1 論文式試験問題集
2 [憲法・行政法]
3
4 -1-
5
6 [憲
7
8 法]
9
10 次の文章を読んで,
11 後記の〔設問〕に答えなさい。
12
13
14 A市教育委員会(以下「市教委」という。
15
16 )は,
17 同市立中学校で使用する社会科教科書の採択に
18 ついて,
19 B社が発行する教科書を採択することを決定した。
20
21 A市議会議員のXは,
22 A市議会の文教
23 委員会の委員を務めていたところ,
24 市教委がB社の教科書を採択する過程で,
25 ある市議会議員が関
26 与していた疑いがあるとの情報を,
27 旧知の新聞記者Cから入手した。
28
29 そこで,
30 Xは,
31 市教委に対し
32 て資料の提出や説明を求め,
33 関係者と面談するなどして,
34 独自の調査を行った。
35
36
37 Xの調査とCの取材活動により,
38 教科書採択の過程で,
39 A市議会議員のDが,
40 B社の発行する教
41 科書が採択されるよう,
42 市教委の委員に対して強く圧力を掛けていた疑いが強まった。
43
44 Cの所属す
45 る新聞社は,
46 このDに関する疑いを報道し,
47 他方で,
48 Xは,
49 A市議会で本格的にこの疑いを追及す
50 べきであると考え,
51 A市議会の文教委員会において,
52 「Dは,
53 市教委の教科書採択に関し,
54 特定の
55 教科書を採択させるため,
56 市教委の委員に不当に圧力を掛けた。
57
58 」との発言(以下「本件発言」と
59 いう。
60
61 )をした。
62
63
64 これに対し,
65 Dは,
66 自身が教科書採択の過程で市教委の委員に圧力を掛けた事実はなく,
67 Xの本
68 件発言は,
69 Dを侮辱するものであるとして,
70 A市議会に対し,
71 Xの処分を求めた(地方自治法第1
72 33条参照)。
73
74
75 その後,
76 Dが教科書採択の過程で市教委の委員に圧力を掛けたという疑いが誤りであったことが
77 判明し,
78 Cの所属する新聞社は訂正報道を行った。
79
80 A市議会においても,
81 所定の手続を経た上で,
82
83 本会議において,
84 Xに対し,
85 「私は,
86 Dについて,
87 事実に反する発言を行い,
88 もってDを侮辱しま
89 した。
90
91 ここに深く陳謝いたします。
92
93 」との内容の陳謝文を公開の議場において朗読させる陳謝の懲
94 罰(地方自治法第135条第1項第2号参照)を科すことを決定し,
95 議長がその懲罰の宣告をした
96 (この陳謝の懲罰を以下「処分1」という。
97
98 )。
99
100
101 しかし,
102 Xが陳謝文の朗読を拒否したため,
103 D及びDが所属する会派のA市議会議員らは,
104 Xが
105 処分1に従わないことは議会に対する重大な侮辱であるとの理由で,
106 A市議会に対し,
107 懲罰の動議
108 を提出した。
109
110 A市議会は,
111 所定の手続を経た上で,
112 本会議において,
113 Xに対し,
114 除名の懲罰(地方
115 自治法第135条第1項第4号参照)を科すことを決定し,
116 議長がその懲罰の宣告をした(この除
117 名の懲罰を以下「処分2」という。
118
119 )。
120
121
122 Xは,
123 Dに関する疑いは誤りであったものの,
124 本件発言は,
125 文教委員会の委員の活動として,
126 当
127 時一定の調査による相応の根拠に基づいて行った正当なものであるから,
128 @自己の意に反して陳謝
129 文を公開の議場で朗読させる処分1は,
130 憲法第19条で保障されるべき思想・良心の自由を侵害す
131 るものであること,
132 A議会における本件発言を理由に処分1を科し,
133 それに従わないことを理由に
134 処分2の懲罰を科すことは,
135 憲法第21条で保障されるべき議員としての活動の自由を侵害するも
136 のであることを理由として,
137 処分2の取消しを求める訴えを提起しようとしている。
138
139
140 〔設問〕
141 Xの提起しようとしている訴えの法律上の争訟性について言及した上で,
142 Xの憲法上の主張とこ
143 れに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,
144 あなた自身の見解を述べなさい。
145
146
147
148 -2-
149
150 【資料】地方自治法(昭和22年法律第67号)(抄録)
151 第133条
152
153 普通地方公共団体の議会の会議又は委員会において,
154 侮辱を受けた議員は,
155 これを議
156
157 会に訴えて処分を求めることができる。
158
159
160 第134条
161
162 普通地方公共団体の議会は,
163 この法律並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反
164
165 した議員に対し,
166 議決により懲罰を科することができる。
167
168
169 A
170
171 (略)
172
173 第135条
174
175 懲罰は,
176 左の通りとする。
177
178
179
180 一
181
182 公開の議場における戒告
183
184 二
185
186 公開の議場における陳謝
187
188 三
189
190 一定期間の出席停止
191
192 四
193
194 除名
195
196 A・B(略)
197
198 -3-
199
200 [行政法]
201 XはY県において浄水器の販売業を営む株式会社であるところ,
202 Y県に対して「Xが消費者に対
203 して浄水器の購入の勧誘を執拗に繰り返している。
204
205 」との苦情が多数寄せられた。
206
207 Y県による実態
208 調査の結果,
209 Xの従業員の一部が,
210 購入を断っている消費者に対して,
211 (ア)「水道水に含まれる化学
212 物質は健康に有害ですよ。
213
214 」,
215 (イ)「今月のノルマが達成できないと会社を首になるんです。
216
217 人助けだ
218 と思って買ってください。
219
220 」と繰り返し述べて浄水器の購入を勧誘していたことが判明した。
221
222
223 そこでY県の知事(以下「知事」という。
224
225 )は,
226 Xに対してY県消費生活条例(以下「条例」と
227 いう。
228
229 )第48条に基づき勧告を行うこととし,
230 条例第49条に基づきXに意見陳述の機会を与え
231 た。
232
233 Xは,
234 この意見陳述において,
235 @Xの従業員がした勧誘は不適正なものではなかったこと,
236 A
237 仮にそれが不適正なものに当たるとしても,
238 そのような勧誘をしたのは従業員の一部にすぎないこ
239 と,
240 B今後は適正な勧誘をするよう従業員に対する指導教育をしたことの3点を主張した。
241
242
243 しかし知事は,
244 Xのこれらの主張を受け入れず,
245 Xに対し,
246 条例第25条第4号に違反して不適
247 正な取引行為を行ったことを理由として,
248 条例第48条に基づく勧告(以下「本件勧告」という。
249
250 )
251 をした。
252
253 本件勧告の内容は,
254 「Xは浄水器の販売に際し,
255 条例第25条第4号の定める不適正な取
256 引行為をしないこと」であった。
257
258
259 本件勧告は対外的に周知されることはなかったものの,
260 Xに対して多額の融資をしていた金融機
261 関Aは,
262 Xの勧誘についてY県に多数の苦情が寄せられていることを知り,
263 Xに対し,
264 Xが法令違
265 反を理由に何らかの行政上の措置を受けて信用を失墜すれば,
266 融資を停止せざるを得ない旨を通告
267 した。
268
269
270 Xは,
271 融資が停止されると経営に深刻な影響が及ぶことになるため,
272 Y県に対し,
273 本件勧告の取
274 消しを求めて取消訴訟を提起したが,
275 さらに,
276 条例第50条に基づく公表(以下「本件公表」とい
277 う。
278
279 )がされることも予想されたことから,
280 本件公表の差止めを求めて差止訴訟を提起した。
281
282
283 以上を前提として,
284 以下の設問に答えなさい。
285
286
287 なお,
288 条例の抜粋を【資料】として掲げるので,
289 適宜参照しなさい。
290
291
292 〔設問1〕
293 Xは,
294 本件勧告及び本件公表が抗告訴訟の対象となる「行政庁の処分その他公権力の行使に当た
295 る行為」に当たることについて,
296 どのような主張をすべきか。
297
298 本件勧告及び本件公表のそれぞれに
299 ついて,
300 想定されるY県の反論を踏まえて検討しなさい。
301
302
303 〔設問2〕
304 Xは,
305 本件勧告の取消訴訟において,
306 本件勧告が違法であることについてどのような主張をすべ
307 きか。
308
309 想定されるY県の反論を踏まえて検討しなさい(本件勧告の取消訴訟が適法に係属している
310 こと,
311 また,
312 条例が適法なものであることを前提とすること)。
313
314
315
316 -4-
317
318 【資料】
319 ○
320
321 Y県消費生活条例
322
323 (不適正な取引行為の禁止)
324 第25条
325
326 事業者は,
327 事業者が消費者との間で行う取引(中略)に関して,
328 次のいずれかに該当する
329
330 不適正な取引行為をしてはならない。
331
332
333 一〜三
334 四
335
336 (略)
337
338 消費者を威迫して困惑させる方法で,
339 消費者に迷惑を覚えさせるような方法で,
340 又は消費者を
341 心理的に不安な状態若しくは正常な判断ができない状態に陥らせる方法で,
342 契約の締結を勧誘し,
343
344 又は契約を締結させること。
345
346
347
348 五〜九
349
350 (略)
351
352 (指導及び勧告)
353 第48条
354
355 知事は,
356 事業者が第25条の規定に違反した場合において,
357 消費者の利益が害されるおそ
358
359 れがあると認めるときは,
360 当該事業者に対し,
361 当該違反の是正をするよう指導し,
362 又は勧告するこ
363 とができる。
364
365
366 (意見陳述の機会の付与)
367 第49条
368
369 知事は,
370 前条の規定による勧告をしようとするときは,
371 当該勧告に係る事業者に対し,
372 当
373
374 該事案について意見を述べ,
375 証拠を提示する機会を与えなければならない。
376
377
378 (公表)
379 第50条
380
381 知事は,
382 事業者が第48条の規定による勧告に従わないときは,
383 その旨を公表するものと
384
385 する。
386
387
388 (注)Y県消費生活条例においては,
389 資料として掲げた条文のほかに,
390 事業者が第48条の規定によ
391 る勧告に従わなかった場合や第50条の規定による公表がされた後も不適正な取引行為を継続し
392 た場合に,
393 当該事業者に罰則等の制裁を科する規定は存在しない。
394
395
396
397 -5-
398
399