1 論文式試験問題集[倒
2
3 - 1 -
4
5 産
6
7 法]
8
9 [倒
10
11 産
12
13 法]
14
15 〔第1問〕(配点:50)
16 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
17 【事
18 1
19
20 例】
21 A株式会社(以下「A社」という。)は,複数のビルを所有して不動産賃貸業を営む株式会
22 社であり,その代表取締役はBである。
23 A社は,平成20年夏頃,甲ビル及びその敷地(以下「本件不動産」という。)を購入する
24 こととし,C銀行から3億円を借り入れ,その担保として本件不動産にC銀行を1番抵当権者
25 とする抵当権を設定し,その旨の登記がされた。
26 A社は,平成23年4月1日,Dに対し,賃貸期間を10年,賃料を月額100万円と定め
27 て,甲ビルを貸し渡した(以下,この契約を「本件賃貸借契約」という。)。その際,Dは,A
28 社に対し,敷金1000万円を交付した。
29
30 2
31
32 A社は,平成27年頃から,借り手のつかない所有ビルが多くなってきたことや,かねてよ
33 り手掛けていた株式取引の失敗等が重なったことにより,次第に経営が悪化し,所有するビル
34 のメンテナンス費用の捻出や借入金の返済にも窮するようになった。そこで,A社は,平成2
35 8年秋頃,E信用金庫から5000万円を借り入れ,その担保として本件不動産にE信用金庫
36 を2番抵当権者とする抵当権を設定し,その旨の登記がされた。
37 しかし,A社は,その後も一向に経営状態が好転せず,平成30年1月末には,従業員に対
38 する給料も支払えない事態に陥った。また,A社は,同年2月末日を支払期日とする多数の取
39 引先に対する債務の弁済に充てる資金がない状態にあることが判明した。そこで,A社は,同
40 月26日,裁判所に破産手続開始の申立てをした。
41 申立てを受けた裁判所は,同月27日,破産手続開始の決定を行い,A社の破産管財人とし
42 てXを選任した。
43 A社が破産手続開始の決定を受けた時点におけるC銀行が有する貸金債権の額は2億500
44 0万円,E信用金庫が有する貸金債権の額は4000万円であり,他方で,本件不動産の評価
45 額は2億円であった。
46
47 〔設問1〕
48
49
50 A社の破産手続が開始された後も,本件賃貸借契約は継続され,Dは,そのまま甲ビルを使
51 用していた。この場合に,Dは,A社に対して有する敷金返還請求権を自働債権として,毎月
52 の賃料債務と相殺することができるか,論じなさい。また,相殺することができないとした場
53 合に,敷金返還請求権の保全のためにDが採ることのできる法的手段として,どのようなもの
54 があるか,論じなさい。
55
56
57
58 上記のとおり,A社の破産手続開始後も本件賃貸借契約が継続されていたところ,C銀行
59 が,A社のDに対する賃料債権を物上代位により差し押さえた。この場合に,Dは,で論じ
60 た敷金返還請求権の保全のための法的手段を採ることができるかどうかについて,理由を付し
61 た上で論じなさい。
62
63 〔設問2〕
64
65
66 A社の破産管財人Xは,本件不動産を除き,破産財団に属する財産の換価を終了した。Xは,
67 本件不動産をそのまま管理していても,担保余剰がなく,固定資産税や管理費用が掛かるだけ
68 で破産債権者にとって何のメリットもないため,本件不動産を破産財団から放棄した上,早期
69 に配当を実施したいと考えている。この場合に,Xは,本件不動産を破産財団から放棄するた
70 めに,どのような手続を採る必要があるか,また,破産財団から放棄された本件不動産は,誰
71 - 2 -
72
73 に帰属するか,説明しなさい。
74
75
76 Xは,上記の手続を行って,本件不動産を破産財団から放棄した。その後,E信用金庫は,
77 本件不動産からは到底その貸金債権4000万円を回収する見込みはないと考えた。この場合
78 に,E信用金庫がA社の破産手続に参加して配当を受けるためには,どのような手続を採る必
79 要があるか。破産手続開始の時において破産財団に属する不動産に抵当権を有する者が,破産
80 手続において行使することができる破産債権の額についての原則,及び,E信用金庫が採るべ
81 き手続の相手方に触れつつ,論じなさい。
82
83 - 3 -
84
85 〔第2問〕(配点:50)
86 次の事例について,以下の設問に答えなさい。
87 【事
88
89 例】
90 食品製造業を営むA株式会社(以下「A社」という。)は,味に定評のある老舗であり,自ら
91
92 が所有する甲食品工場で弁当等を生産し,特に定番の総菜商品は有名デパートを含む得意先各社
93 から受注を得ていた。しかし,A社は,平成30年正月に向けて発売した期待の新商品が不人気
94 に終わり,不良在庫を抱えて資金繰りが悪化した。折悪しく大口の売掛先から受け取っていた同
95 年3月末日を満期とする手形が不渡りとなったことから,A社は資金繰りに窮して破綻が決定的
96 となり,A社代表取締役社長B(以下「B社長」という。)は,C弁護士に民事再生手続による
97 事業再生を依頼した。
98 A社は,自ら振り出した同年4月25日を満期とする手形を決済できないことが確実になった
99 ことから,同月20日,C弁護士が申立代理人となって再生手続開始の申立てをし,必要な手続
100 費用を予納した。同日,この申立てが受理されて,裁判所は監督委員としてD弁護士を選任した。
101 A社には,税金の滞納や労働債権の未払は生じていない。B社長は,従来どおり甲食品工場を生
102 産拠点として事業を継続し,得られる収益によって再生債権を弁済する内容の再生計画案を想定
103 している。
104 C弁護士は,同月21日にA社の主要債権者である以下の3者に連絡したところ,以下のとお
105 りのコメントを得たので,その旨を裁判所に報告した。
106 <コメント@:E銀行>
107 E銀行は,A社の総債権者の中で唯一の担保権者であり,甲食品工場に抵当権を有している。
108 A社の再生手続開始の申立時に判明している全ての債権者が再生債権者としてその権利を行使す
109 ることが見込まれる額の総額(以下「総権利行使見込額」という。)に対して,E銀行が再生債
110 権者としてその権利を行使することが見込まれる額が占める割合は30%である。
111 E銀行のコメントは,「突然の申立てに困惑して行内の考えもまとまっておらず,現時点で手
112 続に賛成とは到底申し上げられない。担保権の行使についてはこれから検討する。」とのことで
113 あった。
114 <コメントA:F株式会社(以下「F社」という。)>
115 F社は,A社の最大の仕入先である。総権利行使見込額に対して,F社が再生債権者としてそ
116 の権利を行使することが見込まれる額が占める割合は15%である。
117 F社のコメントは,「どうせ再建はできないと思うので,協力することは考えていない。」との
118 ことであった。
119 <コメントB:G株式会社(以下「G社」という。)>
120 G社は,F社に次ぐA社の仕入先である。総権利行使見込額に対して,G社が再生債権者とし
121 てその権利を行使することが見込まれる額が占める割合は10%である。
122 G社のコメントは,「定番の総菜を中心にすれば,A社の業績回復も不可能ではないと思う。
123 自社の債権については,再生債権として再生計画に基づく弁済を受けることは仕方がないが,再
124 生手続開始の申立て後も取引を継続して新たに食材をA社に卸した場合,その代金までも回収す
125 ることができないとすれば被害が拡大してしまうので,不安である。」とのことであった。
126 〔設問1〕
127
128
129 裁判所が再生手続開始の決定をすることができるかどうかについて,E銀行,F社及びG社
130 のコメントを踏まえ,理由を付した上で論じなさい。
131
132
133
134 A社は,G社に食材の取引を継続してもらえるようにするため,どのような方策を採ること
135 が考えられるか。
136
137 - 4 -
138
139 【事
140
141 例(続き)】
142 裁判所は,平成30年4月30日,再生手続開始の決定をした。当該決定がされた後に,監督
143
144 委員D宛てにB社長の不正を知らせる匿名の通知があり,これを契機として以下の事実が判明し
145 た。
146 <判明した事実@>
147 A社の仕入先であるH株式会社(以下「H社」という。)は,同年3月末日現在,A社に対し
148 食材等に係る売掛債権を有していた。A社の手形不渡りが確実であることを知ったH社は,同年
149 4月19日,A社と協議し,再生手続開始の申立て後もA社との取引を継続することを約束する
150 一方,A社は,在庫として保有する食材をH社に代物弁済した。
151 <判明した事実A>
152 A社は,長年にわたりF社から食材を仕入れてきた。平成25年頃,F社はA社に対して代金
153 の割引を申し出た。しかし,B社長は,これを断り,F社に対し,仕入価額はそのまま据え置き
154 つつ,F社が申し出た割引額に相当する額をバックマージンとしてB社長の妻への顧問料の名目
155 で支払うように求め,再生手続開始の申立ての直前まで,B社長の妻名義の預金口座に毎月送金
156 させていた。B社長の妻がF社の顧問となっている実態はなく,B社長が当該預金口座を実質的
157 に管理しており,当該預金口座に送金された金銭は,B社長の個人的な遊興費に充てられていた。
158 〔設問2〕
159
160
161 <判明した事実@>について,A社が行った代物弁済につき,監督委員Dが訴え又は否認の
162 請求によって否認権を行使してH社に価額の償還を求めるためには,A社は,どのような手続
163 を採る必要があるか。また,そのような手続を採ることが必要とされる理由についても,管財
164 人が選任されている場合と対比しつつ論じなさい。
165
166
167
168 <判明した事実A>について,A社は,B社長に対して,F社からB社長の妻名義の預金口
169 座に送金された金額に相当する額の支払を求めることとしたが,B社長は,C弁護士の説得に
170 もかかわらず,これを任意に支払おうとはしなかった。この事情を知ったG社は,「A社の主
171 張どおり,B社長はA社に当該額を支払うべきだが,このままではB社長がこれを支払わずに
172 費消してしまうおそれがある。C弁護士の説得を待っていてはらちが明かない。」と考えた。
173 この場合に,G社は,A社の再生手続において,どのような方策を採ることが考えられるか。
174
175 - 5 -
176
177 - 6 -
178
179 論文式試験問題集[租
180
181 - 7 -
182
183 税
184
185 法]
186
187 [租
188
189 税
190
191 法]
192
193 〔第1問〕(配点:50)
194 1
195
196 甲株式会社(以下「甲社」という。)に会社員として勤務するXは,かねてからのギャンブル
197 好きが高じ,甲社からの給与収入だけでは生活費にすら事欠く状態となり,消費者金融会社等か
198 ら借金をしては,これをギャンブルや利息の返済に充てることを繰り返す自転車操業状態に陥っ
199 ていた。
200 Xは,そのような折りのある日,大金をつぎ込んだギャンブルに失敗し,腹いせに酒を飲んだ
201 後,自動車を運転して帰宅途中,ハンドル操作を誤り,バイク及びトラックと相次いで衝突する
202 交通事故を起こした(以下「本件事故」という。)。
203 本件事故により,バイクを運転していたAが怪我をしたほか,A所有のバイク及びB株式会社
204 (以下「B社」という。)所有のトラックが破損する被害が生じた。
205
206 2
207
208 Aは,取引先から仕入れた弁当をバイクで宅配する事業を個人で営んでおり,本件事故時はそ
209 の日の弁当の配達を全て終えて事務所に戻る途中であった。
210 Aの宅配用のバイクは,本件事故当日に修理が完了し,翌日からの弁当の配達に使うことがで
211 きる状態となったが,Aは,通院して治療を受けるため完治までの間に合計5日間にわたり弁当
212 の宅配業を終日臨時休業せざるを得なかった。
213 Aは,通院治療の費用として10万円,宅配用のバイクの修理費用として10万円をそれぞれ
214 支出した。また,Aの1日当たりの平均的な利益を基に算出した5日分の休業補償として相当な
215 金額は10万円であった。
216 Aは,Xとは以前からの知り合いであったことから,Xのためを思い,人身事故よりも行政処
217 分や刑事処分が軽い物損事故として警察に届け出ていたが,損害賠償金は多めにもらってやろう
218 と考え,Xに対し,「30万円払ってもらえば実費の弁償としては足りるのだが,怪我のことを
219 警察に黙っていてやったのだから,後はそっちで考えてほしいな。」と告げた。
220 Xは,物損事故として届け出てくれたAに恩義を感じていたことから,慰謝料を考慮に入れて
221 も損害賠償金としては明らかに多いとは思いつつ,Aに対し,「100万円払おう。」と申し出た
222 ところ,Aがこれを承諾したので,「Xは,Aに対し,本件事故の損害賠償金として100万円
223 を支払う。」と明記した示談書をAと取り交わし,100万円をAに支払った。
224
225 3
226
227 B社は,Xに対し,本件事故直後から,訴訟外で,トラックの修理に要した費用の賠償として
228 400万円の支払を求めていたが,Xは,言を左右にして支払を拒んでいた。
229 Xは,飲酒運転により本件事故を起こしたことを理由に甲社から懲戒解雇された後は定職に就
230 かず,時折アルバイトやギャンブルで収入を得るほかは無収入で,銀行に30万円の定期預金(以
231 下「本件定期預金」という。)があるほかは,他にみるべき資産も有していない状態であった。
232 B社は,一時はXを被告とする損害賠償請求訴訟の提起を弁護士に依頼することも検討したが,
233 Xの経済状態が好転する兆しはなく,仮に勝訴判決を得てもXが任意に支払に応じる見込みはな
234 い上,本件定期預金に対する強制執行の手続を採っても,訴訟及び強制執行手続を依頼した弁護
235 士に対する費用や報酬の支払に少なくとも40万円を要すると見込まれた。
236 そこで,B社は,トラックの修理費用の回収を断念し,本件事故の翌事業年度において,40
237 0万円の損害賠償請求権の全額を貸倒損失として経理処理をした。
238 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。
239 なお,保険金(いわゆる自賠責保険及び任意保険に基づくもの)の支払はないものとする。
240
241 〔設
242
243 問〕
244
245 1.Aの精神的苦痛に対する慰謝料としてはせいぜい15万円が相当であったとした場合,AがX
246 から損害賠償金として受け取った100万円について,所得税法における所得の概念を踏まえつ
247 - 8 -
248
249 つ,Aが所得税を課税される範囲を説明しなさい。
250 2.B社が貸倒損失として経理処理した400万円について,参考となる最高裁判所の判決の内容
251 を指摘しつつ,B社の法人税の計算上,その全額を損金の額に算入することができるか否かを論
252 じなさい。
253 (参照条文)所得税法施行令
254 (非課税とされる保険金,損害賠償金等)
255 第30条
256
257 法第9条第1項第17号(非課税所得)に規定する政令で定める保険金及び損害賠償金(こ
258
259 れらに類するものを含む。)は,次に掲げるものその他これらに類するもの(これらのものの額の
260 うちに同号の損害を受けた者の各種所得の金額の計算上必要経費に算入される金額を補てんするた
261 めの金額が含まれている場合には,当該金額を控除した金額に相当する部分)とする。
262 一
263
264 (前略)心身に加えられた損害につき支払を受ける慰謝料その他の損害賠償金(その損害に基
265 因して勤務又は業務に従事することができなかつたことによる給与又は収益の補償として受ける
266 ものを含む。)
267
268 二
269
270 (前略)不法行為その他突発的な事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠
271 償金(これらのうち第94条(事業所得の収入金額とされる保険金等)の規定に該当するものを
272 除く。)
273
274 三
275
276 心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金(第94条の規定に該当する
277 ものその他役務の対価たる性質を有するものを除く。)
278
279 - 9 -
280
281 〔第2問〕(配点:50)
282 X社は,カキ養殖業を営む資本金1000万円の株式会社で,A,B及びCの3姉弟(以下,こ
283 の3人を併せて,「Aら」という。)が,それぞれ発行済株式総数の60%,20%,20%を保有
284 している同族会社である。X社はAらの父Dが100%出資して設立した会社で,Dの死亡後,A
285 らがX社株式をDから相続により取得したものである。しかし,B及びCはカキ養殖業に興味を持
286 たず,別の分野の職業に就いたため,X社の取締役はA,B及びCの3名で構成されているものの,
287 X社において定期的に取締役会が開催されることはなく,Aが代表取締役として,経理を含むX社
288 の業務全般を掌握していた。Aらは毎年,暦年を事業年度とするX社の事業年度末を経過した2月
289 中に「株主総会」と称して集まり,AからX社の業績等について説明を受けてこれを了承していた
290 が,B及びCの関心はどちらかと言えばX社についての説明ではなく,その後にAらの家族を交え
291 て,X社が養殖したカキを使った焼きガキや土手鍋を「美味しい遺産ね。」
292 「今年の配当も美味いぞ。」
293 などと言いつつ賞味することにあった。
294 X社のこのような状況を奇貨としたAは,平成27年中に,自ら,帳簿に架空の外注費を計上し,
295 その支払を装って1000万円をX社の銀行口座から自分が管理する銀行口座に移して(以下,こ
296 の1000万円の移動を,「本件資金移動」という。),遊興等で生じた借金の弁済に充てた。
297 平成29年中に行われたX社に対する税務調査で,本件資金移動の事実が判明したため,所轄税
298 務署長Eは,この1000万円を平成27年にAがX社から与えられた賞与と考え,X社に対して
299 源泉所得税の納税告知処分(以下,この納税告知処分を,「本件納税告知処分」という。)を行うと
300 ともに,平成27事業年度(平成27年12月末に終了する事業年度を指す。)の法人税につき,
301 課税所得を1000万円増額させる修正申告を勧奨したが,X社がこれを拒否したため,勧奨した
302 修正申告と同じ内容の増額更正処分(以下,この増額更正処分を,「本件更正処分」という。)を行
303 った。
304 上記の税務調査後の平成30年2月中にX社の「株主総会」が開催され,その場でAは,@X社
305 の代表取締役の地位を濫用し,X社の資金を引き出して私的な支払に充てたこと(以下「本件横領」
306 という。)を認めるとともに,Aその弁償を約束し,これがB及びCに了承された。その後平成3
307 0年5月に,AがX社に対して1000万円を支払うべき債務を負担していることを確認し,これ
308 を平成31年(2019年)末までに弁済する旨の債務分割弁済契約公正証書が作成された。
309 以上の事案について,以下の設問に答えなさい。
310 〔設
311
312 問〕
313
314 1.X社が本件納税告知処分に従って税額を納付することを拒否した場合,税務署長Eは当該税額
315 をAから徴収することができるか否かを,源泉徴収の法律関係を簡潔に説明しつつ論じなさい。
316 2.Aらは,平成27年にX社が,本件横領により1000万円の損失を被ったとの見解で一致し
317 ている。この見解の下で,本件更正処分の適法性について論じなさい。ただし,同族会社の行為
318 計算否認規定は考慮しなくてよい。
319 3.本件納税告知処分の適法性について,結論を異にする見解にも言及しつつ,自説を述べなさい。
320 なお,本件納税告知処分に,手続法上の瑕疵はないものとする。
321
322 - 10 -
323
324 論文式試験問題集[経
325
326 - 11 -
327
328 済
329
330 法]
331
332 [経
333
334 済
335
336 法]
337
338 〔第1問〕(配点:50)
339 A社は,各種の合成樹脂を原料としたパイプやホースなどの管を製造販売する会社であり,資本
340 金は200億円,年間売上げは2000億円,従業員の人数は2500人である。A社の主力商品
341 の中には,X製品とY製品があり,両製品は合成樹脂を原料とした管製品であるが,X製品は専ら
342 家庭用に用いられる一方で,Y製品は主として工場配管用に用いられる。また,原料価格の差を反
343 映して,X製品はY製品の約2倍の価格となっている。なお,A社は,過去に,私的独占の禁止及
344 び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反で排除措置命令や課徴金納付
345 命令等の行政処分を受けたことはない。
346 ところで,平成30年4月1日午前,公正取引委員会の審査官がA社を訪問し,X製品とY製品
347 の価格カルテルの疑いで立入検査を開始した。
348 その上で,審査官は,両製品の担当営業部長甲について,任意の事情聴取を行うために公正取引
349 委員会への出頭を求めたが,甲は出張中でこれに直ちには応じられなかった。
350 同日午後になって,A社から委任を受けた弁護士乙は,甲の携帯電話に電話をかけて,事実関係
351 を確認したところ,甲から,次のような説明を受けた。
352 1
353
354 甲がA社を代表して参加した平成29年1月中旬の業界団体の営業部長会合で,X製品とY製
355 品の市況が話題になった。同会合には,A社ないしF社の6社の各営業部長が出席していた。な
356 お,我が国における市場占有率は,X製品とY製品のいずれについても,ここ10年ほど,A社
357 20パーセント,B社25パーセント,C社10パーセント,D社15パーセント,E社15パ
358 ーセント,F社10パーセントとなっているほか,輸入製品が5パーセントとなっている。
359
360 2
361
362 同会合において,B社部長が,
363 「最近,X製品の主要な原材料Zの価格が値上がり傾向にあり,
364 このままでは各社とも採算が悪化してしまう。どうにか,原材料の値上がり分だけでも,平成2
365 9年4月1日以降のX製品の価格に転嫁できるよう努力したい。また,Y製品の価格も,通常X
366 製品の価格と連動して決まるので,同時に値上げをしたい。皆さんの考えを聞きたい。」と発言
367 した。
368
369 3
370
371 C社部長は,こうした話題について競争事業者と話をすることは社内で禁じられているとして,
372 退席した。甲は,「当社では,製品価格について他社と合意をすることは禁止されているため,
373 皆さんとの間での合意には参加できません。しかし,会議に参加することまでは禁止されていま
374 せん。」と述べて同会合にとどまった。甲は,X製品の原材料Zの価格上昇にどう対応するのか
375 日頃から悩んでいたこともあり,他社がどのようにコスト上昇分を製品価格に転嫁しようとして
376 いるのか知りたかったため,各社の議論を注意深く聞いていた。また,甲が他社から退席を求め
377 られることもなかった。
378
379 4
380
381 D社部長は,X製品の値上げについては原材料Zの値上がりを理由に顧客の理解を得られるだ
382 ろうが,Y製品の値上げについては難しいだろうとの意見を述べた。E社部長とF社部長は,X
383 製品とY製品のいずれについても,是非とも積極的に値上げを目指したいと発言した。
384
385 5
386
387 同会合の最後に,B社部長から,「大体皆さんの意見は分かりました。どうにか,原材料の値
388 上がり分だけでも,うまく製品価格に転嫁できるように頑張りましょう。」という発言があり,
389 散会となった。この1回を除くと,競争事業者間でX製品とY製品の値上げの議論をしたことは
390 ない。
391
392 6
393
394 甲は,X製品については他社も基本的には値上げの意向であると確信し,Y製品についても少
395 なくともB社,E社及びF社の3社は値上げの意向であると判断して,これに同調すべく両製品
396 の値上げの準備を開始した。そして,同会合の約1か月後の平成29年2月中旬に,B社がX・
397 Y両製品について10パーセントの値上げを公表したのに続いて,同年3月1日,A社はX製品
398 について10パーセント,Y製品について5パーセントの値上げを顧客に通告した。ほぼ同時期
399 - 12 -
400
401 に,C社もX・Y両製品について5パーセント,D社はX製品のみ10パーセント,E社及びF
402 社はX・Y両製品について7パーセントの値上げを打ち出し,顧客との間での値上げ交渉に入っ
403 た。なお,各社とも値上げ予定日を同年4月1日としていた。
404 7
405
406 甲は,この間の経緯をまとめた資料を自宅のパソコンに保管している。
407 A社におけるX製品とY製品の各売上げについては,平成29年1月中旬の業界団体の営業部長
408
409 会合での話合いの翌日から平成30年3月31日までの間の総額は,X製品が100億円でY製品
410 が80億円,値上げ予定日である平成29年4月1日から平成30年3月31日までの間の総額は,
411 X製品が90億円でY製品が70億円であった。ただし,顧客側の値上げへの抵抗も強く,平成2
412 9年4月1日の時点で,X製品については平均で5パーセントの値上げしか実現せず,Y製品につ
413 いてはほとんど値上げが実現しなかった。
414 〔設
415
416
417 問〕
418 上記の甲の説明内容が全て真実であることを前提として,A社ないしF社の6社の行為につ
419 いて,独占禁止法に違反するといえるか論点を挙げて検討しなさい(同法第8条について言及
420 する必要はない。)。
421
422
423
424 仮にA社が独占禁止法に違反したと考えられる場合,想定されるA社の課徴金の金額を算出
425 しなさい(立入検査の日の前日を課徴金算定の基礎となる実行期間の終期と仮定する。)。また,
426 弁護士乙として,A社に対して,同社の責任を軽減するために採るべき手段及びそれに必要な
427 行為に関して助言すべき内容を検討しなさい(助言日は平成30年4月1日とする。)。
428
429 - 13 -
430
431 〔第2問〕(配点:50)
432 個人旅行や仕事上の出張のためにホテルや旅館等,国内の宿泊施設を予約する方法は,近年様変
433 わりしている。宿泊日数ベースで見ると,インターネットを通じて予約するものが40パーセント,
434 旅行業者を通じて予約するものが35パーセント,電話やファクシミリで直接予約するものが15
435 パーセント,その他が10パーセントである。インターネットを通じて予約する場合には,直接,
436 ホテルや旅館のウェブサイト(以下「サイト」という。)において行うこともできるが,インター
437 ネット上で宿泊施設を検索,比較して予約できるサービスを提供するオンライン旅行予約サービス
438 事業者(以下「OTA」という。)を通じて予約することもできる(その割合は,OTAを通じて
439 予約するものが9割,宿泊施設のサイトで直接予約するものが1割である。)。国内の宿泊施設の予
440 約について前年度にOTAが仲介した取扱高のシェア(宿泊日数ベース)は,A社35パーセント,
441 B社30パーセント,C社20パーセント,D社10パーセント,E社5パーセントである。OT
442 A各社は,国内の主要なホテルや旅館等と契約を結び,OTAを通じてユーザーが予約できるよう
443 にしている。国内の宿泊施設は,大規模なホテルチェーンも存在するが,大部分は中小事業者であ
444 る。
445 OTAは,ホテルや旅館等の宿泊施設から委託を受けて,当該宿泊施設の写真や動画,文字デー
446 タ等をOTAのサイト上に掲示する。宿泊施設は,ユーザーがOTAを通じて当該宿泊施設に予約
447 した場合に,宿泊料金の一定割合に当たる手数料を当該OTAに支払う。宿泊施設は,通常,複数
448 のOTAと契約を結ぶとともに,自らのサイトでもユーザーの予約を受け付けるものが多い。他方,
449 OTAは,ユーザーに対して,ユーザーが宿泊を予定する日に一定地域内の宿泊施設を利用できる
450 かどうかを検索し,他の宿泊施設と比較して予約することを可能にするサービスを無料で提供して
451 いる。これらのサービスを提供するため,OTAは,相当の費用を掛けて自社のサーバーやコンピ
452 ュータシステムを開発・保有・運用している。ユーザーがOTAを通じて特定の宿泊施設を選択し
453 て予約した場合,契約はユーザーと宿泊施設の間に成立する。また,OTA各社は,自社のサイト
454 を通じて予約したユーザーに対して成約額の一定割合をポイントとして付与し,次回以降,宿泊料
455 金の全部又は一部をポイントで支払うことを可能にすることにより,自社を通じた予約を促そうと
456 している(ポイントは宿泊施設のサイトで直接予約した場合には使えない。)。
457 ところで,A社は,宿泊料金の10パーセントを手数料として受領しているところ,最近,低い
458 手数料しか受け取らないことにより安い宿泊料金をホテルや旅館等に提示させようとする事業者が
459 この分野に新規参入の準備をしていること,また,ホテルや旅館等がOTA各社のサイト上で提示
460 するものより5パーセント程度安い宿泊料金やユーザーに有利なキャンセル条件等を当該宿泊施設
461 自身のサイト上に提示している場合があることに気付いた。これらを放置しておくと,
462 ア
463
464 オンライン旅行予約をめぐる競争が激化する
465
466 イ
467
468 OTAのサイトを利用して宿泊施設を検索,比較しておきながら,予約は当該宿泊施設のサイ
469 トにおいて行うユーザーが増え,検索・比較サービスは無料で利用されるのにOTAには手数料
470 が入らない
471
472 ことから,その対策として,A社は次の2つの案を検討している。
473 第1案は,ホテルや旅館などA社と契約する宿泊施設は,A社のサイト上で提示する当該宿泊施
474 設の宿泊料金,朝食の有無,提供される部屋の数と等級,キャンセル条件等(以下「宿泊料金等」
475 という。)が,当該宿泊施設自身のサイト上で提示するもの,及び,新規参入事業者を含む他のO
476 TAのサイト上で提示するものと同じか,より有利になる(例えば宿泊料金でいえば,A社のサイ
477 ト上で提示される料金が他の全てのサイト上の料金と同じかそれより安くなる)ようにしなければ
478 ならない旨の契約条項を導入するというものである。
479 第2案は,上記イの対策として,A社と契約する宿泊施設は,A社のサイト上で提示する当該宿
480 泊施設の宿泊料金等が,当該宿泊施設自身のサイト上で提示するものと同じか,より有利になるよ
481 うにしなければならない旨の契約条項を導入するというものである。
482 - 14 -
483
484 A社がいずれかを導入すると,B社及びC社も同様の契約条項を盛り込むことが予測される。D
485 社及びE社も上記イの問題に気付いたが,通常の手数料とは別に,ユーザーが検索・比較サービス
486 を利用する際に自社に発生する費用を,毎月,取引相手であるホテルや旅館等に「サービス利用料」
487 として支払ってもらうことを検討している。
488 〔設
489
490 問〕
491 A社が検討している上記の両案について,独占禁止法第2条第9項第6号ニに基づく一般指定
492
493 第12項に該当するかどうか,【資料】も参照しながら検討しなさい。
494 なお,解答に当たっては,複数のOTAの提供するサイトを横断的に検索して,これらのサイ
495 ト上の情報を一覧できるサービスを提供するメタサーチサービス事業者や検索エンジンといわれ
496 る一般的な検索サービスを提供する事業者を考慮する必要はない。また,外国の宿泊施設やユー
497 ザーについても考慮する必要はない。
498 【資
499 〇
500
501 料】
502 公正取引委員会事務局「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(抄)
503
504 第1部
505 3
506
507 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準
508
509
510 垂直的制限行為に係る適法・違法性判断基準についての考え方
511 垂直的制限行為は,(略)競争に様々な影響を及ぼすものであるが,公正な競争を阻害するお
512 それがある場合に,不公正な取引方法として禁止されることとなる。垂直的制限行為に公正な競
513 争を阻害するおそれがあるかどうかの判断に当たっては,具体的行為や取引の対象・地域・態様
514 等に応じて,当該行為に係る取引及びそれにより影響を受ける範囲を検討した上で,次の事項を
515 総合的に考慮して判断することとなる。
516 なお,この判断に当たっては,垂直的制限行為によって生じ得るブランド間競争やブランド内
517 競争の減少・消滅といった競争を阻害する効果に加え,競争を促進する効果(略)も考慮する。
518 また,競争を阻害する効果及び競争を促進する効果を考慮する際は,各取引段階における潜在的
519 競争者への影響も踏まえる必要がある。
520 @
521
522 ブランド間競争の状況(市場集中度,商品特性,製品差別化の程度,流通経路,新規参入の
523 難易性等)
524
525 A
526
527 ブランド内競争の状況(価格のバラツキの状況,当該商品を取り扱っている流通業者等の業
528 態等)
529
530 B
531
532 垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位(市場シェア,順位,ブランド力等)
533
534 C
535
536 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の事業活動に及ぼす影響(制限の程度・態様等)
537
538 D
539
540 垂直的制限行為の対象となる取引先事業者の数及び市場における地位
541 各事項の重要性は個別具体的な事例ごとに異なり,垂直的制限行為を行う事業者の事業内容等
542
543 に応じて,各事項の内容も検討する必要がある。例えば,プラットフォーム事業者が行う垂直的
544 制限行為による競争への影響については,プラットフォーム事業者間の競争の状況や,ネットワ
545 ーク効果等を踏まえたプラットフォーム事業者の市場における地位等を考慮する必要がある。
546 (略)
547
548 - 15 -
549
550 - 16 -
551
552 論文式試験問題集[知的財産法]
553
554 - 17 -
555
556 [知的財産法]
557 〔第1問〕(配点:50)
558 甲は,発明aについて特許出願(以下「本件特許出願」という。)をし,設定登録を受けた(以
559 下,これによる権利を「本件特許権」といい,その登録された特許を「本件特許」という。)。これ
560 に対して乙は,発明aは本件特許出願前に乙が学会で研究発表したことにより公然知られた発明b
561 に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)
562 が容易に発明することができたものであること,及び,発明aは乙と甲による共同発明であるにも
563 かかわらず,甲が単独で本件特許出願をしたことを理由として,特許無効審判(以下「本件審判」
564 という。)を請求した。本件審判を審理した特許庁は,発明aは乙の学会研究発表に係る発明bに
565 基づいて当業者が容易に発明することができたものであることを理由として,その余については判
566 断するまでもなく「本件特許を無効とする」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
567 以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。なお,各設問はそれぞれ独立したもの
568 であり,相互に関係はないものとする。
569 〔設
570
571 問〕
572
573 1.甲は,本件審決に対して審決取消訴訟を提起し,当業者が発明bに基づいて発明aを容易に
574 発明することはできなかったことの立証に成功したが,乙は,発明aは乙と甲による共同発明
575 であるにもかかわらず,甲が単独で本件特許出願をしたことを主張している。このような乙の
576 主張が上記審決取消訴訟において許されるか否かについて,甲及び乙は,それぞれどのように
577 主張することが考えられるか。その妥当性についても論じなさい。
578 2.甲は,本件審決に対して審決取消訴訟を提起したところ,本件審決は発明bと発明aとの技
579 術内容の認定を誤り,その異同点の認定を誤ったものであって違法であることを理由として,
580 本件審決を取り消す判決が確定した。そこで,特許庁は再度の審理をし,本件審判の請求を不
581 成立とする第二次審決をしたため,乙がこれに対して第二次審決取消訴訟を提起した。この中
582 で乙は,本件特許出願前の公知技術についての新たな証拠cを提出して発明bの技術内容を明
583 確化し,これによれば,発明aは発明bに基づいて当業者が容易に発明することができたもの
584 であると主張している。このような乙の主張が上記第二次審決取消訴訟において許されるか否
585 かについて,甲及び乙は,それぞれどのように主張することが考えられるか。その妥当性につ
586 いても論じなさい。
587 3.甲は,本件審決に対して審決取消訴訟を提起したところ,当業者が発明bに基づいて発明a
588 を容易に発明することはできなかったことを理由として本件審決を取り消す判決が確定した。
589 そこで,特許庁は再度の審理をし,本件審判の請求を不成立とする第二次審決をし,これが確
590 定した。その後,甲は,発明aを甲に無断で業として実施している乙に対して,本件特許権に
591 基づき特許権侵害訴訟を提起した。この中で乙は,発明aは発明bに基づいて容易に発明する
592 ことができたため,本件特許は無効にされるべきものであるから,甲は本件特許権を行使する
593 ことができないと主張している。このような乙の主張が上記特許権侵害訴訟において許される
594 か否かについて,甲及び乙は,それぞれどのように主張することが考えられるか。その妥当性
595 についても論じなさい。
596 4.甲は,発明aを甲に無断で業として実施している丙に対して,本件特許権に基づき特許権侵
597 害訴訟を提起した。この中で丙は,発明aは甲と乙との共同発明であるにもかかわらず,甲が
598 単独で本件特許出願をしているため,本件特許は無効にされるべきものであるから,甲は本件
599 特許権を行使することはできないと主張している。このような丙の主張が許されるか否かにつ
600 いて論じなさい。
601
602 - 18 -
603
604 〔第2問〕(配点:50)
605 観光都市であるK市の市バス運転手であったXは,K市を退職後,K市のガイドマップを作成し
606 て販売することを思い立ち,市バスだけを利用して巡ることができる知られざる観光スポットを厳
607 選したガイドマップというコンセプトを考えた。ガイドマップに載せる観光スポットを探す作業は,
608 K市を退職した後輩のYが担当し,Yは3か月をかけてK市を歩き回って,市バスの停留所近くの
609 知られざる小さな寺社など多くの観光スポットを探し出し,その中から人気が出そうなガイドマッ
610 プに載せるべき観光スポット50か所(以下「本件観光スポット50か所」という。)を厳選した。
611 Yは,K市が作成し無料で自由な使用を認めている標準的なK市の地図に,本件観光スポット50
612 か所を書き入れるとともに,市バスの路線図と停留所名も詳細に書き込んで,一枚物のガイドマッ
613 プAを作成した。なお,ガイドマップAには,X及びYの氏名は表示されていない。
614 以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。なお,設問1及び設問2は,それぞれ
615 独立したものであり,相互に関係はないものとする。
616 〔設
617
618 問〕
619
620 1.ガイドマップAは,イラストなどは一切載っておらず,通常の地図の表記ルールに従った表
621 現の域を出ていないが,市バスの路線図と停留所名が詳細に書き込まれ,K市の知られざる魅
622 力的な観光スポットが満載であるとして,発売後たちまち人気が出た。Zは,X及びYに無断
623 でガイドマップAを利用し,本件観光スポット50か所をイラストとして表現したほかは,ガ
624 イドマップAと全く同じ地図Mを作成し,その販売を開始した。Xは,Zに対して,地図Mの
625 販売はXの著作権を侵害するものであるとして,地図Mの販売の差止めを求める訴訟を提起し
626 た。Xは,どのような主張をすべきか。これに対するZの反論として,どのような主張が考え
627 られるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。
628 2.ガイドマップAは,イラストを多用しており,それらのイラストは,XとYが同程度の貢献
629 をして協力して描いた個性的な図柄のものであった。
630
631
632 Yは,ガイドマップAをインターネット上で配信し,その際,XとYの氏名を著作者名と
633 して表示した。インターネット配信によってガイドマップAは世間に広く知られることとな
634 ったため,ガイドマップAの売上げは飛躍的に伸びた。Yは,この配信についてあらかじめ
635 Xと協議をしたものの,Xは,インターネット配信により自分の名前が世界中に知られるこ
636 とに不安を感じ,配信に同意していなかった。Xは,Yに対して,YのガイドマップAの配
637 信行為はXの著作権及び著作者人格権を侵害するものであるとして,配信行為の差止めを求
638 める訴訟を提起した。Xはどのような主張をすべきか。これに対するYの反論として,どの
639 ような主張が考えられるか。それぞれの主張の妥当性についても論じなさい。
640
641
642
643 K市に所在するタクシー会社Sは,社内で観光タクシー運転手になるための資格試験を実
644 施しているところ,今年度の試験は,ガイドマップAの中の本件観光スポット50か所の名
645 称を空欄にし,この空欄に正解の名称を書き入れるように求める問題(以下「本件出題」と
646 いう。)であった。なお,本件出題に係るガイドマップAにX及びYの氏名は表示されてい
647 ない。また,Sは,本件出題も含む過去20回分の試験の全問題とその解答(解説は付いて
648 いない)を年度順に掲載した『観光タクシー資格試験問題集』
649 (以下「本件問題集」という。)
650 を発行し,社内の希望者に配付しているが,本件問題集においてガイドマップAが使用され
651 た問題は,今年度分のみであった。Sは,本件出題及び本件問題集の発行について,X及び
652 Yに無断で行っている。X及びYは,Sに対して,本件出題及び本件問題集にガイドマップ
653 Aを利用したことは,X及びYの著作権及び著作者人格権を侵害するものであるとして,損
654 害賠償を求める訴えを提起した。これに対するSの反論として,どのような主張が考えられ
655 るか。その妥当性についても論じなさい。なお,損害額については論じなくてよい。
656
657 - 19 -
658
659 - 20 -
660
661 論文式試験問題集[労
662
663 - 21 -
664
665 働
666
667 法]
668
669 [労
670
671 働
672
673 法]
674
675 〔第1問〕(配点:50)
676 次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。
677 【事
678
679 例】
680 Y社は,建物の管理及び警備の請負等を目的とする株式会社であり,A病院から保安及び管理業
681
682 務を請け負っている。Xは,Y社の従業員であり,平成27年4月以降,A病院に警備員として配
683 置され,病棟等の複数の医療関連施設内外のモニター監視,病院施設全体の巡回監視並びに病院施
684 設の空調設備及び医療関連設備の点検及び管理のほか,災害や事故等の突発的事態への緊急対応業
685 務に従事している。
686 Y社の就業規則が定める変形労働時間制による勤務シフトにより,Xは,二人一組の体制で,午
687 前9時から翌朝の午前9時までの24時間勤務に就いていた(以下このような勤務体制を「二人勤
688 務体制」という。)。二人勤務体制については,24時間勤務に対して,1時間の休憩時間のほかに
689 7時間の仮眠時間が与えられるところ,二人が交代で仮眠時間を取ることとし,一人が仮眠時間を
690 取っているときは,原則として,もう一人が守衛室でモニター監視を行うとともに,適宜病院施設
691 の巡回及び点検を行うこととするが,緊急対応の必要がある突発的事態が生じた場合には,仮眠時
692 間中の者も随時その対応に当たることとされていた。守衛室には,監視用モニター機器,病院施設
693 内の設備管理関係機器のほか,給湯設備があり,守衛室に隣接した小部屋に仮眠用ベッド等が備え
694 られ,この小部屋が休憩・仮眠室とされており,守衛室と休憩・仮眠室のいずれも,飲酒及び喫煙
695 は禁止されていた。警備員は,24時間勤務に従事している間は,病院施設からの外出は禁止され
696 ており,休憩又は仮眠時間中は,通常,守衛室か休憩・仮眠室で過ごし,食事も休憩又は仮眠時間
697 中に守衛室か休憩・仮眠室で取っていた。なお,Y社は,仮眠時間を就業規則所定の労働時間に算
698 入していなかったが,これに対応するものとして,「泊まり勤務手当」(1勤務につき3000円)
699 を支給していた。ただし,仮眠時間中に突発的業務に対応した場合は,従業員が申告をすれば,そ
700 の実作業時間に対して時間外勤務手当を支給する取扱いにしていた。
701 平成29年5月10日午前2時頃,Xの仮眠時間中に,突然,病院の全施設が停電となった。X
702 の相方勤務者であるBは,直ちに非常用電源への切替え,停止した監視用モニター機器の復旧,病
703 院内各室の電気系統機器の作動確認等の種々の緊急措置を講じるとともに,仮眠中のXを起こし,
704 守衛室で待機して関係部署との連絡調整に当たることを指示した上,守衛室から出て,病院内にい
705 る看護師及び技師と協力しながら複数の病棟内の入院患者の安全確認や各施設設備の点検作業を行
706 った。そして,ほぼ平常の状態に復した約30分後,Bが守衛室に戻ったところ,Xは待機してお
707 らず,休憩・仮眠室の仮眠用ベッドで眠っていた。Bは,緊急事態は解消されたので,Xに声を掛
708 けることなく,再び通常の監視業務に就いた。しかし,夜が明けてから,A病院に,複数の入院患
709 者らから,未明の停電中,守衛室に問い合わせをしても誰も応対してくれなかった,守衛室には缶
710 ビールの空き缶があった等の苦情が寄せられた。そこで,A病院は,Y社にこの苦情を伝え,厳正
711 な対処を求めた。
712 ところで,Y社では,同年4月末に,C労働基準監督署(以下「C労基署」という。)から警備
713 員の仮眠時間の取扱いについて同年5月中旬に調査に入る旨の連絡を受け,人事課長Dがその対応
714 に当たっていたが,D課長は,この対応の準備の過程で,Xが匿名の電子メールでY社の警備員の
715 仮眠時間の取扱いには問題があるのではないかとC労基署に相談していたことを把握していた。そ
716 こで,D課長は,X及びBの両人と個別に面談をして,A病院における同月10日の停電対応につ
717 いて事情を聴取した。この事情聴取において,Xは,これまで仮眠時間中に緊急事態が発生して仮
718 眠を中断したことはほとんどなかったので油断して缶ビールを飲んで寝入ってしまい,停電時に守
719 衛室で待機していなかった旨述べた上で,反省の態度を示した。しかし,Xの普段の勤務状況を聞
720 - 22 -
721
722 かれたBの応答から,Xが過去にも複数回にわたり休憩・仮眠室で缶ビールを飲んでいたことが明
723 らかとなった。
724 この事情聴取の後,D課長は,今回のA病院の停電時におけるXの行動は重大な失態であり,C
725 労基署への匿名相談を含めてXの勤務態度には問題があるので懲戒処分が必要である旨,人事部長
726 Eに報告した。これを受けて,Y社は,同年7月1日付けで,Y社の就業規則第60条第3号及び
727 第65条第5号に基づき,Xを14日間の出勤停止処分に付した。
728 【Y社就業規則(抜粋)】
729 第60条
730
731 懲戒は,次の5種類とする。
732
733 1
734
735 けん責
736
737 始末書を取り,将来を戒める。
738
739 2
740
741 減給
742
743 始末書を取り,1回につき平均給与1日分の2分の1以内を減額する。ただし,処分
744 が2回以上にわたる場合においても,減額の総額が1給与支払期における給与総額の1
745 0分の1以内とする。
746
747 3
748
749 出勤停止
750
751 始末書を取り,14日以内を限度として出勤を停止し,その期間の給与を支払わない。
752
753 4
754
755 諭旨退職
756
757 退職届を提出するよう勧告する。退職届を提出しない場合は,次号の懲戒解雇とする。
758
759 5
760
761 懲戒解雇
762
763 所轄労働基準監督署長の認定を受け,予告期間を設けないで即時解雇し,原則として
764 退職金は支給しない。
765
766 第65条
767
768 社員が次の各号のいずれかに該当するときは,減給又は出勤停止に処する。ただし,情状
769
770 によりけん責にとどめることがある。
771 1〜4
772 5
773
774 (略)
775
776 自己の職責を怠り,誠実に勤務しない等の不適切な行為があったとき。
777
778 6〜8
779 〔設
780
781 (略)
782 問〕
783
784 1.Xは,仮眠時間は労働時間に当たるので,突発的業務の有無にかかわらず賃金を請求できると
785 考えている。このXの見解の当否について,検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を
786 述べなさい。
787 2.Xは,出勤停止処分は不当であり,無効であるとして提訴した。この出勤停止処分の有効性に
788 ついて,検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。ただし,公益通報者保
789 護法について触れる必要はない。
790
791 - 23 -
792
793 〔第2問〕(配点:50)
794 次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。
795 【事
796
797 例】
798 医療機器の製造及び販売等を行うY社には,従業員で組織するZ労働組合(以下「Z組合」とい
799
800 う。)が存在し,かつては管理職を除く全従業員が加入していたが,近年は加入率が低下して60
801 パーセント前後となっている。Y社とZ組合との間には,労使関係に関する基本協定が期間の定め
802 のない形で締結され,同協定において,組合事務所及び掲示板の貸与並びに組合費のチェックオフ
803 等が定められている。また,Y社とZ組合は,毎年1月から3月にかけて,賃金及び一時金等に関
804 する団体交渉を行っており,例年,遅くとも3月中旬までに交渉が妥結して労働協約が締結され,
805 Y社は同月内に,その内容を反映した就業規則の改訂を行ってきた。
806 Y社の業績は,ここ数年,辛うじて赤字は免れているものの,低迷が続いており,平成29年秋,
807 投資ファンドを運営するP社がY社の株式の過半数を取得すると,経営陣を大幅に入れ替え,他の
808 業界からスカウトしてきたAを社長に就任させた。Aは,着任時の従業員へのメッセージの中で,
809 @Y社の近年の業績不振の原因は,厳しさを増す経営環境に対して労使とも危機意識を持たないま
810 ま,ぬるま湯的な経営を行ってきたことにある,Aこれを抜本的に改めるため,来年度から2年間,
811 全従業員の基本給を10パーセント削減する,Bただし,経営改革による生産性向上によって業績
812 が好転した場合には,2年目以降,個々の労働者の成果に応じる形で夏季・年末一時金の中に反映
813 させていく,という方針を打ち出した。
814 これを受けて,平成30年1月に始まった第1回目の団体交渉の冒頭,人事部長Bを従えて自ら
815 出席したAは,Z組合が提出した3パーセントの賃上げ要求は認識が甘すぎると批判し,同年4月
816 から2年間,基本給を10パーセント引き下げる旨の労働協約案を提示して,直ちに受諾するよう
817 求めた。Z組合側は反発し,副委員長Cが,これまで賃金引下げは行われたことはなく,今それが
818 必要であることの説明も全く不十分だと指摘し,強い言葉で協約案の撤回を求めたが,Aは,経営
819 再建のために不可欠な措置であると反論し,そのまま物別れに終わった。次の第2回目の団体交渉
820 でも同様のやり取りが行われ,苛立ったCが,Y社やAを激しく非難する発言をすると,Aは,
821 「Z
822 組合がそのような態度を取り続けるならば,基本協定の解消を含む労使関係そのもののリセットを
823 考えざるを得ない。」と述べた。
824 その後,Z組合は執行委員会を開催し,今後の団体交渉の進め方について協議した。Cは,争議
825 行為も辞さない覚悟で強く闘うべきだと主張したが,委員長Dが,「組合員の多くもY社の方針は
826 やむを得ないと考えているようであり,このまま強硬な態度を取れば脱退者が続出しかねない。今
827 は我慢の時ではないか。」と述べて,2年間に限定した基本給の10パーセント削減に応じる態度
828 を示した。Cは驚き反対したが,他の出席者からは,Dの考えを支持する発言が相次ぎ,今後,見
829 返りとして他の条件の改善を求めることが可能かどうか,交渉の中で探っていくこととなった。
830 しかし,Cはこれに納得できず,親しい友人であるZ組合の組合員E及びFと共に,Y社を批判
831 するビラを作成した。C,E及びFの3名(以下「Cら」という。)は,翌朝,勤務時間の開始前
832 に,オフィス街にあるY社の本社社屋の前で,Z組合の組合旗とのぼりを立て,拡声器を使って演
833 説を行いながら,1時間にわたり,このビラを通行人に配布した。ビラには,「Y社の驚くべき賃
834 下げ提案を糾弾する!」というタイトルの下に,「A社長の独断専行」,「経営の責任を転嫁」,「あ
835 れが誠実団交か?」,「企業再生の美名と内実」などの見出しが並び,Y社とAのほか,P社及びそ
836 の代表を務めるQに対する批判も書かれており,末尾に「Z組合有志」と記載されていた。また,
837 C個人の管理するウェブサイトに,ビラの全文や抗議活動の写真を,誰でも見ることができる形で
838 掲載した。
839 Y社は,Z組合に対し,A名義の文書で,@Cらの行動は就業規則の懲戒事由(会社の名誉・信
840 用を失墜させる行為)に該当するので,戒告の懲戒処分に付する予定であるが,Y社とZ組合の信
841 - 24 -
842
843 頼関係も大きく損なわれてしまった,Aこの信頼関係を回復させるためには,Cらについて,Z組
844 合自身が一定の処分を行うなど,毅然とした対応を示すことが必要である,と通告した。
845 これを受けたDは,現在の状況を考えると,Cらに対し,Z組合としても何らかの処分を行う必
846 要があると考えている。また,Cを団体交渉の担当から外すとともに,これ以上交渉が長引くと更
847 に組合内部で分断が拡大しかねないので,平成30年3月中旬に予定されている次回の団体交渉の
848 席で,Y社の提示した労働協約案を受け入れて調印することを決意した。
849 なお,Z組合の組合規約には,次のような規定がある。
850 第3条
851 第10条
852
853 委員長は組合を代表してその業務を統括する。
854 組合員が次の各号のいずれかに該当したときは統制処分の対象とする。
855
856 1
857
858 組合規約又は機関の決定に違反したとき。
859
860 2
861
862 組合の統制秩序を乱したとき。
863
864 3
865
866 組合の運営,事業の発展を阻害する行為のあったとき。
867
868 第11条
869
870 統制処分は戒告,権利の一時停止,解任,除名の4種とする。
871
872 第12条
873
874 統制処分は組合大会の決議により行う。ただし,事態急迫の場合には執行委員会の決議
875
876 により行うこともできる。この場合には,次の組合大会で報告して承認を得るものとする。
877 〔設
878
879 問〕
880
881 1.Cらは,Y社が自分たちに懲戒処分を行うことは不当労働行為に当たると主張している。これ
882 に関して検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。
883 2.Dは,Y社との関係を修復するために,Cらに権利の一時停止の統制処分を行おうと考えてい
884 る。その場合に検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。
885 3.Dが次回の交渉の席でY社の労働協約案に調印した場合,Z組合の組合員に対していかなる効
886 力が生じるかについて,検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの意見を述べなさい。なお,
887 調印後に予想されるY社の就業規則の変更について論じる必要はない。
888
889 - 25 -
890
891 - 26 -
892
893 論文式試験問題集[環
894
895 - 27 -
896
897 境
898
899 法]
900
901 [環
902
903 境
904
905 法]
906
907 〔第1問〕(配点:50)
908 A県に所在する山地に電力会社B社がダムを設置して管理しているところ,連日続いた集中豪雨
909 によりダム湖に急激に大量の土砂が堆積し,ダムの機能が維持できないおそれが生じた。B社は,
910 二次災害を防止するため,ダムから放流水とともに土砂等の大量の堆積物を川に排出した。その結
911 果,川の下流域と河口付近の沿岸海域に急激に濁りが生じた。
912 また,C社が設置していた金属加工工場から,その敷地に漏れ出して堆積していたセレン化合物
913 が上記集中豪雨により堤防の割れ目を通じて同じ川に排出され,環境基準の100倍を超えるセレ
914 ン化合物が上記の濁水に押し流されて沿岸海域に流出した。
915 Dは,同じ川の河口から約1キロメートルの海域ではまちの養殖業を営んでいたが,ダムから堆
916 積物が排出された数日後に5000匹のはまちが第1いけす内で全滅した。第1いけすから更に3
917 00メートル離れた海域にある第2いけすには,現在もはまち1万匹が養殖されている。
918 また,ダムから堆積物が排出された数日後に,一般消費者であるEは,第2いけすで養殖された
919 はまちを食べたところ,吐き気,激しい腹痛等の健康被害の症状を発症した。Eは同じ場所で養殖
920 されたはまちを食べて同様の症状を発症した者が他に100人程度いると報道で聞いている。
921 この場合において,【資料】を参照しつつ,以下の設問に答えよ。
922 〔設問1〕
923
924
925 Dは,B社及びC社に対して,それぞれどのような法的手段を採ることが考えられるか。そ
926 の場合の法律上の問題点について論ぜよ。
927
928
929
930 Eは,B社及びC社に対して,それぞれどのような法的手段を採ることが考えられるか。そ
931 の場合の法律上の問題点について論ぜよ。
932
933 〔設問2〕
934 Eは,専門的・科学的調査を実施して自ら因果関係を立証するのは負担が大きく困難だと思っ
935 ている。そのような負担を軽減するにはどのような手続を活用することが考えられるか。その理
936 由についても述べよ。
937 【資
938 ○
939
940 料】
941 水質汚濁防止法施行令(昭和46年6月17日政令第188号)(抜粋)
942
943 第2条
944
945 法第2条第2項第1号の政令で定める物質は,次に掲げる物質とする。
946
947 一〜二十二
948 二十三
949
950 (略)
951
952 セレン及びその化合物
953
954 二十四〜二十八
955 ○
956
957 (略)
958
959 公害紛争処理法(昭和45年6月1日法律第108号)(抜粋)
960 (定義)
961
962 第2条
963
964 この法律において「公害」とは,環境基本法(平成5年法律第91号)第2条第3項に規定
965
966 する公害をいう。
967 (公害等調整委員会)
968 第3条
969
970 公害等調整委員会(以下「中央委員会」という。)は,この法律の定めるところにより公害
971
972 に係る紛争についてあつせん,調停,仲裁及び裁定を行うとともに,地方公共団体が行う公害に関
973 する苦情の処理について指導等を行う。
974 (裁定委員の指名等)
975 - 28 -
976
977 第42条の2
978
979 中央委員会による裁定は,3人又は5人の裁定委員からなる裁定委員会を設けて行な
980
981 う。
982 2,3
983
984 (略)
985
986 第2款
987
988 責任裁定
989
990 (申請)
991 第42条の12
992
993 公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争が生じた場合においては,その賠
994
995 償を請求する者は,公害等調整委員会規則で定めるところにより,書面をもつて,中央委員会に対
996 し,損害賠償の責任に関する裁定(以下「責任裁定」という。)を申請することができる。
997 2,3
998
999 (略)
1000
1001 (証拠調べ)
1002 第42条の16
1003
1004 裁定委員会は,申立てにより,又は職権で,次の各号に掲げる証拠調べをすること
1005
1006 ができる。
1007 一
1008
1009 当事者又は参考人に出頭を命じて陳述させること。
1010
1011 二
1012
1013 鑑定人に出頭を命じて鑑定させること。
1014
1015 三
1016
1017 事件に関係のある文書又は物件の所持人に対し,当該文書若しくは物件の提出を命じ,又は提
1018 出された文書若しくは物件を留め置くこと。
1019
1020 四
1021
1022 事件に関係のある場所に立ち入つて,文書又は物件を検査すること。
1023
1024 2
1025
1026 (略)
1027
1028 3
1029
1030 裁定委員会は,職権で証拠調べをしたときは,その結果について,当事者の意見をきかなければ
1031 ならない。
1032
1033 4,5
1034 6
1035
1036 (略)
1037
1038 裁定委員会は,第1項第4号の規定による立入検査について,専門委員をして補助させることが
1039 できる。
1040 (事実の調査)
1041
1042 第42条の18
1043
1044 裁定委員会は,必要があると認めるときは,自ら事実の調査をし,又は中央委員会
1045
1046 の事務局の職員をしてこれを行なわせることができる。
1047 2
1048
1049 裁定委員会が前項の事実の調査をする場合において必要があると認めるときは,裁定委員会又は
1050 その命を受けた中央委員会の事務局の職員は,当事者の占有する工場,事業場その他事件に関係の
1051 ある場所に立ち入つて,事件に関係のある文書又は物件を検査することができる。
1052
1053 3
1054
1055 裁定委員会は,事実の調査の結果を責任裁定の資料とするときは,その事実の調査の結果につい
1056 て,当事者の意見をきかなければならない。
1057
1058 4
1059
1060 裁定委員会は,第2項の規定による立入検査について,専門委員をして補助させることができる。
1061
1062 第3款
1063
1064 原因裁定
1065
1066 (申請)
1067 第42条の27
1068
1069 公害に係る被害について,損害賠償に関する紛争その他の民事上の紛争が生じた場
1070
1071 合において,当事者の一方の行為に因り被害が生じたことについて争いがあるときは,当事者は,
1072 公害等調整委員会規則で定めるところにより,書面をもつて,中央委員会に対し,被害の原因に関
1073 する裁定(以下「原因裁定」という。)を申請することができる。
1074 2
1075
1076 (略)
1077 (裁定事項等)
1078
1079 第42条の30
1080
1081 裁定委員会は,被害の原因を明らかにするため特に必要があると認めるときは,原
1082
1083 因裁定において,原因裁定の申請をした者が裁定を求めた事項以外の事項についても,裁定するこ
1084 とができる。
1085 2
1086
1087 前項の場合において,裁定の結果について利害関係を有する第三者があるときは,裁定委員会は,
1088 その第三者若しくは当事者の申立てにより,又は職権で,決定をもつて,相手方としてその第三者
1089 - 29 -
1090
1091 を原因裁定の手続に参加させることができる。
1092 3
1093
1094 裁定委員会は,前項の決定をするときは,あらかじめ,その第三者及び当事者の意見をきかなけ
1095 ればならない。
1096 (受訴裁判所からの原因裁定の嘱託)
1097
1098 第42条の32
1099
1100 公害に係る被害に関する民事訴訟において,受訴裁判所は,必要があると認めると
1101
1102 きは,中央委員会に対し,その意見をきいたうえ,原因裁定をすることを嘱託することができる。
1103 2〜4
1104
1105 (略)
1106
1107 (準用規定)
1108 第42条の33
1109
1110 第42条の13から第42条の19まで,第42条の21,第42条の24及び第
1111
1112 42条の26の規定は,原因裁定について準用する。
1113 (紛争処理の手続に要する費用)
1114 第44条
1115
1116 中央委員会において行うあつせん,調停,仲裁,責任裁定,原因裁定又は証拠保全の手続
1117
1118 に要する費用は,政令で定めるものを除き,各当事者又は証拠保全の申立てをした者が負担する。
1119 2,3
1120 ○
1121
1122 (略)
1123
1124 公害紛争処理法施行令(昭和45年8月31日政令第253号)(抜粋)
1125 (手続費用)
1126
1127 第17条
1128 一
1129
1130 法第44条第1項の政令で定める費用は,次の各号に掲げるものとする。
1131
1132 法第42条の16第1項第1号若しくは第2号の規定により陳述若しくは鑑定を命ぜられた参
1133 考人若しくは鑑定人又は公害等調整委員会規則の規定により陳述若しくは意見を求められ,若し
1134 くは鑑定を依頼された参考人若しくは鑑定人に支給する鉄道賃,船賃,車賃,日当,宿泊料又は
1135 鑑定料
1136
1137 二〜四
1138 2,3
1139
1140 (略)
1141 (略)
1142
1143 - 30 -
1144
1145 〔第2問〕(配点:50)
1146 A県に所在するB大学(以下「B」という。)の昭和40年代後半に建設された研究棟(大学の
1147 敷地の端に立地していて,隣接地にはC保育所の園舎,運動場や他の民家がある。)の大規模改造
1148 工事(以下「本件工事」という。)がBによって計画された。DがBから本件工事を受注したが,
1149 Dは研究棟が建設された時期を考えると,吹付け石綿ないし石綿を含有する断熱材・耐火被覆材な
1150 どが使用されている可能性があると考えた。ところが,Bの施設担当者は,以前に同じ建物の一部
1151 で石綿除去工事を行っていたことを前任者から申し送られていたことから建物の全部が安全である
1152 と誤認していたため,建物には石綿使用がないとDに述べた。しかし,Dは念のために研究棟の一
1153 部について目視で調査を行ったところ,やはり石綿使用の懸念があったので,Bの担当者にこの旨
1154 を伝えたが,担当者は次年度の新学科設置に備えた大学全体の建物使用計画に間に合わせるために,
1155 本件工事の着工を急ぐようDに指示した。
1156 そこで,石綿粉じんの発生を想定した設備を設けることなく本件工事が平成30年5月頃始まっ
1157 たが,その段階で,作業従事者Eは作業箇所での石綿含有建材の存在を強く疑い,石綿被害防止支
1158 援活動を行っている団体Fに,自らが現場で採取した試料を持ち込んで相談した。Fが専門家に依
1159 頼して検査をした結果,Eの持ち込んだ試料には青石綿が高い濃度で含有されていると報告があっ
1160 たので,FからA県に対してその旨の通報がなされた。なお,青石綿は,他の種類の白石綿などに
1161 比して人の健康への有害性が極めて高いことが知られている。
1162 この場合において,【資料】を参照しつつ,以下の設問に答えよ。
1163 〔設問1〕
1164 本件工事の着工に当たって,B及びDには,大気汚染防止法(以下「大防法」という。)によれ
1165 ば,いかなる措置を講じる必要があったか述べよ。
1166 〔設問2〕
1167 本件の事案で,Fから通報を受けたA県が,大防法によって採り得る措置は何か述べよ。
1168 〔設問3〕
1169 本件工事による粉じんが,Bの敷地を超えて隣接地に流入するおそれがあったが,A県による大
1170 防法上の適切な措置が講じられていない場合に,C保育所の園児らは,誰に対して,いかなる法的
1171 措置を求めることができるか述べよ。
1172 〔設問4〕
1173 大防法の平成25年改正では,特定粉じん排出作業に係る規制に関して,廃棄物の処理及び清掃
1174 に関する法律の平成12年改正により新設された第19条の5第2号などと同様に,直接に汚染を
1175 引き起こした行為者でない者にも一定の責任を負わせる考え方を導入しているが,このような考え
1176 方が大防法の平成25年改正に取り入れられた趣旨を説明せよ。
1177 【資
1178 ○
1179
1180 料】
1181 大気汚染防止法施行令(昭和43年11月30日政令第329号)(抜粋)
1182
1183 (特定建築材料)
1184 第3条の3
1185
1186 法第2条第11項の政令で定める建築材料は,次に掲げる建築材料とする。
1187
1188 一
1189
1190 吹付け石綿
1191
1192 二
1193
1194 石綿を含有する断熱材,保温材及び耐火被覆材(前号に掲げるものを除く。)
1195
1196 (特定粉じん排出等作業)
1197 第3条の4
1198
1199 法第2条第11項の政令で定める作業は,次に掲げる作業とする。
1200 - 31 -
1201
1202 一
1203
1204 特定建築材料が使用されている建築物その他の工作物(以下「建築物等」という。)を解体す
1205 る作業
1206
1207 二
1208
1209 特定建築材料が使用されている建築物等を改造し,又は補修する作業
1210
1211 (報告及び検査)
1212 第12条
1213 1〜6
1214 7
1215
1216 (略)
1217
1218 環境大臣又は都道府県知事は,法第26条第1項の規定により,解体等工事の発注者に対し,法
1219 第18条の15第1項第4号から第7号までに掲げる事項,同条第3項の環境省令で定める事項及
1220 び法第18条の17第1項の規定による調査について報告を求めることができる。
1221
1222 8
1223
1224 環境大臣又は都道府県知事は,法第26条第1項の規定により,解体等工事の受注者に対し法第
1225 18条の17第1項の規定による調査について,自主施工者に対し法第18条の15第1項第4号
1226 から第7号までに掲げる事項,同条第3項の環境省令で定める事項及び法第18条の17第3項の
1227 規定による調査について,それぞれ報告を求め,又はその職員に,解体等工事に係る建築物等若し
1228 くは解体等工事の現場に立ち入り,解体等工事に係る建築物等,解体等工事により生じた廃棄物そ
1229 の他の物及び関係帳簿書類を検査させることができる。
1230
1231 9,10
1232 ○
1233
1234 (略)
1235
1236 大気汚染防止法施行規則(昭和46年6月22日厚生省,通商産業省令第1号)(抜粋)
1237 (特定工事に該当しないことが明らかな建設工事)
1238
1239 第16条の5
1240 一
1241
1242 法第18条の17第1項の環境省令で定める建設工事は,次に掲げる建設工事とする。
1243
1244 平成18年9月1日以後に設置の工事に着手した建築物等を解体し,改造し,又は補修する作
1245 業を伴う建設工事であつて,当該建築物等以外の建築物等を解体し,改造し,又は補修する作業
1246 を伴わないもの
1247
1248 二
1249
1250 建築物等のうち平成18年9月1日以後に改造又は補修の工事に着手した部分を改造し,又は
1251 補修する作業を伴う建設工事であつて,当該部分以外の部分を改造し,若しくは補修し,又は当
1252 該建築物等以外の建築物等(平成18年9月1日以後に設置の工事に着手した建築物等を除く。)
1253 を解体し,改造し,若しくは補修する作業を伴わないもの
1254
1255 (解体等工事に係る説明の時期)
1256 第16条の6
1257
1258 法第18条の17第1項の規定による説明は,解体等工事の開始の日までに(当該解
1259
1260 体等工事が特定工事に該当し,かつ,特定粉じん排出等作業を当該特定工事の開始の日から14日
1261 以内に開始する場合にあつては,当該特定粉じん排出等作業の開始の日の14日前までに)行うも
1262 のとする。ただし,災害その他非常の事態の発生により解体等工事を緊急に行う必要がある場合に
1263 あつては,速やかに行うものとする。
1264 (解体等工事に係る掲示の方法)
1265 第16条の9
1266
1267 法第18条の17第4項の規定による掲示は,掲示板を設けることにより行うものと
1268
1269 する。
1270
1271 - 32 -
1272
1273 論文式試験問題集[国際関係法(公法系)]
1274
1275 - 33 -
1276
1277 [国際関係法(公法系)]
1278 〔第1問〕(配点:50)
1279 A国(上流国)とB国(下流国)は,両国の国境を隔てて,A国の南側とB国の北側が隣接して
1280 おり,国際河川であるC川が両国を北から南に流れている。
1281 A国及びB国は,C川を利用した水力発電に関する共同事業を計画し,同計画に関するT条約を
1282 締結し,同条約は両国の批准を経て発効した。T条約は,両国がB国北部のX地点に水力発電用の
1283 Xダムを共同で建設し,両国に送電することを内容としていた。A国に隣接するB国北部は農業地
1284 帯であることから,XダムはC川の水量への影響が少ない方式で建設することも合意された。Xダ
1285 ムからA国に送電されることになる電力は,A国の経済発展に不可欠の基礎となるものであった。
1286 なお,T条約には終了に関する規定はない。
1287 ところが,その後,B国において,農業団体から,計画を予定どおり実施した場合には農業用水
1288 にかなりの影響が生ずるとして,計画の見直しを求める声が高まった。これを受けて,B国は既に
1289 開始していたXダムの建設を一方的に中止した。
1290 これに対してA国は,両国で建設予定であったXダムに代わるものとして,A国内のY地点にY
1291 ダムを建設し,水力発電を開始した。Yダムは,C川を分流させ,C川の水量の減少を伴う方式で
1292 あった。このため,B国領域内のC川の水量が激減した。これに対して,B国は,T条約を一方的
1293 に終了させる意思をA国に通告した。
1294 この結果,農業用水の確保ができなくなったB国の農民が,B国の首都にあるA国大使館前でデ
1295 モを行う事態が連日生じた。デモは日増しに激しさを増したが,B国政府は警備体制の強化を行わ
1296 なかった。そうした中,ついに一部の農民がA国大使館を占拠し,大使館員を人質にとって立てこ
1297 もった。A国は,B国に対して大使館員の安全確保と大使館の明渡しを要請したが,B国政府はこ
1298 れに積極的に対応しなかった。こうした中,B国大統領は,大使館を占拠した農民の行動を支持す
1299 る声明を公式に発表した。
1300 A国とB国は,いずれも外交関係に関するウィーン条約及び条約法に関するウィーン条約の当事
1301 国である。
1302 以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。
1303 〔設
1304
1305 問〕
1306
1307 1.A国は,B国によるXダムの建設中止に対して,Yダムを建設し,水力発電を開始した。こ
1308 の行為は国際法上どのように評価されるかについて論じなさい。
1309 2.B国は,T条約の終了を国際法上正当化し得るか,理由を付して論じなさい。
1310 3.B国のA国大使館をめぐるB国政府ないしB国大統領がとった一連の対応は,国際法上のい
1311 かなる違反を犯していると考えられるかについて論じなさい。
1312
1313 - 34 -
1314
1315 〔第2問〕(配点:50)
1316 A国とB国は,国境を接する隣国であり,両国の国境地帯には急峻なX山脈の山々が連なってい
1317 る。両国の国境地帯であるX山脈の山中には,無人の廃墟であるものの世界的に著名なY遺跡があ
1318 る。
1319 X山脈中のA国とB国の国境線は不明確な部分が多かったが,1930年に両国政府は国境画定
1320 条約を締結し,同条約は両国による批准を経て1931年に発効した。同条約では,「A国とB国
1321 の国境線は,X山脈の分水嶺をたどるものとする」と条文中に明記された。同条約の締結を受けて,
1322 1931年,A国は,Y遺跡がX山脈の分水嶺のA国側に位置するとの理解を前提にY遺跡の領有
1323 を宣言したが,2018年に至るまでこの点についてB国から疑問や問題が提起されることはなか
1324 った。
1325 2018年,A国及びB国の地理学者から,X山脈の分水嶺の位置について問題が提起された。
1326 そこで,A国及びB国は共同で,両国の政府関係者と科学者から構成される調査団を結成し,Y遺
1327 跡周辺のX山脈の現地調査を実施した。その結果,Y遺跡はX山脈の分水嶺のB国側に位置するこ
1328 とが明らかとなった。これを受けて,B国外務省は,「1930年国境画定条約の条文に従えば,
1329 AB両国間の国境線は『X山脈の分水嶺をたどるものとする』とされており,X山脈の分水嶺のB
1330 国側に位置するY遺跡は国際法上我が国の領土にある。」との声明を発表した。この声明の発表後
1331 直ちに,B国政府は,Y遺跡にB国の軍隊を派遣してこれを占拠した。なお,B国軍隊が占拠した
1332 Y遺跡の周辺は無人であり,付近に居住している住民はいない。
1333 A国とB国は,いずれも国際連合加盟国であり,条約法に関するウィーン条約の当事国である。
1334 また,A国とB国は,いずれも国際司法裁判所規程の当事国であり,同規程第36条第2項の定め
1335 る受諾宣言を行っている。なお,B国が行った受諾宣言には留保や条件が付されていないが,A国
1336 が行った受諾宣言には,「A国の国境に関する紛争であるとA国政府によって解釈される紛争を裁
1337 判所の管轄権の対象から除外する」という条件が付されている。
1338 以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。
1339 〔設
1340
1341 問〕
1342
1343 1.A国は,Y遺跡がA国の領土に所在することを国際法上どのような理由に基づいてB国に対
1344 して主張することができるかについて論じなさい。なお,X山脈の分水嶺が2018年に行わ
1345 れたAB両国の共同調査の結果判明した位置にあることについては,両国間に争いがないもの
1346 とする。
1347 2.A国は,B国軍隊のY遺跡からの撤退を求めて,B国を相手取り国際司法裁判所に提訴した
1348 とする。この場合,B国は,国際司法裁判所が当該請求に関して裁判管轄権を持たないことを
1349 どのような理由で主張することができるかについて論じなさい。
1350 3.A国による上記2の請求に関して,国際司法裁判所がB国軍隊のY遺跡からの撤退を命じる
1351 判決を下したにもかかわらず,B国がこの判決に従わなかったとする。この場合,A国はどの
1352 ような国際法上の手段をとることができるかについて論じなさい。
1353
1354 - 35 -
1355
1356 - 36 -
1357
1358 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)]
1359
1360 - 37 -
1361
1362 [国際関係法(私法系)]
1363 〔第1問〕(配点:50)
1364 日本国籍のA男と甲国籍のB女は,婚姻していたが,平成16年に離婚をした。その際,Aは,
1365 AB間の嫡出子C(平成7年生まれ,日本国籍)の親権者となり,Cと共に日本で生活するように
1366 なった。その後,Aは,日本に在住して事業を営んでいた甲国籍のD女と親しくなり,平成19年
1367 にDと婚姻し,以後,Cを含め3人で,日本で暮らしてきた。しかし,Dは,平成29年,不幸に
1368 も事故に遭い,亡くなってしまった。突然のことであったので,Dの遺言はないが,Dが所有して
1369 いた不動産が日本に残されている。
1370 以上の事実を前提とし,甲国の国際私法及び民法は次の@からFの趣旨の規定を有しているもの
1371 として,以下の設問に答えなさい。なお,各問は独立した問いであり,全ての問いにおいて,反致
1372 及び国際裁判管轄権については検討を要しない。
1373 【甲国国際私法】
1374 @
1375
1376 婚姻の効力は,夫婦の常居所地法が同一であるときは,その法による。
1377
1378 A
1379
1380 出生及び準正による嫡出親子関係の成立は,婚姻の効力の準拠法による。
1381
1382 B
1383
1384 本法各条に定めるもののほか,親族関係の成立及びこれによって生ずる権利義務は,当事者の
1385 本国法による。
1386
1387 【甲国民法】
1388 C
1389
1390 夫婦が婚姻中に生まれた子は,その間の嫡出子と推定する。
1391
1392 D
1393
1394 親が再婚した場合,前婚の子は,後婚の嫡出子としての法的地位を取得する。
1395
1396 E
1397
1398 嫡出子及び配偶者は,第1順位の相続人である。
1399
1400 F
1401
1402 遺産分割前の相続財産は,共同相続人の合有とし,共同相続人全員の同意がなければその持分
1403 を処分することができない。
1404
1405 〔設問1〕
1406 日本の裁判所において,Dを被相続人とする遺産分割(以下「本件遺産分割」という。)を行
1407 うこととなった。本件遺産分割を行う前提としてのDC間の親子関係の成否を,準拠法の決定過
1408 程を明らかにしつつ,論じなさい。
1409 〔設問2〕
1410 本件遺産分割において,DC間の親子関係の成否に関する準拠法が甲国法になるとする。
1411 甲国においては,甲国民法Dの規定が平成22年12月31日をもって廃止され,かつ,それ
1412 までに甲国民法Dにより発生した親族関係は同日をもって消滅する,とする法改正がなされた。
1413 以上の経緯を前提にすると,Cは,Dの相続人になるか。
1414 〔設問3〕
1415 CがDの相続人になるとする。
1416 Dが所有していた日本に所在する不動産につき,Cは,本件遺産分割が行われる前に自らの持
1417 分を,他の共同相続人の同意を得ずに,日本の会社Eに売却し,その旨の持分移転登記がなされ
1418 た。その後,Cが,甲国民法Fを理由として,この売買契約は無効であると主張し,Eに対しそ
1419 の登記の抹消を請求する訴えを日本の裁判所に提起した。この請求は認められるか。準拠法の決
1420 定過程を明らかにしつつ論じなさい。
1421
1422 - 38 -
1423
1424 〔第2問〕(配点:50)
1425 日本に在住する日本人Xは,絵画の収集を趣味としていた。Xは,甲国に旅行に行った際,たま
1426 たま訪れた画商Yの店で,甲国では著名な画家Pの作品(以下「本件絵画」という。)を見付けた。
1427 Xは,本件絵画を気に入り,Yに対し,
1428 「これを日本の自宅に飾りたい。」と言い,価格の交渉をし,
1429 その交渉もまとまったことから,甲国の公用語ではなく英語で記載された契約書に,Yと共に署名
1430 した(以下,この契約書により締結された売買契約を「本件売買契約」という。)。この契約書には,
1431 国際裁判管轄権及び準拠法に関する定めはなく,特定の国の法の条文への言及もなく,特定の国の
1432 法に特有な法律用語も使われていない。また,Yは,個人で事業を営んでおり,甲国に在住し,か
1433 つ,甲国に営業所を有する画商であって,日本には営業所及び財産を有さず,日本への渡航歴もな
1434 い。
1435 以上の事実を前提として,以下の設問に答えなさい。なお,各問は独立した問いである。
1436 〔設問1〕
1437 Xは,Yに対し本件絵画の代金を支払い,本件絵画を日本に持ち帰った。ところが,その後,
1438 Xが,甲国に在住する甲国絵画の専門家に問い合わせたところ,本件絵画はPの作品ではなく偽
1439 物であるとの回答を得た。そこで,Xは,Yに対して,本件売買契約は無効であるとして,本件
1440 絵画の代金の返還を求める訴え(以下「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起した。
1441 〔小問1〕
1442 本件訴えに関する国際裁判管轄権について論じなさい。
1443 〔小問2〕
1444 本件訴えについて日本の裁判所に国際裁判管轄権が認められるとして,本件売買契約の有効
1445 性に関する準拠法はいずれの国の法か。
1446 なお,本件売買契約の方式については検討を要しない。
1447 〔設問2〕
1448 甲国民法には,当事者間における動産の所有権の移転については,売買契約だけでは足りず,
1449 その引渡しが必要である旨の定めがある。本件絵画については,甲国において,XY間において
1450 本件売買契約が有効に成立したが,その際,本件絵画の引渡しまでは行われず,日本で本件絵画
1451 の引渡しが行われることとなった。そこで,Yは,本件絵画について日本に向けて船便での配送
1452 の手配をした。
1453 その後,Yは,Zから,本件絵画をXより高額で買い取りたいとの申出を受けたことから,本
1454 件絵画を取り戻したいと考えるに至った。
1455 そこで,Yは,本件絵画の引渡しがなされていないことを理由として,本件絵画の所有権確認
1456 の訴えを日本の裁判所に提起した。この訴えの口頭弁論終結時において,本件絵画は,日本に向
1457 けて公海上を航行中の船舶に積載されている。この請求は認められるか。準拠法の決定過程を明
1458 らかにしつつ論じなさい。
1459 なお,この訴えに関する国際裁判管轄権については検討を要しない。
1460
1461 - 39 -
1462
1463