1 【公法系科目】
2 〔第1問〕
3 今年度は,
4 いわゆる外国人非熟練労働者の入国・在留を認める架空立法を素材に,
5 外国人の
6 人権保障に関するいくつかの問題を問うこととした。
7
8 基本判例や学説に関する適切な理解や初
9 見の条文の正確な読解を前提に,
10 具体的な事案に即して的確な憲法論を展開することができる
11 かどうかが問われる。
12
13
14 本問での主な論点は,
15 問題文にもヒントがあるように,
16 @妊娠・出産(以下「妊娠等」とい
17 う。
18
19 )を滞在の際の禁止事項とし,
20 違反があった場合には強制出国させることが,
21 自己決定権
22 (憲法第13条)の侵害ではないか,
23 A令状等なくして収容を認めることが人身の自由や適正
24 な手続的処遇を受ける権利(根拠条文は立場によるが,
25 憲法第13条,
26 第31条,
27 第33条等。
28
29 )
30 を侵害するのではないか,
31 ということである。
32
33
34 @の自己決定権の侵害については,
35 まず,
36 自己決定権が憲法上保障されるか,
37 そして,
38 その
39 自己決定権に妊娠等の自由が含まれるかということが問題となる。
40
41 さらに,
42 妊娠等の自由が自
43 己決定権に含まれるとしても,
44 本問のBが外国人であることから,
45 別途の考慮が必要となる。
46
47
48 この点については,
49 マクリーン事件判決(最大判昭和53年10月4日民集32巻7号122
50 3頁)及びそこで示された権利性質説が直ちに想起されることだろう。
51
52 そして,
53 権利性質説か
54 らすれば,
55 妊娠等に関わる自己決定権は外国人にも保障されるということになろう。
56
57 しかし,
58
59 注意すべきは,
60 同判決が,
61 外国人に対する人権保障は「外国人在留制度のわく内で与えられて
62 いるにすぎない」として,
63 人権として保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事情
64 として考慮されることはあり得るとしていることである。
65
66 外国人の出入国及び在留に関わる問
67 題に関しては,
68 単純な権利性質説に基づく議論では不十分である。
69
70
71 B代理人甲としては,
72 マクリーン事件判決のこのような判断を踏まえつつ,
73 本件のような場
74 合には立法裁量が限定されるべきという主張を組み立てる必要がある。
75
76 様々な立論があり得る
77 だろうが,
78 飽くまで一例ということで示すとすれば,
79 まず,
80 妊娠等が本人の人生にとって極め
81 て重要な選択であり,
82 また,
83 人生においても妊娠等ができる期間には限りがあり(なお,
84 新制
85 度はそのような年代の者を専ら対象としている(特労法第4条第1項第1号)。
86
87 ),
88 自己決定権
89 の中でも特に尊重されなければならないこと,
90 また,
91 本件が,
92 再入国と同視される在留期間の
93 更新拒否ではなく,
94 強制出国の事例であってマクリーン事件とは事案が異なることなどを指摘
95 して,
96 立法裁量には限界があるとして中間審査基準(目的の重要性,
97 手段の実質的関連性)に
98 よるべきだという主張をすることなどが考えられる。
99
100 その上で,
101 例えば,
102 規制目的は定住を促
103 す生活状況を生じさせることを防止することによって定住を認めないという新制度の趣旨を徹
104 底することであり,
105 これは,
106 滞在期間を限定し,
107 永住や帰化を認めないという直接的な措置と
108 比べて周辺的であり,
109 重要な立法目的とまでは言えないこと,
110 仮に目的が重要だとしても,
111 妊
112 娠等が全て定住につながるとは限らず,
113 合理性に欠けることなどを指摘することが考えられる。
114
115
116 本問では,
117 違憲の主張をする場合,
118 その瑕疵は特労法そのものに求められるべきであり,
119 問
120 題文にも,
121 「Bの収容及び強制出国の根拠となった特労法の規定が憲法違反であるとして,
122 国
123 家賠償請求訴訟を提起しようと考えた。
124
125 」とされているのであるから,
126 法令違憲を検討すべき
127 である。
128
129 仮に適用違憲に言及するとしても簡潔なものにとどめるべきであろう。
130
131
132 これに対して国の主張としては,
133 妊娠等の自由が憲法上保障されるとしても,
134 出入国や国内
135 での滞在は国家主権に属する事項であって,
136 妊娠等を理由に強制出国処分とすることについて
137 は極めて広範な裁量が認められること,
138 子供が日本で生まれ育つことにより,
139 日本の社会保障
140 制度や保育・教育及び医療サービス等の負担となる可能性があり,
141 また,
142 親である外国人も含
143 め,
144 定住の希望を持つようになる蓋然性があること,
145 新制度は労働力確保のためであり,
146 妊娠
147 等によって相当期間に渡って就労が不可能になるから禁止事項として合理性があること(特労
148 法第15条第6号が1月以上就労しないことを禁止事項としていることも参照。
149
150 ),
151 妊娠等禁止
152
153 - 1 -
154
155 の条件は事前に周知され,
156 誓約(同意)もあることから基本権への制約がなく合憲であるとい
157 った点を指摘することが考えられよう。
158
159
160 Aの収容に関しては,
161 人身の自由という実体的な権利の問題と,
162 収容が令状等なくして行わ
163 れることなどに関わる手続的な権利の問題とがある。
164
165 前者については,
166 特労法第18条第1項
167 によれば違反行為に該当すると疑うに足りる相当な理由があることが収容の要件となっている
168 ところ,
169 例えば刑事訴訟法の逮捕に関する要件(刑事訴訟法第199条)についての議論を参
170 照し,
171 収容の必要性も要件とすべきであるという主張が考えられる。
172
173 これに対して,
174 収容は違
175 反行為該当性の調査のためだけではなく,
176 その後の迅速な強制出国処分に備えて身柄を確保す
177 る必要性にも基づいているのであるから,
178 嫌疑さえあれば常に必要性はあるといえるといった
179 反論が想定できる。
180
181
182 手続的な権利については,
183 憲法第33条の逮捕令状主義との関係が問題となるが,
184 本問の収
185 容手続は行政手続であるから,
186 これらの規定の直接適用はできず,
187 準用・類推適用あるいは他
188 の規定(憲法第13条,
189 第31条)の適用によって憲法的な保障が及ぶかどうかの検討が求め
190 られる。
191
192 行政手続としての身体の拘束の際の手続的保障について判断した判例は見当たらない
193 ため,
194 憲法第35条と行政手続との関係が問題となった川崎民商事件判決(最大判昭和47年
195 11月22日刑集26巻9号554頁)や,
196 憲法第31条と行政手続との関係について判断し
197 た成田新法事件判決(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)を参考に,
198 判断枠組
199 みを設定することが必要となる。
200
201 このほか,
202 憲法第34条の抑留拘禁要件との関係で,
203 特労法
204 第18条ないし第19条所定の手続の性質を検討する視点もあり得よう。
205
206
207 甲の主張としては,
208 例えば,
209 人身の自由に対する重大な制約である身柄の拘束については原
210 則として,
211 裁判官による令状,
212 あるいは少なくとも,
213 行政官であっても第三者的な立場の者に
214 よる事前審査が必要であるが審査官はそうした立場の者ではないとした上で,
215 例外を認める特
216 段の事由のないことを指摘することとなる。
217
218 甲の立場からは,
219 例えば,
220 令状等を要することが
221 原則だとしても緊急逮捕(刑事訴訟法第210条)のように事後に直ちに令状等を求める制度
222 もあり得るから迅速性の要請は充足できること,
223 禁止事項該当性が明らかであることと手続的
224 保障の必要性とは別問題であること,
225 事後的に収容理由が告知されたり弁解が聴取されても,
226
227 それと事前手続の必要性とは別問題であること,
228 さらに,
229 同じく事後的に裁判所の審査が受け
230 られるといっても,
231 短期間に出国させられてしまう以上実効性に欠けること,
232 などを指摘する
233 ことが考えられる。
234
235
236 これに対して,
237 国は,
238 出入国や滞在については国家主権に属する事項であって外国人の権利
239 保障の程度が下がること,
240 刑事責任追及に結び付くものではないこと,
241 手続の迅速性(緩やか
242 な要件で入国を認める以上,
243 受け入れた外国人に問題がある場合には迅速に出国させることに
244 より我が国の秩序を守り国民の安心を得る必要があること)の要請があること,
245 退去強制事由
246 該当性が明らかであること,
247 収容後直ちに収容理由の告知・弁解の聴取がなされ,
248 警備官とは
249 別の立場である審査官による審査もあること,
250 更に裁判所への出訴も可能であること,
251 などを
252 主張することができるだろう。
253
254
255 出入国管理及び難民認定法による現実の外国人出入国管理制度においては,
256 主任審査官が発
257 付する収容令書によって退去強制事由に該当する容疑のある者を収容することができるとされ
258 ている(同法第39条)。
259
260 これと本問の新制度とは別個のものであり,
261 解答に当たって現実の
262 制度への言及やそれとの比較を行うことは求められていないが,
263 必要な範囲でそれに言及する
264 ことがあったとしてももちろん構わない。
265
266
267 なお,
268 本問では国家賠償請求訴訟が提起されているが,
269 憲法上の主張の検討が求められてい
270 るのであるから,
271 国家賠償法上の違法性の判断枠組みやそれを前提にした具体的検討を中心に
272 据えるのは適当ではないだろう。
273
274
275
276 - 2 -
277
278 〔第2問〕
279 本問は,
280 道路法第8条により市町村道としての認定を受けていた道路(以下「本件市道」と
281 いう。
282
283 )に,
284 本件市道に隣接する保育園(以下「本件保育園」という。
285
286 )を経営する社会福祉法
287 人Aが簡易フェンス(以下「本件フェンス」という。
288
289 )を設置し,
290 さらに,
291 本件市道を管理す
292 るY市が同法第10条第1項に基づき本件市道の路線を廃止してAに売り渡すことを検討して
293 いるという事案における法的問題について論じさせるものである。
294
295 論じさせる問題は,
296 本件市
297 道の路線がまだ廃止されていない状態における本件フェンスを撤去させるための抗告訴訟(〔設
298 問1〕)及びY市長が本件市道を廃止した場合を想定した取消訴訟(〔設問2〕)である。
299
300 問題
301 文と資料から基本的な事実関係を把握し,
302 同法の関係規定の趣旨を読み解いた上で,
303 非申請型
304 義務付け訴訟における訴訟要件及び一定の処分がされないことの違法事由並びに取消訴訟にお
305 ける処分性及び本案の違法事由について論じることを求めるものである。
306
307
308 〔設問1〕は非申請型義務付け訴訟の訴訟要件に関する基本的な理解を問うものである。
309
310
311 行政事件訴訟法第3条第6項第1号及び第37条の2の規定に従って,
312 本件フェンスを撤去さ
313 せるために道路管理者Y市長が道路法第71条第1項の規定に基づき行うべき処分を「一定の
314 処分」として具体的に特定した上で,
315 当該処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそ
316 れがあるか,
317 また,
318 その損害を避けるため他に適当な方法がないか,
319 そして原告適格の有無に
320 ついて論じなければならない。
321
322
323 重大な損害を生ずるおそれの検討に当たっては,
324 損害の回復の困難の程度を考慮し,
325 損害の
326 性質及び程度並びに処分の内容及び性質を勘案した上で,
327 本件市道を,
328 X2が小学校への通学
329 路として利用できないこと及びXらが災害時の避難路として利用ができないこと(以下「本件
330 被侵害利益」という。
331
332 )がそれぞれ「重大な損害」に当たるかどうかについて論じることが求
333 められる。
334
335
336 損害を避けるための他に適当な方法の検討に当たっては,
337 参考判例に示されているように「通
338 行の自由権」を主張して民事訴訟によるAに対する妨害排除請求の可能性があることを指摘し,
339
340 それが「他に適当な方法」に当たるかどうかを検討することが求められる。
341
342
343 原告適格の検討に当たっては,
344 行政事件訴訟法第37条の2第4項で準用されている同法第
345 9条第2項の規定に基づき,
346 道路法第71条第1項及び第43条第2号の規定の趣旨・目的を
347 踏まえ,
348 本件被侵害利益がこれらの規定によって考慮されているか,
349 また本件被侵害利益の内
350 容・性質及びそれが害される態様・程度を勘案しなければならない。
351
352
353 〔設問1〕は,
354 道路管理者による「一定の処分」がなされないことが違法であるかどうか
355 を論じさせるものである。
356
357 道路法第71条第1項第1号は「この法律(中略)に違反している
358 者」に対して監督処分が可能としているため,
359 まず,
360 Aによる本件フェンスの設置行為が同法
361 第43条第2号に違反しているかどうかを,
362 道路管理者の要件裁量の有無も含めて検討しなけ
363 ればならない。
364
365 その上で,
366 Aの行為が同法第43条第2号に違反していると評価された場合で
367 も,
368 同法第71条第1項第1号は,
369 監督処分を行うかどうか,
370 いかなる監督処分を行うかにつ
371 いて道路管理者の効果裁量を認めていることを指摘した上で,
372 一方ではXらが受ける本件被侵
373 害利益,
374 他方でY市側が主張するような諸事情が,
375 裁量権を行使するに当たって考慮すべき事
376 項に当たるか,
377 考慮に当たってどの程度重視されるべきかについて検討することが求められる。
378
379
380 〔設問2〕は,
381 取消訴訟の訴訟要件である処分性に関する理解を問う問題である。
382
383 Y市長
384 が道路法第10条第1項に基づき行うことが想定される本件市道の路線の廃止が,
385 行政事件訴
386 訟法第3条第2項に定める「行政庁の処分その他公権力の行使」に当たるかどうかを検討する
387 ことが求められている。
388
389
390 設問に示されているD弁護士の指示に従って道路法の規定を分析して,
391 道路の区域決定・供
392 用開始が敷地所有者及び道路通行者に対してそれぞれどのような法効果を及ぼすかを検討し,
393
394 道路法第10条第1項に基づくY市長による本件市道の路線の廃止が,
395 それらの法効果を一方
396
397 - 3 -
398
399 的に消滅させるものであることについて論じること,
400 道路通行者については,
401 当該市道を生活
402 上不可欠な道路として利用していた通行者の生活に著しい支障が生ずる場合があることを踏ま
403 えた上で論じることが求められる。
404
405
406 〔設問2〕は,
407 Y市長が道路法第10条第1項に基づき行うことが想定される本件市道の
408 路線の廃止の違法性の有無について論じさせるものである。
409
410 本件市道の路線の廃止は,
411 同法第
412 10条第1項「一般交通の用に供する必要がなくなつた」ことを要件にしていることを指摘し
413 た上で,
414 まず,
415 現に通行者による利用が存在して道路としての機能が喪失していない以上は同
416 条の要件を満たさないといえるのか,
417 それとも,
418 現に利用が存在しても,
419 通行者による利用の
420 程度の乏しさ,
421 代替的な交通路の存在などに鑑みて一般交通の用に供するに適さない状況があ
422 れば「必要がなくなつた」として廃止できるのかを検討し,
423 更に上記の要件該当性の判断につ
424 いて行政庁に裁量権が認められるのかを検討しなければならない。
425
426 また,
427 同法第10条第1項
428 が「廃止することができる」という文言を用いていること,
429 廃止するかどうかの判断に当たっ
430 て考慮される事項などの性質に着目して,
431 要件が充足されている場合において廃止するかどう
432 かの判断についても行政庁に裁量権が認められるのかを検討することが期待される。
433
434
435 その上で,
436 要件裁量又は効果裁量が認められる場合は,
437 裁量権の範囲の逸脱濫用の有無を検
438 討しなければならない。
439
440 Y市による調査が通行の実態を適切に調査できていないのではないか,
441
442 Xらが主張する本件被侵害利益が適切に考慮されていないのではないかなどの点について検討
443 することが求められる。
444
445
446 また,
447 Y市は道路法第10条第1項の路線廃止について,
448 隣接土地所有者の同意を必要とす
449 る内部基準を定め,
450 これをウェブサイトで公表しているが,
451 本件において,
452 当該内部基準の法
453 的性質及び,
454 本件において隣接土地所有者であるX1の同意が得られていないことが,
455 裁量権
456 の範囲の逸脱濫用の有無とどのように関係するかを検討することが求められる。
457
458
459 【民事系科目】
460 〔第1問〕
461 本問は,
462 Aが隣接するB所有の甲土地の一部(甲1部分・甲2部分)を自己所有の乙土地
463 (以下では,
464 甲1部分,
465 甲2部分と合わせて「本件土地」という。
466
467 )とともにCに賃貸し,
468 C
469 が乙土地及び甲1部分の上に丙建物を建築し,
470 診療所を営んでいたため,
471 Bが,
472 Cに対し,
473 所
474 有権に基づき甲1部分の明渡しを求めた事例(設問1),
475 その後に,
476 AがB所有の甲土地の
477 一部(甲1部分・甲2部分)を買い受け,
478 甲土地を甲1部分,
479 甲2部分等に分筆してその旨の
480 登記がされたが,
481 CがDとの間で丙建物について賃貸借契約を締結したことから,
482 Aが,
483 Cに
484 対し,
485 の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした事例(設問2),
486 さらに,
487 AC間の紛
488 争について和解が成立したが,
489 Aが本件土地をEに売却したため,
490 EがCに対して丙建物の収
491 去及び本件土地の明渡しを求めた事例(設問3)を素材として,
492 民法上の問題についての基礎
493 的な理解とともに,
494 その応用力を問う問題である。
495
496 当事者の利害関係を法的な観点から分析し
497 構成する能力,
498 その前提として,
499 様々な法的主張の意義及び法律問題相互の関係を正確に理解
500 し,
501 それに即して論旨を展開する能力などが試される。
502
503
504 設問1は,
505 賃借権の取得時効の要件とその成否に対する理解を問うことにより,
506 民法の基本
507 的知識及びそれに基づく論理構成力を問うものである。
508
509
510 設問1で問われているのは,
511 まず,
512 Bの所有権に基づく土地明渡訴訟に対し,
513 Cはどのよう
514 な反論をすることができるかである。
515
516 この場面では,
517 いわばCの弁護士の立場に立ってBの請
518 求を争う根拠を提示することが求められている。
519
520 丙建物を所有することによって甲1部分を占
521 有しているCが,
522 甲1部分のB所有を認めた上でBの請求を争う方法としては,
523 占有権原の抗
524 弁を主張することが考えられる。
525
526 Cは,
527 Aから甲1部分を賃借しているが,
528 Aには甲1部分の
529 所有権その他の賃貸権原がないから,
530 この賃借権をもって所有者Bに対抗することはできない。
531
532
533
534 - 4 -
535
536 そこで,
537 Cは,
538 甲1部分の賃借権の時効取得を主張することが考えられる。
539
540 用益期間の関係か
541 ら問題となるのは,
542 起算点をCの占有開始時(平成16年10月1日)とする10年の時効取
543 得である。
544
545
546 次に,
547 反論が認められるために必要な要件,
548 すなわち賃借権の取得時効の要件を説明するこ
549 とが求められている。
550
551 ここでは,
552 実体法上の要件について説明をすることが求められており,
553
554 その対象はCが主張・証明責任を負う抗弁の要件事実に限られない。
555
556
557 民法第163条・第162条第2項によると,
558 賃借権の10年の取得時効の要件は,
559 「10
560 年間」
561 「賃借権を」
562 「自己のためにする意思をもって」
563 「平穏に」かつ「公然と」
564 「行使すること」,
565
566 賃借権の行使の開始の時に「善意であり」かつ「過失がなかったこと」である。
567
568 そして,
569 「賃
570 借権を行使すること」は民法第601条によると「物の使用及び収益」である。
571
572 また,
573 「自己
574 のためにする意思」は,
575 賃借権の取得時効については「賃借意思」として具体化される(物の
576 用益と賃借意思が相まって賃借権の行使の意味内容を示すという理解もある)。
577
578 賃借意思は,
579
580 使用借権や地上権の取得時効と区別するために必要である。
581
582 なお,
583 賃借意思の有無は,
584 民法第
585 162条の「所有の意思」の判断と同じく,
586 占有取得の原因たる事実(権原の性質)によって
587 客観的に定められる。
588
589 判例(最判昭和43年10月8日民集22巻10号2154頁)も,
590 不
591 動産賃借権の取得時効の要件として,
592 不動産の継続的な用益という外形的事実と,
593 賃借意思の
594 客観的表現を挙げている。
595
596 また,
597 民法第145条により,
598 時効の利益を受けるには時効の援用
599 が必要である。
600
601
602 最後に,
603 Cの反論の当否について検討することが求められており,
604 この場面では,
605 いわば裁
606 判官の立場に立ってBの請求の当否を検討することが求められている。
607
608
609 まず,
610 判例(最判昭和62年6月5日集民151号135頁)は,
611 本問と同じく他人物が賃
612 貸された事案において賃借権の時効取得を認めているが,
613 かかる事案については賃借権の時効
614 取得を認めない説もあり,
615 また賃借権の時効取得を一般的に否定する説もあるので,
616 賃借権の
617 時効取得を一般的に認める場合にもそうでない場合にも,
618 その理由を挙げて検討することが望
619 ましい。
620
621
622 他人物が賃貸された事案において賃借権の時効取得を認める場合には,
623 次に,
624 その要件が充
625 足されるか否かが問題となる。
626
627
628 特に問題となるのは,
629 Cが用益を開始した時点である。
630
631 Cが甲1部分の占有を開始したのは
632 平成16年10月1日であるが,
633 実際にその利用を開始したのは本件工事が始まった平成17
634 年6月1日である。
635
636 前者が時効の起算点だとすると10年の時効が完成していることになるが,
637
638 後者が起算点だとすると10年の時効は完成していないことになる。
639
640 そのため,
641 Bによる時効
642 中断の可能性と関連付けるなどして,
643 いずれの時点が時効の起算点となるかを検討する必要が
644 ある。
645
646
647 また,
648 賃借意思の客観的表現とCの無過失という要件については,
649 その要件に当てはまる具
650 体的事実を【事実】から拾い上げることが求められる。
651
652
653 設問2は,
654 建物所有を目的とする土地賃貸借契約がされた場合において,
655 賃借人がその土地
656 の上に有する建物を賃貸人の知らないうちに第三者に賃貸したときに,
657 賃借人はその上に建物
658 がある土地部分を無断転貸したこととなり,
659 賃貸人は土地賃貸借契約を民法第612条により
660 解除することができるか(下線部@),
661 土地賃貸借契約の目的物たる土地に含まれるがその上
662 に建物がない部分についてはどうか(下線部A)を問うものである。
663
664
665 この点に関しては,
666 土地賃借人がその所有する地上建物を第三者に賃貸しても,
667 その建物の
668 「敷地」を転貸したことにならないとする判例がある(大判昭和8年12月11日判決全集1
669 輯3号41頁)。
670
671 学説においても,
672 同様に解するのが通説である。
673
674 もっとも,
675 本問の賃貸人A
676 による解除が認められるかどうかについて,
677 この判例・通説に従うだけで一義的に答えが出る
678 わけではない。
679
680 判例・通説と同じ立場を採る場合であっても,
681 そこにいう「敷地」とは賃貸借
682
683 - 5 -
684
685 の目的とされた土地のうちどの土地部分を指すのかといった点の理解により,
686 Aの解除が認め
687 られるかどうか,
688 又はその結論となる理由が異なる可能性がある。
689
690 そこで,
691 本問に答えるため
692 には,
693 「敷地」はどの範囲に及ぶか,
694 その範囲となるのはなぜかを考える必要があり,
695 これを
696 考えるためには,
697 建物の賃貸によりその「敷地」について転貸がされたこととならないのはな
698 ぜかを明らかにすることが必要になる。
699
700
701 これに対し,
702 建物を利用するためにはその「敷地」の利用が必要となることから,
703 建物の賃
704 貸はその「敷地」の利用権の設定を当然に伴うとして,
705 「敷地」についても転貸がされたと認
706 めること(以下「反対説」という。
707
708 )も,
709 論理的にはあり得る。
710
711 この反対説を採る場合には,
712
713 判例・通説の基礎を踏まえつつ,
714 そのように解すべき理由を明らかにすることが求められる。
715
716
717 設問2においてAによる解除の可否を論ずるためには,
718 解除の原因を明らかにしなければな
719 らない。
720
721 本問における事実関係の下では,
722 Cの無断転貸を理由とする民法第612条による解
723 除が考えられる。
724
725
726 民法第612条による解除に関して,
727 下線部@では,
728 賃借人Cが借地上に所有する建物を第
729 三者Dに賃貸した場合,
730 Cはそれにより民法第612条に違反したことになるかが問題となる。
731
732
733 判例・通説は,
734 上述のとおり,
735 土地賃借人による地上所有建物の第三者への賃貸は「敷地」の
736 転貸に当たらないとしている。
737
738 これによると,
739 下線部@の事実のみでは,
740 Aによる解除は認め
741 られないことになる。
742
743
744 ところが,
745 下線部Aの事実は,
746 Dが,
747 CD間の丙賃貸借契約によって,
748 本件土地のうちその
749 上に建物がない土地部分(甲2土地)も使用することを認められ,
750 現に使用していることを示
751 している。
752
753 甲2土地が判例・通説のいう建物の「敷地」に含まれるのであれば,
754 Aによる解除
755 は認められない。
756
757 甲2土地が「敷地」に含まれないのであれば,
758 Aによる解除が認められる可
759 能性がある。
760
761 そこで,
762 甲2土地が「敷地」に含まれるのかどうかを,
763 そのように解する理由を
764 付して明らかにすることが求められることになる。
765
766
767 これを考えるためには,
768 そもそも借地上建物の賃貸によりその建物の「敷地」が転貸された
769 ことにならない理由を明らかにする必要がある。
770
771 建物の使用は必然的にその敷地の使用を伴う
772 とみて,
773 建物の賃貸による敷地の転貸を肯定することも論理的には可能である。
774
775 そうであれば,
776
777 建物の賃貸による敷地の転貸の否定は何らかの規範的判断の結果であることになり,
778 その規範
779 的判断が敷地の範囲を画する規準(の1つ)になるはずだからである。
780
781
782 次に,
783 甲2土地についてCからDへの転貸が認められるとする場合には,
784 Aによる承諾の有
785 無が問題になる。
786
787 Aがこの転貸につき個別の承諾をしたことを示す事実はない。
788
789 もっとも,
790 A
791 は,
792 本件土地を一団のものとして賃貸借契約の目的物とし,
793 その一団の土地につきCの建物所
794 有を契約目的とする本件土地賃貸借契約を締結したことから,
795 包括的に,
796 Cが敷地以外の土地
797 部分につき建物の使用とそれに付随する使用を建物賃借人にさせることを承諾していたとする
798 ことも,
799 論理的には成り立ち得る。
800
801 ただし,
802 その場合には,
803 甲2土地を敷地から除外したこと
804 との論理的整合性が問題になる。
805
806
807 さらに,
808 甲2土地の転貸につきAの承諾がないとしても,
809 更に不動産賃貸借契約について確
810 立した法理である信頼関係破壊の法理に照らしてAの解除が認められるかどうかを検討する必
811 要がある。
812
813
814 この検討に際しては,
815 まず,
816 Aは,
817 無断転貸により信頼関係が破壊されたと認められる場合
818 に解除することができるのか,
819 無断転貸があれば原則として解除することができるが,
820 信頼関
821 係が破壊されたと認められない特段の事情がある場合には別であるとされるのか(判例(最判
822 昭和28年9月25日民集7巻9号979頁ほか)・通説はこの立場である。
823
824 )を,
825 理由を付し
826 て明らかにすることが望ましい。
827
828 その上で,
829 信頼関係の破壊に係る判断に際して考慮すべき事
830 実を拾い出し,
831 それらの事情を総合的に考慮した上で結論を出すことになる。
832
833
834 なお,
835 下線部@の事実により既にCはDに本件土地を転貸したことになるとする反対説を採
836
837 - 6 -
838
839 る場合には,
840 下線部Aの事実は,
841 転貸範囲の拡大及び転借人による目的物の直接利用のために,
842
843 賃貸人Aに不利益を生じさせる危険が増大する,
844 という意味を持つことになる。
845
846 このことを踏
847 まえて,
848 Aによる解除の可否を論ずる必要がある。
849
850
851 以上のとおり,
852 本問においては,
853 下線部@及びAが有する法律上の意義について種々の考え
854 方ないし立場があり得るところであり,
855 Aによる解除の可否の判断も異なり得る。
856
857 それらの考
858 え方ないし立場のうちいずれを採るか,
859 あるいは解除の可否につきいずれと考えるかそれ自体
860 によって,
861 評価の上で優劣がつけられることはない。
862
863 評価に際しては,
864 どの考え方ないし立場
865 を採る場合であっても,
866 あるいは解除の可否につきいずれの結論とする場合であっても,
867 その
868 理由が説得的に述べられているかどうか,
869 その考え方ないし立場から本問の事実を踏まえて論
870 理的にも実質的にも適切な結論が導かれているかどうかが重視される。
871
872
873 設問3は,
874 複数筆の土地が建物所有を目的とする1個の賃貸借の目的物とされたが,
875 それら
876 の土地のうちの一部の上にのみ建物があり,
877 その建物につき土地賃借人の所有名義の登記がさ
878 れている場合に,
879 その登記による賃借権の土地取得者に対する効力は,
880 その上に建物のない別
881 筆の土地にも及ぶかどうか,
882 仮に及ばないときには,
883 土地取得者は所有権に基づいてその建物
884 のない筆の土地の返還を求めることができるかどうかを問うものである。
885
886 設問2と設問3は,
887
888 いずれも,
889 1個の賃借権の目的物となっている(複数筆の)土地のうち一部の上に建物がある
890 場合に,
891 その建物のあることが建物のない土地(部分)にどのような影響を及ぼすかを問題と
892 するものであるが,
893 設問2は,
894 当該賃貸借関係の当事者間においてこれを問題とするものであ
895 るのに対し,
896 設問3は,
897 賃借人と当該土地の取得者との間でこれを問題とするものである。
898
899
900 Cは,
901 Eの請求に対し,
902 まず,
903 占有権原(賃借権)があることをもって反論することが考え
904 られる。
905
906 本件土地賃貸借契約は,
907 建物所有を目的とするもので借地借家法の適用があるため,
908
909 この反論は,
910 甲1土地及び乙土地については,
911 Cが,
912 Eの本件土地の所有権取得の登記に先立
913 って,
914 甲1土地及び乙土地上に所有する丙建物につき自己名義の保存登記を備えたことにより
915 (借地借家法第10条第1項),
916 認められることになる。
917
918
919 これに対し,
920 甲2土地は,
921 Eが現れた時点では,
922 【事実】12に記載の事情により甲1土地及
923 び乙土地とは別筆の土地となっており,
924 甲2土地につき賃借権の登記(民法第605条)がさ
925 れたことを示す事実はなく(この点は,
926 甲1土地及び乙土地についても同じである。
927
928 ),
929 また,
930
931 その上に建物が存在しないため借地借家法第10条第1項が適用されることもない。
932
933 したがっ
934 て,
935 Cは,
936 本来,
937 賃借権をもってEに反論することができないものと考えられる。
938
939
940 もっとも,
941 本件土地賃貸借契約は,
942 もともと甲1土地及び乙土地のほか甲2土地を含む一筆
943 の土地を目的として締結されたものである。
944
945 また,
946 本件土地の周りには公道に面する南側を除
947 いて柵が張り巡らされているから,
948 甲2土地は,
949 外形上も,
950 甲1土地及び乙土地と一団の土地
951 を成している。
952
953 さらに,
954 甲2土地は丙建物を利用するために不可欠とはいえないが,
955 甲2土地
956 を利用することができなければ丙建物の経済的効用が減じられ,
957 Dの診療所の患者も不便を強
958 いられる可能性もある。
959
960 こういった事情に鑑みれば,
961 甲2土地についても,
962 Eの請求に対して
963 Cに何らかの反論が認められないかを検討する必要がある。
964
965
966 仮にCの反論が認められる場合には,
967 Cは特別の保護を受ける一方で,
968 Eはその所有権の行
969 使を例外的に制限されることになる。
970
971 そのため,
972 Cの反論が認められるのは,
973 Eにおいてその
974 ような制限を受けても仕方がないと認められる事情があるときに限られる。
975
976
977 このようにEの主観的事情を考慮してCが保護されるかどうかを判断する構成としては,
978 @
979 Eの請求が権利濫用に当たるかどうかを判断するもの(以下「権利濫用構成」という。
980
981 )と,
982
983 ACE間の争いをEがCの賃借権の対抗要件の不存在を主張するものと見て,
984 Eがその主観的
985 事情において対抗要件の不存在を主張する正当な利益を有しない者(民法第177条の「第三
986 者」から除外される者に相当するもの)に当たるかどうかを判断するもの(以下「対抗関係構
987 成」という。
988
989 )があり得る。
990
991
992
993 - 7 -
994
995 対抗関係構成は,
996 Cの権利がEに対しても効力を有することが前提となっており,
997 ただ,
998 対
999 抗要件が備わっていないためにEに対してその効力を主張することができない,
1000 と法律構成す
1001 るものである。
1002
1003 しかし,
1004 Cの権利は賃借権であり,
1005 賃借権は,
1006 それが不動産に関するものであ
1007 っても債権であるとするのが民法の前提である。
1008
1009 そうであれば,
1010 対抗関係構成を採用する場合
1011 には,
1012 この民法の前提をどのように考えるかをまず説明することが望まれる。
1013
1014 他方,
1015 判例は,
1016
1017 本問のような場合に,
1018 別筆の隣地上にある丙建物の登記により甲2土地についても賃借権の土
1019 地取得者に対する効力が認められることはないとした上で(最判昭和40年6月29日民集1
1020 9巻4号1027頁,
1021 最判昭和44年10月28日民集23巻10号1854頁,
1022 最判平成9
1023 年7月1日民集51巻6号2251頁),
1024 権利濫用構成を採用している(前掲最判平成9年7
1025 月1日)。
1026
1027 もっとも,
1028 別の構成(対抗関係構成)も成り立ち得ると考えられる場合に権利濫用
1029 構成を採るのであれば,
1030 その理由を示すことが望ましい。
1031
1032 例えば,
1033 「Cの賃借権は,
1034 土地を目
1035 的とするものであっても債権であり,
1036 賃借権の登記又は借地上に所有する建物に自己所有名義
1037 の登記を備えることによって初めて土地取得者であるEに対する効力が認められる。
1038
1039 そのため,
1040
1041 Cが上記の登記を備えていない場合には,
1042 そもそもEとの間で対抗関係は生じない。
1043
1044 したがっ
1045 て,
1046 この場合には,
1047 Eは,
1048 所有権に基づいて甲2土地の明渡しを請求することができることに
1049 なるが,
1050 この請求は権利行使の一種であるから,
1051 例外的に権利濫用を基礎付ける事情がある場
1052 合にはその権利行使が否定され得る。
1053
1054 」というように実質的な理由を示すことが望まれる。
1055
1056
1057 Eの主張の権利濫用該当性を検討する場合には,
1058 権利濫用の判断枠組みを述べ,
1059 その枠組み
1060 の下で本問の諸事情に照らして結論を述べることが求められる。
1061
1062 権利濫用の一般的な判断枠組
1063 みについては,
1064 権利の行使と認められることにより権利者が得る利益(又は権利濫用とされる
1065 ことにより権利者が受ける不利益)の程度とその権利の行使により他の者又は社会が受ける不
1066 利益の程度を比較衡量し,
1067 さらに,
1068 権利者の主観的態様も併せて総合的に判断する,
1069 という考
1070 え方が判例・学説上定着している。
1071
1072 これ以外の枠組みを採ることが否定されるものではないが,
1073
1074 別の枠組みを採るのであれば,
1075 定着した考え方をあえて否定する理由を示す必要がある。
1076
1077
1078 これに対し,
1079 Eの請求の可否を対抗関係構成により判断する場合には,
1080 まず,
1081 対抗要件制度
1082 の趣旨に照らし,
1083 その主観的態様のため対抗要件の不存在を主張することができない第三者に
1084 つき一般的な立場を示した上で,
1085 本問の諸事情の下でどのように解すべきかを検討する必要が
1086 ある。
1087
1088 対抗関係構成の下でEがその主観的態様により例外的に第三者性を否定されることがな
1089 いかどうかを検討するのは,
1090 Cの賃借権を特別に保護すべき場合に当たるかどうかを判断する
1091 ためである。
1092
1093 そのため,
1094 Eの主観的態様による上記検討に関して,
1095 不動産賃借権の特別の保護
1096 とそのための要件設定の趣旨がどのような意味を持つかを考慮することが望ましい。
1097
1098
1099 以上の考え方とは異なり,
1100 借地借家法第10条第1項の趣旨の理解次第で,
1101 C名義の丙建物
1102 の登記により甲2土地についてもCがその賃借権をEに主張することが認められる(本問でい
1103 えば,
1104 丙建物の登記による甲2土地への賃借権の効力の拡張を認める)とすることも考えられ
1105 る。
1106
1107 もっとも,
1108 これは本則に対する例外を認めようとするものであるから,
1109 そのような論理を
1110 展開するのであれば,
1111 例外を正当化するに足る十分な根拠を挙げ,
1112 かつ,
1113 その根拠に照らして
1114 例外が認められるべき範囲を明らかにした上で,
1115 甲2土地についてのCの賃借権の主張がその
1116 例外に該当することを述べる必要がある。
1117
1118
1119 〔第2問〕
1120 本問は,
1121 @発起人が取引の相手方に対し設立費用について未払額を残した状態で会社が成立
1122 した場合において設立費用の総額が定款に記載した金額を超えていたときの設立費用の負担
1123 (設問1),
1124 A定款に記載がない財産引受けの効力及び当該財産引受けの追認の許否等(設
1125 問1),
1126 B買収者が対象会社の少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた
1127 株式の併合に係る株主総会の決議の取消事由及び無効事由(設問2),
1128 C株式の併合により株
1129
1130 - 8 -
1131
1132 式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手続や反対株主の株式買取請求
1133 (設問3)に関する理解等を問うものである。
1134
1135
1136 設問1においては,
1137 判例は,
1138 設立費用の全部又は一部が未払の状態で会社が成立した場合
1139 には,
1140 債務は,
1141 定款に記載した金額(会社法第28条第4号)の範囲で,
1142 成立後の会社に帰属
1143 し,
1144 その金額の範囲では,
1145 取引の相手方は,
1146 成立後の会社に対し,
1147 弁済等を請求することがで
1148 き,
1149 発起人に対しては,
1150 弁済等を請求することができないという立場を採っていること(大判
1151 昭和2年7月4日民集6巻428頁,
1152 大判昭和8年3月27日法学2巻1356頁)を明らか
1153 にするとともに,
1154 判例に賛成し,
1155 又は反対するいずれかの立場から,
1156 その当否を検討すること
1157 が求められる。
1158
1159
1160 判例に賛成する見解としては,
1161 設立費用の総額が定款に記載した金額を超えていた場合にお
1162 いては,
1163 債務は,
1164 @契約を締結した順序により,
1165 契約を締結した順序が明らかでないときは,
1166
1167 債務の額に応じた按分の方法により,
1168 定款に記載した金額の範囲で,
1169 成立後の会社に帰属する
1170 というものや,
1171 A契約を締結した順序にかかわらず,
1172 債務の額に応じた按分の方法により,
1173 定
1174 款に記載した金額の範囲で,
1175 成立後の会社に帰属するというものなどが考えられる。
1176
1177 他方で,
1178
1179 判例に反対する見解としては,
1180 債務は,
1181 @定款に記載した金額の範囲であっても,
1182 成立後の会
1183 社に帰属せず,
1184 取引の相手方は,
1185 発起人に対し,
1186 弁済等を請求することができるにとどまり,
1187
1188 弁済等をした発起人が,
1189 定款に記載した金額の範囲で,
1190 成立後の会社に対し,
1191 求償をすること
1192 ができるにすぎないというものや,
1193 A定款に記載した金額にかかわらず,
1194 全て成立後の会社に
1195 帰属し,
1196 取引の相手方は,
1197 成立後の会社に対し,
1198 弁済等を請求することができ,
1199 定款に記載し
1200 た金額を超えている部分については,
1201 会社が,
1202 発起人に対し,
1203 求償をすることができるという
1204 もの,
1205 B取引の相手方は,
1206 会社及び発起人のいずれに対しても,
1207 弁済等を請求することができ
1208 るというものなどがある。
1209
1210 判例に賛成し,
1211 又は反対するいずれの立場を採る場合であっても,
1212
1213 これらの見解といわゆる設立中の会社の概念や発起人の権限の範囲との関係を意識し,
1214 甲社が
1215 Dから求められた賃料60万円の支払及びEから求められた報酬40万円の支払を拒否するこ
1216 とができるかどうかについて,
1217 事案に即して説得的に論ずることが望まれる。
1218
1219
1220 設問1においては,
1221 甲社の代表取締役Cから相談を受けた弁護士の立場に立って,
1222 判例が,
1223
1224 定款に記載がない財産引受けは,
1225 無効であり,
1226 譲渡人も無効を主張することができ,
1227 会社成立
1228 後,
1229 株主総会の特別決議をもってこれを承認しても,
1230 有効とならず,
1231 成立後の会社が追認して
1232 も,
1233 有効とならないとしていること(最判昭和28年12月3日民集7巻12号1299頁,
1234
1235 最判昭和42年9月26日民集21巻7号1870頁,
1236 最判昭和61年9月11日裁判集民1
1237 48号445頁)を意識しながら,
1238 本件購入契約に関する会社法上の問題点として,
1239 定款に記
1240 載がない財産引受けの効力及び当該財産引受けの追認の許否について,
1241 説得的に論ずることが
1242 求められる。
1243
1244 その上で,
1245 甲社が本件機械の引渡しを受けるために採ることができる方法及びこ
1246 れに必要となる会社法上の手続について,
1247 判例に賛成する見解からは,
1248 甲社がFから本件機械
1249 を購入する契約を改めて締結しなければならず(この場合には,
1250 Fの増額要求をある程度受け
1251 入れるのもやむを得ないであろう。
1252
1253 ),
1254 そのために,
1255 本問においては,
1256 本件機械の価額及び甲社
1257 の純資産額等に照らし,
1258 本件機械の取得が事後設立に当たり,
1259 株主総会の特別決議によって,
1260
1261 当該契約の承認を受けなければならないこと(会社法第467条第1項第5号,
1262 第309条第
1263 2項第11号)に言及しながら,
1264 事案に即して検討することが望まれる。
1265
1266 他方で,
1267 判例に反対
1268 し,
1269 定款に記載がない財産引受けの追認を認める見解からは,
1270 本件購入契約を追認することが
1271 考えられるが,
1272 そのために,
1273 本問においては,
1274 本件機械の価額及び甲社の純資産額等に照らし,
1275
1276 株主総会の特別決議によって,
1277 当該契約の承認を受けなければならないと考えられること(同
1278 法第467条第1項第5号類推,
1279 第309条第2項第11号類推)などに言及しながら,
1280 事案
1281 に即して検討することが望まれる。
1282
1283
1284 設問2においては,
1285 乙社の創業者の一族である株主Gが,
1286 平成28年7月11日を効力発生
1287
1288 - 9 -
1289
1290 日とする株式の併合により株主の地位を失ったとしても,
1291 本件決議の取消しにより株主の地位
1292 を回復するので,
1293 本件決議の取消しの訴えについて原告適格を有すること(会社法第831条
1294 第1項柱書き後段)を前提として,
1295 Gの立場から,
1296 買収者である甲社が対象会社である乙社の
1297 少数株主を会社から退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合に係る本件決議の取消
1298 事由について論ずるとともに,
1299 その無効事由についても,
1300 事案に即して説得的に論ずることが
1301 求められる。
1302
1303
1304 本件決議の取消事由として,
1305 第1に,
1306 本件持株会の会員であるKが,
1307 株主名簿に記載されて
1308 いる株主でないにもかかわらず,
1309 本件持株会理事長Hの代理人として議決権を行使したことが,
1310
1311 株主総会の決議の方法の定款違反(会社法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて,
1312
1313 株主は,
1314 代理人によってその議決権を行使することができる(同法第310条第1項)が,
1315 乙
1316 社の定款第16条は,
1317 議決権を行使する株主の代理人の資格を当該会社の株主に制限している
1318 ところ,
1319 判例が,
1320 そのような定款の規定は,
1321 株主総会が,
1322 株主以外の第三者によって攪乱され
1323 ることを防止し,
1324 会社の利益を保護する趣旨に出たものと認められ,
1325 合理的な理由による相当
1326 程度の制限ということができるから,
1327 有効であるとしていること(最判昭和43年11月1日
1328 民集22巻12号2402頁)を前提として,
1329 そのような趣旨も踏まえて,
1330 検討することが求
1331 められる。
1332
1333 例えば,
1334 Kは,
1335 株主名簿上の株主ではないが,
1336 実質的に乙社の株主であることをど
1337 のように評価するかが検討対象となろう。
1338
1339
1340 第2に,
1341 乙社の代表取締役Jは本件株主総会において株式の併合をすることを必要とする理
1342 由を説明している(会社法第180条第4項)が,
1343 Jの説明の内容に照らし,
1344 その説明が株主
1345 総会の決議の方法の法令違反(同法第831条第1項第1号)に当たるか否かについて,
1346 事案
1347 に即して検討することが求められる。
1348
1349
1350 第3に,
1351 Iの相続人である株主Lに議決権を行使させなかったことが,
1352 株主総会の決議の方
1353 法の法令違反(会社法第831条第1項第1号)に当たるか否かなどについて,
1354 株式の譲渡の
1355 対抗要件に関する同法第130条第1項が株式の相続にも適用されるか否かに言及しながら,
1356
1357 事案に即して検討することが求められる。
1358
1359
1360 第4に,
1361 買収者である甲社の代表取締役Cが甲社を代表して議決権を行使しているところ,
1362
1363 本件決議が,
1364 株主総会の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによ
1365 る著しく不当な決議(会社法第831条第1項第3号)に当たるか否かについて,
1366 事案に即し
1367 て検討することが求められる。
1368
1369
1370 本件決議の無効事由としては,
1371 買収者である甲社が対象会社である乙社の少数株主を会社か
1372 ら退出させる(締め出す)目的で行われた株式の併合が,
1373 株主平等原則(会社法第109条第
1374 1項)に違反するか否かについて,
1375 論ずることが求められる。
1376
1377
1378 設問3においては,
1379 平成28年7月11日を効力発生日とする株式の併合により乙社の株式
1380 を失うこととなる株主Lの経済的利益が会社法上どのように保護されるかについて,
1381 説明及び
1382 検討することが求められる。
1383
1384
1385 まず,
1386 株式の併合により株式の数に1株に満たない端数が生ずるときの当該端数の処理の手
1387 続(会社法第235条,
1388 第234条第2項から第5項まで)について説明する必要がある。
1389
1390
1391 次に,
1392 反対株主の株式買取請求(会社法第182条の4)についても説明することが求めら
1393 れる。
1394
1395 その際には,
1396 株主Lは,
1397 本件株主総会に先立って株式の併合に反対する旨を乙社に対し
1398 通知したが,
1399 本件株主総会の会場への入場を認められなかったため,
1400 本件株主総会において株
1401 式の併合に反対していないこと(同法第182条の4第2項第1号参照)から,
1402 株主Lが乙社
1403 に対し株式買取請求をすることができるかどうかについて,
1404 同法第130条第1項が株式の相
1405 続にも適用されるか否かについての設問2における検討と整合的かつ説得的に論ずることが求
1406 められる。
1407
1408
1409 例えば,
1410 株式の相続は「株式の譲渡」(会社法第130条第1項)に当たらないとの立場を
1411
1412 - 10 -
1413
1414 採ると,
1415 相続人は名義書換えをすることなく,
1416 株式の取得を会社に対抗することができ,
1417 した
1418 がって,
1419 Lは本件株主総会において議決権を行使することができた株主となる。
1420
1421 この場合には,
1422
1423 前述のとおり,
1424 形式的には,
1425 Lは同法第182条の4第2項第1号に規定する株主の要件を満
1426 たしていないものの,
1427 その原因が,
1428 Lが本件株主総会の会場への入場を求めたにもかかわらず,
1429
1430 これを乙社の受付担当者が代表取締役Jの指示に基づき不当に拒否したことにあるから,
1431 乙社
1432 は同号の規定によるLからの株式買取請求を信義則上拒否することができないと解し,
1433 又はL
1434 は同項第2号に規定する株主(「当該株主総会において議決権を行使することができない株主」)
1435 に当たり,
1436 Lは乙社に対し株式買取請求をすることができると解することが考えられよう。
1437
1438
1439 他方で,
1440 株式の相続は「株式の譲渡」(会社法第130条第1項)に含まれるとの立場を採
1441 ると,
1442 相続人は株主総会に係る議決権行使の基準日までに名義書換えをしなければ,
1443 株式の取
1444 得を会社に対抗することができず,
1445 したがって,
1446 Lは本件株主総会において議決権を行使する
1447 ことができなかった株主となる。
1448
1449 この場合には,
1450 Lが乙社に対し株式買取請求をすることがで
1451 きるかどうかについて,
1452 同法第182条の4第2項第2号に規定する株主(「当該株主総会に
1453 おいて議決権を行使することができない株主」)に,
1454 株主総会の基準日以前に議決権を有する
1455 株式を取得しながら名義書換えを怠った者(株主総会の基準日後に株主名簿の名義書換えをし
1456 た株主)が含まれるか否かに言及しながら,
1457 検討することが期待される(なお,
1458 この点に関す
1459 る裁判例として,
1460 例えば,
1461 東京地決平成21年10月19日金判1329号30頁,
1462 東京地決
1463 平成25年9月17日金判1427号54頁参照)。
1464
1465
1466 〔第3問〕
1467 本問は,
1468 Xが贈与契約に基づき本件絵画の引渡しを求めたのに対し,
1469 Yがその取引は時価相
1470 当額を代金額とする売買契約であってその額は300万円であると主張したという紛争を基本
1471 的な題材として,
1472 @当事者が代理人による契約締結の事実を主張していない中で,
1473 証拠上その
1474 事実の心証が得られた場合において,
1475 その事実を判決の基礎にすることができるか(設問1),
1476
1477 A裁判所として200万円と引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をするためには,
1478 当事者
1479 からどのような申立てや主張がされる必要があるか(設問2),
1480 また,
1481 そのような申立てや
1482 主張がされたという前提の下で,
1483 220万円又は180万円との引換給付判決をすることがで
1484 きるか(設問2),
1485 B引換給付判決のうち反対給付に係る部分の裁判所の判断が後訴に対し
1486 て何らかの拘束力を有するか(設問3)に関して,
1487 検討することを求めるものである。
1488
1489
1490 まず,
1491 設問1では,
1492 民事訴訟において,
1493 裁判の基礎となる資料の収集を当事者の責任とする
1494 原則(いわゆる弁論主義)が妥当し,
1495 その一環として,
1496 裁判所は当事者が主張しない事実を判
1497 決の基礎にしてはならないとの原則(いわゆる主張原則)が妥当すること,
1498 一般的に,
1499 主張原
1500 則の対象となる事実は少なくとも主要事実を含むと解されていることを前提に,
1501 代理の主要事
1502 実は何かを明らかにした上で,
1503 代理人による契約締結の事実を認定することの可否を検討する
1504 ことが求められる。
1505
1506 また,
1507 この点については,
1508 判例(最判昭和33年7月8日民集12巻11
1509 号1740頁)もあるところ,
1510 本件において,
1511 Aの証人尋問がされ,
1512 AがYの代理人として契
1513 約を締結した旨を述べたにもかかわらず,
1514 当事者はこれを問題にしなかったという事情の下で,
1515
1516 主張原則との関係をどのように評価するかの検討も必要である。
1517
1518 設問1は,
1519 弁論主義に関する
1520 ごく基礎的な理解を問う問題である。
1521
1522
1523 設問2では,
1524 裁判所として200万円と引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をするた
1525 めに当事者からどのような申立てや主張がされる必要があるかを検討する前提として,
1526 裁判所
1527 は当事者が申し立てていない事項について判決をすることができないという申立拘束原則(民
1528 事訴訟法第246条)を指摘した上で,
1529 問題文に記載されたとおり,
1530 本件の訴訟物の捉え方を
1531 示すことが求められる。
1532
1533 そこでは,
1534 @いわゆる旧訴訟物理論に立ち,
1535 売買に基づく引渡請求権
1536 と贈与に基づく引渡請求権とは訴訟物が異なるとする立場,
1537 A同じく旧訴訟物理論に立ちつつ
1538
1539 - 11 -
1540
1541 も,
1542 債権的請求である以上両者は訴訟物として同一であるとする立場,
1543 Bいわゆる新訴訟物理
1544 論に立ち,
1545 売買と贈与とで原因が異なっても同一の目的物の給付を求めるのであるから,
1546 訴訟
1547 物は同一であるとする立場など,
1548 種々の立場が考えられるが,
1549 どのような立場でも,
1550 論理的に
1551 筋が通った答案が展開されていれば同様に評価した。
1552
1553
1554 本件において,
1555 Xは,
1556 「仮にこの取引が売買であり,
1557 本件絵画の時価相当額が代金額である
1558 としても,
1559 その額は200万円にすぎない。
1560
1561 」と主張しており,
1562 その法的な意味合いを明確に
1563 すべきところ,
1564 旧訴訟物理論のうち,
1565 債権的契約につき契約ごとに異なる訴訟物を構成すると
1566 の立場からは,
1567 裁判所が上記の引換給付判決をするためには,
1568 Xから,
1569 予備的請求として,
1570 売
1571 買契約に基づく本件絵画の引渡請求を追加的に併合する訴えの変更(民事訴訟法第143条)
1572 の申立てがされることが必要となる。
1573
1574 その際,
1575 同時履行の抗弁はYから主張することを要する
1576 権利抗弁であるため,
1577 Xの予備的請求として「200万円の支払を受けるのと引換えに本件絵
1578 画の引渡しを求める」旨の限定を付す必要はなく,
1579 単純に,
1580 売買契約に基づき本件絵画の引渡
1581 しを求めることとなることに留意すべきである。
1582
1583 他方,
1584 新訴訟物理論の立場,
1585 あるいは旧訴訟
1586 物理論のうち,
1587 贈与によっても売買によっても債権的請求として訴訟物は変わらないとする立
1588 場からは,
1589 Xの申立てとしては,
1590 訴状における本件絵画の引渡請求で十分であり,
1591 贈与又は売
1592 買の主張は攻撃方法の位置付けとなるため,
1593 この申立てに対して,
1594 売買を理由に200万円と
1595 引換えに本件絵画の引渡しを命ずる判決をすることは,
1596 申立拘束原則には抵触しないものと考
1597 えられる。
1598
1599
1600 次に,
1601 Yは,
1602 「本件絵画をXに時価相当額で売却し,
1603 その額は300万円である。
1604
1605 」と主張し
1606 ているところ,
1607 その主張の位置付けについては,
1608 訴訟物の捉え方によって多少説明は異なるこ
1609 とになるが,
1610 @主位的な請求原因又は主張(贈与)とA予備的な請求原因又は主張(売買)を
1611 構成する各事実との関係で,
1612 それぞれ否認か自白かを整理するとともに,
1613 裁判所が上記の引換
1614 給付判決をするためには,
1615 上記Aに対して,
1616 Yから権利抗弁である同時履行の抗弁権の主張が
1617 明確にされる必要があることを指摘することが求められる。
1618
1619
1620 設問2では,
1621 設問2で必要とされた各当事者の申立てや主張がされたという前提の下で,
1622
1623 220万円又は180万円との引換給付判決をすることの可否が問われているが,
1624 220万円
1625 はXが主張する時価相当額(200万円)とYが主張する時価相当額(300万円)との間に
1626 あるのに対し,
1627 180万円はその間にはない(Xの主張額より更にXに有利である。
1628
1629 )という
1630 違いに着目しつつ,
1631 申立拘束原則と弁論主義の双方の観点から検討することが求められる。
1632
1633 申
1634 立拘束原則は,
1635 原告の意思の尊重と権利主張の権限及び責任のほか,
1636 被告の敗訴リスクの上限
1637 を画するという意義を有するところ,
1638 本件では,
1639 請求の趣旨としては単純に本件絵画の引渡し
1640 を求めるものであり,
1641 上記の引換給付判決も基本的にはXの合理的意思に反しないものと考え
1642 られるが,
1643 他方,
1644 Yの敗訴リスクの関係では,
1645 時価相当額が220万円又は180万円のいず
1646 れと判断されるかにより評価が分かれる可能性があることなどを踏まえ,
1647 事案に即して論ずる
1648 必要がある。
1649
1650 また,
1651 弁論主義に関しては,
1652 220万円や180万円という金額自体は両当事者
1653 とも主張していないが,
1654 本件では本件絵画の時価相当額を代金額とすることにつき主張が一致
1655 しており,
1656 時価相当額の評価が分かれているにすぎないことや,
1657 220万円や180万円とい
1658 う金額は,
1659 Xの主張額(200万円)とかけ離れた額ともいい難いこと等を踏まえて論ずるこ
1660 とが期待される。
1661
1662
1663 設問3では,
1664 確定判決は主文に包含するものに限り既判力を有すること(民事訴訟法第11
1665 4条第1項)を指摘した上で,
1666 同項所定の「主文に包含するもの」とは一般的に訴訟物と理解
1667 されていることや,
1668 設問2における前訴の訴訟物の捉え方を前提にして,
1669 後訴の訴訟物(旧
1670 訴訟物理論では,
1671 本件絵画の売買契約に基づくYのXに対する200万円の代金請求権)との
1672 関係で前訴判決の既判力が及ぶか否かを論ずることが求められる。
1673
1674
1675 この点について,
1676 引換給付の旨は前訴判決の主文に掲げられてはいるが,
1677 その趣旨は,
1678 双務
1679
1680 - 12 -
1681
1682 契約における牽連性を強制執行との関係においても保障するため,
1683 債権者が反対給付又はその
1684 提供をしたことを証明したときに限り強制執行を開始することができること(民事執行法第3
1685 1条第1項)を主文において明らかにする点にあり,
1686 主文に掲げられていることからストレー
1687 トに既判力又はこれに準ずる効力等の拘束力が導かれるというわけではないことに留意する必
1688 要がある。
1689
1690
1691 また,
1692 本問では,
1693 既判力などの制度的効力を否定する場合には,
1694 既判力以外の理由,
1695 例えば
1696 信義則などにより,
1697 Xが本件絵画の売買契約の成否及びその代金額を後訴で争えなくなるか否
1698 かについて検討することも求められる。
1699
1700 具体的には,
1701 前訴においてXは予備的に売買契約の成
1702 立を主張していること,
1703 前訴で認定された200万円という代金額は,
1704 予備的ではあるものの
1705 X自身の主張額であること,
1706 売買契約の存否及びその代金額は引換給付判決をするために不可
1707 欠の判断対象であること,
1708 他方で,
1709 Yとしては,
1710 自らがXに対して200万円の売買代金請求
1711 権を有することにつき既判力のある判断を得たければ,
1712 前訴において反訴を提起することがで
1713 きたことなどの事情をどのように評価するかが一つのポイントとなろう。
1714
1715 また,
1716 信義則の適用
1717 に際しては,
1718 前訴が本人訴訟であり第一審で判決が確定していることや,
1719 後訴に至った事情な
1720 どを評価する必要の有無も,
1721 検討対象となろう。
1722
1723
1724 【刑事系科目】
1725 〔第1問〕
1726 本問は,
1727 甲が,
1728 Aから,
1729 B信販会社が発行したA名義のクレジットカード(以下「本件ク
1730 レジットカード」という。
1731
1732 )について,
1733 腕時計Xを購入するためだけに利用することを条件と
1734 して借りたところ,
1735 その条件に反することを認識しつつ,
1736 時計店店主Cに対し,
1737 腕時計Xと腕
1738 時計Yの購入を申し込み,
1739 本件クレジットカードを手渡した上,
1740 売上票用紙にAの名前を記入
1741 して手渡し,
1742 腕時計Xと腕時計Yを購入したこと,
1743 甲と乙が,
1744 Aが甲の顔面を殴ろうとして
1745 きたのを防ぐため,
1746 正面からAに体当たりし,
1747 路上に仰向けに倒れているAを押さえ付けるな
1748 どし,
1749 更に乙が右手に持った石でAの顔面を1発殴り,
1750 Aに全治約1か月間を要する鼻骨骨折
1751 の傷害を負わせたこと,
1752 甲と乙が,
1753 失神したAの様子を見てAが死亡したと思い,
1754 Aが強盗
1755 に襲われて死んだように見せ掛けようと考え,
1756 Aのズボンのポケットから財布1個を持ち去っ
1757 たことなどを内容とする事例について,
1758 甲及び乙の罪責を検討させることにより,
1759 刑事実体法
1760 及びその解釈論の知識と理解を問うとともに,
1761 具体的な事実関係を分析し,
1762 その事実に法規範
1763 を適用する能力並びに論理的な思考力及び論述力を試すものである。
1764
1765
1766 以下では,
1767 甲が本件クレジットカードを利用して腕時計を購入した行為について,
1768 甲の罪
1769 責を述べ,
1770 甲と乙がAに暴行を加えて傷害を負わせた行為及び甲と乙がAのズボンのポケ
1771 ットから財布を持ち去った行為について,
1772 甲及び乙の罪責を述べることとする。
1773
1774
1775
1776
1777 甲が本件クレジットカードを利用して腕時計を購入した行為について
1778 会社員甲は,
1779 自宅近くのショッピングモール内にある時計店で,
1780 腕時計X(販売価格10
1781 万円)を見付け,
1782 勤務先会社の同僚Aから金を借りて腕時計Xを購入しようと考え,
1783 Aに電
1784 話をかけ,
1785 10万円を貸してほしいと頼んだが,
1786 Aから断られた。
1787
1788 そこで,
1789 甲は,
1790 Aに対し
1791 て,
1792 クレジットカードを貸してほしいと頼んだところ,
1793 Aは,
1794 甲に対して,
1795 本件クレジット
1796 カードを腕時計Xを購入するためだけに利用することを条件として貸すことにした。
1797
1798 甲は,
1799
1800 Aから本件クレジットカードを受け取り,
1801 同時計店に戻ったが,
1802 新たに見付けた腕時計Y(販
1803 売価格50万円)を,
1804 交際相手へプレゼントするために購入したいと考えた。
1805
1806 甲は,
1807 本件ク
1808 レジットカードを腕時計Xを購入するためだけに利用するというAとの約束に反すること,
1809
1810 今後,
1811 Aに合計60万円を支払うことができる確実な見込みがないことをそれぞれ認識しつ
1812 つ,
1813 時計店店主Cに対し,
1814 腕時計Xと腕時計Yの購入を申し込み,
1815 A本人であると装って本
1816 件クレジットカードを手渡した上,
1817 Cの求めに応じて,
1818 B信販会社の規約に従い利用代金を
1819
1820 - 13 -
1821
1822 支払う旨の記載がある売上票用紙の「ご署名(自署)」欄にAの名前を記入して手渡した。
1823
1824
1825 Cは,
1826 その署名を確認し,
1827 甲がA本人であって,
1828 本件クレジットカードの正当な利用権限を
1829 有すると信じ,
1830 甲に対して,
1831 腕時計Xと腕時計Yを合計60万円で売却した。
1832
1833 なお,
1834 本件ク
1835 レジットカードは,
1836 B信販会社が所有するものであり,
1837 B信販会社の規約には,
1838 会員である
1839 名義人のみが利用でき,
1840 他人への譲渡,
1841 貸与等が禁じられていることや,
1842 加盟店は,
1843 利用者
1844 が会員本人であることを善良な管理者の注意義務をもって確認することが定められている。
1845
1846
1847 甲が本件クレジットカードを利用して腕時計を購入した行為については,
1848 @詐欺罪(刑法
1849 第246条)の成否,
1850 A有印私文書偽造罪及び同行使罪(同法第159条第1項,
1851 同法第1
1852 61条第1項)の成否,
1853 B背任罪(同法第247条)又は横領罪(同法第252条第1項)
1854 の成否が問題となる。
1855
1856
1857 まず,
1858 甲は,
1859 本件クレジットカードを利用して腕時計Xと腕時計Yを購入したが,
1860 その際,
1861
1862 腕時計Xの購入についてはAから承諾を得ていたことから,
1863 名義人の承諾を得たにもかかわ
1864 らず,
1865 その承諾を超えて他人名義のクレジットカードを利用した行為について,
1866 詐欺罪の成
1867 否が問題となる。
1868
1869 そして,
1870 詐欺罪の成否を論じるに際しては,
1871 1項詐欺と2項詐欺のいずれ
1872 が成立するのかを理由付けを含めて簡潔に述べた上,
1873 欺罔行為の内容,
1874 その他の構成要件要
1875 素について,
1876 事実を指摘して具体的に論じる必要がある。
1877
1878
1879 次に,
1880 甲は,
1881 腕時計購入の際,
1882 Cの求めに応じ,
1883 B信販会社の規約に従い利用代金を支払
1884 う旨の記載がある売上票用紙の「ご署名(自署)」欄にAの名前を記入し,
1885 これをCに手渡
1886 しているところ,
1887 前記のとおり,
1888 甲は,
1889 Aから,
1890 腕時計Xの購入について本件クレジットカ
1891 ードを利用することの承諾を得ており,
1892 その利用時には売上票用紙にAの名前を記入するこ
1893 との承諾も得ていたと考えられることから,
1894 名義人の承諾がある場合の有印私文書偽造罪の
1895 成否が問題となる。
1896
1897 そして,
1898 名義人Aの承諾の有無が関係する「偽造」の要件,
1899 その他の偽
1900 造罪の要件,
1901 行使罪の「行使」の要件について,
1902 それぞれ事実を指摘して具体的に論じる必
1903 要がある。
1904
1905
1906 これらの詐欺罪,
1907 有印私文書偽造罪及び同行使罪については,
1908 甲は,
1909 名義人Aの承諾を得
1910 て借りた本件クレジットカードを用いて犯行に及んでいることから,
1911 甲の罪責として,
1912 Aと
1913 の共同正犯の成否についても簡潔に論じることが望ましい。
1914
1915
1916 さらに,
1917 Aとの約束に反して本件クレジットカードを利用した行為について,
1918 Aとの関係
1919 で犯罪が成立しないかが問題となる。
1920
1921 甲はAから許された本件クレジットカードを利用でき
1922 る地位・資格を濫用したと捉えて,
1923 背任罪が成立すると構成する見解,
1924 あるいは甲の地位・
1925 資格を化体した本件クレジットカード自体を横領したと捉えて,
1926 横領罪が成立すると構成す
1927 る見解が考えられるところ,
1928 いずれの見解でも,
1929 構成要件該当性について,
1930 事実を指摘して
1931 具体的に論じ,
1932 更に背任罪と横領罪の関係,
1933 不法な目的による委託信任関係の要保護性,
1934 既
1935 遂時期等について的確に論じる必要がある。
1936
1937
1938
1939
1940 甲と乙がAに暴行を加えて傷害を負わせた行為について
1941 甲と乙は,
1942 飲食店で偶然会ったAから嫌みを言われたことから,
1943 Aに気付かれないように
1944 同店を出て人気のない暗い路上を歩いていたところ,
1945 甲が同店から出たことに気付いたAに
1946 追い付かれた。
1947
1948 甲らの行為に怒ったAは,
1949 甲の顔面を殴ろうとして,
1950 右手の拳骨を甲の顔面
1951 に向けて突き出したが,
1952 これに気付いた甲は,
1953 Aの右手の拳骨をかわしながら,
1954 Aから殴ら
1955 れるのを防ぐため,
1956 乙に対して,
1957 「一緒にAを止めよう。
1958
1959 」と言い,
1960 乙は,
1961 甲がAから殴られ
1962 るのを防ごうと考え,
1963 「分かった。
1964
1965 」と答えた。
1966
1967 そこで,
1968 甲と乙が正面からAに体当たりした
1969 ところ,
1970 Aは路上に尻餅を付いた。
1971
1972 しかし,
1973 Aがすぐに立ち上がり,
1974 再び右手の拳骨で甲の
1975 顔面に殴りかかろうとした。
1976
1977 甲と乙は,
1978 甲がAから殴られるのを防ごうと考え,
1979 再び正面か
1980 らAに体当たりしたところ,
1981 Aが路上に仰向けに倒れた。
1982
1983 甲は,
1984 Aが再び立ち上がろうとす
1985 る様子を見て,
1986 Aから殴られないようにするため,
1987 乙に対して,
1988 「一緒にAを押さえよう。
1989
1990 」
1991
1992 - 14 -
1993
1994 と言い,
1995 乙は,
1996 甲がAから殴られるのを防ごうと考え,
1997 甲に対して,
1998 「分かった。
1999
2000 俺は上半
2001 身を押さえるから,
2002 下半身を押さえてくれ。
2003
2004 」と答えた。
2005
2006 そこで,
2007 甲は,
2008 仰向けに倒れてい
2009 るAの両膝辺りにAの足先の方向を向いてまたがり,
2010 Aの両足首を,
2011 真上から両手で力を込
2012 めて押さえ付け,
2013 乙は,
2014 仰向けに倒れているAの腰辺りにAの頭の方向を向いてまたがり,
2015
2016 Aの両上腕部を,
2017 真上から両手で力を込めて押さえ付けた。
2018
2019 しかし,
2020 Aは,
2021 身体をよじらせ
2022 ながら,
2023 「離せ。
2024
2025 甲,
2026 お前をぶん殴ってやる。
2027
2028 絶対に許さない。
2029
2030 覚悟しろ。
2031
2032 」と甲を大声で罵
2033 り,
2034 更に力を込めて体をよじらせた。
2035
2036 Aのその様子を見た乙は,
2037 甲がAから殴られるのを防
2038 ぐため,
2039 Aの腰辺りにまたがってAの右上腕部を真上から左手で力を込めて押さえ付けたま
2040 ま,
2041 Aの左上腕部に右膝を力を込めて押し当てた上,
2042 傍らに落ちていた石(直径10センチ
2043 メートルの丸形,
2044 重さ800グラム)を右手で拾い,
2045 右手に持ったその石で,
2046 Aの顔面を力
2047 を込めて1発殴った。
2048
2049 Aは,
2050 乙に石で顔面を殴られたことから,
2051 全治約1か月間を要する鼻
2052 骨骨折の傷害を負った。
2053
2054 なお,
2055 甲は,
2056 乙が石を拾ったことや乙が右手に持った石でAの顔面
2057 を殴り付けたことを全く認識していなかった。
2058
2059
2060 甲と乙がAに暴行を加えて傷害を負わせた行為について,
2061 甲及び乙の罪責を検討するに当
2062 たっては,
2063 @傷害罪(刑法第204条)の構成要件該当性及び共同正犯の成否,
2064 A正当防衛
2065 ないし過剰防衛の成否(同法第36条)について検討する必要がある。
2066
2067
2068 甲と乙は,
2069 甲が乙に「一緒にAを止めよう。
2070
2071 」と言い,
2072 乙が「分かった。
2073
2074 」と答えた後,
2075 A
2076 に体当たりするなどしていることから,
2077 現場で共謀を遂げた上,
2078 共同してAに暴行を加え始
2079 めたと認められる。
2080
2081 その後も両者の暴行は継続し,
2082 その過程で乙が右手に持った石でAの顔
2083 面を1発殴打してAに全治約1か月を要する鼻骨骨折の傷害を負わせたところ,
2084 甲が乙の傷
2085 害行為を認識していないものの,
2086 特に共謀が終了したと見るべき事情が存在しないと考えら
2087 れる場合,
2088 甲と乙は全体について共同正犯としての責任を負うかが問題になる。
2089
2090 そして,
2091 乙
2092 の殴打とAの傷害結果との間に因果関係を認めることができるので,
2093 乙の行為は傷害罪の構
2094 成要件に該当する。
2095
2096 さらに,
2097 自ら傷害の結果を惹起していない甲についても,
2098 結果的加重犯
2099 の共同正犯を肯定する立場では,
2100 傷害罪の構成要件該当性が肯定され,
2101 甲と乙は傷害罪の共
2102 同正犯と解されることになる。
2103
2104
2105 以上について,
2106 共謀が終了したと見るべき事情が存在しないかどうかを含め,
2107 事実を指摘
2108 して具体的に論じなければならない。
2109
2110 なお,
2111 乙の傷害行為は共謀に基づかないものと考えた
2112 場合,
2113 共謀を否定する理由を的確に論じた上で,
2114 甲については暴行罪の正当防衛の成否を,
2115
2116 乙については甲との共同正犯となる暴行罪の正当防衛の成否と合わせて,
2117 傷害罪の正当防衛
2118 ないし過剰防衛の成否を検討することになる。
2119
2120
2121 次に,
2122 正当防衛ないし過剰防衛の成否を検討するに当たっては,
2123 まず,
2124
2125 「急迫不正の侵害」,
2126
2127 「防衛の意思」について,
2128 簡潔に指摘する必要がある。
2129
2130 急迫不正の侵害については,
2131 Aが甲
2132 の顔面を殴ろうとして,
2133 右手の拳骨を甲の顔面に向けて突き出し,
2134 甲と乙に体当たりされて
2135 尻餅を付いた後も,
2136 すぐに立ち上がり再び右手の拳骨で甲の顔面に殴りかかろうとしたこと
2137 や,
2138 仰向けに倒されて押さえ付けられている間も,
2139 身体をよじらせながら,
2140 「離せ。
2141
2142 甲,
2143 お
2144 前をぶん殴ってやる。
2145
2146 絶対に許さない。
2147
2148 覚悟しろ。
2149
2150 」と甲を大声で罵り,
2151 更に力を込めて体
2152 をよじらせていたことを指摘した上で,
2153 乙がAの顔面を殴打した時点でも甲に対する急迫不
2154 正の侵害が継続していたことを述べる必要がある。
2155
2156 防衛の意思についても,
2157 甲と乙が,
2158 終始,
2159
2160 甲がAから殴られるのを防ぐためにAに暴行を加えていたことを指摘して,
2161 甲と乙の行為は,
2162
2163 いずれも同一の防衛の意思に基づくことを述べる必要がある。
2164
2165
2166 甲と乙の行為が「やむを得ずにした行為」と認められるか否かをめぐっては,
2167 「やむを得
2168 ずにした行為」の意義(防衛行為の必要性・相当性)を明らかにした上で,
2169 共同正犯におけ
2170 る防衛行為の相当性について,
2171 共同正犯者全員の行為を対象として判断するか,
2172 共同正犯者
2173 ごとに個別に判断するかを論じる必要がある。
2174
2175 また,
2176 乙がAの顔面を殴打した時点でも甲に
2177
2178 - 15 -
2179
2180 対する急迫不正の侵害が継続し,
2181 甲と乙の行為は,
2182 終始,
2183 同一の防衛の意思に基づく行為と
2184 認められることは上記のとおりであり,
2185 相当性の判断は、
2186 甲と乙の一連の行為を一体として
2187 行われるべきこと,
2188 いわゆる量的過剰は問題となっていないことを指摘しておく必要がある。
2189
2190
2191 その上で,
2192 甲と乙の行為が防衛行為として相当と認められるか否かは,
2193 甲と乙の一連の行
2194 為(体当たり,
2195 押さえ付け,
2196 顔面殴打)に関する事実を指摘して具体的に検討することが求
2197 められる。
2198
2199 例えば,
2200 乙がAの顔面を殴った行為は,
2201 既にAが仰向けに倒れた状態で甲と乙に
2202 押さえ付けられており,
2203 Aによる攻撃が当初より弱まっていたことや,
2204 Aが素手で甲に殴り
2205 かかろうとしたのに対し,
2206 乙が右手に持った石でAの顔面を殴ったことなどの各事実を踏ま
2207 え,
2208 防衛行為として相当性の範囲を逸脱したか否かが論じられるべきである。
2209
2210
2211 防衛行為の相当性について,
2212 共同正犯者全員の行為を対象として判断し,
2213 甲と乙の一連の
2214 行為が防衛行為の相当性の範囲を逸脱したと認めた場合には,
2215 甲と乙のいずれについても,
2216
2217 客観的には過剰防衛と評価されることになり,
2218 乙には過剰防衛が成立する。
2219
2220 甲については,
2221
2222 乙が石を拾ったことや乙が右手に持った石でAの顔面を殴り付けたことを全く認識しておら
2223 ず,
2224 過剰性を基礎付ける事実を認識していなかったため,
2225 違法性阻却事由の錯誤が問題とな
2226 る。
2227
2228 違法性阻却事由の錯誤に関する自らの立場を明らかにした上で結論を導き出すことが求
2229 められる。
2230
2231 例えば,
2232 事実の錯誤説に基づき,
2233 甲は乙の過剰行為を認識していなかったことか
2234 ら,
2235 傷害罪の故意を阻却することが考えられる。
2236
2237 そこでは,
2238 更に過失傷害罪(刑法第209
2239 条第1項)の成否が問題となり,
2240 甲が乙の過剰行為を認識していなかった点について,
2241 過失
2242 の有無を検討する必要がある。
2243
2244 過失傷害罪の成立を認める場合には,
2245 過剰防衛の任意的減免
2246 (同法第36条第2項)の準用の可否も問われることになる。
2247
2248
2249 以上と異なり,
2250 防衛行為の相当性を共同正犯者ごとに個別に判断し,
2251 甲の行為は防衛行為
2252 として相当であるが,
2253 乙の行為は防衛行為として相当性の範囲を逸脱したと認めた場合には,
2254
2255 甲には正当防衛が成立し,
2256 乙には過剰防衛が成立することになる。
2257
2258
2259
2260
2261 甲と乙がAのズボンのポケットから財布を持ち去った行為について
2262 甲と乙は,
2263 失神したAを見てAが死亡したと思い,
2264 乙が甲に対して,
2265 「Aが強盗に襲われ
2266 て死んだように見せ掛けよう。
2267
2268 Aの財布を探して捨ててしまおう。
2269
2270 」と言ったところ,
2271 甲が
2272 乙に対して,
2273 「そうしよう。
2274
2275 」と答えた。
2276
2277 もっとも,
2278 甲は,
2279 「財布は捨ててもいいが,
2280 もった
2281 いないから中の現金はもらい,
2282 借金の返済に使おう。
2283
2284 」と考えていたが,
2285 乙にその考えを話
2286 さなかった。
2287
2288 甲と乙は,
2289 財布を探し,
2290 甲がAのズボンのポケット内に財布1個があるのを見
2291 付け,
2292 同ポケットから同財布を取り,
2293 同財布を甲の上着ポケットにしまった。
2294
2295 乙は,
2296 甲が現
2297 金入りのまま同財布を捨ててくれると思っていた。
2298
2299 甲と乙は,
2300 そのまま甲宅へ向かい,
2301 甲は,
2302
2303 乙が帰宅した後,
2304 甲宅において,
2305 上着ポケットにしまったままの現金入りの同財布を取り出
2306 して現金4万円を抜き取って自分のものとし,
2307 同財布を甲宅の押し入れ内に隠した。
2308
2309
2310 甲と乙がAのズボンのポケットから財布を持ち去った行為について,
2311 甲及び乙の罪責を検
2312 討するに当たっては,
2313 @窃盗罪(刑法第235条)の客観的構成要件該当性,
2314 A死者の占有,
2315
2316 B不法領得の意思,
2317 C共同正犯の成否(同法第60条)を検討する必要がある。
2318
2319
2320 まず,
2321 窃盗罪の客観的構成要件該当性については,
2322 甲と乙がAのズボンのポケットから財
2323 布を奪った時点でAは生きており,
2324 財布に対するAの占有が認められるので,
2325 甲がAのズボ
2326 ンのポケットから財布を取って,
2327 同財布を甲の上着ポケットにしまった行為が,
2328 客観的には
2329 窃盗罪の窃取に該当することを簡潔に指摘しておくべきである。
2330
2331
2332 次に,
2333 甲と乙がAから財布を奪った時点で,
2334 甲と乙はAが死亡したものと認識していたた
2335 め,
2336 窃盗罪の故意に関してAの占有を侵害する認識が認められるかが問題となる。
2337
2338 死者の占
2339 有について,
2340 判例の立場(最判昭和41年4月8日刑集20巻4号207頁等)による場合
2341 には,
2342 「被害者からその財物の占有を離脱させた自己の行為を利用して財物を奪取した」と
2343 認められるかを検討しなければならない。
2344
2345 そして,
2346 Aの占有を侵害する認識を肯定する場合,
2347
2348
2349 - 16 -
2350
2351 客観的に窃盗罪の構成要件に該当するのみならず,
2352 窃盗罪の故意が認められる。
2353
2354 Aの占有を
2355 侵害する認識を否定する場合は,
2356 Aの財布を占有離脱物と認識していたことになり,
2357 客観的
2358 には窃盗罪の構成要件に当たるとしても,
2359 主観的には占有離脱物横領罪の認識を有している
2360 にすぎないこととなるので,
2361 抽象的事実の錯誤であることを指摘し,
2362 「構成要件の重なり合
2363 い」の有無を論じる必要がある。
2364
2365
2366 さらに,
2367 甲は「財布の中の現金はもらい,
2368 借金の返済に使おう。
2369
2370 」と考え,
2371 乙は「財布を
2372 捨ててしまおう。
2373
2374 」と考え,
2375 Aから財布を奪っていることから,
2376 窃盗罪又は占有離脱物横領
2377 罪の不法領得の意思が問題となるところ,
2378 不法領得の意思の要否及び内容を明らかにした上,
2379
2380 事実を具体的に指摘してその存否を認定する必要がある。
2381
2382
2383 不法領得の意思について,
2384 権利者排除意思と利用処分意思のいずれも必要とする判例の立
2385 場で,
2386 乙に利用処分意思が認められないと考えれば,
2387 乙は器物損壊罪の構成要件に該当する
2388 ことになる。
2389
2390 この立場では,
2391 甲がAから取った財布を甲の上着ポケットにしまったまま甲宅
2392 に向かい,
2393 同財布を甲宅の押し入れ内に隠した行為が器物損壊の「損壊」に該当することの
2394 説明が簡潔になされることを要する。
2395
2396 乙は,
2397 甲に対して,
2398 「Aが強盗に襲われて死んだよう
2399 に見せ掛けよう。
2400
2401 」と言っているので,
2402 犯跡隠滅目的にも利用処分意思が認められると考え
2403 れば,
2404 乙も窃盗罪又は占有離脱物横領罪の構成要件に該当することになるが,
2405 その場合は,
2406
2407 犯跡隠滅目的に利用処分意思を認める理由が的確に説明されなければならない。
2408
2409 他方,
2410 不法
2411 領得の意思について,
2412 不要説又は権利者排除意思のみで足りるとする立場によれば,
2413 乙も窃
2414 盗罪又は占有離脱物横領罪の構成要件に該当することになるが,
2415 その場合は,
2416 判例と異なる
2417 立場に立つ理由を的確に示す必要がある。
2418
2419
2420 最後に,
2421 共同正犯の成否が取り上げられる。
2422
2423 甲が窃盗罪又は占有離脱物横領罪,
2424 乙が器物
2425 損壊罪の各構成要件に該当すると考えた場合には,
2426 異なる構成要件間における共同正犯の成
2427 否が問題となるところ,
2428 共同正犯における共同実行の意義(行為共同説と犯罪共同説の対立)
2429 について簡潔に説明した上,
2430 結論を導き出さねばならない。
2431
2432
2433
2434
2435 最後に,
2436 甲及び乙について,
2437 罪数を論じる必要がある。
2438
2439
2440
2441 〔第2問〕
2442 本問は,
2443 覚せい剤取締法違反事件の捜査及び公判に関する事例を素材に,
2444 そこに生起する刑
2445 事手続法上の問題点,
2446 その解決に必要な法解釈,
2447 法適用に当たって重要な具体的事実の分析及
2448 び評価並びに結論に至る思考過程を論述させることにより,
2449 刑事訴訟法に関する基本的学識,
2450
2451 法適用能力及び論理的思考力を試すものである。
2452
2453
2454 〔設問1〕は,
2455 甲に対する覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)の被疑事実で甲方の捜索差
2456 押許可状の発付を受けた司法警察員が,
2457 甲方の捜索差押えを実施する際,
2458 甲方ベランダの柵を
2459 乗り越え,
2460 掃き出し窓のガラスを割って解錠して甲方に入ったこと(下線部@),
2461 甲方にいた
2462 甲と同居する内妻の乙が携帯していたハンドバッグ内を捜索したこと(下線部A),
2463 甲方にい
2464 た丙のズボンのポケット内を捜索したこと(下線部B)につき,
2465 それぞれ,
2466 その適法性を論じ
2467 させることにより,
2468 捜索差押許可状に基づく捜索についての正確な理解と具体的事実への適用
2469 能力を試すものである。
2470
2471
2472 下線部@は,
2473 捜索に伴う付随的措置である「必要な処分」(刑事訴訟法第222条第1項,
2474
2475 第111条第1項)として許容される法的根拠及びその限界を問うとともに,
2476 甲方ベランダの
2477 掃き出し窓を割って解錠して甲方に入った措置が令状の呈示前に行われていることの適否を問
2478 うものである。
2479
2480
2481 この点に関し,
2482 被疑者に対する覚せい剤取締法違反事件につき,
2483 被疑者が宿泊しているホテ
2484 ル客室に対する捜索差押許可状の執行に当たり,
2485 捜索差押許可状の呈示に先立って警察官らが,
2486
2487 捜索差押許可状執行の動きを察知されれば,
2488 覚せい剤事犯の前科もある被疑者において,
2489 直ち
2490
2491 - 17 -
2492
2493 に覚せい剤を洗面所に流すなど短時間のうちに差押対象物件を破棄隠匿するおそれがあったた
2494 め,
2495 ホテル支配人からマスターキーを借りた上,
2496 来意を告げることなく,
2497 施錠された被疑者の
2498 客室ドアを開けて室内に入り,
2499 その後直ちに被疑者に捜索差押許可状を呈示したという事案に
2500 おいて,
2501 「以上のような事実関係の下においては,
2502 捜索差押許可状の呈示に先立って警察官ら
2503 がホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した措置は,
2504 捜索差押えの実効性を確保する
2505 ために必要であり,
2506 社会通念上相当な態様で行われていると認められるから,
2507 刑訴法222条
2508 1項,
2509 111条1項に基づく処分として許容される。
2510
2511 また,
2512 同法222条1項,
2513 110条によ
2514 る捜索差押許可状の呈示は,
2515 手続の公正を担保するとともに,
2516 処分を受ける者の人権に配慮す
2517 る趣旨に出たものであるから,
2518 令状の執行に着手する前の呈示を原則とすべきであるが,
2519 前記
2520 事情の下においては,
2521 警察官らが令状の執行に着手して入室した上その直後に呈示を行うこと
2522 は,
2523 法意にもとるものではなく,
2524 捜索差押えの実効性を確保するためにやむを得ないところで
2525 あって,
2526 適法というべきである。
2527
2528 」と判示した判例(最決平成14年10月4日刑集56巻8
2529 号507頁)があり,
2530 同判例に留意しつつ,
2531 「必要な処分」として許容される限界及び令状呈
2532 示時期に関する判断枠組みを明らかにした上で,
2533 本設問の事例に現れた具体的事実が,
2534 その判
2535 断枠組みにおいてどのような意味を持つのかを意識しながら,
2536 下線部@の行為の適法性を検討
2537 する必要がある。
2538
2539
2540 本設問の事例においては,
2541 甲方を拠点にした組織性が疑われる覚せい剤の密売事案であるこ
2542 と,
2543 水に流すなどして短時間に隠滅することが容易な覚せい剤が差押対象物件となっているこ
2544 と,
2545 覚せい剤は立証上重要な証拠であること,
2546 甲は覚せい剤取締法違反の前科3犯を有する者
2547 であり,
2548 初犯者と比較して警察捜査に関する知識経験を有していると考えられること,
2549 事前の
2550 捜査によって甲方には甲のほか乙,
2551 丙が出入りしており,
2552 捜索時に複数人が在室している可能
2553 性があったこと,
2554 甲が玄関ドアチェーンをつけたままで配達員に応対していたことなどから,
2555
2556 捜査員が甲方室内に入るまでに時間を要する可能性が高い状況であるとともに,
2557 甲の協力が得
2558 られる可能性が低い状況にあると認められたこと,
2559 司法警察員Pが甲方玄関先の呼び鈴を鳴ら
2560 したところ,
2561 甲がドアチェーンを掛けたままドアを開けたことを具体的に指摘し,
2562 司法警察員
2563 Qらがベランダの窓ガラスを割って解錠して室内に入った措置について,
2564 捜索差押えの実効性
2565 を確保するために必要性があるのか,
2566 その態様は社会通念上相当な範囲内にあるのかといった
2567 観点から評価することが求められる。
2568
2569
2570 また,
2571 手続の公正担保及び処分を受ける者の利益保護という令状呈示の趣旨から,
2572 令状呈示
2573 は,
2574 執行着手前に行われることが原則であることを論じ,
2575 事前呈示の要請と現場保存の必要性
2576 等に係る上記事情等を指摘・考量した上で,
2577 本件措置が令状呈示前に行われたことの適否を論
2578 じることが求められる。
2579
2580
2581 下線部Aは,
2582 刑事訴訟法が,
2583 捜索の対象を「身体」,
2584
2585 「物」,
2586
2587 「住居その他の場所」に分類し(刑
2588 事訴訟法第222条第1項,
2589 第102条),
2590 これに従って捜索令状に処分の対象を特定して記
2591 載することを要求している(同法第219条第1項)ところ,
2592 特定の「場所」に対する捜索差
2593 押許可状の効力が,
2594 令状には明示的に記載のない「物」に及ぶことはあるのか,
2595 それはいかな
2596 る場合であって,
2597 どのような理由に基づいて認められるのかを問うものである。
2598
2599
2600 この点に関し,
2601 「警察官は,
2602 被告人の内妻であった甲に対する覚せい剤取締法違反被疑事件
2603 につき,
2604 同女及び被告人が居住するマンションの居室を捜索場所とする捜索差押許可状の発付
2605 を受け・・・・・・,
2606 右許可状に基づき右居室の捜索を実施したが,
2607 その際,
2608 同室に居た被告人が携
2609 帯するボストンバッグの中を捜索したというのであって,
2610 右のような事実関係の下においては,
2611
2612 前記捜索差押許可状に基づき被告人が携帯する右ボストンバッグについても捜索できるものと
2613 解するのが相当である」と判示した判例(最決平成6年9月8日刑集48巻6号263頁)が
2614 あるが,
2615 同判例は捜索が適法との結論を導くに当たり,
2616 飽くまで「右のような事実関係の下に
2617 おいては・・・・・・捜索できるものと解するのが相当である」と説示するにとどまり,
2618 特にその理
2619
2620 - 18 -
2621
2622 由を明示していないため,
2623 同判例に留意しつつ,
2624 場所に対する令状によって,
2625 その場所に居住
2626 する人がその場で携帯する物に対する捜索ができるかについての自説を各自が展開することが
2627 求められる。
2628
2629
2630 基本的な考え方としては,
2631 場所に対する捜索差押許可状の効力は,
2632 当該場所の管理権者と当
2633 該場所にある物の管理権者が同一である場合には,
2634 場所に付属するものとして当該物にも及ぶ
2635 一方で,
2636 第三者の管理下にある物については,
2637 当該令状によって制約されることとなる管理権
2638 に服するものでない以上,
2639 その効力は及ばないという考え方が一般的であると思われるところ,
2640
2641 本設問の事例においては,
2642 乙は甲と同居する内妻であること,
2643 乙は,
2644 司法警察員Qらが入室し
2645 た時点で右手にハンドバッグを所持し,
2646 その後も継続して所持していることを具体的に指摘し
2647 た上で,
2648 同バッグに甲の管理権が及んでいるかどうかを検討し,
2649 同バッグの捜索の適法性を論
2650 じることが求められる。
2651
2652 また,
2653 同バッグは乙の管理権が及ぶものであるとした上で,
2654 甲方を捜
2655 索場所とする令状によって乙の管理権も制約されることになるかといった観点から,
2656 捜索の適
2657 法性を論じることも可能である。
2658
2659
2660 下線部Bは,
2661 前記のとおり,
2662 刑事訴訟法は,
2663 捜索の対象として「場所」と「身体」とを区別
2664 しているところ(同法第219条第1項),
2665 「場所」に対する捜索差押許可状によって「身体」
2666 に対する捜索を行うことが許されることはあるかを問うものである。
2667
2668
2669 場所に対する捜索差押許可状の効力は,
2670 人の身体には及ばない以上,
2671 捜索すべき場所に居合
2672 わせた者の身体について捜索を実施することは当然には許されないものの,
2673 例外的にそれが許
2674 される場合があるか否か,
2675 許される場合があるとしていかなる場合にどのような理由で許され
2676 ると解すべきかについての自説を各自が展開し,
2677 本設問に現れた具体的事実を的確に指摘,
2678 評
2679 価して,
2680 本件捜索の適法性を論じることが求められる。
2681
2682 その際,
2683 具体的事実を本設問の事例中
2684 からただ書き写して羅列すればよいというものではなく,
2685 それぞれの事実が持つ意味を的確に
2686 分析して論じる必要がある。
2687
2688
2689 本設問の事例では,
2690 差押対象物件は,
2691 覚せい剤,
2692 ビニール袋,
2693 注射器,
2694 手帳,
2695 メモなどの比
2696 較的小さい物が含まれていること,
2697 事前捜査により甲は甲方を拠点に覚せい剤を密売して
2698
2699 いる疑いがあったこと,
2700 丙は甲方に頻繁に出入りしていたこと,
2701 司法警察員Qらが甲方
2702 に入室した時点で丙が右手をポケットに入れていたこと,
2703 丙が右手を抜いた後もポケッ
2704 トが膨らんだ状態であったこと,
2705 丙が時折ポケットを触るなど気にする素振り等を示し
2706 ていたこと,
2707 丙は司法警察員Qからポケットの中身を尋ねられても答えなかったこと,
2708
2709 丙が再びポケットに手を入れてトイレに向かって歩き出したこと,
2710 丙は司法警察員Qの
2711 制止を無視して黙ったままトイレに入ろうとしたことを具体的に指摘し,
2712 それぞれの事
2713 実が持つ意味を的確に分析,
2714 評価して,
2715 自説への具体的な当てはめを行う必要がある。
2716
2717
2718 また,
2719 捜索を行うこと自体を適法とした場合には,
2720 司法警察員Qが丙の右腕を引っ張っ
2721 てポケットから引き抜き更にポケット内に手を差し入れた行為が,
2722 刑事訴訟法第222
2723 条第1項,
2724 第111条第1項の「必要な処分」として又は(「必要な処分」として考える
2725 までもなく)本来行うべき捜索そのものとして許容されるか否かを論じる必要がある。
2726
2727
2728 [設問2]は,
2729 甲証言をめぐる弁護人と検察官の証拠の取調べ請求のやり取りを素材
2730 として,
2731 刑事訴訟法第328条で許容される証拠の範囲を問うものである。
2732
2733 具体的には,
2734
2735 証拠1(甲を取り調べた司法警察員P作成に係る甲の供述要旨を記載した捜査報告書),
2736
2737 証拠2(司法警察員P作成に係る甲の供述録取書)及び証拠4(司法警察員Q作成に係
2738 る乙の供述録取書)は,
2739 甲証言と矛盾する内容であり,
2740 証拠3(検察官R作成に係る甲
2741 の供述録取書)は,
2742 甲証言と一致する内容であるところ,
2743 設問2−1は,
2744 同条により許
2745 容される証拠は自己矛盾供述に限られるか否か(証拠2,
2746 証拠4),
2747 供述者の署名押印を
2748 欠くものも含まれるか(証拠1)を問うものである。
2749
2750 設問2−2は,
2751 仮に設問2−1で
2752
2753 - 19 -
2754
2755 甲証言の証明力を争うための証拠として取り調べた証拠があったとして,
2756 証拠3が「甲
2757 証言の証明力を回復するため」の証拠として許容されるのか,
2758 すなわち,
2759 同条の「証明
2760 力を争うため」の証拠には,
2761 一旦減殺された証明力を回復させるための証拠も含まれる
2762 のかを問うものであるが,
2763 この点に関する最高裁判所の判例はなく,
2764 基本書等にはあま
2765 り記載がない分野であり,
2766 受験生の応用力を試すことを狙いとした設問である。
2767
2768
2769 設問2−1は,
2770 「刑訴法328条は,
2771 公判準備又は公判期日における被告人,
2772 証人その
2773 他の者の供述が,
2774 別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に,
2775 矛盾する供述をした
2776 こと自体の立証を許すことにより,
2777 公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用
2778 性の減殺を図ることを許容する趣旨のものであり,
2779 別の機会に矛盾する供述をしたとい
2780 う事実の立証については,
2781 刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが
2782 相当である。
2783
2784 そうすると,
2785 刑訴法328条により許容される証拠は,
2786 信用性を争う供述
2787 をした者のそれと矛盾する内容の供述が,
2788 同人の供述書,
2789 供述を録取した書面(刑訴法
2790 が定める要件を満たすものに限る。
2791
2792 ),
2793 同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又
2794 はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られるというべきである。
2795
2796 」と判示
2797 した判例(最判平成18年11月7日刑集60巻9号561頁)があり,
2798 同判例に留意
2799 しつつ,
2800 伝聞法則や刑事訴訟法第328条の趣旨を踏まえた論述が求められる。
2801
2802 同判例
2803 の立場に立てば,
2804 証拠1は甲の署名押印を欠くため,
2805 証拠4は乙の供述録取書であって
2806 甲の自己矛盾供述ではないため,
2807 いずれも,
2808 同条により証拠として許容されず,
2809 裁判所
2810 は証拠として取り調べる旨の決定はできないこととなり,
2811 証拠2は,
2812 同条により証拠と
2813 して許容され,
2814 裁判所は証拠として取り調べる旨の決定ができることとなる。
2815
2816 一方,
2817 同
2818 判決の立場に依拠しない場合には,
2819 それぞれの結論がどのような道筋で導き出されるの
2820 かについて相応の説得を持って説明することが求められよう。
2821
2822
2823 設問2−2は,
2824 いわゆる回復証拠が同条により許容されるのかについて,
2825 同条の「証
2826 明力を争う」という文言の解釈を示した上で,
2827 それのみを肯定あるいは否定の根拠とす
2828 るのは十分でなく,
2829 結論がもたらされる実質的な理由を示す必要がある。
2830
2831 本設問の事例
2832 では,
2833 甲証言の証明力が証拠2によって減殺されたときに,
2834 甲証言の内容と一致する内
2835 容の証拠3が,
2836 いかなる理由で証明力の回復証拠となるのか,
2837 あるいは,
2838 ならないのか
2839 まで論じた上で,
2840 結論を導くことが求められる。
2841
2842
2843 【選択科目】
2844 [倒産法]
2845 〔第1問〕
2846 本問は,
2847 個人破産の具体的事例を通じて,
2848 支払不能と支払停止の概念,
2849 代理人弁護士による
2850 債務整理開始通知の支払停止該当性,
2851 支払不能状態の認定,
2852 免責不許可事由該当性の検討及び
2853 裁量免責の可否と考慮要素の検討等についての理解と事例処理能力を問うものである。
2854
2855
2856 設問1は,
2857 最高裁判所平成24年10月19日判決集民241号199頁(以下「平成24
2858 年最判」という。
2859
2860 )を念頭に,
2861 平成24年最判の事案では,
2862 債務者が給与所得者であったこと
2863 と対比し,
2864 本問のAは個人事業者であるとの相違点があることを意識して,
2865 代理人弁護士Yが
2866 各債権者宛てに送付した本件通知が「支払の停止」に該当するかについて触れつつ,
2867 平成29
2868 年3月17日の時点でAに「支払不能」が認められるかについて論じることが求められている。
2869
2870
2871 なお,
2872 破産管財人Xは,
2873 AのHに対する50万円の弁済を否認することができるか否かを調査
2874 検討しているものではあるが,
2875 本問では,
2876 この弁済行為が否認できるか否かを問うものではな
2877 いことに留意する必要がある。
2878
2879
2880 解答に当たっては,
2881 まず,
2882 「支払の停止」を検討する意義,
2883 すなわち「支払の停止」と「支
2884
2885 - 20 -
2886
2887 払不能」の関係について述べることが求められる。
2888
2889 具体的には,
2890 AのHに対する弁済は,
2891 特定
2892 の債権者に対する担保の供与等の否認(破産法第162条第1項)に該当する可能性が考えら
2893 れるところ,
2894 弁済時の「支払不能」
2895 (同法第2条第11項)は,
2896 その要件の一つとされており(同
2897 法第162条第1項第1号柱書き本文),
2898 「支払の停止」があった後は「支払不能」であったも
2899 のと推定される(同条第3項)という関係にあることを指摘することが求められる。
2900
2901
2902 次に,
2903 本件通知が「支払の停止」に該当するかどうか,
2904 すなわち「債務者が,
2905 支払能力を欠
2906 くために一般的かつ継続的に債務の支払をすることができないと考えて,
2907 その旨を明示的又は
2908 黙示的に外部に表示する行為」(平成24年最判)あるいは「支払不能状態であることを外部
2909 に表示する債務者の行為」(通説的定義)と言えるかについて,
2910 本件通知の記載内容を基に検討
2911 することとなる。
2912
2913 ここでは,
2914 平成24年最判の判示するように,
2915 「支払の停止」とは外部に表
2916 示する行為であることから,
2917 専ら本件通知にはどのような記載がされているか,
2918 少なくとも黙
2919 示的に支払不能状態であることが表示されていると見ることができるかを検討することが求め
2920 られる。
2921
2922 なお,
2923 平成24年最判の事案は債務者が給与所得者であったのに対して,
2924 本問のAは
2925 個人事業者であるという相違点がある。
2926
2927 平成24年最判の補足意見においても,
2928 一定規模以上
2929 の事業者の場合には,
2930 債務整理開始通知であっても「支払の停止」を肯定するには慎重になる
2931 べきとの見解が述べられており,
2932 これを意識して当てはめができれば,
2933 より深い検討が可能と
2934 なろう。
2935
2936 本件通知では,
2937 債務整理を法律の専門家であるYに委任した旨の記載があること,
2938 Y
2939 が債権者一般に宛ててAへの連絡及び取立ての中止を求めていることは平成24年最判の事案
2940 と同様であること,
2941 Aは個人事業者ではあるものの事業規模が大きいとは言えず,
2942 本件通知に
2943 も「慎重に検討する」等として債務整理の方針が示されてはいないものの,
2944 実現可能性のある
2945 再建計画が示されているものではないことなどからすると,
2946 基本的には支払停止該当性は肯定
2947 的な方向となろう。
2948
2949
2950 その上で,
2951 平成29年3月17日時点でAに「支払不能」が認められるかを検討することと
2952 なるが,
2953 これは本件通知の支払停止該当性を肯定したか否かで判断枠組みが異なるものとなる。
2954
2955
2956 肯定した場合には,
2957 「支払の停止」以降は「支払不能」が推定されるから,
2958 支払不能該当性は
2959 この法律上の推定を覆す特段の事情が認められるか,
2960 という枠組みでの検討が必要となるのに
2961 対し,
2962 否定した場合には,
2963 こういった枠組みなしにAの支払能力の欠乏をその3要素すなわち
2964 財産,
2965 労務及び信用の各点から,
2966 問題文の事情を的確に当てはめ,
2967 一般的・継続的な支払能力
2968 の欠乏が認められるかを検討することとなる。
2969
2970 なお,
2971 F銀行からの借入金の分割金の弁済期が
2972 同年3月末である点を「支払不能」の定義との関係で問題とすることも考えられるが,
2973 通常金
2974 融機関は契約条項や取引約款において「支払の停止」を期限の利益喪失事由としており,
2975 「弁
2976 済期にある債務がない」ことをもって支払不能該当性を否定するためには,
2977 F銀行以外の債務
2978 も含めて全て,
2979 弁済期にあるものがないことに言及する必要があろう。
2980
2981
2982 設問2は,
2983 本件で判明しているAの行為から,
2984 免責不許可事由(破産法第252条第1項)
2985 に該当する行為を検討し(小問),
2986 Aを裁量免責すべきかについて,
2987 設問の具体的事情の中
2988 から,
2989 肯定的に考慮すべき事情,
2990 否定的に考慮すべき事情をそれぞれ的確に抽出して,
2991 検討す
2992 ることが求められる。
2993
2994
2995 小問では,
2996 免責不許可事由が認められるか否かを論ずることが求められる。
2997
2998 具体的には,
2999
3000 @Hへの平成29年3月26日の弁済が非義務的偏頗行為(破産法第252条第1項第3号)
3001 に該当するか,
3002 AGからの同年3月18日の借入時のAの言動が詐術(同項第5号)に該当す
3003 るかが問題となる。
3004
3005
3006 @については,
3007 Hという特定の債権者への弁済行為であることを挙げつつ,
3008 明確な弁済期が
3009 定められていないと思われることから,
3010 時期が義務に属していないと言えるか,
3011 またHに特別
3012 の利益を与える目的があると言えるかについて検討することが求められる。
3013
3014 前者については,
3015
3016 「立て直しに成功したら返してくれればよい」とのHの言について,
3017 不確定期限と理解するほ
3018
3019 - 21 -
3020
3021 か,
3022 期限の定めなき債務との理解も考えられよう。
3023
3024 後者については,
3025 Aとしては義理の親に対
3026 する弁済という点でHを特別扱いしているものであろうが,
3027 ここに破産法のいう「特別の目的」
3028 とは他の債権者が存在しつつ,
3029 これらには同等の弁済ができないにもかかわらず,
3030 Hにのみ利
3031 益を与えることを言うことに留意が必要である(それゆえ,
3032 設問1の「支払不能」の認定でA
3033 の資力を十分などと判断していた場合,
3034 ここで特別の目的を認めると矛盾抵触が生じ得る)。
3035
3036
3037 Aについては,
3038 Gからの借入れという信用取引であることを踏まえて,
3039 借入時期が申立前1
3040 年以内であること,
3041 Aが破産原因を認識していたか等を検討しつつ,
3042 「詐術」に該当するかを
3043 検討する必要がある。
3044
3045 AのGに対する言動は幾つかあるが,
3046 Aの支払能力に関連すること,
3047 か
3048 つ連絡が途絶えて現実的には回収不能と見られるという点で客観的事実と反し得ること等か
3049 ら,
3050 Cからの入金があれば必ず返せると述べた点を取り上げる必要がある。
3051
3052 なお,
3053 破産法第2
3054 52条第1項第5号該当性については,
3055 破産原因の存在(それゆえ破産原因があることは前提
3056 となっている)についてのAの認識が要件の一つであることから,
3057 設問1で平成29年3月1
3058 7日時点での支払不能を否定する結論を取った場合,
3059 その翌日である3月18日時点での支払
3060 不能を認定することは困難と思われるため,
3061 同号該当性を肯定することはできないと思われる
3062 ことに留意が必要である。
3063
3064
3065 小問は,
3066 Aに免責不許可事由が何かしら認められることを前提に(自身の答案では認めら
3067 れないとの結論を取ったとしても,
3068 仮にあるとして),
3069 Aに裁量免責を認めるべきか,
3070 破産裁
3071 判所の立場で検討することが求められる。
3072
3073
3074 まず,
3075 裁量免責の根拠規定である破産法第252条第2項を挙げて,
3076 その趣旨や考慮すべき
3077 要素を挙げつつ,
3078 検討することが求められる。
3079
3080 分類について,
3081 一つの一般的な分類としては,
3082
3083 @免責不許可事由自体に関する事情(悪質性の有無や程度),
3084 A破産に至った経緯,
3085 B開始決
3086 定後の事情,
3087 C免責許可による経済的再建の必要性等,
3088 D債権者の意見などが考えられる。
3089
3090
3091 答案においては,
3092 これらに属する各要素(各事実)について,
3093 それがどのような理由で裁量
3094 免責について肯定的あるいは否定的な事情となるかを述べつつ,
3095 各要素についての検討・評価
3096 を加えた上で,
3097 裁量免責を許可するか否かについての結論を出すことが求められる。
3098
3099
3100 @であれば,
3101 破産法第252条第1項第3号及び第5号に該当する事実,
3102 非義務的偏頗行為
3103 や詐術を用いての借入れが破産法の趣旨に反する悪質な行為であることは否定的な事情となろ
3104 うし,
3105 Aであれば,
3106 C,
3107 D,
3108 E等に関するAの資金繰り悪化の理由がAに帰責性のない(ある
3109 いは弱い)ものであること,
3110 A自身は真面目に仕事に精を出してきたこと,
3111 Bであれば,
3112 Aが
3113 期日に出頭し,
3114 Xの事情聴取にも素直に応じ,
3115 GやHの件も自ら説明する等,
3116 自身の破産法上
3117 の義務を果たしてXの管財業務に協力するという行為にAの誠実性が見て取れることは,
3118 肯定
3119 的に捉えるべき事情である。
3120
3121
3122 本問では,
3123 否定的に捉えるべき要素は主として@の免責不許可事由として評価されるべき事
3124 情であるのに対し,
3125 肯定的に捉えるべき要素が多いことに鑑みると,
3126 基本的には裁量免責を許
3127 可することに肯定的となろう。
3128
3129
3130 〔第2問〕
3131 本問は,
3132 法人再生の具体的事例を通じて,
3133 再生債権の弁済に関する原則とその例外,
3134 再生債
3135 務者の第三者性についての理解と事務処理能力を問うものであり,
3136 手続法と実体法の双方の観
3137 点から,
3138 民事再生法の目的に結び付く一貫した理解という視点が求められている。
3139
3140
3141 設問1では,
3142 まず,
3143 再生債権の弁済に関する原則について,
3144 民事再生法第85条第1項を摘
3145 示し,
3146 再生手続開始決定による弁済禁止効,
3147 すなわち再生手続によるのでなければ再生債務者
3148 財産から満足を受けることができず,
3149 再生計画の定めに従った権利内容の変更を経て,
3150 再生計
3151 画に基づいて弁済されることが原則である旨を指摘する必要がある。
3152
3153
3154 例外的に,
3155 再生計画によらず弁済を許可する制度として,
3156 @中小企業者の再生債権に対する
3157
3158 - 22 -
3159
3160 もの(民事再生法第85条第2項)と,
3161 A少額の再生債権に対するもの(同条第5項)とがあ
3162 るが,
3163 本問は後者についての出題である。
3164
3165
3166 小問は,
3167 再生手続を円滑に進行するための少額債権の弁済許可(民事再生法第85条第5
3168 項前段)についての理解を問うものである。
3169
3170 その制度趣旨は,
3171 少額の再生債権者であっても手
3172 続に参加する以上は,
3173 債権届出,
3174 調査,
3175 議決権行使が行われることになり,
3176 そのための通知等
3177 に要する時間と費用を考えるとき,
3178 むしろ早期に弁済して再生債権者の数を減少させる方が,
3179
3180 円滑な手続進行に資する上,
3181 少額であれば,
3182 他の再生債権との間の実質的平等にも反しないこ
3183 とにある。
3184
3185
3186 解答に当たっては,
3187 まず,
3188 弁済を求めている再生債権者の債権額が,
3189 その要件である「少額」
3190 に該当するかにつき,
3191 事例に当てはめて検討する必要がある。
3192
3193 単に「3万円」が総負債額3億
3194 円と比較して少額というにとどまらず,
3195 開始前の保全処分においては,
3196 5万円以下の債務が弁
3197 済禁止の対象外とされていたこと等の事情を適切に指摘することが求められる。
3198
3199
3200 次に,
3201 弁済を求めている3社と債権届出書を作成中である9社の取扱いについては,
3202 「円滑
3203 な手続進行」の趣旨から検討することが求められる。
3204
3205 手続をスリム化して再生手続の円滑進行
3206 を図ることを根拠とする制度であるから,
3207 少額の再生債権それぞれの個性(発生原因,
3208 属性,
3209
3210 計画案に対する賛否態度など)に着目するものではなく,
3211 手続に参加させること自体がコスト
3212 であると捉えることが制度趣旨に合致する。
3213
3214 そこで,
3215 一定の金額以下については一律に全額を
3216 弁済して手続から外すべきであり,
3217 12社全てを弁済許可の対象とすることが円滑進行に資す
3218 るとの結論が導かれ,
3219 債権者間の平等(民事再生法第155条第1項本文)にも合致すると言
3220 えよう。
3221
3222 弁済時期について,
3223 民事再生法には破産法第103条第3項に対応する現在化の定め
3224 がないので,
3225 約定に定める弁済期到来後に支払うことになる。
3226
3227
3228 なお,
3229 9社についてそのまま届出させる場合には,
3230 計画案において少額の債権を全額弁済す
3231 る定め(全債権者について3万円までの部分の100%を弁済する)を設けることになろう(民
3232 事再生法第155条第1項ただし書)。
3233
3234
3235 小問は,
3236 再生債務者の事業の継続に著しい支障が生じることを避けるための少額債権の弁
3237 済許可(民事再生法第85条第5項後段)についての理解を問うものである。
3238
3239 その制度趣旨は,
3240
3241 再生債権の弁済禁止がかえって再生債務者の事業の継続に著しい支障を来し,
3242 事業価値を毀損
3243 する事態を避けるため,
3244 「少額」という範囲内で例外的に弁済を許可することにある。
3245
3246
3247 「事業継続の著しい支障」については,
3248 具体的な事情(製品αが戦略商品であり乙社から安
3249 定出荷の要請があること,
3250 パーツβの生産を全てD社に発注していたこと,
3251 その納品がない限
3252 り製品αを生産できないこと等)を丁寧に拾い上げ,
3253 不可欠性,
3254 非代替性を検討することが求
3255 められる。
3256
3257
3258 債権額100万円が「少額」と言えるかについては,
3259 単に総負債額との比較にとどまらず,
3260
3261 制度趣旨を踏まえた検討が求められる。
3262
3263 弁済によって再生債務者財産が目減りする一方,
3264 取引
3265 への協力を得て事業継続を維持し,
3266 事業価値の増大が期待できる。
3267
3268 これにより再生債権者全体
3269 が利益を得ることができ,
3270 ひいて再生手続の目的達成に資するという構造を示すことができれ
3271 ば,
3272 より深い考察が可能となり,
3273 一定の幅を持って相対的に「少額」と評価することが許容さ
3274 れ,
3275 「少額」の内容が小問において異なること等の指摘に至ることができよう。
3276
3277
3278 各小問とも「C弁護士の立場」から「方策」を示すべきことを明記しているので,
3279 弁済可否
3280 にとどまらず手続に留意する必要がある。
3281
3282 「再生債務者(代理人)が」「裁判所に対し」「弁済
3283 の許可を申立て」「許可を得て弁済する」という手続の流れを正確に記載することが求められ
3284 ている。
3285
3286
3287 設問2は,
3288 再生債務者の第三者性についての理解を問うものであり,
3289 管理命令が発せられて
3290 管財人が選任された場合と比較して論じなければならない。
3291
3292 「比較して論じる」という出題形
3293 式は,
3294 単に各結論の併記を指示するものではない。
3295
3296 共通点と相違点を確認し,
3297 その異同を踏ま
3298
3299 - 23 -
3300
3301 えて,
3302 結論や結論に至る過程を検討し,
3303 論点について深く理解していることを示す論述が求め
3304 られる。
3305
3306 管財人と,
3307 管財人が選任されない場合の再生債務者との相違は,
3308 何よりも後者は自ら
3309 当事者であり,
3310 再生手続開始前と人格的同一性を有することである。
3311
3312 開始前は自己の利益を図
3313 る活動を行っていた者が,
3314 再生手続開始原因を有するに至り,
3315 債務の本旨に従った履行をなし
3316 得なくなって再生手続が開始されたのに,
3317 なお業務執行権,
3318 財産管理処分権を有し(民事再生
3319 法第38条第1項),
3320 いわゆるDIP(占有を継続する債務者)になる。
3321
3322 他方,
3323 管財人は,
3324 一
3325 面では再生債務者の従前の法的地位を受け継ぐ立場に立つが,
3326 人格的同一性を有するものでは
3327 なく,
3328 裁判所に選任されて初めて登場することが決定的に異なる。
3329
3330 この対比を意識することに
3331 より,
3332 より深い論述が可能となろう。
3333
3334
3335 小問は,
3336 実体法上,
3337 対抗要件を具備しなければ第三者に対して所有権を主張し得ない場合
3338 に,
3339 再生債務者等が第三者に該当するか,
3340 対抗問題における第三者性を問うものである。
3341
3342
3343 解答に当たっては,
3344 まず,
3345 売買契約が成立し,
3346 代金が支払われ,
3347 実体法上は開始決定前に所
3348 有権が移転している(双方未履行ではない)ことを指摘すべきである。
3349
3350 次いで売主に再生手続
3351 開始決定があったことから,
3352 民法第177条の対抗問題であることを指摘する必要がある。
3353
3354 な
3355 お,
3356 本問は,
3357 開始後に登記を具備した事例ではなく,
3358 民事再生法第45条の直接適用場面では
3359 ない。
3360
3361 また,
3362 対抗問題だけで決着するので,
3363 否認が問題となるケースでもない。
3364
3365
3366 管理命令が発令されて管財人が選任された場合に,
3367 管財人に差押債権者と類似の地位を認め
3368 ることに異論はなかろう。
3369
3370 これに対し,
3371 監督委員が選任され,
3372 再生債務者が業務執行権,
3373 財産
3374 管理処分権を維持している場合については,
3375 第三者性を肯定した裁判例(大阪地判平成20年
3376 10月31日判時2039号51頁)があるが,
3377 単にその結論の知識を示すのみではなく,
3378 管
3379 財人の場合と全く同様に結論を導いてよいのか,
3380 両者の相違を示す視点が必要である。
3381
3382 再生債
3383 務者は,
3384 開始前の債務者と同一人であり,
3385 売買契約の当事者そのものであることを指摘し,
3386 そ
3387 の上で,
3388 第三者性を肯定する結論を説得的に導く論述が求められる。
3389
3390 公平誠実義務を負うこと
3391 (民事再生法第38条第2項),
3392 再生手続の機関であること,
3393 個別執行が禁止されること,
3394 開
3395 始後の登記具備が認められないこと(同法第45条),
3396 双方未履行契約の選択権(同法第49
3397 条),
3398 担保権消滅許可の申立権(同法第148条)などが根拠となろう。
3399
3400
3401 小問は,
3402 実体法に第三者保護規定がある場合の第三者該当性を問うものである。
3403
3404
3405 解答に当たっては,
3406 まず,
3407 民法第94条第2項の善意の第三者として保護を受け得るかの問
3408 題であることを指摘すべきである。
3409
3410
3411 再生債務者等が第三者に該当することについての検討は,
3412 小問と同様である。
3413
3414
3415 主観的要件については,
3416 再生債務者等が第三者に該当する根拠と結び付けて論じることによ
3417 り,
3418 再生手続開始決定時の再生債権者を基準として,
3419 その中に一人でも善意の者があれば再生
3420 債務者等が善意を主張できるとの通説的見解が導かれよう。
3421
3422 管理命令が発令されない場合の再
3423 生債務者の主観的要件については,
3424 通謀虚偽表示の当事者そのものであることを指摘した上,
3425
3426 それでもなお,
3427 再生債権者の主観を基準とし,
3428 再生債務者を保護することを説得的に説明する
3429 論述が求められる。
3430
3431 通謀虚偽表示の当事者売主F社代表取締役Gが架空売上の計上を図ったこ
3432 と等の事情を適示し,
3433 事例における要保護性にも目配りすると論述に深みが出よう。
3434
3435
3436 [租税法]
3437 〔第1問〕
3438 本問では,
3439 祭りの開催を企画した実行委員会に対して,
3440 物品又は協賛金の贈与が行われた事
3441 案を基に,
3442 個人X及び株式会社A(以下「A社」という。
3443
3444 )について,
3445 それぞれ所得税法及び
3446 法人税法上の扱いを問うている。
3447
3448 まず,
3449 個人Xが実行委員会に対して行った事務用品の贈与が,
3450
3451 所得税法上どのように総収入金額に算入されるかを問う(設問1)。
3452
3453 当該事務用品は,
3454 Xの事
3455 業(小売業)にとってたな卸資産に該当するため,
3456 自家消費と並んで,
3457 総収入金額の計算に関
3458
3459 - 24 -
3460
3461 する別段の定めが設けられていることに注意が必要である。
3462
3463 次に,
3464 法人税法の問題として,
3465 A
3466 社が支出した協賛金につき,
3467 法人税の課税上の扱いを問う(設問3)。
3468
3469 さらに,
3470 こうした設問
3471 と併せて,
3472 A社の代表取締役であったYが,
3473 代表権のない非常勤取締役への地位変更に伴って
3474 退職手当の支給を受けた事実を基にして,
3475 退職所得の意義を明確にして,
3476 その所得の種類を検
3477 討することを求めている(設問2)。
3478
3479
3480 設問1においては,
3481 総収入金額の「別段の定め」として,
3482 所得税法第40条の存在を摘示す
3483 る必要がある。
3484
3485 帰属所得に課税する同条の位置付けを含め,
3486 所得金額の計算の仕組みについて
3487 理解していることを示す必要がある。
3488
3489
3490 設問2においては,
3491 Yが受けた退職手当の所得分類を判断するため,
3492 所得税法第30条にい
3493 う「退職により一時に受ける給与」の意義(最判昭和58年9月9日民集37巻7号962頁)
3494 を明確にすることが求められている。
3495
3496 その際は,
3497 問題文で明記したとおり,
3498 退職所得という所
3499 得分類が,
3500 給与所得のほかに特別に設けられている趣旨・目的を明らかにする必要がある。
3501
3502 な
3503 お,
3504 本問では,
3505 役員の分掌変更に伴う退職手当の支給の扱いが問題とされ,
3506 退職ないし勤務関
3507 係の終了という要件を形式的には満たさないため,
3508 「これらの性質を有する給与」に該当する
3509 か否かを判断することになる。
3510
3511 いずれの結論を導くとしても,
3512 本問の具体的な事実関係に基づ
3513 き,
3514 Yの地位又は職務の内容が激変し,
3515 Yが実質的にA社を退職したのと同様の事情にあると
3516 認めることができるかどうかを丁寧に検討し,
3517 解答することを求めたものである。
3518
3519
3520 設問3においては,
3521 A社の支出した協賛金の寄附金該当性が問題になる。
3522
3523 法人税法が第22
3524 条第3項において費用・損失の損金算入を広く認める一方で,
3525 その「別段の定め」として第3
3526 7条によって寄附金の損金算入を制限している趣旨を明らかにする必要がある。
3527
3528 その上で,
3529
3530 との事情の違いに応じて,
3531 その取扱いの検討及び両者の異同に関する説明を期待したもので
3532 ある。
3533
3534
3535 具体的には,
3536 設問3においては,
3537 「甲隠れ里祭り」の宣伝に際して,
3538 協賛金等を拠出した
3539 者の名前等は全く明らかにされなかったというのだから,
3540 A社による協賛金の支出は,
3541 対価性
3542 のない支出として法人税法第37条第7項にいう寄附金に該当し,
3543 同条第1項により損金算入
3544 に一定の制限を受けることになる。
3545
3546 これに対して,
3547 設問3においては,
3548 A社の社名が,
3549 協賛
3550 企業として祭りの専用ホームページ及びパンフレットに表示されていた。
3551
3552 この点を考慮した上
3553 で,
3554 「広告宣伝……の費用」(同条第7項括弧書き。
3555
3556 いわゆる広告宣伝費)に該当するか否かを
3557 検討する必要がある。
3558
3559 との異同を踏まえるに当たっては,
3560 寄附金を広範に捉え,
3561 損金算入を
3562 制限する一方で,
3563 括弧書きにおいて,
3564 費用性が客観的に明白な支出を除外する条文構造となっ
3565 ていることなどを指摘することになろう。
3566
3567
3568 〔第2問〕
3569 本問は,
3570 日本料理店を経営するとともに複数の区分建物(本件各賃貸物件)を賃貸して賃料
3571 を得ていたAが,
3572 B銀行から,
3573 上記日本料理店の事業資金,
3574 本件各賃貸物件の購入資金及び自
3575 宅の購入資金として約3億円の借入れをしていたところ,
3576 景気の悪化や火災により上記日本料
3577 理店の経営状態が悪化し,
3578 本件各賃貸物件の賃貸による収入も減少したことから,
3579 その返済が
3580 滞ったため,
3581 交渉の末,
3582 B銀行のAに対する貸付金残額2億円(本件債権)のうち1億円を弁
3583 済し,
3584 残りの1億円の債務を免除する旨の和解契約(本件和解契約)が成立したという事案に
3585 おいて,
3586 Aに関し,
3587 本件和解契約に係る債務免除益及び上記火災により焼失した器具と備品に
3588 係る損失の所得税法上の取扱いを問うとともに(設問1及び2),
3589 B銀行に関し,
3590 本件債権の
3591 処理として採り得る措置につき,
3592 法人税法上の取扱いの異同を問うものである(設問3)。
3593
3594
3595 設問1においては,
3596 まず,
3597 Aは本件和解契約により債務免除益という経済的利益を得ている
3598 ものであり,
3599 原則として所得税法第36条第1項により総収入金額に算入すべきものとなるが,
3600
3601 これを総収入金額に算入しない場合である同法第44条の2第1項の「その他資力を喪失して
3602
3603 - 25 -
3604
3605 債務を弁済することが著しく困難である場合」に該当するか否かにつき,
3606 同項の趣旨や解釈を
3607 示した上,
3608 具体的な事実から,
3609 事業の状況,
3610 弁済の状況,
3611 物的・人的担保の状況,
3612 Aの資力等
3613 に係る有意な事情を抽出し,
3614 これらを総合的に評価して当てはめることを求めるものである。
3615
3616
3617 そして,
3618 総合的に評価した結果上記の場合に当たるとすれば,
3619 更に所得税法第44条の2第
3620 2項の適用が問題となり,
3621 同項各号の定めに従って同条第1項が適用されない額を明らかにし
3622 た上,
3623 所得分類を検討した後,
3624 各種所得の総収入金額に算入する額を検討することが必要とな
3625 る。
3626
3627 条文の丁寧な検討,
3628 当てはめが期待される。
3629
3630 一方,
3631 上記の場合に当たらないとすれば,
3632 上
3633 記債務免除益は全額総収入金額に算入すべきこととなり,
3634 所得分類を検討した後,
3635 各種所得の
3636 総収入金額に算入する額を検討することが必要となる。
3637
3638
3639 設問2においては,
3640 火災により焼失した器具と備品に係る損失の金額を,
3641 事業所得の金額の
3642 計算上,
3643 必要経費に算入することができるかにつき,
3644 事業所得の算定に当たり所得税法第37
3645 条第1項に規定する必要経費の額を控除する理論的な根拠に触れ,
3646 その趣旨が同項の別段の定
3647 めに当たる同法第51条第1項の資産の損失にも及ぶことを明らかにしつつ,
3648 同項の当てはめ
3649 を行うことを求めるものである。
3650
3651
3652 設問3においては,
3653 B銀行が本件債権の処理として採り得る措置について,
3654 問題文本文の本
3655 件和解契約に基づく債務免除以外の方法として,
3656 本件債権の回収可能性を踏まえた金額による
3657 @債権回収会社への債権譲渡とA評価換えを想定し,
3658 それぞれの場合における法人税法上の取
3659 扱いについて,
3660 その異同を問うものである。
3661
3662 @の場合には,
3663 債権譲渡による収益1億円が益金
3664 の額に算入され(法人税法第22条第2項),
3665 他方,
3666 本件債権の原価2億円が損金の額に算入
3667 され(同条第3項第1号),
3668 Aの場合には,
3669 同法第33条第1項により,
3670 評価換えによる評価
3671 損は,
3672 損金の額に算入されないと解されるが,
3673 法人税法上,
3674 損失の計上につき実現主義が採ら
3675 れていることから異なる取扱いがされることを踏まえ,
3676 その異同を比較することを求めるもの
3677 である。
3678
3679
3680 [経済法]
3681 〔第1問〕
3682 本問は,
3683 化学物質の検査機器甲の製造業者A社が,
3684 自社の製造した甲を,
3685 機器利用者である
3686 日本国内の検査機関に販売するに際して,
3687 問題文記載の約定を付そうとする本件計画が,
3688 私的
3689 独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。
3690
3691 )第3条又は同法
3692 第19条に違反するか否かを問うものである。
3693
3694 より具体的には,
3695 問題文記載の事実が,
3696 同法第
3697 2条第5項(私的独占)又は不公正な取引方法の一般指定(以下「一般指定」という。
3698
3699 )第1
3700 0項(抱き合わせ販売等)の諸要件を満たすか否かの検討が求められる。
3701
3702 選択した条項ごとに,
3703
3704 本件計画で示された内容やその他の事実関係に照らして,
3705 各条項の行為要件,
3706 競争への効果,
3707
3708 正当化の可否について検討することを要する。
3709
3710
3711 一般指定第10項の該当性を検討する場合,
3712 まず本件行為が抱き合わせであることを示すた
3713 めに,
3714 抱き合わす商品役務(以下「主たる商品」という。
3715
3716 )と抱き合わされる商品役務(以下
3717 「従たる商品」という。
3718
3719 )が別個の商品役務であること(いわゆる2商品性)を示す必要があ
3720 る。
3721
3722 その際には,
3723 別個の商品役務であることの意味と基準について説明するとともに,
3724 本問に
3725 おける主たる商品と従たる商品を特定しなければならない。
3726
3727 本件計画では,
3728 A社のみが供給で
3729 きるA社製甲向け定期点検サービスを所定の条件で受けるために,
3730 検査キット乙を事実上A社
3731 からのみ購入せざるを得ないことが問題であるため,
3732 主たる商品をA社製甲向け定期点検サー
3733 ビス,
3734 従たる商品をA社製甲向け検査キット乙と認定することが想定されるが,
3735 主たる商品を
3736 A社製甲と認定することも可能であろう。
3737
3738 そして,
3739 検査キット乙が,
3740 甲とは別売りされていて,
3741
3742 内容・機能面で甲と統合されているわけではなく,
3743 A社製のもの以外にD社製及びE社製の競
3744 合品が存在していることなどを踏まえて,
3745 2商品性を肯定することが考えられる。
3746
3747 その上で,
3748
3749
3750 - 26 -
3751
3752 抱き合わせ行為における取引の強制の要件について,
3753 その意味と基準を説明し,
3754 本件計画が当
3755 該要件を満たすか否かを検討する必要がある。
3756
3757 その検討に際しては,
3758 甲の使用には当該甲の供
3759 給メーカーによる年一回の定期点検又はオーバーホールが不可欠であり,
3760 他社による点検で代
3761 替することはできないこと,
3762 甲は高価であり頻繁に買い換えることが困難であること,
3763 A社製
3764 以外の検査キット乙を購入して使用した場合には追加費用が生ずることなどを指摘し,
3765 評価す
3766 ることが重要である。
3767
3768
3769 次に,
3770 一般指定第10項の「不当に」の該当性,
3771 すなわち,
3772 公正競争阻害性の有無を検討す
3773 る必要がある。
3774
3775 抱き合わせ行為の公正競争阻害性としては,
3776 自由競争減殺と競争手段の不公正
3777 さが考えられるが,
3778 本問の事実関係の下では,
3779 主に自由競争減殺について検討することが求め
3780 られる。
3781
3782 その検討に際しては,
3783 主たる商品及び従たる商品についての商品市場及び地理的市場
3784 を画定し,
3785 それを前提として競争への悪影響を検討する必要がある。
3786
3787 市場画定については,
3788 画
3789 定の必要性と基準を示した上,
3790 本問の事実関係に即して認定することになるところ,
3791 本問では,
3792
3793 主たる商品であるA社製甲向け定期点検サービス(又はA社製甲)と従たる商品であるA社製
3794 甲向け検査キット乙について,
3795 それぞれ需要の代替性及び供給の代替性の有無を分析する必要
3796 がある。
3797
3798 自由競争減殺の有無を分析する市場として,
3799 従たる商品であるA社製甲向け検査キッ
3800 ト乙の市場を取り上げることが適切であるが,
3801 その分析に当たっては,
3802 画定された両市場にお
3803 ける競争の特徴を示す諸事実(主たる商品の市場におけるA社のシェアや地位等,
3804 従たる商品
3805 の市場におけるA社や競争者のシェアや地位等)を適切に指摘・評価して,
3806 D社製及びE社製
3807 のA社製甲向け検査キット乙が排除されるおそれがあるかどうかを論じることが求められる。
3808
3809
3810 なお,
3811 競争手段の不公正さについて検討する場合も同様であり,
3812 A社製甲向け検査キット乙
3813 の市場における良質廉価な商品選択による競争が歪められる効果の有無や程度が,
3814 各市場にお
3815 ける競争の特徴を示す諸事実に即して分析される必要がある。
3816
3817
3818 さらに,
3819 本件計画の実施について,
3820 甲の使用におけるトラブル防止のための検査精度の確保
3821 が理由として挙げられていることから,
3822 かかる理由による正当化の可否についても検討するこ
3823 とが求められる。
3824
3825 正当化が認められる余地は小さいと思われるが,
3826 その検討に際しては,
3827 本件
3828 計画の目的や目的に照らした手段の合理性などの観点から分析を行い,
3829 本問の事実関係に即し
3830 て,
3831 正当化の可能性があるか否かを説明する必要がある。
3832
3833 その際には,
3834 甲の検査精度の確保は
3835 目的として合理的であることを踏まえた上で,
3836 そのための手段としてオーバーホールの追加費
3837 用負担を求めることなどの合理性をどのように評価するかが重要である。
3838
3839
3840 本件計画については,
3841 一般指定第10項に関する検討がより望ましいと考えられるが,
3842 一般
3843 指定第14項(競争者に対する取引妨害)の適用を検討する余地もある。
3844
3845 取引妨害行為である
3846 ことについては,
3847 本件計画の実施が,
3848 A社製甲の購入者による検査キット乙の購入に際して,
3849
3850 当該購入者とD社及びE社との取引を妨害することを示す必要がある。
3851
3852 一般指定第14項の「不
3853 当に」の検討については一般指定第10項の場合と同様である。
3854
3855
3856 次に,
3857 独占禁止法第3条の私的独占の禁止規定の適用を論じる場合には,
3858 同法第2条第5項
3859 の該当性を検討する必要がある。
3860
3861
3862 私的独占といえるためには,
3863 排除行為又は支配行為のいずれかの行為が行われていなければ
3864 ならないが,
3865 本件計画によって,
3866 A社製甲の購入者が,
3867 検査キット乙の購入に際してD社製及
3868 びE社製の乙の購入を妨げられることになるため,
3869 本件計画については,
3870 排除に該当するか否
3871 かの観点から検討する必要がある。
3872
3873 その際,
3874 排除の定義について,
3875 JASRAC事件(最判平
3876 成27年4月28日民集69巻3号518頁)などを踏まえて適切に示した上で,
3877 本問の事実
3878 関係への当てはめを行う必要がある。
3879
3880 本問では,
3881 検査機器甲・点検サービス・検査キット乙の
3882 各市場におけるA社のシェアや地位等の評価が重要となる。
3883
3884 排除行為の類型として,
3885 抱き合わ
3886 せと構成することが期待されるが,
3887 その場合に検討すべき内容は一般指定第10項の場合と同
3888 様である。
3889
3890
3891
3892 - 27 -
3893
3894 私的独占による反競争効果は,
3895 「一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」で
3896 あるが,
3897 ここでも基本的な検討の枠組みは一般指定第10項の場合と同様である。
3898
3899
3900 まず,
3901 「一定の取引分野」に関して市場画定を行う必要がある。
3902
3903 一定の取引分野の意味と画
3904 定の基準を示し,
3905 本問の事実関係に即して市場を認定することが必要である点は,
3906 一般指定第
3907 10項に関して述べたとおりである。
3908
3909
3910 次に,
3911 競争の実質的制限については,
3912 その定義を示した上で,
3913 その認定に関わる事実を問題
3914 文の中から適切に拾い上げて総合的体系的に説明することが必要である。
3915
3916 抱き合わせ行為を排
3917 除行為とした場合には,
3918 いずれの市場での競争の実質的制限を問題としているのかを明確に指
3919 摘する必要があるが,
3920 本問の場合には,
3921 従たる商品であるA社製甲向け検査キット乙の市場で
3922 の効果を分析することが適切であろう。
3923
3924 その場合にも,
3925 一般指定第10項の自由競争減殺の分
3926 析と同様に,
3927 各市場における競争の特徴を示す諸事実を示しながら,
3928 競争の実質的制限の有無
3929 を論じる必要がある。
3930
3931
3932 「公共の利益に反して」については,
3933 その解釈論(例えば,
3934 石油価格協定事件・最判昭和5
3935 9年2月24日刑集38巻4号1287頁)を提示し,
3936 「公共の利益」の意味や,
3937 これに基づ
3938 いて行為を正当化する際の考え方を説明する必要はあるが,
3939 実質的には,
3940 一般指定第10項に
3941 関する説明の中の正当化の部分で述べた内容と同じ議論が当てはまる。
3942
3943
3944 なお,
3945 解答に際して,
3946 私的独占又は不公正な取引方法のいずれか一方を主たる検討対象とし
3947 て選択した場合に,
3948 他方の違反類型についても検討して論述することが期待される。
3949
3950
3951 〔第2問〕
3952 本問では,
3953 既に競争事業者の多くが事業から撤退する中で,
3954 かろうじて残存しているものの,
3955
3956 業績不振に陥っていて,
3957 事業の継続が危ぶまれている競争事業者間で,
3958 生き残りをかけて企業
3959 結合や業務提携を目指す場合に生じる,
3960 企業の論理と独占禁止法のあつれきを問題にしている。
3961
3962
3963 小問では,
3964 競争事業者間での事業統合を,
3965 では,
3966 競争事業者間でのOEM契約及び物流業
3967 務の提携という,
3968 新聞等で頻繁に取り上げられている事例を取り扱うこととした。
3969
3970
3971 本問全体を通して,
3972 独占禁止法の個々の条文よりも,
3973 同法全体の体系をどれだけ理解してい
3974 るかを問うことにした。
3975
3976 競争事業者間での企業結合と業務提携は水平的な競争制限効果が発生
3977 する行為という意味では,
3978 紙一重の関係にある(これは垂直関係にある事業者間での企業結合
3979 や提携の場合にも当てはまる。
3980
3981 )。
3982
3983 両社の事業を企業として一体とすれば企業結合の問題になる
3984 し(の事業統合,
3985 同法第15条の2第1項第1号),
3986 契約関係で処理をするのであれば不当
3987 な取引制限の問題になる(の業務提携,
3988 同法第2条第6項・第3条)。
3989
3990 こうした競争事業者
3991 間での業務提携は,
3992 ハードコアカルテルと評価されるものではなく,
3993 それがもたらす効率性の
3994 改善を始めとする競争促進効果と競争制限効果を比較衡量してその適法性が評価されるべきこ
3995 とが正確に理解されている必要がある。
3996
3997
3998 また,
3999 独占禁止法の適用場面において,
4000 企業の事業活動に関する一般的な理解を有している
4001 ことも問われることになる。
4002
4003 本問では,
4004 「需要家である日本企業の工場の海外移転による内需
4005 の減退や輸入品の増加により採算性が悪化した」という事業環境にあって競争事業者2社が既
4006 に事業から撤退したが,
4007 それにもかかわらず,
4008 残存企業は余剰生産能力を抱えており,
4009 稼働率
4010 が「50パーセント」「40パーセント」でしかなく,
4011 「過去3年にわたって営業赤字が継続し
4012 ており,
4013 事業存続性が問題と」なっている。
4014
4015 これが極めて異常な事態であることに気付く必要
4016 がある。
4017
4018 このような状況であれば,
4019 普通の企業であれば,
4020 競争事業者等との企業結合又は業務
4021 提携を考えるし,
4022 それができない場合には事業撤退を真剣に検討する必要に迫られるであろう。
4023
4024
4025 その意味では,
4026 「破綻企業(事業)」(failing
4027
4028 company)の理論の適用が問題
4029
4030 となる状況に至っている。
4031
4032
4033 本問では,
4034 問題文で提示されている検討案(事業統合案及び業務提携案)だけでは,
4035 違法と
4036
4037 - 28 -
4038
4039 も適法とも判断しにくい事実関係を設定している。
4040
4041 そのような中で,
4042 どのような要素を重視し
4043 て違法性・適法性の判断をするのかに着目することとした(結論としては,
4044 独占禁止法に違反
4045 するとするのでも,
4046 違反しないとするのでも構わない。
4047
4048 )。
4049
4050
4051 また,
4052 本問は,
4053 既に実行された行為についての法的評価をただす問題ではなく,
4054 事業統合や
4055 業務提携の「検討」段階(では公正取引委員会に対する届出を必要とする取引であることを
4056 明示している。
4057
4058 )での事前の法的リスクの評価(事業統合については公正取引委員会が行うで
4059 あろう企業結合審査結果の想定)を問うものであり,
4060 その評価の過程で見いだした問題点に対
4061 する解決策の提示も期待している。
4062
4063 したがって,
4064 問題文で提示されている検討案をそのまま実
4065 施した場合に独占禁止法上の問題を惹起する可能性があるというだけでは,
4066 不十分である。
4067
4068 事
4069 業統合の場合であれば,
4070 仮に企業結合審査の過程で問題が指摘された場合,
4071 直ちに公正取引委
4072 員会から排除措置命令を受けるわけではなく,
4073 何らかの問題解消措置を採ることで事業統合が
4074 認められる余地がないかを検討するのが一般的である。
4075
4076 そこで,
4077 問題文で提示されている検討
4078 案の問題点や違法性を指摘する場合に,
4079 かかる指摘にとどまるのではなく,
4080 独占禁止法の原則
4081 に整合的な解決策の提案を行えるのかにも着目することとした。
4082
4083
4084 以下,
4085 小問ごとに,
4086 出題の意図を説明する。
4087
4088
4089 上記のとおり,
4090 国内需要の減少に伴い,
4091 競争事業者は2社にまで減じている中で,
4092 その2社
4093 が生き残りを図るために採れる手段は必ずしも多くはない。
4094
4095 取り分け,
4096 過去3年間営業赤字と
4097 なっており,
4098 生産設備の稼働率も50パーセント又は40パーセントと低下しているので,
4099 こ
4100 れ以上のコストの引下げ余地はない。
4101
4102 しかも,
4103 X製品は化学製品であって,
4104 輸入品と品質差は
4105 ないということであるから差別化もしにくい商品であり,
4106 より安価な輸入品に物流サービスの
4107 質でしか対抗できていない。
4108
4109 需要家は品質差がない輸入品の価格を承知しており,
4110 当該価格に
4111 物流サービスに伴う付加価値を加えた程度の価格(輸入品の調達に切り替えた場合に必要な追
4112 加コストを輸入品の価格に加えた価格)でしか購入しないと想定される。
4113
4114
4115 こうした場合,
4116 事業者とすれば,
4117 国内の残存競争事業者との間で,
4118 販売面まで含めた事業統
4119 合を図るか,
4120 製造や物流部分の共通化を目指すのはむしろ当然である。
4121
4122 いずれの場合も,
4123 生産
4124 設備の稼働率を向上させ,
4125 単位当たりの生産コストを引き下げるという効率性の改善が強く期
4126 待できる。
4127
4128
4129 しかし,
4130 の事業統合をする場合には,
4131 販売面での統合を伴うため,
4132 販売市場でのシェアが
4133 90パーセントと高くなる(国産品と輸入品の間で品質差がない製品のため,
4134 シェアを100
4135 パーセントとするのは誤りである。
4136
4137 )。
4138
4139 この場合,
4140 輸入品の牽制力や需要家の競争圧力がどこま
4141 で効くのかが市場への影響を判断する上で焦点になるだろうし,
4142 評価が分かれるところであろ
4143 う。
4144
4145 結局のところ,
4146 海外市況の影響も受けるであろうし,
4147 海外供給者の供給余力の問題や輸入
4148 者の物流サービスの改善努力にも関わるところであるが,
4149 こうした競争圧力には一定の限界が
4150 あると見ることができるだろう。
4151
4152 他方で,
4153 当事会社は事業存続性が問題になるような経営状況
4154 であり,
4155 検討されている事業統合により稼働率の大幅な向上など効率性の改善も期待できる。
4156
4157
4158 このような事業統合は競争を実質的に制限することとなるとしてこれを認めないとする考え
4159 も,
4160 当事会社の経営状況の深刻さや効率性の改善を評価してこれを認める考えも十分成立し得
4161 る。
4162
4163 なお,
4164 上記のとおり,
4165 問題文で提示されている事業統合案のままでは競争を実質的に制限
4166 することとなると考えた場合には,
4167 問題解消措置等の提案がなされることが期待される。
4168
4169
4170 次に,
4171 の業務提携はOEM契約といわれるものであり,
4172 一種の共同生産であって,
4173 高い頻
4174 度で利用されている競争事業者間での業務提携の一種である。
4175
4176 併せて,
4177 物流業務の提携も目指
4178 されているが,
4179 当該提携については,
4180 我が国において,
4181 寡占市場で非常に高い市場シェアを有
4182 する同業者間でも物流コスト削減のために行われていることから分かるように,
4183 まず独占禁止
4184 法上問題視されることが少ない業務提携の一種である。
4185
4186
4187 OEM契約では,
4188 @原材料の調達市場でのシェア,
4189 A当該製品の市場シェア,
4190 Bコストの共
4191
4192 - 29 -
4193
4194 通化の程度等で,
4195 その適法性が判断される。
4196
4197 取り分け,
4198 Bについては,
4199 生産を委託する事業者
4200 が原材料を別途調達して受託者に提供する事案と,
4201 原材料の調達まで委託する事案とでは判断
4202 が異なることが多い。
4203
4204 本件では,
4205 B社がA社に生産委託するに際して,
4206 Xの生産に必要な主要
4207 原料(Xの製造原価の60パーセント程度)を,
4208 こうした委託生産に必要な量だけ「提供」
4209 (「販
4210 売」ではない。
4211
4212 )するのであって,
4213 製造原価の60パーセントも占める主要原料についてはコ
4214 ストが共通化しない。
4215
4216 また,
4217 主要原料は「提供」されるのであって販売されるわけではないの
4218 で,
4219 実際の主要原料のコスト情報はA社と共有されない。
4220
4221 生産委託費用として支払われるのは,
4222
4223 主要原料以外の製造原価(例えば,
4224 副原料費・動力費・工場人件費・固定費等)の実費の10
4225 3パーセントであって,
4226 マークアップ分は僅かであり,
4227 ほぼ実費ベースでの生産の受委託であ
4228 ると評価できる(なお,
4229 こうした費用も,
4230 稼働率が上がれば,
4231 単位当たりの固定費は低下する
4232 ため,
4233 引下げが期待できる。
4234
4235 )。
4236
4237 すなわち,
4238 両社間で共通化する製造原価は主要原料を除く僅か
4239 に40パーセントでしかない。
4240
4241 その意味では,
4242 A社とB社の間では十分に競争の余地が残るし,
4243
4244 物流費用以外の販売管理費でも競争する余地がある。
4245
4246
4247 これまで,
4248 こうしたOEM契約の場合には,
4249 それがもたらす競争制限効果と競争促進効果(特
4250 に,
4251 本件では2社が競争単位として存続すること)を評価して,
4252 業務提携の適法性を肯定する
4253 例がほとんどである。
4254
4255 ただし,
4256 本件では,
4257 物流業務の提携に伴って,
4258 顧客及び出荷先に関する
4259 情報を競争事業者に提供するという設定にしている。
4260
4261 そもそも物流業務の提携を行う以上,
4262 当
4263 該情報を委託者が受託者に提供することは前提であるし,
4264 不可欠な要素であろう。
4265
4266 しかし,
4267 こ
4268 うした情報は,
4269 営業機微情報とも解される余地があり,
4270 かかる情報を交換することが競争の実
4271 質的制限につながる可能性も皆無ではない。
4272
4273 この点,
4274 の業務提携はいまだ計画段階であるた
4275 め,
4276 かかる情報提供行為が問題であれば,
4277 その問題を除去することで,
4278 提携そのものは実施で
4279 きる可能性が高まる。
4280
4281 例えば,
4282 顧客及び出荷先に関する情報は,
4283 相手先の物流部門にのみ提供
4284 し,
4285 営業部門には提供せず,
4286 営業部門と物流部門の間で情報遮断をする措置を採ることなどが
4287 考えられる。
4288
4289
4290 [知的財産法]
4291 〔第1問〕
4292 1
4293
4294 設問1は,
4295 専用実施権が設定されている場合の特許権者による差止請求の可否及び先使用
4296 権の成否等を問う問題であり,
4297 設問2は,
4298 間接侵害の成否等を問う問題であり,
4299 設問3は独
4300 占的通常実施権者に固有の差止請求権や損害賠償請求権が認められるか,
4301 それらが認められ
4302 る場合,
4303 特許法(以下「法」という。
4304
4305 )第102条第2項の類推適用が認められるか否か等
4306 を問う問題である。
4307
4308
4309
4310 2
4311
4312 設問1については,
4313 第1に,
4314 X1はX2に対し範囲を全部とする専用実施権を設定してい
4315 ることから,
4316 法第68条ただし書により,
4317 もはや特許権者であるX1はYに対し差止請求権
4318 を行使することはできないのではないかが問題となる。
4319
4320 この点に関しては,
4321 特許権者は,
4322 そ
4323 の特許権について専用実施権を設定したときであっても,
4324 当該特許権に基づく差止請求権を
4325 行使することができる旨判示した最高裁判所平成17年6月17日判決民集59巻5号10
4326 74頁【リガンド分子安定複合体事件】を念頭に置きつつ,
4327 自説を説得的に論述することが
4328 求められる。
4329
4330 第2に,
4331 仮にX1に差止請求権が認められるとしても,
4332 Yは,
4333 Y製品1につき,
4334
4335 本件特許の出願前に既に発明を完成し,
4336 生産ラインの設計・製造を外部に発注していること
4337 から,
4338 Yが先使用権(法第79条)を有すると主張することが考えられる。
4339
4340 この点に関して
4341 は,
4342 まず,
4343 「事業の準備」の意義が問題となるが,
4344 「事業の準備」とは,
4345 その発明につき,
4346 い
4347 まだ事業の実施の段階には至らないものの,
4348 即時実施の意図を有しており,
4349 かつ,
4350 その即時
4351 実施の意図が客観的に認識される態様,
4352 程度において表明されていることを意味すると判示
4353 した最高裁判所昭和61年10月3日判決民集40巻6号1068頁【ウォーキングビーム
4354
4355 - 30 -
4356
4357 事件】を念頭に置きつつ,
4358 当該事案に適切に当てはめることが求められる。
4359
4360 次に,
4361 仮にY製
4362 品1について先使用権が認められても,
4363 Y製品2についてまで先使用権が及ぶか,
4364 すなわち,
4365
4366 Y製品2が「準備をしている発明の範囲」に含まれるかが問題となる。
4367
4368 この点に関しては,
4369
4370 前掲【ウォーキングビーム事件】最高裁判決が,
4371 先使用権の効力は,
4372 特許出願の際に先使用
4373 権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく,
4374 これに具現された発明と同一性を
4375 失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶ旨判示していることを念頭に置きつつ,
4376
4377 本件事案に当てはめることが求められる。
4378
4379
4380 3
4381
4382 設問2については,
4383 第1に,
4384 本件特許発明は物の発明であるところ,
4385 Z製品は本件特許発
4386 明の一部を構成するにすぎないから,
4387 間接侵害(法第101条第2号)の成否が問題となる。
4388
4389
4390 まず,
4391 薬剤αと薬剤βを併用して服用することが「その物の生産」と言えるかが問題となり
4392 得るが,
4393 この点に関しては,
4394 これを否定した裁判例(大阪地判平成24年9月27日判時2
4395 188号108頁【ピオグリタゾン事件】)もあることから,
4396 自説を展開して論述すること
4397 が求められる。
4398
4399 また,
4400 薬剤αは医師の処方せんがなければ入手できない薬剤であることから,
4401
4402 非汎用品要件を充足するか否かが問題となるが,
4403 この点に関しては,
4404 「日本国内において広
4405 く一般に流通しているもの」とは,
4406 典型的には,
4407 ねじ,
4408 釘,
4409 電球,
4410 トランジスター等のよう
4411 な,
4412 日本国内において広く普及している一般的な製品,
4413 すなわち,
4414 特注品ではなく,
4415 他の用
4416 途にも用いることができ,
4417 市場において一般に入手可能な状態にある規格品,
4418 普及品を意味
4419 すると判示した知的財産高等裁判所平成17年9月30日判決判タ1188号191頁【一
4420 太郎事件】を念頭に置きつつ,
4421 本件事案に当てはめることが求められる。
4422
4423 さらに,
4424 「発明に
4425 よる課題の解決に不可欠なもの」と言えるかが問題となるが,
4426 この点に関する判断基準とし
4427 ては,
4428 東京地方裁判所平成16年4月23日判決判タ1196号235頁【プリント基板用
4429 治具に用いるクリップ事件】や東京地方裁判所平成25年2月28日判決裁判所ホームペー
4430 ジ【ピオグリタゾン事件】があり,
4431 他方で,
4432 前掲【一太郎事件】もあることから,
4433 これらを
4434 念頭に置きつつ,
4435 薬剤αが公知の薬剤であることを考慮して自説を展開して当てはめること
4436 が求められる。
4437
4438 第2に,
4439 直接侵害が成立しない場合の間接侵害の成否が問題となる。
4440
4441 この点
4442 に関しては,
4443 直接の実施行為者は医師,
4444 薬剤師か,
4445 それとも患者かによって構成が異なり得
4446 る。
4447
4448 これを医師又は薬剤師と解するときは,
4449 法第69条第3項の適用の可否,
4450 すなわち,
4451 医
4452 師の処方せんに基づき薬剤師が同時に服用するように指示する行為が,
4453 同項の「混合」,
4454 「調
4455 剤」に当たるかが問われ,
4456 当たらないにしても,
4457 同項の趣旨から,
4458 「混合」,
4459 「調剤」に類似
4460 する行為として特許権の効力が及ばないとの構成が考えられる。
4461
4462 また,
4463 直接の実施行為者を
4464 患者と解するときは,
4465 併用して服用する行為は,
4466 家庭内実施行為であって法第68条の「業
4467 として」に当たらないと考えることも可能であろう。
4468
4469 いずれにしても,
4470 このような場合に間
4471 接侵害が成立するのか否かについて自説を展開することが求められる。
4472
4473 第3に,
4474 仮に間接侵
4475 害が成立しないとしても,
4476 Zは情を知らない医師,
4477 薬剤師及び患者を支配・管理し,
4478 言わば
4479 手足として利用することによって,
4480 直接特許権を侵害する主体であるとの構成も考えられ得
4481 る。
4482
4483 この点について言及すれば,
4484 更に積極的な評価が与えられよう。
4485
4486
4487
4488 4
4489
4490 設問3については,
4491 第1に,
4492 独占的通常実施権者であるX3に固有の差止請求権があるか
4493 否かが問題となり,
4494 仮に固有の差止請求権を認めない場合でも,
4495 専用実施権者であるX2の
4496 差止請求権を代位行使することができるか否かが問題となる。
4497
4498 仮に代位行使を肯定する場合
4499 は,
4500 X2が有する差止請求権の代位行使であるという性質上,
4501 X2から実施許諾を受けてい
4502 るCに対しても差止請求権を代位行使することができるか否かが問題となることから,
4503 これ
4504 らの点につき,
4505 自説を展開し,
4506 論述することが求められる。
4507
4508 第2に,
4509 まず,
4510 X3に固有の損
4511 害賠償請求権が認められるかが問題となる。
4512
4513 仮に固有の損害賠償請求が可能であるとしても,
4514
4515 本設問の場合,
4516 市場はBとCとで2分された状態であってX3が独占しているわけではない
4517 ことから,
4518 独占的通常実施権者が損害賠償を請求するためには,
4519 単に独占的通常実施許諾の
4520
4521 - 31 -
4522
4523 合意があっただけでは足りず現実にも市場の独占状態が実現されていることを要するか否か
4524 が問題となる。
4525
4526 次に,
4527 仮にX3について損害賠償請求権を認める場合,
4528 法第102条第2項
4529 の類推適用の可否が問題となる。
4530
4531 さらに,
4532 同項の類推適用を認める場合,
4533 X3は自ら本件特
4534 許発明を実施していないことから,
4535 このような場合でも,
4536 同項の類推適用が認められるかが
4537 問題となる。
4538
4539 この点に関しては,
4540 特許権者が当該特許発明を実施していることは同項を適用
4541 するための要件とは言えず,
4542 特許権者に,
4543 侵害者による特許権侵害行為がなかったならば利
4544 益が得られたであろうという事情が存在する限り同項の適用が認められる旨判示した知的財
4545 産高等裁判所平成25年2月1日判決判時2179号36頁【ごみ貯蔵機器事件】を念頭に
4546 置いて,
4547 自説を展開することが求められる。
4548
4549 なお,
4550 その場合,
4551 X3はそもそも再実施許諾権
4552 を有しないから,
4553 このような場合でも上記事情が存在すると言えるか否かも問題となろう。
4554
4555
4556 〔第2問〕
4557 1
4558
4559 設問1は,
4560 コンサートでの歌唱に対して演奏権侵害が成立するかについて,
4561 演奏権侵害の
4562 要件(著作権法〔以下「法」という。
4563
4564 〕第22条),
4565 演奏の主体,
4566 非営利の演奏に対する著作
4567 権の制限(法第38条第1項)に関する理解を問う問題であり,
4568 設問2は,
4569 時事の事件の報
4570 道(法第41条)及び引用(法第32条第1項)に関する理解を問う問題である。
4571
4572 設問3は,
4573
4574 編集著作物の成立と編集著作権の侵害(法第12条第1項)の成否,
4575 氏名表示権(法第19
4576 条)及び同一性保持権(法第20条第1項)の侵害の成否を問う問題であり,
4577 設問4は,
4578 著
4579 作者の名誉・声望を害する方法による著作物の利用としての著作者人格権みなし侵害(法第
4580 113条第6項)の成否について問う問題である。
4581
4582
4583
4584 2
4585
4586 設問1では,
4587 まず,
4588 演奏権侵害について,
4589 本件コンサートにおける市職員50名に対する
4590 歌唱が,
4591 法第22条の「公衆に」聞かせるという要件を満たすかが問題となる(法第2条第
4592 5項参照)。
4593
4594 次に,
4595 演奏行為をしたのはAであり,
4596 歌の選曲もAがなしたことから,
4597 丙が演
4598 奏権侵害の主体であるかが問題となるところ,
4599 この点については,
4600 最高裁判所昭和63年3
4601 月15日判決民集42巻3号199頁【クラブ・キャッツアイ事件】,
4602 最高裁判所平成23
4603 年1月20日判決民集65巻1号399頁【ロクラクU事件】の判示を念頭に置いて述べる
4604 ことが求められる。
4605
4606 最後に,
4607 本件コンサートが,
4608 非営利団体である社会福祉法人のチャリテ
4609 ィー目的であり,
4610 寄附金を募っていたという点が,
4611 法第38条第1項に該当するかが問題と
4612 なる。
4613
4614 同項の要件は,
4615 @営利を目的とせず,
4616 A聴衆等から料金を受けず,
4617 B実演家等に対し
4618 報酬が支払われない,
4619 の3つであるところ,
4620 非営利団体のチャリティー目的であることなど
4621 の設問の事実関係を踏まえ,
4622 取り分け,
4623 寄附金をどのように評価するかについて,
4624 理由を明
4625 らかにして,
4626 各要件につき論じることが求められる。
4627
4628 なお,
4629 コンサート全体の差止めの請求
4630 は過剰であることについて言及があれば,
4631 積極的な評価が与えられよう。
4632
4633
4634
4635 3
4636
4637 設問2では,
4638 本件動画へのMの録音行為に対する複製権(法第21条)侵害,
4639 インターネ
4640 ット配信に対する公衆送信権(法第23条第1項)侵害について,
4641 時事の事件の報道(法第
4642 41条)及び引用(法第32条第1項)に関する著作権の制限規定の適用の可否が問題とな
4643 る。
4644
4645 まず,
4646 法第41条に該当するかについては,
4647 本件動画の配信の態様が,
4648 「報道の目的上
4649 正当な範囲内」と言えるか,
4650 本件コンサートの開催から1年以上経過してなお配信され続け
4651 ていても,
4652 「時事の事件」と言えるかについて論じることが求められる。
4653
4654 次に,
4655 法第32条
4656 第1項については,
4657 最高裁判所昭和55年3月28日判決民集34巻3号244頁【パロデ
4658 ィモンタージュ事件】のみならず,
4659 近時の知的財産高等裁判所平成22年10月13日判決
4660 判時2092号135頁【鑑定証書コピー事件】等の判示をも念頭に置きつつ,
4661 検討するこ
4662 とが求められる。
4663
4664
4665
4666 4
4667
4668 設問3では,
4669 本件詩集において,
4670 甲が詩を厳選したこととテーマごとの章に分けて構成し
4671 たことという設問の事実関係を踏まえ,
4672 素材の選択・配列について,
4673 創作性が認められ,
4674 甲
4675
4676 - 32 -
4677
4678 が編集著作権(法第12条第1項)を有するか否かを述べることが求められる。
4679
4680 そして,
4681 編
4682 集著作権の侵害は,
4683 素材の選択又は配列の創作的表現の再製が要件となるところ,
4684 本件CD
4685 において,
4686 甲の60編の詩の選択のうちの一部が利用され,
4687 収録した曲の順序が変更されて
4688 いることについて検討しつつ,
4689 自説を論じることが求められる。
4690
4691 また,
4692 本件CDにおいては,
4693
4694 甲への言及がないことから氏名表示権(法第19条)について,
4695 Q章の詩の順序が変更され
4696 ていることから同一性保持権(法第20条第1項)について,
4697 それぞれ述べることが求めら
4698 れる。
4699
4700
4701 5
4702
4703 設問4では,
4704 名誉・声望を害する方法による著作物の利用としての著作者人格権みなし侵
4705 害(法第113条第6項)の成否が問題となるところ,
4706 同項にいう名誉・声望とは,
4707 社会的
4708 名誉・声望を指し,
4709 主観的な評価である名誉感情は含まれないとされていることを踏まえつ
4710 つ,
4711 戊の本件再生行為によって,
4712 乙が社会から受ける客観的な評価の低下を来し社会的名誉
4713 ・声望が毀損されると言えるかについて,
4714 理由と共に論じることが求められる。
4715
4716
4717
4718 [労働法]
4719 〔第1問〕
4720 本問は,
4721 会社分割に際して分割先会社へ承継される従業員を対象とする説明会が実施され,
4722
4723 会社分割後,
4724 分割先会社において,
4725 給与規程,
4726 退職金規程の改訂が行われた事例について,
4727 会
4728 社分割の際に法律上要求されている手続の意義と法的効力,
4729 就業規則変更の法的効力を問うも
4730 のである。
4731
4732 労働条件変更をめぐる紛争は,
4733 裁判例においても数多く見られるところであり,
4734 関
4735 係条文・判例が定立している規範を正確に理解した上で,
4736 具体的事案に的確に適用すること(当
4737 てはめ)ができるかが問われている。
4738
4739
4740 設問1では,
4741 労働契約承継法(以下「承継法」という。
4742
4743 )第3条によりY社からZ社へ労働
4744 契約が承継されるX1が,
4745 商法改正法附則上の「労働者との協議」手続(以下「5条協議」と
4746 いう。
4747
4748 )の一環として行われたと考えられる説明会におけるY社の対応に納得できず,
4749 不満が
4750 あるとされているので,
4751 5条協議の意義,
4752 5条協議の履行と労働契約承継の効力との関係が問
4753 題となる。
4754
4755 この点について,
4756 判例(日本アイ・ビー・エム事件最判平成22年7月12日民集
4757 64巻5号1333頁)が,
4758 5条協議の意義を踏まえて,
4759 5条協議不履行等の場合には,
4760 労働
4761 契約承継の効力を争うことができるとしている。
4762
4763 したがって,
4764 この判例を参照しながら検討す
4765 ることになろう。
4766
4767
4768 また,
4769 承継法第7条は,
4770 分割会社に労働者の過半数代表者との協議等により,
4771 「労働者の理
4772 解と協力を得るよう努めるものとする」(以下「7条措置」という。
4773
4774 )と定めているので,
4775 この
4776 7条措置と労働契約承継の効力との関係について検討する必要がある。
4777
4778 7条措置の意義と効力
4779 についても,
4780 前掲判例で取り上げられている。
4781
4782 したがって,
4783 この点に留意しながら,
4784 Y社がC
4785 組合からの本件分割についての協議申入れに応じなかったことが,
4786 7条措置との関係でどのよ
4787 うに評価されるのか検討すべきであろう。
4788
4789
4790 設問2では,
4791 まず,
4792 X2が,
4793 給与,
4794 退職金等を改訂する就業規則の変更についてのZ社の説
4795 明会の後に,
4796 これに同意する旨の書面(以下「同意書」という。
4797
4798 )を提出しているので,
4799 この
4800 同意書をどのように評価すべきかが問題となる。
4801
4802 判例(山梨県民信用組合事件・最判平成28
4803 年2月19日民集70巻2号123頁)は,
4804 労働者が就業規則による労働条件の不利益変更に
4805 同意した場合,
4806 労働契約法(以下「労契法」という。
4807
4808 )第8条,
4809 第9条本文を参照しつつ,
4810 そ
4811 の同意に法的拘束力を認めるが,
4812 同意の有無についての判断は慎重になされるべきであるとし
4813 て,
4814 その判断に際して考慮すべき諸事情を挙げている。
4815
4816 したがって,
4817 この判例を参照しながら,
4818
4819 同意書提出に関する諸事情に即して,
4820 X2の同意を認定できるのか検討することになろう。
4821
4822
4823 次に,
4824 X2の請求の可否を検討するに当たっては,
4825 本件就業規則の不利益変更の法的効力が
4826 問題となる。
4827
4828 この点については,
4829 就業規則による労働条件の不利益変更に関する判例法理を明
4830
4831 - 33 -
4832
4833 文化した労契法第10条の解釈,
4834 適用の問題となるので,
4835 本件就業規則変更に関する諸事情に
4836 即して,
4837 本件変更に係る諸手続の履践の有無と変更内容等についての合理性の有無を検討すべ
4838 きことになる。
4839
4840
4841 〔第2問〕
4842 本問は,
4843 使用者との間でユニオン・ショップ協定(以下「ユ・シ協定」という。
4844
4845 )を締結し
4846 ている労働組合(以下「組合」という。
4847
4848 )から脱退した労働者がユ・シ協定によって解雇され,
4849
4850 脱退した労働者の一部が新たに結成した組合が使用者に対して団体交渉を求めた事例につい
4851 て,
4852 ユ・シ協定による解雇の効力,
4853 複数の組合が併存している場合の団体交渉申入れに対する
4854 使用者の対応の適否を問うものである。
4855
4856 ユ・シ協定の法的効力,
4857 団交拒否の適否をめぐる紛争
4858 について,
4859 関係条文・判例が定立している規範を正確に理解した上で,
4860 具体的事案を明確に整
4861 理,
4862 識別して,
4863 的確に適用すること(当てはめ)ができるかが問われている。
4864
4865
4866 設問1については,
4867 X1,
4868 X2及びX11は,
4869 ユ・シ協定に基づきY社から解雇されている
4870 ので,
4871 ユ・シ協定の意義と効力をどのように理解すべきかが問題となる。
4872
4873 この点について,
4874 判
4875 例は,
4876 肯定的な立場(日本食塩製造事件・最判昭和50年4月25日民集29巻4号456頁)
4877 であるが,
4878 ユ・シ協定締結組合とは別の組合に加入している者,
4879 新たに組合を結成した者につ
4880 いては,
4881 ユ・シ協定の解雇義務を定める部分は民法第90条に違反して無効とする(三井倉庫
4882 港運事件・最判平成元年12月14日民集43巻12号2051号)。
4883
4884 したがって,
4885 判例によ
4886 れば,
4887 解雇の効力の有無については,
4888 A組合から脱退した後,
4889 B組合に加入したか否かが重要
4890 な意味を有することになるが,
4891 X1の解雇はB組合結成前であるので,
4892 この点をどのように評
4893 価すべきかが問題となる。
4894
4895 この3者それぞれの事実関係を明確に整理,
4896 区別して,
4897 解雇の効力
4898 を検討する必要があろう。
4899
4900 また,
4901 A組合から脱退した者の中で,
4902 この3者だけが解雇されてい
4903 ることも問題となろう。
4904
4905
4906 設問2については,
4907 B組合の要求に対するY社の対応が,
4908 正当な理由のない団体交渉拒否(労
4909 働組合法第7条第2号の不当労働行為)に当たるのか否かが問題となる。
4910
4911 まず,
4912 B組合が団体
4913 交渉を要求する事項が義務的団交事項であるのか否かについて検討すべきであろう。
4914
4915 その上で,
4916
4917 Y社の〜の対応それぞれについて,
4918 それが団交に応じない正当な理由と評価できるのか否
4919 かを検討することになろう。
4920
4921 判例(日産自動車事件・最判昭和60年4月23日民集39巻3
4922 号730頁)は,
4923 複数組合が併存する場合には,
4924 全ての場面で,
4925 使用者には各組合に対し中立
4926 的態度を保持し,
4927 その団結権を平等に承認,
4928 尊重すべきものであるとした上で,
4929 各組合の組織
4930 力,
4931 交渉力に応じた合理的,
4932 合目的的な対応をすることはこの義務に反しないとしているが,
4933
4934 この判例を参照しつつ検討する必要がある。
4935
4936 また,
4937 団交要求に対する文書回答の適否について
4938 も問題となろう。
4939
4940
4941 [環境法]
4942 〔第1問〕
4943 第1問は,
4944 実務上,
4945 提起され得る土壌汚染対策法の解釈・運用について分野横断的な視点か
4946 ら問うものである。
4947
4948 土壌汚染対策の費用負担に関する適切な制度設計及び解釈・運用は,
4949 関係
4950 当事者間の正義・衡平と土壌汚染の迅速・効果的な対策を促進することになる。
4951
4952
4953 〔設問1〕は,
4954 売買契約の解釈を通して,
4955 土壌汚染対策法上,
4956 自然由来の土壌汚染がどのよ
4957 うに位置付けられているかを尋ねている。
4958
4959 これにより,
4960 本設問における土壌汚染対策の費用負
4961 担者が異なることになる。
4962
4963
4964 自然由来の土壌汚染につき,
4965 【資料】通知によれば,
4966 平成21年改正前土壌汚染対策法は,
4967
4968 その対象としていなかったが,
4969 平成21年改正後土壌汚染対策法は,
4970 これを対象とすることと
4971 なった(行政解釈の変更)。
4972
4973 これについて,
4974 法律の解釈に関する終局的な判断は,
4975 裁判所に委
4976
4977 - 34 -
4978
4979 ねられているが,
4980 設問の場合,
4981 「環境省の指定基準に適合しない土壌汚染」(甲売買契約第10
4982 条第2項)との契約上の文言の解釈が問題となっている。
4983
4984 そして,
4985 契約文言の意義は、
4986 契約当
4987 事者の意思表示の合理的解釈によって決まるから,
4988 その合理的解釈の中で,
4989 自然由来の土壌汚
4990 染が,
4991 甲売買契約の上記条項における「土壌汚染」に含まれるかを論じることになる。
4992
4993
4994 本設問では,
4995 この点について,
4996 【資料】通知を参考にして,
4997 理由を付したAの主張とBの反
4998 論を記述した上で,
4999 それぞれの評価を行うことが求められている。
5000
5001
5002 想定できるAの主張は,
5003 Bによる対策費用負担を求める理由として,
5004 (人の健康被害の未然
5005 防止という)土壌汚染対策法の趣旨目的から,
5006 改正法前後にかかわらず,
5007 自然由来物質は,
5008 同
5009 法令の規制対象物質である限り,
5010 そもそも同法の規制対象に含まれており,
5011 甲売買契約第10
5012 条第2項にいう「土壌汚染」に当たるというものなどであろう。
5013
5014 それに対して,
5015 想定できるB
5016 の反論は,
5017 Bによる対策費用負担は求められない理由として,
5018 【資料】通知記載のとおり,
5019 環
5020 境基本法との整合性などを考慮すると自然由来物質による汚染は,
5021 改正前は含まれていなかっ
5022 たため,
5023 甲売買契約第10条第2項にいう「土壌汚染」には当たらないというものなどであろ
5024 う。
5025
5026
5027 AのBに対する甲土地の汚染対策費用の支払請求が認められるかについては,
5028 AとBの各主
5029 張を評価することになる。
5030
5031
5032 まず,
5033 甲売買契約における合理的意思解釈には,
5034 土壌汚染対策法の解釈が必要であることを
5035 指摘する。
5036
5037 次に,
5038 甲売買契約時と請求時において,
5039 同法の自然由来物質による汚染に関する行
5040 政解釈について変化があることを指摘する。
5041
5042 さらに,
5043 A,
5044 Bの主張の妥当性について,
5045 @環境
5046 基本法との関係,
5047 A土壌汚染対策法の趣旨目的,
5048 B自然由来物質による土壌汚染を対象とした
5049 場合には,
5050 Bに過大な負担を課す可能性があるがその妥当性(比例原則),
5051 C(行政解釈の変
5052 更を行った)【資料】通知の法的性質,
5053 行政解釈変更の適否及び変更が許されると解する場合
5054 の範囲(変更は,
5055 汚染土壌搬出規制のみにとどめるか)などの観点から論じることになる。
5056
5057
5058 なお,
5059 周知のとおり,
5060 現在では,
5061 自然由来物質による土壌汚染の場合,
5062 対策義務者の負担を
5063 限定する対応がされている(平成23年改正土壌汚染対策法施行規則第53条2号ただし書イ、
5064
5065 同規則第58条第4項第9号など)。
5066
5067 さらに,
5068 土壌汚染対策法の一部を改正する法律案が,
5069 第
5070 193回通常国会において可決,
5071 平成29年5月19日に公布されており(平成29年法律第
5072 33号。
5073
5074 施行期日は,
5075 附則第1条参照。
5076
5077 ),
5078 同改正法は,
5079 自然由来の土壌汚染を対象とすること
5080 を前提とした定めを置いている。
5081
5082
5083 〔設問2〕は,
5084 土壌汚染対策法に基づく対策が適切に行われない場合を想定して,
5085 同法の簡
5086 易代執行に関する仕組みと同法以外の法制度との関係について尋ねている。
5087
5088 これにより,
5089 本設
5090 問における土壌汚染対策の費用負担者が異なることになる。
5091
5092 なお,
5093 出題文中,
5094 Xは,
5095 当時の乙
5096 土地の所有者Aのほか,
5097 駐車場管理会社である場合などが想定できる。
5098
5099
5100 小問については,
5101 以下の手続によることとなる。
5102
5103 まず,
5104 S県知事は,
5105 土壌汚染対策法第6
5106 条に基づき,
5107 要措置区域の指定を行うことになる。
5108
5109 次に,
5110 土壌汚染を「放置することが著しく
5111 公益に反すると認められるとき」,
5112 S県知事は,
5113 同法第7条第5項に基づいて指示措置を自ら
5114 行う(簡易代執行)。
5115
5116 なぜなら,
5117 乙土地の所有権に争いがあるため,
5118 「過失がなくて当該指示を
5119 受けるべき者を確知することができず」(同法第7条第5項),
5120 同条第1項に基づいて,
5121 所有者
5122 等や原因者に汚染の除去等の措置を講ずべきことを指示することができないからである。
5123
5124
5125 小問については,
5126 Cの主張の当否を判断するに当たり,
5127 場合分けを行った上で,
5128 土壌汚染
5129 対策法と廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下,
5130 「廃棄物処理法」という。
5131
5132 )の適用関係を
5133 論じ,
5134 次に,
5135 費用負担に関する土壌汚染対策法の解釈を論じることが求められている。
5136
5137
5138 すなわち,
5139 当該廃棄物がQによる土壌汚染の原因となっているかどうかで場合分けし,
5140 原因
5141 となっていない場合,
5142 その限度で,
5143 原因者の不明にかかわらず,
5144 Cの主張は認められる。
5145
5146 なぜ
5147 なら,
5148 この場合,
5149 汚染対策費用は,
5150 廃棄物処理法が定める原因者負担の原則によることとなる
5151
5152 - 35 -
5153
5154 からである。
5155
5156
5157 また,
5158 原因となっている場合,
5159 第三者(原因者)が不明であれば,
5160 Cの主張は認められない。
5161
5162
5163 なぜなら,
5164 この場合,
5165 Cは,
5166 土地の所有者として,
5167 土壌汚染対策法に基づく対策義務があるか
5168 らである(後に原因者が判明した場合,
5169 Cは,
5170 民法または土壌汚染対策法第8条〔類推適用〕
5171 に基づいて原因者に求償することができる。
5172
5173 )。
5174
5175 一方,
5176 第三者(原因者)が明らかである場合,
5177
5178 Cの主張の当否は,
5179 同法第7条第5項にいう「その者の負担において」の解釈によるが,
5180 土地
5181 所有者等の責任を重視して「その者」が所有者等のみを意味すると解釈した場合(結論におい
5182 て行政解釈と同旨),
5183 Cの主張は,
5184 認められない。
5185
5186 これに対し,
5187 簡易代執行の費用負担におい
5188 ても原因者負担を貫徹するため,
5189 「その者」が同法第7条第1項ただし書にいう原因者を含む
5190 と解釈する場合,
5191 廃棄物を原因とする汚染の限度で,
5192 Cの主張が認められる余地がある。
5193
5194 ただ
5195 し,
5196 その場合でも,
5197 同項ただし書の要件を満たす場合に限られる。
5198
5199
5200 なお,
5201 同法第7条は,
5202 上記平成29年改正法により,
5203 一部改正されていることに注意された
5204 い。
5205
5206
5207 〔第2問〕
5208 第2問は,
5209 環境法の中で講学上循環管理法と称される分野における基本原則等と,
5210 その中で
5211 も特に重要な位置を占める廃棄物処理に関わる基本的な事項につき基礎的な理解を問う問題で
5212 ある。
5213
5214 現代において環境への負荷の少ない循環型社会を有効に形成していく上で,
5215 第3次産業
5216 において適正な対応をしていくことは欠かせないと考えられ,
5217 工業生産等により直接有害物質
5218 を排出し得るような企業でないからといって環境法上の問題と無縁ではいられない。
5219
5220 第3次産
5221 業に属する会社の取締役会に社外取締役弁護士として関与するという状況として問題設定した
5222 のも,
5223 法律家となった暁には,
5224 いついかなる場面で環境法上の問題への対応を迫られることに
5225 なるか分からないことを認識してもらいたいとの思いを込めている。
5226
5227
5228 〔設問1〕では,
5229 甲店,
5230 乙店及び丙店からの各応募内容が,
5231 循環型社会形成推進基本法(以
5232 下「循環基本法」という。
5233
5234 )上の基本原則の観点からどのような内容のものとして位置付けら
5235 れるかが問われている。
5236
5237 循環基本法上の基本原則とは,
5238 同法第3条から第7条までに定める循
5239 環型社会の形成についての基本原則をいう(同法第9条)が,
5240 各応募内容がどのような点にお
5241 いて優れていると言えるかを解答することが求められているから,
5242 まず,
5243 廃棄物等となること
5244 ができるだけ抑制されなければならないこと(同法第5条),
5245 廃棄物等となる場合でも,
5246 その
5247 うち有用なものである循環資源(同法第2条第3項)については,
5248 処分に優先して,
5249 できる限
5250 り循環的な利用が行われなければならないこと(同法第6条第1項,
5251 第7条第4号),
5252 循環的
5253 な利用の中では,
5254 原則的には,
5255 再使用,
5256 再生利用,
5257 熱回収の順に優先すべきものとされている
5258 こと(同条第1号ないし第3号)を踏まえて,
5259 各店の応募内容の位置付けを理解する必要があ
5260 る。
5261
5262 循環基本法の以上の基本的な成り立ちが理解できていれば,
5263 甲店案は,
5264 最も優先されるべ
5265 き基本原則である排出抑制に当たる点で優れていることは自明である。
5266
5267 次に,
5268 乙店案は,
5269 循環
5270 資源である廃棄食品を堆肥の原材料として利用するものであるから,
5271 再生利用(同法第2条第
5272 6項)に当たるが,
5273 廃棄食品は,
5274 製品としてそのまま使用することや製品の一部として,
5275 再使
5276 用(同条第5項)することが,
5277 その性質上困難なものであるから,
5278 その循環資源としての特質
5279 に鑑みれば,
5280 実質的には最も優れた循環的な利用の方法に当たることを指摘することになろう。
5281
5282
5283 最後に,
5284 丙店実例は,
5285 燃焼の用に供することのできる厨芥物をバイオガスとして熱(エネルギ
5286 ー)を得ることに利用する熱回収(同条第7項)であり,
5287 同法第7条各号の循環的な利用の方
5288 法の原則的な順位としては再生利用に劣るが,
5289 全体として焼却処分量が減ることにより温室効
5290 果ガスの発生が抑制されることなど,
5291 別の側面からの環境への負荷の低減にとって有効である
5292 と認められる点で優れていること(同条柱書き後段参照)を指摘する。
5293
5294
5295 〔設問2〕は,
5296 本来廃棄物として処理していた物を有用なものとして取引することが,
5297 循環
5298
5299 - 36 -
5300
5301 管理法上どのような問題性を有するかを問う設問である。
5302
5303 近時に社会問題化した賞味期限切れ
5304 食品の弁当製造業者への横流し事件などに着想している。
5305
5306 日頃から社会問題には幅広く関心を
5307 持ってほしい。
5308
5309 そのような視点で眺めれば,
5310 本設問が,
5311 平成20年の第1問でも出題された不
5312 要物の判断基準に関わる重要判例であるいわゆるおから事件決定(最決平成11年3月10日
5313 刑集53巻3号339頁)を念頭に置いて解答を求めるものであることは明らかであろう。
5314
5315 た
5316 だ,
5317 本問では飲食店事業を営む者が排出する食品残さが不要物(廃棄物処理法第2条第1項)
5318 に当たるかが問題となっており,
5319 これは同条第4項第1号を受けた同法施行令第2条各号のい
5320 ずれにも同法第2条第4項第2号の輸入された廃棄物にも当たらないから,
5321 不要物に当たると
5322 しても,
5323 産業廃棄物ではなく(事業系)一般廃棄物(同条第2項)である点には留意する必要
5324 がある。
5325
5326 解答では,
5327 まず,
5328 廃棄物処理法上の「不要物」に当たれば,
5329 有用なものとして取引さ
5330 れていたとしても「廃棄物」に当たるため,
5331 同法の仕組みに沿った処理が必要となることを指
5332 摘し(なお,
5333 「廃棄物」と「有用なもの」とが相互排斥的な概念でないことは,
5334 循環基本法第
5335 2条第3項からも明らかである。
5336
5337 ),
5338 「不要物」に当たるかの判断基準をおから事件決定に準じ
5339 て立てた上で,
5340 本件の食品残さに当てはめて論述することになろう。
5341
5342 その際,
5343 Bから生鮮野菜
5344 の割引の申入れがあることが,
5345 食品残さの取引価値を示唆し得る事実であることにも気付いて
5346 ほしいが,
5347 この事実からその取引価値があるものと見るか否かにかかわらず,
5348 食品残さの性状,
5349
5350 排出の状況,
5351 通常の取扱い形態等のその他の検討要素とを総合的に勘案すれば,
5352 客観的にはこ
5353 れが廃棄物に当たるとされることは避け難いと考えられる。
5354
5355 したがって,
5356 食品残さの契約農家
5357 への提供を推進しようとする取締役Cの意見は,
5358 一般廃棄物の収集若しくは運搬業(廃棄物処
5359 理法第7条第1項)又は処分業(同条第6項)の許可制度に反する蓋然性が高いという問題点
5360 があり,
5361 Bや他店の契約農家等にこれらの許可を得てもらうとか,
5362 再生利用の特例認定(同法
5363 第9条の8第1項)を受ける(同条第4項参照)とかしない限り,
5364 その問題点は解消されない
5365 ことを指摘すべきである。
5366
5367
5368 〔設問3〕の枠組み合意は,
5369 食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(平成12年法
5370 律第116号。
5371
5372 いわゆる食品リサイクル法)第19条に規定する再生利用事業計画に相当する
5373 ものであり,
5374 同法第21条には廃棄物処理法の特例も設けられていて,
5375 実際にいくつか類似の
5376 再生利用事業計画認定の実例がある。
5377
5378 もっとも,
5379 本設問は,
5380 そういった知識の有無にかかわら
5381 ず,
5382 基本的な条文との対応関係が読み解けるかという応用能力を審査しようとするものであり,
5383
5384 (事業者の責務)と見出しのある循環基本法第11条に則して,
5385 乙店,
5386 B及びD社がどのよう
5387 な責務を果たしていることになるかを記述すれば足りる。
5388
5389 廃棄食品が循環資源に当たり,
5390 これ
5391 を原材料として精製された堆肥が再生品に当たることが理解できていれば,
5392 本設問の枠組み合
5393 意により,
5394 乙店は,
5395 廃棄食品を循環資源として適正に循環的な利用が行われるために必要な措
5396 置としてこれをD社に提供することで同条第1項の責務を果たし,
5397 D社は再生利用が可能な廃
5398 棄食品を原材料として再生利用することで適正に循環的な利用を行う同条第4項の責務を果た
5399 し,
5400 Bは再生品である堆肥を使用することにより,
5401 乙店は再生品に準じた生鮮野菜を仕入れる
5402 ことにより,
5403 それぞれ循環型社会の形成に努める同条第5項の責務を果たしていると考えられ
5404 ることなどを論述する。
5405
5406
5407 [国際関係法(公法系)]
5408 〔第1問〕
5409 本問は,
5410 国家の一部が分離独立した場合の国家承認に関する国際法の諸規則,
5411 並びに,
5412 国境
5413 画定条約の承継及び河川を利用した国境線画定に関する国際法の基本的な知識と理解を問う問
5414 題である。
5415
5416
5417 設問1は,
5418 A国内のX州がA国政府の反対を押し切って一方的に独立を宣言し各国に対して
5419 国家承認の要請を行った際に,
5420 それぞれ異なる対応をした国について,
5421 国際法上正式に国家承
5422
5423 - 37 -
5424
5425 認を行ったと見ることができるかどうかを問う問題である。
5426
5427
5428 その場合,
5429 まず基本的に押さえなければならないことは,
5430 国家承認の方式には明示の承認と
5431 黙示の承認があるということである。
5432
5433
5434 明示の承認は,
5435 新国家に対して書簡,
5436 宣言等により承認の意思を通告することによって行わ
5437 れる。
5438
5439 X国の要請に対して国家承認の通告を行ったB国は明示の承認をしたことになるが,
5440 こ
5441 の通告をしなかったC国とD国は,
5442 明示の承認をしてはいないことになる。
5443
5444 しかしその後,
5445 C
5446 国はX国の国連加盟に関する総会決議の採択において賛成票を投じた。
5447
5448 またD国はX国の国連
5449 加盟総会決議採択の際には反対票を投じたが,
5450 その後X国と通商航海条約を締結した。
5451
5452 こうし
5453 たC国,
5454 D国の行動が国際法上の黙示の承認(すなわち相手国が国際法上の国家でなければお
5455 よそ行わないような行為,
5456 例えば外交使節を派遣・接受する行為や領土画定条約のような国家
5457 間の重要な関係を定める二国間条約を締結する行為)に当たり,
5458 X国の国家としての存在を間
5459 接的に認めたと言えるかどうかが問われる。
5460
5461
5462 国連加盟に関する総会決議において賛成票を投ずる行為が黙示の承認に当たるかどうかは意
5463 見が分かれるが,
5464 国連加盟に賛成することと国家承認行為とは,
5465 国際法上目的を異にする全く
5466 別個の法的行為と一般には解され,
5467 国連加盟決議に賛成することは加盟申請国を黙示に承認し
5468 たことにはならないとするのが,
5469 初期の頃からの国連の慣行でもあった。
5470
5471 これを前提とすると,
5472
5473 C国の総会における賛成票を投じた行為も,
5474 またD国の反対票を投じた行為も,
5475 それぞれの国
5476 のX国に対する国家承認とは直接結びつかない行為と見るのが一般的である。
5477
5478
5479 他方D国がX国との間に通商航海条約を締結したことは,
5480 国家でなければ結ぶことができな
5481 い重要な二国間条約を結んだことになると考えられるので,
5482 その行為によってD国はX国を黙
5483 示に承認したと見ることができる。
5484
5485
5486 設問2は,
5487 X国の独立を認めないA国の立場としては,
5488 X州は自国の一自治州,
5489 言い換える
5490 と自国の領域の一部,
5491 であるから,
5492 A国軍部隊をX州の了解なしに同州領内に派遣しても,
5493 そ
5494 れは他の国家への侵略行為には当たらず,
5495 単にA国領域内のA国軍部隊の移動であって,
5496 国際
5497 法上何の問題も生じないと主張することになるだろう。
5498
5499 そこで本設問では,
5500 果たしてこのA国
5501 の主張が国際法上正当化できるかどうかを論ずる必要がある。
5502
5503
5504 その場合まず注目すべきなのは,
5505 X国が正式に国連加盟国となっていることであり,
5506 A国は,
5507
5508 国連の加盟国として,
5509 同じ国連加盟国であるX国の国連憲章上の地位や権利を尊重しなければ
5510 ならない義務を負っているということである。
5511
5512 言い換えると,
5513 国連憲章の枠内においては,
5514 A
5515 国は,
5516 国連加盟国であるX国との関係においては,
5517 憲章第2条第1項の下で対等・平等な関係
5518 に立ち,
5519 同条第3項の紛争の平和的解決義務や同条第4項の武力行使禁止の規定を遵守しなけ
5520 ればならない。
5521
5522 したがって,
5523 X国(A国から見ればX州)領内へのA国軍部隊のX国(州)の
5524 了解がないままの進駐は,
5525 国連憲章に違反する行為と言わなければならない。
5526
5527
5528 設問3は,
5529 条約の承継及び航行可能な河川を用いた国境線の画定並びに国家承認の撤回に関
5530 する国際法の理解を問う問題である。
5531
5532
5533 条約の承継に関しては,
5534 伝統的には,
5535 法的安定性や条約関係の継続性を重視して,
5536 先行国が
5537 締結した二国間条約で本問のように分離独立した承継国に関係する事項を扱っているものにつ
5538 いては,
5539 承継国が承継するとする考え方が比較的有力であった。
5540
5541 しかし,
5542 1960年代の植民
5543 地独立の動きの中でこの考え方は修正され,
5544 先行国(とくに植民地の宗主国)が結んだ条約は,
5545
5546 原則として新独立国によって引き継がれないとする白紙(クリーン・スレート)の原則が国際
5547 社会で広く受け入れられたと見られている。
5548
5549 したがって,
5550 今日においては,
5551 新独立国は先行国
5552 が締結した条約には拘束されないとするのが原則であるが,
5553 国境画定条約などにより確立され
5554 た国境線については,
5555 依然として法的安定性等の観点から新独立国も尊重しなければならない
5556 とされている。
5557
5558 以上のことに照らせば,
5559 X国は,
5560 A,
5561 B両国間の国境画定条約で確立されたB
5562 国との国境線(条約締結時においてはA,
5563 B両国間の国境線)を,
5564 尊重しなければならない。
5565
5566
5567
5568 - 38 -
5569
5570 ところで,
5571 X国が主張するように,
5572 航行可能な河川を国境線とするときは「航行可能な水流
5573 の最深線を国境線とする原則」(タールベークの原則)が適用されることが多いことは確かで
5574 あるが,
5575 それは絶対的な基準ではなく,
5576 特別な取決めがない場合の補足的原則と考えられてい
5577 る。
5578
5579 本問においては,
5580 A国とB国の間には国境画定条約があり,
5581 それによって既にB国とX国
5582 の間の国境線が(画定されたときはA国とB国の間の国境線として)確立されているから,
5583 タ
5584 ールベークの原則が適用される余地はないと見るべきである。
5585
5586
5587 なお,
5588 後段のB国によるX国の国家承認撤回の法的評価については,
5589 法的安定性及び禁反言
5590 (エストッペル)の原則などの法の一般原則を尊重する立場から,
5591 国家承認は一旦行われたら
5592 撤回できないとする原則が慣習法上確立している。
5593
5594 ただし,
5595 国家承認の要件である住民(人民),
5596
5597 領土(領域),
5598 実効的支配を確立している政府,
5599 政府の外交能力などの国家承認の要件が必ず
5600 しも十分に満たされていない段階で,
5601 外交的配慮から事実上の国家承認を行うことがあり,
5602 こ
5603 の場合には後に承認を撤回することができる。
5604
5605 本問の場合,
5606 B国が事実上の承認をしたという
5607 設問にはなっていないので,
5608 B国によるX国に対する承認の撤回は認められないと見るべきで
5609 ある。
5610
5611
5612 〔第2問〕
5613 本問は,
5614 海洋法の分野を素材として,
5615 排他的経済水域(以下「EEZ」という。
5616
5617 )における
5618 外国漁船に対する沿岸国の権限,
5619 追跡権の行使,
5620 国際海洋法裁判所による紛争解決手続,
5621 条約
5622 違反の国内法と国家責任などに関する国際法の基本的知識とその適用について問うものであ
5623 る。
5624
5625 司法試験用法文に登載されている海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」
5626 という。
5627
5628 )の関係条文を設問に照らして抽出して適切に解釈し,
5629 国際法上の国家責任の基礎的
5630 な理解に従って論述を展開すれば,
5631 十分に解答が可能な設問となっている。
5632
5633
5634 設問1は,
5635 EEZ内における沿岸国による外国漁船の取締りと追跡権の行使に関する基本的
5636 知識を問う問題である。
5637
5638 本件事例では,
5639 A国のEEZ内において外国人がタコを漁獲すること
5640 はA国の国内法令によって禁止されている。
5641
5642 また,
5643 A国の国内法である外国漁船取締法は,
5644 A
5645 国のEEZ内で違法に漁業を行った外国人に対して刑罰を科すことを定めている。
5646
5647 国連海洋法
5648 条約第73条第1項は,
5649 「沿岸国は,
5650 排他的経済水域において生物資源を探査し,
5651 開発し,
5652 保
5653 存し及び管理するための主権的権利を行使するに当たり,
5654 この条約に従って制定する法令の遵
5655 守を確保するために必要な措置(乗船,
5656 検査,
5657 拿捕及び司法上の手続を含む。
5658
5659 )をとることが
5660 できる。
5661
5662 」と定めており,
5663 A国の巡視艇甲は,
5664 A国の基線から約180海里のA国のEEZ内
5665 で違法な漁業を行っていた外国漁船乙に対して,
5666 同条に基づいて乗船,
5667 検査を行い,
5668 必要に応
5669 じて拿捕等を行うことができる。
5670
5671
5672 次に,
5673 巡視艇甲が漁船乙を追跡して拿捕した行為が国連海洋法条約第111条に規定する追
5674 跡権の正当な行使に当たるかを検討する必要がある。
5675
5676 同条によれば,
5677 追跡権の行使は,
5678 「沿岸
5679 国の権限のある当局」が「外国船舶が自国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由があ
5680 るとき」に開始することができる(同条第1項)。
5681
5682 追跡権は,
5683 「軍艦,
5684 軍用航空機その他政府の
5685 公務に使用されていることが明らかに表示されておりかつ識別されることのできる船舶又は航
5686 空機でそのための権限を与えられているものによってのみ行使することができる」(同条第5
5687 項)が,
5688 巡視艇甲はA国の巡視艇であり,
5689 この要件を満たす公的船舶である。
5690
5691 また,
5692 巡視艇甲
5693 の沿岸警備官は,
5694 外国漁船による漁獲が禁止されているタコの漁獲を漁船乙が行っている現場
5695 を視認しており,
5696 乙が「A国の法令に違反したと信ずるに足りる十分な理由がある」と考えら
5697 れる。
5698
5699 さらに,
5700 追跡権の行使は,
5701 外国船舶が追跡国の内水,
5702 群島水域,
5703 領海又は接続水域にあ
5704 る時に開始しなければならない(同条第1項)が,
5705 沿岸国のEEZにおいても国連海洋法条約
5706 に従いEEZに適用される沿岸国の法令の違反がある場合に準用される(同条第2項)。
5707
5708 本件
5709 事例は,
5710 A国のEEZに適用されるA国の法令の違反があったと信ずるに足る十分な理由があ
5711
5712 - 39 -
5713
5714 る場合であると考えられ,
5715 同条第2項に基づいてA国のEEZを起点とする巡視艇甲による外
5716 国漁船乙に対する追跡権の行使が認められる。
5717
5718 なお,
5719 追跡権は,
5720 被追跡船舶がその旗国又は第
5721 三国の領海に入ると同時に消滅する(同条第3項)が,
5722 巡視艇甲が外国漁船乙を停船させたの
5723 は公海上であり,
5724 追跡権の行使の結果として公海上において外国漁船乙を停船させ,
5725 同条約第
5726 73条に基づき乗船,
5727 検査等を行ったことは国際法上正当な行為と認められる。
5728
5729
5730 設問2は,
5731 国連海洋法条約第73条に基づく「速やかな釈放」の義務とこれに関する紛争解
5732 決手続に関する理解を問う問題である。
5733
5734 同条第1項によれば,
5735 沿岸国は国連海洋法条約に従っ
5736 て制定する法令の遵守を確保するために必要な措置,
5737 具体的には乗船,
5738 検査,
5739 拿捕及び司法上
5740 の手続を執ることができる。
5741
5742 他方で,
5743 同条第2項は,
5744 「拿捕された船舶及びその乗組員は,
5745 合
5746 理的な保証金の支払又は合理的な他の保証の提供の後に速やかに釈放される。
5747
5748 」と規定する。
5749
5750
5751 したがって,
5752 漁船乙の所有者であるY社がA国当局に対して「合理的な保証金の支払又は合理
5753 的な他の保証の提供」を行った場合には,
5754 A国当局は拿捕した漁船乙及びその船長Xを「速や
5755 かに釈放」する義務を負い,
5756 B国は同条第2項に基づいて船長Xと漁船乙の「速やかな釈放」
5757 をA国に対して要求できる。
5758
5759 B国による以上の要求にA国が従わない場合には,
5760 A国とB国が
5761 別段の合意をしない限り,
5762 B国は,
5763 船長X及び漁船乙の「速やかな釈放」を求めて,
5764 A国が同
5765 条約第287条の規定によって受け入れている裁判所又は国際海洋法裁判所に提訴することが
5766 できる(同条約第292条)。
5767
5768 本件では,
5769 A国が同条約第287条の規定によって受け入れて
5770 いる裁判所がないとすれば,
5771 B国はX及び乙の「速やかな釈放」の問題を国際海洋法裁判所に
5772 提訴することができる。
5773
5774
5775 設問3は,
5776 国連海洋法条約の違反に関する国際法上の救済手続等に関する問題である。
5777
5778 同条
5779 約第73条第3項は,
5780 沿岸国が同条第1項に基づいてEEZ内における漁業に関する法令の違
5781 反について刑罰を科す場合,
5782 「関係国の別段の合意がない限り拘禁を含めてはならず,
5783 また,
5784
5785 その他のいかなる形態の身体刑も含めてはならない。
5786
5787 」と明記している。
5788
5789 本件事例でA国は,
5790
5791 国連海洋法条約の当事国であり,
5792 かつ「関係国の別段の合意がない」にもかかわらず,
5793 A国の
5794 外国漁船取締法は,
5795 同国EEZ内において違法に漁業を行った外国人に対して1年以下の懲役
5796 という身体刑を科すことを定めており,
5797 これは同条第3項に反するものである。
5798
5799 A国裁判所に
5800 よるXに対する身体刑を内容とする判決の確定は,
5801 同条第3項に違反するものであり,
5802 このよ
5803 うなA国による同条約違反の行為により,
5804 B国の国民であるXが国際法上違法な損害を被った
5805 ものと理解できる。
5806
5807 国際法上の国家責任に関する一般原則に従えば,
5808 国際違法行為を行ったA
5809 国はそれにより生じた損害に対して,
5810 「原状回復」,
5811 「金銭賠償」,
5812 「(精神的)満足」を単独で又
5813 は組み合わせて行わなければならない。
5814
5815 また,
5816 国際違法行為が継続している場合には,
5817 加害国
5818 は当該行為を「中止」する義務を負い,
5819 事情がそれを必要とする場合には,
5820 適当な「再発防止
5821 の保証」を与えなければならない。
5822
5823 本件において,
5824 A国によるXに対する違法な判決が確定し
5825 ているので,
5826 B国はまず刑の執行の「中止」とXの釈放をA国に対して要求することができる。
5827
5828
5829 また,
5830 B国がA国に対して要求する「原状回復」の内容を「Xが身体刑を科される前の状態に
5831 戻すこと」と捉えた場合,
5832 これは不可能であるため,
5833 B国は,
5834 Xが被った物理的及び精神的損
5835 害に関する「金銭賠償」をA国に対して要求するとともに,
5836 金銭賠償によっては十分に回復さ
5837 れない損害に関して,
5838 違反の自認,
5839 遺憾の意の表明,
5840 公式の陳謝等の「(精神的)満足」をA
5841 国に対して要求することができる。
5842
5843 さらに,
5844 「再発防止の保証」として,
5845 同条第3項の規定に
5846 違反するA国の外国漁船取締法の身体刑に関する規定の削除を要求することも考えられる。
5847
5848
5849 [国際関係法(私法系)]
5850 〔第1問〕
5851 本問は,
5852 外国籍を有する当事者らの身分関係に関わる事案を素材として,
5853 国際私法,
5854 特に国
5855 際家族法における基礎的理解とその応用力を問う出題である。
5856
5857
5858
5859 - 40 -
5860
5861 〔設問1〕は,
5862 外国で外国法に基づき行われた認知について,
5863 日本においてもこれが成立し
5864 ていると判断し得るかを問うものであり,
5865 認知の成立の準拠法に関する基礎的理解を確認する
5866 問題である。
5867
5868 具体的には,
5869 根拠条文を示し,
5870 事案に当てはめながら,
5871 認知の実質的成立要件及
5872 び方式の準拠法をそれぞれ導き出し,
5873 その準拠法上定められる要件を満たしているかを検討し
5874 なければならない。
5875
5876
5877 まず,
5878 認知の実質的成立要件については,
5879 いわゆる認知保護の観点から,
5880 親子関係の成立を
5881 容易にできるように選択的適用主義が採用されている。
5882
5883 すなわち,
5884 子の出生当時(法の適用に
5885 関する通則法(以下「通則法」という。
5886
5887 )第29条第1項前段)若しくは認知当時の認知する
5888 者の本国法又は認知当時の子の本国法(同条第2項前段)のいずれか一つの法の実質的成立要
5889 件を満たせばよい。
5890
5891 これを理解した上で事案に当てはめることを要するが,
5892 その際には,
5893 同条
5894 第1項後段及び同条第2項後段に定める,
5895 いわゆる「セーフガード条項」として適用される子
5896 の本国法が累積的に適用される場合であるかの見極めも必要となる。
5897
5898
5899 次に,
5900 認知の方式については,
5901 通則法第34条により,
5902 法律行為の実質的成立要件の準拠法
5903 に加えて,
5904 法律行為の成立を容易にし,
5905 当事者の便宜を図るため,
5906 行為地法も方式の準拠法と
5907 する選択的適用主義が採用されている。
5908
5909 本問においては乙国において乙国民法に定める方式で
5910 認知が行われていることから,
5911 乙国法が同条に定める法であるかを検討することを要する。
5912
5913
5914 以上の検討を踏まえて,
5915 結論として,
5916 本件認知が日本において有効に成立しているかを判断
5917 することが求められる。
5918
5919
5920 〔設問2〕は,
5921 血縁関係の不存在を理由とする認知無効の主張権者に関する準拠法の決定と
5922 適用を問うものであり,
5923 設問1と比較すると,
5924 やや応用的な出題である。
5925
5926 本問では,
5927 認知の方
5928 式に関しては通則法が定める準拠法上の要件を満たすものと問題文で設定されていることか
5929 ら,
5930 認知の実質的成立要件を欠くことによる認知の無効が問題となる。
5931
5932 このような認知の無効
5933 は,
5934 その主張権者の範囲も含めて,
5935 認知の成立自体に関わる問題であり,
5936 同法第29条に定め
5937 る認知の準拠法によると考えられている。
5938
5939
5940 前述のとおり,
5941 認知の準拠法については選択的適用主義が採られているが,
5942 本問のように,
5943
5944 準拠法とされる複数の法が認知無効の主張権者について異なる定めをする場合,
5945 いずれの法に
5946 よるべきかが問題となる。
5947
5948 この点に関し,
5949 通則法第29条が基礎としている認知保護の趣旨や
5950 選択的適用主義を敷衍して,
5951 認知を否定する局面である無効についてどのように法適用するか
5952 を述べた上で,
5953 結論を導くことが求められる。
5954
5955
5956 〔設問3〕は,
5957 親族間の扶養義務の準拠法の決定と適用に関する基礎的理解を問うものであ
5958 る。
5959
5960 まず,
5961 扶養義務の準拠法に関する法律(以下「扶養義務法」という。
5962
5963 )第1条から,
5964 本問
5965 での傍系血族間の扶養義務の問題が扶養義務法の適用範囲となることは明らかであり,
5966 通則法
5967 ではなく,
5968 扶養義務法が適用されることを示すことを要する。
5969
5970 通則法第43条第1項において
5971 その点を明確にするための規定が設けられている。
5972
5973
5974 続いて,
5975 扶養義務法第2条の当てはめを丁寧に行い,
5976 どの国の法が準拠法となるかを適切に
5977 導き出すことが求められる。
5978
5979 同条第1項本文では,
5980 扶養権利者の常居所地法を第1順位の準拠
5981 法として定めている。
5982
5983 問題文から得られる常居所認定に関する間接事実には日本と乙国の双方
5984 を示唆するものが含まれているが,
5985 いずれの結論であっても,
5986 常居所をどのように理解し,
5987 ど
5988 のような判断基準に基づいて決定するかについて一定の私見を示し,
5989 問題文から得られる間接
5990 事実を当てはめて本問における扶養権利者の常居所地法を導き出すことが求められる。
5991
5992
5993 当該常居所地法によって扶養権利者が扶養義務者から扶養を受けることができない場合に
5994 は,
5995 扶養権利者の保護を図るため,
5996 扶養義務法第2条第1項ただし書により,
5997 当事者の共通本
5998 国法が適用される。
5999
6000 本問で扶養を求めているDと求められているEとは,
6001 4親等の傍系親族関
6002 係にある。
6003
6004 日本法及び乙国法上,
6005 4親等内の傍系親族間での扶養義務は認められていないため,
6006
6007 本問においても当事者の共通本国法が準拠法となるかを更に検討しなければならない(なお,
6008
6009
6010 - 41 -
6011
6012 共通本国法によって扶養権利者が扶養義務者から扶養を受けることができないときは,
6013 更に同
6014 条第2項により日本法が準拠法となる。
6015
6016 )。
6017
6018 この点に関しては,
6019 本問における扶養権利者が二重
6020 国籍者であることから,
6021 共通本国法がどのように決定されるかを理解することができているか
6022 も評価ポイントとなる。
6023
6024 通則法第38条第1項のような重国籍者の本国法を一つに絞る規定は,
6025
6026 扶養義務法にはなく(扶養義務への通則法第38条の適用は,
6027 同法第43条により排除されて
6028 いる。
6029
6030 ),
6031 また,
6032 扶養権利者の保護を厚くするという立法趣旨にも合致するように,
6033 当事者双方
6034 が共通に国籍を有する国があればその国の法を共通本国法とすると理解されている。
6035
6036 この点を
6037 理解した上で,
6038 共通本国法として甲国法を導くことを要する。
6039
6040
6041 以上のように,
6042 問題文に設定された条件に基づき丁寧に準拠法を決定するための当てはめを
6043 行い,
6044 4親等内の傍系親族間の扶養義務が甲国法上認められることから,
6045 甲国法が準拠法とな
6046 ることを結論として述べることを要する。
6047
6048
6049 〔第2問〕
6050 本問は,
6051 国際貨物運送契約及びこれに付随する国際保険契約をめぐる事案を素材として,
6052 国
6053 際私法,
6054 国際取引法及び国際民事訴訟法に関わる基礎的理解とその応用力を問う出題である。
6055
6056
6057 「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(いわゆる「モントリオール条約」
6058 であり,
6059 以下「本件条約」という。
6060
6061 )は,
6062 渉外実務上重要であるところから司法試験用法文に
6063 収録されているものの,
6064 これまで出題されていなかった。
6065
6066
6067 〔設問1〕は,
6068 統一私法である条約の適用プロセスと国際民事訴訟法上の典型的な論点を問
6069 う出題である。
6070
6071
6072 〔小問1〕では,
6073 乙国裁判所を専属管轄裁判所とする旨の航空運送契約中の合意が有効か否
6074 かに関する判断が求められている。
6075
6076 解答に当たっては,
6077 統一私法である条約を法廷地国が批准
6078 している場合,
6079 当該条約が直接に適用されるのか,
6080 「手続は法廷地法による」という法原則に
6081 基づいて国際私法を介して適用されるのか,
6082 という法適用のプロセスに関する説明が求められ
6083 ている。
6084
6085 統一私法である条約の直接適用可能性の有無は,
6086 当該条約の趣旨,
6087 目的,
6088 内容等から
6089 導かれることを示した上で,
6090 本件条約の直接適用の有無について論を示さなければならない。
6091
6092
6093 その過程では,
6094 少なくとも本件条約第49条の規定に触れることとなろう。
6095
6096 本件条約が直接適
6097 用されるとした場合,
6098 管轄に関する本件合意の有効性判断に当たっては,
6099 本件条約第1条,
6100 第
6101 33条及び第49条の解釈及び当てはめが行われなければならない。
6102
6103 この統一私法と国際私法
6104 の関係は,
6105 複数の基本的体系書において説明されている基本的事項であり,
6106 参照条文として引
6107 用されている本件条約の条文を適切に理解して丁寧に当てはめを行えば,
6108 解答に達することが
6109 できると思われる。
6110
6111
6112 〔小問2〕では,
6113 外国裁判所に債務不存在確認訴訟が係属している場合において,
6114 わが国の
6115 裁判所に損害賠償請求訴訟が提起されたとき,
6116 後訴をどのように取り扱うべきであるかという,
6117
6118 国際民事訴訟法上の典型的な論点が取り上げられている。
6119
6120 前提として,
6121 本件条約第33条に基
6122 づいて,
6123 甲国裁判所がYの訴えにつき国際裁判管轄権を有するとともに,
6124 日本の裁判所が訴訟
6125 物を同一とするXの訴えにつき国際裁判管轄権を有することの確認を通じて,
6126 日本における後
6127 訴が二重訴訟となっていることに言及されなければならない。
6128
6129 そして,
6130 国際的な二重訴訟につ
6131 いて,
6132 本件条約及び法の適用に関する通則法等には規定がなく,
6133 解釈に委ねられていることを
6134 踏まえて,
6135 私見を述べることが求められている。
6136
6137 結論としては,
6138 本件条約第33条により後訴
6139 の国際裁判管轄権をそのまま認めた上で,
6140 執行段階で二重の執行を拒否すれば足りるという処
6141 理もあり得るであろうし,
6142 近時,
6143 二重訴訟の問題性が指摘されることが多いことを踏まえて,
6144
6145 二重訴訟を禁止すべきであるとする立場から訴えの却下や,
6146 訴訟の中止などの処理があり得る。
6147
6148
6149 いずれの立場においても,
6150 関連する条文を踏まえつつ,
6151 その結論に至る合理的な理由を明らか
6152 にしなければならないし,
6153 二重訴訟を禁止すべきであるとする立場であれば,
6154 承認予測説,
6155 プ
6156
6157 - 42 -
6158
6159 ロパー・フォーラム説(便宜法廷地説)など,
6160 しかるべき法律構成が示されなければならない。
6161
6162
6163 民事訴訟法第3条の9の適用可能性に触れる場合,
6164 同条が登場する道筋も明らかにされなけれ
6165 ばならない。
6166
6167 その上で,
6168 問題文から読み取ることのできる事実を丁寧に当てはめる必要がある。
6169
6170
6171 〔設問2〕では,
6172 本件貨物の毀損を受けて,
6173 Xに対し保険契約に基づいて保険金を支払った
6174 Zが,
6175 法律上の代位によりXから本件債権を取得したと主張し,
6176 Yに対して損害賠償金の支払
6177 を求める訴えを日本の裁判所に提起した場合において,
6178 Zの主張の当否の準拠法いかんが問わ
6179 れている。
6180
6181
6182 XのYに対する債権は本件条約第18条第1項に基づくものであると考えられる。
6183
6184 そして,
6185
6186 本件のような,
6187 保険契約に基づき保険金を支払ったことを理由として損害賠償請求権を取得す
6188 る,
6189 いわゆる法定代位については,
6190 本件条約及び通則法のいずれにおいても,
6191 明文規定はない。
6192
6193
6194 この点については,
6195 本件条約の規律対象になるかどうかを検討した上,
6196 条約の規律対象ではな
6197 いとする立場から,
6198 別途国内法(通則法)に基づいて準拠法を決定する過程が必要だと考える
6199 かという視点と,
6200 法定代位について,
6201 債権譲渡と同様に,
6202 対象債権の準拠法によると考えるか,
6203
6204 債権の移転原因となった事実(保険契約)の準拠法によると考えるかという視点からの複合的
6205 な検討が求められている。
6206
6207 さらに,
6208 「保険契約の準拠法(甲国法)による」との構成を採用す
6209 る場合,
6210 債務者Yについて,
6211 自己の関知しない法によって債務者が不測の不利益を被るべきで
6212 はないという債務者保護の観点から,
6213 代位の対象となる債権の準拠法を累積的に適用する必要
6214 があるのではないかという派生的論点も考えられる。
6215
6216 また,
6217 対象債権の準拠法によると考える
6218 場合には,
6219 対象債権が本件条約第18条第1項に直接根拠を持つ債権であることから,
6220 本件条
6221 約に規律されていない事項(例えば,
6222 債権の移転可能性等)については,
6223 どのように属性を決
6224 定するのかという論点もある。
6225
6226
6227 上記のように,
6228 本年度の出題も,
6229 基礎的知識をいかに運用できるかを問うものとなっている。
6230
6231
6232 どの論点についても,
6233 いかなる根拠に基づいていずれの主張を優先するか,
6234 それぞれの判断過
6235 程を丁寧に説明することが期待される。
6236
6237
6238
6239 - 43 -
6240
6241