1 論文式試験問題集[刑事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲,
9 乙,
10 丙及び丁の罪責について,
11 具体的な事実を摘示しつつ論じなさい
12 (特別法違反の点を除く。
13
14 )。
15
16
17
18
19 甲(45歳,
20 男性)は暴力団組織である某組において組長に次ぐ立場にあり,
21 乙(23歳,
22
23 性)及び丙(20歳,
24 男性)は甲の配下にある同組の組員で,
25 乙は丙の兄貴分であった。
26
27 甲は,
28
29 某組の組長から,
30 まとまった金員を工面するように指示を受けていたところ,
31 配下の組員Aの情
32 報によって,
33 Aの知人であるV(40歳,
34 男性)が,
35 一人暮らしの自宅において,
36 数百万円の現
37 金を金庫に入れて保管していることを知った。
38
39
40
41
42
43 甲は,
44 Vの現金を手に入れようと計画し,
45 某年9月1日,
46 乙に対し,
47
48 「実は,
49 組長からまとまっ
50 た金を作れと言われている。
51
52 Aの知人のVの自宅には数百万円の現金を入れた金庫があるらしい。
53
54
55 Vの家に押し入って,
56 Vをナイフで脅して,
57 その現金を奪ってこい。
58
59 奪った現金の3割はお前の
60 ものにしていい。
61
62 」と指示した。
63
64 乙は,
65 その指示に従うことにちゅうちょを覚えたが,
66 組内で上
67 の立場にいる甲の命令には逆らえないと考えるとともに,
68 分け前も欲しいと思い,
69 甲に対し,
70
71 「分
72 かりました。
73
74 」と言った。
75
76 甲は,
77 乙に対し,
78 現金3万円を渡して,
79 「この金で,
80 Vを脅すためのナ
81 イフなど必要な物を買って準備しろ。
82
83 準備した物と実際にやる前には報告をしろ。
84
85 」と言った。
86
87
88 乙は,
89 甲から受け取った現金を使って,
90 玄関扉の開錠道具,
91 果物ナイフ(刃体の長さ約10セン
92 チメートル。
93
94 以下「ナイフ」という。
95
96 ),
97 奪った現金を入れるためのかばん等を購入した上,
98 甲に
99 対し,
100 準備した物品について報告した。
101
102
103 その後,
104 乙は,
105 一人で強盗をするのは心細いと思い,
106 丙と一緒に強盗をしようと考えた。
107
108 乙は,
109
110 丙に対し,
111 「甲からの指示で,
112 Vの家に行って押し込み強盗をやるんだが,
113 一緒にやってくれな
114 いか。
115
116 」と言って甲から指示を受けた内容を説明した上で,
117 「俺がナイフで脅す。
118
119 それでもVが抵
120 抗してくるようだったら,
121 お前はVを痛めつけてくれ。
122
123 9月12日午前2時に実行する。
124
125 その時
126 間にVの家に来てくれ。
127
128 お前にも十分分け前をやる。
129
130 」と言った。
131
132 しかし,
133 丙は,
134 その日は用事
135 があったことから,
136 乙の頼みを断った。
137
138 乙は,
139 「仕方ない。
140
141 一人で何とかなるだろう。
142
143 」と考え,
144
145 単独で犯行に及ぶことを決意した。
146
147 なお,
148 乙は,
149 甲に対し,
150 丙を強盗に誘ったことについては言
151 わなかった。
152
153
154
155
156
157 乙は,
158 同月12日未明,
159 事前に準備したナイフ等を持ってV方に向かい,
160 V方前で甲に電話を
161 かけ,
162 「これからV方に入ります。
163
164 」と伝えた。
165
166 しかし,
167 甲は,
168 乙からの電話の数時間前に,
169 今回
170 の計画を知った某組の組長から犯行をやめるように命令されていたので,
171 乙に対し,
172 「組長から
173 やめろと言われた。
174
175 今回の話はなかったことにする。
176
177 犯行を中止しろ。
178
179 」と言った。
180
181 乙は,
182 多額
183 の現金を入手できる絶好の機会であるし,
184 手元にナイフ等の道具もあることから,
185 甲にそのよう
186 に言われても,
187 今回の犯行を中止する気にはならなかったが,
188 甲に対し,
189 「分かりました。
190
191 」とだ
192 け返事をして,
193 その電話を切った。
194
195
196
197
198
199 乙は,
200 その電話を切った直後の同日午前2時頃,
201 準備した開錠道具を使用してV方の玄関扉を
202 開錠し,
203 V方に入った。
204
205 乙は,
206 Vが寝ている部屋(以下「寝室」という。
207
208 )に行き,
209 ちょうど物
210 音に気付いて起き上がったVに対し,
211 準備したナイフをその顔面付近に突き付け,
212 「金庫はどこ
213 にある。
214
215 開け方も教えろ。
216
217 怪我をしたくなければ本当のことを言え。
218
219 」と言った。
220
221 これに対し,
222
223 Vが金庫のある場所等を教えなかったため,
224 乙は,
225 Vを痛めつけてその場所等を聞き出そうと考
226 え,
227 Vの顔面を数回蹴り,
228 さらに,
229 Vの右足のふくらはぎ(以下「右ふくらはぎ」という。
230
231 )を
232 ナイフで1回刺した。
233
234 Vは,
235 乙からそのような暴行を受け,
236 「言うとおりにしないと,
237 更にひど
238 い暴行を受けるかもしれない。
239
240 」と考えて強い恐怖心を抱き,
241 乙に対し,
242 「金庫は6畳間にありま
243 す。
244
245 鍵は金庫の裏にあります。
246
247 」と言った。
248
249 それを聞いた乙は,
250 右ふくらはぎを刺された痛みか
251 - 2 -
252
253 ら床に横たわっているVを寝室に残したまま6畳の部屋(以下「6畳間」という。
254
255 )に向かった。
256
257
258
259
260 丙は,
261 予定よりも早く用事が済んだため,
262 兄貴分である乙が強盗するのを手伝おうという気持
263 ちが新たに生じるとともに,
264 分け前がもらえるだろうと考え,
265 V方に行った。
266
267 丙は,
268 V方の玄関
269 扉が少し開いていたので,
270 同日午前2時20分頃,
271 その玄関からV方に入り,
272 寝室でVが右ふく
273 らはぎから血を流して床に横たわっているのを見た。
274
275
276 その後,
277 丙は,
278 6畳間にいた乙を見付け,
279 乙に対し,
280
281 「用事が早く済みました。
282
283 手伝いますよ。
284
285
286 と言った。
287
288 乙は,
289 丙に対し,
290 「計画どおりVをナイフで脅したけど,
291 金庫の在りかを教えなかっ
292 たから,
293 ふくらはぎを刺してやった。
294
295 あれじゃあ動けねえから,
296 ゆっくり金でも頂くか。
297
298 お前に
299 も十分分け前はやる。
300
301 」と言い,
302 丙も,
303 Vは身動きがとれないので簡単に現金を奪うことができ
304 るし,
305 分け前をもらえると考えたこともあり,
306 これを了解して「分かりました。
307
308 」と言った。
309
310
311 乙は,
312 Vから聞き出した場所にあった鍵を取り出して,
313 これを使って6畳間の金庫の扉を開錠
314 した。
315
316 そして,
317 乙と丙は,
318 二人で同金庫の中にあった現金500万円を準備したかばんの中に入
319 れ,
320 その後,
321 同日午前2時30分頃,
322 そのかばんを持ってV方から出た。
323
324 なお,
325 Vは,
326 終始,
327
328 が来たことには気付いていなかった。
329
330
331 乙は,
332 V方から出た後,
333 某組事務所に行き,
334 甲に対し,
335 言われたとおり犯行を中止した旨の虚
336 偽の報告をした。
337
338 その後,
339 乙は,
340 Vから奪った現金のうち150万円を丙に分け前として渡し,
341
342 残りの350万円を自分のものとした。
343
344
345
346
347
348 盗みに入る先を探して徘徊中の丁(32歳,
349 男性。
350
351 なお,
352 甲,
353 乙及び丙とは面識がなかった。
354
355
356 は,
357 同日午前2時40分頃,
358 V方前を通った際,
359 偶然,
360 V方の玄関扉が少し開いていることに気
361 付いた。
362
363 丁は,
364 V方の金品を盗もうと考え,
365 その玄関からV方に入り,
366 6畳間において,
367 扉の開
368 いた金庫内にX銀行のV名義のキャッシュカード1枚(以下「本件キャッシュカード」という。
369
370
371 があるのを見付け,
372 これをズボンのポケットに入れた。
373
374 そして,
375 丁が,
376 更に物色するため寝室に
377 入ったところ,
378 そこには右ふくらはぎから血を流して床に横たわっているVがいた。
379
380 丁は,
381 その
382 様子を見て驚いたものの,
383
384 「ちょうどいい。
385
386 手に入れたキャッシュカードの暗証番号を聞き出し,
387
388 現金を引き出そう。
389
390 」と考え,
391 Vに近付いた。
392
393
394 Vは,
395 丁に気付き,
396
397 「何かされるかもしれない。
398
399 」と考えて,
400 丁に対して恐怖心を抱いた。
401
402 丁は,
403
404 横たわっているVのそばにしゃがみ込んでVの顔を見たところ,
405 Vが恐怖で顔を引きつらせてい
406 たので,
407 「強く迫れば,
408 容易に暗証番号を聞き出せる。
409
410 」と考えた。
411
412 そこで,
413 丁は,
414 Vをにらみ付
415 けながら,
416 「金庫の中にあったキャッシュカードの暗証番号を教えろ。
417
418 」と強い口調で言った。
419
420
421 は,
422 丁が間近に来たことでおびえていた上,
423 丁からそのように言われ,
424 「言うことを聞かなかっ
425 たら,
426 先ほどの男にされたようなひどい暴力をまた振るわれるかもしれない。
427
428 」と考えて,
429 更に
430 強い恐怖心を抱き,
431 丁に対し,
432 「暗証番号は××××です。
433
434 」と言った。
435
436
437
438
439
440 丁は,
441 その暗証番号を覚えると,
442 V方から逃げ出し,
443 同日午前3時頃,
444 V方近くの24時間稼
445 動している現金自動預払機(以下「ATM」という。
446
447 )が設置されたX銀行Y支店にその出入口
448 ドアから入り,
449 同ATMに本件キャッシュカードを挿入した上,
450 その暗証番号を入力して,
451 同A
452 TMから現金1万円を引き出した。
453
454
455
456
457
458 Vは,
459 同日午前5時頃,
460 乙から顔面を蹴られたことによる脳内出血が原因で死亡した(なお,
461
462 乙がVの右ふくらはぎを刺した行為とVの死亡とは関連がない。
463
464 )。
465
466
467
468 - 3 -
469
470 論文式試験問題集[刑事系科目第2問]
471
472 - 1 -
473
474 [刑事系科目]
475 〔第2問〕(配点:100)
476 次の【事例】を読んで,
477 後記〔設問1〕から〔設問4〕に答えなさい。
478
479
480 【事
481
482
483 例】
484 司法警察員P及びQは,
485 平成27年7月1日午前10時45分,
486 「G県H市内の路上に停車中
487
488 の自動車内に,
489 大声で叫ぶ不審な男がいる。
490
491 」との住民からの通報を受け,
492 同日午前10時55
493 分,
494 通報のあった路上にパトカーで臨場したところ,
495 停車中の自動車の運転席に甲を認め(以下,
496
497 同自動車を「甲車」という。
498
499 ),
500 その後方にパトカーを停車させた。
501
502 甲は,
503 エンジンの空吹かしを
504 繰り返して発進せず,
505 全開の運転席窓から大声で意味不明な言葉を発していた。
506
507 Pが甲に対し,
508
509 「どうしましたか。
510
511 」と声を掛けると,
512 甲は,
513 「何でもねえよ。
514
515 」と答えた。
516
517 Pは,
518 甲から運転免
519 許証の提示を受け,
520 Qに対し,
521 甲の犯歴を照会するよう指示した。
522
523
524
525
526 甲には,
527 目の焦点が合わず異常な量の汗を流すなど,
528 覚せい剤使用者特有の様子が見られた。
529
530
531 また,
532 同日午前11時,
533 甲には,
534 覚せい剤取締法違反の有罪判決を受けた前科がある旨の無線連
535 絡があった。
536
537 そこで,
538 Pは,
539 甲につき,
540 覚せい剤の使用及び所持の疑いを抱いた。
541
542
543 Pは,
544 甲から尿の提出を受ける必要があると考え,
545 Qを甲車助手席側路上に立たせ,
546 自らは甲
547 車運転席側路上に立ち,
548 甲に対し,
549 「違法薬物を使っていないかを確認するので,
550 H警察署で尿
551 を出してください。
552
553 」と言った。
554
555 甲は,
556 「行きたくねえ。
557
558 」と言い,
559 甲車を降りてH警察署とは反
560 対方向に歩き出し,
561 2,
562 3メートル進んだが,
563 Pは,
564 「どこに行くのですか。
565
566 」と言って甲の前に
567 立ち,
568 進路を塞いだ。
569
570 すると,
571 甲は,
572 「仕方ねえ。
573
574 」と言い,
575 甲車運転席に戻った。
576
577 その直後,
578
579 は,
580 甲の左肘内側に赤色の真新しい注射痕を認めて,
581 覚せい剤使用等の疑いを強め,
582 「その注射
583 痕は何ですか。
584
585 H警察署で尿を出してください。
586
587 」と言ったが,
588 甲は,
589 「行きたくねえ。
590
591 献血の注
592 射痕だ。
593
594 」と言った。
595
596
597 Pは,
598 H警察署に連絡を取り,
599 応援警察官4名を臨場させるよう求め,
600 同4名は,
601 同日午前1
602 1時15分に2台のパトカーで到着した。
603
604 Pは,
605 これらのパトカーをPらが乗って来たパトカー
606 の後方に停車させた上,
607 同4名をそのままパトカー内で待機させた。
608
609 甲は,
610 同日午前11時20
611 分及び午前11時25分の2度にわたり甲車を降りて歩き出し,
612 2,
613 3メートル進んだが,
614 その
615 都度Pは,
616 「どこに行くのですか。
617
618 H警察署で尿を出してください。
619
620 」と言って甲の前に立ち,
621
622 路を塞いだ。
623
624 その都度甲は,
625 「警察に行くくらいなら,
626 ここにいる。
627
628 」と言い,
629 甲車運転席に戻っ
630 た。
631
632 その後,
633 甲は,
634 甲車助手席上のバッグからたばこを取り出したが,
635 その際,
636 Pは,
637 同バッグ
638 内に注射器を認めた。
639
640 そこで,
641 Pが甲に対し,
642 「その注射器は何ですか。
643
644 見せてください。
645
646 」と言
647 うと,
648 甲は,
649 「献血に使った注射器だ。
650
651 見せられない。
652
653 」と言った。
654
655 Pは,
656 同注射器の存在や甲の
657 不自然な言動から,
658 覚せい剤使用等の疑いを一層強め,
659 甲車の捜索差押許可状及び甲の尿を差し
660 押さえるべき物とする捜索差押許可状を請求することとした。
661
662
663
664
665
666 Pは,
667 同日午前11時30分,
668 Qに対し,
669 前記各許可状を請求するよう指示し,
670 Pらが乗って
671 来たパトカーでH警察署に向かわせ,
672 甲に対し,
673 「今から,
674 採尿と車内を捜索する令状を請求す
675 る。
676
677 令状が出るまで,
678 ここで待っていてくれ。
679
680 」と言ったが,
681 甲は,
682 「嫌だ。
683
684 」と言った。
685
686
687 Pは,
688 応援警察官が乗って来た2台のパトカーを,
689 甲車の前後各1メートルの位置に,
690 甲車を
691 挟むようにして停車させ,
692 甲車が容易に移動できないようにした上,
693 前記応援警察官4名を甲車
694 周囲に立たせ,
695 自らは甲車運転席側路上に立った。
696
697 その後,
698 甲は,
699 甲車を降りて歩き出し,
700 2,
701
702 3メートル進んだが,
703 Pは,
704 甲の前に立ち,
705 「待ちなさい。
706
707 」と言って両手を広げて進路を塞ぎ,
708
709 甲がPの体に接触すると,
710 足を踏ん張り,
711 それ以上甲が前に進めないように制止した。
712
713 すると,
714
715 甲は,
716 「仕方ねえな。
717
718 」と言いながら甲車運転席に戻った。
719
720
721 甲は,
722 同日午後零時30分,
723 甲車運転席で,
724 携帯電話を用いて弁護士Rと連絡を取り,
725 「警察
726 に囲まれている。
727
728 どうしたらいいんだ。
729
730 」などと,
731 30分間通話した。
732
733 甲は,
734 同日午後1時,
735 「弁
736 - 2 -
737
738 護士から帰っていいと言われたので,
739 帰るぞ。
740
741 」と言い,
742 甲車を降りて歩き出し,
743 2,
744 3メート
745 ル進んだ。
746
747 Pは,
748 甲の前に立ち,
749 「待ちなさい。
750
751 」と言って両手を広げて進路を塞ぎ,
752 甲がPの体
753 に接触すると,
754 足を踏ん張り,
755 それ以上甲が前に進めないように制止し,
756 更に胸部及び腹部を前
757 方に突き出しながら,
758 甲の体を甲車運転席前まで押し戻し,
759 「座っていなさい。
760
761 」と言った。
762
763 する
764 と,
765 甲は,
766 「車から降りられねえのか。
767
768 」と言いながら,
769 甲車運転席に座った。
770
771 その後,
772 甲は,
773
774 車運転席で電話をかけたりしていたが,
775 同日午後4時,
776 再度,
777 甲車を降りて歩き出し,
778 2,
779 3メー
780 トル進んだ。
781
782 Pは,
783 両手を広げて甲の進路を塞ぎ,
784 甲がPの体に接触すると,
785 胸部及び腹部を前
786 方に突き出しながら,
787 甲の体を甲車運転席前まで押し戻し,
788
789 「座っていなさい。
790
791 」と言った。
792
793 甲は,
794
795 「帰れねえのか。
796
797 」と言いながら甲車運転席に座った。
798
799
800 一方,
801 Qは,
802 H警察署で,
803 前記各許可状を請求する準備を行った後,
804 I簡易裁判所裁判官に対
805 し前記各許可状を請求し,
806 その発付を受け,
807 同日午後4時30分,
808 甲車が止まっていた前記場所
809 に到着した。
810
811 なお,
812 この間,
813 交通渋滞のため,
814 通常より1時間多くの時間を要した。
815
816 Pは,
817 Qか
818 らすぐに前記各許可状を受け取り,
819 甲立会の下,
820 甲車の捜索を開始した。
821
822
823
824
825 Pは,
826 前記注射器1本を押収するとともに,
827 甲車助手席上のバッグ内からビニール袋に入った
828 約0.2グラムの覚せい剤1袋を発見して押収し,
829 甲を覚せい剤所持の被疑事実で現行犯逮捕し
830 た。
831
832 甲は,
833 H警察署において,
834 任意に尿を提出し,
835 後日,
836 覚せい剤の成分が検出された。
837
838 また,
839
840 改めて行った前科照会の結果,
841 甲には,
842 平成25年4月,
843 覚せい剤取締法違反(使用及び所持)
844 により,
845 懲役1年6月(3年間執行猶予)の有罪判決を受けた前科があることが分かった。
846
847
848
849
850
851 甲は,
852 逮捕後の弁解録取手続において,
853
854 「バッグ内の覚せい剤は,
855 誰かが勝手に入れたものだ。
856
857
858 と弁解して被疑事実を否認した。
859
860 甲は,
861 平成27年7月3日午前9時30分,
862 I地方検察庁検察
863 官に送致され,
864 検察官Sは,
865 同日午前9時45分から弁解録取手続を開始した。
866
867 甲はまだ弁護士
868 とは接見しておらず,
869 甲の弁護人選任届も提出されていなかった。
870
871 弁護士Tは,
872 同日午前9時5
873 0分,
874 Sに電話し,
875 甲を取調室に残して別室で応対したSに対し,
876 「私は,
877 甲の妻から依頼を受
878 け,
879 甲の弁護人になろうと考えている。
880
881 今日の午前10時30分から,
882 H警察署で,
883 甲と接見し
884 たい。
885
886 」と言った。
887
888 Sは,
889 弁解録取手続終了まで更に約30分を要し,
890 I地方検察庁からH警察
891 署まで自動車で約30分を要することから,
892 Tに,
893 「今,
894 弁解録取の手続中です。
895
896 接見は,
897 午前
898 11時からにしていただきたい。
899
900 」と伝えた(@)。
901
902 Tは,
903 「仕方ないですね。
904
905 しかし,
906 午前11
907 時には,
908 必ず接見させてください。
909
910 」と言った。
911
912
913 Sによる弁解録取手続において,
914 甲は,
915 前記同様の弁解をして否認し,
916 同手続は,
917 同日午前1
918 0時20分に終了したが,
919 その直後,
920 甲は,
921 「実は,
922 お話ししたいことがあります。
923
924 ただ,
925 今度
926 有罪判決を受けたら刑務所行きですよね。
927
928 」と言った。
929
930 Sは,
931 甲が自白しようか迷っていると察
932 し,
933 この機会に自白を得たいと考えた。
934
935 そこで,
936 同日午前10時25分,
937 Sは,
938 甲を取調室に残
939 し,
940 別室で,
941 Tに電話をかけ,
942 Tに,
943 「これから取調べを行うことにしました。
944
945 午後零時には取
946 調べを終えますので,
947 接見は,
948 午後零時30分以降に変更していただきたい。
949
950 」と伝えた(A)。
951
952
953 Tは,
954
955 「予定どおり接見したい。
956
957 」と主張して譲らなかったが,
958 Sは,
959 電話を切って取調室に戻り,
960
961 取調べを開始した。
962
963 その取調べにおいて,
964 甲は,
965 「平成27年6月28日,
966 知り合いの乙方で,
967
968 乙から覚せい剤2袋を2万円で買い,
969 1袋分を注射器で使用し,
970 残りを持っていた。
971
972 」旨,
973 覚せ
974 い剤所持の事実のほか,
975 その入手状況及び覚せい剤使用の事実についても自白し,
976 甲の自白調書
977 が作成された。
978
979 取調中,
980 Tは,
981 当初の予定どおり接見できるよう求めてSに電話をかけたが,
982
983 は,
984 電話に出なかった。
985
986 甲は,
987 同年7月3日午後零時30分,
988 H警察署に戻り,
989 Tは,
990 すぐに甲
991 と接見した。
992
993
994 Sは,
995 その後,
996 必要な捜査を遂げ,
997 甲を覚せい剤取締法違反(使用及び所持)によりI地方裁
998 判所に公判請求した。
999
1000
1001
1002
1003
1004 Pは,
1005 前記甲供述等に基づき,
1006 甲に対する覚せい剤譲渡の被疑事実で,
1007 乙を通常逮捕した。
1008
1009
1010 は,
1011 「甲に風邪薬をあげたことはあるが,
1012 覚せい剤など見たこともない。
1013
1014 甲に覚せい剤を売った
1015 - 3 -
1016
1017 とされる平成27年6月28日,
1018 私は,
1019 終日,
1020 外出していて自宅にはいなかった。
1021
1022 」旨弁解して
1023 被疑事実を否認した。
1024
1025 乙は,
1026 I地方検察庁検察官に送致され,
1027 Sは,
1028 必要な捜査を遂げ,
1029 乙を「平
1030 成27年6月28日,
1031 G県H市○町○番の乙方で,
1032 甲に覚せい剤約0.4グラムを代金2万円で
1033 譲り渡した。
1034
1035 」との公訴事実により,
1036 I地方裁判所に公判請求した。
1037
1038
1039
1040
1041 乙に対する覚せい剤取締法違反被告事件は,
1042 事件の争点及び証拠を整理する必要があるとして,
1043
1044 公判前整理手続に付された。
1045
1046 乙及びその弁護人Uは,
1047 同手続において,
1048 当初,
1049 前記弁解と同様の
1050 主張をしたが,
1051 裁判所から,
1052 「アリバイ主張について可能な限り具体的に明らかにされたい。
1053
1054 」と
1055 の求釈明を受け,
1056
1057 「平成27年6月28日は,
1058 終日,
1059 丙方にいた。
1060
1061 その場所は,
1062 J県内であるが,
1063
1064 それ以外覚えていない。
1065
1066 『丙』が本名かは分からない。
1067
1068 丙方で何をしていたかは覚えていない。
1069
1070
1071 旨釈明した。
1072
1073 その結果,
1074 本件争点については,
1075
1076 乙が甲に覚せい剤を譲り渡したか。
1077
1078
1079
1080 平成27年6月28日に,
1081 乙方において,
1082
1083
1084 その際,
1085 乙に,
1086 覚せい剤であるとの認識があったか。
1087
1088
1089
1090 と整理され,
1091 甲の証人尋問及び被告人質問等が実施されることが決まった。
1092
1093
1094
1095
1096 第1回公判期日において,
1097 乙及びUは,
1098 公訴事実を否認し,
1099 公判前整理手続でしたのと同様の
1100 主張をした。
1101
1102
1103 また,
1104 同期日に実施された甲の証人尋問において,
1105 甲は,
1106 【資料】のとおり証言した。
1107
1108
1109
1110
1111
1112 第2回公判期日に実施された被告人質問において,
1113 乙は,
1114 Uの質問に対し,
1115 「平成27年6月
1116 28日は,
1117 J県M市△町△番の戊方にいました。
1118
1119 」と供述した。
1120
1121 Uからの「丙方ではなく,
1122 戊方
1123 にいたのですか。
1124
1125 」との質問に対し,
1126 乙は,
1127 「前回の公判期日後,
1128 戊から手紙が届き,
1129 丙方ではな
1130 く,
1131 戊方でテレビを見ていたことを思い出しました。
1132
1133 」と供述した。
1134
1135 そこで,
1136 Uは,
1137 乙に対し,
1138
1139 「あ
1140 なたが当日戊方にいたことに関し,
1141 これから詳しく聞いていきます。
1142
1143 まず,
1144 戊方で見ていたテレ
1145 ビ番組は何ですか。
1146
1147 」と質問した(C)。
1148
1149 これに対し,
1150 Sは,
1151 「弁護人の質問は,
1152 公判前整理手続
1153 において主張されていない事実に関するものであり,
1154 制限されるべきである。
1155
1156 」と述べて異議を
1157 申し立てた。
1158
1159
1160
1161 〔設問1〕
1162
1163 【事例】中の2及び3に記載されている司法警察員Pらが甲を留め置いた措置の適法
1164 性について,
1165 具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
1166
1167
1168
1169 〔設問2〕
1170
1171 検察官Sによる下線部@及びAの各措置の適法性について,
1172 具体的事実を摘示しつつ
1173 論じなさい。
1174
1175
1176
1177 〔設問3〕
1178
1179 【資料】に記載されている下線部Bの証言の証拠能力について,
1180 想定される要証事実
1181 を検討して論じなさい。
1182
1183
1184
1185 〔設問4〕
1186
1187 被告人乙が戊方にいたことを前提とする弁護人Uの下線部Cの質問及びこれに対する
1188 乙の供述を,
1189 刑事訴訟法第295条第1項により制限することができるか。
1190
1191 公判前整理
1192 手続の経過及び結果並びに乙が公判期日で供述しようとした内容を考慮しつつ論じなさ
1193 い。
1194
1195
1196
1197 (参照条文)
1198 第19条
1199
1200 覚せい剤取締法
1201
1202 左の各号に掲げる場合の外は,
1203 何人も,
1204 覚せい剤を使用してはならない。
1205
1206
1207 (以下略)
1208
1209 第41条の2
1210
1211 覚せい剤を,
1212 みだりに,
1213 所持し,
1214 譲り渡し,
1215 又は譲り受けた者(略)は,
1216 10年
1217
1218 以下の懲役に処する。
1219
1220
1221 (以下略)
1222 第41条の3
1223
1224
1225 次の各号の一に該当する者は,
1226 10年以下の懲役に処する。
1227
1228
1229
1230 第19条(使用の禁止)の規定に違反した者
1231 (以下略)
1232
1233 - 4 -
1234
1235 【資料】
1236 検察官:あなたが平成27年7月1日に所持していた覚せい剤は,
1237 どのように入手したものですか。
1238
1239
1240
1241
1242 :平成27年6月28日に,
1243 知り合いの乙から,
1244 乙の自宅で,
1245 2万円で買いました。
1246
1247
1248
1249 検察官:どのようないきさつで,
1250 乙から覚せい剤を買うことになったのですか。
1251
1252
1253
1254
1255 :乙から,
1256 電話で,
1257 「いい薬があるけど,
1258 買わないか。
1259
1260 」と言われたからです。
1261
1262 「いい薬」と
1263 言われ,
1264 覚せい剤だとピンときました。
1265
1266 それで乙の自宅に行ったのです。
1267
1268
1269
1270 検察官:あなたが覚せい剤を買ったとき,
1271 乙は,
1272 何と言っていましたか。
1273
1274
1275
1276
1277 :乙は,
1278 覚せい剤だとは言っていませんでした。
1279
1280 しかし,
1281 乙は,
1282 私にビニール袋に入った覚
1283 せい剤を2袋渡して,
1284 「帰るときは,
1285 K通りから帰るなよ。
1286
1287 あそこは警察がよく検問をして
1288 いるから,
1289 遠回りでもL通りから帰れよ。
1290
1291 お前が捕まったら,
1292 俺も刑務所行きだから気を付
1293 けろよ。
1294
1295 」(B)と言いました。
1296
1297
1298
1299 弁護人:異議があります。
1300
1301 ただ今の甲の証言は,
1302 伝聞証拠です。
1303
1304
1305 (以下略)
1306
1307 - 5 -
1308
1309