1 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第1問)
2
3
4 全体的印象
5 ・ 途中答案が少なかったのは,
6 喜ばしいことである。
7
8 しかし,
9 他方で,
10 経年的に見
11 ると,
12 今年度の答案は,
13 解答として論述する分量が少なかったように思われる。
14
15
16 法系科目第2問と試験時間が区分けされ,
17 解答の時間配分に失敗することはないに
18 もかかわらず,
19 予測外であった。
20
21
22 ・ 内容的には,
23 判例の言及,
24 引用がなされない(少なくともそれを想起したり,
25
26 頭に置いたりしていない)答案が多いことに驚かされる。
27
28 答案構成の段階では,
29
30 要ないし基本判例を想起しても,
31 それを上手に持ち込み,
32 論述ないし主張すること
33 ができないとしたら,
34 判例を学んでいる意味・意義が失われてしまう。
35
36
37 ・ まず何よりも,
38 答案作成は,
39 問題文をよく読むことから始まる。
40
41 問題文を素直に
42 読まない答案,
43 問題文にあるヒントに気付かない答案,
44 問題と関係のないことを長
45 々と論じる答案が多い。
46
47
48 ・ 答案構成としては,
49 「自由ないし権利は憲法上保障されている,
50 しかしそれも絶
51 対無制限のものではなく,
52 公共の福祉による制限がある,
53 そこで問題はその制約の
54 違憲審査基準だ。
55
56 」式のステレオタイプ的なものが,
57 依然として目に付く。
58
59 このよ
60 うな観念的でパターン化した答案は,
61 考えることを放棄しているに等しく,
62 「有害」
63 である。
64
65
66 ・ 憲法を,
67 具体的な事例の中でどのように適用するか(活用するか)という観点か
68 らの答案が少なく,
69 一般的,
70 抽象的な憲法の知識を書き表しただけの(地に足が着
71 いておらず,
72 何が問題であるかを見抜けていない)答案が多かった。
73
74
75 ・ 今年の問題は,
76 日頃から日常生活を取り巻く法的問題に関心を持って自分でいろ
77 いろと考えをめぐらせていれば,
78 特に難しい問題ではなかったはずだが,
79 答案を見
80 ていると,
81 受験者は紙の上の勉強に偏しているのではないかという印象を持つ。
82
83
84 ・ 「原告側の主張」と「被告側の反論」において極論を論じ,
85 「あなた自身の見解」
86 で真ん中を論じるという「パターン」に当てはめた答案構成によるものが多かった。
87
88
89 そのため,
90 論述の大部分が,
91 後に否定されることを前提とした,
92 言わば「ためにす
93 る議論」の記載となっていた。
94
95 このような答案は,
96 全く求められていない。
97
98
99 ・ 問題文の中に,
100 考慮すべき事情があれこれと挙げられているのに,
101 それらを十分
102 に考慮しない答案がかなり見られた。
103
104 基本的な知識と応用力を身に付けていれば,
105
106 一通りのことを書くのは比較的容易だと思われるのに,
107 法曹になるにふさわしい水
108 準に達していない答案が多々見られたのが残念であった。
109
110
111 ・ 表現の自由が出てこない,
112 代わりに職業の自由を延々と書く,
113 また,
114 表現の自由
115 が出てきても,
116 極めて紋切型の答案に終始する,
117 プライバシーについても紋切型で,
118
119 設問の状況をよく考えずに,
120 決まり文句を繰り返すという有様で,
121 なかなか問題の
122 核心に迫らないものが多かった。
123
124
125 ・ 問題となる権利について十分な検討がなく,
126 観念的・パターン的な論述に終始し
127 ているため,
128 違憲性判断の論述の説得力も弱く,
129 論証が不十分になっているとの印
130 象を受けた。
131
132 受験者には,
133 問題文を読み込み,
134 想像力を働かせて,
135 少し条件を変え
136 てみた場合はどうかなど思考上の工夫をしながら,
137 事案の特殊性をつかみ,
138 何を重
139 点に論じるかを考えてもらいたいと感じた。
140
141
142
143 -1-
144
145
146
147 原告側の主張,
148 被告側の反論,
149 あなた自身の見解がかみ合っていない答案,
150 現実
151 離れした答案が多いと感じた。
152
153 問題点を的確に把握し,
154 それを主張・反論,
155 検討と
156 いう訴訟的な形式で整理する実力が求められるので簡単ではないが,
157 議論がかみ合
158 っているかどうか,
159 例えば,
160 主張に対して反論が有効か,
161 自身の見解がその対立点
162 を押さえた論述になっているかなどは,
163 答案構成の時点できちんと意識的に検討し
164 てほしいと感じた。
165
166
167 ・ 数は極めて限られるが,
168 ハイレベルの答案も一定数あった。
169
170 しかし,
171 法律に携わ
172 る者なら,
173 一度は関心を持ったことがあるはずの,
174 インターネット上の表現等をめ
175 ぐる問題であったにもかかわらず,
176 極めて残念な答案が多かった。
177
178 なぜ法科大学院
179 修了者の答案が基本的欠陥を多く抱えるものであるのか,
180 その原因を究明する必要
181 があると思われる。
182
183 その一つとして,
184 そもそも,
185 問題点に即応した法律の小論文を
186 書くことの訓練が不足しているのではないであろうか。
187
188 法科大学院としても,
189 ドグ
190 マから脱却し,
191 法律実務家として必須である「ペーパーを書くこと」にも力を注ぐ
192 必要があるように思われる。
193
194
195
196
197 訴訟形式
198 ・ 訴訟形式の問いに全く答えていない答案が,
199 いまだにある。
200
201 問われている訴訟形
202 式を書いていない答案の作成者は,
203 法律実務家となる資質において極めて問題があ
204 ることを自覚し,
205 勉強し直す必要がある。
206
207
208 ・ 仮に訴訟類型を判断できないとすれば,
209 必要な基本的知識が明らかに不足してい
210 るし,
211 うっかり問題文を見落とし,
212 あるいは答案に書き漏らしたのだとすれば,
213
214 曹として最低限必要な注意力を欠くものである。
215
216
217
218
219
220 憲法上の権利の制約
221 ・ 例年指摘しているように,
222 原告側の訴訟代理人は,
223 重要な憲法判例を知っており,
224
225 主要な学説も知っていると措定している。
226
227 したがって,
228 何でも主張すればよいので
229 はない。
230
231 そのような主張は,
232 「有害」でしかない。
233
234
235 ・ 論述の出発点として問題とすべき権利自由について,
236 表現の自由か営業の自由か
237 という観点で十分な問題意識を持って検討した答案が少なかったのは意外であり残
238 念。
239
240 特にインターネット上で地図とリンクさせる形で画像を提供することの意味を
241 十分に掘り下げて展開している答案が非常に少なかった。
242
243
244 ・ X社の主張で「表現の自由」を記載せず,
245 「営業の自由」あるいは「ユーザーの
246 知る権利」のみを記載する答案が,
247 相当数あった。
248
249 原告にとってどちらを主張する
250 のが望ましいかを検討する観点が欠けているように思われる。
251
252 原告の主張としてわ
253 ざわざ「弱い権利」を選択するセンスの悪さは,
254 結局のところ訴訟の当事者意識が
255 欠けていることに結び付くように思われる。
256
257
258 ・ 制約される人権として営業の自由を立てながら,
259 法令違憲の理由として,
260 「届出
261 がいけない」,
262 あるいは「営業中止がいけない」などと,
263 もっともらしい言葉を並
264 べながら述べている答案が多く見られた。
265
266 営業届や営業停止処分などは,
267 数多くの
268 業法に当然のように規定されており,
269 日常もよくニュースなどで見聞きする事柄で
270 ある。
271
272 常識に照らし合わせて自らの理論・主張を省みるという勉強態度も,
273 実務家
274 を目指す者の試験である以上,
275 必要と思われる。
276
277
278
279 -2-
280
281
282
283 国家賠償請求との関係で営業の自由侵害の主張はあり得るが,
284 その点で適切な論
285 述をした答案は皆無であった。
286
287
288 ・ 法人の人権享有主体性について長々と論じる答案が,
289 少なからずあった。
290
291
292 ・ 表現の自由に言及しているものについても,
293 ユーザーの「知る権利」を中心に論
294 じたり,
295 Z画像機能の提供が,
296 X社の「自己実現の価値に資する」とか,
297 「民主政
298 治の過程に資する」などと論じたりするものが数多く見られた。
299
300
301 ・ 「検閲」を論じているものもあった。
302
303 このことは,
304 学説と判例における検閲概念
305 を十分に理解していないことをうかがわせる。
306
307
308 ・ 「表現の自由は,
309 精神的自由なので裁判所の審査になじむ」という記述が多く見
310 られた。
311
312 しかし,
313 この議論は,
314 「精神的自由以外の人権制約は裁判所の司法審査に
315 なじまない」という命題を認めない限り成り立たないおかしな議論である。
316
317 司法権
318 の限界についての無理解からきていると思われる。
319
320
321 ・ 表現の自由を述べているのに,
322 違憲審査基準の展開に終始し,
323 問題文のヒントに
324 気付かず,
325 実質的な,
326 本件での表現の自由とプライバシーの権利の相克を書かない
327 薄い答案も目立った。
328
329 この手の答案は結局「実質的な関連性」などという抽象的な
330 テクニカルタームを示して中身のない結論で終わっている。
331
332 その原因は,
333 権利をカ
334 テゴライズすると自動的に基準とか優劣が決まると思い込んでいることにあるよう
335 に思われる。
336
337 本件における表現の自由と本件におけるプライバシーの権利の調整と
338 いう,
339 事案に即した検討を行って,
340 事案を解決するという意識が足りない。
341
342
343 ・ 設問の事案に即して,
344 情報提供の自由とプライバシーの権利との調整について,
345
346 インターネットの特性を配慮しながら綿密に論じる答案も,
347 数は少なかったがあっ
348 た。
349
350
351 ・ インターネットによる地図検索システムの提供という権利について,
352 表現の対象
353 が個人情報も多く含まれる地図に関する情報・事実であること,
354 伝達手段がインタ
355 ーネットであることなど,
356 その権利の性質を,
357 典型的な表現の自由と対比させつつ,
358
359 いかに具体的に論理的な考察や検討を展開するかによって,
360 答案の迫力に明らかな
361 差が出てきていた。
362
363 報道の自由と比較しつつ,
364 情報・事実の伝達という点で共通す
365 る一方,
366 それぞれの目的や自己統治の価値との関連性の程度等に差異があることに
367 触れているものや,
368 インターネットにおいては送り手と受け手の立場に互換性があ
369 ること,
370 インターネット特有の利便性があること,
371 それゆえに容易に二次的利用等
372 による弊害が拡大するおそれがあること等を丁寧に論じているものは,
373 平素から正
374 しい方向性をもって学習が進められ,
375 出題の意図を正確に理解しているものと感じ
376 られた。
377
378
379
380
381 想定される被告側の反論
382 ・ 被告側の反論が全く論じられていない答案もあった。
383
384 問題文をきちんと読んでい
385 ないことがうかがえる。
386
387
388 ・ 被告側の反論を書く際に,
389 「検察官」と書いた答案も散見された。
390
391 そもそも,
392
393 政事件で被告と検察官とを取り違えること自体,
394 知識面でも求められる最低限の水
395 準に達していないと言うほかない。
396
397
398 ・ 「被告側の反論」の想定を求めると,
399 判で押したように,
400 独立の項目として「反
401 論」を羅列する傾向が見られる。
402
403 むしろ「あなた自身の見解」の中で,
404 自らの議論
405
406 -3-
407
408 を展開するに当たって,
409 当然予想される被告側からの反論を想定してほしいのにも
410 かかわらず,
411 ばらばらな書き方をするために,
412 かえって論理的な記述ができなくな
413 っている(あるいは,
414 非常に論旨が分かりづらくなっている)という傾向が顕著に
415 なっている。
416
417
418
419
420 法令違憲と処分(適用)違憲
421 ・ 法令違憲と処分違憲の書き分けは一般的になってきたが,
422 正確に内容を理解した
423 上できちんと書き分けている答案は余り多くなかった。
424
425
426 ・ 法令違憲を論ずるに際して,
427 立法事実に照らして法令の規定がどうか,
428 というこ
429 とではなく,
430 Xの個別事情をもって論ずる答案が目に付いた。
431
432 これは,
433 法令違憲と
434 処分違憲とを混同しているものと考えられるが,
435 両者を論じる際の考慮事由の差違
436 をきちんと押さえる必要がある。
437
438
439 ・ 処分違憲の審査で,
440 法律適用の合法性,
441 妥当性のみを論じる答案が今年も多かっ
442 た。
443
444 憲法との関係を論じないと,
445 合憲性審査を行ったことにならない。
446
447 本問では,
448
449 「生活ぶりがうかがえるような画像」の公表を禁じることの合憲性をきちんと論じ
450 る必要がある。
451
452 例えば,
453 中止命令まで行うことは過剰な規制であるという主張も,
454
455 これだけでは処分審査を行ったことにはならない。
456
457
458
459
460
461 明確性の原則
462 ・ 法文の「明確性」を観念的・一般的に論じる答案が,
463 かなり見受けられた。
464
465 本件
466 の法律の規定は,
467 個人情報保護法や個人情報保護条例に一般に見られる規定である。
468
469
470 常識に照らし合わせて自らの理論・主張を省みるという勉強態度も,
471 実務家を目指
472 す者の試験である以上,
473 必要と思われる。
474
475
476 ・ 「明確性の基準」について指摘するものの,
477 第31条の問題としてのみ取り上げ,
478
479 「表現の自由」そのものにおいて論じない答案が多かった。
480
481 基本的な理解が至らな
482 いためか,
483 そうでなければ,
484 通り一遍(型どおり)の知識の詰め込みと吐き出しに
485 なっているのか,
486 法科大学院での授業内容を自省せざるを得なかった。
487
488
489
490
491
492 事案の内容に即した個別的・具体的検討の必要性(パターン的当てはめの有害性)
493 ・ 最初から終わりまで違憲審査基準を中心に書きまくるという傾向はますます強ま
494 っているように感じられる。
495
496 最初にこの状況で適用されるべき違憲審査基準は何か
497 を問い,
498 この場合は厳格な(あるいは緩やかな)基準でいく,
499 と判断すると,
500 後は
501 「当てはめ」と称して,
502 ほとんど機械的に結論を導く答案が非常に目に付く。
503
504
505 ・ 原告の主張を展開すべき場面で,
506 違憲審査基準に言及する答案が多数あった。
507
508
509 憲審査基準の実際の機能を理解していないことがうかがえるとともに,
510 事案を自分
511 なりに分析して当該事案に即した解答をしようとするよりも,
512 問題となる人権の確
513 定,
514 それによる違憲審査基準の設定,
515 事案への当てはめ,
516 という事前に用意したス
517 テレオタイプ的な思考に,
518 事案の方を当てはめて結論を出してしまうという解答姿
519 勢を感じた。
520
521 そのようなタイプの答案は,
522 本件事例の具体的事情を考慮することな
523 く,
524 抽象的・一般的なレベルでのみ思考して結論を出しており,
525 具体的事件を当該
526 事件の具体的事情に応じて解決するという法律実務家としての能力の基礎的な部分
527 に問題を感じざるを得ない。
528
529
530
531 -4-
532
533
534
535 観念的・抽象的・パターン的「当てはめ」という解答姿勢を取る受験者の心理は,
536
537 一種守りの姿勢で,
538 受験生心理としては分からなくはないものの,
539 「事例に迫る」
540 意気込みを感じないものであって,
541 司法試験で事例を基に憲法問題を問うという出
542 題の根本理念を失わせるものであり,
543 極めて不適切であり,
544 「有害」である。
545
546
547 ・ 求められているのは,
548 「事案の内容に即した個別的・具体的検討」である。
549
550 あし
551 き答案の象徴となってしまっている「当てはめ」という言葉を使うこと自体をやめ
552 て,
553 平素から,
554 事案の特性に配慮して権利自由の制約の程度や根拠を綿密に検討す
555 ることを心掛けてほしい。
556
557
558
559
560 合憲性の検討
561 ・ 原告,
562 被告の主張を戦わせるのに,
563 表現の自由とプライバシーとの実体的な関係
564 について論じないで,
565 審査密度の濃淡だけで優劣を論じているものがあった。
566
567 違憲
568 審査基準論を振り回すだけの形式論では説得力が生まれないことに気付くべきであ
569 る。
570
571
572 ・ 目的手段審査にとらわれず,
573 両者の人権価値が本問においてどのように衝突して
574 いるのかを具体的に分析し,
575 解決を見いだそうとする優れた答案も少なからずあっ
576 た。
577
578 しかし,
579 他方で,
580 具体的な分析ができているにもかかわらず,
581 結論に近づいた
582 ところで,
583 急に審査基準のパターンを持ち出したために争点から遊離して説得力を
584 失う答案も見受けられた。
585
586
587 ・ 立法目的の正当性を肯定するのに「やむにやまれぬ政府利益」や「必要不可欠な
588 公益」を挙げているものがあったが,
589 本件における対立利益は個人のプライバシー
590 であって「政府利益」や「公益」ではない。
591
592 そのほかにも立法事実の分析が安易で,
593
594 立法目的の設定に恣意的なものが目立った。
595
596
597 ・ システムの提供により個人情報が公にされ,
598 プライバシーや肖像権の侵害の問題
599 が生じることから,
600 表現の自由との間で,
601 憲法上の権利衝突の調整について検討す
602 べき必要があることは容易に気付くことができたと思われるが,
603 参考資料に掲げた
604 仮想の法律が見慣れないものだったためか,
605 抽象的な法律の文言等の問題にとらわ
606 れて,
607 論点を見極めた十分な検討ができていないものが相当数あった。
608
609
610 ・ プライバシー侵害についても,
611 決まり文句のように,
612 プライバシー権は一度侵害
613 されたら回復不能であるから保護の必要性が強いなどと記載し,
614 本問では一度侵害
615 された後の中止が問題となっていることとの整合性を顧みていないかのような答案
616 も多かった。
617
618
619 ・ 「人の顔や表札など特定個人を識別することのできる情報」についてはマスキン
620 グする一方,
621 「家の中の様子など生活ぶりがうかがえるような画像」については,
622
623 法で具体的に明記されていないとして修正しなかったという問題文中の記述から,
624
625 後者の画像に焦点を当てて,
626 個人権利利益侵害情報としてこれが保護の対象に含ま
627 れるかどうかの検討を求めていることは理解できよう。
628
629 その際,
630 法律上の規定の文
631 言のみならず,
632 当該画像が公道で撮影されたもので,
633 カメラの高さ制限は守られて
634 いることなどに留意しつつ,
635 生活ぶりがうかがえる画像としてどのようなものが映
636 し出されるのかを具体的に想定した上で,
637 特定個人の識別はされないとしても少な
638 くともどの家に居住している人の情報であるかが明らかな状況下で,
639 この画像が公
640 になることにより,
641 具体的にどのような権利利益に影響が及び,
642 どのような被害が
643
644 -5-
645
646 生じる危険性があるのかなどを,
647 インターネットの特性をも踏まえながら丁寧に論
648 じることが求められる。
649
650
651
652
653 答案の書き方に関する一般的な注意
654 ・ 常に多くの文字数分も行頭を空けていて(さらには行末も空けている答案もあ
655 る。
656
657 ),
658 1行全てを使っていない答案が,
659 多く見受けられた。
660
661 答案は,
662 レジュメでも
663 レポートでもない。
664
665 法科大学院の授業で,
666 判決原文を読んでいるはずである。
667
668 それ
669 と同様に,
670 答案も,
671 1行の行頭から行末まできちんと書く。
672
673 行頭を空けるのは改行
674 した場合だけであり,
675 その場合でも空けるのは1文字分だけである。
676
677
678 ・ 採点者は一生懸命読み取るように努力をしているが,
679 悪筆や癖字,
680 さらには,
681
682 が細かったり薄かったりして,
683 非常に読みにくい答案が少なくない。
684
685 もちろん,
686
687 筆でなければならない,
688 ということではない。
689
690 しかし,
691 平素から,
692 答案は読まれる
693 ために書くものという意識を持って,
694 書く練習をしてほしい。
695
696
697
698 -6-
699
700 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(公法系科目第2問)
701
702
703
704
705 出題の趣旨
706 別途公表している「出題の趣旨」を,
707 参照いただきたい。
708
709
710 採点方針
711 採点に当たり重視していることは,
712 @事案を正確に把握し,
713 問いに対して的確に答
714 え,
715 解釈論のみならず立法論についても基礎的な知識を活かして相応の言及をするこ
716 とのできる応用能力を有しているか,
717 A法的な論述に慣れ,
718 分かりやすく,
719 かつ,
720
721 験者の思考の跡を採点者が追うことができるような文章を書いているか,
722 という点で
723 ある。
724
725 決して知識の量に重点を置くものではない。
726
727
728
729 3 答案に求められる水準
730 (1) 設問1
731 最高裁による原告適格の一般的な判断基準を引用し,
732 法律がある利益を専ら一般
733 的公益として保護しているのか,
734 個々人の個別的利益としても保護しているのかと
735 いう点が問題になりやすいことを,
736 一般論として記述しているだけの答案について
737 は,
738 一応の水準の答案と判定した。
739
740 この問題に焦点を当てて本件のX1・X2の利
741 益ないし不利益を具体的に分析し,
742 原告適格を論じることができているかどうかで,
743
744 優秀度ないしは良好度の高さを判定した。
745
746
747 また,
748 行政事件訴訟法第9条第2項に言及し,
749 関係する省令と通達の定めを,
750
751 ら同項にいう法律の「関係法令」に当たるか否かという観点から検討し,
752 平板に羅
753 列するだけの答案については,
754 一応の水準の答案と判定した。
755
756 行政事件訴訟法第9
757 条第2項の規定に従って原告適格を検討する判断枠組みを正確に理解し,
758 処分要件
759 を定める法律と省令の規定との関係,
760 処分要件を定める省令の規定と申請書類を定
761 める省令の規定との関係,
762 処分要件を定める省令の規定とその解釈を示す通達との
763 関係,
764 さらに,
765 法律と地元同意を定める通達との関係を,
766 それぞれ正確に分析して
767 原告適格論と結び付けて論じているかどうかで,
768 優秀度ないしは良好度の高さを判
769 定した。
770
771 検討に当たっては,
772 まず,
773 「処分の根拠となる法令の規定」として,
774 モー
775 ターボート競争法第5条及びその委任を受けた同法施行規則第12条,
776 第11条の
777 規定を確認し,
778 次に,
779 「当該法令の趣旨及び目的」として同法第1条等からうかが
780 われる同法の趣旨・目的を検討し,
781 さらに,
782 同法と目的を共通にする関連法令が存
783 在するならば,
784 その趣旨・目的を参酌することが不可欠である。
785
786
787 (2) 設問2(1)
788 取消措置(処分)の差止め訴訟を正確に挙げていれば一応の水準の答案,
789 もう一
790 つ検討に値する訴訟を挙げていれば良好な答案,
791 差止め訴訟の適法性及び実効性を,
792
793 他の訴訟と比較する形で論理的・説得的に論じていれば,
794 優秀な答案とした。
795
796
797 (3) 設問2(2)
798 本件許可に関して法律が行政庁のどのような判断について裁量を認めている可能
799 性があるかを,
800 法律の文言及び趣旨・目的を正確に把握した上で検討できているか
801 どうか,
802 地元同意を求める行政手法の意義と問題点を論じているかどうか,
803 そして,
804
805 本件許可の取消しの適法性を論じる際に,
806 考慮すべき要素・事情を的確に挙げてい
807
808 -7-
809
810 るかどうかに着目して,
811 優秀度ないしは良好度の高さを判定した。
812
813
814 加えて,
815 「法律は許可をしない行政裁量を認めている」,
816 「通達は直接には外部に
817 対し拘束力をもたない」,
818 「行政指導には限界がある」といった諸命題を,
819 どの程度
820 まで適切に関係付けて論じることができているかに着目して,
821 優秀度ないしは良好
822 度の高さを判定した。
823
824 法律とそれを適用するための通達との関係を明確にさせない
825 まま,
826 「(法律は不許可処分を行う行政裁量を認めているが,
827 )通達には外部に対す
828 る拘束力がないので,
829 行政庁が通達に従うように求めるには行政指導しかできない
830 ところ,
831 行政指導に従わない者に対し不許可処分ないし許可取消処分を行うことは
832 違法である。
833
834 」と帰結するにとどまる答案は,
835 一応の水準の答案と判定した。
836
837
838 (4) 設問3
839 条例の実効性を確保するための具体的な手段を提案できていること,
840 住民,
841 利害
842 関係者,
843 専門家等の参加する協議会,
844 審議会等の利害調整手続を構想できているこ
845 と,
846 法律と条例の抵触可能性を指摘できていることについて,
847 全て論じてあれば優
848 秀な答案と判定し,
849 一部欠けている答案は良好なものとして評価した。
850
851
852
853
854 採点実感
855 以下は,
856 考査委員から寄せられた主要な意見をまとめたものである。
857
858
859 (1) 全体的印象
860 ・ 字の上手・下手は関係ないが,
861 読みやすさは大切であり,
862 書きなぐった感じの
863 乱雑な(特に乱雑かつ小さい文字を多用している)答案は,
864 読解に非常に難渋し
865 た。
866
867 採点者が判読困難な答案を作成することのないよう,
868 受験者には改善を求め
869 たい。
870
871
872 ・ 問題文,
873 資料,
874 設問を正確に読んでいない答案,
875 何を聞かれているのか理解し
876 ていないまま解答をしている答案が見られた。
877
878
879 ・ 全体として,
880 問題に素直に取り組んで自分の考えを論理的に述べるものが極め
881 て少なく,
882 問題に関係のありそうな事項の記述をランダムに並べるようなものが
883 目立った。
884
885
886 ・ 特定の設問に力を入れすぎて,
887 時間不足になったと思われる答案や,
888 各設問の
889 分量バランスが悪い答案が見受けられた。
890
891 設問1,
892 同2(1)はよく書けている
893 が,
894 設問2(2),
895 同3の順に記述の分量及び質が落ちていく傾向が見られた。
896
897
898 ・ 多角的に検討を要する論点が多かったため,
899 高得点を得るためには,
900 理解力や,
901
902 論理的に論述を展開する能力がかなり求められていたように感じられた。
903
904
905 ・ 論旨が一貫しない答案が少なくない。
906
907 例えば,
908 原告適格の箇所では全く又はほ
909 とんど説明なしに通達が「関係法令」に当たるとしながら,
910 職権取消しの箇所で
911 は通達の内部規範性ばかりを強調する答案などである。
912
913
914 ・ 受験者の得点が高得点から低い点数まで広く分布するなど,
915 行政法に関する受
916 験者の実力を測ることができた問題であったと考える。
917
918
919 ・ 今回の問題は,
920 資料1(会議録)にも明示して指摘されているモーターボート
921 競争法第5条の規定による許可の特殊性(「刑法第187条の富くじに当たるも
922 のの発売等を適法にする法制度である点が,
923 通常の事業の許認可とは違う」)の
924 理解の深さが,
925 採点結果に如実に反映されるところとなった。
926
927
928 (2) 設問1
929
930 -8-
931
932
933
934 原告適格の定式まではよく覚えているものの,
935 それに基づく具体的な判断の手
936 法を理解していないと思われ,
937 各法令や通達等の位置付けを説明せず,
938 ただ羅列
939 して強引に結論に至っている答案も多かった。
940
941
942 ・ モーターボート競走法の規定の趣旨,
943 目的にもほとんど言及せず,
944 いきなり通
945 達が「関係法令」に含まれるとした上,
946 問題文の具体的な事情(本件施設の規模,
947
948 開場日数,
949 時間帯,
950 距離など)については一切言及しないまま,
951 簡単に原告適格
952 の有無を判断するなど,
953 法的思考能力に疑問を感じさせる答案もあった。
954
955
956 ・ 用語に関する基本的な誤解が目立つ。
957
958 例えば,
959 @行政処分の根拠法令に属する
960 省令の規定をも,
961 行政事件訴訟法第9条第2項にいう「関係法令」の一つに挙げ
962 る答案,
963 A法科大学院が,
964 「文教施設」ないしは学校教育法第1条にいう「大学」
965 に属さないと述べる答案などである。
966
967
968 ・ 多くの答案が一定のレベルまでは論じられるような問題で高得点を得るために
969 は,
970 更に深い理解が必要となる。
971
972 例えば,
973 X1とX2について,
974 それぞれの保護
975 の対象となり得る利益について正確に書けている答案は思いの外少なく,
976 特に,
977
978 X1については,
979 学生の学習する権利のみを論じているものなども見られた。
980
981
982 ・ 法令(すなわちモーターボート競走法及び同法施行規則)と通達の違いを考慮
983 せずに,
984 通達について当然に規則と同様に関係法令に該当するとして論じる答案
985 が目立った。
986
987
988 ・ 通達が法や規則の合理的な解釈を前提として発出されているものである限り,
989
990 根拠法令の解釈の参考となることは当然であるにもかかわらず,
991 「法令」ではな
992 いから一切考慮しないとする答案が比較的多く見られた。
993
994
995 ・ モーターボート競争法が一定の範囲で処分の相手方以外の者の原告適格を肯定
996 する趣旨であると解する答案の中には,
997 距離に言及する同法施行規則第11条第
998 2項の規定から直ちに結論を導くものが見られた。
999
1000
1001 ・ 原告適格と本案の関係が整理できていない答案が目立った。
1002
1003
1004 (3) 設問2(1)
1005 ・ 訴訟要件を満たすかという観点からの検討が見当たらない答案,
1006 「比較検討」
1007 がなされていない答案が見られた。
1008
1009
1010 ・ 確認訴訟については,
1011 意味を見いだし難い確認訴訟の答案が散見された。
1012
1013
1014 ・ 訴えの候補例を二つ挙げての比較を求められた場合において,
1015 一つは合理的な
1016 例でも,
1017 もう一方に解答者自身も直ちに消極評価するような例を持ち出して,
1018
1019 然に前者を良しとするのは,
1020 一般的に言って適切ではない。
1021
1022
1023 ・ 「取消措置を受けるおそれを除去する」というAの目的を実現するに適した訴
1024 訟として,
1025 いきなり国家賠償訴訟を挙げる答案などが見受けられたのは意外であ
1026 った。
1027
1028
1029 ・ 「取消措置を受けるおそれを除去するには,
1030 」という問題文であるにもかかわ
1031 らず,
1032 「取消措置の取消訴訟」を挙げていた例も見られた。
1033
1034 また,
1035 「仮の救済は,
1036
1037 考慮しなくてよい。
1038
1039 」と問題文に付記したにもかかわらず,
1040 仮の差止めができる
1041 かどうか等を選択の根拠に挙げている例もあった。
1042
1043
1044 (4) 設問2(2)
1045 ・ 問題文及び会議録等を分析して,
1046 質問のポイントを押さえて素直に答えていく
1047 姿勢であれば,
1048 自ずから比較的高得点が得られるものであるが,
1049 知識の量はうか
1050
1051 -9-
1052
1053 がわれるのに,
1054 会議録等を十分に考慮せずに自分の書きたいことを書いているた
1055 め,
1056 相対的に低い得点にとどまっている答案が少なくなかった。
1057
1058
1059 ・ 自治会の同意について申請時の許可要件とすることができるかという観点から
1060 の検討自体が全くなされていない答案が予想以上に多かった。
1061
1062 また,
1063 自治会の同
1064 意を考慮するのは他事考慮だから違法と安易に結論付ける答案が多く,
1065 自治会の
1066 同意を求める手法の意義と問題点について実質的に検討された答案は少なかった。
1067
1068
1069 ・ 国土交通大臣がAに対し執り得る措置の範囲ないし限界を検討することが求め
1070 られているにもかかわらず,
1071 取消措置が他事考慮だから違法とするだけで,
1072 国土
1073 交通大臣がいかなる措置を執り得るのかについて検討されていない答案が見られ
1074 た。
1075
1076
1077 ・ 省令の基準以外の理由で許可を拒否することができるかという問題と,
1078 職権取
1079 消の可否,
1080 行政指導の限界という三つの問題の相互関係が的確に整理できている
1081 かどうかで大きく差がついた印象がある。
1082
1083
1084 ・ 許可不許可の裁量を認める根拠がどこにあるのか,
1085 その限界についてどう考え
1086 るのかといった点について,
1087 「丁寧」に論述することが求められているのに,
1088
1089 量の有無などにも触れないで答えを導こうとする答案もあった。
1090
1091
1092 ・ 周辺自治会等の同意を求める行政手法について検討した答案は少数であり,
1093
1094 れに言及する答案においても当該手法の問題点にまで触れたものは少数であった。
1095
1096
1097 ・ 申請に係る許可を拒否する処分が行政手続法上の「不利益処分」に当たるとの
1098 前提に立つ答案が見られた(同法第2条第4号ロ参照)。
1099
1100
1101 ・ 少数ながら,
1102 感心させられるほど優秀な答案もあった。
1103
1104
1105 (5) 設問3
1106 ・ 時間切れとなっている答案を除き,
1107 実効性確保,
1108 利害調整ともに豊かな着想か
1109 ら設問に食らいついた答案が相当数あり,
1110 好印象だった。
1111
1112
1113 ・ 比較的多くの受験者が,
1114 条例に盛り込むべき事項を複数挙げており,
1115 その内容
1116 もおおむね正解に近いものであって,
1117 全体的な印象は悪くなかったが,
1118 法的な問
1119 題点に関しては,
1120 憲法第94条の条文すら挙げていないものも散見され,
1121 問題の
1122 所在を正確に理解しているか疑わしい答案も少なくなかった。
1123
1124
1125 ・ 立法論的な理解が要求されるものであり,
1126 解答に戸惑った者も少なくなかった
1127 のではないかと思われる。
1128
1129 解答に当たって,
1130 具体的な規定について思い描けたか
1131 どうかで差の付いたものとなったようである。
1132
1133
1134 ・ 自主条例(独自条例)と委任条例との相違を十分に理解できていない答案が目に
1135 付いた。
1136
1137 現実の条例に余り接したことがないのではないかという印象を受けた。
1138
1139
1140 ・ 「事業者に対して実効性を持ち」,
1141 「住民及び事業者の利害を適切に調整できる
1142 ようにするため」の「@Aの規定以外」の規定を聞かれているにもかかわらず,
1143
1144 問題の趣旨を理解せず,
1145 @Aをなぞった規定を書いたり,
1146 求められている要請と
1147 の関係に触れることなく,
1148 他に定め得る規定(外観や高さの制限,
1149 地域指定等)
1150 を挙げたりしていた答案が散見された。
1151
1152
1153
1154
1155 今後の法科大学院教育に求めるもの
1156 行政実体法について自分で論理を組み立てる能力,
1157 及びその前提となる行政法総論
1158 に関する正確な理解を,
1159 身に付けられるような教育が法科大学院に求められる。
1160
1161
1162
1163 - 10 -
1164
1165 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第1問)
1166
1167
1168 出題の趣旨等
1169 出題の趣旨及び狙いは,
1170 既に公表した出題の趣旨(「平成23年新司法試験論文式
1171 試験問題出題趣旨【民事系科目】〔第1問〕」)のとおりである。
1172
1173
1174
1175
1176
1177 採点方針
1178 採点に当たっては,
1179 従来と同様,
1180 受験者の能力を多面的に測ることを目指した。
1181
1182
1183 1に,
1184 民法上の基本的な問題についての理解が確実に行われているかどうかを確かめ
1185 ることとした。
1186
1187 第2に,
1188 単に知識を確認するだけでなく,
1189 掘り下げた考察をしてそれ
1190 を明確に表現する能力,
1191 論理的に一貫した考察を行う能力,
1192 及び,
1193 具体的事実を注意
1194 深く分析した上で法的観点から評価する能力を確かめることとした。
1195
1196 第3に,
1197 基本的
1198 な問題の背後にあるより高度な問題に気が付いて,
1199 それに取り組む答案があれば,
1200
1201 のことを積極的に評価することとした。
1202
1203 これらを実現するために,
1204 1つの設問に複数
1205 の採点項目を設け,
1206 採点項目ごとに適切な考察が行われているかどうか,
1207 その考察が
1208 どの程度適切なものかに応じて点数を与えることとした。
1209
1210
1211 さらに,
1212 複数の論点について表面的に言及する答案よりも,
1213 一つの論点について考
1214 察の重要箇所において周到確実な答案や創意工夫に富む答案が,
1215 法的思考能力の優れ
1216 ていることを示していると考えられることがある。
1217
1218 そのため,
1219 採点項目ごとの評価に
1220 加えて,
1221 答案を全体として評価し,
1222 論述の緻密さ周到さの程度や構成の明快さの程度
1223 に応じても点数を与えることとした。
1224
1225 これらにより,
1226 ある設問について考察力や法的
1227 思考力の高さが示されている答案には,
1228 別の設問について必要なものの一部の検討が
1229 なく,
1230 そのことにより知識や理解の不足を露呈していたとしても,
1231 高い評価を与える
1232 ことができるようにした。
1233
1234 また反対に,
1235 論理的に矛盾する構成をするなど積極的なミ
1236 スが著しい答案については,
1237 低く評価することとした。
1238
1239 なお,
1240 全体として適切な得点
1241 分布が実現することを心掛けた。
1242
1243
1244
1245
1246
1247 採点実感
1248 採点実感として,
1249 新司法試験考査委員会議申合せ事項にいう「優秀」,
1250 「良好」,
1251 「一
1252 応の水準」及び「不良」の4つの区分に照らすと,
1253 例えばどのような答案がそれぞれ
1254 の区分に該当するかについて,
1255 設問ごとに示すと以下のとおりとなる。
1256
1257
1258 ただし,
1259 これらは各区分に該当する答案の例であって,
1260 これらのほかに各区分に該
1261 当する答案はあり,
1262 それらは多様である。
1263
1264 なお,
1265 以下で用いる「適切に答える」,
1266 「適
1267 切な解答」,
1268 「適切に検討する」及び「適切な検討」については,
1269 既に公表した出題の
1270 趣旨(上記「1 出題の趣旨等」参照)を参照されたい。
1271
1272
1273 (1) 設問1について
1274 採点実感からは,
1275 次のようになる。
1276
1277
1278 優秀に該当する答案の例は,
1279 小問(1)と小問(2)について,
1280 いずれも適切に
1281 答えているものである。
1282
1283 良好に該当する答案の例は,
1284 小問(1)について適切に答
1285 えるものの,
1286 小問(2)についてAがした敷金返還請求権の放棄が敷金返還債務の
1287 免除であると捉え,
1288 それが債権者Cの債権を害するものであるとしながら,
1289 民法第
1290 424条が定める詐害行為取消しの他の要件について検討を行っていないものであ
1291
1292 - 11 -
1293
1294 る。
1295
1296 一応の水準に該当する答案の例は,
1297 小問(1)について適切に答えるものの,
1298
1299 小問(2)について適切な解答がないものである。
1300
1301 不良に該当する答案の例は,
1302
1303 問(1)の一部(例えば,
1304 Bの受益及びCの損失)について適切に答えるものの,
1305
1306 その他(例えば,
1307 Bの受益とCの損失との間の因果関係及びBの受益が法律上の原
1308 因を欠くこと)については適切な解答がなく,
1309 また,
1310 小問(2)について適切な解
1311 答がないものである。
1312
1313
1314 小問ごとについての成績は,
1315 小問(1)については,
1316 良好から一応の水準の程度
1317 の答案が多くあったのに対して,
1318 小問(2)については,
1319 不良の答案が多くあった。
1320
1321
1322 なお,
1323 小問(2)については,
1324 【事実】の中の「A及びFは,
1325 Fに対する敷金返還
1326 請求権をAが放棄することを相互に確認した」ことに着目するものの,
1327 詐害行為取
1328 消しには一切触れず,
1329 したがって,
1330 それに関係付けることをせずに,
1331 単に敷金返還
1332 請求権は放棄されているため債権者代位(民法第423条)により行使することは
1333 できないと解答する答案があり,
1334 また,
1335 設問の中において,
1336 「Cは,
1337 不当利得返還
1338 請求以外の方法によって,
1339 Fから,
1340 ・・・回収することを考えた」と説明され,
1341
1342 当利得返還請求については解答する必要がないことが指示されているにもかかわら
1343 ず,
1344 不当利得返還請求について解答する答案があり,
1345 これらはいずれも低い評価と
1346 せざるを得なかった。
1347
1348
1349 (2) 設問2について
1350 採点実感からは,
1351 次のようになる。
1352
1353
1354 優秀に該当する答案の例は,
1355 将来債権売買契約の売主は買主に対してどのような
1356 義務を負うかについて適切に答えるとともに,
1357 債務不履行を理由とした解除の根拠
1358 となる法律の規定を指摘し,
1359 その規定が定める要件の充足について適切に検討した
1360 上で,
1361 解除の可否について結論を述べるものである。
1362
1363 良好に該当する答案の例は,
1364
1365 将来債権売買契約の売主は買主に対してどのような義務を負うかについて適切に答
1366 えるものの,
1367 債務不履行を理由とした解除の根拠となる規定(例えば,
1368 民法第54
1369 3条)が定める要件のうち一部(例えば,
1370 履行の全部又は一部の不能)について検
1371 討をするが,
1372 その他の要件(例えば,
1373 債務の不履行が債務者の責めに帰することが
1374 できない事由によるものであるとき)についての検討を欠くものである。
1375
1376 一応の水
1377 準に該当する答案の例は,
1378 将来債権売買契約の売主は買主に対してどのような義務
1379 を負うかについて適切に答えるものの,
1380 債務不履行を理由とした解除の根拠となる
1381 規定を指摘せず,
1382 したがって,
1383 解除をすることができる要件の充足についての検討
1384 を欠くものである。
1385
1386 不良に該当する答案の例は,
1387 将来債権売買契約の売主は買主に
1388 対してどのような義務を負うかについて適切な解答がなく,
1389 債務不履行を理由とし
1390 た解除の根拠となる規定を指摘せず,
1391 したがって,
1392 解除をすることができる要件の
1393 充足についての検討を欠くものである。
1394
1395
1396 設問2については,
1397 良好,
1398 一応の水準及び不良の答案がそれぞれ一定程度あった。
1399
1400
1401 なお,
1402 一部の答案には,
1403 将来債権売買契約の売主は買主に対してどのような義務を
1404 負うかについての検討と,
1405 債務不履行を理由とした解除の根拠となる規定が定める
1406 要件の充足についての検討とが一貫しないものがあり,
1407 一貫したものと比較して低
1408 い評価を与えた。
1409
1410
1411 (3) 設問3について
1412 採点実感からは,
1413 次のようになる。
1414
1415
1416
1417 - 12 -
1418
1419 優秀に該当する答案の例は,
1420 小問(1)と小問(2)について,
1421 いずれも適切に
1422 答えているものである。
1423
1424 良好に該当する答案の例は,
1425 小問(1)について,
1426 Hが損
1427 害賠償を請求する相手方として,
1428 間接占有者であり所有者であるF及びエレベータ
1429 ー設備の更新工事をした請負人であるDを取り上げて適切な検討を行うが,
1430 直接占
1431 有者であるAを取り上げず,
1432 小問(2)について,
1433 適切な解答をするものである。
1434
1435
1436 一応の水準に該当する答案の例は,
1437 小問(1)について,
1438 Hが損害賠償を請求する
1439 相手方として,
1440 エレベーター設備の更新工事をした請負人であるDを取り上げて適
1441 切な検討を行うが,
1442 直接占有者であるA及び間接占有者であり所有者であるFを取
1443 り上げず,
1444 小問(2)について,
1445 適切な解答をするものである。
1446
1447 不良に該当する答
1448 案の例は,
1449 小問(1)について適切な検討をしないが,
1450 小問(2)については適切
1451 に解答するものである。
1452
1453
1454 小問ごとについての成績は,
1455 小問(1)については,
1456 良好,
1457 一応の水準及び不良
1458 の答案がそれぞれ一定程度あったのに対して,
1459 小問(2)については,
1460 良好から一
1461 応の水準の程度の答案が多くあった。
1462
1463 なお,
1464 一部の答案には,
1465 民法第717条が定
1466 める土地の工作物に関する占有者の責任と所有者の責任の関係を明らかにした上で,
1467
1468 直接占有者であるAについての検討と,
1469 間接占有者であり所有者であるFについて
1470 の検討を適切に関係付けて行うものがあった。
1471
1472 そうでない答案と比較して高い評価
1473 を与えた。
1474
1475
1476
1477
1478 採点をした後の考査委員の感想
1479 本年の民法の考査委員は,
1480 採点をした後,
1481 次のような感想を抱いた。
1482
1483
1484 まず,
1485 基本的な知識についての正確な理解に基づけば,
1486 高い評価を得る答案は可能
1487 であり,
1488 低い評価しか得られない答案には,
1489 知識不足がうかがわれた。
1490
1491 問われている
1492 問題を解くために適切な法律構成を探し出すことができない答案は,
1493 知識不足が原因
1494 だろうと思われる。
1495
1496
1497 また,
1498 法律の規定に沿って要件を明らかにし,
1499 問題文の【事実】の中から要件に当
1500 てはまる具体的事実を拾い上げることができると高い評価が得られ,
1501 これに対して,
1502
1503 要件について論述するものの,
1504 それに具体的事実を関係付けることをしない答案に対
1505 する評価は,
1506 低くならざるを得なかった。
1507
1508 また,
1509 具体的な事実が要件を充足するかど
1510 うかの論述があるものの,
1511 丁寧さに欠ける答案は,
1512 低い評価となり,
1513 反対に,
1514 この点
1515 を丁寧にかつ的確に論ずるものには,
1516 高い評価が与えられた。
1517
1518 問われている問題を解
1519 くために適切な法律構成を把握しながら,
1520 要件について,
1521 又は,
1522 具体的な事実が要件
1523 を充足するかどうかについて,
1524 必要な論述をしていないものは,
1525 低い評価となった。
1526
1527
1528 これらからは,
1529 法律の規定に則し,
1530 【事実】に基づき,
1531 要件に充足するかどうかを検
1532 討し判断するという基本的な作業を習得できているかどうか,
1533 又どの程度習得できて
1534 いるかによって評価が分かれることになったと考えられる。
1535
1536
1537 さらに,
1538 【事実】を正確に読み,
1539 〔設問〕で何が問われているかを正確に理解してい
1540 る答案には高い評価が得られ,
1541 そうではない答案は低い評価となることも全体的な傾
1542 向として指摘することができる。
1543
1544
1545 本年の民事系科目〔第1問〕のように,
1546 複数の設問によって構成されていて,
1547 各設
1548 問の配点の割合が示されている場合(本年は,
1549 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点
1550 の割合は,
1551 4:3:3であった。
1552
1553 ),
1554 受験者は,
1555 各設問に対応する解答の分量を考える
1556
1557 - 13 -
1558
1559 とき,
1560 この配点の割合を参考にすると良い。
1561
1562
1563
1564 - 14 -
1565
1566 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第2問)
1567
1568
1569 出題の趣旨
1570 既に公表されている「平成23年新司法試験論文式試験問題出題趣旨」(以下「出
1571 題趣旨」という。
1572
1573 )に,
1574 特に補足すべき点はない。
1575
1576
1577
1578
1579
1580 採点方針及び採点実感
1581 民事系科目第2問は,
1582 商法からの出題である。
1583
1584 これは,
1585 事実関係及び資料(株主総
1586 会参考書類と貸借対照表)を読んで,
1587 分析し,
1588 会社法上の論点を的確に抽出して論理
1589 的な整合性を意識しながら各設問に答えるという,
1590 基本的な知識と,
1591 事例解析能力,
1592
1593 論理的思考力,
1594 法解釈・適用能力を試すものである。
1595
1596
1597 全体としては,
1598 論述が十分しきれていない答案が多く見られた。
1599
1600
1601 設問@前段(本件自己株式取得の効力)については,
1602 本件自己株式取得には,
1603 出題
1604 趣旨のとおり,
1605 売主追加請求の通知(会社法第160条第2項)を怠ったこと,
1606
1607 特定の株主(同条第4項)であるBが議決権を行使したこと,
1608 という二つの手続的瑕
1609 疵,
1610 財源規制(同法第461条第1項第3号)に違反すること,
1611 という併せて三つ
1612 の瑕疵がある。
1613
1614 まず,
1615 の瑕疵があることについては,
1616 多くの答案が触れており,
1617
1618 た,
1619 「市場価格のある株式の取得の特則」(同法第161条)の適用がないことや「相
1620 続人等からの取得の特則」の適用がないこと(同法第162条第1号)を適切に指摘
1621 する答案も相当程度あった。
1622
1623 もっとも,
1624 の瑕疵は,
1625 自己の株式の取得に関する手続
1626 違反であって株主総会の決議の瑕疵ではないにもかかわらず,
1627 株主総会の招集手続の
1628 法令違反であり株主総会決議取消事由にとどまるとする答案が多く見られた。
1629
1630 の特
1631 定株主による議決権行使の瑕疵は,
1632 同法第160条第4項本文違反の問題であるとこ
1633 ろ,
1634 これを指摘する答案も多数あった一方,
1635 これを知らず,
1636 特別利害関係人の議決権
1637 行使による決議取消しの問題(同法第831条第1項第3号)として論じた答案も少
1638 なからず見られた。
1639
1640 の瑕疵については,
1641 株主総会の決議方法の法令違反(同項第1
1642 号)と見る見解と自己の株式の取得に関する手続違反の一つと見る見解とがあり得る
1643 が,
1644 採点では,
1645 どちらの見解を採っても,
1646 その理由等が適切に述べられていれば,
1647
1648 等に評価した(なお,
1649 前者の見解を採った答案の中には,
1650 問題文が株主総会の決議取
1651 消しの訴えを出訴期間内に提起したかどうかについては触れていないのに,
1652 決議取消
1653 しの訴えを出訴期間内に提起していないという前提を設定し,
1654 これを理由として決議
1655 取消しの訴えの問題を十分論じないものが見られた。
1656
1657 )。
1658
1659 の財源規制違反の瑕疵につ
1660 いては,
1661 全く検討していない答案が多く,
1662 これに触れている答案でも,
1663 分配可能額を
1664 誤っている答案や適用される条項を正しく理解していない答案(同法第461条第1
1665 項第3号ではなく,
1666 同項第2号を根拠とするもの,
1667 同号には該当しないので財源規制
1668 違反とならないとするもの等)がかなり見られた。
1669
1670 の瑕疵と本件自己株式取得の効
1671 力との関係については,
1672 無効説と有効説とがあるが,
1673 採点では,
1674 どちらの見解を採っ
1675 ても,
1676 その理由等が適切に述べられていれば,
1677 同等に評価した。
1678
1679 さらに,
1680
1681
1682
1683 のそれぞれの瑕疵と本件自己株式取得の効力について検討した結果,
1684 その結論が有効
1685 と無効とに分かれることがあり得るが,
1686 全体として本件自己株式取得の効力をどのよ
1687 うに考えるかにつき論理的整合性を意識しながら記述した答案には,
1688 高い評価を与え
1689 た。
1690
1691 これに対し,
1692 の瑕疵について有効説を採った上で,
1693 これに加えて又はの瑕
1694
1695 - 15 -
1696
1697 疵があったとしても本件自己株式取得は有効であると特に理由を述べないで誤った解
1698 答をした答案が若干見られた。
1699
1700
1701 設問@後段(本件自己株式取得に関する甲社とBとの間の法律関係)については,
1702
1703 上記の瑕疵と本件自己株式取得の効力との関係について無効説・有効説いずれを採
1704 る場合であっても,
1705 Bは甲社に対して受け取った25億円を支払う義務を負うが(会
1706 社法第462条第1項),
1707 この点を理解していない答案が多く見られた。
1708
1709 また,
1710 この
1711 支払義務を負うべき金額を誤っており,
1712 又は具体的に示していない答案がかなり見ら
1713 れた。
1714
1715 また,
1716 本件自己株式取得の効力が無効であるとした場合に,
1717 Bの株式の帰すう
1718 (Bは依然として当該株式に係る株主であるか等),
1719 甲社とBとの間の不当利得関係,
1720
1721 両者が請求権を有するとした場合の同時履行関係等について,
1722 論理的整合性をもって
1723 論じた答案は,
1724 多くは見られなかった。
1725
1726 中には,
1727 甲社は取得した自己株式をその後処
1728 分したから,
1729 本件自己株式取得に瑕疵があったとしても本件自己株式取得は有効とな
1730 るとだけ(それ以上の理由を述べないで)記述した答案も見られた。
1731
1732 さらに,
1733 本件自
1734 己株式取得の効力が無効であるとする答案においては,
1735 無効を主張することができる
1736 のは甲社だけであるか,
1737 甲社はBが善意又は善意・無重過失であった場合であっても
1738 無効を主張することができるか等,
1739 これまで裁判例や学説で議論されてきた点に触れ
1740 ることが求められる(記載箇所としては,
1741 設問@前段の解答として触れることでもよ
1742 い。
1743
1744 )が,
1745 これに触れていない答案が多かった。
1746
1747
1748 設問Aの本件自己株式処分の効力については,
1749 まず,
1750 本事例は,
1751 いわゆる有利発行
1752 (有利処分)に当たることを前提に,
1753 資料@の株主総会参考書類の第2号議案に関す
1754 る記載において,
1755 会社法第199条第3項に基づく説明義務は尽くされていることが
1756 示唆されており,
1757 株主総会における第2号議案の審議に際して説明義務(同法第31
1758 4条)の違反があったかどうかが主として論じられるべき事例であるところ,
1759 これを
1760 適切に論ずる答案もあったが,
1761 同法第199条第3項に基づく説明義務と株主から説
1762 明を求められた場合に取締役等が負う一般的な説明義務(同法第314条)との区別
1763 を理解しない答案や,
1764 前者の違反があったと解答し後者に全く触れない答案も相当見
1765 られた。
1766
1767 次に,
1768 第2号議案の採決に際して乙社が議決権を行使したことが同法第83
1769 1条第1項第3号の株主総会決議取消事由に該当するかどうかについては,
1770 多くの答
1771 案が触れていたものの,
1772 中には,
1773 特に理由を論ずることをしないまま,
1774 著しく不当な
1775 決議がされたとの結論だけを述べる答案も見られた。
1776
1777 これらの瑕疵が肯定される場合
1778 に,
1779 それらが自己株式処分無効の訴え(同法第828条第1項第3号)の無効原因と
1780 なるかどうかについて論述することが求められるが,
1781 そもそも,
1782 自己株式の処分の無
1783 効は自己株式処分無効の訴えによってしか主張することができない(同項柱書)とい
1784 うことに触れていない答案がかなり見られた。
1785
1786 また,
1787 説明義務違反や特別利害関係人
1788 による議決権行使が株主総会決議取消事由となることと自己株式処分無効の訴えとの
1789 関係を論じた答案は少なかった。
1790
1791 さらに,
1792 株主総会の特別決議を欠く新株の有利発行
1793 は有効であると判示した著名な最高裁昭和46年7月16日第二小法廷判決(判例時
1794 報641号97頁)の考え方との関係について論じた答案は更に少なかった。
1795
1796 他方で,
1797
1798 設問@前段との関連で本件自己株式処分の対象となった自己株式がそもそも有効に取
1799 得されたものではないという問題点との関係を論理的に記述した答案は高く評価した
1800 が,
1801 そのような答案も,
1802 ごく僅かであるが,
1803 見られた。
1804
1805
1806 設問B(本件自己株式取得及び本件自己株式処分に関するCの甲社に対する会社法
1807
1808 - 16 -
1809
1810 上の責任)については,
1811 まず,
1812 上述したように,
1813 そもそも本件自己株式取得が財源規
1814 制違反であったことを見落とした答案が多く,
1815 会社法第462条(第1項柱書又は第
1816 1項第2号)の責任をきちんと論じた答案は多くはなかった。
1817
1818 また,
1819 同法第465条
1820 第1項第3号の欠損補責任についても,
1821 これを論じた答案は少なく,
1822 これに触れた
1823 答案であっても,
1824 責任を負うべき金額まで正確に示した答案は更に少なかった。
1825
1826 もっ
1827 とも,
1828 これらの責任に触れた答案では,
1829 おおむね,
1830 Cが「その職務を行うについて注
1831 意を怠らなかった」(同法第462条第2項,
1832 第465条第1項ただし書)との要件
1833 を満たした場合には責任を負わないことに言及できていた。
1834
1835 次に,
1836 同法第423条の
1837 任務懈怠責任の検討に当たっては,
1838 設問@Aにおける論述との整合性を意識しながら,
1839
1840 任務懈怠の内容の分析と,
1841 損害額及び因果関係について論理的な記述をすることが求
1842 められ,
1843 このような記述をした答案には高い評価を与えたが,
1844 そのような答案はそれ
1845 ほど多くなかった。
1846
1847 他方,
1848 本件自己株式取得及び本件自己株式処分には上述したよう
1849 な種々の法令違反があったにもかかわらず,
1850 法令違反の点を度外視して,
1851 高く取得し
1852 て安く処分したことに伴う差損を捉えて,
1853 そこに経営判断の原則を当てはめる答案が
1854 散見された。
1855
1856
1857 以上のような採点実感に照らすと,
1858 「優秀」,
1859 「良好」,
1860 「一応の水準」,
1861 「不良」の四
1862 つの水準の答案は,
1863 次のようなものと考えられる。
1864
1865 第一に,
1866 「優秀」な答案は,
1867 上記
1868 の採点のポイントとして挙げた論点の主要なものをほぼ論ずることができていて(各
1869 設問につき主要な論点の一,
1870 二が欠けている程度は,
1871 差し支えない。
1872
1873 ),
1874 各問題につき
1875 相当な理由をもって自らの考えを述べ,
1876 その考えに基づき論理的に整合性を持った法
1877 的議論を展開することのできている答案である。
1878
1879 「良好」な答案は,
1880 主要な論点で論
1881 じられていないものが若干あるが,
1882 取り上げた論点についてはそれなりの論理的に整
1883 合性を持った法的議論がされている答案である。
1884
1885 「一応の水準」の答案は,
1886 最低限押
1887 さえるべき論点,
1888 例えば,
1889 設問@であれば,
1890 本件自己株式取得に関する瑕疵と本件自
1891 己株式取得の効力,
1892 設問Aであれば,
1893 本件自己株式処分に関する瑕疵と本件自己株式
1894 処分の効力が,
1895 少なくとも実質的に論じられていて,
1896 議論の筋がある程度通っている
1897 答案である。
1898
1899 「不良」な答案は,
1900 そのような最低限押さえるべき論点も押さえられて
1901 いない答案や,
1902 議論の筋の通っていない答案である。
1903
1904
1905
1906
1907 法科大学院教育に求められるもの
1908 自己の株式の取得に関する会社法の規律(財源規制及び欠損補責任を含む。
1909
1910 )や
1911 自己株式の処分に関する会社法の規律(無効の訴えの制度を含む。
1912
1913 )は,
1914 会社法の基
1915 本的な規律であると考えられるが,
1916 これらについての理解に不十分な面が見られる。
1917
1918
1919 また,
1920 貸借対照表を見て分配可能額を算出するという基本的な点や,
1921 取締役の会社に
1922 対する責任を含めて,
1923 事例における事実関係を読んでそれに即して論ずるという基本
1924 的な点に不十分な面が見られる。
1925
1926 そして,
1927 基本的な判例を踏まえて,
1928 それに基づいて
1929 論理的な思考をし,
1930 また,
1931 その考え方を応用する能力にも不十分な点が見られる。
1932
1933
1934 社法の基本的な知識に加えて,
1935 事例解析能力と論理的思考力を涵養する教育が求めら
1936 れる。
1937
1938
1939
1940 - 17 -
1941
1942 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(民事系科目第3問)
1943
1944
1945
1946
1947 出題の趣旨,
1948 狙い等
1949 「出題の趣旨」に詳細に記載したとおりである。
1950
1951
1952 採点方針
1953 民事訴訟法については,
1954 従来と同様,
1955 @民事訴訟法の基本的な原理・原則や概念を
1956 正しく理解するとともに,
1957 基礎的な知識を習得しているか,
1958 Aそれらを前提として,
1959
1960 問題文をよく読み,
1961 設問で問われていることが何かを的確に把握した上で,
1962 それに正
1963 面から答えているか,
1964 B抽象論に終始せずに,
1965 事例に即して具体的に,
1966 かつ掘り下げ
1967 た考察をしているか,
1968 といった点を重視して採点をしている。
1969
1970 ただし,
1971 Bについては
1972 誤解している受験者が相当程度いると思われる節があった。
1973
1974 この点については後記3
1975 の(1)や(3)を参照されたい。
1976
1977
1978 Aと関連するが,
1979 問われていることに正面から答えていなければ,
1980 たとえ設問に関
1981 る る
1982 連する論点を縷々記載していても,
1983 点数は付与していない。
1984
1985 自分の知っている論点が
1986 そのまま問われているものと思い込み,
1987 題意から離れてその論点について長々と記述
1988 する答案や,
1989 結論に関係しないにもかかわらず自分の知っている諸論点を広く浅く書
1990 き連ねる答案に対しては,
1991 問われていることに何ら答えていないと評価するなど,
1992
1993 しい姿勢で採点に臨んでいる。
1994
1995
1996 問われていることに正面から答えるためには,
1997 論点ごとにあらかじめ丸暗記した画
1998 一的な表現(予備校の模範解答の類)をそのまま答案用紙に書き出すのではなく,
1999
2000 問の検討の結果をきちんと順序立てて自分の言葉で表現する姿勢が極めて大切である。
2001
2002
2003 採点に当たっては,
2004 そのような意識を持っているかどうかにも留意している。
2005
2006
2007
2008 3 採点実感等
2009 (1) 設問1について
2010 事実の自白の撤回については,
2011 典型的な論点ということもあって,
2012 一通りの知識
2013 はあることがうかがわれた。
2014
2015 しかし,
2016 全体的に典型的な論点に関する型通りの叙述
2017 にとどまっている答案が大半であり,
2018 「良好」や「優秀」に該当する答案は少なか
2019 った。
2020
2021
2022 例えば,
2023 事実の自白の撤回制限効の根拠については,
2024 禁反言に言及するだけの答
2025 案が多く,
2026 中には「禁反言と自己責任である」とするなど,
2027 抽象的な用語のみから
2028 説明する紋切り型の答案も相当数あり,
2029 事実の自白の裁判所に対する効力から丁寧
2030 に論じている答案は少なかった。
2031
2032 訴訟行為の撤回が原則として自由であることから
2033 すれば,
2034 禁反言だけから事実の自白の撤回制限効を根拠付けることは難しいと思わ
2035 れるが,
2036 そもそも,
2037 訴訟行為の撤回が原則として自由であることを理解していない
2038 のではないかと思われる答案も少なくなかった。
2039
2040
2041 権利自白の撤回については,
2042 事実と権利との違い(自白の対象が事実ではなく権
2043 利であること)を踏まえつつ,
2044 権利自白の裁判所に対する効力の有無から説き起こ
2045 すことを期待していた。
2046
2047 しかし,
2048 「所有権は日常的な法概念であるから,
2049 所有権の
2050 自白は事実の自白と同様に考えてよい」などとするにとどまり,
2051 深みのない答案が
2052 ほとんどであった。
2053
2054 権利の存否の判断は裁判所の専権であるとしつつ,
2055 このように
2056
2057 - 18 -
2058
2059 論ずる答案も多かったが,
2060 権利の存否の判断が裁判所の専権なのであれば,
2061 所有権
2062 も権利である以上,
2063 たとえそれが日常的な法概念であっても,
2064 その存否の判断は裁
2065 判所の専権と考えなければ論理一貫しないが,
2066 この矛盾を論じている答案はほとん
2067 どなかった。
2068
2069 証明の対象は事実であるにもかかわらず,
2070 所有権の証明とか所有権に
2071 ついての証明責任といった不適切な表現をしている答案も散見された。
2072
2073
2074 問題文で「「理論的基礎付けは難しい。
2075
2076 」という結論になってもやむを得ませんが
2077 ・・」として権利自白の撤回が制限されることを理論的に基礎付けることが難しい
2078 ことは示唆されているのであるから,
2079 簡単に結論が出るような問題でないことは容
2080 易に分かるはずである。
2081
2082 それにもかかわらずそのような悩みが全く感じられない答
2083 案が大多数であったことは,
2084 誠に残念である。
2085
2086
2087 また,
2088 これらの点をほとんど論じずに,
2089 事実の自白の撤回の要件論に飛び付き,
2090
2091 本問の事例への当てはめを長々と(第1回口頭弁論期日において被告側が本人訴訟
2092 であったことなどを取り上げて)論じている答案も多かった。
2093
2094 これは,
2095 従来の採点
2096 実感等において受験者の事例分析能力や事例に即して考える能力に疑問が呈されて
2097 きたことから,
2098 本問においても事実の自白の撤回の要件論を本問の事例に当てはめ
2099 ることが求められていると考えた結果ではないかとも思われる。
2100
2101 しかし,
2102 問題文を
2103 よく読めば,
2104 「事実の自白の撤回制限効の根拠にまで遡った検討が必要」になるこ
2105 とが示唆されているのであるから,
2106 本問で中心的に問われていることが事例への当
2107 てはめでないことは分かるはずである。
2108
2109 このような答案は,
2110 問われていることに正
2111 面から答えていないことになるから,
2112 高い評価は与えられない。
2113
2114 権利自白の撤回も
2115 制限されるとの立場を説得的に論じた上で,
2116 更に,
2117 権利自白の撤回も事実の自白の
2118 撤回と同様の要件で認めてよいかどうか,
2119 仮に同様の要件で認めてよいとして権利
2120 自白の撤回の場合には「反真実」の要件をどのように捉えることになるかなどを掘
2121 り下げて考察する答案に対しては,
2122 極めて高い評価を与える予定でいたが,
2123 そのよ
2124 うな答案はほとんどなかった。
2125
2126
2127 このほか,
2128 本問は,
2129 被告側の陳述について権利自白が成立していることを前提に,
2130
2131 その撤回の可否を問うものであるが,
2132 これを事実の自白であると取り扱い,
2133 そもそ
2134 も権利自白について全く論じていない答案も散見された。
2135
2136
2137 他方で,
2138 権利自白のうち所有権の自白の特殊性にまで言及している答案には,
2139
2140 上の諸点についても題意に沿って丁寧に論じているものが比較的多く,
2141 それらは高
2142 評価を受けている。
2143
2144 中でも,
2145 単に「所有権の立証の困難性に照らして」とか「所有
2146 権の来歴を立証することは困難であるから」といった抽象的な表現をするのではな
2147 く,
2148 何がどのように困難であるかを自分の言葉で丁寧に説明している答案は,
2149 少数
2150 ではあったが,
2151 総じて他の部分もよく書けていた。
2152
2153 これは,
2154 答案の作成に当たり,
2155
2156 抽象的な用語のみに頼らずに,
2157 その用語の意味内容を自分の言葉で噛み砕いて丁寧
2158 に表現する姿勢が身に付いているからではないかと思われる。
2159
2160
2161 なお,
2162 本問は,
2163 権利自白の撤回は許されないという方向での検討を「ギリギリの
2164 ところまで」求めるものであるが,
2165 この要請に応えている答案は少数であり,
2166 むし
2167 ろ,
2168 多くは裁判官のような第三者的立場から論ずるにとどまっていた。
2169
2170
2171 (2) 設問2について
2172 権利主張参加については全体的に出来が悪かったが,
2173 共同訴訟参加については出
2174 来不出来が分かれた。
2175
2176
2177
2178 - 19 -
2179
2180 「一応の水準」に達するためには,
2181 最低限,
2182 債権者代位訴訟が法定訴訟担当の問
2183 題であることを意識しつつ,
2184 独立当事者参加のうちの権利主張参加と共同訴訟参加
2185 のそれぞれについて正しく説明することが求められる。
2186
2187 しかし,
2188 前者につき,
2189 詐害
2190 防止参加を論ずる必要がないことは問題文で明示されているにもかかわらず詐害防
2191 止参加を検討している答案,
2192 権利主張参加と詐害防止参加との区別が分かっていな
2193 いのではないかと思われる答案,
2194 後者につき,
2195 共同訴訟参加ではなく共同訴訟の要
2196 件(民事訴訟法第38条)を論じている答案など,
2197 「一応の水準」に達していない
2198 ものも散見された。
2199
2200
2201 「良好」又は「優秀」と評価されるためには,
2202 単に該当条文の表現を引用するだ
2203 けでなく,
2204 その解釈を展開することが必須であるが,
2205 権利主張参加と共同訴訟参加
2206 のどちらについても,
2207 該当条文の要件を答案に引き写すだけで,
2208 その解釈を展開す
2209 るに至っていないものが少なくなかった。
2210
2211 例えば,
2212 前者につき,
2213 民事訴訟法第47
2214 条第1項の「訴訟の目的の全部若しくは一部が自己の権利であることを主張する」
2215 を引用するだけで,
2216 請求が法律上非両立であることを説明することができていない
2217 答案,
2218 後者につき,
2219 同法第52条第1項の「訴訟の目的が当事者の一方及び第三者
2220 について合一にのみ確定すべき場合」を引用するだけで,
2221 類似必要的共同訴訟が成
2222 立するかどうかの問題であることが分かっていない答案などが,
2223 その典型である。
2224
2225
2226 権利主張参加については,
2227 「出題の趣旨」で詳論したとおり,
2228 原告適格の両立・
2229 非両立の考察を求めるのが題意であるが,
2230 これを論じている「優秀」な答案は非常
2231 に少なかった。
2232
2233 圧倒的多数は,
2234 債権者代位訴訟の訴訟物が何かを論じ,
2235 訴訟物が同
2236 一であるから権利主張参加の要件を満たしている(あるいは満たしていない)と結
2237 論付けるにとどまっていたが,
2238 債権者代位訴訟の訴訟物を問う問題ではないから,
2239
2240 これでは題意に答えたことにならない。
2241
2242 昭和48年の最高裁判決の事案は,
2243 債権者
2244 代位訴訟に債務者が権利主張参加をすることの可否が争点となったものであるが,
2245
2246 この判決の結論を暗記しているだけでは不十分であったということができよう。
2247
2248
2249 共同訴訟参加については,
2250 債権者代位訴訟の判決の既判力が被担当者に及ぶこと
2251 は理解しているものの,
2252 被担当者において既判力の矛盾が生じてもやむを得ないと
2253 して,
2254 それ以上の検討をしないまま共同訴訟参加を否定する「一応の水準」止まり
2255 の答案があった一方で,
2256 被担当者に既判力が及ぶことから被担当者を経由して他の
2257 原告適格者にも既判力が反射的に及ぶとの立場,
2258 被担当者において既判力の矛盾が
2259 生ずることを回避する必要があるとの立場などから共同訴訟参加の可否をきちんと
2260 論じている「良好」や「優秀」に該当する答案もあった。
2261
2262
2263 また,
2264 権利主張参加と共同訴訟参加のそれぞれを別個に検討した結果,
2265 どちらも
2266 認められないとして,
2267 それ以上の検討をしないで終わっている答案も多かった。
2268
2269
2270 助参加の問題であるとして補助参加の要件に言及している答案も散見された。
2271
2272 しか
2273 し,
2274 問題文に「補助参加ではなく当事者として参加することを検討しなければなら
2275 ないと考えた」とあるのであるから,
2276 そのような結論,
2277 すなわち,
2278 債権者の一人が
2279 いったん債権者代位訴訟を提起してしまうと,
2280 他の債権者には当事者として関与す
2281 る手段がない(せいぜい補助参加し得るにとどまる)と考えることの妥当性を検討
2282 しなければ,
2283 題意に十分に答えたことにはならないことに気付いてほしかった。
2284
2285
2286 なお,
2287 本問のような問題では,
2288 権利主張参加や共同訴訟参加について,
2289 記憶して
2290 いる限りの要件を全て取り上げて検討しているような答案が散見される。
2291
2292 例えば,
2293
2294
2295 - 20 -
2296
2297 「他人間に訴訟が係属していることが要件であるが,
2298 本問の事例ではこの要件を満
2299 たしている。
2300
2301 」などとするものである。
2302
2303 しかし,
2304 この要件を満たしているからこそ
2305 独立当事者参加や共同訴訟参加の可否を問うていることは問題文から明らかである
2306 から,
2307 このような記載は無用である。
2308
2309 書けば書いただけよく勉強していると評価さ
2310 れると誤解しているのかもしれないが,
2311 むしろ,
2312 このような記載をするとセンスを
2313 疑われる(論ずべきポイントが何かを把握していないと受け取られる)ことになり
2314 かねない。
2315
2316
2317 (3) 設問3について
2318 固有必要的共同訴訟かどうかが問題となることについては,
2319 多くの答案が気付い
2320 ていた。
2321
2322 「一応の水準」に達するためには,
2323 それに加えて,
2324 判例がどのような見解
2325 に立っているか,
2326 判例によれば本訴請求の認諾と中間確認請求の放棄のそれぞれに
2327 ついてどのように考えることになるかを正しく説明することが求められる。
2328
2329
2330 しかし,
2331 問題文に「判例がある場合にはそれを踏まえる必要があります」と明示
2332 されているにもかかわらず判例に全く言及していないもの,
2333 共有の場合には原告側
2334 か被告側かを問わずに固有必要的共同訴訟になるとするなど,
2335 判例の理解が十分で
2336 ないもの,
2337 本訴請求と中間確認請求は別個の請求であるからそれぞれについて検討
2338 しなければならないのに,
2339 その一方にしか答えていないもの,
2340 あるいはどちらにつ
2341 いて答えているのか明確でないものなどが少なくなかった。
2342
2343
2344 「良好」や「優秀」の評価を受けるためには,
2345 更に,
2346 判例「に無批判に従うこと
2347 はせずに」それを踏まえて自分の考えを論ずる必要があるが,
2348 単に判例の結論を示
2349 すだけで,
2350 その矛盾や不都合の有無に全く言及していない答案も少なくなかった。
2351
2352
2353 他方で,
2354 判例に従うと本訴請求と中間確認請求とで実体法上は矛盾した結果が生
2355 ずることを的確に指摘することができている答案も相当数あった。
2356
2357
2358 そこから進んで,
2359 その矛盾を放置してよいかどうか,
2360 放置してよいとするとそれ
2361 はなぜなのか,
2362 放置すべきでないとするとどのように考えるべきかを,
2363 どの程度説
2364 得的に論じているかで実力差がはっきりと出た。
2365
2366 中間確認請求(所有権確認)が本
2367 訴請求(建物収去土地明渡請求)の先決的法律関係であること,
2368 新たに訴えを提起
2369 する場面ではなく係属中の訴訟において相続による当事者の承継があった場面であ
2370 ることなどに着目しつつ,
2371 説得力のある議論を展開している「優秀」な答案があっ
2372 た一方で,
2373 結論をどちらかに合わせているにすぎないと思われる考察不足の答案も
2374 あった。
2375
2376
2377 後者に分類される答案を採点して特に気になったことは,
2378 理論的に詰めて考える
2379 ことをせずに,
2380 事案における具体的妥当性のみに目を奪われ,
2381 「LはKと同居して
2382 いるが,
2383 Mは遠く離れた地方に居住している」,
2384 「MはKやLとほとんど没交渉とな
2385 っている」といった本問の事例の個別的な事情(一般化することができない事情)
2386 を持ち出して,
2387 そこから安易に結論を導いている答案が少なくなかったことである。
2388
2389
2390 問題文に「本件での結果の妥当性などを考えて」とあること,
2391 また,
2392 従来の採点実
2393 感等において受験者の事例分析能力や事例に即して考える能力に疑問が呈されてき
2394 たことが影響しているようにも思われるが,
2395 結論の具体的妥当性を追求するという
2396 ことは,
2397 妥当な結論を導くための理論構成を考えるということであって,
2398 個別的な
2399 事情から裸の利益衡量をして妥当と思われる結論を導くということではない。
2400
2401
2402 なお,
2403 本問でも,
2404 必要的共同訴訟と通常共同訴訟との区別の基準について,
2405 抽象
2406
2407 - 21 -
2408
2409 的な用語(例えば,
2410 「実体法上の管理処分権を基礎に訴訟法的な観点(手続保障の
2411 要請)も考慮すべき」など)のみから説明する紋切り型の答案が散見された。
2412
2413
2414 (4) 全体を通じて
2415 法律実務家を目指す者の答案として不適切なものがある。
2416
2417 繰り返しをいとわずに
2418 不適切な答案の例を挙げると,
2419 次のとおりである。
2420
2421
2422 ・ 論ずべき点が問題文で丁寧に示唆されている(設問1の「事実の自白の撤回
2423 制限効の根拠にまで遡った検討が必要」,
2424 設問3の「判例がある場合にはそれ
2425 を踏まえる必要があります」など)にもかかわらず,
2426 これに注意を払わないも
2427 の。
2428
2429
2430 ・ 問われていることに正面から答えずに,
2431 結論に関係しない一般論を長々と論
2432 ずるもの,
2433 何か書けば点数をもらえると誤解していると思われるもの。
2434
2435
2436 ・ 論理を積み上げて丁寧に説明しようとしないで,
2437 抽象的な用語(禁反言,
2438
2439 手方の信頼保護など)のみから説明したり,
2440 直ちに結論を導いたりするもの。
2441
2442
2443 ・ 当該事案における結論の妥当性のみを追求し,
2444 論理的な一貫性を欠いていた
2445 り,
2446 理論的な検討が不十分であったりするもの。
2447
2448
2449
2450
2451 法科大学院教育に求めるもの
2452 採点実感に照らすと,
2453 基礎的な知識を習得すること,
2454 すなわち基本的な概念を正確
2455 に,
2456 かつその趣旨から理解することの重要性を,
2457 繰り返し強調する必要があると思わ
2458 れる。
2459
2460 司法試験では受験者が初めて考えるような問題も出題されるが,
2461 そこで求めら
2462 れる能力は基礎的な知識とそれを使いこなして考える能力であり,
2463 もとより法科大学
2464 院において特殊な論点や事例にまで手を広げて学習することを期待するものではない
2465 からである。
2466
2467 事例の分析能力や事例に即して考える能力を涵養することももちろん重
2468 要であるが,
2469 これらの能力は基礎的な知識と能力の上に初めて成り立つものである。
2470
2471
2472 土台をおろそかにしたまま複雑な事例を分析させることは,
2473 今年の答案にも見られた
2474 ように,
2475 論理的に突き詰めて考えることをしないで結論の妥当性のみを安易に追求す
2476 る姿勢を助長するおそれがある。
2477
2478
2479
2480
2481
2482 その他
2483 試験の答案は,
2484 人に読んでもらうためのものである。
2485
2486 読み手に読んでもらえなけれ
2487 ば何を書いても意味がない,
2488 という当たり前のことを改めて強調しておきたい。
2489
2490 毎年
2491 のように内容以前の問題として指摘していることであるが,
2492 極端に小さな字や薄い字,
2493
2494 書き殴った字の答案が相変わらず少なくない。
2495
2496 もとより字の巧拙を問うものではない
2497 が,
2498 読み手の立場に立って読みやすい答案を作成することは,
2499 受験者として最低限の
2500 務めである。
2501
2502 読み手に理解されなければ何を書いても評価されないことを肝に銘ずべ
2503 きである。
2504
2505
2506 平成22年の「採点実感等に関する意見」で注意を喚起した結果,
2507 一般に使われて
2508 いない「蓋し」や「思うに」を使用する答案が減少したことは評価したい。
2509
2510 しかし,
2511
2512 「この点,
2513 」という言葉を「この」が何を指すのか不明確なまま接続詞のように多用
2514 する答案など,
2515 不適切な表現を使用する答案はなお多く見られるので,
2516 引き続き改善
2517 を求めたい。
2518
2519
2520 問題文を無意味に引き写している答案も少なくないが,
2521 これは,
2522 時間と答案用紙の
2523
2524 - 22 -
2525
2526 無駄遣いである。
2527
2528
2529 なお,
2530 採点実感からすると,
2531 合格者の答案であっても「一応の水準」にとどまるも
2532 のが多いのではないかと考えられる。
2533
2534 当然のことであるが,
2535 合格したからといってよ
2536 くできたと早合点することなく,
2537 学習を継続する必要がある。
2538
2539
2540
2541 - 23 -
2542
2543 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第1問)
2544
2545
2546 出題の趣旨の補足
2547 既に公表した出題の趣旨のとおりである。
2548
2549
2550 なお,
2551 以下の記述において,
2552 便宜上,
2553 出題の趣旨と同様に,
2554 本問の事案を三つの場
2555 面に分けて論ずる。
2556
2557 すなわち,
2558 @甲と乙が路上で双方の肩が接触したことからけんか
2559 となり,
2560 乙の仲間の丙も加わり,
2561 三者によって暴行が応酬された(以下「第1場面」
2562 という。
2563
2564 ),
2565 Aその後,
2566 乙は,
2567 走って逃げ出した甲を追い掛け,
2568 ナイフで甲の前腕部を
2569 切り付けた(以下「第2場面」という。
2570
2571 ),
2572 Bさらに,
2573 乙は,
2574 甲が車(以下「甲車」と
2575 いう。
2576
2577 )を運転して逃げようとしたのを走って追い掛け,
2578 甲車運転席外側にしがみ付
2579 くなどしながら,
2580 運転席窓ガラスの開いていた部分からナイフを突き出すなどして甲
2581 を攻撃する気勢を示したところ,
2582 甲は,
2583 車を加速し,
2584 蛇行させて乙を振り落とし,
2585
2586 の頭部を路上に強打させて頭蓋骨骨折等の重傷を負わせた(以下「第3場面」という。
2587
2588
2589 という三つの場面である。
2590
2591
2592
2593
2594
2595 採点の基本方針等
2596 本問は,
2597 上記事案における甲乙丙それぞれの罪責を問うものであるところ,
2598 おおむ
2599 ね,
2600 以下のような基本方針に基づいて採点に当たった。
2601
2602
2603 本問では,
2604 刑事実体法に関する基本的知識と理解に基づき,
2605 刻々と状況が変化して
2606 いく複雑な事実関係を法的に分析した上,
2607 事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開
2608 し,
2609 事実を具体的に摘示しつつ法規範への当てはめを行い,
2610 妥当な結論を導くことが
2611 求められる。
2612
2613
2614 3名の刑事責任を分析するに当たっては,
2615 刑法総論の理論体系に従い,
2616 まず構成要
2617 件該当性,
2618 次に違法性(違法性阻却事由の有無)という順序で検討し,
2619 問題となる構
2620 成要件要素や正当防衛等の成立要件を一つ一つ吟味すべきである。
2621
2622 ただし,
2623 事実認定
2624 上又は法解釈上の重要な論点は手厚く論ずる一方で,
2625 必ずしも重要でない箇所では簡
2626 潔に論述するなど,
2627 いわゆる「メリハリ」を付ける工夫も必要となろう。
2628
2629
2630 事実認定上の主な論点として,
2631 甲が乙を車から振り落とした行為の擬律判断と,
2632
2633 丙間の甲に対する傷害の現場共謀の成否という問題が挙げられる。
2634
2635 前者については,
2636
2637 殺人未遂罪の成否を検討すべきであるが,
2638 行為の客観面として殺人の実行行為性の有
2639 無を明らかにするとともに,
2640 行為の主観面である殺意の有無について論ずる必要があ
2641 る。
2642
2643 その際,
2644 甲車の走行態様等の諸々の具体的事実を抽出した上,
2645 それらの事実が実
2646 行行為性や殺意の認定にどのような意味を有するかを明らかにすべきである。
2647
2648 後者に
2649 ついては,
2650 乙丙による事前の謀議などは認められないことから,
2651 黙示の(現場)共謀
2652 の有無を認定しなければならないところ,
2653 乙丙が甲とのけんかに加わった経緯,
2654 丙が
2655 乙に助けを求め,
2656 それに応じて乙が甲に反撃したことなどの事情を丁寧に検討するこ
2657 とが求められる。
2658
2659
2660 法解釈上の論点として,
2661 正当防衛に関しては,
2662 侵害の急迫性,
2663 防衛の意思,
2664 防衛行
2665 為の相当性という各要件が充足されているかを検討することに加え,
2666 自招侵害の問題
2667 についても論ずるべきである。
2668
2669 そのためには,
2670 正当防衛に関する近時の重要な最高裁
2671 判例及びそれをめぐる議論の状況等についての正確な理解が前提となる。
2672
2673 ただし,
2674
2675 こでも,
2676 事案を離れた抽象的な解釈論ばかりを論ずるのではなく,
2677 どのような事実が
2678
2679 - 24 -
2680
2681 当該要件の充足の判断においてどういう意味を持つのか(具体例を挙げれば,
2682 乙がナ
2683 イフを甲の運転する車内に落としたことは「急迫性」判断ではどう評価され,
2684 同じ事
2685 実が「相当性」判断ではいかなる意味を持つのか)についても明らかにすることが肝
2686 要である。
2687
2688 なお,
2689 車に乗り込もうとした甲をナイフで切り付けたという乙の行為につ
2690 いて,
2691 丙が共犯として責任を負うかという論点については,
2692 正当防衛行為の共謀や共
2693 謀の射程範囲など,
2694 正当防衛論や共犯論の高度な論点を含んではいるが,
2695 正当防衛及
2696 び共謀に関する基本的な知識と理解を基に自らの頭で考えれば,
2697 一定の結論にたどり
2698 着くことができると思われ,
2699 実際,
2700 相当数の答案が一定の水準の論述をすることがで
2701 きていた。
2702
2703
2704
2705
2706 採点実感等
2707 各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると,
2708 以下のとおりである。
2709
2710
2711 (1) 全体について
2712 多くの答案は,
2713 甲乙丙のそれぞれに,
2714 殺人未遂や傷害等の罪の構成要件該当性を
2715 検討した上,
2716 正当防衛の成否を論じており,
2717 本問の大きな枠組みは理解しているこ
2718 とがうかがわれた。
2719
2720
2721 ただし,
2722 記述の濃淡の付け方が必ずしも適当でない答案も見受けられ,
2723 刑事責任
2724 が実際上問題とならないようなささいな点を取り上げて延々と論述するものも少な
2725 からずあった。
2726
2727
2728 (2) 甲の罪責について
2729 問題のあった答案としては,
2730 以下のようなものがあった。
2731
2732
2733 ア 甲が,
2734 車を加速,
2735 蛇行させて,
2736 しがみ付いていた乙を車から振り落とすという
2737 生命に対する危険性の高い行為に及び,
2738 乙に脳挫傷等の大怪我を負わせ,
2739 意識不
2740 明の状態に陥らせるという重大な結果を生じさせたにもかかわらず,
2741 甲について
2742 傷害罪の成否だけを論じ,
2743 殺人未遂罪の成否を一切論じていない答案が予想以上
2744 に多かった。
2745
2746 このような答案については,
2747 事案を分析する能力の欠如をうかがわ
2748 せることから,
2749 低い評価をせざるを得なかった。
2750
2751
2752 イ 甲の上記振り落とし行為について,
2753 危険運転致傷罪あるいは自動車運転過失致
2754 傷罪の成立を認めている答案
2755 ウ 甲の上記振り落とし行為について,
2756 何罪について検討するか明らかにしないま
2757 ま,
2758 故意の有無を論ずる答案
2759 エ 正当防衛について,
2760 どの行為を対象として検討するのかを特定しないまま,
2761
2762 述する答案
2763 オ 甲の上記振り落とし行為について正当防衛の成立要件である侵害の急迫性の有
2764 無を検討するに当たり,
2765 乙がナイフを取り落としたことで,
2766 その後も乙が攻撃の
2767 気勢を示し続けているにもかかわらず,
2768 直ちに急迫性が失われたとする答案
2769 カ 甲の上記振り落とし行為について正当防衛の成否を論ずるに当たり,
2770 その前段
2771 階で,
2772 甲が乙に激しい暴行を加えて重い傷害を負わせたという事実を十分に考慮
2773 しなかったためか,
2774 自招侵害について全く検討していない答案が数多く見られた。
2775
2776
2777 キ 甲が乙を振り落とした後,
2778 乙を救助することもなく車で走り去ったことについ
2779 て,
2780 保護責任者遺棄致傷罪の成否を問題とし,
2781 その成立を認めている答案
2782 ク 第1場面から第3場面に至る甲の行為が全体として1個と評価されるか否かに
2783
2784 - 25 -
2785
2786 ついて,
2787 それを論ずる実益も明らかにしないまま,
2788 検討している答案
2789 ケ なお,
2790 一部の答案は,
2791 乙が甲車から振り落とされた結果,
2792 一命は取り留めたも
2793 のの意識を回復しない状態となったことを捉えて,
2794 「脳死は人の死か」という論
2795 点についても論じていた。
2796
2797 問題文中に乙が脳死状態に陥った旨の記述はなく,
2798
2799 題の趣旨として,
2800 そこまでの論述を求めるものではなかった。
2801
2802
2803 他方で,
2804 優秀な答案として,
2805 甲の上記振り落とし行為について,
2806 防衛行為の相当
2807 性を検討するに当たり,
2808 乙は既にナイフを車内に落としていることを踏まえ,
2809 甲と
2810 しては,
2811 振り落とし以外にどのような手段を採り得たのか具体的に検討しているも
2812 のも一部には見られた。
2813
2814
2815 (3) 乙の罪責について
2816 同様に,
2817 問題のあった答案を列挙すると,
2818 以下のとおりである。
2819
2820
2821 ア 第1場面における乙丙の甲に対する暴行ないし傷害の(現場)共謀の成否につ
2822 いて,
2823 全く論じていない答案
2824 なお,
2825 乙の罪責に関する論述では,
2826 上記共謀の論点について一切触れていない
2827 のに,
2828 丙の罪責に関する論述において,
2829 乙による甲へのナイフ切り付け行為(第
2830 2場面)について丙が共犯の責任を負うかという観点から,
2831 突如として,
2832 第1場
2833 面における乙丙間の共謀の成否について論ずる答案もあった。
2834
2835
2836 イ 乙丙間の共謀の成立を認めつつ,
2837 同時傷害の特例に関する刑法第207条を適
2838 用する答案
2839 ウ 第1場面において,
2840 乙が,
2841 丙を助けるとともに,
2842 甲への仕返しをするつもりで,
2843
2844 甲への暴行を開始していることについて,
2845 攻撃の意思があっても正当防衛におけ
2846 る防衛の意思が肯定されるのかについて全く検討していない答案
2847 エ 第1場面における乙の暴行について正当防衛が成立するとしつつ,
2848 第2場面で
2849 乙がナイフで甲の前腕部を切り付けた行為について,
2850 第1場面における防衛行為
2851 と一体と評価することができるか(過剰防衛が成立しないか)という点について
2852 検討していない答案
2853 (4) 丙の罪責について
2854 ここでも,
2855 第1場面において,
2856 丙が甲の胸付近を強く押した行為に正当防衛が成
2857 立するか否かについて,
2858 冗長に論ずる答案などが見られた。
2859
2860 前述したように,
2861 全体
2862 の答案構成を見据えて,
2863 適切に濃淡を付けた答案作成を心掛けるべきであろう。
2864
2865
2866 また,
2867 法律用語の使い方の問題として,
2868 丙が最終的に不可罰であることについて,
2869
2870 「無罪」と表現する答案が少なからず見受けられた。
2871
2872 「無罪」は公訴提起された事
2873 件について判決で言い渡されるものであり(刑事訴訟法第336条),
2874 刑事訴訟法
2875 の正確な理解が求められる。
2876
2877
2878 (5) その他
2879 少数ではあるが,
2880 字が乱雑なために判読するのが著しく困難な答案があった。
2881
2882
2883 間の余裕がないことは理解できるものの,
2884 採点者に読まれることを念頭に,
2885 なるべ
2886 く読みやすい字で丁寧に答案を書くことが望まれる。
2887
2888
2889 (6) 答案の水準
2890 以上の採点実感を前提に,
2891 「優秀」「良好」「一定の水準」「不良」という四つの答
2892 案の水準を示すと,
2893 以下のとおりである。
2894
2895
2896 「優秀」と認められる答案とは,
2897 本問の事案を的確に分析した上で主要論点につ
2898
2899 - 26 -
2900
2901 いて検討を加え,
2902 甲乙丙の刑事責任について妥当な結論を導くとともに,
2903 そこに至
2904 る理由付けについても十分に論じているようなものである。
2905
2906 特に,
2907 事実認定又は法
2908 規範への当てはめにおいて,
2909 必要な事実を抽出するだけでなく,
2910 それぞれの事実が
2911 持つ意味も明らかにしつつ論じている答案は高い評価を受けた。
2912
2913
2914 「良好」な水準に達している答案とは,
2915 事案の全体像をおおむね的確に分析し,
2916
2917 甲乙丙の刑事責任について妥当な結論を導くことができているものの,
2918 一部の主要
2919 論点についての論述を欠くもの,
2920 主要な論点の検討において,
2921 関連する事実の抽出
2922 はできていても,
2923 その意味付けが不十分であるなどの点が認められたものである。
2924
2925
2926 「一応の水準」に達している答案とは,
2927 複数の論点についての論述を欠くなどの
2928 問題はあるものの,
2929 刑法の基本的事柄については一応の理解を示しているような答
2930 案である。
2931
2932
2933 「不良」と認められる答案とは,
2934 事案の分析がほとんどできていないもの,
2935 事案
2936 の解決に関係のない法解釈論を延々と展開しているもの,
2937 論点には気付いているも
2938 のの,
2939 結論が著しく妥当でないものなどである。
2940
2941
2942
2943
2944 今後の法科大学院教育に求めるもの
2945 刑法においては,
2946 総論の理論体系を十分に理解した上で,
2947 体系上の位置付けを意識
2948 しつつ,
2949 各論等に関する知識を修得することが肝要である。
2950
2951 答案においても,
2952 論じよ
2953 うとする問題の体系上の位置付けを明らかにしつつ,
2954 検討の順序にも十分に配慮しな
2955 がら,
2956 論理的に論述することが求められる。
2957
2958
2959 また,
2960 問題文に含まれる法解釈上及び事実認定上の論点を抽出するには,
2961 事案を的
2962 確に分析することが前提となる。
2963
2964 そのためには,
2965 判例の結論だけを暗記するのではな
2966 く,
2967 その事案を丹念に読み込むなどして,
2968 事案を分析する能力を付けることが不可欠
2969 である。
2970
2971 また,
2972 繰り返し指摘してきたとおり,
2973 具体的な事実を抽出し,
2974 その意味を理
2975 解するためにも,
2976 具体的な事例の検討が必要と思われる。
2977
2978
2979 このような観点から,
2980 法科大学院教育においては,
2981 判例の学修等を通して,
2982 学生に
2983 生きた刑法の知識・理解を修得させるとともに,
2984 それを的確に論述する能力を涵養す
2985 るよう一層努めていただきたい。
2986
2987
2988
2989 - 27 -
2990
2991 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第2問)
2992
2993
2994 採点方針等
2995 本年の問題も,
2996 昨年までの試験と同様,
2997 比較的長文の事実関係を記載した事例を設
2998 定し,
2999 そこに生起している刑事訴訟法上の問題点につき,
3000 問題解決に必要な法解釈を
3001 した上で,
3002 法解釈・適用に不可欠な具体的事実を抽出・分析し,
3003 これに法解釈により
3004 導かれた準則を適用し,
3005 一定の結論を筋道立てて説得的に論述することを求めており,
3006
3007 法律実務家になるための学識・法解釈適用能力・論理的思考力・論述能力等を試すも
3008 のである。
3009
3010
3011 具体的な出題の趣旨は,
3012 公表されているとおりである。
3013
3014 設問1では,
3015 殺人,
3016 死体遺
3017 棄事件を素材として,
3018 同事件(本件)では逮捕ができるだけの証拠がなかった甲及び
3019 乙につき,
3020 別の犯罪事実(別件)で逮捕,
3021 勾留したことや,
3022 その後,
3023 両名を殺人,
3024
3025 体遺棄事件で逮捕,
3026 勾留したことについてその適法性を問うことで,
3027 いわゆる別件逮
3028 捕・勾留についての考え方を示した上,
3029 事例への法適用部分では事実が持つ意味を的
3030 確に位置付けて逮捕,
3031 勾留の要件に当てはめて論じることを求めている。
3032
3033 設問2では,
3034
3035 差し押さえたパソコン及び携帯電話に残っていたメールを添付した捜査報告書につい
3036 て,
3037 その要証事実との関係での証拠能力を問い,
3038 本件捜査報告書が伝聞証拠に該当す
3039 るか否か,
3040 該当する場合には適用可能性のある伝聞例外規定に係る要件等の法解釈と
3041 その要件への当てはめについて論じることを求めている。
3042
3043 いずれの設問についても,
3044
3045 正確な法的知識を当然の前提としながら,
3046 法解釈論や要件を抽象的に論じるだけでな
3047 く,
3048 事例中に現れた具体的事実関係を前提に,
3049 法的に意味のある事実の的確な把握と
3050 要件への当てはめを行うことが要請されており,
3051 採点に当たっては,
3052 このような出題
3053 の趣旨に沿った論述が的確になされているかに留意した。
3054
3055 設問1は,
3056 逮捕・勾留とい
3057 う捜査に関する基本的知識及びいわゆる別件逮捕・勾留という典型的な問題点を問う
3058 もので,
3059 設問2も,
3060 証拠法の基本的知識であり,
3061 しかも,
3062 ここ数年連続して出題され
3063 ている伝聞法則を問うもので,
3064 いずれも法科大学院で刑事訴訟法に関する科目を真面
3065 目に学習した者であれば,
3066 何を論じなければならないかは明白な事例である。
3067
3068
3069
3070
3071
3072 採点実感
3073 各考査委員からの意見を踏まえた感想を述べる。
3074
3075
3076 設問1については,
3077 いわゆる別件逮捕・勾留という捜査手法の適法性について,
3078
3079 自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として的確に論じた上で,
3080 各逮捕及びこれらに
3081 引き続く身体拘束の適法性について,
3082 個々の事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,
3083
3084 分析しながら論じられた答案が見受けられ,
3085 また設問2については,
3086 本件での具体的
3087 事実関係を前提に,
3088 捜査報告書や添付資料の内容ごとに個々の要証事実を的確に捉え,
3089
3090 伝聞法則の正確な理解を踏まえた的確な論述ができている答案が見受けられたが,
3091
3092 ずれも少数にとどまり,
3093 相当数は,
3094 不正確な抽象的法解釈を断片的に記述しているか
3095 のような答案や,
3096 問題文からの具体的事実の抽出,
3097 当てはめが不十分な答案にとどま
3098 っており,
3099 関係条文からの解釈論を論述・展開することなく,
3100 問題文中の事実をただ
3101 書き写しているかのような解答もあり,
3102 法律試験答案の体をなしていないものも見受
3103 けられた。
3104
3105
3106 設問1では,
3107 逮捕及びこれに引き続く身体拘束の適法性について問われているので
3108
3109 - 28 -
3110
3111 あるから,
3112 まずは刑事訴訟法の定める逮捕及び勾留の各要件(刑事訴訟法第199条,
3113
3114 第212条,
3115 第207条第1項により準用される第60条等)について,
3116 事例に含ま
3117 れている具体的事実を抽出・分析して,
3118 各要件へ当てはめを行う必要がある。
3119
3120 問題文
3121 に,
3122 各要件の検討に必要な具体的事実関係が与えられているにもかかわらず,
3123 これら
3124 について全く触れないまま,
3125 別件逮捕・勾留に関する抽象論を記述するだけで終わっ
3126 ているような答案が相当数見受けられた。
3127
3128
3129 また,
3130 設問2では,
3131 まず,
3132 捜査報告書全体について,
3133 捜査機関による検証に準じた
3134 ものとして,
3135 刑事訴訟法第321条第3項により証拠能力が付与されることを前提に
3136 しなければならないところ,
3137 これについて全く論ずることのない答案が相当数見受け
3138 られたほか,
3139 司法警察員により作成された捜査報告書の証拠能力が問われているにも
3140 かかわらず,
3141 メールを印刷したものであるから,
3142 知覚,
3143 記憶,
3144 表現の過程に誤りが入
3145 り込む余地はなく,
3146 非伝聞証拠であるなどと断じた無理解を露呈する答案さえも見受
3147 けられた。
3148
3149 次に,
3150 資料1添付のBからA女宛てのメール全体については,
3151 内容の真実
3152 性を要証事実とする伝聞証拠に該当し,
3153 その証拠能力について,
3154 刑事訴訟法第321
3155 条第1項第3号の各要件に照らして検討する必要があるところ,
3156 この点については,
3157
3158 おおむね多くの答案において適切な論述がなされていたが,
3159 同メールはBの供述書で
3160 あるのに,
3161 その指摘を欠き,
3162 あるいはこれを供述録取書として論ずる答案が相当数見
3163 受けられた。
3164
3165 さらに,
3166 同メール中の甲及び乙の発言部分に関しては,
3167 「死体遺棄に関
3168 する犯罪事実の存在」を要証事実とする部分と,
3169 「殺人に関する犯罪事実の存在」を
3170 要証事実とする部分とに分けられ,
3171 前者については発言内容それ自体の伝聞該当性の
3172 問題が生じ得るものであったにもかかわらず,
3173 この点に気付いている答案は極めてわ
3174 ずかしかなかった。
3175
3176 一方,
3177 比較的多くの答案が,
3178 甲及び乙の発言部分について,
3179 いわ
3180 ゆる再伝聞が問題になり得ることについては論じていたものの,
3181 甲及び乙の各々につ
3182 いて,
3183 自己を被告人とする関係では刑事訴訟法第322条第1項の適用が,
3184 共犯者を
3185 被告人とする関係では同法第321条第1項第3号の適用が問題となることについて
3186 まで論じられていた答案は少数で,
3187 また,
3188 中には,
3189 再伝聞である甲や乙の発言につい
3190 て,
3191 それ自体についてそもそも甲や乙自身の署名や押印など想定できないにもかかわ
3192 らず,
3193 同人らの署名又は押印がないことを理由に証拠能力を否定するなど,
3194 基本的理
3195 解の欠如が著しい答案も散見された。
3196
3197
3198 一方,
3199 資料2の捜査報告書添付の各メールについては,
3200 そのような内容でのメール
3201 のやりとりが存在したことが要証事実であり,
3202 伝聞証拠には該当しないことが明白で
3203 あるにもかかわらず,
3204 伝聞証拠であることを当然の前提として,
3205 Bのメールについて
3206 は刑事訴訟法第321条第1項第3号により,
3207 甲のメールについては同法第322条
3208 第1項により証拠能力が付与されるとした答案や,
3209 検察官の立証趣旨の「メールの交
3210 信記録の存在と内容」の「存在」
3211 「内容」という言葉だけをとらえ,
3212
3213 「交信記録の存在」
3214 である場合には非伝聞証拠であり,
3215 「メールの内容」である場合には伝聞証拠である
3216 などと,
3217 検察官の立証趣旨を勝手に断じて論ずる答案が,
3218 いまだに多数見受けられた。
3219
3220
3221 また,
3222 法適用に関しては,
3223 事例に含まれている具体的事実を抽出・分析することが
3224 肝要であるところ,
3225 様々な具体的事実を考慮要素として挙げながら,
3226 どの事実をどの
3227 ように評価したのか全く言及がないまま結論を導き出すなど,
3228 結論に至る思考過程が
3229 不明確な答案が目立っており,
3230 学習に際しては,
3231 具体的事実の抽出能力に加えて,
3232
3233 の事実が持つ法的意味を意識して分析し,
3234 これを表現する能力の体得が望まれるとこ
3235
3236 - 29 -
3237
3238 ろである。
3239
3240
3241
3242
3243 答案の評価
3244 「優秀」の水準にあると認められる答案とは,
3245 設問1については,
3246 別件逮捕・勾留
3247 に関し各自の基本的な立場を刑事訴訟法の解釈として論じた上で,
3248 各逮捕及びこれら
3249 に引き続く身体拘束ごとに,
3250 各事例中に現れた具体的事実を的確に抽出,
3251 分析しなが
3252 らその適法性を論じており,
3253 また,
3254 設問2については,
3255 各要証事実を的確に理解し,
3256
3257 捜査報告書全体,
3258 資料1の捜査報告書添付のBからA女宛てのメール全体,
3259 同メール
3260 中のBに死体遺棄の手伝いを依頼する甲及び乙の発言内容,
3261 Bに対しV女を殺害した
3262 旨の甲及び乙の発言内容ごとに要件を分析し,
3263 さらに甲を被告人とする場合と乙を被
3264 告人とする場合に分けて詳細な論述をするなど,
3265 真に伝聞法則を理解していると見ら
3266 れる答案であるが,
3267 このように,
3268 出題の趣旨を踏まえた十分な論述がなされている答
3269 案は,
3270 本年は極めて僅かであった。
3271
3272
3273 「良好」の水準に達していると認められる答案とは,
3274 設問1については,
3275 法解釈に
3276 ついて一定の見解を示した上で,
3277 事例から必要かつ十分な具体的事実を抽出できては
3278 いたが,
3279 更に踏み込んで個々の事実が持つ意味を深く考えることが望まれるような答
3280 案であり,
3281 設問2においては,
3282 伝聞法則について一応の論述はできているものの,
3283 「優
3284 秀」の水準にあると認められる答案のように本件での具体的な要証事実を的確に捉え
3285 ることができていないような答案である。
3286
3287
3288 「一応の水準」に達していると認められる答案とは,
3289 設問1においては,
3290 法解釈に
3291 ついて一定の見解は示されているものの,
3292 具体的事実の抽出,
3293 当てはめが不十分であ
3294 るか,
3295 法解釈については十分に論じられていないものの,
3296 問題文から必要な具体的事
3297 実を抽出して一応の結論を導き出すことができていた答案がこれに当たり,
3298 設問2に
3299 おいては,
3300 伝聞法則等の知識があり,
3301 一応これを踏まえた論述はできてはいるものの,
3302
3303 本件での具体的な事実関係を前提に,
3304 要証事実を的確に捉えることができていないよ
3305 うな答案である。
3306
3307
3308 「不良」の水準にとどまるものと認められる答案とは,
3309 伝聞法則等の刑事訴訟法の
3310 基本的な原則の意味を真に理解することなく機械的に暗記し,
3311 これを断片的に記述し
3312 ているような答案や,
3313 関係条文から解釈論を論述・展開することなく,
3314 問題文中の事
3315 実をただ書き写しているかのような答案等,
3316 基本的な理解・能力の欠如が現れている
3317 ものであり,
3318 例えば,
3319 設問1では,
3320 各逮捕及びこれに引き続く身柄拘束について,
3321
3322 々の具体的な事実関係が事例中に現れているにもかかわらず,
3323 これを全く抽出,
3324 分析
3325 していない答案がこれに当たり,
3326 設問2では,
3327 前記のとおり,
3328 再伝聞供述の証拠能力
3329 を認めるに当たり供述者の署名又は押印があることを求めたり,
3330 資料2の捜査報告書
3331 添付の各メールについて,
3332 各メールごとに分断して伝聞例外規定を論ずるなど,
3333 およ
3334 そ伝聞証拠を全く理解していないとしか評しようのない答案がこれに当たる。
3335
3336
3337
3338
3339
3340 法科大学院教育に求めるもの
3341 このような結果を踏まえると,
3342 今後の法科大学院教育においては,
3343 刑事手続を構成
3344 する各制度の趣旨・目的を基本から正確に理解し,
3345 これを具体的事例について適用で
3346 きる能力,
3347 筋道立った論理的文章を記載する能力,
3348 重要な判例法理を正確に理解し,
3349
3350 具体的事実関係を前提としている判例の射程範囲を正確に捉える能力を身に付けるこ
3351
3352 - 30 -
3353
3354 とが強く要請される。
3355
3356 特に,
3357 実務教育の更なる充実の観点から,
3358 基本に立ち返り,
3359
3360 常的に行われている刑事手続の進行過程や刑事訴訟法上の基本原則を正確に理解して
3361 おくことが,
3362 当然の前提として求められよう。
3363
3364
3365
3366 - 31 -
3367
3368 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(倒産法)
3369
3370
3371 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
3372 個別的な内容については,
3373 既に「出題の趣旨」として公表したとおりである。
3374
3375 今年
3376 の問題作成に当たっては,
3377 基本的な概念の理解,
3378 具体的な事案を法律の規律に的確に
3379 当てはめて要件充足性等を判断する能力,
3380 実体法の理解を踏まえた倒産法の規律の理
3381 解,
3382 具体的な事案に応じて関係者間の利益を適切に考慮する能力及び問題解決のため
3383 の対応策の選択の能力を試すこと等に重点を置くこととした。
3384
3385
3386
3387
3388
3389 採点方針
3390 解答の際に言及すべき点については,
3391 既に「出題の趣旨」として公表したとおりで
3392 ある。
3393
3394
3395 第1問については,
3396 本件の具体的な事案に即して,
3397 破産管財人の地位を前提として,
3398
3399 賃貸借契約の解除に関する実体法の規律をも踏まえて解除の主張の可否を論じること
3400 ができるか(設問1),
3401 担保権者の利益の保護が必要であるという利益状況を法的に
3402 分析して認識し,
3403 解除の当否を的確な法的な根拠付けをもって論じることができるか,
3404
3405 また,
3406 担保権消滅許可の申立て等に関する破産法の規律を十分に理解しているか(設
3407 問2)という点等に重点を置いた。
3408
3409
3410 第2問については,
3411 再生債権,
3412 取戻権,
3413 共益債権といった基本的概念を理解してい
3414 るか,
3415 また,
3416 各請求の訴訟物を正確に理解し,
3417 それを訴訟の中断に関する民事再生法
3418 の規律に的確に当てはめることができるか(設問1),
3419 再生計画認可後にその履行が
3420 されなかった場合に再生債権者が取り得る手段を十分に理解しているか,
3421 また,
3422 具体
3423 的な事案に即して各手段を取るための要件の充足性を的確に論じることができるか(設
3424 問2)という点等に重点を置いた。
3425
3426
3427
3428 3 採点実感等
3429 (1) 第1問
3430 設問1については,
3431 まず,
3432 破産手続開始前に既に解除権が成立しているという重
3433 要な前提を指摘していない答案が多く見られた。
3434
3435 問題文を正確に読むとともに,
3436
3437 案の中の重要な事実を抽出し,
3438 それを的確に指摘する能力が不十分という印象を受
3439 けた。
3440
3441 そして,
3442 上記の前提を理解していないため,
3443 又は,
3444 破産法第53条第1項の
3445 趣旨を正確に理解していないため,
3446 同項の趣旨を理由としてA社の解除権を否定す
3447 る答案も少なからずあった。
3448
3449 また,
3450 解除の主張の可否については,
3451 単に,
3452 破産管財
3453 人が差押債権者と同様に民法第545条第1項ただし書の第三者に該当することか
3454 ら解除が可能と結論し,
3455 あるいは同項ただし書による保護を受けるために必要な対
3456 抗要件の具備の有無といった点を論じる答案が多かった。
3457
3458 そもそも,
3459 賃貸借契約の
3460 解除一般の事案における民法第545条第1項の規律の適用がどうなるのかという
3461 問題(賃貸借契約の解除に遡及効がないこと,
3462 既に成立している解除権については,
3463
3464 当該解除に係る契約から生じた債権の差押債権者には対抗することができるとされ
3465 ていること等との関係)や,
3466 破産管財人の地位や利益状況の考慮等も含めて検討を
3467 加える答案は,
3468 多くはなかった。
3469
3470
3471 設問2の(1)についても,
3472 まず,
3473 前提として,
3474 本件において破産法第53条が
3475
3476 - 32 -
3477
3478 適用されることを,
3479 要件を押さえた上で指摘する答案は,
3480 少なかった。
3481
3482 また,
3483 賃料
3484 支払の負担等,
3485 破産財団の負担という観点からの検討を加えている答案が少なから
3486 ずあったことは評価し得るが,
3487 担保権者の利益の保護の必要性,
3488 具体的には,
3489 抵当
3490 権の効力は甲土地についての借地権にまで及んでおり,
3491 賃貸借契約が解除されると
3492 抵当権の目的の価値が毀損され,
3493 抵当権者の利益が侵害されることについて,
3494 担保
3495 価値維持義務に言及しつつ検討する答案が予想よりも少なかった。
3496
3497 さらに,
3498 破産管
3499 財人の担保価値維持義務の法的根拠を的確に論じているものも少なかった。
3500
3501 結論と
3502 して,
3503 解除可能とする答案も多く,
3504 関係者の利害状況を的確に捉えるとともに,
3505
3506 案に即したバランスの良い妥当な結論を導くための感覚が十分に備わっていないと
3507 の感じを受けた。
3508
3509
3510 (2)については,
3511 担保権消滅許可の申立て,
3512 担保権者からのこれに対する対抗
3513 手段としての抵当権実行の申立て(破産法第187条)及び買受けの申出(同法第
3514 188条)については,
3515 多くの答案が指摘しており,
3516 制度の理解はされていたと感
3517 じられた。
3518
3519 ただ,
3520 担保権消滅許可の申立てについて,
3521 具体的な事案に即してその要
3522 件充足性を的確に指摘することができていない答案も少なからず見られ,
3523 事案の的
3524 確な把握と規律への当てはめ能力の養成の必要性が感じられた。
3525
3526
3527 総じて,
3528 第1問については,
3529 実体法上の解除に関する規律と破産管財人の地位に
3530 ついてどこまで丁寧に論述されているか,
3531 また,
3532 担保権者の利益の保護の必要性を
3533 法的に的確に論じているかどうか等で差が付くこととなった。
3534
3535 既に成立している解
3536 除権を行使する場合であることを前提に破産管財人の位置付け等を丁寧に論じ,
3537
3538 産管財人の担保価値維持義務を的確に指摘して,
3539 解除は不当との結論を導き,
3540 さら
3541 に,
3542 担保権消滅許可の申立てに関する制度を正確に理解している答案が優秀答案と
3543 評価し得るものであった。
3544
3545
3546 (2) 第2問
3547 設問1については,
3548 まず,
3549 問題となる各請求の訴訟物を的確に把握していない答
3550 案が少なくなかった。
3551
3552 建物明渡請求を物権的請求権と捉えるもの,
3553 未払賃料の請求
3554 と賃料相当損害金の請求との区別が的確にされていないもの,
3555 賃料相当損害金の根
3556 拠を不当利得返還請求権と捉えるものが相当数見られたが,
3557 設問に即して,
3558 請求権
3559 を実体法上正確に理解する能力が不足している印象を受けた。
3560
3561 また,
3562 建物明渡請求
3563 については,
3564 手続開始前の原因に基づく債権的請求権であるところ,
3565 そのことから
3566 直ちに再生債権と位置付ける答案が多く,
3567 取戻権とする答案についても,
3568 取戻権の
3569 概念の理解を踏まえて的確に論じているものは少なかった。
3570
3571 なお,
3572 単に「再生債権
3573 に関するもの」(民事再生法第40条第1項)に該当しないので中断しないとのみ
3574 論ずる答案も見られたが,
3575 債務者に対するあらゆる請求権について倒産実体法上の
3576 位置付けが検討されるという倒産法の基本が理解されていないと感じられた。
3577
3578 さら
3579 に,
3580 賃料相当損害金を開始前と開始後とに分けずに論じるもの,
3581 後者の部分を民事
3582 再生法第84条第2項第2号を根拠として再生債権と位置付けるものが少なからず
3583 見られた。
3584
3585 その他,
3586 非金銭債権は再生債権とならないとする答案も散見されるなど,
3587
3588 基礎的な概念の正確な理解が不十分であると感じられた。
3589
3590 なお,
3591 訴訟の中断の有無
3592 のみならず,
3593 中断後の訴訟の処遇についても論じることが求められていたが,
3594 再生
3595 債権の内容に対して異議がなかった場合の取扱いについてまで論及した答案は少な
3596 かった。
3597
3598
3599
3600 - 33 -
3601
3602 設問2については,
3603 ほとんどの答案において再生計画の取消しについて触れられ
3604 ており,
3605 再生計画認可後の再生手続の廃止についても言及する答案が多かった。
3606
3607
3608 の意味で,
3609 民事再生法上の対応策についての理解はされていたと思われた。
3610
3611 ただ,
3612
3613 再生計画の取消しについては,
3614 その効果(民事再生法第189条第7項等)につい
3615 てまで触れている答案は少なく,
3616 また,
3617 具体的な事案に即してその要件充足性を的
3618 確に指摘することができていない答案も少なからず見られ,
3619 条文を的確に読むこと
3620 ができる能力の必要性が感じられた。
3621
3622 再生手続の廃止については,
3623 申立権者の範囲
3624 が制限されていることを意識せずに,
3625 廃止の申立てをすることができるとする答案
3626 も少なからず見られ,
3627 制度の正確な理解が必要であると感じられた。
3628
3629 他方で,
3630 債権
3631 の回収の観点から,
3632 破産手続への移行と関連付けて再生計画の取消し又は再生手続
3633 の廃止を適切に論じている答案も相当数見られた。
3634
3635
3636 総じて,
3637 第2問については,
3638 設問1において各請求につき,
3639 民事再生法の規律へ
3640 の当てはめが個別に的確にできているか,
3641 再生計画の取消しや再生計画認可後の再
3642 生手続の廃止の要件充足性を的確に論じているかといった点で差が付くこととなっ
3643 た。
3644
3645 再生債権や取戻権等の基礎的な概念を正確に論じた上で,
3646 上記の点を的確に論
3647 じた答案が優秀な答案と評価し得るものであった。
3648
3649
3650
3651
3652 今後の出題傾向について
3653 今後も特定の傾向に偏することなく,
3654 基礎的な事項の理解を確認する問題と受験者
3655 の問題発見能力を試す問題,
3656 倒産実体法に関する問題と倒産手続法に関する問題,
3657
3658 業倒産に関する問題と個人倒産に関する問題等,
3659 幅広い出題を心掛けることが望まし
3660 いと考える。
3661
3662
3663
3664
3665
3666 今後の法科大学院教育に求めるもの
3667 本年の問題のように,
3668 具体的な事案に基づく問題においては,
3669 まずは,
3670 問題文の事
3671 例を正確に理解し,
3672 法的に何が問題となるのかを的確に把握する能力,
3673 問題となる概
3674 念,
3675 制度の趣旨を正確に理解して,
3676 具体的な事実をそれに当てはめる能力が必要であ
3677 り,
3678 また,
3679 適切な問題解決を意識した結論に達しているかを常に意識する必要がある。
3680
3681
3682 ところが,
3683 答案の中には,
3684 法律の規定から要件を導き出し,
3685 それぞれの要件が充足さ
3686 れているかという基本的な思考が身に付いていないと見られるもの,
3687 関係者の利益考
3688 慮の結果がバランスを失しているものも多かった。
3689
3690
3691 さらに,
3692 第1問の設問2(1)は,
3693 平成18年12月21日の最高裁判決(民集6
3694 0巻10号3964頁)と関連する問題であるが,
3695 判例において現れた新しい問題に
3696 ついては,
3697 基礎的な事項と関連付けつつ,
3698 理解を深めることが必要である。
3699
3700 他方で,
3701
3702 同じ設問について平成12年2月29日の最高裁判決(民集54巻2号553頁)を
3703 引いて論じる答案も見られたが,
3704 判例については,
3705 背景となる事案を踏まえた上で,
3706
3707 判旨についてその射程を含めて正確に理解させることが必要であると感じられた。
3708
3709
3710 今後も基礎的な事項の十分な理解に重点を置くべきことは言うまでもないが,
3711 上記
3712 のような能力が身に付くようにするための教育が必要であると感じられた。
3713
3714
3715
3716 - 34 -
3717
3718 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(租税法)
3719
3720
3721 出題の趣旨・狙い等(出題の趣旨に補足して)
3722 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
3723
3724
3725
3726
3727
3728 採点実感等
3729
3730 (1)
3731
3732 第1問
3733 公表済みの「出題の趣旨」の中で述べた主要な論点に即して,
3734 それぞれについて
3735 試されている能力を重視して,
3736 採点した。
3737
3738 その結果の概要及び実感は以下のとおり
3739 である。
3740
3741
3742 設問1については,
3743 実質所得者課税の原則の意義に関する一般的・抽象的な理解
3744 (法律的帰属説と経済的帰属説の関係やそれぞれの妥当根拠)は多くの答案で示さ
3745 れていたが,
3746 事業所得が問題とされている本件事案についてその理解を適切に展開
3747 した答案は多くはなかった。
3748
3749 また,
3750 本件事案について事業主基準によって所得の人
3751 的帰属を判定する旨は多くの答案で述べられていたが,
3752 事業経営に対する支配的影
3753 響力の判定要素の摘出及び評価を適切に行った答案は多くはなかった。
3754
3755 多くの答案
3756 について基本的な知識の点では特に問題はないと思われたが,
3757 個々の基本的な知識
3758
3759 (例えば事業主基準と事業所得の意義)を相互に有機的に関連付けて理解する能力,
3760
3761 基本的な知識を事案に即して活用し,
3762 事案に含まれる問題の分析や法的評価・判断
3763 につなげることができる能力を涵養することの重要性が感じられた。
3764
3765
3766 設問2については,
3767
3768 「その年において収入すべき金額」
3769 (所得税法第36条第1項)
3770 という要件の解釈や権利確定主義及び管理支配基準の意義に関する理解はほとんど
3771 の答案でさほど問題なく記述されていたが,
3772 本件事案について権利確定主義と管理
3773 支配基準との関係に言及しつつ明確な論拠を示して収入金額の年度帰属を判定した
3774 答案は少なかった。
3775
3776 本問についても,
3777 設問1について指摘した能力と同様の能力の
3778 涵養が重要であると感じられた。
3779
3780
3781 設問3については,
3782 帰属所得の理解が問われていることに気が付かない答案が散
3783 見されたが,
3784 多くの答案において,
3785 包括的所得概念や帰属所得の意義が理解されて
3786 いることはうかがわれた。
3787
3788 ただ,
3789 本件事案について,
3790 棚卸資産が「家事のために」
3791 消費されたこと(所得税法第39条)を認定することができなかった答案も少なか
3792 らずあった。
3793
3794
3795 第1問の採点の結果,
3796 「優秀」や「良好」の水準に該当する答案は比較的少なく,
3797
3798 「一応の水準」に該当する答案が最も多く「不良」の水準に該当する答案がその次
3799 に多かったが,
3800 このような結果は,
3801 習得した知識を事案に即して活用しようとする
3802 姿勢や事案から事実を単に摘示するだけでなく事実に対する評価を適切に行おうと
3803 する姿勢で解答した答案が多くはなかったことによるものと思われる。
3804
3805
3806 (2)
3807
3808 第2問
3809
3810 - 35 -
3811
3812 第2問は,
3813 設問1において,
3814 商品先物取引による売買差金の所得分類,
3815 これに対
3816 する費用,
3817 損失が生じた場合の損益相殺の可否といった所得税法の適用上の基本的
3818 な事項についての理解を問い,
3819 これを前提として,
3820 設問2において,
3821 商品先物取引
3822 に基因する損害賠償金の支払いへと転化した場合に,
3823 これを所得税法上どのように
3824 扱うかといった問題についても検討することによって,
3825 上記理解の応用力を問う問
3826 題であり,
3827 これらを主要な論点として採点した。
3828
3829
3830 設問1を採点した限りでは,
3831 大多数の答案が判例(最判昭和53年10月31日
3832 訟月25巻3号889頁等)が示す基準に言及しつつ,
3833 問題文に示された事実関係
3834 に即して,
3835 売買差金の事業所得性について論じており,
3836 これを配当所得,
3837 譲渡所得
3838 等と結論付けてしまった一部答案を除き,
3839 出題時に予定していた解答水準を満たし
3840 たものが多かった。
3841
3842 このことは,
3843 法科大学院における基礎的な履修が十分行われて
3844 いるものと評価できる。
3845
3846 また,
3847 必要経費,
3848 損益相殺の問題についても,
3849 おおむね正
3850 確に答えている答案がほとんどであった。
3851
3852 それゆえ,
3853 設問1では得点上,
3854 顕著な差
3855 は付かなかったように感じられた。
3856
3857 全体を見ても「不良」の水準に該当する答案は
3858 比較的少なかった。
3859
3860
3861 設問2については,
3862 最近の裁判例の内容を知らなくとも,
3863 条文の文言を手掛かり
3864 に,
3865 基礎的な理解を前提として論述を展開すれば,
3866 これを非課税所得とする見解で
3867 あれ,
3868 課税所得とする見解であれ,
3869 論理的な結論に達することは容易であろう。
3870
3871
3872 点した実感としても,
3873 全体として一応の結論に達していた答案が多かったと評価で
3874 きる。
3875
3876 その上で,
3877 損害賠償金の所得税法第9条第1項第1号該当性を検討するに当
3878 たっては,
3879 これが得べかりし利益の填補や必要経費の填補ではないかという点,
3880
3881 延損害金の法的性格についても言及すれば,
3882 高い評価につながる。
3883
3884 説得的な論述を
3885 展開した「優秀」の部類に属する答案も多く存在し,
3886 単に結論だけを述べた答案も
3887 「一応の水準」ないし「良好」の評価は得られるものの,
3888 やはり差が付く結果とな
3889 った。
3890
3891 なお,
3892 参照条文として記載した所得税法施行令第30条について,
3893 同条を着
3894 手金・報酬の必要経費性を否定する根拠としていた答案も散見されたが,
3895 条文を文
3896 言に従って解釈する能力が涵養されることが望まれるところである。
3897
3898
3899
3900
3901 今後の出題について
3902 今後の出題についても,
3903 これまでどおり,
3904 所得税を基本としつつ,
3905 具体的な事実関
3906 係の下で租税法の基本的な条文や概念の理解とその適用能力を試す問題を出題し,
3907
3908 題形式は,
3909 受験者が出題の意図に従って解答しやすくするよう小問を順次検討してい
3910 く形式によることが望ましいと考えられる。
3911
3912
3913
3914
3915
3916 今後の法科大学院教育に求められるもの
3917 租税法に関する基本的な知識の習得は不可欠であるが,
3918 それだけにとどまらず,
3919
3920
3921 - 36 -
3922
3923 本的な知識に裏打ちされた応用力を具体的な事案に即して涵養するような教育が望ま
3924 れる。
3925
3926
3927
3928 - 37 -
3929
3930 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(経済法)
3931
3932
3933 出題の趣旨について
3934 出題に当たり,
3935 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止
3936 法」という。
3937
3938 )上の制度・規定の趣旨及び内容を正確に理解し,
3939 問題文の行為が当該
3940 市場における競争にどのような影響を与えるかを念頭に置いて,
3941 事実関係を丹念に検
3942 討した上で,
3943 要件の当てはめができるか,
3944 それらが論理的かという点を評価し得るよ
3945 うな問題作成を目指した。
3946
3947
3948 出題した2問は,
3949 独占禁止法の基本を正確に理解し,
3950 これに基づいて検討すれば解
3951 答し得る問題であり,
3952 公表されている公正取引委員会の考え方やガイドライン等につ
3953 いて細かな知識を求めるものではない。
3954
3955
3956
3957
3958
3959 採点方針
3960 別途公表済みの出題の趣旨及び上記1で述べたとおり,
3961 独占禁止法の基本的概念や
3962 個別の要件の意義を,
3963 その趣旨を踏まえて正確に理解しているか,
3964 当該行為が市場に
3965 おける競争に与える影響を十分に洞察しようとして,
3966 問題文のどの事実をどのような
3967 観点から取り上げるのが相当かを分析した上で,
3968 的確に要件に当てはめることができ
3969 ているか,
3970 それらは論理的かつ説得的で矛盾がないかという観点から,
3971 法的な能力を
3972 見ようとした。
3973
3974
3975 第1問は,
3976 共同新設分割の方法で共同出資会社を設立するという企業結合について,
3977
3978 独占禁止法(第15条の2)上の問題及び問題解消対策を問うものであり,
3979 @直接結
3980 合関係が形成される甲製品の製造販売事業のみならず,
3981 直接結合関係が形成されない
3982 乙製品の製造販売事業についても,
3983 乙製品が甲製品の不可欠の原料であることや,
3984
3985 同出資会社に乙製品の開発及び営業に長年従事した従業員を出向させるなどして乙製
3986 品の開発及び販売に係る情報を共有化されることなどを踏まえて,
3987 本件企業結合がど
3988 のような市場における競争に影響を及ぼすかを検討しているか(市場の画定),
3989 A画
3990 定した市場に即した競争の実質的制限の有無を問題文の具体的事実(競争者のシェア
3991 と順位,
3992 競争者の状況,
3993 輸入圧力,
3994 参入圧力,
3995 隣接市場からの競争圧力,
3996 需要者から
3997 の競争圧力など)を摘示しながら論理的に検討できているか,
3998 B競争を実質的に制限
3999 すると判断した場合には,
4000 その理由を踏まえた具体的な問題解消対策を検討できてい
4001 るかを見た。
4002
4003
4004 第2問は,
4005 いわゆる共同ボイコットと呼ばれる行為について,
4006 複数の独占禁止法上
4007 の問題点の分析及び検討を問うものであり,
4008 @不公正な取引方法の共同・間接の取引
4009 拒絶(独占禁止法第2条第9項第1号ロ,
4010 第19条),
4011 私的独占・不当な取引制限(同
4012 法第2条第5項ないし第6項,
4013 第3条)について,
4014 各要件の意義及び内容を正確に理
4015 解しているか,
4016 A各要件の検討に際して,
4017 問題文の事実関係(共通乗車券事業に係る
4018 既存の契約の解約と新規の申込みの留保,
4019 共通乗車券の利用率が25%であること,
4020
4021 過重労働による事故防止を理由とする対応など)に即した具体的な検討ができている
4022 か,
4023 BA社の行為について,
4024 問題文の事実関係(A社はタクシーの共通乗車券事業を
4025 営んでいること,
4026 A社の株主の大部分はX1〜X20のタクシー事業者20社で占め
4027 られていることなど)を踏まえて具体的に検討し,
4028 説得的に論じられているかを見た。
4029
4030
4031
4032 - 38 -
4033
4034 3 採点実感等
4035 (1) 出題の趣旨に即した答案の存否,
4036 多寡について
4037 第1問については,
4038 A,
4039 B両社によるC社の設立について,
4040 A,
4041 B両社が,
4042 いず
4043 れも甲製品,
4044 乙製品を製造販売していることから,
4045 多くの答案が,
4046 出題の趣旨に即
4047 して,
4048 企業結合の問題と捉えて,
4049 甲製品の製造販売事業のみならず,
4050 乙製品の製造
4051 販売事業についても市場に及ぼす影響を検討していた。
4052
4053 次に,
4054 甲製品,
4055 乙製品の各
4056 市場に即した競争の実質的制限の有無については,
4057 多くの答案が,
4058 出題の趣旨に即
4059 して,
4060 問題文に記載の事実関係を摘示して検討していた。
4061
4062 また,
4063 問題解消対策につ
4064 いては,
4065 多くの答案が,
4066 出題の趣旨どおり,
4067 乙製品に係る情報遮蔽措置を論じてい
4068 た。
4069
4070
4071 第2問については,
4072 多くの答案が出題の趣旨に即して,
4073 共同ボイコットを検討し
4074 た上で,
4075 私的独占の排除を検討していたが,
4076 不当な取引制限をきちんと問題提起を
4077 して検討しているものはそれほど多くはなかった。
4078
4079 答案の中には,
4080 私的独占のみを
4081 論じる答案,
4082 私的独占と取引妨害,
4083 拘束条件付取引,
4084 優越的地位の濫用等共同ボイ
4085 コット以外の不公正な取引方法を論じるものもあった。
4086
4087 各要件の検討については,
4088
4089 多くの答案が出題の趣旨に即して,
4090 事実関係を摘示した上で,
4091 共同ボイコットの正
4092 当化事由や私的独占の競争の実質的制限を論じていた。
4093
4094
4095 (2) 出題時に予定していた解答水準と実際の解答水準との差異について
4096 第1問については,
4097 直接結合関係が形成されない乙製品の製造販売事業について,
4098
4099 市場に及ぼす影響を検討する理由を挙げて論じる答案が多いと予想していたが,
4100
4101 体的な理由を挙げることなく論じている答案が予想以上に多かった。
4102
4103 次に,
4104 競争の
4105 実質的制限の有無については,
4106 問題文に記載した具体的な事実に基づいて論理的に
4107 検討することを期待していたが,
4108 問題文に記載している具体的な事実(シェアと順
4109 位,
4110 競争者の状況,
4111 輸入圧力,
4112 参入圧力,
4113 隣接市場からの競争圧力,
4114 需要者からの
4115 競争圧力など)の一部だけを摘示していたり,
4116 具体的な事実を摘示するものの,
4117
4118 論だけを記載して,
4119 これらの事実関係に基づいて各市場における競争の実質的制限
4120 の有無を論理的に検討している答案は少なかった。
4121
4122
4123 第2問については,
4124 共同ボイコットを論じた上で,
4125 私的独占を論じる答案が多く,
4126
4127 不当な取引制限についてはA社の位置付けや相互拘束性の問題点を指摘できる答案
4128 は多くはないのではないかと予想していたところ,
4129 実際予想どおりの結果となった。
4130
4131
4132 第1問同様,
4133 問題文に記載した具体的な事実に即して問題提起し,
4134 具体的な当て
4135 はめを行うことを期待していたが,
4136 共同ボイコットの各要件の検討,
4137 過重労働によ
4138 る事故防止の正当化事由についてはおおむね正しい検討と判断ができていたが,
4139
4140 争の実質的制限について,
4141 共通乗車券の利用率が25%であることの評価について
4142 は分かれた。
4143
4144
4145 また,
4146 A社の位置付け,
4147 すなわち,
4148 A社を違反者とするか否かについては,
4149 きち
4150 んと問題点を指摘できた答案は少なかった。
4151
4152
4153 (3) 「優秀」,
4154 「良好」,
4155 「一応の水準」,
4156 「不良」答案について
4157 第1問については,
4158 適用法条,
4159 市場の画定,
4160 競争の実質的制限の有無,
4161 問題解消
4162 対策の各項目について,
4163 問題文に記載している事実関係を十分検討して,
4164 検討の理
4165 由を含め論理的かつ説得的に論じている答案は「優秀」,
4166 上記各項目の論述が一部
4167 不十分ではあるものの,
4168 全体として出題の趣旨に即して論じている答案は「良好」,
4169
4170
4171 - 39 -
4172
4173 上記各項目の一部に誤りや不正確な部分があるものの,
4174 全体として整合性がある答
4175 案は「一応の水準」,
4176 問題文の検討が不十分で適用法条の選択や上記各項目に明確
4177 な誤りや矛盾があり,
4178 全体としても論理性・整合性が欠けている答案は「不良」と
4179 評価される。
4180
4181
4182 第2問については,
4183 共同ボイコット,
4184 私的独占,
4185 不当な取引制限の適用法条,
4186
4187 同ボイコットの各要件(公正競争阻害性,
4188 正当化事由等),
4189 私的独占の各要件(市
4190 場の画定,
4191 競争の実質的制限,
4192 正当化事由等),
4193 不当な取引制限の各要件(特に相
4194 互拘束性)の各項目について,
4195 問題文に記載している事実を指摘した上で問題提起
4196 し,
4197 問題文に記載してある事実に即して当てはめを行い,
4198 判断理由が論理的かつ説
4199 得的に論じている答案は「優秀」,
4200 上記各項目の論述が一部不十分ではあるものの,
4201
4202 全体として出題の趣旨に即して論じている答案は「良好」,
4203 上記各項目の一部に誤
4204 りや不正確な部分があるものの,
4205 全体として整合性がある答案は「一応の水準」,
4206
4207 問題文の検討が不十分で適用法条の選択や上記各項目を抽出できていないもの,
4208
4209 出してはいるものの明確な誤りや矛盾があり,
4210 全体としても論理性・整合性が欠け
4211 ている答案は「不良」と評価される点は,
4212 第1問と同様である。
4213
4214
4215 なお,
4216 これらは,
4217 各水準に属する答案の一例であり,
4218 採点に当たっては,
4219 総合的
4220 な能力の判定にも配意しており,
4221 各水準に属する答案は,
4222 上記のものに尽きるもの
4223 ではない。
4224
4225
4226
4227
4228 今後の出題について
4229 今後も,
4230 独占禁止法の基礎的知識の正確な理解,
4231 当該行為が市場における競争に与
4232 える影響の洞察力,
4233 事実関係の検討能力及び論理性・説得性を求めることに変わりは
4234 ないと考えられる。
4235
4236
4237
4238
4239
4240 今後の法科大学院に求めるもの
4241 経済法の問題は,
4242 不必要に細かな知識や過度に高度な知識を要求するものではない。
4243
4244
4245 経済法の基本的な考え方を正確に理解し,
4246 これを多様な事例に応用できる力を身に付
4247 けているかどうかを見ようとするものである。
4248
4249 法科大学院は,
4250 出題の趣旨を正確に理
4251 解し,
4252 引き続き,
4253 知識偏重ではなく,
4254 基本的知識を正確に習得し,
4255 それを的確に使い
4256 こなせる能力の育成に力を注いでいただくとともに,
4257 論述においては,
4258 論点主義的な
4259 記述ではなく,
4260 構成要件の意義を正確に示した上,
4261 当該行為が市場における競争へど
4262 のように影響するかを念頭に置いて,
4263 事実関係を丹念に検討し,
4264 要件に当てはめるこ
4265 とを論理的・説得的に示すことができるように教育してほしい。
4266
4267
4268
4269 - 40 -
4270
4271 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(知的財産法)
4272
4273
4274 出題の趣旨,
4275 狙い等
4276 第1問は,
4277 特許権の消尽及び特許権侵害による損害額の推定等を定める特許法第1
4278 02条第1項〜第3項に関する問題の理解を問うもの,
4279 第2問は,
4280 著作物の私的使用
4281 のための複製及びコンピュータ用ゲームソフトについての同一性保持権等の侵害に関
4282 する問題の理解を問うものである。
4283
4284
4285 両問を通じ,
4286 事実関係の分析力,
4287 基本的事項についての理解度,
4288 論理的な思考力,
4289
4290 論理一貫した論述をすることができる力等を見ることを狙いとした。
4291
4292 いずれの問題に
4293 ついても,
4294 重要かつ著名な最高裁判決(第1問について,
4295 最判平成9年7月1日民集
4296 51巻6号2299頁(BBS事件),
4297 最判平成19年11月8日民集61巻8号2
4298 989頁(キャノンインクタンク事件),
4299 第2問について,
4300 最判平成13年2月13
4301 日民集55巻1号87頁(ときめきメモリアル事件))が存在する。
4302
4303 これらの判例を
4304 踏まえた的確な論述がされているかも重要なポイントである。
4305
4306
4307
4308
4309
4310 採点実感等
4311 全体的に,
4312 基本的事項に関する理解が不足しており,
4313 良好な答案は少なかった。
4314
4315
4316 案の中には,
4317 判例や学説で述べられている言葉を一応用いてはいるが,
4318 全体を通して
4319 読むと論理矛盾や意味不明の論旨となってしまっているものも多く見られ,
4320 これは,
4321
4322 基本的事項に関する理解が不足していることが原因であると思われる。
4323
4324 このような中
4325 で,
4326 基本的事項についてしっかり理解した上で自分の言葉で説明しようとしていると
4327 思われる答案も見られ,
4328 このような答案については,
4329 高く評価することができた。
4330
4331
4332 また,
4333 二問とも重要かつ著名な最高裁判決を踏まえた問題であるにもかかわらず,
4334
4335 これを意識した形跡が見られないもの,
4336 意識してはいるものの,
4337 判旨の不正確な理解
4338 に基づくと思われるものが多く見られた。
4339
4340 どのような立場に立って論述するとしても,
4341
4342 基本的な判例については正確にフォローした上,
4343 これを踏まえて論述することが必要
4344 である。
4345
4346
4347 年を追うごとに徐々に減ってきたように思われるが,
4348 いまだに,
4349 事案・設問に即さ
4350 ない立論が少なくない。
4351
4352 事案・設問と関係のない無意味な一般論の展開が目立つもの
4353 がある。
4354
4355 事案・設問と無関係な論述はかえって有害であることを銘記すべきである。
4356
4357
4358 (1) 第1問(引用条文は特許法)
4359 内容的にも量的にもバランスが取れていない答案が多かった。
4360
4361 特に,
4362 設問1,
4363
4364 に大部分の論述を費やし,
4365 設問3,
4366 4がおざなりになっている答案が目立った。
4367
4368
4369 容的・量的にどれだけ論述するかは,
4370 設例の在り方,
4371 論点の重要性,
4372 論点をめぐる
4373 見解の対立状況等によって判断する必要があるが,
4374 設問3,
4375 4についても相当量の
4376 記述が必要となることは,
4377 問題内容を把握した時点で分かるはずである。
4378
4379
4380 また,
4381 問いに答えるという基本姿勢を分かっていないものがあった。
4382
4383 設問1,
4384 3,
4385
4386 4は「請求をすることができるか」,
4387 設問2は「反論としていかなる主張が考えら
4388 れるか」という問いである。
4389
4390 ストレートに答えれば,
4391 前者は「請求することができ
4392 る」(又は)「できない」,
4393 後者は「こういう主張が考えられる」というものになる。
4394
4395
4396 残念ながら,
4397 特に後者について,
4398 そのような答案になっていないものが極めて多か
4399 った。
4400
4401 「問いに答える」ことを絶対に忘れないでほしい。
4402
4403
4404
4405 - 41 -
4406
4407
4408
4409 設問1
4410 設問2及び3の前提として,
4411 消尽論について正確かつ端的に説明しておくべき
4412 ところである。
4413
4414 多くの答案において,
4415 「取引安全」,
4416 「二重利得の防止」という消
4417 尽論の意義や理論的根拠から記述されており,
4418 必要最低限の水準は満たされてい
4419 たと言えよう。
4420
4421
4422 ただ,
4423 消尽論について説明されてはいるが,
4424 本当にきちんと理解しているのか
4425 疑問に思える答案もあった。
4426
4427 例えば,
4428 「(Bが秋田県において発明αの実施品を販
4429 売することで)適法に流通におかれ消尽したから差止請求不可」との論述のみに
4430 終わっている答案が多かったが,
4431 本問で問題となるFの譲渡行為は,
4432 許諾地域外
4433 (岡山県)において行われているのであるから,
4434 この点をどう考えるのかについ
4435 ても論じてこそ,
4436 真の理解に基づいた答案ということになる。
4437
4438
4439 なお,
4440 AはBに独占的通常実施権を許諾しているからA自身は差止請求ができ
4441 ないのではないか,
4442 という論点を設ける答案が相当数あったが,
4443 実務感覚からす
4444 れば,
4445 このような論点設定は疑問である。
4446
4447 また,
4448 かかる論点設定をする場合には
4449 独占的通常実施権者に差止請求権を認めることが前提となるが,
4450 この点を論拠と
4451 ともに十分論じた答案は皆無に等しかった。
4452
4453 論点設定に当たっては,
4454 その必要性
4455 等につきよく吟味すべきである。
4456
4457
4458 イ 設問2
4459 一般的に国内消尽はしないと考えられるケースにおいて,
4460 あえて権利行使を制
4461 限する立論を考えさせる問題である。
4462
4463 実務では,
4464 このような場面でもそれなりに
4465 対応しなければならないことがある。
4466
4467 自分がGの代理人となった場合を想定する
4468 とよい。
4469
4470
4471 消尽しないからGの主張は認められない旨述べただけの答案があったが,
4472 これ
4473 では問いに答えたことにはならない。
4474
4475 本問は,
4476 Gがどう反論して自らの主張をす
4477 るのかが問題なのである。
4478
4479 さらには,
4480 Gの主張は認められないとした上,
4481 AのB
4482 に対する差止請求の可否を論じる答案があった。
4483
4484 そのようなことは,
4485 本問では問
4486 うていない。
4487
4488
4489 他方,
4490 Gの反論を記述している答案にあっても,
4491 十分な論述がされているもの
4492 は少なかった。
4493
4494 この場合でも消尽すると主張するのであれば,
4495 通常はそう認めら
4496 れないのになぜこのケースでは認めるのか。
4497
4498 また,
4499 消尽はしないがAの請求は認
4500 められないと主張するのであれば,
4501 その実質的根拠をどのように考え,
4502 法的にい
4503 かに説明するのか。
4504
4505 残念ながら,
4506 このような点について十分な論述がされている
4507 答案は少なかった。
4508
4509
4510 ウ 設問3
4511 国際取引の場面における権利保護と取引安全との調整などについて問うもので
4512 ある。
4513
4514
4515 まず,
4516 国内消尽論に基づいて直ちに結論に至っている答案もあった。
4517
4518 本問では,
4519
4520 国際取引の場面が問題となっている。
4521
4522 その特殊性に配意せず,
4523 同じ立論を当ては
4524 めているだけでは,
4525 問題意識が不足しており,
4526 評価には結び付かない。
4527
4528
4529 国際取引の場面という点に着目すると,
4530 基本的な論点である国際消尽を認める
4531 か否かについて触れるべきであろう。
4532
4533 これについて全く触れず,
4534 あるいは肯否の
4535 立場を明らかにしないまま,
4536 黙示の許諾論等に立って論ずる答案もあったが,
4537
4538
4539 - 42 -
4540
4541 のようなものは,
4542 バランス的な観点から評価は一定にとどまることとなる。
4543
4544 また,
4545
4546 国際消尽を肯定する場合には,
4547 それを前提に直ちに結論に至るようでは不十分で
4548 ある。
4549
4550 BBS事件最高裁判決(最判平成9年7月1日民集51巻6号2299頁)
4551 がこれを否定している以上,
4552 これを肯定する説得的な論拠を示す必要がある。
4553
4554
4555 の期待に応えた答案は,
4556 ほとんど見られなかった。
4557
4558
4559 国際消尽を否定する答案にあって,
4560 直ちに最高裁判決の例外要件を提示して当
4561 てはめようとするものが見られた。
4562
4563 これでは評価が限定的なものとなる。
4564
4565 最高裁
4566 判決を踏まえ,
4567 特許権の効力が及ぶ場合の背景事情や根拠の説明を行い,
4568 黙示の
4569 許諾論といった考え方についても説明して,
4570 初めて必要な論述をしたことになろ
4571 う。
4572
4573 これに応える答案も一定数は見られ,
4574 高評価を与えることができた。
4575
4576
4577 なお,
4578 最高裁判決の理解不足のためか,
4579 表示の存在等を譲渡の適法性の要件と
4580 捉え,
4581 これを満たした場合には適法な譲渡であり消尽するので権利行使が認めら
4582 れず,
4583 これを満たさない場合には適法な譲渡と言えず消尽しないので権利行使が
4584 可能という,
4585 最高裁判決とは逆の結論を導く答案が散見された。
4586
4587 取引安全等の観
4588 点から存在する要件が満たされているのに権利者の権利行使を不可能とすること
4589 に,
4590 違和感は感じないのであろうか。
4591
4592 かかる答案は評価を落とす要因となった。
4593
4594
4595 ところで,
4596 甲国の特許権について独占的許諾を受けているDは,
4597 前記最高裁判
4598 決のいう主体としての「特許権者と同視し得る者」に当たるのか。
4599
4600 この点につい
4601 ても論じることが期待されていたが,
4602 それに応える答案は極めて少なかった。
4603
4604
4605 面,
4606 これを論じている答案は,
4607 分析能力や問題の捉え方に優れた答案として,
4608
4609 い評価を与えることができた。
4610
4611
4612 小問(1),
4613 (2)については,
4614 それぞれ具体的な事案への当てはめが問題とな
4615 るが,
4616 単に「製品に表示がないから」,
4617 「自分の責任ではないから」などと記載し
4618 ているにとどまる答案が目立った。
4619
4620 特許権者Aにおいてライセンシーの選択や一
4621 定の監督が可能であること等,
4622 Aに不利益を課す合理性に論及するなど,
4623 説得的
4624 な論述がほしかった。
4625
4626 その上で,
4627 小問(1),
4628 (2)の相違を意識しつつ結論を述
4629 べることが高評価のポイントであるが,
4630 このような期待に応え得た答案は多くは
4631 なかった。
4632
4633
4634 エ 設問4
4635 総じて,
4636 第102条の趣旨を理解した上で,
4637 その適用ないし類推適用の可否に
4638 ついて具体的に論じている答案は少なかった。
4639
4640 中には,
4641 結論のみを記載したもの
4642 もあり,
4643 これでは低い評価にとどまる。
4644
4645
4646 多くの答案で,
4647 第102条第1項,
4648 第2項は,
4649 発明の実施を行っていないAに
4650 は適用されないと論じられていた。
4651
4652 結論としては構わないが,
4653 その理由の論述不
4654 足が目立った。
4655
4656 第102条第1項,
4657 第2項は損害の発生自体を擬制ないし推定し
4658 たものではないこととか,
4659 独占的に発明を実施することで得られたはずの利益を
4660 逸失したところに逸失利益損害の基礎がある推定だからということに触れるなど
4661 して,
4662 説得的な理由付けをすべきである。
4663
4664 また,
4665 第102条第3項につき,
4666 Aに
4667 対する適用を無条件で認める答案がほとんどであった。
4668
4669 この点については,
4670 独占
4671 的通常実施権をCに設定していてもなお実施料相当額の損害賠償をHに請求でき
4672 ると考えていいのか,
4673 との観点から問題意識を持ってほしかった。
4674
4675
4676 次に,
4677 独占的通常実施権者Cについては,
4678 第102条第1項ないし第3項がそ
4679
4680 - 43 -
4681
4682 の主体を「特許権者又は専用実施権者」と定めているところに問題の所在がある。
4683
4684
4685 このような当たり前のことを簡潔に書くだけでも,
4686 「条文に則して解釈する」姿
4687 勢の現れとして評価できるものである。
4688
4689 しかし,
4690 残念ながら,
4691 かかる当たり前の
4692 ことさえ論及できている答案は多くなかった。
4693
4694 また,
4695 Cには類推適用ができない
4696 とする答案が相当数あった。
4697
4698 しかし,
4699 裁判実務上は独占的通常実施権者について
4700 も専用実施権者と同様に扱い,
4701 第102条の類推適用を肯定する傾向にあり,
4702
4703 の点を踏まえた論述をすべきである。
4704
4705
4706 最後に,
4707 特許権者と独占的通常実施権者の請求の関係(実施料相当額の控除等)
4708 についても触れることが望ましい。
4709
4710 しかし,
4711 適切に論じた答案はほとんどなかっ
4712 た。
4713
4714
4715 (2) 第2問(引用条文は著作権法)
4716 設問1が,
4717 私的使用のための複製に関する問題であること,
4718 設問2が,
4719 侵害主体
4720 と請求の在り方に関する問題であることに気付いている答案は多かった(ただし,
4721
4722 正確には,
4723 気付いているらしき様子が感じられるといった程度の答案が多く,
4724 的確
4725 な問題意識を感じさせる答案は少なかったのが実情である)ので,
4726 全体的には,
4727
4728 通りの勉強はなされているものと思われた。
4729
4730 しかし,
4731 事案の正確な分析力や論理一
4732 貫した記述ができているかといった点において,
4733 こちらの期待した水準に達してい
4734 る答案は多くはなく,
4735 また,
4736 受験者によって大きな差が見られたのも特徴である。
4737
4738
4739 なお,
4740 以下の各設問についての部分でも触れているが,
4741 条文等の文言について無
4742 頓着に過ぎると思われる答案が多かった。
4743
4744 実務においても,
4745 書面で対応する場面は
4746 多いのであるから,
4747 「言葉」に対しては,
4748 一層注意深くあるべきである。
4749
4750
4751 ア 設問1
4752 本問では,
4753 ゲームソフトαの著作物としての種類,
4754 著作者・著作権者を明らか
4755 にした上,
4756 侵害されている権利の種類・内容,
4757 権利制限の有無等を検討する必要
4758 があるが,
4759 それぞれの検討場面で,
4760 事案分析の不十分さ,
4761 関連条文の把握の不正
4762 確さ,
4763 基本的な判例・論点の理解不足などが目立った。
4764
4765
4766 まず,
4767 ゲームソフトαにつき,
4768 映画の著作物及びプログラムの著作物のいずれ
4769 か一方の著作物の側面しか触れていない答案が大多数であった。
4770
4771 しかし,
4772 実際の
4773 コンピューター用ゲームを想起すれば,
4774 両側面を有していると考えるのが自然で
4775 はないであろうか。
4776
4777 この点は,
4778 後に所々で述べるように,
4779 様々な検討場面におい
4780 て答案の論述の厚みに影響することとなる。
4781
4782
4783 著作者に関しては,
4784 職務著作の成否につきほとんどの答案で言及されていたが,
4785
4786 B又はCの一方についてだけ検討し,
4787 他方については決め付けをしている答案が
4788 相当数見られた。
4789
4790 立場の異なるBとCとで論述の厚みは異なっても構わないが,
4791
4792 論じることなく決め付ける姿勢は問題である。
4793
4794 本問においては,
4795 決め付けができ
4796 るほど事実内容は具体的ではない。
4797
4798
4799 次に,
4800 前述したゲームソフトαの著作物としての二面性を指摘できていれば,
4801
4802 職務著作の適用条文についても区別して論じることができ,
4803 事案の分析的把握力
4804 と条文の正確な理解をアピールすることができたはずである(第15条第1項・
4805 第2項)。
4806
4807 しかし,
4808 もともとゲームソフトαの著作物としての二面性を指摘でき
4809 た答案が多くなかった上,
4810 指摘できても,
4811 なぜか第15条第1項・第2項を正確
4812 に区別して論述していないものが多かった。
4813
4814
4815
4816 - 44 -
4817
4818 ところで,
4819 Bに職務著作の成立を認めず,
4820 A・B双方を著作者と認定した場合,
4821
4822 映画の著作物の側面については,
4823 著作権は映画製作者(本問ではAが当たり得る)
4824 に帰属するのではないかということが問題となる(第29条第1項)。
4825
4826 この点に
4827 論及している答案は多かったが,
4828 他方で,
4829 プログラムの著作物の側面では依然と
4830 して著作権はA・B双方が共有することになると考えられることにつき,
4831 何も触
4832 れていないものが多かった。
4833
4834 これも,
4835 本件ゲームソフトαの著作物としての二面
4836 性に気付いていないため,
4837 論述に厚みを増すことができなかった例である。
4838
4839
4840 侵害されている権利の種類・内容,
4841 権利制限の有無等については,
4842 まず,
4843 F・
4844 G共に複製権侵害と私的使用のための複製に関する規定(第30条第1項)の適
4845 否が問題となることにつき,
4846 多くの答案が触れていた。
4847
4848 しかし,
4849 第30条第1項
4850 第2号は技術的保護手段の回避を行ったDのみに適用されるとするもの,
4851 プログ
4852 ラムの著作物の側面で著作権がA・Bの共有となることを前提とした場合におい
4853 て,
4854 共有者の同意を得ないと権利行使できないとするもの(第117条参照)な
4855 ど,
4856 条文を読めば容易に分かるような誤りをしている答案が相当数あった。
4857
4858 さら
4859 には,
4860 Gに対する第30条第1項第3号の適否について触れていないもの,
4861 同規
4862 定が「録音・録画」を対象としているため,
4863 プログラムの著作物についての適用
4864 を考えられないのではないかという点につき触れていないものなど,
4865 これもまた
4866 条文を読めば気付くような問題点に配意のない答案も多かった。
4867
4868
4869 次に,
4870 第30条第1項各号の適用にあって,
4871 主観的要件に触れていない答案,
4872
4873 あるいは一方的に善意・悪意を決め付けている答案があった。
4874
4875 いずれかに認定す
4876 ることが常に許されないわけではないが,
4877 本問では困難であろう。
4878
4879 実際に,
4880 いず
4881 れかに認定している答案の論調は強引なものばかりであり,
4882 これでは事実認定の
4883 センスに疑問を持たせることとなる。
4884
4885 認定困難な場合は,
4886 基本的には場合分けを
4887 して論述すべきである。
4888
4889
4890 F・Gの行為に第113条第2項の適用を論ずる答案が相当数あったが,
4891 問題
4892 文からF・Gが業務上のプログラム使用者と見ることは困難ではないか。
4893
4894 さらに,
4895
4896 F・Gによる頒布権侵害・譲渡権侵害を論じる答案があったが,
4897 問題文のどのよ
4898 うな要素を捉えれば出てくる発想であるのか理解しかねた。
4899
4900
4901 本件では,
4902 ダビングやダウンロードといった複製行為(侵害行為)は既に過去
4903 のことであり,
4904 侵害のおそれがあるとも認められないから,
4905 差止請求はできない
4906 と考えるのが通常であろう(第112条第1項)。
4907
4908 この点につき,
4909 何の考慮もな
4910 く,
4911 単に「差止請求ができる」としか述べていない答案があった。
4912
4913 事案に即して
4914 検討することができていないと評価せざるを得ない。
4915
4916 また,
4917 廃棄請求(同条第2
4918 項)は,
4919 差止請求(同条第1項)をするに際して行うことができると規定されて
4920 いることにも配意する必要があり,
4921 このことに全く触れずに.廃棄請求が認めら
4922 れると述べる答案が多数存在した。
4923
4924
4925 イ 設問2
4926 侵害されている権利が何であるのか,
4927 侵害主体をどのように認定するかとの関
4928 連で,
4929 いかなる請求ができるのかが問題となる事案である。
4930
4931
4932 まず,
4933 多くの答案で同一性保持権侵害について論じており,
4934 その点は評価でき
4935 る。
4936
4937 しかし,
4938 余りに単純に侵害を認めている答案が多い。
4939
4940 いかなる改変が行われ
4941 ていれば侵害と言えるのか,
4942 その基準についても要領よく触れ,
4943 てきぱきと当て
4944
4945 - 45 -
4946
4947 はめて論ずべきである。
4948
4949
4950 次に,
4951 侵害主体の認定と具体的な請求の問題であるが,
4952 特に侵害主体について
4953 の的確な問題意識の欠如が目立ち,
4954 分析力不足を感じさせた。
4955
4956 最も乱暴な論調は,
4957
4958 単に「F・G・HはAが困るような行為をしているのだから,
4959 Aはこの三者に対
4960 して差止請求及び損害賠償請求ができる」旨述べただけのものである。
4961
4962 侵害主体
4963 は誰で,
4964 これに対していかなる請求が可能なのか,
4965 侵害主体ではないが侵害行為
4966 に関与している者についてはどのような請求ができるのか(特に差止請求の可否)
4967 等について,
4968 分析的に検討してほしかった。
4969
4970 少数の例外を除き,
4971 期待外れであっ
4972 た。
4973
4974
4975 なお,
4976 翻案権侵害について検討している答案も予想以上に多かったが,
4977 この場
4978 合,
4979 創作性の付加があると言えるかについて述べる必要があろう。
4980
4981 また,
4982 侵害と
4983 言えるかどうかに関しては,
4984 少なくとも,
4985 私的使用のための翻案ではないかとい
4986 う点(第43条第1号,
4987 第30条第1項)に触れなければ論述不足である。
4988
4989 他方,
4990
4991 翻案権侵害についてだけ論じ,
4992 同一性保持権侵害について触れない答案が散見さ
4993 れたが,
4994 ときめきメモリアル事件の最高裁判決について知識がないとしか考えら
4995 れず,
4996 基本的な勉強不足である。
4997
4998
4999 (3) 形式面等
5000 時間配分を誤って最後まで書き切れなかったのではないかと思われる答案が散見
5001 された。
5002
5003 時間配分も実力のうちと考え,
5004 自分の書こうとする内容・量を答案構成の
5005 段階で見通し,
5006 時間をバランスよく配分しながら答案を作成してほしい。
5007
5008
5009 また,
5010 字が乱雑であったり小さ過ぎたりして読みにくい答案が少なくない。
5011
5012 もち
5013 ろん字の美しさを競う試験ではないから,
5014 答案審査にあっては何とか読む努力はす
5015 るが,
5016 中には,
5017 「全く読めない」ような記載のある答案もあった。
5018
5019 せっかくの良い
5020 考えも読み手に伝わらなければ意味がない。
5021
5022 せめて「読める」文字で記述してほし
5023 い。
5024
5025
5026 (4) 答案の評価について
5027 答案は各人各様であり,
5028 どのように書かれていれば評価が高くなり,
5029 あるいは低
5030 くなるのかを一概に言うことは困難である。
5031
5032 しかし,
5033 冒頭述べたように,
5034 各設問を
5035 通じて,
5036 事実関係の分析力,
5037 基本的事項についての理解度,
5038 論理的な思考力,
5039 論理
5040 一貫した論述をすることができる力等を見ようとするものである。
5041
5042 以上を前提とす
5043 れば,
5044 いずれの問題であっても,
5045 おおむね次のような評価の視点を示すことができ
5046 るであろう。
5047
5048
5049 すなわち,
5050 事実関係の詳細な部分まで把握・分析し,
5051 問題となり得る事項を抽出
5052 した上,
5053 関連する判例・学説を正確に踏まえつつ,
5054 必要な法令につき適切な解釈を
5055 行って要件等の定立を行い,
5056 事案に当てはめて妥当な結論に至っているような答案
5057 については「優秀」,
5058 事実関係につきポイントとなる部分についてはきちんと分析
5059 し,
5060 問題となり得る事項を抽出した上,
5061 関連する判例・学説への考慮を示しつつ,
5062
5063 必要な法令についてそれなりの解釈をして要件等の定立を行い,
5064 事案への当てはめ
5065 も行われてそれなりの結論に至っているような答案については「良好」,
5066 かかるレ
5067 ベルには達していないが,
5068 事実関係の分析や問題点の抽出が不十分ながらも示され
5069 ており,
5070 判例・学説等への一定の配意をしつつ,
5071 関係する法令についての解釈を交
5072 えて結論に至ろうとする姿勢が見られる答案については「一応の水準」,
5073 これに至
5074
5075 - 46 -
5076
5077 らないレベルのもの,
5078 例えば,
5079 事実関係の分析が不足しており,
5080 あるいは,
5081 問題文
5082 に示された内容をはるかに超えて牽強付会な決め付けをするなどし,
5083 当然触れるべ
5084 き基本的な判例・学説に触れることもなく,
5085 法令解釈等において筋道が通っておら
5086 ず,
5087 結論において妥当性を欠くようなものなどは,
5088 「不良」な答案である。
5089
5090
5091
5092
5093 法科大学院教育に求めるもの
5094 まず,
5095 法令の規定であれ,
5096 判例・学説であれ,
5097 基本的な事項につき,
5098 単に記憶させ
5099 るのではなく理解させるような教育をお願いしたい。
5100
5101 理解させるということは,
5102 その
5103 ような規定となっている趣旨,
5104 そのような判断や考え方をする論拠についてまで遡り,
5105
5106 なるほどと納得させ,
5107 必要に応じて,
5108 そのような考え方はおかしいのではないかとい
5109 う批判的な検討をさせ,
5110 あるいは,
5111 類似の事項について同様の考え方ができるのでは
5112 ないか,
5113 といった思考の訓練をもさせることである。
5114
5115 このようなことを繰り返すこと
5116 により,
5117 真に正確な知識が身に付き,
5118 同時に,
5119 法的なものの見方や論理的思考力も鍛
5120 えられるものと考えられる。
5121
5122 答案の中には,
5123 一見もっともらしい論述をしているよう
5124 に見受けられるが,
5125 実際にはピント外れと言わざるを得ないようなものが散見された
5126 が,
5127 皮相な「記憶」に頼った結果そのようなものとなってしまったと考えられ,
5128 真の
5129 「理解」をするための教育が必ずしも十分になされていなかったからではないかと思
5130 われる。
5131
5132
5133 次に,
5134 真の「理解」に基づく正確な知識を前提に,
5135 複雑に入り組んだ事案を正確に
5136 分析し,
5137 問題は何なのか,
5138 その問題の解決のためにはどのような点を取り上げて,
5139
5140 のような順番で検討していけばいいのかというような力,
5141 複雑な物事を解きほぐして
5142 整理し,
5143 解決に導く力が身に付くような教育を行っていただきたい(その際には,
5144
5145 関係な事項については検討対象から捨象するという作業も当然必要となる)。
5146
5147 答案の
5148 中には,
5149 思考の順序が逆転していたり,
5150 解決に必要のない事柄を長々と論じ,
5151 必要な
5152 ことについてはほとんど触れていないようなものもあった。
5153
5154
5155 さらに,
5156 こうして整理され,
5157 解決のための結論に至った内容を,
5158 バランスよく,
5159
5160 得的に論述できる能力を身に付けさせるような訓練もお願いしたい。
5161
5162 頭の中では正し
5163 い解決がなされていても,
5164 バランスを欠いた説明や,
5165 趣旨不明の記述がなされていて
5166 説得力のないものとなっていたのでは,
5167 せっかく正しい結論に至っても,
5168 審査する側
5169 には伝わらない。
5170
5171 これは実務の世界でも当てはまることである。
5172
5173
5174 最後に,
5175 当たり前のことであるが,
5176 常に「自らの頭で考える」ような訓練を積ませ
5177 ていただきたい。
5178
5179 前述したような,
5180 基本的事項についての理解,
5181 事案の正確な分析力,
5182
5183 説得的に表現できる能力等は,
5184 いずれも,
5185 常日頃から「自らの頭で徹底的に考える」
5186 という訓練を通して身に付けることができるものだと思われる。
5187
5188 常日頃から,
5189 安易に
5190 妥協せず,
5191 徹底して考えるという姿勢を貫いていれば,
5192 実際の試験の答案においても,
5193
5194 必ずやそれがにじみ出てくるものである。
5195
5196
5197
5198 - 47 -
5199
5200 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(労働法)
5201
5202
5203
5204
5205 出題の趣旨,
5206 狙い等
5207 公表済みの「出題の趣旨」のとおりである。
5208
5209
5210 採点方針
5211 事例に即して必要な論点を的確に抽出できているか,
5212 関係する法令,
5213 判例及び学説
5214 を正確に理解し,
5215 これを踏まえて,
5216 論理的かつ整合性のある法律構成及び事実の当て
5217 はめによって,
5218 適切な結論を導き出しているかを基準に採点した。
5219
5220
5221 出題の趣旨に沿って,
5222 必要な論点を的確に取り上げた上,
5223 その論述が期待される水
5224 準に達している答案については,
5225 おおむね標準以上の得点を与え,
5226 さらに,
5227 当てはめ
5228 において必要な事実を過不足なく摘示し,
5229 あるいは,
5230 主要論点について,
5231 着目すべき
5232 問題点を事例から適切に読み取って検討しているなど,
5233 優れた事例分析や考察が認め
5234 られる答案については,
5235 更に高い得点を与えることとした。
5236
5237
5238
5239 3 採点実感等
5240 (1) 第1問について
5241 本問は,
5242 期間の定めのない労働契約の普通解雇の場合(設問(1))と期間の定
5243 めのある労働契約の期間途中の普通解雇の場合(設問(2))において,
5244 それぞれ
5245 の解雇の効力を問う問題である。
5246
5247 全体として,
5248 普通解雇規制の内容あるいは期間の
5249 定めのない労働契約と期間の定めのある労働契約との解雇規制の違いについて,
5250
5251 礎的な理解が極めて不十分と思われる答案が予想以上に多かった。
5252
5253
5254 まず,
5255 本問解雇が懲戒解雇であるとの前提で検討を行った答案が少なくなかった。
5256
5257
5258 確かに,
5259 本問解雇にXに対する制裁的側面があることを強調すれば,
5260 懲戒解雇とし
5261 て検討する余地が全くないとまでは言い切れない。
5262
5263 しかし,
5264 Y社がXに示した解雇
5265 理由その他の事実関係からすれば,
5266 やはり懲戒解雇と見るにはかなりの無理があり,
5267
5268 本問であえて検討する必要性に乏しい。
5269
5270 少なくとも,
5271 普通解雇としての検討を全く
5272 行わないのは失当と言わざるを得ない。
5273
5274
5275 また,
5276 本問解雇につき,
5277 労働基準法第19条の該当性について論じた答案も少な
5278 からず見られた。
5279
5280 しかし,
5281 入社前から既に罹患していた疾病であるなど,
5282 業務上の
5283 疾病ではないことが明らかな事案である本問においては,
5284 論点として取り上げるこ
5285 とは適切とは言えない。
5286
5287
5288 さらに,
5289 本事例では,
5290 Y社がXに解雇予告手当として基本給30日分相当額しか
5291 支払っておらず,
5292 同法第20条第1項の要件を満たしていないが,
5293 そもそも,
5294 この
5295 論点に気付いていない答案が多かった。
5296
5297 なお,
5298 本問では,
5299 平均賃金の算定において,
5300
5301 基本給に加え乗務手当その他全ての手当を算入すべきところ,
5302 この論点に気付きな
5303 がらも,
5304 同法第11条及び第12条に関する理解が不十分であるため(同法第37
5305 条の割増賃金の算定と混同していると思われる答案も見受けられた。
5306
5307 ),
5308 一部の手当
5309 を平均賃金算定において除外すべきとする答案も散見された。
5310
5311
5312 次に,
5313 本問解雇の効力を検討するに当たっては,
5314 Y社がXに示した解雇理由を踏
5315 まえて就業規則該当性を検討する必要があるところ,
5316 そもそも,
5317 上記解雇理由に触
5318 れていない答案が少なくなかった。
5319
5320 また,
5321 上記解雇理由が就業規則第37条第1項
5322
5323 - 48 -
5324
5325 の何号に該当するかを明示していない答案も見られた。
5326
5327 さらに,
5328 本問では,
5329 上記解
5330 雇理由の内容から見ても,
5331 同項第3号該当性の検討を中心としつつ,
5332 他の各号の該
5333 当性も検討すべきであるが,
5334 理由を何ら示すことなく,
5335 同項第3号等,
5336 一部の該当
5337 性のみを論じた答案も少なくなかった。
5338
5339
5340 最後に,
5341 労働契約法第16条の解雇権濫用法理の検討においては,
5342 客観的合理的
5343 理由と社会的相当性の2つの要件が掲げられている趣旨あるいは客観的合理的理由
5344 の要件と就業規則該当性の関係など,
5345 解雇規制に関する法律構成の枠組を整理して
5346 理解していない答案が多く,
5347 例えば,
5348 上記各要件を分けずに解雇の効力を論じてい
5349 る答案が相当数あった。
5350
5351
5352 設問(2)においては,
5353 そもそも期間の定めのある労働契約の期間途中の解雇に
5354 関する民法第628条及び労働契約法第17条の知識を欠いている答案が少なくな
5355 く,
5356 あるいは,
5357 同条を摘示しながら同法第16条を論じるなど,
5358 同法第17条の理
5359 解不足と思われる答案も見られた。
5360
5361 また,
5362 期間途中の解雇であるにもかかわらず,
5363
5364 雇止めの問題として論じている答案も散見された。
5365
5366 さらに,
5367 期間の定めのない労働
5368 者に比べ,
5369 期間の定めのある労働者は保護の必要性が薄く,
5370 解雇要件該当性は緩や
5371 かに判断してよいなどとする,
5372 労働法に関する根本的な理解が不足していると言わ
5373 ざるを得ない答案も散見された。
5374
5375
5376 (2) 第2問について
5377 第2問は,
5378 オーソドックスな問題であったこともあり,
5379 全体としては,
5380 期待され
5381 る水準に達している答案が多かった。
5382
5383 ただし,
5384 本問は触れるべき論点が多く,
5385 かつ,
5386
5387 いずれも主要論点であって,
5388 十分な答案構成が求められるが,
5389 設問ごと又は論点ご
5390 との記述のバランスを著しく欠いた答案も少なくなかった。
5391
5392
5393 設問(1)では,
5394 まず,
5395 @労働条件の不利益変更に該当するか否かを検討した上
5396 で,
5397 A不利益変更の合理性を検討する必要があるところ,
5398 @の論点を意識した答案
5399 が多数ではあったものの,
5400 何ら@に触れることなく,
5401 いきなりAの検討から入る答
5402 案も相当数あった。
5403
5404 また,
5405 労働契約法の適用を前提に論述する場合,
5406 Aの検討の前
5407 提として,
5408 同法第10条の趣旨に言及すべきであるが,
5409 これに触れた答案は少なく,
5410
5411 条文の摘示にとどまるものが多かった。
5412
5413 さらに,
5414 同条の該当性を検討する場合,
5415
5416 然ながら,
5417 同条に明記された全ての要件について論じるべきであるが,
5418 そのうち,
5419
5420 周知の要件に触れていない答案が相当数あった。
5421
5422
5423 @の検討では,
5424 X1・X2両名の給与額につき,
5425 改訂前の就業規則の下で得るこ
5426 とが期待できた額と改訂後の就業規則の下で実際に得た額がほぼ同額であり,
5427 すな
5428 わち,
5429 同額の給与額を得るために,
5430 改訂後では2年間余分に働くことになる点がポ
5431 イントとなるが,
5432 この点を意識して論述する答案が比較的多数であったものの,
5433
5434 の点を看過して不利益性がないとする答案も相当数見られた。
5435
5436 なお,
5437 本問において,
5438
5439 定年延長による安定雇用の確保は,
5440 不利益変更の必要性に関わる事情であるだけで
5441 なく,
5442 労働者にとっても利益となる事情であることから,
5443 不利益性の検討において,
5444
5445 同事情と賃金引下げという不利益とを総合的に評価するのが相当であり(最判平成
5446 9年2月28日[第四銀行事件]参照),
5447 かかる観点から検討した答案は,
5448 加点の対
5449 象とした。
5450
5451 また,
5452 賃金引下げという不利益変更が満60歳以降の社員に偏っている
5453 事実をどう評価するのかも着目すべき問題点であり(最判平成12年9月7日[みち
5454 のく銀行事件]参照),
5455 この点に言及した答案についても,
5456 加点の対象にした。
5457
5458 その
5459
5460 - 49 -
5461
5462 他,
5463 不利益変更の必要性については,
5464 本件就業規則改訂の経緯として,
5465 そもそもM
5466 組合及びN組合がY社に65歳定年制の導入を要求して団体交渉が行われ,
5467 本件改
5468 訂に至ったという事実に着目する必要があるところ,
5469 この点を意識した答案は予想
5470 以上に少なかった。
5471
5472
5473 設問(2)では,
5474 まず,
5475 労働組合法第17条の要件該当性を検討すべきであるが,
5476
5477 ここでも,
5478 条文に明記されている要件に全て言及することなく,
5479 特に「一の工場事
5480 業場」の要件該当性に触れていない答案が少なくなかった。
5481
5482 他方,
5483 X1・X2が労
5484 働組合法上の労働者に当たるかという点は,
5485 本問では論点として取り上げる必要が
5486 ないにもかかわらず,
5487 この点に多くの記述を割き,
5488 必要な論述が不十分となってい
5489 る答案も散見された。
5490
5491
5492 次に,
5493 Y社とM組合との間の本件労働協約の一般的拘束力がX1・X2両名に及
5494 ぶかという論点について,
5495 N組合の組合員であるX1に対する関係では,
5496 多くの答
5497 案が少数組合員に対する拡張適用を否定する説に立って説得的に論述できていた。
5498
5499
5500 他方,
5501 非組合員であるX2に対する関係では,
5502 判例(最判平成8年3月26日[朝日
5503 火災海上保険(高田)事件])の正しい理解に基づいた検討が求められるが,
5504 極めて
5505 重要な判例であるにもかかわらず,
5506 これを理解していないか,
5507 あるいは,
5508 理解が非
5509 常に不十分な答案が相当数あった。
5510
5511 極端な例では,
5512 この判例に全く触れることなく,
5513
5514 X2が労働組合法第17条の「同種の労働者」に該当することを理由に直ちに一般
5515 的拘束力を肯定する答案が散見された。
5516
5517 また,
5518 判例が非組合員に対する一般的拘束
5519 力を例外的に否定すべき場合の判断基準として掲げる「著しく不合理であると認め
5520 られる特段の事情があるとき」という基準には言及するものの,
5521 判示に係る具体的
5522 判断要素を挙げて事実を当てはめることができていない答案が相当数あった。
5523
5524 さら
5525 に,
5526 事実の当てはめにおいては,
5527 本件労働協約締結の経緯として,
5528 M組合及びN組
5529 合からの65歳定年制導入要求によって団体交渉が始まったという事実に着目する
5530 必要があるが,
5531 設問(1)の就業規則変更の必要性についてと同様,
5532 この点を意識
5533 した答案は少数であった。
5534
5535
5536
5537
5538 今後の出題
5539 出題方針について変更すべき点は特にないと考える。
5540
5541 今後も,
5542 法令,
5543 判例及び学説
5544 に関する正確な理解に基づき,
5545 事例を的確に分析し,
5546 必要な論点を抽出して,
5547 自己の
5548 法的見解を展開し,
5549 これを事実に当てはめることによって,
5550 妥当な結論を導くという,
5551
5552 法律実務家に求められる基本的な能力及び素養を試す出題を継続することとしたい。
5553
5554
5555
5556
5557
5558 今後の法科大学院教育に求めるもの
5559 基本的な法令,
5560 判例及び学説については,
5561 正確な理解に基づき,
5562 かつ,
5563 網羅的に知
5564 識を習得するように更なる指導をお願いしたい。
5565
5566 その際,
5567 条文の内容を正確に理解す
5568 ることはもとより,
5569 当該規定の趣旨を踏まえて事案に適用する能力が求められるほか,
5570
5571 主要な判例については,
5572 判例が着目した事実関係及び結論を導くために展開された法
5573 律構成や基準ないし要件の内容等を遺漏なく,
5574 正確に理解する必要があることに十分
5575 配意いただきたい。
5576
5577 また,
5578 事例を正しく把握して的確に分析し,
5579 結論を導くために必
5580 要な論点を抽出した上,
5581 法令,
5582 判例及び学説を踏まえた論理的かつ一貫性のある解釈
5583 論を展開し,
5584 これに適切に事実の当てはめを行って,
5585 法の趣旨に沿った妥当な結論を
5586
5587 - 50 -
5588
5589 導くという,
5590 法的思考力を更に養成するよう重ねてお願いしたい。
5591
5592
5593
5594 - 51 -
5595
5596 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(環境法)
5597 【第1問について】
5598 1 出題の意図に即した答案の存否,
5599 多寡
5600 第1問は,
5601 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。
5602
5603
5604 の平成9年改正により導入された生活環境影響調査制度(ミニアセスメント)の意義
5605 と限界を説明できる能力(設問1)及び産業廃棄物最終処分場をめぐる民事訴訟の状
5606 況についての理解(設問2)を問う基本的問題であった。
5607
5608
5609 設問1の採点に当たっては,
5610 以下のような点が実感された。
5611
5612 第1に,
5613 産業廃棄物処
5614 理施設設置許可手続に関して「住民参加を取り入れた」とされるのは,
5615 廃棄物処理法
5616 第15条第3項〜第6項が規定する生活環境影響調査制度のことであるが,
5617 これを同
5618 法第15条の4が準用する第9条の4と誤解する答案が散見された。
5619
5620 これらが規定す
5621 るのは,
5622 設置後に求められる配慮である。
5623
5624 第2に,
5625 問題文からは産業廃棄物最終処分
5626 場についての設例であることが明白であるにもかかわらず,
5627 一般廃棄物処理施設につ
5628 いても論じている答案があった。
5629
5630 第3に,
5631 生活環境影響調査制度を環境影響評価法の
5632 下でのアセスメント手続と混同している答案が散見された。
5633
5634 第4に,
5635 改正法の限界と
5636 して,
5637 処分場の内容を事業者が全て決定してから住民に情報が提供される仕組みにな
5638 っている点(住民参加のタイミングの遅さ)について,
5639 的確に指摘した答案は意外に
5640 少なかった。
5641
5642 条例手続が法律手続に前置されていることの意味を理解してほしかった。
5643
5644
5645 第5に,
5646 条例の必要性について,
5647 設問に記載される内容を単に転写するばかりで,
5648 「な
5649 ぜその手続が必要か」という導入の背景について触れていない答案が散見された。
5650
5651
5652 組みの法政策的意味を絶えず考える姿勢が必要である。
5653
5654 本設問においては,
5655 生活環境
5656 影響調査制度の内容と条例の内容を丁寧に突き合わせた上で,
5657 前者の限界と後者の必
5658 要性を記述することが求められたが,
5659 このような形で整理された答案はそれほど多く
5660 なかった。
5661
5662 なお,
5663 法律手続や条例手続の意義を,
5664 環境権の手続法的実現という角度か
5665 ら整理した答案は,
5666 評価した。
5667
5668
5669 設問2の採点に当たっては,
5670 以下のような点が実感された。
5671
5672 第1に,
5673 公法的基準の
5674 遵守の意義と因果関係の立証の2点について明確に問うているところ,
5675 前者に対して
5676 答えていない答案がかなり見られたのは不可解であった。
5677
5678 第2に,
5679 受忍限度判断の枠
5680 組みを示した上で,
5681 公法的基準の遵守状況はその一つの考慮要素にすぎず,
5682 しかも,
5683
5684 許可を取得したりその遵守義務が規定されたりするだけでは現実の違反を回避するこ
5685 とはできないとまで明記した答案は少なかった。
5686
5687 この点で,
5688 安定型処分場に関する具
5689 体的な裁判例を念頭に置いて,
5690 どのような意味で公法的基準の遵守が困難になるかを
5691 指摘した答案には,
5692 一定の評価を与えた。
5693
5694 第3に,
5695 侵害を受ける法的利益について,
5696
5697 生命・健康という人格権と明記せずに,
5698 単に「被害」としたり,
5699 「地下水の汚染」の
5700 ような生活環境への影響をもって被害と記述したりする答案がかなり見られた。
5701
5702 差止
5703 めの根拠となる法的利益を明確に表記する必要がある。
5704
5705 第4に,
5706 因果関係の立証につ
5707 いては,
5708 原告が負うという原則とそれを修正する必要性及びその理由については,
5709
5710 体として十分な記述をしている答案が多かったが,
5711 原告による一応の立証を受けて被
5712 告が反証できなかったときにどのような結果になるのかまで記述していない答案が散
5713 見された。
5714
5715 また,
5716 何をどの程度立証しなければならないのかについて説明のない答案
5717 も散見された。
5718
5719 第5に,
5720 因果関係の立証に関して,
5721 疫学的因果関係について論ずる答
5722
5723 - 52 -
5724
5725 案が散見された。
5726
5727 特定の物質と侵害・損害との一般的因果関係についての経験則を問
5728 題としている場合であれば疫学的因果関係を論ずる余地はあるが,
5729 本件では,
5730 提起さ
5731 れているのは,
5732 将来における建設の差止めを求める予防的差止訴訟なのであって,
5733
5734 件事案に特有の疫学的因果関係を問題とする基礎を欠いている。
5735
5736
5737
5738
5739 出題の意図と実際の解答に差異がある原因として考えられること
5740 設問1に関しては,
5741 現行法の規定がどのような経緯で設けられたのかを,
5742 旧制度と
5743 の比較において理解する学習姿勢が欠けているのではないかと推測される。
5744
5745 また,
5746
5747 律条文のみの学習にとどまり,
5748 それを実施する自治体がどのような判断の下にどのよ
5749 うな対応をしているかにまで理解の枠組みを広げていないことも,
5750 差異の理由として
5751 考えられる。
5752
5753
5754 設問2に関しては,
5755 公法的基準の遵守が必ずしも実現できないという廃棄物処理法
5756 の実態に対する理解に欠ける点が,
5757 得点の分かれ目になった。
5758
5759 実態を踏まえて法律を
5760 理解することは,
5761 環境法の学習において特に求められることである。
5762
5763
5764
5765
5766
5767 各水準の答案のイメージ
5768 「優秀」「良好」と言える答案のイメージは,
5769 設問1に関しては,
5770 法政策の発展と
5771 いう時間軸の中に現行法を位置付けてそれを相対的に評価し,
5772 自治体の対応との関係
5773 も踏まえながら論じているものである。
5774
5775 【資料】が添付されていることから,
5776 それが
5777 設問との関係でどのような意味を持っているのかを理解した上でそれを的確に答案に
5778 反映させたものは,
5779 高く評価した。
5780
5781 設問2に関しては,
5782 主張立証責任の基本原則を踏
5783 まえていかなる場合にどのような理由によりそれが修正されるかを,
5784 関係裁判例に言
5785 及しつつ整理できている答案が「優秀」「良好」と評価された。
5786
5787 それが実現できてい
5788 る程度により,
5789 「優秀」と「良好」は区別される。
5790
5791
5792 「一応の水準」と言えるのは,
5793 論ずべき問題点が何とか把握できているものである。
5794
5795
5796 「不良」とは,
5797 それすらされていないものである。
5798
5799
5800
5801 【第2問について】
5802 1 出題の意図に即した答案の存否,
5803 多寡
5804 第2問は,
5805 土壌汚染対策法の平成21年改正によって導入された,
5806 一定面積を超え
5807 る土地の形質変更時の届出及び調査命令についての認識を問うとともに,
5808 土壌汚染対
5809 策法と民法の関係について考える能力を問う問題であった。
5810
5811
5812 設問1小問(1)については,
5813 土壌汚染対策法第4条第1項により,
5814 Cが環境省令で
5815 定める面積を超える土地の形質変更をする場合に届出義務が課される点,
5816 さらに,
5817
5818 法第4条第2項により,
5819 都道府県知事から調査命令が行われることがある点を的確に
5820 書いているものが多かった。
5821
5822 もっとも,
5823 問題文に「知事の処分」と書かれているのを
5824 軽視し,
5825 調査の契機全体について漫然と書く答案も幾つか見られ,
5826 残念であった。
5827
5828
5829 同法第5条による調査について書かれているものもあったが,
5830 誤りではなく一定の
5831 点数は与えたものの,
5832 問題文に「大規模な土地開発工事」と書かれているところから,
5833
5834 それだけでは十分ではない。
5835
5836 他方,
5837 同法第3条の調査について書かれているものも散
5838 見されたが,
5839 問題文から,
5840 工場の廃止時期が土壌汚染対策法施行前であり,
5841 同条の適
5842 用がないこと(平成14年法の附則第3条),
5843 3条調査の主体はAであってCではな
5844
5845 - 53 -
5846
5847 いことから,
5848 3条調査は本問とは関連しない。
5849
5850
5851 なお,
5852 4条調査について,
5853 第1項の届出のことが書かれていないから問題とならな
5854 いとしたものがあったが,
5855 その点は問題文からは省略されている。
5856
5857 もっとも,
5858 4条調
5859 査についてこの点を指摘した答案については,
5860 採点に当たって配慮した。
5861
5862
5863 小問(2)については,
5864 土壌汚染対策法第4条第1項が大規模な開発工事の場合に届
5865 出をさせて調査の契機とする理由について,
5866 面積の大きい土地の形質変更について搬
5867 出等を含めて土壌汚染のリスクが高まることを指摘したものは相当数見られた。
5868
5869 また,
5870
5871 平成21年の同法改正の背景として,
5872 改正前は,
5873 法律に基づく調査が少なく,
5874 自主的
5875 な調査が多く,
5876 調査の透明性,
5877 信頼性の観点から問題があったことに言及するものも
5878 それなりに見られた。
5879
5880 もっとも,
5881 小問(2)についても,
5882 平成21年の同法改正の趣旨
5883 の全てを漫然と書き連ねるものがあり,
5884 その分ほかの問いに答える時間やスペースを
5885 自ら奪っているのではないかと思われた。
5886
5887 例えば,
5888 掘削除去の回避は同法改正の重要
5889 点であるが,
5890 小問(2)の直接の解答には関連しない。
5891
5892
5893 設問2に関しては,
5894 土壌汚染対策法第8条に基づく費用回収については比較的良く
5895 書けていた。
5896
5897 他方,
5898 同法同条について指摘することで終わってしまい,
5899 ほかの救済方
5900 法には全く触れない答案も幾つか見られた。
5901
5902 環境法がその実現の手段として,
5903 民事訴
5904 訟・行政訴訟を用いる場合があり,
5905 その限りで民法・行政法の基本的な部分を聞かれ
5906 る可能性があることを想定しておいてほしい。
5907
5908 なお,
5909 土壌汚染対策法第8条について
5910 は全く触れず,
5911 瑕疵担保責任についてのみ論ずる答案も一定数見られた。
5912
5913
5914 瑕疵担保責任の「瑕疵」に関して,
5915 トリクロロエチレンの環境基準の設定の時期に
5916 ついて言及したものはそれほど多くはなく,
5917 一定数見られるにとどまった。
5918
5919 問題文を
5920 きちんと読めていないとも言える。
5921
5922
5923 不法行為責任について言及するものも相当数見られたが,
5924 土壌汚染対策法第8条と
5925 の類似性,
5926 両者の関係について指摘するものはほとんどなかった。
5927
5928 他方,
5929 不法行為責
5930 任を追及する場合に継続的不法行為となることを指摘するものは一定数見られた。
5931
5932
5933 損害賠償額について検討する際に,
5934 瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求と土壌汚染
5935 対策法に基づく費用回収請求との関係について,
5936 掘削除去の回避の問題点に触れつつ
5937 言及するものは一部あり,
5938 自ら考えるという思考様式が身についている者が一定数見
5939 られたのは好ましいことであった。
5940
5941
5942 全体として見れば,
5943 設問1について良く答えた答案と,
5944 設問2について良く答えた
5945 答案に分かれたような印象がある。
5946
5947
5948
5949
5950 出題の意図と実際の解答に差異がある場合の原因として考えられること
5951 3点挙げておきたい。
5952
5953
5954 第1に,
5955 問題文が意外にきちんと読まれていないと見られることである。
5956
5957 これは試
5958 験場で取り組むべき課題であるが,
5959 常日頃から心掛けておくことが適当であろう。
5960
5961
5962 第2に,
5963 土壌汚染対策法の4条調査がなぜ改正で導入されたかについて,
5964 理由付け
5965 を含めた勉強が十分になされていない面があったと思われる。
5966
5967 土壌汚染対策法の平成
5968 21年改正について覚えてきたことを吐き出すような答案が間々見られたことはやや
5969 残念であった。
5970
5971 何が問題文と関連するかを取捨選択し,
5972 問われていることに的確に解
5973 答することが必要である。
5974
5975
5976 第3に,
5977 環境法はその実現のために,
5978 民事訴訟と行政訴訟を用いているのであり,
5979
5980
5981 - 54 -
5982
5983 それぞれの基本的なところが環境法とも絡むため,
5984 常にその点に目を配ってほしい。
5985
5986
5987
5988
5989 各水準の答案のイメージ
5990 「優秀」な答案のイメージは,
5991 設問1については,
5992 土壌汚染対策法第4条の意味と
5993 同条の平成21年改正の趣旨について的確に把握し,
5994 設問2については,
5995 瑕疵担保責
5996 任を中心とする民法上の請求と土壌汚染対策法第8条の請求の関係について理解し,
5997
5998 損害額についても言及しているものである。
5999
6000 「良好」な答案のイメージは,
6001 設問1に
6002 ついては「優秀」な答案と同様であるが,
6003 設問2において民法上の請求か土壌汚染対
6004 策法に基づく請求のいずれかしか書かれていないものである。
6005
6006 「一応の水準」は,
6007
6008 問1について土壌汚染対策法第4条の平成21年改正の趣旨が相当程度書かれており,
6009
6010 設問2において民法上の請求か土壌汚染対策法に基づく請求の少なくともいずれかは
6011 良く書かれているものである。
6012
6013 「不良」な答案はそれさえなされていないものである。
6014
6015
6016
6017 【今後について】
6018 第1に,
6019 環境法の学習においては,
6020 制度導入・改正の理由が重要であることである。
6021
6022
6023 過去の採点実感においてもしばしば指摘しているが,
6024 現行法をそれだけで理解するので
6025 はなく,
6026 法政策の発展の中に位置付けて理解することが重要である。
6027
6028 そのような学習姿
6029 勢を持つことによって,
6030 現行制度の課題や将来の発展方向についても理解を深めること
6031 が可能になる。
6032
6033 今回の出題により,
6034 環境法の出題では法政策についても問うことについ
6035 て改めてメッセージが伝えられたと思う。
6036
6037 法科大学院では,
6038 日頃からこのような環境法
6039 政策の根本的部分についても考察できる素地を与えていただけるよう御指導をお願いし
6040 たい。
6041
6042 さらに,
6043 制度導入・改正の理由について制度や改正の全体像をまとめて覚えるの
6044 ではなく,
6045 各条の改正にどういう意味があったかというところまで掘り下げて理解をし
6046 ておく必要がある。
6047
6048
6049 第2に,
6050 環境法の実施の実態については,
6051 裁判例等を通じて明らかにされてきており,
6052
6053 こうした点について的確な認識を持っておくことは,
6054 結果として,
6055 環境法の理解を深め
6056 ることになる。
6057
6058
6059 第3に,
6060 環境法の実現のためには民事訴訟と行政訴訟が用いられるところから,
6061 民法
6062 や行政法のごく基本的な部分について環境法との関係が理解されていることも重要であ
6063 ると言えよう。
6064
6065 また,
6066 民法等の特別規定が環境個別法に置かれていることの意味につい
6067 ても学習してほしい。
6068
6069
6070 第4に,
6071 司法試験に限らず,
6072 法律実務家には,
6073 課題を正確に理解し,
6074 これを分析する
6075 能力が求められる。
6076
6077 そのような能力を養うよう日頃から心掛けていただきたい。
6078
6079
6080
6081 - 55 -
6082
6083 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(公法系))
6084
6085
6086 第1問
6087 設問1は,
6088 条約の国内における効力を問う問題である。
6089
6090 条約の国内的効力の問題と
6091 自動執行性(直接適用可能性)の問題を混同している答案が少数見られたが,
6092 国内的
6093 効力は各国憲法体制の問題と,
6094 また自動執行性(直接適用可能性)は個々の条約規定
6095 の問題と明瞭に区別した答案も多く,
6096 比較的よくできていた。
6097
6098 国際法と国内法の関係
6099 に関する一元論・二元論という理論的問題と,
6100 条約の国内的効力という各国憲法体制
6101 の問題の関係を正しく理解していない答案が幾つかあったのが気になった。
6102
6103
6104 設問2は,
6105 甲に関する人権条約違反と会社財産についての外交的保護権を問うたも
6106 のである。
6107
6108 人権条約違反についても外交的保護権を行使できるというのが一つの論点
6109 であったが,
6110 その点を明示的に認識する答案は少なかった。
6111
6112 他方,
6113 外交的保護権の個
6114 々の要件については,
6115 きちんと理解している答案が多かった。
6116
6117 答案では国家責任を中
6118 心に論じるものが相当数あり,
6119 特に外交的保護権と国家責任を並列的に論じたものも
6120 少なくなく,
6121 第2次規範としての国家責任法を正しく理解していないために解答が無
6122 秩序なものになったものが結構あった。
6123
6124
6125 会社財産の問題については,
6126 全くそれに触れていない答案が散見されたが,
6127 乙社が
6128 Y国法人であることを正しく指摘した上で,
6129 国際司法裁判所「バルセロナトラクショ
6130 ン事件」判決にも言及し,
6131 乙社が事実上甲と同視できるから乙社に関する損害の賠償
6132 も請求できる旨をきちんと分析した優れた答案も幾つかあった。
6133
6134
6135 なお,
6136 犯罪人引渡を議論する答案が幾つかあったが,
6137 設問は犯罪人引渡が問題にな
6138 る事例ではない。
6139
6140 国際法上の制度を表面的に理解することの危険性が示されているよ
6141 うに思われる。
6142
6143
6144 全体として,
6145 設問2は出来不出来にばらつきがあった。
6146
6147
6148 設問3は,
6149 Y国が自由権規約第1選択議定書の当事国であることが問題文に明らか
6150 にされているにもかかわらず,
6151 自由権規約の個人通報制度に全く触れていない答案が
6152 少なからず見られたのは残念であった。
6153
6154 我が国が批准していない議定書であるとはい
6155 え,
6156 受験者は法律実務家を目指す以上,
6157 主要な人権救済システムの概要くらいは勉強
6158 しておいてほしいと思った。
6159
6160 他方,
6161 第1選択議定書を知っている答案は,
6162 個人通報制
6163 度の概要をおおむね正確に理解していたと言える。
6164
6165
6166 全体として,
6167 設問3は出来不出来にばらつきがあった。
6168
6169
6170
6171
6172
6173 第2問
6174 設問1については,
6175 よく理解できている答案と,
6176 そうでない答案とに分かれる傾向
6177 にあった。
6178
6179 海洋区域の限界設定が沿岸国の一方的行為により行われることについて,
6180
6181 明確に理解が示されている答案は少なかった。
6182
6183
6184 設問2についても,
6185 よくできている答案とそうでない答案とに分かれる傾向にあっ
6186 た。
6187
6188 よくできている答案は,
6189 国際司法裁判所規程第41条第1項の要件だけではなく,
6190
6191 これまでの先例を踏まえた解答がなされていた。
6192
6193 また,
6194 設問の事実状況について事例
6195 への当てはめをした上で,
6196 暫定措置の要件の充足いかんについて論じていた。
6197
6198 ただ,
6199
6200 事例への当てはめを十分に論じている答案は必ずしも多くはなかった。
6201
6202
6203 設問3については,
6204 慣習国際法としての効力を論ずる点については,
6205 ほとんどの答
6206
6207 - 56 -
6208
6209 案ができていた。
6210
6211 ただ,
6212 法典化条約の慣習国際法化という観点から論じている答案は,
6213
6214 ほとんどなかった。
6215
6216 また,
6217 条約の採択時の状況,
6218 その後の条約の適用状況が問題文に
6219 説明されているが,
6220 これらについて取り上げて,
6221 慣習国際法化しているかどうかとい
6222 う点を論じている答案は必ずしも多くはなく,
6223 類型的に慣習国際法の成立要件を論じ
6224 ている答案が多かった。
6225
6226 その意味で,
6227 事例への当てはめを十分に論じている答案は多
6228 くはなかった。
6229
6230
6231 全体としては,
6232 個々の設問について論点を理解することはおおむねできている。
6233
6234
6235 点の整理をして解答を作成している答案が多いということである。
6236
6237 他方,
6238 設問の問題
6239 文にある事実状況への当てはめが十分になされていないというのが特徴的であった。
6240
6241
6242
6243 - 57 -
6244
6245 平成23年新司法試験の採点実感等に関する意見(国際関係法(私法系))
6246
6247
6248 出題の趣旨,
6249 狙い等
6250 本年度の国際関係法(私法系)の問題は,
6251 昨年と同様に,
6252 狭義の国際私法(抵触法)
6253 及び国際民事訴訟法から出題されている。
6254
6255 各問題の出題の趣旨については,
6256 すでに法
6257 務省ホームページにて公表済みである。
6258
6259
6260
6261
6262
6263 採点方針
6264 本年度は,
6265 次の3つの能力を受験者が有しているか否かを判定できるように,
6266 出題
6267 した。
6268
6269 すなわち,
6270 @国際私法・国際民事訴訟法上の基本的な知識と理解を基にして論
6271 理的に破綻のない推論により一定の結論が導けるか,
6272 A設例の事実からいかなる問題
6273 を析出できるか,
6274 B関連する法規範の趣旨の正確な理解を前提として,
6275 複数の法規の
6276 体系的な関連性を認識しながら,
6277 析出された問題の処理に適切な法規範を特定し,
6278
6279 用できるかである。
6280
6281
6282 @の基準をおおむねクリアーしている答案が,
6283 多くの場合,
6284 「一応の水準」答案と
6285 なるのではないかとみられる。
6286
6287 各法領域の法規範に関する知識をまんべんなく有し,
6288
6289 かつ,
6290 「類題」や「応用問題」とも言うべき問題に対処できる程度に深く法規範の趣
6291 旨を理解しているか。
6292
6293 こういったいわば量的・質的な観点から見た優劣が答案を「良
6294 好」又は「優秀」に分けたように見られる。
6295
6296
6297 なお,
6298 学説が分かれている論点については,
6299 結論それ自体によって得点に差を設け
6300 ることはしていないが,
6301 判例・通説の見解を踏まえ,
6302 自説の論拠を十分に示しつつ,
6303
6304 自説が論理的に展開できているか否かを基準にして成績評価をした。
6305
6306 いまだ確たる判
6307 例法が形成されていない論点との関連についても同様である。
6308
6309
6310
6311 3 採点実感
6312 (1) 第1問について
6313 設問1(1)は,
6314 地域的不統一法国の国籍を有する者を被相続人とする相続につ
6315 いて,
6316 その準拠法を問う問題である。
6317
6318 イ)法の適用に関する通則法(以下,
6319 「通則
6320 法」という。
6321
6322 )第36条の問題と性質決定し,
6323 同法第38条第3項の規定に従い「法
6324 域」を特定した後に,
6325 ロ)P法から日本法への反致(同法第41条)はないためP
6326 地域の実質法を適用する,
6327 というプロセスが論理的に示されなければならない。
6328
6329 イ)
6330 の点について大多数の答案は正しい推論を示していたが,
6331 ロ)の点に言及しない答
6332 案が相当数あった。
6333
6334 また,
6335 P法@の抵触規定を適用してP地域の実質法の適用を導
6336 いたものも少数あった。
6337
6338
6339 設問1(2)について,
6340 比較的多くの解答は,
6341 正しく,
6342 逸失利益の算定方法の準
6343 拠法を通則法第17条の指定する日本法に求め,
6344 日本法上,
6345 逸失利益の推算には被
6346 害者の将来収入等,
6347 被害者の具体的事情が考慮されなければならないとしていた。
6348
6349
6350 法廷地法として日本法の適用を説明する答案もあったが,
6351 「手続は法廷地法による」
6352 との原則による場合には,
6353 通則法第17条を適用しない理由を説得的に説明してほ
6354 しかった。
6355
6356 平成9年1月28日の最高裁判決を意識した答案には高い評価が与えら
6357 れた。
6358
6359 他方で,
6360 算定方法(大前提)と推算の基礎(小前提)とを混同して,
6361 準拠法
6362 をP法とする答案も相当数あった。
6363
6364
6365
6366 - 58 -
6367
6368 設問1(3)は,
6369 不法行為準拠法と相続準拠法との関係を問う問題である。
6370
6371 請求
6372 権の移転可能性及び相続財産の範囲という2つの事項を明確に認識しているか否か
6373 が評価を左右した。
6374
6375 比較的多くの答案はいわゆる2つの準拠法を累積的に適用して
6376 いたが,
6377 これら2つの事項と各準拠法との関係が正しく示されていれば,
6378 不法行為
6379 準拠法と相続準拠法との適用関係をいかに構成するかは,
6380 評価に影響しない。
6381
6382
6383 設問2においては,
6384 結果発生地(通則法第17条本文)及び予見可能性(同条た
6385 だし書)の意義を問い,
6386 これを設問の事例に正しく当てはめている答案が比較的多
6387 かった。
6388
6389 他方で,
6390 一般人を基準とした予見可能性と個別的・具体的な事案における
6391 加害者の予見可能性を必ずしも明確に区別していないと見られる答案も相当数に上
6392 った。
6393
6394 遺族固有の慰謝料請求権については,
6395 遺族の苦痛が発生した地ではなく,
6396
6397 故地を結果発生地と構成する答案もあったが,
6398 そのような構成を採る場合には,
6399
6400 法第17条ただし書の存在理由を説明してほしかった。
6401
6402
6403 設問3は,
6404 同時死亡の準拠法を問う問題である。
6405
6406 多くの答案は,
6407 被相続人と相続
6408 人の同時存在の原則を相続の問題として性質決定していた。
6409
6410 この問題を相続人の権
6411 利能力の問題として性質決定する見解も排斥していない。
6412
6413 いずれの構成を採るにせ
6414 よ,
6415 論点を丁寧に析出し,
6416 理由を付して性質決定できているか否かが評価を分けた。
6417
6418
6419 (2) 第2問について
6420 設問1はパートナーシップの当事者能力の準拠法を問う問題である。
6421
6422 大多数の答
6423 案は「手続は法廷地法による」との原則に従い民事訴訟法第28条から出発する構
6424 成を採っていた。
6425
6426 これらの答案の多くは,
6427 同条の「その他の法令」の中には法人の
6428 従属法に関する抵触法規も含まれるとする点までは正しい推論を行っていた。
6429
6430 しか
6431 し,
6432 この抵触法規により従属法に送致される問題が権利能力の有無であることを理
6433 解していない答案が多数あり,
6434 従属法たる外国法が当事者能力を認めていることを
6435 理由として,
6436 直ちに当事者能力を肯定していた。
6437
6438 なお,
6439 いわゆる属人法説など当事
6440 者能力の準拠法に関する他の見解に従う推論をしていても,
6441 このことは採点に影響
6442 しない。
6443
6444
6445 設問2は,
6446 保証契約の準拠法を問う問題である。
6447
6448 保証契約における特徴的給付と
6449 は何か,
6450 この基準に基づく推定を覆し得る事情の存否を示さなければならない(通
6451 則法第8条第1項,
6452 第2項)。
6453
6454 また,
6455 準拠法の事後的選択についても言及しなけれ
6456 ばならない(通則法第9条)。
6457
6458 特徴的給付という基準を認識しているにもかかわら
6459 ず,
6460 この基準による推定は保証契約には機能しないとする答案が比較的多数あった。
6461
6462
6463 また,
6464 事後的な準拠法選択の可能性に言及しない答案もかなりあった。
6465
6466
6467 設問3は,
6468 法律上の債権移転は原因行為の帰結としての側面を持つことを踏まえ,
6469
6470 移転すべき債権の準拠法の適用に対する債務者の利益を後退させるべきか否か,
6471
6472 務者の利益よりも本来副次的にのみ責任を負うはずであった新債権者の権利を抵触
6473 法上も優先すべきか否かを論じてほしかった。
6474
6475 債権譲渡に関する通則法第23条が
6476 対象債権の準拠法を指定している趣旨の理解が評価の差となった。
6477
6478
6479
6480
6481 今後の出題について
6482 今後も,
6483 狭義の国際私法,
6484 国際民事手続法及び国際取引法の各分野の基本的事項
6485 を組み合わせた事例問題を出題することになると考えられる。
6486
6487
6488
6489 - 59 -
6490
6491