつ結論を述
1773 べることが高評価のポイントであるが,このような期待に応え得た答案は多くは
1774 なかった。
1775 エ 設問4
1776 総じて,第102条の趣旨を理解した上で,その適用ないし類推適用の可否に
1777 ついて具体的に論じている答案は少なかった。中には,結論のみを記載したもの
1778 もあり,これでは低い評価にとどまる。
1779 多くの答案で,第102条第1項,第2項は,発明の実施を行っていないAに
1780 は適用されないと論じられていた。結論としては構わないが,その理由の論述不
1781 足が目立った。第102条第1項,第2項は損害の発生自体を擬制ないし推定し
1782 たものではないこととか,独占的に発明を実施することで得られたはずの利益を
1783 逸失したところに逸失利益損害の基礎がある推定だからということに触れるなど
1784 して,説得的な理由付けをすべきである。また,第102条第3項につき,Aに
1785 対する適用を無条件で認める答案がほとんどであった。この点については,独占
1786 的通常実施権をCに設定していてもなお実施料相当額の損害賠償をHに請求でき
1787 ると考えていいのか,との観点から問題意識を持ってほしかった。
1788 次に,独占的通常実施権者Cについては,第102条第1項ないし第3項がそ
1789
1790 - 43 -
1791
1792 の主体を「特許権者又は専用実施権者」と定めているところに問題の所在がある。
1793 このような当たり前のことを簡潔に書くだけでも,「条文に則して解釈する」姿
1794 勢の現れとして評価できるものである。しかし,残念ながら,かかる当たり前の
1795 ことさえ論及できている答案は多くなかった。また,Cには類推適用ができない
1796 とする答案が相当数あった。しかし,裁判実務上は独占的通常実施権者について
1797 も専用実施権者と同様に扱い,第102条の類推適用を肯定する傾向にあり,こ
1798 の点を踏まえた論述をすべきである。
1799 最後に,特許権者と独占的通常実施権者の請求の関係(実施料相当額の控除等)
1800 についても触れることが望ましい。しかし,適切に論じた答案はほとんどなかっ
1801 た。
1802 (2) 第2問(引用条文は著作権法)
1803 設問1が,私的使用のための複製に関する問題であること,設問2が,侵害主体
1804 と請求の在り方に関する問題であることに気付いている答案は多かった(ただし,
1805 正確には,気付いているらしき様子が感じられるといった程度の答案が多く,的確
1806 な問題意識を感じさせる答案は少なかったのが実情である)ので,全体的には,一
1807 通りの勉強はなされているものと思われた。しかし,事案の正確な分析力や論理一
1808 貫した記述ができているかといった点において,こちらの期待した水準に達してい
1809 る答案は多くはなく,また,受験者によって大きな差が見られたのも特徴である。
1810 なお,以下の各設問についての部分でも触れているが,条文等の文言について無
1811 頓着に過ぎると思われる答案が多かった。実務においても,書面で対応する場面は
1812 多いのであるから,「言葉」に対しては,一層注意深くあるべきである。
1813 ア 設問1
1814 本問では,ゲームソフトαの著作物としての種類,著作者・著作権者を明らか
1815 にした上,侵害されている権利の種類・内容,権利制限の有無等を検討する必要
1816 があるが,それぞれの検討場面で,事案分析の不十分さ,関連条文の把握の不正
1817 確さ,基本的な判例・論点の理解不足などが目立った。
1818 まず,ゲームソフトαにつき,映画の著作物及びプログラムの著作物のいずれ
1819 か一方の著作物の側面しか触れていない答案が大多数であった。しかし,実際の
1820 コンピューター用ゲームを想起すれば,両側面を有していると考えるのが自然で
1821 はないであろうか。この点は,後に所々で述べるように,様々な検討場面におい
1822 て答案の論述の厚みに影響することとなる。
1823 著作者に関しては,職務著作の成否につきほとんどの答案で言及されていたが,
1824 B又はCの一方についてだけ検討し,他方については決め付けをしている答案が
1825 相当数見られた。立場の異なるBとCとで論述の厚みは異なっても構わないが,
1826 論じることなく決め付ける姿勢は問題である。本問においては,決め付けができ
1827 るほど事実内容は具体的ではない。
1828 次に,前述したゲームソフトαの著作物としての二面性を指摘できていれば,
1829 職務著作の適用条文についても区別して論じることができ,事案の分析的把握力
1830 と条文の正確な理解をアピールすることができたはずである(第15条第1項・
1831 第2項)。しかし,もともとゲームソフトαの著作物としての二面性を指摘でき
1832 た答案が多くなかった上,指摘できても,なぜか第15条第1項・第2項を正確
1833 に区別して論述していないものが多かった。
1834
1835 - 44 -
1836
1837 ところで,Bに職務著作の成立を認めず,A・B双方を著作者と認定した場合,
1838 映画の著作物の側面については,著作権は映画製作者(本問ではAが当たり得る)
1839 に帰属するのではないかということが問題となる(第29条第1項)。この点に
1840 論及している答案は多かったが,他方で,プログラムの著作物の側面では依然と
1841 して著作権はA・B双方が共有することになると考えられることにつき,何も触
1842 れていないものが多かった。これも,本件ゲームソフトαの著作物としての二面
1843 性に気付いていないため,論述に厚みを増すことができなかった例である。
1844 侵害されている権利の種類・内容,権利制限の有無等については,まず,F・
1845 G共に複製権侵害と私的使用のための複製に関する規定(第30条第1項)の適
1846 否が問題となることにつき,多くの答案が触れていた。しかし,第30条第1項
1847 第2号は技術的保護手段の回避を行ったDのみに適用されるとするもの,プログ
1848 ラムの著作物の側面で著作権がA・Bの共有となることを前提とした場合におい
1849 て,共有者の同意を得ないと権利行使できないとするもの(第117条参照)な
1850 ど,条文を読めば容易に分かるような誤りをしている答案が相当数あった。さら
1851 には,Gに対する第30条第1項第3号の適否について触れていないもの,同規
1852 定が「録音・録画」を対象としているため,プログラムの著作物についての適用
1853 を考えられないのではないかという点につき触れていないものなど,これもまた
1854 条文を読めば気付くような問題点に配意のない答案も多かった。
1855 次に,第30条第1項各号の適用にあって,主観的要件に触れていない答案,
1856 あるいは一方的に善意・悪意を決め付けている答案があった。いずれかに認定す
1857 ることが常に許されないわけではないが,本問では困難であろう。実際に,いず
1858 れかに認定している答案の論調は強引なものばかりであり,これでは事実認定の
1859 センスに疑問を持たせることとなる。認定困難な場合は,基本的には場合分けを
1860 して論述すべきである。
1861 F・Gの行為に第113条第2項の適用を論ずる答案が相当数あったが,問題
1862 文からF・Gが業務上のプログラム使用者と見ることは困難ではないか。さらに,
1863 F・Gによる頒布権侵害・譲渡権侵害を論じる答案があったが,問題文のどのよ
1864 うな要素を捉えれば出てくる発想であるのか理解しかねた。
1865 本件では,ダビングやダウンロードといった複製行為(侵害行為)は既に過去
1866 のことであり,侵害のおそれがあるとも認められないから,差止請求はできない
1867 と考えるのが通常であろう(第112条第1項)。この点につき,何の考慮もな
1868 く,単に「差止請求ができる」としか述べていない答案があった。事案に即して
1869 検討することができていないと評価せざるを得ない。また,廃棄請求(同条第2
1870 項)は,差止請求(同条第1項)をするに際して行うことができると規定されて
1871 いることにも配意する必要があり,このことに全く触れずに.廃棄請求が認めら
1872 れると述べる答案が多数存在した。
1873 イ 設問2
1874 侵害されている権利が何であるのか,侵害主体をどのように認定するかとの関
1875 連で,いかなる請求ができるのかが問題となる事案である。
1876 まず,多くの答案で同一性保持権侵害について論じており,その点は評価でき
1877 る。しかし,余りに単純に侵害を認めている答案が多い。いかなる改変が行われ
1878 ていれば侵害と言えるのか,その基準についても要領よく触れ,てきぱきと当て
1879
1880 - 45 -
1881
1882 はめて論ずべきである。
1883 次に,侵害主体の認定と具体的な請求の問題であるが,特に侵害主体について
1884 の的確な問題意識の欠如が目立ち,分析力不足を感じさせた。最も乱暴な論調は,
1885 単に「F・G・HはAが困るような行為をしているのだから,Aはこの三者に対
1886 して差止請求及び損害賠償請求ができる」旨述べただけのものである。侵害主体
1887 は誰で,これに対していかなる請求が可能なのか,侵害主体ではないが侵害行為
1888 に関与している者についてはどのような請求ができるのか(特に差止請求の可否)
1889 等について,分析的に検討してほしかった。少数の例外を除き,期待外れであっ
1890 た。
1891 なお,翻案権侵害について検討している答案も予想以上に多かったが,この場
1892 合,創作性の付加があると言えるかについて述べる必要があろう。また,侵害と
1893 言えるかどうかに関しては,少なくとも,私的使用のための翻案ではないかとい
1894 う点(第43条第1号,第30条第1項)に触れなければ論述不足である。他方,
1895 翻案権侵害についてだけ論じ,同一性保持権侵害について触れない答案が散見さ
1896 れたが,ときめきメモリアル事件の最高裁判決について知識がないとしか考えら
1897 れず,基本的な勉強不足である。
1898 (3) 形式面等
1899 時間配分を誤って最後まで書き切れなかったのではないかと思われる答案が散見
1900 された。時間配分も実力のうちと考え,自分の書こうとする内容・量を答案構成の
1901 段階で見通し,時間をバランスよく配分しながら答案を作成してほしい。
1902 また,字が乱雑であったり小さ過ぎたりして読みにくい答案が少なくない。もち
1903 ろん字の美しさを競う試験ではないから,答案審査にあっては何とか読む努力はす
1904 るが,中には,「全く読めない」ような記載のある答案もあった。せっかくの良い
1905 考えも読み手に伝わらなければ意味がない。せめて「読める」文字で記述してほし
1906 い。
1907 (4) 答案の評価について
1908 答案は各人各様であり,どのように書かれていれば評価が高くなり,あるいは低
1909 くなるのかを一概に言うことは困難である。しかし,冒頭述べたように,各設問を
1910 通じて,事実関係の分析力,基本的事項についての理解度,論理的な思考力,論理
1911 一貫した論述をすることができる力等を見ようとするものである。以上を前提とす
1912 れば,いずれの問題であっても,おおむね次のような評価の視点を示すことができ
1913 るであろう。
1914 すなわち,事実関係の詳細な部分まで把握・分析し,問題となり得る事項を抽出
1915 した上,関連する判例・学説を正確に踏まえつつ,必要な法令につき適切な解釈を
1916 行って要件等の定立を行い,事案に当てはめて妥当な結論に至っているような答案
1917 については「優秀」,事実関係につきポイントとなる部分についてはきちんと分析
1918 し,問題となり得る事項を抽出した上,関連する判例・学説への考慮を示しつつ,
1919 必要な法令についてそれなりの解釈をして要件等の定立を行い,事案への当てはめ
1920 も行われてそれなりの結論に至っているような答案については「良好」,かかるレ
1921 ベルには達していないが,事実関係の分析や問題点の抽出が不十分ながらも示され
1922 ており,判例・学説等への一定の配意をしつつ,関係する法令についての解釈を交
1923 えて結論に至ろうとする姿勢が見られる答案については「一応の水準」,これに至
1924
1925 - 46 -
1926
1927 らないレベルのもの,例えば,事実関係の分析が不足しており,あるいは,問題文
1928 に示された内容をはるかに超えて牽強付会な決め付けをするなどし,当然触れるべ
1929 き基本的な判例・学説に触れることもなく,法令解釈等において筋道が通っておら
1930 ず,結論において妥当性を欠くようなものなどは,「不良」な答案である。
1931
1932
1933 法科大学院教育に求めるもの
1934 まず,法令の規定であれ,判例・学説であれ,基本的な事項につき,単に記憶させ
1935 るのではなく理解させるような教育をお願いしたい。理解させるということは,その
1936 ような規定となっている趣旨,そのような判断や考え方をする論拠についてまで遡り,
1937 なるほどと納得させ,必要に応じて,そのような考え方はおかしいのではないかとい
1938 う批判的な検討をさせ,あるいは,類似の事項について同様の考え方ができるのでは
1939 ないか,といった思考の訓練をもさせることである。このようなことを繰り返すこと
1940 により,真に正確な知識が身に付き,同時に,法的なものの見方や論理的思考力も鍛
1941 えられるものと考えられる。答案の中には,一見もっともらしい論述をしているよう
1942 に見受けられるが,実際にはピント外れと言わざるを得ないようなものが散見された
1943 が,皮相な「記憶」に頼った結果そのようなものとなってしまったと考えられ,真の
1944 「理解」をするための教育が必ずしも十分になされていなかったからではないかと思
1945 われる。
1946 次に,真の「理解」に基づく正確な知識を前提に,複雑に入り組んだ事案を正確に
1947 分析し,問題は何なのか,その問題の解決のためにはどのような点を取り上げて,ど
1948 のような順番で検討していけばいいのかというような力,複雑な物事を解きほぐして
1949 整理し,解決に導く力が身に付くような教育を行っていただきたい(その際には,無
1950 関係な事項については検討対象から捨象するという作業も当然必要となる)。答案の
1951 中には,思考の順序が逆転していたり,解決に必要のない事柄を長々と論じ,必要な
1952 ことについてはほとんど触れていないようなものもあった。
1953 さらに,こうして整理され,解決のための結論に至った内容を,バランスよく,説
1954 得的に論述できる能力を身に付けさせるような訓練もお願いしたい。頭の中では正し
1955 い解決がなされていても,バランスを欠いた説明や,趣旨不明の記述がなされていて
1956 説得力のないものとなっていたのでは,せっかく正しい結論に至っても,審査する側
1957 には伝わらない。これは実務の世界でも当てはまることである。
1958 最後に,当たり前のことであるが,常に「自らの頭で考える」ような訓練を積ませ
1959 ていただきたい。前述したような,基本的事項についての理解,事案の正確な分析力,
1960 説得的に表現できる能力等は,いずれも,常日頃から「自らの頭で徹底的に考える」
1961 という訓練を通して身に付けることができるものだと思われる。常日頃から,安易に
1962 妥協せず,徹底して考えるという姿勢を貫いていれば,実際の試験の答案においても,
1963 必ずやそれがにじみ出てくるものである。
1964
1965 - 47 -
1966
1967 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(労働法)
1968
1969
1970
1971
1972 出題の趣旨,狙い等
1973 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
1974 採点方針
1975 事例に即して必要な論点を的確に抽出できているか,関係する法令,判例及び学説
1976 を正確に理解し,これを踏まえて,論理的かつ整合性のある法律構成及び事実の当て
1977 はめによって,適切な結論を導き出しているかを基準に採点した。
1978 出題の趣旨に沿って,必要な論点を的確に取り上げた上,その論述が期待される水
1979 準に達している答案については,おおむね標準以上の得点を与え,さらに,当てはめ
1980 において必要な事実を過不足なく摘示し,あるいは,主要論点について,着目すべき
1981 問題点を事例から適切に読み取って検討しているなど,優れた事例分析や考察が認め
1982 られる答案については,更に高い得点を与えることとした。
1983
1984 3 採点実感等
1985 (1) 第1問について
1986 本問は,期間の定めのない労働契約の普通解雇の場合(設問(1))と期間の定
1987 めのある労働契約の期間途中の普通解雇の場合(設問(2))において,それぞれ
1988 の解雇の効力を問う問題である。全体として,普通解雇規制の内容あるいは期間の
1989 定めのない労働契約と期間の定めのある労働契約との解雇規制の違いについて,基
1990 礎的な理解が極めて不十分と思われる答案が予想以上に多かった。
1991 まず,本問解雇が懲戒解雇であるとの前提で検討を行った答案が少なくなかった。
1992 確かに,本問解雇にXに対する制裁的側面があることを強調すれば,懲戒解雇とし
1993 て検討する余地が全くないとまでは言い切れない。しかし,Y社がXに示した解雇
1994 理由その他の事実関係からすれば,やはり懲戒解雇と見るにはかなりの無理があり,
1995 本問であえて検討する必要性に乏しい。少なくとも,普通解雇としての検討を全く
1996 行わないのは失当と言わざるを得ない。
1997 また,本問解雇につき,労働基準法第19条の該当性について論じた答案も少な
1998 からず見られた。しかし,入社前から既に罹患していた疾病であるなど,業務上の
1999 疾病ではないことが明らかな事案である本問においては,論点として取り上げるこ
2000 とは適切とは言えない。
2001 さらに,本事例では,Y社がXに解雇予告手当として基本給30日分相当額しか
2002 支払っておらず,同法第20条第1項の要件を満たしていないが,そもそも,この
2003 論点に気付いていない答案が多かった。なお,本問では,平均賃金の算定において,
2004 基本給に加え乗務手当その他全ての手当を算入すべきところ,この論点に気付きな
2005 がらも,同法第11条及び第12条に関する理解が不十分であるため(同法第37
2006 条の割増賃金の算定と混同していると思われる答案も見受けられた。),一部の手当
2007 を平均賃金算定において除外すべきとする答案も散見された。
2008 次に,本問解雇の効力を検討するに当たっては,Y社がXに示した解雇理由を踏
2009 まえて就業規則該当性を検討する必要があるところ,そもそも,上記解雇理由に触
2010 れていない答案が少なくなかった。また,上記解雇理由が就業規則第37条第1項
2011
2012 - 48 -
2013
2014 の何号に該当するかを明示していない答案も見られた。さらに,本問では,上記解
2015 雇理由の内容から見ても,同項第3号該当性の検討を中心としつつ,他の各号の該
2016 当性も検討すべきであるが,理由を何ら示すことなく,同項第3号等,一部の該当
2017 性のみを論じた答案も少なくなかった。
2018 最後に,労働契約法第16条の解雇権濫用法理の検討においては,客観的合理的
2019 理由と社会的相当性の2つの要件が掲げられている趣旨あるいは客観的合理的理由
2020 の要件と就業規則該当性の関係など,解雇規制に関する法律構成の枠組を整理して
2021 理解していない答案が多く,例えば,上記各要件を分けずに解雇の効力を論じてい
2022 る答案が相当数あった。
2023 設問(2)においては,そもそも期間の定めのある労働契約の期間途中の解雇に
2024 関する民法第628条及び労働契約法第17条の知識を欠いている答案が少なくな
2025 く,あるいは,同条を摘示しながら同法第16条を論じるなど,同法第17条の理
2026 解不足と思われる答案も見られた。また,期間途中の解雇であるにもかかわらず,
2027 雇止めの問題として論じている答案も散見された。さらに,期間の定めのない労働
2028 者に比べ,期間の定めのある労働者は保護の必要性が薄く,解雇要件該当性は緩や
2029 かに判断してよいなどとする,労働法に関する根本的な理解が不足していると言わ
2030 ざるを得ない答案も散見された。
2031 (2) 第2問について
2032 第2問は,オーソドックスな問題であったこともあり,全体としては,期待され
2033 る水準に達している答案が多かった。ただし,本問は触れるべき論点が多く,かつ,
2034 いずれも主要論点であって,十分な答案構成が求められるが,設問ごと又は論点ご
2035 との記述のバランスを著しく欠いた答案も少なくなかった。
2036 設問(1)では,まず,@労働条件の不利益変更に該当するか否かを検討した上
2037 で,A不利益変更の合理性を検討する必要があるところ,@の論点を意識した答案
2038 が多数ではあったものの,何ら@に触れることなく,いきなりAの検討から入る答
2039 案も相当数あった。また,労働契約法の適用を前提に論述する場合,Aの検討の前
2040 提として,同法第10条の趣旨に言及すべきであるが,これに触れた答案は少なく,
2041 条文の摘示にとどまるものが多かった。さらに,同条の該当性を検討する場合,当
2042 然ながら,同条に明記された全ての要件について論じるべきであるが,そのうち,
2043 周知の要件に触れていない答案が相当数あった。
2044 @の検討では,X1・X2両名の給与額につき,改訂前の就業規則の下で得るこ
2045 とが期待できた額と改訂後の就業規則の下で実際に得た額がほぼ同額であり,すな
2046 わち,同額の給与額を得るために,改訂後では2年間余分に働くことになる点がポ
2047 イントとなるが,この点を意識して論述する答案が比較的多数であったものの,こ
2048 の点を看過して不利益性がないとする答案も相当数見られた。なお,本問において,
2049 定年延長による安定雇用の確保は,不利益変更の必要性に関わる事情であるだけで
2050 なく,労働者にとっても利益となる事情であることから,不利益性の検討において,
2051 同事情と賃金引下げという不利益とを総合的に評価するのが相当であり(最判平成
2052 9年2月28日[第四銀行事件]参照),かかる観点から検討した答案は,加点の対
2053 象とした。また,賃金引下げという不利益変更が満60歳以降の社員に偏っている
2054 事実をどう評価するのかも着目すべき問題点であり(最判平成12年9月7日[みち
2055 のく銀行事件]参照),この点に言及した答案についても,加点の対象にした。その
2056
2057 - 49 -
2058
2059 他,不利益変更の必要性については,本件就業規則改訂の経緯として,そもそもM
2060 組合及びN組合がY社に65歳定年制の導入を要求して団体交渉が行われ,本件改
2061 訂に至ったという事実に着目する必要があるところ,この点を意識した答案は予想
2062 以上に少なかった。
2063 設問(2)では,まず,労働組合法第17条の要件該当性を検討すべきであるが,
2064 ここでも,条文に明記されている要件に全て言及することなく,特に「一の工場事
2065 業場」の要件該当性に触れていない答案が少なくなかった。他方,X1・X2が労
2066 働組合法上の労働者に当たるかという点は,本問では論点として取り上げる必要が
2067 ないにもかかわらず,この点に多くの記述を割き,必要な論述が不十分となってい
2068 る答案も散見された。
2069 次に,Y社とM組合との間の本件労働協約の一般的拘束力がX1・X2両名に及
2070 ぶかという論点について,N組合の組合員であるX1に対する関係では,多くの答
2071 案が少数組合員に対する拡張適用を否定する説に立って説得的に論述できていた。
2072 他方,非組合員であるX2に対する関係では,判例(最判平成8年3月26日[朝日
2073 火災海上保険(高田)事件])の正しい理解に基づいた検討が求められるが,極めて
2074 重要な判例であるにもかかわらず,これを理解していないか,あるいは,理解が非
2075 常に不十分な答案が相当数あった。極端な例では,この判例に全く触れることなく,
2076 X2が労働組合法第17条の「同種の労働者」に該当することを理由に直ちに一般
2077 的拘束力を肯定する答案が散見された。また,判例が非組合員に対する一般的拘束
2078 力を例外的に否定すべき場合の判断基準として掲げる「著しく不合理であると認め
2079 られる特段の事情があるとき」という基準には言及するものの,判示に係る具体的
2080 判断要素を挙げて事実を当てはめることができていない答案が相当数あった。さら
2081 に,事実の当てはめにおいては,本件労働協約締結の経緯として,M組合及びN組
2082 合からの65歳定年制導入要求によって団体交渉が始まったという事実に着目する
2083 必要があるが,設問(1)の就業規則変更の必要性についてと同様,この点を意識
2084 した答案は少数であった。
2085
2086
2087 今後の出題
2088 出題方針について変更すべき点は特にないと考える。今後も,法令,判例及び学説
2089 に関する正確な理解に基づき,事例を的確に分析し,必要な論点を抽出して,自己の
2090 法的見解を展開し,これを事実に当てはめることによって,妥当な結論を導くという,
2091 法律実務家に求められる基本的な能力及び素養を試す出題を継続することとしたい。
2092
2093
2094
2095 今後の法科大学院教育に求めるもの
2096 基本的な法令,判例及び学説については,正確な理解に基づき,かつ,網羅的に知
2097 識を習得するように更なる指導をお願いしたい。その際,条文の内容を正確に理解す
2098 ることはもとより,当該規定の趣旨を踏まえて事案に適用する能力が求められるほか,
2099 主要な判例については,判例が着目した事実関係及び結論を導くために展開された法
2100 律構成や基準ないし要件の内容等を遺漏なく,正確に理解する必要があることに十分
2101 配意いただきたい。また,事例を正しく把握して的確に分析し,結論を導くために必
2102 要な論点を抽出した上,法令,判例及び学説を踏まえた論理的かつ一貫性のある解釈
2103 論を展開し,これに適切に事実の当てはめを行って,法の趣旨に沿った妥当な結論を
2104
2105 - 50 -
2106
2107 導くという,法的思考力を更に養成するよう重ねてお願いしたい。
2108
2109 - 51 -
2110
2111 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(環境法)
2112 【第1問について】
2113 1 出題の意図に即した答案の存否,多寡
2114 第1問は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)
2115 の平成9年改正により導入された生活環境影響調査制度(ミニアセスメント)の意義
2116 と限界を説明できる能力(設問1)及び産業廃棄物最終処分場をめぐる民事訴訟の状
2117 況についての理解(設問2)を問う基本的問題であった。
2118 設問1の採点に当たっては,以下のような点が実感された。第1に,産業廃棄物処
2119 理施設設置許可手続に関して「住民参加を取り入れた」とされるのは,廃棄物処理法
2120 第15条第3項〜第6項が規定する生活環境影響調査制度のことであるが,これを同
2121 法第15条の4が準用する第9条の4と誤解する答案が散見された。これらが規定す
2122 るのは,設置後に求められる配慮である。第2に,問題文からは産業廃棄物最終処分
2123 場についての設例であることが明白であるにもかかわらず,一般廃棄物処理施設につ
2124 いても論じている答案があった。第3に,生活環境影響調査制度を環境影響評価法の
2125 下でのアセスメント手続と混同している答案が散見された。第4に,改正法の限界と
2126 して,処分場の内容を事業者が全て決定してから住民に情報が提供される仕組みにな
2127 っている点(住民参加のタイミングの遅さ)について,的確に指摘した答案は意外に
2128 少なかった。条例手続が法律手続に前置されていることの意味を理解してほしかった。
2129 第5に,条例の必要性について,設問に記載される内容を単に転写するばかりで,「な
2130 ぜその手続が必要か」という導入の背景について触れていない答案が散見された。仕
2131 組みの法政策的意味を絶えず考える姿勢が必要である。本設問においては,生活環境
2132 影響調査制度の内容と条例の内容を丁寧に突き合わせた上で,前者の限界と後者の必
2133 要性を記述することが求められたが,このような形で整理された答案はそれほど多く
2134 なかった。なお,法律手続や条例手続の意義を,環境権の手続法的実現という角度か
2135 ら整理した答案は,評価した。
2136 設問2の採点に当たっては,以下のような点が実感された。第1に,公法的基準の
2137 遵守の意義と因果関係の立証の2点について明確に問うているところ,前者に対して
2138 答えていない答案がかなり見られたのは不可解であった。第2に,受忍限度判断の枠
2139 組みを示した上で,公法的基準の遵守状況はその一つの考慮要素にすぎず,しかも,
2140 許可を取得したりその遵守義務が規定されたりするだけでは現実の違反を回避するこ
2141 とはできないとまで明記した答案は少なかった。この点で,安定型処分場に関する具
2142 体的な裁判例を念頭に置いて,どのような意味で公法的基準の遵守が困難になるかを
2143 指摘した答案には,一定の評価を与えた。第3に,侵害を受ける法的利益について,
2144 生命・健康という人格権と明記せずに,単に「被害」としたり,「地下水の汚染」の
2145 ような生活環境への影響をもって被害と記述したりする答案がかなり見られた。差止
2146 めの根拠となる法的利益を明確に表記する必要がある。第4に,因果関係の立証につ
2147 いては,原告が負うという原則とそれを修正する必要性及びその理由については,全
2148 体として十分な記述をしている答案が多かったが,原告による一応の立証を受けて被
2149 告が反証できなかったときにどのような結果になるのかまで記述していない答案が散
2150 見された。また,何をどの程度立証しなければならないのかについて説明のない答案
2151 も散見された。第5に,因果関係の立証に関して,疫学的因果関係について論ずる答
2152
2153 - 52 -
2154
2155 案が散見された。特定の物質と侵害・損害との一般的因果関係についての経験則を問
2156 題としている場合であれば疫学的因果関係を論ずる余地はあるが,本件では,提起さ
2157 れているのは,将来における建設の差止めを求める予防的差止訴訟なのであって,本
2158 件事案に特有の疫学的因果関係を問題とする基礎を欠いている。
2159
2160
2161 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
2162 設問1に関しては,現行法の規定がどのような経緯で設けられたのかを,旧制度と
2163 の比較において理解する学習姿勢が欠けているのではないかと推測される。また,法
2164 律条文のみの学習にとどまり,それを実施する自治体がどのような判断の下にどのよ
2165 うな対応をしているかにまで理解の枠組みを広げていないことも,差異の理由として
2166 考えられる。
2167 設問2に関しては,公法的基準の遵守が必ずしも実現できないという廃棄物処理法
2168 の実態に対する理解に欠ける点が,得点の分かれ目になった。実態を踏まえて法律を
2169 理解することは,環境法の学習において特に求められることである。
2170
2171
2172
2173 各水準の答案のイメージ
2174 「優秀」「良好」と言える答案のイメージは,設問1に関しては,法政策の発展と
2175 いう時間軸の中に現行法を位置付けてそれを相対的に評価し,自治体の対応との関係
2176 も踏まえながら論じているものである。【資料】が添付されていることから,それが
2177 設問との関係でどのような意味を持っているのかを理解した上でそれを的確に答案に
2178 反映させたものは,高く評価した。設問2に関しては,主張立証責任の基本原則を踏
2179 まえていかなる場合にどのような理由によりそれが修正されるかを,関係裁判例に言
2180 及しつつ整理できている答案が「優秀」「良好」と評価された。それが実現できてい
2181 る程度により,「優秀」と「良好」は区別される。
2182 「一応の水準」と言えるのは,論ずべき問題点が何とか把握できているものである。
2183 「不良」とは,それすらされていないものである。
2184
2185 【第2問について】
2186 1 出題の意図に即した答案の存否,多寡
2187 第2問は,土壌汚染対策法の平成21年改正によって導入された,一定面積を超え
2188 る土地の形質変更時の届出及び調査命令についての認識を問うとともに,土壌汚染対
2189 策法と民法の関係について考える能力を問う問題であった。
2190 設問1小問(1)については,土壌汚染対策法第4条第1項により,Cが環境省令で
2191 定める面積を超える土地の形質変更をする場合に届出義務が課される点,さらに,同
2192 法第4条第2項により,都道府県知事から調査命令が行われることがある点を的確に
2193 書いているものが多かった。もっとも,問題文に「知事の処分」と書かれているのを
2194 軽視し,調査の契機全体について漫然と書く答案も幾つか見られ,残念であった。
2195 同法第5条による調査について書かれているものもあったが,誤りではなく一定の
2196 点数は与えたものの,問題文に「大規模な土地開発工事」と書かれているところから,
2197 それだけでは十分ではない。他方,同法第3条の調査について書かれているものも散
2198 見されたが,問題文から,工場の廃止時期が土壌汚染対策法施行前であり,同条の適
2199 用がないこと(平成14年法の附則第3条),3条調査の主体はAであってCではな
2200
2201 - 53 -
2202
2203 いことから,3条調査は本問とは関連しない。
2204 なお,4条調査について,第1項の届出のことが書かれていないから問題とならな
2205 いとしたものがあったが,その点は問題文からは省略されている。もっとも,4条調
2206 査についてこの点を指摘した答案については,採点に当たって配慮した。
2207 小問(2)については,土壌汚染対策法第4条第1項が大規模な開発工事の場合に届
2208 出をさせて調査の契機とする理由について,面積の大きい土地の形質変更について搬
2209 出等を含めて土壌汚染のリスクが高まることを指摘したものは相当数見られた。また,
2210 平成21年の同法改正の背景として,改正前は,法律に基づく調査が少なく,自主的
2211 な調査が多く,調査の透明性,信頼性の観点から問題があったことに言及するものも
2212 それなりに見られた。もっとも,小問(2)についても,平成21年の同法改正の趣旨
2213 の全てを漫然と書き連ねるものがあり,その分ほかの問いに答える時間やスペースを
2214 自ら奪っているのではないかと思われた。例えば,掘削除去の回避は同法改正の重要
2215 点であるが,小問(2)の直接の解答には関連しない。
2216 設問2に関しては,土壌汚染対策法第8条に基づく費用回収については比較的良く
2217 書けていた。他方,同法同条について指摘することで終わってしまい,ほかの救済方
2218 法には全く触れない答案も幾つか見られた。環境法がその実現の手段として,民事訴
2219 訟・行政訴訟を用いる場合があり,その限りで民法・行政法の基本的な部分を聞かれ
2220 る可能性があることを想定しておいてほしい。なお,土壌汚染対策法第8条について
2221 は全く触れず,瑕疵担保責任についてのみ論ずる答案も一定数見られた。
2222 瑕疵担保責任の「瑕疵」に関して,トリクロロエチレンの環境基準の設定の時期に
2223 ついて言及したものはそれほど多くはなく,一定数見られるにとどまった。問題文を
2224 きちんと読めていないとも言える。
2225 不法行為責任について言及するものも相当数見られたが,土壌汚染対策法第8条と
2226 の類似性,両者の関係について指摘するものはほとんどなかった。他方,不法行為責
2227 任を追及する場合に継続的不法行為となることを指摘するものは一定数見られた。
2228 損害賠償額について検討する際に,瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求と土壌汚染
2229 対策法に基づく費用回収請求との関係について,掘削除去の回避の問題点に触れつつ
2230 言及するものは一部あり,自ら考えるという思考様式が身についている者が一定数見
2231 られたのは好ましいことであった。
2232 全体として見れば,設問1について良く答えた答案と,設問2について良く答えた
2233 答案に分かれたような印象がある。
2234
2235
2236 出題の意図と実際の解答に差異がある場合の原因として考えられること
2237 3点挙げておきたい。
2238 第1に,問題文が意外にきちんと読まれていないと見られることである。これは試
2239 験場で取り組むべき課題であるが,常日頃から心掛けておくことが適当であろう。
2240 第2に,土壌汚染対策法の4条調査がなぜ改正で導入されたかについて,理由付け
2241 を含めた勉強が十分になされていない面があったと思われる。土壌汚染対策法の平成
2242 21年改正について覚えてきたことを吐き出すような答案が間々見られたことはやや
2243 残念であった。何が問題文と関連するかを取捨選択し,問われていることに的確に解
2244 答することが必要である。
2245 第3に,環境法はその実現のために,民事訴訟と行政訴訟を用いているのであり,
2246
2247 - 54 -
2248
2249 それぞれの基本的なところが環境法とも絡むため,常にその点に目を配ってほしい。
2250
2251
2252 各水準の答案のイメージ
2253 「優秀」な答案のイメージは,設問1については,土壌汚染対策法第4条の意味と
2254 同条の平成21年改正の趣旨について的確に把握し,設問2については,瑕疵担保責
2255 任を中心とする民法上の請求と土壌汚染対策法第8条の請求の関係について理解し,
2256 損害額についても言及しているものである。「良好」な答案のイメージは,設問1に
2257 ついては「優秀」な答案と同様であるが,設問2において民法上の請求か土壌汚染対
2258 策法に基づく請求のいずれかしか書かれていないものである。「一応の水準」は,設
2259 問1について土壌汚染対策法第4条の平成21年改正の趣旨が相当程度書かれており,
2260 設問2において民法上の請求か土壌汚染対策法に基づく請求の少なくともいずれかは
2261 良く書かれているものである。「不良」な答案はそれさえなされていないものである。
2262
2263 【今後について】
2264 第1に,環境法の学習においては,制度導入・改正の理由が重要であることである。
2265 過去の採点実感においてもしばしば指摘しているが,現行法をそれだけで理解するので
2266 はなく,法政策の発展の中に位置付けて理解することが重要である。そのような学習姿
2267 勢を持つことによって,現行制度の課題や将来の発展方向についても理解を深めること
2268 が可能になる。今回の出題により,環境法の出題では法政策についても問うことについ
2269 て改めてメッセージが伝えられたと思う。法科大学院では,日頃からこのような環境法
2270 政策の根本的部分についても考察できる素地を与えていただけるよう御指導をお願いし
2271 たい。さらに,制度導入・改正の理由について制度や改正の全体像をまとめて覚えるの
2272 ではなく,各条の改正にどういう意味があったかというところまで掘り下げて理解をし
2273 ておく必要がある。
2274 第2に,環境法の実施の実態については,裁判例等を通じて明らかにされてきており,
2275 こうした点について的確な認識を持っておくことは,結果として,環境法の理解を深め
2276 ることになる。
2277 第3に,環境法の実現のためには民事訴訟と行政訴訟が用いられるところから,民法
2278 や行政法のごく基本的な部分について環境法との関係が理解されていることも重要であ
2279 ると言えよう。また,民法等の特別規定が環境個別法に置かれていることの意味につい
2280 ても学習してほしい。
2281 第4に,司法試験に限らず,法律実務家には,課題を正確に理解し,これを分析する
2282 能力が求められる。そのような能力を養うよう日頃から心掛けていただきたい。
2283
2284 - 55 -
2285
2286 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(公法系))
2287
2288
2289 第1問
2290 設問1は,条約の国内における効力を問う問題である。条約の国内的効力の問題と
2291 自動執行性(直接適用可能性)の問題を混同している答案が少数見られたが,国内的
2292 効力は各国憲法体制の問題と,また自動執行性(直接適用可能性)は個々の条約規定
2293 の問題と明瞭に区別した答案も多く,比較的よくできていた。国際法と国内法の関係
2294 に関する一元論・二元論という理論的問題と,条約の国内的効力という各国憲法体制
2295 の問題の関係を正しく理解していない答案が幾つかあったのが気になった。
2296 設問2は,甲に関する人権条約違反と会社財産についての外交的保護権を問うたも
2297 のである。人権条約違反についても外交的保護権を行使できるというのが一つの論点
2298 であったが,その点を明示的に認識する答案は少なかった。他方,外交的保護権の個
2299 々の要件については,きちんと理解している答案が多かった。答案では国家責任を中
2300 心に論じるものが相当数あり,特に外交的保護権と国家責任を並列的に論じたものも
2301 少なくなく,第2次規範としての国家責任法を正しく理解していないために解答が無
2302 秩序なものになったものが結構あった。
2303 会社財産の問題については,全くそれに触れていない答案が散見されたが,乙社が
2304 Y国法人であることを正しく指摘した上で,国際司法裁判所「バルセロナトラクショ
2305 ン事件」判決にも言及し,乙社が事実上甲と同視できるから乙社に関する損害の賠償
2306 も請求できる旨をきちんと分析した優れた答案も幾つかあった。
2307 なお,犯罪人引渡を議論する答案が幾つかあったが,設問は犯罪人引渡が問題にな
2308 る事例ではない。国際法上の制度を表面的に理解することの危険性が示されているよ
2309 うに思われる。
2310 全体として,設問2は出来不出来にばらつきがあった。
2311 設問3は,Y国が自由権規約第1選択議定書の当事国であることが問題文に明らか
2312 にされているにもかかわらず,自由権規約の個人通報制度に全く触れていない答案が
2313 少なからず見られたのは残念であった。我が国が批准していない議定書であるとはい
2314 え,受験者は法律実務家を目指す以上,主要な人権救済システムの概要くらいは勉強
2315 しておいてほしいと思った。他方,第1選択議定書を知っている答案は,個人通報制
2316 度の概要をおおむね正確に理解していたと言える。
2317 全体として,設問3は出来不出来にばらつきがあった。
2318
2319
2320
2321 第2問
2322 設問1については,よく理解できている答案と,そうでない答案とに分かれる傾向
2323 にあった。海洋区域の限界設定が沿岸国の一方的行為により行われることについて,
2324 明確に理解が示されている答案は少なかった。
2325 設問2についても,よくできている答案とそうでない答案とに分かれる傾向にあっ
2326 た。よくできている答案は,国際司法裁判所規程第41条第1項の要件だけではなく,
2327 これまでの先例を踏まえた解答がなされていた。また,設問の事実状況について事例
2328 への当てはめをした上で,暫定措置の要件の充足いかんについて論じていた。ただ,
2329 事例への当てはめを十分に論じている答案は必ずしも多くはなかった。
2330 設問3については,慣習国際法としての効力を論ずる点については,ほとんどの答
2331
2332 - 56 -
2333
2334 案ができていた。ただ,法典化条約の慣習国際法化という観点から論じている答案は,
2335 ほとんどなかった。また,条約の採択時の状況,その後の条約の適用状況が問題文に
2336 説明されているが,これらについて取り上げて,慣習国際法化しているかどうかとい
2337 う点を論じている答案は必ずしも多くはなく,類型的に慣習国際法の成立要件を論じ
2338 ている答案が多かった。その意味で,事例への当てはめを十分に論じている答案は多
2339 くはなかった。
2340 全体としては,個々の設問について論点を理解することはおおむねできている。論
2341 点の整理をして解答を作成している答案が多いということである。他方,設問の問題
2342 文にある事実状況への当てはめが十分になされていないというのが特徴的であった。
2343
2344 - 57 -
2345
2346 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(私法系))
2347
2348
2349 出題の趣旨,狙い等
2350 本年度の国際関係法(私法系)の問題は,昨年と同様に,狭義の国際私法(抵触法)
2351 及び国際民事訴訟法から出題されている。各問題の出題の趣旨については,すでに法
2352 務省ホームページにて公表済みである。
2353
2354
2355
2356 採点方針
2357 本年度は,次の3つの能力を受験者が有しているか否かを判定できるように,出題
2358 した。すなわち,@国際私法・国際民事訴訟法上の基本的な知識と理解を基にして論
2359 理的に破綻のない推論により一定の結論が導けるか,A設例の事実からいかなる問題
2360 を析出できるか,B関連する法規範の趣旨の正確な理解を前提として,複数の法規の
2361 体系的な関連性を認識しながら,析出された問題の処理に適切な法規範を特定し,適
2362 用できるかである。
2363 @の基準をおおむねクリアーしている答案が,多くの場合,「一応の水準」答案と
2364 なるのではないかとみられる。各法領域の法規範に関する知識をまんべんなく有し,
2365 かつ,「類題」や「応用問題」とも言うべき問題に対処できる程度に深く法規範の趣
2366 旨を理解しているか。こういったいわば量的・質的な観点から見た優劣が答案を「良
2367 好」又は「優秀」に分けたように見られる。
2368 なお,学説が分かれている論点については,結論それ自体によって得点に差を設け
2369 ることはしていないが,判例・通説の見解を踏まえ,自説の論拠を十分に示しつつ,
2370 自説が論理的に展開できているか否かを基準にして成績評価をした。いまだ確たる判
2371 例法が形成されていない論点との関連についても同様である。
2372
2373 3 採点実感
2374 (1) 第1問について
2375 設問1(1)は,地域的不統一法国の国籍を有する者を被相続人とする相続につ
2376 いて,その準拠法を問う問題である。イ)法の適用に関する通則法(以下,「通則
2377 法」という。)第36条の問題と性質決定し,同法第38条第3項の規定に従い「法
2378 域」を特定した後に,ロ)P法から日本法への反致(同法第41条)はないためP
2379 地域の実質法を適用する,というプロセスが論理的に示されなければならない。イ)
2380 の点について大多数の答案は正しい推論を示していたが,ロ)の点に言及しない答
2381 案が相当数あった。また,P法@の抵触規定を適用してP地域の実質法の適用を導
2382 いたものも少数あった。
2383 設問1(2)について,比較的多くの解答は,正しく,逸失利益の算定方法の準
2384 拠法を通則法第17条の指定する日本法に求め,日本法上,逸失利益の推算には被
2385 害者の将来収入等,被害者の具体的事情が考慮されなければならないとしていた。
2386 法廷地法として日本法の適用を説明する答案もあったが,「手続は法廷地法による」
2387 との原則による場合には,通則法第17条を適用しない理由を説得的に説明してほ
2388 しかった。平成9年1月28日の最高裁判決を意識した答案には高い評価が与えら
2389 れた。他方で,算定方法(大前提)と推算の基礎(小前提)とを混同して,準拠法
2390 をP法とする答案も相当数あった。
2391
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2394 設問1(3)は,不法行為準拠法と相続準拠法との関係を問う問題である。請求
2395 権の移転可能性及び相続財産の範囲という2つの事項を明確に認識しているか否か
2396 が評価を左右した。比較的多くの答案はいわゆる2つの準拠法を累積的に適用して
2397 いたが,これら2つの事項と各準拠法との関係が正しく示されていれば,不法行為
2398 準拠法と相続準拠法との適用関係をいかに構成するかは,評価に影響しない。
2399 設問2においては,結果発生地(通則法第17条本文)及び予見可能性(同条た
2400 だし書)の意義を問い,これを設問の事例に正しく当てはめている答案が比較的多
2401 かった。他方で,一般人を基準とした予見可能性と個別的・具体的な事案における
2402 加害者の予見可能性を必ずしも明確に区別していないと見られる答案も相当数に上
2403 った。遺族固有の慰謝料請求権については,遺族の苦痛が発生した地ではなく,事
2404 故地を結果発生地と構成する答案もあったが,そのような構成を採る場合には,同
2405 法第17条ただし書の存在理由を説明してほしかった。
2406 設問3は,同時死亡の準拠法を問う問題である。多くの答案は,被相続人と相続
2407 人の同時存在の原則を相続の問題として性質決定していた。この問題を相続人の権
2408 利能力の問題として性質決定する見解も排斥していない。いずれの構成を採るにせ
2409 よ,論点を丁寧に析出し,理由を付して性質決定できているか否かが評価を分けた。
2410 (2) 第2問について
2411 設問1はパートナーシップの当事者能力の準拠法を問う問題である。大多数の答
2412 案は「手続は法廷地法による」との原則に従い民事訴訟法第28条から出発する構
2413 成を採っていた。これらの答案の多くは,同条の「その他の法令」の中には法人の
2414 従属法に関する抵触法規も含まれるとする点までは正しい推論を行っていた。しか
2415 し,この抵触法規により従属法に送致される問題が権利能力の有無であることを理
2416 解していない答案が多数あり,従属法たる外国法が当事者能力を認めていることを
2417 理由として,直ちに当事者能力を肯定していた。なお,いわゆる属人法説など当事
2418 者能力の準拠法に関する他の見解に従う推論をしていても,このことは採点に影響
2419 しない。
2420 設問2は,保証契約の準拠法を問う問題である。保証契約における特徴的給付と
2421 は何か,この基準に基づく推定を覆し得る事情の存否を示さなければならない(通
2422 則法第8条第1項,第2項)。また,準拠法の事後的選択についても言及しなけれ
2423 ばならない(通則法第9条)。特徴的給付という基準を認識しているにもかかわら
2424 ず,この基準による推定は保証契約には機能しないとする答案が比較的多数あった。
2425 また,事後的な準拠法選択の可能性に言及しない答案もかなりあった。
2426 設問3は,法律上の債権移転は原因行為の帰結としての側面を持つことを踏まえ,
2427 移転すべき債権の準拠法の適用に対する債務者の利益を後退させるべきか否か,債
2428 務者の利益よりも本来副次的にのみ責任を負うはずであった新債権者の権利を抵触
2429 法上も優先すべきか否かを論じてほしかった。債権譲渡に関する通則法第23条が
2430 対象債権の準拠法を指定している趣旨の理解が評価の差となった。
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2433 今後の出題について
2434 今後も,狭義の国際私法,国際民事手続法及び国際取引法の各分野の基本的事項
2435 を組み合わせた事例問題を出題することになると考えられる。
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