1 論文式試験問題集[刑事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲,
9 乙及び丙の罪責について,
10 具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特
11 別法違反の点を除く。
12
13 )。
14
15
16
17
18 甲(53歳,
19 男性,
20 身長170センチメートル,
21 体重75キログラム)は,
22 医薬品の研究開発・
23 製造・販売等を目的とするA株式会社(以下「A社」という。
24
25 )の社員である。
26
27
28 A社には,
29 新薬開発部,
30 財務部を始めとする部があり,
31 各部においてその業務上の情報等を管
32 理している。
33
34 各部は,
35 A社の本社ビルにおいて,
36 互いに他の部から独立した部屋で業務を行って
37 いる。
38
39
40
41
42
43 某年12月1日,
44 甲がA社の新薬開発部の部長になって2年が経過した。
45
46 甲は,
47 部長として,
48
49 新薬開発部が使用する部屋に設置された部長席において執務し,
50 同部の業務全般を統括し,
51 A社
52 の新薬開発チームが作成した新薬の製造方法が記載された書類(以下「新薬の書類」という。
53
54
55 を管理するなどの業務に従事していた。
56
57 新薬の書類は,
58 部長席の後方にある,
59 暗証番号によって
60 開閉する金庫に入れて保管されていた。
61
62
63
64
65
66 甲は,
67 同日,
68 甲の大学時代の後輩であり,
69 A社とライバル関係にある製薬会社の営業部長乙(50
70 歳,
71 男性)から食事に誘われ,
72 その席で,
73 乙に,
74 「これはまだ秘密の話だが,
75 最近,
76 A社は新薬
77 の開発に成功した。
78
79 私は,
80 新薬開発部の部長だから,
81 新薬の書類を自分で保管しているのだよ。
82
83
84 と言った。
85
86 すると,
87 乙は,
88 甲に,
89 「是非,
90 その書類を持ち出して私に下さい。
91
92 私は,
93 その書類を
94 我が社の商品開発に活用したい。
95
96 成功すれば,
97 私は将来,
98 我が社の経営陣に加わることができる。
99
100
101 その書類と交換に,
102 私のポケットマネーから300万円を甲先輩に払いますし,
103 甲先輩を海外の
104 支社長として我が社に迎え入れます。
105
106 」と言った。
107
108
109 甲は,
110 部長職に就いたものの,
111 A社における自己の人事評価は今一つで,
112 そのうち早期退職を
113 促されるかもしれないと感じていたため,
114 できることならば300万円を手に入れるとともに乙
115 の勤務する会社に転職もしたいと思った。
116
117 そこで,
118 甲は,
119 乙に,
120 「分かった。
121
122 具体的な日にちは
123 言えないが,
124 新薬の書類を年内に渡そう。
125
126 また連絡する。
127
128 」と言った。
129
130
131
132
133
134 甲は,
135 その後,
136 同月3日付けで財務部経理課に所属が変わり,
137 同日,
138 新薬開発部の後任の部長
139 に引継ぎを行って部長席の後方にある金庫の暗証番号を伝えた。
140
141
142 甲は,
143 もし自己の所属が変わったことを乙に告げれば,
144 乙は同月1日の話をなかったことにす
145 ると言うかもしれない,
146 そうなれば300万円が手に入らず転職もできないと思い,
147 自己の所属
148 が変わったことを乙に告げず,
149 毎月15日午前中にA社の本社ビルにある会議室で開催される新
150 薬開発部の部内会議のため同部の部屋に誰もいなくなった隙に新薬の書類を手に入れ,
151 これを乙
152 に渡すこととした。
153
154
155
156
157
158 甲は,
159 同月15日,
160 出勤して有給休暇取得の手続を済ませ,
161 同日午前10時30分,
162 新薬開発
163 部の部内会議が始まって同部の部屋に誰もいなくなったことを確認した後,
164 A3サイズの書類が
165 入る大きさで,
166 持ち手が付いた甲所有のかばん(時価約2万円相当。
167
168 以下「甲のかばん」という。
169
170
171 を持って同部の部屋に入った。
172
173 そして,
174 甲は,
175 部長席の後方にある金庫に暗証番号を入力して金
176 庫を開け,
177 新薬の書類(A3サイズのもの)10枚を取り出して甲のかばんに入れ,
178 これを持っ
179 て新薬開発部の部屋を出て,
180 そのままA社の本社ビルを出た。
181
182
183 甲は,
184 甲のかばんを持ってA社の本社ビルの最寄り駅であるB駅に向かいながら,
185 乙に,
186 電話
187 で,
188 「実は,
189 先日,
190 私は新薬開発部から財務部に所属が変わったのだが,
191 今日,
192 新薬の書類を持
193 ち出すことに成功した。
194
195 これから会って渡したい。
196
197 」と言ったところ,
198 乙は,
199 甲に,
200
201 「所属が変わっ
202 たことは知りませんでした。
203
204 遠くて申し訳ありませんが,
205 私の自宅で会いましょう。
206
207 そこで300
208 万円と交換しましょう。
209
210 」と言った。
211
212
213
214 - 2 -
215
216
217
218 甲が向かっているB駅は,
219 通勤・通学客を中心に多数の乗客が利用する駅で,
220 駅前のロータリー
221 から改札口に向かって右に自動券売機があり,
222 左に待合室がある。
223
224 待合室は四方がガラス張りだ
225 が,
226 自動券売機に向かって立つと待合室は見えない。
227
228 待合室は,
229 B駅の始発時刻から終電時刻ま
230 での間は開放されて誰でも利用でき,
231 出入口が1か所ある。
232
233 自動券売機と待合室の出入口とは直
234 線距離で20メートル離れている。
235
236
237
238
239
240 甲は,
241 B駅に着き,
242 待合室の出入口を入ってすぐ近くにあるベンチに座り,
243 しばらく休んだ。
244
245
246 そして,
247 甲は,
248 同日午前11時15分,
249 自動券売機で切符を買うため,
250 甲のかばんから財布を取
251 り出して手に持ち,
252 新薬の書類のみが入った甲のかばんを同ベンチに置いたまま待合室を出て,
253
254 自動券売機に向かった。
255
256
257 待合室の奥にあるベンチに座って甲の様子を見ていた丙(70歳,
258 男性)は,
259 ホームレスの生
260 活をしていたが,
261 真冬の生活は辛かったので,
262 甲のかばんを持って交番へ行き,
263 他人のかばんを
264 勝手に持ってきた旨警察官に申し出れば,
265 逮捕されて留置施設で寒さをしのぐことができるだろ
266 うと考え,
267 同日午前11時16分,
268 ベンチに置かれた甲のかばんを抱え,
269 待合室を出た。
270
271 この時,
272
273 甲は,
274 自動券売機に向かって立ち,
275 切符を買おうとしていた。
276
277 丙は,
278 甲のかばんを持って直ちに
279 ロータリーの先にある交番(待合室出入口から50メートルの距離)に行き,
280 警察官に,
281 「駅の
282 待合室からかばんを盗んできました。
283
284 」と言って,
285 甲のかばんを渡した。
286
287
288 甲がB駅の待合室に入ってから丙が甲のかばんを持って待合室を出るまでの間,
289 待合室を利用
290 した者は,
291 甲と丙のみであった。
292
293
294
295
296
297 甲は,
298 同日午前11時17分,
299 切符の購入を済ませて待合室に戻る途中で,
300 甲のかばんと同じ
301 ブランド,
302 色,
303 大きさのかばんを持って改札口を通過するC(35歳,
304 男性,
305 身長175センチ
306 メートル,
307 体重65キログラム)を見たことから,
308 甲のかばんのことが心配になって待合室のベ
309 ンチを見たところ,
310 甲のかばんが無くなっていたので,
311 Cが甲のかばんを盗んだものと思い込ん
312 だ。
313
314
315 甲は,
316 Cからかばんを取り返そうと考え,
317 即座に,
318 「待て,
319 待て。
320
321 」と言ってCを追い掛けた。
322
323
324 甲は,
325 同日午前11時18分,
326 改札口を通過してホームに向かう通路でCに追い付き,
327 Cに,
328
329
330 「私のかばんを盗んだな。
331
332 返してくれ。
333
334 」と言った。
335
336 しかし,
337 Cは,
338 自己の所有するかばんを持っ
339 ていたので,
340 甲を無視してホームに向かおうとした。
341
342 甲は,
343 Cに,
344 「待て。
345
346 」と言ったが,
347 Cが全
348 く取り合わなかったので,
349 「盗んだかばんを返せと言っているだろう。
350
351 」と言ってCが持っていた
352 C所有のかばんの持ち手を手でつかんで引っ張ってそのかばんを取り上げ,
353 これを持ってホーム
354 に行き,
355 出発間際の電車に飛び乗った。
356
357
358 Cは,
359 甲からかばんを引っ張られた弾みで通路に手を付き,
360 手の平を擦りむいて,
361 加療1週間
362 を要する傷害を負った。
363
364
365
366 - 3 -
367
368 論文式試験問題集[刑事系科目第2問]
369
370 - 1 -
371
372 [刑事系科目]
373 〔第2問〕(配点:100)
374 次の【事例】を読んで,
375 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
376
377
378 【事
379
380
381 例】
382 平成27年2月4日午前10時頃,
383 L県M市内のV(65歳の女性)方に電話がかかり,
384 Vは,
385
386
387 電話の相手から,
388 「母さん,
389 俺だよ。
390
391 先物取引に手を出したら大損をしてしまった。
392
393 それで,
394
395 社の金に手を付けてしまい,
396 それが上司にばれてしまった。
397
398 今日中にその穴埋めをしないと,
399
400 察に通報されて逮捕されてしまう。
401
402 母さん,
403 助けて。
404
405 上司と電話を代わるよ。
406
407 」と言われ,
408 次の
409 電話の相手からは,
410 「息子さんの上司です。
411
412 息子さんが我が社の金を使い込んでしまいました。
413
414
415 金額は500万円です。
416
417 このままでは警察に通報せざるを得ません。
418
419 そうなると,
420 息子さんはク
421 ビですし,
422 横領罪で逮捕されます。
423
424 ただ,
425 今日中に穴埋めをしてもらえれば,
426 私の一存で穏便に
427 済ませることができます。
428
429 息子さんの代わりに500万円を用意していただけますか。
430
431 私の携帯
432 電話の番号を教えるので,
433 500万円を用意したら,
434 私に電話を下さい。
435
436 M駅前まで,
437 私の部下
438 を受取に行かせます。
439
440 」と言われた。
441
442 Vは,
443 息子とその上司からの電話だと思い込み,
444 電話の相
445 手から求められるまま,
446 500万円を用意してM駅前に持参することにした。
447
448
449 Vは,
450 最寄りの銀行に赴き,
451 窓口で自己名義の預金口座から現金500万円を払い戻そうとし
452 たが,
453 銀行員の通報により駆けつけた司法警察員Pらの説得を受け,
454 直接息子と連絡を取った結
455 果,
456 何者かがVの息子に成り済ましてVから現金をだまし取ろうとしていることが判明した。
457
458
459
460
461 Pらは,
462 Vを被害者とする詐欺未遂事件として捜査を開始し,
463 犯人を検挙するため,
464 Vには引
465 き続きだまされているふりをしてもらい,
466 犯人をM駅前に誘い出すことにした。
467
468
469 同日午後2時頃,
470 M駅前に甲が現れ,
471 Vから現金を受け取ろうとしたことから,
472 あらかじめ付
473 近に張り込んでいたPらは,
474 甲を,
475 Vに対する詐欺未遂の現行犯人として逮捕した。
476
477
478
479
480
481 甲は,
482 「知らない男から,
483 『謝礼を支払うので,
484 自分の代わりに荷物を受け取ってほしい。
485
486 』と
487
488 頼まれたことから,
489 これを引き受けたが,
490 詐欺とは知らなかった。
491
492 」と供述し,
493 詐欺未遂の被疑
494 事実を否認した。
495
496
497 甲は,
498 同月6日,
499 L地方検察庁検察官に送致されて引き続き勾留されたが,
500 その後も同様の供
501 述を続けて被疑事実を否認した。
502
503
504 逮捕時,
505 甲は同人名義の携帯電話機を所持していたことから,
506 その通話記録について捜査した
507 結果,
508 逮捕前に甲が乙と頻繁に通話をし,
509 逮捕後も乙から頻繁に着信があったことが判明した。
510
511
512 そこで,
513 Pらは,
514 乙が共犯者ではないかと疑い,
515 乙について捜査した結果,
516 乙が,
517 L県N市内の
518 Fマンション5階501号室に一人で居住し,
519 仕事はしておらず,
520 最近は外出を控え,
521 周囲を警
522 戒していることが判明したことから,
523 Pらは,
524 一層その疑いを強めた。
525
526
527 そこで,
528 Pらは,
529 乙方の隣室であるFマンション502号室が空室であったことから,
530 同月
531 12日,
532 同室を賃借して引渡しを受け,
533 同室にPらが待機して乙の動静を探ることにした。
534
535
536
537
538 同月13日,
539 Pが,
540 Fマンション502号室ベランダに出た際,
541 乙も,
542 乙方ベランダに出て来
543 て,
544 携帯電話で通話を始めた。
545
546 その声は,
547 仕切り板を隔てたPにも聞こえたことから,
548 Pは,
549
550 502号室ベランダにおいて,
551 @ICレコーダを使用して,
552 約3分間にわたり,
553 この乙の会話を
554 録音した。
555
556 その際,
557 「甲が逮捕されました。
558
559 どうしますか。
560
561 」という乙の声がPにも聞こえ,
562 同レ
563 コーダにも録音されたが,
564 電話の相手の声は,
565 Pには聞こえず,
566 同レコーダにも録音されていな
567 かった。
568
569
570 このように,
571 乙が本件に関与し,
572 他に共犯者がいることがうかがわれ,
573 乙がこの者と連絡を取っ
574 ていることから,
575 Pらは,
576 同502号室の居室の壁越しに乙方の居室内の音声を聞き取ろうとし
577 たが,
578 壁に耳を当てても音声は聞こえなかった。
579
580 そこで,
581 Pらは,
582 隣室と接する壁の振動を増幅
583 させて音声として聞き取り可能にする機器(以下「本件機器」という。
584
585 )を使用することにし,
586
587
588 - 2 -
589
590 本件機器を同502号室の居室の壁の表面に貼り付けると,
591 本件機器を介して乙方の居室内の音
592 声を鮮明に聞き取ることができた。
593
594 そして,
595 Pらは,
596 同月15日,
597 A約10時間にわたり,
598 本件
599 機器を介して乙方の居室内の音声を聞き取りつつ,
600 本件機器に接続したICレコーダにその音声
601 を継続して録音した。
602
603 しかし,
604 このようにして聴取・録音された内容は,
605 時折,
606 乙が詐欺とはお
607 よそ関係のない話をしているにすぎないものであったことから,
608 これ以後,
609 Pらは本件機器を使
610 用しなかった。
611
612
613
614
615 甲は,
616 司法警察員Qによる取調べを受けていたが,
617 前記のとおり,
618 否認を続けていた。
619
620 Qは,
621
622 同月16日,
623 L地方検察庁において,
624 検察官Rと今後の捜査方針を打ち合わせた際,
625 Rから,
626
627 「こ
628 の種の詐欺は上位者を処罰しなければ根絶できないが,
629 今のままでは乙を逮捕することもできな
630 い。
631
632 甲が見え透いた虚偽の弁解をやめ,
633 素直に共犯者についても洗いざらいしゃべって自供し,
634
635 改悛の情を示せば,
636 本件は未遂に終わっていることから,
637 起訴猶予処分にしてやってよい。
638
639 甲に,
640
641 そのことをよく分からせ,
642 率直に真相を自供することを勧めるように。
643
644 」と言われた。
645
646 そこで,
647
648 Qは,
649 同日,
650 甲を取り調べ,
651 甲に対し,
652 「共犯者は乙ではないのか。
653
654 検察官は君が見え透いたう
655 そを言っていると思っているが,
656 改悛の情を示せば起訴猶予にしてやると言っているので,
657 共犯
658 者が誰かも含めて正直に話した方が良い。
659
660 」と言って自白を促した。
661
662 これを聞いて,
663 甲は,
664 自己
665 が不起訴処分になることを期待して,
666 Qに対し,
667 「それなら本当のことを話します。
668
669 詐欺である
670 ことは分かっていました。
671
672 共犯者は乙です。
673
674 乙から誘われ,
675 昨年12月頃から逮捕されるまで,
676
677 同じような詐欺を繰り返しやりました。
678
679 役割は決まっており,
680 乙が相手に電話をかける役であり,
681
682 私は現金を受け取る役でした。
683
684 電話の声は,
685 乙の一人二役でした。
686
687 他に共犯者がいるかどうか,
688
689 私には分かりません。
690
691 昨年までは痴漢の示談金名目で100万円を受け取っていましたが,
692 今年
693 になってから,
694 現金を受け取る名目を変えるように乙から指示され,
695 使い込んだ会社の金を穴埋
696 めする名目で500万円を受け取るようになりました。
697
698 詐欺の拠点は,
699 M市内のGマンション
700 1003号室です。
701
702 」と供述して自白した。
703
704
705 そこで,
706 Pは,
707 前記甲の自白に基づき,
708 Vに対する詐欺未遂の被疑事実で乙の逮捕状,
709 Gマン
710 ション1003号室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付を受け,
711 同月18日,
712 乙を通常逮捕
713 し,
714 また,
715 同1003号室の捜索を実施したが,
716 同室は既にもぬけの殻となっており,
717 証拠物を
718 押収することはできなかった。
719
720
721 乙は,
722 同日,
723 逮捕後の取調べにおいて,
724 甲の供述内容を知らされなかったものの,
725 甲が自白し
726 たと察して,
727 「甲が自白したのでしょうから話します。
728
729 私が電話をかけてVをだまし,
730 甲に現金
731 を受け取りに行かせました。
732
733 しかし,
734 甲が逮捕されてしまったので,
735 Gマンション1003号室
736 から撤退しました。
737
738 ほとぼりが冷めたら再開するつもりでしたので,
739 詐欺で使った道具は,
740 M市
741 内のHマンション705号室に隠してあります。
742
743 」と供述した。
744
745 乙は,
746 同月19日,
747 L地方検察
748 庁検察官に送致されて引き続き勾留された。
749
750
751
752
753
754 Pは,
755 前記乙の供述に基づき,
756 Vに対する詐欺未遂の被疑事実でHマンション705号室を捜
757 索場所とする捜索差押許可状の発付を受け,
758 同月19日,
759 同室において,
760 捜索差押えを実施した。
761
762
763 同室からは,
764 架空人名義の携帯電話機,
765 Vの住所・氏名・電話番号が掲載された名簿などのほ
766 か,
767 次のような文書1通(以下「本件文書」という。
768
769 )及びメモ紙1枚(以下「本件メモ」とい
770 う。
771
772 )が差し押さえられた。
773
774
775 本件文書の記載内容は,
776
777 【資料1】のとおりであり,
778 パソコンで作成されているが,
779 右上の「0
780 XX−XXXX−5678」という記載は手書き文字である。
781
782 この手書き文字は,
783 V方の電話番
784 号と一致し,
785 また,
786 筆跡鑑定の結果,
787 乙の筆跡であることが判明した。
788
789 さらに,
790 本件文書からは,
791
792 丙の指紋が検出された。
793
794
795 本件メモの記載内容は,
796 【資料2】のとおりであり,
797 全ての記載が手書き文字である。
798
799 これら
800 の文字は,
801 筆跡鑑定の結果,
802 いずれも乙の筆跡であることが判明した。
803
804
805
806
807
808 このように,
809 本件文書から丙の指紋が検出されたほか,
810 乙が逮捕時に所持していた同人名義の
811
812 - 3 -
813
814 携帯電話の通話記録について捜査した結果,
815 Pが同月13日にFマンション502号室のベラン
816 ダで乙の会話を聴取・録音したのと同じ時刻に,
817 乙が丙に電話をかけていることが判明した。
818
819
820 こで,
821 Pは,
822 これらに基づき,
823 Vに対する詐欺未遂の被疑事実で丙の逮捕状の発付を受け,
824 同月
825 21日,
826 丙を通常逮捕した。
827
828
829 丙は,
830 逮捕後の取調べにおいて,
831 「全く身に覚えがない。
832
833 」と供述し,
834 同月22日,
835 L地方検察
836 庁検察官に送致されて引き続き勾留されたが,
837 その後も同様の供述を続けて一貫して被疑事実を
838 否認した。
839
840
841 乙は,
842 同月23日,
843 Rによる取調べにおいて,
844 「私は,
845 甲と一緒になってVから現金500万
846 円をだまし取ろうとしました。
847
848 私が電話をかける役であり,
849 甲が現金を受け取る役でした。
850
851 昨年
852 12月頃から同じような詐欺を繰り返しやりました。
853
854 」と供述したものの,
855 丙の関与については,
856
857 「丙のことは一切話したくありません。
858
859 」と供述し,
860 本件文書については,
861 「これは,
862 だます方法
863 のマニュアルです。
864
865 このマニュアルに沿って電話で話して相手をだましていました。
866
867 右上の手書
868 き文字は,
869 私がVに電話をかけた際に,
870 その電話番号を記載したものです。
871
872 このマニュアルは,
873
874 私が作成したものではなく,
875 他の人から渡されたものです。
876
877 しかし,
878 誰から渡されたかは話した
879 くありません。
880
881 このマニュアルに丙の指紋が付いていたようですが,
882 丙のことは話したくありま
883 せん。
884
885 」と供述し,
886 本件メモについては,
887 「私が書いたものですが,
888 何について書いたものかは話
889 したくありません。
890
891 」と供述した。
892
893 そこで,
894 Rは,
895 これらの乙の供述を録取し,
896 末尾に本件文書
897 及び本件メモの各写しを添付して検察官調書1通(以下「本件検察官調書」という。
898
899 )を作成し,
900
901 乙の署名・指印を得た。
902
903 なお,
904 乙は,
905 丙の関与並びに本件文書及び本件メモについて,
906 その後も
907 同様の供述を続けた。
908
909
910
911
912 Rは,
913 甲については,
914 延長された勾留期間の満了日である同月25日,
915 釈放して起訴猶予処分
916 とし,
917 乙及び丙については,
918 乙の延長された勾留期間の満了日である同年3月10日,
919 両名を,
920
921 甲,
922 乙及び丙3名の共謀によるVに対する詐欺未遂の公訴事実でL地方裁判所に公判請求し,
923
924 の後,
925 乙と丙の弁論は分離されることになった。
926
927
928
929
930
931 同年4月17日の丙の第1回公判において,
932 丙は,
933 「身に覚えがありません。
934
935 」と陳述して公訴
936 事実を否認し,
937 丙の弁護人は,
938 本件検察官調書について,
939 「添付文書を含め,
940 不同意ないし取調
941 べに異議あり。
942
943 」との証拠意見を述べたことから,
944 Rは,
945 丙と乙との共謀を立証するため,
946 乙の
947 証人尋問を請求するとともに,
948 B本件文書及び本件メモについても証拠調べを請求した。
949
950 丙の弁
951 護人は,
952 本件文書及び本件メモについて,
953 「不同意ないし取調べに異議あり。
954
955 」との証拠意見を述
956 べた。
957
958
959 同年5月8日の丙の第2回公判において,
960 乙の証人尋問が実施され,
961 乙は,
962 丙の関与並びに本
963 件文書及び本件メモについて,
964 本件検察官調書の記載と同様の供述をした。
965
966
967
968 〔設問1〕
969
970 @及びAで行われたそれぞれの捜査の適法性について,
971 具体的事実を摘示しつつ論じ
972 なさい。
973
974
975
976 〔設問2〕
977
978 Bで証拠調べ請求された本件文書及び本件メモのそれぞれの証拠能力について,
979 証拠
980 収集上の問題点を検討し,
981 かつ,
982 想定される具体的な要証事実を検討して論じなさい。
983
984
985
986 - 4 -
987
988 【資料1】
989
990 0XX−XXXX−5678
991 先物取引
992 〔母さん/父さん〕,
993 俺だよ。
994
995
996 先物取引に手を出したら大損をしてしまった。
997
998
999 息子
1000
1001 それで,
1002 会社の金に手を付けてしまい,
1003 それが上司にばれてしまった。
1004
1005
1006 今日中にその穴埋めをしないと,
1007 警察に通報されて逮捕されてしまう。
1008
1009
1010 上司と電話を代わる。
1011
1012
1013 息子さんの上司です。
1014
1015
1016 息子さんが我が社の金を使い込んでしまいました。
1017
1018
1019 金額は500万円です。
1020
1021
1022 このままでは警察に通報せざるを得ません。
1023
1024
1025
1026 上司
1027
1028 そうなると,
1029 息子さんはクビですし,
1030 横領罪で逮捕されます。
1031
1032
1033 しかし,
1034 今日中に穴埋めをしてもらえれば,
1035 私の一存で穏便に済ませることができます。
1036
1037
1038 息子さんの代わりに500万円を用意してもらえますか。
1039
1040
1041 私の携帯電話の番号を教えるので,
1042 500万円を用意したら,
1043 私に電話をください。
1044
1045
1046
1047
1048 〕まで,
1049 私の部下を受け取りに行かせます。
1050
1051
1052
1053
1054
1055 受取役は,
1056 警察に捕まった場合,
1057 「知らない男から,
1058 『謝礼を支払うので,
1059 自分の代わりに荷物
1060 を受け取ってほしい。
1061
1062 』と頼まれて引き受けただけで,
1063 詐欺とは知らなかった。
1064
1065 」と言い張ること。
1066
1067
1068
1069 【資料2】
1070
1071 1/5
1072
1073 丙からtel
1074
1075 チカンの示談金はもうからないのでやめる
1076 先物取引で会社の金を使いこんだことにする
1077 金額は500万円
1078 マニュアルは用意する
1079
1080 - 5 -
1081
1082