1 平成29年司法試験予備試験論文式試験問題と出題趣旨
2 [憲
3
4 法]
5
6 次の文章を読んで,
7 後記の〔設問〕に答えなさい。
8
9
10 A県の特定地域で産出される農産物Xは,
11 1年のうち限られた時期にのみ産出され,
12 同地域の気
13 候・土壌に適応した特産品として著名な農産物であった。
14
15 Xが特別に豊作になる等の事情があると,
16
17 価格が下落し,
18 そのブランド価値が下がることが懸念されたことから,
19 A県は,
20 同県で産出される
21 Xの流通量を調整し,
22 一定以上の価格で安定して流通させ,
23 A県産のXのブランド価値を維持し,
24
25 もってXの生産者を保護するための条例を制定した(以下「本件条例」という。
26
27 )。
28
29
30 本件条例では,
31 @Xの生産の総量が増大し,
32 あらかじめ定められたXの価格を適正に維持できる
33 最大許容生産量を超えるときは,
34 A県知事は,
35 全ての生産者に対し,
36 全生産量に占める最大許容生
37 産量の超過分の割合と同じ割合で,
38 収穫されたXの廃棄を命ずる,
39 AA県知事は,
40 生産者が廃棄命
41 令に従わない場合には,
42 法律上の手続に従い,
43 県においてXの廃棄を代執行する,
44 BXの廃棄に起
45 因する損失については補償しない,
46 旨定められた。
47
48
49 条例の制定過程では,
50 Xについて一定割合を一律に廃棄することを命ずる必要があるのか,
51 との
52 意見もあったが,
53 Xの特性から,
54 事前の生産調整,
55 備蓄,
56 加工等は困難であり,
57 迅速な出荷調整の
58 要請にかなう一律廃棄もやむを得ず,
59 また,
60 価格を安定させ,
61 Xのブランド価値を維持するために
62 は,
63 総流通量を一律に規制する必要がある,
64 と説明された。
65
66 この他,
67 廃棄を命ずるのであれば,
68
69 定の補償が必要ではないか等の議論もあったが,
70 価格が著しく下落したときに出荷を制限すること
71 はやむを得ないものであり,
72 また,
73 本件条例上の措置によってXの価格が安定することにより,
74
75 のブランド価値が維持され,
76 生産者の利益となり,
77 ひいてはA県全体の農業振興にもつながる等と
78 説明された。
79
80
81 20××年,
82 作付け状況は例年と同じであったものの,
83 天候状況が大きく異なったことから,
84
85 の生産量は著しく増大し,
86 最大許容生産量の1.5倍であった。
87
88 このため,
89 A県知事は,
90 本件条例
91 に基づき,
92 Xの生産者全てに対し,
93 全生産量に占める最大許容生産量の超過分の割合に相当する3
94 分の1の割合でのXの廃棄を命じた(以下「本件命令」という。
95
96 )。
97
98
99 甲は,
100 より高品質なXを安定して生産するため,
101 本件条例が制定される前から,
102 特別の栽培法を
103 開発し,
104 天候に左右されない高品質のXを一定量生産しており,
105 20××年も生産量は平年並みで
106 あった。
107
108 また,
109 甲は,
110 独自の顧客を持っていたことから,
111 自らは例年同様の価格で販売できると考
112 えていた。
113
114 このため,
115 甲は,
116 本件命令にもかかわらず,
117 自らの生産したXを廃棄しないでいたとこ
118 ろ,
119 A県知事により,
120 甲が生産したXの3分の1が廃棄された。
121
122 納得できない甲は,
123 本件条例によ
124 ってXの廃棄が命じられ,
125 補償もなされないことは,
126 憲法上の財産権の侵害であるとして,
127 訴えを
128 提起しようと考えている。
129
130
131 〔設問〕
132 甲の立場からの憲法上の主張とこれに対して想定される反論との対立点を明確にしつつ,
133 あな
134 た自身の見解を述べなさい。
135
136 なお,
137 法律と条例の関係及び訴訟形態の問題については論じなく
138 てよい。
139
140
141
142 (出題の趣旨)
143 本問は,
144 架空の条例を素材に,
145 憲法上の財産権保障(憲法第29条)についての
146 理解を問うものである。
147
148
149
150 本件条例は,
151 Xのブランド価値を維持し,
152 Xの生産者を保護する目的で,
153 生産量
154 が増大し,
155 Xの価格を適正に維持できる最大許容生産量を超えるときに,
156 A県知事
157 は,
158 全ての生産者に対し,
159 全生産量に占める最大許容生産量の超過分の割合と同じ
160 割合で,
161 収穫されたXの廃棄を命じることとしている。
162
163 まず,
164 このような措置を定
165 める本件条例が,
166 憲法第29条第1項で保障される財産権を侵害する違憲なもので
167 あるかを論じる必要がある。
168
169 その際,
170 本件条例の趣旨・目的と,
171 それを達成するた
172 めの手段の双方について,
173 森林法違憲判決(最高裁昭和62年4月22日大法廷判
174 決,
175 民集41巻3号408頁)及び証券取引法判決(最高裁平成14年2月13日
176 大法廷判決,
177 民集56巻2号331頁)などを参照しながら,
178 検討する必要がある。
179
180
181 特に,
182 規制手段については,
183 甲のように,
184 平年並みの生産高となった者や,
185 天候状
186 況に左右されず一定量を生産することが可能な者が存在することを念頭に置きつつ,
187
188 その合理性・必要性について考察することが求められるであろう。
189
190
191 次に,
192 本件条例では,
193 Xの廃棄に起因する損失については補償をしないとされて
194 いるが,
195 それが,
196 憲法上の損失補償請求権(憲法第29条第3項)を侵害する違憲
197 なものであるかを論じる必要がある。
198
199 この場合,
200 @本件条例が一般的に損失補償規
201 定を置いていないことの合憲性と,
202 A仮に一般的に損失補償規定を置いていないこ
203 とが合憲であるとしても,
204 甲の事情が,
205 損失補償が認められるべき「特別の犠牲」
206 に該当し,
207 損失補償請求権を侵害すると主張しうるか,
208 という二つの論点がある。
209
210
211 これらについて,
212 河川附近地制限令事件(最高裁昭和43年11月27日大法廷判
213 決,
214 刑集22巻12号1402頁)などを参照しながら,
215 検討することが求められ
216 る。
217
218
219
220 [行政法]
221 産業廃棄物の処分等を業とする株式会社Aは,
222 甲県の山中に産業廃棄物の最終処分場(以下「本
223 件処分場」という。
224
225 )を設置することを計画し,
226 甲県知事Bに対し,
227 廃棄物の処理及び清掃に関す
228 る法律(以下「法」という。
229
230 )第15条第1項に基づく産業廃棄物処理施設の設置許可の申請(以
231 下「本件申請」という。
232
233 )をした。
234
235
236 Bは,
237 同条第4項に基づき,
238 本件申請に係る必要事項を告示し,
239 申請書類及び本件処分場の設置
240 が周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類(Aが同条第3項に基づ
241 き申請書に添付したもの。
242
243 以下「本件調査書」という。
244
245 )を公衆の縦覧に供するとともに,
246 これら
247 の書類を踏まえて許可要件に関する審査を行い,
248 本件申請が法第15条の2第1項所定の要件を全
249 て満たしていると判断するに至った。
250
251
252 しかし,
253 本件処分場の設置予定地(以下「本件予定地」という。
254
255 )の周辺では新種の高級ぶどう
256 の栽培が盛んであったため,
257 周辺の住民及びぶどう栽培農家(以下,
258 併せて「住民」という。
259
260 )の
261 一部は,
262 本件処分場が設置されると,
263 地下水の汚染や有害物質の飛散により,
264 住民の健康が脅かさ
265 れるだけでなく,
266 ぶどうの栽培にも影響が及ぶのではないかとの懸念を抱き,
267 Bに対して本件申請
268 を不許可とするように求める法第15条第6項の意見書を提出し,
269 本件処分場の設置に反対する運
270 動を行った。
271
272
273 そこで,
274 Bは,
275 本件申請に対する許可を一旦留保した上で,
276 Aに対し,
277 住民と十分に協議し,
278
279 争を円満に解決するように求める行政指導を行った。
280
281 これを受けて,
282 Aは,
283 住民に対する説明会を
284 開催し,
285 本件調査書に基づき本件処分場の安全性を説明するとともに,
286 住民に対し,
287 本件処分場の
288 安全性を直接確認してもらうため,
289 工事又は業務に支障のない限り,
290 住民が工事現場及び完成後の
291 本件処分場の施設を見学することを認める旨の提案(以下「本件提案」という。
292
293 )をした。
294
295
296 本件提案を受けて,
297 反対派住民の一部は態度を軟化させたが,
298 その後,
299 上記の説明会に際してA
300 が,
301 (ア)住民のように装ったA社従業員を説明会に参加させ,
302 本件処分場の安全性に問題がないと
303 する方向の質問をさせたり意見を述べさせたりした,
304 (イ)あえて手狭な説明会場を準備し,
305 賛成派
306 住民を早めに会場に到着させて,
307 反対派住民が十分に参加できないような形で説明会を運営した,
308
309 という行為に及んでいたことが判明した。
310
311
312 その結果,
313 反対派住民は本件処分場の設置に強く反発し,
314 Aが本件処分場の安全性に関する説明
315 を尽くしても,
316 円満な解決には至らなかった。
317
318 他方で,
319 建設資材の価格が上昇しAの経営状況を圧
320 迫するおそれが生じていたことから,
321 Aは,
322 本件提案を撤回し,
323 説明会の継続を断念することとし,
324
325 Bに対し,
326 前記の行政指導にはこれ以上応じられないので直ちに本件申請に対して許可をするよう
327 に求める旨の内容証明郵便を送付した。
328
329
330 これを受けて,
331 Bは,
332 Aに対し,
333 説明会の運営方法を改善するとともに再度本件提案をすること
334 により住民との紛争を円満に解決するように求める行政指導を行って許可の留保を継続し,
335 Aも,
336
337 これに従い,
338 月1回程度の説明会を開催して再度本件提案をするなどして住民の説得を試みたもの
339 の,
340 結局,
341 事態が改善する見通しは得られなかった。
342
343 そこで,
344 Bは,
345 上記の内容証明郵便の送付を
346 受けてから10か月経過後,
347 本件申請に対する許可(以下「本件許可」という。
348
349 )をした。
350
351
352 Aは,
353 この間も建設資材の価格が上昇したため,
354 本件許可の遅延により生じた損害の賠償を求め
355 て,
356 国家賠償法に基づき,
357 甲県を被告とする国家賠償請求訴訟を提起した。
358
359
360 他方,
361 本件予定地の周辺に居住するC1及びC2は,
362 本件許可の取消しを求めて甲県を被告とす
363 る取消訴訟を提起した。
364
365 原告両名の置かれている状況は,
366 次のとおりである。
367
368 C1は,
369 本件予定地
370 から下流側に約2キロメートル離れた場所に居住しており,
371 居住地内の果樹園で地下水を利用して
372 新種の高級ぶどうを栽培しているが,
373 地下水は飲用していない。
374
375 C2は,
376 本件予定地から上流側に
377 約500メートル離れた場所に居住しており,
378 地下水を飲用している。
379
380 なお,
381 環境省が法第15条
382
383 第3項の調査に関する技術的な事項を取りまとめて公表している指針において,
384 同調査は,
385 施設の
386 種類及び規模,
387 自然的条件並びに社会的条件を踏まえて,
388 当該施設の設置が生活環境に影響を及ぼ
389 すおそれがある地域を対象地域として行うものとされているところ,
390 本件調査書において,
391 C2の
392 居住地は上記の対象地域に含まれているが,
393 C1の居住地はこれに含まれていない。
394
395
396 以上を前提として,
397 以下の設問に答えなさい。
398
399
400 なお,
401 関係法令の抜粋を【資料】として掲げるので,
402 適宜参照しなさい。
403
404
405 〔設問1〕
406 Aは,
407 上記の国家賠償請求訴訟において,
408 本件申請に対する許可の留保の違法性に関し,
409 どの
410 ような主張をすべきか。
411
412 解答に当たっては,
413 上記の許可の留保がいつの時点から違法になるかを
414 示すとともに,
415 想定される甲県の反論を踏まえつつ検討しなさい。
416
417
418 〔設問2〕
419 上記の取消訴訟において,
420 C1及びC2に原告適格は認められるか。
421
422 解答に当たっては,
423 @仮
424 に本件処分場の有害物質が地下水に浸透した場合,
425 それが,
426 下流側のC1の居住地に到達するお
427 それは認められるが,
428 上流側のC2の居住地に到達するおそれはないこと,
429 A仮に本件処分場の
430 有害物質が風等の影響で飛散した場合,
431 それがC1及びC2の居住地に到達するおそれの有無に
432 ついては明らかでないことの2点を前提にすること。
433
434
435
436 【資料】
437
438
439 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)(抜粋)
440
441 (目的)
442 第1条
443
444 この法律は,
445 廃棄物の排出を抑制し,
446 及び廃棄物の適正な分別,
447 保管,
448 収集,
449 運搬,
450 再生,
451
452
453 処分等の処理をし,
454 並びに生活環境を清潔にすることにより,
455 生活環境の保全及び公衆衛生の向
456 上を図ることを目的とする。
457
458
459 (産業廃棄物処理施設)
460 第15条
461
462 産業廃棄物処理施設(廃プラスチック類処理施設,
463 産業廃棄物の最終処分場その他の産業
464
465 廃棄物の処理施設で政令で定めるものをいう。
466
467 以下同じ。
468
469 )を設置しようとする者は,
470 当該産業廃
471 棄物処理施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならない。
472
473
474
475
476 前項の許可を受けようとする者は,
477 環境省令で定めるところにより,
478 次に掲げる事項を記載した
479 申請書を提出しなければならない。
480
481
482 一〜九
483
484
485
486 (略)
487
488 前項の申請書には,
489 環境省令で定めるところにより,
490 当該産業廃棄物処理施設を設置することが
491 周辺地域の生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類を添付しなければならな
492 い。
493
494 (以下略)
495
496
497
498 都道府県知事は,
499 産業廃棄物処理施設(中略)について第1項の許可の申請があつた場合には,
500
501 遅滞なく,
502 第2項(中略)に掲げる事項,
503 申請年月日及び縦覧場所を告示するとともに,
504 同項の
505 申請書及び前項の書類(中略)を当該告示の日から1月間公衆の縦覧に供しなければならない。
506
507
508
509
510
511 (略)
512
513
514
515 第4項の規定による告示があつたときは,
516 当該産業廃棄物処理施設の設置に関し利害関係を有す
517 る者は,
518 同項の縦覧期間満了の日の翌日から起算して2週間を経過する日までに,
519 当該都道府県
520 知事に生活環境の保全上の見地からの意見書を提出することができる。
521
522
523
524 (許可の基準等)
525 第15条の2
526
527 都道府県知事は,
528 前条第1項の許可の申請が次の各号のいずれにも適合していると認
529
530 めるときでなければ,
531 同項の許可をしてはならない。
532
533
534
535
536 その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画が環境省令で定める技術上の基準に適合してい
537 ること。
538
539
540
541
542
543 その産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画が当該産業廃棄物処
544 理施設に係る周辺地域の生活環境の保全及び環境省令で定める周辺の施設について適正な配慮
545 がなされたものであること。
546
547
548
549
550
551 申請者の能力がその産業廃棄物処理施設の設置に関する計画及び維持管理に関する計画に従
552 つて当該産業廃棄物処理施設の設置及び維持管理を的確に,
553 かつ,
554 継続して行うに足りるもの
555 として環境省令で定める基準に適合するものであること。
556
557
558
559
560
561 (略)
562
563 2〜5
564
565
566 (略)
567
568 廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則(昭和46年厚生省令第35号)(抜粋)
569
570 (生活環境に及ぼす影響についての調査の結果を記載した書類)
571 第11条の2
572
573
574 法第15条第3項の書類には,
575 次に掲げる事項を記載しなければならない。
576
577
578
579 設置しようとする産業廃棄物処理施設の種類及び規模並びに処理する産業廃棄物の種類を勘
580 案し,
581 当該産業廃棄物処理施設を設置することに伴い生ずる大気質,
582 騒音,
583 振動,
584 悪臭,
585 水質
586 又は地下水に係る事項のうち,
587 周辺地域の生活環境に影響を及ぼすおそれがあるものとして調
588
589 査を行つたもの(以下この条において「産業廃棄物処理施設生活環境影響調査項目」という。
590
591
592
593
594 産業廃棄物処理施設生活環境影響調査項目の現況及びその把握の方法
595
596
597
598 当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を予測す
599 るために把握した水象,
600 気象その他自然的条件及び人口,
601 土地利用その他社会的条件の現況並
602 びにその把握の方法
603
604
605
606 当該産業廃棄物処理施設を設置することにより予測される産業廃棄物処理施設生活環境影響
607 調査項目に係る変化の程度及び当該変化の及ぶ範囲並びにその予測の方法
608
609
610
611 当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響の程度を分析し
612 た結果
613
614
615
616 大気質,
617 騒音,
618 振動,
619 悪臭,
620 水質又は地下水のうち,
621 これらに係る事項を産業廃棄物処理施
622 設生活環境影響調査項目に含めなかつたもの及びその理由
623
624
625
626 その他当該産業廃棄物処理施設を設置することが周辺地域の生活環境に及ぼす影響について
627 の調査に関して参考となる事項
628
629 (出題の趣旨)
630 設問1は,
631 産業廃棄物処理施設の設置許可の申請に対し,
632 知事が許可を留保した
633 上で,
634 周辺住民との紛争を調整する行政指導を行った事例について,
635 国家賠償法上
636 の違法性の検討を求めるものである。
637
638
639 マンションの建築確認を留保して周辺住民との紛争を調整する行政指導を行った
640 事案である最判昭和60年7月16日民集39巻5号989頁を踏まえ,
641 行政指導
642 が継続されている状況の下で許可の留保が違法になる要件として,
643 申請者において
644 許可を留保されたままでの行政指導にはもはや協力できないとの意思を真摯かつ明
645 確に表明したこと,
646 及び,
647 申請者が受ける不利益と行政指導の目的とする公益上の
648 必要性とを比較衡量して,
649 申請者の行政指導への不協力が社会通念上正義の観念に
650 反するといえるような特段の事情がないことの二つを適切に示すことが求められる。
651
652
653 その上で,
654 問題文中に示された事実を適切に上記の要件に当てはめて,
655 許可の留
656 保の違法性を主張することが求められる。
657
658 具体的には,
659 真摯かつ明確な意思の表明
660 に関する事情として,
661 内容証明郵便の送付が挙げられる。
662
663 次に,
664 特段の事情の有無
665 に関わる事情として,
666 @Aの受ける不利益(建設費用の高騰による経営の圧迫 ),
667
668 A行政指導の目的とする公益(周辺住民との十分な協議による紛争の円満解決 ),
669
670 B社会通念上正義の観念に反する事情(説明会におけるAの不誠実な対応やAが示
671 した譲歩策の撤回)が挙げられる。
672
673 これらの事実を示した上で説得力ある主張を展
674 開することが求められる。
675
676 なお,
677 上記@及びBの事情については,
678 意思表明の真摯
679 性と関係付けて論じることも考えられる。
680
681
682 設問2は,
683 付近住民が産業廃棄物処理施設の設置許可に対する取消訴訟を提起し
684 た場合に,
685 原告適格が認められるか否かを問うものである 。
686
687 「法律上の利益」の解
688 釈を踏まえ,
689 行政事件訴訟法第9条第2項の考慮要素に即して,
690 関係する法令の規
691 定や原告らの置かれている利益状況を適切に考慮して,
692 その有無を判断することが
693 求められる。
694
695
696 まず,
697 法令の趣旨・目的の検討については,
698 廃棄物の処理及び清掃に関する法律
699 第1条の目的規定に定める「生活環境の保全及び公衆衛生の向上」や第15条第6
700
701 項の定める利害関係者の意見提出権,
702 第15条の2第1項第2号の許可基準の定め
703 る「周辺地域の生活環境の保全」等が原告適格を基礎付ける要素に当たるか,
704 また,
705
706 同法施行規則第11条の2が「周辺地域の生活環境に及ぼす影響」の調査を求めて
707 いることが原告適格を基礎付ける要素に当たるかを検討することが求められる。
708
709
710 次に,
711 設置許可において考慮されるべきC1及びC2それぞれの利益の内容・性
712 質について検討することが求められる。
713
714 本件処分場がもたらす環境影響として,
715
716 害物質の飛散と地下水の汚染がもたらす健康被害や生業上の損害(農作物への被害)
717 が考えられるが,
718 これらの利益の内容及び性質(重要性や回復可能性等)や侵害の
719 可能性を踏まえて判断することが求められる。
720
721
722 さらに,
723 原告適格が認められる者の具体的範囲について,
724 本件調査書における「対
725 象地域」をどのように考慮し得るかが問題となる。
726
727 近時の判例(最判平成26年7
728 月29日民集68巻6号620頁)では,
729 本問と類似の事案において,
730 具体的な権
731 利侵害の証明がされない場合でも,
732 対象地域内に居住すること等を考慮して原告適
733 格が認められており,
734 この判断を踏まえた検討がされることが望ましい。
735
736
737
738 [民
739
740 法]
741
742 次の文章を読んで,
743 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
744
745
746 【事実】
747 1.Aは,
748 年来の友人であるBから,
749 B所有の甲建物の購入を持ち掛けられた。
750
751 Aは,
752 甲建物を気
753 に入り,
754 平成23年7月14日,
755 Bとの間で,
756 甲建物を1000万円で購入する旨の契約を締
757 結し,
758 同日,
759 Bに対して代金全額を支払った。
760
761 この際,
762 法律の知識に乏しいAは,
763 甲建物を管
764 理するために必要であるというBの言葉を信じ,
765 Aが甲建物の使用を開始するまでは甲建物の
766 登記名義を引き続きBが保有することを承諾した。
767
768
769 2.Bは,
770 自身が営む事業の資金繰りに窮していたため,
771 Aに甲建物を売却した当時から,
772 甲建物
773 の登記名義を自分の下にとどめ,
774 折を見て甲建物を他の者に売却して金銭を得ようと企ててい
775 た。
776
777 もっとも,
778 平成23年9月に入り,
779 親戚から「不動産を買ったのならば登記名義を移して
780 もらった方がよい。
781
782 」という助言を受けたAが,
783 甲建物の登記を求めてきたため,
784 Bは,
785 法律に
786 疎いAが自分を信じ切っていることを利用して,
787 何らかの方法でAを欺く必要があると考えた。
788
789
790 そこで,
791 Bは,
792 実際にはAからの借金は一切存在しないにもかかわらず,
793 AのBに対する30
794 0万円の架空の貸金債権(貸付日平成23年9月21日,
795 弁済期平成24年9月21日)を担
796 保するためにBがAに甲建物を譲渡する旨の譲渡担保設定契約書と,
797 譲渡担保を登記原因とす
798 る甲建物についての所有権移転登記の登記申請書を作成した上で,
799 平成23年9月21日,
800
801 を呼び出し,
802 これらの書面を提示した。
803
804 Aは,
805 これらの書面の意味を理解できなかったが,
806
807 れで甲建物の登記名義の移転は万全であるというBの言葉を鵜呑みにし,
808 書面を持ち帰って検
809 討したりすることなく,
810 その場でそれらの書面に署名・押印した。
811
812 同日,
813 Bは,
814 これらの書面
815 を用いて,
816 甲建物について譲渡担保を登記原因とする所有権移転登記(以下「本件登記」とい
817 う。
818
819 )を行った。
820
821
822 3.平成23年12月13日,
823 Bは,
824 不動産業者Cとの間で,
825 甲建物をCに500万円で売却する
826 旨の契約を締結し,
827 同日,
828 Cから代金全額を受領するとともに,
829 甲建物をCに引き渡した。
830
831
832 の契約の締結に際して,
833 Bは,
834 【事実】2の譲渡担保設定契約書と甲建物の登記事項証明書をC
835 に提示した上で,
836 甲建物にはAのために譲渡担保が設定されているが,
837 弁済期にCがAに対し
838 【事実】2の貸金債権を弁済することにより,
839 Aの譲渡担保権を消滅させることができる旨を
840 説明し,
841 このことを考慮して甲建物の代金が低く設定された。
842
843 Cは,
844 Aが実際には甲建物の譲
845 渡担保権者でないことを知らなかったが,
846 知らなかったことについて過失があった。
847
848
849 4.平成24年9月21日,
850 Cは,
851 A宅に出向き,
852 自分がBに代わって【事実】2の貸金債権を弁
853 済する旨を伝え,
854 300万円及びこれに対する平成23年9月21日から平成24年9月21
855 日までの利息に相当する金額を現金でAに支払おうとしたが,
856 Aは,
857 Bに金銭を貸した覚えは
858 ないとして,
859 その受領を拒んだ。
860
861 そのため,
862 Cは,
863 同日,
864 債権者による受領拒否を理由として,
865
866 弁済供託を行った。
867
868
869 〔設問1〕
870 Cは,
871 Aに対し,
872 甲建物の所有権に基づき,
873 本件登記の抹消登記手続を請求することができ
874 るかどうかを検討しなさい。
875
876
877 【事実(続き)】
878 5.平成25年3月1日,
879 AとCとの間で,
880 甲建物の所有権がCに帰属する旨の裁判上の和解が成
881 立した。
882
883 それに従って,
884 Cを甲建物の所有者とする登記が行われた。
885
886
887
888 6.平成25年4月1日,
889 Cは甲建物をDに賃貸した。
890
891 その賃貸借契約では,
892 契約期間は5年,
893
894 料は近隣の賃料相場25万円よりも少し低い月額20万円とし,
895 通常の使用により必要となる
896 修繕については,
897 その費用をDが負担することが合意された。
898
899 その後,
900 Dは,
901 甲建物を趣味の
902 油絵を描くアトリエとして使用していたが,
903 本業の事業が忙しくなったことから甲建物をあま
904 り使用しなくなった。
905
906 そこで,
907 Dは,
908 Cの承諾を得て,
909 平成26年8月1日,
910 甲建物をEに転
911 貸した。
912
913 その転貸借契約では,
914 契約期間は2年,
915 賃料は従前のDE間の取引関係を考慮して,
916
917 月額15万円とすることが合意されたが,
918 甲建物の修繕に関して明文の条項は定められなかっ
919 た。
920
921
922 7.その後,
923 Eは甲建物を使用していたが,
924 平成27年2月15日,
925 甲建物に雨漏りが生じた。
926
927
928 は,
929 借主である自分が甲建物の修繕費用を負担する義務はないと考えたが,
930 同月20日,
931 修理
932 業者Fに甲建物の修理を依頼し,
933 その費用30万円を支払った。
934
935
936 8.平成27年3月10日,
937 Cは,
938 Dとの間で甲建物の賃貸借契約を同年4月30日限り解除する
939 旨合意した。
940
941 そして,
942 Cは,
943 同年3月15日,
944 Eに対し,
945 CD間の甲建物の賃貸借契約は合意
946 解除されるので,
947 同年4月30日までに甲建物を明け渡すか,
948 もし明け渡さないのであれば,
949
950 同年5月以降の甲建物の使用について相場賃料である月額25万円の賃料を支払うよう求めた
951 が,
952 Eはこれを拒絶した。
953
954
955 9.平成27年5月18日,
956 Eは,
957 Cに対し,
958 【事実】7の甲建物の修繕費用30万円を支払うよ
959 う求めた。
960
961
962 〔設問2〕
963 CD間の賃貸借契約が合意解除された場合にそれ以後のCE間の法律関係はどのようになる
964 かを踏まえて,
965 【事実】8に記したCのEに対する請求及び【事実】9に記したEのCに対する
966 請求が認められるかどうかを検討しなさい。
967
968
969
970 (出題の趣旨)
971 本設問は,
972 @不動産の第1譲受人が備えた登記が実体的権利関係に合致しないた
973 めに第2譲受人の登場を招いたという事案を題材として,
974 第1譲受人が備えた登記
975 の有効性に絡める形で,
976 実体的権利関係に合致しない不動産登記を信頼して取引関
977 係に入った第三者の保護の在り方を問う(設問1)とともに,
978 A不動産の転貸借が
979 された後,
980 原賃貸借が合意解除された場合に,
981 転貸借がどのように取り扱われるか
982 を踏まえて,
983 その際の原賃貸人と転借人との法的関係を問う(設問2)ものであり,
984
985 民法の基本的な知識や,
986 事案に即した分析能力,
987 論理的な思考力があるかを試すも
988 のである。
989
990
991
992 [商
993
994 法]
995
996 次の文章を読んで,
997 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
998
999
1000 1.X株式会社(以下「X社」という。
1001
1002 )は,
1003 会社法上の公開会社であり,
1004 株券発行会社ではない。
1005
1006
1007 X社は,
1008 種類株式発行会社ではなく,
1009 その発行可能株式総数は10万株であり,
1010 発行済株式の総
1011 数は4万株(議決権の総数も4万個)である。
1012
1013 X社の事業年度は6月1日から翌年5月31日ま
1014 でであり,
1015 定時株主総会の議決権の基準日は5月31日である。
1016
1017
1018 2.X社は,
1019 主たる事業である電子機器の製造・販売業は堅調であったが,
1020 業績拡大の目的で多額の
1021 投資を行って開始した電力事業の不振により多額の負債を抱え,
1022 このままでは債務超過に陥るお
1023 それがあった。
1024
1025
1026 そこで,
1027 X社は,
1028 この状況から脱却するため,
1029 電力事業を売却し,
1030 同事業から撤退するととも
1031 に,
1032 募集株式を発行し,
1033 債権者に当該募集株式を引き受けてもらうことにより負債を減少させる
1034 計画を立てた。
1035
1036
1037 3.X社は,
1038 同社に対して5億円の金銭債権(弁済期平成28年7月1日)を有するA株式会社(以
1039 下「A社」という。
1040
1041 )に対し,
1042 A社のX社に対する同債権を利用して,
1043 募集株式1万株を発行する
1044 こととして(払込金額は5万円,
1045 出資の履行の期日は平成28年5月27日),
1046 A社にその旨の申
1047 入れをしたところ,
1048 A社の了解を得ることができた。
1049
1050
1051 なお,
1052 当該募集株式の払込金額5万円は,
1053 A社に特に有利な金額ではない。
1054
1055 また,
1056 A社は,
1057
1058 該募集株式の発行を受けるまで,
1059 X社の株式を有していなかった。
1060
1061
1062 〔設問1〕
1063 X社がA社に対してX社の募集株式1万株を発行するに当たって,
1064 上記3のA社のX社に対す
1065 る5億円の金銭債権を利用するには,
1066 どのような方法が考えられるか,
1067 論じなさい。
1068
1069 なお,
1070 これ
1071 を論ずるに当たっては,
1072 その方法を採る場合に会社法上必要となる手続についても,
1073 言及しなさ
1074 い。
1075
1076
1077 4.X社は,
1078 電力事業の売却及び上記3の募集株式の発行により負債額を減少し,
1079 債権者に対する月
1080 々の弁済額を減額することができたが,
1081 電力事業によって生じた負債が完全に解消されたわけで
1082 はなかった。
1083
1084 また,
1085 主たる事業においても,
1086 大口の取引先が倒産したことなどによって事業計画
1087 に狂いが生じ,
1088 新たに資金調達をする必要が生じた。
1089
1090 そこで,
1091 X社代表取締役Yは,
1092 Yの親族が
1093 経営し,
1094 X社と取引関係のないZ株式会社(以下「Z社」という。
1095
1096 )に3億円を出資してもらって
1097 X社の募集株式を発行することとした(払込金額は5万円,
1098 出資の履行の期日は平成29年2月
1099 1日)。
1100
1101 ところが,
1102 X社において当該募集株式についての募集事項の決定をした後,
1103 Yは,
1104 Z社か
1105 ら,
1106 同社が行っている事業が急激に悪化したことにより,
1107 3億円を払い込むことができない旨を
1108 告げられた。
1109
1110 Z社の払込みがされずに,
1111 当該募集株式の発行ができないこととなると,
1112 X社の財
1113 務状態に対する信用が更に悪化するだけでなく,
1114 払込みをすることができなかったZ社の信用も
1115 悪化することが懸念された。
1116
1117 そこで,
1118 YとZ社は,
1119 協議した上で,
1120 Z社がX社の連帯保証を受け
1121 て金融機関から3億円を借り入れ,
1122 これを当該募集株式の払込金額の払込みに充てるとともに,
1123
1124 当該払込金をもって直ちに当該借入金を弁済することとした。
1125
1126
1127 5.Z社は,
1128 平成29年2月1日,
1129 X社の連帯保証を受けて,
1130 金融機関(X社が定めた払込取扱機関
1131 とは異なる。
1132
1133 )から3億円を借り入れ,
1134 同日,
1135 当該3億円をもって当該募集株式の払込金額の払込
1136 みに充て,
1137 X社は,
1138 Z社に対して,
1139 当該募集株式6000株を発行した。
1140
1141
1142 なお,
1143 当該募集株式の払込金額5万円は,
1144 Z社に特に有利な金額ではない。
1145
1146 また,
1147 Z社は,
1148
1149
1150 該募集株式の発行を受けるまで,
1151 X社の株式を有していなかった。
1152
1153
1154 6.X社は,
1155 平成29年2月2日,
1156 当該払込金をX社の預金口座から引き出して,
1157 上記5のZ社の借
1158 入金債務を弁済した。
1159
1160
1161 7.その後も,
1162 Z社の事業の状態は,
1163 悪化の一途をたどった。
1164
1165 Z社の債権者であるB株式会社(以下
1166 「B社」という。
1167
1168 )は,
1169 このままではZ社から弁済を受けることができなくなることを危惧し,
1170
1171 社の保有する上記5のX社の株式をもって,
1172 Z社のB社に対する債務を代物弁済するよう求め,
1173
1174 Z社もこれに応ずることとした。
1175
1176
1177 そこで,
1178 平成29年5月29日,
1179 Z社は,
1180 B社に当該株式の全部をもって代物弁済し,
1181 また,
1182
1183 B社は,
1184 当該株式について,
1185 X社から株主名簿の名義書換えを受けた。
1186
1187
1188 〔設問2〕
1189 (1)
1190
1191 上記5の募集株式の発行に関して,
1192 X社の株主であるCが,
1193 Y及びZ社に対して,
1194 会社法上
1195 どのような責任を追及することができるか,
1196 その手段を含めて論じなさい。
1197
1198
1199
1200 (2)
1201
1202 上記7の代物弁済を受けたB社は,
1203 X社の定時株主総会において,
1204 当該株式につき議決権を
1205 行使することができるか,
1206 論じなさい。
1207
1208 なお,
1209 これを論ずるに当たっては,
1210 上記5の募集株式
1211 の発行の効力についても,
1212 言及しなさい。
1213
1214
1215
1216 (出題の趣旨)
1217 本問は,
1218 募集株式の発行に当たって,
1219 募集株式を発行する株式会社に対する金銭
1220 債権を利用する方法,
1221 払込みが仮装された場合の取締役等の責任及び責任追及の方
1222 法,
1223 払込みが仮装された株式の譲受人が当該株式について議決権を行使することの
1224 可否を問うものである。
1225
1226
1227 解答に際して,
1228 設問1については,
1229 現物出資の手続(取締役会決議による募集事
1230 項の決定,
1231 検査役の選任の要否(会社法第207条第9項第5号参照)等)や募集
1232 株式を発行する株式会社からする相殺の可否(同法第208条第3項参照)及びそ
1233 の要件・手続について,
1234 論ずることが求められる。
1235
1236 設問2(1)については,
1237 Z社の
1238 払込みが仮装払込みに該当するかどうかを検討した上で,
1239 その場合の取締役及び株
1240 式を引き受けた者の責任(同法第213条の2,
1241 第213条の3等)について,
1242
1243 ずれも株主代表訴訟の対象となることを含めて,
1244 論ずることが求められる。
1245
1246 また,
1247
1248 設問2(2)については,
1249 B社が払込みが仮装された株式の譲受人に該当することを
1250 前提に,
1251 当該株式につき議決権を行使することができるかについて,
1252 同法第209
1253 条第3項の規定を踏まえて,
1254 当該株式の発行の効力(払込みが仮装されたことが当
1255 該株式の発行の無効事由になるか)についても言及しながら,
1256 整合的に論ずること
1257 が求められる。
1258
1259
1260
1261 [民事訴訟法](〔設問1〕と〔設問2〕の配点の割合は,
1262 1:1)
1263 次の文章を読んで,
1264 後記の〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1265
1266
1267 【事例】
1268 Yは,
1269 甲土地の所有者であったが,
1270 甲土地については,
1271 Aとの間で,
1272 賃貸期間を20年とし,
1273
1274 の期間中は定額の賃料を支払う旨の賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。
1275
1276 )を締結してお
1277 り,
1278 Aはその土地をゴルフ場用地として利用していた。
1279
1280 その後,
1281 甲土地は,
1282 XとYとの共有となっ
1283 た。
1284
1285 しかし,
1286 甲土地の管理は引き続きYが行っており,
1287 YA間の本件賃貸借契約も従前どおり維持
1288 されていた。
1289
1290 そして,
1291 Aからの賃料については,
1292 Yが回収を行い,
1293 Xに対してはその持分割合に応
1294 じた額が回収した賃料から交付されていた。
1295
1296
1297 ところが,
1298 ある時点からYはXに対してこれを交付しないようになったので,
1299 Xから委任を受
1300 けた弁護士LがYと裁判外で交渉をしたものの,
1301 Yは支払に応じなかった。
1302
1303 そこで,
1304 弁護士Lは,
1305
1306 回収した賃料のうちYの持分割合を超える部分についてはYが不当に利得しているとして,
1307 Yに対
1308 して不当利得返還請求訴訟を提起することとした。
1309
1310
1311 なお,
1312 弁護士Lが確認したところによると,
1313 Aが運営するゴルフ場の経営は極めて順調であり,
1314
1315 本件賃貸借契約が締結されてからこの10年間本件賃貸借契約の約定どおりに賃料の支払を続けて
1316 いて,
1317 これまで未払はないとのことであった。
1318
1319
1320 〔設問1〕
1321 下記の弁護士Lと司法修習生Pとの会話を読んだ上で,
1322 訴え提起の時点では未発生である利得
1323 分も含めて不当利得返還請求訴訟を提起することの適法性の有無について論じなさい。
1324
1325
1326 弁護士L:今回の不当利得返還請求訴訟において,
1327 Xは,
1328 何度も訴訟を提起したくないというこ
1329 とで,
1330 この際,
1331 残りの賃貸期間に係る利得分についても請求をしたいと希望していま
1332 す。
1333
1334 そうすると,
1335 訴え提起の時点では未発生である利得分についても請求することに
1336 なりますが,
1337 何か問題はありそうですか。
1338
1339
1340 修習生P:そのような請求を認めると,
1341 相手方であるYに不利益が生じてしまうかもしれません。
1342
1343
1344 特に口頭弁論終結後に発生する利得分をどう考えるかが難しそうです。
1345
1346
1347 弁護士L:そうですね。
1348
1349 その点にも配慮しつつ,
1350 今回の不当利得返還請求訴訟において未発生の
1351 利得分まで請求をすることが許されないか,
1352 検討してみてください。
1353
1354
1355 【事例(続き)】
1356 弁護士Lは,
1357 Xと相談した結果,
1358 差し当たり,
1359 訴え提起の時点までに既に発生した利得分の合
1360 計300万円のみを不当利得返還請求権に基づいて請求することとした。
1361
1362
1363 これに対し,
1364 Yは,
1365 この訴訟(以下「第1訴訟」という。
1366
1367 )の口頭弁論期日において,
1368 Xに対し
1369 て有する500万円の貸金債権(以下「本件貸金債権」という。
1370
1371 )とXの有する上記の不当利得返
1372 還請求権に係る債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。
1373
1374
1375 第1訴訟の受訴裁判所は,
1376 審理の結果,
1377 Xの不当利得返還請求権に係る債権については300
1378 万円全額が認められる一方,
1379 Yの本件貸金債権は500万円のうち450万円が弁済されている
1380 ため50万円の範囲でのみ認められるとの心証を得て,
1381 その心証に従った判決(以下「前訴判決」
1382 という。
1383
1384 )をし,
1385 前訴判決は確定した。
1386
1387
1388 ところが,
1389 その後,
1390 Yは,
1391 本件貸金債権のうち前訴判決において相殺が認められた50万円を
1392 除く残額450万円はいまだ弁済されていないとして,
1393 Xに対し,
1394 その支払を求めて貸金返還請
1395
1396 求訴訟(以下「第2訴訟」という。
1397
1398 )を提起した。
1399
1400
1401 〔設問2〕
1402 第2訴訟において,
1403 受訴裁判所は,
1404 貸金債権の存否について改めて審理・判断をすることがで
1405 きるか,
1406 検討しなさい。
1407
1408
1409
1410 (出題の趣旨)
1411 設問1は,
1412 将来にわたり継続的に発生する不当利得の返還を求める訴えに関して,
1413
1414 将来の給付の訴えと現在の給付の訴えとの区別の基準及び将来の給付の訴えの利益
1415 の判断要件等について問うものである。
1416
1417 特に,
1418 将来の給付の訴えについての民事訴
1419 訟法第135条の趣旨に触れつつ,
1420 将来の給付の訴えの利益の判断要件について関
1421 連する最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁等
1422 にも言及しながら自説を展開した上で,
1423 本件事案における具体的な事実関係を踏ま
1424 えた当てはめが求められている。
1425
1426
1427 設問2は,
1428 不当利得返還請求訴訟において,
1429 被告から相殺の抗弁が提出された場
1430 合において,
1431 その自働債権の一部の存在が認められて受働債権の一部と相殺され,
1432
1433 一部認容判決がされたときに,
1434 自働債権に関してどの範囲で既判力が生ずるのか等
1435 について問うものである。
1436
1437 既判力の根拠規定である民事訴訟法第114条の趣旨を
1438 踏まえつつ,
1439 例外的に相殺に既判力を認めた同条第2項の「相殺をもって対抗した
1440 額」についての解釈論を展開することが求められている。
1441
1442 また,
1443 既判力が自働債権
1444 の全体には生じないとの見解を採用した場合にも,
1445 そのような結論が後訴における
1446 不当な蒸し返しを招かないかについて検討をし,
1447 自説を展開することが求められて
1448 いる。
1449
1450
1451
1452 [刑
1453
1454 法]
1455
1456 以下の事例に基づき,
1457 甲及び乙の罪責について論じなさい(特別法違反の点を除く。
1458
1459 )。
1460
1461
1462
1463
1464 甲(40歳,
1465 男性)は,
1466 公務員ではない医師であり,
1467 A私立大学附属病院(以下「A病院」と
1468 いう。
1469
1470 )の内科部長を務めていたところ,
1471 V(35歳,
1472 女性)と交際していた。
1473
1474 Vの心臓には特
1475 異な疾患があり,
1476 そのことについて,
1477 甲とVは知っていたが,
1478 通常の診察では判明し得ないもの
1479 であった。
1480
1481
1482
1483
1484
1485 甲は,
1486 Vの浪費癖に嫌気がさし,
1487 某年8月上旬頃から,
1488 Vに別れ話を持ち掛けていたが,
1489 Vか
1490 ら頑なに拒否されたため,
1491 Vを殺害するしかないと考えた。
1492
1493 甲は,
1494 Vがワイン好きで,
1495 気に入っ
1496 たワインであれば,
1497 2時間から3時間でワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を一人で飲
1498 み切ることを知っていたことから,
1499 劇薬を混入したワインをVに飲ませてVを殺害しようと考え
1500 た。
1501
1502
1503 甲は,
1504 同月22日,
1505 Vが飲みたがっていた高級ワイン1本(750ミリリットルの瓶入り)を
1506 購入し,
1507 同月23日,
1508 甲の自宅において,
1509 同ワインの入った瓶に劇薬Xを注入し,
1510 同瓶を梱包し
1511 た上,
1512 自宅近くのコンビニエンスストアからVが一人で住むV宅宛てに宅配便で送った。
1513
1514 劇薬X
1515 の致死量(以下「致死量」とは,
1516 それ以上の量を体内に摂取すると,
1517 人の生命に危険を及ぼす量
1518 をいう。
1519
1520 )は10ミリリットルであるが,
1521 甲は,
1522 劇薬Xの致死量を4ミリリットルと勘違いして
1523 いたところ,
1524 Vを確実に殺害するため,
1525 8ミリリットルの劇薬Xを用意して同瓶に注入した。
1526
1527
1528 のため,
1529 甲がV宅宛てに送ったワインに含まれていた劇薬Xの量は致死量に達していなかったが,
1530
1531 心臓に特異な疾患があるVが,
1532 その全量を数時間以内で摂取した場合,
1533 死亡する危険があった。
1534
1535
1536 なお,
1537 劇薬Xは,
1538 体内に摂取してから半日後に効果が現れ,
1539 ワインに混入してもワインの味や臭
1540 いに変化を生じさせないものであった。
1541
1542
1543 同月25日,
1544 宅配業者が同瓶を持ってV宅前まで行ったが,
1545 V宅が留守であったため,
1546 V宅の
1547 郵便受けに不在連絡票を残して同瓶を持ち帰ったところ,
1548 Vは,
1549 同連絡票に気付かず,
1550 同瓶を受
1551 け取ることはなかった。
1552
1553
1554
1555
1556
1557 同月26日午後1時,
1558 Vが熱中症の症状を訴えてA病院を訪れた。
1559
1560 公務員ではない医師であり,
1561
1562 A病院の内科に勤務する乙(30歳,
1563 男性)は,
1564 Vを診察し,
1565 熱中症と診断した。
1566
1567 乙からVの治
1568 療方針について相談を受けた甲は,
1569 Vが生きていることを知り,
1570 Vに劇薬Yを注射してVを殺害
1571 しようと考えた。
1572
1573 甲は,
1574 劇薬Yの致死量が6ミリリットルであること,
1575 Vの心臓には特異な疾患
1576 があるため,
1577 Vに致死量の半分に相当する3ミリリットルの劇薬Yを注射すれば,
1578 Vが死亡する
1579 危険があることを知っていたが,
1580 Vを確実に殺害するため,
1581 6ミリリットルの劇薬YをVに注射
1582 しようと考えた。
1583
1584 そして,
1585 甲は,
1586 乙のA病院への就職を世話したことがあり,
1587 乙が甲に恩義を感
1588 じていることを知っていたことから,
1589 乙であれば,
1590 甲の指示に忠実に従うと思い,
1591 乙に対し,
1592
1593 薬Yを熱中症の治療に効果のあるB薬と偽って渡し,
1594 Vに注射させようと考えた。
1595
1596
1597 甲は,
1598 同日午後1時30分,
1599 乙に対し,
1600 「VにB薬を6ミリリットル注射してください。
1601
1602 私は
1603 これから出掛けるので,
1604 後は任せます。
1605
1606 」と指示し,
1607 6ミリリットルの劇薬Yを入れた容器を渡
1608 した。
1609
1610 乙は,
1611 甲に「分かりました。
1612
1613 」と答えた。
1614
1615 乙は,
1616 甲が出掛けた後,
1617 甲から渡された容器を
1618 見て,
1619 同容器に薬剤名の記載がないことに気付いたが,
1620 甲の指示に従い,
1621 同容器の中身を確認せ
1622 ずにVに注射することにした。
1623
1624
1625 乙は,
1626 同日午後1時40分,
1627 A病院において,
1628 甲から渡された容器内の劇薬YをVの左腕に注
1629 射したが,
1630 Vが痛がったため,
1631 3ミリリットルを注射したところで注射をやめた。
1632
1633 乙がVに注射
1634 した劇薬Yの量は,
1635 それだけでは致死量に達していなかったが,
1636 Vは,
1637 心臓に特異な疾患があっ
1638 たため,
1639 劇薬Yの影響により心臓発作を起こし,
1640 同日午後1時45分,
1641 急性心不全により死亡し
1642
1643 た。
1644
1645 乙は,
1646 Vの心臓に特異な疾患があることを知らず,
1647 内科部長である甲の指示に従って熱中症
1648 の治療に効果のあるB薬と信じて注射したものの,
1649 甲から渡された容器に薬剤名の記載がないこ
1650 とに気付いたにもかかわらず,
1651 その中身を確認しないままVに劇薬Yを注射した点において,
1652
1653 の死の結果について刑事上の過失があった。
1654
1655
1656
1657
1658 乙は,
1659 A病院において,
1660 Vの死亡を確認し,
1661 その後の検査の結果,
1662 Vに劇薬Yを注射したこと
1663 が原因でVが心臓発作を起こして急性心不全により死亡したことが分かったことから,
1664 Vの死亡
1665 について,
1666 Vに対する劇薬Yの注射を乙に指示した甲にまで刑事責任の追及がなされると考えた。
1667
1668
1669 乙は,
1670 A病院への就職の際,
1671 甲の世話になっていたことから,
1672 Vに注射した自分はともかく,
1673
1674 には刑事責任が及ばないようにしたいと思い,
1675 専ら甲のために,
1676 Vの親族らがVの死亡届に添付
1677 してC市役所に提出する必要があるVの死亡診断書に虚偽の死因を記載しようと考えた。
1678
1679
1680 乙は,
1681 同月27日午後1時,
1682 A病院において,
1683 死亡診断書用紙に,
1684 Vが熱中症に基づく多臓器
1685 不全により死亡した旨の虚偽の死因を記載し,
1686 乙の署名押印をしてVの死亡診断書を作成し,
1687
1688 日,
1689 同死亡診断書をVの母親Dに渡した。
1690
1691 Dは,
1692 同月28日,
1693 同死亡診断書記載の死因が虚偽で
1694 あることを知らずに,
1695 同死亡診断書をVの死亡届に添付してC市役所に提出した。
1696
1697
1698
1699 (出題の趣旨)
1700 本問は,
1701 医師甲が,
1702 劇薬Xを混入したワインをVに飲ませてVを殺害しようと
1703 考え,
1704 劇薬Xをワインの入った瓶に注入し,
1705 同瓶をV宅宛に宅配便で送ったが,
1706
1707 宅が留守であったため,
1708 Vが同瓶を受け取ることはなかったこと(Vの心臓には特
1709 異な疾患があり,
1710 そのことを甲は知っていた。
1711
1712 また,
1713 劇薬Xの致死量は10ミリリ
1714 ットルであり,
1715 甲は致死量を4ミリリットルと勘違いしていたところ,
1716 Vを確実に
1717 殺害するため,
1718 8ミリリットルの劇薬Xを同瓶に注入したが,
1719 Vがその全量を摂取
1720 した場合,
1721 死亡する危険があった。
1722
1723 ),
1724 甲が,
1725 Vに劇薬Yを注射してVを殺害しよ
1726 うと考え,
1727 医師乙に6ミリリットルの劇薬Yを渡してVに注射させたところ,
1728 Vが
1729 痛がったため,
1730 3ミリリットルを注射したところで注射をやめたが,
1731 Vは劇薬Yの
1732 影響により心臓発作を起こし,
1733 急性心不全により死亡したこと(乙は,
1734 甲から渡さ
1735 れた容器に薬剤名の記載がないことに気付いたが,
1736 その中身を確認せずにVに劇薬
1737 Yを注射した。
1738
1739 また,
1740 甲は,
1741 劇薬Yの致死量が6ミリリットルであること,
1742 心臓に
1743 特異な疾患があるVに3ミリリットルの劇薬Yを注射すれば,
1744 Vが死亡する危険が
1745 あることを知っていたが,
1746 乙は,
1747 Vの心臓に特異な疾患があることを知らなかった。
1748
1749 ),
1750
1751 公務員ではない医師乙が,
1752 専ら甲のために虚偽の死因を記載したVの死亡診断書
1753 を作成し,
1754 Vの母親Dを介して,
1755 同死亡診断書をC市役所に提出したことを内容と
1756 する事例について,
1757 甲及び乙の罪責に関する論述を求めるものである。
1758
1759
1760 甲の罪責については,
1761 殺人未遂罪又は殺人予備罪,
1762 殺人罪の成否を,
1763 乙の罪責に
1764 ついては,
1765 業務上過失致死罪,
1766 虚偽診断書作成罪及び同行使罪,
1767 証拠隠滅罪,
1768 犯人
1769 隠避罪の成否を検討する必要があるところ,
1770 事実を的確に分析するとともに,
1771 各罪
1772 の構成要件,
1773 離隔犯における実行の着手時期,
1774 未遂犯と不能犯の区別又は予備行為
1775 の危険性,
1776 間接正犯の成否,
1777 因果関係の有無等に関する基本的理解と事例への当て
1778 はめが論理的一貫性を保って行われていることが求められる。
1779
1780
1781
1782 [刑事訴訟法]
1783 次の【事例】を読んで,
1784 後記〔設問1〕及び〔設問2〕に答えなさい。
1785
1786
1787 【事
1788
1789 例】
1790 平成29年5月21日午後10時頃,
1791 H県I市J町1丁目2番3号先路上において,
1792 Vがサバイ
1793
1794 バルナイフでその胸部を刺されて殺害される事件が発生し,
1795 犯人はその場から逃走した。
1796
1797
1798 Wは,
1799 たまたま同所を通行中に上記犯行を目撃し,
1800 「待て。
1801
1802 」と言いながら,
1803 直ちに犯人を追跡し
1804 たが,
1805 約1分後,
1806 犯行現場から約200メートルの地点で見失った。
1807
1808
1809 通報により駆けつけた警察官は,
1810 Wから,
1811 犯人の特徴及び犯人の逃走した方向を聞き,
1812 Wの指し
1813 示した方向を探した結果,
1814 犯行から約30分後,
1815 犯行現場から約2キロメートル離れた路上で,
1816
1817 から聴取していた犯人の特徴と合致する甲を発見し,
1818 職務質問を実施したところ,
1819 甲は犯行を認め
1820 た。
1821
1822 警察官は,
1823 @甲をVに対する殺人罪により現行犯逮捕した。
1824
1825 なお,
1826 Vの殺害に使用されたサバ
1827 イバルナイフは,
1828 Vの胸部に刺さった状態で発見された。
1829
1830
1831 甲は,
1832 その後の取調べにおいて,
1833 「乙からVを殺害するように言われ,
1834 サバイバルナイフでVの
1835 胸を刺した。
1836
1837 」旨供述した。
1838
1839 警察官は,
1840 甲の供述に基づき,
1841 乙をVに対する殺人の共謀共同正犯の
1842 被疑事実で通常逮捕した。
1843
1844
1845 乙は,
1846 甲との共謀の事実を否認したが,
1847 検察官は,
1848 関係各証拠から,
1849 乙には甲との共謀共同正犯
1850 が成立すると考え,
1851 A「被告人は,
1852 甲と共謀の上,
1853 平成29年5月21日午後10時頃,
1854 H県I市
1855 J町1丁目2番3号先路上において,
1856 Vに対し,
1857 殺意をもって,
1858 甲がサバイバルナイフでVの胸部
1859 を1回突き刺し,
1860 よって,
1861 その頃,
1862 同所において,
1863 同人を左胸部刺創による失血により死亡させて
1864 殺害したものである。
1865
1866 」との公訴事実により乙を公判請求した。
1867
1868
1869 検察官は,
1870 乙の公判前整理手続において,
1871 裁判長からの求釈明に対し,
1872 B「乙は,
1873 甲との間で,
1874
1875 平成29年5月18日,
1876 甲方において,
1877 Vを殺害する旨の謀議を遂げた。
1878
1879 」旨釈明した。
1880
1881 これに対
1882 し,
1883 乙の弁護人は,
1884 甲との共謀の事実を否認し,
1885 「乙は,
1886 同日は終日,
1887 知人である丙方にいた。
1888
1889 」旨
1890 主張したため,
1891 本件の争点は,
1892 「甲乙間で,
1893 平成29年5月18日,
1894 甲方において,
1895 Vを殺害する
1896 旨の謀議があったか否か。
1897
1898 」であるとされ,
1899 乙の公判における検察官及び弁護人の主張・立証も上
1900 記釈明の内容を前提に展開された。
1901
1902
1903 〔設問1〕
1904 @の現行犯逮捕の適法性について論じなさい。
1905
1906
1907 〔設問2〕
1908
1909
1910 Aの公訴事実は,
1911 訴因の記載として罪となるべき事実を特定したものといえるかについて論
1912
1913 じなさい。
1914
1915
1916
1917
1918 Bの検察官の釈明した事項が訴因の内容となるかについて論じなさい。
1919
1920
1921
1922
1923
1924 裁判所が,
1925 証拠調べにより得た心証に基づき,
1926 乙について,
1927 「乙は,
1928 甲との間で,
1929 平成29
1930
1931 年5月11日,
1932 甲方において,
1933 Vを殺害する旨の謀議を遂げた。
1934
1935 」と認定して有罪の判決をす
1936 ることが許されるかについて論じなさい(@の現行犯逮捕の適否が与える影響については,
1937
1938 じなくてよい。
1939
1940 )。
1941
1942
1943
1944 (出題の趣旨)
1945 本問は,
1946 殺人事件の犯行の目撃者が直ちに犯人を追跡し,
1947 約1分後,
1948 犯行現場か
1949 ら約200メートルの地点で見失ったものの,
1950 通報により駆けつけた警察官が,
1951
1952
1953 目撃者から犯人の特徴及び逃走方向を聞いて犯人を捜し,
1954 犯行から約30分後,
1955
1956 行現場から約2キロメートルの地点で,
1957 犯人の特徴と合致する甲を発見して職務質
1958 問したところ,
1959 甲が犯行を認めたため,
1960 甲を,
1961 現行犯逮捕した事例において,
1962 この
1963 逮捕が現行犯逮捕の要件(刑事訴訟法第212条第1項,
1964 同条第2項及び第213
1965 条)を充足するかを検討させるとともに,
1966 甲との共謀共同正犯が成立するとして殺
1967 人罪で起訴された乙の公判を題材に,
1968 起訴状に「甲と共謀の上」との記載及びそれ
1969 に基づく実行行為が記載されていれば訴因の特定は足りるといえるのか,
1970 共謀の成
1971 立時期について検察官が求釈明に応じた場合,
1972 その内容は訴因の内容を構成するこ
1973 とになるのか,
1974 証拠調べの結果,
1975 裁判所が検察官の釈明内容と異なる事実を認定し
1976 て有罪判決をすることが許されるのか,
1977 すなわち,
1978 事実認定に先立っての訴因変更
1979 の要否,
1980 及び,
1981 訴因変更が不要であるとしても裁判所は何らかの措置を採るべきか,
1982
1983 そうであるとすればその措置は何かを検討させることにより,
1984 現行犯逮捕・準現行
1985 犯逮捕の要件及び訴因に関連する各問題点について,
1986 基本的な学識の有無及び具体
1987 的事案における応用力を試すものである。
1988
1989
1990
1991 [民
1992
1993 事]
1994
1995 司法試験予備試験用法文を適宜参照して,
1996 以下の各設問に答えなさい。
1997
1998
1999 〔設問1〕
2000 弁護士Pは,
2001 Xから次のような相談を受けた。
2002
2003
2004 【Xの相談内容】
2005 「私は,
2006 骨董品を収集することが趣味なのですが,
2007 親友からBという人を紹介してもらい,
2008
2009 成28年5月1日,
2010 B宅に壺(以下「本件壺」という。
2011
2012 )を見に行きました。
2013
2014 Bに会ったところ,
2015
2016 Aから平成27年3月5日に,
2017 代金100万円で本件壺を買って,
2018 同日引き渡してもらったとい
2019 うことで,
2020 本件壺を見せてもらったのですが,
2021 ちょうど私が欲しかった壺であったことから,
2022
2023 非とも譲ってほしいとBにお願いしたところ,
2024 代金150万円なら譲ってくれるということで,
2025
2026 当日,
2027 本件壺を代金150万円で購入しました。
2028
2029 そして,
2030 他の人には売ってほしくなかったので,
2031
2032 親友の紹介でもあったことから信用できると思い,
2033 当日,
2034 代金150万円をBに支払い,
2035 領収書
2036 をもらいました。
2037
2038 当日は,
2039 電車で来ていたので,
2040 途中で落としたりしたら大変だと思っていたと
2041 ころ,
2042 Bが,
2043 あなた(X)のために占有しておきますということでしたので,
2044 これを了解し,
2045
2046 日,
2047 本件壺を引き取りに行くことにしました。
2048
2049
2050 平成28年6月1日,
2051 Bのところに本件壺を取りに行ったところ,
2052 Bから,
2053 本件壺は,
2054 Aから
2055 預かっていただけで,
2056 自分のものではない,
2057 あなた(X)から150万円を受け取ったこともな
2058 い,
2059 また,
2060 本件壺は,
2061 既に,
2062 Yに引き渡したので,
2063 自分のところにはないと言われました。
2064
2065
2066 すぐに,
2067 Yのところに行き,
2068 本件壺を引き渡してくれるようにお願いしたのですが,
2069 Yは,
2070
2071 件壺は,
2072 平成28年5月15日にAから代金150万円で購入したものであり,
2073 渡す必要はない
2074 と言って渡してくれません。
2075
2076
2077 本件壺の所有者は,
2078 私ですので,
2079 何の権利もないのに本件壺を占有しているYに本件壺の引渡
2080 しを求めたいと考えています。
2081
2082
2083 弁護士Pは,
2084 【Xの相談内容】を前提に,
2085 Xの訴訟代理人として,
2086 Yに対し,
2087 本件壺の引渡しを
2088 求める訴訟(以下「本件訴訟」という。
2089
2090 )を提起することを検討することとした。
2091
2092
2093 以上を前提に,
2094 以下の各問いに答えなさい。
2095
2096
2097 (1)
2098
2099 弁護士Pは,
2100 本件訴訟に先立って,
2101 Yに対して,
2102 本件壺の占有がY以外の者に移転されること
2103 に備え,
2104 事前に講じておくべき法的手段を検討することとした。
2105
2106 弁護士Pが採り得る法的手段を
2107 一つ挙げ,
2108 そのような手段を講じなかった場合に生じる問題についても併せて説明しなさい。
2109
2110
2111
2112 (2)
2113
2114 弁護士Pが,
2115 本件訴訟において,
2116 選択すると考えられる訴訟物を記載しなさい。
2117
2118 なお,
2119 代償請
2120 求については,
2121 考慮する必要はない。
2122
2123
2124
2125 (3)
2126
2127 弁護士Pは,
2128 本件訴訟の訴状(以下「本件訴状」という。
2129
2130 )において,
2131 本件壺の引渡請求を理
2132
2133 由づける事実(民事訴訟規則第53条第1項)として,
2134 次の各事実を主張した。
2135
2136
2137
2138
2139 Aは,
2140 〔@〕
2141
2142
2143
2144 Aは,
2145 平成27年3月5日,
2146 Bに対し,
2147 本件壺を代金100万円で売った。
2148
2149
2150
2151
2152
2153 〔A〕
2154
2155
2156
2157 〔B〕
2158 上記@からBまでに入る具体的事実を,
2159 それぞれ答えなさい。
2160
2161
2162
2163 (4)
2164
2165 弁護士Pは,
2166 Yが,
2167 AB間の売買契約を否認すると予想されたことから,
2168 上記(3)の法的構成
2169
2170 とは別に,
2171 仮に,
2172 Bが本件壺の所有権を有していないとしても,
2173 本件壺の引渡請求を理由づける
2174 事実(民事訴訟規則第53条第1項)の主張をできないか検討した。
2175
2176 しかし,
2177 弁護士Pは,
2178 この
2179 ような主張は,
2180 判例を踏まえると認められない可能性が高いとして断念した。
2181
2182 弁護士Pが検討し
2183 たと考えられる主張の内容(当該主張を構成する具体的事実を記載する必要はない。
2184
2185 )と,
2186 その
2187 主張を断念した理由を簡潔に説明しなさい。
2188
2189
2190 〔設問2〕
2191 弁護士Qは,
2192 本件訴状の送達を受けたYから次のような相談を受けた。
2193
2194
2195 【Yの相談内容】
2196 「私は,
2197 Aから,
2198 本件壺を買わないかと言われました。
2199
2200 壺に興味があることから,
2201 Aに見せて
2202 ほしいと言ったところ,
2203 Aは,
2204 Bに預かってもらっているということでした。
2205
2206 そこで,
2207 平成28
2208 年5月15日,
2209 B宅に見に行ったところ,
2210 一目で気に入り,
2211 Aに電話で150万円での購入を申
2212 し込み,
2213 Aが承諾してくれました。
2214
2215 私は,
2216 すぐに近くの銀行で150万円を引き出しA宅に向か
2217 い,
2218 Aに現金を交付したところ,
2219 Aが私と一緒にB宅に行ってくれて,
2220 Aから本件壺を受け取り
2221 ました。
2222
2223 したがって,
2224 本件壺の所有者は私ですから,
2225 Xに引き渡す必要はないと思います。
2226
2227
2228 弁護士Qは,
2229 【Yの相談内容】を前提に,
2230 Yの訴訟代理人として,
2231 本件訴訟における答弁書を作
2232 成するに当たり,
2233 主張することが考えられる二つの抗弁を検討したところ,
2234 抗弁に対して考えられ
2235 る再抗弁を想定すると,
2236 そのうちの一方の抗弁については,
2237 自己に有利な結論を得られる見込みは
2238 高くないと考え,
2239 もう一方の抗弁のみを主張することとした。
2240
2241
2242 以上を前提に,
2243 以下の各問いに答えなさい。
2244
2245
2246 (1)
2247
2248 弁護士Qとして主張することを検討した二つの抗弁の内容(当該抗弁を構成する具体的事実を
2249 記載する必要はない。
2250
2251 )を挙げなさい。
2252
2253
2254
2255 (2)
2256
2257 上記(1)の二つの抗弁のうち弁護士Qが主張しないこととした抗弁を挙げるとともに,
2258 その抗
2259
2260 弁を主張しないこととした理由を,
2261 想定される再抗弁の内容にも言及した上で説明しなさい。
2262
2263
2264 〔設問3〕
2265 Yに対する訴訟は,
2266 審理の結果,
2267 AB間の売買契約が認められないという理由で,
2268 Xが敗訴した。
2269
2270
2271 そこで,
2272 弁護士Pは,
2273 Xの訴訟代理人として,
2274 Bに対して,
2275 BX間の売買契約の債務不履行を理由
2276 とする解除に基づく原状回復請求としての150万円の返還請求訴訟(以下「本件第2訴訟」とい
2277 う。
2278
2279 )を提起した。
2280
2281
2282 第1回口頭弁論期日で,
2283 Bは,
2284 Xから本件壺の引渡しを催告され,
2285 相当期間が経過した後,
2286 Xか
2287 ら解除の意思表示をされたことは認めたが,
2288 BがXに対して本件壺を売ったことと,
2289 BX間の売買
2290 契約に基づいてXからBに対し150万円が支払われたことについては否認した。
2291
2292 弁護士Pは,
2293
2294 該期日において,
2295 以下の領収書(押印以外,
2296 全てプリンターで打ち出されたものである。
2297
2298 以下「本
2299 件領収書」という。
2300
2301 )を提出し,
2302 証拠として取り調べられた。
2303
2304 これに対し,
2305 Bの弁護士Rは,
2306 本件
2307 領収書の成立の真正を否認し,
2308 押印についてもBの印章によるものではないと主張している。
2309
2310
2311 その後,
2312 第1回弁論準備手続期日で,
2313 弁護士Pは,
2314 平成28年5月1日に150万円を引き出し
2315 たことが記載された]名義の預金通帳を提出し,
2316 それが取り調べられ,
2317 弁護士Rは預金通帳の成立
2318 の真正を認めた。
2319
2320
2321 第2回口頭弁論期日において,
2322 XとBの本人尋問が実施され,
2323 Xは,
2324 下記【Xの供述内容】のと
2325 おり,
2326 Bは,
2327 下記【Bの供述内容】のとおり,
2328 それぞれ供述した。
2329
2330
2331
2332
2333
2334
2335
2336
2337
2338 X 様
2339 下記金員を確かに受領しました。
2340
2341
2342 金150万円
2343 ただし,
2344 壺の代金として
2345 平成28年5月1日
2346
2347
2348
2349
2350 【Xの供述内容】
2351 「私は,
2352 平成28年5月1日に,
2353 親友の紹介でB宅を訪問し,
2354 本件壺を見せてもらいました。
2355
2356
2357 Bとは,
2358 そのときが初対面でしたが,
2359 Bは,
2360 現金150万円なら売ってもいいと言ってくれたの
2361 で,
2362 私は,
2363 すぐに近くの銀行に行き,
2364 150万円を引き出して用意しました。
2365
2366 Bは,
2367 私が銀行に
2368 行っている間に,
2369 パソコンとプリンターを使って,
2370 領収書を打ち出し,
2371 三文判ではありますが,
2372
2373 判子も押して用意してくれていたので,
2374 引き出した現金150万円をB宅で交付し,
2375 Bから領収
2376 書を受け取りました。
2377
2378 当日は,
2379 電車で来ていたので,
2380 取りあえず,
2381 壺を預かっておいてもらった
2382 のですが,
2383 同年6月1日に壺を受け取りに行った際には,
2384 Bから急に,
2385 本件壺は,
2386 Aから預かっ
2387 ているもので,
2388 あなたに売ったことはないと言われました。
2389
2390
2391 また,
2392 Yに対する訴訟で証人として証言したAが供述していたように,
2393 Aは同年5月2日にB
2394 から200万円を借金の返済として受け取っているようですが,
2395 この200万円には私が交付し
2396 た150万円が含まれていることは間違いないと思います。
2397
2398
2399 【Bの供述内容】
2400 「確かに,
2401 平成28年5月1日,
2402 Xは,
2403 私の家を訪ねてきて,
2404 本件壺を見せてほしいと言って
2405 きました。
2406
2407 私はXとは面識はありませんでしたが,
2408 知人からXを紹介されたこともあり,
2409 本件壺
2410 を見せてはあげましたが,
2411 Xから150万円は受け取っていません。
2412
2413 Xは,
2414 私に150万円を現
2415 金で渡したと言っているようですが,
2416 そんな大金を現金でもらうはずはありませんし,
2417 領収書に
2418 ついても,
2419 私の名前の判子は押してありますが,
2420 こんな判子はどこでも買えるもので,
2421 Xがパソ
2422 コンで作って,
2423 私の名前の判子を勝手に買ってきて押印したものに違いありません。
2424
2425
2426 私は,
2427 同月2日に,
2428 Aから借りていた200万円を返済したことは間違いありませんが,
2429 これ
2430 は,
2431 自分の父親からお金を借りて返済したもので,
2432 Xからもらったお金で工面したものではあり
2433 ません。
2434
2435 父親は,
2436 自宅にあった現金を私に貸してくれたようです。
2437
2438 また,
2439 父親とのやり取りだっ
2440 たので,
2441 貸し借りに当たって書面も作りませんでした。
2442
2443 その後,
2444 同年6月1日にもXが私の家に
2445 来て,
2446 本件壺を売ってくれと言ってきましたが,
2447 断っています。
2448
2449
2450 以上を前提に,
2451 以下の各問いに答えなさい。
2452
2453
2454 (1)
2455
2456 本件第2訴訟の審理をする裁判所は,
2457 本件領収書の形式的証拠力を判断するに当たり,
2458 Bの記
2459 名及びB名下の印影が存在することについて,
2460 どのように考えることになるか論じなさい。
2461
2462
2463
2464 (2)
2465
2466 弁護士Pは,
2467 本件第2訴訟の第3回口頭弁論期日までに,
2468 準備書面を提出することを予定して
2469 いる。
2470
2471 その準備書面において,
2472 弁護士Pは,
2473 前記【Xの供述内容】及び【Bの供述内容】と同内
2474 容のX及びBの本人尋問における供述並びに前記の提出された書証に基づいて,
2475 Bが否認した事
2476 実についての主張を展開したいと考えている。
2477
2478 弁護士Pにおいて準備書面に記載すべき内容を,
2479
2480
2481 提出された書証や両者の供述から認定することができる事実を踏まえて,
2482 答案用紙1頁程度の分
2483 量で記載しなさい。
2484
2485
2486
2487 (出題の趣旨)
2488 設問1は,
2489 動産の引渡請求が問題となる訴訟において,
2490 原告代理人があらかじめ
2491 講ずべき法的手段とともに,
2492 引渡請求の訴訟物や当該請求を理由付ける事実につい
2493 て説明を求めるものである。
2494
2495 民事保全の基本的理解に加えて,
2496 所有権に基づく物権
2497 的請求権の法律要件について,
2498 民事実体法及び判例で示された規律や動産取引の特
2499 殊性に留意して検討することが求められる。
2500
2501
2502 設問2は,
2503 動産の二重譲渡事案における実体法上の権利関係及びそれに係る要件
2504 事実の理解を前提に,
2505 原告の所有権喪失原因について幅広く検討した上,
2506 本件の時
2507 系列の下で予想される再抗弁の内容を念頭に,
2508 適切な抗弁を選択し,
2509 その理由を説
2510 明することが求められる。
2511
2512
2513 設問3は,
2514 二段の推定についての基本的理解と当てはめを問うとともに,
2515 原告代
2516 理人の立場から,
2517 準備書面に記載すべき事項を問うものである。
2518
2519 争点に関する書証
2520 及び当事者尋問の結果を検討し,
2521 証拠により認定することができる事実を摘示した
2522 上で,
2523 原告の主張を根拠付けるために,
2524 各認定事実に基づき,
2525 いかなる推論・評価
2526 が可能か,
2527 その過程を検討・説明することが求められる。
2528
2529
2530
2531 [刑
2532
2533 事]
2534
2535 次の【事例】を読んで,
2536 後記〔設問〕に答えなさい。
2537
2538
2539 【事
2540
2541 例】
2542
2543
2544
2545 A(26歳,
2546 男性)は,
2547 平成29年4月6日午前8時,
2548 「平成29年4月2日午前6時頃,
2549
2550 H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,
2551 V(55歳,
2552 男性)に対し,
2553 その胸部を
2554 押して同人をその場に転倒させ,
2555 よって,
2556 同人に加療期間不明の急性硬膜下血腫等の傷害を
2557 負わせた。
2558
2559 」旨の傷害事件で通常逮捕され,
2560 同月7日午前9時,
2561 検察官に送致された。
2562
2563 送致記
2564 録に編綴された主な証拠は次のとおりであった(以下,
2565 特段の断りない限り,
2566 日付はいずれ
2567 も平成29年である。
2568
2569 )。
2570
2571
2572
2573
2574 Vの受傷状況等に関する捜査報告書(証拠@)
2575 「近隣住民Wの119番通報により救急隊員が臨場した際,
2576 Vは,
2577 4月2日午前6時10
2578
2579 分頃にH県I市J町2丁目3番Kビル前(甲通り沿い)歩道上に,
2580 意識不明の状態で仰向け
2581 に倒れていた。
2582
2583 Vは,
2584 直ちにH県立病院に救急搬送され,
2585 同病院において緊急手術を受け,
2586
2587 そのまま同病院集中治療室に入院した。
2588
2589 同病院医師によれば,
2590 Vには硬い面に強打したこと
2591 に起因する急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲が認められ,
2592 Vは,
2593 手術後,
2594 意識が回復したが,
2595
2596 集中治療室での入院治療が必要であり,
2597 少なくとも1週間は取調べを受けることはできない
2598 とのことであった。
2599
2600
2601 「Vは,
2602 同市J町4丁目2番の自宅で妻と二人で居住する会社員である。
2603
2604 妻によれば,
2605
2606 は毎朝甲通りをジョギングしており,
2607 持病はないとのことであった。
2608
2609
2610
2611
2612 Wの警察官面前の供述録取書(証拠A)
2613 「私は,
2614 4月2日午前6時頃,
2615 通勤のため自宅を出て甲通りをI駅に向かって歩いている
2616 と,
2617 約50メートル先のKビル前の歩道上に,
2618 男二人と女一人(B子)が立っていて,
2619 その
2620 うち男一人(V)が歩道上に仰向けに倒れた様子が見えた。
2621
2622 そして,
2623 約10メートルまで近
2624 づいたところ,
2625 もう一人の男(A)が仰向けに倒れたVの腹の上に馬乗りになったので,
2626
2627 件であると思って立ち止まった。
2628
2629 このとき,
2630 Aは,
2631 Vの腹の上に馬乗りになった状態で,
2632
2633 『こ
2634 の野郎。
2635
2636 』と怒鳴りながら右腕を振り上げ,
2637 B子がそのAの右腕を両手でつかんだ。
2638
2639 私は,
2640
2641 自分の携帯電話機を使って,
2642 その様子を1枚写真撮影した。
2643
2644 その直後,
2645 AはVの腹の上から
2646 退いたが,
2647 Vは全く動かなかった。
2648
2649 私は,
2650 119番通報し,
2651 AとB子に『救急車を呼んだか
2652 ら,
2653 しばらく待ってください。
2654
2655 』と声を掛けた。
2656
2657 しかし,
2658 AとB子は,
2659 その場を立ち去り,
2660
2661 甲通り沿いのLマンションの中に入っていった。
2662
2663 私は,
2664 注視していなかったため,
2665 Vの転倒
2666 原因は分からない。
2667
2668 私は,
2669 A,
2670 V及びB子とは面識がない。
2671
2672
2673
2674
2675
2676 B子の警察官面前の供述録取書(証拠B)
2677 「私は,
2678 1年半前からAと交際し,
2679 半年前からLマンション202号室でAと二人で生活
2680 している。
2681
2682 私とAは,
2683 4月1日夜から同月2日明け方までカラオケをし,
2684 Lマンションに帰
2685 るため,
2686 甲通りの歩道を並んで歩いていた。
2687
2688 すると,
2689 前方からジョギング中の男(V)が走
2690 ってきて,
2691 擦れ違いざまに私にぶつかった。
2692
2693 私は,
2694 立ち止まり,
2695 Vに『すみません。
2696
2697 』と謝
2698 ったが,
2699 Vは,
2700 立ち止まり,
2701 『横に広がらずに歩けよ。
2702
2703 』と怒ってきた。
2704
2705 Aも立ち止まり,
2706
2707 奮した様子でVに言い返し,
2708 AとVが向かい合って口論となった。
2709
2710 Aは,
2711 Vの面前に詰め寄
2712 り,
2713 両手でVの胸を1回突き飛ばすように押した。
2714
2715 Vが少し後ずさりしたが,
2716
2717 『何するんだ。
2718
2719
2720 と言ってAに向き合うと,
2721 Aは両手でVの胸をもう1回突き飛ばすように押した。
2722
2723 すると,
2724
2725 Vは,
2726 後方に勢いよく転び,
2727 路上に仰向けに倒れ,
2728 後頭部を路面に打ち付けた。
2729
2730 さらに,
2731
2732 は,
2733 仰向けに寝た状態になったVの腹の上に馬乗りになり,
2734 『この野郎。
2735
2736 』と怒鳴りながら,
2737
2738
2739 右腕を振り上げてVを殴ろうとした。
2740
2741 私は,
2742 慌ててAの右腕を両手でつかんで止めた。
2743
2744 する
2745 と,
2746 AはVの体から離れたが,
2747 Vは起き上がらなかった。
2748
2749 Aは,
2750
2751 『こちらが謝っているのに,
2752
2753 文句を言ってきたのが悪いんだ。
2754
2755 放っておけ。
2756
2757 』と言った。
2758
2759 私とAは,
2760 通り掛かりの男の人
2761 から,
2762 『救急車を呼んだから,
2763 待ってください。
2764
2765 』と言われたが,
2766 VをそのままにしてLマン
2767 ションに帰った。
2768
2769
2770
2771
2772 Aの警察官面前の供述録取書(証拠C)
2773 「私は,
2774 4月2日早朝,
2775 カラオケ店から,
2776 交際相手のB子と一緒に帰る途中,
2777 B子と二人
2778 で並んで歩道を歩いていたところ,
2779 ジョギング中の男(V)が擦れ違いざまにB子にぶつか
2780 ってきた。
2781
2782 Vは,
2783 B子が謝ったにもかかわらず,
2784 『横に並んで歩くな。
2785
2786 』と怒鳴った。
2787
2788 私は,
2789
2790 VがわざとB子にぶつかってきたように感じていたので,
2791 『ここはジョギングコースじゃな
2792 いんだぞ。
2793
2794 』と言い返した。
2795
2796 私とVは口論となり,
2797 そのうち,
2798 Vは,
2799 興奮した様子で,
2800 右手
2801 で私の胸ぐらをつかんで前後に激しく揺さぶってきたが,
2802 その手を自ら離してふらつくよう
2803 に後退し,
2804 後方にひっくり返って後頭部を歩道上に打ち付けた。
2805
2806 この間,
2807 私は,
2808 Vの胸を押
2809 したことはなく,
2810 それ以外にもVの転倒原因になるような行為をしていない。
2811
2812 Vが勝手に歩
2813 道上に倒れたので,
2814 それを放ったまま自宅に戻った。
2815
2816 私は,
2817 半年前からLマンション202
2818 号室でB子と一緒に生活しており,
2819 現在,
2820 株式会社丙において会社員として働いている。
2821
2822
2823
2824
2825
2826 Aの身上調査照会回答書(証拠D)
2827 H県I市J町2丁目5番Lマンション202号室が住居として登録されている。
2828
2829
2830
2831
2832
2833 Aは,
2834 4月7日午後1時,
2835 検察官による弁解録取手続において,
2836 証拠Cと同旨の供述をした。
2837
2838
2839
2840 検察官は,
2841 弁解録取書を作成した後,
2842 H地方裁判所裁判官に対し,
2843 Aの勾留を請求した。
2844
2845 同裁
2846 判所裁判官は,
2847 同日,
2848 Aに対し,
2849 勾留質問を行い,
2850 刑事訴訟法第207条第1項の準用する
2851 同法第60条第1項第2号に定める事由があると判断して勾留状を発付した。
2852
2853
2854
2855
2856 Aは,
2857 勾留中,
2858 一貫して,
2859 Vの胸部を押してVを転倒させ,
2860 傷害を負わせた事実を否認した。
2861
2862
2863
2864 検察官は,
2865 回復したVに対する取調べ等の所要の捜査を遂げ,
2866 4月26日,
2867 H地方裁判所にA
2868 を傷害罪で公判請求した。
2869
2870 同公判請求に係る起訴状の公訴事実には,
2871 「被告人は,
2872 4月2日午
2873 前6時頃,
2874 H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,
2875 Vに対し,
2876 その胸部を両手で2
2877 回押す暴行を加え,
2878 同人をその場に転倒させてその後頭部を同歩道上に強打させ,
2879 よって,
2880
2881 人に全治3週間の急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲の傷害を負わせた。
2882
2883 」旨記載されている。
2884
2885
2886 同裁判所は,
2887 同月28日,
2888 同公判請求に係る傷害被告事件を公判前整理手続に付する決定をし
2889 た。
2890
2891
2892
2893
2894 検察官は,
2895 5月10日,
2896 前記傷害被告事件について,
2897 証明予定事実記載書を裁判所に提出す
2898
2899 るとともに弁護人に送付し,
2900 併せて,
2901 証拠の取調べを裁判所に請求し,
2902 当該証拠を弁護人に開
2903 示した。
2904
2905
2906 検察官が取調べを請求した証拠の概要は,
2907 次のとおりである。
2908
2909
2910
2911
2912 甲1号証
2913
2914 H県立病院医師作成の診断書
2915
2916 「Vは,
2917 4月2日に急性硬膜下血腫を伴う後頭部打撲を負い,
2918 全治まで3週間を要した。
2919
2920
2921
2922
2923 甲2号証
2924
2925 H県I市J町2丁目3番Kビル前歩道上において,
2926 Vを立会人として,
2927 現場
2928
2929 の状況を明らかにするために実施された実況見分の調書
2930
2931
2932 甲3号証
2933
2934 Vの検察官面前の供述録取書
2935
2936 「4月2日早朝,
2937 私が甲通りの歩道をI駅方面に向かってジョギング中,
2938 前方から,
2939 若い
2940 男(A)と女(B子)が歩道一杯に広がるように並んで歩いてきた。
2941
2942 私は,
2943 ぶつからないよ
2944 うに気を付けて走ったが,
2945 擦れ違う際に,
2946 B子がふらつくように私の方に寄ってきたために,
2947
2948 B子にぶつかった。
2949
2950 B子が私に謝ったが,
2951 私は,
2952 立ち止まり,
2953 『そんなに横に広がって歩く
2954 なよ。
2955
2956 』と注意した。
2957
2958 すると,
2959 Aは,
2960 『ここはジョギングコースじゃない。
2961
2962 』と怒鳴り,
2963 興奮
2964 した様子で私に詰め寄ってきた。
2965
2966 私がAとの距離を取るため,
2967 のけ反るように後ずさると,
2968
2969
2970 Aは,
2971 私の胸を両手で1回強く押してきた。
2972
2973 私は,
2974 更に後ずさりしながら,
2975 『何するんだ。
2976
2977
2978 と言ったが,
2979 その後のことは記憶になく,
2980 気が付いた時にはH県立病院の集中治療室にいた。
2981
2982
2983
2984
2985 甲4号証
2986
2987 写真撮影報告書
2988
2989 I警察署において,
2990 Vが甲3号証と同旨のAのVに対する暴行状況を説明し,
2991 A役とV役
2992 の警察官2名が,
2993 Vの説明に基づき,
2994 AがVの胸を両手で1回強く押した際のAとVの相互
2995 の体勢及びその動作を再現し,
2996 同再現状況が撮影された写真が貼付されている。
2997
2998
2999
3000
3001 甲5号証
3002
3003 W所有の携帯電話機に保存されていた画像データを印画した写真1枚
3004
3005 4月2日午前6時に撮影されたものであり,
3006 男(A)が,
3007 Kビル前歩道上に仰向けに寝て
3008 いる男(V)の腹部の上に馬乗りになった状態で,
3009 Aの右手掌部が右肩の位置よりも右上方
3010 の位置にあり,
3011 女(B子)が,
3012 Aの右後方から,
3013 そのAの右腕を両手でつかんでいる状況が
3014 写っている。
3015
3016
3017
3018
3019 甲6号証
3020
3021 Wの検察官面前の供述録取書
3022
3023 Wの警察官面前の供述録取書(証拠A)と同旨の供述に加え,
3024 甲5号証につき,
3025 「この写
3026 真は,
3027 私が4月2日午前6時,
3028 Kビル前歩道上において,
3029 自己の携帯電話機のカメラ機能で
3030 Aらを撮影したものである。
3031
3032 Aは,
3033 Kビル前の歩道上に仰向けに寝ているVの腹の上に馬
3034 乗りになった状態で,
3035 『この野郎。
3036
3037 』と怒鳴りながら右腕を振り上げた。
3038
3039 すると,
3040 傍らにいた
3041 B子がAの右腕を両手でつかんで止めたが,
3042 この写真はその場面が撮影されている。
3043
3044 」旨の
3045 供述が録取されている。
3046
3047
3048
3049
3050 甲7号証
3051
3052 B子の検察官面前の供述録取書
3053
3054 B子の警察官面前の供述録取書(証拠B)と同旨の供述。
3055
3056
3057
3058
3059 乙1号証
3060
3061 Aの検察官面前の供述録取書
3062
3063 Aの警察官面前の供述録取書(証拠C)と同旨の供述に加え,
3064 甲5号証につき,
3065 「この写
3066 真には,
3067 転倒したVを私が介抱しようとした状況が写っている。
3068
3069 」旨の供述が録取されてい
3070 る。
3071
3072
3073
3074
3075
3076 乙2号証
3077
3078 Aの身上調査照会回答書(証拠Dと同じ)
3079
3080 弁護人は,
3081 検察官請求証拠を閲覧・謄写した後,
3082 検察官に対して類型証拠の開示の請求を
3083
3084 し,
3085 類型証拠として開示された証拠も閲覧・謄写するなどした上,
3086 「Aが,
3087 Vに対し,
3088 公訴事
3089 実記載の暴行に及んだ事実はない。
3090
3091 Vは,
3092 興奮した状態でAの胸ぐらをつかんで前後に激しく
3093 揺さぶってきたが,
3094 このときVの何らかの疾患が影響して,
3095 自らふらついて転倒して後頭部を
3096 強打し,
3097 公訴事実記載の傷害を負ったにすぎない。
3098
3099 」旨の予定主張事実記載書を裁判所に提出
3100 するとともに検察官に送付し,
3101 併せて,
3102 検察官に対して主張関連証拠の開示の請求をした。
3103
3104
3105 5月24日から6月7日までの間,
3106 3回にわたり公判前整理手続が開かれ,
3107 弁護人は,
3108
3109 察官請求証拠に対し,
3110 甲1号証,
3111 甲2号証及び乙2号証につき,
3112 いずれも「同意」,
3113 甲3号証,
3114
3115 甲4号証(貼付された写真を含む。
3116
3117 ),
3118 甲6号証及び甲7号証につき,
3119 いずれも「不同意」,
3120
3121 5号証につき,
3122
3123 「異議あり」との意見を述べるとともに,
3124 乙1号証につき,
3125
3126 「不同意」とした上,
3127
3128 「被告人質問で明らかにするので,
3129 取調べの必要性はない。
3130
3131 」との意見を述べた。
3132
3133 検察官は,
3134
3135 V,
3136 W及びB子の証人尋問を請求した。
3137
3138 裁判所は,
3139 争点を整理した上,
3140 甲1号証,
3141 甲2号証及
3142 び乙2号証につき,
3143 証拠調べをする決定をし,
3144 甲3号証ないし甲7号証及び乙1号証の採否を
3145 留保して,
3146 V,
3147 W及びB子につき,
3148 証人として尋問をする決定をするなどし,
3149 公判前整理手続
3150 を終結した。
3151
3152
3153
3154
3155 6月19日,
3156 第1回公判期日において,
3157 冒頭手続等に続き,
3158 順次,
3159 甲1号証,
3160 甲2号証及
3161 び乙2号証の取調べ,
3162 Vの証人尋問が行われ,
3163 同尋問終了後に検察官が甲3号証及び甲4
3164 号証(貼付された写真を含む。
3165
3166 )の証拠調べ請求を撤回した。
3167
3168 同月20日,
3169 第2回公判期日に
3170 おいて,
3171 Wの証人尋問が行われ,
3172 Wは甲6号証と同旨の証言をし,
3173 裁判所が同尋問後に甲5
3174 号証の証拠調べを決定してこれを取り調べ,
3175 検察官が甲6号証の証拠調べ請求を撤回した。
3176
3177
3178
3179 続いて,
3180 B子の証人尋問が行われ,
3181 同尋問終了後,
3182 検察官は甲7号証につき刑事訴訟法第
3183 321条第1項第2号後段に該当する書面として取調べを請求した。
3184
3185 同月21日,
3186 第3回公
3187 判期日において,
3188 甲7号証の採否決定,
3189 被告人質問,
3190 乙1号証の採否決定等が行われた上で
3191 結審した。
3192
3193
3194 〔設問1〕
3195 下線部に関し,
3196 裁判官が刑事訴訟法第207条第1項の準用する同法第60条第1項第2号の
3197 「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」があると判断した思考過程を,
3198 その判断要素を踏ま
3199 え具体的事実を指摘しつつ答えなさい。
3200
3201
3202 〔設問2〕
3203 下線部の供述に関し,
3204 検察官は,
3205 Aが公訴事実記載の暴行に及んだことを立証する上で直接証
3206 拠又は間接証拠のいずれと考えているか,
3207 具体的理由を付して答えなさい。
3208
3209
3210 〔設問3〕
3211 下線部に関し,
3212 弁護人は,
3213 刑事訴訟法第316条の15第3項の「開示の請求に係る証拠を識
3214 別するに足りる事項」を「Vの供述録取書」とし,
3215 証拠の開示の請求をした。
3216
3217 同請求に当たって,
3218
3219 同項第1号イ及びロに定める事項(同号イの「開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項」は
3220 除く。
3221
3222 )につき,
3223 具体的にどのようなことを明らかにすべきか,
3224 それぞれ答えなさい。
3225
3226
3227 〔設問4〕
3228 下線部に関し,
3229 弁護人は,
3230 甲4号証(貼付された写真を含む。
3231
3232 )につき「不同意」との意見を
3233 述べたのに対し,
3234 甲5号証につき「異議あり」との意見を述べているが,
3235 弁護人がこのように異な
3236 る意見を述べた理由を,
3237 それぞれの証拠能力に言及して答えなさい。
3238
3239
3240 〔設問5〕
3241 下線部に関し,
3242 以下の各問いに答えなさい。
3243
3244
3245
3246
3247 検察官が尋問中,
3248 Vは,
3249 「私は,
3250 Kビル前歩道上でAに詰め寄られ,
3251 Aと距離を取るため,
3252
3253 け反るように後ずさると,
3254 Aに両手で胸を1回強く押された。
3255
3256 」旨証言した。
3257
3258 検察官が同証言後
3259 に,
3260 Vに甲4号証貼付の写真を示そうと考え,
3261 裁判長に同写真を示す許可を求めたところ,
3262 裁判
3263 長はこれを許可した。
3264
3265 その裁判長の思考過程を,
3266 条文上の根拠に言及して答えなさい。
3267
3268
3269
3270
3271
3272 前記許可に引き続き,
3273 Vは,
3274 甲4号証貼付の写真を示されて,
3275 同写真を引用しながら証言し,
3276
3277 同写真は証人尋問調書に添付された。
3278
3279 裁判所は,
3280 同写真を事実認定の用に供することができるか。
3281
3282
3283 同写真とVの証言内容との関係に言及しつつ理由を付して答えなさい。
3284
3285
3286
3287 〔設問6〕
3288 下線部に関し,
3289 B子の証言の要旨は次のとおりであったとして,
3290 以下の各問いに答えなさい。
3291
3292
3293 [証言の要旨]
3294
3295
3296 AのVに対する暴行状況について,
3297 「AとVがもめている様子をそばでずっと見ていた。
3298
3299 Aが
3300 Vの胸を押した事実はない。
3301
3302 Vがふらついて転倒したので,
3303 AがVを介抱しようとした。
3304
3305 AがV
3306 に馬乗りになって,
3307 『この野郎。
3308
3309 』と言って殴り掛かろうとした事実はない。
3310
3311 Vと関わりたくなか
3312 ったので,
3313 Aの腕をつかんで,
3314 『こんな人は放っておこうよ。
3315
3316 』と言った。
3317
3318 すると,
3319 AはVを介抱
3320 するのを止めて,
3321 私と一緒にその場を立ち去った。
3322
3323
3324
3325
3326
3327 捜査段階での検察官に対する供述状況について,
3328 「何を話したのか覚えていないが,
3329 嘘を話し
3330 た覚えはない。
3331
3332 録取された内容を確認した上,
3333 署名・押印したものが,
3334 甲7号証の供述録取書で
3335
3336 ある。
3337
3338
3339
3340
3341 本件事件後のAとの関係について「
3342
3343 5月に入ってからAの子を妊娠していることが分かった。
3344
3345
3346
3347
3348
3349 検察官として,
3350 刑事訴訟法第321条第1項第2号後段の要件を踏まえて主張すべき事項を具
3351 体的に答えなさい。
3352
3353
3354
3355
3356
3357 甲7号証の検察官の取調べ請求に対し,
3358 弁護人が「取調べの必要性がない。
3359
3360 」旨の意見を述べ
3361 たため,
3362 裁判長が検察官に必要性についての釈明を求めた。
3363
3364 検察官は,
3365 必要性についてどのよう
3366 に釈明すべきか答えなさい。
3367
3368
3369
3370 (出題の趣旨)
3371 本問は,
3372 暴行の有無が争点となる傷害事件を題材に,
3373 勾留における罪証隠滅のお
3374 それの判断要素(設問1),
3375 証拠から暴行事実を認定する証拠構造(設問2),
3376 類型
3377 証拠開示請求の要件(設問3 ),
3378 いわゆる被害再現写真と現場写真の証拠能力の差
3379 異(設問4 ),
3380 証人尋問における被害再現写真の利用方策(設問5),
3381 刑事訴訟法第
3382 321条第1項第2号後段書面の要件及び証拠の取調べの必要性(設問6)につい
3383 て ,
3384 【事例】に現れた証拠や事実,
3385 手続の経過を適切に把握した上で,
3386 法曹三者そ
3387 れぞれの立場から,
3388 主張・立証すべき事実やその対応についての思考過程を解答す
3389 ることを求めており,
3390 刑事事実認定の基本構造,
3391 証拠法及び証人尋問を含む公判手
3392 続等についての基本的知識の理解並びに基礎的実務能力を試すものである。
3393
3394
3395
3396 [一般教養科目]
3397 次の文章は,
3398 アリストテレス(紀元前 384 〜 322 )『弁論術』(戸塚七郎訳)の中の一節である。
3399
3400
3401 これを読んで,
3402 後記の各設問に答えなさい。
3403
3404
3405 (省
3406
3407 略)
3408
3409 (注)説得推論(enthymeme)については,
3410 別の箇所において,
3411 以下の説明がされている。
3412
3413
3414 (省
3415
3416 略)
3417
3418 〔設問1〕
3419 本文中において,
3420 アリストテレスは,
3421 弁証術(dialectic)と弁論術(rhetoric)をどのように
3422 区別しているか。
3423
3424 文中の言葉を適宜自分の言葉に置き換えつつ,
3425 15行程度でまとめなさい。
3426
3427
3428 〔設問2〕
3429 アリストテレスの言う弁論術は,
3430 今日においても,
3431 様々な場面で活用されている。
3432
3433 弁論術は,
3434
3435 それをどう使用するかによって,
3436 功罪相半ばする技術である。
3437
3438 弁論術を使用することの功罪につ
3439 いて,
3440 説得力のある具体例を一つ以上挙げつつ,
3441 20行程度で論じなさい。
3442
3443
3444 【出典】アリストテレス
3445
3446 戸塚七郎訳『弁論術』
3447
3448 (出題の趣旨)
3449 設問1及び2は,
3450 アリストテレスの「弁論術」を題材として,
3451 説得の技術である
3452 弁論術の意義について,
3453 弁証術との区別を踏まえた理解を問うものである。
3454
3455
3456 設問1は,
3457 本文の記載内容を前提に,
3458 弁証術と弁論術の区別について問うもので
3459 ある。
3460
3461 弁証術及び弁論術それぞれの意義・特徴につき,
3462 的確に説明することが求め
3463 られるが,
3464 その際,
3465 単に文中の表現を引用するのではなく,
3466 その内容を正確に理解
3467 した上で,
3468 自己の言葉に置き換えて説明することが求められる。
3469
3470
3471 設問2は,
3472 設問1で問われた弁証術と弁論術の区別についての理解を踏まえた上
3473 で,
3474 様々な場面において,
3475 弁論術が有用とされる場合及び弁論術を用いることが適
3476 切でないとされる場合について,
3477 具体例を挙げつつ,
3478 的確に論じることが求められ
3479 る。
3480
3481
3482 いずれの設問においても,
3483 全体として指定の分量で簡潔に記述する能力も求めら
3484 れる。
3485
3486
3487
3488