1 論文式試験問題集
2 [民法・商法・民事訴訟法]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 法]
9
10 次の文章を読んで,
11 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
12
13
14 【事実】
15 1.Aは,
16 年来の友人であるBから,
17 B所有の甲建物の購入を持ち掛けられた。
18
19 Aは,
20 甲建物を気
21 に入り,
22 平成23年7月14日,
23 Bとの間で,
24 甲建物を1000万円で購入する旨の契約を締
25 結し,
26 同日,
27 Bに対して代金全額を支払った。
28
29 この際,
30 法律の知識に乏しいAは,
31 甲建物を管
32 理するために必要であるというBの言葉を信じ,
33 Aが甲建物の使用を開始するまでは甲建物の
34 登記名義を引き続きBが保有することを承諾した。
35
36
37 2.Bは,
38 自身が営む事業の資金繰りに窮していたため,
39 Aに甲建物を売却した当時から,
40 甲建物
41 の登記名義を自分の下にとどめ,
42 折を見て甲建物を他の者に売却して金銭を得ようと企ててい
43 た。
44
45 もっとも,
46 平成23年9月に入り,
47 親戚から「不動産を買ったのならば登記名義を移して
48 もらった方がよい。
49
50 」という助言を受けたAが,
51 甲建物の登記を求めてきたため,
52 Bは,
53 法律に
54 疎いAが自分を信じ切っていることを利用して,
55 何らかの方法でAを欺く必要があると考えた。
56
57
58 そこで,
59 Bは,
60 実際にはAからの借金は一切存在しないにもかかわらず,
61 AのBに対する30
62 0万円の架空の貸金債権(貸付日平成23年9月21日,
63 弁済期平成24年9月21日)を担
64 保するためにBがAに甲建物を譲渡する旨の譲渡担保設定契約書と,
65 譲渡担保を登記原因とす
66 る甲建物についての所有権移転登記の登記申請書を作成した上で,
67 平成23年9月21日,
68 A
69 を呼び出し,
70 これらの書面を提示した。
71
72 Aは,
73 これらの書面の意味を理解できなかったが,
74 こ
75 れで甲建物の登記名義の移転は万全であるというBの言葉を鵜呑みにし,
76 書面を持ち帰って検
77 討したりすることなく,
78 その場でそれらの書面に署名・押印した。
79
80 同日,
81 Bは,
82 これらの書面
83 を用いて,
84 甲建物について譲渡担保を登記原因とする所有権移転登記(以下「本件登記」とい
85 う。
86
87 )を行った。
88
89
90 3.平成23年12月13日,
91 Bは,
92 不動産業者Cとの間で,
93 甲建物をCに500万円で売却する
94 旨の契約を締結し,
95 同日,
96 Cから代金全額を受領するとともに,
97 甲建物をCに引き渡した。
98
99 こ
100 の契約の締結に際して,
101 Bは,
102 【事実】2の譲渡担保設定契約書と甲建物の登記事項証明書をC
103 に提示した上で,
104 甲建物にはAのために譲渡担保が設定されているが,
105 弁済期にCがAに対し
106 【事実】2の貸金債権を弁済することにより,
107 Aの譲渡担保権を消滅させることができる旨を
108 説明し,
109 このことを考慮して甲建物の代金が低く設定された。
110
111 Cは,
112 Aが実際には甲建物の譲
113 渡担保権者でないことを知らなかったが,
114 知らなかったことについて過失があった。
115
116
117 4.平成24年9月21日,
118 Cは,
119 A宅に出向き,
120 自分がBに代わって【事実】2の貸金債権を弁
121 済する旨を伝え,
122 300万円及びこれに対する平成23年9月21日から平成24年9月21
123 日までの利息に相当する金額を現金でAに支払おうとしたが,
124 Aは,
125 Bに金銭を貸した覚えは
126 ないとして,
127 その受領を拒んだ。
128
129 そのため,
130 Cは,
131 同日,
132 債権者による受領拒否を理由として,
133
134 弁済供託を行った。
135
136
137 〔設問1〕
138 Cは,
139 Aに対し,
140 甲建物の所有権に基づき,
141 本件登記の抹消登記手続を請求することができ
142 るかどうかを検討しなさい。
143
144
145 【事実(続き)】
146 5.平成25年3月1日,
147 AとCとの間で,
148 甲建物の所有権がCに帰属する旨の裁判上の和解が成
149 立した。
150
151 それに従って,
152 Cを甲建物の所有者とする登記が行われた。
153
154
155
156 - 2 -
157
158 6.平成25年4月1日,
159 Cは甲建物をDに賃貸した。
160
161 その賃貸借契約では,
162 契約期間は5年,
163 賃
164 料は近隣の賃料相場25万円よりも少し低い月額20万円とし,
165 通常の使用により必要となる
166 修繕については,
167 その費用をDが負担することが合意された。
168
169 その後,
170 Dは,
171 甲建物を趣味の
172 油絵を描くアトリエとして使用していたが,
173 本業の事業が忙しくなったことから甲建物をあま
174 り使用しなくなった。
175
176 そこで,
177 Dは,
178 Cの承諾を得て,
179 平成26年8月1日,
180 甲建物をEに転
181 貸した。
182
183 その転貸借契約では,
184 契約期間は2年,
185 賃料は従前のDE間の取引関係を考慮して,
186
187 月額15万円とすることが合意されたが,
188 甲建物の修繕に関して明文の条項は定められなかっ
189 た。
190
191
192 7.その後,
193 Eは甲建物を使用していたが,
194 平成27年2月15日,
195 甲建物に雨漏りが生じた。
196
197 E
198 は,
199 借主である自分が甲建物の修繕費用を負担する義務はないと考えたが,
200 同月20日,
201 修理
202 業者Fに甲建物の修理を依頼し,
203 その費用30万円を支払った。
204
205
206 8.平成27年3月10日,
207 Cは,
208 Dとの間で甲建物の賃貸借契約を同年4月30日限り解除する
209 旨合意した。
210
211 そして,
212 Cは,
213 同年3月15日,
214 Eに対し,
215 CD間の甲建物の賃貸借契約は合意
216 解除されるので,
217 同年4月30日までに甲建物を明け渡すか,
218 もし明け渡さないのであれば,
219
220 同年5月以降の甲建物の使用について相場賃料である月額25万円の賃料を支払うよう求めた
221 が,
222 Eはこれを拒絶した。
223
224
225 9.平成27年5月18日,
226 Eは,
227 Cに対し,
228 【事実】7の甲建物の修繕費用30万円を支払うよ
229 う求めた。
230
231
232 〔設問2〕
233 CD間の賃貸借契約が合意解除された場合にそれ以後のCE間の法律関係はどのようになる
234 かを踏まえて,
235 【事実】8に記したCのEに対する請求及び【事実】9に記したEのCに対する
236 請求が認められるかどうかを検討しなさい。
237
238
239
240 - 3 -
241
242 [商
243
244 法]
245
246 次の文章を読んで,
247 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
248
249
250 1.X株式会社(以下「X社」という。
251
252 )は,
253 会社法上の公開会社であり,
254 株券発行会社ではない。
255
256
257 X社は,
258 種類株式発行会社ではなく,
259 その発行可能株式総数は10万株であり,
260 発行済株式の総
261 数は4万株(議決権の総数も4万個)である。
262
263 X社の事業年度は6月1日から翌年5月31日ま
264 でであり,
265 定時株主総会の議決権の基準日は5月31日である。
266
267
268 2.X社は,
269 主たる事業である電子機器の製造・販売業は堅調であったが,
270 業績拡大の目的で多額の
271 投資を行って開始した電力事業の不振により多額の負債を抱え,
272 このままでは債務超過に陥るお
273 それがあった。
274
275
276 そこで,
277 X社は,
278 この状況から脱却するため,
279 電力事業を売却し,
280 同事業から撤退するととも
281 に,
282 募集株式を発行し,
283 債権者に当該募集株式を引き受けてもらうことにより負債を減少させる
284 計画を立てた。
285
286
287 3.X社は,
288 同社に対して5億円の金銭債権(弁済期平成28年7月1日)を有するA株式会社(以
289 下「A社」という。
290
291 )に対し,
292 A社のX社に対する同債権を利用して,
293 募集株式1万株を発行する
294 こととして(払込金額は5万円,
295 出資の履行の期日は平成28年5月27日),
296 A社にその旨の申
297 入れをしたところ,
298 A社の了解を得ることができた。
299
300
301 なお,
302 当該募集株式の払込金額5万円は,
303 A社に特に有利な金額ではない。
304
305 また,
306 A社は,
307 当
308 該募集株式の発行を受けるまで,
309 X社の株式を有していなかった。
310
311
312 〔設問1〕
313 X社がA社に対してX社の募集株式1万株を発行するに当たって,
314 上記3のA社のX社に対す
315 る5億円の金銭債権を利用するには,
316 どのような方法が考えられるか,
317 論じなさい。
318
319 なお,
320 これ
321 を論ずるに当たっては,
322 その方法を採る場合に会社法上必要となる手続についても,
323 言及しなさ
324 い。
325
326
327 4.X社は,
328 電力事業の売却及び上記3の募集株式の発行により負債額を減少し,
329 債権者に対する月
330 々の弁済額を減額することができたが,
331 電力事業によって生じた負債が完全に解消されたわけで
332 はなかった。
333
334 また,
335 主たる事業においても,
336 大口の取引先が倒産したことなどによって事業計画
337 に狂いが生じ,
338 新たに資金調達をする必要が生じた。
339
340 そこで,
341 X社代表取締役Yは,
342 Yの親族が
343 経営し,
344 X社と取引関係のないZ株式会社(以下「Z社」という。
345
346 )に3億円を出資してもらって
347 X社の募集株式を発行することとした(払込金額は5万円,
348 出資の履行の期日は平成29年2月
349 1日)。
350
351 ところが,
352 X社において当該募集株式についての募集事項の決定をした後,
353 Yは,
354 Z社か
355 ら,
356 同社が行っている事業が急激に悪化したことにより,
357 3億円を払い込むことができない旨を
358 告げられた。
359
360 Z社の払込みがされずに,
361 当該募集株式の発行ができないこととなると,
362 X社の財
363 務状態に対する信用が更に悪化するだけでなく,
364 払込みをすることができなかったZ社の信用も
365 悪化することが懸念された。
366
367 そこで,
368 YとZ社は,
369 協議した上で,
370 Z社がX社の連帯保証を受け
371 て金融機関から3億円を借り入れ,
372 これを当該募集株式の払込金額の払込みに充てるとともに,
373
374 当該払込金をもって直ちに当該借入金を弁済することとした。
375
376
377 5.Z社は,
378 平成29年2月1日,
379 X社の連帯保証を受けて,
380 金融機関(X社が定めた払込取扱機関
381 とは異なる。
382
383 )から3億円を借り入れ,
384 同日,
385 当該3億円をもって当該募集株式の払込金額の払込
386 みに充て,
387 X社は,
388 Z社に対して,
389 当該募集株式6000株を発行した。
390
391
392 なお,
393 当該募集株式の払込金額5万円は,
394 Z社に特に有利な金額ではない。
395
396 また,
397 Z社は,
398 当
399
400 - 4 -
401
402 該募集株式の発行を受けるまで,
403 X社の株式を有していなかった。
404
405
406 6.X社は,
407 平成29年2月2日,
408 当該払込金をX社の預金口座から引き出して,
409 上記5のZ社の借
410 入金債務を弁済した。
411
412
413 7.その後も,
414 Z社の事業の状態は,
415 悪化の一途をたどった。
416
417 Z社の債権者であるB株式会社(以下
418 「B社」という。
419
420 )は,
421 このままではZ社から弁済を受けることができなくなることを危惧し,
422 Z
423 社の保有する上記5のX社の株式をもって,
424 Z社のB社に対する債務を代物弁済するよう求め,
425
426 Z社もこれに応ずることとした。
427
428
429 そこで,
430 平成29年5月29日,
431 Z社は,
432 B社に当該株式の全部をもって代物弁済し,
433 また,
434
435 B社は,
436 当該株式について,
437 X社から株主名簿の名義書換えを受けた。
438
439
440 〔設問2〕
441 (1)
442
443 上記5の募集株式の発行に関して,
444 X社の株主であるCが,
445 Y及びZ社に対して,
446 会社法上
447 どのような責任を追及することができるか,
448 その手段を含めて論じなさい。
449
450
451
452 (2)
453
454 上記7の代物弁済を受けたB社は,
455 X社の定時株主総会において,
456 当該株式につき議決権を
457 行使することができるか,
458 論じなさい。
459
460 なお,
461 これを論ずるに当たっては,
462 上記5の募集株式
463 の発行の効力についても,
464 言及しなさい。
465
466
467
468 - 5 -
469
470 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,
471 1:1)
472 次の文章を読んで,
473 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
474
475
476 【事例】
477 Yは,
478 甲土地の所有者であったが,
479 甲土地については,
480 Aとの間で,
481 賃貸期間を20年とし,
482 そ
483 の期間中は定額の賃料を支払う旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。
484
485 )を締結してお
486 り,
487 Aはその土地をゴルフ場用地として利用していた。
488
489 その後,
490 甲土地は,
491 XとYとの共有となっ
492 た。
493
494 しかし,
495 甲土地の管理は引き続きYが行っており,
496 YA間の本件賃貸借契約も従前どおり維持
497 されていた。
498
499 そして,
500 Aからの賃料については,
501 Yが回収を行い,
502 Xに対してはその持分割合に応
503 じた額が回収した賃料から交付されていた。
504
505
506 ところが,
507 ある時点からYはXに対してこれを交付しないようになったので,
508 Xから委任を受
509 けた弁護士LがYと裁判外で交渉をしたものの,
510 Yは支払に応じなかった。
511
512 そこで,
513 弁護士Lは,
514
515 回収した賃料のうちYの持分割合を超える部分についてはYが不当に利得しているとして,
516 Yに対
517 して不当利得返還請求訴訟を提起することとした。
518
519
520 なお,
521 弁護士Lが確認したところによると,
522 Aが運営するゴルフ場の経営は極めて順調であり,
523
524 本件賃貸借契約が締結されてからこの10年間本件賃貸借契約の約定どおりに賃料の支払を続けて
525 いて,
526 これまで未払はないとのことであった。
527
528
529 〔設問1〕
530 下記の弁護士Lと司法修習生Pとの会話を読んだ上で,
531 訴え提起の時点では未発生である利得
532 分も含めて不当利得返還請求訴訟を提起することの適法性の有無について論じなさい。
533
534
535 弁護士L:今回の不当利得返還請求訴訟において,
536 Xは,
537 何度も訴訟を提起したくないというこ
538 とで,
539 この際,
540 残りの賃貸期間に係る利得分についても請求をしたいと希望していま
541 す。
542
543 そうすると,
544 訴え提起の時点では未発生である利得分についても請求することに
545 なりますが,
546 何か問題はありそうですか。
547
548
549 修習生P:そのような請求を認めると,
550 相手方であるYに不利益が生じてしまうかもしれません。
551
552
553 特に口頭弁論終結後に発生する利得分をどう考えるかが難しそうです。
554
555
556 弁護士L:そうですね。
557
558 その点にも配慮しつつ,
559 今回の不当利得返還請求訴訟において未発生の
560 利得分まで請求をすることが許されないか,
561 検討してみてください。
562
563
564 【事例(続き)】
565 弁護士Lは,
566 Xと相談した結果,
567 差し当たり,
568 訴え提起の時点までに既に発生した利得分の合
569 計300万円のみを不当利得返還請求権に基づいて請求することとした。
570
571
572 これに対し,
573 Yは,
574 この訴訟(以下「第1訴訟」という。
575
576 )の口頭弁論期日において,
577 Xに対し
578 て有する500万円の貸金債権(以下「本件貸金債権」という。
579
580 )とXの有する上記の不当利得返
581 還請求権に係る債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。
582
583
584 第1訴訟の受訴裁判所は,
585 審理の結果,
586 Xの不当利得返還請求権に係る債権については300
587 万円全額が認められる一方,
588 Yの本件貸金債権は500万円のうち450万円が弁済されている
589 ため50万円の範囲でのみ認められるとの心証を得て,
590 その心証に従った判決(以下「前訴判決」
591 という。
592
593 )をし,
594 前訴判決は確定した。
595
596
597 ところが,
598 その後,
599 Yは,
600 本件貸金債権のうち前訴判決において相殺が認められた50万円を
601 除く残額450万円はいまだ弁済されていないとして,
602 Xに対し,
603 その支払を求めて貸金返還請
604
605 - 6 -
606
607 求訴訟(以下「第2訴訟」という。
608
609 )を提起した。
610
611
612 〔設問2〕
613 第2訴訟において,
614 受訴裁判所は,
615 貸金債権の存否について改めて審理・判断をすることがで
616 きるか,
617 検討しなさい。
618
619
620
621 - 7 -
622
623