1 論文式試験問題集
2 [法律実務基礎科目(民事・刑事)]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 事]
9
10 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
11 以下の各設問に答えなさい。
12
13
14 〔設問1〕
15 弁護士Pは,
16 Xから次のような相談を受けた。
17
18
19 【Xの相談内容】
20 「私は,
21 骨董品を収集することが趣味なのですが,
22 親友からBという人を紹介してもらい,
23
24 成28年5月1日,
25 B宅に壺(以下「本件壺」という。
26
27 )を見に行きました。
28
29 Bに会ったところ,
30
31 Aから平成27年3月5日に,
32 代金100万円で本件壺を買って,
33 同日引き渡してもらったとい
34 うことで,
35 本件壺を見せてもらったのですが,
36 ちょうど私が欲しかった壺であったことから,
37
38 非とも譲ってほしいとBにお願いしたところ,
39 代金150万円なら譲ってくれるということで,
40
41 当日,
42 本件壺を代金150万円で購入しました。
43
44 そして,
45 他の人には売ってほしくなかったので,
46
47 親友の紹介でもあったことから信用できると思い,
48 当日,
49 代金150万円をBに支払い,
50 領収書
51 をもらいました。
52
53 当日は,
54 電車で来ていたので,
55 途中で落としたりしたら大変だと思っていたと
56 ころ,
57 Bが,
58 あなた(X)のために占有しておきますということでしたので,
59 これを了解し,
60
61 日,
62 本件壺を引き取りに行くことにしました。
63
64
65 平成28年6月1日,
66 Bのところに本件壺を取りに行ったところ,
67 Bから,
68 本件壺は,
69 Aから
70 預かっていただけで,
71 自分のものではない,
72 あなた(X)から150万円を受け取ったこともな
73 い,
74 また,
75 本件壺は,
76 既に,
77 Yに引き渡したので,
78 自分のところにはないと言われました。
79
80
81 すぐに,
82 Yのところに行き,
83 本件壺を引き渡してくれるようにお願いしたのですが,
84 Yは,
85
86 件壺は,
87 平成28年5月15日にAから代金150万円で購入したものであり,
88 渡す必要はない
89 と言って渡してくれません。
90
91
92 本件壺の所有者は,
93 私ですので,
94 何の権利もないのに本件壺を占有しているYに本件壺の引渡
95 しを求めたいと考えています。
96
97
98 弁護士Pは,
99 【Xの相談内容】を前提に,
100 Xの訴訟代理人として,
101 Yに対し,
102 本件壺の引渡しを
103 求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
104
105 )を提起することを検討することとした。
106
107
108 以上を前提に,
109 以下の各問いに答えなさい。
110
111
112 (1)
113
114 弁護士Pは,
115 本件訴訟に先立って,
116 Yに対して,
117 本件壺の占有がY以外の者に移転されること
118 に備え,
119 事前に講じておくべき法的手段を検討することとした。
120
121 弁護士Pが採り得る法的手段を
122 一つ挙げ,
123 そのような手段を講じなかった場合に生じる問題についても併せて説明しなさい。
124
125
126
127 (2)
128
129 弁護士Pが,
130 本件訴訟において,
131 選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。
132
133 なお,
134 代償請
135 求については,
136 考慮する必要はない。
137
138
139
140 (3)
141
142 弁護士Pは,
143 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
144
145 )において,
146 本件壺の引渡請求を理
147
148 由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,
149 次の各事実を主張した。
150
151
152
153
154 Aは,
155 〔@〕
156
157
158
159 Aは,
160 平成27年3月5日,
161 Bに対し,
162 本件壺を代金100万円で売った。
163
164
165
166
167
168 〔A〕
169
170
171
172 〔B〕
173 上記@からBまでに入る具体的事実を,
174 それぞれ答えなさい。
175
176
177
178 (4)
179
180 弁護士Pは,
181 Yが,
182 AB間の売買契約を否認すると予想されたことから,
183 上記(3)の法的構成
184
185 - 2 -
186
187 とは別に,
188 仮に,
189 Bが本件壺の所有権を有していないとしても,
190 本件壺の引渡請求を理由づける
191 事実(民事訴訟規則第53条第1項)の主張をできないか検討した。
192
193 しかし,
194 弁護士Pは,
195 この
196 ような主張は,
197 判例を踏まえると認められない可能性が高いとして断念した。
198
199 弁護士Pが検討し
200 たと考えられる主張の内容(当該主張を構成する具体的事実を記載する必要はない。
201
202 )と,
203 その
204 主張を断念した理由を簡潔に説明しなさい。
205
206
207 〔設問2〕
208 弁護士Qは,
209 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
210
211
212 【Yの相談内容】
213 「私は,
214 Aから,
215 本件壺を買わないかと言われました。
216
217 壺に興味があることから,
218 Aに見せて
219 ほしいと言ったところ,
220 Aは,
221 Bに預かってもらっているということでした。
222
223 そこで,
224 平成28
225 年5月15日,
226 B宅に見に行ったところ,
227 一目で気に入り,
228 Aに電話で150万円での購入を申
229 し込み,
230 Aが承諾してくれました。
231
232 私は,
233 すぐに近くの銀行で150万円を引き出しA宅に向か
234 い,
235 Aに現金を交付したところ,
236 Aが私と一緒にB宅に行ってくれて,
237 Aから本件壺を受け取り
238 ました。
239
240 したがって,
241 本件壺の所有者は私ですから,
242 Xに引き渡す必要はないと思います。
243
244
245 弁護士Qは,
246 【Yの相談内容】を前提に,
247 Yの訴訟代理人として,
248 本件訴訟における答弁書を作
249 成するに当たり,
250 主張することが考えられる二つの抗弁を検討したところ,
251 抗弁に対して考えられ
252 る再抗弁を想定すると,
253 そのうちの一方の抗弁については,
254 自己に有利な結論を得られる見込みは
255 高くないと考え,
256 もう一方の抗弁のみを主張することとした。
257
258
259 以上を前提に,
260 以下の各問いに答えなさい。
261
262
263 (1)
264
265 弁護士Qとして主張することを検討した二つの抗弁の内容(当該抗弁を構成する具体的事実を
266 記載する必要はない。
267
268 )を挙げなさい。
269
270
271
272 (2)
273
274 上記(1)の二つの抗弁のうち弁護士Qが主張しないこととした抗弁を挙げるとともに,
275 その抗
276
277 弁を主張しないこととした理由を,
278 想定される再抗弁の内容にも言及した上で説明しなさい。
279
280
281 〔設問3〕
282 Yに対する訴訟は,
283 審理の結果,
284 AB間の売買契約が認められないという理由で,
285 Xが敗訴した。
286
287
288 そこで,
289 弁護士Pは,
290 Xの訴訟代理人として,
291 Bに対して,
292 BX間の売買契約の債務不履行を理由
293 とする解除に基づく原状回復請求としての150万円の返還請求訴訟(以下「本件第2訴訟」とい
294 う。
295
296 )を提起した。
297
298
299 第1回口頭弁論期日で,
300 Bは,
301 Xから本件壺の引渡しを催告され,
302 相当期間が経過した後,
303 Xか
304 ら解除の意思表示をされたことは認めたが,
305 BがXに対して本件壺を売ったことと,
306 BX間の売買
307 契約に基づいてXからBに対し150万円が支払われたことについては否認した。
308
309 弁護士Pは,
310
311 該期日において,
312 以下の領収書(押印以外,
313 全てプリンターで打ち出されたものである。
314
315 以下「本
316 件領収書」という。
317
318 )を提出し,
319 証拠として取り調べられた。
320
321 これに対し,
322 Bの弁護士Rは,
323 本件
324 領収書の成立の真正を否認し,
325 押印についてもBの印章によるものではないと主張している。
326
327
328 その後,
329 第1回弁論準備手続期日で,
330 弁護士Pは,
331 平成28年5月1日に150万円を引き出し
332 たことが記載された]名義の預金通帳を提出し,
333 それが取り調べられ,
334 弁護士Rは預金通帳の成立
335 の真正を認めた。
336
337
338 第2回口頭弁論期日において,
339 XとBの本人尋問が実施され,
340 Xは,
341 下記【Xの供述内容】のと
342 おり,
343 Bは,
344 下記【Bの供述内容】のとおり,
345 それぞれ供述した。
346
347
348
349 - 3 -
350
351
352
353
354
355
356
357 X 様
358 下記金員を確かに受領しました。
359
360
361 金150万円
362 ただし,
363 壺の代金として
364 平成28年5月1日
365
366
367
368
369 【Xの供述内容】
370 「私は,
371 平成28年5月1日に,
372 親友の紹介でB宅を訪問し,
373 本件壺を見せてもらいました。
374
375
376 Bとは,
377 そのときが初対面でしたが,
378 Bは,
379 現金150万円なら売ってもいいと言ってくれたの
380 で,
381 私は,
382 すぐに近くの銀行に行き,
383 150万円を引き出して用意しました。
384
385 Bは,
386 私が銀行に
387 行っている間に,
388 パソコンとプリンターを使って,
389 領収書を打ち出し,
390 三文判ではありますが,
391
392 判子も押して用意してくれていたので,
393 引き出した現金150万円をB宅で交付し,
394 Bから領収
395 書を受け取りました。
396
397 当日は,
398 電車で来ていたので,
399 取りあえず,
400 壺を預かっておいてもらった
401 のですが,
402 同年6月1日に壺を受け取りに行った際には,
403 Bから急に,
404 本件壺は,
405 Aから預かっ
406 ているもので,
407 あなたに売ったことはないと言われました。
408
409
410 また,
411 Yに対する訴訟で証人として証言したAが供述していたように,
412 Aは同年5月2日にB
413 から200万円を借金の返済として受け取っているようですが,
414 この200万円には私が交付し
415 た150万円が含まれていることは間違いないと思います。
416
417
418 【Bの供述内容】
419 「確かに,
420 平成28年5月1日,
421 Xは,
422 私の家を訪ねてきて,
423 本件壺を見せてほしいと言って
424 きました。
425
426 私はXとは面識はありませんでしたが,
427 知人からXを紹介されたこともあり,
428 本件壺
429 を見せてはあげましたが,
430 Xから150万円は受け取っていません。
431
432 Xは,
433 私に150万円を現
434 金で渡したと言っているようですが,
435 そんな大金を現金でもらうはずはありませんし,
436 領収書に
437 ついても,
438 私の名前の判子は押してありますが,
439 こんな判子はどこでも買えるもので,
440 Xがパソ
441 コンで作って,
442 私の名前の判子を勝手に買ってきて押印したものに違いありません。
443
444
445 私は,
446 同月2日に,
447 Aから借りていた200万円を返済したことは間違いありませんが,
448 これ
449 は,
450 自分の父親からお金を借りて返済したもので,
451 Xからもらったお金で工面したものではあり
452 ません。
453
454 父親は,
455 自宅にあった現金を私に貸してくれたようです。
456
457 また,
458 父親とのやり取りだっ
459 たので,
460 貸し借りに当たって書面も作りませんでした。
461
462 その後,
463 同年6月1日にもXが私の家に
464 来て,
465 本件壺を売ってくれと言ってきましたが,
466 断っています。
467
468
469 以上を前提に,
470 以下の各問いに答えなさい。
471
472
473 (1)
474
475 本件第2訴訟の審理をする裁判所は,
476 本件領収書の形式的証拠力を判断するに当たり,
477 Bの記
478 名及びB名下の印影が存在することについて,
479 どのように考えることになるか論じなさい。
480
481
482
483 (2)
484
485 弁護士Pは,
486 本件第2訴訟の第3回口頭弁論期日までに,
487 準備書面を提出することを予定して
488 いる。
489
490 その準備書面において,
491 弁護士Pは,
492 前記【Xの供述内容】及び【Bの供述内容】と同内
493 容のX及びBの本人尋問における供述並びに前記の提出された書証に基づいて,
494 Bが否認した事
495 実についての主張を展開したいと考えている。
496
497 弁護士Pにおいて準備書面に記載すべき内容を,
498
499 - 4 -
500
501 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,
502 答案用紙1頁程度の分
503 量で記載しなさい。
504
505
506
507 - 5 -
508
509 [刑
510
511 事]
512
513 次の【事例】を読んで,
514 後記〔設問〕に答えなさい。
515
516
517 【事
518
519 例】
520
521
522
523 A(26歳,
524 男性)は,
525 平成29年4月6日午前8時,
526 「平成29年4月2日午前6時頃,
527
528 H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,
529 V(55歳,
530 男性)に対し,
531 その胸部を
532 押して同人をその場に転倒させ,
533 よって,
534 同人に加療期間不明の急性硬膜下血腫等の傷害を
535 負わせた。
536
537 」旨の傷害事件で通常逮捕され,
538 同月7日午前9時,
539 検察官に送致された。
540
541 送致記
542 録に編綴された主な証拠は次のとおりであった(以下,
543 特段の断りない限り,
544 日付はいずれ
545 も平成29年である。
546
547 )。
548
549
550
551
552 Vの受傷状況等に関する捜査報告書(証拠@)
553 「近隣住民Wの119番通報により救急隊員が臨場した際,
554 Vは,
555 4月2日午前6時10
556
557 分頃にH県I市J町2丁目3番Kビル前(甲通り沿い)歩道上に,
558 意識不明の状態で仰向け
559 に倒れていた。
560
561 Vは,
562 直ちにH県立病院に救急搬送され,
563 同病院において緊急手術を受け,
564
565 そのまま同病院集中治療室に入院した。
566
567 同病院医師によれば,
568 Vには硬い面に強打したこと
569 に起因する急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲が認められ,
570 Vは,
571 手術後,
572 意識が回復したが,
573
574 集中治療室での入院治療が必要であり,
575 少なくとも1週間は取調べを受けることはできない
576 とのことであった。
577
578
579 「Vは,
580 同市J町4丁目2番の自宅で妻と二人で居住する会社員である。
581
582 妻によれば,
583
584 は毎朝甲通りをジョギングしており,
585 持病はないとのことであった。
586
587
588
589
590 Wの警察官面前の供述録取書(証拠A)
591 「私は,
592 4月2日午前6時頃,
593 通勤のため自宅を出て甲通りをI駅に向かって歩いている
594 と,
595 約50メートル先のKビル前の歩道上に,
596 男二人と女一人(B子)が立っていて,
597 その
598 うち男一人(V)が歩道上に仰向けに倒れた様子が見えた。
599
600 そして,
601 約10メートルまで近
602 づいたところ,
603 もう一人の男(A)が仰向けに倒れたVの腹の上に馬乗りになったので,
604
605 件であると思って立ち止まった。
606
607 このとき,
608 Aは,
609 Vの腹の上に馬乗りになった状態で,
610
611 『こ
612 の野郎。
613
614 』と怒鳴りながら右腕を振り上げ,
615 B子がそのAの右腕を両手でつかんだ。
616
617 私は,
618
619 自分の携帯電話機を使って,
620 その様子を1枚写真撮影した。
621
622 その直後,
623 AはVの腹の上から
624 退いたが,
625 Vは全く動かなかった。
626
627 私は,
628 119番通報し,
629 AとB子に『救急車を呼んだか
630 ら,
631 しばらく待ってください。
632
633 』と声を掛けた。
634
635 しかし,
636 AとB子は,
637 その場を立ち去り,
638
639 甲通り沿いのLマンションの中に入っていった。
640
641 私は,
642 注視していなかったため,
643 Vの転倒
644 原因は分からない。
645
646 私は,
647 A,
648 V及びB子とは面識がない。
649
650
651
652
653
654 B子の警察官面前の供述録取書(証拠B)
655 「私は,
656 1年半前からAと交際し,
657 半年前からLマンション202号室でAと二人で生活
658 している。
659
660 私とAは,
661 4月1日夜から同月2日明け方までカラオケをし,
662 Lマンションに帰
663 るため,
664 甲通りの歩道を並んで歩いていた。
665
666 すると,
667 前方からジョギング中の男(V)が走
668 ってきて,
669 擦れ違いざまに私にぶつかった。
670
671 私は,
672 立ち止まり,
673 Vに『すみません。
674
675 』と謝
676 ったが,
677 Vは,
678 立ち止まり,
679 『横に広がらずに歩けよ。
680
681 』と怒ってきた。
682
683 Aも立ち止まり,
684
685 奮した様子でVに言い返し,
686 AとVが向かい合って口論となった。
687
688 Aは,
689 Vの面前に詰め寄
690 り,
691 両手でVの胸を1回突き飛ばすように押した。
692
693 Vが少し後ずさりしたが,
694
695 『何するんだ。
696
697
698 と言ってAに向き合うと,
699 Aは両手でVの胸をもう1回突き飛ばすように押した。
700
701 すると,
702
703 Vは,
704 後方に勢いよく転び,
705 路上に仰向けに倒れ,
706 後頭部を路面に打ち付けた。
707
708 さらに,
709
710 は,
711 仰向けに寝た状態になったVの腹の上に馬乗りになり,
712 『この野郎。
713
714 』と怒鳴りながら,
715
716
717 - 6 -
718
719 右腕を振り上げてVを殴ろうとした。
720
721 私は,
722 慌ててAの右腕を両手でつかんで止めた。
723
724 する
725 と,
726 AはVの体から離れたが,
727 Vは起き上がらなかった。
728
729 Aは,
730
731 『こちらが謝っているのに,
732
733 文句を言ってきたのが悪いんだ。
734
735 放っておけ。
736
737 』と言った。
738
739 私とAは,
740 通り掛かりの男の人
741 から,
742 『救急車を呼んだから,
743 待ってください。
744
745 』と言われたが,
746 VをそのままにしてLマン
747 ションに帰った。
748
749
750
751
752 Aの警察官面前の供述録取書(証拠C)
753 「私は,
754 4月2日早朝,
755 カラオケ店から,
756 交際相手のB子と一緒に帰る途中,
757 B子と二人
758 で並んで歩道を歩いていたところ,
759 ジョギング中の男(V)が擦れ違いざまにB子にぶつか
760 ってきた。
761
762 Vは,
763 B子が謝ったにもかかわらず,
764 『横に並んで歩くな。
765
766 』と怒鳴った。
767
768 私は,
769
770 VがわざとB子にぶつかってきたように感じていたので,
771 『ここはジョギングコースじゃな
772 いんだぞ。
773
774 』と言い返した。
775
776 私とVは口論となり,
777 そのうち,
778 Vは,
779 興奮した様子で,
780 右手
781 で私の胸ぐらをつかんで前後に激しく揺さぶってきたが,
782 その手を自ら離してふらつくよう
783 に後退し,
784 後方にひっくり返って後頭部を歩道上に打ち付けた。
785
786 この間,
787 私は,
788 Vの胸を押
789 したことはなく,
790 それ以外にもVの転倒原因になるような行為をしていない。
791
792 Vが勝手に歩
793 道上に倒れたので,
794 それを放ったまま自宅に戻った。
795
796 私は,
797 半年前からLマンション202
798 号室でB子と一緒に生活しており,
799 現在,
800 株式会社丙において会社員として働いている。
801
802
803
804
805
806 Aの身上調査照会回答書(証拠D)
807 H県I市J町2丁目5番Lマンション202号室が住居として登録されている。
808
809
810
811
812
813 Aは,
814 4月7日午後1時,
815 検察官による弁解録取手続において,
816 証拠Cと同旨の供述をした。
817
818
819 検察官は,
820 弁解録取書を作成した後,
821 H地方裁判所裁判官に対し,
822 Aの勾留を請求した。
823
824 同裁
825 判所裁判官は,
826 同日,
827 Aに対し,
828 勾留質問を行い,
829 刑事訴訟法第207条第1項の準用する
830 同法第60条第1項第2号に定める事由があると判断して勾留状を発付した。
831
832
833
834
835
836 Aは,
837 勾留中,
838 一貫して,
839 Vの胸部を押してVを転倒させ,
840 傷害を負わせた事実を否認した。
841
842
843 検察官は,
844 回復したVに対する取調べ等の所要の捜査を遂げ,
845 4月26日,
846 H地方裁判所にA
847 を傷害罪で公判請求した。
848
849 同公判請求に係る起訴状の公訴事実には,
850 「被告人は,
851 4月2日午
852 前6時頃,
853 H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,
854 Vに対し,
855 その胸部を両手で2
856 回押す暴行を加え,
857 同人をその場に転倒させてその後頭部を同歩道上に強打させ,
858 よって,
859
860 人に全治3週間の急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲の傷害を負わせた。
861
862 」旨記載されている。
863
864
865 同裁判所は,
866 同月28日,
867 同公判請求に係る傷害被告事件を公判前整理手続に付する決定をし
868 た。
869
870
871
872
873
874 検察官は,
875 5月10日,
876 前記傷害被告事件について,
877 証明予定事実記載書を裁判所に提出す
878 るとともに弁護人に送付し,
879 併せて,
880 証拠の取調べを裁判所に請求し,
881 当該証拠を弁護人に開
882 示した。
883
884
885 検察官が取調べを請求した証拠の概要は,
886 次のとおりである。
887
888
889
890
891 甲1号証
892
893 H県立病院医師作成の診断書
894
895 「Vは,
896 4月2日に急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲を負い,
897 全治まで3週間を要した。
898
899
900
901
902 甲2号証
903
904 H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,
905 Vを立会人として,
906 現場
907
908 の状況を明らかにするために実施された実況見分の調書
909
910
911 甲3号証
912
913 Vの検察官面前の供述録取書
914
915 「4月2日早朝,
916 私が甲通りの歩道をI駅方面に向かってジョギング中,
917 前方から,
918 若い
919 男(A)と女(B子)が歩道一杯に広がるように並んで歩いてきた。
920
921 私は,
922 ぶつからないよ
923 うに気を付けて走ったが,
924 擦れ違う際に,
925 B子がふらつくように私の方に寄ってきたために,
926
927 B子にぶつかった。
928
929 B子が私に謝ったが,
930 私は,
931 立ち止まり,
932 『そんなに横に広がって歩く
933 なよ。
934
935 』と注意した。
936
937 すると,
938 Aは,
939 『ここはジョギングコースじゃない。
940
941 』と怒鳴り,
942 興奮
943 した様子で私に詰め寄ってきた。
944
945 私がAとの距離を取るため,
946 のけ反るように後ずさると,
947
948 - 7 -
949
950 Aは,
951 私の胸を両手で1回強く押してきた。
952
953 私は,
954 更に後ずさりしながら,
955 『何するんだ。
956
957
958 と言ったが,
959 その後のことは記憶になく,
960 気が付いた時にはH県立病院の集中治療室にいた。
961
962
963
964
965 甲4号証
966
967 写真撮影報告書
968
969 I警察署において,
970 Vが甲3号証と同旨のAのVに対する暴行状況を説明し,
971 A役とV役
972 の警察官2名が,
973 Vの説明に基づき,
974 AがVの胸を両手で1回強く押した際のAとVの相互
975 の体勢及びその動作を再現し,
976 同再現状況が撮影された写真が貼付されている。
977
978
979
980
981 甲5号証
982
983 W所有の携帯電話機に保存されていた画像データを印画した写真1枚
984
985 4月2日午前6時に撮影されたものであり,
986 男(A)が,
987 Kビル前歩道上に仰向けに寝て
988 いる男(V)の腹部の上に馬乗りになった状態で,
989 Aの右手掌部が右肩の位置よりも右上方
990 の位置にあり,
991 女(B子)が,
992 Aの右後方から,
993 そのAの右腕を両手でつかんでいる状況が
994 写っている。
995
996
997
998
999 甲6号証
1000
1001 Wの検察官面前の供述録取書
1002
1003 Wの警察官面前の供述録取書(証拠A)と同旨の供述に加え,
1004 甲5号証につき,
1005 「この写
1006 真は,
1007 私が4月2日午前6時,
1008 Kビル前歩道上において,
1009 自己の携帯電話機のカメラ機能で
1010 Aらを撮影したものである。
1011
1012 Aは,
1013 Kビル前の歩道上に仰向けに寝ているVの腹の上に馬
1014 乗りになった状態で,
1015 『この野郎。
1016
1017 』と怒鳴りながら右腕を振り上げた。
1018
1019 すると,
1020 傍らにいた
1021 B子がAの右腕を両手でつかんで止めたが,
1022 この写真はその場面が撮影されている。
1023
1024 」旨の
1025 供述が録取されている。
1026
1027
1028
1029
1030 甲7号証
1031
1032 B子の検察官面前の供述録取書
1033
1034 B子の警察官面前の供述録取書(証拠B)と同旨の供述。
1035
1036
1037
1038
1039 乙1号証
1040
1041 Aの検察官面前の供述録取書
1042
1043 Aの警察官面前の供述録取書(証拠C)と同旨の供述に加え,
1044 甲5号証につき,
1045 「この写
1046 真には,
1047 転倒したVを私が介抱しようとした状況が写っている。
1048
1049 」旨の供述が録取されてい
1050 る。
1051
1052
1053
1054
1055
1056 乙2号証
1057
1058 Aの身上調査照会回答書(証拠Dと同じ)
1059
1060 弁護人は,
1061 検察官請求証拠を閲覧・謄写した後,
1062 検察官に対して類型証拠の開示の請求を
1063 し,
1064 類型証拠として開示された証拠も閲覧・謄写するなどした上,
1065 「Aが,
1066 Vに対し,
1067 公訴事
1068 実記載の暴行に及んだ事実はない。
1069
1070 Vは,
1071 興奮した状態でAの胸ぐらをつかんで前後に激しく
1072 揺さぶってきたが,
1073 このときVの何らかの疾患が影響して,
1074 自らふらついて転倒して後頭部を
1075 強打し,
1076 公訴事実記載の傷害を負ったにすぎない。
1077
1078 」旨の予定主張事実記載書を裁判所に提出
1079 するとともに検察官に送付し,
1080 併せて,
1081 検察官に対して主張関連証拠の開示の請求をした。
1082
1083
1084 5月24日から6月7日までの間,
1085 3回にわたり公判前整理手続が開かれ,
1086 弁護人は,
1087
1088 察官請求証拠に対し,
1089 甲1号証,
1090 甲2号証及び乙2号証につき,
1091 いずれも「同意」,
1092 甲3号証,
1093
1094 甲4号証(貼付された写真を含む。
1095
1096 ),
1097 甲6号証及び甲7号証につき,
1098 いずれも「不同意」,
1099
1100 5号証につき,
1101
1102 「異議あり」との意見を述べるとともに,
1103 乙1号証につき,
1104
1105 「不同意」とした上,
1106
1107 「被告人質問で明らかにするので,
1108 取調べの必要性はない。
1109
1110 」との意見を述べた。
1111
1112 検察官は,
1113
1114 V,
1115 W及びB子の証人尋問を請求した。
1116
1117 裁判所は,
1118 争点を整理した上,
1119 甲1号証,
1120 甲2号証及
1121 び乙2号証につき,
1122 証拠調べをする決定をし,
1123 甲3号証ないし甲7号証及び乙1号証の採否を
1124 留保して,
1125 V,
1126 W及びB子につき,
1127 証人として尋問をする決定をするなどし,
1128 公判前整理手続
1129 を終結した。
1130
1131
1132
1133
1134
1135 6月19日,
1136 第1回公判期日において,
1137 冒頭手続等に続き,
1138 順次,
1139 甲1号証,
1140 甲2号証及
1141 び乙2号証の取調べ,
1142 Vの証人尋問が行われ,
1143 同尋問終了後に検察官が甲3号証及び甲4
1144 号証(貼付された写真を含む。
1145
1146 )の証拠調べ請求を撤回した。
1147
1148 同月20日,
1149 第2回公判期日に
1150 おいて,
1151 Wの証人尋問が行われ,
1152 Wは甲6号証と同旨の証言をし,
1153 裁判所が同尋問後に甲5
1154 号証の証拠調べを決定してこれを取り調べ,
1155 検察官が甲6号証の証拠調べ請求を撤回した。
1156
1157
1158 - 8 -
1159
1160 続いて,
1161 B子の証人尋問が行われ,
1162 同尋問終了後,
1163 検察官は甲7号証につき刑事訴訟法第
1164 321条第1項第2号後段に該当する書面として取調べを請求した。
1165
1166 同月21日,
1167 第3回公
1168 判期日において,
1169 甲7号証の採否決定,
1170 被告人質問,
1171 乙1号証の採否決定等が行われた上で
1172 結審した。
1173
1174
1175 〔設問1〕
1176 下線部に関し,
1177 裁判官が刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第60条第1項第2号の
1178 「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があると判断した思考過程を,
1179 その判断要素を踏ま
1180 え具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
1181
1182
1183 〔設問2〕
1184 下線部の供述に関し,
1185 検察官は,
1186 Aが公訴事実記載の暴行に及んだことを立証する上で直接証
1187 拠又は間接証拠のいずれと考えているか,
1188 具体的理由を付して答えなさい。
1189
1190
1191 〔設問3〕
1192 下線部に関し,
1193 弁護人は,
1194 刑事訴訟法第316条の15第3項の「開示の請求に係る証拠を識
1195 別するに足りる事項」を「Vの供述録取書」とし,
1196 証拠の開示の請求をした。
1197
1198 同請求に当たって,
1199
1200 同項第1号イ及びロに定める事項(同号イの「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」は
1201 除く。
1202
1203 )につき,
1204 具体的にどのようなことを明らかにすべきか,
1205 それぞれ答えなさい。
1206
1207
1208 〔設問4〕
1209 下線部に関し,
1210 弁護人は,
1211 甲4号証(貼付された写真を含む。
1212
1213 )につき「不同意」との意見を
1214 述べたのに対し,
1215 甲5号証につき「異議あり」との意見を述べているが,
1216 弁護人がこのように異な
1217 る意見を述べた理由を,
1218 それぞれの証拠能力に言及して答えなさい。
1219
1220
1221 〔設問5〕
1222 下線部に関し,
1223 以下の各問いに答えなさい。
1224
1225
1226
1227
1228 検察官が尋問中,
1229 Vは,
1230 「私は,
1231 Kビル前歩道上でAに詰め寄られ,
1232 Aと距離を取るため,
1233
1234 け反るように後ずさると,
1235 Aに両手で胸を1回強く押された。
1236
1237 」旨証言した。
1238
1239 検察官が同証言後
1240 に,
1241 Vに甲4号証貼付の写真を示そうと考え,
1242 裁判長に同写真を示す許可を求めたところ,
1243 裁判
1244 長はこれを許可した。
1245
1246 その裁判長の思考過程を,
1247 条文上の根拠に言及して答えなさい。
1248
1249
1250
1251
1252
1253 前記許可に引き続き,
1254 Vは,
1255 甲4号証貼付の写真を示されて,
1256 同写真を引用しながら証言し,
1257
1258 同写真は証人尋問調書に添付された。
1259
1260 裁判所は,
1261 同写真を事実認定の用に供することができるか。
1262
1263
1264 同写真とVの証言内容との関係に言及しつつ理由を付して答えなさい。
1265
1266
1267
1268 〔設問6〕
1269 下線部に関し,
1270 B子の証言の要旨は次のとおりであったとして,
1271 以下の各問いに答えなさい。
1272
1273
1274 [証言の要旨]
1275
1276
1277 AのVに対する暴行状況について,
1278 「AとVがもめている様子をそばでずっと見ていた。
1279
1280 Aが
1281 Vの胸を押した事実はない。
1282
1283 Vがふらついて転倒したので,
1284 AがVを介抱しようとした。
1285
1286 AがV
1287 に馬乗りになって,
1288 『この野郎。
1289
1290 』と言って殴り掛かろうとした事実はない。
1291
1292 Vと関わりたくなか
1293 ったので,
1294 Aの腕をつかんで,
1295 『こんな人は放っておこうよ。
1296
1297 』と言った。
1298
1299 すると,
1300 AはVを介抱
1301 するのを止めて,
1302 私と一緒にその場を立ち去った。
1303
1304
1305
1306
1307
1308 捜査段階での検察官に対する供述状況について,
1309 「何を話したのか覚えていないが,
1310 嘘を話し
1311 た覚えはない。
1312
1313 録取された内容を確認した上,
1314 署名・押印したものが,
1315 甲7号証の供述録取書で
1316 - 9 -
1317
1318 ある。
1319
1320
1321
1322
1323 本件事件後のAとの関係について,
1324
1325 「5月に入ってからAの子を妊娠していることが分かった。
1326
1327
1328
1329
1330
1331 検察官として,
1332 刑事訴訟法第321条第1項第2号後段の要件を踏まえて主張すべき事項を具
1333 体的に答えなさい。
1334
1335
1336
1337
1338
1339 甲7号証の検察官の取調べ請求に対し,
1340 弁護人が「取調べの必要性がない。
1341
1342 」旨の意見を述べ
1343 たため,
1344 裁判長が検察官に必要性についての釈明を求めた。
1345
1346 検察官は,
1347 必要性についてどのよう
1348 に釈明すべきか答えなさい。
1349
1350
1351
1352 - 10 -
1353
1354