1 論文式試験問題集
2 [憲法・行政法]
3
4 - 1 -
5
6 [憲
7
8 法]
9
10 次の文章を読んで,
11 後記の〔設問〕に答えなさい。
12
13
14 A県の特定地域で産出される農産物Xは,
15 1年のうち限られた時期にのみ産出され,
16 同地域の気
17 候・土壌に適応した特産品として著名な農産物であった。
18
19 Xが特別に豊作になる等の事情があると,
20
21 価格が下落し,
22 そのブランド価値が下がることが懸念されたことから,
23 A県は,
24 同県で産出される
25 Xの流通量を調整し,
26 一定以上の価格で安定して流通させ,
27 A県産のXのブランド価値を維持し,
28
29 もってXの生産者を保護するための条例を制定した(以下「本件条例」という。
30
31 )。
32
33
34 本件条例では,
35 @Xの生産の総量が増大し,
36 あらかじめ定められたXの価格を適正に維持できる
37 最大許容生産量を超えるときは,
38 A県知事は,
39 全ての生産者に対し,
40 全生産量に占める最大許容生
41 産量の超過分の割合と同じ割合で,
42 収穫されたXの廃棄を命ずる,
43 AA県知事は,
44 生産者が廃棄命
45 令に従わない場合には,
46 法律上の手続に従い,
47 県においてXの廃棄を代執行する,
48 BXの廃棄に起
49 因する損失については補償しない,
50 旨定められた。
51
52
53 条例の制定過程では,
54 Xについて一定割合を一律に廃棄することを命ずる必要があるのか,
55 との
56 意見もあったが,
57 Xの特性から,
58 事前の生産調整,
59 備蓄,
60 加工等は困難であり,
61 迅速な出荷調整の
62 要請にかなう一律廃棄もやむを得ず,
63 また,
64 価格を安定させ,
65 Xのブランド価値を維持するために
66 は,
67 総流通量を一律に規制する必要がある,
68 と説明された。
69
70 この他,
71 廃棄を命ずるのであれば,
72
73 定の補償が必要ではないか等の議論もあったが,
74 価格が著しく下落したときに出荷を制限すること
75 はやむを得ないものであり,
76 また,
77 本件条例上の措置によってXの価格が安定することにより,
78
79 のブランド価値が維持され,
80 生産者の利益となり,
81 ひいてはA県全体の農業振興にもつながる等と
82 説明された。
83
84
85 20××年,
86 作付け状況は例年と同じであったものの,
87 天候状況が大きく異なったことから,
88
89 の生産量は著しく増大し,
90 最大許容生産量の1.5倍であった。
91
92 このため,
93 A県知事は,
94 本件条例
95 に基づき,
96 Xの生産者全てに対し,
97 全生産量に占める最大許容生産量の超過分の割合に相当する3
98 分の1の割合でのXの廃棄を命じた(以下「本件命令」という。
99
100 )。
101
102
103 甲は,
104 より高品質なXを安定して生産するため,
105 本件条例が制定される前から,
106 特別の栽培法を
107 開発し,
108 天候に左右されない高品質のXを一定量生産しており,
109 20××年も生産量は平年並みで
110 あった。
111
112 また,
113 甲は,
114 独自の顧客を持っていたことから,
115 自らは例年同様の価格で販売できると考
116 えていた。
117
118 このため,
119 甲は,
120 本件命令にもかかわらず,
121 自らの生産したXを廃棄しないでいたとこ
122 ろ,
123 A県知事により,
124 甲が生産したXの3分の1が廃棄された。
125
126 納得できない甲は,
127 本件条例によ
128 ってXの廃棄が命じられ,
129 補償もなされないことは,
130 憲法上の財産権の侵害であるとして,
131 訴えを
132 提起しようと考えている。
133
134
135 〔設問〕
136 甲の立場からの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,
137 あな
138 た自身の見解を述べなさい。
139
140 なお,
141 法律と条例の関係及び訴訟形態の問題については論じなく
142 てよい。
143
144
145
146 - 2 -
147
148 [行政法]
149 産業廃棄物の処分等を業とする株式会社Aは,
150 甲県の山中に産業廃棄物の最終処分場(以下「本
151 件処分場」という。
152
153 )を設置することを計画し,
154 甲県知事Bに対し,
155 廃棄物の処理及び清掃に関す
156 る法律(以下「法」という。
157
158 )第15条第1項に基づく産業廃棄物処理施設の設置許可の申請(以
159 下「本件申請」という。
160
161 )をした。
162
163
164 Bは,
165 同条第4項に基づき,
166 本件申請に係る必要事項を告示し,
167 申請書類及び本件処分場の設置
168 が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類(Aが同条第3項に基づ
169 き申請書に添付したもの。
170
171 以下「本件調査書」という。
172
173 )を公衆の縦覧に供するとともに,
174 これら
175 の書類を踏まえて許可要件に関する審査を行い,
176 本件申請が法第15条の2第1項所定の要件を全
177 て満たしていると判断するに至った。
178
179
180 しかし,
181 本件処分場の設置予定地(以下「本件予定地」という。
182
183 )の周辺では新種の高級ぶどう
184 の栽培が盛んであったため,
185 周辺の住民及びぶどう栽培農家(以下,
186 併せて「住民」という。
187
188 )の
189 一部は,
190 本件処分場が設置されると,
191 地下水の汚染や有害物質の飛散により,
192 住民の健康が脅かさ
193 れるだけでなく,
194 ぶどうの栽培にも影響が及ぶのではないかとの懸念を抱き,
195 Bに対して本件申請
196 を不許可とするように求める法第15条第6項の意見書を提出し,
197 本件処分場の設置に反対する運
198 動を行った。
199
200
201 そこで,
202 Bは,
203 本件申請に対する許可を一旦留保した上で,
204 Aに対し,
205 住民と十分に協議し,
206
207 争を円満に解決するように求める行政指導を行った。
208
209 これを受けて,
210 Aは,
211 住民に対する説明会を
212 開催し,
213 本件調査書に基づき本件処分場の安全性を説明するとともに,
214 住民に対し,
215 本件処分場の
216 安全性を直接確認してもらうため,
217 工事又は業務に支障のない限り,
218 住民が工事現場及び完成後の
219 本件処分場の施設を見学することを認める旨の提案(以下「本件提案」という。
220
221 )をした。
222
223
224 本件提案を受けて,
225 反対派住民の一部は態度を軟化させたが,
226 その後,
227 上記の説明会に際してA
228 が,
229 (ア)住民のように装ったA社従業員を説明会に参加させ,
230 本件処分場の安全性に問題がないと
231 する方向の質問をさせたり意見を述べさせたりした,
232 (イ)あえて手狭な説明会場を準備し,
233 賛成派
234 住民を早めに会場に到着させて,
235 反対派住民が十分に参加できないような形で説明会を運営した,
236
237 という行為に及んでいたことが判明した。
238
239
240 その結果,
241 反対派住民は本件処分場の設置に強く反発し,
242 Aが本件処分場の安全性に関する説明
243 を尽くしても,
244 円満な解決には至らなかった。
245
246 他方で,
247 建設資材の価格が上昇しAの経営状況を圧
248 迫するおそれが生じていたことから,
249 Aは,
250 本件提案を撤回し,
251 説明会の継続を断念することとし,
252
253 Bに対し,
254 前記の行政指導にはこれ以上応じられないので直ちに本件申請に対して許可をするよう
255 に求める旨の内容証明郵便を送付した。
256
257
258 これを受けて,
259 Bは,
260 Aに対し,
261 説明会の運営方法を改善するとともに再度本件提案をすること
262 により住民との紛争を円満に解決するように求める行政指導を行って許可の留保を継続し,
263 Aも,
264
265 これに従い,
266 月1回程度の説明会を開催して再度本件提案をするなどして住民の説得を試みたもの
267 の,
268 結局,
269 事態が改善する見通しは得られなかった。
270
271 そこで,
272 Bは,
273 上記の内容証明郵便の送付を
274 受けてから10か月経過後,
275 本件申請に対する許可(以下「本件許可」という。
276
277 )をした。
278
279
280 Aは,
281 この間も建設資材の価格が上昇したため,
282 本件許可の遅延により生じた損害の賠償を求め
283 て,
284 国家賠償法に基づき,
285 甲県を被告とする国家賠償請求訴訟を提起した。
286
287
288 他方,
289 本件予定地の周辺に居住するC1及びC2は,
290 本件許可の取消しを求めて甲県を被告とす
291 る取消訴訟を提起した。
292
293 原告両名の置かれている状況は,
294 次のとおりである。
295
296 C1は,
297 本件予定地
298 から下流側に約2キロメートル離れた場所に居住しており,
299 居住地内の果樹園で地下水を利用して
300 新種の高級ぶどうを栽培しているが,
301 地下水は飲用していない。
302
303 C2は,
304 本件予定地から上流側に
305 約500メートル離れた場所に居住しており,
306 地下水を飲用している。
307
308 なお,
309 環境省が法第15条
310
311 - 3 -
312
313 第3項の調査に関する技術的な事項を取りまとめて公表している指針において,
314 同調査は,
315 施設の
316 種類及び規模,
317 自然的条件並びに社会的条件を踏まえて,
318 当該施設の設置が生活環境に影響を及ぼ
319 すおそれがある地域を対象地域として行うものとされているところ,
320 本件調査書において,
321 C2の
322 居住地は上記の対象地域に含まれているが,
323 C1の居住地はこれに含まれていない。
324
325
326 以上を前提として,
327 以下の設問に答えなさい。
328
329
330 なお,
331 関係法令の抜粋を【資料】として掲げるので,
332 適宜参照しなさい。
333
334
335 〔設問1〕
336 Aは,
337 上記の国家賠償請求訴訟において,
338 本件申請に対する許可の留保の違法性に関し,
339 どの
340 ような主張をすべきか。
341
342 解答に当たっては,
343 上記の許可の留保がいつの時点から違法になるかを
344 示すとともに,
345 想定される甲県の反論を踏まえつつ検討しなさい。
346
347
348 〔設問2〕
349 上記の取消訴訟において,
350 C1及びC2に原告適格は認められるか。
351
352 解答に当たっては,
353 @仮
354 に本件処分場の有害物質が地下水に浸透した場合,
355 それが,
356 下流側のC1の居住地に到達するお
357 それは認められるが,
358 上流側のC2の居住地に到達するおそれはないこと,
359 A仮に本件処分場の
360 有害物質が風等の影響で飛散した場合,
361 それがC1及びC2の居住地に到達するおそれの有無に
362 ついては明らかでないことの2点を前提にすること。
363
364
365
366 - 4 -
367
368 【資料】
369
370
371 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(抜粋)
372
373 (目的)
374 第1条
375
376 この法律は,
377 廃棄物の排出を抑制し,
378 及び廃棄物の適正な分別,
379 保管,
380 収集,
381 運搬,
382 再生,
383
384
385 処分等の処理をし,
386 並びに生活環境を清潔にすることにより,
387 生活環境の保全及び公衆衛生の向
388 上を図ることを目的とする。
389
390
391 (産業廃棄物処理施設)
392 第15条
393
394 産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設,
395 産業廃棄物の最終処分場その他の産業
396
397 廃棄物の処理施設で政令で定めるものをいう。
398
399 以下同じ。
400
401 )を設置しようとする者は,
402 当該産業廃
403 棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。
404
405
406
407
408 前項の許可を受けようとする者は,
409 環境省令で定めるところにより,
410 次に掲げる事項を記載した
411 申請書を提出しなければならない。
412
413
414 一〜九
415
416
417
418 (略)
419
420 前項の申請書には,
421 環境省令で定めるところにより,
422 当該産業廃棄物処理施設を設置することが
423 周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付しなければならな
424 い。
425
426 (以下略)
427
428
429
430 都道府県知事は,
431 産業廃棄物処理施設(中略)について第1項の許可の申請があつた場合には,
432
433 遅滞なく,
434 第2項(中略)に掲げる事項,
435 申請年月日及び縦覧場所を告示するとともに,
436 同項の
437 申請書及び前項の書類(中略)を当該告示の日から1月間公衆の縦覧に供しなければならない。
438
439
440
441
442
443 (略)
444
445
446
447 第4項の規定による告示があつたときは,
448 当該産業廃棄物処理施設の設置に関し利害関係を有す
449 る者は,
450 同項の縦覧期間満了の日の翌日から起算して2週間を経過する日までに,
451 当該都道府県
452 知事に生活環境の保全上の見地からの意見書を提出することができる。
453
454
455
456 (許可の基準等)
457 第15条の2
458
459 都道府県知事は,
460 前条第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認
461
462 めるときでなければ,
463 同項の許可をしてはならない。
464
465
466
467
468 その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準に適合してい
469 ること。
470
471
472
473
474
475 その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処
476 理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設について適正な配慮
477 がなされたものであること。
478
479
480
481
482
483 申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画に従
484 つて当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に,
485 かつ,
486 継続して行うに足りるもの
487 として環境省令で定める基準に適合するものであること。
488
489
490
491
492
493 (略)
494
495 2〜5
496
497
498 (略)
499
500 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和46年厚生省令第35号)(抜粋)
501
502 (生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類)
503 第11条の2
504
505
506 法第15条第3項の書類には,
507 次に掲げる事項を記載しなければならない。
508
509
510
511 設置しようとする産業廃棄物処理施設の種類及び規模並びに処理する産業廃棄物の種類を勘
512 案し,
513 当該産業廃棄物処理施設を設置することに伴い生ずる大気質,
514 騒音,
515 振動,
516 悪臭,
517 水質
518 又は地下水に係る事項のうち,
519 周辺地域の生活環境に影響を及ぼすおそれがあるものとして調
520 - 5 -
521
522 査を行つたもの(以下この条において「産業廃棄物処理施設生活環境影響調査項目」という。
523
524
525
526
527 産業廃棄物処理施設生活環境影響調査項目の現況及びその把握の方法
528
529
530
531 当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を予測す
532 るために把握した水象,
533 気象その他自然的条件及び人口,
534 土地利用その他社会的条件の現況並
535 びにその把握の方法
536
537
538
539 当該産業廃棄物処理施設を設置することにより予測される産業廃棄物処理施設生活環境影響
540 調査項目に係る変化の程度及び当該変化の及ぶ範囲並びにその予測の方法
541
542
543
544 当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を分析し
545 た結果
546
547
548
549 大気質,
550 騒音,
551 振動,
552 悪臭,
553 水質又は地下水のうち,
554 これらに係る事項を産業廃棄物処理施
555 設生活環境影響調査項目に含めなかつたもの及びその理由
556
557
558
559 その他当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響について
560 の調査に関して参考となる事項
561
562 - 6 -
563
564