1 論文式試験問題集
2 [憲法・行政法]
3
4 -1-
5
6 [憲
7
8 法]
9
10 次の文章を読んで,後記の〔設問〕に答えなさい。
11 甲市は,農業や農産品の加工を主産業とする小さな町である。近年,同市ではこれらの産業に
12 従事する外国人が急増しているが,そのほとんどはA国出身の者である。甲市立乙中学校は,A国
13 民の集住地区を学区としており,小規模校であることもあって生徒の4分の1がA国民となってい
14 る。A国民のほとんどはB教という宗教の信者である。
15 XはA国民の女性であり,乙中学校を卒業し,甲市内の農産品加工工場で働いている。Xの親
16 もA国民であり,Xと同じ工場に勤務している。この両名(以下「Xら」という。)は熱心なB教
17 徒であり,その戒律を忠実に守り,礼拝も欠かさない。B教の戒律によれば,女性は家庭内以外に
18 おいては,顔面や手など一部を除き,肌や髪を露出し,あるいは体型がはっきり分かるような服装
19 をしてはならない。これはB教における重要な戒律であるとされている。
20 ところで,Xが工場に勤務するようになった経緯として,次のようなことがあった。Xらは,
21 Xの中学校入学当初より毎年,保健体育科目のうち水泳については,戒律との関係で水着(学校指
22 定のものはもちろん,肌の露出を最小限にしたものも含む。)を着用することができず参加できな
23 いので,プールサイドでの見学及びレポートの提出という代替措置をとるように要望していた。な
24 お,Xは,水泳以外の保健体育の授業及びその他の学校生活については,服装に関して特例が認め
25 られた上で他の生徒と同様に参加している。
26 しかし,乙中学校の校長は,検討の上,水泳の授業については,代替措置を一切とらないこと
27 とした。その理由として,まず,信仰に配慮して代替措置をとることは教育の中立性に反するおそ
28 れがあり,また,代替措置の要望が真に信仰を理由とするものなのかどうかの判断が困難であると
29 した。さらに,上記のように,乙中学校の生徒にはB教徒も相当割合含まれているところ,戒律と
30 の関係で葛藤を抱きつつも水泳授業に参加している女子生徒もおり,校長は,Xらの要望に応える
31 ことはその意味でも公平性を欠くし,仮にXらの要望に応えるとすると,他のB教徒の女子生徒も
32 次々に同様の要望を行う可能性が高く,それにも応えるとすれば,見学者が増える一方で水泳実技
33 への参加者が減少して水泳授業の実施や成績評価に支障が生じるおそれがあるとも述べた。
34 Xは,3年間の中学校在籍中に行われた水泳の授業には参加しなかったが,自主的に見学をして
35 レポートを提出していた。担当教員はこれを受領したものの,成績評価の際には考慮しなかった。
36 調査書(一般に「内申書」と呼ばれるもの)における3年間の保健体育の評定はいずれも,5段階
37 評価で低い方から2段階目の「2」であった。Xは運動を比較的得意としているため,こうした低
38 評価には上記の不参加が影響していることは明らかであり,学校側もそのような説明を行っている。
39 Xは近隣の県立高校への進学を希望していたが,入学試験において調査書の低評価により合格最低
40 点に僅かに及ばず不合格となり,経済的な事情もあって私立高校に進学することもできず,冒頭に
41 述べたとおり就労の道を選んだ。客観的に見て,保健体育科目で上記の要望が受け入れられていれ
42 ば,Xは志望の県立高校に合格することができたと考えられる。
43 Xは,戒律に従っただけであるのに中学校からこのような評価を受けたことに不満を持っており,
44 法的措置をとろうと考えている。
45 〔設問〕
46 必要に応じて対立する見解にも触れつつ,この事例に含まれる憲法上の問題を論じなさい。
47 なお,Xらに永住資格はないが,適法に滞在しているものとする。また,学習指導要領上,水泳
48 実技は中学校の各学年につき必修とされているものとする。
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50 -2-
51
52 [行政法]
53 屋外広告物法は,都道府県が条例により「屋外広告物」(常時又は一定の期間継続して屋外で公
54 衆に表示されるものであって,看板,立看板,はり紙及びはり札並びに広告塔,広告板,建物その
55 他の工作物等に掲出され,又は表示されたもの並びにこれらに類するもの)を規制することを認め
56 ており,これを受けて,A県は,屋外広告物(以下「広告物」という。)を規制するため,A県屋
57 外広告物条例(以下「条例」という。)を制定している。条例は,一定の地域,区域又は場所につ
58 いて,広告物又は広告物を掲出する物件(以下「広告物等」という。)の表示又は設置が禁止され
59 ている禁止地域等としているが,それ以外の条例第6条第1項各号所定の地域,区域又は場所(以
60 下「許可地域等」という。)についても,広告物等の表示又は設置には,同項により,知事の許可
61 を要するものとしている。そして,同項及び第9条の委任を受けて定められたA県屋外広告物条例
62 施行規則(以下「規則」という。)第10条第1項及び別表第4は,各広告物等に共通する許可基
63 準を定め,規則第10条第2項及び別表第5二は,建築物等から独立した広告物等の許可基準を定
64 めている。
65 広告事業者であるBは,A県内の土地を賃借し,依頼主の広告を表示するため,建築物等から
66 独立した広告物等である広告用電光掲示板(大型ディスプレイを使い,店舗や商品のコマーシャル
67 映像を放映するもの。以下「本件広告物」という。)の設置を計画した。そして,当該土地が都市
68 計画区域内であり,条例第6条第1項第1号所定の許可地域等に含まれているため,Bは,A県知
69 事に対し,同項による許可の申請(以下「本件申請」という。)をした。
70 本件広告物の設置が申請された地点(以下「本件申請地点」という。)の付近には鉄道の線路が
71 あり,その一部区間の線路と本件申請地点との距離は100メートル未満である。もっとも,当該
72 区間の線路は地下にあるため,設置予定の本件広告物を電車内から見通すことはできない。また,
73 本件申請地点は商業地域ではなく,本件広告物は「自己の事務所等に自己の名称等を表示する広告
74 物等」には該当しない。これらのことから,A県の担当課は,本件申請について,規則別表第5二
75 (ハ)の基準(以下「基準1」という。)に適合しない旨の判断をした。他方,規則別表第4及び
76 第5のその他の基準については適合するとの判断がされたことから,担当課は,Bに対し,本件広
77 告物の設置場所の変更を指導したものの,Bは,これに納得せず,設置場所の変更には応じていな
78 い。
79 一方,本件申請がされたことは,本件申請地点の隣地に居住するCの知るところとなった。そ
80 して,Cは,本件広告物について,派手な色彩や動きの速い動画が表示されることにより,落ちつ
81 いた住宅地である周辺の景観を害し,また,明るすぎる映像が深夜まで表示されることにより,本
82 件広告物に面した寝室を用いるCの安眠を害するおそれがあり,規則別表第4二の基準(以下「基
83 準2」という。)に適合しないとして,これを許可しないよう,A県の担当課に強く申し入れてい
84 る。
85 以上を前提として,以下の設問に答えなさい。
86 なお,条例及び規則の抜粋を【資料】として掲げるので,適宜参照しなさい。
87 〔設問1〕
88 A県知事が本件申請に対して許可処分(以下「本件許可処分」という。)をした場合,Cは,こ
89 れが基準2に適合しないとして,本件許可処分の取消訴訟(以下「本件取消訴訟1」という。)の
90 提起を予定している。Cは,本件取消訴訟1における自己の原告適格について,どのような主張を
91 すべきか。想定されるA県の反論を踏まえながら,検討しなさい。
92 〔設問2〕
93
94 -3-
95
96 A県知事が本件広告物の基準1への違反を理由として本件申請に対して不許可処分(以下「本
97 件不許可処分」という。)をした場合,Bは,本件不許可処分の取消訴訟(以下「本件取消訴訟2」
98 という。)の提起を予定している。Bは,本件取消訴訟2において,本件不許可処分の違法事由と
99 して,基準1が条例に反して無効である旨を主張したい。この点につき,Bがすべき主張を検討し
100 なさい。
101
102 -4-
103
104 【資料】
105 ○
106
107 A県屋外広告物条例(抜粋)
108
109 (目的)
110 第1条
111
112 この条例は,屋外広告物法に基づき,屋外広告物(以下「広告物」という。)及び屋外広告
113
114 業について必要な規制を行い,もって良好な景観を形成し,及び風致を維持し,並びに公衆に対
115 する危害を防止することを目的とする。
116 (広告物の在り方)
117 第2条
118
119 広告物又は広告物を掲出する物件(以下「広告物等」という。)は,良好な景観の形成を阻
120
121 害し,及び風致を害し,並びに公衆に対し危害を及ぼすおそれのないものでなければならない。
122 (許可地域等)
123 第6条
124
125 次の各号に掲げる地域,区域又は場所(禁止地域等を除く。以下「許可地域等」という。)
126
127 において,広告物等を表示し,又は設置しようとする者は,規則で定めるところにより,知事の
128 許可を受けなければならない。
129 一
130
131 都市計画区域
132
133 二
134
135 道路及び鉄道等に接続し,かつ,当該道路及び鉄道等から展望できる地域のうち,知事が交
136 通の安全を妨げるおそれがあり,又は自然の景観を害するおそれがあると認めて指定する区域
137 (第1号の区域を除く。)
138
139 三,四
140 五
141
142 略
143
144 前各号に掲げるもののほか,知事が良好な景観を形成し,若しくは風致を維持し,又は公衆
145 に対する危害を防止するため必要と認めて指定する地域又は場所
146
147 2
148
149 略
150
151 (許可の基準)
152 第9条
153 ○
154
155 第6条第1項の規定による許可の基準は,規則で定める。
156
157 A県屋外広告物条例施行規則(抜粋)
158
159 (趣旨)
160 第1条
161
162 この規則は,A県屋外広告物条例(以下「条例」という。)に基づき,条例の施行に関し必
163
164 要な事項を定めるものとする。
165 (許可の基準)
166 第10条
167
168 条例第6条第1項の規定による許可の基準のうち,各広告物等に共通する基準は,別表第
169
170 4のとおりとする。
171 2
172
173 前項に規定するもののほか,条例第6条第1項の規定による許可の基準は別表第5のとおりとす
174 る。
175
176 別表第4(第10条第1項関係)
177 一
178
179 地色に黒色又は原色(赤,青及び黄の色をいう。)を使用したことにより,良好な景観の形成を
180 阻害し,若しくは風致を害し,又は交通の安全を妨げるものでないこと。
181
182 二
183
184 蛍光塗料,発光塗料又は反射の著しい材料等を使用したこと等により,良好な景観の形成を阻害
185 し,若しくは風致を害し,又は交通の安全を妨げるものでないこと。
186
187 別表第5(第10条第2項関係)
188 一
189
190 略
191 -5-
192
193 二
194
195 建築物等から独立した広告物等
196
197 (イ)
198
199 一表示面積は,30平方メートル以下であること。
200
201 (ロ)
202
203 上端の高さは,15メートル以下であること。
204
205 (ハ)
206
207 自己の事務所等に自己の名称等を表示する広告物等以外の広告物等について,鉄道等までの
208 距離は,100メートル(商業地域にあっては,20メートル)以上であること。
209
210 三〜九
211
212 略
213
214 -6-
215
216