1 論文式試験問題集
2 [法律実務基礎科目(民事・刑事)]
3
4 - 1 -
5
6 [民
7
8 事]
9
10 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
11 以下の各設問に答えなさい。
12
13
14 〔設問1〕
15 弁護士Pは,
16 Xから次のような相談を受けた。
17
18
19 【Xの相談内容】
20 「私(X)とYは,
21 かつて同じ大学に通っており,
22 それ以来の知り合いです。
23
24 私は,
25 平成2
26 7年8月頃,
27 Yから,
28 『配偶者が病気のため,
29 急に入院したりして,
30 お金に困っている。
31
32 他に頼
33 める人もおらず,
34 悪いが100万円程度を貸してくれないか。
35
36 』と頼まれました。
37
38 私は,
39 会社勤
40 めで,
41 さほど余裕があるわけでもないので,
42 迷いましたが,
43 困っているYの姿を見て放っておく
44 わけにはいかず,
45 友人のよしみで,
46 1年後くらいには返してもらうという前提で,
47 Yに100万
48 円を貸してもよいと考えました。
49
50 私とYは,
51 平成27年9月15日に会いましたが,
52 その際,
53
54 は,
55 『100万円借り受けました。
56
57 平成28年9月30日までに必ず返済します。
58
59 』と書いた借用
60 証書を準備しており,
61 これを私に渡し,
62 私も,
63 その内容を了解して,
64 Yに現金100万円を渡し
65 ました。
66
67 なお,
68 友人同士でもあり,
69 利息を支払ってもらう話は出ませんでした。
70
71
72 ところが,
73 返済期限が過ぎても,
74 Yは,
75 一向に返済しません。
76
77 私は,
78 直ちに100万円を返し
79 てほしいですし,
80 返済が遅れたことについての損害金も全て支払ってほしいです。
81
82
83 なお,
84 Yは,
85 平成29年7月末頃までは会社勤めでしたが,
86 同年8月頃から現在まで,
87 個人
88 で自営業をしています。
89
90 Yは,
91 現在,
92 顧客であるAに対して80万円の売買代金債権を持ってい
93 るものの,
94 それ以外にめぼしい資産はないようです。
95
96
97 弁護士Pは,
98 【Xの相談内容】を前提に,
99 Xの訴訟代理人として,
100 Yに対し,
101 Xの希望する金員
102 の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
103
104 )を提起することを検討することとした。
105
106
107 以上を前提に,
108 以下の各問いに答えなさい。
109
110
111 (1)
112
113 弁護士Pは,
114 勝訴判決を得た場合の強制執行を確実に行うために,
115 本件訴訟に先立ってXが事
116 前に講じておくべき法的手段を検討した。
117
118 Xが採り得る法的手段を一つ挙げなさい。
119
120 また,
121 その
122 手段を講じなかった場合に生じる問題について,
123 その手段の有する効力に言及した上で説明しな
124 さい。
125
126
127
128 (2)
129
130 弁護士Pが,
131 本件訴訟において,
132 Xの希望を実現するために選択すると考えられる訴訟物を記
133 載しなさい。
134
135
136
137 (3)
138
139 弁護士Pが,
140 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
141
142 )において記載すべき請求の趣旨(民
143 事訴訟法第133条第2項第2号)を記載しなさい。
144
145 なお,
146 付随的申立てについては,
147 考慮す
148 る必要はない。
149
150
151
152 (4)
153
154 弁護士Pが,
155 本件訴状において,
156 請求を理由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)とし
157 て主張すると考えられる具体的事実を記載しなさい。
158
159
160
161 〔設問2〕
162 弁護士Qは,
163 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
164
165
166 【Yの相談内容】
167 「確かに,
168 私(Y)は,
169 Xが主張する時期に,
170 借用証書を作成した上で,
171 Xから100万円
172
173 - 2 -
174
175 を借りたことはあります。
176
177 しかし,
178 私は,
179 返済期限の平成28年9月30日に,
180 全額をXに返済
181 しました。
182
183
184 平成29年に入って,
185 私とXは,
186 大学の同窓会の幹事を担当するようになったのですが,
187
188 年9月半ば頃に,
189 私の発言をきっかけにXが幹事を辞任しなければならなくなり,
190 関係が悪化し
191 てしまったのです。
192
193 そのようなこともあって,
194 Xは,
195 突然,
196 返したものを返していないなどと言
197 い出したのだと思います。
198
199
200 また,
201 今回,
202 Xから請求を受けて思い返してみたのですが,
203 私とXが大学を卒業した直後で
204 ある平成19年10月1日,
205 私は,
206 Xから懇願されて,
207 気に入っていたカメラ(以下「本件カメ
208 ラ」という。
209
210 )を8万円で売って,
211 同日,
212 Xに本件カメラを渡したことがありました。
213
214 その後,
215
216 忙しくて,
217 Xに催促しそびれて,
218 お金を受け取らないまま現在に至っています。
219
220 100万円を返
221 す必要は全くないと考えていますが,
222 万一,
223 その主張が認められなかったとしても,
224 少なくとも
225 前記8万円分を支払う必要はないと思います。
226
227
228 弁護士Qは,
229 【Yの相談内容】を前提に,
230 Yの訴訟代理人として,
231 弁済の抗弁と相殺の抗弁を主
232 張することとし,
233 これらが記載された本件訴訟における答弁書(以下「本件答弁書」という。
234
235 )を作
236 成した。
237
238 弁護士Qは,
239 本件答弁書の提出に先立ち,
240 Xに対し,
241 Xの請求を全面的に争うとともに,
242
243 8万円分の相殺の抗弁を主張する旨を詳しく記載した内容証明郵便を発送し,
244 Xは,
245 平成30年2
246 月2日,
247 弁護士Pを経由して,
248 同内容証明郵便を受領した。
249
250
251 以上を前提に,
252 以下の各問いに答えなさい。
253
254 なお,
255 〔設問2〕以下においては,
256 遅延損害金の請
257 求やこれについての主張を考慮する必要はない。
258
259
260 (1)
261
262 弁護士Qは,
263 本件答弁書に記載した弁済の抗弁につき,
264 次の事実を主張した。
265
266
267 Yは,
268 Xに対し,
269 〔@〕。
270
271
272 上記〔@〕に入る具体的事実を記載しなさい。
273
274
275
276 (2)
277
278 弁護士Qは,
279 本件答弁書に記載した相殺の抗弁につき,
280 次の各事実を主張することを検討した。
281
282
283
284
285 Yは,
286 Xに対し,
287 平成19年10月1日,
288 本件カメラを代金8万円で売った。
289
290
291
292
293
294 Yは,
295 Xに対し,
296 平成30年2月2日,
297 〔A〕。
298
299
300
301 (@) 上記〔A〕に入る具体的事実を記載しなさい。
302
303
304 (A) 弁護士Qとして,
305 上記ア及びイの各事実に加えて,
306 「Yは,
307 Xに対し,
308 平成19年10月1
309 日,
310 アの売買契約に基づき,
311 本件カメラを引き渡した。
312
313 」との事実を主張することが必要か否
314 か。
315
316 結論とその理由を述べなさい。
317
318
319 〔設問3〕
320 弁護士Pは,
321 相殺の抗弁に対して,
322 下記の主張をできないか検討したが,
323 下記の主張は認められ
324 ない可能性が高いとして断念した。
325
326 弁護士Pが断念した理由を説明しなさい。
327
328
329
330 YのXに対する本件カメラの売買代金債権につき,
331 消滅時効が成立しているところ,
332 Xは同時効
333 を援用する。
334
335
336 〔設問4〕
337 第1回口頭弁論期日において,
338 本件訴状と本件答弁書が陳述され,
339 弁護士Pは,
340 弁済の抗弁に係
341 る事実を否認した。
342
343 第1回弁論準備手続期日において,
344 弁護士Qは,
345 書証として下記@及びAを提
346 出し,
347 いずれも取り調べられ,
348 弁護士Pはいずれも成立の真正を認めた。
349
350
351
352 - 3 -
353
354
355 @
356
357 銀行預金口座(Y名義)から,
358 平成28年9月28日に現金50万円,
359 同月29日に現金50万
360 円がそれぞれ引き出された旨が記載された預金通帳(本件通帳)
361
362 A
363
364 現在のYの住所につき,
365 「住所を定めた日
366
367 平成29年8月31日転入」との記載がある住民票
368
369 写し(本件住民票)
370 その後,
371 2回の弁論準備手続期日を経た後,
372 第2回口頭弁論期日において,
373 本人尋問が実施され,
374
375 Xは,
376 下記【Xの供述内容】のとおり,
377 Yは,
378 下記【Yの供述内容】のとおり,
379 それぞれ供述した。
380
381
382 【Xの供述内容】
383 「今回,
384 Yから,
385 Yの配偶者が急な病気のため入院して,
386 お金に困っていると泣き付かれまし
387 た。
388
389 私には小さい子供が2人おり,
390 家計のやりくりは楽ではないのですが,
391 困っているYを見
392 捨てるわけにもいかず,
393 お金を貸しました。
394
395
396 Yから食事をおごられた記憶はあります。
397
398 Yのいうとおり,
399 平成28年9月30日だったかも
400 しれません。
401
402 ただし,
403 その際にお金を返してもらったということは絶対にありません。
404
405
406 私も色々と忙しかったので,
407 私が初めてYにお金の返済を求めたのは,
408 平成29年10月だ
409 ったと思います。
410
411 確かに,
412 同年9月半ば頃,
413 私は,
414 同窓会の経理につき,
415 他の幹事たちの面前
416 で,
417 Yから指摘を受けたことはありますが,
418 私が同窓会の幹事を辞任したのは,
419 それとは無関
420 係の理由ですので,
421 私がYを恨みに思っているということはありません。
422
423
424 時期までは聞いていませんが,
425 Yが引っ越しをしたことは聞いています。
426
427 でも,
428 だからとい
429 って,
430 Yがいうように領収書を処分してしまうということは普通は考えられません。
431
432 そもそも,
433
434 Yは私に返済していないのですから,
435 Yのいうような領収書が存在するわけもないのです。
436
437
438 【Yの供述内容】
439 「私は,
440 配偶者が急に病気になり,
441 入院するなどしたため,
442 一時期,
443 お金に困り,
444 Xに相談
445 しました。
446
447 Xは快くお金を貸してくれて,
448 本当に助かりました。
449
450
451 幸い,
452 私の配偶者は,
453 一時期の入院を経て元気になり,
454 私たちは生活を立て直すことができ
455 ました。
456
457
458 私は,
459 返済期限である平成28年9月30日に,
460 Xと会って,
461 レストランで食事をおごると
462 ともに,
463 前々日と前日に銀行預金口座から引き出しておいた合計100万円をXに渡しました。
464
465
466 Xも私もあらかじめ書面は用意していなかったのですが,
467 Xが,
468 その場で自分の手帳から紙
469 を1枚切り取って,
470 そこに,
471 『領収書
472
473 確かに100万円を受け取りました。
474
475 』との文言と,
476
477
478 付と,
479 Xの氏名を記載して,
480 私に渡してくれました。
481
482 私は,
483 平成29年8月31日に現在の住
484 所に引っ越したのですが,
485 返済して1年近く経っていたこともあり,
486 その引っ越しの際に,
487
488 の不要な書類とともに先ほど述べた領収書を処分してしまったので,
489 今回の訴訟にこの領収書
490 を証拠として提出していません。
491
492
493 平成29年に入って,
494 私とXは,
495 大学の同窓会の幹事を担当するようになったのですが,
496
497 年9月半ば頃,
498 Xが同窓会費を使い込んでいたことが判明したため,
499 私が,
500 他の幹事たちの面
501 前で,
502 その点をXに指摘し,
503 それをきっかけにXが幹事を辞任したことがあったため,
504 Xは,
505
506 私を恨みに思っているようでした。
507
508 そのようなこともあって,
509 同年10月に,
510 返したものを返
511 していないなどと言い出し,
512 請求し始めたのだと思います。
513
514
515 以上を前提に,
516 以下の問いに答えなさい。
517
518
519 弁護士Qは,
520 本件訴訟の第3回口頭弁論期日までに,
521 準備書面を提出することを予定している。
522
523
524 その準備書面において,
525 弁護士Qは,
526 前記の提出された各書証並びに前記【Xの供述内容】及び【Y
527 - 4 -
528
529 の供述内容】と同内容のX及びYの本人尋問における供述に基づいて,
530 弁済の抗弁が認められるこ
531 とにつき主張を展開したいと考えている。
532
533 弁護士Qにおいて,
534 上記準備書面に記載すべき内容を答
535 案用紙1頁程度の分量で記載しなさい。
536
537
538
539 - 5 -
540
541 [刑
542
543 事]
544
545 次の【事例】を読んで,
546 後記〔設問〕に答えなさい。
547
548
549 【事例】
550
551
552 A(21歳,
553 男性)は,
554 平成30年5月30日,
555 「氏名不詳者と共謀の上,
556 平成30年4月
557 2日午前4時頃,
558 H県I市J町2丁目3番K駐車場において,
559 同所に駐車されていたV所有
560 の普通乗用自動車(以下「本件自動車」という。
561
562 )の運転席側窓ガラスを割るなどして,
563 同車
564 を損壊した上,
565 同車内にあったV所有の現金200万円在中の鞄1個及びカーナビゲーショ
566 ンシステム1台(以下「本件カーナビ」という。
567
568 )を窃取した。
569
570 」旨の器物損壊・窃盗被告事
571 件(以下「本件被告事件」という。
572
573 )でH地方裁判所に公訴提起された。
574
575
576 Aの弁護人は,
577 同年5月30日,
578 Aについて保釈の請求をしたところ,
579 H地方裁判所裁判
580
581 官は,
582 刑事訴訟法第89条第4号に該当する事由があり,
583 また,
584 同法第90条に基づく職権に
585 よる保釈を許すべき事情も認められないとして,
586 同保釈請求を却下した。
587
588
589
590
591 その後,
592 本件被告事件は,
593 公判前整理手続に付することが決定され,
594 検察官は,
595 同年6月1
596 2日,
597 証明予定事実記載書面を裁判所に提出するとともにAの弁護人に送付し,
598 併せて,
599
600 拠の取調べを裁判所に請求し,
601 当該証拠を同弁護人に開示した。
602
603 検察官が取調べを請求した
604 証拠の概要は次のとおりである(以下,
605 日付はいずれも平成30年である。
606
607 )。
608
609
610
611
612 Vの告訴状(甲1号証)
613 「本件自動車を壊して,
614 車内にあった現金200万円が入った鞄や本件カーナビを盗ん
615 だ犯人として,
616 Aが逮捕されたと聞いたが,
617 知らない人である。
618
619 盗難被害のほか,
620 本件自
621 動車の損壊についても,
622 Aの厳しい処罰を求める。
623
624
625
626
627
628 K駐車場の実況見分調書(甲2号証)
629 Vを立会人として行われたK駐車場の実況見分の結果を記載したものであり,
630 同駐車場の
631 位置や広さなどのほか,
632 本件自動車の駐車状況及び被害後の状況を含めた被害現場の状況な
633 どが記載されている。
634
635
636
637
638
639 Vの警察官面前の供述録取書(甲3号証)
640 「4月1日午後8時頃,
641 本件自動車をK駐車場に駐車した。
642
643 本件自動車及び同車内在中の
644 鞄,
645 現金,
646 本件カーナビは,
647 いずれも私が所有するものである。
648
649 主なもので,
650 その日に銀行
651 から下ろした現金200万円及び本件カーナビ(時価5万円)の損害のほか,
652 本件自動車の
653 修理代金として,
654 約25万円の損害が発生しており,
655 犯人を早く捕まえてほしい。
656
657
658
659
660
661 W1の警察官面前の供述録取書(甲4号証)
662 「私は,
663 L県内で中古電化製品販売店を営んでおり,
664 中古電化製品の買取りも行っている。
665
666
667 4月2日午前11時頃,
668 Aとして身分確認をした男性からカーナビゲーションシステム1台
669 を買い取った。
670
671 今刑事さんと一緒に買取台帳等を確認し,
672 製品番号などから,
673 このとき買い
674 取ったカーナビゲーションシステムが,
675 本件カーナビであることが分かった。
676
677 本件カーナビ
678 は未販売であり,
679 警察に提出する。
680
681 また,
682 当店では,
683 買取りに際し,
684 自動車運転免許証等で
685 身分確認をしており,
686 本件カーナビを売却した男性についても,
687 自動車運転免許証の提示を
688 求めた上,
689 その写しを作成して保管しているので,
690 その写しや買取台帳の写しも提出する。
691
692
693
694
695
696 警察官作成の捜査報告書(甲5号証)
697 W1から提出されたカーナビゲーションシステムの写真が添付されており,
698 同カーナビゲ
699 ーションシステムの製造番号が本件カーナビの製造番号と一致することなどが記載されてい
700 る。
701
702
703
704
705
706 A名義の自動車運転免許証の写し(甲6号証)
707
708 - 6 -
709
710 W1から提出されたA名義の自動車運転免許証の写しであり,
711 乙2号証の身上調査照会回
712 答書記載のAの生年月日,
713 住所地等と合致する記載がある。
714
715
716
717
718 W1から提出された買取台帳の写し(甲7号証)
719 「買取年月日
720
721 30年4月2日」,
722 「顧客名
723
724 型番,
725 製造番号)」,
726 「買取代金
727
728
729 A」,
730 「商品
731
732 カーナビ1台(メーカー名,
733
734
735 3万3000円」等の記載がある。
736
737
738
739 W2(男性)の検察官面前の供述録取書(甲8号証)
740 「私は,
741 自宅近くのコンビニエンスストアで買い物をして帰宅する途中の4月2日午前4
742 時頃,
743 K駐車場前の歩道を歩いていたところ,
744 駐車場内に駐車されていた本件自動車の車内
745 ランプが光っていることに気付き,
746 注視しながら同車に近づいた。
747
748 同車まで約5メートルの
749 距離まで近づいたところで,
750 黒い上下のウィンドブレーカーを着た身長175センチメート
751 ルくらいの男が,
752 慌てた様子で,
753 ティッシュペーパーの箱を2つ重ねたくらいの大きさの電
754 化製品に見えるものを持って同車の運転席側のドアから降りてきて,
755 1秒ほど私と目を合わ
756 せた。
757
758 そして,
759 その男が,
760 同車の横に停車していた自動車の助手席に乗り込むや否や,
761 その
762 車は急発進し,
763 私のすぐ左側を通り過ぎ,
764 K駐車場から出て,
765 左折して走り去った。
766
767 私は,
768
769 男たちの行動を不審に感じ,
770 本件自動車に近づいてその様子を見ると,
771 同車の運転席側の窓
772 ガラスが割れていたので,
773 先ほどの男たちが車上荒らしをしたのだと思い,
774 110番通報を
775 した。
776
777 本件自動車から降りてきた男については,
778 1秒ほど目が合ったし,
779 自動車が通り過ぎ
780 る際にも助手席側の窓ガラス越しに顔を見たので,
781 その男の顔は覚えている。
782
783 検事から,
784
785 『こ
786 れらの写真に写っている男の中に,
787 あなたが見た男がいるかもしれないし,
788 いないかもしれ
789 ない。
790
791 』と説明を受けた上で,
792 30枚の男性の顔の写真が貼られたものを見せられたが,
793
794 2番の写真の男が,
795 顔の輪郭や目鼻立ち,
796 特につり上がった目の感じや左頬のあざなどから,
797
798 本件自動車から降りてきた男に間違いないと思う。
799
800 この12番の写真の男は,
801 知り合いでは
802 なく,
803 4月2日に初めて見た男である。
804
805 また,
806 急発進した自動車の運転席には,
807 助手席に座
808 っていた男とは別の人物が座っていたが,
809 この人物の性別などは分からない。
810
811 12番の写真
812 の男とは知り合いではないものの,
813 私はK駐車場の直ぐ隣の一軒家に住んでおり,
814 12番の
815 写真の男がその気になれば,
816 私のことを特定したり,
817 私の家を知り得ると思うので,
818 嫌がら
819 せなどされないかが不安だ。
820
821 」(末尾に「12番」とされたAの写真が含まれた写真台帳が添
822 付されている)。
823
824
825
826
827
828 Aの警察官面前の供述録取書(乙1号証)
829 「私は,
830 独身で,
831 3か月前から一人で住所地のマンションに住んでおり,
832 無職である。
833
834
835 まに,
836 工事現場のガードマンとして短期間のアルバイトをして,
837 生活費を稼いでいる。
838
839 K駐
840 車場には一度も行ったことがない。
841
842 本件カーナビをW1が経営する中古電化製品販売店に売
843 ったことは間違いないが,
844 それは,
845 Bという友人から売却を頼まれて売ったのであり,
846 本件
847 カーナビや鞄などを盗んだのは私ではないし,
848 本件自動車を壊したのも私ではない。
849
850 本件カ
851 ーナビが盗品であることは知らなかった。
852
853 刑事さんから,
854 犯行日時に,
855 K駐車場で本件自動
856 車から出てくる私を見た人がいると聞いたが,
857 人違いではないかと思う。
858
859
860
861
862
863 Aの身上調査照会回答書(乙2号証)
864 Aの氏名,
865 生年月日,
866 住所地などが記載されている。
867
868
869
870
871
872 Aの弁護人は,
873 検察官請求証拠を閲覧・謄写した後,
874 検察官に対して類型証拠の開示の請
875 求をし,
876 類型証拠として開示された証拠も閲覧・謄写するなどした上,
877 「Aが,
878 公訴事実記載
879 の器物損壊や窃盗を行った事実はいずれもない。
880
881 Aは,
882 友人Bから本件カーナビの売却の依頼
883 を受けてこれを中古電化製品販売店に売却したが,
884 盗品であることは知らなかった。
885
886 Aは,
887
888 訴事実記載の日時頃,
889 K駐車場にはいなかった。
890
891 」旨の予定主張事実記載書を裁判所に提出す
892 るとともに検察官に送付し,
893 併せて,
894 検察官に対して主張関連証拠の開示の請求をした。
895
896
897
898
899
900 検察官は,
901 本件被告事件について,
902 Aの公訴提起後も,
903 Bなる人物の所在を捜査していたと
904 - 7 -
905
906 ころ,
907 Bの所在が判明し,
908 更に所要の捜査の結果,
909 このBがAの共犯者であった疑いが濃厚と
910 なった。
911
912 そうしたところ,
913 6月26日に,
914 Aに係る本件被告事件の第1回公判前整理手続期日
915 が開かれたが,
916 その後の7月5日,
917 Bが,
918 「Aと共謀の上,
919 4月2日午前4時頃,
920 H県I市J
921 町2丁目3番K駐車場において,
922 同所に駐車されていたV所有の本件自動車の運転席側窓ガラ
923 スを割るなどして,
924 同車を損壊した上,
925 同車内にあったV所有の現金200万円在中の鞄1個
926 及び本件カーナビを窃取した。
927
928 」旨の器物損壊・窃盗被疑事件で逮捕され,
929 7月6日,
930 H地方
931 検察庁検察官に送致された。
932
933 Bは,
934 その後,
935 勾留中の取調べにおいて,
936 友人Aと相談の上で,
937
938 本件自動車を壊して本件カーナビなどを盗んだことを認め,
939 さらに,
940 本件自動車から盗んだ鞄
941 内には,
942 現金200万円のほか,
943 アイドルグループのCD1枚(以下「本件CD」という。
944
945
946 が在中し,
947 同CDを自宅に置いてある旨述べて,
948 自宅にあったCDを,
949 親族を通じて,
950 警察に
951 提出した。
952
953 検察官は,
954 所要の捜査を遂げ,
955 同月25日,
956 Bについて,
957 被害品を「現金200万
958 円及び本件CD在中の鞄1個並びに本件カーナビ」と変更したほかは,
959 逮捕事実と同じ事実で,
960
961 H地方裁判所に公訴提起した。
962
963
964
965
966 その後,
967 検察官は,
968 Bに係る事件の捜査を踏まえて,
969 既に公訴を提起していたAに係る本件
970 被告事件について,
971 AとBが共謀の上で行った事実である旨証明するに足りる証拠や本件CD
972 も被害品である旨証明するに足りる証拠が収集できたものと判断し,
973 所要の手続を順次行っ
974 た上,
975 本件被告事件について,
976 下記の甲9号証及び甲10号証の証拠を追加で取調べ請求し,
977
978 それらの証拠をAの弁護人に開示した。
979
980
981
982
983 Vの警察官面前の供述調書(甲9号証)
984 「Bの自宅にあったCDを刑事さんから見せてもらったが,
985 私宛てで,
986 私が一番好きなメ
987 ンバーであるQのサインが書かれていることから,
988 盗まれた私の鞄の中に入っていたものに
989 間違いない。
990
991 見当たらなくなっていたので,
992 もしかしたら盗まれた鞄に入っていたのかとも
993 思っていたものの,
994 確信が持てなかったので,
995 当初は被害品として届けていなかった。
996
997
998
999
1000
1001 Bの検察官面前の供述調書(甲10号証)
1002 「友人であるAと相談して,
1003 いわゆる車上荒らしをやることにし,
1004 事前に役割分担を決め
1005 た。
1006
1007 具体的には,
1008 Aが,
1009 マイナスドライバーで,
1010 自動車の窓ガラスを割ってドアのロックを
1011 外し,
1012 車中にある金目の物のほか,
1013 カーナビを外して盗み出す役,
1014 私が,
1015 Aが助手席に乗る
1016 自動車を運転して,
1017 現場に行き,
1018 Aが金目の物やカーナビを盗む間に見張りをして,
1019 盗み終
1020 わった後も運転役をすることを決めた。
1021
1022 4月2日午前4時前頃,
1023 私が運転する私の自動車で
1024 K駐車場に行き,
1025 本件自動車の運転席側の隣に私の自動車を停めた。
1026
1027 その後,
1028 助手席から降
1029 りたAが,
1030 マイナスドライバーで,
1031 本件自動車の運転席側の窓ガラスを割ってドアのロック
1032 を外し,
1033 車中に入った。
1034
1035 私は,
1036 エンジンをかけた状態の私の自動車の運転席に座ったまま周
1037 囲に注意を払っていた。
1038
1039 その後,
1040 Aは,
1041 鞄1個のほか,
1042 本件カーナビを持って,
1043 車外に出て
1044 きたが,
1045 その際,
1046 一人の男性が,
1047 私の車の方に近づいてきたのが見えたため,
1048 私は,
1049 Aが助
1050 手席に飛び乗るや否や,
1051 私の自動車を急発進させて,
1052 K駐車場から逃走した。
1053
1054 本件カーナビ
1055 は,
1056 Aが,
1057 L県内の中古電化製品販売店に3万円くらいで売った。
1058
1059 現金200万円及びAが
1060 売却した本件カーナビの売却金については,
1061 Aと二等分した。
1062
1063 また,
1064 Aと盗んだ鞄の中には,
1065
1066 現金のほか,
1067 本件CDが入っていたが,
1068 Aが要らないと言ったので,
1069 私がもらって自宅に置
1070 いていた。
1071
1072 本件CDについても,
1073 Aと一緒に盗んだものに間違いない。
1074
1075
1076
1077
1078
1079 8月21日に開かれたAに係る本件被告事件の第2回公判前整理手続期日において,
1080 検察官
1081 請求証拠に対し,
1082 弁護人は,
1083 甲8号証及び甲10号証につき,
1084 いずれも「不同意」とし,
1085 その
1086 ほかの証拠については,
1087 いずれも「同意」と意見を述べた。
1088
1089
1090
1091
1092
1093 同期日において,
1094 Aに係る本件被告事件に関し,
1095 検察官は,
1096
1097 「共謀状況及び共同犯行状況等」
1098 を立証趣旨としてBの証人尋問を,
1099 「犯行目撃状況等」を立証趣旨としてW2の証人尋問を請
1100 求した。
1101
1102 裁判所は,
1103 争点を整理した上,
1104 弁護人が同意した証拠についていずれも証拠調べをす
1105 - 8 -
1106
1107 る決定をし,
1108 弁護人に対して,
1109 B及びW2の証人尋問請求に対する意見を聞いたところ,
1110 弁護
1111 人は,
1112 Bについては,
1113
1114 「しかるべく」とし,
1115 W2については,
1116
1117 「必要がない」旨の意見を述べた。
1118
1119
1120 裁判長は,
1121 検察官に対し,
1122 「Bに加えてW2を尋問する必要性」について釈明を求め,
1123 検察
1124 官の釈明を聞いた上で,
1125 B及びW2につき,
1126 いずれも証人として尋問する旨の決定をするなど
1127 し,
1128 公判前整理手続を終結した。
1129
1130
1131
1132
1133 その後,
1134 Aに係る本件被告事件については,
1135 9月12日に開かれた第1回公判期日において,
1136
1137 B及びW2の証人尋問などが行われたところ,
1138 同証人尋問において,
1139 B及びW2は,
1140 それぞれ,
1141
1142 甲8号証,
1143 甲10号証のとおり証言した。
1144
1145 続いて,
1146 同月26日,
1147 第2回公判期日において,
1148
1149 告人質問等が行われ,
1150 10月17日,
1151 第3回公判期日において,
1152 検察官及び弁護人がそれぞれ
1153 意見を述べ,
1154 被告人の最終陳述等が行われた上で結審した。
1155
1156
1157
1158 〔設問1〕
1159 下線部に関し,
1160 裁判官が刑事訴訟法第89条第4号の「被告人が罪証を隠滅すると疑うに
1161 足りる相当な理由がある」と判断した思考過程を,
1162 その判断要素を踏まえ,
1163 具体的事実を指摘
1164 しつつ答えなさい。
1165
1166
1167 〔設問2〕
1168 下線部に関し,
1169 Aの弁護人は,
1170 刑事訴訟法第316条の15第1項柱書き中の「特定の検
1171 察官請求証拠」を甲8号証の「W2の検察官面前の供述録取書」とし,
1172 その「証明力を判断す
1173 るために重要であると認められるもの」に当たる証拠として
1174 @
1175
1176 本件被告事件の犯行現場の実況見分調書(W2が説明する目撃時の人物等の位置関係,
1177
1178 現場の照度などについて明らかにしたもの)
1179
1180 A
1181
1182 W2の警察官面前の供述録取書
1183
1184 B
1185
1186 本件被告事件の犯行日時頃,
1187 犯行現場付近に存在した者の供述録取書
1188
1189 の開示の請求をしようと考えた。
1190
1191 弁護人は,
1192 同請求に当たって,
1193 同条第3項第1号イ及びロに
1194 定める事項(同号イの「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」は除く。
1195
1196 )につき,
1197
1198 具体的にどのようなことを明らかにすべきか,
1199 @からBの証拠についてそれぞれ答えなさい。
1200
1201
1202 〔設問3〕
1203 下線部に関し,
1204 検察官が順次行った所要の手続について,
1205 条文上の根拠に言及しつつ,
1206
1207 潔に説明しなさい。
1208
1209
1210 〔設問4〕
1211 下線部に関し,
1212 以下の各問いについて答えなさい。
1213
1214
1215
1216
1217 検察官は,
1218 W2の供述によって「Aが公訴事実記載の器物損壊や窃取に及んだ」という事実
1219 を立証しようと考えている。
1220
1221 この場合,
1222 W2の供述は,
1223 直接証拠又は間接証拠のいずれに当た
1224 るか,
1225 具体的理由を付して答えなさい。
1226
1227
1228
1229
1230
1231 裁判長が,
1232 検察官に対し,
1233 「Bに加えてW2を尋問する必要性」について釈明を求めたのは
1234
1235 なぜか,
1236 条文上の根拠を示しつつ答えなさい。
1237
1238
1239
1240
1241 検察官は,
1242 W2を尋問する必要性について,
1243 どのように釈明すべきか答えなさい。
1244
1245
1246
1247 〔設問5〕
1248 Aに係る本件被告事件の公判前整理手続終結後,
1249 第1回公判期日前である8月28日,
1250 Bが
1251 Vに対して250万円を弁償し,
1252 同日,
1253 弁償金を受領した旨の領収証がVからBに交付された。
1254
1255
1256 Aの弁護人は,
1257 9月15日,
1258 同領収証の写しを入手したため,
1259 これを第2回公判期日において,
1260
1261 - 9 -
1262
1263 取調べ請求したいと考えた。
1264
1265 この場合における,
1266 刑事訴訟法上及び弁護士倫理上の問題につい
1267 てそれぞれ論じなさい。
1268
1269
1270
1271 - 10 -
1272
1273