1 論文式試験問題集
2 [刑法・刑事訴訟法]
3
4 - 1 -
5
6 [刑
7
8 法]
9
10 以下の事例に基づき,
11 甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。
12
13 )。
14
15
16 1
17
18 甲(40歳,
19 男性)は,
20 公務員ではない医師であり,
21 A私立大学附属病院(以下「A病院」と
22 いう。
23
24 )の内科部長を務めていたところ,
25 V(35歳,
26 女性)と交際していた。
27
28 Vの心臓には特
29 異な疾患があり,
30 そのことについて,
31 甲とVは知っていたが,
32 通常の診察では判明し得ないもの
33 であった。
34
35
36
37 2
38
39 甲は,
40 Vの浪費癖に嫌気がさし,
41 某年8月上旬頃から,
42 Vに別れ話を持ち掛けていたが,
43 Vか
44 ら頑なに拒否されたため,
45 Vを殺害するしかないと考えた。
46
47 甲は,
48 Vがワイン好きで,
49 気に入っ
50 たワインであれば,
51 2時間から3時間でワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を一人で飲
52 み切ることを知っていたことから,
53 劇薬を混入したワインをVに飲ませてVを殺害しようと考え
54 た。
55
56
57 甲は,
58 同月22日,
59 Vが飲みたがっていた高級ワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を
60 購入し,
61 同月23日,
62 甲の自宅において,
63 同ワインの入った瓶に劇薬Xを注入し,
64 同瓶を梱包し
65 た上,
66 自宅近くのコンビニエンスストアからVが一人で住むV宅宛てに宅配便で送った。
67
68 劇薬X
69 の致死量(以下「致死量」とは,
70 それ以上の量を体内に摂取すると,
71 人の生命に危険を及ぼす量
72 をいう。
73
74 )は10ミリリットルであるが,
75 甲は,
76 劇薬Xの致死量を4ミリリットルと勘違いして
77 いたところ,
78 Vを確実に殺害するため,
79 8ミリリットルの劇薬Xを用意して同瓶に注入した。
80
81 そ
82 のため,
83 甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていた劇薬Xの量は致死量に達していなかったが,
84
85 心臓に特異な疾患があるVが,
86 その全量を数時間以内で摂取した場合,
87 死亡する危険があった。
88
89
90 なお,
91 劇薬Xは,
92 体内に摂取してから半日後に効果が現れ,
93 ワインに混入してもワインの味や臭
94 いに変化を生じさせないものであった。
95
96
97 同月25日,
98 宅配業者が同瓶を持ってV宅前まで行ったが,
99 V宅が留守であったため,
100 V宅の
101 郵便受けに不在連絡票を残して同瓶を持ち帰ったところ,
102 Vは,
103 同連絡票に気付かず,
104 同瓶を受
105 け取ることはなかった。
106
107
108
109 3
110
111 同月26日午後1時,
112 Vが熱中症の症状を訴えてA病院を訪れた。
113
114 公務員ではない医師であり,
115
116 A病院の内科に勤務する乙(30歳,
117 男性)は,
118 Vを診察し,
119 熱中症と診断した。
120
121 乙からVの治
122 療方針について相談を受けた甲は,
123 Vが生きていることを知り,
124 Vに劇薬Yを注射してVを殺害
125 しようと考えた。
126
127 甲は,
128 劇薬Yの致死量が6ミリリットルであること,
129 Vの心臓には特異な疾患
130 があるため,
131 Vに致死量の半分に相当する3ミリリットルの劇薬Yを注射すれば,
132 Vが死亡する
133 危険があることを知っていたが,
134 Vを確実に殺害するため,
135 6ミリリットルの劇薬YをVに注射
136 しようと考えた。
137
138 そして,
139 甲は,
140 乙のA病院への就職を世話したことがあり,
141 乙が甲に恩義を感
142 じていることを知っていたことから,
143 乙であれば,
144 甲の指示に忠実に従うと思い,
145 乙に対し,
146 劇
147 薬Yを熱中症の治療に効果のあるB薬と偽って渡し,
148 Vに注射させようと考えた。
149
150
151 甲は,
152 同日午後1時30分,
153 乙に対し,
154 「VにB薬を6ミリリットル注射してください。
155
156 私は
157 これから出掛けるので,
158 後は任せます。
159
160 」と指示し,
161 6ミリリットルの劇薬Yを入れた容器を渡
162 した。
163
164 乙は,
165 甲に「分かりました。
166
167 」と答えた。
168
169 乙は,
170 甲が出掛けた後,
171 甲から渡された容器を
172 見て,
173 同容器に薬剤名の記載がないことに気付いたが,
174 甲の指示に従い,
175 同容器の中身を確認せ
176 ずにVに注射することにした。
177
178
179 乙は,
180 同日午後1時40分,
181 A病院において,
182 甲から渡された容器内の劇薬YをVの左腕に注
183 射したが,
184 Vが痛がったため,
185 3ミリリットルを注射したところで注射をやめた。
186
187 乙がVに注射
188 した劇薬Yの量は,
189 それだけでは致死量に達していなかったが,
190 Vは,
191 心臓に特異な疾患があっ
192 たため,
193 劇薬Yの影響により心臓発作を起こし,
194 同日午後1時45分,
195 急性心不全により死亡し
196
197 - 2 -
198
199 た。
200
201 乙は,
202 Vの心臓に特異な疾患があることを知らず,
203 内科部長である甲の指示に従って熱中症
204 の治療に効果のあるB薬と信じて注射したものの,
205 甲から渡された容器に薬剤名の記載がないこ
206 とに気付いたにもかかわらず,
207 その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において,
208 V
209 の死の結果について刑事上の過失があった。
210
211
212 4
213
214 乙は,
215 A病院において,
216 Vの死亡を確認し,
217 その後の検査の結果,
218 Vに劇薬Yを注射したこと
219 が原因でVが心臓発作を起こして急性心不全により死亡したことが分かったことから,
220 Vの死亡
221 について,
222 Vに対する劇薬Yの注射を乙に指示した甲にまで刑事責任の追及がなされると考えた。
223
224
225 乙は,
226 A病院への就職の際,
227 甲の世話になっていたことから,
228 Vに注射した自分はともかく,
229 甲
230 には刑事責任が及ばないようにしたいと思い,
231 専ら甲のために,
232 Vの親族らがVの死亡届に添付
233 してC市役所に提出する必要があるVの死亡診断書に虚偽の死因を記載しようと考えた。
234
235
236 乙は,
237 同月27日午後1時,
238 A病院において,
239 死亡診断書用紙に,
240 Vが熱中症に基づく多臓器
241 不全により死亡した旨の虚偽の死因を記載し,
242 乙の署名押印をしてVの死亡診断書を作成し,
243 同
244 日,
245 同死亡診断書をVの母親Dに渡した。
246
247 Dは,
248 同月28日,
249 同死亡診断書記載の死因が虚偽で
250 あることを知らずに,
251 同死亡診断書をVの死亡届に添付してC市役所に提出した。
252
253
254
255 - 3 -
256
257 [刑事訴訟法]
258 次の【事例】を読んで,
259 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
260
261
262 【事
263
264 例】
265 平成29年5月21日午後10時頃,
266 H県I市J町1丁目2番3号先路上において,
267 Vがサバイ
268
269 バルナイフでその胸部を刺されて殺害される事件が発生し,
270 犯人はその場から逃走した。
271
272
273 Wは,
274 たまたま同所を通行中に上記犯行を目撃し,
275 「待て。
276
277 」と言いながら,
278 直ちに犯人を追跡し
279 たが,
280 約1分後,
281 犯行現場から約200メートルの地点で見失った。
282
283
284 通報により駆けつけた警察官は,
285 Wから,
286 犯人の特徴及び犯人の逃走した方向を聞き,
287 Wの指し
288 示した方向を探した結果,
289 犯行から約30分後,
290 犯行現場から約2キロメートル離れた路上で,
291 W
292 から聴取していた犯人の特徴と合致する甲を発見し,
293 職務質問を実施したところ,
294 甲は犯行を認め
295 た。
296
297 警察官は,
298 @甲をVに対する殺人罪により現行犯逮捕した。
299
300 なお,
301 Vの殺害に使用されたサバ
302 イバルナイフは,
303 Vの胸部に刺さった状態で発見された。
304
305
306 甲は,
307 その後の取調べにおいて,
308 「乙からVを殺害するように言われ,
309 サバイバルナイフでVの
310 胸を刺した。
311
312 」旨供述した。
313
314 警察官は,
315 甲の供述に基づき,
316 乙をVに対する殺人の共謀共同正犯の
317 被疑事実で通常逮捕した。
318
319
320 乙は,
321 甲との共謀の事実を否認したが,
322 検察官は,
323 関係各証拠から,
324 乙には甲との共謀共同正犯
325 が成立すると考え,
326 A「被告人は,
327 甲と共謀の上,
328 平成29年5月21日午後10時頃,
329 H県I市
330 J町1丁目2番3号先路上において,
331 Vに対し,
332 殺意をもって,
333 甲がサバイバルナイフでVの胸部
334 を1回突き刺し,
335 よって,
336 その頃,
337 同所において,
338 同人を左胸部刺創による失血により死亡させて
339 殺害したものである。
340
341 」との公訴事実により乙を公判請求した。
342
343
344 検察官は,
345 乙の公判前整理手続において,
346 裁判長からの求釈明に対し,
347 B「乙は,
348 甲との間で,
349
350 平成29年5月18日,
351 甲方において,
352 Vを殺害する旨の謀議を遂げた。
353
354 」旨釈明した。
355
356 これに対
357 し,
358 乙の弁護人は,
359 甲との共謀の事実を否認し,
360 「乙は,
361 同日は終日,
362 知人である丙方にいた。
363
364 」旨
365 主張したため,
366 本件の争点は,
367 「甲乙間で,
368 平成29年5月18日,
369 甲方において,
370 Vを殺害する
371 旨の謀議があったか否か。
372
373 」であるとされ,
374 乙の公判における検察官及び弁護人の主張・立証も上
375 記釈明の内容を前提に展開された。
376
377
378 〔設問1〕
379 @の現行犯逮捕の適法性について論じなさい。
380
381
382 〔設問2〕
383 1
384
385 Aの公訴事実は,
386 訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえるかについて論
387 じなさい。
388
389
390
391 2
392
393 Bの検察官の釈明した事項が訴因の内容となるかについて論じなさい。
394
395
396
397 3
398
399 裁判所が,
400 証拠調べにより得た心証に基づき,
401 乙について,
402 「乙は,
403 甲との間で,
404 平成29
405 年5月11日,
406 甲方において,
407 Vを殺害する旨の謀議を遂げた。
408
409 」と認定して有罪の判決をす
410 ることが許されるかについて論じなさい(@の現行犯逮捕の適否が与える影響については,
411 論
412 じなくてよい。
413
414 )。
415
416
417
418 - 4 -
419
420