1 【公法系科目】
2 〔第1問〕
3 本年は,
4 犯罪予防目的の行動監視を想定した架空立法を素材に,
5 基本的人権に関わる基本的
6 な法理が予防的権力行使を前にした場合にどのような形で妥当するかを問うこととした。
7
8 被侵
9 害利益を憲法上の基本権として正確に構成し,
10 その侵害を正当化し得べきものとして問題文中
11 に示される規制目的の性質を読み解いた上で,
12 適切な違憲審査枠組みを自ら設定し,
13 具体的な
14 規制態様に関わる関係事実の中から法的評価にとって重要な要素をより出し,
15 具体的な審査過
16 程を通じて適切な権利侵害性の評価に関する結論を得る,
17 という過程を経た論述が必要になる。
18
19
20 この点は近時の司法試験の出題と共通しており,
21 本年の問題も基本的な狙いはこれまでの出題
22 意図を踏襲している。
23
24 ただ,
25 近未来における予防的権力行使の事例が想定されていることとの
26 関係で,
27 判例や学説に関する知識だけでなく,
28 基礎的な法理の内容や規範構造に関する理解と,
29
30 そうした法理を応用する能力が試されることになる。
31
32
33 監視に関わる問題であることから,
34 まず,
35 公権力によって自らが所在する位置情報を強制的
36 に収集されない権利をどのように構成するかが問われる。
37
38 この権利は,
39 判例に多く現れた「私
40 生活をみだりに公開されない権利」としてのプライバシー権とは異質な構造を持つ。
41
42 本問で侵
43 害された権利を特定するためには,
44 公権力による情報収集に対抗する意味におけるプライバ
45 シー権を組み立て,
46 監視という権力的状況を意識化することによって監視対象者において生じ
47 る行動制限が実体的な自由の権利を害するという点をしっかり把握することが必要となる。
48
49
50 なお,
51 被侵害利益という観点からは,
52 警告・禁止命令(以下「禁止命令等」という。
53
54 )とい
55 う後の段階における直接の行動制限が生じ得る点も考察の対象となり得るが,
56 ここでは具体
57 的な禁止命令等の効力を争う段階ではないため,
58 禁止命令等の可能性は単に先取り的な仮想
59 論点であるに留まることに注意すべきである。
60
61 また,
62 本問の架空立法における身体的侵襲と
63 いう設定はかなりショッキングなものであり,
64 一読したところで違憲の印象をかき立てるか
65 も知れない。
66
67 しかし,
68 問題文における限定を通じて「監視措置及びそのための身体的侵襲は
69 刑罰か?」という問いから独立して正当化可能性それ自体を問う文脈に乗せた場合,
70 身体的
71 侵襲による被侵害利益を憲法のどの条項に位置付け,
72 どの程度の保障を与えるかはかなり難
73 しい点となるだろう。
74
75
76 次に,
77 プライバシーや実体的な自由の権利という形で被侵害利益が特定されたとして,
78 そ
79 うした権利侵害の正当化可能性を問うためにどのような違憲審査基準を設定するのかに関し
80 ても,
81 判例・学説上の手掛かりは少ない。
82
83 一般的には,
84 本問における被侵害利益との関係で
85 厳格な審査が当てはまると主張するのは容易ではなく,
86 適切な違憲審査の土俵設定自体をど
87 のように説明するのかについても,
88 違憲審査基準一般に関する受験生の深い理解が問われる
89 ことになる。
90
91 具体的には,
92 アメリカ型の議論にいう厳格審査なのか,
93 厳格な合理性なのか,
94
95 合理性審査なのか,
96 何らかのモデルに基づく利益衡量的審査なのか,
97 他方,
98 ヨーロッパ型の
99 議論にいう比例性審査なのかなど,
100 様々な審査枠組みが提唱可能である。
101
102 したがって,
103 答案
104 の評価は,
105 どのような枠組みを採用したかという点よりも,
106 どのような理由で審査基準の採
107 用が説得的に説明されているかを軸に行われることになる。
108
109
110 この違憲審査基準を適用する際には,
111 まず,
112 本件規制にあっては,
113 法による「既遂の行為
114 に対する制裁」の威嚇を通じた伝統的な基本権制限が問題となっているのではなく,
115 将来に
116 おける害悪発生を予防するために現時点において個人の行為に制限を課す,
117 いわゆる「規制
118 の前段階化」と呼ばれる傾向の権力行使の憲法上の正当性が問われていることが問題となる。
119
120
121 「被害が発生してからでは遅すぎる」という発想で,
122 被害発生を不可能にすることを狙った
123 公権力行使が行われるわけだが,
124 それは,
125 基本権保障との関係でどのように評価されるべき
126 か。
127
128 害悪の発生につながり得る行為を包括的に制限し得ると考える「予防原則」を,
129 犯罪予
130 防との関係でも採用し得るのか。
131
132 伝統的な基本権保障の枠組みでは,
133 もともと,
134 権利行使の
135
136 -1-
137
138 結果として害悪が発生する(ことが立証可能な)場合に限って権利制限が正当化されると考
139 え,
140 その限りにおいて権利保障が原則,
141 権利制限が例外であると位置付けられるが,
142 予防原
143 則を全面的に採用した場合には,
144 この原則・例外関係が逆転し,
145 害悪発生の可能性だけで権
146 利制限が広範に正当化されることになる。
147
148
149 なお,
150 以上に述べた「予防原則」や「規制の前段階化」等の用語を表記することは解答上
151 必須ではないが,
152 本問規制の目的や,
153 その目的がどの範囲における手段を正当化するかを考
154 慮する際には,
155 予防目的を掲げることによって国家の在り方に根本的な変容が生じることを
156 見越した予防目的の位置付けが必要になる。
157
158 ここまでの論証水準に到達することは容易では
159 ないとしても,
160 少なくとも,
161 違憲論を唱えるならば「再犯は国家として予測可能であり,
162 そ
163 れを放置したことによって生じた被害に対して国はどのような責任の取り方ができるのか」
164 という被害者側の視点を,
165 他方,
166 合憲論を採るならば「現行の犯罪防止システムでは一定範
167 囲の再犯被害については妥協するという社会的決断が前提になっているのであり,
168 潜在的な
169 確率論的リスクによる概括的な正当化によっては過酷な監視措置の憲法上の許容性は基礎付
170 けられない」という監視対象者側の視点を,
171 それぞれ織り込むところまで掘り下げが行われ
172 ているかどうかが,
173 採点上の重要な分かれ目となる。
174
175
176 違憲審査基準の適用に当たって評価の対象となるのは,
177 まず,
178 自らの設定した違憲審査枠
179 組みが正確かつ一貫した形で記述されているか否かである。
180
181 さらに,
182 被侵害利益ごとに,
183 権
184 利侵害の度合いを決定する事実や,
185 当該権利制限が規制目的の達成に貢献する度合いを評価
186 する上での重要な事実など,
187 本問の事実関係の中で法的評価を行う際に比重の判定を行うべ
188 き事実要素が適切に取り上げられているかどうかも重要な採点基準となる。
189
190 具体的には,
191 問
192 題文中で示され,
193 かつ侵害度が高いものとされたブレスレット型という他の代替的規制手段
194 の評価や,
195 最長監視期間が20年と長期にわたることに対する評価などにおいて,
196 多面的な
197 侵害状況に対する信頼できる議論の展開が求められる。
198
199
200 配点については,
201 〔設問1〕において原告の主張を,
202 〔設問2〕において被告の主張を,
203 そ
204 れぞれ想定した上での私見の展開を求める形を採った。
205
206 私見を重視したいという意図は昨年
207 の問題を踏襲しているが,
208 論点提示を〔設問1〕でまとめる形を採ることによって,
209
210 〔設問2〕
211 では自説の説明に集中することを期待したものである。
212
213
214 〔第2問〕
215 本問は,
216 株式会社Aが建築しようとしているスーパー銭湯(以下「本件スーパー銭湯」と
217 いう。
218
219 )及びこれに附属する自動車車庫(以下「本件自動車車庫」という。
220
221 )の建築を阻止し
222 ようとする周辺住民のX1ら及びX2らが,
223 特定行政庁Y1市長がした本件自動車車庫の建
224 築に係る建築基準法第48条第1項ただし書に基づく許可(以下「本件例外許可」という。
225
226 )
227 の取消しを求める訴訟及び指定確認検査機関Y2がした本件スーパー銭湯及び本件自動車車
228 庫の建築に係る建築確認(以下「本件確認」という。
229
230 )の取消しを求める訴訟における法的問
231 題について論じさせるものである。
232
233 論じさせる問題は,
234 本件例外許可の取消訴訟におけるX
235 1ら及びX2らの原告適格の有無(〔設問1〕),
236 本件例外許可の適法性(〔設問2〕),
237 本件確
238 認の取消訴訟において本件例外許可の違法事由を主張することの可否(いわゆる違法性の承
239 継の問題,
240 〔設問3〕),
241 本件建築確認の適法性(〔設問4〕)である。
242
243 問題文と資料から基本的
244 な事実関係を把握し,
245 建築基準法及び関係法令の関係規定の趣旨を読み解いた上で,
246 取消訴
247 訟の原告適格,
248 違法性の承継及び本案の違法事由について論じる力を試すものである。
249
250
251 〔設問1〕については,
252 行政処分の名宛人以外の第三者の原告適格が問題となる。
253
254 行政事
255 件訴訟法第9条第2項と最高裁判所の判例を踏まえて判断枠組みを提示した上で,
256 行政処分
257 の根拠法規の処分要件及び趣旨・目的に着目し,
258 関係法令の趣旨・目的を参酌し,
259 被侵害利
260 益の内容・性質を勘案し,
261 当該根拠法規がXらの主張する被侵害利益を個別的利益として保
262
263 -2-
264
265 護する趣旨を含むか,
266 どの範囲の者が原告適格を有するのかについて論じることが求められ
267 る。
268
269 本件では,
270 Xらの主張する「良好な住居の環境下で生活する利益」について,
271 建築基準
272 法が一般に想定していると解される建築物の倒壊,
273 火災,
274 日照被害等による直接的な被害や,
275
276 都市計画法に基づく用途地域の指定等によって,
277 地域地区に居住する住民が享受する反射的
278 利益と比較して,
279 「法律上保護された利益」といえるかについて検討することが求められる。
280
281
282 その上で,
283 X1ら及びX2らが主張する利益の内容・性質に即して,
284 原告適格を肯定するこ
285 とができるかについて論じることが求められる。
286
287 特に,
288 X2らについては,
289 本件要綱におい
290 て,
291 一定の範囲の者に公聴会に参加する機会が付与されていることとの関係についても検討
292 することが期待される。
293
294
295 〔設問2〕は,
296 本件例外許可の違法事由として,
297 第1に,
298 建築審査会の同意に係る議決の
299 手続上の瑕疵が問題となる。
300
301 まず,
302 建築審査会の同意には処分性が認められず,
303 本件例外許
304 可の取消訴訟の中で同意の違法性を争うことになることを前提とし,
305 建築審査会制度の趣旨
306 や除斥事由が定められた趣旨を踏まえた上で,
307 除斥事由がある者1名の票を除外しても建築
308 審査会の議決の結論が変わらない場合においても,
309 なお,
310 本件例外許可は違法といえるかに
311 ついて論じる必要がある。
312
313 第2に,
314 Y1市長による本件例外許可についての裁量権の範囲の
315 逸脱,
316 濫用の有無が問題となる。
317
318 本件要綱の法的性質について,
319 例外許可は裁量処分であり,
320
321 本件要綱は裁量基準(行政手続法上の審査基準)に当たることを示した上,
322 例外許可につい
323 ては裁量処分とはいえ,
324 公聴会制度を設けてその判断の適正が担保されていること,
325 本件要
326 綱で挙げられた事情が考慮されていないことを踏まえて,
327 裁量権の範囲の逸脱,
328 濫用がある
329 と主張することができないかを論じることが求められる。
330
331
332 〔設問3〕は,
333 いわゆる違法性の承継の問題であるが,
334 取消訴訟の排他的管轄と出訴期間
335 制限の趣旨を重視すれば,
336 違法性の承継は否定されることになるという原則論を踏まえた上
337 で,
338 まず,
339 違法性の承継についての判断枠組みを提示することが求められる。
340
341 その上で,
342 最
343 高裁判所平成21年12月17日第一小法廷判決(民集63巻10号2631頁)の判断枠
344 組みによる場合には,
345 違法性の承継が認められるための考慮要素として,
346 実体法的観点(先
347 行処分と後行処分とが結合して一つの目的・効果の実現を目指しているか),
348 手続法的観点(先
349 行処分を争うための手続的保障が十分か)という観点から,
350 本件の具体的事情に即して違法
351 性の承継を肯定することができるかを論じる必要がある。
352
353
354 〔設問4〕は,
355 本件建築確認の違法事由として,
356 第1に,
357 本件スーパー銭湯が建築基準法
358 別表第二(い)項第7号の「公衆浴場」に該当するかが問題となる。
359
360 条文の文言解釈,
361 公衆
362 浴場が第一種低層住居専用地域に建築できる建築物とされた趣旨,
363
364 「一般公衆浴場」とスーパー
365 銭湯との異同を踏まえて検討することが求められる。
366
367 第2に,
368 本件スーパー銭湯の飲食店部
369 分について,
370 建築基準法別表第二(い)項第7号の「公衆浴場」に該当するかが問題となる。
371
372
373 第一種低層住居専用地域に建築できる飲食店は兼用住宅に限られ,
374 かつ,
375 面積の制限がある
376 こと(建築基準法別表第二(い)項第2号,
377 建築基準法施行令第130条の3第2号)などに
378 照らして,
379 本件スーパー銭湯の飲食コーナー及び厨房施設の規模等を踏まえて,
380 「公衆浴場」
381 に該当するかを検討することが求められる。
382
383
384 【民事系科目】
385 〔第1問〕
386 本問は,
387 未成年者Cの親権者であるAが,
388 自らの遊興により生じた借金を返済するために
389 Cの所有する甲土地及び乙土地をCに無断でEに売却した後,
390 Dと婚姻したCが死亡してC
391 をAとDが相続し,
392 その後更にEが乙土地をFに売却した事例(設問1),
393 Eが自己の事業の
394 借金の返済に充てる資金をGの主宰する賭博で得るために,
395 仕入先のH及び知人Kとの間で,
396
397 Eの叔父Lの連帯保証付きで借金をする契約書を作成した後,
398 貸金をEに交付したHがその
399
400 -3-
401
402 貸金債権をMに売却し,
403 貸金をEに交付しなかったKが,
404 契約書の存在を奇貨としてLに連
405 帯保証債務の履行を請求し金銭を支払わせた事例(設問2)を素材として,
406 民法上の問題に
407 ついての基礎的な理解とともに,
408 その応用力を問う問題である。
409
410
411 当事者の利害関係を法的な観点から分析し構成する能力,
412 その前提として,
413 様々な法的主
414 張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解し,
415 それに即して論旨を展開する能力などが
416 試される。
417
418
419 設問1は,
420 親権者とその子との間の利益相反行為の成否,
421 親権者による代理権濫用の成否
422 とその効果という事項に対する理解を問うとともに,
423 それを前提として,
424 子について共同相
425 続があった場合の法律関係,
426 親権者の行為の相手方と取引をした第三者の保護について検討
427 させることにより,
428 民法の基本的知識及びそれに基づく論理構成力を問うものである。
429
430
431 小問では,
432 Eは,
433 A及びDに対して,
434 甲土地の所有権移転登記手続を請求しており,
435 そ
436 の根拠は売買契約に基づく債権的請求又は所有権に基づく物権的請求であることを指摘した
437 上で,
438 その請求の当否について検討することが求められる。
439
440 いずれの請求の場合にも,
441 Aが
442 Cの代理人としてEとの間で甲土地の売買契約(以下「本件売買契約」という。
443
444 )を締結した
445 こと,
446 A及びDがCを共同で相続した結果,
447 Cの所有権移転登記手続義務を包括承継したこ
448 と(なお,
449 最判昭和36年12月15日民集15巻11号2865頁は,
450 売主の共同相続人
451 の登記義務は民法第430条の不可分債務である旨判示している。
452
453 )により,
454 Eは,
455 A及びD
456 に対し甲土地の所有権移転登記手続を請求することが可能となる。
457
458
459 まず,
460 これに対するA及びDの反論として考えられるのは,
461 本件売買契約が民法第826
462 条の利益相反行為に該当するという主張である。
463
464 もっとも,
465 利益相反行為に該当するか否か
466 の判断基準に関して判例(最判昭和42年4月18日民集21巻3号671頁)の外形説を
467 採用する場合には,
468 本件売買契約は利益相反行為に該当しないことになり,
469 それを踏まえた
470 上で,
471 親権者の代理権濫用について論ずることが求められる。
472
473 この場合,
474 AがC所有の甲土
475 地を売却した行為が判例(最判平成4年12月10日民集46巻9号2727頁)のいう「子
476 の利益を無視して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど,
477 親権者に
478 子を代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情」があるとし
479 て代理権濫用に該当するか否かについて,
480 本問に示された事実関係に即して適切な当てはめ
481 をすることが求められる。
482
483
484 代理権濫用の効果については,
485 平成4年の判例のように,
486 親権者の行為の相手方が代理権
487 濫用の事実を知り又は知り得べかりしときは,
488 民法第93条ただし書の類推適用により親権
489 者の行為の効果は子には及ばないという構成が考えられる。
490
491 それによれば,
492 EはAの代理権
493 濫用の事実について悪意であるから,
494 Aの行った本件売買契約の効果はCに及ばないことに
495 なる。
496
497 ただし,
498 代理権濫用を無権代理とする構成(無権代理説)や,
499 代理権濫用について相
500 手方に悪意又は(重)過失が認められる場合にはその相手方は代理による効果帰属を信義則
501 上主張できないとする構成(信義則説)もあり得るところであり,
502 適切な理由付けによって
503 判例と異なる論じ方をすることは排除されていない。
504
505 また,
506 民法第826条の利益相反行為
507 について外形説に依拠して検討することが必須ではなく,
508 判例と異なる実質説を採って利益
509 相反行為に該当するとした場合でも,
510 適切な理由付けの下に説得力のある検討が行われてい
511 れば,
512 それに相応した評価が与えられる。
513
514
515 次に,
516 CをA及びDが共同相続したことにより,
517 上記で論じた法律関係がどのような影響
518 を受けるのか,
519 いわゆる「無権代理と相続」の論点における無権代理人共同相続型の判例(最
520 判平成5年1月21日民集47巻1号265頁)との関係が問題となる。
521
522 利益相反行為につ
523 き実質説を採った場合や,
524 無権代理説による場合は,
525 この判例がそのまま妥当する。
526
527 平成5
528 年の判例は,
529 追認権はその性質上相続人全員に不可分に帰属するから,
530 共同相続人全員が共
531 同して行使しない限り無権代理行為が有効となるものではないとしており,
532 本問では共同相
533
534 -4-
535
536 続人の1人であるDが追認を拒絶しているので,
537 Eは甲土地の所有権を取得できない。
538
539 また,
540
541 民法第93条ただし書類推適用説による場合には,
542 平成5年の判例がそのまま妥当するわけ
543 ではないが,
544 民法第116条に基づく追認の可否を問題とした上で,
545 平成5年の判例と同様
546 に追認権の行使について論ずるか,
547 あるいはAの代理権濫用についてEに悪意があることを
548 理由としてEが甲土地の所有権を取得することはないと論ずることが考えられる。
549
550 もっとも,
551
552 相続人の追認権については,
553 相続分に応じて可分に帰属するという考え方もあり,
554 判例の立
555 場で論ずることは必須ではなく,
556 適切な理由付けの下に厚みのある検討が行われ,
557 整合的な
558 結論が示されていれば,
559 それに相応した評価が与えられる。
560
561
562 小問では,
563 DのFに対する乙土地の所有権移転登記抹消登記手続等の請求について,
564 民
565 法第252条ただし書の保存行為,
566 あるいは共有持分権に基づく物権的請求権が根拠となる
567 ことを指摘した上で,
568 無権利者Eと取引をした第三者Fの保護について論ずることが求めら
569 れる。
570
571 第三者Fの保護の点に関しては複数の考え方があり得る。
572
573
574 まず,
575 乙土地はAとDの共有物であるのにE名義の登記がされていたことを理由に,
576 民法
577 第94条第2項を類推適用してFを保護する考え方である。
578
579 これによれば,
580 Cやその地位を
581 包括承継したA及びDが虚偽の外観を作出し,
582 あるいはあえて虚偽の外観を放置したと評価
583 される場合に,
584 Fは乙土地の所有権を取得する可能性がある。
585
586 本問に示された事実関係から
587 すれば,
588 CやD自身の行為に着目してその帰責性を認めることには困難が伴うが,
589 Cの帰責
590 性を評価する際には,
591 AがCの親権者であるという事情も関係し得る。
592
593 一般的には,
594 Aは法
595 定代理人であり,
596 Cの意思に基づいてAに代理権が授与されたわけではないから,
597 この事情
598 はCの帰責性を否定する方向に働く。
599
600 しかし,
601 Cの親権者であるAの包括的な代理権によっ
602 て私的自治が補充されCが継続的に利益を受けているとして,
603 代理権濫用の危険はCが負担
604 すべきであるとする考え方もあり得る。
605
606
607 また,
608 Fについて民法第94条第2項が類推適用されるとしつつも,
609 その根拠を上記のよ
610 うな虚偽の外観の放置ではなく,
611 代理権濫用について民法第93条ただし書が類推適用され
612 ることに求める考え方もあり得る。
613
614 最判昭和44年11月14日民集23巻11号2023
615 頁は,
616 手形保証についてこのような立場を採っている。
617
618 もっとも,
619 心裡留保における表意者
620 には虚偽の外観を作出したのと同等の帰責性が認められるが,
621 代理権濫用における本人の帰
622 責性をこれと同視することはできず,
623 また,
624 上記判決は手形保証に関する判断であるから,
625
626 その射程については慎重な検討を要する。
627
628
629 さらに,
630 代理権濫用について信義則説を採った上で,
631 本人Cを相続したA及びDは,
632 第三
633 者Fとの関係では,
634 第三者Fが信義則に反する者でない限り(Aの代理権濫用について悪意
635 又は〔重〕過失が認められない限り),
636 代理行為の効果帰属を拒むことができない,
637 という考
638 え方もあり得る。
639
640
641 このように,
642 第三者Fの保護の在り方については複数の考え方があり得るが,
643 理由を明示
644 した上で一定の立場を採り,
645 それを本問に当てはめて整合的な結論を導いているものについ
646 ては,
647 その法的構成力・推論力に照らし,
648 相応の評価が与えられる。
649
650
651 設問2は,
652 賭博目的の消費貸借契約に基づく貸金債権が譲渡された事例と,
653 存在しない貸
654 金債務を主債務とする連帯保証債務が履行された事例を素材として,
655 貸金債権の関係者をめ
656 ぐる諸々の法律関係を,
657 民法第90条や同法第708条,
658 同法第459条等の正確な理解に
659 基づき分析した上で,
660 事案に即した妥当な解決を導くことができるか否かを問うものである。
661
662
663 小問では,
664 まず,
665 賭博目的の消費貸借契約による債権の成否について的確に検討するこ
666 とができるかどうかが試されている。
667
668 賭博目的の消費貸借契約は,
669 それ自体が不法なもので
670 はなく,
671 不法な動機が一方当事者であるEの心裡にあるにすぎないが,
672 Hは賭博目的を知っ
673 ているので,
674 EH間の消費貸借契約は公序良俗に違反し無効となり(民法第90条),
675 その結
676 果,
677 HのEに対する消費貸借契約上の債権は発生しないことになる。
678
679
680
681 -5-
682
683 次に,
684 この存在しない債権がHからMに譲渡され,
685 その債権譲渡につき債務者Eが民法第
686 468条第1項の異議をとどめない承諾をしていることから,
687 その債権の不存在をEがMに
688 対抗しうるか否かが問題となる。
689
690 この点に関しては,
691 賭博の勝ち負けによって生じた債権が
692 譲渡された場合において,
693 その債権の債務者が異議をとどめずに承諾したときであっても,
694
695 債務者に信義則に反する行為があるなどの特段の事情のない限り,
696 債務者は,
697 その債権の譲
698 受人に対して債権の発生に係る契約の公序良俗違反による無効を主張してその履行を拒むこ
699 とができるとした判例(最判平成9年11月11日民集51巻10号4077頁)が存在す
700 るが,
701 本問の事案は,
702 当該判例の事案とは異なり,
703 賭博の負け金債務ではなく,
704 賭博目的の
705 貸金債権が譲渡されたものであるから,
706 そのことを意識した上で,
707 MがEに対し契約上の債
708 権を行使することができるかについて,
709 事実を的確に分析した上でその請求の当否を検討す
710 ることが求められる。
711
712
713 小問では,
714 EH間の消費貸借契約が公序良俗違反により無効であることを前提とした上
715 で,
716 HがEに交付した500万円について,
717 HのEに対する「法定債権」である不当利得返
718 還請求権をMが行使することが考えられる。
719
720 ここでは,
721 HのEに対する不当利得返還請求権
722 の成否について,
723 不法原因給付に関する民法第708条が適用されるか否かを吟味しつつ論
724 ずるとともに,
725 HのEに対する不当利得返還請求権をMが行使するための法律構成を論ずる
726 ことが期待されている。
727
728 後者の点については,
729 複数の法律構成が考えられる。
730
731
732 まず,
733 MがHのEに対する不当利得返還請求権を行使するための法的根拠としては,
734 Hが
735 Mに対し「平成26年4月1日付消費貸借契約に関する債権」を譲渡していることから,
736 そ
737 の契約の解釈として,
738 貸金債権だけでなく,
739 不当利得返還請求権もHからMに譲渡されたも
740 のと認めることが考えられる。
741
742 このような契約の解釈に当たっては,
743 不当利得返還請求権も
744 譲渡された場合とそうでない場合とを対比して,
745 M及びHやHの一般債権者の利害状況を分
746 析することが求められている。
747
748
749 また,
750 HのEに対する不当利得返還請求権はMに譲渡されていないことを前提とした上で,
751
752 債権者代位権によって,
753 Mが,
754 HのEに対する不当利得返還請求権を行使することも考えら
755 れる。
756
757 この場合,
758 債権者代位権の要件として,
759 MのHに対する被保全債権の存在及びHの無
760 資力が充足されることと,
761 請求の範囲は被保全債権の額が上限となることを指摘することが
762 期待されている。
763
764
765 小問では,
766 委託を受けた保証人が連帯保証債務の履行として金銭を支払ったものの,
767 主
768 たる債務が存在しなかった場合における主債務者と保証人との間の法律関係についての分析
769 とともに,
770 保証人の主債務者に対する債権が成立するかどうかが問われている。
771
772 保証債務の
773 付従性自体は基礎的な知識に属するが,
774 ここで示されている問題自体については,
775 判例や学
776 説において必ずしも明確に議論されているわけではない。
777
778 ここでは結論の妥当性も視野に入
779 れて適切に論ずることが期待されており,
780 応用的な能力を問う問題である。
781
782
783 そもそも,
784 LはEの保証委託を受けた結果としてKに対して584万円を支払っており,
785
786 その支払の際にEに事前の通知をしているのだから,
787 Kの無資力の危険をLが負うとするの
788 は不合理である。
789
790 単に付従性のみを論ずるのではなく,
791 そうした結論の妥当性も視野に入れ
792 た上で,
793 Lを保護する法律構成を見いだすことが,
794 本問では期待されている。
795
796
797 まず,
798 主債務者と保証人との間に保証委託契約が存在することから,
799 委任の特則である民
800 法第459条に基づき,
801 LがEに対して求償権を有するという構成が考えられる。
802
803 その場合,
804
805 民法第459条の求償権の成立要件として,
806 (i)主たる債務の存在,
807 (ii)主たる債務に関する債
808 権者と保証人との間の保証契約,
809 (iii)保証人が債権者に対して保証債務の履行をしたこと,
810 (iv)
811 保証人と主たる債務者との間の保証委託契約を挙げた上で((v)保証人の無過失を要件として
812 挙げる学説もある。
813
814 ),
815 それらに該当する事実の有無を判断することが求められる。
816
817
818 本問では,
819 KはEに金銭を交付していないため,
820 KのEに対する貸金債権は成立していな
821
822 -6-
823
824 いので,
825 (i)の要件は充足されない。
826
827 しかし,
828 Lが主債務の存在を前提としてKに584万円
829 を支払った原因は,
830 LがEに事前の通知をしたにもかかわらず,
831 EがLに主債務の不存在を
832 説明しなかったからである。
833
834 民法第463条第1項が準用する民法第443条第1項により,
835
836 保証人が事前の通知をせずに弁済をした場合,
837 主債務者が債権者に対抗することができる事
838 由を有していたときは,
839 その事由をもって保証人に対抗することができるとされていること
840 を踏まえると,
841 保証人が事前の通知をしたが,
842 主債務者が債権者に対抗することができる事
843 由(主債務の不存在)を有している旨の返答をしなかった場合には,
844 主債務者はその事由を
845 もって保証人に対抗できないとの考え方があり得よう。
846
847 これを本問に示された事実関係に当
848 てはめた場合,
849 EはLからの民法第459条に基づく求償を,
850 主債務の不成立を理由に拒む
851 ことはできないことになる。
852
853
854 このほか,
855 Lの請求の根拠としては,
856 民法第650条第1項の費用償還請求権に基づくも
857 のも考えられる。
858
859 この場合には,
860 LのKに対する出捐が,
861 同項の「委任事務を処理するのに
862 必要と認められる費用」,
863 すなわち,
864 事務処理の際に受任者が善良な管理者の注意をもって必
865 要と判断して支出した費用に当たるか否かを確認することが求められる。
866
867
868 また,
869 主債務が存在しない場合に連帯保証債務の履行として金銭を支払うことは保証委託
870 の範囲外であるなどの理由により,
871 Lの出捐は費用ではなく損害であると解釈するならば,
872
873 LはEに対し民法第650条第3項や同法第415条に基づく損害賠償請求権を行使すると
874 いう考え方を採る余地もある。
875
876
877 いずれの法律構成を採る場合においても,
878 Lによる事前の通知に対しEが適切に対応しな
879 かったことが的確に評価されていれば,
880 民法第459条に基づく求償権を認める答案と同等の
881 評価が与えられる。
882
883
884 〔第2問〕
885 本問は,
886 @
887
888 会社法上の公開会社でない取締役会設置会社において,
889 取締役会の開催に当
890
891 たり,
892 当該取締役会において解職決議がされた代表取締役に対する招集通知を欠いた場合に
893 おける当該取締役会の決議の効力(設問1),
894 A
895
896 取締役の報酬の額について,
897 株主総会の
898
899 決議によって定められた報酬等の総額の最高限度額の範囲内で取締役会の決議によって役職
900 ごとに一定額が定められこれに従った運用がされていた会社において,
901 役職の変動に伴い,
902
903 その運用により定まる報酬の額よりも更に減額する旨の取締役会の決議がされた場合に,
904 取
905 締役が会社に対して請求することができる報酬の額(設問1),
906 B
907
908 株主総会において取締
909
910 役から解任された者が,
911 その解任について正当な理由がないとして,
912 損害賠償請求をした場
913 合における会社の損害賠償責任(設問2),
914 C
915
916 役員の解任の訴えの手続と,
917 役員の解任を
918
919 議題として招集された株主総会が定足数を満たさずに流会となった場合において,
920 役員の解
921 任の訴えを提起することの可否(設問2),
922 D
923
924 役員等の会社に対する損害賠償責任と,
925 大
926
927 会社である取締役会設置会社における代表取締役等の内部統制システムの構築義務及び運用
928 義務(設問3)に関する理解等を問うものである。
929
930
931 設問1においては,
932 取締役会の招集権者(会社法第366条第1項)や,
933 取締役会の目
934 的である事項の特定の要否を含む招集手続(会社法第368条第1項),
935 決議要件(会社法第
936 369条第1項,
937 第2項)について正確に理解していることが前提となる。
938
939 そして,
940 取締役
941 会の開催に当たり,
942 一部の取締役に対する招集通知を欠いた場合には,
943 特段の事情がない限
944 り,
945 その招集手続に基づく取締役会の決議は無効であるが,
946 その取締役が出席してもなお決
947 議の結果に影響を及ぼさないと認めるべき特段の事情があるときは,
948 決議は有効であるとす
949 る判例(最三判昭和44年12月2日民集23巻12号2396頁)や,
950 代表取締役の解職
951 決議については,
952 その代表取締役は,
953 特別利害関係を有する者に当たるとする判例(最二判
954 昭和44年3月28日民集23巻3号645頁)を意識しながら,
955 会社法上の公開会社でな
956
957 -7-
958
959 い取締役会設置会社において(いわゆる閉鎖会社においては,
960 特別利害関係を有する者に当
961 たらないという見解等もある。
962
963 ),
964 取締役会の開催に当たり,
965 当該取締役会において解職決議
966 がされた代表取締役に対する招集通知を欠いた場合に,
967 上記の特段の事情があると認めるこ
968 とができるかどうかを説得的に論ずることが求められる。
969
970 その際には,
971 特別利害関係を有す
972 る者に当たると,
973 当該取締役会の審議に参加して意見を述べることも認められないか否かや,
974
975 Aが当該取締役会の審議に参加することが認められる場合であっても,
976 Aの意見が決議の結
977 果を動かさないであろうことが確実に認められるか否かなどについても触れつつ,
978 事案に即
979 して具体的に検討されることが望ましい。
980
981
982 設問1においては,
983 取締役の報酬等の額について,
984 定款に定めていないときは,
985 株主総
986 会の決議によって定めるが(会社法第361条第1項),
987 判例(最三判昭和60年3月26日
988 判時1159号150頁)は,
989 株主総会の決議により,
990 取締役全員に支給する総額の最高限
991 度額を定め,
992 各取締役に対する配分額の決定は,
993 取締役会の決定に委ねてもよいとしている
994 ことや,
995 取締役の報酬等の額が具体的に定められた場合には,
996 その額は,
997 会社と取締役間の
998 契約内容となり,
999 契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから,
1000 当該取締役が同意
1001 しない限り,
1002 会社が一方的にその報酬等の額を減額することはできないと解されていること
1003 (最二判平成4年12月18日民集46巻9号3006頁参照)を意識しながら,
1004 取締役の
1005 報酬等の額について,
1006 株主総会の決議によって定められた報酬等の総額の最高限度額の範囲
1007 内で,
1008 取締役会の決議によって役職ごとに一定額が定められ,
1009 これに従った運用がされてい
1010 た場合に,
1011 取締役が,
1012 役職の変動に伴う報酬の減額に同意していたと認められるかどうかを
1013 事案に即して論ずることが求められる。
1014
1015 なお,
1016 上記のとおりの運用により定まる報酬の額の
1017 範囲内で,
1018 Aが,
1019 役職の変動に伴う報酬の減額に同意していたと認められるとすれば,
1020 Aの
1021 報酬の額を減額する旨の定例取締役会の決議の後であっても,
1022 Aは,
1023 甲社に対し,
1024 その運用
1025 により定まる月額50万円の報酬を請求することができることとなろう。
1026
1027
1028 設問2においては,
1029 取締役は,
1030 いつでも,
1031 かつ,
1032 事由のいかんを問わず,
1033 株主総会の決
1034 議によって解任することができる(会社法第339条第1項)が,
1035 会社は,
1036 その解任につい
1037 て正当な理由がある場合を除き,
1038 任期満了前に取締役を解任したときは,
1039 取締役に対し,
1040 解
1041 任によって生じた損害を賠償しなければならない(同条第2項)ことを理解していることが
1042 前提となる。
1043
1044 その上で,
1045 Aが,
1046 事業の海外展開を行うために必要かつ十分な調査を行い,
1047 そ
1048 の調査結果に基づき,
1049 事業の海外展開を行うリスクも適切に評価していたことから,
1050 このよ
1051 うな経営判断に基づいた海外事業の失敗が,
1052 正当な理由に含まれるかどうかについて,
1053 会社
1054 法第339条第2項の趣旨や「正当な理由」の意義も踏まえつつ,
1055 説得的に論ずることが求
1056 められる。
1057
1058 そして,
1059 このような海外事業の失敗が正当な理由に含まれないとする場合には,
1060
1061 会社が取締役に対して賠償しなければならない損害の範囲ないし額について,
1062 Aの取締役と
1063 しての任期が8年と長期間残っていたことをその減額要素として考慮することができるかど
1064 うかにも言及した上で,
1065 検討することも求められる。
1066
1067
1068 設問2においては,
1069 役員の解任の訴えについては,
1070 会社法上の公開会社でない株式会社
1071 の場合には,
1072 役員の職務の執行に関し不正の行為等があったにもかかわらず,
1073 当該役員を解
1074 任する旨の議案が株主総会において否決されたときに,
1075 総株主(当該役員を解任する旨の議
1076 案について議決権を行使することができない株主及び当該請求に係る役員である株主を除く。
1077
1078 )
1079 の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主(当該役員を解任する旨の議案について
1080 議決権を行使することができない株主及び当該請求に係る役員である株主を除く。
1081
1082 )又は発行
1083 済株式(当該株式会社である株主及び当該請求に係る役員である株主の有する株式を除く。
1084
1085 )
1086 の100分の3以上の数の株式を有する株主(当該株式会社である株主及び当該請求に係る
1087 役員である株主を除く。
1088
1089 )が,
1090 当該株主総会の日から30日以内に提起することができること
1091 (会社法第854条第1項,
1092 第2項)を説明することが求められる。
1093
1094
1095
1096 -8-
1097
1098 また,
1099 役員の解任の訴えについては,
1100 会社及び当該役員を被告とすること(会社法第85
1101 5条)や,
1102 本問においては,
1103 代表取締役Bが株主として甲社及び取締役Aを被告として役員
1104 の解任の訴えを提起することとなるため,
1105 監査役が甲社を代表すること(会社法第386条
1106 第1項第1号),
1107 役員の解任の訴えは,
1108 会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専
1109 属すること(会社法第856条)を説明することも期待される。
1110
1111
1112 その上で,
1113 役員の解任を議題として招集された株主総会が定足数を満たさずに流会となっ
1114 た場合において,
1115 役員の解任の訴えを提起することができるかどうかについて,
1116 会社法第8
1117 54条第1項に規定する「当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」
1118 の意義を役員の解任の訴えの制度の趣旨等に照らして解釈するなどしながら,
1119 説得的に論ず
1120 るとともに,
1121 会社資金の流用という役員の職務の執行に関し不正の行為等があったと認めら
1122 れることに言及することが求められる。
1123
1124
1125 設問3においては,
1126 取締役は,
1127 株式会社に対し,
1128 その任務を怠ったこと(任務懈怠)によっ
1129 て生じた損害を賠償する責任を負うこと(会社法第423条第1項)や,
1130 任務懈怠責任は,
1131
1132 取締役の株式会社に対する債務不履行責任の性質を有するため,
1133 任務懈怠,
1134 会社の損害,
1135 任
1136 務懈怠と損害との間の因果関係に加え,
1137 取締役の帰責事由が必要であること(会社法第42
1138 8条第1項参照)について理解していることが前提となる。
1139
1140 そして,
1141 大会社である取締役会
1142 設置会社においては,
1143 取締役会は,
1144 内部統制システムの整備を決定しなければならず(会社
1145 法第362条第5項,
1146 第4項第6号),
1147 善管注意義務(会社法第330条,
1148 民法第644条)
1149 及び忠実義務(会社法第355条)の一内容として,
1150 取締役は,
1151 取締役会において,
1152 会社が
1153 営む事業の規模や特性等に応じた内部統制システムを決定する義務を負い,
1154 代表取締役等は,
1155
1156 取締役会の決定に基づいて,
1157 事業の規模等に応じた内部統制システムを構築して運用する義
1158 務を負うことについて,
1159 的確に論ずることが求められる。
1160
1161
1162 その上で,
1163 まず,
1164 甲社について,
1165 その事業の規模や特性等に応じた内部統制システムが決
1166 定され,
1167 構築されているかどうかを事案に即して丁寧に検討することが求められる。
1168
1169
1170 次に,
1171 構築された内部統制システムの運用については,
1172 C及びDのそれぞれに任務懈怠が
1173 認められるかどうかを事案に即して丁寧に検討することが求められる。
1174
1175 Cに任務懈怠が認め
1176 られるかどうかを検討するに当たっては,
1177 構築された内部統制システムを運用する際に,
1178 会
1179 社が営む事業の規模や特性等に応じた内部統制システムが外形上機能している場合には,
1180 他
1181 の役職員がその報告のとおりに職務を遂行しているものと信頼することができるかどうかに
1182 ついても,
1183 検討することが期待される。
1184
1185 また,
1186 Dに任務懈怠が認められるかどうかを検討す
1187 るに当たっては,
1188 これまで甲社において同様の不正行為が生じたことがなく,
1189 また,
1190 会計監
1191 査人からも不正行為をうかがわせる指摘を受けたことがなかったものの,
1192 本件通報は甲社の
1193 従業員の実名によるものであることなどの事情を踏まえた上で,
1194 本件通報があった旨の報告
1195 を受けていたDが,
1196 本件通報には信ぴょう性がないと考え,
1197 本件通報等の調査を指示しなかっ
1198 たことなどをどのように評価すべきかについても,
1199 具体的に検討することが期待される。
1200
1201
1202 そして,
1203 任務懈怠及び帰責事由が認められるとする場合には,
1204 因果関係が認められる損害
1205 の範囲ないし額についても,
1206 検討することが求められる。
1207
1208 なお,
1209 構築された内部統制システ
1210 ムの運用について,
1211 Dに任務懈怠があったと認められるとしても,
1212 本問において,
1213 Dは,
1214 平
1215 成27年3月末に本件通報があった旨の報告を受けており,
1216 甲社は,
1217 乙社に対し,
1218 同年4月
1219 末に残金合計3000万円を支払ったこと,
1220 他方で,
1221 Cの指示により甲社の法務・コンプラ
1222 イアンス部門が調査をした結果,
1223 2週間程度で,
1224 EとFが謀り,
1225 本件下請工事について不正
1226 行為をしていたことが判明したことからすれば,
1227 Dの任務懈怠との間で,
1228 当然に因果関係が
1229 認められる損害の範囲ないし額は,
1230 EとFが着服した5000万円の全額ではなく,
1231 甲社が
1232 乙社に対して同月末に支払った3000万円とすることが考えられよう。
1233
1234
1235
1236 -9-
1237
1238 〔第3問〕
1239 本問は,
1240 権利能力なき社団の構成員に総有的に帰属する財産をめぐる紛争を基本的な題材
1241 として,
1242 @当該社団の構成員が原告となって総有財産の所有関係を第三者に主張する場合に
1243 は,
1244 それが固有必要的共同訴訟に当たることを前提に,
1245 そのような訴訟を現実に遂行した場
1246 合に生じ得る問題についての解決方法(〔設問1〕),
1247 A当該社団が原告となり社団の元代表者
1248 等を被告として総有財産の帰属関係等を争う訴訟において,
1249 元代表者が解任決議の無効や会
1250 長の地位確認を求める訴えを反訴で提起することにつき,
1251 訴えの利益や反訴要件の有無(〔設
1252 問2〕),
1253 B当該訴訟において敗訴した被告の一方が他方の被告に対して債務不履行責任を追
1254 及する場合に,
1255 前訴においても審理された総有財産の帰属に関して改めて審理・判断するこ
1256 との可否(〔設問3〕)に関して,
1257 検討をすることが求められている。
1258
1259
1260 これらの課題に含まれる論点は,
1261 基礎的なものも少なくないが,
1262 全体の分量との関係では,
1263
1264 その論点についての正確な知識に基づく解答を端的に論述することが必要であり,
1265 また,
1266 問
1267 題文には関連判例等を踏まえた問題意識が多く示されているから,
1268 これらに的確に応答し,
1269
1270 論述することが期待されている。
1271
1272
1273 〔設問1〕では,
1274 まず,
1275 総有権確認請求訴訟という形態で,
1276 総有財産の所有関係を第三者
1277 に主張することが固有必要的共同訴訟に当たるとされる理由についての分析が求められてい
1278 る。
1279
1280 総有財産に関する紛争形態は様々であるものの,
1281 本件の訴訟物は総有権を第三者に確認
1282 するというものであるから,
1283 固有必要的共同訴訟に当たる理由の説明もそれに応じたものと
1284 する必要がある。
1285
1286
1287 そして,
1288 このことを踏まえつつ,
1289 本件のXのように相応に構成員の数の多い権利能力なき
1290 社団において構成員を原告として訴えを提起しようとした場合に,
1291 実際にどのような問題が
1292 生じ得るかを検討し,
1293 考えられる解決方法を提示することが求められている。
1294
1295 そして,
1296 弁護
1297 士L1と司法修習生P1との間の会話では,
1298 構成員の中に反対者がいた場合にどのようにし
1299 て訴えの適法性を確保するべきかという問題意識が示されている。
1300
1301 典型的には反対者を被告
1302 として訴えを提起することが想定されるが,
1303 その際には,
1304 先に述べた,
1305 総有権確認請求訴訟
1306 が固有必要的共同訴訟とされる論拠と整合性のある説明を工夫することが期待される。
1307
1308 さら
1309 に,
1310 続いて,
1311 訴え提起後に構成員に変動が生じた場合,
1312 その中でも新たな構成員が追加的に
1313 現れた場合の処理をどうするかという問題意識も示されている。
1314
1315 ここでは,
1316 様々な方法が考
1317 えられるところであるが,
1318 代表者として行動しているBの方針に同調しない構成員について
1319 は,
1320 その自発的な行動が想定し難く,
1321 原告側のみで行うことのできる方策としてどのような
1322 ものが考えられるかという観点から検討することが求められている。
1323
1324
1325 〔設問2〕では,
1326 〔設問1〕と異なり,
1327 権利能力なき社団であるXが原告となって訴えを提
1328 起した事案について問うものである。
1329
1330 Bを代表者とするXは,
1331 本件紛争の解決のため,
1332 本件
1333 不動産の所有名義人である元代表者のZと,
1334 Zから抵当権の設定を受けてその旨の登記を経
1335 たYとを被告として,
1336 総有権確認請求と各登記手続請求の訴えとを提起しているが,
1337 ここで,
1338
1339 被告とされたZは自身がなおXの代表者の地位にあることを認めさせようと,
1340 Xを被告とし
1341 てZ自身の解任決議の無効等を確認する反訴を提起しようとしている。
1342
1343 代表権に関する紛争
1344 が存在する場合に,
1345 このような確認の訴えに訴えの利益が認められることについては異論は
1346 少ないと思われるが,
1347 ここでは,
1348 特に,
1349 最高裁判所昭和28年12月24日第一小法廷判決・
1350 民集7巻13号1644頁が,
1351 訴訟代理人の代理権の存否の確認を求める訴えを不適法とし
1352 ていることを踏まえつつ,
1353 共にある(別の)訴訟における訴訟要件の存否に関わる判断であ
1354 りながら,
1355 本件における権利能力なき社団であるXの代表権の存否の確認を求める訴えはな
1356 ぜ適法となるのかを,
1357 本件における事実関係も踏まえながら,
1358 訴訟代理権と代表権とでは実
1359 質的な紛争の広がりが異なるといったことを指摘し,
1360 説明することが求められている。
1361
1362
1363 また,
1364 〔設問2〕においては,
1365 念のため,
1366 反訴要件の具備・不具備について検討することも
1367
1368 - 10 -
1369
1370 求められている。
1371
1372 本件との関係では,
1373
1374 「本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求」
1375 といえるか否か,
1376 「著しく訴訟手続を遅滞させる」場合に当たらないか否かについて,
1377 本件の
1378 事実関係に基づいた当てはめの検討が求められている。
1379
1380 前者については,
1381 仮にBではなくZ
1382 がXの代表者の地位にあるとすれば,
1383 Bを代表者とするXの訴えはそのままでは適法なもの
1384 としては維持できないから,
1385 その点を争うとともにZの代表権の確認を反訴で求めることは
1386 防御の方法と関連する請求となるのではないか,
1387 また,
1388 本訴としてX代表者としてのBへの
1389 登記移転請求の訴えも併合されていることから,
1390 本訴請求と関連性を有するといえないかな
1391 ど具体的に摘示することが望まれる。
1392
1393
1394 〔設問3〕では,
1395 〔設問2〕の訴訟(第1訴訟)において原告勝訴の判決(前訴判決)が確
1396 定したことを前提に,
1397 本件不動産について設定を受けていた抵当権は無効であり,
1398 損害を被っ
1399 たなどとして,
1400 YがZに対して債務不履行に基づく損害賠償を求める第2訴訟を提起したと
1401 の事実関係の下で,
1402 この第2訴訟で本件不動産の所有関係を再度審理・判断することができ
1403 るのかどうかが問われている。
1404
1405 本件の事実関係はやや複雑であるものの,
1406 まず,
1407 第1訴訟に
1408 おける共同被告であるにすぎないYとZとの間には当然には既判力が生じないことが前提と
1409 して押さえられなければならない。
1410
1411 その上で,
1412 裁判官Jと司法修習生P3との会話を見れば,
1413
1414 本件については,
1415 二つの検討のルート,
1416 すなわち,
1417 @前訴判決のうちXとYとの間の部分に
1418 ついては,
1419 Xを当事者としているところ,
1420 引用判例(最高裁判所平成6年5月31日第三小
1421 法廷判決・民集48巻4号1065頁)に従えばXの構成員であるZにも既判力が及ぶため,
1422
1423 YとZとの間に既判力が生ずることとなり,
1424 本件不動産の所有関係について再度の審理・判
1425 断ができないことになるのではないかという権利能力なき社団に特有の法理による解決を模
1426 索する方向性と,
1427 A権利能力なき社団を離れてより一般的に,
1428 前訴で敗訴をした共同被告間
1429 における担保責任の追及訴訟において二重敗訴の危険を防ぐ手段としてどのようなものが想
1430 定され得るかという問題として解決を模索する方向性とが示唆されていることが読み取れる。
1431
1432
1433 まず,
1434 @の方向性に関しては,
1435 本件において引用判例の法理を援用することができるかを
1436 権利能力なき社団及びこれを当事者とする訴訟の性質についての解釈を踏まえつつ検討する
1437 必要があり,
1438 そこでは,
1439 判例法理に素朴に従えば判決効の拡張を受けることになりそうなZ
1440 がXの相手方として行動しているという本件事案の特殊性を踏まえてどのように結論付ける
1441 かについて考察することが求められている(問題文の下線部@参照)。
1442
1443 また,
1444 この点について
1445 いずれの結論を採るにせよ,
1446 本件の事実関係の下で,
1447 抵当権の設定時点における本件不動産
1448 の所有関係という第2訴訟の争点についての審理・判断が前訴判決の既判力によって封じら
1449 れるのかを具体的に検討することも求められている。
1450
1451 すなわち,
1452 前訴判決の既判力の基準時
1453 よりも「前」の時点における所有関係が争点となっているところ,
1454 そのような争点との関係
1455 で,
1456 前訴判決の口頭弁論終結時に本件不動産がXの総有に属していた(すなわち,
1457 Zの所有
1458 には属していなかった)という判断につき生じている前訴判決の既判力がそれ自体として意
1459 味を持ち得るのかという問題を意識して,
1460 解答することが求められている(問題文の下線部
1461 A参照)。
1462
1463
1464 他方で,
1465 Aのルートに関しては,
1466 @のルートのような既判力による解決は困難であることを
1467 踏まえ,
1468 信義則や争点効などによって再審理が不可能であることを結論付けることが視野に入
1469 る。
1470
1471 もっとも,
1472 こうした議論は明文の根拠に乏しく,
1473 程度の差はあるものの一般条項に依拠し
1474 たものとならざるを得ないことからすれば,
1475 Yとして事後の訴訟を想定し,
1476 第1訴訟の段階で
1477 採るべき手段が何かなかったのかという事情は考慮すべき事情となるはずである。
1478
1479 そこで,
1480 こ
1481 のような方法としてどのような方法があり得るかを検討すると,
1482 訴訟告知などが想定される。
1483
1484
1485 こうした方法があることを踏まえれば,
1486 既判力に基づく説明以外の説明で再審理をすべきでな
1487 いとするYの主張は否定されざるを得ないのか,
1488 それとも一定の方法があるとはいえ本件の事
1489 実関係の下ではなおYの主張は認め得るものであるのかを,
1490 自らの立場を明らかにしつつ,
1491 論
1492
1493 - 11 -
1494
1495 証することが必要となる(問題文の下線部B参照)。
1496
1497
1498 【刑事系科目】
1499 〔第1問〕
1500 本問は,
1501 暴力団構成員である乙が,
1502 上位の地位にある甲から,
1503 V方に押し入って現金を奪
1504 うこと(以下「本件強盗」という。
1505
1506 )を指示され,
1507 甲から資金提供を受けて開錠道具や果物ナ
1508 イフ(以下「ナイフ」という。
1509
1510 )等必要な道具を購入した後,
1511 甲から本件強盗を中止するよう
1512 に言われたものの,
1513 これに従わずに前記開錠道具を用いてV方に侵入し,
1514 Vに暴行・脅迫を
1515 加えたところ,
1516 乙が強盗するのを手伝うために丙がV方にやって来たことから,
1517 丙と共に現
1518 金を奪って逃げた事例と,
1519 乙らの逃走後,
1520 V方に侵入した丁が,
1521 Vのキャッシュカードをポ
1522 ケットに入れた後に血を流して倒れているVを見付け,
1523 同人から同カードの暗証番号を聞き
1524 出して逃走し,
1525 同カードを用いて現金を引き出すために近くの銀行支店に行き,
1526 同支店内に
1527 おいて,
1528 前記聞き出した暗証番号を使って現金自動預払機(以下「ATM」という。
1529
1530 )から現
1531 金を引き出したという事例(なお,
1532 丁の逃走後,
1533 Vは乙から顔面を蹴られたことによる脳内
1534 出血が原因で死亡した。
1535
1536 )について,
1537 甲乙丙丁それぞれの罪責を検討させることにより,
1538 刑事
1539 実体法及びその解釈論の知識と理解を問うとともに,
1540 具体的な事実関係を分析してそれに法
1541 規範を適用する能力及び論理的な思考力や論述力を試すものである。
1542
1543
1544 以下では,
1545 V方における強盗の実行犯である乙,
1546 V方において乙に加担した丙,
1547 乙に本件
1548 強盗を指示した甲,
1549 その後V方に侵入した丁の罪責について順に述べることとする。
1550
1551
1552
1553
1554 乙の罪責
1555 暴力団組織である某組の構成員である乙は,
1556 某年9月1日,
1557 同組で組長に次ぐ地位にある
1558 甲から,
1559 組長からまとまった金を作れと言われているので,
1560 V方金庫内にある数百万円の
1561 現金を,
1562 V方に押し入って,
1563 Vをナイフで脅して奪って来いと指示された上,
1564 奪った現金
1565 の3割を分け前として与える旨言われた。
1566
1567 乙は,
1568 当初,
1569 逡巡したものの,
1570 某組内で上位の
1571 地位にある甲からの命令であることや,
1572 分け前欲しさから,
1573 その命令を受け入れ,
1574 その後,
1575
1576 甲から渡された現金3万円でV方に侵入する際に使う開錠道具,
1577 Vを脅すために使うナイ
1578 フ,
1579 現金を入れるかばんを購入した上,
1580 某組で自身の弟分の地位にある丙に協力を求めた
1581 がこれを断られたので,
1582 一人でV方へ侵入することにした。
1583
1584 同月12日未明,
1585 乙は,
1586 V方
1587 へ侵入する直前に甲から,
1588 本件強盗を中止すると言われたものの,
1589 これに従わずに本件強
1590 盗を実行し,
1591 用意していた開錠道具を用いてV方へ入り込んだ上,
1592 用意していたナイフを
1593 示し,
1594 Vの顔面を蹴り,
1595 Vの右足のふくらはぎ(以下「右ふくらはぎ」という。
1596
1597 )をナイフ
1598 で刺すなどしてVから金庫の場所等を聞き出し,
1599 その後,
1600 乙が強盗するのを手伝うために
1601 V方にやって来た丙と共に金庫内から現金500万円を取り出して用意していたかばんに
1602 入れてV方から持ち出し,
1603 その後,
1604 同現金のうち150万円を丙に分け前として渡し,
1605 残
1606 り350万円を自身のものとした。
1607
1608
1609 まず,
1610 乙は,
1611 Vから現金を奪う目的で,
1612 事前に用意した開錠道具を用いてV方へ入り込
1613 んでいることから,
1614 住居侵入罪が成立することを簡潔に指摘する必要がある。
1615
1616
1617 次に,
1618 乙がV方金庫内にあった現金を手に入れた行為について,
1619 いかなる構成要件に該
1620 当するかを確定する必要がある。
1621
1622 すなわち,
1623 乙は,
1624 Vに対してナイフを顔面に突き付け,
1625
1626 「金
1627 庫はどこにある。
1628
1629 開け方も教えろ。
1630
1631 怪我をしたくなければ本当のことを言え。
1632
1633 」などと申し
1634 向け,
1635 それでも金庫の場所等を言わないVから,
1636 その場所等を聞き出すためにその顔面を
1637 蹴り付け,
1638 右ふくらはぎをナイフで刺すなどの有形力を行使していることから,
1639 これら乙
1640 の行為が強盗罪の暴行・脅迫に該当することにつき,
1641 その判断基準や判断要素に関して判
1642 例等を意識した上で論じる必要がある。
1643
1644
1645 また,
1646 その後Vは死亡しているが,
1647 その原因は乙から顔面を蹴られたことによる脳内出
1648
1649 - 12 -
1650
1651 血であることから,
1652 死亡結果と因果関係のある乙の行為を的確に指摘し,
1653 強盗致死罪の成
1654 立を論じる必要がある。
1655
1656
1657 そして,
1658 罪数についても論じる必要がある。
1659
1660
1661 なお,
1662 後に問題となるように,
1663 甲について共犯関係の解消を認めると,
1664 甲には強盗予備
1665 罪が成立することになる。
1666
1667 このような結論を採った場合には,
1668 乙につき,
1669 強盗予備罪の成
1670 否,
1671 これと強盗致死罪との関係,
1672 予備罪の共犯の成否等に関しても的確に論じる必要があ
1673 る。
1674
1675
1676
1677
1678 丙の罪責
1679 丙は,
1680 某組では乙の弟分の地位にあり,
1681 前述のとおり,
1682 乙から本件強盗への協力を頼ま
1683 れたものの,
1684 これを実行する日に別の用事があったためにその依頼を断った。
1685
1686 しかし,
1687 乙
1688 が本件強盗を実行する当日である某年9月12日,
1689 前記用事が予定よりも早く終わったこ
1690 とから,
1691 乙が強盗するのを手伝おうと考え,
1692 また,
1693 分け前も欲しかったことからV方へ向
1694 かい,
1695 開いていた玄関からV方内へ入り込んだ。
1696
1697 そうしたところ,
1698 乙は,
1699 V方寝室内の床
1700 にVが右ふくらはぎから血を流して横たわっているのを見付け,
1701 その後,
1702 V方6畳間にい
1703 た乙から,
1704 乙がVの右ふくらはぎを刺したこと,
1705 Vは身動きがとれないので簡単に現金を
1706 奪うことができること,
1707 分け前をもらえることなどを聞くと,
1708 分け前欲しさから,
1709 乙を手
1710 伝って現金を手に入れることに決めた。
1711
1712 その上で丙は,
1713 乙と共にV方金庫内から現金50
1714 0万円を取り出し,
1715 これを乙が用意していたかばんの中に入れ,
1716 その後,
1717 そのかばんを持っ
1718 てV方から出て,
1719 分け前として前記500万円のうち150万円を受け取った。
1720
1721
1722 まず,
1723 丙は,
1724 乙の強盗行為を手伝う目的で玄関からV方に入り込んでいることから,
1725 住
1726 居侵入罪が成立することを簡潔に指摘する必要がある。
1727
1728 なお,
1729 丙の住居侵入罪に関しては,
1730
1731 乙との共謀が成立する前のものであり,
1732 単独犯となることも端的に指摘する必要がある。
1733
1734
1735 また,
1736 丙は,
1737 その後,
1738 乙と共にV方金庫内にあった現金をV方外へ持ち出しているが,
1739
1740 これが容易に可能となったのは,
1741 Vが,
1742 乙から右ふくらはぎをナイフで刺されて血を流し
1743 て動けない状態となっていたためであった。
1744
1745 既に検討しているように,
1746 乙がVの右ふくら
1747 はぎをナイフで刺した行為は強盗罪の暴行に該当することから,
1748 さらに,
1749 丙がVのそのよ
1750 うな状況を利用して乙と共に現金を手に入れた行為につき,
1751 丙にいかなる犯罪が成立する
1752 かを検討する必要がある。
1753
1754
1755 その検討に当たっては,
1756 いわゆる承継的共犯の成否を論じる必要があるところ,
1757 その際
1758 には問題の所在を意識した論述を行う必要がある。
1759
1760 すなわち,
1761 丙と乙との間の共謀はV方
1762 内で成立した現場共謀であることを指摘しつつ,
1763 丙が関与する前(共謀成立前)の乙の行
1764 為に関して責任を負うことがあり得るのかについて,
1765 共犯の処罰根拠を含めて,
1766 承継的共
1767 犯の問題につき説得的に規範定立を行い,
1768 その上で,
1769 定立した自説の規範に,
1770 具体的な事
1771 実を指摘して的確な当てはめを行うことが求められる。
1772
1773
1774 具体的には,
1775 承継的共犯について,
1776 いわゆる中間説(限定的肯定説)の立場を採った場
1777 合には,
1778 丙が乙の先行行為によって生じた状況を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利
1779 用したか否かを論じる必要がある。
1780
1781 この点に関しては,
1782 丙が分け前をもらえると考えてい
1783 たことや,
1784 丙はVが身動きできないので簡単に現金を奪うことができると考えていたこと
1785 などの各事実を的確に指摘して結論を導き出すことが求められ,
1786 その上で,
1787 Vの傷害・死
1788 亡結果について丙もその責任を負うかにつき,
1789 丙が何を利用したのかなどを意識し,
1790 理由
1791 付けも含め的確に論じることが求められる。
1792
1793
1794 また,
1795 承継的共犯について,
1796 いわゆる全面的否定説の立場を採った場合には,
1797 丙に窃盗
1798 罪が成立することになると考えられる。
1799
1800 その結論を導くに当たっては,
1801 Vは丙が関与する
1802 前に既に乙の行為によって反抗を抑圧されており,
1803 丙はVに一切の暴行・脅迫を加えてお
1804 らず,
1805 かつ,
1806 Vも丙の存在を認識していないことなどの各事実を的確に指摘して説得的に
1807
1808 - 13 -
1809
1810 論じることが求められ,
1811 さらに,
1812 乙とはいかなる範囲で共同正犯が成立するのかをも含め
1813 的確に指摘する必要がある。
1814
1815
1816 なお,
1817 丙の罪責に関しては,
1818 前述以外にも,
1819 乙と丙は強盗罪の実行行為の一部を共同し
1820 ているとして強盗罪の範囲で共同正犯が成立するとする見解や,
1821 丙には窃盗罪の他に強盗
1822 罪の幇助犯が成立するとする見解などが存する。
1823
1824
1825 このように種々の見解が存することから,
1826 承継的共犯の規範定立に当たっては,
1827 自説の
1828 みを論じるのではなく反対説を意識して論述するのが望ましいものといえ,
1829 また,
1830 承継的
1831 共犯に関しては近時の判例(最二決平成24年11月6日刑集66巻11号1281頁)
1832 もあることから,
1833 その点も意識した論述ができることがより望ましいものといえる。
1834
1835
1836 そして,
1837 罪数についても論じる必要がある。
1838
1839
1840
1841
1842 甲の罪責
1843 甲は,
1844 暴力団組織である某組の組長に次ぐ地位にあり,
1845 同組組長からまとまった現金を
1846 工面するように指示を受けていたところ,
1847 Vが自宅において,
1848 数百万円の現金を金庫に入
1849 れて保管していることを知り,
1850 この現金を手に入れようと計画した上,
1851 配下組員の乙に対
1852 して,
1853 V方へ押し入り,
1854 ナイフで脅してその現金を奪ってくるように指示し,
1855 ナイフなど
1856 必要な物を購入するための資金として現金3万円を交付した。
1857
1858 その後,
1859 甲は,
1860 乙からナイ
1861 フなど,
1862 同現金で購入した物について報告を受けた後,
1863 某年9月12日未明,
1864 乙からこれ
1865 からV方に押し入る旨を告げられた際,
1866 乙に対して,
1867 組長からの命令として本件強盗を中
1868 止するように言った。
1869
1870 しかしながら,
1871 乙は,
1872 これに従わず,
1873 準備していたナイフなどを用
1874 いて本件強盗を実行し,
1875 その後V方にやってきた丙と共にV方から現金500万円を持ち
1876 出して手に入れた。
1877
1878
1879 まず,
1880 甲は,
1881 乙に対して本件強盗の実行を持ち掛け,
1882 乙はこれを了承しているところ,
1883
1884 甲と乙との間に共謀が成立していることを論じる必要がある。
1885
1886 その際には,
1887 甲が乙に対し
1888 てVが金庫内に多額の現金を保管している旨の情報を提供したこと,
1889 甲が乙に対してVか
1890 ら現金を奪う際にはナイフを用いるように指示したこと,
1891 甲が乙に対してナイフなど必要
1892 な道具を購入するための資金として現金3万円を提供したこと,
1893 乙は分け前欲しさもあり
1894 甲の指示を了承したこと,
1895 乙は甲の配下組員であること,
1896 甲はVから手に入れた金員の7
1897 割を手にすることにしていたこと,
1898 甲は組長からの指示で現金を手に入れる必要があった
1899 ことなどの各事実を指摘した上,
1900 これらの事実を用いて共謀共同正犯が成立することをそ
1901 の要件を踏まえて論じることが求められる。
1902
1903
1904 そして,
1905 甲は,
1906 その後,
1907 乙に対して中止するように言ったにもかかわらず乙が本件強盗
1908 を実行していることから,
1909 甲が乙の実行した本件強盗に関してその責任を負うのか,
1910 共犯
1911 関係からの離脱が問題となる。
1912
1913 これを論じる際には,
1914 共犯の処罰根拠を意識した問題の所
1915 在の摘示及び規範の定立が求められる。
1916
1917
1918 その上で,
1919 甲の離脱を認めるか否かに関しては,
1920 甲と乙のやりとり(中止指示と乙の了
1921 承を前提に,
1922 甲が道具の回収指示をしていないこと),
1923 甲から渡された現金3万円で乙が用
1924 意したナイフや開錠用具,
1925 かばんといった道具の重要性,
1926 甲が首謀者であること,
1927 甲から
1928 乙への中止指示が犯行直前であり,
1929 かつ,
1930 その指示方法も,
1931 組長から中止指示を受けて直
1932 ちに告げたわけではなく,
1933 乙が電話をかけてきた際に告げたものであることなどの各事実
1934 を踏まえ,
1935 定立した規範にこれら事実を的確に当てはめて結論を導き出す必要がある。
1936
1937 そ
1938 の結論としては,
1939 心理的因果性は除去されていたとしても物理的因果性が除去されていな
1940 いとして離脱を認めないとするもの,
1941 心理的因果性が除去されていることに重点を置き離
1942 脱を認めるものなどがあり得るが,
1943 離脱を認める場合には,
1944 物理的因果性が残っているに
1945 もかかわらず離脱を認めると考えた理由につき事案に即してより説得的に論じることが求
1946 められる。
1947
1948
1949
1950 - 14 -
1951
1952 甲の離脱を認めないとの結論を採った場合には,
1953 Vが乙の行為により死亡している点に
1954 関しても甲がその責任を負うのかを,
1955 理由を含めて簡潔に論じる必要がある。
1956
1957 さらに,
1958 甲
1959 と丙との間に共謀が成立するのかについても,
1960 いわゆる順次共謀の考え方(判例として最
1961 大判昭和33年5月28日刑集12巻8号1718頁等がある。
1962
1963 )に従って論述することが
1964 求められる。
1965
1966 なお,
1967 この場合において,
1968 丙につき承継的共犯を否定して窃盗罪の成立を認
1969 めたときには,
1970 甲に関して共犯間の錯誤も問題となり得るところである。
1971
1972
1973 これに対し,
1974 甲の離脱を認めるとの結論を採った場合,
1975 甲には強盗予備罪が成立すると
1976 の結論が導き出される。
1977
1978 その場合には,
1979 乙との間で強盗予備罪の共同正犯が成立するかを
1980 端的に論じる必要がある。
1981
1982 さらに,
1983 甲に予備罪の中止等も問題となり得るところである。
1984
1985
1986 そして,
1987 罪数についても論じる必要がある。
1988
1989
1990
1991
1992 丁の罪責
1993 丁(甲,
1994 乙及び丙とは面識がなかった。
1995
1996 )は,
1997 窃盗に入る先を探して徘徊中,
1998 V方前を通っ
1999 た際に,
2000 V方の玄関扉が少し開いていることに気付いた。
2001
2002 そこで丁は,
2003 V方から金品を盗
2004 もうと考えてV方に入り込み,
2005 その後,
2006 V方6畳間にあった扉の開いた金庫内からX銀行
2007 のV名義のキャッシュカード(以下「カード」という。
2008
2009 )を取り出して自身のズボンのポケ
2010 ットに入れ,
2011 更に物色するためV方寝室に行ったところ,
2012 そこで右ふくらはぎから血を流
2013 して床に横たわっているVを発見した。
2014
2015 丁は,
2016 Vからカードの暗証番号を聞き出そうと考
2017 え,
2018 「暗証番号を教えろ」などと強い口調で言ってこれを聞き出し,
2019 その後,
2020 V方から逃げ
2021 出して,
2022 同カードを用いて現金を引き出すために,
2023 近くの24時間稼動しているATMが
2024 設置されているX銀行Y支店に出入口ドアから入り,
2025 同ATMに同カードを挿入した上,
2026
2027 暗証番号を入力して現金1万円を引き出した。
2028
2029
2030 まず,
2031 丁は,
2032 V方から金品を盗み出す目的で,
2033 開いていた玄関扉からV方へ入り込んで
2034 いることから,
2035 住居侵入罪が成立することを簡潔に指摘する必要がある。
2036
2037
2038 次に,
2039 丁がVのカードをズボンのポケットに入れた点に関しては,
2040 その財物性,
2041 窃盗罪
2042 の既遂時期などについて端的に論じることが求められる。
2043
2044
2045 さらに,
2046 丁は,
2047 その後,
2048 右ふくらはぎを刺されて横たわっているVに対し,
2049 強い口調で
2050 迫ってVのカードの暗証番号を聞き出しているところ,
2051 この行為がいかなる構成要件に該
2052 当するかを確定する必要がある。
2053
2054 この点に関しては,
2055 Vのカードの暗証番号が刑法上保護
2056 されるべき財産上の利益に該当するか否かに加え(カードとその暗証番号を併せ持つこと
2057 は財産上の利益に該当するとした裁判例として東京高判平成21年11月16日判例時報
2058 2103号158頁がある。
2059
2060 ),
2061 丁がVに申し向けた文言が強盗罪の実行行為としての脅迫
2062 に該当するか否かが問題となるところである。
2063
2064 その結論としては,
2065 暗証番号の利益性を肯
2066 定すれば2項強盗罪あるいは2項恐喝罪が,
2067 これを否定すれば強要罪等が成立するが,
2068 い
2069 ずれの結論を採ったとしても,
2070 問題点を意識した上で,
2071 理論的に矛盾なく論じられている
2072 ことが求められる。
2073
2074
2075 また,
2076 丁が,
2077 Vのカードを用いて現金を引き出すためにX銀行Y支店の出入口ドアから
2078 店内に入り,
2079 同カードを使ってATMから現金を引き出した点については,
2080 建造物侵入罪
2081 及び窃盗罪の各成否に関して,
2082 簡潔に論ずる必要がある。
2083
2084
2085 そして,
2086 罪数についても論じる必要がある。
2087
2088
2089
2090 〔第2問〕
2091 本問は,
2092 覚せい剤取締法違反事件の捜査及び公判に関する事例を素材に,
2093 刑事手続法上の
2094 問題点,
2095 その解決に必要な法解釈,
2096 法適用に当たって重要な具体的事実の分析及び評価並び
2097 に結論に至る思考過程を論述させることにより,
2098 刑事訴訟法に関する基本的学識,
2099 法適用能
2100 力及び論理的思考力を試すものである。
2101
2102
2103
2104 - 15 -
2105
2106 〔設問1〕は,
2107 甲による覚せい剤使用及び所持の疑いを抱いた司法警察員Pらが,
2108 H警察
2109 署で甲から尿の提出を受ける必要があると考え,
2110 同署への任意同行を拒む甲に対し,
2111 説得を
2112 続けながら,
2113 30分にわたり,
2114 その進路を塞ぐなどして甲を留め置き,
2115 その後,
2116 甲の覚せい
2117 剤使用等の嫌疑が一層強まった下,
2118 甲車の捜索差押許可状及び甲の尿を差し押さえるべき物
2119 とする捜索差押許可状の請求準備から甲車の捜索を開始するまで,
2120 甲に対し,
2121 その進路を塞
2122 いだり,
2123 胸部及び腹部を突き出しながら甲の体を甲車運転席前まで押し戻すなどし,
2124 5時間
2125 にわたり,
2126 甲を留め置いた措置に関し,
2127 その適法性を検討させる問題であり,
2128 いわゆる強制
2129 処分と任意処分の区別,
2130 任意処分の限界について,
2131 その法的判断枠組みの理解と,
2132 具体的事
2133 実への適用能力を試すことを狙いとする。
2134
2135
2136 強制処分と任意処分の区別に関し,
2137 最高裁判所は,
2138 「強制手段とは,
2139 有形力の行使を伴う手
2140 段を意味するものではなく,
2141 個人の意思を制圧し,
2142 身体,
2143 住居,
2144 財産等に制約を加えて強制
2145 的に捜査目的を実現する行為など,
2146 特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手
2147 段を意味する」と判示しており(最三決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁),
2148 同
2149 決定に留意しつつ,
2150 強制処分と任意処分の区別に関する判断枠組みを明確化する必要がある。
2151
2152
2153 そして,
2154 Pらの措置(その全部又は一部)が強制処分に至っておらず,
2155 任意処分にとどま
2156 る場合においては,
2157 任意処分として許容され得る限界についての検討が必要であるが,
2158 同決
2159 定は,
2160 強制処分に当たらない有形力の行使の適否が問題となった事案において,
2161 「強制手段に
2162 あたらない有形力の行使であっても,
2163 何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるので
2164 あるから,
2165 状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく,
2166 必要性,
2167 緊
2168 急性などをも考慮したうえ,
2169 具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される
2170 ものと解すべきである。
2171
2172 」と判示しているから,
2173 ここでも同決定に留意しつつ,
2174 任意処分の限
2175 界(任意処分の相当性)の判断枠組みを明らかにしておく必要がある。
2176
2177
2178 その上で,
2179 本設問の事例に現れた具体的事実が,
2180 その判断枠組みにおいてどのような意味
2181 を持つのかを意識しながら,
2182 Pらの措置の適法性を検討する必要がある。
2183
2184
2185 強制処分と任意処分の区別に関しては,
2186 Pが甲の前に立ち,
2187 進路を塞いだ事実,
2188 パトカー
2189 で甲車を挟んだ事実,
2190 Pが両手を広げて甲の進路を塞ぎ,
2191 甲がPの体に接触すると,
2192 足を踏
2193 ん張り,
2194 前に進めないよう制止した事実,
2195 更には胸部及び腹部を前方に突き出しながら,
2196 甲
2197 の体を甲車運転席まで押し戻した事実等を具体的に指摘し,
2198 甲の態度にも着目しつつ,
2199 それ
2200 らが甲の意思を制圧するに至っていないか,
2201 甲の行動の自由を侵害していないかといった観
2202 点から評価することが求められる。
2203
2204
2205 そして,
2206 前記の点につき,
2207 強制処分に至っていないとの結論に至った場合には,
2208 任意処分
2209 としての相当性について検討することとなるし,
2210 また,
2211 いずれかの段階から強制処分に至っ
2212 ているとの結論に至った場合であっても,
2213 それまでのPらの措置について,
2214 任意処分として
2215 の相当性を検討することとなる。
2216
2217 任意処分の相当性として,
2218 特定の捜査手段により対象者に
2219 生じる法益侵害の内容・程度と,
2220 特定の捜査目的を達成するため当該捜査手段を用いる必要
2221 との間の合理的権衡(いわゆる「比例原則」)が求められるとすると,
2222 甲に対する覚せい剤使
2223 用等の嫌疑が次第に高まり,
2224 また,
2225 【事例】3に至ると,
2226 Pらが甲の尿を差し押さえるべき物
2227 とする捜索差押許可状等の請求準備を行っているところ,
2228 このような嫌疑の高まり等に応じ,
2229
2230 当該捜査手段を用いる必要の程度が変化すれば,
2231 相当と認められ得る留め置きの態様も変化
2232 することとなるから,
2233 そのような判断構造を踏まえ,
2234 具体的事実を摘示しつつ,
2235 相当性を適
2236 切に評価することが求められる。
2237
2238
2239 なお,
2240 留め置き措置の適法性に関し,
2241 「留め置きの任意捜査としての適法性を判断するに当
2242 たっては,
2243 本件留め置きが,
2244 純粋に任意捜査として行われている段階と,
2245 強制採尿令状の執
2246 行に向けて行われた段階とからなっていることに留意する必要があり,
2247 両者を一括して判断
2248 するのは相当でないと解される。
2249
2250 」とする裁判例があり(東京高裁平成21年7月1日判決判
2251
2252 - 16 -
2253
2254 タ1314号302頁等),
2255 このような考え方に従って論述することも可能であろうが,
2256 もと
2257 より同裁判例の考え方に従うことを求めるものではない。
2258
2259
2260 〔設問2〕は,
2261 接見指定の可否・限界を問うものであり,
2262 接見指定に関する刑事訴訟法第
2263 39条第3項本文の解釈及び初回接見であることを踏まえた同項ただし書の解釈並びに具体
2264 的事実に対する適用能力を試すものである。
2265
2266
2267 本設問では,
2268 まず,
2269 「捜査のため必要があるとき」という文言の解釈について,
2270 「接見等を
2271 認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ,
2272 右要件が具備され,
2273
2274 接見等の日時等の指定をする場合には,
2275 捜査機関は,
2276 弁護人等と協議してできる限り速やか
2277 な接見等のための日時等を指定し,
2278 被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるよう
2279 な措置を採らなければならないものと解すべきである。
2280
2281 そして,
2282 弁護人等から接見等の申出
2283 を受けた時に,
2284 捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分,
2285 検証等に立ち会わ
2286 せている場合,
2287 また,
2288 間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって,
2289 弁護人等の申出に
2290 沿った接見等を認めたのでは,
2291 右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合
2292 などは,
2293 原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たる
2294 と解すべきである。
2295
2296 」と判示した最高裁判所平成11年3月24日大法廷判決(民集53巻3
2297 号514頁)を踏まえつつ,
2298 自説を論ずる必要がある。
2299
2300
2301 その上で,
2302 各接見指定において,
2303 接見指定を行ったのが,
2304 刑事訴訟法上要求されている弁
2305 解録取手続中であること(下線部@),
2306 甲の自白を得たいとして取調べを実施しようとする段
2307 階であること(下線部A)を踏まえ,
2308 具体的な当てはめを行う必要がある。
2309
2310
2311 次に,
2312 刑事訴訟法第39条第3項ただし書では,
2313 接見指定の要件が認められる場合であっ
2314 ても,
2315 「その指定は,
2316 被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであっては
2317 ならない。
2318
2319 」とされている。
2320
2321 本設問において,
2322 甲は,
2323 いまだ弁護人となろうとする者との接見
2324 の機会がなく,
2325 弁護士Tによる接見は,
2326 初回接見となる予定であった。
2327
2328 この点に関し,
2329 最高
2330 裁判所は,
2331 「弁護人となろうとする者と被疑者との逮捕直後の初回の接見は,
2332 身体を拘束され
2333 た被疑者にとっては,
2334 弁護人の選任を目的とし,
2335 かつ,
2336 今後捜査機関の取調べを受けるに当
2337 たっての助言を得るための最初の機会であって,
2338 直ちに弁護人に依頼する権利を与えられな
2339 ければ抑留又は拘禁されないとする憲法上の保障の出発点を成すものであるから,
2340 これを速
2341 やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。
2342
2343 」とし,
2344 初回接見の申出を受
2345 けた捜査機関としては,
2346 「接見指定の要件が具備された場合でも,
2347 その指定に当たっては,
2348 弁
2349 護人となろうとする者と協議して,
2350 即時又は近接した時点での接見を認めても接見の時間を
2351 指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避けることが可能かどうかを検討し,
2352 これが可能
2353 なときは,
2354 (中略)即時又は近接した時点での接見を認めるようにすべきであり,
2355 このような
2356 場合に,
2357 被疑者の取調べを理由として右時点での接見を拒否するような指定をし,
2358 被疑者と
2359 弁護人となろうとする者との初回の接見の機会を遅らせることは,
2360 被疑者が防御の準備をす
2361 る権利を不当に制限するものといわなければならない。
2362
2363 」(最三判平成12年6月13日民集
2364 54巻5号1635頁)と判示している。
2365
2366 同判決とそこに示唆された「被疑者が防禦の準備
2367 をする権利を不当に制限する」かどうかの判断構造に留意しつつ,
2368 各下線部における接見指
2369 定の適法性について,
2370 具体的な当てはめを行う必要がある。
2371
2372
2373 〔設問3〕は,
2374 乙の供述を内容とする証言について,
2375 伝聞法則の適用の有無を問うもので
2376 ある。
2377
2378
2379 ある供述が伝聞法則の適用を受けるか否かについては,
2380 要証事実をどのように捉えるかに
2381 よって異なるものであり,
2382 【事例】7に記載された本件の争点及び証人尋問の内容を参考に,
2383
2384 具体的な要証事実を正確に検討する必要がある。
2385
2386 公判前整理手続の結果,
2387 本件の争点につい
2388 ては,
2389 @平成27年6月28日に,
2390 乙方において,
2391 乙が甲に覚せい剤を譲り渡したか,
2392 Aそ
2393 の際,
2394 乙に,
2395 覚せい剤であるとの認識があったかの2点であると整理されているところ,
2396 証
2397
2398 - 17 -
2399
2400 人尋問の内容に照らせば,
2401 本設問において問題となっているのはAに関することがうかがわ
2402 れる。
2403
2404 そこで,
2405 このことを前提に,
2406 具体的な要証事実を検討した上,
2407 乙の発言内容の真実性
2408 が問題となっているかどうかを論じ,
2409 伝聞供述に該当するかの結論を導くこととなる。
2410
2411
2412 〔設問4〕は,
2413 公判前整理手続で明示された主張に関し,
2414 その内容を一部異にする被告人
2415 質問を制限することの可否について問うことによって,
2416 公判前整理手続の意義及び趣旨の理
2417 解並びにそれを具体的場面において適用し問題解決を導く思考力を試すものである。
2418
2419
2420 本設問に関連し,
2421 公判前整理手続で明示されたアリバイ主張に関し,
2422 その内容を更に具体化
2423 する被告人質問等を刑事訴訟法第295条第1項により制限することの可否について判示した
2424 最高裁判所決定がある(最二決平成27年5月25日刑集69巻4号636頁)。
2425
2426 本設問の解
2427 答に当たっては,
2428 同決定を踏まえた論述まで求めるものではないが,
2429 被告人及び弁護人には,
2430
2431 公判前整理手続終了後における主張制限の規定が置かれておらず,
2432 新たな主張に沿った被告人
2433 の供述を当然に制限することはできないことに留意しつつ,
2434 公判前整理手続の趣旨に遡り,
2435 被
2436 告人質問を制限できる場合に関する自説を論じた上,
2437 本設問における公判前整理手続の経過及
2438 び結果並びに乙が公判期日で供述しようとした内容を抽出・指摘しながら,
2439 当てはめを行う必
2440 要がある。
2441
2442
2443 [選択科目]
2444 [倒
2445
2446 産
2447
2448 法]
2449
2450 〔第1問〕
2451 本問は,
2452 法人破産の具体的事例を通じて,
2453 別除権となる動産売買先取特権の担保権実行,
2454 双方未
2455 履行双務契約の規律,
2456 破産管財人が担保目的物を売却した際の財団債権の成否,
2457 相殺権と相殺禁止
2458 の規律,
2459 具体的事案における相殺の可否を問うものである。
2460
2461
2462 設問1は,
2463 担保権者であるB社の動産売買先取特権に基づく担保権実行と契約当事者であるD社
2464 との本件売買契約の双方未履行双務契約の処理が組み合わされ,
2465 破産管財人も含め,
2466 先鋭的に利害
2467 対立する場面における,
2468 権利関係の調整が問題となる。
2469
2470 問題を3つの場面に分割し,
2471 順次検討する
2472 ことを求めている。
2473
2474
2475 まず,
2476 小問は,
2477 B社の売買契約に基づく代金支払請求権(民法第555条)は,
2478 破産手続では
2479 破産債権であり(破産法第2条第5項)
2480 ,
2481 個別の権利行使が禁止され,
2482 破産手続によらなければ行
2483 使できず(同法第100条第1項)
2484 ,
2485 債権届出,
2486 調査,
2487 確定手続を経て,
2488 配当を受けることになる。
2489
2490
2491 ただ,
2492 B社は,
2493 機械αにつき,
2494 動産売買先取特権を有し(民法第311条第5号・第321条)
2495 ,
2496
2497 破産手続において特別の先取特権は別除権とされることから(破産法第2条第9項)
2498 ,
2499 別除権付破
2500 産債権となり,
2501 別除権につき破産手続によらないで担保権実行が可能となる(同法第65条第1項)
2502 。
2503
2504
2505 機械αはA社の自社倉庫内に存在するので,
2506 その実行方法は,
2507 執行裁判所の動産競売開始許可を得
2508 た上での動産競売となる(民事執行法第190条第1項第3号・第2項)
2509 。
2510
2511 なお,
2512 B社は,
2513 動産売
2514 買先取特権に基づく機械αの返還請求はできず,
2515 また,
2516 物上代位権の行使の場面ではない。
2517
2518 破産配
2519 当との関係では,
2520 不足額責任主義がある(破産法第108条第1項本文)
2521 。
2522
2523
2524 次に,
2525 小問は,
2526 D社との本件売買契約が双方未履行の双務契約であり,
2527 破産管財人Xは,
2528 破産
2529 法第53条第1項に基づく解除か履行の選択を行う場面となるところ(D社には確答催告権のみ)
2530 ,
2531
2532 Xは機械αの代金を回収して破産財団を増殖させたいと考えており,
2533 履行を選択することが想定さ
2534 れている。
2535
2536 問題状況としては,
2537 XのD社に対する代金支払請求権は破産財団に属する債権であり,
2538
2539 D社のA社に対する機械αの引渡請求権は原則として破産債権となるところ,
2540 D社には同時履行の
2541 抗弁権があり(民法第533条)
2542 ,
2543 XがD社から代金を回収したくてもこのままでは回収できない。
2544
2545
2546 そこで,
2547 倒産法独自の双方未履行双務契約の規律の制度趣旨が問われることになる。
2548
2549 制度趣旨につ
2550 いての学説の優劣を問うものではなく,
2551 破産管財人の解除権や破産管財人の選択権に重きを置く見
2552 解に立ったとしても,
2553 破産管財人が履行を選択した場合の効果として,
2554 相手方の請求権(D社の機
2555
2556 - 18 -
2557
2558 械αの引渡請求権)が財団債権(破産法第148条第1項第7号)になる点につき,
2559 当該制度趣旨
2560 を踏まえた論述が求められる。
2561
2562 また,
2563 履行選択には,
2564 破産手続上必要とされる手続として,
2565 裁判所
2566 の許可が必要であること(同法第78条第2項第9号・第3項第1号,
2567 破産規則第25条)をその
2568 理由も含め論じる必要がある。
2569
2570
2571 さらに,
2572 小問では,
2573 XがD社から代金を回収しており,
2574 B社はその前に差押えをしていないこ
2575 とから,
2576 別除権者として物上代位権の行使はできず,
2577 優先的な回収はできないところ(民法第30
2578 4条第1項ただし書)
2579 ,
2580 XがD社から代金を回収したことを知ったB社が破産財団から優先的に弁
2581 済を受けることができるか,
2582 すなわち財団債権となる法律構成が可能かの問題となる。
2583
2584 具体的には,
2585
2586 Xが担保目的物を売却したことが不法行為(同法第709条,
2587 破産法第148条第1項第4号)や
2588 不当利得(民法第703条,
2589 破産法第148条第1項第5号)となるかどうかの検討が求められる
2590 が,
2591 動産売買先取特権は,
2592 法定担保であり,
2593 もともと弱い担保権とされるところ,
2594 破産管財人は破
2595 産財団に属する動産を換価すべき立場にあること,
2596 動産売買先取特権には第三取得者への引渡し後
2597 の追及効がなく(民法第333条)
2598 ,
2599 前述のとおり物上代位権の行使(同法第304条第1項本文,
2600
2601 民事執行法第193条第1項)も代金回収前に差押えが必要であること(民法第304条第1項た
2602 だし書)などからすると,
2603 基本的には成立に消極的な方向となろう。
2604
2605
2606 設問2は,
2607 C社のA社に対する本件貸付金債権(破産債権)を自働債権とし,
2608 譲渡担保権実行に
2609 伴う剰余金返還債務に対応するA社のC社に対する剰余金返還請求権を受働債権とする相殺が認め
2610 られるか,
2611 ここでA社のC社に対する剰余金返還請求権は,
2612 停止条件付債権であると考えられると
2613 ころ,
2614 破産手続開始後に受働債権につき停止条件が成就した場合の相殺の可否が問題となる。
2615
2616 この
2617 問題を検討するには,
2618 まず,
2619 前提として,
2620 民法の相殺(民法第505条第1項)及び破産法の相殺
2621 権(破産法第67条第1項)を確認すると,
2622 相殺適状との関係では,
2623 自働債権である貸付金債権は,
2624
2625 破産手続開始決定によって現在化し(破産法第103条第3項),弁済期が到来している(なお,「A
2626 社の支払停止」や「同法第67条第2項後段により相殺可能」との指摘でも良い。
2627
2628
2629 )
2630 。
2631
2632 次に,
2633 受働債
2634 権である剰余金返還債権については,
2635 破産法第67条第2項後段は条件付債務についても相殺を可
2636 としており,
2637 停止条件付債務につき,
2638 破産手続開始後に停止条件が成就した場合も相殺可能と思わ
2639 れる。
2640
2641 しかし,
2642 同法第71条第1項第1号は破産手続開始後の債務負担につき相殺禁止としており,
2643
2644 破産手続開始後に停止条件が成就した場合,
2645 破産手続開始後の債務負担として相殺禁止となるとも
2646 考えられる(かつ,
2647 同条第2項の例外規定は適用がない。
2648
2649
2650 )
2651 。
2652
2653 解答に際しては,
2654 破産法の条文がこの
2655 ような構造となっていることを確認することが求められる。
2656
2657
2658 以上を前提に,
2659 最高裁判所平成17年1月17日第二小法廷判決(民集59巻1号1頁。
2660
2661 以下,
2662
2663 「平成17年最判」という。
2664
2665
2666 )の射程が問題となる。
2667
2668 平成17年最判の事案は,
2669 破産手続開始前の
2670 不法行為(火災保険詐欺)に基づく損害賠償請求権と破産手続開始後の満期返戻金債権,
2671 解約返戻
2672 金債権の相殺が問題となり,
2673 停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく,
2674 破産手続開始後に
2675 停止条件が成就したときも,
2676 特段の事情のない限り,
2677 相殺可能と判断した。
2678
2679 これに対し,
2680 設問2は,
2681
2682 会社整理の最高裁判所昭和47年7月13日第一小法廷判決(民集26巻6号1151頁。
2683
2684 以下「昭
2685 和47年最判」という。
2686
2687
2688 )の場面を用い,
2689 機械βが思い掛けず高く売れ,
2690 C社が「期待していなかっ
2691 た」剰余金返還債務の負担が破産手続開始後に現実化したことをどのように評価するかを問うもの
2692 である。
2693
2694 平成17年最判の判断を前提に,
2695
2696 「特段の事情」の意味合いにつき,
2697 相殺に対する合理的
2698 期待との関係,
2699 停止条件成就前に受働債権の発生いかんも額も不確定の場合か(昭和47年最判)
2700 ,
2701
2702 相殺権の濫用に該当する場合か等を適宜挙げ,
2703 説得的に論じることが求められる。
2704
2705
2706 〔第2問〕
2707 本問は,
2708 具体的事例を通じて,
2709 再生計画案の適法性及び再生計画の履行確保の方策等につい
2710 ての理解と問題解決能力を問うものである。
2711
2712 公平・平等や衡平,
2713 関係者の手続保障等の民事再
2714 生法の理念や,
2715 手続の追行主体が債務者とされていること等の再生手続の基本構造を正確に理
2716
2717 - 19 -
2718
2719 解した上,
2720 これらを踏まえて,
2721 具体的な事実関係を的確に分析し,
2722 それに法規範を正しく適用
2723 して論旨を展開する能力が問われている。
2724
2725
2726 設問1は,
2727 再生債務者から再生計画案の提出を受けた裁判所が,
2728 これを決議に付する旨の決
2729 定をすることができるか否かを問うものである。
2730
2731 前提として,
2732 裁判所は,
2733 再生計画案の提出が
2734 あったときは,
2735 民事再生法第169条第1項各号のいずれかに該当する場合を除き,
2736 当該再生
2737 計画案を決議に付する決定をすることとなり,
2738 本件再生計画案を付議するためには,
2739 当該再生
2740 計画案が「法律の規定に違反」(民事再生法第174条第2項第1号)するものではないこと
2741 が必要である旨(同法第169条第1項第3号)を指摘する必要がある。
2742
2743 また,
2744 本設問では,
2745
2746 本件再生計画案の第2項(権利変更の一般的基準)の@からCまでの各条項の民事再生法上の
2747 問題点を踏まえることが求められており,
2748 これら各条項の民事再生法への適合性が問題となる
2749 が,
2750 当該各条項は,
2751 それぞれ免除を受ける割合を異にする権利変更の内容を定めているため,
2752
2753 これらが「再生計画による権利変更の内容は,
2754 再生債権者の間では平等でなければならない。
2755
2756 」
2757 として平等原則を規定する民事再生法第155条第1項本文に反しないかを検討する必要があ
2758 る。
2759
2760 具体的には,
2761 @は,
2762 同項ただし書の「第84条第2項に掲げる請求権」に関する定めとし
2763 て,
2764 Aは,
2765 同項ただし書の「少額の再生債権」に関する定めとして,
2766 Bは,
2767 同項ただし書の「不
2768 利益を受ける債権者の同意がある場合」に関する定めとして,
2769 Cは,
2770 同項ただし書の「その他
2771 これらの者の間に差を設けても衡平を害しない場合」に関する定めとして,
2772 それぞれ同項本文
2773 に反しないかを検討する必要がある。
2774
2775 これらを検討するに際しては,
2776 同項ただし書がそれぞれ
2777 平等原則の例外を許容している趣旨を踏まえて論ずべきであり,
2778 特に,
2779 Cの条項に関しては,
2780
2781 本件における具体的事情を摘示してこれを的確に当てはめ,
2782 具体的にCの条項が「衡平を害し
2783 ない」か否かを検討する必要がある。
2784
2785
2786 設問2は,
2787 再生計画認可後の再生手続について問うものであり,
2788 再生計画の履行確保の方策
2789 等が問題となる。
2790
2791 小問では,
2792 再生計画認可後の再生手続において再生債務者(X社)及び監
2793 督委員(K)が果たすべき役割が問われている。
2794
2795 この点は,
2796 再生債務者が,
2797 業務遂行権及び財
2798 産管理処分権を有し(同法第38条第1項),
2799 債権者に対し,
2800 公平誠実にこれら権利を行使し,
2801
2802 再生手続を追行する義務を負うこと(同法第38条第2項)を踏まえ,
2803 再生債務者が自らの責
2804 任において再生計画を履行すること(同法第186条第1項)を論じた上,
2805 これが適正になさ
2806 れるよう善管注意義務(同法第60条第1項)を負う監督委員(K)が,
2807 履行監督(同法第1
2808 86条第2項)を行うことについて論じる必要がある。
2809
2810 その上で,
2811 再生債務者(X社)の採り
2812 得る方策としては,
2813 再生計画の変更の申立て(同法第187条第1項)が考えられるが,
2814 同制
2815 度の趣旨を踏まえ,
2816 本件において再生計画の変更が認められるか否かを検討する必要がある。
2817
2818
2819 また,
2820 再生債務者(X社)としては,
2821 再生計画が履行される見込みがないことが明らかになっ
2822 たとして,
2823 廃止の申立て(同法第194条)をすることも考えられるが,
2824 この点については,
2825
2826 前記の再生手続において再生債務者が果たすべき役割を踏まえて,
2827 再生債務者において,
2828 あえ
2829 て廃止を申し立てる意義についても論ずべきである。
2830
2831
2832 小問では,
2833 G銀行が採り得る方策として,
2834 再生計画の取消しの申立て(同法第189条第
2835 1項第2号)が考えられる。
2836
2837 これを検討するに当たっては,
2838 当該申立てが同法第189条第1
2839 項第2号や同条第3項の要件に該当するか否かの当てはめを行い,
2840 その効果として,
2841 再生計画
2842 の取消決定が確定したときには,
2843 再生計画によって変更された再生債権が原状に復すること(同
2844 法第189条第7項)を論ずる必要がある。
2845
2846 また,
2847 G銀行としては,
2848 再生債権者表の記載を債
2849 務名義とした強制執行(同法第180条)を申し立てることも考えられ,
2850 これらについては,
2851
2852 G銀行が,
2853 その債権回収の極大化を図るため,
2854 いかなる方策を採るのが相当かという観点から
2855 検討をすべきである。
2856
2857
2858
2859 - 20 -
2860
2861 [租
2862
2863 税
2864
2865 法]
2866
2867 〔第1問〕
2868 本問は,
2869 B株式会社(以下「B社」という。
2870
2871 )のC研究所に研究員として勤務していた従業
2872 員Aが,
2873 甲という職務発明を行ってその特許を受ける権利をB社に承継させ,
2874 B社が甲に係る
2875 特許の設定登録を受けた後当該特許権をD株式会社(以下「D社」という。
2876
2877 )に譲渡したとい
2878 う事案である。
2879
2880 まず,
2881 所得税法の問題として,
2882 AがB社から,
2883 上記特許を受ける権利の承継の
2884 際に受領した本件出願報償金及び上記特許権の譲渡の際に受領した本件実績報償金の所得の種
2885 類を問う(設問1)とともに,
2886 特許を受ける権利の「相当の対価」(特許法第35条第3項
2887 参照)の残額として訴訟上の和解に基づき受領した本件和解金の帰属年度と所得の種類を問う
2888 ものである(設問1)。
2889
2890 次に,
2891 法人税法の問題として,
2892 D社のいわゆるワンマン社長である
2893 EがD社の食品(以下「本件食品」という。
2894
2895 )を無償で取得したことにつき,
2896 D社の損金の額
2897 への算入の可否を問う(設問2)ものである。
2898
2899 なお,
2900 問題文冒頭に【注】で明記したとおり,
2901
2902 本問は,
2903 特許法の解釈を問うものではない。
2904
2905
2906 設問1においては,
2907 まず,
2908 本件出願報償金の所得の種類が問題となる。
2909
2910 主として譲渡所得
2911 (所得税法第33条第1項)や給与所得(同法第28条第1項)が問題となるであろうが,
2912 一
2913 時所得(同法第34条第1項)や雑所得(同法第35条第1項)に該当するとの見解もあり得
2914 ないではない。
2915
2916 いずれの見解に立つとしても,
2917 問題文に明記したとおり,
2918 異なる見解にも言及
2919 しつつ,
2920 自己の見解を説得的に論証する必要がある。
2921
2922 また,
2923 本件実績報償金の所得の種類につ
2924 いて,
2925 本件出願報償金との異同を問うたのは,
2926 異なる年及び機会に異なる金額が支払われた点
2927 を十分考慮した上で,
2928 両者につき整合性のある解答をすることを期待したものである。
2929
2930
2931 設問1においては,
2932 まず,
2933 本件和解金の帰属年度について,
2934 いわゆる権利確定主義(所得
2935 税法第36条第1項の「収入すべき金額」,
2936 最二判昭和49年3月8日民集28巻2号186
2937 頁等)の趣旨及び内容を説明した上,
2938 本問への当てはめをすることを求めたものである。
2939
2940 具体
2941 的には,
2942 「相当の対価」の支払請求権が発生したのはAがB社に特許を受ける権利を承継させ
2943 た平成18年であろうが(特許法第35条第3項参照),
2944 その残額に係る権利の有無及び金額
2945 に争いがあり,
2946 平成27年の和解成立によって初めてその点が確定し,
2947 平成28年に実際に支
2948 払われたことを踏まえ,
2949 いつ権利の確定(所得の実現)があったといえるかを問うものである。
2950
2951
2952 次に,
2953 本件和解金の所得の種類については,
2954 和解金一般の所得の種類についてはその法的性質
2955 に基づいて判断すべきことを説明した上で,
2956 本件出願報償金及び本件実績報償金の所得の種類
2957 と整合性のある解答をすることを求めたものである。
2958
2959
2960 設問2においては,
2961 本問の具体的な事実関係に基づき,
2962 Eによる本件食品の無償取得につい
2963 て役員給与の該当性とその損金の額の算入の可否を条文に基づいて解答することを求めたもの
2964 である。
2965
2966 具体的には,
2967 Eは,
2968 同族会社(法人税法第2条第10号)の筆頭株主兼代表取締役と
2969 して実質的にD社を支配していたというのであるが,
2970 Eが本件食品を無償で自己取得した行為
2971 について,
2972 D社によりEに対し現物の「給与」を支給したと評価することができるか否かを検
2973 討し,
2974 これを肯定した上で,
2975 その損金の額の算入の可否について,
2976 法人税法第22条第3項柱
2977 書きの「別段の定め」である同法第34条の問題として,
2978 これら各条文の当てはめを丁寧に行っ
2979 て解答することを求めたものである。
2980
2981
2982 〔第2問〕
2983 本問は,
2984 資産を時効取得した者に関する所得種類と取得費,
2985 含み益のある資産が相続により
2986 移転する場合の課税関係及び譲渡所得に関する清算課税説と時効取得との理論的関係を問うも
2987 のである。
2988
2989
2990 設問1について,
2991 時効取得による利益は,
2992 利子所得ないし譲渡所得以外の所得のうち,
2993 営利
2994 を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡
2995
2996 - 21 -
2997
2998 の対価としての性質を有しないものに該当するので,
2999 一般には一時所得(所得税法第34条第
3000 1項)と考えられる。
3001
3002 裁判例としては,
3003 土地の時効取得による利益を一時所得とした東京地方
3004 裁判所平成4年3月10日判決(訟務月報39巻1号139頁)がある。
3005
3006 この判決は,
3007 一時所
3008 得として課税する場合の収入金額(同法第36条第1項,
3009 第2項)を時効援用時の土地の価額
3010 と解している。
3011
3012
3013 設問2について,
3014 上記東京地方裁判所判決の考え方を前提にすると,
3015 時効援用時までの甲土
3016 地の値上がり益(3000万円)は,
3017 一時所得の収入金額としてCに対する所得税の課税対象
3018 とされ,
3019 他方,
3020 Dへの譲渡による譲渡所得の金額の計算上,
3021 Cにおける甲土地の取得費は,
3022 時
3023 効援用時の時価である5000万円となる。
3024
3025 ただし,
3026 Cの上記収入金額には,
3027 含み益に相当し
3028 ない部分(Aにおける取得費2000万円)も含まれている。
3029
3030
3031 一方で,
3032 相続により資産が被相続人から相続人へ移転した場合,
3033 相続が限定承認に係るもの
3034 でなければ,
3035 被相続人における資産の取得費は相続人に引き継がれ,
3036 課税は繰り延べられる(同
3037 法第59条第1項第1号,
3038 第60条第1項第1号)。
3039
3040
3041 最高裁判所は,
3042 譲渡所得に対する課税について,
3043 「資産の値上りによりその資産の所得者に
3044 帰属する増加益を所得として,
3045 その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,
3046 こ
3047 れを清算して課税する趣旨のもの」と解し(最一判昭和43年10月31日訟務月報14巻1
3048 2号1442頁),
3049 譲渡所得の本質をキャピタル・ゲインとして捉えている。
3050
3051
3052 このような清算課税説と相続における取得費の引継ぎを本問の事例に当てはめると,
3053 甲土地
3054 をAが取得してからBが時効により所有権を喪失するまでの間の含み益(3000万円)への
3055 課税は,
3056 時効取得されたときに,
3057 Bに対してなされるべきである。
3058
3059
3060 しかし、
3061 現行法の一般的な解釈から,
3062 上記含み益3000万円について,
3063 時効取得の段階で
3064 Bに課税すること,
3065 あるいはCがBの取得費(Aが支出してBが引き継いだ取得費2000万
3066 円)を引き継ぐとすることは困難であり,
3067 そのように解するならば,
3068 本問の事例については,
3069
3070 結果として清算課税説に基づくキャピタル・ゲインへの課税が抜け落ちるという「問題点」が
3071 生じることになる。
3072
3073
3074 立法論としては,
3075 種々の解決策があり得るが,
3076 本設問で問われているのは,
3077 清算課税説を前
3078 提とした場合,
3079 各規定の間に必ずしも精緻な整合性がないと考えられる場合が存することを理
3080 解できているかどうかである。
3081
3082 したがって,
3083 上で述べた現行法の一般的な解釈が唯一の考え方
3084 というわけではなく,
3085 解答に当たっては,
3086 「問題点」について自己の見解を論理的に説明でき
3087 るかどうかが重要となる。
3088
3089
3090 [経
3091
3092 済
3093
3094 法]
3095
3096 〔第1問〕
3097 本問では,
3098 C社とD社が,
3099 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占
3100 禁止法」という。
3101
3102 )第2条第6項に該当する行為(不当な取引制限)を行ったものとして,
3103 同
3104 法第3条後段に違反するかどうかが問われる。
3105
3106 独占禁止法第2条第6項の諸要件についてあ
3107 るべき解釈を示した上で,
3108 本問の事実に当てはめる必要がある。
3109
3110
3111 まず問題となるのは,
3112 「共同して」(多摩談合(新井組)事件・最一判平成24年2月20
3113 日民集66巻2号796頁に従って,
3114 「共同して・・・相互に」というくくり方でもよい。
3115
3116 )
3117 の要件である。
3118
3119 「共同して」又は「共同して・・・相互に」といえるためには「意思の連絡」
3120 が必要である(東芝ケミカル事件・東京高判平成7年9月25日審決集42巻393頁)が,
3121
3122 本問では,
3123 C社とD社との間で乙の価格に関する「意思の連絡」を示す唯一の決定的な事実
3124 が明らかにされているわけではない。
3125
3126 したがって,
3127 「共同して」(「共同して・・・相互に」)
3128 の解釈として「意思の連絡」の意味を明らかにした上で,
3129 どのような事実の積み重ねから「意
3130 思の連絡」が認定され得るかについて一般的な方針が提示されることが望ましい。
3131
3132 そして,
3133
3134
3135 - 22 -
3136
3137 実際の「意思の連絡」の認定に際しては,
3138 乙の価格に関する情報交換に至った背景,
3139 当該情
3140 報交換の内容,
3141 情報交換を経た後のA社との交渉の状況に着目することが求められる。
3142
3143
3144 本問で注意を要するのは,
3145 一つには,
3146 各社において価格決定権限を有する役員級の者が乙
3147 の価格に関する情報交換に直接には加わっていないことをどのように解するか,
3148 換言すれば,
3149
3150 本問において事業者としてのC社とD社の間で「意思の連絡」があったと評価できるかにつ
3151 いて説明が求められることである。
3152
3153 また,
3154 情報交換の仕組み作りからA社との交渉妥結に至
3155 る一連の過程から,
3156 どのような内容の合意が形成されたと見るべきかについても説明が求め
3157 られる。
3158
3159 本問では,
3160 特に,
3161 A社製造の甲向けの乙の最低価格について意見の一致が見られた
3162 ことやC社とD社とで妥結価格が異なったことをどのように見るかが重要となる。
3163
3164
3165 次に,
3166 「相互にその事業活動を拘束」の要件については,
3167 本問のように,
3168 互いに競争関係に
3169 ある事業者間での共同行為に係る事案では,
3170 各当事者が合意内容に事実上拘束される関係に
3171 あることが示されれば充足されると解されよう。
3172
3173
3174 「一定の取引分野における競争を実質的に制限」の要件については,
3175 まず,
3176 本問における
3177 「一定の取引分野」の画定の在り方が問題となる。
3178
3179 ここでも,
3180 「一定の取引分野」の意味と画
3181 定の在り方ないし基準を提示した上で,
3182 本問の事実に当てはめることが求められる。
3183
3184 本問で
3185 は,
3186 制限の対象となった乙という商品は需要者(A社ないしB社)によって異なる仕様と性
3187 能を求められるため,
3188 一方の需要者向けに製造された乙は他方の需要者向けには転用できな
3189 いことをどのように評価するかが重要となる。
3190
3191 なお,
3192 いわゆるハードコア・カルテルを念頭
3193 に置いて,
3194 「共同行為が対象としている取引及びそれにより影響を受ける範囲」をもって一定
3195 の取引分野を画定すれば足りるとする考え方(例えば,
3196 シール談合事件・東京高判平成5年
3197 12月14日高刑集46巻3号322頁)が存在するので,
3198 この考え方を本問の事実に当て
3199 はめることも可能である。
3200
3201 ただし,
3202 その場合には,
3203 なぜ,
3204 そのような議論が妥当性を持つの
3205 かについて説明が求められる。
3206
3207
3208 「競争の実質的制限」についても,
3209 その定義を説明した上で,
3210 本問で提示された諸事実の
3211 うち,
3212 「競争の実質的制限」の認定に関わるものを拾い上げて総合的に評価することが求めら
3213 れる。
3214
3215 本問の場合には,
3216 C社とD社の合計の市場シェア,
3217 本問における意思の連絡の内容の
3218 ほか,
3219 新たにA社製造の甲向けの乙の開発にも乗り出したE社の存在,
3220 需要者としてのA社
3221 の交渉力等に着目する必要がある。
3222
3223 E社については,
3224 本件合意の対象となった平成27年4
3225 月〜6月期の取引においてC社とD社に対する競争圧力として作用したと評価できるかが問
3226 われる。
3227
3228 なお,
3229 ここでも,
3230 本件カルテルがハードコア・カルテルであることから直ちに「競
3231 争の実質的制限」が充足されたとする議論が考えられるが,
3232 その立場に立つのであれば,
3233 そ
3234 のように考える根拠が説明されなければならないことは前述のとおりである。
3235
3236
3237 最後に,
3238 「公共の利益に反して」についてだが,
3239 本問では,
3240 A社からの理不尽な値下げ要求
3241 に対抗するため,
3242 あるいは,
3243 乙の生産基盤を日本に維持するためにカルテルを行ったとの主
3244 張が考えられ,
3245 このような主張の根拠として「公共の利益」が援用される可能性がある。
3246
3247 こ
3248 のような主張が認められる可能性は極めて小さいと考えられるが,
3249 いずれにせよ,
3250 「公共の利
3251 益に反して」の解釈を踏まえた説明が求められる。
3252
3253
3254 〔第2問〕
3255 本問は,
3256 健康維持のための消耗品である甲の製造業者であるA社が,
3257 自社の製造した甲を
3258 小売業者に販売するに際し問題文記載の諸条件を付した行為が,
3259 独占禁止法第2条第9項第
3260 6号ニ,
3261 不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指定」という。
3262
3263 )第12項の拘束条件付取
3264 引に該当し,
3265 独占禁止法第19条に違反するかどうかを問うものである。
3266
3267 拘束条件付取引に
3268 おける拘束条件には,
3269 理論上は独占禁止法第2条第9項第4号及び一般指定第11項に該当
3270 する行為を除き,
3271 およそ全ての条件が含まれ得る。
3272
3273 設問及び同のいずれにおいても,
3274 A
3275
3276 - 23 -
3277
3278 社が取引先小売業者に対して付した条件は小売業者による商品の販売方法に関わるが,
3279 設問
3280 における条件は広告における小売価格の表示の禁止であり,
3281 その価格への影響はより直接
3282 的であるのに対して,
3283 同における条件は,
3284 価格に直接関連しない事柄に関わるので,
3285 競争
3286 に対する影響が異なると考えられる。
3287
3288 そこで,
3289 各設問における条件の異同に着目しつつ,
3290 そ
3291 れらが競争に与える効果の分析を行うことが求められる。
3292
3293
3294 設問では,
3295 まず,
3296 A社が,
3297 自社の取引先小売業者に対して広告における小売価格の表示
3298 を禁止することを決定し,
3299 それを依頼の形で納品書に記載し,
3300 A社の営業担当者が大規模小
3301 売業者を訪問し,
3302 出荷停止に言及しながら,
3303 小売価格の表示を行わないよう要請する行為が,
3304
3305 「拘束する」条件を付けて取引することに該当するか否かを検討する必要がある。
3306
3307 和光堂事
3308 件・最高裁判所昭和50年7月10日第一小法廷判決(民集29巻6号888頁)などで示
3309 された基準を提示した上で本問の事実に当てはめることが求められる。
3310
3311 その際には,
3312 小売店
3313 の営業においてA社製の甲が占める地位をどう評価するのかも重要となる。
3314
3315
3316 次に,
3317 一般指定第12項の「不当に」に該当するかどうかを検討する必要がある。
3318
3319 それが
3320 公正競争阻害性を意味すること,
3321 具体的には自由競争減殺であることを指摘した上で,
3322 本問
3323 では,
3324 より具体的に,
3325 事業者間での競い合いが減少する効果が問題となることに言及する必
3326 要がある。
3327
3328 そして,
3329 一般論としては,
3330 一般指定第12項に該当し得る行為については,
3331 拘束
3332 の内容や対象となる取引の性質等,
3333 種々の事情を勘案して,
3334 それが競争に与える効果を評価
3335 する必要があるが,
3336 広告における価格表示の禁止は,
3337 価格維持効果が強く推測される行為で
3338 あることに留意する必要がある。
3339
3340
3341 このような広告における価格表示の禁止の特質に照らして,
3342 市場の画定や画定された市場
3343 における競争への影響の詳細な検討を省略して,
3344 自由競争減殺の有無を判断することが可能
3345 である。
3346
3347 ただし,
3348 その場合には,
3349 広告における価格表示の禁止についてそのような判断方法
3350 が妥当性を有することの説明が求められる。
3351
3352 他方,
3353 その他の拘束条件付取引における場合と
3354 同様に,
3355 市場画定を行い,
3356 それを前提として自由競争減殺の有無を判断することも可能であ
3357 る。
3358
3359 この場合には,
3360 市場画定に加えて,
3361 画定された市場における具体的な影響(例えばA社
3362 と他社のシェア,
3363 甲の差別化の程度,
3364 ブランド間競争及びブランド内競争の状況等)を事実
3365 に即して検討することが求められる。
3366
3367 なお,
3368 いずれの場合も,
3369 小売業者間の価格競争の減殺
3370 の有無が検討されなければならない。
3371
3372
3373 さらに,
3374 A社が広告における価格表示の禁止を行う目的に鑑みて,
3375 A社の行為が正当化で
3376 きるか否かを検討することが求められる。
3377
3378
3379 設問では,
3380 まず,
3381 A社が,
3382 新製品甲の販売開始に当たり,
3383 小売業者に対して,
3384 販売員の
3385 研修の受講,
3386 研修を受講した販売員による商品説明,
3387 必要な機材の購入を求め,
3388 これに応じ
3389 ない場合には新製品甲の取引を行わないことを内容とする本決定を行い,
3390 これを小売業者に
3391 対して実施したことが,
3392 「拘束する」条件を付けて取引することに該当するのか否かを説明す
3393 ることが求められる。
3394
3395
3396 次に,
3397 A社の行為が,
3398 一般指定第12項の「不当に」の要件を満たすか否かの検討を要する。
3399
3400
3401 「不当に」の意味については,
3402 設問と同様である。
3403
3404 しかし,
3405 設問では,
3406 一方では,
3407 製造業
3408 者が,
3409 自社のブランド戦略に鑑みて,
3410 どのような販売方法を採用するかは,
3411 基本的には,
3412 製造
3413 業者が自由に決められる事項であるとされていることに留意する必要がある。
3414
3415 しかし,
3416 他方で
3417 は,
3418 小売業者に特定の販売方法を採ることを求め,
3419 それを取引の条件とすることは,
3420 販売価格
3421 の上昇を招来することがあり,
3422 そのような行為の競争への影響をどのように分析・評価するか
3423 が問われる。
3424
3425 具体的には,
3426 化粧品の販売方法の制限に関する資生堂東京販売事件・最高裁判所
3427 平成10年12月18日第三小法廷判決(民集52巻9号1866頁)によって示された,
3428 そ
3429 れなりの合理性と制限の同等性の基準にのっとって検討した上で,
3430 価格上昇効果について分
3431 析・評価を行うことが期待される。
3432
3433 もっとも,
3434 前記最高裁判決の位置付け等については,
3435 様々
3436
3437 - 24 -
3438
3439 な考え方があるので,
3440 他の拘束条件付取引の類型と同様に,
3441 市場を画定した上で,
3442 画定された
3443 市場における競争への影響を事実に即して検討することも可能である。
3444
3445 この場合には,
3446 画定さ
3447 れた市場で,
3448 A社の行為によって小売価格が維持されるおそれの有無,
3449 A社が条件を付す目的
3450 に鑑みてA社の行為が正当化できるか否かなどの検討を要する。
3451
3452
3453 [知的財産法]
3454 〔第1問〕
3455 1
3456
3457 設問1は,
3458 特許請求の範囲が機能的に記載されている場合の技術的範囲の確定と記載要件適
3459 合性に関する理解を問う問題である。
3460
3461 設問2のは,
3462 無効審判における訂正請求と侵害訴訟に
3463 おける訂正の対抗主張に関する理解を問う問題であり,
3464 設問2のは,
3465 共有特許の場合の単独
3466 での審決取消訴訟提起の可否に関する理解を問う問題である。
3467
3468 設問3は,
3469 特許法(以下「法」
3470 という。
3471
3472 )第104条の4に関する理解を問う問題である。
3473
3474
3475
3476 2
3477
3478 設問1においては,
3479 製品Aと製品Bの製造販売が本件特許権を侵害するかが問題となるが,
3480
3481 その前提として,
3482 本件特許の特許請求の範囲に「硬貨の投入行為を妨げる手段」という機能
3483 的な記載があることから,
3484 いわゆる機能的クレームの技術的範囲の確定が問題となる。
3485
3486 この
3487 点については,
3488 機能的クレームの場合,
3489 その発明の技術的範囲は,
3490 明細書の発明の詳細な説
3491 明の記載を参酌し,
3492 そこに開示された実施例,
3493 あるいは実施例としては記載されていなくて
3494 も,
3495 明細書に開示された発明に関する記述の内容から当該発明の属する技術の分野における
3496 通常の知識を有する者(当業者)が実施し得る構成に限られるべきであるとする考え方(東
3497 京地裁平成10年12月22日判決判例時報1674号152頁【磁気媒体リーダー事件】,
3498
3499 知財高裁平成25年6月6日判決裁判所ホームページ【パソコン等の器具の盗難防止用連結
3500 具事件】等参照)を念頭に置いた上で自説を明確に論述し,
3501 製品A及び製品Bの本件特許発
3502 明の技術的範囲への属否について論述することが求められる。
3503
3504
3505 以上のような機能的クレームの技術的範囲の確定につき適切に論じた上で,
3506 文言侵害が否定
3507
3508 される場合には,
3509 均等侵害を主張することが考えられ,
3510 この点に的確に言及していれば,
3511 積極
3512 的な評価が与えられよう。
3513
3514
3515 次に,
3516 本件特許の特許請求の範囲が一見極めて広い範囲の技術を含むものである一方,
3517 本
3518 件特許の明細書等では,
3519 そのような広い範囲の技術のごく一部である実施例しか開示されて
3520 いないことが,
3521 法第36条第6項第1号(サポート要件)及び同条第4項第1号(実施可能
3522 要件)に違反するとして,
3523 法第104条の3の抗弁(無効の抗弁)を行使できないかが問題
3524 となる。
3525
3526 この点については,
3527 各要件の意義を踏まえつつ,
3528 自説を展開することが求められる。
3529
3530
3531 また,
3532 本件において法第36条第6項第2号(明確性要件)を問題とする余地もあり,
3533 この
3534 点に的確に言及していれば,
3535 積極的な評価が与えられよう。
3536
3537
3538 3
3539
3540 設問2のの前段については,
3541 まず,
3542 無効審判が係属している間は訂正請求(法第13
3543
3544 4条の2第1項第1号)を行うべきことに言及する必要があり,
3545 また,
3546 本問では通常実施
3547 権者であるZがいるため,
3548 訂正請求をするにはZの承諾を得る必要があること(同条第9
3549 項,
3550 第127条)に言及する必要があろう。
3551
3552
3553 同後段においては,
3554 Xらの対抗手段として,
3555 本件特許の特許請求の範囲を訂正すること
3556 によって無効原因を回避できる旨の主張が考えられよう。
3557
3558 このような訂正の対抗主張が認
3559 められるためには,
3560 @当該請求項について訂正審判請求ないし訂正請求をしたこと,
3561 A当
3562 該訂正が法の定める訂正要件を充たすこと,
3563 B当該訂正により当該請求項について無効の
3564 抗弁で主張された無効理由が解消すること,
3565 C被告製品が訂正後の請求項の技術的範囲に
3566 属すること,
3567 を要するというのが裁判例の傾向であり(東京地裁平成19年2月27日判
3568 決判例タイムズ1253号241頁【多関節搬送装置事件】,
3569 知財高裁平成26年9月17
3570 日判決判例時報2247号103頁【共焦点分光分析事件】等),
3571 これらの裁判例を念頭に
3572
3573 - 25 -
3574
3575 置いて論述を展開することが求められる。
3576
3577 なお,
3578 この四つの要件のうち,
3579 @又はAの要件
3580 との関係で,
3581 前記訂正請求の場合と同様に,
3582 通常実施権者であるZの承諾を必要とするか
3583 否かが問題となる。
3584
3585 Zの承諾が得られない場合に,
3586 かかる訂正の対抗主張が認められるか
3587 どうかについて的確に論述していれば,
3588 積極的な評価が与えられよう。
3589
3590
3591
3592
3593 設問2のにおいては,
3594 法第132条第3項が共有に係る特許権の共有者がその権利に
3595 ついて審判を請求するときは共有者の全員が共同して請求しなければならないとしている
3596 ことを踏まえつつ,
3597 最高裁判所平成14年2月22日第二小法廷判決民集56巻2号34
3598 8頁【ETNIES事件】で問題となった,
3599 権利の形成過程と権利成立後における共有者
3600 の関係性の違い,
3601 単独での審決取消訴訟提起が「保存行為」(民法第252条ただし書)と
3602 みなし得るのではないか,
3603 審決取消訴訟の判決の効力と合一確定の要請,
3604 などの議論に配
3605 慮しつつ,
3606 自説を説得的に論述することが求められる。
3607
3608
3609
3610 4
3611
3612 設問3においては,
3613 まず,
3614 本件特許権を無効とする旨の審決が確定しており,
3615 このことに
3616 より,
3617 本件特許権は初めから存在しなかったものとみなされる(法第125条本文)ことか
3618 ら,
3619 Yとしては,
3620 Xらに対して不当利得返還請求(民法第703条)をすることが考えられ
3621 るが,
3622 侵害訴訟の判決がある限り,
3623 Xらは「法律上の原因なく・・・利益を受け」たとはい
3624 えないため,
3625 Yとしては侵害訴訟の判決の効力を再審(民事訴訟法第338条第1項第8号)
3626 により失わせる必要がある。
3627
3628 この点,
3629 法第104条の4によって再審において無効審決が確
3630 定したことを主張することは妨げられており,
3631 結果としてYが支払った損害賠償金を取り戻
3632 すことはできない旨を説得的に論述することが求められる。
3633
3634
3635 また,
3636 差止めの効力については,
3637 例えば,
3638 一般的に特許権侵害訴訟の差止判決の主文は「当
3639 該特許権の存続期間中」に限り差止めを認める旨が前提となっていることなど,
3640 合理的な論
3641 拠を示しつつ自説を論述することが求められる。
3642
3643
3644
3645 〔第2問〕
3646 1
3647
3648 設問1は,
3649 英語の小説aの日本語訳である小説b,
3650 その題号b及びブックカバーbに対する
3651 パロディとして制作された小説c,
3652 題号c及びブックカバーcがXの有する著作権及び著作者
3653 人格権を侵害するか否かにつき,
3654 翻案権侵害の有無,
3655 二次的著作物の著作者の権利の及ぶ範囲,
3656
3657 題号の著作物性,
3658 ブックカバーの著作物性,
3659 引用の抗弁の成否,
3660 さらには著作権法(以下「法」
3661 という。
3662
3663 )第20条第2項第4号所定の「やむを得ないと認められる改変」の適用の可否等に
3664 関する理解を問う問題であり,
3665 設問2は,
3666 いわゆる自炊代行につき,
3667 事業者が自ら書籍を電子
3668 ファイル化する事案と利用者が電子ファイル化する事案とを比較しつつ,
3669 それぞれの事案にお
3670 いて複製の主体は誰か,
3671 法第30条第1項の適用の可否,
3672 貸与権(法第26条の3)侵害の成
3673 否等に関する理解を問う問題である。
3674
3675
3676
3677 2
3678
3679 設問1については,
3680 まず,
3681 複製・頒布の差止めの前提として翻案権侵害が問題となる。
3682
3683
3684
3685 翻案権侵害の成否に関しては,
3686 最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決民集55
3687 巻4号837頁【江差追分事件】が判示しているところを念頭に置いて,
3688 翻案に当たるか
3689 否かの判断基準を示した上で,
3690 事案に当てはめ,
3691 特に,
3692 小説c及びブックカバーcはパロ
3693 ディとして制作されたことから,
3694 パロディされる側の著作物の表現部分がパロディ作品の
3695 中に取り込まれて改変され,
3696 パロディする側の著作者の創作が付け加えられた結果,
3697 全体
3698 としてみるともはやパロディされる側の作品の本質的な特徴を直接感得することができな
3699 い場合もあるとする学説があることをも考慮しつつ,
3700 小説c及びブックカバーcがそれぞ
3701 れ小説b及びブックカバーbの表現上の本質的特徴を直接感得できるか否かにつき論述す
3702 ることが求められる。
3703
3704
3705 また,
3706 二次的著作物の著作者の権利の及ぶ範囲については,
3707 最高裁判所平成9年7月1
3708 7日第一小法廷判決民集51巻6号2714頁【ポパイネクタイ事件】が「二次的著作物
3709
3710 - 26 -
3711
3712 の著作権は,
3713 二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,
3714 原著
3715 作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である。
3716
3717 」と判示し
3718 ているところを念頭に置いた上で,
3719 本件事案に当てはめて論じることが求められる。
3720
3721
3722 次に,
3723 題号の著作物性については,
3724 そもそも著作物の題号は著作物を同定識別するため
3725 の著作物の名称であるから,
3726 たとえ著作者の表現上の思想感情が盛り込まれているとして
3727 も,
3728 題号それ自体は著作物には当たらないとする学説があることをも考慮しつつ,
3729 題号は
3730 通常短文で構成されることを含めて題号の著作物性を論じるとともに,
3731 題号に著作物性が
3732 あり得るとしても題号bは題号aの直訳にすぎないことから,
3733 二次的著作物の著作者とし
3734 ての権利の有無及び範囲についても論じることが求められる。
3735
3736
3737 さらに,
3738 ブックカバーについては,
3739 大量に複製される実用品であることから,
3740 その著作
3741 物性が問題となるところ,
3742 仮に美術の著作物に当たるとしても,
3743 応用美術の問題となるこ
3744 とから,
3745 応用美術の著作物性に関する判断基準を示しつつ論述することが求められる。
3746
3747
3748 最後に,
3749 引用の抗弁(法第32条第1項)の適用の可否については,
3750 小説c,
3751 題号c及
3752 びブックカバーcがパロディとして制作されたことを考慮した上,
3753 最高裁判所昭和55年
3754 3月28日第三小法廷判決民集34巻3号244頁【パロディモンタージュ事件】が判示
3755 するところを念頭に置き,
3756 明瞭区別性と主従関係を要件としない近時の知的財産高等裁判
3757 所平成22年10月13日判決判例時報2092号135頁【鑑定証書コピー事件】等の
3758 判示をも念頭に置きつつ,
3759 「引用」の要件に関し自説を展開し,
3760 翻案による引用を規定して
3761 いない法第43条第2号にも触れて論述することが求められる。
3762
3763
3764
3765
3766 著作者人格権については,
3767 小説c,
3768 題号c及びブックカバーcは,
3769 それぞれ小説b,
3770 題
3771 号b及びブックカバーbの改変に当たり,
3772 Xの同一性保持権を侵害するか否か,
3773 仮に,
3774 そ
3775 れらがXの意に反する改変に当たるとしても,
3776 それらはパロディであることから,
3777 法第2
3778 0条第2項第4号所定の「やむを得ないと認められる改変」に当たり適法であるか否か,
3779
3780 について論述することが求められる。
3781
3782 なお,
3783 題号cに関しては,
3784 法第20条第1項に「題
3785 号」が明記されていることから,
3786 その意義についても触れることが求められる。
3787
3788 また,
3789 本
3790 設問上,
3791 Xの氏名が表示されていないことは明らかであるから,
3792 Xの主張としては氏名表
3793 示権侵害も挙げるべきであろう。
3794
3795
3796
3797 3
3798
3799 設問2については,
3800 いわゆる自炊代行につき,
3801 複製の主体が事業者かそれとも利用者かが
3802 問題となるところ,
3803 この点に関しては,
3804 最高裁判所平成23年1月20日判決民集65巻1
3805 号399頁【ロクラクU事件】の判示するところを念頭に置きつつ,
3806 設問2のと同様の事
3807 案に関する知的財産高等裁判所平成26年10月22日判決判例タイムズ1414号227
3808 頁【自炊代行事件】の判示するところをも念頭に置いて,
3809 複製の主体の判断基準を示した上
3810 で法第30条第1項の適用の可否を論じ,
3811 特に,
3812 設問2のにおいては,
3813 利用者が自ら書籍
3814 の電子ファイル化を行っていることから,
3815 設問2のの場合とは場面が異なることを意識し
3816 つつ,
3817 Z2を法的な観点から複製の主体と捉えることができるかについて,
3818 自説を展開して
3819 論述することが求められる。
3820
3821
3822 また,
3823 貸与権侵害に関しては,
3824 本設問では,
3825 店舗外への持ち出しが禁止されていることから,
3826
3827 いわゆるまんが喫茶や美容室に置かれた週刊誌等と同様に,
3828 店舗から顧客への書籍の占有移転
3829 が認められないとして著作権法上の「貸与」には該当しないと解するのか,
3830 利用者が店舗内で
3831 借りた書籍をスキャナーに掛けて複製物を作成する行為を重視して,
3832 単に店舗内でその書籍を
3833 読む行為とは異なると解するのかを含めて貸与権侵害の成否につき,
3834 自説を展開して論述する
3835 ことが求められる。
3836
3837
3838
3839 [労
3840
3841 働
3842
3843 法]
3844
3845 〔第1問〕
3846
3847 - 27 -
3848
3849 本問は,
3850 うつ的症状により欠勤している労働者に対する解雇の効力及び傷病休職期間満了
3851 前に復職申請を行った労働者に対して,
3852 これを拒否したうえで休職期間満了に基づきなされ
3853 た退職扱いの効果について問うものである。
3854
3855 本問は,
3856 精神的健康面で不調の状態にある労働
3857 者をめぐる法的問題のうち,
3858 最近の裁判例において比較的多く見られる紛争事例であり,
3859 関
3860 係条文・判例から導き出される規範の正確な理解と当該規範の具体的事件への当てはめの的
3861 確さが問われている。
3862
3863
3864 設問1においては,
3865 長時間に及ぶ労働等を契機として生じたうつ的症状(以下「本件うつ
3866 的症状」という。
3867
3868 )により欠勤している労働者に対してなされた解雇(以下「本件解雇」とい
3869 う。
3870
3871 )の効力を争う場合,
3872 法的論点としては,
3873 本件解雇が労働基準法第19条第1項及び労働
3874 契約法第16条に基づきそれぞれ無効であるか否かが問題となろう。
3875
3876
3877 まず,
3878 労働基準法第19条第1項に照らして,
3879 本件うつ的症状の業務起因性が問題となる
3880 が,
3881 判例(東芝うつ病事件東京高判平成23年2月23日)において示された業務起因性の
3882 判断枠組みの正確な理解とその本件への的確な当てはめが問われる。
3883
3884 次に,
3885 本件うつ的症状
3886 に業務性が認められない場合であっても,
3887 労働契約法第16条に基づき,
3888 本件うつ的症状及
3889 び使用者の対応などの事情を踏まえて本件解雇の効力を検討する必要があろう。
3890
3891
3892 設問2においては,
3893 休職期間満了前に復職申請を行った労働者に対して,
3894 使用者が復職を
3895 拒否してその後休職期間満了により退職扱いとした場合,
3896 法的論点としては,
3897 @本件就業規
3898 則に基づく傷病休職命令(以下「本件休職命令」という。
3899
3900 )の効力,
3901 A本件事案において労働
3902 者が行った復職申請(以下「本件復職申請」という。
3903
3904 )を拒否した状況下における休職期間満
3905 了を理由になされた退職扱いの効果が問題となる。
3906
3907
3908 上記論点@については,
3909 本件就業規則第24条第1項は「傷病により勤務に堪え得ない場合
3910 には,
3911 休職を命ずることができる。
3912
3913 」と規定し,
3914 使用者はこれに基づき本件休職命令を発した
3915 が,
3916 本件うつ的症状の発症の原因等を踏まえて本件休職命令の効力を検討すべきであろう。
3917
3918 上
3919 記論点Aについては,
3920 判例(片山組事件最一判平成10年4月9日)が示す判断枠組みを踏ま
3921 えて,
3922 本件復職申請が債務の本旨に従った履行の提供に当たるか否か,
3923 これに当たるとした場
3924 合,
3925 使用者がこれを拒否した状況において,
3926 休職期間満了により退職の効果が発生するか否か
3927 を検討することになろう。
3928
3929 その際,
3930 本件退職扱いはいわゆる自動退職であり,
3931 厳密には解雇と
3932 異なることから,
3933 仮に退職の効果が発生しないとする場合には,
3934 その法的理由にも留意すべき
3935 である。
3936
3937
3938 〔第2問〕
3939 本問は,
3940 義務的団交事項の意義,
3941 使用者の言論と支配介入行為の関係並びに部分スト不参加
3942 者の賃金請求権及び休業手当請求権に関する規範の正確な理解を問うものである。
3943
3944 いずれも労
3945 働法における基本的な論点であるが,
3946 法令の規範を明示した上で,
3947 主要な判例法理を踏まえ,
3948
3949 提示された具体的事案に対して的確な検討を行うことが求められている。
3950
3951
3952 まず,
3953 設問1においては,
3954 救済機関として不当労働行為を審査し,
3955 救済命令を発する労働委
3956 員会と,
3957 民事紛争を解決する裁判所とが明示されるとともに,
3958 それぞれに対応した救済方法の
3959 具体的内容が示されることが不可欠である。
3960
3961 そして,
3962 平成28年度の新規採用者,
3963 すなわち非
3964 組合員の基本給の額を前年度の新規採用者の基本給の額に比して減額することに関して,
3965 Y社
3966 がX組合から要求を受けたにもかかわらず,
3967 この点に関する団体交渉を拒否したこと,
3968 及びY
3969 社が社長名で声明文をY社の全事業所に掲示したことがそれぞれ不当労働行為に当たるかどう
3970 かを検討することが必要である。
3971
3972 前者については,
3973 本件基本給引下げが義務的団交事項に当た
3974 るかどうか,
3975 及び当たるとした場合にY社が団体交渉を拒否したことに正当な理由があるかど
3976 うかにつき,
3977 後者については,
3978 使用者の言論の自由にも配慮した支配介入行為の判断基準及び
3979 その該当性につき,
3980 判例法理(前者につき根岸病院事件(東京高判平成19年7月31日)等),
3981
3982
3983 - 28 -
3984
3985 後者につきプリマハム事件(最二判昭和57年9月10日)等)を踏まえた上で,
3986 具体的な事
3987 情を適切に指摘・評価して論じなければならない。
3988
3989
3990 次に,
3991 設問2においては,
3992 X組合の組合員ではあるものの,
3993 平成28年3月15日のストラ
3994 イキに参加しなかったZらが,
3995 Y社から休業を命じられて同日に就労しなかったことに関して,
3996
3997 Zらの労働の無価値性,
3998 Y社の責めに帰すべき事由の有無及び賃金請求権と休業手当請求権の
3999 関係につき,
4000 両請求権の相違をも考慮しつつ,
4001 判例法理(ノースウエスト航空事件(最二判昭
4002 和62年7月17日)等)を踏まえた上で,
4003 それぞれ規範を定立し,
4004 的確に当てはめを行うこ
4005 とが必要である。
4006
4007 また,
4008 Zらの請求の当否について結論を明示することも忘れてはならない。
4009
4010
4011 いずれの設問も,
4012 規範の明示と本件事例への当てはめを基軸とし,
4013 説得力ある論理が展開さ
4014 れていることが前提となる。
4015
4016
4017 [環
4018
4019 境
4020
4021 法]
4022
4023 〔第1問〕
4024 第1問は,
4025 環境影響評価法に関する基本的な仕組み,
4026 大気汚染による健康被害の差止請求に
4027 関する法的論点,
4028 情報的手法に関する基礎的理解を問う問題である。
4029
4030 一つの事例において環境
4031 法の様々な分野が関わる場合が多いことから,
4032 このように設問した。
4033
4034
4035 〔設問1〕では,
4036 意見書の提出の機会全てについて,
4037 問題の主体ごとに根拠条文を踏まえて
4038 説明しているかが問われている。
4039
4040 B県知事とEには,
4041 計画段階環境配慮書,
4042 方法書,
4043 準備書に
4044 ついて,
4045 意見書提出の機会があり,
4046 意見書を事業実施主体宛て提出することができる(同法第
4047 3条の7第1項,
4048 第8条第1項,
4049 第10条第1項,
4050 第18条第1項,
4051 第20条第1項)。
4052
4053 ただ
4054 し,
4055 計画段階環境配慮書における意見書提出の機会(平成23年環境影響評価法改正によって
4056 その作成義務が定められた〔第3条の3〕ことに伴って設けられた)の提供は,
4057 事業実施主体
4058 の努力義務にとどまっている。
4059
4060
4061 〔設問2〕では,
4062 Eは,
4063 石炭火力発電所から発生する窒素酸化物(NOx)による大気汚染か
4064 ら生じる健康被害の発生を危惧しており,
4065 人格権等の侵害に基づき,
4066 A社及びF社に対して,
4067
4068 A社D発電所及びF社G発電所から排出される窒素酸化物の量の削減を請求することなどが考
4069 えられる。
4070
4071 複数の考え方が存在する場合,
4072 それぞれを検討して法律上の問題点について広範に
4073 論じる必要がある。
4074
4075
4076 まず,
4077 既設・操業のG発電所及び新設・操業のD発電所から石炭の燃焼により発生する窒素
4078 酸化物(直接排出される一酸化窒素及びその反応物質である二酸化窒素)は健康被害物質(呼
4079 吸器系の疾患の原因物質)であることを述べる。
4080
4081 窒素酸化物は「有害物質」として大気汚染防
4082 止法によって規制され(同法第2条第1項第3号,
4083 同法施行令第1条第5号),
4084 二酸化窒素に
4085 ついて環境基準が定められている(昭和53年環境庁告示第38号,
4086 平成8年環境庁告示第7
4087 4号最新改正)。
4088
4089
4090 次に,
4091 健康被害に対する差止請求権の法的根拠について述べる。
4092
4093 本問の事案を解くための議
4094 論の立て方を示せば,
4095 以下のとおりとなる。
4096
4097 第1は,
4098 人は,
4099 自らの生命・身体の完全性(健康)
4100 を害されない権利,
4101 すなわち身体的人格権を有しており(憲法第13条,
4102 民法第710条参照),
4103
4104 その侵害に対しては人格権に基づき差止めを請求する権利を有しているとし,
4105 したがって,
4106 人
4107 の健康を侵害する蓋然性が高い場合には,
4108 身体的人格権の侵害となり,
4109 受忍限度論によること
4110 なく(受忍限度論は生活妨害のような精神的損害の場合に適用されると考える),
4111 違法性が認
4112 められ,
4113 健康被害の高度の蓋然性を証明すれば,
4114 差止請求が認められるという考え方である。
4115
4116
4117 第2は,
4118 人格権侵害に基づく差止請求権の要件については,
4119 受忍限度論が適用されるとし,
4120 健
4121 康被害が生ずる蓋然性が高い場合には,
4122 公共性が高い場合であっても差止請求が認められると
4123 する考え方である。
4124
4125 第3は,
4126 環境基準を大幅に超えていることを根拠として健康被害が生ずる
4127 高度の蓋然性があることを主張するのではなく,
4128 現状の汚染により健康被害が生ずるのではな
4129
4130 - 29 -
4131
4132 いかという危惧感(精神的損害)を被侵害利益として主張するという捉え方である。
4133
4134 そのよう
4135 な捉え方によれば,
4136 身体的人格権に直結した平穏生活権の侵害の問題となるが,
4137 その場合の要
4138 件は受忍限度論となろう。
4139
4140
4141 そして,
4142 差止請求が認められるためには,
4143 健康被害が既に発生していること,
4144 あるいは発生
4145 するであろうことが高度の蓋然性をもって証明できることを要する(因果関係証明の原則)。
4146
4147
4148 これについて,
4149 本問では,
4150 既設のG発電所からのばい煙(その中の窒素酸化物)と新設のD発
4151 電所からの窒素酸化物が複合して,
4152 Eの居住地において,
4153 窒素酸化物(大気中で酸化反応して
4154 二酸化窒素となっている)の濃度が,
4155 常時環境基準を25%超える汚染が現出しているとして,
4156
4157 Eは健康被害を危惧しているから,
4158 健康被害の蓋然性の問題と,
4159 汚染源が複数存在する場合の
4160 帰責者の問題を論じる必要がある。
4161
4162
4163 環境基準は,
4164 一般的にいえば,
4165 達成すべき公害・環境行政上の政策目標であって,
4166 健康を保
4167 護するための基準値(健康閾値)とは必ずしも一致しない。
4168
4169 しかしながら,
4170 検出されてはいけ
4171 ないとか,
4172 有害性が著しく厳しい基準を定められている健康被害物質については,
4173 環境基準を
4174 健康閾値である差止基準として主張することは考えられ,
4175 窒素酸化物(二酸化窒素を含む)に
4176 ついても,
4177 健康被害物質であり,
4178 達成時期も比較的に短期であって,
4179 健康影響が大きいともい
4180 えるから,
4181 環境基準を差止基準と仮定して,
4182 Eが訴訟上の請求をすることも,
4183 一つの考え方と
4184 してはあり得る。
4185
4186 もちろん,
4187 環境基準が政策目標であるため,
4188 それを超えていることが差止め
4189 (汚染物質の削減)の根拠にできないことを述べることはできるが,
4190 その場合には,
4191 単なる政
4192 策目標として理解しない考え方についても言及する必要がある。
4193
4194 すなわち,
4195 環境基準の法的性
4196 質を述べた上で,
4197 本件事案において,
4198 なおそれをどのように利用することができるか検討する
4199 ことが求められている。
4200
4201
4202 Eが求めるべき差止めの内容としては,
4203 汚染を人格権等の侵害が生じないレベルに低減する
4204 ことであるが,
4205 G発電所とD発電所の窒素酸化物が複合してE居住地に到達しているから,
4206 複
4207 数汚染源に対する差止め(理論的根拠,
4208 寄与度と削減義務)をどのように考えるかを論じる。
4209
4210
4211 この点については,
4212 @個別的差止説,
4213 A連帯的差止説,
4214 B分割的差止説などがあり,
4215 各説に言
4216 及した上で,
4217 自説を述べることが求められる。
4218
4219
4220 例えば,
4221 @は,
4222 各汚染源が差止基準を超えて被害者に原因物質を到達させていなければ差止
4223 めを請求できないとする説であるが,
4224 複数汚染源からの少量の有害物質が複合して差止基準を
4225 超えているような場合には,
4226 被害者の保護ができないという問題点が指摘されている。
4227
4228
4229 Aは,
4230 複数汚染源の間に強い関連共同のような一体的関係とか主従の関係があれば妥当な結
4231 論となるが,
4232 そうでない場合には,
4233 狙い撃ち的に,
4234 ある汚染源に対して,
4235 他の汚染源による排
4236 出を含めた基準超過汚染の削減義務を負わせるものであり,
4237 公平に反するという問題点が指摘
4238 されている。
4239
4240
4241 Bは,
4242 複数の汚染源を被告にして汚染を差止基準以下にせよと請求でき,
4243 各被告の寄与度に
4244 応じた差止の義務を負うとする説であるが,
4245 各被告の寄与度をどう決めるべきかの問題が指摘
4246 されている。
4247
4248 そこで,
4249 現実の汚染(着地濃度)と差止基準(閾値)を基に一律の削減率を決定
4250 し,
4251 その削減率に基づいて各被告の排出量の削減を求めればよい,
4252 とすることなどに言及する
4253 ことが考えられる。
4254
4255
4256 最後に,
4257 請求の趣旨について検討する。
4258
4259 排出口における汚染物質の排出量の削減を求める請
4260 求と着地濃度の低減を求める請求が考えられるが,
4261 着地濃度方式は証明が困難であり,
4262 排出口
4263 における排出量による請求が実際的である。
4264
4265 抽象的不作為請求を立てることになる場合,
4266 抽象
4267 的不作為請求が適法な請求方式か,
4268 すなわち,
4269 訴訟物が特定しているか,
4270 強制執行の方法をど
4271 う解するか,
4272 述べる必要がある。
4273
4274 強制執行は間接強制となる。
4275
4276 なお,
4277 抽象的不作為請求の適法
4278 性を認めない場合には,
4279 その理由を述べる必要がある。
4280
4281
4282 〔設問3〕では,
4283 情報的手法の意義に関する説明と規制的手法との比較,
4284 すなわち,
4285 長所と
4286
4287 - 30 -
4288
4289 短所を記述することを求めている。
4290
4291 情報的手法は,
4292 持続可能な社会の構築に向けた環境政策に
4293 おける政策手段,
4294 社会経済の環境配慮のための仕組みの一つであり,
4295 各手法を適切に組み合わ
4296 せることによって環境政策を推進することとされている。
4297
4298 そして,
4299 その意義は,
4300 事業活動や
4301 製品・サービスに関して,
4302 行政が,
4303 事業者に対して環境負荷などに関する情報の消費者・投
4304 資家等利害関係者や行政への開示・提供を求め,
4305 行政に提供された情報の公表・公開を行うこ
4306 とによって,
4307 製品・サービスの提供者も含めた各主体による事業者や製品の選択等環境配慮
4308 行動を促進,
4309 または,
4310 自主的な取組みに資するという環境政策の手法と説明することができる
4311 (第2次・第3次・第4次環境基本計画〔平成12年・同18年,
4312 同24年〕参照)。
4313
4314 規制的
4315 手法との比較としては,
4316 長所として,
4317 行政リソースの限界に対応できること,
4318 各主体によ
4319 る柔軟な対策が可能,
4320 科学的不確実性のある分野の場合,
4321 比例原則の問題が生じにくいこと
4322 などを挙げることができる。
4323
4324 短所としては,
4325 それ自体では強制力がないこと,
4326 このため実
4327 効性を確保するためには他制度との組合せが必要であること,
4328 市場や国民による監視が必要
4329 であることなどを挙げることができる。
4330
4331
4332 〔第2問〕
4333 第2問は,
4334 環境法の分野における基本理念と,
4335 諸原則や基本的な考え方,
4336 各制度との関係に
4337 ついての総合的な理解力,
4338 思考力を問う問題である。
4339
4340 全ての設問を通じ,
4341 人の活動により環境
4342 に加えられる影響であって,
4343 環境の保全上の支障の原因となるおそれのあるものとしての「環
4344 境への負荷」(環境基本法第2条第1項)は,
4345 問題となっている法律においては何であると想
4346 定されているかが論述の出発点となり,
4347 そのような環境への負荷をできる限り低減する上で,
4348
4349 それぞれの社会的立場において自主的かつ積極的に行われるべき環境の保全に関する行動の公
4350 平な役割分担とは何かを思考することが求められている。
4351
4352
4353 〔設問1〕では,
4354 容器包装リサイクル法が目的とする「環境への負荷」の低減が,
4355 容器包装
4356 廃棄物の排出の抑制並びに分別収集及びその再商品化を促進するための措置を講ずること等に
4357 よって,
4358 廃棄物の適正な処理及び資源の有効な利用の確保を図り,
4359 生活環境を保全すること等
4360 であること(同法第1条)を踏まえ,
4361 そのための公平な役割分担として考えられることを論述
4362 する。
4363
4364 小問では,
4365 いわゆる3R(Reduce =発生抑制,
4366 Reuse =再使用,
4367 Recycle =再生利用)
4368 の容器包装廃棄物の排出の抑制の場面における表れと考えられる,
4369 過剰使用の抑制,
4370 再使用及
4371 び再商品化を促進するための分別収集については,
4372 消費者及び利用事業者の活動に負う面が大
4373 きいことを指摘し,
4374 一方,
4375 地球温暖化対策の推進に関する法律が目的とする「環境への負荷」
4376 の低減は,
4377 温室効果ガスの排出の抑制であること(同法第1条参照)を押さえつつ,
4378 日常生活
4379 用製品等の利用に伴う温室効果ガスの排出を抑制する上でも消費者等の製品選択及び製品利用
4380 の方法に負う面は大きいが,
4381 これらを実効性あるものとするためには,
4382 製品性能や排出抑制的
4383 な利用方法についての専門的情報が不可欠であることから,
4384 公平な役割分担上,
4385 責務規定の内
4386 容が異なっていると考えられることなどを論述する。
4387
4388 また,
4389 容器包装が再商品化しやすい分別
4390 基準適合物であるためには,
4391 容器包装の製造事業者においてそのようなものとして製造される
4392 ことが必要であり,
4393 温室効果ガス排出量の少ない日常生活用製品等の製造に係る地球温暖化対
4394 策の推進に関する法律第20条の6の規定共々,
4395 環境配慮設計を果たすことが,
4396 製造事業者の
4397 負うべき公平な役割分担であると考えられることも記述する。
4398
4399 小問では,
4400 特定事業者は,
4401 拡
4402 大生産者責任の観点から,
4403 容器包装の再商品化義務を負い(容器包装リサイクル法第11条な
4404 いし第13条),
4405 再商品化費用を負担することが想定されている一方,
4406 再商品化費用の多くは
4407 実効性ある分別収集がなされるかによって左右される側面が大きいところ,
4408 容器包装廃棄物は
4409 一般廃棄物であり(同法第2条第4項),
4410 その処理計画や収集・運搬・再生を含む処分は,
4411 循
4412 環型社会形成推進基本法第10条を踏まえ,
4413 市町村において行うことが予定されていること(廃
4414 棄物の処理及び清掃に関する法律第6条,
4415 第6条の2第1項)から,
4416 市町村は,
4417 容器包装廃棄
4418
4419 - 31 -
4420
4421 物の分別収集に必要な措置(容器包装リサイクル法第6条第1項)の一環として市町村分別収
4422 集計画を定め(同法第8条),
4423 これに従って容器包装廃棄物の分別収集をしなければならない
4424 とされていること(同法第10条第1項)をまず押さえる。
4425
4426 その上で,
4427 容器包装リサイクル法
4428 第10条の2は,
4429 特定事業者が現実に負担した再商品化費用が一般に想定される再商品化費用
4430 よりも低額で済んだ場合には,
4431 このような市町村の役割に負う部分が大きいことに鑑み,
4432 市町
4433 村の寄与度に応じて,
4434 想定再商品化費用との差額の一定割合額を市町村に還元することで,
4435 一
4436 定程度の費用負担の調整を図るとともに,
4437 市町村において,
4438 公平な役割分担として,
4439 合理的な
4440 市町村分別収集計画を自主的かつ積極的に策定するよう誘導しようとする制度であることを記
4441 述する。
4442
4443
4444 〔設問2〕では,
4445 自然公園法が目的とする「環境への負荷」の低減が,
4446 優れた自然の風景
4447 地の保護とその適正な利用であることを踏まえ,
4448 国,
4449 地方公共団体,
4450 事業者及び自然公園の
4451 利用者が,
4452 それぞれの立場において,
4453 これが図られるように努めなければならないこと(同
4454 法第1条,
4455 第3条第1項)が,
4456 公平な役割分担と考えられることを論述する。
4457
4458 小問では,
4459
4460 国立公園は,
4461 我が国の風景を代表するに足りる傑出した自然の風景地であること(同法第2
4462 条第2号)を踏まえ,
4463 環境大臣は,
4464 風致を維持するために,
4465 その海域を除く区域内に特別地
4466 域を指定し,
4467 景観を維持するために,
4468 特別地域内には特別保護地区を区域内の海域には海域
4469 公園地区を指定することができ,
4470 それぞれ地域又は地区内では風致や景観を破壊するおそれ
4471 のある行為は許可を受けるべきものとされ,
4472 特に保護すべき程度の高い後者では,
4473 特別保護
4474 地区を除く特別地域におけるより軽微な行為であっても,
4475 許可を受けなければ,
4476 してはなら
4477 ないとされていることを記述する。
4478
4479 また,
4480 所有者等において,
4481 これらの許可を得られないな
4482 ど,
4483 これらの行為が制限された場合においては,
4484 通常生ずべき損失の補償をしなければなら
4485 ないとされている(同法第64条第1項ないし第3項)が,
4486 これは地域又は地区に指定され
4487 ることのみで損失が補償されるものではなく,
4488 無条件の許可を受けられないことに対して補
4489 償されるいわゆる不許可補償であって,
4490 公平な役割分担の範囲を超える場合に当たると考え
4491 られる特別の犠牲を被った場合に補償がされるべきものであり,
4492 その程度に至らない場合は,
4493
4494 財産権の内在的制約と考えられることなどを論述する。
4495
4496 小問では,
4497
4498 【資料】にある法律から,
4499
4500 地域自然環境保全等事業は,
4501 国立公園等の自然の風景地,
4502 名勝地その他の自然環境の保全及
4503 び持続可能な利用の推進を図る上で重要な地域において実施する事業であり,
4504 「入域料」は,
4505
4506 同事業を実施する区域内への立入りについて収受する料金であって,
4507 当該地域の自然環境を
4508 地域住民の資産として保全し,
4509 その持続可能な利用を推進するための経費に充てるべきもの
4510 であることを読み解いた上で,
4511 そのような自然環境の保全及び持続可能な利用の推進につい
4512 て,
4513 公平な役割分担として,
4514 利用者にも自主的かつ積極的に関わってもらうために,
4515 地域自
4516 然環境保全等事業を実施する区域内に立ち入る者が,
4517 いわゆる受益者負担の原則に基づき負
4518 担する金銭であると考えられることなどを論述する。
4519
4520
4521 [国際関係法(公法系)]
4522 〔第1問〕
4523 本問は,
4524 島の帰属をめぐる二国間の争いが,
4525 国際連合(以下「国連」という。
4526
4527 )の場におい
4528 てどのように扱われるかについて,
4529 司法試験用法文にも登載されている国連憲章の関連規定
4530 の的確な把握,
4531 及び島の領有に関する国際法の基本的な理解を問う問題である。
4532
4533 国連憲章に
4534 関しては,
4535 設問の趣旨を踏まえて参照すべき適切な国連憲章の条文を見付け,
4536 その該当条文
4537 を条約の解釈に関する国際法の規則(条約法に関するウィーン条約第31条以下参照。
4538
4539 )に即
4540 して適切に解釈し,
4541 問われている具体的論点に答えることが求められる。
4542
4543 また島の領有につ
4544 いては,
4545 国家の領域や島の帰属に関する国際法の理解と本事案への的確な適用が求められる。
4546
4547
4548 設問1は,
4549 A国の要請に基づいてこの事案を扱った国連安全保障理事会(以下「安保理」
4550
4551 - 32 -
4552
4553 という。
4554
4555 )の表決手続に関する問いである。
4556
4557 特に安保理の表決手続を定める国連憲章第27条
4558 の構造の的確な理解が求められる。
4559
4560 同条第1項は各理事国が1個の投票権を有すること,
4561 第
4562 2項は手続事項に関する決定は15理事国中9理事国の賛成投票により可決されること,
4563 そ
4564 して第3項は,
4565 「その他のすべての事項」(通常「手続事項」に対比して「実質事項」又は「重
4566 要事項」といわれる。
4567
4568 )に関する安保理の決定は「常任理事国の同意投票を含む9理事国の賛
4569 成投票」により可決されることを規定する。
4570
4571
4572 本事案の決議案の内容は手続事項ではないので,
4573 設問の安保理決議案の採択には,
4574 国連憲
4575 章第27条第3項が適用されることをまず押さえる必要がある。
4576
4577 すなわち,
4578 本事案のような
4579 実質事項に関する安保理の表決には,
4580 @「9理事国の賛成投票」及びA「常任理事国の同意
4581 投票」の二つの要件が満たされなければならない。
4582
4583 Aの要件は,
4584 常任理事国の1国でも反対
4585 すると他の14理事国が賛成していても決議案は否決されるという意味で,
4586 一般に「常任理
4587 事国の拒否権」と表現されている。
4588
4589
4590 本事案では,
4591 投票結果は賛成10票であったので「9理事国の賛成投票」という要件は満
4592 たされているが,
4593 常任理事国のC国が棄権したために,
4594 「常任理事国の同意投票」という要件
4595 が満たされているかどうかが問題となる。
4596
4597 解釈論としては,
4598 棄権は積極的な同意投票ではな
4599 いので「常任理事国の同意投票」があったとは言えないと解して否決されたとすることも可
4600 能である。
4601
4602 しかし,
4603 国連では,
4604 安保理の任務の円滑な遂行を確保するために,
4605 そしてまた,
4606
4607 解釈論としても棄権は反対票とも異なり拒否権の行使には当たらないと解することも可能で
4608 あることから,
4609 国連成立後間もない頃から,
4610 棄権は拒否権の行使には当たらないとする慣行
4611 が成立している。
4612
4613 この慣行によれば,
4614 本事案の安保理決議案は,
4615 国連憲章第27条第3項の
4616 二つの要件を満たしているので,
4617 採択されたと解することができる。
4618
4619
4620 設問2は,
4621 本事案の決議案において,
4622 B国の一方的軍事行動を非難する国際法上の根拠を
4623 示すことを求めている。
4624
4625 この設問を検討するに際しては,
4626 B国のX島への一方的軍事行動が
4627 A国の領域を侵犯する違法行為と言えるか否かが重要なポイントとなるから,
4628 まずは前提と
4629 して,
4630 X島がA国に帰属することを説明する必要がある。
4631
4632 本事案では,
4633 A国は独立の際に同
4634 島を自国の領域に編入する措置をとるとともに,
4635 その後数百人の住民に対する一定の行政権
4636 を行使してきた。
4637
4638 このA国のX島に対する国家としての領域管轄権の行使により,
4639 X島を領
4640 有するA国の意思が明白に示されているうえに実効的支配(1928年のパルマス島事件に
4641 関する常設仲裁裁判所判決参照。
4642
4643 )も確立しかつ平穏に継続してきたと言える。
4644
4645 一方,
4646 その間
4647 B国はこれらのA国の主権行使に対して抗議することがなく,
4648 B国がX島に対する領有権を
4649 主張するようになったのは,
4650 両国の独立後30年以上が経過した2002年であり,
4651 その主
4652 張の主な根拠は,
4653 国際法上島の領有の基礎としては学説上も判例上も実効的支配のように十
4654 分に確立しているとは言えない地理的近接性を理由とするものである。
4655
4656 30年以上A国のX
4657 島に対する主権行使を黙認し,
4658 2002年になって地理的近接性という理由をもって領有権
4659 を主張するようになったB国の立場は,
4660 A国の長年にわたる平穏な実効的支配に対抗する主
4661 張としては国際法上根拠が弱いと結論することができる。
4662
4663
4664 このことを前提にするならば,
4665 B国のX島への一方的軍事行動は,
4666 国連憲章第2条第4項
4667 が禁止するA国の「領土保全」に対する「武力の行使」に当たり違法である。
4668
4669 また,
4670 仮にX
4671 島についてはA国に帰属することが確定しておらずB国との間に紛争が存在する状態である
4672 としたとしても,
4673 その場合B国はX島への一方的軍事行動の前に国連憲章第2条第3項に従っ
4674 て,
4675 同第33条に列記する交渉,
4676 審査,
4677 仲介,
4678 調停,
4679 仲裁裁判,
4680 司法的解決などの平和的手
4681 段による紛争の解決に努めるべきであった。
4682
4683 そうしなかったB国の一方的軍事行動は,
4684 国連
4685 憲章第2条3項が規定する紛争の平和的解決義務にも違反している。
4686
4687
4688 設問3は,
4689 仮に本事案の安保理決議案が全会一致で採択された場合,
4690 B国は直ちに軍をX
4691 島から撤退させA国の漁業者や住民の帰島を可能にする措置をとるべき国際法上の義務が生
4692
4693 - 33 -
4694
4695 ずるかという問いである。
4696
4697 言い換えると,
4698 採択された安保理決議はB国を法的に拘束するか
4699 という問いである。
4700
4701 一般に,
4702 国連を含む国際機構(国際組織,
4703 国際機関ともいう。
4704
4705 )の総会,
4706
4707 理事会などの審議機関の決議は,
4708 国家が締結した条約とは異なり法的拘束力はないとされて
4709 いる。
4710
4711 その場合,
4712 決議がどのような票数で可決されたかということは,
4713 通常問題とはならな
4714 い。
4715
4716 仮に全会一致で採択された決議であっても,
4717 政治的意味はともかく,
4718 法的には拘束力が
4719 ないと見るのが通例である。
4720
4721
4722 ただし,
4723 国連憲章のような国際機構設立基本条約において,
4724 特定の審議機関の決議が拘束
4725 力を有することが明確に規定されている場合は別である。
4726
4727 国連の安保理の場合がまさにその
4728 例に当たる。
4729
4730 国連憲章第25条は,
4731 「国際連合加盟国は,
4732 安全保障理事会の決定をこの憲章に
4733 従って受諾し且つ履行することに同意する」と規定する。
4734
4735 この「受諾し且つ履行することに
4736 同意する」という文言の意味は,
4737 一般に「安保理の決定は加盟国を拘束するもの」と解され
4738 ている。
4739
4740 したがって,
4741 B国は,
4742 安保理決議に従って,
4743 軍をX島から直ちに撤退させ,
4744 A国の
4745 漁業者や住民をX島に帰島させる措置をとるべき国際法上の義務があることになる。
4746
4747
4748 仮にB国が決議を無視して軍を駐留させ続け漁業者等の帰島を可能にする措置をとらなかっ
4749 た場合は,
4750 安保理は何ができるか。
4751
4752 その場合安保理は,
4753 国連憲章第7章の下でB国に対して
4754 一定の強制措置をとることができる。
4755
4756 具体的には,
4757 国連憲章第39条に基づいて,
4758 B国の軍
4759 事行動は「平和に対する脅威,
4760 平和の破壊又は侵略行為」であると決定し,
4761 同第41条に規
4762 定する非軍事的(経済的)措置を,
4763 またそれでは不充分であるとされた場合には,
4764 同第42
4765 条の軍事的行動をとることができる。
4766
4767
4768 設問4は,
4769 仮に安保理が決議案を否決した場合,
4770 総会が本事案の事態を議題として取り上
4771 げ,
4772 安保理決議案と同様の内容の決議を採択することができるかを問う問題である。
4773
4774 総会は,
4775
4776 国連憲章第10条において,
4777 「この憲章の範囲内にある問題若しくは事項」に関して討議する
4778 ことが一般的に認められている。
4779
4780 また,
4781 国連憲章第11条第2項は,
4782 本事案のような「国際
4783 の平和及び安全の維持に関するいかなる問題も討議」することを総会に認めている。
4784
4785 したがっ
4786 て,
4787 総会が本事案を議題として取り上げて討議することは可能である。
4788
4789
4790 なお,
4791 総会には紛争解決のために勧告をする権限が認められているが,
4792 それには一定の制
4793 約がある。
4794
4795 それは国連憲章第24条において,
4796 安保理に「国際の平和及び安全の維持に関す
4797 る主要な責任」を与えていることに関係する。
4798
4799 この規定から,
4800 本事案に関しては,
4801 まず安保
4802 理が扱うのが国連憲章の趣旨である。
4803
4804 そして,
4805 そのことを確実にするために,
4806 国連憲章は第
4807 12条第1項において,
4808 「安全保障理事会がこの憲章によって与えられた任務をいずれかの紛
4809 争又は事態について遂行している間は,
4810 総会は,
4811 安全保障理事会が要請しない限り,
4812 この紛
4813 争又は事態について,
4814 いかなる勧告もしてはならない」と規定している(前記の国連憲章第
4815 10条及び第11条第2項の総会の権限を定める規定も「第12条に規定する場合を除く外」
4816 と条件を付けている。
4817
4818 )。
4819
4820 言い換えると,
4821 総会は,
4822 安保理が本事案について任務を遂行してい
4823 る間は,
4824 特に安保理が要請しない限り,
4825 本事案について討議はできても勧告はできないと考
4826 えられる。
4827
4828
4829 ところで設問4では,
4830 安保理は決議案を否決しているのであるが,
4831 これをもって安保理が
4832 本事案について任務を遂行しなくなったと判断して総会が本事案を討議し勧告をすることが
4833 できるかが,
4834 国連憲章第12条第1項の規定の解釈上問題になる。
4835
4836 安保理が本事案を議題と
4837 して取り上げて審議している間は,
4838 関連する決議案の一つが否決されたとしても議題は継続
4839 していると考えられるから,
4840 本事案の場合,
4841 当該決議案の否決を唯一の根拠として,
4842 安保理
4843 が本事案に関して任務を終了したとまで断定することはできないだろう(なお,
4844 安保理が,
4845
4846 常任理事国の全員一致が得られなかったためにその主要な責任を遂行できなくなった場合,
4847
4848 一定の手続を踏んで,
4849 総会が問題を討議し,
4850 加盟国に対して勧告することができることを確
4851 認した1950年11月3日の「平和のための結集決議」参照。
4852
4853 )。
4854
4855
4856
4857 - 34 -
4858
4859 〔第2問〕
4860 本問は,
4861 外交官に対して認められる国際法上の特権免除及び外交使節団の公館(大使館等)
4862 の保護等に関する外交関係法と,
4863 国際法上の国家責任をめぐる問題に関する基本的な理解に
4864 ついて問う問題である。
4865
4866 外交関係法に関しては,
4867 外交関係に関するウィーン条約(以下「外
4868 交関係条約」という。
4869
4870 )に関係する国際法上の権利義務の内容が明記されており,
4871 同条約の条
4872 文は司法試験用法文に登載されている。
4873
4874 したがって,
4875 本問は,
4876 外交関係法に関する国際法の
4877 規則の内容をどれだけ「暗記」しているかを問うものではなく,
4878 外交関係条約の関係条文を
4879 具体的な設問の事例に照らして的確に抽出・解釈し,
4880 論理的な論述を展開して適切な結論を
4881 導くことを期待する問題である。
4882
4883 また,
4884 国際法上の国家責任に関しても,
4885 国家責任の一般的
4886 な成立要件や責任追及の方法など,
4887 その基礎的な理解を前提としてこれを具体的な事例に適
4888 用する能力を問うものであり,
4889 決して過度に専門的で詳細な知識を求めているものではない。
4890
4891
4892 設問1は,
4893 外交官の身分を有する者に対して認められる国際法上の特権免除の内容と,
4894 こ
4895 れをめぐる接受国と派遣国の国際法上の権利義務に関する理解を問う問題である。
4896
4897 具体的に
4898 は,
4899 外交関係条約第29条が規定する外交官の身体の不可侵の規定と,
4900 同条約第31条が規
4901 定する外交官の裁判権免除のうち特に刑事裁判権からの免除の規定が,
4902 B国の外交官Xが引
4903 き起こした本件交通事故に関してどのように適用されるかにつき検討する必要がある。
4904
4905 論述
4906 に際しては,
4907 外交官に対して国際法上の特権免除が認められる趣旨及び目的,
4908 背景にも触れ
4909 ながら主張を展開することができれば,
4910 論旨の説得力が更に増すことが期待できる。
4911
4912
4913 設問1は,
4914 A国政府としてY大使の見解に対して国際法上可能な主張を問う内容であるか
4915 ら,
4916 外交関係条約は,
4917 外交官など特権免除が認められる者に対して接受国の法令を尊重する
4918 義務を一般的に課している(第41条)ことをまず指摘する必要がある。
4919
4920 また,
4921 外交官に認
4922 められる裁判権免除に関しては派遣国による免除の放棄が認められる(第32条)ことから,
4923
4924 接受国であるA国は派遣国であるB国に対して外交官Xに関する免除の放棄を要請できるこ
4925 とに言及する必要がある。
4926
4927 さらに,
4928 外交関係条約によれば,
4929 接受国は「いつでも,
4930 理由を示
4931 さないで」特定の外交官が「ペルソナ・ノン・グラータ」(好ましからざる人物)であること
4932 を派遣国に通知することができ,
4933 その場合には派遣国は当該外交官を召還し又はその者の任
4934 務を終了させなければならない(第9条)ものとされる。
4935
4936 本設問においても,
4937 接受国である
4938 A国は,
4939 外交官Xが「ペルソナ・ノン・グラータ」であることをB国に対して通告すること
4940 ができ,
4941 その場合にはB国は外交官Xを本国に召還するか又は任務を終了させる義務を負う
4942 ことになる。
4943
4944
4945 設問2は,
4946 国際法上認められた外交使節団の公館(本事例ではA国に所在するB国大使館)
4947 の不可侵等との関係で,
4948 A国がB国に対して負う国際法上の国家責任について問う問題であ
4949 る。
4950
4951 一般に国際法上の国家責任が発生するためには,
4952 国による国際違法行為が必要であり,
4953
4954 国による国際違法行為とは,
4955 ある作為又は不作為からなる行為が,
4956 @国際法上当該国に帰属
4957 し,
4958 A当該国による国際義務の違反を構成する場合に存在するものとされる(例えば,
4959 国連
4960 の国際法委員会(ILC)が作成し国連総会が採択した国家責任条文参照)。
4961
4962
4963 外交関係条約第22条は,
4964 外交使節団の公館の不可侵について規定し,
4965 特に接受国に対し
4966 て,
4967 「接受国は,
4968 侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため及び公館の安寧の妨害又は
4969 公館の威厳の侵害を防止するため適当なすべての措置を執る特別の責務を有する」(同条第2
4970 項)と定めている。
4971
4972 したがって,
4973 A国に所在するB国大使館周辺で発生した事実に照らして,
4974
4975 A国当局が「適当なすべての措置を執る特別の責務」を果たしたといえるか否かを個別に検
4976 討する必要がある。
4977
4978 具体的には,
4979 大使館の窓の破損や外壁の落書きといった物理的な「損壊」
4980 の発生に加えて,
4981 大使館正門の路上でのB国国旗の焼却といった行為が「公館の安寧の妨害
4982 又は公館の威厳の侵害」に当たるか否かといった点に関しても,
4983 検討が必要とされる。
4984
4985
4986
4987 - 35 -
4988
4989 また,
4990 外交関係条約は,
4991 外交使節団の任務遂行のための接受国による便宜供与(第25条),
4992
4993 さらに使節団の構成員の移動及び旅行の自由(第26条)等を保障している。
4994
4995 B国大使館に
4996 対する大規模デモの継続中にB国大使館への自由な出入りが事実上制約され大使館の業務遂
4997 行が困難な状態が続いたことは,
4998 同条約中のこれらの規定との関係でも国際法上の義務違反
4999 を構成する可能性があることに留意する必要がある。
5000
5001
5002 なお,
5003 A国政府の側からは,
5004 これらの違法行為を行ったのは私人であり,
5005 私人の行為は原
5006 則として国に帰属しないから,
5007 デモ参加者がB国大使館に対して行った行為からA国政府に
5008 国際法上の責任は発生しない,
5009 といった反論がなされるかもしれない。
5010
5011 しかし,
5012 設問2で問
5013 題とされている外交関係法に基づく外交使節団の公館の保護に関しては,
5014 接受国が「相当の
5015 注意」をもって外交使節団の公館を保護する国際法上の義務を負うものであり,
5016 外交使節団
5017 の公館の侵害を防止するための十分な保護措置をとらなかったというA国政府による不作為
5018 の義務違反を問えることに注意する必要がある(例えば,
5019 在テヘラン米国大使館員等人質事
5020 件国際司法裁判所判決参照)。
5021
5022 本事案においては,
5023 接受国であるA国は,
5024 同国に所在するB国
5025 大使館に関して,
5026 「侵入又は損壊に対し使節団の公館を保護するため」及び「公館の安寧の妨
5027 害又は公館の威厳の侵害を防止するため」適当なすべての措置を執る特別の責務を負ってい
5028 る(外交関係条約第22条第2項)。
5029
5030 したがって,
5031 A国政府が,
5032 多数の警察官を動員してB国
5033 大使館の警備に当たらせたとはいえ,
5034 投石や落書き等を防げず,
5035 その結果としてB国大使館
5036 の物理的な「損壊」が発生したことは,
5037 A国政府が当該公館を保護する義務を履行できなかっ
5038 たものであり,
5039 また,
5040 B国大使館の正門前の路上でB国国旗を燃やすことを制止せず放置し
5041 たことは当該公館の「安寧の妨害又は公館の威厳の侵害」を防止しなかったものと解するこ
5042 とができ,
5043 いずれもA国政府自身による国際法上の義務違反(防止義務違反)を構成すると
5044 みなすことができよう。
5045
5046
5047 次に,
5048 以上のようにB国大使館に関して十分な保護を行わなかったことにつきA国に国際
5049 法上の国家責任の発生が認められるとした場合,
5050 B国はA国に対して国際法上どのような請
5051 求を行うことができるかを考察する必要がある。
5052
5053 国際法上の国家責任が発生した場合,
5054 一般
5055 に,
5056 被害国は加害国に対して,
5057 「原状回復」,
5058 「金銭賠償」,
5059 「満足」(違反の自認,
5060 遺憾の意の
5061 表明,
5062 公式の陳謝等)等を要求することができるものとされる。
5063
5064 本事案においてB国が被っ
5065 た損害に関しても,
5066 物理的に回復が可能な損害に関しては「原状回復」を,
5067 原状回復によっ
5068 ては十分に回復されない損害に関しては「金銭賠償」を,
5069 原状回復又は金銭賠償によっては
5070 十分に回復されない損害に関しては「満足」として公式の陳謝や遺憾の意の表明,
5071 違反の自
5072 認といった外形的行為による救済を,
5073 それぞれ求めることができるものと考えられる(例え
5074 ば,
5075 前述の国家責任条文参照)。
5076
5077
5078 設問3は,
5079 外交官としての身分の終了による特権免除の消滅に関連する問題について問う
5080 ものである。
5081
5082 外交関係条約第39条第2項は,
5083 外交官等が有する特権免除は,
5084 当該者の任務
5085 が終了した場合には通常その者が接受国を去る時に消滅する,
5086 という原則を規定している。
5087
5088
5089 同時に,
5090 同項ただし書は,
5091 前記の者が「使節団の構成員として任務を遂行するにあたって行
5092 なった行為」についての裁判権からの免除は,
5093 その者の特権免除の消滅後も引き続き存続す
5094 ると定めている。
5095
5096
5097 本設問では,
5098 B国の外交官Xが引き起こした本件交通事故が,
5099 @休暇中に私的な旅行のた
5100 め自動車を運転中の事故であった場合,
5101 A緊急の公務のため自宅からB国大使館に駆けつけ
5102 る途中の事故であった場合のそれぞれについて,
5103 前述の規定に照らしてどのように判断すべ
5104 きかが問われることになる。
5105
5106 @の場合には,
5107 本件交通事故は外交官Xが「使節団の構成員と
5108 して任務を遂行するにあたって行った行為」であると解することは困難であろう。
5109
5110 したがっ
5111 て,
5112 この場合にはB国の元外交官Xには当該事故に関して裁判権免除は認められず,
5113 A国検
5114 察当局がXをA国の裁判所に刑事訴追したことは外交関係条約の関係規定に違反しないもの
5115
5116 - 36 -
5117
5118 と考えられる。
5119
5120
5121 他方で,
5122 Aの場合には,
5123 本件交通事故は外交官Xが「使節団の構成員として任務を遂行す
5124 るにあたって行った行為」であると解することができ,
5125 その場合には,
5126 本件事故に関して外
5127 交官Xに認められていた裁判権免除は,
5128 XがB国の外交官としての身分を失った後も引き続
5129 き存続するものと認められる。
5130
5131 したがって,
5132 A国検察当局がB国の元外交官XをA国の国内
5133 裁判所に刑事訴追したことは,
5134 外交関係条約の関係規定に違反するものと解釈できよう。
5135
5136
5137 なお,
5138 刑事裁判権を含むA国の裁判権からの免除がB国の元外交官Xに対して引き続き認
5139 められる場合であっても,
5140 設問1の解説で前述したように,
5141 B国はXに関する免除の放棄に
5142 同意することができる(外交関係条約第32条)のであり,
5143 A国がB国に対してXに関する
5144 免除の放棄を求めることも取り得る選択肢の一つと考えられる。
5145
5146
5147 [国際関係法(私法系)]
5148 〔第1問〕
5149 本問は,
5150 夫婦間の日常家事債務の連帯責任及び未成年の子の財産管理の準拠法の決定と適
5151 用を問うものである。
5152
5153
5154 設問1は,
5155 夫婦間の日常家事債務の連帯責任の法律関係の性質決定を問うものである。
5156
5157 こ
5158 れに関しては,
5159 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
5160
5161 )第25条説と第26条説
5162 との対立がある。
5163
5164 いずれの見解をとるか,
5165 その根拠を示した上で準拠法を決定し,
5166 条文を丁
5167 寧に適用し,
5168 結論を示す必要がある。
5169
5170
5171 設問2は,
5172 子の財産に対する父母の財産管理権に関する問題である。
5173
5174 親子間の法律関係
5175 の準拠法に関する通則法第32条によることを導き,
5176 問いに則して答えなければならない。
5177
5178
5179 設問2は,
5180 父母の財産管理権が及ばない未成年の子の財産管理の問題を国際私法上どの
5181 ように扱うかを問うものである。
5182
5183 甲国法を準拠法とする場合には,
5184 甲国法上の財産後見制度
5185 が日本法に不知の法制度であるため,
5186 わが国手続法でいかに実現するかも問題となる。
5187
5188
5189 〔第2問〕
5190 本問は,
5191 渉外契約の一方当事者につき法人格否認が問題となる事案を素材として,
5192 国際私法
5193 及び国際民事訴訟法の基礎的理解とその応用力を問うものである。
5194
5195
5196 設問1は,
5197 契約当事者とその親会社とを共同被告とする訴えにつきわが国の裁判所が国際裁
5198 判管轄権を有するか否かを問う問題である。
5199
5200 「手続は法廷地法による」との法原則の下でわが
5201 国の民事訴訟法第3条の2以下の諸規定がどのように適用されるかを適切に説明することが求
5202 められる。
5203
5204
5205 設問2は,
5206 親会社に対して契約責任が追及される場合の準拠法が何かを問う問題である。
5207
5208 契
5209 約当事者の法人格が否認されるか否かという論点と親会社が当該債務の履行責任を負うか否か
5210 という論点との関係をいかに理解するか(同一論点の言い換えとみるか,
5211 先決問題対本問題と
5212 して理解するか)に応じて,
5213 法律構成は異なり得る。
5214
5215 法人格否認の問題について,
5216 これを実質
5217 法上の法律構成とは別に,
5218 抵触法上の問題として,
5219 その法律構成(単位法律関係,
5220 法性決定,
5221
5222 連結点等)をどのように考えるか(法人従属法説,
5223 個別原因関係準拠法説他)等々,
5224 触れるべ
5225 き論点は少なくない。
5226
5227 法律構成のいかんにかかわらず,
5228 それぞれの根拠を示しつつ,
5229 準拠法決
5230 定の過程を段階を追って正確に説明することが求められる。
5231
5232
5233 設問3は,
5234 約定された支払通貨と異なる通貨での支払が認められるか否かの準拠法が何かを
5235 問う問題である。
5236
5237 債権準拠法説と履行地法説との対立が知られているが,
5238 ここでも,
5239 どのよう
5240 な根拠に基づいて準拠法を決定するかを丁寧に説明することが期待される。
5241
5242
5243
5244 - 37 -
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