1 論文式試験問題集[刑事系科目第1問]
2
3 -1-
4
5 [刑事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100)
7 以下の事例に基づき,
8 甲及び乙の罪責について,
9 具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(建造物侵
10 入罪及び証拠隠滅罪並びに特別法違反の点は除く。
11
12 )。
13
14
15
16
17 会社員甲(28歳,
18 男性,
19 身長165センチメートル,
20 体重70キログラム)は,
21 毎月25日,
22
23 勤務先から給料23万円を支給されていたが,
24 預貯金はなかった。
25
26 甲は,
27 某年8月25日に支給さ
28 れた給料の大半を遊興に費消したため,
29 9月10日には,
30 手持ちの金がほとんどなくなってしまっ
31 た。
32
33
34
35
36
37 甲は,
38 9月12日午後1時,
39 自宅近くのショッピングモール内にある時計店で,
40 以前から欲しか
41 った限定品の腕時計X(販売価格10万円)が,
42 1個だけ販売されているのを見付けた。
43
44 甲は,
45
46 持ちの金がなかったため,
47 勤務先会社の同僚A(28歳,
48 男性,
49 身長170センチメートル,
50 体重
51 65キログラム)から金を借りて腕時計Xを購入しようと考えた。
52
53 甲は,
54 同日午後1時5分,
55 同時
56 計店内でAに電話をかけ,
57 「腕時計Xを買いたいので10万円貸してほしい。
58
59 」と頼んだところ,
60
61 からは金がないと言われて断られた。
62
63 しかし,
64 甲は,
65 どうしても腕時計Xが欲しかったため,
66 引き
67 続きAに対して,
68 「クレジットカードを貸してくれないか。
69
70 そのクレジットカードで腕時計Xを買
71 いたい。
72
73 使った分の金は9月25日の給料で支払うし,
74 腕時計Xを買うほかには絶対使わない。
75
76
77 と頼んだ。
78
79 Aは,
80 甲の言うことを信じ,
81 甲に対して,
82 B信販会社が発行したA名義のクレジットカ
83 ード(以下「本件クレジットカード」という。
84
85 )を腕時計Xを購入するためだけに利用することを
86 条件として貸すことにした。
87
88 なお,
89 本件クレジットカードは,
90 B信販会社が所有するものであり,
91
92 B信販会社の規約には,
93 会員である名義人のみが利用でき,
94 他人への譲渡,
95 貸与等が禁じられてい
96 ることや,
97 加盟店は,
98 利用者が会員本人であることを善良な管理者の注意義務をもって確認するこ
99 とが定められている。
100
101
102
103
104
105 同日午後2時,
106 甲は,
107 Aと会って本件クレジットカードを受け取り,
108 同日午後3時,
109 前記時計店
110 に戻った。
111
112 甲は,
113 同時計店に戻った後に新たに見付けた腕時計Y(販売価格50万円)を,
114 交際相
115 手へプレゼントするために購入したいと考えた。
116
117 甲は,
118 本件クレジットカードを腕時計Xを購入す
119 るためだけに利用するというAとの約束に反すること,
120 今後,
121 Aに合計60万円を支払うことがで
122 きる確実な見込みがないことをそれぞれ認識しつつ,
123 同日午後3時15分,
124 応対した同時計店店主
125 Cに対し,
126 腕時計Xと腕時計Yの購入を申し込んだ。
127
128 その際,
129 甲は,
130 Cに対し,
131 A本人であると装
132 って本件クレジットカードを手渡した上,
133 Cの求めに応じ,
134 B信販会社の規約に従い利用代金を支
135 払う旨の記載がある売上票用紙の「ご署名(自署)」欄にAの名前をボールペンで記入して手渡し
136 た。
137
138 Cは,
139 その署名を確認し,
140 甲がA本人であって,
141 本件クレジットカードの正当な利用権限を有
142 すると信じ,
143 甲に対して,
144 腕時計Xと腕時計Yを合計60万円で売却した。
145
146 甲は,
147 購入した腕時計
148 Xと腕時計Yを持って同時計店を出た後,
149 同日午後5時,
150 交際相手と会って,
151 同人に腕時計Yをプ
152 レゼントした。
153
154
155
156
157
158 甲は,
159 同日午後6時,
160 Aと会って本件クレジットカードを返却した。
161
162 その際,
163 甲は,
164 Aに対して,
165
166 本件クレジットカードを利用し,
167 腕時計X以外にも,
168 交際相手へプレゼントするために腕時計Yを
169 購入したこと,
170 それらの購入金額の合計が60万円であったことを話した上で,
171 「60万円は絶対
172 支払う。
173
174 」と言った。
175
176 Aは,
177 甲が約束を破り,
178 本件クレジットカードを利用して腕時計Yを購入し
179 たことから甲に対する怒りを覚えたものの,
180 「使ってしまったものは仕方がない。
181
182 金の支払を受け
183 られれば良い。
184
185 」と思い,
186 甲から60万円が支払われるのを待つことにした。
187
188
189
190
191
192 その後,
193 甲は,
194 Aに支払う60万円を用意するため,
195 複数の知人に借金を申し込んだが,
196 誰から
197 も金を借りられず,
198 60万円を用意できないまま9月25日の給料日を迎えた。
199
200 甲は,
201 同日,
202 Aに
203 対して,
204 「来月まで支払を待ってほしい。
205
206 」と頼んだ。
207
208 Aは,
209 甲の頼みを聞いて,
210 10月25日の給
211 -2-
212
213 料日まで甲の支払を待つことにした。
214
215 その後も,
216 甲は,
217 Aに支払う60万円を用意するため,
218 複数
219 の知人に借金を申し込んだが,
220 誰からも金を借りられず,
221 60万円を用意できないまま10月25
222 日の給料日を迎えた。
223
224 Aは,
225 同日以降,
226 何度も,
227 甲に対して60万円を支払うように求めたが,
228
229 は,
230 適当な理由をつけてAに金を支払わなかった。
231
232 そのためAは,
233 甲に対する怒りを募らせた。
234
235
236 11月10日,
237 A名義の銀行口座から,
238 腕時計Xと腕時計Yの代金60万円を含む本件クレジッ
239 トカードの9月分の利用代金が引き落とされた。
240
241 高額の支出のため生活費に困ったAは,
242 甲に対す
243 る怒りを更に募らせ,
244 甲に対して60万円を支払うように強く求めた。
245
246 甲は,
247 Aの甲に対する怒り
248 がかなり強くなっていることを知り,
249 同月15日,
250 複数の金融業者から借りて現金60万円を用意
251 し,
252 これをAに支払った。
253
254 しかし,
255 Aの甲に対する怒りは収まらず,
256 Aは,
257 顔を合わせるたびに甲
258 に対して,
259 「さんざん迷惑掛けやがって。
260
261 これで済んだと思うなよ。
262
263 」などと嫌みを言っていた。
264
265
266
267
268 甲は,
269 11月20日午後8時,
270 知人乙(25歳,
271 男性,
272 身長175センチメートル,
273 体重75キ
274 ログラム)と飲食店で飲食していたところ,
275 偶然,
276 Aが同店にやって来た。
277
278 Aは,
279 甲を見付けると,
280
281 甲に対して,
282
283 「のんきに飯なんか食いやがって。
284
285 金もないくせに。
286
287 」などと嫌みを言い始めた。
288
289 甲は,
290
291 Aの言動に嫌気がさし,
292 同店から徒歩で15分の所にある,
293 甲が一人で暮らす甲宅で乙と飲食し直
294 すことにし,
295 同日午後8時5分,
296 Aに気付かれないようにして,
297 乙と同店を出た。
298
299
300
301
302
303 Aは,
304 同日午後8時10分,
305 甲が同店から出たことに気付いて怒り,
306 同店から出て甲を追い掛け,
307
308 同日午後8時15分,
309 人気のない暗い路上で,
310 乙と歩いている甲に追い付いた。
311
312 Aは,
313 甲に対して,
314
315 「こそこそ逃げやがって,
316 この野郎。
317
318 」と言いながら,
319 甲の顔面を殴ろうとして,
320 右手の拳骨を甲
321 の顔面に向けて突き出した。
322
323 これに気付いた甲は,
324 Aの右手の拳骨をかわしながら,
325 このままでは
326 Aから殴られると考え,
327 これを防ぐため,
328 乙に対して,
329 「一緒にAを止めよう。
330
331 」と言った。
332
333 乙は,
334
335 甲がAから殴られるのを防ごうと考え,
336 「分かった。
337
338 」と答えた。
339
340 そこで,
341 甲と乙が正面からAに体
342 当たりしたところ,
343 Aは路上に尻餅を付いた。
344
345 しかし,
346 Aは,
347 すぐに立ち上がり,
348 「この野郎。
349
350 」と
351 言いながら,
352 再び右手の拳骨で甲の顔面に殴りかかろうとした。
353
354 甲と乙は,
355 甲がAから殴られるの
356 を防ごうと考え,
357 再び正面からAに体当たりしたところ,
358 Aが路上に仰向けに倒れた。
359
360 倒れたAは,
361
362 「なにするんだ。
363
364 この野郎。
365
366 」と大声で言いながら,
367 立ち上がろうとした。
368
369 その様子を見た甲は,
370
371 しばらくAを押さえ付けておけばAが落ち着き,
372 Aから殴られることもなくなるだろうと考え,
373
374 に対して,
375 「一緒にAを押さえよう。
376
377 」と言った。
378
379 乙は,
380 甲がAから殴られるのを防ごうと考え,
381
382 に対して,
383 「分かった。
384
385 俺は上半身を押さえるから,
386 下半身を押さえてくれ。
387
388 」と答えた。
389
390
391 甲は,
392 仰向けに倒れているAの両膝辺りにAの足先の方向を向いてまたがり,
393 Aの両足首を,
394
395 上から両手で力を込めて押さえ付けた。
396
397 乙は,
398 仰向けに倒れているAの腰辺りにAの頭の方向を向
399 いてまたがり,
400 Aの両上腕部を,
401 真上から両手で力を込めて押さえ付けた。
402
403 しかし,
404 Aは,
405 身体を
406 よじらせながら,
407 「離せ。
408
409 甲,
410 お前をぶん殴ってやる。
411
412 絶対に許さない。
413
414 覚悟しろ。
415
416 」と甲を大声で
417 罵り,
418 更に力を込めて体をよじらせた。
419
420 乙は,
421 Aのその様子を見て,
422 甲がAから殴られるのを防ぐ
423 ためには,
424 Aを痛めつけて大人しくさせるしかないと考えた。
425
426 そこで,
427 乙は,
428 Aの腰辺りにまたが
429 ってAの右上腕部を真上から左手で力を込めて押さえ付けたまま,
430 Aの左上腕部に右膝を力を込め
431 て押し当てた上,
432 傍らに落ちていた石(直径10センチメートルの丸形,
433 重さ800グラム)を右
434 手で拾い,
435 右手に持ったその石で,
436 Aの顔面を力を込めて1発殴った。
437
438 するとAは失神し,
439 全く動
440 かなくなった。
441
442 なお,
443 甲は,
444 乙が石を拾ったことや乙が右手に持った石でAの顔面を殴り付けたこ
445 とを全く認識していなかった。
446
447 また,
448 乙は,
449 Aの顔面を右手に持った石で殴り付けた際,
450 Aを殺そ
451 うともAが死ぬかもしれないとも考えていなかった。
452
453
454
455
456
457 甲と乙は,
458 Aが全く動かなくなったためAから離れた。
459
460 甲は,
461 乙から,
462 右手に持った石でAの顔
463 面を殴ったことを聞いた。
464
465 甲と乙は,
466 鼻から血を流して全く動かないAの様子を見てAが死んでし
467 まったと思った。
468
469 甲は,
470 乙に対して,
471 「Aは結婚して妻も子供もいるのにどうしよう。
472
473 」と言った。
474
475
476 乙は,
477 近くに人がいないことを確認した上,
478 甲に対して,
479 「Aが強盗に襲われて死んだように見せ
480 掛けよう。
481
482 Aの財布を探して捨ててしまおう。
483
484 」と言った。
485
486 甲は,
487 乙に対して,
488 「そうしよう。
489
490 」と
491 -3-
492
493 答えたものの,
494 「財布は捨ててもいいが,
495 もったいないから中の現金はもらい,
496 借金の返済に使お
497 う。
498
499 」と考えていた。
500
501 しかし,
502 甲は,
503 乙にその考えを話さなかった。
504
505 甲と乙は,
506 財布を探した。
507
508
509 は,
510 Aのズボンのポケット内に財布1個があるのを見付けたので,
511 乙に財布を見付けたことを話し
512 た上,
513 同ポケットから同財布を取って中を確認したところ,
514 同財布には1万円札4枚の合計4万円
515 が入っていた。
516
517 甲は,
518 同財布に現金4万円が入っていたことを乙に話した上,
519 現金入りの同財布を,
520
521 甲の上着ポケットにしまった。
522
523 乙は,
524 甲が現金入りのまま同財布を捨ててくれると思っていた。
525
526
527 甲と乙は,
528 そのまま甲宅へ向かい,
529 同日午後8時30分,
530 甲宅に到着した。
531
532 乙は,
533 同日午後9時,
534
535 帰宅するために甲宅を出た。
536
537 甲は,
538 同日午後9時5分,
539 甲宅において,
540 上着ポケットにしまったま
541 まの現金入りの同財布を取り出して現金4万円を抜き取り自分のものとし,
542 同財布は甲宅の押し入
543 れ内に隠した。
544
545
546
547
548 Aは,
549 同日午後10時頃,
550 失神したまま路上に倒れていたところを通行人に発見され,
551 通報によ
552 り到着した救急隊員により病院に搬送された。
553
554 Aは,
555 乙に石で顔面を殴られたことから,
556 全治約1
557 か月間を要する鼻骨骨折の傷害を負った。
558
559
560
561 -4-
562
563 論文式試験問題集[刑事系科目第2問]
564
565 -1-
566
567 [刑事系科目]
568 〔第2問〕(配点:100)
569 次の【事例】を読んで,
570 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
571
572
573 【事
574
575
576 例】
577 平成28年9月1日に覚せい剤取締法違反(所持)により逮捕されたAは,
578 同月4日,
579 司法警察
580
581 員Pの取調べにおいて,
582 「所持していた覚せい剤は,
583 逮捕される3日前の夜,
584 H県I市J町の路上
585 で,
586 甲から買ったものである。
587
588 」旨供述した。
589
590 Pが甲について捜査したところ,
591 甲は,
592 覚せい剤取
593 締法違反の前科3犯を有する者であり,
594 現在,
595 H県I市J町○丁目△番地所在のKマンション10
596 1号室(以下「甲方」という。
597
598 )を賃借し,
599 居住していることが判明した。
600
601 また,
602 A以外にも,
603
604 の頃,
605 覚せい剤取締法違反(所持)で逮捕された複数の者が,
606 覚せい剤を甲から買った旨供述して
607 いることも判明した。
608
609 そこで,
610 Pが,
611 司法警察員Qらに,
612 甲方への人の出入り及び甲の行動を確認
613 させたところ,
614 甲方には,
615 甲とその内妻乙が居住しているほか,
616 丙が頻繁に出入りしていること,
617
618 甲が,
619 Kマンション周辺の路上で,
620 複数の氏名不詳者に茶封筒を交付し,
621 これと引換えに現金を受
622 領するという行為を繰り返していることが判明した。
623
624
625 これらの事情から,
626 Pは,
627 甲が自宅を拠点に覚せい剤を密売しているとの疑いを強め,
628 覚せい剤
629 密売の全容を解明するためには甲方の捜索差押えを実施する必要があると考えた。
630
631 Pは,
632 同月15
633 日,
634 H地方裁判所裁判官に対し,
635 甲に対する覚せい剤取締法違反(Aに対する営利目的の譲渡)の
636 被疑事実で甲方の捜索差押許可状の発付を請求した。
637
638 H地方裁判所裁判官は,
639 同日,
640 捜索すべき場
641 所を「甲方」とし,
642 差し押さえるべき物を「本件に関連する覚せい剤,
643 電子秤,
644 茶封筒,
645 ビニール
646 袋,
647 注射器,
648 手帳,
649 ノート,
650 メモ,
651 通帳,
652 携帯電話機」とする捜索差押許可状を発付した。
653
654
655 Pは,
656 Qから,
657 甲が玄関のドアチェーンを掛けたまま郵便配達員に応対していたとの報告を受け,
658
659 甲方の捜索の際,
660 呼び鈴を鳴らしてドアを開けさせることができたとしても,
661 ドアチェーンが掛か
662 ったままの可能性が高く,
663 その場合,
664 玄関から室内に入るのに時間が掛かり,
665 甲らが証拠隠滅を図
666 るおそれが高いと考えた。
667
668 そこで,
669 これに備えて,
670 Qらが,
671 甲方ベランダの外にあらかじめ待機し,
672
673 Pの合図でベランダの柵を乗り越えて掃き出し窓のガラスを割って甲方に入ることとした。
674
675
676
677
678 Pは,
679 同月17日,
680 甲方を捜索することとし,
681 同日午後1時頃,
682 QらをKマンション1階甲方ベ
683 ランダの外に待機させた上,
684 甲方玄関先の呼び鈴を鳴らした。
685
686 すると,
687 甲がドアチェーンを掛けた
688 ままドアを開けたので,
689 Pは,
690 直ちにQに合図を送った。
691
692 @Pから合図を受けたQらは,
693 ベランダ
694 の柵を乗り越え,
695 掃き出し窓のガラスを割って解錠し,
696 甲方に入った。
697
698 居間には,
699 乙が右手にハン
700 ドバッグを持った状態で,
701 また,
702 丙がズボンの右ポケットに右手を入れた状態で,
703 それぞれ立って
704 いた。
705
706 その間に,
707 Pは,
708 携行していたクリッパーでドアチェーンを切断して玄関から甲方に入った。
709
710
711 Pは,
712 居間において,
713 甲に捜索差押許可状を示した上,
714 Qらと共に,
715 甲方を捜索し,
716 居間のテーブ
717 ル付近において,
718 電子秤1台,
719 ビニール袋100枚,
720 茶封筒50枚,
721 注射器80本及び携帯電話機
722 5台を発見し,
723 これらを差し押さえた。
724
725
726 Pらによる捜索中,
727 居間に立っていた乙が,
728 ハンドバッグを右手に持ったまま玄関に向かって歩
729 き出した。
730
731 それを見たPが,
732 乙に対し,
733 「待ちなさい。
734
735 持っているバッグの中を見せなさい。
736
737 」と言
738 ったところ,
739 乙は,
740 「私のものなのに,
741 なぜ見せないといけないんですか。
742
743 嫌です。
744
745 」と述べてこれ
746 を拒否し,
747 そのまま玄関に向かった。
748
749 そこで,
750 APは,
751 「ちょっと待て。
752
753 」と言いながら乙の持って
754 いたハンドバッグをつかんでこれを取り上げ,
755 その中身を捜索した。
756
757 その結果,
758 Pは,
759 同ハンドバ
760 ッグ内から,
761 多数の氏名・電話番号が記載された手帳1冊及び甲名義の通帳1通を発見し,
762 これら
763 を差し押さえた。
764
765
766 他方,
767 丙は,
768 ズボンの右ポケットに入れていた右手を抜いたが,
769 右ポケットが膨らんだままであ
770 ったほか,
771 時折,
772 ズボンの上から右ポケットに触れるなど,
773 右ポケットを気にする素振りや,
774 落ち
775 着きなく室内を歩き回るなどの様子が見られた。
776
777 そこで,
778 Qは,
779 丙に,
780 「ズボンの右ポケットに何
781 -2-
782
783 が入っているんだ。
784
785 」と尋ねたが,
786 丙は答えなかった。
787
788 その後,
789 丙は,
790 右手を再び右ポケットに入
791 れてトイレに向かって歩き出した。
792
793 これに気付いたQは,
794 丙に,
795 「待ちなさい。
796
797 右ポケットには何
798 が入っている。
799
800 トイレに行く前に,
801 ポケットに入っているものを出して見せなさい。
802
803 」と言って呼
804 び止めた。
805
806 これに対し,
807 丙は,
808 黙ったままQの脇を通り抜けてそのままトイレに入ろうとした。
809
810
811 こで,
812 BQは,
813 丙の右腕をつかんで引っ張り,
814 右ポケットから丙の右手を引き抜いたが,
815 丙が右手
816 に何も持っていなかったことから,
817 更に丙のズボンの右ポケットに手を差し入れ,
818 そこから5枚の
819 紙片を取り出した。
820
821 Qがその紙片を確認したところ,
822 各紙片に,
823 覚せい剤を売却した日,
824 相手方,
825
826 量及び代金額と思われる記載があったことから,
827 これらを差し押さえた。
828
829
830 その後,
831 Pらは,
832 押し入れ内から,
833 ビニール袋に入った覚せい剤1袋(100グラム)を発見し,
834
835 同日午後3時頃,
836 甲,
837 乙及び丙を覚せい剤取締法違反(営利目的の共同所持)で現行犯逮捕した上,
838
839 逮捕に伴う差押えとして,
840 同覚せい剤を差し押さえた。
841
842
843
844
845 甲ら3名は,
846 同月19日,
847 覚せい剤取締法違反(営利目的の共同所持)の被疑事実によりH地方
848 検察庁検察官に送致され,
849 同日,
850 勾留された。
851
852
853 甲ら3名は,
854 取調べにおいて,
855 いずれも被疑事実を認めた上で,
856 平成27年11月頃から覚せい
857 剤の密売を開始し,
858 役割を分担しながら,
859 携帯電話で注文を受けて覚せい剤を密売していたことな
860 どを供述した。
861
862 また,
863 通帳等の記載から,
864 甲ら3名の覚せい剤密売による売上金の5割相当額が甲
865 名義の預金口座から丁名義の預金口座に送金されていることが判明した。
866
867 甲は,
868 当初,
869 丁の覚せい
870 剤密売への関与を否定したが,
871 その後,
872 丁の関与を認めるに至り,
873 丁に対する前記送金は覚せい剤
874 の売上金の分配であると供述した。
875
876 乙は,
877 丁の関与を一貫して否定し,
878 丙は,
879 丁のことは知らない
880 と供述した。
881
882 以上の過程で,
883 【資料】記載の〔証拠1〕ないし〔証拠4〕が作成された。
884
885
886 検察官Rは,
887 延長された勾留の満了日である平成28年10月8日,
888 甲ら3名を覚せい剤取締法
889 違反(営利目的の共同所持)により,
890 H地方裁判所に公判請求した。
891
892
893
894
895
896 Pは,
897 甲の供述等に基づき,
898 同月19日,
899 丁を覚せい剤取締法違反(甲ら3名との営利目的の共
900 同所持)で通常逮捕した。
901
902 丁は,
903 「甲,
904 乙のことは知っているが,
905 丙のことは知らない。
906
907 覚せい剤
908 を甲らと共同で所持したことはない。
909
910 甲は,
911 毎週,
912 私名義の預金口座に現金を送金してくれている
913 が,
914 その理由は分からない。
915
916 昔,
917 甲が,
918 私の所有する自動車を運転中に事故を起こしたことがあり,
919
920 その弁償として送金してくれているのではないか。
921
922 」と供述し,
923 事件への関与を否認した。
924
925
926 丁は,
927 同月21日,
928 覚せい剤取締法違反(甲ら3名との営利目的の共同所持)の被疑事実により
929 H地方検察庁検察官に送致され,
930 同日,
931 勾留された。
932
933
934 丁は,
935 その後も否認を続けたが,
936 Rは,
937 捜査の結果,
938 延長された勾留の満了日である同年11月
939 9日,
940 丁について,
941 甲ら3名と共謀の上,
942 営利の目的で,
943 覚せい剤100グラムを所持したとの事
944 実で,
945 H地方裁判所に公判請求した。
946
947
948 Rは,
949 丁の弁護人Sに対し,
950 〔証拠3〕を含む検察官請求証拠を開示するとともに,
951 甲の証人尋
952 問が予想されたことから,
953 〔証拠1〕,
954 〔証拠2〕及び〔証拠4〕を含む,
955 甲及び乙の供述録取書等
956 を任意開示した。
957
958
959
960
961
962 丁に対する覚せい剤取締法違反被告事件の第1回公判期日において,
963 丁は,
964 「身に覚えがない。
965
966
967 甲が覚せい剤の密売をしていたかどうかも知らない。
968
969 」と陳述して公訴事実を否認し,
970 Sは,
971 検察
972 官請求証拠のうち,
973 〔証拠3〕について不同意との証拠意見を述べた。
974
975 そこで,
976 Rは,
977 丁と甲らと
978 の共謀を立証するため,
979 甲の証人尋問を請求し,
980 H地方裁判所は,
981 第2回公判期日においてこれを
982 実施する旨の決定をした。
983
984
985 第2回公判期日において,
986 甲の証人尋問が実施され,
987 甲は,
988 「私は,
989 以前,
990 覚せい剤取締法違反
991 により懲役2年の実刑判決を受け,
992 平成27年6月に刑務所を出所した。
993
994 すると,
995 丁が刑務所に迎
996 えに来てくれて,
997
998 『しばらくはのんびり生活したらいい。
999
1000 』と言って50万円をくれた。
1001
1002 同年8月頃,
1003
1004 丁から,
1005 『何もしていないんだったら手伝わないか。
1006
1007 』と言われ,
1008 覚せい剤の密売を手伝うようにな
1009 った。
1010
1011 同年10月下旬,
1012 丁から,
1013 『覚せい剤を仕入れてやるから,
1014 自分たちで売ってこい。
1015
1016 俺の取
1017 -3-
1018
1019 り分は売上金の5割でいい。
1020
1021 あとは自由に使っていい。
1022
1023 』と言われたので,
1024 同年11月頃から,
1025
1026 妻の乙や知人の丙と一緒に覚せい剤を密売し,
1027 毎週,
1028 売上金の5割を丁名義の口座に振り込み,
1029
1030 が3割,
1031 乙及び丙が1割ずつ受け取っていた。
1032
1033 丁からは,
1034 1か月に1回の頻度で,
1035 密売用に覚せい
1036 剤100グラムを受け取っていた。
1037
1038 」旨供述した(以下「甲証言」という。
1039
1040 )。
1041
1042
1043 第3回公判期日において,
1044 CSは,
1045 甲証言の証明力を争うため,
1046 〔証拠1〕,
1047 〔証拠2〕及び〔証
1048 拠4〕の各取調べを請求した。
1049
1050
1051 〔設問1〕
1052
1053 下線部@ないしBの捜査の適法性について,
1054 具体的事実を摘示しつつ論じなさい。
1055
1056
1057
1058 〔設問2〕
1059 1.裁判所は,
1060 下線部Cで請求された各証拠について,
1061 これらを証拠として取り調べる旨の決定を
1062 することができるか否かを論じなさい。
1063
1064
1065 2.仮に,
1066 前記1において,
1067 裁判所が甲証言の証明力を争うための証拠として取り調べた証拠があ
1068 ったとする。
1069
1070 その場合,
1071 Rが「甲証言の証明力を回復するためである。
1072
1073 」として,
1074 改めて〔証拠
1075 3〕の取調べを請求したとき,
1076 裁判所は,
1077 これを証拠として取り調べる旨の決定をすることがで
1078 きるか否かを論じなさい。
1079
1080
1081 (参照条文)
1082
1083 覚せい剤取締法
1084
1085 第41条の2
1086
1087 覚せい剤を,
1088 みだりに,
1089 所持し,
1090 譲り渡し,
1091 又は譲り受けた者(略)は,
1092 10年以
1093
1094 下の懲役に処する。
1095
1096
1097
1098
1099 営利の目的で前項の罪を犯した者は,
1100 1年以上の有期懲役に処し,
1101 又は情状により1年以上の
1102 有期懲役及び500万円以下の罰金に処する。
1103
1104
1105
1106
1107
1108 (略)
1109
1110 -4-
1111
1112 【資料】
1113 供述者
1114
1115 証拠1
1116
1117 作成日付
1118
1119 証拠方法
1120
1121 (平成28年)
1122
1123 作成者
1124
1125 9月21日
1126
1127 捜査報告書
1128
1129
1130 供述要旨等
1131
1132 本職が,
1133 本日,
1134 被疑者甲から聴取した供述の要旨は
1135 以下のとおりである。
1136
1137
1138 「密売グループの構成員は,
1139 私,
1140 乙,
1141 丙の3名であ
1142 る。
1143
1144 私が密売グループのトップであり,
1145 乙,
1146 丙に密売
1147 の手伝いをさせていた。
1148
1149 丁は私の知り合いだが,
1150 覚せ
1151 い剤の密売には関与していない。
1152
1153
1154 〔甲の署名・押印なし。
1155
1156
1157
1158 証拠2
1159
1160
1161
1162 9月22日
1163
1164 供述録取書
1165
1166
1167 私が覚せい剤の密売に関与するようになったのは,
1168
1169 平成27年になってからである。
1170
1171 密売用の覚せい剤は,
1172
1173 私が知り合いの暴力団組員から定期的に仕入れていた。
1174
1175
1176 その知り合いの組員は丁ではない。
1177
1178
1179 丁名義の預金口座に現金を送金したのは,
1180 借金の返
1181 済のためであり,
1182 覚せい剤の密売による売上金を分配
1183 したものではない。
1184
1185
1186 〔甲の署名・押印あり。
1187
1188
1189
1190 証拠3
1191
1192
1193
1194 10月5日
1195
1196 供述録取書
1197
1198
1199 私は,
1200 平成27年8月頃,
1201 丁から,
1202 覚せい剤の密売
1203 を手伝うように言われた。
1204
1205 その後,
1206 丁の指示で,
1207 同年
1208 11月頃から,
1209 乙,
1210 丙と共に覚せい剤の密売を開始し
1211 た。
1212
1213 密売グループのトップは丁であり,
1214 丁から1か月
1215 に1回の頻度で覚せい剤100グラムを受領し,
1216 これ
1217 を1グラムずつ小分けして密売していた。
1218
1219 丁の指示で,
1220
1221 毎週,
1222 売上金の5割を私名義の預金口座から丁名義の
1223 預金口座に送金し,
1224 私が3割,
1225 乙及び丙が1割ずつ受
1226 け取っていた。
1227
1228
1229 警察では,
1230 私が密売グループのトップであり,
1231 丁は
1232 関係がないと供述したが,
1233 これは嘘である。
1234
1235 嘘をつい
1236 た理由は,
1237 丁が密売グループのトップだと正直に話し
1238 たら,
1239 丁から報復を受けると思い,
1240 怖かったからだ。
1241
1242
1243 しかし,
1244 ここで正直に話さないと,
1245 出所後,
1246 また丁の
1247 下で覚せい剤の密売をすることになると思い,
1248 勇気を
1249 出して正直に供述することにした。
1250
1251
1252 〔甲の署名・押印あり。
1253
1254
1255
1256 証拠4
1257
1258
1259
1260 9月27日
1261
1262 供述録取書
1263
1264
1265 密売グループの構成員は,
1266 私,
1267 甲及び丙の3名だけ
1268 であり,
1269 丁は関係ない。
1270
1271 丁名義の預金口座への送金は,
1272
1273 甲の丁に対する借金の返済である。
1274
1275
1276 〔乙の署名・押印あり。
1277
1278
1279
1280 -5-
1281
1282