1 平成27年司法試験論文式試験問題出題趣旨
2 【公法系科目】
3 〔第1問〕
4 本年は,
5 平等の問題と表現の自由の問題を問うこととした。
6
7 本年の問題も,
8 憲法上の基本的
9 な問題の理解や,
10 その上での応用力を見ようとするものである。
11
12 しかし,
13 問題の構成について
14 は,
15 次の点で従来のものを変更した。
16
17
18 まず,
19 従来は,
20
21 「被告の反論」を「あなた自身の見解」を中心とする設問2に置いていたが,
22 そ
23 れを「原告の主張」と対比する形で設問1に置き,
24 さらに,
25 各設問の配点も明記することにした。
26
27
28 これまで出題側としては,
29
30 「被告の反論」の要点を簡潔に記述した上で,
31
32 「あなた自身の見解」を手
33 厚く論じることを期待して,
34 その旨を採点実感等に関する意見においても指摘してきたが,
35 依然と
36 して「被告の反論」を必要以上に長く論述する答案が多く,
37 そのことが本来であれば手厚く論じて
38 もらいたい「あなた自身の見解」の論述が不十分なものとなる一つの原因になっているのではない
39 かと考えたからである。
40
41 そこで,
42 本年は,
43
44 「原告の主張」と「被告の反論」の両者を設問1の小問
45 として論じさせることとし,
46 かつ,
47 配点を明記することによって,
48
49 「被告の反論」について簡にし
50 て要を得た記述を促し,
51 ひいては「あなた自身の見解」の論述が充実したものとなることを期待し
52 た。
53
54
55 また,
56 論文式試験においては,
57 設問の具体的事案のどこに,
58 どのような憲法上の問題があるのか
59 を的確に読み取って発見する能力自体も重視される。
60
61 しかし,
62 本年は,
63 論述の出発点である原告と
64 なるBが憲法との関係で主張したい点を問題文中に記載することとした。
65
66 これは,
67 後述するように,
68
69 本問には平等に関してこれまで論じられてきた典型的な問題とは異なる問題も含まれており,
70 この
71 点も含めてひとまず平等に着目した論述を期待する見地からである。
72
73 また,
74 平等の問題と表現の自
75 由の問題は,
76 いずれも多くの論点を含む憲法上の基本的な問題であるため,
77 着眼点を具体的に示す
78 ことで,
79 その分,
80 論述内容の充実を求めたいとの考えもあった。
81
82 そこで,
83 本年は,
84 原告となるBが
85 主張したい点につき問題文中で明記するとともに,
86 設問1において,
87
88 「Bの主張にできる限り沿っ
89 た訴訟活動を行うという観点から」との条件を付した。
90
91
92 本年の問題の一つは平等である。
93
94 憲法第14条第1項の「法の下の平等」について,
95 判例・
96 多数説は,
97 絶対的平等ではなく,
98 相対的平等を意味するとしている。
99
100 この平等に関し,
101 原告と
102 なるBは,
103 Dらとの比較において,
104 これまで論じられてきた問題を提起しているほか,
105 Cとの
106 比較において,
107 「違う」のに「同じ」に扱われたという観点からの問題も提起している。
108
109 平等
110 が問題となる具体的事例においては,
111 何が「同じ」で,
112 何が「違う」のかを見分けることが議
113 論の出発点となることから,
114 本問でも,
115 まずは,
116 Bの主張を踏まえ,
117 「同じ」点と「違う」点
118 についての具体的な指摘とその憲法上の評価が求められることとなる。
119
120 その上で,
121 憲法が要請
122 する平等の本質等にも立ち返りつつ,
123 自由権侵害とは異なる場面としての平等違反に関する判
124 断枠組みをどのように構成するかが問われることになる。
125
126
127 そして,
128 典型的な問題であるDらとの比較については,
129 判定期間中のBの勤務実績は,
130 正式採用
131 された「Dらと比較してほぼ同程度ないし上回るものであった」にもかかわらず,
132 A市は,
133 Dらを
134 正式採用する一方で,
135
136 「Y採掘事業に関する・・・考えを踏まえると,
137 Y対策課の設置目的や業務
138 内容に照らしてふさわしい能力・資質等を有しているとは認められなかった」として,
139 Bを正式採
140 用しなかったことについての検討が必要となる。
141
142 すなわち,
143 Bは,
144
145 「Yが有力な代替エネルギーで
146 あると考えているが,
147 その採掘には・・・危険性があることから,
148 この点に関する安全確保の徹底
149 が必要不可欠であると考えて」おり,
150 Y採掘事業の必要性や有益性を認めているが,
151 その採掘にお
152 いては種々の危険があるので,
153 安全性が最重要と考えている者である。
154
155 この場合,
156 天然資源開発に
157 伴う危険性を踏まえ,
158 その安全性の確保を最重要視する考え自体が不当な考えであるとは言えない
159
160 -1-
161
162 はずである。
163
164 それにもかかわらず,
165 A市が上述のような考えを持つBを正式採用せず,
166 ほぼ同程度
167 ないし下回る勤務実績のDらを正式採用したことは,
168 天然資源開発における安全性の確保という言
169 わば当然とも言うべき基本的な考え自体を否定的に評価するもので,
170 憲法第14条第1項で例示さ
171 れている「信条」に基づく不合理な差別となるのではないかという検討が必要である。
172
173
174 また,
175 本年の問題で,
176 原告となるBは,
177 Cと「違う」にもかかわらずCと「同じ」に扱われ
178 て正式採用されなかったという点からも問題提起をしている。
179
180 ここで問題となるのは,
181 BとC
182 はいずれも正式採用されなかったところ,
183 Y採掘事業に関する両者の意見は,
184 結論としては反
185 対意見の表明という共通性があるとしても,
186 その具体的な内容が違うことに加え,
187 BとCがそ
188 れぞれの意見表明に当たってとった手法・行動等も違うことである。
189
190 したがって,
191 ここでは,
192
193 こうしたBとCとの具体的な「違い」を憲法上どのように評価するかを踏まえた論述が求めら
194 れる。
195
196
197 本年のもう一つの問題は,
198 表現の自由である。
199
200 すなわち,
201 Bは,
202 自分の意見・評価を甲市シ
203 ンポジウムで「述べたこと」が正式採用されなかった理由の一つとされたことを問題視してい
204 るので,
205 そこでは,
206 内面的精神活動の自由である思想の自由の問題よりも,
207 外面的精神活動の
208 自由である表現の自由の問題として論じることが期待される。
209
210 その際には,
211 意見・評価を述べ
212 ること自体が直接制約されているものではないことを踏まえつつ,
213 「意見・評価を甲市シンポ
214 ジウムで述べたこと」が正式採用されなかった理由の一つであることについて,
215 どのような意
216 味で表現の自由の問題となるのかを論じる必要がある。
217
218 そのような観点からは,
219 上述のような
220 理由により正式採用されないことは,
221 Bのみならず,
222 一般に当該問題について意見等を述べる
223 ことを萎縮させかねないこと(表現の自由に対する萎縮効果)をも踏まえた検討が必要となる。
224
225
226 その上で,
227 この点に関しては,
228 正式採用の直前においてもBが反対意見を述べていることな
229 どから惹起される「業務に支障を来すおそれ」の有無についての検討も必要となる。
230
231 その検討
232 に当たっては,
233 外面的精神活動の自由である表現の自由の制約に関する判断枠組みをどのよう
234 に構成するかが問われることとなるところ,
235 例えば,
236 内容規制と評価し,
237 表現の自由が問題と
238 なった様々な判例を踏まえた判断枠組みも考えられるであろう。
239
240 どのように判断枠組みを構成
241 するかは人それぞれであるが,
242 いずれにしても,
243 一定の判断枠組みを用いる場合には,
244 学説・
245 判例上で議論されている当該判断枠組みがどのような内容であるかを正確に理解していること
246 が必要である。
247
248 その上で,
249 本問においてなぜその判断枠組みを用いるのかについての説得的な
250 理由付けも必要であるし,
251 判例を踏まえた論述をする際には,
252 単に判例を引用するのではなく,
253
254 当該判例の事案と本問との違いも意識した論述が必要となる。
255
256
257 〔第2問〕
258 本問は,
259 Xが消防法及び危険物の規制に関する政令(以下「危険物政令」という。
260
261 )上の一
262 般取扱所(以下「本件取扱所」という。
263
264 )を設置していたところ,
265 近隣に葬祭場(以下「本件
266 葬祭場」という。
267
268 )が建築されたことから,
269 Y市長がXに対して移転命令(以下「本件命令」
270 という。
271
272 )を発しようとしている事案における法的問題について論じさせるものである。
273
274 論じ
275 させる問題は,
276 本件命令に対する事前の抗告訴訟の適法性(設問1),
277 本件命令が発せられた
278 場合における本件命令の適法性(設問2),
279 Xが本件命令に従った場合における損失補償の要
280 否(設問3)である。
281
282 問題文と資料から基本的な事実関係を把握し,
283 消防法及び関係法令の
284 関係規定の趣旨を読み解いた上で,
285 行政処分の適法性,
286 抗告訴訟の訴訟要件,
287 及び損失補償
288 の要否を論じる力を試すものである。
289
290
291 設問1は,
292 処分の差止め訴訟の訴訟要件に関する基本的な理解を問う問題である。
293
294 考えら
295 れるXの訴えとして本件命令の差止め訴訟を挙げた上で,
296 本件の事実関係の下で,
297 当該訴え
298 が行政事件訴訟法第3条第7項及び第37条の4に規定された「一定の処分…がされようと
299
300 -2-
301
302 している」,
303 「重大な損害を生ずるおそれ」,
304 「損害を避けるため他に適当な方法がある」とは
305 いえない等の訴訟要件を満たすか否かについて検討することが求められる。
306
307 特に,
308 「重大な損
309 害を生ずるおそれ」の要件については,
310 最高裁平成24年2月9日第一小法廷判決(民集6
311 6巻2号183頁)を踏まえて判断基準を述べた上で,
312 本件命令後直ちにウェブサイトで公
313 表されて顧客の信用を失うおそれがあることが,
314 同要件に該当するかを検討することが求め
315 られる。
316
317
318 設問2は,
319 保安距離の短縮に関するY市の内部基準(以下「本件基準」という。
320
321 )に従って
322 行われる本件命令の適法性の検討を求めるものである。
323
324 まず,
325 本件命令の根拠規定である消
326 防法第12条第2項及び危険物政令第9条第1項第1号の趣旨,
327 内容及び要件・効果の定め
328 方から,
329 Y市長が本件命令を発するに当たり,
330 裁量が認められるか,
331 そして,
332 距離制限によ
333 る保安物件の安全の確保と,
334 保安物件が新設された場合に既存の一般取扱所の所有者等が負
335 う可能性のある負担とを,
336 どのように考慮して調整することが求められるかを検討しなけれ
337 ばならない。
338
339 次いで,
340 危険物政令第9条第1項第1号ただし書及び第23条のそれぞれの趣
341 旨,
342 要件・効果及び適用範囲を比較して両者の相互関係を論じ,
343 後者の規定を本件に適用す
344 る余地があるかを検討することが求められる。
345
346 そして,
347 本件基準の法的性質について,
348 それ
349 が上記の裁量を前提にすると裁量基準(行政手続法上の処分基準)に当たることを示し,
350 本
351 件基準@,
352 Aそれぞれについて,
353 法令の関係規定の趣旨に照らし裁量基準として合理的かど
354 うか,
355 基準としては合理的であっても,
356 本件における個別事情を考慮して例外を認める余地
357 がないか,
358 検討することが求められる。
359
360 すなわち,
361 本件基準@の短縮条件として,
362 工業地域
363 につき倍数(取扱所で取り扱われる危険物の分量)の上限が定められていることは合理的か,
364
365 本件基準Aの短縮限界距離が,
366 本件基準B所定の防火塀の高さを前提に諸事情を考慮して設
367 けられていることは合理的か,
368 そして,
369 本件基準@及びAを僅かに満たさない場合に,
370 水準
371 以上の防火塀や消火設備の設置を理由に同基準の例外を認めるべきか等の論点を指摘しなけ
372 ればならない。
373
374
375 設問3は,
376 損失補償の定めが法律になくても,
377 憲法第29条第3項に基づき損失補償を請
378 求できるという解釈を前提にした上で,
379 本件の事実関係の下でXがY市に損失補償を請求す
380 ることができるかについて論じることを求めている。
381
382 まず,
383 消防法第12条1項の維持義務
384 の性質についての検討が求められる。
385
386 その際,
387 地下道新設に伴う石油貯蔵タンクの移転に対
388 する道路法第70条第1項に基づく損失補償の要否が問題となった最高裁昭和58年2月1
389 8日第二小法廷判決(民集37巻1号59頁)の趣旨も踏まえなければならない。
390
391 この維持
392 義務が公共の安全のための警察規制であって,
393 取扱所の所有者等は許可を受けた時点以降も
394 継続的に基準適合状態を維持しなければならないという趣旨であるとすれば,
395 事後的な事情
396 変更があっても,
397 少なくとも本件取扱所の所有者等が当該事情の発生を本件取扱所の設置時
398 にあらかじめ計画的に回避することが可能であった場合については,
399 損失補償は不要といえ
400 ないか,
401 検討しなければならない。
402
403 その上で,
404 第一種中高層住居専用地域から第二種中高層
405 住居専用地域への用途地域の指定替えによる本件葬祭場の新設は,
406 計画的に回避することが
407 不可能な事情といえるか,
408 そもそも指定替え前の第一種中高層住居専用地域においても学校,
409
410 病院等が建築可能であることをどう考えるかなどを論じることが求められる。
411
412
413 なお,
414 受験者が出題の趣旨を理解して実力を発揮できるように,
415 本年も各設問の配点割合
416 を明示することとした。
417
418
419 【民事系科目】
420 〔第1問〕
421 本問は,
422 AがBとの間で丸太について所有権留保付き売買契約を締結していたにもかかわら
423 ず,
424 BがAに無断でその丸太を製材し,
425 製材後の材木をCに売却した後,
426 Cがその材木の一部
427
428 -3-
429
430 をDから請け負った乙建物のリフォーム工事に使用した事例(設問1),
431 Aがその所有する甲
432 土地上の立木をEに売却し,
433 Eがその立木の半分に明認方法を施した後,
434 Aから甲土地を買い
435 受けたFが全ての立木を切り出し,
436 その切り出した丸太をGに預けた事例(設問2),
437 Cの子
438 である15歳のHが夕刻に自宅前の道路に角材を置いたことにより,
439 その道路を通り掛かった
440 Kの運転する自転車が転倒し,
441 その自転車の幼児用シートに乗っていたKの子である3歳のL
442 が傷害を負った事例(設問3)に関して,
443 民法上の問題についての基礎的な理解とともに,
444 そ
445 の応用を問う問題である。
446
447 当事者の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力,
448 その前提
449 として,
450 様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解し,
451 それに即して論旨を
452 展開する能力などが試される。
453
454
455 設問1は,
456 添付と即時取得という物権法の基本的事項に対する理解を問うとともに,
457 これと
458 関連する形で不当利得についても検討させることにより,
459 法律問題相互の関係の正確な理解と
460 それに基づく法的構成力を問うものである。
461
462
463 では,
464 Aは,
465 Cに対して,
466 材木@の所有権がAに帰属すると主張してその引渡しを請求し
467 ていることから,
468 材木@の所有権の所在について検討することが求められる。
469
470 その際,
471 AB間
472 における丸太の売買契約では,
473 Bが売買代金を支払うまで丸太の所有権はAに留保されている
474 こと,
475 Bがまだ売買代金を支払っていないこと,
476 丸太の製材は加工に当たり,
477 民法第246条
478 第1項本文及びただし書によると,
479 材木@の所有権は丸太の所有者であるAに帰属することを
480 的確に分析することが期待されている。
481
482
483 これに対し,
484 Cの反論としては,
485 即時取得(民法第192条)を主張することが考えられる。
486
487
488 Cは,
489 Bとの売買契約,
490 つまり取引行為に基づき,
491 材木@の引渡しを受けているからである。
492
493
494 しかし,
495 【事実】2によれば,
496 Bが材木@の所有者であると信じたことにつき,
497 Cには過失が
498 認められる。
499
500 ここでは,
501 事実を的確に評価する能力が問われる。
502
503
504 では,
505 Aは,
506 Dに対して,
507 材木Aの価額の償還を求めていることから,
508 その根拠が確認さ
509 れなければならない。
510
511 まず,
512 材木Aは,
513 材木@と同様の理由からAの所有物であるが,
514 Dの所
515 有する乙建物に組み込まれて一体化されている。
516
517 これは付合に当たり,
518 民法第242条本文に
519 よると,
520 乙建物の所有者であるDが材木Aの所有権を取得する。
521
522 その結果,
523 材木Aの所有権を
524 失ったAは,
525 民法第248条に従い,
526 Dに対し,
527 その償金を請求することができる。
528
529 このAの
530 請求を基礎付けるに当たっては,
531 付合の意義が正確に説明され,
532 本問に示された事実関係に即
533 して適切な当てはめをすることが求められる。
534
535
536 また,
537 民法第248条は「第703条及び第704条の規定に従い」としていることから,
538
539 AのDに対する請求の具体的な内容を確定するためには,
540 不当利得の成立要件について,
541 本問
542 に示された事実関係に即して検討する必要がある。
543
544 ただし,
545 要件を単に羅列することは求めら
546 れておらず,
547 付合に関する当てはめをする中で,
548 これらの要件を実質的に検討することでも足
549 りる。
550
551
552 さらに,
553 AがDに対して請求することができる額について,
554 AB間の関係を考慮に入れた分
555 析をすることも期待されている。
556
557 材木Aの価額は200万円であるから,
558 材木Aの所有者であ
559 るAは,
560 Dに対して,
561 200万円を請求することができるはずである。
562
563 他方,
564 材木Aの材料に
565 当たる丸太の価額は150万円であるため,
566 Aが受けた損失を勘案するならば,
567 AがDに対し
568 て請求できる額は150万円にとどまると考える余地もある。
569
570
571 これに対して,
572 Aの償金請求に対するDの反論として考えられるのは,
573 例えば,
574 DがCに請
575 負代金を支払済みであることから,
576 その限度でDの利得は消滅したという主張である。
577
578 この反
579 論を基礎付けるためには,
580 Aが受益をした時点,
581 つまり材木Aが乙建物に付合した時点におい
582 て,
583 Dが善意であり(材木Aの所有権をCが有しないことを知らなかった),
584 かつ,
585 悪意に転
586 じる前に,
587 Cに請負代金を支払ったことが指摘されなければならない。
588
589
590 しかし,
591 仮にDが自分で乙建物のリフォーム工事をするためにCから材木Aを購入し,
592 まだ
593
594 -4-
595
596 材木Aが乙建物に付合していないとすると,
597 Dについて即時取得が成立しない限り,
598 DがCに
599 材木Aの売買代金を支払ったとしても,
600 AはDに対して材木Aの返還を請求することができる
601 はずである。
602
603 このような観点からすると,
604 DがCに請負代金を支払っていることを理由として,
605
606 Dの利得の消滅を認めることは適切でなく,
607 むしろ,
608 Dにおいて材木Aの価値に相当するもの
609 を即時取得したと評価することができる場合に,
610 Dの利得について法律上の原因が認められ,
611
612 DはAの償金請求を拒絶することができると考える可能性もある。
613
614 その際には,
615 引渡し時にお
616 ける善意無過失という即時取得の要件について,
617 Dは,
618 乙建物の鍵のうちの1本をCに交付し
619 て仮住まいの家に移っただけであるから,
620 Cを通じて乙建物を間接的に占有していると評価す
621 ることができ,
622 材木Aが乙建物に付合した時に材木Aの引渡しを受けたのと同じ状況となるか
623 ら,
624 Dの善意無過失について判断すべき基準時は付合が生じた時点であること等が問題となる。
625
626
627 設問2は,
628 立木が二重に譲渡された後に切り出された場合においてその切り出された丸太に
629 ついて返還請求がされた事例を素材として,
630 所有権に基づく物権的返還請求権の主張に対する
631 典型的な抗弁の1つである対抗要件具備による所有権喪失の抗弁について正確な理解を有して
632 いるかどうか及び民事留置権の成否に関して事案に即した適切な検討ができるかどうかを問う
633 ものである。
634
635
636 では,
637 対抗要件具備による所有権喪失の抗弁の構造を正確に理解した上で,
638 それを本問の
639 事例に即して展開し応用する能力が問われている。
640
641
642 Gが「丸太BをEが所有することを争うことによって」Eの請求を拒否する旨主張する根拠
643 は,
644 Fが対抗要件を具備することにより丸太Bの所有権を確定的に取得した結果,
645 Eがその所
646 有権を喪失したことに求められる。
647
648 そのため,
649 ここではまず,
650 Gの主張の根拠が,
651 この意味で
652 の対抗要件具備による所有権喪失の抗弁に求められることを説明し,
653 Gが主張・立証すべき事
654 実を的確に示すことが求められる。
655
656
657 その前提として,
658 EのGに対する請求は,
659 丸太Bの所有権がEに属することを理由とする。
660
661
662 これは,
663 丸太Bが,
664 甲土地から切り出される前は,
665 甲土地に生育していた立木であること,
666 こ
667 の本件立木は,
668 甲土地の定着物(民法第86条第1項)ないし甲土地と付合して一体となるも
669 の(民法第242条)であることから,
670 甲土地の所有者であるAに帰属すること,
671 EはAから
672 売買により本件立木の所有権を取得したこと,
673 その後本件立木が甲土地から切り出されても,
674
675 Eの所有権は切り出された丸太に及び続けることによって基礎付けられる。
676
677
678 その上で,
679 Gの主張は,
680 Aが甲土地及び甲土地上の本件立木をFに売却する旨の契約が締結
681 され,
682 それに基づき甲土地についてAからFへの所有権移転登記がされたことによって,
683 民法
684 第177条により,
685 Fが本件立木の所有権を確定的に取得したこと,
686 したがってEは本件立木
687 の所有権を喪失したことによって基礎付けられる。
688
689 本件立木は甲土地の定着物ないし甲土地と
690 付合して一体となるものであることから,
691 厳密に言うと,
692 Fは,
693 甲土地の売買により本件立木
694 の所有権を取得し,
695 甲土地の所有権移転登記により本件立木についても対抗要件を具備するこ
696 とになる。
697
698
699 このほか,
700 Gの主張の根拠としては,
701 対抗要件の抗弁を考える余地もある。
702
703 これは,
704 Aから
705 Eへの本件立木の売買に基づく物権変動について,
706 Fから丸太Bの寄託を受けたGが民法第1
707 77条の第三者に当たること,
708 あるいは民法第177条の第三者に当たるFの地位をGが援用
709 することにより,
710 丸太Bに対応する立木について明認方法を具備していないEはその所有権の
711 取得をGに対抗することができないという構成による。
712
713 その際には,
714 受寄者が民法第177条
715 の第三者に当たるか否かが問題となることなどを踏まえて,
716 対抗要件の抗弁が認められる理由
717 を適切に論じることが求められる。
718
719
720 では,
721 寄託契約に基づく保管料債権を被担保債権とする民事留置権の成否について正確に
722 検討することができるかどうかが問われている。
723
724
725 ここでは,
726 まず,
727 Gの主張が民事留置権(民法第295条)に基づくものであることを示す
728
729 -5-
730
731 必要がある。
732
733 商事留置権の成否について検討する必要はない(【事実】9を参照)。
734
735
736 このGの主張が認められるためには,
737 民事留置権の要件の全て,
738 すなわち,
739 (i)他人の物を
740 占有していること,
741 (ii)その物に関して生じた債権を有すること,
742 (iii)被担保債権の弁済期
743 が到来していること,
744 (iv)占有が不法行為によって始まったものでないことについて,
745 主張・
746 立証責任の所在にも留意しつつ,
747 それぞれの要件の意味を示し,
748 それに該当する事実の有無を
749 判断することが求められる。
750
751
752 本問では,
753 民事留置権の目的物である丸太Cは,
754 切り出される前の立木についてEが明認方
755 法を具備していたことから,
756 Eの所有に属する。
757
758 それに対して,
759 被担保債権である丸太Cの保
760 管料債権の債務者はFであるため,
761 このような場合に単純に民事留置権の成立を認めると,
762 E
763 の所有物がEとは無関係のFの債務の担保に供される事態を認めることになり,
764 民事留置権の
765 成立を認めることが適当かどうかという問題が生じる。
766
767 そこで,
768 (i)の要件について,
769 被担保
770 債権の債務者以外の者が所有する物も「他人の物」といえるか否か,
771 あるいは,
772 (ii)の要件に
773 ついて,
774 このような場合に被担保債権と物との間に牽連性が認められるか否かについて,
775 留置
776 権の制度趣旨に遡った検討をすることが期待される。
777
778
779 また,
780 本問では,
781 Fが丸太Cを甲土地から切り出してGに寄託した行為はEに対する不法行
782 為に該当すると考えられることから,
783 Gが丸太Cを預かった行為もEに対する不法行為に該当
784 し,
785 (iv)の要件が充足されないことになるか否かも問題となる。
786
787 この点については,
788 【事実】
789 9の事情を適切に評価して,
790 Gの不法行為の成否を判断することが求められる。
791
792
793 なお,
794 民事留置権の主張を認めるためには,
795 その全ての要件が充足されていることを確認す
796 る必要があるのに対し,
797 例えば,
798 (i)や(ii)の要件について必要十分な検討を経てその充足が
799 否定される場合には,
800 民事留置権の成立を否定する結論を出すために,
801 他の要件について検討
802 する必要はない。
803
804 そのような場合,
805 他の要件について検討していないことを理由に不利に扱わ
806 れることはない。
807
808
809 設問3は,
810 未成年者であるHの不法行為を素材として,
811 不法行為法についての基本的な知識
812 とその理解を問うものである。
813
814 責任能力がある未成年者の不法行為についての監督義務者の責
815 任と被害者側の過失についてはいずれも確立した判例があることから,
816 それを踏まえて検討す
817 ることが期待されている。
818
819
820 で問われているのは,
821 Hの親であるCの責任であるが,
822 Cの責任については,
823 Hに不法行
824 為責任が認められるか否かによって,
825 その法律構成が異なる。
826
827 Hが本件角材を路上に置く行為
828 は,
829 客観的に不法行為に当たると考えられるが,
830 Hに責任能力が認められない場合,
831 Hの不法
832 行為責任は否定される(民法第712条)。
833
834 その場合には,
835 Hの親権者であり,
836 法定監督義務
837 者となるCについて,
838 民法第714条に基づく責任が認められる可能性がある。
839
840 他方で,
841 同条
842 は,
843 直接の加害者に責任能力が認められない場合の補充的責任を定めたものであり,
844 Hに責任
845 能力が認められる場合には,
846 適用されない。
847
848 しかし,
849 このように直接の加害者である未成年者
850 に責任能力が認められる場合でも,
851 判例は,
852 その監督義務者が民法第709条によって責任を
853 負う可能性を認めている。
854
855 本問では,
856 これらの全体的な相互関係を踏まえて,
857 Cの不法行為責
858 任の成否を適切に論じることが求められる。
859
860
861 まず,
862 Hの責任能力については,
863 民法には明確な年齢基準が定められていないものの,
864 従来
865 の判例では,
866 12歳前後がその基準とされていることから,
867 既に満15歳に達し中学3年生で
868 あるHについては,
869 特段の事情がない限り,
870 責任能力が肯定されると考えられる。
871
872 したがって,
873
874 これを前提とする限り,
875 Cについて,
876 民法第714条に基づく責任を追及することはできない。
877
878
879 しかし,
880 判例は,
881 未成年者の責任能力が肯定される場合でも,
882 監督義務者に監督義務違反と
883 しての故意又は過失が認められ,
884 それと結果との間に相当因果関係があれば,
885 監督義務者自身
886 の不法行為として,
887 民法第709条の責任を負うことを認めている。
888
889 これによると,
890 Cについ
891 て監督義務違反が認められるか否か,
892 認められるとした場合,
893 その監督義務違反とLの権利侵
894
895 -6-
896
897 害との間に相当因果関係が認められるか否かについて,
898 本問に示された事実関係に即して,
899 的
900 確に検討することが求められる。
901
902 もっとも,
903 このように判例に依拠して検討することが唯一の
904 解答ではなく,
905 適切な理由付けによってこれと異なる論じ方をすることも排除されていない。
906
907
908 は,
909 賠償額について,
910 Cはどのような反論をすることが考えられるかを検討させるもので
911 ある。
912
913 ここでは,
914 過失相殺について論じることが期待される。
915
916
917 【事実】16及び17によると,
918 既に付近がかなり暗くなっていたにもかかわらず,
919 Kが前照灯
920 の故障した自転車を,
921 携帯電話を使用していたため,
922 片手で運転していたことから,
923 Kについ
924 て過失と評価されるような事情が認められるが,
925 Lについては,
926 過失と評価されるような事情
927 は認められない。
928
929 本問の損害賠償請求はLによるものであるため,
930 L自身には過失がないにも
931 かかわらず,
932 こうしたKの過失が,
933 Lの損害賠償請求において過失相殺の対象として考慮され
934 るかどうかが問題となる。
935
936 この点について,
937 判例は,
938 被害者自身の過失でなくても,
939 被害者と
940 身分上・生活関係上の一体性が認められる者に過失があった場合については,
941 その者の過失を
942 過失相殺の対象として考慮することを認めている。
943
944 判例に即して論じる場合には,
945 以上の点を
946 的確に示し,
947 本問に示された事実関係に即して,
948 その要件が満たされている否かを的確に検討
949 することが求められる。
950
951
952 もっとも,
953 判例による被害者側の過失法理に依拠して検討することが唯一の解答ではない。
954
955
956 特に,
957 被害者側の過失法理については,
958 その妥当性を疑問視する見解も有力であり,
959 判例と異
960 なる構成を採る場合であっても,
961 適切な理由付けが行われ,
962 その要件等が的確に検討されてい
963 れば,
964 それに相応した評価がされることになる。
965
966
967 〔第2問〕
968 本問は,
969 会社法上の公開会社でない取締役会設置会社(甲社)において,
970 取締役の競業行為
971 等についての競業避止義務違反又は忠実義務違反の成否とその違反が成立する場合における
972 取締役の損害賠償責任(設問1),
973 会社の重要な事業の一部を二つの資産売買に分けて第三者
974 に売却する取引についての会社法上の規律とそのような取引の効力(設問2),
975 株主総会の決
976 議により新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任すること及び取締役会の決議により
977 当該行使条件を廃止することについての法的瑕疵の有無とそのような新株予約権の行使によ
978 り発行された株式の効力(設問3)に関し,
979 会社法上の規律の基礎的な理解とともに,
980 その
981 応用を問う問題である。
982
983
984 設問1では,
985 まず,
986 首都圏で洋菓子の製造販売業を営む甲社の取締役Bが,
987 関西地方におい
988 て同種の事業を営む乙社の事業に関連して行った競業行為に関し,
989 競業避止義務違反(会社
990 法第356条第1項第1号,
991 第365条第1項)が成立するかどうかについて,
992 事案に即し
993 て丁寧に論ずることが求められる。
994
995
996 会社法第356条第1項第1号所定の「自己又は第三者のために・・・取引をしようとす
997 るとき」については,
998 その「取引」が個々の取引行為をいうものとされていること,
999 「自己又
1000 は第三者のために」の解釈につき計算説と名義説とがあることを意識しつつ,
1001 取締役Bが自
1002 己又は第三者のために取引をしたかどうかを検討する必要がある。
1003
1004 その際,
1005 個々の取引は乙
1006 社名義で行われ,
1007 Bは乙社の代表取締役ではないことを踏まえながら,
1008 Bは,
1009 乙社の発行済
1010 株式の90%を取得し保有していること,
1011 Bは,
1012 連日,
1013 乙社の洋菓子事業の陣頭指揮を執っ
1014 ていたこと,
1015 Bは,
1016 乙社の顧問として,
1017 毎月100万円の顧問料の支払を受け,
1018 洋菓子工場
1019 の工場長Eの引き抜きやQ商標の取得に関与したことなどの事情(事実上の主宰者性)に着
1020 目すべきである。
1021
1022
1023 甲社と乙社の市場は,
1024 設問1の時点では,
1025 地理的に競合しているとはいえない。
1026
1027 そこで,
1028
1029 甲社が乙社の市場(関西地方)への進出を具体的に企図していた場合に,
1030 Bによる乙社の取
1031 引が甲社の「事業の部類に属する取引」(会社法第356条第1項第1号)に該当するかどう
1032
1033 -7-
1034
1035 かについても論ずるべきであり,
1036 乙社が,
1037 甲社と同様に,
1038 洋菓子の製造販売業を営み,
1039 著名
1040 な商標を付したチョコレートをデパートに販売していることのほか,
1041 甲社は,
1042 既にマーケテ
1043 ィング調査会社に関西地方の市場調査を委託し,
1044 委託料500万円を支払済みであることを
1045 具体的に指摘する必要がある。
1046
1047
1048 取締役会設置会社において取締役が競業取引をしようとする場合には,
1049 取締役会において当
1050 該取引につき重要な事実を開示し,
1051 その承認を受けることを要する(会社法第356条第1
1052 項,
1053 第365条第1項)。
1054
1055 Bが,
1056 A及びCに対し,
1057 「乙社の発行済株式の90%を取得するの
1058 で,
1059 今後は乙社の事業にも携わる。
1060
1061 」と述べたところ,
1062 A及びCは特段の異議を述べなかった
1063 という事実関係の下で,
1064 このような手続的要件が満たされるかどうかを論じなければならな
1065 い。
1066
1067
1068 会社法第356条第1項違反が成立する場合には,
1069 その取引によって取締役又は第三者が得
1070 た利益の額が,
1071 甲社の損害の額と推定される(同法第423条第2項)。
1072
1073 本件では,
1074 このよう
1075 に推定される損害の額は幾らなのか,
1076 すなわち,
1077 第三者である乙社の得た利益の額とみるべ
1078 きか,
1079 又は取締役Bが得た利益の額とみるべきかについて,
1080 「自己又は第三者のために・・・
1081 取引をしようとするとき」という要件の当てはめとの論理的な整合性も意識しつつ,
1082 論ずる
1083 ことが求められる。
1084
1085 そして,
1086 具体的な損害の額に関しては,
1087 乙社が得た利益としては,
1088 平成
1089 22事業年度における営業利益の増額分800万円を,
1090 Bが得た利益としては,
1091 上記800
1092 万円にBの持株比率である90%を乗じた額(720万円)ないしBが乙社から受領した顧
1093 問料(100万円に月数を乗じた額)を挙げることなどが考えられ,
1094 これらと本件競業取引
1095 との間の相当因果関係について検討する必要がある。
1096
1097
1098 本件では,
1099 甲社の取締役Bの競業行為の結果,
1100 会社法第423条第2項により推定される
1101 損害の額とは別に,
1102 現に甲社に損害が生じているとして,
1103 同条第1項に基づく損害賠償請求
1104 が可能かどうかについても,
1105 検討する必要がある。
1106
1107 具体的には,
1108 甲社がマーケティング調査
1109 会社に支払った500万円の委託料について,
1110 Bの任務懈怠との間に相当因果関係があるか
1111 どうかなどを論ずることとなる。
1112
1113 仮に,
1114 Bについて同法第356条第1項違反が成立しない
1115 との結論を採った場合においても,
1116 甲社に生じた損害について,
1117 別途,
1118 同法第423条第1
1119 項に基づく損害賠償請求の可否を論ずることとなる。
1120
1121
1122 次に,
1123 Bによる洋菓子工場の工場長Eの引き抜きについては,
1124 引き抜き行為自体を「競業取
1125 引」と評価することは困難であるが,
1126 会社法第355条所定の忠実義務違反を原因とする同
1127 法第423条第1項に基づく損害賠償請求の可否が検討されるべきである。
1128
1129 Eが甲社におい
1130 て重要な地位にあったこと,
1131 Eの突然の退職により甲社の洋菓子工場は操業停止を余儀なく
1132 され,
1133 3日間受注ができず,
1134 1日当たり100万円相当の売上げを失ったこと,
1135 Bは甲社の
1136 洋菓子事業部門の業務執行担当取締役であり,
1137 当該事業部門の利益を守るべき立場にあった
1138 ことなどを踏まえると,
1139 Bには任務懈怠が認められるであろう。
1140
1141 この場合には,
1142 損害の額に
1143 関する推定規定はなく,
1144 損害賠償責任の有無及びその額について丁寧に論ずる必要がある。
1145
1146
1147 設問2では,
1148 まず,
1149 甲社が,
1150 会社の事業の一部(洋菓子事業部門)を二つの資産売買に分け
1151 て丙社に売却した取引に関し,
1152 これらを全体として事業譲渡と評価すべきかどうか,
1153 株主総
1154 会の特別決議が必要となる「事業の重要な一部の譲渡」(会社法第467条第1項第2号)に
1155 該当するかどうかについて,
1156 事案に即して論ずることが求められる。
1157
1158
1159 甲社の洋菓子事業部門が二つの資産売買に分けて丙社に譲渡されたことに関しては,
1160 洋菓子
1161 工場に係る不動産とP商標に係る商標権とにつき,
1162 各別の売買契約が締結され,
1163 それぞれ各
1164 別に債務が履行されたという形式を重視すれば,
1165 二つの「重要な財産の処分」(会社法第36
1166 2条第4項第1号)がされたものと評価することとなる。
1167
1168 これに対し,
1169 当初,
1170 甲社と丙社と
1171 の間では,
1172 甲社の洋菓子事業部門の全体を代金2億5000万円で売却する旨の交渉がされ
1173 ていたという経緯,
1174 上記の各売買契約及びそれぞれの取締役会決議の時間的近接性,
1175 甲社の
1176
1177 -8-
1178
1179 洋菓子事業部門に従事する従業員の全員が引き続き丙社に雇用されたこと,
1180 甲社の取引先に
1181 ついても実質的にその全部が丙社に引き継がれたこと,
1182 甲社の代表取締役Aは,
1183 株主である
1184 S社が洋菓子事業部門の売却に反対する可能性が高いため,
1185 株主総会の特別決議を潜脱する
1186 意図で本件の取引を行ったと推測されることなどの事情を重視すれば,
1187 実質的に全体として
1188 「事業の重要な一部の譲渡」(会社法第467条第1項第2号)がされたものと評価すること
1189 となる。
1190
1191 この点についての問題意識が明らかにされる必要がある。
1192
1193
1194 会社法第467条(旧商法第245条)により株主総会の特別決議による承認を必要とする
1195 事業譲渡の意義について,
1196 判例(最高裁昭和40年9月22日大法廷判決・民集19巻6号
1197 1600頁参照)は,
1198 会社法第21条(旧商法第24条)以下と同一の意義であって,
1199 @一
1200 定の営業目的のために組織化され,
1201 有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的
1202 価値のある事実関係を含む。
1203
1204 )の全部又は重要な一部を譲渡し,
1205 Aこれによって,
1206 譲渡会社が
1207 その財産によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ,
1208 B譲
1209 渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に競業避止義務を負う結果を伴うものをいう旨判
1210 示している。
1211
1212 この点について,
1213 @の要件が不可欠であることにほぼ争いはないが,
1214 A及びB
1215 の要件が不可欠であるかどうかについては解釈上の争いがあるところ,
1216 事業譲渡に株主総会
1217 の特別決議が要求される趣旨を踏まえ,
1218 いずれかの立場に立った上で,
1219 本件の事案に当ては
1220 めて,
1221 会社法第467条所定の事業譲渡に該当するかどうかを論ずることが求められる。
1222
1223 特
1224 に,
1225 本件では,
1226 当事者間の特約により,
1227 競業避止義務が明示的に排除されていることに留意
1228 すべきである。
1229
1230
1231 事業譲渡に該当するとした場合には,
1232 更に,
1233 事業の「重要な」一部の譲渡に当たるかについ
1234 ても,
1235 論ずる必要がある。
1236
1237 その際には,
1238 重要性の判断基準を示した上で,
1239 質的・量的な側面
1240 から問題文の事実を具体的に当てはめるとともに,
1241 貸借対照表等の資料を分析して,
1242 株主総
1243 会の特別決議を要しないこととなる形式基準(会社法第467条第1項第2号括弧書き,
1244 同
1245 法施行規則第134条第1項)を満たすかどうかについても,
1246 検討することが求められる。
1247
1248
1249 この資料によれば,
1250 譲り渡す資産の帳簿価額は2億5000万円であり,
1251 甲社の総資産額は
1252 7億円であって,
1253 前者が後者の5分の1を上回るから,
1254 上記の形式基準を満たさない。
1255
1256
1257 次に,
1258 本件では,
1259 会社法上の必要な手続を欠く場合の事業譲渡の効力について,
1260 論ずる必要
1261 がある。
1262
1263 この点について,
1264 会社法上特別の規定はないところ,
1265 判例(最高裁昭和61年9月
1266 11日第一小法廷判決・集民148号445頁参照)は,
1267 事業譲渡契約は,
1268 株主総会の特別
1269 決議によって承認する手続を経由していなければ,
1270 無効であり,
1271 その無効は,
1272 広く株主・債
1273 権者等の会社の利害関係人の保護を目的とするものであるから,
1274 何人との関係においても常
1275 に無効である旨判示している。
1276
1277 このような考え方のほかに,
1278 善意無過失の譲受人を保護する
1279 ために相対的無効とみる考え方などもあり得るが,
1280 甲社の株主であるS社の保護,
1281 譲受人で
1282 ある丙社の保護の観点等を考慮しつつ,
1283 説得的な論述をすることが求められる。
1284
1285
1286 仮に,
1287 本件について事業譲渡に該当しないとした場合には,
1288 本件の取引が「重要な財産の
1289 処分」(会社法第362条第4項第1号)に該当するかどうかを検討することとなる。
1290
1291 その際
1292 には,
1293 重要性の判断基準について,
1294 判例(最高裁平成6年1月20日第一小法廷判決・民集
1295 48巻1号1頁参照)は,
1296 当該財産の価額,
1297 その会社の総資産に占める割合,
1298 当該財産の保
1299 有目的,
1300 処分行為の態様及び会社における従来の取扱い等の事情を総合的に考慮して判断す
1301 べきものと判示しているところ,
1302 本件でも,
1303 事案に即して論ずる必要がある。
1304
1305 結論として,
1306
1307 第1取引及び第2取引のいずれも「重要な財産の処分」に該当すると評価することになろう
1308 が,
1309 その場合には,
1310 いずれについても取締役会の決議を経ているので,
1311 会社法上の手続的要
1312 件は満たされていることとなる。
1313
1314
1315 設問3では,
1316 会社法上の公開会社でない会社における新株予約権の発行に関する規律を念
1317 頭に置きつつ,
1318 @株主総会の決議により新株予約権の行使条件(上場条件)の決定を取締役
1319
1320 -9-
1321
1322 会に委任することの可否,
1323 A仮に,
1324 このような委任ができるとした場合に,
1325 当該行使条件を
1326 取締役会の決議により廃止することの可否を論じた上で,
1327 B瑕疵のある手続により発行され
1328 た新株予約権の行使により発行された株式の効力,
1329 又は行使条件に反した新株予約権の行使
1330 により発行された株式の効力について,
1331 論理的に整合した論述をすることが求められる。
1332
1333
1334 まず,
1335 会社法上の公開会社でない会社においては,
1336 同法第238条第1項第1号所定の「募
1337 集新株予約権の内容」の決定は,
1338 株主総会の特別決議を要し,
1339 取締役会に委任することがで
1340 きない(同法第238条第2項,
1341 第239条第1項第1号)ところ,
1342 新株予約権の行使条件
1343 は「募集新株予約権の内容」に含まれ,
1344 その決定を取締役会に委任することができないとい
1345 う考え方と,
1346 取締役会への委任を許容する考え方とがあるが,
1347 いずれの考え方によるかを明
1348 らかにしつつ,
1349 新株予約権の発行手続における瑕疵の有無を論ずることが求められる。
1350
1351 そし
1352 て,
1353 仮に,
1354 新株予約権の行使条件の決定を取締役会に委任することが可能であるとした場合
1355 でも,
1356 取締役会において当該行使条件の廃止を決議することができるかどうかについては,
1357
1358 株主総会による委任の趣旨を検討しつつ,
1359 論ずる必要がある。
1360
1361 本件では,
1362 経営コンサルタン
1363 トGに対する新株予約権の発行が,
1364 甲社株式が上場した場合の成功報酬とする趣旨であった
1365 ことから,
1366 取締役会における上場条件の廃止の決議は,
1367 株主総会による授権の範囲を超えて
1368 無効であると解することもできるであろう。
1369
1370
1371 新株予約権の発行手続に瑕疵があるとした場合には,
1372 そのような発行手続の法令違反が新
1373 株予約権の発行の無効原因となるか(なお,
1374 新株予約権の発行の無効の訴えの出訴期間であ
1375 る1年は既に経過している(会社法第828条第1項第4号)。
1376
1377 ),
1378 そのような新株予約権の行
1379 使により発行された株式が無効となるかについて,
1380 検討する必要がある。
1381
1382 これに対し,
1383 新株
1384 予約権の発行は適法であるが,
1385 上場条件の廃止が無効であるとした場合には,
1386 甲社において
1387 上場条件は新株予約権の重要な内容を構成しており,
1388 上場条件に反した新株予約権の行使に
1389 よる株式の発行については,
1390 既存株主の持株比率がその意思に反して影響を受けるため,
1391 重
1392 大な瑕疵があるものとして,
1393 当該株式が無効となるのではないかという点について,
1394 検討す
1395 る必要がある。
1396
1397
1398 設問3については,
1399 旧商法の下における判例
1400 (最高裁平成24年4月24日第三小法廷判決・
1401 民集66巻6号2908頁参照)を参考にしながら,
1402 会社法上の公開会社でない会社におけ
1403 る新株予約権の発行等について,
1404 会社法の条文及び制度趣旨を踏まえた検討が望まれる。
1405
1406
1407 〔第3問〕
1408 本問は,
1409 リフォーム工事を内容とする請負契約に係る瑕疵修補に代わる損害賠償請求事件(本
1410 訴)を基本的な題材として,
1411 反訴で訴求されている債権を自働債権とする相殺の抗弁を本訴に
1412 おいて提出することの適法性(〔設問1〕),
1413 相殺の抗弁を認めた第一審判決に対する控訴と不
1414 利益変更禁止の原則との関係(〔設問2〕),
1415 民事訴訟法第114条第2項が規定する既判力の
1416 内容とその具体的な作用の仕方(
1417 〔設問3〕)について検討することを求めている。
1418
1419
1420 これらの課題に含まれる論点には基礎的なものが含まれており,
1421 それだけに,
1422 受験者には,
1423
1424 その基礎的な論点に係る正確な知識をもとにして,
1425 問題文に示された事実関係及び関連判例を
1426 踏まえ,
1427 結論を導き出す論述を行うことが期待されている。
1428
1429
1430 〔設問1〕は,
1431 XがYに対して提起した上記損害賠償請求事件(本訴)でYがXに対して反
1432 訴を提起した場合において,
1433 反訴で訴求されている債権を自働債権とする相殺の抗弁を本訴に
1434 おいて提出することの適法性を検討することを求めている。
1435
1436 その検討に当たっては,
1437 重複起訴
1438 を禁止する民事訴訟法第142条の趣旨は,
1439 別訴で訴求されている債権を自働債権とする相殺
1440 の抗弁を本訴において提出する場合にも妥当する,
1441 とした判例(最高裁判所平成3年12月1
1442 7日第三小法廷判決・民集45巻9号1435頁。
1443
1444 以下「平成3年判決」という。
1445
1446 )と,
1447 反訴
1448 で訴求されている債権を自働債権とする相殺の抗弁を本訴において提出する場合には重複起訴
1449
1450 - 10 -
1451
1452 の問題は生じない,
1453 とした判例(最高裁判所平成18年4月14日第二小法廷判決・民集60
1454 巻4号1497頁。
1455
1456 以下「平成18年判決」という。
1457
1458 )との相互関係を正しく理解しているこ
1459 とが必要である。
1460
1461
1462 より具体的にいうと,
1463 第一に,
1464 反訴で訴求されている債権を自働債権とする相殺の抗弁を本
1465 訴において提出すると,
1466 訴えの変更の手続を経由せずに,
1467 既に提起されていた反訴が予備的反
1468 訴として扱われる,
1469 というのが平成18年判決の考え方であるが,
1470 平成3年判決は,
1471 重複起訴
1472 の禁止を定める民事訴訟法第142条の趣旨を類推する主な根拠を,
1473 たとえ本訴と別訴とが併
1474 合審理されていてもなお既判力の矛盾抵触のおそれがあることに求めているところ,
1475 平成18
1476 年判決のように考えるとなぜそのおそれが生じないこととなるのかについて説明することが求
1477 められている。
1478
1479 第二に,
1480 平成3年判決は,
1481 相殺の担保的機能という利益と反対債権について債
1482 務名義を取得するという利益とを二重に享受することは許さないとする趣旨と解されるが,
1483 平
1484 成18年判決の考え方ではなぜ二重の利益を享受する結果にならないのかについて,
1485 説明する
1486 ことが求められている。
1487
1488
1489 〔設問2〕は,
1490 XがYに対して提起した上記損害賠償請求事件(本訴)において提出された
1491 相殺の抗弁を認めて本訴請求を棄却した第一審判決に対し,
1492 Xのみが控訴した場合において,
1493
1494 控訴審における審理の結果,
1495 本訴の訴求債権の不存在が明らかとなったとき,
1496 控訴審が第一審
1497 判決を取り消し,
1498 上記訴求債権の不存在を理由として改めて請求棄却の判決をすることが許さ
1499 れるかどうかを問うものである。
1500
1501 より具体的にいうと,
1502 控訴審が第一審判決を取り消し請求棄
1503 却の判決をすることが,
1504 控訴したXにとって原判決の不利益変更となるか,
1505 なると考える場合
1506 のその理由について,
1507 説明を求めるものである。
1508
1509 上記第一審判決が確定すると,
1510 本訴の訴求債
1511 権の不存在の判断(民事訴訟法第114条第1項)及び反対債権の不存在の判断(同条第2項)
1512 の双方に既判力が生じるが,
1513 第一審判決を取り消し,
1514 訴求債権の不存在を理由として請求を棄
1515 却した判決が確定すると,
1516 反対債権の不存在という,
1517 Xに有利に作用する既判力が生じないこ
1518 ととなる。
1519
1520 こうした理由から控訴棄却にとどめるべきであるとするのが,
1521 判例(最高裁判所昭
1522 和61年9月4日第一小法廷判決・判例時報1215号47頁)の考え方であるが,
1523 本問では,
1524
1525 この二つの判決が確定したと仮定した場合に生ずる既判力の内容の相違に注目して,
1526 不利益変
1527 更禁止の原則に抵触するかどうかを説明することが求められている。
1528
1529
1530 〔設問3〕は,
1531 XがYに対して提起した上記損害賠償請求事件に係る第一審判決(その内容
1532 は,
1533 Yの相殺の抗弁が認められ,
1534 Xの本訴請求が棄却されたというもの)が確定した後に,
1535 新
1536 たに,
1537 Yが不当利得の返還を求める文書を送付してきたという事案を題材に,
1538 当該第一審判決
1539 の既判力の作用について具体的に説明することを求めるものである。
1540
1541 また,
1542 本問は,
1543 問題文に
1544 おけるL2の発言(問題文5頁19行目から27行目のもの)において具体的に示唆するとお
1545 り,
1546 民事訴訟法第114条第2項が規定する既判力の内容は,
1547 基準時における反対債権の不存
1548 在の判断であるとの考え方に依拠したとしても,
1549 相殺の抗弁が認められて勝訴したYが,
1550 訴求
1551 債権は本来存在しなかったから相殺はその効力を生じていないとの理由に基づき,
1552 反対債権の
1553 金額に相当する不当利得の返還を請求した場合,
1554 その既判力によって棄却することが可能であ
1555 ることを説明することを求めている。
1556
1557 より具体的にいうと,
1558 不当利得返還請求権の要件,
1559 すな
1560 わち利得,
1561 損失,
1562 両者の因果関係及び利得に法律上の原因がないことのうち,
1563 どの要件に関す
1564 る主張がその既判力と抵触するのかを,
1565 Yがその言い分において主張する事実関係に則して,
1566
1567 受験者自らの言葉で具体的に説明することが求められている。
1568
1569 こうした観点からは,
1570 既判力は
1571 訴訟物同一,
1572 先決関係又は矛盾関係において作用するところ,
1573 不当利得返還請求権の主張は反
1574 対債権の不存在の判断と矛盾関係にあるから,
1575 確定した第一審判決の既判力に抵触する,
1576 と述
1577 べるにとどまる答案は,
1578 本問の題意を的確に捉えたものとは評価し難い。
1579
1580
1581 【刑事系科目】
1582
1583 - 11 -
1584
1585 〔第1問〕
1586 本問は,
1587 A社の新薬開発部の部長であった甲が,
1588 乙から持ち掛けられて,
1589 自ら管理していた
1590 新薬の製造方法が記載された書類(以下「新薬の書類」という。
1591
1592 )を密かに会社外に持ち出し
1593 て乙に渡すことを決心し,
1594 他部に異動となったにもかかわらず,
1595 新薬の書類を金庫から持ち
1596 出し,
1597 これを自己のかばん(以下「甲のかばん」という。
1598
1599 )の中に入れて乙方に向かう途中,
1600
1601 立ち寄った駅待合室で丙から甲のかばんを持ち去られたところ,
1602 その直後に,
1603 甲のかばんと
1604 同種,
1605 同形状のかばん(以下「Cのかばん」という。
1606
1607 )を持って駅改札口を通過するCを見て,
1608
1609 Cが甲のかばんを持ち去ろうとしているものと誤解し,
1610 Cが持っていたCのかばんの持ち手
1611 をつかんでそのかばんを奪い取るとともに,
1612 Cに加療1週間の傷害を負わせたという具体的
1613 事例について,
1614 甲乙丙それぞれの罪責を検討させることにより,
1615 刑事実体法及びその解釈論
1616 の知識と理解を問うとともに,
1617 具体的な事実関係を分析してそれに法規範を適用する能力及
1618 び論理的な思考力・論述力を試すものである。
1619
1620 特に,
1621 甲の罪責を論ずるに当たっては,
1622 犯罪
1623 事実の認識の問題と,
1624 錯誤の問題を明確に区別して論ずることができるかが問われており,
1625
1626 刑法の体系的理解を試すものといえる。
1627
1628
1629
1630
1631 甲の罪責について
1632 甲は,
1633 A社の新薬開発部の部長であった某年12月1日,
1634 大学時代の後輩であり,
1635 A社の
1636 ライバル会社の社員であった乙から300万円の報酬等を提示された上,
1637 当時,
1638 甲が管理
1639 していた新薬の書類を金庫から持ち出して乙に渡すように持ち掛けられ,
1640 これを了承した。
1641
1642
1643 そして,
1644 甲は,
1645 同月15日,
1646 新薬開発部の部屋にある金庫内に保管されていた新薬の書類
1647 を甲のかばんの中に入れてA社外に持ち出したが,
1648 この時点で,
1649 甲は,
1650 新薬開発部の部長
1651 を解任され,
1652 他部に異動していた。
1653
1654 この新薬の書類を金庫から持ち出した点に関しての甲
1655 の罪責を論ずるに当たって,
1656 上記のとおり甲の立場に変更が生じていたことから,
1657 新薬の
1658 書類の占有の帰属を的確に論ずることが求められる。
1659
1660 すなわち,
1661 甲は,
1662 新薬開発部部長と
1663 して,
1664 新薬の書類を管理していたと認められるところ,
1665 同部長職を解かれ,
1666 後任部長に事
1667 務の引継ぎを行った際,
1668 金庫内に保管されていた新薬の書類も引き継ぎ,
1669 これを保管して
1670 いる金庫の暗証番号も後任部長に引き継いだが,
1671 金庫の暗証番号自体に変更がなく,
1672 甲は,
1673
1674 金庫から新薬の書類を持ち出すことが事実上可能であったという事実関係を前提として,
1675
1676 新薬の書類に対する甲の占有は喪失したものといえるのかを論じる必要がある。
1677
1678 仮に,
1679 新
1680 薬の書類に対する甲の占有が失われていないとしても,
1681 後任部長にも新薬の書類に対する
1682 管理権が存在するとすれば,
1683 新薬の書類を持ち去る甲の行為は,
1684 共同占有者の占有を侵害
1685 することとなる点に注意が必要である。
1686
1687
1688 また,
1689 甲は,
1690 有給休暇を取った上,
1691 金庫内の新薬の書類を持ち出す目的で,
1692 誰もいなく
1693 なった新薬開発部の部屋に入っており,
1694 A社における各部の部屋の状況等を踏まえ,
1695 建造
1696 物侵入罪の成否について簡潔に論じる必要がある。
1697
1698
1699 甲は,
1700 新薬の書類を入れた甲のかばんを駅待合室に置いて切符を買いに行った際,
1701 丙に
1702 よって甲のかばんを持ち去られてしまった。
1703
1704 その直後,
1705 待合室に戻ろうとした甲は,
1706 甲の
1707 かばんと同種,
1708 同形状のかばんをCが持っているのを見て,
1709 Cが甲のかばんを駅待合室か
1710 ら持ち出して立ち去ろうとしていると誤解し,
1711 Cが持っているCのかばんの持ち手部分を
1712 つかんで強引に引っ張り,
1713 Cのかばんを奪い取るとともに,
1714 その弾みで通路に手を付かせ,
1715
1716 Cに加療1週間を要する傷害を負わせた。
1717
1718
1719 まず,
1720 Cのかばんを奪い取るという甲の行為がいかなる構成要件に該当することとなる
1721 のかを確定する必要がある。
1722
1723 具体的には,
1724 甲は,
1725 Cに対して有形力を行使(暴行)してい
1726 ることから,
1727 甲の行為が強盗罪に該当するか窃盗罪に該当するかを論ずる必要がある。
1728
1729 そ
1730 の際には,
1731 いわゆる「ひったくり」に関する判例・学説を理解していることが期待されてい
1732 る。
1733
1734
1735
1736 - 12 -
1737
1738 次に,
1739 甲が,
1740 Cのかばんを甲のかばんと誤解している点をどのように考えるかを検討す
1741 る必要がある。
1742
1743 そして,
1744 Cのかばんを甲のかばんと誤解しているその甲の認識は,
1745 「他人の
1746 財物」性に係る問題であること,
1747 すなわち構成要件該当事実の認識の問題であることを的
1748 確に把握することが求められる(違法性阻却事由に関する錯誤の問題ではない。
1749
1750 )。
1751
1752 そして,
1753
1754 窃盗罪あるいは強盗罪における「他人の財物」(甲のかばんに関していえば,
1755 「他人の占有
1756 する自己の財物」)の概念をいかに解釈すべきかについては,
1757 これらの罪の保護法益との関
1758 係で種々の考え方があり得るところであるので,
1759 窃盗罪あるいは強盗罪の保護法益に関す
1760 る自らの考え方を端的に論じ,
1761 各自の保護法益論との関係で,
1762 甲の認識が窃盗罪ないし強
1763 盗罪の故意の成否にどのように影響するのかを論じなければならない。
1764
1765
1766 また,
1767 Cに怪我を負わせた点について,
1768 構成要件の問題としては傷害罪が成立すること
1769 を論ずる必要がある。
1770
1771 この傷害罪については,
1772 窃盗罪の場合と異なり,
1773 暴行の認識に欠け
1774 るところはないが,
1775 甲は,
1776 甲のかばんをCが盗んだと認識していることから,
1777 このように
1778 認識している点が傷害罪の成否にどのように影響するかを論ずる必要がある(窃盗の故意
1779 を認める場合には,
1780 窃盗罪と傷害罪の双方についての成否が問題となろう。
1781
1782 また,
1783 甲のC
1784 に対する暴行を強盗罪における暴行と認定する場合には,
1785 強盗罪の故意を肯定するのであ
1786 れば強盗致傷罪の成否を問題とすることになろうし,
1787 強盗罪の故意を否定するのであれば
1788 致傷の点を傷害罪の成否として論ずることになろう。
1789
1790 )。
1791
1792 甲の意図は,
1793 甲のかばんの取り返
1794 しであるから,
1795 仮に,
1796 甲の認識のとおりの事態であった場合,
1797 甲の行為が正当化されるか
1798 どうかを検討する必要がある。
1799
1800 これが肯定されれば,
1801 甲は違法性阻却事由に関する事実を
1802 認識していたことになるし,
1803 否定されれば,
1804 その認識は違法性阻却事由に関する事実を認
1805 識していたということにはならない。
1806
1807 そして,
1808 本件で問題となる違法性阻却事由は,
1809 正当
1810 防衛ないし自救行為であるところ,
1811 そのいずれであるかは,
1812 甲の認識どおりの事態,
1813 すな
1814 わち,
1815 Cが甲のかばんを駅待合室から持ち去ったという事態が存在すると仮定した場合,
1816
1817 その事態が急迫不正の侵害に当たるかどうかという点を検討することになる。
1818
1819 そして,
1820 侵
1821 害の急迫性に関しては,
1822 窃盗罪の既遂時期との関係を意識する必要がある。
1823
1824 すなわち,
1825 本
1826 件において,
1827 Cが駅待合室にあった甲のかばんを持ち去ったと仮定した場合,
1828 Cは駅待合
1829 室を出て駅改札口を通過するところであったから,
1830 窃盗は既遂に至っていると考えられる
1831 が,
1832 窃盗の既遂時期と侵害の急迫性の終了時期は必ずしも一致しないことを意識して急迫
1833 性の有無を論じることが期待されている。
1834
1835 その結果,
1836 急迫性を肯定した場合は誤想防衛の
1837 問題となり,
1838 急迫性を否定した場合には誤解によって自救行為と認識していた場合(以下,
1839
1840 便宜上「誤想自救行為」という。
1841
1842 )の問題となる。
1843
1844 これらの問題として処理する場合,
1845 違法
1846 性阻却事由に関する錯誤の刑法上の位置付けについて,
1847 論拠を示して論ずることとなる。
1848
1849
1850 具体的には,
1851 故意責任が認められる理由を示し,
1852 誤想防衛ないし誤想自救行為が故意責任
1853 にどのように影響するのかを論ずることとなろう。
1854
1855 その上で,
1856 甲の認識していた事態が正
1857 当防衛ないし自救行為の要件に該当するかを個別具体的に検討する必要がある。
1858
1859 特に,
1860 甲
1861 の行為が過剰性を有する場合,
1862 誤想過剰防衛ないし誤想過剰自救行為となることから,
1863 甲
1864 の行為が,
1865 相当性,
1866 必要性を有する行為といえるかを,
1867 問題文にある具体的な事実を挙げ
1868 て検討することが求められる。
1869
1870 これらの検討の結果,
1871 過剰性が認められる場合には甲に傷
1872 害罪が成立することとなろうが,
1873 誤想防衛ないし誤想自救行為として,
1874 傷害罪の故意を否
1875 定する場合,
1876 さらに,
1877 侵害について誤信した点についての過失を検討する必要がある。
1878
1879 こ
1880 れに過失があるとすれば,
1881 過失傷害罪が成立することとなろう。
1882
1883
1884 そして,
1885 最後に,
1886 罪数について処理する必要がある。
1887
1888
1889
1890
1891 乙の罪責
1892 乙は,
1893 新薬開発部の部長であり,
1894 新薬の書類の管理者である甲に対して,
1895 新薬の書類を持
1896 ち出して自己に渡すよう持ち掛けた。
1897
1898 乙は,
1899 甲に持ち掛けただけで自ら実行行為を行って
1900
1901 - 13 -
1902
1903 いないことから,
1904 乙の罪責について,
1905 共同正犯,
1906 教唆犯の成否を検討する必要がある。
1907
1908 そ
1909 の前提として,
1910 乙は,
1911 一部の実行行為さえしていないから,
1912 いわゆる共謀共同正犯の肯否
1913 が問題となり得るが,
1914 これは判例の立場を踏まえて,
1915 簡潔に論ずれば足りる。
1916
1917 その上で,
1918
1919 共謀共同正犯と教唆犯の区別について,
1920 自らの区別基準を踏まえて,
1921 その基準に事実関係
1922 を的確に当てはめることが求められる。
1923
1924 具体的には,
1925 共謀共同正犯の成立根拠について触
1926 れた上,
1927 成立するための要件を示すことによって共同正犯と教唆犯の区別基準を明示した
1928 上,
1929 その要件に具体的な事実を当てはめることが必要である。
1930
1931 なお,
1932 乙について教唆犯と
1933 する場合でも,
1934 共同正犯と教唆犯の区別基準を踏まえた論述によって共同正犯を否定した
1935 上で,
1936 教唆犯の要件に事実を当てはめることが求められている。
1937
1938
1939 また,
1940 甲が新薬の書類を持ち出した当時,
1941 甲は新薬開発部を異動しており,
1942 新薬の書類に
1943 対する管理権を失っていたことから,
1944 「甲自身が管理する新薬の書類を持ち出す。
1945
1946 」という
1947 乙の持ち掛けに対して,
1948 甲は,
1949 「後任部長が管理する新薬の書類を持ち出す。
1950
1951 」行為をした
1952 ことになる。
1953
1954 そこで,
1955 甲の同行為が甲乙間の共謀ないし乙の教唆行為によるものかどうか
1956 が問題となるが,
1957 この点は,
1958 乙の持ち掛けと甲の行為との間に因果性が認められることを
1959 簡潔に述べれば足りると思われる。
1960
1961
1962 次に,
1963 甲乙間の共謀ないし乙の教唆行為の際には,
1964 甲は実際に新薬の書類を業務上管理し
1965 ており,
1966 乙の認識(故意)は,
1967 業務上横領罪のそれであったところ,
1968 甲の行為が業務上横
1969 領ではなく,
1970 窃盗罪であるとした場合,
1971 乙の認識と甲の行為との間に齟齬が生じているこ
1972 とから,
1973 錯誤の問題を論じる必要がある。
1974
1975 本件の錯誤は,
1976 構成要件を異にするいわゆる抽
1977 象的事実の錯誤であるから,
1978 このような錯誤の場合にどのように処理するか,
1979 故意責任の
1980 本質について触れて一般論を簡潔に示した上,
1981 業務上横領罪と窃盗罪との関係を論じるこ
1982 とになる。
1983
1984 その際,
1985 両罪の構成要件の重なり合いがどのような基準で判断されるのかを論
1986 ずることになろう。
1987
1988
1989 そして,
1990 業務上横領罪と窃盗罪との間に重なり合いが認められた場合には軽い罪の限度で
1991 の重なり合いを認めることとなろうが,
1992 業務上横領罪と窃盗罪とは懲役刑については同一
1993 の法定刑が定められているものの,
1994 窃盗罪には罰金刑が選択刑として規定されていること
1995 を踏まえ,
1996 そのいずれが軽い罪に当たるのか述べることが求められる。
1997
1998 甲が業務上横領罪
1999 を犯した場合,
2000 刑法65条の規定によって,
2001 乙には単純横領罪が成立するか,
2002 少なくとも
2003 同罪で科刑されることとなるので,
2004 異なる構成要件間の重なり合いを論ずるに当たって,
2005
2006 業務上横領罪と窃盗罪の比較ではなく,
2007 単純横領罪と窃盗罪を比較するという考え方もあ
2008 り得るであろう。
2009
2010 いずれにしても,
2011 自己が取る結論を筋立てて論ずることが求められる。
2012
2013
2014
2015
2016 丙の罪責
2017 丙は,
2018 甲が甲のかばんを駅待合室に置いたまま同室を出たのを見て,
2019 甲のかばんを持って
2020 駅待合室から出た。
2021
2022 丙の罪責を論ずるに当たっては,
2023 駅待合室内の甲のかばんに甲の占有
2024 が及んでいるかどうかを検討する必要がある。
2025
2026 問題文には,
2027 甲の占有に関する事実が挙げ
2028 られているが,
2029 これらの事実を単に羅列するのではなく,
2030 占有の要件(占有の事実及び占
2031 有の意思)に即して,
2032 必要かつ十分な事実を整理して論ずることが求められる。
2033
2034 そして,
2035
2036 甲の占有を肯定した場合には窃盗罪の成否を,
2037 否定した場合には占有離脱物横領罪の成否
2038 を,
2039 それぞれ客観的構成要件を踏まえて論ずることとなる。
2040
2041
2042 次に,
2043 丙が甲のかばんを持ち去った理由は,
2044 これを交番に持ち込んで逮捕してもらおうと
2045 いうものであり,
2046 丙には,
2047 甲のかばんをその本来の用法に使用する意思はおろか,
2048 何らか
2049 の用途に使用する意思もなかった。
2050
2051 窃盗罪については,
2052 判例上,
2053 故意とは別個の書かれざ
2054 る主観的構成要件要素として,
2055 不法領得の意思が必要とされている。
2056
2057 そして,
2058 判例(大判
2059 大4・5・21刑録21輯663頁)は,
2060 不法領得の意思の内容につき,
2061 「権利者を排除し
2062 て,
2063 他人の物を自己の所有物として,
2064 その経済的用法に従い,
2065 利用し処分する意思」と解
2066
2067 - 14 -
2068
2069 しているところ(近時の判例として最決平16・11・30刑集58巻8号1005頁があ
2070 る。
2071
2072 ),
2073 この不法領得の意思の内容をどのように解するのかによって丙の窃盗罪あるいは占
2074 有離脱物横領罪の成否が異なることとなるから,
2075 不法領得の意思について,
2076 その概念を述
2077 べるだけでなく,
2078 その内容にも踏み込んで論述し,
2079 これに丙の意思を当てはめて,
2080 丙に不
2081 法領得の意思を認めることができるのかを論ずることが肝要である。
2082
2083 本件のようないわゆ
2084 る刑務所志願の事案については,
2085 下級審の裁判例でも結論が分かれているところであり,
2086
2087 いずれの結論を採るにしても,
2088 自らが提示した不法領得の意思の概念を踏まえて事実を当
2089 てはめて結論することが求められている。
2090
2091 仮に,
2092 丙について不法領得の意思を否定した場
2093 合には,
2094 毀棄罪,
2095 具体的には器物損壊罪の成否を論ずることが必要である。
2096
2097
2098 なお,
2099 丙に窃盗罪あるいは器物損壊罪が成立するとした場合,
2100 丙は,
2101 その事実を直ちに
2102 交番の警察官に申告していることから,
2103 自首の成否が問題となり得るところである。
2104
2105
2106 〔第2問〕
2107 本問は,
2108 いわゆる「振り込め詐欺」グループによる詐欺未遂事件の捜査及び公判に関する事
2109 例を素材に,
2110 そこに生じる刑事手続法上の問題点,
2111 その解決に必要な法解釈,
2112 法適用に当たっ
2113 て重要な具体的事実の分析及び評価並びに結論に至る思考過程を論述させることにより,
2114 刑
2115 事訴訟法に関する基本的学識,
2116 法適用能力及び論理的思考力を試すものである。
2117
2118
2119 〔設問1〕は,
2120 被害者との現金受渡し場所に現れて現行犯人として逮捕された甲と携帯電話
2121 で頻繁に通話していた乙について,
2122 本件の共犯者ではないかとの疑いを強めた司法警察員P
2123 が,
2124 空室となっていた乙方隣室のマンション居室を賃借し,
2125 同室において乙の動静を探って
2126 いたところ,
2127 同室ベランダに出た際,
2128 乙方ベランダに出て携帯電話で通話する乙の声が聞こ
2129 えてきたことから,
2130 ICレコーダを使用して,
2131 約3分間にわたり,
2132 この乙の会話を録音した
2133 【捜査@】,
2134 その後,
2135 隣室において,
2136 壁の振動を増幅させて音声を聞き取り可能にする本件機
2137 器を用いたところ,
2138 壁に耳を当てても聞こえなかった乙方居室内の音声を鮮明に聞き取るこ
2139 とができたことから,
2140 約10時間にわたり,
2141 本件機器を介して乙方の音声を聞き取りつつ,
2142
2143 本件機器に接続したICレコーダにその音声を録音した【捜査A】の各捜査に関し,
2144 その適
2145 法性を検討させる問題である。
2146
2147 いわゆる強制処分と任意処分の区別,
2148 任意処分の限界につい
2149 て,
2150 その法的判断枠組みの理解と,
2151 具体的事実への適用能力を試すことを狙いとする。
2152
2153
2154 刑事訴訟法第197条第1項は,
2155 「捜査については,
2156 その目的を達するため必要な取調をす
2157 ることができる。
2158
2159 但し,
2160 強制の処分は,
2161 この法律に特別の定のある場合でなければ,
2162 これを
2163 することができない。
2164
2165 」と規定する。
2166
2167 したがって,
2168 ある捜査活動がいわゆる強制処分に該当す
2169 る場合,
2170 同法にそれを許す特別の根拠規定がある場合に限って許されることになり(強制処
2171 分法定主義),
2172 当該捜査活動が強制処分と位置付けられるか,
2173 任意処分と位置付けられるかに
2174 よって,
2175 その法的規律の在り方が異なることになるため,
2176 両者の区別が問題となる。
2177
2178
2179 この点については,
2180 同条項ただし書の「強制の処分」の定義が法律上示されていないこと
2181 から,
2182 その意義をどのように解するかが問題となるところ,
2183 旧来は,
2184 物理的な有形力の行使,
2185
2186 法的義務付けの有無がメルクマールとされていたのに対し,
2187 現在では,
2188 権利・利益の侵害・
2189 制約に着目する見解が一般的である。
2190
2191 最高裁判所は,
2192 警察官が,
2193 任意同行した被疑者に対し
2194 呼気検査に応じるように説得していた際に,
2195 退室しようとした被疑者の左手首を掴んで引き
2196 止めた行為の適否が問題となった事案において,
2197 「強制手段とは,
2198 有形力の行使を伴う手段を
2199 意味するものではなく,
2200 個人の意思を制圧し,
2201 身体,
2202 住居,
2203 財産等に制約を加えて強制的に
2204 捜査目的を実現する行為など,
2205 特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を
2206 意味する」と判示した(最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁)。
2207
2208 同決定の上記
2209 判示から抽出するならば,
2210 強制処分のメルクマールは,
2211 「個人の意思の制圧」と「身体・住
2212 居・財産等への制約」(代表的な権利・利益を例示したものと理解すれば,
2213 「権利・利益の制
2214
2215 - 15 -
2216
2217 約」と言い替えることもできる。
2218
2219 )とに求められることになる。
2220
2221 本設問を検討するに当たっ
2222 ては,
2223 このような最高裁決定の判示にも留意しつつ,
2224 刑事訴訟法第197条第1項の
2225 解釈として,
2226 強制処分と任意処分の区別に関する基準を明確化しておくことが求めら
2227 れる。
2228
2229
2230 また,
2231 強制処分に至らない任意処分であっても,
2232 当然に適法とされるわけではなく,
2233 一定
2234 の許容される限界があり,
2235 その許容性の判断に当たっては,
2236 いわゆる「比例原則」から,
2237 具
2238 体的事案において,
2239 特定の捜査手段により対象者に生じる法益侵害の内容・程度と,
2240 捜査目
2241 的を達成するため当該捜査手段を用いる必要性との間の合理的権衡を吟味することになる。
2242
2243
2244 前記昭和51年最決も,
2245 強制手段に当たらない有形力の行使について,
2246 「何らかの法益を侵
2247 害し又は侵害するおそれがあるのであるから,
2248 状況のいかんを問わず常に許容されるものと
2249 解するのは相当でなく,
2250 必 要 性 ,
2251 緊 急 性な ど も 考 慮 し たう え ,
2252 具 体 的状 況の も とで 相当
2253 と認められる限度において許容される」と判示している。
2254
2255
2256 以上のとおり,
2257 本設問の解答に当たっては,
2258 強制処分法定主義,
2259 任意処分に対する法的規
2260 制の趣旨を踏まえつつ,
2261 前記昭和51年最決の判示内容にも留意して,
2262 強制処分と任意処分
2263 の区別の基準や任意処分の限界の判断枠組みが検討・提示された上で,
2264 【捜査@】及び【捜
2265 査A】の各適法性について,
2266 設問の事例に現れた具体的事実がその判断枠組みにおいてどの
2267 ような意味を持つのかを意識しながら,
2268 論理的に一貫した検討がなされる必要がある。
2269
2270
2271 【捜査@】の適法性については,
2272 対象者が自室のベランダで行った会話を捜査機関が隣室の
2273 ベランダで聴取・録音したという捜査について,
2274 強制処分に当たるか任意処分に当たるかを
2275 明らかにした上で,
2276 その区別を前提に,
2277 現行法の法的規律の在り方に従って適否を検討し,
2278
2279 その結論を導く思考過程を論述することが求められる。
2280
2281
2282 強制処分か任意処分かの区別については,
2283 前記最決の枠組みに従えば,
2284 まず,
2285 「個人の意思
2286 の制圧」の側面に関し,
2287 乙に認識されることなく秘密裏に聴取・録音したものであり,
2288 現実
2289 に乙の明示の意思に反し又はその意思を制圧した事実は認められない点をどのように考える
2290 かが問題となるが,
2291 例えば,
2292 対象者が認識していないことから直ちに「意思の制圧」を否定
2293 し,
2294 強制処分に当たらず任意捜査だと結論付けることは,
2295 現行の刑事訴訟法において通信傍
2296 受が強制処分と位置付けられていること(同法第222条の2)に照らしても,
2297 短絡的であ
2298 り,
2299 強制処分のメルクマールとしての「意思の制圧」の位置付けやその具体的内容の吟味を
2300 踏まえた検討が求められる。
2301
2302
2303 次に,
2304 「権利・利益の制約」の側面に関しては,
2305 Pらが適法に賃借・引渡しを受けた居室の
2306 ベランダにおいて聴取・録音がなされ,
2307 乙の「身体,
2308 住居,
2309 財産」そのものに対する侵害・
2310 制約は認められないことから,
2311 被制約利益の内容をどのように捉え,
2312 その重要性をどのよう
2313 に評価するのかについて,
2314 具体的検討を行うことが求められる。
2315
2316
2317 そして,
2318 前記の区別につき,
2319 【捜査@】は任意処分であるとの結論に至った場合には,
2320 次の
2321 段階として,
2322 当該捜査が任意捜査として許容される限度のものか否かについて検討すること
2323 になり,
2324 前記最決の判示も踏まえ,
2325 当該捜査手段により対象者に生じる法益侵害の内容・程
2326 度と,
2327 捜査目的を達成するため当該捜査手段を用いる必要性との間の合理的権衡を吟味しな
2328 ければならない。
2329
2330 当該捜査手段を用いる必要性を検討するに当たっては,
2331 対象となる犯罪の
2332 性質・重大性,
2333 捜査対象者に対する嫌疑の程度,
2334 当該捜査によって証拠を保全する必要性・
2335 緊急性に関わる具体的事情を適切に抽出・評価する必要がある。
2336
2337
2338 他方,
2339 【捜査@】が強制処分であるとの結論に至った場合には,
2340 刑事訴訟法上の根拠規定が
2341 存在し,
2342 かつ,
2343 その定める要件を満たしていなければ,
2344 違法となる。
2345
2346 【捜査@】のような捜査
2347 手段を直接定めた明文規定は存在しないことから,
2348 法定された既存の強制処分の類型に該当
2349 するか否かを検討した上で,
2350 適法性についての結論を導く必要があるが,
2351 この点では,
2352 電話
2353 傍受を「通信の秘密を侵害し,
2354 ひいては,
2355 個人のプライバシーを侵害する強制処分である」
2356
2357 - 16 -
2358
2359 とした最決平成11年12月16日(刑集53巻9号1327頁)が,
2360 「電話傍受は,
2361 通話内
2362 容を聴覚により認識し,
2363 それを記録するという点で,
2364 五官の作用によって対象の存否,
2365 性質,
2366
2367 状態,
2368 内容等を認識,
2369 保全する検証としての性質をも有するということができる」と判示し
2370 たことも踏まえた検討が求められよう。
2371
2372
2373 【捜査A】の適法性についても,
2374 【捜査@】と同様の判断枠組みに従って,
2375 その適法性を検
2376 討すべきであるが,
2377 両者は,
2378 対象となった会話の行われた場所や聴取・録音の態様が異なっ
2379 ているから,
2380 この点を意識して論じる必要がある。
2381
2382
2383 すなわち,
2384 【捜査A】は,
2385 通常の人の聴覚では室外から聞き取ることのできない乙方居室内
2386 の音声を,
2387 本件機器を用いて増幅することにより隣室から聞き取り可能とした上で,
2388 これを
2389 約10時間にわたり聴取・録音するというものであり,
2390 外部から聞き取られることのない個
2391 人の私生活領域内における会話等の音声を乙の承諾なくして聴取・録音しているものである
2392 ことから,
2393 乙の「住居」に対する捜索から保護されるべき個人のプライバシーと基本的に同
2394 様の権利の侵害が認められ,
2395 その侵害の程度も重いと評価できる。
2396
2397 【捜査A】が強制処分か任
2398 意処分かの区別を検討するに当たっては,
2399 この点に関する具体的事実を考慮しつつ,
2400 丁寧な
2401 検討と説得的な論述をなすことが求められる。
2402
2403
2404 次に,
2405 【捜査A】が強制処分であるとした場合,
2406 【捜査A】は,
2407 室外からは聞き取ることので
2408 きない居室内の会話を本件機器を用いて増幅することにより隣室から聞き取り可能とした上
2409 で聴取・録音するというものであるが,
2410 電話傍受についての前記平成11年最決や,
2411 宅配便
2412 荷物に外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察するという検査方法を検証として
2413 の性質を有する強制処分に当たるものとした最決平成21年9月28日(刑集63巻7号8
2414 68頁)などに鑑みると,
2415 【捜査A】についても,
2416 「検証」としての性質を有するものと見る
2417 余地があろう。
2418
2419 他方,
2420 室内の会話を一定期間継続して無差別的に聴取・録音する点,
2421 事後通
2422 知や準抗告による不服申立ての手続が不可欠というべき性格の処分である点で,
2423 検証の枠を
2424 超えているとの見方もあり得よう(電話傍受に関する前記平成11年最決の反対意見参照)。
2425
2426
2427 いずれの結論をとるにせよ,
2428 「検証」の強制処分としての意義・性質についての正確な理解を
2429 前提とした検討が必要となる。
2430
2431
2432 〔設問2〕前段は,
2433 否認し続ける甲につき検察官Rから「自白すれば起訴猶予にしてもよい。
2434
2435 」
2436 旨言われていた司法警察員Qが,
2437 甲の取調べにおいて,
2438 甲に対し,
2439 検察官の前記不起訴約束
2440 を伝えた上,
2441 自白を勧告した結果,
2442 甲が,
2443 不起訴処分となることを期待して,
2444 乙の関与も含
2445 めて自白し,
2446 この甲の供述(自白)を疎明資料として乙の逮捕状が発付されて乙が逮捕され,
2447
2448 逮捕後の乙の取調べにおいて乙が任意になした自白を疎明資料として発付された捜索差押許
2449 可状による捜索差押えの結果,
2450 本件文書及び本件メモが押収されたという事実関係において,
2451
2452 本件文書及び本件メモについて,
2453 その証拠収集上の問題点から,
2454 証拠能力の検討を求めるも
2455 のである。
2456
2457 不起訴約束による甲の供述(自白)の獲得手続の問題点と,
2458 そこから派生して得
2459 られた証拠の証拠能力を問うことにより,
2460 自白法則,
2461 違法収集証拠排除法則等の刑事訴訟法
2462 の基本原則に対する理解と,
2463 これらを踏まえて具体的検討を行う法的思考力を試すものであ
2464 る。
2465
2466
2467 本問では,
2468 不起訴約束によってなされた甲の供述を基にその後の捜査手続が進行し,
2469 本件文
2470 書及び本件メモの押収に至ったものであることから,
2471 まず,
2472 起点となる甲の供述の獲得上の
2473 問題点について検討する必要がある。
2474
2475
2476 本問の事案において,
2477 甲の供述は,
2478 甲の自白として用いる場合には,
2479 典型的な不任意自白
2480 として,
2481 証拠能力が否定されると解される(最判昭和41年7月1日刑集20巻6号537
2482 頁参照)。
2483
2484 不任意自白の証拠能力が否定される根拠については,
2485 見解が分かれており,
2486 従来か
2487 らの伝統的な通説・実務の見解であるいわゆる任意性説(虚偽排除説ないし同説と人権擁護
2488 説との併用説)と,
2489 いわゆる違法排除説とが説かれている。
2490
2491 不起訴約束による甲供述(自白)
2492
2493 - 17 -
2494
2495 の獲得手続の問題点については,
2496 このような自白の証拠能力に関する見解が指摘する問題を
2497 意識しつつ,
2498 さらに,
2499 それが甲自身ではなく,
2500 乙に対する逮捕状請求の疎明資料として用い
2501 られることにも留意した検討・論述が求められる。
2502
2503
2504 甲供述(自白)の獲得手続に派生証拠の証拠能力に影響を及ぼしうるような違法が見いだ
2505 された場合(違法収集証拠である第1次証拠から派生して得られた第2次証拠について,
2506 い
2507 わゆる「毒樹の果実」として,
2508 その証拠能力が否定されることがあるのは,
2509 第1次証拠排除
2510 の趣旨を徹底するためであるとすれば,
2511 仮に,
2512 甲供述の獲得手続に甲供述自体の証拠能力を
2513 失わせるような違法・瑕疵が見いだされる場合であっても,
2514 甲供述の証拠能力が否定される
2515 趣旨いかんにより,
2516 それが当然に,
2517 派生証拠の証拠能力にまで影響を及ぼすとは限らない。
2518
2519
2520 例えば,
2521 虚偽排除の観点から証拠能力が否定される不任意自白の場合,
2522 自白を排除する趣旨
2523 が派生証拠の証拠能力にまで影響を及ぼすかについては議論の余地がある。
2524
2525 ),
2526 次に,
2527 派生証
2528 拠の証拠能力をどのような判断枠組みで考えるかが問題になる。
2529
2530 この点については,
2531 最判昭
2532 和53年9月7日(刑集32巻6号1672頁)が一般論として採用する違法収集証拠排除
2533 法則を前提に,
2534 最高裁及び下級審による多数の裁判例が蓄積されているところ(代表的な判
2535 例としては,
2536 最判昭和61年4月25日刑集40巻3号215頁,
2537 最判平成15年2月14
2538 日刑集57巻2号121頁等が存在する。
2539
2540 ),
2541 本設問の解答に当たっても,
2542 それらを踏まえつ
2543 つ,
2544 本問の具体的事例に即した検討・論述がなされることが望ましい。
2545
2546 派生証拠の証拠能力
2547 の判断枠組みとしては,
2548 大別すると,
2549 先行手続の違法の後行手続への承継という枠組みのも
2550 と,
2551 先行手続と後行手続との間に一定の関係(前記昭和61年最判によれば,
2552 同一目的,
2553 直
2554 接利用関係)が認められる場合には,
2555 先行手続の違法の有無,
2556 程度も考慮して後行手続の適
2557 法・違法を判断するという考え方と,
2558 そのような違法の承継というステップを踏むことなく,
2559
2560 先行手続の違法の内容・程度と,
2561 先行手続と証拠(証拠収集手続)との関連性の程度とを総
2562 合して判断するという考え方とが見られる。
2563
2564 前記昭和61年最判は,
2565 前者の考え方によるも
2566 のといえるのに対し,
2567 前記平成15年最判については,
2568 後者の考え方に親和的であるとの見
2569 方もある。
2570
2571 いずれの判断枠組みに従うにせよ,
2572 本問の具体的事例に即して,
2573 前記不起訴約束
2574 による甲の供述(自白)獲得手続の問題点についての検討を踏まえ,
2575 先行手続の違法性評価
2576 を行うことに加えて,
2577 その後介在する乙の任意性のある自白とこれを疎明資料とする裁判官
2578 による令状審査・発付が,
2579 違法手続と証拠との関連性の程度に与える影響をそれぞれ検討す
2580 る必要があり,
2581 それらを踏まえ,
2582 また,
2583 前記昭和53年最判の示す証拠排除の基準にも留意
2584 しつつ,
2585 結論を導くに至った思考過程を説得的に論述することが求められる。
2586
2587
2588 〔設問2〕後段は,
2589 本件文書及び本件メモのそれぞれについて,
2590 伝聞法則の適用の有無を問
2591 うものである。
2592
2593 伝聞と非伝聞の区別の理解と,
2594 その具体的事実への適用能力を試すことを狙
2595 いとする。
2596
2597
2598 一般に,
2599 書面は,
2600 その記載内容の意味が問題となる供述証拠として用いられる場合と,
2601 そ
2602 の書面の存在・記載自体が証拠としての価値を持つ非供述証拠として用いられる場合との2
2603 つの場合があり,
2604 その証拠能力を考えるに当たっては,
2605 伝聞法則の適用の有無,
2606 すなわち,
2607
2608 当該証拠が供述証拠に当たるのか否かを検討する必要があるところ,
2609 伝聞法則の適用を受け
2610 る供述証拠か否かについては,
2611 それによって何を証明しようとするのかという,
2612 要証事実な
2613 いし立証事項が何であるのかが問題となる。
2614
2615 そこで,
2616 本件文書及び本件メモのそれぞれにつ
2617 いて,
2618 丙の関与(丙と乙の共謀)を証明するというその証拠調べ請求の狙いに留意した上で,
2619
2620 具体的な要証事実を正確に見定めるとともに,
2621 それをもとに伝聞・非伝聞の別,
2622 伝聞に当た
2623 る場合の伝聞例外該当の有無について的確な検討が求められる。
2624
2625
2626 本件文書は,
2627 パソコンで作成されたものであり,
2628 その記載と実際になされた本件犯行態様と
2629 が一致し,
2630 右上には乙のものと認められる筆跡でV方の電話番号と一致する手書き文字が記
2631 載されている上,
2632 本件文書から丙の指紋が検出された。
2633
2634 他方,
2635 本件メモは,
2636 すべての記載が
2637
2638 - 18 -
2639
2640 乙のものと認められる筆跡による手書き文字で,
2641 その記載内容は,
2642 丙からの電話で通話した
2643 内容をメモしたことがうかがわれ,
2644 本件犯行態様とも整合するものであった。
2645
2646 このような本
2647 件文書及び本件メモの具体的差異を意識しつつ,
2648 それぞれの書面について,
2649 想定される具体
2650 的な要証事実との関係で,
2651 そこに記載されている内容・事項の真実性を立証するために用い
2652 られるものか,
2653 それとも書面の存在や記載自体から内容の真実性とは別の事実を立証するた
2654 めに用いられるものかを検討し,
2655 伝聞証拠かどうかを判断することが必要となる。
2656
2657
2658 前記検討の結果,
2659 伝聞証拠に当たる場合は,
2660 伝聞例外の要件を満たすかどうかを検討すべき
2661 ことになる。
2662
2663 その場合,
2664 想定される具体的な要証事実との関係で,
2665 当該書面に誰の意思内容
2666 が表示されていると見るのかを考えつつ,
2667 刑事訴訟法第321条第1項各号のいずれの書面
2668 に当たるかを検討した上で,
2669 結論を導くことが求められる。
2670
2671
2672 【選択科目】
2673 [倒
2674
2675 産
2676
2677 法]
2678
2679 〔第1問〕
2680 本問は,
2681 破産管財人の換価業務に関する具体的事例を通じて,
2682 破産手続における否認権行使
2683 の要件・効果,
2684 所有権留保の法的性質やその対抗要件等に関する正確な理解と問題解決能力
2685 を問うものである。
2686
2687
2688 設問1において,
2689 Xが返還を求めようとしている本件売掛金に係る債権は,
2690 Y社に譲渡され,
2691
2692 Y社は,
2693 当該債権譲渡につき,
2694 第三者対抗要件である通知(民法第467条第2項)を具備
2695 しているため,
2696 Xが本件売掛金の返還を求めるためには,
2697 当該債権譲渡又は対抗要件具備を
2698 否認する必要がある。
2699
2700 本設問において考えられる否認の構成としては,
2701 偏頗行為否認(破産
2702 法第162条第1項第1号)及び対抗要件否認(同法第164条第1項)がある。
2703
2704
2705 偏頗行為否認との関係では,
2706 まず,
2707 「破産者の行為」として捉え得るのは,
2708 Y社との債権譲
2709 渡契約であるが,
2710 当該契約締結自体は,
2711
2712 「支払不能になった後」にされたものではなく,
2713 また,
2714
2715 停止条件の成就そのものを「破産者の行為」と見ることも文言上困難であるから,
2716 形式的に
2717 は偏頗行為否認の要件を満たさない点を指摘する必要がある。
2718
2719 その上で,
2720 偏頗行為否認が,
2721
2722 債務者に支払停止等があった時以降の時期を債務者の危機時期とし,
2723 危機時期の到来後に行
2724 われた債務者による担保供与等を否認の対象とすることにより,
2725 債権者間の平等及び破産財
2726 団の充実を図ろうとするものであることを踏まえ,
2727 その要件該当性を論ずることとなる。
2728
2729 こ
2730 の点を検討するに際しては,
2731 最高裁判例(平成16年7月16日第二小法廷判決・民集58
2732 巻5号1744頁)を踏まえ,
2733 本件債権譲渡契約は,
2734 A社の危機時期において初めてY社に
2735 譲渡担保権者としての優越的地位を取得させる結果となることから,
2736 それまで一般債権者の
2737 責任財産であった財産をそこから逸出させることをあらかじめ意図・目的とするものであり,
2738
2739 破産法上の否認の趣旨を潜脱するものではないかという問題意識に触れる必要がある。
2740
2741
2742 対抗要件否認との関係では,
2743 「権利の設定,
2744 移転又は変更があった日」(15日の起算日)を
2745 いつと考えるかが問題となる。
2746
2747 この点,
2748 本件売掛金債権について,
2749 譲渡契約がされたのは平
2750 成24年5月30日であり,
2751 これを起算日とすれば,
2752 Y社の対抗要件具備(平成26年12
2753 月12日)は,
2754 それから15日を経過した後になされたものということになり,
2755 否認の要件
2756 を満たすことになる。
2757
2758 これに対して,
2759 同条項の権利変更があった日とは,
2760 権利移転の原因行
2761 為がされた日ではなく,
2762 当事者間における権利移転の効果を生じた日をいうと解すれば,
2763 Y
2764 社の対抗要件具備は,
2765 債権譲渡の効果が生じた同月10日から起算して15日を経過してお
2766 らず,
2767 したがって,
2768 これを否認することは困難ということになる。
2769
2770 この点については,
2771 15
2772 日の期間は,
2773 権利移転の原因たる行為がなされた日ではなく,
2774 当事者間における権利移転の
2775 効果が生じた日から起算すべきであるとする最高裁判例(昭和48年4月6日第二小法廷判
2776 決・民集27巻3号483頁)等を踏まえて論ずる必要がある。
2777
2778
2779
2780 - 19 -
2781
2782 設問2については,
2783 前提として,
2784 所有権留保が,
2785 破産手続においては別除権として扱われ
2786 ること,
2787 登記・登録が必要な物権変動については,
2788 破産手続開始前に登記・登録を具備して
2789 いなければ,
2790 破産手続との関係では,
2791 破産管財人に対してはその効力を主張することができ
2792 ないこと(破産管財人の第三者性)を指摘する必要がある。
2793
2794
2795 その上で,
2796 Z社が当該留保所有権を第三者であるXに主張するためには,
2797 対抗要件を必要
2798 とするかを論ずることとなるが,
2799 これを検討するに当たっては,
2800 所有権留保の法的性質に加
2801 えて,
2802 当該留保所有権の被担保債権をどのように考えるかが問題となる。
2803
2804 Xとしては,
2805 本件
2806 留保所有権はZ社の本件立替払金等債務に係る債権を直接担保するものである(Z社による
2807 立替払いにより,
2808 本件車両の所有権がC社からZ社にいったん移転し,
2809 その上で,
2810 A社との
2811 関係で,
2812 本件立替払金等債務に係る債権を被担保債権として所有権留保が改めて設定される
2813 ものである。
2814
2815 )として,
2816 Z社は対抗要件の具備なくしてはXに本件車両の引渡を求めることが
2817 できない旨主張することが考えられる。
2818
2819 これに対して,
2820 Z社としては,
2821 Z社は弁済による代
2822 位によって原債権(本件残代金債権)とともにC社の担保権(留保所有権)を取得したもの
2823 であり(民法第501条),
2824 留保所有権の被担保債権はこの原債権であるから,
2825 C社の担保権
2826 (留保所有権)が対抗できる限り,
2827 対抗要件の具備がなくとも,
2828 Xに留保所有権(別除権)
2829 を対抗することができる旨主張することが考えられる。
2830
2831
2832 このようなX及びZ社の各主張の当否については,
2833 本事例における契約条項の合理的解釈
2834 を踏まえて論ずる必要がある(なお,
2835 民事再生手続の事案であるが,
2836 参照すべき最高裁判例
2837 として,
2838 平成22年6月4日第二小法廷判決・民集64巻4号1107頁)。
2839
2840
2841 〔第2問〕
2842 本問は,
2843 具体的な事例を通じて,
2844 民事再生手続における担保権消滅許可制度及び届出がされ
2845 なかった再生債権の取扱いについての理解と問題解決能力を問うものである。
2846
2847
2848 設問1は,
2849 民事再生手続における担保権消滅許可制度の理解を問うものであり,
2850 民事再生
2851 法第148条第1項に定められた担保権消滅許可の申立てができる要件を本事例が満たして
2852 いるかを論ずべきである。
2853
2854 本事例では,
2855 再生計画を履行するには対象財産に係る担保権の消
2856 滅が必要であるものの,
2857 対象財産が売却予定財産であるので,
2858 「当該財産が再生債務者の事業
2859 の継続に欠くことのできないものであるとき」という要件(以下「不可欠性要件」という。
2860
2861 )
2862 を文字どおりには満たしていないように見える。
2863
2864 そこで,
2865 不可欠性要件の意義につき検討を
2866 加えることとなるが,
2867 その際には,
2868 民事再生手続における担保権の原則的扱いを念頭に置き
2869 つつ,
2870 民事再生手続において担保権消滅許可制度が設けられた趣旨や不可欠性要件が定めら
2871 れている趣旨を踏まえた上で,
2872 こうした趣旨との関連性や整合性を意識しながら丁寧な分析・
2873 検討を行い,
2874 担保権消滅許可の申立てが認められるべきかどうかを説得的に論じることが期
2875 待される。
2876
2877
2878 設問2については,
2879 前提として,
2880 E及びFの債権は再生債権であるから(同法第84条第1
2881 項),
2882 「再生計画の定め又はこの法律の規定によって認められた権利」という例外に当たらな
2883 い限り,
2884 再生計画認可の決定が確定したときは,
2885 免責の対象となること(同法第178条第1
2886 項)が指摘されなければならない。
2887
2888 E及びFの債権について再生計画に特段の定めが見られな
2889 い本設問においては,
2890 「この法律の規定によって認められた権利」であるかが問題となり,
2891 E
2892 及びFの各事情に照らして,
2893 同法第181条第1項各号のいずれかに該当するかどうかを論
2894 ずべきことになる。
2895
2896
2897 まず,
2898 Eの有する本件売掛金債権については,
2899
2900 「第101条第3項に規定する場合において,
2901
2902 再生債務者が同項の規定による記載をしなかった再生債権」(同法第181条第1項第3号)
2903 に当たるかが問題となる。
2904
2905 具体的には,
2906 A社がEの債権を「知っている」(同法第101条第
2907 3項)といえるかどうかについて,
2908 自認債権制度の趣旨に則して「知っている」という要件の
2909
2910 - 20 -
2911
2912 意義を明らかにした上で,
2913 本事例の事実関係なども指摘しつつ,
2914 説得的に論述することが求
2915 められる。
2916
2917 その上で,
2918 Eの債権について,
2919 同法第156条の一般的基準に従った変更がされ
2920 ること(同法第181条第1項柱書)及び弁済期間満了時(平成31年3月末)まで弁済を受け
2921 られないこと(同条第2項)を,
2922 条文を指摘しつつ,
2923 本事例に則して正確に当てはめを行う必
2924 要がある。
2925
2926 特に,
2927 弁済時期については,
2928 後述のFの債権への弁済との対比を明確にすべきで
2929 ある。
2930
2931
2932 次に,
2933 Fの有する本件損害賠償請求権については,
2934 「その責めに帰することができない事由
2935 により債権届出期間内に届出をすることができなかった再生債権で,
2936 その事由が第95条第
2937 4項に規定する決定前に消滅しなかったもの」(同法第181条第1項第1号)に当たるかが
2938 問題となる。
2939
2940 具体的には,
2941 「責めに帰することができない事由」の解釈に関わるのであり,
2942 再
2943 生債権の届出の時的限界を付議決定時とした(同法第95条第1項,
2944 第4項)趣旨に照らし,
2945
2946 その時点以降の権利主張をなお許すべき場合をどのように画するかが重要な視点となろう。
2947
2948
2949 [租
2950
2951 税
2952
2953 法]
2954
2955 〔第1問〕
2956 本問は,
2957 いわゆる企業内弁護士として5年間の勤務期間を定めてB株式会社(以下「B社」
2958 という。
2959
2960 )に勤務していた弁護士Aが,
2961 当初の勤務期間終了後更に1年間勤務を継続したとい
2962 う事案において,
2963 Aが当初の勤務期間終了時にB社から支払を受けた一時金(本件約定金)
2964 及び最終的にB社を退職する際にB社から支払を受けた一時金(本件報奨金)につき,
2965 所得
2966 税法上の所得の種類を問う問題である。
2967
2968 なお,
2969 Aは,
2970 弁護士であるが,
2971 雇用契約に基づいて
2972 B社に勤務していたので,
2973 本件約定金及び本件報奨金(以下,
2974 併せて「本件各金員」という。
2975
2976 )
2977 の所得の種類を考えるに当たっては,
2978 一般の従業員の場合と特段異なる考慮をする必要はな
2979 い。
2980
2981
2982 本問においては,
2983 本件各金員が退職所得(所得税法第30条第1項)に当たるかどうかが主
2984 として問題となる。
2985
2986 従業員が退職に際し支払を受ける金員が退職所得に当たるかどうかにつ
2987 いては,
2988 最高裁昭和58年9月9日第二小法廷判決(民集37巻7号962頁〔5年退職金
2989 事件〕)及び最高裁昭和58年12月6日第三小法廷判決(判例タイムズ517号112頁〔1
2990 0年退職金事件〕)がその判断基準を明快に説示しており,
2991 これらは,
2992 上記論点に関する基本
2993 的な判例であるので,
2994 その判旨をしっかりと押さえた上で,
2995 本件各金員の退職所得該当性に
2996 ついて論述する必要がある。
2997
2998
2999 本件各金員のうち,
3000 本件約定金については,
3001 上記最高裁判例に照らし,
3002 AのB社における
3003 勤務関係が平成25年3月31日をもって一旦終了したとみることができるのかどうかがま
3004 ず問題となる。
3005
3006 そして,
3007 仮にこの点を消極に解する場合には,
3008 本件約定金が所得税法第30
3009 条第1項にいう「これらの性質を有する給与」に当たるかどうかという点で,
3010 AのB社にお
3011 ける同年4月1日以降の勤務関係が実質的には従前の勤務関係の延長とはみられないほどの
3012 特別な事実関係があるのかどうかが問題となる。
3013
3014 本件約定金については,
3015 これらの論点を中
3016 心に,
3017 本問の事実関係に即して説得力のある論述を展開することが求められる。
3018
3019
3020 また,
3021 本件報奨金については,
3022 退職に際し支払われた金員ではあるが,
3023 各事業年度におい
3024 て功績の特に顕著であった従業員に対して報奨金を支払うというB社の報奨金制度に基づい
3025 て支払われたものであるため,
3026 それが退職によってはじめて給付される性質のものであるか
3027 どうかが問題となるので,
3028 この点を的確に論じる必要がある。
3029
3030
3031 〔第2問〕
3032 本問は,
3033 会社が代表取締役,
3034 従業員,
3035 顧問弁護士及び業務委託をした外注先に金銭を支払
3036 う場合の源泉徴収の要否と,
3037 法人税法上の収益の帰属年度に関する原則的基準及びソフトウ
3038
3039 - 21 -
3040
3041 ェア開発のような長期請負契約に適用される例外的基準について問う問題である。
3042
3043
3044 本問において検討すべき論点は多く,
3045 その1つ1つはどれも重要な問題点を含んでいるが,
3046
3047 特定の論点だけに比重を置いて解答するだけでは必ずしも高得点は望めない。
3048
3049 全体のバラン
3050 スを見ながら,
3051 時間内に,
3052 必要な情報を的確かつ簡潔に説明することが大切である。
3053
3054
3055 設問1は,
3056 「給与所得」と「事業所得」の区分が源泉徴収制度との関係で問題となることが
3057 多いことを踏まえた出題である。
3058
3059
3060 まず,
3061 源泉徴収制度に関する基本的理解を問うている。
3062
3063
3064 次に,
3065 「給与所得」と「事業所得」の区分に関して,
3066 最高裁昭和56年4月24日第二小法
3067 廷判決(民集35巻3号672頁)を踏まえて,
3068 所得税法第28条第1項の「給与所得」の
3069 概念及び同法第27条第1項の「事業所得」の概念を明らかにしつつ,
3070 両者の区分について
3071 どのような基準を定立するのか,
3072 その基準に則して具体的な事案について矛盾なく判断でき
3073 るのかを問うている。
3074
3075
3076 出題において法律関係に留意することとしたのは,
3077 課税関係が私法上の法律関係を基礎と
3078 していることを踏まえたものであり,
3079 私法上の法律関係を基礎にして課税関係をどのように
3080 判断するのかを試すものである。
3081
3082
3083 設問2は,
3084 設問1で定立した基準を比較的複雑な事案に適用する能力を試すものである。
3085
3086
3087 問題文に現れたDを取り巻く諸事実は,
3088 A,
3089 B,
3090 Cとそれぞれ共通する部分があり,
3091 給与
3092 所得の要件に親和する側面がある一方で事業所得の要件に親和する側面もある。
3093
3094 そのため,
3095
3096 自分の導いた結論に説得力を持たせるためには,
3097 自分の主張に有利な事実だけを抽出して評
3098 価するだけでは不十分であり,
3099 不利な事実についても評価することが求められる。
3100
3101
3102 設問3は,
3103 開発着手の日の属する事業年度中にその目的物の引渡しが行われない請負契約
3104 に係る法人税法上の収益の帰属年度に関する基本的理解を問うものである。
3105
3106 工事完成基準(権
3107 利確定主義)とその例外である工事進行基準について,
3108 法人税法第22条第4項や「別段の
3109 定め」(同条第2項)である同法第64条第2項を示しつつ,
3110 最高裁平成5年11月25日第
3111 一小法廷判決(民集47巻9号5278頁)などにも言及しながら,
3112 簡潔に説明することが
3113 求められている。
3114
3115
3116 なお,
3117 工事進行基準に関する法人税法第64条第2項の適用要件について当該条文の内容
3118 を説明することは要求していない。
3119
3120
3121 [経
3122
3123 済
3124
3125 法]
3126
3127 〔第1問〕
3128 本問は,
3129 「甲の会」の幹部会において,
3130 内装建材甲に係る法令上の基準を超える安全基準を
3131 自主基準として設定することを決定し,
3132 当該団体に加入する20社は全てこれを遵守してい
3133 るものの,
3134 当該団体に未加入のX社が当該安全基準を遵守しないため,
3135 20社の取引先事業
3136 者である建材専門商社に対し,
3137 当該安全基準を遵守しないX社との取引の中止を要請し,
3138 当
3139 該要請を受けた建材専門商社が協議の上,
3140 この要請に応じたことから,
3141 X社が取引先を容易
3142 に見つけ出すことができなくなっているというものであり,
3143 私的独占の禁止及び公正取引の
3144 確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。
3145
3146 )第8条第5号において禁止する事業者団体
3147 が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすることに該当しないかを問う
3148 ものである。
3149
3150
3151 そこで,
3152 まず,
3153 「甲の会」の幹部会による本件要請の決定が事業者団体の決定であるかが問
3154 題となる。
3155
3156 事業者団体は,
3157 事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする2
3158 以上の事業者の結合体(独占禁止法第2条第2項)であるところ,
3159 20社各社の担当営業部
3160 長という個人によって組織される「甲の会」のメンバーが事業者である当該20社各社であ
3161 ると法的に評価することが求められる(同条第1項後段)。
3162
3163 そして,
3164 「甲の会」の活動内容か
3165
3166 - 22 -
3167
3168 ら「甲の会」が事業者団体であると評価することが求められる。
3169
3170 さらに,
3171 「甲の会」の幹部会
3172 決定が「甲の会」という事業者団体としての決定であることを根拠付けることが求められる。
3173
3174
3175 次に,
3176 「甲の会」の幹部会決定に基づく会長の要請に従った建材専門商社の行為が,
3177 独占禁
3178 止法第19条が禁止するいずれかの不公正な取引方法に該当する行為であることを説明する
3179 ことが求められる。
3180
3181 本件で建材専門商社が協議の上行った行為は,
3182 上記安全基準を遵守しな
3183 いX社からの甲の購入中止であり,
3184 競争関係にある事業者と共同して供給を受けることを拒
3185 絶したものであって,
3186 不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指定」という。
3187
3188 )第1項第1
3189 号の行為要件を満たすことを説明の上,
3190 「正当な理由がないのに」の要件を満たすことの説明
3191 が求められる。
3192
3193 「正当な理由がないのに」がどのような意味における公正競争阻害性であるの
3194 か,
3195 そして,
3196 市場の画定を前提として競争者の排除効果(競争の排除ないし他者排除)が認
3197 められるか否かが問われる。
3198
3199
3200 最後に,
3201 「甲の会」の幹部会決定に基づく建材専門商社に対する要請は,
3202 内装建材に対する
3203 一般消費者の健康への意識の著しい高まりに対応して,
3204 自主基準として設定した法令上の基
3205 準を超える安全基準を遵守しないX社に遵守させるために行われたものであり,
3206 独占禁止法
3207 第1条の目的に照らして,
3208 当該行為に正当化事由,
3209 すなわち目的の合理性とその目的達成方
3210 法の相当性が認められるか否かの評価が求められる。
3211
3212
3213 なお,
3214 事業者団体の行為としても,
3215 独占禁止法第8条第5号ではなく,
3216 同条第3号又は第1
3217 号の問題として捉えることや,
3218 事業者団体の行為ではなく20社が共同して取引先の建材専
3219 門商社にX社から供給を受けることを拒絶させる行為として一般指定第1項第2号に該当す
3220 ると捉えることもあり得るが,
3221 事案に即してそれぞれの要件該当性につき説明することが求
3222 められる。
3223
3224
3225 〔第2問〕
3226 本問は,
3227 A社の計画するH社の株式取得(以下「本件株式取得」という。
3228
3229 )が独占禁止法第
3230 10条第1項に違反するか否かを問うものである。
3231
3232 具体的には,
3233 主として同項の「一定の取
3234 引分野」における「競争を実質的に制限する」,
3235 「こととなる」というそれぞれの要件につい
3236 て,
3237 その意義・解釈,
3238 判断基準といった規範定立を行い,
3239 その規範に照らして本件株式取得
3240 の適否について結論を述べることが求められる。
3241
3242
3243 一定の取引分野,
3244 つまり市場の画定は,
3245 一般に商品の範囲と地理的範囲についてなされると
3246 ころ,
3247 商品の範囲については,
3248 乙が甲と同一の市場で競争していると見ることができるかど
3249 うかの検討を要する。
3250
3251 地理的範囲については,
3252 丙のメーカーが世界中に分布し,
3253 それに対し
3254 て世界各国に分布する甲のメーカーが甲を供給していることから,
3255 いわゆる世界市場が認め
3256 られるかどうかについて検討する必要がある。
3257
3258 その際,
3259 甲の規格,
3260 価格の動向,
3261 コスト構造
3262 や関税,
3263 丙のメーカーの購買の特性等についても言及する必要がある。
3264
3265
3266 「競争を実質的に制限する」,
3267 「こととなる」については,
3268 その意義・解釈について自らの見
3269 解を論じた上,
3270 水平的企業結合であることを意識して,
3271 単独行動,
3272 協調行動それぞれの観点
3273 から具体的事実に即して競争の実質的制限の有無を論じることとなろう。
3274
3275 ただし,
3276 本問では,
3277
3278 ハーフィンダール指数(HHI)やいわゆるセーフハーバーについては問うていない。
3279
3280
3281 本問における競争を実質的に制限することとなるか否かの判断に際しては,
3282 問題文に提示さ
3283 れた製品の特性,
3284 市場の特性及び過去の市場シェアの推移に関するデータを読み解き,
3285 本件
3286 株式取得が実現するとどのような状況になるのか解答者なりに予測することを要する。
3287
3288
3289 特に,
3290 本問では,
3291 甲についての技術革新や新製品の開発が活発に行われ,
3292 かつそのサイクル
3293 が短いこと,
3294 丙のメーカーが非常時における調達経路の確保等のために複数の甲のメーカー
3295 から甲を購入していること,
3296 これまでの甲のメーカーの市場シェアが激しく変動しているこ
3297 と,
3298 過去に他の甲のメーカーを買収した企業が必ずしも買収の対象となる企業の市場シェア
3299
3300 - 23 -
3301
3302 と合算した市場シェアを獲得するという傾向は見られないこと等を踏まえ,
3303 単独行動による
3304 競争の実質的制限に関しては,
3305 A社は,
3306 本件株式取得後A社,
3307 H社それぞれの市場シェアの
3308 合算である40%を獲得,
3309 維持することが可能なのか,
3310 さらにその市場シェアを失うことな
3311 く単独で甲の価格を引き上げることが可能なのか,
3312 また,
3313 協調行動による競争の実質的制限
3314 に関しては,
3315 甲のメーカーが,
3316 技術や価格の面で他の甲のメーカーと競争するよりも,
3317 協調
3318 して技術開発を遅らせ,
3319 あるいは価格を引き上げる蓋然性があるのかについて分析する必要
3320 がある。
3321
3322
3323 そのような競争を実質的に制限することとなるか否かの分析においては,
3324 本件株式取得の目
3325 的の合理性,
3326 丙のメーカーから甲のメーカーに対する価格引下げ要求,
3327 本件株式取得前後の
3328 甲のメーカーの数や地位,
3329 乙の甲に対する競争圧力等の要素も併せて考慮する必要がある。
3330
3331
3332 [知的財産法]
3333 〔第1問〕
3334 設問1は,
3335 特許要件である新規性要件及び先願主義に関する理解を問う問題である。
3336
3337 設問2
3338 のは,
3339 上位概念の発明の特許権と下位概念の発明の特許権が同日出願に係るものである場合
3340 の両特許権の関係に関する理解を問う問題であり,
3341 は,
3342 補償金請求権の発生要件及び消滅時
3343 効に関する理解を問う問題である。
3344
3345 設問3は,
3346 特許法(以下「法」という。
3347
3348 )第102条第2項
3349 の適用要件に関する理解を問う問題である。
3350
3351
3352 設問1において,
3353 まず,
3354 α発明の実施品の試験的販売については,
3355 α発明は,
3356 β発明を上位
3357 概念とする下位概念の発明であることから,
3358 これが公然実施(法第29条第1項第2号)に当
3359 たり,
3360 甲特許権は新規性欠如の無効理由(法第123条第1項第2号)を有するかどうかが問
3361 題となる。
3362
3363 発明の実施品が存在すれば必ずその発明の新規性が失われるというわけではなく,
3364
3365 また,
3366 α発明の実施品は一般の顧客に対してその構造を明らかにすることなく販売されたもの
3367 であった。
3368
3369 この点に関しては,
3370 当業者が利用可能な分析技術を用いて発明の実施品を分析する
3371 ことにより,
3372 その発明の構成を知り得る場合には,
3373 公然実施に当たり,
3374 他方,
3375 その発明の構成
3376 を知ることが極めて困難である場合には,
3377 公然実施に当たらないと解することができよう(東
3378 京地判平成17年2月10日判例時報1906号144頁【ブラニュート顆粒事件】参照)。
3379
3380 こ
3381 のような公然実施の当否について明確に論述することが求められる。
3382
3383
3384 また,
3385 公然実施があっても,
3386 新規性喪失の例外規定(法第30条第2項)が適用されれば,
3387
3388 新規性が失われなかったものとされるが,
3389 α発明の実施品の試験的販売については,
3390 甲出願が
3391 当該販売から6月以内に行われておらず,
3392 法第30条第3項所定の手続も履行されていないこ
3393 とから,
3394 新規性喪失の例外規定の適用は認められないのであり,
3395 この点にも言及することが求
3396 められる。
3397
3398
3399 次に,
3400 乙が行った乙出願については,
3401 その出願日は甲出願の出願日と同じであることから,
3402
3403 甲特許権は法第39条第2項違反の無効理由(法第123条第1項第2号)を有するかどうか
3404 が問題となる。
3405
3406 法第39条第2項違反となるのは,
3407 乙出願の対象であるγ発明と甲出願の対象
3408 であるβ発明が「同一の発明」である場合であり,
3409 γ発明は,
3410 β発明を上位概念とする下位概
3411 念の発明であった。
3412
3413 そこで,
3414 同日に行われた2つの出願の対象が下位概念の発明と上位概念の
3415 発明の関係にある場合に,
3416 両発明が「同一の発明」に当たるかどうかを検討することが必要と
3417 なる。
3418
3419 仮に乙出願が平成21年2月4日に行われたとした場合,
3420 すなわち,
3421 下位概念の発明に
3422 ついての出願が先願であった場合に,
3423 両発明が法第39条第1項の「同一の発明」に当たるか
3424 どうかと対比しつつ,
3425 同日出願の場合も同様に取り扱うことができるのか,
3426 あるいは異なる取
3427 扱いをすべきであるのかについて,
3428 合理的な論拠を示して論述をすることが求められる。
3429
3430
3431 ところで,
3432 α発明の実施品の試験的販売又は乙が行った乙出願により甲特許権が無効理由を
3433 有することになるとしても,
3434 訂正により無効理由を解消することができる場合があろう。
3435
3436 この
3437
3438 - 24 -
3439
3440 点に的確に言及していれば,
3441 積極的な評価が与えられよう。
3442
3443
3444 設問2のについては,
3445 まず,
3446 γ発明の実施品がβ発明の技術的範囲に属するかどうかが問
3447 題となる。
3448
3449 次に,
3450 β発明の技術的範囲に属することが肯定されるとしても,
3451 乙は,
3452 γ発明につ
3453 いて特許権を有しているので,
3454 γ発明の実施品を製造販売する行為は自己の特許発明の実施で
3455 あり,
3456 この点に関する検討が行われなければならない。
3457
3458 特許権者によるその特許発明の実施が
3459 他の特許権の侵害となるかどうかは,
3460 特許権の本質が何であるかが関係するのであり,
3461 この問
3462 題については,
3463 いわゆる専用権説と排他権説の対立がある。
3464
3465 そして,
3466 利用発明に関する法第7
3467 2条の意義について,
3468 専用権説によれば例外規定,
3469 排他権説によれば確認規定と解されること
3470 となろう。
3471
3472 乙の行為については,
3473 γ発明がβ発明の利用発明であると捉えることができるとし
3474 ても,
3475 乙出願の出願日と甲出願の出願日は同じであるから,
3476 同条は適用されない。
3477
3478 そこで,
3479 特
3480 許権の本質や同条の意義等に関する検討を踏まえて,
3481 特許権者がその特許発明である下位概念
3482 の発明の実施をすることが同日出願に係る上位概念の発明の特許権の侵害となるかどうかにつ
3483 いて,
3484 合理的な論拠を持って自説を展開することが求められる。
3485
3486
3487 設問2のにおいては,
3488 まず,
3489 甲が乙の行為を知ったのは平成27年5月になってからであ
3490 るから,
3491 甲は,
3492 甲特許権の設定登録前に乙に対して警告を行っていないこととなる。
3493
3494 しかしな
3495 がら,
3496 補償金請求権は,
3497 警告が行われない場合においても,
3498 特許出願に係る発明であることを
3499 知ってその発明を実施した者に対して請求することができる(法第65条第1項後段)。
3500
3501 そのた
3502 め,
3503 乙が甲出願に係るβ発明を実施していることを知っていた場合には,
3504 甲は補償金請求を行
3505 うことができると解されよう。
3506
3507 次に,
3508 甲が,
3509 乙の行為を平成23年6月に知ったが,
3510 乙に対し
3511 て何らの措置も講じなかった場合には,
3512 補償金請求権の消滅時効が問題となる。
3513
3514 法第65条第
3515 6項により,
3516 補償金請求権は,
3517 補償金請求権を有する者が特許権の設定登録前に当該特許出願
3518 に係る発明の実施の事実及びその実施をした者を知った場合は,
3519 特許権の設定登録日から3年
3520 間行使しないときは,
3521 時効により消滅することになる。
3522
3523 甲特許権の設定登録日は平成23年8
3524 月15日であるから,
3525 甲の補償金請求権は時効消滅したことになろう。
3526
3527
3528 設問3においては,
3529 甲はβ発明の技術的範囲に属する製品を製造販売していないことから,
3530
3531 特許権者がその特許発明の実施をしていない場合に,
3532 法第102条第2項を用いて損害額を算
3533 定してその賠償を請求することができるかどうかが問題となる。
3534
3535 この点に関し,
3536 知的財産高等
3537 裁判所の大合議判決(知財高判平成25年2月1日判例時報2179号36頁【ごみ貯蔵機器
3538 事件】)は,
3539 「特許権者に,
3540 侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであ
3541 ろうという事情が存在する場合には,
3542 特許法102条2項の適用が認められると解すべきであ
3543 り,
3544 特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在するなどの諸事情は,
3545 推定された損害額を覆
3546 滅する事情として考慮されるとするのが相当である。
3547
3548 そして,
3549 ……特許法102条2項の適用
3550 に当たり,
3551 特許権者において,
3552 当該特許発明を実施していることを要件とするものではないと
3553 いうべきである。
3554
3555 」と判示している。
3556
3557 甲は,
3558 β発明の技術的範囲に属する製品と同様の作用効果
3559 を奏する製品を製造販売しており,
3560 このような場合に同項の適用が認められるかどうかについ
3561 て,
3562 上記判決を念頭に置きつつ,
3563 自説を展開することが求められる。
3564
3565
3566 〔第2問〕
3567 設問1は,
3568 本件映像フィルムが著作物であることを前提として,
3569 その著作者は誰か,
3570 あるい
3571 は著作権は誰に帰属すると考えるべきかにつき,
3572 著作権法(以下「法」という。
3573
3574 )第15条(職
3575 務著作),
3576 法第16条(映画の著作物の著作者)及び法第29条(映画の著作物の著作権の帰属)
3577 の適用の可否及びそれらの規定の相互関係等に関する理解を問う問題であり,
3578 設問2は,
3579 Yが
3580 本件能映像を本件映画の1シーンに使用したことが,
3581 Zの著作権又は著作者人格権の侵害にな
3582 るかについて,
3583 いわゆる「写り込み」の問題として,
3584 「複製」の成否及び法第30条の2の適用
3585 の可否等に関する理解を問う問題である。
3586
3587
3588
3589 - 25 -
3590
3591 設問1については,
3592 まず,
3593 Xとしては次のような主張をすることが考えられる。
3594
3595 本件映像フ
3596 ィルムは,
3597 Xが対象となる渓谷と橋を選定し,
3598 一番美しく撮れる撮影箇所と時間帯を決定し,
3599
3600 構図,
3601 カメラアングル,
3602 光量,
3603 絞りなどを決めて定点撮影したものであるから,
3604 それ自体著作
3605 物(法第2条第1項第1号)に当たり,
3606 それが「映画の著作物」(法第10条第1項第7号)で
3607 ある場合,
3608 その「全体的形成に創作的に寄与した者」(法第16条)はXであるから,
3609 著作者は
3610 Xである。
3611
3612 そうである以上,
3613 Xは本件映像フィルムについて著作権と著作者人格権を有すると
3614 ころ(法第17条第1項),
3615 本件映画の製作及び上映は,
3616 翻案権(法第27条),
3617 複製権(法第
3618 21条),
3619 上映権(法第22条の2)の侵害に当たり,
3620 また,
3621 本件映像フィルムは未公表である
3622 から公表権(法第18条第1項後段)の侵害に当たり,
3623 本件映画のクレジット・タイトルには
3624 単に「風景撮影
3625
3626 X」と表示されているにすぎず,
3627 著作者名の表示ではないから氏名表示権(法
3628
3629 第19条第1項後段)の侵害に当たり,
3630 さらに,
3631 俳優の映像を合成しているから同一性保持権
3632 (法第20条第1項)の侵害に当たる。
3633
3634
3635 これに対し,
3636 Yとしては,
3637 まず,
3638 本件映像フィルムが何の著作物であれ,
3639 本件映像フィルム
3640 の作成は職務著作(法第15条第1項)に当たるから,
3641 その著作者はYであると主張すること
3642 が考えられる。
3643
3644 職務著作の成否に関しては,
3645 最判平成15年4月11日判例時報1822号1
3646 33頁【RGBアドベンチャー事件】が判示していることを念頭に置いた上で,
3647 「法人等の業務
3648 に従事する者」の判断基準を検討し,
3649 本設問では,
3650 Xはもともとフリーの映像作家であって,
3651
3652 本件映像フィルムの撮影場所,
3653 撮影対象,
3654 撮影方法も全て単独で決定しており,
3655 何らYの指示
3656 を受けていないこと,
3657 他方で,
3658 本件映像フィルムの制作費用は全てYが支出したものであり,
3659
3660 Xは毎週2,
3661 3回Yに出社し,
3662 報酬も月払いで支払われていたという事実関係に当てはめて論
3663 じることが求められる。
3664
3665
3666 また,
3667 Yの主張としては,
3668 仮に本件映像フィルムが職務著作に当たらないとしても,
3669 本件映
3670 像フィルムは「映画の著作物」に当たるところ,
3671 Yは映画の著作物の製作に発意と責任を有す
3672 る映画製作者(法第2条第1項第10号)であり,
3673 Xは本件ドキュメンタリーの製作に参加す
3674 ることを約束しているから,
3675 法第29条第1項により,
3676 本件映像フィルムの著作権は映画製作
3677 者であるYに帰属すること,
3678 そうすると,
3679 法第18条第2項第3号により,
3680 Xは,
3681 Yに対し,
3682
3683 公表権侵害を主張できないこと,
3684 また,
3685 氏名表示権については,
3686 仮に「風景撮影
3687
3688 X」との表
3689
3690 示では足りないとしても,
3691 法第19条第3項が適用されるべきであり,
3692 さらに,
3693 同一性保持権
3694 侵害については,
3695 改変されたものを上映すること自体は同一性保持権侵害に当たらないこと,
3696
3697 仮に法第20条第1項の改変に当たるとしても,
3698 同条第2項第4号の「やむを得ないと認めら
3699 れる改変」に当たること,
3700 が考えられる。
3701
3702
3703 これに対し,
3704 Xとしては,
3705 本件映像フィルムは,
3706 いまだ未編集のフィルムであるから,
3707 法第
3708 29条所定の「映画の著作物」には当たらず,
3709 同条の適用はないと主張することが考えられる。
3710
3711
3712 この点に関しては,
3713 東京高判平成5年9月9日判例時報1477号27頁【三沢市勢映画製作
3714 事件】が「著作権法29条1項により映画製作者が映画の著作物の著作権を取得するためには,
3715
3716 いうまでもなく著作物と認められるに足りる映画が完成することが必要であるから,
3717 参加約束
3718 のみによって未だ完成していない映画について製作者が著作権を取得することはない。
3719
3720 」と判示
3721 していることを念頭に置きつつ,
3722 法第29条第1項の趣旨に触れながら,
3723 未編集のフィルムが
3724 「映画の著作物」に当たるか否かについて自説を展開し,
3725 本設問に当てはめて論じることが求
3726 められる。
3727
3728
3729 設問2については,
3730 まず,
3731 Zの振り付けによる本件能は著作物といえるか,
3732 それを肯定する
3733 場合その著作者は誰かが問題となる。
3734
3735 この点について,
3736 Zとしては,
3737 本件能の振り付けは,
3738 法
3739 第10条第1項第3号所定の「舞踊」の著作物に当たり,
3740 その著作者は振付師であるZである,
3741
3742 したがって,
3743 Zは本件能につき著作権及び著作者人格権を有しているところ,
3744 本件能を映像に
3745 収めることは,
3746 本件能の複製に当たるから,
3747 本件能映像を使用した本件映画は,
3748 本件能の複製
3749
3750 - 26 -
3751
3752 権,
3753 上映権及び氏名表示権等を侵害するものであると主張することが考えられる。
3754
3755
3756 これに対し,
3757 Yとしては,
3758 「舞踊」とは,
3759 舞踊家(舞踊を実行する者)による舞踊行為を指す
3760 ものであって,
3761 舞踊の振付師による振り付けは「舞踊」の著作物とはいえないし,
3762 本件能の振
3763 り付けには,
3764 台本や踊り方を説明した書類も振り付けの映像なども存在しないから,
3765 著作物と
3766 して物に固定されておらず,
3767 著作権法で保護される著作物には当たらないと主張することが考
3768 えられる。
3769
3770 この点に関しては,
3771 一般的には,
3772 「舞踊」の著作物とは,
3773 踊りの振り付けのことであ
3774 り,
3775 踊る行為や演ずる行為そのものはそれらを行う実演家の権利として著作隣接権の保護の対
3776 象とされることはあっても,
3777 「舞踊」の著作物には当たらないと考えられていること,
3778 また,
3779 「映
3780 画の著作物」のような明文の規定がない以上,
3781 固定は要件ではないと解されていることに言及
3782 することが求められる。
3783
3784
3785 また,
3786 Yとしては,
3787 仮にZが本件能の著作者であるとしても,
3788 本件能映像に映っている本件
3789 能は,
3790 時間にしてわずか約3分間,
3791 それを演じる能役者の動作が辛うじて感得できる程度に写っ
3792 ていたにすぎないから,
3793 そもそも本件能映像は本件能の「複製」とはいえないと主張すること
3794 が考えられる。
3795
3796 この点に関しては,
3797 東京高判平成14年2月18日判例時報1786号136
3798 頁【雪月花事件】が「書を写真により再製した場合に,
3799 その行為が美術の著作物としての書の
3800 再製に当たるといえるためには,
3801 一般人の通常の注意力を基準とした上,
3802 当該書の写真におい
3803 て,
3804 上記表現形式を通じ,
3805 単に字体や書体が再現されているにとどまらず,
3806 文字の形の独創性,
3807
3808 線の美しさと微妙さ,
3809 文字群と余白の構成美,
3810 運筆の緩急と抑揚,
3811 墨色の冴えと変化,
3812 筆の勢
3813 いといった上記の美的要素を直接感得することができる程度に再現されていることを要する」
3814 と判示していることを念頭に置きつつ,
3815 本設問において,
3816 「複製」といえるか否かを論じること
3817 が求められる。
3818
3819
3820 さらに,
3821 Yとしては,
3822 仮に「複製」に当たるとしても,
3823 本件能映像は法第2条第1項第14
3824 号の「録画」されたものであるから,
3825 法第30条の2第1項所定の「写真等著作物」に当たる
3826 ところ,
3827 本件能は渓谷と橋を定点撮影された映像にたまたま映っているにすぎず,
3828 能舞台は橋
3829 のそばにあるのであるから,
3830 本件映像フィルムを創作するに当たり「分離することは困難であ
3831 り」,
3832 しかもその映像部分も時間にしてわずか3分,
3833 それを演じる能役者の動作が辛うじて感得
3834 できる程度にすぎないから「軽微な構成部分」であるといえ,
3835 同項所定の「付随対象著作物」
3836 に当たり,
3837 同条第2項により,
3838 これを本件映画に利用することができると主張することが考え
3839 られる。
3840
3841
3842 これに対して,
3843 Zとしては,
3844 Yは,
3845 本件能映像が夜の渓谷と橋が薪能の灯りに浮かび上がる
3846 中で能役者が能を舞うという幻想的な描写になっていたという独創的な表現映像である点を捉
3847 えて,
3848 あえて本件映画の1シーンに上記映像部分を使用したものであるから,
3849
3850 「付随対象著作物」
3851 とはいえず,
3852 仮にそうでないとしても,
3853 そのような利用の態様は「付随対象著作物の種類及び
3854 用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害する」ことになるものであり,
3855
3856 したがって,
3857 同項ただし書により,
3858 Yは,
3859 本件能を本件映画に利用することはできないと主張
3860 することが考えられる。
3861
3862 これらの点について,
3863 本設問の事案に当てはめて論じることが求めら
3864 れる。
3865
3866
3867 そして,
3868 Zが著作者人格権を主張することができるか否かについて論じれば,
3869 さらに,
3870 積極
3871 的な評価の対象となろう。
3872
3873
3874 [労
3875
3876 働
3877
3878 法]
3879
3880 〔第1問〕
3881 本問は,
3882 偽装請負(違法な労働者派遣)により派遣された労働者と注文者(派遣先)との間
3883 の黙示の労働契約の成立,
3884 適法な労働者派遣の下における派遣元事業主による有期労働契約
3885 の中途解除及び雇止めに関する規範の正確な理解を問うものである。
3886
3887 本問の事実関係は労働
3888
3889 - 27 -
3890
3891 者派遣を基礎として構成されているが,
3892 各設問はいずれも労働法における基本的な論点であ
3893 り,
3894 関係条文・判例に即した規範の定立,
3895 当該規範の具体的事実への当てはめの的確さが問
3896 われている。
3897
3898
3899 まず,
3900 設問1において,
3901 Xは労働者派遣法違反を理由にY1社との労働契約が無効であり,
3902
3903 Y2社との間の労働契約の成立を主張しているが,
3904 こうした主張の当否については,
3905 パナソ
3906 ニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件判決(最判平成21年12月18日)の判断枠
3907 組みを踏まえて,
3908 労働契約の黙示的な成立の可能性を論じることが求められる。
3909
3910 その際,
3911 予
3912 想されるY2社からの反論を踏まえつつ,
3913 本問で挙げている諸事情のうち,
3914 労働契約の黙示
3915 的な成立の有無を判断するに当たって考慮すべき事情として,
3916 何を具体的に挙げるかが重要
3917 である。
3918
3919
3920 設問2は,
3921 期間を定めた労働契約に基づき派遣先で就業している派遣労働者が,
3922 Y2社から
3923 の労働者派遣契約の解約を理由に,
3924 Y1社により労働契約の期間満了前に解雇されたことか
3925 ら,
3926 この解雇の有効性を問題とするものである。
3927
3928 これについては,
3929 労働契約法第17条第1
3930 項が,
3931 期間を定めた労働契約につき「やむを得ない事由がある場合」に限り解雇できると規
3932 定していることから,
3933 期間の定めのない労働契約における整理解雇の場合と比較して「やむ
3934 を得ない事由がある場合」とはいかなる場合を指すかを示す必要がある。
3935
3936 その上で,
3937 本問に
3938 おいて,
3939 派遣先からの労働者派遣契約の解約による就業場所の喪失等の諸々の事情をどう評
3940 価するかが問われることになろう。
3941
3942
3943 設問3は,
3944 いわゆる雇止めの事例であるが,
3945 労働契約法第19条に照らして,
3946 申込みを承諾
3947 したものとみなすことが認められる規範の定立が求められる。
3948
3949 その上で,
3950 同条第1号又は第
3951 2号のいずれに該当するか,
3952 仮に第2号に該当するとした場合には,
3953 契約更新を期待する合
3954 理的な理由の有無を判断することが必要となるが,
3955 その際,
3956 伊予銀行・いよぎんスタッフサー
3957 ビス事件判決(高松高判平成18年5月18日)が示すような,
3958 派遣労働契約の特殊性を考
3959 慮して判断することが求められる。
3960
3961
3962 〔第2問〕
3963 本問は,
3964 労働協約の規範的効力の根拠と限界,
3965 及び労働組合の組合活動についてその法的
3966 な意義と効果を問うものである。
3967
3968 いずれも労働法におけるスタンダードな論点であるが,
3969 基
3970 本的な法令の規範を明示した上で,
3971 主要な裁判例による判例法理を踏まえ,
3972 提示された具体
3973 的事案に対して的確な検討を行うことが求められている。
3974
3975
3976 まず,
3977 本問の事例では,
3978 5%の基本給カットを定めた労働協約の規定が規範的効力を有する
3979 か否かにつき,
3980 協約締結権限の成否と,
3981 不利益変更の可否という両面から検討することが必
3982 要である。
3983
3984 前者については,
3985 組合規約に定められた手続を履践せずに締結された労働協約の
3986 効力につき,
3987 組合規約の定めの趣旨及び意義,
3988 労働協約締結の折に実際に行われてきた手続
3989 とその法的評価などを,
3990 判例法理(中根製作所事件(東京高判平成12年7月26日))を踏
3991 まえた上で,
3992 具体的な事情を点検しつつ論じなければならない。
3993
3994 また,
3995 後者については,
3996 不
3997 利益に変更された労働協約規定に規範的効力が認められるか否かに関する最高裁の判例法理
3998 (朝日火災海上保険(石堂本訴)事件(最一小判平成9年3月27日))を前提として,
3999 本件
4000 における変更の具体的内容,
4001 協約締結手続,
4002 締結の経緯などを総合して,
4003 規範的効力の有無
4004 を決することとなる。
4005
4006 本件の事例においては,
4007 基本給の5%カットという事実のみならず,
4008
4009 賞与の増額を始め他の事情を捕捉しながら総合的な検討を行うことが求められる。
4010
4011 また,
4012 結
4013 論を明示することも忘れてはならない。
4014
4015
4016 次に,
4017 組合活動をめぐる設問2については,
4018 救済機関として不当労働行為を審査し,
4019 救済命
4020 令を発する労働委員会と,
4021 民事紛争を解決する裁判所とが明示されることが不可欠である。
4022
4023
4024 また,
4025 本件の事例では労働組合の執行部に反対するグループが行った活動であることを踏ま
4026
4027 - 28 -
4028
4029 え,
4030 そのようなグループの行動が組合活動と認められるか否かを検討した上で,
4031 リボン着用
4032 による就労の法的意義,
4033 これに対する懲戒処分の適法性について,
4034 不当労働行為の成否と懲
4035 戒処分の有効性という観点から,
4036 それぞれ要件を摘示し,
4037 的確に当てはめを行う必要がある。
4038
4039
4040 当然ながら,
4041 懲戒処分の有効性については,
4042 対象となった行為の懲戒規定該当性,
4043 労働契約
4044 法第15条を明示した上での懲戒権濫用の有無を整理して論じることが求められる。
4045
4046
4047 いずれの設問も,
4048 規範の明示と本件事例への当てはめを基軸とし,
4049 説得力のある論理が展開
4050 されていることが前提となることは言うまでもない。
4051
4052
4053 [環
4054
4055 境
4056
4057 法]
4058
4059 〔第1問〕
4060 第1問は,
4061 「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(以下「法」という。
4062
4063 )のもとで,
4064 産業廃
4065 棄物の排出事業者が,
4066 法により課される適正処理に関する義務を懈怠した場合に発生する法的
4067 責任についての理解を問う問題である。
4068
4069
4070 〔設問1〕では,
4071 法第12条の3が規定する産業廃棄物管理票(以下「マニフェスト」とい
4072 う。
4073
4074 )制度に関する正確な理解が試される。
4075
4076 中間処理に関するマニフェストの写しは,
4077 交付後
4078 90日以内に送付されることが求められているところ(法第12条の3第4項,
4079 法施行規則第
4080 8条の28第1号),
4081 本事案においては,
4082 半年以上が経過している。
4083
4084 そうした場合には,
4085 マニ
4086 フェスト交付者であるA社は,
4087 委託に係る産業廃棄物の処分に係る状況の把握が義務付けられ
4088 る(法第12条の3第8項)。
4089
4090 A社は,
4091 その義務を懈怠している。
4092
4093 A社の委託に係る産業廃棄
4094 物に関しては,
4095 Dの土地において不法投棄がなされ,
4096 環境基準値をはるかに超過する濃度の鉛
4097 が周辺の畑に流入し,
4098 生活環境の保全上支障が発生している状況にある。
4099
4100 そこで,
4101 B県知事は,
4102
4103 A社に対して,
4104 支障の除去等の措置を求めて措置命令を発することができると指摘する(法第
4105 19条の5第1項第3号へ)。
4106
4107
4108 Dに関しては,
4109 不法投棄がされていることに気付いているにもかかわらずこれを黙認してい
4110 る。
4111
4112 これは,
4113 不法投棄を「助けた」と評価されることから,
4114 B県知事は,
4115 Dに対しても,
4116 支障
4117 の除去等を求める措置命令を発することができると指摘する(法第19条の5第1項第5号)。
4118
4119
4120 〔設問2〕では,
4121 著しく安価な委託料金による委託がもたらす不適切な結果を踏まえて法第
4122 19条の6が一部改正により規定されたことの理解を問うとともに,
4123 事例に示される具体的状
4124 況に対して同条を正しく適用できるかどうかが試される。
4125
4126 法第11条第1項に規定される産業
4127 廃棄物排出事業者の責任は,
4128 自らが処理する以外にも,
4129 適正な委託によっても果たされるが,
4130
4131 その前提には,
4132 適正な処理ができる委託料金が支払われていることがある。
4133
4134 料金をいくらにす
4135 るかは,
4136 委託者と受託者の自由契約によっており,
4137 法は何ら規定していない。
4138
4139 一般的には,
4140 委
4141 託者が契約交渉上優位な立場にあるため,
4142 安価な料金での契約締結がされているといわれてい
4143 た。
4144
4145 その料金では適正処理は困難であることから,
4146 この点が不法投棄の温床のひとつとなって
4147 いた。
4148
4149 もちろん,
4150 不法投棄をした受託者の責任が追及されるべきではあるが,
4151 生活環境保全上
4152 の支障除去等をする資力がない場合が少なくなく,
4153 そうなれば,
4154 投棄された産業廃棄物がその
4155 ままになってしまう。
4156
4157 そこで,
4158 法第19条の6は,
4159 処分者の資力その他の事情からみて除去等
4160 の対応が困難なとき(第1項第1号),
4161 委託者である排出事業者が適正な対価を負担していな
4162 いとき(第1項第2号)などの要件を満たせば,
4163 当該排出事業者を,
4164 生活環境保全上の支障除
4165 去等を求める命令の名宛人とすることができると規定した。
4166
4167 民事上有効な契約に関して,
4168 法の
4169 制度趣旨を踏まえ,
4170 契約の一方当事者に行政法的責任を課したのである。
4171
4172 汚染者支払原則(汚
4173 染者負担原則,
4174 原因者負担原則)の徹底といえる。
4175
4176 本事案においては,
4177 Fは事実上倒産してお
4178 り,
4179 また,
4180 平均的料金の40%での委託であるため,
4181 添付【資料】「行政処分の指針について
4182 (通知)」(抜粋)が示す基準に照らせば,
4183 要件を満たす。
4184
4185 堆積された廃棄物の一部が遊歩道に
4186 崩落し始めている状況は,
4187 生活環境保全上の支障があると考えられることから,
4188 B県知事は,
4189
4190
4191 - 29 -
4192
4193 A社に対して支障除去等を求める措置命令を発することができると指摘する。
4194
4195
4196 〔第2問〕
4197 第2問は,
4198 土壌汚染及び地下水汚染に関する問題について,
4199 関連法を横断的に理解している
4200 か,
4201 どのような訴訟を提起できるかについて把握しているかを確認する問題である。
4202
4203
4204 〔設問1〕では,
4205 B県知事としては,
4206 本件土地の砒素による汚染の程度が土壌汚染対策法第
4207 6条第1項第1号の環境省令で定める基準を超過していたことから,
4208 まず,
4209 同条第1項により
4210 要措置区域を指定する。
4211
4212 次に,
4213 同法第7条第1項の汚染の除去等の措置を講ずるよう指示する。
4214
4215
4216 その際,
4217 同条同項ただし書の要件を全て満たせばC社に対して指示することになるが,
4218 本問で
4219 はC社は「汚染のおそれを認識していたため,
4220 A社の本件土地の購入価格はその市場価格より
4221 も著しく低かった」とされているため,
4222 同条同項ただし書にいうC社に「汚染の除去等の措置
4223 を講じさせることが相当である」とはいい難い。
4224
4225 そこで,
4226 同条同項ただし書の要件を満たさな
4227 いことから,
4228 C社に対して措置を講じるよう指示することはできず,
4229 A社に対して指示するの
4230 である。
4231
4232
4233 また,
4234 特定事業場を設置する工場若しくは事業場において有害物質に該当する物質を含む水
4235 の地下への浸透があったことにより,
4236 現に人の健康に係る被害が生じ,
4237 又は生ずるおそれがあ
4238 るため,
4239 B県知事は,
4240 C社に対して地下水浄化の措置命令を発出できる(水質汚濁防止法第1
4241 4条の3第1項,
4242 第2項)。
4243
4244
4245 〔設問2〕では,
4246 Eの健康被害,
4247 Fの平穏生活権・平穏生活利益の侵害が問題となる。
4248
4249
4250 E,
4251 Fは,
4252 C社に対して,
4253 民法第709条に基づく損害賠償を請求することが考えられる。
4254
4255
4256 ただし,
4257 平穏生活権・平穏生活利益の侵害については,
4258 従来の裁判例では,
4259 損害賠償を認めた
4260 ものはない。
4261
4262 Eは,
4263 工場又は事業場における事業活動に伴う有害物質の汚水又は廃液に含まれ
4264 た状態での排出又は地下への浸透により,
4265 身体を害されたといえるから,
4266 水質汚濁防止法第1
4267 9条を根拠としてC社の無過失責任を追及することもできる。
4268
4269
4270 また,
4271 E,
4272 Fは,
4273 A社に対して,
4274 人格権(ないし平穏生活権・平穏生活利益)の侵害に基づく
4275 妨害排除(D井戸の水の汚染の差止め)を請求することができる。
4276
4277
4278 さらに,
4279 E,
4280 Fは,
4281 B県に対して国家賠償法第1条第1項に基づく損害賠償請求を請求する
4282 ことが考えられる。
4283
4284 B県が原因究明のための調査を行わなかったのは,
4285 常時監視(水質汚濁防
4286 止法第15条)及び公表(同法第17条)についての都道府県知事の権限を定めた水質汚濁防
4287 止法の趣旨,
4288 目的やその権限の性質等に照らし,
4289 B県知事の裁量を逸脱して著しく合理性を欠
4290 くといえるか,
4291 そして,
4292 これにより被害を受けた者との関係で,
4293 国家賠償法第1条第1項の適
4294 用上違法となるといえるかについて論じる。
4295
4296
4297 なお,
4298 E,
4299 Fは,
4300 B県に対して,
4301 C社に対する地下水浄化措置命令(水質汚濁防止法第14
4302 条の3)の義務付け訴訟(行政事件訴訟法第3条第6項第1号)を提起することも考えられる。
4303
4304
4305 [国際関係法(公法系)]
4306 〔第1問〕
4307 本問は,
4308 「民間航空の安全に対する不法な行為の防止に関する条約」(以下「モントリオール
4309 条約」という。
4310
4311 )の関連条文の解釈と条約義務違反がある場合の法的効果,
4312 国際連合憲章(以
4313 下「国連憲章」という。
4314
4315 )第7章に基づく安全保障理事会(以下「安保理」という。
4316
4317 )の決議の
4318 拘束力及び国連憲章に基づく義務と他の条約上の義務とが抵触した場合の権利義務の優劣,
4319 並
4320 びに,
4321 条約に定める義務が条約締約国全体に対して負う義務であることが国際司法裁判所(以
4322 下「ICJ」という。
4323
4324 )における原告適格に及ぼす法的効果,
4325 について問う問題である。
4326
4327
4328 設問1は,
4329 @本問の事実関係の下でX国はY国に対してモントリオール条約第7条に定める
4330 義務に継続的に違反しているといえるか否か,
4331 A違反しているとすればX国は甲を直ちにY国
4332
4333 - 30 -
4334
4335 に引き渡すことによって国際違法行為を停止する義務を負うか否か,
4336 を尋ねている。
4337
4338
4339 @の問題では,
4340 モントリオール条約第7条の規定が,
4341 容疑者が領域内で発見されたX国にど
4342 のような義務を課しているかを条約の解釈規則に基づいて導き出すこと,
4343 並びに,
4344 本問におい
4345 てX国がとった行為が当該義務によりX国に要求されていることに合致しているか否か(国家
4346 責任条文第12条を参照)を論理的に説明することが求められている。
4347
4348
4349 モントリオール条約第7条を文脈によりかつその目的に照らして与えられる用語の通常の意
4350 味に従って誠実に解釈すれば,
4351 同条は,
4352 容疑者が領域内で発見された締約国に対して,
4353 その容
4354 疑者を引き渡さない場合には,
4355 いかなる例外もなしに,
4356 訴追のため自国の権限のある当局に事
4357 件を付託する(起訴ではない)ことを義務付けていることが理解できよう。
4358
4359 モントリオール条
4360 約第6条第2項が同締約国に対して「事実について直ちに予備調査を行う」ことを求め,
4361 同条
4362 約第7条が,
4363 同国に「自国の法令に規定する通常の重大な犯罪と同様の方法で決定を行う」こ
4364 とを求めていることを考慮すれば,
4365 事件を権限のある当局に付託する義務を合理的期間内に履
4366 行しなければならないことも推察できよう。
4367
4368 これを本問の事実に当てはめると,
4369 どのような結
4370 果になるか。
4371
4372
4373 本問では,
4374 X国はモントリオール条約第5条に基づく裁判権を国内法上設定しており,
4375 Y国
4376 (爆破された航空機の登録国として甲の引渡しを請求する資格を有する。
4377
4378 )からの要請に応じ
4379 て甲の仮拘禁と事実に関する予備調査を既に行ったが,
4380 Y国による甲の引渡しの請求について
4381 は拒否することを選択した。
4382
4383 それにもかかわらずX国は,
4384 その後3年を経過しても,
4385 財政事情
4386 を口実に訴追のため事件を権限のあるX国当局に付託することを怠っているから,
4387 モントリ
4388 オール条約第7条の義務を履行していない。
4389
4390 財政事情が事件付託の義務の不履行を正当化する
4391 事由とならないことは,
4392 モントリオール条約第7条が「いかなる例外もなしに」と定めている
4393 ことや本問のような財政事情が国家責任法上の違法性阻却事由に該当しないことに照らしても
4394 明らかであろう。
4395
4396
4397 X国によるモントリオール条約第7条の義務違反の行為が継続している場合には,
4398 X国は国
4399 家責任法上,
4400 当該国際違法行為を中止する義務を負う(国家責任条文第30条(a)を参照)
4401 ことにまず気付かなければならない。
4402
4403 ただし,
4404 ここでは,
4405 X国に,
4406 Y国が請求するように,
4407
4408 「甲
4409 を直ちにY国に引き渡すことによって」国際違法行為を中止する義務があるといえるか否かが
4410 問われており,
4411 X国が犯した義務違反の内容を正確に理解することが求められる。
4412
4413
4414 すなわち,
4415 モントリオール条約第7条は,
4416 「容疑者を引き渡さない場合には」と定めるだけ
4417 で,
4418 容疑者を引き渡すか否かについては容疑者が領域内で発見された締約国の選択に委ねてい
4419 る。
4420
4421 モントリオール条約第8条第3項(X国は条約の存在を犯罪人引渡しの条件としない国に
4422 該当する。
4423
4424 )も,
4425 X国に「国の法令に定める条件に従い・・・犯罪行為を引渡犯罪と認める」
4426 よう義務付けるにとどまるから,
4427 X国は自国民である甲をY国に引き渡す義務までは負ってい
4428 ない。
4429
4430 モントリオール条約の下では,
4431 容疑者を引き渡すか否かは,
4432 容疑者が発見された国の選
4433 択権の問題であるのに対して,
4434 訴追のため事件を権限のある当局に付託する義務は条約上の義
4435 務だと解釈される。
4436
4437 したがって,
4438 X国は第7条の義務違反を中止すべき義務を負うが,
4439 その義
4440 務違反とは飽くまで,
4441 訴追のため事件を自国の権限のある当局に付託すべき義務に違反してい
4442 ることであり,
4443 ICJがX国に求めることができるのは,
4444 甲をY国に引き渡さないのであれば,
4445
4446 訴追のため事件をX国の権限のある当局に付託せよということにとどまる。
4447
4448
4449 設問2は,
4450 X国のモントリオール条約第7条に基づく義務と同国の国連憲章に基づく義務と
4451 が抵触するときに,
4452 X国はいずれの義務に従わなければなければならないかを問う基本的な問
4453 題である。
4454
4455
4456 問題文によれば,
4457 安保理はX国による甲の引渡し及び訴追の拒否が国際の平和と安全に対す
4458 る脅威を構成すると認定し,
4459 「国連憲章第7章の下に行動して」X国に対して甲をY国に引き
4460 渡すよう決定している。
4461
4462 安保理がこのような表現によって国連憲章第7章に基づく措置を決定
4463
4464 - 31 -
4465
4466 する場合,
4467 同決定は国連憲章第39条及び第41条に従って行われていることを理解しなけれ
4468 ばならない。
4469
4470 国連憲章第25条により,
4471 国連加盟国は,
4472 安保理の決定を「受諾し且つ履行する」
4473 義務を負うが,
4474 国連憲章第39条及び第41条に基づき採択された安保理の決定が法的拘束力
4475 を有し,
4476 全ての国連加盟国に義務を課すことは,
4477 国連憲章第25条の解釈として確立している。
4478
4479
4480 したがって,
4481 上記安保理決定によって,
4482 X国は「甲をY国に引き渡す」義務を負った。
4483
4484
4485 しかし,
4486 設問1で見たように,
4487 モントリオール条約の下では,
4488 X国は甲をY国に引き渡さな
4489 い場合には,
4490 例外なしに,
4491 訴追のため事件をX国の権限のある当局に付託する義務を負うにと
4492 どまり,
4493 甲をY国に引き渡す義務までは負わない。
4494
4495 そこで,
4496 X国が安保理決定によってY国に
4497 対して負った義務と,
4498 モントリオール条約第7条に基づきY国に負っている義務との間には内
4499 容的に抵触が認められる。
4500
4501 このような義務の抵触は,
4502 後法は前法を破るとか特別法は一般法を
4503 破るといった一般原則によってではなく,
4504 国連憲章第103条に従って解決が図られなければ
4505 ならないことを想起すべきである。
4506
4507 同条によれば,
4508 国連加盟国の国連憲章に基づく義務と他の
4509 いずれかの国際協定に基づく義務とが抵触するときは,
4510 国連憲章に基づく義務が優先すると定
4511 められている。
4512
4513 甲をY国に引き渡すことを求めた安保理決定の義務は,
4514 「憲章に基づく義務」
4515 に該当するから,
4516 ロッカビー事件暫定措置命令に示されたICJの見解も参照すれば,
4517 X国は
4518 甲をY国に引き渡す義務を優先しなければならないという反論を導くことは容易かと思われ
4519 る。
4520
4521
4522 設問3で,
4523 Z国は,
4524 モントリオール条約の当事国であることのみを根拠に原告適格を主張し
4525 ている。
4526
4527 したがって,
4528 この設問では,
4529 モントリオール条約第7条に定める義務が締約国全体に
4530 対して負う義務であり,
4531 X国による当該義務の違反に対しては,
4532 Z国を含むすべての条約締約
4533 国が,
4534 X国の責任を援用する原告適格を認められるといえるか否かが,
4535 問題になろう。
4536
4537
4538 ICJのバルセロナトラクション事件判決が認めたように,
4539 国際義務には,
4540 国家相互間にお
4541 いて個別的に負う義務だけでなく,
4542 義務の履行について全ての関係国が共通の利益を有するよ
4543 うな対世的な義務が存在することを,
4544 まず指摘する必要があろう。
4545
4546 国家責任条文第48条第1
4547 項によれば,
4548 対世的義務には,
4549 国際社会全体に対して負う義務(obligation erga omnes)の
4550 ほかに,
4551 諸国家の集団的利益を保護するために当該集団に対して負う義務(obligation erga
4552 omnes partes)が認められるが,
4553 本設問は後者の義務に関係する。
4554
4555
4556 次に,
4557 多数国間条約上の義務が対世的義務に該当する場合の,
4558 当該義務の法的効果について
4559 明らかにする必要がある。
4560
4561 対世的義務は,
4562 その遵守について全ての国が共通の利益を有するか
4563 ら,
4564 いずれかの締約国による義務の不履行について,
4565 他の全ての条約締約国が当事者適格を有
4566 することが導かれる。
4567
4568 国家責任条文第48条第1項及び第2項も,
4569 このような義務の違反があっ
4570 た場合には,
4571 直接侵害を受けていないいずれの締約国も,
4572 違法行為国の責任を援用する権利を
4573 有し,
4574 責任国に対して国際違法行為を中止するよう求めることができると定める。
4575
4576 もっとも,
4577
4578 従来ICJは,
4579 南西アフリカ事件第2段階判決で示したように,
4580 国が同裁判所において当事者
4581 適格を有するためには,
4582 同国が国際法により具体的な法的権利又は利益を明確に付与され,
4583 か
4584 つ他の国の国際違法行為によって当該法益を侵害されていることが必要であり,
4585 国際法は一般
4586 利益を根拠とした民衆訴訟を認めていないとされてきた。
4587
4588 しかし,
4589 最近の訴追又は引渡し義務
4590 事件判決で,
4591 ICJは,
4592 訴追又は引渡し義務について定めた拷問及び他の残虐な,
4593 非人道的な
4594 又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下「拷問等禁止条約」という。
4595
4596 )第7条
4597 第1項の義務を対世的義務と認めるとともに,
4598 上記国家責任条文第48条と同様に,
4599 全ての条
4600 約締約国が対世的義務の不履行を確認し,
4601 それを中止させる目的で責任を援用することができ
4602 ると判示して,
4603 条約の締約国という地位のみに基づき原告適格が認められることを確認した。
4604
4605
4606 こうした先例等に依拠することもできよう。
4607
4608
4609 最後に,
4610 モントリオール条約第7条に定める義務が対世的義務を定めたものか否かについて
4611 言及する必要がある。
4612
4613 モントリオール条約の目的は,
4614 拷問等禁止条約と同様に,
4615 犯罪行為を防
4616
4617 - 32 -
4618
4619 止し,
4620 もし犯された場合には実行者が処罰を免れないことを確保することにあり,
4621 締約国はこ
4622 の点に共通の利益を有する。
4623
4624 モントリオール条約が,
4625 容疑者が領域内で発見された締約国に対
4626 して課す義務は,
4627 拷問等禁止条約のそれとほぼ同一である。
4628
4629 この点を踏まえれば,
4630 モントリオー
4631 ル条約第7条も,
4632 この義務の履行について全ての条約締約国が共通の利益を有するような対世
4633 的義務を課したものと考えられよう。
4634
4635
4636 〔第2問〕
4637 本問は,
4638 国家管轄権のうち,
4639 立法管轄権と執行管轄権の域外適用とそれが国際法上で許され
4640 得る根拠,
4641 領域使用の管理責任原則とそれが規定する領域国の義務,
4642 国際司法裁判所が暫定措
4643 置を指示する際の要件とそれに際して予防原則が持ち得る意義を問う問題である。
4644
4645
4646 設問1は,
4647 国家管轄権の域外適用の国際法上の根拠の有無や本件における域外適用の法的評
4648 価を問う問題である。
4649
4650
4651 設問1前段は,
4652 Y国内で事業を行うY国法人である甲社及び乙社に,
4653 X国の国内法を適用す
4654 るのであるから,
4655 立法管轄権の域外適用の問題である。
4656
4657 法の適用ということから司法管轄権の
4658 域外適用という理解の可能性もあるが,
4659 問題文には,
4660 「X国の独占禁止法に違反するとして…
4661 制裁金を科すための審査を開始すると決定した」とあり,
4662 審査手続を開始した段階であること
4663 が明示されている。
4664
4665 また,
4666 設問の後段では「執行管轄権」について問うているのであるから,
4667
4668 設問前段は,
4669 その行使の前提として立法管轄権の域外適用を問うていることが理解されなけれ
4670 ばならない。
4671
4672
4673 立法管轄権の域外適用については,
4674 国際法上で明確に定まった原則はないが,
4675 米国の国内裁
4676 判例において,
4677 効果理論に基づく立法管轄権の域外適用が認められている。
4678
4679 それは,
4680 属地主義
4681 の拡大である客観的属地主義が,
4682 犯罪の構成要件に該当する行為や結果が自国領域で行われ,
4683
4684 又は発生していることを要件とするのに対して,
4685 より緩やかに,
4686 「影響・効果」が自国領域で
4687 発生することを根拠として立法管轄権を行使する考え方といってよい。
4688
4689
4690 本件に当てはめると,
4691 X国はガソリンをY国法人の甲社及び乙社からの輸入に全面的に頼っ
4692 ている小国であり,
4693 甲社と乙社が談合して供給量を減少させた結果としてX国におけるガソリ
4694 ンの価格が2倍になったという事実関係が示されているのであるから,
4695 効果理論に基づくX国
4696 の独占禁止法の域外適用の可能性が考えられることに気付かなければならない。
4697
4698
4699 ただし,
4700 効果理論は,
4701 米国の国内裁判でも揺らぎがあり,
4702 また,
4703 学説や国家実践で一貫して
4704 肯定的評価を受けているとはいえず,
4705 国際法上で確立した理論とはいえない。
4706
4707
4708 設問1後段は,
4709 執行管轄権の域外適用の国際法上の評価を問うている。
4710
4711 X国の公正取引委員
4712 会の担当官が,
4713 Y国領域内に所在する甲社及び乙社に赴き,
4714 本件談合に係る可能性のある資料
4715 を提出するように命ずる書面を手交したことは,
4716 提出命令を拒否した場合には制裁金が科され
4717 るという,
4718 強制力をもつ執行管轄権の行使であることを認識する必要がある。
4719
4720
4721 その上で,
4722 国際法上,
4723 執行管轄権については,
4724 その行使を属地主義に基づき領域内において
4725 のみ許されており,
4726 他国領域内における執行管轄権の行使は,
4727 当該他国の領域主権への侵害に
4728 なることから許されないことが明らかにされなければならない。
4729
4730
4731 設問2は,
4732 自国領域内の非国家実体の行為が,
4733 他国や他国民に対して損害を発生させたとき
4734 に,
4735 領域主権を持つ国が国際法上の責任を負う場合の根拠やその要件を問うものである。
4736
4737
4738 まず,
4739 Y国の国際法上の責任を追及する根拠については,
4740 領域使用の管理責任原則が確立し
4741 ていること,
4742 そして,
4743 同原則は,
4744 非国家実体が領域内で行う行為により他国に損害を発生させ
4745 得る場合に,
4746 当該領域国に対し,
4747 相当の注意を払って損害を防止する義務を課すものであるこ
4748 との理解が求められる。
4749
4750
4751 その上で,
4752 領域使用の管理責任原則に基づく責任の有無につき,
4753 相当の注意義務の履行とい
4754 う観点から,
4755 本件の事実に当てはめて結論を導くことが求められる。
4756
4757 すなわち,
4758 工場を操業す
4759
4760 - 33 -
4761
4762 るのはY国自身ではなく非国家実体である甲社であること,
4763 Y国政府は甲社に工場の建設及び
4764 稼働を許可していること,
4765 及びY国政府はこの許可に際し,
4766 工場からの排水に含まれ得る有害
4767 物質について,
4768 Y国の国内法に定める環境基準に照らし十分な対策がとられていることを事前
4769 に確認していることを考慮して結論を導く必要がある。
4770
4771
4772 設問3は,
4773 暫定措置が命令される要件,
4774 本件では特徴的に,
4775 国際司法裁判所が,
4776 工場の操業
4777 の差止めを指示するための要件が問われている。
4778
4779
4780 暫定措置の要件については,
4781 国際司法裁判所規程第41条が「裁判所は,
4782 事情によって必要
4783 と認めるときは,
4784 各当事者のそれぞれの権利を保全するためにとられるべき暫定措置を指示す
4785 る権限を有する。
4786
4787 」と規定しているのみであり,
4788 判例によりこの要件が具体化されてきた。
4789
4790 具
4791 体的には,
4792 本案審理の一応の管轄権があること,
4793 暫定措置を必要とする緊急な事態があること,
4794
4795 不可逆の損害発生の可能性があること,
4796 保全される権利・利益と本案で争点となる権利・利益
4797 が一致していること,
4798 紛争の悪化の防止が必要であることなどが要件として考えられる。
4799
4800 これ
4801 らの要件に照らし,
4802 本件の事実の下で,
4803 暫定措置を命令する根拠があるといえるかを明らかに
4804 する必要がある。
4805
4806
4807 本件への当てはめに際しては,
4808 X国とY国がともに選択条項受諾宣言を行っていること,
4809 争
4810 われているのはX国との国境付近におけるY国領域内での甲社による工場の操業を許可したこ
4811 との是非であること,
4812 発生し得るのは健康被害であることが考慮されなければならない。
4813
4814
4815 X国が暫定措置として差止め命令を要請する根拠としては,
4816 本件では甲社の工場の操業によ
4817 り健康被害が発生するか否かにつき,
4818 科学的知見について争いがある(すなわち,
4819 科学的不確
4820 実性が残る)中で,
4821 また,
4822 本案で操業の許可が国際法上違法であるという認定がされる前に,
4823
4824 当該工場の操業を差し止めるという,
4825 Y国の領域主権の行使に対する制限が肯定されるかが問
4826 われることになる。
4827
4828 そこで,
4829 環境保護の分野で発展してきた予防原則の意義をいかに捉えるか
4830 を論じることが求められる。
4831
4832
4833 [国際関係法(私法系)]
4834 〔第1問〕
4835 本問は,
4836 夫婦財産制につき,
4837 準拠法の決定と適用を問うものである。
4838
4839
4840 設問1は,
4841 法定財産制につき,
4842 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
4843
4844 )第25
4845 条を準用する通則法第26条第1項の解釈と適用を問うている。
4846
4847 通則法第41条の規定の適用
4848 いかんに留意しつつ,
4849 連結点となる国籍が変更した場合の考え方を明らかにした上で,
4850 準拠法
4851 を特定しなければならない。
4852
4853
4854 設問2は,
4855 夫婦財産契約もまた通則法第26条第1項の「夫婦財産制」に包摂されることを
4856 示した後に,
4857 設問1と同様,
4858 準拠法を特定して,
4859 これを適用しなければならない。
4860
4861 夫婦財産契
4862 約という法律行為の方式については,
4863 通則法第34条が適用されなければならない。
4864
4865
4866 設問3は,
4867 夫婦による準拠法選択に関する問題であり,
4868 通則法第26条第2項の解釈・適用
4869 が求められている。
4870
4871
4872 設問3については,
4873 同項第1号に従い甲国法の適用を導かなければならない。
4874
4875
4876 設問3については,
4877 B土地を同項第3号の「不動産」であると性質決定しつつ,
4878 「分割指
4879 定」の可否を論述して日本法を適用しなければならない。
4880
4881
4882 〔第2問〕
4883 本問は,
4884 外国法人から製品の供給を受ける日本法人が当該外国法人の代理人である状況と当
4885 該日本法人が自己の名において当該製品を日本において販売する状況とを区別し,
4886 前者の状況
4887 との関連では,
4888 代理に関する準拠法の決定を求め,
4889 後者との関連では,
4890 当該外国法人と当該日
4891 本法人との間で生ずる紛争につき国際裁判管轄権の有無と不法行為の準拠法の特定を問うてい
4892
4893 - 34 -
4894
4895 る。
4896
4897
4898 設問1は,
4899 任意代理のいわゆる内部関係と外部関係を区別しながら,
4900 解釈により,
4901 各々の関
4902 係に適用される法を問うている。
4903
4904
4905 設問1では,
4906 代理権が委任契約に基づき授与されているときには,
4907 当該委任契約につき通
4908 則法第7条が指定する法が内部関係に適用されることを示さなければならない。
4909
4910
4911 設問1では,
4912 本人,
4913 代理人及び相手方の予見可能性等に配慮しつつ,
4914 外部関係の準拠法を
4915 論述することが求められている。
4916
4917
4918 設問2は,
4919 日本において,
4920 外国法人の提供する製品を特定の日本法人が自己の名において独
4921 占的販売権を有する状況を想定している。
4922
4923
4924 設問2は,
4925 国際裁判管轄権の有無に関する問題である。
4926
4927 アでは,
4928 民事訴訟法第3条の3第
4929 1号の「債務の履行地」が日本国内にあるか否か等についての論述が,
4930 そのイでは,
4931 同法第3
4932 条の7に従い外国裁判所に管轄権を付与する合意が専属的な管轄合意か否か等についての論述
4933 が,
4934 求められている。
4935
4936
4937 設問2は,
4938 契約上の債務不履行が不法行為責任の問題として構成された場合に,
4939 通則法第
4940 17条の指定する地の法にかかわらず,
4941 当事者の指定した契約準拠法が通則法第20条の下で
4942 適用されうるか否かを論述しなければならない。
4943
4944
4945
4946 - 35 -
4947
4948