1 論文式試験問題集[民事系科目第1問]
2
3 -1-
4
5 [民事系科目]
6 〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,35:30:35〕)
7 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。
8 T
9 【事実】
10 1.平成29年5月10日,注文者Aと請負人Bは,A所有の土地に,Bが鉄骨鉄筋コンクリー
11 ト造9階建ての建物を代金3億6000万円で建築する旨の請負契約(以下「本件契約」とい
12 う。)を締結した。本件契約では,代金について,契約日に10%,着工日に30%,棟上げ
13 日に40%,引渡日に20%を支払うこととされ,引渡日は,平成30年6月11日とされた。
14 2.Aは,本件契約に従い,Bに対し,請負代金債務の履行として,平成29年5月10日(契
15 約日)に3600万円,同月17日(着工日)に1億800万円,同年8月9日(棟上げ日)
16 に1億4400万円を支払った。
17 3.Bは,必要な材料を全て自ら調達し,平成30年6月1日,本件契約で定められた仕様どお
18 りに,建物(以下「甲建物」という。)を完成させた。
19 4.平成30年6月7日,この地域で発生した震度5弱の地震により,甲建物の一部が損傷して
20 落下し,甲建物に面する道路を歩行していたCを負傷させた(以下「本件事故」という。)。こ
21 れにより,Cは,治療費の支出を余儀なくされた。
22 5.甲建物の一部損傷をもたらした原因は,甲建物に用いられていた建築資材の欠陥にあった。
23 この資材は,定評があり,多くの新築建物に用いられていたが,本件事故を契機とした調査を
24 通じて,その製造業者において検査漏れがあったこと,そのため,必要な強度を有しない欠陥
25 品が出荷され,甲建物にはたまたまそのようなものが用いられていたことが,判明した。
26 〔設問1〕
27 【事実】1から5までを前提として,本件事故が発生した時点における甲建物の所有者は誰か,
28 また,仮にその所有者が注文者Aであるとした場合,Cは,Aに対し,所有者としての責任を追及
29 して,本件事故による損害の賠償を請求することができるか,理由を付して解答しなさい。
30 U
31 【事実】
32 6.Dが所有する建物(以下「乙建物」という。)につき,D名義の所有権の保存の登記がされ
33 ていた。
34 7.平成24年10月1日,DとE県との間で,DがEに対し乙建物を期間20年,賃料月額2
35 5万円で賃貸する契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が締結された。同日,Eは同月分
36 の賃料を支払い,Dは乙建物をEに引き渡した。同年11月分以降の賃料については,本件賃
37 貸借契約において,Eは前月末日までにDが指定する銀行口座に振り込んで支払うこととされ
38 ていた。Eは,これに従い,同年11月分以降の賃料を,前月末日までにDが指定した銀行口
39 座に振り込んで支払っていた。
40 8.平成28年8月3日,Dは,Eから事前に了解を得て,Fとの間で,FのDに対する貸金3
41 600万円の回収を目的として,本件賃貸借契約に係る同年9月分から平成40年(※令和1
42 0年に相当)8月分までの賃料債権をFに譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。)
43 を締結した。
44 平成28年8月3日,Dは,Eに対し,本件譲渡契約を締結したこと,及び,同年9月分以
45 降の賃料をF名義の銀行口座に振り込んで支払うべきことを内容証明郵便で通知した。この通
46 知は,翌日Eに到達した。
47 -2-
48
49 9.Eは,平成28年9月分以降の賃料を,【事実】8のDからの通知に従い,F名義の銀行口
50 座に振り込んで支払った。
51 10.平成29年12月1日,Dは,Gから,Gに対する弁済期が経過した債務6000万円(以
52 下「本件債務」という。)の弁済を求められた。
53 Dは,古くからの友人であるHに相談し,D,G及びHの間で協議が行われた。Dは,Gに,
54 財産と呼べるものは乙建物と本件賃貸借契約に基づきEから取得する賃料だけであるが,その
55 賃料に関してFとの間で本件譲渡契約をした旨述べた。これに対し,Gは,乙建物を売りに出
56 せば,買主は長期の安定した賃料収入を見込めることもあり相当な価格で容易に売れるのでは
57 ないかと述べ,その売却によって得られる代金から本件債務を弁済するよう求めた。Hは,
58 本件譲渡契約にかかわらず,乙建物の所有権を取得し登記を備えることによって,Eから本件
59 賃貸借契約に係るそれ以後の賃料の支払を受けることができると考え,自ら乙建物を購入する
60 こととし,D及びGとの間で,後日正式に契約をする前提で以下の合意をした。
61 @
62
63 Dは,Hに,乙建物を,その収益性を勘案した価格である6000万円で売却する。
64
65 A
66
67 Hは,Dに対して@の売買代金の支払をするのではなく,DのGに対する本件債務の
68 弁済を引き受けることによって,@の売買代金債務を消滅させるものとする。
69
70 B
71
72 Gは,Dの本件債務を免除する。
73
74 C
75
76 Hは,Aで引き受ける債務の弁済として,Gに対し,@の売買契約の締結後直ちに3
77 600万円を支払い,また,以後10年間,毎月20万円を支払う。
78
79 11.平成30年2月14日,【事実】10の@からCまでの合意に従って,DとHとの間で乙建物
80 の売買契約(以下「本件売買契約」という。)が,GとHとの間で本件債務に係る免責的債務
81 引受契約(以下「本件債務引受契約」という。)が,それぞれ締結された。また,Gが,Dに
82 対し,本件債務引受契約を締結した旨を伝えた。さらに,Hは,Gに対し,3600万円を支
83 払った。
84 同月20日,乙建物について,本件売買契約を原因とするDからHへの所有権の移転の登記
85 がされた。
86 12.平成30年2月21日,Dは,Eに対し,乙建物をHに売却したこと,及び,同年3月分以
87 降の賃料をH名義の銀行口座に振り込んで支払うべきことを通知した。
88 13.平成30年2月22日,Eは,Fに対し,
89 【事実】12の通知が来たことを知らせた。Fは,
90 本件売買契約にかかわらず,本件賃貸借契約に係る賃料の支払を受けることができると考え,
91 Eに対し,同年3月分以降の賃料を引き続きF名義の銀行口座に振り込んで支払うことを求め
92 た。
93 〔設問2〕
94 【事実】6から13までを前提として,【事実】10の下線部を根拠付けるためにHがどのような
95 主張をすることが考えられるか,【事実】13の下線部を根拠付けるためにFがどのような主張を
96 することが考えられるかを述べた上で,下線部と下線部のいずれが正当であるかを検討しなさ
97 い。
98 〔設問3〕
99 【事実】6から13までを前提として,仮に【事実】13の下線部が正当であるとした場合,Hは
100 本件債務引受契約の無効を主張することができるか,理由を付して解答しなさい。
101
102 -3-
103
104 論文式試験問題集[民事系科目第2問]
105
106 -1-
107
108 [民事系科目]
109 〔第2問〕(配点:100〔〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,30:50:20〕)
110 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
111 1.甲株式会社(以下「甲社」という。)は,事務用品の製造及び販売等を目的とする会社法上の
112 公開会社である監査役会設置会社であり,金融商品取引所にその発行する株式を上場している。
113 甲社は,種類株式発行会社でない。甲社の資本金の額は20億円,総資産額は250億円,直近
114 数年の平均的な年間売上高は300億円である。甲社の取締役は10人であり,代表取締役社長
115 はAである。
116 2.甲社は5年前からその製造拠点の海外移転を進め,甲社の国内物流拠点の役割は大きく変化してき
117 ている。甲社は大型倉庫を二つ所有しているが,そのうちP県に所在する倉庫(以下「P倉庫」とい
118 う。
119 )は2年前からほぼ使用されていなかった。1年前にP倉庫の近隣に高速道路のインターチェン
120 ジが設置されることが決まってから近隣の不動産価格が上昇し,P倉庫の市場価格は平成29年12
121 月の時点で約15億円であった。
122 3.乙合同会社(以下「乙社」という。
123 )は,日本企業への投資を目的とする投資ファンドである。乙
124 社の代表社員Bは,甲社がP倉庫を始めとする多くの遊休資産を有しているため,これらを売却する
125 ことにより剰余金の配当を増額すべきであると考えている。乙社は,市場において甲社の株式を買い
126 集め,平成29年5月の時点で甲社の総株主の議決権の4%を,同年9月の時点で同9.8%を,平
127 成30年1月の時点で同15%を保有するに至った。
128 4.甲社の定款には,以下の定めがあるが,他に株主総会の招集及び株主提案について別段の定めはな
129 い。
130 甲社定款(抜粋)
131 (招集)
132 第12条
133
134 当会社の定時株主総会は,毎年6月にこれを招集し,臨時株主総会は,必要があると
135
136 きに随時これを招集する。
137 (定時株主総会の基準日)
138 第13条
139
140 当会社の定時株主総会の議決権の基準日は,毎年3月31日とする。
141
142 (招集権者及び議長)
143 第14条
144
145
146 株主総会は,取締役社長がこれを招集し,議長となる。
147
148 取締役社長に事故があるときは,取締役会においてあらかじめ定めた順序に従い,他の取締
149
150 役が株主総会を招集し,議長となる。
151 (事業年度)
152 第36条
153 〔設問1〕
154
155 当会社の事業年度は,毎年4月1日から翌年3月31日までの1年とする。
156 乙社は,平成30年1月,甲社の株主として,株主総会において,株主総会の権限に
157
158 属する一定の事項を提案することを検討していた。上記1から4までを前提として,乙社が,そ
159 のために採ることができる会社法上の手段について,甲社の臨時株主総会を自ら招集する場合と
160 平成30年6月の甲社の定時株主総会の開催に当たり株主提案権を行使する場合のそれぞれの手
161 続を説明し,比較検討した上で,論じなさい。ただし,社債,株式等の振替に関する法律上の手
162 続については,説明しなくてよい。
163 5.乙社は,平成30年3月31日の時点で,甲社の総株主の議決権の20%を保有しており,同年4
164
165 -2-
166
167 月25日,以下のとおり,定款変更及びP倉庫の売却を甲社の定時株主総会の議題とすることを請求
168 するとともに,各議案の要領を定時株主総会の招集通知に記載することを請求した(以下「本件株主
169 提案」という。
170
171
172 議題1
173
174 定款変更の件
175
176 議案の要領
177
178 現行定款に「当会社の財産の処分は,株主総会の決議によってもすることができ
179
180 る。当該株主総会の決議は,当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権
181 の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う。」という条
182 項を追加する。
183 提案の理由
184
185 甲社の株主総会において,甲社の遊休資産等の財産の処分を決定することができ
186
187 るようにする。甲社は,現在,市場価格が上昇しているが,ほぼ使用されていないP倉庫を始め
188 とする多くの遊休資産を有している。甲社がこのような財産を継続して保有すべきか否かについ
189 て,株主の意向を反映すべきである。
190 議題2
191
192 P倉庫の売却の件
193
194 議案の要領
195
196 甲社の取締役会は,遅くとも平成30年度中にP倉庫を近隣の不動産価格に照ら
197
198 し適正な価格で売却する。
199 提案の理由
200
201 P倉庫については,他社から過去に現状のまま購入したいという申出が多数あっ
202
203 たが,甲社は合理的な理由なく売却を渋っている。現在,約15億円まで市場価格が上昇してい
204 るP倉庫を売却することにより剰余金の配当を増額すべきである。
205 6.本件株主提案を受け,甲社の取締役会において,本件株主提案及び乙社による甲社の株式の取
206 得への対応について審議された。
207 甲社の取締役会においては,P倉庫については,今後,活用する可能性が十分にあるとして,
208 本件株主提案に反対する意見が多かった。
209 また,甲社の取締役らからは,乙社について,比較的短期間で株式を売買し,その売買益を得
210 る投資手法を採っていることや,敵対的な買収により対象会社の支配権を取得し,経営陣を入れ
211 替え,対象会社の財産を切り売りする投資手法を採ったことがあることなどの事実,乙社の代表
212 社員Bについて,ソーシャル・ネットワーキング・サービスで,甲社の事業に関して「社会のデ
213 ジタル化に伴い,事務用品は早晩なくなるであろう。」と述べるなど,甲社の事業に対して理解
214 がないことが指摘された。
215 そして,甲社の取締役らからは,仮に,乙社が甲社の支配権を取得すれば,甲社の財産を切り
216 売りするのではないかという懸念や,乙社は,このまま甲社の株式を買い増し,経営陣を入れ替
217 える可能性が高いという懸念が示された。
218 7.審議の結果,甲社の取締役会においては,乙社によるこれ以上の甲社の株式の買い増しを防止
219 し,乙社による甲社の支配権の取得を阻止すべきであるという意見が大勢を占めた。そして,甲
220 社の取締役らは,乙社の持株比率を低下させる新株予約権無償割当てを行うことで意見が一致し
221 た。もっとも,甲社の取締役から,このような新株予約権無償割当ては株主との対話を重視して
222 乙社の意向を見極めた上で行うべきであるという意見も述べられたため,これを新株予約権の内
223 容に反映させることとした。さらに,甲社の社外取締役から,取締役会限りでこのような重大な
224 決定をすることには問題があるという意見が述べられたため,甲社の取締役らは,株主総会の決
225 議による承認を受けることでも意見が一致した。
226 8.そこで,甲社の取締役会は,以下の概要の新株予約権無償割当て(以下「本件新株予約権無償
227 割当て」という。)を,株主総会の決議による承認を受けることを条件として行うことを決定し
228
229 -3-
230
231 た(以下「本件取締役会決議」という。)。
232 本件新株予約権無償割当ての概要
233
234
235 割当ての方法及び割当先:新株予約権無償割当ての方法により,基準日(下記第3項で定義
236
237 される。以下同じ。)の最終の株主名簿に記録された株主に対して,その有する甲社の株式1
238 株につき2個の割合で新株予約権を割り当てる。
239
240
241 新株予約権の総数:基準日の最終の発行済株式(自己株式を除く。)の総数の2倍の数と同
242
243 数とする。
244
245
246 基準日:平成30年7月24日
247
248
249
250 本件新株予約権無償割当てがその効力を生ずる日:平成30年7月25日
251
252
253
254 新株予約権の目的である株式の数:新株予約権1個の行使により甲社が普通株式を新たに発
255
256 行又はこれに代えて甲社の有する甲社の普通株式を処分(以下甲社の普通株式の発行又は処分
257 を「交付」という。)する数は,1株とする。
258
259
260 新株予約権の行使により甲社がその普通株式を交付する場合における株式1株当たりの払込
261
262 金額は,1円とする。
263
264
265 新株予約権を行使することができる期間(以下「行使期間」という。):平成30年11月1
266
267 日から同月30日まで
268
269
270 乙社を「非適格者」とする。非適格者は,新株予約権を行使することができないものとする。
271
272
273
274 新株予約権の譲渡に際しては甲社の取締役会の承認を要する。
275
276
277
278 甲社の取締役会は,行使期間開始日までの日であって取締役会が別に定める日に,その決議
279
280 により,新株予約権を取得することができる。取得の対価は,非適格者以外の株主については
281 新株予約権1個につき甲社の普通株式1株とし,非適格者については1円とする。
282 ただし,甲社は,乙社に対し,これ以上の甲社の株式の買い増しを行わないように要請する。
283 その結果,行使期間開始日までの日であって甲社の取締役会が別に定める日までに,乙社がこ
284 れ以上の甲社の株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には,甲社の取締役会は,取締役
285 会が別に定める日に,その決議により,本件新株予約権無償割当てにより株主に割り当てた新
286 株予約権の全部を無償で取得することができる。
287 そして,甲社の取締役会は,以下のとおり,本件新株予約権無償割当てを行うことの承認を平
288 成30年6月25日に開催する甲社の定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)の議題及
289 び議案(以下「本件会社提案」という。)とすることを決定した。
290 議題3
291
292 新株予約権無償割当てを行うことの承認の件
293
294 議案の概要
295
296 本件取締役会決議に係る本件新株予約権無償割当てを行うことを承認する。
297
298 提案の理由
299
300 本件新株予約権無償割当ては,乙社による甲社の支配権の取得を阻止するために
301
302 行うものである。甲社の定款上,新株予約権無償割当てを行うことについて株主総会の決議によ
303 る承認を要するという条項はない。しかし,本件新株予約権無償割当ては,乙社によるこれ以上
304 の甲社の株式の買い増しが甲社の企業価値を毀損し,株主の共同の利益を害するものであるとい
305 う判断に基づくものであり,このような判断は,最終的には株主の意思によりされるべきである。
306 なお,本件新株予約権無償割当てを行うことにより乙社に生じ得る不利益は,乙社がこれ以上の
307 甲社の株式の買い増しを行わない旨を確約した場合には,甲社の取締役会が解消することができ
308 る仕組みとなっており,乙社の利益を不当に害するものでない。
309 9.平成30年6月25日に開催された本件株主総会には,甲社の総株主の議決権の90%を有す
310 る株主が出席し,本件株主総会において,本件会社提案に係る議案は出席株主の67%の賛成に
311 -4-
312
313 より可決され,本件株主提案に係る議案はいずれも否決された。
314 〔設問2〕
315
316 乙社は,平成30年6月26日,本件新株予約権無償割当ての差止めを請求すること
317
318 を検討している。乙社が採ることができる会社法上の手段について,乙社の立場において考えら
319 れる主張及びその主張の当否を検討した上で,論じなさい。なお,本件株主総会の招集の手続及
320 び議事は,適法であったものとする。
321 下記 10 及び 11 では,上記9と異なり,平成30年6月25日に開催された本件株主総会におい
322 て本件会社提案に係る議案が否決され,本件株主提案に係る議案がいずれも可決されたこと(以
323 下議題1(定款変更の件)に関する本件株主総会の決議を「本件決議1」といい,議題2(P倉
324 庫の売却の件)に関する本件株主総会の決議を「本件決議2」という。),本件株主総会の招集の
325 手続及び議事は適法であったことを前提として,〔設問3〕に答えなさい。
326 10.本件決議1及び本件決議2を受け,甲社はP倉庫の売却の相手方候補数社と交渉を開始し,平
327 成30年度中にP倉庫を近隣の不動産価格に照らし適正な価格で売却することができる見込みが
328 付いた。ところが,平成31年1月,甲社が所有するもう一つの大型倉庫(以下「Q倉庫」とい
329 う。)が所在するQ県において発生した大地震により,Q倉庫が倒壊したため,海外から到着す
330 る貨物をP倉庫において保管しなければならず,P倉庫を売却すると,競合他社に多数の顧客を
331 奪われるなど,50億円を下らない損害が甲社に生ずることが見込まれた。他方で,P倉庫の近
332 隣の不動産価格が下落する兆候は,うかがわれなかった。
333 11.その後の甲社の取締役会においては,改めて本件決議1及び本件決議2への対応について,取
334 締役らから,
335 「そもそも本件株主提案の内容は,業務執行の具体的な決定に係るものである以上,
336 これに従う必要はないのではないか。」という意見や,「適法な株主総会の決議を遵守することは
337 取締役の義務であろうが,本件決議2については,これに従いP倉庫を売却することにより,損
338 害が発生し,他方で,P倉庫の売却の交渉を中止しても,P倉庫の資産価値は維持されるし,現
339 時点では,違約金等の負担も生じないので,遵守することにこだわるべきでない。」という意見
340 が述べられ,さらに,社外取締役から,「適法な株主総会の決議は,常に遵守すべきである。」と
341 いう意見が述べられるなど,様々な意見が述べられたが,代表取締役社長Aが本件決議2に従い
342 P倉庫を売却する旨の議案を提案し,当該議案が代表取締役社長Aの賛成を含む賛成多数により
343 可決された。
344 そこで,代表取締役社長Aは,平成30年度中にP倉庫を近隣の不動産価格に照らし適正な価
345 格で売却したが,それにより,多数の顧客を奪われるなどした結果,多大な損害が甲社に発生し
346 た。
347 〔設問3〕
348
349 甲社の代表取締役社長Aの会社法第423条第1項の責任について,本件決議1の効
350
351 力を検討した上で,論じなさい。
352
353 -5-
354
355 論文式試験問題集[民事系科目第3問]
356
357 -1-
358
359 [民事系科目]
360 〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,35:40:25])
361 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。
362 【事
363
364 例】
365 Xは,A県A市(以下「A市」という。)に住む会社員であり,夫と3人の小学生の子供がい
366 る。X一家はキャンプ好きのアクティブな一家である。Yは,自動車製造会社であるS社の系列
367 会社であり,S社の製造するワゴン車等をキャンピングカーに改造して販売している。Yは,本
368 店がB県B市(以下「B市」という。)にあり,全国各地に支店を有する。
369 Xは,ある日,A市内にあるYのA支店において,Yとの間で,甲というシリーズ名の新車の
370 キャンピングカーを400万円で買うとの売買契約(以下「本件契約」という。)を締結し,4
371 00万円を支払った。Xは,本件契約を締結する際,YのA支店の従業員から,甲シリーズのキ
372 ャンピングカーは,耐荷重180kgの上段ベッドシステムがリビング部の上に設置されており,
373 成人男性で言えばリビング部に3名,上段ベッドに2名の合計5名が就寝可能であるという仕様
374 (以下「本件仕様」という。)を有しているとの説明を受けた。また,本件契約の対象となるキ
375 ャンピングカーが本件仕様を有することは,本件契約の契約書にも明記されていた。
376 本件契約の契約書は,Yが用意したものであり,そこには他に「本件契約に関する一切の紛争
377 は,B地方裁判所を第一審の管轄裁判所とする」との定め(以下「本件定め」という。)が記載
378 されていた。B地方裁判所は,Yの本店があるB市を管轄する裁判所である。
379 Xは,本件契約に定められた納入日にキャンピングカーの引渡しを受けた(以下,Xが引渡し
380 を受けたキャンピングカーを「本件車両」という。)。引渡しを受けた当日,Xの子供3人が本件
381 車両の上段ベッドに乗ったところ,この上段ベッドシステムと車本体の接合部分が破損して上段
382 ベッドが落下した(以下,この事件を「本件事故」という。)。幸い3人の子供にけがはなかった
383 が,本件事故により5名が就寝可能なキャンピングカーとして本件車両を利用することが不可能
384 になった。XがYに本件車両の引取りと本件車両の代わりに本件仕様を有する別のキャンピング
385 カーの引渡しを要求したところ,YのA支店の従業員は,子供が上段ベッド上で激しく動き過ぎ
386 たために仕様上の想定を超えた負荷が掛かり上段ベッドが落下したのではないかなどと主張し,
387 これに応じなかった。そのため,Xは,以後,本件車両を自宅車庫にて保管している。
388 Xの委任を受けた弁護士Lは,Xの訴訟代理人として,Xを原告,Yを被告とし,履行遅滞に
389 よる本件契約の解除に基づく原状回復義務の履行として支払済みの代金400万円の返還を求め
390 る訴えを,A市を管轄するA地方裁判所に提起し(以下,この訴えに係る訴訟を「本件訴訟」と
391 いう。),訴状において以下の@からFまでの事実を主張した。
392
393 @ XがYとの間で,本件仕様を有するキャンピングカーを目的物とする本件契約を締結した
394 事実
395 A XがYに対して本件契約に基づき400万円を支払った事実
396 B YがXに対して本件契約の履行として本件車両を引き渡した事実
397 C 本件事故が起きた事実
398 D 本件車両が本件仕様を有していなかった事実
399 E XがYに対して本件仕様を有するキャンピングカーを引き渡すように催告をし,それから
400 相当期間が経過したので本件契約を解除する旨の意思表示をした事実
401 F Xが自宅車庫に本件車両を保管している事実
402 Yは,本案について弁論する前に,A地方裁判所に対し,本件定めによりB地方裁判所のみが
403
404 -2-
405
406 管轄裁判所となるとして,民事訴訟法第16条第1項に基づき,本件訴訟をB地方裁判所に移送
407 するよう申し立てた。
408 なお,Xの居住地,Lの事務所,YのA支店及びA地方裁判所は,いずれもA市中心部にあり,
409 Yの本店及びB地方裁判所は,いずれもB市中心部にある。A市中心部とB市中心部との間の距
410 離は,約600kmであり,新幹線,在来線等の公共交通機関を乗り継いで約4時間掛かる。
411 以下は,Lと司法修習生Pとの間の会話である。
412 L:Yの移送申立てに対して反論をする必要がありますが,反論にはどのような理由が考えられ
413 ますか。
414 P:Yは,本件定めがA地方裁判所を本件契約に関する紛争の管轄裁判所から排除することを内
415 容とすると解釈しているようですが,本件定めがそのような内容の定めではないという理由が
416 考えられます。
417 L:そうですね。そこで,Yの解釈の根拠も踏まえつつ,本件定めの内容についてYの解釈とは
418 別の解釈を採るべきだとの立論を考えてください。これを課題とします。ところで,本件定
419 めの内容についてのYの解釈を前提とすると,民事訴訟法第16条第1項が適用され,Xとし
420 ては,本件訴訟の移送を受け入れなければならないのでしょうか。
421 P:Xとしては何とかしてA地方裁判所での審理を求めたいところだと思います。
422 L:そうですね。本件定めの内容についてのYの解釈を前提とするとしても,本件訴訟はA地方
423 裁判所で審理されるべきであるとの立論を考えてください。これを課題とします。本件の事
424 例に即して検討することを心掛けてください。
425 〔設問1〕
426 あなたが司法修習生Pであるとして,Lから与えられた課題及び課題について答えなさい。
427 【事
428
429 例(続き)】
430 Yの移送申立てが却下され,本件訴訟はA地方裁判所で審理されることになった。本件訴訟の
431 第1回口頭弁論期日においてLが訴状を陳述したところ,Yは,上記@からFまでの事実のうち
432 Dの事実以外の事実を認める陳述をする一方,上記Dの事実に関しては,本件仕様を有する本件
433 車両を引き渡したと主張した。
434 その後に行われた今後の訴訟方針についての打合せの際,Lは,Xから,本件事故が起きたと
435 きに落下した上段ベッドの下敷きになりXが夫から結婚10周年の記念にもらった時価150万
436 円の腕時計が損壊したこと(以下「本件損壊事実」という。),損壊した腕時計をXがメーカー修
437 理に持ち込んだところ修理費用として100万円を請求され支払ったことを告げられた。Xがこ
438 れまで本件損壊事実を告げなかった理由について,LがXに尋ねたところ,メーカー保証により
439 腕時計については無償修理ができると考えていたためであるとのことであった。そこで,Lは,
440 本件訴訟において,Xの訴訟代理人として,Xを原告,Yを被告とし,本件契約の債務不履行に
441 基づく損害賠償請求として100万円の支払を求める請求を追加し,G本件損壊事実及びHXが
442 腕時計の修理費として100万円を支払った事実を追加主張した。
443 Yの訴訟代理人は,100万円という高額の請求が後から追加されたことでXの主張する本件
444 事故の発生経緯に疑いの目を向けるようになった。そこで,Yの訴訟代理人は,その後に開かれ
445 た口頭弁論期日においてCの事実に関する従前の認否を撤回し,C及びGの事実を否認し,Hの
446 事実に対し不知との陳述をした。これに対し,Lは,YがCの事実に対する認否を撤回すること
447 は裁判上の自白の撤回に当たり,許されない旨異議を述べた。
448 以下は,本件訴訟を担当する裁判官Jと司法修習生Qとの間の会話である。
449 -3-
450
451 J:本件訴訟では,Xが訴えの変更をして請求を追加していますね。このように訴えが追加的に
452 変更された場合に,元の請求の訴訟資料と追加された請求の訴訟資料はどのような関係に立ち
453 ますか。
454 Q:元の請求についての訴訟資料は,特に援用がなくとも追加された請求についての訴訟資料に
455 なると理解しています。
456 J:元の請求の訴訟資料と追加された請求の訴訟資料の関係については異なる理解もあり得るか
457 もしれませんが,ここではあなたの理解を前提としましょう。Lの述べるとおり,Yは,Cの
458 事実を認める旨の陳述を自由に撤回することができなくなっているのでしょうか。
459 Q:裁判上の自白の成立要件に照らして検討してみる必要があると思います。
460 J:そのとおりですね。裁判上の自白の成立により,YがCの事実を認める旨の陳述を自由に撤
461 回することができなくなっているかどうか,検討してみてください。これを課題とします。本
462 件では,元の請求及び追加された請求のそれぞれにおけるCの事実の位置付けを考慮する必要
463 がありますね。その上で,Xが訴えの変更をした後にYが認否の撤回をした点が影響するかど
464 うかも考えてみましょう。なお,自由に撤回することができないとしても,例えば事実に反す
465 ることを証明した場合など一定の事由があれば,撤回が許される場合がありますが,ここでは
466 その事由があるかどうかまでは検討する必要がありません。
467 〔設問2〕
468 あなたが司法修習生Qであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。
469 【事
470
471 例(続き)】
472 本件訴訟の争点整理手続が行われている間,Lは,Yの元従業員から,同じくYの元従業員で
473 Yにおいてワゴン車をキャンピングカーに改造するための設計に携わっていたTが,甲シリーズ
474 のキャンピングカーの仕様について疑問を口にしていたことがあるとの情報を得た。
475 LがTを訪ねたところ,Tの妻Zが応対し,Lに対し,以下の(ア)から(ウ)までの事情を述べた。
476 (ア) Tは,Yにおいてワゴン車をキャンピングカーに改造するための設計に携わっていたが,
477 先日,死亡した。Tの相続人はZだけである。
478 (イ) Tは,生前日記を作成していた。その日記は,今はZが保管しており,そこには,要約す
479 ると,甲シリーズのキャンピングカーには上段ベッドシステム部分に設計上の無理があり,
480 その旨を上司に進言したが取り合ってもらえなかった,という内容の記載がある(以下,こ
481 の日記のうち,この内容が記載されている箇所を「本件日記」という。)。
482 (ウ) Zとしては,本件日記の詳しい内容はプライバシーに関わるから言えないし,その内容を
483 直接見せたり証拠として提供したりすることもできない。
484 そこで,Lは,Zを所持者として本件日記についての文書提出命令を申し立てた。その申立書
485 には,上記(ア)から(ウ)までの事情が記載されていた。
486 以下は,Jと司法修習生Rとの間の会話である。
487 J:あなたには,Zが本件日記の文書提出義務を負うかどうかを判断する際にどのような観点か
488 らどのような事項を考慮すべきかを検討してもらいます。文書提出義務の根拠条文に照らして
489 検討する必要がありますが,申立書に記載されているもの以外の事情を仮定する必要はありま
490 せん。また,文書提出義務の有無についての結論までは示す必要はありません。これを課題と
491 します。
492 R:本件日記に書かれている内容がキャンピングカーの上段ベッドシステム部分に係る設計上の
493 ミスということなので,民事訴訟法第197条第1項第3号の「技術又は職業の秘密」に該当
494 -4-
495
496 する可能性を考える必要はないでしょうか。
497 J:ここでは「技術又は職業の秘密」に該当する事柄が記載してあることまで考える必要はあり
498 ません。今回の検討ではその点は除外して考えましょう。
499 〔設問3〕
500 あなたが司法修習生Rであるとして,Jから与えられた課題について答えなさい。
501
502 -5-
503
504