1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,
7 〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,
8 4:3:3〕)
9 次の文章を読んで,
10 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
11
12
13 T
14 【事実】
15 1.平成23年4月1日,
16 Aは,
17 山林である自己所有の甲土地から切り出した20本の丸太を相
18 場価格に従い1本当たり15万円の価格で製材業者Bに売却する旨の契約を締結し,
19 同日,
20 B
21 の工場に上記20本の丸太を搬入した。
22
23 その際,
24 代金の支払時期は,
25 同年8月1日とされた。
26
27
28 また,
29 Aの代金債権を担保するため,
30 丸太の所有権移転の時期は,
31 代金の支払時とし,
32 代金の
33 支払がされるまでBは丸太の処分や製材をしないことが合意された。
34
35
36 2.平成23年4月15日,
37 建築業者Cは,
38 Bが【事実】1に記した20本の丸太を購入したと
39 いう噂を聞き,
40 甲土地が高品質の材木の原料となる丸太を産出することで有名であったことか
41 ら,
42 Bに対して,
43 上記20本の丸太を製材した上,
44 自分に売ってほしいと申し入れた。
45
46 Bは,
47
48 Aとの間で【事実】1に記した合意をしていたことに加え,
49 つい最近も,
50 当該合意と同様の合
51 意をしてAから別の丸太を買い入れたにもかかわらず,
52 その代金の支払前にその丸太を第三者
53 に転売したことがAに発覚してトラブルが生じていたこともあり,
54 Cの申入れに応じることは
55 難しいと考え,
56 Cに対し,
57 少し事情があるので,
58 もうしばらく待ってほしい,
59 と答えた。
60
61
62 しかし,
63 Cがそれでもなお強く申し入れるので,
64 Cが古くからのBの得意先であることもあ
65 り,
66 同月18日,
67 Bは,
68 Aに無断で,
69 Cとの間で,
70 上記20本の丸太を製材して20本の材木
71 に仕上げ,
72 これらの材木を相場価格に従い1本当たり20万円の価格でCに売却する旨の契約
73 を締結した。
74
75 その際,
76 Cは,
77 それまでの取引の経験から,
78 Aが丸太を売却するときにはその所
79 有権移転の時期を代金の支払時とするのが通常であり,
80 最近もAB間で上記のトラブルが生じ
81 ていたことを知っていたが,
82 上記20本の丸太についてはAB間で代金の支払が既にされてい
83 るものと即断し,
84 特にA及びBに対する照会はしなかった。
85
86
87 Bは,
88 上記20本の丸太を製材した上,
89 同月25日,
90 Cから代金400万円の支払を受ける
91 と同時に,
92 20本の材木をCの倉庫に搬入した。
93
94
95 3.その後,
96 Cは,
97 DからDが所有する乙建物のリフォーム工事を依頼され,
98 平成23年5月2
99 日,
100 Dとの間で報酬額を600万円として請負契約を締結した。
101
102 その際,
103 Dは,
104 Cから,
105 乙建
106 物の柱を初めとする主要な部分については,
107 甲土地から切り出され,
108 Bが製材した質の高い材
109 木を10本使用する予定であり,
110 既に10本の在庫がある旨の説明を受けていた。
111
112
113 4.Cは,
114
115 【事実】2に記した20本の材木のうち,
116 10本は,
117 そのまま自分の倉庫に保管し(倉
118 庫に保管した10本の材木を,
119 以下「材木@」という。
120
121 ),
122 残りの10本は,
123 乙建物のリフォー
124 ム工事のために使用することにした(リフォーム工事のために使用した10本の材木を,
125 以下
126 「材木A」という。
127
128 )。
129
130
131 5.平成23年5月15日,
132 Dは乙建物から仮住まいの家に移り,
133 Dが有していた乙建物の鍵の
134 うちの1本をCに交付した。
135
136 その翌日,
137 Cは,
138 乙建物のリフォーム工事を開始し,
139 材木Aを用
140 いて乙建物の柱を取り替えるなどして,
141 同年7月25日,
142 リフォーム工事を完成させた。
143
144
145 同日,
146 Dが内覧をした結果,
147 乙建物のリフォーム工事はDの依頼のとおりにされたことが確
148 認され,
149 DはCに請負の報酬額600万円を支払ったが,
150 乙建物の鍵の返還は建物内の通気の
151 状況などを確認してからされることになり,
152 鍵の返還日は同年8月10日とされた。
153
154
155 6.平成23年8月1日,
156 【事実】1に記した20本の丸太に係る代金の支払時期が到来したの
157 で,
158 Aは,
159 Bの工場に丸太の代金を受け取りに行った。
160
161 ところが,
162 Bは,
163 【事実】2に記した
164 トラブルに関して,
165 この頃,
166 Aから高額の解決金の請求をされていたことから,
167 Aがその請求
168
169 - 2 -
170
171 を取り下げない限り,
172 丸太の代金を支払うことはできない旨を述べ,
173 その支払を拒絶した。
174
175 A
176 は,
177 そのようなBの対応に抗議をするとともに,
178 Bの工場内に丸太が見当たらなかったことを
179 不審に思い,
180 調査をしたところ,
181 【事実】2から5までの事情が判明した。
182
183 そこで,
184 Aは,
185 同
186 月5日,
187 C及びDに対してこれらの事情を伝えた。
188
189
190 驚いたDがCに問い合わせたところ,
191 Cは,
192 自分もAから同じ事情を聞かされて困っている
193 と答えたが,
194 いずれにしても乙建物のリフォーム工事は既に完成していることから,
195 同月10
196 日,
197 CはDに乙建物の鍵を予定どおり返還した。
198
199
200 〔設問1〕 【事実】1から6までを前提として,
201 以下の及びに答えなさい。
202
203
204
205
206 Aは,
207 Cに対して,
208 材木@の所有権がAに帰属すると主張して,
209 その引渡しを請求すること
210 ができるか。
211
212 Aの主張の根拠を説明し,
213 そのAの主張が認められるかどうかを検討した上で,
214
215 これに対して考えられるCの反論を挙げ,
216 その反論が認められるかどうかを検討しなさい。
217
218
219
220
221
222 Aは,
223 Dに対して,
224 材木Aの価額の償還を請求することができるか。
225
226 Aの請求の根拠及び内
227 容を説明し,
228 それに関するAの主張が認められるかどうかを検討した上で,
229 これに対して考え
230 られるDの反論を挙げ,
231 その反論が認められるかどうかを検討しなさい。
232
233
234
235 U
236
237 【事実】1から6までに加え,
238 以下の【事実】7から13までの経緯があった。
239
240
241
242 【事実】
243 7.平成23年12月28日,
244 Aは,
245 甲土地上に生育している全ての立木(以下「本件立木」と
246 いう。
247
248 )を製材業者Eに売却する旨の契約を締結し,
249 その代金全額の支払を受けた。
250
251 そこで,
252
253 Eは,
254 平成24年1月5日から,
255 本件立木の表皮を削ってEの所有である旨を墨書する作業を
256 始め,
257 同月7日までに,
258 甲土地の東半分に生育する立木につき,
259 明認方法を施し終えた。
260
261
262 8.ところが,
263 資金繰りに窮していたAは,
264 平成24年1月17日,
265 甲土地及び甲土地上の本件
266 立木をFに売却する旨の契約を締結し,
267 同日,
268 その代金全額の支払と引換えに,
269 甲土地につい
270 てAからFへの所有権移転登記がされた。
271
272 これに先立ち,
273 Fは,
274 同月4日に甲土地を訪れ,
275 本
276 件立木の生育状況を確認していたが,
277 その時点ではEが本件立木への墨書を開始していなかっ
278 たことから,
279 上記契約を締結する際には,
280 既にAからEに対し本件立木が売却されていたこと
281 をFは知らなかった。
282
283
284 9.平成24年1月25日,
285 Fは,
286 甲土地を訪れたところ,
287 本件立木の一部にEの墨書があるこ
288 とに気付いた。
289
290 Fは,
291 本件立木がEに奪われるのではないかと不安になったため,
292 本件立木を
293 全て切り出した上で,
294 それまでの事情を伏せて,
295 近くに住む年金暮らしの叔父Gに,
296 切り出し
297 た丸太を預かってもらうよう依頼した。
298
299 これに対し,
300 Gが自己の所有する休耕中の丙土地であ
301 れば丸太を預かることができると答えたことから,
302 同年2月2日,
303 Fは,
304 Gとの間で,
305 保管料
306 を30万円とし,
307 その支払の時期を同月9日として,
308 切り出した丸太を預かってもらう旨の合
309 意をし,
310 切り出した丸太を丙土地にトラックで搬入した。
311
312
313 10.平成24年2月10日,
314 Eは,
315 甲土地の西半分に生育する立木に墨書をするために甲土地に
316 行ったところ,
317 本件立木が全て切り出されていることを発見した。
318
319 Eは,
320 驚いて甲土地の近隣
321 を尋ね歩いた結果,
322 しばらく前にFが甲土地から切り出した丸太をトラックで搬出していたこ
323 とが分かった。
324
325
326 11.平成24年2月13日,
327 Eは,
328 Fの所在を突き止め,
329 本件立木の行方について事情を問いた
330 だしたところ,
331 Fは,
332 本件立木はAから購入したものであり,
333 既に切り出してGに預けてある
334 と答えるのみで,
335 それ以上Eの抗議について取り合おうとしなかった。
336
337
338 12.そこで,
339 Eは,
340 平成24年2月15日,
341 Gの所在を突き止め,
342 確認したところ,
343 Gが確かに
344 Fから【事実】9に記した丸太を預かっていると言うので,
345 事情を話し,
346 丸太を全てEに引き
347 渡すよう求めた。
348
349 Gは,
350 Eとともに丙土地に行き,
351 丸太を点検したところ,
352 その一部にはEの
353
354 - 3 -
355
356 墨書があることが分かったが,
357 Eの墨書がないものもあったほか,
358 丸太は全てFから預かった
359 ものであり,
360 Fから保管料の支払もまだ受けていないことから,
361 Eの求めに応じることはでき
362 ないと答えた(これらの丸太のうち,
363 Eの墨書がないものを,
364 以下「丸太B」といい,
365 Eの墨
366 書があるものを,
367 以下「丸太C」という。
368
369 なお,
370 Eの墨書は現在まで消えていない。
371
372 )。
373
374
375 13.平成24年4月2日,
376 Eは,
377 Gに対し,
378 丸太B及び丸太Cの所有権は全てEに属し,
379 これら
380 をGが占有しているとして,
381 その引渡しを求める訴えを提起した。
382
383
384 〔設問2〕 【事実】1から13までを前提として,
385 以下の及びに答えなさい。
386
387
388 なお,
389 本件において,
390 立木ニ関スル法律による登記は行われておらず,
391 同法の適用については
392 考慮しなくてよい。
393
394
395
396
397 丸太Bに関し,
398 Gは,
399 丸太BをEが所有することを争うことによって,
400 Eの請求を拒否する
401 旨主張した。
402
403 このGの主張の根拠を説明した上で,
404 Gは,
405 どのような事実を主張・立証すべき
406 であるか,
407 理由を付して解答しなさい。
408
409
410
411
412
413 丸太Cに関し,
414 Gは,
415 丸太CをEが所有すること及びこれをGが占有していることは争わな
416 いが,
417 丸太の保管料のうち丸太Cの保管料に相当する金額の支払を受けるまでは,
418 Eの請求を
419 拒否する旨主張した。
420
421 このGの主張の根拠を説明した上で,
422 その主張が認められるかどうかを
423 検討しなさい。
424
425
426
427 V
428
429 【事実】1から13までに加え,
430 以下の【事実】14から18までの経緯があった。
431
432
433
434 【事実】
435 14.Cと同居しているCの長男Hは,
436 満15歳の中学3年生である。
437
438 平成24年11月15日,
439
440 Hは,
441 Cの自宅前を通行する者を驚かせようとして,
442 Cの倉庫から,
443 15センチメートル角で
444 長さ2メートルの角材(以下「本件角材」という。
445
446 )を持ち出し,
447 Cの自宅前の道路の一部を
448 横切るように置いた。
449
450 Hが本件角材を置いたのは夕方であったが,
451 その付近は,
452 街路灯から離
453 れていたために,
454 夜間になると,
455 歩行者でも,
456 かなりの程度の注意を払っていなければ,
457 本件
458 角材に気付かない程度の暗さになり,
459 Hもそのことを認識していた。
460
461
462 15.Hは,
463 中学2年生の終わり頃から急に言動が粗暴になり,
464 喧嘩で同級生に怪我をさせたり,
465
466 同級生の自転車のブレーキワイヤーを切るといった悪質ないたずらをしたりしたことなどか
467 ら,
468 Cが学校から呼び出しを受けるという事態が何度も生じていた。
469
470 Cは,
471 Hに対し,
472 他人に
473 迷惑を掛けてはいけないといった一般的な注意をするものの,
474 反抗的なHにどのような対応を
475 してよいのか分からず,
476 それ以上の対策を講ずることはなかった。
477
478
479 16.HがCの自宅前に本件角材を置いてから1時間後,
480 既にその付近がかなり暗くなってから,
481
482 近所に住む女性Kの運転する自転車がCの自宅前の道路に差し掛かった。
483
484 Kは,
485 Kの子で3歳
486 になるLを保育所に迎えに行き,
487 荷台に設置した幼児用シートにLを乗せて自宅に戻る途中で
488 あったが,
489 自転車の車輪が本件角材に乗り上げたため,
490 ハンドルを取られて転倒し,
491 Kは無事
492 だったものの,
493 Lは右腕を骨折した。
494
495
496 17.【事実】16の事故の際,
497 Kは,
498 携帯電話で通話をしていたため,
499 片手で自転車を運転してい
500 た。
501
502 また,
503 自転車の前照灯が故障していたが,
504 保育所からKの自宅までの道路はKが普段よく
505 使う道路であったため,
506 Kは,
507 前照灯の故障を気にせず,
508 事故のあった場所を走行していた。
509
510
511 これらの事情も,
512 【事実】16の事故の原因となったことが確認されている。
513
514 なお,
515 本件におい
516 て,
517 KがLを幼児用シートに乗せていたことは,
518 法的に問題がないものとする。
519
520
521 18.Lには,
522 【事実】16の事故により,
523 右腕の骨折の治療費等として30万円相当の損害が生じ
524 た。
525
526
527
528 - 4 -
529
530 〔設問3〕 【事実】1から18までを前提として,
531 以下の及びに答えなさい。
532
533
534
535
536 Lが【事実】18に記した損害の賠償をCに対して請求するための根拠を説明した上で,
537 それ
538 に関するLの主張が認められるかどうかを検討しなさい。
539
540
541
542
543
544 の請求に対し,
545 その賠償額について,
546 Cはどのような反論をすることが考えられるか。
547
548 そ
549 の根拠を説明した上で,
550 その反論が認められるかどうかを検討しなさい。
551
552
553
554 - 5 -
555
556 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
557
558 - 1 -
559
560 [民事系科目]
561 〔第2問〕(配点:100〔
562 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
563 4:4:2〕)
564 次の文章を読んで,
565 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
566
567
568 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
569
570 )は,
571 A,
572 B及びS株式会社(以下「S社」という。
573
574 )の出
575 資により平成19年に設立された取締役会設置会社である。
576
577 甲社では,
578 設立以来,
579 Aが代表取締
580 役を,
581 B及びCが取締役をそれぞれ務めている。
582
583
584 甲社の発行済株式の総数は8万株であり,
585 Aが4万株を,
586 Bが1万株を,
587 S社が3万株をそれ
588 ぞれ有している。
589
590 甲社は,
591 種類株式発行会社ではなく,
592 その定款には,
593 譲渡による甲社株式の取
594 得について甲社の取締役会の承認を要する旨の定めがある。
595
596
597 2.甲社は,
598 乳製品及び洋菓子の製造販売業を営んでおり,
599 その組織は,
600 乳製品事業部門と洋菓子
601 事業部門とに分かれている。
602
603
604 乳製品事業部門については,
605 Aが業務の執行を担当しており,
606 甲社の工場で製造した乳製品を
607 首都圏のコンビニエンスストアに販売している。
608
609
610 また,
611 洋菓子事業部門については,
612 Bが業務の執行を担当しており,
613 甲社の別の工場(以下「洋
614 菓子工場」という。
615
616 )で製造した洋菓子を首都圏のデパートに販売している。
617
618 甲社は,
619 世界的に
620 著名なP社ブランドの日本における商標権をP社から取得し,
621 その商標(以下「P商標」という。
622
623 )
624 を付したチョコレートが甲社の洋菓子事業部門の主力商品となっている。
625
626
627 3.S社は,
628 洋菓子の原材料の輸入販売業を営んでおり,
629 S社にとって重要な取引先は,
630 甲社であ
631 る。
632
633
634 4.平成22年1月,
635 甲社は,
636 関西地方への進出を企図して,
637 マーケティング調査会社に市場調査
638 を委託し,
639 委託料として500万円を支払った。
640
641
642 5.Bは,
643 関西地方において洋菓子の製造販売業を営む乙株式会社(以下「乙社」という。
644
645 )の監
646 査役を長年務めていた。
647
648 Bの友人Dが乙社の発行済株式の全部を有し,
649 その代表取締役を務めて
650 いる。
651
652
653 平成22年3月,
654 Bは,
655 Dから乙社株式の取得を打診され,
656 代金9000万円を支払って乙社
657 の発行済株式の90%を取得した。
658
659 Bは,
660 この乙社株式の取得に際して,
661 A及びCに対し,
662 「乙
663 社の発行済株式の90%を取得するので,
664 今後は乙社の事業にも携わる。
665
666 」と述べたが,
667 A及び
668 Cは,
669 特段の異議を述べなかった。
670
671 Bは,
672 この乙社株式の取得と同時に,
673 乙社の監査役を辞任し
674 て,
675 その顧問に就任し,
676 その後,
677 連日,
678 乙社の洋菓子事業の陣頭指揮を執った。
679
680 また,
681 Bは,
682 同
683 年4月以後,
684 月100万円の顧問料の支払を受けている。
685
686
687 平成22年4月,
688 乙社は,
689 業界に知人の多いBの紹介により,
690 チョコレートで著名なQ社ブラ
691 ンドの商標(以下「Q商標」という。
692
693 )を日本において独占的に使用する権利の設定を受けた。
694
695
696 6.平成22年5月,
697 Bは,
698 甲社におけるノウハウを活用するため,
699 洋菓子工場の工場長を務める
700 Eを甲社から引き抜き,
701 乙社に転職させた。
702
703 Eの突然の退職により,
704 甲社の洋菓子工場は操業停
705 止を余儀なくされ,
706 3日間受注ができず,
707 甲社は,
708 その間,
709 1日当たり100万円相当の売上げ
710 を失った。
711
712
713 7.その後,
714 乙社は,
715 関西地方のデパートへの販路拡大に成功し,
716 平成21事業年度(平成21年
717 4月から平成22年3月まで)に200万円であった乙社の営業利益は,
718 翌事業年度には100
719 0万円に達した。
720
721
722 8.平成23年4月,
723 甲社は,
724 乙社が関西地方においてQ商標を付したチョコレートの販路拡大に
725 成功したことを知り,
726 関西地方への進出を断念した。
727
728
729
730 - 2 -
731
732 〔設問1〕 上記1から8までを前提として,
733 Bの甲社に対する会社法上の損害賠償責任について,
734
735 論じなさい。
736
737
738 9.平成23年7月,
739 Bは,
740 甲社の取締役を辞任した。
741
742 Bに代わり,
743 Fが甲社の取締役に就任し,
744
745 洋菓子事業部門の業務の執行を担当するようになったが,
746 Bの退任による影響は大きく,
747 同部門
748 の売上げは低迷した。
749
750
751 10.平成24年5月,
752 甲社は,
753 洋菓子事業部門の売却に向けた検討を始め,
754 丙株式会社(以下「丙
755 社」という。
756
757 )との交渉の結果,
758 同部門を代金2億5000万円で丙社に売却することとなった。
759
760
761 その際,
762 甲社の洋菓子事業部門の従業員については,
763 一旦甲社との間の雇用関係を終了させた上
764 で,
765 その全員につき新たに丙社が雇用し,
766 甲社の取引先については,
767 一旦甲社との間の債権債務
768 関係を清算した上で,
769 その全部につき新たに丙社との間で取引を開始することとされた。
770
771 その当
772 時,
773 甲社が依頼した専門家の評価によれば,
774 甲社の洋菓子事業部門の時価は,
775 3億円であった。
776
777
778 11.上記の洋菓子事業部門の売却については,
779 その代金額が時価評価額より安価である上,
780 株主で
781 あるS社が得意先を失うことになりかねず,
782 S社の反対が予想された。
783
784
785 平成24年7月2日,
786 Aは,
787 洋菓子事業部門の売却をS社に知らせないまま,
788 甲社の取締役会
789 を開催して,
790 取締役の全員一致により,
791 洋菓子工場に係る土地及び建物を丙社に代金1億500
792 0万円で売却することを決議した上で,
793 丙社と不動産売買契約を締結し,
794 丙社は,
795 甲社に対し,
796
797 直ちに代金を支払った(以下「第1取引」という。
798
799 )。
800
801
802 また,
803 その10日後の平成24年7月12日,
804 Aは,
805 甲社の取締役会を開催して,
806 取締役の全
807 員一致により,
808 P商標に係る商標権を丙社に代金1億円で売却することを決議した上で,
809 丙社と
810 商標権売買契約を締結し,
811 丙社は,
812 甲社に対し,
813 直ちに代金を支払った(以下「第2取引」とい
814 う。
815
816 )。
817
818
819 第1取引及び第2取引に係る売買契約においては,
820 甲社が洋菓子事業を将来再開する可能性を
821 考慮して,
822 甲社の競業が禁止されない旨の特約が明記された。
823
824
825 なお,
826 甲社の平成24年3月31日時点の貸借対照表の概要は,
827 資料@のとおりであり,
828 その
829 後,
830 同年7月においても財務状況に大きな変動はなかった。
831
832 また,
833 同月2日時点の洋菓子事業部
834 門の資産及び負債の状況は,
835 資料Aのとおりであり,
836 資産として,
837 洋菓子工場に係る土地及び建
838 物(帳簿価額は1億5000万円)並びにP商標(帳簿価額は1億円)があるが,
839 負債はなかっ
840 た。
841
842
843 12.平成24年7月下旬,
844 第1取引及び第2取引に基づき,
845 洋菓子工場に係る不動産の所有権移転
846 登記及びP商標に係る商標権移転登録がされた。
847
848
849 13.平成24年8月,
850 甲社が第1取引及び第2取引をしたことを伝え聞いたS社は,
851 Aに対し,
852 甲
853 社において株主総会の決議を経なかったことにつき強く抗議し,
854 翻意を促した。
855
856
857 〔設問2〕
858
859 第1取引及び第2取引の効力に関する会社法上の問題点について,
860 論じなさい。
861
862
863
864 14.平成25年6月,
865 甲社は,
866 将来の株式上場を目指して,
867 コンビニエンスストア市場に精通した
868 経営コンサルタントであるGとアドバイザリー契約を締結した。
869
870 その際,
871 甲社は,
872 このアドバイ
873 ザリー契約に基づく報酬とは別に,
874 甲社株式が上場した場合の成功報酬とする趣旨で,
875 Gに対し,
876
877 新株予約権を発行することとした。
878
879
880 15.上記の新株予約権(以下「本件新株予約権」という。
881
882 )については,
883 @Gに対して払込みをさ
884 せないで募集新株予約権1000個を割り当てること,
885 A募集新株予約権1個当たりの目的であ
886 る株式の数を1株とすること,
887 B各募集新株予約権の行使に際して出資される財産の価額を50
888 00円とすること,
889 C募集新株予約権の行使期間を平成25年7月2日から2年間とすること,
890
891 D募集新株予約権のその他の行使条件は甲社の取締役会に一任すること,
892 E募集新株予約権の割
893
894 - 3 -
895
896 当日を同月1日とすること等が定められた。
897
898
899 平成25年6月27日,
900 甲社の株主総会において,
901 Gに特に有利な条件で本件新株予約権を発
902 行することを必要とする理由が説明されたところ,
903 Bは,
904 募集新株予約権のその他の行使条件を
905 取締役会に一任することはできないのではないかと主張し,
906 これに反対したが,
907 A及びS社の賛
908 成により,
909 上記の内容を含む募集事項が決定された。
910
911 これを受けて,
912 甲社の取締役会が開催され,
913
914 取締役の全員一致により,
915 「甲社株式が国内の金融商品取引所に上場された後6か月が経過する
916 までは,
917 本件新株予約権を行使することができない。
918
919 」とする行使条件(以下「上場条件」とい
920 う。
921
922 )が定められた。
923
924
925 平成25年7月1日,
926 甲社は,
927 Gとの間で新株予約権割当契約を締結し,
928 Gに対し,
929 本件新株
930 予約権1000個を発行した。
931
932
933 16.その後,
934 Gは,
935 上記のアドバイザリー契約に基づき,
936 甲社に様々な施策を提言し,
937 Gのアドバ
938 イスにより製造した低カロリーのヨーグルトが好評を博するなど,
939 甲社の業績は向上したが,
940 本
941 件新株予約権の行使期間内に上場条件を満たすには至らない見込みとなった。
942
943
944 平成26年12月上旬,
945 Aは,
946 Gから,
947
948 「上場すると思っていたのに,
949 これでは割に合わない。
950
951
952 せめて株式を取得したいので,
953 上場条件を廃止してほしい。
954
955 」との強い要請を受けた。
956
957 Aは,
958 取
959 締役会で上場条件を廃止することができるのか疑問を持ったが,
960 Gの態度に押され,
961 同月11日,
962
963 C及びFを呼んで甲社の取締役会を開催し,
964 取締役の全員一致により上場条件を廃止する旨の決
965 議をした。
966
967 同日,
968 甲社は,
969 Gとの間で,
970 上場条件を廃止する旨の新株予約権割当契約の変更契約
971 を締結した。
972
973
974 平成26年12月12日,
975 Gは,
976 行使価額である500万円の払込みをして本件新株予約権を
977 行使し,
978 Gに対し,
979 甲社株式1000株が発行された。
980
981
982 〔設問3〕 上記16で発行された甲社株式の効力に関する会社法上の問題点について,
983 論じなさい。
984
985
986
987 - 4 -
988
989 【資料@】
990 貸借対照表の概要
991 (平成24年3月31日現在)
992 (単位:円)
993 科目
994
995 金額
996
997 科目
998
999 (資産の部)
1000
1001 金額
1002
1003 (負債の部)
1004
1005 流動資産
1006
1007 (略)
1008
1009 (略)
1010
1011 (略)
1012
1013 (略)
1014
1015 負債合計
1016
1017 200,000,000
1018
1019 (純資産の部)
1020 固定資産
1021 有形固定資産
1022
1023 (略)
1024
1025 建物
1026
1027 100,000,000
1028
1029 土地
1030
1031 400,000,000
1032
1033 (略)
1034
1035 500,000,000
1036
1037 資本金
1038
1039 400,000,000
1040
1041 資本剰余金
1042
1043 100,000,000
1044
1045 資本準備金
1046
1047 (略)
1048
1049 無形固定資産
1050
1051 (略)
1052
1053 資産合計
1054
1055 −
1056
1057 利益剰余金
1058
1059 100,000,000
1060
1061 (略)
1062
1063 100,000,000
1064
1065 その他資本剰余金
1066
1067 (略)
1068
1069 商標権
1070
1071 (注)
1072
1073 株主資本
1074
1075 −
1076
1077 利益準備金
1078
1079 −
1080
1081 その他利益剰余金
1082
1083 −
1084
1085 700,000,000
1086
1087 純資産合計
1088
1089 500,000,000
1090
1091 負債・純資産合計
1092
1093 700,000,000
1094
1095 「−」は,
1096 金額が0円であることを示す。
1097
1098
1099
1100 【資料A】
1101 洋菓子事業部門の資産及び負債の状況
1102 (平成24年7月2日現在)
1103 (単位:円)
1104 資産
1105 項目
1106
1107 負債
1108 帳簿価額
1109
1110 建物
1111
1112 50,000,000
1113
1114 土地
1115
1116 100,000,000
1117
1118 商標権
1119
1120 100,000,000
1121
1122 資産合計
1123 (注)
1124
1125 250,000,000
1126
1127 「−」は,
1128 金額が0円であることを示す。
1129
1130
1131
1132 - 5 -
1133
1134 項目
1135
1136 負債合計
1137
1138 帳簿価額
1139
1140 −
1141
1142 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
1143
1144 - 1 -
1145
1146 [民事系科目]
1147 〔第3問〕(配点:100〔
1148 〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
1149 4:3:3〕)
1150 次の文章を読んで,
1151 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
1152
1153
1154 【事
1155
1156 例】
1157 X(注文主)は,
1158 Y(請負人)との間で,
1159 自宅(一戸建て住宅)をバリアフリーとするため,
1160
1161
1162 リフォーム工事を内容とする請負契約を,
1163 代金総額600万円,
1164 頭金を契約時に300万円支払
1165 い,
1166 残代金は工事完了引渡後1か月以内に支払う約定で締結した。
1167
1168
1169 Xは,
1170 工事を完了したYから工事箇所の引渡しを受けたが,
1171 Yの工事に瑕疵が存すると主張し
1172 て,
1173 残代金300万円の支払を拒否した。
1174
1175
1176 その後,
1177 XY間で交渉したが,
1178 解決には至らなかった。
1179
1180
1181 そのため,
1182 Xは,
1183 Yに対し,
1184 瑕疵修補に代わる損害賠償として300万円を請求する訴え(本
1185 訴)を提起した。
1186
1187
1188 これを受けて,
1189 Yは,
1190 Xに対し,
1191 未払の請負残代金である300万円の支払を請求する反訴を
1192 提起した。
1193
1194
1195 以下は,
1196 弁論準備手続期日の終了後に,
1197 Yの訴訟代理人弁護士L1と司法修習生P1との間で
1198 された会話である。
1199
1200
1201 L1:今回の裁判については,
1202 争点整理もかなり進行していますが,
1203 P1さん,
1204 現時点で裁判
1205 所はどんな心証を持っていると感じていますか。
1206
1207
1208 P1:裁判所にどうも瑕疵の存在を認めるような気配があることが気掛かりです。
1209
1210 でも,
1211 残代
1212 金が未払であることはXも認めていますから,
1213 反訴も認容されるので,
1214 まあ仕方ないのでは
1215 ないでしょうか。
1216
1217
1218 L1:XとYとがそれぞれ債務名義を取得するのは,
1219 面倒なことになりませんか。
1220
1221 もっと簡便
1222 で有効な対応策はありませんか。
1223
1224
1225 P1:すみませんでした。
1226
1227 そう言われれば,
1228 本訴請求債権が存在すると判断される場合に備え
1229 て,
1230 反訴で請求している債権を自働債権とし,
1231 本訴請求債権を受働債権とする訴訟上の相殺
1232 の抗弁を提出しておくことが考えられます。
1233
1234 ただ,
1235 既にその債権について反訴が係属してい
1236 る以上,
1237 相殺の抗弁を提出すると,
1238 それに民事訴訟法第142条の法理が妥当するのではな
1239 いかという疑いがあります。
1240
1241
1242 L1:そうですね。
1243
1244 関係する判例(最高裁判所平成3年12月17日第三小法廷判決・民集
1245 45巻9号1435頁。
1246
1247 以下「平成3年判決」という。
1248
1249 )の事案と判旨を教えてください。
1250
1251
1252 P1:平成3年判決の事案は,
1253 被告が別訴の第一審で一部認容され,
1254 現在控訴審で審理されて
1255 いる売買代金支払請求権を自働債権として本訴請求債権と対当額において相殺する旨の抗弁
1256 を本訴の控訴審で提出した,
1257 というものです。
1258
1259 判旨は,
1260 次のとおりです。
1261
1262
1263 (判旨)
1264 「係属中の別訴において訴訟物となっている債権を自働債権として他の訴訟において相殺
1265 の抗弁を主張することは許されないと解するのが相当である。
1266
1267 すなわち,
1268 民訴法231条(現
1269 142条)が重複起訴を禁止する理由は,
1270 審理の重複による無駄を避けるためと複数の判決
1271 において互いに矛盾した既判力ある判断がされるのを防止するためであるが,
1272 相殺の抗弁が
1273 提出された自働債権の存在又は不存在の判断が相殺をもって対抗した額について既判力を有
1274 するとされていること(同法199条2項:現114条2項),
1275 相殺の抗弁の場合にも自働
1276 債権の存否について矛盾する判決が生じ法的安定性を害しないようにする必要があるけれど
1277 も理論上も実際上もこれを防止することが困難であること,
1278 等の点を考えると,
1279 同法231
1280
1281 - 2 -
1282
1283 条の趣旨は,
1284 同一債権について重複して訴えが係属した場合のみならず,
1285 既に係属中の別訴
1286 において訴訟物となっている債権を他の訴訟において自働債権として相殺の抗弁を提出する
1287 場合にも同様に妥当する(以下省略)。
1288
1289 」
1290 L1:本件では,
1291 初めから本訴と反訴は併合審理されているのだから,
1292 平成3年判決の趣旨は
1293 当てはまらないのではないでしょうか。
1294
1295
1296 P1:平成3年判決の事案では,
1297 本訴,
1298 別訴とも控訴審で併合審理されており,
1299 その段階で相
1300 殺の抗弁が提出されたのですが,
1301 平成3年判決は,
1302 相殺の抗弁に民事訴訟法第142条の法
1303 理が妥当することは,
1304 「右抗弁が控訴審の段階で初めて主張され,
1305 両事件が併合審理された
1306 場合についても同様である。
1307
1308 」と判示しています。
1309
1310
1311 L1:そうでしたか。
1312
1313 平成3年判決は,
1314 弁論が併合されている場合にも当てはまるのですね。
1315
1316
1317 そうすると,
1318 反訴請求を維持しつつ同一債権を相殺の抗弁に供したいという我々の希望を実
1319 現するためには,
1320 この判例との抵触を避ける必要がありますが,
1321 何かヒントとなる判例はあ
1322 りませんか。
1323
1324
1325 P1:最高裁判所平成18年4月14日第二小法廷判決・民集60巻4号1497頁
1326 (以下「平
1327 成18年判決」という。
1328
1329 )は,
1330 本訴被告(反訴原告)が反訴請求債権を自働債権として本訴
1331 請求債権と相殺する旨の抗弁を提出したという事案で,
1332 そのような場合は訴え変更の手続を
1333 要することなく,
1334 反訴請求債権につき本訴において相殺の自働債権として既判力ある判断が
1335 示された場合にはその部分については反訴請求としない趣旨の予備的反訴として扱われる以
1336 上,
1337 相殺の抗弁と反訴請求とが重なる部分については既判力の矛盾抵触が生じない旨判示し
1338 ています。
1339
1340
1341 L1:予備的反訴として扱われると,
1342 なぜ既判力の矛盾抵触が生じないことになるのでしょう
1343 か。
1344
1345 また,
1346 平成3年判決は,
1347 相殺による簡易,
1348 迅速かつ確実な債権回収への期待と,
1349 相殺に
1350 供した債権について債務名義を得るという2つの利益を自働債権の債権者である被告が享受
1351 することは許されないとする趣旨だと思いますが,
1352 平成18年判決は,
1353 その点について,
1354 ど
1355 のように考えているのでしょうか。
1356
1357
1358 P1:実は,
1359 勉強不足で,
1360 それらの点がよく理解できないのです。
1361
1362
1363 L1:判例を丸暗記するだけでは,
1364 良い法曹にはなれませんよ。
1365
1366 では,
1367 良い機会ですから,
1368 平
1369 成3年判決の趣旨に照らし,
1370 本件において反訴請求債権を自働債権として本訴請求債権と相
1371 殺する旨の抗弁を適法と解しても,
1372 平成3年判決と抵触しない理由をまとめてください。
1373
1374 検
1375 討に当たっては,
1376 一旦提起された反訴が予備的反訴として扱われると,
1377 第一に,
1378 なぜ既判力
1379 の矛盾抵触が生じないことになるのか,
1380 第二に,
1381 反訴原告は,
1382 相殺による簡易,
1383 迅速かつ確
1384 実な債権回収への期待と,
1385 相殺に供した自働債権について債務名義を得るという2つの利益
1386 を享受することにはならないのはなぜか,
1387 を論じてください。
1388
1389 さらに,
1390 これは平成18年判
1391 決についての疑問ですが,
1392 第三に,
1393 訴え変更の手続を要せずに予備的反訴として扱われるこ
1394 とが処分権主義に反しない理由はどのように説明したらよいか,
1395 また,
1396 訴え変更の手続を要
1397 せずに予備的反訴とされると反訴請求について本案判決を得られなくなる可能性があります
1398 が,
1399 それでも反訴被告(本訴原告)の利益を害することにならないのはなぜか,
1400 を論じてく
1401 ださい。
1402
1403 もちろん,
1404 第三の点は,
1405 我々の立場を積極的に理由付けることには役立ちませんが,
1406
1407 平成18年判決を理解する上で確認しておく必要があります。
1408
1409
1410 〔設問1〕
1411 あなたが司法修習生P1であるとして,
1412 L1が指摘した問題点を踏まえつつ,
1413 L1から与えら
1414 れた課題に答えなさい。
1415
1416
1417 なお,
1418 設問の解答に当たっては,
1419 遅延損害金及び相殺の要件については,
1420 考慮しなくてよい(設
1421
1422 - 3 -
1423
1424 問2及び設問3についても同じ。
1425
1426 )。
1427
1428
1429 以下は,
1430 第一審判決の言渡し後に,
1431 担当裁判官Jと司法修習生P2との間でされた会話である。
1432
1433
1434 J:この前,
1435 訴訟記録を見てもらい,
1436 意見交換をしたXY間の損害賠償請求訴訟ですが,
1437 その
1438 時に述べたように,
1439 XのYに対する損害賠償請求権は認められるが,
1440 YのXに対する請負代
1441 金請求権も認められるということで,
1442 本訴におけるYの相殺の抗弁を認めた上で,
1443 受働債権
1444 と自働債権の額が同額だったので本訴請求を棄却するという判決をしました。
1445
1446 控訴もなく確
1447 定しましたが,
1448 せっかくですから,
1449 ここで,
1450 控訴審について,
1451 少し勉強することにしましょ
1452 う。
1453
1454 Xが控訴した場合,
1455 その控訴について何か問題はありますか。
1456
1457
1458 P2:Xの控訴自体は,
1459 自らの請求が棄却されているのですから,
1460 不服の利益もあると思うの
1461 で,
1462 特に問題はないと思います。
1463
1464
1465 J:確かに,
1466 Xの控訴自体は問題なさそうですね。
1467
1468 それでは,
1469 仮に,
1470 控訴審が審理の結果,
1471 そ
1472 もそもXが主張するような瑕疵はなく,
1473 Xの本訴請求債権である損害賠償請求権がないとの
1474 心証を得た場合,
1475 控訴審はどのような判決をすべきでしょうか。
1476
1477
1478 P2:理由の重要な部分について,
1479 原審と控訴審とで判断が異なっているわけですから,
1480 控訴
1481 審としては,
1482 控訴を棄却するのではなく,
1483 第一審判決を取り消して,
1484 改めて請求を棄却すべ
1485 きではないかと考えます。
1486
1487
1488 J:では,
1489 控訴審はどのような判決をすべきかについて,
1490 あなたの言う第一審判決取消し・請
1491 求棄却という結論の控訴審判決が確定した場合と,
1492 相殺の抗弁を認めて請求を棄却した第一
1493 審判決が控訴棄却によりそのまま確定した場合とを比較して検討してください。
1494
1495
1496 〔設問2〕
1497 あなたが司法修習生P2であるとして,
1498 Jから与えられた課題に答えなさい。
1499
1500
1501 なお,
1502 Yによる控訴及び附帯控訴の可能性については考えなくてよい。
1503
1504 また,
1505 Yが控訴又は附
1506 帯控訴をしない場合には,
1507 Xの本訴請求債権は控訴審の審判対象とならないとの見解もあるが,
1508
1509 ここでは,
1510 Xの本訴請求債権の存否が控訴審の審判対象となるとの前提に立って検討しなさい。
1511
1512
1513 以下は,
1514 第一審判決の確定後に,
1515 Xの訴訟代理人弁護士L2と司法修習生P3との間でされた
1516 会話である。
1517
1518
1519 L2:本件では,
1520 いろいろと努力をした結果,
1521 Xの損害賠償請求権は認められたのですが,
1522 一
1523 方で,
1524 Yの相殺の抗弁も認められて,
1525 Xの本訴請求は棄却されました。
1526
1527 Yも控訴することな
1528 く,
1529 第一審判決が確定したので,
1530 ほっとしていたところでしたが,
1531 先ほどXから連絡があり,
1532
1533 Yが不当利得の返還を求める文書を送付してきたというのです。
1534
1535
1536 P3:Yの言い分は,
1537 どのようなものでしょうか。
1538
1539
1540 L2:Yは,
1541 弁護士に相談していないようで,
1542 あまり法律的でない内容の文書だったのですが,
1543
1544 これを私なりにまとめ直してみました。
1545
1546
1547 (Yの言い分)
1548 @ XのYに対する損害賠償請求権は,
1549 工事に瑕疵がないので,
1550 そもそも存在していなかった。
1551
1552
1553 A それなのに,
1554 裁判所は,
1555 XのYに対する損害賠償請求権を認めた。
1556
1557
1558 B 請負代金請求権に対立する債権は存在していなかったのだから,
1559 相殺の要件を欠いている。
1560
1561
1562 C そこで,
1563 YとしてはXに対し請負代金の請求をしたいが,
1564 それは既判力によって制限されて
1565 いる。
1566
1567
1568 D したがって,
1569 Xは,
1570 請負代金請求を受けないことによって利益を受けており,
1571 一方,
1572 Yは,
1573
1574 請負代金を請求できないことにより損失を被っているので,
1575 不当利得返還請求をする。
1576
1577
1578
1579 - 4 -
1580
1581 P3:仮に,
1582 Yが訴えを提起した場合,
1583 我々はどのように対応したらいいのでしょうか。
1584
1585
1586 L2:本訴の判決は確定しているので,
1587 Yの主張は,
1588 本訴の確定判決の既判力によって認めら
1589 れないという反論を考えてみましょう。
1590
1591 まず,
1592 仮に,
1593 YがXに対し請負代金請求訴訟を提起
1594 したとしたらどうでしょうか。
1595
1596
1597 P3:この場合,
1598 Yは,
1599 本訴で相殺の抗弁として主張した請負代金請求権と同じ権利を主張し
1600 ていることになります。
1601
1602 そうすると,
1603 民事訴訟法第114条第2項により,
1604 請負代金請求権
1605 が存在するとの主張が既判力によって遮断されることは,
1606 Yの言い分のとおりだと思います。
1607
1608
1609 L2:そうなりそうですね。
1610
1611 では,
1612 本件はどうですか。
1613
1614
1615 P3:Yは,
1616 不当利得返還請求権という請負代金請求権とは別の訴訟物を立てているので,
1617 既
1618 判力は作用しないと思います。
1619
1620 しかし,
1621 本件でYが主張している内容は,
1622 本訴で争いになっ
1623 た損害賠償請求権は存在しないということを理由としており,
1624 明らかにおかしいので,
1625 信義
1626 則を使うことができるのではないでしょうか。
1627
1628
1629 L2:いきなり一般条項に頼るのではなく,
1630 民事訴訟法第114条第2項の既判力で解決する
1631 ことができないかを,
1632 よく考えてみるべきではないですか。
1633
1634
1635 P3:すみません。
1636
1637 法科大学院の授業で,
1638 民事訴訟法第114条第2項の解釈として,
1639 相殺の
1640 時点において,
1641 受働債権と自働債権の双方が存在し,
1642 それらが相殺により消滅した,
1643 という
1644 内容の既判力が生じると解する説を聞いたことがあります。
1645
1646 この説によれば,
1647 同項の既判力
1648 により,
1649 Yの主張が遮断されることを容易に説明することができます。
1650
1651
1652 L2:確かに,
1653 その説によれば,
1654 YがXに不当利得返還請求をしても,
1655 相殺の時点で損害賠償
1656 請求権が存在していたことに既判力が生じている以上,
1657 利得に法律上の原因がないと主張す
1658 ることができない,
1659 と言いやすいですね。
1660
1661 しかし,
1662 債権が消滅した理由についての判断にも
1663 既判力が生じるというのは,
1664 既判力の一般的な考え方にそぐわないと言われており,
1665 この説
1666 は現在の学説上は支持を失っているので,
1667 これに依拠して立論するわけにはいきません。
1668
1669 民
1670 事訴訟法第114条第2項をその説のように理解しなくても,
1671 同項によりYの請求が認めら
1672 れないことを説明できないか検討すべきです。
1673
1674 その前提として,
1675 今一度,
1676 Yの言い分を不当
1677 利得返還請求権の要件に当てはめて整理した上で,
1678 それに対する既判力の作用を検討してく
1679 ださい。
1680
1681
1682 P3:分かりました。
1683
1684 難しいですがやってみます。
1685
1686
1687 〔設問3〕
1688 あなたが司法修習生P3であるとして,
1689 L2から与えられた課題について検討した上,
1690 Yの請
1691 求が既判力によって認められないことを説明しなさい。
1692
1693
1694
1695 - 5 -
1696
1697