1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 - 1 -
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕及び〔設問2〕の配点は,
7 4:6〕)
8 次の文章を読んで,
9 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
10
11
12 T
13 【事実】
14 1.不動産賃貸業を営むAは,
15 その亡妻Bとの間に長男Cをもうけていた。
16
17 Cは,
18 平成23年3
19 月に高校を卒業した後,
20 他県の自動車販売店に整備士として雇用されたことから,
21 Aの家を出
22 て自分でアパートを借り,
23 恋人のDと同棲を始めた。
24
25 平成24年2月の時点で,
26 Cは満18歳,
27
28 Dは満20歳であった。
29
30
31 2.Cは,
32 Bの所有していた甲土地及び乙土地をBからの相続により取得していた。
33
34 甲土地及び
35 乙土地は,
36 更地で,
37 Cの登記名義とされていたが,
38 Cの親権者であるAが公租公課の支払を含
39 め両土地の管理を行っていた。
40
41
42 3.平成24年2月1日,
43 Aは,
44 自らの遊興を原因とする1000万円を超える借金の返済に窮
45 していたことから,
46 C所有の甲土地及び乙土地を自らが管理していることを奇貨として,
47 甲土
48 地及び乙土地をCの承諾を得ずに売却し,
49 その代金を自己の借金の返済に充てようと考えた。
50
51
52 4.平成24年2月10日,
53 Aは,
54 Cの代理人として,
55 個人で飲食店を営む知人Eとの間で,
56
57 土地を450万円,
58 乙土地を600万円で売却する契約を締結した。
59
60 ところが,
61 Eはその時点
62 で600万円しか現金を有していなかったことから,
63 AとEは,
64 甲土地についてはEが450
65 万円の現金を調達できた時点でCからEへの所有権移転登記手続をすることとし,
66 さしあたり,
67
68 乙土地についてのみCからEへの所有権移転登記手続をすることで合意した。
69
70
71 5.平成24年2月15日,
72 Eは,
73 Aに対し乙土地の代金として600万円を支払い,
74 CからE
75 への乙土地の所有権移転登記がされた。
76
77 Aは,
78 Eから受領した代金600万円を自らの借金の
79 返済に充当した。
80
81 これらの事実について,
82 AはCに何も知らせなかった。
83
84
85 6.Eは,
86 【事実】4の売買契約を締結した時点で,
87 Aが遊興を原因として多額の借金を抱えて
88 おり,
89 Aが乙土地の代金600万円をAの借金に充当するつもりであることを知っていた。
90
91
92 7.平成24年3月1日,
93 CはAの同意を得てDと婚姻し,
94 新婚旅行に出発したが,
95 同月5日,
96
97 Cは,
98 新婚旅行先で海水浴中の事故により死亡した。
99
100 Cの相続人はA及びDの2人である。
101
102
103 8.平成24年3月15日,
104 Eは,
105 450万円の現金を調達できたことから,
106 Aにその旨連絡し,
107
108 代金の支払と引換えに甲土地の所有権移転登記手続をするよう求めた。
109
110 ところが,
111 Aは,
112 甲土
113 地の地価が急騰したことから,
114 甲土地を売却するのが惜しくなり,
115 Eの請求に応じなかった。
116
117
118 9.平成24年3月20日,
119 Eは,
120 乙土地の地価も急騰したことから,
121 乙土地を売却しようと考
122 え,
123 乙土地の売却の媒介を仲介業者に依頼した。
124
125 その頃,
126 Fは,
127 自宅建物を建設するための敷
128 地を探していたが,
129 購読している新聞の折り込みチラシに乙土地が紹介されていたことから,
130
131 仲介業者に問い合わせた。
132
133 その後,
134 現地を見たFは,
135 乙土地を気に入り,
136 Eと面識はなかった
137 ものの,
138 Eから乙土地を購入することを決めた。
139
140
141 10.平成24年3月30日,
142 Eは,
143 Fとの間で,
144 乙土地の売買契約を締結し,
145 FはEに乙土地の
146 代金として750万円を支払い,
147 EからFへの乙土地の所有権移転登記がされた。
148
149
150 11.その後,
151 Fは,
152 乙土地上に丙建物を建築し,
153 平成24年10月10日から丙建物での居住を
154 開始した。
155
156
157 12.平成25年3月5日,
158 Dは,
159 Cの一周忌の法要の席上において,
160 Aに対し,
161 Cの遺産につい
162 て尋ねたが,
163 AはDの質問を無視した。
164
165 その後も,
166 AはDからの電話の着信や郵便物の受領を
167 全て無視している。
168
169
170 13.平成25年4月15日,
171 Dは,
172 Cの遺産に関する自らの疑問を解消したいと考え,
173 弁護士に
174 - 2 -
175
176 調査を依頼した。
177
178
179 14.平成25年5月25日,
180 Dは,
181 【事実】13の調査を依頼した弁護士の報告により,
182 【事実】2
183 から11までを知った。
184
185
186 15.平成25年6月30日,
187 Eは,
188 弁護士を通じて,
189 A及びDに対し,
190 代金を支払うので甲土地
191 の所有権移転登記手続をするよう求めたが,
192 拒絶された。
193
194 そこで,
195 Eは,
196 甲土地の売買代金全
197 額を供託した。
198
199
200 〔設問1〕 【事実】1から15までを前提として,
201 以下の及びに答えなさい。
202
203
204
205
206 Eは,
207 A及びDに対し,
208 甲土地の所有権移転登記手続の請求をすることができるか。
209
210 Eの請求
211 の根拠を説明し,
212 その請求の当否を論じなさい。
213
214
215
216
217
218 Dは,
219 Fに対し,
220 乙土地及び丙建物に関しどのような請求をすることができるか。
221
222 Dの請求の
223 根拠及び内容を説明し,
224 その請求の当否を論じなさい。
225
226 なお,
227 DのFに対する金銭請求について
228 は,
229 検討を要しない。
230
231
232
233 U
234
235 【事実】1から15までに加え,
236 以下の【事実】16から27までの経緯があった。
237
238
239
240 【事実】
241 16.Eは,
242 その飲食業に関し借金を負っていたところ,
243 平成26年に入ってから,
244 事業の借金の
245 返済に充てる資金をGの主宰する賭博で得ようと考え,
246 懇意にしている仕入先のHに頼み込ん
247 で,
248 賭博に使うつもりであることを打ち明けて,
249 500万円を借り受けることにした。
250
251
252 17.Eは,
253 さらに,
254 同様の目的を有しつつも,
255 賭博に使うつもりであることを打ち明けずに,
256
257 人Kから500万円を借り受けようと考えた。
258
259
260 18.平成26年3月1日,
261 Eは,
262 叔父Lに,
263 「事業の建て直しに必要な資金の融資をHとKから
264 受けるに当たって保証人が必要だが,
265 叔父さん以外に頼れる人がいない。
266
267 」と述べて,
268 HとK
269 に対する貸金債務の連帯保証人になってもらうことの同意を得た。
270
271 Lは,
272 Eの事業がうまくい
273 っていないことを知っていたが,
274 Eが借りた金を賭博に使うつもりであることは知らなかった。
275
276
277 19.平成26年4月1日,
278 Eは,
279 Hから,
280 返済期日を平成27年3月31日,
281 利息を年15%,
282
283 遅延損害金を年21.9%として,
284 500万円を借り受け,
285 LがEの債務を連帯保証する旨の
286 契約書がE,
287 H及びLの3人の間で作成され,
288 同日,
289 HからEに500万円が交付された。
290
291
292 20.平成26年4月15日,
293 Eは,
294 Kから,
295 返済期日を平成27年5月30日,
296 利息を年15%,
297
298 遅延損害金を年21.9%として,
299 500万円を借り受け,
300 LがEの債務を連帯保証する旨の
301 契約書がE,
302 K及びLの3人の間で作成された。
303
304 当該契約書では,
305 500万円は,
306 平成26年
307 5月31日に,
308 KからEに交付されることになっていた。
309
310
311 21.しかし,
312 Kは,
313 Eによる借金の使途に疑問を抱き,
314 平成26年5月31日の経過後も,
315 50
316 0万円をEに交付しなかった。
317
318 また,
319 そのことは,
320 Lには知らされなかった。
321
322
323 22.平成26年8月1日,
324 急に資金繰りが悪化したHは,
325 平成26年4月1日付消費貸借契約に
326 関する債権を,
327 既発生の利息債権も含めて,
328 400万円でMに売却した。
329
330 その際,
331 HはMに対
332 して,
333 「この債権はEの事業のための融資金債権であり,
334 Eの事業の経営はやや苦しいが,
335
336 は弁済に足る資産を有している。
337
338 」と説明し,
339 Mもその説明を信じた。
340
341
342 23.平成26年8月5日,
343 EはHから,
344 「あなたに対する債権をMに譲渡しました。
345
346 承諾書を同
347 封したのでそれに署名押印して返送してください。
348
349 」と書かれた手紙を受け取ったので,
350 Eは
351 Hの指示に従い,
352
353 「私は,
354 平成26年4月1日付消費貸借契約に基づくHの私に対する債権を,
355
356 平成26年8月1日付譲渡契約によってHがMに対して譲渡したことを承諾します。
357
358 」とだけ
359 記載された書面に署名押印し,
360 内容証明郵便でそれをHに返送した。
361
362 その書面は,
363 同月7日に
364 Hに配達された後,
365 同月10日,
366 HからMに交付され,
367 MからHに代金400万円が支払われ
368 た。
369
370 Lは,
371 この債権譲渡について,
372 E及びHから何も知らされていなかった。
373
374
375 - 3 -
376
377 24.平成26年10月頃,
378 Hは,
379 更に資金繰りが悪化し資産も尽きたので,
380 多額の債務を抱えた
381 まま夜逃げをした。
382
383 それ以降,
384 Hの所在は不明である。
385
386
387 25.平成27年6月1日,
388 Kは,
389 Lに対し,
390 Eに500万円を交付していなかったが,
391 平成26
392 年4月15日付契約書があることを奇貨として,
393 Lに連帯保証債務の履行を請求した。
394
395 Lが直
396 ちにEに照会したところ,
397 Eは,
398 間違えて,
399 「事業はうまくいっておらず,
400 Kに対する債務は
401 利息を含め1円も支払っていない。
402
403 」と説明した。
404
405 LはEに対し,
406 「仕方がないので連帯保証債
407 務を履行する。
408
409 」と述べた。
410
411
412 26.平成27年6月29日,
413 Lは,
414 Kに対し,
415 連帯保証債務の履行として,
416 合計584万円を支
417 払った。
418
419 584万円の内訳は,
420 元本が500万円,
421 利息が75万円,
422 遅延損害金が9万円であ
423 る(利息75万円=元本500万円×利率年15%×1年,
424 遅延損害金9万円=元本500万
425 円×利率年21.9%×30日/365日)。
426
427
428 27.平成27年7月末になったが,
429 Eは,
430 Hに対しても,
431 Mに対しても,
432 利息を含め1円も支払
433 っていない。
434
435
436 〔設問2〕 【事実】1から27までを前提として,
437 以下のからまでに答えなさい。
438
439
440
441
442 Mは,
443 Eに対して,
444 契約上の債権に基づき,
445 500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支
446 払を請求することができるか。
447
448 Mの請求の根拠及び内容を説明し,
449 その請求の当否を論じなさい。
450
451
452
453
454
455 Mは,
456 Eに対して,
457 法定債権に基づき,
458 500万円とそれに対する利息や遅延損害金の支払を
459 請求することができるか。
460
461 Mの請求の根拠及び内容を説明し,
462 その請求の当否を論じなさい。
463
464
465
466
467
468 Lは,
469 Eに対して584万円の支払を請求することができるか。
470
471 Lの請求の根拠を説明し,
472
473 の請求の当否を論じなさい。
474
475 なお,
476 不法行為に基づく請求については,
477 検討を要しない。
478
479
480
481 - 4 -
482
483 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
484
485 - 1 -
486
487 [民事系科目]
488 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
489 3.5:3:3.5〕)
490 次の文章を読んで,
491 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
492
493
494 1.甲株式会社(以下「甲社」という。
495
496 )は,
497 取締役会及び監査役を置いている。
498
499 甲社の定款には
500 取締役は3名以上とする旨の定めがあるところ,
501 A,
502 Bほか4名の計6名が取締役として選任
503 され,
504 Aが代表取締役社長として,
505 Bが代表取締役専務として,
506 それぞれ選定されている。
507
508
509 た,
510 甲社の定款には,
511 取締役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のもの
512 に関する定時株主総会の終結の時までとする旨の定めがある。
513
514 甲社の監査役は,
515 1名である。
516
517
518 甲社は種類株式発行会社ではなく,
519 その定款には,
520 譲渡による甲社の株式の取得について取締
521 役会の承認を要する旨の定めがある。
522
523 甲社の発行済株式及び総株主の議決権のいずれも,
524 25
525 %はAが,
526 20%はBが,
527 それぞれ保有している。
528
529
530 2.甲社は建設業を営んでいたが,
531 甲社においては,
532 Aが事業の拡大のために海外展開を行う旨
533 を主張する一方で,
534 Bが事業の海外展開を行うリスクを懸念し,
535 Aの主張に反対しており,
536
537 とBが次第に対立を深めていった。
538
539 Aは,
540 事業の海外展開を行うために必要かつ十分な調査を
541 行い,
542 その調査結果に基づき,
543 事業の海外展開を行うリスクも適切に評価して,
544 取締役会にお
545 いて,
546 事業の拡大のために海外展開を行う旨の議案を提出した。
547
548 この議案については,
549 Bが反
550 対したものの,
551 賛成多数により可決された。
552
553
554 甲社はこの取締役会の決定に基づき事業の海外展開をしたが,
555 この海外事業は売上げが伸びず
556 に低迷し,
557 甲社は3年余りでこの海外事業から撤退した。
558
559
560 3.この間にAと更に対立を深めていたBは,
561 取締役会においてAを代表取締役から解職するこ
562 とを企て,
563 Aには内密に,
564 Aの解職に賛成するように他の取締役に根回しをし,
565 Bを含めてA
566 の解職に賛成する取締役を3名確保することができた。
567
568 甲社の取締役会を招集する取締役につ
569 いては定款及び取締役会のいずれでも定められていなかったことから,
570 Bは,
571 Aの海外出張中
572 を見計らって臨時取締役会を開催し,
573 Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出することと
574 した。
575
576
577 4.Bは,
578 Aが海外出張に出発したことから,
579 臨時取締役会の日の1週間前にAを除く各取締役
580 及び監査役に対して取締役会の招集通知を発した。
581
582 この招集通知には,
583 取締役会の日時及び場
584 所については記載されていたが,
585 取締役会の目的である事項については記載されていなかった。
586
587
588 Aの海外出張中に,
589 Aを除く各取締役及び監査役が出席し,
590 臨時取締役会が開催された。
591
592 Bは,
593
594 この臨時取締役会において,
595 議長に選任され,
596 Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出し
597 た。
598
599 この議案については,
600 賛成3名,
601 反対2名の賛成多数により可決された。
602
603
604 5.Aが,
605 海外出張から帰国し,
606 Aを代表取締役から解職する旨の臨時取締役会の決議の効力を
607 強硬に争っていたところ,
608 臨時取締役会の決議においてAの解職に反対した取締役のうちの一
609 人が,
610 甲社の内紛に嫌気がさし,
611 取締役を辞任した。
612
613 そこで,
614 Bは,
615 各取締役及び監査役の全
616 員が出席する定例取締役会であっても,
617 Aの解職の決議をすることができる状況にあると考え,
618
619 解職を争っていたAを含む各取締役及び監査役の全員が出席した定例取締役会において,
620 念の
621 ため,
622 再度,
623 Aを代表取締役から解職する旨の議案を提出した。
624
625 この議案については,
626 賛成多
627 数により可決された。
628
629 また,
630 甲社においては,
631 取締役の報酬等の額について,
632 株主総会の決議
633 によって定められた報酬等の総額の最高限度額の範囲内で,
634 取締役会の決議によって役職ごと
635 に一定額が定められ,
636 これに従った運用がされていた。
637
638 この運用に従えば,
639 Aの報酬の額は,
640
641 月額50万円となるところ,
642 Bは,
643 この定例取締役会において,
644 Aの解職に関する議案に続け
645 て,
646 解職されたAの報酬の額を従前の代表取締役としての月額150万円から月額20万円に
647 減額する旨の議案も提出した。
648
649 この議案についても,
650 賛成多数により可決された。
651
652 この定例取
653
654 - 2 -
655
656 締役会において,
657 BがAの後任の代表取締役社長として選定された。
658
659
660 〔設問1〕
661
662
663 Aを代表取締役から解職する旨の上記4の臨時取締役会の決議の効力について,
664 論じなさい。
665
666
667
668
669
670 Aの報酬の額を減額する旨の上記5の定例取締役会の決議の後,
671 Aは,
672 甲社に対し,
673 月額幾
674 らの報酬を請求することができるかについて,
675 論じなさい。
676
677 なお,
678 Aが代表取締役から解職
679 されたことを前提とする。
680
681
682
683 6.代表取締役から解職されたAは,
684 甲社の株主として,
685 定時株主総会において,
686 Aの解職に賛
687 成したBら3名を取締役から解任しようと考え,
688 Bら3名の取締役の解任及びその後任の取締
689 役の選任をいずれも株主総会の目的とすることを請求するとともに,
690 これらに関する議案の要
691 領をいずれも定時株主総会の招集通知に記載するように請求した。
692
693
694 甲社の定時株主総会の招集通知には,
695 会社提案として,
696 海外事業の失敗を理由とするAの取締
697 役の解任に関する議案が,
698 Aの株主提案として,
699 上記Bら3名の取締役の解任に関する議案及
700 びその後任の取締役の選任に関する議案が,
701 それぞれ記載されていた。
702
703
704 7.甲社の定時株主総会においては,
705 Aの取締役の解任に関する議案は可決され,
706 上記Bら3名
707 の取締役の解任に関する議案及びその後任の取締役の選任に関する議案はいずれも否決された。
708
709
710 なお,
711 Aの取締役としての任期は,
712 8年残っていた。
713
714
715 〔設問2〕
716
717
718 上記7の定時株主総会において取締役から解任されたAが,
719 甲社に対し,
720 解任が不当である
721 と主張し,
722 損害賠償請求をした場合における甲社のAに対する会社法上の損害賠償責任につ
723 いて,
724 論じなさい。
725
726
727
728
729
730 仮に,
731 上記6の定時株主総会の招集通知が発せられた後,
732 Aが多額の会社資金を流用してい
733 たことが明らかとなったことから,
734 Aが,
735 Aの取締役の解任に関する議案が可決されること
736 を恐れ,
737 旧知の仲である甲社の株主数名に対し,
738 定時株主総会を欠席するように要請し,
739
740 の結果,
741 定時株主総会が,
742 定足数を満たさず,
743 流会となったとする。
744
745 この場合において,
746 @
747 Bが,
748 甲社の株主として,
749 訴えをもってAの取締役の解任を請求する際の手続について,
750
751 明した上で,
752 Aこの訴えに関して考えられる会社法上の問題点について,
753 論じなさい。
754
755
756
757 8.甲社は,
758 内紛が解決した後,
759 順調に業績が伸び,
760 複数回の組織再編を経て,
761 会社法上の公開
762 会社となり,
763 金融商品取引所にその発行する株式を上場した。
764
765 現在,
766 甲社の資本金の額は20
767 億円で,
768 従業員数は3000名を超え,
769 甲社は監査役会及び会計監査人を置いており,
770 Cが代
771 表取締役社長を,
772 Dが取締役副社長を,
773 それぞれ務めている。
774
775
776 9.甲社の取締役会は「内部統制システム構築の基本方針」を決定しており,
777 甲社は,
778 これに従
779 い,
780 法務・コンプライアンス部門を設け,
781 Dが同部門を担当している。
782
783 また,
784 甲社は,
785 内部通
786 報制度を設けたり,
787 役員及び従業員向けのコンプライアンス研修を定期的に実施するなどして,
788
789 法令遵守に向けた取組を実施している。
790
791 さらに,
792 甲社は,
793 現在,
794 総合建設業を営んでいるとこ
795 ろ,
796 下請業者との癒着を防止するため,
797 同規模かつ同業種の上場会社と同等の社内規則を制定
798 しており,
799 これに従った体制を整備し,
800 運用している。
801
802
803 10.甲社の内部通報制度の担当者は,
804 平成27年3月末に,
805 甲社の営業部長を務めるEが下請業
806 者である乙株式会社(以下「乙社」という。
807
808 )の代表取締役を務めるFと謀り,
809 甲社が乙社に対
810 して発注した下請工事(以下「本件下請工事」という。
811
812 )の代金を水増しした上で,
813 本件下請工
814 事の代金の一部を着服しようとしているとの甲社の従業員の実名による通報(以下「本件通報」
815 という。
816
817 )があった旨をDに報告した。
818
819 ところが,
820 その報告を受けたDは,
821 これまで,
822 甲社にお
823
824 - 3 -
825
826 いて,
827 そのような不正行為が生じたことがなかったこと,
828 会計監査人からもそのような不正行
829 為をうかがわせる指摘を受けたことがなかったこと,
830 EがDの後任の営業部長であり,
831 かつて
832 直属の部下であったEに信頼を置いていたことから,
833 本件通報には信ぴょう性がないと考え,
834
835 本件下請工事や本件通報については,
836 法務・コンプライアンス部門に対して調査を指示せず,
837
838 Cを含む他の取締役及び監査役にも知らせなかった。
839
840
841 11.甲社の内部通報制度の担当者は,
842 その後,
843 Dから,
844 法務・コンプライアンス部門に対し,
845
846 件下請工事や本件通報についての調査の指示がなかったことから,
847 平成27年5月に,
848 本件通
849 報があった旨をCにも報告した。
850
851 その報告を受けたCは,
852 直ちに,
853 本件下請工事や本件通報に
854 ついて,
855 法務・コンプライアンス部門に対して調査を指示した。
856
857
858 12.甲社の法務・コンプライアンス部門が調査をした結果,
859 2週間程度で,
860 以下のとおり,
861 Eと
862 Fが謀り,
863 本件下請工事について不正行為をしていたことが判明した。
864
865
866
867
868 EとFは,
869 本件下請工事について,
870 合理的な代金が1億5000万円であることを理解して
871 いたにもかかわらず,
872 代金を5000万円水増しして,
873 2億円と偽り,
874 水増しした5000
875 万円を後に二人で着服することをあらかじめ合意していた。
876
877
878
879
880
881 甲社の社内規則上,
882 甲社が発注する下請工事の代金が1億円以上となると,
883 複数社から見積
884 りを取得する必要が生じることから,
885 Eが,
886 Fに対し,
887 本件下請工事について,
888 形式上,
889
890 事を三つに分割して見積書を3通作成することを指示し,
891 乙社は,
892 @第一工事の代金を80
893 00万円,
894 A第二工事の代金を5000万円,
895 B第三工事の代金を7000万円として,
896
897 件下請工事について代金が合計2億円となるように3通の見積書を作成し,
898 甲社に提出した。
899
900
901
902
903
904 Eは,
905 甲社の関係部署を巧妙に欺き,
906 3通の見積書がそれぞれ別工事に関わるものであると
907 誤信させた。
908
909 これにより,
910 甲社は,
911 平成26年9月に,
912 乙社との間で,
913 上記の各見積書に基
914 づき3通の注文書と注文請書を取り交わした上で,
915 以後,
916 乙社に対し,
917 毎月末の出来高に応
918 じて翌月末に本件下請工事の代金を支払っていった。
919
920
921
922
923
924 甲社は,
925 本件下請工事が完成したことから,
926 乙社に対し,
927 平成27年4月末に残金合計30
928 00万円を支払い,
929 その後,
930 EとFが,
931 甲社が乙社に対して支払った本件下請工事の代金か
932 ら5000万円を着服した。
933
934
935
936
937
938 甲社の会計監査人は,
939 平成27年1月に,
940 乙社に対し,
941 甲社の平成26年12月期の事業年
942 度の計算書類及びその附属明細書等の監査のために,
943 本件下請工事の代金の残高についての
944 照会書面を直接郵送し,
945 回答書面の直接返送を求める方法で監査を行ったが,
946 Eは,
947 Fに対
948 し,
949 回答書面にEが指定した金額を記載して返送するように指示をするなど,
950 不正が発覚す
951 ることを防止するための偽装工作を行っていた。
952
953
954
955 〔設問3〕
956
957 上記8から12までを前提として,
958 @Cの甲社に対する会社法上の損害賠償責任及び
959
960 ADの甲社に対する会社法上の損害賠償責任について,
961 それぞれ論じなさい。
962
963
964
965 - 4 -
966
967 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
968
969 - 1 -
970
971 [民事系科目]
972 〔第3問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,
973 3:3:4〕)
974 次の文章を読んで,
975 後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
976
977
978 【事
979
980 例】
981 Xは,
982 設立後約30年が経つ「甲街振興会」という名称の法人格を取得していない団体であり,
983
984 その代表者である会長は甲街の有力者であるZが務めていた。
985
986 Xには規約が定められており,
987
988 街で事業を営む者が,
989 Xに書面で加入申請をすれば,
990 Xの会員となるとされている。
991
992 会員数は近
993 年は100名程度で推移しており,
994 会員名簿は毎年作成されているが,
995 団体の運営に実質的な関
996 心のない者も少なくない。
997
998 総会員で構成する総会(定足数は総会員の過半数)があるほか,
999 役員
1000 として,
1001 会長1名,
1002 副会長1名,
1003 監事2名が置かれている。
1004
1005 役員は総会で選任され,
1006 会長がXを
1007 代表する権限を有するが,
1008 不動産など重要な財産の処分については総会の承認決議が必要とされ,
1009
1010 出席者の3分の2以上の賛成が必要となる。
1011
1012
1013 Xには,
1014 唯一の不動産として,
1015 Xの事務所として使用されている建物及びその敷地である土地
1016 (以下「本件不動産」という。
1017
1018 )があるとされていた。
1019
1020 これは,
1021 Xの活動が軌道に乗った頃,
1022
1023 長であるZがAとの間で売買契約を締結して購入したものであるが,
1024 Zは,
1025 「これはXのために
1026 購入したものであり,
1027 以後,
1028 本件不動産はXの事務所として使用する。
1029
1030 」と公言していた。
1031
1032 実際
1033 に,
1034 本件不動産はXの資産としてXの財産目録には計上されていたが,
1035 登記は代表者であるZの
1036 名義とされていた。
1037
1038 本件不動産の固定資産税はZが納付していたが,
1039 Xは納税相当額をZに償還
1040 していた。
1041
1042
1043 近年になり,
1044 長らくXの会長を務めていたZが高齢になってきたため,
1045 Xの内部においては,
1046
1047 そろそろ会長を副会長であるBに交代すべきであると主張する勢力が台頭しつつあった。
1048
1049
1050 そのような中,
1051 本件不動産についてYを抵当権者とする抵当権設定登記がされていることが判
1052 明した。
1053
1054 Bが調査をしたところによると,
1055 この抵当権は,
1056 Zの子であるCに対する貸金3000
1057 万円を被担保債権とするものであり,
1058 Cは貸金債務の返済をしばしば遅滞していて,
1059 なお200
1060 0万円以上の債務が残存していることが分かった。
1061
1062 そこで,
1063 Bは,
1064 Zに対して経緯の説明を求め
1065 た。
1066
1067 これに対し,
1068 Zは,
1069 本件不動産はXの事務所として使用するために購入したものではあるが,
1070
1071 飽くまでも,
1072 事務所として利用させることだけが目的であり,
1073 その所有権はZ個人にあると主張
1074 した。
1075
1076 さらに,
1077 一時期Cが貸金債務の返済を滞らせていたことがあるが,
1078 もう心配はないし,
1079
1080 後とも本件不動産をXに使用させるつもりであると説明した。
1081
1082
1083 しかし,
1084 Bの調査によれば,
1085 Zの説明とは異なって,
1086 Cはその事業が行き詰まっているため,
1087
1088 倒産しかねない状況にあるとの風評が立っており,
1089 ZがCを経済的に支えることも困難であろう
1090 と見込まれていた。
1091
1092
1093 また,
1094 Bとしては,
1095 Zから何度となく本件不動産はXのために購入したものであると聞かされ
1096 ていたし,
1097 そのようなZの貢献が会員に評価されていたからこそ,
1098 Zは長年にわたり会長を務め
1099 ることになったのであるから,
1100 本件不動産はXがAから購入したものであって,
1101 Zの所有であっ
1102 たと認めることはできないし,
1103 今後の活動資金の確保の観点からも,
1104 本件不動産はXにとって極
1105 めて重要な財産であり,
1106 何としても,
1107 Yの抵当権設定登記を抹消しなければならないと考えた。
1108
1109
1110 そこで,
1111 Bは,
1112 Xの規約によれば,
1113 会長は「職務上の義務に違反し,
1114 又は職務を怠ったとき」
1115 には総会の決議によって解任することができるとされていることを確認した上で,
1116 規約に基づき
1117 臨時総会を開催し,
1118 Zの解任議案及びBの会長選任議案を提出した。
1119
1120
1121 臨時総会の開催や運営に当たっては,
1122 Zやその支援者らの強い抵抗があったものの,
1123 両議案は
1124 いずれも賛成多数で可決された。
1125
1126
1127 そこで,
1128 新たに会長に選任されたBは,
1129 本件不動産の問題を解決するため,
1130 知り合いの弁護士
1131 - 2 -
1132
1133 であるL1に相談した。
1134
1135
1136 以下は,
1137 Bから依頼を受けた弁護士L1と司法修習生P1との間の会話である。
1138
1139
1140 L1:Bから事情を聞きましたが,
1141 Yに対しては,
1142 抵当権設定登記の抹消登記手続請求と総有
1143 権確認請求をすることになりそうですね。
1144
1145 Zに対しても訴えを提起する必要があるかどうか
1146 は,
1147 もう少しZの動向を見てから決めたいというのがBの意向のようですから,
1148 まずは,
1149
1150 を被告として,
1151 どのような訴え提起の方法が考えられるかを検討してみましょう。
1152
1153
1154 P1:Xは,
1155 権利能力のない社団とされる要件を満たしているといえそうですから,
1156 民事訴訟
1157 法第29条が適用され,
1158 当事者能力が認められるので,
1159 X自身が原告となってYに対する訴
1160 えを提起することができると思います。
1161
1162 その先は,
1163 登記手続請求訴訟になると,
1164 十分に勉強
1165 が進んでいませんので,
1166 よく分からないのですが。
1167
1168
1169 L1:差し当たり,
1170 議論を単純化するために登記請求については考えることとせず,
1171 総有権確
1172 認請求訴訟を前提として議論しましょう。
1173
1174
1175 P1:総有権確認請求訴訟の提起ということになると,
1176 最高裁判所平成6年5月31日第三小
1177 法廷判決・民集48巻4号1065頁によれば,
1178 権利能力のない社団が原告となり,
1179 その代
1180 表者が不動産についての総有権確認請求訴訟を追行するには,
1181 その規約等において当該不動
1182 産を処分するのに必要とされる総会の議決等の手続による授権を要するとされています。
1183
1184
1185 たがって,
1186 本件不動産の総有権の確認を求めるためには,
1187 少なくとも,
1188 重要な財産の処分に
1189 ついての承認決議に必要な総会の出席者の3分の2以上の賛成に基づく授権が必要というこ
1190 とになりそうです。
1191
1192
1193 L1:そうですね。
1194
1195 ただ,
1196 Zの立場を支持する勢力もなお有力のようで,
1197 今後の動向によって
1198 は,
1199 3分の2以上の賛成を得ることは簡単ではないかもしれません。
1200
1201 3分の2以上の賛成を
1202 得ることができないことも想定すると,
1203 他にどのような方法が考えられますか。
1204
1205
1206 P1:その場合には,
1207 一般的には,
1208 構成員全員が原告となって訴えを提起することになるので
1209 はないでしょうか。
1210
1211
1212 L1:しかし,
1213 本件では,
1214 構成員の中にはZやその支持勢力がおり,
1215 彼らは訴えの提起に反対
1216 するかもしれません。
1217
1218 そういった場合には,
1219 どのような対応策が考えられるか,
1220 検討する必
1221 要がありますね。
1222
1223
1224 そこで,
1225 まずは,
1226 X自体を当事者とせずXの構成員がYに対して総有権の確認を求めるに
1227 は,
1228 原則としてその全員が原告とならなければならないとされる理由について整理してくだ
1229 さい。
1230
1231
1232 その上で,
1233 構成員の中に訴えの提起に反対する者がいた場合の対応策について検討してく
1234 ださい。
1235
1236
1237 さらに,
1238 訴訟係属後に甲街で事業を開始して新たに構成員となる者が現れる可能性があり
1239 ます。
1240
1241 そこで,
1242 この場合の訴訟上の問題点について,
1243 まとめてみてください。
1244
1245 その際は,
1246
1247 の者がBに同調する場合としない場合とが考えられることを考慮してください。
1248
1249
1250 〔設問1〕
1251 あなたが司法修習生P1であるとして,
1252 L1から与えられた課題に答えなさい。
1253
1254
1255 【事
1256
1257 例(続き)】
1258 BとL1は,
1259 検討を重ねた結果,
1260 Xを原告,
1261 YとZを被告として総有権確認請求の訴えを提起
1262 することとし,
1263 それと併せて登記手続請求の訴えも提起するとの結論に至った。
1264
1265 そこで,
1266 本件不
1267 動産はXの構成員の総有に属するとして,
1268 Xを原告とし,
1269 YとZとを共同被告として,
1270 本件不動
1271 産の総有権確認請求の訴えを提起し,
1272 併せてYに対しては抵当権設定登記の抹消登記手続請求の
1273 - 3 -
1274
1275 訴えを,
1276 Zに対してはZから現在の代表者であるBへの所有権移転登記手続請求の訴えを提起し
1277 た。
1278
1279 なお,
1280 Bは,
1281 他の会員を説得し,
1282 事前にこれらの訴え(以下,
1283 これらの訴えに係る訴訟を「第
1284 1訴訟」という。
1285
1286 )の提起のために必要となる総会の承認決議を得た。
1287
1288
1289 以下は,
1290 このような経緯で訴えを提起されたZから訴訟委任を受けた弁護士L2と司法修習生
1291 P2との間でされた会話である。
1292
1293 なお,
1294 Xが原告となって登記手続請求の訴えを提起することの
1295 当否について検討する必要はない。
1296
1297
1298 L2:Zは,
1299 そもそも,
1300 Z自身がXの会長の地位にあるのに,
1301 Bが会長であるかのように行動
1302 していることに不満があるようです。
1303
1304 自らがXの会長の地位にあることを裁判で認めてもら
1305 いたいという要望は何とかして受け止めてあげたいですね。
1306
1307 第1訴訟において,
1308 Bを代表者
1309 として提起された訴えの適法性自体を争い,
1310 却下判決を求めることは当然ですが,
1311 それに加
1312 えて,
1313 第1訴訟の中で,
1314 自らが会長の地位にあることや解任決議が無効であることを確定さ
1315 せる判決を得ることができないかも検討した方がいいでしょう。
1316
1317
1318 もっとも,
1319 X内部での会長の選解任がいかなる場合に無効となるのかという実体的な問題
1320 については,
1321 ひとまず,
1322 解任事由が存在しないというZの言い分どおりの事実が認められれ
1323 ば,
1324 解任決議は無効となり,
1325 そうであるとすれば,
1326 規約上1名に限られる会長が既に存在す
1327 る状況でされた新会長の選任決議も無効となる,
1328 という前提で検討を進めてみてください。
1329
1330
1331 P2:分かりました。
1332
1333 Zとしては,
1334 Zの解任決議が無効であること,
1335 及びZがXの会長の地位
1336 にあることの確認を求める訴えを提起することが考えられ,
1337 その場合,
1338 Xを被告とすること
1339 が適当であると思います。
1340
1341 そして,
1342 第1訴訟の中で,
1343 Zが会長の地位にあり,
1344 自らの解任決
1345 議は無効であることを主張するわけですから,
1346 反訴として提起することが簡便だと思います。
1347
1348
1349 L2:そうですね。
1350
1351 Zが,
1352 第1訴訟においてXを被告として反訴を提起するという前提で検討
1353 しましょうか。
1354
1355 それから,
1356 Zの提起する反訴において,
1357 会長としての地位が争われることに
1358 なるBがXの代表者として訴訟を追行することを認めてよいかという問題もありそうです
1359 が,
1360 差し当たり,
1361 この点は検討の対象から除外します。
1362
1363
1364 P2:分かりました。
1365
1366
1367 L2:検討をするに当たって1点確認をしておきたいのですが,
1368 本案の前提として判断される
1369 手続的事項については,
1370 独自の訴えの利益は認められないという考え方を聞いたことはあり
1371 ませんか。
1372
1373
1374 P2:はい。
1375
1376 そう言えば,
1377 最高裁判所昭和28年12月24日第一小法廷判決・民集7巻13
1378 号1644頁も,
1379 訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法としていたと思い
1380 ます。
1381
1382 本件では,
1383 会長の地位にあるかどうかが争われているので,
1384 利益状況は似ているよう
1385 にも思います。
1386
1387 Zが提起する反訴も却下されてしまう可能性があるのでしょうか。
1388
1389
1390 L2:少なくとも,
1391 そういう反論に備えておく必要はあるでしょうね。
1392
1393 以上のことを踏まえた
1394 上で,
1395 Zが解任決議が無効であることやZがXの会長の地位にあることを確認する訴えを提
1396 起することについて訴えの利益が認められるという理由付けを具体的にまとめてみてくださ
1397 い。
1398
1399 それから,
1400 反訴として提起するということですから,
1401 民事訴訟法第146条第1項所定
1402 の要件についての検討も念のために行っておいてください。
1403
1404
1405 〔設問2〕
1406 あなたが司法修習生P2であるとして,
1407 L2から与えられた課題に答えなさい。
1408
1409
1410 【事
1411
1412 例(続き)】
1413 第1訴訟について審理がされた結果,
1414 XのYとZに対する請求はいずれも認容され,
1415 判決(以
1416 下「前訴判決」という。
1417
1418 )は確定した。
1419
1420 前訴判決の確定を受け,
1421 Yは,
1422 本件不動産について設定
1423 - 4 -
1424
1425 を受けていた抵当権は無効であり,
1426 損害を被ったなどとして,
1427 Zに対して,
1428 債務不履行に基づく
1429 損害賠償を求める訴えを提起した。
1430
1431 この訴訟(以下「第2訴訟」という。
1432
1433 )において,
1434 Zは,
1435 「A
1436 から本件不動産を買い受けたのは自分であり,
1437 抵当権設定契約時にも本件不動産を所有していた
1438 からYに対しても抵当権を有効に設定していて,
1439 登記も具備させたのであるから,
1440 債務不履行は
1441 ない。
1442
1443 」と主張した。
1444
1445
1446 これに対し,
1447 Yは,
1448 「前訴判決において本件不動産がXの構成員の総有に属することが確認さ
1449 れた以上,
1450 Zは,
1451 本件不動産はXの構成員の総有に属さず,
1452 Zの個人財産に属したと主張して損
1453 害賠償責任を免れることはできない,
1454 そうでなければ,
1455 Yは,
1456 第1訴訟においては本件不動産は
1457 Xの構成員の総有に属するという理由で敗訴し,
1458 他方,
1459 第2訴訟においては本件不動産はZの個
1460 人財産に属するという相矛盾する理由によって二重に敗訴する危険を負うことになってしまい,
1461
1462 不当である。
1463
1464 」と主張した。
1465
1466
1467 以下は,
1468 第2訴訟の審理を担当する裁判官Jと司法修習生P3との間でされた会話である。
1469
1470
1471 J:本件はいろいろと問題がありそうですね。
1472
1473 本件では,
1474 YはZに対して不法行為ではなく,
1475
1476 債務不履行に基づいて損害賠償請求をしていますね。
1477
1478 そもそも,
1479 本件のような事案において,
1480
1481 債務不履行に基づく損害賠償請求が実体法上可能か否か等についても学説は分かれているよ
1482 うですが,
1483 私としては,
1484 抵当権設定契約の時において設定者が抵当権の目的物の所有権を有
1485 していなければ有効な抵当権を設定できず,
1486 その場合には,
1487 設定者は抵当権設定契約に基づ
1488 く債務不履行責任を負うと理解したいと考えています。
1489
1490 以下では,
1491 この理解を前提に民事訴
1492 訟法上の問題について検討してもらいます。
1493
1494 相矛盾する理由によって二重に敗訴する危険を
1495 負わされるのは不当であるというYの主張は,
1496 既判力と関係しそうですから,
1497 裁判所の方で
1498 よく検討をしておかないといけませんね。
1499
1500 前訴判決の既判力によってこの問題を解決するこ
1501 とができるかどうかについては,
1502 どう考えますか。
1503
1504
1505 P3:本件の事実関係を前提とすると,
1506 前訴判決のうちXのYに対する総有権確認請求につい
1507 てされた部分の効力がXの構成員の一人であるZにも及んでいると解する余地があるのでは
1508 ないでしょうか。
1509
1510
1511 J:なるほど。
1512
1513 @権利能力のない社団が当事者として受けた判決の効力は,
1514 当該社団の構成員
1515 全員に対して及ぶと述べる最高裁判所平成6年5月31日第三小法廷判決・民集48巻4号
1516 1065頁があることは承知していますが,
1517 それを本件において援用することが適切かとい
1518 う点については,
1519 具体的に検討してみる必要があると思います。
1520
1521
1522 P3:他方で,
1523 仮に前訴判決の既判力がZに及ぶことになるとしても,
1524 それが第2訴訟におい
1525 てどのような意味を持つのか,
1526 今一つはっきりしないような気がします。
1527
1528
1529 J:A確かに,
1530 本件不動産がXの構成員の総有に属していればZの所有には属しないというこ
1531 とは,
1532 一物一権主義から当然にいえそうではありますが,
1533 しかし,
1534 前訴判決の既判力がいつ
1535 の時点における権利関係の存否について生じているのかということとの関係で,
1536 第2訴訟に
1537 おけるYとZの主張の対立点に関して前訴判決の既判力が作用し得るのかは,
1538 私も少し引っ
1539 かかっているところなので,
1540 具体的に検討してみてください。
1541
1542
1543 P3:既判力に基づく説明以外の説明によってYの主張を根拠付ける余地もあるかもしれませ
1544 んが,
1545 そういった検討も必要でしょうか。
1546
1547
1548 J:Bそれも検討していただきたいですね。
1549
1550 ただ,
1551 既判力以外の根拠を用いようとする場合に
1552 は,
1553 第1訴訟の段階でYとして採るべき何らかの手段があったのであれば,
1554 それをしなかっ
1555 たYが不利益を被ってもやむを得ないという反論も出てくるかもしれません。
1556
1557 結論を限定す
1558 るわけではありませんが,
1559 第1訴訟の段階でYとして採るべき手段があったかどうかという
1560 点にも触れながら,
1561 検討してみてください。
1562
1563
1564 P3:なかなか大変な検討になりそうです。
1565
1566
1567 - 5 -
1568
1569 J:前訴判決が存在するにもかかわらず,
1570 第2訴訟において本件不動産の帰属に関して改めて
1571 審理・判断をすることができるのかを検討することが今回の課題です。
1572
1573 なお,
1574 検討事項も多
1575 いので,
1576 差し当たり,
1577 前訴判決のうち登記手続請求についてされた部分を考慮に入れる必要
1578 はありません。
1579
1580 では,
1581 頑張ってください。
1582
1583
1584 〔設問3〕
1585 あなたが司法修習生P3であるとして,
1586 下線部分@からBまでに現れたJの問題意識についての
1587 検討結果を示しつつ,
1588 Jから与えられた課題に答えなさい。
1589
1590
1591
1592 - 6 -
1593
1594