1 論文式試験問題集
2 [民法・商法・民事訴訟法]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 法]
9
10 次の文章を読んで,
11 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
12
13
14 【事実】
15 1.Aは,
16 A所有の甲建物において手作りの伝統工芸品を製作し,
17 これを販売業者に納入する事業
18 を営んできたが,
19 高齢により思うように仕事ができなくなったため,
20 引退することにした。
21
22 A
23 は,
24 かねてより,
25 長年事業を支えてきた弟子のBを後継者にしたいと考えていた。
26
27 そこで,
28 A
29 は,
30 平成26年4月20日,
31 Bとの間で,
32 甲建物をBに贈与する旨の契約(以下「本件贈与契
33 約」という。
34
35 )を書面をもって締結し,
36 本件贈与契約に基づき甲建物をBに引き渡した。
37
38 本件贈
39 与契約では,
40 甲建物の所有権移転登記手続は,
41 同年7月18日に行うこととされていたが,
42 A
43 は,
44 同年6月25日に疾病により死亡した。
45
46 Aには,
47 亡妻との間に,
48 子C,
49 D及びEがいるが,
50
51 他に相続人はいない。
52
53 なお,
54 Aは,
55 遺言をしておらず,
56 また,
57 Aには,
58 甲建物のほかにも,
59 自
60 宅建物等の不動産や預金債権等の財産があったため,
61 甲建物の贈与によっても,
62 C,
63 D及びE
64 の遺留分は侵害されていない。
65
66 また,
67 Aの死亡後も,
68 Bは,
69 甲建物において伝統工芸品の製作
70 を継続していた。
71
72
73 2.C及びDは,
74 兄弟でレストランを経営していたが,
75 その資金繰りに窮していたことから,
76 平成
77 26年10月12日,
78 Fとの間で,
79 甲建物をFに代金2000万円で売り渡す旨の契約(以下
80 「本件売買契約」という。
81
82 )を締結した。
83
84 本件売買契約では,
85 甲建物の所有権移転登記手続は,
86
87 同月20日に代金の支払と引換えに行うこととされていた。
88
89 本件売買契約を締結する際,
90 C及
91 びDは,
92 Fに対し,
93 C,
94 D及びEの間では甲建物をC及びDが取得することで協議が成立して
95 いると説明し,
96 その旨を確認するE名義の書面を提示するなどしたが,
97 実際には,
98 Eはそのよ
99 うな話は全く聞いておらず,
100 この書面もC及びDが偽造したものであった。
101
102
103 3.C及びDは,
104 平成26年10月20日,
105 Fに対し,
106 Eが遠方に居住していて登記の申請に必
107 要な書類が揃わなかったこと等を説明した上で謝罪し,
108 とりあえずC及びDの法定相続分に相
109 当する3分の2の持分について所有権移転登記をすることで許してもらいたいと懇願した。
110
111 こ
112 れに対し,
113 Fは,
114 約束が違うとして一旦はこれを拒絶したが,
115 C及びDから,
116 取引先に対する
117 支払期限が迫っており,
118 その支払を遅滞すると仕入れができなくなってレストランの経営が困
119 難になるので,
120 せめて代金の一部のみでも支払ってもらいたいと重ねて懇願されたことから,
121
122 甲建物の3分の2の持分についてFへの移転の登記をした上で,
123 代金のうち1000万円を支
124 払うこととし,
125 その残額については,
126 残りの3分の1の持分と引換えに行うことに合意した。
127
128
129 そこで,
130 同月末までに,
131 C及びDは,
132 甲建物について相続を原因として,
133 C,
134 D及びEが各自
135 3分の1の持分を有する旨の登記をした上で,
136 この合意に従い,
137 C及びDの各持分について,
138
139 それぞれFへの移転の登記をした。
140
141
142 4.Fは,
143 平成26年12月12日,
144 甲建物を占有しているBに対し,
145 甲建物の明渡しを求めた。
146
147
148 Fは,
149 Bとの交渉を進めるうちに,
150 本件贈与契約が締結されたことや,
151 【事実】2の協議はされ
152 ていなかったことを知るに至った。
153
154
155 Fは,
156 その後も,
157 話し合いによりBとの紛争を解決することを望み,
158 Bに対し,
159 数回にわたり,
160
161 明渡猶予期間や立退料の支払等の条件を提示したが,
162 Bは,
163 甲建物において現在も伝統工芸品
164 の製作を行っており,
165 甲建物からの退去を前提とする交渉には応じられないとして,
166 Fの提案
167 をいずれも拒絶した。
168
169
170 5.Eは,
171 その後本件贈与契約の存在を知るに至り,
172 平成27年2月12日,
173 甲建物の3分の1
174 の持分について,
175 EからBへの移転の登記をした。
176
177
178 6.Fは,
179 Bが【事実】4のFの提案をいずれも拒絶したことから,
180 平成27年3月6日,
181 Bに
182
183 - 2 -
184
185 対し,
186 甲建物の明渡しを求める訴えを提起した。
187
188
189 〔設問1〕
190 FのBに対する【事実】6の請求が認められるかどうかを検討しなさい。
191
192
193 〔設問2〕
194 Bは,
195 Eに対し,
196 甲建物の全部については所有権移転登記がされていないことによって受けた
197 損害について賠償を求めることができるかどうかを検討しなさい。
198
199 なお,
200 本件贈与契約の解除に
201 ついて検討する必要はない。
202
203
204
205 - 3 -
206
207 [商
208
209 法]
210
211 次の文章を読んで,
212 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
213
214
215 1.X株式会社(以下「X社」という。
216
217 )は,
218 昭和60年に設立され,
219 「甲荘」という名称のホテル
220 を経営していたが,
221 平成20年から新たに高級弁当の製造販売事業を始め,
222 これを全国の百貨
223 店で販売するようになった。
224
225 X社の平成26年3月末現在の資本金は5000万円,
226 純資産額
227 は1億円であり,
228 平成25年4月から平成26年3月末までの売上高は20億円,
229 当期純利益
230 は5000万円である。
231
232
233 X社は,
234 取締役会設置会社であり,
235 その代表取締役は,
236 創業時からAのみが務めている。
237
238 ま
239 た,
240 X社の発行済株式は,
241 A及びその親族がその70%を,
242 Bが残り30%をいずれも創業時
243 から保有している。
244
245 なお,
246 Bは,
247 X社の役員ではない。
248
249
250 2.X社の取締役であり,
251 弁当事業部門本部長を務めるCは,
252 消費期限が切れて百貨店から回収せ
253 ざるを得ない弁当が多いことに頭を悩ませており,
254 回収された弁当の食材の一部を再利用する
255 よう,
256 弁当製造工場の責任者Dに指示していた。
257
258
259 3.平成26年4月,
260 上記2の指示についてDから相談を受けたAは,
261 Cから事情を聞いた。
262
263 C
264 は,
265 食材の再利用をDに指示していることを認めた上で,
266 「再利用する食材は新鮮なもののみに
267 限定しており,
268 かつ,
269 衛生面には万全を期している。
270
271 また,
272 食材の再利用によって食材費をか
273 なり節約できる。
274
275 」などとAに説明した。
276
277 これに対し,
278 Aは,
279 「衛生面には十分に気を付けるよ
280 うに。
281
282 」と述べただけであった。
283
284
285 4.平成26年8月,
286 X社が製造した弁当を食べた人々におう吐,
287 腹痛といった症状が現れたた
288 め,
289 X社の弁当製造工場は,
290 直ちに保健所の調査を受けた。
291
292 その結果,
293 上記症状の原因は,
294 再
295 利用した食材に大腸菌が付着していたことによる食中毒であったことが明らかとなり,
296 X社の
297 弁当製造工場は,
298 食品衛生法違反により10日間の操業停止となった。
299
300
301 5.X社は,
302 損害賠償金の支払と事業継続のための資金を確保する目的で,
303 「甲荘」の名称で営む
304 ホテル事業の売却先を探すこととした。
305
306 その結果,
307 平成26年10月,
308 Y株式会社(以下「Y
309 社」という。
310
311 )に対し,
312 ホテル事業を1億円で譲渡することとなった。
313
314 X社は,
315 その取締役会決
316 議を経て,
317 株主総会を開催し,
318 ホテル事業をY社に譲渡することに係る契約について特別決議
319 による承認を得た。
320
321 当該特別決議は,
322 Bを含むX社の株主全員の賛成で成立した。
323
324 なお,
325 X社
326 とその株主は,
327 いずれもY社の株式を保有しておらず,
328 X社の役員とY社の役員を兼任してい
329 る者はいない。
330
331 また,
332 X社及びY社は,
333 いずれもその商号中に「甲荘」の文字を使用していな
334 い。
335
336
337 6.その後,
338 Y社は,
339 譲渡代金1億円をX社に支払い,
340 ホテル事業に係る資産と従業員を継承し,
341
342 かつ,
343 ホテル事業に係る取引上の債務を引き受けてホテル事業を承継し,
344 「甲荘」の経営を続け
345 ている。
346
347 1億円の譲渡代金は,
348 債務の引受けを前提としたホテル事業の価値に見合う適正な価
349 額であった。
350
351
352 7.X社は,
353 弁当の製造販売事業を継続していたが,
354 売上げが伸びず,
355 かつ,
356 食中毒の被害者とし
357 てX社に損害賠償を請求する者の数が予想を大幅に超え,
358 ホテル事業の譲渡代金を含めたX社
359 の資産の全額によっても,
360 被害者であるEらに対して損害の全額を賠償することができず,
361 取
362 引先への弁済もできないことが明らかとなった。
363
364 そこで,
365 X社は,
366 平成27年1月,
367 破産手続
368 開始の申立てを行った。
369
370
371 8.Eらは,
372 食中毒により被った損害のうち,
373 なお1億円相当の額について賠償を受けられないで
374 いる。
375
376 また,
377 X社の株式は,
378 X社に係る破産手続開始の決定により,
379 無価値となった。
380
381
382 9.Bは,
383 X社の破産手続開始後,
384 上記3の事実を知るに至った。
385
386
387
388 - 4 -
389
390 〔設問1〕
391 A及びCは,
392 食中毒の被害者であるEらに対し,
393 会社法上の損害賠償責任を負うかについて,
394 論じ
395 なさい。
396
397
398 A及びCは,
399 X社の株主であるBに対し,
400 会社法上の損害賠償責任を負うかについて,
401 論じなさい。
402
403
404 〔設問2〕
405 ホテル事業をX社から承継したY社は,
406 X社のEらに対する損害賠償債務を弁済する責任を負う
407 かについて,
408 論じなさい。
409
410
411
412 - 5 -
413
414 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,
415 1:1)
416 次の文章を読んで,
417 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい(なお,
418 解答に当たっては,
419
420 遅延損害金について考慮する必要はない。
421
422 )。
423
424
425 【事例】
426 弁護士Aは,
427 交通事故の被害者Xから法律相談を受け,
428 次のような事実関係を聴き取り,
429 加害者
430 Yに対する損害賠償請求訴訟事件を受任することになった。
431
432
433 1.事故の概要
434 Xが運転する普通自動二輪車が直進中,
435 信号機のない前方交差点左側から右折のために同交差
436 点に進入してきたY運転の普通乗用自動車を避けられず,
437 同車と接触し,
438 転倒した。
439
440 Yには,
441 交
442 差点に進入する際の安全確認を怠った過失があったが,
443 他方,
444 Xにも前方注視を怠った過失があ
445 った。
446
447
448 2.Xが主張する損害の内容
449 人的損害による損害額合計
450
451 1000万円
452
453 (内訳)
454
455
456 財産的損害
457
458 治療費・休業損害等の額の合計
459
460
461
462 精神的損害
463
464 傷害慰謝料
465
466 700万円
467
468 300万円
469
470 〔設問1〕
471 本件交通事故によるXの人的損害には,
472 財産的損害と精神的損害があるが,
473 これらの損害をま
474 とめて不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した場合について,
475 訴訟物は一つであると
476 するのが,
477 判例(最高裁判所昭和48年4月5日第一小法廷判決・民集27巻3号419頁)の
478 立場である。
479
480 判例の考え方の理論的な理由を説明した上,
481 そのように考えることによる利点につ
482 いて,
483 上記の事例に即して説明しなさい。
484
485
486 〔設問2〕
487 弁護士Aは,
488 本件の事故態様等から,
489 過失相殺によって損害額から少なくとも3割は減額され
490 ると考え,
491 損害総額1000万円のうち,
492 一部請求であることを明示して3割減額した700万
493 円の損害賠償を求める訴えを提起することにした。
494
495 本件において,
496 弁護士Aがこのような選択を
497 した理由について説明しなさい。
498
499
500
501 - 6 -
502
503