1 【公法系科目】
2 〔第1問〕
3 全国都道府県では,
4 青少年の健全育成を目的とした図書類の販売等に関する規制が行われ
5 ている。
6
7 本問は,
8 そのような目的にとどまらず,
9 一般市民がむやみに羞恥心等を覚えるよう
10 な卑わいな画像等に触れることがないようにして性風俗にかかる善良な市民の価値観を尊重
11 するという観点も併せ,
12 健全で文化的な環境を保持するという目的のために種々の規制を行
13 う架空の条例案について,
14 その合憲性の検討を求めるものである。
15
16 従来は,
17 訴訟の場面を想
18 定し,
19 当事者の主張等において憲法論を展開することを求める出題が通例であったが,
20 実務
21 的には,
22 必ずしも訴訟の場面に限られず,
23 法令を立案する段階においても法律家としての知
24 見が必要であることから,
25 そのような場面で憲法論をどのように活用,
26 展開するかを問う出
27 題とした。
28
29
30 法律家としての助言を求められているため,
31 具体的な条例の文言を指摘しつつ,
32 当該規定
33 で合憲といえるかどうかを答えることが不可欠であり,
34 違憲であるとする場合に,
35 条例案の
36 どの部分がどのような憲法上の規定との関係で問題なのかを具体的に指摘することが期待さ
37 れる。
38
39
40 本条例の検討に際しては,
41 問題文の最後の甲の発言にあるとおり,
42 図書類を購入する立場
43 と販売等をする店舗の立場から憲法上の権利を検討することが必要であり,
44 前者については,
45
46 憲法第21条の表現の自由に含まれる「知る自由」を,
47 後者については,
48 憲法第22条の職
49 業選択の自由に含まれる「営業の自由」の観点から検討する必要がある。
50
51
52 憲法第21条に関しては,
53 まず,
54 知る自由が,
55 憲法第21条第1項により保障されること
56 に言及した上で,
57 購入や貸与を受けることを制限される青少年について,
58 その自由の制約に
59 なるかどうかを論じることとなろう。
60
61 制約になるとした場合,
62 まず,
63 明確性の原則との関係
64 で,
65 規制図書類の定義が適切かどうか,
66
67 「衣服の全部又は一部を着けない者の卑わいな姿態」
68 「殊更に性的感情を刺激する」との文言が曖昧,
69 不明確でないかどうかの検討が必要となる。
70
71
72 一般に,
73 明確性の原則は,
74 不明確な法文が表現者の表現行為に対して萎縮効果を持つことを
75 問題にするものであるが,
76 本問における条例による規制においては,
77 表現物の流通過程に位
78 置する販売者を萎縮させ,
79 それに伴って青少年の知る自由を制約することになるのではない
80 かという観点から,
81 明確性の原則を論ずることが考えられる。
82
83 さらに,
84 明確性の原則に反し
85 ないとしても,
86 かかる制約の合憲性判断について,
87 いかなる審査基準によって審査すること
88 が妥当かどうかを論じる必要がある。
89
90 その際,
91 内容規制と考えるのか,
92 それとも内容中立規
93 制と考えるのかという観点から議論することも考えられるし,
94 規制対象となる図書類が性的
95 な表現を含むものであることから,
96 その表現の価値を考慮するかどうか,
97 あるいは,
98 情報の
99 受け手が青少年であることの考慮が働くかどうか(岐阜県青少年保護育成条例事件補足意見)
100 といった観点を意識した議論をすることが考えられよう。
101
102 その上で,
103 本件規制図書類の範囲
104 が過度に広汎ではないかという点を含め規制の必要性,
105 合理性を検討する必要がある。
106
107 また,
108
109 審査基準の設定又は当てはめにおいて,
110 後述するように,
111 本条例の目的についての検討,
112 す
113 なわち,
114 青少年の健全育成の目的や,
115 一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないように
116 するという目的が,
117 憲法上の権利を制約する目的としてふさわしいものであるかどうかを意
118 識した議論をすることが考えられよう。
119
120
121 次に,
122 18歳以上の者との関係では,
123 知る自由の制約になるかどうかをまず検討する必要
124 があろう。
125
126 規制図書類の購入がおよそできなくなるわけではなく,
127 購入方法の限定はごく一
128 部に過ぎないから知る自由の制約とまでは言えないと評価するのか,
129 情報の受領方法に制限
130 が加わる以上,
131 知る自由の制約ととらえるのかの両論が考えられる。
132
133 知る自由の制約ととら
134 えると,
135 青少年における検討と同様に,
136 明確性に関する検討が必要となり,
137 審査基準の設定
138 についても,
139 青少年の場合と同様の点(青少年であることを考慮するかどうかを除く。
140
141 )を
142
143 - 1 -
144
145 踏まえた審査基準の設定が考えられる。
146
147 18歳以上の者は,
148 購入場所が限定されるにとどま
149 るため,
150 青少年とは異なる審査基準を設定することも考えられるし,
151 そうでない場合でも,
152
153 審査基準への当てはめにおいては,
154 購入が全面的に制約される青少年とは異なり,
155 個々の規
156 制の合理性を検討する必要があろう。
157
158 その際,
159 本条例の目的が,
160 青少年の健全育成のみなら
161 ず,
162 一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないようにするという点にあることについて,
163
164 青少年の場合と同様,
165 憲法上の権利の制約の目的としてふさわしいのかどうかについても言
166 及することが考えられる。
167
168 例えば,
169 条例の目的は,
170 結局のところ,
171 卑わいな画像等を見たく
172 ない人を保護するということになるが,
173 見たくないものに触れさせないこと一般が法的保護
174 に値するとは言えないという議論や,
175 目的が漠然としたもので抽象的にすぎるといった指摘
176 をして,
177 その目的としての価値が大きくないと評価する方向で議論をすることも考えられよ
178 う。
179
180 他方,
181 性的な羞恥心や卑わいなものを見たくない人の不快感は,
182 現に一般に共有されて
183 いる感情である以上,
184 十分に法的保護に値するといったことから,
185 制約目的としての価値を
186 見出す議論をすることもできるであろう。
187
188
189 青少年及び18歳以上の者のいずれにおいても,
190 目的と規制の対応関係を意識する必要が
191 ある。
192
193 例えば,
194 学校から200メートル以内における販売等の規制(いわゆるゾーニング)
195 については,
196 青少年の健全育成と結びつくものであり,
197 日用品販売店での販売規制と隔壁等
198 の義務付けは,
199 青少年の健全育成と一般市民をむやみに卑わいな画像等に触れさせないとい
200 う観点の両面を趣旨としていることなどを意識した論述が求められる。
201
202
203 憲法第22条に関しては,
204 営業の自由が憲法上の権利であること,
205 本件規制が営業の自由
206 の制約に該当することに言及した上で,
207 営業の自由の制約としてどのような審査基準が妥当
208 であるかを議論することが考えられる。
209
210 青少年の健全育成という目的と一般市民がむやみに
211 卑わいな画像等に触れないようにするという目的をどのようにとらえ,
212 制約される権利の性
213 質,
214 制約の程度等との関係で,
215 どのような審査基準を設定するかの議論をする必要がある。
216
217
218 その際,
219 小売市場許可制判決や薬事法判決等の既存の営業の自由に関わる判決との対比をす
220 ることや,
221 積極目的,
222 消極目的等の規制目的の区別に基づいて審査基準を立てるべきかを議
223 論することが考えられよう。
224
225 その上で,
226 当該審査基準に基づいて,
227 日用品等販売店舗での販
228 売禁止の合憲性,
229 学校から200メートル以内における販売等の禁止の合憲性,
230 隔離販売規
231 制の合憲性,
232 青少年への販売規制の合憲性について検討することとなる。
233
234 他方,
235 制約の程度
236 等の審査基準設定に与える影響を重視するとすれば,
237 各規制ごとに審査基準を設定すべきこ
238 とになろう。
239
240 営業の自由との関係でも,
241 一般市民がむやみに卑わいな画像等に触れないよう
242 にするという目的について,
243 目的としての妥当性を検討することが考えられるが,
244 知る自由
245 との関係で議論したのと同様として扱っても差し支えない。
246
247 もっとも,
248 その目的の妥当性判
249 断に当たって,
250 制約される権利との関係で,
251 異なる考慮がなされ得るとの立場からは,
252 知る
253 自由の場合と異なる議論をすることもあり得る。
254
255 なお,
256 規制対象となる規制図書類の範囲が
257 過度に広汎であるかどうかは,
258 憲法第22条の営業の自由との関係でも問題となるが,
259 知る
260 自由において検討するのとは必ずしも同じ問題状況ではないことを踏まえる必要がある。
261
262 ま
263 た,
264 規制の合理性の検討に際しては,
265 意図せず一般市民が卑わいな画像等に触れないように
266 するという観点からすると,
267 隔壁等による隔離販売の規制のみで足りるのではないかという
268 方向で議論することもできるし,
269 他方,
270 営業の自由の性格に鑑み,
271 様々な制約を合憲とする
272 方向で議論することもできると考えられる。
273
274 このほか,
275 表現物の流通過程における書店とい
276 う位置づけに鑑み,
277 通常の営業主体よりもその販売等の自由は保護されるべきであるという
278 議論もなし得る。
279
280
281 事業者にとっては違反すれば罰則も設けられていることから,
282 刑罰法規としての明確性を
283 指摘することも考えられる。
284
285 刑罰法規の明確性は,
286 表現の自由の制約において求められる明
287 確性の原則とは趣旨を異にするため,
288 別の論述が必要であろう。
289
290
291
292 - 2 -
293
294 〔第2問〕
295 本問は,
296
297 「墓地,
298 埋葬等に関する法律」
299 (以下「法」という。
300
301
302 )第10条第1項に基づいて,
303 宗教法人
304 Aが墓地(以下「本件墓地」という。
305
306 )の経営許可を申請した場合(以下「本件申請」という。
307
308 ),
309 それに
310 関して生じる法的な問題について,
311 経営許可の権限を有する地方公共団体B市の主張を考慮しつつ,
312 検
313 討を求めるものである。
314
315 本問で論じられるべき第1の問題は,
316 本件申請に対して許可(以下「本件許可
317 処分」という。
318
319
320 )が行われた場合,
321 本件墓地の近隣で別の墓地を経営している宗教法人Dと,
322 障害福祉サ
323 ービス事業を行う法人Eに,
324 本件許可処分に対して取消訴訟を提起する原告適格が認められるかである
325 (設問1(1))
326 。
327
328 論じられるべき第2の問題は,
329 仮にEに原告適格が認められた場合,
330 本件許可処分が違
331 法であるとして,
332 Eがどのような主張をすることが考えられるか,
333 また,
334 それらの主張が制限を受ける
335 ことはないかである(設問1(2))
336 。
337
338 そして,
339 論じられるべき第3の問題は,
340 本件申請に対して不許可処
341 分(以下「本件不許可処分」という。
342
343
344 )が行われ,
345 Aが,
346 本件不許可処分に対して取消訴訟で争う場合,
347
348 Aが本件不許可処分の違法事由としてどのような主張をすることができるかである(設問2)
349 。
350
351 これらの
352 点を,
353 法,
354 法に関して最小限必要な許可要件や手続を定めた「B市墓地等の経営の許可等に関する条例」
355 (以下「本件条例」という。
356
357
358 )等の資料を踏まえて論じることが求められている。
359
360
361 〔設問1(1)〕は,
362 取消訴訟の原告適格という,
363 取消訴訟の基本的な訴訟要件の理解を問うものであ
364 る。
365
366 本問では,
367 DとEは,
368 それぞれ本件許可処分の名宛人ではなく,
369 第三者であることから,
370 行政事件
371 訴訟法第9条第1項と同条第2項の基準に基づいて,
372 原告適格に関しどのような主張がなされるのか,
373
374 また,
375 原告適格は認められるのかを,
376 B市からの反論を踏まえて検討することが求められている。
377
378
379 Dの原告適格の検討に当たっては,
380 既存の墓地の経営主体であるDが,
381 本件墓地によって経営上悪影
382 響を受けることを理由に,
383 原告適格が認められるのかを論じることとなる。
384
385 法第1条は,
386 公衆衛生や宗
387 教感情の保護等を法目的としているが,
388 既存の墓地の保護については特に触れるところはない。
389
390 しかし,
391
392 本件条例第3条第1項が墓地の経営主体を原則として地方公共団体としていることや,
393 本件条例第9条
394 第2項の経営許可に関する要件を定めた規定により,
395 法や本件条例がその趣旨目的として墓地経営の安
396 定を求めていると考えることもできることから,
397 墓地経営許可に際して,
398 既存の墓地の利益保護が考慮
399 されているかどうかを論じることが求められる。
400
401
402 Eの原告適格の検討に当たっては,
403 Eは障害福祉サービス事業を行う事業所を運営していることから,
404
405 本件墓地の経営によって,
406 衛生環境や生活環境の悪化を理由に原告適格が認められるのかが問題となる。
407
408
409 本件条例第13条第1項や第14条第1項等を手掛かりとして,
410 法や本件条例が,
411 Eの事業所に対して,
412
413 障害福祉サービス事業を行う事業所として,
414 適切な環境の下で円滑に業務を行う利益を保護しているか
415 を論じることが求められる。
416
417
418 〔設問1(2)〕では,
419 Eが,
420 本件許可処分に対する取消訴訟を適法に提起できるとした場合,
421 本件許
422 可処分が違法であるとして,
423 どのような主張が可能か,
424 また,
425 それらの主張が制限を受けないかを検討
426 することが求められる。
427
428 法第10条第1項に基づく許可については,
429 公益的見地からその許否が判断さ
430 れ,
431 行政に一定の裁量が認められると考えられるが,
432 どのような根拠に基づいて,
433 いかなる裁量が認め
434 られるのか,
435 さらに,
436 本件許可処分が,
437 どのような理由から裁量権の範囲を逸脱・濫用し,
438 違法とされ
439 るのかについて,
440 検討を進めることが求められている。
441
442
443 Eが主張する違法事由としては以下の2点を論じることが求められる。
444
445 第1に,
446 本件墓地から約80
447 メートルの距離にあるEの事業所が本件条例第13条第1項(2)の「障害福祉サービスを行う施設(入所
448 施設を有するものに限る。
449
450 )」に該当し,
451 本件条例第13条第1項の距離制限に違反することから,
452 本件
453 許可処分は違法ではないかという点である。
454
455 さらに,
456 たとえ距離制限に違反していても,
457 Eが,
458 Dと相
459 談して,
460 説明会や本件申請の後に事業所を移転している等の事情から,
461 本件許可処分を妨害するため,
462
463 意図的に本件事業所を移転したとすれば,
464 権利濫用として,
465 そのような違法事由は主張できないのでは
466 ないかという点もあわせて論じることが求められている。
467
468 第2に,
469 本件墓地の実質的な経営者は,
470 Aで
471 はなく,
472 営利企業のCではないのかという,
473 いわばAとCの間で一種の「名義貸し」に当たる行為が行
474
475 - 3 -
476
477 われたのではないかという点である。
478
479 法や本件条例には「名義貸し」を明文で禁止する定めは見られな
480 いが,
481 本件条例が,
482 墓地の経営主体を地方公共団体や宗教法人等に限定し,
483 営利企業への墓地営業許可
484 を認めていないことや,
485 経営主体に一定の要件を求めていることから,
486 仮に,
487 本件許可処分が「名義貸
488 し」によって認められたものであるとすれば,
489 法や本件条例の趣旨を潜脱して違法ではないかという主
490 張を行うことが考えられよう。
491
492 法や本件条例を踏まえて,
493 資料に示された具体的な事実を通して,
494 Eの
495 主張を検討することが求められている。
496
497
498 さらに,
499 本件許可処分の違法事由については,
500 Eの「自己の法律上の利益」に関係があるかどうか,
501
502 すなわち,
503 行政事件訴訟法第10条第1項による主張制限についても検討することが求められている。
504
505
506 行政事件訴訟法第10条第1項の「自己の法律上の利益」の基本的な理解に基づき,
507 上で述べた各違法
508 事由の主張が制限されるかどうかを,
509 個別に検討することが求められている。
510
511
512 〔設問2〕は,
513 Aが本件不許可処分に対して取消訴訟を提起した場合,
514 本件不許可処分が違法である
515 としてどのような主張がなされるのかを問うものである。
516
517 本件不許可処分の理由としてB市が想定して
518 いる理由のうち,
519 本問で論じられるべきものは,
520
521 (ア)本件墓地周辺の住環境が悪化する懸念から,
522 近隣
523 住民の反対運動が激しくなったこと及び(イ)Dの墓地を含むB市内の墓地の供給が過剰となり,
524 その
525 経営に悪影響が及ぶことであるが,
526 これらに関して,
527 B市の主張を踏まえて,
528 検討することが求められ
529 ている。
530
531
532 (ア)については,
533 単に近隣住民の反対運動が激化するということを理由とするにとどまるのであれ
534 ば,
535 本件不許可処分の根拠としては認められないとの見解もあり得る一方で,
536 B市の立場からは,
537 法第
538 10条第1項が,
539 墓地の経営許可につき市長に裁量を認めていることを前提にして,
540 住環境の悪化を懸
541 念する反対運動の存在を考慮することは適法との見解もあり得,
542 これらを比較して論じることが求めら
543 れている。
544
545
546 (イ)についても,
547 B市内の墓地の需給を考慮して本件不許可処分を行うことは許されないと
548 の見解と,
549 B市の立場からは,
550 墓地の公共性や墓地の経営の安定性を求める法や本件条例の規定から,
551
552 経営状態が悪化しないように,
553 需給状況を考慮することは,
554 裁量の範囲を超えるものではないという見
555 解もあり得,
556 これらを比較して論じることが求められている。
557
558
559 【民事系科目】
560 〔第1問〕
561 本問は,
562 民法の幅広い分野から,
563 民法の基礎的な理解とともにその応用力を問うものであり,
564
565 当事者の主張を踏まえつつ法律問題の相互関係や当該事案の特殊性を論理的に分析して自説を
566 展開する能力が試されている。
567
568
569 設問1は,
570 種類債務の特定と危険負担(民法第534条第2項),
571 (狭義の)履行補助者の過
572 失,
573 弁済の提供又は受領遅滞若しくは受領義務違反の効果(債務者の目的物保管義務の軽減及
574 びその軽減後の義務の内容,
575 対価危険の債権者への移転等)等といった債権法の複数の制度・
576 規定について,
577 基本的な理解ができているか,
578 その理解を具体的な事実関係に基づいて各制度
579 ・規定の相互の関連性を含めて適切に展開することができるかを問うものである。
580
581 典型論点と
582 もいえるものばかりではあるものの,
583 複数の論点の検討を要する問題を通して,
584 事案に即して
585 論理を着実に展開する能力が試されている。
586
587
588 設問1の事実関係の下では,
589 危険負担の適用があるか否かが問題となるが,
590 その前提として,
591
592 種類債権の特定とその後の目的物の滅失が必要となる。
593
594 そこで,
595 民法第401条が定める「債
596 務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し」たこととは,
597 例えば,
598 債務者が,
599 給付の完了
600 のために債権者がする必要のあることを除き,
601 自らすることができることを全てした状態をい
602 うところ,
603 Bの債務は取立債務であることから,
604 Bが目的物を分離して引渡準備を完了し,
605 そ
606 の旨をAに通知することにより目的物の特定が認められることなどを述べた上で,
607 設問1の事
608 実関係からこの特定が認められ,
609 その特定した目的物が盗難により滅失したと認められること
610 を述べる必要がある。
611
612
613
614 - 4 -
615
616 目的物が特定後に滅失した場合の売主Bの売買代金請求権の帰趨については,
617 @双務契約上
618 の相対立する二つの債務は互いに対価関係に立つため牽連関係が認められるとして,
619 一方の債
620 務の消滅により当然に他方の債務も消滅することを前提としつつ,
621 本件においては目的物が特
622 定していたとして民法第534条第2項の適用によりBの代金請求が認められ得るとする立
623 場,
624 A同じ前提に立ちつつも,
625 民法第534条第2項の適用を否定又は制限する立場などが考
626 えられる。
627
628 これらのいずれの立場によっても構わないが,
629 自己の採用した立場から一貫性のあ
630 る法律構成をすることが求められる。
631
632 なお,
633 @Aと異なり,
634 双務契約上の相対立する二つの債
635 務は互いに独立のものであり,
636 一方の消滅により他方が当然に消滅することはないとする立場
637 もあり得るが,
638 その場合には,
639 特殊といってよい立場であるため,
640 そのように解する理由を明
641 確に示すことが必要である。
642
643
644 上記の@の立場からは,
645 以下の事柄について論ずることになる。
646
647
648 @の立場は,
649 民法の規定の文理に素直なものであるといえるが,
650 @の立場に対しては公平で
651 はないという批判が極めて有力であり,
652 また,
653 この立場をとることを明言する判例があるわけ
654 でもない。
655
656 そこで,
657 民法第534条第2項の文言に素直な解釈であるという指摘をするだけで
658 なく,
659 公平に反するという批判説にも応接した理由付けをすることが望ましい。
660
661
662 その上で,
663 民法第534条が適用されるのは目的物の滅失が「債務者の責めに帰することが
664 できない事由」による場合であるため,
665 設問1の事実関係の下で盗難による松茸の滅失がこれ
666 に当たるかを論ずべきことになる。
667
668 その際には,
669
670 「債務者の責めに帰することができない事由」
671 の意味をまず明らかにする必要がある。
672
673 これについては,
674 例えば,
675 特定物の売主は目的物の善
676 良な管理者の注意をもって目的物を保管する義務を負うところ,
677 その義務を尽くしたことが上
678 記事由に当たるとする考え方が考えられる。
679
680 さらに,
681 設問1では,
682 Bは保管のために(狭義の)
683 履行補助者に当たる(【事実】3)Cを使用しているためCの主観的態様が信義則上Bの主観
684 的態様と同視されるとした上で,
685 Cが近隣において盗難事件が頻発し警察が注意喚起している
686 との状況下でBの指示に従わずに簡易な錠による施錠しかせずに乙倉庫を離れたこと(【事実】
687 5及び8)は善管注意義務違反に当たると解されるため,
688 目的物として特定した松茸の滅失は
689 Bの責めに帰することができない事由によるものということは基本的にできないことになる。
690
691
692 もっとも,
693 松茸の盗難は,
694 Bによる弁済の提供があった後,
695 又はAによる受領遅滞中に若し
696 くはAの受領義務違反後に起きたことである。
697
698 そこで,
699 弁済の提供又は受領遅滞若しくは受領
700 義務違反の効果としてBの保管義務の軽減が問題になる。
701
702 これらのいずれの構成によっても構
703 わないが,
704 その構成により保管義務が軽減される理由を明らかにし,
705 設問1の事実関係の下で
706 保管義務の軽減が認められるかを論ずる必要がある。
707
708
709 そして,
710 債務者は自己の財産に対するのと同一の注意をもって目的物を保管する義務を負う,
711
712 あるいは,
713 債務者は故意又は重大な過失による目的物の滅失又は損傷の場合にのみ責任を負う
714 などと軽減された義務の内容を明らかにした上で,
715 設問1の事実関係に即して,
716 Cの行った簡
717 易な錠での施錠が「普段どおり」の施錠方法であったことを踏まえてその軽減された注意義務
718 に違反しないかどうかを論ずべきことになる。
719
720
721 次に,
722 上記のAの立場をとる場合には,
723 以下の事柄について論ずることになる。
724
725
726 まず,
727 自説の立場から,
728 民法第534条の適用を否定又は制限する理由を述べる必要があり,
729
730 その理由と整合的にどのような場合には適用が認められるのかを明らかにし,
731 設問1の事実関
732 係の下では民法第534条が適用される場合に当たらないことを述べることが求められる。
733
734
735 もっとも,
736 Bによる弁済の提供又はAの受領遅滞若しくは受領義務違反が認められることか
737 ら,
738 その効果として対価危険の移転が認められ得る。
739
740 そこで,
741 その旨の指摘と設問1の事実関
742 係の下でこれが認められることを述べた上で,
743 目的物の滅失がBの帰責事由によるものである
744 ときはそもそも危険負担の適用がないことを述べて,
745 松茸の滅失がBの帰責事由によるものか
746 否かを検討すべきことになる。
747
748 そして,
749 ここでは,
750 上記の@の立場と同様に,
751 債務者に課され
752
753 - 5 -
754
755 た善管注意義務と債務者の責めに帰することができない事由との関係,
756 弁済の提供等による善
757 管注意義務の軽減の有無などを検討すべきことになる。
758
759
760 設問2は,
761 所有権に基づく妨害排除請求の相手方は現に妨害をしている者であることを前提
762 として,
763 所有権留保売買契約の売主として留保所有権を有する者はこれに当たるか(小問1),
764
765 仮にこれに当たらないと判断すべきことを前提としたとしても,
766 その者が妨害物となっている
767 自動車を以前所有しており,
768 自己の意思に基づいて登録名義人となった者であって,
769 その自動
770 車を譲渡した後も登録名義人にとどまっている場合は別に考えることができないのか(小問2)
771 を,
772 それぞれ問うものである。
773
774
775 小問1では判例によっても承認されている所有権留保売買を題材に非典型担保物権の意義と
776 留保所有権の内容を,
777 小問2では不動産と同様の法的規制に服する自動車についての権利の得
778 喪に係る対抗要件制度の意義という,
779 基本的な問題に対する理解力を測ることを狙いとする。
780
781
782 また,
783 小問1には最判平成21年3月10日民集第63巻3号385頁,
784 小問2には最判平成
785 6年2月8日民集第48巻2号373頁という重要な関連判例があり,
786 設問2は,
787 日頃の学習
788 において重要判例について表層的でない理解を心掛けているかをみようとするものでもある。
789
790
791 小問1では,
792 Eの請求が所有権に基づく請求であること,
793 この請求の相手方は所有権の行使
794 を現に妨げている者であることを前提として,
795 甲トラックの所有権留保売買における留保売主
796 Dは,
797 甲トラックが丙土地上に放置されていることによってEの丙土地所有権の行使を妨げて
798 いることになり,
799 したがって,
800 甲トラックの撤去義務を負うかどうかが問われている。
801
802
803 まず,
804 物の所有者は,
805 その物が他人の土地上にある場合には,
806 権原がなければ,
807 通常,
808 その
809 物の撤去の義務を負う。
810
811 ところが,
812 Dは,
813 Aとの間で所有権留保売買契約をしたことにより,
814
815 通常の所有権を有する者ではなく,
816 債権担保の目的で所有権を有するにすぎない。
817
818 そこで,
819 こ
820 のような立場にあるDが所有者一般と同様に扱われるのか否かを論ずべきことになる。
821
822
823 Dが甲トラックの撤去義務を負うか否かについての結論はいずれでも構わないが,
824 その結論
825 を導く理由についての法的な構成力が問われている。
826
827 その理由に関しては,
828 例えば,
829 次のよう
830 な事情を考慮することが考えられる。
831
832
833 すなわち,
834 @AD間の契約において,
835 被担保債権の不履行があるまでは,
836 甲トラックの占有
837 ・処分権能を有するのはAであり,
838 Dはこれを有しないとされており,
839 Dは,
840 甲トラックの交
841 換価値しか把握していないとみることができることである。
842
843 これによると,
844 Dは,
845 形式的には
846 甲トラックの所有者であるが,
847 実質的には抵当権者と変わりがないとみることができ,
848 抵当権
849 者であれば抵当目的物による妨害排除請求の相手方にはならないと考えられる。
850
851
852 他方で,
853 A上記@のようなDの地位は,
854 AD間の契約によって創設されたものであることで
855 ある。
856
857 したがって,
858 Dの甲トラックの占有・処分権能は,
859 Aとの契約によりAとの関係で制約
860 されているにすぎないとみる余地がある。
861
862 実際にも,
863 例えば甲トラックを不法占有する者があ
864 る場合,
865 その者との関係では,
866 Dは所有権に基づく返還請求をすることができるとされる可能
867 性がある。
868
869
870 このほか,
871 BDは,
872 甲トラックに抵当権(自動車抵当権)を設定することもできたのにあえ
873 て所有権留保という担保手段を選んだものであって,
874 所有者と同様に扱われることはDの選択
875 の結果であるにすぎないといえることなどを指摘することが考えられる。
876
877
878 なお,
879 前掲平成21年3月10日最高裁判決は所有権留保という社会的に重要な非典型担保
880 の基本的内容の一部を明らかにするものであることから,
881 法律実務家となることを志す者が知
882 っているべき判決であるということができるが,
883 単に同判決があることや,
884 その内容を指摘し
885 ても十分な解答にはならず,
886 理由付けの内容が問われるものである。
887
888
889 小問2では,
890 下線部のDの発言が正当と認められるという前提で解答することが求められ
891 ている。
892
893 これは,
894 甲トラックの通常の所有権を有していたDが,
895 Aとの所有権留保売買契約に
896 より甲トラックの所有権を実質的に喪失したことを前提として,
897 設問2を考えるべきことを意
898
899 - 6 -
900
901 味するから,
902 まずこの点を押さえる必要がある。
903
904
905 そして,
906 登録自動車の所有権の喪失はその登録をしなければ「第三者」に対抗することがで
907 きない(道路運送車両法第5条第1項)ことが問題文に示されていることを踏まえつつ,
908 設問
909 2の事実関係の下で,
910 Eは,
911 その「第三者」に該当し,
912 又は「第三者に準ずる者」として扱わ
913 れるのかを,
914 論ずべきことになる。
915
916
917 道路運送車両法第5条第1項は,
918 民法第177条と同趣旨の規定であることから,
919
920 「第三者」
921 とは,
922 登録の不存在を主張する正当な利益を有する者をいい,
923 隠れた物権変動により第三者が
924 害されることを防ぐという同条の趣旨から,
925 当該物件につき登録名義人との間で法律上の利害
926 関係を有するに至ったことが,
927 第三者性を基礎付ける「正当な利益」に当たると解される。
928
929
930 これによると,
931 Eは,
932 第三者には基本的に該当しないこととなる。
933
934 Eが甲トラックにつき有
935 する利害関係は,
936 甲トラックの所有者が判明しなければ丙土地の所有権に対する妨害を排除す
937 ることができないという不利益を被ることであり,
938 Eは,
939 甲トラックにつき,
940 権利を取得すべ
941 き地位にあるなど何らかの法律上の利害関係を有するわけではないからである。
942
943
944 もっとも,
945 判例(前掲平成6年2月8日最高裁判決)上,
946 土地所有権の行使が建物の存在に
947 よって妨害されている場合において,
948 登記に関わりなく建物の実質的所有者をもって妨害排除
949 の義務者を決するとすれば,
950 土地所有者はその探求の困難を強いられるなどの不合理を生ずる
951 おそれがあることから,
952 その建物の所有権を譲渡により喪失したが自ら得た登記名義をなお保
953 持する者は,
954 土地所有者との関係については建物についての物権変動における対抗関係にも似
955 た関係にあるとした上で,
956 土地所有者の請求により建物を収去し土地を明け渡す義務があると
957 されている。
958
959 登録自動車については不動産と同様の法的扱いがされることが多いことから,
960 D
961 についても同様の立論が可能であるかどうかが問題になる。
962
963
964 この問題についても,
965 結論はいずれでも構わないが,
966 その結論を導く理由についての法的な
967 構成力が問われている。
968
969
970 検討の筋道としては,
971 前掲平成6年2月8日最高裁判決が地上建物による土地所有権の妨害
972 の場合に土地所有者を例外的に保護していることから,
973 その例外的保護の理由を明らかにして,
974
975 それとの比較をすることが考えられるが,
976 これに限られるものではなく,
977 次に述べるような必
978 要な考慮要素に触れられていることが必要である。
979
980
981 地上建物による土地所有権の妨害の場合に土地所有者の例外的保護が認められる理由として
982 は,
983 @建物の存立は,
984 敷地の全面的・固定的占有を当然に伴うため,
985 土地所有者は土地の占有
986 という土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態が継続することが挙げられる。
987
988 他
989 方で,
990 登録自動車による土地所有権の妨害は,
991 全面的なものでも,
992 固定的なものでもなく,
993 土
994 地所有者は,
995 その妨害により土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になるとま
996 で評価することはできないともいえる。
997
998
999 また,
1000 A一般に,
1001 民法第177条の第三者とは登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者
1002 をいうなどとされ,
1003 第三者とされるためには,
1004 当該物権変動の主張が認められると当該不動産
1005 に関する権利を失い,
1006 又は負担を免れることができなくなることが必要であるところ,
1007 本件で
1008 は,
1009 土地所有者は,
1010 登記を移転していない前建物所有者による建物の所有権喪失の主張が認め
1011 られると,
1012 建物所有権の隠れた移転によりその建物所有権の負担(土地所有権を妨害された状
1013 態が継続するという負担)を実質的に免れることができない地位にあるとみることができると
1014 もいえる。
1015
1016 他方で,
1017 土地所有者は土地所有権の本質的内容に属する権能を奪われた状態になる
1018 とまで評価することはできないと反論をすればこの指摘は当たらないし,
1019 そもそも違法な状態
1020 に対する責任の追及の問題を対抗問題と類似すると扱うことは適切ではないということもでき
1021 る。
1022
1023
1024 さらに,
1025 B建物を譲渡した元所有者は,
1026 その建物を所有する旨の登記を自らしたのであれば,
1027
1028 その名義の移転をすることも当然にできたはずであり,
1029 登記懈怠の責めを問われても仕方がな
1030
1031 - 7 -
1032
1033 いことを指摘することができる。
1034
1035 他方で,
1036 所有権留保売買は,
1037 被担保債権の弁済まで登記又は
1038 登録を売主名義のままにしておくことが当然の前提であり,
1039 そのことも含めて判例上承認され
1040 ていることから,
1041 売主に登記懈怠の責めを負わせることは適当ではないともいえると考えられ
1042 る。
1043
1044
1045 このほか,
1046 建物の撤去とは,
1047 通常,
1048 建物の取壊しであることから,
1049 その費用を負担しさえす
1050 れば誰でもすることができるため,
1051 建物所有権を有しない登記名義人に負わせることも可能で
1052 あるが,
1053 自動車については,
1054 前登録名義人は真の所有者の所在が判明するまで自動車を保管し
1055 続けなければならないという負担を負い続けることになりかねず,
1056 その金銭負担も重いものと
1057 なる可能性があるという事情も指摘することができる。
1058
1059
1060 以上を踏まえれば,
1061 Eを「第三者」に準ずる者と認めて例外的に保護することは適当ではな
1062 いと理解することに相当の理由があると考えられるが,
1063 上記のとおりいずれの結論でも許容さ
1064 れる。
1065
1066
1067 解答に当たっては,
1068 以上に例示した事情の全部を挙げることが求められるものではなく,
1069 根
1070 幹的と思われる理由を挙げて結論を正当化することで十分である。
1071
1072 もっとも,
1073 結論を正当化す
1074 る際には,
1075 その結論を根拠づける方向に働く事情を挙げるだけでなく,
1076 反対の結論を根拠付け
1077 る方向に働く事情も考慮し,
1078 それに応接することが望ましい。
1079
1080
1081 設問3は,
1082 遺言による財産の処分によって,
1083 共同相続人への債務の承継が影響を受けるか否
1084 かを問うことを通じて,
1085 相続法に関する基本的な知識に基づく事案の分析力や解釈論の展開力
1086 を試すものである。
1087
1088
1089 設問3については,
1090 @被相続人Cを共同相続したCの子FGに対し法定相続分とは異なる割
1091 合で特定の財産をそれぞれ「相続させる」遺言,
1092 及び,
1093 Cから廃除(民法第892条)された
1094 子Hに対し特定の財産を「与える」遺言について,
1095 遺言の解釈によってその法的性質(とりわ
1096 け,
1097 「相続させる」遺言が相続分の指定を伴うものであるか)を明らかにした上で,
1098 ACが残
1099 したBに対する借入金債務がFGにどのように承継されるか,
1100 さらに,
1101 この債務を全額支払っ
1102 たFがGに対し幾らの金額の支払を請求することができるかについて,
1103 検討することが求めら
1104 れる。
1105
1106
1107 まず,
1108 Cの遺言(以下「本件遺言」という。
1109
1110 )の解釈に当たっては,
1111 どのような指針に基づ
1112 いて解釈すべきか,
1113 例えば,
1114 「被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については,
1115 ……遺言
1116 者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものである」(最判平成3年4月19日民
1117 集第45巻4号477頁参照)などと必要に応じて簡潔に言及することが求められる。
1118
1119
1120 その上で,
1121 FGに対する「相続させる」遺言に関しては,
1122 判例が,
1123 特定の遺産を特定の相続
1124 人に「相続させる」遺言は,
1125 @相続人に対し,
1126 特定の財産を単独で相続させようとする趣旨に
1127 解するのが合理的な意思解釈であって,
1128 特段の事情がない限り,
1129 遺贈と解すべきではないとし,
1130
1131 Aかかる「相続させる」趣旨の遺言は,
1132 特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継さ
1133 せることを遺言で定める点で,
1134 正に民法第908条にいう「遺産の分割の方法を定めた遺言」
1135 であるとしている。
1136
1137 したがって,
1138 この判例の立場を前提とすれば,
1139 共同相続人FGに対し,
1140 1
1141 200万円・600万円の定期預金をそれぞれ「相続させる」遺言は,
1142
1143 「遺産分割方法の指定」
1144 と意思解釈するのが合理的であることになる。
1145
1146 なお,
1147 共同相続された定期預金について,
1148 遺産
1149 分割の対象となる旨の判例が最近出されている(最判平成29年4月6日集民第255号12
1150 9頁。
1151
1152 最大判平成28年12月19日民集第70巻8号2121頁参照)が,
1153 本問においては
1154 その旨の言及を特に求めるものではない。
1155
1156
1157 そして,
1158 「遺産分割方法の指定」については,
1159 法定相続分よりも多い割合で分割の指定がさ
1160 れたり,
1161 各共同相続人に対し法定相続分とは異なる割合で分割の指定がされた場合には,
1162 特段
1163 の事情がない限り,
1164 「相続分の指定」(民法第902条)を伴うものと解釈するのが一般的であ
1165 る。
1166
1167 このような形で法定相続分とは異なる割合による遺産分割の指定がされたことは,
1168 債務の
1169
1170 - 8 -
1171
1172 承継割合を法定相続分から変更する意思がないことが明らかであるなどの特段の事情がない限
1173 り(最判平成21年3月24日民集第63巻3号427頁参照),
1174 その分割された割合で「相
1175 続分の指定」がされて,
1176 債務もその割合で承継させる趣旨に意思解釈するのが合理的であると
1177 考える立場であり,
1178 このような立場を取るならば,
1179 共同相続人FGに対し法定相続分とは異な
1180 る割合で1200万円・600万の定期預金をそれぞれ「相続させる」とする本件遺言は,
1181
1182 「相
1183 続分の指定」を伴うものと解釈することになる。
1184
1185
1186 上記の立場に対し,
1187 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」遺言を「特定遺贈」と解釈
1188 する学説も少なくない。
1189
1190 このような説に立って論ずるに当たっては,
1191 上記の「相続分の指定を
1192 伴う遺産分割方法の指定」と解する立場に対する批判を踏まえた議論を展開し,
1193 例えば,
1194 「遺
1195 産分割方法の指定」は,
1196 本来は,
1197 現物分割・換価分割などの遺産全体の分割方法の指針を定め
1198 るものであって,
1199 特定の財産の処分は特定遺贈によることが民法の予定するところであること
1200 を指摘することが考えられる。
1201
1202
1203 このほか,
1204 上記の各立場も踏まえつつ,
1205 本件遺言は,
1206 飽くまでも個別の積極財産を処分した
1207 に過ぎない点などを考慮して,
1208 遺言者には債務の承継割合までを変更する意思はなく,
1209 法定相
1210 続分の割合で承継すると解釈することも,
1211 解答として許容されるものと考えられる。
1212
1213
1214 次に,
1215 Hに対する遺言については,
1216 Hは廃除(民法第892条)により相続資格を失ってい
1217 たこと,
1218 したがって,
1219 200万円の定期預金を「与える」遺言は,
1220 相続人以外の者に対する遺
1221 言による特定の財産の処分であるから,
1222 特定遺贈と解釈されることを述べることが求められる。
1223
1224
1225 本件遺言において廃除の意思に変わりがないとCがしていることに照らして,
1226 廃除の取消し(民
1227 法第894条第2項)の趣旨を含むものではなく,
1228 相続資格を失ったままであることに言及す
1229 ることが望ましい。
1230
1231
1232 以上を前提に,
1233 Cの残した金銭債務が共同相続人FGにどのように承継されるかについては,
1234
1235 次のように考えられる。
1236
1237
1238 まず,
1239 共同相続人は,
1240 法定相続分に応じて相続人の権利義務を承継するのが原則であるが(民
1241 法第899条),
1242 指定相続分(民法第902条)がある場合は指定相続分に応じて承継する。
1243
1244
1245 FGへの「相続させる」遺言において複数の立場があり得るが「相続分の指定を伴う遺産分割
1246 方法の指定」であると解する場合には,
1247 指定相続分(2:1)により,
1248 それ以外の立場による
1249 場合には法定相続分(1:1)により債務を承継することになる。
1250
1251
1252 次に承継の態様が問題となるが,
1253 CはBに対し300万円の金銭債務(可分債務)を負って
1254 いたことから,
1255 判例(大決昭和5年12月4日民集第9巻1118頁)の立場を前提とすれば,
1256
1257 民法第427条により,
1258 共同相続人FG間では上記の割合に応じた分割債務として承継するこ
1259 とになる。
1260
1261
1262 そして,
1263 Fは,
1264 Gが単独で負う債務までBに弁済している。
1265
1266 これは,
1267 債務者の意思に反する
1268 もの(民法第474条第2項)とはいえないので,
1269 FはGに対し,
1270 事務管理等を理由として,
1271
1272 指定相続分で承継したとする場合には100万円の支払を,
1273 法定相続分で承継したとする場合
1274 には150万円の支払を,
1275 それぞれ請求することができるものと考えられる。
1276
1277
1278 他方で,
1279 金銭債務(可分債務)の共同相続について,
1280 不可分債務又は合有債務と解する学説
1281 も有力であり,
1282 分割債務説を批判しつつ,
1283 これらの学説に立った検討を加えることも考えられ
1284 る。
1285
1286 この場合には,
1287 内部的負担部分は,
1288 法定相続分又は指定相続分に応じて定められ(民法第
1289 899条参照),
1290 その負担部分を超える額についてFはGに求償することができるものと考え
1291 られる。
1292
1293
1294 〔第2問〕
1295 本問は,
1296 @会計帳簿の閲覧の請求の拒絶事由(設問1),
1297 A株主の権利の行使に関する利益
1298 の供与を理由とする株主総会の決議の取消しの訴え,
1299 株主総会の否決決議の取消しを請求する
1300
1301 - 9 -
1302
1303 訴え(設問2),
1304 B株主の権利の行使に関して財産上の利益を供与することに関与した取締
1305 役及び当該利益の供与を受けた者に対する責任追及等の訴え(設問2),
1306 C譲渡制限株式の
1307 相続人に対する売渡しの請求(設問3)についての理解等を問うものである。
1308
1309
1310 設問1においては,
1311 Dによる閲覧の請求が会社法第433条第1項の会計帳簿の閲覧の請
1312 求に該当すること,
1313 当該請求の要件等に言及した上で,
1314 当該請求が同条第2項第1号又は第
1315 3号の拒絶事由等に該当し,
1316 甲社が当該請求を拒むことができるかどうかについて検討するこ
1317 とが求められる。
1318
1319
1320 のうち,
1321 Dによる閲覧の請求が会社法第433条第2項第1号の拒絶事由に該当するか否
1322 かを検討するに当たっては,
1323 Dが,
1324 その権利の確保又は行使に関する調査の目的でなく,
1325 D保
1326 有株式をAに買い取らせる目的で当該請求を行ったと認めることができるかどうかについて,
1327
1328 Dの言動等の事実関係を適切に評価した上で説得的に論ずることが求められる。
1329
1330
1331 また,
1332 Dによる閲覧の請求が会社法第433条第2項第3号の拒絶事由に該当するか否かを
1333 検討するに当たっては,
1334 乙社の営む事業が甲社の「業務と実質的に競争関係にある」と認める
1335 ことができるかどうかについて,
1336 甲社及び乙社はいずれもハンバーガーショップを営んでいる
1337 こと,
1338 甲社は関東地方のP県に,
1339 乙社は近畿地方のQ県に,
1340 それぞれ出店していること,
1341 甲社
1342 はQ県には出店する予定がないことなどの事実関係を適切に評価した上で,
1343 説得的に論ずるこ
1344 とが必要となろう。
1345
1346 さらに,
1347 Dが「〜事業を営み,
1348 又はこれに従事するものである」と認める
1349 ことができるかどうかについても,
1350 Dは,
1351 乙社の発行済株式の全部を有していること,
1352 乙社の
1353 経営には関与していないこと,
1354 乙社の代表取締役であるFと親子関係にあることなどの事実関
1355 係を踏まえて,
1356 具体的に検討することが求められる。
1357
1358
1359 設問2においては,
1360 甲社がGから保証料の支払を受けないでGの丙銀行に対する借入金債
1361 務について連帯保証したことが,
1362 「何人に対しても」(会社法第120条第1項)という文言に
1363 照らして,
1364 Gに対する財産上の利益の供与(同項)に該当するか否か(同項の文言上,
1365 利益供
1366 与の相手方は誰でもよく,
1367 現に株主である者に限られない。
1368
1369 ),
1370 あるいはこのことがD保有株式
1371 の売買契約が成立する前提となっており,
1372 Dに対する財産上の利益の供与(同項)に該当する
1373 か否かについて説得的に論ずることが求められる。
1374
1375 そして,
1376 上記連帯保証が,
1377 (G又はDに対
1378 する)財産上の利益の供与に該当するとすれば,
1379 当該利益の供与が株主の権利の行使に関して
1380 されたもの(同項)ということができるかどうかについて,
1381 本件契約によれば,
1382 Dが本件株主
1383 総会には自らは出席しないでAを代理人として議決権の行使に関する一切の事項を委任するこ
1384 ととされていたといった諸々の事実関係に即して検討することが望まれる。
1385
1386 その上で,
1387 本件決
1388 議1についての株主総会の決議の取消しの訴えに関して,
1389 当該利益の供与により,
1390 本件決議1
1391 が株主総会の決議の方法が法令に違反したもの(同法第831条第1項第1号)と認めること
1392 ができるかどうかについて検討することが求められる。
1393
1394
1395 また,
1396 本件決議2についての株主総会の決議の取消しの訴えに関しては,
1397 本件決議2が株主
1398 総会の決議の方法が法令に違反し,
1399 又は著しく不公正なもの(会社法第831条第1項第1号)
1400 と認めることができるかについて,
1401 CがAを取締役から解任する旨の議案の提案の理由を説明
1402 しようとしたところ,
1403 議長であるAがこれを制止し,
1404 直ちに採決に移ったことを,
1405 株主による
1406 提案理由の説明の拒絶として株主提案権の(実質的)侵害に該当し,
1407 あるいは議長の議事整理
1408 に関する権限(同法第315条第1項)の濫用に該当すると位置付けることができるのではな
1409 いかといった観点から,
1410 検討することが考えられる。
1411
1412 さらに,
1413 判例は,
1414 ある議案を否決する株
1415 主総会等の決議の取消しを請求する訴えは不適法であるとしていること(最判平成28年3月
1416 4日民集70巻3号827頁)を意識した上で,
1417 その適否を論ずることが求められる。
1418
1419
1420 設問2においては,
1421 Aに対する責任追及等の訴え(会社法第847条第1項)については,
1422
1423 甲社がGから保証料の支払を受けないでGの丙銀行に対する借入金債務について連帯保証した
1424 ことが,
1425 G又はDに対する財産上の利益の供与(同法第120条第1項)に該当するとすれば,
1426
1427
1428 - 10 -
1429
1430 @Aは,
1431 同条第4項及び会社法施行規則第21条第1号に基づき,
1432 少なくとも,
1433 供与した利益
1434 の価額に相当する額である60万円を支払う義務を負うと認めること,
1435 A甲社がGの丙銀行に
1436 対する借入金債務について連帯保証したことに関するAの行為は,
1437 法令に違反し,
1438 又は善管注
1439 意義務に違反するため,
1440 任務懈怠(同法第423条第1項)に該当し,
1441 Aは,
1442 甲社に対し,
1443 少
1444 なくとも,
1445 保証債務の履行として丙銀行に弁済した800万円を支払う義務を負うと認めるこ
1446 とが考えられる。
1447
1448 なお,
1449 Aが支払義務を負う金額(@にあっては「供与した利益の価額に相当
1450 する額」,
1451 Aにあっては会社の損害額)については,
1452 上記の各金額以外の額であるとする論理
1453 も考えられるところであり,
1454 事案に即して説得的に論じられていれば,
1455 必ずしも,
1456 上記の各金
1457 額でなければならないものではない。
1458
1459
1460 Gに対する責任追及等の訴え(会社法第847条第1項)については,
1461 Gが,
1462 「当該利益の
1463 供与を受けた者」に該当するのであれば,
1464 同法第120条第3項に基づき,
1465 供与を受けた財産
1466 上の利益である60万円を返還する義務を負うと認めることが考えられる。
1467
1468 なお,
1469 Gが返還義
1470 務を負う金額についても,
1471 同様に,
1472 必ずしも,
1473 上記の金額でなければならないものではない。
1474
1475
1476 設問3においては,
1477 譲渡制限株式の相続人等に対する売渡しの請求(会社法第174条)の
1478 趣旨は,
1479 株式会社が,
1480 定款にその旨の定めを設けることにより,
1481 相続その他の一般承継により
1482 当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対し,
1483 当該譲渡制限株式を当該株式会社に売り渡
1484 すことを請求することができることとし,
1485 当該株式会社にとって必ずしも好ましくない者が当
1486 該株式会社の株主となることを防ぐことができるようにすることにあることを踏まえつつ,
1487 本
1488 件請求の適否について,
1489 具体的に検討することが求められる。
1490
1491
1492 その際には,
1493 Bは甲社株式を相続する前から甲社の株主であったこと,
1494 Bが相続した甲社株
1495 式450株の全部についてではなく,
1496 Cが甲社の総株主の議決権の過半数を確保するために最
1497 低限必要な401株についてのみ,
1498 甲社がBに対して売渡しの請求をすることとしたこと,
1499 A
1500 が取締役を退任した後はCも取締役を退任してBが代表取締役社長を務める旨のAC間の合意
1501 が存在していたこと,
1502 本件請求はCが甲社の支配権を取得する目的でされていること,
1503 他方で,
1504
1505 会社法第174条の文言上は,
1506 これらのことにより,
1507 譲渡制限株式の相続人等に対する売渡し
1508 の請求が不適法となるとは規定されていないこと,
1509 甲社定款第9条の定めは設立当初から設け
1510 られていたことなどの諸事情を総合的に考慮して,
1511 説得的に論ずることが求められる。
1512
1513
1514 その上で,
1515 平成29年7月3日に開催された臨時株主総会における甲社がBに対して売渡し
1516 の請求をすることに関する議案を可決した決議について,
1517 @特別の利害関係を有する者が議決
1518 権を行使したことによる著しく不当な決議に該当するか否か(会社法第831条第1項第3
1519 号),
1520 A決議の内容が法令に違反するか否か(同法第830条第2項),
1521 又はB決議の内容が定
1522 款(定款の趣旨)に違反するか否か(同法第831条第1項第2号),
1523 及び当該決議が取り消
1524 され,
1525 又は無効であることが確認されることにより,
1526 本件請求が効力を生じないこととなるこ
1527 となどについて,
1528 検討することが考えられる。
1529
1530
1531 〔第3問〕
1532 本問は,
1533 Aが,
1534 Bが運転するタクシーとCが運転する自動車との衝突事故(本件事故)によ
1535 って負傷したという事例を基本的な題材として,
1536 @BがAを被告として150万円を超える損
1537 害賠償債務の不存在確認の訴えを提起し,
1538 その訴訟が係属した後,
1539 AがB及びCを被告として
1540 提起する損害賠償請求の訴えが適法であるとする立論をすること(設問1),
1541 AAを原告,
1542 B
1543 及びCを被告とする損害賠償請求訴訟において,
1544 Bが,
1545 病院開設者である法人Dを所持者とし
1546 てAの診療記録について文書提出命令を申し立てた場合に,
1547 Dに文書提出義務があるとする立
1548 論をすること(設問2),
1549 B当該訴訟の第一審判決においてAのCに対する請求が棄却された
1550 場合に,
1551 Bが,
1552 Aのために補助参加の申出をするとともに,
1553 Aを控訴人,
1554 Cを被控訴人として
1555 提起した控訴が適法かどうかを論ずること(設問3)をそれぞれ求めるものである。
1556
1557
1558
1559 - 11 -
1560
1561 なお,
1562 甲地裁及び乙地裁が本問に現れる訴えの土地管轄及び事物管轄を有することは解答の
1563 前提にするよう問題文に明記しているので,
1564 これらの管轄の有無を論ずる必要はない。
1565
1566
1567 設問1では,
1568 まず,
1569 Bが既にAを被告として150万円を超える損害賠償債務の不存在確認
1570 の訴えを提起し,
1571 訴状がAに送達されて訴訟係属が生じていることとの関係で,
1572 AがBに対し
1573 て400万円の支払を求める訴えの適法性が問題となる。
1574
1575 そして,
1576 AのBに対する訴えの適法
1577 性に関しては,
1578 民事訴訟法第142条の重複起訴の禁止との関係を重複起訴禁止の趣旨を踏ま
1579 えて論じなければならず,
1580 その前提として,
1581 Bの訴えの訴訟物を明示する必要がある。
1582
1583
1584 Bの訴えの訴訟物は,
1585 例えば,
1586 判例による訴訟物の捉え方を踏まえると,
1587 本件事故に係るB
1588 のAに対する不法行為に基づく損害賠償債務のうち150万円を超える部分と解することとな
1589 り,
1590 AのBに対する400万円の支払請求の訴えのうち150万円を超える部分については,
1591
1592 事件の同一性(当事者と訴訟物の同一性)が認められるので,
1593 重複起訴の禁止との関係が問題
1594 となる。
1595
1596 また,
1597 Bの訴えの訴訟物について,
1598 Bが義務を自認している150万円の部分をも含
1599 むと解する考え方に立つと,
1600 AのBに対する400万円の支払請求の訴えの全部について重複
1601 起訴の禁止との関係が問題となる。
1602
1603 訴訟物の捉え方については,
1604 複数の考え方があり得るとこ
1605 ろであり,
1606 どの立場に立つかによって評価に差がつくわけではないが,
1607 いずれにせよ,
1608 Bの訴
1609 えの訴訟物は,
1610 設問1を考える上で当然に明示する必要がある。
1611
1612
1613 そして,
1614 設問1で重複起訴の禁止との関係を論ずる際には,
1615 Aがその訴えを提起する裁判所
1616 が,
1617 Bの訴えに係る訴訟が係属している裁判所(乙地裁)であるのか,
1618 それ以外の裁判所(甲
1619 地裁)であるのかという課題(1)と課題(2)の違いを意識しつつ検討を進める必要がある。
1620
1621
1622 設問1の課題(1)では,
1623 まず,
1624 Aが乙地裁にBを被告とする訴えを提起することが適法であ
1625 ることを論ずる必要があり,
1626 金銭債務不存在確認の訴えの被告は原告に対してその金銭の支払
1627 を求める反訴を提起することができ,
1628 これによると重複起訴の禁止の規定に抵触しないこと(そ
1629 もそも同条が禁止する「更に訴えを提起すること」に当たらないと考えられること,
1630 又は「更
1631 に訴えを提起すること」には当たるが,
1632 重複起訴禁止の趣旨に反しないので適法と考えられる
1633 こと)を指摘することが求められる。
1634
1635
1636 設問1の課題(1)では,
1637 これに加えて,
1638 Aが,
1639 乙地裁において,
1640 CをBとの共同被告として
1641 損害賠償請求の訴えを適法に提起できることを論ずる必要がある。
1642
1643 これについては,
1644 共同訴訟
1645 の一般的要件(同法第38条前段)を満たすことを指摘すべきであるのはもちろんであるが,
1646
1647 そのほかに,
1648 上記のようにAがBに対する反訴を提起する場合,
1649 この反訴請求と併合して本訴
1650 原告以外の者であるCに対する請求に係る訴えを提起できるかを検討する必要がある。
1651
1652 すなわ
1653 ち,
1654 Bに対する反訴請求と本訴原告ではないCに対する請求とを併合して訴えを提起すること
1655 を許せば,
1656 法が定めていない主観的追加的併合を認めることになるが,
1657 それでよいかという問
1658 題が存在するので,
1659 この問題を意識しつつ,
1660 それが許されるとの立論をすることが求められる。
1661
1662
1663 他方,
1664 Aが,
1665 Bの訴えに対する反訴ではなく,
1666 別訴として,
1667 BとCを共同被告とする訴えを乙
1668 地裁に提起することも考えられるところ,
1669 この場合には主観的追加的併合の許否という問題は
1670 生じないが,
1671 前記の重複起訴の禁止の問題との関係で,
1672 Aが受訴裁判所に口頭弁論の併合を求
1673 め,
1674 口頭弁論が併合されることにより重複起訴禁止の趣旨に反しなくなることを指摘して,
1675 訴
1676 えの適法性を理由づけることが望まれる。
1677
1678
1679 また,
1680 金銭債務不存在確認の訴えの被告が原告に対してその金銭の支払を求める反訴を提起
1681 した場合には,
1682 その確認の訴えについて確認の利益が認められなくなる旨の判例(最高裁判所
1683 平成16年3月25日第一小法廷判決・民集58巻3号753頁)の趣旨を意識しつつ,
1684 Aが
1685 Bに対する給付の訴えを提起することにより,
1686 Bの訴えについては確認の利益がなくなること
1687 を指摘して,
1688 重複起訴禁止の趣旨に反せず適法であるとする解答も,
1689 一応の評価ができるとこ
1690 ろである。
1691
1692
1693 次に,
1694 設問1の課題(2)は,
1695 Aが,
1696 甲地裁において,
1697 BとCに対する訴えを提起する場合で
1698
1699 - 12 -
1700
1701 あってもそれが適法であるとする立論をすることを求めている。
1702
1703 課題(1)と異なり,
1704 反訴によ
1705 ることはできず,
1706 また,
1707 官署としての裁判所を異にするため直ちに口頭弁論を併合することも
1708 できない。
1709
1710 そこで,
1711 本件でAが甲地裁にBとCを共同被告とする訴えを提起する場合,
1712 Bの訴
1713 えに係る訴訟が係属する裁判所とは別の裁判所に提起する別訴であっても,
1714 これを適法と認め
1715 るべき必要性及び重複起訴の禁止の趣旨が妥当しないとする理由を示すことにより,
1716 Aの訴え
1717 が適法であることを述べることになる。
1718
1719 そこでは,
1720 債務不存在確認訴訟と給付訴訟とでは得ら
1721 れる判決の効果に違いがあること(給付判決には執行力が認められる。
1722
1723 ),
1724 Bの訴えの訴訟物が
1725 150万円を超える部分のみであると解する見解に立つ場合には,
1726 Aの訴えの訴訟物のうちB
1727 の訴えの訴訟物となっていない150万円については訴訟物の重なりがないこと,
1728 Bが自己に
1729 有利な管轄裁判所に消極的確認の訴えを提起することにより,
1730 Aが甲地裁で訴えを提起できる
1731 はずの地位を損なうこと,
1732 本件では,
1733 Aの訴えの提起がBの訴えについての第1回口頭弁論期
1734 日前の時点でされており,
1735 Bの訴えについて審理が進んでいる状態ではないことなどの諸事情
1736 を考慮に入れて論ずることが期待される。
1737
1738
1739 設問2では,
1740 Aの診療記録について所持者Dが文書提出義務を負うかどうかが問題となり,
1741
1742 同法第220条の規定に即して文書提出義務を肯定する立論をすることが求められる。
1743
1744 同条の
1745 規定のうち根拠として検討する必要があるのは,
1746 一般的な文書提出義務を定めた同条第4号で
1747 ある。
1748
1749 本問では,
1750 除外事由としての同号ハ・第197条第1項第2号(医師の守秘義務に係る
1751 文書)への該当性が問題となり,
1752 医師の守秘義務によって保護されているのが訴訟の当事者で
1753 あるAについての情報であることがDの文書提出義務に影響するのではないかという点を考慮
1754 に入れ,
1755 文書の所持者が当該訴訟の当事者に対して負う守秘義務が問題となった場合の判例(最
1756 高裁判所平成19年12月11日第三小法廷決定・民集61巻9号3364頁)の趣旨等をも
1757 考慮して,
1758 除外事由に当たらないことの理由を示すことが必要となる。
1759
1760
1761 そのほかに,
1762 同法第220条第3号前段の利益文書を根拠とする立論をすることにも一定の
1763 評価が可能であるところ,
1764 Aの診療記録についてAの相手方当事者であるBの利益のために作
1765 成されたといえるか,
1766 同条第4号の除外事由の適用又は類推適用がないか(それがあるとする
1767 と,
1768 除外事由に該当しないか)等の問題点について,
1769 提出義務を肯定する方向で論ずることが
1770 求められる。
1771
1772
1773 なお,
1774 同号ニ(いわゆる自己利用文書)の該当性も一応問題になり得るが,
1775 一般に診療記録
1776 が各種の事項に関して証拠方法となり得ること等を踏まえると,
1777 専ら所持者の利用に供するた
1778 めの文書とは解することができないので,
1779 自己利用文書の該当性を論ずる必要はない。
1780
1781
1782 設問3では,
1783 主張(ア)との関係で,
1784 第一審で補助参加をしていなかったBがAのために控訴
1785 をすることの可否について,
1786 主張(イ)との関係で,
1787 補助参加の利益(同法第42条参照)につ
1788 いて,
1789 それぞれ論じ,
1790 Bの控訴が適法か否かの結論を示す必要がある。
1791
1792
1793 前者に関しては,
1794 第一審で補助参加をしていなかった者も,
1795 補助参加の申出とともに被参加
1796 人のために控訴ができるとするのが同法第43条第2項及び第45条第1項から導かれる適切
1797 な解釈である。
1798
1799 後者の補助参加の利益の有無に関しては,
1800 考え方が分かれ得るところであり,
1801
1802 最高裁判所昭和51年3月30日第三小法廷判決・裁判集民事117号323頁の趣旨等をも
1803 意識しつつ,
1804 自らの考え方を述べることが求められる。
1805
1806
1807 【刑事系科目】
1808 〔第1問〕
1809 本問は,
1810 設問1で,
1811 A高校のPTA会長である乙が,
1812 同高校のPTA役員会において,
1813
1814 「2年
1815 生の数学を担当する教員(丙)がうちの子(甲)の顔を殴った。
1816
1817 徹底的に調査すべきである。
1818
1819
1820 」と
1821 発言した行為について,
1822 名誉毀損罪の成否を検討させ,
1823 設問2で,
1824 夜間の町外れの山道脇の駐車
1825
1826 - 13 -
1827
1828 場において,
1829 負傷して倒れていた父親の乙を救助しなかった甲の不作為について,
1830 殺人未遂罪及び
1831 保護責任者遺棄等罪が成立すると主張する上での各理論構成を検討させ,
1832 さらに,
1833 設問3で,
1834 同
1835 所において,
1836 甲とは無関係の丁が負傷して倒れていた場合に,
1837 その丁を救助しなかった甲の不作為
1838 について,
1839 殺人未遂罪が成立すると主張する上での理論構成を検討させることにより,
1840 刑事実体法
1841 及びその解釈論の知識と理解を問うとともに,
1842 具体的な事実関係を分析し,
1843 その事実に法規範を適
1844 用する能力並びに論理的な思考力及び論述力を試すものである。
1845
1846
1847
1848
1849 設問1について
1850 本問では,
1851 乙の罪責について,
1852 丙に対する名誉毀損罪の成否を検討することになる。
1853
1854 そこ
1855 で,
1856 同罪の客観的構成要件である「公然」,
1857 「事実の摘示」,
1858 「人の名誉」及び「毀損」という
1859 各構成要件要素について,
1860 事実を指摘して具体的に論じる必要がある。
1861
1862
1863 まず,
1864 「公然」の意義について,
1865 判例の見解では,
1866 不特定又は多数人が認識し得る状態を
1867 いうとされているところ,
1868 公然性が認められるためには,
1869 不特定又は多数人が現実に摘示内
1870 容を認識することを必要とせず,
1871 認識できる状態に置かれれば足りることを的確に指摘する
1872 必要がある。
1873
1874
1875 その上で,
1876 乙がA高校のPTA役員会において,
1877 これに出席していた校長及び保護者3名
1878 に対し,
1879 丙に関する悪評を伝えた行為に公然性が認められるかが問題となるところ,
1880 判例の
1881 立場によれば,
1882 摘示の相手方が特定かつ少数人であっても,
1883 その者らを通じて間接的に不特
1884 定又は多数人へと伝播する可能性がある場合には,
1885 人に対する社会的評価を低下させる危険
1886 を生じさせることから,
1887 公然性を肯定できることを論じることになる。
1888
1889 もっとも,
1890 「公然」
1891 とは,
1892 文理上,
1893 結果の公然性ではなく,
1894 行為の公然性を意味するものであることや,
1895 伝播さ
1896 せるかどうかという相手方の意思により犯罪の成否が左右されるのは不当であることなどを
1897 理由として,
1898 伝播性の理論を否定し,
1899 摘示の直接の相手方が不特定又は多数人であることが
1900 必要であるとする見解に立って論じることも可能である。
1901
1902
1903 本問において,
1904 乙が摘示した直接の相手方は,
1905 PTA役員会に出席していた校長及び保護
1906 者3名という特定かつ少数人にとどまるものの,
1907 これらの出席者は,
1908 多数人であるA高校の
1909 生徒の保護者らの代表者であって,
1910 同役員会における協議結果等を他の保護者や教員ら同高
1911 校関係者に伝達・連絡することが当然予定されている。
1912
1913 そのような場において,
1914 乙が「徹底
1915 的に調査すべきである。
1916
1917 」などと発言して,
1918 丙の暴力行為を糾弾することは,
1919 出席者である
1920 校長又はPTA役員を介して,
1921 同高校内における事実調査や噂話により,
1922 同高校関係者等の
1923 不特定又は多数人に伝播する可能性が十分あり得ることに着目すれば,
1924 伝播性の理論を肯定
1925 する立場からは,
1926 公然性が認められることになる。
1927
1928 他方,
1929 伝播性の理論を否定する立場から
1930 は,
1931 摘示の直接の相手方が特定かつ少数人にとどまることから,
1932 公然性は認められないこと
1933 になる。
1934
1935
1936 次に,
1937 「事実の摘示」,
1938 「人の名誉」及び「毀損」の各構成要件要素についても,
1939 それぞれ
1940 の意義を正確に押さえつつ,
1941 本問における乙の発言について,
1942 具体的事実を指摘して,
1943 それ
1944 らの要件充足性の検討を行う必要がある。
1945
1946 その際,
1947 A高校2年生の数学を担当する教員は丙
1948 だけであったことから,
1949 「2年生の数学を担当する教員」という発言が,
1950 特定の対象者に対
1951 する事実の摘示であることを論じるほか,
1952 教員である丙が生徒である甲の顔を殴ったという
1953 事実を摘示することは,
1954 高校教員という職業的地位に鑑み,
1955 法的保護に値する社会的評価を
1956 害するに足りる行為といえることを論じる必要がある。
1957
1958
1959 他方,
1960 乙の発言について公然性を否定した場合には,
1961 PTA役員会の出席者であった校長
1962 による聞き取り調査を通じて,
1963 A高校の教員らに丙の悪評を広めた点を捉えて,
1964 乙に,
1965 校長
1966 の行為を利用した名誉毀損罪の間接正犯あるいは校長との共同正犯や教唆犯が成立しないか
1967 についても更に検討する余地がある。
1968
1969
1970
1971 - 14 -
1972
1973 そして,
1974 主観的要件として,
1975 名誉毀損罪の故意の有無を検討する必要があるところ,
1976 乙に
1977 おいて,
1978 丙の名誉を毀損する意図や目的まで有していたかどうかに関わりなく,
1979 自らのPT
1980 A役員会における発言によって,
1981 丙の社会的評価を低下させるおそれがある事実を不特定又
1982 は多数人に伝播させることの認識,
1983 認容があったと認められることを簡潔に指摘する必要が
1984 ある。
1985
1986
1987 なお,
1988 乙は,
1989 丙が甲に暴力を振るったことが真実であると誤信しているが,
1990 そもそも,
1991 乙
1992 には,
1993 公益を図る目的がなかったことから,
1994 刑法第230条の2の適用は問題とならない。
1995
1996
1997 また,
1998 PTA役員会における乙の発言については,
1999 教員の生徒に対する暴力行為を保護者と
2000 して糾弾する行為として,
2001 刑法第35条の正当行為に該当するか否かを検討する余地はある
2002 が,
2003 乙は,
2004 丙に対する個人的な恨みを晴らそうという目的から,
2005 PTA役員会での発言に及
2006 んでいることを考慮すれば,
2007 乙の行為に社会的相当性は認められず,
2008 正当行為には該当しな
2009 いものと考えられる。
2010
2011
2012
2013
2014 設問2について
2015 本問では,
2016 甲の罪責について,
2017 @殺人未遂罪が成立するとの立場と,
2018 A保護責任者遺棄等
2019 罪にとどまるとの立場の双方の主張・反論に言及しつつ,
2020 最終的に自説としていかなる結論
2021 を採るのかを論じる必要がある。
2022
2023
2024 まず,
2025 @不作為による殺人未遂罪が成立するとの立場からは,
2026 作為犯と対比して構成要件
2027 的に同価値と評価できるか否かについて,
2028 作為義務と作為可能性の観点から判断すべきであ
2029 ることを指摘する必要がある。
2030
2031
2032 作為義務については,
2033 その発生根拠と内容を指摘・検討した上で,
2034 本問において,
2035 甲と乙
2036 が親子関係にあることを前提に,
2037 甲が本件駐車場で倒れている乙を発見した後,
2038 自らが乙に
2039 声を掛けたことにより,
2040 意識を取り戻した乙が崖近くまで歩いて転倒した様子を見ているこ
2041 と,
2042 乙が転倒した場所のすぐそばが崖となっており,
2043 崖から約5メートル下の岩場に乙が転
2044 落するおそれがあったところ,
2045 当時,
2046 本件駐車場には,
2047 車や人の出入りがほとんどなかった
2048 上,
2049 乙が転倒した場所は,
2050 草木に覆われており,
2051 山道及び本件駐車場からは倒れている乙が
2052 見えなかったことなどの事実に触れつつ,
2053 先行行為や事実上の引受け,
2054 さらには,
2055 排他的支
2056 配性や危険の創出等の発生根拠の充足性について論じる必要がある。
2057
2058
2059 また,
2060 作為可能性については,
2061 その要件としての必要性を簡潔に指摘した上,
2062 本問におい
2063 て,
2064 乙が崖近くで転倒した時点で,
2065 甲は,
2066 本件駐車場に駐車中の乙の自動車の中に乙を連れ
2067 て行くなどして,
2068 乙が崖下に転落することを確実に防止することを容易に行うことができた
2069 ことから,
2070 作為の可能性・容易性が認められることを論じる必要がある。
2071
2072
2073 そして,
2074 不作為犯の実行の着手時期についても,
2075 その判断基準を示した上で,
2076 本問におい
2077 て,
2078 甲が,
2079 乙が崖近くで転倒していることを認識しながら,
2080 乙の救助を行わないことを決意
2081 した時点,
2082 又は,
2083 その決意の表れとして本件駐車場から走り去った時点,
2084 あるいは,
2085 乙が崖
2086 下に転がり落ちて重傷を負った時点で,
2087 実行の着手を認めることができることを指摘する必
2088 要がある。
2089
2090
2091 さらに,
2092 甲に殺人未遂罪が成立するためには,
2093 主観的要件として殺意が認められる必要が
2094 あることから,
2095 その点に関する甲の認識内容について,
2096 事実を指摘して具体的に論じなけれ
2097 ばならない。
2098
2099
2100 次に,
2101 A保護責任者遺棄等罪にとどまるとの立場からは,
2102 まずは,
2103 前提として,
2104 保護責任
2105 の意義及び不作為による殺人未遂罪における作為義務との異同を論じつつ,
2106 本問において,
2107
2108 甲に,
2109 乙に対する保護責任が認められることを指摘する必要がある。
2110
2111
2112 その上で,
2113 殺人未遂罪と保護責任者遺棄等罪の区別の基準について,
2114 判例・学説に照らし,
2115
2116 殺意の有無という主観面による判断要素や,
2117 重大な先行行為の有無や危険の程度といった客
2118 観面による判断要素を検討すべきであることを,
2119 その理由にも言及しつつ論じる必要がある。
2120
2121
2122
2123 - 15 -
2124
2125 本問において,
2126 主観面による判断要素に照らせば,
2127 甲は,
2128 乙が崖近くで転倒した時点で,
2129
2130 乙が転倒した場所のすぐそばが崖となっており,
2131 崖下の岩場に乙が転落するおそれがあるこ
2132 とを認識した上で,
2133 乙を助けることをやめようと考えたのであるから,
2134 抽象的には,
2135 乙が死
2136 亡する危険性があることを認識・認容していたものといえる。
2137
2138 もっとも,
2139 この時点で,
2140 乙の
2141 怪我の程度は軽傷であり,
2142 その怪我により乙が死亡する危険はなかったのであるから,
2143 甲に
2144 殺意があったと認定するためには,
2145 乙が死亡する具体的危険性,
2146 すなわち,
2147 崖近くで転倒し
2148 ている乙が,
2149 再び意識を取り戻すなどした後,
2150 何らかの原因により,
2151 崖から約5メートル下
2152 の岩場に転落し,
2153 頭部等を岩に強打することによって即死するか,
2154 あるいは,
2155 仮に即死に至
2156 らなかったとしても,
2157 瀕死の重傷を負うことになり,
2158 そうなった場合,
2159 車や人の出入りがな
2160 い夜間の山道において,
2161 第三者の救助を得ることなく死亡するという危険が現実化すること
2162 を認識したことが必要である。
2163
2164 ただし,
2165 甲に殺意が認められるとしても,
2166 客観面による判断
2167 要素を考慮して,
2168 甲が乙に声を掛けた先行行為自体は死の危険性が乏しい,
2169 あるいは,
2170 乙の
2171 怪我が軽傷であって,
2172 崖下への転落の危険も抽象的なものにとどまるとして,
2173 殺人未遂罪の
2174 成立を否定する余地はある。
2175
2176
2177 以上を踏まえ,
2178 甲の罪責について,
2179 自説の立場として,
2180 いかなる結論を採るのかについて,
2181
2182 反対説の立場からの反論を意識しつつ,
2183 その理由付けの補強や再反論を論じていくことが肝
2184 要である。
2185
2186
2187
2188
2189 設問3について
2190 本問では,
2191 甲は,
2192 客観的には,
2193 乙に対して救助の作為義務を負っている一方で,
2194 主観的に
2195 は,
2196 (乙と誤認された)丁に対して救助の作為義務を負っていると誤信しているところ,
2197 甲
2198 に殺人未遂罪が成立すると主張する上での理論構成を論じる必要がある。
2199
2200
2201 同罪の成否が問題となる対象として,
2202 故意犯の成否は,
2203 認識された事実を前提に検討され
2204 ることから,
2205 丁の近くで現実に倒れている乙ではなく,
2206 丁の代わりに存在すると誤信されて
2207 いる乙であることを的確に指摘する必要がある。
2208
2209
2210 次に,
2211 危険の判断方法として,
2212 存在すると誤信されている(その意味で,
2213 現実には存在し
2214 ない)乙を不救助により殺害することはできないことから,
2215 いわゆる客体の不能が問題とな
2216 るところ,
2217 作為犯における未遂犯と不能犯を区別する基準に関する学説に照らして,
2218 甲の不
2219 作為に殺人の実行行為性が認められないかを検討することになる。
2220
2221
2222 例えば,
2223 甲は,
2224 丁の体格や着衣が乙に似ていたこと,
2225 本件駐車場に乙の自動車が駐車され
2226 ていたこと,
2227 夜間で同駐車場には街灯がなく暗かったことから,
2228 丁を乙と誤認している上,
2229
2230 甲と同じ立場にいる一般人でも,
2231 丁を乙と誤認する可能性が十分に存在したことから,
2232 抽象
2233 的危険説からは,
2234 甲が認識していた事情を基礎として危険性が認められることになり,
2235 具体
2236 的危険説からは,
2237 一般人が認識し得た事情を基礎として危険性が認められることになる。
2238
2239 他
2240 方,
2241 客観的危険説からは,
2242 行為時に存在した全ての事情を基礎とすれば,
2243 丁はあくまで丁で
2244 あって,
2245 危険性は認められないことになるが,
2246 修正された客観的危険説に立つと,
2247 同駐車場
2248 には丁以外にも負傷した乙が倒れており,
2249 甲が丁を救助するために丁に近づけば,
2250 容易に乙
2251 を発見することができたのであるから,
2252 かかる仮定的事実の下で,
2253 危険性が認められる余地
2254 があるということになる。
2255
2256 そこで,
2257 自説の立場を論じた上で,
2258 その危険の有無について結論
2259 を導き出す必要がある。
2260
2261
2262 そして,
2263 自説の立場を前提に,
2264 甲に殺人未遂罪が成立すると主張するため,
2265 主観面,
2266 すな
2267 わち,
2268 殺意の存在についても言及する必要がある。
2269
2270 本問では,
2271 現実には丁が存在し,
2272 甲は,
2273
2274 その丁を,
2275 乙と誤認しながらも客体としては認識していたという事情があるため,
2276 具体的事
2277 実の錯誤(客体の錯誤)として捉えれば,
2278 丁に対する故意が肯定され,
2279 現実に存在した丁を
2280 対象とする殺人未遂罪が成立することになる。
2281
2282 これに対して,
2283 具体的事実の錯誤(客体の錯
2284 誤)として捉えない場合は,
2285 甲には,
2286 丁の代わりに仮定された乙に対する故意が肯定され,
2287
2288
2289 - 16 -
2290
2291 その意味で,
2292 乙を対象とする殺人未遂罪が成立することになる。
2293
2294 その場合,
2295 具体的事実の錯
2296 誤(客体の錯誤)として捉えない理由が論じられるべきである。
2297
2298
2299 〔第2問〕
2300 本問は,
2301 詐欺事件の捜査及び公判に関する事例を素材に,
2302 刑事手続法上の問題点を指摘させ
2303 た上で,
2304 その解決に必要な法解釈,
2305 法適用に当たって重要な具体的事実の分析及び評価並びに
2306 結論に至る思考過程を論述させることにより,
2307 刑事訴訟法に関する基本的学識,
2308 法適用能力及
2309 び論理的思考力を試すものである。
2310
2311
2312 〔設問1〕は,
2313 司法警察員Pが,
2314 犯人から被害者Vに交付された領収書に記載された住所に
2315 所在するA工務店事務所に出入りしていた男について,
2316 A工務店代表者甲又はその従業員であ
2317 る可能性があると考え,
2318 犯人とその男との同一性をVに確認させるため,
2319 同事務所から出てき
2320 たその男の容ぼう・姿態をビデオカメラで撮影したこと(下線部@),
2321 その後,
2322 犯人が持って
2323 いた工具箱と甲が持ち歩いていた工具箱との同一性をVに確認させるため,
2324 同事務所の向かい
2325 側にあるマンションの2階通路から,
2326 望遠レンズ付きビデオカメラで,
2327 同事務所の玄関上部に
2328 ある採光用の小窓を通し,
2329 同事務所内の机上に置かれた,
2330 「A工務店」と書かれた小さな円形
2331 ステッカーの貼ってある赤い工具箱を撮影したこと(下線部A)に関し,
2332 その適法性を検討さ
2333 せる問題である。
2334
2335 具体的には,
2336 これらの捜査活動の適否に係る検討を通じ,
2337 いわゆる強制処分
2338 と任意処分を区別する基準,
2339 強制捜査又は任意捜査の適否の判断方法についての理解と,
2340 その
2341 具体的事実への適用能力を試すことを狙いとする。
2342
2343
2344 まず,
2345 ある捜査活動がいわゆる強制処分に該当する場合,
2346 刑事訴訟法にその根拠となる特別
2347 の規定がある場合に限って許されるため(同法第197条第1項ただし書き,
2348 強制処分法定主
2349 義),
2350 当該捜査活動が強制処分に該当するのか,
2351 それとも任意処分にとどまるのか,
2352 両者の区
2353 別が問題となる。
2354
2355
2356 この点に関し,
2357 写真撮影やビデオカメラによる撮影について扱った最高裁判所の判例は,
2358 そ
2359 れらの撮影が強制処分に該当するか否かを明示的に判断しておらず,
2360 当該事案においては令状
2361 によらずに適法にこれらを実施することが許されるとしたにとどまる(最大判昭和44年12
2362 月24日刑集23巻12号1625頁,
2363 最決平成20年4月15日刑集62巻5号1398
2364 頁)。
2365
2366 他方で,
2367 最高裁判所は,
2368 「強制手段とは,
2369 有形力の行使を伴う手段を意味するものではな
2370 く,
2371 個人の意思を制圧し,
2372 身体,
2373 住居,
2374 財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行
2375 為など,
2376 特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」と判示してお
2377 り(最決昭和51年3月16日刑集30巻2号187頁。
2378
2379 以下「昭和51年決定」という。
2380
2381 ),
2382
2383 同決定に留意しつつ,
2384 強制処分に対する規律の趣旨・根拠を踏まえながら,
2385 強制処分と任意処
2386 分とを区別する基準を提示することが求められる。
2387
2388
2389 次に,
2390 Pらの捜査活動が強制処分に至っていると評価される場合には,
2391 現行法の法的規律の
2392 在り方に従ってその適否(法定された既存の強制処分の類型に該当するか否か,
2393 これに該当す
2394 る場合には法定された実体的及び手続的要件を充足するか否か)を検討することが必要となる
2395 が,
2396 それが任意処分にとどまると評価される場合であっても,
2397 当該捜査活動により何らかの権
2398 利・利益を侵害し又は侵害するおそれがあるときは,
2399 無制約に許容されるものではないことか
2400 ら,
2401 任意捜査において許容される限界内のものか否かが問題となる。
2402
2403
2404 この任意処分の許容性の判断に当たっては,
2405 いわゆる「比例原則」から,
2406 具体的事案におい
2407 て,
2408 特定の捜査手段により対象者に生じ得る法益侵害の内容・程度と,
2409 特定の捜査目的を達成
2410 するため当該捜査手段を用いる必要性とを比較衡量することになる。
2411
2412 この点,
2413 昭和51年決定
2414 も,
2415 「強制手段にあたらない有形力の行使であっても,
2416 何らかの法益を侵害し又は侵害するお
2417 それがあるのであるから,
2418 状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく,
2419
2420 必要性,
2421 緊急性などをも考慮したうえ,
2422 具体的状況のもとで相当と認められる限度において許
2423
2424 - 17 -
2425
2426 容されるものと解すべきである。
2427
2428 」と判示しており,
2429 同決定に留意しつつ,
2430 任意処分の適否の
2431 判断方法を提示することが求められる。
2432
2433 なお,
2434 当該捜査手段を用いる必要性を検討するに当た
2435 っては,
2436 対象となる犯罪の性質・重大性,
2437 捜査対象者に対する嫌疑の程度,
2438 当該手段によって
2439 達成される捜査目的等に関わる具体的事情を適切に抽出し,
2440 評価する必要がある(なお,
2441 前記
2442 最大判昭和44年12月24日,
2443 最決平成20年4月15日を参照。
2444
2445 )。
2446
2447
2448 このように,
2449 本設問の解答に当たっては,
2450 強制処分,
2451 任意処分それぞれに対する法的規律の
2452 趣旨・根拠を踏まえつつ,
2453 判例の考え方にも留意して,
2454 強制処分と任意処分を区別する基準や,
2455
2456 強制処分又は任意処分の適否の判断方法を提示した上,
2457 本設問の事例に現れた具体的事実が,
2458
2459 その判断方法において,
2460 果たして,
2461 またどのような意味を持つのかを意識しながら,
2462 下線部@
2463 及び下線部Aの各捜査の適法性を検討する必要がある。
2464
2465
2466 下線部@の捜査の適法性を検討するに当たっては,
2467 当該捜査により対象者のいかなる権利・
2468 利益が制約され得るかを具体的に指摘した上,
2469 対象者に認識されることなく秘密裏に撮影した
2470 こと,
2471 公道上にいる対象者について,
2472 事務所の玄関ドアに向かって立ち,
2473 ドアの鍵を掛けた後,
2474
2475 振り返って歩き出す姿を約20秒間にわたり撮影したこと等の具体的事実を指摘し,
2476 PがA工
2477 務店事務所から出てきた男の容ぼう・姿態をビデオカメラで撮影した行為が強制処分に該当す
2478 るか否かについて,
2479 強制処分と任意処分とを区別する基準に従って評価することが求められる。
2480
2481
2482 その結果,
2483 強制処分に該当しないとの結論に至った場合,
2484 次に,
2485 当該捜査が任意捜査におけ
2486 る限度内のものといえるかを検討する必要がある。
2487
2488 本設問の事例においては,
2489 本件が被害額1
2490 00万円の詐欺事案であること,
2491 Vが犯人から受領した領収書には「A工務店代表甲」と記載
2492 されていたこと,
2493 被撮影者はA工務店事務所に出入りする人物であること,
2494 Vは犯人の顔をよ
2495 く覚えていない旨供述していたこと,
2496 公道上にいる男が,
2497 事務所の玄関ドアに向かって立ち,
2498
2499 ドアの鍵を掛けた後,
2500 振り返って歩き出す姿を約20秒間にわたり撮影したこと,
2501 Pが撮影し
2502 た場所は,
2503 公道上に駐車した車両内であること等の具体的事実を指摘した上,
2504 任意処分の適否
2505 の判断方法に従って評価することが求められる。
2506
2507
2508 下線部Aの捜査についても,
2509 下線部@の捜査と同様の判断方法に従って適法性を検討するこ
2510 とが求められるが,
2511 両者は,
2512 そこで制約される権利・利益の内容やその要保護性の程度,
2513 撮影
2514 方法等が異なっていることから,
2515 この点を意識して論じる必要がある。
2516
2517 すなわち,
2518 下線部Aの
2519 捜査は,
2520 不特定多数の客が出入りすることが想定されていない上,
2521 窓にブラインドカーテンが
2522 下ろされており,
2523 内部の様子を公道から見ることができないA工務店事務所内を,
2524 向かい側に
2525 あるマンションの2階通路から,
2526 望遠レンズ付きビデオカメラで,
2527 同事務所の玄関上部にある
2528 採光用の小窓を通して約5秒間にわたり撮影したというものであり,
2529 同事務所は,
2530 住居ほどで
2531 ないとしても,
2532 公道などとは異なりなお私的領域たる性格が認められる場所であること,
2533 承諾
2534 のない限り,
2535 通常,
2536 事務所内に侵入しなければ確認できないような状態にある対象を撮影して
2537 いることなどを踏まえ,
2538 強制処分と任意処分の区別に関する判断基準に従って評価することが
2539 求められる。
2540
2541
2542 その結果,
2543 強制処分に該当するとの結論に至った場合には,
2544 無令状でした下線部Aの捜査が,
2545
2546 強制処分に対する現行法の法的規律の下で許容され得るか否かを検討することが,
2547 これに対し,
2548
2549 強制処分に該当しないとの結論に至った場合には,
2550 任意処分の適否の判断方法に従い,
2551 具体的
2552 事実を指摘しながら,
2553 当該捜査の適法性について評価することが,
2554 それぞれ求められる。
2555
2556
2557 〔設問2〕は,
2558 被害者Vが犯人から申し向けられた欺罔文言を記したメモ及びVが犯人から
2559 交付を受けた領収書について,
2560 本事例にある検察官Qが明示した各立証趣旨を踏まえて,
2561 証拠
2562 能力の有無を検討させる問題である。
2563
2564
2565 前提として,
2566 刑事訴訟法第320条第1項のいわゆる伝聞法則の趣旨を踏まえ,
2567 同項の適用
2568 の有無,
2569 すなわち伝聞と非伝聞の区別基準を示すことが求められる。
2570
2571 この区別は,
2572 当該証拠に
2573 よって何をどのように証明しようとするかによって決まり,
2574 具体的には,
2575 公判外供述を内容と
2576
2577 - 18 -
2578
2579 する供述又は書面を,
2580 公判外の原供述の内容の真実性を証明するために用いるか否かによると
2581 されるのが一般的である。
2582
2583
2584 その上で,
2585 本件メモ及び本件領収書について,
2586 本事例において明示された立証趣旨を踏まえ
2587 て,
2588 想定される立証上の使用方法に鑑み,
2589 伝聞・非伝聞の別について分析するとともに,
2590 伝聞
2591 証拠に該当する場合には,
2592 各書面に相応する伝聞例外規定を摘示した上,
2593 その要件を充足する
2594 か否かについて,
2595 また,
2596 非伝聞証拠に該当する場合には,
2597 いかなる推論過程を経れば,
2598 (記載
2599 内容の真実性を問題とすることなしに)立証趣旨に則した事実を推認することができるのかに
2600 ついて,
2601 それぞれ的確かつ丁寧な検討,
2602 説明を行うことが求められる。
2603
2604
2605 本件メモには,
2606 Vが犯行時に犯人から申し向けられた欺罔文言が記載されており,
2607 その立証
2608 趣旨は,
2609 「甲が,
2610 平成30年1月10日,
2611 Vに対し,
2612 本件メモに記載された内容の文言を申し
2613 向けたこと」とされているところ,
2614 かかる立証趣旨を踏まえた場合に,
2615 本件メモがそこに記載
2616 された内容の真実性を立証するために用いられることになるか否かを検討し,
2617 伝聞証拠かどう
2618 かを判断する必要がある。
2619
2620 伝聞証拠に該当する場合は,
2621 伝聞例外の要件を満たすか否かを検討
2622 すべきことになるが,
2623 本件メモは,
2624 「被告人以外の者」であるVが作成した「供述書」である
2625 から,
2626 刑事訴訟法第321条第1項第3号の規定する要件を充足するか否かを検討することが
2627 求められる。
2628
2629
2630 本件領収書には甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事代金として100万円を受領
2631 した旨が記載されており,
2632 その立証趣旨は,
2633 「甲が平成30年1月10日にVから屋根裏工事
2634 代金として100万円を受け取ったこと」とされているところ,
2635 かかる立証趣旨を踏まえ,
2636 甲
2637 が特定の日にVから特定の趣旨で特定の金額の現金を受領したとの事実を立証する方法とし
2638 て,
2639 本件領収書を伝聞証拠として用いる場合と非伝聞証拠として用いる場合とを想定すること
2640 が可能であるため,
2641 その双方について検討することが求められる。
2642
2643
2644 伝聞証拠として用いる場合については,
2645 本件領収書は,
2646 「被告人」である甲が作成した「供
2647 述書」であるから,
2648 刑事訴訟法第322条第1項の規定する要件を充足するか否かについての
2649 検討が求められる。
2650
2651 他方,
2652 非伝聞証拠として用いる場合については,
2653 本件領収書の作成,
2654 交付
2655 の事実を併せ考慮することにより,
2656 領収書の記載内容の真実性とは独立に,
2657 立証趣旨に対応す
2658 る上記現金受領の事実が推認されることを相応の根拠とともに論じることが求められる。
2659
2660
2661 【選択科目】
2662 [倒産法]
2663 〔第1問〕
2664 本問は,
2665 法人が破産手続開始の決定を受けた場合の具体的事例を通じて,
2666 敷金返還請求権を
2667 有する賃借人の寄託請求及び別除権者により賃料債権について物上代位がされた場合における
2668 同請求の可否並びに破産財団から放棄された不動産の帰属先及び当該不動産について抵当権を
2669 有する者が破産手続に参加して配当を受けるために採るべき手続とその相手方についての理解
2670 を問うものである。
2671
2672
2673 設問1(1)は,
2674 敷金返還請求権の性質についての理解を前提として,
2675 敷金返還請求権を自働
2676 債権とする相殺の可否及び破産法第70条後段に規定する寄託請求制度の趣旨についての理解
2677 を問うものである。
2678
2679
2680 敷金返還請求権は,
2681 賃貸借契約が終了し,
2682 賃貸借契約の目的物を返還した時に,
2683 それまでに
2684 生じた被担保債権を控除した残額について発生する停止条件付債権であるから,
2685 賃貸借契約が
2686 継続している限り,
2687 賃借人の側から,
2688 敷金返還請求権を自働債権として,
2689 賃料債権との相殺を
2690 することはできない(破産法第67条第2項参照)。
2691
2692 しかし,
2693 それでは貸借人の保護に欠けるこ
2694 とから,
2695 同法第70条後段は,
2696 敷金返還請求権を有する賃借人が賃料債務を弁済する場合には,
2697
2698 敷金の額を限度として,
2699 弁済した賃料額の寄託を請求できることとしている。
2700
2701 この場合におけ
2702 - 19 -
2703
2704 る賃料債務の弁済は,
2705 停止条件付債権である敷金返還請求権の停止条件の成就(賃貸借の目的
2706 物件の明渡し)を解除条件とするものであり,
2707 賃借人は,
2708 賃貸借の目的物を明け渡して解除条
2709 件が成就することにより弁済が効力を失う結果,
2710 復活した賃料債権を受働債権,
2711 敷金返還請求
2712 権を自働債権として相殺すること(賃料債務を敷金から充当すること)ができることになる。
2713
2714
2715 解答に当たっては,
2716 このような敷金返還請求権の性質を踏まえてこれを自働債権とする相殺
2717 ができないことを論じた上で,
2718 それでは敷金返還請求権を有する賃借人の保護に欠けることか
2719 ら破産法第70条後段の寄託請求の制度が設けられていることを論ずる必要がある。
2720
2721
2722 設問1(2)は,
2723 別除権者による賃料債権の物上代位がされた場合に,
2724 上記のような破産法第
2725 70条後段の寄託請求制度の趣旨に照らして,
2726 賃借人Dは,
2727 A社の破産管財人Xに対して,
2728 弁
2729 済額の寄託請求をすることができるか(A社の破産管財人Xは,
2730 賃借人Dによる寄託請求に応
2731 じる必要があるか)どうかを問うものである。
2732
2733
2734 解答に当たっては,
2735 まず,
2736 抵当権者であるC銀行は,
2737 別除権者として破産手続によらずに担
2738 保権を行使することができるから,
2739 C銀行による抵当権に基づく物上代位による賃料債権の差
2740 押えも別除権の行使として許容されることを論ずる必要がある。
2741
2742
2743 その上で,
2744 賃借人Dは,
2745 賃料債務を弁済する場合に,
2746 破産法第70条後段の寄託請求をする
2747 ことができるかどうかについて,
2748 寄託請求制度の趣旨を踏まえて論ずる必要がある。
2749
2750
2751 すなわち,
2752 賃借人Dは,
2753 賃料債権が差し押さえられた場合には,
2754 差押債権者であるC銀行に
2755 賃料を支払わなければならないことになり,
2756 破産管財人Xには賃料が支払われず,
2757 破産財団に
2758 弁済金が入らないにもかかわらず,
2759 賃借人Dは,
2760 弁済する賃料額について寄託請求をすること
2761 ができるかどうかについて,
2762 破産法第70条後段の寄託請求制度の趣旨や賃借人の敷金返還請
2763 求権保護の要請,
2764 破産財団の確保の観点等を踏まえながら検討する必要がある。
2765
2766
2767 設問2(1)は,
2768 破産手続開始の決定を受けた者が法人である場合における破産財団から放棄
2769 された不動産の帰属先について,
2770 自由財産の趣旨に照らして法人にも自由財産が認められるか
2771 どうかを踏まえて検討することを求めるものである。
2772
2773
2774 破産財団に属する財産がオーバーローンになっている場合には,
2775 破産管財人は,
2776 裁判所の許
2777 可を得て,
2778 当該不動産を破産財団から放棄(いわゆる相対的放棄)することが考えられる(破
2779 産法第78条第2項第12号)。
2780
2781
2782 そして,
2783 A社の破産手続において,
2784 破産管財人Xが甲ビルとその敷地(本件不動産)を破産財
2785 団から放棄するための手続として,
2786 上記の裁判所の許可のほか,
2787 破産者の意見聴取(破産法第
2788 78条第6項)及び担保権者に対する通知(破産規則第56条後段)に触れる必要がある。
2789
2790
2791 その上で,
2792 破産財団から放棄された本件不動産が誰に帰属するかについて,
2793 自由財産が認め
2794 られる趣旨に照らして,
2795 破産した法人に自由財産が認められるかどうかを踏まえながら論ずる
2796 必要がある。
2797
2798 法人の自由財産が認められるかどうかを論ずるに当たっては,
2799 法人は,
2800 破産手続
2801 の開始によって解散するものの,
2802 「清算の目的の範囲内」で破産手続が終了するまで存続する
2803 ものとみなされていること(破産法第35条)や,
2804 法人の自由財産を認めないこととした場合の
2805 破産財団から放棄された財産の帰属先の有無等も踏まえる必要がある。
2806
2807
2808 設問2(2)は,
2809 破産財団から放棄された不動産について,
2810 担保割れの状態にある別除権を有
2811 する者が破産手続において配当加入するために採るべき手続及び当該手続の相手方を問うもの
2812 である。
2813
2814
2815 別除権者は,
2816 別除権の行使によって弁済を受けることができない額の範囲で破産債権者とし
2817 てその権利を行使することができる(破産法第108条第1項。
2818
2819 不足額責任主義。
2820
2821 )。
2822
2823 被担保債
2824 権の全部又は一部が破産手続開始後に担保されないこととなった場合におけるその債権の当該
2825 全部又は一部の額についても,
2826 同様である(同項ただし書)。
2827
2828 そして,
2829 別除権者が破産手続に
2830 おいて配当加入するためには,
2831 最後配当に関する除斥期間内に,
2832 破産管財人に対して,
2833 被担保
2834 債権の全部又は一部が破産手続開始後に担保されないこととなったこと又は担保権の行使によ
2835
2836 - 20 -
2837
2838 って弁済を受けることができない債権の額を証明することが必要である(同法第198条第3
2839 項)。
2840
2841 そこで,
2842 別除権が担保割れの状態にある場合には,
2843 別除権者は,
2844 被担保債権の全部が破
2845 産手続開始後に担保されないこととなったことにするため,
2846 別除権の放棄をすることが考えら
2847 れる。
2848
2849
2850 そして,
2851 別除権の放棄の意思表示は,
2852 設問2(1)において,
2853 別除権の目的である不動産が破
2854 産財団から放棄された場合における当該不動産の帰属先を破産手続開始の決定を受けた法人で
2855 あると解するときは,
2856 当該法人に対して行う必要がある。
2857
2858 しかし,
2859 株式会社のような法人が破
2860 産手続開始の決定を受けた場合には,
2861 株式会社の役員は,
2862 株式会社が当該決定を受けると同時
2863 にその地位を失うと解され得ること(会社法第330条,
2864 民法第653条第2号。
2865
2866 最高裁昭和
2867 43年3月15日判決・民集22巻3号625頁,
2868 最高裁平成16年10月1日決定・集民2
2869 15号199頁参照)から,
2870 別除権者としては,
2871 誰をA社の代表者として別除権の放棄の意思
2872 表示をすればよいかを検討する必要がある。
2873
2874
2875 解答に当たっては,
2876 取締役が破産手続の開始により当然にその地位を失うかどうかを検討し
2877 た上で,
2878 仮に当然にその地位を失うとした場合には,
2879 別除権者であるE信用金庫としては,
2880 裁
2881 判所にA社の清算人選任の申立てをして清算人を選任してもらい(会社法第478条第2項),
2882
2883 当該清算人に対して別除権の放棄の意思表示をすべきこととなるのかなどを論ずる必要があ
2884 る。
2885
2886 また,
2887 仮に取締役が当然にその地位を失わないとした場合(最高裁平成16年6月10日
2888 判決・民集58巻5号1178頁,
2889 最高裁平成21年4月17日判決・集民230号395頁
2890 参照)には,
2891 定款の定め等がない限り,
2892 当該取締役が清算人となり(同法第478条第1項第
2893 1号),
2894 代表取締役であるBが代表清算人となること(同法第483条第4項)から,
2895 BをA
2896 社の代表者として別除権の放棄の意思表示をすべきこととなるのかなどを論ずる必要がある。
2897
2898
2899 〔第2問〕
2900 本問は,
2901 法人の民事再生に関する具体的事例を通じて,
2902 再生手続開始の決定をするための要
2903 件,
2904 再生手続開始の申立て後再生手続開始前の原因に基づいて生じた債権を債権者に弁済する
2905 ための方策,
2906 監督委員が否認権を行使するために必要となる手続及び再生債権者が再生手続に
2907 おいて再生債務者である法人の役員の責任を追及するために取り得る方策を問うものである。
2908
2909
2910 設問1は,
2911 債権者の具体的なコメントの内容を踏まえて,
2912 裁判所が再生手続開始の決定をす
2913 ることができるかどうか,
2914 申立人が再生手続の申立て後に取引を継続しようとする債権者の弁
2915 済に対する不安を払拭するために採ることができる手段を問うものである。
2916
2917
2918 小問(1)は,
2919 裁判所が再生手続開始の決定をすることができるかどうかについて,
2920 経済的に
2921 窮境にある債務者の事業の再生を図るという民事再生法の目的(同法第1条)を踏まえながら,
2922
2923 事例に基づきその要件を充足するかどうかを検討する必要がある。
2924
2925
2926 再生手続開始の決定をするためには,
2927 @再生手続開始の原因があること(同法第21条)及
2928 びA再生手続開始の条件,
2929 すなわち再生手続開始の申立ての棄却事由(同法第25条)が存在
2930 しないことが必要である(同法第33条第1項)。
2931
2932 本問では,
2933 この構造を踏まえ,
2934 事例に当て
2935 はめて結論を出すことが求められている。
2936
2937
2938 @再生手続開始の原因は,
2939 本件では,
2940 A社は自ら振り出した手形を決済することができない
2941 ことが確実になっているので,
2942 これを充たすことは明らかであろう。
2943
2944
2945 A再生手続開始の申立ての棄却事由は同法第25条各号に列挙されており,
2946 そのうちの一つ
2947 にでも該当する場合には,
2948 裁判所は,
2949 再生手続開始の申立てを棄却しなければならないことか
2950 ら,
2951 解答に当たっては,
2952 全ての棄却事由について,
2953 事例に当てはめて検討する必要がある。
2954
2955
2956 事例においては,
2957 申立代理人であるC弁護士が費用を予納しており(同条第1号),
2958 他に破
2959 産手続又は特別清算手続は継続しておらず(同条第2号),
2960 また,
2961 不当な目的で申立てがされ
2962 た事情もない(同条第4号)。
2963
2964 そこで,
2965 E銀行,
2966 F社及びG社のコメントから,
2967 同条第3号(再
2968
2969 - 21 -
2970
2971 生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかである
2972 こと)に該当するかどうかを丁寧に論ずる必要がある。
2973
2974 解答に当たっては,
2975 同号が,
2976 「見込み
2977 がないこと」とせず「見込みがないことが明らかであること」として,
2978 要件を絞り込んでいる
2979 ことを踏まえ,
2980 E銀行,
2981 F社及びG社のコメントの内容に照らして,
2982 今後その対応が変更する
2983 可能性があるかどうかも検討しながら,
2984 論ずる必要がある。
2985
2986
2987 小問(2)は,
2988 再生手続開始の申立て後再生手続開始前の再生債務者の行為によって発生する
2989 債権について,
2990 そのまま再生手続開始の決定があれば再生債権となって弁済禁止効が生ずるこ
2991 とから,
2992 これを克服するための制度を問うものである。
2993
2994 なお,
2995 G社のコメントは,
2996 「再生手続
2997 開始の申立て後も取引を継続して新たに食材をA社に卸した場合,
2998 その代金までも回収するこ
2999 とができないとすれば被害が拡大してしまう」というものであることから,
3000 再生手続開始の申
3001 立て後再生手続開始前の債権の扱いについて論ずることが求められており,
3002 当該申立て前に発
3003 生した食材の売掛金の弁済の可否を論ずる必要はない。
3004
3005
3006 事業継続を旨とする民事再生にあっては,
3007 その申立て直後から,
3008 原材料の購入その他事業の
3009 継続に不可欠な行為をする必要があるが,
3010 そのまま再生手続開始の決定がされれば,
3011 申立て後
3012 の再生債務者の行為によって生ずる債権であっても,
3013 再生債権となり弁済禁止効の対象となっ
3014 てしまう(民事再生法第85条)。
3015
3016 そこで,
3017 法は,
3018 再生手続開始の申立て後再生手続開始前に,
3019
3020 資金の借入れ,
3021 原材料の購入その他再生債務者の事業の継続に欠くことができない行為をする
3022 場合には,
3023 裁判所は,
3024 その行為によって生ずべき相手方の請求権を共益債権とする旨の許可を
3025 することができることとしている(同法第120条第1項)。
3026
3027 また,
3028 裁判所は,
3029 監督委員に対
3030 し,
3031 この許可に代わる承認をする権限を付与することができる(同条第2項)。
3032
3033 再生債務者が
3034 この許可又は承認を得て事業継続に欠くことのできない行為をしたときは,
3035 その行為によって
3036 生じた相手方の請求権は,
3037 共益債権となる(同条第3項)。
3038
3039
3040 本問では,
3041 A社の再生手続開始の申立て後,
3042 G社が新たに食材を卸した場合の代金債権につ
3043 いて,
3044 そのまま再生手続開始の決定があれば再生債権となって弁済禁止効の対象となってしま
3045 い,
3046 G社は安心して取引を継続することができない。
3047
3048 そこで,
3049 G社から取引を継続してもらえ
3050 るようにするため,
3051 G社からの食材購入は,
3052 原材料の購入であり事業継続に欠くことのできな
3053 い行為に該当するとして,
3054 A社は,
3055 当該申立て後に発生するG社の食材の売掛債権を共益債権
3056 とすべく,
3057 裁判所の許可又は監督委員の承認を求めることが考えられる。
3058
3059
3060 設問2は,
3061 DIP型の再生手続について,
3062 DIP型を採ることによって生じ得る問題の修正
3063 手段としての否認権行使と損害賠償の査定を問うものである。
3064
3065
3066 小問(1)では,
3067 監督委員が選任されている場合に,
3068 監督委員が否認権を行使するために必要
3069 とされる手続を問うとともに,
3070 そのような手続を行うことが必要とされる理由について,
3071 管財
3072 人が選任されている場合と対比しつつ説明することが求められている。
3073
3074
3075 監督委員が否認権を行使するためには,
3076 裁判所が,
3077 利害関係人の申立てにより又は職権で,
3078
3079 監督委員に対して,
3080 特定の行為について否認権を行使する権限を付与することが必要である(民
3081 事再生法第56条第1項)。
3082
3083 したがって,
3084 A社は,
3085 自ら利害関係人として否認権行使の権限付
3086 与の申立てをする必要がある。
3087
3088
3089 次に,
3090 そのような手続が必要とされる理由について,
3091 管財人が選任されている場合と対比し
3092 て検討することが求められている。
3093
3094
3095 管財人が選任されている場合には,
3096 再生債務者の財産の管理処分権は管財人に専属し(同法
3097 第66条),
3098 管財人が当然に否認権を行使する権限を有する。
3099
3100 これに対して,
3101 監督委員が選任
3102 されている場合には,
3103 再生債務者に財産の管理処分権が残されている(同法第38条第1項)
3104 にもかかわらず,
3105 民事再生法は,
3106 再生債務者が否認権を行使することを認めずに,
3107 個別に監督
3108 委員に権限を付与することとしていることから,
3109 その理由について,
3110 自ら否認権の対象となる
3111 行為を行った再生債務者に否認権を行使させることの問題点を意識しながら論ずる必要があ
3112
3113 - 22 -
3114
3115 る。
3116
3117
3118 小問(2)は,
3119 株式会社である再生債務者の役員の責任の追及に関して,
3120 役員の財産に対する
3121 保全処分の制度(同法第142条)及び損害賠償請求権の査定の制度(同法第143条)の理
3122 解を問うものである。
3123
3124
3125 設例においては,
3126 B社長に対して,
3127 任務懈怠に基づく損害賠償請求(会社法第423条第1
3128 項)を行うことが考えられることから,
3129 再生手続においてこれを追及するための手段として,
3130
3131 損害賠償請求権の査定の申立てをすること(民事再生法第143条)や,
3132 財産の費消のおそれ
3133 があるということから役員の財産に対する保全処分の申立てをすること(同法第142条)が
3134 考えられる。
3135
3136 また,
3137 設例においては管財人が選任されていないので,
3138 再生債権者であるG社は,
3139
3140 自らこれらの申立てをすることができる(同法第142条第3項,
3141 第143条第2項)。
3142
3143
3144 なお,
3145 G社の採るべき方策として,
3146 管理命令の申立て(同法第64条)をすることも考えら
3147 れる。
3148
3149 設例の事情から,
3150 その要件を満たすか否かは判然とせず,
3151 事案への対応ということから
3152 すれば,
3153 上記のとおり,
3154 役員の財産の保全処分の申立て及び損害賠償の査定の申立てをするこ
3155 とが端的な方法であると考えられるが,
3156 管理命令の申立てもDIP型を採ることによって生ず
3157 る問題に対する是正という本問の出題意図に即した方策の一つではあろう。
3158
3159
3160 [租税法]
3161 〔第1問〕
3162 本問は,
3163 Xが起こした交通事故(本件事故)により被害を受けたA及びB社をめぐる課税関
3164 係を問うものであり,
3165 具体的には,
3166 AがXから損害賠償金として受け取った100万円につい
3167 て,
3168 Aが所得税を課税される範囲(設問1.
3169 )と,
3170 B社がXに対して有する400万円の損害賠
3171 償請求権について,
3172 これを貸倒損失として経理処理した場合に,
3173 B社の法人税の計算上,
3174 その
3175 全額を損金の額に算入することの可否(設問2.
3176 )をそれぞれ問うものである。
3177
3178
3179 設問1.においては,
3180 まず,
3181 所得税法第9条第1項第17号が一定の損害賠償金を非課税所
3182 得として定めていることを指摘した上で,
3183 Aが損害賠償金として受け取った100万円の内訳
3184 ごとに,
3185 同号を受けて非課税所得とされる損害賠償金を具体的に定める同法施行令第30条へ
3186 の当てはめ等を行う必要がある。
3187
3188
3189 すなわち,
3190 通院治療費の補填としての10万円,
3191 慰謝料としての15万円,
3192 通院に伴う休業
3193 補償としての10万円については,
3194 心身の損害に対する賠償金について定める同条第1号の適
3195 用が,
3196 また,
3197 バイク修理費用の補填としての10万円については,
3198 資産の損害に対する賠償金
3199 について定める同条第2号の適用が,
3200 それぞれ問題となるが,
3201 Aが弁当の宅配に用いているバ
3202 イクの修理費用はAの事業所得に係る必要経費に当たるから,
3203 これを補填するための金額は,
3204
3205 同条柱書きにおいて非課税所得の範囲から除外されていることに注意が必要である。
3206
3207
3208 また,
3209 Aが損害賠償金として受け取った100万円のうち,
3210 その余の55万円については,
3211
3212 安易に所得税法施行令第30条第3号の「相当の見舞金」に当たると結論づけるのではなく,
3213
3214 所得税法が一定の損害賠償金を非課税所得として定めている趣旨に遡り,
3215 そもそも非課税所得
3216 とされる損害賠償金とはいかなるものであるかを明らかにした上で,
3217 非課税所得該当性につい
3218 て説明することが期待されている。
3219
3220
3221 この点に関しては,
3222 当事者間で損害賠償のためと明確に合意されて支払われたものであって
3223 もそのことをもって直ちに非課税所得となるわけではないとしたいわゆるマンション建設承諾
3224 料事件判決(大阪地裁昭和54年5月31日判決・判例時報945号86ページ)の判示が参
3225 考となろう。
3226
3227
3228 本設問においては,
3229 非課税所得該当性について条文の正確な理解と当てはめが求められるこ
3230
3231 - 23 -
3232
3233 とは言うまでもないが,
3234 それにとどまらず,
3235 問題文に明記したとおり,
3236 「所得税法における所得
3237 の概念を踏まえつつ」Aが所得税を課税される範囲を説明することが求められているから,
3238 同
3239 法が包括的所得概念を採用していることや,
3240 一定の範囲の損害賠償金は,
3241 損害の回復,
3242 補填の
3243 性質をもち,
3244 純資産の増加をもたらさないことを意識した解答が求められる。
3245
3246
3247 設問2.においては,
3248 B社が有する400万円の損害賠償請求権について貸倒損失として経
3249 理処理した場合に,
3250 その全額を法人税法第22条第3項第3号の「損失」として損金の額に算
3251 入することができるか否かについて,
3252 金銭債権の貸倒損失の損金算入についての一般論を判示
3253 したいわゆる興銀事件最高裁判決(最高裁平成16年12月24日第二小法廷判決・民集58
3254 巻9号2637ページ)を念頭においた解答が期待されている。
3255
3256
3257 同判決は,
3258 金銭債権の貸倒損失を同号の「損失」として損金の額に算入するためには,
3259 当該
3260 金銭債権の全額が回収不能であること(全部貸倒れ)が客観的に明らかであることが必要であ
3261 るとした上で,
3262 全部貸倒れが客観的に明らかであるか否かの判断に当たっては,
3263 債務者の資産
3264 状況,
3265 支払能力等の債務者側の事情,
3266 債権回収に必要な労力,
3267 債権額と取立費用との比較衡量,
3268
3269 債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等の債
3270 権者側の事情,
3271 経済的環境等も踏まえ,
3272 社会通念に従って総合的に判断されるべきである旨判
3273 示している。
3274
3275
3276 したがって,
3277 本設問においても,
3278 問題文に示された事案から,
3279 債務者であるX側の事情のみ
3280 ならず,
3281 債権者であるB社側の事情をも適切に拾い上げた上で,
3282 Xに対する400万円の損害
3283 賠償請求権の全部貸倒れが客観的に明らかであるか否かを論じる必要がある。
3284
3285
3286 〔第2問〕
3287 本問は,
3288 一人で会社の実権を握る代表者による会社資産からの横領の事案において,
3289 この横
3290 領をめぐる源泉徴収の在り方と,
3291 横領により発生した損失及び代表者に対する損害賠償請求権
3292 がどのように会社の法人税の計算に反映させられるかを問うものである。
3293
3294
3295 設問1.は,
3296 源泉徴収の基本的な法律関係に関する知識を問うものである。
3297
3298 E税務署長はX
3299 社から源泉徴収すべき所得税を受給者Aから徴収することはできないという答えを導くだけで
3300 あれば,
3301 所得税法第221条が,
3302 徴収納付義務者が「その所得税を納付しなかつたときは」「そ
3303 の所得税をその者から徴収する」と規定していることを指摘すれば足りる。
3304
3305 しかし,
3306 本問では
3307 更に「源泉徴収の法律関係を簡潔に説明」することも求められているため,
3308 源泉徴収の法律関
3309 係についての基本判例(最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁)に触れつ
3310 つ,
3311 源泉徴収の法律関係において国と直接の法律関係に立つのは源泉徴収義務者のみで,
3312 受給
3313 者と国との間に直接の法律関係はないことなどについても論じる必要がある。
3314
3315
3316 設問2.では,
3317 X社が本件横領により損失を生じていることを前提に,
3318 Xの損失とAに対す
3319 る損害賠償請求権が法人税法上,
3320 どの事業年度の課税所得計算に反映させられるかが問題とな
3321 る。
3322
3323
3324 具体的には,
3325 Aらの見解の下では,
3326 本件横領による損失がX社の平成27事業年度の損失(法
3327 人税法第22条第3項第3号)に算入されるべきことと,
3328 X社がAに対して損失額と同額の損
3329 害賠償請求権を取得することを指摘する必要がある。
3330
3331 問題となるのは,
3332 損害賠償請求権がどの
3333 事業年度の益金に算入されるべきかの点であるが,
3334 これは,
3335 判例(最判平成5年11月25日
3336 民集47巻9号5278頁)により,
3337 法人税法第22条第4項から導かれる権利確定主義によ
3338 り決せられるべき問題である。
3339
3340
3341 この判断枠組みの下でも,
3342 損失と損害賠償請求権は常に同時に成立し・確定すると考えるか
3343
3344 - 24 -
3345
3346 (同時確定説),
3347 両者の確定時期は同時とは限らないと考えるか(異時確定説)で判断が分かれ
3348 るし,
3349 後者の立場に立つ際には,
3350 本件横領がX社の代表者であるAによりなされていること,
3351
3352 その事実が具体的に明らかになったのは平成29年中の税務調査がきっかけであることなどの
3353 事実に触れつつ,
3354 本件における損害賠償請求権の収入すべき権利の確定時期を説得的に論じる
3355 必要がある。
3356
3357 なお,
3358 本設問では,
3359 異なる見解への言及を求めていないため,
3360 自説を論理的,
3361 説
3362 得的に記述することのみが求められているところ,
3363 関連する有力な下級審裁判例(東京高判平
3364 成21年2月18日訟月56巻5号1644頁)があり,
3365 参考となろう。
3366
3367
3368 設問3.では,
3369 本件納税告知処分の適法性が問われている。
3370
3371 本件納税告知処分は,
3372 本件資金
3373 移動が平成27年分のAの役員賞与であって,
3374 所得税法第28条第1項の給与等に該当し,
3375 X
3376 社が同法第183条第1項の源泉徴収義務を負うことが前提とされているから,
3377 本件納税告知
3378 処分が適法か否かは,
3379 本件資金移動がAの給与所得に該当するか否かにより判断されることに
3380 なる。
3381
3382 そして,
3383 本問では,
3384 「結論を異にする見解」への言及が求められているから,
3385 本件資金移
3386 動がAの給与所得に該当すると考える場合も,
3387 該当しないと考える場合も,
3388 ともに異なる考え
3389 方がどのような根拠に立って論じられ得るかについて,
3390 論理的な記述が求められる。
3391
3392
3393 具体的には,
3394 給与所得の意義に関する判例(最判昭和56年4月24日民集35巻3号67
3395 2頁,
3396 最判平成17年1月25日民集59巻1号64頁など)に照らして,
3397 本件資金移動が給
3398 与所得に該当するか。
3399
3400 給与所得の範囲に関する判例(最判昭和37年8月10日民集16巻8
3401 号1749頁)に照らして,
3402 給与所得の範囲に含まれると考えるか。
3403
3404 源泉徴収制度の趣旨に照
3405 らして,
3406 本件資金移動についてX社に源泉徴収義務を負わせることが適当であるか,
3407 などが論
3408 点として考えられる。
3409
3410
3411 なお,
3412 比較的近年,
3413 人格なき社団の代表者が人格なき社団から受けた債務免除益が給与所得
3414 に該当し得るとする最高裁判決(最判平成27年10月8日訟月62巻7号1276頁)があ
3415 る。
3416
3417 また,
3418 本問と同様に法人の代表者による横領について法人が負う源泉徴収義務が争われた
3419 下級審裁判例が複数あり,
3420 参考になろう。
3421
3422
3423 [経済法]
3424 〔第1問〕
3425 第1問の設問は,
3426 「不当な取引制限」の成立要件である「共同して・・・相互に」,
3427 すなわ
3428 ち「意思の連絡」の有無を,
3429 与えられた事実関係からどのように丁寧に認定するのかを主とし
3430 て問うものである。
3431
3432 あわせて,
3433 不当な取引制限,
3434 取り分け価格カルテルに関するその他の論点
3435 を,
3436 設定された事実関係から適切に発見し,
3437 それに対する解答を論理的に導くことが求められ
3438 る。
3439
3440 このような論点の発見・分析・判断を問うことが出題の主たる目的である。
3441
3442 論点に関して,
3443
3444 不当な取引制限の定義規定である私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独
3445 占禁止法」という。
3446
3447 )第2条第6項の各要件を正確に理解していることは当然の前提としてい
3448 る。
3449
3450
3451 近時,
3452 公正取引委員会のみならず世界各国の競争当局により摘発されるカルテルは,
3453 事業者
3454 サイドでのコンプライアンス教育が行き届いてきたこともあり,
3455 明確な合意として成立するこ
3456 とは多くないと思われる。
3457
3458 競争事業者間で,
3459 情報の交換や市況に関する意見の交換が行われる
3460 中で,
3461 その場での態度や仕草から,
3462 黙示的にコンセンサスが成立するような場合が増えてきて
3463 いる。
3464
3465
3466 日本では,
3467 各種の間接事実を,
3468 事前の連絡交渉・連絡交渉の内容・行動の外形的一致という
3469 三種類に分類し,
3470 意思の連絡を推認するという,
3471 いわゆる三分類説による手法が実務上採られ
3472 ているが,
3473 「単なる情報交換」とカルテルの成立に不可欠な要素である意思の連絡との境界は
3474
3475 - 25 -
3476
3477 なおも曖昧であることも多く,
3478 過去何度も審判や取消訴訟でも争われてきた。
3479
3480 そこで,
3481 競争事
3482 業者間の情報交換活動の結果として,
3483 競争事業者間で他の事業者の行動の不確実性が減少し(言
3484 い換えると,
3485 競争事業者の行動の予想が容易になることで協調行動がとりやすくなる状況を生
3486 み出し),
3487 「相互の行動を認識・認容し,
3488 歩調を合わせることを期待し合う関係」を成立させる
3489 ことが,
3490 競争事業者間の単なる情報交換と意思の連絡との相違であると捉え,
3491 かかる関係が成
3492 立したと認められるかで,
3493 意思の連絡(明示又は黙示の合意)が認定できるかを論じる方法も
3494 考えられる。
3495
3496
3497 本問の設例では,
3498 黙示の意思の連絡の有無が,
3499 @「合意に参加することを明確に拒絶しつつ
3500 も,
3501 会議には参加し続けることで,
3502 他の事業者の見解を注意深く聞いてその行動を推測し,
3503 会
3504 議後に値上げに同調する行動をとった事業者A」,
3505 A「冒頭に会議の趣旨を聞いた直後に協議
3506 に参加することを明確に拒否して退席したものの,
3507 その後に他社の値上げと同時期に並行的な
3508 値上げ発表をした事業者C」,
3509 B「一部の製品について合意の形成に賛意を示したものの,
3510 他
3511 の製品の値上げについては難色を示し,
3512 会議後には,
3513 難色を示した製品については実際にも値
3514 上げ行動に出なかった事業者D」について特に問題となる。
3515
3516 さらに,
3517 同種の情報交換行為が連
3518 続して行われているわけではなく,
3519 1回限りしか行われていないところに本問の設例の特徴が
3520 ある。
3521
3522 なお,
3523 事業者B,
3524 E,
3525 Fについては,
3526 問題なく意思の連絡が肯定されるであろう。
3527
3528
3529 本問において競争事業者間で行われた意見・情報交換行為は,
3530 事業者であれば誰もが値上げ
3531 を考えるはずの原料コストの上昇局面という環境下で行われた将来の価格設定方針に関するも
3532 のであり,
3533 これをカルテルのための意思の連絡と認めるか否かは,
3534 上記の三分類説による検討
3535 が一般的ではあるが,
3536 ここで行われた競争事業者間の意見・情報交換行為が,
3537 本来予見が難し
3538 いはずの競争事業者の行動の予測を容易にし,
3539 事業活動をより協調的なものとしたのかという
3540 観点から,
3541 意思の連絡の有無を分析する方法もあろう。
3542
3543
3544 @事業者Aについては,
3545 退席した事業者Cを除く競争事業者の値上げに関する方針を聞き,
3546
3547 他社の行動を十分予想できるだけの情報を入手し(予測の不確実性が明らかに減少している。
3548
3549 ),
3550
3551 かかる情報に基づいて他社の行動に同調するべく,
3552 自社の行動を決定しており,
3553 単なる意識的
3554 並行行為を超えた行動をとっているし,
3555 会議に残った他社も事業者Aにその見解を開陳するこ
3556 とで,
3557 事業者Aに対し同調的な行動をとることを期待する関係が成立したと考えられる。
3558
3559 他方
3560 で,
3561 三分類説を採って意思の連絡を肯定する場合には,
3562 「合意には参加できない」との明確な
3563 発言を打ち消すだけの間接事実を積み上げて,
3564 単なる事実の羅列にとどまらない説明が必要で
3565 あろう。
3566
3567
3568 これに対して,
3569 A事業者Cについては,
3570 退席までに,
3571 その他の競争事業者の行動を予測する
3572 のに十分な情報が得られたわけではない。
3573
3574 確かに同調的な値上げ行動が事後的にとられている
3575 が,
3576 原料価格の値上がりの局面であり,
3577 他社との意思の連絡がない場合でも,
3578 コスト上昇分の
3579 製品価格への転嫁が試みられるのは不思議なことではない。
3580
3581 いずれにしても,
3582 会議の趣旨を聞
3583 いて,
3584 会議自体への参加を拒否するとともに,
3585 実際に速やかに退席をしていることは,
3586 事業者
3587 Cに関しての意思の連絡を否定する重要な事実となろう。
3588
3589 すなわち,
3590 事業者Cの冒頭での退席
3591 の事実は,
3592 原材料コストの上昇を受け,
3593 他社がどのような価格決定行動をとるのか,
3594 具体的に
3595 どの者たちが共通の認識認容を形成するかを事業者Cが知ることができず,
3596 また事業者C自身
3597 がどのような行動をとるかについて他社が認識認容することができないことを意味するため,
3598
3599 相互的な認識認容関係の成立を認定できない。
3600
3601 また,
3602 その意味で,
3603 事業活動の相互拘束性(拘
3604 束の相互性あるいは目的の共通性)が認められないとの構成も可能であろう。
3605
3606
3607 B事業者Dについては,
3608 意思の連絡の認められる対象商品の判断は見解が分かれる可能性が
3609 ある。
3610
3611 この点,
3612 難色を示したY製品については,
3613 一貫して独立の判断に基づき値上げをしなか
3614 ったとも言えるし,
3615 当該製品についての合意形成過程に同席はしているものの,
3616 事後の行動の
3617 一致がないことからすれば,
3618 価格引上げについて「取決めに基づき相互にその事業活動を拘束
3619
3620 - 26 -
3621
3622 し合う」関係ないし結果に立つとは言い難いとする見解も十分成り立つであろう。
3623
3624 他方で,
3625 同
3626 業者間の情報交換で,
3627 競争事業者のとるであろう行動の予測が立ちやすくなり,
3628 そうした予測
3629 に基づいて行動をとっている以上,
3630 自由競争からの逸脱が見られるとも言える。
3631
3632 すなわち,
3633 Y
3634 製品について同調的な値上げを行わなくとも,
3635 他社の価格設定方針等,
3636 競争上の機微情報を共
3637 有するに至っており,
3638 積極的な価格競争を行わない旨の共通認識がY製品についても成立した
3639 という見解もあり得るだろう。
3640
3641
3642 その他の論点としては,
3643 本問ではX・Yの2種類の商品が問題となっており,
3644 意思の連絡の
3645 結果としての合意は,
3646 両製品について一体として成立しているのか,
3647 個別に成立しているのか,
3648
3649 そして,
3650 両製品は「一定の取引分野」を別にするのかという点も,
3651 事業者Dについて意思の連
3652 絡が認められる対象商品等に関連して検討を要する。
3653
3654 特に,
3655 本件のようなハードコアカルテル
3656 の場合の一定の取引分野は,
3657 カルテル参加者の合意の範囲で画されるのが一般的であるため,
3658
3659 2種類の商品を対象とする合意を1個の合意と考えるのか2個の合意と考えるのかについて,
3660
3661 カルテル参加者が異なり得ることや両製品の差異を考慮に入れて検討することが本問では望ま
3662 しい。
3663
3664
3665 また,
3666 カルテル合意の結果としての値上げ活動にもかかわらず,
3667 需要家の抵抗が激しくこれ
3668 に成功しなかった場合,
3669 競争を実質的に制限したと言えるのかという論点についての言及は不
3670 可欠であろう。
3671
3672 そもそもハードコアカルテルの場合には,
3673 実際に値上げが成功するか否かにか
3674 かわらず,
3675 市場の過半以上のシェアを有する事業者が参加してこれを行っている以上,
3676 合意の
3677 成立時点でカルテルは成立しているとされる(石油価格カルテル刑事事件最高裁判決)。
3678
3679 もち
3680 ろん,
3681 一定程度であっても値上げが成功したという事実は競争の実質的制限の実現の証拠とな
3682 るが,
3683 値上げが実現していないことは必ずしも競争の実質的制限を否定するものではない。
3684
3685
3686 設問は,
3687 カルテル規制のエンフォースメントに関する出題である。
3688
3689 公正取引委員会の行政
3690 調査の結果,
3691 不当な取引制限が認められたことを前提に課されるであろう制裁としての課徴金
3692 の額の計算及びかかる制裁を縮減するために行われる「公正取引委員会の調査開始日以後の場
3693 合」の課徴金減額申請の利用を問う基礎的な問題である。
3694
3695
3696 課徴金額の計算については,
3697 過去,
3698 出題例が限定的であったことも考慮して,
3699 加減算要素の
3700 ない標準的な事例を想定して出題をした。
3701
3702 他方で,
3703 課徴金額の計算について,
3704 実行期間の始期
3705 が付随的な論点となっている。
3706
3707
3708 課徴金減免制度は,
3709 近年の公正取引委員会のカルテル調査の端緒として利用されているほか,
3710
3711 調査開始日以後も多くの調査対象企業が頻繁に利用している(公正取引委員会の立入検査を受
3712 けた企業が,
3713 その利用を最初に検討するのが調査開始日以後の課徴金減額申請であり,
3714 その迅
3715 速な利用を怠ったことが取締役の義務違反に当たるとして株主代表訴訟を起こされた事例すら
3716 見受けられる。
3717
3718 )。
3719
3720 本問の設例も,
3721 立入検査を受けた後に企業が課徴金減額申請を行う場合に採
3722 るべき措置を問うものであり,
3723 調査開始日前の申請の場合との差異について的確な理解が求め
3724 られる。
3725
3726 特に,
3727 調査開始日以後の申請の場合には,
3728 「既に公正取引委員会によって把握されて
3729 いる事実に係るもの」以外の事実の報告や資料の提出が必要となる。
3730
3731 本件では,
3732 担当営業部長
3733 甲がまとめた資料が自宅のパソコンに保管されていることから,
3734 早期に課徴金減額のための申
3735 請書を公正取引委員会に送付するとともに,
3736 かかる資料を取得し提出することが,
3737 違反行為の
3738 存在を認知した弁護士には求められることになろう。
3739
3740
3741 〔第2問〕
3742 第2問は,
3743 オンライン旅行予約サービス事業者(以下「OTA」という。
3744
3745 )が,
3746 ホテル,
3747 旅
3748 館等の宿泊施設との間の契約に,
3749 第1案,
3750 第2案の条項を導入することの独占禁止法上の評価
3751 を問うものである。
3752
3753 このような契約条項は,
3754 最恵国待遇条項(以下「MFN条項」という。
3755
3756 )
3757 とも呼ばれている。
3758
3759
3760
3761 - 27 -
3762
3763 本問では,
3764 検討すべき条文が独占禁止法第2条第9項第6号ニに基づく一般指定第12項で
3765 あることを明示しており,
3766 資料として流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針(以下「ガ
3767 イドライン」という。
3768
3769 )の一部を掲げている。
3770
3771 先端的な事例からの出題ではあるものの,
3772 独占
3773 禁止法に違反するかどうかの判断プロセスの理解・習得等,
3774 基礎的な学力が備わっているかど
3775 うかを問うものとも言える。
3776
3777 すなわち,
3778 一般指定第12項を含めた自由競争減殺型の不公正な
3779 取引方法に該当するか否かを検討するためには,
3780 行為要件該当性と効果要件該当性を論じる必
3781 要があるが,
3782 取り分け後者に関して,
3783 市場の画定,
3784 反競争的効果の分析,
3785 正当化事由の検討と
3786 いう分析枠組みが着実に身に付いているかどうかである。
3787
3788
3789 行為要件に関しては,
3790 取引の「相手方の事業活動を・・・拘束する条件をつけて,
3791 当該相手
3792 方と取引すること」について一般的な意義を述べ,
3793 それに当たる事実を簡潔に解答することが
3794 求められる。
3795
3796
3797 効果要件に関しては,
3798 上記のとおり,
3799 市場画定,
3800 反競争的効果,
3801 正当化事由が問題となる。
3802
3803
3804 まず,
3805 市場画定であるが,
3806 本問では,
3807 不公正な取引方法における自由競争減殺効果を分析す
3808 る場として関連市場を画定する必要があり,
3809 市場画定の趣旨・目的や方法,
3810 オンラインと
3811 オフラインの区別,
3812 OTAと宿泊施設の関係について解答が求められる。
3813
3814
3815 に関しては,
3816 関連市場は代替性のある商品・サービスの範囲や地理的範囲をもって画定さ
3817 れる。
3818
3819 換言すれば,
3820 市場画定は,
3821 問題となる行為を行う事業者に対して競争的牽制を働かせる
3822 ことのできる競争者の範囲を画する目的で行われる。
3823
3824 したがって,
3825 基本的には需要の代替性の
3826 観点から,
3827 補完的に供給の代替性の観点からも検討して行われることを述べる必要がある。
3828
3829
3830 その上で,
3831 本問では,
3832 OTAが,
3833 宿泊施設を検索,
3834 比較,
3835 予約できるインターネットサービ
3836 スを提供して宿泊施設とユーザーの間の契約(宿泊予約)を仲介する事業を営んでいるところ,
3837
3838 に関して,
3839 旅行業者等のオフラインの事業者によるインターネット予約以外の形での宿泊予
3840 約の仲介が,
3841 に関して,
3842 宿泊施設自身のサイトによる直接の予約受付が,
3843 それぞれOTAに
3844 よる宿泊予約の仲介と同一の市場に含まれるかを論じる必要がある。
3845
3846 この点,
3847 MFN条項を導
3848 入しようというA社に対して競争的牽制力を有するのは,
3849 B社,
3850 C社等の他のOTAであって,
3851
3852 旅行業者等(実店舗)の牽制力はほとんどないか,
3853 極めて限られたものにとどまる。
3854
3855 仮にOT
3856 Aが宿泊施設に対して手数料を5〜10パーセント,
3857 1年程度引き上げたとしても,
3858 宿泊施設
3859 がOTAとの契約を解除して,
3860 旅行業者等に取引先を容易に転換できるとは考えにくい。
3861
3862 また,
3863
3864 宿泊施設も,
3865 ユーザーが当該宿泊施設自身のサイトで直接予約できる機能を提供しているもの
3866 の,
3867 宿泊予定日に一定の地域内に宿泊可能な他のホテル・旅館等(当該宿泊施設の競争事業者)
3868 がどれほど存在するかを検索したり,
3869 他のホテル・旅館等の取引条件と比較したりするサービ
3870 スは提供するはずもない。
3871
3872 ユーザーの側から見ても,
3873 24時間365日,
3874 一定の期日に一定の
3875 地域内で宿泊できる施設をインターネット上で容易に検索,
3876 比較,
3877 予約できるサービスを提供
3878 する事業者=OTAを旅行業者等や宿泊施設と区別していると考えられる。
3879
3880 なお,
3881 外国の宿泊
3882 施設やユーザーは考慮する必要がないとされている。
3883
3884
3885 このように検討すると,
3886 本問では,
3887 例えば,
3888 日本国内における,
3889 OTAが宿泊施設を検索,
3890
3891 比較,
3892 予約できるインターネットサービスを提供して宿泊施設とユーザーの間を仲介し契約を
3893 成立させる取引に係る市場(宿泊施設,
3894 OTA及びユーザーにより構成される市場)や,
3895 OT
3896 A(供給者)と宿泊施設(需要者)の間の宿泊予約サービスの委託取引に係る市場等を関連市
3897 場として画定することが考えられる。
3898
3899
3900 なお,
3901 本問のような市場は二面市場(two-sided market)と呼ばれ,
3902 かかる市場においては
3903 間接ネットワーク効果が働くとされており,
3904 そのような特性を勘案した解答が望ましいが,
3905 そ
3906 の記載が必須というものではない。
3907
3908
3909 次に,
3910 反競争的効果については,
3911 「不当に」=「公正な競争を阻害するおそれ」や「自由競
3912 争減殺」の意味を述べた上,
3913 資料に掲げられたガイドライン@からDの要素を考慮して解答す
3914
3915 - 28 -
3916
3917 ることが考えられる。
3918
3919
3920 ガイドラインの「B垂直的制限行為を行う事業者の市場における地位」は,
3921 上記の市場でA
3922 社は35パーセントのシェアを占め,
3923 第1位であること,
3924 「D対象となる取引先事業者の数及
3925 び市場における地位」は,
3926 国内の主要なホテルや旅館等であって,
3927 国内の宿泊施設のうち相当
3928 数に上り,
3929 主要な地位を占めると考えられること,
3930 「C取引先事業者の事業活動に及ぼす影響
3931 (制限の程度・態様等)」については,
3932 宿泊料金だけでなく,
3933 朝食の有無,
3934 提供される部屋の
3935 数と等級,
3936 キャンセル条件等にも制限が及ぶことを述べる必要がある。
3937
3938 ここまでは第1案,
3939 第
3940 2案に共通である。
3941
3942
3943 そして,
3944 Cに関して,
3945 取引先事業者である宿泊施設に対する関係では,
3946 第1案と第2案のい
3947 ずれの案も,
3948 各サイト上で提示する取引条件に差異を設けられるかという点を除けば,
3949 宿泊料
3950 金等の取引条件を決定する自由を直ちに制限するものではないものの,
3951 宿泊料金等の取引条件
3952 が宿泊施設のサイトとA社のサイトの間で同一となることにより,
3953 比較・検索やポイント等の
3954 付加サービスのあるA社のサイトでの予約が優位となる結果,
3955 宿泊施設がA社に手数料を支払
3956 わずに直接予約を受け付けるという事業活動(ユーザーの側から考えた場合には宿泊施設とA
3957 社との間の競争と捉えることも可能である。
3958
3959 )に影響を及ぼす。
3960
3961 以上は,
3962 B社及びC社がそれ
3963 ぞれ第1案又は第2案のMFN条項を導入した場合も同様である。
3964
3965 さらに,
3966 第1案では,
3967 宿泊
3968 施設に課される義務は,
3969 A社のサイト上で提示する取引条件が他の全てのOTAのサイト上の
3970 取引条件と同じか,
3971 より有利でなければならないというものであるから,
3972 宿泊施設の事業活動
3973 に及ぼす制限を通じて,
3974 宿泊施設とA社との間の競争のみならず,
3975 A社とそれ以外のOTAと
3976 の間の競争にも影響が及ぶ。
3977
3978 一方,
3979 第2案は,
3980 A社のサイト上で提示する宿泊施設の料金等の
3981 取引条件が当該宿泊施設自身のサイト上の取引条件と同じか,
3982 より有利でなければならないと
3983 いうもので,
3984 B社及びC社を含む他のOTAの設定する取引条件には直ちに影響を及ぼさず,
3985
3986 宿泊施設の事業活動の制限の直接の影響は,
3987 宿泊施設とOTAとの間の競争への影響にとどま
3988 る。
3989
3990
3991 問題はガイドラインの@,
3992 Aである。
3993
3994 この点に関して,
3995 本問では,
3996 OTA間の競争に及ぼす
3997 影響と宿泊施設間の競争に及ぼす影響について検討することが考えられる(どの競争関係を「ブ
3998 ランド間競争」又は「ブランド内競争」と捉えるかについては,
3999 様々な見解があり得るところ,
4000
4001 いずれと捉えるにせよ,
4002 競争関係を適切に特定した上で分析が行われていれば良い。
4003
4004 )。
4005
4006
4007 OTA間の競争に及ぼす影響については,
4008 A社が第1案を導入すれば,
4009 B社及びC社も第1
4010 案のMFN条項を導入することが予測されているところ,
4011 A,
4012 B,
4013 C3社のMFN条項に基づ
4014 く要求を同時に満たすためには,
4015 ある宿泊施設の料金等の取引条件は,
4016 各サイト間で同一にな
4017 らざるを得ない(価格について言えば,
4018 あるホテルのA社のサイト上で提示される料金を最安
4019 値にすれば,
4020 B社とC社のMFN条項に違反することになり,
4021 B社のサイト上で提示される料
4022 金を最安値にすれば,
4023 A社とC社のMFN条項に違反することになり,
4024 C社のサイト上で提示
4025 される料金を最安値にすれば,
4026 A社とB社のMFN条項に違反することになるから)。
4027
4028 この3
4029 社を通じて提供される宿泊料金等の取引条件については,
4030 ユーザーから見て,
4031 OTA間の競争
4032 が緩和されている(宿泊施設側から見ても,
4033 やはりOTA間の競争が緩和されている。
4034
4035 )。
4036
4037 また,
4038
4039 第1案は,
4040 A社のサイト上で提示する宿泊料金等が新規参入事業者を含む他のOTAのサイト
4041 上で提示するものと同じか,
4042 より有利になるようにする義務を課すものであるから,
4043 低い手数
4044 料しか受け取らないことにより宿泊施設に安い料金を提示させようとする,
4045 より効率的なOT
4046 Aの新規参入を排除する効果もある。
4047
4048 加えて,
4049 上記のとおり,
4050 宿泊施設が直接予約を受け付け
4051 るという事業活動に影響を及ぼすことは,
4052 隣接市場又は関連市場に属する事業者(宿泊施設)
4053 からの競争圧力(予約の受付に限ったものである。
4054
4055 )を弱めるものと評価できる(この点は,
4056
4057 第2案においても同様である。
4058
4059 )。
4060
4061
4062 ユーザーを顧客とする宿泊施設間の競争に及ぼす影響については,
4063 A,
4064 B,
4065 Cの3社が第1
4066
4067 - 29 -
4068
4069 案又は第2案のMFN条項を導入したとしても,
4070 当該MFN条項を課される複数の宿泊施設の
4071 料金等が同一になるとは限らないし,
4072 宿泊施設ごとに提供されるサービスが異なる以上,
4073 同一
4074 になる可能性は乏しいであろう。
4075
4076 しかし,
4077 MFN条項は,
4078 宿泊施設が新しいビジネスモデルを
4079 開発し,
4080 他の宿泊施設との差異化を図ることによって,
4081 ユーザーを獲得しようとする競争(イ
4082 ノベーション競争)を阻害するおそれがある。
4083
4084 例えば,
4085 宿泊施設が競争者と差別化を図るため,
4086
4087 宿泊客に提携レンタカーの料金を割り引くプラン,
4088 提携運送業者が宿泊客の手荷物を割引料金
4089 で自宅まで届けるプラン,
4090 周辺の観光名所を案内するプランなどを考案し,
4091 OTAに手数料を
4092 支払う必要のない自社サイトで予約したユーザーにだけ提供したいと考えても,
4093 MFN条項に
4094 よってそれができない(OTAを通じて予約したユーザーにも提供せざるを得ない)ため,
4095 宿
4096 泊施設の新規ビジネスモデル導入に対するインセンティブの低下を招き,
4097 ひいてはMFN条項
4098 を課された宿泊施設全体の間におけるイノベーション競争を阻害するおそれがある。
4099
4100 これは宿
4101 泊施設間の競争を阻害すると同時に,
4102 宿泊施設からのOTAに対する競争圧力を弱めるおそれ
4103 があるものとも解される。
4104
4105
4106 以上は,
4107 ガイドラインに沿って第1案,
4108 第2案の反競争的効果の説明を試みたものであるが,
4109
4110 必ずしもこれのみが正しい反競争的効果分析の手法というわけではなく,
4111 OTA間の競争,
4112 宿
4113 泊施設間の競争,
4114 宿泊施設の事業活動(宿泊施設からOTAに向けられる競争圧力等)に,
4115 第
4116 1案,
4117 第2案がどのように影響を及ぼすかを検討し,
4118 それらの考慮要素を総合して論理的,
4119 説
4120 得的に反競争的効果の有無についての結論を導いていれば良い。
4121
4122 特に,
4123 第2案については,
4124 第
4125 1案と異なりOTA間の競争の緩和が直ちに認められるものではないが,
4126 それでも宿泊施設の
4127 サイト上の宿泊料金等を基準に各OTAのサイト上の宿泊料金等も同一となる可能性があるな
4128 どとして反競争的効果を肯定するのか,
4129 他の考慮要素を重視して反競争的効果を導くのか,
4130 そ
4131 れとも反競争的効果を否定するのか,
4132 各自の分析に基づいた論述が求められる。
4133
4134
4135 最後に,
4136 正当化事由である。
4137
4138 一般に,
4139 正当化事由については,
4140 競争秩序維持の観点から見た
4141 目的の正当性及び当該目的に照らした手段の合理性などの観点から分析することになる。
4142
4143 また,
4144
4145 問題となる行為に競争促進効果が認められる場合に,
4146 反競争的効果との比較衡量という観点か
4147 ら分析することも一般的である。
4148
4149
4150 本問では,
4151 5パーセント程度安い宿泊料金やユーザーに有利なキャンセル条件等が宿泊施設
4152 のサイト上に提示されている場合があり,
4153 OTAのサイトで検索等を行ったユーザーであって
4154 も,
4155 より好条件である宿泊施設のサイトで直接予約することで,
4156 宿泊施設がOTAのサービス
4157 に「ただ乗り」する可能性がある。
4158
4159 そのため,
4160 OTAが相当の費用を掛けてサーバー等を開発
4161 ・保有・運用していることから,
4162 かかる費用を回収するためのOTAの行為については,
4163 「た
4164 だ乗り」の防止として正当化される余地がないか(競争促進効果と反競争的効果との比較衡量
4165 により公正競争阻害性が否定される余地がないか)を検討する必要がある。
4166
4167
4168 検討に当たっては,
4169 オンライン旅行予約をめぐる競争激化の阻止という目的の不当性,
4170 ただ
4171 乗りの防止という目的の当否(ただ乗りの防止による競争促進効果の有無),
4172 宿泊施設のみな
4173 らず他のOTAのサイト上で提示する宿泊料金等と同じか,
4174 より有利になるようにしなければ
4175 ならないという契約内容(手段)の不合理性,
4176 ユーザーの囲い込み効果を有するポイント制を
4177 既に採用していることの評価,
4178 D社及びE社が検討している「サービス利用料」がより競争制
4179 限的でない手段と言えるかなど,
4180 第1案と第2案のそれぞれにおいて関連しそうな事実を取り
4181 上げて評価し,
4182 各MFN条項の導入が正当化されるか否かを判断することが求められる。
4183
4184
4185 [知的財産法]
4186 〔第1問〕
4187 1
4188
4189 設問1は,
4190 審決取消訴訟の審理範囲を問うものであり,
4191 設問2は,
4192 審決取消判決の拘束力
4193 の及ぶ範囲及び審決取消訴訟の審理範囲を問うものであり,
4194 設問3は,
4195 一事不再理と権利行
4196 - 30 -
4197
4198 使制限の抗弁との関係を問うものであり,
4199 設問4は,
4200 共同出願違反と権利行使制限の抗弁と
4201 の関係を問うものである。
4202
4203
4204 2
4205
4206 設問1については,
4207 当該審判手続で現実に審理判断された特定の無効原因のみが審決取消
4208 訴訟の審理対象とされるべきであるとする見解(甲説)と,
4209 審理対象はそれに限られないと
4210 する見解(乙説)が考えられる。
4211
4212
4213 甲説の根拠としては,
4214 @審判を請求できる事項に関する訴えについて審判前置主義を定め
4215 た特許法(以下「法」という。
4216
4217 )第178条第6項の趣旨に照らすと,
4218 訴訟の前段階において
4219 専門行政庁による慎重な審理判断を受ける利益が認められること(前審判断経由の利益),
4220
4221 A法は,
4222 審判手続において,
4223 当事者が無効原因を明確にすることを要求し,
4224 その無効原因を
4225 巡って審理判断がされるという手続構造を採用しており,
4226 事実審が一審級省略されているの
4227 も,
4228 審判手続で十分な審理が行われていることが前提となっていること(審判手続の構造と
4229 性格),
4230 B審判手続では,
4231 特許権者は訂正の機会があるが,
4232 審決取消訴訟において審決で判
4233 断されていない無効理由の主張が許されると,
4234 特許権者の上記機会が奪われてしまうこと等
4235 が挙げられる。
4236
4237
4238 一方,
4239 乙説の根拠としては,
4240 @行政処分の取消訴訟では,
4241 原則として,
4242 処分理由の追加・
4243 差し替えが認められているから,
4244 審理範囲は処分の理由とされたところに制限されないこと,
4245
4246 A特許権侵害訴訟において裁判所が権利の有効性について判断できる(法第104条の3)
4247 とされている以上,
4248 審決取消訴訟においても裁判所は十分に専門的判断をすることができる
4249 から,
4250 前審判断経由の利益は問題とならないこと,
4251 B審判手続で現実に審理判断された特定
4252 の無効原因のみが審理対象となるとすると,
4253 審理範囲が細分化される結果,
4254 特許庁と裁判所
4255 の間でいわゆるキャッチボール現象が不可避となり,
4256 紛争解決が遅延すること等が挙げられ
4257 る。
4258
4259
4260 両説について,
4261 最大判昭和51年3月10日民集30巻2号79頁(メリヤス編機事件)
4262 の趣旨・内容を踏まえた論述をすることが求められる。
4263
4264 もっとも,
4265 乙説を妥当とする立場を
4266 とるのであれば,
4267 上記大法廷判決の変更が必要となることを十分に意識した論述が必要であ
4268 ろう。
4269
4270
4271
4272 3
4273
4274 設問2については,
4275 まず,
4276 第1次審決取消訴訟における取消判決の拘束力(行政事件訴訟
4277 法第33条第1項)は判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたると
4278 されるところ,
4279 その範囲が問題となる。
4280
4281 上記取消判決は,
4282 発明aは発明bに基づいて容易想到
4283 であるとはいえないとして本件審決を取り消しており,
4284 この判断に取消判決の拘束力が及ぶ
4285 と考えれば,
4286 第2次審決はこの拘束力に従って発明aは発明bに基づいて容易想到であるとは
4287 いえないと判断したのであるから,
4288 乙がこの判断を誤りであると第2次審決取消訴訟におい
4289 て主張することは許されないということになる。
4290
4291 一方,
4292 第1次審決取消訴訟の判決は,
4293 本件
4294 審決が発明bと発明aとの技術内容の認定を誤り,
4295 その異同点の認定を誤ったものであって違
4296 法であることを理由として,
4297 審決を取り消したのであるから,
4298 異同点の認定については取消
4299 判決の拘束力が及ぶが,
4300 発明aが発明bに基づいて容易想到であるか否かの点までは,
4301 拘束力
4302 は及ばないと考えれば,
4303 乙の主張は取消判決の拘束力に反しないことになる。
4304
4305 両説について,
4306
4307 最判平成4年4月28日民集46巻4号245頁(高速旋回式バレル研磨法事件)の趣旨・
4308 内容を踏まえた論述をすることが求められる。
4309
4310
4311 次に,
4312 公知技術についての新たな証拠cの提出と審決取消訴訟の審理範囲との関係が問題
4313 となる。
4314
4315 新たな証拠cを提出することは,
4316 設問1で論じた審決取消訴訟の審理範囲を逸脱し
4317 て許されないという見解も考えられるが,
4318 最判昭和55年1月24日民集34巻1号80頁
4319 (食品包装容器事件)によれば,
4320 新たな証拠cは,
4321 あくまで発明bの技術内容の明確化のため
4322 に提出されたにすぎないから審理範囲を逸脱しないということになろう。
4323
4324 なお,
4325 設問1の乙
4326 説による場合も,
4327 審理範囲を逸脱しないことになる。
4328
4329
4330
4331 - 31 -
4332
4333 4
4334
4335 設問3については,
4336 権利行使制限の抗弁は許されないとの見解(甲説)と許されるとの見
4337 解(乙説)があり得る。
4338
4339
4340 甲説の根拠としては,
4341 甲乙間には,
4342 既に,
4343 本件審判の請求を不成立とする第二次審決が確
4344 定しているから,
4345 一事不再理効(法第167条)により,
4346 乙は,
4347 「発明bに基づいて発明aを
4348 容易に発明することができた」として再度の特許無効審判を請求することができず,
4349 したが
4350 って,
4351 かかる理由により「当該特許が特許無効審判により無効にされるべきものであると認
4352 められる」(法第104条の3)とはいえないから,
4353 乙の主張は許されないことが考えられ
4354 る。
4355
4356 なお,
4357 「当事者間の紛争の蒸し返しの防止」が重視されることとなった法第167条に
4358 係る平成23年改正の趣旨を踏まえた論述については,
4359 積極的な評価が与えられよう。
4360
4361
4362 一方,
4363 乙説の根拠としては,
4364 @無効審判手続と侵害訴訟手続は別個の手続であるし,
4365 法第
4366 104条の3は,
4367 無効審判手続を経なくても無効主張が許されるとする趣旨であるから,
4368 無
4369 効審判手続でかかる主張が許されないからといって,
4370 侵害訴訟手続においても許されないと
4371 はいえないこと,
4372 A特許に無効理由が存在することが明らかな場合,
4373 その特許権の行使は権
4374 利濫用に当たり許されないと解される(最判平成12年4月11日民集54巻4号1368
4375 頁(キルビー事件))ところ,
4376 発明bに基づいて発明aを容易に発明することができた以上,
4377
4378 本件特許権の行使は権利濫用に当たるから,
4379 かかる主張をすることは許されること等が考え
4380 られる。
4381
4382
4383 もっとも,
4384 妥当性については,
4385 一事不再理効(法第167条)の「当事者間の紛争の蒸し
4386 返しの防止」という趣旨や,
4387 法第104条の3は上記最判平成12年4月11日で認められ
4388 た権利濫用の抗弁を立法化したものであることを踏まえた論述が求められる。
4389
4390 知財高判平成
4391 23年6月23日判タ1397号245頁(食品包み込み成形方法事件)や東京地判平成2
4392 3年8月26日判タ1402号344頁(動物用排尿処理剤事件)等も甲説と同旨の結論を
4393 採用している。
4394
4395
4396
4397 5
4398
4399 設問4については,
4400 以下のとおり,
4401 関連条文とその趣旨を踏まえて丙の主張が許されるこ
4402 とを論じる必要がある。
4403
4404 すなわち,
4405 法第123条第2項は,
4406 共同出願違反(法第38条違反)
4407 の場合は,
4408 特許を受ける権利を有する者に限り無効審判請求をできると規定する。
4409
4410 これは,
4411
4412 当該無効理由は権利の帰属に係るものにすぎないし,
4413 権利が消滅してしまうと真の権利者に
4414 よる移転請求(法第74条)も不可能となるからである。
4415
4416 一方,
4417 法第104条の3第3項は,
4418
4419 法第123条第2項の規定は当該特許を受ける権利を有する者以外の者が権利行使制限の抗
4420 弁を提出することを妨げない旨定めている。
4421
4422 これは,
4423 その場合でも,
4424 無効理由がある以上,
4425
4426 権利行使を認めるのは相当でないし,
4427 権利行使制限の抗弁により権利が消滅するわけでもな
4428 いから,
4429 真の権利者による移転請求も妨げられないためである。
4430
4431 したがって,
4432 丙の主張は許
4433 される。
4434
4435
4436
4437 〔第2問〕
4438 1
4439
4440 設問1は,
4441 地図の著作物について,
4442 地図の著作物性(著作権法(以下「法」という。
4443
4444 )第
4445
4446 2条第1項第1号,
4447 第10条第1項第6号),
4448 共同著作物の著作者(法第2条第1項第12
4449 号)に関する理解を問うものである。
4450
4451 設問2(1)は,
4452 共有著作権及び共同著作物の著作者
4453 人格権の行使(法第64条,
4454 第65条)に関する理解を問うものであり,
4455 設問2(2)は,
4456
4457 試験問題としての複製(法第36条)等に関する理解を問うものである。
4458
4459
4460 2
4461
4462 設問1については,
4463 まず,
4464 地図は,
4465 地形等を所定の記号によって客観的に表現するものと
4466 して個性的表現の余地が少なく,
4467 著作権による保護を受ける範囲が狭いのが通例であるとい
4468 う特徴を有することから,
4469 地図の著作物性は,
4470 記載すべき情報の取捨選択及びその表示方法
4471 を総合して判断するとされていることが問題となる。
4472
4473
4474 次に,
4475 共同著作物の著作者となるためには,
4476 各人が創作的表現をする必要があることが問
4477
4478 - 32 -
4479
4480 題となる。
4481
4482 共同著作物の各著作権者は,
4483 他の著作権者の同意を得ないで,
4484 差止請求をするこ
4485 とができること(法第117条第1項)への言及も求められる。
4486
4487
4488 最後に,
4489 Zの行為が,
4490 複製権(法第21条)ないし翻案権(法第27条)及び譲渡権(法
4491 第26条の2,
4492 翻案権とした場合は法第28条も必要)の侵害に当たることを述べることが
4493 求められる。
4494
4495
4496 3
4497
4498 設問2(1)では,
4499 まず,
4500 ガイドマップAが共同著作物であるかについて述べ,
4501 共有著作
4502
4503 権は,
4504 共有者全員の合意によらなければ行使することができない(法第65条第2項)こと
4505 から,
4506 Xの合意を得ずにガイドマップAを公衆送信した行為が,
4507 公衆送信権(法第23条第1
4508 項)の侵害に当たるかが問題となる。
4509
4510 合意を得ていない以上,
4511 著作権を行使するためには,
4512
4513 「合意せよ」との判決を得る必要があるか否かについて検討することが求められる。
4514
4515 また,
4516
4517 Xには,
4518 合意の成立を妨げることができる正当な理由(法第65条第3項)があるかが問題
4519 となり,
4520 正当な理由をどのように判断するかについて,
4521 ガイドマップAの売上げの増加等の
4522 設例の事実関係を踏まえて検討することが求められる。
4523
4524
4525 次に,
4526 著作者は氏名表示権(法第19条第1項)を有し,
4527 共同著作物の著作者人格権は,
4528
4529 著作者全員の合意によらなければ行使することができない(法第64条第1項)ことが問題
4530 となる。
4531
4532 Xが氏名を表示せずに発行していたガイドマップAについて,
4533 Yが氏名を表示して公
4534 衆送信するためには,
4535 Xの合意を得ていない以上,
4536 意思表示を命ずる判決を要するかについ
4537 て,
4538 上記著作権の行使と同様に論じることが求められる。
4539
4540 Yの反論として,
4541 Xが合意の成立を
4542 妨げることが信義に反するか(法第64条第2項)について検討することが求められる。
4543
4544 著
4545 作権の行使について合意の成立を妨げることができる正当な理由と,
4546 著作者人格権の行使に
4547 ついて合意の成立を妨げることが信義に反しないこととを,
4548 区別して論じることが求められ
4549 る。
4550
4551
4552 4
4553
4554 設問2(2)では,
4555 試験問題としての複製(法第36条)に関する著作権の制限規定の適
4556 用の可否が問題となる。
4557
4558 試験は,
4559 公正な実施のために秘密性を要し,
4560 また著作物の通常の利
4561 用と衝突しないため認められるという法第36条の趣旨が,
4562 本件出題に妥当するかを論じる
4563 ことが求められる。
4564
4565 なお,
4566 本件試験は,
4567 会社が社内で実施する資格試験であり,
4568 営利目的と
4569 解されるから,
4570 法第36条第2項が適用され,
4571 使用料相当額の補償金の支払いを要するかも
4572 問題となる。
4573
4574 また,
4575 本件問題集は,
4576 秘密を保持する必要はないから,
4577 法第36条第1項は適
4578 用されないかについて述べることが求められる。
4579
4580
4581 次に,
4582 本件出題が,
4583 ガイドマップA上の観光スポットの名称を空欄にした点について,
4584 同
4585 一性保持権(法第20条第1項)の侵害が問題になるが,
4586 試験の目的上,
4587 やむを得ない改変
4588 (法第20条第2項第4号)に当たるかを論じることが求められる。
4589
4590
4591 さらに,
4592 ガイドマップAを本件問題集に複製することにつき,
4593 引用(法第32条第1項)
4594 に関する著作権の制限規定が適用されるかも問題になろう。
4595
4596
4597 最後に,
4598 本件問題集を社内の希望者に配付したことについて,
4599 譲渡権(法第26条の2)
4600 の「公衆」(法第2条第5項参照)に提供するという要件を満たすかが問題となる。
4601
4602 氏名表
4603 示権に関し,
4604 すでに著作者が表示しているところに従って表示することができるとの法第1
4605 9条第2項の趣旨が不表示の場合にも妥当するかについて言及があれば,
4606 積極的な評価が与
4607 えられよう。
4608
4609
4610
4611 [労働法]
4612 〔第1問〕
4613 本問は,
4614 変形労働時間制による勤務シフトにより24時間勤務に従事していた警備員が,
4615 仮
4616 眠時間中の病院施設の突発的停電への対応等を理由として出勤停止の懲戒処分に付せられた事
4617 案について,
4618 仮眠時間の労働時間該当性,
4619 仮眠時間に対する賃金請求の可否及び懲戒処分の法
4620 - 33 -
4621
4622 的効力の有無を問うものである。
4623
4624 関係条文・判例が定立している規範を正確に理解した上で,
4625
4626 具体的事案に適確に適用することができるかが問われている。
4627
4628
4629 設問1では,
4630 まず,
4631 本件仮眠時間の労働時間該当性について,
4632 判例(大星ビル管理事件・最
4633 判平成14年2月28日民集第56巻2号361頁)に照らして検討すべきことになろう。
4634
4635 次
4636 に,
4637 仮眠時間(労働時間に該当する場合)と賃金請求権との関係については,
4638 前掲判例は,
4639 労
4640 働基準法(以下「労基法」という。
4641
4642 )上の労働時間であるからといって,
4643 当然に労働契約所定
4644 の賃金請求権が発生するものではなく,
4645 仮眠時間に対する賃金支払については合意いかんによ
4646 るとの判断を示しており,
4647 本件では「泊まり勤務手当」をどのように評価すべきかが問題とな
4648 る。
4649
4650 また,
4651 仮に,
4652 仮眠時間に対応する賃金の支払を約定しているとしても,
4653 労基法第37条第
4654 1項,
4655 第4項は法定時間外労働,
4656 深夜労働に対して割増賃金の支払いを義務付けているので,
4657
4658 この点について検討する必要がある(労基法第13条参照)。
4659
4660 さらに,
4661 割増賃金については,
4662
4663 変形労働時間制(労基法第32条の2)における法定時間外労働時間数の算定方法,
4664 割増賃金
4665 の基礎となる賃金(通常の労働時間の賃金)の確定,
4666 この基礎賃金に算入しない賃金の識別も
4667 検討すべき論点となろう。
4668
4669
4670 設問2では,
4671 まず,
4672 懲戒処分の意義,
4673 懲戒権の法的根拠について,
4674 判例(国鉄中国支社事件
4675 ・最判昭和49年2月28日民集第28巻1号66頁等)や学説等に照らして,
4676 検討する必要
4677 がある。
4678
4679 その上で,
4680 本件懲戒処分の法的効力の有無について,
4681 労基法第89条第9号(懲戒の
4682 種類及び程度),
4683 懲戒の「種別及び事由」の定めを要するとする判例(国鉄札幌運転区事件・
4684 最判昭和54年10月30日民集第33巻6号647頁等),
4685 「周知」手続を要するとする判例
4686 (フジ興産事件・最判平成15年10月10日判時1840号144頁)を踏まえて,
4687 判例法
4688 としての懲戒権濫用法理,
4689 これを明文化した労働契約法(以下「労契法」という。
4690
4691 )第15条
4692 に照らして論じることが求められる。
4693
4694
4695 労契法第15条は,
4696 「労働者の行為の性質及び態様その他の事情」に照らして,
4697 懲戒処分に
4698 「客観的合理的な理由」が存在し,
4699 当該処分が「社会通念上相当である」ことを要求している
4700 が,
4701 懲戒対象事由と不利益処分の内容(懲戒処分の内容・程度)との均衡,
4702 懲戒手続の相当性
4703 (弁明の機会の付与等)についても検討することを要しよう。
4704
4705 また,
4706 本件では,
4707 メールによる
4708 労働基準監督署(以下「労基署」という。
4709
4710 )への相談が懲戒処分にあたって考慮された可能性
4711 が窺われることから,
4712 労基署への申告を理由とする不利益取扱いを禁止する労基法第104条
4713 との抵触いかんも検討すべき論点の一つである。
4714
4715
4716 〔第2問〕
4717 本問は,
4718 団体交渉で労働条件の引下げが議論されている状況下で,
4719 労働組合の組合員の一部
4720 が組合の承認なしに抗議活動を行ったことに関し,
4721 同活動の対使用者及び組合内部の関係にお
4722 ける法的評価とこれに対する処分の可否を問うものであり(設問1,
4723 設問2),
4724 さらに,
4725 労働
4726 条件を引き下げる労働協約が調印された場合の効力についても説明を求めている(設問3)。
4727
4728
4729 労働組合法(以下「労組法」という。
4730
4731 )第7条の不当労働行為,
4732 労働組合の統制処分,
4733 労働協
4734 約の規範的効力など,
4735 労組法の主要な事項について,
4736 関係条文及び判例が定立している規範を
4737 正確に理解した上で,
4738 具体的事案を整理,
4739 識別して,
4740 的確に適用することができるかが問われ
4741 ている。
4742
4743
4744 設問1については,
4745 Cらの抗議活動が労組法第7条第1号の「労働組合の正当な行為」とい
4746 えるか否かが,
4747 重要な論点となる。
4748
4749 特に,
4750 組合執行部の方針に不満な一部の組合員が行ったと
4751 いう事実が,
4752 主体や目的の面でどのように評価されるかという点や,
4753 抗議活動の場所・時間・
4754 内容など態様面での問題はないかという点を,
4755 具体的な経緯や状況に照らしながら論じること
4756 が求められる。
4757
4758 また,
4759 労組法第7条第3号の支配介入の成否についても,
4760 併せて検討しておく
4761 必要があろう。
4762
4763
4764
4765 - 34 -
4766
4767 設問2については,
4768 労働組合の統制権の意義や行使要件を踏まえた上で,
4769 Cらの行為が組合
4770 規約の定める統制事由に該当するか,
4771 行為内容と処分の均衡は取れているか,
4772 手続上の問題は
4773 ないか,
4774 といった点を検討する必要があろう。
4775
4776 また,
4777 労働組合が使用者からの通告に応じる形
4778 で統制処分を行うことの当否も,
4779 1つの論点となりえよう。
4780
4781
4782 設問3については,
4783 労働条件を引き下げる労働協約にも規範的効力を肯定した判例(朝日火
4784 災海上保険事件・最判平成9年3月27日)を踏まえ,
4785 その限界にも留意しながら,
4786 本件の状
4787 況を検討することが求められる。
4788
4789 また,
4790 委員長にそのような労働協約の締結権限があるのかと
4791 いう点も,
4792 判例(山梨県民信用組合事件・最判平成28年2月19日)に照らして議論してお
4793 くことが望まれる。
4794
4795
4796 [環境法]
4797 〔第1問〕
4798 第1問は,
4799 河川及び沿岸海域の汚染に関する環境紛争について,
4800 民事訴訟を提起する場合に
4801 おける法律上の問題点及び民事訴訟による紛争解決と行政上の紛争解決制度である公害紛争処
4802 理制度との異同を問うものである。
4803
4804
4805 〔設問1〕の小問(1)は,
4806 Dが漁業被害についてB社及びC社に対して訴訟を提起する場合
4807 の訴訟物とその要件を検討することが求められている。
4808
4809 B社に対する請求は不法行為(民法第
4810 709条)に基づく損害賠償請求が考えられる。
4811
4812 ダムの堆積物の排出行為を加害行為と捉えた
4813 場合,
4814 過失,
4815 違法性及び漁業被害との間の因果関係の有無を検討することが求められる。
4816
4817 特に
4818 違法性については「二次災害を防止するため」との目的との関係でどう評価するかについて言
4819 及することが期待される。
4820
4821 ダムを土地の工作物と考えた場合は,
4822 土地工作物責任(民法第71
4823 7条)に基づく請求も考えられる。
4824
4825 その場合は,
4826 過失に代えて土地工作物の設置又は保存の瑕
4827 疵の検討が必要である。
4828
4829 C社に対する請求は,
4830 不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償
4831 請求が考えられる。
4832
4833 有害物質であるセレン化合物を排出した行為を加害行為と捉えた場合,
4834 過
4835 失,
4836 違法性及び漁業被害との間の因果関係の有無を検討することが求められる。
4837
4838 特に過失の有
4839 無については,
4840 連日続いた集中豪雨という天災が作用していること及び川の堤防に割れ目があ
4841 ったことをどう評価するか言及することが期待される。
4842
4843 また,
4844 B社とC社の共同不法行為責任
4845 (民法第719条第1項前段)が成立するかどうか,
4846 その要件としての客観的関連共同性の有
4847 無と効果としての不真正連帯(最判昭和57年3月4日判時1042号87頁)についても論
4848 じて欲しい。
4849
4850
4851 小問(2)は,
4852 Eが健康被害についてB社及びC社に対して訴訟を提起する場合の訴訟物とそ
4853 の要件を検討することが求められている。
4854
4855 B社に対する請求は不法行為(民法第709条)に
4856 基づく損害賠償請求が考えられる。
4857
4858 小問(1)と同様にダムの堆積物の排出行為を加害行為と捉
4859 えた場合,
4860 堆積物による濁水のみで健康被害との間の因果関係は通常認め難いから,
4861 濁水に押
4862 し流されてセレン化合物が沿岸海域に到達したことを捉えてC社との共同不法行為が成立する
4863 かが重要な視点となろう。
4864
4865 小問(1)と同様に共同不法行為についての要件と効果の検討が求め
4866 られる。
4867
4868 土地工作物責任(民法第717条)に基づく請求を考える場合も同様である。
4869
4870 C社に
4871 対する請求は,
4872 民法第709条の特則としての水質汚濁防止法第19条第1項に基づく損害賠
4873 償請求が考えられる。
4874
4875 本問は,
4876 工場の事業活動に伴って有害物質であるセレン化合物が川に排
4877 出され,
4878 健康被害を生じさせたと考えられること,
4879 同条の責任は無過失責任であり,
4880 事業活動
4881 に伴う排出と健康被害との間の因果関係が立証できればC社の故意過失の主張立証は不要であ
4882 ること,
4883 水質汚濁防止法上の規制対象かどうかは問題とならず,
4884 事業活動に伴う排出であれば
4885 工場内の設備からの排出に限られないことについて論じる必要がある。
4886
4887 また,
4888 本問では,
4889 セレ
4890 ン化合物の排出につき連日の集中豪雨という天災が競合しており,
4891 裁判所は,
4892 損害賠償の責任
4893 及び額を定めるについて,
4894 これをしんしゃくすることができる(同法第20条の2)ことにも
4895 - 35 -
4896
4897 言及することが期待される。
4898
4899
4900 〔設問2〕では,
4901 民事訴訟と公害紛争処理制度の異同を被害者の手続上の便宜の視点から論
4902 じる必要がある。
4903
4904
4905 Eが自己の健康被害について,
4906 B社ないしC社に対して不法行為又は水質汚濁防止法第19
4907 条第1項に基づく損害賠償請求訴訟を提起する場合,
4908 因果関係の存在については,
4909 原告である
4910 Eが主張立証責任を負うことになる。
4911
4912 そうすると,
4913 本問のような環境紛争においては,
4914 加害行
4915 為と健康被害との間の因果関係の立証に当たって,
4916 水質調査や検体の調査・分析等の専門的・
4917 科学的調査が必要となり,
4918 民事訴訟において鑑定(民事訴訟法第212条)の申出をすると,
4919
4920 その費用の負担が被害者Eにとって大きな負担となる場合がある。
4921
4922 そこで,
4923 被害者の負担を軽
4924 減するための行政上の紛争解決制度として,
4925 公害紛争処理制度が設けられている。
4926
4927
4928 具体的には,
4929 前提として本問は事業活動に伴って生ずる相当範囲にわたる水質汚濁によって
4930 健康被害が生じたと解される事案であるから「公害」(公害紛争処理法第2条,
4931 環境基本法第
4932 2条第3項)に該当することに言及した上,
4933 総務省の外局である公害等調整委員会における責
4934 任裁定制度(公害紛争処理法第42条の12)は,
4935 裁判所と同様に損害賠償責任の有無,
4936 損害
4937 額という法的判断について裁定するものであること,
4938 これに対し原因裁定制度(同法第42条
4939 の27)は,
4940 加害行為と被害結果との間の因果関係に特化して判断する手続であり,
4941 因果関係
4942 の解明のために当事者が求めた事項以外の事項も判断できること(同法第42条の30第1
4943 項),
4944 因果関係の判断に当事者以外の第三者が利害関係を有するときは,
4945 その第三者も手続に
4946 参加させることができる(同条第2項)という特色について言及する必要がある。
4947
4948 また,
4949 その
4950 ような手続の活用が考えられる理由として,
4951 職権証拠調べとしての鑑定(同法第42条の16
4952 第1項第2号,
4953 第42条の33)及び事実の調査(同法第42条の18,
4954 第42条の33)に
4955 より,
4956 当事者に費用を負担させないで国庫負担により専門的・科学的調査を実施でき(同法第
4957 44条第1項,
4958 公害紛争処理法施行令第17条第1項第1号。
4959
4960 「政令で定めるものを除き」の
4961 反対解釈として,
4962 政令で定める費用は当事者に負担させないこととなる。
4963
4964 ),
4965 それにより被害者
4966 Eの因果関係の立証の負担を軽減できることを論じる必要がある。
4967
4968 なお,
4969 既にEが民事訴訟を
4970 提起していた場合には,
4971 受訴裁判所に職権発動を促し,
4972 受訴裁判所から公害等調整委員会に原
4973 因裁定の嘱託(同法第42条の32)をすることで,
4974 Eの因果関係の立証の負担を軽減する方
4975 法も考えられる。
4976
4977
4978 〔第2問〕
4979 第2問は,
4980 建物解体等に伴う石綿などの特定粉じんの飛散防止等についての大気汚染防止法
4981 (以下「大防法」という。
4982
4983 )による制度の理解を確認し,
4984 あわせて被害を受けるおそれのある
4985 者からの法的対応の在り方についての把握を確認する問題である。
4986
4987
4988 〔設問1〕では,
4989 本件工事が「特定工事(大防法第2条第11項が定める特定粉じんの排出
4990 等作業を伴う工事=注〕に該当しないことが明らかな」工事(同法第18条の17第1項括弧
4991 書)ではなく,
4992 同条第1項にいう解体等工事に当たることから,
4993 受注者は同条同項による調査
4994 義務に加えて,
4995 発注者への書面による説明義務が課せられている。
4996
4997 そして,
4998 発注者は,
4999 受注者
5000 のかかる調査について,
5001 調査費用の適正な負担や,
5002 その他の必要な措置を講ずることにより,
5003
5004 協力しなければならない(同条第2項)。
5005
5006 また,
5007 受注者は,
5008 本件工事が特定工事に該当するか
5009 否かの調査結果を,
5010 当該解体等工事現場において掲示板を設けることによって,
5011 公衆に示す義
5012 務があること(同条第4項及び同法施行規則第16条の9)を記述する。
5013
5014 さらに,
5015 この調査の
5016 結果,
5017 特定工事であることが明らかになった場合,
5018 同法第18条の15により,
5019 発注者には,
5020
5021 作業開始の14日前までの届出義務があることを記述する(なお,
5022 実際の届出行為は類似の法
5023 令である「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(以下「建設リサイクル法」とい
5024 う。
5025
5026 )と同様,
5027 代理人によることを禁じていないが,
5028 届出人名義が発注者であることは,
5029 同法
5030
5031 - 36 -
5032
5033 第18条の17第2項との関係で重要である)。
5034
5035
5036 上記受注者の調査・報告義務等は,
5037 発注者が受注者に対して特定工事に該当しないと説明し
5038 たとしても免れ得るものではない。
5039
5040 また,
5041 調査が省略されたために説明がなかったことのみを
5042 理由に特定工事に関する上記の発注者の届出義務が免ぜられるものではない。
5043
5044 なお,
5045 これらの
5046 受注者の発注者への説明義務と発注者からの届出義務等は,
5047 平成25年改正で新設されており,
5048
5049 〔設問4〕では,
5050 このように発注者の義務が強化された理由にも答えることを求めている。
5051
5052
5053 また,
5054 発注者は,
5055 受注者が特定工事を施工するにあたり,
5056 作業基準の遵守を妨げるおそれの
5057 ある条件を付さないように配慮しなければならず,
5058 本件のように工事の着工を急ぐように受注
5059 者を指示することは,
5060 かかる配慮義務との関係で問題になり得る(同法第18条の20)。
5061
5062
5063 〔設問2〕は,
5064 大防法違反の通報に対してA県知事が大防法上採り得る措置についての設問
5065 である。
5066
5067 都道府県の職員は,
5068 平成25年改正前は特定工事であることが明らかな場合でなけれ
5069 ば立入検査ができなかったところ,
5070 平成25年改正により,
5071 同法第18条の15による事前届
5072 出の有無にかかわらず,
5073 解体等工事につき,
5074 発注者・受注者からの報告徴収(これは,
5075 既に行
5076 われたはずの調査の内容等につき報告を求めるものであって,
5077 調査をして報告するように命じ
5078 ることまでは規定されていない。
5079
5080 ),
5081 解体等工事現場への立入検査ができるようになった(同法
5082 第26条第1項,
5083 同条第2項)。
5084
5085 本件では,
5086 A県知事がB,
5087 Dに対して報告徴収を求めること
5088 ができ,
5089 その職員は立入検査ができること,
5090 より有害性の強い青石綿飛散の疑いに係るもので
5091 あることから,
5092 同条第2項に該当することを記述する必要がある。
5093
5094 さらに,
5095 立入検査の結果,
5096
5097 受注者に同法第18条の18違反の事実があることが判明した場合,
5098 A県知事は,
5099 作業基準遵
5100 守ないし作業の一時停止命令を発し得ること(同法第18条の19)を記述する。
5101
5102 他方で,
5103 計
5104 画変更命令は,
5105 同法第18条の15による届出が前提になる(同法第18条の16)。
5106
5107
5108 なお,
5109 同法第18条の18違反行為への直罰規定はないが,
5110 命令違反行為には罰則がある。
5111
5112
5113 〔設問3〕では,
5114 施工者ないし発注者に対する作業の停止を求める民事差止め訴訟(特に仮
5115 処分)の可能性と本設例での要件の該当性について検討することが期待される。
5116
5117 また,
5118 都道府
5119 県職員による立入検査が行われない場合や都道府県知事が作業基準(特定粉じん排出等作業に
5120 係る規制基準。
5121
5122 同法第18条の14)遵守命令ないし特定粉じん排出等作業の一時停止命令を
5123 発しない場合(同法第18条の18,
5124 第18条の19)には,
5125 行政事件訴訟法第3条第6項第
5126 1号に基づく義務付けの訴えを提起し,
5127 あるいは,
5128 本件工事による危険の特殊性を勘案すれば,
5129
5130 同法第37条の5第1項に基づく仮の義務付けを申し立てること,
5131 そして本問の設例において,
5132
5133 このための要件を満たしているかどうかを検討する余地がある。
5134
5135
5136 〔設問4〕は,
5137 平成25年大防法改正により発注者の義務が強化された趣旨を問うものであ
5138 る。
5139
5140 同改正前の大防法では,
5141 施工者が特定粉じん排出等作業の実施の届出の義務者であり届出
5142 義務違反を問われるのは施工者であったため,
5143 発注者が契約上優位な立場にあることを背景に,
5144
5145 施工者に対してできるだけ低額,
5146 短期間の工事を求め,
5147 施工者がこれに従わざるを得ないこと
5148 や,
5149 施工者も低額,
5150 短期間の工事を提示することで契約を得ようとすることにより,
5151 届出がな
5152 されないことが問題となっていた。
5153
5154 しかし,
5155 原因者負担の原則を考慮すれば,
5156 発注者と施工者
5157 の関係については,
5158 費用負担者である発注者が,
5159 石綿の飛散を伴う工事についてはその工事を
5160 注文する者として適切に役割を担い,
5161 施工者は請け負った工事を専門的知識に基づき適正に実
5162 施する役割を担うことが適当と考えられる。
5163
5164 そこで,
5165 改正法において,
5166 解体工事等が特定粉じ
5167 ん排出等作業を伴うものである場合については,
5168 その届出の義務者を施工者から変更し,
5169 解体
5170 工事等において契約上優位な立場にある発注者に特定粉じん排出等作業実施の届出義務を課す
5171 こととし,
5172 これにより事前調査や届出が円滑に進むと考えられたことを記述する必要がある。
5173
5174
5175 なお,
5176 この改正の結果,
5177 建設リサイクル法の対象建設工事の届出とも,
5178 届出の主体が整合する
5179 こととなった。
5180
5181
5182
5183 - 37 -
5184
5185 [国際関係法(公法系)
5186 ]
5187 〔第1問〕
5188 本問は,
5189 国家責任法の違法性阻却事由,
5190 条約の終了原因,
5191 及び外交特権に関する基本的知識
5192 と理解を問うものである。
5193
5194 司法試験用法文に登載されている条約法に関するウィーン条約(以
5195 下「条約法条約」という。
5196
5197 )及び外交関係に関するウィーン条約(以下「外交関係条約」とい
5198 う。
5199
5200 )の関係条文を設問に照らして抽出して適切に解釈し,
5201 並びに国際法上の対抗措置という
5202 国家責任の基本的な理解に従って論述すれば,
5203 十分に解答が可能な設問となっている。
5204
5205
5206 設問1は,
5207 B国によるXダムの建設中止に対して,
5208 Yダムを建設し,
5209 水力発電を開始したA
5210 国の行為が,
5211 国際法上どのように評価されるかについて問うものであるが,
5212 特に国家責任法に
5213 おける違法性阻却事由(対抗措置等)で正当化されるかどうかが論点となる。
5214
5215
5216 対抗措置を例にとれば,
5217 対抗措置とは,
5218 一般に,
5219 事前に存在する相手国の国際違法行為に対
5220 して,
5221 当該違法行為の直接の被害国が,
5222 違法行為国から賠償を得るため,
5223 または引き続き侵害
5224 を防ぎ適法な状態を戻すために,
5225 本来ならば違法な行為に訴えることをいう。
5226
5227
5228 このような対抗措置が国際法上認められるためには,
5229 措置の対象となる違法な原因行為の存
5230 在及び違法行為と対抗措置の間の均衡性などの要件が満たされていなければならない。
5231
5232
5233 本問では,
5234 B国によるXダム建設の一方的中止に対して,
5235 A国によるYダムの建設と水力発
5236 電の開始が国家責任法上の違法性阻却事由としての対抗措置として認められるためには,
5237 先の
5238 要件を満たす必要があることを十分に理解しているかが問われている。
5239
5240
5241 設問2は,
5242 A国とB国がC川を利用した水力発電に関する共同事業を計画して締結したT条
5243 約を,
5244 B国が一方的に終了通告をした行為が,
5245 両国が当事国である条約法条約が認める終了原
5246 因によって正当化し得るかを問うものである。
5247
5248 T条約に終了規定が存在しない以上,
5249 B国によ
5250 るT条約の終了が国際法上正当化されるためには,
5251 両国が当事国である条約法条約が認める条
5252 約の終了原因に該当する必要がある。
5253
5254
5255 まず,
5256 T条約の終了が条約の重大な違反を規定した条約法条約第60条で正当化されるため
5257 には,
5258 「重大な条約違反」が「条約の否定であってこの条約により認められないもの」か「条
5259 約の趣旨及び目的の実現に不可欠な規定についての違反」をいうとされていることに留意する
5260 必要がある(同条第3項)。
5261
5262 本問の場合,
5263 B国は,
5264 A国がXダムに代わるYダムをC川を分流
5265 させて建設し,
5266 水力発電を開始し,
5267 C川の水量が激減したことをもって,
5268 一方的に終了通告を
5269 行っている。
5270
5271 B国による一方的な終了通告が条約法条約第60条で正当化されるためには,
5272 特
5273 にC川の分流が先の要件を満たすかを論じる必要がある。
5274
5275
5276 次に,
5277 事情の根本的変化を規定した条約法条約第62条で正当化されるためには,
5278 同条を適
5279 用する前提として,
5280 「条約の締結の時に存在していた事情につき生じた根本的な変化が当事国
5281 の予見しなかったもの」であることが必要となるほか,
5282 当該事情の存在が「当事国の同意の不
5283 可欠の基礎を成していたこと」,
5284 「当該変化が,
5285 条約に基づき引き続き履行しなければならない
5286 義務の範囲を根本的に変更する効果を有するものであること」を満たさなければならない(同
5287 条第1項)。
5288
5289 本問では,
5290 C川の水量への影響が少ない方式でのXダムの共同建設に代わり,
5291 A
5292 国によるC川の水量が激減するYダムの建設がされた点が,
5293 これらの要件を満たすか論じる必
5294 要がある。
5295
5296
5297 さらに,
5298 条約法条約第61条の後発的履行不能で正当化されるかどうかを論じることもあり
5299 得るであろう。
5300
5301
5302 設問3は,
5303 1961年の外交関係条約の特権免除に関する理解を問うものである。
5304
5305 同条約は,
5306
5307 外交使節団の特権・免除と外交官の特権・免除からなる外交特権を規定している。
5308
5309 それによる
5310 と,
5311 外交使節団の特権・免除として,
5312 まず敷地を含む公館の不可侵がある(第22条第1項)。
5313
5314
5315 接受国は,
5316 外交関係条約に基づき,
5317 大使館への侵入又は損壊を防ぎ,
5318 大使館の安寧の妨害又は
5319 大使館の威厳の侵害を防ぐために,
5320 適当なすべての措置を執る特別の責務を有する(同条第2
5321 - 38 -
5322
5323 項)。
5324
5325 さらに,
5326 外交官の特権・免除として,
5327 身体の不可侵がある(第29条)。
5328
5329
5330 本問の場合,
5331 B国の農民の行動に対してB国政府ないしB国大統領がとった一連の対応が,
5332
5333 先に述べた外交使節団の特権・免除及び外交官の特権・免除の違反を生じさせていないかを論
5334 ずる必要がある。
5335
5336 なお,
5337 外交関係条約に違反している場合には,
5338 国際義務の違反となるが,
5339 B
5340 国の国際違法行為として国家責任を生じさせるには,
5341 その行為がB国に帰属する必要がある。
5342
5343
5344 この点,
5345 農民はB国の国家機関の地位にある者ではなく,
5346 その行為はあくまで私人の行為であ
5347 り,
5348 私人が私的資格でなした行為は,
5349 本来B国に帰属しない。
5350
5351 しかし,
5352 私人の行為に関連して
5353 B国の注意義務の欠如があれば,
5354 国の違法行為としてB国に帰属する。
5355
5356 加えて,
5357 B国大統領が
5358 農民の行動,
5359 具体的には大使館の占拠と大使館員を人質にとる行為を支持することによって,
5360
5361 本来,
5362 B国に帰属しない私人の行為であっても,
5363 その性格に変容が生じ,
5364 国際法上B国の行為
5365 とみなされる。
5366
5367 ここまで論ずることができれば,
5368 本設問の趣旨を十分に理解していることにな
5369 る。
5370
5371
5372 〔第2問〕
5373 本問は,
5374 国境画定条約の効力と領域の取得,
5375 国際司法裁判所の義務的管轄権受諾宣言の効力
5376 と相互主義,
5377 同裁判所の判決履行のための手続等に関する国際法上の基本的知識と理解を問う
5378 ものである。
5379
5380 いずれも国際法上のいくつかの重要な概念を理解していれば,
5381 具体的事例に即し
5382 て十分に論述することが可能な設問となっている。
5383
5384
5385 設問1は,
5386 A国は国際法上どのような理由に基づいてY遺跡が自国の領土に所在するもので
5387 あることをB国に対して主張できるかを問うものである。
5388
5389 問題文に記載された事実によれば,
5390
5391 AB両国間で1930年に締結され1931年に発効した国境画定条約は,
5392 「A国とB国の国
5393 境線は,
5394 X山脈の分水嶺をたどるものとする」との規定を設けており,
5395 A国は,
5396 Y遺跡がX山
5397 脈の分水嶺のA国側に位置するとの理解を前提として,
5398 1931年にY遺跡の領有を宣言した。
5399
5400
5401 この点について,
5402 B国側からも2018年に至るまで疑問や問題が提起されることはなかった。
5403
5404
5405 このような長期間にわたる関係当事国であるB国の沈黙は,
5406 A国がY遺跡を領有することに関
5407 する当事国の「黙認」を構成してA国のY遺跡に対する領有権をB国が法的に承認したものと
5408 位置づける主張が考えられる。
5409
5410 また,
5411 1930年から2018年までの長期間にわたる沈黙を
5412 破り,
5413 2018年になって突然B国がY遺跡の領有をA国に対して主張することは,
5414 国際法上
5415 の「法の一般原則」の1つであると解される「禁反言」(estoppel)の原則に反するものであ
5416 り国際法上許されない,
5417 とA国が主張することも考えられる。
5418
5419
5420 さらに,
5421 以上の主張とは別に,
5422 A国は次のような主張を行うことも考えられる。
5423
5424 すなわち,
5425
5426 仮にAB両国間の国境画定条約が発効した1931年の時点でB国がY遺跡に対する(潜在的
5427 な)領域権原を取得していたとしても,
5428 1931年以降極めて長期間にわたりA国がY遺跡に
5429 対する平和的かつ実効的な占有を継続したとすれば,
5430 A国は国際法上の「時効取得」によりY
5431 遺跡に対する領域主権を正当に取得したとの主張を行うことも考えられるかもしれない。
5432
5433 ただ
5434 し,
5435 国際法において他国領域に対する平和的かつ継続的な実効的支配に基づく「時効」が領域
5436 取得原因として一般的に認められるか否かに関しては,
5437 学説上も議論があり,
5438 これを認めた国
5439 家実行も乏しいことにも留意する必要がある。
5440
5441
5442 設問2は,
5443 A国がB国を相手取り国際司法裁判所に提訴したことに対して,
5444 B国はどのよう
5445 な理由で本件に関する国際司法裁判所の裁判管轄権の存在を否定することができるかを問うも
5446 のである。
5447
5448 問題文に記載された事実によれば,
5449 A国とB国はともに国際司法裁判所規程第36
5450 条第2項に基づく義務的管轄権受諾宣言を行っているため,
5451 A国は同項に規定する「すべての
5452 法律的紛争」に関して原則としてB国を相手取って国際司法裁判所に提訴することができる。
5453
5454
5455 しかし,
5456 A国は,
5457 上記の受諾宣言を行うに際して,
5458 「A国の国境に関する紛争であるとA国政
5459 府によって解釈される紛争」を国際司法裁判所の義務的管轄権の対象から除外する,
5460 という留
5461
5462 - 39 -
5463
5464 保を付している。
5465
5466 受諾宣言に付されたこのような留保が国際法上有効に扱われるか否かに関し
5467 ては,
5468 学説上争いがあるが,
5469 国際司法裁判所の判決に従えば,
5470 本件事例においてA国がその受
5471 諾宣言に付した留保をB国は相互主義に基づいて援用することができるものと考えられる。
5472
5473 し
5474 たがって,
5475 B国は,
5476 本件は「B国の国境に関する紛争であるとB国政府によって判断される紛
5477 争」であると主張することにより,
5478 A国が行った本件提訴に関して国際司法裁判所の裁判管轄
5479 権の存在を否定することができると解される。
5480
5481
5482 設問3は,
5483 A国による上記設問2の請求に関して,
5484 仮に国際司法裁判所がB国軍隊のY遺跡
5485 からの撤退を命じる判決を下したにもかかわらずB国がその判決に従わない場合に,
5486 A国がど
5487 のような国際法上の手段をとることができるかを問うものである。
5488
5489 国際司法裁判所の判決は,
5490
5491 裁判の当事国に対して法的拘束力を有する。
5492
5493 すなわち,
5494 A国とB国はともに国際連合(以下「国
5495 連」という。
5496
5497 )加盟国であり,
5498 国際司法裁判所規程第59条及び国連憲章第94条第1項に基
5499 づいて,
5500 国際司法裁判所の判決に従う国際法上の義務を負う。
5501
5502
5503 にもかかわらずB国が国際司法裁判所の判決に従う義務を履行しない場合,
5504 国連憲章第94
5505 条第2項に従って,
5506 国連加盟国であるA国は,
5507 国際司法裁判所が下した判決に従うべき義務を
5508 履行しないB国を,
5509 国連の安全保障理事会(以下「安保理」という。
5510
5511 )に訴えることができる。
5512
5513
5514 さらに,
5515 国連憲章第94条第2項は,
5516 「理事会は,
5517 必要と認めるときは,
5518 判決を執行するため
5519 に勧告をし,
5520 又はとるべき措置を決定することができる。
5521
5522 」と規定しており,
5523 国連安保理は国
5524 際司法裁判所の判決を執行するための勧告又は決定を行うことができる。
5525
5526 国連安保理が国連憲
5527 章第94条第2項に基づいて行う国際司法裁判所の判決履行のための「決定」は,
5528 国連憲章第
5529 25条に基づき国連加盟国に対して法的拘束力を有するものと解される。
5530
5531 ただし,
5532 「国際司法
5533 裁判所の判決を執行するため」の安保理の「決定」は,
5534 安保理が「必要と認めるとき」に下す
5535 ことができるものと明記されており(国連憲章第94条第2項),
5536 そこには安保理による判断
5537 の権限が留保されている。
5538
5539 国際司法裁判所の判決が下されれば自動的に判決執行のための「決
5540 定」を安保理が下す,
5541 という構造にはなっていないことに留意する必要がある。
5542
5543
5544 さらに,
5545 A国の立場からすれば,
5546 B国軍隊が占拠したY遺跡はA国の領土であり,
5547 B国軍隊
5548 によるA国の領土に対する侵攻と占拠は,
5549 国連憲章第2条第4項が規定する武力不行使義務と
5550 国連憲章第2条第3項及び第33条が規定する紛争の平和的解決義務に違反する重大な国際違
5551 法行為である。
5552
5553 このようなB国による国際違法行為に対して,
5554 A国はB国の国際法上の国家責
5555 任を追及する(原状回復,
5556 金銭賠償,
5557 陳謝の要求等)ことや,
5558 B国に対して対抗措置を発動す
5559 ることも考えられる。
5560
5561
5562 [国際関係法(私法系)
5563 ]
5564 〔第1問〕
5565 本問は,
5566 単位法律関係ごとに準拠法を決定するという国際私法の大原則について,
5567 二つの最
5568 高裁判所の判決を手掛かりに,
5569 その基本的な理解と応用力を問うことを中心にしたものである。
5570
5571
5572 〔設問1〕は,
5573 相続問題を解決するための前提として親子関係の成否を判断するという先決
5574 問題といわれる問題である。
5575
5576 その問題構造を明確にするため,
5577 設問中で「本件遺産分割を行う
5578 前提としてのDC間の親子関係の成否」を論じよとした。
5579
5580 先決問題という用語を用いる必要は
5581 ないが,
5582 先ずは主たる問題である相続問題を解決する準拠法を決定し,
5583 そしてそれを適用した
5584 結果,
5585 被相続人Dに子がいるか否かが問題となることを明らかにしなければならない。
5586
5587 極端に
5588 言えば,
5589 相続の準拠法上子が相続人でなければ,
5590 親子関係の成否は問題とならないからである。
5591
5592
5593 この構造を明らかにした上で,
5594 それが相続とは異なる単位法律関係であることを示し,
5595 その準
5596 拠法を改めて決定する必要があることを説明しなければならない。
5597
5598 その点において,
5599 新たな準
5600 拠法決定をしないという本問題準拠法説を仮に主張するのであれば,
5601 それ相当の説明が必要と
5602 なる。
5603
5604
5605 - 40 -
5606
5607 新たな準拠法決定については,
5608 法廷地国際私法説や準拠法所属国国際私法説,
5609 さらに,
5610 その
5611 折衷説があるが,
5612 法廷地国際私法説を傍論ながら明確に採用した最高裁判決(最判平成12年
5613 1月27日民集51巻1号1頁)の存在には言及すべきである。
5614
5615
5616 新たな準拠法決定においていずれの説に立つにせよ,
5617 本問では,
5618 出生によらない,
5619 すなわち
5620 再婚による親子関係の成否が問われているところ,
5621 法廷地の国際私法にも本問題準拠法所属国
5622 (本問では甲国)の国際私法にも,
5623 それに関して直接規律する条文は存在しない。
5624
5625 法廷地の国
5626 際私法,
5627 すなわち法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
5628
5629 )に則して言えば,
5630 嫡出
5631 性に関する準拠法は通則法第28条と通則法第30条が規定しているが,
5632 前者は出生を前提に,
5633
5634 後者は準正要件の完成を前提にしている。
5635
5636 これら以外に嫡出性に関する条文はない。
5637
5638 このため,
5639
5640 いずれかの条文を類推適用して準拠法を決定することになる。
5641
5642 「その他の親族関係等」に関す
5643 る準拠法を定める通則法第33条を適用する考え方もあり得る。
5644
5645 いずれにしろ,
5646 自らの論拠を
5647 示し,
5648 既存の条文を適用ないし類推適用する形で準拠法決定をしなければならない。
5649
5650 その上で
5651 決定された準拠法を正しく適用し,
5652 結論を導き出すことが求められる。
5653
5654 本問題準拠法所属国の
5655 国際私法による場合も,
5656 基本的には,
5657 同様の構造になる。
5658
5659
5660 ちなみに,
5661 前記最高裁判決は,
5662 法廷地国際私法説に立つことを明言した上で,
5663 出生以外の事
5664 由により嫡出性を取得する場合の嫡出親子関係の成立については,
5665 通則法第28条の前身規定
5666 である平成元年改正前法例第17条を類推適用して,
5667 これを判断している。
5668
5669
5670 〔設問2〕は,
5671 時際法の問題である。
5672
5673 法の抵触には,
5674 @地域的な法の抵触,
5675 A人的な法の抵
5676 触,
5677 更にB時間的な法の抵触がある。
5678
5679 @を解決する法規が国際私法であり,
5680 Aを解決する法規
5681 が人際法であり,
5682 Bを解決する法規が時際法である。
5683
5684
5685 設例では,
5686 相続の準拠法として指定された甲国法につき法律改正が行われ,
5687 AとDが再婚し
5688 た当時にはその再婚によりDC間に親子関係が成立するとする法律が存在していたのに対し
5689 て,
5690 Dが死亡した時にはその条文が廃止されていた。
5691
5692 しかも,
5693 当該条文でそれまで成立してい
5694 た親子関係がこの改正により遡って廃止されるという経過措置が,
5695 甲国内でとられていた。
5696
5697 こ
5698 のような場合,
5699 日本の裁判所は,
5700 新法と旧法のいずれを適用すべきか。
5701
5702 これが問われている点
5703 である。
5704
5705 通説的な理解によれば,
5706 時間的な法の抵触を解決する時際法は,
5707 場所的な法の抵触を
5708 解決する国際私法とは性質を異にし,
5709 それは実質私法秩序内の,
5710 すなわち準拠法国内の問題で
5711 あるとされる。
5712
5713 本問に即していえば,
5714 新法と旧法のいずれを適用するかは甲国の国内法上の問
5715 題と考え,
5716 改正時の甲国の経過規定によって決せられることになる。
5717
5718 これに対して,
5719 国際私法
5720 と時際法の抵触法としての共通性を強調して,
5721 準拠法所属国の時際法によることを原則としつ
5722 つも,
5723 例外的に法廷地時際法の適用を認める少数説が存在している。
5724
5725 通説,
5726 少数説いずれの立
5727 場に立つにせよ,
5728 こうした法適用の構造を明らかにし,
5729 自らの結論を述べることが求められる。
5730
5731
5732 〔設問3〕は,
5733 法律関係性質決定の問題である。
5734
5735 ここでは,
5736 相続人が他の共同相続人の同意
5737 を得ることなくその持ち分を売却した行為の有効性が問われている。
5738
5739 そこで,
5740 この問題を判断
5741 する準拠法を決定する必要があり,
5742 それは,
5743 この問題をいかなる単位法律関係の問題と考える
5744 かによって決定されることになる。
5745
5746 この設例も,
5747 最高裁判決(最判平成6年3月8日民集第4
5748 8巻3号835頁)に基づいて作られている。
5749
5750 ここでも判例の存在への言及が求められる。
5751
5752 こ
5753 の最高裁判決は,
5754 この問題を相続の問題と法性決定しながら,
5755 「取引の安全」という考え方を
5756 持ち出して,
5757 結局,
5758 日本法を適用してその有効性を認めている。
5759
5760 同判決の存在に加えて,
5761 その
5762 考え方等についても説明をしていれば,
5763 更に評価されよう。
5764
5765
5766 ここでは,
5767 この問題を相続の問題と性質決定して,
5768 法の適用に関する通則法第36条により
5769 導き出される準拠法により解決する立場,
5770 この問題を物権変動の問題として通則法第13条第
5771 2項による準拠法により解決する立場,
5772 さらに,
5773 これら2つの準拠法をいずれも適用する立場
5774 (その中でも,
5775 これらを累積的に適用する立場と配分的に適用する立場に分かれる)等に分か
5776 れる。
5777
5778 いずれの見解に立つにしろ,
5779 自説を適切に述べるとともに,
5780 他説との違いを明らかにし,
5781
5782
5783 - 41 -
5784
5785 結論を明示する必要がある。
5786
5787
5788 〔第2問〕
5789 本問は動産の消費者売買とその動産の物権変動をめぐる事案を素材として,
5790 国際私法と国際民事
5791 手続法に関する基本的理解とその応用力を問う出題である。
5792
5793
5794 〔設問1〕は,
5795 消費者契約に関する訴えの国際裁判管轄権とその準拠法の決定について問うもの
5796 である。
5797
5798
5799 小問1は前記訴えに関する国際裁判管轄権についての問題である。
5800
5801
5802 まず,
5803 民事訴訟法(以下「民訴法」という。
5804
5805
5806 )第3条の2による管轄権の有無について触れるこ
5807 とが求められる。
5808
5809 これは最も原則的な管轄原因を定める規定だからである。
5810
5811 同第1項に定める被告
5812 の住所は日本にはないので同条による管轄権はない。
5813
5814
5815 次に,
5816 民訴法第3条の4第1項の適用が問題となる。
5817
5818 同条の趣旨について説明した上,
5819 Xの「消
5820 費者」該当性とYの「事業者」該当性について検討すべきである。
5821
5822 いずれも肯定されるので同条同
5823 項に該当することが肯定される。
5824
5825
5826 さらに,
5827 民訴法第3条の9について検討することが求められる。
5828
5829 問題文でYの日本との関係の薄
5830 さを特に詳しく記しているのは,
5831 そのような意味を含んでいる。
5832
5833 本条は極めて限定的に適用すべき
5834 であるとの説もあり,
5835 そのような立場を採ることも当然認められるが,
5836 その場合でも,
5837 本条に全く
5838 触れないのでは解答者が本条についてどのような立場を採るのかがわからない。
5839
5840 まず,
5841 民訴法第3
5842 条の9の趣旨について,
5843 又は,
5844 これを限定的に運用すべきか否か(一般的に論じても,
5845 特に民訴法
5846 第3条の4第1項の場合について論じてもよい。
5847
5848
5849 )について論じることが望ましい。
5850
5851 次に本件にお
5852 ける「応訴による被告の負担」と「証拠の所在地」について具体的に検討した上で結論を出すこと
5853 が求められる。
5854
5855
5856 小問2は,
5857 本件売買契約の準拠法の決定について判断を求めている。
5858
5859
5860 まず,
5861 法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。
5862
5863
5864 )第7条による指定があるかどうかに
5865 ついて触れなければならない。
5866
5867 明示の合意はなく,
5868 また,
5869
5870 「特定の国の法の条文への言及もなく,
5871
5872 特定の国の法に特有な法律用語も使われて」おらず,
5873 その他黙示の意思を推定させる事情もないの
5874 で,
5875 黙示の合意も存在しないと解されよう。
5876
5877
5878 次に通則法第11条の適用が問題となる。
5879
5880 まず,
5881 同条の趣旨を説明した上,
5882 本件売買契約の「消
5883 費者契約」該当性について記述すべきである。
5884
5885 それは肯定されるので,
5886 次に同条第6項第1号本文
5887 又は同項第2号本文の適用が問題となる。
5888
5889 同項全体又は同項第1号本文若しくは同項第2号本文の
5890 趣旨について説明した上,
5891 同項第1号本文又は同項第2号本文への当てはめを行うことが求められ
5892 る。
5893
5894
5895 同項第1号本文又は同項第2号本文に該当するので,
5896 通則法第11条は適用されず,
5897 原則に戻っ
5898 て通則法第8条によることとなる。
5899
5900 同条第2項の趣旨について述べた上で同項への当てはめを行う
5901 ことを要する。
5902
5903 そして,
5904 同項が同条第1項の最密接関係地法の推定規定であることを説明すること,
5905
5906 または,
5907 本件では推定は覆されないことの指摘が求められる。
5908
5909
5910 〔設問2〕は,
5911 当事者間における物権の得喪に関する準拠法の指定とその当てはめを問うも
5912 のである。
5913
5914
5915 まず,
5916 Yは,
5917 本件売買契約を成立させながら,
5918 本件絵画について所有権が移転していないこ
5919 とを主張しているから,
5920 Yがなお本件絵画の所有権の帰属主体であるのか,
5921 あるいはその所有
5922 権はいずれかの準拠法の規定によりXに移転済みであるのかが問題となる。
5923
5924
5925 通説的な理解に従えば,
5926 物権の得喪に関する通則法第13条第2項の適用によって,
5927 本件絵
5928 画の所有権の移転に関する準拠法の有無を明らかにした上で,
5929 その適用により本件絵画の所有
5930
5931 - 42 -
5932
5933 権はXに移転済みであるのか否かを判断しなければならない。
5934
5935
5936 通則法第13条第2項は,
5937 同条第1項と異なり,
5938 単純に目的物の所在地法を準拠法とするの
5939 ではなく,
5940 物権の得喪に関する準拠法を「原因となる事実が完成した当時におけるその目的物
5941 の所在地法」として,
5942 ある特定の時点のものとしている(不変更主義)から,
5943 その適用に当た
5944 っては,
5945 この点を考慮することが求められる。
5946
5947 すなわち,
5948 Yは,
5949 口頭弁論終結時(現時点)に
5950 おける本件絵画の所有権の帰属主体であることを主張しているが,
5951 そうであるからといって直
5952 ちに目的物(本件絵画)の現時点の所在地法がいずれの法であるかを探求するのではなく,
5953 問
5954 題とされる物権の得喪の「原因となる事実」に着目し,
5955 それが「完成した当時」がいつである
5956 のかを検討する必要がある。
5957
5958 Yは,
5959 本件絵画の引渡しがなされていないことを理由として,
5960 本
5961 件絵画の所有権確認の訴えを提起しているから,
5962 まずはYの主張の前提である甲国法が通則法
5963 第13条第2項により本件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるのか否かが問われること
5964 になる。
5965
5966
5967 しかし,
5968 本件絵画は,
5969 甲国法により所有権の移転に必要とされている引渡しが未了であるか
5970 ら,
5971 甲国法によっては,
5972 本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実」はまだ完成していない
5973 ことになる。
5974
5975 すなわち,
5976 甲国法によると,
5977 本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実が完成
5978 した当時」は未到来であるから,
5979 甲国法は,
5980 通則法第13条第2項の要件を充たさず,
5981 よって
5982 本件絵画の所有権の移転に関する準拠法とはならない。
5983
5984 このように,
5985 通則法第13条第2項は,
5986
5987 ある法が物権の得喪に関する準拠法になるか否かを決定するために,
5988 その法によって物権の得
5989 喪の原因となる事実が完成したといえるかどうかについての検討を求めるという構造を有して
5990 いる。
5991
5992 したがって,
5993 甲国法を準拠法とした上で本件絵画の所有権がXからYに移転していない
5994 という帰結を導くのではなく,
5995 通則法第13条第2項のこのような構造を理解した上で,
5996 甲国
5997 法がそもそも本件絵画の所有権の移転に関する準拠法にはならないという結論に至る論理過程
5998 を示すことが期待されている。
5999
6000
6001 次に,
6002 本件絵画の所有権の移転に関する準拠法は他に存在しないか否かを検討することが求
6003 められる。
6004
6005 しかるところ,
6006 本件絵画は,
6007 所有権確認の訴えの口頭弁論終結時において,
6008 公海上
6009 を航行中の船舶に積載されているから,
6010 その目的物所在地には法が存在しない。
6011
6012 そこで,
6013 この
6014 ような移動中の物についていかなる取扱いをするかが問われることになる。
6015
6016
6017 移動中の物については,
6018 その仕向地法を目的物所在地法とする理解が一般的であるが,
6019 〔設
6020 問2〕においては,
6021 その根拠を説明した上で,
6022 通則法第13条第2項に基づき,
6023 仕向地法であ
6024 る日本法(民法第176条)によって本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実が完成した
6025 当時」がいつなのかを検討し,
6026 それによって日本法がその「当時の目的物所在地法」として本
6027 件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるのか否かについて判断することが求められる。
6028
6029
6030 そして,
6031 民法第176条が適用されるのは,
6032 早くても本件絵画が移動中の物になってからで
6033 あり,
6034 X及びYは,
6035 それ以後,
6036 同条の定める所有権の移転に関する意思表示をしていないと考
6037 えると,
6038 本件絵画の所有権の移転の「原因となる事実」は存在しないから,
6039 日本法は,
6040 通則法
6041 第13条第2項の要件を充たさず,
6042 したがって本件絵画の所有権の移転に関する準拠法にはな
6043 らないことになる。
6044
6045 そうすると,
6046 本件絵画についてYからXへの所有権の移転を認める準拠法
6047 は存在しないことになり,
6048 Yの請求は認容されるという帰結が導かれる。
6049
6050
6051 他方,
6052 民法第176条は,
6053 物権の移転に関する当事者の意思表示がどの時点でされたかを問
6054 題にしていないと考えると,
6055 本件売買契約は,
6056 本件絵画が甲国に所在する時点で有効に成立し
6057 ていたから,
6058 本件絵画が移動中の物となったか,
6059 又は遅くとも積載された船舶が甲国の領海か
6060 ら公海上に達し,
6061 仕向地法である日本法が適用されるようになった時点で,
6062 本件絵画の所有権
6063 の移転の「原因となる事実」は完成したと評価することも可能である。
6064
6065 そうすると,
6066 日本法は,
6067
6068 通則法第13条第2項にいう「原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法」
6069 として本件絵画の所有権の移転に関する準拠法となるから,
6070 民法第176条が適用され,
6071 本件
6072
6073 - 43 -
6074
6075 絵画の所有権はYからXに移転済みであるとしてYの請求は棄却されるという帰結が導かれ
6076 る。
6077
6078
6079 これらの考え方は,
6080 民法第176条の解釈とも関係し得るが,
6081 解答者は,
6082 自らの見解を説得
6083 的に論述した上で,
6084 いずれかの結論に至ることが期待されている(以上は物権の準拠実質法に
6085 よるとの立場を前提としたものであるが,
6086 その他,
6087 これは国際私法の解釈問題であるとの立場
6088 もあり,
6089 その立場によってもよい。
6090
6091 )。
6092
6093
6094 以上の通説的な理解とは異なり,
6095 国際私法上債権行為と物権行為を区別する必要はないとし
6096 て,
6097 法律行為の当事者間では,
6098 物権の得喪の問題も通則法第7条以下の法律行為の準拠法によ
6099 るべきであるとする説もある。
6100
6101 この説に立つ場合,
6102 上記の通則法第13条第2項により準拠法
6103 を指定する説からの考えられる批判に配慮しながら自説の根拠を示した上で,
6104 通則法第7条以
6105 下の適用により準拠法を指定することになる。
6106
6107 XY間の本件売買契約は有効に成立しているか
6108 ら,
6109 X及びYが本件売買契約に関して準拠法を選択したか否か,
6110 準拠法の選択がないとするな
6111 らば,
6112 通則法第8条以下で最密接関連地法を指定することになるが,
6113 〔設問2〕では甲国に常
6114 居所を有しているYが特徴的な給付を行うこととされていることを的確に示すことが求められ
6115 よう。
6116
6117 その上で,
6118 甲国法を準拠法として当てはめを行うと,
6119 本件絵画については所有権がYか
6120 らXに移転していないということになり,
6121 Yの請求は認容されるという帰結が導かれる。
6122
6123
6124 以上のとおり,
6125 〔設問2〕では,
6126 問題文の条件を踏まえて,
6127 物権の得喪に関する通則法第1
6128 3条第2項の構造を理解していることを示し,
6129 あるいは物権の得喪の問題であっても通則法第
6130 7条以下が適用されることを説得的に示した上で,
6131 Yの請求の成否を明確に論じることを要す
6132 る。
6133
6134
6135
6136 - 44 -
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