1 論文式試験問題集
2 [憲法・行政法]
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4 - 1 -
5
6 [憲
7
8 法]
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10 次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。
11 A市は,10年前に,少子化による人口減少に歯止めをかけるためA市少子化対策条例(以下
12 「本件条例」という。)を制定し,それ以降,様々な施策を講じてきた。その一つに,結婚を希望
13 する独身男女に出会いの場を提供したり,結婚相談に応じたりする事業(以下これらを「結婚支援
14 事業」という。)を行うNPO法人等に対する助成があった。しかし,A市では,近年,他市町村
15 に比べ少子化が急速に進行したため,本件条例の在り方が見直されることになった。その結果,本
16 件条例は,未婚化・晩婚化の克服と,安心して家庭や子どもを持つことができる社会の実現を目指
17 す内容に改正され,結婚支援事業を行うNPO法人等に対する助成についても,これまで十分な効
18 果を上げてこなかったことを踏まえ,成婚数を上げることを重視する方向で改められた。これに伴
19 い,助成の実施について定めるA市結婚支援事業推進補助金交付要綱も改正され,助成に際し,
20 「申請者は,法律婚が,経済的安定をもたらし,子どもを生みやすく,育てやすい環境の形成に資
21 することに鑑み,自らの活動を通じ,法律婚を積極的に推進し,成婚数を上げるよう力を尽くしま
22 す。」という書面(以下「本件誓約書」という。)を提出することが新たに義務付けられた。
23 結婚支援事業を行っているNPO法人Xは,本件条例の制定当初から助成を受けており,助成は
24 活動資金の大部分を占めていた。しかし,Xは,結婚に関する価値観は個人の自由な選択に委ねる
25 べきであるから,結婚の形にはこだわらない活動方針を採用しており,法律婚だけでなく,事実婚
26 を望む者に対しても,広く男女の出会いの場を提供し,相談に応じる事業を行っていた。このため,
27 Xは,改正後の本件条例に基づく助成の申請に際し,本件誓約書を提出できず,申請を断念したの
28 で,A市からの助成は受けられなくなった。
29 そこで,Xは,A市が助成の要件として本件誓約書を提出させることは,自らの方針に沿わない
30 見解を表明させるものであり,また,助成が受けられなくなる結果を招き,Xの活動を著しく困難
31 にさせるため,いずれも憲法上問題があるとして,訴訟を提起しようとしている。
32 〔設問〕
33 Xの立場からの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,あな
34 た自身の見解を述べなさい。なお,条例と要綱の関係及び訴訟形態の問題については論じなくて
35 よい。
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37 - 2 -
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39 [行政法]
40 株式会社X(代表取締役はA)は,Y県で飲食店Bを経営しているところ,平成28年3月1日,
41 B店において,Xの従業員Cが未成年者(20歳未満の者)であるDら4名(以下「Dら」とい
42 う。)にビールやワイン等の酒類を提供するという事件が起きた。
43 Y県公安委員会は,Xに対し,風 俗 営 業 等 の 規 制 及 び 業 務 の 適 正 化 等 に 関 す る 法 律 (以
44 下「法」という。【資料1】参照。)第34条第2項に基づく営業停止処分をするに当たり,法第
45 41条及び行政手続法所定の聴聞手続を実施した。聴聞手続においては,以下のとおりの事実が明
46 らかになった。
47 @
48
49 未成年者の飲酒に起因する事故等が社会的な問題となり,飲食店業界においても,未成年者
50 の飲酒防止のために積極的な取組が行われているところ,B店では,未成年者に酒類を提供し
51 ないよう,客に自動車運転免許証等を提示させて厳格に年齢確認を実施していた。
52
53 A
54
55 事件当日には,未成年者であるDらとその友人の成年者であるEら4名(以下「Eら」とい
56 う。)が一緒に来店したために,Cは,Dらが未成年者であることを確認した上で,Dらのグ
57 ループとEらのグループを分けて,それぞれ別のテーブルに案内した。
58
59 B
60
61 Cは,Dらのテーブルには酒類を運ばないようにしたが,二つのテーブルが隣接していた上
62 に,Cの監視が行き届かなかったこともあって,DらはEらから酒類を回してもらい,飲酒に
63 及んだ。
64
65 C
66
67 その後,B店では,このような酒類の回し飲みを防ぐために,未成年者と成年者とでフロア
68 を分けるといった対策を実施した。
69
70 聴聞手続に出頭したAも,これらの事実について,特に争うところはないと陳述した。その後,
71 聴聞手続の結果を受けて,Y県公安委員会は,法第34条第2項に基づき,Xに対し,B店に係る
72 飲食店営業の全部を3か月間停止することを命じる行政処分(以下「本件処分」という。)をした。
73 その際,本件処分に係る処分決定通知書には,「根拠法令等」として「法第32条第3項,第2
74 2条第6号違反により,法第34条第2項を適用」,「処分の内容」として「平成28年5月1日
75 から同年7月31日までの間(3か月間),B店に係る飲食店営業の全部の停止を命ずる。」,
76 「処分の理由」として,「Xは,平成28年3月1日,B店において,同店従業員Cをして,Dら
77 に対し,同人らが未成年者であることを知りながら,酒類であるビール及びワイン等を提供したも
78 のである。」と記されてあった。
79 Y県公安委員会は,「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく営業停止命令
80 等の基準」(以下「本件基準」という。【資料2】参照)を定めて公表しているところ,本件基準
81 によれば,未成年者に対する酒類提供禁止違反(法第32条第3項,第22条第6号)の量定は
82 「Bランク」であり,「40日以上6月以下の営業停止命令。基準期間は,3月。」と定められて
83 いた(本件基準1,別表[飲食店営業]〈法(中略)の規定に違反する行為〉(10))。
84 Aは,処分決定通知書を本件基準と照らし合わせてみても,どうしてこのように重い処分になる
85 のか分からないとして,本件処分に強い不満を覚えるとともに,仮に,B店で再び未成年者に酒類
86 が提供されて再度の営業停止処分を受ける事態になった場合には,本件基準2の定める加重規定で
87 ある「最近3年間に営業停止命令を受けた者に対し営業停止命令を行う場合の量定は,(中略)当
88 該営業停止命令の処分事由について1に定める量定の長期及び短期にそれぞれ最近3年間に営業停
89 止命令を受けた回数の2倍の数を乗じた期間を長期及び短期とする。」が適用され,Xの経営に深
90 刻な影響が及ぶおそれがあるかもしれないことを危惧した。
91 そこで,Xは,直ちに,Y県を被告として本件処分の取消訴訟を提起するとともに,執行停止の
92
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95 申立てをしたが,裁判所は「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」とは認められないとして,
96 この申立てを却下した。
97 Xの立場に立って,以下の設問に答えなさい。
98 なお,法の抜粋を【資料1】,本件基準の抜粋を【資料2】として掲げるので,適宜参照しなさ
99 い。
100 〔設問1〕
101 本件処分の取消訴訟の係属中に営業停止期間が満了した後には,いかなる訴訟要件が問題とな
102 り得るか。また,当該訴訟要件が満たされるためにXはどのような主張をすべきか,想定される
103 Y県の反論を踏まえつつ検討しなさい。
104 〔設問2〕
105 本件処分の取消訴訟につき,本案の違法事由としてXはどのような主張をすべきか,手続上の
106 違法性と実体上の違法性に分けて,想定されるY県の反論を踏まえつつ検討しなさい。なお,本
107 件処分について行政手続法が適用されること,問題文中の@からCまでの各事実については当事
108 者間に争いがないことをそれぞれ前提にすること。
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111
112 【資料1】
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115 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(昭和23年法律第122号)
116 (抜粋)
117
118 (禁止行為)
119 第22条
120
121 風俗営業を営む者は,次に掲げる行為をしてはならない。
122
123 一〜五
124
125
126 (略)
127
128 営業所で二十歳未満の者に酒類又はたばこを提供すること。
129
130 (深夜における飲食店営業の規制等)
131 第32条
132 1・2
133
134
135 (略)
136
137 第22条(第3号を除く。)の規定は,飲食店営業を営む者について準用する。(以下略)
138
139 (指示等)
140 第34条
141
142
143 (略)
144
145
146
147 公安委員会は,飲食店営業者〔(注)「飲食店営業者」とは,「飲食店営業を営む者」をいう。〕
148 若しくはその代理人等が当該営業に関し法令(中略)の規定に違反した場合において,(中略)少
149 年の健全な育成に障害を及ぼすおそれがあると認めるとき(中略)は,当該飲食店営業者に対し,
150 当該施設を用いて営む飲食店営業について,6月を超えない範囲内で期間を定めて営業の全部又は
151 一部の停止を命ずることができる。
152
153 (聴聞の特例)
154 第41条
155
156 公安委員会は,(中略)第34条第2項,(中略)の規定により営業の停止を(中略)命
157
158 じようとするときは,行政手続法 (平成5年法律第88号)第13条第1項の規定による意見陳
159 述のための手続の区分にかかわらず,聴聞を行わなければならない。
160 2〜4(略)
161 【資料2】
162
163
164 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律に基づく営業停止命令等の基準(抜粋)
165
166 [飲食店営業]
167 (量定)
168
169
170 営業停止命令の量定の区分は,次のとおりとし,各処分事由に係る量定は,別表に定めるところ
171 によるものとする。
172 Aランク
173
174 6月の営業停止命令。
175
176 Bランク
177
178 40日以上6月以下の営業停止命令。基準期間は3月。
179
180 Cランク〜H3ランク
181
182 (略)
183
184 (常習違反加重)
185
186
187 最近3年間に営業停止命令を受けた者に対し営業停止命令を行う場合の量定は,その処分事由に
188 係る量定がAランクに相当するときを除き,当該営業停止命令の処分事由について1に定める量定
189 の長期及び短期にそれぞれ最近3年間に営業停止命令を受けた回数の2倍の数を乗じた期間を長期
190 及び短期とする。ただし,その長期は,法定の期間を超えることができない。
191
192 (営業停止命令に係る期間の決定)
193
194
195 営業停止命令により営業の停止を命ずる期間は,次のとおりとする。
196 (1) 原則として,量定がAランクに相当するもの以外のものについて営業停止命令を行う場合は,
197 1に定める基準期間(2に規定する場合は当該処分事由について定められた基準期間の2倍の期
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199
200 間を基準期間とする。)によることとする。
201 (2) 量定がAランクに相当するもの以外のものについて営業停止命令を行う場合において次に掲げ
202 るような処分を加重し,又は軽減すべき事由があるときは,(1)にかかわらず,情状により,1
203 に定める量定の範囲内において加重し,又は軽減するものとする。
204
205
206 処分を加重すべき事由とは,例えば,次のようなものである。
207 (ア) 最近3年間に同一の処分事由により行政処分に処せられたこと。
208 (イ) 指示処分の期間中にその処分事由に係る法令違反行為と同種の法令違反行為を行ったこと。
209 (ウ) 処分事由に係る行為の態様が著しく悪質であること。
210 (エ) 従業者の大多数が法令違反行為に加担していること。
211 (オ) 悔悛の情が見られないこと。
212 (カ) 付近の住民からの苦情が多数あること。
213 (キ) 結果が重大であり,社会的反響が著しく大きいこと。
214 (ク) 16歳未満の者の福祉を害する法令違反行為であること。
215
216
217
218 処分を軽減すべき事由とは,例えば,次のようなものである。
219 (ア) 他人に強いられて法令違反行為を行ったこと。
220 (イ) 営業者(法人にあっては役員)の関与がほとんどなく,かつ,処分事由に係る法令違反行
221 為を防止できなかったことについて過失がないと認められること。
222 (ウ) 最近3年間に処分事由に係る法令違反行為を行ったことがなく,悔悛の情が著しいこと。
223 (エ) 具体的な営業の改善措置を自主的に行っていること。
224
225 (3) 量定がAランクに相当するもの以外のものについて,処分を軽減すべき事由が複数あり,営業
226 停止処分を行うことが著しく不合理であると認められるときは,(1)(2)にかかわらず,営業停止
227 処分を行わないこととする。
228 別表(抜粋)
229 [飲食店営業]
230 <法若しくは法に基づく命令又は法に基づく条例の規定に違反する行為>
231 (10)
232
233 未成年者に対する酒類・たばこ提供禁止違反(第32条第3項,第22条第6号)の量定
234 ランク
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236 - 6 -
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