1 論文式試験問題集
2 [法律実務基礎科目(民事・刑事)]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 事](〔設問1〕から〔設問4〕までの配点の割合は,
9 14:10:18:8)
10
11 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
12 以下の各設問に答えなさい。
13
14
15 〔設問1〕
16 弁護士Pは,
17 Xから次のような相談を受けた。
18
19
20 なお,
21 別紙の不動産売買契約書「不動産の表示」記載の土地を以下「本件土地」といい,
22 解答に
23 おいても,
24 「本件土地」の表記を使用してよい。
25
26
27 【Xの相談内容】
28 「私は,
29 平成26年9月1日,
30 Yが所有し,
31 占有していた本件土地を,
32 Yから,
33 代金250万
34 円で買い,
35 同月30日限り,
36 代金の支払と引き換えに,
37 本件土地の所有権移転登記を行うこと
38 を合意しました。
39
40
41 この合意に至るまでの経緯についてお話しすると,
42 私は,
43 平成26年8月中旬頃,
44 かねてか
45 らの知り合いであったAからYが所有する本件土地を買わないかと持ちかけられました。
46
47 当初,
48
49 私は代金額として200万円を提示し,
50 Yの代理人であったAは350万円を希望したのです
51 が,
52 同年9月1日のAとの交渉の結果,
53 代金額を250万円とする話がまとまったので,
54 別紙
55 のとおりの不動産売買契約書(以下「本件売買契約書」という。
56
57 )を作成しました。
58
59 Aは,
60 その
61 交渉の際に,
62 Yの記名右横に実印を押印済みの本件売買契約書を持参していましたが,
63 本件売
64 買契約書の金額欄と日付欄(別紙の斜体部分)は空欄でした。
65
66 Aは,
67 その場で,
68 交渉の結果を
69 踏まえて,
70 金額欄と日付欄に手書きで記入をし,
71 その後で,
72 私が自分の記名右横に実印を押印
73 しました。
74
75
76 平成26年9月30日の朝,
77 Aが自宅を訪れ,
78 登記関係書類は夕方までに交付するので,
79 代
80 金を先に支払ってほしいと懇願されました。
81
82 私は,
83 旧友であるAを信用して,
84 Yの代理人であ
85 るAに対し,
86 本件土地の売買代金額250万円全額を支払いました。
87
88 ところが,
89 Aは登記関係
90 書類を持ってこなかったので,
91 何度か催促をしたのですが,
92 そのうちに連絡が取れなくなって
93 しまいました。
94
95 そこで,
96 私は,
97 同年10月10日,
98 改めてYに対し,
99 所有権移転登記を行うよ
100 うに求めましたが,
101 Yはこれに応じませんでした。
102
103
104 このようなことから,
105 私は,
106 Yに対し,
107 本件土地の所有権移転登記と引渡しを請求したいと
108 考えています。
109
110 」
111 上記【Xの相談内容】を前提に,
112 弁護士Pは,
113 平成27年1月20日,
114 Xの訴訟代理人として,
115
116 Yに対し,
117 本件土地の売買契約に基づく所有権移転登記請求権及び引渡請求権を訴訟物として,
118 本
119 件土地の所有権移転登記及び引渡しを求める訴え(以下「本件訴訟」という。
120
121 )を提起することに
122 した。
123
124
125 弁護士Pは,
126 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
127
128 )を作成し,
129 その請求の原因欄に,
130 次
131 の@からCまでのとおり記載した。
132
133 なお,
134 @からBまでの記載は,
135 請求を理由づける事実(民事訴
136 訟規則第53条第1項)として必要かつ十分であることを前提として考えてよい。
137
138
139 @ Aは,
140 平成26年9月1日,
141 Xに対し,
142 本件土地を代金250万円で売った(以下「本件売買契
143 約」という。
144
145
146 )
147 。
148
149
150 A Aは,
151 本件売買契約の際,
152 Yのためにすることを示した。
153
154
155 B Yは,
156 本件売買契約に先立って,
157 Aに対し,
158 本件売買契約締結に係る代理権を授与した。
159
160
161 C よって,
162 Xは,
163 Yに対し,
164 本件売買契約に基づき,
165
166 (以下記載省略)を求める。
167
168
169
170 - 2 -
171
172 以上を前提に,
173 以下の各問いに答えなさい。
174
175
176 (1)
177
178 本件訴状における請求の趣旨(民事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい(付随的
179 申立てを記載する必要はない。
180
181 )。
182
183
184
185 (2)
186
187 弁護士Pが,
188 本件訴状の請求を理由づける事実として,
189 上記@からBまでのとおり記載したの
190 はなぜか,
191 理由を答えなさい。
192
193
194
195 〔設問2〕
196 弁護士Qは,
197 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
198
199
200 【Yの相談内容】
201 T
202
203 「私は,
204 Aに対し,
205 私が所有し,
206 占有している本件土地の売買に関する交渉を任せました
207 が,
208 当初希望していた代金額は350万円であり,
209 Xの希望額である200万円とは隔たり
210 がありました。
211
212 その後,
213 Aから交渉の経過を聞いたところ,
214 Xは代金額を上げてくれそうだ
215 ということでした。
216
217 そこで,
218 私は,
219 Aに対し,
220 280万円以上であれば本件土地を売却して
221 よいと依頼しました。
222
223 しかし,
224 私が,
225 平成26年9月1日までに,
226 Aに対して本件土地を2
227 50万円で売却することを承諾したことはありません。
228
229 ですから,
230 Xが主張している本件売
231 買契約は,
232 Aの無権代理行為によるものであって,
233 私が本件売買契約に基づく責任を負うこ
234 とはないと思います。
235
236 」
237
238 U
239
240 「Xは,
241 平成26年10月10日に本件売買契約に基づいて,
242 代金250万円を支払った
243 ので,
244 所有権移転登記を行うように求めてきました。
245
246 しかし,
247 私は,
248 Xから本件土地の売買
249 代金の支払を受けていません。
250
251 そこで,
252 私は,
253 念のため,
254 Xに対し,
255 同年11月1日到着の
256 書面で,
257 1週間以内にXの主張する本件売買契約の代金全額を支払うように催促した上で,
258
259 同月15日到着の書面で,
260 本件売買契約を解除すると通知しました。
261
262 ですから,
263 私が本件売
264 買契約に基づく責任を負うことはないと思います。
265
266 」
267
268 上記【Yの相談内容】を前提に,
269 弁護士Qは,
270 本件訴訟における答弁書(以下「本件答弁書」
271 という。
272
273 )を作成した。
274
275
276 以上を前提に,
277 以下の各問いに答えなさい。
278
279 なお,
280 各問いにおいて抗弁に該当する具体的事実
281 を記載する必要はない。
282
283
284 (1)
285
286 弁護士Qが前記Tの事実を主張した場合,
287 裁判所は,
288 その事実のみをもって,
289 本件訴訟におけ
290 る抗弁として扱うべきか否かについて,
291 結論と理由を述べなさい。
292
293
294
295 (2)
296
297 弁護士Qが前記Uの事実を主張した場合,
298 裁判所は,
299 その事実のみをもって,
300 本件訴訟におけ
301 る抗弁として扱うべきか否かについて,
302 結論と理由を述べなさい。
303
304
305
306 〔設問3〕
307 本件訴訟の第1回口頭弁論期日において,
308 本件訴状と本件答弁書が陳述された。
309
310 また,
311 その口頭
312 弁論期日において,
313 弁護士Pは,
314 XとAが作成した文書として本件売買契約書を書証として提出し,
315
316 これが取り調べられたところ,
317 弁護士Qは,
318 本件売買契約書の成立を認める旨を陳述し,
319 その旨の
320 陳述が口頭弁論調書に記載された。
321
322
323 そして,
324 本件訴訟の弁論準備手続が行われた後,
325 第2回口頭弁論期日において,
326 本人尋問が実
327 施され,
328 Xは,
329
330 【Xの供述内容】のとおり,
331 Yは,
332
333 【Yの供述内容】のとおり,
334 それぞれ供述した(A
335 の証人尋問は実施されていない。
336
337 )。
338
339
340 その後,
341 弁護士Pと弁護士Qは,
342 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,
343 準備書面を提出する
344 ことになった。
345
346
347 - 3 -
348
349 【Xの供述内容】
350 「私は,
351 本件売買契約に関する交渉を始めた際に,
352 Aから,
353 Aが本件土地の売買に関するす
354 べてをYから任されていると聞きました。
355
356 また,
357 Aから,
358 それ以前にも,
359 Yの土地取引の代理
360 人となったことがあったと聞きました。
361
362 ただし,
363 Aから代理人であるという委任状を見せられ
364 たことはありません。
365
366
367 当初,
368 私は代金額として200万円を提示し,
369 Yの代理人であったAは350万円を希望し
370 ており,
371 双方の希望額には隔たりがありました。
372
373 その後,
374 Aは,
375 Yの希望額を300万円に引
376 き下げると伝えてきたので,
377 私は,
378 250万円でないと資金繰りが困難であると返答しました。
379
380
381 私とAは,
382 平成26年9月1日に交渉したところ,
383 Aは,
384 何とか280万円にしてほしいと要
385 求してきました。
386
387 しかし,
388 私が,
389 それでは購入を諦めると述べたところ,
390 最終的には,
391 本件土
392 地の代金額を250万円とする話がまとまりました。
393
394
395 Aは,
396 その交渉の際に,
397 Yの記名右横に実印を押印済みの本件売買契約書を持参していまし
398 たが,
399 本件売買契約書の金額欄と日付欄(別紙の斜体部分)は空欄でした。
400
401 Aは,
402 Yが実印を
403 押印したのは250万円で本件土地を売却することを承諾した証であると述べていたので,
404 A
405 が委任状を提示していないことを気にすることはありませんでした。
406
407 そして,
408 Aは,
409 その場で,
410
411 金額欄と日付欄に手書きで記入をし,
412 その後で,
413 私が自分の記名右横に実印を押印しました。
414
415 」
416 【Yの供述内容】
417 「私は,
418 Aに本件土地の売買に関する交渉を任せましたが,
419 当初希望していた代金額は35
420 0万円であり,
421 Xの希望額である200万円とは隔たりがありました。
422
423 私は,
424 それ以前に,
425 A
426 を私の所有する土地取引の代理人としたことがありましたが,
427 その際はAを代理人に選任する
428 旨の委任状を作成していました。
429
430 しかし,
431 本件売買契約については,
432 そのような委任状を作成
433 したことはありません。
434
435
436 その後,
437 私が希望額を300万円に値下げしたところ,
438 Aから,
439 Xは代金額を増額してくれ
440 そうだと聞きました。
441
442 たしか,
443 250万円を希望しており,
444 資金繰りの関係で,
445 それ以上の増
446 額は難しいという話でした。
447
448
449 そこで,
450 私は,
451 Aに対し,
452 280万円以上であれば本件土地を売却してよいと依頼しました。
453
454
455 しかし,
456 私が,
457 本件土地を250万円で売却することを承諾したことは一度もありません。
458
459
460 Aから,
461 平成26年9月1日よりも前に,
462 完成前の本件売買契約書を見せられましたが,
463 金
464 額欄と日付欄は空欄であり,
465 売主欄と買主欄の押印はいずれもありませんでした。
466
467 本件売買契
468 約書の売主欄には私の実印が押印されていることは認めますが,
469 私が押印したものではありま
470 せん。
471
472 私は,
473 実印を自宅の鍵付きの金庫に保管しており,
474 Aが持ち出すことは不可能です。
475
476 た
477 だ,
478 同年8月頃,
479 別の取引のために実印をAに預けたことがあったので,
480 その際に,
481 Aが勝手
482 に本件売買契約書に押印したに違いありません。
483
484 もっとも,
485 その別の取引は,
486 交渉が決裂して
487 しまったので,
488 その取引に関する契約書を裁判所に提出することはできません。
489
490 Aは,
491 現在行
492 方不明になっており,
493 連絡が付きません。
494
495 」
496 以上を前提に,
497 以下の各問いに答えなさい。
498
499
500 (1)
501
502 裁判所が,
503 本件売買契約書をAが作成したと認めることができるか否かについて,
504 結論と理由
505 を記載しなさい。
506
507
508
509 (2)
510
511 弁護士Pは,
512 第3回口頭弁論期日までに提出予定の準備書面において,
513 前記【Xの供述内容】
514 及び【Yの供述内容】と同内容のXYの本人尋問における供述,
515 並びに本件売買契約書に基づ
516 いて,
517 次の【事実】が認められると主張したいと考えている。
518
519 弁護士Pが,
520 上記準備書面に記
521 載すべき内容を答案用紙1頁程度の分量で記載しなさい(なお,
522 解答において,
523
524 〔設問2〕の【Y
525 - 4 -
526
527 の相談内容】については考慮しないこと。
528
529 )。
530
531
532 【事実】
533 「Yが,
534 Aに対し,
535 平成26年9月1日までに,
536 本件土地を250万円で売却することを承
537 諾した事実」
538 〔設問4〕
539 弁護士Pは,
540 訴え提起前の平成26年12月1日,
541 Xに相談することなく,
542 Yに対し,
543 差出人を
544 「弁護士P」とする要旨以下の内容の「通知書」と題する文書を,
545 内容証明郵便により,
546 Yが勤務
547 するZ社に対し,
548 送付した。
549
550
551 通知書
552 平成26年12月1日
553 被通知人Y
554 弁護士P
555 当職は,
556 X(以下「通知人」という。
557
558 )の依頼を受けて,
559 以下のとおり通知する。
560
561
562 通知人は,
563 平成26年9月1日,
564 貴殿の代理人であるAを通じて,
565 本件土地を代金
566 250万円で買い受け,
567 同月30日,
568 Aに対し,
569 売買代金250万円全額を支払い,
570
571 同年10月10日,
572 貴殿に対し,
573 本件土地の所有権移転登記を求めた。
574
575
576 ところが,
577 貴殿は,
578 「売買代金を受領していない。
579
580 」などと虚偽の弁解をして,
581 不当
582 に移転登記を拒否している。
583
584 その不遜極まりない態度は到底許されるものではなく,
585
586 貴殿はAと共謀して上記代金をだまし取ったとも考えられる。
587
588
589 以上より,
590 当職は,
591 本書面において,
592 改めて本件土地の所有権移転登記に応ずるよ
593 う要求する。
594
595
596 なお,
597 貴殿が上記要求に応じない場合は,
598 貴殿に対し,
599 所有権移転登記請求訴訟を
600 提起するとともに,
601 刑事告訴を行う所存である。
602
603
604 以
605
606 上
607
608 以上を前提に,
609 以下の問いに答えなさい。
610
611
612 弁護士Pの行為は弁護士倫理上どのような問題があるか,
613 司法試験予備試験用法文中の弁護士職
614 務基本規程を適宜参照して答えなさい。
615
616
617
618 - 5 -
619
620 別紙
621 (注)
622
623 斜体部分は手書きである。
624
625
626 不動産売買契約書
627
628 売主Yと買主Xは,
629 後記不動産の表示記載のとおりの土地(本件土地)に関して,
630 下記条項のとお
631 り,
632 売買契約を締結した。
633
634
635 記
636 第1条
637
638 Yは本件土地をXに売り渡し,
639 Xはこれを買い受けることとする。
640
641
642
643 第2条
644
645 本件土地の売買代金額は 250 万円とする。
646
647
648
649 第3条
650
651 Xは,
652 平成 26 年
653
654 9 月 30 日限り,
655 Yに対し,
656 本件土地の所有権移転登記と
657
658 引き換えに,
659 売買代金全額を支払う。
660
661
662 Yは,
663 平成 26 年
664
665 第4条
666
667 9 月 30 日限り,
668 Xに対し,
669 売買代金全額の支払と引き換
670
671 えに,
672 本件土地の所有権移転登記を行う。
673
674
675 (以下記載省略)
676 以上のとおり契約を締結したので,
677 本契約書を弐通作成の上,
678 後の証としてYXが各壱通を所持す
679 る。
680
681
682 平成
683
684 26 年
685
686 9 月
687
688 1 日
689 売
690 買
691
692 主
693 主
694
695 住
696
697 所
698
699 氏
700
701 名
702
703 住
704
705 所
706
707 氏
708
709 名
710
711 不動産の表示
712 所
713
714 在
715
716 ○○市○○
717
718 地
719
720 番
721
722 ○○番
723
724 地
725
726 目
727
728 宅地
729
730 地
731
732 積
733
734 ○○○.○○u
735
736 - 6 -
737
738 ○○県○○市○○
739 Y
740
741 Y印
742
743 ○○県○○市○○
744 X
745
746 X印
747
748 [刑
749
750 事]
751
752 次の【事例】を読んで,
753 後記〔設問〕に答えなさい。
754
755
756 【事
757 1
758
759 例】
760 A(男性,
761 24歳)は,
762 平成27年3月14日,
763 V(男性,
764 19歳)を被害者とする傷害罪
765 の被疑事実で逮捕され,
766 翌15日から勾留された後,
767 同年4月3日にI地方裁判所に同罪で公
768 判請求された。
769
770
771 上記公判請求に係る起訴状の公訴事実には「被告人は,
772 平成27年2月1日午後11時頃,
773
774 H県I市J町1丁目1番3号所在のK駐車場において,
775 V(当時19歳)に対し,
776 拳骨でそ
777 の左顔面を殴打し,
778 持っていた飛び出しナイフでその左腹部を突き刺し,
779 よって,
780 同人に加
781 療約1か月間を要する左腹部刺創の傷害を負わせた。
782
783 」旨記載されている。
784
785
786
787 2
788
789 受訴裁判所は,
790 平成27年4月10日,
791 Aに対する傷害被告事件を公判前整理手続に付する
792 決定をした。
793
794 検察官は,
795 同月24日,
796 証明予定事実記載書を同裁判所及びAの弁護人に提出・
797 送付するとともに,
798 同裁判所に証拠の取調べを請求し,
799 Aの弁護人に当該証拠を開示した。
800
801 検
802 察官が請求した証拠の概要は,
803 次のとおりであった。
804
805
806 (1)
807
808 甲第1号証
809
810 診断書
811
812 「Vの診断結果は左腹部刺創であり,
813 平成27年2月2日午前零時頃,
814 Vが救急搬送さ
815 れ,
816 直ちに緊急手術をした。
817
818 加療期間は約1か月間である。
819
820 」
821 (2)
822
823 甲第2号証
824
825 Vの検察官調書
826
827 「私は,
828 平成27年2月1日の夜,
829 交際中のB子に呼び出され,
830 同日午後11時頃,
831 K
832 駐車場に行ったところ,
833 黒色の目出し帽を被った男が車の陰から現れ,
834 @『お前か。
835
836 人の
837 女に手を出すんじゃねー。
838
839 』と言って,
840 いきなり私の左顔面を1回拳骨で殴った。
841
842 私は,
843
844 いきなり殴られてカッとなり,
845 『何すんだ。
846
847 』と怒鳴ったところ,
848 その男は,
849 どこからかナ
850 イフを取り出したようで,
851 右手にナイフを持っていた。
852
853 私が刺されると思うや否や,
854 その
855 男は,
856 『この野郎。
857
858 』と言いながら,
859 私に向かってナイフを持った右手を伸ばし,
860 私の左脇
861 腹にナイフを突き刺した。
862
863 その後,
864 その男は駐車場から走って逃げていったが,
865 私は,
866 意
867 識がもうろうとしてしまい,
868 気付いたら病院で寝ていた。
869
870
871 私を刺した犯人の顔は見ていないが,
872 Aが犯人ではないかと思う。
873
874 私は,
875 アルバイト先
876 の喫茶店でアルバイト仲間だったB子を好きになり,
877 平成26年12月初旬頃から,
878 3,
879
880 4回B子とデートをした。
881
882 平成27年1月中旬頃,
883 B子に,
884 きちんと付き合ってほしいと
885 言ったところ,
886 B子も承諾してくれた。
887
888 しかし,
889 その後,
890 私と一緒にいる時に,
891 B子の携
892 帯電話に頻繁にメールや電話が来るので,
893 不審に思ってB子に尋ねると,
894 B子は,
895 『実は,
896
897 前の彼氏であるAからよりを戻そうとしつこく言われている。
898
899 Aとは,
900 以前数箇月間同棲
901 していたことがあるが,
902 異常なほど焼き餅焼きで,
903 私が男友達とメールのやり取りをして
904 いても怒り,
905 私を殴ったりするので,
906 付いていけないと思い,
907 同棲していたA方から飛び
908 出して1人暮らしを始め,
909 電話番号もメールアドレスも変えた。
910
911 ところが,
912 Aが私の友人
913 から新しい電話番号やメールアドレスを聞き出したようで,
914 頻繁に電話を掛けてくるよう
915 になった。
916
917 新しい彼氏ができたと話したが,
918 お前は俺のものだと言って聞く耳を持たない。
919
920
921 どうやら新しい住所も知られているようで怖い。
922
923 』と言っていた。
924
925 その際,
926 B子はAの写
927 真を見せてくれたので,
928 B子の前の彼氏が逮捕されたAであることに間違いない。
929
930 私は,
931
932 B子のことは好きだったが,
933 前の彼氏とのトラブルに巻き込まれたくないと思い,
934 B子か
935 らデートに誘われても最近は断りがちで,
936 中途半端な付き合いになっていた。
937
938 そのような
939 状況だった平成27年2月1日の午後8時頃,
940 私は,
941 B子から,
942 相談したいことがあるの
943
944 - 7 -
945
946 で,
947 どうしても会ってほしいという内容のメールをもらい,
948 B子に会うことにし,
949 B子に
950 指定されたとおり,
951 同日午後11時頃,
952 K駐車場に行った。
953
954 ところが,
955 現れたのはB子で
956 はなく,
957 先ほど話した黒色目出し帽の男だった。
958
959 B子が私と会う約束をしたことを知って,
960
961 Aが私を待ち伏せしていたのではないかと思う。
962
963 他に恨みを買うような相手に心当たりは
964 ない。
965
966 」
967 (3)
968
969 甲第3号証
970
971 捜査報告書
972
973 「平成27年2月1日午後11時10分頃,
974 氏名不詳の女性から『黒色目出し帽の男が
975 K駐車場で人を刺した。
976
977 』旨の110番通報があり,
978 同日午後11時25分頃,
979 K駐車場
980 に司法警察員が臨場し,
981 付近の検索を行ったところ,
982 同駐車場出入口から北側約10メー
983 トルの地点の歩道脇に,
984 飛び出しナイフ1丁が落ちており,
985 犯人の遺留品の可能性がある
986 と思料されたため,
987 同日,
988 これを領置した。
989
990 」
991 (4)
992
993 甲第4号証
994
995 飛び出しナイフ1丁(平成27年2月1日領置のもの)
996
997 (5)
998
999 甲第5号証
1000
1001 捜査報告書
1002
1003 「平成27年2月1日に領置した飛び出しナイフ1丁の柄から採取された指紋1個が,
1004
1005 Aの右手母指の指紋と一致した。
1006
1007 」
1008 (6)
1009
1010 甲第6号証
1011
1012 捜査報告書
1013
1014 「平成27年2月1日に領置した飛び出しナイフ1丁の刃に人血が付着しており,
1015 その
1016 DNA型が,
1017 Vから採取した血液のDNA型と一致した。
1018
1019 」
1020 (7)
1021
1022 甲第7号証
1023
1024 B子の検察官調書
1025
1026 「私は,
1027 以前AとA方で同棲していたが,
1028 Aの束縛が激しい上,
1029 私が男友達とメールの
1030 やり取りをしているだけでも嫉妬して私を殴るなどするので嫌になり,
1031 平成26年9月頃,
1032
1033 A方から逃げ出して,
1034 電話番号やメールアドレスを変え,
1035 1人暮らしを始めた。
1036
1037 その後,
1038
1039 Vと知り合い,
1040 平成27年1月頃,
1041 Vとの交際を始めた。
1042
1043 ところが,
1044 Aは,
1045 私の電話番号,
1046
1047 メールアドレスを探り出し,
1048 私に何度も電話やメールを寄越して復縁を迫るようになった。
1049
1050
1051 私が更に電話番号やメールアドレスを変えると,
1052 今度は私の自宅を突き止めたようで,
1053 私
1054 の自宅に頻繁に来るようになった。
1055
1056 私は,
1057 Aに,
1058 他に好きな人ができたので復縁するつも
1059 りはないと言ったが,
1060 Aは納得せず,
1061 『そいつと会わせろ。
1062
1063 』と言っていた。
1064
1065 私は,
1066 AがV
1067 に暴力を振るうかもしれないと思ったので,
1068 AにはVの詳しい情報を教えなかった。
1069
1070 私は,
1071
1072 Aから逃げられないという恐ろしさを感じ,
1073 VにAとの関係やAに付きまとわれている状
1074 況を全部打ち明けた。
1075
1076 しかし,
1077 Vは,
1078 次第に私との距離を置くようになってしまった。
1079
1080 私
1081 は,
1082 私から距離を置こうとするVに腹が立ち,
1083 どうしていいのか分からなくなった。
1084
1085 私は,
1086
1087 2人を引き合わせればVの態度もはっきりするだろう,
1088 Vが私を捨てるなら私も覚悟を決
1089 めようと思った。
1090
1091 そこで,
1092 私は,
1093 平成27年2月1日午後8時頃,
1094 Vに『今日の午後11
1095 時頃にK駐車場に来てほしい。
1096
1097 』という内容のメールを送ってVを呼び出し,
1098 その後,
1099 A
1100 に,
1101 電話で,
1102 私がVを呼び出したことを伝えた。
1103
1104 Aは,
1105 『俺が行って話を付けてくるから,
1106
1107 お前は家にいろ。
1108
1109 』と言っていた。
1110
1111 しかし,
1112 私は,
1113 Vの態度を見たかったので,
1114 同日午後
1115 11時前頃,
1116 K駐車場付近に行き,
1117 2人が現れるのをこっそり待っていた。
1118
1119 すると,
1120 Aが
1121 現れてK駐車場に入っていき,
1122 しばらくするとVが現れてK駐車場に入っていった。
1123
1124 私は,
1125
1126 K駐車場のフェンス脇まで近付き,
1127 K駐車場内の様子を見ると,
1128 Vが黒色の目出し帽を被
1129 った男に顔を殴られているところだった。
1130
1131 私は,
1132 目出し帽を被った男の服装が先ほど駐車
1133 場に入っていったAの服装と同じだったので,
1134 Aだと分かった。
1135
1136 Aは,
1137 右手にナイフを持
1138 ち,
1139 Vのお腹の辺りに右手を突き出した。
1140
1141 私は,
1142 Vが刺されたと思い,
1143 怖くなってその場
1144 から走って逃げ出し,
1145 200メートルくらい離れた場所から匿名で110番通報をした。
1146
1147
1148 私は,
1149 そのまま自宅に帰ったので,
1150 その後2人がどうなったのか見ていない。
1151
1152
1153 翌日の2月2日,
1154 Aから私に電話があり,
1155 Aは,
1156 A『Vをナイフで刺した。
1157
1158 走って逃げ
1159 - 8 -
1160
1161 ている時に,
1162 そのナイフを落としてしまった。
1163
1164 』と言っていた。
1165
1166
1167 平成27年2月1日に警察官が領置したという飛び出しナイフを見せてもらったが,
1168 そ
1169 のナイフは,
1170 Aと同棲していた時に,
1171 A方で見たことがある。
1172
1173 ナイフの柄にある傷に見覚
1174 えがあるので,
1175 Aが持っていたナイフに間違いない。
1176
1177
1178 私は,
1179 Aに自宅を知られているが,
1180 引っ越し費用を工面する余裕がなく,
1181 転居できる見
1182 込みがない。
1183
1184 だから,
1185 怖くて仕方がない。
1186
1187 」
1188 (8)
1189
1190 乙第1号証
1191
1192 Aの司法警察員調書
1193
1194 「私は,
1195 現在,
1196 H県I市内で母と2人で暮らしている。
1197
1198 両親は,
1199 私が中学生の時に離婚
1200 し,
1201 私は母に引き取られた。
1202
1203 それ以降,
1204 父とは一度も会っていない。
1205
1206 私には兄弟はいない。
1207
1208
1209 私は,
1210 21歳の時から1人暮らしをしていたが,
1211 平成26年5月頃から私の家でB子と同
1212 棲していた。
1213
1214 しかし,
1215 同年9月頃にB子が家を出ていき,
1216 それから2週間くらい後の同年
1217 10月頃,
1218 母が交通事故に遭って,
1219 脳挫傷の傷害を負い,
1220 左手と左足に麻痺が残ったため,
1221
1222 私は母が退院した同年12月上旬から実家に戻り,
1223 母と同居している。
1224
1225
1226 私は,
1227 高校卒業後,
1228 建設作業員として建築会社を転々としたが,
1229 現場で塗装工をしてい
1230 るCさんと知り合い,
1231 1年半くらい前からCさんの下で働いている。
1232
1233 Cさんの下で働いて
1234 いるのは私だけなので,
1235 私が長期間不在にすると,
1236 受注していた現場の仕事を工期内に終
1237 わらせることができなくなる。
1238
1239 母は1人では日常生活に支障があり,
1240 私の手助けが必要だ
1241 し,
1242 Cさんにも迷惑を掛けたくないので,
1243 早く家に戻りたい。
1244
1245
1246 私には,
1247 前科前歴はなく,
1248 暴力団関係者との付き合いもない。
1249
1250 」
1251 3
1252
1253 Aの弁護人は,
1254 前記の検察官請求証拠を閲覧・謄写した後,
1255 平成27年5月3日,
1256 Aと接見
1257 したところ,
1258 Aは,
1259 「B子からVをK駐車場に呼び出したことは聞いたが,
1260 私は,
1261 K駐車場に
1262 は行っていない。
1263
1264 B子には未練があったので,
1265 B子の友達からB子の新しい電話番号などを聞
1266 き,
1267 連絡をしたことは事実だが,
1268 B子がVと付き合っていたのでB子のことは諦めた。
1269
1270 むしろ,
1271
1272 最近は,
1273 B子から『Vが自分から距離を置こうとしているように感じる。
1274
1275 』などと相談を持ち
1276 掛けられていた。
1277
1278 B子の家を知っているが,
1279 それはB子から相談を持ち掛けられて話をした後,
1280
1281 B子を家まで送っていったからで,
1282 B子に付きまとって家を突き止めたわけではない。
1283
1284 飛び出
1285 しナイフについては,
1286 全く身に覚えがなく,
1287 飛び出しナイフの柄になぜ私の指紋が付いていた
1288 のか分からない。
1289
1290 VとB子が私を陥れようとしているのではないか。
1291
1292 」と述べた。
1293
1294
1295
1296 4
1297
1298 Aの弁護人は,
1299 平成27年5月7日,
1300 検察官に類型証拠の開示請求をし,
1301 検察官は,
1302 同月1
1303 3日,
1304 同証拠を開示した。
1305
1306 Aの弁護人は,
1307 Aと犯人との同一性(犯人性)を争う方針を固め,
1308
1309 同月20日の公判前整理手続期日において,
1310 B甲第2号証,
1311 甲第5号証及び甲第7号証につい
1312 ては「不同意。
1313
1314 」,
1315 甲第4号証については「異議あり。
1316
1317 関連性なし。
1318
1319 」,
1320 その他の甲号証及び乙号
1321 証については「同意。
1322
1323 」との意見を述べた。
1324
1325
1326 その後,
1327 Aの弁護人は,
1328 Aと接見を重ねた結果,
1329 飛び出しナイフにAの指紋が付着していた
1330 事実自体は争わない方針に決め,
1331 同年6月1日の公判前整理手続期日において,
1332 甲第5号証に
1333 ついては「同意。
1334
1335 」,
1336 甲第4号証については「異議なし。
1337
1338 」との意見に変更した。
1339
1340
1341 そして,
1342 受訴裁判所は,
1343 同月15日に公判前整理手続を終了するに当たり,
1344 検察官及びAの
1345 弁護人との間で,
1346 争点は犯人性であり,
1347 証拠については,
1348 甲第2号証及び甲第7号証を除く甲
1349 号証,
1350 乙号証並びにV及びB子の各証人尋問が採用決定されたことを確認した。
1351
1352
1353 Aの弁護人は,
1354 公判前整理手続終了直後に,
1355 V及びB子とは接触しない旨のAの誓約書,
1356 A
1357 を引き続き雇用する旨のCの上申書及びAの母親の身柄引受書を保釈請求書に添付して,
1358 CA
1359 の保釈を請求したが,
1360 検察官はこれに反対意見を述べた。
1361
1362
1363 なお,
1364 検察官は,
1365 証拠開示に当たり,
1366 Aの弁護人に,
1367 Vの住所,
1368 電話番号をAに秘匿するよ
1369 う要請し,
1370 Aの弁護人もこれに応じて,
1371 Aにそれらを教えなかった。
1372
1373
1374
1375 - 9 -
1376
1377 〔設問1〕
1378 (1)
1379
1380 下線部Bに関し,
1381 Aの弁護人が,
1382 検察官請求証拠について意見を述べる法令上の義務はあ
1383
1384 るか,
1385 簡潔に答えなさい。
1386
1387
1388 (2)
1389
1390 下線部Bに関し,
1391 Aの弁護人が,
1392 甲第4号証の飛び出しナイフ1丁について「異議あり。
1393
1394
1395
1396 関連性なし。
1397
1398 」との意見を述べたため,
1399 裁判官は,
1400 検察官に関連性に関する釈明を求めた。
1401
1402 検
1403 察官は,
1404 関連性についてどのように釈明すべきか,
1405 論じなさい。
1406
1407
1408 (3)
1409
1410 甲第5号証の捜査報告書は,
1411 Aの犯人性を立証する上で,
1412 直接証拠又は間接証拠のいずれ
1413
1414 となるか,
1415 理由を付して論じなさい。
1416
1417
1418 〔設問2〕
1419 下線部Cに関し,
1420 Aの弁護人が保釈を請求するに当たり,
1421 検討すべき事項及びその検討結果を
1422 論じなさい。
1423
1424
1425 〔設問3〕
1426 (1)
1427
1428 公判期日に実施されたVの証人尋問において,
1429 検察官は,
1430 甲第2号証の下線部@のとおり
1431
1432 Vに証言させようと考え,
1433 同人に対し,
1434 「そのとき,
1435 犯人は,
1436 何と言っていましたか。
1437
1438 」とい
1439 う質問をしたところ,
1440 Vは,
1441 下線部@のとおり証言し始めた。
1442
1443 Aの弁護人が,
1444 「異議あり。
1445
1446 伝
1447 聞供述を求める質問である。
1448
1449 」と述べたため,
1450 裁判官は,
1451 検察官に弁護人の異議に対する意見
1452 を求めた。
1453
1454 検察官は,
1455 どのような意見を述べるべきか,
1456 理由を付して論じなさい。
1457
1458
1459 (2)
1460
1461 公判期日に実施されたB子の証人尋問において,
1462 検察官は,
1463 甲第7号証の下線部Aのとお
1464
1465 りB子に証言させようと考え,
1466 同人に対し,
1467
1468 「Aは,
1469 電話でどのような話をしていましたか。
1470
1471 」
1472 という質問をしたところ,
1473 B子は,
1474 下線部Aのとおり証言し始めた。
1475
1476 Aの弁護人が,
1477 「異議あ
1478 り。
1479
1480 伝聞供述を求める質問である。
1481
1482 」と述べたため,
1483 裁判官は,
1484 検察官に弁護人の異議に対す
1485 る意見を求めた。
1486
1487 検察官は,
1488 どのような意見を述べるべきか,
1489 理由を付して論じなさい。
1490
1491
1492 〔設問4〕
1493 Aの弁護人は,
1494 弁論が予定されていた公判期日の前日,
1495 Aから「先生にだけは本当のことを話
1496 します。
1497
1498 本当は,
1499 私がVを刺した犯人です。
1500
1501 しかし,
1502 母を悲しませたくないので,
1503 明日の弁論は
1504 よろしくお願いします。
1505
1506 どうか無罪を勝ち取ってください。
1507
1508 」と言われ,
1509 同期日に,
1510 Aは無罪で
1511 ある旨の弁論を行った。
1512
1513 このAの弁護人の行為は,
1514 弁護士倫理上どのような問題があるか,
1515 司法
1516 試験予備試験用法文中の弁護士職務基本規程を適宜参照して論じなさい。
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